1: 2016/04/03(日) 00:07:33.31 ID:/dsnqPA80

キャラを貶すつもりはありませんが不快になったら申し訳ありません
若干百合要素あるかも


2: 2016/04/03(日) 00:08:17.98 ID:/dsnqPA80

アタシは正義の味方に憧れてた。

どんな強大な悪にも勇気と希望で立ち向かう。

そして最後には悪を打ち破り平和を勝ち取る。

その姿に憧れて、やがてそれはアタシの目標になった。

3: 2016/04/03(日) 00:08:51.92 ID:/dsnqPA80
そうしてひょんなことから相棒、プロデューサーと出会ってアイドル活動をするようになった。

この頃にはもう流石にテレビの中のお話は作られたものだと分かっていたけどそれでアタシの目標がブレるということはなかった。

だから最初はアイドル活動自体もヒーローとして活躍するための足掛かりに過ぎないと思ってやってたんだけど、

アイドルもいざやってみると結構面白くて、このままヒーロー兼アイドルを目指してやろう!なんて楽観的なことも考えてたんだ。

4: 2016/04/03(日) 00:14:38.45 ID:/dsnqPA80

だからアタシは甘かったのかもしれない。

それはある日のライブだった。

いつもと変わらないライブ。

いつも通りこなせるはずのライブ。

共演する2人も自分より経験豊富だったし油断してたんだ。







『ヒーロー封印してね!』




5: 2016/04/03(日) 00:16:34.42 ID:/dsnqPA80

何のことはない、当たり前のことだ。

ファンが求めているのはアイドルで、アタシが目指してるのはヒーロー兼アイドル。

ならばファンに求められるものを前面に押し出すのは当然。





でも、笑えなかった。

ヒーロー兼アイドルとしてでなく、アイドルとしてライブに立ったアタシは、多分笑っていなかった。


7: 2016/04/03(日) 00:17:35.80 ID:/dsnqPA80


ライブ自体は無事終了したんだろうけど、アタシの心は薄ら暗いままだった。



それからしばらくアタシはメディアへの露出を控えてひたすらレッスンに打ち込むことにした。

自分の目指す道は中途半端なものなのか、そんな疑念を振り切りたくて無我夢中で動いた。

プロデューサーに相談しなかったのは、多分何を言われても気休めにしか聞こえないと勝手に思い込んでいたからだろう。

そんな時だ、彼女が事務所にスカウトされてきたのは。

8: 2016/04/03(日) 00:23:21.32 ID:/dsnqPA80

綺麗な人だと思った。

アタシにはよく分かんないけど薄く化粧をしてて大人な雰囲気だった。

特に唇が艶やかでちょっとどぎまぎした覚えがある。

でも笑うと子供みたいに屈託がなくて変なギャップがあった。




見なれない格好だった。

アタシの生きてきた世界の中ではまるで見たことない異国の情緒。

どっかの絵本から飛び出してきたんじゃないかってくらい不思議な服。

そして変な形のネックレスやら髪飾りやらをじゃらじゃらつけてた。




背中にはギターが一本、本人いわく爺っちゃんの形見。

ちなみにその爺っちゃんはピンピンしてるらしい。

それじゃ形見って言わないんじゃない?って聞いたら「こういうのは気持ちですよ気持ち」って言われた。

何かが間違ってる気がしなくもなかった。

9: 2016/04/03(日) 00:29:08.96 ID:/dsnqPA80

そんなちょっとズレた感じの人だったけど、彼女にも譲れない物があったんだ。









「合言葉はラブ&ピース!ハイ、続けて!」











彼女は信念を持ってた、歌で世界に愛を広めるんだって、それで世界が平和になるように歌うんだって。

うちの事務所は良い人達ばかりだから貶すとか嘲笑う人はいなかったと思う。

もちろんそれを聞いて苦笑してた人もいたし褒め称える人もいた。

でもその中で一番衝撃を受けていたのは、間違いなくアタシだっただろうと断言できる。

10: 2016/04/03(日) 00:29:49.19 ID:/dsnqPA80

アタシは平和は好きだったけど自分で世界を平和にしたいとかそういうことを考えたことがなかった。

ただヒーローになりたい、それが夢で目標だった。

アタシが憧れていたヒーロー達はヒーローになったことに満足していただろうか?

