1: 2014/03/27(木) 15:12:34.90 ID:3uYF9X83o
慣れないことはするもんじゃない。 
 
 
高校の入学式に向かう俺の前に、突如車に轢かれそうな犬が現れる!
 
 
俺は反射的に、何処かの物語の主人公のようなヒロイックな行動をとった。つまり、犬を助けるべく車の前に飛び込んだのだ。
 
 
しかし、現実は甘くない。俺の中にいる何かが目覚めるわけでも、奇跡の力で助けられるわけでもなく、ドンという鈍い音を立てながら、俺は車に撥ねられた。
  
 
まあ、犬は無事だったそうだし、俺も氏ななかっただけ運が良かったのかもしれない。ただ、全治3週間と言う長い期間が、微分子レベルで存在していた”友達をつくれる可能性”を潰してしまったようだ。
 
 
中学時代のボッチライフを繰り返さないために、わざわざ同じ中学のやつらがいかない高校にしたが、無駄になってしまった。いや、そもそも事故にあわなくたって友達ができなかった可能性もあるけどな! 実際できない気がする。あれ、もしかしてたいして変わらないんじゃね?
 
 
そう考えたら、友達を作る努力をはじめからあきらめることで、無駄な努力をせずに済んだのかもしれない。おお、俺って超ポジティブじゃん。


2: 2014/03/27(木) 15:14:32.58 ID:3uYF9X83o
ともあれ、ぼっちは暇である。部活もしてないし、勉強以外することがないから成績がどんどん上がっている。数学? 知らない子ですね……。そんな時、いや具体的には高校1年生の11月6日に、妹の小町がとあるゲームをもってきたのだ。
 
 
そのゲームの名前は、「ソードアート・オンライン」である。
 
 
俺自身ゲームはそれなりにやってきたが、このゲームは今までのものとは全く異質なものらしい。なんでも、なーぶぎあ?なーヴぎあ?と呼ばれるヘルメット型ハードを通して意識ごとゲームに入り込めるという何とも未来的なものなのだ。
  
 
ゲームの中に入り込めるなんて誰でも一度はやってみたいと思うだろうが、このゲームは価格にして10数万円であり、とても俺が買える代物ではなかった。だが、小町が親父におねだりしたところあっさりと買ってもらえたらしい。親父、マジで小町に甘すぎだろ……。
 
 
まだ小町はやったこと無いらしいが、年中暇な俺のために使わせてくれることになったのだ。やっぱ妹ってマジ天使。
天使さん憐みの目でこっちを見ないでください。
 
ベータテストが終わり、今日が正式稼働日である。ソフトがどういった経緯で発売日当日に手にできたかは知らないが、親父の小町愛による努力だと考えると、どうでもいいことだ。どうせ発売日からできるならラッキーだと思ってやるだけさ。割と楽しみだしな。

3: 2014/03/27(木) 15:16:07.29 ID:3uYF9X83o
 
 
よし、どうでもいい前置きはその辺にして、俺はゲームを始めることにしよう。ハンドルネームは……ヒキガエル?ヒキコモリ?ヒッキー?なんでこんな悲しいものばかり浮かんでくるんだ……まあ、あまり気取ったものや痛々しいものにすると黒歴史になっちまうし、無難に「hiki」でいいか。
 
 
中学の頃アンケートの名前の記入で「ブラック・ナイト」と書いたのがクラス全員にばれたのは今となってはいいトラウマです。
 
  



比企谷「……リンクスタート」
 
 
 
 
 
いやなことを思い出していたからなのか、自分でもびっくりするくらいの低い声が出た。暗すぎだろ、俺。これから楽しいゲームをやるんだ、テンション上げていこうぜ!
 
 
 

4: 2014/03/27(木) 15:18:34.32 ID:3uYF9X83o
まずはアバター作成か。
  
 

「アバター」とは、ゲーム内における自分の姿である。アバターは自由に設定でき、高身長であったり、イケメンであったり、美人、虚乳、色黒、赤髪、澄んだ眼、鋭い眼、腐ってない目などと自由に設定できる。現実でいくら腐った眼をしていようが、ゲーム内では腐ってないことにできるのだ。
 
 
こうして澄んだ眼をしたイケメンアバターが誕生した。小町にバレたら軽蔑されたりしてな……いや憐みの目で見られる気がする。むしろ現実逃避する俺を見て泣かれるまである。
 
 
ソードアート・オンライン、略して「SAO」。
基本的に武器は接近戦用武器のみで、魔法なしのMMORPGである。
澄んだ目でゲーム内を見渡せば、そこは現実と言われても不思議じゃないほど美しいグラフィックの世界が広がっていた。いや、たぶん現実よりも美しい風景かもしれない。よくもここまで作り出せたもんだ。
 
 
景色を楽しむのもいいが、とりあえず町に入ってみるか。ああ、歩いていても本当に現実と変わらないな。もうここが現実でいいんじゃないかな。目が腐ってないし。町の中もRPGゲーのような町並みがしっかりと作られているみたいだ。
 
  

5: 2014/03/27(木) 15:21:15.09 ID:3uYF9X83o
………………
 
 
しばらくは、黙々と街中を探索した。
 
 
このゲームを少しやってみてわかった事がある。それは情報の有用性とその格差だ。戦闘をする前に始まりの町をぶらついて情報を集めようと思っていたが、NPC以外に、特定のプレイヤーが多くの情報を持っていることがわかった。
 
 
それはβ版テスター。奴らはサービス前からSAOをプレイしているから、一般プレイヤーよりも多くの情報を持っている。もしかしたらβ特典の装備なんかもあるかもしれない。まあそれはネットゲームにはよくあることだし、とくに不思議にも思わない。それに、こんな大型MMOなら、差なんてすぐに埋まるはずだ。
 
 
だから、俺はまず情報集めに専念することにした。βテスターだったり、ガイドブックだったり、NPCからも多くの情報を仕入れる。これが一番ゲームを進めるのに効率がいい気がする。ボッチパーティーならこんな地味な作業が許されちまうんだぜ! ボッチ最強!

6: 2014/03/27(木) 15:22:25.54 ID:3uYF9X83o
 
 
 
 
 
「また聞きたいことがあったら、いつでも呼んでくれ」
比企谷「ああ、サンキューな」
  
  
 
 
 
  
思い立って情報集めすること4時間、俺の持つ情報処理能力(笑)が火を噴いた。まあ、実際結構な量の情報が集まったわけだが、”支えな豆知識”から”討伐・攻略方法”までと幅広い情報である。
この調子で集めていけば情報屋でも開けるかもしれないな……。
 
 
とりあえず情報集めはこんなもんにして装備をそろえるべく、武器屋に入った。いや、入ったはずだったが、俺は武器屋ではなく、広場にいた。 
 
 
……バグか? 
 
 

7: 2014/03/27(木) 15:24:27.37 ID:3uYF9X83o
と、思ったがそうじゃないらしい。広場には俺の他に、たくさんの数のプレイヤーがいた。うわぁ、人がゴミのようだ。どうやらSAOの管理者によって集められたらしいな。だが、みんな口々に「ログアウト」と言う言葉を発しているのが気になった。……ログアウトバグでも発見されたのか? 
 
 
あれ? メニューにログアウト自体なくね? さっき見たときはあったはずだぞ。
 
 
ははあ、この不具合についての説明があるわけだな。SAO管理者もついてないな、初日からこんなバグが出ちまうなんて。 
 
いや、俺が暇人でよかったよ。現実でも別に約束も用事もない。なんならこれから3週間はないからな!なんか泣きたくなってきた。
 
 
そうこうしていると、上のほうから”warning"と書かれた無数のウィンドウが現れた。
 
 

8: 2014/03/27(木) 15:26:09.99 ID:3uYF9X83o
うわ、空、赤!エフェクトが気持ち悪い感じになってんぞ。恐怖を助長してどうするんだよ、つーか怖いんでやめてください。これじゃプレイヤーを逆なでしちまうんじゃねえか?全然謝罪のふいんき(なぜか変換できない)じゃねえんだけど!
 
 
 
 
 
 
               ・ ・ ・
???「プレイヤーの諸君、わたしの世界へようこそ」
  
 
 
  
 
 
 
  
怖!なんだこの演出!上空にでっけえアバターが浮いてんだけど!……ん?”わたしの世界”?
 
 


9: 2014/03/27(木) 15:28:13.74 ID:3uYF9X83o
 
 
???「私の名前は茅場晶彦。今この世界をコントロールできる唯一の人間だ」
  
  
 
 
 
なんでそんなに偉そうなんだよ! 不具合の謝罪しろよ! ってあれ?茅場ってあれか?このゲームの……ええっとあれだ、開発者だ。
……なんだか嫌な予感がする。
俺の危険回避センサーがさっきからずっと振りきっている。周囲もざわついていて、「イベントか?」とかいってる連中もいた。こんな現実に支障をきたすイベントがあってたまるかよ。 
  
 
 
 
  
茅場「プレイヤーの諸君は、メインメニューからログアウトボタンが消滅していることにすでに気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。SAO本来の仕様である」
 
比企谷「…………」 
 
 

つまり、どういうこと? ログアウトできなくしたってことか? 
集団催眠による監禁かなんかか? 俺の親、身代金払ってくれるだろうか……。いや、落ちつけ俺。とりあえず最後まで聞こう。
 

10: 2014/03/27(木) 15:31:56.98 ID:3uYF9X83o
 
 
 
  
 
茅場「諸君はゲームから自発的にログアウトすることはできない」
  
 
 
 
  
周囲のざわつきが一層大きくなった。
やはり、ネットワーク監禁みたいなものか。新しい技術が生まれるたびに犯罪の方法が増えるんじゃ人類の発展は難しいな。
  
 
だが、まてよ。自発的じゃなくて外発的ならいいんだろ?
一人暮らしだと無理かも知れんが、現実で誰かがヘルメットはずしてくれりゃログアウトできるじゃねえか。はっはっは、甘いな茅場、お前の監禁方法には穴があるぜ! 

11: 2014/03/27(木) 15:33:14.30 ID:3uYF9X83o
 
 
 
茅場「また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止、あるいは解除もあり得ない」
  
茅場「もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」
  
  
 
 
穴無くなったわ。……え?ちょっと待てそんなんじゃ外部の人間が無理やりはずしたら氏ぬってことだろ? こんなに数がいりゃ絶対何人か氏んじまうんじゃねえか?
  
 
周囲のざわめきがうるさくてろくに考えられない。頭をフル回転させて現状理解しようとするが、茅場は間を空けることなく淡々と話を続けた。



12: 2014/03/27(木) 15:34:24.25 ID:3uYF9X83o
 
 
 
  
茅場「残念ながら、現時点でプレイヤーの家族・友人などが警告を無視し、ナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、 その結果、213名のプレイヤーが、 アインクラッドおよび現実世界からも永久退場している」 
 
 
 
比企谷「……は?」
  
 
ちょっとまて。いや、何を言ってるんだこいつは。永久退場って、氏んだってことか?
……ふざけんなよ。なに人のせいみたいなこと言ってんだよ。どう考えても頃したのはお前じゃねえか。ここまでの間の213人はまるっきり無駄氏にじゃねえのか。誘拐かなんかは知らねえが人質を取るにしてももっと安全なやり方はなかったのかよ。 
  

 
 
茅場の周りに数個のウィンドウが浮き出した。ニュース画面のようだ。
 

13: 2014/03/27(木) 15:37:36.25 ID:3uYF9X83o
 

茅場「御覧の通り、多数の氏者が出たことを含め、この状況をあらゆるメディアが報道している。よって、すでにナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっているといってよかろう。諸君らは、安心してゲーム攻略に励んでほしい」
 
 
 
 
人が無意味に氏んでるのに、何が安心できるっていうんだよ。いや待て、今こいつは何と言った? ゲーム攻略? こんな状況でゲームやるわけねえだろ。何を言ってんだ? 
  
 
 
 
茅場「しかし、十分に留意してもらいたい。今後一切ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」
  
 
 
 
だから、何いってんのこいつ。ゲームなんてしねえって…………いや、もしかしてこいつ…… 
 
 

14: 2014/03/27(木) 15:38:52.13 ID:3uYF9X83o
  
 
 
 

 
 
 
茅場「諸君らが解放される方法はただ一つ、このゲームをクリアすればよい」
 
  
 
 
 
 
 
……なんてこった。
  
  

15: 2014/03/27(木) 15:39:54.57 ID:3uYF9X83o
  
こいつの目的は監禁して身代金をとる事じゃなく、人間を使った本格的RPGをさせるためって事か。人を頃すのに躊躇ない分、誘拐犯よりもたちが悪いじゃねえか! 俺たちは、こいつの快楽に命がけで付き合わされるということか?ふざけんじゃねえぞ。
  
 
無理やり人を捕まえずに、遊び相手くらい自分で探しやがれ。俺はボッチだが、遊び相手がいなかったからと言って無理やり付き合わせたことはねえぞ。
 
 
周囲から「ふざけんな!」とか「いい加減にしろ!」といった声が聞こえてくる。もっともだ。しかしそんな言葉が届くとは思えない。こんなことをやってのける人間の頭が正常なはずがないからな。
 
 
そして周囲から「アイテム?」「プレゼント?」という声も聞こえてくる。やべえ話聞いてなかった、何の話?
 
 
そう思った瞬間、周囲が光に包まれた! って、俺もかよ……!
 
 

16: 2014/03/27(木) 15:41:26.30 ID:3uYF9X83o
…………
数秒後、光が収まり、周りを見渡せるようになった。
いったい何が起こったんだ? と、考える間もなく、周りが騒ぎだした。
 
 
 
 
「なんで?俺の顔がアバターじゃなくなってる!?」
「お前男だったのかよ!」
「17って嘘かよぉ!?」
「お前キリトか!?」
「お前はクライン!?」
「俺の美貌を返して!!」
  
  
 
 
つまり、アバターが現実の姿に変えられたということか。プレイヤー間による公開処刑。
俺はここで初めて、ボッチでよかったと思った。鏡を見るまでもなく、俺の目は腐っていることだろう
…………ギャップを知る人間は俺の周りにいない。


だが、何のためにだ?ゲーム鑑賞したいならアバターは現実世界のものじゃ意味なくねえのか?いや、現実的にさせるためにそうした、と考えるのが妥当か。
 

17: 2014/03/27(木) 15:42:50.86 ID:3uYF9X83o
 
 
 
 
 
茅場「私の目的はすでに達せられている。この世界を作り出し、観賞するためのみ、私はSAOを作った」
茅場「そして今、すべては達成せしめられた」
  
 
 
 
  
おい待てよ、好き勝手言いやがって! 手前の目的なんか知るか! 俺は部屋に戻るぞ!
 
