1: 2008/08/11(月) 20:07:16.03 ID:na+9pW4C0
太陽は自分の暑さに狂ってしまったかの如く発熱して地球を温めている。
その被害をモロに受けている者としてはさっさと頭を冷やして欲しい。
いや、待てよ? 太陽が消えたらもしかして丁度よくなるんじゃないか?
ほら、温暖化とかで地球暖まっているし太陽なくなればクールダウンに……。
「なりませんよ。それよりかここでカードを出さないとぼくの勝ちですよ?
 出しちゃいますよ? あと一枚ですよ? 僕」
「ん……? ああ、えーっとエースな。2出して、8切り。それで革命。
 で、4出して上がり」
「初勝利になると思ったのですが……」
勝負はそう甘くないんだ、古泉。
俺はうなだれながらカードを切っている古泉を横目に朝比奈さんのいれたお茶をすする。うまい。暑くてもうまい。

3: 2008/08/11(月) 20:08:14.55 ID:na+9pW4C0
ちなみになぜか汗一つかかない長門は扇風機を独占して人を殴り殺せそうな本を読んでいる。いざとなったらあれで戦えそうだ。
「誰と戦う気ですか? それにしても涼宮さんが遅いですね……」
言われて見れば教室を一番乗りで抜け出して行ったハルヒが中々来ないのはおかしい。
いや、しかしあれだけ勢いよく走って行ったということは何かしら企んでいるような
気もするがどうなんだろうか……。
「あのーキョン君、考えすぎはよくないですよぉ」
夏季バージョンメイド服を着こなす天使がお茶を注いでくれる。

4: 2008/08/11(月) 20:09:12.72 ID:na+9pW4C0
確かに頭がオーバーヒートしそうだ。暑すぎる。
「確かにこの暑さだと頭がおかしくなるもの頷けます」
「おい、なんかひどいこと言わなかったか?」
「暑さのせいですよ。でもよかったじゃないですか。明日からは夏休みですよ?」
そう。そうなんだ。明日からは夏休みなんだ。この事実だけが俺を支えていると
言っても過言じゃない。既に終業式が終わってほとんどの生徒が下校している。
しかし、それでも残ってあまりにも弱い古泉を相手に大貧民が出来るのは
明日から夏休みという事実があるからである。

5: 2008/08/11(月) 20:10:20.77 ID:na+9pW4C0
「そういえば今年の夏もどこかへ行くのか?」
「そうですね。まだ決めていませんが……。また去年の場所でもいいですけど」
「去年は海だから今年は山というのもいいよな。涼しい山とかないのか」
「山ですかぁ。緑に囲まれるのもいいですね」
三人で頭合わせて云々唸っていると部室の扉が吹っ飛んだ。

6: 2008/08/11(月) 20:11:03.67 ID:na+9pW4C0
「みんなお待たせ!」
扉が吹っ飛んだのは幻覚だったようだ。ああ、暑い。太陽が近い。
「今日は遅かったな。何かあったのか?」
「夏休みの計画を冷房の効いた図書室で練ってたのよ。それで今追い出された」
俺が恨み言を連ねる前に古泉の横槍が入った。
「計画は完成しましたか?」
「大体は、ね。でもみくるちゃんが受験だからそんなに日数はないわよ。
 あとは古泉君の旅行プランで完成ね!」
ほほぅ、ちゃんと気遣いをするのか。
こいつのことだから夏休みみっちりだと思っていたが。

7: 2008/08/11(月) 20:12:25.78 ID:na+9pW4C0
「まだ未確定なんですが希望はありますか?」
「そうね……私はどこでもいいわ。いや、待って、やっぱ山がいいわ!」
「それでは山ということで探しておきます。出来るだけ早くみなさんに知らせますね」
「頼んだわよ。今日の映画見たらきっと山へ行きたくなるわ」
「映画?」
今日は金曜日。ということは金曜ロードショーか。
俺は今のオープニングよりかは昔の桟橋のオープニングのほうがすきなんだよな。
「今日は確かぁ……」
朝比奈さんが可愛らしい仕草をしながら考えている。
そういえば朝、妹が騒いでいたような気がする。
ということは子ども向けでもある映画か。
「今日の映画はジブリの『となりのトトロ』」
物言わずずっと本を読んでいた長門が喋った。というか扇風機独占するなと言いたい。
「その通り! 有希はよく知ってたわね!」
「私も……見る」
どこで見るのかは聞かなかった。
その後、ハルヒのハルヒによるSOS団のための計画発表があり、その後解散となった。

