1: 2022/03/29(火) 19:31:49.44 ID:NxzY4v/W.net

2: 2022/03/29(火) 19:33:44.92
「3! 2! 1! せーのっ!」

パン! パン! パパンッ!!

「あけましておめでとーっ!!! そして」

「誕生日おめでとう! お姉ちゃん!」

「おめでとうダイヤ!」

「ダイヤちゃんおめでとう!!」

「みんな、ありがとう!」

「えへへ!これ見てお姉ちゃん!私ねマルちゃんと二人で──」


………

……


4:
ダイヤ「………ん」パチ

「あ、起きてしまいましたか」

ダイヤ「……いつから?」

「今帰ってきたばかりですよ」

ダイヤ「…起こしてくれても良かったのに、手伝いくらいさせてください」

「たまにはいいでしょう、それに随分気持ちよさそうに眠っていたので」

5:
ダイヤ「……」

「いい夢見れました?」

ダイヤ「……そうですわね」

ダイヤ「多分、私が今も望んでいたものなんじゃないかと」

ダイヤ「そんな気がしました」

6:
「……」

ダイヤ「……今年はどうなんでしょうね」

「冬溶けの時期なんですよ、今は」

ダイヤ「だといいのですけど」

ダイヤ「……二年目、になるんですよね」

「あの子の話ですか?」

ダイヤ「ええ、切っても切り離せない話ですから」

ダイヤ「どちらにとっても…ね」

7:


──内浦

浦の星女学院


「─以上が各部活動の報告書になります」

鞠莉「はーいお疲れ様生徒会長」

梨子「その呼び方はやめて欲しいんですけど」

鞠莉「あらごめんなさい、なんか懐かしくなって」

梨子「……まあ、別にいいんですけど」

鞠莉「それより梨子のほうこそ、そろそろ敬語やめたりしないの?」

梨子「無理です、理事長ですよ? 先生ですよ?」

鞠莉「お堅いわねー真面目ちゃん。だから推薦したっていうのもあるんだけど」

8:
鞠莉「でも本当よく引き受けてくれたわよね」

梨子「色々思うところがあったので、それに……」

鞠莉「それに?」

梨子「…やっぱり何でもないです」

鞠莉「ふーん、怪しいわねぇ」

9:
梨子「と、とにかく! これで今日の私の仕事は終わりですから! 失礼します!」

鞠莉「あ、じゃあ私も」

梨子「今日は理事長の仕事に専念するんでしょう!? 忘れたんですか!」

鞠莉「冗談よ冗談、みんなによろしくねーチャオー♪」ヒラヒラ

梨子「全くもう…」

10:


バタン


鞠莉「……」フーム

鞠莉「さてさて……来たぞ学年ど真ん中」

鞠莉「いよいよシーズン2の始まりねえ…」

鞠莉「これからこの環境がどう変わっていくのか、またはずっと変わらないまま同じものが繰り返されるのか」

鞠莉「全員が気になるこの節目、一体どうなるのかしらね…」

鞠莉「スーパースターは」

梨子「今はルビィちゃんたちの話でしょ!!? アニメのことは置いてくださいよ!」バンッ

鞠莉「あら、梨子は虹ヶ咲のほうが気になるのかしら? 放映順はこちらの方が先だものね」

梨子「ああもう! いいから早く仕事に入りなさい!」

11:


ワーギャー


曜「今日もいいように遊ばれてるね梨子ちゃん」

千歌「鞠莉ちゃんも鞠莉ちゃんで好きだからなーああいうの」

千歌「ま、それが息抜きになるなら別にいい気はするけど」

曜「両立って大変だからね」

曜「梨子ちゃんもそれ分かってるから、付き合ってるのかな」

千歌「半分本気の感じもするけどね」

曜「まあ確かに」

12:


ガチャ


梨子「はぁーっ……」

千歌「お、戻ってきたお疲れー」

梨子「うん、本当に疲れた」

曜「これから練習だけど大丈夫?」

梨子「大丈夫だよ、いつものことだから」

梨子「気にしてくれてありがとう。曜ちゃん」ニコ

曜「……一応お水は取っといた方がいいと思うよ」

13:
梨子「そうする、じゃあ行きましょうか」

スタスタ

千歌「……なんというか」ジーッ

曜「…なに」

千歌「この光景も見慣れてきましたなあ」

曜「だってさぁ……不意にくるんだもん」

14:
千歌「いい加減慣れたら?」

曜「それが出来たら苦労しないってば…」

千歌「はー生徒会長からのギャップってやつですか」

千歌「もー梨子ちゃんのことになると駄目っダメだね曜ちゃんは」

曜「返す言葉もありません」

15:
千歌「ああそうだ梨子ちゃんといえばさー」

曜「うん」

千歌「生徒会長になってから声大きくなったと思わない?」

曜「うーんどうだろう、言われてみればだけど」

「二人とも何やってるのー、早く部室に行くわよー!」

千歌「ほらね」

曜「あはは……確かにそうかも」

16:





花丸「あっ来た。梨子さんお疲れさまずら」ペラ

梨子「ううん、ごめんね遅れちゃって……ルビィちゃんと善子ちゃんは?」

花丸「ランニング、もうすぐ帰ってくるはずだよ」

千歌「そっか、じゃあ戻ってきたら少し時間置いてそれから練習かな」

曜「だね……っと噂をすれば」

善子「あれ、もしかしてもう終わってた?」

曜「ううん、さっき来たところだよ」

17:
ルビィ「梨子さんお疲れさま」

梨子「ルビィちゃんもね、タオル使う?」

ルビィ「うん、ありがとう」

善子「今日も練習よね?」

千歌「そだよ、今日のメニューはねー……」

18:
花丸「……ふう」パタン


拝啓、アオちゃんへ

今は四月の中頃、マルたちは高校二年生になりました。

もうすでに廃校が確定しているこの学校、どうやらマルたちの代が最後のようで

新しく入ってきた一年生は一人もいませんでした。

それが少しだけ寂しかったりしたんだけど

何とか前を向いて毎日を過ごせていると思います。

19:
スクールアイドル部のほうも、去年よりだいぶ雰囲気はよくなって

みんなの口数も増えてきたような感じがします。

ただ、それは前の三年生──果南さんとダイヤさんがここからいなくなったからっていうのも理由にあって

正直手放しには喜べない、複雑な気分です。

そんな中鞠莉さんだけは残って理事長を続行、その上なんとスクールアイドル部の顧問にまでなってしまいました

本人が言うには「この学校においての決定権は全て私にあるから問題nothing!」だそうで

ここまで来るともはや暴君だとマルは思います。心強いけど

でも仕事とか、大丈夫なのかなあ……?

20:
Aqoursのリーダーは前と変わらずに千歌ちゃんが

副リーダー的な立ち位置は曜ちゃんがやっています。

梨子さんは鞠莉さんからの推薦で生徒会長に就任。

今はスクールアイドルと両立しながらで傍から見ていても忙しそうです。

どうして梨子さんが引き受けたのか、それは分からないけど

鞠莉さんとのやり取りは満更でもなさそうで

なんかそういうところもダイヤさんに似てきたなあと思う今日この頃です。

21:
ルビィちゃんはいつも通り自分に課した目標を淡々とこなしていく毎日を送っているけど

最近は他愛のない会話もしてくれるようになって、ホッとしています。

それでもまだまだ遠いけど

なんとかマルと善子ちゃんの二人で歩み寄っていけたらいいなあって。

「花丸」

何かきっかけさえあればいいんだけど、ルビィちゃんが気になるような、惹きつけられるような何かが……

「花丸ってば!」

22:
花丸「え?」

善子「あんたいつまでそこでボーっとしてるのよ」

善子「もう練習始まってるわよ」

花丸「わわっご、ごめん! すぐ行くずら!」

23:
とにかく、今のマルたちはそんな日々を過ごしています。

まだそれぞれ抱えているものは色々あるけど

なんだかんだで充実した学生生活を送っているので

どうか心配せずにマルたちを見守っていてください。

また何かあったら教えるね。


─貴女の国木田花丸より


24:


──   ルビィ「片割れのジュエル」 フェスライブ編   ──


25:





曜「はいそこまで! 梨子ちゃん音楽止めて!」

カチッ

曜「フウーッ…みんなお疲れさま! どうだったかな」

善子「どうも何も、かなりしんどかったんだけど…」

花丸「マルも……」

千歌「でも凄いよ! 今の楽曲メドレー形式でやったダンス練習」

千歌「みんな全曲ミスなしで踊れてたじゃん!!」

梨子「前やったときは疲労で振り付けを間違えたり、タイミングが遅れたりしてたからね、自分のことなんだけど……」

26:
曜「それだけ体に染みついてきたってことなんだよ!」

千歌「継続は力なりってやつだね!」

曜「そうそう!」

ルビィ「……」フゥ

梨子「ルビィちゃんも大丈夫? お水いる?」

ルビィ「うん、ありがとう梨子さん」

27:
花丸「そういえば今も普通に話せるくらいには」

善子「息は整ってるわね、確かに」

千歌「うん! 花丸ちゃんも善子ちゃんもかなり良くなってきてるよ!」

曜「うんうん! これなら次のラブライブ結構いけるかも!」

ルビィ「……」

ルビィ「あの」

千歌「ん? どしたのルビィちゃん」

ルビィ「それは、多分無理なんじゃないかな」

28:


─理事長室


鞠莉「……」カキカキ

鞠莉「……はぁ、少し休憩にしましょ」

鞠莉「さてさて、窓の外から見る景色はーっと」

鞠莉「おー今日も元気にやってるわねー運動部の皆さんは」

鞠莉「千歌っち達は今、ストレッチでもやってるのかしら」

29:
鞠莉「…………」

鞠莉(去年と比べれば、地力は着々とついてきてる……チームワークにまだちょーっとだけ問題があるけど)

鞠莉(それさえ除けば実力的には十分、通用するとは思う)

鞠莉(贔屓目なしに見てもね、ただ……)

鞠莉「今のAqoursには決定的に足りないものがあるのよねえ……」ハァー

鞠莉「ルビィはもしかしたら、気付いてるかもだけど」

30:
善子「……経験?」

ルビィ「うん」

善子「前の三年生が抜けて6人体制になったとか、そういう話じゃなくて?」

ルビィ「それもあるけど、ルビィたちにはライブの経験値が全く無いの」

千歌「ふーむ経験ですか」

曜「えっ、でもライブならそれなりにやってきたし、PVだって」

千歌「いやいや曜ちゃん、それはどうかな?」

31:
曜「なんで?」

千歌「だってアレ結局身内の集まりじゃん、来る人達も私たちの知ってる人ばっかりだし、やり慣れてるっていうか」

千歌「自分たちのホームって感じしない?」

曜「それは、確かにあるかも」

花丸「じゃあ、PVのほうは?」

善子「PVはそれ以前の問題じゃない? まず土台が違うし」

花丸「というと?」

32:
善子「何回も撮りなおして上手くいったものをまた編集してネットに上げるPVと」

善子「生の一発勝負でやるライブじゃ感覚も違ってくるって話」

善子「前者は納得いくまでやり直せるけど、こっちはそうもいかないからね」

善子「どっちもやったことあるから、あんたも何となく分かるでしょ?」

花丸「うん、でも善子ちゃん詳しいんだね」

善子「前に生放送配信で大恥かいたことあったから。ま、今話してる経験ってやつ?」

花丸「あーご愁傷様」

善子「そんな軽く流すように言うんじゃないわよ」

33:
梨子「つまり、話をまとめると」

花丸「初めての会場や知らない人たちの前でライブをやったことが全然ないから」

花丸「それが経験の無さに繋がるってこと?」

ルビィ「うん」

曜「なるほどねえ、でも他所って言っても」

千歌「難しいところだよね、それはさ」

34:
千歌「私達なーんにも当てがないんだもん」

曜「ねー」

千歌「観光客が来てくれたらいいけどそもそも内浦なんて何もないからそんな人集まらないしー!!」ウガー

曜「どうせアニメやドラマ効果でやってきたとしても一時的なもので口コミとか移住とか期待出来ないしー!!」

善子「そこ二人ネガティブキャンペーンやめなさい」

千歌「違うよ! せめて何々スタジオジャパンとか! そーゆーのあれば良かったのにって話だよ!」

曜「分かる! 私も気軽にオリンピックの会場とか行きたかった!」

花丸「煩悩が漏れ出ているずら……」

ルビィ「あと話が脱線しているような…」

梨子「…………」

35:
梨子「──という話が昨日あったんですけど」

鞠莉「ふーん、そんなことがねえ。ちなみに最初に言ったのは誰?」

梨子「ルビィちゃんです」

鞠莉「あーやっぱり」

梨子「分かってたんですか」

鞠莉「薄々は。今でもそういうのに一番詳しいのはあの子だし」

36:
梨子「鞠莉さんはそのことで何か考えてたんですか?」

鞠莉「前から検討はしていたんだけど、結構行き詰ってるのが現状ね」

梨子「原因は?」

鞠莉「えーそれ聞いちゃう? 言いにくいことなんだけど」

梨子「構いません」

鞠莉「…去年の東京のライブ大会0票とラブライブの一次予選敗退、からの活動休止」

梨子「!」

鞠莉「これが今になってかなり効いてきてる」

37:
鞠莉「強豪とか、古くからある学校は、昔からの関係性や強くなるために必要なこととして」

鞠莉「縁のある他校と合同練習や合宿を行ったりするんだけど」

鞠莉「その他の学校とご縁を結ぶ機会が得られなかったのよ、うちは」

鞠莉「それが何でかって言ったら、さっき言った」

梨子「振るわない実績、ですか」

鞠莉「まあ、そういうことになるわね」

38:
鞠莉「結果を出せてないから声なんて勿論かからない」

鞠莉「そうじゃなくてもやる気や情熱、つまるところスクールアイドルに本気であれば」

鞠莉「同志が目を付けてくれてっていうチャンスはあったかもしれないけど」

梨子「…Aqoursは活動を自粛」

鞠莉「That's right おかげでそっち方面も望み薄」

鞠莉「私が留学した際の休止も含めて二回、事情を知らない人たちからすれば」

鞠莉「何かあるたびに活動をやめる不真面目なグループだと思われてもおかしくない」

鞠莉「ぶっちゃけそれも間違ってないし」

40:
梨子「……ごめんなさい」

鞠莉「責めてるわけじゃないわよ、それにさっきも言ったでしょ留学した件も含めてだって」

鞠莉「つまり原因の一端は私にもあるわけ、というか戦犯挙げようと思ったらキリがないわよ」

鞠莉「誰かしらやらかしているんだから、そうなってる以上これはAqours全体の問題なの」

鞠莉「分かったら切り替えなさい」

梨子「はい」

鞠莉「ん、それでよし」

42:
梨子「でも実際のところどうすればいいんでしょう?」

鞠莉「他に考えられる線は一応、知り合いの知り合い紹介パターンかしらね」

梨子「? 自分たちの知り合いから他学校の関係者、若しくはそれに縁のある人を紹介してもらうってことですか?」

鞠莉「ええ、そんな感じ」

鞠莉「でもここではそれもキツイのよねえ」

梨子「どうして?」

鞠莉「村社会気味っていうのもあってか、そういった余所との繋がりが薄いのよ」

梨子「ああそっか、そうですよね」

43:
鞠莉「顔見知りなら千歌っちや曜がたっくさん抱えてるとは思うけどねー」ハァ

梨子「じゃあ、部活のOBとかは?」

鞠莉「ん?」

梨子「ほら部活動をしていた人たちなら、まだ他校と関わっている可能性があると思うんですけど」

鞠莉「確かに、でも最近卒業した人たちの中でそんな子は」

鞠莉「いなかった……ような……」

鞠莉「…………ん?」

44:
梨子「あの、何か心当たりでも「それだーーーーーーーーー!!!!」

梨子「なっ……んですかいきなり大声出して!!」

鞠莉「何で今まで気付かなかったのよもう! あー灯台下暗し!!」

梨子「ちょっ、勝手に話を進めないで教えてくださいよ!」

鞠莉「と来れば…即行動以外の選択肢無し!!」

45:
鞠莉「ちょっと出てくるわ! 後お願い!」

梨子「だからっ人の話聞いて!」

鞠莉「梨子!」

梨子「なんですか!」

鞠莉「グッジョブ!」ビシッ


バタン


梨子「……なんなのもう~っ…!」

46:


─それから二週間後


千歌「よーし今日の練習はここまで!」

曜「みんなお疲れさまー!」

善子「ルビィ、今日は残って練習でしょ」

ルビィ「え、うん」

善子「付き合うわよ、花丸はどうするの?」

花丸「ごめん、今日は先に帰るね」

善子「ん、分かっ……」

「ちょっと待ったああああああああ!!」

鞠莉「全員! まだ帰らない! 集合っ!!」

47:
千歌「おー鞠莉ちゃん久しぶり! 最近全然見ないからどうしたのかと思ったよー!」

鞠莉「千歌っちおひさ~♪ 下準備に少し手間取ってね」

曜「下準備って?」

鞠莉「それは後のお楽しみ、そんなことよりも」

鞠莉「えー! 来週からゴールデンウィークに入るわけだけど千歌っち!」

千歌「はい!」

鞠莉「Aqoursの活動予定は!?」

48:
千歌「んー、一応いつも通りの練習組んで、余った時間で衣装とか撮影とか」

鞠莉「そう、何もないのね!」

善子「話聞いてた?」

鞠莉「そんな何の予定もないあなた達にいいニュースを持ってきたわ!」

善子「ねえ顧問」

鞠莉「というわけで! みんなもちろん行くわよね!」

梨子「話の持っていき方が強引すぎる……というか」

花丸「えーと、行くってどこに?」

鞠莉「ズバリ! 北海道!!」

49:
善子「はあ? 何でまたそんな北の果てまでわざわざ……」

鞠莉「昨年度のラブライブ優勝者、鹿角聖良と鹿角理亞」

ルビィ「──っ!」

鞠莉「その鹿角理亞がしっかりと引き継いだ新生Saint Snowのライブに」

鞠莉「なんと私たち招待されましたー!」

「招待ぃ!?」

鞠莉「そ、ご招待♪」

50:
鞠莉「しかもそれだけじゃないわよ」

花丸「まだあるの!?」

鞠莉「あなた達にはそこでライブを披露してもらうから」

曜「私たちも!?」

鞠莉「そういう条件なのよ」

梨子(鞠莉さん、心当たりあったんだ)

梨子(でもSaint Snowの知り合いって……ううん、まさかね)

51:
鞠莉「どうどう!? ちゃんと顧問っぽいことしてるでしょ!」

梨子「いや、してますけども」

曜「えっどんな手使ったの…?」

鞠莉「そんな窺わなくても正規ルートよ正規ルート」

鞠莉「ちょーっとツテを使っただけで」

花丸「すごく怪しいずら…」

52:
ルビィ「けど……行きたいです」

ルビィ「私、行ってみたい」

千歌「…私も見てみたい、ライブ」

千歌「それにやってみたい、そこで!」

花丸・梨子「ルビィちゃん…」

曜「千歌ちゃんも…」

千歌「だってこんなチャンス滅多にないでしょ!」

ルビィ「大会以外で優勝チームのライブが見られるなんて機会、そうそうないから」

千歌・ルビィ「それを逃すなんてもったいない!!(です)」

53:


ポン

ルビィ「! 善子ちゃん」

善子「いいじゃない、向こうももうそんなに寒くはないでしょ」フッ

善子「行くわ、私も」

鞠莉「他のみんなは?」

「……」

鞠莉「……決まりね」ニッ

54:
鞠莉「じゃあリーダー! ビシッとよろしく!」

千歌「よおーし! 行くぞ北の大地ーーーーー!!」

千歌「そこで私たちは! えーっと……」

千歌「…とにかく行くぞーーーーー!!」

「おぉーーーー!!」

善子「勢い任せ感がありありと出てるわね」

曜「でもこの感じ、ちょっと久しぶりかも」

花丸「うん、確かに」

55:
善子「楽しみね、北海道」

ルビィ「うん」

ルビィ「……あのね善子ちゃん」

善子「なに」

ルビィ「その、さっきはありがとう」

善子「ばか、そんなことで一々言ってたらキリないわよ」

善子(それに、当たり前でしょ…ルビィは気付いてないかもしれないけど)

善子(貴女からやりたいなんて言葉を聞くの、久しぶりだったんだから)

56:
善子「気負いすぎないで軽く受け止めるくらいでいいのよ」

ルビィ「…そうかもね」クス

善子「!」

善子(作り笑い、じゃないわよね。今の)

ルビィ「どうしたの?」

善子「ううん……なんでも」

57:


ワイノワイノ


鞠莉「Ohいいわねえ、いつもよりすこーしだけ、賑わっていて」

梨子「……」

鞠莉「あら、どうしたのかしら梨子」

梨子「鞠莉さんもしかして、こうなること見越してたんじゃ」

鞠莉「まさか、そんなわけないでしょ」

58:
鞠莉「ただ、やれることはやっておかないとね」

梨子「ここにいるなら、ですか」

鞠莉「そゆこと、さあこれからまた忙しくなるわよ生徒会長さん♪」

梨子「……望むところですよ先生」ニヤ

鞠莉「梨子、あなた悪そうな顔出来たのね」

梨子「ほっといてください」

59:


─東京


ピロンッ


果南「ん、鞠莉からラインだ……お?」

ダイヤ「どうかしましたか、何か変な文章でもきましたか?」

果南「いや、来週Aqoursが北海道に行くって」

ダイヤ「北海道って、あの人は何を考えてるんですか」

果南「なんでもSaint Snowのライブ見に行くとか」

ダイヤ「それは…大丈夫なんでしょうか?」

果南「どうだろう、そこは難しいところだけど」

「でも面白そうじゃないですか?」

60:
果南「面白そうって、そちらさんの妹も絡んでるんだよ?」

聖良「フフッ、だからこそですよ」

聖良「あの子にもいい刺激になると思いますし」

ダイヤ(ああ成程、あのとき鞠莉さんからかかってきた電話の意図がようやく分かりましたわ)

ダイヤ(しかし……)

果南「上手い方向に転べばいいんだけどね」

聖良「心配ありませんよ、人を見る目がありますから理亞には」

聖良「彼女たちが真剣ならあの子もそれに応えるはずです」ズズ

61:
果南「はいはいその節はどうもお世話になりました」

聖良「いえいえこちらこそ」

果南「案外図太いよね聖良は」

聖良「果南さんほどではないですけどね」

ダイヤ「……」

果南「どしたのダイヤ」

ダイヤ「いえ、最初の頃より随分仲良くなったなと思いまして」

62:
果南「まあ、そうなのかな」

聖良「そうなんじゃないですか?……あ、これ飲みます?」

ダイヤ「…いただきますわ」

ダイヤ「……ふぅー」ズズ

ダイヤ(北海道、ね)

63:
ダイヤ(ルビィは大丈夫かしら)

聖良「やっぱり心配ですよね」コソッ

ダイヤ「!」

聖良「手回ししておきながら言うのもアレですけど」

聖良「いくつになっても、妹だもの」

ダイヤ「……ええ」クスッ

69:


数日後…


キーンコーンカーンコーン


千歌「終わったー!」

「明日から五連休だねー!」

「何して遊ぼうか?」

「私はねー! 家でテレビ三昧!」

梨子「みんな盛り上がってるわね」

曜「ゴールデンウィークなんて大体そんなもんだと思うよ」

70:
「千歌ー! 千歌たちは予定空いてる? 一緒に映画とか行かない?」

千歌「ごめん! 私達もう埋まってて行けないんだよー!」パンッ

「そっかー残念…」

「ねえ、何するの?」

千歌「旅行に行くんだ!」

梨子「違うでしょ」

71:
千歌「えーちょっとくらいいいじゃん」

梨子「駄目です」

千歌「ちょっとのちょっとも?」

梨子「ちょっとのちょっとも、リーダーがそんなのだと示しがつかないよ?」

千歌「う~…曜ちゃ~ん」

曜「ま、まあまあ。それは着いてからまた考えればいいじゃん、ね?」

72:
千歌「はーい分かったよ」

梨子「全く、曜ちゃんは千歌ちゃんに甘いんだから」

曜「あ、あはは…」

「よく分からないけど、なんか楽しそうだね」

千歌「うん! 今から行くんだと思うと楽しみでしょうがないよ!!」

梨子(千歌ちゃん、そんなに行きたいんだ)

曜(やっぱり…ただ単純にスクールアイドルが好きなんだよね千歌ちゃんは)

曜(初めて自分が夢中になれるものを見つけて、だから)

千歌「何てったって今年は旅館の手伝いをしなくていいんだからね!!」ニカッ

千歌「くぅーっ! 自由って素晴らしいー!!」

曜・梨子(あ、そっちね……)

73:
善子「ふう、やっと放課後ね。今日はなんか長かったような気がしたわ」

ルビィ「そうかな」

善子「何よ、ずっとそわそわしてたくせに」

ルビィ「そんなことないけど」

善子「あるわよ」

ルビィ「ない」

善子「ある」

花丸「別にどっちでもいいような」

善子・ルビィ「よくない」ズイッ

花丸「あ、そうですか」ヒキ

74:
花丸「で、でも放課後すぐ飛行機に乗って北海道へ行くなんてちょっと不思議な感じだよね」

善子「なんで?」

花丸「だって修学旅行とかでも普通は朝からだし」

善子「ああ、そういうことね」

ルビィ「理亞さんのライブはGW一日目からだから今日までに向こうへ着く必要があるの」

善子「……」

ルビィ「なに?」

善子「いや、別に」

善子「さ、私たちも早く行きましょ。もうみんな集まってるかもしれないし」

ルビィ「? うん」

75:


──


鞠莉「はーい全員集まったわね、じゃあ予定通り今から空港行くわよー」

鞠莉「到着は夜の7時くらい、その後は明日に備えてホテルですぐ…」

千歌「……」ジーッ

鞠莉「……9時までなら自由行動でいいわよ」ハァ

千歌「やったー!」

善子「流石は末っ子ね」

曜「ははっ私もそう思うよ」

76:
千歌「いやー飛行機なんて久々に乗ったよー、もう何年前かな?」

鞠莉「千歌っち、機内では静かにね」

千歌「はーい」

花丸「……」ホワー

善子「窓からの景色ってそんなに珍しいものだったかしら」

花丸「マル、飛行機に乗るの初めてだから」

善子「ああ、そういえばそうだったわね」

77:
善子「ルビィはどうなの?」

ルビィ「私も乗ったことないよ」

善子「ふーん、そう」

ルビィ「うん」ペラッ

花丸(うーん、平常運転……)

78:
曜「梨子ちゃんはどうなの?」

梨子「え?」

曜「ほら、東京からこっちに来たときとかさ」

梨子「ううん、私たち新幹線で来たから飛行機には」

曜「あ、そうなんだ」

梨子「……」

曜「梨子ちゃん大丈夫? 気分でも悪b「?」

梨子「大丈夫、ただちょっと、眠たくて……」ウトウト

79:
梨子「」コテン

曜「ちょ、梨子ちゃん?」

梨子「……」スゥースゥー

曜「寝ちゃった、疲れてたのかな」ポンポン

曜(っていうか、顔近い……うわ、睫毛長いし髪サラサラだし)

鞠莉(ここのところ忙しかったものね、梨子はまだ会長になって間もないし)

鞠莉(色々溜まってたのかしらね、まあそれよりも……)

千歌「おお、あそこから青春のムードが!」

鞠莉「千歌っち駄目よ騒がしくしたら、ちゃんと大人しく見ていないと」ニヤニヤ

千歌「はいはーい了解」ニヤニヤ

クスクス  カワイイー

曜(なにこの生頃し状態)

梨子「……うぅん…」スヤ

80:


─札幌


千歌「着いたー!」

鞠莉「とりあえずホテルにチェックインして、荷物を置きましょう」

鞠莉「あとは時間まで各自自由でいいから」

千歌「はーい」

梨子「曜ちゃんごめんね、なんか迷惑かけちゃったみたいで」

曜「いや、私は大丈夫だから! 気にしなくていいよホントに!」

梨子「うーん、じゃあお詫びっていうのもなんだけど。今日は曜ちゃんに付き合うことにしようかな」

梨子「どこでもいいよ制服でもアミューズメントでも」

曜「本当!? えっと、じゃあまずはね……」

81:
花丸「千歌ちゃん、あれってもしかしてテレビ塔かな?」ユビサシ

千歌「おお! 生で見るの初めて!」

千歌「テレビ塔から見る景色って夜だと凄い綺麗なんだよね!?」

千歌「よーし花丸ちゃん、あそこ行こうか!」グイ

花丸「え、ちょっと……ずらぁーーー!!」

鞠莉「ちょっとあなた達ー! 時間のことちゃんと分かって……って、はあ」

鞠莉「善子」

善子「ん?」

鞠莉「お目付け役、GO 延長は一時間までなら良しとします」

善子「了解、全く甘いわね鞠莉も」スタスタ

82:
鞠莉「ふぅー、さてと」

鞠莉「貴女はどうするの? ルビィ」

鞠莉「私と温泉で裸の付き合いでもする? なーんて」

ルビィ「いいですよ」

鞠莉「いいの!?」

ルビィ「汗かいてたし、それに」

ルビィ「梨子さんだけじゃなくて鞠莉さんも疲れてるでしょ」

鞠莉「!」

ルビィ「だからこういう時くらい、少しはゆっくりしてもいいんじゃないかなって」

鞠莉「……よく見てるのね、ルビィって」

鞠莉(まあ、だからこそ追い詰められて…今こうなってるわけだけど)ジッ

83:
ルビィ「あの、どうしたんですか?」

鞠莉「どうもしてないわよ、私は」

ルビィ「?」

鞠莉「ただルビィが可愛すぎるってだけよ!」ガバッ

ルビィ「わわっ」ムギュ

鞠莉「さー行きましょ行きましょ! 北海道といえば温泉!」

鞠莉「ちゃんといいとこ取ってるんだから! レッツRelaxー!」

ルビィ「鞠莉ふぁん、抱きつきながら連れてかないでくだふぁい……」

84:





カポーン


ルビィ「なんか、空いてますね」

鞠莉「この時間帯なら夕食をとってる人もいるだろうし、何より今日は平日だから」

鞠莉「お客さん自体そんなにいないんじゃないかしら、明日からは混むだろうけど」

ルビィ「ラッキーってこと?」

鞠莉「そゆこと善は急げってやつね……あっつ」チャプ

鞠莉「ああでもいい……生き返る気分だわ~……」

ルビィ(もうだらしない顔になってる…)

85:
鞠莉「ルビィもほら早く、いい湯加減よ~」

ルビィ「あ、うん」トテトテ

ドンッ

ルビィ「え?」

「痛っ……」

ルビィ「ご、ごめんなさい! あの、大丈夫ですか?」

「平気です、こっちもちょっと余所見していて……って」

「あなた……」

ルビィ「え、もしかして…」

鞠莉「あら?」

理亞「何でこんなところにいるの」

86:
鞠莉「何でって、呼ばれたから来たのよ私達」

理亞「そういう意味じゃない」

鞠莉「別に狙ってこのホテルを選んだわけじゃないわ、単なる偶然。本当よ?」

理亞「……」

鞠莉「まあそんなことは置いといて一緒に入りましょうよ」

鞠莉「いつまでもそこにボーっと立っていると冷えちゃうわよ?」

鞠莉「それとも、一人でいるほうが心地よかったり?」

理亞「……入るくらい、別に構わないけど」ムッ

鞠莉「いらっしゃーい、ほらルビィも」テマネキ

ルビィ「は、はい」

87:


カポーン


鞠莉「フンフフ~ン♪」

理亞「……」

ルビィ「……」

ルビィ(何か話したほうがいいのかな)チラッ

理亞「…なに?」

ルビィ「な、なんでもない」

ルビィ(なんか、凄いことになっちゃったなあ…)

88:
理亞「……ハア」

鞠莉「随分お疲れみたいね」

理亞「別に、あなたには関係ない」

鞠莉「そうつれないこと言わないで、ね? 少しだけでいいから」

理亞「…明日のライブに向けて、リハーサルをやってたから。それだけ」

理亞「あと乗り物で移動するのは、歩くより疲れる」

鞠莉「へえ、ストイックなのね」

理亞「これくらい普通、そっちがだらしないだけ」

ルビィ「そんなこと」ムッ

鞠莉「メリハリが効いてるのが私たちの特徴なのよ、やるときはやってるわ」

89:
理亞「そんなこと言って明日のライブが大したことなかったら、承知しないから」

ルビィ「ならないけど」

理亞「どうだか」

ルビィ「絶対にならないもん、今度は失敗しない」

理亞「真剣にやっていればね」

理亞・ルビィ「……」

鞠莉「心配ないわよ、みんな張り切ってたから。それに」

鞠莉「私のお願いを聞いてくれた人の期待を裏切るわけにはいかないものねえ」

90:
ルビィ「え?」

理亞「それは、あなたが何度もしつこく頼みにきたからだし、あと姉様に言われたからで」

理亞「私は期待なんてしていない」

鞠莉「そんなこと言いながら、ちゃんと話は学校側に通してくれたじゃない~私知ってるのよ?」

鞠莉「いつもムスッとしてて喧嘩腰でそれでいて話し方もキッツいのに可愛いとこあるわよね~♪」

理亞「急にくっ付いてこないで! あとどうしてそのこと知ってるの、また姉様?」

ルビィ(悪口をサラッと言われたことは気にしてないんだ…)

鞠莉「私これでも理事長兼スクールアイドル部顧問なのよ、事実確認くらいはするわ」

91:
理亞「……なんで姉様はこんな人を気にいったんだろう」

鞠莉「あら、私は特に気に入られてないわよ? それは多分別の人」

ルビィ「?」

理亞「はあ?」

鞠莉「ま、女の勘だけどね」

理亞「…何言ってるのか分からないけど、とにかく私はもう上がるから。のぼせるのも嫌だし」ザバッ

理亞「明日も早いから」

鞠莉「そう、付き合ってくれてありがとう」

鞠莉「次もよろしくね」

理亞「……ふん」

92:
ルビィ「…行っちゃった」

鞠莉「ええ」

ルビィ「……理亞さんって」

鞠莉「うん?」

ルビィ「やっぱりあの大会のときから私たちの評価、変わってないのかな」

鞠莉「かもね」

ルビィ「……」

鞠莉「余計なことは考えない、目の前のことに全力で取り組む。ベストを尽くす」

93:
ルビィ「!」

鞠莉「結局私たちが今出来ることって、それくらいなんじゃない?」

ルビィ「…うん」

鞠莉「フフッ、でもルビィがムキになってくれたの私はちょっと嬉しかったけどね」

鞠莉「やっぱりみんなのこと、ちゃんと好きなんだなって」

ルビィ「なんで? それって普通のこと、じゃないんですか?」

鞠莉「…そうね、変なこと言っちゃったわ。今のは忘れて」

鞠莉「あと、私たちもそろそろ出ましょうか……ちょっと、頭がくらっとしてきたわ」

ルビィ「鞠莉さん……浸かりすぎです」

94:





千歌「いやー絶景でしたなー!」

花丸「本当に綺麗だったね、もう一回行きたいって思うくらい」

曜「あー満足した! いっぱい汗もかいたしスッキリしたよー!」

梨子「フフッ、曜ちゃんずっとはしゃいでたから見てるこっちまで楽しくなっちゃった」

善子「ま、ここのところ練習続きだったからね。私もいい息抜きになったわ」

95:
鞠莉「なんだ、結構早く帰ってきたのね」

ルビィ「おかえりなさい」

千歌「ただいまー! 私だって時間くらいちゃんと守るよ」

千歌「それとはいこれチーズケーキ!」

鞠莉「千歌っち気が利くじゃない」

千歌「まあね!」フフン

花丸「提案したのは善子ちゃんずら」

千歌「う……でも買おうって言ったのは私だし!」

善子「どっちでもよくない? それ」

96:
曜「鞠莉ちゃんたちは私達が帰ってくるまで何やってたの?」

鞠莉「温泉でルビィといちゃついてたわ」

善子「は?」ピク

梨子「ん?」ニコ

鞠莉「はい嘘です、超絶ジョーク」

ルビィ「でも一緒に入ったのは本当だよ」

ルビィ「気持ち良かったし、善子ちゃんたちもいってきたら?」

97:
曜「うーんでもまだ空いてるかなー?」

鞠莉「今の時間だとゆっくりはできないかもね」

千歌「不味いじゃん! 少しでもゆっくりするために急がなくちゃ!」

梨子「何それ、おかしいわね」クス

善子「言いたいことは分かるんだけどね」

花丸「それじゃあ行ってくるね二人とも」

鞠莉「いってらっしゃーい。あ、そうそう」

鞠莉「戻ってきたらみんなに重要な話するから、もう少しだけ起きててちょうだいね」

「? はーい」

98:


バタン


鞠莉「また二人っきりになっちゃったわね」

ルビィ「そうだね」

鞠莉「ん~、それにしても美味しそうねえ…ルビィはどう?」

ルビィ「今日はいいです、それより」

ルビィ「鞠莉さんに聞きたいことがあるの」

鞠莉「何かしら?」

ルビィ「聖良さんとのこと、気に入られてるとかどうとかって」

鞠莉「ああ、そういえばあったわねそんな話が」

ルビィ「あの、鞠莉さんはどうやって聖良さんと連絡とか協力して貰うことが出来たの?」

99:
鞠莉「気になる?」

ルビィ「うん、だって聖良さんとも色々あったから」

鞠莉「確かに、なんでって思うわよね」

鞠莉「なら千歌っちたちが戻ってくる前にパパッと話しちゃいましょうか」パクッ

鞠莉「先に結論から言うと、私が梨子とライブのことで話し合ってたとき」

鞠莉「その流れで果南とダイヤが聖良と一緒に住んでたことを思い出した、いや気が付いたのよ」

鞠莉「それでちょっとダイヤにお願いして連絡先教えてもらって、その後は本人に直談判して無事協力を得られたって感じね」

鞠莉「以上、私が聖良と関わったきっかけおしまい」

100:
ルビィ「お姉ちゃんからって……ううん、そんなことより」

ルビィ「お姉ちゃんって今果南さんや聖良さんと一緒に住んでるの!!?」

鞠莉「ルビィは何も聞かされていなかったの?」

ルビィ「上京するとだけ」

鞠莉「成程ね、あまり近況は家族に伝えていないと」

鞠莉「まあ私も果南経由でそれを知ったから、とりわけ話すことでもないと思ったのかしら」

鞠莉(ルビィに関していえば、梨子とのこともあるんだろうけど)

101:
ルビィ「お姉ちゃん、あまり自分のこと話さないから」

ルビィ「でもビックリしたぁ……果南さんはともかく聖良さんとなんて」

鞠莉「そうよねー私も最初気になってたから分かるわよその気持ち」

ルビィ「! じゃあ鞠莉さんは知ってるの!? どうしてそうなったのか!」

鞠莉「ええ、聖良から直接聞いたわよ」

ルビィ「あのっその話私にも教えてくれませ……んむっ」

鞠莉「ちゃんと話すから、それ食べてちょっと落ち着きなさい」

ルビィ「……」モグモグ

鞠莉「いい子ね、さて最初から話すとなるとそうね……」

鞠莉「聖良が言うには、三月の終わり頃……ある日バッタリとその女の子に出会ったそうな──」

102:
聖良『そうですね、あれは三月の終わり頃のことです』

聖良『その日漫画喫茶にいた私は、会計を済ませようと席を立ったんです』

聖良『そうしたらそこで偶然……』

鞠莉『ちょ、ちょっと待って、ネカフェにいたの貴女!?』

聖良『色々事情がありまして、それはまた後で説明します』

鞠莉『そ、そう…分かったわ』

鞠莉(全然想像つかないんだけど)

103:
聖良『続けますね、会計を済ませようとしたらそこで果南さんと会いまして』

鞠莉『果南と? ダイヤは?』

聖良『そのときは一緒にいなかったみたいです』

鞠莉(まあダイヤも行かなさそうだしね、そういうところ)

聖良『私としては何故この人がここにいるんだろうと思ったのですが』

聖良『それは彼女も同じだったみたいで……』

104:
聖良「……え?」

果南「ん? あれ、Saint Snowのお姉さんの方じゃん」

聖良「聖良です」

果南「そうそう聖良だった、何でこんなところにいるの」

聖良「貴女のほうこそ」

果南「私は暇つぶしで…」

聖良「ああその前に会計を済ませてもいいですか、後が閊えますので」

果南「しっかりしてるなあ」

105:
聖良「終わりました」

果南「うん。で、何でこんなところにいるの?」

聖良「いたら悪いんですか」

果南「違う違う、そんなイメージ無かったから意外ってだけ」

果南「それに聖良って確か道民じゃなかったっけ?」

聖良「よく知ってますね、上京してきたんです」

聖良「行きたい大学があって」

果南「へえ偶然、私たちもそうなの」

聖良「たち?」

果南「うん、私今ダイヤと一緒に暮らしてるんだ。ルームシェアってやつ?」

106:
果南「そっちは一人暮らし?」

聖良「……ええ、まあ」

果南「? なんか歯切れ悪いけど」

聖良「それは……その…でもこんなこと、言っていいのかどうか」

果南「何を迷ってるのか知らないけど、言ってみなよちゃんと聞くから」

聖良「……あのですね」

果南「うん」

聖良「実はそれ、まだ決まっていないというか……」

聖良「そのためのお金が無くなったというか…」

果南「……何それ、どういうこと?」

107:
果南「──財布を盗まれたぁっ!!?」

聖良「静かに! 声が大きいです!」

果南「そんなこと言ったって……え、なんで?」

聖良「数日前に厄介な人に後をつけられたことがありまして」

果南「ストーカー?」

聖良「はい、本人はファンだと言い張ってましたけどね」

聖良「私も東京の土地にあまり慣れていなかったから、人気のないところまで追い詰められてしまって」

果南「……どうなったの」

聖良「近くにいた人が警察に連絡してくれたみたいで何とか助かりました」

108:
果南「良かったじゃん。それにしても有名人っていうのも考えものだね」

聖良「いえ、そこで終わればよかったんですけど」

果南「ん?」

聖良「そのストーカーに迫られて気を取られている間に、別の人物に…その」

聖良「財布を抜き取られてしまって」

果南「……いやいや、そんな別の悪事が上手いこと連携するわけが」

聖良「逮捕された後分かったことなんですけど、その二人グルだったみたいです」

果南「……ああ、そういうことね」

聖良「お金はついでで身体が目的だったみたいですけど」

109:
果南「ふーん、そうなの」

果南(まあ確かに顔整ってるし、スタイルいいからなあー)ジッ

聖良「……こういう話したあとに人の身体ジロジロ見ます?」

果南「あ、ごめん…しかし踏んだり蹴ったりだね。その後どうなったの」

聖良「財布は帰ってきたんですけど、お金が全部……」

聖良「それにその日はお部屋を借りようと思っていて、敷金礼金用の費用を入れていたから……」

果南「うわ」

果南(なんか、思ってた以上に深刻な話じゃないこれ……?)

