281: 2015/01/18(日) 22:25:26.54 ID:vlB2OMme0
第三話

もしも、
もしも私がほんの少しだけ素直だったら、人生は変わったんでしょうか?
もしも私がほんの少しだけ勇気を出していたら、人生は変わったんでしょうか?
答えは分からない。人生にもしもという言葉は通じない。
だけど、それでも思ってしまう。いつも思ってしまう。
そうしていたら彼の側に居るのは私だったのではないか、という儚い思いを。
自分が特別だという思いはは幻で、誰より強いという思いも錯覚だった。
数え切れない痛みを他人に与えたくせに、自分はたった一度の痛みに崩れてしまった。
現実を認めず後悔だけを繰り返す。
過去を見るこの目に未来は映らない。
あの日から、私の時間は止まってしまった。

比企谷八幡を平塚静に奪われたその日から。


16年前、クリスマス

結衣「ゆきのん、やっはろー!」

雪乃「いらっしゃい、由比ヶ浜さん。比企谷くんは?」

結衣「ヒッキーは少し遅くなるんだって」

雪乃「そう。なら、先に二人で準備する?」

結衣「うん!それにしても、今年は飾りも多くて派手だね!」

雪乃「そうした方がいいと去年、由比ヶ浜さんが言ってたから」

結衣「え、それを覚えてくれたの?」

雪乃「余計だったかしら。おかしい?」

結衣「ううん、すごく綺麗だよ!覚えてくれてありがと、ゆきのん!」ギュッ

雪乃「あ、あまりくっつかないで欲しいのだけれど……」

結衣「えへへーゆきのん大好き!」

雪乃「私も……由比ヶ浜さんが好きよ」

雪乃「だから……仮に私が選ばれなかったとしても……その相手が貴方なら……私は大丈夫」

結衣「……」

結衣「あたしも……あたしも、その相手がゆきのんなら……大丈夫」

雪乃「ふふ、そうね」

結衣「ゆきのん、どっちが選ばれても、あたしたち、ずっと友達よね?」

雪乃「当たり前でしょ。私はずっとそのつもりでいるもの」

結衣「えへへ……なんか緊張するね。ついに来たっていうか」

雪乃「そうね、私も緊張してるわ」

結衣「ゆきのんも緊張する時があるんだ?」

雪乃「私だって緊張くらいはするわ」

結衣「そっか。……あたしたちに告白されたら、ヒッキー、驚くよね?」

雪乃「当然だわ。こんな美人の二人に同時に告白されるなんて、あの男の人生に二度とない光栄だもの」

結衣「はは、そうだね~♪」


279: 2015/01/18(日) 22:22:52.28 ID:vlB2OMme0
話数を付けることにしました。
最初から連帯保証人の前までが1話で、連帯保証人から今までが2話、今からが3話になります。


比企谷八幡(37)
大学卒業と同時に高校生の頃担任だった平塚静と結婚し、専業主夫になる。
妻の静を心から愛しているが、彼女の閉経期が始まった以来、性関係は殆ど持たなくなる。
異性の友達である雪乃と結衣に恋愛感情は持っていないが、妻と同じくらいに大事にしている。

平塚静(50)
35歳というギリギリの年で夢に見てた結婚にゴールイン。
雪乃と結衣の気持ちを知りながら、やや卑怯とも言える方法で八幡を横取りしてしまったという罪悪感を持っている。
心から旦那を愛し、愛されているが、年をとるに連れ、段々不安になっている。

由比ヶ浜結衣(37)
雪乃とはお互いの気持ちを知り、八幡の恋愛対象になるべく応援し、競っていたが、予想外の第三者である静に奪われてしまう。
八幡が結婚してからも諦めがつかなく、言い寄ってくる男性を全部拒絶した結果、まともに恋愛も出来ず行き遅れになってしまう。
結婚してから八幡を会っていなかった雪乃とは違い、友達として彼との関係を続けて来た。