答えは、否。

11: 2016/04/03(日) 00:30:36.35 ID:/dsnqPA80

ヒーローは「目的」じゃない「手段」なんだ。

彼らは平穏を護る、復讐を遂げる、悪の根源を消滅させるなど「目的」は数あれど、その「手段」にヒーローを用いていただけに過ぎない。

自らの夢と現実の乖離にアタシは頭を抱えた。

今まで目標だと考えていたものが、成し遂げるべき「目的」ではなく何かを成し遂げるための「手段」だったんだからある意味当然である。

12: 2016/04/03(日) 00:31:15.62 ID:/dsnqPA80

そして混乱した末にアタシはある時、事務所で彼女に全てをぶちまけた。

それは癇癪にも近いものだったんだと思う。

彼女はいきなり年下の少女が何かを喚きながら縋り付いてくるという奇特な状況にもかかわらず背中をさすって話を聞いてくれた。

13: 2016/04/03(日) 00:32:27.20 ID:/dsnqPA80

ひとしきり泣き喚いて落ち着くと急に恥ずかしくなってきて、思わず彼女の服に顔を埋めた。

大人の女性の甘い香りと、その名前の通り仄かに漂う柑橘系の香りに頭がクラクラした。

すると彼女は、アタシの頬に手を添え顔を向けさせた。

微笑む彼女の顔は近くで見るとキラキラしてて、気恥ずかしくなったけど目が逸らせなかった。

彼女は光ちゃん、と確かめるようにアタシの名前を呼ぶと言ってくれた。





    「同じ夢を見ませんか?」




14: 2016/04/03(日) 00:33:09.10 ID:/dsnqPA80

それから彼女とアタシは一緒に仕事をすることが多くなった。

デパートの屋上でのライブや、CDショップでのイベントなど規模は大きくなかったけど数多くこなした。

その中でアタシは、彼女について多くのことを知った。

長崎出身であること。

田舎から出てきた当初は方言が抜けなかったこと。

弾き語りが得意なこと。

あの奇特な格好はヒッピーファッションということ。

父ちゃんは今の生き方を快く思ってないこと。

彼女の爺っちゃんのこともこの時に知ったことだ。

15: 2016/04/03(日) 00:33:37.90 ID:/dsnqPA80

やがて、アタシ達にはそれなりに大きな仕事が回ってくるようになった。

アタシはアタシの、彼女は彼女の魅力で輝き始めたんだ。

彼女と別の仕事も多かったけどそれなりに充実した日々だったんだ。

そんな時だ、怪盗公演の仕事が舞い込んできたのは。

16: 2016/04/03(日) 00:34:20.16 ID:/dsnqPA80

久々に彼女と一緒の大きな仕事だったからアタシは結構ワクワクしてたんだ。

でも与えられた配役を見て、アタシはまたも迷走し始めた。











あの日、アタシは彼女の持つ夢を借りた。

つまりヒーローもアイドルも世界を愛と平和で満たすための「手段」として考えることにしたのだ。

それで一応アタシの心の波は凪いでくれた。







17: 2016/04/03(日) 00:35:14.87 ID:/dsnqPA80

与えられたのは悪役だった。

正義に改心するとか、実は正義の味方だったとかではなく純粋に悪役。

それはアタシが目指していたものとは対極にあって、まるで理解の外にあるもので。

18: 2016/04/03(日) 00:35:42.08 ID:/dsnqPA80

結局アタシはまたも理想と現実の狭間に追いやられてしまったのだ。

プロデューサーに相談しようにも、せっかく苦心して取ってきてくれた仕事が台無しになるかもしれないと思うととてもじゃないが相談なんてできっこなかった。

頼みの綱の彼女もスケジュールがすれ違い、上手く連絡を取り合えなかった。