110:
果南「あれ……じゃあもしかしてここに来てた理由って」

聖良「……蓄えに余裕がないのでここで何とか凌ごうと」

果南「で、でもさ、今は学生のために敷金礼金ゼロの物件だってあるわけじゃん。そこ行けば」

聖良「全部埋まってました、この時期は倍率が高いらしくて」

果南「まあ、それは……そうだよね」

聖良「はい……」

果南・聖良「……」

111:
果南「……えーっと、そうだ家族とかに連絡は?」

聖良「出来ませんよ、入学金とか住むためのお金とか…色々援助してもらったのに」

聖良「その上まだ迷惑をかけるなんて……」

果南「出来ないってそんなこと言ってる場合じゃないでしょ、事情が事情なんだし」

果南「四月になったら大学だって行くんでしょ、そのときになってまでまだそんな生活続けてみなよ」

果南「みんなの憧れから一転、ただの笑いものだよ」

聖良「でもっ!」

果南「…………」

112:

…いい加減にしなよ本当に、さっきから分かったようなことばかりさあ!

あの子が、ダイヤがこれまでどれだけ苦労してきたか見てもいないくせにっ!!

そっちだって梨子ちゃんがどんなに辛い思いをしているかなんて考えたこともないでしょ!!

……っ……なんでそうなの

…がっかりだよ、一番最初に私に付き合ってくれた二人がそんなこと言うなんて

白黒はっきりつける前に少しは頭冷やせ!このバカっ!!


果南「……はぁー」

聖良「な、なんですか」

113:
果南「いいや、言っても聞かない頑固者っていうのは……どうしてこんなに面倒くさいのかってね」

果南「今の聖良を見て思った」

果南(千歌、大変だったんだろうな……)

聖良「なっ…! じゃあどうしろって言うんですか!」

果南「だから言ってるでしょ、家族に助けてもらいなよ」

果南「迷惑かけたくないって気持ちは分かるけどさ」

聖良「それが出来ないからっ「でもまあ」

果南「ご両親に頼ることがどうしても嫌っていうなら、聖良」

果南「私たちのところに来なよ」

聖良「…………え?」

114:
聖良「あの、それ、どういう」

果南「だから、一緒に住もうって言ってるの」スッ

聖良「ちょ、ちょっと待ってください……だってそんな」

果南「あーもしもしダイヤ? 今日大家さんいたっけ、ちょっと相談したいことがあってさ」

果南「新しい人来るから、まだ部屋一つ空いてたよね? 大丈夫かなって」

聖良「そんなこといきなり決めて、あの」

果南「誰って? あれ、聖良。そうSaint Snowの、うん」

果南「とりあえず今からそっち連れてくから、じゃあね」

115:
果南「よし」

聖良「よしじゃないでしょう!?」

果南「なんか問題でもあるの?」

聖良「それは……その」

聖良「だって…私、あなた達に対して……結構突き放した態度を取っていたのに」

果南「あぁーそれね」

聖良「何、考えてるんですか」

果南「だってほっとけないじゃん、今だって相当弱ってるし」

果南「でもとか、だってとかさ。いいでしょ別に」

果南「私がそうしたいって思ったんだから」

116:
聖良「果南さん……」

果南「あっ今名前呼んだね、松浦さんじゃないんだ」

聖良「っ!」

果南「名前呼びに変わったってことはつまり、前より親しくなりたいと思ってるってことだよね」

果南「イコール、聖良も受け入れてるってことだ」ニコ

聖良「な、なんですかその滅茶苦茶な理屈!!」

果南「いいからほら、早く行かないとダイヤに怒られる」ギュッ

聖良「つ、掴まなくても一人で歩けますからっ!」

果南「あ、そう?」

聖良「……全く」


……




117:
鞠莉『──成程ねえ、それで今に至ると』

聖良『はい、おかげ様で本当に助かりました』

鞠莉『果南も助かってるみたいよ、貴女の料理は美味しいって』

聖良『……私が来るまではレトルトばかりでしたからね、ダイヤさんも総菜で済ませていましたし』

聖良『不健康な生活はよくありませんから』

鞠莉『ふーん。ま、二人が元気そうで安心したわ』

鞠莉『教えてくれてありがとね、聖良』

118:
聖良『いえ、こちらの方こそ』

聖良『……あの』

鞠莉『ん~?』

聖良『二人から色々と事情は聞きました』

鞠莉『!』

聖良『私は…大会で言ったことは間違っていないと今でも思っていますし、後悔もしていないけれど』

聖良『それでも、あなた達のことを少し、誤解していたのかもしれません』

聖良『ごめんなさい』

119:
鞠莉『いいのよ、別に』

聖良『…ありがとうございます。ライブ、頑張ってくださいね』

鞠莉『ええ、この機会無駄にはしないわ』

聖良『フフッ、そうですね』

聖良『……あと』

鞠莉『まだ何かあった?』

聖良『いえ、大したことではないんですけど』

鞠莉『?』

120:
聖良『その、果南さんって、思っていたよりずっと……』

聖良『いい人、ですよね』

鞠莉『………………ん?』

聖良『……失礼します』


鞠莉『……切れちゃった』

鞠莉『…………ふーん』

121:
鞠莉「──というわけ」

千歌「はえーそんなことあったんだ。聖良さん可愛そうー」

曜「でも良かったよね、なんとか上手くいったみたいで」

梨子「そうね、でもなんで一つだけ部屋が空いてたんだろう」

鞠莉「あーそれ多分借りるときに私用に取っておいたやつよ」

鞠莉「卒業するとき誘われたし、こっちでやることあるから断ったけど」

善子「成程、しかしあっちもあっちで色々あったのね」

花丸「東京って恐ろしいところずら…」

善子「全部が全部そういうところじゃないから」

ルビィ「いつの間にかみんな戻ってきちゃいましたね」

鞠莉「ちょっとお話し長かったかしら?」

122:
千歌「そうだよ、お話しといえば!」

千歌「鞠莉ちゃん私たちに大事な話があるって!」

曜「ああ言ってた言ってた、温泉と聖良さん達の話に夢中ですっかり忘れてたよ」

曜「それで一体何なの? その重要な話って」

鞠莉「ライブ巡りの内容について話しておこうと思ってね」

善子「ライブ巡り? 何よそれ」

123:
鞠莉「明日から始まる五日間のGW中に北海道の各地を回ってライブを行うの」

鞠莉「アーティストの全国ツアーとかあるでしょ? あれの縮小版だと思ってくれていいわ」

善子「いやちょっと待って! GWまるまる使うの!?」

曜「それに私たちは招待されただけで、その条件としてこっちもライブをやるって話じゃ」

鞠莉「だから合ってるじゃない」

鞠莉「Saint Snowを含むスクールアイドルたちのライブツアーに招待されて」

鞠莉「あなた達もそれに参加、一緒にライブを披露してもらうってね」

善子「最初の説明で肝心なところが欠けすぎてるでしょ! そこまでコンパクトにまとめなくていいわ!!」

124:
鞠莉「で、やる場所なんだけど」

善子「聞きなさいよ少しは!」

花丸「まあまあ善子ちゃん」

鞠莉「一日目は札幌、岩見沢。二日目は富良野から旭川」

鞠莉「三日目で稚内に行って、四日目は北見から釧路へ」

鞠莉「最終日にまた札幌に戻って、そこで解散ってところかしら」

千歌「はえーそんなに回るんだー!」

梨子・ルビィ(交通費とかどうなるんだろう………)

125:
鞠莉「今のうちに釘を刺しておくけど、のんびり観光出来るとか思っちゃ駄目よ」

鞠莉「一日のほとんどは移動、ライブ、休息に使うからね。特に三日目の稚内」

千歌「でもさ、飛行機使えば早いんじゃないの?」

鞠莉「確かに北海道には空港が多いけど、実は道内同士で行き来できる空港ってそんなにはないのよ」

千歌「え、そうなの!?」

鞠莉「ええ、しかも新千歳と函館空港以外は日頃から便もそんなに出ていない」

鞠莉「各所に置いてあるのはどちらかと言えば、道外から旅行にくる県民のためで」

鞠莉「市から市への移動はもっぱら車かバス、それかJRを使うのがスタンダードかしらね」

「へえ~」

鞠莉「是非、今後の北海道旅行の参考にしてね♪」

126:
鞠莉「次にライブなんだけど、持ち時間は一組30分あたりの計2~3時間」

鞠莉「楽曲は新規でも既存の曲でも自由、なんなら他のアーティストのカバーでもいいわ」

善子「そこら辺は結構緩いのね」

鞠莉「ただし、あなた達には全会場で必ず一曲、未経験の初めてやる楽曲を披露してもらいます」

「!?」

鞠莉「そのための曲は既にリストアップしてるから安心してちょうだい、勿論振り付けの映像付きよ」

127:
梨子「えーと、つまり……移動中や他のグループがライブをやっている間にこれを覚えて、本番で歌って踊れと…?」

梨子(下準備って言ってたのも、多分このことよね……)

鞠莉「ご名答、流石は梨子ね」

ルビィ「…それって、予想外の事態にも対応できるようにってことですか?」

鞠莉「そっちも流石、要は適応力を試したいの」

鞠莉「あなた達が知らない場所で、やったことのない振り付けで、どこまで出来るのか」

128:
曜「そう言われても……」

花丸「うん…」

善子「……」

千歌「やってみればいいんじゃない?」

曜「千歌ちゃん?」

千歌「何でもやってみなくちゃ、どうなるかなんて分からないよ」

千歌「寧ろラブライブを目指している私たちがこんなことで一々怖じ気づいてどうする!! なんちゃって」

鞠莉「……」クス

129:
曜「…そうだね、よーしやるぞー!」

善子「考え方を変えれば、ここで今までとは違った糧が得られるってことだしね」

花丸「うん、いい方向に考えたほうがいいよね」

鞠莉「よし、固まったわね。じゃあ皆、とにかくこれだけは頭の中にいれておいて」

鞠莉「どんな形であれ、乗り切ること。以上!」

「はい!」

鞠莉「さ、話も終わったことだしそろそろ電気消すわよー」

鞠莉「おやすみー」

「おやすみ」

ピッ


……



130:
現在の人物相関図。

no title

134:


─翌日、GW1日目


ワイワイ ガヤガヤ


曜「うわー、結構人いるなあ…」

千歌「流石ラブライブ優勝チームって感じだね」

善子「それより自分たちの心配しなさいよ、今日しっかり出来るかどうかでその後の結果も変わってくるんだから」

千歌「う……」

曜「確かに…」

ルビィ「そうだね、でもそこまで気にすることでもないと思うよ」

善子「何でそう思うのよ?」

ルビィ「いつも通りの皆でいるほうが上手くいきそうな気がするから、かなぁ」

135:
善子「ふーん。何にせよ私は気を抜くつもりはないから安心しなさい」

ルビィ「うん、私も信じてる」

花丸「善子ちゃんはこういうとき真面目だよね」

善子「ほっといて」

鞠莉「はい皆お話しはそこまで、そろそろ移動するわよ」

梨子「札幌公演の私たちの出番は二番目、始まってすぐだから」

梨子「勢いをそのまま、ううんもっと盛り上げるためにも頑張ろうね」

千歌「おー!」

136:


会場、控え裏


「ありがとうございました!!」

ワー!!

「続いては……」

千歌「きたね、よしみんな行こう!」

千歌「みなさん初めまして! スクールアイドルAqoursです!」

「よろしくお願いします!!」

理亞「……」

137:


ーーー♪  ~~♪♪


茶髪「うわぁ、やっぱり動きのキレいいなあ」

黒髪「だよね、正直Aqoursって言われてるほど悪くないんじゃないかなって私は思うんだけど」

茶髪「でも活動休止とかあったからねー」

黒髪「それね」

理亞「別に、そんなの関係ない」

茶髪「え?」

理亞「……」

黒髪「あ、あのー理亞ちゃ……理亞さん?」

138:
理亞「あの人達が今まで何をしていようが、それはどうでもいい」

理亞「この場を盛り上げてくれるなら、結果を出せるなら、私は構わない」

黒髪「い、いやでも」

茶髪「理亞ちゃんが一番こき下ろしてたような……」

理亞「……ライブに私情を持ち込むな、姉様があの人達に言った言葉よ」

理亞「仮に私がどう思っていようとここに立った以上は、口に出すことじゃない」

黒髪・茶髪「……」

理亞「言っておくけど私はまだAqoursのことがあまり好きじゃないしむしろ嫌い、それでも」

理亞「来てくれた人たちを満足させられるなら、それに越したことはないわ」

理亞「そのための、北海道ライブなんだからね」

139:
黒髪・茶髪「理亞ちゃん……」

理亞「無駄話は終わり、そろそろ準備しよう」

理亞「次は私たちの番でしょ」

黒髪「え? ……あー! いつの間にかもう終わろうとしてる!」

茶髪「それに何か自分たちのじゃない曲踊ってるし! もっと見とけばよかったー!」

理亞「そうでもないわよアレは、多分即興だろうし」

「ありがとうございましたー!!」

パチパチパチパチ!!


理亞「別に、ウケてたからいいけど」スタスタ

140:
そして……


千歌「うう、疲れたー……でも」

千歌「1日目、なんとか終わったよー! みんなお疲れ!」

梨子「千歌ちゃんもね」

曜「なんかあっという間だったような、長かったような」

曜「ライブはいざ自分たちの出番が来たときは無我夢中でやってたけど、観客の人たちにはどう見えてたんだろう」

「好評だったんじゃないかしら? 少なくとも私の見た限りでは文句を言ってる人はいなかったわね」

千歌「あ、鞠莉ちゃん!」

鞠莉「みんなお疲れさま。良かったわよー! 特に花丸」

花丸「マル?」

鞠莉「最初から最後まで安定していて、とてもいいパフォーマンスだったわ」

141:
曜「へえー! 花丸ちゃん凄いじゃん!」

千歌「やるねー花丸ちゃん!」

花丸「そ、そうかな」エヘヘ

善子「なんか意外ね、こういうので花丸が褒められるなんて」

ルビィ「でも、分かる気がするなぁ」

善子「?」

ルビィ「花丸ちゃん物覚えがいいから、自分の知らない曲や振り付けでも私たちよりは身に付けるのが早いんだと思う」

善子「まあ私も、あの子の記憶力がいいのは知ってたけどさ」

善子「でも入部したての頃は全然だったじゃない」

142:
ルビィ「そのときは体力もついてなかったし、スクールアイドル自体にも慣れていなかったからね」

ルビィ「でもこの一年でそれも克服してきて、動きもどんどん良くなって」

ルビィ「前よりずっと、余裕ができたんだよ」

ルビィ「花丸ちゃんは気付いてないかもしれないけどね」

善子「……」

善子(やっぱりこの子は、スクールアイドルのことになると普段よりも活き活きしてるように見える)

善子(実際みんな、ルビィの言葉を今でも頼りにしてるし…私だってその知識を信頼してる)

善子(花丸も、元々自分にあった良さがここにきて芽吹きはじめた)

善子(二人とも、誰かの役に立っているっていうのに)

143:
千歌「じゃあ初めての曲をやるときはさ! 花丸ちゃん中心で展開していかない!?」

曜「いいね! 次からはそうしようよ!」

曜「そっちのほうがもっと上手くいきそうだし!」

梨子「フフッ、花丸ちゃん大抜擢ね」

花丸「ええーっ!? そ、そんな…今までどおり千歌ちゃんが……」

千歌「いいからいいから!」

善子(なのに私だけまだ、何もない)

善子(何も出来ていない、ルビィのためとか言っておいてそれすら…っ…)

ルビィ「どうかしたの?」

善子「……いや、何でもないわ」

ルビィ「…なら、いいんだけど」

144:
鞠莉「さ、次の宿泊場所に移動しましょ。明日も早いわよー!」

ルビィ「だって、行こう善子ちゃん」

善子「そうね」

善子(今はまだ、いいか。まずこっちに専念しなくちゃね)

千歌「よーし、この調子で2日目も頑張るぞー!……ん?」

ルビィ「あ」

「今日は来ていただいて本当にありがとうございました」

理亞「いえ、こちらのほうこそ。お忙しい中お越しいただいて」

「Saint Snowのライブ! すっごい楽しかった! 他のスクールアイドルの人たちも!!」

145:
理亞「ありがとう」

「ねえねえ握手してー!」

理亞「あ、握手?」

千歌・ルビィ「……」

千歌「ルビィちゃん、気になるの?」

ルビィ「千歌さんだって」

千歌「いやー私は多分ルビィちゃんとは目的が違うと思うよ」

146:
ルビィ「え?」

千歌「対抗心とか、そんな目で見てるわけじゃないし」

ルビィ「…そう見えるの?」

千歌「ちょっとだけね」

ルビィ「じゃあ千歌さんは、どうしてなんですか?」

千歌「ん?そーだなぁ…なんというか、理亞ちゃんってさ……」

梨子「千歌ちゃん、ルビィちゃん何してるの?早く来ないと置いてかれるわよ」

千歌「あっごめん! すぐ行く!」

千歌「ほら、ルビィちゃんも。続きはまた今度ね」

ルビィ「う、うん」

147:


GW2日目


曜「アクアリウムで~♪」

イエー!!


黒髪「盛り上がってるねー」

茶髪「いいよねー恋アク」

「曜ちゃーん!!」

茶髪「もう固定ファンも出来てるし」

黒髪「曜さんは出来るでしょ、前からかなりの人気だったしね」

茶髪「まあね」

148:
理亞「あなたたち、妙にAqoursに詳しいわよね」

黒髪「ま、まあ…」

茶髪「ライバル校の情報を集めるのも大切なことですし?」

黒髪・茶髪(い、以前ファンだったなんて言えない……)

理亞(以前ファンだったのね)

149:


ー♪


黒髪「あれ、また他のカバー曲やるんだ」

茶髪「それにセンター変わってるね、昨日はリーダーがあそこにいたのに」

理亞「おかしなことでもない、昨日一番ズレていなかったのは彼女、今もそう」

理亞「だからあの子をセンターに配置するのは、理にかなってる」

黒髪(……なんだかんだで)

茶髪(よく見てるのよね…)

理亞「なに?」

黒髪・茶髪「何でもない何でもない」

150:
千歌「ありがとうございましたー!!」

「ありがとうございました!!」

パチパチパチパチ!!

千歌「ふぅー2日目もなんとか乗り切ったね」

鞠莉「お疲れ、今回も上々の出来だったわよ」

曜「うん。今日は昨日よりもその感覚が分かるようになってきたよ」

曜「会場がワッと盛り上がるあの感じが、グワッッて直接来たような!」

151:
千歌「分かる! そこにバーンっていってビシッと決めたら!」

千歌「ストーンってハマって気持ちいいんだよね!」

善子「理解しようにも擬音が多すぎて」

花丸「何を言ってるのかさっぱりずら」

梨子「ま、まあまあ……気持ちだけでも汲み取ってあげて」

「あ、あの! ちょっといいですか?」

152:
鞠莉「はーい、何かごようかしら?」

「その……今日のライブでファンになりました!サインください!」バッ

曜「え? 私?」

鞠莉「今日のステージは曜が目立ってたものね」

千歌「さっすが曜ちゃん! もう現地のファン獲得かー!」

曜「えへへっ嬉しいなー! それくらいお安い御用だよー!」

「あ、ありがとうございます!!」

153:
梨子「やっぱり凄いね、曜ちゃんは」

千歌「梨子ちゃんとしては複雑な心境ですかな?」

梨子「どうして? ファンが増えるのはいいことじゃない」

千歌「…どう思う、鞠莉ちゃん」ヒソ

鞠莉「そうねえ」

梨子「……」

鞠莉「割といい感じかもしれないわよ」

千歌「そうかなあ……ってあれ?」

154:
「素晴らしいライブでした! 来てよかったです!」

理亞「ありがとうございます、次も機会があったら開催する予定なのでそのときは」

「はい!是非!!」

千歌「ほえー、ここでもなんだ」

曜「おーい千歌ちゃん! 終わったから戻ろうって鞠莉ちゃんがー!」

千歌「はいはーい!! 今行きまーす!」

155:


GW3日目


鞠莉「よし、3日目も無事終了っと……」サラサラ

鞠莉「それにしても……」チラッ

曜・梨子「……」スゥースゥー

ルビィ・花丸「……」ムニャ

鞠莉「今日の大半はほとんど移動、分かってはいたけど」

鞠莉「それでも長時間のバスでの移動は、やっぱり退屈よねえ……」フワァー

156:
千歌「……」

『こんな遠いところまで来てもらえるなんて、感激です!』

『応援してます!』

千歌(今日も、やってた)

善子「珍しいわね、いつも騒がしい貴女が物思いに耽っているなんて」

千歌「酷いなあ善子ちゃん、いくらなんでもそんな言い方はないよー」

善子「何かあったの?」

千歌「んっとね、別に嫌なことがあったわけじゃないんだけどさ」

千歌「ちょっとね、考えごと」

善子「私も、少しだけ」

157:
千歌「善子ちゃんはいっつも何か考えてるもんね」

善子「いつもってわけじゃないわよ」

千歌「そう?」

善子「そうよ」

千歌「……悩み事があるならさ、相談しなよ」

善子「!」

千歌「別に私じゃなくてもいいからさ」

158:
善子「顔に出てた?」

千歌「なんかルビィちゃんと似たようなこと言ってるなあ、少しだけね」

善子「……考えとく」

千歌「まあ善子ちゃんは私にそんなこと言われる筋合いないと思うけどね」

善子「そうね」

千歌「即答!? そこは建前でもそんなことないわよとか言うものじゃないの!」

善子「喧しいわね、ちょっと静かになっていたかと思えば結局これよ」

159:
千歌「ああ酷い! 善子ちゃんのせいなのに私に全部押し付けるような言い方して!」

善子「元々の習性について言っただけで押し付けてはないでしょ!」

千歌「習性ってなに! すごい失礼だよそれ!」

千歌「仮にも私先輩! リーダー!! もう少し敬う姿勢を持ちなさい!」

善子「普段無礼講気取っておいてこういうときだけ先輩面するの!?」

千歌「切り替え自由だもん!」

善子「そんなスイッチ捨ててしまえ!」

鞠莉「ちょっとあなたたち、元気なのはいいけどもう少し大人しくしなさい」

鞠莉「ここバスの中よ」

千歌・善子「はい、ごめんなさい」

160:


GW4日目


釧路


「以上を持ちまして、本日のライブは終了になります!」

「ありがとうございました!!」

ワーーー!!

「では最後に、締めくくりとしてSaint Snowの鹿角理亞さんから!」

「理亞さん、どうぞ!!」

キャーー!!  リーーーアチャーーーン!!  コッチミテー!


理亞(やりづらい……こういう空気、苦手)

161:
理亞「え……っと、今回の北海道ライブツアーはこの釧路が最後になりましたが」

理亞「みなさん楽しんでいただけたでしょうか」

オーーーーーーー!!

理亞「今年からは姉の聖良に代わり、私が引き継ぐ形となりました」

理亞「鹿角聖良のファンだったという人も大勢いたかと思います。そのうえでこのGWという限られた期間の中で」

理亞「忙しくもお越しくださった皆様には感謝しかありません」

理亞「そして複数の会場のどこで何を披露するべきなのか、どうすれば盛り上がる構成になるのか」

理亞「私たちを含むスクールアイドル全員が考えを凝らした結果」

理亞「こうして成功に繋がったことを、大変喜ばしく……」


……


162:





鞠莉「えーでは! 北海道ライブツアーでの成功を祝しまして!!」

「かんぱーい!!」

カランッ

千歌「んぐ……んぐ……ぷはーっ! 生き返るー!」

曜「焼肉最高ー!」ハムッ

ルビィ「美味しいね、花丸ちゃん」パクッ

花丸「うん、マル、幸せずらぁ……」モグモグ

鞠莉「どんどん食べていいわよー! 満足するまでいっちゃって!」

鞠莉「頑張った皆に私からのご褒美デース!!」

163:
鞠莉「あ、すみませーん! これとこれ追加で!」

カシコマリマシタ

善子・梨子「……」

鞠莉「ほらそこ二人! もっと食べなさい!!」

善子「いや自分のペースでいいわよ」

梨子「食べ過ぎると後が怖そうだしね」

鞠莉「いいからほら! 野菜だけじゃなくお肉! ほら!」

千歌「そーだそーだ! ご飯ももっといけー!」

鞠莉「あんまり食べないとこっちのお肉もつかないわよ!」

善子「セクハラやめて」

梨子「猥褻です」

164:


ワイワイ


曜「あはは、また絡まれてる」

ルビィ「でも二人とももっと食べたほうがいいっていうのは分かるなぁ、たまに心配になるもん」

曜「それは異論なし、ルビィちゃんはバランスよく食べるねー」

ルビィ「ずっとそういう取り方してきたから」

曜「食事もしっかりしてそうだもんね、黒澤家って」

ルビィ「うん」

曜「栄養管理がちゃんと出来てるのって羨ましいなあ、でも」

花丸「……」パクパクモグモグ

曜「花丸ちゃんみたいに美味しいものを幸せそうに食べるっていうのも、ある意味理想かもしれないね」

ルビィ「ですね」

165:
善子「いやあれは食べ過ぎでしょ、消化スピードどうなってんのよ」

ルビィ「あれ、善子ちゃんこっち来たの?」

善子「逃げてきた」

曜「え、ということは……」

梨子「も、もう限界……」

曜「わー! 梨子ちゃん大丈夫!? 二人ともやりすぎだよこれ!!」

千歌・鞠莉「いやーつい」

曜「ついじゃないから!!」

166:
善子「ほんと、毎日よく飽きないわよねあの人達」フフッ

善子「ルビィはどう? ちゃんと楽しんでる?」

ルビィ「うん、楽しいよ」

善子「心ここにあらずって顔してるわよ」

ルビィ「! やっぱり善子ちゃんには敵わないね」

ルビィ「……あのね。ここに来る前、理亞さんと少し話してて」

167:


──


理亞「ふう……」

黒髪「お疲れさま、理亞ちゃん」

茶髪「最後の挨拶も問題なく出来てたよ」

理亞「ええ、無事に終われてよかった」

ルビィ「あの! 理亞さん……」

黒髪「あれ?」

茶髪「ルビィちゃんだ。Aqoursの」

168:
理亞「……」

理亞「二人とも、先行ってて」

黒髪・茶髪「う、うん」スタスタ

理亞「で、なに? 私忙しいんだけど」

ルビィ「えと、まずはね、私たちを招待してくれたことに改めてお礼したいなと思って」

ルビィ「今回は、参加させてくれてありがとうございました」ペコ

理亞「そんなこと? それならさっきあなた達の顧問にも同じこと言われたんだけど」

ルビィ「私からも直接、言いたくて」

169:
理亞「…他は?」

ルビィ「ライブ、凄かった……前に見たときよりずっと」

理亞「当然でしょ、言いたいことはそれだけ?」

ルビィ「え、うん」

理亞「何それ、馬鹿馬鹿しい」

ルビィ「そんな言い方……」

理亞「あれだけ私に煽られて、それでもここまでやって来て」

理亞「なのに、わざわざすることがお礼と褒めるだけ……あなた、私たちも負けないって宣戦布告すら出来ないわけ?」

ルビィ「!」

理亞「さっき話に出した顧問は言ってたわよ、あなたと違って私に堂々とね」

170:
理亞「まだ去年の大会のときの方が威勢があったんじゃないの?」

ルビィ「それは……」

理亞「……ならこっちが宣言の手本を見せてあげる」

ルビィ「え?」

理亞「黒澤ルビィ、あなた今年の夏にある特別な行事を知ってる? 言っておくけどオリンピックじゃない」

ルビィ「ラブライブ!サマーフェスティバル2020のことだよね」

171:
理亞「流石にそれくらいは知ってるのね」

ルビィ「認可が下りた全国の会場で各地のスクールアイドルがデュオ、トリオ、グループの三つの中から参加したい項目を選んで」

ルビィ「開催期間中、各部門で競いあうお祭り型のイベント…通称フェスライブ」

理亞「そう、今年のフェスは東京オリンピックの開催もあって去年よりずっと規模が大きい、開催期間もいつもの二倍」

理亞「ラブライブの大会を除けば、それこそ今年一ってくらいには盛り上がるスクールアイドル夏の祭典」

理亞「あなたたちは去年参加していなかったみたいだけど」

ルビィ「……」

理亞「今年も私は、デュオで参加するつもり。そしてそこでトップを取る」

ルビィ「!」

172:
理亞「北海道の人たちはもう私たちのことを認めてくれている、だから今度は全国の人たちに」

理亞「姉様がいなくても、私はやっていけるっていうことをこのフェスで証明してみせる」

理亞「あなたたちが大人しく、のらりくらりとしている間にね」

ルビィ「─!」カチン

ルビィ「そんなことないっ!! 私たちだって!」

理亞「だったらそっちも証明すればいい、今度こそ参加して成果を上げてみればいい」

理亞「けど私は、仮に同じ舞台に立ったとしても」

理亞「意志の弱いあなたなんかに負けるつもりはないし、そのイメージすら微塵も湧いてこないけどね」

173:
ルビィ「~~~~ッ!!」

理亞「それだけは言っておくから、さよなら」


スタスタ


ルビィ「……」

ルビィ「…………るよ」

意志の弱いあなたなんかに

ルビィ「わかってるんだよ……そんなの……」ギュゥ


──


174:
ルビィ「─そこで言われたこと、ちょっとモヤっとしてたんだ」

善子「そっか……ねえルビィ」

ルビィ「なに?」

善子「明日帰ったらさ、久しぶりに私とデートしない?」

ルビィ「え? いいけど」

善子「私もね、今少し悩んでることがあってスッキリしてないのよ」

善子「でも貴女と一緒に全然関係ないこと思いっきりやって、楽しめたら」

善子「それだけで、また頑張れそうな気がするから」

175:
ルビィ「…そうだね、私も」

ルビィ「善子ちゃんと一緒に買い物とか行きたい」

善子「じゃあ決まりね」

ルビィ「うん、楽しみにしてる」

花丸「ふぅー、ごちそうさまずら」

ルビィ「はい、お粗末さまでした」

善子「口のご飯粒、ちゃんと取りなさいよ」

千歌「あ、ちなみに今のごちそうさまはご飯の完食と二人のイチャイチャを見たのをかけた……」

梨子「説明しなくて、いいから…」

曜「梨子ちゃん無理しないで」

177:
補足

黒髪と茶髪って誰?という方のために説明しておきます
彼女たち2人はアニメラブライブサンシャイン2期9話にて登場した理亞のクラスメイトです

180:


そしてGW5日目、最終日


曜「戻ってきたねー! 久々の新千歳!」

梨子「久々って言っても、まだ四日しか経ってないんだけどね」

鞠莉「それだけ濃密な時間だったってことよ、それも今日で終わりになっちゃうけど」

鞠莉「ねえ出発までまだ時間があるから、今のうちに色々回ってきたら?」

善子「そうね、今までそんな余裕なかったし」

ルビィ「クラスのみんなにお土産買っていこうよ」

181:
千歌「ねえ鞠莉ちゃん、ちょっといいかな」

鞠莉「どうしたの千歌っち」

千歌「お願いしたいことがあって」

千歌「私、帰る前に函館に寄りたいんだ」

鞠莉「函館に?」

千歌「確かめたいことがあるの」

鞠莉「……いいわよ、私も同行するわ」

鞠莉「とりあえず私たちの分はキャンセル入れて、他の四人は梨子に任せておけば大丈夫でしょう」

千歌「ありがとう鞠莉ちゃん!」

182:


─函館


鞠莉「で、千歌っちの確かめたいことって何?」

千歌「それは……」

ワーーー!!

鞠莉「? なにかしら」

千歌「ライブだ、Saint Snowの」

183:
鞠莉「あら本当、よくやるわねツアー自体はもう終わったっていうのに」

千歌「……」

「ありがとうございました!」

アンコール! アンコール!

千歌「……鞠莉ちゃん、あれだよ」

鞠莉「なにが?」

千歌「私が確かめたかったこと」

千歌「ありがとう鞠莉ちゃん、おかげでハッキリ分かったよ」

184:
千歌「……私、内浦の人たちに恩返ししたい」

鞠莉「What's? どうしたのいきなり」

千歌「今回のライブツアーとさっきの理亞ちゃんたちのライブを見て、思ったんだ」

千歌「私たち、あまり内浦の人たちに感謝とかしていなかったんじゃないかなって」

千歌「北海道に行く前も、何もないとか、人が集まらないとか、結局身内だとか」

千歌「そんな、自分たちのことしか考えていないようなこと言ってた」

鞠莉「……そうね、今思えば私も」

鞠莉「Aqoursの発展のためとはいえ、失礼なことを口にしていたかもしれないわ」

185:
千歌「理亞ちゃんたちが来た時の地方の人たちの反応、私…ずっと見てたんだけどね」

千歌「皆嬉しそうで、本当に心待ちにしていたのが分かって……」

千歌「理亞ちゃんもその人たちの期待に全力で応えようとしてるのが伝わって、本当に凄いなって思った」

千歌「ただ単に優勝したからってだけじゃないんだ、理亞ちゃんは……いや聖良さんも」

千歌「この場所を、北海道のことを、大切に想っているから」

千歌「だからこんなに、応援してくれる人がいるんだよね」

明日のライブが大したことなかったら、承知しないから

鞠莉「……」

186:
千歌「PVを作ろう、私たちがメインじゃない」

千歌「内浦の良さを知ってもらうためのPVを」

千歌「他のどんなことよりも、私は今それが一番やりたい」

鞠莉「……賛成、皆にも伝えましょうか。勿論帰ってからじゃなくて」

千歌・鞠莉「今すぐ!」

千歌「だよね!」ニコッ!

