121: 2015/01/07(水) 21:03:59.00 ID:wfyH62jR0
静(50)「すまん、八幡。連帯保証人になっていたのが……」八幡(37)「」


前話
静(50)「すまん、八幡。閉経期が来たようだ」八幡(37)「」

122: 2015/01/07(水) 21:04:25.27 ID:wfyH62jR0

八幡「先生……?いまなんて…?」

静「だ、だからその……お、甥の連帯保証人になっていたのが……」

八幡「なん……だと……?」

静「言い訳する気はない……本当に……本当にすまない……」

八幡「いやいや、連帯保証って、一体いつの話だ?俺は何も聞いてないぞ?」

静「じ、実は去年の初頃に頼まれて……」

八幡「まじかよ……」

静「す、すまない……」

八幡「なんで一言もなかったんだよ」

静「き、君に心配かけたくなかったから……言うと反対されると思ったし……」

八幡「そりゃ反対するだろ」

静「本当にすまない……まさかあんないい子だった甥が夜逃げしてしまうとは思ってもなかったから……」

八幡「思ってもないって、連帯保証といのは自分の借金お前が返せって言ってるものだろ?親戚はおろか、親兄弟でも連帯保証はだめだろ」イラッ

静「ご、ごめん……」





123: 2015/01/07(水) 21:05:26.97 ID:wfyH62jR0

八幡「……それで?」

静「へ?」

八幡「借金はいくらなんだよ」

静「お、およそ三千二百万くらい……詳しくはこの請求書に……」

八幡「今日来たの?」

静「来たのは二日前に……」

八幡「二日前か。なんでその時に言わなかったんだよ」

静「ご、ごめん、一体なんて言ったらいいのか分からなかったから……」

八幡「だから二日前から居心地悪そうにしてたのか」

静「ごめん……」

八幡「『当社は、貴殿の連帯保証のもと、○○○○殿に対し、後記のとおり貸し付けを行いました。
しかしながら、返済期限を徒過しているにもかかわらず、現在に至るまで、金三千二百十三万二千百十二円について返済がなされておりません』」

静「……」

124: 2015/01/07(水) 21:05:57.12 ID:wfyH62jR0

八幡「ふう……3,213,212円か…」

静「……」

八幡「貯金していたのが大体千四百万くらいあるから、それとこの家を売って合わせばなんとか……」

静「……」

八幡「この冬に道端に居座るわけにもいかないし、賃貸を探せねば……でもその金が……」

静「……」

八幡「いや、どうせこんなに荷物を置けるとこには行けるはずがないから、本当に必要なものだけ残して全部売ってしまえば小さい部屋くらいは借りれるか」

静「……」

八幡「だとしたら今まで集めいた本も処分しなきゃな。最近は殆ど電子書籍化してるが、紙の本を好きな人はまだあるし、今ではレアな物も結構あるからある程度足しはなるはず」

静「……」

八幡「はは、この家で最後を迎えるつもりでいたのに、こんな風に離れるとは……この家のロン全部返してまだ三年も経ってないのにな……」

静「ううっ……ごめん……ほんとうにごめん……」

八幡「なんで泣くんだよ。泣きたいのはこっちだぞ」

静「……」ぽろぽろ

八幡「……ちょっと風にあたってくる」

静「……」

八幡「……」ガチャ

静「……」

八幡「……遅くなるかも思うから先に寝ていいよ」バタン

静(´;ω;`)