 
何を考えても口から言葉になることはなかった。むしろ、まったく動けなかった。
 
 
 
茅場「以上でSAOのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る」
  
 
 
 
 

18: 2014/03/27(木) 15:44:14.10 ID:3uYF9X83o
  
 
 
 
 
茅場のアバターは煙とともに消えた。俺を含めて周りのプレイヤーは、そのまま虚空を見上げて呆然としていた。
  
  
……いったいどうしてこんなことに、なってしまったんだ。
小町のやつが心配しちまうかもしれないな……外部にメッセージ送る方法はないんだろうか……。
  
 
周りは徐々に絶望の声をあげ、騒ぎ始めていたが、俺はその場から動くことができなかった。
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 

 

47: 2014/03/28(金) 14:06:16.81 ID:R9F21ehho
騒動から約1時間が経過し、俺はようやく動き始めた。茅場が言っていたことが本当だと確信したからだ。
 
 
本来なら夕食の時間であり、たとえゲームをやっていても小町に無理やり起こされるはずだ。しかし、俺は未だゲームの中にいる。つまり、現実世界でナーヴギアをはずして氏んだ人が、本当にいるということだ。
1時間という長い時間のおかげで、なんとか自分の陥っている状況を理解することができた。
  

いや、理解せざるを負えなくなったというのが正しいか。
   

 
とりあえず俺は……何をするんだ?
今わかっていることは誰かがゲームをクリアすれば現実に戻れるってことくらいか。
なら、俺はどうしたらいい?
 
 
とにかく、何かしてないと落ち着かない。
いつまでもここで突っ立って時間を無駄にするよりは、再び街を見回ってみる方がいいだろう。

48: 2014/03/28(金) 14:07:09.44 ID:R9F21ehho
俺は歩きながら、自分の情報処理能力をフルで使い、やるべきことを絞り出すことにした。
 
 
 
 
一つ目。
誰かがゲームをクリアするまで、もしくは現実で何らかの対処がとられるまで、
できる限り安全な状態で待つ。
 
 
俺的には、最善の策かもしれない。
 

 
 

 
二つ目。
自分でゲームをクリアする。

 
氏ぬリスクを犯してか? 



 
 
 
三つ目。
諦めて氏ぬ。論外だ。三つ目はなし。

49: 2014/03/28(金) 14:08:06.31 ID:R9F21ehho
簡単に言い換えると、自分でやるか人任せにするかの問題だ。

 
なら、当然人任せにする。俺よりゲームが上手いやつなんて腐るほどいるだろうし、そいつらに任せた方がいいだろう。
餅は餅屋だ。

 













…………いや、なにか大事なことを忘れていないか?
 
 
 
 
 
 
 
 
そうだ。小町の事だ……。

50: 2014/03/28(金) 14:09:52.20 ID:R9F21ehho
あいつは俺が暇でかわいそうだから、とかいう理由で俺にSAOをやらせてくれた。
今考えたら、こんな危険な目に会うのが小町じゃなくてよかった。
 
 
だが、小町はそう思っていないだろう。そういう奴だ。
俺以上にしっかり者で優しいやつだからこそ、俺にゲームを貸したことを後悔してるだろう。
あいつが悪いわけじゃないのに、あいつは自分を責めちまう。
 
 
 
 
…………だったら俺は、小町が心配しないようにしないといけない。 





俺は改めて、自分の状況を整理した。”現実世界も含めた、自分の状況”を、だ。



そして、自分のこれからの行動を決めた。

51: 2014/03/28(金) 14:10:38.34 ID:R9F21ehho

 
 
 
 
 
 

俺は、ゲームをクリアして現実に帰る。
 
 
 
 
 
   
 
 
 
 
どれくらいの期間でクリアできるかなんて見当もつかないが、早く帰らなくてはいけない。
 
 
小町にいつまでも心配させるわけにはいかない。
 
 
早く帰って、あいつを安心させるまで、俺は全力でゲームクリアに専念する。 
 
 
……他人任せになんてしていたら、いつクリアできるかわかったもんじゃないしな。

52: 2014/03/28(金) 14:11:47.68 ID:R9F21ehho


……………………




ゲームクリアを目指すなら、俺はどう行動すべきだろうか。
 

 
何時間か前にβテスターに聞いた情報だと、ここら一帯の”刈り場”には限りがあるらしい。刈り場がなくなる前にさっさと次の町へ行ったほうが良いはずだし、安全に進むルートも聞いている。……だが、いくら道を知っていてもこの混沌とした状況で無事に次の町へ行けるのか、と言うと、まったく自信がない。ないもんは、ない。
  
 
だから、今無理に進むよりも”これから”のためにもっと情報を集めるべきだ。
 
 
 

 

53: 2014/03/28(金) 14:12:36.96 ID:R9F21ehho
 


街にはまだ呆然と立ちすくむ人々が多くいた。 
  
 
だが、こうして見渡してみると、この町に残っているプレイヤーの3割くらいは、しっかりと目的をもって行動しているように見える。こんな状況でよく、自分を保っていられるもんだな。まあ、それ以外の連中はいまだに何をしていいかわからない様でその場にたたずんだり、行き場もなくうろうろしているようだが……。
  



 

54: 2014/03/28(金) 14:13:44.32 ID:R9F21ehho


 

情報をある程度集めたとき、俺は自分のステータスを見直した。
 
 
武器は短剣。
軽いし動きやすいから逃げるのに適してそう、という理由でこれにした。防具はまだ初期装備のままだ。初期で買える防具なんて限られているし、金を使うなら武器やアイテムの方がいいだろう。
そして今俺が手にしたいスキルがいくつかある。隠蔽、索敵、生存能力系統だ。
前者2つは、情報収集と安全確保のために取っておきたいスキルだ。生存能力は回復スキルなので、ボッチプレイヤーなら必須になるだろう。
  
  
こんな状況ならパーティーやギルドを組んだほうが正解だろうが、あいにく俺は足を引っ張るのが好きじゃないし、命を任せられるほどの責任を背負う覚悟もない。なら、予定通りボッチでいいだろ?
  
  
命がかかってるゲームじゃ、いつどんな状況で危険が襲ってくるかなんてわからない。最大の敵はモンスターじゃなくて人だった、なんてこともあり得るしな。人間は極限状態に陥った時、そのほとんどが自分を優先させる。さっき情報収集していた時気付いたが、βテスターが広場の騒動以降、まるっ切り見かけなくなってしまった。……まあ、当然と言っちゃ当然だ。効率のいい刈り場を求めて次の町へ向かったんだろう。
 

55: 2014/03/28(金) 14:14:39.16 ID:R9F21ehho
 
 
こういう時こそβテスターは一般プレイヤーを助けるべきなんじゃないか? という奴もいるかもしれない。もちろん、それは正しい意見だ。右も左もわからない世界でどう行動するかを正しく教えられる人がいれば、無駄に氏ぬ人が格段に減るはずだからな。
  
  
だが、俺がβテスターだったとしてもおそらく他のやつを助けてる余裕はないだろう。実際、今俺は他の一般プレイヤーよりは多くの情報を持っているかもしれないが、この状況じゃ自分がどうするかを考えるので精いっぱいだ。まあ、恨まれても文句は言えないけどな。
 
 
???「なあ、アンタ! もしかしてβテスターか?」
 
 
そろそろ切り上げてモンスター討伐でも試してみるべきだろうか……。回復アイテムはそれなりにあるし、氏ぬことはないだろう。
 
 
???「なあ! おい! アンタだよアンタ! 聞こえてるか!?」
 
 
比企谷「え? 俺?」
 
振り向くと、赤髪の男が立っていた。

56: 2014/03/28(金) 14:15:50.09 ID:R9F21ehho
別のだれかを呼んでるのかと思ったぜ。間違えて返事したら恥ずかしいから、確信するまで返事しないようにしてるんだよな。まあ、呼ばれる機会なんてほとんどないし。
 
 
???「ああ、そうだよ! もしもβテスターだったら俺たちにいろいろとレクチャーしてくれないか? 無理にとは言わないが、頼む!」
 
 
比企谷「悪いが、俺は一般プレイヤーだ」
 
 
???「あ、そうだったのか……迷いない足取りだったからついな……」
 
 
なんでガッカリされなきゃなんねえんだよ。なんか俺が悪いみたいになっちまったじゃねえか。まあ、状況が状況だから、頼れる人間がほしい気持ちはわかる。
 
 
 
比企谷「それなりに情報は集めているから、そう見えただけだろ。まあ、聞きたいことがあるなら教えてやるぞ? 知ってるかどうかはわかんねえけどな」
 
 
???「マジで!? マジで!? サンキュー!! ありがとう!!」
 
 
 
いや、俺はあくまで一般プレイヤーだからね?
 
 

57: 2014/03/28(金) 14:16:25.06 ID:R9F21ehho
 
 
???「俺はクラインって言うんだ。よろしくな!」
  
  
あれ?ちょっと質問に答えるくらいのノリだったのに、なんかこれから一緒に行動するみたいな挨拶が始まったぞ? 何? 友達になってくれんの?
  
  
比企谷「俺は比企っ……ヒキ、という。よろしく」
  
  
空気が悪くなるといけないので一応挨拶を返した。思いっきり噛んだ。
 
 
 

58: 2014/03/28(金) 14:17:28.21 ID:R9F21ehho
 
 
………………



 
今、俺は猛烈に後悔している……。確かにクラインは”俺たちに”と言っていた。
でもまさか6人もいるなんて思ってなかったんだ。
助けて……。
 
 
クライン「こいつらは俺のリアルな知り合いでな、このゲームでも一緒に行動することにしたんだ!」
  
「よろしくー」
「うーっす」
 
しかもリアルで知り合いとかもう俺入り込む余地ないじゃん。
完成されてるじゃん。
つーか6人で囲わないでください、かつあげでもされてる気分だ。金なら払うんで帰っていいですか?
 
  

59: 2014/03/28(金) 14:18:03.67 ID:R9F21ehho
 
  
クライン「もしかして疲れてるのか? 目がひどいことになってんぞ。まああんなことがあったあとじゃ無理ねえか」
 
 
いや目がひどいのはデフォルトなんで。
 
 
比企谷「いや、大丈夫だ。それより、何が聞きたいんだ?」
 
 
クライン「……そうだなぁ……あっそうだ! 戦闘の仕方を教えてくれないか? 俺は茅場が現れる前に、βテスターのやつに一通り教わったんだけどな」
 
 
クラインは周りを一瞥すると、頭をかきながら言葉をつづけた。
 
 
クライン「こんな状況だから、こいつらも戦闘方法を知っておいた方がいいと思うんだ。こう言っちゃなんだが、俺はあんまり人にものを教えるのが上手くなくてよ」
 
 

60: 2014/03/28(金) 14:18:55.35 ID:R9F21ehho
 
 
なるほど、こいつらはこんな状況でも、落ち着いて先を見据えているようだ。この世界で生き抜くため、いやゲームをクリアするために動いている。そういうことなら協力してやりたいが……。
 
 
比企谷「情報だけでいいなら戦闘のコツとかは知ってるが、戦闘自体はまだやったことないぞ。むしろ今から試しに行くところだ」
 
 
力になれなくて悪いな、と続けるつもりだった。
  
  
クライン「それなら丁度いいじゃねえか! 一緒に行こうぜ! ヒキ!」
 
  
比企谷「…………あ、ああ」
 
 
恐るべしリア充。
こんな自然に人を誘える奴に、俺はあったことがない。
いや、そもそも俺は人に誘われることがないから比較対象がほとんどいないんだけどね。
  






61: 2014/03/28(金) 14:19:35.97 ID:R9F21ehho
ここまで
感想サンクス

77: 2014/03/29(土) 01:09:06.79 ID:7nxFDymIo
クライン「ヒッキーよお、お前本当に戦闘初めてなのか?」



開始から4時間。
もうあたりは暗くなっていたが、俺(ぼっち)とクライン(リア充チーム)はまだ戦闘練習を続けていた。
練習相手はスライムレベルの雑魚モンスター、豚野郎”フレンジーボア”だ。
クラインは経験者とあって教えるまでもなかったが、ほかの5人もゲーム自体に慣れているようだったから、呑み込みが早かった。
 
 
比企谷「ああ、この戦闘システムだとソードスキルの出し方さえ知ってればなんとかなるみたいだ」
 
 
ソードスキルとは、一言でいえば、技である。出し方はかめはめ波と同じで、ポーズをとってハア!っとやれば勝手に発動する。
 
 
クライン「でもよお、さっきからおめえ、直撃ばっかじゃねえか。俺なんか敵に攻撃を当てるだけで精一杯だぜ?」
 
 
比企谷「それは、俺の武器が短剣だからだ。短剣は早い上に直撃になりやすい。その分攻撃力が低いから、お前の武器よりも手数が必要なんだよ」
 
 
それに、敵に何かを当てるという動きは一人テニスを極めた俺にとって割と慣れたもんだからな。

78: 2014/03/29(土) 01:10:20.32 ID:7nxFDymIo


クライン「さっきからヒッキーの方が敵に与えてるダメージが多いんだよなぁ……。俺も短剣にしようかあ?」
 
 
比企谷「無理に変える必要なんてないだろ。自分にできるやり方で、自分の好きな武器を使ったほうが……」
 
 
言いかけて、途中でやめた。
俺が指摘してそれが間違いだったとしたら、こいつを危険な目にあわすことになっちまう。
だが、クラインはそこまで聞いて満足したのか、
 
クライン「そうだよな、まだ始めたばっかだし、俺は俺なりで行くぜ!」
 

と言って、素振りを始めた。



だが、俺には一つだけ気になることがあった。
こればっかりは訪ねておかなければならない。




79: 2014/03/29(土) 01:11:11.38 ID:7nxFDymIo

 