187:





曜「たっだいまー!!」

むつ「おかえり! どうだった北海道?」

曜「最高だったよ! ね、梨子ちゃん!」

梨子「うん、すごく楽しかった」

よしみ「いいなあー私たちも行きたかったなあー」

いつき「ねー」

曜「あははっ! それでね急なんだけど」

梨子「皆に協力してほしいことがあるの」

曜・梨子「PV撮影で!」

よいつむ「???」

188:
善子「全く、久々のデートだっていうのに」

ルビィ「ね、衣装はこんな感じのがいいかなぁ?」

善子「それだと地味じゃない?」

ルビィ「うーん、じゃあ他に良さそうなものは……」エーット…

善子(まさかPVで使う衣装選びに来るなんて、楽しいからいいんだけど)

ルビィ「善子ちゃん?」

善子「ほら早く決めるわよ、そんな調子じゃ先にお店が閉まるわ」

善子(それに)

ルビィ「えへへ、そうだね」

善子(ちょっとずつだけど、笑うようになってきたしね)ホホエミ

189:
花丸「──っていう感じかなあ、GWであったことは」

花丸「それでね今は千歌ちゃんから連絡来て、内浦の人たちにも協力をお願いしながら」

花丸「PV作りの準備に取り掛かっているところずら」

『休む間もありませんわね』

花丸「うん、でもみんな楽しそうだよ。もちろんマルも」

『そうですか』

『ありがとうございます花丸さん、毎回こうして教えてくださって』

『鞠莉さんは忙しい身ですし、近況を聞けるのが貴女くらいしかいなくて』

190:
花丸「ううん、気にしないで。マルは全然迷惑じゃないから」

『そう言ってもらえるとこちらとしても助かりますわ』

花丸「また何かあったら教えるね」

『はい、ではまた』

花丸「よし、マルも頑張らなくちゃ」

花丸「でもその前にこっちの方を済ませないとね」スッ


── 黒澤家之墓 ──


花丸「ただいま、アオちゃん」

191:


それから二週間後……


ブーッ ブーッ

理亞「姉様から……もしもし」

『もしもし理亞? Aqoursの新しいPVはもう見た?』

理亞「見たけど」

『そう、流石に早いわね』

理亞「別にそんなことない、普通」

192:
『なら、そのPVを見た人たちの評価は?』

理亞「それも確認した、どこも高く評価してる」

『まだまだ伸びるわよ、あれは』

理亞「……」

『肝心のAqoursが映っている時間はとても少なくて、映像のほとんどが内浦の魅力や景色で構成されてる』

『そういうの最近あまり見なかったから、余計目立ったのはあるかもね』

『でも私は、あのPVを見てもっと好きになったわね今のAqoursのことが』

『そんな感じの人、他にもたくさんいるんじゃないかしら』

193:
『理亞、あなたはどう思う?』

理亞「そうね……まあ」

理亞「認めてあげなくもない」

『相変わらず厳しいのね』

理亞「姉様があの人たちに甘いの」

『それは否定できないわね、でも仕方ないでしょ』

194:
『彼女たちには期待してるもの、あなたのライバルとして』

理亞「ライバル?」

『ええ』


理亞「……」カチッ

~♪

ルビィ『気持ちだけ…ほかになにもない?』

理亞「……ふん」

理亞「なればいいけど、本当になれるものなら」

195:
鞠莉「みんなー! 朗報よー!」

鞠莉「ついに私たちのPVが急上昇ランク! 一位取ったわよ!!」

鞠莉「SNSでも大量拡散! 内浦の公式サイトのアクセスも凄い伸びだって!!」

千歌「お…」

曜「おお……」

千歌・曜「おおおおおおおおおおお!!!??」

千歌・曜「ぃ…やっっったーーーーーー!!」ダキツキ

ルビィ「ち、千歌さん、曜さん……苦しいです…」

善子・花丸「よしっ!!」ハイタッチ

196:
梨子「よかった、本当に」

鞠莉「梨子は少し不安だった?」

梨子「そういうわけじゃないんですけど」

鞠莉「冗談よ」

梨子「またそうやって……」

197:
鞠莉「夢で夜空を照らしたい、か……いい曲よね。本当に」

梨子「ありがとうございます。とは言っても私の功績なんてほとんどないようなものですけど」

梨子「私はただ、皆の気持ちを形にしただけですから」

鞠莉「それだけでも十分凄いのよ」

梨子「そうでしょうか」フフッ

梨子「…今回は、思っていた以上にいい収穫になったんじゃないですか?」

198:
鞠莉「ええ、最初は経験を増やすため、成長のためって目的があったけど」

鞠莉「それよりも大事な、地元の人たちのことを考える気持ち」

梨子「はい、私たちが日々費やしていく時間の中で忘れかけていた大切なもの」

梨子「それをこの前のGWを通じて思い出させてもらいました」

鞠莉「改めてダイヤや聖良たちに感謝しなきゃね」

鞠莉「私にとってもあなた達にとっても、それぞれが自分自身のことを見つめなおすいい機会になったわ」

鞠莉「それに初めて、6人全員の気持ちが一つになった歌を歌えたと思わない?」

梨子「…っ……はい!」

鞠莉「いい笑顔ね、素敵よ」

199:
千歌「よーし、この調子でもっと頑張っていこー!」

「おー!」

ルビィ(私も、練習頑張らなくちゃ)

ルビィ「ねえ善子ちゃん」

善子「ん?」

ルビィ「あのね、この後自主練しようと思ってるんだけど」

善子「……ふーん」

善子「ちょうどよかった、私もそのことでルビィに言いたいことがあったのよ」

200:
ルビィ「え?」

善子「ルビィ、悪いけど私はしばらく貴女の練習には付き合えないから」

善子「ちょっとやることが出来たの」

善子「練習するなら一人か、他の人を誘ってちょうだい」

ルビィ「そ、そっか……分かったよ」

ルビィ「今までありがとうね、練習に付き合ってくれて」

善子「いいのよ別に、私が勝手にやってただけなんだし。じゃあね」

ルビィ「あ、うん……」

201:
梨子「ルビィちゃん、どうかしたの?」

ルビィ「えっと…善子ちゃんを練習に誘おうとしたんだけど、しばらく一緒にはやらないって断られちゃって」

梨子「そっか、善子ちゃんが」

梨子「なら私が練習に付き合うわよ」

ルビィ「いいの?」

梨子「ルビィちゃんがよければだけど」

ルビィ「もちろん、嬉しいです」

梨子「よろしくね、そうだ終わったらケーキ食べに行きましょう。私のおごりで」

ルビィ「いいの!? ありがとう梨子さん!」

梨子「PVも上手くいったし久しぶりにルビィちゃんと二人だけになれたんだもの、景気よくいかないとね」ニコ

202:
善子(梨子が一緒にやるんだ……なら大丈夫そうね)

曜「あれ、善子ちゃん今日は練習いいの?」

善子「いいえやるわよ」

曜「そうなの? でもルビィちゃんの姿が見えないけど」

善子「今日から別々でやるからね、私も相手を探しに来たところ」

曜「へえ~善子ちゃんのご指名は一体誰に「貴女よ」

善子「曜、私の練習に付き合ってくれない?」

曜「……私?」キョトン

203:
鞠莉(それぞれが自分を見つめなおし、また新しく動き始めた)

ルビィ「」

鞠莉(片方は成長)

善子「」

鞠莉(もう片方は変化を求めて)

鞠莉(そのお互いの行動がこれからどんな形で交わっていくのか、誰にも分かりはしないけど)

204:
千歌「花丸ちゃんラスト10本! 頑張れー!」

花丸「な、なんでマルいきなり走らされてるずら……」

千歌「私たちもなんかやったほうがいいと思って」

鞠莉「フフッ……全く、どこもかしこも」

鞠莉「羨ましくなるような青春かましてくれちゃって」

鞠莉(あなた達はそれでいい。迷っても、悩んでも、進み続けなさい)

千歌「おーい! 鞠莉ちゃんもこっち来なよー!」

鞠莉「いいわよ私は」

鞠莉「ちゃんとここで見てるから、ね」

205:


─6月


東京


ダイヤ「はい、はい……そうですか。ええこっちも変わらず」

ダイヤ「え? ええ、そのつもりですけど……成程、分かりましたわ」

ダイヤ「こちらも楽しみにしています」

ダイヤ「はい、ルビィにもよろしく伝えておいてください……ではまた」

果南「花丸ちゃんから?」

ダイヤ「ええ、5月以降Aqoursは順調に一歩ずつ進んでいると」

ダイヤ「最近は他の学校とも一緒に練習を行ったりしているそうですわ」

果南「へえー、皆頑張ってるんだね」

206:
果南「ねえダイヤ、夏休み入ったら向こうに帰るんでしょ?」

ダイヤ「それはもちろん」

果南「千歌たちにも顔見せに行こうよ、話したいこともあるし」

ダイヤ「そのことなんですけど、顔見せ程度では終わらないかもしれませんわよ」

果南「どういうこと?」

ダイヤ「先ほどの電話で夏休み合宿の協力を私たちにしてほしいと、鞠莉さんから言伝があったみたいで」

果南「あーそうか合宿ね、すっかり忘れてた」

聖良「忘れてるのはそれだけですか?」

207:
果南「え?」

聖良「お昼ご飯、もう出来てますよ」

果南「本当だ、ごめんすぐ食べる」

聖良「全く、わざわざもう一回作ったっていうのに」

果南「ごめんって、美味しいよ聖良」

聖良「はあ……あ、そうだダイヤさん」

ダイヤ「何でしょう?」

聖良「先ほどAqoursのみなさんが合宿を行うと聞きましたけど」

聖良「こっちにもそのことで面白い話が来ていますよ」

ダイヤ・果南「?」

208:
千歌「はい! 今日の練習はここまで!!」

「お疲れー!」


ーー♪ ♪♪♪


鞠莉「ん? 電話……ダイヤから?」

鞠莉「ハーイお電話どうも貴女のマリーでーす! あ、そういうのいらない?」

鞠莉「え? ええまだ皆いるわよ、今ちょうど練習が終わったところで」

「??」

鞠莉「ちょっと待って、皆にも聞こえるようにするから」

スッ

鞠莉「全員こっち来て、ダイヤから何か話があるみたい」

209:
千歌「おおー! ダイヤさん久しぶりー! 元気だった!?」

『はい、千歌さんもお変わりないようで』

ルビィ「お姉ちゃん、大学の方はどう?」

『心配しなくても大丈夫よ、ルビィこそちゃんとしてる?』

ルビィ「うん、なんとか」

『そう、梨子さんもこの子の面倒を見てくれてありがとうございます』

『花丸さんから話は聞いていますわ、最近はよくルビィの練習に付き合ってくれているとか』

梨子「そんな、お礼を言われるほどのことじゃないです」

210:
鞠莉「ダイヤ、そろそろ」

『そうですわね、世間話もいいですけど流石に本題に入りましょうか』

『さて、それでまずは一つ確認しておきたいことがあるのですが』

『皆さんは夏休み期間に行われるスクールアイドル選抜強化合宿のことをご存知でしょうか?』

曜「うん、鞠莉ちゃんから聞いたから知ってるよ」

曜「全国から各校1人ずつ選ばれた、計30人のスクールアイドル達で来月末の7月25日から」

曜「8月10日にまで渡る17日間!東京の体育館で行われる、超!長期合宿のことだよね!」

『ちょうが一つ多い気がしますが……まあそれで合っています』

211:
善子「光栄なことにAqoursもその30校のうちの1つに入ってるのよね」

花丸「でもまだメンバーの誰が選ばれるのか、分かってないずら」

梨子「向こうの決定を待つしかないからね、こっちからは決められないし」

『ええ、本来はそのはずなんですけど』

梨子「え?」

鞠莉「なに、もしかして違うの?」

『はい、今回話したかったのはその誰が選ばれるかの件についてです』

212:
『手短に話しましょうか、これは聖良さんから伺ったのですけど』

『彼女は合宿メンバー推薦者の内の一人に入ってるんです』

千歌「嘘! 聖良さん凄い!」

善子「でも考えてみれば聖良って前年度のラブライブ優勝者だし、当然っちゃ当然よね」

鞠莉「えっと、つまり私たちで合宿に行かせたい人を話し合いで決めて…その子を聖良に頼んで推薦してもらうってこと?」

『いいえ、その逆ですわ』

鞠莉「逆?」

『聖良さんが推薦したいAqoursのメンバーは既に決まっています』

『ただ、その最終的な判断はあなた達にも分かってもらえた上でしたいと、私はそう彼女から頼まれたんです』

213:
千歌「聖良さんからの推薦……」ゴクリ

曜「一体誰が……」

梨子・善子「……」

『ではその推薦された人物を今から伝えますわね』

『……』

『ルビィ、貴女──』

『この合宿に参加してみる気はない?』

「!!」


ルビィ「え……私?」

214:
花丸「わあ…ルビィちゃん凄いずらあ!!」

千歌「おめでとー!!」

鞠莉「congratulationルビィ!!」

ルビィ「で、でも……皆はいいの?」

ルビィ「それに夏休みにやるAqoursの合宿だって」

梨子「大丈夫よ、そっちは私たちに任せて」

善子「ルビィ、貴女がそんなこと気にする必要ないわよ」

善子「私はルビィの意見を尊重するわ、だから自分の気持ちに正直になって」

215:
千歌「行ってきなよルビィちゃん!」

曜「私たちもこっちで頑張るからさ!」

ルビィ「善子ちゃん、みんな……」

ルビィ「…いく、行かせて」

『分かったわ。じゃあ向こうにもそう通しておくわね』

鞠莉「ならご両親の許可も必要よね、長期遠征になるわけだし」

鞠莉「ここは顧問として、私から黒澤の方に説明を…「いい」

216:
鞠莉「え?」

ルビィ「いいよ、やらなくて」

ルビィ「全部自分で言うから」

鞠莉「…わかったわ、余計なことはしない」ニコ

鞠莉「というわけだから、そっちもよろしくね~ダイヤ♪」

『え、ええ…了解しました。ではまた』

鞠莉「チャオー」

217:
ルビィ「私が、東京の合宿に……」

ルビィ(行くんだ、行けるんだ……!)

花丸「ルビィちゃん、嬉しそうだね」

善子「それはそうでしょ、こんな機会そうそうあるものじゃないし」

善子「ルビィにとっては私たちより尚更、興味が強かったんだから」

千歌「んーでもさ、どうして聖良さんはルビィちゃんを選んだんだろうね?」

曜「確かに、何か理由でもあるのかな?」

鞠莉「いいじゃないどっちでも、とにかく今はあの子を応援してあげましょう」

梨子「そうですね」

鞠莉「さ、私たちも来月に向けて気を引き締めていくわよー!」

「おーーー!!」

218:


そして一ヶ月後……7月下旬


千歌「きっったーーーー!! 遂に来たよー! このときが!!」

曜「待ちに待った夏休み!! 突入であります!」ヨーソロー!

梨子「二人とも朝から元気ね……昨日あんなに夜更かししたのに」フワァ

善子「でもちゃんと集合時間には間に合うのね」

梨子「初日から遅刻は駄目でしょう」

善子「まあね」

花丸「あ、鞠莉さんが来たよ」

219:
鞠莉「お待たせ、みんな集まってるわね」

鞠莉「さて、分かってると思うけど今日から夏休み」

鞠莉「そして記念すべき合宿の一日目! ということで」

鞠莉「あなた達をサポートしてくれるスペシャルゲストをご紹介するわ! さあさあご覧あれ!」

果南「や、みんな久しぶり」

ダイヤ「鞠莉さん、なんですかその前振りは」

千歌「おー! 生果南ちゃんに生ダイヤさん!」

梨子「千歌ちゃん言い方」

善子「こうして直接会うのは本当に久々ね」

曜「あれ、待ってその後ろにもう一人誰か……あ!」

聖良「お久しぶりです皆さん、私もこっちに来てしまいました」

220:
花丸「せ、聖良さんずら!」

聖良「今回は私も皆さんの合宿に協力させてもらうことになりました」

聖良「よろしくお願いします」

千歌「こちらこそ! 聖良さんが来てくれるなんてすっごく心強いです!!」

曜「でもSaint Snowの方はいいんですか?」

聖良「もちろん一度北海道の方にも顔を出しには行きますけど、あちらには優秀なコーチもいますし基本はこっちを手伝うつもりです」

聖良「それに理亞には私よりももっと適任な人がいますから、心配いりませんよ」

千歌・曜「?」

221:
ダイヤ「……」キョロキョロ

ダイヤ「ルビィは、いないみたいね」

梨子「ルビィちゃんならもう東京に行きましたよ」

ダイヤ「!」

梨子「昨日空港でみんなで見送ってきましたから」

ダイヤ「そうですか……」

梨子「多分、心配いらないと思いますよ」

ダイヤ「え?」

梨子「不安そうな表情じゃなかったので」クス

ダイヤ「梨子さん……」

梨子「きっと今頃、向こうで頑張っていますよ」

222:


─東京


ルビィ「……」

ルビィ「ど、どうしよう……迷っちゃった」

ルビィ「ちゃんと地図を見ながら向かってるはずなのに……」

ルビィ「なんで東京ってこんなに複雑なのかなぁ……?」

ルビィ「えっと、とにかく何か目印を探して……あれ?」

理亞「……」ウロウロ

223:
ルビィ「あの」ポン

理亞「ひっ!!?」バッ

ルビィ「やっぱり理亞さんだよね?」

理亞「黒澤ルビィ……っ…いきなりどういうつもり?」ギロ

ルビィ「ご、ごめんなさい、驚かせるつもりはなくて」

理亞「もういい、それより……なんでこんなところにあなたがいるの」

ルビィ「私はその、合宿に呼ばれて」

理亞「何、あなたも?」

ルビィ「じゃあ理亞さんも? ……ってそれはそうだよね、呼ばれないわけないもん」

224:
ルビィ「でもそれならなんでここに? ……もしかして」

理亞「私は迷ってなんかない!!」

ルビィ「まだ何も言ってないけど」

理亞「……あ」

ルビィ「……えーっと、理亞さん」

理亞「なに」

ルビィ「一緒に行かない? もしかしたらそっちの方が早く着くかもしれないし」

理亞「……仕方ないわね」

225:


……


ルビィ「で、ここを右に曲がって…」

理亞「違う、ここは真っ直ぐ」

ルビィ「いや右だよ」

理亞「だから真っ直ぐだって」

ルビィ「さっきもそれで間違えたじゃん!」

理亞「今度は合ってる! 真っ直ぐに進んで!」

ルビィ「ううん駄目! 曲がるから!」

理亞「ちょっと!」

226:
ルビィ「……あ、あれ?」

理亞「だから言ったでしょ! 真っ直ぐ行きなさいって!」

理亞「何やってるの! 急がないと私たち合宿に遅れるのよ!!」

ルビィ「ま、まだ時間あるもん!」

理亞「だったらさっさとして!」

ルビィ「分かってるよ!」

227:
そして数十分後……


バタバタバタ!


ルビィ「ここで本当に合ってるんだよね!?」

理亞「さっき見た! 間違いない!」

理亞「やっとたどり着いた!!」

228:
ルビィ「でもまずいよ! 完全に遅刻しちゃってるよ!」

ルビィ「絶対もうみんな集まってるよねぇ!?」

理亞「当たり前! 初日に遅刻なんて考えられない!!」

理亞「あなたのせいで五分も遅れたでしょ!!」

ルビィ「理亞さんだって迷ってたくせに!!」

理亞「見えた! 多分あの扉!」


バンッ


ルビィ・理亞「すみません! 遅刻してしまいました!!」

229:


シーーーン……


ルビィ・理亞「……?」


理亞(おかしい…遅刻してきたのは私たちだけなのに、これだけ静まり返ってるのに)

ルビィ(誰も私たちのこと見てない、注目されてないの?)

理亞(普通悪目立ちするはずなのに……全員、一体どこを見て……)

ルビィ(こんなに黙ってるんだろう……)

ルビィ・理亞「……!!?」

230:
「あら、駄目よ初日から遅刻なんてしたら」

「今来た二人が最後みたいですね、これで全員集まりました」

「そう、じゃあそろそろ自己紹介といきましょうか」

理亞「う、うそ……なんで、こんな人が……ここに」

ルビィ「ほ、ほんとうに……本物……なの……?」

ツバサ「はい、今回この合宿の総責任者を務めることになりました」

ツバサ「元スクールアイドルA-RISEの、綺羅ツバサです。それと」

雪穂「その補佐を任されました高坂雪穂です。どうも」

231:
ツバサ「さて、こちらの自己紹介も終わったことだし、まず私から一言みんなに」

ツバサ「今回開かれたこの合宿は当然、あなた達のために用意されたものだけど」

ツバサ「私自身もここで過ごすひと夏の時間を有意義なものにしたいと思ってるわ、お互いにいい思い出を作りましょう」

ツバサ「勿論手抜きは一切しないから全員心して取り組むように」



ツバサ「そういうわけでこれからよろしくね、次世代スクールアイドル諸君!!」

234:
「「「……………………」」」

ツバサ「……あら?」

ツバサ「ねえ雪穂ちゃん、なんか皆の反応が薄い…というより全くない気がするのだけど」

ツバサ「私の気のせいかしら」

雪穂「だから言ったじゃないですか、名前くらい公表しましょうって」ハァ

雪穂「あれは反応がないんじゃなくてビックリしすぎて固まってるだけですよ」

235:
ツバサ「そうなの? 確かにサプライズ目的ではあったけど、まさか私もここまでとは思っていなかったわ」

雪穂「ご自分の知名度をもっとよく考えてください! 何の説明も無しにツバサさんがここに来て、しかも総責任者だなんて聞かされたら!」

雪穂「どんなスクールアイドルでも絶対! あんな感じになるんですって!!」

ツバサ「へえ、そこまで評価してもらえるなんて嬉しいわね」

雪穂「ツバサさん!」

ツバサ「フフッごめんなさい、以後気をつけることにするわ」

236:
雪穂「もう……で、どうするんですかこの状況」

ツバサ「そうね、いつまでもガチガチに固まってもらわれても困るし」

ツバサ「……」

ツバサ「よし、こうしましょう」

パンッ

ツバサ「今からランニングを始めるわ! とりあえずこの体育館を10周するから私たちについてきて!」

雪穂「ええ!? 10周も!?」

ツバサ「緊張をほぐすにはまず体から、それにみんな忘れてるかもしれないけど」

ツバサ「この合宿はもうすでに始まっているのよ」

「!」

ツバサ「あなた達の自己紹介は終わった後にやってもらうから、初めはとにかくこの空気に出来るだけ慣れること!」

ツバサ「さ、動いて動いて! 雪穂ちゃんも!」

237:





鞠莉「はい、じゃあ練習を始める前に改めて皆に確認しておくわね」

鞠莉「ズバリ、今の私たちの目標は何かしら? 千歌っち」

千歌「そんなの決まってるよ! 夏にやるフェスライブでいい結果を出すこと!」

千歌「いや! 目指すは断トツのトップ!!」

善子「また大きく出たわね」

鞠莉「いいじゃない、それくらい熱意があったほうが運営側も喜ぶわよきっと」

鞠莉「さて、今千歌っちが言った通り、私たちは8月から開催されるフェスライブに向けて」

鞠莉「この合宿を行うことにしたわけだけど、聖良」

聖良「はい、早速ですがまずは前回未参加の皆さんのために」

聖良「フェスライブの具体的な説明からしていきたいと思います」

238:
聖良「フェスライブ、正式名称はラブライブ!サマーフェスティバル2020」

聖良「スクールアイドルなら誰でも参加することが出来る、夏の一大イベント。ファンの間ではフェスと呼ばれることもありますね」

聖良「内容は至ってシンプル、参加者全員が各会場でライブを披露しポイントを集めて」

聖良「その合計数で優劣を決める、たったそれだけです」

聖良「開催期間は8月1日から8月15日までの15日間になります、本来は一週間で終わる予定なのですが」

聖良「今年はオリンピックの開催もあり、こちらももっと盛り上げようという委員会の計らいの元、特別に通常の2倍の長さでやることになりました」

善子「ねえ聖良、ちょっと質問いいかしら?」

聖良「どうぞ」

善子「さっきポイントの合計数で結果を決めるって言ってたけど」

善子「そのポイントはどうやって集めればいいの?」

239:
聖良「このイベントでは各会場にいる審査員の方と来場者、それとライブビューイング等で見ている視聴者さんがライブを評価する形になります」

聖良「評価基準は大まかに言えば、どれだけ会場を沸かせられたか、自分たちを満足させることが出来たか、この二点ですね」

聖良「もちろん技術やパフォーマンスも評価の対象にはなりますけど、なんといってもお祭りですから」

聖良「ラブライブ大会程の厳しい目線ではあまり見られないというわけです、まあそれはともかくとして」

聖良「その方々が参加者のライブを評価した結果、それが点数という形で表れ」

聖良「各参加者は表示された分のポイントを獲得できる。というのが一連の流れです」

240:
聖良「そしてここからが重要なんですが、ライブを行うごとにそのポイントはどんどん積み重なっていくんです」

聖良「例えば1回目のライブで5000、2回目で6000のポイントを取った場合、累計の11000がその参加者の持ちポイントになります」

花丸「成程ずら、ということは」

花丸「会場のライブで最高点を出した人が必ずしも一番になれるってわけじゃないんだね」

聖良「そうなりますね、有利ではあるというだけで」

241:
聖良「繰り返し言いますが、順位を付けてはいるものの本来これはお祭り用のイベント、全員で楽しむための企画なんです」

聖良「だからこそのポイント累計方式、実力至上主義ではなくどれだけ多くの人を楽しませたか、ここではそれが全て」

聖良「トップを目指すなら、まずはそのことをよく頭に入れておいてくださいね」

千歌「わっかりました!」ビシッ!

曜「しっかりと胸に刻んでおくであります!」ケイレイ!

聖良「フフッ、善子さんも今ので大丈夫ですか?」

善子「ええ、説明してくれてありがと」

聖良「はい。では最後に参加する方法ですけど」

242:
聖良「このイベントには三つの参加項目があります、一つは2人組みのデュオ、二つ目は3人組のトリオ」

聖良「最後に4人以上で参加するグループ、このどれかを選択してエントリーすることになります」

聖良「一応補足しておくと原則スクールアイドルであり、条件さえ満たしていれば、他校のメンバーとも組むことが可能です」

聖良「ふぅ……説明はこんな感じでいいでしょうか」

鞠莉「バッチリ♪ ありがとう聖良」

243:
鞠莉「さあ概要を理解してもらったところで、次は肝心のどの部門で参加するのか」

鞠莉「ここについて話していきたいんだけど」

鞠莉「実は私、そのことでちょっと考えていることがあるのよ」

聖良「いつもの皆さんなら6人で活動しているので、私はグループで参加するのが望ましいと思いますし」

聖良「そう提案したんですけど」

鞠莉「せっかくのお祭りなのよ、上を目指すのはいいけどだからっていつもと同じじゃつまらないじゃない?」

鞠莉「この機を逃すべからず! 普段ともっと違うことやりましょうよ!」

聖良「と、あなた達の顧問から熱い要望がありまして」

244:
善子「…なんか、北海道のときも思ったけど」

梨子「鞠莉さんってそういうの好きね……」

千歌「いいじゃんそれ! 楽しそうー!」

鞠莉「でしょう!? 千歌っちならそう言ってくれると思ったわ!!」グッ

善子「そしてここぞとばかりに乗っかる我らがリーダー」

梨子「ま、まあそのおかげでここまで来られた部分もあるから…」

果南(あ、なんだろう今の一言で)

ダイヤ(梨子さんの苦労を察せたような気がしますわ……)

245:
聖良「と、いうわけなのでその目的に合わせた練習スケジュールを組みました」

聖良「基礎トレーニングに遠泳、砂浜ダッシュを追加して」

聖良「その後はひたすら二人三人でのライブ練習です」

鞠莉「誰とでも、どの組み合わせでも息が合うように」

鞠莉「ひたすら練習で補って、体に沁み込ませてもらうわよ」

鞠莉「そうやってお互いを知り、理解し、支え合う」

鞠莉「それがひいてはチームの団結力向上につながる、と私は思っているわ」

鞠莉「それに、6人体制になってからはグループの練習ばかりだったし、こういうのは新鮮に感じるんじゃないかしら?」

246:
善子「言われてみれば」

花丸「確かに……」

曜「うん、いいと思う!」

梨子「きっと前の合宿よりハードになると思うけど、でも」

千歌「絶対にやる価値があるよ!」

鞠莉「よし決まり! そうと決まれば早速始めるわよ!!」

鞠莉「夏の合宿! スタート!!」ピーッ

「おーーーーっ!!」

247:
聖良「では最初のメニューは……」

鞠莉「頑張ってね、みんな」

果南・ダイヤ「……」

鞠莉「あら、二人ともどうしたの?」

ダイヤ「いえ、なんというかその」

果南「想像以上に顧問らしいことしてて度肝を抜かれたって感じ」

ダイヤ「ええ、話は聞いていましたけど実際にその様子を見るのは初めてでしたから余計に」

鞠莉「失礼しちゃうわね、私をなんだと思っているのかしら」

248:
果南「そうだね、鞠莉はいつでも真剣に向き合ってるってこと、少し抜けてたかも」

ダイヤ「私たちもまだまだですわね」

鞠莉「分かればよろしい、ほら二人にもやってもらうことが沢山あるんだから」

鞠莉「いつまでも見る専決めこませないわよ!」

果南「オッケー、任せてよ」

ダイヤ「頼りにしてますわよ、先生」

鞠莉「ofcourse! 大船に乗ったつもりでいなさい!」

249:





タンッ

ツバサ「はいランニング終わり、みんなお疲れさま!」

ツバサ「よくついてこられたわね、流石はここに選ばれたスクールアイドルってところかしら?」

「はあ……はあ……っ……あ、ありがとうございました…」

雪穂「流石はこっちの台詞ですよ、あれだけ速いペースで走っていたのに汗一つかいていないなんて」フゥーーッ

ツバサ「雪穂ちゃんも少し息が乱れてるだけって凄いわよ」

雪穂「そうでしょうか?」

250:
理亞「はぁ…やっぱりツバサさん……凄い」

ルビィ「うん……そうだね…っ」

雪穂「私以外にもちらほらいますよ、そんな子が」

ツバサ「へえ……」

パンパンッ

ツバサ「みんなそのままでいいから聞いて! 今から少し休憩を取るわ!」

ツバサ「全員その間にしっかり息を整えておいてね、終わったら自己紹介に入ってもらうから」

ツバサ「そろそろあなた達のことも知りたいし、それに」

ツバサ「最初は緊張で動けなかったかもしれないけど、今はそんなことないわよね?」

「はい!!」

ツバサ「うん、よろしい」ニコ

雪穂「では10分間の休憩に入ります、水分を補給したい人はあちらにドリンクが用意されてるので……」

251:


……


「青藍高校から来ました、篠宮あきるです」

「藤黄学園出身、綾小路姫乃です。よろしくお願いします」

「東雲学院からやってきた吉川瑞希です!」

「紫苑女学院、兵藤さゆりといいます」

「千歳橋高校……多々良るう…です」

「Y.G国際学園の蘭花アル、よろしくネ」


ツバサ「今ので最後?」

雪穂「ですね、これで30人分全員きっちり終わりました」

252:
ツバサ「分かったわ、なら次は……うん」

ツバサ「じゃあ次! 二人一組のペアを作ってもらうわ!」

ツバサ「名前を覚えるためっていうのもあるけど、基本ここにいるのはそれぞれが別の学校からやってきた生徒たち」

ツバサ「全く知らない相手と一緒に練習するというのは、それだけでいい経験になるわ」

ツバサ「この機会に学べるものは全て学びなさい!」

ツバサ「それと、合宿中は殆どその組んだペア同士で行動してもらうから」

ツバサ「そのことも視野に入れた状態で、慎重に選んでね」

雪穂「では皆で話し合って、各自組み合わせを決めてください」

253:


カクカク…  シカジカ…


理亞(この中から、一人……)

ルビィ(ちゃんと考えなくちゃ……)

ツバサ「あ、そこの二人は入ったら駄目よ」

ルビィ・理亞「っ!!?」

ツバサ「遅刻したペナルティ、あなた達は他のみんながペアを決めるまでこっちで待っててもらうから」

ルビィ・理亞「え……」

ルビィ(ちょっと待って……それってつまり……)

理亞(必然的に、私はこの子と……)

ルビィ・理亞(ペアになるってこと……!?)

254:
ツバサ「全員組み終わったわね、じゃあ今日はここまで!」

雪穂「いいんですか? まだ午後の2時過ぎですよ」

ツバサ「いいのよ、今日は元々顔見せで終わるつもりだったし」

ツバサ「みんなもこの後は自由にしてもらって構わないわ」

ツバサ「ただし、明日からは本格的に練習を始めるからそのつもりでね」

ツバサ「以上、解散!」

「「「ありがとうございました!!」」」

255:
ルビィ「……」

理亞「……」

ルビィ「……なっちゃったね、ペア」

理亞「そうね」

理亞「……一つだけ言っておくけど」

ルビィ「うん」

理亞「足だけは引っ張らないでね」

ルビィ「っ…なんでそういう言い方ばっかりするかなぁ!」

理亞「そういう言い方しないと分からなさそうだから」

ルビィ「そんなことないもん!」

理亞「あるわよ!」

256:
雪穂「向こう、なんか言い合ってますけど」

ツバサ「まあ文句はあるでしょうね、半ば強制的に決められたものだから」

ツバサ「でもそれはあの二人の自業自得、割り切ってもらうしかないわ」

ツバサ「罰も与えずに、なんて他の子に示しがつかないもの」

雪穂「それは、そうかもしれませんけど」

ツバサ「時には厳しく律することも大事よ、それより雪穂ちゃん生徒たちの資料持ってる?」

ツバサ「もう一度目を通しておきたくて」

雪穂「はい、それならこっちに」

257:
ルビィ「……あっ」

理亞「今度はどうしたのよ」

ルビィ「ツバサさんと雪穂さん、行っちゃう」

理亞「それが?」

ルビィ「まだちゃんと謝ってない、追いかけて謝らなくちゃ遅刻したこと」

理亞「……正直、意見が合うのは気に食わないけど」

理亞「あなたの言う通りね」

理亞「行くわよ」

ルビィ「うん」

258:
ツバサ「で、明日からの予定なんだけど……」

「あの!!」

ツバサ・雪穂「ん?」

理亞「今回はこの合宿に呼んでいただき、ありがとうございます!」

ルビィ「それと遅刻して、申し訳ありませんでした!」

ルビィ「改めまして浦の星女学院二年生! 黒澤ルビィ!」

理亞「函館聖泉女子高等学院二年生! 鹿角理亞!」

ルビィ・理亞「これからよろしくお願いします!!」

259:
雪穂「あ、はい。よろしくね」

ツバサ「いいわね、確かに遅刻はしたけど……礼儀正しい子は好きよ」

理亞「ちょっと、合わせないでくれる? 声が被って邪魔なんだけど」キッ

ルビィ「そっちこそ、私が先に言おうとしたんだよ?」ムッ

理亞「はあ?」

ルビィ「なに?」

雪穂(ま、また喧嘩?)

雪穂(なにこの二人組……凄い不安になるんだけど)

260:
ツバサ(へえ、お互いが敵視している…言うなればライバル同士のコンビってやつかしら?)

ツバサ(この感じを見るに互いにパートナーとしては相性が悪い、というか最低ラインだと思うけど……)

ツバサ(どっちも基礎能力は上々、向上心も申し分なし)

ツバサ(うん。折角なんだし、一組くらいこんな組み合わせがあってもいいかも)

ツバサ「あははっ! この合宿、思ったより楽しくなりそうね」

雪穂「笑ってる場合ですか!?」

ツバサ「大丈夫よ雪穂ちゃん、あの二人きっと上手くいくから。根拠はないけどね」クスクス

雪穂(こっちも不安になってきたよもう~……)

261:
─宿泊施設、食堂


ワイワイ  ガヤガヤ…


ルビィ「……はあ」

理亞『いい? 黒澤ルビィ』

理亞『私はもっと上にいくために、更に高いところを目指すためにこの合宿に来たの』

理亞『しかも指導してくれる人があのA-RISEのツバサさんなら尚更……私はこのチャンスを逃すわけにはいかない』

ルビィ『そんなの私だってそうだよ、理亞さんだけじゃない』

理亞『あっそう、とにかくあなたが何をしようが勝手だけど』

理亞『私の邪魔だけはしないでね』

ルビィ『また…っ…! 私たち一応ペアなんだよ!! いつまでもそんなこと言ってる場合じゃ……!』

理亞『……じゃあ明日ね』

ルビィ『待ってよ理亞さん!!』

262:
ルビィ「どうしたらいいんだろう……」

カチャ

ルビィ「ごちそうさまでした」テアワセ

ルビィ(時間は、まだ6時前……外も明るいし)チラッ

ルビィ(……ちょっと走っていこうかな、でもその前に)

ルビィ「荷物置いていかないと」ヨイショ

263:


─205号室


ルビィ「今日からこの部屋で寝泊まりするんだよね」

コンコン

「はーい、あっもしかしてあなたが3人目?」

ルビィ「え?」

「ここの部屋の住人」

ルビィ「えっと、うん」

「やっぱり、入って入って」

264:
「荷物の置き場所はそっちね」

ルビィ「よいしょっと……」ドサッ

「で、寝室があっち。あとこれ部屋のカードキーね。無くさないように気をつけて」ハイ

ルビィ「ありがとう」

さゆり「ルビィちゃん、だったよね名前。私は兵藤さゆり、よろしくね」

ルビィ「うん、よろしくさゆりさん」

さゆり「さん付けじゃなくてもいいよ、あと向こうにいるのが」

ルビィ「あきるさん?」

あきる「ん、よろしく」

265:
さゆり「もう名前覚えてるんだ」

ルビィ「えっと、ここに来たスクールアイドルの名前は全員知ってるよ」

あきる「へえ凄いわね」

さゆり「私はまだ半分も……みんな雑誌とかSNSの記事とかで見たことはあるんだけど」

あきる「私もそんな感じ」

ルビィ「そうなんだ」

266:
さゆり「だから部屋も3人で使うのかな、名前覚えるために」

あきる「協力っていうのもあるんじゃない? ツバサさんも言ってたでしょ学べるものは学べって」

あきる「それって何も、練習だけに限らないと思うし」

さゆり「そっか……やっぱり選抜合宿っていうだけあって色々考えられてるんだね、施設もすごい充実してるし」

さゆり「そうだ、ツバサさんっていえば今日来たときは本当に心臓飛び出そうで……」

あきる「本当にね、多分あれ以上の衝撃は高校にいるうちは絶対出てこないと思うわ」

ルビィ「うん、私もすごくビックリしちゃったよ」

ルビィ(よかったぁ、二人ともいい人そうで)

ルビィ(理亞さんと同じ部屋だったりしたら、また喧嘩になってたと思うし……)

ルビィ(明日からはまた一緒だけど……)ハァー

さゆり・あきる「?」

267:


─合宿2日目


ツバサ「ワンツー、ワンツー、はいお互いに動き合わせて!」

ツバサ「次全体でサイド! リズム上げながらいくわよ!」

ツバサ「ワンツーアップダウン! そこ! ワンテンポ遅れてる! そっちは出だしが早い!」

ツバサ「基本ステップこそ重要よ! それがきちんと出来ているかそうでないかで」

ツバサ「ダンスの完成度にはっきりとした違いが現れる! 初歩だからといって侮らないこと!!」

「はい!」

ツバサ「最後! ステップターン! ワンツースリーフォー!」


……


268:
雪穂「次ペア練習入ります、昨日作った組に分かれて」

ツバサ「まずはこっちで用意した振り付けで踊ってもらうわ、息が合うようになってきたら今度は自分たちで振り付け考えて練習してみて」

ツバサ「では始め!」

♪  ─♪

雪穂「これってUTXから持ってきたものなんですか」

ツバサ「ええ、ちょっとお願いして」

雪穂「ペアは右から見て回っていった方がいいですかね?」

ツバサ「やりやすい形で構わないわよ、私もそうするから」

ツバサ「さてと、まずは……」

269:
あきる「取りあえずひと通り踊ってみたけど、どう思う?」

姫乃「はい、いい感じに出来ていたと思います」

ツバサ「そうね、ちぐはぐしている風にも見えなかったし、そのまま続けていって問題ないかも」

ツバサ「あと言うことがあるとするなら、そっちのあきるちゃん」

あきる「!」

ツバサ「あなたは身体が柔らかくて、それを活かした動きは見ていて美しく感じるけれど」

ツバサ「そのせいか、他の人よりも腕や足を伸ばしすぎる傾向があるわね」

ツバサ「パートナーのことを考えるともう少し控えめにしたほうが結果的に映えると思うわよ」

ツバサ「次はそこを意識してやってみて」

あきる「は、はい! ありがとうございます!」

270:
雪穂「姫乃ちゃんの方は一つ一つの動作は完璧なんだけど、ゆっくりすぎるかな」

雪穂「細部に拘りすぎるあまり、速さについていけてないというか」

雪穂「これじゃダンスというよりは所作かも……いや、それは流石に言いすぎだよね」ウーン

雪穂「えっと…とにかく動き自体に全く問題はないから、あとはそれをいかにスムーズに繋げられるかだね」

雪穂「焦る必要はないから段階を決めて、それに合わせて少しずつ早くしていこうか」

姫乃「はい、やってみます!」

271:
雪穂「瑞希ちゃんは動きのキレがいいね、特に足」

雪穂「でもちょっとバタついてる印象、元気があるぶん張り切りすぎてるのかな?」

雪穂「もう少しリラックスしながらやってみて、それだけでも変わると思うから」

瑞希「分かりました!」

「何やってるのよ! また同じところでミスして!!」

雪穂「!」ビクッ

雪穂「ま、まさか……」

272:
理亞「だから! 手を大きく出し過ぎなの!! みっともない!」

ルビィ「そっちこそ前に出すぎだよ! 今は横に並んで踊るところでしょ!」

理亞「あなたの入りが遅いんでしょ!」

ルビィ「理亞さんが早いんだよ! ペース無視してやるから!」

雪穂(やっぱりあの二人だあ……)

理亞「合わせられないのを私のせいにしないで!」

ルビィ「それはこっちの台詞だよ!」

ツバサ「うん、二人の意見はどっちも正しいわね」スッ

理亞「!」

ルビィ「ツバサさん」

273:
ツバサ「ルビィちゃんは少し振りが大袈裟だし、理亞ちゃんも次を急ぎすぎて落ち着きのない印象を受けるわ」

ツバサ「あなた達は間違っていない、それに」

ツバサ「二人ともお互いのことをよく見ていて、そのうえしっかりと問題点を理解して指摘出来ている」

ツバサ「素晴らしいことだと思うわ。ペア同士の練習ではとても大事なことだし、それが初めのうちから出来ているというのもね」

ツバサ「ただ、二人とも互いのよくないところを見つけようとするあまり、最初の頃よりずっと動きが乱れてるわよ」

ルビィ・理亞「─!」

274:
ツバサ「隣に気を取られすぎて自分の状態を客観視することを忘れないように」

ツバサ「相手に求めておきながら当の私はグズグズです。なんてなったら元も子もないわよ」

ツバサ「揚げ足取りも程々にね」

ルビィ・理亞「ごめんなさい……」

ツバサ「とは言ったけど基本的にやっていることは間違っていないわ、だからこそ自分の持つ姿勢を疎かにしては駄目。いい?」

ルビィ「はい……」

理亞「気をつけます……」

ツバサ「よし、じゃあ私は行くわね」


ツバサ「そこ少し止まって……あなたは身体の向きね、下半身に比べて上半身が……」

275:
ルビィ・理亞「……」

理亞「……次、初めから通しでやるわよ」

ルビィ「うん」

雪穂(なんとか納まった…のかな、また言い合いそうではあるけど)

「すみませーん! 雪穂さんちょっといいですか!」

雪穂「! ごめん、すぐ行くね!」


……


276:


─208号室


姫乃「はぁ……今日の練習は厳しかったですね」

姫乃「これが毎日続くんだから、気を引き締めていかないと」

蘭花「そのためには体力回復が大事アルね、この小籠包で元気だすネ」

姫乃「えーっと……流石にもう大丈夫かな…」

蘭花「そうアルか?」

理亞「……」ガタ

277:
姫乃「あれ、理亞さんどこに行くんですか?」

理亞「練習」

姫乃「今からですか!?」

理亞「うん、別に帰ってくるまで起きてる必要ないから」

姫乃「わ、分かりました気をつけてくださいね」

蘭花「理亞、これ差し入れアル中華まんネ。お腹が空いたら食べるネ」

理亞「ありがと、じゃあ行ってくる」

278:
姫乃「いってらっしゃい……凄いなあ」

蘭花「理亞は練習熱心ネ」ゴロゴロ

姫乃「そうですね、でも……」

蘭花「?」

姫乃「ちょっと焦ってるようにも見えるっていうか……気のせいかもしれませんけど」

蘭花「緊張アルか?」

姫乃「どうでしょうか…」

279:
現在の人物相関図。

no title

280:
ここまでです
それと話の続きですが、諸事情により日曜日に更新できないかもしれません

281:
補足

虹ヶ咲のアニメで姫乃は知ってるけど、さゆりとかあきるって誰?という方のために説明します
彼女たちはスマホ用ゲームアプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』に転入生として登場するキャラクターです

287:


─合宿3日目


浦の星女学院、体育館


果南「曜、本気でいくよ!!」スッ

曜「よっしゃこーーーーーい!!」

聖良「果南さんナイスサーブ!」

果南「……」フワッ

タッ  タッ タッ ヒュンッ ズバンッ!

