1: 2016/02/20(土) 20:59:59.212 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「まったくこいつは…」


ハルヒ「くぅ…くぅ…」


俺の嘆息など気にもとめずにハルヒはまた寝息を立て始める。


ちなみにここは俺の部屋であり、本日は休日だ。


本来ならば俺が惰眠を貪る為に存在している筈のマイベットをハルヒは我が物顔で占領し、この部屋の主であるこの俺が床に座らなければならないという異常事態が発生していた。

5: 2016/02/20(土) 21:02:09.999 ID:/9BYaBWJ0.net
現在の時刻は午前10時20分。


キョン「仕方ない…あと10分だけだからな」


聞こえているとは到底思えないが、一応最後通告を言い渡す。


11時から毎週恒例の不思議発見ツアーが控えている為、10時半には家を出なければ間に合わない。


次は何がなんでも叩き起こすぞ。と、決意を固めた俺は自分のベットに背をあずけ、長時間床に座っていたことによってすっかり冷えてしまった尻をさすりながら、先程まで装着していたイヤホンを付け直して音楽プレイヤーの再生ボタンを押した。

7: 2016/02/20(土) 21:04:05.581 ID:/9BYaBWJ0.net
イヤホンから流れるのはひと昔前に流行ったポルノグラフィティの『ROLL』という曲で、それは中学時代の親友である佐々木から借りたCDの中にカップリング曲として収録されていた。


佐々木という人物について説明すると


・女のくせに一人称が『僕』

・男子相手には尊大な口調
(女子には一人称も含めて普通に接する)

・常に慇懃な笑みを絶やさない


そんな一風変わった奴だった。

9: 2016/02/20(土) 21:06:22.751 ID:/9BYaBWJ0.net
そんな変わり者の佐々木は洋楽が好きで、俺は事あるごとに洋楽にまつわる薀蓄を聞かされていたのだが、ある日俺は邦楽で好きなアーティストはいないのかと佐々木に聞いた。


その話の中に出てきたのが、『ポルノグラフィティ』だった。


当時流行りのそのバンドの名前は音楽に疎い俺にも聞き覚えがあったので、おすすめのCDを何枚か借り、パソコンに取り込んで自分の音楽プレーヤーの中に入れさせて貰った。


ちなみに佐々木の一押しは『愛が呼ぶほうへ』という曲で、その理由を聞いた俺に佐々木はこう答えた。

10: 2016/02/20(土) 21:08:04.251 ID:/9BYaBWJ0.net
佐々木「僕がこの曲を好きな理由を挙げるならばそれこそキリがない。一般的に人がどのようにして自分に合った曲を見つけ出すのかという質問ならば簡潔に答えを提示できるが、それでも構わないかい?」


構わないと俺は答えた。


佐々木「キョン、人は音楽に自分を重ね合わせる生き物なんだよ。その歌詞やリズムが自分の性格や生い立ち、生き方に当て嵌るものを好ましいと感じるんだ。あくまでも一般論だが、僕がこの『愛が呼ぶほうへ』という曲を好ましいと感じるのは、つまりそういうことさ」


そう言って佐々木は自嘲気味にくつくつと笑った。

12: 2016/02/20(土) 21:10:04.921 ID:/9BYaBWJ0.net
この佐々木の一般論とやらは当時の俺にはさっぱり理解出来ず、佐々木もそれを承知で小難しいことを並べ立てたに違いない。

佐々木が当時どのような心境だったのかなんてことは今でもわからないが、今になってわかったことも確かにあった。


佐々木の一般論に当て嵌めるならば、俺はこの『ROLL』という曲が好きだ。


佐々木から借りた時には漠然といい曲だとしか感じなかったが、今の俺ははっきりとこの曲を好ましいと断言できる。


涼宮ハルヒが消失したあの一大事件。


あの事件の後、俺はこの曲を好きになった。

13: 2016/02/20(土) 21:12:03.083 ID:/9BYaBWJ0.net
さて、そろそろ脇道に逸れに逸れてしまった物語を本筋に引き戻そうか。

