3: 2010/10/08(金) 20:08:41.21 ID:Mpwv/tmw0
唯「姫っっ子ちゃん!」

唯が急に後ろから体当たりしてきた。

姫子「な、何。///」

唯「うーんとね」

キラキラした表情で言ってる。

かわいい。

かわいすぎるだろ、こいつ。

いぢくりたい。

ぷにぷに頬っぺた。

柔らかそう。

唯「な、何するさー」

気がつくと、私は唯の頬っぺたを、むちむちのホクホクの頬っぺたを上下左右と両手で揉みしだいていた。

唯「は、はにするの~」

最後に左右に伸ばして終わり!って私ったら何してるのー!

唯「エヘヘ///照れ臭いやい!」

5: 2010/10/08(金) 20:13:19.13 ID:Mpwv/tmw0
ふざけた調子で笑う唯。すると唯はキッと真面目な顔になる。少し上目遣い。

唯「せ、責任取ってよね!」

唯に、恥ずかしそうにじっと見つめられると…

ふしゅー

顔が真っ赤になって、蒸気がポッポッと出て。

唯「あはははー!姫子ちゃん真っ赤っか!あれ?」

フリーズ。炭素冷凍。ハン・ソロ状態。

唯「あれー?どおしちゃったんだい、この子は。澪ちゃんじゃああるまいし」

ニヤリッ

唯が小悪魔の顔をした!かわいいよ~抱き締めたい。でもカラダウゴカナイ。

唯「お返しだ~!」

唯帝国の逆襲。

唯は私のあんまし柔らかくない頬っぺたをつねる。

唯「どうだーこれでもか~」

姫「―――///」

6: 2010/10/08(金) 20:15:30.15 ID:Mpwv/tmw0
顔、顔近っいー!

唯「へへへ♪触れば触るほど赤くなるー。おもろい!」

唯は私が動けないのをいいことに、

頬を揉みしだき、鼻をつまみ、おでこをなで、そして唇を――

って、えー!

唯「姫、目覚めのキスを――」

唯はそう言って唇――のそばの頬っぺたにキスした。

唯「さんざん弄んだから、お詫びだよ、頬っぺちゃん♪」ウインク。

萌え尽きた。もう真っ白だよ、ジョー。

唯「ありゃりゃ?キスしても起きないかー」

いや、キスがトドメだから。

もう氏んでもいい。

でも。

唯「…へ?」

私は、床にへたりこんで、涙を流した。

8: 2010/10/08(金) 20:20:34.36 ID:Mpwv/tmw0
唯「どうしたの?私、嫌なことしちゃったかな」

違う。

嬉しいのに。

唯にキスされて嬉しかったのに。

唯は、私とのキスなんて、おふざけ程度で出来るんだって、思ったら。

涙が、止まらなかった。

姫「ひく。ひっく」

しゃっくり。

泣くといつもそう。

唯「ごめんね」

温かな感触に包まれる。

唯「ギュー」

抱きしめられた。あやすみたいに。

唯「姫子ちゃん」

唯は、見たこともないような真面目な顔で、私を見つめた。

10: 2010/10/08(金) 20:25:05.16 ID:Mpwv/tmw0
唯「私――」

ガラガラ。

和「あら、唯に立花さん」

和が教室に入ってくる。夕陽に染まった教室には、唯と私と和の三人の影が伸びていく。

和「立花さん、どうした――」

私は床に落ちていたカバンを持って、教室から逃げた。

和「ちょ、立花さん?」

私は校舎の廊下を、泣きながら走った。




和「あら、立花さん」

数日後。

ソフトボールの練習を終え、教室にカバンを取りにくると真鍋さんがいた。

姫「真鍋さん…」

気まずい。

先日の事を、真鍋さんはどう思っているんだろう?

11: 2010/10/08(金) 20:27:07.48 ID:Mpwv/tmw0
それでなくとも、苦手。理由は単純。

唯の幼なじみ。

和「立花さん、時間ある?」

姫「あるけど、なに?」

ほら、私はまた彼女に対してケンカ腰。

自分でも抑えられない。

和「唯の事なんだけど」

単刀直入。

さすが生徒会長。

私は動揺する。

和「唯、最近元気ないのよ、様子がオカシイといってもいいわね」

元気がない?

唯は今日だって軽音部の子達と仲良くはしゃいで。

姫「そう?私には分かんなかったけど。…幼なじみだから、気がつく?」

最後の言葉は言わなければ良かった。

12: 2010/10/08(金) 20:30:39.26 ID:Mpwv/tmw0
和「憂―唯の妹がね、心配してたの。家で元気がないって」

憂。たしか完璧超人だと噂の妹か。

姫「でも、私には関係ない――」

和「そうかしら?」

真鍋さんは、笑っても怒ってもいなかった。

和「私、見たわ。立花さんが泣いてるの。隣に唯もいた」

射抜かれる。

そんなメガネ越しの瞳。

和「なにがあったの?」

優しい声。

それが私を苛立たせる。

姫「真鍋さんには関係ないし、私は唯の事、ほとんど知らない」

体温が高いこと。

頬っぺたが柔らかいこと。誰にでも優しくて、明るい太陽みたいなところ。

それくらいしか、私は唯を知らない。

13: 2010/10/08(金) 20:37:44.79 ID:Mpwv/tmw0
和「…」

沈黙。

私は席を立とうとする。すると、真鍋さんはふふっと笑った。

和「立花さんには、ザリガニの話をしたかしら?」

何かに思い当たった。そんな顔だった。

姫「?」

真鍋さんは柔らかく、懐かしむように微笑む。

綺麗だ。

和「昔ね、唯と遊んでたの。公園でね。私が花を摘んだり、

砂遊びしてるんだけど、唯はバケツを持って、ずっと走り回ってるの」

姫「いつの話?」

和「中2」

姫「中2っ―?」

中2で砂遊びっておい!

和「冗談っ!」

14: 2010/10/08(金) 20:41:42.65 ID:Mpwv/tmw0
姫「なんだぁ。真鍋さんも冗談言うんだね~」

和「あら、そんな風に見えてたの?」

姫「で、続きは?」

和「そう、それで、いよいよ陽が暮れてきて。私は家に帰ってテレビ見てたんだけどね、

唯はまだバケツ持って走ってるのよ。何してるのかと思って、付いていったら、私の家の浴槽が、ザリガニで一杯で」

姫「へ?」

和「ザリガニ取りに夢中になっちゃったのね。唯」

姫「なんかシュール」

和「今でも変わってないわ」

姫「ザリガニ取りが?」

和「ぷっ。違うわよ。唯は一つの事に夢中になると、一直線で周りが見えなくなるってこと」

姫「でもどうして私にそんな話」

真鍋さんはうんと頷いてから。

和「なにが立花さんと唯にあったか知らないけど、唯は一直線だから、許してあげて」

和「頑張って」

16: 2010/10/08(金) 20:43:46.51 ID:Mpwv/tmw0
真鍋さんは、とても高校生とは思えない、大人っぽい顔で笑う。

彼女は気がついてしまったのだろうか。

私の気持に。

それでいて頑張れと言った。

応援してくれるのだろうか。

もしそうだとしても。

私は、真鍋さんが苦手。嫉妬してしまう。

私の知らない唯を沢山知っている、唯の幼なじみに。




律「澪ー♪」

りっちゃんが澪ちゃんにふざけて抱きつく。

澪「ふざけるな!」

りっちゃんが胸を触り出したところで、澪ちゃんの鉄拳が振るわれた。

ムギちゃんは、いつも以上にキラキラした光線を、律澪に送っている。

20: 2010/10/08(金) 20:49:05.68 ID:Mpwv/tmw0
そんな楽しい午後なのに。

心はどんよりだった。

理由は簡単。

姫子ちゃん。

姫子ちゃんの拒絶。

泣いて、嫌がった。

私の、キス。

そして、走って逃げていった。

私の思いを聞くまでもなく。

律「なー唯?」

笑いながら、りっちゃんが言った。

唯「はははーそうだね~」

何の話をしていたのか、わらなかったけど、笑う。

軽音部の、ぽわぽわした大切な空気を壊したくないもん。

22: 2010/10/08(金) 20:52:35.41 ID:Mpwv/tmw0
憂「お姉ちゃん、ご飯ー」

食欲がない。

数日前までは、私の胃は四次元だ!と豪語してたのに。

恋は盲目というけれど。どうやら私はお腹にくるらしい。

唯「ギー太、どうしたらいいかな~?」

ギー太は何も言わない。きっと乙女の恋心なんて、ギー太にわかんないんだ。

憂「冷めちゃうよー」

唯「今行くよー」

階段を降りる。

憂「お、お姉ちゃん///」

唯「なんだい、憂?」

憂「服、服着てー。下着のまんまだよ~」

へ?