梨子「ジャ、ジャンプサーブ!?」

善子「これだから体育会系は……」

千歌「曜ちゃん!!」

288:
曜「っ……ここだ!!」ダンッ

フワッ

善子「おぉ、上がった」

曜「よぉし!」グッ

果南「流石だねー曜」

花丸「曜ちゃんナイスレシーブ!」

千歌「花丸ちゃんトス!」

花丸「お願い千歌ちゃん!!」トンッ

千歌「まっかせな……さい!!」スパァンッ!!

ドン!   ピーッ

千歌「決まったー!! ナイストス花丸ちゃん!」

289:
ダイヤ「くっ……すみません、間に合いませんでした」

果南「ドンマイドンマイ」ポン

聖良「切り替えていきましょう」

梨子「これでまた同点、一進一退って感じだね」

梨子「やっぱり曜ちゃんが入ると安心感が違うなあ」

善子「まあそれは別にいいんだけど」

梨子「え?」

善子「なんで私たちわざわざ体育館まで借りて、3対3のバレーなんかやってるわけ?」

梨子「なんでって、最初に鞠莉さんが言ってたじゃない」

梨子「チームの連携と反射神経を鍛えるためだって」

290:
ダイヤ「鞠莉さん、交代お願いします」

鞠莉「待ってましたー、後は私に任せてゆっくり休んでねダイヤ♪」

善子「その鞠莉が楽しそうにしてるのが何とも言えないのよ」

梨子「うん、言いたいことは分かるけど」

梨子「でもほら、鞠莉さんもたまには体を動かしたいんだろうし…基本デスクワークだからあの人」

梨子「それに交代制でも結構きついでしょ、これ」

善子「まあね、練習だろうがスポーツの試合はやっぱり侮れないわ」

曜「善子ちゃーん! 代わってー!」

善子「出番が回ってきたみたいね、行ってくるわ」

梨子「頑張ってね善子ちゃん」

291:
曜「ふぅ、あー楽しかった! 早く次の出番来ないかなー!」

梨子「大活躍だったね曜ちゃん、これドリンク」

曜「ありがと梨子ちゃん」

梨子「その様子だと、まだまだ物足りなさそうだね」

曜「うん! 果南ちゃんたちとスポーツするなんて久々だからさー!」

曜「つい熱が入るっていうか!!」

梨子「そっか」フフッ

292:
鞠莉「オーライオーライ!! 聖良!」

聖良「ここは……ストレート!!」バシン!

ピッ

鞠莉「得点ゲットー!! グッジョブ聖良!」

善子「っ……ごめん! 取り損ねた!」

千歌「オッケー、惜しかったよ!」

花丸「次切り替えるずら!」


梨子「でも凄いよね、曜ちゃんは」

曜「なにが?」

梨子「もうどの組み合わせでも上手くいってて」

293:
梨子「幼馴染みの千歌ちゃんはもちろん、この前から一緒に練習を始めた善子ちゃん」

梨子「今は花丸ちゃんとも良くなってきてるし」

曜「……」

梨子「千歌ちゃんもだけど曜ちゃんも明るくて話しかけやすいから、みんなも自然と声を掛けちゃうんだろうね」

曜「…梨子ちゃんは?」

梨子「私? 私はまだ千歌ちゃんくらいしか自信を持って息が合うとは……」

曜「そうじゃなくて」

梨子「?」

曜「私と梨子ちゃんは、上手くいってるように思えない?」ズイッ

294:
梨子「曜ちゃん…?」

曜「……」ジッ

梨子「え、えーっと……それは上手くいってるとは思うよ、私も」

曜「誰より?」

梨子「だ、誰よりって?」

曜「だから千歌ちゃんと組んでるときの私や、梨子ちゃんが千歌ちゃんと組んでいるときより上手くいってると思う?」

梨子「……それは」

曜「何か足りないところがあるなら言って、直すから」

295:
梨子「ねえ、どうしてそんなに拘るの?」

曜「だって……私は梨子ちゃんと一番「おーーーーい!!」

曜・梨子「!!」

千歌「梨子ちゃん! 次私とチェンジー!!」

梨子「順番回ってきたみたいだから、行くね」

曜「あ、うん……いってらっしゃい」

千歌「……あれ? なんかお邪魔だった?」

曜「いいよ気にしなくて」ハァ

296:

ピーーーーッ!!


聖良「─そこまで! 今日はここまでにしましょう! みなさんお疲れ様でした」

「お疲れ様でした!!」

鞠莉「それじゃあ各自ストレッチに入って」

「はーい!」

むつ「ひゃーこんな遅くまでよくやるなぁ」

ダイヤ「すみません、片付けの手伝いを頼んでしまって」

いつき「いえいえお気になさらず!」

よしみ「このくらいなら全然協力しますから」

297:

キュキュッ


むつ「よっ……と、汗で滑るなー」

千歌「あーごめん、時々拭いてたんだけど」

梨子「そういえば最後やってなかったわね」

いつき「いいよ、じゃあ片付けの前にモップ掛けからやろうか」

よしみ「了解ー」

むつ(ていうか時々モップ掛けて綺麗にしておきながらこれって……しかも朝から使ってたんだよね)

むつ(休みとはいえどんだけやってたんだか……でも)

298:
曜「果南ちゃんさー本気出し過ぎでしょ! 駄目だよあれは!」

千歌「そうだよ! 繋げて連携取るのが目的なのに取れそうにないスパイクバンバン打ってどうするのさ!」

果南「あははっ気合いが入ってつい」

ダイヤ「鞠莉さんは少し体力が落ちたのではありませんか? ちゃんと運動をしていますの?」

鞠莉「あら、ダイヤには言われたくないわね誰よりも早くへばってたクセに」

ダイヤ「なんですって!?」

花丸「どうどう、ダイヤさん落ち着くずら」

むつ(なんか楽しそうだ)クス

299:
善子「曜、今日泊まりに行ってもいい? 踊りのことで話したいことがあるんだけど」

曜「いいよー! このまま一緒に帰ろうか!」

千歌「じゃあ私と梨子ちゃんも私の部屋で作戦会議なのだ!」

梨子「作戦って何のこと言ってるの……普通に作曲とかでしょ」

千歌「こういう言葉使ってみたくて」

梨子「もう……」

300:
聖良「……」

果南「どしたの聖良」

聖良「内浦に来たときから思っていたんですけど」

果南「うん」

聖良「話に聞いていた割には皆さん意外といい関係を築けていますよね」

果南「もっとギスギスしてると思った?」

聖良「……はい、正直なところ」

果南「まあそうだよね、流石にそこまではいかなくてももっと気まずさはあっても可笑しくないとか、そんな風に聖良が考えるのは分かるよ」

果南「実際私たちが卒業後にここから出ていかなくて今もずっと居座っていたら、そうなっていたかもしれないし」

301:
聖良「……気を遣わせてしまうかもしれないから?」

果南「うん、だから私たちは大学に進学する際上京することを決めた」

果南「一度そこから離れることで変わることや分かることがあるかもしれないから」

果南「…って言いだしたのはダイヤなんだけどね」

聖良「……」

果南「それは良い風に言うなら改善のための行動、悪く言えば逃げの一手。正直上手くいったかどうかはまだ不安なところあるけど」

果南「こうしてみんなの様子を見てると、一度離れて良かったんだなって思うよ」

聖良「そうですか」

果南「特に千歌と曜は私に対して前と同じように接してくれるのがすごくありがたいよ、本人はそこまで考えてないのが尚更ね」アハハ

302:
聖良「私は良かったと思いますよ、皆さんの雰囲気を見てもその選択が間違っているという気はしません」

果南「そっか、ありがとう聖良」

聖良「本当のことを言っただけですから……それに」

ギュッ

果南「?」

聖良「ダイヤさんたちが東京に来てくれたから、私はあなたに出会うことが出来ました」

聖良「こうして一緒にいることも……そのおかげなんですよ」

果南「ん、まあそうだね。それも良いことか確かに」

果南「でもどうしたの急に手なんか握ってきて」

聖良「いいえ、なんでも」

303:
鞠莉(うーん、やっぱり聖良って……)

聖良「では私もそろそろ帰りますね、鞠莉さん今日もお世話になります」

鞠莉「ええ、鍵を渡しておくから先に行ってて、私はここの戸締りしないといけないから」

聖良「分かりました」

果南「送っていこうか?」

聖良「いえ、一人で……やっぱりお願いしてもいいですか」

果南「いいよ。ダイヤ、花丸ちゃんまた明日ね」

花丸「うん、また明日」フリフリ

ダイヤ「お気を付けて」

304:
鞠莉(でも聖良、分かってるの? 貴女が好意を向けてる相手はもうとっくに)

鞠莉(いや、でもその相手は相手でまた……)

花丸「仲良しなんだね、果南さんと聖良さんって」

ダイヤ「そうですわね、まさかあそこまで親しくなるとは」

ダイヤ「もし去年の二人に今の様子を見せてあげたらどんな反応をするんでしょうか」

花丸「きっと信じられないって顔するんだろうなあ」

ダイヤ「フフッ、容易に想像できますわね」

鞠莉(これなのよね……ああ)

鞠莉「……鈍感系グループこっわ」

花丸「鞠莉さん、今何か言った?」

鞠莉「気のせいデース♪」

305:


スタスタ


聖良「一緒に来てもらっていうのもなんですけど、本当に良かったんですか」

果南「なにが」

聖良「ダイヤさんと一緒にいなくて」

果南「ああ、いいよ別に。四六時中付きまとうのも違う気がするし」

聖良「それは私に対する当てつけですか?」

果南「そんなこと言ってないじゃん」

聖良「冗談ですよ」

果南「だったら真顔で言わないでほしいな」

306:
果南「あとはそう、花丸ちゃんと一緒にいたいのかもしれないし」

聖良「花丸さんですか……一途ですよね、彼女は」

果南「そうだね、だからダイヤも何も言わないんだろうな」

果南「多分、この気持ちが花丸ちゃんの邪魔になったらいけないとかそんな理由で」

果南「別にそのことでとやかく言うつもりはないけどさ、複雑だよ。私としては」

聖良「……ブレなさすぎるんですよ、あなた達は」

果南「はは、耳が痛いね本当にその通りでさ」

聖良(でもきっと、この3人のそんなところが人を惹きつけるんでしょうね)

307:
聖良「ねえ、果南さん」スッ

果南「うん?」

聖良「この花、なんだか分かりますか?」

果南「え? アザレアでしょ知ってるよ、私たちのユニット名の元になったものだし」

聖良「では花言葉は?」

果南「…なんだっけ?」

聖良「白いアザレアの花言葉はあなたに愛されて幸せ」

308:
聖良「面白いですよね、その花の名前を冠しておきながら」

聖良「当の本人たちは自分が愛されてることに気が付いていないのだから」

果南「気が付いてない……? 花丸ちゃんがダイヤで、ダイヤが……ははっ成程そういう意味か! 上手いこと言うね聖良は」

果南「となるとその例外になるのは私だけかな」

聖良「……」ハァー

果南「え、なに?」

聖良「ほら、そういうことなんですよ」

309:
果南「だからなにが」

聖良「何でもありませんよ、ばか」クルッ

聖良「ばーかばーか」スタスタ

果南「はあ!? ちょっと、何その子供みたいな悪口!」タッ

聖良「別についてこなくていいですよ、もう着きますし」

果南「いいや付いていくね! 私も今日はそっち泊まるし!」

聖良「なっ、聞いていませんよそんなの!」

310:
果南「今決めたもん、とりあえずまずはその馬鹿って言葉取り消してもらうから」

聖良「貴女のほうが子供じゃないですか!」

果南「なんてね。いや冗談だよ、冗談」

聖良「じょっ……はあ!?」

果南「あースッキリした、あっでも泊まるのは本当だから」

果南「早く来ないと置いてくよ……もしもし鞠莉? 今日泊まるから部屋貸してー」

聖良「…………くだらなすぎでしょう、もう」クス

聖良「待ってください果南さん、そんなに急がないで」

311:
鞠莉「…そう、うん分かったわ……はーい了解。それじゃね」

鞠莉「はあ…………そういうところよ、果南」スッ





ピロン

ダイヤ「失礼、ラインですわね……鞠莉さんから?」

花丸「マルも見ていい?」

ダイヤ「どうぞ」

鞠莉 宿泊客に女たらし1名追加されましたー

花丸「……どういう意味ずら?」

ダイヤ「さあ……」

312:
本日はここまでです

314:


─合宿4日目


ツバサ「今日は午後からグループ練習を行うわよ! 5人1組!」

ツバサ「この練習では私たちは口出ししないから、どこをどうすればいいのかはグループ内で意見を出し合って決めること!」

ツバサ「で、練習の最後には1組ずつライブを披露してもらうから、時間も上手く有効活用しないと間に合わなくなるからね」

ツバサ「そこも踏まえた上でライブの発表までに相手の得意分野と自分の役割」

ツバサ「一人ずつ伝えて、頭に入れて、全員で考えながらフォーメーション決めないと上手くいかないわよ!」

ツバサ「コミュニケーションしっかりね!」

「「「はい!!」」」

ツバサ「始めっ!!」

315:
「どうする?」

ルビィ「私たちの曲はアップテンポで動きが多いから、センターは一番動きのキレがある人にするのがいいと思う」

ルビィ「この中でいうなら瑞希さんか蘭花さん」

蘭花「私アルか?」

「成程確かに」

姫乃「でも私は曲のイメージ的に瑞希さんの方がいいと思います」

ルビィ「そうだね、確かにそっちの方が合ってるかも」

「じゃあセンターは瑞希ちゃんで、他はダンスどうする?」

316:
ルビィ「サビはセンターのために余白を多めに取って、それ以外は横に並んだり時折前に出たり」

ルビィ「くらいの比率がいいんじゃないかな」

姫乃「そうなると息の合わせはサビ前が最も重要になってきますね」

蘭花「曲が始まる前の位置はどうするネ?」

瑞希「それにサビ前もそうだけど、入ってからも肝心じゃない?」

瑞希「寧ろ注目される分そこが……」

ルビィ「だったら時間までに特にやっておくことはサビ付近の練習……まずは一回通して……」

317:
理亞「パターンをいくつか決めたほうがいい、合わせやすい簡単なやつを」

さゆり「でもそれだと味気なくなるんじゃない?」

理亞「あくまで曲の一部分だけ、それにその振り付けを合図にすれば」

理亞「動きも切り替えやすくなるはず」

あきる「確かに全員に同じポーズをさせるのは、統一感が出ていいかもしれないわね」

るう「ポーズは足を上げたりするより…腕や手を上げるほうが多分いいですよね」

理亞「私たちの曲だと、そこまで走り回ったり跳ねたりする必要がないから」

理亞「手の動きで印象付けるのは正しいと思う」

318:
「練習はどこを重点的にやろうか?」

理亞「いや、特別一つの部分に振り分けなくてもいい気がする」

理亞「全体的にバランスよく、まずはリズムと全員の動きを掴んでそれから」

あきる「修正は全員で合わせつつって感じね」

理亞「そうなるわ」

さゆり「了解」

るう「分かりました」

「じゃあ音楽かけるね、まずは初めからサビまででいい?」

理亞「最後までやった方がいい、次にいくとき見直しながらサビと……」

319:


──


カランッ


「いらっしゃいませ、二名様ですか?」

ツバサ「はい、テーブル席でもいいですか?」

「大丈夫です、こちらのお席へどうぞ」

ツバサ「ありがとうございます」

ストン

「ただいまお冷をお持ちしますね」

「どうぞ」コト

雪穂「あ、どうも」

「ご注文が決まりましたらお呼びください」

ツバサ「はい」

320:
ツバサ「どれも美味しそうね」パラッ

雪穂「いいんですか? ラーメンなんて食べて」

ツバサ「たまにはいいじゃない? ほら雪穂ちゃんも」

雪穂「本当だ、美味しそうですね」

ツバサ「私は味玉みそにするけど雪穂ちゃんは?」

雪穂「うーん、もやし醤油で」

ツバサ「分かったわ、すみませーん! 注文お願いします!」

321:
ツバサ「……」スッスッ

雪穂「何見てるんですか?」

ツバサ「今日のグループ練のライブ。見直しておこうかと思って」

雪穂「ああそれですか、良かったですよねみんな上手いこと昇華させていましたし」

ツバサ「そうね」

雪穂「特にあの二人。ルビィちゃんと理亞ちゃん」

雪穂「全体の意見を参考にしながらまとめ上げ、指示も具体的」

雪穂「どちらも率先して行動するタイプには見えなかったんですけど、人は見かけによらないものですね」

雪穂「それともそこに至るまでの経験を積んできたってことなんでしょうか」

ツバサ「さあどうかしら、でもルビィちゃんの方は初めてやる曲にしては対応が早かったから」

ツバサ「多分そこに関しては、以前培った経験が活きているのかもしれないわね」

322:
「お待たせしました」

ツバサ「来た」

雪穂「いい匂いですねえ……」

ツバサ・雪穂「いただきます」


ズルズル


雪穂「話戻りますけどあの二人、本命の組み合わせ以外なら優秀なんですよね」

雪穂「今日のグループ練習しかり、普段の基礎練習もきっちりこなしていますし」シャキシャキ

ツバサ「実際のこなれた様子を見るに、多分あれが本来の実力でしょうね」

ツバサ「逆にコンビが合わなさすぎる」アム

323:
雪穂「そうなんですよ! 他の子はどんどん息が合ってきてるのに」

雪穂「あそこだけ最初と変わらずギクシャクしてるというか」

ツバサ「雪穂ちゃんは随分気にしているのね、あの二人のこと」

雪穂「気にしてるというより目に入ってきちゃうんですよ、だって目立つじゃないですか」

雪穂「良くも悪くも」ズルズル

ツバサ「まあお互い初めてでしょうしね、一緒に練習する際あんな風に誰かと対立したり」

ツバサ「激しく言い合ったりすることは。だからそのことに戸惑いもあると思うわ」

ツバサ「今までが順風満帆だったから余計にね」ズズッ

324:
雪穂「どういうことですか?」

ツバサ「雪穂ちゃんは二人が所属してるグループの情報、知ってるわよね」

雪穂「はい、それはもちろん」

雪穂「ルビィちゃんが入っているスクールアイドルのグループはAqours」

雪穂「今から三年前に結成され、二度の休止を経て現在活動再開」

雪穂「少し前までは非常に評判がよくありませんでしたが、PVの件やひたむきな姿勢が評価されて」

雪穂「今は地元問わず応援してくれるファンも多いですね」

雪穂「メンバーひとり一人の個性豊かな魅力が人気を後押しした一つの要素と言われるくらいには」

雪穂「それぞれに確立した持ち味があるのもこのグループの大きな特徴だと思います」

雪穂「普段は和気あいあいとしていますが決して不真面目ではなく、練習も忘れることなく日々熱心に取り組んでいるので」

雪穂「スイッチのON/OFFをしっかり切り替えられる印象がありますね、その辺りはお姉ちゃんたちμ'sのイメージに近いかもしれません」

325:
雪穂「一方で理亞ちゃん。彼女がリーダーを務めているスクールアイドルSaint Snowは」

雪穂「去年聖女に理亞ちゃんが入学した際、彼女の姉鹿角聖良と共に結成」

雪穂「それまでに積み重ねてきた努力や姉妹の絆を考慮しても、僅か一年でラブライブ優勝まで上り詰めたエリート姉妹ですね」

雪穂「事実、聖良ちゃんは今回の選抜推薦者の一人なわけですし」

雪穂「理亞ちゃんも今年新しく入部してきた二人の同級生を上手く引っ張っていると聞いています」

雪穂「こちらはAqoursと違い、とにかくストイックで練習もハード」

雪穂「ただメンバーに強制はせず、あくまで自分を律するためだからと前置きするくらいには融通が利いているので」

雪穂「活動中そのことでこれといった問題は起きなかったようですね」

雪穂「しかし現メンバーである二人は実力不足を練習量で補うためにそのやり方を承諾、呑みこみの早さもあって今はだいぶついていけるようになったみたいです」

雪穂「理亞ちゃんもそんな二人を信頼した結果、去年とは違う形のSaint Snowに変えていくことを決めて」

雪穂「無事今の形に落ち着いているって感じですね」

326:
ツバサ「丁寧な解説ありがとう、流石は雪穂ちゃんね」

雪穂「これくらい大したことないですよ、それより」

雪穂「はあ……一気に喋ったから喉渇きました……水を」

ツバサ「そうなると思ってウーロン茶頼んでおいたわよ、はい」

雪穂「いつの間に…わざわざありがとうございます」

ツバサ「いいのよ気にしないで、私も飲みたかったから」

雪穂(本当、よく見てるよなあー……)ゴクゴク

327:
ツバサ「ところで、さっきの私の話と今の雪穂ちゃんの説明を振り返って、何か気になったところはない?」

雪穂「そうですね……二人とも恵まれた環境にいるってことですか?」

雪穂「特に揉めることもなくグループ内の話し合いが成立しているという意味で」

ツバサ「そう、そこなのよ。そして実は彼女たちにはもう一つ共通点があってね」

雪穂「共通点って?」

ツバサ「グループ内における発言力の強さ」

雪穂「発言力ですか? 理亞ちゃんはともかくとしてルビィちゃんが?」

328:
ツバサ「ええ、別に盛っているつもりはないわよ」

ツバサ「活動方針は顧問が、最終的な決定はリーダーが、そしてそこに至るまで全員で意見を出して話を進めるから、一見目立たないんだけど」

ツバサ「歌やダンスに衣装、どこを切り取ってもルビィちゃんの意見は大体話の起点か、もしくは決定における重要なファクターになっている」

ツバサ「それは何故か?」

雪穂「何故って、えーっと……ん? ちょっと待ってください」

雪穂「そういえば推薦理由にもそんな感じのことが書かれていた気がしますね……確か」

雪穂「スクールアイドルの知識に定評があり、メンバーからも一目置かれていると……だからですか?」

329:
ツバサ「そう。とは言え全員が彼女の指示に二つ返事で従うイエスマンだけで構成されてるわけではないし」

ツバサ「結果通らずに別の提案が採用されることもある、だけど」

ツバサ「今でもルビィちゃんの言葉には全員が期待しているし、信頼されている」

ツバサ「他を圧倒させる力強さではなく、周囲に影響を及ぼす存在感の強さ」

ツバサ「それがルビィちゃんに発言力があると言った根拠よ」

雪穂「成程……」

330:
ツバサ「さっき雪穂ちゃんが言ったグループ練習でのルビィちゃんへの評価も、それが基盤となって働いてたから」

ツバサ「上手くかみ合ったって感じよね、でも」

雪穂「理亞ちゃんと組む場合は別……何故なら」

雪穂「二人が意見を出す場合、お互いのスタンスが同じ方向を向いてないからどうしたって食い違うんだ」

雪穂「環境も、そこにおける立ち位置も……恐らく目指しているスクールアイドル像のベクトルすら正反対なのに」

雪穂「発言の重要性と、それに対する自負があの子たちにはあって」

雪穂「唯一そこだけは同格であり、対等」

ツバサ「正解。おまけにお互い相手を敵視しているから」

ツバサ「それで衝突するなって方が無理な話よ」

331:
雪穂「……あの、そこまで分かってるならなんで」

ツバサ「雪穂ちゃん、私は彼女たち二人だけの特別講師じゃないの」

ツバサ「30人のスクールアイドルを指導し、導くために開かれた合宿の総責任者なのよ」

ツバサ「肩入れしすぎるわけにはいかないわ、常に全体を通して判断しないと」

ツバサ「目立たないだけで二人の他にも上手くいっていない子はいるんだからね」

雪穂「……はい」

ツバサ「それにこういうのは外野があれこれ指図するより、どれだけ衝突してぶつかり合おうが」

ツバサ「自分たちで探し出して答えを見つけたほうがいい、どう向き合うのが正しいのか」

ツバサ「そのために自分は何をやるべきなのか、その問いに一番納得のいく答えを導き出せるのは」

ツバサ「結局彼女たちしかいないんだから」

332:
雪穂「そう、ですね……確かに少し特別視していたかもしれません」

ツバサ「まあもちろん行き過ぎていたら止めるし、今まで通りアドバイスもするわ」

ツバサ「ただ、肝心なところは邪魔せず見守ってあげましょうってこと」

雪穂「はい」

ツバサ「さ、そろそろ出ましょうか。先に行ってて会計済ませてくるわ」スクッ

雪穂「そんなっいいですよ! 私も出しますって!」

ツバサ「いいからいいから、すみませんお会計を……」

雪穂(うぅ、何か色々差を見せつけられたって感じだ……)

雪穂(明日からはもっときちんとしなくちゃ)

333:


─合宿5日目


ツバサ「はい終了! 10分休憩!」

ツバサ「で、そのまま聞いてほしいんだけど」

ツバサ「今日から合宿が始まって5日目、程度の差はあれ皆ペアでの連携が取れるようになってきたわね」

ルビィ・理亞「……」

ツバサ「なので、もう一つ先の段階へ進めた課題を出したいと思います」

雪穂「?」

ツバサ「そのコンビで一つだけでいいわ、ライブで披露出来るだけの曲、ダンス、衣装の一式を」

ツバサ「この合宿の終わりまでに完成させてほしいの、作るだけでいいわ」

ツバサ「この場で発表も披露もやらせるつもりはないから安心して」

334:
ルビィ(合宿で作ったものを……)

理亞(発表しないの……? なんで)

あきる「あの、質問いいですか?」テヲアゲ

ツバサ「構わないわよ、言ってみて」

あきる「どうしてその課題だけはライブを行わないんですか?」

あきる「昨日のグループ練習ではやっていましたし、それに」

あきる「合宿のメインは二人組で行うペア練習ですよね? なら」

あきる「作るだけではなくて、実際に試したほうが成果もはっきり分かるんじゃ……」

335:
ツバサ「いい質問ね。皆も多分なんで? って思っていたでしょうし」

ツバサ「ねえ雪穂ちゃん?」

雪穂「そうですね、わざわざ取り下げる意味が分かりません」

ツバサ「うん、合宿単体で考えるならね」

雪穂「? よく分からないんですけど」

ツバサ「これはあなた達のためだけじゃなくて私の個人的願望も入っているから、あまり良くは思われないかもしれないけど」

ツバサ「今築いているこの関係を、ここにいる場だけで完結させてほしくないのよね」

336:
ツバサ「当たり前だけど、この合宿が終わったらみんなそれぞれの学校に戻っていつもの生活を送ることになる」

ツバサ「その自分たちの日常に、ここで得た経験や…部屋での共同生活と練習によって深まった絆をそのまま持ち帰って欲しいの」

ツバサ「終わったからハイさよならじゃなくて、この先もずっと」

ツバサ「相談したり、協力したり、一緒に楽しんだり…そんな」

ツバサ「ライバルだけじゃない関係をね。あなた達には続けてほしいのよ」

ツバサ「それはきっと、ここでしか出来ないことの一つだから」

「……」

337:
ツバサ「確かにこの合宿は選ばれたスクールアイドルだけが集まって開かれている特別なもの」

ツバサ「それに対してこんなことを言うのは、矛盾しているかもしれないけれど」

ツバサ「どうかここで過ごした日々を、特別なものだと思わないでほしい」

ツバサ「ライブをやらなくていいって言ったのはそういう理由」

ツバサ「皆がやりたくなるような最高のステージで、大勢の人の前で堂々と」

ツバサ「私が教えた生徒はこんなに素晴らしいスクールアイドルなんだって胸を張れるくらいに活き活きと」

ツバサ「そして何よりあなた達が、他の誰よりも楽しめるように爛々と」

ツバサ「そんな瞬間がこの先どこかで生まれるのだとしたら、それはとても素敵なことだと思わない?」

ツバサ「だから今は、いつか来るそのときのためにとっておきなさい」

ツバサ「あなた達にはまだまだ時間があるんだから!」ニコッ

338:
「「「……っ……はい!!」」」

雪穂(……そうか、私たちにとっては仕事の一環でも)

雪穂(この子たちにとっては違う、これで終わりじゃないんだ)

雪穂(だから終わらせないために繋げて、そしてその輪を広げていくことを…この人は望んでいて)

雪穂「ツバサさん……なんかいいですね。それ」

ツバサ「ありがとう、雪穂ちゃんにそう言ってもらえると自信でるわね」

雪穂「やめてくださいよ、そうやって持ち上げるの」

ツバサ「フフッ、ごめんなさい」

ツバサ「さてと、いい感じに時間も経ったし休憩は終わり!」

ツバサ「練習再開するわよ! ほらテキパキ動いて!!」パンパンッ


……


339:
ツバサ「そこまで!」

ツバサ「今日の練習は以上、みんなお疲れさま!」

「「「お疲れさまでした!!」」」


ゾロゾロ…


理亞「……」スクッ

ルビィ「……待って理亞さん」

理亞「なに」

ルビィ「話したいことがあって、今日ツバサさんが話した課題についてなんだけど」

ルビィ「あの、理亞さんはどんな曲が作りたいのかなぁって」

ルビィ「もし何かイメージとかあるなら「やめて」

理亞「今そんなことしてる余裕ないでしょ」

340:
ルビィ「……あのね、理亞さんが言いたいことも分かるよ」

ルビィ「私たちまだ全然息が合っていないし、でもね」

ルビィ「作るのはそうかもしれないけど、どういうライブにしたいのか決めるくらいは出来るでしょ?」

ルビィ「まずは方向性だけでも固めて、そしたら後々楽になると思うし」

ルビィ「それがあるだけでも作業が捗るから、全部後回しにするよりはずっと……」

理亞「だから、やらないって言ってるでしょ」

理亞「やって意味のないことをやる必要なんてない、するつもりもない」

理亞「そんな時間を無駄にするようなこと私はしたくないの」

341:
ルビィ「──!!」

理亞「それより優先するべきなのは練習でしょ、合宿のメニューだけじゃ間に合わない足りなすぎる」

理亞「もっと増やして追いつかないと手の施しようがなくなる、それくらい差が開いてるの。あなたも分かってるはず」

理亞「真面目にやって、私たちにはもう後がないの」

理亞「これ以上他のペアに離されるわけには……」

ルビィ「いい加減にしてよっ!!」

342:
理亞「なっ……いきなり何? いい加減にしてって何が?」

ルビィ「なんで必要かどうかを理亞さんだけで決めるの!?」

ルビィ「それにやらない理由だって!」

ルビィ「意味がないとか無駄とか! あの話を聞いておきながらどうしてそういうこと言えるのさ!」

ルビィ「本当にやる必要がないならっ…! じゃあ何で私たちは今ここにいるの!? この合宿に来ているの!?」

ルビィ「ずっと私は分かってるみたいな顔してるけど何にも分かってない!! 分かってないよ理亞さんは!!」

ルビィ「ツバサさんの言ったこと何一つ!!」

理亞「!! ……は? 黙って聞いてれば何それ」

343:
雪穂「今日の練習はみんな一段と気合が入ってましたね」

ツバサ「そうね、これなら……」

ツバサ「……ん?」

雪穂「ツバサさん? どうかしたんですか……って」

雪穂「またあの二人ですか、でもまあいつもの喧嘩でしょう」

雪穂「軽く注意しに」

ツバサ「……いや、少し怪しいわね」

雪穂「え?」

ツバサ「いつもと雰囲気が違うような…」

344:
理亞「私だってちゃんと理解している!!でも今はそれより他にやることあるって話してるの!」

ルビィ「何も上手くいかない練習を繰り返すことが!本当に全部を無視してまでやらなくちゃいけないことなの!?」

理亞「だから!合わせなさいって言ってるでしょ!」

理亞「それが出来てないから今こうなってるんでしょうが!!」

理亞「出来てないから!やらないといけないのよ!!」

理亞「7月だって今日を入れてあと3日で終わる!それが終わればすぐにフェスライブが始まる!!」

理亞「私はそこでトップを取らないといけないんだ!もう時間がないの!これ以上私の邪魔しないでよ!!」

345:
ルビィ「……っ……なんでそんなに勝ちにこだわるの」

理亞「はあ!?」

ルビィ「ずっと前から思ってた! あのときも同じようなこと言ってたから!」

ルビィ「でもフェスライブは大会じゃない!お祭りでしょ!!?みんなで楽しむためのものじゃん!」

ルビィ「勝ちたいって人はいるし、競いあいだってあるけど! それでも!」

ルビィ「理亞さんみたいに勝つことだけしか頭にない人なんて絶対にいないよ!!」

理亞「っ!!」

ルビィ「どうしてそんなに焦ってまで一番を取りたいのさ!!」

346:
理亞「……るさい」

ルビィ「え……?」

理亞「うるさいうるさいうるさい!! 分かってるのよそんなことは!」

理亞「だけどっ!!」

グイッ

ルビィ「!?」

理亞「もう私しかいないのよ!!」

347:
理亞「姉様はもう卒業していない! 次は私が引っ張っていかなくちゃいけない!」

理亞「あの二人を!リーダーである私が!!」

理亞「他の皆だって注目している! 全員がSaint Snowのことを見てる!」

理亞「フェスが終われば次はラブライブの一次予選が始まる! すぐそこまで来てる!休んでる暇なんてないの!」

理亞「そのときまでに私が何とかしないと! そうしないとっ……!」

理亞「今まで姉様と積み上げてきたものが! 全部崩れるじゃない!!」

ルビィ「──!」

理亞「今が一番大事な時期なんだ!! 私がっ!!」

理亞「私がやらなくちゃ! 一体誰がやればいいのよ!!」

348:
ルビィ「…………」

理亞「はぁっ……はぁっ……」

「そこまでにしておきなさい」

ルビィ・理亞「!」

ツバサ「二人とも流石にやりすぎよ」

理亞「……ご」パッ

ルビィ「ごめんなさい! 私が悪いんです! つい煽るようなことを言ったから!」ペコ

理亞「……黒澤ルビィ、あなた」

ツバサ「……いいわ、今日のところは大目に見ておいてあげる」

ツバサ「ただし、二回目はないわよ。分かった?」

349:
ルビィ「はい」

理亞「……すみませんでした」

ツバサ「今日はもう上がってゆっくり休みなさい、二人も思うところがあるでしょうし」

ツバサ「それにオーバーワークは怪我の元になるわよ、あまり無茶しないこと」

ツバサ「ね?」ポン

理亞「……はい、失礼します」

ルビィ「お騒がせしました」

350:
スタスタ……


ツバサ「……」

雪穂「ふぅー……ビックリしたあ、一時はどうなることかと思いましたよ」

ツバサ「ええ、まさか昨日言ったそばからすぐ止めることになるなんてね」ハア

ツバサ「……けど、今ので大体の事情は掴めたわね」

雪穂「……ですね」

ツバサ(今まで自分を支えてくれた姉の卒業と、そこから一人立ちしなければいけないという使命感に加えて)

ツバサ(リーダーとしての責務と前回のラブライブ優勝者であることに対する)

ツバサ(周囲からの期待とそのプレッシャー……そこから来る焦り、か)

ツバサ(重いわね……パートナーであるルビィちゃんは)

ツバサ(この厄介な現実に、どう向き合うつもりなのかしら)

351:


─205号室


あきる「よっと、はいアガリ」パラッ

さゆり「あーまたビリかーー!」

あきる「さゆりは分かりやすいのよね、そんなんじゃいつまでたってもババ引いてもらえないわよ」

さゆり「うぅ、私もルビィちゃんみたいにポーカーフェイスを身に付けないと」

ルビィ「そう、かな」

ルビィ「…………」

ルビィ「ごめん、私もう寝るね」

352:
さゆり「…分かった、また明日ね」

あきる「おやすみ」

ルビィ「うん、二人ともおやすみなさい」

さゆり「……大丈夫かなルビィちゃん」

あきる「今日はいつもより激しかったみたいだしね、少し心配」

353:
ルビィ「……はあ」ゴロン


今まで姉様と積み上げてきたものが! 全部崩れるじゃない!!