9: 2008/08/11(月) 20:13:27.70 ID:na+9pW4C0
その日の夜。九時~十一時過ぎまでテレビに釘付けになっていたのは言うまでもない。
いやはや、やはりあの作品は面白い。先週はゲド戦記、先々週は猫の恩返しだったな。
来週はどうやら違うらしい。残念だ。あ、ちなみにこれは東京の話だ。
兵庫は違うかもしれない。その辺は許してくれ。
あと夏休み開始時期についても多めに見てくれ。

10: 2008/08/11(月) 20:14:33.55 ID:na+9pW4C0
翌日。
俺が泥のように惰眠を貪っていると耳障りな電子音で目を覚ました。
岩のごとく圧し掛かる眠気に対抗しながら発信元を手に取り小さなボタンを押す。
「ちょっとキョン! いつまで寝てるのよ! もうお昼よ!」
あまりにも予想通りな人物から謎の電話が来た。
今日は集まりがないから寝ていたはずなのだが。
「なんだ……? 今日は集まりはないだろ?」
「ないわよ」
あっけらかんと言い放つ。なんなんだ、畜生。人の睡眠を邪魔しないでほしい。
「あら? 私は切ってもいいんだけどなー」
「なんだ……」
「来る気があるなら今すぐ起きて宿題を持って図書館まで来なさい!
 二時間待ってあげるわ!」
俺の言葉を待つよりか早く電話は乱暴に切られた。なに? 宿題を持って図書館?
しかし俺に拒否権があるはずがない。むしろ俺は頭の片隅で期待している。
宿題を早く終わらせることができるかもしれないと……!

11: 2008/08/11(月) 20:15:35.50 ID:na+9pW4C0
「あら? 意外に早かったわね。まぁいいわ」
汗だらけで暑苦しい俺に対して放ったハルヒの言葉はあっさりしていた。
「まぁ座りなさい。見てて暑苦しいわ」
反論する気も起きずハルヒの横の席に腰を下ろす。
息が整い、汗がひいたころ俺は質問した。
「で、今日は何のようだ?」
「宿題を一緒にやりましょ」

12: 2008/08/11(月) 20:16:45.15 ID:na+9pW4C0
俺は耳を疑った。あのハルヒが、あの傍若無人で有名なあのハルヒが。
一緒に宿題をやろうといっている。どういうことなんだ。わけがわからない。
あのハルヒも頭がおかしくなってしまったのか? 確かに昨日も今日も暑かった。
しかしハルヒである。暑さなんざ倍返しするだろうハルヒだ。そんなはずはない。
それならばなぜ目の前のハルヒはこんなに変なんだ? 具体的に言うと優しすぎる。
いつものハルヒなら「宿題くらい自分でやりなさい。こんなのもわからないの?」
と言って俺をなじるはずだ。絶対そうだ。しかし、だ。このハルヒはなんと言った?
「一緒にやりましょ」だと? これは異常と呼ぶ以外何者でもないだろう。
しかしここでふと疑問が過ぎる。もしかしたらおかしくなっているのは俺ではないか?
実は俺は夢を見ているんじゃないか? だからハルヒがこんなに優しいんだ。
ということは俺は心の奥底ではハルヒに優しくされたいと思っているのか。
まさかそんなはずはない。それなら朝比奈さんに……。

13: 2008/08/11(月) 20:17:50.44 ID:na+9pW4C0
「ちょっと、キョン。大丈夫?」
心配そうにこっちを見ているハルヒが見える。頬を叩かれる感触がある。
ああ、やっぱりおかしい。このハルヒは優しすぎる。一体どうなっているんだ。
「いきなり気持ち悪い顔して固まったから氏んだかと思ったわ。自分の隣で知り合いが
氏んだら目覚めが悪くて仕方ないわ」
中々辛辣な言葉だ。いや、それはいい。
「ハルヒ、何か悪いものでも食ったか?」
「あんたじゃあるまいし」
「じゃあなんでそんなに優しいんだ?」
「そ、そんなことないわよ!」
ここは図書館である。当然ながら大声を出せば非難の目で見られるわけだ。
ハルヒもそれに気づいたのかなんだか知らないが顔が赤くなっていく。