自分を見る。

確かに下着しかつけてない。

26: 2010/10/08(金) 20:55:56.35 ID:Mpwv/tmw0
憂「いいから着てきて~」

あ、ギー太に着せたまんまだ、私の服。

憂「お姉ちゃん、最近変。なんか上の空だし、食欲ないし」

唯「…いやー夏バテで」

憂「まだ6月だよ?」

唯「じゃあ梅雨バテってことで」

憂「う、うん」

え?納得しちゃうんだ、憂。

ご飯を食べて、部屋に戻る。

ギー太。

姫子ちゃん、ギー太が私の彼氏みたいなんて言ってたな。

ちょっと近寄り難くて。大人っぽい姫子ちゃん。数日、話すらしてない。大好きな姫子ちゃん。

失恋、しちゃったかな。

唯「ギー太、上手くいかないね~」

29: 2010/10/08(金) 21:00:19.28 ID:Mpwv/tmw0
ギー太は無口。

でも、弦に触れると、なんだか慰められてる気がする。

唯「ギー太ー!」

ポロポロ。

くぅ。汗が目に染みるぜぇい。

唯「ふぇ、く、――わぁーん」

私は一晩ぐずぐず泣いて、決心した。

立ち直らなくちゃ。

憧れ。

大人の人。

クリスティーナさんみたいな人だったら、きっと自分の心にけじめをつける。

そう決心して、私は学校に向かう。

階段を降りて。

床に滑りそうになっても。

玄関のドアを開ける!

30: 2010/10/08(金) 21:06:34.72 ID:Mpwv/tmw0
憂「お、お姉ちゃん、パジャマのまんま~!」

へ?

憂「もう。ホントに変。お姉ちゃん。はぁ」

妹にため息つかれた。

唯「い、いや~寝不足なもんで」

まだまだ立ち直るのは大変そう。

32: 2010/10/08(金) 21:20:12.02 ID:Mpwv/tmw0
ムギ「最近、唯ちゃんの様子がおかしいわ」

律「ムギもそう思ったか」

澪「確かに、言われてみれば」

梓「最近抱きついてこなくなりました」

律「これはなにかあるな~♪」

澪「面白がるな!」

ムギ「それに、姫子ちゃんもおかしい」

梓「なんで探偵口調なんですか、ムギ先輩」

律「そうか?いつも通りクールにしか見えなかったけど」

澪「私、立花さん苦手だ」

梓「誰です?姫子さんって」

ムギ「いいえ。私にはわかるわ。私のアンテナがそう告げているの」

梓「無視しないでください」

律「何のアンテナだよ!鬼太郎か?」

澪「よ、妖怪だったのか、ムギ」

33: 2010/10/08(金) 21:24:00.91 ID:Mpwv/tmw0
梓「あの~だから姫子さんって――」

ムギ「妖怪じゃないわ、乙女よ!」

梓「いや、乙女って」

ムギ「乙女には乙女の気持がわかるのよ!」

律「まぁ、冗談は置いといて」

ムギ「冗談じゃないのに。しゅん」

唯「大丈夫だよムギちゃん。私は信じてるから」

ムギ「唯ちゃん♪」

澪「え?唯?」

律「どぉうぁー!ゆ、唯」

梓「いつからここに?」

唯「ん~ムギちゃんにアンテナが生えてるってあたりから」

澪「そ、そうか。(さりげなーく)と、ところで唯、最近なんかあったか?そ、その、立花さんの事とか」

梓「(ボソッ)いや、さりげなく訊けてないから」

34: 2010/10/08(金) 21:33:21.30 ID:Mpwv/tmw0
唯「へ?」

律「じー」

ムギ「ドキドキ」

唯「…(フッ)別に、何もないよ?」

梓は後に語る。

あの時の唯先輩は、憂いを帯び、悲しげに笑う。その顔は、まさに美しく、儚く、そしてイケメンだったと!

律(ど、どうしたんだ唯。なんだか可憐すぎてドキドキする。いや、私には澪が、澪が~!)

澪(急に見せたあなたの横顔。俯く視線を追いたいの。私はあなたの観測機。

詩、詩が出来そう。―っいや、私の歌は、律だけを、律だけを―!)

梓(やばぃ。これ以上唯先輩を見たらだめだ!なにかが終わるっ!何だか分かんないけど、終わるっ!)

ムギ(いいわ~律澪!唯姫!あれ?でも、どうして唯ちゃん、そんな悲しげなのかしら?)

唯(みんな固まって、どうしたんだろう?私が何か迷惑かけちゃたかな?)

閑話休題。

律「そ、それでだな~。夏、どっか行かね?軽音部の合宿じゃなくてさ。和とかも誘ってさ」

梓「でも、受験勉強は…」ムギ「一泊二日なら大丈夫よ、ね!澪ちゃん、唯ちゃん」

35: 2010/10/08(金) 21:37:59.26 ID:Mpwv/tmw0
唯「行こう~」

澪「ま、まぁ、一泊くらいなら」

梓「純や憂も誘っていいでしょうか?」

ムギ「もちろん!プランニングは私に任せて!」

律「おぅ。頼んだぜ!」

ムギ「ラジャー」

唯「(落ち込んでちゃだめたよね。めいいっぱい楽しまなくちゃ)ムギ隊員、検討を祈る!」びしぃ!

ムギ「はい!」びしぃ!

ムギ(高校最後。気合い入れてやるわ!)

夏休みまで、後、1週間!

36: 2010/10/08(金) 21:42:12.10 ID:Mpwv/tmw0
って、え―!

和「何を驚いてるの?」

姫「いや、だって、唯たちと旅行に、私もって!」

和「あなただけじゃないわ。軽音部のみんなも、後輩も、それにクラスの何人かも。ムギが誘ったのよ。ね、ムギ」

ムギ(律澪でしょ、唯姫、梓純憂、エリアカ、の、和ちゃんは誰かしら?

