1: 2013/04/10(水) 10:11:15.52 ID:RIJfTQxO0
貴音「……っ」プルプル

貴音「い……ったぁぁ……!」

6: 2013/04/10(水) 10:19:47.11 ID:RIJfTQxO0
貴音「久しぶりにやっちゃったぁ……!」ジワッ

貴音「グスッ……うぅ」

貴音「……って、そんなことしてる場合じゃなかった!」

貴音「あーもう、遅刻!」ドテドテ


……


765プロ事務所

ガチャッ

貴音「ま……間に合った……!」

響「あ、貴音ぇ~! はいさーい!」

貴音「はぁ……ふぅ……。おはようございます、響」

響「どーしたんだ? そんなにゼェゼェ言って」

貴音「……いえ、なんでもありませんよ」

8: 2013/04/10(水) 10:26:04.28 ID:RIJfTQxO0
響「あはは! でもめずらしーね、貴音が慌ててるなんてさ」

貴音「そ、そうでしょうか?」

響「うん! 貴音っていつでも涼しそうにしてるから、汗かいたこともないのかと思ってたぞ」

貴音「……ふふっ。私とて、あなたと同じ人間ですよ。
   慌てることもあれば、汗もかくこともあります」

響「へー」


貴音(……四条貴音、十八歳です)

貴音(『アイドルは第一印象が大事』とじいやから言われたので、
   それならーって思ってこのキャラを始めましたが……)

貴音(いつからか、引っ込みがつかなくなってしまいました……)

10: 2013/04/10(水) 10:35:26.44 ID:RIJfTQxO0
貴音「響、事務所に来ているのは、あなただけですか?」

響「ううん、ほら、あそこのソファ」


美希「すぴー……すぴー……」


貴音「もしや、あの場所にいるのは……美希ですか?」

響「そうそう。さっきまでおにぎり食べてたけど、
  気が付いたら寝ちゃってたんだ」


美希「むにゃむにゃ……えへへ、真くん……そこは、まだはやいのぉ……」


貴音「……」

貴音(美希はいいなぁ、いつも自然体って感じで)

貴音(私、このキャラを演じるの、だんだん恥ずかしくなってきたっていうのに……)

13: 2013/04/10(水) 10:47:00.75 ID:RIJfTQxO0
 
貴音「はぁ……」


貴音(私はいつになったら、このキャラを卒業できるのかな)

貴音(もうゼッタイに嫌だ、ってわけじゃないけど、将来のこと考えたら、
    いつまでも続けるのはちょっと無理があるよね……)

貴音(……それに──)


ガチャ

P「……では社長、失礼しました」

貴音「! ぷ、プロデューサー……」

P「ん? おぉ、もう三人とも揃ってたか。おはよう!」

貴音「……おはようございます」


貴音(それに……)

貴音(いつまでもプロデューサーに、隠し事をするなんて……)

15: 2013/04/10(水) 10:57:13.29 ID:RIJfTQxO0
響「プロデューサー、社長室でなんの話してたんだ?」

P「あぁ、それは……今日三人だけに集まってもらったのも、その話に関係してるんだ」

貴音「三人、と言いますと……私と響と、美希……ですか?」

P「うん。実はさ──」

……

響・貴音「「……ユニット?」」

美希「うにっとぉ~……?」ウトウト

P「そう。これまで三人はずっと、ソロで活動してきたけど、
 今度から、トリオのユニットとして活動してもらうことになった」

P「まぁ、とりあえずは期間限定の企画なんだけどな。
 まずはファン達の反応を見て、それから今後の方針を固めていこうと思う」

貴音「あの……」

P「質問か? いいぞ、どんどんしてくれ」

貴音「……反対というわけではありませんが、
   なぜ急に、そのような話になったのでしょうか」


貴音(トリオで活動とか……! そんなことになって二人と四六時中一緒にいたら、
   ボロが出ちゃうかもしれないじゃない!!)

