546: ◆iX3BLKpVR62015/01/28(水) 01:23:37.39 ID:EUsZDlfE0
というわけで、「比企谷八幡のその後」でした。大分長引かせてしまって申し訳ない!
次からは番外編をちょくちょくやっていく予定ですので、気長にお待ちください。
421:◆iX3BLKpVR6 2014/12/09(火) 22:18:35.43 ID:sah46KGJ0

ある日の風景



光「奈緒! メダルを!」

奈緒「よし……こいつを使え! 光!」 チャリーン

光「変身!」 キンッ キンッ キンッ



『ハンサム!』『優しい!』 『真面目!』

『ハ・ヤ・マ! ハヤマ! ハ・ヤ・マ!』



麗奈「ハヤマコンボね……ふんっ! なら、こっちはコレよ!」 ユキノ!

未央「おうともさ!」 ユイ!



『YUKINO/YUI!!』



光「なっ、あの二人が合体したら最強じゃないか!」

奈緒「くっ、今のコンボじゃ勝てないな……ならこれだ!」 チャリーン

光「これは……! なるほど! これなら勝てそうだ!」 キンッ キンッ キンッ



『卑怯!』『頑固!』『皮肉屋!』

『ヒキ~ガヤ~!』



麗奈「むむ、ありゃ厄介ね」

未央「面白くなってきたぁ!」



ーーー
ーー




ワーワー! キャーキャー!



凛「あれは何やってるの?」

ちひろ「暇だから仮面ライダーごっこですって」

八幡「おい。俺の扱いオイ」



445: 2014/12/15(月) 22:17:47.41 ID:GlQh8kXe0

ある日の風景 奉仕部編



由比ヶ浜「うぅ~……ヒッキー、今頃何やってるのかなぁ」

雪ノ下「恐らく、プロデュース活動でしょうね」

由比ヶ浜「それは、そうだけど……そうじゃなくて!」

雪ノ下「なら、レッスンの付き添い。ライブの打ち合わせ。もしくは事務所で企画会議や事務仕事をやっている、というのはどうかしら」

由比ヶ浜「別に具体的に何やってるのかとか、そういう意味で訊いたんじゃないから!」

雪ノ下「なら、どういう意味で訊いたのかしら?」

由比ヶ浜「それは、えっと……」

雪ノ下「…………」

由比ヶ浜「うぅ……」

雪ノ下「……心配なのね、彼の事が」

由比ヶ浜「そう、なるのかな……?」

雪ノ下「大丈夫よ。彼は目も性根も根性も腐った人間だけれど…」

由比ヶ浜「ゆ、ゆきのんが相変わらず容赦ない」

雪ノ下「……けれど、自分の信じたものにはどこまでも真っ直ぐな男よ。それが周りから蔑まれ、虐げられる道であっても、ね」

由比ヶ浜「……ふふっ」

雪ノ下「な、何を笑っているのかしら」

由比ヶ浜「ううん。ゆきのんって、ヒッキーがいない時はあんまり酷い事言わないなーって」

雪ノ下「そ、そうかしら。……気のせいだと思うけれど」



446: 2014/12/15(月) 22:18:54.91 ID:GlQh8kXe0



由比ヶ浜「あはは♪ ……あっ! そうだ!」

雪ノ下「どうしたの?」

由比ヶ浜「あたしたちも、アイドル目指そうよ! そうすればヒッキーと一緒にお仕事出来るし!」

雪ノ下「それはまた、安直な発想ね……」

由比ヶ浜「ねぇねぇ、どうかなゆきのん?」

雪ノ下「そうね……私はどちらかと言うと、比企谷くんのやってるようなプロデューサー業の方が興味はあるけれど……」

由比ヶ浜「? ゆきのん?」

雪ノ下「……やっぱり、私は遠慮しておくわ」

由比ヶ浜「えーっ! どうして?」

雪ノ下「私が奉仕部の部長である以上、ここを空けるわけにはいかないからよ。……未だついていない勝負も、忘れるわけにはいかないもの」

由比ヶ浜「勝負??」

雪ノ下「こちらの話よ」

由比ヶ浜「ふーん……?」

雪ノ下「けれどもちろん、由比ヶ浜さんがアイドルを目指すというのなら、私は応援するわ」

由比ヶ浜「ゆ、ゆきのん……!」

雪ノ下「最近では、バカドルというのが流行っているのでしょう? 中々、言い得て妙な言葉ね」

由比ヶ浜「ゆきのんが辛辣だ!?」

雪ノ下「ふふ……冗談よ」

由比ヶ浜「もーうっ!」

雪ノ下「ふふふっ」

由比ヶ浜「……あはは。それじゃあ、あたしもやーめよっ」



447: 2014/12/15(月) 22:19:53.98 ID:GlQh8kXe0



雪ノ下「! やめるって、アイドルを目指す事を?」

由比ヶ浜「うん。よく考えたら、あたしはヒッキーと……ゆきのんと三人で一緒にいたいから」

雪ノ下「…………」

由比ヶ浜「だから、ゆきのんを一人にしたら意味ないじゃん? あたしも、ここでヒッキーを待つことにするよ」

雪ノ下「……そう」

由比ヶ浜「うんっ!」

雪ノ下「それなら、今日も活動を始めるとしましょうか」

由比ヶ浜「よーし! とりあえずはメールのチェックだね! 張り切っていこう!」

雪ノ下「まぁ、あなたがまともに解答した事は殆ど無いのだけれどね」

由比ヶ浜「ゆきのんってばもうっ! 一言余計だし!」



ウフフ……アハハ……



ーーー
ーー




材木座「ふむ……今日の所は原稿を読んで貰うのはやめておくとするか」

平塚「おや、どうしたんだね。扉の前に立っていたりして」

材木座「すまないが、今ばかりは彼女らの邪魔はせぬようお願い申す。今この部屋には、貴女の失ったもので溢れているのだ」

平塚「は?」

材木座「けぷこんけぷこん……主に、若さとか」

平塚「よーしちょっと着いて来ようか。生徒指導室はコチラだ」



448: 2014/12/15(月) 22:23:23.83 ID:GlQh8kXe0
本編の更新は無いよ。無いんだ……
でも小ネタはこんな風にたまーに投下するかも!