まさか、唯ちゃん?三角形!……さわムギと、とか///)

和「ムギ!」

ムギ「あ、ごめんなさい。なに?」

和「立花さんも誘うのよね?」

ムギ「ぜ、ぜひ!姫子ちゃん。エリちゃんとアカネちゃんも来れるって言うし!」

姫「え、えっと」

和「ダメかしら?」

唯と旅行。

もうこんな機会、無いかもしれない。卒業したら、離れちゃうから。きっと。

姫「い、行く」

37: 2010/10/08(金) 21:50:14.08 ID:Mpwv/tmw0
ムギ「良かった♪」

唯と、旅行。

どうしよう。




和「立花さん、来るって」

唯「そ、そっか。良かった良かった」

和「ねぇ、唯」

唯「ご、ごめん。もう部活行かなきゃ。今日は珍しくさわちゃんが教えてくれるんだよ」

ダッ

38: 2010/10/08(金) 21:51:36.65 ID:Mpwv/tmw0
和ちゃん、最近なんか良く姫子ちゃんの事言ってくるけど。

どうしてかな。

気がついてるのかな。

ふるふる

まさかね。

唯「ちゎーす」

さわ子「ちょりっす」

律「ああ、来たか。今ちょうど旅行の話してたんだよ」

澪「さわ子先生、来てくれるって」

唯「ほんと?」

さわ子「ムギちゃんにどうしてもって言うからね~」

ムギ「///」

澪「ま、しかし。メンバーも決まったことで、ムギ」

ムギ「なに?」

39: 2010/10/08(金) 21:59:30.49 ID:Mpwv/tmw0
澪「どこにいくか教えてくれ」

ムギ「それはね――」




姫子「鎌倉、江ノ島かー定番だけど、行ったことない」

エリ「私はあるよ~何回も!」

姫子「何?デート?」

アカネ「鎌倉だけでしょ。しかも寺社仏閣だけ」

エリ「エヘヘ。そうだけどさ~」

姫子「なんだ」

アカネ「私も一度、エリと行ったけど、二度と一緒に行かない」

エリ「なんでさぁ~?楽しかったじゃん、水月観音!」

アカネ「まぁ、綺麗だったけど」

エリ「ねっねっ!いやぁーあの良さが分かるとは、さすがアカネ!」

アカネ「でも、一時間見てるってのはない」

40: 2010/10/08(金) 22:00:54.67 ID:Mpwv/tmw0
エリ「え、あれっ~?そうだっけ?」

アカネ「とぼけるなっ」

いいな。

こんな風に、笑いながら、しゃべって、一緒に旅行して。

私も、それだけで良かった。

ううん。

まだ遅くない。

私の恋は終わっても、まだ唯と友達でいることは出来るはず。

今回の旅行。

がんばろう。




朝の電車は意外と混んでて。

私はみんなから離れたところで、何故かさわ子先生の隣だった。

さわ子「でも意外ね~立花さんが軽音部のみんなと旅行なんて」

42: 2010/10/08(金) 22:05:16.34 ID:Mpwv/tmw0
姫「そんなこと…」

さわ子「クス。自覚あるみたいね。でもそうね、実は寂しがり屋っぽいわね。」ニヤリッ

姫「そうですか?」

さわ子「しかも、後で一人、ひっそり悲しんでるタイプ?」

さわ子先生はいたずらっ子のように笑う。

その笑みには余裕があって。

やけに大人っぽかった。

さわ子「でも変わってきたわね」

姫「何がですか?」

さわ子「前より、声を出して笑うようになった」

そうだろうか。

それなら、きっと。

さわ子「軽音部のみんなの影響かしらね?いや、唯ちゃんのお陰かしらね」

思ったことを言い当てられた。

さわ子「唯ちゃん、好き?」

43: 2010/10/08(金) 22:10:10.35 ID:Mpwv/tmw0
って!

いきなり、何を!

姫「え、いや、そ、そうですね。あ、明るいし、面白いし!でも、変な意味ではなくてですね!」

さわ子「キョドってる姫子ちゃん、かわいいわ」じゅるり。

ん?

なんか悪寒が…

さわ子「あの子はいい子よ。天然で、明るくて。それでいて、とても繊細」

さわ子は、よく生徒を見ている。

生徒の間で人気があるのも分かる気がする。

さわ子「それに、コスプレさせるとかわいいし!」

唯のコスプレ。

み、見たい。

って、じゃなくて!

姫「生徒にコ、コスプレさせてるんですか!」

さわ子「ニヤリッ。一枚200円」

44: 2010/10/08(金) 22:13:10.45 ID:Mpwv/tmw0
さわ子先生が取り出したのは、サンタクロースの衣装を身にまとい、ピースしている唯の写真だった。

姫「は、はい!」

私は音速で、財布から200円を取り出す。

さわ子「へ?」

姫「え?」

わ子先生はきょとんとして、それから悪魔的な笑みを浮かべた。

さわ子「そんなに唯ちゃんの写真欲しいの~?」

姫「あ、これは――///」

さわ子「ふふふ、冗談よ、あげる」

さわ子先生は、写真を私の膝の上に置く。

さわ子「そっか。ホントに変わったわね~姫子ちゃん」

気がつくと、さわ子先生は私の事を姫子ちゃんと呼んでいた。

姫「あ、あの」

さわ子「何かしら?」

姫「もし、友達に一回嫌われて、それでも、その友達が話しかけて来てくれたら、どうすればいいんでしょうか」

45: 2010/10/08(金) 22:15:40.55 ID:Mpwv/tmw0
私は、さわ子先生に訊いた。

すると、さわ子先生は真面目な顔になった。

さわ子「あなたは、もしそうだったら、どうしたい?」

姫「私は――」

私は。

唯と。

姫「もう一度、友達になりたい」

さわ子「クス。ならそれでいいのよ」

さわ子先生は、優しく微笑んだ。

46: 2010/10/08(金) 22:18:19.73 ID:Mpwv/tmw0
生徒会室

和「なに?ムギ」

ムギ「あのね、和ちゃん、唯ちゃんの事なんだけど」

和「…立花さんのこと?」

ムギ「!!なにか、唯ちゃん言ってたの?」

和「いいえ。でも、気になってはいるのよ」

ムギ「何に?」

和「唯、最近妙にしっかりしてるでしょ?それなのに上の空。そういう時は、なにか夢中になってるときなの。唯は」

ムギ「理由も、知ってる?」

和「予想なら。だけど、それは人に言う事じゃないわ」

ムギ「…相談、というよりお願いがあるのだけど、きいてくれる?」

和「聞くだけなら」

ムギ「最近、唯ちゃんと姫子ちゃん、仲悪いみたいで。私は」

和「仲良くなって欲しい?」

ムギ「うん。それでね、みんなの旅行に、姫子ちゃんも誘いたくて」

49: 2010/10/08(金) 22:29:45.03 ID:Mpwv/tmw0
和「―いいわ。私から誘ってみるわ。でも、いつものメンバーの中に姫子ちゃん一人だと、来づらいかもね」

ムギ「パァァ。そ、それなら、アカエリも呼びましょう!」

和「アカエリ?ああ、佐藤さんと瀧さん?てゆうかムギ、なんでそんないい笑顔なの?」

ムギ「と、とにかく、和ちゃんも協力して!唯ちゃんと姫子ちゃんを」

和「仲直りさせるのね?いいわ。(そんな単純なことではなさそうだけど)」




律「これが江ノ電か~」

澪「なんか、かわいい電車だな!」

憂「お姉ちゃん、乗るよ~」

唯「ま、待ってつかぁさい~」

純「アハハ。相変わらずだね、憂のお姉ちゃん」

梓「唯先輩、早くしてください!」

エリ「いや~二人で来たときを思い出すね~アカネ!」

アカネ「嘘つけ。効率重視って、バスで行ったくせに」

エリ「あはは~そうだったね~」

50: 2010/10/08(金) 22:32:58.72 ID:Mpwv/tmw0
姫「それも愛しの仏像の為?」

エリ「そう、愛しの水月観音!」

アカネ「またそれ?」

エリ「ほとんど公開しない貴重な仏像なんだよ!」

さわ子「あなたたち~ちょっと静かにしなさ~い」

わいわい、ガヤガヤ。

ムギ(いいわね。和ちゃん)

和(わかってるわ。今度こそ唯と立花さんを隣どうしにするのね!)


どうしてか。

私が電車に乗ると、姫子ちゃんの隣以外の席が埋まっていた。

も、もしかして運命!

なんて。

運命だったら、良かったな~

姫子ちゃんと私。

泣いちゃダメだ。

51: 2010/10/08(金) 22:37:35.67 ID:Mpwv/tmw0
唯「エヘヘ。姫子ちゃん、隣、ごめんね」

謝ってしまった。

姫「ううん。私こそ…」

沈黙してしまった。

喋らなきゃ!

