1: 2010/01/30(土) 16:02:24.10 ID:p330Y5wQ0
澪「ハァハァ……」

律(9回裏、ノーアウトランナー1、2塁)

澪「ハァハァ……」

律(澪も限界か……)

澪「ハァハァ……」

律(しかも次のバッターは憂ちゃん……)

律(どうする……!?)

──────────
─────
──
けいおん!college (まんがタイムKRコミックス)
3: 2010/01/30(土) 16:09:11.39 ID:p330Y5wQ0
時は遡り夏休み直前のホームルーム

律「野球の練習?」

さわ子「そう、2学期始まってすぐに球技大会があるでしょ?」

さわ子「今年は屋外競技が野球、室内競技がバレーボールと卓球」

澪「じゃあ、私卓球がいいな。チームプレーとか苦手だし」

律「根暗な澪さんらしい考えですこと」

澪「だ、だって……」

さわ子「ダメよ、澪ちゃんはこの3年2組で唯一のサウスポーなんだから」

さわ子「野球ほど、左が重宝されるスポーツもなくってよ」

澪「でも、野球なんてやったことないし……」

さわ子「だから練習するんじゃないの」

澪「ええー……」

4: 2010/01/30(土) 16:16:58.53 ID:p330Y5wQ0
唯「面白そう! 私も野球がいい!」

唯「和ちゃんも野球するよね」

和「ええ。構わないわ」

唯「だよね~。小学生の時は男の子に混じって野球してたもんね」

律「そうなのか?」

和「昔の話よ。小学生のとき自分は男じゃないかって思ってたし」

唯「そうそう、カッコよかったもんね~」

和「だから地元のリトルで野球やってたのよ」

和「ま、今は私ほど女らしい女なんていないと思ってるけどね」

律「何を言ってるんだ……」

さわ子「それは心強いわね。経験者歓迎よ」

5: 2010/01/30(土) 16:21:51.62 ID:p330Y5wQ0
さわ子「ほかに参加希望の人はいない?」

「野球とか難しそ~」

「やるならバレーボールの方がいいよね」

さわ子「……りっちゃんはもちろん野球よね」

律「ん? まぁ、弟とやったりしたこともあるしいいけど」

紬「じゃあ私も」

さわ子「それじゃあ、軽音部は全員野球参加ということで」

澪「私もやっぱり人数に入ってるんですね……」

律「いいじゃん。それとも私たちと離れて一人寂しく卓球でもするのか?」

澪「ううっ……」

紬「やりましょう? 澪ちゃん」

唯「きっと一緒の方が楽しいよ~♪」

9: 2010/01/30(土) 16:28:23.34 ID:p330Y5wQ0
澪「……分かった。私も野球するよ」

さわ子「そうこなくっちゃね」

澪「でも、できるだけ目立たないポジションが──」

さわ子「じゃあ、澪ちゃんはピッチャーね」

澪「え……」

さわ子「左なんだから当然じゃない」

澪「ちょちょちょちょ!!」

さわ子「もちろん理由はそれだけじゃないわよ!」

律「何か澪の中に野球に関する隠された才能をさわちゃんは見抜いたと!?」

さわ子「秋山という苗字に可能性を感じるわ!!」

澪 ポカ~ン……

10: 2010/01/30(土) 16:34:33.20 ID:p330Y5wQ0
さわ子「で、真鍋さんがキャッチャーっと」

和「そうなんですか?」

さわ子「やっぱり、キャッチャーは理論派じゃないと」

和「はぁ……」

紬 ウズウズ……

唯「どうしたのムギちゃん?」

紬「あ、あの! 澪ちゃんがピッチャーならキャッチャーはりっちゃんがすべきだと思います!!」

律「へ? なんで?」

紬「だって、よくバッテリーは夫婦だって言うじゃない?」

和「うん。よく聞くわね」

紬「だからよ!!」

律「でも、キャッチャーって難しそうだし……」

紬「いやよ!! 澪ちゃんが攻めてりっちゃんが受けてくれなきゃ!!」

律「……」

11: 2010/01/30(土) 16:41:09.76 ID:p330Y5wQ0
律「本当はもっと動きがあるポジションがいいんだけどなぁ~」

澪「わ……私が……ぴ、ぴ、ぴ、ピッチャ……」ぷす~

律「澪……」

律「よし! 分かった! 澪は私が支えてやる!!」

紬「ここに山田里中コンビを超えるバッテリーが誕生したわっ!!」

律「その代わり4番は私ね!!」

和「だったら私はセカンドがいいです」

さわ子「まぁ、仕方ないわね。でもなんでセカンドなの?」

和「リトルの時もずっとセカンドだったんです」

和「堅実な守備、目立たなくとも確かな仕事をする選手に憧れてて」

さわ子「阪神の和田豊みたいな?」

和「ああ、まさにドンピシャです。いぶし銀って呼ばれるのが夢ですね」

さわ子「渋いわね……」

12: 2010/01/30(土) 16:46:30.47 ID:p330Y5wQ0
和「でも2学期の行事を夏休み前に決めるなんて、先生相当気合入ってますね」

さわ子「私、初めての担任になったクラスだし、それにあなた達3年でしょ」

さわ子「だから練習も含めて思い出に残したいのよ……」

唯「さわちゃん先生……」

律「じゃあさわちゃんにも私たちにも思い出に残る球技大会にするか!!」

紬「うん! がんばりましょうね」

和「ふふっ。久しぶりに腕が鳴るわ」

「お~~~~!!」

さわ子(本当は某巨O監督が出てる漫画に影響されて監督してみたくなったからなんだけど)

澪「あわわわわわわ……」

14: 2010/01/30(土) 16:51:31.75 ID:p330Y5wQ0
澪「ち、ちょっとみんな待って!」

律「なんだよ? この期に及んで無理なんて言うんじゃないだろうな」

澪「私たちは受験生だぞ! この夏休みは勉強漬けなんだから──」

さわ子「だからよ! 澪ちゃん!」

澪「へっ?」

さわ子「みんなが勉強しなきゃいけないのは百も承知なの」

さわ子「だからこそ、無理にでもみんなで集まって体を動かす」

さわ子「たまには気分転換もしなきゃ、勉強ばっかりだったらパンクしちゃうわよ」

澪「それは、そうかもしれないけど……」

律「そうだぜ澪。何も毎日練習するわけじゃないだろうし」

唯「うんうん、気分転換も必要だよね」

澪「おまえたちは、勉強しなくていい理由が欲しいだけじゃないのか?」

唯「え、えへへへ……」

15: 2010/01/30(土) 16:55:30.14 ID:p330Y5wQ0
「でも先生の言うことも一理あるかも」

「だよね、勉強漬けもいやだよね」

「私も参加しよっかな」

「律、私も野球に参加するわ」

「私はバレーボール」

「サーッ! サーッ!」

さわ子「うんうん。青春はこうじゃなきゃね」

紬「澪ちゃんもやろう?」

澪「う、仕方ないか……」

さわ子「じゃあ早速、明日から練習ね」

19: 2010/01/30(土) 17:11:41.84 ID:p330Y5wQ0
さわ子「えっと、集合は何時にしようかしら……」

和「あの、先生」

さわ子「何かしら? 真鍋さん」

和「学校で練習するんですか?」

さわ子「そうよ。ほかにどこがあるっていうの?」

和「でも、グラウンドも体育館も活動中の部活で埋まってると思いますけど……」

さわ子「えっ!? そうなの!?」

律「おいおい……」

唯「さわちゃん先生もどこか抜けたとこあるよね~」

澪「唯に言われちゃお終いだな。まぁ同意見だけど」

さわ子「……」

21: 2010/01/30(土) 17:16:39.94 ID:p330Y5wQ0
紬「よかったら、ウチの敷地内の施設を使ってもらってもかまいませんよ」

さわ子「本当!?」

紬「ええ。野球道具やバレーのネット、卓球の台やその他必要な物も用意いたしますわ」

さわ子「持つべきものはお嬢様よね~」

「本当に琴吹さんってお金持ちなんだね」

「すご~い!」

「サーーーーッ!! サ、サァーーーーッ!!!」

さわ子「じゃあ、来れる人はムギちゃんちに集合っと」

紬「楽しみだわ~♪」

22: 2010/01/30(土) 17:22:15.05 ID:p330Y5wQ0
其の夜 琴吹家

紬「斎藤。少し手配してもらいたいんだけど」

斎藤「はい、お嬢様。して、どのようなことを?」

紬「野球のコーチができる人物を」

斎藤「投手コーチ、内外野守備各1名とバッテリーコーチに打撃コーチ」

斎藤「で、よろしいでしょうか?」

紬「ええ。そうね」

斎藤「人選はどういたしましょうか?」

紬「あなたにおまかせします」

斎藤「はい。かしこまりました」

紬「あ。それとバレーボールと卓球のコーチも同様に」

斎藤「はい」

紬「よろしく頼むわね」

24: 2010/01/30(土) 17:31:01.87 ID:p330Y5wQ0
prrrrrrr……

「もしもしぃ~」

斎藤「もしもし、吉田義男様でございましょうか?」

ムッシュ「はい、そうですぅ~」

斎藤「わたくし、琴吹家の執事をしております斎藤と申します」

ムッシュ「ああ、琴吹さんの~。ご無沙汰しておりますぅ~」

斎藤「実は折り入ってお願いがございまして……」

ムッシュ「琴吹さんには大変お世話になっておりますので、なんなりと仰ってください~」

斎藤「実は紬お嬢様とそのご学友の野球のコーチをお願いいたしたいのですが」

ムッシュ「はい~。ワタシは全然かまいません」

斎藤「ありがとうございます。それともしよければ、投手コーチや外野守備コーチも紹介していただければ」

ムッシュ「あ~、心配には及びません~。各分野のスペシャリストを連れていきますのでぇ~」

斎藤「では、よろしくお願いいたします」

25: 2010/01/30(土) 17:38:39.08 ID:p330Y5wQ0
翌日

唯「ムギちゃんちに初めて来たけどスゴイね!」

律「ああ、まさか敷地内に移動用のモノレールが走ってるとは思わなかった」

澪「まるで、ディズニーリゾートだな」

紬「野球組はこっちよ」

和「ドーム球場まであるの!?」

斎藤「皆様、おはようございます」

紬「コーチ陣の方々はもういらっしゃってるのかしら?」

斎藤「はい、お待ちいただいております」

澪「コーチってダルビッシュとか涌井とか!?」

律「ムネリンとかナカジとか!?」

唯「中日が誇る超絶イケメンの井上とか!?」

和「宮本とか石井琢朗とか!?」

澪律唯「渋っ!?」

紬(唯ちゃんもおかしいと思うの……)

26: 2010/01/30(土) 17:45:09.40 ID:p330Y5wQ0
ムッシュ「どうもぉ~」

唯澪律「えっ……」

紬「こちら吉田義男さん。内野守備コーチをかってでてくださったの」

和(これはこれで!!)