125: 2015/01/07(水) 21:08:51.44 ID:wfyH62jR0
居酒屋


材木座「お主から飲みに誘われるとは珍しいではないか」

八幡「今日はちょっとな。ごめん、呼んどいてなんだが、忙しいんだろ?」

材木座「なに、心配などいらん!時間が命の業界だ、余裕がなかったらこうして会ってもいられないのだよ」

八幡「そうだな。最近はどうだ?上手く行ってるのか?」

材木座「ふむ、我はいつも通りだ。豊かではないにしろ、一人で生きるには問題はない」

八幡「お前はくらいになると結構売れるものだと思ったのにそうでもないのか?声優の仕事って本当に大変だな」

材木座「これでも随分ましになったものよ。お主が知ってる通り、新人の頃は本当にきつかったのだからな」

八幡「まあな。お前がマヨネーズ入りの雑草を食べ、流し台で体を洗っているのを見た時はさすがの俺も涙ぐんだから」

材木座「拙者、あの地獄は二度と経験したくないでござる……まあ、今になっては思い出として話せるけど」

八幡「そういえばラジオなんかでもネタにしていたな。ウィキにも書いていたぞ?」

材木座「ふむ、おそろく我を慕うファンの誰かが書き込んだのであろう」

八幡「うざいけど、今になってはあながち間違ってないというのが世の不思議だ。高校生の俺にお前が人気声優になると言っても絶対信じない自信がある」

材木座「我も信じないと思う」

126: 2015/01/07(水) 21:09:36.04 ID:wfyH62jR0
八幡「売れるラノベ作家になって人気声優と結婚するとかいう戯言をほざいていた奴が人気声優になるとは、人生が謎すぎるだろ」

材木座「はっはっはっ、それが我という人間に潜められた力だったのだ!……いまさらだが八幡、本当に感謝してるぞ」

八幡「は?いきなりなんだ?」

材木座「あの頃、飢えた我のために作ってくれたご飯と叱咤がなかったら、きっと我は中途半端にあきらめていたのであろう。……今の成功は全部お主のおかげだ」

八幡「ご飯と小言なんて誰でもやるだろ。お前の成功はお前が頑張ったからだ。ご飯と小言でどうにかなるんなら、俺は総理大臣でもなってるはずだがな」

材木座「だとしても嬉しかったんだ。他人にお節介なんて根っこから嫌うお主が我の為にそこまでしてくれたという事実が」

八幡「……」

材木座「まあ、マスターであり、兄弟でもある我を助けるのは当然だからのう。フハハハ!」

八幡「うるせ。すいませんー生中をもうひとつ」

材木座「だから八幡よ。お主が我を助けるのが当然であるように、我がお主を助けるのもまた然り。悩み事があるならいつでも頼ってくれ」

八幡「……」

八幡「そりゃありがたい」

材木座「では乾杯しようではないか。我らが友情は永遠なり!」

八幡「いい声で何くだらんことを」

127: 2015/01/07(水) 21:10:12.58 ID:wfyH62jR0
材木座「ごくごく……くう~」

八幡「……」

八幡「なあ、材木座……」

材木座「ぬ?」

八幡「……」

材木座「どうしたのだ?」

八幡「……いや、お前いつ結婚するつもりかな、と思って。結婚する気はあるのか?」

材木座「くっ、我も結婚する気は満々だが、思い通りに行かないものでな」

八幡「お前、ファンもいっぱいあるだろ?ファンとの結婚も珍しくないようだし」

材木座「うむ、だが人気声優との結婚という我が宿願、そう簡単には諦められないものよ」

八幡「まだそれ言ってるのか?お前も声優になったことだし、いい加減幻想も壊れる頃だろ?」

材木座「それはそうだが、むしろ目が高くなってしまったのだよ。どれだけ美人であろうとも、声が綺麗じゃないと満足出来ない体になってしまったのだ」

八幡「外見はともかく、中身は高校生のままだな。人間、そう簡単には変わらないか」

材木座「それはそうと八幡よ。我は最近また小説を書き始めているのだが、いつか感想を頼むぞ」

八幡「は?また書いてるのか?声優の仕事は?」

材木座「もちろん本業は声優である。暇なときにちょくちょく書いてるだけだが、考えてみろ、現役の人気声優が書いたラノベとなるとそれだけで注目を浴びるだろ?しかもアニメ化に成功すると声優は思うがままに選べる!どうだ、この素晴らしい考えが」

八幡「まあ、面白そうだな。無理だろうけど」

材木座「ふふふ、望むならお主が好きな声優を選んでやってもいいぞ?」

八幡「ふん、書いてから言え」

128: 2015/01/07(水) 21:11:10.18 ID:wfyH62jR0



八幡「……」ガチャリ

静「お、おかえり」

八幡「……」

静「あ……」

八幡「……」

静「そ、外寒かったんだろ?コーヒーでも飲む?」

八幡「別にいい」

静「あ、うん……」

八幡「俺はもう寝るよ。お前も明日早いだろ?」

静「そ、そうだな」

八幡「……」ぐるり

静「……」

静(こんなに冷たい八幡は初めてだ……)

