3: 2009/12/05(土) 15:17:32.76 ID:sJ1MFCd90
 けたたましい携帯の騒ぎ声で俺は深夜も遅くにたたき起こされた。
 着信は、古泉一樹。どうも嫌な予感しかしない。

古泉『やっと出てくれましたか!』

キョン「なんなんだやかましい」

古泉『詳しい話は後です、急いでk』

 つーつー……

 切れやがった。緊急事態なのか……?
 と少し不安になるのもつかの間。ただ、俺の携帯が圏外になっただけだった。

キョン「なんだお騒がせな……」

 俺は安堵し、起き上がって電波のいいところを探そうとするが、ふと気がついた。
 俺の部屋で圏外になることなんてあり得ない。今時、そんなことが起こるのはどこかの山奥くらいだが、生憎俺の家は見事に街中に存在する。

 気付いてみれば、外が異様に暗い。
 今は深夜三時なのだから、暗いのは当然だが、それにしても暗すぎる。
 まるで月や星の光が何かに遮られているような。

 古泉の緊急電話。携帯の圏外。そしてこの異様に暗い外。

キョン「まさか……!」

 そこで、俺の意識までもが暗く染まった。

5: 2009/12/05(土) 15:19:37.66 ID:sJ1MFCd90
 朝。俺は朝日に包まれて気持ちよく目が覚めた。
 まるで長く眠っていたようだ。

キョン「どうやら夢だったみたいだな……」

 けだるい体を起こし、携帯の時計を見る。
 朝8時40分。いつもの時間……じゃない。

キョン「どうして誰も起こしてくれ……」

 急いで起き上がると俺は異常に気がついた。

キョン「部屋が……違う……?」

 部屋に、キッチンがあった。玄関がすぐに見えた。そして、部屋、と言うには少し大きすぎる部屋。
 まるで一人暮らしのアパートのような――

キョン「一体どうなってやがる……ん?」

 ばきっという不吉な音が足音で鳴いた。恐る恐る足をどけてみると深夜の目覚ましになりやがった携帯が真っ二つに折れていた。

キョン「こんな時に……」

 最悪だ。これで古泉に状況を問い質すことも、長門を頼ることも、朝比奈さんにメールを送ることもできなくなってしまった。

6: 2009/12/05(土) 15:21:40.70 ID:sJ1MFCd90
 ということで。俺は携帯を直すために携帯ショップへとまず行くことになったのだが。

キョン「ここは未来都市か何かか?」

 見渡すと道路を勝手に清掃してくれるロボットに、大量に立ち並ぶ明らかに作るのが難しいだろう風力発電施設である風車、そしていかにも未来ですと言うような携帯をいじりながら歩く若い通行人。

 明らかに異常だった。

 そして極めつけはこれだ。

美琴「だーかーらー、無視すんなって言ってんでしょうがー!」

上条「うおおっ!? お願いしますから今日はビリビリしないで見逃してください美琴せんせー! 単位が、単位がヤバイんです!」

美琴「だからって全速力でスルーするこたぁないでしょ! つーか日曜に単位も糞もあるか!」

上条「不良生徒のレッテルを貼られ気味の上条さんは補習があるんだって!」

美琴「自業自得! 普段から学校行けばいいじゃない!」

上条「それができたら苦労しな――ってだからビリビリすんなってああもう不幸だあああああ」

 見た目中学生くらいの女の子がどんなトリックか知らないが空中で誘電するほどの高圧電流を発射して、しかもそれを俺と同じくらいの男子高校生が受け止めているときた。

 わけわからん。ハルヒに見せてやったら喜びそうなパフォーマンスだ。

7: 2009/12/05(土) 15:22:46.90 ID:sJ1MFCd90
青ピ「また中学生といちゃいちゃしてるかみやんは置いといてワイらは行こかー」

 ああそうだな。

土御門「しっかし、少しは人目を憚ってほしいもんだにゃー。街中であんなことされたら二重の意味でたまらんぜよ」

 まったくだ。

青ピ「ほな、あんなフラグマンなんか放っておいて、ワイら三人で小萌先生の魅惑の個別レッスンを楽しもうや」

 ああ、行ってらっしゃい。

土御門「何してるんだキョン? さっさと行かないとまた先生に泣かれちまうぜよ」

 ……はい?

キョン「ちょっと待て、なんでお前ら俺のあだ名を知っている」

土御門「それこそ何言ってるんだにゃー。自分で自己紹介の時に思いっきり言ってたじゃないか」

 それ以前に誰だこいつら。

青ピ「ささ、旗男なんか放っておいて学校に行かな補習に遅刻するで」

 ……よくわからんがこいつらは俺のことを知っているらしい。少なくとも目前の指標はできたようだ。
 そしていくつかわかったことがある。
 俺は高校に通っているらしい。この二人は俺の同級生か何からしい。あの大道芸をやってる二人はとりあえずは知り合いらしい。

 そして。
 またハルヒの仕業か。

9: 2009/12/05(土) 15:24:17.13 ID:sJ1MFCd90
古泉「やあ、遅かったですね」

キョン「学校に行くと気分の重くなるような笑顔が出迎えた。
    にも関わらず、今の俺にはこんなホ〇臭くても胡散臭いやつでも救世主に近い」

古泉「いきなりご挨拶ですね……」

キョン「長門や朝比奈さんが出迎えてくれたらこんな微妙な気持ちにはならずに済んだんだがな」

古泉「それについてですが……この後、ちょっと相談がありますのでトイレにでも来てもらえませんかね?」

キョン「俺も相談はある、しかし場所はトイレより屋上にでもしようじゃないか」

古泉「それは残念です」

キョン「やめろ、寒気がする」

青ピ「なんの話しとるん?」

古泉「彼が寒気がするそうですよ。なので早退の相談を」

青ピ「そんなバレバレの仮病で休んだら小萌先生が泣くで?」

 そんなことで泣く先生ってどんな先生だ。
 天才ちびっ子金髪口リ先生とでも言うのか。

12: 2009/12/05(土) 15:25:56.57 ID:sJ1MFCd90
 とそんな妄想に耽っていると教室のドアが開いた。

小萌「はいはーい、騒いでないで悪い子ちゃんたちの補習始めますよー」

キョン「本当に天才ちびっ子口リ先生!?」

 現れたのはうちの妹くらいであろう小さな女の子。惜しむべきは金髪ではなかったことくらいでほとんどまるでベッ○ーだ。

小萌「何をふざけたこと言ってるんですかキョンちゃんー? すけすけ見る見るでもやらされたいですかー?」

 おお、むっとした顔がキューティクル。イカンイカン、新たな属性に目覚めてしまいそうだ。

古泉「ユーモア欠乏症な彼なりの精一杯のギャグです。見逃してあげてください」

小萌「むー、あんまりふざけてると単位あげないですよー?」

 なんだか物凄く失礼なことを言いやがったやつがいるが、その後は何事もなく授業になったからよしとしよう。

--------------------------

支援ありがと
支援ついでに教えてほしいんだけどさるさんってどのくらい書いたらなるの?

13: 2009/12/05(土) 15:27:34.38 ID:sJ1MFCd90
 補習とやらはまったく意味不明だった。猫がどうしたのだとか、物理がどうしたとか、明らかに高校生のやる内容ではない。
 ついに今日の補習には来なかったらしい上条というやつにキツイ課題が用意されたことくらいしかわからなかった。

 そして屋上。俺は一緒に二人きりになりたくないやつNo.1の野郎と不本意ながら二人きりになっている。

古泉「まず、状況を整理しましょうか」

キョン「いつになく神妙な顔だな」

古泉「それはそうでしょう。この事態、非常事態なことくらい貴方でもわかりますよね?
   今朝、貴方に電話が繋がらなかったりした時には本当に焦りましたよ」

キョン「ああ、色々あってな」

 ドジで携帯を壊したなどとは言わないぞ、俺は。

古泉「とりあえず、機関は一応ながら存在するようです。連絡が取れることは取れました、が様子が違う。まず、彼等はこの異変に気付いていないようです」

キョン「気付いていない? ということは変化したのは俺たちの周りだけか」

14: 2009/12/05(土) 15:29:06.89 ID:sJ1MFCd90
古泉「いいえ、違いますよ」

 ズイっと乗り出して来やがる古泉。

キョン「顔を近づけるな」

古泉「この世界そのものが改変されてしまったようなのです」

キョン「どういうことだ? あと顔を離せ」

古泉「僕たちはこの世界が異常だとは気がついていますが、外の、いえ、僕たち以外の人間は世界がこのままで最初から存在していたと思っているのです」

キョン「おいおい、待て待て。つまりそれって……」

古泉「ええそうですよ」

古泉「世界のすべてが改変されてしまいました」


 なんてこった。

15: 2009/12/05(土) 15:31:12.38 ID:sJ1MFCd90
キョン「そういえば朝比奈さんや長門、あとどうせ原因のハルヒはどうした?」

古泉「機関の情報によると朝比奈さんはどうやら僕たちと同じ学校の生徒になったようです」

キョン「他の二人は?」

古泉「長門さんは少し厄介です。どうやら霧ヶ丘女学院というところの生徒ということになっているらしく、今朝に一度コンタクトを取ったきりで一切連絡がつきません」

 わお、女の子の秘密の園か。

古泉「そして一番厄介なのが涼宮さんです。機関の力を以てしても、所在も行動も、一切が判明しません」

キョン「そこがわかってくれれば簡単だったんだろうがな……」

17: 2009/12/05(土) 15:34:13.31 ID:sJ1MFCd90
古泉「ともかく、欲しいのは情報です。機関の力でも何故かこの街については上手く情報を集めることができないそうで、状況は最悪に近いです」

キョン「そういえばこの街はなんなんだ? 今朝も大道芸のような人間やら、わけわからん機械やらがありまくってたんだが、まさか未来都市とか?」

古泉「おや、先程の補習を聞いてわからなかったのですか」

キョン「悪いな、生憎俺は文系なんだよ」

古泉「ここは学園都市」

キョン「学園都市?」

古泉「超能力を科学で開発しているなんてとんでもないところのようですよ」


 その後、俺は古泉と別れて帰ることにした。
 学園都市? 超能力を科学で? なんとも胡散臭い街だ。
 しかしどうやら俺はその超能力を見てしまっているらしい。信じるしかないな、どうせハルヒの起こしたことだし。

18: 2009/12/05(土) 15:38:04.21 ID:sJ1MFCd90
「ハアハア……」

 息切れしながら路地裏を走り回る、いや逃げ回る。いい加減疲れてきたのか、手に持った銃器が重い。

 ここは学園都市。日の当たらない裏の道では非合法なことなど当たり前に行われている。

 しかしそれは表の世界に出してはいけない。当然、これも。

「みーつけた」

「!?」

 いつの間にか周り込まれていたらしい。

「まったく、あんまり手間かけさせないでよね。最初は楽しかったんだけど段々飽きてきちゃったわ」

「あああああああああ」

 ゴーグル越しに標的を定めてトリガーを引く。フルオートに設定された銃器は大量の弾丸を吐き出す。

 本来は人に放つような代物ではない。威力、連射性能、どれも学園都市の技術が使われたそれは、人に放つには強すぎるのだ。

20: 2009/12/05(土) 15:40:30.24 ID:sJ1MFCd90
「危ないでしょー、ホント。制服が汚れたらどうすんのよ」

 しかし、それは無傷。何事もなかったかのように歩み寄ってくる。

「さーて、追いかけっこは終わり。実験とやらに協力してもらうわよ」

 詰め寄る恐怖にも関わらず、もう足は動かない。数時間走り続けた足はもう限界で、悲鳴を上げていた。
 圧倒的な力を前に逃げることすらままならない。どうせ、この逃げ回ることができたのもただ遊ばれていただけだったのだろう。

 いつかの恐怖が蘇る。必氏の抵抗も意味を成さずに、ただ命を蹂躙される恐怖が。

「何やってンだ?」

 その恐怖の記憶が、背後から聞こえた。

22: 2009/12/05(土) 15:43:37.06 ID:sJ1MFCd90
「邪魔しないでくれる? この子たちはなんとかっていう実験とかいうのに必要だから捕まえてって言われたのよ」

「コイツらを使って実験だ? 馬鹿共が……潰されても懲りねェようだなァ」

 その気配にはっと息を飲む。まずい、彼は戦う気だ。

「に、逃げてくださいとミサカは警告します!」

「誰に向かって……言ってンだよ!」

 軽く地面を蹴る彼。それだけでコンクリートの塊が物凄い勢いで追跡者に飛んでいく。

「止まれ」

 しかし、それは追跡者の顔面に当たる直前に急激に勢いを無くし、垂直に地面へと音をたてて落ちていった。

「あァ?」

「吹き飛べ」

 そして追跡者が二言目を呟くと、彼はその通りに吹き飛んでいく。あらゆるベクトルを操作し、能力を展開すれば常に反射している彼の身体が。

24: 2009/12/05(土) 15:46:09.49 ID:sJ1MFCd90
 大きな音を起てて、コンクリートの壁に激突する彼。しかし、彼は当然ながら無傷で立ち上がる。

「なンだァ、その能力は?」

「彼女の能力にベクトルはありませんとミサカは説明します! 早急な戦線離脱が最も現状に適した選択であるとミサカは提案しま」

「うるさいわねえ、少し黙ってて」

 必氏の叫びも、彼女の一言で発することすらできなくなる。パクパクと口を開閉させるだけで、どんなに頑張っても声が出ない。

 その様子を彼は一瞥すると、チッと舌打ちし、逃避劇でボロボロの身体を音速を超えるスピードで抱えた。

「あっ、ちょっと待ちなさ――」

 そして、そのまま音速を超えるスピードで彼は彼女が何かを言い切る前に戦線離脱した。

28: 2009/12/05(土) 16:02:58.32 ID:sJ1MFCd90



長門「おかえり」

 なんやかんやあって家に着いた俺を迎えてくれたのはなんと長門だった。
 ご飯にする? お風呂にする? それとも、

キョン「長門、お前だ」

長門「……貴方の思考回路が理解不能」

 無機質な目に微妙に軽蔑の色が混じってやがる。心読まれたか。

長門「不本意」

 なんだその便利そうだけど持ったら狂ってしまいそうな読心能力は。

キョン「ところでどうしたんだ、お前は霧なんとか女学院ってところにいるんじゃなかったのか?」

長門「正式名称は霧ヶ丘女学院。現代レベルよりセキュリティは高いけれど、情報操作をすれば抜け出すのは簡単」

 超能力を開発しちゃうような科学都市でも長門にかかればイチコロか。

キョン「まあいい、まずはこの状況について長門の現状と意見を聞きたい」

29: 2009/12/05(土) 16:05:20.98 ID:sJ1MFCd90
長門「現状としては大規模な世界改変が行われた模様。他インターフェースとは連絡が途絶。別時間平面上の他インターフェースと連絡を取ろうとしても不可能。どちらかというと世界改変というより別の世界にいると考えた方が正しい」

キョン「別の世界? 異世界とでも呼ぶのか?」

長門「可能性上の分岐点から存在し得る世界の一つにすぎないけれど、貴方の言葉で説明するなら平行世界という言葉の方が近い。情報統合思念体を介しての情報収集の結果、世界間に正体不明の大きな隔たりがあることが観測されている
   私たちは涼宮ハルヒの能力でその隔たりすらも飛び越えてこちらの世界に飛ばされた」

キョン「やはりハルヒか……」

長門「その後、こちらの世界で矛盾が出ないように涼宮ハルヒの能力がさらに行使されたのも観測した。以上の情報から涼宮ハルヒもこちら側に来ている模様」

キョン「模様、ってハルヒの居場所はわからないのか?」

長門「一切不明。他のインターフェースがこちら側の世界に存在しない以上、私の情報収集能力は大幅に制限される」

キョン「制限されるってどのくらいならわかるんだ?」

長門「見て、聞いて、感じる程度」

キョン「つまり、古泉と変わらないわけか」

 しかし困った。頼りの長門がこうも打つ手なしとは……
 もう頼れる人はいないし、しばらくは情報収集に徹するしかないようだ。

30: 2009/12/05(土) 16:08:08.61 ID:sJ1MFCd90
「あー! また女の人に手を出したんだね!」

「ちょっと待てインデックス! これはそこで偶然風系と雷系の騒動がありましてだな、まてまてまて噛みつくなどうどう」

「問答無用!」

「ぎゃー!」

キョン「なんだ、騒がしい隣人だな」

 いきなりどったんばったんの騒動が始まったみたいだ。ちょっと文句言ってこよう。

31: 2009/12/05(土) 16:09:36.17 ID:sJ1MFCd90
長門「待って」

「この味はなんか他にも別の女の人と会ってる味かも!」

キョン「なんだ? さすがにこの騒ぎは文句言うべきだろ」

「どんな味だ! ってかマジで指はやめて痛い痛い痛い!」

長門「私たちは本来はこの世界にない存在。不用意に他の住人と接触を図るのは得策ではない」

「大きい人も小さい人も見境無しなとーまが悪いかも!」

キョン「しかしだな……」

「ふぇー、大きいって――」

長門「騒音ならこれでいい」

 長門がそう言うと急に隣の騒音は嘘みたいに静まった。

32: 2009/12/05(土) 16:12:09.52 ID:sJ1MFCd90
キョン「……待て長門。まさか接触せずに隣人を昏倒なんてしてないよな?」

長門「それは必要ない。ただ壁の間などを音を通さない素材に変換しただけ」

 それなら安心だが……

キョン「ところで、お前はこの後どうするんだ?」

長門「霧ヶ丘女学院に通学することにする。そこは特殊な能力に重点をおく学校の模様。涼宮ハルヒの能力がもし露見した場合、極めて特殊で有用性のある能力を霧ヶ丘女学院が見逃すはずがない」

キョン「なるほど、便利なところに配置されたもんだ」

長門「貴方は?」

キョン「俺は……そうだな、とりあえずは壊れた携帯を直すのと、朝比奈さんを探してみるってところかな」

33: 2009/12/05(土) 16:15:11.39 ID:sJ1MFCd90



 清々しい朝、上条当麻は重々しい気持ちで外に出ていた。

上条「日曜日まで補習とか……不幸だ……」

 何を隠そう、上条当麻は登校日数の少ない不良生徒として有名なのである。
 しかもケガで入院したりする事情があるので、なおさらそういうイメージがつくのである。

「ねえアンタ」

上条「何が悲しくて日曜日まで学校行って勉強しなきゃならないんだかなあ……」

「ね、ねえ……」

上条「不幸だ……インデックスには朝から齧られるし……」

「……だーかーらー」

上条「ん?」

美琴「無視すんなって言ってんでしょうがー!」

上条「うおおっ!?」

34: 2009/12/05(土) 16:17:15.97 ID:sJ1MFCd90
 突然、飛来してきた不幸の象徴である高圧電流を右手で受け止める上条。
 見るとそこにはいつも通りにビリビリした中学生が立っているではないか。

 不幸な結果が上条の脳裏に過ぎった。

上条「お願いしますから今日はビリビリしないで見逃してください美琴せんせー! 単位が、単位がヤバイんです!」

 右手を差し出したまま、へっぴり腰で女子中学生にお願いする男子高校生。

美琴「だからって全速力でスルーするこたぁないでしょ! つーか日曜に単位も糞もあるか!」

 さらに電撃は飛来する。避雷針の要領で右手に集まった電子の流れは風船が割れるように弾けて消えていった。

上条「不良生徒のレッテルを貼られ気味の上条さんは補習があるんだって!」

美琴「自業自得! 普段から学校行けばいいじゃない!」

上条「それができたら苦労しな――ってだからビリビリすんなってああもう不幸だあああああ」

 かくして、上条当麻のいつも通りに不幸な一日は始まった。

39: 2009/12/05(土) 16:19:47.58 ID:sJ1MFCd90
 上条当麻はとにかく走る。
 時間は九時半を回った辺り、遅刻でも補習に行ければなんとかなる可能性が高い。

 どこかのビリビリ中学生には後で埋め合わせする、どこにでも付き合うと言ったらふにゃーとなって逃げ切ることができたのだが、それでもタイムロスは痛かった。

「ふぇー、な、なんですかー」

「ぐへへ、君かわいいね、俺たちと遊ばない?」

「俺たちさあ、ここらではちょっと有名でさあ、素直にしてれば痛くしないからさあ」

 と、そこで女の子のピンチに敏感な上条さんイヤーに気になるものが飛び込んできた。

 急ぐ足を止めて、声の方であるちょっとした路地を見る。なんとそこには何とも可憐な口リ顔の巨乳女子高生が明らかに人相の悪い二人組に絡まれているではないか。

上条「おい、何してんだ」

 上条当麻の行動は当然ながら決まっている。
 女の子と男たちの間に割って入って行った。

A「ああ? なんだてめえは」

B「俺たちはさあ、これからこの子と遊ぶんだから邪魔しないでほしいだけどさあ」

上条「遊ぶだぁ? 明らかにこの子は怯えてるじゃねえか! 見ろ、こんなにがたがた震えてキョロキョロしてる!
   俺はただの通りすがりだよ、だけどな、そんなの関係ねえ! お前らは男二人してこんな女の子に何するつもりだ!
   お前らが誰だか知らねえが、真っ当な男のすることじゃないだろ!」

40: 2009/12/05(土) 16:22:05.51 ID:sJ1MFCd90
A「……なんだこいつ」
B「……やっちまえば早いさあ」

 そういうと、二人は一歩下がる。

「ふぇ? ふぇ?」

 口リ顔巨乳は未だに戸惑っているようだ。

上条「大丈夫だ、俺が守ってやる」

 そんな女の子の手を握って自分の体を盾のようにして建つ上条。

A「誰だか知らねえが、俺は『遠隔感電』(リモートスタンガン)、こいつは『空刃裁断』(エアロナイフ)。二人あわせて『風神雷神』ってこの辺りじゃ呼ばれてるんだぜぇ?」

B「痛い目見ない内に謝った方がいいと思うんだけどさあ」

上条「だが断る!」

遠隔感電「いいぜ、やっちまうか!」

 『遠隔感電』と名乗った男は両手を上条に向ける。
 するとそこから電流が発生し、上条の元へ飛来。

空刃裁断「そうするさあ!」

 さらに『空刃裁断』と名乗った男は両手を素早く何度も振る。
 すると突風が生まれ、コンクリートの壁が鋭い何かで切り裂かれたように傷が掘られていった。

41: 2009/12/05(土) 16:24:15.62 ID:sJ1MFCd90
 粉塵が舞い、上条の姿が完全に覆い隠される。

遠隔感電「俺の電撃で痺れて動けなくなったところを、こいつの作ったカマイタチの要領の空気の刃が相手の体を切り刻む……俺たちのコンビ攻撃を受けて立ってたやつは未だいねえ」

空刃裁断「ってかやりすぎちゃったんだけどさあ。女の子大丈夫かな?」

遠隔感電「いつも通り、俺の能力で動けなくした後、お前の能力で服を切り刻むんだから同じだろ」

空刃裁断「そうだね、あはははははは」

遠隔感電「おっ、だんだんと煙が晴れてきたか」

空刃裁断「どれどれ、俺の成果はどうなったか気になるさ――ぎゃふっ!?」

 徐々に晴れていく土煙の中をのぞき込むように『空刃裁断』が身を乗り出す。

 そこに上条パンチが飛び出してきた。

上条「それで終わりか?」

 上条パンチに吹き飛ぶ『空刃裁断』。

42: 2009/12/05(土) 16:26:27.81 ID:sJ1MFCd90
上条「電撃使いのレベル2に空力使いのレベル3ってところか?」

 土煙が晴れる。その中に立っていたのは無傷の上条当麻。

遠隔感電「な、なんでテメエ傷一つ……!? く、くそぉ!」

 予想外の展開に焦った『遠隔感電』は電撃を繰り出す。

上条「生憎だけどな、」

 それを上条は何気なしに差し出した右手でいとも簡単に無効化する。

上条「もっと強い電撃と風を知ってるんでな!」

43: 2009/12/05(土) 16:28:20.12 ID:sJ1MFCd90
 そして大きく一歩を踏み出し、

上条「テメエが女の子をひどい目に合わせるっていうなら」

遠隔感電「お、お前はもしかして都市伝説の――」

上条「まずはその幻想をぶち頃す!」

 相手の顎に思いっきり拳を打ち付けた。

 『遠隔感電』と名乗った男は錐揉み状に吹き飛び、コンクリートの壁に思いきり頭を打ち付けると意識を失った。

上条「さてと、大丈夫ですか?」

 それを確認した上条はずっと自分の後ろに隠れてた女の子に優しく話しかけた。

44: 2009/12/05(土) 16:31:43.41 ID:sJ1MFCd90



みくる「えっと、私は朝比奈みくるです」

 場面変わってピ工口が目印のファーストフード店。そこで上条は助けた女の子と一緒にポテトを食べていた。

上条「朝比奈さん、か。えっと、その制服はうちの学校ですよね?」

 相手の制服を見て、上条はそう判断する。

みくる「え、そうなんですか? それが私にもよくわらなくて……」

 困ったように俯くみくる。

上条「……また訳あり女の子ですか。今日の補習は諦めよう」

 小声で落ち込んだように呟く上条。

みくる「えっ、なんですか?」

上条「いやいやこっちの話」

 不安そうになったみくるに気づいた上条は慌てて何でもない風を装う。

上条「それで、何があったのか教えてくれませんか?」

45: 2009/12/05(土) 16:35:06.20 ID:sJ1MFCd90
みくる「それがですね、やっぱり私にもよくわからないんです……」

上条「よくわからない?」

みくる「朝起きたら住んでる家も場所も変わってて、あったのは知らない制服くらいで未来への禁則事項も禁則事項も禁則事項だし、しかも禁則事項は禁則事項でああもう、どうすればいいのか……ここはどこなんですか? 私はなんでこんなところに連れてこられたんですか?」

上条「ちょ、ちょっと待って落ち着いて!」

 上条は泣きそうになりながら語りだしたみくるを必氏に宥める。

上条「連れてこられた、って自分の意思でここに来た、わけじゃないんですか?」

みくる「そうです、そもそもここがどこだかわからないですよぉ……」

上条「ここは学園都市」

みくる「学園都市?」

上条「科学の最先端で超能力を解明する街です。知りません?」

47: 2009/12/05(土) 16:37:39.33 ID:sJ1MFCd90
みくる「初耳です……科学で超能力ですか?」

 うーんと悩むような様子のみくる。

みくる「科学で超能力というと、禁則事項が禁則事項で、ああ、これも禁則事項ですぅ……」

上条「いやいや、訳がわからないんですが」

みくる「ごめんなさい、禁則事項なんです……」

 みくるは困ったようにさらに俯く。

上条(学園都市の人間でない、ということは外の人か。禁則事項、っていうとどこかの組織に属してる? 魔術サイドの人かな)

上条「えっと、言いにくいことでしょうが、どこかの組織に属してたりします?」

みくる「な、なぜそのことを!?」

 びっくりしたようにがたんと机を揺らすみくる。

上条「ああ、やっぱりそっち側の人でしたか。いや、俺もちょっとそっち側の人とは交流がありましてね」

 話が見えてきたぞ、と安心してきた様子で上条はうんうんと頷いた。

48: 2009/12/05(土) 16:40:43.09 ID:sJ1MFCd90
みくる「え、上条さんもコッチ側だったんですか!?」

 さらに驚いた風のみくる。
 まあ、学園都市に魔術サイドのことを知ってる人間なんてほとんどいないから当然だろう、と納得する上条。

上条「いや、完全にそっち側ってわけじゃないんですが、ちょっといろいろありまして」

みくる「よかったぁ、涼宮さんを見失ったときはどうしようかと思ったんですよね」

 みくるも安心してきたようで、落ち着いた風にため息を漏らす。

みくる「上条さんがどこかの機関の方と知り合いならよかったです。古泉一樹、という方に連絡を取れるようになんとかしてもらえませんか?」

上条「古泉一樹、ですか。いや名前だけじゃどうも……」

みくる「能力者ですから、きっとわかりますよ」

上条「……能力者?」

49: 2009/12/05(土) 16:43:17.35 ID:sJ1MFCd90
みくる「はい♪ あと、伝言ですね、未来からによるとこちらの時間の六時間程前、新たな情報フレアが発生するという連絡を受けたのですが、それ以降、未来との禁則事項が禁則事項で……
    ってこれはダメですね……未来との連絡が取れなくなってしまって、恐らく、涼宮さんに大きな変化があったのだと思われます。至急、連絡をください、と」

上条「未来? 情報フレア?」

みくる「……涼宮さんに関する組織の方ですよね?」

上条「……その涼宮さんって誰ですか、ってか魔術サイドの人ですよね?」

みくる「……」
上条「……」

上条「えっと、もう一度、情報を整理してみましょう」

51: 2009/12/05(土) 16:48:12.55 ID:sJ1MFCd90
上条「つまりだ、まとめると、朝比奈さんは未来人で、その古泉ってのは超能力者で、長門っていう宇宙人もいて、涼宮ハルヒってのが神様に近い存在で、みんなで見守って動向に注意しましょう。
   だけど朝気がついたら知らない場所に飛ばされていて、その未来との連絡も取れなくなってしまった。未来からの情報によると涼宮ハルヒがなんかするから気をつけてねって言ってたけどダメだった、ってことですか」

みくる「だいたいそんな感じです」

上条「……信じられるかー!」

みくる「えええぇぇぇ!?」

上条「そりゃあ、上条さんは学園都市の暗部に触れて色んな実験潰したり、天使に直接会ったり、魔術サイドに出張したり、ローマ正教のお偉いさんと戦ったり、イギリスを救った英雄になったりしましたがねえ……

   無理があり過ぎだよ! 百歩譲って古泉って人は問題ないです、ここは超能力の街ですから。でもなんですか、未来人、宇宙人って! タイムトラベルは物理学上不可能と証明されちゃってますよ!?」

みくる「現代科学ではそうかもしれませんが、そんなに難しいことではないんです。時間というのは実は平面上のことで……」

上条「もういいです、頭痛くなってきました。ただし、その宇宙人ってなんですか、そんな非科学的な!」

みくる「正確には対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースです」

上条「ながああああああああああああああああああい! 上条さんの傷ついた脳味噌じゃ覚えられません!」

みくる「ふぇ~、本当なんですよぉ……」

上条「いや、その、すみません、信じますから、泣かないで、注目されちゃうから泣かないで!」

みくる「注目されてる原因は上条さんですよぉ……」

上条「ああもう、わかりました、俺の家に色々非科学的なことには詳しい人いますから、とりあえずそこに行きましょう」

52: 2009/12/05(土) 16:51:30.97 ID:sJ1MFCd90
 そんなわけで、上条宅にやってきた上条とみくる。

上条「ただいまー」

禁書「やっと帰ってきたかも! おみやげはー?」

上条「補習帰りにそんなもんあるか!」

禁書「えー……」

みくる「お邪魔しまーす」

 上条の後ろに隠れたみくるが恐る恐る挨拶する。

上条「……あれ、インデックスさん、どうしたんですか?」

 それを確認したインデックスがプルプルと何故か震えてることに上条は恐怖を覚えた。

53: 2009/12/05(土) 16:55:31.37 ID:sJ1MFCd90
禁書「……あー! また女の人に手を出したんだね!」

 がばっと口を開くインデックス。

上条「ちょっと待てインデックス! これはそこで偶然風系と雷系の騒動がありましてだな、まてまてまて噛みつくなどうどう」

 そんな猛獣に上条は宥めようと手を伸ばす。

禁書「問答無用!」

上条「ぎゃー!」

 しかし猛獣使いの手に猛獣のペットは噛み付いた。

禁書「この味はなんか他にも別の女の人と会ってる味かも!」

上条「どんな味だ! ってかマジで指はやめて痛い痛い痛い!」

禁書「大きい人も小さい人も見境無しなとーまが悪いかも!」

みくる「ふぇー、大きいってなんですかぁ!?」

禁書「その無駄な脂肪にも噛み付いてやるかも!」

上条「待て、それなら俺を齧れ!」

禁書「身を挺して庇うなんて……やっぱりとーま!」

上条「なんでそうなるんだよ不幸だああああああああああああああ」

54: 2009/12/05(土) 16:59:34.28 ID:sJ1MFCd90



「で、なンなンだ、アイツはよォ」

「数時間前、とある研究所にいきなりレベルを測れという少女が現れましたとミサカはちょっと長いプロローグを開始します。
 能力は『幻想創造』(アクシスワールド)、そしてレベル判定は――8人目の『超能力者』でした」