紬「その華麗な守備で今牛若丸と呼ばれていたのよ」

ムッシュ「もう昔のことですなぁ~」

紬「しかも吉田さんはフランス帰りなの」

ムッシュ「はい~そうですぅ~。ミーのことはムッシュと呼んでください。エッヘッヘ~」

澪(きっとおそ松くんのイヤミみたいにインチキなんだろうな……)

27: 2010/01/30(土) 17:50:30.22 ID:p330Y5wQ0
紬「そして、投手コーチの小山正明さん」

小山「はい、よろしく」

紬「針の穴をも通すともいわれる正確無比なコントロールを武器に歴代3位の320勝を誇る大投手なの」

唯「へぇ~。お裁縫が得意なんですね!」

小山「なかなか面白いお嬢さんやね」

律「2人ともじいちゃんじゃねえかよ……」

澪「大丈夫かな……」

28: 2010/01/30(土) 17:56:26.42 ID:p330Y5wQ0
紬「さらに、外野守備コーチの福本豊さん」

福本「どーも、こんにちは」

紬「国内歴代1位の通算1065盗塁は今後破られることはないといわれる世界の盗塁王なの」

紬「その功績が讃えられて国民栄誉賞が贈られるはずだったんだけど、断っていらっしゃるのよ」

福本「そんなんもろたら、おちおち立ち小便もでけへんからね」

澪「なっ///」

律「こんなんで本当に大丈夫なのか?」

和「あなた達は分からないかもしれないけど、みなさん偉大なプレイヤーだったのよ」

唯「へ~」

紬「ムッシュと福本さんにはバッティングも見ていただく予定よ」

29: 2010/01/30(土) 18:01:09.19 ID:p330Y5wQ0
紬「あとはバッテリーコーチだけど……」

斎藤「お嬢様、それはまた別に手配いたしましたが、なにぶんお忙しい方なので」

紬「そう、じゃあ到着しだい紹介するということで──」

「どうも、お待たせしました」

紬「あら、どうやらいらっしゃったみたいね」

唯澪律和「!?」

紬「多分みんな知ってると思うけど」

律「の、ノムさんだっ!!」

唯「ねえ! ボヤいて! さぁ早く!!」

ノム「ワシかてボヤキとうて、ボヤいてるわけやのうてやな」

ノム「それをマスコミが面白そうに取り上げるからこっちは仕方なく──」クドクド

31: 2010/01/30(土) 18:05:19.39 ID:p330Y5wQ0
──30分経過

ノム「だからマー君が、なんたらかんたら……」

紬「ノムさんその辺で……」

ノム「ああ、申し訳ない」

澪律 ゲッソリ……

唯「すごい!! 生ボヤキ!! 憂に自慢しよっと!」

和「なかなか興味深かったわね」

紬「それじゃあ、そろそろ練習始めましょうか」

32: 2010/01/30(土) 18:11:09.81 ID:p330Y5wQ0
唯「ねぇねぇムギちゃん」

紬「なに? 唯ちゃん」

唯「私、どこ守ったらいいんだろ?」

紬「とりあえず、今日はどこが自分に合ってるのか色々と試してみたらいいと思うわ」

唯「うん、わかった~。ちなみにムギちゃんはどこ守るの?」

紬「さわ子先生からはその何でも受け入れる器の大きさはファースト向きだって言われたわ」

唯「へ~」

紬「まさに総受け状態ね!」

唯「うん。よく分からないけどスゴイね!!」

36: 2010/01/30(土) 18:17:44.73 ID:p330Y5wQ0
小山「キミがピッチャーの?」

澪「はい、秋山澪って言います。よ、よろしくお願いします……」

小山「うん。にしてもなかなかええ体しとるね~」

澪「ひぃっ!?」

小山「女子にしちゃあ上背もあるし、ピッチャー向きやね」

澪(なんだ……、そういう事か……)

小山「なによりも、最近の若い子は、足が細いのが当たり前になってきてるけど」

小山「下半身がどっしりしとるのがまたええね。踏ん張りが効く」

澪「……」

小山「そして、手が大きいのもこれまた魅力的やね~。ええピッチャーになれるで」

澪(もうイヤ……)

38: 2010/01/30(土) 18:23:35.37 ID:p330Y5wQ0
ノム「────だから、この打者のアウトロー。これがピッチャーの基本であって……」

律「うんうん。アウトローが基本……っと」カキカキ




──
─────
──────────

ノム「────で、打者の足の位置や仕草を鋭く観察することで次の狙い球が……」

律「……zzzzzz」

ノム「もう帰るで……」

40: 2010/01/30(土) 18:29:16.87 ID:p330Y5wQ0
ムッシュ「そしたら、野手はキャッチボールから始めたいと思いますぅ~」

福本「初心者ばっかしやからまずは投げる捕るができなあかんからね」

「あ~ん、狙ったところにいかな~い」

「グローブで上手く取れないよ~」

福本「まぁ、最初はこんなもんでしょ」

唯「あ~、和ちゃんごめん、変なとこ行っちゃった!」

和「……!!」シュタッ! パシッ シュ!!

紬「はいっ!」パシッ

唯「おお~、スゴイ! 流れるようなプレーでファーストのムギちゃんにっ!」

ムッシュ「しかし、あの眼鏡の子はなかなか光るもんがありそうやねぇ~」

福本「琴吹さんとこの娘さんもなんなくこなしてますね」

44: 2010/01/30(土) 18:36:36.83 ID:p330Y5wQ0
──
─────
──────────

紬「じゃあ、今日はここまでにしましょうか」

唯「はぁ~。疲れたけど楽しかった~」

和「久しぶりに楽しめたわ」

律「バンド活動もいいけど、たまにはこうやってスポーツするのもいいな」

澪「もう、腕がパンパンだ……」

紬「そうそう澪ちゃん。これプレゼント」

澪「なにこれ?」

紬「琴吹のスポーツ部門が開発に成功した投手養成ギブスよ」

紬「これを付けてるだけで気づかないうちに投手に必要な動作や筋肉が身につくの」

律「すげ~な澪! これで大リーグボールも夢じゃないぜ!!」

澪「……」

46: 2010/01/30(土) 18:43:08.28 ID:p330Y5wQ0
福本「ちょっと」

唯「へ? 私ですか?」

福本「そうそう、キミ外野やってみいひん?」

福本「今日見させてもろたけど、なかなか足も速いし感もええし」

唯「えへへ、そうですか」

福本「せやから次回からは外野中心のメニューで練習してみよか」

唯「はいっ! よろしくお願いします」

47: 2010/01/30(土) 18:49:49.23 ID:p330Y5wQ0
そんなこんなで夏休みも中盤を過ぎ──

律「私たちもなかなか様になってきたな」

唯「そうだね!」

和「そりゃあ、あんた達は毎日のように練習してるからね」

澪「だいたい、私たちは軽音部員なのに、バンドの練習もほったらかしで……」

唯「バントの練習は欠かさずやってるけどね」

律「おっ、唯ウマいこと言うなぁ」

唯「えへへ~」

澪「お前ら……」

紬「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ」

48: 2010/01/30(土) 18:55:43.83 ID:p330Y5wQ0
澪「球技大会終わったら学祭もあるのにのに……」

律「それが終わったらバンドの練習もするって」

澪「本当は私だってイヤイヤ野球やってるんだから──」

さわ子「そんなっ!? 澪ちゃん!!」

唯「さわちゃん先生いつの間に!?」

さわ子「やっぱり、澪ちゃんは気がのらないわよね……」

さわ子「ごめんね。無理やりやらせたみたいで」

澪(みたいじゃなくて、やらされたんですけどね……)

49: 2010/01/30(土) 19:01:19.26 ID:p330Y5wQ0
さわ子「みんなの思い出になればって提案はしたけど」

さわ子「私の思い上がりだったようね」

紬「さわ子先生……」

さわ子「ごめんね。こんなんじゃ担任失格よね」

律「そんなことないぜ、さわちゃん!」

唯「そうだよ! 私たちさわちゃん先生で良かったって思ってるよ!」

さわ子「あなた達……。でも澪ちゃんには嫌われてるみたい」うるうる

澪「うぅ……」

律「澪っ! さわちゃんは私たちのことを考えてやってくれてるんだ!」

澪「わかったよ! やるよ! けど終わったら絶対バンド練習だからな!」

紬「よかった。これでまた一段と団結することができたわ」

和「でも、少しは勉強もした方がいいんじゃn」

唯律「し~~~~~~っ」

52: 2010/01/30(土) 19:09:06.31 ID:p330Y5wQ0
そして新学期も数日が過ぎ──

平沢家

憂「お姉ちゃんなんだか逞しくなったよね~」

唯「うん! なんせ世界の盗賊王に鍛えられてるからっ!」

憂「へぇ~、そうなんだ。なんだかスゴイね!」

唯「憂は球技大会出るの~?」

憂「うん。私も野球で参加するよ」

憂「私のクラス、お姉ちゃんのクラスと対戦するらしいよ」

唯「そうなのっ!? じゃあライバルだね!」

憂「担任同士も熱い火花が散ってるって話だよ」

唯「どういうこと?」

憂「ウチの担任の鹿野先生って音楽教師じゃない? それで山中先生も音楽教師だし」

憂「噂じゃ、仲があんまりよくないらしいの」

憂「しかも負けた方が焼肉おごるって約束したらしいんだ」

唯「へぇ~(焼肉おごる間柄なら仲はいいんじゃ……?)」

54: 2010/01/30(土) 19:17:45.29 ID:p330Y5wQ0
またまたすっ飛んで試合当日

さわ子「さぁ、あなた達。今までの練習の成果を存分に発揮するのよ!!」

唯「さわちゃん先生気合入ってるね!」

さわ子「今日は監督と呼んでくれるかしら?」

律「分かったぜ監督!!」

さわ子「勝ちにいくわよ!!」

「おお~~~っ!!」

先攻 3年2組オーダー

4和
6ショート子
3紬
2律
5サード子
9ライト子
7レフト子
8唯
1澪

57: 2010/01/30(土) 19:27:35.95 ID:p330Y5wQ0
実況「さぁ、まだ残暑厳しい日々が続きますが皆様いかがお過ごしでしょうか」

実況「本日は、桜ヶ丘高校の球技大会の模様をお伝えしていきます」

実況「実況はABC清水次郎、解説はおなじみ阪神タイガース唯一の日本一監督吉田義男さん」

実況「そして世界の盗塁王福本豊さんに努めて頂きます。よろしくお願いします」

ムッシュ「よろしくぅ~」

福本「お願いします」

実況「さて、ご両人は今から試合をする3年2組のコーチングをしたと噂を聞いておりますが」

ムッシュ「はい、その通りですぅ~」

実況「その話も随時お伺いしていきたいと思います。それでは試合開始です」

60: 2010/01/30(土) 19:36:27.22 ID:p330Y5wQ0
実況「先攻の3年2組トップバッターの真鍋がバッターボックスに入り……いま球審の声がかかりました」