 
比企谷「クライン、さっきから俺のこと何て呼んでる?」
 




 
クライン「あ? ヒッキー?」
 
 




いや疑問形にされても。
 

80: 2014/03/29(土) 01:14:07.08 ID:7nxFDymIo
 
 
クライン「だってヒキって呼びにくいじゃねえか! ヒッキーの方がゴロいいしわかりやすいだろ?」
 
 
こいつに悪気はないんだろう。
だが、呼ばれるたびに馬鹿にされてる気がしてならない。このもやもやした何かは何処にぶつければいいんだ? 教えてくれ豚野郎!
まあ、中学のころもっとひどいあだ名とかあったしまだマシな方か……。
 




どうせ今日だけのパーティーだし、気にしなくてもいいか。またいつか、どこかで会うこともあるかもしれないが。







81: 2014/03/29(土) 01:15:57.82 ID:7nxFDymIo


……………………





そろそろ戦闘練習も終わった方がいいだろう。こいつらも肉体的はともかく、精神的疲労は回復しておいた方がいいだ

ろうしな。
 
 
比企谷「そろそろ終わりにしようぜ。もう疲れちまった」
 
 
クライン「お、そうだな。じゃあ今日はもう休むか! おいお前ら、宿に戻ろうぜ!」

「おー!」
「疲れたー」
「ヒッキーサンキュウな!」
 
ヒッキー呼びがデフォルトになってやがる……。
そういえば、宿とか取ってなかったな。まあ俺はどうせ緊張で寝れないし、適当に街を歩いて時間をつぶすか……。
 
 
クライン「ヒッキーはどうするんだ? もう宿とか決まってんのか?」
 
 
こっちの心配までしてくれるとか、マジで素晴らしいコミュ力だな。
 
 

82: 2014/03/29(土) 01:17:15.74 ID:7nxFDymIo
 
 
比企谷「俺はまだやることがあるから、宿にはいかない。つまり、ここでお別れだ」 
 
 
クライン「そっか、じゃあフレンド登録しようぜ!」
 
 
比企谷「え?」
 
 








……フレンドって日本語でなんて言うんだっけ? 聞きなれない言葉過ぎて思い出せねえ。
 

クライン「だってまた会う時に連絡とれなくちゃ困るだろ? ほら、送ったぜ!」
 
 




……また、があるらしい。
次の機会があるなんて考えてもみなかった。

83: 2014/03/29(土) 01:18:28.75 ID:7nxFDymIo




俺は”フレンド登録しますか”という問いに対して、
 
 





比企谷「あ、ああ」 
 
 







YES、と答えた。








あいつにとってはただの連絡手段かもしれないが、目に見える形で”友達”という関係が取られたのは、こいつが初めてかもしれない。
 
 


84: 2014/03/29(土) 01:19:21.19 ID:7nxFDymIo
 
 


クライン「じゃあまたなあ! ヒッキー! 今日は本当にありがとな!」









俺は街に戻っていくクライン達を眺めながら、今日の出来事を振り返っていた。


良くも悪くも初めてのことばかりで、戸惑うばかりだ。


だが、このSAOにあるのは”絶望”だけじゃないのかもしれない。と、俺は勝手に思うのだった。


 
 

91: 2014/03/29(土) 01:47:14.30 ID:7nxFDymIo
その日の夜
OeZb73e

end

106: 2014/03/29(土) 11:02:57.58 ID:7nxFDymIo
俺は夜の町を徘徊しながら、広場での出来事を考えていた。


……どうしてもわからないことがある。


ゲームとは関係のない、外部の人間による強制ログアウトでの、213人の氏者。
この犠牲は本当に防げないものだったのか? 
 
茅場ってやつはテレビとかで天才と囃したてられているから、それなりに知っていた。
このSAOでも使われている、ゲームの中に入り込むという”フルダイブシステム”の開発者らしい。
それほどの天才が、”213人もの氏者”という被害を防げなかったとは思えない。
マスコミを通して危機感を煽るにしても、もっとほかのやり方はあっただろう。
 
 
この213人は、ゲームの中でゲームオーバーとなって氏んだ訳じゃない。
こんな形で氏ぬ人間が、茅場の目的に必要だったとは思えない。
茅場はこの無意味な氏を、一言「残念ながら」だけで終わらせやがった。


107: 2014/03/29(土) 11:04:11.12 ID:7nxFDymIo


他にもある。
 
 
1万人のプレイヤーを強制的に参加させる意味あったのか?
俺が言うのもなんだが、日本って国は奇特な奴が多いから、たとえデスゲームでも自分から参加するやつは腐るほどいるだろう。俺はしないけど。
 
 
これがもう一つの現実と言い張るなら、賛同する奴だけ参加させればいいんだ。


 
 
 
何もかも中途半端にしか思えない。こんなもの、いくら考えても理解できない。
茅場晶彦という人間が国語のテストの文章問題にでも出てきたら、正答率0%だろう。国語が得意な俺が言うんだから間違いない。学年3位だけど。
 





108: 2014/03/29(土) 11:04:55.74 ID:7nxFDymIo
 






 
……結論。考えてわかるもんじゃない、諦めよう。
 
 
 
 
じゃあ、次に考えるべきことだ。
明日、いやもう今日だが、どう行動するか。
情報集めをするにも、ゲームクリアを目指すにも、そろそろ始まりの街から動き始めたほうがいいだろう。
いつまでもここで情報を待っていても、先に進めない。
  



109: 2014/03/29(土) 11:06:27.35 ID:7nxFDymIo



 
ならいっそ、今すぐ出発してもいいかもしれない。


決心がついた今なら、一人でも次の街へとたどり着けるだろう。
だが、さすがに精神的に疲れてきた……。出発は明け方にするか。
 
 
俺は街中のベンチに腰かけ、仮眠をとった。
 
 

110: 2014/03/29(土) 11:07:09.81 ID:7nxFDymIo
 
……………………
 




 
明け方5時、俺は出発の準備を始めた。
とはいっても、必要なアイテムは揃ってるから特に準備も必要はない。一つだけ気がかりなのは、クラインたちのことだ。
 
 
昨日会ったばかりとはいえ、フレンド登録した仲だ。出発する旨のメールくらい送っておくのが礼儀だろう。
俺は簡潔に、「次の町に進む。」とだけ打って送った。
 
 
比企谷「よし、出発するか」
 
 
っと言った瞬間、クラインからメールが届いた。返信早すぎだろ。
 



 
”待て、一人で行くのか?”



 
 
こんな時まで心配してくれると、なんだか本当に友達でもできた気分だ。

111: 2014/03/29(土) 11:07:47.23 ID:7nxFDymIo
まあ、嘘をつく理由もない。俺は根っからのボッチプレイヤーだ。
 


 
”ああ”


 
 
2文字で返した。
今度こそ行くか、と考えるまでもなく、次の返信が来た。
 



 
”俺達も一緒に行く、今どこにいる?”
 
 



……なんだって?

 

112: 2014/03/29(土) 11:08:26.79 ID:7nxFDymIo

 
何度読み返しても「一緒に行く」と書いてある。
どういうことだ? 昨日会ったばかりの奴に、義理も糞もないだろ?
 
 
純粋に意味がわからなかったから、質問を質問で返した。





”なぜ?”




 
今度はじっと、返信を待った。
すると5分ほどで、次の返信が返ってきた。
 




”直接会って話す。今どこにいる?”




 
 
 
ドラクエかよ。いや、YES・NOで答える形式じゃないからちょっと違うか……。
このままじゃ埒が明かないので、俺の居場所を教えることにした。

 

 

124: 2014/03/29(土) 12:58:44.94 ID:7nxFDymIo

クライン「ようヒッキー、待たせたな」 
 
 
比企谷「……ああ」 



10分後、クラインは俺の待つ広場に現れた。
人のことを言えたもんじゃないが、ろくに寝てないはずだ。


それなのに、俺についていくと言った。
 
 
比企谷「クライン、お前一人か?」
 
 
クライン「他の連中には、出発の準備をしてもらってる。ヒッキー、水臭いじゃねえか。何も一人で行くこたぁないだろ?」


こんなに直接的な優しさを、俺は身内以外で貰ったことがない。
本当にいいやつだよ、お前は。





……だが俺は、この優しさを受け取るつもりはない。





125: 2014/03/29(土) 12:59:42.93 ID:7nxFDymIo



比企谷「なんでだ? 言っちゃ悪いがそこまでの義理はないだろ。俺はもともとソロプレイヤーなんだよ」
 
 
クライン「そっちになくても、こっちにはあんだよ! 俺達は、お前に義理がある。だから、お前の力になりたいんだよ。どんなゲームでも、レベルを上げるのは人数がいたほうが効率がいいんだぜ?」



ボッチプレイヤーには限界があるってことくらい、俺にだってわかっている。



比企谷「人の命がかかった状況で一緒に行動するってのは、そいつの命を預かるってことだ。俺にそんな責任は重すぎる。だから俺は、一人でいい」


クライン「ヒッキー……」
 
 
それでも、一人は慣れているからな。
 
 
クラインは、まっすぐな目でこっちを見ていた。
やめてくんねえかな、そんな真面目な目を向けられ慣れてないんだよ。自然と目をそらしちまう。
 
 

126: 2014/03/29(土) 13:01:14.71 ID:7nxFDymIo




俺は黙ったまま、次の言葉を待った。
クラインはしばらく黙っていたが、やがて決心したかのようにこう言った。 
 



クライン「ヒッキー、実は俺さ」 


クライン「初日に一人、見捨てちまったやつがいるんだよ」
 
 
比企谷「……え?」
 
 
見捨てた? ……こいつが? 全く想像できないんだけど。
 
 

127: 2014/03/29(土) 13:01:58.75 ID:7nxFDymIo
 
 
クライン「俺に戦闘を教えてくれたβテスターなんだけどな。茅場が現れた後、一緒に来ないかって誘われたんだ」
 

クライン「だけど俺は今の仲間を探さないといけなかったから、断ったんだ。結局あいつは、一人で次の町に向かっていった。俺は、あいつを一人で行かせちまったんだ」
 
 
比企谷「それは、全然見捨てたって言わねえよ。そいつは一人でも十分いけると思ってたから、一人で行っただけだろ」 








クライン「…………でも、この状況(デスゲーム)で1人は怖いだろ?」










比企谷「……………………」

128: 2014/03/29(土) 13:02:33.96 ID:7nxFDymIo



















……怖ええよ。


怖くないはずがねえだろ。
正直言って頭ん中はまだ混乱しまくってるし、いまだに気持ちの整理すらできてねえよ。
だが、怖がってる暇なんかねえから、強がって前に進むしかないんだよ。



比企谷「…………」



どうした? 怖くないって言えよこのボッチ野郎! クラピカじゃねえだから、沈黙は正解じゃねえんだぞ!

129: 2014/03/29(土) 13:03:03.78 ID:7nxFDymIo



クライン「なあヒッキー、一緒に行こうぜ! こう見えて俺は前のゲームじゃギルドの頭張ってたんだ、絶対に足手まといになんか、ならねえ!」



畳み掛けんじゃねえ! ちょっと待て、俺は……




「おーい! 必要なアイテムと装備、そろえてきたぞー!」
「ヒッキー! 俺たちも一緒に行くぞお!」
「ちょっと情報通だからって俺達をなめんじゃねえぞ!」


比企谷「っ…………!」











なぜか俺は、言葉を発する事が出来なかった。
クラインの仲間も来て、準備完了といった目で、こっちを見てくる。


130: 2014/03/29(土) 13:03:29.93 ID:7nxFDymIo


クライン「そうだ! どうせなら俺達でギルドを組もうぜ! こういうのは序盤にやっとくと何かと便利なんだよ」


比企谷「おい、ちょっと」


クライン「団長はヒッキー、頼むな!」


比企谷「はあ!? ろくに知らない連中をまとめられるわけねえだろ!」
 
 
クライン「しょうがねえなぁ、じゃあ俺が団長やる。異論あるか?」


「ないぞー」
「仕方ねえな、やらせてやるよ」


クライン「っという訳だ。ヒッキー、これからよろしくな!」


いやちょっと待て、いろいろとまて、待ってください!

131: 2014/03/29(土) 13:04:49.89 ID:7nxFDymIo


比企谷「俺は組むとは一言も……」


クライン「さあ、いざ行かん! 俺達の戦いは始まったばかりだあ!」

「おおおおおおおーーーー!!!!」


俺に決定権はないのか!

























…………ないなら、しょうがないな。










132: 2014/03/29(土) 13:05:15.87 ID:7nxFDymIo


クライン「あれ? ヒッキー、次の町ってどう行ったらいいんだ?」
 

比企谷「…………しかたねえな、案内してやるよ」


クライン「……! ああ、頼んだぜ!」













正直、他の誰かと命を預けあう仲間になるのも、怖い。


だが、俺はこいつらと一緒に行くことにした。




現実だと共通の話題がないから話すら続かないような連中と、俺はゲームを通して仲間になった。
感極まって涙目になっていたのが、バレて無ければいいが。
ばれてないよな……?