唯「かわいい電車だね!ちっちゃくて、ノロノロで」

姫「そ、そうだね!」

唯「でも、住宅街スレスレだね。ほら、屋根に触れそう!」

私は車窓から屋根に手を伸ばす。痛っ!

ガラス、あったの忘れてた。

姫「だ、大丈夫、唯」

律「なぁにやってんだよ~唯」

唯「いったぁ~」

右手、少し突き指した。

すっ。

52: 2010/10/08(金) 22:40:05.74 ID:Mpwv/tmw0
姫子ちゃんは、私の手を、優しく触った。

姫「大丈夫?」

唯「う、うん///」

痛みなんて感じない。

姫子ちゃんの体温。

少し冷たい手。

私の事、心配してくれた。嬉しい。

姫「あっ!」

サッと手を離す姫子ちゃん。

気まずそうな横顔。

それを見て、私はまたわからなくなった。

やっぱり、嫌いかな。

嫌いなのかな、姫子ちゃんを好きな、私の事。

唯「ご、ごめんね」

また謝ってしまった。

54: 2010/10/08(金) 22:43:21.45 ID:Mpwv/tmw0
姫「あ、う、海見えてきたよ。唯」

唯「ほんとだ」

姫「海、唯、好き?」

唯「うん、好きだよ!」

姫「そっかぁ」

唯「姫子ちゃんは?」

姫子ちゃんは、海に向かって目を細める。

姫「好きだよ」

綺麗――

息を飲むくらい。

吸い込まれるくらい。

好き。

姫子ちゃんに言いたかった。




55: 2010/10/08(金) 22:45:55.95 ID:Mpwv/tmw0
唯が突き指して。

私は思わず、唯の手を握った。

体温の高い唯の手。

姫「大丈夫?」

唯「う、うん///」

はっ!

私、唯の手握っちゃた!

なんてことを!

バッ

手を離す。

私の顔は、今真っ赤だろう。

唯「ご、ごめんね」

何故だろう。今日の唯はよく謝る。私の、せいだろうか。

私は気まずくて。

姫「あ、う、海見えてきたよ。唯」

56: 2010/10/08(金) 22:51:08.96 ID:Mpwv/tmw0
話しをそらした。

唯「ほんとだ」

姫「海、唯、好き?」

唯「うん、好きだよ!」

ドキッとした。

私に言われたわけじゃないのに。

言われるはず、ないのに。

姫「そっかぁ」

その事実は、とても悲しくて。

唯「姫子ちゃんは?」

私は、海に向かって目を細める。

姫「好きだよ」

唯に好きって言って欲しかったけど。

好きって言ってしまいたいけど。

私は、海の向こう。

57: 2010/10/08(金) 22:52:09.21 ID:Mpwv/tmw0
ガラスの奥にうっすらと映つりこんだ唯に。

そう言うのが精一杯だった。





鎌倉の大仏の中に入ったり、エリの仏像蘊蓄を聞いたり、甘味処で唯がクリームを口につけてるのをみんなで笑ったり。

とても楽しかった。

楽しかったけど。

やはりトゲのようなものが心に刺さってる。

ムギ「今日泊まるのはここ!」

律「お~おっきい旅館だ!私にふさわしい!」

澪「もしかして、ここもムギの…」

ムギ「ええ!知り合いの旅館よ」

エリ「噂には聞いてたけど、ムギっちお嬢様~」

アカネ「あんたも見習いなさい。コーラばっか買い込んで」

梓「それ、一人で飲むんですか?」

58: 2010/10/08(金) 22:59:33.44 ID:Mpwv/tmw0
エリ「いや~みんなの分」

純「コーラ、おいしいですもんね!」

エリ「おお~心の友よ!」ひしっ ダキっ

アカネ「…(私だって抱きつかれことないのに!)」

和「みんな、異様にテンション高いわね」

さわ子「まぁいいんじゃない?」

律「ん~どうした?唯、ぼけーとして」

唯「へ?そんなにしてた?」

アカネ「うん」

憂「大丈夫、お姉ちゃん」

唯「うん!心配ないよ~」

唯が少し元気ない。

帰りの江ノ電に乗ったあたりから。

何か、考え事みたい。

律「まぁ、とりあえず、旅館に荷物置こうぜー」

61: 2010/10/08(金) 23:04:48.83 ID:Mpwv/tmw0
梓「賛成です!」

旅館に荷物を置いて、外に出る。

人数が多いから、部屋が3つに分かれた。

その結果、唯が同じ部屋。

嬉しいけど、複雑。

こんな気持ちで、唯の寝顔なんてみたくない。

唯「綺麗な夕ー陽」

唯の言葉で我に帰る。

私たちは、江ノ島を登って、龍恋の鐘に向かっていた。

有名なデートスポット。

恋人たちは、そこで鐘を鳴らし、南京錠に二人の名前を書いて、閉じるのだ。

夕陽は、確かに綺麗だった。

ムギ「こ、これが」

62: 2010/10/08(金) 23:13:02.52 ID:Mpwv/tmw0
澪「龍恋の鐘」

律「ドラゴンラブ」

エリ「しかし、言っちゃっなんだけど」

全員「しょぼっ!」

律「これは詐欺だぜ~」

アカネ「小さな、真新しいのに薄汚い鐘が一つ」

純「南京錠、気持悪いほどあるし」

憂「錆びてるし…」

澪「歌詞になるかと思ったのに」

アカネ「ま、まぁ気を取り直して、鐘叩いてみよう!」

和「そ、そうね」

律「じゃあ私からやるぞ~」

ご~ん

さわ子「微妙な音」

律「いいんだよ、次、ムギ!」

65: 2010/10/08(金) 23:21:13.70 ID:Mpwv/tmw0
ムギ「はい!」

次々と龍恋の鐘を叩いていくみんな。

さわ子先生は、男なんて~!と叫んでいた。

姫「わ、私も」

叩く。

みんなよりか弱い音が響く。

それだけで泣きそうになる。

律「ほら、唯の番」

唯「ほぇ?」

和「最後よ」

唯「う、うん」

緊張してるように見える唯。

でも顔が影になっていて、わからない。

唯「す~」

ガン!ガン!ガン!ゴ~ン―――!!!