百合属性は無いんだけどなぁ……ガハマさんと雪ノ下さんの絡みは原作読んでても微笑ましくなっちゃう。

458: 2014/12/17(水) 22:11:52.24 ID:jRkzGT7k0

ある日の風景 その2



美嘉「あれ? それってもしかしてアタシたちが表紙やった雑誌?」

八幡「ん……まぁな」 パラパラ

美嘉「へー、ほー、ふーん?」

八幡「なんだよ、凛の真似か?」 パラパラ

美嘉「あはは、別にそんなつもりじゃないって。なに、サンプルでも貰ったの?」

八幡「いや、コンビニで売ってたから買ってきた」 パラパラ

美嘉「そ、そうなんだ。……で、どう?」

八幡「どう、とは?」 パラパラ

美嘉「もう、可愛く撮れてるかに決まってるじゃん? アタシも莉嘉も、今回はかなり良かったと思うんだけど★」

八幡「まぁ、良いんじゃねーの」 パラパラ

美嘉「だから、そんなテキトーな答えじゃなくてさ。正直な意見を聞かせてよ!」

八幡「…………」 パラ…

美嘉「?」

八幡「……少なくとも、俺が個人的にお金を出して衝動買いしたくなる程には、その…………可愛いと思う」

美嘉「…………」

八幡「…………」

美嘉「……ぶっちゃけちょっとキモイ」

八幡「俺の正直を返せ」






莉嘉「?? 二人とも顔赤くなってるけど、どうかしたの?」

ちひろ「なんででしょうねー。とりあえず壁殴り代行依頼しておきますね」



565: 2015/01/30(金) 00:41:05.23 ID:MJ+3AK9Q0

ある日の風景 その3



未央「ねぇねぇプロデューサー! ちょっといい?」

八幡「なした」

未央「今度、しぶりんのブロマイド発売されるんだよね? もしかして、もうサンプルとか貰ってるのかなーってさ」

八幡「……まぁ、無いこともないが」

未央「おう! やっぱり!」

八幡「それがどうしたんだ」

未央「いやね、どうにかそれをね、譲ってもらえないかな~なんて……」

八幡「無理」

未央「えー! なんで!?」

八幡「むしろ、何でお前が欲しがるんだよ。いつから凛のファンになったんだ」

未央「いやーある意味じゃ元々ファンみたいなものだけどさ。ほら、持ってたら何かと面白いことに使えるんじゃないかな~と」

八幡「諦めろ。もしくは発売まで待て」

未央「みんな手に入るようになってからじゃ遅いんだって!」

卯月「それなら、直接凛ちゃんに撮らせてもらったらどうでしょう?」

八幡「いたのか島村」

卯月「ガーンッ! さ、最初からいましたよ!? ね、未央ちゃん!」

未央「え? あ、うん。……じゃなくて、しぶりん恥ずかしがって撮らせてなんかくれないって!」



566: 2015/01/30(金) 00:41:54.55 ID:MJ+3AK9Q0



八幡「だろうな」

卯月「あぁ、そっか。凛ちゃん照れ屋さんですもんね……」

未央「うーむ…………ん? 写真? ……それなら!」

卯月「どうしたんですか? 急にケータイを取り出して」

未央「ふっふっふ……プロデューサー! これならどうだ!」 ババーンッ

八幡「っ! これは……!」

卯月「あ、可愛い。凛ちゃんの寝顔の写メですね」

未央「これと交換で、ブロマイドを私に譲ってくれいっ!」

八幡「…………」

未央「…………」

八幡「…………ブロマイドは」

未央「……ッ!」

八幡「……ブロマイドは、全3種類1セットだ。お前の手数はそれで全てか?」

未央「……フッ、今ならレッスン中のポニテしぶりんもお付けしよう」

八幡「乗った!」

未央「交渉成立!!」

卯月「い、いいのかなぁ……あはは」



567: 2015/01/30(金) 00:42:48.72 ID:MJ+3AK9Q0



 … 後日 …



未央「ねぇねぇしぶりん! 今度のテストちょっとヤバくってさ、勉強教えてくれない?」

凛「もう。また? そうろそ自分で出来るようにならないと…」

未央「まぁまぁ♪ このプロデューサーの寝顔写真あげるからさ!」

凛「ん…………いや、別に私は……」

未央「……このネクタイ緩めてる瞬間とか、中々良く撮れてると思わない?」

凛「…………」

未央「…………」

凛「……こ、今回だけだからね」

未央「やーりぃ♪」



卯月「(似た者同士だなぁ……)」






568: 2015/01/30(金) 00:46:19.86 ID:MJ+3AK9Q0
アニメで再確認するニュージェネの安定感。

一応本編完結したし、渋の方にも上げてみようかな。

569: 2015/01/30(金) 00:48:09.87 ID:ZyaCH05U0
乙です

586: 2015/01/31(土) 23:27:54.61 ID:LpJQ9KWh0

ある日の風景 野郎共編



八幡「…………」

葉山「あれ、こんな所で何してるんだ?」

八幡「っ! 葉山……」

葉山「ここから何を見て……ああ、テニスコートか」

八幡「……なんだよ」

葉山「いや、別に何でもないよ」

八幡「嘘つけ。すげぇ納得したような顔しやがって」

葉山「気のせいだよ。別に戸塚を見てたんだなとか思ってない」

八幡「めっちゃ思ってんじゃねぇか」

葉山「……いつもここで昼食を?」

八幡「……悪いか」

葉山「……いや、悪くない」

八幡「なら別に……っておい。なに隣に座ってんだよ」

葉山「悪いか?」

八幡「悪い」

葉山「ハハ。言うと思った」

八幡「暇人め」

葉山「それはお互い様だよ」



587: 2015/01/31(土) 23:28:36.01 ID:LpJQ9KWh0



八幡「…………」

葉山「…………」

八幡「…………」

葉山「……なぁ、比企谷」

八幡「……あん?」

葉山「最近、どうだ?」

八幡「お前は俺の親父か」

葉山「茶化すなよ。プロデューサーを辞めてから、元の生活には馴染んだか?」

八幡「……また、おかしな質問だな」

葉山「え?」

八幡「プロデューサーになる前から、元々周囲に馴染めてなかっただろ」

葉山「……また君は、そういう事を言う」

八幡「事実だ」

葉山「でも奉仕部は勿論のこと、戸塚や材木座くん、最近は戸部とも仲良いだろ?」

八幡「お前にはどんな風に見えてんだ。つーか、戸部がああなったのはお前のせいだろうが」

葉山「何のことか分からないな」

八幡「……さいですか」

葉山「じゃあ、訊き方を変えるよ。最近は何してるんだ?」

八幡「何って……そりゃ、あれだろ。…………奉仕部」

葉山「まぁそれも間違いではないな。じゃあプライベートでは普段何してるんだ?」

八幡「さっきからどうしたお前? 何、俺のこと好きなの?」

葉山「どちらかと言えば嫌いだよ」

八幡「お、おう…………はっきり言いやがるな」



588: 2015/01/31(土) 23:29:19.62 ID:LpJQ9KWh0



葉山「それもお互い様さ。……ただの興味だよ。ハマっているものとか無いのか?」

八幡「ハマっているもの、ねぇ」

戸塚「あれ、二人でいるなんて珍しいね」

八幡「戸塚っ!」

葉山「(今日一の声量だな……)」

戸塚「何の話してたの?」

八幡「いや、大した話じゃ…」

葉山「最近何にハマってるかって話してたんだ」

戸塚「ハマってるもの? あはは、そう言えば前にもそんな話してたね」

葉山「そうなのかい?」

戸塚「うん。八幡の趣味を探そう、って」

八幡「その話はもういい。というか、原作7巻のぼーなすとらっく!を読むか特典ドラマCDを聴け」

戸塚「何の話?」

八幡「こっちの話だ」

葉山「でも、趣味を持つのは良いと思うよ。スポーツとか、身体を動かすと気持ちいいしね」

戸塚「そうだよ八幡。今度一緒にテニスしよ?」

八幡「うぐっ…………戸塚に誘われると断れん。むしろ是非とも行きたい」

戸塚「決まりだね♪」 パァァ

八幡「可愛い」

葉山「比企谷。声に出てるぞ」



589: 2015/01/31(土) 23:30:00.98 ID:LpJQ9KWh0



戸塚「葉山くんもどう?」

葉山「いいね、俺も参加させて貰うよ。……ああ、でも」

戸塚「?」

葉山「そうしたら、3人だからダブルスは出来ないな。あと一人いれば…」

八幡「馬鹿、んなこと言ってっとあいt」

材木座「剣豪将軍んんんん、義輝! 参、上ッ!!」

八幡「遅かった……つーかホントに来やがった……」

材木座「けぷこんけぷこん! 我にかかれば雑作も無い。自分の話題には敏感なのだ」

八幡「女子のヒソヒソ話が全部自分の陰口に思えてしまうアレか」

材木座「うむ。少し違うが似たようなものよ」

戸塚「あ、あはは。それじゃあ今度の休み、皆でやろうね!」

材木座「クックック、我の108の絶技を見せてやろう……お蝶夫人は来ないよね?」

八幡「波動球でも打てんのかお前は……来ないよな?」

葉山「(誰の事か分かるのが嫌だな……)呼ばないから安心してくれ」

材木座「で、であれば結構……はーはっはっは!」

戸塚「楽しみだなぁ」

八幡「……まぁ、たまにはいいか」



590: 2015/01/31(土) 23:30:47.58 ID:LpJQ9KWh0



材木座「しかし、何故テニスの話になったのだ?」

八幡「今更それ訊くのかよ」

葉山「比企谷の趣味を見つけようって話をしてたんだ」

材木座「お、おう……成る程な」

八幡「(こいつまだ葉山に慣れてねぇのか)」

材木座「しかし、何やらデジャヴを感じる話題よのう」

戸塚「懐かしいよね」

八幡「あまり思い出したくはないがな」

戸塚「そう言えば、八幡って昔ギターやってたって言ってたよね」

葉山「え、そうなのか?」

八幡「あれをやってた内に入れていいのかは微妙だがな」

葉山「なんだ、それならそうと言ってくれれば良かったものを」

八幡「いやお前に言ってどうすんだよ。つーか今はやってねぇ」

葉山「なら、また始めればいい」

八幡「は?」

葉山「文化祭までまだ日はある。今からでも簡単な曲なら間に合うんじゃないかな」

八幡「……何の話だ」

葉山「俺もギターやってるんだ」

八幡「知ってる」

葉山「一緒にどうだ?」

八幡「何を」

葉山「バンド」

八幡「…………冗談だろ?」

葉山「本気だよ」



591: 2015/01/31(土) 23:31:35.59 ID:LpJQ9KWh0



八幡「無理。絶対無理。むーりぃー」

葉山「どうせなら、君たちも一緒にやらないか?」

八幡「聞けよ」

戸塚「ば、バンド? でも僕、楽器なんて弾いたこと無いし……」

葉山「大丈夫、最初は皆そうだよ。材木座くんはどうだい?」

材木座「ふむ……我の新たな才能を発揮させるのも一興か……ならば是非ともギターを…」

八幡「どう考えてもお前はドラムだろ」

材木座「ですよねー」

葉山「なら、戸塚はベースだな。俺がリードギターやるから、比企谷はリズムギターをやれば丁度良い」

八幡「何、俺あずにゃんポジ? いやそうじゃなくてだな…」

材木座「うむ。ムギちゃん枠はどうなるのだ」

八幡「そこでもない。……ギターなんて、本当にちょろっとやってただけだ。素人と大して変わらんぞ」

葉山「そんなにギターは嫌か?」

八幡「というか、楽器を演奏するのが無理ゲー過ぎる」

葉山「なら、もうパートは決まりだな」

八幡「は?」

葉山「比企谷はボーカルをやればいい」

八幡「………………………………………………What?」

葉山「無駄に発音良いな」

八幡「んなこたどうでもいい」

戸塚「(葉山くん、八幡と話す時だけちょっとだけ雰囲気違うな。こっちが素なのかな?)」



592: 2015/01/31(土) 23:32:12.51 ID:LpJQ9KWh0



八幡「あのな葉山。ボーカルってお前あれだぞ? いっちゃん目立つパートだぞ? まだギターのがマシだっつの」

葉山「じゃあ、ボーカル兼ギターだな」 ニッコリ

八幡「いや何がじゃあなの? 人の話聞いてた?」

戸塚「(そして楽しそう……)」

材木座「(ほむぅ……ブラック葉山と言った所か。確かに何でも知っていそうではある)」

葉山「それじゃ、テニスやった後は楽器見に行こう。知り合いの店があって、そこなら大分安くして貰えるよ」

戸塚「大丈夫かな……でもちょっと楽しみかも」

材木座「ふむ、帰ったらDVDを見返すか。あ、けいおんのね?」

八幡「分かっとる。つーか、何でやる流れなの……」

戸塚「でも八幡、確か渋谷さんも楽器やってなかった?」

八幡「あぁ……企画で少しの間ベースやってたな。本人も結構乗り気で買おうか迷ってたよ」

戸塚「なら、一緒にセッション? 出来るかもしれないし、やってみるのも良いんじゃないかな」

八幡「ん…………うぅむ…」

葉山「(やるな戸塚……)」

八幡「…………」

葉山「…………」

戸塚「…………」

材木座「…………」

八幡「………………………はぁ、しょうがねぇな」

戸塚「っ!」



593: 2015/01/31(土) 23:33:15.20 ID:LpJQ9KWh0



八幡「……とりあえず、楽器見るだけだからな」

戸塚「やった!」

葉山「そうこなくちゃな」

材木座「クックック、ならば我々のバンド名は……“タウゼント・ブラット”だッ!!」

八幡「いやまだやるとは言ってないっての。つーか無駄に格好良くてムカつく」

戸塚「どういう意味なの?」

葉山「ちょっと待ってくれ、今ケータイで翻訳を……あぁ、なるほどね」

八幡「最高の名前だな」

戸塚「八幡!?」

八幡「全く、蘭子も見習ってほしいものだ」

材木座「光速の手の平返し……それでこそお主だ! 八幡!」

葉山「ハ、ハハハ…」



キーン、コーン、カーン、コーン……



戸塚「あ、予鈴が!」

材木座「ぬぅ、次は移動授業ではないか! 急ぐぞ皆の衆!」

八幡「いやお前だけ違うクラスだろ」

葉山「まぁまぁ、俺たちも行こう」



595: 2015/01/31(土) 23:34:50.13 ID:LpJQ9KWh0



八幡「……つーか、そこは友達を、とは言わないんだな」

葉山「言ってほしかったのか?」

八幡「ふざけろ」

葉山「くく……言うと思った」

八幡「……フッ」

材木座「ええい! 何をしている貴様ら! 早くしないと置いていくぞぅ!!」

戸塚「八幡! 葉山くん! 早く早く!!」

葉山「さ、早く行こう」

八幡「ああ………………礼は言わないからな」 ボソッ

葉山「? 今何か言ったか?」

八幡「なんでもねぇよ」



ーーー
ーー




海老名「…………」

三浦「? 海老名、こんなとこで何してんの? 授業始まんよ?」

海老名「………………ここが、エデンか」 ブハッ!

三浦「よく分かんないけど、とりあえず擬態しろし」



616: 2015/02/04(水) 00:27:05.72 ID:KCHGNMHI0

ある日の風景 その4



加蓮「はー、まさか事務所にケータイ忘れるなんてなー。まだ誰か居ると良いけど」 



カタカタ カタカタ



加蓮「? パソコンの音? ちひろさんでもいるのかな……」 そー…

八幡「…………」 カタカタ

加蓮「(あ、八幡さん。まだ会社にいたんだ)」

八幡「……ふー」 のびー

加蓮「(フフ、口ではあんなに働きたくないとか言ってるくせに、実は頑張り屋さんなんだから)」

八幡「……さて、もうちょいやってくか」

加蓮「(もう誰もいないのに……仕方ない、ここはアタシがお茶でも淹れて…)」 ドキドキ

八幡「…………」

加蓮「(……? どうしたんだろう。急に難しい顔して)」

八幡「…………」 キョロキョロ

加蓮「(って、今度は辺りを見渡し始めた)」

八幡「……ふー……っし」

加蓮「(一体何を……)」


八幡「フレッフレッ頑張れ!! さぁ行こう♪ フレッフレッ頑張れ!! 最高♪」


加蓮「ブフォっ!」


八幡「!?」



こうしてヒッキーの黒歴史は増えていく。



623: 2015/02/04(水) 02:03:59.54 ID:9Gx+U5th0

638: 2015/02/08(日) 00:52:04.64 ID:T70utCzx0

ある日の風景 野郎共編 その2



八幡「(拝啓、渋谷凛様。私こと比企谷八幡は今、テニスをしております)」

戸塚「それじゃあ次は材木座くんからサーブだね」

材木座「う、うむ。いつになってもテニスのルールはよく分からぬな……サーブの交代あたりが特に」

葉山「大丈夫、すぐなれるさ。卓球とかバレーと違って、点を取った方にサーブ権が移るわけじゃないから…」

八幡「(それも何故か、異色ともとれるこの四人組。正直我ながら事態についていけません)」

材木座「フゥーハッハッハァ!! ゆくぞ! 我のターン!」

戸塚「ボールを上げる時は、なるべく真っ直ぐ上に投げると良いよ。そのまま投げた手でキャッチ出来るつもりでね」

葉山「おっ、さすがテニス部主将。それらしいこと言うじゃないか」

戸塚「しゅ、主将なんて、そんな大それたものじゃ……」 カァァ

材木座「うむ! ゆくぞっ!!」

八幡「(しかもこの後は昼飯を食べ、その後楽器を見に行くという予定まである。これじゃ普通にともぶげらっ!?」 パカーンっ

戸塚「は、八幡!?」

葉山「だ、大丈夫か比企谷?」 タッタッタ

八幡「あ、ああ。悪い、ボーッとしてた」

材木座「フッ、我の高速サーブに身動きも取れなんだか……情けないぞ、八幡!」

戸塚「材木座くん。フォルトだよ」

八幡「なぁ、あいつ殴っていいか?」

葉山「ま、まぁまぁ」



639: 2015/02/08(日) 00:52:52.69 ID:T70utCzx0



戸塚「でも八幡、試合中なんだからよそ見してたら危ないよ?」

八幡「うっ……いや、別によそ見してたわけじゃないんだが……すまん」

葉山「(戸塚が相手だと本当に聞き分けが良いな)」

八幡「……しかしテニスをするのはいいが、一つ聞いてもいいか?」

戸塚「どうしたの?」

八幡「何で俺がこいつとペアなんだ」

葉山「心から嫌そうに言うな君は……」 ←こいつ

戸塚「でも、たぶん一番今のペアがバランス良いと思うんだよね」

材木座「ふむ。持つ者と持たざる者のペアということか……」

八幡「一応訊くが、持たざる者ってのは誰と誰の事を言ってんだ?」

材木座「がっはっは! そりゃ我らの事に決まっておろう、八幡よ!」

八幡「はっはっは。否定できん」

葉山「そんな悲しい自己主張はやめてくれ……」

戸塚「た、単純に経験の差のことを言ったんだよ?」

八幡「大丈夫だ戸塚、分かってる。分かってるが、それでも何で俺とこいつがペア?」

葉山「そんなに嫌か。……まぁ、試合が終わったらペアを変えてみればいいさ」

戸塚「そうだね。ローテーションして、全員違うペアと組むまでやってみようよ」

材木座「くっくっく、では続きといくぞ! 精々次はボールに当たらんよう気をつけるのだな!」

八幡「はっ、言ってろ。俺には動かずともボールをさばく技……比企谷ゾーンがあるんだよ」

材木座「な、何ィ!? まさか、我のボールを全て引き寄せ……!?」

八幡「いや、俺が動く代わりにボールを打ち返してくれるんだ。葉山が」

葉山「よし、ペア変えようか」



640: 2015/02/08(日) 00:56:27.43 ID:T70utCzx0
投下してからであれだけど、番外編とはいえアイドル全然関係無いな……

あ、一応渋にも上げてみました。まだ最初だけですけど。
誤字脱字くらいしか修正してないんで、一回読んだ人は読み返さなくても特に問題無いです。

653: 2015/02/12(木) 00:47:51.38 ID:QW1hda/l0

ある日の風景 その5



凛「いらっしゃいませー……って、小町?」

小町「こんにちは凛さん! 店番お疲れさまです!」

凛「あ、ありがと。まぁ仕事も今はあんまり無いし、休みの日くらいは手伝わないとね。……っていうか、店の場所言ったっけ?」

小町「そこはもちろんお兄ちゃんに。いや、お兄ちゃんにも教えては貰えなかったんですけど、東京に住んでるってのは聞いてましたから、渋谷って苗字とお花屋さんっていう情報で絞り出しました! ちょ~っと時間はかかっちゃいましたけどね♪」

