1: 2009/09/04(金) 21:51:06.07 ID:hMOT/JcQ0
「お姉ちゃん朝だよ、起きて!」

唯「う~ん…あと少しだけ寝かせて…」

「ダメだよ!学校に遅刻しちゃうよ!」

唯「あと五分…」

「ダメだってお姉ちゃん!早く起き…」

ジリリリリリリリリリリ!

唯「……っは!?」

唯「…夢か」

懐かしい夢を見た。これは私がまだ高校生の頃の夢。
そういえば憂は元気かな?

ジリリリリリリリリリリ!

唯「はいはい起きてますよっと…」ピッ
けいおん!Shuffle 2巻 (まんがタイムKRコミックス)
5: 2009/09/04(金) 21:53:29.82 ID:hMOT/JcQ0
大学を卒業した私は、地元を離れて別の街で一人暮らしをしていた。
別に地元から離れたかった訳じゃないけど、都会に憧れてなかったと言えば嘘になる。
そこで適当な職を見つけて現在に至るという訳だ。

社員A「平沢さん、この資料まとめといて」

唯「はい、わかりました」

社員B「平沢さん、それが終わったらこっちも宜しく」

唯「はい、わかりました!」

社員C「平沢さーん!こっちもー!」

唯「はい!わかりました!」

適当に就いた仕事だが、どうやら私にはあっていたみたいで毎日が忙しい。
私はもっとこう…楽な生き方を目指してたのに…。

6: 2009/09/04(金) 21:56:47.91 ID:hMOT/JcQ0
がちゃっ

唯「ただいまー」

唯「……」

当然返事が返ってくる事はない。
それでも私はこれを一度も欠かしたことがなかった。

唯「…ご飯でも食べよう」

私は手にぶら下げていた袋からコンビニ弁当を取り出した。
私の大好きなハンバーグ弁当だ。最近はこればかり食べている。

唯「いただきまーす」

唯「もぐもぐ…」

唯「…美味しいなぁ」

プルルルルルル プルルルルルル

私がぼーっとご飯を食べていると電話が鳴りだした。
だれだろうこんな時間に?

唯「はいもしもし平沢です」

「あ、お姉ちゃん久しぶり!」

8: 2009/09/04(金) 22:02:48.97 ID:hMOT/JcQ0
唯「憂!久しぶり~、元気だった?」

「元気だよ!お姉ちゃんは?」

唯「元気でやってるよ」

「そっか、ご飯はちゃんと食べてる?」

唯「食べてるよ、心配しないで」

「自分で作って?コンビニ弁当は体に悪いよ」

唯「大丈夫だって、ちゃんと自分で作ってる」

「…本当に?」

…憂は変なところで鋭い。
でも憂を心配させちゃ悪いと思った私は、嘘を貫き通すことにした。

唯「本当だよ、憂は心配性だなぁ」

9: 2009/09/04(金) 22:07:14.18 ID:hMOT/JcQ0
「だって…お姉ちゃんのことが心配なんだもん」

憂の声に元気がなくなった。
それだけ私を心配してくれている証拠だろう。やっぱり憂は優しいなぁ。

唯「大丈夫だよ、何年一人暮らししてると思ってるの?」

「…そうだよね、ねえお姉ちゃん」

唯「ん?なぁに?」

「…寂しくない?」

唯「え?」

12: 2009/09/04(金) 22:10:55.73 ID:hMOT/JcQ0
「なんだか今日のお姉ちゃん元気ないよ?」

唯「そ、そうかな?」

自分ではそんな気がしない。
確かに全く寂しくないと言ったら嘘になるけど…
それももう慣れた。

「そっちで何かあった?」

唯「いつも通りだよ、何もないよ」

「…それならいいんだけど」

唯「あはは…憂は相変らずだなぁ」

13: 2009/09/04(金) 22:18:00.65 ID:hMOT/JcQ0
「そうだ、次はいつ帰ってくるの?またお正月?」

唯「そうだなぁ…仕事が忙しいからね」

「…そうなんだ、ねえお姉ちゃん、私はやっぱり寂しいよ」

唯「え?」

私は驚いた。
一人暮らしをしてから憂とは、何度も連絡を取り合っているけど寂しいなんて言うのはこれが初めてだったから。

「お姉ちゃんはどう?やっぱり寂しくない?」

唯「私は…少しは寂しいけど…」

14: 2009/09/04(金) 22:24:45.57 ID:hMOT/JcQ0
「本当に少しだけ?」

憂は私をやたらと疑う。
確かに少しは寂しいけど、もうこの環境にも慣れた筈だ。

唯「……」

…それなのに、どうして否定できないんだろう。

「…やっぱりお姉ちゃんも寂しいんだね」

唯「……」

「お姉ちゃん、少し無理してない?」

16: 2009/09/04(金) 22:30:59.40 ID:hMOT/JcQ0
「仕事が大事なのも分かるけど、たまには帰っておいでよ」

唯「…うん」

「みんな待ってるよ、お姉ちゃんのこと」

唯「みんな…?」

「うん、みんなだよ」

唯「…わかった、ありがとう憂」

私はこの時の憂の言っている「みんな」が誰のことなのか分からなかった。

17: 2009/09/04(金) 22:34:55.10 ID:hMOT/JcQ0
その日の夜、私は夢を見た。どんな夢だったかは覚えていない。
ただ、とても懐かしい夢だった。

唯起きろ!遅刻だぞ!」

唯「うーん…もう少し…」

「あらあら…全く起きないわねぇ」

「先輩!帰りの電車に間に合わなくなってしまいますよ!」

唯「わかってるよぉ…でもあと少し…」

「はぁ…ダメだなこりゃ…」

「こいつは全く…唯!早く起きろ!ゆ…」

プルルルルルルルル プルルルルルルルル

唯「……っは!?」

唯「……夢か…ふあああ…」

18: 2009/09/04(金) 22:37:17.91 ID:hMOT/JcQ0
私はいつもより大きなあくびをした。
眠い…昨日憂と遅くまで長電話してたせいかな?

プルルルルルルルル プルルルルルルルル

唯「はいはい起きてますよっと」ピッ

プルルルルルルルル プルルルルルルルル

唯「…あれ?なんで鳴りやまないの?」

私は依然として鳴り続けている目覚まし時計に目を向けた。

唯「……ん?10時…?」

19: 2009/09/04(金) 22:40:54.55 ID:hMOT/JcQ0
プルルルルルルルル プルルルルルルルル

…今やっと理解した。この音は電話が鳴る音だ。

唯「……まずい」

私はあわてて受話器をとる。恐らくこの電話の相手は…

唯「…はい平沢です」

「…おはよう平沢さん」

唯「…おはようございます」

…上司だ。

21: 2009/09/04(金) 22:44:12.37 ID:hMOT/JcQ0
「平沢さんが寝坊なんて珍しいわね」

唯「すみません…」キッ

私は目覚まし時計を睨みつけた。
何故鳴らなかった私の相棒。この数年間お前は私を裏切らなかったじゃないか。

「~~で平沢さんはいつも~」

…あれ?その前に昨日セットしたっけ?

「~~だから今回は特別に」

…した覚えがない。なら悪いのは私か…ごめんね目覚ましー太。

「いい?平沢さん」

唯「ごめんね目覚ましー太…」

「…は?」

唯「…え?」

23: 2009/09/04(金) 22:47:19.62 ID:hMOT/JcQ0
「話を聞いてなかったの?」

唯「す、すみません!」

考え事をしていて全く聞いていなかった…。
ここら辺は昔から何も変わってないや。

「だから…今日は休んでもいいわよ」

唯「…えっ?どうしてですか?」

「あなたはいつも頑張ってるもの。たまにはお休みしたっていいと思うわ」

まさかこんなことを言われるなんて。
周りが私をこんなに評価してくれていることに驚いた。

唯「…本当にいいんですか?」

「いいのよ、風邪を引いたってことにしておくから。そのかわり明日からしっかり頑張ってね」

唯「は、はい!ありがとうございます!」

「ふふっ 今日はしっかり休んで疲れをとりなさい」

その日、私は初めて会社をずる休み?した。

24: 2009/09/04(金) 22:50:39.38 ID:hMOT/JcQ0
唯「ふぅ…休んだのはいいけど何をしようかな」

特にやることもなかった私は部屋一面を見渡した。
そこで気がついたことがある。

唯「…私の部屋ってこんなに汚かったっけ?」

床にはコンビニ弁当の容器やティッシュなどが散らばっていた。
そういやいつも捨てるのがめんどくさくてそこら辺に捨ててたんだっけ…
それで暇なときに片づけようって…。
なら今日がその暇なときじゃないか。

唯「……よし!やろう!」

今日を逃したら次はいつになるか分からない。
私はこの部屋がごみまみれになる前に片づけてしまうことにした。

26: 2009/09/04(金) 22:52:10.92 ID:hMOT/JcQ0
――――――――――

唯「ふぅ…やっと片付いた」

私は最後のゴミをゴミ袋にいれ、部屋を見渡した。
なんだ私、やればできるじゃないか。
まるで新しいマンションに引っ越してきたみたい。

…いや、それは言い過ぎか。なぜならまだ掃除機をかけていない。
それをしてから、初めてこの部屋は綺麗になったと言えるんだ。

唯「…よし!もうひと踏ん張り!」

私は掃除機を探す為、普段開けることのないクローゼットの中を物色した。
それだけ掃除を怠っていた証拠だ。すごく埃っぽい…。
その中で私はとても懐かしいものを発見することになる。それは

唯「…ギー太」

埃まみれになったギー太だった。

27: 2009/09/04(金) 22:54:35.11 ID:hMOT/JcQ0
高校を卒業した私は、大学で音楽のサークルに入ったものの、徐々にギターを弾かなくなった。
それはHTT時代があまりにも楽しすぎた為、サークルに物足りなさを感じたからだ。
勿論大学が楽しくなかった訳じゃないけど、それでもあの頃が一番楽しかった。

唯「懐かしいなぁ…」

私は埃まみれのギー太を優しく抱きしめた。
服に埃がつこうが関係ない、こんなにも大事な私の相棒をずっとほったらかしにしてたんだ。
これはその償い。

唯「なにか弾いてみようかな…」

でも、今の私に何か弾けるのだろうか。もう十年近くもギー太に触っていないのに。

ジャジャーン!

それでも指は覚えていた。思いつくままに弦を弾く。そう…この曲は、

唯「ふわふわタ~イム♪」

唯「…やった!できた!嬉しいなぁ♪」

…嬉しい?私はこの感情を久しぶりに感じた。
高校時代には良く感じていたのに、この感情はいつの間にどこに消えていたのだろう。

29: 2009/09/04(金) 22:57:40.58 ID:hMOT/JcQ0
まだ何かないか。私はさらにクローゼットを漁る。
今感じたあの思いをもう一度感じたい、それだけの理由で。
…あれ?なにか目的が変わっている様な…?まぁいいか。

そこで私は一冊の古い本を見つける。これもギー太と一緒で実家から持ってきたものだ。
ぼろぼろになったその本は、それだけで高校時代のものだと分かる。
私は本の表紙を見た。そこには懐かしい友の字でこう書かれていた。

唯「桜高軽音部卒業アルバム…」

はらり…と表紙をめくる。そこには古き仲間達の眩しいばかりの笑顔が写りこんでいた。

30: 2009/09/04(金) 23:00:35.19 ID:hMOT/JcQ0
唯「うわぁ…懐かしいなぁ…」

一枚目の写真を見る。みんながこちらを見てピースをしている写真だ。

金髪で眉に沢庵がついている女の子がムギちゃん。いつもおっとりぽわぽわした子。

黒髪のツリ目な女の子が澪ちゃん。本当は怖いものが苦手で少し繊細な子。

右下でおでこしか写っていない女の子がりっちゃん。いつも元気いっぱいな軽音部の部長。

そして、真中でぎこちなくピースしているのが私。

唯「はは…この頃はどうなるのか不安だったなぁ」

次の写真に目をやる。私がギー太を持ってその横に仲間達が並んでいる写真だ。
その中の私は笑っていた。これからのことに胸を膨らませている顔だ。

唯「……」

昔の私は今の私にはないものを持っていた。今の私にこんな顔ができるだろうか?

31: 2009/09/04(金) 23:02:40.99 ID:hMOT/JcQ0
それから、ぱらぱらとページをめくる。
合宿の写真、初ライブ後の写真、クリスマス会の写真、後輩が入部した時の写真、
どれも懐かしいものばかりだ。

唯「あ…」

ぱらぱらとめくっていく中、私はあの三年間で一番輝いていた頃の写真を見つけた。
思わず声が漏れてしまう。それだけ美しかったあの頃の一枚。

そこには、部室でギターを弾く私とあずにゃんの姿が写っていた。

32: 2009/09/04(金) 23:05:17.12 ID:hMOT/JcQ0




澪「…もう少しで私達も卒業だな」

律「何言ってんだよ、あと4カ月近くもあるだろ」

澪「もう、だよ」

梓「今年は部員一人も入りませんでしたし、先輩達が卒業したらこの部はどうなるんでしょうか…?」

律「心配するなって!何とかなるよ」

梓「なんとかって…」

紬「まぁまぁ♪それよりお茶が入ったわよ」

律「おぉ!サンキュームギ!」

紬「はいどうぞ唯ちゃん」

唯「……」

紬「…唯ちゃん?」

唯「…え?あ、あぁ!どうもありがとう!」

34: 2009/09/04(金) 23:07:59.71 ID:hMOT/JcQ0
律「どうした?なんか元気ないなぁ」

唯「そ、そんなことないよ?」

澪「何か悩みごとか?」

紬「まぁ…私達になんでも相談してね?」

唯「大丈夫だよ、悩みなんてないよ!」

…本当はすごく悩んでいた。みんなが心配してくれるのはとても嬉しい。
でも、この悩みは誰にも話せない。特にムギちゃんには…

紬「それならいいけど…何かあった時はすぐに言ってね?」ズイ

唯「うっ…うん(顔が近いよぉ…)」ドキドキ

…だって、私はムギちゃんが好きなんだもん。
こんなの気持ち悪いよね…誰にも話せないよ…。

梓「……」

35: 2009/09/04(金) 23:11:12.00 ID:hMOT/JcQ0
帰り道、私はいつものように仲間たちと歩いていた。
この頃にはもうすっかり秋で、北風が残された時間が少ないのを私達に告げているようだった。

律「さびー!もうすっかり秋だなぁ」

澪「だから言ったろ?それだけ卒業する日が近いってことだ」

梓「そうですね…」

律「なんだ梓、寂しいのか?」

梓「…そうです、寂しいですよ」

澪「梓…そうだ!」

カシャッ!

梓「えっ?ちょ、ちょっと!撮らないで下さいよ!」

澪「いいからいいから、これも思い出だよ」

律「そうだぞ!澪、ナイス!」グッ!

澪「おう!」グッ!

二人はお互いに親指を立てあう。幼馴染の二人だけど、この軽音部に入部してからの三年間という月日が、更に二人の絆を深めたんだろう。
少し羨ましい。

梓「まったくもう…」

36: 2009/09/04(金) 23:18:30.47 ID:hMOT/JcQ0
律「それじゃ、私達はここで!」

唯「うん、ばいば~い!」

りっちゃんと澪ちゃんとムギちゃんの三人が別々の方向に歩いていく。
私はその中でもムギちゃんの背中だけを見つめていた。

唯「はぁ…」

私はため息をついた。どうしてこんなにもムギちゃんのことが好きなのだろう。
この恋は叶う筈がない、それは分かっているのに…。

唯「はぁ…」

もう一度ため息をついた。それは秋の風に溶けて、まるで秋までもが私に諦めろと言っているようだった。

梓「…さっきからため息ばかりついてどうしたんですか?」

唯「…え?きゃああああ!?」

梓「うわっ!?びっくりした…」

38: 2009/09/04(金) 23:25:54.31 ID:hMOT/JcQ0
唯「あ、あずにゃん?帰った筈じゃ…?」

梓「ちょっと憂に用事がありまして…一緒に行きましょう」

唯「…そうだね、いいよ!」

――――――

とことこ

唯「……」

梓「……」

私達は何の会話もすることなく、私の家へと歩いていた。
いつもなら何か喋るのに、今日はなぜか喋る気がしなかった。

唯「……」

梓「……」

何か喋った方がいいかな?
そう思っているとあずにゃんの方から口を開いた。

梓「…先輩、手つないでもいいですか?」

39: 2009/09/04(金) 23:34:17.84 ID:hMOT/JcQ0
唯「え?どうしたの急に?」

梓「た、ただ手が冷たいからです!…だめですか?」

唯「確かに冷たいよね…よし、なら繋ごうかあずにゃん!」

梓「ほ、ほんとですか!?」ぱぁぁ

あずにゃんの顔がいっきに明るくなる。
そんなに手が冷たかったのかな?やっぱりあずにゃんは可愛いなぁ…。

唯「えへへ♪」

梓「? どうしたんですか急に」

唯「いや~あずにゃんは可愛いなぁと思ってね♪」

梓「なっ!?か、かわいい!?」ボン!

