1: 2016/03/24(木) 09:24:23.54 ID:hFW7Vebr0
凛「ん……あれ、ここどこだろ…」

気が付くと、凛は知らない場所にいたの
明かりの付いていない部屋……自分の部屋?たぶん……違うにゃ……

ふかふかのベッド、向こうにあるガラスが曇ってる

水の流れる音がしてる

お風呂?誰か入ってるの?

凛「んっ……」

起き上がろうとしたら、何だか体が怠いような気がしたよ

何でかな?

とりあえず、うーんと背伸びをした

ここ、どこにゃ?


2: 2016/03/24(木) 09:24:54.82 ID:hFW7Vebr0
凛「あっ……」

服が無い!

にゃ、にゃあ!何で!?

慌てて辺りを見回したら、足元に凛の服を見つけた

フリルが可愛いミニスカート、ことりちゃんと買った時の、凛のお気に入り

薄いピンクのカーディガン、白いTシャツ、ちょっと子どもっぽい靴下

ぐしゃって、一纏めに置かれていた

こんなにしたら、皺が出来ちゃうにゃー!

ぷんぷんと凛は怒った

お布団から出るまで気付かなかった凛も凛だけど、こんなにするなんて酷いよ!

3: 2016/03/24(木) 09:25:41.89 ID:hFW7Vebr0
いそいそ、もぞもぞ、よっこいしょ

凛は急いで服を着たよ、裸のままだと恥ずかしいもんね

凛「ふあぁ~」

大きな欠伸が出ちゃったにゃ

凛はどれくらい寝てたんだろう……そういえばかよちんはどこにいるんだろう……

お風呂からの光がぼんやりと部屋の中を照らしてる

凛はそれを何と無く見つめた

ガラスが曇ってて見えないけど、あれ普段は中が丸見えなんだよね……?

何で壁とか無いんだろ……

凛「っ!」

ぐらっ

視界がゆらっと歪んだ

あ、あれ……?何だか気分が悪いかも?

ぽふ…っとまたベッドに腰掛ける凛

右手が、何か触った

4: 2016/03/24(木) 09:26:36.30 ID:hFW7Vebr0
凛「わっ」

ビクッと右手を胸元に引く

それは藍色のジーンズだったにゃ

凛「な、なんだ……びっくりしたにゃー」

よく見ると、そこにも服がてきとうに纏められていた

凛は特に何も考えずに、そこに手を伸ばす

昔から凛は、何にも考えずに、思った瞬間にばーって行動に起こしちゃう癖があるの

周りはそれを良いことだよって褒めてくれるし、凛もそれでいいと思っていたけど、この時は……

凛「ぱ、ぱん…っ!」

それはアニメの人気キャラクターがプリントされた、男物のトランクスでした

え!え?

凛はパニックに!あたふた!頭ガンガン!

あーもう!頭が痛いにゃー!

5: 2016/03/24(木) 09:27:16.93 ID:hFW7Vebr0
写真がプリントされたTシャツ、黒いベスト(木こりみたいってにこちゃんが前に言ってた)、黒いハット

どれもサイズが一回り大きくて、女の子のものじゃないって、凛は一目で分かった

どういうことだろう……?

じゃあ今お風呂に入っている人が、この服の持ち主?

ブルッ……と体が震えた

凛……なんだか怖くなってきたにゃ…

頭が痛いのを我慢して、凛は立ち上がったよ

ふらふら、ふらふら

相変わらず体が揺れて、真っ直ぐ歩けない

何でかなー?