凛「そ、そうだったんだ」

小町「ええ! ほぉーこんな花もー……」 キョロキョロ

凛「……今日は、私になにか用事でも?」

小町「いえいえ、私も今日は休みだったので挨拶がてらお花を見てみようかなと」 キョロキョロ

凛「ふーん……」 チラッ

小町「あ、残念ながらお兄ちゃんは一緒じゃないですよ?」

凛「ッ!? いや、私は別に…」

小町「良っいんですよ~、そんなに取り繕わなくたって♪」

凛「あ、あはは(ていうか、今の視線の動きだけで察したんだ。最近の中学生って怖い……)」

小町「折角だから、お母さんに何か買っていこうかな~」

凛「…………ねぇ」

小町「? 何ですか?」

凛「……プロデューサーって、さぁ」

小町「はい! お兄ちゃんが何ですか!?」 ズイッ

凛「い、いや、そんな大した話じゃ…」

小町「いいからいいから、お兄ちゃんがどうしたんですか?」

凛「う、うん…………私が担当アイドルで、良かったのかなって」

小町「え?」



654: 2015/02/12(木) 00:49:43.32 ID:QW1hda/l0

凛「ほら、私よりも、卯月や未央みたいな明るい子の方がアイドルに向いてるだろうし……」

小町「……」

凛「奈緒や加蓮の方が、スタイルだって良いし」

小町「ああ、それは確かに」

凛「うぐっ……」

小町「あっ、いやいや、凛さんも充分スタイル良いですよ!?」

凛「……でも、やっぱり思っちゃうんだ。もしかしてプロデューサーも、もっと可愛げのある子の方が良かったと思ってるんじゃないかって」

小町「……なるほど」

凛「だから、家でそんなことを言ってないかなってさ。小町なら知ってると思って訊いてみたんだ」

小町「……」

凛「……やっぱり、何か言ってた?」

小町「いえ、全く」 くすっ♪

凛「え?」

小町「それどころか、ホントに似た者同士だなって、思ってた所です」

凛「似た者同士?」

小町「ええ。『俺なんかがアイツのプロデューサーで大丈夫なのか…』とか『凛も、ホントは違うプロデューサーと組みたかったんじゃ…』とか、いっつも言ってますよ」

凛「プロデューサーが……」

小町「だから、そんなのは心配ご無用です。むしろお互い気遣い過ぎて心配までありますよ」

凛「ぷっ……さすがにそれは言い過ぎかな」

小町「それくらい、二人とも息ピッタリってことです♪」

凛「……そっか」

小町「……また、いつでも遊びに来てくださいね。比企谷家はいつでも凛さんを歓迎しますよ」

凛「うん。……ウチにも、またいつでも遊びに来て」

小町「はい♪」






凛「……他には、何か言ってた?」

小町「そーですねー……やよいちゃんがテレビに映るといっつも興奮してますね」

凛「ふーん……そう」 メラッ

小町「(ふっふっふ、良い感じに燃えてるよお兄ちゃん!)」



655: 2015/02/12(木) 00:51:14.86 ID:QW1hda/l0
本編でもっと凛と小町を絡ませてあげたかったなーとちょっと後悔。

俺ガイル2期のPV公開してましたね。楽しみだね!

663: 2015/02/14(土) 23:59:29.54 ID:sgo90T4M0

ある日の風景 その6



八幡「……ん?」 テクテク

貴音「……おや」 スタスタ

八幡「奇遇だな。まさか局で会うとは……この間は世話んなった」

貴音「いえ、こちらこそ。真、素晴らしきステージでした」

八幡「お前にそう言って貰えるんなら、素直に喜んでよさそうだな」

貴音「ふふふ。……今日は、渋谷凛は一緒ではないのですか?」

八幡「ああ。生憎と別の現場でな」

みく「ちょっと待ってよヒッキー! 先に行くなんてヒドいにゃ……って、あれ?」

貴音「? はて、新しい担当あいどるですか?」

みく「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃんで貴音ちゃんがいるにゃ!?」

八幡「担当ではないな。臨時プロデュースっつう……まぁ代理みたいなもんだ」

貴音「なるほど。やはり所属あいどるが多いと、何かと大変なようですね」

八幡「そうでもねーよ…………いやそうなのか?」

みく「ねぇ! スルーしないで!? みくにもちゃんと説明して!?」

貴音「ふむ……では折角なので、この後お食事でもどうですか?」

みく「にゃっ!? 貴音ちゃんと食事!?」

八幡「お前さっきからちょっとうるさいぞ」

みく「だ、だってあの貴音ちゃんと食事だよ? 緊張してご飯が喉を通らないにゃ!」

八幡「よかったな」

貴音「そういえば、近くに回転寿司がありましたね」

八幡「よかったな」

みく「ホントに喉を通らないにゃ!? みく、お魚はNG!!」



664: 2015/02/15(日) 00:00:28.81 ID:FMWsZ0a90



八幡「どうせなら勝負すっか」 ←面白がってる

貴音「ほう。私に(食べ物で)勝負を挑むとは……面白いですね」 ←本気

みく「いやいやいや、みくの話聞いてる!? っていうか、お魚じゃなくても勝てる見込み無いにゃ!」

貴音「少しお待ちを。そろそろ響も収録終わりだったので、合流致しましょう」

八幡「なら俺も誰か……凛は今から合流無理そうだな。こういう時は黙っとくに限る。どうせならよく食えそうな奴を……そういや、この勝負に勝った時の見返りはどうする?」

貴音「そうですね……金銭面での賭け事はあまり良くはないですし…」

八幡「だな(真顔)」

貴音「……ならばもしも私が負けた時は、そちらの指定したお好きな曲を歌ってさしあげましょう」

八幡「マジか。フラワーガール歌ってくれ」

みく「ど、どんどん外堀が埋まっていくにゃ……みくの意思は?」

八幡「ばっかお前、あの四条が生で「いぇいっ!」って言うんだぞ? 「いぇいっ!」って。期待してるぞ前川」

みく「勝てないの分かってて言ってるよね!?」

八幡「そうだ、先にカラオケ予約しとくか。収録曲の多い良い店知ってるぞ」

貴音「ふふ。既に買った時の事を想定しているとは……余程自信があるのですね」

八幡「まぁな。あ、こっちが負けたらギャラ無しでどんな番組でもどんな企画でもゲスト引き受けるわ。前川が」

みく「もはやイジめの域!?」

貴音「……さて、響も収録が終わったようです。参りましょうか」

八幡「もしもし、三村か? 今から回転寿司行くんだがお前も…」

みく「…………ふ、ふふふ」

貴音「?」

みく「もう、ここまで来たら引き下がれないにゃ……いざ尋常に、みくと勝負にゃっ!!」

貴音「真、腕が…お腹が鳴りますね」

八幡「ただ腹減ってるだけだろ」



この後みくにゃんはサイドメニューやデザート系の皿で奮闘したものの、結局お姫ちんにも勝てませんでした。むしろかな子にも負けました。
でもカラオケには行ったので、なんだかんだ歌を聴けて楽しかったそうな。



665: 2015/02/15(日) 00:02:32.11 ID:FMWsZ0a90
負けたのにみくにゃんに765の番組ゲストの仕事を取りつけるヒッキーマジ有能! という話でした(違う)。

バレンタイン関係の番外編? そんなもんねーよ!

694: 2015/03/16(月) 01:19:37.72 ID:NpOyxsSx0

ある日の風景 野郎共編 その3



材木座「ゆきぽ! ゆきぽに決まっておろう! あの天使の笑顔が分からんのか!」

八幡「あぁ? そりゃ確かに萩原も可愛いのは認める。だが天使の代名詞を使っていいのはやよいちゃん、もしくは戸塚だけだろうがッ! あぁん!?」

材木座「たわけがぁ! 人類皆口リコンだと思ったら大間違いだぞ、八幡よッ!」 グワァッ

八幡「おい表出ろこら。俺がやよいちゃんに感じてるのは父性だって何回言や分かんだおらぁッ!」 ガァンッ

戸塚「ふ、二人とも落ち着いて!」

葉山「戸塚の言う通りだ。これ以上騒ぐとお店に迷惑だしね。……あと比企谷、さすがにキャラが変わり過ぎだ」

八幡「チッ……」 

材木座「ふぅむ……」

戸塚「ま、まさか765プロの話題になっただけでここまで白熱するなんてね…」

葉山「それだけ、譲れないものがあるってことさ」

材木座「……少々熱くなり過ぎたようだ。確かに、やよいっちの笑顔が素晴らしいのもまた事実」

八幡「……あぁ。萩原の純真な微笑みも確かに最高だ」

材木座「八幡……!」

八幡「材木座……!」

材木座「今度、我の家で一緒にライブDVD見よう!」

八幡「いやそれはさすがに気持ち悪い」

戸塚「良かった、いつもの二人だ」 ホッ

葉山「(これがいつも通りって戸塚も大分毒されてるな…)」

材木座「ふーむ……そういえば、二人の推しメンは誰なのだ?」

戸塚「え?」

葉山「俺たちのかい?」

八幡「他に誰がいんだよ」

葉山「うーん……推しメン、か。あまりアイドルに詳しくもないし、考えたこと無かったな」

戸塚「僕もかな。……あぁでも、我那覇響さんは知ってるよ。響チャレンジが好きで、いつも応援してるんだ」

葉山「そういう事なら、俺は如月さんかな。曲もダウンロードしたことあるから、ファンと言えばファンかもしれない」

材木座「……うむ。何と言うか…」

八幡「無難な答えだな」

葉山「俺たちに一体何を期待してるんだ…」

戸塚「あ、あはは。なんかゴメンね」

八幡「いや、いい(だが葉山のあの答え……明らかに“用意してました”感がハンパない。勘繰り過ぎか?)」



695: 2015/03/16(月) 01:21:38.94 ID:NpOyxsSx0

材木座「さて、一段落した所で食事に戻ろうか!」

戸塚「ちなみにお昼はマックにやってきてるよ」

葉山「学生だし、妥当な所だな」

八幡「説明乙。……俺としてはサイゼリアでも良かったがな」

材木座「ふぁれもふぁれも!」 もっきゅもっきゅ

八幡「食いながら喋るな。あとその擬音を使っていいのは女の子だけだ」

戸塚「それにしても、なんだかお客さん少ないね。休日のお昼時なのに、どうして…」

葉山「それ以上はよくない」

材木座「ごっくん! ……して、この後の予定はどうするのだ?」

戸塚「確か、葉山くんの知り合いの人のお店に行くんだよね?」

葉山「ああ。初心者向けのも置いてあるし、結構良い所だよ」

八幡「今更だが、本当に行くんだな…」

材木座「ここまで来ておいて何を言っておる。我など楽しみ過ぎて1期2期映画全て見返してしまったぞ!」

八幡「……テンション高いとこ悪いが、一番お前がお高いんだぞ?」

材木座「へ?」

葉山「……確かに、ドラムセットは高いね」

八幡「その店がどれだけ安くしてくれるかは知らんが、それでも一学生が変える値段ではないだろうな」

材木座「ふむ。ggrks(ググるカス)」 カチカチ

葉山「(そのスラングを自分に使う人を初めて見た)」

材木座「ふむふむ………………ファッ!?」 ガーン

八幡「まぁぶっちゃけ俺なら買えない事もないがな」

戸塚「あ、もしかしてプロデューサーをやってた時の貯金?」

八幡「使う機会も無かったしな。ほぼ残してあるよ」

材木座「八幡氏、肩は凝っておられるか?」 手もみ手もみ

葉山「そして分かりやすい……」

材木座「えーん、ハチえもーん! お金出してー!」

八幡「ただのクズじゃねぇか」

葉山「まぁまぁ。今から行くお店はレンタルもやってるから、とりあえずはそれでいいんじゃないかな」

材木座「あ、そうなの? ……ふむ。田井中スティックだけでも購入しておいて良かったようだな」

戸塚「…………こくん。田井中?」

八幡「いいんだ戸塚。お前は知らなくていい。あと、お前はもっきゅもっきゅ言っていいんだ。むしろ言ってくれ」

葉山「は、はは。まぁとりあえずの方針は決まったという事で…」

材木座「うむ。次はデレプロの中での推しメンでいくか」

戸塚「え?」

696: 2015/03/16(月) 01:27:20.47 ID:NpOyxsSx0

材木座「765プロの話題はもう終えた。ならばデレプロに移るのが定石だろう!」

八幡「誰が決めたんだそんなもん……」

戸塚「デレプロかぁ……あ。そういえばこの前テレビで見たんだけど、日野…茜……さん、だったかな? 彼女は凄く良い子だと思うよ」

八幡「……そのテレビってまさか」

葉山「やってたね。……『茜と修造の熱血スポーツ対決!!』、って番組」

材木座「うむ……我も見たが終始画面が紅蓮の如く熱かったな」

戸塚「テニスやラグビーだけじゃなくて、色んなスポーツで戦ってたのが面白かったよね。ああいう一生懸命な女の子は好きだなぁ」

八幡「(あの組み合わせは笑いを取りにいってるとしか思えなかったがな)」 

材木座「では次は我が…………正直、好みの子が多過ぎて選べん!!」

八幡「お前のことだから、緒方とか大沼あたりじゃねーの?」

材木座「クックック、さすがは八幡。心得ておる」

葉山「当たってるのか……」

八幡「あとはそうだな……アニメや漫画に理解がありそうな所で荒木さん、奈緒とかが妥当な所だろう」

材木座「お主、もしやレベル7のサイコメトラーか?」

八幡「残念ながらCV:戸松遥ではない。……そういや、蘭子はお前としてはどうなんだ?」

戸塚「蘭子って……確か神崎蘭子さんだよね」

葉山「あぁ、あの中二病アイドルの」

材木座「……ふむ。奴は我にとっても複雑な所なのだ。同士であり、好敵手でもあり、そして何よりも、前世から続く深淵の如き因縁が…」

八幡「次、葉山の番だな。お前は誰推しよ」

材木座「最後まで聞いて!」

葉山「はは、参ったな。さっきも言ったけど、俺はあまりアイドルに詳しくないし…」

八幡「その割には今まで出て来たアイドルの名前、全部知ってたようだが」

葉山「っ!」

八幡「……別に本当によく知らないんならいいがな。もしも俺たちが正直に話してるのにお前は誤摩化してるってんなら、それはフェアじゃないんじゃないか?」

葉山「…………」

八幡「(正直、こいつが誰を推しているのかは興味がある。あの誰とも付き合おうとしない葉山がファンになる程のアイドル。それは一体誰なのか…)」

葉山「…………」

戸塚「…………」

材木座「…………」 もぐもぐ

葉山「…………る…」

八幡「あ?」

葉山「…………結城……晴ちゃん……とか、良い子だと思うな」

八幡「…………」

材木座「…………」

戸塚「えっと……ごめん、僕分からないや」

八幡「……葉山」

葉山「…………」

八幡「人類皆口リコンだと思ったら、大間違いだぜ?」 ぶふっ

葉山「殴るぞ」

697: 2015/03/16(月) 01:28:37.39 ID:NpOyxsSx0

材木座「ハーハッハッハーッ!! まさか、お主が結城晴を推すとはなぁ! 握手!」

葉山「……だから言いたくなかったんだ」

八幡「いや……っ……良いと思うぞ。けど、ちゃん付けって……くく…」

戸塚「は、八幡、笑い過ぎだよ?」

葉山「…………」 ←割と殺気の籠った目

八幡「んんっ! …………悪い、取り乱した。結城って事は、やっぱサッカー繋がりか?」

葉山「ああ。昔からよく見てるサッカー番組で、楽しそうにサッカーしてるのを見てね。一回だけの特別企画だったけど、それが凄く印象に残ってる」

戸塚「あ、それなら知ってるかも。その後ミニコーナーのレギュラーになったんだっけ?」

葉山「それだね。……正直、今まであまり恥ずかしくて言えなかったけど、陰ながら応援してるんだ」

材木座「ふむ……ファンの形は人それぞれ。アイドルの力になる事はあっても、迷惑になる事など無いものよ」

葉山「ありがとう、材木座くん」

材木座「べ、別にお主の為に言ったんじゃないんだからね!」

八幡「(……まさか容姿端麗才色兼備な葉山の推しが、ボーイッシュなオレッ娘とはな。しかしそれも俺と同じ父性から来る親心みたいなもんだろう。結局、恋愛対象としての好みは聞けずじまい、か…………けど)」