今度はあずにゃんの顔が真っ赤になる。熱いのかな?

40: 2009/09/04(金) 23:49:32.71 ID:hMOT/JcQ0
唯「? どうしたの?」

梓「い、いやなんでもありません!それより手を出して下さい」

唯「はい」

私が手を差し出すと、あずにゃんは優しく私の手を握った。
そして互いに手を握ったまま、私達は並んで歩く。

梓「……」

唯「……」

その間、私達は一言も喋らなかった。でもこれはさっきまでの沈黙とは違う。
お互いに手を繋いでるから、そこに言葉など要らないと思ったから。
…まるで私達は恋人同士みたい。

43: 2009/09/04(金) 23:54:41.26 ID:hMOT/JcQ0
唯「……」

梓「……」

しばらくしても私達は一言も喋らなかった。この時あずにゃんはどう思っていたのかな?
私は、この手がもしムギちゃんならって思っていたんだ。
それなら私達は恋人同士になれたのに…そう思っていたんだよ。

最低だよね。

45: 2009/09/04(金) 23:58:39.40 ID:hMOT/JcQ0
しばらく続いた沈黙も、あずにゃんの一言で終わりを告げた。

梓「…つきましたね」

唯「…うん、そうだね」

それでも互いに手を離さない二人。
それはお互いの思いがそうさせるから。この時に気づいてあげればよかった。

梓「…そろそろ手を離しましょうか」

唯「あ…そうだね」

48: 2009/09/05(土) 00:04:55.14 ID:Br5cNE140
唯「ただいまー」

憂「お帰りお姉ちゃん…と、梓ちゃん?」

梓「お邪魔します」

唯「なんかあずにゃんが憂に用事があるんだって」

憂「そうなんだ、どうしたの梓ちゃん」

梓「え…?あ、なんだったっけなぁ?忘れちゃったよ」

憂「? 何か大事なこと?」

梓「い、いや~そんな大事なことでもなかったような…」

梓「明日までに思い出すね!それじゃお邪魔しました!」

憂「あっ、梓ちゃん!」

唯「あずにゃんどうしたんだろう?」

憂「さぁ…?」

51: 2009/09/05(土) 00:13:57.63 ID:Br5cNE140
その日の夜、私は部屋であずにゃんと手を繋いだことを思い出していた。

唯「はぁ…あずにゃんの手暖かかったなぁ」

いや、正確にはムギちゃんと手を繋いだことを思い出していた。

唯「また繋ぎたいなぁ…」

私は自分の手をぎゅっと握った。
そこにムギちゃんの温もりがまだ残っている様な気がして。
でも、この温もりはあずにゃんのだ。…それは分かっているんだけど…

唯「…なんだか切ない」

私は布団にもぐりこんだ。
秋は恋を切なくする、もう残された時間は少ない。この恋ははたして実るのだろうか?
そんなことを考えながら…

52: 2009/09/05(土) 00:18:55.57 ID:Br5cNE140
―次の日


律「それじゃ、今日も練習するか!」

澪「それはいいけど…お前勉強の方は大丈夫なのか?」

律「大丈夫だよ!ちゃんと家でやってるからさ!」

澪「ならいいけどさ…私と同じ大学に行くんだよな?」

律「だからその為に勉強してんじゃん」

澪「…そうか、そうだよな!」

律「おう!」

紬「あらあら♪二人は仲良しね」

唯「……」

梓「……」

53: 2009/09/05(土) 00:24:49.65 ID:Br5cNE140
私はムギちゃんをずっと見ていた。
昨日の一件以来私はムギちゃんをさらに意識してしまう様になったから。
ムギちゃんは私のことどう思ってるのかな…?

紬「…あら?」

唯「…!」

ムギちゃんは私の視線に気がついたようで、こちらをちらりと見た。
どうしよう…!まともに目も合わせられないよ…!
私は目を反らしてしまった。

紬「あらあら…大丈夫よ」

何が大丈夫なんだろう。ムギちゃんはたまによくわからない。

紬「唯ちゃんも梓ちゃんも二人に負けないくらい仲良しだから♪」

唯「え…?」

梓「…!」

57: 2009/09/05(土) 00:30:33.15 ID:Br5cNE140
律「まぁ確かにな、二人は仲いいよなぁ」

澪「梓が入部した時からずっとだしな」

確かに私とあずにゃんは仲がいいよ。
でも私が本当に仲良くしたいのはムギちゃんなんだよ?

紬「えぇ♪本当に羨ましいくらい仲がいいわよね」

だからやめてよ…ムギちゃんまでそんなこと言わないで…

律「もしかして付き合ってたりしてな!」

澪「馬鹿かお前は…でもお似合いだよな」

紬「えぇ、本当にお似合いよ二人とも♪」

もう…止めてよ…

58: 2009/09/05(土) 00:38:51.44 ID:Br5cNE140
>>56
ですね、設定的にはそうです


唯「……」ポロポロ

律「…唯?」

澪「ご、ごめん唯!からかいすぎたよ!」

紬「ごめんなさい…馬鹿にしてるつもりじゃ…」

梓「…とりあえず今日の練習は無しにしましょう、皆さん帰ってください」

澪「え…?でも唯は?」

梓「私がどうにかします」

紬「でも…唯ちゃんを傷つけたのは私達だし…」

梓「いいですから、私を信じてください」

律「……わかった、唯!ホントごめんな!」

紬「それじゃ梓ちゃん、お願いね…」

梓「はい」

59: 2009/09/05(土) 00:44:40.82 ID:Br5cNE140
唯「……」

梓「…さて、みなさん帰りましたね」

唯「……」

梓「先輩、ギー太を持って下さい」

唯「…え?どうして?」

梓「弾くからに決まってるじゃないですか」

私にはあずにゃんの考えてることがわからなかった。
それに、こんな気分でギー太なんて弾きたくないよ…

梓「…はい、ちゃんと持って下さい」

あずにゃんが私にギー太を手渡してきた。
私はギー太を持つ手に力が入らず、思わず落としてしまいそうになる。
でも、そんなギー太をあずにゃんはしっかり受け止めてくれた。

梓「おっと…しっかりして下さいよ、大事な相棒に傷が付いたらどうするんですか?」

60: 2009/09/05(土) 00:49:28.53 ID:Br5cNE140
あずにゃんが私に優しく微笑みかけてくる。それを見て私は気がついた。
そうか…あずにゃんは私の落ちていく気持ちを受け止めようとしてくれているんだ。
なんの為にギターを弾くのかはわからないけど、私はこの優しさに答えなきゃ…

唯「…わかった、ギー太を弾くよ」

梓「やっとその気になってくれましたか」

61: 2009/09/05(土) 00:59:58.27 ID:Br5cNE140
唯「でも何の曲を弾くの?」

梓「それは勿論「ふわふわ時間」ですよ」

唯「わかった、それじゃ…」

ジャカジャカーン

唯「キミを見てると…」

部室に優しい弦の音と私とあずにゃんの歌声が響く。
この歌はまるで今の私を歌っているみたい…心の中でそう思った。
今の私はどんな顔をしているのだろう。あずにゃんの優しさに応えられているのかな?

梓「あ~あ~カミサマお願い…」

でも、この時のあずにゃんはとても悲しい顔をしていた。
私は、自分が優しさに応えられなかったせいだと思っていた。

68: 2009/09/05(土) 01:07:10.94 ID:Br5cNE140
唯「ふわふわタ~イム♪」

梓「ふわふわタ~イム♪」

ジャーン!

唯「……」

梓「……」

曲が終わった後、部室が沈黙に包まれた。
私はこの沈黙が嫌で、あずにゃんと手を繋ぎたくて手をもじもじさせていた。
でもあずにゃんは、そんな私の手をちらっと見て口を開いた。


梓「…わかりましたよ、先輩には好きな人がいますね」

唯「え…?」

70: 2009/09/05(土) 01:15:23.42 ID:Br5cNE140
唯「どうしてそう思うの?」

梓「一緒にギターを弾けば分かります。楽器にはその人の気持ちが宿りますから」

唯「そ、そうなの…?」

私もギターを三年近くやってるけどそんなのわからないよ。
ならムギちゃんの気持ちも分かるのかな?

梓「…あと、その顔ですね」

唯「え?どんな顔してた?」

梓「とても分かりやすい顔です」

唯「そうなんだ…」

昔から顔に出るとはよく言われたけど…そんなに出やすいなら気をつけよう。

唯「…でも私にはあずにゃんの気持ちがわからなかったよ」

梓「…そうですか、ならもう一度弾いてみましょう」

この時、あずにゃんは演奏中と同じ悲しい顔を一瞬したのを私は見逃さなかった。

73: 2009/09/05(土) 01:24:03.08 ID:Br5cNE140
ジャカジャーン!

私達「ふわふわ時間」をもう一度演奏した。
今度はあずにゃんの気持ちがわかるようにと、その音、その表情に注目していたが、注目すればするほどに…

唯「いーつもがんば~る♪」

梓「いーつもがんば~る♪」

…なんて悲しい表情をしているんだろう。まるで今にも泣きだしてしまいそうな…そんな顔をしていた。
まるで私と同じだ…あずにゃんも誰か好きな人がいるのかもしれない、そう思えた。

74: 2009/09/05(土) 01:30:55.36 ID:Br5cNE140
ジャーン!

梓「…どうです?わかりましたか?」

唯「うん、 少しだけ…」

梓「そうですか。では私は何を想っていましたか?」

唯「それは…あずにゃんも私と同じで好きな人がいるんじゃない?」

梓「どうしてそう思いましたか?」

唯「だって…私と同じなんだもん」

梓「…合格ですよ唯先輩。そうです、私にも好きな人がいます」

梓「でもそれは…決して叶うことのない恋」

75: 2009/09/05(土) 01:36:48.35 ID:Br5cNE140
唯「そうなんだ…なら私と同じだね」

梓「そうですね、あと先輩の好きな人ってムギ先輩ですよね?」

唯「…え?えぇっ!?どうして分かったの!?」

まさかこれも楽器の力?だとしたらなんてギー太はお喋りなんだろう…

梓「…あははははは!!!先輩は分かりやすすぎです!」

唯「うぅ…どうして分かったの?」

梓「ギー太が教えてくれたからですよ」

…やっぱりギー太はお喋りだ。

76: 2009/09/05(土) 01:43:48.37 ID:Br5cNE140
唯「ならあずにゃんの好きな人は?」

梓「それは教えられません、いつか私のギターに聞いてみてください」

唯「もう!意地悪!」

梓「あはははは!」

唯「えへへ♪」

気が付けば私は笑っていた。
どうやらあずにゃんに救われたみたい。私はこんな先輩思いの後輩をもって幸せ者だよ。

梓「先輩、私先輩のこと応援します」

唯「応援って…私は無理だよ、この恋は叶いっこない…」

梓「大丈夫ですって、私達が絶対何とかしますから」

唯「あずにゃん…ありがとう、気持ちだけでも嬉しいよ」

梓「…先輩、手を出して下さい」

79: 2009/09/05(土) 01:57:25.79 ID:Br5cNE140
唯「? はい」

私が手を差し出すと、あずにゃんは私の手を握った。
あの日とは違う、今度はとても力強く。

梓「私の知っている唯先輩は、一つのことに一生懸命で、やってもいないのに諦めたりするような人じゃないです……」

唯「……」

梓「だから頑張ってみましょうよ。必ず成功しますから…ね?」

あずにゃんのその表情は、さっきまでとは違うとても明るいものだった。
その表情のお陰で、私は救われたんだね。ありがとう、あずにゃん。

唯「…うん!私頑張るね!」

梓「そのいきです、頑張りましょう!」

唯「うん!」

私とあずにゃんはお互いに手を強く握りあう。
その手はムギちゃんのものじゃない、あずにゃんのものだった。

81: 2009/09/05(土) 02:06:07.78 ID:Br5cNE140
梓「…さて、私達も頑張りましょうね。律先輩、澪先輩」

ギクッ!

梓「気づいてないとでも思ってたんですか?」

がちゃっ

部室のドアが開く。
そこにはカメラをもったりっちゃんと澪ちゃんが立っていた。
…って、え?二人ともいつからそこにいたの?

唯「…もしかして、今の話聞いてた?」

律「い、いやっ!?私達はたまたま部室の前を…なぁ澪!?」

澪「…え?お、おぉそうだよ唯!立ち聞きなんてしてないよ!」

流石の鈍い私にもばればれだよ二人とも…

唯「…聞いてたんだ」

律澪「………ごめんなさい」

83: 2009/09/05(土) 02:15:36.25 ID:Br5cNE140



まさかあの時、隠し撮りされていたなんて…。
その時のがこの写真だ。

唯「あの時、みんなが私に協力してくれることになったんだよね。これもあずにゃんのお陰だね。ありがとう、あずにゃん」

私は写真の中のあずにゃんにお礼を言った。
思えばこの時のことで直接お礼を言ったことがないや。
いつかまた会う時、必ずお礼を言うからね。

85: 2009/09/05(土) 02:22:03.82 ID:Br5cNE140
思い出に浸り足りない私は、すぐに次のページをめくった。
これをめくる度に、私の大事な何かが甦る。そんな気がしたから。
そして次の写真に目をやった。

唯「……」

これはあまりいい思い出ではない。なぜなら、この写真は全ての結果を思い出させるから。

その写真には、泣いている私とムギちゃんが写っていた。

86: 2009/09/05(土) 02:31:26.10 ID:Br5cNE140



律「いいか?たまにはお前がムギにお茶を入れてやるんだ」

澪「ムギに唯の愛情がこもったお茶を飲ませてやりたいだろ?」

梓「いいですか?慎重に入れるんですよ…」

唯「…もう!わかったから!気が散っちゃうよ!」

その日、私はムギちゃんの為にお茶を入れる練習をしていた。
これはりっちゃんの提案で、女の子は尽くされると弱いらしい。
本当かどうかしらないけど、りっちゃんがそういうタイプだってのは分かったよ。

唯「すごく意外…」

律「あ?なんかいったか?」

唯「別に何も~」

紬「あら?みんな一ヶ所に集まって何をしてるの?」

唯「…!」

88: 2009/09/05(土) 02:36:19.85 ID:Br5cNE140
律「ム、ムギ!?いつからそこに!?」

紬「今来たばかりよ。あら?唯ちゃんお茶を入れてるの?」

唯「そ、そうだよ!」

紬「なら言ってくれれば入れたのに…」

澪「違うんだムギ!唯のやつはな…」

梓「まって下さい澪先輩!唯先輩、誰の為にお茶を入れてるんでしたっけ?」

唯「そ…それは…」モジモジ

梓「先輩…!」

唯「…ムギちゃんの、為だよ」

紬「え?私の為?」

89: 2009/09/05(土) 02:40:35.62 ID:Br5cNE140

唯「そうだよ。だから…ムギちゃんは座って待ってて!」

紬「わかったわ♪なら楽しみにしているわね」

唯「うん!きっと美味しいよ!」

梓「先輩…なかなかいい感じですよ、その調子です…」ゴニョゴニョ

唯「えへへ…そうかな…」ゴニョゴニョ

90: 2009/09/05(土) 02:47:46.14 ID:Br5cNE140
そして何とかお茶が入れ終わった。
ムギちゃんのと比べると、色もなんだか濃いし、明らかにしぶそうだ。
お茶を入れるのにもコツや腕が問われるんだなぁ…。
なんて考えてる場合じゃない!せっかくの入れたてを飲んでもらわくちゃ意味がないじゃん!
そう…あとは運ぶだけ…の筈なのに…

律「唯ー!もっと真っすぐ歩けー!」

唯「うわわわ…これってすごく難しいねぇ…」

澪「ならなんでトレーなんて使ったんだよ…」

唯「だって~、このほうが雰囲気出るじゃん」

梓「でも運べなきゃ意味がないじゃないですか…」

唯「うぅ…計算外だ…」

…私はムギちゃんにお茶を運べないでいた。

92: 2009/09/05(土) 02:57:25.04 ID:Br5cNE140
紬「大丈夫?私から取りに行くから…」

唯「ダメ!ムギちゃんは座ってて!」

紬「え…?でも…」

唯「いいから!ムギちゃんは座ってるだけでいいから!」

だって、これをムギちゃんの所に運んで初めて、私の努力は報われるんだもん!
なら全部自分の手でやらなくちゃ意味がない!