20: 2013/04/10(水) 11:16:58.16 ID:RIJfTQxO0
P「ユニット結成の理由か……そうだな、色々とあるけど、
 なによりまず、三人のバランスが良かったからかな」

P「響と貴音、美希は、それぞれ違う個性と魅力を持っている。
 まず響は、底抜けない明るさと、類まれなるダンスの実力。
 貴音は、ビジュアルの良さと、ミステリアスで目が離せなくなるキャラクター……」

貴音「!」

P「……っと、キャラクターなんて言ったら、
 まるで性格を作ってるみたいに聞こえるよな。ごめんごめん」

貴音「……いえ」

P「そして、美希だけど……美希は言わずもがな、だな」


貴音(……美希は、765プロのアイドル達の中でも、特に人気がある子なんです)

貴音(最近では少し考えを改めたのか、努力をする大切さも覚えたみたいだし……
   神様から授かったその才能を、舞台の上で如何なく発揮していたのでした)


P「……とにかく、この三人がうまく調和すれば、きっとものすごい反応が起こるはずだ!
 それこそ、竜宮小町にも負けないくらいの、超人気ユニットになるはず……」

P「これから三人で一致団結して、頑張っていこうな!」

貴音「……はい」

21: 2013/04/10(水) 11:24:27.83 ID:RIJfTQxO0
レッスンスタジオ


キュ、キュキュ……


貴音「はぁ……はぁ……!」

美希「はーにかみながら、目ーを伏せって♪」

貴音「……っ……パッと舞って!」

響「ガッとやってっ♪」

美希「ちゅっ♪ っと吸って……」


響・美希「「はーん♪」」

貴音「……はーん♪」


先生「……あら? 四条さん、今のところちょっと遅れたわよ」

貴音「は、はい……申し訳ありません」

23: 2013/04/10(水) 11:32:36.05 ID:RIJfTQxO0
 
……

先生「……それじゃあ、今日はこんなとこね。三人とも、お疲れ様」

響・美希「「お疲れ様でしたー!」」

貴音「……お疲れ様でした」

……

貴音「はぁ……」

貴音(なんで響と美希は、さっき渡されたばっかりの新曲を、
   こんな高いレベルで踊りながら歌えるの……?)

貴音(きっつぅ……ついていくのでやっとだよ……)


響「貴音、一緒に帰ろ!」

貴音「え、えぇ……わかりました。それなら、美希も……」

響「美希なら、用事があるんだって言って、すぐ帰っちゃったぞ」

貴音「はて、用事?」

響「うん。プロデューサーに会うんだってさー」

貴音「……そう、ですか」

24: 2013/04/10(水) 11:39:30.20 ID:RIJfTQxO0
テクテク……

響「……ねぇ、貴音。今日はどうしたんだ?」

貴音「どうした、とは?」

響「なーんか、ずっと元気ないって感じだぞ。
  なんかやなことでもあった?」

貴音「い、いえ……ただ、急なユニット結成ということで、
   少々戸惑ってしまっているだけですよ」


貴音(本当に、特になにがあったってわけじゃない。
   ただ、これからのことを考えて、少しだけ不安になってしまっただけ)

貴音(……それだけです)


響「……ホント?」

貴音「ええ、もちろん」

響「ふーん……」

25: 2013/04/10(水) 11:46:19.60 ID:RIJfTQxO0
響「それじゃ、自分、こっちだから! じゃあね、また明日!」

貴音「はい、お疲れ様でした」

響「……あのさ、貴音!」

貴音「……?」

響「自分達、これからはユニットの仲間なんだし、
  何か相談したいこととかあったら、いつでも言ってよね!」

響「隠し事とか、ゼッタイ無しだからなっ! 約束だぞ!」

貴音「……ありがとうございます。もちろん、隠し事など、いたしませんよ」

響「えへへ……それじゃ、バイバーイ!」


……


貴音(……隠し事は、無し)

貴音(でも、もしも……私の素を、さらけ出したら──)


『貴音は、ビジュアルの良さと、ミステリアスで目が離せなくなるキャラクター……』


貴音(……きっと、ファンの皆さんが感じてくれてる、私の魅力は……、無くなっちゃうよね)

29: 2013/04/10(水) 11:58:11.09 ID:RIJfTQxO0
スーパー

店員「……765円になります。当店のポイントカードはお持ちですか?」

貴音「はい!」スッ

店員「いつもご利用ありがとうございます。割引券、お付けしときますね」

貴音「わぁ……ありがとうございます!」

……

<ありがとうございましたー

貴音「うふふふ……」

貴音(小麦粉とタマゴが安かったから、ついつい買いすぎちゃった)