67: 2010/10/08(金) 23:30:06.11 ID:Mpwv/tmw0
思わず、耳を塞いだ。

みんなも同じだ。鳥までざわめいてる。

澪「お、おい唯!」

エリ「叩きすぎ~!」

唯「あ、エヘヘ。ごめん、ごめん」

声は笑っていたけど、顔は、見たことがないほど、真剣だった。


最後に、エリが(アカネ、エリ)と書かれた南京錠を持って来ていたというサプライズがあって

(アカネは顔を真っ赤にして怒っていた。エリが勝手に閉じた挙句、鍵を海に投げたから)今日は終わり。

みんな疲れていたのか、ご飯時までは騒いでいたけど、早々に寝てしまった。

深夜。

私は目を覚ました。

喉が渇いて、エリのくれたコーラを飲む。

唯がいない。

真鍋さんと琴吹さんは静かな寝息を立てている。

廊下に出ると、唯が旅館の外に出ていくところだった。

68: 2010/10/08(金) 23:36:27.51 ID:Mpwv/tmw0




唯の後をつける。

唯は、小さな街頭が灯るだけの道を歩いていく。

すると、視界が開けて。岩肌が滑らかに横たわる、浜とも、海岸とも言えない、平らなところへと出る。

きっと、満潮の時は、沈んでしまうんだろう。

唯は、ただそこに立って、海を見つめていた。

潮の匂い。

私が、声をかけられずにいると、唯が振り向いた。

唯「姫子ちゃん」

姫「気がついてた?」

唯「うん、途中から」

姫「そっか」

73: 2010/10/09(土) 00:20:13.59 ID:Sb7VnLpF0
唯は、何も言わない。

潮風が唯の柔らかそうな髪を撫でる。

雲が流れて、月が出る。

月明かりに照らされた唯が、寂しそうに微笑んだ。私は、唯の事を初めて。

かわいいでも。

愛しいでもなく。

綺麗だと思った。

唯「姫子ちゃん、私、謝らなくちゃいけない」

姫「何を?」

唯「あの時、教室で、キ、キスしちゃったこと」

なんで謝るんだろう。

私が、過剰に反応してしまっただけなのに。

姫「別に、気にしてない――」

唯「嘘だよ!」

75: 2010/10/09(土) 00:27:27.73 ID:Sb7VnLpF0
唯が。

泣いてる。

唯「嫌な事されたから、逃げたんだよね。気持ち悪かったから」

姫「ゆ、唯、ちが―」

唯「今日ね、あの鐘にお願いしたの。姫子ちゃんに謝って、許してもらえますようにって。また、友達になれますようにって」

姫「ゆ、唯」

唯「ごめんなさい。許して下さい」

唯は、私に謝った。

唯に謝られるのは、嫌だ。心が苦しくなる。

でも、わかったこともある。

唯は、私の気持ちにまだ、気がついてない。

良かった。

ホントに良かった。

唯にまだ,嫌われてない。

気持ち悪いと思われてない。

77: 2010/10/09(土) 00:31:29.13 ID:Sb7VnLpF0
姫「唯、聞いて」

本当なら。

私は、ここで自分の気持ちを。

唯の事が好きと。

言ってしまいたかったけど。

私は、臆病だから。

卑怯だから。

姫「ちょっとビックリしただけだったんだよ。あの時。真鍋さんも来たし、なんだか恥ずかしくなっちゃって」

嘘つき。

唯にキスされるのを、何度も想像してたのに。

唯「へ?和ちゃん?」

姫「あれ?気がついてなかった?」

唯「うん」

姫「だから、私が教室出てったのは、それだけの理由。ごめんね、誤解させちゃったみたい」

嘘つき。

78: 2010/10/09(土) 00:37:22.34 ID:Sb7VnLpF0
でも。

唯「そっか~!なんだ、勘違いでござったか~!」

安心した唯の顔。

これで。

友達に戻れる。

姫「だから、今までどうり、ね!」

唯「あ、うん」

唯の顔が曇った。

月明かりのせいかもしれないけど。

唯「あ、あのね!」

姫「ん?何?」

唯「///もう一つ、言いたいことがあるんだ」

姫「?」

唯「大好き!」

友達に戻れた。

79: 2010/10/09(土) 00:44:07.15 ID:Sb7VnLpF0
嬉しくて泣きそう。でも、悲しい。

変な感情!

唯とは暫く海岸で雑談をして、二人で旅館に戻った。やけに嬉しそうな唯は、可愛かった。

明日からは、今まで通り。

今まで通りの、友達。





夏休み。

みんなとの旅行も終わって、何もない今日一日。

私はぽけーとしていた。告白。

生まれて初めての告白。姫子ちゃん。

あんなに、言うのが怖くて、恐ろしかった、告白。女の子が女の子に好きって言う。

そういう告白。

なのに。

81: 2010/10/09(土) 00:46:57.14 ID:Sb7VnLpF0
わたしあの海岸で、スルリとしてしまった!

大好き!って。

唯「///くぅ~う、恥ずかしいぜ、ギー太!」

枕を抱えてゴロゴロ。

唯「し、しかもですよ、奥さん!姫子ちゃん、微笑んでくれた!あれは、OKって事かな、事だよね!」

奇跡。

ミラクル。

逆転満塁ホームラン!

唯「そ、そうと決まれば、あ、あれかな、デートかな!」

姫子ちゃんとデート!

憂「お姉ちゃんうるさい~。なに騒いでるの?」

しまった。

舞い上がりすぎて、マイシスターに怒られた。

唯「てへへ。とにかく、メールしよ」

唯「明日遊びませんか。そ、その二人で。っと///」

121: 2010/10/09(土) 17:51:18.04 ID:VruoZhf20
神様。

お月様。

竜神さま。

ありがとう♪





姫「また早くに来てしまった」

夏休み。

早朝の駅前。

唯から来たメールを見返し眺める。

姫「旅行終わって、3日。まさか唯から遊ぼうなんて。それも二人っきりって」

こないだ誤解も解けて。関係は修復。

現状維持。

ガラスに映る今日の私。

私はどうも、気合いを入れると、地味な恰好になってしまうらしい。

123: 2010/10/09(土) 17:54:07.51 ID:VruoZhf20
唯「ひっめっこちゃん!」

姫「おお~?唯!」

背後から飛び付いてきた。

今日の唯は活きがいいな。

唯「早くきちゃたっら、姫子ちゃんも来てたんだね。へへ///照れるぜ!」

直視するだけでこちらが照れてしまうような笑顔。

姫「早く起きちゃったからね」

唯「私も、私も!いやぁ~緊張して眠れませんで。姫子ちゃんは?」

姫「私もそんな感じかな」

唯「そっかぁ~そっかぁ♪」

唯、なんだか嬉しそう。

唯「さぁ、いざ行かん!」

今日の目的はショッピングのようだ。

電車に乗って5つ先のショッピングモール。映画館なんかも入ってる大きなところ。

姫「行き先は任せてなんていってたけど、唯、決まらなかったからここにしたんでしょ?」

124: 2010/10/09(土) 17:55:40.87 ID:VruoZhf20
唯「う!」

図星だったみたい。

唯「だってさ、姫子ちゃんと行きたいとこありすぎて」

嬉しいことを言ってくれる。

姫「で、どこから行く?」

私は顔がニヤけないようにしながら唯と歩く。

唯「へへ~♪ほれ!」

唯が右手を差し出してくる。

姫「なに?」

唯「何って、ほれ!」

唯、何したいんだろ。

唯「まったくも~姫子ちゃんは鈍感さんだな!」

ぎゅ!

姫「ち、ちょっと唯?///」

手、繋がれた――

125: 2010/10/09(土) 17:58:20.35 ID:VruoZhf20
唯「恥ずかしがりやだね、姫子ちゃん♪」

心臓の鼓動が早くなる。

ほんとうに、唯のスキンシップは過剰すぎる。

キスされた時だってそう。

ほんとうに――

姫「わかったわかった」

手を繋ぐ。

私は学習した。

こんな事では泣かない。

最初に入ったのは、ちょっとメルヘンな雑貨屋だった。

唯はかわいいかわいいを連呼していて、私はかわいいのはお前だ!と心の中で繰り返した。

手は、ずっと握られていた。

もう離すまいと言うように。

姫「これ、いいんじゃない?」

私はふざけて、造花で出来た花輪を唯の頭に被せる。

126: 2010/10/09(土) 17:59:14.78 ID:VruoZhf20
唯「じゃあ姫子ちゃんも!あはは、姫子ちゃんの頭に花が咲いてる!」

姫「唯だって!」

唯「へへへへ♪」

姫「ハハハ」

笑い合う二人。

手を繋いだまま。

周りの人がみたら、何に見えるんだろう。

姉妹?


恋人?

どうしたって仲のいい友達にしか見えない。

つまりはそういう事。

私の想いは、異常。

唯「どうしたの、姫子ちゃん?」

思わず暗くなっちゃった。

127: 2010/10/09(土) 18:01:54.32 ID:VruoZhf20
姫「ああ、ごめん、ごめん。考え事」

唯「…そっか」

うん。と気合いを唯が入れる。

唯「お昼食べに行こう!」





私は固まっている。

唯がこんな事するから。

唯「あ~んてば!」

唯はチョコクレープをフォークに指して、私に差し出している。

って、なんでお昼ご飯にクレープ?

