1: 2011/10/30(日) 00:12:31.40 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
「……唯先輩って、好きな人はいますか?」
部室に人がいないと広く感じる。
いつもはゴチャゴチャしていると思っていたけど、
改めて見れば物自体は少ないことがわかる。
他の先輩たちは遅れるそうだけど、唯先輩は先に練習なんてしないはず。
二人でベンチに腰かけて、とりとめのない話をしていた、でも。
「おおぅ、本人の前で言わせるなんて。
あずにゃんってば、大胆。……言っちゃおうかなぁ?」
どうしてこんな話になったんだろう。
きっと、偶然二人きりになったから。
なんでもない振りをして、「言ってみてください」と返答した。
「えっとね、あずにゃんが大好き!
それからね、ういは本当によくできた妹で――」
一人分ほど距離を空け、私たちは座っている。
「……唯先輩って、好きな人はいますか?」
部室に人がいないと広く感じる。
いつもはゴチャゴチャしていると思っていたけど、
改めて見れば物自体は少ないことがわかる。
他の先輩たちは遅れるそうだけど、唯先輩は先に練習なんてしないはず。
二人でベンチに腰かけて、とりとめのない話をしていた、でも。
「おおぅ、本人の前で言わせるなんて。
あずにゃんってば、大胆。……言っちゃおうかなぁ?」
どうしてこんな話になったんだろう。
きっと、偶然二人きりになったから。
なんでもない振りをして、「言ってみてください」と返答した。
「えっとね、あずにゃんが大好き!
それからね、ういは本当によくできた妹で――」
一人分ほど距離を空け、私たちは座っている。
2: 2011/10/30(日) 00:14:52.75 ID:vLZ8LXsOo
「でね、のどかちゃんはちっちゃいころからずっと――」
返ってきたのはお決まりの答えだった。
いわゆる『みんな大好き』という答え。
でも、一番最初に『あずにゃん』と、私の名前を出したことはうれしかった。
「――はいはい、そう言うと思ってましたよ。
……私も好きです、唯先輩のこと」
「あずにゃ~ん! おそろいだね、わたしたち」
飛びかかる彼女を避けることはせず、いつも通りに抱擁を受けいれた。
なんでもないように『好きです』と言ってみたけど、私の動揺は隠せた気がしない。
頬ずりをされながら、内心では二人の『好き』の違いに戸惑っている。
「暑苦しいです、離れてください」
おそろいだからといって素直に喜ぶことはできない。
私の『好き』と唯先輩の『好き』は違っているから。
返ってきたのはお決まりの答えだった。
いわゆる『みんな大好き』という答え。
でも、一番最初に『あずにゃん』と、私の名前を出したことはうれしかった。
「――はいはい、そう言うと思ってましたよ。
……私も好きです、唯先輩のこと」
「あずにゃ~ん! おそろいだね、わたしたち」
飛びかかる彼女を避けることはせず、いつも通りに抱擁を受けいれた。
なんでもないように『好きです』と言ってみたけど、私の動揺は隠せた気がしない。
頬ずりをされながら、内心では二人の『好き』の違いに戸惑っている。
「暑苦しいです、離れてください」
おそろいだからといって素直に喜ぶことはできない。
私の『好き』と唯先輩の『好き』は違っているから。
3: 2011/10/30(日) 00:16:35.34 ID:vLZ8LXsOo
「あらあら、お邪魔しちゃったかしら?」
扉が遠慮がちに開かれ、ムギ先輩がやさしい声と共に現れた。
はっとなった私に、「どうぞ続けて」という言葉を投げる。
「違うんですムギ先輩! これは唯先輩から――」
「違わないよあずにゃん、私たちの仲だもんね~」
ムギ先輩は静かに横を通りながら、「それじゃごゆっくり」と笑顔を向ける。
唯先輩は「了解しました!」なんて言うものだから、
私の抵抗もあえなく終了となった。
「もう! 離れてくださいよ」
扉が遠慮がちに開かれ、ムギ先輩がやさしい声と共に現れた。
はっとなった私に、「どうぞ続けて」という言葉を投げる。
「違うんですムギ先輩! これは唯先輩から――」
「違わないよあずにゃん、私たちの仲だもんね~」
ムギ先輩は静かに横を通りながら、「それじゃごゆっくり」と笑顔を向ける。
唯先輩は「了解しました!」なんて言うものだから、
私の抵抗もあえなく終了となった。
「もう! 離れてくださいよ」
4: 2011/10/30(日) 00:17:32.53 ID:vLZ8LXsOo
部室にはカチャカチャという音がひびいている。
ムギ先輩がティーセットを準備する音。
心地のいいひびきに誘われ、
先日食べたショートケーキの味を思い出した。
「あずにゃんも楽しみなんだね、ティータイムが」
「ち、違います! 私はただ……、
このあいだ食べたショートケーキが美味しかったな、って……」
二人の視線を一身に受け、動けない。
地雷を踏んだというのはこのことだろう。
「喜んで梓ちゃん、今日も同じシェフのケーキだから」
「よかったね~あずにゃん」
ムギ先輩がティーセットを準備する音。
心地のいいひびきに誘われ、
先日食べたショートケーキの味を思い出した。
「あずにゃんも楽しみなんだね、ティータイムが」
「ち、違います! 私はただ……、
このあいだ食べたショートケーキが美味しかったな、って……」
二人の視線を一身に受け、動けない。
地雷を踏んだというのはこのことだろう。
「喜んで梓ちゃん、今日も同じシェフのケーキだから」
「よかったね~あずにゃん」
5: 2011/10/30(日) 00:19:48.52 ID:vLZ8LXsOo
「もう! 子ども扱いしないでください!」
そう反発したけど内心は心地よかった。
私を受け止めてくれる場所がある、人がいる。
ここに入部するまでは感じたことのない安心感。
「え~、そんなこと思ってないよ。あずにゃんはしっかり屋さんだもん」
「そうよ、だからティータイムが終わったらちゃんと練習しましょう」
私が唯先輩へ本当に『好き』と伝える。
その行為はこの空間を崩してしまうんじゃないか。
「……それならいいです」
黙っていればいいのかもしれない。
でも閉じ込めておける自信もない。
「唯先輩、そろそろ離れてください」
もうすぐ律先輩と澪先輩が来てにぎやかになる。
机に五人分のケーキと紅茶を並べてティータイム。
それから少しだけ練習をする。
「もうちょっとだけお願い、あずにゃ~ん」
もうちょっとだけ浸っていたいのは、私のほうかもしれない。
そう反発したけど内心は心地よかった。
私を受け止めてくれる場所がある、人がいる。
ここに入部するまでは感じたことのない安心感。
「え~、そんなこと思ってないよ。あずにゃんはしっかり屋さんだもん」
「そうよ、だからティータイムが終わったらちゃんと練習しましょう」
私が唯先輩へ本当に『好き』と伝える。
その行為はこの空間を崩してしまうんじゃないか。
「……それならいいです」
黙っていればいいのかもしれない。
でも閉じ込めておける自信もない。
「唯先輩、そろそろ離れてください」
もうすぐ律先輩と澪先輩が来てにぎやかになる。
机に五人分のケーキと紅茶を並べてティータイム。
それから少しだけ練習をする。
「もうちょっとだけお願い、あずにゃ~ん」
もうちょっとだけ浸っていたいのは、私のほうかもしれない。
6: 2011/10/30(日) 00:22:12.25 ID:vLZ8LXsOo
「おーっす! みんなやっとるかね」
「そろってもないのにやってるわけないだろ」
扉が勢いよく開かれ、律先輩と澪先輩が姿を見せる。
律先輩は、「相変わらずお熱いですなあ、二人とも」と、荷物をベンチに置く。
「ラブラブですから~、えへっ」
「みんなそろいましたよ? ほら、離れてください」
唯先輩はしぶしぶ離れ、律先輩に泣きついた。
「あずにゃんのいけずぅ。りっちゃん隊員、わたし振られてしまいました!」
「よーしよし、わかった唯。私の胸で泣け」
「りっちゃん隊員、膨らみが確認できません」
二人はふざけ合いながら机へ向かい、澪先輩は私に近づいて来る。
「梓、待ったか?」
そういって少ししゃがみ、「どうかしたか?」と、私の顔をのぞきこんだ。
私は「いえ、なんでも」と答え、澪先輩は「そっか」と返す。
「みんな、用意できたわよー」
ムギ先輩の声で集まって、いつも通りのティータイムが始まった。
「そろってもないのにやってるわけないだろ」
扉が勢いよく開かれ、律先輩と澪先輩が姿を見せる。
律先輩は、「相変わらずお熱いですなあ、二人とも」と、荷物をベンチに置く。
「ラブラブですから~、えへっ」
「みんなそろいましたよ? ほら、離れてください」
唯先輩はしぶしぶ離れ、律先輩に泣きついた。
「あずにゃんのいけずぅ。りっちゃん隊員、わたし振られてしまいました!」
「よーしよし、わかった唯。私の胸で泣け」
「りっちゃん隊員、膨らみが確認できません」
二人はふざけ合いながら机へ向かい、澪先輩は私に近づいて来る。
「梓、待ったか?」
そういって少ししゃがみ、「どうかしたか?」と、私の顔をのぞきこんだ。
私は「いえ、なんでも」と答え、澪先輩は「そっか」と返す。
「みんな、用意できたわよー」
ムギ先輩の声で集まって、いつも通りのティータイムが始まった。
7: 2011/10/30(日) 00:25:23.22 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
『梓、それって憧れてるだけじゃない? 唯先輩に』
「そうかなあ?」
眠る前、純に電話をかけ今日のことを報告した。
というより、相談したかった。
憂に相談する気はない、彼女は唯先輩の妹なんだから。
『そうだよ。私だって澪先輩に憧れてるけど、梓の言う好きとは違うもん』
「参考になると思ったんだけどなあ」
ため息をひとつ、「はあ」とつく。
ベッドの上を寝転びながら天井を見つめ、そのまま言葉を区切る。
『なーんか残念そう。
じゃあ梓、唯先輩とどうなりたいの?』
「それは――」
返す言葉が思い浮かばない。
気持ちだけが走りすぎて、伝えたあとはなにも考えていない。
『それとも……、唯先輩みたいになりたいの?』
『梓、それって憧れてるだけじゃない? 唯先輩に』
「そうかなあ?」
眠る前、純に電話をかけ今日のことを報告した。
というより、相談したかった。
憂に相談する気はない、彼女は唯先輩の妹なんだから。
『そうだよ。私だって澪先輩に憧れてるけど、梓の言う好きとは違うもん』
「参考になると思ったんだけどなあ」
ため息をひとつ、「はあ」とつく。
ベッドの上を寝転びながら天井を見つめ、そのまま言葉を区切る。
『なーんか残念そう。
じゃあ梓、唯先輩とどうなりたいの?』
「それは――」
返す言葉が思い浮かばない。
気持ちだけが走りすぎて、伝えたあとはなにも考えていない。
『それとも……、唯先輩みたいになりたいの?』
8: 2011/10/30(日) 00:27:43.52 ID:vLZ8LXsOo
わからない、ただ唯先輩に『好き』と伝えたいだけなのに。
答えを出さないといけないのか、わからなかった。
「そういうわけじゃない、じゃないんだけど……。
そうかもしれないし――」
我ながらハッキリしない。
ハッキリしているのは『好き』という気持ちだけ。
「ごめん純、わかんないよ……。どうしたらいいのかな?」
『あ、ごめん梓。そんなつもりじゃなくて』
少し気まずくなった。
私のせいかもしれないけど。
『……えっとさ、澪先輩に相談してみたらどう?』
答えを出さないといけないのか、わからなかった。
「そういうわけじゃない、じゃないんだけど……。
そうかもしれないし――」
我ながらハッキリしない。
ハッキリしているのは『好き』という気持ちだけ。
「ごめん純、わかんないよ……。どうしたらいいのかな?」
『あ、ごめん梓。そんなつもりじゃなくて』
少し気まずくなった。
私のせいかもしれないけど。
『……えっとさ、澪先輩に相談してみたらどう?』
9: 2011/10/30(日) 00:31:32.62 ID:vLZ8LXsOo
「え、なんで澪先輩に?」
『これは私の主観だけど、梓と澪先輩って似てない?