貴音(でも良い買い物できたわぁ。セールは明日もやってるみたいだし、やよいに教えてあげ──)


貴音「……あれ?」


美希「あはっ☆ ねぇねぇ、今言ったの、ほんと?」

P「……あぁ、約束するよ」


貴音「……あれは、美希と、プロデューサー?」

30: 2013/04/10(水) 12:05:35.58 ID:RIJfTQxO0
P「もう車に乗ってくれ。家まで送っていくから」

美希「えー、もう帰っちゃうの?」

P「……あのな、美希。お前はもう、無名じゃないんだぞ。
 そりゃ今は変装してるけど、いつ気付かれるかわからないだろ?」

P「それにそもそも、もう中学生が遊んでていい時間じゃない。さ、行くぞ」

美希「ふーんだ……ハニーのケチ!」

P「……その呼び方も、禁止」


ガチャ……バタン

ブロロロ……



貴音「あ……行っちゃった」

貴音「……」

貴音(なんで、こんな……盗み聞きするような真似、しちゃったんだろ……)

32: 2013/04/10(水) 12:11:39.67 ID:RIJfTQxO0
貴音(っていうか、ハニーってなに? はちみつ? おいしそう)

貴音(……じゃないよね。あれはきっと、プロデューサーのことで……)

貴音(そして……私達の知らない、ふたりの間だけのトクベツな呼び方……なんだろうな)


ズキッ


貴音「……っ」


貴音「……」

貴音「……もう、帰ろ。お腹空いたし……」


──────
────
──

34: 2013/04/10(水) 12:22:12.47 ID:RIJfTQxO0
翌日


チュン、チュチュン……


貴音「……うぷ」

貴音「胃が重い……さすがにカップ麺をダンボール二箱は食べ過ぎたぁ……」

貴音「今日はグルメリポートの仕事もあるし、
   朝食は軽めに、カップらーめん二個にしとこう……」



貴音(昨晩はついつい、ヤケ食いをしてしまいました)

貴音(……なにに対してヤケになっていたかは、わからないけど)

39: 2013/04/10(水) 12:35:42.68 ID:RIJfTQxO0
──────
────
──

貴音「四条貴音の、らーめん探訪……
   次回は、どのようならーめんに出会えるのでしょうか」

貴音「それでは皆様、ご機嫌よう……」


<……はいオッケー! 四条さん、お疲れ様でした!


貴音「ありがとうございました」ペコリ

貴音(やっぱりこういうお仕事が、一番楽しいわぁ)

貴音(ドン引きされちゃうから、あまりガッツリは食べられないけど……)


……

貴音「さて……プロデューサーに、収録が終わったって連絡をしないと」

貴音「迎えに、きてもらわないと……」


貴音(……なんでだろう。このボタンを押せば、すぐプロデューサーに電話がかかるのに)

貴音(指が重い……)

43: 2013/04/10(水) 12:42:52.27 ID:RIJfTQxO0
貴音「……っ」ポチ


プルルル……


貴音「……」

貴音(私の頭の中には、昨夜見たプロデューサーと美希の姿が、ずっと残ってました)

貴音(……仲良さそうだった。もしかして、ふたりは──)

ピッ

貴音「っ!」

P『もしもし、貴音?』

貴音「は、はい……貴音でございます」


貴音(貴音でございますってなに!? サザエさんか!!)


P『収録終わったんだな、お疲れ様! 何事も無かったか?』

貴音「……はい。いつもと同様、無事に終えることができました」


貴音(……いつもと同じじゃないのは、私の心だけ)

45: 2013/04/10(水) 12:53:03.43 ID:RIJfTQxO0
P『ごめん、すぐ迎えに行きたいんだけど、
 こっちの撮影でちょっとトラブルがあってさ……』

貴音「とらぶる?」

P『ああ。あと四十分もすればそっちにいけると思うんだけど……。
 もうちょっとだけ待っててもらえるか?』

貴音「……。それならば、私は一人で帰ることにいたします」

P『え? でも……』

貴音「プロデューサーのお手を煩わせるわけにはいきません。
   私のことはお気になさらずに、そちらの仕事に集中してくださいませ」

P『……そっか。ありがとう、それじゃあ、そうさせてもらうよ。
 またあとで、事務所でな』

貴音「はい、それでは……」

ピッ……


貴音(……四十分待つくらい、なんてことないけど、
   なぜだか今は、一人で頑張らなきゃいけない気がして……)