私がやらなくちゃ! 一体誰がやればいいのよ!!


ルビィ(考えたこともなかった、そこまで頭が回らなかった)

ルビィ(でも気付いてみればそれはずっと前から、確かにあったと思う)

ルビィ(GWの北海道ライブツアーもその一つだろうし、合宿でペアが決まったときもそうだった)

ルビィ(全部一人でやろうとしていて、何とかしなくちゃって思い詰めてて)

ルビィ(私のことが気に食わないのは前々から分かっていたけど……)

ルビィ(理亞さんが突っかかる理由はそれだけだと……思っていた)

354:
ルビィ(けど違った、今日初めて気づいた)

ルビィ(ペアの相手なのに、パートナーなのに)

ルビィ(何も分かってなかった、理亞さんのこと)

ルビィ(もっと相手をよく見ていれば、言われなくても気付けていたかもしれないのに)

ルビィ「……やっぱり私、足を引っ張っていたのかな」

ルビィ「…………お姉ちゃん、か」

ルビィ(私は────)

355:
本日はここまでです

357:


─合宿6日目


聖良「ワンツースリーフォー! ファイブシックスセブンエイト!!」

聖良「そのまま維持して! ラストそこからターン!」

梨子・花丸「!」クルッ

タンッ

聖良「!」

千歌「おぉ……遂に!」

梨子・花丸「……え?」ハアハア

曜「やったよ二人とも! タイミングばっちり!」

善子「完全に息の合ったコンビネーションだったわよ」

358:
梨子「ほ、本当に?」

聖良「はい、素晴らしかったです」

花丸「や、やったずらーー!」

梨子「うん! ありがとう花丸ちゃん!」スッ

花丸「マルのほうこそ! ありがとう梨子さん!」ギュッ

果南「これで全部の組み合わせが上手くいったね」

鞠莉「ええ、あとは本番に向けて最終チェックってところかしら」

ダイヤ「それと、どの組み合わせで参加するのかも話し合っておくべきですわね」

359:
聖良「では今日の練習はここまでにしましょう、皆さんお疲れ様でした」

「お疲れ様でしたー!」

千歌「ふぅー! いよいよ明後日かーフェスライブ!」

梨子「千歌ちゃん昨日も同じこと言ってたわよ」

千歌「あれ、そうだっけ?」

曜「言ってた言ってた! でも気持ちは分かるけどねだって楽しみだし!」

千歌「だよね!」

360:


ワイワイ


善子「……」

花丸「あれ善子ちゃんどうしたの?」

善子「いや、ルビィはどうしてるかなって。合宿のほう」

善子「忙しいのかこっちに全然連絡もこないし」

花丸「そっか、確かに気になるよね」

花丸「何もなければいいんだけど」

千歌「あーっ! ルビィちゃんといえば!」ズイッ

善子・花丸「」ビクッ

361:
善子「な、なによ急に」

千歌「聞きたいことがあるんだった! すっかり忘れてたよ!」

善子「千歌がルビィのことで私に?」

千歌「ううん、ちがくて」

善子「なんなのよ!」

花丸「まあまあ……」

362:
千歌「ねえねえ聖良さん!」

聖良「何でしょうか?」

千歌「聖良さんはどうして強化合宿にルビィちゃんを推薦したんですか!?」

曜「推薦、ああそういえば」

梨子「そんな話もあったね確かに」

千歌「やっぱりこの中で一番スクールアイドルについて詳しくてアイドルのことが好きだから!?」

聖良「そうですね……上に通すための表面上の理由はそうなんですけど」

363:
曜「表面上ってことは、本当はそれ以外の別の理由があったってことですか?」

聖良「はい。私情なので公には出していませんがね」

ダイヤ「よろしいのですか? そんなことを話してしまっても」

聖良「いいですよ、あなたたちには特別隠すことでもありませんから」

聖良「私がルビィさんを推薦した理由、それは──」

聖良「理亞が、あの子がルビィさんのことをAqoursの中の誰よりも高く評価していて」

聖良「それでいて最も、気に入らない存在だからです」

364:
善子「……」

曜「気に入らないって、理亞ちゃんがルビィちゃんを?」

梨子「どうしてそんな」

鞠莉「でも確かに、理亞はルビィに対してやたらと突っかかるところあるわよね」

果南「鞠莉、心当たりあるの?」

鞠莉「北海道に行ったときホテルの温泉でちょっとね、理亞と話す機会があって」

鞠莉(あと遠目にだけど理亞がルビィに何か言っていたの見てたし)

ダイヤ・聖良(温泉で会話とは……?)

365:
善子「それもあるけど、ルビィもルビィで理亞に引け目を感じているところがあるわね」

善子「さん付けっていうのもそうだけど、どこか敵わない存在として見てるっていうか」

善子「……いや、というよりかは」


……あのね。ここに来る前、理亞さんと少し話してて

─そこで言われたこと、ちょっとモヤっとしてたんだ


善子「自分の触れられたくない部分をピンポイントで言い放ってくることへの苦手意識…のほうが強いのかも」

聖良「理亞は歯に衣着せぬ物言いをする子ですから、それはあるかもしれません」

聖良「けど流石にその度合いも相手によって変わります」

聖良「だからそういう意味ではルビィさんが一番、理亞に強い言葉を浴びせられていると思います」

千歌「…気に入らないから?」

聖良「端的に言えば」

366:
曜「でも理亞ちゃんは、ルビィちゃんの何がそんなに気に入らないんですか?」

果南「うーん見た目から来る印象、とか?」

梨子「多分ですけど、それはないと思います」

果南「じゃあどんな理由で?」

梨子「そこまでは、分からないですけど…」

ダイヤ(……ですが私も梨子さんの言う通り)

花丸(もっと別の何かがある気がする)

367:
千歌「ねえ聖良さん、どうしてなんですか?」

聖良「それは……」

善子「ルビィが本当は人一倍出来る子だってことを理亞は分かってるからでしょ」

「「!!!」」

善子「もっと言うなら」

善子「実力も、知識も、熱意も、根性も持ち合わせておきながら」

善子「自分のことは二の次で、他人の顔色ばかり窺っているのが腹立ってしょうがないのよ」

善子「学業でトップの成績を修めている人が、部活動でエースの立ち位置にいる人が」

善子「周りからの評価に謙遜どころか卑屈になっているさまを見て苛立ちを覚えるアレと、似たようなものよ」

善子「私たちがルビィに対してどう思っているかはさておき」

善子「少なくとも理亞は黒澤ルビィっていう子をそんな風に捉えている、私はそう思うけどね」

368:
「…………」

善子「どうなの、聖良」

聖良「…大方当たっています」

聖良「善子さんは、理亞もそうですがルビィさんのことを本当によく見ているんですね」

善子「分かるわよそれくらい、ルビィの良いところも悪いところも私はちゃんと知ってるもの」

善子「私はルビィの彼女なんだからね、まだまだ現役のさ」

花丸「……うん、そうだね善子ちゃん」フフッ

善子「話が脱線したわねごめん、取りあえず戻しましょうか」

369:
梨子「あの、理亞ちゃんとルビィちゃんがお互いにどう思っているのかは分かったんですけど」

梨子「聖良さんはどうして、わざわざ理亞ちゃんが嫌っているルビィちゃんを推薦に?」

聖良「ありのままの自分を曝け出せるからですよ」

千歌「ありのまま……?」

聖良「今年に入って、理亞を取り巻く環境はどんどん変わっていきました」

聖良「ラブライブでの優勝と、私が卒業して上京するにあたって、あの子は文字通り一人でやっていかなくてはいけなくなった」

聖良「それこそ新入部員への指導や今年の目標に向けてどう活動するのか等」

聖良「リーダーやスクールアイドルの先輩として求められることも多く、そこには当然責任が伴う」

聖良「頼りに出来る人間が誰も居ないまま、そんな日々を繰り返すうちにいつしか理亞は……周りに遠慮するようになった」

聖良「誰かが離れていかないように、期待を裏切らないように」

聖良「自分よりも自分の立場からくる役目や、周囲の期待に応えられるような結果を優先するようになったんです」

370:
花丸「それって何か……ルビィちゃんと」

ダイヤ「ええ、原因や過程は違えど……考え方は似ていますわね」

ダイヤ「環境のせいで自分の気持ちを押し殺さなくてはいけない辺りが特に」

果南「ダイヤ……」

聖良「そうですね…恐らく理亞がルビィさんに苛つくのも、自分と重なるところがあるからなんでしょう」

聖良「しかし、だからこそルビィさんは」

聖良「理亞にとって格上でも格下でもない、自分と対等な存在」

聖良「もし理亞が遠慮も何もせずに本音をぶつけられる相手がいるとすれば、それはあの子と同じ境遇にいて」

聖良「尚且つ自分がその実力を認めたルビィさん唯一人だけなんですよ」

371:
善子「だからルビィを?」

聖良「はい、相手のことを考えられるようになったとだけ言えば聞こえはいいかもしれませんが」

聖良「それで雁字搦めになってしまっては、この先も上手くいく保証はないですし」

聖良「どこかで耐えられずに、壊れてしまうかもしれない」

聖良「だからあなた方の事情と今回の合宿の件を聞いたとき、私は思い至ったんです」

聖良「合宿でルビィさんと密接に関わることで、もしかしたら理亞の心情に何か変化が訪れるのかもしれないと」

聖良「ルビィさんを利用する形になってしまって心苦しいのですが、それでも私はあの子のために自分に何か出来ることをしてあげたかった」

聖良「……ごめんなさい」

372:
ダイヤ「聖良さん……」

善子「いいんじゃないの別に」

聖良「えっ……?」

曜「善子ちゃん?」

善子「私はルビィにとっても、これは必要なことだと思うし」

梨子「どうしてそう思うの?」

善子「だって私たちはルビィに対してかなり気を遣ってるでしょ、大なり小なり差はあると思うけど」

善子「全員あの子に負い目があるからどうしたって本人に強い口調でああだこうだと言えないじゃない」

善子「仮に思っていることがあったとしても、無意識のうちに言葉を選んで傷つかないようにって感じだし」

善子「だから理亞の存在はこっちにとっても貴重、それでおあいこってことにしない?」

聖良「…ありがとうございます」

善子「別に、そういうのいいから」フイッ

花丸「照れてる照れてる」

善子「やかましいわっ!」

373:

それから……


─空港


聖良「ではそろそろ時間ですので行ってきますね、今日のこともそうですが色々とお世話になりました」

千歌「こっちこそ聖良さんのおかげですっごい助かりました! ありがとうございました!!」

果南「それで、内浦のほうにはいつ頃戻ってくる予定なの?」

聖良「それは果南さんは私に離れてほしくない、ということですか?」

果南「そういう意味で聞いたんじゃないんだけど」

聖良「お望みとあらばすぐにでも戻ってきますよ」ニコ

鞠莉(意外とグイグイいくわよね聖良って……)

374:
果南「いや気にしなくていいよ、ゆっくりしていけばいいじゃん」

聖良「そうですか? でもまあ、向こうでやるべきことはそんなにありませんから」

聖良「8月3日あたりにはこちらに戻ってきますよ、安心してください」

果南「安心って、別に不安にはなってないんだけどなあ……」

曜(…うーん、なんか)

善子(流石に察せてきたかも。あの二人の関係)

375:
鞠莉「まあまあいいじゃない、待ってるわよ聖良」

聖良「はい、ではまた」

曜「聖良さんいってらっしゃーい!」

千歌「また今度ーーー!」



鞠莉「さてと、聖良の見送りもすんだし」

鞠莉「今日はここで解散ってことでいいわよね? 千歌っち」

千歌「そうだね、みんなもお疲れさま! また明日ね!」

「はーい!」

376:
花丸「ダイヤさん、これからアオちゃんのところに行こうと思っているんだけど一緒にどうかな?」

ダイヤ「ご一緒しますわ。果南さんはどうします?」

果南「私は久々に家でゆっくりする予定、たまには羽を伸ばしたいし」

千歌「ねえねえじゃあ果南ちゃん私の家に来ない!? 温泉あるしゆっくり出来るし私とも遊べるし!」

果南「おっいいね、高見さんのとこにも挨拶いってなかったし今日はそうしようか」

千歌「やったー!」

377:
曜「善子ちゃんは何か予定あるの? 練習やるなら付き合うけど」

善子「今日はいいわ、明日に備えて休んでおく」

曜「そっか」

善子「曜、暇なら梨子をデートにでも誘ってくれば? 多分断らないでしょ」

曜「なっ、なんでいきなりそうなるのかな」

善子「視線でバレバレよ、ほら鞠莉も梨子も気付いてこっち見てるじゃない」

善子(一人はすっごいニヤついてるけど、ほんと好きね)

曜「ぅ……」

善子「別に無視して帰っても、それはそれでアリなのかもしれないけどどうするの?」

曜「……いってきます」

善子「はい、いってらっしゃい……さてと私もそろそろ」

378:


ブーッ ブーッ


善子「? もしもしルビィ? どうしたの」

『もしもし善子ちゃん? あのね、ちょっと話したいことがあって』

『多分長くなると思うんだけど、いいかな?』

善子「いいわよ……でも今出かけているから部屋に戻ったあとで掛けなおすわ」

『うん、わかった』

善子「急いで帰るわね」

『ゆっくりでいいよ』

善子「遠慮しないの」タッ

379:


─善子の部屋


善子「ふぅ……もしもしお待たせ、それで話って?」

『私の合宿のこと、で……どうすればいいのかなって』

善子「そう、あんまり上手くいってないのね」

『!!』

善子「違った?」

『ううん、違わない』

『善子ちゃんはなんでもお見通しなんだね』

善子「ルビィ以外には無理だけどね……相談なら乗るわよ、でもその前に」

善子「この6日間で何があったか、私に教えてくれない?」

『うん、そのつもりだよ』

『あのね、まずは……』

380:
善子「──ふーんそんなことがねえ、理亞とルビィが合宿のペアか」

善子「しかも今が一番ぎこちないとはね」

善子(タイミングがいいんだか悪いんだか)

『うん、私言われるまで全然気が付かなくて』

善子「でもそれは仕方ない部分もあるじゃない、全部が貴女のせいってわけじゃ」

『確かにそうかもしれないけど、でもね善子ちゃん』

『……それってね、去年のあのときから何も変わってないんじゃないかなって』

『ちょっと、思ったんだ』

善子「! ……なるほど」

381:
『だけどまた私の知らない間に誰かが嫌な思いをして、拗れていくのはいやだから』

『今度はちゃんと関わっていきたくて、目を背けたくなくて』

『でも私だけじゃどうすればいいのか分からないから……誰かに相談しようと思ったの』

善子「そっか……ダイヤや花丸には言ったの?」

『ううん、善子ちゃんだけ』

善子「そう、ルビィはわざわざ私一人を選んでくれたのね」

『迷惑だった?』

善子「そんなわけないでしょ、嬉しいわよ。凄くね」

『よかった』

382:
善子「でもねルビィ、正直に言うと私は今のルビィの話を聞いて」

善子「そこまで深刻になる必要もないかなって思ったの、少なくとも私が予想していたよりもずっと」

『え?』

善子「だってさ、貴女はちゃんと意識出来てるじゃない」

善子「今のままじゃ駄目だって思いながらもその問題を自分だけで片づけようとしてないでしょ」

善子「誰かに話して、聞いてもらって、でもそこで人に言われたことそのまんまやるんじゃなくてさ」

善子「自分の意志でどうするのか決めようとしてる」

善子「気付いてないかもしれないけど、それは少し前までのルビィには出来ていなかったことなのよ」

『!』

善子「だからね、貴女がちゃんと前を向けているんだってことが分かって、ちょっと安心した」

383:
『善子ちゃん…』

善子「ねえルビィ、私もこの合宿を通じて気付いたことがあるんだけど、聞いてもらってもいい?」

『う、うんいいけど』

善子「ああその前に北海道で焼肉食べにいったときにさ、悩んでいることがあるって私が言ったの覚えてる?」

『覚えてるよ』

善子「今話すのはその悩みのことなんだけど」

善子「私ね、あのときルビィと花丸に置いていかれそうな気がして焦っていたのよね」

『置いていかれる?』

384:
善子「ルビィはスクールアイドルの知識や経験で頼りにされてるし、花丸もライブツアーでセンターに抜擢されるほどの大活躍」

善子「なのに私だけ皆のために何も出来ていないってね」

『……それで?』

善子「それで戻ってからは自主練も曜と一緒にやるようになった、きっとルビィとただ練習を続けているだけじゃ何も変わらないと思ったから」

善子「今の貴女と同じね」フフッ

『そう、だったんだ』

385:
善子「そしてそのまま夏に入って合宿、私たちAqoursのほうはフェスライブに向けてデュオトリオの組み合わせがどんな形でも成り立つように」

善子「二人組と三人組に分かれてひたすら練習をした、それ以外にもチームの連携のために他のスポーツに手を付けたりもした」

善子「当然最初は上手くいかなかったわ、合わせようと思っても少しずれていたりとか全く連携が取れていなかったりとかそんなのザラ」

善子「でも段々やっていくうちに一人一人のことが分かるようになってきて、そして今日ようやく」

善子「全ての組み合わせが上手くいったの、私も含めてみんなとても喜んでたわ」

『……』

386:
善子「ねえ、ルビィはなんで私たちが上手くいったと思う?」

『それは……皆がお互いのことをちゃんと考えていたから?』

善子「ちがう」

善子「全員、自分のことを考えていたからよ」

『!?』

善子「私もそこに気付けたから、息を合わせられるようになった」

387:
『善子ちゃん、それってどういうこと…?』

善子「これだけ聞けば自分勝手って思われるかもだけど」

善子「そうじゃない、私が言いたいのは─」

善子「相手と自分のことを考えて、初めてコンビっていうのは成立するんだってこと」

『!』

善子「相手のためだけに動いても意味がないの、それはそうよね」

善子「自分も含めてのデュオトリオなんだから、自分を無いものとして扱ったら成立しないのよ」

善子「その時点で欠けているんだから」

388:
『……』

善子「自分本位でもダメ、相手に依存しすぎるのも駄目」

善子「大事なのはどっちにとっても私が必要なんだと、そう思わせることなの」

善子「代わりなんていない、その二人にしか出来ないことが必ずある」

善子「だから無理に合わせようとしないで」

『…………』

389:
善子「ルビィ、貴女はよくやってるわよ。慣れない場所で初めて会う集まりの中で、しかも指導者は誰もが憧れてやまない偉大な人だし」

善子「そのうえ集まった子の中でも特に馬の合わない理亞と組むことになって、それでも」

善子「理亞のためにどうにかしようと今こうして動いている、凄いと思うわよ。誰にだって出来ることじゃない」

善子「でももっと、自分のために頑張ってもいいんじゃない?」

善子「私は、今の大人しいルビィも嫌いじゃないけど」

善子「前みたいな我がまま言って私を困らせるルビィの方が好きよ」

『──!!』

善子「私が言いたかったのはそれだけ」

390:
『…………うん』

『ありがとう善子ちゃん』

『私、善子ちゃんに話してよかった』

善子「そう」

『うん、あとね久しぶりにこうして電話で話せて凄く楽しかった。嬉しかった』

善子「私もよ」

『今度は二人っきりで会ってお話ししたいね』

善子「ええ」

『じゃあ、またね』

391:


ピコン ツーツー……


善子「……はぁー」ボフン

善子「ルビィが最初に頼ったのは私、か」

善子「あれだけ偉そうに言っておいてなんだけど……フフッ」

善子「それはないと思ってたわ、私もまだまだ甘いわね全く」

善子「…………それにしても、理亞とのコンビ結成で」

善子「ルビィに出来ること、ルビィがやりたいこと……ねえ」ウーン

善子「私にもあるのかしら、聖良が言ってたようにそれでルビィに協力出来ることが他にもまだ何か」


善子「もし、あるなら……」スヤ

392:


─合宿7日目


瑞希「ツバサさん! ちょっといいですか?」

ツバサ「何かしら」

さゆり「振り付けのここの部分なんですけど、変えた後のテンポとか考えたら少し物足りないかなって気がして」

ツバサ「成程、面白いわね」

瑞希「ツバサさんはどう思いますか?」

ツバサ「そうね、私ならこことここの繋ぎを……」

393:
蘭花「るう、私の衣装はこんな感じでお願いするネ!」

るう「それだと動きづらいよ、でも元のイメージを残したまま作るならここをこうして……どう?」

蘭花「おおっ成程ネ! るうは凄いアル!」

るう「えへへっ…ありがとう」

雪穂「…………」

394:
雪穂(みんな初日の頃と比べると段違いによくなってるなあ)

雪穂(最初は私たちが見回りながらアドバイスを送っていたけど)

雪穂(今は自分たちで考え合って決めてから、それをもっと良くするために自ら進んで助言を貰いにいってる)

雪穂(初めは慣れなかった相手とも、ここでの共同生活や練習を通して時間を重ねていったことで)

雪穂(信頼が芽生え……そして)

雪穂(自主性とそれに伴う行動力が今、あの子たちの中で確かなものになりつつある)

395:
雪穂「年々スクールアイドルのレベルが高くなってるとは聞いていたけど……」

雪穂「想像以上、みんな凄い呑み込みの早さだよ」

雪穂(でも、そんな彼女たちの成長を妨げずにここまで促したのは……)チラッ

ツバサ「そうそう、二人ともいい感じになってきたわね」

ツバサ「あと気になるところがあるとするなら……」

雪穂(ツバサさんなんだよなあ……!!)ブワッ

396:
「雪穂さん、雪穂さん?」

雪穂「……え? ああ、なに?」

「振り付けのことで聞きたいことがあって、いいですか?」

雪穂「あっうんごめんね、ちょっとボーっとしてて……どれどれ?」

雪穂(いけないいけない……つい熱が入ってしまった)

雪穂(ちゃんとこっちに集中しなくちゃね)

397:


……


ツバサ「──よし、少し早いけど今日の練習はここまでにしましょう」

ツバサ「みんなお疲れさま!」

「お疲れ様でした!!」

ツバサ「さてと、今日でこの合宿も始まってからちょうど一週間になります」

ツバサ「そして明日からは月も替わって8月に入るわけだけど、みんな」

ツバサ「その8月に何があるかは勿論知っているわよね? はい瑞希ちゃん答えて」ユビサシ

瑞希「は、はい! フェスライブです!」

398:
ツバサ「正解。ラブライブ!サマーフェスティバル2020がいよいよ明日開催されるわ」

ツバサ「年に一度、いや今回に至ってはそれ以上の盛大なお祭りになることは間違いない」

ツバサ「当然この中にも思いをはせる人はいるでしょう、私も楽しみで仕方ないわ」

ツバサ「そこで、よ。少し思いついたことがあるんだけど」

雪穂「ん?」

ツバサ「……」フッ

ツバサ「明日から始まるフェスライブ」

ツバサ「そのイベントにあなた達全員エントリーしてもらうわ!」

ツバサ「デュオ部門に、この組み合わせでね」ニヤ

399:
雪穂「んなあっ!?」

ルビィ・理亞「─!?」

ザワザワッ…!

雪穂「待ってくださいツバサさん! そんなの予定には入って……」

雪穂「それに最初の挨拶で合宿だけに専念してもらうってみんなにも言ってたじゃないですか!」

ツバサ「言ったわよ。でもこの一週間で私も考えが変わったの」

ツバサ「ここにいるみんなの成長には目を見張るものがある、このまま練習だけで終わらせるなんてもったいないわ」

ツバサ「雪穂ちゃんはそうは思わない?」

雪穂「それは否定しませんけど!」

雪穂(っていうか、え? じゃあ何、最初に二人一組でペアを組ませたのも…)

雪穂(三人以上のグループ練習を最小限に止めておいたのも……まさか!)バッ

ツバサ「ほらね、だったらやるべきなのよ」ウインク

雪穂(考えが変わったなんて大嘘! 初めから仕組んでたなこの人ーっ!)

400:
ツバサ「そしてそれに伴って8月からはあなた達に選択権を与えるわ」

ツバサ「合宿の練習をやるかやらないか、その権利をね」

雪穂「それって……」

ツバサ「イベントでのライブに全心血を注ぐのもよし、合宿でコンビの完成度を上げるのもよし」

ツバサ「長期合宿のここから残り十日間! 何をどうするかはあなた達の自由!」

ツバサ「各々が自分自身で考え、行動し、最高の結果を目指すこと!」

ツバサ「それが! 私からあなた達へ与える最後の課題です!!」

ツバサ「舞台は整った!! さあ──」

ツバサ「これまでに培ってきた特訓の成果を」

ツバサ「思う存分、発揮させてきなさい!」

404:


─内浦


ダイヤ「はい練習終了! 皆さんお疲れさまでした」

ダイヤ「それで次は明日のイベントに参加する組み合わせについて話したいのですが」

鞠莉「何か要望のある人はいる?」

ブーッ  ブーッ

善子「? ごめん、ちょっと……」

鞠莉「構わないわよ、誰から?」

善子「……ルビィ?」

405:
ダイヤ「ルビィが?」

善子「(珍しいわね、昨日に引き続き今日もなんて)もしもし」

『もしもし善子ちゃん!? どうしよう大変なことになっちゃった!』

善子「うわっ、大変ってなにが……いやちょっと待って」

善子「ルビィ、今ちょうど皆もいるから一緒に聞いてもらってもいいかしら?」

『う、うんそうだねお願い』

善子「みんな集まって……それで、何があったの?」

『それが……私ね、明日から始まるフェスライブにデュオの部門で』

『理亞さんと一緒に出ることになったの』

善子「!」

ダイヤ「なっ……!?」

406:
「「「えぇーーーーーー!?」」」

千歌「な、なんで!? どうしてそうなったの!?」

『えっと今日の合宿練習の終わりにね、ツバサさんが』

千歌「ツバサさん!? ちょっと待ってルビィちゃん! ツバサさんってあの元スクールアイドルのトップでもあって」ズイッ

曜「しかも今もなお超絶人気を誇る! アイドルグループA-RISEのリーダー! 綺羅ツバサさんのこと言ってるの!!?」ズズイッ

梨子「え、あの人!? 嘘!?」

千歌・曜「どうなの!?どうなのルビィちゃんっ!!」

『そ、そうだけど』

千歌「すっっっっっごーーーー!! 何それ!すごい羨ましい!!」

鞠莉「Amazing 最近テレビで見てないと思ったらそんなことになってたのね……」

407:
果南「でもそんな超大物が一体どうして」

曜「決まってるじゃん! スクールアイドルのためだよ!! だって選抜だよ!!?」

千歌「うわーー!!もう!もう……凄すぎて凄いとしか言えないよ!!」

千歌「あー私もそっちに行きたかったーーーーーー!!!」ワシャワシャ

花丸「ち、千歌ちゃんひとまず落ち着くずら……」

ダイヤ「皆さんも一度落ち着いて! 話が取っ散らかっていますわ!」


ワーワー!!  キャーキャー!!


『え、えーっと……』

善子「……ごめん、こんなことになるならツバサさんのことについてはあらかじめ話しておくべきだったわ」

『ううんいいよ、私もみんなの気持ちは分かるから』

408:


数分後……


果南「成程それでエントリーすることに……ツバサさんも思い切ったことするなあ」

梨子「でも本当に突然ですよね」

『うん、だからどうしたらいいんだろうって』

千歌「そだねー、私たちもルビィちゃん抜きの状態で決めないといけないってことだから」

曜「まあ普通に考えてこっちはデュオとトリオの一つずつで……」

409:
善子「……」

花丸「善子ちゃん、さっきからずーっと考え込んでるけどどうしたの?」

善子「……これだ」

花丸「え?」

ダイヤ「ではこちらはデュオとトリオの部門で一組ずつエントリーするという形で……「待って」

善子「その前に私の要望を聞いてもらってもいい?」

410:
ダイヤ「善子さん?」

善子「私と花丸はデュオでエントリーしたい」

『!』

花丸「マル?」

鞠莉「それはつまり、善子と花丸でペアになってっていうことよね? ならデュオのほうは─」

善子「ううん違う」

善子「私と花丸、それぞれ違うペアでデュオに参加したいって意味」

善子「私がパートナーに希望したいのは曜よ」

「「「!!?」」」

『善子ちゃん……?』

411:
善子「ルビィ、昨日私が言ったこと覚えてる? もっと自分のために頑張ってもいいんじゃないかって」

善子「私は、あなたと戦ってみたい……同じ舞台で」

『──!』

花丸「!」

善子「合宿が、夏休みが終わってルビィが帰ってきたら、またラブライブに向けて一緒に練習することになる」

善子「同じAqoursのメンバーとして、仲間としてね。それが本来やるべきことだし私も早くルビィに戻ってきてほしいと思ってる」

善子「でもライバルとしてこうして貴女と競いあえるのは、これが最初で最後になるかもしれない」

善子「その機会を私は、私たちは逃したくない……そうでしょ花丸」

412:
今は無理でも、いつか三人で楽しく、遊べるのかなって

今のルビィちゃん、昔の頃に戻ってるもん

淡々とやるべきことだけやって、心に厚い壁を張って、一人で塞ぎこんでる

でも、それを破るきっかけを作ってくれたのは善子ちゃんだから、今度もきっと…


花丸「!! ……そうだね」

花丸「マルは、梨子さんを希望するずら」

梨子「私と……」

花丸「千歌ちゃんお願い!」

善子「我がままだってのは分かってる! けどっ……」

千歌「…………よし、分かった!!」

413:
曜「ちょっ、千歌ちゃん」

果南「いいの? …本当に?」

千歌「ほら聖良さんも言ってたじゃん他校のメンバーとでも組めるって! 私はその人たちを探してみるからさ!」

善子「千歌……」

千歌「いつもと同じじゃつまらない! もっと違うことやらなきゃ!」

千歌「でしょ? 鞠莉ちゃん!」

鞠莉「……フフッ、そうね」

千歌「よーし一発かましてやれ善子ちゃん!!」

善子「ありがとう千歌…!」

414:
善子「ルビィ、こっちの意思は決まったわあとは貴女がどうするかだけ」

『善子ちゃん、花丸ちゃん……』

善子「言っておくけどどうしようは無しよ、どうしたいか選びなさい」

花丸「今のマルたちはルビィちゃんのライバルだからね、敵に情けはかけないよ」

善子「だから遠慮もしない、全力であなた達の相手になってあげる」

花丸「全身全霊で挑んでくるずら!」

『──っ!!』

善子「これは私の……私たちAqoursからルビィへの」

善子「宣戦布告だ!!」

415:


─205号室


ルビィ「……ただいま」

さゆり「あっおかえりー」

あきる「遅かったわね」

ルビィ「うん、ちょっと色々あって」

さゆり「ルビィちゃんもやる? ポーカー」

ルビィ「やる」

416:

サッサッ

さゆり「それにしても今日は驚いたねー、まさか最初のペア決めが参加の布石になっていたとは」ペラッ

あきる「ツバサさんって意外と無茶苦茶なところあるわよね、ビット3枚」スッ

さゆり「お、強気だねーレイズ2枚追加!」サッ

あきる「そっちもなかなか攻めてくるわね」

さゆり「ふふん、今回は自信ありだからね」

あきる「でも、ということは明日から私たちはライバル同士ってことになるのよね」

ルビィ「!」

さゆり「だねー、ルビィちゃんはどうする? レイズ?コール?」

417:
ルビィ「……あの、聞きたいんだけど」

あきる「ん?」

ルビィ「さゆりちゃんとあきるちゃんは私と、戦いたい?」

さゆり・あきる「……」メアワセ

あきる「もちろん」

さゆり「戦いたいけど?」

ルビィ「でも私、まだ理亞さんと全然息が合ってないよ?」

さゆり「それって今だけでしょ?」

あきる「もう既に諦めてるなら話は変わってくるけど、あなた達に限ってそれはないでしょうしね、違う?」

418:
ルビィ「ううん……違わない」

ルビィ「レイズ、5枚」スッ

さゆり「うっそ!? ここで!?」

ルビィ「私も、負けない」

あきる「そうこなくちゃ、コールで」フッ

さゆり「私もコール、面白くなってきた!」

あきる「全員ドローは?」

ルビィ・さゆり「しない」

あきる「私も、それじゃあ手札オープン……!」

さゆり「!! これ……」

419:
ルビィ「……えへへっ、私の勝ち」

ルビィ「二人ともありがとう、おかげで決まったよルビィのやりたいこと」

ルビィ「そろそろ寝るね、おやすみ」

さゆり「あ、うん」

あきる「おやすみ」



さゆり・あきる「完っ全にフルハウス……」

420:
ルビィ「…………」


今年も私は、デュオで参加するつもり。そしてそこでトップを取る

各々が自分自身で考え、行動し、最高の結果を目指すこと!

代わりなんていない、その二人にしか出来ないことが必ずある

もっと、自分のために頑張ってもいいんじゃない?

敵に情けはかけないよ

だから遠慮もしない    どうしたいか選びなさい

宣戦布告だ!!


ルビィ「…………勝ちたい」

ルビィ「合宿のみんなに、花丸ちゃんに」

ルビィ「善子ちゃんに、私は勝ちたい……!!」ギュゥ

ルビィ「そのためにはまず……!!」

421:


……翌日、8月1日


102号室


ピピピッ…… ピピピッ…

雪穂「うぅん……もう朝かあ…」モゾッ

雪穂「早く顔洗って着替えなきゃ……」ゴシゴシ

雪穂「よいしょっと」

422:
雪穂「えーっと、今日の予定は……」ガチャ

「あの!! 雪穂さん!!」

雪穂「わーーーー! なに!?誰!?」

ルビィ「ご、ごめんなさい驚かせてしまって…」

雪穂「なんだルビィちゃんかあ……今日は早いね、それにずっとここで待ってたの?」

ルビィ「はい、雪穂さんに聞きたいことがあって」

雪穂「うんいいよ、何かな?」

423:
ルビィ「雪穂さんにとってお姉ちゃんって、どんな存在ですか!?」

雪穂「え? お姉…ちゃん?」ポカン

ルビィ「はい!」

雪穂「…………ぷっ、あはははははは!!」

ルビィ「ゆ、雪穂さん?」

雪穂「いやごめんごめん、だってさ……フフッ」

雪穂「今まで技術的なこととか聞いてくる子はいたけど、そんな質問してくるのはルビィちゃんが初めてだったからさ」クスクス

雪穂「そっかそっかお姉ちゃんか、そういえばルビィちゃんにもいたんだよね」

雪穂「黒澤ダイヤちゃん、だっけ?」

424:
ルビィ「あ、はい」

雪穂「うーん一番の共通点を見落としていたなあ、環境とか発言力とかより多分こっちのほうがずっと重要だよね」

ルビィ「何の話ですか?」

雪穂「こっちの話だよ気にしないで」

雪穂「うん、よし決めた! ルビィちゃん今日も練習やるよね?」

ルビィ「はい、理亞さんと一緒にやるつもりです。きっと向こうもそう思ってるはずですから」

雪穂「そうだね、じゃあそれが終わった後でいいからさ」

雪穂「今日の予定、空けておいてよ」

425:


─その頃


函館聖泉女子高等学院

体育館


黒髪「おはよー」

茶髪「おはよー、いよいよだね」

茶髪「フェスライブの記念すべき一日目!」

黒髪「だね、理亞ちゃんは私たちのどっちを選ぶつもりなのかな?」

426:
茶髪「さあ……っていうか前々から思ってたんだけどさ、なんでトリオじゃなくてデュオなの?」

茶髪「私たち三人で活動してるんだし、フェスもそれでいい気がするんだけど駄目なのかな?」

黒髪「多分だけど、フェスで自分の実力を証明して、その後ラブライブで今のSaint Snowの実力を証明したいんじゃないかな」

黒髪「段階を踏むっていうか、それに私たちも今年入ったばっかじゃん?」

黒髪「まだ練習中のトリオよりは、聖良さんとのコンビで慣れているデュオのほうがやりやすいのかもしれないし」

427:
茶髪「成程ねえ、なんか納得」

茶髪「とにかく私たちも気合い入れていかないとね」

黒髪「そうだね」

ピロン

茶髪「あっ、噂をすれば理亞ちゃんからライン」

黒髪「さてどっちが選ばれ……」

黒髪・茶髪「…………ん?」

ガラッ

聖良「あ、もう来ていたんですね」

聖良「二人ともおはようございます、今日も早い……」

黒髪・茶髪「嘘ぉ!!!??」ガタッ

聖良「!?」ビクッ

428:
理亞「……ふう」

理亞「デュオのこと、多分二人とも驚いてると思うけど……当たり前よね」

ツバサ「流石に強引だったものね、そこは認めるわ」

理亞「! ツバサさん」

ツバサ「理亞ちゃんはやっぱり嫌だった?」

理亞「いえ……新しいことを経験するという意味ではとても重要なことだと思っています」

ツバサ「殊勝な心がけね、これから練習?」

理亞「はい、恐らく向こうもそうするでしょうから」

ツバサ「かもね、今日はみんなで開会式を見に行こうかと思っていたんだけど……二人だけお預けか」

理亞「すみません」

ツバサ「いいのよ、言ったでしょ? どうするかはあなた達の自由だって」

429:
理亞「……あの、それなら」

ツバサ「うん?」

理亞「開会式が終わって、用が済んで……こっちの練習も終わってからでいいので」

理亞「少し、話を聞いてもらえませんか?」

ツバサ「……いいわよ」クス

430:


それからしばらくの時間が経って……夕方


205号室


さゆり「今日はルビィちゃん、雪穂さんのとこで泊まるって」

あきる「そう」

さゆり「でも勿体ないよねー開会式来ればよかったのに、だってさ……」

あきる「いいじゃない、それだけ真剣ってことでしょ」

あきる「それに、雪穂さんの家に泊まるってことはさ」

さゆり「……あっ、そっか」

あきる「でもちょっと羨ましいわね、私たちなんて遠くから眺めるので精一杯だったのに」

さゆり「全くですなー」

431:


─和菓子屋穂むら


ルビィ「あの、本当にいいんですか?」

雪穂「大丈夫、ツバサさんの許可も取ってあるから」

ガラガラッ

雪穂「ただいまー」

高坂母「おかえり雪穂、あらそちらは?」

雪穂「電話で言ってた合宿の子、ほら今日うちで泊める」

ルビィ「お、お邪魔します」

高坂母「ああ貴女が、ゆっくりしていってね」ニコ

432:
雪穂「ルビィちゃん、取りあえず私の部屋にいこっか」

ルビィ「はい」

ドタドタドタ!