唯「…でも辿り着けないよぉ!」

律「あ、唯!足元!」

唯「…えっ?」

ツルッ

何か踏んだ、と思った瞬間私の体は宙に浮いた。
全てがスローモーションに見える。トレーの上のお茶はゆっくりと中身をまき散らしながら空を飛んでいた。
ああ…私のお茶…!せっかく頑張って入れたのに…

94: 2009/09/05(土) 03:04:58.10 ID:Br5cNE140
ドン!

唯「痛っ!」

どうやら私の体は背中から床に叩き付けられたみたい…
背中が少し痛い…

唯「いたたたた…」

律「唯!お茶ー!」

梓「先輩危なーい!」

…そうだ!私のお茶!
私はお茶を探そうと目を開けた。
でも探す必要はなかった。なぜならお茶は目の前に…

ばしゃっ!

唯「……」

そうか…あずにゃんの言う危ないの意味がわかったよ。
確かにこれは危ない。

唯「…あっつ~~~~~い!!!」

95: 2009/09/05(土) 03:16:51.89 ID:Br5cNE140
結果、りっちゃんのお茶作戦は失敗に終わりました。
この作戦で失ったものはありません。ただ、得たものはいっぱいあります。
それは私にお茶運びなど出来る筈がないということ。これは憂と純ちゃんが部室に見学に来た時に証明済みの筈なのに、私は同じ過ちを繰り返しました。
次に得たもの、それは火傷です。まだ全身がヒリヒリするのでお風呂は大変です。
そして最後に得たもの、それは、ものをちゃんと管理するという教訓です。
なぜなら、今回私が踏んで滑ったもの、それはギー太のストラップだからです。
そういえば床に置きっぱなしなのを忘れてました。
私は相変らずです。大人になってもゴミを床に捨てるようなまねをしている様な気がします。

唯「今回の作戦での失敗を次回の作戦に生かし、見事成功させたいと思います!
  以上!報告を終わります!」

律「うむ!御苦労、唯隊員!」

澪「…なにやってんだよ」

96: 2009/09/05(土) 03:25:16.43 ID:Br5cNE140
―それから数日後

次は澪ちゃんの作戦で詩を書くことになった。
なんでも、自分のことを歌われて悪い気がする人はいないらしい。
たしかにそうかもしれない、この作戦は澪ちゃんらしいや。

澪「どうだ唯、できたか?」

唯「だめだよぉ、全くできない…私って才能ないのかな?」

澪「途中まで見せてみろよ」

唯「あっ!まだタイトルしかできてないのに…」

澪「どれどれ…」

澪「…沢庵に…首ったけ…?」

98: 2009/09/05(土) 03:32:32.38 ID:Br5cNE140
澪「…唯、お前って本当にムギが好きなのか?」

唯「そ…それはその…大好きだよ」

澪「…そうか、ならこのタイトルはやめろ。これはムギに対する冒涜だ」

唯「えぇ!?そんなぁ…」

澪「いいか唯、詩っていうのはその人の好きなところを書いたりするんだ。私のふわふわ時間もそうだからな」

唯「えっ!?澪ちゃんの好きな人って誰!?」

澪「あっ…それは…言えない」

唯「え~?なんで~?」

澪「なんでもだっ!大体唯はムギのどこを好きになったんだよ?」

99: 2009/09/05(土) 03:38:56.15 ID:Br5cNE140
唯「ん~っと…ムギちゃんの好きなところはねぇ…」

唯「好きなところは…」

…あれ?どこだろう?
その前にどうして、いつから好きになったんだっけ?

唯「好きな…ところは…」

どうしてだろう、こんなにも好きなのに。
なのに好きな理由が見付からない。
…なら、この気持ちは嘘なの?

唯「……」

澪「唯?」

唯「…わからない」

100: 2009/09/05(土) 03:43:20.56 ID:Br5cNE140
唯「分からないよ…どうして私はムギちゃんが好きなんだろう?」

澪「唯…」

唯「どうしよう澪ちゃん…この気持ちが嘘になっちゃうよ…」

唯「こんなにも好きなのに…理由が見付からない…」

澪「大丈夫だよ。好きになるっていうのはそうことなんだ」

唯「え…?よくわかんないよ…」

102: 2009/09/05(土) 03:53:31.67 ID:Br5cNE140
澪「唯はムギが好きな気持ちに嘘はないんだろ?」

唯「…わからない」

澪「嘘じゃないよ。それだけ悩んでるんだからさ」

唯「でも…理由が…」

澪「理由なんていいじゃないか、気が付いたら好きになってたでさ」

唯「でも、それじゃ詩が書けないよ…」

澪「…詩を書くのってさ、簡単なことじゃないんだ」

澪「好きな人の好きな部分を探す、それはちゃんと自分の気持ちに向き合うってことなんだ」

唯「……」

澪「それでさ、書きあがる度に相手の好きな部分が見付かって、もっと好きになる」

澪「そこが、詩を書く醍醐味だと私は思ってるよ。だから唯もこれから探せばいいんだよ」

唯「澪ちゃん…ありがとう」

103: 2009/09/05(土) 04:00:07.81 ID:Br5cNE140
澪「いいんだよ、それで唯がムギのことをもっと好きになってくれればさ」

唯「うん!本当にありがとう澪ちゃん、なんだか心が軽くなったよ」

澪「そ、そうか…なんだか照れくさいな///」

澪ちゃんは顔を真っ赤にして私に微笑みかけてくれた。
私はこの高校で、この部に入部して本当によかった。
だって、こんな素敵な友達なかなかいないよ。

澪「? なに笑ってるんだ?」

唯「ん~?なんでもないよ。ただやる気が出てきたなぁって!」

澪「おっ、そうか!なら今いったことを生かしてなんか書いてみろよ」

唯「うん!」

104: 2009/09/05(土) 04:08:00.02 ID:Br5cNE140
私は澪ちゃんが言っていたことを軸に、新たに詩を書いた。
今回のことで分かったことがある。それはムギちゃんの好きなところ。
私はムギちゃんの優しいところも、おっとりしたところも、沢庵なところも全部大好きなんだ!
ありがとう澪ちゃん。私、自分の気持ちに向き合えた気がするよ。

唯「…できた!」

澪「おっどれどれ、見せてみろよ」

唯「へっへ~ん!今度は自信作だよ!」

澪「まずはタイトルからだな…」

澪「……」

澪「Dear…My…Takuan…?」

108: 2009/09/05(土) 04:14:11.36 ID:Br5cNE140
唯「ど、どうかな…?」

澪「…だめだ」

唯「えぇ!?まだ詩も見てないのに!?」

澪「いや…沢庵からまず離れろよ」

唯「だって、私はムギちゃんの沢庵も含めた全部が好きなんだもん!」

澪「…言っておくが、あれは眉毛だぞ」

唯「…え?」

澪「え?」

111: 2009/09/05(土) 04:20:33.01 ID:Br5cNE140
それから澪ちゃんの指摘もあって、何とか詩は完成した。
確かに新しい詩は沢庵からコンセプトは離れているけど、私は何か物足りないと思う。

澪『いいか!とにかく沢庵はダメだ!それじゃムギが不快な思いをしてしまうかもしれない』

唯『そうかな…?』

澪『そうなの!』

それでもムギちゃんに嫌われるよりはずっとましだ。
澪ちゃんは三年間も作詞してきたんだから、ここは澪ちゃんの言う通りにしよう。

そして数日後、この詩をムギちゃんに渡す日がついに来た。

112: 2009/09/05(土) 04:29:20.91 ID:Br5cNE140
紬「こんにちわー、あら?唯ちゃんだけ?」

唯「う、うんそうだよ!今日はみんなこれないってさ」

紬「そうなの…残念ね」

唯「あはは…そうだね」

紬「なら私達も帰りましょうか」

唯「ま…まって!これ、受け取ってください!」

紬「これは…手紙?あらあら♪もしかして私にラブレター?」

唯「…あ」

…確かにこれはラブレターだ。なんていったって私のムギちゃんへの対する思いがその紙に凝縮されているんだから。
だからここでラブレターだって言ってしまえばいい。それが一番の近道なのに…

唯「ち…違うよ!とにかく読んでみて!」

私は遠回りの道を選んでしまった。

114: 2009/09/05(土) 04:37:38.84 ID:Br5cNE140
紬「そう…」

唯「え…?」

一瞬ムギちゃんが悲しそうな顔をした。
もしかして冗談じゃなく期待してたのかな?

紬「なら読むわね、どれどれ…」

唯「あ…うん…」

紬「Dear My Keys?これ…詩?」

唯「私が作ったんだ、読んでみてよ」

紬「え?えぇ」

117: 2009/09/05(土) 04:52:22.93 ID:Br5cNE140
この詩は私の好きな人を歌った詩。
ムギちゃんのキーボードはその優しい音で全てを包み込む。
あずにゃんのギターも、澪ちゃんのベースも、りっちゃんのドラムも、もちろん私のギターも、この音に包まれるから演奏の輝きが増すんだ。
だから私達は今でも部活を続けている。みんながその音に魅了されているから。
そう、それはまるで、鍵盤の魔法。~Dear My Keys~

唯「…ていう意味の詩なんだけど…」

紬「……」

唯「…どう、かな?」

紬「……」

ムギちゃんは急に顔を伏せて黙ってしまった。
もしかして、今回の作戦も失敗に終わるのかな?
…せっかく一生懸命書いたのに。

唯「……」

紬「…素晴らしいわ、感動しちゃった」

119: 2009/09/05(土) 05:05:21.07 ID:Br5cNE140
唯「…え?本当!?」

ムギちゃんと一緒に俯いていた私が顔をあげると、そこには本当に嬉しそうな顔をしたムギちゃんが、私を見て微笑んでいた。
…そうだ、この顔だ。私はこの笑顔に徐々に惹かれていったんだっけ。

紬「えぇ、本当よ。すごく嬉しい」

紬「こんなに友達として私を想っていてくれたなんて♪」

唯「え…?ち、ちが…」

違う。私は友達以上にムギちゃんのことが好きなんだよ。
でも、もしここで告白したらどうなっちゃうのかな?もし振られちゃったら?
肝心な時に私の頭はいい方向に働いてくれない。
そのせいで勇気が出せない。。

紬「私も唯ちゃんのこと大好きよ♪」

私はもっと好きなんだよ?この気持ちを伝えたい…こんなにも近くに近道があるのに…
もう遠回りは嫌だ。ここで勇気を出さなきゃ!全てを伝えるんだ!


唯「わ…私も、ムギちゃんが大好き!!!」

121: 2009/09/05(土) 05:15:45.76 ID:Br5cNE140
紬「え…?」

思わず叫んでしまった。ムギちゃんがびっくりしている。
でも、何か詰まっていたものが全部吐き出された様な、そんな気分だ。
後は私の素直な気持ちを相手に流し込むだけ。悩みや葛藤なんて全て吐き出してしまったから。

唯「私はね…ムギちゃんが大好きなんだよ」

紬「えぇ、分かっているわよ」

唯「違うよ!ムギちゃんの好きとは違う!私の好きは…」

ここまで来たんだ、ためらう必要はない。

唯「愛してるの方なの!!!」

124: 2009/09/05(土) 05:26:08.28 ID:Br5cNE140
唯「軽音部に入部した日、ムギちゃんは私に微笑んでくれた。軽音部へようこそって…」

紬「……」

唯「私さ、その笑顔を初めて見た時、なんかいいなぁって思ったんだ」

紬「……」

唯「それからその笑顔を見るたびに、いや、ムギちゃんと同じ時間を過ごすごとに、徐々に好きになっていった」

紬「……」

唯「…最初はさ、告白する気なんてなかったんだ。この関係を壊したくなかったから。一生このままでいいって思ってた」

紬「……」

唯「でもそれは無理だった。私はムギちゃんが好き!もっと一緒に二人でいたい!だから…!」

紬「…もういいわ」

唯「…え?」

紬「それ以上は言わないで…お願い」

128: 2009/09/05(土) 05:37:59.96 ID:Br5cNE140
紬「唯ちゃんの気持ちは分かったから…だから、もういい」

唯「で、でも…!」

紬「もういいの!!!」

唯「…!」

ムギちゃんの怒ったところ、初めて見た…
どうして…?なにがいけなかったんだろう…?
どうしてムギちゃんを怒らせちゃったのかな…?

紬「…怒鳴ってしまってごめんなさい」

唯「……」

謝るのはこっちの方なのに…それなのに、何も喋ることができない。
これ以上喋るとムギちゃんに嫌われるから?でも、もう嫌われてしまった…

唯「…ごめんなさい」ポロポロ

私の目から熱い雫が零れる。
一度出た涙は留まることを知らなくて…

唯「ごめんなさい!!!もっと謝るからぁ!だから嫌いにならないでぇ!」ポロポロ

気づけば私はひどく惨めに泣いていた。
ムギちゃんはこんな私をどう思うだろう。憐れんでいるのだろうか。

131: 2009/09/05(土) 05:54:28.61 ID:Br5cNE140
紬「……」

ムギちゃんが私をじっと見つめている。やっぱりその顔は、今の私を憐れんでいるようで…
それでも私はムギちゃんに泣きながら謝るのを止めない。

唯「ごめんなさい…!ごめんなさい…!」ポロポロ

紬「…詩、ありがとう。大切にさせてもらうわ」

唯「ごめんなさい…!許してぇ…!」ポロポロ

紬「…それじゃ」

カツン…カツン…

ムギちゃんが一歩ずつ、ドアの方へ向って歩いていく。その背中に、私はまだ謝り続けていた。
こうすることしかできない自分が憎い。他にやるべきことだっていっぱいある筈なのに…なのに…

唯「まってぇ!行かないでよぉ!」ポロポロ

泣いてばかりで自分から動こうとしない…、まるでだだをこねる子供みたいだ。
…そしてムギちゃんはドアの前に立つと、一度こちらを振り返り、

紬「…さようなら」

がちゃっ ばたん

お別れを告げた。

私はこの日、振られてしまった。

234: 2009/09/06(日) 00:21:35.83 ID:WmLcP/ww0
どれだけ、私は泣いていたのだろう。
気が付けば辺りは何も見えないほどに暗くなっていた。

カツン…カツン…

誰かの足音が聞こえる。
その足音は徐々に大きくなって、そして…

がちゃっ

唯「…誰?」

「先輩…」

唯「あずにゃん?」

梓「はい、そうです」

236: 2009/09/06(日) 00:28:43.08 ID:WmLcP/ww0
唯「…あずにゃん、私ね、ムギちゃんに振られちゃった」

梓「……」

唯「いや、嫌われちゃったよ…」

梓[……」

唯「頑張って告白したんだけどな…やっぱり女の子が女の子を好きになるのって気持ち悪いよね…」

梓「……」

唯「あはは…最初からわかっていたことなのに…」

梓「……」

唯「こんなことになるなら…頑張らなければよかった…!」グスッ

梓「…本当にそう思うんですか?」

唯「え…?」

242: 2009/09/06(日) 00:44:46.77 ID:WmLcP/ww0
梓「私はそうは思いません」

唯「どうして…?」

梓「だって、その気持ちは確かにムギ先輩に届いてるはずですから」

唯「そんな訳ないよ…だって、ムギちゃんは…」

唯「ムギちゃんは…」ポロ

せっかく治まった涙がまた溢れだす。
さっきのことを思い出すだけで、もう止まらない。

唯「私のことが嫌いだってぇ…!」ポロポロ

梓「先輩…」

何かふわっとした暖かい感触、それが私の体を包み込んだ。

梓「……」

あずにゃんは私を優しく抱きしめてくれていた。
後輩の前でみっともない姿は見せられない。それなのに…

唯「うわああああん!あずにゃああん!」

私はまた、みっともなく泣いてしまった。

245: 2009/09/06(日) 01:02:16.56 ID:WmLcP/ww0
梓「よしよし…」

あずにゃんはまるで子供をあやす様に私の頭を撫でる。
私はあずにゃんの優しさが嬉しいのと、まるで本当に子供の様な私があまりにも情けなくて、更に涙が溢れ出した。

唯「うわああああん!」ポロポロ

あずにゃんの制服を掴む手に、さらに力が入る。
そして肩は私の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。

