1: ◆ty.IaxZULXr/ 2016/10/04(火) 21:05:34.17 ID:ofQLnKj40
あらすじ
行方がつかめない大学生を探して欲しい、という依頼が舞い込みました。その大学生は温室で遺体が見つかった事件の関係者のようで……。



前話
高峯のあ「高峯のあの事件簿・ユメの芸術」

あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。

それでは、投下して行きます。
アイドルマスター シンデレラガールズ アクリルキャラプレートぷち 18 高峯のあ

3: 2016/10/04(火) 21:08:03.79 ID:ofQLnKj40


高峯探偵事務所

高峯探偵事務所
高峯のあが所長を務める探偵事務所。依頼は来所、電話、メールで。

高峯のあ「おはよう」

木場真奈美「おはよう、のあ」

高峯のあ
高峯探偵事務所の所長。美貌、頭脳、体力、財力を兼ね備える。奈良県にルーツがあるらしい。

木場真奈美
のあの助手で高峯家の居候。海外で多彩なスキルを習得している。

佐久間まゆ「あっ、おはようございます」

佐久間まゆ
高峯家の居候。先日の事件を機に、高峯家に引っ越した。お料理と編み物が好きな優しい女の子。

のあ「おはよう。朝ごはんの準備をしてくれているのかしら」

まゆ「はい。何がいいですかぁ?」

のあ「選べるの?」

まゆ「えっと、パンにご飯にお餅もありますよぉ」

のあ「パンがいいかしら」

まゆ「卵も準備しますねぇ。何がいいですかぁ?」

のあ「……スクランブルエッグでいいわ」

まゆ「はぁい。直ぐに準備しますねぇ」

のあ「真奈美は」

真奈美「この通り、キッチンから追い出された身だ」

2: 2016/10/04(火) 21:06:55.81 ID:ofQLnKj40
メインキャスト

探偵・高峯のあ
助手・木場真奈美
同居人・佐久間まゆ

刑事一課和久井班
警部補・和久井留美
巡査部長・大和亜季
巡査・新田美波

少年課
巡査部長・相馬夏美
巡査・仙崎恵磨

科捜研
松山久美子
梅木音葉

のあが大好きなアイドル・前川みく

黒川千秋

西園寺琴歌

相葉夕美

4: 2016/10/04(火) 21:08:38.20 ID:ofQLnKj40
のあ「そう。楽でいいわね」

真奈美「そう言うな。コーヒー、飲むか?」

のあ「いただくわ。これもまゆが?」

真奈美「これは私だ。我が家のコーヒーメーカーの使い方は教えていない」

のあ「紅茶の出し方は」

真奈美「そっちもまだだな。ほら、ミルクはいるか?」

のあ「たっぷりと。真奈美、朝食は」

真奈美「もう頂いたよ」

まゆ「ふんふふふーん……うふふ……」

のあ「料理、好きなのかしら」

真奈美「好きだと言っていたな。東郷邸でも当番を進んで引き受けていたらしい」

のあ「……そう」

まゆ「はい♪お待たせしました、どうぞ♪」

のあ「ありがとう、まゆ。いただきます」

まゆ「どういたしまして、あっ」

のあ「どうしたの?」

まゆ「そろそろ、学校に行かないと」

のあ「もう、出て行くの?」

まゆ「少し遠いですからぁ。真奈美さん」

真奈美「なんだ?」

まゆ「水筒、ありがとうございます♪いってきます」

真奈美「気をつけるんだぞ」

のあ「……いってらっしゃい」

真奈美「……」

のあ「ねぇ、真奈美」

5: 2016/10/04(火) 21:09:23.03 ID:ofQLnKj40
まゆ「言い忘れてました」

のあ「急に戻るとびっくりするわ……」

真奈美「どうした?」

まゆ「お夕飯のお買い物してから帰りますねぇ。何かリクエストはありますか?」

のあ「えっと……ハンバーグとか」

まゆ「うふふ、わかりましたぁ。今度こそ、いってきます」

のあ「……」

真奈美「のあは、ハンバーグ好きだな」

のあ「みくにゃんが好きなものは私も好きよ」