「おーい! ゆーきーほーーーーー!!」

雪穂「うげっ……このタイミングで」

「合宿の子がうちに泊まりに来るってホント!?」バンッ

ルビィ「!!?」

雪穂「静かにしてよお姉ちゃん、ルビィちゃん驚いちゃうじゃん」

433:
「ルビィちゃんって?」ハムッ

雪穂「だから今日泊まりにくる子の名前……っていうかお姉ちゃんそれ! 私のおやつじゃん!!」

「ぎくっ……い、いやだなー雪穂。なにかの勘違いだよーあははー……」

雪穂「そんなわけないでしょ!! せっかくルビィちゃんと二人で食べようと思ってたのにどうしてくれるの!」

「だ、だって仕方ないじゃん! 今日はフェスの挨拶とかで忙しくて…移動しようと思っても人がたくさん押し寄せてくるんだもん!」

「サインとか握手とかすっごい疲れたんだよ! 大変だったんだよ!?」

434:
雪穂「いいから返してよそのお菓子!」

「無理だよ! もう飲み込んじゃったもん!」

高坂母「こら穂乃果! 夕食前におやつなんて食べるんじゃないの!!」

「お、お母さんまで……」

雪穂「当たり前でしょ! もう……スクールアイドルの後輩にあんまり恥ずかしいところ見せないでよね」

雪穂「ごめんねルビィちゃん騒がしくて……」クルッ

ルビィ「あ……あわわわ……ほ、ほほほほ……」

435:
「あわ? ほほ?」

雪穂「……あー……えっと……流石に説明はいらないと思うけど、一応」

雪穂「こちら、私のお姉ちゃん」

ルビィ「ほ、ほのっ……穂乃果しゃんっ!!!?」

穂乃果「あなたがルビィちゃん? 初めまして、高坂穂乃果です!!」

穂乃果「ようこそ和菓子屋穂むらへ! 大歓迎するよ!!」ニコッ

436:
穂乃果「─でね、そのときの熱気が凄いのなんのって!」

雪穂「知ってるよ、ツバサさん達と一緒に行ったから」パク

穂乃果「それでね! なんと今日のトレンドにもフェスを差し置いて私の名前が一位に!」フフン

雪穂「それも知ってる」モグモグ

穂乃果「う……お母さん、雪穂の反応が冷たいー」

高坂母「はいはい穂乃果は凄いわよ」

穂乃果「うぅ、こっちも何か違う……」

437:
穂乃果「じーっ……」

ルビィ「えっ、あの……」

雪穂「口に出しながら威圧するのやめなよ」

穂乃果「してないもん!」

ルビィ「わ、私は凄いなって思う前にすごく驚きました……ここで会ったことも、ですけど」

ルビィ「多分会場に行ったみんなもそうなんじゃないかなって」

穂乃果「うーんそっかあ」

ルビィ「でも、きっとそれ以上に穂乃果さんが来てくれて…嬉しかったんだと思います」

ルビィ「だからみんな言わずにはいられなかったんじゃないかなって、穂乃果さんのこと」

438:
ルビィ「あの開会式を見たたくさんの人が……だからトレンドで一位を取ったのもそれが理由だって、私はそう思います」

穂乃果「…………お、おお」

穂乃果「おぉーーーーっ!!」

ガバッ  ギューー

ルビィ「!!!??」

穂乃果「これだよ! 私が欲しかった感想はこれなんだよ!!」

穂乃果「ありがとうルビィちゃん! この中で私の味方をしてくれるのはルビィちゃんだけだよー!」

雪穂「お姉ちゃんそれ以上抱きつくのやめて、多分ルビィちゃん氏んじゃう」

穂乃果「え?」

ルビィ「」

439:


─穂乃果の部屋


穂乃果「いやーさっきはごめんね、いきなり抱きついちゃって」

穂乃果「ルビィちゃんの言葉に感動してつい」エヘヘ

ルビィ「いえ、あの……大丈夫、です」

雪穂「っていうか、何でこっちの部屋なのさ」

穂乃果「折角だし私も混ざりたいなーって! ねえねえいいでしょ雪穂?」

雪穂「まあ、駄目じゃないけど……」チラッ

ルビィ「ほ、穂乃果さんのお部屋……」ワァ……

雪穂(ルビィちゃんは大丈夫なのかな…)

440:
穂乃果「取りあえず何かやりながら話でもする? トランプでもやる?」

ルビィ「はい、得意です」

穂乃果「いいねー! ほらほら雪穂も!」

雪穂「しょうがないなぁ」

穂乃果「よーしゲームスタート!」

441:

ペラッ

穂乃果「ねえ雪穂、ツバサさんは元気だった?」

雪穂「そうだね元気っていうか、いつも余裕がある感じ」スッ

雪穂「全然動じないんだよねあの人、だけど無愛想でもなくて」

穂乃果「へー! 流石ツバサさん」

雪穂「でも時々滅茶苦茶なこと言うんだから! 今日のフェスについてもそうだよ!」

雪穂「みんなをデュオで参加させるなんて一言も……!!」

穂乃果「ツバサさんって意外とサプライズ好きだよねーハロウィンのときもそんな感じだったし」アハハ

雪穂「笑い事じゃないよもう、付き合わされるこっちの身にもなってってば…」ハァ

442:
穂乃果「でも私も一緒にやりたかったなーツバサさんと合宿で教えるの」

雪穂「お姉ちゃんじゃ無理だから私が声かけられたんでしょ」

穂乃果「そ、そんなことないもん! 私だってやれば出来るよ!」

雪穂「お姉ちゃん補佐なんて柄じゃないから、今までだってそういうのやったことないでしょ」

雪穂「いっつも前に出て話したがるお姉ちゃんがそんなの出来るわけないじゃん」

穂乃果「うぅ、それは……」

雪穂「あと、ツバサさんとお姉ちゃんが一緒に……なんてことになったらそれこそ衝撃的すぎて倒れる子が出てくるだろうし」

雪穂「とにかく、私のほうが適任だったの」

穂乃果「あははっ、やだなー雪穂それは流石に大げさすぎるよー! 誰かが来たくらいで倒れるわけないじゃん!」

雪穂「どうだろうね」

ルビィ(私は、倒れちゃうかも……)

443:
穂乃果「ねえルビィちゃんの方はどう? 合宿楽しい?」

ルビィ「はい、楽しいです」

穂乃果「そっかそっか、だよね! みんなで一緒に何かやるって楽しいよね!」ニコ

ルビィ「! はい」クス

穂乃果「私がスクールアイドルやってたときもね! みんなで一緒に合宿行ったり、学校に泊まったり!」

穂乃果「すっごく楽しくてねー!……」スッ

雪穂「きた、はいアガリ。お姉ちゃんまたビリね」

444:
穂乃果「え? あーっ!いつの間に!」

雪穂「よそ見してるから」

穂乃果「もう一回、もう一回だけ!」

雪穂「また? それ何回目?」

ルビィ「今ので5回目ですね」

穂乃果「おー、よく覚えてるんだね」

雪穂「感心してる場合じゃないでしょ見苦しい」

445:
穂乃果「今日の雪穂なんかいつもより冷たくない!?」

雪穂「まあやってもいいけど次からはそろそろペナルティ出す? おやつ食べられちゃったし」

雪穂「ねえルビィちゃん?」

ルビィ「え、あの」

穂乃果「分かったおやつの恨みなんだ! そうなんでしょ!?」

雪穂「日頃から積まれてきた分もあるからね」

穂乃果「鬼! 悪魔!!」

雪穂「それはこっちの台詞だってば!」

「穂乃果ー雪穂ールビィちゃーん、お風呂沸いたわよー!」

446:
穂乃果「おお! 私いちばーん!」ダッ

雪穂「ちょっ! お客さんに配慮しなよそこは!」

穂乃果「じゃあルビィちゃん一緒に入る?」クル

ルビィ「!?だっだだだ大丈夫です!お先にどうぞっ……!!」

穂乃果「ありがとう! じゃあ行ってくるねー!」

バタン

ランラランララーン♪

雪穂「お姉ちゃん、ほんと信っじられない……」

447:
雪穂「普通ルビィちゃんに譲るよね? 本当にごめんね色々」

ルビィ「えっと、大丈夫です……」

ルビィ「…………」ボー

雪穂「実物見てがっかりした?」

ルビィ「ち、違うんです! そういうわけじゃなくてっ…」

ルビィ「その、想像していたのと違ったから」

雪穂「うん分かってる、ごめんね冗談だよ」

雪穂「まあ確かにお姉ちゃんってさ、スクールアイドルとして今まで凄いことをたくさん成し遂げてきたから」

雪穂「ルビィちゃんたちから見ると高くて遠い、それこそ雲の上のような存在に見えるんだろうけど」

雪穂「でも家にいるときはいつもあんな感じなんだよね」

448:
雪穂「だらしないし、ぐうたらだし、勝手に私のおやつ食べるしでどうしようもないっていうか」

雪穂「でも、なんかいないと不安になるんだよね」

雪穂「いつも、お姉ちゃんは私がいないと駄目だってそう思ってるけど」

雪穂「私も、お姉ちゃんがいないと駄目、なんだよね」ポリポリ

ルビィ「雪穂さん…」

雪穂「今言ったことは内緒だからね!」

ルビィ「はい」

449:
ルビィ「でも、雪穂さんの気持ち…私も分かる気がします」

ルビィ「私の知ってるお姉ちゃんって、落ち着いたひとばかりで」

ルビィ「穂乃果さんみたいな人は初めてといいますか…」

雪穂「あーダイヤちゃんも聖良ちゃんもそんな感じするからね」

ルビィ「はい」

ルビィ(あと、梨子さんも)

ルビィ「ただ、一人だけ知り合いのお姉さんで面倒見がよくて明るい美渡さんっていう人がいるんですけど」

ルビィ「穂乃果さんはまたそれとは違っていて……なんて言えばいいんだろう」

ルビィ「そこにいるだけで誰かを元気にしちゃうような明るさがあって」

ルビィ「それに一緒に話しているだけでこっちまで楽しくなってきて…思わずつられて笑っちゃうくらいの暖かさもあって」

ルビィ「だから、まるで太陽みたいな人だなって思いました」

雪穂「それはちょっと褒めすぎな気もするけど……うん、でもまあ」

雪穂「きっとそうなんだろうね」フフッ

450:
雪穂「ねえルビィちゃん、私が今日ルビィちゃんをここに連れてきた理由わかる?」

ルビィ「えっと、穂乃果さんのこと……ですか?」

雪穂「そう。私に聞いたでしょ? お姉ちゃんってどういう存在だって」

雪穂「だから、知って欲しかったんだよね」

雪穂「μ'sとしての高坂穂乃果じゃなくて、私のお姉ちゃんとしての高坂穂乃果を」

ルビィ「……」

雪穂「まあ家庭ごとに色々違いがあるのはそうだし、付き合い方も人それぞれあると思う」

雪穂「ただ、こういう形もあるんだよってことを知って、それがあなた達の助けになるなら…私は嬉しい」

451:
ルビィ「雪穂さん…」

雪穂「ルビィちゃんはさ、自分のお姉ちゃんに何をしてあげたい?」

雪穂「ルビィちゃんや理亞ちゃんが妹として出来ることって、なんだと思う?」

ルビィ「私たちが出来ること……」

雪穂「それがどんな答えでも、ルビィちゃんが一生懸命悩んで出したものなら間違っていないと思うよ……だって」

穂乃果「妹のことが嫌いなお姉ちゃんなんていないもん! だから絶対大丈夫だよ!」

ルビィ「──!」

452:
雪穂「ちょっ……はあ!? なに一番いいところ横取りしてるの! っていうかいつ戻ってきたのさ!」

穂乃果「ついさっきだよ?」

雪穂「ついさっきって!」

穂乃果「でも流れだって分かってても雪穂にフルネームで名前を呼ばれるのはなんかむず痒かったなー」

雪穂「それくらい我慢しなよ! 私だって嫌だったんだから!」

穂乃果「さ、流石にそこまで言うことないじゃん!」

雪穂「元はといえばお姉ちゃんが私の邪魔するから……「あの!!」

穂乃果・雪穂「ん?」

ルビィ「ありがとうございました」ペコ

453:
ルビィ「雪穂さんたちのおかげで、分かったような気がします」

ルビィ(うん、決めた)

雪穂「そっか。よかった」ニコッ

雪穂「今の聞いた? 私が先だったね」ドヤ

穂乃果「ぐぬぬっ……」

ルビィ「も、もちろん穂乃果さんにも感謝してます」

穂乃果「だよねだよね!」

雪穂「そんなことでいちいち気を遣わせるのやめなよ……」

穂乃果「張り合ってる雪穂だけには言われたくないよ!」

雪穂「言ったね!」

穂乃果「言ったよ!」

ルビィ(仲いいなぁ……)

454:
雪穂「大体お姉ちゃんはいつもいつも……」

ピロン

雪穂「ああもう今度はなに……って」スッ

穂乃果「どうしたの?」

雪穂「ツバサさんからだ、えーっと……」ナニナニ

ルビィ「あの、雪穂さん」

雪穂「んー?」

ルビィ「私、一度理亞さんのところに行きたいんですけどいいですか?」

雪穂「いいよ。一緒に行こっか」

455:
ルビィ「え?」

雪穂「今ちょうどその連絡が来たからさ」フフッ

穂乃果「じゃあ私はここで待ってるね、きっと大事なことなんだろうし」

ルビィ「はい、いってきます!」

穂乃果「いってらっしゃい!」

ガチャ

雪穂「あ、お姉ちゃんは私たちが帰ってくる前におやつの買い出しよろしくね、もちろん自腹で」クルッ

穂乃果「……え?」

雪穂「最下位ペナルティだから、じゃあ後でね」バタン



穂乃果「ひ、ひどい! 雪穂のあほーーーー!! 人でなしーーーーーーっ!!!」

456:


一方その頃


夜 ─ 神田明神


ツバサ「ごめんなさいね、こんなに遅くになっちゃって」

理亞「いえ、大丈夫です」

ツバサ「今日はここの込み具合が凄くてね……結局全員分のお参りを済ませるのに数時間もかかっちゃったわ」

ツバサ「初日だから人は来るだろうなと思ってはいたけど、まさかここまでとはね」

理亞「開会式の挨拶は穂乃果さんが担当したんですよね、ネットの配信で見ました」

ツバサ「ええ、相変わらず元気そうで」

理亞「それも原因なんでしょうか」

ツバサ「私はそう思うわ、穂乃果さんには人を惹きつける力があるから」

ツバサ「やっぱり彼女は凄いわね」フッ

理亞(ツバサさん、嬉しそう)

457:
ツバサ「……さてと、こっちの話ばかりするのも何だし、そろそろ本題に移りましょうか」

ツバサ「私に話って?」

理亞「…………」

理亞「黒澤、ルビィのことについてです」

理亞「二日前の件で少し思い返してみたんです、今まで自分が取ってきた行動と」

理亞「彼女が私に対して取った行動を」

ツバサ「それで?」

理亞「…………余りにも身勝手だと思いました、そして」

理亞「彼女があそこでツバサさんに謝るまで、私はそのことに気付きもしませんでした」

理亞「自分が結果を残すことだけ考えてて、自分の都合だけを相手に押し付ける…そのことに何の疑問も抱かなかった」

理亞「それが、恥ずかしくて……!」

458:
ツバサ「……」

理亞「けど! それでも諦められないんです!」

理亞「だからもう、どうすればいいのか…分からなくなってきて」

理亞「何が正しいのか……私には」

ツバサ「成程ね」

ツバサ「ねえ理亞ちゃん、一つ聞きたいんだけど」

ツバサ「ルビィちゃんと一緒に練習するとき、あなたは何を考えてるの?」

459:
理亞「それは、私と彼女が上手く出来ているかって」

ツバサ「そう? 私には」

ツバサ「ルビィちゃんが自分についてこれてるかどうか、って考えていた風に見えていたんだけど」

理亞「!」

ツバサ「別に彼女を見下してるわけではない、というのはちゃんと分かっているわ」

ツバサ「寧ろその逆、あなたはルビィちゃんのことを誰よりも高く評価している」

ツバサ「でもそのせいか、常に彼女に最高の状態を求めてしまっているのよね」

460:
ツバサ「貴女ならもっと出来るはずだ、どうして上手くいかないんだ。もっとやれるはずなのにって」

ツバサ「そんな完璧さをルビィちゃんにねだっているような、そんな感じがしたんだけどね」

理亞「……」

ツバサ「じゃあもう一つ質問」

理亞「?」

ツバサ「理亞ちゃんと聖良ちゃんが二人で練習していたころ、その練習が上手くいかなかったときはあった?」

理亞「はい、あります……数え切れないほどに」

461:
ツバサ「そのときはどうしてた?」

理亞「二人で話し合いました、何が駄目だったのか、お互いにどこを直せばいいのか」

ツバサ「なら聖良ちゃんだけ調子が悪かったときは? 逆に理亞ちゃんだけコンディションが良くなかったときは?」

理亞「!」

ツバサ「それでも私にちゃんとついてきなさいって言ったの? 言われたの?」

理亞「……いいえ、そんな要求はせずにただ相手に合わせていました。私も姉様も」

理亞「二人のバランスが崩れないように」

ツバサ「そう、それなら……」

ツバサ「理亞ちゃんがどうすればいいか、もう言わなくても分かるわね」

理亞「はい。ありがとうございました」

462:
ツバサ「いいのよ、悩みを聞いてあげるのも私の仕事だからね」

ツバサ「でも……」

タッタッタ

ルビィ「はぁっ……着いた…!」

理亞「!」

ツバサ「その行き先を決めるのはあなた達よ」

463:
理亞「どうしてここに……」

ルビィ「理亞さんに、言いたいことがあって…!」

理亞「私に?」


ツバサ(さてどうなるか……)

雪穂「どうもこんばんは」

ツバサ「雪穂ちゃん、悪いわねいきなり呼び出して」

雪穂「いえ、好都合です」

ツバサ「フフッ、そう」

464:
ルビィ「……ふぅーっ」

ルビィ「ごめんなさい!!」

ルビィ「理亞さんのこと何も分かってなくて! なのに色々言っちゃって! 追い詰めて!」

ルビィ「全然気が付かなくて!本当にごめんなさい!!」

理亞「……あの、私も」

ルビィ「じゃあ次! 謝ったので文句を言います!」



理亞「……は!?」

雪穂「んん!?」

ツバサ「!」

465:
ルビィ「理亞さん……ううん理亞ちゃんは自分勝手すぎだよ!」

ルビィ「何かあるたびにすぐああしろこうしろって! おまけに口も悪いし!」

ルビィ「取りあえず練習さえしておけば何とかなると思ってるし!!」

ルビィ「それにただ勝てばいいって考えてる!」

ルビィ「理亞ちゃんは単純すぎるんだよ! バカなの!!」

理亞「ばっ……! ちょっと黙って聞いていれば「でも!!」

ルビィ「私はもっとバカで!誰かに教えてもらわないと何も!分からない!」

ルビィ「そんなどうしようもないコンビなの私たちは!」

ルビィ「みんなが思っているよりずっと上手くいってなくて!良くなりそうもなくて!」

ルビィ「このまま最後まで落ちぶれていきそうな!そういう組み合わせなの!」

ルビィ「今でも勝てる気なんてこれっぽっちもしない!!不安しかない!!」

理亞「なっ、何なの! 結局何が言いたいの貴女は!!」

ルビィ「それでも勝ちたい!!理亞ちゃんと一緒に!!」

理亞「!?」

466:
ルビィ「合宿のみんなに! Aqoursのみんなに! 私は!」

ルビィ「この二人で勝ちたいの! ううん勝つだけじゃない!」

ルビィ「誰よりも上に立ちたい! みんなに凄いねって言われたい! 私たちの努力を認めてもらいたい! 証明したい!」

ルビィ「でも……それよりも!」

ルビィ「お姉ちゃんたちに私は、私たちは大丈夫なんだって! ちゃんと成長したんだってところを見てほしい!」

理亞「っ!!」

467:
ルビィ「私たちの自慢の妹なんだって周りに堂々と言えるくらいの晴れ姿を!」

ルビィ「このフェスで!見せてあげたいんだよ!!」

ルビィ「どんなにどうしようもなくても!みっともなくても!!」

ルビィ「それが全部出来るのは私たちしかいないから!!」

ルビィ「だから私はここに来たんだ! そのことを理亞ちゃんに伝えるために!」

ルビィ「もう足は引っ張らない!ちゃんと話も聞く!言われたところも直す!」

ルビィ「理亞ちゃんが背負ってるものも一緒に引き受ける!私が支える!だから───」

ルビィ「私のために!私だけのために!貴女の全てを捧げてください!!」

468:
雪穂「…………」

ツバサ「…………」

ルビィ「…………はぁっ……はぁ…理亞ちゃん」

ルビィ「返事を聞かせて」

理亞「…………」

469:
理亞「…………出来ると思ってるの?」

ルビィ「うん」

理亞「一つだけじゃなくて全部?」

ルビィ「全部じゃないと嫌だ」

理亞「どれだけ欲深いの」

ルビィ「でも取り下げないよ、だって」

ルビィ「理亞ちゃんとなら絶対大丈夫だって、私信じてるから」

理亞「! ……そう。わかった」

理亞「今のであなたの意志の強さは、よく分かった」

理亞「私も覚悟を決める、でもその返事をする前に」

理亞「こっちも言いたいことを言わせてもらうから」

470:
ルビィ「うん」

理亞「苛つくのよ、あなたを見てると」

理亞「人の顔ばかり気にして、いつも日和っていて」

理亞「実力あるくせに自信は皆無に等しいしで、本当に腹が立つ」

理亞「ようやく自分の本音を出してきたかと思えば、あれも欲しいこれも欲しい、だから私のために協力しろと我がまま三昧」


理亞「…そのうえ、私の背負ってるものを引き受けるとか、支えるとか」


理亞「自分のことを……私と対等な存在だと…思ってる……」


理亞「私の前じゃなくて……私の隣にでも、立とうとしているつもりなら……っ」


理亞「自意識過剰にも……程がある……!」ポロポロ

471:
理亞「っ……けど、間違ってない」ゴシゴシ

理亞「合宿のどのスクールアイドルを見渡しても、私についていけるのは」

理亞「ルビィ、あなたしかいない」

理亞「それはずっと前から今でも変わっていないしその考えを変えるつもりもない、だから」

理亞「このフェスが終わるまでは、あなたの我がままに付き合ってあげる」

ルビィ「!」

理亞「獲るわよ、私たちで」

ルビィ「うん!!」

472:
雪穂「……なんか、とんでもないものを見た気がしますね」

ツバサ「そうね、でも上手くいったようで何よりだわ」

ツバサ「まさかこんな形になるとは思いもしなかったけど」

雪穂「はい……正直かなり驚きました、特にルビィちゃん」

ツバサ「ええ、なんていうか変わってるわよね。他とは何もかもが」

ツバサ(相手に合わせてきたルビィちゃんが我を通して、自分だけでどうにかしようとしていた理亞ちゃんがその要求を呑んだ)

ツバサ(最初と全く逆のやり方で納まるとは……この二人)

ルビィ・理亞「」ザッ

473:
ルビィ「帰りましょう雪穂さん」

雪穂「え? ああうん、そうだね」

理亞「ツバサさん、お願いします」

ツバサ「いいけど二人とも、お参りはしていかなくていいの? まだやってないでしょ?」

雪穂「確かに、今なら誰も居ないしすぐに……」

ルビィ・理亞「いりません」

雪穂(! ゲン担ぎはしない……か)クス

ツバサ(本当に面白いコンビね)

474:
現在の人物相関図。

https://i.imgur.com/lFqBuZm.jpg

478:


─8月2日


穂乃果「もう行っちゃうの?」

ルビィ「はい、お世話になりました」

穂乃果「そっかー残念だよ、また遊びに来てね!」

ルビィ「はい」

穂乃果「雪穂もツバサさんによろしくね」

雪穂「うん、行ってきます」

ルビィ「お邪魔しました」

穂乃果「あー! ちょっと待ってもう一個だけ!」バタバタ

雪穂「最後まで落ち着きないなあ…」

479:
穂乃果「あったあった、ルビィちゃんはいこれ! うちのお饅頭!」

穂乃果「みんなで食べて!」

ルビィ「え、いいんですか?」

穂乃果「大丈夫、それ出来たばかりだから」

雪穂「賞味期限のこと言ってるんじゃないんだけど」

穂乃果「腹が減っては何とかかんとかって言うし、これ食べて頑張ってね」

穂乃果「ルビィちゃん、ファイトだよ!」

ルビィ「! はい、ありがとうございました!」

ルビィ「頑張ります!」ニコッ

穂乃果「!」

480:

タタタッ

穂乃果「……」

雪穂「どうしたのお姉ちゃん?」

穂乃果「ルビィちゃんって家に来てからずっとそわそわしてたりオロオロしていたから気付かなかったけど」

雪穂(それ半分はお姉ちゃんのせいだけどね)

穂乃果「笑ったらすっごく可愛いんだね」

雪穂「…そうだね」

「雪穂さーん!」

雪穂「ごめん今行く!」

雪穂「じゃあ楽しみにしててよお姉ちゃん、次にそれを見られるのは表彰式かもしれないから」タッ

穂乃果「おぉー……ビッグだねー!」

481:


─その頃


曜「善子ちゃん今日もお疲れさまー!」

善子「貴女もね、曜」

曜「いやー昨日に引き続き結構上手くいったんじゃないかな? ライブ」

曜「今私たち1位だし、順調な滑り出しだよね」

善子「油断は出来ないけどね、まだ始まったばかりだし」

曜「まあね」

482:
曜「でもビックリしたよねデュオの件は」

善子「ルビィのこと?」

曜「違う違う、それもあるけど私たちのこともそうだよ」

曜「こんな形で善子ちゃんと組むなんて思わなかったから」

善子「私も、正直そんなつもりはなかったわ」

曜「えっそうなの!?」

善子「元々はね、だって」

善子「こだわる必要なんてないと思ってたから」

483:
善子「どっちでも良かったのよ私は、確かに迷っていた時期もあったわ」

善子「ルビィのために何も出来ていないだとか、置いていかれるとかね」

善子「でもその悩みはこの合宿のおかげで吹っ切ることが出来たし、もう迷うことなんか何もない」

善子「人それぞれ出来ることは違うんだから、私は私のままであればいい……そう思ってた」

善子「そのつもりだったの、あの話を聞くまでは」

曜「……」

善子「けどもし、当時の考えをまた引き摺りだしてきたとして」

善子「誰かの役に立つ…いや、ルビィのためにっていう自分が望んだことを」

善子「叶えられる機会が、チャンスが本当にやってくるのだとしたら」

善子「それは多分、今だ」

善子「……って頭の中に浮かんだらついね、口に出していたっていうか」

484:
曜「そっか」

善子「曜は、これでよかったの?」

曜「もちろん、ねえ善子ちゃん」

曜「もし迷惑かけたとか巻き込んだとか思っているんなら、そんなの気にしなくていいよ」

善子「!」

曜「ただ理由が知りたかっただけ、それに文句があるならそのとき断ってるしね」

曜「最後まで付き合うよ、今の私は善子ちゃんのパートナーだから」

善子「…ありがとう」

485:

…………

……


───フェスライブ、今年の見どころはデュオにあり!?

開幕から2日目となったラブライブ!サマーフェスティバル2020

東京オリンピックとも相まって、参加者と来場者両方を合わせた大勢の方がその熱気にあてられているのは言うまでもない。

しかし大きな盛り上がりを見せつつもやはりと言うべきか、すでにこの序盤の時点で頭角を現している者は存在する。

中でも特に注目するべきはデュオ部門。

津島善子・渡辺曜の組を筆頭に、篠宮あきる・綾小路姫乃組、国木田花丸・桜内梨子組等……

今挙げた以外にも後続に優秀なスクールアイドルが控えており、比較的部門ごとにバランスが取れていた例年と比べても今年のデュオ部門は激戦区であると言えよう。


スッスッ


千歌「……前年のデュオ部門覇者であり、ラブライブ優勝者であるSaint Snow」

千歌「このフェスで彼女たちを超える逸材は現れるのか、今から楽しみであるぅ……?」

486:
千歌「へー楽しみ、楽しみねー。ふむふむ」

美渡「ありがとうございました! おーい千歌こっちの片付け手伝って」

千歌「そうなんだー。ふーん……」

「すみませーん!」

美渡「はーい! ああその前に会計のほう頼むわ」

千歌「そんな、そんな……」

美渡「千歌? 何やって……」

千歌「そんなわけっあるかーーーーーーーーっ!!!」

「「「!!!??」」」ビクゥ!!

487:


─千歌の部屋


千歌「……」ムスッ

果南「で、むしゃくしゃして叫んで周りのみんなをドン引きさせたと」

千歌「ドンまではいってないもん」

果南「引かせたのは事実なんだね」

千歌「だってさー……見てよこれ! 何これ!」バッ

果南「あーフェスライブのネットニュースね、これが?」

千歌「私だけこれに参加出来てないって可笑しくない!!?」

果南「一発かましてやれって仲間の背中を押してあげたリーダーは一体どこに行ったのさ」

488:
千歌「私だってやろうとしたよ! 作ろうとしたよ! けどさあ!!」

千歌「みんな組み合わせ出来てるんだもん! どこに行っても!」

果南「……まあその、なに? 昨日の穂乃果さんの挨拶が決め手だったよね」

果南「あれで様子見しようとしていた他の子たちにも火が付いたっていうかさ」

千歌「くっそー穂乃果さんめー…! 絶対に許せないのだ……!!」

果南「完全にとばっちりじゃん穂乃果さん」

489:
千歌「……分かるよ、あれ見たら参加したくなるのは……けど」

千歌「みんな楽しそうでさあ……なーんで私だけさあー…」

果南「……」フゥー

果南「要するに、自分だけ仲間外れにされたみたいで気に入らないんでしょ」

千歌「ぎくっ……い、言い方変えたらそうなるかなー、あはは」

果南「でも気持ちは分かるよ、折角いい感じに盛り上がってきたのにこれじゃ千歌だけ不完全燃焼だ」

490:
千歌「そう! そうなんだよ! 流石果南ちゃん私の気持ち分かってくれてる!」

千歌「このままじゃスッキリしないんだよ! 私も何か特別なことがしたい!!」

果南「特別なこと、ねえ……」ウーン

千歌「あーその反応! あるんでしょ!」

果南「あるにはあるけど……でもなあ」

千歌「もったいぶってないで教えてよ!」

491:
果南「どうしても?」

千歌「どうしても!!」

果南「……仕方ないなあ、そこまで言うなら」

千歌「やったー! それで何やるの!?」

果南「特訓だよ。千歌、私と二人で秘密特訓をしよう…いや、念のために聖良も呼んだ方がいいかな戻ってくるの明日だし」

千歌「秘密特訓! おぉ! なんかそれっぽくなってきた!!」

果南「そしてその特訓で、私が千歌に」

果南「必殺技を教えてあげる」ニッ

492:


─8月3日

夕方、浦の星女学院


果南「いやー助かったよ、やっぱり体育館のほうが練習しやすいからね」

果南「ありがとう鞠莉」

鞠莉「これくらい全然問題ないわよ、けど時間にだけは気をつけてね」

果南「わかった。聖良もありがとね来てくれて」

聖良「構いませんよ、善子さん達の練習はダイヤさんに一任していますから」

聖良「それに彼女たちならもう私の指導がなくても大丈夫でしょうし」

果南「あははっそうかもね」

493:
鞠莉「じゃあ後よろしくね、チャオー」

千歌「鞠莉ちゃんありがとー!」マタネー!

果南「さてと、それじゃあやりますか特訓」

千歌「よっ! 待ってました必殺技!」

聖良「ライブに必殺技……ですか?」

果南「あくまで例えだよ例え」

千歌「で!? 何教えてくれるの!?」

果南「ずばり、ロンダート!」

494:
聖良「ああ成程、ロンダートですか」

千歌「ロンダート? 聞いたことないけど」

果南「正確にはロンダートとプラスそれに繋げる技っていうか……まあ」

果南「口で説明するより実際にやってみたほうが早いかもね、見てて」

キュッキュッ

果南「いくよ……ロンダート、からの」タタンッ トンッ

果南「バク転と タンッ バク宙!」ヒュンッ  シュタンッ!

千歌・聖良「!」

果南「って感じ。どう?」

495:
聖良「…………か」

千歌「カッコイイーーーー!! 凄いよ果南ちゃん!!」

果南「でしょ? これなら結構インパクトも残せるしいいと思うんだよね」

千歌「思う思う!!」

果南「あれ聖良は? 何か言おうとしてたみたいだけど」

聖良「……動きが綺麗でしたね、それでいて躍動感もある。完璧な技の流れです」

果南「いやーそう言ってもらえると練習した甲斐があったってものだね」

496:
果南「で。千歌にはこのアクロバット技、ロンダートからのバク転を習得してもらうよ」

千歌「あれ、バク宙はやらないの?」

果南「まずはこの二つを完璧にこなせないとね、ダンスの最中に入れるんだから中途半端な出来だと逆に悪い意味で浮いちゃうから」

千歌「うーん確かに、上手く踊れているのに途中でいきなりかっこ悪いの見せられてもね、テンションが下がっちゃうっていうか」

果南「そういうこと、流れを切らずに盛り上げるためにもちゃんとしたものにしないとね」

果南「それじゃあ早速練習に入ろうか」

497:
果南「まずロンダートだけど千歌、最初にこれを見てどう思った?」

千歌「えーっと、側転に似てるなーって……というか正直パッと見じゃあまり違いが分からないといいますか……」アハハ…

聖良「それなら一回どちらもやってその違いを見てもらいましょうか、ロンダートとバク転なら私も出来ますし」

千歌「おー! 聖良さんお願いします!」

聖良「よく見ていてくださいね、まずは側転から」ト トン

千歌「ふむふむ…」

聖良「次にロンダート」タンッ

千歌「……綺麗」

果南「うん…」

聖良「フフッ、ありがとうございます」

果南(流石に上手いね……体の柔軟さに加えて姿勢がいいから流れや動きの違いが分かりやすい、まさにお手本って感じ)

498:
聖良「千歌さん、今のを見て何か気付いたことはありましたか?」

千歌「……体の向きと、足? 側転のときは終わったあとも動きそのまま横に向いてたけど」

千歌「ロンダートは足が着くまでに体の向きが変わって、終わったときには体が最初に進んだ方向と逆の向きになってました」

千歌「それと足、側転は片足ずつ着いてたけどロンダートは両足同時に着いてた!と思います!」

聖良「そう、それが側転とは大きく異なる点です」

聖良「体は逆向き、足は揃えてピッタリと。この二つが特に重要ですね」

499:
果南「というわけでまずはそこを意識した練習から、いっぺんにやらずに一つずつ詰めてくよ」

聖良「やり方は側転から少しずつ変えていく感じで、その方が感覚も掴みやすいと思います」

果南「だね、よし! まずは体の向きからいくよ!」

千歌「押忍師匠! よろしくお願いします!!」

聖良(師匠……)チラッ

果南(形から入っていくタイプだからなあ。千歌は)ポリポリ

500:


一方

205号室


ルビィ「ただいま」

さゆり「おかえり、また練習やってたの? よく続けられるよねー」

あきる「ええ、未だに合宿優先で動いているペアなんてあなた達くらいよ」

ルビィ「ギリギリまでいい形にしたいって二人で決めたから」

あきる「成程ね、それで今日は私の番だっけ」

ルビィ「うん、体のバランスのとり方とか綺麗に見せるコツとか」

あきる「昨日はルビィが衣装のことについて色々教えてくれたもんね、私でよければ」

さゆり「うーん、まさに学べるものは学ぶって感じでいいねーこの指導ローテーション」

あきる「明日はさゆりの番なの忘れないでよね、じゃあまずは……」

501:


208号室


姫乃「落ち着いて静かに、流れるように」

理亞・蘭花「……」スッ

姫乃「いち に さん……はい大丈夫です、お疲れさまでした」

蘭花「はぁーっ……これすごい疲れるネ…」

姫乃「あはは…いつも元気に動いている蘭花さんには少し不得手なものかもしれませんね、でも二人とも凄く上手に出来ていましたよ!」

理亞「ありがとう、こういう所作を気にした練習ってやったことないから凄く参考になる」

姫乃「お力になれたようで何よりです」

502:
蘭花「ハイハイ次は私! 私が二人に教えるアル!」

理亞「それはまた明日ね、休むことも大事だから」

姫乃「! そうですね」

蘭花「う~、仕方ないネ……」

姫乃(少し前までは夜遅くまで練習に没頭していたのに…やっぱり理亞さん)

理亞「おやすみ」

姫乃「おやすみなさい(ちょっと変わったなあ…)」

503:

練習、本番、特訓、指導……

フェスライブ開幕を機にそれぞれが別の目標に向け、動き始めた

迷いのない信念を胸に突き進む彼女たちは

一日、また一日と研鑽を積み重ねていき……そして


開幕から一週間の時が過ぎた

504:


─8月8日


「さあ! 皆さんお待ちかねの時間がやってきましたー!」

「中間発表ーーーーーー!!!」

ルビィ・理亞「……?」ハァ

雪穂「あっそっか、今日が発表の日でしたね」

ツバサ「ええ」

ルビィ「中間発表?」

理亞「開催期間の折り返しに入るとやるの、今年は15日間やるから一週間経った今日がちょうどその日だったわけ」

理亞「私も、すっかり忘れてたけど」

ルビィ「そうなんだ」

ツバサ「ほら二人も一旦練習やめてこっち来て、一緒に見ましょう」

505:
「まずはグループ部門! 現在の順位はこちら!!」

ツバサ「ああやって得点の多い順から表示されるの、ちなみにランキング圏内は20位までね」

ルビィ「へえー……」ジー

「続いてトリオ部門!!」

雪穂「見たところ、どちらもトップは20万ポイント台。そこがボーダーラインって感じですね」

ツバサ「ええ、ただ同じ一週間でも去年の最終結果ではSaint Snowの188800ptが最高点だったから」

ツバサ「そう考えるとどこの部門もみんな気合い入ってるわね」

ルビィ「私たちは確か……73700pt」

理亞「20位にぎりぎり届くか届かないかってところね」

雪穂「まあ二人は他の子と違って毎日ここに来てるからねー、その分ライブの時間が削られてるからポイント少なめなのは仕方ないっていうか」

ルビィ「でも、必ず追いついてみせます」

雪穂「クスッ…そっか」

506:
「では最後にデュオ部門!」

理亞「! 来た」

「おぉーっと! これはすごい! やはり今年の最注目部門はデュオで決まりかー!!?」

ツバサ「! ……へえ、これは驚いたわね」

雪穂「え、1位が……256800pt!?」

ルビィ「……! 善子ちゃん、曜さん」

理亞「あれってAqoursの……でも」

理亞「ルビィ、確かに1位も凄いけどそれだけじゃない、見て」

507:


2 花丸・梨子   235900pt

3 あきる・姫乃  228200pt

4 さゆり・瑞希  219700pt

5 るう・蘭花   217600pt



理亞「トップ5に入ってる組全てが他の部門トップの20万台に乗ってる」

理亞(黒髪と茶髪の二人は……164300pt)

理亞(二人とも頑張ってるし優秀な成績ではあるけど、それでも9位……)

ルビィ「20位の時点で、10万ポイント……」

雪穂「これはまた、予想を上回る結果といいますか……」

雪穂「みんな凄いですね、ツバサさん」

ツバサ「そうね、全員素晴らしい活躍ぶりだわ」

508:
理亞「どうする、ルビィ」

ルビィ「……やることは変えない、明日もここで練習する」

理亞「そう、分かった」

ルビィ「練習再開しよっか」

スタスタ

雪穂「この点差でよくブレないなあ、もっと焦ってもおかしくないのに」

ツバサ「でも確実によくなってきてるのよね、それこそ前とは別人かってくらい」

ツバサ「ライブ1回ごとのポイントも7000、9000、14000とどんどん伸びてる」

雪穂「トップの子たちのライブ一回における平均ポイントは確か15000でしたよね」

雪穂「それを考えると実力だけならもうトップに引けを取らないレベルまで来てるんだ……」

ツバサ「そうね、ちなみに現時点での最高点は善子ちゃんたちの18600pt」

ツバサ「まあ彼女たちもまだまだ伸びるんでしょうけど、それはあの子たちも同じ」

ツバサ「きっと明日にはこの最高点に追いつくわよ」

509:
雪穂「成程、分かったような気がします」

雪穂「相手の実力を認め、それでも自分たちなら大丈夫だと思い込めるほどの自信と……パートナーへの絶対的信頼」

雪穂「それがあるからこそのブレなさ、ですか」

ツバサ「ええ、私はそうだと思うわ」

雪穂(最初はあんなにいがみ合ってたのに……)チラッ

ルビィ「今のターンちょっと甘かったよね」

理亞「私もそう思う、あとその次のステップも少し良くなかった」

ルビィ「うん、でもそれ以外は完璧だったから……これでミスは3から2」

理亞「あともう少し、明日までに絶対どうにかするわよ」

雪穂(今はこんなにも意気投合しているなんて……)