しばらくその状態が続いていた。
一体どれだけ時間がたったんだろう。私は大分落ち着いていて、涙も止まっていた。

梓「…落ち着きましたか?」

唯「…うん、ありがとうあずにゃん」

あずにゃんから体を離す。…少し落ち着いて気づいたが、きっと今のあずにゃんの制服はしわしわのぐちゃぐちゃなんだろうな。
後でクリーニング代払わなくちゃ…。

246: 2009/09/06(日) 01:03:21.22 ID:WmLcP/ww0
>>244
すみません 考えながら書いてるんで遅いです

249: 2009/09/06(日) 01:14:11.70 ID:WmLcP/ww0
唯「あずにゃんのお陰で少し楽になったよ。…それでもまだ思い出すと泣いちゃいそうだけどね」ニコッ

私は精一杯笑った。暗がりのせいでこの笑顔は見えないかもしれないけど、
それでもこれは、あずにゃんにこれ以上心配をかけないようにと思った私なりの気づかいだ。

梓「ムギ先輩のこと諦めてしまうんですか?」

唯「うん、振られちゃったしね…」

梓「確かにそうかもしれませんが、私はまだ諦めるのは早いと思います」

唯「え…?どうしてそう思うの…?」

梓「…だって、本当に唯先輩が嫌いなら、なぜムギ先輩は泣いていたんでしょうね?」

252: 2009/09/06(日) 01:24:25.54 ID:WmLcP/ww0
唯「ムギちゃんが…泣いてた…?」

梓「はい、実はさっき…」



『ぐすっ…唯ちゃん…ひっぐ…ごめんなさい…!』

梓『? ムギ先輩?』

紬『…え?あ、梓ちゃん!?』

梓『…泣いていたんですか?』

紬『な、泣いてなんか…!』ゴシゴシ

梓『バレバレですよ…もしかして、唯先輩のことで?』

紬『…!』

254: 2009/09/06(日) 01:30:21.37 ID:WmLcP/ww0
梓『…図星ですか。それで唯先輩はなんて?』

紬『…私のことが…好きだって』

梓『それで、ムギ先輩はなんて?』

紬『唯ちゃんに酷いこといっちゃった…最低よね私。もう前みたいに仲良くできないわ…』

紬『みんなと仲良しでいたいから…この関係を壊したくないから…』

紬『私はずっと自分の想いを抑えてきたのに…自分で壊しちゃった…』

梓『ムギ先輩の想い…?』

梓『…!そ、それってまさか!?』

紬『…梓ちゃんはなんでもお見通しね、そう…』

紬『私は…唯ちゃんのことが…』

256: 2009/09/06(日) 01:43:32.95 ID:WmLcP/ww0
唯「はぁ…はぁ…!」

気が付けば私は走っていた。
あずにゃんはついさっきまでムギちゃんと学校で話してたんだ。なら今なら…
今ならまだ間に合う!

唯「はぁ…はぁ…いた…!」

しばらく通学路を走っていると、遠くの方に金髪の女の子が歩いているのが見えた。

唯「ムギちゃーーん!!!」

私が叫んでも、その人はこちらを振り返らない。
もしかしたら人違いじゃ?そんな訳ない!こんなにも好きな人の姿を忘れたりなんかしないんだから!
私は更にスピードを上げ、その人のすぐ近くまで辿り着いた。
今度はちゃんと聞こえるように、私だってわかるように、大きな声でその人の名を呼んだ。

唯「ムギちゃん!!!」

「…!唯ちゃん…」

260: 2009/09/06(日) 01:56:45.47 ID:WmLcP/ww0


紬「…どうしたの?」

唯「…ねぇムギちゃん、もう一度言うね」

唯「私はムギちゃんが好き、愛してるよ」

紬「…!その件はもう終わった筈よ…」

唯「まだだよ、まだ終わってない…」

紬「どういう意味…?」

264: 2009/09/06(日) 02:08:13.82 ID:WmLcP/ww0
唯「あの時の告白、最後まで言わせてほしいんだ」

紬「…ダメよ」

唯「軽音部に入部した日、ムギちゃんは私に微笑んでくれた。軽音部へようこそって…」

紬「…やめて」

唯「私さ、その笑顔を初めて見た時、なんかいいなぁって思ったんだ」

紬「やめてって言ってるでしょ…」

唯「それからその笑顔を見るたびに、いや、ムギちゃんと同じ時間を過ごすごとに、徐々に好きになっていった」

紬「お願いだから…」ポロ

唯「…最初はさ、告白する気なんてなかったんだ。この関係を壊したくなかったから。一生このままでいいって思ってた」

紬「やめてよ…」 ポロポロ

唯「でもそれは無理だった。私はムギちゃんが好き!もっと一緒に二人でいたい!だから…!」

唯「私と付き合って下さい!!!」

紬「……ありがとう唯ちゃん…すごく嬉しい…」ポロポロ

268: 2009/09/06(日) 02:20:40.14 ID:WmLcP/ww0


紬「でも…ごめんなさい…」

唯「……」

紬「唯ちゃんのことは好きよ、愛してる…でもダメなの…」

唯「みんなとの関係が壊れちゃうから…?」

紬「…えぇ、そうよ。私はみんなともずっと仲良しでいたい…だって、初めて私にできた大切な仲間なんだもん…」

唯「大丈夫だよ、こんなことくらいで私達軽音部の絆は壊れないよ」

「そうだぞ!ムギ、お前はこの三年間私達の何を見てきたんだ!?」

「お、おい律!隠れてろって…!」

唯紬「…え?」

270: 2009/09/06(日) 02:34:56.00 ID:WmLcP/ww0
唯「りっちゃん…澪ちゃん…いつからそこに?」

紬「それに、どうしてここに…?」

澪「ほら、ばれたじゃないか!この馬鹿律!」ゴツン!

律「いたっ!だ、だってムギがあまりにも水臭いこと言うからさ…」

律「…なぁムギ、なんでそんな風に思うんだよ?本当に私達の絆が壊れると思うか?」

紬「それは…」

律「この三年間本当に何を見てきたんだ?」

紬「…ごめんなさい」

律「…はぁ、私達を良く見てみろよ。ほら、梓も出てこい」

「…!」

唯「あずにゃん…?もしかしてみんなを集めたのって…」

梓「…私です」

278: 2009/09/06(日) 02:54:26.23 ID:WmLcP/ww0
律「とにかく!いいから来いって!」

梓「ちょ、ちょっと…引っ張らないで下さい!」

律「…ほら、私達を良く見てみろよ」

紬「あ…」

りっちゃん達はとてもまっすぐな瞳でムギちゃんを見つめていた。
まるで私達を信じろよ!って言ってるみたい。いや、そう言ってるんだ。
…本当にいい仲間にあえて良かった。そう思いながら私は、りっちゃん達と同じような瞳でムギちゃんを見つめた。

律「…もし、これでもわからないんならこの三年分を今、その眼に焼きつけろ」

紬「…わかったわ、みんなの気持ちが…」ポロポロ

りっちゃん達を見つめ返すムギちゃんのその眼からは涙が流れていた。

279: 2009/09/06(日) 03:05:46.04 ID:WmLcP/ww0
律「ムギと唯が付き合ったって私達はいつも通りだよ」

澪「だから自分の正直な気持ちに自信を持てよ」

梓「そうですよ、後ろめたさを感じる必要なんてありません」

紬「ありがとうみんな…本当にありがとう…!」ポロポロ

この日、本当の意味で私達の絆は確かなものになった。
私達は本当に仲間なんだ。えへへ、仲間っていいなぁ。

紬「…唯ちゃん、さっきの返事だけど、訂正するわね」

唯「え?」

紬「こんな私でよければ、よろしくお願いします♪」

281: 2009/09/06(日) 03:15:31.85 ID:WmLcP/ww0
梓「先輩!良かったですね!」

唯「……」

梓「先輩?」

…今のは聞き間違えじゃないよね?私は本当にムギちゃんと付き合えるの?
夢じゃないんだよね?試しに私は自分のほっぺをつねってみた。

唯「……」ギュー

唯「…痛い」

なら夢じゃないんだ…
良かった、本当に…良かった…

唯「…うわあああああん!!!」ポロポロ

律「お、おい!どうしてそこで泣くんだよ!?」

唯「うわああああん!良かったよおおおお!」ポロポロ

私は今日だけでどれだけの涙を流したんだろう。
でもこれはさっきまでの悲しい涙じゃない、嬉しい涙だからもっと流してもいいよね。

284: 2009/09/06(日) 03:28:35.29 ID:WmLcP/ww0
紬「ふふ なんだか私も嬉しくてまた…」ぐすっ

唯「ムギちゃあああん!二人で幸せになろうね!」ポロポロ

紬「えぇ♪必ずなりましょうね」

澪「…よかったな、唯の恋がうまくいって」

律「あぁ、本当に応援した甲斐があったよ」

梓「そうですね…二人を見てるとそう思えます」

律「…そうだ!澪、カメラ!」

澪「え…?あ、あぁそうだな!それじゃ…」

カシャッ!

291: 2009/09/06(日) 03:47:50.44 ID:WmLcP/ww0



唯「……」

…何故だろう?前にこの写真を見た時はいい思い出なんてなかったのに…
今、改めて見るととても素敵な写真に見える。それだけ私が年をとったからだろうか?

唯「…違う」

違う、私は忘れていたんだ。この写真にはあの時の努力が写りこんでいるじゃないか。
この恋の結果しか今まで私の眼には映っていなかった。
この恋の裏でどれだけの努力を仲間としてきたか、それを忘れていたんだ。
結果が全てじゃないのに…

この頃の私は、とびきり素敵な恋をしたと思う。

唯「…ムギちゃん、元気かな?」

294: 2009/09/06(日) 03:59:37.12 ID:WmLcP/ww0
そこからのアルバムの写真は、私とムギちゃんのラブラブな写真が大多数を占めていた。
さっきまでは結果に苦しんでいたのに、今では別の意味で胸が苦しい。

唯「…戻りたい」

あの頃に、もう一度だけでも…
でも、思い出の中の私は違う私で、今の私ではない。
もしこの頃に今の私が戻れたなら、昔の仲間や私はなんていうのかな?
こんなつまらない大人になった私を「仲間」だと思ってくれるのだろうか。

そう考えるだけで、私の胸は苦しかった。

295: 2009/09/06(日) 04:11:30.42 ID:WmLcP/ww0
更にぱらぱらとページをめくっていくと、とうとう最後の写真にたどり着いてしまった。

そこには、「卒業」と書かれた校門の前で、笑顔でピースをする部員と幼馴染と妹が写っていた。

唯「和ちゃん…懐かしいなぁ」

和ちゃんは赤い眼鏡をかけた子だ。
幼稚園の時からずっと幼馴染で、高校を卒業してとうとう離れ離れになってしまった。

唯「…みんな元気なのかな?」

この写真と変わらない笑顔で今もいるのだろうか。
変わってしまったのは私だけだと思いたい。
私には、もうこの写真のように笑うことなんてできないから。

296: 2009/09/06(日) 04:17:09.66 ID:WmLcP/ww0



律「とうとう今日で私達も卒業だな」

唯「そうだね…」

梓「寂しくなります…」

澪「そうだな…」

今日は私達の卒業式。
楽しかった高校生活の三年間も、今日で終わりを告げる。
私達が少し落ち込んでいると、ムギちゃんが口を開いた。

紬「ねぇ今日の夜、家で卒業パーティしない?」

299: 2009/09/06(日) 04:27:04.35 ID:WmLcP/ww0
律「お!いいねぇ!」

澪「楽しそうだな!」

唯「いいね!やろうやろう!」

梓「あのぅ…私も行っていいですか…?」

紬「もちろん♪あと和ちゃんと憂ちゃんも誘いましょう!」

唯「やったー!ムギちゃん大好き!」ぎゅぅ

紬「あらあら♪唯ちゃんは甘えんぼうね♪」ナデナデ

律澪梓「……」

さわ子「私も行くから」

律「…!さ、さわちゃんいつの間に…?」

さわ子「…最初からいたわよ」

澪「なんか…ごめんなさい」

302: 2009/09/06(日) 04:32:22.40 ID:WmLcP/ww0
律「なぁみんな、最後に一曲だけ演奏しないか?」

唯「そうだね、これが高校生としての最後の演奏だもんね」

律「…そうだな」

唯「?」

私は少しだけりっちゃんが落ち込んでるように見えた。
こういう感情とは無縁のイメージなのに…
少し意外。

律「…よし!ワン、ツー、スリー、フォー!」

303: 2009/09/06(日) 04:39:11.26 ID:WmLcP/ww0
これが桜高軽音部としての最後の演奏。
心なしか、みんないつもよりも演奏に気合が入っているように思えた。
でも、私はいつも通りにギターを弾いていた。
だって、これが最後だなんて実感がなかったから、またいつもの様にみんなで好きな時に、HTTとして演奏ができると思っていたから。
だから私はあまり寂しくなんかなかった。

でも、この演奏が私達、HTTにとって最後の演奏になる。

306: 2009/09/06(日) 04:45:58.25 ID:WmLcP/ww0
ジャーン!

澪「よし!最後も完ぺきだったな!」

紬「えぇ、いつもより演奏に気合が入っていたわね♪」

唯「私はいつも通りかなぁ」

梓「…でも、これで最後だと思うとなんだか寂しいですね」

澪「まぁ、な…でもそれは桜高軽音部としての最後だろ?」

唯「そうだよ、HTTは永久に不滅です!」

梓「…そうですよね!またいつか、絶対一緒に演奏しましょうね!」

唯「うん!」

律「……」

澪「どうした律、さっきから元気ないな」

律「…私、卒業しない」

308: 2009/09/06(日) 05:01:15.81 ID:WmLcP/ww0
澪「…は?お前何言って…」

律「だって!!卒業したら毎日みんなと会えなくなるんだぜ!?」

りっちゃんが急に大きな声を出した。
それに私達は少し驚き、言葉を失った。
いや、それだけのせいじゃないだろう。みんな寂しいのを考えないようにしてたんだ。
そう思ってしまえば最後の部活が寂しいまま終わってしまうから。

みんなが俯いて黙っていると、澪ちゃんが口を開いた。

澪「たしかにそうだろうな、私と律以外はみんなばらばらの大学に行くんだから」

律「だからだよ…私大学なんて行きたくない!みんなとずっと一緒にいたいよ!」

律「私はこのメンバーだからここまでこれたんだ!このメンバーだから毎日笑っていられたんだよ!」

律「だからさ…みんなと毎日会えなくなるなんて嫌だよ…もっとずっと一緒にいたいよぉ…!」ポロポロ

314: 2009/09/06(日) 05:12:23.84 ID:WmLcP/ww0
私はりっちゃんが泣くところを初めて見た。
いつもは元気いっぱいで、涙とは無縁の人だと思っていたけど、それは私の間違いだった。
りっちゃんはこんなにも寂しがりやで、とても優しい人。
そんなりっちゃんが部長だったから、この軽音部はここまで続けてこれたんだと今更ながらに思った。

澪「…馬鹿だな律は、大馬鹿だよ」

律「うぅ…」ポロポロ

澪「みんな寂しいに決まってるだろ…こんなにも楽しくて…」グスッ

澪「素晴らしい仲間たちと離れなくちゃいけないんだから…!」ポロポロ

紬「私も本当は…寂しい…!」ポロポロ

梓「私だって…これから一人でどうすればいいか…!」ポロポロ

澪ちゃんにつられてみんなも泣きだす。
でも、私は涙を泣かすことはなかった。

318: 2009/09/06(日) 05:21:09.09 ID:WmLcP/ww0
唯「大丈夫だよみんな、寂しくなったらすぐにまた会えばいいんだよ」

澪「…そうだな、唯は前向きだな」

唯「えへへ…そうかな?」

澪「唯の言う通りだ律、寂しくなったらまた一緒に演奏しよう」

紬「そうです、またすぐに会えますから♪」

梓「そうですね、ここは唯先輩を見習わなきゃです」

律「…うん、そうだよな!みんなごめん!私としたことが少し悲観的になってたよ!」

唯「それでこそいつものりっちゃんだよ!」

澪「ほら、顔を拭けよ。そろそろ式に出るぞ」

律「おう!…みんな!本当にありがとう!私達はずっと仲間だ!」

319: 2009/09/06(日) 05:30:04.95 ID:WmLcP/ww0
そして私達は、最後の学校行事の卒業式にでた。
式の最中、周りの人達はみんな別れを惜しんで泣いていたけど、私には泣く理由がわからない。
どうして寂しくなったらすぐに会おうと思わないんだろう。

校長「平沢唯さん」

唯「はい」

名前を呼ばれて卒業証書を受け取る間も、私は今晩のムギちゃんの家のパーティーについて考えていた。
きっとすごく美味しい料理が食べれるんだろうなぁ…今からすごく楽しみ…

323: 2009/09/06(日) 05:40:59.14 ID:WmLcP/ww0
さわ子「あなた達が今日で卒業だなんて…なんだか信じられないわ」

律「さわちゃんにはこの三年間、本当にお世話になりました。どうもありがとうございました!」

一同「どうもありがとうございました!」

さわ子「いいのよ、色々あったけどなんだかんだで私も楽しかったわ。こちらこそ本当にありがとう」

唯「さわちゃん、寂しくなったらまた遊びに来ていい?」

さわ子「えぇ、いいわよ。いつでも歓迎するわ」

唯「えへへ…よかった♪」

さわ子「さぁあなた達、校門の前に並びなさい。最後の思い出の一枚を撮ってあげるわ」

紬「唯ちゃん、一緒に写りましょう」

梓「わ、私も…!」

唯「うん、いいよ!」

さわ子「…それじゃ撮るわよー!1+1はー?」

一同「にー!」(古いな…)

カシャッ!