貴音(だから決して、プロデューサーと顔を合わせたくなかった、
   というわけじゃ……ありません)

47: 2013/04/10(水) 13:00:14.86 ID:RIJfTQxO0
 

貴音(──とは、言ったものの)

貴音(ロケ現場まで送ってもらったときに車の中から見た風景を頼りに、
   適当に電車に乗ったけど……)


貴音「……」


わいわい……

    がやがや……


<えー、それマジ?

<マジマジ! ちょーありなくなくない?

<うんうん! ありなくなくなさすぎて逆にありえるって感じ!



貴音「……うう」ウルウル


貴音(見事に迷っちゃったよ……)

貴音(ここ、どこぉ……!?)

51: 2013/04/10(水) 13:12:45.05 ID:RIJfTQxO0
貴音(こんなことなら、最初からタクシー使えばよかったかな……)

貴音(……いや、あの律っちゃんが、そんなのを経費で落してくれるわけないよね。
   『それなら最初からプロデューサーに頼ればよかったでしょー!?』
   って言われるのが目に見えてる)

貴音(説明するの、色々メンドくさいし……)


貴音「……そうだ」ティン


『自分達、これからはユニットの仲間なんだし、
何か相談したいこととかあったら、いつでも言ってよね!』


貴音「響……響に助けてもらおう! うん、それが良い!」


……


響『えーっと……それで、自分に電話したの?』

貴音「はい……あの、申し訳ございません、お休みのところ……」

響『それはいいんだけど、貴音、頼る相手を間違ってると思うぞ……
  自分だって、都会の電車はゼンゼンわかんないし……』

貴音(……そうだった。あぁもう、何をやってもうまくいかない……)

52: 2013/04/10(水) 13:18:38.01 ID:RIJfTQxO0
響『プロデューサーは? いつもなら、プロデューサーが迎えにきてくれるでしょ?』

貴音「それ、は……」

響『……』

響『よし、わかった! それじゃあ、自分に任せといて!』

貴音「ま、真ですか!?」パァァ

響『うん! とにかく貴音は、その駅で待っててよね!』

貴音「はいっ、お待ちしております……!」


……


貴音「……」ソワソワ

「……貴音!」

貴音「! ひび──

貴音「……えっ!?」


P「はぁ、はぁ……! ぶ、無事か!?」

貴音「ぷ、プロデューサー……!?」

54: 2013/04/10(水) 13:26:26.10 ID:RIJfTQxO0
貴音(てっきり、響が迎えにきてくれると思ってたのに……。
   今、私の目の前には、別の仕事をしているはずのプロデューサーがいました)


貴音「プロデューサー、なぜ──」

P「なんともないか!?」ガシッ

貴音「きゃっ!」

P「響から、連絡があったんだ! 貴音が外国人力士の集団に襲われているから、
 今すぐ迎えにいけって!」

貴音「え、えぇ!?」

P「何もされなかったか!? ツッパリされなかったか!?」グラグラ

貴音「……い、痛……!」

P「あ、あぁ……ご、ごめん」

貴音「……プロデューサー、そちらの仕事は……?」

P「そんなもん、抜け出してきたに決まってるだろ!?」

貴音「……っ」

60: 2013/04/10(水) 13:37:58.62 ID:RIJfTQxO0
P「あれ? でも、なんとも、ない……か? 琴欧洲もいないみたいだし」

貴音「……はい。私を襲う者など、誰ひとりとしていません」

P「……? じゃあなんで、響はあんなこと……」

貴音「……そんなことよりも、プロデューサー」

P「ん?」



貴音(──なぜだか、胸が苦しくて)

貴音(伝えたい気持ち、伝えなくてはならない気持ちは、次々に溢れてくるのに)



貴音「あ、あの……!」



貴音(でもそれをうまく伝える言葉を、『アイドルの四条貴音』は知らなくて……)

貴音(油断したら、ボロが出て、全てが崩れていってしまいそうな気がしたから、
   私には、ただ一言……、こう言うことしか出来ませんでした)



貴音「……ありがとう、ございましゅ」

63: 2013/04/10(水) 13:42:24.29 ID:RIJfTQxO0
車の中


ブロロロ……


貴音「……」

P「……」



貴音(噛んだぁぁぁっぅぁっぁああぁ……!!!!)