見た目もだけど性格的にさ』
確かにそうかもしれない、どっちも真面目といったところがある。
私が髪を下ろせば同じような見た目になる。
でも、澪先輩のほうがお姉さんという雰囲気がしてうらやましい。
決してプロポーション的な意味ではなく、あくまで雰囲気が。
『それにね、唯先輩と律先輩。この二人も似てると思うんだ』
「あ、わかる気がする。元気だもんね二人とも」
自分を引っ張って行ってくれそうな相手。
心の中に踏み込んできて、それでも不快に思わない相手。
『でしょでしょ、だから思ったの。相談してみなよ』
澪先輩を私、律先輩を唯先輩に置き換える。
想像すると自然と笑みが浮かぶ。
思いつきといえばそれまでだけど、それでもよかった。
「そうするよ純。ありがと」
『うん、なんか混乱させたみたいで。ホントごめん』
『これは私の主観だけど、梓と澪先輩って似てない?
見た目もだけど性格的にさ』
確かにそうかもしれない、どっちも真面目といったところがある。
私が髪を下ろせば同じような見た目になる。
でも、澪先輩のほうがお姉さんという雰囲気がしてうらやましい。
決してプロポーション的な意味ではなく、あくまで雰囲気が。
『それにね、唯先輩と律先輩。この二人も似てると思うんだ』
「あ、わかる気がする。元気だもんね二人とも」
自分を引っ張って行ってくれそうな相手。
心の中に踏み込んできて、それでも不快に思わない相手。
『でしょでしょ、だから思ったの。相談してみなよ』
澪先輩を私、律先輩を唯先輩に置き換える。
想像すると自然と笑みが浮かぶ。
思いつきといえばそれまでだけど、それでもよかった。
「そうするよ純。ありがと」
『うん、なんか混乱させたみたいで。ホントごめん』
10: 2011/10/30(日) 00:33:16.85 ID:vLZ8LXsOo
「いいよそんなの、原因は私なんだし」
『……がんばってね梓、応援してるから』
電話越しに彼女の心が伝わって来るみたいでうれしかった。
一人では解決できないことも、二人、三人と集まれば解決できる。
高校に入ってみんなに出会って、そんな当たり前のことを確認した。
「うん、それじゃおやすみ」
『おやすみ』
通話を切って枕元に置く、着替えと歯みがきも済んでるしこのまま寝よう。
相談すればきっと上手くいく。
律先輩と澪先輩、あの二人みたいになれる。
純に相談してよかった、持つべきものはなんとやらだ。
「おやすみなさい、唯先輩」
ここに彼女はいない。
でも、名前を呼ぶだけで胸が高鳴る。
もう一度「唯先輩」と呼んでみる。
目を閉じると姿が浮かんだ、笑顔で私のことを『あずにゃん』と呼ぶ。
知ってよかった、『好き』という気持ちを。
おやすみなさい、唯先輩。
『……がんばってね梓、応援してるから』
電話越しに彼女の心が伝わって来るみたいでうれしかった。
一人では解決できないことも、二人、三人と集まれば解決できる。
高校に入ってみんなに出会って、そんな当たり前のことを確認した。
「うん、それじゃおやすみ」
『おやすみ』
通話を切って枕元に置く、着替えと歯みがきも済んでるしこのまま寝よう。
相談すればきっと上手くいく。
律先輩と澪先輩、あの二人みたいになれる。
純に相談してよかった、持つべきものはなんとやらだ。
「おやすみなさい、唯先輩」
ここに彼女はいない。
でも、名前を呼ぶだけで胸が高鳴る。
もう一度「唯先輩」と呼んでみる。
目を閉じると姿が浮かんだ、笑顔で私のことを『あずにゃん』と呼ぶ。
知ってよかった、『好き』という気持ちを。
おやすみなさい、唯先輩。
11: 2011/10/30(日) 00:35:28.11 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
澪先輩と待ち合わせたカフェは繁華街の外れにあった。
そのたたずまいは隠れ家を連想させ、路地裏にひっそりと存在している。
レンガ色の外装は落ち着いた雰囲気を感じさせた。
店内にはジャズ音楽と初老を迎えたであろう店主、
ドラマの中から抜け出してきたような。
「……苦い」
澪先輩がストローでアイスコーヒーをすすり、そうつぶやいた。
静かな店内にカランと氷の音がひびく。
透明なグラスに注がれた黒い液体、私の印象では大人の飲み物だと感じる。
「ミルクとガムシロップは入れないんですか? そこにありますけど」
「いや、そのまま飲んだらどんな味かなって」
「苦い経験になりましたね」
イスやテーブルは深い茶色で、白い壁と上手く調和していた。
壁に物は少なく、風景画が二、三枚。
床にはところどころ観葉植物。
天井からぶら下がった照明がそれらを照らし、店内を程よい明るさに保っている。
澪先輩と待ち合わせたカフェは繁華街の外れにあった。
そのたたずまいは隠れ家を連想させ、路地裏にひっそりと存在している。
レンガ色の外装は落ち着いた雰囲気を感じさせた。
店内にはジャズ音楽と初老を迎えたであろう店主、
ドラマの中から抜け出してきたような。
「……苦い」
澪先輩がストローでアイスコーヒーをすすり、そうつぶやいた。
静かな店内にカランと氷の音がひびく。
透明なグラスに注がれた黒い液体、私の印象では大人の飲み物だと感じる。
「ミルクとガムシロップは入れないんですか? そこにありますけど」
「いや、そのまま飲んだらどんな味かなって」
「苦い経験になりましたね」
イスやテーブルは深い茶色で、白い壁と上手く調和していた。
壁に物は少なく、風景画が二、三枚。
床にはところどころ観葉植物。
天井からぶら下がった照明がそれらを照らし、店内を程よい明るさに保っている。
12: 2011/10/30(日) 00:36:14.77 ID:vLZ8LXsOo
「それにしても驚いたよ。まさか梓が唯のことを好きだなんて」
「あ……、あのときはちょっと浮かれてたんです」
澪先輩に電話したとき、第一声に、『唯先輩が好きなんです』と言ってしまった。
こんな簡単に自分の心を打ち明けるなんて、私はどうかしている。
「澪先輩って……、律先輩のことどう思ってます?」
「それって……梓の言う『好き』か、ってことだよな?
友達とか先輩後輩じゃなくて」
「……はい」
私はミルクティーに口をつけ、澪先輩の話に耳を傾ける。
「そうだな……、確かに律のことは好きだけど。梓の言う『好き』とは違うと思う」
澪先輩は透明な容器を手に取り、ガムシロップを注ぎながら語り始めた。
「あ……、あのときはちょっと浮かれてたんです」
澪先輩に電話したとき、第一声に、『唯先輩が好きなんです』と言ってしまった。
こんな簡単に自分の心を打ち明けるなんて、私はどうかしている。
「澪先輩って……、律先輩のことどう思ってます?」
「それって……梓の言う『好き』か、ってことだよな?
友達とか先輩後輩じゃなくて」
「……はい」
私はミルクティーに口をつけ、澪先輩の話に耳を傾ける。
「そうだな……、確かに律のことは好きだけど。梓の言う『好き』とは違うと思う」
澪先輩は透明な容器を手に取り、ガムシロップを注ぎながら語り始めた。
13: 2011/10/30(日) 00:37:25.09 ID:vLZ8LXsOo
「ずっと同じ時間過ごすとさ、食べ物とか飲み物の好みが重なってくるんだよ」
滑らかな動作でストローがまわされ、浮いた氷がカラカラと音を立てる。
澪先輩はストローに口をつけて飲み、「やっぱりミルクもいるな」とつぶやく。
「……今アイスコーヒー飲んでるけど、これも律の影響なんだ」
「なんだか大人っぽく見えます」
「中学のとき二人でファミレス行ってさ、私はオレンジジュースを頼もうとしたんだよ。
そしたら律の奴、『アイスコーヒーにする』って言うもんだから、私もそうした」
今より少し幼い二人、仲良くしている光景を想像すると微笑ましい。
「ちょっと大人ぶりたかったのかな、私も律も」
滑らかな動作でストローがまわされ、浮いた氷がカラカラと音を立てる。
澪先輩はストローに口をつけて飲み、「やっぱりミルクもいるな」とつぶやく。
「……今アイスコーヒー飲んでるけど、これも律の影響なんだ」
「なんだか大人っぽく見えます」
「中学のとき二人でファミレス行ってさ、私はオレンジジュースを頼もうとしたんだよ。
そしたら律の奴、『アイスコーヒーにする』って言うもんだから、私もそうした」
今より少し幼い二人、仲良くしている光景を想像すると微笑ましい。
「ちょっと大人ぶりたかったのかな、私も律も」
14: 2011/10/30(日) 00:38:54.04 ID:vLZ8LXsOo
澪先輩は使いきりサイズのミルクを開け、コーヒーに注ぐ。
最後の一滴を確認してから、容器を隅にやって話を続けた。
私もミルクティーを飲み、聞き役を続ける。
「他にも音楽の好みとか、言葉づかいとか、
律に影響されてるんだなって思うよ」
「そういうものなんですか? 幼なじみって」
「うん、逆に律も私に影響されてると思う」
コーヒーに注がれたミルクは溶けきらず、
白と黒が不規則に入り混じっている。
最後の一滴を確認してから、容器を隅にやって話を続けた。
私もミルクティーを飲み、聞き役を続ける。
「他にも音楽の好みとか、言葉づかいとか、
律に影響されてるんだなって思うよ」
「そういうものなんですか? 幼なじみって」
「うん、逆に律も私に影響されてると思う」
コーヒーに注がれたミルクは溶けきらず、
白と黒が不規則に入り混じっている。
15: 2011/10/30(日) 00:40:17.22 ID:vLZ8LXsOo
「そのうちわからなくなるんだ、
どこからどこまでが自分の範囲なんだろう、って。
だから……、私の好みの三分の一は律と重なってると思う」
「なんだかうらやましいです、そういうの」
「そうか? そういうものなのかな……」
澪先輩は少し考えた表情をしながら、再びストローをまわす。
かき混ぜるうちに白と黒が混じり合い、きれいな茶褐色になった。
「――まあ、悪くないのかもしれないな」
そう言って、澪先輩は再びストローに口をつける。
まるで恋人に口づけをするみたいに。
「うん……やっぱり、こっちのほうが私の口に合ってる」
澪先輩は表情をやわらかく崩し、今日初めての笑顔を見せた。
どこからどこまでが自分の範囲なんだろう、って。
だから……、私の好みの三分の一は律と重なってると思う」
「なんだかうらやましいです、そういうの」
「そうか? そういうものなのかな……」
澪先輩は少し考えた表情をしながら、再びストローをまわす。
かき混ぜるうちに白と黒が混じり合い、きれいな茶褐色になった。
「――まあ、悪くないのかもしれないな」
そう言って、澪先輩は再びストローに口をつける。
まるで恋人に口づけをするみたいに。
「うん……やっぱり、こっちのほうが私の口に合ってる」
澪先輩は表情をやわらかく崩し、今日初めての笑顔を見せた。
16: 2011/10/30(日) 00:41:46.77 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
「なにかいいことあったの? 梓ちゃん」
表情に出さないようにしていたけど、憂に言われて気がついた。
昼休みの教室、昼食を終えていつものメンバーで談笑をしていたところに。
集まるのは私の机のまわり。
憂はしゃがんで両腕と頭を机に乗せ、純は立ちながら片手を机に乗せている。
「え? なにもないけど。……憂こそほら、いいことあったんでしょ」
「こらこら梓、憂に振らないの」
純にたしなめられ、私は一旦黙ることにした。
二人の話を横耳で聞き、教室のにぎやかさをながめる。
ぼうっとしているときに考えることは、唯先輩のこと。
「なにかいいことあったの? 梓ちゃん」
表情に出さないようにしていたけど、憂に言われて気がついた。
昼休みの教室、昼食を終えていつものメンバーで談笑をしていたところに。
集まるのは私の机のまわり。
憂はしゃがんで両腕と頭を机に乗せ、純は立ちながら片手を机に乗せている。
「え? なにもないけど。……憂こそほら、いいことあったんでしょ」
「こらこら梓、憂に振らないの」
純にたしなめられ、私は一旦黙ることにした。
二人の話を横耳で聞き、教室のにぎやかさをながめる。
ぼうっとしているときに考えることは、唯先輩のこと。
17: 2011/10/30(日) 00:43:13.42 ID:vLZ8LXsOo
「――――でね、昨日――お姉ちゃん――、こんなこと、――」
「ホントに? うん――面白いね、――、憂のお姉ちゃんって――」
静かにしていようという決意も、唯先輩の名前が出れば別の話。
猫じゃらしを見せられた猫みたいに、私は憂にくらいついた。
「憂! もう一回聞かせて。唯先輩なんて言ったの?」
「う、うん。もう一回言うね」
「はあ、これだよ梓は。唯先輩のことになったら目の色変えてさ」
純は後ろを向き机に腰かけ、「お熱いことで」とつけ足した。
「ホントに? うん――面白いね、――、憂のお姉ちゃんって――」
静かにしていようという決意も、唯先輩の名前が出れば別の話。
猫じゃらしを見せられた猫みたいに、私は憂にくらいついた。
「憂! もう一回聞かせて。唯先輩なんて言ったの?」
「う、うん。もう一回言うね」
「はあ、これだよ梓は。唯先輩のことになったら目の色変えてさ」
純は後ろを向き机に腰かけ、「お熱いことで」とつけ足した。
18: 2011/10/30(日) 00:44:05.84 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
『ねえ梓、澪先輩に相談してみてどうだった?』
「うーん、そうだなあ……」
今日も純に電話、そして憂にはまだ打ち明けていない。
純と澪先輩に話してなにを今更と思うけど、
上手くいくまでは内緒にしておきたい。
ベッドに腰かけ、澪先輩との会話を思い出す。
結んだ髪をほどきながら、話を始めた。
「律先輩と澪先輩みたいになりたいな、って思った」
『は? それだけ? なにかアドバイスとかは?』
「それだけって、大事なことだよ。
澪先輩がアイスコーヒーを頼んでね、それは律先輩の影響だ、って言ってた」
『人選をまちがえたかな……』
「ずっと同じ時間過ごしてて、それで好みが重なってくるんだ、って」
『ねえ梓、澪先輩に相談してみてどうだった?』
「うーん、そうだなあ……」
今日も純に電話、そして憂にはまだ打ち明けていない。
純と澪先輩に話してなにを今更と思うけど、
上手くいくまでは内緒にしておきたい。
ベッドに腰かけ、澪先輩との会話を思い出す。
結んだ髪をほどきながら、話を始めた。
「律先輩と澪先輩みたいになりたいな、って思った」
『は? それだけ? なにかアドバイスとかは?』
「それだけって、大事なことだよ。
澪先輩がアイスコーヒーを頼んでね、それは律先輩の影響だ、って言ってた」
『人選をまちがえたかな……』
「ずっと同じ時間過ごしてて、それで好みが重なってくるんだ、って」
19: 2011/10/30(日) 00:45:48.17 ID:vLZ8LXsOo
律先輩と澪先輩、二人はただの幼なじみという関係ではないと思う。
親友という言葉では言い表せないほどの関係。
息を吸って一旦止め、「私は!」と強く前置きした。
声を張り上げて、叫ぶみたいに。
「唯先輩とそんな関係になりたいの!