静(夫婦として十五年、喧嘩は数えるほどしかやったことがない……誰も認める仲良し夫婦だったけど……なのに……)

静「でもしかたないよね……あんなことやってしまったから……」

静「ぐすっ……」


132: 2015/01/07(水) 21:31:53.94 ID:wfyH62jR0
週末、由比ヶ浜の家


結衣「ヒッキー、どう?」

八幡「まあ、悪くないな」

結衣「もう、悪くないだけ?ヒッキーは厳しすぎるよ」

八幡「俺くらいのプロになるには程遠いんだよ」

結衣「そっか…」

八幡「でも高校生の時と比べれば大した進歩だ。頑張ったな結衣」なでなで

結衣「ひ、ヒッキー…!///」

八幡「プロへの道はまだ遠いが、ここまで来たなら一人でも出来るだろ。お前に料理を教えるのは今日が最後だ。卒業おめでとう」

結衣「え、卒業って…まだ教えて欲しいのに…」

八幡「三ヶ月も教えたんだ。もう十分だろ?」

結衣「それはそうだけど、回数で数えるとそんなに多くないし、ヒッキーあたしに教えるのもう面倒臭くなった…?」

八幡「なに言ってんだ。最初から面倒臭かったよ」

結衣「ヒッキーひどい!」

八幡「冗談だ。別に面倒くさいからじゃねえよ。俺も忙しいからな。これからはここまで来て料理を教えるほどの余裕がないんだよ」

134: 2015/01/07(水) 21:32:33.86 ID:wfyH62jR0
結衣「え?でもヒッキーは仕事してないでしょ?」

八幡「主夫をなめてるのか?年収1200万円分の仕事の大変さを馬鹿にするな」

結衣「いや、そういうわけじゃないけど、いきなりそんなこと言うから……ひょっとして何かあったの?」

八幡「いや、何もない」

結衣「じゃあなんでいきなり余裕がなくなったの?」

八幡「えーと、まあ、俺もそろそろ職業を持つべきかなと思って」

結衣「ヒッキーが仕事?!やっぱりなんかあるんだ!」

八幡「おいおい、俺が働くのがそんなに問題かよ。なにもねえよ。ただ家事ばかりなのが飽きただけだ」

結衣「……」じー

八幡「…信用ねえな」

結衣「でもヒッキー、働きたくないから専業主夫になったんでしょ?働いた負けとか言ってたし」

八幡「あの時は甘かったんだよ」

結衣「やっぱりなにかあるんだ。だったら素直に言ってほしいな」

八幡「……」

結衣「……」じー

八幡「……実はな」

結衣「うん」

八幡「最近、静がお小遣いをくれないんだよ」

結衣「え?」

八幡「この年にゲーム買いたいからねだるのもあれだし、趣味に使う金くらいは自分で稼ごうかな、と思ったわけだ」

結衣「……」

八幡「……」

結衣「なにそれ……心配して損した」

八幡「だから言ったじゃねえか。何もないって」

結衣「そういう所は本当に変わらないね……」

八幡「人間、そう簡単には変わらないんだよ」

結衣「うん、そうだね」

136: 2015/01/07(水) 21:43:06.19 ID:wfyH62jR0



八幡「……」カチャリ

静「おかえり…」

八幡「……ああ」

静「あ、あの…」

八幡「……なんだ?」

静「う、ううん、なんでもない……」

静(まともに話さなくなってもう五日……)

八幡「……」

静(五日しか経ってないのに本棚はもう半分以上なくなっている。所蔵用とか感想用とかを別に買うほどではなかったけど、それでも本を大事にしていた人なのに……)

八幡「これとこれはブックオフだな。これは……」

静(いつでも出来るようにテレビの横に置いていたPS7もいつの間にか箱の中に入っている。きっとこれも売るつもりなのだろ……誕生日にプレゼントした時は子供のようにはしゃいでいたのに……八幡のそんな姿は珍しくて私も嬉しかったのに……)

八幡「どれどれ……」

静(郵便が一枚来ただけで……老後のために貯金していた金が、八幡との思い出が込められている物が……家が……心が……次々と無くなっていく……)

八幡「これはヤフオクにするか」

静(十五年か……長かったようで短い時間……)

八幡「これは……」

静(幸せだった時間はもう過ぎ去ってしまったな……)