雪ノ下雪乃(37)
八幡を取られてしまったことに自棄になって、親の言い付け通り政略結婚してしまうが、苦痛のすえ、離婚する。
戸籍も体も汚れてしまったけど、心だけは清らかにあろうと、八幡だけを思って生きてきた。
借金で行きどころを無くした比企谷夫婦を自分の家に招き入れる。

2話
静(50)「すまん、八幡。連帯保証人になっていたのが……」八幡(37)「」


282: 2015/01/18(日) 22:26:08.75 ID:vlB2OMme0



結衣「ヒッキー遅いね」

雪乃「そうね。もう料理も出来上がるというのに、あの男はいったいどこで……」

結衣「あたしが電話して見るよ」ぴっぴっぴ  トゥルルルル

八幡「もしもし?」

結衣「あ、ヒッキー、遅いよ!一体いつ来るの?もう40分も過ぎちゃったよ」

八幡「ごめんごめん、こっちから電話しようとしたところだ」

結衣「ひょっとして何かあったの?ヒッキー、これまで約束時間に遅れたことなかったじゃん」

八幡「あ、元々は時間より早く着こうと思ってたんだが、行く途中に偶然平塚先生と会ってな」

結衣「平塚先生を?」

八幡「ああ。それでなんだが、由比ヶ浜、急に言われても困ると思うけど、平塚先生も一緒でいいか?」

結衣「え?平塚先生を連れて来るって?」

八幡「そう。だから雪ノ下にも連れて行っていいか聞いてみてくれ」

結衣「ゆきのん……」

雪乃「……」

雪乃「はあ……いいと思うわ。平塚先生は私達の恩師だから」

結衣「そうだね……うん、そうだね」

結衣「ヒッキー、ゆきのんがいいって」

八幡「オッケー、すぐ行くわ」

結衣「うん、早く来てね」ピッ

結衣「あはは……久しぶりに平塚先生に会うのは嬉しいけど、正直に言うと、複雑……」

雪乃「そうね。他の日ならまだしも、よりによって今日というのは、困るものね」

結衣「うん、でも今日しか時間が無い訳じゃないし」

雪乃「そうよ。機会はいつでもあるわ」

283: 2015/01/18(日) 22:26:58.15 ID:vlB2OMme0



結衣「平塚先生、久しぶりです!」

雪乃「お久しぶりです、平塚先生」

静「ああ、久しぶりだな、由比ヶ浜、雪ノ下。元気だったかい?」

結衣「はい、もちろん!平塚先生も変わりないんですか?」

静「ははは、私はいつも通りだ。今日はいきなり訪れてすまないな」

雪乃「そんなことないです。平塚先生はいつでも歓迎ですよ」

静「そう言ってくれると助かる」

結衣「というかヒッキー、その大きい荷物は何?」

八幡「あ?あ、これか。全部酒だ」

結衣「え、それ全部?!」

雪乃「今日は飲み会ではなくクリスマスパーティーのはずだけれど……そんなに飲みたかったの?」

八幡「いや、俺が飲みたくて買ったわけじゃねえ」

静「あ、それは私のだ。パーティーには酒がつきものだからな」

結衣「あはは……こんなにたくさんは飲めないと思うけど……」

静「なに、心配するな。君がダメでも比企谷が責任をもって全部飲むさ」

八幡「は?いや、俺もこの量は無理ですよ。その以前に、酒あんまり好きじゃんないし」

静「まあまあ、遠慮するな」

八幡「いや、遠慮してないけど」

静「今日はクリスマスだからな、久しぶりに比企谷ショーが見たいのだ」

八幡「は?なんですか比企谷ショーって」

雪乃「たしかに最近見てないですね。久しぶりに鑑賞するのもわるくないと思います」

結衣「あはは、そうだね」

八幡「いや、なんで俺が知らない俺のショーってのを当然のように知ってるんだお前ら」

雪乃「あら、もう忘れてのかしら、カルボがやくん」

八幡「……」

結衣「あはは、それ久しぶりに聞いた~」

八幡「ぐっ、あれを掘り出してくるとは……」

静「はは、冗談だ。そんなに恥ずかしがるな。今日は楽しく飲むぞ」

八幡「はいはい」

雪乃(今日のためにいいシャンパンを用意したのだけれど、これも次の機会がよさそうね)