「ンな!?」

「詳しい能力は不明ですが、なんでも、自分の思い通りに世界を改変できる能力であるそうです、とミサカは心優しく説明します」

「……待て待て、そンなふざけた能力聞いたことねェぞ」

「本当にふざけた能力です、とミサカは同意します」

「しかし、それとお前が襲われてることに何の繋がりがあるンだ?」

「本題はこれからです、とミサカは我慢のできない白髪を丁寧に諭してあげます」

「……オイ」

「能力を測った結果、彼女は学園都市暫定一位とされました。暫定というのは貴方と詳しく比較してみないとわからないのでしょう、とミサカはかわいそうな白髪にきちんとフォローを入れます」

「……コラ」

55: 2009/12/05(土) 17:02:40.47 ID:sJ1MFCd90
「そして、何よりの問題は、彼女が『樹形図の設計者』を使うまでもなく、『絶対能力者』(レベル6)に到達可能、ということが明らかにされてしまったことですとミサカは驚愕の事実を明かします」

「なンだと!?」

「そして、彼女の能力を使った新絶対能力進化計画が始動しました。僅か、数時間の協議のみで。
 しかし現在の彼女の演算能力ではレベル6に進化するという程の改変能力はないらしく、そこで私たち妹達を使った代理演算で彼女の演算能力を底上げし、
 一時的にレベル6に達した後、その能力を使って自分をレベル6状態に恒久的に保つ、という実験を行うそうですとミサカは説明します」

「それなら協力してやればいいじゃねェか」

「問題はそこじゃありません。それを行った結果、ミサカたちの脳はその演算によりパンクしてしまい、廃人化する可能性がほぼ100%だということですとミサカは補足説明もします」

「それは……!?」

「そう、貴方も演算能力を失うということですとミサカは教えてあげます」

「俺のことじゃねェ! クソッタレが……ッ!」

57: 2009/12/05(土) 17:05:21.60 ID:sJ1MFCd90
「どこに行くのですか? とミサカは質問します」

「その研究所を教えろ。潰しに行く」

「それでは潰れないのはかつて実験に携わった貴方が知ってるでしょう? とミサカはため息を吐きます」

「全部の研究所を潰せば終わることだ」

「お姉様と同じことをするつもりなのですねとミサカは二人の行動原理の同レベルさに呆れます」

「じゃあなンだ、テメエははいはいと脳を差し出して糞尿垂れ流す人形になるつもりなのかよ?」

「そんなことするわけありません。あの人に救ってもらった命、絶対に粗末にはできませんとミサカは強い意思で下品な白髪を睨みつけます」

「それならどうするつもりだ?」

「そんな簡単なこともわからないのですかとミサカは短絡な白髪に呆れます」


「逃げ続ければいいだけです、とミサカは簡単なことを教えてあげます」

82: 2009/12/05(土) 21:00:28.37 ID:sJ1MFCd90
ごめん飯食ってた
今から書く

84: 2009/12/05(土) 21:05:18.96 ID:sJ1MFCd90
 翌日、俺は清々しい気持ちで目が覚めた。
 住めば都、と言うが、一人暮らしも中々悪くない。
 長門がカレーを作ってくれたお陰で飯にも困らない。

 うむ、一人暮らしもいいものだ。

キョン「もうこんな時間か」

 時計を見ればもう登校時間である。
 気怠い月曜日の始まりだ。

86: 2009/12/05(土) 21:12:34.58 ID:sJ1MFCd90
 坂のない平坦な通学路を俺は歩いて行く。
 あの坂がどんなに辛いものだったか、俺は改めて理解した。

 と、そんな微妙にウキウキ気分で通学中の俺は麗しの姿を視界に認めた。

キョン「おはようございます、朝比奈さん」

 清々しい気分で俺はエンジェゥに声を掛ける。

みくる「ふぇ? ……キョンくぅ~ん」

キョン「うおっ!?」

 すると麗しき天使はなんと瞳を潤ませて俺の胸に飛び込んで来たではないか。

キョン「ど、どうしたんですか?」

 心地よい双丘、いや双山の感触が素晴らしい。

A「あ? 別の男か?」
B「とんだビXチでさあ」

 ……誰だコイツら。

88: 2009/12/05(土) 21:22:39.08 ID:sJ1MFCd90
 見るからに不良然とした出で立ちの野郎共二人。
 おのれ貴様ら我らが朝比奈さんに何をしやがった。

A「なんだその目は?」

 おっと、知らず知らずの内に睨んでいたようだ。

 しかしこれは不味い。俺は喧嘩なんかできないぞ。

みくる「あ、キョンくん逃げてください!」

キョン「ですね!」

 こういう時は逃げるが勝ちだ。
 俺は朝比奈さんの手を引っ張り、走り出す。

B「そうはいかないさあ」

キョン「んなっ!?」

 何が起きたかわからんが、道路に立っていた標識の柱が折れ、鉄の塊が俺たちの前に倒れ込む。

キョン「これが……超能力か!」

A「その通り」

 目の前の障害物に足を止めてる間に周り込まれてしまった。

 これはヤバイ。本格的にヤバイ。
 こちとら一般人と麗しきただの未来人だ。どうやって対抗すりゃいいんだ。

90: 2009/12/05(土) 21:34:04.29 ID:sJ1MFCd90
B「さて、じゃあまずはそっちの男から切り刻むさあ」

 切り刻むだと!? 冗談じゃない!

 焦る俺をニヤニヤと笑いながら腕をゆっくりと交差させていく不良男B。

キョン「ちょまっ――」

 長門、いやこの際古泉でも最悪谷口でもいい、誰か助けてくれたりしてくれ……!


91: 2009/12/05(土) 21:36:54.28 ID:sJ1MFCd90
B「ぴぎゃ!?」

 その瞬間、俺の祈りは神様かなんかに届いたのか、不良男Bの身体が激しく跳ね、黒こげになった。

 まるで雷に打たれたかのように。いや雷に打たれた人間なんか見たことないが。

美琴「まったく、白昼堂々こんな道路の真ん中で何やってんのよ」

 不良男Bが倒れる。

 その後ろから現れたのは――昨日のなんかビリビリやってた女子中学生だった。

95: 2009/12/05(土) 21:45:03.69 ID:sJ1MFCd90
A「なんだてめえは!?」

美琴「通りすがりの電気使いよ、覚えときなさい」

 いかにも悪役らしい声で怒鳴る不良男Aにヒーローらしく答える中学生。

A「くっ……!」

 そんなすぐにやられそうな悪役クンが両手を前に突き出すと、なんと摩訶不思議、電流が発生したではないか。

 その電流は真っ直ぐ女の子の元へ。

キョン「危ない!」

97: 2009/12/05(土) 21:48:57.49 ID:sJ1MFCd90
 身体は勝手に動いちまってた。

美琴「は?」

 あんなもの食らったら相当痛いだろう。
 そんなのを女の子に味あわせるわけにはいかない、常識的に考えて。

キョン「がっ!」

 中学生と不良男Aの間に躍り出た俺の身体を電撃が直撃する。
 やべえ、痛い。

みくる「キョンくん!?」

美琴「ちょ……何やってんのよ!」

 助けたのに怒られた。理不尽だ。
 そんなことを言おうとしたら足の力が抜けて崩れ落ちる俺。

 情けないな、オイ。

 俺が倒れると不良男Aはまた充電を開始する。

 しかし女の子は仁王立ちしたまま逃げる素振りをまったくしない。

 畜生何やってんだ、早く逃げやがれ。

101: 2009/12/05(土) 21:57:15.31 ID:sJ1MFCd90
 不良男Aの両腕で電気がバチバチと音を起てる。

美琴「はぁ……もう何やってんだか」

 女の子は逃げない。本当に何やってんだ、俺の助けが無駄じゃねえか。

A「さて次に痺れるのは……」

美琴「アンタよ!」

 俺は目の前の光景を疑った。
 ヤツは何やら充電とかのモーションを必要としていたのに、目の前の女の子はいきなり電流を発生させたではないか。

 しかも、俺を打った電撃よりも遥かに高電圧。あまりの威力に衝撃波まで発生してやがる。

A「ぎゃあっ!」

 短い悲鳴を上げてカエルのように不良男Aの身体が跳ねる。
 シューという嫌な音を起て、湯気を上げながら男の身体が崩れ落ちた。

 衝撃波で捲れたスカート。見えたのは短パン。
 俺の意識が続いたのはそこまでだった。

104: 2009/12/05(土) 22:05:01.48 ID:sJ1MFCd90
キョン「ん……?」

 次に目が覚めたのは公園のベンチだった。
 そういえばさっきの騒動の場所は公園の近くだった気がする。

みくる「あ、気がつきました?」

キョン「あ、はい」

 起きて最初に目に入ったのは麗しき朝比奈さんという女神の微笑み。素晴らしい目覚めだ。
 頭の後ろも柔らかい感触が……ってこれは膝枕!?

美琴「おー、目が覚めたみたいねー」

 横から声が聞こえてきた。首だけ動かして見るとジュースを抱えたあの中学生がやってきてようだ。

106: 2009/12/05(土) 22:10:22.86 ID:sJ1MFCd90
美琴「まったく、アンタは何やってんのよ。どっかの馬鹿並の馬鹿よ」

 朝比奈さんの膝枕は名残惜しいが、起きた以上はいつまでもこうしてるわけにはいくまい。
 身体を起こしてビリビリ中学生に答えてやる。

キョン「助けてやったのに酷い言いようだな」

美琴「助けてって……私の話聞いてなかったの?
   電気使いなんだからあんな攻撃なんか効かないわよ」

キョン「俺の助けは本当に無駄だったのか……」

 がっくりとうなだれる。あれだけ身体張っておいてただの骨折り損とはさすがに堪えるな。

みくる「で、でもキョンくんかっこよかったですよぉ」

 心優しい朝比奈さんがフォローを入れてくれた。
 ありがとうございます。それだけで俺は生きていけそうです。

108: 2009/12/05(土) 22:16:43.78 ID:sJ1MFCd90
キョン「で、なんでこんな公園なんかに屯してるんだ?」

美琴「あー、なんかアンタたち訳ありみたいじゃない」

 ジュースをごくごくと飲みながらため口で言ってきやがる生意気な中学生。
 訳ありなのは訳ありなんだが……どういうことだ?

みくる(あ、すみません。
    なんか学校に通ってることになってるみたいなんですけど、その学校の場所がわからなくて……)

キョン(なるほど、そういうことでしたか。大体わかりました)

 俺は運良く変人二人組に会えたが、朝比奈さんはそうもいかなかったらしい。

 古泉のやつめ、教えてやればいいのに。

美琴「何こそこそ話してんのよ、はい」

キョン「あ、いやなんでも」

 そう言いながら中学生はジュースを差し出してきた。

 冷たいお汁粉? どんなチョイスだ……

110: 2009/12/05(土) 22:26:16.28 ID:sJ1MFCd90
キョン「それであの二人はどうなった?」

美琴「アイツらは最初に電撃食らわした方が起きてもう片方を抱えて逃げていったわ」

キョン「……そういえば二人目は大丈夫なのか? かなりの高圧電流だったみたいだが」

美琴「言ったでしょ、電気使いならある程度の電撃は大丈夫って。
   二人目のやつも電気使いみたいだからちょっと強めに打っただけよ」

 なんて街だ、ここは。

キョン「というかなんでお前はここまで付き合ってくれてるんだ?
   お前だって学校あるだろ?」

美琴「あ、そうだ、忘れてたわ」

 そう言うと鞄の中をごそごそ漁り、傷だらけの携帯電話を取りだした。

美琴「その制服、アイツ……じゃなくて上条当麻ってやつと同じ学校よね?
   昨日、アイツったら落として行っちゃってさ、ちょっとこれをそいつに渡して欲しいんだけど……」

キョン「それだけのためにわざわざここまで付き合ってくれたのか?」

美琴「べ、別にいいじゃない!
   アイツが携帯なくて困ったりしてないかなーとかなんて別に私にはどうでもいいんだけどさ、なんか私のせいでなんかあったらなんか嫌じゃない!」

 意外そうな顔をすると突然、赤くなったりする女子中学生。
 なんだかハルヒに似たやつだな。

112: 2009/12/05(土) 22:34:38.85 ID:sJ1MFCd90
キョン「しかし上条か、どっかで聞いたような……」

みくる「あ、昨日私を助けてくれた人ですね」

 なんですと!?

美琴「アイツはまた……! …………やっぱり大きい方がいいのかしら」

みくる「はい?」

美琴「な、なんでもないです」

 おーおー、朝比奈さんには敬語なのか。

美琴「とにかく知ってるなら話が早いわ、よろしく頼むわね」

 そう言って俺に携帯を渡すと一気にジュースを飲み干して立ち上がるビリビリ中学生。

美琴「いやー、新しいレベル5が出たらしくて私の能力測定とかしなくちゃいけなくて今日は空けられなかったのよね。
   よかったよかった、これで安心してテストに行けるわ」

みくる「新しいレベル5……?」

キョン「ちょっと待て、名前も何も聞いてないんだが」

美琴「私は御坂美琴」


美琴「常盤台中学のレベル5、『超電磁砲』って言った方がわかりやすいかしら?」

113: 2009/12/05(土) 22:39:19.47 ID:sJ1MFCd90



空刃裁断「くそ……なんなんだあの電気使いは……」

 重い相棒の身体を背負って裏路地を進む不良男。

空刃裁断「レベルはともかく、相棒より強い電気使いなんて初めて見たさあ……」

 ふぅ、と一息吐いて路地に相棒の身体を降ろして一休み。
 ついでに携帯を取り出して、メモリーから呼び出した電話番号に電話をかける。

空刃裁断「あ、アニキですか? ちょっとムカつくやつがいましてね……」

 その男の顔に小物らしい笑顔が浮かんだ。

114: 2009/12/05(土) 22:45:51.51 ID:sJ1MFCd90



 当然遅刻だ畜生。

小萌「まったく、昼前に学校に来るってどういう不良生徒ですか~?」

キ・み『すみません……』

 明らかに児童ポルノ法に抵触しそうな教師からの叱責を受ける俺と朝比奈さん。

小萌「キョンちゃんはともかく、みくるちゃんは真面目な生徒だと思っていたのですけど、先生は残念です」

キ・み『すみません……』

 すみません、遅刻したのは俺のせいですから朝比奈さんは叱らないでください。

小萌「はぁ……次からはちゃんと来るですよ?」


 その言葉を最後になんとか解放される俺と朝比奈さん。

古泉「ちょっといいですか?」

キョン「そして職員室を出たところで俺と朝比奈さんを出迎えたのは朝からトンカツだった時のような笑顔だった」

古泉「……いい加減怒りますよ?」

116: 2009/12/05(土) 22:53:19.29 ID:sJ1MFCd90
古泉「へぇ……そんなことがあったのですか」

キョン「屋上で事のあらましを語ると気持ち悪い笑顔を貼り付けたまま聞きやがる古泉」

古泉「一体誰に言ってるのですか」

キョン「気にするな」

 そう言いながら俺はコンビニで買ってきたおにぎりを口に含む。

古泉「しかし新しいレベル5ですか、気になりますね……」

みくる「時期的に考えて、涼宮さんでしょうか……」

古泉「十中八九、そうでしょうね。
   この街にはなんとか能力を測定する方法があるようです。
   彼女の能力を測定できたとしたら最高位に属するのは当然でしょう」

キョン「ともかくだ、まったく情報無しの状態からなんとか進展したな」

古泉「小さな一歩かもしれませんが、我々にとっては大きな一歩ですね。
   さて、この情報をなんとか長門さんにも伝えたいものですが……」

みくる「こちらから連絡を取る手段はないんですか?」

古泉「残念ながら皆無です。
   セキュリティが予想以上に堅く、機関の手も及ばないところにいるみたいですから」

 次はなんとか長門との確実なコンタクト方法か。まあ、これだけの情報じゃどうしようもないからな。

117: 2009/12/05(土) 23:00:13.10 ID:sJ1MFCd90



「面倒なヤツに狙われたもンだな」

 傷だらけの少女と彼は身体を抱えたまま、とある裏路地に身を潜める。

「電池は大丈夫ですかとミサカは一番の不安要項を心配します」

「俺の心配なンかいいンだよ。電池の容量もお前が知ってるのより上がってるしな」

 ふぅ、と息を吐くと彼は首のチョーカーのスイッチをいじり、能力使用モードから通常モードに切り替える。

「で、アイツについての詳しい情報を教えてもらおうか」

118: 2009/12/05(土) 23:06:32.31 ID:sJ1MFCd90
「それが、詳しい情報は実験に関わってる人間も一切わからないのですとミサカは明かします」

「わからないだァ?」

「彼女は確かに学園都市の人間として登録はされていました。しかし、今まで能力を測定した記録どころか、開発を行った記録すらないのです。
 『原石』タイプの能力者ということはわかってますが、記録はあるのに、誰の記憶にも彼女は存在していない。

 まるで、急に彼女が現れて、それに適合するように世界が改変されたかのような状況なのです、とミサカは説明します」

「……なンだそりゃ、まるっきり出来の悪い三流ホラーじゃねェか」

「わかっているのは彼女の能力と、レベルと、名前程度。
 詳しい理論もまだまったく不明の状態ですとミサカは現状を示します。
 そもそも、彼女が存在するのはおかしいのですとミサカは付け加えます」

「まァ、最大の『原石』って言ったらヤツだしなァ。それ以上の『原石』が昔から存在してるってのは矛盾がありやがる」

119: 2009/12/05(土) 23:12:30.12 ID:sJ1MFCd90
「そもそも、アイツの名前は何なンだ? それを聞いたことすらないンじゃさすがにおかしいぞ」

「それもそうですねとミサカは納得します。

 彼女の名前は――」

 その時、コツ、コツと足音が裏路地に響いた。

「チッ……もう追いつきやがったか」

 少女の身体を抱えて、再びスイッチを能力使用モードに切り替え、足音とは反対方向に進み、曲がり角を曲がる。


「飛んで火に入る夏の虫、ってね」

「なッ!?」

 しかし、そこに彼女はいた。

121: 2009/12/05(土) 23:18:53.68 ID:sJ1MFCd90
「クソッ……!」

 急いで方向転換。逆方向に進む。

 ベクトル操作で集められた力は二人の身体を高速で運んでいく。

「もう逃がさないわよ」

 しかし、彼女は走るだけでその速度に追いつく。
 明らかに人間の身体能力を超えていた。

 見る見るうちに両者の間が狭まっていく。

(追いつかれるのも時間の問題か……!)

 少女だけはなんとか逃がして、どうにか戦う方法を思案する。
 しかし名案は思い浮かばない。

(俺が立ちふさがろうとしてもアイツは無視してコイツを追うだろうしなァ……)

 そんなことを考えながら曲がりくねった裏路地を進んでいくと――

「うぉ!?」

 曲がったところに一般人らしき男子高校生がいた。

122: 2009/12/05(土) 23:26:00.85 ID:sJ1MFCd90
「チィ!」

 ベクトル操作で急ブレーキをかける。

「な、な……」

 高速でやってきたことに腰を抜かしているのか、尻餅をついたままの男子高校生。

「さーて、追いつい――」

 ブレーキの一瞬に、彼女は追いつく。
 しかし、固まったのは、彼女だった。

「なっ……!」

 それに対して男子高校生も驚いた様子でいる。
 後ずさる彼女。

「お、おい……」

「……ッ!」

 その男子高校生が彼女に声をかけて手を伸ばす。
 すると彼女は驚いた風にびくっとすると、なんと逃げ出して行った。

「ま、待て――

 ハルヒ!」

 男子高校生が起き上がるが、彼女は既に目にも止まらぬ高速で逃げ出した後だった。

123: 2009/12/05(土) 23:33:19.85 ID:sJ1MFCd90



 どういうことだこれは。

 下校中、ちょっとジュースを買おうと小銭を取り出したら十円玉を落とし、追いかけて裏路地に入ってみれば、高速で白髪の男が飛び出してきたかと思えば、ハルヒもやってきた。

 しかも、その白髪が抱えているのは――朝に会った御坂美琴ではないか。しかも何故か傷だらけ。

キョン「なんなんだよ、これ、どういうことなんだよこれは!?」

 俺は傷だらけの御坂美琴を見て激しく問い質す。

「テメェには関係ねェことだ」

キョン「ま、待て!」

 白髪の男だか女だかわからないやつはそれだけ言うと、また高速でハルヒとは逆の方向に飛び去って行った。

 見えたのは――御坂美琴の、縞パン。

124: 2009/12/05(土) 23:38:39.65 ID:sJ1MFCd90
 ともかくだ、ハルヒを見つけた。
 間違いない、ハルヒが新しいレベル5とやらだ。

 まずは古泉たちに連絡を――と思ったが、考えてみれば俺は携帯がない。しかも、この世界でのみんなの住所も知らない。

 誰とも自分からはコンタクトが取れないじゃないか。

キョン「こんなときに……!」

 腐っても仕方がないので、落として散らばった鞄の中身を集める。

 そこで、目に止まったものがある。

 学校で渡すのを忘れていた、朝比奈さんを助けたという、上条当麻の携帯電話。

142: 2009/12/06(日) 00:06:46.11 ID:MtnwncJS0
 ぴんぽーん、とインターフォンを鳴らす。

 プライバシーの侵害かもしれないが、緊急事態なので携帯の住所を確認させてもらったところ、なんと俺のお隣さんではないか。
 よく入り口のポストを見れば、確かに上条と名前があるし……気付かなかったとは迂闊だった。

上条「はいはーい」

 上条当麻、とやらがドアを開けて顔を出した。
 よく見れば、昨日、御坂美琴と大道芸を繰り広げてた高校生ではないか。

 うーむ、世界は狭いな。

キョン「よぉ」

上条「……どちら様?」

キョン「俺だよ俺」

上条「オレオレ詐欺は間に合ってます」

 あれ、矛盾のないように世界は改変されてるんじゃなかったのか?

キョン「クラスメイトの俺だよ、忘れたのか?」

上条「……いやいや、冗談だって!」

 なんだか必氏に否定してる上条さん。そんなに怒ってる風に見えたのか?

144: 2009/12/06(日) 00:10:39.91 ID:MtnwncJS0
上条「それで、どうしたんだ?」

キョン「御坂美琴ってやつから、これを渡してくれって頼まれてな」

 鞄から携帯を取り出して元の持ち主に渡す。

上条「おお、どこかに無くしてた俺の相棒! ありがとうな」

 長らくの相棒のように扱う上条さん。思い入れでもあるのか。

キョン「それでだ、御坂美琴の知り合いなんだろ?」

上条「確かにそうだけど……紹介してくれとか、やめといた方がいいぞ?」

キョン「違うわ! 緊急事態だ」

149: 2009/12/06(日) 00:15:13.23 ID:MtnwncJS0
 上条さん宅に上がると、シスターさんがいた。

禁書「あー、とーままた……って男の人か。珍しいかも」

上条「珍しいってなんだ!? 上条さんは友情にも熱い男ですよ!」

キョン「……つかぬ事をお聞きしますが、お二人はどういった関係で?」

上条「あー、それは話せば長くなるというか、なんというか……
   とりあえず、緊急事態なんだろ?」

キョン「そうだった! まず、お前が昨日助けたっていう朝比奈さんって人に連絡取れないか?」

上条「……訳ありの人ですか、やっぱり」

禁書「また厄介を持ってきたんだね」

 なんだか溜息を吐く二人。なんだ、俺が悪いのか?

151: 2009/12/06(日) 00:20:17.44 ID:MtnwncJS0
上条「朝比奈さんだったな、昨日は携帯なかったからどっかに番号を聞いたメモが……」

 お菓子やら何やらでゴミ屋敷状態の床を漁る上条さん。
 ……今、お菓子を多べているのはシスターさんだが、これ全部この子が食べたんだろうか。

上条「あー! スフィンクス何してやがる!」

 見ると猫が何やら紙切れで遊んでいた。というかペット飼っていいのか?

上条「もしかして……これなんじゃ……」

 恐る恐るその紙切れを拾う上条さん。うむ、この可愛らしい字には見覚えがある。

キョン「朝比奈さんの字だな、それ」

上条「なんてこった……」

153: 2009/12/06(日) 00:24:14.79 ID:MtnwncJS0


キョン「俺は携帯壊れてるし、最終手段だったのに……」

 がっくりと俺は項垂れる。

禁書「私、それに書いてあったこと覚えてるよ?」

 そこでシスターさんが小動物っぽく提案してみる。うむ、この子も可愛らしいな。

キョン「本当か!?」

上条「そうか、インデックスはそういうことできたな、忘れてた」

禁書「とーま酷いかも!」

 がぶりと上条さんの頭に噛みつくシスターさん。すごく大きな口です。

 ともかく、首の皮一つで繋がった。

155: 2009/12/06(日) 00:25:57.58 ID:MtnwncJS0
けんぷファー始まるからごめん
また猫の呪いを受けた上条さんの後に書く

168: 2009/12/06(日) 01:40:21.02 ID:MtnwncJS0


 朝比奈さんに連絡したところ、目印となるのが上条さん宅だということで、古泉にも連絡取って上条さん宅に全員集合。
 別に八時というわけではない。

古泉「なるほど、涼宮さんが自由に能力を使っていた、というわけですか……これは確かに緊急事態ですね」

みくる「キョンくんを見て逃げたのも気になりますね……何か見られちゃいけないことでもしているのでしょうか」

キョン「明らかに状況はまともじゃなかったからな。今朝、俺たちを助けてくれた御坂美琴ってやつは傷だらけだったしな」

上条「御坂がどうかしたのか!?」

 俺がそれを話すと上条さんががたっと音を起てるほど反応した。こっちが驚きだ。

キョン「まだわからん。だがしかし、やけにぐったりした様子で男だか女だかよくわからないやつに抱えられてたのは確かだ」

上条「くそ……!」

 上条さんは先程俺が返してあげた携帯を取り出すと何やらかちかちと操作。
 どうやらその御坂美琴に連絡するらしい。

169: 2009/12/06(日) 01:45:19.93 ID:MtnwncJS0
美琴『も、もしもし……』

上条「御坂か!? お前大丈夫か!」

美琴『えっ?』

上条「えっ?」

美琴『何それ怖い……じゃなくてどうしたのよ?』

上条「……どうもしてないのか?」

美琴『どうもしてないわ。強いてあげれば黒子がいつも通りだったことくらいね』

上条「どうもしてないらしいぞ?」

キョン「どういうことだ……?」

 本当にわけがわからん。俺が見たのは確かに御坂美琴だったはずだが。

美琴『ねえちょっと……何かあったの?』

上条「いや、俺にもよくわからないんだよなあ……ともかく、お前が無事ならよかった」

美琴『ななな……』

上条「じゃあな、また何かあったら電話する」

 それだけ言うとピッと電話を切る上条さん。
 酷い天然ジゴロだな。

172: 2009/12/06(日) 01:52:06.41 ID:MtnwncJS0
古泉「うーむ、涼宮さんの能力か何か、でしょうか」

キョン「それにしても脈絡がない。まさか双子の妹でしたなんてオチがあるわけでもないし……」

上条「それだ!」

 俺が何気なしに言うと、上条さんはまた大きく反応した。
 いちいちリアクションの大きい人だな。

 上条さんはどこか別のところに電話をかけてるみたいだ。
 しかし今度は聞かれたら困るのか、奥に引っ込んでしまった。

キョン「そういえば長門には連絡つかなかったのか?」

古泉「携帯電話もずっと電源が切れたまま。一切繋がりませんでしたよ」

キョン「やっぱり、どうにかして長門にコンタクトを取らないとだな……」

 悩んでいると、上条さんがひょっこり戻ってくる。

上条「双子の妹の線もどうやら違うみたいだぞ」

 本当に双子の妹がいたのか。なんでもありだな。

248: 2009/12/06(日) 17:38:16.62 ID:MtnwncJS0
古泉「今日はこれくらいですかね」

 古泉が腕時計を見ながら言う。気付けばもう夕方も遅くなってるのか。

上条「ああ、学園都市の終電は早いからな。学園都市を走って横断するのは疲れるぞ」

 なんだか何度も経験したかのような口ぶりの上条さん。
 いやいや、こんな広い都市を走ってとか、冗談じゃない。

 それに俺はお隣さんだからいいが、朝比奈さんに夜のこの街は危なすぎる気がする。
 不本意だが、古泉に送ってもらうしかないな。

 と、そこで気がついた。古泉の能力はどうなってるんだ?