静「ぐすっ……」

144: 2015/01/07(水) 22:34:28.95 ID:wfyH62jR0
次の日、喫茶店


雪乃「おはよう、八幡くん。待たせてしまったかしら」

八幡「いや、俺もさっき着いたよ」

雪乃「そう」

八幡「で、どうしたんだよ。平日なのにお前から用事って」

雪乃「あら、平日は会ってはダメなの?私達は週末だけの関係?」

八幡「それは言い方がちょっと変だろ。誤解されるぞ」

雪乃「私は別に構わないわ」

八幡「お前が困らなくても俺が困る」

雪乃「ふふ、そうね。八幡くんは私と違って結婚してるもの」

八幡「まったく。お前、平日は忙しいんじゃなかったのかよ」

雪乃「そう、暇ではないわ」

八幡「だったらなんで……ひょっとして何かあったのか?」

雪乃「そうね。普通ではないわ」

八幡「何があった?」

雪乃「さあ、それを知ってるのは私じゃなく、貴方ではないかしら。八幡くん?」

八幡「なに?」

雪乃「結衣から聞いたわ。貴方が何か起きたって」

八幡「……」

145: 2015/01/07(水) 22:35:09.36 ID:wfyH62jR0
雪乃「一体どうしたの?」

八幡(結衣のやつ……余計な事を……)

八幡「おいおい、俺が働くのがこんだけ騒ぐほどのものかよ。別になにもねえって」

雪乃「それは嘘ね。八幡くん、二十年の間、貴方を見て来た私を騙せると思ってるの?」

八幡「結衣が勘違いしただけだ。何もねえよ」

雪乃「そう、言うつもりはないのね。そういうところは本当に変わってないわ」

八幡「……」

雪乃「でも私と結衣は変わったの。昔のようには行かないわ。それは、貴方も知っているでしょ?」

八幡「……」

雪乃「貴方が何も言わなくても、私達は諦めない。時間の問題よ。私達は貴方にどんな事が起きているのかどんな手段を使っても突き止めて、助ける」

八幡「雪乃……」

雪乃「でも、どうせなら貴方の口から聞きたいの。何があったのか」

八幡「……」

雪乃「八幡くん、私達を信じられない?」

八幡「そんな事はない……」

雪乃「大切だと思ったのは私達だけ?」

八幡「そんなんじゃない……」

雪乃「だったらなんで言ってくれないの?」

八幡「……」

雪乃「……」

八幡「お前らが大事だからこそ、言えないこともあるんだよ」

雪乃「八幡くん、貴方は何度も私と結衣を助けてくれたわ。私達は何度も貴方に救われた。なのにどうして貴方は私達の助けを拒もうとしてるの?」

146: 2015/01/07(水) 22:35:41.04 ID:wfyH62jR0
八幡「あの時とは違う。言葉はありがたいが、誰かに助けてもらう事は出来ない」