同じ時間過ごしてお互い影響し合って!
どこまでが自分の範囲かわからなくなって――」
『ちょっと待ってよ! 梓、私に告白してどうするの?』
「あ、ごめん……純」
感情が激しくなり、心臓の鼓動が伝わってきた。
自分でも驚いている。
こんなに体が熱くなったり、いても立ってもいられなくなるなんて。
『……なんかうらやましいな、梓が』
親友という言葉では言い表せないほどの関係。
息を吸って一旦止め、「私は!」と強く前置きした。
声を張り上げて、叫ぶみたいに。
「唯先輩とそんな関係になりたいの!
同じ時間過ごしてお互い影響し合って!
どこまでが自分の範囲かわからなくなって――」
『ちょっと待ってよ! 梓、私に告白してどうするの?』
「あ、ごめん……純」
感情が激しくなり、心臓の鼓動が伝わってきた。
自分でも驚いている。
こんなに体が熱くなったり、いても立ってもいられなくなるなんて。
『……なんかうらやましいな、梓が』
20: 2011/10/30(日) 00:46:38.29 ID:vLZ8LXsOo
「え?」
なにがうらやましいんだろう、私にはわからない。
こんなに我を忘れて、声を張って、恥ずかしくて仕方ないのに。
『なんかね、梓イキイキしてる』
「そう?」
『……好きになっちゃうかも』
「かも……って。純、冗談やめてよ」
『こらこら、真面目に取っちゃだめだって』
私が好きなのは唯先輩だけなのに、そう言われても答えようがない。
なにがうらやましいんだろう、私にはわからない。
こんなに我を忘れて、声を張って、恥ずかしくて仕方ないのに。
『なんかね、梓イキイキしてる』
「そう?」
『……好きになっちゃうかも』
「かも……って。純、冗談やめてよ」
『こらこら、真面目に取っちゃだめだって』
私が好きなのは唯先輩だけなのに、そう言われても答えようがない。
21: 2011/10/30(日) 00:47:56.61 ID:vLZ8LXsOo
『ま、応援してるから。大丈夫、梓なら上手くいくよ』
気休めかもしれないし、根拠はないのかもしれない。
それでもよかった。
背中を押して欲しかっただけなんだから。
「……ありがと、純。気休めでもうれしいよ」
『気休めじゃないってば。ホントに』
「ごめんごめん」
なんだろう、本当に上手くいきそうな気がしてくる。
舞い上がっていると言えばそれまでだけど。
勢いがあるうちに言っておかないと、伝えられない気がする。
「決めた! 決めたから」
『え、なになに?』
「唯先輩に告白する」
気休めかもしれないし、根拠はないのかもしれない。
それでもよかった。
背中を押して欲しかっただけなんだから。
「……ありがと、純。気休めでもうれしいよ」
『気休めじゃないってば。ホントに』
「ごめんごめん」
なんだろう、本当に上手くいきそうな気がしてくる。
舞い上がっていると言えばそれまでだけど。
勢いがあるうちに言っておかないと、伝えられない気がする。
「決めた! 決めたから」
『え、なになに?』
「唯先輩に告白する」
22: 2011/10/30(日) 00:50:46.32 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
「お、あずにゃん! 偶然だねー」
本屋で唯先輩と出会うのはなかなか珍しい。
でも、隣に和先輩がいるということで、これなら可能性もあるなと思った。
「梓ちゃんは買い物?」
「はい、好きなバンドのスコア……楽譜のことです。
それを買いに来ました」
唯先輩に告白すると決めても、簡単に勇気が出るはずもなく。
だからといって落ち着くこともできず、本屋をうろうろしていた。
「へ~、あずにゃんは努力家だね。ところで楽譜は見つかった?」
「いえ、やっぱり本屋じゃなかなか見つかりません。楽器店に行ってみます」
和先輩がいなければ、このまま唯先輩と二人きりで楽器店に行けたのかも。
こんな意地の悪い考えが浮かんで、私は視線を足元に沈めた。
「ところでお二人とも買い物ですか?」
私は視線を戻し、ごまかすように質問をした。
「お、あずにゃん! 偶然だねー」
本屋で唯先輩と出会うのはなかなか珍しい。
でも、隣に和先輩がいるということで、これなら可能性もあるなと思った。
「梓ちゃんは買い物?」
「はい、好きなバンドのスコア……楽譜のことです。
それを買いに来ました」
唯先輩に告白すると決めても、簡単に勇気が出るはずもなく。
だからといって落ち着くこともできず、本屋をうろうろしていた。
「へ~、あずにゃんは努力家だね。ところで楽譜は見つかった?」
「いえ、やっぱり本屋じゃなかなか見つかりません。楽器店に行ってみます」
和先輩がいなければ、このまま唯先輩と二人きりで楽器店に行けたのかも。
こんな意地の悪い考えが浮かんで、私は視線を足元に沈めた。
「ところでお二人とも買い物ですか?」
私は視線を戻し、ごまかすように質問をした。
23: 2011/10/30(日) 00:51:48.30 ID:vLZ8LXsOo
唯先輩は和先輩の腕をとりながら、「へへ~」と明るい声を出す。
「今日はのどかちゃんとデートなのです」
平然と言いのけて、さらに和先輩とくっつく。
「こら、唯。買い物に来ただけでしょ」
和先輩はそう言うが振りはらうことはせず、唯先輩にまかせるような感じだ。
「……そうですか。私、お邪魔だったですか?」
この二人は『邪魔』だなんてほんの少しも思わないだろう。
それをわかっていながら口にした。
「全然、そんなこと思ってないよ」
「そうよ、よかったら私たちと来ない?」
私の悪意なんて見えないかのように誘ってくれた。
このまま帰ったら、嫌な気持ちを抱えたままになりそうだ。
「はい、よろしくお願いします」
「今日はのどかちゃんとデートなのです」
平然と言いのけて、さらに和先輩とくっつく。
「こら、唯。買い物に来ただけでしょ」
和先輩はそう言うが振りはらうことはせず、唯先輩にまかせるような感じだ。
「……そうですか。私、お邪魔だったですか?」
この二人は『邪魔』だなんてほんの少しも思わないだろう。
それをわかっていながら口にした。
「全然、そんなこと思ってないよ」
「そうよ、よかったら私たちと来ない?」
私の悪意なんて見えないかのように誘ってくれた。
このまま帰ったら、嫌な気持ちを抱えたままになりそうだ。
「はい、よろしくお願いします」
24: 2011/10/30(日) 00:53:51.51 ID:vLZ8LXsOo
三人で本屋を出て、次の目的地を話し合いながら歩く。
ぶらぶらしながら店を物色し、なにも買わずに時間を過ごす。
「はいはいはい、ここで提案があります!」
唯先輩が発表する小学生みたいに手を挙げた。
和先輩は「なに?」と、唯先輩に視線を送る。
「おなかを満たす必要があると思うのです」
「……要するに唯はファミレスに行きたいってことね」
和先輩は、「梓ちゃん、そういうことだから」と、顔を傾け腕時計を見つめる。
「そうね、ちょっと早いけどいいかしら?」
私は「わかりました、行きましょう」と答えて、二人について行くことにした。
ぶらぶらしながら店を物色し、なにも買わずに時間を過ごす。
「はいはいはい、ここで提案があります!」
唯先輩が発表する小学生みたいに手を挙げた。
和先輩は「なに?」と、唯先輩に視線を送る。
「おなかを満たす必要があると思うのです」
「……要するに唯はファミレスに行きたいってことね」
和先輩は、「梓ちゃん、そういうことだから」と、顔を傾け腕時計を見つめる。
「そうね、ちょっと早いけどいいかしら?」
私は「わかりました、行きましょう」と答えて、二人について行くことにした。
25: 2011/10/30(日) 00:54:58.71 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
お昼にはまだ早い時間帯だったので、店内にそれほど人はいない。
店員さんに、「こちらの席へどうぞ」と案内され、ボックス席へ向かう。
唯先輩と和先輩が隣同士、私はその向かいに座った。
「あずにゃんはなに食べるの?」
「そうですね――、唯先輩は決まりましたか?」
「うん、わたしはミートソーススパゲティにする。あとストロベリーパフェ」
ここのパフェはかなりのボリュームみたいだけど、
一人で食べきれるのか心配だ。
そう思いつつ、「和先輩はどうします?」と話を振った。
「そうね、私は……カキフライ定食にするわ」
ファミレスには若干違和感のあるメニュー。
唯先輩は、「のどかちゃんはひと味違いますなぁ」と納得済みの顔だ。
「ところで梓ちゃんは?」
「私は……トマトソーススパゲティと、チーズケーキにします」
和先輩は、「それじゃ呼ぶわね」と呼び鈴を鳴らした。
お昼にはまだ早い時間帯だったので、店内にそれほど人はいない。
店員さんに、「こちらの席へどうぞ」と案内され、ボックス席へ向かう。
唯先輩と和先輩が隣同士、私はその向かいに座った。
「あずにゃんはなに食べるの?」
「そうですね――、唯先輩は決まりましたか?」
「うん、わたしはミートソーススパゲティにする。あとストロベリーパフェ」
ここのパフェはかなりのボリュームみたいだけど、
一人で食べきれるのか心配だ。
そう思いつつ、「和先輩はどうします?」と話を振った。
「そうね、私は……カキフライ定食にするわ」
ファミレスには若干違和感のあるメニュー。
唯先輩は、「のどかちゃんはひと味違いますなぁ」と納得済みの顔だ。
「ところで梓ちゃんは?」
「私は……トマトソーススパゲティと、チーズケーキにします」
和先輩は、「それじゃ呼ぶわね」と呼び鈴を鳴らした。
26: 2011/10/30(日) 00:55:58.85 ID:vLZ8LXsOo
「唯、大丈夫なの?」