P「あ、あのさ、貴音」

貴音「……なんでしょうか」

P「……いや」

貴音「うぅ……」カァァ


貴音(プロデューサー、とても微妙な顔をしている……)

貴音(噛んだことに対して触れちゃいけないって顔してる……!)

65: 2013/04/10(水) 13:50:21.23 ID:RIJfTQxO0
 
P「っと……事務所に寄る前に、一旦、スタジオに向かっていいかな」

貴音「すたじお?」

P「うん。たぶん、美希の撮影、もう終わってると思うから。
 美希なら一人でも帰れるだろうけど、ついでだから拾っていくよ」


貴音(……そうだった)

貴音(プロデューサーはさっきまで、美希の撮影に付き合っていたんだった……)



『あはっ☆ ねぇねぇ、今言ったの、ほんと?』

『ふーんだ……ハニーのケチ!』



貴音(脳裏に浮かぶのは、昨夜見た、美希のはしゃぐ顔……)



貴音「……っ」ブルッ

P「……どうした?」

貴音「……いえ、お気になさらずに」

67: 2013/04/10(水) 13:57:36.46 ID:RIJfTQxO0
 
貴音(あの様子を見る限り、たぶん美希は、プロデューサーのことを……)



貴音(……わ、私は、もしかして……)

貴音(私の、つまらない意地のせいで、
   プロデューサーの手を、余計に煩わせただけでなく)



貴音(美希から、プロデューサーと一緒にいる時間を、奪っちゃったの?)




貴音(……ほんの数十分。それだけの時間)

貴音(でも、それでもきっと……、美希にとっては、長い時間)



貴音「……」



貴音(……怖い)

貴音(美希に会うのが、怖い……!)

70: 2013/04/10(水) 14:06:23.01 ID:RIJfTQxO0
貴音「……っ」フルフル


貴音(……だけど)

貴音(たとえそれが、事実ではなくても……、私の身を案じて、
   ここまで来てくれたプロデューサーに、これ以上迷惑はかけられない)

貴音(美希に恨まれるなら、それも仕方ないこと……)



ブロロロロ……


P「お、見えてきたな……」

貴音「……」



貴音(今はただ、どうやって美希に謝るかを……)

貴音(『アイドルの四条貴音』として、どう言葉を紡げばいいか……考えておこう)


──────
────
──

71: 2013/04/10(水) 14:12:25.15 ID:RIJfTQxO0
 
スタッフ「……ああ、プロデューサーさん!」

P「す、すみません! 途中で抜け出しちゃって……」

スタッフ「いえ、いいんですよ。それより、美希ちゃんのところに行ってあげてください。
     さっきからずっと、落ち着かないって顔してるんですから」

貴音「……っ」


貴音(やっぱり……やっぱり美希は、プロデューサーと離れたくなくて……)


P「……ほら、貴音」ポン

貴音「え?」

P「美希のところに、行ってやってくれ」

貴音「で、ですが、私は──


タッタッタ……

美希「貴音ぇぇぇぇえぇ~!」

ぎゅぅぅっ!

貴音「!?」

75: 2013/04/10(水) 14:20:26.27 ID:RIJfTQxO0
美希「大丈夫!? ねぇ!」

貴音「え、え……!?」

美希「お相撲さんに無理矢理ぶつかり稽古させられてたんでしょ!?
    み、ミキ、貴音がアイドルやめて土俵に立つなんて……そんなの、ヤ!」

貴音「……プロデューサー、あの……」

P「……理由も何も言わずに、出て行くわけにはいかないだろ?」

美希「シンパイだったんだからぁ~……!」ギュー

貴音「……っ」



貴音(……言葉が、見つからない)

貴音(キャラを作っているとか、そういうことは全然関係なく)



貴音「み、美希……!」



貴音(ただただ、自分の考えの浅はかさが、情けなくて)

貴音(そして何より、美希の気持ちが、嬉しくて……)