雪穂「ツバサさん…なんか私、感動してきました……成長したなぁ二人とも…っ…」ウルッ

ツバサ「あはは、すっかり保護者目線ね雪穂ちゃん」

510:


─8月9日


ツバサ「……うん、いいわ。お疲れさまよく頑張ったわね」

ツバサ「あなた達のライブ、楽しみに待っているわ」

「はい! ありがとうございます!」

雪穂「今日はよく来ますねー、合宿の生徒たち」

ツバサ「そろそろ課題の締め切りだもの、逸る気持ちも分かるわ」

「ツバサさん! 次は私たちのお願いします」

ツバサ「ええいいわよ……それにね雪穂ちゃん」

ツバサ「みんなしっかり考えて作ってきてるから、いろんな個性があって見てる私も楽しいのよね」

ツバサ「はい大丈夫。二人ともお疲れさま」

「ありがとうございました!」

511:
ツバサ「なんというか、教える側の立場でっていうのが私にとっても新鮮なものだから」

ツバサ「そういった喜びもあるかもしれないわ、成長を感じ取れる嬉しさみたいな」

ツバサ「ちょうど昨日の雪穂ちゃんのようなね」

雪穂「恥ずかしいので思い出させないでください」

ツバサ「フフッ、まあとにかく明日でその役目も終わっちゃうから、それが少し寂しくはあるんだけど」

ツバサ「そう思えるだけでも、引き受けて良かったって思うのよね」

雪穂「いいんですか今からそんなこと言って。最終日のスピーチどうするんです?」

ツバサ「大丈夫。それについてはちょっと考えてることがあってね」

ツバサ「一ついいことを思いついたの」

雪穂「今度は一体なんですか……?」

512:
ルビィ「ツバサさん」

理亞「今度は私たちのものを見てもらってもいいですか」

雪穂「あれ、二人も出来てたんだ」

ルビィ「はい、でも私たちのは他の皆のとはちょっと違って」

雪穂「? どういうこと?」

理亞「これです、まだ2人分しか出来ていませんが」

ツバサ「……成程ね、いいんじゃないかしら」

ツバサ「あなた達らしい考えで素敵だと思うわよ」

ルビィ・理亞「あ、ありがとうございます!」

ツバサ「おかげでこっちもやることが決まったしね」

理亞「?」

513:
ツバサ「ねえ、二人は明日も合宿来るわよね」

ルビィ「はい」

雪穂「というか明日は最終日だから全員来ると思いますよ」

ツバサ「そうね、だったら尚更あなた達にとっていい経験になると思うわ」

雪穂「あのツバサさん、いまいち話が呑み込めないんですけど…」

ツバサ「それは次の日になってからのお楽しみ、でも簡単に言えばそうね」

ツバサ「私から皆へのご褒美よ、というわけだから明日の集合場所はここじゃなくてUTXのほうに移るわよ」

ツバサ「そして、そこでいいもの見せてあげる」ニッ

ツバサ「雪穂ちゃんはみんなに連絡よろしく、私は段取り済ませてくるから」

雪穂「わ、分かりました!」タッ

ツバサ「二人も楽しみにしててね」

ルビィ・理亞「は、はい」

ルビィ(いいものってなんだろうね…?)ヒソヒソ

理亞(さあ……)

514:


夕方、沼津


曜「ふぅー! 今日のライブも無事終了!」

梨子「曜ちゃん、善子ちゃんお疲れさま」

花丸「はい、タオルと飲み物ずら」

曜「ありがとー! 梨子ちゃんたちもお疲れさま!」

曜「今日は一緒の会場だったからいつもより気合い入っちゃったよ!」

善子「特に曜は悪いところ見せられないものね」

曜「善子ちゃんっ!」

梨子「? よく分からないけど、私は今日のライブ一番良かったと思うな」

曜「あ、ありがとう」

515:
梨子「他の人もそう思ってるみたいだし、ほら」

善子「ん?」

「あのっ! 善子さんと曜さんですよね!」

「私たちAqoursの! 二人の大ファンなんです!」

「今日のライブもすっごい良かったです! 最高でした!」

善子「そ、そう……ありがとう」

曜「照れてるの?」

善子「そんなことないから」

「最高点も更新したんですよね!?」

「今日出た記録をまた塗り替えるなんて凄いです! 憧れます!」

516:
曜「え、なに?今日の記録って」

「? 知らないんですか? 二人のライブが終わるまでデュオの最高点が更新されていたんですよ」

「これです19600pt ペアは……」

「ルビィちゃんと理亞ちゃん、ちなみにこれで20位圏内入ったみたいですね」

四人「!!」

「あーいいよねーこのコンビ、私密かに推してるんだよね小っちゃくて可愛いし」

「うわー裏切り者だ! じもあい推すって言ってたのに!」

「い、一押しは変わってないし!!」

曜「善子ちゃん」

善子「ええ……」

善子「いよいよ来たわね、ルビィ」

517:
そして…


─8月10日、合宿最終日


205号室

ルビィ「おはようさゆりちゃん、あきるちゃん」

あきる「おはようルビィ」

さゆり「おはよう、遂に来ちゃったね最終日」

さゆり「長かったような短かったような、二人との生活も今日でおしまいかー」

ルビィ「寂しくなるね」

さゆり「ねー」

あきる「私も。楽しかったし」

518:
あきる「ルビィはまだ東京にいるんだっけ?」

ルビィ「うん、フェスが終わるまでは理亞ちゃんと一緒に」

あきる「そう。私もいるつもり」

さゆり「私もーっていうか半分くらいはそうなんじゃないかな」

さゆり「だったらまだここ使わせてくれてもいいのに」

あきる「贅沢言わないの、私たちは特別にここの使用を許してもらってる側なんだから」

さゆり「仕方ない、諦めますか」

ルビィ「じゃあそろそろ行こうか、UTXに」

さゆり「ツバサさん何をしてくれるんだろう」

あきる「楽しみね」

ルビィ「うん!」

519:


208号室


理亞「……よし」

姫乃「準備できましたか?」

理亞「うん、大丈夫」

蘭花「私ももうバッチリアル!」

姫乃「じゃあ行きましょうか」

理亞「……待って」

姫乃「理亞さん?」

520:
理亞「その、色々お世話になった……あと、楽しかった」

理亞「二人ともありがとう」

姫乃「理亞さん……やめてくださいよ、別れづらくなるじゃないですか」

蘭花「心配ないよー! 離れてもまた連絡すればいいアル!」

姫乃「蘭花さん…フフッ、そうですね」

蘭花「理亞もほら! これ食べて寂しさ吹き飛ばすネ! 中華まんアル!」スッ

理亞「だ、誰も寂しいなんて言ってない!!」バッ

理亞「私もう行くから!」

蘭花「待ってなんでそんなに急ぐアルー! 理亞ーー!!」

姫乃「あははっ」

理亞「ふん……」モグモグ

521:
それから…


─UTX

ガヤガヤ…  ザワザワ…

ワイノワイノ


雪穂「うわぁ、ギャラリー凄いですね……」

ツバサ「学校の子たちがわざわざ来てくれたらしいわよ、休みなのに」

ツバサ「さっき先生方から聞いたわ」

雪穂(まあツバサさんが来るって聞いたら、それはそうなるよね)

ツバサ「……うん、全員集まったことだしそろそろ始めましょうか」

522:
ツバサ「はい聞いて! 周りのみんなも静かにしてもらえると助かるわね」

シーン

ツバサ「ありがとう。さてと、みんな長い間お疲れ様でした!」

ツバサ「17日間に渡り行われた合宿生活、いろいろ大変だったと思うけどよく乗り切ったわね」

ツバサ「でもそれは合宿の話、あなた達にはまだフェスという一大イベントが残っている」

ツバサ「まだ落ち着くには少し早いし、かといって最後の日にまで口うるさく気を抜くなとも言いたくない」

ツバサ「だから、私なりのエールをあなた達に贈ることにしたわ」

ルビィ(エール……?)

ツバサ「……」スゥーッ

ツバサ「私、綺羅ツバサはスクールアイドルA-RISEとして!」

ツバサ「今ここで特別ライブを行いたいと思います!」

「!!!!??」

雪穂「嘘ぉ!!?」

ツバサ「折角なんだもの、ラストを飾るならやっぱりここは指導者としてじゃなく───」

ツバサ「スクールアイドルの先輩らしくいかないとね」フッ

523:
「ツバサさんがライブ!!?」

「マジで!!?」

「ウッソー! 私たち超ラッキーじゃん!!」

ザワザワザワッ!!

雪穂「ま、周りのざわつきが凄い……いや分かるけど! 分かるけども!」

ツバサ「あははっ、いい感じに盛り上がってきたわね!」

雪穂(ほんっとうに滅茶苦茶だこの人!! ……なのに!)

雪穂(デュオの件も今のも! 見てみたいって思ってしまうのが……すごい悔しい!!)

524:
ツバサ「でも私1人だけだとちょっと物足りないわよね……A-RISEは3人グループだし」ウーン

ツバサ「ライブをやるならせめてあと2人は、欲しいのよねえー……」チラッ

ルビィ・理亞「……え?」

雪穂「ま、まさか昨日言ってたのって…」

ツバサ「というわけで今回限りの特別ゲストを紹介するわ!」

ツバサ「この合宿で唯一の皆勤賞! 黒澤ルビィちゃんと鹿角理亞ちゃん!!」

ツバサ「この2人に私のライブを手伝ってもらいます!! 皆拍手!」

パチパチパチパチ!!!

オーッ!  ガンバレー!!

ルビィ「え……ええっ!!?」

理亞「……駄目、頭が追いつかない…」

ツバサ「2人ともよろしくね、最高のライブにしましょう♪」ウインク

525:





ツバサ「着替え終わったら声掛けてね」ガチャ

ルビィ「うわぁ……本当にあんじゅさんの衣装だ……」

理亞「何言ってるの、これはあくまでモデルで本人が実際に着てたものじゃないでしょ」フルフル

ルビィ「わ、分かってるけど……理亞ちゃんだって」

理亞「う……とにかく早く着替えないと、ツバサさんが待ってる」

ルビィ「そ、そうだねっ急がなくちゃ」

ゴソゴソ

ルビィ「…………私は」

理亞「?」

526:
ルビィ「小さい頃からアイドルが好きで、スクールアイドルも高校に入るよりずっと前から好きで」

ルビィ「特にμ'sやA-RISEのライブは何度も繰り返して見てたの、それに何度も真似して踊った、あんな風になれたらって」

理亞「……」

ルビィ「だから振り付けだけなら完璧に出来る自信があるんだ」

理亞「私も同じ」

ルビィ「だよね、そして私たちはこれから……そんな憧れた人たちと同じところに立とうとしてる」

ルビィ「少なくとも今、この瞬間だけは……私たちはA-RISEなんだよ」

ルビィ「確かに最初は凄くビックリしたし、まだ心臓が飛び出しちゃいそうなくらい緊張もしてるけど……でも」

ルビィ「すっごくワクワクするよね!!」

理亞「…そうね」フフッ

キュッ

ルビィ「よし、バッチリ! 理亞ちゃんは準備出来た!?」

理亞「当然!」

ルビィ「行こう!」

527:
ツバサ「ん、来たわね」

理亞「お待たせしました!」

ルビィ「よろしくお願いします!」

ツバサ「うん、二人ともいい顔ね。これなら何も心配なさそう」

ツバサ「じゃあ言うことは一つだけ! 楽しんでいきましょう!」

ルビィ・理亞「はい!!」

キャーーーーー!!  ツバササーーーーーーーーン!!!


ツバサ「さあ! 熱狂させるわよ!」

528:


ーーーーーーーー


Dancing,dancing! Non-stop my dancing

Dancing,dancing! Non-stop my dancing 

Dancing,dancing! Non-stop my dancing 

Dancing,dancing! Let me do!

529:
理亞「Party! Shocking Party!! 始める準備はどう?」

ツバサ「さあ来て ここに来て」

ルビィ「Party! Shocking Party!! 世界が回り出す」

理亞「さあ来て ここに来て」


るう「ツバサさん、やっぱり凄いね」

瑞希「いやツバサさんは勿論だけど、あの二人もヤバいでしょ」

さゆり「うっそ!? ぶっつけ本番なのに完コピ!?」

あきる「動きにキレがありつつ寸分の狂いもなし、サラッとやってのけてるけどとんでもないわね」タラ

530:
ツバサ「誰かのためじゃない」

理亞「私とfreedom」

理亞(頭と動きがどんどん冴えていくのが自分でも分かる、のに体だけがどんどん熱くなってくる)

ツバサ「自分次第だから」

ルビィ「Go,go! we are freedom」

ルビィ(なんだろう…もっと先へ、もっと上へって引っ張られているような───そんな)

ツバサ「誰かのせいじゃない」

理亞「心はfreedom」

ツバサ「主役は自分でしょ?」

「わかるでしょ?」

531:
雪穂「……」


「もっと知りたい知りたい 過剰なLife」

「いま夢の夢の中へ」

「もっと知りたい知りたい 過剰なLife」

「だから…Shocking Party!!」


雪穂(私は…当時μ'sを身近で応援してきたから、そのライバルであるA-RISEの凄さは分かっていたし)

雪穂(合宿でもずっとあの人の傍にいて、常に行動を共にしていたから)

雪穂(綺羅ツバサという人がどれほどの存在か、どんな人物なのか、少なからず理解しているつもりだった)

雪穂「はず……なんだけどなぁ」

532:


Dancing,dancing! Non-stop my dancing

Dancing,dancing! Let me do!


ツバサ「ふぅ…ありがとうございました!」バッ

ルビィ・理亞「ありがとうございました!」

「…………」

「……………………お」

オオオオオオォォォォォォ!!! ワアアアアアァァァ!!!


雪穂「こんな人と競いあってたなんて、本当に凄いよ」

雪穂「羨ましいよ、お姉ちゃん」

533:
「すご……鳥肌たった…! ツバサさんの生ライブ!!」

「隣にいるあの二人もスゲーよ!! まんま英玲奈さんとあんじゅさんの動きじゃん!」

「もう駄目、私氏ねる」

「いいぞー! 最高だったーー!!」

「ルビィちゃーん!! 理亞ちゃーん!!」


ツバサ「フフッ、大成功ね」

ツバサ「二人ともどうだった? 私とのライブは」

ルビィ「……」

理亞「ルビィ?」

534:
ルビィ「ツバサさん、ありがとうございました」

ツバサ「何のことかしら?」

ルビィ「歌も、踊りも、いつも以上に上手く出来てるのが分かって」

ルビィ「でもそれはツバサさんが私たちを引っ張ってくれたからだと思うので」

ツバサ「……」

理亞「私もルビィと同じ意見です」

理亞「ツバサさんと一緒にライブをやって、改めてA-RISEの凄さが分かりました」

理亞「周りの人たちの評価も多分、私たち本来の実力で得たものじゃないと思います」

理亞「それでも……凄いゾクゾクしました」

理亞「貴重な体験をありがとうございました、あと」

ルビィ・理亞「最高に楽しかったです!!」ニコッ

ツバサ「そう、私もよ」ニコ

535:
ツバサ「ねえ二人とも、今の感覚忘れちゃ駄目だからね」

ツバサ「次はあなた達が引っ張る番なんだから、そうでしょ?」

ルビィ・理亞「!」

ツバサ「まあ、少しサービスしすぎな気もするけど」

ツバサ「その分いつかのライブで応えてもらうとするわ」

ツバサ「楽しみにしてるから」

理亞「…っ…絶対! 絶対期待に応えてみせます!!」

ルビィ「誰が見ても良かったって言われるくらいのライブを! やってみせます!」

ツバサ「ええ、待ってるわよ」

536:
スタスタ

ツバサ「……流石に贔屓だったかしら?」

雪穂「そんなことないと思いますけど、自分で言ってたじゃないですかご褒美だって」

雪穂「皆勤賞のお祝いにしては大きすぎるって意味なら分からなくもないですけど……飲みます?」

ツバサ「ありがとう頂くわ……そうよね、私も最初はここまでやるつもりはなかった」ゴクゴク

プハッ

ツバサ「でもやっぱり勝てないわね……未来の可能性、その楽しみには」

537:
ルビィ(……期待、してるんだよね色んな人が…私たちに)

理亞「ちょっと、いつまでボーっとしているの」

ルビィ「ごめん、考え事してた」

理亞「そう」

理亞「…言われなくても分かってると思うけど」

理亞「これで本当に合宿は終わり、そして練習ももう必要無い」

理亞「残すはフェスだけ、いい? ここから今日を含む残り6日間で一気に巻き返す」

ルビィ「うん、分かってる」

ルビィ(それなら─)

ルビィ「……」

ルビィ「ねえ理亞ちゃん、その前に一つだけいいかな」

538:
理亞「何?」

ルビィ「宣戦布告する、今ここで」スッ

ルビィ「これ持ってて」

理亞「……スマホ、グループ通話?」

『もしもーし! ルビィちゃん?』

『ルビィ、どうしたの?』

理亞「……成程」

理亞「もしもし」

『あれ、その声理亞ちゃん?』

理亞「久しぶり。ところでいきなりなんだけど」

理亞「ルビィからあなた達に言いたいことがある、そこで聞いてて」

理亞「……」クイッ

ルビィ「ありがとう理亞ちゃん」

539:
ルビィ「……」カツン

ツバサ「じゃあそろそろ締めの挨拶をって……ん?」

雪穂「ルビィちゃん? 何で壇上に」

ザワザワ  ナンダナンダ?

カツンカツン  ピタッ

ルビィ「…………」スゥーッ

ルビィ「全員、聞いてください」


シーン……


雪穂(あれ、なんかルビィちゃん今までと雰囲気が……)

ツバサ(……飲まれた?)

540:


ルビィ「私から皆さんに、一つだけ言いたいことがあります」

ルビィ「今日を含めた残り6日間、その全ての日程が終了するまでに」

ルビィ「私、黒澤ルビィとそのパートナー、鹿角理亞は」

ルビィ「ここにいるスクールアイドル全員を押し退け」

ルビィ「今年のラブライブ!サマーフェスティバル2020デュオ部門で───」



ルビィ「優勝します」


541:
ルビィ「以上です。ありがとうございました」ペコ


理亞「……だって」

『…………ふふっ…あはははははは!!』

『へぇ…面白いじゃない!』

『受けてたーつ!!』


雪穂「……いやー、まさかルビィちゃんの口からあんな言葉が出てくるなんて」

雪穂「意外ですね……ってツバサさん、笑ってません?」

ツバサ「……ごめんなさい、ちょっと不意打ちだったから……ふふ」

542:
イイゾー!!  ヤッタレー!!

さゆり「ノリいいなあUTXの人たち」

あきる「優勝宣言、言ったからには本気でしょうね」

さゆり「全くさー参っちゃうよね」

さゆり「私たちからすればさっきのライブよりこっちの方がよっぽど爆弾だよ」

あきる「……かもね」フッ

543:
ルビィ「……」タッ

理亞「気が済んだ?」

ルビィ「うん」

理亞「あっちから伝言、返り討ちにするって」スッ

ルビィ「そっか」パシ

理亞「これでもう後には引けない、失敗したら大恥」

ルビィ「分かってる、だからね理亞ちゃん」

ルビィ「絶対優勝しようね!」

理亞「当然、恥かかせないでよ」

544:
雪穂(全く、最後まで目立つコンビだったなあ)

雪穂(でも私は、あの二人が一番好きかもね)

雪穂「ツバサさん、最後に激励でも」ドウゾ

ツバサ「そうね」アリガト

カチッ

ツバサ「さあ先程優勝宣言が出たけどあなた達! 怖じ気づいたら駄目よ!」

ツバサ「まだ何も終わっていない! 勝負はここから!」

ツバサ「逃げ切りも大番狂わせも全てはあなた達次第!」

ツバサ「力の限り暴れてきなさい!! 以上!!」

「「「おーーーーーーー!!」」」

雪穂「はは……結構アグレッシブ…」

雪穂「でもこんな時くらいは、いいか」




─── スクールアイドル選抜強化合宿、全日程終了 ───



545:
本日はここまでです

548:


─8月11日


浦の星女学院、体育館


バタンッ


千歌「いっったぁ~……」

果南「こら千歌! またビビったでしょ! 縮こまってたら余計に危なくなるよ!」

果南「腕の振りは大きく遠くに! 蹴りはかかとじゃなくてつま先!! 砂浜ダッシュで練習したときのこと思い出して!」

千歌「押忍!!」

果南「じゃあ次ラスト!」

聖良「千歌さん頑張って!」

千歌「ふぅーっ……いきます!」

バッ  トン クルン  タン!

果南「!」

千歌「わっ……とと、セーーーフ」ホッ

549:
果南「千歌……」

千歌「うーん、着いた後が駄目だなー……ってあれ? なんか出来てる?」

聖良「やりましたね千歌さん! バク転成功していますよ!」

千歌「お、おぉ……やったーーーー!!」

千歌「やったよ果南ちゃん!」ハグッ

果南「うん、頑張ったね千歌」ナデナデ

千歌「聖良さん! 聖良さんも!」

聖良「いえ私はハグはその……」

千歌「じゃあハイタッチ! へーい!」バッ

聖良「へ、へーい!」パンッ!

果南「ごめん、こういう子だから慣れてね」

550:
千歌「よーし、バク転もバッチリだし次はロンダートとの連携だね!」

千歌「特訓から一週間! やっとここまで来れたよー!」

果南「いや、一回成功しただけじゃまだまだだね。もっと数をこなして成功率上げないと」

千歌「じゃあもう一回! もう一回お願い!」

果南「ラストって言ったじゃん、今日はもう終わり」

千歌「あと一回だけでいいから!」

果南「千歌、ストレッチ」

千歌「……はーい」

551:


……


千歌「お疲れさまー、また明日ねー」

果南「はいお疲れ……全く、最後まで不貞腐れてたなー」

聖良「今日はいつになくやる気に満ちていましたね、練習自体もいつもより長いくらいなのに」

果南「本当にね、もう一回どころか何十回もやってるのに…本人は気付いてないんだろうけど」

聖良「凄い集中力でしたからね、気付かないのも仕方ないのかもしれません」

果南「まっ大方昨日のルビィちゃんの発言に感化されたってところかな、負けられないって思ったんだろうね」

聖良「ああ……あれですか」

果南「胆が据わってるよね、ルビィちゃん」

果南「電話越しから歓声聞こえたってことは大勢の前であれ言ったってことでしょ? ルビィちゃん変わったなあ」

聖良「変わったといえば、理亞もですね」

552:
『おー! 言ったねルビィちゃん!』

『優勝上等! 燃えてきたー!』

『望むところよ。理亞、ルビィに伝えておいて』

『返り討ちにしてあげるって』

『分かった、でも私もこれだけは言っておく』

『私と一緒にいるときのルビィは強いし、ルビィと一緒にいるときの私は……最強だ』

『!』

『勝つのは私たちだから、それじゃ』

553:
聖良「あそこまで他人を信頼する理亞は初めてです」

果南「そうなの?」

聖良「はい、仲間に対するそれとはまた違う……そんな感じがしました」

果南「そっか……でも確かに前より刺が抜けた印象あるかも、ちょっと落ち着いたっていうか」

果南「良かったね聖良、上手くいったじゃん合宿の推薦!」ニコ

聖良「ええ、本当に良かった……」

聖良「ルビィさんには感謝してもしきれませんね」フフッ

554:


─千歌の部屋


千歌「う"ぅ~……」

梨子「ほら千歌ちゃん、手動かして」

千歌「いやだーもうやりたくないー……」

千歌「宿題なんて後回しでいいじゃん…」カリカリ

梨子「最終日に追い詰められてもいいのね?」

千歌「やります」

梨子「疲れてるかもしれないけど頑張って、今日の分はあとここだけでいいから」

ガチャ

志満「梨子ちゃんいつもありがとう、お夜食持ってきたからよかったら食べて」

梨子「ありがとうございます志満さん」

555:
千歌「……終わったー!」

梨子「はいお疲れさま」

千歌「さーて宿題も終わったし、確認確認っと」スッ

梨子「あれ、食べなくていいの?」

千歌「あとで!!」

梨子「ふーん、珍しい」

556:
千歌(えーっとこっちが私のバク転で)

千歌(これが果南ちゃんのロンバクかあ……)

梨子「ねえ千歌ちゃん、なに見てるの?」ヒョコ

千歌「これはねー、秘密特訓の動画!」

梨子「秘密特訓って……秘密なのに私に教えていいの?」

千歌「あっ……まだ何の特訓かは言ってないから!!」

梨子「そ、そうだね……うん、そういうことなら見るのやめておこうかな」

千歌「うん見ないで! 見ちゃ駄目!」

557:
千歌「…………」ジッ

千歌(やっぱり全然違うなー…今日出来た私のバク転、自分では結構上手くいったと思ってたけど)

千歌(ビデオでこうして果南ちゃんのと見比べると私のはすっごい恰好悪い、形だけバク転って感じだ)

千歌(足伸び切ってないし落とすの速いし……どうやったらこんな綺麗に出来るんだろ)

千歌(……果南ちゃんの言う通りだね、もっと特訓しないと! こんなんじゃ成功したって駄目ダメだ!!)ウズウズ

梨子(フフッ、特訓ね……千歌ちゃんとっても楽しそう)

梨子「…………」

梨子(昨日のルビィちゃんも千歌ちゃんも、曜ちゃんもみんなそれぞれ頑張ってる)

梨子(……そろそろ、私も──)

558:


─8月12日


ライブ会場





花丸「ココロウキウキ 浮世のドリーム」

花丸「ビーチセカイで 冒険しよう」

梨子・花丸「“ぼーっ”と過ぎちゃもったいない」

梨子・花丸「“ぎゅーっ”と濃い時間が欲しい?」

梨子・花丸「だったら」

鞠莉「Let's go!」

梨子・花丸「だったら」

鞠莉「Let's go!」

梨子・花丸「今年は一度きりさ」

鞠莉「フゥーーーーーーッ!!!」ピーーーーー!!



果南「テンション高いなー鞠莉」

ダイヤ「日頃のストレスの発散でしょうか」

559:
「遊ぼう Splash!」

鞠莉「Splash!」

聖良「でも鞠莉さんの気持ちも分かります」

聖良「軽快なリズムとダンスはこちらも見ていて気持ちがいいですし」

聖良「明るく爽やかな曲調は、晴れ渡った夏の海のイメージをより一層感じられてつい胸が躍ってしまいます」

聖良「それに彼女たちには華がありますからね」

ダイヤ「ええ、確かに」

果南「ん、それってもしかして洒落? ほら“桜”内と“花”丸をかけた」

聖良「違います」

ダイヤ「説明しなくてもいいですから、なに千歌さんみたいなことを言ってるんですか」

560:
果南「そういうダイヤは梨子ちゃんっぽかったけどね」

ダイヤ「……まあ、そう言われてみれば確かに」

果南「近くにいると影響するってやつ? ほらダイヤって梨子ちゃんたちの練習に付きっきりじゃん」

果南「私も最近は千歌とずっとだからさー」アハハ

ダイヤ「それは確かにあるかもしれませんわね、何となく梨子さん達の考えも分かってきましたし」

ダイヤ「特に、マイペースな人に振り回される気持ちは」

果南「あー苦労してそうだもんねー」

ダイヤ「……」

聖良(どの口が言ってるんでしょうか、この人は)

561:
果南「そうだ、影響っていえばさ。今梨子ちゃんが浦の星の生徒会長やってるけど」

ダイヤ「そうですわね、それが何か?」

果南「それってさ、もしかしてダイヤの影響だったりするのかな?」

果南「なんだろう、前任者が誰とかって意外と重要だったりするじゃん。梨子ちゃんそういうの気にしそうだし」

ダイヤ「…………まさか、今の時点ならまだ百歩譲って理解はできますけど」

ダイヤ「梨子さんが就任したのは私たちが卒業してすぐの話でしょう? あり得ませんわ」

聖良「今みたいに落ち着く前の時期ですからね」

562:
果南「ねえ鞠莉、どうなの?」

「飛びこんでみせたあと キミがためらってる」

鞠莉「ならば!」

「容赦なく Summer Summer Summerへ連れてっちゃうから!」

鞠莉「フゥーーーーーーッ!!!」

果南「駄目だ、ライブに夢中で全然こっちの話聞いてない」

ダイヤ「いいことじゃありませんか」

聖良「多分今日一番楽しんでますね、鞠莉さん」

563:


……


花丸「はぁ……」

梨子「お疲れさま花丸ちゃん、飲み物いる?」

花丸「頂くずら、梨子さんはいつも気が回っているね」

梨子「そんなことないと思うけど」

花丸「そうかなあ……あっさっきのライブの点数が出たよ!」

梨子「得点は……20100! 今までの最高点!」

花丸「やったー! 遂にマルたちも2万点台ずら!」

梨子「えっと……ランキングの方は3位、1つ抜かれたわね」

564:
花丸「1位はまだ善子ちゃんたちで、他は……え!?」

梨子「どうしたの?」

花丸「ルビィちゃんたち、もう10位以内に入ってる……ほらここ」

梨子「! ……凄いね」

花丸「うん、マルたちも負けてられないずら!」

花丸「明日も頑張ろう! 梨子さん!」

梨子「明日…………そうだね、そうなんだけど」

花丸「梨子さん?」

梨子(……言わなくちゃ、昨日決めたでしょ)

565:
梨子(みんな頑張ってるのに、私だけまだ迷ってるわけにはいかないのよ)ハァー

梨子「……あのね花丸ちゃん」

梨子「その明日のことで、ちょっと話したいことがあるんだけど……いいかな」

梨子「大事な話なの」

花丸「……どんな?」

梨子「それは──」

566:


─8月13日


黒澤家


チリーン  チリーン


黒澤母「ああ、今日もいい天気ですね」

黒澤父「そうだな、風も心地がいい。外へ出るにはとてもいい日和だ」

黒澤父「ダイヤ、準備は出来たかい?」

ダイヤ「はい、問題ありません」

黒澤父「では行こうか、サファイアのところへ」

567:


ゾロゾロ


ダイヤ「快晴のおかげか、いつもより人が多い気がしますわね」

黒澤母「そうですね、こんな光景を見るのは久しぶりかもしれません」

黒澤父「ん…そういえばダイヤ、花丸さんには今日のお参りのこと言ったのか?」

ダイヤ「いえ、今年は忙しいでしょうし……あまり無理に行かせたくはなかったので」

黒澤父「そうか……いやしかし、あの後ろ姿は」

黒澤母「ええ、花丸さんですよね」

ダイヤ「!? まさか!」タッ

黒澤母「……それに隣にいるのは…」

黒澤父「……ああ」

568:
花丸「…………」

ダイヤ「花丸さん!」

花丸「ダイヤさん、こんにちは」

ダイヤ「どうしてここに!? 貴女にはフェスがあるでしょう!」

ダイヤ「それに貴女がここにいたら梨子さんはどうすれば!」

「私がお願いしたんです」

ダイヤ「!! ……え……?」クル

569:


スタスタ


黒澤母「やっぱり……」

黒澤父「……一年ぶりかな、その節はお世話になったね」

梨子「はい、ご無沙汰しております」

黒澤父「花丸さんも久しぶりだね」

花丸「お久しぶりです。小父様」ペコリ

ダイヤ「どうして……」

梨子「一度サファイアちゃんに挨拶しておきたくて。それと……」

梨子「どうしても貴女に会いたかったんです、ダイヤさん」

570:
ダイヤ「……私に」

梨子「はい、話したいことがあるので」

花丸「……」

ダイヤ「……そうですか。その前に先にこちらの用事を済ませてしまっても?」

梨子「大丈夫です、待ってますから」

梨子「行こう花丸ちゃん」

花丸「うん」

571:
ダイヤ「……ふぅ」スッ

ダイヤ「すみませんお母様お父様、私……」

黒澤母「いいですよ、行ってきなさい」

黒澤父「大事な話なんだろう?」

ダイヤ「ありがとうございます……行ってきますわ」

ダイヤ「また来るわね、サファイア」

スタスタ

黒澤母「……大丈夫でしょうか、ダイヤは」

黒澤父「……心配ないさ、見てみろ」

黒澤母「あなた?」

黒澤父「これはきっと彼女が持ってきたものだろう」

黒澤父「トゲも無く、綺麗に整えられたいい花だ……恨みのある人はこんなもの墓前に持って来やしない、大丈夫だよ」

572:
ダイヤ「お待たせしました」

梨子「もういいんですか?」

ダイヤ「ええ」

梨子「そうですか」

ダイヤ「……話しというのは?」

梨子「ルビィちゃんのことです」

梨子「いい加減、こちらに返してください」

573:
ダイヤ「!! 梨子さん」

花丸「……」

梨子「……なんて、言うつもりはもうありません」

梨子「そんなことを言ったところで、何の意味もないですから」

ダイヤ「……え?」

梨子「ねえダイヤさん」

梨子「少し、私に付き合ってもらえますか」

574:




浦の星女学院、校内


スタスタ


梨子「ここです」

ダイヤ(……理事長室?)

コンコン

「どうぞー」

ガチャ

梨子「こんにちは」

鞠莉「ハロー♪ダイヤも待ってたわよー」

ダイヤ「鞠莉さん、貴女まで」

鞠莉「ちょーっと梨子に頼まれてね」

575:
鞠莉「あ! そうそう二人とも昨日のライブ良かったわよー! とってもシャイニーだったわ!!」

花丸「えへへ、照れるずら」

梨子「ありがとうございます鞠莉さん」

ダイヤ「あの、状況がよく飲み込めないのですが」

ダイヤ「梨子さんはどうして、私をここへ?」

梨子「私とダイヤさん、どっちにも縁がある場所はここくらいかなって」

鞠莉「そうねえ、梨子も生徒会長になってからそろそろ半年。長かったような短かったような」

梨子「ですね」

ダイヤ「……?」

576:
梨子「最初は大変だったし、鞠莉さんの絡みも正直鬱陶しいときがあったけど」

鞠莉「さり気ないカミングアウト!」

梨子「でも、ここで過ごす時間は心地いい。それに生徒会の仕事を通していく中で私は」

梨子「この学校のことをもっと好きになることが出来たから。今ではやって良かったって思ってるんです」

鞠莉「梨子、あなた……」

梨子「例えその引き受けた理由が、どんなものであれ……ね」

花丸「……」

クルッ

梨子「ダイヤさん」

梨子「私は、貴女みたいになりたかったんですよ」

ダイヤ「─!?」

577:
梨子「前に私がダイヤさんに言ったことを覚えていますか、貴女の立場に立って考えることが出来ればよかったのに。って」

ダイヤ「もしかして、それで……?」

梨子「単純でしょうか、でも……それでも私はそうしたかった」

梨子「実際にやってみることで変わることや分かることがあるかもしれないから」

ダイヤ「!!」

まさか梨子ちゃんがダイヤと同じこと言うなんてね

ま、二人は考え方似てるところあるから、おかしくないとは思うけどさ

ダイヤ「……」

梨子「だから自分の目で、直接その景色を確かめてみたかった」

梨子「それが私が生徒会長を引き受けた理由です。鞠莉さん」

鞠莉「……成程ね」

梨子「今まで隠してきてごめんなさい」

578:
鞠莉「ねえ梨子、どうして今になって話そうと思ったの?」

梨子「みんなが頑張ってるのに私だけいつまでも後ろを向いているのが嫌だった」

梨子「私も千歌ちゃんや曜ちゃんみたいに前を向いていきたいと思った。っていう理由もありますけど」

梨子「一番は、やっぱりルビィちゃんです」

花丸「ルビィちゃんが?」

梨子「最近になって改めて気付かされたの。ああ、この子はやっぱりダイヤさんの妹なんだって」

ダイヤ「!」

梨子「今日のルビィちゃんのライブ見たら、それが何となく分かったんだ」

579:
梨子「花丸ちゃんも、そう思わなかった?」

花丸「……うん」

梨子「ダイヤさん」

梨子「ルビィちゃんの中にはいつだって、貴女がいるんですよ」

梨子「たとえ本当の血が繋がっているのが私だとしても、貴女を故郷から追い出しても、貴女と同じ役職に就いても、それは変わらない」

梨子「そこまで来たら、もう何も言えないじゃないですか」

梨子「それに……悔しいですけど」

梨子「果南さんやダイヤさんが戻ってきた今のAqoursでの活動は、やっぱり楽しい」

580:
梨子「みんなで一緒に練習して、失敗して、乗り越えて、喜んで」

梨子「たったそれだけのことがこんなにも大切で、そこには当然、あなた達もいる」

梨子「だから夏が終わらないでって思ったこともある。終わってしまえばあなた達はまた向こうへ行ってしまうから」

梨子「そう考えただけで、寂しくなってしまうくらいに……私は」

梨子「貴女のことが好きになってしまった」

ダイヤ「!」

梨子「あの時は、一緒にいるだけで辛かった。なのに、今は離れたくないって思ってる」

梨子「身勝手なことを言ってるんでしょうけど……でも仕方ないですよね」

梨子「私にとって大切な人はルビィちゃんだけじゃない、ここにいるみんなが……私にとってかけがえのない大好きな人」

梨子「もうそんなところまで来てしまいましたから」フッ

581:
花丸・鞠莉「……」

梨子「今日はそのことを伝えたかったんです、たとえフェスに支障が出ることになってしまっても」

梨子「花丸ちゃんには、悪いことしちゃったけどね」

花丸「ううん、いいよ」

花丸「マルもアオちゃんに会うことが出来たから」

ダイヤ「梨子さんっ……花丸さん……」

582:
梨子「きっと私たちは急速に追い上げてきているルビィちゃんたちに、この一日の差で抜かされることになると思います」

梨子「だからせめて、一緒に見届けてもらえませんか」

梨子「同じ姉として」

スッ

ダイヤ「……はい……っ……」ギュッ

ダイヤ「喜んで……!」ポロポロ

583:
花丸「ふふっ、それにマルたちが抜かれたとしても大丈夫だよ」

梨子「そうだね、だって」

梨子・花丸「私(マル)たちにはまだ曜(善子)ちゃんがいるから!!」

ダイヤ「……ええ」

鞠莉(あれから一年……ようやく元の鞘に……いや、これはそれ以上に強いものね)

鞠莉(でも解決に導いてくれたのが時間だけじゃないということは……私が一番よく知っている)

鞠莉(この子たちの陰で絶やすことなく行ってきた努力を、私は知っている……それがただ日の目を見ただけなんだ)

鞠莉(半年もの時間をかけて、やっと……)



鞠莉「……ああ、今日は本当に天気がいいわね」

鞠莉「夕日が眩しすぎて、外がぼやけて見えるもの」

584:


─8月14日


沼津、ライブ会場





曜・善子「一緒の夏は ここで過ごそうよ」

曜・善子「お休み気分で 寄せて返す波の声」

曜・善子「一緒に聴きたいな のんびりするのもいいでしょ?」

曜・善子「たまには息抜きしなくちゃ」

曜・善子「砂をサクサク 踏みながらお喋りしようよ」

曜・善子「ほらっ 地元自慢のサマーライフ」

585:
曜・善子「ありがとうございました!!」


キャーーーーー!! ヨウチャーーン!!