オーダーを取ったあと、和先輩が水を飲みながら声を出す。
唯先輩も水を飲みながら「ん?」と答える。
「パフェのことですか? 私たちも手伝いましょう」
私がそう言うと、和先輩が「違うわ」と、唯先輩の白いブラウスに目をやった。
「そんな白い服着て、ミートソースだなんて……。帰ったらすぐ洗濯するのよ」
「もう汚すこと前提? のどかちゃん厳しいよ……」
相変わらずこの二人は微笑ましい。
そう思うと同時に壁のような存在を感じている。
幼なじみと先輩後輩、長い年月という壁を。
そんなことを考えながら二人を見つめていると、
水を飲むタイミングが重なっていることに気づいた。
二人が一瞬見つめあったように見えたけど、錯覚かもしれない。
こんなのは日常茶飯事で、特別なことではないんだろう。
気にしてるのは私だけ。
オーダーを取ったあと、和先輩が水を飲みながら声を出す。
唯先輩も水を飲みながら「ん?」と答える。
「パフェのことですか? 私たちも手伝いましょう」
私がそう言うと、和先輩が「違うわ」と、唯先輩の白いブラウスに目をやった。
「そんな白い服着て、ミートソースだなんて……。帰ったらすぐ洗濯するのよ」
「もう汚すこと前提? のどかちゃん厳しいよ……」
相変わらずこの二人は微笑ましい。
そう思うと同時に壁のような存在を感じている。
幼なじみと先輩後輩、長い年月という壁を。
そんなことを考えながら二人を見つめていると、
水を飲むタイミングが重なっていることに気づいた。
二人が一瞬見つめあったように見えたけど、錯覚かもしれない。
こんなのは日常茶飯事で、特別なことではないんだろう。
気にしてるのは私だけ。
27: 2011/10/30(日) 00:58:14.78 ID:vLZ8LXsOo
「ふう、お腹一杯です」
なんとかストロベリーパフェを片づけ、ひと息つくことができた。
目の前には空になった容器、涼しい顔をした和先輩、ぐったりしている唯先輩。
「うう、苦しい……」
「唯、大丈夫?」
心配そうにしている和先輩を見て、私はある考えを思いついた。
これ以上二人を見ていると、胸が苦しくなってしまうから。
いつもならなにも思わないのに。
なんだろう、この気持ちは。
「和先輩、唯先輩を家まで送ってあげてください」
もういいんだ、告白なんて。
唯先輩には和先輩がいる、私は隣にいられない。
なんとかストロベリーパフェを片づけ、ひと息つくことができた。
目の前には空になった容器、涼しい顔をした和先輩、ぐったりしている唯先輩。
「うう、苦しい……」
「唯、大丈夫?」
心配そうにしている和先輩を見て、私はある考えを思いついた。
これ以上二人を見ていると、胸が苦しくなってしまうから。
いつもならなにも思わないのに。
なんだろう、この気持ちは。
「和先輩、唯先輩を家まで送ってあげてください」
もういいんだ、告白なんて。
唯先輩には和先輩がいる、私は隣にいられない。
28: 2011/10/30(日) 00:59:11.72 ID:vLZ8LXsOo
「それじゃ梓ちゃん、私たちは帰るわね」
「はい、唯先輩をお願いします」
「うっぷ、あずにゃんもお達者で……」
二重の意味でお願いしますと、言ったつもりだ。
和先輩は唯先輩の背中をさすりながら、二人は遠ざかっていく。
ファミレスの前、残ったのは私一人。
楽器店でスコアを買おう。
そう思って来た道を引き返すことにした。
もともとそういう予定だったんだ。
偶然二人に出会って食事をした、ただそれだけ。
「はい、唯先輩をお願いします」
「うっぷ、あずにゃんもお達者で……」
二重の意味でお願いしますと、言ったつもりだ。
和先輩は唯先輩の背中をさすりながら、二人は遠ざかっていく。
ファミレスの前、残ったのは私一人。
楽器店でスコアを買おう。
そう思って来た道を引き返すことにした。
もともとそういう予定だったんだ。
偶然二人に出会って食事をした、ただそれだけ。
29: 2011/10/30(日) 01:00:08.52 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
とりあえず楽器店に入り、目当てのスコアを見つけた。
特別欲しかったわけじゃない。
唯先輩と来れなかった以上どちらでもよかった。
あとはなにか買おうか、そう思っていろいろと物色することにした。
唯先輩は太めの弦使ってたな、とか。
このピックは唯先輩が気に入りそうだな、とか。
楽器店に来て唯先輩のことばかり考える。
今までこんなことはなかった。
二人で来たかった。
私が弦やピックを選んであげたかった。
それを唯先輩に使ってもらって、演奏して欲しかった。
いつか考えた『自分の範囲』というのを、唯先輩にまで広げたかったんだろう。
私は独占欲が強かったらしい。
唯先輩を好きになってようやく気がついた。
もういいんだ、唯先輩と私は先輩後輩なんだから。
特別な関係でもなんでもない。
とりあえず楽器店に入り、目当てのスコアを見つけた。
特別欲しかったわけじゃない。
唯先輩と来れなかった以上どちらでもよかった。
あとはなにか買おうか、そう思っていろいろと物色することにした。
唯先輩は太めの弦使ってたな、とか。
このピックは唯先輩が気に入りそうだな、とか。
楽器店に来て唯先輩のことばかり考える。
今までこんなことはなかった。
二人で来たかった。
私が弦やピックを選んであげたかった。
それを唯先輩に使ってもらって、演奏して欲しかった。
いつか考えた『自分の範囲』というのを、唯先輩にまで広げたかったんだろう。
私は独占欲が強かったらしい。
唯先輩を好きになってようやく気がついた。
もういいんだ、唯先輩と私は先輩後輩なんだから。
特別な関係でもなんでもない。
30: 2011/10/30(日) 01:01:50.41 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
「――そういうわけで、すいません律先輩。
――――はい、――ありがとうございます」
通話を切って携帯を閉じ机に置く。
学校を休むため担任に連絡したあと、
部活を休むため律先輩に連絡を入れた。
「はあ、風邪ひくなんて……」
ベッドにうつ伏せになり顔を枕に押しつける。
ぼうっとした頭ではロクな考えも浮かばない。
ショックな出来事があったわけじゃない。
勝手に舞い上がって勝手に落ち込んだだけ。
唯先輩と私の関係は先輩後輩、それ以上でも以下でもない。
「――そういうわけで、すいません律先輩。
――――はい、――ありがとうございます」
通話を切って携帯を閉じ机に置く。
学校を休むため担任に連絡したあと、
部活を休むため律先輩に連絡を入れた。
「はあ、風邪ひくなんて……」
ベッドにうつ伏せになり顔を枕に押しつける。
ぼうっとした頭ではロクな考えも浮かばない。
ショックな出来事があったわけじゃない。
勝手に舞い上がって勝手に落ち込んだだけ。
唯先輩と私の関係は先輩後輩、それ以上でも以下でもない。
31: 2011/10/30(日) 01:03:23.90 ID:vLZ8LXsOo
窓から差しこむ日差しが少し弱くなってきた。
携帯のディスプレイで時間を確認する。
授業はすでに終わって放課後の時間帯だ。
練習は始まっていないだろう、まだティータイムをしているはず。
「先輩たちどうしてるんだろ……」
ずっと寝ているのは退屈だ、考えもぐるぐるしてしまう。
とはいえ出かける元気なんてない、精神的にも肉体的にも。
今にして思えば、あのティータイムが元気をくれてたんだな、と感じる。
真面目と思われる澪先輩もなじんでいた。
そしてムギ先輩がティータイムの張本人。
ふいにメールの受信音が鳴り、机に手を伸ばし携帯を取った。
ディスプレイに映し出された文字は『ムギ先輩』だ。
受信箱を開くと、『今から梓ちゃんの家に行っていいかしら?』と表示されている。
携帯のディスプレイで時間を確認する。
授業はすでに終わって放課後の時間帯だ。
練習は始まっていないだろう、まだティータイムをしているはず。
「先輩たちどうしてるんだろ……」
ずっと寝ているのは退屈だ、考えもぐるぐるしてしまう。
とはいえ出かける元気なんてない、精神的にも肉体的にも。
今にして思えば、あのティータイムが元気をくれてたんだな、と感じる。
真面目と思われる澪先輩もなじんでいた。
そしてムギ先輩がティータイムの張本人。
ふいにメールの受信音が鳴り、机に手を伸ばし携帯を取った。
ディスプレイに映し出された文字は『ムギ先輩』だ。
受信箱を開くと、『今から梓ちゃんの家に行っていいかしら?』と表示されている。
32: 2011/10/30(日) 01:04:28.82 ID:vLZ8LXsOo
それからしばらくして、ムギ先輩が家にやって来た。
玄関で出迎え、そのまま部屋へと案内する。
「おじゃまします。これが梓ちゃんの部屋ね」
「おもてなしできなくてすいません」
ムギ先輩は、「ううん、いいのよ」と、辺りをキョロキョロしている。
本棚の上のぬいぐるみ、机、カレンダー、他にもいろいろ。
どんな物でも好奇心一杯の目で見つめる。
一体どんな世界が写っているんだろう、ムギ先輩の目には。
「イスに座っていいかしら?
それと、窓開けていい? 空気入れかえなくちゃ」
そう聞かれたので、「遠慮なくどうぞ」と返した。
玄関で出迎え、そのまま部屋へと案内する。
「おじゃまします。これが梓ちゃんの部屋ね」
「おもてなしできなくてすいません」
ムギ先輩は、「ううん、いいのよ」と、辺りをキョロキョロしている。
本棚の上のぬいぐるみ、机、カレンダー、他にもいろいろ。
どんな物でも好奇心一杯の目で見つめる。
一体どんな世界が写っているんだろう、ムギ先輩の目には。
「イスに座っていいかしら?