76: 2013/04/10(水) 14:27:29.18 ID:RIJfTQxO0
 
貴音「う、ぅ……!」


ぽろぽろ……


美希「貴音、やっぱりどっか、痛いの……?」

貴音「……痛むのは、この心だけです……っ」

美希「こころ?」


ぎゅぅぅ……


美希「うっ……く、苦しいの」

貴音「……美希。耳を、貸してください」

美希「え? 耳?」



貴音(……今しかないと、思った)

貴音(伝えないといけないと……思った)

貴音(私の言葉で、美希に──大切な、仲間に、この気持ちを)

78: 2013/04/10(水) 14:35:11.28 ID:RIJfTQxO0
 


貴音「……心配してくれて、ありがとう」

美希「え……貴音? なんか、いつもと……」



貴音「それと──」

貴音「本当に、ごめんね……」

美希「……」


貴音「私(わたくし)……ううん、私(わたし)は……」

貴音「美希のこと、ひとりで勝手に、羨ましがって、妬んでいたんだと思う。
   なにをやっても、なんでもうまくいっちゃう、美希のこと……」


貴音「だから……ごめんなさい」

83: 2013/04/10(水) 14:42:00.62 ID:RIJfTQxO0
 

美希「んー……なーんか、よくわかんないけど……」

美希「ミキ、ゼンゼン、怒ってないよ? だから、謝らなくていいの」

貴音「でも……っ!」

美希「あはっ☆ それより、ミキは──」

貴音「え……?」



美希「今の貴音、すっごく可愛いって思うな!」

貴音「……っ」


ぽろぽろ……


貴音「かわ、いい……?」

美希「うん!」

85: 2013/04/10(水) 14:51:32.73 ID:RIJfTQxO0
 

貴音(──臆病になって、ずっと隠していた、私の素顔を)

貴音(美希は、可愛いと言ってくれた……)

貴音(認めて、くれた……)



美希「ね、貴音」

貴音「……?」

美希「ミキ、安心したら、なんだか眠くなってきちゃった……あふぅ」

貴音「……ふふっ、そっか」

美希「だから、もう帰ろう?」

貴音「……そうだね」


貴音「帰ろう、私達の事務所に……」

87: 2013/04/10(水) 15:01:20.37 ID:RIJfTQxO0
765プロ事務所

ガチャッ

「ただいま戻りまし──


響「あ、おかえりー!」


貴音「……響?」

美希「あれ? 響、今日お休みじゃなかったっけ?」

響「えっへへー、遊びにき

P「コラ──っ!!」

響「うぇぇっ!? な、なんで!? 遊びにきちゃダメだったか!?」

P「そういうことじゃない! なんであんな、嘘の電話をしたんだ!?」

響「だ、だってぇ~!」

貴音「プロデューサー、響を責めないでくださいませ! 全ては私が──

P「嘘付かなくたって、貴音が困っているなら……、それだけで十分だろ!?
 余計な心配をかけさせないでくれよ……!」

貴音「……っ!」

91: 2013/04/10(水) 15:12:05.53 ID:RIJfTQxO0
響「うぅー……ごめんなさい……」

P「……ゴホン。とまぁ、今のは『プロデューサー』からの言葉だ」

響「へ? どーいうこと?」

P「やり方はどうあれ、響のおかげで、貴音を助けてやることが出来た。
 それに関しては、響に感謝しなくちゃいけないな」

P「……ありがとう、響。本当によくやってくれたよ。
 プロデューサーっていう立場を抜きにして、俺個人からも、礼を言いたいと思う」

響「……えへへ、ま、まぁ、自分、完璧ってところあるし……でへへ」

P「調子に乗らない。次からは嘘付かずに、ちゃんと本当のことだけ教えてくれよ?」

響「うんっ!」



貴音「……」

美希「貴音、どーしたの?」

貴音「な、なにがですか?」

美希「なーんか、顔、赤くなってるよ?」

貴音「……そ、そんなこと……」

94: 2013/04/10(水) 15:23:06.38 ID:RIJfTQxO0
 
貴音「……ひ、響っ」

美希「あ、逃げたの!」

響「なんだー?」

貴音「あの……こちらに来てくださいませんか?
   三人だけで、話をしましょう」

P「ん、俺は仲間はずれか?」

美希「ハ……じゃなくて、プロデューサーはあっち行ってて!」

P「ひどい……わ、わかったよ」



貴音(……話さなきゃ、ダメだから)

貴音(美希には、もうさらけ出した。だから、今度は……!)