因みに私はパスタ。

姫「あ、あのさ」

唯「あ~ん」

唯は意外と強情だった。

128: 2010/10/09(土) 18:03:50.75 ID:VruoZhf20
姫「あ、あ~ん」

パク。

これはもう、恋人同士のラブラブイベントとしてよく知られている行為だよね?

今日は、唯の中で恋人ゴッコの日だったりするのかな。

姫「も、もしかして、私、彼女役だったりとか?」

唯「ん?ん~どっちかって言うと彼氏!」

そっか。

そういうことなら、楽しもうかな。

うん。

姫「唯、もう一口」

イケメンの声を精一杯だしてみる。

唯「へへへ♪太るよ~」

そういいながら、差し出すフォーク。

幸せだな。

ホントの恋人同士なら、よかったのに。

129: 2010/10/09(土) 18:05:05.98 ID:VruoZhf20
それからまた手を繋いで、映画を見て、服を見てまわる。

唯「姫子ちゃんの手、温かいね~」

姫「唯は熱い」

私の手は冷たい。唯のお陰で温くなっただけ。

離れればまた冷たくなる。

唯「あ、このTシャツは!」

唯がぐぃっと引っ張る。

唯「姫子ちゃん!」

唯が私に見せたのは、「らぶりー」と 書かれたピンクのTシャツ。

唯「お揃いで買わない?!」

唯、スゴいセンス。

でも、唯なら似合うかも。

そう考えると、唯って不思議な子だな~

姫「買おうか」

唯の顔がパァァと輝く。

130: 2010/10/09(土) 18:06:59.19 ID:VruoZhf20
私は心の中で呟く。

こんな可愛いい子が私の恋人なんだよ。

って。

姫「ふふっ」

唯「姫子ちゃん」

姫「なに?」

唯「好きだよ、姫子ちゃん」

ゴッコの続き。

今日は恋人。

姫「私も好きだよ、唯」

唯「へへ♪」

姫「///」


帰り道。

駅を降りて、私はバス停に向かう。自転車でも来れない距離じゃないけど、髪のセットが乱れるのが嫌だったから。

133: 2010/10/09(土) 18:10:17.47 ID:VruoZhf20
バス停でバスが来るのを待つ。

運悪く、行ったばかりで、次は30分後だった。

姫「って唯?」

唯が待合いの椅子に座っていた。

唯「姫子ちゃんが行くまで、ここにいるよ」

夕陽が唯の横顔を照らす。

普段はほわほわした顔なのに、月とか、夕陽とかに照らされると、こんなに綺麗になるんだろ。

ちょっと反則。

姫「暗くなっちゃうよ」

唯「大丈夫だよ。家近いもん」

姫「ああ、そうだったね。よく走って来てるもんね、遅刻しそうになって」

唯「み、見てたの?」

姫「窓からね」

唯「恥ずかしいでござる~」

姫「ギター、いっつも背負ってるね。重くない?」

134: 2010/10/09(土) 18:12:34.73 ID:VruoZhf20
唯「重くないって言ったら嘘だけど、相棒だからね!」

姫「あれ?彼氏じゃないの?はは」

唯「彼氏は姫子ちゃんだよ~」

姫「アハハハ。ありがと」

唯「私ね」

姫「うん」

唯「姫子ちゃんともっとお喋りしたいよ」

姫「――ありがと」

唯「あ~楽しかった。夏休み、ずっとこんなんだったらいいのに~」

姫「三年だもんね、勉強しなきゃ」

唯「受験か~」

姫「憂鬱」

唯「でも、まだ学園祭があるよ!」

姫「唯のライブ、楽しみにしてるよ」

唯「えへへ。なら姫子ちゃんの為にがんばっちゃおうかな~」

135: 2010/10/09(土) 18:16:23.28 ID:VruoZhf20
姫「調子いいこと言って」

唯「ほんとだよ~」

唯との会話は楽しくて。

バスなんか来なければいいと思った。




夏休み。

結局、あれから唯とは遊ばないまま、最後の週を迎えてしまった。

お互い受験勉強があるし。

私はバイトもあるし。

でもそんなのは言い訳で。

私は唯の誘いを三度断った。

恋人ゴッコ。

しているときはあんなに楽しかったのに、家に帰ったとたん、悲しくなった。

やっぱり、唯と一緒にいるのはつらい。

わかってた事だけど。

136: 2010/10/09(土) 18:18:58.53 ID:VruoZhf20
姫「らぶりー、か」

私は、あの時買ったTシャツを、パジャマにしていた。

外に着ていくのは、抵抗感があるし。

さわ子先生からもらった唯の写真は、二枚とも部屋にひっそり飾ってある。

実は、あの後もう一枚もらった。

机に頬づえ。

真面目な横顔。



時間は瞬く間に過ぎて。

学園祭の準備が始まった。

和「じゃあ、秋山さん。田井中さん。よろしくね」

クラスの出し物は演劇。

ロミオとジュリエット。

自分にも票が入ってあせった。

唯にも一票入っている。

137: 2010/10/09(土) 18:22:29.95 ID:VruoZhf20
私が入れた。

あーあ。唯のジュリエット、見たかったな。

唯「姫子ちゃんのロミオ、見たかったな~私入れたのに」

私に入れた犯人の一人はお前か!