それと、窓開けていい? 空気入れかえなくちゃ」
そう聞かれたので、「遠慮なくどうぞ」と返した。
33: 2011/10/30(日) 01:07:29.88 ID:vLZ8LXsOo
風は窓の隙間から通り、ピンク色のカーテンをわずかにゆらす。
「今日はケーキを持ってきたの。
梓ちゃん、ショートケーキが好きみたいだから」
ムギ先輩は机の上にコトンと箱を置き、その隣に水筒を置いた。
まるで陶磁器のような白さで、花柄で彩られている。
「その水筒にはなにが?」
ムギ先輩の表情は、『よくぞ聞いてくれました』と語っているみたいだ。
「紅茶よ。アールグレイ」
「水筒なんて持ち歩いてました?」
「家に帰って持って来たの」
ムギ先輩は電車で通学しているはず、それなのにわざわざ家から持って来たなんて。
どんな気分で電車に乗ったんだろう、なにを思って私の家に来たんだろう。
「今日はケーキを持ってきたの。
梓ちゃん、ショートケーキが好きみたいだから」
ムギ先輩は机の上にコトンと箱を置き、その隣に水筒を置いた。
まるで陶磁器のような白さで、花柄で彩られている。
「その水筒にはなにが?」
ムギ先輩の表情は、『よくぞ聞いてくれました』と語っているみたいだ。
「紅茶よ。アールグレイ」
「水筒なんて持ち歩いてました?」
「家に帰って持って来たの」
ムギ先輩は電車で通学しているはず、それなのにわざわざ家から持って来たなんて。
どんな気分で電車に乗ったんだろう、なにを思って私の家に来たんだろう。
34: 2011/10/30(日) 01:08:46.55 ID:vLZ8LXsOo
「できればティーセットも持って来たかったな」と、ムギ先輩。
「そんなに気をつかわなくても、すごくうれしいです」
ベッドに腰かけながらそう答え、イスに座るムギ先輩に視線を向けた。
風がやさしく流れ、部屋の空気を入れ替えてくれる。
「今日はありがとうございます」
「どういたしまして、喜んでくれてなによりね」
ムギ先輩はわずかに視線をそらし、「唯ちゃんすごく心配してたから」とつぶやく。
心配してたと聞いて、私はうれしかったけど。
それと同時に複雑な感情も渦巻いた。
「……そうですか」
「どうかしたの? 梓ちゃん」
私はうつむき、「どうもしてないです」と答えた。
「そんなに気をつかわなくても、すごくうれしいです」
ベッドに腰かけながらそう答え、イスに座るムギ先輩に視線を向けた。
風がやさしく流れ、部屋の空気を入れ替えてくれる。
「今日はありがとうございます」
「どういたしまして、喜んでくれてなによりね」
ムギ先輩はわずかに視線をそらし、「唯ちゃんすごく心配してたから」とつぶやく。
心配してたと聞いて、私はうれしかったけど。
それと同時に複雑な感情も渦巻いた。
「……そうですか」
「どうかしたの? 梓ちゃん」
私はうつむき、「どうもしてないです」と答えた。
35: 2011/10/30(日) 01:09:32.56 ID:vLZ8LXsOo
差し込む日差しが弱くなっている、日はだいぶ傾いているだろう。
私は顔を上げることができず、ムギ先輩を視界からそらし続けた。
「梓ちゃん……? 悩みがあったら、なんでも言ってね。
私でよければ……力になるから」
頼もしいけど、どうすることもできない。
唯先輩と私、親密に見えて埋められない時間がある。
律先輩と澪先輩みたいにはなれないんだ。
「えっと、梓ちゃん?」
「……唯先輩には、もう……いるんです」
「え……?」
抑えれきれなかった。
黙っていればいいのに、それができない。
私は顔を上げることができず、ムギ先輩を視界からそらし続けた。
「梓ちゃん……? 悩みがあったら、なんでも言ってね。
私でよければ……力になるから」
頼もしいけど、どうすることもできない。
唯先輩と私、親密に見えて埋められない時間がある。
律先輩と澪先輩みたいにはなれないんだ。
「えっと、梓ちゃん?」
「……唯先輩には、もう……いるんです」
「え……?」
抑えれきれなかった。
黙っていればいいのに、それができない。
36: 2011/10/30(日) 01:11:26.29 ID:vLZ8LXsOo
「唯先輩には……幼なじみが…………、和先輩が……。
……もういるから、私じゃダメなんです……」
目から涙があふれ、膝の上に置かれた手を濡らす。
言葉が詰まり、何度もしゃくり上げた。
「あの……、梓ちゃん……。落ち着いて、ね」
「……唯先輩が、好きなんです。
他の人より何十倍も何百倍も好き……。
違います……、そもそも先輩後輩としての『好き』じゃないんです」
どうして好きになってしまったんだろう、
ただ苦しいだけなのに。
こんな思いをしてまで好きでいたくない。
……もういるから、私じゃダメなんです……」
目から涙があふれ、膝の上に置かれた手を濡らす。
言葉が詰まり、何度もしゃくり上げた。
「あの……、梓ちゃん……。落ち着いて、ね」
「……唯先輩が、好きなんです。
他の人より何十倍も何百倍も好き……。
違います……、そもそも先輩後輩としての『好き』じゃないんです」
どうして好きになってしまったんだろう、
ただ苦しいだけなのに。
こんな思いをしてまで好きでいたくない。
37: 2011/10/30(日) 01:12:35.42 ID:vLZ8LXsOo
「気づかなければよかった……。
『好き』なんて気持ち……知らなければよかったんです」
せっかくムギ先輩が来てくれたのに、
こんな後ろ向きの感情を吐き出してしまった。
謝ることもできず泣きじゃくるばかり。
そうしていると、ムギ先輩は私の目にハンカチを当ててくれた。
やさしく涙を拭いてくれて、濡れた手の甲まで拭いてくれて。
そのうえ、「そんなことないわよ」と、私を肯定する言葉までくれた。
ゆっくり目を開くと、カーペットの上に正座している姿が見える。
ムギ先輩はハンカチを手に持ちながら、「私ね……」と前置きし、
子どもに絵本を読むみたいに話し始めた。
「軽音部のだれにも負けないことがあるの。
梓ちゃん、わかる?」
『好き』なんて気持ち……知らなければよかったんです」
せっかくムギ先輩が来てくれたのに、
こんな後ろ向きの感情を吐き出してしまった。
謝ることもできず泣きじゃくるばかり。
そうしていると、ムギ先輩は私の目にハンカチを当ててくれた。
やさしく涙を拭いてくれて、濡れた手の甲まで拭いてくれて。
そのうえ、「そんなことないわよ」と、私を肯定する言葉までくれた。
ゆっくり目を開くと、カーペットの上に正座している姿が見える。
ムギ先輩はハンカチを手に持ちながら、「私ね……」と前置きし、
子どもに絵本を読むみたいに話し始めた。
「軽音部のだれにも負けないことがあるの。
梓ちゃん、わかる?」
38: 2011/10/30(日) 01:14:00.76 ID:vLZ8LXsOo
私は返事をする代わりに首を横に振った。
財力でないのは明らかだけど、それがなにかはわからない。
「……それはね、『軽音部に入ってよかった』っていう気持ちなの」
ムギ先輩は足を崩し、スカートの折り目を整え座りなおした。
胸に手を当て歌い上げるような仕草をして、上目遣いで私を見つめる。
「この話って梓ちゃんにしたかしら?
最初ね、軽音部じゃなくて合唱部に入るつもりだったの。
それで見学に行ったんだけど――」
一旦言葉を区切り、私の目を見たまま表情をやわらかく崩す。
私もじっと座ったまま、相槌も入れずに聞いていた。
「――そのとき、りっちゃんと澪ちゃんに初めて会ってね。
それで勧誘されて今に至る、ってわけ」
しばらく沈黙が続き、ムギ先輩が訴えかけるような目線を寄こす。
静けさが逆に心地よかった。
私が言うべき言葉も、ムギ先輩が待っている言葉も、すでに決まっていたから。
「……私もムギ先輩と同じです、軽音部に入ってよかった……。
最初は迷いました。こんなに不真面目でいいのかな、って。
でもやっぱり、この人たちと演奏したいな……って思ったんです」
財力でないのは明らかだけど、それがなにかはわからない。
「……それはね、『軽音部に入ってよかった』っていう気持ちなの」
ムギ先輩は足を崩し、スカートの折り目を整え座りなおした。
胸に手を当て歌い上げるような仕草をして、上目遣いで私を見つめる。
「この話って梓ちゃんにしたかしら?
最初ね、軽音部じゃなくて合唱部に入るつもりだったの。
それで見学に行ったんだけど――」
一旦言葉を区切り、私の目を見たまま表情をやわらかく崩す。
私もじっと座ったまま、相槌も入れずに聞いていた。
「――そのとき、りっちゃんと澪ちゃんに初めて会ってね。
それで勧誘されて今に至る、ってわけ」
しばらく沈黙が続き、ムギ先輩が訴えかけるような目線を寄こす。
静けさが逆に心地よかった。
私が言うべき言葉も、ムギ先輩が待っている言葉も、すでに決まっていたから。
「……私もムギ先輩と同じです、軽音部に入ってよかった……。
最初は迷いました。こんなに不真面目でいいのかな、って。
でもやっぱり、この人たちと演奏したいな……って思ったんです」
39: 2011/10/30(日) 01:15:47.72 ID:vLZ8LXsOo
ひとつ気づいたことがある、ムギ先輩と私は似ているということを。
新しい環境に飛び込んで充実感を得ている。
他の先輩たちと違うわけじゃない、『よかった』という気持ちが大きいだけ。
「ねえ、梓ちゃん。これからも素敵なことが一杯あるわ。
思いきって飛び込んで、それが今につながってるの」
窓の隙間から、風が入り込んでくる。
さっきよりも少し冷たい風が。
「だからね……梓ちゃん、『好き』って気持ちを伝えてみたらどうかしら?
伝わったらすごく、素敵なことだと思うの」
「そう……、でしょうか?」
私の問いに笑顔で返し、スッと立ち上がり窓に手をかけた。
「ちょっと冷えてきたかしら。
換気も必要だけど、体冷やすとよくないわね」
新しい環境に飛び込んで充実感を得ている。
他の先輩たちと違うわけじゃない、『よかった』という気持ちが大きいだけ。
「ねえ、梓ちゃん。これからも素敵なことが一杯あるわ。
思いきって飛び込んで、それが今につながってるの」
窓の隙間から、風が入り込んでくる。
さっきよりも少し冷たい風が。
「だからね……梓ちゃん、『好き』って気持ちを伝えてみたらどうかしら?