284: 2015/01/18(日) 22:27:52.77 ID:vlB2OMme0



結衣「ううん……zzZ」

雪乃「比企谷くん、本当に大丈夫?」

八幡「だいじょうぶ、だいじょうぶ~まだよってねねえー」ベロンベロン

雪乃「とてもそうは見えないけれど……比企谷くん、今日は遅いし随分と酔ってるようだから、私の家で泊まったh――」

静「大丈夫だ、雪ノ下。こいつは私が送ってやる」

雪乃「いえ、平塚先生にそこまで面倒を掛けるのは……」

静「なに、問題ないさ。比企谷の家は私の家からもそう遠くないからな。酔い覚めにちょうどいい」

雪乃「……」

雪乃「そうですね。では、よろしくお願いします」

静「ああ、任せろ。比企谷!寝るな、帰るぞ!」

八幡「ううん?かえる?あ、かえる、かえる」

静「雪ノ下、今日は久しぶりに君たちに会えて本当に楽しかったよ」

雪乃「はい、私もです、先生」

静「元気でな。由比ヶ浜にもそう伝えてくれ。行くぞ、比企谷」

八幡「あーい……雪ノ下~じゃあな~」

雪乃「気をつけて帰りなさい。ではまた」

静「比企谷、どこに行く!そっちじゃない!」

八幡「はあい?」ベロンベロン

静「仕方ないな、ほれ、こっちに寄れ」

八幡「はあい~」

雪乃(本当に大丈夫かしら……)

雪乃(……平塚先生もいることだし、そこまで心配はいらないかもね)

結衣「ううん……ヒッキー……zzZ」

雪乃(ふう、今日は思ってもない客に予定がくるってしまったわ。今日こそ私達の思いを伝えるつもりだったのに)なでなで

雪乃(まあ、久しぶりに平塚先生に会えて楽しかったのは事実だし、話す機会はいつでもあるもの)

285: 2015/01/18(日) 22:28:36.08 ID:vlB2OMme0



それから8日が過ぎた1月3日。その年も変わらずに彼と彼女は私の誕生日を祝ってくれた。
友達に誕生日を祝ってもらうという、他の人には当然のことが、私には慣れないとても特別な事で、五年目になるその日にやっとその幸せを素直に受け入れる事が出来た。