251: 2009/12/06(日) 17:46:12.32 ID:MtnwncJS0
古泉「んふ、僕の能力が気になるようですね」

キョン「こいつも読心術でも使えるのか。しかし、古泉の場合に限っては気持ち悪い」

古泉「酷いですね」

キョン「だが、これだけは確認しておくべきだろう。ハルヒが能力を持って戦ってる以上、みんなの能力も把握しておかないとな」

 割と真剣に言ってみる。

みくる「私は今はキョンくんと変わらないですぅ……」

 ああ、すみません、責めてるつもりはないんです。だからそんな申し訳なさそうな声しないでください朝比奈さん。

古泉「僕はこんな感じですかね」

 何気なしに古泉が手をかざすと、そこに小さな赤い玉が生まれる。

古泉「ここはちょっとした閉鎖空間なのでしょうか、ある程度の能力は使えるようです。
   しかし、場所によってその強弱にムラがあり、まだまだ安定して使えるわけではありませんがね」

 おお、俺と朝比奈さんが一般人な以上、これは頼もしい。
 間違っても口には出さんが。

古泉「頼りにしてもらって光栄です」

キョン「顔を離せ気色悪い」

253: 2009/12/06(日) 17:56:58.39 ID:MtnwncJS0
禁書「とーまもすごいんだよ!」

 突然、今まで完全に空気と同化してたシスターさんが提案した。
 手をばたばたさせてる動作が小動物チックで可愛らしい。

キョン「って上条さんも何か力があるのか?」

上条「ああ一応な」

 上条さんはそう言うと右腕を捲って見せる。

上条「この右手は『幻想頃し』って言ってな、超能力だろうが魔術だろうが、例え神の力だろうが異能ならなんでも打ち消せるんだ」

 ほぉ、便利な能力があったもんだ。
 ん? じゃあこの人はハルヒの改変の影響を受けないんじゃ……

古泉「というか、貴方も協力してくれるんですか?」

キョン「確かに、これは俺たちの問題だ。無理に協力してもらう必要はない」

 俺がそう言うと、上条さんは大きく息を吸い込んだ。

上条「御坂が関係してるかもしれないんだろ? それなら俺の問題でもあるし、何よりお前ら困ってるんだろ?
   上条さんは友情に熱い男ですよ、友達を見捨てるわけがないじゃないですか。
   それにな、人を助けるのに理由なんかいらねえ。助けたいから助ける、それで十分だろ?」

 すごいお節介焼きだな。こいつに惚れた女の子は可哀想だ。

255: 2009/12/06(日) 18:01:52.23 ID:MtnwncJS0
古泉「ではまた明日」

みくる「学校で会いましょうね」

 そう言って、古泉と朝比奈さんは帰って行く。
 朝比奈さんも一応は能力者であるらしい古泉と一緒ならまあまあ安心できるだろう。

上条「さーて、そろそろ夕飯にしますか」

禁書「やったー! 今日の夕飯は何かな!?」

上条「うーむ、そうだな……卵が残ってたはずだが……」

 冷蔵庫をがさごそを漁る上条さん。
 うむ、微笑ましい光景だ。

上条「げっ……消費期限過ぎてやがる……不幸だ……」

禁書「え……」

 シスターさんが絶望したような顔になる。それほどまで夕飯が楽しみだったのか。

キョン「……うちに大量にカレーが余ってるんだが食べるか?」

 いたたまれなくなって、提案してみた。

256: 2009/12/06(日) 18:04:02.46 ID:MtnwncJS0
上条「本当か!?」
禁書「本当!?」

キョン「あ、ああ本当だ」

 二人のあまりの食いつきの良さに驚く。
 どんだけ飢えてるんだ。

上条「よっしゃ、今日はカレーパーティーだぞインデックス!」

禁書「カレー♪ カレー♪」

 しかしシスターさんが可愛いからよしとしよう。


 ……何か忘れているような。

258: 2009/12/06(日) 18:08:36.49 ID:MtnwncJS0



ハルヒ「キョン……」

 廃ビルの中で独りごちる。

 見られた。あんなことしてるのはキョンだけには見られたくなかったのに。

 ……嫌われたらどうしよう。いや、キョンに嫌われるようなことなんてどうでも……

ハルヒ「どうでも……よくない……」

 ……どうしよう。
 いや、どうすればいいかなんてわかってる。

 私がレベル6になれば、どうとでもできるのだから。

ハルヒ「頑張るしかない、か……」

 そう言って私は立ち上がる。しかし、ふらっと軽く目眩がした。

ハルヒ「そういえばあれから寝てなかったっけ」

 このままでは私の能力は満足に発揮できない。

 仕方ないので私はまた座り込んでしばらく寝ることにした。

260: 2009/12/06(日) 18:15:08.68 ID:MtnwncJS0



 長門が大量に作ってくれたはずのカレーが、一晩にして空鍋と化した。
 食べたのはほとんどシスターさん。あの胃袋はどうなってやがる。

 そして、今夜の晩飯はどうしようかと思案しながら、学校で作戦会議である。

上条「そういえば、もう一人、対有機ちゃんだかなんだかって人がいるらしいな」

キョン「長門のことか。
   アイツにさえ連絡が自由に取れればこの案件もすぐに終わるんだろうが……」

古泉「しかしこの学園都市、というのは予想以上に厄介でしてね……機関が入り込めない場所が多いのですよ」

上条「長門っていうのはそんなにすごいやつなのか?」

キョン「ああ、すごいったらすごい。俺たちの切り札みたいなもんだ。
   この街のレベルで言ったらレベル5は余裕なんじゃないかってくらいだ」

上条「おいおい、レベル5って生身一つで軍隊に立ち向かえる化け物だぜ?」

キョン「軍どころか世界を敵に回しても平気なやつだ」

上条「そりゃ頼もしいな」

261: 2009/12/06(日) 18:22:21.05 ID:MtnwncJS0
古泉「でも今回は彼女も上手く動けないようですね。
   機関の力を以てしても彼女がいるところは一切のデータが手に入らないのですよ」

上条「機関ってのはよくわからないが、セキュリティが堅いところにいるのか」

キョン「なんでも、長門曰く特殊な学校だそうだ」

古泉「霧ヶ丘女学院、というところです。まあ、僕たちのように無粋な男の近寄れる雰囲気じゃありませんね」

  「!」

上条「霧ヶ丘女学院? うーむ、どこか身近で聞いたことがあるような……」

 こいつの情報網はどこまですごいんだ。
 そういえばお嬢様学校のレベル5にも連絡してたし、あのシスターさんの言いぶりもあるし、かなりの女誑しなんじゃないだろうか。

  「……。」

古泉「本当ですか? 我々は僅かな情報でも欲しいところです。なんとか思い出してもらえませんか」

  「……。」

上条「いつだっけな……最初は強烈な印象が合った気がするんだが……」

  「……。」

 うーん、と悩み込む上条。
 かなりの記憶の奥底に眠っているらしい。

  「……。」

262: 2009/12/06(日) 18:34:12.26 ID:MtnwncJS0
上条「うーん、霧ヶ丘、霧ヶ丘……あ、思い出した!」

  「!!」

 俯いて悩んでいた上条さんは顔を上げて輝かしい笑顔を作る。

上条「風斬氷華ってやつが通ってる学校だ!」

  「!?」

 やはり女の子か。なんだかこの人の周りがわかってきた気がするぞ。

古泉「おお、知り合いがいるのですか。
   早速その方に連絡を取りましょう」

  「……!」

上条「それがだなあ……なんというか、ちょっと特殊なやつで、そういうのは難しいんだよなあ……」

 そしてやはり訳ありか。

古泉「そうですか、残念です」

 やれやれ、と言った風の古泉。

 しかし、頼みの上条さんもダメならどうしたもんかね。

263: 2009/12/06(日) 18:42:35.63 ID:MtnwncJS0
小萌「霧ヶ丘女学院ですかー?」

  「……!!」

 すると横から小学生のような女の子が話に飛び込んで来た。我らが合法口リ先生、小萌先生だ。

小萌「霧ヶ丘女学院と言えば……」

  「……! ……!」

小萌「うちに居候してる結標ちゃんのいるところですねー」

  「……!?」

上条「また先生は誰か拾ってきたんですか……」

 拾うってなんだ、ペットみたいに家出少女でも世話してるのか。

古泉「ともかく、霧ヶ丘女学院に近い人がいるならよかったです。
   その人を紹介してもらえませんか?」

  「……。……。」

小萌「でもそんなのこのクラスにもっと適任がいますよー?」

  「……?」

上条「そんな人いましたっけ?」

小萌「何言ってるんですか、上条ちゃん。姫神ちゃんがいるじゃないですかー」

267: 2009/12/06(日) 18:49:54.46 ID:MtnwncJS0
姫神「……!!!」

上条「えっと……ああ、そういえば姫神のやつも霧ヶ丘にいたんだっけ?」

 これは酷い。

上条「なあ姫神、霧ヶ丘女学院にいる長門ってやつと連絡取りたいんだけどできるか?」

 すたすたととある女子生徒に話しかける上条さん。
 というかそんなところに人がいたのか。

姫神「それは。人に物を頼む態度じゃない。それに今のえっとは何。その間は何。」

上条「あれ、姫神サン、何か怒ってらっしゃいます?」

吹寄「……やってよし」


姫神「イッペン。氏ンデミル?」

272: 2009/12/06(日) 19:01:42.57 ID:MtnwncJS0



 そして放課後。
 あの後、上条さんは思い切りボディブローを食らって吹っ飛んだ。自業自得である。

 結局、姫神さんは協力してくれた。つつがなく長門を連れ出してきて、久々にみんな揃ったところだ。

 しかし姫神さんは、電話で小萌先生に、
『インデックスちゃんと結標ちゃんとで鍋パーティをするので姫神ちゃんも来ませんかー?』
 と呼び出され、
「私の出番はもう終わり。ふふふ……。」
 と呟きながら小萌先生の家に向かっていった。

 そしてファミレスで会議、というか情報交換。

 しかし長門の方は情報を得ていなかったらしく、こちらが一方的に情報提供するだけの形となった。

 そこで目下の目的である、長門との直接的なコンタクトなのだが……

長門「各自の携帯端末の情報を操作し、私の脳内に直接情報を送信できるようにした」

 と言われたものの、生憎俺は携帯を壊しちまってる。

 ということで、長門、朝比奈さん、上条さん、俺、古泉のメンバーで携帯ショップへ向かっているところである。

274: 2009/12/06(日) 19:12:58.38 ID:MtnwncJS0
キョン「なんだこりゃ……」

 見れば見るほど奇っ怪な機械ども。
 ヘッドセットにしか見えないものや、まるで鉄鋼の塊のようなもの、果てはカエルの形をしたものまである。

 これが携帯電話だというのだから驚きだ。

上条「あー、外の人間には確かに携帯には見えないだろうなあ」

キョン「携帯には見えないというか、携帯に必要のない機能までついてるものもあるぞ」

上条「携帯に詰め込むには技術が余ってる状態だからなー。これなんかシンプルでいいんじゃないか?」

 店の外に陳列されてるモックの一つを手に取る上条さん。

キョン「何々……耐火耐熱耐圧耐水耐衝撃携帯?
    大気圏突破しても平気ですって携帯をそこに持って行って意味あるのか……」

 なんだこの技術の無駄遣いは。誰が欲しがるんだこんなもの。

「なー」

 と、携帯を選んで悩んでる俺たちの、正確には上条さんの足下へ小さな黒猫が擦り寄ってきた。

282: 2009/12/06(日) 19:23:47.93 ID:MtnwncJS0

「あれから追いかけて来なくなったなァ」

 傷だらけの少女の身体を降ろして身を隠し、そのまま一晩が明けた。

 今はコンビニで買ってきたコーヒーを順調に消化しているところである。

「しっかし、これだけ騒ぎが起きてるのに警備員や風紀委員どころか一般人すら騒がないのはどういうことだ?」

「箝口令が敷かれているのです、とミサカは説明します」

 もぞり、と少女が動く。

「起きてたのか」

「それに加えて、私からもできる限りの情報を漏らすまい、としているのですから騒がれてもらっては困りますとミサカは追加説明もします」

「混乱が起きてた方が逃げやすいンじゃねェのか?」

「確かにそうかもしれませんが、それでは巻き込まれる人が出てくるのですよとミサカは短絡的な思考に呆れます」

「善人様ですねェ。まァ、カタギのやつらを巻き込むのは俺も本意じゃねェな」

「それに、巻き込みたくない人もいるのですとミサカは本心も言ってみます」

293: 2009/12/06(日) 19:36:28.42 ID:MtnwncJS0
「巻き込みたくない人だ?」

「自分の身を顧みず、一度会っただけの他人のためにも全力で命を張るお節介さんが、困ったことにいるのですよとミサカは溜息混じりに話してみます」

「そいつはとンだ善人様だなァ。そいつだけは巻き込みたくないってか」

 そう言うと彼はコーヒーを一気に飲み干す。

「昨日、俺にお前のお姉様とやらと同じ思考って言ったけどな、お前のその思考こそソックリだよ」

「私は素直になれないお姉様とは違いますとミサカは少し憤慨してみます」

「ハッ……本当にソックリだよお前らは」

 すると突然、少女は起き上がった。

「涼宮ハルヒが動きましたとミサカは切迫した状況を伝えます!」

「ついに来やがったか」

 彼はアキカン!を投げ捨てる。廃ビルにカコーン、と静寂には大きな音が響いた。

「彼女が来たのはこちらではありませんとミサカは情報伝達の齟齬を訂正します!」

「チッ……別の『妹達』は『冥土返し』のところにいるンだっけか。そっちを狙われたか」

「違います!」


「彼女が狙ってるのは――クソ上司の方ですとミサカは衝撃の事実を明かします!」

295: 2009/12/06(日) 19:38:27.96 ID:MtnwncJS0
誤変換した
『アキカン!』じゃなくて『空き缶』だ

298: 2009/12/06(日) 19:48:19.42 ID:MtnwncJS0



上条「お前は……」

 上条さんが足下に擦り寄ってきた猫を抱き上げる。
 本当に猫に縁のある人だな、いつか猫の地蔵の呪いにでもかかりそうだ。

みくる「上条さんのペットですか?」

上条「いや……こいつはイヌだ」

キョン「いやどう見ても猫だ」

上条「そうじゃなくて、こいつの名前らしきものだよ」

長門「猫なのにイヌ……」

 無表情の長門だが、少し笑ったような気がする。こういうのがツボなのか。

上条「ちゃんとした名前はなんだっけなあ……ともかく、昨日話した御坂美琴の、まあ妹みたいな感じのやつのペットだ」

299: 2009/12/06(日) 19:54:45.14 ID:MtnwncJS0
 妹みたいな感じってわけわからん。妹じゃないのか。

上条「とすると……御坂妹のやつが近くにいるのか?」

キョン「いやいや、猫と散歩なんか普通はできないぞ。
    それこそ、何かの呪いにでもかかって猫の言葉がわかるようにならない限りは」

上条「でもこいつは普段アイツの病室にいるしなあ……痛っ」

 いつまでも抱いていた上条さんにイラついたのか噛みつくイヌ(仮)。
 というか病院で猫を飼っていいのか。

「なー」

 とたっと地面に音もなく降り立つと、裏路地の入り口まで走っていき、そこで立ち止まる。

上条「……連いて来い、って言ってるのか?」

 すごいな上条さん。猫の言葉がわかるのか。

304: 2009/12/06(日) 20:10:15.58 ID:MtnwncJS0

 上条さんを先頭にイヌ(仮)を追いかけて裏路地を進む俺たち一行。
 イヌ(仮)はすいすいと進んでいき、廃ビルの前でまた立ち止まる。

上条「なるほど、この中か」

 何がなるほどなのか通訳してもらえませんかねえ。

 上条さんの言葉を理解したかのようにイヌ(仮)は廃ビルの中へ突入。
 続いて俺たちも突入しようとする。

 するとそこでカコーン、と音がした。

古泉「……誰かいます、気をつけてください」

 すると古泉が小声で俺たちに言った。
 一同に緊張が走る。

 警戒しながら中へ突入する。

 イヌ(仮)はそんな空気などおかまいなしに、俺たちが連いてきたことを確認すると、さっさと二階に消えてしまった。

 みんなで顔を見合わせて、確認を取る。
 意見は一致、GOだ。

305: 2009/12/06(日) 20:15:48.78 ID:MtnwncJS0
 足音を頃して、ゆっくりと二階に上がる。

 階段を上りきると、踊り場から部屋へのドアがなくなっていて、外からの光が薄暗い階段を照らしていた。

 すぐに踊り場に躍り出るようなことはしない。ゆっくりと、慎重に、上条さんが壁を這うようにして進み、部屋の中を覗き込む。

上条「どうした御坂妹!?」

キョン「お、おい!」

 すると上条さんは血相を変えて部屋の中に飛び込んでいった。
 慌てて俺たちも上条さんの後を追う。

 部屋の中には、散乱したガラスと、壊れたペット用のゲージと、イヌ(仮)と、

 ゴーグルをしたまま銃を抱えた、傷だらけの御坂美琴がいた。

307: 2009/12/06(日) 20:24:51.22 ID:MtnwncJS0
御坂妹「どうしてここに、とミサカは驚きながら質問します」

 驚いて、銃を降ろす御坂美琴。というかなんだそのウザい喋り方は。

上条「こいつが俺たちを案内してな……というかお前こそどうしたんだよ!」

 上条さんは御坂美琴から離れた位置で毛繕いをしている黒猫を親指で指す。

御坂妹「どうもしてません、とミサカは回答します」

上条「こんな傷だらけでどうもしてないわけないだろ!
   あの医者に確認したらなんともない、って言ってたのに、どうしてこんな……」

御坂妹「……」

 上条さんの言葉を聞くと御坂美琴はばつの悪そうに目を伏せる。

キョン「なあ御坂さん、何があったかくらいは、話してくれないか?」

309: 2009/12/06(日) 20:33:57.53 ID:MtnwncJS0

 俺たちは腰を下ろし、長門風に言えば会話モードに移行した。

御坂妹「まず、その人たちは誰ですかとミサカは疑問を投げかけます」

上条「ああ、こいつらはちょっと色々厄介ごとがあってな。協力してなんとかしてるってところだ」

御坂妹「……全然説明になってませんとミサカは貴方の説明力のなさに呆れてみます」

上条「だって、こいつらの言うこと難しくてよくわからないんだもん!」

 同意見だ。

古泉「まあ、まずは自己紹介をしておきましょうか。
   僕は古泉一樹、この街では特に珍しくもない超能力者です」

キョン「それでこいつが長門、まあ、宇宙人だ。まあ俺と朝比奈さんはいいよな」

御坂妹「よくありません、誰ですか、というか宇宙人って意味が分かりませんとミサカは矢継ぎ早に質問をぶつけてみます」

キョン「誰ですか……ってなんか変なやつらから助けてくれたじゃんか」

御坂妹「……お姉様と勘違いしていませんかとミサカは間違いを予想してみます」

キョン「お姉様?」

上条「ああ、言ってなかったな。こいつは御坂妹。
   言うなれば、まあ、御坂美琴の双子の妹だ」

 本当にいたのかよ。

316: 2009/12/06(日) 20:43:17.58 ID:MtnwncJS0

御坂妹「つまりまとめると、超能力者、未来人、宇宙人、そして特に面白味もない普遍的な貧弱一般人が涼宮ハルヒの周りに集まって世界を大いに盛り上げようとしているわけですねとミサカは要約してみます」

キョン「ちょっと待て、なんか物凄く失礼なことを言いやがっただろ」

古泉「それはまあ置いておいて、そんなところですね」

上条「えー、これ一発で信じられるの……?」

 上条さんが少し不気味気な表情をする。

 すると御坂妹さんはふぅ、と軽く息を吐くとこう言いやがった。

御坂妹「出来の悪い三流SFですね。まるでK川辺りが大賞にでも選びそうですとミサカは電撃使いとしての目線から語ります」

 畜生、やっぱり信じてなかったか。

御坂妹「そのSOS団のくだりはどうでもいいですとミサカは話題を変えます」

 しかもどうでもいいと流しやがった。

御坂妹「涼宮ハルヒ、ですか……やはり貴方は関わってしまったのですねとミサカは自分の努力が徒労に終わったことにショックを感じます」

319: 2009/12/06(日) 20:49:21.61 ID:MtnwncJS0
>>315
レベル5とルビの振られる超能力者と単に超能力を使う意味での超能力者の二種類が禁書世界には存在するんだぜ
----------------------------------------------------------------
古泉「……やはり、貴方も涼宮さん絡みですか」

御坂妹「そうですよ。よくもこの人も巻き込んでくださりやがりましたねとミサカは怨念を籠めながら呪詛を呟きます」

 なんだ、みんな上条さん大好きなんだな。

上条「もうここまで来たら俺は引き返せない」

 上条さんの言葉で空気が一変して真剣なものになる。
 何このイケメン。

上条「だから、何があったか、教えてくれるか?」

御坂妹「……仕方ありませんねとミサカは諦めます」

342: 2009/12/06(日) 21:42:55.05 ID:MtnwncJS0



打止「ケーキ♪ ケーキ♪ ってミサカはミサカは即興詩を紡いでみる」

 嬉しそうに炊飯器を眺める10歳ほどの少女。
 説明するまでもなく、炊飯器とは万能調理器具なのである。

黄泉川「そんな眺めてても残り時間は変わらないじゃんよ」

打止「こうやって眺めてるのが幸せなのってミサカはミサカは説明してみたり」

黄泉川「あんまり近づいて火傷したら危ないじゃんよ……」

 そんな保護者の心配を余所に打ち止めは楽しそうに炊飯器の液晶画面を眺め続ける。

 と、そこへピンポーンとインターフォンが鳴った。

黄泉川「お、桔梗のやつ帰ってきたかな」

 そうして黄泉川は何の疑いもなく玄関を開ける。

黄泉川「おかえりじゃん……ってあれ?」

 しかし、そこに予想していた人物はいなかった。
 代わりにいたのは。


ハルヒ「こんにちは。打ち止めって子、いますか?」

345: 2009/12/06(日) 21:53:34.78 ID:MtnwncJS0
打止「フルーツの到着かなってミサカはミサカは楽しみにしてみる」

 黄泉川が来訪者を迎えに行ったのを見て、打ち止めは期待を籠めた視線を玄関の辺りに送ってみる。

 『妹達』は今、危機に瀕してはいるが、その危機が去るのも実は時間の問題なのだ。
 それまで耐え抜けばいいだけで、耐え抜いたら10032号と一緒にいるはずの彼と接触が取れるのだ。

 打ち止めはそれが楽しみで楽しみで仕方がない。

 そして、そのためのケーキなのである。

打止「少し作るのが早すぎたかなってミサカはミサカはちょっと不安になってみる」

 一瞬、不安げな表情をするが、思い直す。

打止「でも、あの人に任せておけば大丈夫だよねってミサカはミサカは再確認してみたり」

 そして、再び笑顔。

打止「え――」

 だが、その笑顔は、次の瞬間に固まる。

 居間まで一直線に吹っ飛んできた緑色のジャージ姿の保護者を見て。

349: 2009/12/06(日) 22:00:30.65 ID:MtnwncJS0
 どがっしゃーん、という凄まじい音を起てて壁に激突する黄泉川。

黄泉川「いきなりやってくれるじゃん……」

 しかし黄泉川は玄関に立てかけてあったはずの警備員用の盾を手にふらふらと立ち上がる。

ハルヒ「そっちこそいきなり強烈に拒否してくれるじゃないですか。
    だから『退いて』もらっただけですよ」

 そこに土足で入り込んできた女子高生。彼女は打ち止めの見たことのない制服を着ていた。

黄泉川「逃げろ打ち止め! なんか知らないがお前を狙ってるみたいじゃん!」

打止「な、なんで――」

 しかし、打ち止めは固まったまま動かない。

 なぜ、彼女はこちらに来たのか、理由がない。

 彼女の能力を以てすれば、上位個体である打ち止めを介さずに、ミサカネットワークを掌握することが可能であり、わざわざ打ち止めを狙う必要がないのだ。

358: 2009/12/06(日) 22:09:33.68 ID:MtnwncJS0
ハルヒ「おいで」

 彼女がそう呟くと、打ち止めは自分の身体が引っ張られるのを感じた。

 次に、打ち止めの小さな身体は宙を浮き、彼女の元へと真っ直ぐに飛んでいく。

打止(いけない! ミサカが捕まったらあの人は――)

 思考は最後まで続かなかった。
 横からの衝撃がそれを中断させたからだ。

黄泉川「逃げろって言ってるじゃんよ!」

 見れば黄泉川が打ち止めの身体を押し倒すようにして守っていた。
 壁からここまで来たのだとしたら物凄い身体能力だなあとか打ち止めはあまりの衝撃で呑気になった思考で考える。

ハルヒ「……すごいですね。
    能力者じゃないのにあそこから盾を持ったまま一瞬でここまで来るなんて」

黄泉川「こちとら体育教師でね。身体を動かすのは得意じゃんよ」

 そう言って黄泉川は身体の後ろに打ち止めを隠す。

ハルヒ「でも、私には勝てませんよ。今の内にその子を渡してくれませんか?」

黄泉川「そんなの……お断りじゃんよ!」

365: 2009/12/06(日) 22:17:09.79 ID:MtnwncJS0
 黄泉川は盾を構えて突撃する。
 学園都市の技術で作られた盾はまさに鉄壁であり、例え大能力者の物理攻撃ですらなかなか壊せない硬さを誇る。

 当然、あらゆる技術が駆使されていて、能力を上手く使えないように思考を乱すデザインや、その他諸々の機能があるのだが。

ハルヒ「来ないで」

黄泉川「ッ!?」

 彼女の前では無意味だった。

 彼女がたった一言呟くだけで、黄泉川はまた背中側へと吹き飛ばされる。
 だが、同じ攻撃を二度も受けていては学園都市の警備員は務まらない。

黄泉川「こなくそっ!」

 盾を思い切りフローリングに突き刺し、ブレーキをかける。
 フローリングの床がめきめきと捲れていくが、気にしない。

 さらに足を床に付けて減速、反発させ、停止どころか再び彼女に対して突撃を敢行した。

ハルヒ「なっ!」

 さすがの彼女もこの人間離れした業には驚いたらしく、一瞬思考が止まる。

 そこへ、黄泉川のチャージが襲いかかった。

372: 2009/12/06(日) 22:28:08.75 ID:MtnwncJS0
ハルヒ「に゙ゃっ!」

 彼女が黄泉川と盾の重量に押し潰される。

黄泉川「犯人確保、暴行罪の現行犯で逮捕じゃんよ」

 さらに盾のスキマから電子手錠を彼女の手にかける。

ハルヒ「っ……やってくれるわね……」

黄泉川「どんな能力か知らないが、能力ってのは考えなくちゃ使えないものじゃん。
    だから驚かせて、能力を自由に行使できない状況を作って捕まえる、警備員の基本戦法じゃんよ」

 さらにもう片手も手錠にかける。

黄泉川「このタイプの手錠はあの『原子崩し』でも中々壊せないものだし、観念しな。
    そうすりゃ初犯ってことで見逃してあげないこともないじゃんよ」

 その言葉を聞くと彼女は意外そうな顔をした。
 先生の優しさに驚いちゃったかななんて黄泉川は自惚れたが、そんなことはなかった。

ハルヒ「へぇ……

    第四位くらいでも壊せるんだ」

377: 2009/12/06(日) 22:35:57.36 ID:MtnwncJS0

 次の瞬間、黄泉川の意識が一瞬飛んだ。

 何かが光ったのはわかったが、何が起こったのかはわからなかった。

 目を開けてみると、窓ガラスは割れ、部屋は滅茶苦茶になり、手錠も盾も粉々に砕けて散らばっていた惨状が真っ先に視界に入ってきた。

 そして、倒れてる自分と、打ち止め。何事もなかったかのように立っている彼女。

 彼女は無言で打ち止めに近づこうとする。

378: 2009/12/06(日) 22:37:51.94 ID:MtnwncJS0
黄泉川「くそっ……!」

 だがそうはさせまいと、黄泉川がその間に割って入る。
 すると彼女はまた驚いた表情をした。

ハルヒ「あんな至近距離で受けたのにまだ動けるの?」

黄泉川「伊達に鍛えてないじゃんよ……」

ハルヒ「……アンタ、すごいわね。名前ななて言うの?」

黄泉川「……黄泉川愛穂」

 答えると、彼女は笑顔を作った。

ハルヒ「いい名前ね。私がレベル6になったら真っ先に生き返らせてあげるわ」

黄泉川「そりゃ……光栄じゃん……」

 そして彼女は手を振り上げ――

「調子乗ってンじゃねェぞ」

 人の形をした砲弾がベランダから飛び込んで来た。

390: 2009/12/06(日) 23:05:51.90 ID:MtnwncJS0
  ∧,,∧
 (;`・ω・)  。・゚・⌒) チャーハン作るよ!!
 /   o━ヽニニフ))
 しー-J

        アッ! 。・゚・
  ∧,,∧ て     。・゚・。・゚・
 (; ´゚ω゚)て   //
 /   o━ヽニニフ
 しー-J    彡

    ∧,,∧    ネトスタまで書くヨ・・・
   ( ´・ω・)
  c(,_U_U      ・゚・。・ ゚・。・゚・ 。・゚・
     ━ヽニニフ

392: 2009/12/06(日) 23:11:25.13 ID:MtnwncJS0



御坂妹「――ということなのですとミサカは大人の事情で説明を簡潔に済ませます」

 御坂妹さんは物凄くわかりやすく教えてくれた。

上条「なんだよそれ……」

キョン「何やってんだよハルヒのやつは……」

みくる「は、廃人って……」

古泉「これは……予想以上に厄介ですね……」

長門「……」

 それに対して俺たちは各々のリアクションを取る。

上条「畜生……こいつらだって生きてるんだ! なのに……人の命をなんだと思ってやがる!」

 しかしやっぱり上条さんのリアクションは大きいな。

402: 2009/12/06(日) 23:20:57.11 ID:MtnwncJS0
御坂妹「しかし安心してください、とミサカは追加説明を始めます」

キョン「今の話を聞いておいて安心しろというのは無理があるぞ」

御坂妹「これからの話を聞けば安心しますよとミサカは心配性な貧弱一般人を宥めてあげます」

 こいついい性格してんな。

御坂妹「確かに、私たちは危機的状況ではありますが、実はこれは時間経過と共に解消されるのですとミサカはいつも一つの真実を明かします」

上条「時間経過?」

御坂妹「そうです。考えてもみてください、彼女の力は強大です。
    今現在は、私たちに代理演算させるという方法しか提示されていませんが、これほどの能力なら他にいくらでも方法が考えられるのです
    とミサカは希望の光を示します」

キョン「でも、そんなの誰も探してないかもしれないじゃないか」

御坂妹「いいえ、探している人はいますよ。しかも凄腕の人がとミサカは倒置法でさらなる事実を述べます」

上条「それって……」

御坂妹「そうです、貴方のほとんど主治医になってる人ですとミサカは言葉を継ぎ足します」

413: 2009/12/06(日) 23:30:53.00 ID:MtnwncJS0

キョン「だがな、その方法が見つかるとも限らんだろ」

御坂妹「それなら問題ありませんよとミサカは一般人らしい杞憂を取り払います。
    なぜならあの人は――」

上条「患者の必要としているものなら何でも用意するから、だろ?」

御坂妹「その通りですとミサカはセリフを奪われて(´・ω・`)とします」

 そんな無茶苦茶な……
 だが、この二人の口ぶりからすると、今までそれを叶えてきていたのだろう。信頼して任せるしかない、のか。

長門「……」

古泉「しかし、その話を聞く限りではおかしいですね」

キョン「何がだ?」

古泉「考えてもみてください、この話を聞く限りでは、まるで涼宮さんの能力に制限があるみたいではないですか」

みくる「確かに、それはおかしいですね……」

古泉「涼宮さんは今まで、様々な物理的制約、常識を越えて能力を発揮していました。
   それなのにこれではまるで涼宮さんにできないことがあるかのようです」

418: 2009/12/06(日) 23:38:46.82 ID:MtnwncJS0
上条「いや何事にも限界はあるものだろ?」

 こっち側の常識を知らない上条さんらしい意見だ。

キョン「ハルヒはな、なんでもありなんだよ」

 そんな上条さんに俺は常識を伝えてやる。

上条「そんな無茶苦茶な……」

キョン「その無茶苦茶を体現するのが涼宮ハルヒという人間なんだ」

 ともかく、これでハルヒの狙いも、意図もわかった。
 今度はこちらから先手を打てそうだ。

長門「……」

キョン「ん、どうした長門?」

長門「……なんでもない。情報を送信していただけ」

キョン「そういえば、お前のところの大将はなんて言ってるんだ?」

長門「今は情報を送信したところ。この世界では情報をやりとりするのに時間がかかる模様。
   まだ回答は返ってきていない」

 長門にも制約があるのか。大事に繋がらなきゃいいが。

420: 2009/12/06(日) 23:45:37.14 ID:MtnwncJS0
長門「……そろそろ時間」

 そう言って長門は立ち上がる。

キョン「何の時間だ?」

長門「学校の寮に戻らなければならない。門限は厳しい」

キョン「そんなもん無視すりゃいいだろうに」

古泉「そういうわけにもいかないでしょう。長門さんにはいざという時にはいつでも動いてもらえるようにしていただかないと。
   いつでも力押しで無理矢理なんて余計な被害を生むだけですよ?」

 呆れたように言いやがる古泉。

キョン「言ってみただけだ」

長門「……」

 ということで、長門は霧ヶ丘女学院へと帰っていった。

424: 2009/12/06(日) 23:55:36.62 ID:MtnwncJS0



黄泉川「一方……通行……」

 黄泉川は途切れ途切れに突然舞い降りた白髪の悪党(ヒーロー)の名前を呟きながら見上げる。

一方「よォ。ご自慢の炊飯ジャーは全滅みてェだな」

 一方通行はつまらなそうに部屋を一瞥する。

ハルヒ「へぇ……アンタが『一方通行』だったのね」

 それと対照的にハルヒは面白そうな顔をして一方通行の顔を見る。

一方「何だ、知らなかったのか? 暫定一位の『幻想創造』様も知識には疎いみたいだなァ」

ハルヒ「仕方ないじゃない、こっちの世界に来てから数日も経ってないんだから」

 不機嫌そうにむくれるハルヒ。

一方「こっちの世界? 何わけのわからねェこと言ってやがる」

ハルヒ「アンタには関係ないことよ」

一方「そォかい」

 それだけ言葉を交わすと、二人は黙ったまま見つめ合う。

 マンションは戦場になろうとしていた。

428: 2009/12/07(月) 00:05:38.96 ID:IzuBx4dl0
一方「なァ、今、このマンションの住人はどこにいるか知ってるか?」

ハルヒ「はぁ? そんなの知らないわよ」

一方「何でもなァ、爆破テロの可能性があるってされて、住民は全員退避中らしい」

ハルヒ「そうだったの。他の部屋に影響出ないよう、能力調節してたのに意味なかったのね」

一方「そういうことだ。だから、どんなことしても、誰も困りはしねェ」

ハルヒ「それで、全力で戦おう、ってわけ?」

一方「違ェよ」

 ふっと、一方通行が片手を振った。
 すると何らかの力が発生したのか、キッチンがぐしゃりと音を起てて潰れる。

一方「こういうことだ」

 そして、もう片手でいつの間にか持っていた銃の引き金を引く。
 銃弾はしゅーと音を起てながら潰れているキッチンへ。

ハルヒ「アンタ――」

 火花。

 そして爆発。

434: 2009/12/07(月) 00:16:19.81 ID:IzuBx4dl0
ハルヒ「きゃあっ!」

 真っ赤な炎が一方通行、打ち止め、黄泉川、そしてハルヒの全員を覆う。

ハルヒ「っ……収まれ!」

 それでも、そんなものでどうこうなるレベル5ではない。
 ハルヒの一言で爆発は瞬時に収まる。

 だが、爆発が収まったそこには――ハルヒ一人しかいなかった。

ハルヒ「アイツ……!」

 そこでハルヒは理解する。
 あの派手な登場も、自分の注意を引きつける挑発も、全ては全員無事に逃げ出すためだったと。

 どんな能力を使ったかは知らないが、おそらく、ダメージを負うようなヘマはしていないだろう。

 まんまと一杯食わされた、というわけだ。

ハルヒ「あったまきた!」

 逃げ道はベランダからしかない。
 だが、相当な速度で逃げていたのだろう。既に視界には映らない。

 それでもハルヒは激情に駆られ、一直線に飛び出した。

440: 2009/12/07(月) 00:25:18.88 ID:IzuBx4dl0

 結論から言うと、一方通行たちは遠くには逃げていなかった。
 いるのは隣の部屋。わざわざマンションを爆破したのは隣の部屋まで破壊し、侵入の痕跡を消すためだ。

黄泉川「げほっげほっ……かなり無茶するじゃん……」

一方「二人も抱えて追いかけっこなンかできるか。戦うのなンざ論外だ」

黄泉川「だからってマンションごと爆破させることはないでしょ。
    桔梗が帰ってきてマンションがなくなってたら驚くじゃんよ」

一方「学園都市のマンションがガス爆発ごときで倒壊するかよ」


一方「さァて、時間切れまでかくれンぼだ。どっちが頭がイイかはっきりさせようじゃねェか」

446: 2009/12/07(月) 00:39:46.95 ID:IzuBx4dl0



キョン「それでだ、今後はどうするかについてだが」

古泉「やはり、彼女たちの作戦の効率化を図るために、病院という拠点を構えて籠城戦、でしょうか」

キョン「そうだな。今なら御坂妹さんを病院に送り届けられそうだしな」

上条「それについてなんだけど、俺に一つ提案がある」

 と、そこへ上条さんが自信たっぷりに言い出した。

上条「涼宮ハルヒを先に倒しちまうってのはどうだ?」

キ・古・み・御『…………』

上条「な、なんですかその目は!?
    いやだって、そのハルヒってやつをレベル0の俺が倒せば、一方通行よりも強くて学園最強っていう前提が崩れるんだから、実験潰れるだろ?」