「プレイッ!!」

和「憂が投手なのね」

憂「ふふっ。和さんと一緒に野球するのも久しぶりですね」

和「そうね、でもその時は一緒のチームだったけど……」

実況「ピッチャー、第一球……投げました!」

和 カキン!!

実況「打った! 打球はセンターへ。真鍋初球を難なく捌きヒット!」

ムッシュ「基本に忠実なセンター返しですねぇ~」

唯「やった~! 和ちゃん!」

さわ子(ここは無難に送るわよ)パパパ

実況「さて、続いてのバッターは早くも送りバントの構えです」

福本「えらい手堅いですが、早う点取ってピッチャー楽にしたりたいといったところですかね」

 カコン

実況「いい送りバントが決まって3年2組いきなり得点のチャンス。そしてクリーンナップへと続きます」

61: 2010/01/30(土) 19:44:13.74 ID:p330Y5wQ0
唯「かっとばせー! ムギちゃん」

紬「うふふ。任せて」

実況「福本さんこの選手はどのようなバッターなのでしょうか?」

福本「顔に似あわずエゲツない打球飛ばすよ」

実況「ピッチャー……投げた!」

紬「シャランラ♪」カキーーーン!!

実況「痛烈な打球が左中間を抜けて行きました! 2塁ランナーは悠々とホームイン!」

実況「打ったバッターは2塁でストップ。3年2組さい先良く1点先制です」

さわ子「よし! りっちゃんも続いて!!」

律「ヨッシャー! 主砲の田井中様のお出ましだー!!」

     ズバン!!

「ッラーイク! バッターアウッ!!」

実況「威勢はよかったのですが3球三振という結果に終わりました」

福本「いくら威勢がいいからってバットに当たらな意味ないがな」

ムッシュ「しかし、振りは中々鋭かったですよ。次の打席に期待が持てますぅ~」

62: 2010/01/30(土) 19:57:22.12 ID:p330Y5wQ0
実況「続いてのバッターもあえなく凡退でチェンジ。しかし3年2組1点先制です」

和「ムギ、ナイスバッティング」

紬「うふふ。ありがとう和ちゃん」

さわ子「りっちゃんドンマイ」

律「ふふふ。実は相手を油断させるためにワザと三振したのさ」

唯「そんな高度な心理戦をっ!? さすが野村の弟子!!」

澪「……ウソつけ」

後攻 2年1組オーダー

6梓
2キャッチャー子
3ファースト子
1憂
8センター子
5サード美
7レフト美
4セカンド子
9純

63: 2010/01/30(土) 20:04:29.00 ID:p330Y5wQ0
梓「先輩達本当に夏休み中ずっと野球やってたんですね」

梓「独りっきりで寂しかったです」

律「あはは……ごめんごめん」

梓「その情熱を少しでも部活の方に向けて欲しいですよ」

律「そう言うなよ梓。これが終わったらちゃんとするからさ」

梓「絶対ですよ!」

律「その前に澪の投球見てやってくれよ。絶対打てないぜ」

梓「私だって、少しは憂達と練習したからそう簡単には……」

   ズバンッ!!

梓「速っ!!」

律「だろ~? 115キロは余裕で出てるぜ。しかも指によくかかってるらしくて伸びるんだってさ」

梓「澪先輩って何やらせてもスゴイんですね!」

律「いやいや、これも私のリードがあっての……」

梓「へ~」

律「聞けっての!」

64: 2010/01/30(土) 20:11:21.66 ID:p330Y5wQ0
実況「秋山投手なかなかいい球を投げていますね」

ムッシュ「はいぃ~。何やら変化球も投げるらしいですぅ~」

実況「それはすごい! 期待しましょう」

「ッラーイク! バッターアウッ!!」

実況「2年1組三者凡退で1回の裏終了。秋山投手、上々の立ち上がりです」

さわ子「スゴイじゃない澪ちゃん。さすが私が見込んだだけのことはあるわ」

澪「はぁ……。どうも」

律「なんだ~澪。まだ乗り気じゃないってのか?」

澪「当たり前だ! 結局夏休み中はずっと野球やってたし……」

律「でもそのおかげで、澪の隠れた才能が発掘されたわけだし」

澪「別に私はピッチャーがやりたいわけじゃないんだ!」

律「そんな事言ったって、球技大会まではやるって言ったじゃん」

澪「分かってるよ。だから、もう早いとこ終わらすぞ」

律「はいはい」

65: 2010/01/30(土) 20:13:01.49 ID:p330Y5wQ0
実況「誠に申し訳ありません。試合の途中ですがこの辺で夕ご飯の時間とさせて頂きます」

実況「なお、この後の試合の模様はサンテレビボックス席で試合終了までお伝えいたします」

実況「それでは後ほど」

69: 2010/01/30(土) 20:49:11.07 ID:p330Y5wQ0
憂「梓ちゃん、澪さんの球はどうだった?」

梓「結構、速かったよ。手元で伸びる感じだったし」

憂「へ~。なかなか楽しませてくれそうだね♪」

梓「そ、そうだね」

憂「お遊びだと思ってたけど、なんだか熱くなれそう」

梓「う、憂?」

憂「ほらっ、守備だよ」

梓「ねぇ純。憂ったら少しおかしくない?」

純「梓は知らないと思うけど。憂は小学生の時結構有名だったんだよ」

梓「何が?」

純「近所のお姉さんと一緒に地元のリトルリーグに所属しててさ」

純「で、瞬く間にスゴイ野球少女が現れたって噂が広まってね」

梓「そうなんだ……」

70: 2010/01/30(土) 20:56:46.14 ID:p330Y5wQ0
実況「さぁ、2回の表ですが早くも2アウトランナー無しです」

実況「ここで8番バッターの平沢の登場です。福本さん彼女はどのようなバッターなのですか?」

福本「バッティングはからっきしやけどね。足も速いし守備も上手いんよ」

実況「では良くも悪くも打順通りの実力ということでしょうか?」

福本「まぁ……せやね」

憂(お姉ちゃんに強い球投げるなんてできないよ)フワッ

唯「キタッ!!」ブンッ!! カスッ  コロコロ……

実況「おっと! バットには当たった模様ですがスイングの勢いとは裏腹に打球はかなり弱々しい」

律「唯! 早く走れ!!」

唯「わわわ! そうだった!!」ダッ

71: 2010/01/30(土) 21:02:34.89 ID:p330Y5wQ0
実況「しかし、これはおもしろい所に転がっています」

サード美「くっ……!! 間に合って!!」

実況「3塁手が前に出てきて打球を掴み1塁へ送球!!」

唯「ぬおおおおお!!」ダダダダダ

実況「これはギリギリの勝負になりそうです!」

唯「うわっ!?」コケッ

     ∩ ∩
   ~| ∪ |         (´´
   ヘノ  ノ       (´⌒(´
  ((つ ノ⊃≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
   ̄ ̄ ̄(´⌒(´⌒;;
   ズズズズズ

「せ、セーフ!」

実況「な、なんとヘッドスライディングです!」

福本「あれだけ、頭から突っ込んだらアカンって言うたのに……」

福本「怪我したら、終いやがな」

72: 2010/01/30(土) 21:07:16.30 ID:p330Y5wQ0
律「おお! 唯気合入ってんな!!」

紬「スゴイわ!」

澪「なぁ、和。あれって……」

和「ええ、そうね。ベース手前でコケただけね」

さわ子「やるじゃない唯ちゃんも。これで澪ちゃんで終わっても次の回はまた和ちゃんからよ」

さわ子「流れはウチに来てるわ!!」

律「行けー澪! かっ飛ばせー!」

澪「バッティングには期待しないでもらいたい……」

73: 2010/01/30(土) 21:13:14.86 ID:p330Y5wQ0
憂「あわわわわ。お姉ちゃん大丈夫かな……」

憂「心配だよ~」フワッ

澪「!? 緩い球! これならっ!!」パコーン!

憂「しまった!? お姉ちゃんを気にしすぎるあまりっ!!」

実況「秋山、ピッチャーながら打っていきました。打球は二遊間へ。センターに抜けるか!?」

梓「させないです!」ピョン パシッ!