まず俺が語らなければならないことは、なぜハルヒがここで寝ているのかということだろう。


これを説明しないことには話が進まない。


ことの顛末を語る前にハルヒが俺の部屋で寝ているというこの状況について、変な誤解や勘違いを持たぬように前以て言っておくが、別に俺はハルヒと共に一夜を過ごしたわけではない。


こいつは今朝俺の家に押しかけ、ベットを占領した。


ただ、それだけである。

14: 2016/02/20(土) 21:14:03.078 ID:/9BYaBWJ0.net
時刻は8時前だったと記憶している。


俺の安眠はけたたましい呼び鈴の連打によって阻害された。


ピンポーン

ピンポンピンポンピンポンピンポン…


キョン「いい加減にしろ!!」


飛び起きた俺は肩を怒らせ玄関の扉を開けた。


すると…


ハルヒ「遅いじゃないの!さっさと開けなさいよ!!」


ドアの前に迷惑女が立っていた。

16: 2016/02/20(土) 21:16:02.311 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「ハルヒ…?なんでお前が?」


まだ不思議発見ツアーの待ち合わせには充分余裕がある筈だ。

急ぎの用件か何かでもあるのだろうか?


ハルヒ「あんた、いっつも遅刻ばっかするから起こしに来てあげたのよ。今から起きてれば遅刻の心配ないでしょ?」


そんなことを抜かすハルヒに俺は愕然とし、その隙にハルヒは俺の家に上がり込んだ。


ハルヒ「おっじゃましまーす!」


邪魔だと思うなら帰ってくれよ。

18: 2016/02/20(土) 21:18:01.970 ID:/9BYaBWJ0.net
既に上がり込んでしまったハルヒを追い出すことはもはや不可能であり、仕方なく俺はハルヒを部屋に通した。

するとこいつは…


ハルヒ「ていっ!」


部屋に入るや否や俺のベットにダイブしやがった。


キョン「おいハルヒ!何なんだよお前は!?」


ハルヒ「うっさいバカキョン。まだ時間はたっぷりあるんだから、その間私が何しようと勝手でしょ!」


勝手なわけあるか。

20: 2016/02/20(土) 21:20:02.455 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「お前、いい加減にしろよ」


いつにも増して奔放過ぎるハルヒに俺は苦言を呈す。


ハルヒ「仕方ないじゃない。最近よく眠れないんだから…」


ハルヒは呻くようにそう言う。


そう言えば最近、ハルヒは元気がないように思えた。

表面上はいつも通りであるが、ふとした瞬間に陰鬱な表情がチラホラ見て取れたことを思い出した俺は、途端に心配になってきた。

21: 2016/02/20(土) 21:22:02.811 ID:/9BYaBWJ0.net
こいつが憂鬱を感じると、世界が崩壊し兼ねない。

睡眠不足が原因ならば、それを解消する策を講じる必要がある。


それに、俺個人としても…ハルヒの憂鬱な顔など見たくない。


キョン「寝れないって、何か悩みでもあるのか?もし良かったら話してみろよ」


そんな俺の言葉にハルヒ怒ったようにこう返した。


ハルヒ「別に…何でもないわよ。いいからあんたはさっさと顔洗って準備して来なさいよ!」


この女…


俺は封印したあの感動詞を使いたくてたまらなかったが、ぐっと堪えて支度をするべく部屋を出た。

23: 2016/02/20(土) 21:24:05.474 ID:/9BYaBWJ0.net
そうして支度を終えて部屋に戻ると、既にハルヒは寝息を立てていた。

これが今朝の出来事の顛末である。

ちなみに俺は10時と10時10分にもハルヒを起こそうと試みたが、いずれも失敗に終わっている。


回想を終えた俺が時計を確認すると時刻は10時半になろうとしていた。


この間ずっとリピートを繰り返していたイヤホンからは、三週目の『ROLL』の出だしが鳴り始めている。

不思議発見ツアーに遅刻しない為にも、今度こそハルヒを起こさねばならないが、そもそも俺を遅刻させまいと頼んでもないのにわざわざやって来たハルヒを、なぜ俺が起こす羽目になってしまったのやら…

世の中とはままならないものである。

24: 2016/02/20(土) 21:26:01.880 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「よしっ!」