キョン「……あのな、それができたら苦労しないんだよ」

古泉「そもそも、涼宮さんの居場所なんてどうやって調べるんですか」

上条「いや、実験とやらのためにどこか研究所に世話になってるんだろ?」

古泉「だからどうしたって言うんですか。機関の力を以てしても調べることは不可能なんですよ?」


上条「大丈夫だ、俺にもこういう時の切り札がある」

449: 2009/12/07(月) 00:45:06.26 ID:IzuBx4dl0
 prrrrr……

美琴『も、もしもし?』

上条「御坂か? ちょっと頼みたいことがあるんだが……」

美琴『た、頼み事? し、仕方ないわね……』

上条「おお、聞いてくれるのか! ありがとう御坂!」

美琴『べ、別に頼み事を無碍に断るような人間じゃないわよ私は!』

上条「さんきゅー! 後でなんでもお礼するぜ」

美琴『なんでも!?』

上条「ん? どうした御坂」

美琴『ななななんでもないわよ!』

 上条さん、あんたは酷い男だな。

457: 2009/12/07(月) 00:54:39.62 ID:IzuBx4dl0

美琴『――うんうん、それで涼宮ハルヒって子の居場所と行動と今後予測されるルートを調べればいいのね?』

上条「ああそうだ、できるか?」

美琴『……アンタ、ストーカー?』

上条「違うわ!」

美琴『やってることはまんまストーカーじゃない』

上条「ただの緊急事態だっての!」

美琴『はぁ……まーた何か変なことに首突っ込んでるんでしょ……そういうのはほどほどにしときなさいよ』

上条「ともかく頼む!」

美琴『仕方ないわね……ちょっと待ってて』

上条「わかっ」

美琴『調べたわよ』

上条「はやっ!?」


古泉「……機関の力を以てしても、一切不明だったのに……」

みくる「恋する女の子は強いんですよ」

458: 2009/12/07(月) 00:56:11.08 ID:IzuBx4dl0
すまん、ネトスタの時間みたいだ
けんぷファーの後に起きれたら書くけどできれば保守しておいてほしい

533: 2009/12/07(月) 15:59:05.81 ID:IzuBx4dl0
美琴『涼宮ハルヒ……ね。例のレベル5のことだったの』

 上条さんは電話をスピーカーフォンに切り替えて、俺たちにも聞こえるようにしてくれる。
 カリカリとマウスをスクロールさせる音がするので、おそらくもう情報を手に入れて読んでいるところなんだろう。

美琴『それで居場所は……は? これ、どういうこと……?』

上条「どうした?」

美琴『「妹達」の上位個体、20001号最終信号・打ち止めを引き取りに? 新絶対能力進化計画?
   何コレどういうことよ!?』

上条「あ……」

 御坂美琴の声が大きく音割れしながらスピーカーから響く。
 上条さんはしまった、という風な表情。

 ……まさか計画が広まるのは予想だにしてなかった、とかなのか?

534: 2009/12/07(月) 16:09:31.88 ID:IzuBx4dl0
上条「まあ、その、あれだ。それが緊急事態」

 なんとも歯切れの悪い調子で答える上条さん。
 この人はもしかして、相当な馬鹿なんじゃないだろうか。

美琴『冗談じゃないわよ! 私も今からそこに行くわ!』

 がちゃがちゃと何やら慌ただしい音が聞こえる。
 面倒なことになってきたんじゃないか、これは。

上条「待て美琴、大丈夫だから落ち着け! これからそのハルヒってやつをなんとかしに行くから何も問題ないんだってば」

 上条さんは結構無茶苦茶なことを言う。
 まあ、最悪、ハルヒと接触さえできれば長門がどうとでもしてくれるだろうし、なんとかなるだろうけど。

美琴『なんとかするってアンタバカァ!? 相手はレベル5、しかもあの一方通行を飛び越えて暫定一位になるような相手よ!?』

上条「それでも大丈夫だ、俺を信じてくれ」

美琴『うっ……』

 はっきりと言う上条さん。おーおーイケメンですねえ。
 仕方ない、俺も助け船を出してやるか。

キョン「それに、誰かナビゲートしてくれる役のやつがいないとそもそもハルヒの元にまでたどり着けないだろ?
    ハルヒはこっちの身内だ、俺たちに任せてくれ」

美琴『確かに、それはそうだけど……うーん……』

535: 2009/12/07(月) 16:17:07.00 ID:IzuBx4dl0
 なんだか激しく悩んでる様子が電話を通して伝わってくる。
 これだけ思われるなんて上条さんは幸せ者だなあ。

 やがて、小さく溜息を吐く音がスピーカーから聞こえた。

美琴『……わかったわよ。その代わり、無茶するんじゃないわよ?』

上条「スマン御坂、恩に着る」

美琴『どうせ私が何を言ってもアンタは聞かないんでしょ? 長い付き合いなんだからそんなのわかってるわよ』

 うむ、これがツンデレというやつか。ハルヒもこれくらいの可愛げがあればいいんだがなあ。

美琴『ちょっとだけ待ってなさい』

 がちゃりと何かドアを開ける音がし、すたすたと移動しているような足音が聞こえる。
 そしてどすんと座る音がしたと思ったら、ガチャガチャガチャと物凄い打鍵音が聞こえてきた。

上条「何してるんだ?」

美琴『緊急事態なんでしょ? 全力で協力してあげるだけ。すぐにメール送るから確認しなさい』

上条「あ、ああ……?」

美琴『じゃあ一回電話切るわよ』

 一体何をしているのやら。
 よくわからないまま、電話は一度切れた。

538: 2009/12/07(月) 16:23:14.28 ID:IzuBx4dl0

古泉「しかし、よかったのですか?」

上条「何がだ?」

古泉「この電話の相手は、あのレベル5の『超電磁砲』なのでしょう?
   彼女は強力な戦力になったのでは」

上条「確かに御坂は強い。だけどな、こんなことに女の子を巻き込めるかよ」

キョン「同意見だ。それに長門がいれば戦力ならどうとでもなるだろ」

古泉「まったく貴方たちは……酷い人たちですね」

キ・上『何がだ?』

 やれやれ、と言った風なポーズの古泉。そりゃこっちのセリフだ。
 お前は中学生まで巻き込もうと思うのか。

 と、そこで上条さんの携帯電話が鳴る。
 知らないアドレスだ。

上条「御坂の、アドレスじゃない?」

 すると今度は古泉の携帯が鳴った。

541: 2009/12/07(月) 16:29:03.51 ID:IzuBx4dl0
古泉「はい、もしもし」

美琴『もしもーし、上条さんと一緒にいる古泉さんの電話ですかー?』

古泉「御坂さん? 確かにそうですが……」

 なんと電話相手はあの御坂美琴のようだ。
 古泉はすぐさまスピーカーフォンに切り替える。

美琴『ごめんなさい、緊急事態だし勝手に調べさせてもらっちゃいました』

古泉「……機関員の個人情報は機密情報なはずですが……」

キョン「まあ、その、元気出せ」

美琴『ってことで、細かい説明省くわ。メール開くと、私がさっき即興で作ったソフトが起動するからそれを使いなさい、以上』

上条「は? えーと……」

 言われて上条さんはさっきのメールを開く。
 するとその瞬間、電源が落ち、すぐに再起動。

 出てきたのは簡素な地図アプリのようなものだった。

545: 2009/12/07(月) 16:36:49.79 ID:IzuBx4dl0
>>539
キョン「部外者で、しかも中学生の女の子をあんまり関わらせるのはダメだろ、常識的に考えて」

-------------------------------------------------------------------------------
美琴『赤い点が涼宮ハルヒの居場所、青い線が予測されるルート、黄色の範囲が涼宮ハルヒの行動可能範囲、そして緑の点が現在位置よ』

 おいおい、こんなソフトを今の一瞬で作り上げたのか?
 長門のようなことをしやがるな……なんて街だ。

上条「これはわかりやすい、サンキュー!」

美琴『どういたしまして。でもそれは私の能力で無理矢理動かしてるようなものだから、早く決着着けないと携帯壊れるわよ?』

上条「……マジですか」

美琴『じゃあ私は情報収集に専念するから頑張りなさい』

 そう言うとまた電話は切れる。

上条「さてと、反撃開始だな」

547: 2009/12/07(月) 16:48:05.77 ID:IzuBx4dl0
キョン「さて、こっちの切り札にも連絡いれるとするか」

 と、そこで俺は気付く。まだ携帯買ってないじゃん。

古泉「はいどうぞ」

 間髪入れず、古泉が携帯を差し出して来やがる。

キョン「だから心を読むな気色悪い」

 だが、背に腹は代えられん。スピーカーフォン設定で長門に電話をかける。

長門『もしもし』

 一切の呼び出し音もせずに長門は電話に出た。さすが直通。

キョン「ハルヒの居場所がわかった、今から突撃するが動けるか?」

長門『……不可能』

キョン「そうかわかった、場所はだなって何!?」

長門『……』

古泉「何か……ありましたか?」

548: 2009/12/07(月) 16:56:21.77 ID:IzuBx4dl0
長門『情報統合思念体からの答えが返ってきた』

 おいおい、何やら嫌な予感がするぞ。

長門『自律進化の可能性のため、情報統合思念体は涼宮ハルヒの新絶対能力進化計画の性交を望んでいる』

上条「なんだと!?」

 上条さんがいきり立って俺から携帯を取り上げた。

上条「その実験成功のために、御坂妹たちがほとんど氏んだような状態になってもいいのかよ!」

長門『……』

上条「情報父ちゃんだかなんだか知らないが、そいつに話をさせろ!」

キョン「落ち着け」

 上条さんは拳を強く握りしめている。このままでは携帯が握りつぶされてしまいそうなので宥めてみる。

上条「でもな……!」

キョン「こいつの親玉はそういう簡単な話じゃないんだよ……」

 そう言って俺は携帯を取り返す。

長門『……』

553: 2009/12/07(月) 17:04:59.58 ID:IzuBx4dl0
キョン「……なあ長門、お前の親玉の方針はわかった。でもな、お前の意思はどうなんだ?」

長門『……私は、応援することしかできない』

 それだけ言うと、電話は切れてしまった。

 ツーツー、とスピーカーからの虚しい音が嫌に耳に響く。

 ……なんてこった。

古泉「これは、困ったことになりましたね」

キョン「まさか唯一の頼りの長門が、か」

古泉「おや、僕も頼りにされていたのでは?」

キョン「うるさい黙れ」

古泉「……酷いです」

 しかし、これは本当にどうしたものか。
 長門の協力がないのはかなり痛いぞ。

上条「いや、いい」

 静かに上条さんは言う。

上条「俺がハルヒを倒せば全部丸く収まることだ」

555: 2009/12/07(月) 17:08:30.08 ID:IzuBx4dl0
キョン「そんなこと言ってもな、現実的に考えて、どうやって倒す?
    あいつが力を自在に使えるなら、もうそりゃほとんど神様だぞ」

上条「忘れたのか? 俺の右手は神様の奇跡だろうが打ち消す『幻想頃し』だ。
   もし、その神様が無敵だと思ってるならまずはその幻想をぶち頃す」

 ここに来て、完全に俺たちにできることはなくなったのか。


古泉「まあ、なんとかなるでしょう」

キョン「根拠もなく言うな」

古泉「根拠はありますよ。鍵となる、貴方がいるじゃないですか」

 無茶言いやがる。

558: 2009/12/07(月) 17:15:57.02 ID:IzuBx4dl0



 お姉様の様子がおかしい。昨日から携帯が鳴るとトイレに籠もって行ってしまう。
 今日なんてトイレにノートパソコンを持ち込んで行ってしまった。

 今もそのトイレから大声が聞こえて、トイレから出てきたと思えば、ニヤニヤしながら、猛烈に何かを打ち始めている。

 しかも、あの笑みを貼り付けたままでだ。

 全力で協力って何を協力してるんですかお姉様。黒子は心配です。

美琴「もしもーし、上条さんと一緒にいる古泉さんの電話ですかー?」

 するとお姉様はどこかに電話をかける。

 ん?

 上 条 さ ん ?

 ま た あ の 類 人 猿 で す の !?

562: 2009/12/07(月) 17:26:43.27 ID:IzuBx4dl0
 というか古泉さんって誰ですの!? 私の知らないところでお姉様にまた変な虫が!?

美琴「ごめんなさい、緊急事態だし勝手に調べさせてもらっちゃいました」

 お姉様に個人情報を調べられた!? 黒子はスリーサイズも調べてもらったことなどないのに!

美琴「ってことで、細かい説明省くわ。メール開くと、私がさっき即興で作ったソフトが起動するからそれを使いなさい、以上」

 即興で作ったソフト!? なんですのソフトって、私はハードもソフトもいけますけど……

美琴「赤い点が涼宮ハルヒの居場所、青い線が予測されるルート、黄色の範囲が涼宮ハルヒの行動可能範囲、そして緑の点が現在位置よ」

 また新しい名前が! しかもなんだかホストにでもいそうな名前ですの!?

美琴「どういたしまして。でもそれは私の能力で無理矢理動かしてるようなものだから、早く決着着けないと携帯壊れるわよ?」

 お姉様の能力で動かしてもらう!? 何をですの何をですの何をですの!?!?

美琴「じゃあ私は情報収集に専念するから頑張りなさい」

 誰の情報なんですのおおおおおおおおおおおおお!?

564: 2009/12/07(月) 17:28:48.79 ID:IzuBx4dl0

美琴「……何してんのよ黒子」

黒子「はっ! な、なんでもありませんわお姉様」

 ハンカチを囓っていた私をジト目で見つめるお姉様。嗚呼、そういう目で見られるのもいいかも……

美琴「また変なことでも考えてるんじゃないでしょうね……」

黒子「滅相もありません!」

 私はただお姉様の心配をしているだけですもの。

美琴「まあ、いいわ」

 嗚呼、溜息を吐くお姉様もお美しい。

美琴「ちょっと頼みたいけど、いいかしら?」

 なんでも聞きますとも!

566: 2009/12/07(月) 17:37:42.40 ID:IzuBx4dl0



 ということで、俺たちはハルヒの元へと急行する。

 いくらなんでも楽観的すぎやしないかと少し心配だが、まあ、さすがにハルヒが俺たちに危害を加えるようなことはしないだろう。

 とりあえず御坂妹さんは病院に行ってもらった。
 ハルヒの行動は丸わかりなので、安全に届けるのも簡単だった。

空刃裁断「やっと見つけたさあ!」
遠隔感電「ちょこまかと逃げ回りやがって……」

 そこへいつか見た馬鹿っぽい不良二人が走ってる俺たちの前に立ちはだかりやがった。
 というか逃げた記憶なんかないんだが。

みくる「ふぇええぇ……」

上条「お前らは……」

 おや、上条さんも面識があったのか。そういや朝比奈さんを助けたとかなんとか言ってたな。

567: 2009/12/07(月) 17:44:41.04 ID:IzuBx4dl0
古泉「誰ですか?」

キョン「なんか朝比奈さんに絡んでくるやつらだ。気をつけろ、二人とも能力者だ」

 やれやれ、こんな時に面倒なやつに会ったもんだ。

遠隔感電「ぐへへ……今日という今日はキッチリ落とし前つけてもらうぜぇ」

上条「俺たちは急いでるんだ。退かないなら力尽くでも退いてもらうぞ」

空刃裁断「やれるもんならやってみるさあ」

 ニヤニヤと笑みを貼り付けたままの二人。
 朝比奈さんの話じゃ上条さん一人にやられたはずだが、なんだこの自信は……

古泉「仕方ありませんね……ちゃちゃっと片付けちゃいますか」

上条「そうだな」

 上条さんと古泉が臨戦態勢を取る。

空刃裁断「おおっと待った、戦うのは俺たちじゃないさあ」

上条「はい?」

遠隔感電「ということでアニキ……よろしくお願いします!」

574: 2009/12/07(月) 17:54:29.03 ID:IzuBx4dl0
 それは、ゴツかった。
 筋骨隆々、ラグビー部にでもいそうな大男。殴り合ったら勝てる自信などコンピューター研究部の文句をハルヒが認めるくらいありえない。

 しかし、そいつの顔面は不可思議で、肌は白く、唇は赤かった。
 そして服装はもっと不可思議で、なんとタンクトップにスカートだった。

「私のお友達を可愛がってくれたようじゃなぁい」

 そいつはごついテノール声で喋る。中○譲治のような声をしてやがる。

上条「うげっ……」
みくる「うわあ……」
古泉「ウホッ……」


 ――オカマだった。

576: 2009/12/07(月) 18:07:20.64 ID:IzuBx4dl0
空刃裁断「ささ、アニキ、やっちまってくだせえ!」

 不良二人はそのオカマの影に隠れる。
 なんだこのふざけた野郎は。

上条「……あー、あれだな、涼宮ハルヒはこの先だよな」

みくる「はいそうですね、ああ、そこ曲がった方が近道です」

「なぁにスルーしてんのよぉ!」

 すたすたと通り過ぎようとしたところをオカマとその金魚のフンは回り込んできた。
 ……周囲の人々の視線が痛い。

上条「うわああああああああこの人は関係ない人です俺たちは一般人なんです!」

 上条さんが必氏に周囲に弁解する。しかし世間様は冷たかった。

「さぁてお楽しみの時間よぉ?」

上条「ああもう上条さんはわかりますよー、なんか色々飛び火してあらぬ誤解に膨らむのが目に見えますよー。
   経験則からそういうことになるって相場が決まってるもん!」

 この世の終わりのように嘆く上条さん。うむ、俺も嘆きたい。

577: 2009/12/07(月) 18:13:46.75 ID:IzuBx4dl0
古泉「ふんもっふ!」

 そこへいきなり古泉の赤い球が炸裂した。

空・遠『ぎゃっ!』

 爆発はオカマを飲み込み、金魚のフンを吹き飛ばす。
 そして、きゃーという騒ぎにハッテンした。

キョン「おまっ……何やってんだ!」

古泉「こんなところで油売ってる場合ではないでしょう?」

キョン「確かにそうだが……やりようってのがあるだろ!」

古泉「大丈夫です、威力は抑えてありますから」

 いやそういう意味じゃなくてな。

「いきなりやってくれるじゃなぁい」

 しかし、煙の中から声が響いた。

上条「!?」

 いち早く反応したのは上条さん。
 右手を前にして俺たちの前に躍り出る。

579: 2009/12/07(月) 18:24:38.08 ID:IzuBx4dl0
キョン「んな!?」

 そこへ俺たちどころか道路ごと飲み込む勢いの、大火力の炎が襲いかかってきた。
 しかし、上条さんの右手に触れた瞬間、その炎は一瞬にして霧散する。

 その先に見えたのは――無傷のオカマだった。

古泉「手加減したとはいえ……あれが無傷とは……」

 古泉が驚いた風な声をする。

上条「気をつけろ……こいつ、かなりの能力者だぞ……!」

「ウフフ……そりゃぁそうよぉ、私はレベル4の発火能力者だもの」

キョン「レベル4!?」

 レベル4ってかなり頭が良いってことなんじゃ。人は見かけによらないな。

「そしてぇ……人呼んで――『情熱女王』(パイロクイーン)様よぉ!」

 いやお前は女じゃないだろ。

581: 2009/12/07(月) 18:37:05.30 ID:IzuBx4dl0
古泉「面倒なことになりましたね……」

 珍しく真剣な目つきの古泉。
 こんな珍事によくそんな目つきできるな。

情熱女王「んふふ……でも安心なさぁい。用があるのは私らに最初に喧嘩を売ったそこの牛女とツンツン頭だけよぉ!」

みくる「ふぇ!?」
上条「俺たち!?」

 情熱女王はビシィっと朝比奈さんと上条さんを指さして指名する。

情熱女王「なぁんか急いでるんでしょう? 私はそれを無碍にする程鬼じゃぁないわよぉ」

 ……なんか意外に優しい人だ。

上条「……くそ、わかった。キョン、古泉、先に行っててくれ」

キョン「いやしかし、お前がよくても朝比奈さんがな……」

みくる「私のことは気にせず先にお願いします」

 朝比奈さんはきりっと決意を秘めたような表情で言う。

みくる「それに、私が行ってもできることなんてありませんから……」

 だけど次の言葉は申し訳なさそうに。朝比奈さん、貴方の笑顔さえあれば俺は元気が出ますってば。

583: 2009/12/07(月) 18:43:40.57 ID:IzuBx4dl0
古泉「仕方がありません、行きましょう」

キョン「だけどな……」

古泉「ここで時間を食っていたら涼宮さんに追いつけないかもしれません」

みくる「必ず後で追いつきますから」
上条「朝比奈さんは俺が守るから頼む」

 何気にフラグ建てようとするんじゃない。

キョン「仕方ない……朝比奈さんに怪我させたらただじゃおかないぞ」

上条「わかってる」

 そう言い残して俺と古泉は先に進むことにした。

584: 2009/12/07(月) 18:45:56.38 ID:IzuBx4dl0


上条「そういえばいいのか? 古泉もお前に攻撃してたみたいだが」

 思い出した風に上条は言う。

情熱女王「あの子はい・い・の。なぁんだか似た匂いを感じるのよねぇ」

上条「……」
みくる「……」


586: 2009/12/07(月) 18:59:40.26 ID:IzuBx4dl0



一方「そういや時間切れはどうやって知るンだ?」

 息絶え絶えの黄泉川の身体を、ベクトル操作とトイレットペーパーで応急処置を終えた一方通行はそこで気がついた。
 考えてみれば、マンションを爆破してしまったせいで、一切の連絡網が途絶してしまったのだ。

打止「その時は他のミサカが教えてくれるから大丈夫ってミサカはミサカは教えてみたり」

 すると、むくりと打ち止めが起き上がった。

一方「お前、あの爆発を食らって起きて大丈夫なのか?」

打止「大丈夫っぽいってミサカはミサカは自分の怪我の状況を確認してみたり。
   なんか私には煤が付いてるだけみたいってミサカはミサカは報告してみる」

一方「あの爆発で無傷だァ?」

 黄泉川が身を挺して守ったのか、と考えたが、警備員といえど黄泉川はあくまで一般人。
 あの爆発でそんなことができるはずもない。

一方(……どういうことだ?)

589: 2009/12/07(月) 19:04:00.88 ID:IzuBx4dl0
 打ち止めは二度も爆発を受けている。
 二度目こそは自分が能力で風のドームを作り、守ったから問題ないのだが、一度目に関しては黄泉川と同じく直撃のはずだ。

打止「そんなことより」

 そんなことを考えていると、打ち止めはとたとたと一方通行に寄ってくる。

打止「お願い、聞いてもらえないかな、ってミサカはミサカは上目遣いで見つめてみる」

590: 2009/12/07(月) 19:04:33.74 ID:IzuBx4dl0
メシウマ

596: 2009/12/07(月) 19:46:01.05 ID:IzuBx4dl0
ごめん、用ができてしまった
深夜には戻る

631: 2009/12/07(月) 23:32:00.06 ID:IzuBx4dl0



 走る走る走る。ずっと走ってきたためにそろそろ疲れてきた。

 古泉のやつはまだまだ余裕そうだ。
 鍛え方が違うんだろうが、こちとら一般人だ。少し速度を落として欲しいもんだ。

 ってか、マジでそろそろ限界。

キョン「ぜぇ……ぜぇ……な、なあ古泉、少し休――うおっ!」

 古泉のやつに休憩を提案しようとした瞬間、やつは急に立ち止まりやがった。

 俺は走ったスピードのまま、古泉の背中に突っ込む。
 しかし古泉は鍛えてあるのか、俺のタックルを食らおうがビクともしなかった。

キョン「いきなり止まるな!」

 至極まっとうな文句を言わせてもらう。

古泉「……」

キョン「……?」

 しかしおかしい。いつもならここで何らかのリアクションがあるものだが、古泉のやつは無言で答えない。

キョン「どうした古いず――!?」

 だが、顔を上げた瞬間、俺にもその理由がわかった。

632: 2009/12/07(月) 23:38:45.45 ID:IzuBx4dl0

 それは、自動車だった。

 学園都市らしく、電気がエネルギーのモーター車らしく、俺たちの世界のものとはデザインが明らかに違う。

 だが、それでもわかる。それは自動車だ。

 だからこそ、目の前の光景が俺には信じられなかった。

「超止まってもらいますよ」

 中学生ほどの女の子が、それを持ち上げていたからだ。
 しかも次の瞬間、なんとそれは俺たちに投げつけられた。

古泉「……ッ!」

 それに古泉が反応する。
 手を前にかざすと赤い球が瞬時に形成され、電気自動車へと吸い込まれるように飛んでいく。

 そしてトン単位の質量のある精密機械は派手に爆発した。

640: 2009/12/07(月) 23:48:16.82 ID:IzuBx4dl0
キョン「うおっ!?」

 あまりの爆風に俺は思わず腕で顔を覆う。

「あれ、超おかしいですね。資料では無能力者の集団とあったのですが」

 しかし、至近距離で爆発を食らったはずの少女は何ともなかったかのように爆発の中から歩いてくる。

 そのギャップに俺はゾッとした。こいつは、真っ当な世界の人間じゃない。

古泉「はっ!」

 それに対して古泉は赤球を数発叩き込むことで答える。
 女の子の小さな身体が爆発に巻き込まれた。

 相手は小さな女の子だった気がするが。

キョン「おいおい、いくらなんでもやりすぎじゃ――」

 だが、俺の心配は最後まで続かない。

「じゃあ、弱そうなこっちから超さっさと終わらせますか」

 その女の子が目の前に無傷で現れたからだ。

644: 2009/12/07(月) 23:55:07.77 ID:IzuBx4dl0
 するとその女の子は拳を振り上げる。

古泉「避けてください!」

キョン「がっ!」

 そこで古泉が俺の身体を押し倒しやがった。
 女の子の拳は虚しく空を切る。

キョン「何しやがる!」

古泉「油断しないでください、この子もおそらく能力者です」

 俺は文句を言うが古泉の真剣な表情が目の前にあった。

キョン「というかまず顔を離せ!」

 思わず俺は古泉を押しのける。
 ――と、そこへ女の子の拳が古泉の顔面に突き刺さった。

647: 2009/12/08(火) 00:05:40.53 ID:IzuBx4dl0
古泉「がぁ――っ!?」

 俺は目の前の光景を再び疑った。

 服の上からでもわかる細腕で、俺が力を入れれば折れてしまいそうなほど華奢な腕で殴られたというのに、
 古泉の身体はまるで玩具の人形のように宙を舞って吹き飛んだ。

キョン「古泉ぃ!?」

 思わず素っ頓狂な声を上げる俺。あんな風に吹っ飛ぶ人間なんて初めて見たぞ。

「おや、超ラッキーですね。厄介そうな方から倒せるなんて」

 それを見ながら女の子は冷静に言いやがる。
 冗談じゃないぞ。

キョン「なんなんだお前……」

 尻餅をついたままの俺に対し、女の子は拳を振り上げる。
 人間を軽々吹っ飛ばす威力を持った凶器の拳を。

絹旗「私は絹旗最愛。今さっき、涼宮ハルヒという人物を護衛するように依頼を受けた超臨時のバイトさんです」

 そこで、拳が振り下ろされる。

 ――南無三!