325: 2009/09/06(日) 05:55:00.14 ID:WmLcP/ww0




唯「……」

この時の私は、寂しければみんなにすぐにでも会えるって本当に思っていた。
でも、それはあの時の私が子供だったからそう思えただけで、実際には寂しい時に会えたりなんかしない。
それは、みんなにはみんなの時間があって、高校の頃みたいに同じ時間を共有出来ないから。

唯「寂しいよ…」

今の私にはいくら寂しくてもみんなに会えないのは分かっている。
でもあの頃の無垢で純粋な私なら、今でもそう信じ続けているんだろう。

昔の自分がすごく羨ましい。

329: 2009/09/06(日) 06:17:38.43 ID:WmLcP/ww0
アルバムも全部見終えてしまった。
これを全部見終えた後に残ったのは、昔に戻りたいという思いと、今の自分に対する劣等感だけ。
こんなにも胸が苦しくなるのなら、最初から見なければよかった。

唯「はぁ…掃除の続きでもしよう…」

私がアルバムを閉じようとすると、最後のページの裏にもう一枚のページがあることに気が付いた。

唯「…?なんだろう…?」

よく見ると、その裏のページはアルバムの見返しの部分に軽くのりづけされているのがわかる。
私はなんとなく、その剥がれかかったページを開いてみた。

そこには

唯「…!!!」

330: 2009/09/06(日) 06:27:15.45 ID:WmLcP/ww0



唯「うわぁ~、すごく大きい家だね」

和「初めて来たけど、これは…」

憂「本当に私まで来てよかったのかな…?」

卒業式が終わった後、私達は夜まで一旦解散となり、
それから私達三人は言われた通りの時間にムギちゃんの家の前まで来ていた。

斎藤「ようこそお越しくださいました。私は琴吹家で執事を務めさせていただいてる、斎藤というものです」

和「ど…どうも…今日は御呼ばれして非常に光栄です」

唯「羊?」

憂「お姉ちゃんは黙ってて…!」

331: 2009/09/06(日) 06:37:14.44 ID:WmLcP/ww0
ばたん!

家のドアが勢い良く開かれた。
そこから現れたのは…

紬「斎藤!すぐに通しなさいって言ったでしょ!」

斎藤「申し訳御座いませんお嬢様」

紬「ごめんなさい三人とも…さぁ、どうぞ上がって♪」

唯「わぁ!お邪魔しまーす!」

憂「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」

和「今日はどうもありがとう、私まで呼んでもらえるなんて」

紬「いいのよ♪人数は多い方が楽しいもの♪」

452: 2009/09/06(日) 23:30:07.97 ID:WmLcP/ww0
唯「うわぁ…すごいや…!」

家の中に入った私は驚いた。
だって、大きなテーブルの上には見たこともないような料理、天井にはテレビでしか見たこともないようなシャンデリア。
今までムギちゃんの別荘には何度か行ったけど、そのどれよりも豪華な家だったから。

憂「お姉ちゃん待っ…!」

憂「うわぁ…すごい…」

和「素晴らしいわ…予想以上ね…」

どうやら感動しているのは私だけじゃないみたい。
二人とも開いた口が塞がらないようだ。

455: 2009/09/06(日) 23:46:12.61 ID:WmLcP/ww0
「おい三人とも!遅いぞ!」

唯「ん?」

私が声のした方に振り向くと、そこにはりっちゃんと澪ちゃんが立っていた。

唯「あ、りっちゃん!澪ちゃん!」

和「あなた達随分と早いのね」

澪「だって…馬鹿律が早く行こうって…」

和「呆れた…律は集合時間も守れないの?」キッ

律「うっ…だ、だって…待ち切れなかったんだもん…///」

和ちゃんに軽く睨まれたりっちゃんが、顔を少し赤くさせてもじもじしていた。
なんだか今日のりっちゃんは可愛いなぁ。これがギャップ萌えって奴かな?

558: 2009/09/07(月) 17:08:43.02 ID:8cAFafUt0
紬「まぁまぁ♪みんな集まったことだしそろそろ…」

みんな?誰か一人足りないような…
私がそんなことを考えてると玄関から声が聞こえた。

「まてよ」

…あぁ、そうだ。大事な人を一人忘れていた。

「てめぇら…お世話になった恩師を忘れるとはどういうことだよ。あぁ?」

唯「さ、さわちゃん…」

律「べ、別に忘れてなんか…」

さわ子「嘘つけよ!今全員集まったから…とか言ってたろうが!」

紬「そ、それは…」

さわ子「どうせ私は…どうせ私は…!」グスッ

唯「さ、さわちゃん泣かないで…」

559: 2009/09/07(月) 17:21:58.11 ID:8cAFafUt0
紬「美味しい料理もありますし…ね?」

さわ子「そうね、早く食べましょう」

澪「……」

律「立ち直り早いなぁ…」

憂「あれ?梓ちゃんは?」

紬「あぁ、梓ちゃんなら少し遅れてくるみたい。ね、唯ちゃん」

唯「うん!」

憂「? ふーん」

562: 2009/09/07(月) 17:38:49.15 ID:8cAFafUt0
紬「それじゃそろそろ始めましょう♪」

澪「そうだな。律、部長のお前が始めろよ」

律「OK!それじゃみんな…」

律「卒業おめでとー!!!」

一同「おめでとー!!!」

チーン!

りっちゃんの掛け声と同時に、みんなが乾杯をした。
みんなはいつも通りの笑顔で、やっぱり私には寂しいなんて感情は湧かなかった。
だって、私達はいつまでもずっと仲間なんだから…

でも、この日を最後に私は、憂以外のこのメンバーと会うことはなかった。

564: 2009/09/07(月) 17:55:15.27 ID:8cAFafUt0
私達が食事やお喋りを楽しんでいると、りっちゃんが急に真面目な顔になった。

律「…なぁ、梓のやついくらなんでも遅くないか?」

澪「確かに…、一体どこで何してるんだろうな?」

憂「心配です…」

みんなが心配するのは最もだろう。だってこんな大事な日にあずにゃんがなかなか来ないんだから。
でも、私はあずにゃんが何故遅れてくるのかを知っていた。

和「ねぇ唯、あんた何か知ってるんでしょ?」

唯「ん~、そろそろ来るはずなんだけど…」

それにしても少し遅いなぁ。ちょっと心配になってきた。
そう考えていると勢いよく入口のドアが開かれる。

ばたん!

梓「先輩!遅くなりました!」

唯「ほら来た!」

567: 2009/09/07(月) 18:06:43.65 ID:8cAFafUt0
律「梓!?お前ずいぶん遅かったなぁ」

澪「今まで何してたんだ?」

梓「まぁちょっと…それより先輩!早く準備しなきゃ!」

唯「そうだね!」

紬「それじゃ行きましょうか」

和「三人ともどこ行くの?」

憂「それに準備って?」

唯「すぐにわかるよ!呼んだら中庭に来てね!」

569: 2009/09/07(月) 18:21:35.19 ID:8cAFafUt0




梓「ムギ先輩、本当にいいんですか?」

紬「いいのよ、もし何かあったら斎藤が何とかしてくれるから」

斎藤「お任せ下さい。消火の準備は万全です」

唯「頼もしいなぁ~」

紬「それにしても…みんなの驚く顔が目に浮かぶわね♪」

梓「喜んでくれるといいんですけど…」

唯「大丈夫だよ!みんな喜んでくれるって!」

そうだよ、喜ぶに決まってる。
私の成長をみんなに見せてあげるんだ!

571: 2009/09/07(月) 18:33:35.86 ID:8cAFafUt0



梓「…よし、先輩!準備できましたよ!」

紬「こっちもできたわよ」

唯「こっちも大丈夫だよ!」

紬「それじゃ、みんなを呼んでくるから少し待っててね」

ムギちゃんが小走りで家の方へと走っていった。
みんながくるまでの間、私とあずにゃんの二人っきりか~

唯「…えへへ」

梓「…なに笑ってるんですか?」

唯「なんか、あずにゃんと二人っきりになるの久しぶりだね」

梓「確かにそうですね。あれから唯先輩はムギ先輩につきっきりでしたからね」

唯「もしかして寂しかった?…な~んてね♪」

梓「……」

唯「…あずにゃん?」

574: 2009/09/07(月) 18:46:35.49 ID:8cAFafUt0
梓「…先輩。先輩達は大学に入ってもお付き合いを続けるんですか?」

唯「もちろんだよ!」

梓「…そうですか」

唯「あずにゃん…どうしたの?」

あずにゃんはあの日の様にまた悲しい顔をしていた。
その顔は、いつかの私を思い出させるようで…私はあずにゃんから顔を背けた。
もうあんな苦しい思いはしたくないから。

梓「先輩…聞いてください」

唯「何…?」

あずにゃんがこちらにゆっくりと近づいてくる。
今にも泣いてしまいそうな顔で…

梓「…実は私は…先輩のことが…」

577: 2009/09/07(月) 18:55:49.34 ID:8cAFafUt0
周りがシーン…と静まり返る。
まるでここだけ時間が止まってしまったみたいに。

唯「私のことが…?」

梓「先輩のことが…」

次に続く言葉が何となくだけどわかる。
でも、それをあずにゃんの口から聞いてしまえば、私は全てが崩れてしまうような気がして…
もう元には戻れないような気がした。

梓「先輩のことが…!」

「すげー!!!なんじゃこりゃー!!!」

唯「…!」

梓「…!」

突如中庭に誰かの声が響く。
それと同時に私とあずにゃんの時間は再び動き出した。

585: 2009/09/07(月) 19:45:27.99 ID:8cAFafUt0
律「なんだよこのステージ!?ライヴでも始まるのか!?」

澪「誰のだよ…」

唯「わ、私達のだよ!ね、あずにゃん!」

梓「……」

唯「あ…」

あずにゃんは黙って俯いたままだった。
どうしよう…私の予想が本当なら…私は今まであずにゃんに酷いことを…

唯「……」

梓「…そうです!私と唯先輩のライヴステージへようこそ♪」

唯「あずにゃん…」

588: 2009/09/07(月) 19:51:29.11 ID:8cAFafUt0
梓「ごめんなさい唯先輩、さっきの話は忘れてください」

唯「でも…」

梓「いいですから。ほら、みんなに唯先輩の成長した姿を見せるんですよね?」

あずにゃんがにこりと笑ってこちらに手を差し出してきた。
その顔からはさっきの様子はうかがえなくて、あれは私の勘違いだったのかと思わせるほどだった。

唯「…そうだね!その為にムギちゃんにお願いしてステージを立ててもらったんだから!」

私はあずにゃんの手をぎゅっと握り返した。
その手は暖かくて、あの日二人で手を繋いで歩いたことを思いだした。

あの時のあずにゃんの手は、今日より冷たくなかった。

594: 2009/09/07(月) 20:24:49.64 ID:8cAFafUt0



梓『えっ!?今日の卒業パーティでライヴをやりたい!?』

唯『うん、びっくりサプライズだよ!花火をババーンと打ち上げてさ!』

梓『花火って…ムギ先輩の許可はもらったんですか?』

紬『うちはいいわよ♪びっくりサプライズなんて楽しそうですもの♪』

唯『だよねぇ♪ムギちゃん大好きー♪』ギュッ

紬『あらあら♪私も大好きよ♪』

梓『……どうしてこの事を私だけに話したんですか?』

唯『ん~?どうしてって…あずにゃんになら話しても先にいいかな?って思ったんだ』

梓『…どうしてですか?』

595: 2009/09/07(月) 20:41:20.69 ID:8cAFafUt0
唯『あずにゃんに隠し事はできないからね…ってただ私が誰かに話したくてしょうがなかっただけなんだけどさ』

梓『…そうですか、まぁ何とも唯先輩らしいですね』

唯『えへへ…照れるなぁ』

梓『ほめてないですよ…あと今日のライヴなんですけど、私も一緒にステージに立っていいですか?』

唯『あずにゃんも?別にいいけど…』

紬『…唯ちゃんはね、今日のライヴで成長した自分をみんなに見せたいんですって。だからここは…』

梓『私は唯先輩に聞いてるんです!お願いです先輩…私も一緒に演奏させてください!』

唯『…わかったよ。一緒にがんばろうあずにゃん!』

梓『! はい!』

598: 2009/09/07(月) 20:52:26.60 ID:8cAFafUt0



唯「みなさん!卒業おめでとうございます!今日のライブは私とムギちゃんとあずにゃんの三人で企画した、サプライズライヴです!」

律「へぇ…唯のやつ憎いことするじゃん」

澪「どうやらサプライズを用意したのは私達だけじゃなかったみたいだな」

律「だな…仲間を想う気持ちはみんな一緒か」

唯「えーそれじゃ、聞いてください!」

唯「翼をください!」

ジャーン!

あずにゃんと二人だけでギターを弾くなんてあの日以来だ。
あの日はあずにゃんの気持ちがわからなかったけど、今は何となくわかるよ。

…でも、ギターを通じてじゃないのが少し悔しい。

599: 2009/09/07(月) 21:03:38.20 ID:8cAFafUt0
ジャーン!

私達がギターを弾き終えると、後ろから大きな花火が打ちあがる。
みんなそれに驚いて目を丸くしていた。

律「すげー…」

澪「あぁ…最初の夏の合宿を思い出すな…」

紬「すごいわ…綺麗…」

和「唯ってこんなにギター上手だったっけ…?」

憂「お姉ちゃんも梓ちゃんも素敵…」

どうやら私のサプライズは大成功の様だ。
本当にやってよかった…。あずにゃんもそう思ってくれてるのかな?