葉山「? どうしたんだ比企谷?」

八幡「いや。なんでもねぇよ」

葉山「?」

八幡「(コイツにもこんな一面があるんだな、と。意外な所を見て、少しだけ得した気分になったのは黙っておく)」

戸塚「じゃあ次は…」

八幡「そろそろ頃合いだな。店出るか」

材木座「なぬ?」

八幡「俺がゴミ捨てとくから、お前らは先に出て…」

葉山「それはちょっと卑怯なんじゃないか? 比企谷」 ガシッ

八幡「……何がだ?」

葉山「君の番がまだ終わっていない。……お互い正直に話さないのは、フェアじゃないんだろう?」 ニコッ

八幡「……俺は、やよいちゃん一筋だと最初っから言ってるだろ」

葉山「誤摩化すなよ。それは765プロの話。シンデレラプロダクションのアイドルの中だったら、君は誰を推すんだい?」

八幡「そんなの、お前……」

葉山「なんだい?」

八幡「…………言わなくたって、分かってんだろ」

葉山「さてね」 シラー

材木座「えー我分かんなーい。教えて教えてー」 ぶーぶー

戸塚「ぼ、僕も分からないかなーなんて……」 タハハ

八幡「と、戸塚まで…………材木座は後でしばく」

材木座「何故!?」 ガーン

698: 2015/03/16(月) 01:29:51.39 ID:NpOyxsSx0

葉山「ほら、どうなんだ比企谷?」

八幡「(くそっ……さっきの仕返しか葉山……!)」

戸塚「…………」

材木座「…………」

葉山「…………」

八幡「……………ん……」

葉山「ん?」


















八幡「……………………渋谷……凛……っ……!」 カァァ


















葉山「…………」 ニッコリ

材木座「…………」 ニヤニヤ

戸塚「ひゃー……」 ドキドキ

八幡「…………!」 ダッ

葉山「あっ、比企谷!?」

戸塚「ちょ、どこ行くの八幡!?」

材木座「ぬう!? もう店から出るのか!?」 もぐもぐ

葉山「比企谷、そっちは楽器屋と逆方向だぞ!?」

八幡「知るかッ!」

戸塚「待ってよはちまーん!」

材木座「え、ちょっ……我を置いてかないでー!」 もぐもぐ



699: 2015/03/16(月) 01:32:03.17 ID:NpOyxsSx0
とりあえずは本編を渋に上げ終えたので、こっちもぼちぼち再開。

次々回くらいまでは野郎回が続きます。

714: 2015/03/22(日) 23:21:27.16 ID:kwnR8Aq30

ある日の風景 野郎共編 その4



八幡「……おお」

材木座「こ、ここが……!」

戸塚「うわー凄いね! いっぱい楽器があるよ八幡!」 パァァ

八幡「まぁ、楽器屋だからな(可愛い)」

材木座「うむ。これだけ種類があれば我に相応しい相棒も見つかるであろう(可愛い)」

葉山「この辺じゃ、一番品揃えが良いお店だからね(かわ……いかんいかん)」

八幡「しかしホントに何でもあるな。ヴァイオリンやチェロ、サックスなんかも置いてあんぞ…………東郷さんいそう」

戸塚「わぁ、真っ白いピアノもあるよ!」

材木座「よくは分からんが、バンドよりも吹奏楽などに使う楽器が多いのう……」

葉山「俺たちが見たい系統は二階の方にあるからね。行ってみよう」

八幡「二階まであんのかよ……しかし、これだけあると目移りして仕方ないな」

戸塚「うん。思わずキョロキョロしちゃうね」 キョロキョロ

材木座「な、なんか場違い感ハンパないなぁ……リア充空間に飲まれそう…」

八幡「おい素出まくってんぞ」

葉山「は、ハハハ。とりあえずは色々見て回ってみようか」



715: 2015/03/22(日) 23:22:22.11 ID:kwnR8Aq30

× × ×



戸塚「べ、ベースだけでも沢山種類があるんだね。よく分からないや」

葉山「最初は特に悩まなくてもいいんじゃないかな。気に入ったデザインとか、手頃な値段のモノで良いと思うよ」

戸塚「デザインかぁ……あ、これなんか凄い尖ってて戦えそう」

材木座「ふむ。なんとも中二心をくすぐられる」

八幡「(この二つ合体してるのはどうやって使うんだ……カイリキー専用?)」

戸塚「うーん……あ、これとか可愛いかも」

八幡「? これもベースなのか?」

葉山「ヴァイオリンベースだね。値段も丁度いいし、良いんじゃないか?」

戸塚「で、でも、僕にはちょっとオシャレ過ぎないかな……?」

八幡「そんな事ないぞ戸塚。試しに肩に掛けてみたらどうだ」

戸塚「え?」

材木座「うむ。もしくは上に放り投げて、差し出した腕にぶつからなかったら相応しいな」

八幡「どこの海賊狩りだ」

葉山「というか楽器が壊れるよ……ほら、ストラップを付けて」

戸塚「う、うん。……よいしょ、っと」

材木座「……おお! 様になってるではないか!」

八幡「いい! いいぞ戸塚っ!」

葉山「(比企谷のテンションがちょっと怖い)」

戸塚「そ、そう……かな?」 てれっ

葉山「でも実際良いと思うよ。ネックが細いから手が小さい人にも使いやすいし、女の子なんかにはピッタリだと思う」

戸塚「ぼ、僕女の子じゃないよ!?」

葉山「え? あ、いや、別にそういう意味で言ったんじゃなくて…」

八幡「葉山」 肩ぽんっ

葉山「ひ、比企谷……?」

八幡「残念ながら、戸塚は男なんだ。……本当に残念ながら、な」 遠い目

葉山「俺は君の事がたまに本当に怖くなるよ」



716: 2015/03/22(日) 23:23:16.65 ID:kwnR8Aq30

× × ×



材木座「ふむ……まさによりどりみどりと言った所だな」

八幡「正直ドラムセットって種類があるとは思わなかったんだが、見る限りそうでもないんだな」

葉山「もちろん。演奏するアーティストや曲によっても変わってくるからね」

材木座「ぬ? セットの内容は決まっているのではないのか?」

葉山「基本的にドラムセットはバスドラム、スネアドラム、フロアタム、トムトム、シンバル、ハイハットシンバルの6セットだね。皆が思い浮かべてる一般的なドラムセットはその認識で大丈夫だと思う」

戸塚「(トムトムってなんか可愛いな)」

葉山「ただ、それ以外にも組み合わせられる打楽器は何種類もあるね。バリエーションもツーバスとかツインペダルとか、テンポの早い演奏用のセットも…」

材木座「う、うぅむ……?」 ぷしゅー

八幡「ストップだ葉山。それ以上は材木座の頭がついていけん」

葉山「あ、あぁ悪い悪い」

材木座「つ、つまりどういうことなんだってばよ……」

葉山「とりあえずは最初に言った6セットで良いかな。それならレンタルの費用もそこまでかからないし」

八幡「となると、レンタル用はこっちか」

材木座「クックック……我は既に目星をつけたぞ」

戸塚「え? もう決まったの?」

材木座「これぞ運命と呼ぶ他ない…。眩い黄金色のその輝き……君に決めた!」 ビシィッ

八幡「一番安いのじゃねぇか」

葉山「まぁ、レンタルはそもそも種類が少ないからね」

戸塚「(ミニドラムセットなんてのもあるんだ。僕でもできるかな?)」

材木座「フゥーハッハッハ! よろしく頼むぞ、相棒!」

八幡「何度も別の奴と組まされる相棒ってのもどうなんだ」

葉山「ま、まぁ、右京さんみたいなモノだと思えば、ね」



717: 2015/03/22(日) 23:24:24.37 ID:kwnR8Aq30

× × ×



葉山「そういえばギター経験があるって事は、比企谷は既にギターを持ってるのか?」

八幡「あいつは顔も知らないどこかの誰かの下で、今も音を奏でてるだろうぜ。もしくはまだ店頭」

葉山「売ったんだな……」

八幡「まぁ、一応あることはあるがな。けどそれも親父のだ。ほとんど手入れもしてない」

葉山「なるほど。なら、やっぱり折角だし新しいのを買ってみたら良いんじゃないか? お金に余裕だってあるんだろ?」

八幡「いや、そりゃあるにはあるが……」

葉山「なら決まりだな」

八幡「(つーか、そもそもバンド自体まだやるとは言ってないんだがな。……けど)」

葉山「? 比企谷?」

八幡「……」 ちらっ

戸塚「弦もいっぱいあるなぁ……ラケットで言うガットみたいなものなのかな?」 キョロキョロ

八幡「……」 ちらっ

材木座「ふーむ。スティックは木製しか無いと思っていたが、他にもあるのだな。田井中スティックだけでは心もとないか…」 ジーッ

八幡「……はぁ」

葉山「どうかしたのか?」

八幡「いや。……揃いも揃って、楽しそうだなと思ってよ」

葉山「……くくっ」

八幡「あん? なんだよその笑いは」

葉山「いや……そう言う比企谷も、結構楽しそうにしてたなと思ってさ」

八幡「ッ! 俺が……?」

葉山「ああ。少なくとも、俺の目にはそう見えたよ」

八幡「……気のせいだろ」

葉山「さて、どうだろうね」

八幡「……チッ」

葉山「……俺も、今日は久しぶりに楽しいよ」

八幡「…………」

葉山「…………」

八幡「……どれがオススメなんだ」

葉山「え?」

八幡「ギター。どれがオススメなんだ? 正直多過ぎて分からねぇんだよ」

葉山「……ハハ」

八幡「なに笑ってんだ。ほら、早くしろよ」

葉山「あぁ、悪い。……時間はあるし、色々見て回ってみようか」

八幡「ああ」

葉山「そういえば、比企谷はエレキギターについてはどれくらいの知識があるんだ?」

八幡「レスポールとストラトの違いくらいは分かるな」

葉山「……ほとんど素人って事は分かった」



718: 2015/03/22(日) 23:29:39.94 ID:kwnR8Aq30
昔すこーしだけギターやってた時期があったけど、もし話の中で間違ってるとこあったらごめんなさい。