前川みく
ネコちゃんアイドル。高峯のあ曰く、言葉でその魅力なんて伝えきれないわ、そう来月アルバムが出るのよ、ミニ写真集が初回限定特典で……以下略。

真奈美「それがファンの義務と思ってるなら、間違いだぞ」

のあ「わかってるわよ。それで、真奈美」

真奈美「なんだ」

のあ「豪勢な朝食ね」

真奈美「そうだな」

のあ「私は家政婦を雇い入れたつもりはないわよ」

真奈美「わかってるよ」

のあ「なら、止めなさい」

真奈美「料理に関しては趣味だ。楽しそうだったぞ」

のあ「趣味を否定してないわ。態度の問題よ」

真奈美「別に怒ることはないだろう」

のあ「怒ってなんかないわ」

真奈美「怒ってないなら、不機嫌そうにしないでくれ」

のあ「……」

6: 2016/10/04(火) 21:09:53.14 ID:ofQLnKj40
真奈美「怒ってないのはわかってるさ。だがな、苛立つのはお門違いだろう」

のあ「楽しそうに出て行ったわ」

真奈美「楽し気に学校に行くのがそんなに気に入らないのか?」

のあ「楽しそうにしているのが、私達の目の前だけなら?」

真奈美「のあが心配してるのはわかる。だが、こればっかりは本人の問題だろう」

のあ「本人の問題だから、誰も手を差し伸べないわけね」

真奈美「私にそう八つ当たりするな。星輪学園の資料があったが、そのためか?」

のあ「……」

真奈美「どうなんだ?」

のあ「真奈美、私お節介かしら」

真奈美「さぁな。だが、星輪なんて名門じゃないか」

のあ「転入試験はそれほどの難易度じゃないわ。それに」

真奈美「それに?」

のあ「お金はあるわ。なんなら、追加で稼ぐわよ」

真奈美「金で解決しようとするのはどうなんだ?」

のあ「ほとんどの不幸はお金で解決できるわ。お金で解決できることを、別の方法で解決しなさいと押し付けるのは貴族の戯言よ」

真奈美「そんな話じゃない。佐久間君が受け入れるか、だろう」

のあ「……」

真奈美「大切なのは話し合いだ」

のあ「そうするわ」

真奈美「冷めるぞ、好意は無駄にするなよ」

のあ「ええ。いただきます」

7: 2016/10/04(火) 21:11:42.50 ID:ofQLnKj40


高峯探偵事務所

のあ「ねぇ、真奈美」

真奈美「どうした」

のあ「まゆに掃除も任せてるのかしら」

真奈美「やろうとはしていたな。私がやってるよ」

のあ「そう。まだ、あの部屋を見られるのは早いわ」

真奈美「あのグッズとポスターまみれの部屋は刺激が強すぎる」

のあ「ええ、私もそう思うわ」

真奈美「前川みくについても隠しておくのか?」

のあ「隠しきれると思う?」

真奈美「無理だな。パジャマは着替えたが、スリッパがそのままだぞ」

のあ「でしょう。決めたわ」

真奈美「それについても話が必要だろう」

のあ「まゆは濃いピンクのネコミミね」

真奈美「どんなネコミミが似合うなんて話をしてたか……?」

ピンポーン……

のあ「あら」

真奈美「来客だな。出て来るよ」

のあ「早朝から珍しい人もいるものね……」

真奈美「のあ」

のあ「何かしら」

真奈美「依頼人だ。案内していいか」

のあ「少しだけ待ってちょうだい。スリッパだけ履き替えるわ」

8: 2016/10/04(火) 21:12:59.81 ID:ofQLnKj40


高峯探偵事務所

のあ「所長の高峯よ。名刺を」

黒川千秋「いただくわ。女性だとは思わなかったけれど」

黒川千秋
依頼人の大学生。黒い長髪、凛々しい瞳、育ちの良さがうかがえる。

のあ「名前を知っていても、そう言われるわ。それにしても、あなた、ネコ耳が似合いそうね」

千秋「はい?」

のあ「ゴホン。忘れて」

千秋「はぁ……?」

真奈美「相原君から紅茶を頂いてきた。のあはどうする?」

のあ「私はいいわ。彼女に差し上げて」

真奈美「助手の木場だ。紅茶をどうぞ」