雪乃「出来るかどうかを判断するのは私よ」

八幡「……」

八幡「魚を与えるのではなく、魚を釣る方法を教えるのが奉仕部の方針だったな。だが、釣る魚がない時はどうする?」

雪乃「……」

八幡「魚を与えるのは奉仕部の精神に背く行為だ。しかも一人でも足りないことがわかってるのにそれを欲しいとねだる事はいくら友達でも、いや友達だからこそ、出来ない」

雪乃「そうね。魚を与えるのは奉仕部のやり方ではないわ。でもこの問題は奉仕部の問題じゃない」

八幡「……」

雪乃「それと八幡くん、私達を見くびってもらったら困るわ。私達は貴方の為ならどれくらいの魚を持っていても、それを全部あげるのに何の疑問も持たないわ」

八幡「言葉だけでも嬉しいものだ……」

雪乃「言葉だけ?私が嘘言を言わないのは知ってるはずでしょ?」

八幡「……」

八幡「そうだな。雪乃は嘘も欺瞞もしない奴だったな。結婚式の時に永遠の愛を誓いますかと聞いてるのに最後まで何も何も言わなかった奴だもんな」

雪乃「だって本当に愛してなかったもの。愛してないのに誓いなんて出来ないわ」

八幡「だったら結婚すべきではなかっただろ」

雪乃「親に強要されたのよ。それにあの時は自棄になっていた頃だから。世界が灰色に見えた頃だから」

八幡「……」

147: 2015/01/07(水) 22:39:33.13 ID:wfyH62jR0
雪乃「それで、何があったかそろそろ聞きたいのだけれど」

八幡「はあ……仕方ない……実は連帯保証人になっていたのが問題になって借金を負う事になったんだよ」

雪乃「連帯保証?連帯保証人になったの?」

八幡「そう」

雪乃「八幡くん、貴方がそこまで愚かだったとは思わなかった。連帯保証人になるのがどれだけ危険なのか知らなかったと言うの?」

八幡「俺だって知ってるよ」

雪乃「それならなんで連帯保証人になったの?もう自己犠牲なんてしないと約束したでしょ?」

八幡「おいおい、なんで俺が連帯保証人になったと決め付けるんだ。俺が連帯保証人になるのはこの世で唯一、小町だけだ。まあ、小町は俺にそんな事頼まないだろうけど」

雪乃「……としたら、まさか静先生が?」

八幡「はあ……去年、俺に隠して甥の連帯保証人になったそうだ。でもその甥は夜逃げ、結局その借金は全部俺達のものになったという事」

雪乃「……」

八幡「お前らには知られたくなかったんだよ。言っても心配掛けるだけだから。それだけは避けたかったんだが」

雪乃「金額はいくら?」

八幡「三千二百万だ。まあ、貯金していたのといま住んでる家を売れば何とかなると思う。何億の借金じゃないのが幸いだな」

雪乃「家を売ってしまえば貴方と先生はどこに住むの?」

八幡「まあ、いまあっちこっち安い賃貸を探してるんだよ。予算に合いそうな物で十畳くらい部屋は見つけたんだが、どうもどおくてな」

雪乃「十畳……」

八幡「そんなに深刻そうな顔するな。たしかに青天の霹靂だが、氏にそうな状態ではないから。大体材木座なんて雑草を食べて生きてたんだぞ?それに比べればな」

雪乃「……」

八幡「気にするなってのが無理なのはわかるが、それでも気にするな。大丈夫だ」

雪乃「八幡くん……」

八幡「これからは俺も働くし、二人で頑張ればまた元の家に帰れるだろ。子供ないからすぐだ」

雪乃「そう……」

八幡「人生どう転ぶかわからないし、宝くじが当たるかもしれないし、だから、そんな顔するな」

雪乃「……」

八幡「この話はこれで終わり。結衣には心配しないように言ってくれ。それと、他の人には秘密な。特に小町には絶対秘密だぞ。あいつもうすぐ出産だから」

雪乃「……八幡くん」

八幡「ん?」

雪乃「……」

雪乃「よかったら、私の家で一緒に住んだらどうかしら……?」

197: 2015/01/09(金) 02:37:24.91 ID:zt4Cil8z0
八幡「ただいま」

静「おかえり」

八幡「ああ」

静「……」

静「今日はどこに行ってたんだ?」

八幡「ちょっと雪乃とな」

静「……」

八幡「……」

静「夕飯美味しかったよ。ありがとう」

八幡「……主夫として当然だからな」

静「そうか……」

八幡「……」

静「さっき電話であったよ。明日は家を見に人が来るって言ってた」

八幡「……そっか」

静「広くはないけど、金かけてインテリア変えたおかげで綺麗でいい家になったから、きっとすぐ売れるさ」

八幡「……」

静「駅まではちょっと距離があるけど、バス停はすぐそこだし、商店街も近いからいい値段になるはずだ」

八幡「……そうだな」

静「君に何も言わずに保証人になったの事、本当に申し訳ないと思ってる」

八幡「……いい、もう過ぎた事だ」

静「幸せにするって言ったのに、約束守れなくてすまない。いつも貰ってばかりだった」