意を決して背後のハルヒを揺する。


キョン「ハルヒ!10時半だ。そろそろ起きないと遅刻しちまうぞ!!」

ハルヒ「ん~…あと10分…むにゃむにゃ…」

キョン「何度同じ台詞を繰り返せば気が済むんだお前は!!いいから早く起きろ!!」

ハルヒ「むー…うっさい…バカキョン…むにゃむにゃ…」


この野朗…

26: 2016/02/20(土) 21:28:01.733 ID:/9BYaBWJ0.net
こうなりゃ意地でも起こしてやる。


俺はまず布団を剥ぎ取ろうとしたが、ハルヒの馬鹿は布団にしがみ付いて離そうとしない。

やむ終えず俺は手法を変更し、ハルヒの足をくすぐる作戦を実行に移すことにした。


そして下半身を覆っている布団を剥いだその瞬間、俺は世界が止まったかのような感覚に陥った。


キョン「…ッ!」


そこには、ニーソに包まれたハルヒのおみ足が鎮座していた。

29: 2016/02/20(土) 21:30:04.949 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「くそっ…何見惚れてるんだ俺は…」


別にハルヒのニーソ姿など珍しいものではない。

なにせこいつは制服の時もニーソを着用しているのだから、もはや見飽きていると言っても過言ではない。


だが、休日限定の私服にニーソの組み合わせはなかなかの破壊力があった。


今日のハルヒは青のスウェットミニワンピに黒ニーソという出で立ちであり、黒ニーソ自体は見慣れたものだったが、その見慣れた黒ニーソを別次元の高位な存在であるかのように俺を錯覚させたのはひとえにこのスウェットミニワンピの仕業である。

30: 2016/02/20(土) 21:32:07.408 ID:/9BYaBWJ0.net
有り体に言って、めちゃくちゃ似合っていた。


しかしだ。


キョン「人の布団に靴下を履いたまま潜り混むのは頂けないな…」


明らかにマナー違反である。

そうして俺は足の裏をくすぐるのはさておき、とりあえずニーソを脱がすことにしたのだった。

31: 2016/02/20(土) 21:34:02.736 ID:/9BYaBWJ0.net
スウェットミニワンピとニーソの間の絶対領域に手を伸ばし、呼吸を整える。


大丈夫だ。

別にやましいことなんか一つもない。

俺はただ、この常識外れの馬鹿に世の中の常識って奴を叩き込んでやるだけだ。


キョン「ふぅ…」


深呼吸をした俺はニーソに手をかけ、それをゆっくりと下ろしていった。

32: 2016/02/20(土) 21:36:02.357 ID:/9BYaBWJ0.net
ゆっくり、ゆっくり、慎重に。


本来ならばハルヒを起こす為にも盛大に脱がすべきなのだろうが、この時俺は本来の趣旨などすっかり忘れてしまっていたので、如何にハルヒに気付かれずにニーソを抜き取るかのみに囚われていた。


あと、少しだ…


踵を慎重に持ち上げ、つま先からとうとう靴下を抜き取ることに…成功…した。



キョン「ッ!!」



俺は、やり切ったんだ!!

36: 2016/02/20(土) 21:38:12.006 ID:/9BYaBWJ0.net
俺の胸は達成感に満たされた。


よし。

それじゃあ、もう片方も…

そう思い、手を伸ばしかけた俺はすんでのところで思い留まる。


キョン「いや、これはこれで…」


真上からハルヒの両足を俯瞰した俺は、片側だけニーソというアシンメトリーに新たな可能性を見出した。


じっくりと様々な角度から検証した結果、これ以上手を加える必要はないと判断した俺は、脱がせたニーソをとりあえず、暫定的にであるが、ポケットの中にしまった。

37: 2016/02/20(土) 21:40:16.030 ID:/9BYaBWJ0.net
とりあえず自分の創り上げた芸術に満足した俺だったが、そこで唐突に本来の趣旨へと立ち返り、ハルヒの様子を伺った。