千秋「ありがとう。良い香りがするわ」

真奈美「気に入ったら、下の階の喫茶店にぜひ寄ってくれたまえ」

のあ「本題に入りましょう。あなた、身分は明かせるかしら」

千秋「明かせるけれど、そういう依頼人もいるのかしら」

のあ「いるわよ。受けたりしないけれど」

千秋「そう。私は黒川千秋よ」

のあ「住所等を証明できるものは」

千秋「あるわ。パスポートでいいかしら」

のあ「そう。大丈夫そうね」

千秋「身分証明書は見せなくていいの?」

のあ「あなたに疑うべき行動はないもの。料金についての説明はいるかしら」

千秋「ウェブページの通りかしら?」

のあ「目安としては。費用に制限があるなら、調査日数を制限するわ」

千秋「お金なら余裕があるの。解決まで、お願いするわ」

のあ「わかったわ」

千秋「ウェブページが古臭くて、わかりずらいわ。直して貰ったらいかがかしら。成果次第では、追加の報酬に入れてあげてもいいわ」

のあ「検討しておくわ。それで、依頼の内容を聞かせて」

9: 2016/10/04(火) 21:14:07.92 ID:ofQLnKj40
千秋「私がお願いしたいのは、人探しよ。出来るかしら」

真奈美「ふむ。実績は十分だ」

のあ「同級生、実の父親、一目惚れした通りすがり、異国の地で出会った軍人でも何でも」

千秋「そう。なら、失踪した隣人を探すなんて簡単でしょう」

のあ「隣人?」

千秋「探してもらいたいのは、相葉夕美さん。私の隣部屋に住んでる大学生よ」

10: 2016/10/04(火) 21:15:24.45 ID:ofQLnKj40


高峯探偵事務所

のあ「依頼内容に問題はないわ」

真奈美「だが、気になるな」

のあ「失踪してるのね」

千秋「その通りよ」

のあ「失踪したのはいつかしら?」

千秋「一昨日か昨日かしら。一昨日の朝は普段通りだったわ」

真奈美「連絡を試みたのか?」

千秋「ええ。私がケータイに連絡しても出ないわ。ご両親は何も知らなかったようだし」

のあ「失踪となると事件の可能性が出てくる」

千秋「間違いないでしょうね」

のあ「なぜ、断言を?」

千秋「そもそも、私がそれを知った、というよりは気づいたのは、警察が来たからよ」

真奈美「警察が調査を開始しているのか」

千秋「相葉さんのことを聞きに来たわ。連絡先を知ってるかとか、良く行く場所はどこかとかよ」

のあ「警察も探しているなら、私の出番はないんじゃないかしら」

千秋「あなた、テレビや新聞は見るかしら?」

のあ「見るわ。情報は必須栄養素よ」

千秋「なら、相葉さんのことは話題になってるかしら」

真奈美「なってはいない。警察の誰が来たかが問題か」

のあ「相葉さんの学年は?」

千秋「大学1年生ね」

のあ「未成年。来たのは、少年課」

千秋「ええ。さすがね、探偵さん」

のあ「つまり、容疑者ということかしら」

千秋「身柄を保護したい、と言っていたわ」

真奈美「よくわからないな」

11: 2016/10/04(火) 21:16:19.23 ID:ofQLnKj40
のあ「失踪は事実。何らかの事件に関わっていることも可能性が高い」

千秋「だから、相葉さんを無事に見つけて欲しいの」

のあ「依頼内容は理解したわ。でも、わからないことがある」

千秋「何かしら」

のあ「所詮は隣人でしょう、警察も探しているのに私に依頼する理由はなにかしら?」

千秋「お金を払っても良い隣人は得難いでしょう。私は、今の生活を守りたいの。そのために、投資をするだけよ」

のあ「それだけかしら。警察より先に会わなければいけない理由があるとか」

千秋「私は、ただの隣人よ。無事を確認してくれれば、それでいいわ」

のあ「理由は深くはないのね」

千秋「ええ。私は、失踪を知ってしまって、お金があって、たまたまネットで探偵事務所を見つけた、心配してるだけの、お隣さんなの。理由が欲しいなら、幾らでも付け加えるけれど」