伝わったらすごく、素敵なことだと思うの」
「そう……、でしょうか?」
私の問いに笑顔で返し、スッと立ち上がり窓に手をかけた。
「ちょっと冷えてきたかしら。
換気も必要だけど、体冷やすとよくないわね」
40: 2011/10/30(日) 01:16:26.99 ID:vLZ8LXsOo
ムギ先輩は窓を閉めて鍵をかけ、続けてカーテンを静かに閉めた。
「梓ちゃん、風邪は大丈夫?」と、私のほうに向き直る。
「はい、大丈夫です。明日には学校と部活に行けます」
「よかったわ、ひと安心ね」
ムギ先輩はそう言って、再びカーペットに座った。
風邪はよくなっていた、というよりたいした風邪じゃなかった。
少し弱気になっていただけ、気にするほどの症状でもない。
「……でも」
「でも?」
私の顔をのぞきこみ、不思議そうな表情で声を出した。
「梓ちゃん、風邪は大丈夫?」と、私のほうに向き直る。
「はい、大丈夫です。明日には学校と部活に行けます」
「よかったわ、ひと安心ね」
ムギ先輩はそう言って、再びカーペットに座った。
風邪はよくなっていた、というよりたいした風邪じゃなかった。
少し弱気になっていただけ、気にするほどの症状でもない。
「……でも」
「でも?」
私の顔をのぞきこみ、不思議そうな表情で声を出した。
41: 2011/10/30(日) 01:17:20.56 ID:vLZ8LXsOo
頬を両手で触れると、かすかに熱を感じた。
「まだ、顔は熱いし……」
首元に触れると、血管が脈を打っているのがわかる。
「心臓も、どきどきしてます……」
私の手のひらが、体の変化を読み取っていた。
それは、心の変化と呼ぶべきかもしれない。
どちらにしても、数日前とは全く違う。
確かな変化を感じていた。
「こうなったのは……、唯先輩のせいなんです。
私に抱きついて、頬ずりしてきて。
いつも『やめてください』って言ってるのに、やめなくて……」
ムギ先輩はじっと聞いてくれている。
子どもを見守る母親みたいに。
「……でも、本当は……やめて欲しくなくて。
素直に、言えなくて……」
「まだ、顔は熱いし……」
首元に触れると、血管が脈を打っているのがわかる。
「心臓も、どきどきしてます……」
私の手のひらが、体の変化を読み取っていた。
それは、心の変化と呼ぶべきかもしれない。
どちらにしても、数日前とは全く違う。
確かな変化を感じていた。
「こうなったのは……、唯先輩のせいなんです。
私に抱きついて、頬ずりしてきて。
いつも『やめてください』って言ってるのに、やめなくて……」
ムギ先輩はじっと聞いてくれている。
子どもを見守る母親みたいに。
「……でも、本当は……やめて欲しくなくて。
素直に、言えなくて……」
42: 2011/10/30(日) 01:19:24.84 ID:vLZ8LXsOo
歪んだ視界の中で、ムギ先輩が私に手を伸ばす。
ハンカチで目を拭かれ、自分がまた泣いていることに気づく。
「……ありがとうございます」
震える声でそう答えた。
ムギ先輩は手を引っ込め、ハンカチをたたみながら、私に笑顔を向ける。
その表情は、『よく言えました、頑張ったわね』と私に伝えているみたいだ。
ハンカチをたたみ終わり、次は私に話しかける。
「私ね……、今ちょっと、梓ちゃんがうらやましいかも」
その言葉は、私に「え?」と、間の抜けた声を出させた。
こんなことを言われたのは純に続いて二人目だ。
「どうしてですか?」
「だって……梓ちゃん素直になってるから。
あ、普段は素直じゃない、って意味じゃないのよ」
ムギ先輩は両手を開いて、目の前で否定するように手を振っている。
「確かに、普段は素直じゃないです。
でも……今回は、特別ですから」
ハンカチで目を拭かれ、自分がまた泣いていることに気づく。
「……ありがとうございます」
震える声でそう答えた。
ムギ先輩は手を引っ込め、ハンカチをたたみながら、私に笑顔を向ける。
その表情は、『よく言えました、頑張ったわね』と私に伝えているみたいだ。
ハンカチをたたみ終わり、次は私に話しかける。
「私ね……、今ちょっと、梓ちゃんがうらやましいかも」
その言葉は、私に「え?」と、間の抜けた声を出させた。
こんなことを言われたのは純に続いて二人目だ。
「どうしてですか?」
「だって……梓ちゃん素直になってるから。
あ、普段は素直じゃない、って意味じゃないのよ」
ムギ先輩は両手を開いて、目の前で否定するように手を振っている。
「確かに、普段は素直じゃないです。
でも……今回は、特別ですから」
43: 2011/10/30(日) 01:20:39.64 ID:vLZ8LXsOo
ムギ先輩は、「否定しないのね」とひとこと。
私は軽くうなづき、「唯先輩が好きですから」と、つけ加えた。
「人って――、恋をしたら素直になれるのかもね」
なんてことを言うんだろう、この人は。
もう顔を触らなくてもわかる。
熱を帯び、赤面しているに違いない。
「恥ずかしいこと言わないでください!」
素直にだなんて、そんな言葉は似合わない。
ただ、気持ちを吐き出しただけ。
唯先輩にではなく他の人へ。
「抑えきれなかっただけです」
純、澪先輩、ムギ先輩。
少しずつ打ち明けてきたけど、その場しのぎに過ぎなかった。
本人に言わないことには、なにも始まらない。
私は軽くうなづき、「唯先輩が好きですから」と、つけ加えた。
「人って――、恋をしたら素直になれるのかもね」
なんてことを言うんだろう、この人は。
もう顔を触らなくてもわかる。
熱を帯び、赤面しているに違いない。
「恥ずかしいこと言わないでください!」
素直にだなんて、そんな言葉は似合わない。
ただ、気持ちを吐き出しただけ。
唯先輩にではなく他の人へ。
「抑えきれなかっただけです」
純、澪先輩、ムギ先輩。
少しずつ打ち明けてきたけど、その場しのぎに過ぎなかった。
本人に言わないことには、なにも始まらない。
44: 2011/10/30(日) 01:21:32.04 ID:vLZ8LXsOo
「それで梓ちゃん、どうするの?」
「もう、決まってます」
唯先輩に告白しよう。
諦めかけてたけどちゃんと伝えないと。
「ムギ先輩に話したら……、スッキリしたっていうか、勢いがついた感じです」
「少しでも役に立てたのなら、うれしいわ。
それで、私にできることってないかしら」
「たいしたお願いじゃないんですけど――」
ムギ先輩には偶然を起こしてもらおう。
待ってるだけじゃ、なにも始まらないから。
「もう、決まってます」
唯先輩に告白しよう。
諦めかけてたけどちゃんと伝えないと。
「ムギ先輩に話したら……、スッキリしたっていうか、勢いがついた感じです」
「少しでも役に立てたのなら、うれしいわ。
それで、私にできることってないかしら」
「たいしたお願いじゃないんですけど――」
ムギ先輩には偶然を起こしてもらおう。
待ってるだけじゃ、なにも始まらないから。
45: 2011/10/30(日) 01:22:20.79 ID:vLZ8LXsOo
――――――――――――――――
「……唯先輩って――、いえ……なんでもないです」
部室に人がいないと広く感じる。
このあいだはそう思っていた。
二人でベンチに腰かけ、他の先輩たちを待っている。
私の右隣には唯先輩、距離は一人分ほど。
体をひねり視線を唯先輩に移すと、部室が狭く思えた。
律先輩のドラムセットも、落書きされたホワイトボードも、
ティータイムの机も、憂が弾いたオルガンも、全部見えなくなって。
まるで、私と唯先輩のまわりだけ、
世界から切り取られてしまったみたいに。
「ん……、あずにゃん? どうしたの?」
「……唯先輩って――、いえ……なんでもないです」
部室に人がいないと広く感じる。
このあいだはそう思っていた。
二人でベンチに腰かけ、他の先輩たちを待っている。
私の右隣には唯先輩、距離は一人分ほど。
体をひねり視線を唯先輩に移すと、部室が狭く思えた。
律先輩のドラムセットも、落書きされたホワイトボードも、
ティータイムの机も、憂が弾いたオルガンも、全部見えなくなって。
まるで、私と唯先輩のまわりだけ、
世界から切り取られてしまったみたいに。
「ん……、あずにゃん? どうしたの?」
46: 2011/10/30(日) 01:23:43.27 ID:vLZ8LXsOo
部室で二人きりになれるように、ムギ先輩に頼んで、
律先輩と澪先輩を引き止めてもらっている。
唯先輩には偶然と思えるように。
「他の先輩方来ませんね、どうしたんでしょう?」
「んー、みんなはね。クラスの手伝いするみたい。
ムギちゃんから聞いたよ」
どうやら上手く話してくれたみたいだ。
ムギ先輩には『ありがとうございます』と、
律先輩と澪先輩には『すいません』と、
それぞれ心の中で伝えた。
「また二人っきりだね、あずにゃん」
律先輩と澪先輩を引き止めてもらっている。
唯先輩には偶然と思えるように。
「他の先輩方来ませんね、どうしたんでしょう?」
「んー、みんなはね。クラスの手伝いするみたい。
ムギちゃんから聞いたよ」
どうやら上手く話してくれたみたいだ。
ムギ先輩には『ありがとうございます』と、
律先輩と澪先輩には『すいません』と、
それぞれ心の中で伝えた。
「また二人っきりだね、あずにゃん」
47: 2011/10/30(日) 01:24:37.05 ID:vLZ8LXsOo
「そうですね、ところで唯先輩――」
まだ言うには早い、さり気なく伝えようか。
「あずにゃん?」
それとも、しっかりと向き合って伝えようか。
「えっと、ですね。その……」
「どうしたの?」
思わず顔を背け、両手をぎゅっと握り、全身が緊張して動けなくなった。
「もしかして……、カゼ治ってないの?
だったらみんなに言っとくから、
帰ったほうがいいかも……。わたし送ってくよ」
私は「違います」と首を横に振り、また沈黙した。
まだ言うには早い、さり気なく伝えようか。
「あずにゃん?」
それとも、しっかりと向き合って伝えようか。
「えっと、ですね。その……」
「どうしたの?」
思わず顔を背け、両手をぎゅっと握り、全身が緊張して動けなくなった。
「もしかして……、カゼ治ってないの?
だったらみんなに言っとくから、
帰ったほうがいいかも……。わたし送ってくよ」
私は「違います」と首を横に振り、また沈黙した。
48: 2011/10/30(日) 01:26:19.78 ID:vLZ8LXsOo
「もしかして、怒らせること言っちゃったかな?
そうだったら……ごめん、あずにゃん」
唯先輩は困ったような声で、そうつぶやく。
私との距離を測りかねているみたいに。
「……唯先輩はそんなこと言いません」
「だったら――」
唯先輩は身を乗りだし、一瞬たじろいだ。
二人のあいだに見えない壁があって、ぶつかるのを避けるみたいに。
手を伸ばせば触れる距離なのに、ちっとも届く気がしない。
そうだったら……ごめん、あずにゃん」
唯先輩は困ったような声で、そうつぶやく。
私との距離を測りかねているみたいに。
「……唯先輩はそんなこと言いません」
「だったら――」
唯先輩は身を乗りだし、一瞬たじろいだ。
二人のあいだに見えない壁があって、ぶつかるのを避けるみたいに。
手を伸ばせば触れる距離なのに、ちっとも届く気がしない。
49: 2011/10/30(日) 01:26:57.73 ID:vLZ8LXsOo
そう思っていたのに、唯先輩は両手を伸ばしてきた。
私の肩に手を置き、悲しそうな目で見つめてくる。
その目は、『お願いだから話して』と語りかけているみたいだ。
たった二文字。
いや、先輩に対してだから四文字。
それを言うために悩んで、相談して、くじけそうになって、また勇気を出して。
ひとこと伝えるだけなのに。
そんな簡単なことができないなんて。
自分が情けなかった。
私の震えが唯先輩に伝わり、ますます心配そうな目を向けてくる。
私の肩に手を置き、悲しそうな目で見つめてくる。
その目は、『お願いだから話して』と語りかけているみたいだ。
たった二文字。
いや、先輩に対してだから四文字。
それを言うために悩んで、相談して、くじけそうになって、また勇気を出して。
ひとこと伝えるだけなのに。
そんな簡単なことができないなんて。
自分が情けなかった。
私の震えが唯先輩に伝わり、ますます心配そうな目を向けてくる。
50: 2011/10/30(日) 01:27:47.84 ID:vLZ8LXsOo
「……唯先輩。怖いんです……。
言ったら嫌われるかも、軽音部にいづらくなるかも。
そんなことばかり考えてて、
もうちょっとなのに……勇気が、出なくて……」
唯先輩は体を近づけ、顔を私の左側に寄せる。
そのまま背中に両腕を回し、抱きしめてくれた。
いつものような強い抱擁とは違って、包み込むみたいに。
私の耳に、「あずにゃん」と言う声が飛び込んでくる。
それから、「大丈夫だよ」と言う声が飛び込んできた。
「わたしは……あずにゃんを嫌ったりしないよ、絶対。
軽音部のみんなも、そんなこと思ったりしないから」
言ったら嫌われるかも、軽音部にいづらくなるかも。
そんなことばかり考えてて、
もうちょっとなのに……勇気が、出なくて……」
唯先輩は体を近づけ、顔を私の左側に寄せる。
そのまま背中に両腕を回し、抱きしめてくれた。
いつものような強い抱擁とは違って、包み込むみたいに。
私の耳に、「あずにゃん」と言う声が飛び込んでくる。
それから、「大丈夫だよ」と言う声が飛び込んできた。
「わたしは……あずにゃんを嫌ったりしないよ、絶対。
軽音部のみんなも、そんなこと思ったりしないから」
51: 2011/10/30(日) 01:28:53.87 ID:vLZ8LXsOo
抱き合ったまま、顔は見えない。
ベンチと壁と床しか見えず、唯先輩も似たようなものだろう。
「……はい」
目を合わせなければ言えると思った。
人の目を見て話さないなんて失礼な行為だけど。
でも、そうしないと言えそうになかった。
目を合わせたら、きっと伝えられない。
私は目を閉じて、両腕を唯先輩の腰に回して抱きしめた。
雪山で遭難した人間が、救助してくれた人間に感謝するみたいに。
「すき……、です…………」
ベンチと壁と床しか見えず、唯先輩も似たようなものだろう。
「……はい」
目を合わせなければ言えると思った。
人の目を見て話さないなんて失礼な行為だけど。
でも、そうしないと言えそうになかった。
目を合わせたら、きっと伝えられない。