653: 2009/12/08(火) 00:19:42.19 ID:YZMUr7p80

キョン「がっ――」

 だが、俺の身体を叩いたのはその絹旗の拳ではなかった。

 突然発生した横からの爆風が俺の身体を吹っ飛ばす。お陰で俺の身体がスクラップになることは避けられた。

古泉「そのまま逃げてくださいっ!」

キョン「っ!?」

 どこからか古泉の声が響く。よかった、無事だったのか。

絹旗「逃がすわけ、超ないじゃないですか!」

 そうして安心なんてしてると、古泉の願い虚しく、目の前にまた絹旗が。
 今度は御御足を振り上げてらっしゃる。パンツが見えそうで見えない。

古泉「何をしてるんです!」

 そこへ赤い何かをオーラのように纏った古泉が、明らかに人間の身体能力を超えた動きで現れた。
 古泉は腕をクロスさせて俺たちの間に入ると、絹旗の踵落としを受け止める。
 相当な威力ならしく、古泉の足が固まったコンクリートを砕いて沈むが、なんと古泉はそれを受けきった。

661: 2009/12/08(火) 00:27:47.44 ID:YZMUr7p80
古泉「早く、涼宮さんの元へ!」

キョン「いやしかし――」

 俺だけが行ってどうなる、とまでは言い切れなかった。
 先に古泉が言葉を被せたからだ。

古泉「貴方は鍵です! 最悪、貴方だけでも涼宮さんの元へ行ってくれればいいのですよ!」

 無茶言いやがる、とは言えなかった。

キョン「畜生……わかったよ!」

 俺は爆発で痛めた身体に鞭を打って立ち上がる。

絹旗「行かせると、思いますか?」

 しかし、走りだそうとした瞬間、絹旗が俺の前に回り込んで来やがった。

古泉「僕が行かせますよ、なんとしてもね!」

 だが、その絹旗の腹部に古泉の拳が物凄い勢いで突き刺さった。
 さらに赤い爆発付きだ。

 今度は絹旗の身体が玩具のように吹き飛んでいく。

古泉「今の内に!」

662: 2009/12/08(火) 00:31:59.05 ID:YZMUr7p80
 相当な力で吹き飛んだにも関わらず、絹旗は足からきちんと着地し、勢いを頃して停止した。

 すぐにでもまた攻撃してきそうだ。迷ってる時間はない。

キョン「ああ!」

 俺は覚悟を決めて、上条さんから受け取った携帯を握りしめながらこの戦場から逃げ出す。

 途中、絹旗が追おうとしていたのが横目に見えたが、古泉がそれを受け止めたようだ。

 古泉に背中を任せて、俺は一直線に走っていった。

667: 2009/12/08(火) 00:44:16.70 ID:YZMUr7p80

絹旗「身体を念動力のような力で超覆って、身体能力を上げるですか……お互い超似たような能力のようですね」

 古泉と絹旗はお互いに腕と腕をつかみ合い、押し合う。
 あまりの力に足場であるコンクリートが耐えられないらしく、どんどんヒビが広がっていく。

古泉「本当はもっと応用が利くんですがね……今は全力が出せないもので、ね!」

 足場が限界であると悟った二人は一度取っ組み合いを解除し、距離を取る。

絹旗「へぇ……本当は超強いんですか」

古泉「それほどでも。これでも七割くらい出せてます」

絹旗「今の約五割増しって超違うじゃないですか。私はレベル4でも超強い方なのに」

古泉「へぇ、貴方もレベル4なんですか」

絹旗「『窒素装甲』(オフェンスアーマー)です。超強いですよ。
   というかその能力は見たことないんですが、超なんなんですか?」

古泉「そうですね……この街の流儀に従うなら――

   『限定能力』(ミラクルギフト)、と言ったところでしょうか?」

669: 2009/12/08(火) 00:45:44.00 ID:YZMUr7p80
超花を摘みに行ってきます
調子悪くて比較的超大きいのでちょっと待っててください

697: 2009/12/08(火) 01:21:42.52 ID:YZMUr7p80

 とにかく走る。体力の限界はとうに超えてるが、知ったことか。

 俺の手には朝比奈さんと上条さんの決意の入った携帯が。
 俺の身体には古泉の必氏の願いのこもった傷が。
 そして携帯の画面には、妹の身を心配する優しい姉の想いが映ってる。

 これを決して無碍にしてなるものか。

 そんなことを考えながら俺は走るが、その足を目の前の光景が止めた。

キョン「お前……」

 よく見知った、同じ世界から来た女の子がそこにいた。

 放課後は部室に集まり、場合によっては休日にも集まり、最近は気心も知れたとも思える仲になってきた仲間がいた。

 だが、そいつのやっている行為を見て、俺は絶句する。

 思わず足を止めて、そいつの表情をじっと見つめてしまう。


 視線が真っ直ぐ、かち合った。

700: 2009/12/08(火) 01:23:58.46 ID:YZMUr7p80

 ――そいつは両手を広げていた。

 ――そいつはぴくりとも動こうとしなかった。

 ――そいつはまっすぐ俺を見つめたままだった。

 ――そいつは――


キョン「――長門……」


 ――身体を張って通せん坊をしていた。

705: 2009/12/08(火) 01:30:07.74 ID:YZMUr7p80
キョン「……どういうつもりだ?」

 俺はわかっていながら、そいつに問いかける。

長門「……」

 無機質な真っ直ぐの瞳は何も答えない。

キョン「……俺はこの先に行かなくちゃいけない、わかるな?」

長門「……」

 機械的に閉じられた唇が僅かに震える。

キョン「……これは俺だけじゃない、他のやつらの願いでもあるんだ」

長門「……」

 そいつは何も答えない。

キョン「長門……」

 そこでやっとそいつは口を開いた。

長門「……情報統合思念体は涼宮ハルヒの絶対能力進化を望んでいる。この実験により、涼宮ハルヒの能力のさらなる進化が予想された
   ……貴方の介入はあってはならない」

706: 2009/12/08(火) 01:34:33.61 ID:YZMUr7p80
キョン「そんなことを聞きたいんじゃない」

長門「……今回の実験により、彼女の能力は新たな発見を迎える可能性が高いと判断された」

キョン「そんなことを聞きたいんじゃない!」

長門「……これは自律進化について非常に有益な情報」

キョン「そんなこと、どうでもいいだろ」

長門「……もし、貴方がこの先に進むのなら――」

キョン「なあ、長門……!」


長門「――私は貴方の存在を抹消してでも、止めなければならない」


 ――最悪だ。

713: 2009/12/08(火) 01:44:09.99 ID:YZMUr7p80



黒子「初春ー?」

 白井黒子は同僚の名前を呼びかけながら風紀委員詰め所の扉を開ける。

初春「あれ、白井さんどうしたんですか? 今日は非番のはずじゃ……」

 目的の同僚、初春飾利はそこにいた。
 いつも通りに頭に花を乗せて、パソコンの前で情報処理をしている。

黒子「ちょっと頼まれてほしいことがあるそうですの」

初春「頼まれて、欲しいことですか?」

 初春が首をかしげるとかさりと頭の花が音を起てる。

美琴「すごく私的なことなんだけど、緊急事態なの」

 そこへ、白井黒子の憧れのお姉様、御坂美琴が続いて入ってきた。

初春「御坂さんまでどうしたんです? ま、まさか何か事件ですかっ」

御坂「いや、なんていうか、事件というか実験というか……とにかく、詳しい内容は話せないけど、協力してもらえないかな?」

716: 2009/12/08(火) 01:55:32.53 ID:YZMUr7p80
 初春は驚いた。あの御坂美琴がお願いなんてただ事ではない。

初春「で、でも、私ができることなんてコンピューター関連ですよ?」

美琴「そのコンピューター関連のお願いなのよ」

初春「えっ……私にですか?」

 それこそ初春は驚いた。

 御坂美琴は電気使いのレベル5である。
 確かにハッキングの技術に関しては初春の方が上かもしれないが、電脳世界で美琴にできないことなどほとんどないのだから。

初春「でも、御坂さんにできないことなら多分私にもできないですよ……」

 頭の花が萎れそうな勢いで申し訳なさそうに初春は言う。

美琴「いやいや、そんな難しいことじゃないの。ちょっととある人のことを調べてもらって、その動きをナビゲートしてもらいたいだけ」

初春「動きをナビゲート、ですか?」

美琴「そう。ちょちょいっと人工衛星にハッキングして、あとできる限りの個人情報を集めて動きを予測して欲しいのよ」

初春「ってそれまるっきり犯罪じゃないですかっ!」

 何気なしに言った美琴にツッコミを入れる初春。

美琴「ダメカナ?」

初春「ダメですよっ!」

719: 2009/12/08(火) 02:13:45.17 ID:YZMUr7p80
黒子「初春、本当に切迫した状況だそうですの、どうにか協力していただけませんか?」

初春「そんなこと言っても……というか、それなら御坂さんでもできるんじゃ?」

美琴「私はちょっとそいつに用があるから出向かなきゃいけないのよ」

 ばつの悪そうに美琴は言う。

美琴「自分勝手なお願いなのはわかってるけど、本当にお願い! お礼はなんでもするから!」

 そしてあの御坂美琴が手のひらを合わせて頭を下げている。
 あまりの事態に黒子はその様子を見て白くなってしまっている。

初春「うーん……わかりましたよぉ……」
美琴「ホント!?」

 御坂美琴直々に出て行かなければならないということは、やはり相当の事態なんだろう、と初春は判断した。
 しかも、ここまで頼まれてしまっては、友達として断るわけにもいかない。

初春「それで、誰のことを調べればいいんですか?」

美琴「えっとね、涼宮ハルヒって言うやつのことなんだけど――」

 と、そこで詰め所の電話がけたたましく一斉に鳴り出した。

 美琴は何事かと驚いたが、黒子と初春は意味が分かっている。

 事件発生の緊急電話だ。

724: 2009/12/08(火) 02:25:18.18 ID:YZMUr7p80
初春「はい、こちら風紀委員第一七七支部!」

 初春と黒子は急いで電話を取る。

固法『事件発生よ! 推定レベル4の発火能力者が暴れてるわ!』

初春「事件ですかっ……!」

 初春は無言で御坂美琴を見上げる。

美琴「こんな時に……!」

 あまりのタイミングの悪さに美琴は親指の爪を噛む。

黒子「……私にお任せを!」

固法『あれ、貴方今日は非番じゃ……』

黒子「たまたま来ていたところですわ。今から至急、そちらへ向かいます」

 それだけ言うと、黒子は電話を切ってしまう。

黒子「私がさっさと片付けてきますわ。初春はお姉様のお願いを聞いてなさい」

728: 2009/12/08(火) 02:32:47.69 ID:YZMUr7p80
初春「でも白井さん! 相手はレベル4の発火能力者ですよ!?」

黒子「例え初春のサポート無しでも、この私がただの発火能力者に後れを取るとでもお思いで?」

美琴「黒子……!」

 美琴は心配そうに黒子を見つめるが、状況が状況だ。黒子に頼るしかない。

黒子「安心してください、お姉様。私はお姉様の相棒ですのよ? もっと信頼なさってくださいな」

 そう言って黒子はウィンクする。

美琴「……っ頼んだわよ」

初春「御坂さん!?」

黒子「頼まれましたわ」

 それだけ言うと黒子は空間移動してどこかに消えてしまう。

初春「白井さん!」

美琴「初春さんお願い、黒子に任せてあげてくれないかな?」

 思わず追いかけようとする初春を美琴は抑えて、見つめる。

初春「……ああもう、わかりましたっ! 後で白井さんのお願いも聞いてあげてくださいねっ」

 そしてそんな美琴の、黒子への信頼に満ちた真っ直ぐな瞳に初春は屈服した。

730: 2009/12/08(火) 02:43:22.40 ID:YZMUr7p80



 上条当麻は、善戦していた。

情熱女王「あぁ、もうなぁんなのよぉ、その右手はぁ!」

 『情熱女王』は両手を前に突き出すと、そこから火の玉を生み出し、上条の元へと飛ばしていく。
 何かに着弾すれば即爆発の超危険な砲撃である。

上条「『幻想頃し』って言ってな!」

 だが、上条にはそんなものは通用しない。
 それぞれの火の玉に触れるだけで、それらはガラスが割れるような音と共に消えていってしまう。

上条「異能の力ならなんだろうが打ち消してくれる不幸の源だ!」

 そして一気に『情熱女王』の元まで踏み込んだ上条は右手で思い切り殴りつける。

情熱女王「何それぇ! ふぅざけてるわぁ!」

 しかしそれは届かない。
 上条が自分の能力を打ち破ってくることを予見していた『情熱女王』は既にバックステップで退避していたからだ。

情熱女王「もぉ……仕方なぁいわねぇ……本気を出すわよぉ!」

 すると突然、『情熱女王』はタンクトップを脱ぎだした。

731: 2009/12/08(火) 02:52:51.24 ID:YZMUr7p80
みくる「きゃあああ!」

 それを見たみくるは思わず両手で顔を覆うが、もう遅い。
 彼女の脳内にはあの筋骨隆々な逞しい姿が焼き付いてしまった。

上条「なっ……!」

 その次の瞬間、上条は息を飲む。
 『情熱女王』の全身が燃え上がったからだ。

情熱女王「多田野発火能力で『情熱女王』なぁんて名乗ると思ったのかしらぁ?」

 炎は見る見る内に燃え上がり、体積を広げていく。

情熱女王「これが私の能力、『情熱女王』よぉ」

 そしてそれは大きな炎の人型と化した。

上条「なん……だと……?」

 上条の脳裏に、知り合いの魔術師の使う『魔女狩りの王』という魔術が浮かぶ。
 だが、それは『魔女狩りの王』とは全く別物だった。

740: 2009/12/08(火) 03:08:25.91 ID:YZMUr7p80
上条「ぐあっ!?」

 『情熱女王』は速かった。
 一瞬で上条との距離を詰めると、じゅあっという肉の焼ける嫌な音と共に上条を殴り飛ばす。

 元々、『情熱女王』は筋骨隆々の大男ではあったが、それでもこの身体能力は異常だった。

情熱女王「人の筋肉は激しく動くと発熱するの。そう、熱よぉ。
       だから熱を支配する私たち発火能力者の力を応用すればねぇ……」

 『情熱女王』は喋りながら、殴り飛ばした上条にさらに近づく。

情熱女王「こぉんなこともできるのよぉ!」

 そして、高速で連打連打連打。
 普通の人間の身体能力の限界を超えた動きで『情熱女王』は上条をたこ殴りにする。

上条「く、くそっ……!」

情熱女王「遅い遅い遅ぉいぃ!」

 それに対し、上条はカウンターを数発放とうとするが、全て空振り。

情熱女王「あなたに足りない物ぉ、それはぁ、情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さぁ――そして何よりも――」

上条「――ッ!」

情熱女王「速さが足りなぁいのよぉ!」

 そして『情熱女王』は思い切り上条当麻を右ストレートで殴り飛ばす。

745: 2009/12/08(火) 03:20:19.41 ID:YZMUr7p80
 最悪だ、と上条は思った。

 上条の右手は確かに異能ならばなんでも無効化する、ある意味ジョーカーのような右手だ。
 だがしかし、上条当麻は、それ以外は至って普通の人間なのだ。

 上条当麻が高位の能力者に勝つ方法は一つしかない。
 相手が傲り、侮り、油断しているところを突くのである。

 だからこそ、自分の身体能力の一切通用しない、しかも傲りも侮りも油断もない相手には相性が悪い。

 最悪、路地裏の喧嘩でも負けることがあるのだ。

 そして、この相手は、その最悪の相手だった。

上条「がはっ――」

 殴り飛ばされて、上条は背中から地面に着地する。
 肺の空気が根こそぎ持って行かれる感覚がした。

上条「畜生……」

情熱女王「へぇー……やるわねぇ」

 それでも上条は起き上がる。上条に敗北は許されないのだ。

748: 2009/12/08(火) 03:29:16.76 ID:YZMUr7p80
情熱女王「そのガッツは認めてあげるわぁ。でもやめときなさぁい。
      貴方の身体は限界よぉ。もぉふらふらじゃなぁい」

上条「関係……あるか……」

 上条は息絶え絶えに言う。

上条「俺が倒れたら……お前は次に朝比奈さんを襲うんだろ?
   俺はキョンのやつに頼まれたんだよ、朝比奈さんを守ってくれってな。
   代わりに、キョンのやつには、重い物を背負わせた。御坂妹たちの命だ。
   そんなもの背負わせたのに、俺だけ寝てるなんて許されるはずないだろ!」

 息絶え絶えに、言う。

情熱女王「色男ねぇ……惚れちゃいそうだわぁ」

上条「それにな、あんたは強ぇよ。本当に強い。
   だけどな、なんでその力をこんなことに使うんだよ!
   あんたの力があれば、もっとたくさんの人が救えるだろ!
   もっと色んなことができるだろ! なのになんでこんなつまらないことに使うんだよ!
   俺はあんたによく似た力を使うやつを知ってるよ。でもなそいつの力はこんなことに使うものじゃねぇ!
   大事な人を守る力だ! あんたはせっかくの力なのに完全に使い方を間違っちまってんだよ!」

 息絶え絶えに……言う。

上条「あんたがその力をまだ間違った方向に向け続けるっていうなら――


    ――まずはその幻想をぶち頃す!」

750: 2009/12/08(火) 03:40:01.45 ID:YZMUr7p80
情熱女王「……言いたいことはそれだけか?」

上条「っ!?」

 すると『情熱女王』が低い声で言った。
 上条の本能は身構えるように命令する。

みくる「ま、待ってくださぁい!」

上条「朝比奈さん!?」

 だが、そこに場違いな甘ったるい声が響く。朝比奈みくるのものだ。

情熱女王「おとなしくしてな。気が変わった、俺はお前の相手よりもこいつの相手を本気でする」

みくる「そ、そうはいきませんよぉ! か、上条さんに何かしたらゆ、許しませんからぁ!」

 がくがく足が震えたまま、だがしかし、みくるは勇気を振り絞って声を張り上げる。

情熱女王「お前に何ができるんだ? こいつのような、根性も、勇気も、力もない、お前が」

みくる「で、できますよぉ!」

 上条は下がっていて、と言いたかったが、膝が崩れ落ち、言うことができない。

上条(くそっ……くそっ……約束なのに、守らなくちゃいけないのに……!)

 上条の思い虚しく、『情熱女王』はみくるに注意を向け始める。

751: 2009/12/08(火) 03:43:55.32 ID:YZMUr7p80
情熱女王「じゃあ、見せてみろ」

 そう言って、情熱女王は上条に炎で包まれた右腕を向ける。
 手に形成されていく、炎の塊。

みくる「ビ、ビーム撃ちますよっ!?」

 その言葉を聞くと、『情熱女王』は酷く残念そうに、

情熱女王「そうか」

 と呟いて、上条に炎弾を放つ。

838: 2009/12/08(火) 21:27:01.54 ID:YZMUr7p80



 斜陽の差してきた学園都市に二つの影が高速で舞う。
 古泉と絹旗だ。

絹旗「はぁっ!」

 何度目かの接触。
 しかし、単純なパワーは絹旗に分があるらしく、接触の度に古泉は疲弊していく。

 そうしてこの接触で、古泉はついに押し負けた。

古泉「くっ!」

 古泉が腕をクロスしてガードを固めたところに、絹旗の細腕が突き刺さる。

 踏ん張っていたはずの古泉の身体はその威力で宙を舞った。

古泉(力比べでは不利、ですね……!)

 それでも、能力で固めた防御により、ダメージは薄い。

 恐らく似たような能力の絹旗もそれはわかっているのだろう。
 絹旗はすぐに追撃を仕掛けるべく、古泉の身体の描く放物線をなぞるように追いかける。

古泉「っふん!」

 だが、素直にやられたままの古泉ではない。
 追いかけてくる絹旗に赤い球をお見舞いする。

845: 2009/12/08(火) 21:52:14.19 ID:YZMUr7p80
 赤い球は高速で迫ってきた絹旗に直撃。爆煙が彼女を包み込む。

絹旗「そんな癇癪玉が通用すると思ったら超大間違いです」

 だが、それでも絹旗は無傷。煙の中から何事もなかったかのように飛び出してくる。

古泉(やはりこの程度の力では通用、しませんか!)

 両手を握って頭上に振り上げる絹旗。
 反撃を諦めた古泉は、そこで最大まで防御を固める。

 そこに絹旗のダブルスレッジハンマーが降り注いだ。

古泉「がっ――」

 重力と能力の二重が合わさった攻撃で、古泉の身体は激しく地面に叩き付けられた。
 それを背に、絹旗はすたっと地面に着地する。

古泉「さすがに……これは効きましたよ」

 砕けたコンクリートから古泉はなんとか這い出てくる。

絹旗「頑丈ですね、超しつこいです」

古泉「貴方ほどではありませんよ」

 それを見て、絹旗は構える。古泉の確認する限り、彼女にはまだ目立った傷は一つもない。

古泉「しかし……大体わかったことがあります」

848: 2009/12/08(火) 22:07:04.10 ID:YZMUr7p80
絹旗「わかったこと、ですか?」

 絹旗は可愛らしく首をかしげる。絹旗は可愛い。

古泉「んっふ、そうです」

 それに対し、古泉は気持ち悪く解説を始めた。

古泉「貴方の能力は自分自身の身体能力を単純に強化する物ではありませんね?
   僕の見立てでは、恐らく、何かが貴方を覆って守ったり、その何かが怪力を発生させているのでしょう」

絹旗「そりゃあ、超アーマーですからね」

古泉「問題はその何かです。最初は超能力らしく貴方の言う、『念動力』か何かの不思議な力かと思っていました。
   だが、それはどうも違うようです。最初に貴方を殴った時に確信しました」

絹旗「……?」

古泉「僕は能力を使って爆発を起こすことができます。その爆発の瞬間、僕は拳がめり込む感触がしたんですよ。
   そこで僕は思いました、これは、空気の塊だと」

絹旗「へぇ……超よくわかりましたね。80点、ってところでしょうか」

862: 2009/12/08(火) 22:24:11.64 ID:YZMUr7p80
古泉「まだまだもっとわかってますよ。爆発は酸素がなくなります。なので、その分、装甲が薄くなったのかと思いました。
   だけど、考えてみればそれはおかしい。それならば全て燃焼したとしても、代わりに二酸化炭素が発生します。
   空気の装甲なら、それを操られてしまえば終わりですし、そんなもので身体を覆っていれば窒息してしまいます。
   何より、酸素を伝って爆発が内部まで及ぶはずですので、無傷のはずがありません」

 そこで古泉はピッと人差し指を立てた。

古泉「だからこそ、僕は確信しました。貴方の周りを覆っているのはただの空気ではない、と。
   そして、僕の爆発で酸素を奪われないように遮断することもできるので、酸素で固めてるわけでもない。
   そこまでわかれば後は簡単です。ただの空気ではなく、そして空気中に多量にある酸素以外の気体と言えば一つしかありません。

   ――貴方の能力は窒素を操ることですね?」

 絹旗の愛らしい表情が僅かに驚きに染まる。

絹旗「……超すごいですね、100点満点です」

古泉「爆発で薄くなったのは、爆発で瞬間的にできた真空のため。
   燃焼が伝わらずに貴方の周囲の酸素が急激に消費されないのは、窒素が遮断しているため」

 その絹旗を見て、古泉は怪しい笑みをさらに深める。

絹旗「でもそれが超どうしたんですか?
   酸素でないから爆発ではどうこうできませんし、真空ができたからといって、そこに攻撃を叩き込むのは超不可能ですよ?」

古泉「それが、そうでもないんですよ」

 すると古泉はまた赤い力を生み出した。

868: 2009/12/08(火) 22:34:03.85 ID:YZMUr7p80
 ただし、それはいつものような球体ではない。
 まるで円を引き延ばしたような、そう楕円形だった。

古泉「ふっんもっふ!」

 それを古泉は振りかぶって、投げつけるように発射。
 絹旗は当然、そんなものなど気にしない。

絹旗「だからそんな超ちんけな癇癪玉じゃ――」

 だがその瞬間、絹旗の脳裏にとあるサイヤ人の王子の言葉が過ぎった。

絹旗「ッ!」

 間一髪のところで絹旗はそれを避ける。

 するとそれは絹旗の装甲に激突したにも関わらず、彼女のすぐ横を過ぎ去った。
 絹旗の可愛い顔に傷が付いてしまう。頬に一筋の赤い線が通る。

絹旗「これは……!?」

 そこに拳を構えた古泉が接近。

 本来ならばなんてことのない攻撃のはずだが、危機感を感じた絹旗は思い切りバックステップをして背後に避ける。

878: 2009/12/08(火) 22:45:11.48 ID:YZMUr7p80
古泉「どういう技か見切られちゃいましたか」

 その絹旗をストーカーのごとく古泉は追いかける。

絹旗「くっ……!」

 それに対して絹旗はさらに距離を取る。
 絹旗の選択肢は近接戦闘しかないのだが、今はその選択肢が選べない。

絹旗(なぜあんな超弱い攻撃が私の装甲を……?)

古泉「どんどん行きますよ!」

 だが、距離を取れば取るほど古泉の思う壺だということにそこで気がついた。

 古泉は楕円形の赤球をいくつも作りだし、遠距離攻撃を続ける。

 装甲を姦通されては絹旗はただのか弱い可憐な女の子だ。
 あんなものを食らったらひとたまりもない。

 絹旗はそうして避けるためにさらに距離を取る。

 距離を取れば取るほど、状況は一方的になるのはわかっていても、為す術がなかった。

894: 2009/12/08(火) 22:55:57.60 ID:YZMUr7p80
>>878
姦通→貫通
ATOKのせいです
----------------------------------------------------
古泉「不思議そうですね」

 余裕を手に入れた古泉は饒舌だ。

絹旗「そういう貴方は超余裕そうですねっ!」

 そんな古泉に苛立ちを感じながらも、絹旗は攻撃を避け続ける。

古泉「降参していただければ、優しく解説してあげますよ?」

 さらに球の数を増やす古泉。
 絹旗の逃げ道はだんだんとなくなっていく。

絹旗「超結構です!」

 つまりそれは未だ手加減されている、ということで、絹旗はそれが癪に障った。

 だが、逆にチャンスでもある。
 逃げ道のなくなるほどの球を出せるのに出さない、ということは、相手は自分を頃すつもりはまだない、ということだ。

 逆にこっちは仕事なのだから、あの気持ち悪い笑みを頃して壊すことも厭わない。

絹旗(今の内にあれの正体を超確かめないと……!)

898: 2009/12/08(火) 23:01:41.85 ID:YZMUr7p80
古泉「――降参、しないのですね?」

 そこで、古泉の表情が真剣なものとなった。

絹旗「……!」

 眼前に生み出される数えるのが億劫なほどに多数の赤い楕円形。

古泉「残念です」

 逃げ道など、なかった。

絹旗「なっ――」

 そしてそれは放たれる。

絹旗(ここまでですか……!)

 苦し紛れに、絹旗はすぐ横にあった電気自動車を投げつける。

 しかし楕円形の赤い雨は、その自動車ごと絹旗に降り注いだ。

 超爆発。

905: 2009/12/08(火) 23:09:11.66 ID:YZMUr7p80
絹旗「……?」

 しかし、絹旗は無事だった。

 尻餅を着いて、爆煙がなければ素晴らしい白の絶景が丸見えだが、
 それでも頬を走る傷以外、まだ無傷である。

絹旗(あの車が傘に……? いやそんなはずはない)

 これに驚いたのはむしろ絹旗の方だ。

絹旗(私の装甲を貫通する超威力のものが、車を貫通できないわけがないですし……あの量で当たらなかったというはずも超ないです
   ……もしかして!)

 そこで気がついた。

絹旗(あれが貫通できるのは私の装甲のみ? いや、超そもそも、私の装甲は貫通されていない?)

絹旗「……超そういうことですか」

 絹旗は立ち上がる。

916: 2009/12/08(火) 23:23:40.64 ID:YZMUr7p80
古泉「おや……」

 煙が晴れて、無傷の絹旗を見て僅かに驚く古泉。

絹旗「わかりましたよ、その超くだらないトリックが」

古泉「トリックですか?」

絹旗「超とぼけないでください。その球、常に爆発してるだけなんでしょう?」

古泉「……!」

 今度こそ古泉は驚いた。

絹旗「楕円形なのは回転して遠心力が働いてるため。
   なぜ回転しているかと言うと、常に爆発し続けるために変わる形状を別の力で調節させるため」

 そう言って、絹旗はどこからともなくヘアスプレーのような缶を取り出す。
 何やらプリントされているようだが、古泉には判断できなかった。

絹旗「そしてその爆発で超常に周りが真空になり、装甲の邪魔が超入らないだけ、ですね?」

古泉「……すごいですね、貴方も100点満点ですよ」

 話を聞いていた古泉はぱちぱちと拍手をする。

古泉「しかし、わかったところで貴方の能力では、これに対抗する術はないでしょう?」

絹旗「確かに、私の能力だけではそうですね」

921: 2009/12/08(火) 23:35:02.43 ID:YZMUr7p80
>>917
爆発すると温度上昇でほぼ真空になります→空気が入り込んできてもさらに連続で爆発させ続ければ真空を維持できます
→絹旗の能力では攻撃に介入できなくなってそのままそいつが突っ切ります→ふんもっふ
-------------------------------------------------------------------
絹旗「でも、対抗策くらい、ありますよ!」

 そう言って絹旗は大地を蹴る。

古泉「いいでしょう、付き合ってあげますよ」

 同じく、古泉も接近。

 速度は合成され、時間にして一瞬で二人は再び近接戦闘へと移行した。

 だが、状況は先程と違う。
 先程と同じく確かにダメージは与えられるものの、微々たるものしか与えられない絹旗。
 それに対し、拳の周りを常に爆発させることで装甲を貫通し、常に一撃必殺となった古泉。

 古泉は、勝てる、と踏んでいた。

古泉「はっ!」

 眼前まで絹旗が接近したことを確認し、必殺の正拳突きを放つ古泉。
 その攻撃で、終わるはずだった。

絹旗「超なよっちい攻撃ですね」

 だがそれは、絹旗に受け止められた。

924: 2009/12/08(火) 23:43:39.44 ID:YZMUr7p80
 間のスプレー缶のようなものが凄まじい音で破裂するが、お互いに能力を強化した二人にはそんなものは障害にならない。

絹旗「っ!」
古泉「ぐ!?」

 だが、古泉は拳に焼けるように強烈な痛みを感じた。
 絹旗も同じくそれを感じたようで、顔をしかめてる。

絹旗「このっ!」

 そしてそのまま絹旗は古泉を押し倒し、馬乗りになった。
 単純な身体能力では負けている古泉はそれを防げない。

古泉「なっ――」

 そして驚きで思わず口を開けた古泉の口に、先程のスプレー缶のようなものが突っ込まれた。

 その文字を見て、彼は驚く。

絹旗「チェックメイトです」

 文字はN2。

 缶の正体は、液体窒素である。

引用元: キョン「学園都市?」

12: 2009/12/09(水) 17:24:37.34 ID:ZaJ1l54e0


みくる「み、みくるビーム!」

 みくるの素っ頓狂な声が響く。
 だが、もちろんそんなものは出るわけでもなく、『情熱女王』は無情にも上条当麻を焼き殺そうとして、

情熱女王「がぁっ!?」

 できなかった。

 彼女、ではなく、彼は突然、腕を押さえて苦しみだす。
 思わず腕を振ってしまったため、炎は見当違いの方向に飛んでいった。

みくる「え、えっ?」

 驚いたのはむしろみくるの方だ。

 ビームなんて言ってみたものの、実際はそんなもの出るはずもない。

 いや、出せることには出せるようになってしまったらしいが、それは友人であり、仲間であるとある宇宙人の手によって封印されているのだ。

 と、そこへその疑問の答えが名乗りを上げる。


黒子「風紀委員ですの!」

16: 2009/12/09(水) 17:34:41.67 ID:ZaJ1l54e0
情熱女王「ジャ、風紀委員ですってぇ?」

 いつからいたのかわからないほど、突然現れたのは中学生、下手したら小学生くらいの女の子。

 みくるとは段違いに発育の乏しい肉体。だが彼女にはみくるには出せない工口オーラが滲み出ていた。

黒子「暴行罪の現行犯で逮捕しますわ!」

 『情熱女王』の注意はその風紀委員の少女に向く。

情熱女王「さすがに暴れすぎたかしらねぇ……」

 そこでみくるはとある動作を見た。
 僅かな予備動作、常人ならば歩き出す程度の筋肉の動き。

 だが、観察者として送り込まれる人材であるみくるは知っている。
 それは高速で襲いかかる動作だと。

みくる「避けてっ!」

 みくるの言葉に風紀委員の少女が反応を示した。
 その瞬間、『情熱女王』は砲弾のように少女へと飛び出していく。

 それでも燃えるオカマの速度は凄まじい。
 ばがん、という凄まじい音を起ててコンクリートごと少女のいた場所が砕けるのがみくるの瞳に映った。

21: 2009/12/09(水) 17:41:56.01 ID:ZaJ1l54e0
上条「黒子ッ!」
みくる「きゃあああああああああああああああああ」

 上条、みくるは共に最悪の事態を予見した。
 特に上条は、彼女の能力を使うのに難しい計算が必要で、即座に対応できる能力ではないことを知っているからこそ、尚更危惧した。

黒子「あまり耳元で叫ばないでくださいですの。頭がキンキンしますわ」

みくる「え……?」

 だが、黒子はそこにはいなかった。
 いつの間にか、彼女はみくるのすぐそばにいる。

黒子「何を驚いているのですか。
   犯人の検挙も重要ですが、一番最初に行うべきは一般人の保護ですわよ」

 そう言って黒子はみくるの手を握ると、また消える。

みくる「えっ? えっ?」

 瞬く間に自分の位置が変わってしまったのを見て戸惑うみくる。

黒子「あら、『空間移動』は初めてですの?」

みくる「て、てれぽーとぉ? えっと、禁則事項による禁則事項ですかぁ?」

黒子「……何を言ってるんですの?」

27: 2009/12/09(水) 17:50:04.22 ID:ZaJ1l54e0
>>21
ミス
一行目を上条「黒子ッ!」→上条「白井ッ!」
---------------------------------------------------------

上条「あー、白井ー、その人はちょっと特殊だから気にすんなー」

 そうして安全圏に移動した二人に傷だらけのくせに安心した風の上条は言う。

黒子「特殊、とはよくわかりませんが……はぁ……また貴方ですの」

 そんな上条を見て、黒子は溜息を吐く。

黒子「お姉様の次はこの方ですか。本当に節操がないのですね。ともかく――」

みくる「左から来ます!」

黒子「!?」

 そんな安全圏にいたはずの二人に、『情熱女王』は再び突貫してきた。
 だが、またしてもみくるの言葉で間一髪、黒子はみくるを連れて逃げ出すことに性交する。

情熱女王「なぁんで避けられるのよぉ?」

 次はすたっと上条の横に立つ黒子。
 この相手に安全圏はないと判断したようだ。

31: 2009/12/09(水) 17:59:20.38 ID:ZaJ1l54e0
黒子「なんなんですの、あの能力は……発火能力者との通報でしたが」

 黒子は不思議そうに言う。初春のサポートがない今、相手の詳しい能力がわからないのだ。

上条「なんでもなんか熱くなって速いらしい」

黒子「……抽象的でよくわかりませんわ」

 はぁ、と息を吐いてボロボロの上条を見る。

黒子「でも、貴方がそこまでボロボロになるとは、相当な能力者のようですわね」

上条「買い被りすぎだっての」

みくる「あのー、私は大体わかってますけどぉ……」

 そこにみくるはおずおずと意見する。

情熱女王「いぃつまで話してるのかしらぁっ!」

 そこに『情熱女王』が戻ってきた。
 炎の渦を発生させ、三人まとめて巻き込む。

上条「くっ!」

 そこに上条が立ち上がって右手で打ち消す。

33: 2009/12/09(水) 18:02:47.28 ID:ZaJ1l54e0
情熱女王「まだ動けるのぉ!?」

上条「白井っ――」

 そんな上条を見て『情熱女王』は驚き、上条に接近しようとする。
 上条にしては相性が悪い相手だ。だが、ここには黒子がいる。

 だからこそ、対処を頼もうとしたのだが、

黒子「……壁役、頼みましたわよ!」

上条「ちょま――」

 その黒子はみくるとテレポートして、さらに背後に行ってしまう。

 上条は再び、炎のパンチの連打を食らうことになった。

35: 2009/12/09(水) 18:15:16.03 ID:ZaJ1l54e0
情熱女王「はっはっはぁっ!」
上条「んなろぉ!」

 上条はジャブを避けることを諦め、全て甘んじて受け入れる。
 重要なストレートなどの攻撃のみ、右手を使うことで立派な壁役を演じている。

黒子「で、あの、声は中○譲治みたいですけど……男、ですわよね? その男について教えていただきたいのですが……」

みくる「で、でも上条さんが……」

黒子「生憎、今はサポートがいませんの。あの殿方を助けるためにも情報が必要ですわ。
   見たところ、発火能力者のようですが、あの身のこなしはどういうことなのでしょうか」

みくる「ぱ、ぱいろきねしすと?」

黒子「……あの方の能力を説明していただければ、それでいいですわ」

みくる「え、えっとですね……あくまで私の予想ですけどぉ……あの人は多分、炎を操る能力ではないと思います」

黒子「……発火能力者ではない?」

みくる「それでですね……あの人、筋肉がすごいんですよ」

黒子「……筋肉?」

36: 2009/12/09(水) 18:23:27.62 ID:ZaJ1l54e0
みくる「だからですね……あの人の能力は、肉体を、特に筋肉を強化する能力で、炎はその副産物なのだと思います」

黒子「……もしかして、筋肉をすっごく動かすから熱が発生して、あんな炎を発生できる、と?」

みくる「はい、もしかしたらそうかなぁ、って」

黒子「そんな無茶苦茶な……」

みくる「だって、何かダメージを受けたにも関わらず、あの人は動き続けてるじゃないですか」

黒子「そういえば……」

 確かに、黒子は上条を助けるために一度彼の腕に鉄矢を打ち込んでいたのだ。
 炎を操る能力では、この傷は大ダメージのはず。。

みくる「彼は炎で筋肉を活発化してるって言いましたけど、そんなことありえないでしょう?」

黒子「確かに……ということなら!」

 そこで黒子は戦場に舞い戻る。

黒子「上条さん、そいつの攻撃を防御してはいけませんわ! 攻撃に徹してください!」

38: 2009/12/09(水) 18:32:02.52 ID:ZaJ1l54e0
上条「んな無茶な!」

 一瞬気を抜いた上条に拳が迫る。

黒子「防御ならお任せを」

情熱女王「ぐっ!」

 だが黒子はその拳に鉄芯を打ち込み、『情熱女王』は痛みで動きを止める。

上条(んなこと言っても、こんな大男を殴ったところで――ええい畜生!)