161: 2014/03/29(土) 19:46:51.61 ID:7nxFDymIo
疾きこと風のごとく、


徐可なること林の如くし、


侵略すること火の如く、


動かざること山の如し。




風林火山。それがクライン率いる、俺たちのギルドの名前だ。


当然この名前を決めたのは団長であるクラインだが、俺はこの名前を気に入っていた。軍の進退に関するもので、戦略の心得をつづったものだ。甲斐の戦国大名、武田信玄の言葉で有名な文章だが、実にSAOの世界観にあった名前だと思う。


……と、珍しく感心したが、クライン曰く、


クライン「なんかかっこよくね!」


らしい。うん、これ以上何も語るまい。




162: 2014/03/29(土) 19:48:15.51 ID:7nxFDymIo






風林火山を結成してから3週間が経とうとしていたが、俺達は一人も欠けることなくゲームを進めている。


俺たちの作戦は”いのちだいじに”。当然だ。このゲームでは一度でも命を落としたら、それで終わりになるからな。


実際この3週間で、早くも2000人近い氏者が出ているのだ。……いや、いくらなんでも多すぎるだろ。なんでこんなに氏んでんだよ、おかしいだろ。


このゲームに餓氏はない。だから町から一歩も出ずに待ってる、ということも可能なのだ。実際町に残っている人の氏者はほぼいない。つまり、氏者のほとんどがゲーム攻略の最中に氏んでいるということだ。







正直、これは情報が少なかったとか、装備が甘かったという問題ではないだろう。一番の問題は、”認識の甘さ”だ。



163: 2014/03/29(土) 19:48:47.03 ID:7nxFDymIo


氏んだら、終わり。これが本当の意味で分かっているのなら、細心の注意を払いながら、できるだけ多くの情報を集めてゲーム攻略に臨むだろう。だが、ソードスキルの使い方を知らずに氏んだとか、βテスト時の情報を鵜呑みにして氏んだとか、俺からしてみりゃありえない理由ばかりで氏んでいる。


どんなにゲームが得意だろうが、βテスターだろうが、石橋を叩いて渡りやがれ。


……と言っても、冷静さを失った状態でそこまで考えられるやつがいなかったのかもしれない。だが、最近情報を集めていると、氏者が出ているのはβテスターが情報やアイテムを独占しているからだ、という噂をよく耳にするようになった。いくらなんでも冷静さを失いすぎじゃねえか?


βテスターが真っ先に町を離れて行ったのは本当だ。だが、情報を独占なんてしていないし、それどころかとある情報屋が無償で攻略本を配布していたりもする。アイテムに関しては、そもそも簡単に独占できるもんじゃないだろう。


つまり、ただ先走って氏んだ奴が多いってだけだ。

164: 2014/03/29(土) 19:49:49.20 ID:7nxFDymIo

……………………






俺達のギルドは、順調にレベルを上げていた。
とくに団長であるクラインは、俺の情報を最大限活用してゲームに臨み、トッププレイヤーと名乗っても決して過言ではないほどの実力者になっていた。


俺も情報を集めながらそれなりにレベルを上げていったから、俺もそう言えるかもしれない。


俺は、ギルドに所属しながらも空いた時間に情報を集め続けた。ある時は情報を売ったり、ある時は交換したりしていったおかげで、情報不足に陥ることはなかった。


今、俺たちは新しい街で見つけた格安の宿に泊まっている。
SAOでの金の単位は円ではなく、コル。
この宿はなんと一晩20コル。泊まれるだけの部屋だが、相場は50コルなので恐ろしく安い。そして恐ろしくぼろい。
ここをクライン達に見せた時、全員が文句を言ってきた気がするがたぶん気のせいだろう。


165: 2014/03/29(土) 19:50:43.87 ID:7nxFDymIo




クライン「……ヒッキー、お前最近寝てるか?」




俺が自分で作成した攻略情報ノートを眺めていると、心配そうな顔したクラインが、そう訪ねてきた。



比企谷「ああ、寝てるぜ」



2時間くらいな。正直、俺が睡眠時間を削って情報集めしなかったら、ここまでのレベルアップは不可能だったろう。




クライン「でもお前、いつもに増して目が腐ってるぜ?」




はっはっはクラインよ、俺とお前も軽口が叩けるくらいまで友好を深めることができてうれしいぞ。だが、目の話は止めてもらおうか。




166: 2014/03/29(土) 19:51:17.11 ID:7nxFDymIo



比企谷「心配すんな、無理はしてない。それより、面白い情報が入ったぞ」


クライン「……面白い情報?」




腑に落ちない顔をしながらも、俺の情報が気になるだった。


比企谷「ああ」


俺はニヤリと暗黒微笑しながら返事をした。おい、引くんじゃない。いい加減慣れろ。




比企谷「1週間後、ボス攻略会議が開かれるそうだ」


俺がそう言った途端、目を見開いてこの話題に食いついた。


クライン「なんだって!?」



167: 2014/03/29(土) 19:52:18.12 ID:7nxFDymIo


無理もない。SAOが始まって3週間も経つのに、ゲームの一層すらクリアされてないからだ。SAOのステージ”アインクラッド”は全部で100層、この調子ではクリアに何年かかるかわからない。だからこそ、”ボス攻略会議”という情報は、SAOクリアにつながる一つの希望となることだろう。




比企谷「確かな情報だ。俺はその会議に……」


クライン「その会議に、風林火山で乗り込むんだな!?」





いや、そうじゃないんだ。俺は途切れた言葉を続けるように、言い直した。




比企谷「俺はその会議についていって、ボス攻略に参加する」







クライン「……まさかとは思うが、一人で行くつもりか?」


笑いを含んだ表情から、一気に凄みのある表情に変化した。怖い。

168: 2014/03/29(土) 19:53:01.01 ID:7nxFDymIo
だが、俺は怯むことなく、ハッキリと答えた。




比企谷「ああ、そうだ」






クライン「……! なんでだよ! 俺たちも行くに決まってんだろ!? お前だけに行かせるわけねえ!!」


この反応は予想できた。だから、あらかじめ答えも用意していた。





比企谷「ボス攻略で、6人もカバーできない。お前らは足手まといだ」


クライン「っ……!」





俺はこういうところでオブラートに包んだ台詞を言わない。命にかかわることだ、はっきり言わなくてはならない。
風林火山のレベルが上がったといっても、全員がレベルアップしたわけじゃない。俺とクラインが抜きんでているだけで、他のメンバーは並よりちょっと上くらいだ。クラインも口には出さないが、俺についていけるよう、結構な努力をしている。
  

169: 2014/03/29(土) 19:53:27.48 ID:7nxFDymIo



クライン「なら、俺だけでもついていく。俺なら足手まといにならねえだろ?」









……この反応は予想してなかった。
だめに決まってんだろ……


170: 2014/03/29(土) 19:54:46.51 ID:7nxFDymIo

比企谷「……いいか、言っておくぞ? 俺は細心の注意を払うが、ボス攻略が成功するなんて保証はない。それどころか、全滅の可能性だってある。クライン、お前は風林火山の団長だろうが。ここで氏んだら、他の5人はどうなる?」




クライン「…………でも、氏ぬ危険があるところに、お前だけをいかせれねえよ」


比企谷「だが、俺がここで参加しないなんてありえない。俺がソロプレイヤーのままでも、参加していたはずだ」


クライン「…………」




この言葉も嘘じゃない。俺はもともとぼっちだが、今はこのリア充チームに入れてもらっている。
ボッチならボッチらしく、何も言わずに行こうとも考えたこともある。


だが、何も言わずに居なくなるよりは、説明してから行きたかった。ギルドに入ったからには筋は通したいからな。

171: 2014/03/29(土) 19:55:33.75 ID:7nxFDymIo


反論がないから、俺は勝手に”納得した”と解釈した。
……だが、






「俺たちのことなら、心配しなくていいぜ? 団長、ヒッキーについて行ってやれ!」






思わぬ第三者が現れた。いや、振り向くと風林火山メンバーの残り全員がそこにいた。

172: 2014/03/29(土) 19:56:05.33 ID:7nxFDymIo


比企谷「……何を・・・・・・・?」







「俺たちが足手まといになるのは、そのレベル差が物語ってるから無理についていったりはしない。でも、団長がヒッキーのことを心配する気持ちが分からない訳じゃねえ」







クライン「お前ら……!」


「俺たちは団長やヒッキーが思ってるほど柔じゃないぜ! 安心していって来い!」
「ああ。でも、必ず生きて帰ってこいよ!」


お前ら、勝手に何を言ってるんだ。


173: 2014/03/29(土) 19:56:50.02 ID:7nxFDymIo







…………いや、勝手なのは俺か。


こいつらは、俺が本気でゲームクリアを目指していることを知っている。だから、俺を止めたりしないんだ。
そして、クラインが俺のことを本当に心配している、ということを、俺は知っている。


だから、俺もクラインを止めたりできない。






クライン「ああ、必ず生きて帰る。約束するぜ! ヒッキー、そういう訳だ。やっぱり俺も行くぜ?」



……俺は、本当に”いいやつら”に恵まれちまった。






だが、この優しさは不思議と嫌じゃなかった。

174: 2014/03/29(土) 19:57:16.09 ID:7nxFDymIo




比企谷「…………わかった。だが、危なくなったら逃げるからな」




クライン「あたぼうよ! 命あってのものだねだからな!」











こうして、俺とクラインはボス攻略会議に参加することになった。


小町、待ってろ。俺は絶対に帰ってみせる。フラグじゃないぞ?




175: 2014/03/29(土) 19:57:59.09 ID:7nxFDymIo
ここまで
さすがに疲れたから休憩
感想ありがとう

195: 2014/03/30(日) 05:53:11.10 ID:XxKtDNIdo
SAOは何も、戦闘がすべてじゃない。
ところどころに遊び心や童心をくすぐるイベントが散りばめられている。まあ、茅場がすべてを創ったわけじゃないに決まっているし、そういう要素をわざわざ避けて通ったりしない。


それに、そういう遊び心に癒しを求めるプレイヤーも多いのだ。というか、俺もだ。戦闘ばかりじゃ疲れちまうしな。
だが、そういう情報を持っているプレイヤーは意外と少ない。こんな状況じゃ、ゆっくり探索する余裕はないのだろう。だから、あえて俺はそういう情報を集めて、有効活用していた。



あの格安の宿を離れてから一週間後、つまりSAO開始から一カ月がたった今、俺とクラインはトールバーナと言う街の、噴水広場に来ていた。ボス攻略会議の集合場所である。


今の時刻は午後3時。集合時間は午後4時だから、一時間も前だ。
なぜ、こんな早くに来たかと言うと、曲がりなりにもボス攻略に参加する連中と情報交換をしておきたかったからだ。
正直、俺からほかの連中に話しかけるのは今でも抵抗がある。だが、今の俺には伝家の宝刀、”クライン”が付いている。


クライン「よう、アンタたちもボス攻略に来たのか?」


「ああ、って事はお前らもだな」


クライン連れてきてよかったぜ! ここまで円滑に情報収集が進んだことはない! 
だが、俺とクラインのコミュ力の差がここまであると思ってなかった。……別に悔しくねえよ? あ、また別のやつに声かけてる。すごいなー。




196: 2014/03/30(日) 05:53:41.11 ID:XxKtDNIdo








だが、俺の狙いはこれだけじゃないんだぜ? 






俺はほどほどに情報収集した後、クラインにパンとクリームを渡した。


パンは1コルで買える、どこにでも売ってある普通のパンだ。
しかし、クリームはどこにも売ってない。これは、とあるクエストのクリア報酬なのだ。俺はクリームを、この1週間のうちに大量に手に入れておいた。


……すべては今日のためだ。





197: 2014/03/30(日) 05:54:07.69 ID:XxKtDNIdo



クライン「お、サンキューヒッキー! ちょうど腹減ってたんだ!」


比企谷「おう、食え食え。これから忙しくなるんだ、体力つけないとな!」





別に食ったからと言って空腹感が紛れるだけで、体力ゲージが上がるわけじゃない。
だが、俺はできるだけわざとらしく、大きな声でそう言った。





比企谷「やっぱクリーム付けて食うと全然違うなぁ! 味気ないパンが嘘のようだぜ!」


クライン「……? ああ、そうだな」





俺がそういうと、周りからゴクリ、という音がした。



198: 2014/03/30(日) 05:54:50.10 ID:XxKtDNIdo





「な、なあ。そのクリームってどこで売ってるんだ?」





釣れた!! 





比企谷「どこにも売ってないぞ。クエスト報酬だからな」


「そんなクエストがあったのか……」


比企谷「ああ。だが、今俺は結構な量を持ち合わせていてな、タダであげてもいいぜ?」


「なんだって!? 本当か!?」


比企谷「ああ、遠慮なくもってけ!」


「ありがとう、恩にきる!」





俺がクリームを渡すと、そいつは仲間のほうへ駆けて行った。

199: 2014/03/30(日) 05:55:15.98 ID:XxKtDNIdo
この会話を隣で聞いていたクラインは、思いっきり首をかしげていた。……言いたいことがあるなら言ったらどうだ?





クライン「ヒッキーがただで物をあげるなんて、信じらんねえ……俺は夢でも見てんのか?」





そこまで言うか。





クライン「熱でもあるんじゃないのか? ヒッキーらしくないぞ!」





一回親切を見せただけでこの反応かよ。……まあ、お前も俺をなかなか理解しているようで安心したぜ。
そこまで聞いて、俺はタネあかしすることにした。




200: 2014/03/30(日) 05:55:45.61 ID:XxKtDNIdo


比企谷「クライン、お前はこのクリームを使い始めてから、普通の状態のパンを食べる気になったことがあるか?」




クライン「え? いや、そういえば必ず使ってるな。それがどういう……っ。ああ、なるほど……」




比企谷「理解が早くて助かるぜ」





このクリームを使ったやつは今後パンを食べる時、必ずこの味を思い出すだろう。そして思うはずだ。”またあのクリームを使いたい!”とな。そして今晩あたりに俺を訪ねてくるはずだ。「クエストの情報を教えてくれ」と。


俺が金を取るのはそこ、つまりクエスト情報だ。あいつらはこの味を知ってる分、金を出し惜しむことはないだろう。しかも、俺は一度ただでクリームを渡している。情報を金で売っても文句は言えないはずだ。クリームを金で売るより、はるかに多くの金を稼げるだろう。ふふふふふふふふ。

201: 2014/03/30(日) 05:56:21.20 ID:XxKtDNIdo


俺が引き笑いしていると、クラインは呆れたのか安心したのかわからない表情で、こう言った。





クライン「お前らしいよ、ヒッキー」


比企谷「だろ?」


「なあ、俺たちにもそれ、分けてくれないか?」


餌が餌を呼んだ。これは爆釣の予感がするぜ!


比企谷「ああ、いいぞ。ほらもってけ!」


「サンキュー!」




ふふふふふ、こい、どんどんこい! 俺の親切に寄ってくるがいい、有象無象ども!