和「じゃあ次々に決めましょう」

結局、私は裏方に回って、唯は木Gになった。




最近、姫子ちゃんは私に冷たい。

ううん。冷たいわけじゃないんだけど、なんか浮かない顔。

デートも、してない。

時々一緒に帰るけど。

唯「なんだかな~」

姫子ちゃん。

私のこと、ほんとはどう思ってるんだろう。

138: 2010/10/09(土) 18:23:35.01 ID:VruoZhf20
律「ほら唯。練習するぞ」

そうだった。

今は部活中。

学園祭に向けて特訓中。

澪「しかし、新曲ひとつくらい入れたいな」

梓「曲はムギ先輩が作ってあるんですけどね」

律「ん~結構激しいんだよな、曲調が」

ムギ「戦いのイメージなんだけど。激しいのやりたくて」

澪「今まで柔らかい感じだったもんな」

律「その大半の原因は澪の歌詞だろ!」

澪「む。まぁあの曲に合う歌詞、なかなか思い付かないんだよ」

ムギ「ごめんなさい」

唯「でも曲はカッコイイんだよね」

律「おし!いっちょ皆で書いて来るか!わが作詞家が不調だし」

澪「不調ってわけじゃ」

144: 2010/10/09(土) 19:06:56.22 ID:VruoZhf20
ムギ「そうね。そうしましょう。持ち寄れば文殊の知恵ね!」

唯「歌詞か~書けるかな」

ムギ「頑張りましょう。唯ちゃん」




唯「ってことがあってね」

姫「それで歌詞は?」

唯との帰り道。

小雨が降って、傘を忘れた唯を私の傘に入れていた。学園祭の準備のせいで、もう真っ暗だ。

唯「何回か持ち寄っんだけど、なかなかうまくいかなくてね~」

姫「そうなんだ」

唯「りっちゃんと澪ちゃんは劇の稽古で忙しくなちゃったし」

姫「でも、少しはさまになってきたよ、あの二人」

唯「そうだね!あ、そうだ。私は?私の木G!」

木の真似?をする唯。

145: 2010/10/09(土) 19:09:15.80 ID:VruoZhf20
姫「う、うん。不動!って感じ…」

唯「へへへ♪~」

唯は、ほんとに忙しくて楽しそう。

それに比べて私は。

146: 2010/10/09(土) 19:24:21.96 ID:VruoZhf20
唯「じ、じゃあ、ご、ご褒美に、キスして欲しいな!…なんて」

なにを言っているのだろう、この娘は。

唯「姫子ちゃん?」

なんでかな。

私の中の何かは、音を立てて弾けとんだ。

姫「いつも、唯は」

唯「なに?なんか怖いよ、姫子ちゃん」

姫「馴れ馴れしく呼ばないで!!そうやって、いつもヘラヘラして、抱きついてきて、手を繋いできて!キスしようとして!」

唯「なんで?私たち、その恋人―」

姫「また恋人ゴッコ?唯は、唯はそうやって、こういう事簡単に、なんの価値もないみたいにやるけど、

中には、中には女同士でも、真剣に恋しちゃう人もいるんだ!!」

私は、今度は泣かなかった。

姫「唯はそういうの、信じられないだろうし、気持悪いんだろうけど」

唯「姫子ちゃん、なんで」

私は、傘を離して、後ずさる。

147: 2010/10/09(土) 19:28:10.28 ID:VruoZhf20
傘が唯を覆って、顔は見えなかった。

でも、唯は傷ついた顔をしている。

唯は優しくて、純粋だから。

姫「気をつけて、帰って」

私は。

こんな事を言って唯を傷つけた自分に嫌悪しながら雨の中を歩いた。





あれから考えた。

あの雨の日から。

でも分からない。

わかるのは、姫子ちゃんがとても傷ついた顔をしていた事。

私のせいで。

それと。

どうやら恋人じゃなかった事。

148: 2010/10/09(土) 19:31:53.57 ID:VruoZhf20
そして。

嫌われてしまったこと。

何がいけなかったのかわからない。

どうすればいいのかわからない。

唯「また、やっちゃった…」

和ちゃんにいつも言われてたっけ。

周りをちゃんと見なさいって。

勝手に恋人扱いされたら、怒るよね。

梓「唯先輩!久しぶりのケーキですよ?」

律「どうしたんだ?唯」

和「何かあったの?」

今日は和ちゃんもまじえて学園祭の打ち合わせ中。

和ちゃんは私の顔を覗き込んでジーっと見ている。

梓「ほんとどうしちゃったんですか」

唯「なんでもないよ?」

149: 2010/10/09(土) 19:38:39.96 ID:VruoZhf20
ムギ(これは、あの時と同じ反応。最近、姫子ちゃんもおかしい)

律「早く食べよ~ぜ!」

澪「歌詞、歌詞…」

ムギ「姫子ちゃん?」

姫子ちゃん?

誰だっけ。

忘れられないよ。

大好きな人。

唯「ふ、ふぇ。ぐす」

泣いてしまった。

不覚っ。

梓「唯先輩!?」

律「唯?」

澪「と、とにかく落ち着け」

和「唯…」

151: 2010/10/09(土) 19:46:38.52 ID:VruoZhf20
ガチャ

さわ子「ちょりっす」

律「タイミング考えろよ!」

さわ子「な、なによ?って唯ちゃん?」

唯「ぐす。ごめんね、大丈夫だから」

さわ子「何?解散でもするの?」

律「さ~わ~ちゃん!空気読めって!」

さわ子「わかってるわよ」

唯「大丈夫、大丈夫だから、気にしないでお茶しよ!」

私は無理矢理笑った。

さわ子「唯ちゃん。笑えてないわよ。それに酷い顔。鼻水ダラダラよ?」

さわちゃんが近づいてくる。

さわ子「何があったか知らないけど、一人で悩んでるんでしょ?やめなさい、そういうの。ここはどこ?」

唯「お、音楽室」

さわ子「放課後ティータイムの部室よ。それにアナタの幼なじみ」

155: 2010/10/09(土) 19:55:58.33 ID:VruoZhf20
律「さわちゃん…」

さわ子「頼りにならない?」

唯「ううん」

首を横に振る。

律「そーだぞ!私たちに任せろ!そしてとりあえず鼻水ふけ!」

ムギ「はい、ティッシュ」

唯「うん」

ちーん。

鼻を噛んだら少しすっきりして。

唯「あのね…」

私はみんなに姫子ちゃんの事を話した。


私が女の子を好きだってことは、みんな受け入れてくれた。

さわ子「青春ね~」

澪「茶化さないでください」

156: 2010/10/09(土) 20:05:57.39 ID:VruoZhf20
和「でも、私たちは」

梓「何も出来ないかも」

さわ子「色恋だしね~」

律「う~ん、私は話がこんがらがっててわからん」

澪「昔から、この手の話苦手だもんな」

唯「ううん。聞いてもらったらなんだか気持ちが軽くなったよ!」

さわ子「いっそのこと、もう一度告白したら?白黒はっきりするわよ?」

律「そういう性格だから、恋人に逃げられ―」

さわ子「あん?」

律「ナンデモアリマセン」

唯「でも、姫子ちゃんには避けられて」

和「それなら…」

159: 2010/10/09(土) 20:15:09.03 ID:VruoZhf20




私は、姫子ちゃんが好き。

どんなことがあっても。 姫子ちゃんが欲しい。

だから――



律「出来たか?」

唯「ううん///」

梓「じゃあ、やってみましょう!」

ムギ「うん!」

澪「よし!」

律「いくぞ~!ワン・ツー・スリー!」

161: 2010/10/09(土) 20:19:59.96 ID:VruoZhf20

学園祭2日目



幕が上がる。

私たちはさわちゃんの作ってくれた衣装を着て。

ステージの上に立っている。

唯「ギー太、がんばろう」

幕が開いた。



唯「ふわふわタイム~」

澪「ふわふわタイム~」

ダダン、ダダン、ジャン!

唯「改めまして、放課後ティータイムです!」

歓声!

唯「まずはメンバー紹介!秋山澪~!」

162: 2010/10/09(土) 20:28:10.00 ID:VruoZhf20
澪「こ、こんにちわ」

唯「澪ちゃんは、昨日のクラス劇で、ロミオだったんですよ!ではロミオの台詞、どうぞ!」

澪「おぉジュリエット!」

澪ファンクラブ「キャ――― ♪」

唯「そして、ギターの中野梓ちゃん!」

梓「ど、どうもです」

唯「あずにゃんは後輩で、とっても可愛いいんですよ。ほら、ネコマネ!」

梓「えっと、ニャー」

梓憂「梓ちゃ~ん!」

梓「ちょ、唯先輩、何やらせるんですか!」

歓声「ハハハハハハ♪」

唯「そしてキーボード、琴吹紬!」

ムギ「はじめましてこんにちわ。紬です。私たち放課後ティータイムは、

毎日部室で練習しているので、いつでも聞きにきてください~」

前三人「ムギさん~」

165: 2010/10/09(土) 20:36:33.06 ID:VruoZhf20
唯「最後に、前髪下ろすと超絶イケメン、田井中律~!」

律「なんで私だけ煽りあんだよ!」

クラスメイト「律~!」

律「え~部長の田井中律です」

唯「あれ?それだけ?あ、そうそう!りっちゃんは、劇でジュリエット役だったんです!ではどうぞ!」

律「え、聞いてない。――すっう~あぁロミオ、どうしてあなたはロミオなの!」

クラスメイト「律最高!」

唯「では次の曲~」

律「自分、忘れてるぞ!」

唯「あ、あれゃ~」

歓声「ハハハハハハ♪

律「最後に、放課後ティータイムのマスコットキャラ、のんびり妖精平沢唯~!」

唯「あーはじめまして。平沢唯です。ほんとに、軽音部って、音楽って楽しいです。ぜひ皆軽音部へ~!」



ステージに立つ唯は、輝いていた。

167: 2010/10/09(土) 20:47:08.44 ID:VruoZhf20
跳ねて、歌い、ギターを掻き鳴らす。

姫「見に来ちゃた…」

見ないって決めてたのに。

唯が演奏するのを見るのが最後かもって思ったら。

姫「唯、楽しそう」

唯の笑顔は、単純に嬉しいのに。

私の事、気にしてないんだと思うと。

悲しくなる。

でも、ステージには惹き付けられる。思わず手を叩いてしまう。

やっぱり、唯はスゴい。あんなバンドの一員なんだから。

演奏が終わる。

もう唯の演奏、見られないんだろうな。

そんなことなら、一度目の前で弾いてもらいたかったな。

唯。唯。唯。

姫「どうやれば、唯のこと、忘れられるんだろうね、唯?」

169: 2010/10/09(土) 20:55:10.85 ID:VruoZhf20
小言で。

呟いていたら――

唯「最後の曲の前に、少しだけ喋らせてください!」

唯は唐突に。

客席に向かって喋りだした。





唯「最後の曲の前に、少しだけ喋らせてください!」

私は、和ちゃんを見た。 和ちゃんは頷く。

気がつくと、りっちゃんもムギちゃんもあずにゃをも澪ちゃんもさわちゃんも。

みんな私を見て、頷いてくれた。

よし。

頑張るから、見ててね。

唯「私は、私には好きな人がいます!」

どよめく客席。

170: 2010/10/09(土) 20:57:42.55 ID:VruoZhf20
唯「私は、その人と今、会話さえありません。昔は友達だったけど、どう間違ったか、そんな風になっちゃて」