のあ「わかったわ。それで十分よ」

千秋「なら、依頼を受けていただけるかしら」

のあ「ええ。真奈美、契約書」

真奈美「了解だ」

のあ「捜査を始めるにあたって確認を」

千秋「何か、気になることでもあるかしら?」

のあ「警察関係者に依頼の件は話すわ。いいわね?」

千秋「どうぞ。私は無事が知れればいいの、警察が見つけていても報酬は払うわ」

のあ「それなら、あなたを訪ねて来た警察官は誰かしら」

千秋「二人組の一人は名前を憶えているわ。私と同じで季節が入ってたから、気になったの」

のあ「その名前は」

千秋「相馬夏美、だったわ」

12: 2016/10/04(火) 21:17:52.96 ID:ofQLnKj40


西園寺邸・庭園

西園寺邸
西園寺グループ会長のお屋敷。レジャー事業にも強いためか、スポーツ施設や庭園なども一味違った豪勢さで有名。

のあ「久美子」

松山久美子「あれ、のあさん?今回は協力依頼をしてないわよね?」

松山久美子
科捜研所属。常に白衣着用の美女。2晩寝なくても美しさに変化がないらしい。

のあ「ええ。勘違いしないで、事件をかぎつけて呼ばれもしないのに来たわけじゃないわ」

久美子「私は別に気にしないけど、どうしたの?」

真奈美「依頼が入った」

のあ「相葉夕美の無事を確認して欲しいそうよ」

久美子「私も見つけて欲しいわ。だって」

相馬夏美「重要参考人だから」

相馬夏美
少年課巡査部長。夜回りを兼ねたランニングが日課とのこと。

のあ「夏美」

仙崎恵磨「夏美さん、こちらは?」

仙崎恵磨
少年課巡査。夏美のバディ。ベリーショートの溌剌とした若手警察官。

夏美「さっき電話してきた探偵よ」

恵磨「おおっ、高峯さんですか!話は聞いてます、仙崎恵磨ですっ!」

のあ「よろしく。それで、夏美」

夏美「情報は自由に聞いて。刑事一課からも許可は貰ってる」

13: 2016/10/04(火) 21:18:32.31 ID:ofQLnKj40
のあ「そう。夏美はどうするのかしら」

夏美「私の目的は、行方知れずの相葉さんを見つけること」

恵磨「はいっ。事件に関係する情報を知ってると思われますっ!」

真奈美「やっぱり、関係はあるのか」

のあ「重要参考人じゃなくて、容疑者だとか」

夏美「違うわ。そうでしょ、久美子ちゃん」

久美子「今の所はね」

夏美「ということで、誰よりも先に彼女を保護したいの」

恵磨「ホント、どこにいるんだろ?」

夏美「私達は真っ当に探すわ」

のあ「こっちも勝手にやるわ」

夏美「それでいい。今の所だけど、関係者にはあたってる」

恵磨「西園寺の人とか、大学とか、実家のご両親とか」

夏美「誰も行方を知らないの。もちろん、事件のことも」

のあ「そう」

夏美「というわけだから、がんばってね」

のあ「わかったわよ。夏美もがんばりなさい」

夏美「わかってる。恵磨ちゃん、行きましょ」

恵磨「了解っす!失礼しましたッ!」

のあ「相変わらずね」

久美子「ええ。未成年者の保護を目的にしてるだけだもの」

真奈美「警部補達も彼女を探しているのか?」

久美子「うん。事件と事故の両面で調査中」

のあ「現場に案内してくれるかしら」

久美子「いいわよ。氏体はもうここにはないけど」

真奈美「さて、調査開始といこうか」

のあ「ええ」

14: 2016/10/04(火) 21:19:27.93 ID:ofQLnKj40


西園寺邸・温室

のあ「大和巡査部長」

大和亜季「高峯殿、いかがでありますか」

大和亜季
刑事一課和久井班巡査部長。本日は単独行動中。

のあ「まだ何も。相葉夕美さんの居場所はわかるかしら」

亜季「それは刑事一課も知りたいところであります」

真奈美「ごもっともだな」

亜季「事件について、高峯殿は知っているでありますか?」

のあ「知らないわ。良ければ聞かせてくれるかしら?」

亜季「警部補殿からは了解を得ているであります」

のあ「留美はどこにいるのかしら?」