202: 2014/03/30(日) 05:56:53.17 ID:XxKtDNIdo



俺がこの場で情報を売らない理由は、二つある。
一つは、ここにそのクエストの情報を持っている奴がいた時、情報が売れなくなるからだ。
もう一つは、あいつらから俺を訪ねさせることにより、個別に情報を売ることができるからだ。


俺はこのSAOでの情報の扱い方を、この1カ月でほぼ理解した。
命にかかわるような情報や、必須情報は無料で渡す。そして、俺を信用した連中相手に、こういう豆知識的な情報を割と高めに売る。これが一番効率のいい稼ぎ方だ。








……ん?俺をじっと見ている奴がいるな。
あいつもクリームがほしいのか? まあ、俺から声はかけないけどな。


広場の反対側の高い塀に、ちょこんと腰かけている小柄な奴が、さっきから俺のほうを見ている気がする。
しかし、俺が視線を向けるとすぐに目をそらした。…………そんなに俺と目を合わせるのが嫌か。



203: 2014/03/30(日) 05:57:22.32 ID:XxKtDNIdo




そうこうしていると、唐突に後ろでクラインが叫んだ。






クライン「キリト! お前、キリトじゃないか! お前もボス攻略に参加すんのか!?」


???「……え?クライン?」




クラインが声をかけたそいつは、キリトと言うらしい。
呼ばれた男は、「なんで?」といった風に、驚いた表情をしていた。


キリト……どっかで聞いたことがあるような名前だな。……どこで聞いたんだっけ。





206: 2014/03/30(日) 06:53:43.13 ID:XxKtDNIdo
>>205
わかる
俺がやった最初で最後のネトゲはマビノギ
ストーリー進行中に「仲間二人連れてこい」とか言われて
即効アンインストールした

さて、寝る!

227: 2014/03/30(日) 13:56:57.24 ID:XxKtDNIdo

俺は、キリトと呼ばれた男の方を向いた。
そこには、やや幼さが残る顔立ちの少年がたっていた。……イケメンである。




比企谷「知り合いか?」




俺はクラインにだけ聞こえるように、小声で尋ねた。




クライン「ああ! 俺が初日に戦闘方法を教わったやつだ!」




なるほど、じゃあこいつはβテスターって訳か。なら、ボス攻略会議に来てもおかしくないな。


キリトは、未だに驚いた顔のままクラインの方を向いていた。まあ、驚いている理由は想像つくけどな。


229: 2014/03/30(日) 13:57:42.39 ID:XxKtDNIdo


表情を察したのか、クラインは聞かれる前にこう言った。




クライン「俺がボス攻略に参加するなんて、思ってなかっただろ?」


キリト「あ、ああ。こんなところで顔を合わすなんて思ってもみなかったよ」




つまり、こういうことだ。”一般プレイヤーであり、しかも戦闘の仕方も分からなかったようなやつが、一層の攻略に参加できるほどの実力をつけられるとは思っていなかった”。実際、俺が無茶してなかったら来なかっただろうしな。




クライン「全部こいつのおかげなんだよ! なあヒッキー?」



ここで俺に振るんじゃない! しかも答えづらい問いかけしやがって!


比企谷「う、うす」


こんな返事しかできない自分をぶん殴ってやりたい。いやだれか殴ってくれ……。

230: 2014/03/30(日) 13:58:18.46 ID:XxKtDNIdo
…………




キリトとクラインは積る話もあるだろうし、俺は少し離れて周りを見渡すことにした。広場にはすでに結構な人数が集まっていて、中には途中で見た顔もちらほらいた。俺はふと、塀の上に座っている小柄な奴に目をやったが、あいつはキリトとクラインの方を見ていた。……さっき見てたのは俺じゃなくてクラインだったのかもしれないな。


そして時刻は午後4時。聞き取りやすい大きな声が響いた。




???「はーい!それじゃあそろそろ始めさせてもらいまーす!」




あいつが、俺たちに呼びかけた張本人、ディアベルである。
俺は一週間前、情報集めの途中でこのディアベルに会い、直接ボス攻略会議についての話を聞いた。確かな情報ってのはそれが理由だ。なにより、こいつが本気で攻略を目指していることが分かっていたので、俺も今日ここに来たのだ。




231: 2014/03/30(日) 13:58:59.32 ID:XxKtDNIdo




ディアベル「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう! 俺はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」




ああ、そうだ。こいつは俺のもっとも苦手とする人種である。誰にでも人当たりがよく、くだらないギャグでみんなを笑わせることができ、そして、俺のような日蔭者の気持ちは分からない。まあ、こんなやつが一番頼りになるんだけどな。人の上で指揮をするにはもってこいの人材だろう。


ディアベルは噴水の一行の反応を見つつ、話を続けた。本題に入るようだ。




ディアベル「今日、俺たちのパーティーが、あの塔の最上階でボスの部屋を発見した!」



そう言った時、周囲からおお、と歓声がわいた。


……すごいな。そこまで攻略が進んでいたのか。



232: 2014/03/30(日) 13:59:30.98 ID:XxKtDNIdo



ディアベル「俺たちはボスを倒し、第2層に到達して、このデスゲームも、いつかきっとクリアできるってことを! 始まりの街で待っているみんなに伝えなくちゃならない!」


ディアベル「それが、今ここにいる俺たちの義務なんだ! そうだろ? みんな!」




義務、という言葉を聞いたとたん、俺のやる気が急激に減っていった。……俺って義務とかいう風に強制されるの、好きじゃないんだよな……。いやいや、こんなことでやる気を失っていたらきりがない。聞き流そう。


周りの連中は納得しているようで、各々頷いたりして肯定の意を表した。そして、ディアベルに対して称賛の拍手を送るのだった。おい、口笛はやめろ、マジでムカつくから!




ディアベル「おっけー! それじゃあさっそくだけど、これから攻略会議を始めたいと思う。まずは、6人のパーティーを組んでみてくれ!」




233: 2014/03/30(日) 14:00:08.39 ID:XxKtDNIdo












…………は? え? そういうことすんの?


俺は今、中学高校での体育の過ごし方を思い出していた。
たとえばテニスの相手を組むのに、「2人組つくってー」とか言われるだろ? その時の俺の相手は、壁だ。
つまり、はやく壁を探さないと……。




クライン「ヒッキー! こっち来いよ! キリト! お前もな!」





クライイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!! 連れてきてよかったあああああああああああああああああ!!!




234: 2014/03/30(日) 14:00:41.99 ID:XxKtDNIdo




クライン「よし、あと3人か。後は適当に呼びかけるか……?」


キリト「…………」


キリトは何か躊躇しているようだったが、クラインの誘いに乗った。


クライン「でもなぁ、できるだけ知ってる中で組んだ方が連携も取りやすいと思うんだよな……キリト、お前ここに知り合いはいるか?」


キリト「え!? あ、いやここにはいないみたいだな!」






……気のせいかもしれないが、キリトから俺と同じボッチの匂いがする。



235: 2014/03/30(日) 14:01:29.10 ID:XxKtDNIdo




キリト「あ、あそこに一人あぶれてる奴がいるぞ、ちょっと声掛けてくる!」



前言撤回。あいつは俺と違ってコミュ力があるようだ。

 



数分後、キリトはフードをかぶった奴を連れてきた。だが、これでもあと二人足りない。




比企谷「いいんじゃないか? 4人で。 今ここにいるのは46人。6人チームを作ったら4人余るしな」




正直、これ以上知らない人と組むのはめんどくさい。4人もいりゃ充分だろ。




フードの奴「……」

236: 2014/03/30(日) 14:02:13.84 ID:XxKtDNIdo


クライン「そうだな! じゃあリーダーはヒッ……」


比企谷「キリト! 頼んだぜ!」


キリト「え? 俺!?」


比企谷「見た感じ一番慣れてそうだからな。頼んだぞ!」


クライン「……ヒッキー、そんなに嫌かあ?」




当り前だろうが! 面倒なことに面倒なことを掛けたらめんどさ2乗じゃねえか!




キリト「まあいいけど……じゃあ、招待メール送るぞ?」




キリトから”パーティーを組みますか?”というメッセージを受け取り、YESを押した。
つーか、さっきからフードの奴は一言も喋ってねえんだけど。こいつもコミュ障か?

237: 2014/03/30(日) 14:03:14.08 ID:XxKtDNIdo


全員がYESを押したとき、フードの奴の名前が表示された。
ア、ス、ナ……? もしかして、女性プレイヤーだったのか。なら、喋らず目立たないようにしている理由はわかる。まあ、あえて説明することもないだろう。そして、喋らないのならこちらから話す必要もない。


俺はふと、さっき塀に座ってた奴はどこに入ったのかと思い、あたりを見回したが、どこにもいなかった。なんだ、あいつは会議に来たわけじゃなかったんだな。






ディアベル「よし、そろそろ組み終わったかな? じゃあ……」


ディアベルが次の説明をしようとしたとき、別の声がそれを遮った。


238: 2014/03/30(日) 14:03:54.10 ID:XxKtDNIdo








???「ちょお、待ってんか!」







何だ? あのもやっとボール頭は……。





271: 2014/03/30(日) 19:40:23.13 ID:XxKtDNIdo

もやっとボールなのか金平糖なのかわからない頭をしたやつが、階段を駆け下りながら噴水広場の中央に向かって行った。


何をする気だ?




???「ワイはキバオウってモンや! ボスと戦う前に、言わせてもらいたいことがある!」





金平糖頭は、関西弁で話し始めた。初心表明でもする気か?



272: 2014/03/30(日) 19:41:06.32 ID:XxKtDNIdo



キバオウ「こんなかに、今まで氏んでいった2000人に詫び入れなあかんやつがおる筈や!」


ビシッ!とでも効果音がつきそうな勢いで、集まった連中を指差した。
……なんかめんどくさそうな話になりそうだな。




ディアベル「キバオウさん、君の言う”奴ら”とはつまり、元βテスターの人たちのこと、かな?」




キバオウ「決まってるやないか! β上がりどもは、このクソゲームが始まったその時に、初心者(ビギナー)を見捨てて消えよった! 奴らはうまい狩り場やら、ぼろいクエストを独り占めして、自分らだけポンポンつよなって、その後もずうっと知らんぷりや。こんなかにもおる筈やで! β上がりの奴らが!」








なるほどな。こいつもβテスターが初心者を見捨てたせいで大勢氏んだ、とか思ってる口か。まあ、全部が間違ってるわけでもないし、わざわざそれを否定するつもりもない。

273: 2014/03/30(日) 19:41:47.83 ID:XxKtDNIdo



キバオウ「そいつらに土下座さして、ため込んだ金やアイテムを吐き出して貰わな、パーティーメンバーとして、命は預けられんし、預かれん!」






……は?


何いってんのこいつ。
今から攻略始めるってのにβテスターの戦力落としてどうすんだよ。
俺はクリアを目指してんだ。こんなところで足踏みしてるわけにはいかねえんだよ!








……黙ってみてようと思ったが、ここはこいつに現実を見させる必要がありそうだな。



274: 2014/03/30(日) 19:42:22.29 ID:XxKtDNIdo



周りがざわついたり、押し黙ったりする中、俺は控えめに手を挙げた。


クライン「……ヒッキー?」





比企谷「おい、アンタ。ちょっと言わせてもらっていいか?」


キバオウ「ああん?」




怖! いきなり噛みついてくんなよ! 俺が黙り込んじゃったらどうするんだ!



275: 2014/03/30(日) 19:42:51.99 ID:XxKtDNIdo

比企谷「……俺は一般プレイヤーだが、情報屋をやってる者だ」



俺は立ちあがって、キバオウの前まで出た。
実際には情報売買をおこなってるだけで、情報屋ではない。だが、こう名乗ったほうが説得力があるだろう。





比企谷「俺はさっき、ここに集まったプレイヤーの数人に、この”クリーム”を渡した。だが、ここにいるプレイヤーのほとんどが、クリームの存在すら知らなかった。俺が言いたいこと、わかるか?」


キバオウ「……どういう意味や」



276: 2014/03/30(日) 19:43:52.52 ID:XxKtDNIdo


比企谷「一般プレイヤー同士でも、情報格差は存在すんだよ。逆にいえば、俺は一般プレイヤーなのに、多くの情報を持っているということだ。情報を集めれば、氏ぬ危険も回避できる。言っちゃ悪いが、今まで氏んだ奴らは情報収集を怠っただけなんじゃないか?」


キバオウ「ぐっ……」




ここまで言うと、キバオウは少し勢いを落とした。
そして周りの奴らも、俺が言ったことを考えるかのように押し黙った。





キバオウ「い、いや、βテスターが情報を教えていれば、被害が出んかった事に変わりはあらへん! 初心者が情報を集めるのにも、βテスターの協力が必要なはずや!」


比企谷「ほう、まあ百歩譲ってそれが正しいとしよう。それで、情報を集められなかった連中は、なんでゲーム攻略に向かったんだ?」


キバオウ「ッ……!」


277: 2014/03/30(日) 19:44:52.04 ID:XxKtDNIdo


比企谷「氏んだら終わりってことがわかってるなら、情報不足の時にわざわざ危険を犯す必要なんてない。全員、目指してるのはゲームクリアだろ? 同じ目的なら、クリアするのはβテスターだろうが、情報を集めた初心者だろうが、誰でもいいじゃねえか」


キバオウ「ぐう……!」


比企谷「こんなところでβテスターから身ぐるみ剥いで、何になる? クリアが遅れるだけじゃねえか。誰得だよ」






キバオウはこの時点で、反論の余地をなくしている。他の攻略会議の連中も、口を出すようすはなさそうだ。俺はここらで話をやめてもいいが、こいつ相手ならトドメを刺してもいい気がした。



278: 2014/03/30(日) 19:45:41.13 ID:XxKtDNIdo


比企谷「情報屋として、特別に情報を教えてやるよ」


キバオウ「……?」


比企谷「一般プレイヤーの氏亡率より、βテスターの氏亡率のほうが、圧倒的に高いそうだ」


キバオウ「!?…………な、なんや、と……」



279: 2014/03/30(日) 19:46:22.33 ID:XxKtDNIdo




この情報はいくつかの情報屋を介した物だから、確実なものではない。だが、ここで言う分にはどうでもいい。




比企谷「βテスターだろうが、一般プレイヤーだろうが、石橋を叩いて渡らなかった奴は氏ぬんだよ。生半可な知識でゲーム攻略に行く時点で、俺からしてみりゃ自殺行為だ」


キバオウ「うっ……………………」






どうやらクリティカルヒットした様だ。



280: 2014/03/30(日) 19:47:04.35 ID:XxKtDNIdo


ディアベル「…………あ。お、おいおい君、もうこのくらいでいいだろ? キバオウさんも、今は会議を続けようじゃないか! 彼が言ったように、ゲームクリアを目指すのに異論はないだろ?」