八幡「雪ノ下、洗い物終わったぞ」

結衣「ヒッキー、お疲れ~」

雪乃「ありがとう、比企谷くん」

八幡「まったく、いくら誕生日とはいえ、洗い物までさせるか?ってかなんで俺だけ残ってやってるんだ?」

雪乃「戸塚さんや小町さんにやってもらう訳にはいかないでしょ?」

八幡「俺はいいのかよ……まあ、別にいいけどな」

結衣「あはは、別にいいんだ」

八幡「他の人でもない、お前らの頼みだからな。楽しいんならそれで十分だ」

雪乃「……」

結衣「……ヒッキーってたまにぐっと来ること言うよね。無自覚だろうけど」

雪乃「そうね。意外と女の敵かもしれないわ」

八幡「は?」

雪乃「なんでもないから忘れて」

八幡「何なんだ、一体……」

結衣「あ!ゆきのん、この前買っておいたあれ今日飲もうよ!」

雪乃「……そうね。比企谷くんも苦労してくれたことだし、ご褒美にあげましょ」

八幡「え?あれって?」

結衣「実はクリスマスに買っておいたシャンパンがあったけど、平塚先生が買ってきた酒が多くて出せなかったんだ」

八幡「シャンパンか……そういえばシャンパンは飲んだことないな。それ高くないか?」

雪乃「二万くらいのものだから、安くはないわね」

八幡「まじかよ……クリスマスだとしても張り切りすぎだろ」

結衣「高かったけど、その日は他のクリスマスとは違う特別な日だったから」

雪乃「感謝しなさい。比企谷くんがこれくらいのシャンパンを飲むことはそうはないだろうから」

八幡「まあ、そうだな。ならありがたくいただくよ」

286: 2015/01/18(日) 22:29:35.98 ID:vlB2OMme0

雪乃「どう?初めてのシャンパンは」

八幡「すっぱい」

結衣「それだけ?!もうちょっと言うことあるでしょ!」

八幡「そう言ってもな……俺はソムリエとかじゃないんだよ」

結衣「うう……ヒッキーのために買ったのに、こんな反応じゃ期待したあたしがバカみたい……」

雪乃「はあ……本当に空気を読めない男ね」

八幡「え、これ俺の為に買ったの?」

結衣「奉仕部の三人のためだからヒッキーのためでもあるんだよ!」

八幡「そ、そうか……」

八幡「その、なんだ……まずいってわけじゃない。美味いと思う。でも俺、酒はもうやめようかなって思ってたところだから……」

結衣「え?なんで?」

八幡「……酒のせいで色々やらかしたっていうか、この前も……いや、あれは違うな……」

雪乃「クリスマスの事なら気にしないで。みっともない姿はいつものことでしょ?」

結衣「うん~あたしは途中から寝てしまったから、よくわからないけど」

八幡「そんなことじゃ……いや、なんでもない。まあ、せっかくの貴重な酒だし、お前の誕生日だから今日くらいはいいか」

雪乃「そうよ。今日は特別だもの」

結衣「うん、そうだね」

相槌を打つ由比ヶ浜さんの笑顔が微妙に強張っているのがわかる。私も同じだったから。
あと一杯。
あの酒の瓶が空になる時、私達は長い時間、この胸で育んできた思いを彼に打ち明けるのだろう。
待っててもどうしようもない人には、こっちから行くものだと、由比ヶ浜さんは言っていた。
本当にその通り。比企谷くんを待っていたら、多分お婆さんになってしまうから。

八幡「ふう、美味しかったよ。ありがとな」

雪乃「そう……」

結衣「……」
私の人生で、ここまで緊張した事があったのだろうか?
初めて母に逆らった時も、これほど胸が苦しくはなかった。比企谷くん、貴方が側にいてくれたから。
でも今は貴方が側にいるせいで、こんなにも胸が高鳴る。緊張するほど、実感が湧き上がる。
ああ、私はこんなにも、比企谷くんを好きなんだ……
それはきっと由比ヶ浜さんも同じだ。

八幡「ん?どうした?なんでふたりとも俺をそんな目で見てるんだよ」

結衣「え?あ、な、なんでも……」

雪乃「……」

いまから、一人は泣き、一人は笑うことになる。
でも大丈夫。もし私が選ばれなかったとしても、私は笑える。
相手が由比ヶ浜さんなら、心から祝福する事が出来る。それはきっと由比ヶ浜さんも同じ。
だから……