亜季「新田巡査と聞き込み中であります」

のあ「口うるさくなくていいわ。それで、何が起こったのかしら」

亜季「遺体が発見されたであります」

久美子「発見場所はあそこ。寝かされてたわ」

亜季「遺体は科捜研であります」

真奈美「遺体はいいが、花はどうしたんだ?」

亜季「そのままであります」

のあ「飾られていたの?」

真奈美「飾るのにはもってこいの、陽の当たる円形のスペースだが」

久美子「そうよ。亜季ちゃん、写真はある?」

亜季「こちらであります」

のあ「……なるほど」

真奈美「亡くなったのは西園寺家の令嬢か?」

亜季「そうであります。西園寺琴歌殿であります」

西園寺琴歌
遺体として見つかった西園寺家のご息女。陽の当たる温室の一画で花と共に横たわっていた。

15: 2016/10/04(火) 21:20:04.27 ID:ofQLnKj40
のあ「この前の事件を思い出すわね」

亜季「最初の印象は私も同じでありますが」

のあ「留美あたりは違ったのかしら」

真奈美「だから、今回は呼び出しがかからなかったのか」

亜季「高峯殿はどう感じるでありますか?」

のあ「芸術的ではないわね。西園寺琴歌も特別な服装ではない」

亜季「はい。普段着のようであります」

のあ「花は特別に用意したもの、ではなさそうね」

久美子「ほとんどの花は温室か庭園にあったものよ」

のあ「警察の見立てでは、どっちなの?」

亜季「事件と事故の両面で調査を続けているであります」

のあ「殺人ではないの?」

久美子「氏因がわからないの、どっちとも言えない」

真奈美「わからない?」

亜季「氏に至るような外傷はありませんでした」

久美子「毒物か病氏かもわからない」

亜季「わかっていることは、何らかの理由で心停止に至ったということだけであります」

のあ「氏亡推定時刻は」

久美子「昨日の朝よ。発見されたのは昼になってから」

のあ「昨日の朝、ここに出入りした人物は」

久美子「二人だけ」

真奈美「被害者の西園寺琴歌と」

のあ「相葉夕美ということね」

16: 2016/10/04(火) 21:20:34.75 ID:ofQLnKj40
亜季「そういうことであります」

真奈美「彼女を探さないことには始まらない、ということか」

のあ「当日の様子もわからないものね」

久美子「実はそうでもないの」

のあ「そうでもない?」

亜季「色々とわかっているであります。だからこそ、一刻も早く保護したいのでありますが」

久美子「遺体をここまで運んできたのも、花を飾り付けたのも彼女なの」

17: 2016/10/04(火) 21:23:01.78 ID:ofQLnKj40


西園寺邸・庭園管理室

久美子「音葉ちゃん」

梅木音葉「久美子さん……お疲れ様です」

梅木音葉
科捜研所属。久美子の後輩らしく常時白衣着用。趣味は森林浴。

久美子「作業は順調?」

音葉「順調ですが……絞り込みは難しいです」

のあ「ディスプレイに計器にリモコンに、ごった返してるわね」

音葉「高峯さん……おはようございます」

のあ「お疲れ様」

真奈美「この部屋は、管理室か?」

久美子「ええ。温室の空調管理とかスプリンクラーが操作できるの」

のあ「監視カメラもあるの?」

音葉「監視や防犯が目的ではありませんが、カメラはあります……」

真奈美「今見ている映像がそれか?」

音葉「はい……カメラの台数が多いので、既に編集してあります」

のあ「映像を見ながら、何をしてるの?」

久美子「持って帰るサンプルの選別。このままだと全部持って帰りそうだし」

音葉「あまり上手く行っていませんが……」

真奈美「サンプル、って花か?」

久美子「うん。遺体に花粉がついてたの。何かヒントになればと思って」

のあ「その映像、見せてもらえるかしら」

音葉「はい……どこまで見せましょうか」

のあ「じっくり見てる暇はないわ。何があったか、わかるところだけ」

久美子「昨日の朝からでいいかしら」

音葉「わかりました……まずは、こちらです」