14: 2008/08/11(月) 20:19:06.27 ID:na+9pW4C0
「これはあんたのためだけじゃないのよ」
そっぽを向きながら話を続ける。
「あんたのことだからどうせ宿題は夏休みの後半でやろうとか思って結局慌てるはめになるのよ。そうなったらSOS団の活動にも支障が出るでしょ? だから出来るだけ手伝ってあげることにしたのよ。だからと言って答えを教えるわけじゃないわよ? 自分で問題は解きなさい」
つまるところ監視するってことか。やれやれ。今年は宿題は早く終わりそうだ。
「しかしそれならなんで俺とお前だけなんだ? 他の三人はいいのか?」
「古泉君と有希がさぼるって言うの? みくるちゃんは受験だし呼び出したら悪いでしょ? 寝言は宿題を終えてから言いなさい」

15: 2008/08/11(月) 20:20:54.05 ID:na+9pW4C0
その後、俺はハルヒの監視の下、時々ハルヒに聞きながら本来なら八月の後半に終わるはずの宿題を一ヶ月繰越で半分終わらせていた。
今まででこんなに宿題が進んだ夏休みがあっただろうか。いや、ない。これからもないだろう。
「この調子なら明日には終わりそうね。明日もちゃんと来なさいよ!」
どうやら俺は二日で夏休みの宿題を終わらせることになるらしい。今まででこんなに短期間で宿題を終わらせた夏休みがあっただろうか。
いや、やはりない。そしてこれからもやはりないだろう。ちなみな話だがハルヒは途中から本を熱心に読んでいたところを見ると既に終わっているようだ。さすがはハルヒである。
帰宅した俺を出迎えてくれた妹にふと思い「宿題はやったか?」と聞いたところ「もうほとんど終わったよー」という素晴らしい返事を頂いた。どうやら妹と俺は出来が違うようだ。
飯を食った後、今日の分の夏休みを取りかえそうとマンガとゲームをやるといういつでも出来そうなことをやり一日を終えた。

17: 2008/08/11(月) 20:22:04.14 ID:na+9pW4C0
次の日。昨日のリプレイのごとくハルヒの電話で起こされた。しかし心なしかハルヒの声が嬉しそうに聞こえる。
まぁ気のせいだろう。しかしそれは気のせいでないことを予想もしないような事実によって知ることとなる。
「来たわね、それじゃあさっさと始めなさい!」
やはり嬉しそうに見えるハルヒを横目に問題を解いていく。何かいいことでもあったのだろうか? 
しかし今はそれを詮索するよりも目の前の数式を解読しなければならない。だがどうにもこうにもこの問題は俺の脳みそでは少し理解できないようだ。俺は本を読んでいたハルヒに聞くことにした。

18: 2008/08/11(月) 20:23:08.86 ID:na+9pW4C0
「なぁ、ハルヒ。この問題は……」
「教科書の23ページにそれに似た例題が出てるわ。それを見て自力で解きなさい」
ハルヒはこちらを見ずに答えた。なんだ、こいつはどの問題が教科書のどのへんに書いてあるかということをマスターしているのか?
とんでもないことだ。一体こいつはどれだけ頭がいいと言うんだ。教科書を開いたところ本当に同じような問題が例題としてあった。
というか数字を変えただけだ。教師が問題製作をサボってくれたおかげで俺はその問題をどうにかこなすことが出来た。
だが再び壁にぶつかるのはそう時間がかからなかった。困ったものだ。俺はもう一度式を見直して教科書を眺めた後、ハルヒに質問しようとした。
「その式、二行目の計算違うわよ。ケアレスミスね」
またもやハルヒはこちらを見ずに、更に質問する前に答えた。まさかと思って言われたとおり二行目の計算をするとすんなりと答えが出せた。
いや、もしかしたらこちらをちら見してわかっていたのかもしれない。そうしておこう。だがその考えはすぐに否定されることとなった。

19: 2008/08/11(月) 20:26:31.39 ID:na+9pW4C0
「キョン、次の問題気をつけなさい。あんた問題文読み間違えることになるわよ」
「さすがに俺はそこまで抜けてないさ」
俺は確かにその時までそう思っていた。問題文を読み数式を書き答えを導きだす。
問題は決して難しくない。出来るはずだった。なのに答えがおかしい。俺はもう一度問題文を読み直した。
「ハルヒ……なんでわかったんだ?」
「キョン、私は知っているのよ」
にやりとハルヒは笑う。混乱している俺を見て楽しんでいるのだろう。実際俺はとても混乱している。
一回目、二回目なら盗み見したなどで説明はつけられるが今回は問題を解く前に注意をしてきた。
問題文が見難いわけでもない。なのに俺が読み間違えると言った。これは最早予言の類になるのではないか?