実況「いえ、ショートの中野、猫のように素晴らしい身のこなしで打球を処理しました
   そしてセカンドベースカバーにボールをトスして3アウt……」


      今だ!2塁ゲットォォォォ!!
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄      (´´
                  ∧∧       (´⌒(´
            ⊂(゚Д゚ )≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
        ⊆⊂´ ̄ ⊂ソ  (´⌒(´⌒;;
           ̄ ̄ ̄   ズザーーーーーッ

「セーフ!!」

74: 2010/01/30(土) 21:19:09.07 ID:p330Y5wQ0
実況「なんと! 1塁走者の平沢、電光石火のごとくセカンドを陥れた!」

実況「誰もがショートの中野が打球に追いついた時点で
   セカンドにトスして2塁封殺と思ったことでしょう」

実況「あるいは、そのままセカンドが1塁に送球していれば打者走者がアウトになっていたかもしれません」

実況「しかし、あまりの出来事に一瞬プレーが止まってしまいました!」

福本「だから言うたやろ、足速いって」

実況「スライディングも素晴らしかったですね福本さん」

福本「アレ教えたのもワシやがな」

ムッシュ「ちょっとごめんさないね~。僕はアウトを取れなかったとはいえ
     ショートの守備も褒めるべきだと思います~」

実況「はい、どちらもギリギリの素晴らしいプレーでした」

75: 2010/01/30(土) 21:22:05.89 ID:p330Y5wQ0
律「おおー! 唯ってあんなに足速かったんだな」

和「小学生のころから寝坊しては走って学校に通ってたから」

紬「そういえば、唯ちゃんギリギリはあっても遅刻はしたことないわね」

和「昔っからそうなのよ。走ることに関しては結構なものだと思うわ」

和「まさに寝坊の賜物ね」

唯「イエ~イ! ピースピース!」

76: 2010/01/30(土) 21:29:29.18 ID:p330Y5wQ0
さわ子「澪ちゃんでこの回終わりだって思ってたけど」

さわ子「こうなったら欲張っちゃうじゃないのよ」

さわ子「真鍋さん。ちょっと……」

和「何ですか? 先生」

さわ子「カ・ン・ト・ク」

和「……か、監督」

さわ子「なんとかフルカウントまで粘れない?」

和「分かりました。やってみます」

紬「どうして?」

律「塁が詰まった状態で2アウトフルカウントだったら投手が投げた瞬間にランナーはスタート切れるんだよ」

律「アウトだったらそのままチェンジだし、ボールだったらフォアボールだし」

紬「あ~。そういえばそんな事も習ったわね」

さわ子「そうよ。スタート切って打球が内野の間を抜けさえすれば
    唯ちゃんの足だったら必ず帰って来れるわ!」

78: 2010/01/30(土) 21:36:38.37 ID:p330Y5wQ0
実況「2回の表3年2組の攻撃。バッターは先程センター前ヒットを放った真鍋」

実況「2アウトランナー1、2塁。この局面でカウントは2-2」

実況「先程から真鍋、臭いところは全てカットしています」

憂「さすが、和さんはしつこいですね」

和「あなたもね。コース一杯ばっかり狙うんじゃなくて、たまにははっきりとストライク投げなさいよ」

憂「いやですよ。不用意に投げて長打ってのが一番最悪なんですから」

実況「ピッチャー、真鍋に対して8球目……投げました!」

和(低いっ!)ピタッ

「ボール!!」

実況「これでフルカウントとなりランナーは投球と同時に自動的にスタートを切ります」

ムッシュ「平沢の足ならば、外野に抜けたら必ず帰ってきますよ。ここはピッチャー踏ん張りどころです~」

79: 2010/01/30(土) 21:47:47.72 ID:p330Y5wQ0
実況「ピッチャー勝負の第9球目……投げました!」

和 カキーーン!!

憂「くっ……!? しまった」

実況「打った! 鋭いライナーで三遊間を破るレフト前ヒット!」

さわ子「よっしゃ! もう一点いただき!!」

律「ナイス和!!」

実況「もちろんスタートを切っていた2塁ランナーは余裕を持ってホームイ……」




実況「いえ、帰ってきてません!! 平沢は3塁を少し回った所でストップ!!」

実況「何故でしょうか!? スタートを切っていたのであれば悠々とホームへ帰ってくることも容易であるはずが
    平沢は3塁でストップしています!!」

80: 2010/01/30(土) 21:55:59.57 ID:p330Y5wQ0
福本「やっぱり……」

実況「どういう事でしょうか? 福本さん」

福本「いや、あの子にルールとか色々と教えたけどなかなか覚えやんのよ」

福本「せやから、最低限打球が転がったら走ってよし
    球が浮いてたら地面に付くまでは様子を見るって教えてんけど」

実況「と、するとさっきの打球はライナーだったので、地面に付くまで待っていたと」

福本「2アウトやったらどんな打球でもスタート切れとは一応言うたつもりやねんけどなぁ……」

ムッシュ「しかし、あの子も決して悪い子じゃないんですよ」

福本「教え込む時間が足りませんでしたね~」

実況「しかし、2アウトながら満塁とチャンスであることには変わりありません」

「ットラーイク! バッターアウッ!!」

実況「……三者残塁で2回の表終了です」

81: 2010/01/30(土) 22:07:15.82 ID:p330Y5wQ0
さわ子「ちょっと! 唯ちゃん! なんで走らなかったの!?」

唯「へっ? だってもしノーバンで取られたら塁に帰らなきゃいけないでしょ?」

さわ子「……」

和「私からシッカリと教えておきます」

さわ子「頼むわ……」

和「いい唯。2アウトだったら、次アウトになってもチェンジになるんだから
  例えフライになっても走っていいのよ」

唯「ええ~! そんなの私、初耳だよ!!」

和「絶対にそんなことないと思うわ」

唯「そうかな~」

和「初歩の初歩よ」

82: 2010/01/30(土) 22:13:31.01 ID:p330Y5wQ0
和「それに塁が詰まってる状態で2アウトフルカウントだったら投手が投げた瞬間に走ってもいいの」

唯「でも、そんなことしたら憂がかわいそうだよ……」

和「いや、別にずるしてるわけじゃないのよ」

唯「そういうことなら、次からは間違えないようにがんばるよ!」キリッ

和「ええ、頼んだわね」

唯「うん! さわちゃん監督ごめんね……」

さわ子「まぁ、唯ちゃんだから仕方ないわね」

律「そうそう、今日の澪の調子で私のリードがあれば1点で充分だから!」

澪「おいおい……」

83: 2010/01/30(土) 22:22:56.47 ID:p330Y5wQ0
和「そのことなんだけど、律ちょっといい?」

律「ん? なに?」

和「この回の先頭バッター憂だけど、くれぐれも慎重にね」

律「なんで?」

和「昔、私と一緒に地元のリトルで野球やってたのよ」

律「へ~、経験者なんだな。どうりで球も結構速いと思ったよ。でも澪もそう簡単には……」

和「まぁね、最近は野球なんてやってないでしょうし鈍ってるとはおもうけど」

和「でも、地元じゃ有名だったのよ。リトル頃しの憂ってね……」

律「り、リトル頃し……!!」ゴクリ

和「その打棒で何人もの前途ある野球少年の心を打ち砕いてきたのよ」

律「そ、そんなにすごかったのか!?」

和「ええ、だから気をつけてね」

律「わ、分かった」

85: 2010/01/30(土) 22:31:11.37 ID:p330Y5wQ0
実況「さぁ2回の裏、先頭バッターの4番平沢憂が打席に入ります」

律(さて、どうするか……。ここはやはりノムさんに習った投手の基本、アウトローで!)

 ズバンッ!! 「ットラーイック!!」

憂「へぇ~、スゴイ球ですね!」

律「へへん! どんなもんだ!」

律(さすが私! ノムさんの教えを忠実に再現してこそのリードだぜ!)

律(まぁ、ぶっちゃけ話はこれだけしか覚えてないんだけど……)

律(それに和も考えすぎなんじゃないか? 小学生のころはすごかったかもしれないけど)

律「憂ちゃん野球やってたんだって?」

憂「はい。あ、でもずいぶん昔のことなので、もうぜんぜんダメですよ」

律「そっか、そっか~(やっぱり大丈夫そうじゃね?)」

憂「澪さん球速いですね。球筋もいいし、コースも申し分ないですよ」

律「だろぉ~?」

憂(でも、そんな良い球は決め球に持ってくるもんですよ……律さん)ニヤッ

88: 2010/01/30(土) 22:40:46.66 ID:p330Y5wQ0
律(よし! もう一球同じ所で……)パパパ

澪 コクコク  シュパッ!!

憂「……!!」ブン!!

グワァラゴワガキーン!!

律澪「!?」

「ファール」

実況「これはスゴイ打球がライト方向へ飛んで行った! しかし僅かにポールの右側でした」

ムッシュ「キャッチャーは初球と同じ所に構えてましたが、僅かに球が外にはずれたおかげで
     なんとかファールになりました~」

福本「これはバッテリー命拾いしましたね」

律「な、なんじゃこりゃー!!」

和「だから気を付けるように言ったのよ……」

90: 2010/01/30(土) 22:47:49.62 ID:p330Y5wQ0
律(憂ちゃんは要注意だ。ストレートだけじゃ抑えられそうもないな)

律(と、言う事で少し早いけどアレを披露するか)パパパ

澪(!? おいおい……もうアレ投げるのか?)フルフル

律(ムッ! キャッチャーのリードには従えっての!!)パパパ

澪 フルフル

律「タイム!」

律「澪! 憂ちゃんのあの打球見たろ? 絶対ストレートだけじゃ無理だって」

澪「そう言うが、投げる私のことも考えろよ!」

澪「だいたい本当にあの球捕れるようになったのか?」

律「大丈夫だって! 必ず受け止めるっ!!」

澪「はぁ……。分かった分かった。投げるよ」

律「よし! 私に任せとけ!!」

92: 2010/01/30(土) 22:55:11.53 ID:p330Y5wQ0
「プレイッ!」

澪 シュパッ!!

憂「甘い球!? これならっ!!」ブン!!