ディアベルは思い出したかのように、止めに入った。ちょっと遅かったな、キバオウのライフはもう0だ。


キバオウは、ディアベルに言われるがまま、すごすごと元の位置にもどって行った。




俺も元の場所に戻ると、ディアベルは仕切りなおすかのように話を戻し、攻略会議の続きを始めた。
……くそ、周りから異様に視線を感じやがる。目立つようなことはするもんじゃねえな。


クラインやキリトすら、俺を奇異の目で見ていた。……言いたいことがあるなら、言ったらどうだ。




281: 2014/03/30(日) 19:47:46.92 ID:XxKtDNIdo



クライン「い、いやあ、ヒッキーがあんな事を大勢の前で言うなんて思っても見なくてよ……」


比企谷「俺はさっさと会議を始めたかっただけだ。こんなつまんねえことで、いちいち時間を無駄にしてらんねえよ」


クライン「なるほど……。これはこれでヒッキーらしいっちゃらしいのか……?」


比企谷「俺に聞くな。今は話を聞こうぜ」




俺が促すと、クラインは頷いてディアベルの方を向いた。他の連中も、もう俺の方を見ていないようだ。大丈夫、いつもなら多少目立つことをしても、すぐに忘れられるしな。


282: 2014/03/30(日) 19:49:15.88 ID:XxKtDNIdo
…………





ディアベル「……モンスターの情報と、みんなの役割については、以上だ。最後に金とアイテムの分配についてだが、金は全員で自動均等割り。アイテムはゲットした人のものとする。異存はあるかな?」


誰も異議を唱えない。ディアベルはそれを肯定と判断して、ひとつ頷いた。


ディアベル「よし、明日は朝10時に出発する。では、解散!」


その言葉を区切りにして、攻略会議は終わった。


他の連中が帰ろうとしている中、キリトは俺の方をじっと見ているようだった。俺の顔になんかついてんのか?
見られ続けんのも嫌だったから、俺は「なんだ?」という顔をしてキリトの方に向き直った。


キリト「い、いやなんでもない」


……俺はβテスターを庇ったわけじゃねえぞ。ただ一般論を述べただけだ。さて、俺も帰るか。

283: 2014/03/30(日) 19:50:03.27 ID:XxKtDNIdo




「ねえ、ちょっと」




突然、聞いたことない声が聞こえた。誰?




アスナ「さっきの会議で、わからない単語がいっぱい出てきたんだけど……」





やっと口を開いたと思ったら、こいつ初心者かよ! なんで攻略会議に来たんだ!


話を聞くと、アスナはずっとソロプレイヤーだったようで、パーティーを組んだことがなかったらしい。……じゃあ、誰かがレクチャーしないとな。

284: 2014/03/30(日) 19:50:42.99 ID:XxKtDNIdo


比企谷「クライン、お前この後……」


クライン「わりい! 俺いっぺんギルドの連中のところに戻るわ!」


比企谷「はあ!?」


クライン「報告も兼ねて、装備をとってくる! 明日の10時には間に合うようにするからよお!」


比企谷「お、おい!」


クラインは会議が終わったとたん、さっさと行ってしまった。


285: 2014/03/30(日) 19:51:17.04 ID:XxKtDNIdo




キリト「…………」


アスナ「…………」


比企谷「…………」













……気まず過ぎるだろ! 実質知らない奴二人じゃねえか! ……よし、逃げよう。




286: 2014/03/30(日) 19:51:55.42 ID:XxKtDNIdo



比企谷「キリト、アスナの指導は任せる。ただ教えるだけなら2人もいらねえだろ?」


キリト「え? あ、ああわかった」



キリトなら大丈夫だろ! うん。だいたい、こいつが連れてきたんだ。面倒をみるのは当然だろ?
俺は早々に立ち去るべく街中に行こうと思ったが、後ろから呼び止められた。




アスナ「ちょっと、なんで私の名前知ってるの!?」



……こいつ、天然キャラかなんかか?




比企谷「キリト、それも含めて、十分にレクチャーしてやれ」


キリト「ああ、わかったよ」




キリトは笑いをこらえながら、そう答えた。








309: 2014/03/30(日) 23:09:00.70 ID:XxKtDNIdo
その日の夕方
OeZb73e

end

320: 2014/03/31(月) 11:08:55.72 ID:xsbbm4voo
よーっすこんな時間じゃ誰もいないだろうな!
ボッチはボッチらしくさびしく更新することにするぜ!


12時から投下


>>318
俺って強制されるとやる気なくすんだよね……ほら、かーちゃんに勉強しなさい、って言われるとやる気なくすあれだよ

>>304
ヒヒヒ、俺の更新速度についてこられるか!? いや、これから忙しくなったらさすがに止まるけどね


俺は自分のSSを5回読み直し、感想を15回読み直してるぜ!

325: 2014/03/31(月) 11:44:12.93 ID:xsbbm4voo







ふは、はははははは、あっはっはっはっはっは!!
笑いが止まんねえぜ!
  







その日の夕方、俺の狙い通り、「クリームの情報」を求めて、何人か俺のところへ訪ねてきた。
相場より少し高めの金額を提示しているが、奴らは快く払っていった。


しかも、それだけじゃない。


326: 2014/03/31(月) 11:44:54.82 ID:xsbbm4voo


さっきの会議で俺が情報屋だと言ったおかげか、情報を求めてくる”客”まで、何人か来たのだ。当然、教えられる情報は売り、それなりの金額を得ることができた。


クリームの金と合わせて、全部で18000コル。クエスト報酬の武器が余裕で買える値段だ。ありがとうキバオウ、ありがとうディアベル。お前らのおかげで大儲けだ!


大体の情報をさばき終わった頃、俺は街の商店に繰り出した。そろそろ短剣も買いかえたいしな。なんなら防具だって買えるだろう。クラインたちの物は買い換えたばかりだから、俺が使っても問題ないはずだ。フフフ、自然と顔がにやけちまうぜ!


ひき笑いをしながら街を歩いていると、周りの奴らが変な顔で俺を見てくる。いや、変な顔になってるのは俺か。




327: 2014/03/31(月) 11:45:39.65 ID:xsbbm4voo


…………





うーん。やっぱりやめた方がいいか? いや、でも明日ボス攻略するんだし、新調したいし……いやでも、慣れた武器の方が扱いやすいはずだし、いや、うーん……。





俺は、店の前で買い物の無限ループ回路にドはまりしていた。あたりはもう暗くなっていて、店はところどころ、ライトアップされていた。悩むくらいなら、やめた方がいい気がするな。いや、やらずに後悔よりやって後悔しろという言葉もあるし……後悔しちゃだめだろ。


そんな風に無駄に悩んでいると、商店街でついさっき見た顔を見つけた。


あれは、キリトか?



328: 2014/03/31(月) 11:46:14.58 ID:xsbbm4voo




キリト「……! ええっと、ヒキ、でいいのか?」




キリトは俺に気付くと、そう確認した。




比企谷「ああ、それであってる。お前はアスナの指導は終わったのか?」


キリト「ええっと、終わったというか途中というか……」





なんだか要領を得ない回答だな。まあ、こいつに任せてあるんだし俺は気にしないことにしよう。でも、こんなところで何してんだ?

329: 2014/03/31(月) 11:47:03.50 ID:xsbbm4voo
俺がそんなことを考えていると、キリトは察したようにこう答えた。




キリト「実は、アンタを探してたんだ」





……何とも意外な答えだった。


俺を? なんで? と聞くまでもなく、キリトは言葉をつづけた。









キリト「クラインのこと、助けてくれてありがとう」
















……なるほど。そういえばこいつは、初日にクラインと会っていたんだな。



330: 2014/03/31(月) 11:47:30.15 ID:xsbbm4voo




比企谷「別に助けようとしてそうなった訳じゃないさ。クラインに誘われなかったら、俺は多分一人だったしな」



キリト「それでも、俺に出来なかったことをした事に、変わりはないよ。さっきパラメータを見て驚いた。アンタもクラインも、俺とそんなにレベルが違わなかったから」



比企谷「……まあ、結構無理させちまったかもしれねえな」







俺は、こいつのイメージを改めなければならないようだ。初めに聞いたとき、クラインの仲間をほっといてどっかに消えたβテスター、くらいのイメージだった。だが、こいつはちゃんとゲーム攻略をしている。しかも、最前線で、だ。他の誰も、こいつを責める権利を持っていないだろう。


331: 2014/03/31(月) 11:48:08.08 ID:xsbbm4voo




比企谷「キリト、お前はクライン達と一緒に行かないのか?」




俺は率直に、思っていた疑問を投げかけた。




キリト「俺は、いいよ。俺には………」





何か言いたくないことでもあるのだろうか。
まあ、俺は無理に誘ったりしない。こいつがいい、と言ってるならいいのだろう。
だから俺は、





比企谷「……そうか」




とだけ答えた。




332: 2014/03/31(月) 11:48:37.99 ID:xsbbm4voo









……それにしても、”キリト”という名前にはずっと引っかかるものがある。どこかで聞いたはずなんだ。どこで聞いたんだ……?いや、まさかどこかで会っていたか?


気になるな。いっそ聞いてみるか。




比企谷「なあキリト、お前は俺と会ったことがあるか?」

333: 2014/03/31(月) 11:49:06.75 ID:xsbbm4voo


キリト「俺も丁度そう思ってたんだ……! ヒキって名前に見覚えがあるんだよ」




こいつもか……!
じゃあどこかで会ってるのは間違いないはず……。ん?”βテスターのキリト”……?


βてすたー……キリト……、情報……?













「「……あ!」」
 











俺たちは、ほぼ同時に思い出した。

334: 2014/03/31(月) 11:49:33.08 ID:xsbbm4voo




俺たちはSAO初日、始まりの街で会っていた。









”また聞きたいことがあったら、いつでも呼んでくれ”
”ああ、サンキューな”










初心者と、それに情報を与えるβテスターとして、会っていたんだ。


335: 2014/03/31(月) 11:50:00.04 ID:xsbbm4voo



……なるほど、思い出せないわけだ。あの時はアバターも違ったし、何よりあの後茅場によってひどい混乱が起きちまったからな。あの時のことなんか碌に覚えてなかったぜ。




比企谷「まさか、あいつがキリトだったとはな……。 アバターが俺より見た目年上だったから全然気付かなかったぜ」



キリト「俺もだ。あの時のヒキも、アバターが全然違ったからな。特に、目が……」


比企谷「……!?」




あかん、だめだ、こいつは俺のギャップを知っている! ボッチだったから安心していたが、こいつは俺の澄んだ眼を知っている! やべえ! こんなときにあの時の黒歴史がばれるなんて思わなかった!!


336: 2014/03/31(月) 11:50:26.74 ID:xsbbm4voo


キリトは何か考えるしぐさをした後、口を開いた。




キリト「……あのさ」


比企谷「何も言うな! そして、クライン達にも言うんじゃないぞ!!!」


キリト「…………」





お、おい。


なにニヤニヤした目で見てやがる! ……え? ばらさないよね? なんなら土下座するよ?


337: 2014/03/31(月) 11:50:52.42 ID:xsbbm4voo





キリト「どうしようかなあ?」





こいつ……! 




俺は今、このSAO最大のピンチに立たされている。かつてない恐怖、べジータもふるえあがるレベルだ。
助けてくれ悟空!



……いや、俺の手には今、取引できるだけの金がある! これで何とか黙って貰おう。




338: 2014/03/31(月) 11:51:20.89 ID:xsbbm4voo




比企谷「キリト、今お前にコルを送った。これで黙っててもらおうか」



キリト「……え? いや、そこまでしなくても……うええ!? 2万!? そんなにばれたくないのか!?」



比企谷「今の俺の手持ち全部だ。返金は受け付けない、いいな?」



キリト「いやさすがに」



比企谷「いいな?」



キリト「お、おう」




……よかった、世界は救われた。






339: 2014/03/31(月) 11:51:47.46 ID:xsbbm4voo







あれから少し話した後、俺たちは別れた。
キリトはまた、アスナのところへ戻るそうだ。俺から何かをアドバイスすることもあるまい。


俺は一瞬、キリトが俺と似ていると思った。


だが、今思えばばかばかしい想像にすぎない。俺は俺。あいつはあいつだ。


358: 2014/03/31(月) 19:58:10.29 ID:xsbbm4voo


クライン「じゃーーん!! お前らに、プレゼントだ!」





比企谷「……はあ?」





俺たち、つまり俺、クライン、キリト、アスナは、噴水広場に再び集合した。時刻は朝9時。クラインはついさっき戻ってきたが、突然俺たちに何かを掲げて見せた。

359: 2014/03/31(月) 19:58:41.13 ID:xsbbm4voo



比企谷「何だ? その趣味の悪い柄の布は?」


クライン「……え? 全然趣味悪くないだろ! 俺の頭にも同じバンダナがあるだろ!?」





そういえば、そうみたいだな。クラインは赤髪に趣味の悪いバンダナを巻いたスタイルがデフォルトだ。……まさかとは思うが、お前……。




比企谷「その趣味の悪い布3つ、どうする気だ?」


クライン「だから! 趣味悪くねえって! キリトもそう思うだろ!?」




俺がそういうと、クラインはキリトに助け船を求めた。

360: 2014/03/31(月) 19:59:15.10 ID:xsbbm4voo




キリト「…………」




……助けて船なんてなかった。




クライン「……そんなに悪いかあ?」


比企谷「いいから本題に入れ、お前の趣味の悪さを相談しに来たんじゃねえんだろ?」


クライン「ヒッキー、さっきから冷たくね? なんか怒ってる?」






……怒ってねえよ。昨日俺をあの気まずい空気に置き去りにしたことなんか全然怒ってねえよ。



361: 2014/03/31(月) 19:59:42.60 ID:xsbbm4voo





クライン「まあとにかく、このバンダナをお前らにつけてもらおうと思ってな!」





…………なんとなく予想はついてた。この予想は当たらなくてよかったのに。




比企谷「まさかとは思うが、勧誘の一環か?」



クライン「その通り! キリトとアスナも俺たちのギルド、”風林火山”に入ってもらおうと思ってな!」





……キリトだけならともかく、昨日会ったばかりのアスナも自然に誘える当たりに、コミュ力の強さが垣間見られるようだ。まあ俺だったら知ってる仲でも誘わないけどな。

362: 2014/03/31(月) 20:00:28.88 ID:xsbbm4voo



比企谷「断る。俺はそういう内輪ノリが大っ嫌いなんだよ」




俺は、自分が内輪の中にいようが、そうじゃなかろうが、そういうノリは好きじゃない。このバンダナがある限り俺たちは仲間ってか? どこの海賊団だよ。




キリト「俺も、遠慮しとくよ。いや、別に趣味が悪いとか言ってるんじゃないぞ?」




それ、フォローになってねえよ。
ま、キリトが断る理由は別にあるだろうけどな。




クライン「ヒッキーにキリトまで……。せっかく急いで取りに戻ったのによお……」



それを取りに行ってたのかよ!? ……くだらないことに力を入れる奴だ。
クラインは当てが外れたかのように、落ち込み始めた。おいおい大丈夫か? 今からボス戦だぞ?