20: 2008/08/11(月) 20:27:29.41 ID:na+9pW4C0
「ほらほら、ぼーっとしてないで問題解きなさい!」
有無を言わさぬ言葉に俺は従うしかなく疑問を胸に込めたまま指を動かすことにした。
放っておいてもそのうち自分から何かしら言うだろうと考えた結果でもある。
その後もハルヒの助言という予言を受けながら夏休みの二日目にして宿題を終わらせるという偉業を成し遂げた。
「明日も呼ぶからちゃんと起きておきなさい!」
別れ際にハルヒは俺にそう言って帰った。きっと今日の不思議も明日団員を集めたときに発表するのだろう。
しかし俺の予想は再び裏切られることになる。世の中予想通りにいかないものだ。
家に着いた早々携帯が鳴り出した。俺は相手を確認して眉を顰めた。
「どうしたんだ、長門」
「重大な問題が発生した。今すぐ来て」
電話はそれだけ言うと切れてしまった。重大な問題には俺にも心当たりがある。
母親に夕飯はいらないと告げると再び自転車に乗ってマンションへ向かった。

21: 2008/08/11(月) 20:28:40.21 ID:na+9pW4C0
「入って」
制服姿の長門が出迎えてくれた。なんで制服なのかと疑問に思わなくもなかったがとりあえず置いておく。
玄関には明らかに長門のものではないというサイズの靴とかわいらしい靴が置いてあった。
「こんばんわ」
「キョン君、こんばんわ」
未来人と超能力者が仲良くお茶を飲んでいた。少し嫉妬したがとりあえずこれも今はいい。
「またハルヒか」
「そのようですね。ぼくも長門さんに呼び出されたものであまり状況を把握していないんですよ」
と古泉。
「私はそのぅ……気のせいかと思って……」
と朝比奈さん。
ふむ、どうやら古泉の管轄外で朝比奈さんと長門の管轄内の問題が起きたようだ。
朝比奈さんの管轄内というと時間に関することだろう。ということはやはり昼間のハルヒは何かしら異常があったということか。

22: 2008/08/11(月) 20:30:10.37 ID:na+9pW4C0
「俺も今日ハルヒにあったのだが……なんというか先のことがわかっていたような節があったな」
俺は今日図書館であったことを話した。朝比奈さんの顔がどんどん変わっていく。あたりのようだ。
「涼宮さんが予言を……そんなこと……」
ぶつぶつと呟いている朝比奈さんをよそに長門は俺にお茶をいれてくれた。長門は俺の左側に座る。
ちなみに前に朝比奈さん、右側に古泉がいる。古泉の後ろになんと小さいテレビが置いてあることに気づいた。
そういえば金曜日に映画観ると言っていたがどうやら本当だったようだ。

23: 2008/08/11(月) 20:31:38.42 ID:na+9pW4C0
「涼宮ハルヒが時間移動をしたのを確認した」
長門がそう切り出した。朝比奈さんの動きが止まる。
「そんなこと出来るはずが……」
朝比奈さんはうろたえている。それほど大変なことなのだろう。
世界を改変しようとした人間が時間移動しても今更感がなんとなく否めない。俺は慣れてしまっているのだろうか。
「朝比奈みくるの行なう時間移動とは違う形の時間移動を行なった。
 本来ならば一つであるはずの時間軸が分裂してしまった。このまま放置しておけば世界に大きな歪を生むことになる」
「時間軸の分裂、ですか」
「そう。涼宮ハルヒは計二回の時間移動を行なっている。一回目は昨日の二十三時五十三分に五分前に移動。
 二回目は今日の二十三時四十分に十六時間前に移動」
 俺は携帯の時計を見る。まだ七時になったばかりだ。今から四時間後に時間移動を行なったということなのか?
「現在の世界にいる涼宮ハルヒがいつ時間移動するかわからない。だがらあなたたちを呼び出した」
自分の説明を終えてしまったらしく長門はそれ以上何も言わない。言っていることがやはり理解できない。時間軸の分裂? 何の話だ。

24: 2008/08/11(月) 20:33:08.03 ID:na+9pW4C0
「まさか現在世界は三つあると言うことですか……?」
朝比奈さんの問いに長門が頷く。
「ちょ、世界が三つってどういうことですか?」
「ふむ。長門さん、紙とペンを貸してくれませんか?」
古泉は手渡されたルーズリーフに縦線を平行に三本書く。
「今聞いた話を僕なりに解釈したものですが……。わかりやすいように左から番号を振りましょう」
線の上に1,2,3と番号を書き込む。
「最初の時間移動をする前の状態が1。一回目を行なった後を2。二回目、つまり今の世界を3となります。とりあえずここまで合ってますよね?」
長門は僅かに頷く。
「なら話を続けます。本来の時間移動、つまり朝比奈さんの使用する時間移動はこの一本の線上で行なわれるものなのだと思います」
「そ、それは禁則事項です……」
朝比奈さんが困ったような表情をしている。実にわかりやすい人だ。