ある日の風景野郎共編も次回で終わり。

724: 2015/03/29(日) 23:09:01.73 ID:Q+twN9l80

ある日の風景 野郎共編 その5



八幡「演奏してみたい曲?」

葉山「ああ。何か簡単な曲を一曲決めて、皆一緒に練習していくのが上達するのに一番手っ取り早いと思うからね」

戸塚「でも、コード? とか覚えるのが先じゃなくていいの?」

葉山「もちろんそれも平行して練習するさ。でもどうせなら、曲を練習する方が楽しいだろ?」

材木座「ふむ。ゲームに例えると、説明書を読んで遊び方を覚えるより実際にプレイしてみた方が楽しく覚えられる、ということか」

葉山「そういうこと。演りたい曲とかあるかい?」

八幡「いや……急にそう言われてもな」

戸塚「うーん……好きな曲、って言っても、何が簡単で何が難しいかも分からないからね」

材木座「ならば、ここはやはりアニソンであろう! のう八幡っ!」

八幡「俺に振るな」

葉山「確かにアニソンなら簡単な曲も多いかもね。ただ…」

戸塚「ただ?」

葉山「一応俺たちが演奏する曲だから、ボーカルがその曲を歌う事も考えないといけないな」

材木座「…………」 ちらっ

戸塚「…………」 ちらっ

葉山「…………」 ちらっ

八幡「……何故俺を見る」

葉山「頼むよリードボーカル」

八幡「いや無理無理無理無理」

材木座「ええい! 誰もが憧れるバンドの花形を譲ると言っておるのだぞ!? 大人しく歌えい!」

八幡「誰もそんなん頼んでねぇ。つーかそこまで言うならお前が歌えばいいだろ。C-C-Bさながら」

戸塚「しーしーびー?」

葉山「その例えは今の若い子には伝わらないと思うぞ……」

八幡「じゃあ戸塚で良いんじゃないか。野郎より可愛い子が歌った方が眼福もんだろ」

戸塚「僕も男だよ!?」

八幡「……とまぁ冗談は置いといて」

材木座「(明らか冗談では無かったでござる)」

葉山「(確かに端から見たら紅一点だな)」



725: 2015/03/29(日) 23:11:10.67 ID:Q+twN9l80



八幡「冷静に考えりゃ、葉山がやるのが当然だろ」

葉山「……どうしてだい?」

八幡「お前はこん中で唯一経験者だ……まぁ俺も少しやっていたが、あれは経験と言っていい代物じゃないからこの際置いておく」

戸塚「置いとくんだ……」

八幡「そしてポジションはリードギター。ボーカルにはおあつらえ向きだ。それに加え歌も上手い」

葉山「俺の歌を聴いた事あるのか?」

八幡「Sakura addictionは割と好きだったぞ」

葉山「噛み頃すよ」

戸塚「ねぇ、二人は何を言って…」

材木座「それ以上いくない」

八幡「そんで何よりも一番重要な点が……ビジュアルだ」

戸塚「あー……」

在木材「ふむ。……そう言われては納得せざるを得んな」

葉山「そんなに言う程か?」

八幡「そんなに言う程だ。あの有名エアバンドだって、ドラムがボーカルよりもイケメンだからあんな白塗りになってんだぞ。……まぁそれだけが理由ではないだろうがな」

葉山「いや、俺が言ってるのはそっちじゃなくて」

八幡「あ?」

葉山「比企谷だって、自分で自分の顔は良い方だって言ってたじゃないか」

八幡「…………」

葉山「まぁ、俺が直接聞いたわけじゃないけどね。結衣から聞いたんだ」

八幡「(さすガハマさん。余計な事を。つーか完全に俺ナルシストみたいじゃねぇか! 確かに言ったけども!)」

戸塚「でも、僕も八幡がボーカルで良いと思うよ! 葉山くんも勿論カッコイイけど、八幡だって負けないくらいカッコイイよ!」

八幡「お、おお……」

材木座「ぬぅ……己の容姿を良いと言うような輩に対しこの言葉、ぐう聖や、ホンマもんのぐう聖がおるぞ!」

葉山「(自分の名前が出なかった事に関しては何も言わないんだね……)」

八幡「はぁ、今の一言で今日来て良かったと思えた。さ、帰るか」

葉山「いやちょっと待て」 ガシッ

八幡「チッ……(さすがに誤摩化せんか)」

葉山「じゃあ、とりあえずボーカルは保留にしておこう。出来るだけ簡単で歌い易そうな曲を選んで、練習しながら後で決めればいい」

八幡「結局はそうなるか……」

戸塚「なら、有名な曲の方が良いのかな?」

葉山「そうだね。皆で色々見ながら探してみよう」

材木座「うむ! 放課後ティータイムはどこの棚だーッ!?」 ダダダッ

八幡「あいつは自分が歌う可能性がある事を考慮しとらんのか……してないんだろうな」



726: 2015/03/29(日) 23:12:57.66 ID:Q+twN9l80

× × ×



八幡「…………」 キョロキョロ



「ぬうー!? 何故全曲置いとらんのだ!? 差別か、アニソンに対する差別なのか!?」



八幡「……(もうちょい静かに探せんのか)」



「えーっと……タ行がここだから……あれ、アルファベットで探さないと無いのかな?」



八幡「(可愛い。バンドスコアを探すその姿からもう可愛い)」



「んー……やっぱこっちの曲の方がロックかなぁ。いや、でもこっちの曲も…」



八幡「ん?」 ピクッ



「あれ、無いや。あっちを探してみますかねー」



八幡「…………」 振り返り



棚「…………」 シーン



八幡「……気のせいか」



「材木座くん。何か良いのあった?」

「うむ……やはりなんだかんだ言って、一期の曲の方が我は好きだな」

「あ、僕も。ホッチキスが一番好きかなぁ」



八幡「(今、何だか見覚えのあるロックなヘッドホンが見えた気がしたが……まさか、な)……ん?」

棚「…………」 ア行

八幡「……この曲」



727: 2015/03/29(日) 23:16:04.69 ID:Q+twN9l80

× × ×



葉山「うーん。やっぱり俺が演奏したことある曲の方が教え易いかな……」

棚「…………」 よりどりみどり

葉山「……いや。折角だし、一緒に知らない曲を練習した方が楽しいか」 スッ

「あっ……」 スッ

葉山「え? あ、すいません。お先にどうぞ…」

「いや、こちらこそ。そっちが先に……って、あれ。隼人か?」

葉山「はい? ……あ、夏樹さん?」

夏樹「おー久しぶりだな! まさかこんな所で会うなんてよ」

葉山「本当ですね、お久しぶりです。前に会ったのは去年のライブハウスでしたっけ?」

夏樹「ああ、あれは良いライブだった。懐かしいな」

葉山「あはは。夏樹さん凄いノってましたもんね」

夏樹「お前は相変わらずクールっつうか、大人びてんな。ホントに年下かよ」

葉山「褒め言葉として受け取っておきます。またこっちに来てるって事は、近い内にライブでもするんですか?」

夏樹「あーいや、ライブしに来たんじゃなくてな…」

葉山「?」

夏樹「色々あって、今はこっちに住んでんだアタシ」

葉山「そうなんですか?」

夏樹「ああ。……立ち話もなんだし、そこの休憩所にでも行くか。お互い積もる話もあるだろうしよ」

葉山「そうですね……って、すいません。俺今日は連れと来てるんでした」

夏樹「なんだ、そうなのか。もしかして女か? だったら悪いな」

葉山「いえ、そういうんじゃないですよ。新しくバンドを組む事になったんで、そのメンバーたちと一緒に来てるんです」

夏樹「っ! バンドを組むって、お前がか?」

葉山「ええ」

夏樹「そりゃまた、なんつーか珍しいな」

葉山「そうですか?」

夏樹「そうだろ。少なくともアタシはお前が助っ人以外でバンドに加わってるの、見た事無いよ」

葉山「……まぁ、心境の変化って奴かもしれないですね」



728: 2015/03/29(日) 23:17:37.64 ID:Q+twN9l80



夏樹「へぇ、お前がそんな事言うなんてな。何にせよ、お前がボーカルやってギター弾いてるってだけでも興味を引くバンドだぜ」

葉山「いえ、俺はボーカルじゃありませんよ」

夏樹「は?」

葉山「別の奴です。そもそもバンド組む事になったのも、俺が彼を誘ったからですし」

夏樹「お前がバンドを組もうって誘ったのか?」

葉山「ええ。……あ、丁度良かった。彼ですよ、ウチのバンドのボーカル。……の予定ですけど」

夏樹「ん?」 チラッ



八幡「Uの所には無かったから、たぶんウ行だよな。ウ、ウ、ウー……?」 キョロキョロ

「うーんやっぱ激しい曲ほど難しいのかなー……一回なつきちに訊いてから……」 キョロキョロ



夏樹「あ、だりー」

葉山「え? ……あ、危なっ…!」



八幡「あ? って、おわっ」 どんっ

「へ? ってきゃあッ!」 どんっ



夏樹「あっちゃあ……」

葉山「だ、大丈夫か?」 タタタッ



「いてて……」

八幡「すいません、大…丈夫……?」

「いやいや、こちらこそ……ん?」

八幡「……多田?」

「あーっと……凛ちゃんの、プロデューサー?」



葉山「怪我は……って、アイドルの多田李衣菜?」

李衣菜「え? 誰? ……あ、なつきち」

夏樹「何やってんだ、だりー」

葉山「え……知り合い、ですか?」

八幡「(誰だ、この超ロックな姉ちゃん)」



戸塚「……あれ、どういう状況?」

材木座「ふむ……カツアゲ、か?」

戸塚「それは違うと思うな」



729: 2015/03/29(日) 23:21:10.37 ID:Q+twN9l80

× × ×



葉山「夏樹さん、アイドルになったんですか!?」

夏樹「まぁ、なったっつーか、まだ駆け出しだけどな」

李衣菜「そういう意味では、私のが先輩だね」 へへん

夏樹「ほぉ? お願いだからギター教えてくれって頼んできたのは、どこの先輩さんだったかな?」

李衣菜「ちょっ、それは言わない約束じゃーん!」

夏樹「冗談だ。アイドルの事はまだよく分からねぇから、色々教えてもらって助かってるよ」

戸塚「ざ、材木座くん。本物のリーナちゃんだよ……!」 ヒソヒソ

材木座「う、うむ。本当にROCKと書いたTシャツを着ておるぞ……!」 ヒソヒソ

八幡「(そこなのか)」

葉山「なるほど。だからこっちに一人暮らししてるって言ってたんですね」

夏樹「ああ。地元でライブしてたら、終わった後に声かけられてな。元々アイドルには興味あったし、いっちょロックなアイドルでも目指してみようかなってね」

葉山「はは。夏樹さんらしいですね」

夏樹「事務所に入ったのはホント最近だから、まだ全然活動出来てないけどな」

八幡「(なるほど。だから俺が知らなかったわけだ)」

李衣菜「それよりも、私はプロデューサーがいた事にビックリしたよ。バンド組むって本当?」

八幡「……まぁ、成り行きでな。つーかもうプロデューサーじゃない」

夏樹「アタシは会うのは初めてだが、あんたの事は噂には聞いてたよ」

八幡「…………」

夏樹「悪徳記者に濡れ衣を着せられ、担当アイドルの為に謂れの無い全ての罪を背負い、自分一人辞めていった最高にロックな孤高の元プロデューサーってな」

八幡「いやちょっと待て」

李衣菜「……」 うんうん

八幡「いやうんうんじゃなく。え、なに。もしかしてお前か? お前がそんな逆に恥ずかしくなるような説明をしたのか?」

李衣菜「え、違った?」

八幡「違うだろ。……違うよね?」

葉山「俺に訊かれても……」

李衣菜「まぁ、私もプロデューサーとは殆ど話したこと無かったけどさ。事情を知ってる子たちから何があったかは聞いたよ」

八幡「…………」

李衣菜「それで、少なくとも私には、さっきなつきちが言った通りの印象に感じたかな」

八幡「……そんなカッコイイもんじゃねぇよ。あと、プロデューサーじゃねぇ」



731: 2015/03/29(日) 23:23:39.54 ID:Q+twN9l80



李衣菜「あはは、そうだったね。ならそっちこそ私のことはリーナと…」

夏樹「んな事より、楽器は決まったのか? もうパートは決まってんだろ?」

李衣菜「なつきちー! んなことって何さー!」

葉山「一応俺がリードギター、そこの戸塚がベース、隣の材木座くんがドラム、そして比企谷がリズムギター兼ボーカルですね」

八幡「いや、だから俺はボーカルって柄じゃ…」

李衣菜「えっ! プロデューサーボーカルなの? 凄いじゃん! ギターでボーカルとか超ロック!」

八幡「お前はロックの意味をはき違えてないか? あとプロデューサーじゃない」

葉山「楽器はもう目星を付けてます。それで、さっきは練習用の曲を探してたんですよ」

夏樹「なるほどな。で、良い曲はあったのか?」

葉山「あー俺はまだあんまり見てなかったですね」

戸塚「僕も、何だかいまいちパッとしなくて……」

材木座「うむ。放課後ティータイム良いと思うんだけどなぁ……」 ←却下された

李衣菜「プロデューサーは?」

八幡「お前もしやわざと言ってんのか? ……俺も別に」

夏樹「あれ、でもバンスコ持ってんじゃねぇか」

八幡「いや、これは個人的に買っておこうかと思って…」

材木座「ぬぅん、水臭い。素直にこれ演りたい! と言えばいいものを」

八幡「(うぜぇ……)」

葉山「ちょっと見せてくれるかい? ……へぇ、アジカンか」

夏樹「お、良いんじゃねぇか? 確か簡単な曲もいくつかあったろ」

李衣菜「いいねぇアジカン! 私も好きだよ! 超ロックだし!」

戸塚「(なんか、ロックがゲシュタルト崩壊してきちゃった……)」

葉山「そういえば、あの時もアジカン歌ってたな」

八幡「お前覚えてたのかよ……」

葉山「確か、或る街だったよな?」

夏樹「或る街の群青か。あれは確か難しくなかったか?」

葉山「そうですね。初心者にはちょっと厳しいかと思います」

八幡「いや誰もやるとは言ってないんだが」



732: 2015/03/29(日) 23:25:37.56 ID:Q+twN9l80



葉山「けど、比企谷の持ってたこの曲は結構簡単そうだね。これなら初心者には丁度いいんじゃないか?」

夏樹「どれ……おっ、確かに」

李衣菜「私も私も! …………見ても分かんないや」