八幡「……」

静「だから八幡、離婚しよう」


198: 2015/01/09(金) 02:38:26.15 ID:zt4Cil8z0
八幡「は?」

静「全部私が勝手にやった事だ。お前まで苦しむ必要はない」

八幡「……」

静「子供も出来ない、勝手に保証人になって借金まで負った。離婚の理由としては十分だろう」

八幡「……」

静「慰謝料もちゃんと払うよ。多くはないが、一人で生きるには不足ないように準備する」

八幡「……」

静「そして八幡は若いから、きっと私よりいい女と再婚出来るはずだ」

八幡「……」

静「だから……いて!」

八幡「アホか」

静「え、え?」

八幡「こんな事で離婚するくらいだったら、最初から結婚なんてしない。プロの専業主夫を馬鹿にするなよ。配偶者が辛い時は隣で支えてやるのも主夫の仕事だ」

静「で、でも……私に怒っていたんじゃ……?」

八幡「そりゃ怒るに決まってんだろ。あんな事があったのに普通でいられるか」

静「……」

八幡「だがな、夫婦は喧嘩もするし、怒ったりもするものじゃないのか?間違ってしくじっても、許すのが夫婦じゃないのか?」

静「……」

八幡「もちろん今回は度が過ぎたが、それでも夫婦だろ?家族だろ?こんな偽物ばかりの世の中で信頼できる一番大事な本物だろ?」

八幡「逆に聞くよ。もし俺が連帯保証人になってこんな事になったら、静は俺を捨てるのか?」

静「いや……」

八幡「だろ?俺も同じだ。だから二度と離婚なんて下らないこと言うな。次に言ったらマジギレするからな」

静「うん……」ぐすっ

199: 2015/01/09(金) 02:39:05.38 ID:zt4Cil8z0

八幡「はあ、本当に泣き虫さんだな。これじゃ誰が年上なのかわからん」

静「うう……だって……あの日以来、八幡すごく冷たかったから……それじゃなくても私は閉経期だし……子供もないし……だから……」

八幡「捨てられる前に自分から言ってしまえばいいと?」

静「ううっ……ぐっすん……」

八幡「……」ギュッ

静「!?……///」

八幡「はあ……本当にアホだな。昔の頼もしい静はどこに行ったんだよ」

静「年を取ると心細くなるから……母にもなれなかった私は弱くて当然だよ……」

八幡「……」

八幡「だから子供なんていらないと何度も言ったはずだがな……静はやっぱり欲しいのか?」

静「愛する人の子供を産みたいのは当然だから。それに……」

静(子供という枷があったら今のように捨てられるんじゃないかと悩む事もなかったはずだから)

八幡「それに?」

静「なんでもない……」

八幡「……そう」

静「うん……」

八幡「静、後にまたこの家に戻られたら、養子でも貰うか?」

静「養子って……今ではもう遅いだろ」

八幡「そうか?現代の平均寿命を見ると普通に孫までは見れると思うけどな」

静「あはは、孫の顔が見れる頃には私はシワだらけの老いぼれになってるけどな」

八幡「それは俺もだ」

静「そうだな。だがやっぱり気が進まない」

200: 2015/01/09(金) 02:39:38.24 ID:zt4Cil8z0
八幡「なんでだ?」

静「わからない……十年前はそれでもいいと思ったけど、今は無理だ。八幡の血が通ってない子供を愛する自信がない……」

八幡「そうか」

静「ごめん……」

八幡「謝る必要はない。言ったろ?俺は子供はいらないと。繁殖の本能は俺にないんだよ」

静「……」

八幡「まあでも、繁殖の本能はないが、繁殖行為には興味がある」

静「え?」

八幡「静、久しぶりにどう?」

静「!?ほ、本当か八幡!?」

八幡「え?ああ、まあ……」

静「そ、そうか!じゃ、わ、私は風呂に入ってきたほうがいい!?」

八幡「ちょっと落ち着け。まだ九時もなってねえよ」

静「あ、そ、そうだな……」

八幡「俺が言い出してなんだが、喜びすぎじゃねえか?」

静「は、はうう……///」

八幡「……そういう所も可愛いけどな」なでなで

静「……」かぁ

八幡「その前に軽くビールでも飲もうぜ。シャワー浴びてくるから準備してくれる?」

静「わ、わかった」

八幡「じゃ、頼むな」

静「……」

静「ううっ……」べったり

静「よかった……本当によかった……」ぐすっ


224: 2015/01/09(金) 18:10:53.66 ID:DKvvtlEt0
八幡(自分から離婚しようと言い出すほど追い込まれていたとは……)

八幡(冷たくあたっていたのは事実だが、あれほど苦しんでいるとは思わなかった)

八幡(喧嘩なんて殆どしてなかったから、余計に傷付いたのかもな……)

八幡(年を取るたび心細くなるとは言ったが、静、あんなに弱くなって……)