25: 2008/08/11(月) 20:34:47.34 ID:na+9pW4C0
「僕たちの本来の世界、つまりこの1の時間軸がそれです。本来ならばここから外れることはないのでしょう。
 しかし涼宮さんの時間移動により1の時間軸から2の時間軸に移動した。
 ここでなぜ涼宮さんの時間移動が朝比奈さんのものとは違いこのようなことが起きたのかはわかりませんが……」
ちらりと古泉が朝比奈さんを見る。そんな目で見るな。禁則事項とわかっているくせに。
「そもそも朝比奈みくるの時間移動の理論の基となるものは涼宮ハルヒが生み出したもの。
 同じ理論を用いて移動した場合、朝比奈みくると同じように時間軸上しか移動できないはず。
 しかし実際は世界ごと時間をずらしている。その影響でこの図に2、3にあたる世界の未来は存在しない。
 過去は1の世界には繋がるが未来は決して繋がらずばらばらの未来へと繋がっていく」
やけに饒舌だ。こんなに饒舌なのは最初の告白以来じゃなかろうか。

26: 2008/08/11(月) 20:36:13.51 ID:na+9pW4C0
「あー、つまり今の世界は本来朝比奈さんの知っている未来に繋がるとは限らないということだな?」
「そう。だから朝比奈みくるは現在未来からの制約はなくなっている」
突然話を振られてびくっとする朝比奈さん。ああ、もうかわいい。
「え、それじゃあもしかして……
 私の時間移動は時間軸上で行なわれることであり未来は確定しているがそれを唯一変えることが出来る人物が涼宮さん
 ……禁則事項がなくなってます!」
なんか今さらっと大事なことを言ったような気がするが。大事だけど二度は言いそうになさそうだ。

27: 2008/08/11(月) 20:37:58.76 ID:na+9pW4C0
「朝比奈みくると涼宮ハルヒの時間移動の最大の違いは自分が移動するが自分以外を移動させるか。
自分が移動するものならば指定の世界まで時間軸上を移動するだけで済む。
しかし後者のものは自分を基準にしてそこに世界を持ってくるもの。そのせいで世界がふたつになる。
さらに自分が基準となるので自分は唯一無二の存在でありこの三世界全て見ても涼宮ハルヒは現時点でも一人しかいない。
それが大きい違い。不幸中の幸いなのは増えたのはこの星と周辺程度で済んでいること。
もしも宇宙全体を巻き込んでいたら気づくのが遅れ取り返しのつかないものになっていた。
ただ全ての時間軸は一つの場所で展開されている。つまりこの星と周辺のものは三つの時間が流れていることになる。
それはとても危険なこと。とてもとてもとても……」

28: 2008/08/11(月) 20:39:02.10 ID:na+9pW4C0
長門がそのままゆっくりと横に倒れていった。慌てて抱き起こす。目はどこか遠いとこを見ている。
頬を叩く。もしもここで長門が起きなかったら俺たちは一体……。
「長門! 大丈夫か! おい!」
長門がゆっくり三回瞬きすると右手で古泉後方を指差した。
そこには古泉の頭が三つあった。いや、頭だけじゃない。身体も三つある。しかしふたつはとても色が薄い。
古泉は自分の手を見て驚いている。
「これが歪。他の世界の時間軸の幻影。もしもこのまま放置すればさらに幻影は拡大していく。既にこの部屋には十二人の人がいる。
他にも私の思考回路に支障を来たす。いや、既に支障をきたしている」
よくみれは朝比奈さんも長門も三人いるように見える。そして俺の腕も多めに見える。
長門が俺の腕から離れて座りなおす。しかし俺の腕には色の薄い長門がまだいる。この長門は他の時間軸の長門なのか……。
「早急に原因を探る必要がある。朝比奈みくる」
「……わかりました。みなさん来てください」
四人が一箇所に固まる。幻影たちはそれぞれ違う場所で四人で固まっている。どうやら同じことを考えているようだ。
「時間は四時。場所はここ。お願い」
「わかりました。いきますよ。目を瞑っていてください」
これも未来がないから出来る業なのだろう。最初で最後のハルヒを抜いたSOS団の時間、いや世界移動か。全員が手を重ねる。