唯「やったねあずにゃん!」

梓「……」

でも、あずにゃんはまた悲しい顔をしていた。

605: 2009/09/07(月) 21:22:35.38 ID:8cAFafUt0
ねぇ、お願いだよあずにゃん…そんな悲しい顔しないでよ…
そんな顔されたら…私は…

唯「あずにゃ…」

私があずにゃんに声をかけようとすると、あずにゃんはステージから下りてそのままムギちゃんの元へ駆け寄った。

梓「……」ゴニョゴニョ

紬「……」

どうやらあずにゃんはムギちゃんに何かを伝えているらしい。
でも私にはその内容がわかる訳がなく…
私が黙って二人を見ていると、あずにゃんは私の視線に気が付いたようで
ちらっとこっちをみた後、ムギちゃんの手を引いて家の中へと戻ってしまった。

607: 2009/09/07(月) 21:27:06.23 ID:8cAFafUt0
憂「どうしたんだろう梓ちゃん?」

律「きっとトイレじゃねー?ムギの家広すぎるから場所がわかんなかったんだろー」

澪「だといいけど…」

和「なんだか思い詰めた顔をしてたような…」

唯「……」

律「おーい唯、いつまでもステージに立ってないで下りてこいよ」

唯「…え?あ、あぁ!今下りるよ!」

本当にりっちゃんの言う通りトイレならいいんだけど…

嫌な予感がおさまらない…

610: 2009/09/07(月) 21:40:49.31 ID:8cAFafUt0
律「それじゃそろそろ私達も…」

澪「え?ムギと梓はいいのか?」

律「いいって!後でちゃんと渡すからさ!」

和「あなた達も何かあるの?」

律「あぁ!私達のサプライズは…これだ!」

りっちゃんが手にぶら下げた紙袋から、人数分の本を取り出した。
それを次々と配っていく。私にも本が手渡され表紙を見てみると、そこには

和「なにこれ…?」

唯「…桜高軽音部卒業アルバム?」

りっちゃんの少し雑な字で、その本のタイトルが書いてあった。

614: 2009/09/07(月) 21:54:30.32 ID:8cAFafUt0
律「へへ…澪と私の二人で作ったんだ!」

澪「私は写真を撮るのが好きだからさ…今まで撮った思い出を何かにまとめられたらなぁ…って」

唯「へぇ~、ありがとう二人とも♪」

和「でも私までもらっちゃっていいのかしら?」

憂「私も…」

律「まぁもらってくれよ。二人の写真は一枚しかないけどさ!」

和「どれどれ…」パラパラ…

憂「…本当だ、卒業式の写真しかないや」

さわ子「…あれ?私の分は?」

618: 2009/09/07(月) 22:13:31.64 ID:8cAFafUt0
唯「ありがとう!一生大事にするね♪」

律「おう!あぁ、後唯は家に帰ってからそのアルバム見ろよ?」

唯「? どうして?」

澪「まぁいいから。さて、後はムギと梓だけだな」

律「二人はこれのこと知ってるから後で普通に渡せばいいだろ~?」

唯「え?どうしてあの二人は知ってるの?」

澪「…!この馬鹿律!まだ内緒だって言ったろ!」

律「ははっ!大丈夫だって!ちゃんとノリづけしたから、しばらく何のことかわからないよ」

澪「はぁ!?そんなことしたら見れないだろ!?」

律「ふふふ…それこそが私のサプライズ!忘れた頃に見つけたら感動もんだろ?」

澪「…もう呆れて言葉も出ない…」

621: 2009/09/07(月) 22:24:08.58 ID:8cAFafUt0
二人は何を隠してるのかな?
でも、今はそんなことよりあの二人の方が…

唯「そうだ!そのアルバム、私があずにゃんとムギちゃんに渡してくるよ!」

澪「え?そのうち戻ってくるだろ」

唯「いいから!渡してきてあげるって!」

澪「そ、そうか?ならお願いするよ」

唯「うん!まかせて!」

私は澪ちゃんからアルバムを半強制的に奪い取り、ムギちゃんの家へ走った。
二人は何をしているか、何を話しているか気になったから。

あの嫌な予感はまだおさまってくれない。

625: 2009/09/07(月) 22:34:19.21 ID:8cAFafUt0
ばたん!

唯「はぁ…はぁ…!」

私が勢いよく玄関のドアを開けると、中にドアを開く音が響く。
それ以外に全く音がしない。

「…、……」

…いや、微かに何か聞こえる。
これは…人の声?多分あの二人のどちらかの声だろう。

唯「……」

私は息を頃して声のする方へ進んだ。
何故頃す必要があるのだろう。私はあの二人の話を盗み聞きしようとでも思っているのだろうか?

徐々に徐々に進んでいくと、その声は泣き声に変わる。

唯「この泣き声は…あずにゃん?」

私は少しだけ足を速めた。
徐々にその泣き声は大きくなっていく。
そして…

唯「…ここから聞こえる」

私は声のもとまで辿り着いた。

637: 2009/09/07(月) 23:04:21.65 ID:8cAFafUt0
「…は…ギ先輩に…」

やっぱりここに二人はいる…でも、よく聞こえない。
私はドアにそっと耳を押しあてた。
仲間の内緒話に聞き耳を立てるなんて、私はなんて最低なんだろう。

それでも…今は好奇心の方が勝っていた。

梓「…私は最初、大好きな唯先輩が笑っていられるならそれでいいって思えていたんです」グスッ

紬「……」

梓「唯先輩のことだって諦めたつもりでいました…でも…」

梓「…やっぱり諦めきれませんでした」

紬「……」

639: 2009/09/07(月) 23:08:37.24 ID:8cAFafUt0
>>638
安心して。明日は休みだから徹夜で書く
あともう少しで終わるよ

644: 2009/09/07(月) 23:22:37.37 ID:8cAFafUt0
梓「最初は唯先輩の恋がうまくいくように応援してたんです…」

梓「私だけじゃないです…みんなでです…」

梓「…だから、唯先輩とムギ先輩が付き合った時、すごく嬉しかった…」

紬「……」

梓「…でも、それと同時に悲しかったんです」

梓「私は…心のどこかで唯先輩の恋なんて実らなきゃいいのに…って思ってたんですよ…」

梓「あはは…最低ですよね…唯先輩の恋を手伝ったのだって、もし振られたら優しくしてくれた私になびくかもって…」

梓「…そう思ってたんですよ」

紬「梓ちゃん…」

647: 2009/09/07(月) 23:32:40.66 ID:8cAFafUt0
梓「だから…私は二人が付き合ってからも応援した「ふり」をしてたんです」

梓「もし別れたら私にもチャンスが…なんて思ってたから…」

紬「…残念だけど、私は唯ちゃんと別れるつもりはないわ」

梓「…さっき唯先輩も同じことを言っていましたよ」

紬「唯ちゃんも…?なんだか嬉しいわ」

梓「やっぱり二人はお似合いですね…実は今日のライヴだって、唯先輩に最後のアピールをしようと思ったからなんです」

紬「アピール…?」

梓「はい…楽器にはその人の気持ちが宿ります。だから私はギターに唯先輩を好きだって気持ちをいっぱい詰めたんですよ」

紬「それで唯ちゃんは…?」

梓「…多分私の気持ちに気がついたと思います。それでも唯先輩はムギ先輩が好きなんですよ。だから…」

梓「…私は今日で本当に唯先輩のことを諦めることにします」

653: 2009/09/07(月) 23:42:32.07 ID:8cAFafUt0
唯「……」

あずにゃんはこんなにも私を想っていてくれたんだ…
それなのに私は…こんなにもあずにゃんを苦しめた…

もうこれ以上は聞いてはいけない。私はそう思ってそっとその場を去ろうとした。

…でも、聞いてしまう。一番聞きたくなかった言葉を。

紬「そう…ねぇ一つ教えて」

梓「はい、なんですか?」

紬「いつから唯ちゃんのことが…?」

梓「…初めて部室で抱きつかれた時からです」


唯「…え?」

657: 2009/09/07(月) 23:54:10.02 ID:8cAFafUt0
私の頭に今までの記憶が甦る。
今まで私はあずにゃんに何の躊躇いもなく抱きついたりしていた。
それは、私なりのスキンシップであって…何の考えもなく行っていたこと。

…でも、それのせいであずにゃんは私のことが好きになって、結果私はあずにゃんを苦しめた?
私の軽はずみな考えと行動のせいで…あずにゃんはこんなにも苦しんだのに…
なのに私はあずにゃんよりムギちゃんをとった。あんなにあずにゃんからのアプローチがあったにも関わらず、私は責任も取らずに自分のやりたいことだけをやって…
それをあずにゃんはずっと悲しい目をして見ていたんだ…どうして気が付かなかった…

…私は、最低だ。
こんな自分勝手な私にみんなを仲間だなんていう資格はない…

気が付けば私はムギちゃんの家を飛び出し、自分の部屋のベッドにもぐり泣いていた。

661: 2009/09/07(月) 23:59:26.77 ID:8cAFafUt0
>>658
あれ?中庭に出てたこと言わなかったっけ?
書き忘れならごめんなさい、中庭にいました

665: 2009/09/08(火) 00:04:09.57 ID:bc/6y8010
―数日後

プルルルルルr

「もしもし唯ちゃん、どうしたの?」

唯「あ…ごめんねムギちゃん、急に電話しちゃって…」

「いいわよ♪それでどうしたの?」

唯「…あのね、私達、もう別れよう」

「え…」

唯「…ごめんね突然」

「…どうして?」

唯「なんかもうね…疲れちゃった…」

669: 2009/09/08(火) 00:12:36.07 ID:bc/6y8010
「そんな…私の何がいけなかったの!?教えてよ…!ねぇ…!」

唯「ムギちゃんは悪くないよ…悪いのは自分勝手な私…」

「違う!唯ちゃんは自分勝手なんかじゃないから…!だからお願い…!考え直して…!」

唯「もう無理だよ…このままだとムギちゃんまで傷つけちゃう…」

「傷つける…?もしかして…私と梓ちゃんの話を…!」

唯「…そういうことだから、それじゃ…」

「あ…唯ちゃん待って!まだ話たいことが」

ブツッ 

唯「…ごめんねムギちゃん」

みんなであんなに努力して実らせた私達の恋。
それは、あまりにも呆気ない幕切れだった。

678: 2009/09/08(火) 00:26:41.16 ID:bc/6y8010
―それからさらに数日後


私は大学が始まるまでの間、誰とも会うことなく自宅に引きこもっていた。
その間もよくムギちゃんから電話が来ていたけど、私はそれを無視し続けていた。

それからムギちゃんだけではなく、みんなからもよく電話がかかってくるようになった。
私はみんなからの電話も無視し続け、気が付けば着信履歴は一日で50件を超える程だ。
もう放っておいてほしい…それがその時の私の本音だった。


そして、それからさらに数日後

唯「…はぁ」

私は部屋で一人ため息をついていた。
しばらく続くこの憂鬱感も、当分続くんだろう…

コンコン…

「…お姉ちゃん、起きてる?」

ドアの向こうで憂の声が聞こえる。
私は鬱陶しそうに返事をした。

唯「…起きてるよ」

「おいなんだよその声は!」

679: 2009/09/08(火) 00:36:21.69 ID:bc/6y8010
唯「えっ!?」

私は驚いてドアの方に注目した。
だって…この声は…

唯「…りっちゃん?」

「だけじゃないですよ、私もいます」

「私もだよ」

「まったく…こんな真昼間から部屋に引きこもってるなんて…」

次々と聞きなれた声が聞こえてくる。
もしかしてみんな、私が電話に出ないからってわざわざ会いに来たの?

唯「…みんな、何しに来たの?」

律「何しにって…唯に会いに来たんだよ」

梓「そうですよ、早くドアを開けてください」

がちゃがちゃ…とドアノブを捻る音が聞こえる。
普段私は部屋に鍵をかけることなんてないのだが、あの日以来部屋に鍵をかけるようにしている。
だれにも部屋に入ってきてほしくないから…憂にも…

唯「…帰ってよ」

688: 2009/09/08(火) 00:48:20.44 ID:bc/6y8010
澪「えっ?」

唯「お願いだから帰ってよ!」

私はドアに向かって叫んだ。感極まって涙まで出てきてしまったが、ドアが開かない限りこの涙を隠すことはないだろう。

ドアの向こう側が静まり返り、部屋には私のすすり泣く声が響く。
今みんなはどんな表情でいるのだろう。きっと私に呆れているんだろうな。

律「…唯、泣いているのか?」

澪「なぁ唯、ここを開けてくれよ」

唯「…無理だよ…開けられないよぉ…ひっぐ…」ポロポロ

梓「みんな唯先輩のことを心配してますよ?」

唯「うぅ…」ポロポロ

それはわかっている。わかっているからこそこのドアは開けられない。
みんなの優しさが、今の私には辛すぎるから…

692: 2009/09/08(火) 00:55:59.75 ID:bc/6y8010
律「…無理に開けなくてもいい、だから聞いてくれ」

律「唯、お前ムギと別れたんだってな」

澪「お、おい!今ここで言うことじゃ…!」

和「いいから…ここは律にかけてみましょう」

律「唯、お前は本当に大馬鹿野郎だな」

唯「…!」

律「せっかく頑張って手に入れた幸せを自分から手放すなんて勿体ねぇ真似しやがって」

唯「……」

…返す言葉もない。
でもこれは仕方がないことだったんだよ…

律「おまけにそのショックで部屋に引きこもるなんて…自分で別れるって決めたんだろ?」

唯「……」

698: 2009/09/08(火) 01:08:45.20 ID:bc/6y8010
梓「り、律先輩!そのことに関しては私が悪かったんです!だから…」

律「梓は黙ってろよ。確かに間接的に梓は関わってるかもしれないけど、今悪いのは唯だよ」

梓「で、でも…!」

律「いいから、私は唯と話をしてるんだ」

律「…ムギから聞いたよ。梓が唯のことを好きだってこと聞いたんだってな」

唯「…聞いたよ」

律「だからムギと別れるって?馬鹿かお前」

唯「…!」

律「ムギの気持ちはどうすんだよ。お前は梓の気持ちに対する罪滅ぼしをしたつもりなのかも知れねえけど、ムギはどうすんだ?」

唯「……」

律「どうするか考えてなかったんだろ?自分のことで精一杯だったからさ」

唯「…うるさい」

知った様な口をきかないでよ…
こうするしか方法はなかったんだから…他にどんな方法があったって言うの?

703: 2009/09/08(火) 01:19:43.15 ID:bc/6y8010
律「なんだ?怒ったのか?お前みたいな馬鹿でも怒ることなんてあるんだな!」

唯「うるさい…!」

馬鹿にするのもいい加減にしろ…
ならりっちゃんにはどんな解決方法があったって言うの!?
なにもないくせに…偉そうなこと言わないでよ!

律「なんだ、聞こえねえぞ!もっと大きな声で喋ってみろよ!」

唯「うるさいっ!!!」

律「なんだよ、悔しいのか!?悔しかったらかかってこいよ!」

…ダメだ、ここでドアを開けてしまう訳にはいかない。
悔しいけど我慢だ…

唯「……」

律「…かかってこいよ!!!」

708: 2009/09/08(火) 01:29:03.35 ID:bc/6y8010
澪「律!少し落ち着け!」

律「澪は黙ってろよ!」

澪「ここに来た目的を忘れたのか!?唯に追い打ち掛けてどうすんだよ!?」

律「だってこいつは…!」

澪「いいから…落ち着いて話せよ。唯が心配なのは知ってるからさ…」

律「……わかった」

和「…ねぇ唯、あんたを一番心配してたのは律なのよ?だから許してあげて…」

唯「…うん、ごめん」

律「私もごめん…なぁ唯、やっぱりお前は馬鹿だよ」

律「お前は…この三年間何を見てきたんだよ」

711: 2009/09/08(火) 01:39:12.18 ID:bc/6y8010
唯「……」

その話は前に聞いた。
でもこればかりはみんなを信じてどうにかなることじゃない。
どうにもならないことだったんだよ…これが私なりのケジメの付け方なんだから…

律「…わからないならいい。後でもアルバムを見てくれ」

唯「アルバム…?」

律「あぁ、それを見ればみんなの気持ちがわかるさ」

唯「…わかった」

律「それじゃ私達、そろそろ帰るわ…あ、そうだ。ムギから伝言なんだけど、別れても私達は素敵な友達でいよう…だって」

唯「……」

律「…あと、怒鳴って悪かったな…それじゃ…」

717: 2009/09/08(火) 01:48:18.04 ID:bc/6y8010
りっちゃん達が帰った後、私はアルバムをぱらぱらとめくった。
そのアルバムの中の私達は、常に笑顔でとても楽しそうにしている。

唯「……」

それを見て初めて気が付いた。もうこの頃には戻れないと…
寂しくたって私にはみんなに会う資格なんかないんだと…

結果、このアルバムはりっちゃんの言葉の意味を教えてはくれなかった。
残ったのは酷い喪失感だけ。







唯「あ…あ…」ポロポロ

でも今は違う…りっちゃんの言っていた言葉の意味がようやく分かった。
この意味を知って、私の涙はとめどなく溢れ続けていた。

だって…最後のページのそこには

732: 2009/09/08(火) 02:09:34.76 ID:bc/6y8010
                                  唯への寄せ書き


このページは我が軽音部のエース、平沢唯の為に特別に設けたページである!みんな、唯に対する日頃の思いをここに書き記せー!