私は目を閉じて、両腕を唯先輩の腰に回して抱きしめた。
雪山で遭難した人間が、救助してくれた人間に感謝するみたいに。
「すき……、です…………」
52: 2011/10/30(日) 01:29:37.47 ID:vLZ8LXsOo
腕に力を込める。
ぎゅっと。
「ゆい、せんぱい…………」
言えた、ようやく。
唯先輩は強く抱きしめてくれた。
それが告白の返事かもしれない。
長い時間そのままで。
二人抱き合ったまま、時間が過ぎる。
ぎゅっと。
「ゆい、せんぱい…………」
言えた、ようやく。
唯先輩は強く抱きしめてくれた。
それが告白の返事かもしれない。
長い時間そのままで。
二人抱き合ったまま、時間が過ぎる。
53: 2011/10/30(日) 01:30:53.02 ID:vLZ8LXsOo
校庭からは運動部の声。
校内からは合唱部の声。
唯先輩の力がゆるみ、私もそれに合わせて力をゆるめる。
プレゼントのリボンがほどかれるみたいに体を離した。
私の体には、ぬくもりがかすかに残っている。
「えっとね……、あずにゃん」
「……はい」
いつになく真剣な顔で、落ち着いた声で、唯先輩が口を開く。
「…………ごめんね」
私の体から、ぬくもりが消えた。
校内からは合唱部の声。
唯先輩の力がゆるみ、私もそれに合わせて力をゆるめる。
プレゼントのリボンがほどかれるみたいに体を離した。
私の体には、ぬくもりがかすかに残っている。
「えっとね……、あずにゃん」
「……はい」
いつになく真剣な顔で、落ち着いた声で、唯先輩が口を開く。
「…………ごめんね」
私の体から、ぬくもりが消えた。
54: 2011/10/30(日) 01:31:54.55 ID:vLZ8LXsOo
こうなる気はしていた、やっぱり唯先輩は和先輩が。
「わたし気づけなくって、ごめんね……あずにゃん」
少しは可能性あると思ったんだけど。
「そういう――恋愛っていうのかな? よくわかんなくて」
初恋は実らないっていうし。
「だからね、教えて欲しいんだ。
あずにゃんの言う『好き』って気持ちを」
意外と冷静に受け入れていた、けど。
「は? え? どういうことですか?」
混乱して考えがまとまらない。
唯先輩は和先輩が好きで、私の告白を断ったはず。
「わたし気づけなくって、ごめんね……あずにゃん」
少しは可能性あると思ったんだけど。
「そういう――恋愛っていうのかな? よくわかんなくて」
初恋は実らないっていうし。
「だからね、教えて欲しいんだ。
あずにゃんの言う『好き』って気持ちを」
意外と冷静に受け入れていた、けど。
「は? え? どういうことですか?」
混乱して考えがまとまらない。
唯先輩は和先輩が好きで、私の告白を断ったはず。
55: 2011/10/30(日) 01:33:04.75 ID:vLZ8LXsOo
「唯先輩!」
「う~ん、ようするに。
返事はオッケーで、だめかな?」
気の抜けた返事に、考えるのは面倒になって。
でも体は熱くなって。
主人に再会した猫みたいに飛びかかった。
「唯先輩のバカ! バカバカ! ばか……」
二人でベンチにもたれこみ、唯先輩の上で言葉を叩きつけた。
制服を引っかくように握り、顔を寄せて、涙声で。
「すごく怖かったんですから!
どれだけ悩んだと思ってるんですか!」
「あ、あずにゃん……。ちょっと待っ――」
「だいたい! 好きになるなってほうが無理なんです。
あんなに抱きついてきて……それだけじゃないけど、とにかく!」
「う~ん、ようするに。
返事はオッケーで、だめかな?」
気の抜けた返事に、考えるのは面倒になって。
でも体は熱くなって。
主人に再会した猫みたいに飛びかかった。
「唯先輩のバカ! バカバカ! ばか……」
二人でベンチにもたれこみ、唯先輩の上で言葉を叩きつけた。
制服を引っかくように握り、顔を寄せて、涙声で。
「すごく怖かったんですから!
どれだけ悩んだと思ってるんですか!」
「あ、あずにゃん……。ちょっと待っ――」
「だいたい! 好きになるなってほうが無理なんです。
あんなに抱きついてきて……それだけじゃないけど、とにかく!」
56: 2011/10/30(日) 01:34:18.58 ID:vLZ8LXsOo
「好きなんです! 唯先輩が!」
言いたいことは全部言った。
体をすり寄せながら、彼女の制服を涙で濡らす。
満足感とも脱力感ともいえない感覚に包まれ、体を唯先輩へ沈めた。
「――ありがと、あずにゃん」
「……なにがです?」
顔を見ないまま、力なく返事をした。
体を密着させると、心臓の鼓動が伝わってくるようだ。
「こんなにわたしのこと、考えてくれてたなんて」
「そんなの……感謝されることじゃないです」
唯先輩の腕が背中に回され、ぎゅっと抱きしめられる。
私の体に、ぬくもりが戻ってきた。
言いたいことは全部言った。
体をすり寄せながら、彼女の制服を涙で濡らす。
満足感とも脱力感ともいえない感覚に包まれ、体を唯先輩へ沈めた。
「――ありがと、あずにゃん」
「……なにがです?」
顔を見ないまま、力なく返事をした。
体を密着させると、心臓の鼓動が伝わってくるようだ。
「こんなにわたしのこと、考えてくれてたなんて」
「そんなの……感謝されることじゃないです」
唯先輩の腕が背中に回され、ぎゅっと抱きしめられる。
私の体に、ぬくもりが戻ってきた。
57: 2011/10/30(日) 01:35:39.17 ID:vLZ8LXsOo
唯先輩の体温が私に染みわたり、心臓まであったかくなってくる。
いいな、こういうの。
今まで『やめてください』と言っていたけど、次からは黙っていようかな。
お互いひとことも発さず、放課後の喧騒に身をゆだねていた。
部室には相変わらず二人きり。
他の先輩たちはまだこない。
ベンチに両手をつき、肘を伸ばす。
体を浮かせ、二人のあいだに空間を作った。
そっと離れ、仰向けになっている唯先輩に視線を落とす。
彼女の肩が小さく上下している。
その様子から、深い呼吸をしているのがわかった。
満足気な目をして私を見つめなおす。
いいな、こういうの。
今まで『やめてください』と言っていたけど、次からは黙っていようかな。
お互いひとことも発さず、放課後の喧騒に身をゆだねていた。
部室には相変わらず二人きり。
他の先輩たちはまだこない。
ベンチに両手をつき、肘を伸ばす。
体を浮かせ、二人のあいだに空間を作った。
そっと離れ、仰向けになっている唯先輩に視線を落とす。
彼女の肩が小さく上下している。
その様子から、深い呼吸をしているのがわかった。
満足気な目をして私を見つめなおす。
58: 2011/10/30(日) 01:36:38.00 ID:vLZ8LXsOo
しばらく笑顔を交わし合い、唯先輩は上体を起こす。
私の隣に座りなおし、制服のタイと髪を整え、そっと身を寄せた。
二人の距離は肩が触れ合うほど。
「ねえ、あずにゃん。なんでわたしのこと好きになったの?」
「え……っと、そうですね――」
いざ聞かれると答えに詰まる。
いつも抱きついてくるけど、それだけじゃ決め手にならない。
好きになる要素というのは、あまりないのかもしれない。
でも、好きになるにも理由があるはず。
私の隣に座りなおし、制服のタイと髪を整え、そっと身を寄せた。
二人の距離は肩が触れ合うほど。
「ねえ、あずにゃん。なんでわたしのこと好きになったの?」
「え……っと、そうですね――」
いざ聞かれると答えに詰まる。
いつも抱きついてくるけど、それだけじゃ決め手にならない。
好きになる要素というのは、あまりないのかもしれない。
でも、好きになるにも理由があるはず。
61: 2011/10/30(日) 01:40:23.15 ID:vLZ8LXsOo
「まず最初に」
できるだけ冷静に、自分を分析するように。
唯先輩の目をまっすぐに見つめて。
お互い向き合って話を始めた。
「新歓ライブです。
親がジャズバンドをしているもので、
音楽に触れる機会はたくさんあります」
唯先輩は真面目に聞いてくれている。
馴染みのないことでも理解しようというふうに。
もっとも、『あずにゃんが話すから』なんて理由だったら、
それはそれで唯先輩らしいな、と思うけど。
「なんていうか――、
感動って言葉じゃ足りないけど……、感動したんです」
少し恥ずかしくなって、うつむいて視線を落とす。
できるだけ冷静に、自分を分析するように。
唯先輩の目をまっすぐに見つめて。
お互い向き合って話を始めた。
「新歓ライブです。
親がジャズバンドをしているもので、
音楽に触れる機会はたくさんあります」
唯先輩は真面目に聞いてくれている。
馴染みのないことでも理解しようというふうに。
もっとも、『あずにゃんが話すから』なんて理由だったら、
それはそれで唯先輩らしいな、と思うけど。
「なんていうか――、
感動って言葉じゃ足りないけど……、感動したんです」
少し恥ずかしくなって、うつむいて視線を落とす。
62: 2011/10/30(日) 01:41:49.13 ID:vLZ8LXsOo
視線を戻すと、唯先輩は指先で唇をなぞっていた。
「もちろん、他のバンドだって素晴らしいですよ。
でも、技術とかじゃないんです。
この人たちと演奏したいなって思ったから――」
今でも思い出せる、新歓ライブの光景を。
ステージ上の四人、ライトに照らされ演奏をする。
みんな輝いて、本当にキラキラして、言葉じゃ言い表せないくらい。
「――唯先輩を見てたら引き込まれる感じだったんです。
あとで憂に聞いたんですけど。
私、つま先立ちで見てたらしいです」
そのときから唯先輩が好きだったのかもしれない。
「――と、まあ。これが一つ目の理由です」
やっぱり、説明より感情が優先している。
「もちろん、他のバンドだって素晴らしいですよ。
でも、技術とかじゃないんです。
この人たちと演奏したいなって思ったから――」
今でも思い出せる、新歓ライブの光景を。
ステージ上の四人、ライトに照らされ演奏をする。
みんな輝いて、本当にキラキラして、言葉じゃ言い表せないくらい。
「――唯先輩を見てたら引き込まれる感じだったんです。
あとで憂に聞いたんですけど。
私、つま先立ちで見てたらしいです」
そのときから唯先輩が好きだったのかもしれない。
「――と、まあ。これが一つ目の理由です」
やっぱり、説明より感情が優先している。
63: 2011/10/30(日) 01:42:33.83 ID:vLZ8LXsOo
「次に」
しっかり分析できているだろうか。
わからないけど説明を続けた。
唯先輩は首をかしげながら、それでも聞いてくれている。
「唯先輩にはギャップがあります、普段と演奏してるときの」
「うんうん」
「普段は……、だらしないです。悪いですけど」
でも、たまにドキッとするようなことも言う。
そんなところも好きになった理由だ。
「演奏になっても、間違えることがあります」
「そっ、それを言われたら……言い返せないよ。
あずにゃん、本当にわたしのこと好きなの?」
好きなのは間違いない、それを今分析している。
「でも、やるときは本当にやりますよ。
特にステージに立ったときなんてすごいです」
もし唯先輩が普段からしっかりしていたら。
きっと理想の姿なんだろうけど、
それを好きになるかは別の話だと思う。
しっかり分析できているだろうか。
わからないけど説明を続けた。
唯先輩は首をかしげながら、それでも聞いてくれている。
「唯先輩にはギャップがあります、普段と演奏してるときの」
「うんうん」
「普段は……、だらしないです。悪いですけど」
でも、たまにドキッとするようなことも言う。
そんなところも好きになった理由だ。
「演奏になっても、間違えることがあります」
「そっ、それを言われたら……言い返せないよ。
あずにゃん、本当にわたしのこと好きなの?」
好きなのは間違いない、それを今分析している。
「でも、やるときは本当にやりますよ。
特にステージに立ったときなんてすごいです」
もし唯先輩が普段からしっかりしていたら。
きっと理想の姿なんだろうけど、
それを好きになるかは別の話だと思う。
64: 2011/10/30(日) 01:43:07.58 ID:vLZ8LXsOo
唯先輩は舌なめずりをしながら聞いている。
なにか企んでいるような仕草で。
かまわず言葉を発する。
「それから」
「まだ続くの?」
「やっぱり……抱きつかれたら、
うれしかったんです」
過剰ともいえるコミュニケーション、
でも不快に思わなかった。
私はそういうの苦手なほうなのに。
それが唯先輩の魅力なのかもしれない。
なにか企んでいるような仕草で。
かまわず言葉を発する。
「それから」
「まだ続くの?」
「やっぱり……抱きつかれたら、
うれしかったんです」
過剰ともいえるコミュニケーション、
でも不快に思わなかった。
私はそういうの苦手なほうなのに。
それが唯先輩の魅力なのかもしれない。
65: 2011/10/30(日) 01:44:01.14 ID:vLZ8LXsOo
「いつも『やめてください』って言ってたんですけどね」
なんだか恥ずかしくなって、正面に向き直り本音を言う。
「まんざらでも……なかったんです」
唯先輩が初めてだった、こんなに私のことを好いてくれる人は。
私の『好き』とは違うんだろう、でも。
「唯先輩、私……」
彼女のほうを向こうとしたとき、
唇の右横、頬とのあいだに、やわらかくて濡れたものが押しつけられた。
「んっ……?」
思わず声が出て、あたたかさの正体に気づいたとき、
私は冷静でいられなくなった。
なんだか恥ずかしくなって、正面に向き直り本音を言う。
「まんざらでも……なかったんです」
唯先輩が初めてだった、こんなに私のことを好いてくれる人は。
私の『好き』とは違うんだろう、でも。
「唯先輩、私……」
彼女のほうを向こうとしたとき、
唇の右横、頬とのあいだに、やわらかくて濡れたものが押しつけられた。
「んっ……?」
思わず声が出て、あたたかさの正体に気づいたとき、
私は冷静でいられなくなった。
66: 2011/10/30(日) 01:44:49.15 ID:vLZ8LXsOo
「なっ! なにするんですかっ!」
自分でも驚くほどの声が出て、
唯先輩は猫に引っかかれたみたいに後ずさった。
声の振動が空気中を伝わり、
窓ガラスを揺らしたようにさえ思える。
「なにって、ほっぺにチューだけど。
あずにゃんいきなり振り向くから……、
唇にしちゃうとこだったよ?」
「そんな問題じゃないです!