29: 2008/08/11(月) 20:40:04.82 ID:na+9pW4C0
ぐらりと足元が揺れる。目の奥がちかちかし始めた。今までのものとは全く違う、そして比べ物にならないほどの揺れを感じる。
足元がぐにゃりと溶けて頭は居場所を感じなくなった。もしも他の人のぬくもりを感じられなかったらだめだったかもしれない。
足場が出来上がっていく。頭が天と地を認識する。ゆっくりと目を開ける。見慣れた部屋に俺が二人いる。
いや、俺を含めて三人か。もちろん他のSOS団も三人いる。
「えーっと長門、なんだか大変なことになっているのだが」
「「「朝比奈みくるの時間移動はあくまで時間軸上。未来はなくとも過去はどれも同じ。つまり過去に行けば同じ時間軸上に戻りこうなる」」」
「あー、ありがとう。各時間の長門」
そうかそうか。つまり分かれ道も戻れば一つってことだ。なるほど。
「長門、時間軸は三つだろ? 一つは本来の時間軸なんだから未来があって過去には移動できないんじゃないか?」
「「私にもわからない。もしかしたら最初の時間移動の時点で未来は不確定のものとなって制約がはずれたのかもしれない。
それはその時間の私たちが知っているはず」」
二人の長門が残る一人の長門を見る。なるほど。元の古泉の場所にいるのが1のSOS団か。
ということは机を挟んで向かい側にいるのは2のSOS団だな。

30: 2008/08/11(月) 20:41:11.96 ID:na+9pW4C0
「不確定となって制約が不安定になった。その隙をついて私が制約を完全に外し時間移動した」
「ということは結局本来の時間軸はどこなんだ? 四つ目のものがあるということか?」
「「「涼宮ハルヒが時間移動をした世界としていない世界があると考えれば四つと考えられるが全ての未来が決まっていると考えればそれは矛盾している。
 一番近い答えは本来の時間軸が消失したという考え方。もしくは時間軸は涼宮ハルヒという考え方。どちらにしろさして変わりはない」」」
「「「それじゃあ未来に帰れないじゃあないですかぁ」」」
これまたきれいな三重奏が部屋に響く。そういえばさっき朝比奈さんがかわいく見えたのは世界に歪があったせいだな。きっとそうだ。
「「「この時間にはまだいる涼宮ハルヒの時間移動を止めれば未来は復活するはず。
 ただしその場合は他の歪で出来た世界、つまり今ここにいる人たちの世界は消えて同時に私たちも消える。だから心配する必要はない」」」
なんだかとてもいやな結論だな。それって俺たちは氏ぬってことと同じじゃないのだろうか。

31: 2008/08/11(月) 20:42:05.32 ID:na+9pW4C0
「ところでどうやって涼宮さんの時間移動を止めるのですか?」
2の古泉が言う。はもる人間とはもらない人間がいるな。女性陣ははもり男性陣ははもらない。
これ、今しか使えない豆知識だな。
「「「まずなぜ時間移動に思い至ったかを考えなければならない」」」
「あいつのことなんだから何かに影響されたんじゃないか? トトロ見て山行きたいって言うくらいだしな。
 だとしたら疑うべきはあいつの周辺にあるそういったものだが……」
「「「実はある程度予測はついている。だからそれを防ぐためにこの時間に来た」」」
さすが長門だ。というかいつも通りかもしれないが俺と古泉は相変わらず空気だな。

32: 2008/08/11(月) 20:43:12.33 ID:na+9pW4C0
丁度その言葉と同時に玄関から音が聞こえた。どうやら長門が帰ってきたようだ。
廊下を渡り部屋に顔を出した長門はその光景を眺めて少し顔をしかめた。
3の長門が近づいていき帰って来た長門のスーパーの袋を持っていないほうの手を握る。実に奇妙な光景だ。
「事態は把握した。早急に対策を施す」
帰ってきた長門は袋をそこに下ろすと電話をし始めた。
「用事がある。今すぐ私の家に来て。涼宮ハルヒには隠して。他の二人と一緒に来て」
それだけ言うと通話を切った。そんなことをあと二回繰り返すとこちらのほうを向いて
「涼宮ハルヒ以外の団員を呼び出した。事情を説明したら涼宮ハルヒを呼び出し指定の時間まで一緒にいる。そうすれば問題は回避される」
「本当に大丈夫なのか?」
「絶対ではない」
おいおい、安心できないな。失敗したらまた面倒なことになりそうだから頑張ってくれよ。
「理由がわからない以上はどんな方法も絶対とは言い切れない」
袋を置いてきて戻ってきた長門がそう言う。
「まぁどんな理由にしろその移動した時間のときに俺たちが居れば安心ってことか」
長門が頷く。