ハルヒ「くぅ…くぅ…」


…まだ寝てやがる。


俺に靴下を脱がされたくせに、すやすや気持ち良さそうに寝ているハルヒにだんだん怒りが芽生えて来た。


キョン「えいっ」


シュルッとトレードマークの黄色いリボンをほどいてやった。

しかしハルヒはまだ起きない。

38: 2016/02/20(土) 21:42:04.186 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「ほほう…そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ」


ほどいたリボンをまたポケットにしまった俺は、再びハルヒの足元に回り込み、素足の方に顔を近づけ、舌を伸ばした。

さすがのハルヒも足を舐められれば起きざるを得まい。

横目でハルヒの様子を伺いながら舌を伸ばしていると、ふとスカートの中に紐の様なものが見えた。


誤解しないで貰いたいが、俺は別にスカートの中を覗こうとしたわけじゃない。

足元からハルヒの様子を伺った時にたまたま、偶然、思いがけず目に留まっただけである。


ちなみハルヒのパンツの色はオレンジだった。

40: 2016/02/20(土) 21:44:02.461 ID:/9BYaBWJ0.net
スカートの中の紐の謎を解き明かすべく、足を舐める事も忘れ、顔をそちらに近づけていった俺に…


ハルヒ「キョン…」


突如ハルヒが声を掛けてきた。


キョン「い、いや違うんだ!!俺は別にお前のスカートの中を覗こうとかそんなことはこれっぽっちも…」


ハルヒ「キョン…むにゃむにゃ…行かないで……むにゃむにゃ…」


は?

41: 2016/02/20(土) 21:46:01.832 ID:/9BYaBWJ0.net
恐る恐る様子を伺うと、ハルヒはどうやらまだ寝ているようだった。


キョン「な、なんだ寝言か…」


ほっと胸を撫で下ろした俺だったが、ハルヒの目から涙が流れていることに気付いて、胸が締め付けられる感覚を覚えた。


ハルヒ「キョン…お願い…行かないで…むにゃむにゃ…」


何度も俺の名を呼びながら涙を流すハルヒを見て、ハルヒが今観ている夢は悪夢であり、それに自分が登場していることを察した。

42: 2016/02/20(土) 21:48:01.858 ID:/9BYaBWJ0.net
恐らく、最近眠れないというのはこの悪夢の所為だろう。

涙を流すハルヒは…見てられなかった。


キョン「大丈夫だ…俺はここにいる」


そう呟き、ハルヒの手を握る。

付けっぱなしだったイヤホンから流れる『ROLL』は、ちょうど終盤の山場に差し掛かっていた。

43: 2016/02/20(土) 21:50:02.098 ID:/9BYaBWJ0.net
この曲を聞くと、ハルヒの消えた世界で体験したことや、元の世界に戻って来たあの時の感覚が呼び起こされる。


ハルヒの居ない世界の恐怖。

どうにかこうにか戻って来た俺のすぐ隣でミノムシみたいに寝袋に包まれたハルヒ。

そんなハルヒに触れたあの時の感覚。


それを代弁してくれるこの曲が、俺は好きだった。

44: 2016/02/20(土) 21:52:02.180 ID:/9BYaBWJ0.net
柄にもなく、そんな思いを抱きながら手を握っていると、やがてハルヒは安らかな寝息を立て始めた。


ハルヒ「くぅ…くぅ…」


どうやら悪夢は去ったようだ。

時計を確認すると、時刻は10時40分に差し掛かっている。


キョン「こりゃ遅刻間違いなしだな…」


俺はハルヒを起こすことを諦めた。

こんな様子のハルヒを起こすのはあまりに忍びない。

45: 2016/02/20(土) 21:54:04.959 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「とりあえず、古泉達に連絡しとくか…」


そう思ったその時、


ハルヒ「カプッ…ガジガジ…うまうま…むにゃむにゃ…」


ハルヒが繋ぎっぱなしだった俺の手を噛みやがった。


キョン「いってぇなこの野郎!?」


俺はハルヒの頭をぶっ叩いた。


起こすのが忍びないだとかそんな感情はこの時既に綺麗さっぱり消え去っていた。

47: 2016/02/20(土) 21:56:02.580 ID:/9BYaBWJ0.net
思いっきり噛みやがって。

くそっ…歯型がくっきり付いてやがる。

俺が涙目で噛まれた手をさすっていると、ようやくハルヒが目覚めた。


ハルヒ「ん…あ、おはよキョン」

キョン「おはようじゃないだろ。いつまで寝てるつもりだよ」

ハルヒ「へ?今何時?」

キョン「10時40分だ。遅刻間違い無しだな」

48: 2016/02/20(土) 21:58:02.296 ID:/9BYaBWJ0.net
ハルヒ「えぇ!?ちょっとキョン!なんで起こしてくれなかったのよ!!」