363: 2014/03/31(月) 20:01:09.67 ID:xsbbm4voo






アスナ「……それ、頂くわ」



比企谷「え?」




さっきまで黙っていたアスナが、急にそんなこと言いだすから、思わず聞き返しちまった。そして、キリトも意外そうな顔でアスナを見た。いや、実際意外だ。こういうことは嫌いそうに見えたんだがな。




クライン「マジで!? いやあさすが! 話がわかるじゃねえか嬢ちゃん!」





クラインはさっきまでの落ち込みが嘘のように、テンションアップしていた。おい、そのドヤ顔をやめろ。殴りたくなるだろ。


364: 2014/03/31(月) 20:01:36.09 ID:xsbbm4voo



アスナ「別に、ギルドに入りたい訳じゃない。ただ、同じパーティーの目印にはなるから」



比企谷「ああ、なるほど。バンダナつけてりゃわざわざ見分ける必要もないしな」




合点がいったぜ。
そういうことなら付けてもいいかもしれん。有象無象の中からバンダナを目印にできるなら、戦闘中も見失わずに済みそうだ。




クライン「いや、同じパーティーの顔くらい覚えてくれよ!」



いいだろ、付けるんだから。アスナは、そのバンダナを腕に括りつけた。俺はどうしようかと迷ったが、やはり俺も腕に巻きつけることにした。


……キリトは、まだ迷っているようだ。



365: 2014/03/31(月) 20:02:08.62 ID:xsbbm4voo





比企谷「……付けないのか?」




こういうことを言うのは俺らしくないし、余計なお世話かもしれない。……だが、昨日こいつと話した限り、口を出してもいい気がした。





比企谷「別に、付けてもギルドに入るわけじゃない。単純に、パーティーの目印ってことでいいんじゃねえか?」




キリト「…………そうだな。クライン、俺も付けるよ」



クライン「……! ああ! 頼む!」




クラインは、それでもいいみたいだ。まあ、こういう時しかこういう事しないだろうしな。ボス戦前のイベントみたいなもんだろう。……フラグにならなきゃいいけどな。





キリトは、「結構大きいな」と言いながら、スカーフのようにして首に巻いた。これで、疑似パーティー”簡易風林火山”の完成ってとこか?



366: 2014/03/31(月) 20:02:41.31 ID:xsbbm4voo

………………




そうこうしていると、攻略会議の連中が集まってきた。いや、もう会議じゃないから、攻略組ってところか?あ、ディアベルとええっと誰だっけ。モヤットボールでいいか。あいつら2人が、割と仲良さそうに話しながら広場に来た。……どうやら今日は、おかしなもめ事の心配はなさそうだな。





キリト「今日の俺たちの役割について、確認しておこうか」




キリトはパーティーリーダーらしく、チームの作戦確認を始めた。





キリト「俺たちの役目は、他の6人7パーティーのフォロー。つまり、”ボスの取り巻き(ザコ)処理”の取りこぼしやミスを補う係りだ」


まあ、簡単に言えば雑用だな。数の少ない4人パーティーだし、妥当な役割だろう。

367: 2014/03/31(月) 20:03:32.23 ID:xsbbm4voo




アスナ「……それだと、ボスに攻撃を当てられないじゃない」





……いいじゃねえか。わざわざ強い奴と戦いたいのか? こいつは戦闘狂かなんかなのか。



比企谷「一番おいしい役割だろ。安全で楽にアイテムと経験値が貰えるんだからな。ボスのアイテムなんか狙って取れるもんじゃねえし、それでいいじゃねえか。ええっと、フードの人?」




俺がわざと名前を呼ばずにそういうと、アスナはむっとした顔でこちらを見た。
どうやらキリトからしっかりレクチャーは受けたようだな。




アスナ「別に、名前でいいわよ」




比企谷「……そうかい」



ま、そうそう呼ばないと思うけどな。



368: 2014/03/31(月) 20:04:07.53 ID:xsbbm4voo




キリト「4人もいれば取りこぼすことはないと思うぜ。順調に倒していけばボスを狙えるチャンスも来るかもしれないしな」




こいつも戦闘狂かなんかなのか!? ……俺とキリト達の考えは、やはり根本的に違う気がう気がした。うん、違う。そんなことを言っていると、クラインは突然声をあげた。




クライン「ふっふー燃えるぜ! とうとうボス戦なんだな……!」




比企谷「……」


アスナ「……」


キリト「…………ああ!」





俺たちは、少なからず緊張しているらしい。

369: 2014/03/31(月) 20:04:33.88 ID:xsbbm4voo

いや、この攻略組全員が、そうだろう。俺たちは今日、SAO第一層のボスを倒しに行く。倒せると決まったわけじゃないが、できれば誰も氏なずに倒せればそれが一番いい。




そして時刻は10時。出発の時間だ。噴水広場には、昨日とまったく同じメンツが揃っていた。ディアベルは顔と人数を確認すると、大きく合図を出した。






ディアベル「みんな揃ったみたいだな! では出発!」




「おおおおおおおおおおお!!!!!!」




攻略組は、呼応するように咆哮した。





390: 2014/04/01(火) 07:25:55.20 ID:WPbgmwUPo

俺たちは今、総勢46人の攻略組として、第一層フロアボスのところへ向かっている。
こうして大勢でゲーム攻略に向かうのは初めてだが、どこか小学校での遠足を彷彿させる光景だ。


ちなみに、その時も今も、俺のポジショニングは最後尾である。
ボッチだからなのかわからないが、映画館でも後ろのほうが好きだ。


まあ、今は”簡易風林火山”の連中と一緒だからボッチではないけどな。


クライン、キリト、アスナは、俺の数歩前を歩いていた。アスナはほとんど喋らないが、クラインはしきりに2人に話しかけていた。……おそらく、どうしても正式に風林火山に入ってほしいのだろう。


俺は、その会話の邪魔をしない(巻き込まれない)ように、少し離れたところを歩いている。せいぜい頑張ってくれ、クラインよ。


こうして歩いていると、いまだにここがゲームの中とは思えないほどの景色が広がっているのがよくわかる。この風も、温度も、木の匂いも、すべて擬似的なものなのだ。まったくもって、技術の発達は恐ろしいな。


  


391: 2014/04/01(火) 07:26:37.33 ID:WPbgmwUPo




そんなことを考えながら歩いていると、前のほうから大きな斧を背負った男が後ろのほうへ歩いてきているのが見えた。当たり前だが、攻略会議で見覚えのある奴だ。



……あれ?後ろのほうっていうか、俺のほうじゃね?







???「よう! 調子はどうだ?」






その男は、誰かに話しかけた。……いや、どう見ても俺に話しかけている。だって周りに俺以外誰もいねえし。




392: 2014/04/01(火) 07:27:28.76 ID:WPbgmwUPo




比企谷「ええっと、調子いいです……」





男の威圧感に押され、つい敬語で答えてしまった。怖い。





???「おっとすまん、自己紹介がまだだったな。俺はエギルという。よろしく!」



比企谷「え? あ、はい。俺はヒキって言います」



エギル「おいおい、ここはゲームの中なんだ、ため口で構わないぜ!」






しょうがないだろ、怖いんだから! でも、溜め口でいいって言ってるのにわざわざ敬語を続ける度胸は俺にはない。


393: 2014/04/01(火) 07:28:58.29 ID:WPbgmwUPo




比企谷「お、おう。よろしく」



エギル「ああ! ヒキ、昨日の演説、素晴らしかったぜ! 俺もキバオウの奴に一言言ってやろうと思ったが、あれほど説得力のある言葉は用意できなかった」





……わざわざそんなことを言いに来たってことは、βテスターか?


いや、そんなこと言えばバレることくらいわかるはずだし、一般プレイヤーだろうか。ずいぶんと情に熱い奴もいたもんだ。いや、それを言ったらクラインもそうか。





比企谷「演説なんて大層なもんじゃないぞ。ただの一般論だ」



エギル「それでも、あの場で言えることに大きな意味があるのさ! きっと君に感謝しているのは一人や二人じゃないはずだぜ!」





まあ、そういうことならそう受け取ってもらっても別に問題はないか。わざわざ否定するのも面倒だしな。



394: 2014/04/01(火) 07:29:26.99 ID:WPbgmwUPo




エギル「今日はお互い、がんばろうな!」




エギルはそういうと、握手を求めてきた。ここはアメリカか?




比企谷「お、おーけー」




吃驚して英語で答えちまった。



俺が握手すると、エギルは満足したのか「またな!」と言って早歩きで元の場所へ戻って行った。
ああ、怖かった……。

395: 2014/04/01(火) 07:30:48.83 ID:WPbgmwUPo
……………






しばらくした後、今度は別の奴が後ろのほうへ来た。……というか、俺のほうへ来ていた。流行ってんのか?
今度は誰だ?


あいつは……! 






……駄目だ、モヤットボールで覚えたせいで名前が出てこねえ! 






モヤットボール「おい、情報屋! あんさんに言いたいことがある!」





その前に、名前を教えてくれませんかね。


396: 2014/04/01(火) 07:31:25.69 ID:WPbgmwUPo


いや、言いたいことってなんだ? またβテスターが気に食わないとか言い出す気じゃないだろうな。





モヤットボール「ワイは、ワレが気に食わん!」





って俺かよ! 一体何がだ? と尋ねるまでもなく、言葉をつづけた。





モヤットボール「あんさんは情報屋なんやろ? なら、なんで昨日ワイに言った事を、広めんかったんや! あそこまで考えがおよんどるなら、それを皆に伝えたらよかったやないかい!」








………なるほど、そういうことか。

397: 2014/04/01(火) 07:32:07.98 ID:WPbgmwUPo





それは……確かに間違ってねえよ。


俺はアンタを、ただの先走ったバカとしか思ってなかったが、違ったみたいだ。俺の考えを認めた上でそう言えるなら、なかなか理解のある人間だよ。


俺は、2000人近い犠牲者が出たことは1週間前から知っていたし、その時すでにあの考えはあった。







……そして俺は、注意を呼び掛けるなんてことをしなかった。



398: 2014/04/01(火) 07:32:34.36 ID:WPbgmwUPo



いくら情報通でも、俺1人の意見が8000人に通じると思えないし、そもそも考えもしなかった。


……いや、広める努力をしなかった時点で、俺には言い訳する権利はないな。人の命がかかってるんだ、めんどくさいなんて言って逃げれる問題じゃない。





俺が黙っていると、奴は返事を待たずにこう言った。




モヤットボール「あんさんだけを攻め取るわけやない。やけど、命にかかわる情報はできるだけ皆に伝わるべきやとおもっとる。いくら自分が情報屋やゆうても、全部の情報を金で売るなんてことは、このキバオウが黙ってへんで!」




自己紹介ありがとう。


キバオウは言いたいことを言って満足したのか、前の方へ走って行った。




399: 2014/04/01(火) 07:33:39.54 ID:WPbgmwUPo






俺は極力、命にかかわる情報は開示しているし、タダで渡している。だが、自分の考えまでもは明かしたりしない。それをするのは、ディアベルや、それこそキバオウのような人間が適任じゃないだろうか。



俺はボッチ根性が染みついているから、人の命がかかわるような場面で自分の意見を通す勇気が、ないんだ。






俺はキバオウの言っていたことを、しばらくずっと考えていた。もしかしたら、俺がもっと早くアイツに会っていたら、2000人の氏者という被害を、減らせたのかもしれない。まあ、全く気が合わないだろうから、一緒に行動したりしないだろうけどな。






クライン「おーいヒッキー! 早く来いよ! そろそろ着くらしいぜ!」


比企谷「あ、ああ」






……いつの間にか、ボスの部屋の近くまで来ていたようだ。





俺は、人との情報のやり取りを甘く見ていたのかもしれない。


俺は…………。





400: 2014/04/01(火) 07:34:27.15 ID:WPbgmwUPo

………………








数分後、俺たち攻略組はボス部屋の前に来ていた。


先頭に立つディアベルは、扉の前にいる。




ディアベル「みんな、俺から言うことはたった一つだ!」


ディアベル「勝とうぜ!!」




……本当に、皆をまとめるのが上手いやつだ。
俺、クライン、キリト、アスナの四人は、陣営の後ろについている。全員、覚悟を決めた表情で立っていた。


ディアベル「……行くぞ」


ディアベルはそういうと、ボス部屋の扉を開いた。





435: 2014/04/02(水) 06:30:23.60 ID:3YiufTD5o
SAO第一層のボスの名は、”イルファング・ザ・コボルドロード”。
身の丈2メートル、武器は骨斧を使う。HPバーが4つあり、3つ以上削ると武器を湾刀(タルワール)に変える。


そして、ボスの取り巻きの名は、”ルインコボルド・センチネル”。
身の丈は人と変わらず、斧槍を使う。初めは3匹しかいないが、ボスのHPバーが一本減るたびに3匹増える。


これが、俺たちの知っている情報だ。この情報は”鼠のアルゴ”と呼ばれる情報屋が出した、ガイドブックに載っていた。……ご丁寧に、”この情報はβテスト時のものです。”とまで書いてあったので、おそらくあの情報屋はβテスターだろう。よくも恨まれるかも知れないのに、そんなこと書いたもんだ。




436: 2014/04/02(水) 06:31:06.62 ID:3YiufTD5o






……しかし、いくら情報で知っていても実際見ると全く印象が違う。


ディアベルが扉を開いたときに見えたボスの印象は、


比企谷「でけえ……」


だった。




軽く2メートルを超えるその巨体は、今まで戦ってきたどのモンスターよりも大きい。だが、その姿を見て萎縮している奴は少ないみたいだ。すでに全員、臨戦態勢に入っている。……俺もビビってる場合じゃねえな。


437: 2014/04/02(水) 06:31:32.95 ID:3YiufTD5o


ボスの取り巻きは情報通り、3匹待機している。


そいつらは俺たちの姿を発見すると、獣の雄叫びをあげてにこちらへ突っ込んできた。





キリト「……行こう!」



クライン「ああ!」




その応答に対し、俺とアスナは頷いて答える。



「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


先行部隊が取り巻きに向かっていき、ギーンと響くような音を上げて剣を交わした。


……俺達の出番だ。







438: 2014/04/02(水) 06:32:46.45 ID:3YiufTD5o






………………………









……あれ? ボスの取り巻き処理ってこんなに簡単なのか?