雪乃「ひ、比企谷くん」

結衣「ひ、ヒッキー」

八幡「どうしたんだよ、ふたりそろって」

雪乃「……」

結衣「……」

雪乃「ふう……実は……」

八幡「あ、そういうばお前らに言わなきゃならない事があったな。……実はその、俺、平塚先生と付き合う事になったよ」


私達は、誰一人笑えなかった。

315: 2015/01/25(日) 00:57:21.03 ID:XxrbzC7i0
三ヶ月後

静「……お父さん、お母さん。私はいま、本当に幸せです!」

静「考えてみれば、私が三十すぎでも独り身だったのも、八幡が高校の頃、彼の担任になったのもすべてこの日のためだったと思います!」

太陽より明るく笑っている花嫁の笑顔に、祝いに来た人達も自ずと笑顔になる。
幸せに満ちた笑顔というのは、きっとあの顔に対する言葉なのだろう。
懲りずに恥ずかしい秘密を打ち明ける花嫁に、花婿は困ったように笑っていたけど、きっと彼も幸せに違いない。
皆が笑っている結婚式場の中、私だけが笑っていない。
ほんの少しだけ、口元を緩めばいいのだけれど、それがどても難しくて……涙を堪えることが精一杯で……
だから、私は笑っていない。
ふいと、膝に置いた私の左手を由比ヶ浜さんの右手が握る。
前を向いた彼女の顔は笑っていた。疑う余地もない祝福の笑顔だった。
でも私にはわかる。彼女もまた笑っていない。
私の手を包んだ彼女の手が止めどなく震えていたから。

小町「雪乃さん、結衣さん、今日は来てくれてありがとうございます」

結衣「そんな、当然でしょ。ヒッキーと先生の結婚式だもん」

雪乃「そうよ。先生は私の先生でもあるし、比企谷くんは……友達だから……」

小町「そうですね……」

結衣「うん……友達だから……」

小町「……」

小町「正直な話、小町はお兄ちゃんと結婚するのは結衣さんか雪乃さんだと思ってました」

結衣「え?いやいや」

雪乃「そうよ。いくらなんでも失礼だわ」

小町「あはは、クリスマスパーティーだからって雪乃さんちに行って次の日の午後になって帰ってきた時は間違いないと思ったんですけどね~」

雪乃「……いまなんて?」

結衣「え……?それ、どういう事…?」

小町「え…?」

結衣「ゆきのん、ヒッキーはその日、平塚先生が家まで送ったんじゃないの?」

雪乃「……」

結衣「まさか……まさか……」

小町「あ、あちゃー……」

316: 2015/01/25(日) 00:57:56.92 ID:XxrbzC7i0
帰り道

陽乃「静ちゃん、幸せそうだったねー」

雪乃「……そうね」

陽乃「比企谷くんも幸せそうだったしー」

雪乃「……そうね」

陽乃「まさかあの二人が結婚するなんてねー」

雪乃「……そうね」

陽乃「比企谷くんは絶対雪乃と結婚すると思ってたけどー」

雪乃「………そうね」

陽乃「……」

陽乃「雪乃は、今回も選ばれなかったね……」

雪乃「……」

雪乃「……ふふ」

陽乃「雪乃…?」

雪乃「ふふ……そういうことだったのね……」

陽乃「雪乃……」

雪乃「ふふ……ふふふ……ふ、ううっ、うっ、ひ、ひきい、がやっ……ぐん……」

陽乃「……」ぎゅっ

317: 2015/01/25(日) 00:58:41.18 ID:XxrbzC7i0
それから二年後、私は母に言われる通り政略結婚をする。
自棄になっていた私に、母に逆らう気力なんてなかった。
誰なのか分かりもしない年上の男に私が要求したのはたったひとつ。雪ノ下家の入り婿になること。
比企谷くんに雪ノ下ではない苗字で呼ばれるのは我慢できなかった。