夏樹「だりー……」

李衣菜「これから! これから覚えていくから!」

葉山「でも、なんでこの曲を選んだんだ?」

八幡「いや、別に深い意味はねぇよ……ただ」

葉山「?」

八幡「個人的に思い入れがあるってだけだ。……好きな曲を演ってみたいってだけじゃ、おかしいか?」

葉山「……いや」

夏樹「へへっ、分かるぜ。ギター始めた頃思い出すよ」

李衣菜「な、なつきちー。私も演りたい曲があるんだけど……?」

夏樹「分かってるよ。……そうだ。折角だし、今度一緒に練習するか?」

葉山「え?」

夏樹「アタシたちは仕事の合間見ての練習になるだろうけど、たまーにこのメンバーで集まってよ。セッションとかしてみようぜ」

李衣菜「いいね! どっちが早く上手くなれるか勝負って奴だねっ!」

戸塚「で、でも、良いのかな……?」

夏樹「遠慮すんな。みんなでやった方が楽しいだろ?」

材木座「クックック……久々に燃えてきおったわい。この血の滾りが運命を決めるッ!」

李衣菜「おお! なんかカッコイイ!」

材木座「え、あ、ありがとうございます」

葉山「まぁ、俺たちとしては嬉しい限りですけど…」

八幡「いや、俺がアイドルと会うのはマズいだろ」

夏樹「大丈夫じゃないか? アタシらが千葉の練習スタジオまで行けば、誰に見られる事も無いだろ」

李衣菜「それにスタジオで練習してるだけなんだから、見られたとしても文句言われる筋合いなんてないしね」

葉山「……だってさ」

八幡「……ハァ、ならいいけどよ」

夏樹「それに、あの葉山がバンドに誘った男ってのも気になるしな」

八幡「?」

夏樹「自分を差し置いてボーカルに推した男……俄然、興味が湧いてきたぜ」

八幡「お前、なんか言ったのか?」 ジトッ

葉山「さぁ、何の事かな」 目逸らし

李衣菜「へへっ、面白くなってきたぜぇー!」



733: 2015/03/29(日) 23:27:19.36 ID:Q+twN9l80

× × ×



それから数日たったある日



夏樹「っし、義輝。出しといた課題はちゃんとこなしてたか?」

材木座「う、うむ。腕立て30回、腹筋30回、背筋30回、スクワット30回を毎日5セット……この世の地獄を見るようだった…危うく痩せる所だったぞ……」

夏樹「いやそこは遠慮せず痩せろよ」

八幡「(しかし意外な事に材木座がキチンとやってたのには驚いたな。昼休みに付き合わされる俺の身にもなれとは思ったが)」

材木座「最近は雑誌で作った簡易ドラムセットもボロボロになってきたからのう……自分の能力が恐ろしい」

八幡「ナチュラルに能力をちからと読むな」

夏樹「まぁ良い事じゃねーか。ちゃんと練習してるようで何よりだ」

葉山「ドラムは体力を沢山消費するし、基礎体力を上げとくに超したことはないからね」

戸塚「でも材木座くん、そのコート暑くないの?」

材木座「ぬぅ……!?」

八幡「(戸塚。そこに触れちゃいけない。それは材木座にとっての……なんだ、アーチャーの赤い外套みたいなもんなんだ。察してやれ)」

材木座「こ、これは我の……」

李衣菜「えーいいじゃん。ドラムって薄着のイメージあるから、逆にそれはそれでカッコよくない?」

八幡「えっ」

李衣菜「どうせなら、コートの下は黒いタンクトップとか良いんじゃない?」

材木座「……そして、シルバー系のアクセサリーを身につけたり、か?」

李衣菜「そーそー! 分かってるなー。あと、コートの首もとに無駄にファーとか着いちゃったり!」

材木座「うむ! あとは所々不自然に破けていたりな!」

李衣菜「カッコイイ! ロックだよロック!!」

戸塚「な、なんか盛り上がってるね」

葉山「ハハハ、まさかの意気投合だな」

八幡「やっぱにわか同士は引かれ合うのか」

夏樹「それ、当人たちには言ってやるなよ……」



734: 2015/03/29(日) 23:28:36.08 ID:Q+twN9l80

× × ×



更に数日たった別のある日



戸塚「最近、指の皮が固くなってきた気がするなぁ……」

八幡「なに?」

戸塚「あ、ほら。弦を触ってたからか、左手の指が、ね?」

八幡「ほう」 スッ

戸塚「あっ……」

八幡「…………」 さわさわ

戸塚「は、はちまん?」

八幡「…………」 さわさわ

戸塚「ちょ、ちょっと八幡。くすぐったいんだけど……?」

八幡「……はっ。わ、悪い戸塚」

戸塚「い、いや。大丈夫だよ。少し恥ずかしかったけど…」 顔真っ赤

材木座「(ほむぅ……何故だ。とてもイケナイものを見ている気持ちになる)」

夏樹「ほーら何イチャイチャしてんだ。さっさと練習に戻んぞ」

李衣菜「プロデューサー! ほら、私の指の皮も固くなってきたよ、ほら!」

八幡「プロデューサーじゃない。つーか、そ、そんなに手を差し出すな。近い……!」

葉山「指の痛みはもう大丈夫かい?」

戸塚「うん。皮が剥けてたのも直ったし、大分良くなったよ」

夏樹「また痛くなったら言えよ? しっかり治してから練習しないとな」

戸塚「はい。ありがとうございます」

夏樹「別に敬語なんて使わなくていいよ。……まぁ、彩加みたいな可愛い女の子じゃ皮が固くなるのに抵抗あるかもしれねぇけど、これもベーシストの通る道だ」

戸塚「…………僕、男の子なんですけど……?」

夏樹・李衣菜「「えっ」」

八幡・葉山「「(正直この展開は読めてた)」」



735: 2015/03/29(日) 23:33:57.21 ID:Q+twN9l80

× × ×



また更に数日たった別のある日



葉山「それじゃあ、もう一回セッションしてみようか」

戸塚「ふー……他の人に合わせるのって難しいね」

夏樹「義輝はちょっと走り過ぎだな。もう少し落ち着け」

材木座「う、うむ。まさかりっちゃんの気持ちがここまで分かる日が来ようとは……」

李衣菜「いいなー早く私もやりたいなぁ」

夏樹「だりーは次な。八幡は準備良いか?」

八幡「うっす」

夏樹「それじゃあ…………あ、そうだ」

八幡「?」

夏樹「八幡、次ちょっと歌ってみろよ」

八幡「……は?」

李衣菜「おっ、いいねーいいねー!」

葉山「そういえば、まだ声入れながらってのはやってなかったな」

八幡「いや、急に何を…」

材木座「遂にか……この時を待っておったぞ八幡っ!」 ニヤリ

八幡「(てめぇ、面白がってんな……!)」

戸塚「八幡、がんばって!」

八幡「と、戸塚……」

夏樹「さ、お前の心の準備が出来たらいつでも始めるぜ?」

葉山「…………」

戸塚「…………」

材木座「…………」

李衣菜「…………」 わくわく

夏樹「…………」

八幡「………………ハァ、分かったよ」

李衣菜「おお!」

八幡「う、上手く歌えなくても笑うなよ」

夏樹「へっ、最初は誰だってそうさ。その為の練習だ」

李衣菜「うんうん!」

八幡「……ふう」


カンッ カンッ カンッ



八幡「ーーっーー♪」



ーーーーー

ーーー





736: 2015/03/29(日) 23:35:48.08 ID:Q+twN9l80













八幡「は? バックバンド?」



思わず、呆れるような声が出た。

目の前にいる少女。相も変わらず首にヘッドホンをかけ、今日はROCKと背中に大きく書かれたパーカーを着ている、この美少女と言って差し支えない女の子。
彼女は期待に目を輝かせ、俺の事を真っ直ぐに見つめていた。



李衣菜「そう! 今度やるライブで、プロデューサーたちには私となつきちのバックバンドをやって貰いたいんだよね!」



場所はいつもの某スタジオ。千葉にあるこの場所にも、今ではすっかり通い慣れていた。
そして珍しく早めに来たと思ったらこれだ。スタジオに入るなり、満面の笑顔の多田に頼まれてしまった。

いや、バックバンドってお前……



八幡「無理だろ。普通に考えて」

李衣菜「えー! なんで!?」



737: 2015/03/29(日) 23:38:11.57 ID:Q+twN9l80



まるで予想外だったと言わんばかりの多田の反応。
むしろ、何故引き受けてくれると思ったのか。


と、そこで助け舟とばかりに近寄ってくる一人の陰。
こちらも同じく先に来ていた木村先輩だ。



夏樹「まぁ話でも聞いてくれ八幡。何も武道館ライブのバックバンドやってくれって頼んでるわけじゃねぇんだからよ」

八幡「? 非公式のライブって事っすか?」



今の台詞の感じだと、お金を取るようなちゃんとしたライブではないのかと思い至る。……いや、それにしたって厳しいですけどね? 始めてまだたかだか数ヶ月ですよ?



夏樹「非公式、ってわけじゃないんけどな。なんつーんだ、学園ライブ? って言えばいいのか」

八幡「学園ライブ?」

夏樹「ま、要は学校の体育館使ってライブしようって事だ」

李衣菜「いやー良いよね! まさに青春って感じで!」



本当に楽しそうにそう言う多田。
いやいや、簡単そうに言うけどライブはライブだぞ? 黙ってプロに任せた方が得策だと思うんだが。



夏樹「お前の言いたい事は分かる。けど、予定じゃ四曲の内一曲を任せようって話になってるからさ。今から一曲集中して練習すれば充分間に合うだろ。他の曲はプロがちゃんとやるし」



一曲、か。

確かにそれなら割となんとかる気もする。
だけど、なぁ。さすがにいきなりは……


俺が未だに悩み唸っていると、木村先輩は念を押すように更に言ってくる。



夏樹「それに、自分の学校の生徒がバックバンドをやってるってだけで絶対盛り上がるだろ?」

八幡「まぁ、確かに葉山が演奏してるだけで女性人気は間違い無し……って、え?」



思わず、一瞬思考が固まる。
今、この人は何と言った?



八幡「“自分の学校の生徒”……? って、まさかライブする学校って……!」

葉山「総武高校だよ。もう学校には話を通してあるから、近々告知されと思う」



は、葉山ぁぁぁああああ!?

何してくれてんだお前はぁ!?


スタジオを扉を開け、図ったように会話に参加してきた葉山を睨みつける。



738: 2015/03/29(日) 23:42:16.84 ID:Q+twN9l80

葉山「そう怖い顔をするなよ。良いじゃないか。ホーム戦だと思えば」

八幡「馬鹿かお前は。俺にとっちゃホーム線=アウェー線だっつうの」

夏樹「そんな悲しい事を威張るなよ……」



いやいやいや、マジでキツいだろ。
え、ホントに? ホントに俺があの学校でライブすんの? ギター弾くの?

俺は受け入れ難い現実に、ただただ呆然と立ち尽くす。

一瞬だけ、幼き日の嫌な思い出が頭を過った。



李衣菜「大丈夫だよプロデューサー。私たちがついてるから!」



肩をポンと叩き、何の気無しに言ってのける多田。
それに続き、木村先輩までも逆側の肩へと手を乗せる。



夏樹「だりーの言う通りだな。気楽に、そんで楽しんでこーぜ」



……本当に、簡単に言ってくれる。
自分たちだって、緊張してるはずなのにな。


多田はCDデビューもしているし、それなりに場数を踏んでいるだろうが、それでも学園でのライブは初めてだろう。

木村先輩だってライブ自体は経験豊富でも、アイドルとしてのステージは初のはず。今までと勝手が違うのは明白だ。


それでも、こんだけ勇気を持って、楽しみにしていられる。
それはやっぱ……



この二人が、アイドルだからなんだろうな。



八幡「………………ハァ、練習するか」



諦めたように、我ながら情けない返事とも言えない返事を返す。
だがそれだけで、多田は笑顔になり、木村先輩は首肯し、葉山は満足げに目を閉じた。



夏樹「さ、他の二人が来次第、新しい曲の練習に取りかかるぜ!」

李衣菜「おう! 演奏する曲は私のデビュー曲……『Twilight Sky』だー!」



かくして、俺の恐らくは最初で最後のライブが始まる。

数ヶ月前までは、ライブへと送り出す側だった俺。その俺が、今度は何故かライブをする側へとなってしまった。
もちろん主役はアイドルの二人だ。だがそれでも、緊張しないわけがない。


一体、何がどうなってこうなってしまったのか。
今となっては、それは俺にも分からない。


だが、これだけは言える。






多田よ。俺はもうプロデューサーじゃない。



739: 2015/03/29(日) 23:46:38.61 ID:Q+twN9l80
というわけで、野郎共のある日の風景は終わり……次回、野郎共の一回きりの学園ライブ!
彼らの青春の一ページ、もう少しだけお付き合いくださいませ。

Twilight Sky 凄い好き。

847: 2015/04/20(月) 00:35:25.33 ID:2s3PHEVz0

ある日の風景 その7



八幡「…………」 スタスタ

輝子「…………」 イソイソ

八幡「ん……?」 ピタッ

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(あの力なく揺れるアホ毛……輝子か?)」

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(何やら机で作業をしているようだが……)」

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(珍しいな。机の下でキノコ育成するならともかく、机に向かって何かしているとは)」

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(……何してんだろうな)」

輝子「…………」 イソイソ

八幡「(…………気になるな)」 そー…

輝子「……っ!」 びくっ

八幡「うおっ」 サッ

輝子「は、八幡……?」

八幡「(ば、バレた…)あ、あーいや、別に覗こうとしてたわけじゃないぞ。ただ、ちょっと、なんだ。魔が差したっつーか、まこちんの曲なら自転車が好きっつーか……」 アタフタ