ヨシコチャーーン!!  キャーキャー!!


鞠莉「ワーオ、すごい歓声」

果南「あの二人は固定ファン多いからなあー」

聖良「それをここまで維持できるのも凄いですけどね」

586:
曜「ふう、今日の分はこれで最後かー」

善子「残すは明日のみね」

果南「二人ともおつかれ」

曜「あっ果南ちゃん!」

果南「どうだった? ライブの感触は」

曜「いい感じ! ね、善子ちゃん!」

善子「そうね、それに得点だってほら」

曜「……おおー! 23000pt! 今大会の最高記録更新!!」

鞠莉「流石、トップの座を譲らないだけあるわね」

587:
果南「そういえば去年の最高記録を出したスクールアイドルはSaint Snowだったよね、聖良は何点出したの?」

聖良「私たちは24100ptです」

曜「くぅー惜しい! 届かないかー!」

善子(去年と今年じゃ条件も色々違うのに、それでもまだ届かない、流石の貫禄ね)

曜「でもまだ明日のライブがあるし、まだチャンスはあるよね!」

鞠莉「あ、そのことなんだけど二人とも」

曜・善子「?」

鞠莉「最終日は東京の方に行くわよ」ピラッ

鞠莉「運営さんから特別会場へのご招待がかかっているわ」

588:
果南「へえ、そんなのあるんだ」

聖良「はい、全部門のランキング10位までの上位勢は全員、最終日にその会場でライブを披露するんです」

聖良「そこでポイントの集計と最終結果の発表を行うんですよ」

善子「東京……ルビィ」

曜「ワクワクしてきたね、地元愛VS姉妹愛」

曜「決戦のときって感じ!」

果南「なにそれ?」

曜「今付けた! そういうのあったほうが盛り上がる気がするし!」

善子「いいんじゃない? 悪くないと思うわよ私は」フフッ

曜「だよね!」

聖良(……決戦のとき、ね)

聖良(明日、理亞はどんなライブを私に見せてくれるのかしら───)

589:


その頃、東京


ルビィ・理亞「ありがとうございました!」

ワーーーーーー!!

「集計終わりました!」

「黒澤ルビィ・鹿角理亞組の得点はーーー!」

バンッ

「23000pt!!」

ルビィ・理亞「!」

ウオオオォォォォ!!!

「すっげーーーーー!!」

「じもあい組が出した最高記録に並んだーーーーーー!!!」

雪穂「でも、それだけじゃない……今ので2人の合計数は439800pt……つまり!」

590:
「これは……なんとぉ!!?」

「「「トップ……3ーーーーーーーーー!!!」」」

雪穂「ツバサさん!」

ツバサ「ええ、ついにここまで来たわね」

「まさに急追! ダークホース!!」

「一体誰がこんな展開を予想したでしょうか!!」

「このまま決めてしまうのか大番狂わせ! それとも上位勢が意地の追い越しを見せるのか!!」

「果たして勝負の行方は!? 全ては最終日! 明日のライブに託された!!」

「衝撃の瞬間を! 見逃すなーーーーーーっっ!!!」


ウオオオオオーーーーーーー!!


雪穂「ゾクゾクしてきた……っ! いよいよ明日、全部が決まるんだ……!」

ツバサ「盛り上げ上手ね、あの進行役の人」ウズ

591:


……その夜


サァーッ サァーッ


ルビィ「……」

ポン

ルビィ「! 理亞ちゃん」

理亞「いつまで外にいるの、風邪でも引いたらどうするつもり?」

ルビィ「えへへっごめん。ちょっとね、色々考えちゃって」

ルビィ「ここに来てからのこと」

592:
理亞「……」

ルビィ「明日で最後だから、お姉ちゃんたちもみんな来るって言ってたし」

理亞「……そうね」

理亞「緊張してるの?」

ルビィ「ううん」

理亞「あっそ」

593:


「…………」



ルビィ「本当に、色々あったねぇ」

ルビィ「最初は理亞ちゃんとも喧嘩ばっかりで」

理亞「息は全然合わないし」

ルビィ「考えもバラバラで」

理亞「何一つ上手くいかなくて」

ルビィ「それでも何とかここまでやって来て」

理亞「明日で私たちの全てが決まる」

ルビィ「それが終わればこのコンビも解散」

理亞「清々するわね」

ルビィ「私も」

ルビィ・理亞「……」クス

理亞「明日、勝つわよ」スッ

ルビィ「うん」コツン


595:
そして……


─8月15日

ラブライブ!サマーフェスティバル2020 ~最終日~


ワイワイガヤガヤ! ザワザワザワッ!!


千歌「うわー! おっきいねー!!」

千歌「こんなところでやるんだー!」

果南「ていうか、今日は上位勢しかライブやらないんだね」

鞠莉「開始2週間が全員参加で、残りの1日は盛り上げたスクールアイドル達へのご褒美って感じかしらね?」

鞠莉「ボーナスステージ、いやエクストラステージみたいな」

聖良「はい、そんなところです」

果南「はあ、成程」

596:
千歌「確かデュオ部門って最後だったよね?」

聖良「はい、いつもは一番初めに行うんですけど」

聖良「今年は観客の期待もあるのでトリに回されたみたいですね」

千歌「へえー!!」

果南「相当話題になってたもんね」

597:
「ねえねえ! デュオ部門誰が優勝すると思う!?」

「私あきるちゃんと姫乃ちゃん組!」

「いやーやっぱりじもあい組っしょ!!」

「私はルビィちゃんと理亞ちゃん!」

「私もりあルビ派!! 今勢い凄いもん!!」

「分かる! ここまで来たら優勝決めてほしいよなー!!」



千歌「おー……注目されてるねールビィちゃん」

598:
ダイヤ「優勝争いの場に影も形もなかった人物が突然現れたようなものですからね」

果南「あれだね、賭け事でいうところの大穴枠」

ダイヤ「確かにエンターテインメント性ならこれに勝るものはないでしょう、その証拠に」

ダイヤ「デュオ部門のライブ発表、その最後の一組はルビィと理亞さんになっていますし」

千歌「え!? 本当だ! っていうことはトリの中のトリ!?」

果南「トリトリだね」

鞠莉「何言ってるの果南」


ザワザワザワッ!!


果南「……? なんだろ」

聖良「───!!?」

千歌「あーーーーー!! あれってまさか!!」

599:
「本日はよろしくお願いします」

ツバサ「はい、こちらこそ」

穂乃果「よろしくお願いしまーす!!」

「ツバサさんと穂乃果ちゃん! 本物だーっ!!」

ドタドタドタドタ!

警備員「はい押さない! 押さないでください!」

穂乃果「みんなー! こんにちはー!!」ブンブン

キャーーーーー!!

穂乃果「今日のライブ! 楽しんでいってねー!」

雪穂「ちょっとお姉ちゃん! 余計に目立つようなことしちゃ駄目でしょ!!」タッ

穂乃果「あれ? 雪穂こっち来てたんだ」

600:
雪穂「まあ挨拶にね、ツバサさんおはようございます。無事お姉ちゃんを間に合わせました」

ツバサ「おはよう雪穂ちゃん、朝早くからご苦労様」

雪穂「いえいえ」

穂乃果「な、何それ! そんな言い方ある!? ツバサさんも!」

ツバサ「フフッ、ごめんなさい」

雪穂「他にどんな言い方があるのさ」

穂乃果「もっとこう、うちの姉をよろしくお願いしますとか!!」

雪穂「自分から不甲斐なさをアピールしてどうするの」

穂乃果「あ」

雪穂「はあ……まあいいや、とりあえず用はそれだけだから私もう行くね」

601:
穂乃果「一緒に来ないの?」

雪穂「私は一般席! 昨日言ったじゃん!」

穂乃果「あーそうだったね!」

雪穂「しっかりしてよね本当に!」

雪穂「じゃあツバサさん、うちの姉をよろしくお願いします」

ツバサ「クスッ……任せて」

スタスタ

穂乃果「ちょっ……本当に言うことないじゃん!! 雪穂のばかーーー!!」

ツバサ「あははっ、さあ穂乃果さん私たちも行きましょう」

602:
千歌「な、生穂乃果さん……」

果南「いやーまさか、ここで拝めることになるとは……」

ダイヤ「ツバサさんもとても綺麗な方ですわね、あれで素ですか」

鞠莉「全くこうして見ると本当に指導してもらったルビィたちが羨ましくなるわね~、ねえ聖良」

聖良「…………」

千歌「聖良さん? おーーい」

果南「生で見るの初めてだったんだろうね、石みたいに固まってる」

603:





善子「なんか外騒がしいわね」

曜「今千歌ちゃんから連絡あったけど、穂乃果さんたちが来てたんだって」

善子「あー成程ね……っていうか、もうそんな時間なの」

曜「開始まであと30分、まあデュオ部門は最後だから私たちの出番はまだまだ先だけどね」

曜「だからそれまでは一時休戦って感じでお喋りしたかったんだけどなー」

ルビィ・理亞「……」

曜「油断したら噛みつかれそうだ」

善子「静けさの中の闘志、ね」

604:
「ルビィちゃん」

ルビィ「!」

花丸「久しぶりだね」

ルビィ「花丸ちゃん、梨子さんも。どうしたの?」

梨子「ちょっと応援にね」

花丸「今の時点で優勝できる可能性があるのは多分5位の組まで、マルたちはもう間に合わないと思うから」

花丸「あっ勿論ライブはちゃんとやるよ! 敵になるのはやめようってだけで!」

ルビィ「そっか」

605:
梨子「さっき曜ちゃんと善子ちゃんのところにも行ってきたんだ、頑張ってねって」

梨子「だから今度はこっちに来たの、私たちはどっちも応援したいから」

花丸「ルビィちゃん、頑張ってね!」

ルビィ「うん、ありがとう!」

理亞「……」

「理亞ちゃん」

理亞「! こっちも会うのは久しぶりかもね」

茶髪「そうだね」

理亞「あなたたちも応援?」

黒髪「だって理亞ちゃん前から言ってたでしょ? フェスライブでトップを取るって」

606:
黒髪「まさかその相手がルビィちゃんだとは思わなかったけど」

茶髪「ねー」

理亞「私も」フッ

黒髪・茶髪「…………」クスッ

理亞「なに?」

黒髪「ううん、心配するだけ無駄だなって」

茶髪「優勝、期待してるね」

理亞「……ありがと」

理亞「私も二人に期待してるから、今日のライブで今よりも高い順位にいくこと」

黒髪・茶髪「!!」

理亞「このまま9位止まりは許さない」

黒髪「……了解!」

茶髪「任されました!」

607:
ワーーーーーー!!


善子「……始まったわね」

曜「うん」

ルビィ「…………理亞ちゃん」

理亞「そわそわしないで、他のグループのライブ見てればいいでしょ」

ルビィ「だからだよ、だって……みんな凄いんだもん」

理亞「…………はあ、馬鹿みたい」

ルビィ「……」ジッ

理亞「本当、スクールアイドル馬鹿」

608:
そして……


「さあ! 休憩も終わり、いよいよラスト!!」

「デュオ部門の開幕だー!!」

穂乃果「おぉー! ついに来たねー!」

穂乃果「グループもトリオも両方すっごく良かったけど、これはどうなるかな!!?」

ツバサ「グループでの多人数だからこそ映えるステージ目一杯に広がる賑やかさも」

ツバサ「トリオのまさに三者三葉、それぞれの組み合わせによってはっきりと違う形が現れるパフォーマンスの面白さも」

ツバサ「どちらも素晴らしく、魅力的なものだったものね」

穂乃果「うんうん!」

ツバサ「でも、たった二人……個性と個性がぶつかり合い、混ざりあって」

ツバサ「そこに余分なものが入る余地もない、二人で一つのデュオっていうのは───」

ツバサ「想像以上に見ていて気持ちがいいわよ」フフッ

609:
千歌「おっ! 最初は梨子ちゃんと花丸ちゃんかー!」

果南「花丸ちゃーん! 頑張ってー!」

ダイヤ「梨子さん! 応援していますわよー!」

果南「! ……なんだ、吹っ切れてたんなら言ってよ」

鞠莉「まあまあいいじゃない!」

果南「全く……梨子ちゃんリラックス-!」

610:
「続きまして、津島善子・渡辺曜組!」


キャーーーーー!!


千歌「おーー!! やっと曜ちゃんたちの出番だ! よーーうちゃーーん!!」

果南「そういえば千歌は曜たちのライブ見るの初めてだったっけ」

聖良「練習に明け暮れる毎日でしたからね」

果南「そうだね、おかげで最後までフェスには参加出来なかった……でも」

千歌「いいぞー! 善子ちゃーん!!」

果南「身を潜めているのも今のうちだけさ」ニヤ

鞠莉「わっるい顔するわねー果南も」

611:


───♪  ……♪


「「ありがとうございました!」」

パチパチパチパチ!!!

雪穂「……」パチパチパチ

雪穂「……今ので9組目のライブ終了、あとは」

雪穂「あの二人だけ」

ルビィ・理亞「」

雪穂「……頑張れ」

612:
「さあ! これで残すはあと一組!」

「黒澤ルビィ・鹿角理亞組だーーー!!」

キターーー!!  マッテマシタ!

「そして! 現在の順位はこちら!!」


1 善子・曜   488900pt

2 あきる・姫乃 467400pt

3 さゆり・瑞希 452200pt

4 るう・蘭花  448600pt

5 ルビィ・理亞 439800pt



穂乃果「うわーここ点数高いねー! 他の部門と5万くらい離れてるよ!」

ツバサ「ええ、そこも確かに凄いけどこれは……」

613:
鞠莉「現在1位の善子たちとの差が49100pt……つまり」

果南「優勝するには49200pt取らなくちゃいけないわけで、1組がステージでライブを披露できるのは2曲までだから」

千歌「えーっと……それって」

ダイヤ「去年Saint Snowの二人が出した、現時点での大会最高記録24100pt……その記録を塗り替えなければいけない」

鞠莉「しかも2曲どちらも……ハードル高いなんてものじゃないわよこれ」

聖良「……理亞」

「では登場していただきましょう! まずは1曲目!」

「黒澤ルビィと鹿角理亞で……SELF CONTROL!!」

聖良「───!?」

千歌「……うそ」

614:





ルビィ「最高だと言われたいよ  真剣だよ」

ルビィ・理亞≪We gotta go!≫

黒髪「嘘でしょ……あの理亞ちゃんが」

ルビィ・理亞≪敵は誰?  敵は弱い自分の影さ≫

茶髪「ルビィちゃんと一緒に! それを歌うの!?」

ルビィ・理亞≪いま立ってる場所≫

ルビィ・理亞≪SELF CONTROL!!≫

615:
ルビィ「最高!」

理亞「One more chance time!」

ルビィ「言われたいみんなにね」

理亞「最高だと言われたいよ」

理亞「Dance now! Dance now!」

ルビィ「最高!」

理亞「One more chance time!」

ルビィ「言わせるって決めたんだよ」

理亞「真剣だよ遊びじゃない」

理亞「Dance now! Dance now!」

616:
ルビィ「遠くの光へもっとBaby!」

理亞「一緒に跳びたいもっとBaby!」

ルビィ「ふるえる指先知ってても」

ルビィ・理亞≪見 な い で≫


ルビィ・理亞≪大切なのは  SELF CONTROL!!≫

617:
「…………な、おぁ……」

ウオオオォォォォ!!!

果南「……すご」

聖良(……全部が全部同じというわけじゃない、細かいところだけどルビィさんがやりやすいようにアレンジしている)

聖良(それでも、ここまで合わせられるっていうの?)

千歌「いける……これ、もしかしたらいけるかもしれないよ!!」

千歌「次! 次は!?」

618:
「えー、ただいま着替え中ですので少々お待ちください」


ルビィ「……ふぅ、上手くいったね」

理亞「当然でしょ」

ルビィ「えへへっそうだね」

ルビィ「……次が本当に最後の最後かぁ」

理亞「そうね、私たちコンビの……ラスト1曲」

理亞「だから……その前に一つだけあなたに言っておくことがある」

理亞「ルビィ」

ルビィ「なに?」

理亞「─────」

ルビィ「! うん……もちろんだよ!!」ニコ

619:
「さあ! 準備も終わったようなので2曲目いきましょう!!」

「最後の曲は……真夏は誰のモノ? です!!」

ダイヤ「───!!」

鞠莉「えっ……?」

「よろしくお願いします!!」

620:





ルビィ・理亞≪赤い太陽のドレスで踊る≫

ルビィ・理亞≪私のことを見つめているの?≫

理亞「目をそらしたい」

ルビィ「でもそらせない」

ルビィ・理亞≪Ah 情熱で灼かれたい≫



穂乃果・ツバサ「!」

621:


ルビィ「赤い」


ルビィ・理亞≪太陽のドレスで踊る≫

ルビィ・理亞≪私のこと見つめる瞳≫

ルビィ・理亞≪目をそらしたい でもそらせない≫

ルビィ・理亞≪真夏は誰のモノ?≫

622:
ルビィ・理亞≪私とあなたのモノにしたい≫

ルビィ・理亞≪だってね こころが止まれない季節に≫

ルビィ・理亞≪初めて胸のトビラが開いてしまいそうよ≫

ルビィ・理亞≪You knock knock my heart!!≫

623:
「…………」

ルビィ・理亞「……」スゥーッ

ルビィ・理亞「ありがとうございました!!」


ワアアアアアァァァ!!!


梨子「あれって……ダイヤさんとの」

曜「……綺麗」

善子(ルビィもダイヤとの曲を……)

善子「ああ、そっか……そういうことだったんだ」

花丸「うん、凄いね。理亞ちゃんもルビィちゃんも……」

624:
「ただいま集計しております! もうしばらくお待ちください!!」

穂乃果「……ツバサさん」

ツバサ「穂乃果さんも気付いた?」

穂乃果「うん」

穂乃果「あの二人……笑ってた」

穂乃果「ここにいる誰よりも、楽しそうだった」

625:
ツバサ「……11日から今日までの5日間に渡って、怒涛の勢いで上り詰めてきた話題沸騰のダークホース」

ツバサ「でもそのせいか、私を含め全員が彼女たち中心で物事を考えてしまっていた……本当に優勝するのか、そうでないのか」

ツバサ「それが一番盛り上がるし、もうすでに無視できない存在になっていたから」

ツバサ「けど……このフェスは本来そういう意味で開かれたものじゃない」

ツバサ「このイベントで大切なのは、勝ち負けよりも」

穂乃果「誰かを楽しませること、そして……自分たちが楽しむこと」

626:
ツバサ「誰よりも優勝に拘っていた……そう見えたはずだったのに」

ツバサ「最後の最後で、見事に予想を裏切られたわ」

ツバサ「全く、あの二人は本当に……」

ルビィ「理亞ちゃん理亞ちゃん!」バッ

理亞「……仕方ないからやってあげる」スッ

その前に一つだけあなたに言っておくことがある

ルビィ

楽しんでいこう

ルビィ・理亞「」パァンッ!!


ツバサ「本当に……優秀な生徒ね!!」

627:
「集計終わりました! 発表いたします!!」

「黒澤ルビィ・鹿角理亞組の得点は───!!」


雪穂「…………」


雪穂ちゃん、私は彼女たち二人だけの特別講師じゃないの

そう、ですね……確かに少し特別視していたかもしれません


雪穂(……そう、分かってる。私は合宿の生徒を指導する側で、それは二人だけじゃないんだって)

雪穂(分かってる……けど)

628:


だから! 手を大きく出し過ぎなの!! みっともない!

そっちこそ前に出すぎだよ! 今は横に並んで踊るところでしょ!

あなたの入りが遅いんでしょ!

理亞さんが早いんだよ! ペース無視してやるから!


雪穂(……いけ)

629:


そのときまでに私が何とかしないと! そうしないとっ……!

今まで姉様と積み上げてきたものが! 全部崩れるじゃない!!

今が一番大事な時期なんだ!! 私がっ!!

私がやらなくちゃ! 一体誰がやればいいのよ!!


雪穂(いけ……っ)

630:


あの!! 雪穂さん!!

雪穂さんにとってお姉ちゃんって、どんな存在ですか!?

お姉ちゃんたちに私は、私たちは大丈夫なんだって! ちゃんと成長したんだってところを見てほしい!

私たちの自慢の妹なんだって周りに堂々と言えるくらいの晴れ姿を!

どんなにどうしようもなくても!みっともなくても!!

それが全部出来るのは私たちしかいないから!!

私、黒澤ルビィとそのパートナー、鹿角理亞は

今年のラブライブ!サマーフェスティバル2020デュオ部門で───

優勝します


雪穂(いけ……!!)


ガタッ!


雪穂「いけーーーーっ!! もう決めちゃえーーーーーーっ!!!」

631:
「得点は!!」

「1曲目 28900pt!!」

「2曲目 31500pt!!」

「合計60400ptが加算されます!」

「この結果! 黒澤ルビィ・鹿角理亞組の最終ポイントは!」

「500200pt!!」

ダイヤ・聖良「!」



「よって!! ラブライブ!サマーフェスティバル2020デュオ部門優勝は!!」


「黒澤ルビィ・鹿角理亞に決定ーーーーーー!!!」

632:



千歌・果南・鞠莉「……ぉ……おぉっ……おおおおおおおおーーー!!!」


雪穂「や……やった……本当に」

雪穂「優勝……っ……取っちゃった……」ポロポロ


聖良「…………うそ、だって……」

聖良「そんな……理亞ぁ…」ポロポロ

ダイヤ「ルビィ……あなたっ……」

633:



ルビィ・理亞「…………」バッ


ルビィ「り、りあちゃん……」

理亞「るびぃ……っ……」


ギュッ


ルビィ・理亞「うぅ……っ……うわああああああぁぁぁ!!!」

634:

オオオオオオォォォォォォ!!!

ワアアアアアァァァァァァ!!!


梨子「花丸ちゃん…っ……」ギュッ

花丸「うん……うん……!」

善子「…………」

曜「善子ちゃん…」

善子「……私たちの完敗ね」フッ

善子「おめでとう。ルビィ」

635:


…………


穂乃果「賞状 ラブライブ!サマーフェスティバル2020デュオ部門優勝、黒澤ルビィ、鹿角理亞殿」

穂乃果「あなた達は今祭典において当初の成績を修めたので、その健闘と功績を称えてこれを表彰します」

穂乃果「これからもその自信と情熱を持って、スクールアイドル界隈を大いに盛り上げていってください」

穂乃果「あなた達のさらなる成長、そして飛躍を我々一同心待ちにしています」

穂乃果「感謝と期待の気持ちを込めて。高坂穂乃果」

穂乃果「おめでとう!!」

ルビィ・理亞「ありがとうございます!」

穂乃果「それでは皆様、各優勝者の組へどうぞ今一度盛大な拍手をお願い致します!!」


パチパチパチパチ!!!


636:
「よくやったー! 感動した!!」

「みんな凄かったーー! 今日来て本当に良かった!!」

雪穂「ルビィちゃーん! 理亞ちゃーん! おめでとうーーっ!!」

ツバサ「最高のライブだったわよ!!」


パチパチパチパチ……


穂乃果「以上で表彰式の方を終わらせていただきます! では次に閉会の挨拶を……」

637:





スタスタ


ダイヤ「ルビィ!」

聖良「理亞!」

ルビィ・理亞「!」

ダキッ

ダイヤ「おめでとう……頑張ったわね……」

聖良「あなたは私の誇りよ、理亞……」

理亞「姉様…」

ルビィ「お姉ちゃん……ありがとう」

ルビィ「理亞ちゃんのおかげだよ!」

理亞「ルビィ……」

638:


タタタッ


さゆり「おーいルビィちゃん! おめでとー!」

あきる「おめでとう。悔しいけど、優勝に相応しい文句なしのライブだったわ」

姫乃「理亞さん……理亞さん! 私、感動しましたっ!」

蘭花「すっごくドキドキしたネ!!」

るう「二人ともおめでとうございます!」

瑞希「本当に楽しかったよ!」

ルビィ「それと、ここにいるみんなのおかげです!!」ニコッ

理亞「……そうね」フフッ

639:
鞠莉「ルビィーーーーーー!!!」ガバッ

ルビィ「わわっ!」ドサッ

ダイヤ「なっ……ぃった……」

ダイヤ「~~っ鞠莉さん! もう少し大人しい表現方法はありませんの!!?」

鞠莉「あはははは!! ダイヤが怒ったー!」

千歌「鞠莉ちゃん私も混ぜてーーーーっ!!」ダッ

鞠莉「千歌っちカモーーーン!!」

ダイヤ「!ちょっと待っ……二人とも落ち着……」

千歌「うぇーーーーーーい!!」ガバッ

ズシン

ダイヤ「うぎゅ…っ…」

640:
千歌「あ、しまった勢いつけすぎちゃった」

果南「おーい、はしゃぎすぎないでよー……ってもう遅いか」

聖良「だ、ダイヤさん大丈夫ですか……?」

果南「あーあ、やっちゃった」

果南「ほら二人とも、そのくらいにしておいて早く離れ……」

鞠莉「うぎゅ! うぎゅって! ナイスリアクション!!」

千歌「ホントだ! あはははははは!!変なのー!」

果南「……くっ……ふふ」

聖良「……っ……!」プルプル

理亞「姉様、顔変になってる」

千歌・鞠莉「アンコール! アンコール! はいみんなも一緒に!!」

ダイヤ「」ワナワナ

ルビィ「お、お姉ちゃん……?」

ダイヤ「あなた達……そこに座りなさいっ!!!」

641:


ワーワーキャーキャー


梨子「千歌ちゃん、鞠莉さん……」

花丸「ライブ終わりのテンションでおかしなことになってるずら」

梨子「嫌だなあ、今からあそこに行くの」

「梨子ーーーーーー!!!」

梨子「」

花丸「目を付けられちゃったね」

梨子「仕方ない、行きましょう……」ハァー

花丸「マルもお供するずら」

642:
曜「おー、やってるやってる。大所帯だねー」

曜「よーしじゃあ私たちも!……って」

善子「…………」

曜「善子ちゃん、どうしたの?」

曜「さっきからずーっと黙っててさ」

善子「……変わったなって」

曜「何が?」

善子「少し前まではさ、周りがルビィを遠ざけて、ルビィも周囲から距離を置いていたのに」

善子「それが今じゃ、あの子を中心に人が集まっているんだもの」

643:
善子「だからなんていうか、嬉しいのよ」

善子「ああ、本当に良かったなあって」

曜「そっか」

善子「ええ」

善子「少なくとも私にとっては、これ以上ないくらい最高の形で締めくくれたと思う」

善子「それは私の本心で、この結果自体にも何の不満もないのよ」

善子「でも……でもね」

曜「うん」

644:
善子「もう一つだけ、あと一つだけ……どうしても言いたいことがあるとするなら」

善子「…………」

善子「私、勝ちたかったなあ」

善子「曜と一緒に……っ……優勝したかった……!」ポロポロ

曜「……よくやったよ善子ちゃんは」

曜「お疲れさま」ポン

645:
黒髪「ちょっ理亞ちゃんこれどうなってるの」

茶髪「終わったから来てみれば……すごい人数」

理亞「なんか集まってた」

黒髪・茶髪「な、なんかって……」

聖良「まあまあ、お二人もお疲れ様でした」

黒髪「あ、ありがとうございます!」

理亞「うん、凄くいいライブだった」

理亞「それに順位も8位に上げてちゃんと有言実行して終わることが出来たし」

理亞「嬉しかった。まあ、その……友達として」

茶髪「理亞ちゃん……うん!」

646:
鞠莉「そうだ! 折角の機会だしここにいるみんなで写真撮りましょうよ!」

果南「お、いいねそれ」

千歌「賛成ー! じゃあ私曜ちゃんたち呼んでくるねー!」タッ

鞠莉「なら私もー!」

ダイヤ「鞠莉さん?」ガシッ

鞠莉「はい」

ルビィ「善子ちゃん早く来ないかなぁ」

花丸「きっと善子ちゃんもルビィちゃんに会いたがってるよ」

647:
曜「もう大丈夫?」

善子「うん。ありがと」

曜「いいって、前に言ったでしょ? 私は善子ちゃんのパートナーだって」

善子「……フフッ、そうだったわね」

「おーい! 曜ちゃんと善子ちゃんも早くこっち来なよー!!」

「みんなで写真撮ろうってー!」

曜「いいねー! 行く行くー!」

曜「さあ私たちも行こうか善子ちゃん!」ニコ

善子「ええ!」

648:
鞠莉「はーいじゃあ皆撮るわよー!」

「「「はーい!!」」」

ルビィ「善子ちゃん善子ちゃん」チョイチョイ

善子「ん?」

鞠莉「せーの!」

「「「ラブライ ブ!」」」

チュッ

カシャッ

649:
ルビィ「……えへへ」

善子「───はい?」

ダイヤ・理亞「んな……っ」

鞠莉「あら?」

千歌「おぉー……」

善子「な、ななな」

善子「いきなり何してんのよあんたは!!」

梨子「……まあ、ライブが終わって気持ちが高ぶってたのは」

花丸「千歌ちゃんたちだけじゃなかったってことだね」

650:
あきる「え、あなた達ってそういう関係だったの」

さゆり「ルビィちゃん大胆だねー!」

ザワザワ!

善子「撮りなおし! 撮りなおしなさい今の! 恥ずかしいったらないわ!」

鞠莉「えーこれでいいじゃない、とてもよく撮れてるわよ?」ニヤニヤ

善子「それをばら撒かれる私の気持ちにもなりなさいよ!!」

651:
善子「ルビィ! 何してくれてるのよ本当に!」

ルビィ「今やったほうがいいかなあって」

善子「帰ってからでいいでしょ!?」

果南「善子ちゃん、多分それ墓穴」

善子「あ」

「それって帰ってからならいいってこと?」

「熱々だねー」

善子「」

梨子「何というか……ご愁傷様としか言えませんね」

ダイヤ「はあ、全くあの子は本当に……」

652:


ワイノワイノ


穂乃果「盛り上がってるねーあそこ」

ツバサ「なんか懐かしいわね、私たちもあんな感じで集まってたことを思い出すわ」

穂乃果「あったあった! いやーあれからもう5年以上も過ぎたんだねー」

雪穂「懐かしいですね、本当に」

穂乃果「私もみんなに会いたくなってきたなあ」

ツバサ「そうね。私も早く2人に会いたくなってきたわ」

653:
ツバサ「…………」クス

ツバサ(ありがとうみんな。あなた達のおかげで有意義どころか、また一つ忘れられない思い出が出来たわ)

雪穂「ツバサさん?」

ツバサ「なんでもないわ。そうだ、今から3人で食事にでも行かない?」

ツバサ「穂乃果さんともまだまだ話したいことがあるし」

穂乃果「行きたい行きたい!」

雪穂「いいですね、でもお姉ちゃんはもうちょっと静かにお願いね」

穂乃果「また! 雪穂はすぐそういうこと言う!」

ツバサ「あははっ決まりね!」

654:
「さよならー!」

「またねー!」

ルビィ「ばいばい!」フリフリ

鞠莉「さてと、私たちもそろそろ帰りましょうか」

ダイヤ「そうですわね」

聖良「じゃあ、ここでお別れですね」

果南「聖良はそっち側?」

聖良「はい、これからは休みが終わるまで北海道にいようと思います」

果南「そっか、いいと思うよ」

655:
理亞「色ボケも程々にね、浮かれすぎないでよ」

善子「ルビィ、あんたのせいで言われてるじゃない」

ルビィ「大丈夫だよ、心配しないで」

理亞・善子(どうだか……)

聖良「さようなら。また会いましょう」

黒髪・茶髪「さようなら!」

花丸「うん、ばいばい」

千歌「聖良さんまたねー!」

千歌「特訓、絶対成功させますから!」

聖良「ええ、楽しみにしています」

656:
理亞「じゃあ、行くから」

ルビィ「うん。次に会うときは"冬"だね」

理亞「ええ、それまで負けないでよ」

ルビィ「もちろん」

理亞「ならいいけど。言いたいことはそれだけ」

理亞「さよなら」

スタスタ

善子「相変わらず素っ気ないわね」

ルビィ「そうかなぁ」

理亞「…………」

クルッ

ルビィ「? 理亞ちゃん?」

理亞「ルビィ、またね」

ルビィ「うん! またね理亞ちゃん!」

657:
そして……


夜、善子の部屋


カチッ カチカチッ


ルビィ「あー、また負けちゃった」

ルビィ「花丸ちゃんいつの間にそんなゲーム上手くなってたの?」

花丸「ふふん、修行の成果ずら」

善子「ドヤ顔で自慢するようなことそれ」

ルビィ・花丸「善子ちゃんだけには言われたくない」

善子「取り消します」

658:
善子「それにしてもライブやって、内浦に帰って来てからも騒いだっていうのに、よくゲームをやる元気があるものだわ」

ルビィ「だって善子ちゃんの部屋に来るの久しぶりだったからつい」

善子「……ま、楽しいから別にいいんだけどね」

花丸「えへへっ、マルも」

ルビィ「ねえねえ次はあれやりたい」

善子「はいはいまた明日ね、今日はもういい加減寝なさい」

ルビィ「えー」

善子「一緒に寝てあげるから」

ルビィ「いいの?」

善子「いいわよ、どうせそのつもりだったんでしょう?」

花丸「本当は善子ちゃんが一緒に寝たいくせに」

善子「そこ、うるさい」

659:
ルビィ「あははっ何かこの感じも懐かしいね」

ルビィ「……善子ちゃん、花丸ちゃん。今まで本当にありがとう」

善子・花丸「!」

ルビィ「私ね、二人のことが大好きだよ!」

ルビィ「だからね、これからもよろしくお願いします!」

善子「……なにを今更」フッ

花丸「右に同じずら」

ルビィ「そうだね、言ってみただけ」

ルビィ(言いたくなっただけだよ、だって)

ルビィ(心の底からそう思ってるんだもん)



ルビィ「おやすみ。善子ちゃん、花丸ちゃん」

660:


それから3日後……


─千歌の部屋


千歌「あー今日で夏休みも終わりかー……疲れたよもうー……」

梨子「ここ数日大変だったものね千歌ちゃんの家」

曜「フェスライブ効果でお客さんがわんさか来たからねー」

千歌「おかげで手伝い手伝い手伝い! もういいよ!!」

梨子「まあ確かに……」

曜「私たちも毎回あれに付き合わされるのはね……」

千歌「でしょ!? 特訓の時間だって少ししか取れなかったし……あーあ」

661:
曜「ねえ千歌ちゃん、前から気になってたんだけどその特訓って何なの?」

梨子「曜ちゃん聞かないであげて、本人としては秘密にしたいみたいだから」

曜「本当に? これだけ口に出しておいて?」

千歌「そこまで言うほどかなー」

曜・梨子「言うほどだよ」

千歌「そっかー、じゃあ見る?」

曜「え? いいの?」

千歌「いいよー。だって果南ちゃんたちもそろそろ帰っちゃうし」

千歌「その前に一回くらいはお披露目したいと思ってたんだ」

梨子「そういえば夕方には東京に帰るんだよね、ダイヤさん達」

曜「ああそっか、忙しくてつい忘れてた」

千歌「よーしそうと決まれば早速みんなに連絡しなくちゃ!」

662:




浦の星女学院、体育館


千歌「……」グッグッ

果南「千歌、準備出来た?」

千歌「だいじょーぶ!」

「…………」

千歌「ふぅーっ……よし、行きます!」

キュッキュッ

千歌「まずはロンダート、からの」タタンッ トンッ

千歌「バク転!!」クルン  タンッ!

千歌「……はい!」ピタッ

果南「!」

663:


シーーーン


花丸「……お、おぉー……」

曜「……す、すごいよ千───」

千歌「すっごーーーーーー!! 出来てるーーーーー!!!」

果南「本当に! 本当に出来てるよ千歌! おめでとう!」ハグッ

千歌「果南ちゃーーーーん!!」

曜「ええっ!? なんか関わった本人たちが一番驚いてる!!?」

千歌・果南「今日初めて成功したからね!」

曜「何そのぶっちゃけ話!!怖い!」

善子「とんだチャレンジ精神ね……」

664:
鞠莉「でも、これはなかなか……」

梨子「インパクトがありますよね、これの特訓だったんだ」

ルビィ「凄いね千歌ちゃん!」

ダイヤ「ええ、帰る前にいいものを見られましたわ」

果南「ほんとほんと、これで心置きなく東京に戻れるよ」

千歌「やったー! お披露目大成功!」

果南(……本当によくやったね。千歌)

665:
空港


ダイヤ「ではそろそろ行きますわね」

梨子「はい、お気をつけて」

果南「また休みが取れたら来るね」

鞠莉「果南は勉強のほう頑張らないとでしょ?」

果南「ああ、うん……どうするかな」

鞠莉「もう……ダイヤ、お願いね」

ダイヤ「分かっていますわ、任せてください」

666:
果南「あっそうだ、千歌」

千歌「なに?」

果南「さっきのロンダート、手の押しが少し弱かったよ。あと勢いも」

果南「そこ見直しておいてね」

千歌「押忍! 直しておきます!」

曜「こんなときまで指導するの」

果南「それと、私が言ったこと忘れてないよね?」

千歌「もちろんだよ!」

曜「?」

果南「ならよし! 早く完成させて盛り上げてやりなよ!」

果南「じゃあまたね千歌! みんな!」

ダイヤ「さようなら!」

千歌「果南ちゃーん! ダイヤさーん! ありがとー!!」

花丸「待ってるずらー!」フリフリ

667:
鞠莉「……行っちゃったわね」

梨子「……はい」

曜「寂しくなるねー」

ルビィ「うん。だけど……」

千歌「だからこそ頑張らないとね!」

花丸「千歌ちゃん、そうだね!」

善子「いいんじゃない、私たちらしくて」

千歌「よーし戻ったら練習だー!」

「「「おーーーーーーー!!」」」

668:


────


こうして……


雪穂「あ! もうこんな時間だ!」

雪穂「お母さんテレビ付けて!」

高坂母「はいはい」

ピッ

「では本日のゲスト、綺羅ツバサさんです!」

「よろしくお願いします」

雪穂「間に合ったー! ツバサさん! ツバサさん!」

穂乃果「うぅ……お母さーん、雪穂がμ'sからA-RISE派になっちゃったよぉ~……」

高坂母「よしよし」

669:
ダイヤ「ほら、早く進めてください。まだこんなに課題が残っているんですよ」

聖良「サボりは厳禁ですからね」

果南「もうやだ、ここ鬼しかいない……」

ダイヤ・聖良「何か?」

果南「やるよ! やります!」

670:


ピロン


聖良「……?」スッ

理亞:[写真]

理亞:ライブ、上手くいった

聖良「…………ふふっ」

671:


こうして、長く……とても長く続いた


私たちの二度目の夏は終わりを告げた。


志と、信念と、博愛と、情熱を内に秘めた、そんな私たちの───


それぞれの心に、確かな光を灯して。

672:



ルビィ「片割れのジュエル」



フェスライブ編  終わり


675:
良かったぜ
続きも待ってます

引用元: ルビィ「片割れのジュエル」 フェスライブ編【再】