アタシ自身毎日稽古でくったくただったのも一因だったが。

19: 2016/04/03(日) 00:36:21.44 ID:/dsnqPA80

気持ちの整理がつかないまま、本番を迎えた。

彼女も来てるかなと思ったがどうやら後半からの参戦らしい。

一緒に出演する仲間に励まして貰ったり発破を掛けて貰ったりしたけどアタシの心はもやもやが立ち込めたままだった。










そして、公演が始まる。

アタシの出番は最後の方だけだったので、ゆっくり考えることも出来たが、そんなに賢くもないアタシの場合思考の渦に飲み込まれていくだけだったので考えるのは止めた。




20: 2016/04/03(日) 00:37:14.78 ID:/dsnqPA80

出番はあっという間に来た。

多少台詞はトチったものの目立って大きなミスは無かったはずだ。

その間考えないようにしていても、頭の中でずっと悪役の生き方やら正義の味方なのにやら取り留めもない想いが浮かんでは消えていった。


21: 2016/04/03(日) 00:38:43.80 ID:/dsnqPA80

前半が終わって控え室に引き上げた。

皆があの演技はああだとかこの演技がどうだとか話していたがその中でもアタシは一人で沈んでいた。

どうしたらいいんだろう、その思考だけが頭を占めていた。

22: 2016/04/03(日) 00:39:33.73 ID:/dsnqPA80

ふと、彼女の声が聞こえた。

目を上げると、控え室のドアが開いた。

そして後半から出演する2人が顔を出す。

23: 2016/04/03(日) 00:40:28.27 ID:/dsnqPA80

彼女がいた。

彼女を見た瞬間色々と溢れ出しそうになったが、さすがに堪えた。

彼女は皆と談笑していて、話を聞くと前に似たような経験をしたことがあるらしい。

それなら!とアタシは目を輝かせ彼女に答えを求めた。

24: 2016/04/03(日) 00:41:05.79 ID:/dsnqPA80

すると彼女は、いつもより茶目っ気のある笑顔を浮かべ、言ったんだ。





















「この公演で、光ちゃん自身が盗んで手に入れて!大泥棒として、ね!」



25: 2016/04/03(日) 00:41:58.16 ID:/dsnqPA80



アタシの脳みそは正しく、停止した。

再起動しても、

どうしろというのか、どうしたらいいのか。

そんな言葉だけが頭をぐるぐる旋回する。

さすがにその姿を見かねたのか彼女はアドバイスをくれた。

役の表面だけに囚われないで、と。

それだけを頼りにアタシは後半戦に臨むことになった。



26: 2016/04/03(日) 00:43:38.52 ID:/dsnqPA80

後半は前半よりも入れ替わり立ち替わりが激しい。

人数が増えたのはもちろん、物語自体も激化していくからである。

アタシは出演しない間、台本を隅から隅まで食い入るように読み込んだ。

すると、微かに違和感を覚えた。

刑事と怪盗が更なる巨悪―――アタシの役だ―――に対して手を結ぶ、これはまだ分かる。

問題はクライマックスだ、刑事と怪盗は互いに認め合い、しかして最後の戦いに挑む。

27: 2016/04/03(日) 00:44:35.27 ID:/dsnqPA80

アタシは最初その手腕を認め合ったのだと思っていた。

ライバルキャラの実力をなかなかやるな、と認めるのはよくあることだし。

しかし、台本の筋書きや演技を見る限りどうもお互いの信念を認め合ってるように見えるのだ。

アタシにとって悪は打破すべき対象であったから、いかにまっすぐだろうと怪盗という悪である以上信念を認めるなんてありえなかった。

でもこの物語では、確かに2人はお互いの想いを認め合っている。