輝子「フヒ……別に、いい」

八幡「そ、そうか」

輝子「これ、作ってただけだから……」 スッ

八幡「ん。……お守り、か?」

輝子「うん……中に、縁起の良いキノコが入ってる…フフ……」

八幡「お、おう(実に輝子らしいな)」

輝子「……こ、これ。八幡と凛ちゃん、に」 2つ

八幡「っ! 俺と凛に……?」

輝子「うん……さ、最近、二人とも忙しそう」

八幡「…………」



848: 2015/04/20(月) 00:37:36.34 ID:2s3PHEVz0



輝子「健康運と、仕事運が良くなるように……二人にあげる…フヒヒ……」

八幡「……そうか。んじゃ、ありがたく受け取っておくわ」

輝子「フフ……それを私だと思って、大事にするといい……」

八幡「なんかその言い方怖いからやめろ…」

輝子「…………」

八幡「……? 輝子?」

輝子「……最近、あまり会えない、からな」

八幡「ッ!」

輝子「い、忙しいのが良い事なのは分かってる……でも…」

八幡「…………」

輝子「…………」

八幡「……輝子」

輝子「……っ」 ぴくっ

八幡「あー……この後、時間あるか?」

輝子「……?」

八幡「凛も呼んで……そうだな、飯でも行くか」

輝子「っ!」

八幡「たぶん、まだ仕事終わりまでかかると思うが……どうだ?」

輝子「……フヒヒ」

八幡「…………」

輝子「……もちろん、行く…フフ……」

八幡「……そうか」

輝子「こ、小梅ちゃんと、幸子ちゃんも、呼んでいい……?」

八幡「おう。呼んどけ呼んどけ、いくらでも奢ったる」

輝子「フヒッ……さすが八幡。太っ腹」

八幡「そうでもある。ちひろさんも誘ってみるか」

輝子「賑やかに、なりそう……」

八幡「ああ」

輝子「……八幡」

八幡「何だ?」

輝子「……ありがとう」

八幡「……ああ」



ーーー
ーー




八幡「やっぱ仕事終わりは食い放題に限るな」

凛「分かってた。誘われた時点でこうなるって分かってたよ!」

輝子「フヒ……やっぱり、みんなで食べるのが一番おいしいな……」



859: 2015/05/03(日) 02:07:28.36 ID:JGgOdlfJ0

ある日の風景 比企谷家編



八幡「たでーまー」

小町「あ、お兄ちゃんおかえりー」 グデー

八幡「……どうかしたのか。そんな屍みたくなって」

小町「いやー集中力が中々続かなくってねー。……もう今日は色々限界」

八幡「ほーん、受験勉強中だったか。お疲れさん」

小町「いえいえ。ところでお兄ちゃんはいずこへ?」

八幡「それ使い方間違ってんぞ。ちょっとTSUTAYAにな」

小町「ツタヤ? なに、ラブライブのTカードでも作ってきたの?」

八幡「違う。いやそれも後々作るつもりだが……今回はこれだよ」 つDVD

小町「DVD?」

八幡「今日からレンタル開始だったからな。すぐに借りてきた」

小町「今日から……うーん分かんないなぁ。一体何を……っ!」

八幡「フッ」 にやり

小町「こ、これは……!」

八幡「そう、映画『眠り姫 THE SLEEPING BE@UTY』だ!!」

小町「買いなよ! お兄ちゃん!!」

八幡「言うな。今月厳しいんだ……」

小町「世知辛いね……」

八幡「まぁこればっかりは仕方がない。なんもかんも真骨頂クウガの出来が良過ぎるのが悪い」

小町「自業自得だったね……」

八幡「とりあえず俺は今から視聴開始するが、小町はどうする」

小町「……お兄ちゃん、受験生にそれ訊く?」

八幡「…………」

小町「たしかポップコーンとコーラがあったから持ってくるね!」

八幡「知ってた」



860: 2015/05/03(日) 02:09:24.04 ID:JGgOdlfJ0

 ー 視聴開始 ー



テレビ「ねぇ、知ってる? 桜の木の下には、女の子が眠ってるんだってーー。」



小町「奇麗な映像だねー」 もくもく

八幡「劇場にも見に行ったが、やっぱ何度見てもワクワクするな」 むしゃむしゃ

小町「始まり方が良いんだよね」 もくもく

八幡「しかし冷静に考えるとかなり怖いよな、この語り」 むしゃむしゃ

小町「確かに。春香さんが言ってるからそう感じないのかな」 もくもく

八幡「良いキャラしてるよな」 むしゃむしゃ

小町「キャラって言わないでよ。あれは素でしょ……たぶん」

八幡「別に批判してるわけじゃない。というかむしろ、765の中では俺はかなり好感を持ってる方だ」

小町「およ、そうなの?」

八幡「なんというか……自分の良い所、アピールポイントを理解してる、って言えばいいのか。あれが演技してるにしろ素なのにしろ、アイドルをあそこまで体現してる所は素直に凄いと思ってる」

小町「ふーん? よく分かんないや」

八幡「まぁ、これは星井にも言えることだがな」

小町「あー確かにミキミキは自分の可愛いところ分かってそうだね。ていうか実際カワイイし」

八幡「俺の場合あそこまで行くと逆に苦手だ」

小町「あはは、それお兄ちゃんが女の子に耐性無いだけじゃない?」

八幡「最近妹の言葉の端にトゲを感じる」

小町「別に前からでしょ」

八幡「それもそうだ」



861: 2015/05/03(日) 02:12:19.88 ID:JGgOdlfJ0

テレビ「私たちの中から、アイドルが選ばれるかも知れないんだって!」



小町「ハム蔵が透明だよお兄ちゃん」

八幡「CGだろ。普通に考えて」

小町「最近の技術は凄いね」

八幡「けど確かに動きそっくりだし、もしかしたらモーションキャプチャーでも使ってんのかもな」

小町「もーしょん……? って、なに?」

八幡「G4Uでアッキーが協力してくれたやつだ」

小町「もっと分かんないよ」

八幡「お、あずささんが色っぽい」

小町「あのカーテンに二人で隠れるの、私でもやられたらドキドキするよ」

八幡「親父の気持ちが少し分かるな」

小町「あれ? お父さんってあずささんのファンなんだっけ?」

八幡「……そうか、お前はあの事件の時出かけてたからな。知らないのも無理はない」

小町「えっ。なにその不穏な語り口」

八幡「あれは俺と親父が竜宮小町のライブをテレビで見ていた時だった……」

小町「なんか始まった……」

八幡「その時リビングにおふくろがいなかったから、油断していたんだろうな。親父はふと呟いた」

小町「何を」

八幡「『あ~あずささんと結婚してーなー』、と」

小町「うわぁ……」

八幡「そしてその時、丁度背後に母がいたのを俺は端から見ていた、と」

小町「うわぁ…………」

八幡「これが世に言う『比企谷家あずささん罪な女事件』だ。完全に俺の中だけだけど」

小町「前にお父さんのご飯だけ一週間パンの耳だったのはそのせいだったんだね……」

八幡「まぁメシが出るだけ慈悲を感じるがな」

小町「そういえば、お母さんは誰かのファンとか言ってたっけ?」

八幡「……まこりん」

小町「……分かりやすいなー比企谷家」


862: 2015/05/03(日) 02:14:42.31 ID:JGgOdlfJ0

テレビ「うぅぅぅ……うぅーーッ!!」



八幡「やよいちゃん、やよいちゃんっ!!」

小町「お兄ちゃんうるさい」

八幡「これが黙っていられるか。ってかよやいちゃん、完全にあれキメt」

小町「あー真さんカッコイイなー。雪歩さんも奇麗だし」

八幡「散髪シーンの告白は正直ビビったぞ。遂にか!? って。カップリングも狙いまくりだよな」

小町「そこがまた良いんじゃん。貴音さんが悪役ってのもまたね」

八幡「確かに。双海姉妹は最初思わず吹き出したが」

小町「あれは笑っても仕方ないね」

八幡「ってか、いおりんキャラまんま過ぎね?」

小町「そこはホラ、そーゆー需要を大事にしてるんじゃない?」

八幡「それを言われたら何も言い返せんな。涙目最高だったし」

小町「あと、今回は律子さんも出てたから嬉しかったね」

八幡「普段は竜宮のプロデューサーやってるもんな。たまにはこういう風に出てほしいもんだ」

小町「ん。この曲……挿入歌は新曲だったよね」

八幡「普通にカッコ良くて驚いた思い出」

小町「それで主題歌が題名にもなった眠り姫、ね。エンディングで流れた時は泣きそうになっちゃった……」

八幡「おい、エンディング前にそういうこと言うな。ホントに泣いちゃうだろ」

小町「ていうかお兄ちゃん普通に映画館で泣いてたよね」



863: 2015/05/03(日) 02:16:27.32 ID:JGgOdlfJ0

テレビ「ハルカ、私、アイドルになるわーー!」



八幡「…………」

小町「…………」

八幡「……良いな、やっぱ」

小町「うん。……この間さ、ネットでメイキング映像見たんだ」

八幡「マジか。俺まだ見てねぇぞ」

小町「公式ホームページで見れるよ。それでね、その中で千早さんが言ってたんだ」

八幡「………」

小町「『最近は、色んなお仕事が楽しいんです』、って」

八幡「……へぇ、あの如月千早がねぇ」

小町「すっごい良い笑顔で言うもんだから、なんかこっちまで嬉しくなっちゃった」

八幡「前までは、歌にしか興味ありません! って感じだったのにな」

小町「うん。……でもきっと、良いことだよね」

八幡「……だな」



 ー 視聴終了 ー



八幡「良い映画だった。掛け値なしに」

小町「お兄ちゃんほら、ティッシュ」

八幡「すまんな」

小町「こちらこそ。小町も良い息抜きになったよ」

八幡「そら良かった」

小町「お父さんとお母さんもそろそろ帰ってくるだろうし、小町はご飯の準備するね」

八幡「そんじゃ、俺は風呂でも沸かしますかね」 ピッ テレビ切り替え

小町「おや珍しい。どしたの?」

八幡「なに、良いもん見た後だからな。気分が良いだけだ」

小町「あはは、単純だなぁお兄ちゃんは」

八幡「うるせ。それより小町、飯にするならカレーを…」



テレビ「明日夜9時、シンデレラプロダクション特大企画を発表! お見逃し無く!」



879: 2015/05/11(月) 00:31:25.73 ID:BguSUa0P0

ある日の風景 その8



八幡「…………」



遂に、この時が来てしまったか。



凛「プロデューサー? どうかしたの?」

八幡「……いや、なんでもない」



呆然と立ちすくむ俺を不信に思ったのか、首を傾げる凛。
だが少しくらいは察してほしい。今、俺がどれだけ精神的に追い込まれているのかを。



凛「じゃあ、この辺で少し待っててくれる? 私はお父さんとお母さんに先に説明してくるから」

八幡「お、おお」



そう言ってさっさと店、もとい家の中へと入っていく凛。
俺に比べ、その様子は何とも余裕綽々と見える。なんか俺だけ意識してるみたいで嫌だ。つーか事前に話しておいてくれよ、更に緊張してきただろ。



八幡「……はぁ、憂鬱だ」



そう、今俺は担当アイドル渋谷凛の実家へと赴いている。

やはりプロデューサーとして親御さんに挨拶するのは当然とも言えるし、本来であればもっと早くに来なければいけなかったのだが……正直、とてつもなく気が進まなかった。

だって自分の娘がアイドルをやってるってだけで心配が尽きないだろうに、その担当プロデューサーが俺だぜ? こんなん紹介されたら不安が加速すること間違い無しだろ。俺だって俺で不安です。


880: 2015/05/11(月) 00:33:28.79 ID:BguSUa0P0

八幡「…………」 そわそわ



意図せずして視線が彷徨う。身体が勝手に忙しなく動く。

ダメだ、考えれば考えるほど気持ちが沈んでくるな……
どうするよ、もし凛の父親が漫画に出てきそうなテンプレ頑固親父とかだったら。「お前みたいなガキに娘は任せられん!」みたいな。「お前なんかに娘はやらん!」みたいな。

……いや、それじゃまるで結婚の挨拶に来たみたいだろ。


違う違うそうじゃない。俺はあくまでプロデューサーとして、担当アイドルのご両親に挨拶に来ただけであって、他意は無い。他意は無いんだ。だから落ち着け俺の心拍数。



八幡「……花でも見て落ち着くか」



凛には店の中で待っていてくれと頼まれたし、特にする事も無いからな。気持ちを落ち着けるには丁度いい。

辺りを眺めてみれば、色とりどりの花が陳列してあった。見覚えのあるものもあれば、見た事が無いようなものも。俺は花にはそんな詳しくはないが、見事なもんだな。つーか、花屋自体そんな入った事が無いからそう見えるのかもしれんが。



八幡「…………」 きょろきょろ



歩きながら色んな花を見てみる。

しかし実家が花屋を経営しているのは知っていたが、よくよく考えてみれば凄い乙女チックだよな。将来の夢はお花屋さん、というか既にお花屋さん。それもあの凛が言ってたらと妄想するだけで色々捗る。



八幡「……まぁ、今じゃもっと女の子の憧れの的になれたがな」



お花屋さんよりも更に狭き門である、アイドルという存在。そんな誰もが一度は夢見る存在に、凛はなることが出来た。

そう考えると、凛は誰よりも女の子してるとも言える。


……それだけに、本当に親御さんは可愛がってんだろうなぁ。


881: 2015/05/11(月) 00:35:35.85 ID:BguSUa0P0

八幡「やべぇな……一発殴られるくらいは覚悟しといた方がいいか」



だ、大丈夫だ。普段平塚先生のおかげで少なからず耐性は出来ているはず。もしもの時は応戦もやぶさかではない。俺にはサブカルで培った脳内格闘知識があるからな。脳内梁山泊に脳内勇次郎がついてるし、夜叉の構えから左手回して8時の方角で……



八幡「ん?」



ふと、視線を感じる。

最初は凛が戻ってきたのかと思ったが、見渡してみても姿は見えない。それどころか人の影も無い。
はて、ただの気のせいかしらと、そう思った時だった。



八幡「……お前か」



わんっ、という比較的小さな呼びかけに振り向いてみれば、その正体はすぐに分かった。

凛が入っていった家の方から、たったかと駆け寄ってくる一匹の犬。
パッと見はヨークシャーテリアかと思ったが、それにしては少し身体が長いな。ミックスか? しかし、小型犬ならではのこのトコトコ歩く感じはなんとも可愛らしい。



八幡「もしかしなくても、お前がハナコか?」



寄って来たワンコの頭を撫でながら訊いてみると、また一回わんっ、と小さく吠えた。当たりみたいだな。まぁ他に飼ってるとも聞かなかったし。



八幡「…………」 なでなで



撫でる毎に、くぅーんと気持ち良さそうに身をよじるハナコ。
ふむ。こう素直で従順な所を見せられると何とも愛らしく見えてくるな。全然敵対心を感じない。猫を飼っている俺でも、やはり犬は可愛いもんだ。あ、でもウサギ派になったんだっけ俺。