起こしたさ。何度もな。


ハルヒ「ほんっと使えない団員ね。まったく…って、あれ?」

キョン「どうした?」

ハルヒ「靴下片方ないんだけど…?」


そりゃそうだろう。

俺が脱がせたんだから。

49: 2016/02/20(土) 22:00:03.166 ID:/9BYaBWJ0.net
ハルヒ「あっ!リボンもなくなってる!?」


当たり前だ。

俺がほどいたんだから。


ハルヒ「ちょっとキョン!あんたの仕業でしょ!?さっさと盗ったもの返しなさいよ!!」

キョン「いや、そのコーディネートも悪くないと思うぜ?リボン無しのお前は新鮮だし、何よりその片側ニーソのアシンメトリーが芸術的で…」


ハルヒ「か・え・し・な・さ・い !!」


キョン「たく…仕方ないな…ホラよ」


俺はポケットからリボンを取り出して、ハルヒに投げ返した。

芸術とはいつの時代も理解されないものである。

50: 2016/02/20(土) 22:02:02.253 ID:/9BYaBWJ0.net
ハルヒ「ニーソは?」

キョン「知らん」


俺にだって護るべきものはあるのだ。


ハルヒ「何子供みたいなこと言ってんのよ。いいからさっさと返しなさいってば!」


その一言には流石に温厚な俺もカチンと来た。

何度起こしてもあと10分だのとほざき、挙げ句の果てに人の手を寝ぼけて食おうとしたこの女にだけは絶対にガキ扱いされたくない。


キョン「えいっ」


俺はそんな怒りの衝動に任せて先ほど見つけたスカートの中の紐を引っ張った。

51: 2016/02/20(土) 22:04:04.526 ID:/9BYaBWJ0.net
ハルヒ「ちょっとキョン!?」


おや?

ハルヒの顔が真っ赤になったぞ。

スカートの端からは片側のほどけたオレンジパンツが視認出来た。


なるほど

やはりそうだったか…


キョン「紐パンは…まだ早いんじゃないか?」


ハルヒ「氏ねっ!!」


グーパンで顔を殴られた。

53: 2016/02/20(土) 22:06:03.184 ID:/9BYaBWJ0.net
まったく今日は散々な一日だ。


安眠を妨害され、ベットは奪われ、終いには顔面をぶん殴られる。

そしてこれらは全て1人の女による犯行であり、放置国家であるこの国が何故こんな女を野放しにしているのだろうか?

そんなどこかで聞いたことのある文句をブツブツと呟いていると、髪とパンツを結び直したハルヒが俺のベットから降り、俺の足の間に背中を向ける形でちょこんと座った。


そんなハルヒの後頭部に俺は問いかける。


キョン「何やってんだお前?」

ハルヒ「ニーソ…履かせなさいよ」


そう言ってハルヒは足を浮かせた。

54: 2016/02/20(土) 22:08:05.148 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「は?」


俺が呆気に取られていると、ハルヒは後頭部で器用に頭突きを食らわせてきやがった。


キョン「いってぇな…何なんだよお前は…」

ハルヒ「あんたが盗ったのはわかってんの。いいからさっさと履かせなさいよ!!」


ハルヒはそう言って再び足を浮かせた。


この女…本当に頭が沸いてるんじゃなかろうか?