色々あったけど、なんだかんだで楽しかったよ。唯が入部してくれてなかったらこの部は廃部だったんだもんな。ありがとう、唯。      秋山澪


初めて見たときからずっと好きでした。でもこの恋は決して成就することなどないって思っていました。だから今、私は唯ちゃんと
付き合えてすごく幸せです!大学に行っても仲良くしましょうね♪                                             琴吹紬


先輩と一緒に部活を続けられて、本当に楽しかったです。また一緒に演奏しましょう!その日を楽しみにしています!             中野梓


もっとお菓子が食べたいので卒業しないで下さい                                                       山中さわ子


高校生活もあっという間だったな。本当に楽しかったよ。でもお前があの日入部しなかったら、私達はきっとここまで楽しむことは
できなかったと思う。だからこの場をかりて言わせてくれ。唯、軽音部に入部してくれて本当にありがとう!                    田井中律



                         何があっても私達は仲間だ!私達が一番輝いていた「この時代」を忘れないように!        軽音部一同

742: 2009/09/08(火) 02:22:32.74 ID:bc/6y8010
そうだ…私達は何があっても仲間なのに…
あの日りっちゃんはこの事を言いたかったんだ…
なのに私は…あの時すでにあの頃のことを忘れていたんだ…

唯「ごめんなさいみんな…ごめんなさい…!」ポロポロ

溢れる涙が止まらない…私はなんて取り返しのつかないことを…!

唯「また戻りたいよぉ…!あの時代に戻りたい…!」ポロポロ

私は震えるその手で携帯電話を掴む。
まだみんなの番号は残っていた。みんなとは二度と会うつもりなんて無かったのに…
私は消せないでいたんだ…

私はまずりっちゃんに電話をかけてみた。
携帯を持つ手に力が入る。

唯「…お願い…出て!」ポロポロ

がちゃ

「この番号は現在使われていないか…」

唯「え…?」

頭の中が真っ白になる。
それだけ大事なもの手放してしまったんだ。

754: 2009/09/08(火) 02:34:11.08 ID:bc/6y8010
「この番号は使われていないか…」

唯「そん…な…」

私は全員に電話をかけてみた。でも、結果は全員同じだった。
携帯を握る手に力がなくなり、それはするりと指の間を滑り落ちる。

唯「なん…で…どうして…?」

なんで?これは当然の報いだ。今まで仲間達を避け続けてきたんだから。
今更仲間面したってもう何もかもが遅すぎる。

唯「もうみんなには…会えないんだね…」

深い絶望が私の体を包む。
もうあの頃に二度と戻れないなら…

…生きてたってしょうがないよね。

768: 2009/09/08(火) 02:43:07.27 ID:bc/6y8010
私は台所に立ててある包丁を手に持った。

唯「…これで、私はあの頃に帰ることができるのかな?」

誰に聞いているんだろう。それに氏んだってあの頃に戻れる訳じゃない。
…それでも、今よりはずっとましだよね。

唯「…さようならみんな…ばいばい、今の私…」

今までの記憶が一気に甦る。
楽しかったこと、悲しかったこと、がんばったこと…
そのどれもがあの時代のことばかり。

私は今からこの素敵な思い出の中に戻ることができるんだ。
楽しみだな…じゃぁ、今から行くね



もし私が生まれ変わっても、次は決してあの時代を忘れない。

781: 2009/09/08(火) 02:47:39.38 ID:bc/6y8010
ジリリリリリリリ!

唯「…え?」

私が包丁を腹に突き刺そうとしたその時、勢いよく目覚ましー太が鳴った。
なぜ?どうしてこの時間に?

唯「…まぁ、今から氏ぬ私には関係ないか」

ジリリリリリリリリリリ!

唯「……」

ジリリリリリリリリリリ!

唯「……」

ジリリリリリリリリリリ!

唯「あーもううるさいなぁ!」カチッ

プルルルルル  プルルルルルル

唯「…今度は電話?」

791: 2009/09/08(火) 02:54:53.26 ID:bc/6y8010
一体誰だろう?
これから私は氏のうと思ってるのに…

唯「はいもしもし平沢です!」

「あ、お姉ちゃん!」

唯「…憂?どうしたの?」

「お姉ちゃん次いつ休み?」

唯「土日だけど…どうして?」

「そう!なら土日は必ず帰ってきてね!」

唯「え?どうして?」

「いいから!それじゃみんなで待ってるからね!」

がちゃっ

唯「あ…ちょっと憂!…切れちゃった」

なんだろう、随分急だなぁ…それにみんなって…
…みんな?

唯「みんなって…まさか!」

今の私になら憂の言う「みんな」が誰なのか分かる様な気がした。

799: 2009/09/08(火) 03:00:38.96 ID:bc/6y8010
―土曜日


唯「う…ん…」

唯「ふわあああ、まだつかないのかな」

ガタンゴトン…ガタンゴトン…

私は外の風景に目をやった。
昔懐かしい景色、ここらはあの頃から何も変わってないなぁ
まるであの頃に戻ってきたみたい。えへへ…変なの、いつも来る時はこんなこと考えないのに。

ガタンゴトン…ガタンゴトン…

唯「……」

ガタンゴトン…ガタンゴトン…

唯「………」

ガタンゴトン…ガタンゴトン…

唯「……zzz」

803: 2009/09/08(火) 03:14:04.01 ID:bc/6y8010
唯「よーし、ついた」

私は荷物を持って電車から降りる。
すると下りた途端、懐かしい風が私の髪を優しくなでた。

私の心は今までと違う、まるで積荷を下ろしたみたいに軽い。
その軽くなった心を風がすりぬけていく。
こんな感じは久しぶりだ。

唯「…なんだかあの頃に戻ったみたい」

何も考えてなくて、心がいつも穏やかだったあの頃に。
…でも、そう思うだけで戻れた訳じゃないんだ。
もうあの頃には戻れない、だから私はせめて…

「唯ー!!!」

「お姉ちゃんこっちー!!!」

「せんぱーい!!!」

「唯ちゃん♪」

唯「あ、みんなー!!!」


もう二度と、あの時代を忘れない。


唯「やや!」      ~おしまい~

804: 2009/09/08(火) 03:14:45.93 ID:16C8qPDDP

やっと寝れる

805: 2009/09/08(火) 03:15:10.50 ID:1sBo8kHoO
乙!

806: 2009/09/08(火) 03:15:27.18 ID:GMpizJ1z0
乙!

814: 2009/09/08(火) 03:18:11.92 ID:71se2kKD0

最後はなんかジーンときた

815: 2009/09/08(火) 03:18:45.79 ID:uzZSFd5K0
長かったが綺麗に終わったな

816: 2009/09/08(火) 03:20:10.60 ID:uzZSFd5K0
最後にスレタイの意味がわかった

826: 2009/09/08(火) 03:22:48.82 ID:bc/6y8010
―エピローグ

唯「みんな久しぶりだね~!」

律「だな!お前携帯の番号変えたのなんで教えないんだよ!」

唯「え?そうだったっけ?」

梓「そうですよ!だから私達も番号が変わったの教えられなかったじゃないですか!」

唯「あはは…ごめん」

本当はみんなと連絡を取りたくなくてこっそり変えたんだけど…
まさかそのことが裏目に出るなんて…自分でも教えてないこと忘れてたし…

紬「まったく…唯ちゃんは変わらないわね…」

唯「あはは…みんなも相変らずだね!」

本当にみんな変わらないや…
ちょっと小じわが見えたりもするけれど、まぁそれはお互い様だよね。
本当にあの日からみんな変わらないなぁ…。…あれ?みんな…?

唯「…誰か足りなくない?」

律「あぁ、和と澪なら少し遅れるってさ」

そうだあの二人だ!なんで忘れてたんだ私の馬鹿!

837: 2009/09/08(火) 03:28:05.85 ID:bc/6y8010
憂「それじゃみなさん、家に移動しましょう」

律「そうだな!それじゃみんな、私のマイカーに乗り込め!」

りっちゃんがカギを指の先でくるくると回す。
…え?もしかしてりっちゃんが運転するの?

律「なんだよ唯、その顔は?」

唯「…もしかして、運転手って…」

律「私だよん☆」

唯「うわぁ…」

すごく…不安です。

843: 2009/09/08(火) 03:36:54.97 ID:bc/6y8010
―そして平沢家

律「とうちゃーく!」

唯「おえぇ…吐きそう…」

梓「律先輩の運転は…粗すぎます…」

律「はははっ!あぁそうだ、私達このまま買い出し行ってくるから唯と憂ちゃんの二人は準備頼むよ!」

憂「分かりました」

梓「えぇ…私達も行くんですか…?」

律「おう!それじゃしゅっぱーつ!」

梓「ぎゃあああああああ!!!」

ブロロロロロロロ…

唯「…いっちゃったね」

憂「うん、私達も準備しよっか」

845: 2009/09/08(火) 03:45:04.75 ID:bc/6y8010
がちゃっ

唯「ただいまぁー」

玄関のドアを開けると、とても懐かしいにおいがした。
なんでだろう。毎年帰ってきてるのに何年も帰ってなかったみたい。

唯「…この家も変わらないね」

憂「…そうだね。でも、お姉ちゃんはなんだか変わっちゃったね」

唯「そう…だね…」

憂「前に帰ってきた時はすごくつまらなそうな顔してたけど、今日はなんだか違う」

憂「お姉ちゃんはいい意味でまた変わったよ」ニコッ

唯「憂…ありがとう」

いつまでも変わらないものがそこにある。
それはとてもいいことなんだなぁ…って思った。

848: 2009/09/08(火) 03:54:53.36 ID:bc/6y8010
唯「ねぇ憂、どうして急にみんな集まったの?」

憂「急にじゃないよ。お姉ちゃんが知らないだけでみなさんよく家に来てたんだ」

唯「えっ?なんで?」

憂「みんな寂しかったんだよ、集まる場所がほしかったんだと思う」

唯「そうなんだ…」

私がいない間にこの家は集会所と化してたのか…
私がいないところでみんなが集まってるのを想像すると…

唯「…少しさびしいなぁ」

憂「それはみなさんも一緒だよ、やっぱりお姉ちゃんがいないから、いつもみんなどことなく寂しそうだったもん」

唯「…そうなの?」

憂「うん、特に律さんなんてお酒が入ると唯はどこだー!唯ー!なんて大声でよく言うし」

唯「なんだかその姿が目に浮かぶよ…」

851: 2009/09/08(火) 04:00:48.42 ID:bc/6y8010
唯「それじゃ…そろそろ準備しようか」

憂「あ、お姉ちゃんは座ってて」

唯「でも、私も何か手伝いたいな」

憂「大丈夫だよ、食器を出すだけだから私一人で十分」

唯「え?だってりっちゃんは二人で準備しろって言ってたから、結構やることがあるのかと」

憂「ないよ、きっと律さんは気を使ってくれたんだよ。私達二人が久しぶりにゆっくり話せるように」

唯「りっちゃん…」

りっちゃんも変わらないなぁ…
そういうさり気ない気使いができるところは、あの頃のままだ。

853: 2009/09/08(火) 04:06:18.67 ID:bc/6y8010
―そして夜

がちゃっ

律「たっだいまー!」

紬「今帰りましたー♪」

梓「はぁ…はぁ…吐きそう…」

憂「お帰りなさーい、お買いものご苦労様です」

唯「そういえば今晩の御馳走は?」

律「ふふーん!唯の為に奮発したんだぞー!じゃーん!」

唯「おぉ…!これは…!」

紬「唯ちゃんの好きなマシュマロ鍋よ♪」

唯「…おいしそう」ジュルリ

858: 2009/09/08(火) 04:12:54.36 ID:bc/6y8010




律「澪と和のやつまだこれないってさ、先に始めようぜ」

憂「そうですね、それじゃ今お酒持ってきますね」

律「いよーまってましたー!じゃんじゃん持ってきてねー!」

梓「まったく律先輩は…いつもそれですね…」

紬「そういえば唯ちゃんはお酒飲むの?」

唯「うーん、まぁたしなむ程度にかなぁ?あずにゃんとムギちゃんは?」

梓「まぁ私もたしなむ程度ですね…」

紬「私はお酒、結構自信あるわよ」

唯「えぇ!?なんか以外…」

859: 2009/09/08(火) 04:16:45.82 ID:bc/6y8010
憂「みなさんお待たせしましたー」

律「よし!酒も来たことだしそろそろ…」

律「かんぱーい!!!」

一同「かんぱーい!!!」

律「ゴクゴク…ぷはぁ!この一杯の為に生きてるんだよなぁ!」

唯「あはは♪りっちゃんオヤジ臭ーい!」

こんなどうでもいいことが今はこんなにも楽しいなんて
やっぱり仲間は素晴らしいな。あっちではこんな気持ち、絶対味わえないもん。

861: 2009/09/08(火) 04:23:37.48 ID:bc/6y8010
…でも、酔っ払いはどこでも同じだってことはわかる。

律「おーいゆいー!のんでるかぁー!?ひっく!」

唯「の、飲んでるよ。りっちゃんもう酔っぱらっちゃったの?」

梓「律先輩はいつもこうですよ…」

紬「ペースが速すぎるのよね…もっと考えて飲まなくちゃ…」

律「なんらぁー?なんのはなししってんらよぉー?」

梓「なんでもないですよ!お酒臭いので近寄らないで下さい!」

律「なんらよまったく…ひっく!」

律「……」

唯「…りっちゃん?どうしたの…?」

律「ゆいー!ゆいはどこだー!?ゆいー!!!」

梓「始まった…」

866: 2009/09/08(火) 04:32:11.35 ID:bc/6y8010
唯「これがさっき憂がいってた…」

憂「うん…ちょっとうるさいよね…」

梓「これはもう騒音レベルだよ…」

律「ゆいー!!!どこいったんだよー!!!」

…確かに、これは騒音レベルだ。
大体私は目の前にいるじゃん…

律「ゆい…うぅ…」グスッ

唯「え…?今度は何…?」

梓「見ててください…泣きますから」

律「うわあああん!!!ゆいどこにいっちゃったんだよぅ…!さびしいよぉ…!」ポロポロ

唯「りっちゃん…」

梓「…唯先輩がいなくなって一番寂しいのは律先輩なんですよ。私達の中で一番意地っ張りのくせに一番寂しがり屋ですからね…」

紬「普段は唯ちゃんがいなくなって寂しいなんて一言も言わないの…」

870: 2009/09/08(火) 04:43:46.70 ID:bc/6y8010
唯「りっちゃん…私はここにいるよ…」

私はりっちゃんの正面に座りこんだ。
りっちゃんはあの日から時間が止まったままなんだ。
…なら、私が何とかしてあげなくちゃ!

律「ゆいー!!!どなってごめんよぉ!!!だからかえってきてよー!!!うわあああああん!!!」ポロポロ

唯「…!」

…そうか、あの日のことをまだ気にしてるんだ。
普通は大切な仲間に怒鳴ったりなんかしたくないよね…
それなのに…りっちゃんは私の為だけを想ってあの日叱ってくれたんだ。

唯「ごめんねりっちゃん…ごめん…!」

私はりっちゃんを優しく包み込むように抱きしめた。
酒臭くたってかまわない。私はあの日のりっちゃんの言葉の意味がようやく分かったんだよ。

律「ゆいー!!!どこにもいかないでー!!!」ポロポロ

唯「どこにも行かないよ…だって、私達はいつだって仲間なんだから…」

874: 2009/09/08(火) 04:49:51.37 ID:bc/6y8010
律「…!」

りっちゃんの体がぴたりと止まった。
そして虚ろな眼で私をじっと見つめる。

律「…そう、か。あの日の言葉の意味が…ようやく分かったんだな…」

唯「うん、少し時間がかかっちゃったけどね…」

律「へへ…いいんだよ…私はその一言を…ずっと待ってたんだから…」

律「…お帰り、唯」

唯「…!」

心の中に何か熱いものが込み上げてくる。
そしてそれは私の眼から溢れ出た。

唯「…うん、ただいま…りっちゃん…!」ポロポロ

878: 2009/09/08(火) 04:57:38.73 ID:bc/6y8010
律「えへへ…唯は相変らず泣き虫だなぁ…」

唯「りっちゃんだってさっきまでずっと泣いてたじゃん…」グスッ

律「そうだっけ…?」

唯「えへへ…そうだよ」

私達は抱き合ったままお互いの顔を見つめた。
その顔は涙でボロボロで、でも二人ともあの頃に戻った様な笑顔をしていた。

律「…うっ!」

でも、突然りっちゃんの顔が青ざめた。
これは…もしかすると…

梓「あぶないせんぱーい!逃げてー!」

憂「おねえちゃーん!」

あぁ、間違いない、これは…

律「おええええええええええ!!!」びちゃびちゃ

唯「……」

紬「…遅かった」

882: 2009/09/08(火) 05:05:03.82 ID:bc/6y8010



唯「ふぅ…極楽極楽…」

りっちゃんの汚物まみれになった私は、お風呂に入って汚れを落としていた。
お酒をあまり飲んでいなくて正解だったと思う。

唯「…あー、生き返るなぁ」

梓「先輩、湯加減どうですか?」

突如脱衣所からあずにゃんの声が聞こえた。
…ちょっとからかってやろうかな?