28: 2016/04/03(日) 00:45:12.11 ID:/dsnqPA80

アタシはふと、思い至る。

役の表面に囚われないでというアドバイス。

お互いに認め合う正義と悪。

それらから導き出される結論に。

29: 2016/04/03(日) 00:46:29.37 ID:/dsnqPA80

分かってみれば簡単なことだった。

悪役も正義の味方も「目的」を達成するための「手段」が異なるだけで、根本的には似たり寄ったりなんだと。

ある人から見れば正義の味方だったとしても、相手方から見ればそれは悪役になりえるだろう。

学校で散々言われた『人の気持ちになって考えてみよう』なんて言葉がここに来て効いてくるなんて、と少し自嘲した。

こうしちゃいられない、ならばこの悪役の信念を急いで掘り出さねば、アタシは台本を捲った。

30: 2016/04/03(日) 00:47:30.82 ID:/dsnqPA80

後半の出番がやってきた。

ひとまず、かの大泥棒の信念は多少は理解できたと思う、多分。

すぐに彼女と合流した。

彼女もアタシと似たようなカラーリングの衣装だった。

しかも彼女の役はアタシ演ずる大泥棒を崇拝もとい溺愛しているらしいのでこれは正直照れくさい。

31: 2016/04/03(日) 00:49:30.56 ID:/dsnqPA80


後半が始まる。

台詞をトチらないように、役の気持ちを理解するように、そして何よりラブラブ連呼してくる彼女の声に顔がニヤけないように心がけた。

集中していたためかあっさり公演は終了、出来も上場とのことらしい。

終わった後、彼女に頑張ったね、と笑顔を向けられて初めて自分が酷く緊張していたと感じるほどにのめり込んでいたようだ。


32: 2016/04/03(日) 00:50:31.87 ID:/dsnqPA80

全工程が終了し、控え室に戻って緊張の糸が解けたアタシは、皆に矢継ぎ早に今回の発見を語った。

延々と話し続けるアタシを見かねてようやく静止の声がかかったが、そうでなければアタシはずっと喋ってたかもしれない。

彼女含め皆が優しい目でアタシを見ていたので、多分アタシは正解にたどり着いたんだろう。

アタシはまた一歩成長出来た手応えを感じ、グッと手を握り締めた。

33: 2016/04/03(日) 00:51:31.11 ID:/dsnqPA80

怪盗公演が大成功を収めてからしばらくして。

マーチングの仕事などをこなしていたアタシに新たな仕事が来た。

なんと歌のお仕事である。

しかも歌詞も自作、曲も好きなようにしていいそうなので少し困った。

作詞なんてやったことないし作曲なんてもっての外だ。

アタシが彼女に助けを仰ぐのも当然の末路だった。

彼女曰くアタシの気持ちをそのまま書けばそれが歌詞になるらしい。

せっかくなのでダメ元で作曲をお願いしてみたら二つ返事で了承、さらにその場で即興で一曲弾いてくれた。

彼女がギターを奏でる姿はとても絵になる、アタシも何か楽器を練習してみようかな、なんて思ったりもした。

34: 2016/04/03(日) 00:54:24.76 ID:/dsnqPA80
ホントはこっからカンナンジョウの仲睦まじい関係を書いていこうと思ったんですが
ちょうど区切りが良いんで一旦ここで止めにします

続き書くときは似たようなタイトル付けるんでよければまたご覧下さいな

35: 2016/04/04(月) 03:07:15.80 ID:RKVSZbZSo

しかし区切り……いいのかこれ?
起承転結の起だけ読まされた気分なんだが
つづきはよ

37: 2016/04/04(月) 09:11:14.93 ID:rnkIGVRQ0
ゲーム内の描写を再構成したと考えれば区切りいい…のかもしれない

引用元: 光「Love&」