そんなことを思いながらも、俺はポケットからニーソを取り出してハルヒの足にそれを履かせてやった。


別に、興奮なんかしなかったからな。


本当だからな。

56: 2016/02/20(土) 22:10:02.816 ID:/9BYaBWJ0.net
靴下を履かせた後、俺はすぐにハルヒは足の間から退いてくれるものだと思っていた。

しかしハルヒはそのまま俺に対してもたれかかれり、ポツポツと話始めた。


ハルヒ「ねぇキョン」

キョン「なんだよ」

ハルヒ「聞きたいことがあるんだけど…」

キョン「どうした?」

ハルヒ「佐々木さんと…あんたって、どんな関係なわけ?」


なるほど。

それが今回の憂鬱の原因か。

57: 2016/02/20(土) 22:12:02.196 ID:/9BYaBWJ0.net
そう言えばこの間、SOS団の連中に佐々木と会っているところを見られたことがあった。

特に待ち合わせをしていたわけでもなく、偶然ばったり会って二言三言会話を交わしただけだったが、こいつは恐らくそれを気にしているのだろう。


キョン「前にも言っただろ。佐々木は中学の時の友達だって」

ハルヒ「親友って言ってたじゃない」

キョン「親友でも友達は友達だろ?」

ハルヒ「ぜんっぜん違うわよ」


なぜそこまでこだわる。

58: 2016/02/20(土) 22:14:01.526 ID:/9BYaBWJ0.net
ハルヒ「すごく仲良かったってことでしょ」


仲が良かったかと聞かれると返答に困るが、確かに親友と呼べる程には交流があったのは事実だ。


ハルヒ「佐々木さん…あんたのことは何もかもお見通しって顔してた」


いや、あいつが見透かしたようなことを言うのはただのキャラクター性だと思うのだが…


ハルヒ「羨ましいわ…」


ハルヒは完全にしょげていた。

59: 2016/02/20(土) 22:16:04.886 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「羨ましいって、何がだ?」

ハルヒ「私はあんたの過去を知らないもの。高校生になってからのあんたしか知らないから…だから私は…」

キョン「そんなこと、気にするな」


それを言うならば、俺だってハルヒと同じ中学出身の谷口のことを羨ましいと思ったり思わなかったりするわけで…


ハルヒ「私、あんたが中学時代に佐々木さんと仲良くしてるところを想像すると…もう…消えちゃいたくなるって言うか…」


そうハルヒが口走ったその瞬間、


キョン「ッ!?」


ハルヒが一瞬消えたような気がした。

61: 2016/02/20(土) 22:18:13.367 ID:/9BYaBWJ0.net
ハルヒ「なーんてね。冗談よ。冗談…」


そうハルヒは嘯いたが、俺はかなり切羽詰っていた。


なんだ今のは。

まさかこいつ、本気で?


涼宮ハルヒには世界を創り変える能力がある。

そんなハルヒが本気で消えたいと望んだら?


耳のイヤホンからは、既に何度目かわからない『ROLL』の3分30秒のあのフレーズが流れていた。

64: 2016/02/20(土) 22:20:11.705 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「ハルヒッ!!」


堪らず俺はハルヒを抱きしめた。


ハルヒ「ふぁっ…ちょっとキョン!?な、なな何すんのよ!!」


ハルヒはジタバタと暴れたが、そんなことを気にしている余裕はない。


あの、ハルヒの居ない世界で俺がどれだけ…

どれだけお前を…


お前を…消えさせてたまるか。

65: 2016/02/20(土) 22:22:01.462 ID:/9BYaBWJ0.net
しばらくハルヒはジタバタと暴れていたが、やがて大人しくなった。


俺はハルヒに触れ

ハルヒを抱き

その温もりや

呼吸を感じ

ハルヒの苦しみや悲しみに触れ


そして気づく


俺は…ハルヒを失いたくなかった。

66: 2016/02/20(土) 22:24:01.488 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「頼むから…消えないでくれ」


絞り出すように、そう懇願する。


ハルヒ「…ん」

キョン「消えないでくれ」

ハルヒ「…わかったってば」


わかってない。

お前は自分の能力を知らない。

だからこんな馬鹿なことを…

67: 2016/02/20(土) 22:26:03.527 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「もう二度と、消えたいなんて言うな!!


その瞬間、顔面に再び激痛が走った。


ハルヒ「わかったって言ってんでしょバカキョン!!いつまで抱っこしてんのよ!!」


こいつはこの状況でまた頭突きを…


しかし、やっぱり…


キョン「やっぱりお前はこうじゃないとな」


そうさ。

ハルヒはこうでなければ。

しおらしいハルヒなんざ、誰も望みやしないだろう?