 ストーン↓

憂「ふ、フォーク!?」スカッ

律「し、しまった!?」ポロッ

実況「あ~っと! キャッチャー後逸。それを見たバッターランナーは一塁に到達。振り逃げ成立です」

実況「しかし、秋山が投げた球はフォークのように見えましたが?」

ムッシュ「はい、そうです~。彼女の手はシッカリとボールを挟めるほど大きいんです~」

福本「ワシの手よりも大きかったがな」

律「へへへ……ごめん澪」

澪「ったく、しっかりしてくれよ」

律「次! 次こそは必ず!!」

澪「まぁ、私は早く終わってくれるんなら勝っても負けてもいいんだけどさ」

律「……澪」

93: 2010/01/30(土) 23:01:46.39 ID:p330Y5wQ0
紬「憂ちゃんって野球上手なのね」

憂「いえいえ、そんな事ありませんよ紬さん」

憂「紬さんのバッティングの方がすごかったですよ」

紬「うふふ、ありがとう。憂ちゃんもチーム初めての出塁おめでとう」

憂「記録上は三振ですけど……ね」

憂(リトル時代も三振なんてしたことなかったのに)

憂(この前まで素人だった澪さんに三振取られるなんて)

憂「フフフッ……」

紬「憂ちゃん?」

憂「なんだか楽しい試合になりそうですね♪」

紬「そ、そうね」ゾワゾワ

憂(澪さんの球筋も、もうだいたい分かったし♪)

94: 2010/01/30(土) 23:09:23.83 ID:p330Y5wQ0
実況「ノーアウトでランナーが出ましたが後続が続かずこの回も2年1組は得点無しです」

さわ子「さぁ、ウチはムギちゃんからのクリーンナップよ!」

律「なぁ和。憂ちゃんってピッチャーとしての実力はどうなんだ?」

和「リトルのときは野手だったし、打席に立った感じだと投手としての実力は澪の方が上じゃないかしら」

和(ただどうも手を抜いて投げてるようだけど……)

律「そっか。じゃあ打てないってわけじゃなさそうだな」

紬 カキーン!

唯「スゴーイ! ムギちゃんまたヒットだ!」

律「よし! ここは私も一発ブチかましてやるか!!」

唯「がんばれ~りっちゃ~ん!」

さわ子「主砲の意地を見せるのよ!」

95: 2010/01/30(土) 23:14:53.29 ID:p330Y5wQ0
 ズバン!! 「バッターアウッ!!」

律「……ただいま」

和「ずいぶんお早いお帰りで……」

唯「りっちゃんカッコ悪~い」

律「う、うるさい! 私はリードのことで頭が一杯なの!!」

さわ子「じゃあなんで4番打つなんて言ったのよ……」


実況「3回表3年2組の攻撃も先頭バッターを出しましたが
   こちらも後のバッターが続くことなくあえなくチェンジです」

98: 2010/01/30(土) 23:23:01.78 ID:p330Y5wQ0
実況「3回の裏2年1組の攻撃も2アウトとなりました。秋山の快投はこの回に入っても続きます」

ムッシュ「打者9人に対して三振6つですか。これはまさに秋山のワンマンショウと言ってもいいでしょうね」

実況「はいそうですね。許したランナーは振り逃げの1人だけです」

福本「しかし、打たせて取らんことには野手のリズムもできてきませんからね」

ムッシュ「その通りですぅ~。それにスタミナの方も後半心配になってきますよ」

ムッシュ「マウンドでは独りですが周りには仲間がいるということを忘れてはダメだと思いますぅ~」

実況「さぁ、打者一巡して1番の中野がバッターボックスに入ります」

実況「おっとこれは!? 小さい体を更に小さくしてバットを構えています」

福本「ちょっと前まで横浜にこんな選手おらんかった?」

ムッシュ「ああ~。そう言えばそんな選手もいましたなぁ~」

福本「ね~。いましたよね」

100: 2010/01/30(土) 23:33:25.78 ID:p330Y5wQ0
律「おい! ずりぃぞ梓!」

梓「なんとでも言ってください!」

律「さっきは普通に構えてたじゃん」

梓「私だってこんな恥ずかしい構え嫌ですよ」

梓「でも憂がやれって……」

律「クソ……ちっこいのがもっと小さくなったらストライクゾーンなくなるじゃねぇかよ」

  ズバン!!

「ボール! ボールフォア!」

律「この~。卑怯者~」

梓「うぅ……」



憂「うふふ、梓ちゃんカワイイ」

101: 2010/01/30(土) 23:42:13.55 ID:p330Y5wQ0
実況「四球でランナーは出しましたが後続を抑えいまだにノーヒットピッチングを続けています」

実況「3回を終わって0対1。3年2組のリードです」


さわ子「いい調子ね。そろそろ追加点が欲しいところだけど」

さわ子「まぁこの回は下位打線からだし贅沢も言ってられないわね」

唯「むっ! それは聞き捨てなりませんな~」

唯「私だってさっきヒット打ったんだから!!」

律「ボテボテの内野安打じゃね~かよ……」

澪「お前は2三振だろ」

律「そうだけど、奪った三振も7つだぜ! これはバッテリーの功績だろ?」

律「と、言うことは半分は私のおかげ!!」

澪「はいはい……」

102: 2010/01/30(土) 23:51:00.84 ID:p330Y5wQ0
実況「さぁ、1アウトとなり打席には平沢が入ります」

憂「やっぱりお姉ちゃんには強い球は投げられないよ」フワッ

唯「一撃で仕留めるっ!!」ポコッ

実況「おっと、また先ほどと同じような打球です」

「セーフ」

実況「2打席とも内野安打という結果になりました」

唯「ふふん! どんなもんだ!!」

憂「お姉ちゃんカッコいいよ!!」

梓「本当に、この姉妹ときたら……」

103: 2010/01/30(土) 23:57:21.52 ID:p330Y5wQ0
実況「さて続く秋山が送り2アウトとしながらも得点圏へランナーを進ませました」

実況「ここで、当たっている真鍋の登場です。今回はどのようなバッティングを見せてくれるのでしょう」

憂(和さんは要注意、と。1塁も空いてるし無理して攻めることもないかな)



実況「先ほどと同じようにこの打席もフルカウントとなりました」

実況「ピッチャー……投げた!」

「ボール! ボールフォア!」

実況「際どいところでしたが、真鍋よく選びました!」

さわ子「よく見たわ! 真鍋さん!! さすがにその眼鏡は伊達じゃない」

和「何ですかそれ……」

三塁塁審「アウトー」

さわ子「へっ?」

104: 2010/01/31(日) 00:05:16.79 ID:gQbpMY290
実況「おっと、どうしたことでしょうか?
   2塁走者の平沢がサードベース手前でタッチされてアウトになってしまいました」

福本「盗塁にしては中途半端やし、そもそも走るケースでもないしね」

ムッシュ「これはちょっと理解できないですねぇ~」


唯「え? あれ? なんで?」

さわ子「ちょっと、唯ちゃんどうしたっていうの?」

唯「え? だって、2アウトでフルカウントになったら走っていいってさっき……」

さわ子「……」

和「唯、走っていいのはランナーが詰まってたらって言ったでしょ?」

和「だからあのケースではインプレイ中であんたは盗塁したってことに……」

唯 プス~

和「……そうよね。唯には難しいわよね」

106: 2010/01/31(日) 00:11:09.34 ID:gQbpMY290
さわ子「いいのよ唯ちゃん」

唯「さわちゃん監督……」

さわ子「今度から私が唯ちゃんにサインを出すわ」

さわ子「私がこうやって笑顔でいるときは走ってもいいわよ。……でも」

さわ子「眼鏡を外して睨みをきかせてるときは塁から動くんじゃねえぞ!!」ゴォォォォ!!

唯「ひぃぃぃぃぃっ!!」

さわ子「分かったか!! あぁん!?」

唯「わ、分かりました!!」

さわ子「分かればよし」ニコッ

唯(こ、怖かったよ~)ガクブル

澪 ガクブル

和「澪、大丈夫?」

107: 2010/01/31(日) 00:19:48.75 ID:gQbpMY290
澪「うぅ~……ミエナイキコエナイ」

和「澪!!」

澪「はっ!? な、何?」

和「あんた、ちょっと飛ばしすぎじゃない?」

澪「そう……かな?」

和「だってまだ3回なのに50球以上投げてるじゃない。少し球数が多いわ」

和「三振もいいけど私たちもいるんだし、もっと力抜いて投げなきゃ最後まで持たないわよ」

和「澪しかピッチャーいないんだし」

澪「うん分かったよ。ありがとう和」

和「どういたしまて。こっちに飛んできたらどんな打球でも処理してあげるからね」

澪(そうだな……少し楽に投げてみるか)

律「よし澪! これからもバシバシ三振とっていくぞー!!」

澪「こいつは……」

108: 2010/01/31(日) 00:26:54.34 ID:gQbpMY290
実況「4回裏2年1組の攻撃はクリーンナップからとなります」

ムッシュ「秋山投手にとっては中盤の山場ではないでしょうか?」

福本「ここ抑えたらポンポ~ンといきそうな気がしますね」


澪(そっか、打たせて取ったら1球でアウトにすることもできるよな)シュッ

律(バカっ! 甘いぞ!)

  カキーン!

実況「ここまでノーヒットピッチを続けていた秋山でしたがついに打たれました!」

澪「はぁ……やっぱりそんなに甘くはないよな」

律「おい澪、さっきまでの勢いはどうしたんだよ」

澪「お前は楽でいいよな~」

律「はぁ?」

澪「次は憂ちゃんだ。ちゃんと力入れて投げるよ」

律「ホント、頼んだぜ」

109: 2010/01/31(日) 00:34:10.84 ID:gQbpMY290
律(さて、どう攻めるかな)

律(前の打席は外の球をいとも簡単に飛ばしていった)

律(試しに内を攻めてみるか)

律(でもストライクにならないように体のそばにくる球を)

律(もし反応が鈍かったらインコースは苦手なはず)

律(頼むから中に入れてくれるなよ)パパパ

澪 コクコク  シュパッ!!

澪「あっ!?」

律「ヤバイ!? 中にっ!?」

憂 クワッ!! ブンッ!!!

グワァラゴワガキーン!!!!!!

律「しめた! ショートの正面だ! 捕れるぞ!!」

ギュィィィィィィィィン!!!!!