 やけくそ気味に、上条は巨大な腹筋に正拳突き。

情熱女王「がふっ」

 だが、その感触は驚くほど柔らかく、思い切り突き刺さった。

上条「え?」

 驚いたのは上条の方だ。
 なんだかんだ言っても上条は一般的な男子高校生。大男相手には分が悪い、はずだった。

情熱女王「く、くそ――痛ぅっ」

 燃える手で上条を押し潰そうとするが、また黒子が鉄芯を打ち込み、動きが止まる。

上条「ああ……――歯、食いしばれよ?」

 それを見て納得した上条は、思い切り『情熱女王』の顔面をぶん殴った。

42: 2009/12/09(水) 18:49:19.88 ID:ZaJ1l54e0
 不自然なくらいに軽々吹き飛ぶ『情熱女王』の巨体。
 炎が消えていく。『情熱女王』の偽りの鎧が剥げていく。

黒子「犯人、逮捕ですわ」

 そして黒子が手錠をかける。

上条「ふぅ……ってえ?」

 上条に。

上条「え、なんで俺に!?」

黒子「通報は、能力者同士が暴れていた、ということでしたわ。
   貴方がたも一応、容疑者として捕まえなければなりません」

 上条は古泉が赤い球を撃っていたことを思い出す。

上条「ちょっと待ってくれ、俺は無能力者って知ってるだろ!?」

黒子「貴方の能力はよくわかりませんもの。
   初春のサポートがない以上、戦っていた全員を捕まえなければなりませんわ」

上条「んな……俺たちには行かなくちゃいけないところがあるんだって!」

黒子「警備員たちが来て、機器で少し調べればすぐに解放されますから安心してくださいな」

上条「そんな時間ないってのに……!」

みくる「ま、待ってくださぁい!」

46: 2009/12/09(水) 18:56:56.77 ID:ZaJ1l54e0
黒子「なんですの?」

みくる「そ、その能力者は、わ、私ですぅ!」

上条「朝比奈さん!?」

みくる「ビ、ビーム撃とうとしたじゃないですかぁ!」

黒子「……確かにそうですわね」

上条「ちょっと待ってくれ、朝比奈さんは――」

みくる「私が犯人なら、上条さんを拘束する必要ないはずですぅ!」

 そこで上条は気がついた。みくるが身代わりになって上条だけでも行かせようとしていることに。
 しかし、そんなことすれば、もちろん罪になるのは当然である。

黒子「……ですわね。では、改めて犯人逮捕、ということで」

上条「ま、待っ――」

 と、そこで朝比奈さんの指が、上条の唇に当てられた。
 黙っていてくれ、というサイン。

みくる「さっきは何も役に立てませんでした。だから今くらいはかっこつけさせてください、ね?」

上条「……朝比奈さん……」

48: 2009/12/09(水) 19:05:28.59 ID:ZaJ1l54e0
>>43
あくまでみくるの予想では、ね
頭良くなさそうで高位、ってことで、察してくださいな
--------------------------------------------
 みくるの決意に満ちた表情で、上条は何も言えなくなる。
 だが、そんなことで納得できる上条ではない。

上条「……なあ、白井。お前は犯人を二人同時に逮捕できるか?」

黒子「……? そんなことできるはずありませんわ」

上条「だよな。そして、お前は今、何も言ってない朝比奈さんを逮捕するんだよな」

みくる「何を――」

 そこでみくるはハッとする。

上条「じゃあ俺が逃げ出す機会はあった、ってことだ!」

 そう言い残して、上条は手錠をしたまま逃げ去っていく。

黒子「ちょ――」

 黒子はその上条を追いかけようとする。だが、その黒子の手を、みくるが掴んだ。

みくる「今、上条さんを追いかけたら、私も逃げちゃいますよ?」

 それを聞いて、黒子は二人の意図をやっと理解した。

黒子「仕方ありませんわね。今回に限り、見逃してあげることにしましょう」

49: 2009/12/09(水) 19:11:13.12 ID:ZaJ1l54e0



キョン「長門、お前、言ってることわかってるのか?」

長門「わかっている」

キョン「やっぱり、お前にはギャグセンスないぞ。冗談はやめておけ」

長門「……冗談ではない」

キョン「そういう難しい冗談はやめろって」

長門「私は本気」

キョン「冗談はやめろって言ってるだろ長門!」

 俺はついに声を張り上げる。
 しかし、長門は眉一つ動かさない。

キョン「……俺は行くぞ」

長門「……行かないで」

キョン「そういうセリフは恋人でも作ってから言ってやれ」

 そう言って、俺は無理矢理にも長門の横を通り過ぎようとする。
 その瞬間、世界が回った。

52: 2009/12/09(水) 19:16:17.03 ID:ZaJ1l54e0
 次に、背中を痛みが襲った。
 そこでやっと気がつく。俺は長門に蹴倒されたのだと。

キョン「何しやがる!」

長門「行かないで」

 がばっと起き上がる俺にそれだけを言う長門。

キョン「いいや、行くぞ俺は!」

長門「……っ!」

 そう言って起き上がろうとする俺の横っ面に長門の蹴りが襲いかかる。
 太股の感触を楽しむ暇もなく、俺は思いきり吹き飛んだ。

キョン「いってぇなあおい!」

長門「行かないで」

 起き上がるとそこには既に長門が立っている。
 だが、それでも俺は進もうとする。

長門「行かないで」

 今度は腹を蹴飛ばされた。

55: 2009/12/09(水) 19:20:55.65 ID:ZaJ1l54e0
 面白いように吹き飛ぶ俺の身体。
 古泉の爆発なんかよりよっぽどこっちのが痛い。

キョン「げほっげほっ……冗談が過ぎるぞ長門……」

 起き上がるとやはり、そこには長門が。
 俺は構わず進もうとする。

長門「行かないで」

 だが、すぐに俺は長門にぶっ飛ばされる。
 それでも俺は諦めない。

長門「行かないで」

 殴り飛ばされる。
 諦めない。

長門「行かないで」

 吹き飛ばされる。
 諦めない。

長門「行かないで」

 蹴り飛ばされる。
 諦めない。

長門「お願い、行かないで」

62: 2009/12/09(水) 19:31:05.64 ID:ZaJ1l54e0

 ――そうしてしばらく俺は長門に痛めつけられ続けた。
 長門は壊れたレコードのように、「行かないで」を繰り返す。

 だが、俺にはわかる。

 お前が悲痛な顔をしてるってことくらいわかるんだよ。

「何をしてるの、長門さん」

 そこに聞き覚えのある声が響いた。

キョン「お前は――」

「さっさと情報連結を解除してしまえばいいじゃない」

 声はするのに、どこにもいない。
 声だけが不自然に響いてるような状況だ。

長門「……彼は冗談を言っているだけ。ユニーク」

「冗談だとしても、進もうとするなら不安分子として片付けないと、でしょ?」

キョン「お前までふざけるなよ……」

長門「……だから私はわからせている」

「まあいいわ。私がそっちに行けばすぐに片付けるから」

キョン「ふざけるなよ……朝倉ぁ!」

67: 2009/12/09(水) 19:40:12.73 ID:ZaJ1l54e0
長門「――っ!」

朝倉「やっほ。久しぶりね」

 そしてそいつは現れた。
 今や懐かしい青いの制服。

朝倉「そして、さようならかしら?」

キョン「……お前も、宇宙人だよな」

朝倉「そうね、正確には対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースだけど」

キョン「……じゃあ状況はわかってるんだよな?」

朝倉「そりゃあもう。長門さんしかこっちにいないから協力するために再び作られたんだし」

キョン「……じゃあ、なんでくだらない冗談を言ってやがる?」

朝倉「冗談に聞こえるのかしら、心外だわ」

 そう言って、朝倉は右手を俺に向けようとする。

長門「待って」

68: 2009/12/09(水) 19:47:16.40 ID:ZaJ1l54e0
 すると長門が俺をまた蹴り飛ばしやがった。

朝倉「長門さん?」

長門「これで彼は冗談を止める。彼を抹消する必要はない」

朝倉「まだ、わかってないみたいよ?」

 だけど俺は立ち上がる。

キョン「そこを退けよ二人とも」

長門「……もう止めて」

キョン「退かないなら俺はお前らを殴ってでも行くぞ」

朝倉「女の子の顔を殴るのは酷いんじゃないの?」

キョン「もっと酷いことになろうとしてるやつがいるのに、止まれるかよ!」

長門「もう止めて」

キョン「お前ら宇宙人の勝手な尺度で考えやがってなあ、何が自律進化だ、何が実験だ!
    んなもん成功しても御坂妹さんも、俺たちも、何より取り返しのつかないことをしちまうハルヒも傷つくだけじゃねえか!」

長門「その冗談は、ユニークではない」

キョン「これが冗談に聞こえるってのか長門!」

長門「……」

71: 2009/12/09(水) 19:51:29.17 ID:ZaJ1l54e0
朝倉「もういいわ」

 今度は、長門が蹴飛ばす暇もなかった。
 朝倉涼子は突然、手に何かを発生させた。

 見覚えのある、ナイフだ。

朝倉「さようならキョンくん」

 そして朝倉はそのまま俺に迫る。

 長門が動こうとするが、それより先に朝倉は突貫する。

 そして、俺の目の前が人で、見えなくなった。

73: 2009/12/09(水) 19:56:50.52 ID:ZaJ1l54e0

 だが、俺は刺されていなかった。

上条「――大丈夫か、キョン」

 同い年なのに、大きな背中が目の前にあった。
 ボロボロなのに、それでも人を守る背中があった。

キョン「……上条さん」

 俺はその背中の名前を呼ぶ。

 その人は、朝倉の手を掴んで、ナイフを止めていた。

朝倉「えっ――ちょ、何これ!?」

 そこで朝倉は焦り出す。
 見れば、身体が色が薄くなるように消えていってるではないか。

 そうか、朝倉は長門の力の力で作り出した仮の身体。
 異能で作られたものなのだ。

75: 2009/12/09(水) 20:00:54.76 ID:ZaJ1l54e0
上条「え、なんでこの人消えてんの!?」

 それを見て上条さんも焦ってる。

キョン「大丈夫だ、元の世界に戻るだけだ」

 まあ、大体合ってるだろうことを俺は言う。

朝倉「ちょ……私の出番これだけ――」

 そう言い残して朝倉は消えてしまった。

 その奥に残るは長門。

82: 2009/12/09(水) 20:11:20.93 ID:ZaJ1l54e0
上条「あー、長門も触ったら消えたりしないよな?」

長門「私は彼、古泉一樹、朝比奈みくると同じく、涼宮ハルヒの力でこちらに来ている。消えたりはできない」

 俺の代わりに長門が答えてくれた。

上条「で、その長門さんはなんでそこに?」

長門「彼を涼宮ハルヒに引き合わせてはいけない」

上条「なるほどな、大体わかった」

 わざわざ教えてくれるとは長門は優しいな。

上条「先に行け、キョン! お前が行くとなんかヤバいらしいな!」

 その瞬間、長門の目が変わった。

 俺の時とは違う、もっと殺人的な光線を放ってくる。
 上条さんはそれに反応し、右手を突き出すとそれを打ち消した。

上条「安心しろ、俺が長門を食い止める!」

キョン「でもな――」

上条「レベル5とほとんど遊んでた上条さんですよ、そう簡単にやられるかっての」

キョン「くそっ……頼んだ!」

 上条さんは本気だ。俺はぐだぐだやってその想いを無駄にするわけにはいかない。ハルヒの元へと駆けだして行く。

84: 2009/12/09(水) 20:16:19.38 ID:ZaJ1l54e0

 すたこらさっさと逃げていくように先に進むキョン。

上条「あー、あんなこと言ったけど、追おうとしないのですかね、と上条さんは聞いてみます」

長門「……貴方という朝倉涼子を倒すほどの邪魔が入った。私には彼を追うことはできない」

 長門は真っ直ぐに上条さんを見つめて言う。

上条「ああ、そういうことか。わかったよ」

 長門は理由が欲しかったのだ。

上条「長門さんよぉ」

 それで上条さんは納得した。

上条「――アンタの幻想は俺が守り抜いてやる」

 彼女も、結局はキョンたちと同じ意思だったのだと。

87: 2009/12/09(水) 20:21:43.68 ID:ZaJ1l54e0



 涼宮ハルヒは困っていた。

 『妹達』の全てが見つからなくなってしまったのだ。

 彼女の能力では、言われた『制約』に引っかかり、探すことは不可能。

ハルヒ「絶対能力者になれば探せるんだけど……って本末転倒ね」

 冗談のように、独りごちる。

 そこで、今までの出来事を思い返してしまった。

 思い浮かぶ、彼の驚いた顔。

ハルヒ「――キョン……」

 そこで、ざりっという足音が聞こえた。

ハルヒ「……!」

 酷く覚束無い、怪我か障害を負ったような足音。
 もしかして、とハルヒは思った。

ハルヒ「……キョン?」

88: 2009/12/09(水) 20:23:13.98 ID:ZaJ1l54e0
 そうして現れたのは。



一方「――誰だァそいつは?」

 白髪に赤い目をした悪魔のような男だった。

89: 2009/12/09(水) 20:23:30.95 ID:ZaJ1l54e0
ごめめし

103: 2009/12/09(水) 21:19:07.77 ID:ZaJ1l54e0



長門「――パーソナルネーム、上条当麻の情報結合解除を申請……失敗。情報開示を申請、失敗」

 何かを呟き、動かない長門。

長門「貴方の存在は異常。情報操作は通用しないと判断」

上条「何を言ってるんだ?」

 しかし、上条は訳が分からないという風な表情をする。

長門「――……」

 そこで長門はさらに何かを呟き、両腕を広げる。
 すると夜空のように広がる数々の光。

 それが上条に襲いかかった。

上条「いやいやいやいやちょっと待って多いって!」

 上条は必氏に避け、無効化し、そして打ち抜かれ、それでも立ち上がり、避け、打ち抜かれ、無効化し、打ち抜かれ、打ち抜かれ、打ち抜かれた。

上条「はあはあ……」

長門「貴方の肉体は多量のダメージを負っている。なのに何故」

 それでも上条は倒れない。

105: 2009/12/09(水) 21:28:11.58 ID:ZaJ1l54e0
上条「そりゃあ、守るって決めたからな……」

長門「彼はもう行った。彼を守るならもう戦う必要はないはず」

上条「キョンのことじゃねえよ」

 そこで一拍置いて、さらに上条は言う。

上条「――お前の意思のことだよ」

長門「……わからない。私は貴方との協力関係を破棄し、利害は一致しないはず」

上条「協力? 利害? そんなものはどうでもいいだろ」

長門「わからない」

上条「わからないのかよ、人を助けたいって気持ちがわからないのかよ!」

長門「……」

上条「お前は、アイツを、キョンをぼこぼこにしてまで諦めさせようとしたんだろ!
   キョンのやつを頃したくなかったんだろ! 助けたかったんだろ!」

長門「……!」

上条「お前の組織とかがどんななのかは知らないよ、だけどな、お前がそいつに逆らえないことくらいわかる。
   だからお前なりの答えが、アイツを諦めさせるってことだったんだろ?」

108: 2009/12/09(水) 21:37:01.21 ID:ZaJ1l54e0
長門「……」

上条「だけどな、お前はキョンだけじゃねえ、御坂妹たちや人を殺めようとしてる涼宮ハルヒのことまで助けたかったんだろ。
   だけどお前は上から命令されて、そこだけは逆らえない。
   キョンに言っても聞かない、どっちか片方にしか取れない、そう考えてたんだろ」

 上条はそう言って、拳を握りしめる。

上条「だったらまずはその幻想をぶち頃す。お前なりの方法で、両者を助ける方法を俺が提供してやる。
   だから俺は倒れない」

長門「そう」

上条「さあ来いよ、お前のしなくちゃいけない攻撃、全部俺が受け止めてやる!」

 その言葉に応えるかのように、長門はさらに攻撃を展開する。

 ――と、そこで、キョンの向かった先、つまりは涼宮ハルヒの場所から大爆発が起こった。

 空気を振るわせて、音波は窓ガラスを砕き、地面を揺らす。

上条「なんだ……!?」

 そこで長門の顔が、僅かにだが、確かにショックに染まるのを上条は確認した。

 それは、やはり悲痛な表情。


長門「緊急事態。……命令が移行する」

112: 2009/12/09(水) 21:46:34.80 ID:ZaJ1l54e0
上条「どういうことだ?」

長門「涼宮ハルヒと、それに準ずる強大な力が激突しようとしている。
   このままでは、涼宮ハルヒも危険」

上条「ハルヒが危険……ってどういうことだ!?」

長門「詳細は不明。まずは、急行する必要がでてきた」

 そう言って、長門はキョンの後を追おうとする。

上条「お、おい待てよ!」

 一度だけ長門は足を止めた。

長門「……謝罪する」

 次の瞬間、上条は自分が思いきり吹き飛ばされたことしか、認識できなかった。
 そこで意識が暗転する。

115: 2009/12/09(水) 21:51:28.13 ID:ZaJ1l54e0


一方「qwdrftgy殺b!」

ハルヒ「な、何よこれ!」

 ハルヒは目の前の光景を疑った。

 人間だと思っていたものが、突然背中から黒い何かを羽のように生やし、理解不能の力で攻撃してきたのだ。

 その黒い何かを振り回す人間だと思っていたもの。

ハルヒ「止まりなさいよ!」

 ハルヒの一言でそれは確かに止まる。
 しかし、

ハルヒ「あぐっ――」

 訳の分からない何かにハルヒの身体は吹き飛ばされた。

ハルヒ(何よこれどういうことなの……!?)

119: 2009/12/09(水) 22:00:02.89 ID:ZaJ1l54e0

 『一方通行』は言っていた。
 助っ人に行ってくれと頼まれたと。

一方『長門とか言うやつが動けないらしくてなァ。それがあいつらの切り札らしいンで俺に代わりをしろだとよ』

 何を言ってるのかわからない。有希が何故絡んでくるのか理解できない。
 そう、ハルヒは思った。

 だからこそ、至極合理的な考えを提案し、持ちかけたのだ。

一方『……ふざけンじゃねェぞ』

 だが、『一方通行』はそれを拒否する。 交渉ケツ裂だ。

 だからこそ、ハルヒは一撃必殺を使った。

 能力さえ使えなくしてしまえば、目の前の男などただのモヤシなのだから。

 だから、事前情報から、彼の思考能力を奪うべく、こう言った。

 『全ての電波はここに来るな』と。

 その結果が、これである。

121: 2009/12/09(水) 22:07:00.26 ID:ZaJ1l54e0
一方「wpsty吹k飛b」

 『一方通行』はさらに黒い何かを振り回す。

ハルヒ「くぅ……止めなさ――きゃあっ!」

 ハルヒの一言でそれは確かに止まる、がやはり攻撃が防げない。

 これが、『制限』の一つだった。

 ハルヒの能力は、考えたことならば、なんでもできた。
 しかし、逆を言えば、考えないことはできない、つまり、わからないことはできないのだ。

 だから誰かを捜そうにも、その誰か自体を動かすことができても、 どこにいるのかわからなければどのように動かせばいいかわからないため、結局は見つけられない。

 眠くなれば当然思考力も落ちるし、能力が弱まったりする。
 だからこそ、常に自分の能力で自分の身体を強化して補っていた。

 それで十分だった。

 この意味不明な現象以外は。

ハルヒ「あうっ!」

 訳の分からない力に翻弄される。
 わかれば、完封なのだが、それがわからない。

 ハルヒは焦る。

 そうして、電波を元に戻してみるという、基本的なことを思いつけなかった。

125: 2009/12/09(水) 22:14:46.28 ID:ZaJ1l54e0
ハルヒ「あ……」

 そして、気がつけば目の前に、まるで天使のように羽を背負った『一方通行』がいた。

 思考が停止する。何も考えられない。

 全ての能力の庇護が消える。

ハルヒ「きゃああああああああああああああああああああ」

 そこでハルヒはただの女子高生に戻ってしまった。

 だが、そこでハルヒは予想外のものを見た。

ハルヒ「有希……?」

 何やらわからない黒翼を、当然のように手で受け止めている長門。

ハルヒ「どういう――」

 ことか、までは言えなかった。

 長門が何かを呟いた瞬間、ハルヒは消えてしまう。
 黒子がいればわかったであろう、この現象は『空間移動』によく似たものだと。

 その瞬間、ハルヒの能力で遮断されていた電波が復帰した。

128: 2009/12/09(水) 22:29:12.99 ID:ZaJ1l54e0
一方「どォいうことだァ?」

 復活した言語能力と思考能力で、目の前の小さな少女を見つめる『一方通行』。

長門「このままでは危険だった」

一方「お前は確か長門ってやつだなァ。資料で見たことは見た。
   つまりお前は『幻想創造』側に付くってことだな? 面倒なことしやがって」

長門「私は面倒を回避した」

一方「あァ?」

長門「あのまま戦っていれば、貴方も、貴方以外も危なかった。
   涼宮ハルヒも危なかった。彼女の可能性が爆発を起こしていた」

一方「何わけのわかンねェこと言ってやがる」

 そう言って『一方通行』は距離を取る。

一方「そもそもテメェは何者だ? 俺の能力を受けても氏なないってのはどういうことだ」

長門「私は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。貴方たちの言葉で言えば宇宙人」

一方「で、その宇宙人様は何をするつもりで?」

長門「本気の貴方と本気の彼女の接触が一番危険。追跡を阻止する」

一方「あァなるほど。ここは電波がよく入るンだな。
   テメェをぶち頃すのにはちょうどいい」

131: 2009/12/09(水) 22:36:58.39 ID:ZaJ1l54e0



キョン「どういうことだ?」

 携帯に映る地図を見て、気付いた。
 ハルヒの居場所が行動予測範囲を超えた変なところにいやがる。

 そこは。

キョン「今までと逆方向じゃねえか!」

 急いで踵を返し、元の道へと戻っていく。

 だが、一抹の不安がある。
 長門の関門をまた超えなければいけないのだ。

 と、そうこう考えてる内に、その長門がいたはずの場所へ。

 そこで目にしたのは。

キョン「上条さん!?」

 コンクリートの上に倒れてる上条さんだった。

133: 2009/12/09(水) 22:44:33.65 ID:ZaJ1l54e0
上条「……う、ぁ……キョン……か?」

 駆け寄ると上条さんは答えてくれた。
 しかも起き上がる。こんなボロボロなのになんて頑丈さだ。

上条「長門……逃がしちまった……」

キョン「そうか、それならラッキーだ」

上条「どういう……?」

キョン「よくわからんが、ハルヒが方向転換しやがった。居場所は今までと逆方向だ」

上条「……そういうことか、ラッキーだ」

 そう言って、上条さんは立ち上がる。

上条「長門は多分、来れないぞ」

キョン「?」

上条「つまり、俺たち二人で、涼宮ハルヒのところに行けるってことだ」

136: 2009/12/09(水) 22:47:31.87 ID:ZaJ1l54e0
ごめん、あと少しで終わるけど風邪薬とかのせいで猛烈に眠くなってきた
一度寝る、起きたら書く
とりあえず酉つけとく

222: 2009/12/10(木) 13:38:08.28 ID:m2Yu8ilm0



絹旗「超驚いてるようですね」

 右手の傷に顔を顰めながら、それでも笑う絹旗。可愛い。

絹旗「知ってます? 液体窒素って超冷たいんですよ。
   だから、貴方の喉を凍らせて超窒息させることも、――爆発を超冷やして、真空にさせないことも可能なんです」

 対して、古泉は気が気ではない。絹旗に馬乗りになってもらっていて超羨ましいのだが、下手に動けば液体窒素を飲むことになるからだ。

絹旗「しかも、超同時に窒素を補給できます。窒素を操る私が、窒素を補給する手段を持ってないと思いましたか?」

古泉「ぐぅ――!」

 迂闊でした、と言えない古泉。
 それに対して絹旗はさらに液体窒素の缶を古泉の口の奥に突っ込んでいく。

絹旗「やっと、超焦った顔になりましたね。でも、超終わりです」

 そうして、絹旗は、液体窒素を握る手に力を入れ、


 ――その瞬間、絹旗の身体がオレンジ色の何かに吹き飛ばされた。

225: 2009/12/10(木) 13:48:47.76 ID:m2Yu8ilm0
絹旗「なっ!?」

 絹旗の身体は勢いよく、宙を回転しながら吹き飛び、彼女は着地に失敗する。

 同時に、彼女は驚いた。痛みが、あったのだ。

 至近距離からショットガンをフルオートで受けたなら尚かつ、遠距離攻撃でダメージが発生したことに彼女は驚いた。

古泉「げほっげほっ……」

 液体窒素の缶を喉の奥まで突き込まれていた古泉が、咽せながら起き上がる。

 だが、絹旗はそんなことはもうどうでもよかった。

 こんなことができるのは、彼女の友人で仲間だったレベル5の学園都市第四位か、
 かつて内部抗争で戦ったものの、遠く及ばなかったレベル5の学園都市第二位か、
 自分の能力についての演算パターンのモデルとなったレベル5の学園都市第一位か、

美琴「やっほー、古泉さん大丈夫ですかー?」

 最強の電気使いであり、『超電磁砲』の異名を持つレベル5の学園都市第三位くらいである。

226: 2009/12/10(木) 13:49:48.72 ID:m2Yu8ilm0
>>225
意味わかんないミス
至近距離からショットガンをフルオートで受けたなら尚かつ

至近距離からショットガンをフルオートで受けたならともかく

232: 2009/12/10(木) 14:00:37.57 ID:m2Yu8ilm0
>>227
絹旗ちゃんが常に液体窒素持ってるのは原作設定。超可愛い
-------------------------------------------------------------
古泉「御坂妹さん、ではないですね……もしかして御坂美琴さん?」

美琴「正解正解」

古泉「ナビゲートをしていたはずの貴方がなぜここに?」

美琴「ナビゲートなら別の子に頼みましたから安心してください。
   それで、その子に頼んだら、監視カメラをハッキングしてたらなんか貴方が危ないのが見えたって」

古泉「監視カメラをハッキングですか!?」

 機関がやろうとしたができなかったのは秘密である。

絹旗「……超やってくれましたね」

 そこへ絹旗が立ち上がる。

美琴「あー、戦うの? やめといた方がいいわよー」

絹旗「そういうわけにもいきません」

 確かに、『超電磁砲』の戦闘力は脅威だ。
 だがしかし、絹旗は、勝算がある、と考えていた。

238: 2009/12/10(木) 14:09:28.99 ID:m2Yu8ilm0
 今の攻撃は、恐らく彼女の異名ともなっている『超電磁砲』だろう。

 それを、僅かにダメージを負ったとはいえ、装甲で防ぎきったのだ。

 それに、彼女がどんなに強いと言っても、身体能力は一般的な女子中学生のはず。

 接近戦に持ち込めば、勝てる、と絹旗は思っていた。

美琴「仕方ないわね――ッ!」

 美琴が溜息を吐いた瞬間、絹旗は砲弾のごとく美琴に突撃する。

 美琴の位置にライダーキック。あまりの威力にコンクリートが捲れ上がる。

 こんなものを食らっては、ただではすまない、はずだった。

美琴「いきなり危ないじゃない」

 だが、感触はなかった。

 いつの間にか離れた位置に美琴は移動している。

絹旗「っ!」

 そして追撃を行おうとした瞬間、再び『超電磁砲』が絹旗の装甲に突き刺さった。

 宙を舞ってバウンドしながら吹っ飛んでいく絹旗。

 それでも致命的なダメージではない。

240: 2009/12/10(木) 14:17:51.04 ID:m2Yu8ilm0
絹旗(ダメージは、確かにありますが、この調子なら超まだまだ……!)