68: 2016/02/20(土) 22:28:02.197 ID:/9BYaBWJ0.net
ハルヒ「まったく…冗談だって言ってんのにさ。本気になっちゃってバカみたい」


まったく…やはり柄じゃないことなんてするもんじゃないな。

俺が肩をすくめると、ハルヒは突然叫び声を上げた。


ハルヒ「あー!!」


なんだなんだ何ごとだ!?


ハルヒ「ちょっとキョン!!靴下のかかとのとこが上になってるじゃない!?もう一回ちゃんと履かせなさいよ!!」


……自分で履けよバカ女。

70: 2016/02/20(土) 22:30:04.206 ID:/9BYaBWJ0.net
ハルヒ「あんたが履かせたんでしょ?あんたが責任取るのが筋ってものじゃない」


へいへい。

仰せのままに。


俺がいそいそとハルヒの靴下を再び脱がせにかかると、ハルヒは外していた片側のイヤホンをひょいとつまみ上げ、それを自分の自分の耳に装着した。


ハルヒ「さっきからシャカシャカシャカシャカ何聴いてるのか気になってたのよね。あれ?あんた、ポルノなんて聴くの?へぇ~意外」


失礼な。

俺はポルノを聴くのも観るのも大好きだ。

71: 2016/02/20(土) 22:32:01.752 ID:/9BYaBWJ0.net
そこで俺はハルヒの靴下を履かせる手を一旦止め、リピートにしていた『ROLL』を停止し、一つ前の曲を再生した。

さっきの件もあり、流石にこの曲を聴き続けるのは気恥ずかしかった。


ハルヒ「あっ!この曲も知ってる。割と好きだったなぁ…えっと、なんて曲名だったかしら?確かヌメヌメ…」

キョン「ネオメロドラマティックだ。断じてヌメヌメなどしていない」


というかサビで思いっきり曲名が流れるだろ。

どんな感性をしているんだこいつは…

72: 2016/02/20(土) 22:34:03.182 ID:/9BYaBWJ0.net
ハルヒ「メロメロ?」


こいつ…わざとやってやがるな。


ハルヒ「ま、曲名なんてどうでもいいわ。いい曲よね。なんか元気になるって言うか、前向きになるって言うか…」


確かにこの曲はアップテンポで元気のいい曲だ。

湿っぽい空気を吹き飛ばすにはもってこいだろう。


ちなみにこの『ネオメロドラマティック』のシングルCDの中にカップリングとして収録されていたのが『ROLL』であると一応補足しておく。

73: 2016/02/20(土) 22:36:03.247 ID:/9BYaBWJ0.net
キョン「ほら、靴下出来たぞ」


そうこうしている内に俺はニーソを履かせ終えた。


今回は完璧だ。

一週間はこのまま着用して頂きたい。


ハルヒ「ん。ありがと」


気のない返事をしたハルヒだったが、思い付いたようにこう付け加えた。


ハルヒ「それから…べ、別に格好つけて言うわけじゃないけど、さっきもありがとね!……おかげで元気出たから…」

75: 2016/02/20(土) 22:38:03.460 ID:/9BYaBWJ0.net
そんな風に格好つけて言うハルヒは、先ほどの自分を見ているようで俺はなんとも言えない気持ちを味わうことになったが、まぁ一般的に人間なんてこんなものなのだろう。


時刻は10時50分。


古泉達に少々遅れるとメールを送り、俺はハルヒの手を引き立ち上がる。


キョン「よし。そろそろ行くか」

ハルヒ「今日こそはあっと驚く不思議を見つけ出してみせるわ!!」


そう意気込むハルヒはすっかり元通りだ。


その輝く笑み見つめながら

別に格好つけて言うわけじゃないが




俺には

どうやらハルヒしかいないみたいだ

と、思うのだった。




FIN

76: 2016/02/20(土) 22:40:36.180 ID:HXStCl560.net
乙乙

引用元: キョン「おいハルヒ。そろそろ起きろ」ハルヒ「ん~…あと10分…むにゃむにゃ」