ショート子「キャッ!!」

110: 2010/01/31(日) 00:40:03.47 ID:gQbpMY290
澪「打球が!?」

律「伸びた!?」

実況「一瞬ショートライナーかと思われた打球が勢いを増してグングン伸びて行くー!!」

実況「入るのか!? 入ってしまうのかーー!!!」

「ホームラン」グルグル

実況「入ったーーー!! これぞ4番の仕事! 逆転2ランホームラーーーン!!」

福本「こりゃあタマげましたね……」

ムッシュ「昔、ショートライナーやピッチャーライナーになりそうな打球がホームランになったという
     怪童と呼ばれる男がおりましたが、まさにそれを彷彿させるような素晴らしい打球でしたねぇ~」

梓「す、すごい……」

唯「ほ~~~~~げ~~~~~」

和「全く、本当に恐ろしい子だわ……」

111: 2010/01/31(日) 00:48:12.80 ID:gQbpMY290
実況「秋山、ホームランは打たれたものの後続を打ち取りました」

実況「しかし4回を終わり2対1。2年1組逆転です!!」


澪「いやー、しっかし、気持ちイイくらい飛ばされたな」

律「……悔しくないのかよ」

澪「ん?」

律「あそこまで飛ばされて悔しく無いのかって聞いてるんだよ!」

澪「でも、あれは失投だったし」

律「お前ッ!?」

唯「やめてよりっちゃん!!」

紬「お、お茶にしましょうか!!」

和「律!! 一番悔しいのは打たれた澪のはずよ!!」

律「──ッ!! そうだな……ごめん、澪」

澪「……なんだよ」

112: 2010/01/31(日) 00:58:15.86 ID:gQbpMY290
──
─────
──────────


実況「一進一退の攻防が続き、ついに試合も終盤の8回の裏、2年1組の攻撃です」

実況「あれから得点は動いていませんが、どうでしょうか?」

ムッシュ「秋山投手は前半球数を使いすぎたためかだんだん球威もなくなってきまして
     ヒットを打たれたり四球を出すことが多くなってきました~」

ムッシュ「しかし要所要所でバックがいい守備をしまして盛り立てています~」

福本「平沢憂投手の方は逆に尻上がりによくなってる印象ですね」

福本「序盤あれだけ出てたヒットがパタンと出んようになりましたからね」



実況「さぁ、バックの厚い守りもあり秋山、8回裏も2アウトにまでこぎつけました」

実況「しかし、ランナー1、3塁とこの回もピンチが続きます」

実況「ここでバッターボックスには先程の打席でいい当たりを放った中野が入ります」

113: 2010/01/31(日) 01:05:23.59 ID:gQbpMY290
梓「澪先輩、相当疲れてますね」

律「ふん! さっきの梓の2ベースはまぐれだろ」

梓「確かに振ったら当たったって感じでしたけど
  それだけ澪先輩も限界なんじゃないですか?」

律(梓の言う通りだ……7回辺りから極端に球威が落ちてきてる)

澪 シュピ!

  パスン!

「ッタラーイク!」

梓「やっぱり、このくらいの球速だったらもう怖くありませんね」

律(クソッ……! なんて小憎らしいんだ)

梓「次は打ちますよ」

律(なんとかここを無失点に抑えて最終回を1点差で迎えたい……!!)

127: 2010/01/31(日) 08:25:15.10 ID:gQbpMY290
律(まだ、梓にはフォークを使ってないし)

律(この球見せるだけでもストレートだけだというそのふざけた幻想をぶち頃すことができる)

律(そして、梓は次の球から迷いが出るはずだ)

律(……試してみるか)パパパ

澪「!?」

澪「……」

澪 コクコク

律(よし……来い!!)

澪(後ろに逸らすなよ……!!)シュパッ!

澪「あっ、しまっ!?」

律「うぐっ!?」ドスッ!

128: 2010/01/31(日) 08:32:43.23 ID:gQbpMY290
実況「おおっと! 秋山の投げたボールがホームベースの手前でワンバウンド」

実況「しかしこれをキャッチャーの田井中が体を張って止めました!」

ムッシュ「あれこそキャッチャーの鏡ですよ」

福本「あれ後逸してたら1点入ってましたからね」



澪「律!!」

律「へへ……言ったろ、絶対捕るって」

澪「ば、バカ律! 怪我したらどうするんだよ」

律「私はさ、澪みたいになんでも上手くこなす事ができないからさ」

律「ドラムも走り気味だし、同じリズム隊として澪にはいっぱい迷惑かけてると思うんだ」

律「だから……、せめてキャッチャーとしてはお前を支えてやりたいんだよ」

澪「律……」

律「さっきは不貞腐れてる澪を見て少しカッとなっちゃって……」

律「でも澪のがんばりは私が一番知ってるつもりだから!」

紬(これよ! 私が求めていた展開はっ!!)

130: 2010/01/31(日) 08:40:54.13 ID:gQbpMY290
律「もちろん、お前が野球を嫌々やっているのは痛いほど分かってるよ」

律「でもせめて、この間だけは、野球やってる間だけは」

律「澪。私を頼って球を投げてくれないか?」

澪「……」

澪「……分かった。あとで受けきれなかったなんて言うなよ」

律「言うもんか! 澪の投げる球も気持ちも全部私が受け止める!!」

澪「は、恥ずかしいヤツだな……///」

球審「き、君たち。早くプレイを再開したまえ」

紬(ぷ、プレイって!? どんなプレイをっ!?)タラ~リ

和「ムギ!? 大丈夫? 熱中症?」

紬「ええ、ある意味熱中しちゃったかもね」

和「???」

律「よっしゃ~! しまって行こ~!!」

132: 2010/01/31(日) 08:47:47.10 ID:gQbpMY290
澪 シュパッ!!

梓(球速が戻った!?)ブン!

  カキン!

実況「おっと、中野打ち上げてしまった。打球はバックネット方向に飛んでいる」

梓「しまった!?」

実況「キャッチャー田井中これを捕ることができるか!?」

律「ぬぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

澪「律っ!!」

実況「田井中ダイビングキャッチ! しかしその勢いで自軍のベンチに突っ込んでしまった!」

福本「うわちゃ~。大丈夫かいな……」

さわ子「ちょっと!? りっちゃん、平気?」

律 スクッ

実況「どうやら大丈夫のようです。果たしてボールをシッカリと掴んでいるのか!?」

律「とったど~~~~!!!!」 

球審「アウト~~!!」

133: 2010/01/31(日) 08:54:28.75 ID:gQbpMY290
実況「雄叫びと同時にミットを天高く突き上げました!!」

ムッシュ「これはピッチャー助かりましたよ」

福本「なんとか最少失点差で9回を迎えられましたね」

実況「スタンドからも先程のプレーを讃える拍手が鳴り止みません」

実況「このピンチも堅い守りでしのぐことができました」

実況「さぁ! あとは9回の攻防を残すのみです!」

135: 2010/01/31(日) 08:59:31.68 ID:gQbpMY290
澪「律、あんまり無茶するなよ」

律「言ったろ。私が澪を支えるって」

澪「だって、心配するじゃないか……」

律「あ~ら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」ニヤニヤ

澪「バカ律」

律「フフッ。照れちゃって。カワイイの~」

澪「……ありがと」ボソッ

律「へっ?」

澪「なんでもな~い」

律「な、なぁ! もう一回! お願いだからもう一回言ってくれ!!」

澪「い~や」

律「ああ~~ん。いけず~」

紬「///」

さわ子「ほらほら。邪魔しちゃ悪いわよ」

136: 2010/01/31(日) 09:02:21.65 ID:gQbpMY290
>>134

ムッシュ「その挑戦する姿勢は大変評価できると思いますぅ~」

福本「なんでも振ってみな当たらへんからね」

137: 2010/01/31(日) 09:08:07.43 ID:gQbpMY290
さわ子「さぁ、泣いても笑っても最後の攻撃よ!!」

さわ子「今まで培ってきた物を全部出しきってちょうだい!!」

さわ子「ここまできたからには、必ず勝ちましょう!!」

律「あったぼ~よ! 最後に笑うのはこの3年2組だぜ!」

和「やるからには勝ちたいものね」

唯「私、絶対出塁するよ!!」

紬「がんばりましょ!!」

澪「うんっ!!」

さわ子「みんなその意気よ!!」

さわ子「そして、なんとしてでも焼肉食べ放題をいただくわ!!」

一同(結局、それかよ……)

138: 2010/01/31(日) 09:15:23.31 ID:gQbpMY290
実況「ついに最終回の攻防です。7番バッターのレフト子がエラーで出塁」

実況「ノーアウト1塁で打席には平沢唯。ピッチャーの平沢憂、なぜかこの姉には緩い球しか投げていません」

ムッシュ「次の打順はピッチャーですからね。めぼしい代打も居ないですし、なんとかヒットで繋いで
     次のピッチャーの打席で送るという手もないわけではないですよ」





憂「ああ~ん。お姉ちゃ~ん」フワッ

 ヒョロヒョロ~  パスッ!

「ットラーイク!」

憂「あれ? 打たないの?」

唯「……憂!!」

憂「な、何お姉ちゃん!?」

唯「しっかり投げなさい!」

憂「!?」

139: 2010/01/31(日) 09:20:23.36 ID:gQbpMY290
唯「お姉ちゃんだって今まで一所懸命練習してきたんだよ?」

唯「だから真面目にやりなさい!」

憂「……!!」

憂「分かったよ、お姉ちゃん!」

唯「よ~し、来い! 憂!!」

唯(今まで憂の投球のタイミングを測ってたら)

唯(投げる動作に入ってから、うんたん♪のタイミングでピッタシだった)

唯(だから私にも、憂の球が打てるはずっ……!!)

140: 2010/01/31(日) 09:26:10.16 ID:gQbpMY290
憂 シュピッ!!

キュイーーーーン!

唯「うんたん♪」

カッキーン!!