真奈美「西園寺琴歌だな」

のあ「温室の入り口ね」

久美子「目的は入り口近くの植木だと思うけど、出入りは映ってるわ」

真奈美「音声はあるのか?」

音葉「ありません……」

久美子「目的は開花とかの観察みたい。アーカイブはそこの棚に一杯」

真奈美「研究でも出来そうだな」

久美子「相葉夕美さんはその目的で使っていたみたい」

音葉「庭園の管理と引き換えに……一部を自由に使っていたようです」

18: 2016/10/04(火) 21:23:55.46 ID:ofQLnKj40
のあ「続けて。西園寺琴歌は温室に入った後は」

久美子「何個かのカメラで花を見て回ってるわ」

真奈美「ん、さっき棚から何を取った?」

音葉「調査中です……紙のように見えますが」

久美子「腕に塗ってるのよね。遠くでよくわからないけど」

のあ「時刻が飛んだわ」

久美子「ええ。全然カメラに映らないの」

音葉「もしかしたら……もう亡くなっていたのかもしれません」

のあ「誰か、入ってきた」

音葉「この方が……相葉夕美さんです」

のあ「荷物はポーチだけ。手には何を持ってるの?」

真奈美「カギだな。花の形のキーホルダーがついてる」

音葉「スノーフレークでしょうか……本当にお好きなようです」

久美子「自転車のカギらしいわ。相葉さん、自転車でここまで来てたみたいだし」

のあ「入り口近くの棚に置いたわ。カギは置いてあったかしら」

久美子「後であるけど、彼女が持って行くわ」

のあ「次は、ノートを手に取ったわね」

音葉「手際よく、花を見て回っています……」

真奈美「何かに気が付いたな」

のあ「ノートを置いて、カメラの氏角へ」

真奈美「ノートはこのままか?」

久美子「うん。今は署に送られてる」

のあ「何か書かれていたの?」

久美子「ううん。毎日の観察記録。花のことだけ」

のあ「それにしても、カメラの台数は多いけど、氏角だらけね」

音葉「大体が壁に向かっていますから……」

真奈美「この後も相葉夕美は少しずつカメラに入り込んでいるな」

久美子「何かを運んだり、置いたりしたりはしてるけど」

真奈美「明確に映っているのはないか」

のあ「氏角じゃないのは、遺体の発見現場だけね」

久美子「ここだけ上からカメラで映してるの。ちょっと、見てて」

19: 2016/10/04(火) 21:25:09.36 ID:ofQLnKj40
真奈美「相葉夕美が西園寺琴歌を抱きかかえて、連れて来た」

のあ「西園寺琴歌は……亡くなってるわね。少なくとも意識はない」

音葉「おそらく……」

のあ「遺体を置いたわ。カメラの位置はわかってるわね」

音葉「はい……遺体の姿勢を直しています」

久美子「後は花を飾り付けてる」

のあ「カメラで映していた花も切り取ってるわね」

真奈美「優先事項は、研究よりも西園寺琴歌のためが上か」

のあ「あるいは、飾るために育てていたか」

久美子「事件の顛末はこんなところ」

音葉「最後ですが……入口の映像です」

のあ「久美子の言う通り、自転車のカギを取ったわ」

真奈美「そして、出て行った」

音葉「お屋敷の監視カメラにも……出て行く様子は映っていました」

久美子「それ以降は、相葉夕美さんは行方知れず」

のあ「ねぇ、久美子?」

久美子「なに、のあさん?」

のあ「私には、相葉夕美は西園寺琴歌の遺体を発見しただけのようにしか思えないのだけど」

真奈美「同感だ。カメラに全く映らないのは、倒れていたからじゃないのか」

久美子「そうね。そうだったら、いいんだけど」

のあ「違うようね」

音葉「その理由は……遺体が教えてくれます」

久美子「それじゃ、のあさんをもう一回混乱させるからよろしく」

20: 2016/10/04(火) 21:26:24.27 ID:ofQLnKj40


西園寺邸・庭園管理室

真奈美「のあを混乱させるのは大変だぞ」

のあ「受けて立つわ」

久美子「わかったわ。まず、腕に残ってた傷から。音葉ちゃん、写真出して」