──────
────
──

95: 2013/04/10(水) 15:26:57.73 ID:RIJfTQxO0
……


貴音「……と、いうことなんだけど」

響「へー」

貴音「……驚かないの?」

響「驚くっていうか……それがどうしたんだ?」

貴音「え」

響「自分、知ってたぞ。貴音がいつも変な喋り方してるの……え、あれ?」

貴音「……」

響「な、なんでそんな顔してるの? 妄想がバレたときのピヨコみたいだね」

貴音「あ、えっと……なんですと?」

響「だから、知ってたって……」

貴音「……!?」

104: 2013/04/10(水) 15:37:57.50 ID:RIJfTQxO0
貴音「き、きき……聞かれてた……!?」

響「ううん、聞いたのはこれが初めてだけど……」

貴音「じゃあ、なんで!?」

響「んー……、なんとなく!」

美希「……野生のカン? さすが沖縄生まれ……」

響「えへへ、まぁね!」

貴音「あ、あは、は、は……」


貴音(──恥ずかしい!! あ、あ、あ……穴掘って埋まっていたいですぅ!!!)

貴音(あぁ……どうやったら雪歩みたいに、スコップを召喚できるの!?)


ぽんっ

美希「!?」

貴音「あ、出た……えい!」ザクッ

響「た、貴音っ! 事務所に穴掘っちゃダメだってぇ~!」

美希「な、なんか今……起きてはならないことが起きた気がするの……」

110: 2013/04/10(水) 15:46:53.10 ID:RIJfTQxO0
 
貴音「……それじゃあ、怒らないの?」

響「怒る?」

貴音「だって……」



『隠し事とか、ゼッタイ無しだからなっ! 約束だぞ!」



貴音「……だって、私はずっと、響に隠し事を……」

響「これくらい別に、隠し事ってことでもないさー。
  だって、気持ちに嘘ついてたってわけじゃないでしょ?」

貴音「気持ち?」

響「うん! 今までの貴音の喋り方が、本当の貴音とは違ったって……」

響「貴音が持ってる気持ちは、ニセモノじゃない。
  貴音がめちゃくちゃ優しいってことは、自分だけじゃなくて、みんな知ってるし!」

貴音「……!」

美希「……そうだね。うん、響の言う通りなの!」

114: 2013/04/10(水) 16:01:05.93 ID:RIJfTQxO0
 
貴音「う、う……!」


ぽろぽろ……


美希「あ、響、泣かした~!」

響「ええ!? じ、自分が悪いのか!?」

美希「あはっ☆ それにしても貴音って、意外と泣き虫さんなんだね♪」

貴音「そ、そんなことありません……! ぐすっ」

美希「隠さなくてもいーの。響が怒るよ~?」

響「そーだぞ、貴音っ。泣きたいときには、泣いていいんだー!」

貴音「……、……!」



貴音「う゛ん……!」



貴音(──私は、本当に)

貴音(たくさんの、素晴らしい仲間に囲まれて……ここにいるんだ)