八幡(貰ってばかりはこっちの方だ。十分に幸せだったんだ)

八幡(専業主夫として頑張ったとは思うが、面倒を見てもらったのはいつも俺だ)

八幡(静はもう五十路。ひねくれた俺に鉄拳制裁を加えていたあの頃とは違う)

八幡(俺はいいとしても、身も心も弱くなった静にボロい家はきつくなかろうか)

八幡「……」シャアア

八幡「よかったら一緒に、か……」

225: 2015/01/09(金) 18:12:00.09 ID:DKvvtlEt0
(回想)

八幡「は?なんだって?」

雪乃「難聴かしら?私の家で一緒に住んだらどうかと聞いてるの」

八幡「いや難聴じゃねえ、聞き取れなかったんじゃなく、言ってる意味が分からないって言ってんだ。雪乃、お前がいま一人なのは知ってるが、いくらなんでもそれは出来ないだろ。そんなの迷惑では済まない」

雪乃「迷惑?誰が迷惑になるのかしら?私は全くもって構わないわ」

八幡「お前の気持ちは嬉しいが、それでも……」

雪乃「八幡くん、勘違いしないで頂戴。貴方を助ける為に言い出したけど、だとしてもこれは私の一方的な犠牲とかじゃないわ」

八幡「は?」

雪乃「知っている通り、私は仕事で忙しいし、私の家は一人で暮らすには広すぎるのよ。八幡くんが言ってるように家事は大変だけど、それに割く時間があんまりないわ」

八幡「それって……」

雪乃「そう。私の家に住む代わりに、八幡くんは家事をやってもらって欲しいの。要するに家政婦になるのよ」

八幡「家政婦……」

雪乃「もちろん、多くはないけれどそれなりの給料も与えるわ。家も広くなって、人も増えるから今より大変だろうけど、悪い話ではないでしょ?」

八幡「いや、悪い話ところか、むしろ良すぎて困るんだが……それではお前が…」

雪乃「貴方にこんな事が起こったからではなく、元々お手伝いさんを雇うつもりだったの。部屋は多いから一つくらい誰が使っても構わないし、知らない人を雇うより、信頼できる腕の良い人の方を雇うのが合理的でしょ?プロの主夫さん」

八幡「……」

雪乃「それと静先生はもう歳だから、八幡くんならまだしも、貧乏な生活を強いるのはあまりにも酷いわ」

八幡「それはそうだが……」

雪乃「それに、私もひとり暮らしはもう疲れたから……」

八幡「雪乃……」

雪乃「八幡くんと静先生が来てくれるなら本当に嬉しいと思う。だから何も迷惑になることはないわ」

八幡「……」

226: 2015/01/09(金) 18:12:46.55 ID:DKvvtlEt0
八幡「ふう、さっぱりした。あれ?なんでまた真っ暗に……」

静「こ、こっちだ八幡!」

八幡「静?なにしてん……」

静「……」ドキドキ

八幡「……」

静「……」

八幡「……」

静「な、なんで黙ってしまうんだ!」

八幡「あ、ごめん。……この短い時間でよくもここまで準備出来たものだ」
静「じ、準備ってほどもないが……」

八幡「力入れすぎでしょ……蝋燭に、ワインに、勝負下着に……」

静「せ、せっかくだからムードを大事にしようと……」

八幡(正直、ここまで積極的だと引くわー)

八幡「風引いちゃうぞ?勝負下着は後で見てやるから一旦服を着てくれ」

静「へ?あ、うん……」

227: 2015/01/09(金) 18:16:50.51 ID:nHenlGDK0



八幡(その後、気持ちよくワインを飲み、半年ぶりに静とひと時を過ごしたのだが……)

八幡(くっ……これほど疲れるとは……)

静「はあはあ……」アヘアヘ

八幡(静、本当に溜まっていたんだな……)

八幡(あれの時はいつも恥ずかしがってた彼女が恐ろしいほど積極的になっていた)

八幡(年を考えて、もうそういう欲求はないだろうと思ってたのに、とんでもない勘違いだったな……)

静「はあ……ふへへ」

八幡(本当に嬉しそうにしているな……こんな姿見てしまったら、これからもやってやるしかねえな)