やっとの思いで、凛は扉の前まで来たにゃ

小さい靴、かよちんと色違いの靴を見つけたにゃ

6: 2016/03/24(木) 09:28:01.69 ID:hFW7Vebr0
これ、大学生になったお祝いにってかよちんが買ってくれた靴なんだ

凛もかよちんにプレゼントしたかったけど、凛はそういうの分かんないから、かよちんが選んでくれた靴と同じ靴を選んだの

それでもかよちんはすごく喜んでくれたよ

凛ちゃんとお揃いだね、楽しい大学生活を送ろうね!って言ってくれたんだ

うん!って、凛も頷いて、かよちんと二人で笑ったにゃー

その靴を履こうとして、隣にもう一つ靴があるのに気付いた

当たり前だけど、今この部屋にいるもう一人の人の靴だよね……

白いデッキシューズ……凛の知っている人で、こんなの履いてる人はいたかな……

凛は、しっかりと靴を履いて、踵をとんとんってして、ドアノブに手をかけた

がちゃり

7: 2016/03/24(木) 09:29:03.18 ID:hFW7Vebr0
扉を開けるとそこは知らない場所だった

ずらっと扉が並んでいて、扉の上には番号が書かれていた

凛「どこ……かよちん……?」

寂しくなった凛はかよちんの名を呼んだ

赤いカーペットの上を歩いて、廊下の端っこまで行くと、そこはフロント?だったにゃ

もう何が何だか分からないよ!凛どうしたらいいの?

キョロキョロと視線を巡らせていると

「出口はあっちだよ」

ビクッとして、声がした方に振り向いた

フロントの向こう、ガラスで見えないけど奥の部屋から手だけが伸びて、出口を指していた

「あ、ありがとう……ございます…」

そう言って凛は出口に向かう

たったったっ!

廊下の向かうから人が走ってくる音が聞こえた

凛は、急いで外に出た

8: 2016/03/24(木) 09:30:26.12 ID:hFW7Vebr0
「はっ……は…はあ!はっ……」

寒空の下、凛は一所懸命走ったよ

途中、黒猫がにゃあにゃあと凛の横を通り過ぎたけど、凛はそれに返事をする余裕も無くて、息を乱しながら走った

季節は春、肌寒いけど、体の芯が熱かった

気持ちがぐらぐらと揺れていた

得体の知れない感情が、溢れそうになっていて、凛は何だか無性に泣きたくなったにゃ

「かよちん……はっ……かよちん…っ」

ただかよちんの名前を口に出して、無理やり自分の気持ちに蓋をした

どこにいるの…?

何をしているの…?

凛を一人にして、淋しいよかよちん…!


自分が何でこんな状況に陥っているか、何であんなところにいたか……

そんなこと、凛は考えたくなかった

「かよちん…っ!」

ただ、走った

9: 2016/03/24(木) 09:31:22.81 ID:hFW7Vebr0
「凛ちゃん!」


最初は空耳かと思った

足を止めないまま目線だけそっちを向いて、


「かよちん!」


凛は足を止めた


「か、かよちん!かよちん!」

「凛ちゃん!」


凛は全力でかよちんに抱き付いた

昔から知ってるかよちんの柔らかいだき心地に、ちょっぴり涙が出たよ


「り、凛ちゃんどこに行ってたのっ?」

「そ……それはこっちの台詞にゃー!目が覚めたらかよちんいなくて、とーっても心細かったにゃ!」


涙を浮かべたかよちんはすぐに凛の心配をしてくれたよ

凛はそれが嬉しくて、怒ったようなこと言いながらつい笑ってしまったにゃ

10: 2016/03/24(木) 09:32:01.74 ID:hFW7Vebr0
「凛ちゃん寝てたの?どこで?」

「あっ……」


しまった……そう思ったにゃ

つい安心して、思わず口に出してしまった台詞に、かよちんはすぐ気が付いちゃうの


「え、えっと……」


どうしよう、どうしよう……

あんなところにいたなんて、かよちんには絶対言えないよ

あーバカバカ!凛のバカー!真姫ちゃんみたいに凛も賢くなりたいよー!


「えっと!そ、そこらへんで寝てたんだにゃー!」

「え、えーっ!」


かよちんが目を見開いて驚く


「そこらへんってどこ!?まだ寒いのに!だ、大丈夫!?」

「えへへ、大丈夫だよ……」


かよちんは、やっぱり優しいな

11: 2016/03/24(木) 09:32:49.44 ID:hFW7Vebr0
「私はね、新入生歓迎会の途中で先輩に無理やりお酒飲まされて……少しの間倒れちゃって、さっき気が付いたの」