結衣「ゆきのんは本当にそれでいいの?」

雪乃「……大丈夫よ」

結衣「うそ。ゆきのん全然幸せそうに見えないし……気持ちはわかるけど、これはないよ。結婚しても不幸になるだけだよ……」

雪乃「……」

雪乃「もう…どうしようもないわ」

結衣「……」

結衣「この結婚、やっぱりあたしは祝ってあげられない……」

そう言って背を向ける由比ヶ浜さんに私は何も言えなかった。
それから何ヶ月後、私の意思とは構わず進んでいた私の結婚式で、私は久しぶりに比企谷くんと再会した。

八幡「結婚おめでとう、雪ノ下。いや、もう雪ノ下じゃないのか?」

雪乃「いいえ、彼は入婿になるんだから私の苗字は変わらないわ」

八幡「そっか」

静「久しぶりだな、雪ノ下。結婚おめでとう。今日は本当に綺麗だな」

雪乃「……はい、ありがとうございます、平塚先生」

静「ははは、もう平塚ではなく比企谷だけどな」

雪乃「……」

雪乃「…比企谷くん」

八幡「ん?」

雪乃「……この姿、どう?」

八幡「……そうだな。とても綺麗た。やっぱり雪ノ下雪乃って感じだな」
雪乃「……そう」

比企谷夫婦には招待状を出していない。
今日だけは彼らの顔を見たくなかったから。他の男と結婚する姿を見せたくなかったから。
それでもドレスを着た私を綺麗だと言ってくれる比企谷くんの言葉は、とてもうれしくて、悲しかった……

318: 2015/01/25(日) 00:59:10.54 ID:XxrbzC7i0
ホテル

夫「どういうつもりだ!!」

雪乃「……」

夫「結婚式をぶち壊すつもりか!?誓いの言葉を言うのがそんなに難しかったのか!!」

雪乃」……」

夫「何か言ったらどうだ!?」

雪乃「……最初から言ったはずよ。私は貴方を愛する自信なんてないって。それでもいいって言ったのは貴方ではなくて?」

夫「だとしてもだ!結婚式なんだぞ!どれだけの人が今日あの様を見たと思うんだ!!」

雪乃「……私は虚言だけは吐かない」

雪乃(そう。比企谷くんの前で虚なんて言えないから……)

夫「そうかよ!勝手にしろ!!」バタン!

雪乃「……」

雪乃「……」

ホテルを飛び出した彼が帰ってきたのは時計が十二時を示す頃。
散々酔っぱらいになって来た彼がいきなり私の服を脱がした時、私は抵抗してなかった。意味がないから。
きっとそれが気に入ったのだろう。息巻きながら私に怒鳴っていた彼は自分の手を拒まない私を見てすぐ笑みを浮かべた。
そして私が処Oという事実を知り、その上キスもしたことが無いと知った時は笑みは歓喜に変わっていた。
そうやって比企谷くんの為だったはずの初めては、全部、彼に奪われ、汚された。
それでも。
この体が何百回汚されても、心だけは渡さない。
心だけはいつまでも比企谷くんのものだから……
だから目を閉じよう。この苦痛の時間が終わるまで……

319: 2015/01/25(日) 01:00:39.54 ID:XxrbzC7i0



もしも、
もしもその日、平塚先生を連れてくると言っていた彼を止めていたら、人生は変わったんでしょうか?
もしも酔っていた彼を送ると言っていた先生を止めていたら、人生は変わったんでしょうか?
答えは分からない。人生にもしもという言葉は通じない。
だけど、それでも思ってしまう。いつもそれだけを思う。
もしその日に戻れるのなら、もし私にもう一度機会が与えられるのなら、今度こそ。
二度と戻ってこないその日を思い、いつまでもその日が来るのを待っていた。