い、いい、いきなり……キスするなんて!」
口づけをされた、唯先輩に。
唇のすぐ横、頬とのあいだに。
自分でも驚くほどの声が出て、
唯先輩は猫に引っかかれたみたいに後ずさった。
声の振動が空気中を伝わり、
窓ガラスを揺らしたようにさえ思える。
「なにって、ほっぺにチューだけど。
あずにゃんいきなり振り向くから……、
唇にしちゃうとこだったよ?」
「そんな問題じゃないです!
い、いい、いきなり……キスするなんて!」
口づけをされた、唯先輩に。
唇のすぐ横、頬とのあいだに。
67: 2011/10/30(日) 01:45:50.11 ID:vLZ8LXsOo
「そっか、あずにゃんは唇がよかったんだね。次からは――」
「なんでそんなに軽いんですか!」
「だってあずにゃん、むずかしい話するんだもん。
だから『チューしちゃえ』って、ね」
「どうしてそこでキスするんですか!」
思わず立ち上がり、私は部室をうろうろしだした。
恥ずかしくて唯先輩から離れようとして。
歩きまわると顔に空気が当たり、濡れたところがより意識される。
唇のすぐ横、頬とのあいだ。
それがうれしくてつい口元がゆるんでしまう。
見られないように、そっと手で唇を隠した。
「あずにゃんや」
「……はい」
私は振り向き、口元がゆるまないようにしていた。
「たぶん『好き』ってそんなんじゃないと思うよ」
「なんでそんなに軽いんですか!」
「だってあずにゃん、むずかしい話するんだもん。
だから『チューしちゃえ』って、ね」
「どうしてそこでキスするんですか!」
思わず立ち上がり、私は部室をうろうろしだした。
恥ずかしくて唯先輩から離れようとして。
歩きまわると顔に空気が当たり、濡れたところがより意識される。
唇のすぐ横、頬とのあいだ。
それがうれしくてつい口元がゆるんでしまう。
見られないように、そっと手で唇を隠した。
「あずにゃんや」
「……はい」
私は振り向き、口元がゆるまないようにしていた。
「たぶん『好き』ってそんなんじゃないと思うよ」
68: 2011/10/30(日) 01:47:07.11 ID:vLZ8LXsOo
私はベンチのほうに向かい、唯先輩のそばに寄った。
近くに立って話を聞くために。
「私にはよくわかりません。
唯先輩に『教えて欲しい』って言われたけど、
私自身よくわかってないんです」
「じゃあ、二人で探してみない?」
まるで落し物を探すみたいに話を持ちかける。
落し物どころか、まだ手に入れたこともない。
「探すって、物じゃないんですから……」
「たぶん、一人じゃ見つからないと思うんだ」
ベンチに座った彼女は、いつもと違う目線を寄こす。
演奏するときの真剣な目でもなく、後輩をかわいがる目でもない。
なにかを期待するような目で見つめてくる。
「だから、あずにゃん。二人で、ね?」
二人で『好き』を探す、か。
この人らしいというか、なんというか。
「私でよければ」
そう答えて、お互い顔を見合わせ微笑んだ。
近くに立って話を聞くために。
「私にはよくわかりません。
唯先輩に『教えて欲しい』って言われたけど、
私自身よくわかってないんです」
「じゃあ、二人で探してみない?」
まるで落し物を探すみたいに話を持ちかける。
落し物どころか、まだ手に入れたこともない。
「探すって、物じゃないんですから……」
「たぶん、一人じゃ見つからないと思うんだ」
ベンチに座った彼女は、いつもと違う目線を寄こす。
演奏するときの真剣な目でもなく、後輩をかわいがる目でもない。
なにかを期待するような目で見つめてくる。
「だから、あずにゃん。二人で、ね?」
二人で『好き』を探す、か。
この人らしいというか、なんというか。
「私でよければ」
そう答えて、お互い顔を見合わせ微笑んだ。
69: 2011/10/30(日) 01:48:20.92 ID:vLZ8LXsOo
唯先輩の左隣に腰をおろし、体をそっと寄せる。
もう遠慮はしない。
ムギ先輩は、『恋をしたら素直になれるのかもね』と言っていた。
そういうことにして、私は唯先輩に体重を預けた。
「唯先輩」
「なあに?」
「週末になったら買い物へ行きませんか?
楽器店で唯先輩が好きそうなピックを見つけたんです」
「それはデートのおさそい……ってことでいい?」
「はい」
唯先輩は「楽しみだね」と言って、私の頭をなでてくれた。
子ども扱いされたと思ったけど、もうそんなことで怒ったりはしない。
もう遠慮はしない。
ムギ先輩は、『恋をしたら素直になれるのかもね』と言っていた。
そういうことにして、私は唯先輩に体重を預けた。
「唯先輩」
「なあに?」
「週末になったら買い物へ行きませんか?
楽器店で唯先輩が好きそうなピックを見つけたんです」
「それはデートのおさそい……ってことでいい?」
「はい」
唯先輩は「楽しみだね」と言って、私の頭をなでてくれた。
子ども扱いされたと思ったけど、もうそんなことで怒ったりはしない。
70: 2011/10/30(日) 01:49:23.25 ID:vLZ8LXsOo
「楽器店だけじゃなくて、他にも行きたいところはあるんです」
「あずにゃんにまかせるよ」
私たちは口を閉じ、同じ目線で部室を見つめる。
唯先輩に寄り添い、「それにしてもみなさん遅いですね」と入り口を眺めた。
「ねえ、あずにゃん。二人で先に練習しない?」
思いもよらない台詞が出た。
唯先輩から練習しようだなんて。
でも、思いもよらないというのがこの人らしいと、そう感じる。
「――いえ、もうちょっとこのままで」
練習をしたくないわけじゃない。
ただ、寄り添う時間と天秤にかけると、練習のほうが浮いたというだけ。
せっかくだから浸っていたい、その気持ちに従うことにした。
「うん」
そう答えた唯先輩の声に、残念そうな色は混じっていない。
「あずにゃんにまかせるよ」
私たちは口を閉じ、同じ目線で部室を見つめる。
唯先輩に寄り添い、「それにしてもみなさん遅いですね」と入り口を眺めた。
「ねえ、あずにゃん。二人で先に練習しない?」
思いもよらない台詞が出た。
唯先輩から練習しようだなんて。
でも、思いもよらないというのがこの人らしいと、そう感じる。
「――いえ、もうちょっとこのままで」
練習をしたくないわけじゃない。
ただ、寄り添う時間と天秤にかけると、練習のほうが浮いたというだけ。
せっかくだから浸っていたい、その気持ちに従うことにした。
「うん」
そう答えた唯先輩の声に、残念そうな色は混じっていない。
71: 2011/10/30(日) 01:50:16.26 ID:vLZ8LXsOo
「あずにゃん」
「はい?」
「呼んでみただけ」
「なんですか、それ」
今までと同じ呼び方だけど、なぜか愛おしく感じる。
そう思えるのは、特別な関係になったからかもしれない。
だから意味も無く同じことを繰り返したくなる。
「ゆいせんぱい」
「うん?」
「呼んでみただけです」
「そんなあずにゃんもかわいいよ」
「はい?」
「呼んでみただけ」
「なんですか、それ」
今までと同じ呼び方だけど、なぜか愛おしく感じる。
そう思えるのは、特別な関係になったからかもしれない。
だから意味も無く同じことを繰り返したくなる。
「ゆいせんぱい」
「うん?」
「呼んでみただけです」
「そんなあずにゃんもかわいいよ」
72: 2011/10/30(日) 01:52:56.34 ID:vLZ8LXsOo
唯先輩は私のほうに振り向き、笑顔を向ける。
私もそれに答え、笑顔を返した。
お互い見合わせて、唯先輩は明るく声を出す。
「見つかったらいいね、『好き』って気持ちの正体」
「いいね、じゃなくて。見つけるんです」
唯先輩は力強く「うん!」と答える。
私は「二人で」とつけ足し、彼女の肩に頭を乗せた。
そっと目を閉じ、週末のデートを想像してみる。
自然と笑顔になり、告白してよかったなと、心から思える。
願い事を唱えるように、もうひとことつぶやいた。
「一緒に」
おわり
私もそれに答え、笑顔を返した。
お互い見合わせて、唯先輩は明るく声を出す。
「見つかったらいいね、『好き』って気持ちの正体」
「いいね、じゃなくて。見つけるんです」
唯先輩は力強く「うん!」と答える。
私は「二人で」とつけ足し、彼女の肩に頭を乗せた。
そっと目を閉じ、週末のデートを想像してみる。
自然と笑顔になり、告白してよかったなと、心から思える。
願い事を唱えるように、もうひとことつぶやいた。
「一緒に」
おわり
73: 2011/10/30(日) 01:56:30.97 ID:vLZ8LXsOo
これで終わりです、ありがとうございました。
74: 2011/10/30(日) 01:58:16.39 ID:XTWxK/K8o
乙
気が向いたらデートの話も書いてほしいです
気が向いたらデートの話も書いてほしいです
78: 2011/10/30(日) 17:53:28.93 ID:vLZ8LXsOo
HTML化を依頼してきました。
乙ありがとうございます。
乙ありがとうございます。
引用元: 梓「一緒に」



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