33: 2008/08/11(月) 20:44:19.31 ID:na+9pW4C0
「しかしよー、そうしたらこれからもずっとあいつが何かに影響を受けないように俺たちが調整していかないといけないのかね」
2の俺が床に腰を下ろしながら言う。それを見てそれぞれの時間軸ごとに固まって座る。
「機関はそのためにあるようなものですから」
3の古泉が首を小さく横に振りながら言う。
「宇宙人にしろ未来人にしろ超能力者にしろ一般人にしろまだ見ぬやつらたちもずっとこいつに振り回されて縛られて生きていかなきゃいけないのかな」
「おい、それは言いすぎだろ」
1の俺に俺が反論する。ああ、ややこしい。
「でもよ、お前も俺なんだからわかるだろ?
 まぁちょっとした小旅行で済む程度のものなら俺だって楽しめるからいいけどさ、今回は今までとはレベルが違いすぎるぜ?
 さすがに俺も少し嫌になった」
確かに俺のの言い分はわかる。あいつの尻拭いのためにこっそり世界を元のレールに戻すということがどういうことか。
今までも、そしてこれからもずっと経験することだろう。時間を越えたり氏に掛けたりしながらずっと。
「あなたたちの言いたいことはよくわかる」
この時間軸の長門、4の長門が目を伏せる。
「かつて……急進派の一人で私のバックアップでもあった人がこう言っていた。
 『なんで彼女なのかしら。ずーっと動きのない観察対象をみんなして見ているなんて馬鹿みたい。まるで呪縛ね。いいわ、もう。私が動かすから』」

34: 2008/08/11(月) 20:45:14.32 ID:na+9pW4C0
ぴんぽーんと間の抜けた音が重い空気の中を突き抜ける。どうやら思った以上に早く到着したようだ。
入ってきた4の三人はやはり俺たちを見てひどく驚いていた。
長門が状況を説明することでやっと理解したらしく朝比奈さんだけが信じられないといった顔をしていた。
「しかし十六人も人が入るとさすがに狭いな」
「元からそんなに大勢の人間がはいるようには設計されていない」
まぁ確かにそうだろうけどよ。情報統合思念体だったかもこれは想定外に決まっている。
「それでどうやって涼宮さんを止めるんですかぁ?」
「これで止める」
長門は土鍋を机の上に置いた。中には何も入っていない。
「今日はおでん。涼宮ハルヒをこれで誘い出す」
そんなバナナな計画だったのか。本当に成功するかよ。
「「「「大丈夫。涼宮ハルヒは来る」」」」
四人の長門が頷いて言う。これなら大丈夫そうだ。何せ一人で百人力の長門が四人だからな。

35: 2008/08/11(月) 20:46:51.22 ID:na+9pW4C0
『何!? 夕ご飯のお誘い!? 行くわ! 他の三人にm……もう呼んだ? さすがね。それじゃあすぐにむかうw』
ハルヒは言い終わらないうちに自ら電話を切った。というかあれだけ馬鹿でかい声で電話して喉が痛くならないのだろうか。
ちなみに他の三人の長門は台所でおでんの調理真っ最中である。レトルトではないらしい。というか長門よ、その台所に三人はせまいくはないか?
「しかしこうやって自分が三人もいるところ見ると不気味だな」
「確かにちょっとしたホラーですね。でも自分も含めれば四人ですからトランプも出来ますよ?」
「ゲームも麻雀も出来るだろうな。最もお前の場合最低を争うような戦いだけどな」
「「「「同じ顔が四つならんでトランプしているのは絵的に不気味な気がしますぅ」」」」
「そうですね。というか二人でも気持ち悪いと思いますよ」
「ところで僕たちはここに居ていいんでしょうか? 涼宮さんが来たら大変ですよ?」
「それもそうだな。おーい、長門。俺たちはどこにいる?」
「「「「隣の部屋に」」」」
「オーケー。あ、この時間軸のやつは残れよ」
「「「「どれがこの時間軸の人なんでしょうか」」」」
「俺とそこの古泉か?」
「残念。僕は違いますね。多分こちらの僕じゃないかと」
「いえ、こちらの僕です」
「僕がそうですね。涼宮さんならもう来てもおかしくないですね。他の時間軸の方は移動しましょうか」
「そうするか。っておい。そうしたら俺はおでん食えないってことか?」
「そうなるな。残念だったな、俺。しっかりと俺が味わっておいてやるよ」
「うらやましいぞ、俺」
「「「あれ? こっちにもテレビありますね。ちょっとあっちより小さいかな」」」