静「忘れられない日になると思ったが、違う意味で忘れられなくなった……」

八幡「そうか……」

静「やっぱり八幡と結婚して正解だった。私が行き遅れだったのはきっと君と結婚するためだったんだろう」

八幡「の後にそんなこと言われても反応に困るがな」

静「え?あ、いや、そういうことじゃなくて……いや、それもあるけど……///」

八幡「本当に、何歳になってもかわいいな静は」

静「だ、だから年の話はするな!」

八幡「ははは、ごめんごめん」

八幡(俺一人だったら雑草を食うが、流し台で体を洗うが構わないけど、静にそういう生活をさせたくない。だから……)

八幡「静」

静「うん?」

八幡「この家が売れたら、俺たち、雪乃の家に世話になるのはどうかな?」

静「なに?雪乃の家に世話になるって、いきなり何を言っているんだ?」

八幡「実は、俺の様子がおかしいと雪乃達に聞かれてな……」

静「……」

八幡「仕方なく全部言うと、自分の家でお手伝いさんをやらないかって言われたんだよ。住み込みで」

静「雪乃が……話はすごくありがたいものだが……」

八幡「人の家で世話になるのが申し訳ないし、気が進まないのはわかるけど、現実的に、これ以上の条件はないと思う」

静「……」

八幡「もしあいつが離婚してなかったらさすがに俺も断っただろうけど、いまは独り身だからな。それと家も随分と広いらしい。部屋の一つや二つは人が住み着いても構わないほど」

静「……」

八幡「でもまあ、お手伝いさんになる以上、俺も文句を言われないように今まで以上に頑張るつもりだ」

八幡「電気代や水道代をきっちりと払えば、雪乃にとってもそれほど迷惑にはならないんじゃないかな」

静「……そうだな」

八幡「一年くらい世話になって、余裕が出来たら小さい家を借りて出よう」

静「……うん」

228: 2015/01/09(金) 18:17:51.30 ID:nHenlGDK0

一ヶ月後

八幡「というわけで、雪乃の家に世話になる事になったんだが……」

結衣「静先生、ヒッキー、やっはろー」

八幡「なんでお前がここにいるんだ?もしかして引越しを手伝いに来たのか?」

結衣「ん?もちろん引越しは手伝うけど、別にわざわざ来たわけじゃないよ?」

八幡「は?」

結衣「あたしも先週からゆきのんと一緒に住んでるから」

八幡「なん……だと?」

静「……」

八幡「一体どういう事だ?なんで結衣がお前の家で住んでる?」

雪乃「あら、結衣が私の家にいる事のどこがおかしいのかしら?」

八幡「いや、だって……」

結衣「別にあたしも借金で、とかじゃないよ?ゆきのんもあたしも女一人で暮らすのは不安だったし、話し合ってあたしの家より広いゆきのんの家に引っ越すことにしたの」

雪乃「たしかに言ったはずよ?準備する食事や洗濯物の数が増えると」

静「……」

八幡「まあ……ここはお前の家だから誰と住もうがお前の自由だが……」

雪乃「それとも八幡くんは結衣と一緒では不満かしら?」

結衣「え?!そうなの?」

八幡「違う違う。そんなことはない。まあ、何か言える立場でもないし」

結衣「ふうん、そっか~」

静「……」

八幡「しかし何と言うか、これじゃ奉仕部の合宿でも来たようだな。お前らと一つ屋根の下で暮らすのは想像も出来なかったが」

雪乃「そうね。私もこんな日が来るとは思ってなかったわ」ニコ

結衣「うん、ほんとにね」

八幡「とにかくまあ、いつまでになるかはわからんが、これからよろしくな、雪乃、結衣」

結衣「うん、よろしくね!ヒッキー、静先生」

雪乃「宜しくお願いします、八幡くん、静先生」

静「そ、そう……私も、これから……よろしく……」

静 (´;ω;`)

つづく

229: 2015/01/09(金) 18:19:09.43 ID:nHenlGDK0
現在、海外で書いてるため、不具合があります。ご了承ください

231: 2015/01/09(金) 18:28:22.04 ID:ccUhBbB0o
乙です
どんどん外堀を・・・

232: 2015/01/09(金) 19:10:23.84 ID:vy/WQM4p0
おつ
でもこれ37歳なんだよな……


引用元: 静(50)「すまん、八幡。閉経期が来たようだ」八幡(37)「」