音葉「はい……こちらです」

のあ「刺し傷、かしら」

真奈美「細いな、注射器か?」

久美子「真奈美さん、正解。同形状の注射器が、温室に残ってたわ」

のあ「何に使ってたのかしら」

音葉「相葉夕美さんが実験に使っていたようですが……詳しくはわかりません」

のあ「刺しただけじゃないわよね」

久美子「たぶん」

のあ「何を注射したか、わかるかしら」

久美子「それは調査中。もしかしたら」

音葉「毒かもしれません……」

真奈美「他にはあったのか?」

久美子「私が見つけたのはそれだけね。本格的な検視は今日からよ」

のあ「誰かを考える必要はないわね」

真奈美「相葉夕美だろうな」

のあ「相葉夕美が犯人という可能性はある、と」

久美子「ええ。彼女は琴歌さんのことも良く知ってるみたいだし」

のあ「それは何か関係があるのかしら」

久美子「特定の物質に過敏反応があったらしいの。その原因も知ってたかも」

のあ「アレルゲンによるショック氏ね……」

久美子「いずれにせよ、氏因がわからないから何とも言えないんだけどね」

のあ「ふむ」

21: 2016/10/04(火) 21:27:17.35 ID:ofQLnKj40
久美子「それじゃあ、次に行っていい?」

のあ「どうぞ」

久美子「相葉夕美さんが被害者に接触した痕跡が残ってたの」

のあ「それは、どこかしら」

久美子「唇」

真奈美「唇……?」

久美子「唾液が残ってたの。たぶん、被害者ではない人のもの」

のあ「愛撫行為、ということかしら」

久美子「違うわ。それと、胸に圧迫痕」

真奈美「なんだ、人工呼吸と心臓マッサージじゃないか」

久美子「たぶん、そうだと思う」

のあ「待って。矛盾してるじゃない」

久美子「それは私も同感よ」

のあ「注射器が毒物だとしたら」

音葉「救命行為と相反します……」

のあ「例えばだけど、注射器の中身が解毒剤の可能性もあるでしょう」

久美子「うん。それだったら、彼女に過失は何にもないの」

音葉「救命行為が……実を結ばなかっただけです」

のあ「だけど、氏体を飾った行為に整合性が取れない」

久美子「彼女が逃げる理由なんて、ないの」

のあ「ふむ……」

音葉「重要な人物ですが……容疑者ではありません」

久美子「これは留美さん達から聞いた話だけど、誰から聞いても意見は同じよ」

のあ「何?」

久美子「相葉さんはそんなことしない、って」

のあ「西園寺琴歌を頃す理由がないと」

久美子「うん。だから、見つけてあげないと」

のあ「探す方法は色々とあるわ。加害者の思想だと、警察からは逃げられないわ」

真奈美「つまり」

のあ「加害者でない可能性があるなら、私達の方が早く見つけられるかもしれない」

久美子「できるの?」

のあ「大胆な論理の飛躍は、探偵業の特権よ。真奈美、行くわよ」

真奈美「了解。最初はどこだ?」

のあ「黒川千秋に会いに行きましょう」

22: 2016/10/04(火) 21:29:11.40 ID:ofQLnKj40


西園寺邸・正門前

真奈美「西園寺邸の関係者に話を聞かなくていいのか?」

のあ「考えてみなさい。西園寺邸の関係者がわかる場所にいると思う?」

真奈美「ふむ」

のあ「夏美達が飽きるほどに聞いてるでしょう。必要なら、そこから聞くわ」

真奈美「なるほどな」

のあ「だから、私達は私達なりに」

渋谷凛「アンタ達、この屋敷の関係者?」

渋谷凛
渋谷生花店の一人娘。実家の花屋でバイトをしている。お店の原付で配達などを担当。

のあ「違うわ。あなたは」

凛「花屋。夕美と連絡が取れないから直接来てみたんだけど」

のあ「相葉夕美はいないわ」

凛「そう。誰でもいいんだけど、庭の管理してる人はいないの?」

真奈美「今日は誰も対応できそうもない」

のあ「そうね。出直した方がいいわ」

凛「ふーん……なんかあったんだ」

のあ「ええ」

凛「わかった。夕美に連絡が取れてから、出直す」

のあ「相葉さんとは連絡は取れないの?」