俺がそう思ったのは、2匹目の雑魚を倒し終わったときである。
かかった時間は、約1分。……マジかよ。


作戦がよかったとか、そう問題じゃない。……キリトとアスナが強すぎるんだ。
雑魚といっても、特殊な鎧のおかげで首以外狙うところがない。だが、あの2人は狭い的に対してすべて直撃させている。しかも、使っている武器は片手剣や細剣で、俺のような直撃が出やすい短剣じゃない。


こいつら、俺が思っていた3倍は強いんじゃないか?

439: 2014/04/02(水) 06:33:13.72 ID:3YiufTD5o
特にアスナなんか、初心者同然だと思っていたのに、



アスナ「……!」



……速い。剣筋が見えないほどのスピードで敵を貫いている。
こんなに速いスピードでソードスキルを出す奴を、俺は見たことがない。



俺とクラインが敵の武器をはじき、キリトとアスナが喉に直撃させる。……という動きだけで、あっという間に3匹倒してしまった。取りこぼしやミスのフォロー? 何の事だっけ?





キリトチームがすべての雑魚を倒し終わった時、他の雑魚処理担当は唖然としていた。……というか、目の前で一緒に戦っている俺ですら唖然としている。

440: 2014/04/02(水) 06:33:43.49 ID:3YiufTD5o




キリト「よし、まだ1本目のHPバーは残ってる。援護しに行くぞ!」


アスナ「了解!」


クライン「おうよ!」


……マジかよ。




いや、俺とクラインも確実に敵の攻撃を弾くことに成功しているし、足手まといになっているわけじゃない。だが、あの二人のゲームセンスは次元が違う。何だこいつら!



441: 2014/04/02(水) 06:34:20.38 ID:3YiufTD5o




ディアベル「……強い」




ディアベルは見方に指示を出しながら、そう呟いた。
この言葉がボスに向けられた言葉じゃないことくらい、俺にもわかる。




キバオウ「なんなんやあいつら! ……強すぎるやろ」




いや、強すぎるのはあの二人だけだよ!



俺達が援護しに行くと、すぐに1本目のHPゲージがなくなった。……これ、思った以上に早く終わりそうだな。


再び3匹の雑魚が出現し、俺達はそいつらに標準を合わせる。
俺が短剣で突っ込み敵の槍斧を上に弾くと、




キリト「いけっ……!」




即座に喉を貫いた。怖! 俺まだ隣にいるんですけど! ってかさっきより速くなってね!?



442: 2014/04/02(水) 06:35:15.11 ID:3YiufTD5o




クライン「もういっちょ弾くぞお!」




キリトの次に、クラインが飛び出し、ギンという音を立てて剣を弾く。すると、敵の斧槍は宙を舞い、丸腰になった。……ほんとにボスの取り巻きかよこいつら。不甲斐なさすぎるだろ……。


クラインはそのまま続けて首を切りつけ、とどめを刺した。





クライン「よっしゃあああ! 初撃破あ!!」


キリト「グッジョブ!」


比企谷「……」


キリト「ヒキも、ナイスアシストだ! こんなに上手いなんて思わなかったぜ!」




いや、それ完全に俺のセリフですから。
というかお前、テンション高くね? さっきからノリノリじゃねえか。


なんというか、いや、言葉にできねえ。



443: 2014/04/02(水) 06:36:01.36 ID:3YiufTD5o




アスナ「はあっ……!」





アスナも、当たり前のように敵の武器を弾く。
俺は、”アスナは百戦錬磨の武将かなんかなのか!?” なんて思いながら、敵の首を切りつけた。 



444: 2014/04/02(水) 06:36:28.64 ID:3YiufTD5o


………………





しばらくして、ボスのHPゲージが最後の一本になった。ここまでは怖いくらいに順調である。むしろ余裕だ。俺は、再び沸いた雑魚3匹の相手をしながら、状況を確認した。


ボスのHPは残り一本。雑魚は3匹。いや、今2匹になった。
攻略組の氏者は、一人も出ていない。……当然だ。雑魚処理をキリトチームだけで終わらせるもんだから、必然的にボスへの対処が簡単になる。つまり、ボスへの攻撃が通りやすいということだ。






……これは、余裕だな。

445: 2014/04/02(水) 06:37:22.53 ID:3YiufTD5o
おそらく、俺たちが雑魚を倒し終わる頃には、ボスも倒されていることだろう。
俺たちは雑魚処理に集中していれば問題なさそうだ。





俺がそう、確信した時だった。ボスの最後のHPバーが残り3分の1を迎え、武器を湾刀に切り替えた。





……あれが、湾刀か? 想像していたものと違うな。
するとディアベルはなぜか、見方を後退させた。……なぜ?







446: 2014/04/02(水) 06:37:58.32 ID:3YiufTD5o







キリト「……! 駄目だ、行くな! 全力で後ろに跳べ!!!」








ディアベルがボスに突っ込んでいくと、キリトが突然叫んだ。おい、前から雑魚が来てるぞ!
俺はキリトの前に出て、敵の攻撃を剣で受けた。



比企谷「キリト! 前見ろ!」


キリト「……!!」




俺が間一髪でフォローに入ったおかげで、なんとか最悪の事態は防げたようだ。
アスナが即効とどめを刺し、最後の雑魚は消えた。



447: 2014/04/02(水) 06:39:09.15 ID:3YiufTD5o





……だが、最悪の事態は、防げていなかった。






俺がもう一度振り向くと、ディアベルはボスに正面から切りつけられて、宙を舞っていた。



ボスの動きは、どう見ても湾刀のモーションではない。……一体、何が?






キリトは、即座にディアベルの元へ走って行ったが、






ダメージ回復は間に合わなかった。

448: 2014/04/02(水) 06:39:37.47 ID:3YiufTD5o











…………ディアベルはキリトに何かをつぶやいた後、光とともに消えた。










470: 2014/04/02(水) 18:22:22.04 ID:3YiufTD5o
今日は2回更新できそう


8時に投下

475: 2014/04/02(水) 19:44:12.33 ID:3YiufTD5o
もし、あの場面でディアベルが、1人でとどめを刺しに行かなかったら、





キバオウ「……嘘、やろ……」





もし、俺達が自分たちの強さを把握し、チームの作戦をボス撃破に変更していたら、





クライン「なんでだ……?」





もし、キリトが、ディアベルと一緒に戦って入れば、






キリト「…………っ」






ディアベルは、氏ぬことはなかっただろう。




476: 2014/04/02(水) 19:44:45.77 ID:3YiufTD5o





俺は、ディアベルが消えた瞬間から、全く動くことができなかった。
ディアベルを頃したボスは、勝ち誇ったように咆哮している。


やつが持っている武器は、湾刀ではなかった。カタナのような形状をしたそれは、俺が今までで一度も見たことがないものだ。……情報が間違っていたのか? いや、違う。情報は、”βテスト時のものです”とあった。




つまり、β時代と武器を変えた……?




β版から正式版にする際の、”仕様変更”。それが、ボス戦闘にすら存在したのか?





そんな事、予想できるわけないだろ……。


477: 2014/04/02(水) 19:45:13.19 ID:3YiufTD5o


いや、予想できなかったとしても、知らない武器相手に突っ込むべきではなかった。
だが、あの場面で武器の形状に気付かなかったとしても、不思議じゃない。奴は情報通り武器を持ちかえた。だから、情報通りの武器に持ち替えたと錯覚してもおかしくないんだ。



おそらくディアベルは、湾刀のモーションを網羅していたはずだ。だからこそ、あの場面で1人で突っ込んだのだろう。
だが、実際敵が出したモーションは、ディアベルの知らないものだった。さっきまでディアベル、いや、もしかしたら攻略組全員が、勝利を確信していたに違いない。




茅場、お前は一体、どれだけ俺たちを絶望させれば気が済むんだ?






俺が茫然と立ちすくむように、他の連中も未だに唖然としていた。ボスから逃げるので精いっぱいのようだ。




478: 2014/04/02(水) 19:45:41.34 ID:3YiufTD5o




これ以上は、限界かもしれない。










………………撤退、だな。








この状況じゃいくらボスのHPが少なくても、さらに多くの犠牲者を出しかねない。今でも、ボスの動きに翻弄され、多くの見方がダメージを受けている。かくいう俺も、衝撃が大きすぎて戦えそうにない。




479: 2014/04/02(水) 19:46:21.76 ID:3YiufTD5o




しかし、俺がそう考えた瞬間。






キリト「援護、頼む!」





キリトがボスに向かって走り出した。




アスナ「了解」



クライン「……応!」



そして、アスナとクラインも、それに続いたのだ。



480: 2014/04/02(水) 19:47:00.82 ID:3YiufTD5o



……ウソだろ?


なんでお前らはそんなに簡単に進むことができるんだ……?




こんなに多くのやつが戦意喪失してるんだ、今は諦めて…………。









いや……違う。





あいつらは、ここで諦めることがどういう意味かを分かっているんだ。


俺たちは今、SAOで生き残った人間、全員の期待を背負っている。ここで負けて帰ったら、二度と立ち上がることができないだろう。それが、あいつらには分かっているんだ。


481: 2014/04/02(水) 19:47:32.31 ID:3YiufTD5o





どんな時でも希望を捨てずに、諦めない。



俺には絶対にできないことだ。



……俺が、しないことだ。





俺には、あの3人が眩しすぎた。






…………だが。


482: 2014/04/02(水) 19:48:32.52 ID:3YiufTD5o






比企谷「おいお前らああああ! いつまでもぼーっとしてんじゃねえ! さっさと援護しろ!」







諦めないやつがいるのなら、俺は全力でフォローしようじゃないか。


エギル「……おお!」


キバオウ「……!」



俺は、さっきまでの自分を棚に上げて、立ちすくむ見方を煽った。ただ立っているだけだと、敵の標的になりかねないし、邪魔だからだ。そして、戦えるのならば是非もない。



敵の動きが予想できないなら、ターゲットを分散させるべきだ。正面から援護させて、敵の攻撃をバラけさせる。


「おおおおおおおおおお!!」


戦意を失っていた連中は、俺の言葉が届いたのかわからないが、意識を取り戻したかのように雄たけびを上げた。




そして俺は、



全力で走った。




483: 2014/04/02(水) 19:49:28.33 ID:3YiufTD5o








キリト「はああああっ!!!」






ギイインと響くような音を立てて、キリトがボスの武器を弾いた。それに続くように、アスナとクラインが攻撃を与える。だが、ボスの反応速度も速いため、とても3人じゃ攻撃が間に合わない。




エギル「おおお!!」




しかし、その心配はないみたいだ。先ほど立ち上がった見方は、すでに援護体制に入っている。




キリト「敵の背後まで囲むと、全体攻撃が来るぞ! 前方だけで対応するんだ!」





キリトは、見方に指示を出しながらボスの攻撃を受け流した。

484: 2014/04/02(水) 19:50:35.02 ID:3YiufTD5o




だが俺は、奴の後ろに回り込んでいた。


……キリト、それは奴が気づいていればの話だろ?





奴は、俺の存在に気づいていない。別に、俺の影が薄いからってわけじゃないぜ? 隠蔽スキルを使っているだけだ。安全確保のために上げておいたスキルだが、当然戦闘にだって使える。





俺は短剣を構えて、後ろから突撃した。




485: 2014/04/02(水) 19:51:11.82 ID:3YiufTD5o



その攻撃は、ボスの首元に直撃した。奴は大きなうめき声をあげながら、こちらを向く。
おそらくボスには大したダメージは与えらていないだろう。しかし、ターゲットをこちらに移すことはできた。







比企谷「……トドメを、させ!」







俺の声はおそらくキリトまで届いていない。しかしキリトは、俺が言いたいことがわかったかのように、







キリト「……任せろ!」






一気に敵を切り裂いた。






486: 2014/04/02(水) 19:51:38.02 ID:3YiufTD5o



……………………






空中に浮かぶ、”congratulation!”の文字。

それが浮かび上がった瞬間、フロア中から歓声が鳴り響いた。



どうやら、俺たちは勝ったらしい。




……だが、俺は素直に喜ぶことができなかった。





487: 2014/04/02(水) 19:52:04.21 ID:3YiufTD5o
ここまで

488: 2014/04/02(水) 19:52:25.67 ID:Ot+suUFk0
乙!

489: 2014/04/02(水) 19:52:29.63 ID:I+YBuHdXo
お疲れ様です

491: 2014/04/02(水) 21:11:54.82 ID:X5nTv4em0

引用元: 比企谷「ぼっち過ぎて暇だからSAOやる」