八幡「しかし、やけに懐いてくれるな。初対面だろ俺ら」


882: 2015/05/11(月) 00:36:42.27 ID:BguSUa0P0

すり寄るように身体をくっつけて来るハナコに、悪い気はしないながらも不思議に思う。
そういや由比ヶ浜から一時期預かってたあの犬、なんつったっけな。なんかお菓子みたいな名前の犬。鳩サブレみたいな名前の……もう答え言ってんな。サブレだサブレ。あいつもやけに俺に懐いていた。

まぁ、あいつの場合は助けてやった恩があるからかもしれんがな。犬がそんな事を考えてるかはともかく、覚えてはいたのかもしれない。となると、なんでコイツはこんな懐いてんだ。不思議だ。



八幡「猫飼ってる奴は匂いが付いてるって言うし、その匂いに反応してんのかね」



それなら逆に嫌がりそうな気もするが、仲良くやってる犬と猫もたまにテレビで見るしな。そのパターンもありえる。



八幡「おーおーそんな尻尾振っちまって」 なでなで



フリフリと、可愛らしく尻尾が動き回る。
うちのカマクラもこんだけ素直ならな。



八幡「…………」 なでなで



ふと、考える。

初対面の俺にこんだけ懐くって事は、凛ともさぞ仲が良いのだろう。
話を聞く分じゃあいつも中々に可愛がってるみたいだし、仲睦まじい絵が想像出来る。

……ただ、それだけに。



八幡「……悪いな。ご主人様を連れ回して」


883: 2015/05/11(月) 00:38:39.20 ID:BguSUa0P0

自然と、声が小さくなってしまった。

別に俺がアイツを独占しようとしてるわけじゃない。仕事上、凛の人気が上がれば上がる程忙しく、時間が取れなくなってしまう。それは凛も了承しているし、仕方の無いことだ。

だが、それがハナコに分かるとも限らない。
コイツからすれば、最近は凛の帰りが遅く、中々遊んで貰えないと不満を感じているかもしれない。
そう考えれば、その原因の一端である俺はハナコにとって、少なからず憎らしい存在と思われてるかもしれない。

それを知らずにこうして懐いてくれるのか。はたまた、知った上で俺に懐いてくれてるのか。それは俺には分からない。だから、一言謝っておく事にした。意味を成さなかったとしても、それでも、言っておいた方が良い気がしたから。



八幡「ま、アイツのことだ。どうせどんなに忙しくても遊んでやってんだろうな」



苦笑しつつ俺が一人呟くと、ハナコはまた一度小さく鳴いた。



八幡「なんだ、やっぱそうなのか」



抱え上げるようにして、自分と同じ目線まで抱き寄せる。
ちょっとダックスぽいな。



八幡「ってこら、やめんか」



ぺろぺろと顔を舐めてきたので、思わず引き離す。
だがそれでもじゃれて来ようとするハナコを見て、自然と笑みが零れてしまった。

なんなんだろうね。やっぱあれか、俺は犬にモテる体質なのか。そう考えれば色々と納得がいく。これはもう人より犬と添い遂げた方が幸せになれるんじゃね? いや待て、犬属性の女の子とかいればそれもう完璧じゃ……



凛「……プロデューサー?」

八幡「っ!?」


884: 2015/05/11(月) 00:40:26.65 ID:BguSUa0P0

いきなりの呼びかけに、思わずビクッと身体が反応する。いつの間にか凛が戻ってきていた。
びっくりしたー……全然気付かんかった。



凛「ハナコ、随分プロデューサーに懐いてるね」

八幡「あ、ああ。本当にな」



台詞自体は普通なのだが、どこか凛の表情が暗い。いや暗いというよりは、しかめっ面と言えばいいのか。何となく不機嫌な気がする。ま、まさか親御さんの反応が芳しくなかったとか、そういう事なのだろうか。

俺が嫌な想像をしていると、凛は俺に近づき、抱えていたハナコを奪い去ってしまう。いやこの表現はおかしいな。どちらかと言えば奪っていたのは俺の方だ。



凛「ハナコ、プロデューサーにあんまり失礼な事しちゃダメだよ。一応お客さんなんだから」



凛の言葉に、心なし項垂れた様子でくぅーんと泣くハナコ。ていうか、別に一応ってつけなくていいんじゃないですかね……



凛「プロデューサーも」

八幡「え」



まさか自分にも矛先が向かって来るとは思わなかったので、少し驚く。



凛「ハナコにちょっとデレデレし過ぎじゃない? 変な物とかあげないでよ?」

八幡「いやそんな事しねぇよ……」



そりゃ確かに可愛いなとは思ってたけども。そんな施しを与えるような事を俺はしない。むしろ俺が養われたい。

しっかし、なんでそんな不機嫌なんかね。もしかしてあまりにハナコが俺に懐くもんだから、飼い主としてちょっとやきもち妬いちゃってんのか? それなら少し納得。


885: 2015/05/11(月) 00:41:23.98 ID:BguSUa0P0

凛「……あんな顔、私と話してたってしないのに」 ボソッ

八幡「あ?」

凛「なんでもない!」



ぷいっとそっぽを向く凛。
いやはや、これだから最近の女の子はよく分からん。やっぱ犬か。犬なのか。



凛「……別に、プロデューサーが謝る必要なんて無いよ」



と、そこでまた凛が小さく呟く。
しかしその声は俺の耳までハッキリと聞こえた。謝らなくていいって……



八幡「……お前、聞いてたのか」

凛「…………」



こくんと、小さく首肯する凛。 

ま、マジか。犬に話しかけてるのを見られるとか、恥ずかしいってレベルじゃねぇぞ。しかも会話の内容も内容なので、羞恥心がマッハである。フルスロットル!



凛「……確かに最近は忙しくなってきて、あまり散歩も行けてないよ」

八幡「…………」

凛「お店の手伝いも出来なくなってきたし、迷惑をかける事もあるかもしれない」

八幡「いや、それは…」


886: 2015/05/11(月) 00:42:44.64 ID:BguSUa0P0

思わず声をかけようと、凛を見る。
だが、その言葉は途中で消えてしまった。凛の顔を見たら、口から出る事は無かった。

凛が、笑っていたから。



凛「でも、私は決めたから。もう覚悟は出来てるよ」



どこまでも真っ直ぐに、どこまでも強く。
その様子を見れば、俺の心配なんて必要ないのが分かってしまった。俺の不安や緊張なんて、とても小さく見えるくらいに。

そして凛は抱えていたハナコに向き合い、小さく微笑む。



凛「だからこれは、私が言わなきゃダメなんだよね」

八幡「…………」

凛「ごめんハナコ、あまり構ってあげられなくなっちゃうけど……待っててくれる?」



少しだけ哀しそうに笑って言う凛に、ハナコは小さく吠える。

まるで、愚問だとばかりに。



凛「……ありがとう」



凛は目を閉じ、ハナコのおでこと自分のおでこをくっつける。その様子を見ているだけで、なんつーか……ごちそうさまです。



凛「あ、こらっ。くすぐったいよ…」



ぺろぺろと今度は凛を舐め始めるハナコ。
お、おお……これはヤバイな。とても微笑ましい光景な筈なのにとてもいけない気持ちになってくる。気付けば自然と手が動いていた。

パシャっとな。


888: 2015/05/11(月) 00:44:56.67 ID:BguSUa0P0

凛「っ! ちょ、ちょっとプロデューサー! なんで撮ってるの!?」

八幡「え? あ、いや、ほら。えーっと、こ、これも仕事のなんたらかんたらみたいな…」

凛「言い訳すら出来てない!?」



いやーだってこれは撮るでしょ。誰でも撮るでしょ。雪ノ下とか相手だったら即ゴミを見るような目で社会的抹殺されそうだけど、凛が相手なら渋々許してくれそうだし。渋谷だけに。

さっきまでとても良い話な雰囲気だったのに、それもどこかへ行ってしまった。俺のせいか。



凛「もう、プロデューサーったら……」



呆れたように笑う凛。
そうやって仕方なさそうに笑って許してくれる所、ちょっと小町に似てるな。



凛「……ちょっと勝手なのかな」

八幡「? 何がだ?」

凛「さっきみたいにさ、ハナコはこう言ってくれてるって、勝手に良い方に解釈しちゃうのが」



困った風に笑う凛を見て、なんだそんな事かと溜め息が出る。

そんなもん、ペットの飼い主なら誰もがやってる事だろ。自分の良い方に解釈しちまうのは当然だ。なんせ相手は言葉を発しない。

……でもよ。



八幡「良いんじゃねーか? 別に、悪いことじゃないだろ」

凛「え?」

八幡「もし後ろめたいと感じるなら、見方を変えてみればいい。ハナコはこう言ってると“決めつける”んじゃなく、きっとこう言ってくれてるって、“信じる”んだよ」


889: 2015/05/11(月) 00:46:53.09 ID:BguSUa0P0

ただの言葉遊びだ。結局は良い方に考えようとしてる事に変わりは無い。
けど、それでも気持ちに折り合いをつける事は出来る。少しだけ、ハナコの気持ちを尊重する事が出来る。

たとえ言葉が通じなくたって、心が通じ合っていると、そう思えるから。



凛「“決めつける”んじゃなくて、“信じる”、か」



俺の言葉を反芻し、やがて凛は笑いを零す。



凛「ふふ……プロデューサーって、捻くれてるけどたまに良いこと言うよね」

八幡「捻くれてるもたまにも余計だ」



まったく、素直に褒めることは出来んのか。お前らがそんなん言うからどんどん捻くれていくんですよ? まぁお前が真っ直ぐな分、相方の俺が捻くれてる方が丁度いいかもな。



凛「……ハナコと、プロデューサーも。これからもよろしくね」

八幡「犬と一緒ってのもどうかと思うが……まぁ、こちらこそ、な」



たぶん、これから凛はもっと売れて、有名になって、忙しくなってくんだろう。
それこそ、休みも中々取れず、プライベートの時間が減っていくくらい。

なら、俺は俺に出来る事をやって、少しでも彼女の力になって、負担を減らしてやろう。


彼女が可愛い可愛い愛犬と、散歩に行けるくらい。



890: 2015/05/11(月) 00:49:54.81 ID:BguSUa0P0

八幡「……そういや、親御さんはどうだったんだ?」



ふと、思い出す。
そういえば今日は凛のご両親に挨拶に来たんだった。何も愛犬と戯れる為に来たわけじゃない。

しかし俺の言葉を聞いても、凛は何も答えない。というより、俺の言葉を聞いて固まっているようだった。



八幡「凛……?」



一体何事かと思って顔を覗き込んで見てみると、凛の顔は青ざめていて、そしてその後瞬く間に赤くなっていく。え、なに、どういうこと?



俺が不信がっていると、凛はぷるぷると腕を上げ店の奥側へと指を指す。
俺は猛烈に嫌な予感を感じながら、追ってその方向へと顔を向ける。あー……









八幡「…………………………どもっす」 ぺこ






恐らくは凛の両親が、そこにいた。









アイエエエエ! リョウシン!? リョウシンナンデ!?

いやいやいつから!? いつからそこにいたのん!?
というか、凛の反応を見るに最初からいたのを今思い出しましたよね!



八幡「り、凛さん。何故早く言ってくれなかった……」 顔真っ赤

凛「だ、だって、プロデューサーがハナコと話してたから、そのこと聞いてたら、忘れちゃって……ぷ、プロデューサーのせいだよ!」 顔真っ赤

八幡「いやいやいやその理屈はおかしい。俺は悪くない。世界が悪い」 顔真っ赤



その後言い争う俺たちを、何故か凛のご両親が宥めるという珍妙な展開になってしまった。
しかし何故か二人とも微笑ましいものを見るかのような視線で、俺と凛は終始顔の熱が治まらなかったのは言うまでもない。いやニヤニヤし過ぎでしょあなたたち……


891: 2015/05/11(月) 00:52:31.94 ID:BguSUa0P0



かくして、俺の担当アイドルお宅訪問は気恥ずかしさMAXで幕を閉じた。
あの後もお茶を淹れて貰ったり、少し話をしたりしたのだが、ただただ俺(と凛)が慌てふためいていただけなので割愛する。誰も自分の恥ずかしい経験を語りたくはないだろう。

でも、殴られたりしなかったのは助かったな。親父さん怖い人じゃなくて良かった……
まぁでも、よく考えてみれば当然か。あの凛を育ててきた両親だ。

良い人たちでない、はずがない。



帰り際、凛とハナコが見送ってくれた。
本当はご両親も付き添いたかったそうだが、凛が全力で止めていた。正直助かったな。



凛「それじゃ、また明日事務所でね」

八幡「おう。また明日」

凛「ほら、ハナコも」



抱えていたハナコを、少しだけ俺の方へと寄せる凛。
俺は特に迷いもせずその頭を撫でた。

気持ち良さそうにするハナコを見て、自然と頬が緩む。



八幡「んじゃ、またな」



名残惜しそうなハナコにそう言って、俺は歩き出した。
やがて少し離れた所で、誰に言うのでもなく、小さな凛の声が聞こえてくる。



「……ハナコは良いよね」



その言葉の意味はよく分からなかったが、俺は気にせず歩みは止めない。

返事は、きっとハナコがしてくれる事だろう。






おわり



892: 2015/05/11(月) 00:56:46.49 ID:BguSUa0P0
というわけで、しまむーのお母さんアニメに出て来たし、セカンドシーズンは凛ちゃんのママンも出るんですよね? というお話でした。

>>869
ごめん、もしかしたら思ってたのと違う感じかもしれん。

893: 2015/05/11(月) 00:57:44.21 ID:PdbHRrllo
乙乙
事務所にもハナコみたいなのはいる

895: 2015/05/11(月) 01:16:45.09 ID:0M/H/0/5o

でも凛さんすげぇ犬っぽいじゃないですか

896: 2015/05/11(月) 01:43:00.90 ID:fEtGHTgxO

引用元: 八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「ぼーなすとらっく!」