「あ……」


思い出してきたにゃ……

確か、テニスサークルの人たちが凛たちのところに来て……


『か、かよちんの分も凛が飲むにゃ!』


ふらふらのかよちんに無理矢理お酒を飲ませようとする人たちに、凛がそう言ったんだにゃ……


それから、えっと……


それから…………

12: 2016/03/24(木) 09:33:49.43 ID:hFW7Vebr0
「うえっ…!おえ……!」

「きゃあ!凛ちゃん!」


戻しちゃった……

かよちんがかけよってきてくれたけど……かよちん、汚れちゃうよ


凛に触ったら、汚れちゃうよ


「凛ちゃん!大丈夫!?」


優しく背中をさすってくれるかよちん

凛は、いろんなものが混じり合っちゃって、涙が止まらなかったの


「うぇっ……ぐす……うえーん……うえーん……」


ぐずぐず、鼻水も出てきて、凛の顔はもうぐちゃぐちゃ

酷い顔なんだろうな……かよちん、凛を見ないで


そんな心配そうに凛を見ないで……

13: 2016/03/24(木) 09:34:46.32 ID:hFW7Vebr0
「大丈夫?凛ちゃん、水買ってくる?」

「や、やだっ……」


精一杯の力で、かよちんの服の裾を掴んだ


「ここに…いてほしいよ」


力なくそう言った凛を、かよちんはどう思ったかな?

かよちんはただ黙って頷いてくれた


「…………」

「…………」


それから凛とかよちんは近くの公園に行って、ベンチに座っていた

かよちんは凛が落ち着くまで、ずーっと側にいてくれたよ

凛はベンチの上でうずくまって、かよちんに聞こえないように泣いた

でもね、かよちんはそっと、凛を抱き締めてくれたの


へへへ……かよちんには敵わないなぁ…

14: 2016/03/24(木) 09:35:55.29 ID:hFW7Vebr0
「そろそろ、帰ろっか……」


凛がそう言うと、かよちんも笑顔で頷いてくれた


「今日うちに泊まっていく?」

「ありがとうかよちん……でも…」


でも、今は一人にして欲しいにゃ……きっと、また泣いちゃうから


「そっか……」


かよちんもそれ以上は言わず、了解してくれた

二人で公園から出て、真夜中の街を歩いていく


「楽しい大学生活にしようね」


無理矢理作った笑顔でそう言うと、かよちんはとっても辛そうな顔で凛を見た

あ、あれ……?またあの時みたいに二人で笑おうよ……

うんって言ってよ……


「凛ちゃん……」

15: 2016/03/24(木) 09:39:01.88 ID:hFW7Vebr0
「これから、きっと楽しくなるよ!」

「あ……」


何で、何でそんな辛そうに言うの…?

かよちんが笑ってくれなきゃ、凛も笑顔になれないよ…


「ありがとう……っ」


凛はまた泣いちゃった

ぎゅっ、とズキズキ痛むところを押さえる……かよちんに気付かれないように気を配りながら


「あのね、穂乃果ちゃんは今もアイドル続けてるんだって」

「にこちゃん…大学でも忙しいみたい」

「あ、そうだ!今度真姫ちゃんと三人で遊びに行こうよ!」


帰り道、かよちんは色んな話をしてくれた

普段は凛ばっかり喋るから、何だかたどたどしくて、もどかしくて……

凛の胸が、嬉しさでいっぱいで、悪い気持ち全部流しながら溢れちゃったよ

16: 2016/03/24(木) 09:41:03.26 ID:hFW7Vebr0
夜桜が風に揺られて舞う

ひらひら、ひらひら

舞い落ちるそれは、ひどく寂しく見えた


「きれいだね」


かよちんがそう言う。

あぁ、そっか。見えてるものは一緒でも、凛とはもう違うんだね……

それから、かよちんは凛を家まで送ってくれたにゃ


「じゃあまた明日、凛ちゃん」

「おやすみにゃ、かよちん」


背を向けても、かよちんの視線を感じた

振り返ると、やっぱりかよちんはまだそこにいた


「えへへ……」


凛は、上手に笑えたかな

17: 2016/03/24(木) 09:41:29.64 ID:hFW7Vebr0
終わり

引用元: 花陽「憧れの大学生活!」凛「新歓コンパ!」