実況「ピッチャーの足元を抜けるセンター前ヒット!」

実況「平沢、謎の掛け声と共にこの試合で初めてのいい当たりです!」

実況「これでノーアウト1、2塁とチャンスが広がりました!」

福本「ええピッチャー返しやったね……」

ムッシュ「何やら福本さん嬉しそうですよ。エッヘッヘ~」

福本「教えるのに苦労した子はカワイイもんですからね」



唯「名付けてうんたん打法!!」ブイッ

憂「お姉ちゃんカッコいい!!」

141: 2010/01/31(日) 09:33:12.33 ID:gQbpMY290
律「あの時を彷彿させる唯のピッチャー返しだっ!!」

和「あの時?」

律「2年の2学期、期末テストの勉強を図書室でやってた時なんだけど」

律「私が飽きて、唯に消しゴムのカス飛ばしたんだよ」

律「そしたらものの見事に鉛筆で打ち返されてさ」

和「へ~」

律「それが私の鼻に入って、あれはウケたな~」

律「思えばあの頃から唯の野球センスは開花し始めたのかもな」

和「どうでもいいけど、図書室で騒いでいた生徒が居たって苦情が生徒会に伝わってきてたんだけど」

和「それってきっとあんた達のことだったのね」

律「ごめんなさい」

142: 2010/01/31(日) 09:39:59.27 ID:gQbpMY290
さわ子「澪ちゃん頼むわよ……」パパパ

澪 コクン

実況「さぁ、秋山ここはプレッシャーのかかる場面でのバントだ」

ムッシュ「彼女は人一倍努力家でしたからね、必ずここも決めてくれると思います」

実況「ピッチャー……投げました!」

澪 コツン コロコロ……

実況「いいバントが決まって1アウト2、3塁と絶好のチャンスです!」



さわ子「よし! お膳立ては整ったわよ!」

和「せんせ……監督、ちょっとお話が」

さわ子「ん? 何、真鍋さん」

和「実は────」

143: 2010/01/31(日) 09:43:28.92 ID:gQbpMY290
さわ子「……信じていいのね?」

和「ええ。もし打席でそう感じたらまた合図送りますんで」

和「その時は3塁ベースコーチのムギにサインの発信お願いします」

さわ子「分かったわ。もちろん唯ちゃんにも、ね」

律「お? なんだなんだ、内緒話か?」

和「すぐに分かるわよ」



実況「さぁ! このチャンスで今日当たりに当たっている真鍋の登場です!」

144: 2010/01/31(日) 09:49:17.83 ID:gQbpMY290
和「澪ナイスバント」

澪「うん。私ができるのこのくらいだし」

和「そんなことないわよ」

和「あんたが頑張ってたからみんなもこれだけやる気になってるのよ」

澪「そ、そうかな……」

和「そうよ。マウンドでの澪、とってもカッコよかったわ」

澪「の、和……」

澪「頼む。私をもう一度あのマウンドに上げてくれ」

和「分かってるわよ。もちろん同点じゃなくて勝ってる状態で9回の裏のマウンドに上がってもらうわ」

澪「……うん!!」

145: 2010/01/31(日) 09:59:19.49 ID:gQbpMY290
憂「はぁ~。またいい場面で和さんか……」

憂「これ以上目立たれちゃお姉ちゃん取られちゃうかも……!?」

憂「絶対抑えてやるんだから!!」

 憂は和に嫉妬していた

 近所でカワイイと評判の平沢姉妹
 どこか抜けたところもあるが愛らしい姉
 憂はそんな『お姉ちゃん』が大好きだった
 その強すぎる想いは小学校へ上がるころには姉妹を超えた
 特別な感情になりつつあるのを憂は感じていた

 そんな唯一無二の存在である姉がある時期から
 幼なじみの和についての話を頻繁にするようになった

 食事中も入浴中も就寝前も……

 「和ちゃんってカッコいいんだよ。私将来和ちゃんのお嫁さんになる!」

 ずっと一緒に居られると思っていた姉の存在が急に遠くなったように感じた

 こうして憂は和と同じチームへ入った
 全ては和より目立ため。姉の興味を自分へと惹きつけるため

148: 2010/01/31(日) 10:15:14.94 ID:gQbpMY290
憂「幼なじみだからって……」

憂「お姉ちゃんは絶対渡さないんだから!!」

 和はそんな憂の心境を当時から察していた
 同じチームにいる時ですらその和に対する闘争心はかなりのものだった
 
 和が打てばもっと派手な当たりを憂も打つ
 和がエラーをすれば憂は更にとんでもないエラーをしでかす
 
 全ては唯に見られるため。和さんなんかよりも絶対に目立ってやる
 和にはそんなつもりはなくとも憂の和に対するライバル心は日に日に大きくなっていった

 ましてや今は敵同士。憎悪ににも似た闘争心は打席に立つ和にヒシヒシと伝わってくる

和(でも憂。私に固執するあまり周りの状況がよく見えてないのよ)

 和はさわ子に先程伝えた作戦を実行する様にアイコンタクトを送る

 さわ子はそれを受け3塁ベースコーチの紬にサインを発信する

紬「……レフト子ちゃん、ちょっと」

 さわ子からのサインを受け取った紬は3塁ランナーに耳打ちでそれを伝える
 3塁ランナーは平静を装うように2度3度頷く

 更にさわ子は2塁の唯に飛びっ切りの笑顔を振りまいた

唯(さわちゃん監督めっちゃ笑顔だ。と、言うことは……!!)

151: 2010/01/31(日) 10:31:03.07 ID:gQbpMY290
憂「絶対に和さんを打ち取る!!」

 ランナーがいるにもかからわず大胆なワインドアップで投げ込む憂
 もはや今は和を打ち負かすことしか頭に無かった
 唸りをあげた豪速球がキャッチャーミットへと向かって行く
 
 しかしこの状況を想定していた和の眼鏡がキラリと光りを放つ

和「1氏2、3塁で初球からストライクを投げるなんて、なっちゃいないわよ憂!!」

 和が状態を下げバットを寝かせている事を目の当たりにしたがもう遅かった
 この時やっと憂は自分の犯したミスに気がつく

憂「しまった!!」

実況「なんと! 不用意に投げた初球をスクイズだ!!」

 急いでマウンドから駆け下りる憂
 手を伸ばし捕球するがもう3塁ランナーはホームの手前にまで来ていた
 この時点で同点になることは誰の目にも明白だった

憂「っち!! せめて和さんはアウトにとらなきゃ!!」

梓「憂!! 1塁に投げちゃダメっ!!」

憂「えっ?」

 梓のその言葉も虚しくすでに投球動作に入っていた憂には
 もはや送球を止めることはできなかった

152: 2010/01/31(日) 10:47:16.87 ID:gQbpMY290
 憂は更にミスを犯していた
 
 和との勝負に固執するあまり今2塁にいる人間の特徴を忘れていたのだ

 同じ血を分け合いながら全てにおいて姉を上回る妹
 しかしそんな完全無欠の妹に唯一優っているであろう姉の能力

 そう、足の速さを……!!


紬「唯ちゃん! 回って!!」

唯「チョイヤーーーーー!!」

 紬は憂が1塁へ送球するであろうことを確認すると腕を勢い良く回す
 彼女は「腕をグルグル回すのをいつかやってみたかったの」と試合後に嬉しそうに語ったという

 サードベース手前で様子を伺いながら少し失速した唯だったが
 紬のジェスチャーを見てギアを入れ直し再加速
 躊躇なく3塁も蹴る
 

 後にこの試合をスタンドで観戦していた者は
 桜高指定の3年用ジャージが青かったことから口々にこう言った
 
 青い稲妻を見た、と

154: 2010/01/31(日) 10:56:58.84 ID:gQbpMY290
 ファーストが憂からの送球をうけとり和はアウトになったものの
 急いで本塁へ投げ返す

 唯はキャッチャーのブロックをかいくぐろうと試みる
 そうはさせじと捕手も体を張って阻止をする
 クロスプレー────!!
 









 「セーフ!!」

実況「触れています! 右手が僅かにベースに触れています!!」

実況「逆転です! なんと2ランスクイズで逆転!!」

ムッシュ「確かに何度か練習しましたが、まさか試合本番でやってくるとは思いませんでした~」

福本「いや~。ええもん見させてもらいましたね」

155: 2010/01/31(日) 11:01:09.22 ID:gQbpMY290
澪「や、やった~!! 律、逆転だ! 逆転!!」

律「おやおや? あれだけ勝ち負けはどうでもいいって言ってた澪さんがこの喜びようとは」ニシシ

澪「う、うるさい///」

律「でも、よかったな澪」

澪「……」






澪「うん!」

156: 2010/01/31(日) 11:07:58.78 ID:gQbpMY290
実況「続いての打者は打ち取られましたが、なんとこの9回表の土壇場で3年2組逆転です!!」



澪「ありがとう、和」

和「言ったでしょ、リードした状態で9回の裏は投げてもらうって」

和「それに、お礼なら唯に言ってちょうだい」

和「あの、ブロックのかいくぐり方は中々のものよ」

和「2006年のWBC決勝で見せた川崎の神の手スライディングを彷彿させるわ」

澪「うん。ありがとう唯」

唯「でへへ///」

唯「勝とうね、澪ちゃん!」

紬「あと裏を守りきったら私たちの勝ちね♪」

さわ子「澪ちゃん。頼んだわよ!!」

律「よし、澪行くぞ!!」

澪「抑えたら、勝ち……!!」

157: 2010/01/31(日) 11:09:57.78 ID:gQbpMY290
澪「勝てる……!!」

澪「勝つには……!?」

澪「私がシッカリ投げて」

澪「そうしたら勝てる!!」

澪「みんなが逆転してくれた」

澪「だから今度は私が抑えなきゃ……!!」






   「抑えなきゃ!!」





159: 2010/01/31(日) 11:22:51.45 ID:gQbpMY290
──
─────
──────────

「ボール! ボールフォア」

実況「どうしたことでしょうか? 秋山これで2者連続フォアボールと制球が定まりせん」

実況「これで、ノーアウトランナー1、2塁となり逆転の興奮冷めやらぬまま
   一転、今度はサヨナラのピンチです」

実況「しかも次の打者はあの平沢憂です。この前の2打席ともバッテリーは敬遠を選んでいますが」

ムッシュ「しかしこの場面は敬遠するには非常に難しい場面ですよ」

福本「逆転のランナーをただでセカンドに送るのは怖いですよね」

ムッシュ「ここは無理してでも勝負する他ないと思いますぅ~」

福本「打たせたら正面ついてラッキーってこともありますが
   敬遠したらそんなもん関係なしにランナー溜りますからね」



律「澪……。タイム!」

160: 2010/01/31(日) 11:33:13.27 ID:gQbpMY290
澪「ハァハァ……抑えなきゃ……」

律「おい澪! どうした?」

澪「抑えなきゃ……抑えなきゃ……」

紬「……澪ちゃん」

和「澪、落ち着いて」

澪「みんなが逆転……私が抑えて……」

律「澪っ!!」ダキッ

紬「あら///」

澪「……はっ!? り、律!?」

律「もう何も考えるな。私のミットだけ見て投げ込めばそれでいいから!」

澪「り、律……」

161: 2010/01/31(日) 11:34:19.66 ID:gQbpMY290
ちょいと席離れま~

164: 2010/01/31(日) 12:22:19.36 ID:gQbpMY290
ありがとう再開

165: 2010/01/31(日) 12:23:33.78 ID:gQbpMY290
律「ここまでよく頑張った。でもあとちょっとだから。な?」

澪「……うん」

和「なんとか大丈夫そうね」

紬「こっちが大丈夫じゃないかも……」タラ~

唯「みっおちゃ~~~ん!!」

澪「唯?」

唯「外野に飛んできたら私が全部アウトにしてあげるよ~!!」

和「まったく、外野からあんな大声でみっともないったらありゃしないわ」

紬「でも唯ちゃんらしくって素敵」

澪「ありがとう。みんな」

166: 2010/01/31(日) 12:30:10.11 ID:gQbpMY290
澪「私、最初は勝ち負けなんてどうでもいいって思ってた」

澪「でも、今はすごく勝ちたい」

澪「このチームで……。みんなで勝ちたい!!」

和「私も一緒の気持ちよ」

紬「勝ちましょ。澪ちゃん」

澪「律。私、律のミットめがけて思いっきり投げるよ」

律「……」





律「ああ!」

167: 2010/01/31(日) 12:36:27.18 ID:gQbpMY290
憂「どうしちゃったんですか? 澪さん」

律「いや、なんでもないよ」

憂「そうですか……。もしかしてまた敬遠ですか?」

律「いんや。今回は真っ向勝負!!」

憂「よかった」

憂(どう考えてもお姉ちゃんの中のメーターは和さんに傾いているはず)