36: 2008/08/11(月) 20:47:58.61 ID:na+9pW4C0
四人の長門が台所から出てくる。どうやら終わったようだ。
「「「「そのテレビは地上デジタルに対応していない」」」」
なるほど。宇宙人もその辺を弄ることは出来ないのか。
「一応こっちもテレビつくみたいだな」
最早どの時間軸の俺かわからない俺がテレビをつけながら言う。
「「「「テレビを観ながら寝ることがあるから」」」」
ずいぶん人間くさいことをするようになったな。長門。
そうこうしているうちにインターホンがなる。暴君の到着だ。急いで部屋に入りふすまを閉める。
「「「離れて」」」
三人の長門が並んで手を出す。と、同時に彼女の手から波紋が走り部屋にいきわたると消えていった。
「「「防音処理をした。これで音を立てても平気」」」
ふすま一枚だとあの暴君には聞こえるだろうしな。さて、あとはあちら側がうまくやるのを信じるしかないな。
どうやら防音処理のおかげであちら側の音も聞こえないから何をやっているのかさっぱりわからん。
一人の長門がテレビのチャンネルを変える。なんだ、見たいテレビでもあるのか?
「多分涼宮ハルヒが影響を受けたもの」
そういうと一つのアニメ映画が始まった。タイトルを見て俺は全てを納得した。

37: 2008/08/11(月) 20:49:02.20 ID:na+9pW4C0
「いやー、やっぱり面白いわね! アニメって批判されがちだけど面白いものは面白いわ!」
「そうですねぇ。私も感動しましたぁ」
ティッシュを片手に朝比奈さんが言う。
「しかし時間移動とは夢のある物語ですね。現実でありえないからこそ描ける作品です」
「まぁそうだな。言っておくがハルヒ。くるみが落ちてても過去に戻れたりしないからな」
「そ、そのくらい私でもわかってるわよ! 最もここにいるのはくるみじゃなくてみくるちゃんだけどね!」
ハルヒが朝比奈さんに抱きつく。もちろん朝比奈さんは時間移動する道具ではないのでひゃーっと舌足らずな声だけしか出てこない。

38: 2008/08/11(月) 20:50:06.91 ID:na+9pW4C0
長門がお茶を静かに入れる。どことなく楽しげなのは面白かったからなのだろうか。
「だけどなんでくるみなのかしら。だったらスイカでもいいじゃない」
スイカはよくないだろ。そんなでかいもの背負って時間飛びたくないぞ。
「来る未来。だからくるみ」
長門がぽつりとつぶやく。なるほど。そういわれてみればそうかもしれない。
「ということはみくるちゃんは未来から来るってことね! 未来人発見! 食べちゃうぞー!」
「おいおい、酒飲んで酔っ払ったオヤジじゃないんだから耳をかじるのはやめとけ」
「いいじゃない! あんたもかじる?」
「せっかくだが」
「そう。ならいいわね!」
どういう理論だか知らないが朝比奈さんの耳にかぶりつくハルヒ。うまいのか? 耳。
古泉のほうを見ると軽く手をあげていつもの困ったポーズをした。俺もそれをやりたい気分だ。
ハルヒも本気で朝比奈さんを未来人だとは思っていないだろう。
ふと時計を見ると既に十二時を少し回っていた。ハルヒが朝比奈さんとじゃれているところを見ると全ては成功したらしい。
長門はゆっくり立ち上がると閉じていたふすまを開けた。
そこには人の影はなくただテレビだけが点いていた。

39: 2008/08/11(月) 20:53:12.75 ID:na+9pW4C0
後日、映画館へ行くことになった。何の映画かは言わなくてもいいだろう。
ただ結果として言えばその後水族館に行ったということも付け足さなければならない。


                                        涼宮ハルヒの幻影 了

拙い文で色々読みにくかっただろうけどここまで読んでくれてありがとう!

43: 2008/08/11(月) 21:03:33.75 ID:na+9pW4C0
一応続編のタイトルと大まかな内容も考えたけど滅茶苦茶長くなりそうだからどうしようか考え中

41: 2008/08/11(月) 20:56:12.28 ID:mMeA8eiQO

42: 2008/08/11(月) 20:57:49.58 ID:qyMcBLfyO

続編希望

45: 2008/08/11(月) 21:13:51.90 ID:9YaybRU70
>>1
乙!続編期待してます

引用元: 涼宮ハルヒの幻影