 そんなことを絹旗は考える。

美琴「ねー、雷がなんでゴロゴロ鳴るか知ってる?」

 そこに美琴はいきなり言いだした。

美琴「なんでもね、瞬間的に熱せられた空気が、ほとんど真空になって、そこに空気が急激に入ってくるから衝撃波が起こるらしいのよ。
   その衝撃波がね、雷鳴の正体」

 その言葉に絹旗の顔が、危機感に染まる。

美琴「アンタの能力って真空になると危ないらしいわね。

   ――じゃあ、アンタの周りに雷鳴がゴロゴロしたら、どうする?」

絹旗「……!」

美琴「さてと、降参するなら、両手を頭の後ろで組んで、跪いて四つん這いにでもなりなさい」

 美琴はそんなことを微笑みながら言う。

 絹旗に、選択の余地はなかった。

246: 2009/12/10(木) 14:26:08.25 ID:m2Yu8ilm0

 結局、依頼が入ってる限りは後に引けない絹旗である。

 無謀にも、美琴に突っ込んでいき、物凄い高圧電流が発生したと思ったところで彼女の意識は闇に落ちた。

美琴「うわ……ボロボロですね、大丈夫ですか?」

 そうして美琴は古泉を介抱中である。古泉超羨ましい。

古泉「全然大丈夫ですよ。これでも鍛えてますから」

美琴「ならいいんですけど……」

 大丈夫じゃなければいいのに。

古泉「しかし、監視カメラをハッキングして発見、ってすごいですね……人間業じゃありませんよ」

美琴「私じゃそんな情報処理できないんですけどねー。初春さん本当にすごいや」

 そこで、持ってきた包帯を古泉に巻き終える美琴。

美琴「さてと、それじゃ私は行きますね」

古泉「……どこへです?」

美琴「そりゃまあ――決まっているでしょ?」

250: 2009/12/10(木) 14:31:28.85 ID:m2Yu8ilm0



 そこへ着くと、目的の団長様はいやがった。

 団長様は何やら混乱してるようで、俺たちの存在に気がついてない。

 だから、俺は言ってやった。

キョン「……ハルヒ!」

 俺の言葉にびくりとハルヒが反応する。

 そして、ゆっくりとこちらを向くハルヒ。

ハルヒ「……キョン?」

キョン「……やっと、会えたな」

252: 2009/12/10(木) 14:37:06.51 ID:m2Yu8ilm0
 ハルヒはばつが悪そうに、目を伏せる。

ハルヒ「……何しに、来たのよ」

キョン「お前を止めに来た」

ハルヒ「……何を止めに来たのよ」

キョン「お前がやろうとしてる馬鹿なことだ」

ハルヒ「……知ってるの?」

キョン「ああ、全部知ってる」

ハルヒ「……何で止めようとするのよ」

キョン「当然だろ、お前が後悔するからだ」

ハルヒ「……何でそんなことがアンタにわかるのよ!」

キョン「決まってる!」

 一呼吸置いて俺は言う。

キョン「お前のやり方は、間違ってるからだ……!」

254: 2009/12/10(木) 14:41:22.90 ID:m2Yu8ilm0
ハルヒ「いいえ、私は正しいわ」

キョン「いいや、お前は間違ってる」

ハルヒ「あくまで、認めないのね?」

キョン「ああ、認めない」

ハルヒ「仕方ないわね……」

 そう言って、ハルヒはこちらの方に向き直る。

ハルヒ「ここは、超能力者の街、学園都市よ」

 そう言って、ハルヒはこちらに指を向ける。

ハルヒ「文句があるなら、私に勝ってからにしなさい!」

 そう言って、ハルヒは何かしらの能力を使った。

255: 2009/12/10(木) 14:48:30.26 ID:m2Yu8ilm0
キョン「うおぉ!?」

 眼前に突然現れる、巨大で気持ち悪い虫。
 いつかの巨大カマドウマなんかをよりにもよって生み出しやがったらしい。

 ハルヒに、これの記憶なんかないはずなんだがな。

 というか、どうすりゃいいんだ。
 あの時は古泉がいてくれたからなんとかなったものの、今はこいつを倒す手段なんて……

上条「退け!」

 あった。上条さんは俺を庇うように前に出ると、カマドウマに軽く触れる。
 それだけで、カマドウマは光の粒になって消えてしまった。

 うむ、頼もしいな。

ハルヒ「へぇ……何なのアンタ?」

上条「ただの、友達だよ。こいつらのな」

ハルヒ「そのただの友達が何のつもり?」

上条「こいつらのために、お前を助けてやる」

ハルヒ「やれるもんならやってみなさい」

上条「ああ、やってやるよ。

   ――お前が最強で、何でも思い通りにできるってなら、まずはその幻想をぶち頃す!」

285: 2009/12/10(木) 18:42:38.93 ID:m2Yu8ilm0
ごめん道路混んでて遅れた
今から書く

288: 2009/12/10(木) 18:48:04.39 ID:m2Yu8ilm0



一方「とりあえず、寝とけ」

 『一方通行』はそう言って、自分に拳銃を向ける。

長門「……?」

 そして引き金に指をかける『一方通行』の意図が、長門にはわからない。

 これではまるで、拳銃自殺。

一方「ほらよ」

 そして銃声が鳴り響く。

長門「!?」

 にもかかわらず、痛みを感じたのは長門だった。

 銃弾が、長門の足を貫通していたのだ。

289: 2009/12/10(木) 18:55:35.80 ID:m2Yu8ilm0
長門「銃弾の方向転換、肉体の損傷を確認――修復する」

 だが、そんなダメージ如きでどうこうなる対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースではない。
 そう呟くだけで、光の粒が銃創を覆うと、傷は跡も残らず、血痕ごと消えてしまった。

一方「おいおいそりゃすげェな。『肉体再生』のレベル4はあるンじゃねェの、か!」

 銃など通じない、そう判断した『一方通行』は足下の砕けたコンクリート片をを蹴り上げる。

 するとそれは物理法則を無視したような動きで、物凄い速度で長門へと肉薄。
 ベクトルを集約した即席の砲弾である。

長門「成分は一般的なコンクリートと判断。粉砕する」

 長門は軽くそれを平手で叩くように腕を振るう。
 それだけで粉々に砕け散るという、こちらも物理法則を無視したような現象が起きた。

 あまりの威力に、コンクリート片は粉塵になる。

一方「肉体強化系の能力かァ?」

 その粉塵の奥から、『一方通行』は現れた。

 人間の動きではない体制で、長門に迫ると彼は軽く腕を伸ばす。

 それだけであらゆるベクトルを操作する能力により、一撃必殺となるのだが、

長門「肉体的強度に問題なし」

 長門はそれを難なく受け止める。

291: 2009/12/10(木) 19:12:58.58 ID:m2Yu8ilm0
一方「ハッハァ! なンですかァその能力はよォ!」

 普通ならば、受け止めた時点で骨は砕け、肉は飛び散るのだが、その様子はまったくない。
 それに驚くより先に、『一方通行』の方こそが、血湧き肉躍った。

長門「――!?」

 無理な体勢にも関わらず、受け止めた長門の腕を掴む『一方通行』。
 そのまま地面に足を着くと、華奢とは言え、それなりの重量がるだろう長門の身体を片手だけで持ち上げる。

一方「落ちてろォ!」

 そのまま、長門の身体を地面に叩き付ける。
 今度こそ確実に砕けるように、あらゆるベクトルを集約して、だ。

長門「肉体的強度の限界を超え――」

 長門の言葉はそこで途切れる。

 長門の身体は思い切り頭から叩き付けられて、衝撃で血肉が飛び散る。
 その威力はコンクリートの許容強度を超えていて、地面にはクレーターのような大穴が出来上がる。

 そこまでやって、『一方通行』は初めて、やったか、と思った。

長門「――るのを判断。修復を優先する」

 だが、長門はそれでも無傷。制服に汚れ一つない。
 頭から突っ込んだにも関わらず、長門はいつの間にか足からきちんと着地している。

295: 2009/12/10(木) 19:31:44.22 ID:m2Yu8ilm0
一方「ンな!?」

 今度こそ『一方通行』は驚いた。

 先程の攻撃はあらゆるベクトルを操作し、瞬間的に可能な限り威力を上げたものだった。
 どんなに頑丈でも、例え核シェルターであろうと、傷一つないのは不自然すぎる。

 すると今度は長門が『一方通行』の掴まれたままの腕を振り回す。
 何気ない動作なのだが、それだけで軽々しく『一方通行』の身体は凄まじい勢いで吹き飛んで行く。

 ビルに激突。あまりの威力でビル全体が揺れ、ついには倒壊する。

一方「なンつー威力だオイ」

 それでも『一方通行』は無傷。
 ビルの残骸を吹き飛ばして飛び出してくる。

長門「追加攻撃」

一方「あァ?」

 飛び出してきた『一方通行』はそこで不思議なものを見た。
 それは両手を広げる長門。だが、問題はそこではない。

 彼女の周囲に、鉄のような素材、かつ竹槍のように尖った細長い何かがいくつも出現していたのだ。

 そして、それはまるで意思を持ったかのように『一方通行』に発射される。

299: 2009/12/10(木) 19:39:22.51 ID:m2Yu8ilm0
一方「効くかよ、ンなもン」

 だが、『一方通行』は何もしない。
 長門の姿を真似るように『一方通行』は両手を広げるだけで、甘んじて鋼鉄の槍を受け入れる。

 それは『一方通行』を貫こう、とした瞬間、長門の元へと戻っていった。
 『一方通行』の能力で反射されたのだ。

長門「っ!」

 自分の放った攻撃に、逆に串刺しになってしまう長門。

 血が飛び散る、が次の瞬間にその槍は光となって霧散する。

 その槍が消えた後にはやはり、服にすら傷はない。

一方「今のも、確かに当たったよなァ?」

 長門はさらに多量の槍を生み出す。
 そしてマシンガンのようにまた発射。しかしやはり反射される。

 今度は長門を貫かない。明らかに見切るのは不可能な量なのに、長門は難なくそれを避け続ける。

 人間の身体能力を超えているとか、そういう次元ではなかった。

312: 2009/12/10(木) 20:01:51.02 ID:m2Yu8ilm0
一方「おいおい、冗談じゃねェぞ……『幻想創造』みたいな能力じゃねェか」

 そこでやっと『一方通行』は地に足を着ける。

長門「私の能力は情報を操作しているだけ。涼宮ハルヒの能力とは種別が違う」

一方「情報を操作だァ? なるほどなァ、電子、いや素粒子の配列でも変更してるってのか」

長門「この時代の技術レベルでは説明不可能」

一方「宇宙の技術ってやつですかァ? 何でもできそォだな」

長門「貴方の能力こそ万能のはず。先程までの情報を集計することで貴方の能力は物質のベクトルを自由に変換できるものだと予想される」

一方「おいおい、もうそンなことまでわかっちまうのかァ……宇宙人ってのは本当みてェだな。
   でもそれがどうしたァ?」

長門「分析の結果、貴方の能力に対する対処は四種類ほど検出した。いくら貴方の能力が万能でももう通用しない」

一方「面白ェ冗談言いやがる。やれるもンならやってみやがれ!」

 そう言って、『一方通行』は音速を超えるスピードで再び長門に迫る。

313: 2009/12/10(木) 20:03:15.32 ID:m2Yu8ilm0
ごめん、QB始まってた
30分ほどしたら戻る

319: 2009/12/10(木) 20:25:27.55 ID:m2Yu8ilm0
QB最終回ぶっ飛びすぎててワロタ
今から続き書く

325: 2009/12/10(木) 20:35:37.40 ID:m2Yu8ilm0
 そうして、あと一歩で、手が届く、そこで

長門「近距離における対処法を実践」

一方「ンな!?」

 『一方通行』は殴り飛ばされた。
 彼の華奢な身体が宙を舞う。

一方「こりゃァ……」

 なんとか着地、だが足が震える。
 脳裏に過ぎる自分を開発した研究者の顔。

長門「ダメージ効率は本来の0.45パーセント。攻撃は可能」

一方「クソッ……」

 『一方通行』を唯一殴ることのできる、無茶苦茶な理論。
 拳を反射の膜に当たった瞬間、引き戻すことで反射を利用して殴るという、人間業を超えた体術。

一方「だけどなァ……完璧に実践するのは無理みてェだな」

 だが、『一方通行』は長門の様子を見てほくそ笑む。
 長門の腕はほとんど逆の方向に曲がっていたのだ。

長門「攻撃の99.55パーセントの反射を確認――問題ない」

 それでも攻撃が有効だと判断した長門は積極的に肉弾戦を挑んでくる。
 再び肉薄する二人。

334: 2009/12/10(木) 20:46:08.17 ID:m2Yu8ilm0
 『一方通行』は動かない。
 今度はもう片方の手で差し出された同じ拳を、同じように受け入れる。

一方「同じ手が通用すると思ったら大間違いだ」

長門「――!?」

 今度はダメージを受けたのは、長門だけだった。

 拳はあらぬ方向に曲がってしまい、その反動で身体が浮く。
 そこに『一方通行』はベクトルの集約した一撃必殺の攻撃を再び打ち込んだ。

 長門の身体が空を飛ぶ。

一方「残念でしたァ! 反射以外にも設定できるンだよ!」

 さらに『一方通行』はそこに追撃をかける。
 手にしたのはコンクリートの塊。

一方「宇宙に還れ」

 自転と、地球の遠心力と、あらゆる力を使った一撃が空中の長門のもとへと飛んでいく。

 そこで『一方通行』は長門の表情が、僅かな変化だが、焦りに染まるのが見えた。

長門「防御不可能……回避不可能……修復時間不足――!」

337: 2009/12/10(木) 20:54:47.50 ID:m2Yu8ilm0
 夕焼けの空に赤い飛沫が蒸発する。

一方「汚ェ花火だ」

 さすがに粉々に蒸発してしまえば、修復は不可能だろう、と『一方通行』は判断する。

一方「がァ!?」

 そこで、夕日の光が、刺すような光線になったことを『一方通行』は把握した。

 見れば、空から重力加速に従って、地面に向かっている、長門の姿。

一方「あの状態からも復活できるってのかよ……! しかもこりゃ……!」

 『未元物質』の変化させた、物理法則外の攻撃を思い出させる。

長門「遠距離からの対処法」

一方「なんでもありだなァ、オイ!」

 『一方通行』は太陽光の当たらない、日陰に逃げ込む。
 幸い、夕方だったためか、日陰は大量にあった。

長門「次は、空気」

一方「ぐっ……!」

 長門が言うと、『一方通行』は急激に息苦しくなる。

一方(どんな法則か知らねェが、厄介だな……)

342: 2009/12/10(木) 21:03:19.66 ID:m2Yu8ilm0
一方「だがなァ……単純なンだよォ!」

長門「……」

 『一方通行』は即座に反射の設定を切り替える。
 既に一度攻略しているものだ。その時の式を応用すれば別の法則だろうが、破るのは容易だった。

 そこで長門は着地し、自由な行動権利を得る。

一方「チマチマやってる場合じゃねェぞ?」

 だが、『一方通行』はそこにいた。長門の背後に回っていた。

 長門には前後左右などは大した意味を持たないのだが、それはこれまでの攻防で『一方通行』もわかってるはずだった。

 だからこそ、今度は攻撃を加えない。

一方「テメェをいくら砕こうが無駄なのはわかった。なら動けなくなってもらうまでだ」

 そう言って、『一方通行』は長門の両手と両足をガッチリとホールドする。

一方「ホラホラァ、次の対処法とやらをやらないと大変ですよォってなァ!」

 そこから力を加える。
 長門は自分の身体を形作っている骨が折れていくのを感じた。

長門「――ッ!」

一方「テメェの回復力が勝るか、痛みで精神がぶっ壊れるのが早いか、競争しようじゃねェか」

349: 2009/12/10(木) 21:13:20.05 ID:m2Yu8ilm0
長門「――残、りの二つは、現段、階では、使用、不可、能」

 壮絶な痛みがあるのだろう、長門の言葉は途切れ途切れだ。

一方「そンなら俺の能力が使えなくなるか、お前の精神がぶっ壊れるかの耐久レース頑張りなァ」

 さらに、『一方通行』は長門の体内の血流を操作し、身体の内部を滅茶苦茶にする。

長門「し、かし、その内、一つ、は、もうすぐ、使用、可能」

一方「早くしないともっと痛い目を見るぞォ?」

 苦悶の表情の長門を見て、『一方通行』は喜悦の表情を浮かべる。

長門「おおよ、そ、後、七、秒」

一方「それじゃ、見せてもらおうじゃねェ――ンな!?」

 その瞬間、長門は『一方通行』の束縛から逃げ出すことに成功した。

 あまりの事態に、『一方通行』が能力の使用を中断したからだ。

一方「何しやがった!」

 彼の知る物理現象では到底ありえない、現象。

 彼の、足下からが、段々と透けていっていたのだ。

354: 2009/12/10(木) 21:16:58.95 ID:m2Yu8ilm0
長門「貴方の情報連結の解除を申請した」

 長門は瞬時に、肉体を再生する。

 だが『一方通行』はそれどころではない。

一方「……」

 それでも、『一方通行』は焦らない。
 状況を見極めるべく、精神を集中する。

 だが、長門は純然たる事実のように宣言する


長門「――これで、終わり」

361: 2009/12/10(木) 21:24:39.96 ID:m2Yu8ilm0



 いやいや、さすがにこれはない。

 上条さんは確かに、頼りになるが、それは右手だけに限定されるらしい。

 だから、これはない。絶体絶命だ。

 大量のカマドウマが空から降って来やがった。

キョン「っざけんなちくしょおおおおおおお」

上条「不幸だああああああああああ」

 現在絶賛逃亡中。後ろから大量のカマドウマが追いかけてきやがる。

 おいハルヒ、どうせならもっと気持ちの良いものにしてくれ。

ハルヒ「どこに行くのかしら?」

 すると、逃げまくってる先になぜかハルヒがいやがった。
 こちとら生命の危機に瀕した必氏状態だってのに軽々追いつくとはどんな身体能力してやがる。

366: 2009/12/10(木) 21:33:25.59 ID:m2Yu8ilm0
キョン「待てハルヒ、これは気持ち悪い!」

上条「そうだ気持ち悪い! 多いと気持ち悪い!」

 必氏の訴え。この絵面は本当に嫌なんだよ。

ハルヒ「じゃあ、こんなのは?」

 そうしてハルヒがバックステップで下がる。
 一度のバックステップで下がれる距離じゃないが、もう気にするもんか。

 それよりもっと気にするものがある。

キョン「セミってもっと気持ち悪いわ!」

 セミだ。いや、訂正しよう。大量の巨大セミだ。

ハルヒ「うん、ちょっとごめん……」

 作り出したハルヒもちょっと気持ち悪くなってきてるらしく、顔を背けて謝りやがった。

 謝るくらいなら消してくれ。

上条「畜生、やるしかねえ!」

 そう言って、上条さんは立ち止まって右手を構える。
 高速で突っ込んできた巨大セミは上条さんが殴ると煙のように消えてしまう。

 さらにやってくるセミも次次と消していく上条さん。
 よし、上条さん頑張れ。

370: 2009/12/10(木) 21:41:34.73 ID:m2Yu8ilm0
 そうして俺は後ずさる。上条さんの邪魔になっちゃいけないからな。

キョン「……ん?」

 だけど考えてみりゃ、後ろにもカマドウマがいるじゃねえか。
 ふと背中を振り返ると、カマドウマの大群が整列して止まってやがる。

 そのカマドウマの先頭と、目が合った。

キョン「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 カマドウマ軍は一斉に動き出す。大きくジャンプしやがった。

 身体か巨大な分、滞空時間も長く、スキマも大きい。

 とりあえず影を目印にして、って上条さんが潰されそうだ。

キョン「避けろおおおおおおおおおおお」

 思いっきり上条さんを押し倒す。間一髪、俺たちはカマドウマに踏みつぶされることだけは避けられた。

上条「あー、さんきゅーな」

キョン「……しかし、どうすんだこれ」

 だが、俺たちがいるのはカマドウマの大群のまっただ中。

 しかも空にはセミが飛んで待機してやがる。

371: 2009/12/10(木) 21:52:08.31 ID:m2Yu8ilm0
ハルヒ「私の勝ち、みたいね」

 すたすたと気持ち悪い虫の森を歩いてくるハルヒ。

ハルヒ「降参してくれない? そうすればこの気持ち悪いの全部消せるから」

キョン「気持ち悪いならはじめから出すな」

ハルヒ「仕方ないじゃない。そこの上条さんとやらには普通に能力使っても通用しないみたいなんだもん」

 上条さんの能力をもう見抜いてたのか。そういえばこいつ、頭も良かったな。

ハルヒ「私の勝ち、でいいわよね?」

 畜生、さすがにハルヒに挑むのは無理があったか。

上条「認めねーよ……」

ハルヒ「ん?」

上条「こんな虫をいくら出されようが認めるか! 俺はアイツらのために認めるわけにはいかないんだよ!」

 さすが上条さん、何か策があるのか。頼もしい。

ハルヒ「何かこの状況からできるわけ?」

上条「わかんねーよ、でも俺は諦めないぞ!」

 前言撤回。ここはとりあえず話し合いに持ち込むべきだろう。
 ほら、ハルヒの目が変わりやがった。

374: 2009/12/10(木) 22:00:36.57 ID:m2Yu8ilm0
ハルヒ「仕方ないわね……適度に痛めつけてあげるわ」

 ハルヒが号令を下すと、待機してた虫たちは一斉に動き出す。
 畜生、悔しいが、俺にはどうにもできない。

 上条さんはそれでも拳を握ったままこの虫の大群と戦うつもりらしい。

 どうしようもできねえな、畜生。

 その瞬間、雷鳴が轟いた。
 というか雷が落ちた、と俺は思った。

 衝撃で俺たちに襲いかかろうとしていた虫たちが吹き飛んで行く。

 落ちてきたのは雷じゃなかった。
 人だった。

美琴「何よこの趣味の悪い能力は」

 ああ、世界はまだ捨てたもんじゃないな。

上条「お前……どうしてここに!?」

 上条さんは驚きと心配と焦りが混じったような表情をしている。
 だけど、これは僥倖だ。

キョン「見ての通りハルヒの仕業だ。
    ――助けてくれ」

 他力本願万歳。

391: 2009/12/10(木) 23:04:10.56 ID:m2Yu8ilm0


 圧巻、の一言だった。

 空から落ちてくる系+バトルヒロインという二重の属性を持ってる御坂美琴は、
 ゲーセンのコインを指で弾いたりなんか電気を出したりしてDOKKAN!DOKKAN!やってらっしゃる。

 空を舞う砕けたセミやらカマドウマやら。しかもいつの間にかコオロギとかその他の虫まで入ってやがる。
 しかも春夏秋冬節操なしだ。

 まるでスペクタクル映画を眺めてるような気分だった。

 そうして、あっという間に俺たちを苦しめていた虫たちは一掃されてしまった。
 粉々になった虫の破片が光に包まれて消えていく。

 良かったのは、こいつらは血肉が通ってるわけじゃないらしく、まるでロボットが壊されていくような光景だったことか。
 巨大虫の体液でネチョネチョなんて嫌だったしな。

ハルヒ「へぇ……アンタ、何者よ?」

美琴「学園都市第三位、『超電磁砲』って言えばわかるかしら?」

 綺麗さっぱりに片付いたコンクリートジャングルでにらみ合うハルヒと御坂。

 俺も上条さんも何も言葉が出なかった。

 これが、レベル5の戦いってやつか。

394: 2009/12/10(木) 23:13:07.55 ID:m2Yu8ilm0
ハルヒ「第三位、ねぇ。じゃあもうすぐ第四位になるわね」

美琴「何寝ぼけたこと言ってるのよ。この程度の能力で私に勝てると思ったら大間違いよ?」

ハルヒ「そりゃあ、この程度じゃないわよ」

 先に動いたのはハルヒだ。
 というかほとんど見えなかったが、ハルヒのやつは一瞬で御坂のいたところに跳び蹴りを食らわせていた。

 だが、御坂はもうそこにはいない。
 チャクラでも足の裏に溜めてるのかわからないが、ビルの壁面に立っていた。

 こっちの動きも見えない。
 俺、解説者失格だな。

美琴「行くわよ!」

 わざわざ御坂は宣言してから両手をあげる。

 すると砕けたコンクリートの中から発生する、黒い何か。
 もしかしてありゃ、砂鉄か?

 するとその砂鉄は触手のようにうねるとまるで意思を持ったかのようにハルヒに襲いかかる。

ハルヒ「散りなさい」

 だが、そいつらはハルヒに触れる前にハルヒが一言言うだけで、ぱぁんという弾ける音と共に霧散してしまった。

398: 2009/12/10(木) 23:20:13.50 ID:m2Yu8ilm0
美琴「そんなら!」

 次に御坂の周囲に電気が広がる。
 すると彼女が足場にしていたビルにヒビが広がっていく。

キョン「おいおい冗談だろ……」

 ビルから、表面のコンクリートが剥がれてハルヒの元に砲弾のように飛んでいく。
 しかもさっきの砂鉄と同じく、意思を持ったようにハルヒに総攻撃だ。

 それでもハルヒは動かない。

ハルヒ「止まりなさい」

 一言。それだけで全ての破片は空中で動きを止める。

ハルヒ「お返しするわ」

 そして次の瞬間、そいつらは今度は意思を持ったように御坂に襲いかかる。

美琴「このっ!」

 だが、御坂も負けていない。そいつらを全部電撃で砕き落とした。

ハルヒ「じゃあ次は私の番ね」

 そう言って、ハルヒはゆっくりと御坂に向かって歩き出した。
 そのゆっくりさが、恐怖を煽る。

402: 2009/12/10(木) 23:27:37.88 ID:m2Yu8ilm0
ハルヒ「燃えなさい」

 ハルヒの一言。その瞬間、御坂の周囲に炎の渦が発生した。

美琴「制服焼けたらどうすんのよ!」

 だが、御坂がバチリと一際強く放電すると、その炎はかき消される。

ハルヒ「じゃあ水あげるわよ――溺れなさい」

 そして次の瞬間、御坂の周囲が球体の形をした水の塊で包まれた。

 御坂は溺れるように手をかき回すが、水塊は表面が波打つだけで、大きな変化はない。
 ビルの壁面に立っていることができなくなったのか、水の塊ごと御坂はどしゃっと地面に落下した。

上条「美琴ォ!」

 それを見て上条さんが駆け寄ろうとする。

ハルヒ「アンタはこいつと遊んでなさい」

 だがそんな上条さんの眼前に降り注ぐ数匹の巨大カマドウマ。

上条「クソッ!」

 そいつらは一斉に上条さんに襲いかかろうとする。

409: 2009/12/10(木) 23:34:59.49 ID:m2Yu8ilm0
 その瞬間、そのカマドウマ共は吹き飛んだ。

 地面に残るオレンジ色の跡。『超電磁砲』だ。

美琴「はぁはぁ……これは私の戦いなんだから手出さないでよ」

 びしょ濡れになりながら息絶え絶えに、言う御坂。

ハルヒ「あの水の塊ごと吹っ飛ばしたんだ、中々やるわね」

 うんうん、とハルヒは感心する様に言う。

美琴「余裕ぶってるのも今の内よ。アンタの能力に弱点あるのくらい知ってるんだから」

ハルヒ「じゃあ、頑張ってみなさい、よ!」

 そう言ってハルヒは今度は肉弾戦で襲いかかった。
 拳を構えて御坂に迫る。

 そういや御坂は普通の女子中学生なんじゃないか、これってヤバいんじゃ……

美琴「精一杯頑張るわ」

 だが、俺の予想は嬉しくも、外れたらしい。

 御坂は超スピードのハルヒの猛攻ラッシュをすれすれのところで避け続けている。

 この子に生身で喧嘩挑んでも勝てないな、うん。

414: 2009/12/10(木) 23:47:57.83 ID:m2Yu8ilm0
ハルヒ「オラオラオラオラオラァ!」

美琴「無駄無駄無駄無駄無駄よ!」

 ジャブラッシュ。やはり当たらない。

ハルヒ「なんで当たらないの、よ!」

 苛ついてきたらしいハルヒが渾身のストレートを放つが、やっぱり空振り。

ハルヒ「いや……ははーん、そういうことか」

美琴「?」

 そう言ってハルヒは一度距離を取る。

ハルヒ「アンタ、周りにレーダーか何かを出して私の攻撃を予測してるんでしょ?
    しかも、身体を動かす時も電気を操作して反射的に直接動かしてる。
    だから私の攻撃よりも二重に早く対応できるってわけね」

美琴「へぇ……よくわかったわね」

ハルヒ「そりゃこれだけ先に動かれてちゃ嫌でもわかるわよ」

 なんだかよくわからないが、やっぱり御坂はすごい。

美琴「種がわかった、ってことは対策もあるの?」

ハルヒ「そりゃ、もちろん!」

417: 2009/12/10(木) 23:54:50.59 ID:m2Yu8ilm0
 そう言ってハルヒは地面のコンクリート片を蹴る。
 軽く蹴っただけなのに、そいつは超高速で御坂のところまで飛んでいった。

美琴「これって……!」

 御坂はそれを間一髪で避ける。

ハルヒ「正解。『一方通行』ってやつのマネしてみたの」

 さらに、ハルヒはコンクリートの砲弾を撃ち出し続ける。

美琴「ああもう!」

 それを美琴は砂鉄を操作し、叩き落とし続ける。
 コンクリートの欠片が辺り一面に飛び散った。

ハルヒ「で、こうすれば私の動きはわからない」

 そこに、ハルヒが眼前まで迫っていた。

美琴「くっ――!」

 避けようとしているが、今までのような余裕さはなかった。

ハルヒ「それ!」

 そこにハルヒの蹴りが炸裂する。
 俺から見たってそれは避けられる代物ではないとわかった。

425: 2009/12/11(金) 00:09:16.78 ID:FjZU3CTQ0
美琴「くぁっ!」

 だが、それでもハルヒの蹴りは空振りをする。
 御坂は何かに引っ張られるようにビルのところまで行くと背中から叩き付けられる。

ハルヒ「磁力を最大にして、緊急回避ってところかな? まだそんな手も残してたの」

美琴「コンクリート片で、レーダーにいらない情報ばっかで惑わせようって、作戦だったみたいだけど、やってくれるわね」

 息絶え絶えだが、御坂はハルヒを睨み付けながら言う。

美琴「でも、アンタの弱点はわかったわ」

ハルヒ「へぇ?」

 そこで御坂は笑みを浮かべた。

美琴「一つ、わからないもの、想像できないものはどうにもできない。
   まあ、これは前々からわかってた情報ね。これがレベル6じゃなくてレベル5の理由なんだから。

   二つ、オート設定ができない。攻撃とか来たら無条件で止まる設定にすればいいのに、それをしてないのが証拠。
   現に、今までもわざわざそのたびに指定していた気がするわ。自由度が高すぎて設定ができないわけね。

   そして三つ、複数の能力を同時に使用はできない。これはさっき確信したわ。
   だから遠距離攻撃か、近距離戦闘かの、どちらかしかやっていない。
   さっきだって能力で攻撃しながら肉弾戦すればよかったのに、わざわざコンクリート片を使ってたのが証拠よ」

 それだけ言うと、ハルヒの顔が驚きに染まった。

435: 2009/12/11(金) 00:23:30.43 ID:FjZU3CTQ0
ハルヒ「……あーもう、アンタ色々面倒ね」

 段々とハルヒの顔が不機嫌になっていく。……何やら嫌な予感がするぞ。

ハルヒ「全部正解よ。私はあくまで人間だし、一つのことしか考えられないわ。だからオートにもできない

    ――だから何?」

美琴「……!」

ハルヒ「全部私が一言言えば終わるのに何得意気になってるのかしら」

美琴「そりゃ……私がここで能力を解説すれば、アンタのその一言が効かないやつらが解決してくれるからよ」

 ……何を言ってるんだ?

ハルヒ「なるほどね、私は調子乗ってる間にまんまとアンタの策に嵌められたってことなの」

美琴「そういうこと。間抜けね」

ハルヒ「なら、お望み通りにしてやるわよ!」

 もしかして!