憂(ここで一気に逆転したら、今夜はお姉ちゃんと熱い夜を過ごせそう)

憂(……)



憂「絶対打つ!!」

律(スゲェ気合だ……)

169: 2010/01/31(日) 12:42:48.60 ID:gQbpMY290
澪(ただ、律のミットめがけて……)

澪「投げる!!」シュパッ!!

憂(真っ直ぐ!! これならっ!!)ブン!!

  ズバンッ!!

「ッタラーーーーーイック!!」

憂(この私が振り遅れ!?)

律(ここにきて球威が蘇った!!)

憂(ちょっとポイントを修正しなきゃ……!!)

170: 2010/01/31(日) 12:51:11.29 ID:gQbpMY290
澪「投げるっ!!」シュパッ!!

ギュィィィィィィン!!

憂「くっ!?」チッ!!

「ファール!!」

憂(ファールチップ! バットの上っ面!? 更に手元で伸びてきてる……!!)

律(イケる……イケるぞ澪!!)

憂(……和さんに……和さんなんかに)

憂「嫌……絶対に負けたくない!!」

律「それはこっちも同じ気持だぜ憂ちゃん!!」

憂(お姉ちゃん……!!)

173: 2010/01/31(日) 12:59:56.20 ID:gQbpMY290
律(さぁ、遊び球なんて必要ないよな)

律(しかも変化球なんて投げてそれがすっぽ抜けた日にゃ……)

律(後悔しても後悔しきれない)

律(お前の一番いい球)パパパ

澪 コクコク

律「さぁ、来い澪っ!!」

澪「ふっん!!」シュパッ!!

ギュルルルルルルルル~~ッ!!!

憂「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」

憂「おねえちゃ~~~~~ん!!!!」

──────────
─────
──

175: 2010/01/31(日) 13:08:57.39 ID:gQbpMY290
──
─────
──────────

 スタンドからの歓声は鳴り止まない
 それは勝者にもまた敗者にも等しく与えられたものだった

 澪はその歓声の渦の中心に立っている
 
 球場の球速表示は132を掲示していた

 澪はただ一点を見つめたまま動かない
 ただ一点、憂の特大ホームランが着弾したレフトスタンドを……

澪「自分でも分かるくらい、いい球だったんだ……」

澪「全力のストレートだったんだ……」

澪「それをあんな所まで飛ばされるなんて……」

澪「悔しい……」

 しかしその言葉とは裏腹に律の方へと向き直った澪の顔は
 素晴らしく晴れ晴れとしていた

178: 2010/01/31(日) 13:23:47.44 ID:gQbpMY290
澪「律。 なにぼさっとしてるんだ? 早くボールくれ」

律「澪……」

 ボールを要求する澪に対して律は何も言ってやることができなかった

 しかし澪は試合はまだこれからだと言わんばかりに自信たっぷりの表情をしてる

澪「今度は絶対に抑えてやるからな」

 そんな澪を見て事実を突きつけるべきか律は迷った
 しかし、律はそれは自分の役目であることを悟り意を決してある一方を指さした
 澪はその指の先にあるものを確認する

 律が指さした先にはバックスクリーンがあり
 そこに映し出されていたスコアをゆっくりと1回から順に澪は見た

 最後の9回裏の欄には3の隣に×の表記
 すなわちそれは─────

澪「サヨナラ……負け……」

澪「そっか……もう試合は終わりか……私は……負けたんだな……」

 憂が歓喜の輪の中でサヨナラのホームを踏む

 澪は力なくマウンドに膝をつき大粒の涙を零した

181: 2010/01/31(日) 13:36:11.60 ID:gQbpMY290
澪「ひっぐ……ごめん、みんな……ひっぐ……」

澪「私……ひっぐ……ごめんなさい……」

 人目もはばからず泣きじゃくる澪
 今まで見たこともないようなクラスメイトの泣き顔を見て
 少女たちはマウンドに集まり肩を寄せ合い共に泣いた

 そして誰からともなく抱き合った
 時には慰めあい、時には讃えあい、若干1名は鼻血を出して……

183: 2010/01/31(日) 13:44:29.80 ID:gQbpMY290
 マウンドで繰り広げられている光景をさわ子はベンチで独り静かに見ていた

さわ子「フフッ、青春ね。私ももう少し若ければね~」

 そう、もう少し若ければあるいはベンチを飛び出しマウンドに駆け寄り
 一緒に涙したかもしれない
 
 しかし彼女は教師である
 泣き顔を携え帰ってくる生徒を優しく一人一人抱きしめよう
 彼女はそれが自分の役割だと自覚していた

 だが、焼肉食べ放題の賭けに負けたことを思い出し
 その悔しさからベンチの隅で独り寂しく泣いているところを
 生徒たちに慰められるのはこの少し後の事であった

185: 2010/01/31(日) 13:53:15.58 ID:gQbpMY290
紬「みんな。せっかくだから砂、持って帰らない?」

律「おぉ~。いいね~」

唯「甲子園の砂だね。青春の味だね」

和「そうね。せっかくここで野球やったからには持って帰らない手はないわね」

紬「ほら、澪ちゃんも。ね?」

澪「うん……ヒック」

律「あはは! 澪ったらシャックリしてやんの~」

澪「仕方がないだろ。さっきまで泣いてたんだから……ヒック」

 そう、ここは高校球児の聖地、阪神甲子園球場
 紬の父が球団社長と知り合いでタイガースがたまたまロードに出ていた
 この時期に球技大会の場として提供されたのである
 ありがとう阪神園芸のみなさん!!

187: 2010/01/31(日) 14:00:36.72 ID:gQbpMY290
律「澪?」

澪「ん?」

律「勝ちたかったか?」

澪「いや……結構満足してるよ」

律「……だな」

澪「また、試合したいな」

律「まさか澪の口からそんな言葉が出てくるとは……!!」

澪「茶化すなよ」

律「ふふっ。ごめんごめん」

澪「でも、そのときは……」

澪「そのときは、またキャッチャーよろしくな。律」

189: 2010/01/31(日) 14:16:50.70 ID:gQbpMY290
 けたたましいセミの鳴き声
 それに負けじと掛け声を出す

 金属バットの打球音

 ボールがグラブに収まる音

 止めどなく流れ出る汗

 素振りで潰れた手のまめ

 帽子のつばの裏に書き込んだメッセージ

 練習帰りに寄ったアイス屋さん



 決して燃え尽きることの無い太陽が
 楽しかったことも辛かったことも
 素晴らしい思い出へと変えてこの青空の下へと昇華していく

190: 2010/01/31(日) 14:22:28.05 ID:gQbpMY290
 こうして

 彼女達の夏は

 おわりを告げた─────






 ♪~♪~♪~♪~

 なぁぁぁぁつの お~わ~ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ

 なぁぁぁぁつの お~わ~ひぃぃぃぃぃには

 ただ あなたにあいたくぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁるの

 いつかと同じ 風ふぅ~きぬくぇぇぇぇぇるかぁぁらぁぁぁぁ

192: 2010/01/31(日) 14:30:55.17 ID:gQbpMY290
そして翌日

梓「はぁ……。やっとバンドの練習できますね」

紬「ゴメンね、梓ちゃん」

唯「ムギちゃんのお菓子とお茶も久しぶりだよ~♪」

律「まずはやっぱりティータイムだよな」

梓「球技大会終わったら練習するって言ったじゃないですか~」プンスカ

紬「まぁまぁ」

梓「ところで、澪先輩はどうしたんですか?」

律「あ、ああ……澪な……」

 ガチャ

梓「あ、澪先輩♪」

澪「コラコラ。お茶飲んでる暇があったら練習するぞ!」

梓「澪先輩! ですよね~。もっと言ってやってください!!」

194: 2010/01/31(日) 14:36:32.01 ID:gQbpMY290
澪「律、早く防具付けてグラウンドに出てこいよ」

梓「えっ?」

律「あのさぁ~澪?」

澪「なんだよ? お前が球受けてくれなきゃ投球練習できないだろ」

紬「澪ちゃん。ちょっと聞いて?」

唯「何か重要な事忘れてない?」

澪「ムギもまだ小技が苦手だし、唯は全然バッティングがなってないぞ」

律「あの……。学祭までもう時間がないぜ。そろそろバンドの練習しないと……」

澪「……」









澪「あ」

 おしまい

200: 2010/01/31(日) 14:43:03.91 ID:gQbpMY290
小中学とバスケ部で高校はバリバリの帰宅部
遊びでしか野球をしたことがなく
バッティングセンターでは一番遅い球にも中々バットが当たらない
自分ではあまりプレイせず専ら見る方が好きなので試合描写がいい加減な所もあるかもしれないが
そこは大目に見てほしいなどと意味不明の供述をしており動機は不明
しかし後悔も反省もしてない

202: 2010/01/31(日) 14:48:25.91 ID:rW1A80ptO

引用元: 唯「やきゅう!」