いったん、言葉を切る。

そして見る。

幕が上がる前から、ずっとその姿を探して。

そして見つけたあの人。来てくれたんだね。

172: 2010/10/09(土) 21:09:46.97 ID:VruoZhf20
唯「でも私は、諦めが悪いんだ!だから、ここでもう一度告白します!では最後の曲!!」

唯「プリンセス!!!」

大好きな人は塔の上。

手を伸ばしても届かない。

届かなくても手を伸ばす。

あなたは私のプリンセス。

千の刃や砲弾も。

私の想いは砕けない。

血潮にまみれて倒れても。

ただただ私は突き進む。

ねぇロミオとジュリエット。

そんな覚悟が必要よ?

あなたは私のプリンセス!!

梓澪ムギ律「ギタ――!!!」

173: 2010/10/09(土) 21:12:12.12 ID:VruoZhf20
私は。

ギターに。

全てを乗せる。

弾いて、弾いて、弾いて。

激しい曲調。

難解なコード。

一つ間違う。

でも気にしない。

みんなの音が駆け上がる。

音が、重なって。

そこで、みんなは音を止める。

静寂。

私は独り、息を吸う。

唯「――大好き!!!」

再び音が鳴り響く。

175: 2010/10/09(土) 21:20:41.38 ID:VruoZhf20
好き。好き。好き。

姫子ちゃん。





後夜祭。

校庭の真ん中で燃える炎の周りで、ダンスを踊る。曲はマイムマイム。

でも私は、その輪に入らず。

少し離れたところで、座って見ていた。

りっちゃんと澪ちゃん、恥ずかしながら踊ってる。お祭りの後は寂しい。

夕闇がそれを包んでいる。

唯「終わっちゃうな」

エリちゃんとアカネちゃん、踊り上手いな。

唯「これが、燃え尽き症候群ってやつかな」

ライブは、どうだったのだろう。

わたしたち放課後ティータイムはあの後、部室で泣いて。

176: 2010/10/09(土) 21:23:45.38 ID:VruoZhf20
もう三年生なのだ。

笑い声が校庭に響く。

私のライブも、告白も。過去になってしまう。

唯「姫子ちゃん」

そもそも、なんで私は姫子ちゃんが好きなんだろう。

唯「ん~わからん」

隣の席になって。

お喋りして。

唯「でも、好きなんだからしかたないよね」

姫子ちゃんの返事を聞きたい。

こんな感情も、時間がたてば風化しちゃうのかな。

エラくセンチメンタルな気分になるのは、後夜祭という雰囲気のせいかな。

姫「ここ、いいかな?」

姫子ちゃんが、来た。

唯「うん」

178: 2010/10/09(土) 21:30:09.61 ID:VruoZhf20
自分でも、信じられないほど落ち着いている。

姫「よいしょ」

姫子ちゃんが私の隣に座る。

唯「姫子ちゃん、おばちゃん臭いよ~」

姫「唯」

見つめられる。

唯「なに?」

姫「ライブ、見たよ」

唯「うん」

姫「カッコよかったよ」

唯「うん」

姫「ごめんなさい」

唯「うん」

そっかぁ。

今度こそ振られたれちゃった、へへ。

179: 2010/10/09(土) 21:41:33.71 ID:VruoZhf20
姫「誤解してた。私」

唯「へ?」

姫「唯、あの曲」

唯「姫子ちゃんだよ。私が好きなのは姫子ちゃん」

姫「…嬉しい」

唯「へ?」

姫「あんな告白された後だと、言い出しづらいけど。私と付き合ってください」

唯「ほんとに?」

姫「好きだよ、唯」

唯「姫子ちゃん」

姫「誤解しまくりだったね、私も唯も」

唯「いや~お恥ずかしい限りで///」

姫「笑ってくれた」

唯「姫子ちゃんも笑って?」

姫「笑わせて?」

180: 2010/10/09(土) 21:48:10.90 ID:VruoZhf20
唯「えっと、なにすれば」オロオロ

姫「ププ。あははは!私ね、気がついたんだ。唯見てると、笑っちゃうの」

唯「え~?酷いよ姫子ちゃん」

姫「唯見てると、幸せな気分になる」

唯「そ、そんなに見つめるなよ、て、照れるぜ///」

姫「キスしよっか」

唯「へ?へへ///」

姫子ちゃんの顔が近づいて。

目をつぶる。

すると。

唯「はにするの~」

ほっぺを伸ばされた。

姫「だって、唯の頬っぺた、柔らかくて気持ちーんだもん」

唯「なにを~」

私も姫子ちゃんのほっぺを伸ばす。

181: 2010/10/09(土) 21:52:11.45 ID:VruoZhf20
姫「これが、始まりだったね」

唯「め、面目ねぇ」

姫「唯のせいじゃないよ。あ、そうだ。あの時のキス、本気だったの?」

唯「はい。いや、ほんの出来心で、つい」

姫「そっか♪」

唯「許してくれる?」

姫「あげない♪」

唯「え~?」

姫「罰として、毎日頬っぺたを触らせること!」

唯「わかった!」

姫「それから、私にパフェを奢ること!」

唯「ご、ご無体な」

姫「今度デートしようね?」

唯「パフェはその時に?」

姫「パフェはその時に♪」

182: 2010/10/09(土) 21:57:17.34 ID:VruoZhf20
唯「むぅ。しかたない」

姫「唯」

ちゅ

ほっぺにキス。

唯「///姫子ちゃん、ほっぺホントに好きだね~」

姫「頬っぺたに惚れたの」

唯「そ、そうなの」ショボン

姫「って、唯、落ち込まないでよ~冗談だよ」

ちゅ

キスした。

姫子ちゃんの手に。

唯「私は手!」

姫「なんとまぁマニアックな」

唯「あれ?落ち込まない」

姫「唯とは違うの」

184: 2010/10/09(土) 22:04:05.18 ID:VruoZhf20
唯「なんかずるい」

姫「大好き、唯」

唯「大好き、姫子ちゃん」

緩やかに流れる音楽。

辺りはもう暗くて。

ここまでは炎の明かりも届かない。

姫「唯」

唯「姫子ちゃん」

唇を軽く重ねて。

一度抱きしめあって。

もう一度だけ――――――



185: 2010/10/09(土) 22:14:15.79 ID:VruoZhf20
姫子ちゃんが立ち上がる。

姫「唯、踊りに行こう!」

手を差し伸べられる。

唯「ラジャー!」

手を握る。

もう、離さない。



おわり

186: 2010/10/09(土) 22:18:08.60 ID:D7fAcVEVO
ちょうど終わったか乙
唯姫いいな

188: 2010/10/09(土) 22:23:36.03 ID:WbHTjF0Z0


姫子に目覚めた

191: 2010/10/09(土) 22:29:56.45 ID:VruoZhf20
えんだぁぁぁぁ

引用元: 唯「姫子ちゃん♪大好き!」