ハルヒ「後はアンタの信じたやつらが頑張ることを祈ってなさい」

キョン「止めろハルヒ!」


ハルヒ「――氏になさい」

444: 2009/12/11(金) 00:30:19.16 ID:FjZU3CTQ0
 御坂が胸を抑えて蹲る。

ハルヒ「遊んでないで最初からこうしておけばよかったわ」

 御坂が苦しそうに顔を歪める。

ハルヒ「大丈夫、私がレベル6になったらみーんな、生き返らせてあげるから」

 そうして、御坂美琴は、倒れた。

キョン「嘘だろ……?」

上条「美琴オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 上条さんが駆け寄ろうとする。

ハルヒ「何するつもり?」

 そこにハルヒが立ちはだかった。

上条「退けよ、俺の右手なら、まだ生き返らせてやれる!」

ハルヒ「そんなことしないでよ、面倒じゃない」

キョン「ハルヒ……お前本気で言ってるのか!」

ハルヒ「本気よ本気。だって後で生き返るんだからいいじゃない」

上条・キョン『そういう問題じゃないだろ!』

450: 2009/12/11(金) 00:37:16.93 ID:FjZU3CTQ0
上条「後で生き返れば誰を頃してもいいと思ってるのか!」

キョン「お前なあ、今の御坂の顔を見ただろ! あんなに苦しがってたんだぞ!」

ハルヒ「何よ、後でその記憶もお望みならば消してあげるわよ。『妹達』とかのも、ね」

キョン「ハルヒお前!」

上条「ふざけんじゃねえぞ!」

ハルヒ「アンタたちが何を言っても変わらないわよ。あんな虫数匹にやられるあんた達じゃ、ね」

 その目は、いつものハルヒの目ではなかった。
 俺にはわかる、この目は、映画を撮っていた時のような、何かに夢中になって、他のことに気が回っていない、目。

 こいつは、自分の能力に魅せられて大事なものを見失ってやがる。

キョン「上条さん……」

上条「ああ、わかってる」

キョン「こいつには、キツく言ってやらないとダメみたいだな!」

452: 2009/12/11(金) 00:38:25.36 ID:FjZU3CTQ0
あと少しなんだがキディ・ガーランドの時間みたいだ
すまん、また後で書く

554: 2009/12/11(金) 16:31:26.60 ID:FjZU3CTQ0



一方「……なるほどなァ。素粒子レベル、いやもっと細かい何かで分解してやがンのか」

長門「……」

 やがて『一方通行』は口を開いた。

長門「……その通り。貴方を構成する情報の繋がりを絶った。もう、何もできない」

一方「あァ、確かに俺には何もできないかもなァ」

 そこでニヤリと『一方通行』は笑う。

一方「そして、お前にもできな、だろォ?」

長門「……?」

一方「他力本願な能力だなァ。テメェの能力を名付けるとしたら、そォだな、
   『情報改竄』(ヘルプハッキング)ってところか」

長門「……!」

 長門は今度こそわからない。
 もうすぐ消えてしまうというのに、有機生命体ならば氏という概念の焦りが存在するはずだからだ。

 だが、長門の脳裏に浮かぶ、一抹の不安。

 果たして、それは当たっていた。

555: 2009/12/11(金) 16:39:39.06 ID:FjZU3CTQ0
一方「テメェ自身に能力があるわけ、じゃねェな? テメェはあくまで端末、どこかに情報を送信して、代わりにやってもらってるような形なんだろ」

長門「……何故」

 今度こそ長門は驚いた。
 これだけの情報だけで、このレベルの生物がその答えをはじき出せるのが、長門には意外だった。

一方「そォだよなァ。だからあの時に即座にこれはできなかった。そりゃ簡単だ、お前はどこかに情報を送信するワンクッションが必要だからだ。
   考えてみりゃわかる。お前はどう見ても、超能力者じゃなかったからなァ」

長門「……」

一方「不思議そうな顔してやがるな。何故、それがわかるのか、ってな。
   なァ、知ってるか? 例えば電気使いは電波や磁力線などが感知できるらしい。『超電磁砲』となれば視認できるほどだそうだ」

長門「まさか――」

一方「わかったみてェだな。さてここで問題です――ベクトルを操る『一方通行』は何がわかるのでしょォか!」

 そこで、『一方通行』の分解が止まった。

長門「そんな、」

一方「正解はベクトルに関してならなんでもわかっちまうんだよォ!
   生体電気の流れも血流の流れも、気流の流れも、AIM拡散力場の動きも、テメェがやってた不思議な何かの動きもなァ!」

559: 2009/12/11(金) 16:49:45.78 ID:FjZU3CTQ0
一方「テメェがAIM拡散力場を使ってないことくらいはわかる! その代わりに何かが流れてることもわかる!
   最初は『魔術』ってやつなンだろうと思ったがよ、どうもそれも違うみてェだしよォ……だから俺は、それを解析した」

 『一方通行』の消えていった身体が再構成されていく。

一方「幸運なことにテメェは攻撃以外の時も常にその何かを動かしてやがる。
   しかもそれは一定じゃねェ。攻撃の時に変化があったし、俺の身体が消える前も変化があった。
   それだけ情報があればこの俺が解析することなンざ朝飯前なんだよ」

 そんな馬鹿な、と長門は思う。
 確かに、情報統合思念体と通信するために、この時代の技術レベルで言えば、そう、電波のようなものを使っていたことは確かだ。
 だが、それにはやはりセキュリティをかけてるし、これだけの情報でそれを解析するなど、人間一人の演算能力のレベルではない。

 ミサカネットワークの補助のお陰で分散的な思考ができるようになってたのは長門の知るよしのないことであるが。

長門「――!」

 慌てて長門は何やら言葉であり言葉でないようなことを呟き始める。

一方「無駄無駄ァ! 情報連結解除の申請の却下の申請ってなァ!」

 だが、何も起こらない。

長門「――情報回線の不正アクセスを確認……!」

 完全に身体を修復し終えた『一方通行』は、長門に音速を超えて接近すると、横殴りに蹴り飛ばす。

563: 2009/12/11(金) 16:57:35.13 ID:FjZU3CTQ0
一方「もう簡単に身体を回復できると思うなよォ?」

 さらに、『一方通行』は変化した通信の動きにベクトル操作で無理矢理介入する。

長門「――肉体修復の確認」

 だが、長門は肉体を修復し終えていた。

一方「あァ? ……セキュリティを切り替えやがったってところか」

 それを見て『一方通行』は壮絶に笑う。

長門「貴方の演算能力は脅威。対インターフェース用マニュアルを起用する」

一方「なるほどなァ、じゃあ、どっちが頭イイか知恵比べと行こォか!」

 そうして、『一方通行』は新たなセキュリティを解析しながら、再び長門に肉薄していく。

 長門はもう情報連結の解除のような時間のかかることは使えない。解析に対して防御を張りながら、それを迎撃する準備をする。

 かくして二人は、再び同じ土俵に並んだ。

567: 2009/12/11(金) 17:02:55.54 ID:FjZU3CTQ0



 ハルヒのやつは、また虫を生み出しやがった。

 やはり一瞬で四方八方ふさがり。上条さんもこれ自体はどうしようもできないらしく、若干身を引いている。

 だが、俺には考えがあった。

キョン「上条さん、あの廃ビルまで走りますよ!」

上条「……? よし、なんか策があるんだな!」

 そう言って俺は上条さんを先頭に、虫をばったばったと打ち消していきながら進む。

ハルヒ「おおっと、威勢のいいこと言ってた割に、どこに逃げるの?」

 そこにハルヒが立ち塞がりやがる。
 俺の予想じゃ、この虫どもは呼び出すまでが能力だ。呼び出した後は多分、別の能力も使えるようになってるのだろう。
 あの時、物凄い速度で俺たちを追いかけて来やがったからな。

 だからこそ、策がある。御坂が見つけてくれた弱点がある。

キョン「上条さん連いてきてください!」

 俺は上条さんの前に躍り出ると、上条さんを背で隠す。

キョン「そんで俺の背中に右手当てておいてもらえます?」

 ついでに小声でこの大事なことも言っておく。

570: 2009/12/11(金) 17:09:15.39 ID:FjZU3CTQ0
上条「お、おう……」

 上条さんは了承すると、俺の背中に右手をくっつける。

 さあ、反撃開始だ。

ハルヒ「何虫に囲まれて無視してんのよ、さっさと――止まりなさい!」

 ハルヒは能力を使う。

 そう、これを狙っていたのだ。

 氏ねでも、止まれでもなんでもいい。

 俺が盾になってまず能力を使わせる、これが重要。

 そんで背中の隠れた上条さんが密かに右手でそれを即座に打ち消してくれる。

 そう、俺という盾をワンクッション置くことで、ハルヒに対しては最強の盾を手に入れることができるのだ。

キョン「どっせい!」

ハルヒ「え……?」

 ハルヒが能力を使用したにも関わらず、俺は止まらず走り続ける。

 そして、能力を使用している間に限り、一般的な女子高生に戻っていたハルヒの身体を廃ビルの中に押し倒す。
 これなら俺の筋力でもできることだ。

 ……我ながらここまで上手くいくとは思わなかったが。

575: 2009/12/11(金) 17:15:37.81 ID:FjZU3CTQ0
ハルヒ「きゃあ!」

 作戦大成功。俺たち三人は廃ビルの中に入りきったのだ。
 虫どもは大きすぎる身体のせいで、ここまでは追いかけて来られない。

 学園都市の技術で作った建造物は物凄い耐久度らしく、虫たちが外で暴れても何の影響もない。

 計画通り!

ハルヒ「何すんのよ!」

 即座に身体能力強化に切り替えたハルヒは廃ビルのエントランスの奥に一旦逃げる。

 だが、それこそまさに思う壺だ。

キョン「さあどうするハルヒ? このビルの中っていう限られた空間じゃ虫なんか呼び出しても、上条さんが全て打ち消してくれるぞ」

 まさしくチェックメイトだ。

ハルヒ「勝ち誇ったこと言ってるけど、私にはまだまだ能力があるのよ?」

キョン「そんなもん上条さんが打ち消してくれる」

上条「いやそこまで頼りにされると困るんだが……」

 頼りにしてますよ、上条さん。

ハルヒ「――っ! やれるもんなら、やってみなさい!」

579: 2009/12/11(金) 17:20:43.72 ID:FjZU3CTQ0
ハルヒ「炎!」

上条「っ!」

 上条さんは弾かれたように反応して、俺の前に躍り出る。
 ハルヒが一言言うと、ハルヒの元から火炎放射器のような炎が噴射されるが、上条さんはそれをいとも簡単に打ち消してくれる。

 頼りになるなあ。

ハルヒ「氷!」

 次にハルヒが生み出すのは、大量の氷柱のような氷の塊。
 あれは刺さったら痛そうだが、そんなことはお構いなしに俺たちにそれは襲いかかる。

上条「量が、多いな!」

 だが上条さんはすごい。それらをばしばしと打ち消してくれる。
 なんだこの動体視力は。素晴らしい。

ハルヒ「なら……水、溺れろ!」

 そのお次は大量の水がこの広間に流れ込んでくる。
 だがそちらの処理の方が上条さんには楽らしく、一瞬で打ち消してしまった。

 上条さんすごいな。

583: 2009/12/11(金) 17:26:51.37 ID:FjZU3CTQ0
ハルヒ「空気、なくなれ!」

 うぐっと上条さんは首を押さえる。
 だが、なんとか口元に右手を持って行くと、すぐにぜーはーと息が復活する。

 どうやら、広範囲に渡るものより、ピンポイントの方が効果あることに気がついたらしい。

ハルヒ「……なるほど。じゃあ、アンタは今、私が敵だということを忘れて、キョンが敵だと認識しなさい!」

 なんだそのピンポイントな能力は!

 上条さんはくるりと振り返ると、拳を構えて俺に寄ろうとする。

キョン「か、上条さん……」

上条「なんだかよくわからねえが、お前の幻想をぶち殺さなきゃいけない気がする!」

 完全に正気を失ってる模様。
 ダメだ、こいつ早くなんとかしないと。

キョン「あ、頭になんかついてますよ」

上条「え?」

 そこで俺は機転を利かせた。
 俺がそう言うと上条さんは思わず頭を右手で触って確認する。

 その瞬間、何かが割れるような音がして、上条さんの目が正気に戻った。

589: 2009/12/11(金) 17:35:05.56 ID:FjZU3CTQ0
上条「……せこいことやってくれるじゃねえか」

ハルヒ「うっ……」

 上条さんが鋭くハルヒを睨む。
 それに対してハルヒは後ずさる。

ハルヒ「なら、ぼこぼこにしてあげるわよ!」

 今度のハルヒの選択は自分の身体能力の強化だったらしい。
 物凄い速度で上条さんに迫る、というか迫っていた。

 動きは見えない。が、上条さんが確かに殴り飛ばされる。

ハルヒ「これなら打ち消せないみたいね」

 さらにハルヒは上条さんに追撃をかけようとする。
 これはまずい!

キョン「止めろハルヒ!」

 俺は身体を張って上条さんの盾になる。
 上条さんに動けなくなってもらっては、大変なのだ。

ハルヒ「退きなさい、キョン!」

 そこにハルヒの拳が迫る。

 俺は仮にも鍛えてない一般男子高校生だ。
 こりゃ、氏ぬか?

593: 2009/12/11(金) 17:41:18.02 ID:FjZU3CTQ0
 ……だが、いつまで経っても痛みは来ない。

 見ると、ハルヒの拳は、俺に当たる直前で止まっていた。

キョン「ハルヒ……お前……」

ハルヒ「くっ……!」

 そうしてハルヒは一歩が大きいバックステップで後退する。

キョン「お前、もしかして――」

ハルヒ「うるさい!」

 そう言って、ハルヒは炎を噴射する。
 狙いは俺。

 今度は上条さんは間に合わない。

596: 2009/12/11(金) 17:50:53.82 ID:FjZU3CTQ0
上条「キョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」

 上条は目の前で焼ける友人を見た。

ハルヒ「あ……」

 ハルヒは息を乱しながら、その様子を目を見開きながら見つめている。
 その様子は、絶望したような様子で、先程までのハルヒとは大違いだった。

上条「いい加減にしやがれよお前!」

 だが激昂した上条にはその変化など気づかない。

上条「人の命をなんだと思ってやがる!」

ハルヒ「うるさい……」

上条「美琴を頃したり、御坂妹たちは後で生き返らせればいいとか……ふざけるのも大概にしろ!」

ハルヒ「うるさい……」

上条「挙句の果てにはその間違いを正しに来てくれた友達までも頃しやがって! そこまでして成功する実験が本当に正しいと思うのかよ!」

ハルヒ「うるさいって……言ってんでしょ!」

598: 2009/12/11(金) 17:58:34.67 ID:FjZU3CTQ0
上条「うるさくなんかない!」

ハルヒ「うるさいのよ!」

上条「生き返らせればいいのかよ! そいつらがなんて思うかなんか関係ないのかよ!
   キョンはな、お前を止めるためにも、俺みたいな能力もないのにボロボロになってまでお前を追い続けてたんだぞ!
   そんなやつまでお前は邪魔だからって頃すのかよ!」

ハルヒ「そう……キョン……キョン氏んじゃった……」

上条「お前は神様にでもなったつもりなのかよ! だけどな、その考えはお前を思ってくれてる人の気持ちまで踏みにじってるんだぞ!」

ハルヒ「うるさい……うるさい……うるさああああああああああああああい!!!!」

 ハルヒは大量の氷柱を空中に生み出す。

上条「それでも、お前が実験成功させれば問題ないと思ってるなら――」

 そしてそれは撃ち出される。標的は、もちろん、上条。

 だが、上条は臆せず走り出す。

 氷の塊を右手で砕き、砕き切れなかった分は身体に刺さる。

 それでも上条は止まらない。

602: 2009/12/11(金) 18:04:40.53 ID:FjZU3CTQ0
ハルヒ「来るなっ! 来るなっ!」

 ハルヒが喋る度に、上条の足が止まるが、すぐに上条は再び走り出す。
 上条は止まらない。

ハルヒ「炎! 水! 電気! 氷! 銃! 剣! 風!」

 炎は右手で触れるだけで静まる。
 水は右手で触れるだけで蒸発。
 電気は右手に当たるだけで霧散。
 氷は右手で触れるだけで砕ける。
 銃は右手をかざすだけで届かない。
 剣は右手で触れるだけで折れる。
 風は右手で触れるだけで収まる。
 上条は止まらない。

ハルヒ「うわあああああああああああああああああああ」

 ハルヒはついに虫を生み出す。
 だが、所詮は一匹。右手で軽く叩くように触れるだけで光になって消える。
 上条さんは止まらない。

上条「まずはその幻想を――」

 そうして上条さんは右手の拳をきつく構えて、

上条「――ぶち頃す!」

 殴りつけた。

605: 2009/12/11(金) 18:11:06.86 ID:FjZU3CTQ0
キョン「がっ――!」

 だが、殴られたのは、俺だった。
 上条さんの拳は俺の顎にクリーンヒット。俺は殴り倒される。

上条「え……?」
ハルヒ「え……?」

 二人して、意外そうな顔をして、ぽかんとしてる。

キョン「っ痛ぇな……」

 だから俺は顎をさすりながら起き上がった。

ハルヒ「キョン……アンタなんで……」

キョン「身体が勝手に動いちまったんだ、仕方ないだろ」

上条「いや、お前はさっき焼けて……」

 二人は、特にハルヒは驚いて俺を見つめてる。

キョン「そんなこと――」

 だからこそ、俺は自信たっぷりに言ってやる。

キョン「――コイツにできるわけなかったんだよ」

608: 2009/12/11(金) 18:20:59.76 ID:FjZU3CTQ0
 俺はハルヒを庇うようにして、上条さんと相対する。

キョン「前々から違和感を感じてたんだよ。コイツの能力の使い方は明らかにおかしかった」

上条「どういうことだ?」

キョン「考えてみろ。御坂の時も、俺たちが虫に襲われてた時も、何故か回りくどかった。
    答えは簡単、こいつは自分で人を手に掛ける決心がつけられなかったんだよ」

ハルヒ「う、嘘よ! 私は本気だったわ!」

キョン「本気じゃないだろ? 今さっき確信したよ。お前は俺を殴ろうとした時に、手を止めやがった。
    殴ったら氏ぬ、それがわかったから殴れなかったんだ。
    今さっきの炎だってそうだ。あれを受けて俺が生きてるはずないだろ?
    お前は俺が焼けて氏ぬ姿を考えたくなかったんだ、考えられなかったんだよ」

ハルヒ「そ、そんなわけない! アンタがなんか変なトリック使ったんでしょ!」

キョン「残念ながらな、そんなもんが使えたらとっくに使ってるっての」

上条「ちょ、ちょっと待て! 美琴はこいつに殺されてるんだぞ!」

ハルヒ「そうよ、私は確かにあの子を心臓麻痺で頃したのよ!」

 上条さんとハルヒは俺の説明に食いつくように反論する。


美琴「――だーれが、氏んだって言うのよ?」

 と、そこに御坂美琴の強気な声が響いた。

611: 2009/12/11(金) 18:28:36.33 ID:FjZU3CTQ0
上条「み、御坂!?」

 上条さんは弾かれたように声の方を向く。
 そこには、制服が泥々になったものの、確かに自分の足で立ってる御坂がいた。

美琴「私は電気使いよ? 自分で電気ショックで心臓マッサージができるんだから、心臓が止まった程度で氏ぬわけないじゃない」

キョン「そういうことだ。お前は無意識に、生き残る可能性が高いものを選んでたんだろ」

ハルヒ「で、でも私は……」

キョン「しかも俺と同じく、氏ぬまでを能力に入れてない。あくまで方法だけだ。
    お前は、なんだかんだで、まだ人を頃してないんだろ?」

ハルヒ「それは……」

キョン「お前は自分の能力で自分を見失っちゃいたが、一番大事なものを見失ってはいなかった、ってことだ。
    お前だって、この実験が間違ってることくらいわかってたんだろ」

ハルヒ「……」

キョン「でも、お前はこの実験をなんらかの理由でしなくちゃならなかった。そうなんだろ?
    だけどな、今ならまだ戻れる。

    ……こんなふざけた実験は、止めにしないか?」

ハルヒ「でも……でも……」

キョン「何がお前にこの実験をさせてるかは知らない。だけどな、そんなものからはな、
    ――俺が守ってやるから安心しろ」

614: 2009/12/11(金) 18:34:44.69 ID:FjZU3CTQ0
ハルヒ「……キョン……っ!」

 ハルヒは目を見開いて俺を見つめると、すぐに顔を背けてしまった。

ハルヒ「バ、バカね……まったくの無能力者のアンタがこの超能力者の私を守ろうなんて、無理に決まってるじゃない。どうせすぐに氏ぬわよ」

 なんだ、可愛くないやつめ。

キョン「そん時は、まあ俺を守ってくれ」

ハルヒ「何よそれ」

キョン「俺も出来る限り頑張るさ」

ハルヒ「頼りないわね」

 そこで、ハルヒが笑ったような気がした。

 今までの笑顔ではなく、純粋な笑顔で。


キョン「だからさ、俺はお前にお願いがあるんだ」

617: 2009/12/11(金) 18:41:42.33 ID:FjZU3CTQ0



古泉「――というわけなんですよ」

絹旗「なるほど、超大変ですね……」

古泉「そういう貴方も中々苦労してるようじゃないですか」

絹旗「お互い裏の人間ってことで超苦労してるんですねー。うちの馬鹿も超浜面で超困ったものです」

古泉「んっふ……」

絹旗「超なんですか、超気持ち悪いです」

古泉「ああ、すみません。貴方がその『浜面』という人を語る顔がとても楽しそうだったもので」

絹旗「……!? ちょ、超そんなことありません」

古泉「その浜面という人に興味がわいてきましたよ」

絹旗「……浜面に手を出すのは超止めた方がいいですよ? 多分、誰かさんに超一筋ですから」

古泉「それは残念です」

絹旗「何が残念なのか超不安です……ってなんだか身体が超透けてますよ?」

古泉「おやおやこれは……彼が上手くやってくれたようですね。お別れの時間のようです」

絹旗「……そうですか。超さよならです」

621: 2009/12/11(金) 18:47:19.62 ID:FjZU3CTQ0



黒子「やっぱり、貴方は犯人じゃないと潔白が証明されましたよ」

 そう言って黒子はみくるに話しかける。

黒子「恐らく逃げた殿方もきちんと受ければ身の潔白が証明されるのでしょうけど、『私の不手際』で、捕まえ損なってしまいましたからね」

 黒子は溜息を吐く。

黒子「やれやれ、あの殿方のせいで始末書ですわ」

 そこで黒子は気がついた。

 みくるからの返事がいつの間にかなくなっていることに。

黒子「あら、愚痴ばっかりになってしまって申し訳ありませんの。でもあの殿方には――」

 そこで黒子はみくるがいたはずの場所を見る。

 だけどそこには、

黒子「……朝比奈みくるさん?」

 既に誰もいなかった。

624: 2009/12/11(金) 18:55:03.10 ID:FjZU3CTQ0



 ビルがまた一つ倒れる。

 長門と『一方通行』の戦いの余波である。

 お互いに、反射にも関わらず攻撃を続けて足止め、そして攻撃を操作しながらハッキングの超高等頭脳戦による戦闘だ。

一方「ン?」

 と、そこで長門の動きが止まった。
 思わず『一方通行』も足を止める。

長門「涼宮ハルヒの力の行使を確認。世界改変が行われる。
   ――もう戦う理由がなくなった」

一方「何だそりゃ。俺には関係ねェぞ」

長門「関係ある。涼宮ハルヒがいなくなるので、貴方も戦う理由がなくなる」

一方「『幻想創造』がいなくなるだとォ? オイオイ、そりゃどういうことだ」

 そこで長門の姿が薄く、消えていく。

一方「おい、決着は着いてねェぞ!」

 『一方通行』は手を伸ばす。そこに長門が答えた気がした。

 「私が貴方を倒しきれなかった、それは私の負け」、とだけ。

625: 2009/12/11(金) 18:58:36.88 ID:FjZU3CTQ0



美琴「……消えちゃったわね」

上条「……消えちゃったな」

 さっきの行為を思い出して、赤くなったまま、座り込んでいる泥々の二人。

 キョンと、涼宮ハルヒは、まるで幻のように消えてしまっていた。

627: 2009/12/11(金) 19:05:30.71 ID:FjZU3CTQ0
 先程までのやりとりを思い出す。

ハルヒ『――お願い?』

キョン『ああ、お願いだ。これは命令でもなんでもなく、俺のお願い』

ハルヒ『アンタが私にお願いなんて珍しいわね』

キョン『いや、お前が聞かなかっただけだろ』

ハルヒ『で、お願いって?』

キョン『お前は、この世界が楽しいか?』

ハルヒ『いきなり何よ。楽しいに決まってるじゃない。みんな超能力者、素晴らしい世界よ』

キョン『俺もな、この世界は楽しいと思う。ちょっと変なやつはいるが、良いやつもたくさんいるし、面白いやつもいる。

    だけどな、大事なこと忘れてないか?』

ハルヒ『何よ』

キョン『お前だって他に楽しい友達や大事な人がいただろ。俺にだっている。
    下世話で女好きだが面白い谷口から、国木田。鶴屋さんに妹に、数え切れないくらい大事なやつらがいる。

    そいつらを置いたまま、こっちの世界にいることなんて、俺には到底できない』

630: 2009/12/11(金) 19:11:02.17 ID:FjZU3CTQ0
ハルヒ『それは……』

キョン『でもな、これはあくまで俺の意見だ。俺はあっちのやつらが恋しいが、こっちにもいいやつはたくさんいる。
    そこにいる上条さんや御坂のようにな。だから、お願いだ』

ハルヒ『……』

キョン『お前がこっちにいたいって言うなら、俺はそれをしないで欲しい。みんなで、帰りたいんだ』

ハルヒ『……無茶なお願いね』

キョン『百も承知だ。だけどな、お前に頼んで俺たちだけ戻ることは可能だろうけど、それじゃ俺は嫌なんだよ。
    ――俺はお前と一緒に帰りたいんだ』

ハルヒ『……! 勝手ね』

キョン『ああ、そんなことわかってる。それだからこそ、お願いだ』

ハルヒ『……本当にそう思ってるの?』

キョン『ああ、思ってる』

ハルヒ『じゃあ、証拠、見せてよ――』


632: 2009/12/11(金) 19:14:07.63 ID:FjZU3CTQ0

 そうして、彼ら消えていった。

上条「不思議なもの見ちまったなあ」

美琴「そ、そうね……」

上条「ん? どうしたんだ、御坂」

美琴「……! な、なんで!」

上条「……?」

美琴「名前……」

上条「名前?」

美琴「さっきまで名前で呼んでたのに、なんで名字になってるのかな、って」

上条「あー、うん、あの時は思わず、な」

美琴「思わず、名前なんだ」

上条「ん? 本当にどうしたんだ?」

美琴「なんでもない♪」

633: 2009/12/11(金) 19:17:39.22 ID:FjZU3CTQ0



 けたたましい目覚ましの騒ぎ声で俺は朝早く起こされた。
 時間は七時半。いつも通りである。

 そして、知ってる天井。

キョン「……あー、戻って来れたの、か?」

 起き上がって、廊下に。

妹「あれー、キョンくんもう起きたのー?」

 そこには見慣れた妹がいた。

妹「ってどうしたのキョンくーん」

 思わず俺は妹の頭を撫でてしまう。

キョン「あ、いやついな」

妹「変なキョンくーん……」

 ビバ、俺の日常。

637: 2009/12/11(金) 19:23:38.27 ID:FjZU3CTQ0
古泉「おはようございます」

キョン「登校途中の爽やかな朝空の元、どんよりとした雨天のような気分になる顔がそこにあった」

古泉「ご挨拶ですね……」

キョン「なら顔を離せ」

古泉「おやおや、これはすみません」

 そう言って、顔を離す古泉。

古泉「結局、涼宮さんはあのことは夢だと処理したようです」

キョン「あれだけのことがあったってのにか。俺の努力も夢で終わらせられるのな」

古泉「貴方はさほど頑張ってはいないような気がしますがね」

キョン「うるせー」

古泉「ともかく、これで一件落着です」

キョン「やれやれ……そういえば、あいつはなんでレベル6になりたがってたんだ?」

古泉「それはですね……おっと、学校についたようなのでこの話はまた後で」

 そう言って古泉は行ってしまう。
 これはあれだな、アイツは教える気はないんだな。

641: 2009/12/11(金) 19:28:46.93 ID:FjZU3CTQ0
 教室に着くと、俺の席の後ろでハルヒが上機嫌そうだが、どこか不機嫌そうな難しい顔をして、座っていた。

キョン「よお」

ハルヒ「……おはよ」

キョン「どうしたそんな複雑な顔をして」

ハルヒ「……面白い夢を見たのよ」

キョン「へぇ……超能力でも使えるようになったのか」

ハルヒ「なんでそれを!?」

キョン「適当に言ってみたまでだ」

ハルヒ「……色々と不本意な夢だったわ」

キョン「超能力が使えるのにか?」

ハルヒ「……アンタと変なツンツン頭に色々ぼろくそ言われたわ」

キョン「そりゃ、やりすぎたんだろ。で、お前はその超能力を使って何をしたかったんだ?」

ハルヒ「……!」

 古泉が教えてくれないなら、自分で調べてやろう。そんな感じでさり気なく聞いてみる。
 するとハルヒは顔を真っ赤にして、机に伏せてしまった。

ハルヒ「……本当に不本意だわ」

645: 2009/12/11(金) 19:35:36.69 ID:FjZU3CTQ0
 放課後。俺は部室へと向かう。
 結局、ハルヒに聞いても、アイツのやりたかったことはわからなかった。

 ということで、朝比奈さんのお茶を飲みながら、部室に一足先に来ている長門に聞いてみることにした。

長門「有機生命体の感情概念は複雑。上手く言葉にできない」

 ……長門に聞いてもわからんのか。

みくる「それより私は気になることがあるんです」

 朝比奈さんは長門にもお茶を出して言う。

キョン「気になること、ですか」

みくる「はい。未来からの情報によるとですね、あの時、誰かが涼宮さんに接触した模様なんですよ。でも、その誰かが、わからないんです」

キョン「わからない?」

みくる「その人の存在は、時間軸をどう探しても、見つからなかったんです。まるで周波数の違うところで電波を探しているような感じで……」

キョン「長門も、わからないのか?」

長門「不明。何か巨大な情報が観測されたが、それも一瞬。当初は涼宮ハルヒの能力と判断されていた」

キョン「……なんだか不安になる案件だな」

648: 2009/12/11(金) 19:40:49.79 ID:FjZU3CTQ0
古泉「まったくですね」

キョン「うおっ!?」

 気がつくと、古泉が俺の前に座ってやがった。
 コイツは気配でも消せるのか。

古泉「まだまだ解明すべき点が残っているようですね」

キョン「その辺はお前の機関が頑張ってくれ。俺は一般人だ」

 そう言って、俺はお茶を啜る。
 ともかく平和な日常が戻ってきた、これでいいじゃないか。

 そこで、その平和をぶち壊す音を聞いた。

 我らが団長、涼宮ハルヒのドアを思いっきり開ける音だ。

ハルヒ「みんなー! 異世界人を見つけたわよ!」

 やれやれ、また何か嫌な予感がする。

651: 2009/12/11(金) 19:49:33.43 ID:FjZU3CTQ0



 とあるビルの中。

 薬液に浸かって逆さに浮いている、男性にも女性にも大人にも子供にも見える『人間』。
 学園都市統括理事長、アレイスター・クロウリーである。

アレイスター「余計なことをしてくれたようだな」

 アレイスターが喋ると、機器たちは反応して、音声をどこかに飛ばす。

「たまたま波長が合ったものでね。君のプランによかれと思って少しそそのかしてみたのだけども」

アレイスター「そんなものは必要ない。プラン通りに進めれば、それが一番だ」

「でも、彼女が完成すれば、君のプランなんて順を辿るまでもないだろう?」

アレイスター「その必要もない。私は今のままでも十分だ」

「余計なことだった、ってわけかな」

アレイスター「だからそう言ってるだろう」

「やれやれ、君は気がついてないんだね」

アレイスター「何がだ?」


「この世界は、本当の世界じゃない――作られた別の世界だってことに、ね」

652: 2009/12/11(金) 19:51:18.57 ID:FjZU3CTQ0
という終わりです。
時間軸とかはこの世界はパラレルワールドってことで、オチもパラレルワールドってことで

色々意味を何重にも含めて意味がわからないと思いますが、プロットなしではこれが限界でした
次からはちゃんとプロット作ってから書くようにします

657: 2009/12/11(金) 19:52:58.97 ID:e18WD2Oq0
よく頑張った

658: 2009/12/11(金) 19:53:12.69 ID:XGYRdP9C0
よくやった


引用元: キョン「学園都市?」