117: 2013/04/10(水) 16:08:32.61 ID:RIJfTQxO0
 
──────
────
──

貴音「……」ゴシゴシ

貴音「……ところで、美希」

美希「んー? なに?」

貴音「……ハニーって、なに?」

美希「ぎくっ!」

響「なにそれ?」

貴音「あと、プロデューサーとの約束って……?」

美希「ぎくぎくっ!」

美希「……」

美希「あ……あはっ☆ な、なんのことかなぁ~……」

響「ねぇ貴音、さっきから何言ってるんだ?」

貴音「実は……」

美希「うわわわ~! ちょ、ちょっと待ってぇ! ハニーに怒られちゃうから~!」

122: 2013/04/10(水) 16:18:28.91 ID:RIJfTQxO0
 
響「へー……そんなことがあったんだ」

美希「……」

響・貴音「「美希……?」」

美希「……に」

美希「逃げるが勝ちなのっ!」ダッ

響「あ、待てっ!」

貴音「隠し事は無しでしょう!」

美希「それとこれとは話が別なの~!」


P「……ゴホン!」


美希「あ、ハニー!」

P「お前なぁ……まぁ、ユニットを組んだわけだし、こうなるとは思ってたけど……。
 でも、響達が想像しているようなことじゃないよ」

P「俺と美希は、一切そういうことはないから」

美希「え」ガーン

127: 2013/04/10(水) 16:30:49.06 ID:RIJfTQxO0
 
美希「あの言葉はウソだったの!? ミキのことは大切に思ってる、
   だから彼氏にでもなんでもなってやるって!」

P「そんなこと言ってないわ! 確かに、
 大切に思ってるとは言ったけど、それはあくまで……」

響・貴音「……」ジトッ

P「……な、なんでしょうか」

響「……プロデューサーって、誰にでもそういうこと言うんだな。
  実は前に自分もさ……」ヒソヒソ

貴音「まぁ……真、女の敵と言えましょう……」ヒソヒソ

P「誤解だって……」

響「じゃあ、美希とした約束ってなんなんだよー!」

P「ああ、それは……、これ」スッ

美希「あ、ほんとに買ってきてくれたんだぁ~!」

貴音「その箱は?」

美希「これはね~、あの駅前のちょー有名お菓子屋さんの、スペシャルケーキなの!」

P「……ユニット結成祝いってことで、美希から買って来いって言われてたんだよ」

129: 2013/04/10(水) 16:40:03.35 ID:RIJfTQxO0
 
美希「みんなで食べよ~!」

貴音「わぁ……! おいしそー……」

P「ん? 今、貴音……」

貴音「……おほん。な、なにか?」

P「なんか今、いつもと喋り方が」

美希「いーから! うそつきさんはあっち行ってて!」

P「……はい」


……


美希「おいひぃのぉ~……♪」モグモグ

響「……でも美希、いいのか?」

美希「え? なにが?」

貴音「プロデューサーのこと、気にしないの?」

美希「……んー……確かに、ちょっとショックだったけど……」

美希「でもそんなの、これからホントにしていけばいいの!」

130: 2013/04/10(水) 16:50:35.58 ID:RIJfTQxO0
 
美希「ミキたちにはまだまだ、いーっぱい! 時間があるでしょ?」

美希「それならこれから、今までより、いーっぱい!
   ハニーとの思い出を作って、それでいつか、振り向かせちゃえばいいって思うな!」

響「ふーん……美希らしいね!」

貴音「……ふふっ、そうだね」


貴音(……やっぱり、美希はすごいって思う)

貴音(いつだって自然体で、自分に正直で、
   欲しいもの欲しいと、はっきりと口に出せて……)



美希「それに~……ライバルも、いるみたいだし」チラッ

貴音「え? ライバル……?」

美希「あはっ☆ だからこれから、もっともっと、ガンバるの~!」

貴音「……」


貴音「」ボンッ

響「わ、バクハツしたぞ」

135: 2013/04/10(水) 17:03:41.60 ID:RIJfTQxO0
貴音「み、美希! 私は別に、そんな……!」

響「ねぇねぇ、ライバルってどーいうことだー!?」

美希「響、貴音ってホントはね……」

貴音「わーわー!」


貴音(──確かに、美希の言う通り。私達には、まだたくさんの時間がある)

貴音(だから、いつまで羨ましがっているのではなく……
   いつかは私も、美希のように、誰にでも自分をさらけ出せるようになりたいと思う)


P「おーい三人とも、そろそろまた出かけ……って、どうしたんだ、貴音」

貴音「っ!」

P「……なんかあったのか? 顔真っ赤だけど」

貴音「そ、それは……」


貴音(それがいつになるかは、まだわからないけれど……、
   この素晴らしい仲間達と一緒にいれば、いつか必ず、叶うはずだから)


貴音「……とっぷしーくれっとですよ、あなた様」
                                  おわり

137: 2013/04/10(水) 17:08:52.43 ID:RIJfTQxO0
おわりです。読んでくれた方支援してくれた方ありがとうございました

今気付いたけど響は休みだったはずなのに最後のPの台詞が出てくるのはおかしいね
あまり気にしないでください

138: 2013/04/10(水) 17:09:12.16 ID:to4PKRYz0
おもろしかった!!


引用元: 貴音「……たんすの角に小指をぶつけました」