現在、クリスマス

八幡「クリスマスパーティーか。こうやってみんあ集まってパーティーやったのは本当に久しぶりだな」

結衣「うん、本当にねー。ヒッキーが結婚してから一度もなかったから十五年ぶりかな?」

静「そうか。その時が最後だったな」

八幡「一人だったお前はまだしも、結婚していた雪乃をクリスマスに呼ぶわけにはいかないからな」

雪乃「あら、別に構わなかったのに」

八幡「いや、そうして誤解されたらどうするつもりだ。って、いまになってはどうでもいいが」

雪乃「ふふ、そうね」

八幡「でもクリスマスではなかったが、四人で集まったのはあったじゃないか。小町が結婚した時とか、小町が引越しパーティーやった時とか、小町が子供を産んだ時とか」

結衣「あはは、全部小町ちゃんのことだったね」

八幡「まあ、結婚して以来みんなで集まるのは少なかったけど、結衣とは結構頻繁に会っていたし、雪乃もメールでいつもやりとりしていたじゃないか」

雪乃「そうね。八幡くんとするメールだけが生きがいだったわ」

静「……」

八幡「それは大げさだろ……どんな獄中生活だよ」

雪乃「大げさじゃないわ。元主人はからかっても面白くなかったもの。ふふ」

321: 2015/01/25(日) 01:01:05.59 ID:XxrbzC7i0
結衣「へえーゆきのん、ヒッキーといつもメールしてたんだ」

八幡「ん?お前知らなかったのか?」

結衣「うん。全然知らなかった。ゆきのんが離婚する前まではヒッキーに関して一言も話してないから」

八幡「どこの魔法使いだよ。名前を言ってはいけない存在か?俺は」

雪乃「あら、八幡くんは私達が八幡くんを話題にしてほしいの?そんなに哀願されたら出来ないこともないけれど」

八幡「誰が哀願したんだよ。自分の事を話題にしてほしいなんてナルシストにもほどがあるぞ」

雪乃「中学の頃にナルが谷と呼ばれていたのでは?」

結衣「あはは、そういえば言ってたね」

八幡「いつの話だよ……まったく、お前らに会うといつも昔に戻った気分だ」

雪乃「そう、私もあの頃に戻った気分だわ。三人でいつも顔をあわせていた奉仕部の頃を……」

八幡「まあ、あの頃はこんなに喋っていない日も多かったけどな」

結衣「うん。ヒッキーとゆきのんは何も言わずに本読出る時が多かったし、奉仕部の雰囲気が悪かった時期もあったし」

雪乃「でもそれらをすべて乗り越えたからこそ、私達はお互いを分かり合えたから」

八幡「そうだな。そうでなきゃ、きっと今のようにはいられなかったんだろ」

結衣「またこうやってみんなでパーティーが出来て嬉しいよ」

八幡「ああ。ここに小町と戸塚もいたら最高だったけど、もうふたりともそれぞれ家庭があるから仕方ない」

結衣「ヒッキーのシスコンとサイちゃん好きは変わらないね……」

八幡「当然だ。戸塚が相変わらず綺麗で本当によかったよ。普通のおじさんになっていたら俺は号泣する自信がある」

結衣「ヒッキー、まじできもい……」

雪乃「ふふ……」

322: 2015/01/25(日) 01:01:33.44 ID:XxrbzC7i0
静「……」

雪乃「あら、体調でも悪いんですか?さっきから何も言わずにどうしたんですか?静先生」

静「え?い、いや、ちょっと思いにふけていた」

雪乃「そうですね。思いふけるのも分かります。まるであの日に戻ったようですよね?十六年前のクリスマスに」

静「……」

雪乃「……もしその日、酔っていた八幡くんを送ると言っていた先生を止めていたなら……」ボソッ

静「!?」

雪乃「先生を連れて来ると言っていた八幡くんを止めていたなら……」ボソッ

静「ゆ、雪乃……」

雪乃「私と結衣の人生は変わったんでしょうか?」ボソッ

静「……」

雪乃「ふふ、冗談ですよ」

その時、静先生の顔に隠っていた罪悪感と不安の色を私は見逃さなかった。
私達の幸せを奪った彼女。そんな彼女の幸せを少しだけ分けてもらおうとするのは間違っているのだろうか?
分からない。知る必要もない。
間違いでも何でも、私は前に進むと決めたから。

止まっていた私の時間が動き出す。



三話終

323: 2015/01/25(日) 01:02:24.43 ID:XxrbzC7i0
これで一旦話を終わらせます。
無論、続きはありますが、今のところ時間に余裕がないので誠に申し訳ないですが、当分の間、更新は出来ません。
おそろく続きは新しいスレッドになると思います。
その時もよろしくお願いします。

324: 2015/01/25(日) 01:17:27.45 ID:1aeu846x0


話が重たすぎるよ…
まるで昼ドラの修羅場シーン見てるみたいだ

引用元: 静(50)「すまん、八幡。閉経期が来たようだ」八幡(37)「」