唯「ちょうどいいよぉー、あずにゃんも一緒に入る?」

梓「そうですね、では失礼します」

がらっ

唯「…え?えぇ!?」

梓「? 何をそんなに驚いているんですか?」

唯「い、いやだってまさか本当に一緒に入るなんて…!」

885: 2009/09/08(火) 05:11:14.84 ID:bc/6y8010
梓「何言ってるんですか。ほら、私も湯船につかるので詰めてください」

唯「は…はい…」

梓「…ふぅ、生き返りますね…」

唯「……」

梓「……」

…気まずい。あずにゃんと二人っきりだと、どうしてもあの日のことを意識してしまう。

唯「……」

梓「…先輩、あの日のこと、謝らせてください」

唯「え…?」

あの日って…
どうやらあずにゃんも同じことを考えていたみたい。

887: 2009/09/08(火) 05:23:38.39 ID:bc/6y8010
梓「元々の原因は全て私です…私があの日、唯先輩にアピールなんかしたりするから…」

唯「……」

梓「私が余計な事をしたから…二人は別れてしまったんですよね…」

梓「…本当に、ごめんなさい!」

唯「…違うよ、あずにゃんは悪くないよ。本当に悪いのは私の方」

梓「え…?」

唯「…私はね、別れた理由を他人のせいにしたかっただけなんだ。これがあずにゃんに対する罪滅ぼしだって…」

梓「……」

唯「でもそんなのただのいい訳。私はあの日逃げたんだよ、自分の気持ちと仲間の気持ちから」

今になって分かったことだけどね…
それを気づかせてくれたのは仲間たちだ。

890: 2009/09/08(火) 05:31:48.54 ID:bc/6y8010
唯「だから気にしないで、ね?あずにゃんは何も悪くないんだから」

梓「で、でも…」

唯「それと、私は代わりにあずにゃんにお礼を言いたいな」

梓「お礼…ですか?」

唯「そう、私達は結果的に別れちゃったけど、それでも付き合うきっかけを作ってくれたのはあずにゃんだもん。だから…」

唯「ありがとう、あずにゃん」

前に写真にしか言えなかった事を本人に直接伝えることができた。
いつかまた…なんて遠い日のことの様に言っていたけど、伝えようと思えばいつでも伝えられるんだ。

894: 2009/09/08(火) 05:39:20.37 ID:bc/6y8010
唯「ふぅ~、さっぱりした~!」

梓「憂、お風呂ありがとう」

憂「いいよ♪それにしても二人とも随分長かったね」

唯「まぁね♪積もる話もあったしさ…ねぇあずにゃん」

梓「はい!」

憂「? なんだか梓ちゃんまで元気になったね」

「まったくだな、唯は落ち込んでるって聞いたんだが…」

「…なんだかいつも通りね」

唯「あ、澪ちゃん!和ちゃん!久しぶり~♪」

澪「あぁ、久しぶり。元気だったか?」

和「ごめんね、少し遅れちゃった」

899: 2009/09/08(火) 05:48:27.37 ID:bc/6y8010
二人とも全然変わってないや。
それに澪ちゃん、すごく綺麗だなぁ。大人の女性って感じ。

澪「? なんだよそんなにじろじろ見て、そんなに私が珍しいか?」

唯「いやー、澪ちゃんは綺麗だなぁって思ってさ♪」

澪「なっ!?あんまりからかうなよ!///」

唯「顔真っ赤にしちゃって、可愛いなぁ~♪」

澪「う、うるさい!///」

澪ちゃんは中身まで変わってないや。
きっと怖い話も未だに苦手なんだろうなぁ。

和「まったく…唯は本当に変わらないね」

唯「和ちゃんだって!」

和ちゃんも本当に変わってない。
変わったところがあるとすれば、それは眼鏡のフレームが赤から黒に変わったくらいだ。

902: 2009/09/08(火) 05:58:23.95 ID:bc/6y8010
澪「まぁゆっくり話したいところなんだけど、その前に…」チラッ

律「ぐおー…ぐおー…zzzz」

澪「こいつをどうにかしなきゃな。憂ちゃん、いつもの部屋借りていいか?」

憂「どうぞ、布団はもう敷いてありますので」

澪「そうか、いつもすまないな。それじゃ和、運ぶの手伝ってくれ」

和「はぁ…わかったわ」

澪ちゃんはりっちゃんの腕、和ちゃんは足を持ち上げて、まるで荷物を扱う様にりっちゃんを運んで行った。

どかん!

途中りっちゃんを壁にぶつける。それでもりっちゃんが起きる様子はなかった。
…あの二人は本当にりっちゃんを人だと思っているのかな?

憂「それじゃ私はお片付けしてくるね、お姉ちゃんとムギさんはゆっくりしててね」

唯「あ、わかったよ」

紬「ありがとう憂ちゃん」

…しまった!また二人っきりだ!これはあずにゃんの時よりも気まずい…

904: 2009/09/08(火) 06:05:09.34 ID:bc/6y8010
唯「……」

紬「……」

思った通り、私達二人の間に沈黙が流れる。
あぁ…気まずい…!…でも、ここは私から話しかけなくちゃ…
だって、あの日のことをまだ謝ってないんだから。ケジメくらいはちゃんとつけなくちゃ。

唯「…ねぇムギちゃん、その…ごめんなさい!」

紬「え…?なにが?」

唯「私が一方的に別れようっていったことだよ…」

紬「あぁ…いいのよ。全然気にしてないから」

唯「…本当に?」

紬「嘘よ♪すごい気にしてるわ」

907: 2009/09/08(火) 06:12:36.20 ID:bc/6y8010

唯「ガーン!やっぱり…」

紬「最初は…私の話も聞かないで、一方的に別れを切り出してきて一体何様のつもり!?…なんて思っていたわ♪」

紬「こんなにも私は愛してるのに!唯ちゃんは自分のことばかり考えて…次に会ったら必ず復讐してやる!…なんてことも考えたわねぇ♪」

唯「あはは…それは流石に嘘だよねぇ?」

紬「うふふ♪当たり前じゃない♪」

唯「だよねぇ!あはは…」

…嘘だ、眼が笑ってない。

911: 2009/09/08(火) 06:25:24.70 ID:bc/6y8010
紬「…まぁ冗談はさておき、私は本当に悲しかったのよ?せっかく両想いになれたのに、まさかこんな形で別れることになるなんて…てね」

唯「……」

紬「そして二人だけの思い出を良く思い出しては…泣いてばかりいたわ。あの頃の私は本当に純粋だったのね」

唯「…本当にごめんなさい」

こんな言葉じゃ足りないくらい、私はムギちゃんを傷つけた。
でも、これ以外の言葉が今は見付からない。

紬「いいのよ、昔の話だもの…気にしないで」

唯「でも…」

ムギちゃんはそういうけど…やっぱり私は気にするよ。
この罪を忘れて生きていくことなんて、今の私にはできない。

唯「……」

紬「…ふぅ、なら一つ条件があるわ。これで私に勝てたら許してあげる」

ムギちゃんがすっと指をさす。
その指の先には…

唯「…え?お酒?」

紬「そう♪私と飲み比べしましょう♪」

917: 2009/09/08(火) 06:35:40.74 ID:bc/6y8010
唯「で、でも私はお酒強くないし…!」

紬「あら?ならこの勝負から唯ちゃんは逃げるの?言っておくけど…」

ムギちゃんの顔が私に迫ってくる。
そして耳元でボソッと…

紬「唯ちゃんが勝つまで、私は唯ちゃんを許さない…」

唯「…!」

ゾクゾクッと背筋に悪寒が走る。
このムギちゃんはムギちゃんじゃない…!
私の第六感がそう告げていた。

紬「クスクス…唯ちゃんはやっぱり可愛いわねぇ♪食べちゃいたいわ…♪」

唯「……」

私は心底驚いていた。
これが私の愛したあの「ムギちゃん」なのかと…
もしこの人が本当にそうなら…時の流れはなんて残酷なんだろう。

923: 2009/09/08(火) 06:49:25.04 ID:bc/6y8010
紬「…どうするの?私と勝負するの?しないの?」

唯「…は!?」

私はムギちゃんの声でハッと我に返った。
それでムギちゃんに対する私の罪が滅ぼせるなら…私は…

唯「…その勝負、受けて立ちます!」

紬「そうこなくっちゃ♪」

こうして勝負の賽は投げられた。


唯「実は私、さっきはたしなむ程度にしかお酒を飲まないなんて言ったけど本当はかなりお酒に自信があるんだ」

紬「へぇ…なら唯ちゃんはどこまで私を楽しませてくれるのかしら?」

唯「さぁ?でもきっと今までに無いくらいに楽しいのは明らかだよ!」

紬「あははっ!言うわねぇ…なら私すごく楽しみにしてるわ♪」

唯「さぁ…最高の戦いをしよう…」

紬「えぇ…この聖なる戦いを祝して…」

「乾杯!」

927: 2009/09/08(火) 07:02:23.22 ID:bc/6y8010
―30分後


唯「…らめら~!もうのめない…」

紬「全然ダメじゃない…お酒は強いんじゃなかったの?」

唯「ごめんらさい…うそです…」

勢いであんなこと言わなきゃよかった…
頭がぐるぐる回る~。それになんだかすごく眠い…

紬「あらあら…大丈夫?」

唯「だいじょうぶらよ…ねぇむぎちゃん…」

紬「なぁに?」

唯「…ほんとうにごめんなさい…ごめんなさい!」ポロポロ

…あれ?なんで私泣いてるんだろう?
私もりっちゃんと同じで酒癖が悪いのかなぁ?

紬「だから…許してほしかったら私に勝つこと。私はいつでもここにいるから…また勝負しに帰ってきてね?」

唯「むぎちゃん…ありが…」

そこで私の意識は途切れた。

930: 2009/09/08(火) 07:17:34.20 ID:bc/6y8010
「お姉ちゃん起きて!朝だよ」

唯「う…ん…もう少し寝かせて…」

「ダメだよ!帰りの電車に間に合わなくなるよ!?」

唯「う~ん…電車…?」

がばっ!
私は勢いよく体を起こした。
ここは…茶の間?そういえば昨日ムギちゃんと飲み比べして、それから…

唯「いた…!」

頭が痛い…完全に二日酔いだ…

憂「大丈夫お姉ちゃん?」

唯「…うん、なんとか…」

憂「まったく…そんな調子で今日帰れるの?」

そうか…私は今日帰るんだっけ?
なんだかたった一日だけのことが、すごく長く感じられた。

933: 2009/09/08(火) 07:25:18.87 ID:bc/6y8010
唯「みんなは…?」

憂「もう起きてるよ、お姉ちゃんの部屋に皆さんあつまってるよ」

唯「そうなんだ…」

みんなともまたしばらく会えなくなるんだよね…
なんだか寂しいな…

がちゃっ

唯「おはよー…」

律「お、やっと起きたか」

澪「まったくいつまで寝てるんだ?」

和「帰りの電車には間に合うの?」

紬「二日酔いは大丈夫?」

梓「まったく…お酒弱いのに無理するから…」

唯「みんな…」

935: 2009/09/08(火) 07:35:38.23 ID:bc/6y8010
私の部屋に集まるみんなを見ていると、私は本当にあの頃に戻ったみたいだと思う。

…だからこそ、ここから離れるのは…辛い…

唯「みんなぁ…」ポロポロ

律「お、おいおい!なんで私達を見て泣くんだよ?」

唯「私…帰りたくないよぉ…!みんなともっと…ずっと一緒にいたい…!」ポロポロ

梓「……」

唯「一緒に…いたいよぉ…!」ポロポロ

やっぱり私は昔から変わらない。今まで変わったふりをしていただけなんだ。

和「……」

唯「また離れ離れなんて嫌だよぉ…!」ポロポロ

…だって、こんなにも子供みたいに泣くんだもん。

紬「唯ちゃん…」

一番変わってないのは…どうやら私だったみたい。

938: 2009/09/08(火) 07:42:52.55 ID:bc/6y8010
律「馬鹿!泣くなよ!お前に泣かれたら…私だって…!」グスッ

梓「そうです…ずっと我慢してたのに…!」グスッ

和「また帰ってくればいいじゃない。みんなまってるから…ね?」

紬「そうよ…だから泣かないで?今日は笑顔でお別れしましょう?」

唯「でも…そんなこと言ったって…悲しいよぉ…!」ポロポロ

澪「…そうだ!」

澪「みんな!一列に並べ!」

唯「え…?」グスッ

澪「今から写真を撮るぞ」

941: 2009/09/08(火) 07:59:55.34 ID:bc/6y8010



澪「ほらほら!みんなもっと笑えって!」

唯「そんなこと言われたって…ねぇ…?」

梓「はい…なんだか変に意識してしまいます…」

律「なんだか逆に笑えないよな…」

澪「…なぁみんな、私達はもうあの頃には戻れないかもしれない」

律「なんだよ急に…?」

澪「でもさ…写真にはその時の記憶も一緒に写るんだよ」

梓「……」

澪「だからさ…唯が向こうに行っても寂しくなんかならないように、あの時代に負けない最高の笑顔で写ろうじゃないか!」

紬「…えぇ、そうね♪」

唯「澪ちゃん…みんな…ありがとう!」

澪「まぁそんな訳だからさ…そろそろ撮るぞ!それじゃ笑ってー!」

カシャッ!

943: 2009/09/08(火) 08:03:44.79 ID:bc/6y8010



ジリリリリリリリリリリ!

唯「……っは!?」

ジリリリリリリリリリリ!

唯「はいはい起きてますよっと…」ピッ

唯「ふわああああ…今日も仕事かぁ」

唯「…そろそろ準備するかな?」

946: 2009/09/08(火) 08:16:49.40 ID:bc/6y8010



唯「…よし、準備もできたし行くか」

唯「…あ、そうだ。大事なことを忘れてた」

私は本棚の中でも一番古い本を手に取った。
それをぱらぱらとめくり、中を見る。
どの写真も少し色あせているが、一番最後のページにはその中でも一番新しい写真があった。

その中の写真の人達は、あの頃からは少し老けて見えるけど…
それでも、あの頃に負けないようなとても素敵な笑顔をしていた。

唯「みんな、行ってきます」

この写真の中の人達に、いつも挨拶をするのが私の今の日課だ。

それは、私は決して一人じゃないということを確認する為。

そして、私達が生きたあの時代を忘れない為。





唯「やや!~あの時代を忘れない~」   ~本当におしまい~

947: 2009/09/08(火) 08:17:09.14 ID:sTWf/kTZ0
おっおっ乙乙
おもしろかったけど次からは書き試してきてね!

956: 2009/09/08(火) 08:20:56.28 ID:bc/6y8010
てな訳でやっと終わりました
元ネタはサザンのYaYa~あの時代を忘れない~です
まぁ大分歌詞の内容とはかけ離れてしまいましたけど

約五日間もこんな糞SSを見てくださった方、保守してくださった方、本当にありがとうございました。
次からは書きダメますがんばって

ではノシ

964: 2009/09/08(火) 08:24:08.77 ID:bc/6y8010
>>950
>>951
そう言ってもらえると描いたかいがあったと思います。嬉しいです

>>952
今まで自分が書いたのは
澪「こんにちわ」
唯「ただいまギー太」ギー太「………」
唯「……」和「…ほら、しっかりしなさい」
ですね

引用元: 唯「やや!」