1: 2011/07/07(木) 21:52:02.98 ID:pjPKjv7h0
「雨かぁ……」
私は、窓の外を眺め、ため息をついた。
今日は七月七日、七夕。
織姫と彦星が、一年に一度会えると言う、ロマンチックな日。
「はぁ……」
もう一度ため息をついて、カーテンを閉める。
今までの私は、七夕なんか気にしなかったのにな。
好きな人と、離れ離れになってしまったせいか、それともロマンチストの恋人の影響なのか、
柄にもなく、お伽噺の恋人達のデートの心配しているなんて―――
6: 2011/07/07(木) 21:55:57.33 ID:pjPKjv7h0
「はぁ……」
未練がましく、カーテンを開け、もう一度空を確認して、ため息をつく。
なんでこんなに憂鬱なんだろう?
自分が寂しい分、織姫と彦星には、幸せなデート、して欲しいとか思っちゃってるのかな、私。
出来れば私だって、澪に会いたいけれど……それは出来ないんだよね。
澪は、今は遠く離れた大学の寮。
明日だって、平日だから講義もあるだろうし。
とてもそんなわがままは言えない。
私達は、織姫と彦星よりはたくさん会えるし、声だけなら、毎日だって聞ける。
だから我慢できるはず。
ううん、しなきゃいけないんだよね。
でも、やっぱり寂しくって、弱気な心が顔を出してしまう。
10: 2011/07/07(木) 21:57:46.64 ID:pjPKjv7h0
(去年までは、何も考えなくても毎日会えたのにな)
そう呟くと、じんわりと瞳に涙が滲んだ。
「もういいや、寝ちゃおう寝ちゃおう寝ちゃおう」
私が、ちょっと自棄になり、ベッドに潜り込んだ時だった。
玄関のチャイムが大きく響いた。
「こんな時間に誰だろう?」
今日、両親はライブで不在なのに。
私は、夜遅くの訪問者に用心をし、恐る恐るインターフォンの受話器を取った。
「どなたですか?」
「私だよ」
「え?」
スピーカーから聞こえた、聞き覚えのある声に、私は思わず、勢い欲ドアを開けてしまった。
12: 2011/07/07(木) 22:00:27.35 ID:pjPKjv7h0
「お、おい梓、そんな風にいきなり開けたら危ないじゃないか。
知らない人だったらどうするんだ?」
「私が澪の声、間違えるわけないじゃない」
さっきまで、会いたいと思い、あえないと思っていた、澪が目の前にいる。
私は、嬉しさのあまり、そんな生意気な口を効いてしまった。
「でもどうして?」
私が問いかけると、澪は、優しく微笑んで応えた。
「織姫に会いたくなって」
「え?」
「私の大切な織姫に会いたくなったから、来ちゃった」
そう言うと、澪はそっと私を抱きしめた。
16: 2011/07/07(木) 22:03:01.86 ID:pjPKjv7h0
「あ、あの……」
「だめ……だったかな?」
「そんなこと……ないけど……」
頬が熱くなる。
いつもは恥ずかしがり屋の癖に、こんな時だけは、ストレートなんだから。
「でも、明日、講義は大丈夫なの?」
「うん、7時ぐらいに出れば」
「え?7時にでればって、まさか?」
「え?まさか泊めてくれないの?」
「えっと……そうじゃなくって、まさか泊まっていってくれるなんて思ってなかったから」
「そうか、よかった」
安心したように微笑むと、澪はもう一度私を抱きしめた。
「ねぇ澪……さすがに玄関先じゃぁ恥ずかしいよ」
私が、俯きそう言うと、澪は、ちょっと恥ずかしそうに笑った。
「ごめんごめん、じゃぁ、お邪魔していい?」
「うん」
19: 2011/07/07(木) 22:06:26.80 ID:pjPKjv7h0
―――
「梓」
「ちょ、ちょっと澪、んぅ」
澪は、部屋に上がるなり、私を抱き寄せ、唇を重ねる。
どうしちゃったんだろう?
今日の澪はいつもより大胆。
「ねぇ、澪、どうしたの?
今日は変だよ」
私が、疑問を口にすると、澪は私を抱きしめたまま答えた。
「うん……今日は七夕だろ?
大学のみんなが、恋人の話ばかりしててさ。梓に会いたくてたまらなくなったんだ」
「澪……」
私は、澪も同じ思いでいてくれたことが嬉しくって、澪の瞳を見つめる。
23: 2011/07/07(木) 22:09:09.82 ID:pjPKjv7h0
「ははは、こんなんじゃだめだよな」
「うぅん、そんなことない」
澪の自嘲気味の告白に、私は首を振る。
「梓」
「私も、ずっと澪に会いたかったもん。
来てくれて本当に嬉しいよ」
今度は私から唇を重ねる。
さっきよりも深く、甘く。
「梓、大好きだよ」
澪のその言葉と同時に、視界が変わり、天上の木目が見えた。
「私も大好き」
私は、応えると、澪の頭を自分の胸に抱き寄せた。
25: 2011/07/07(木) 22:13:31.14 ID:pjPKjv7h0
―――
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか?
甘い気だるさの中、そっと隣を見ると、カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされた、澪のきれいな寝顔があった。
「……織姫と彦星も会えたんだね」
私は、空の二人も、私と同じく幸せなんだと思い、小さく微笑んだ。
「ありがとう、澪、会いに来てくれて。
大好きだよ」
私は、澪の白い頬に、優しく唇を押し当てると、そっと瞳を閉じた。
おわり
27: 2011/07/07(木) 22:19:14.06 ID:pjPKjv7h0
読んでくださったみなさん、ありがとうございました。
28: 2011/07/07(木) 22:23:28.22 ID:OiCLKTDp0
乙
引用元: 梓「七月七日、雨のち...」
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