凛「そうだから、ここに来たんだけど」

のあ「何か、約束を?」

凛「注文の花を宅配に。今日はムシトリスミレの追加」

のあ「ムシトリスミレ?」

凛「知らないか」

のあ「相葉さんとは、どこか別の場所で会ったことがあるかしら?」

凛「ないよ。いつも、ここかな」

のあ「ありがとう。時間を取らせたわ」

凛「私はいいけど。それじゃ」

のあ「ええ、お気をつけて」

真奈美「高校生ぐらいに見えたが」

のあ「渋谷生花店、お店の原付かしら」

真奈美「今日は平日、だよな」

のあ「事情があるんでしょう。働いてるなら、それでいいじゃない」

真奈美「まぁ、そうだが」

のあ「行きましょう」

23: 2016/10/04(火) 21:30:27.39 ID:ofQLnKj40
10

相葉夕美のマンション・玄関

真奈美「やっぱり、昨日の朝から帰っていないようだな」

のあ「オートロック、警備会社常駐、監視カメラ付き」

真奈美「家賃の高そうなマンションだ」

のあ「黒川千秋は何となくわかるけれど」

真奈美「相葉夕美もお嬢様なのか?」

のあ「警察の資料によると、8月までは神奈川の実家から通学していたそうよ」

真奈美「その資料を私にも送ってくれ」

のあ「送ったわ。ちなみにだけど、関わっているわね」

真奈美「受け取った。何が何と関わってるんだ?」

のあ「このマンションと西園寺グループ」

真奈美「そこか」

のあ「家賃を支払っているのは地元の造園業者、西園寺グループが筆頭株主」

真奈美「大学からも西園寺邸にも近いな」

のあ「そういうことでしょうね」

真奈美「相葉夕美は本当に気に入られてるんだな」

のあ「今の所、悪く言う人間が一人もいないわ」

真奈美「自分が少なくとも好意を向けられているならわかるだろう。なら、なんで連絡がつかない」

のあ「わからないから、聞くしかないでしょう」

24: 2016/10/04(火) 21:31:37.92 ID:ofQLnKj40
千秋「お待たせしたわ」

のあ「呼び出して申し訳ないわ」

千秋「調査状況はどうかしら」

のあ「足取りはつかめていない」

千秋「理由は、わかったのかしら」

のあ「わかってはいないわ。事件に報告するのは、依頼内容じゃないわ」

千秋「それでいいけれど。相葉さんのお部屋は調べたのかしら?」

のあ「その権利はないわ。話を聞きに来たの」

千秋「なにかしら」

のあ「相葉夕美さんについて」

千秋「いいわ。でも、探偵事務所で言った通りよ」

のあ「ただの隣人だという話かしら」

千秋「ええ。そうね、案内するわ」

のあ「どこに?」

千秋「花壇よ。花は咲いていないけれど」

25: 2016/10/04(火) 21:32:46.98 ID:ofQLnKj40
11

相葉夕美のマンション・花壇

千秋「誰も管理していなかったから、お花を育て始めたみたいよ」

のあ「いつから?」

千秋「9月頃かしら」

真奈美「早いな」

のあ「自宅にも花壇が欲しかったんでしょう」

千秋「そうかもしれないわね。直ぐに種を蒔いていたわ」

のあ「何が咲くの?」

千秋「ゴデチア、よ。ここに書いてあるじゃない」

真奈美「ゴデチアか。春には綺麗に咲くだろう」

千秋「だけど、相葉さんがいなければ咲かないかもしれない」

のあ「相葉さんとはいつから交流があるのかしら?」

千秋「引っ越し後に挨拶に来た時から。花柄のタオルを貰ったわ」

のあ「交流はあったのかしら?」

千秋「良い隣人なだけ。同じ大学というのは、挨拶の時に知ってたわ」

のあ「他には」

千秋「花壇のお世話をしている時に話を聞いたわ。相葉さん、話し出すと止まらないのよ」

のあ「そう」

千秋「だから、それだけよ。大学生のキャンパスですれ違っても挨拶はする関係」

のあ「大学での相葉さんは」

千秋「詳しくは知らない。授業は真面目に出てるけど、サークルには行かなくなったみたい」

26: 2016/10/04(火) 21:33:21.30 ID:ofQLnKj40
のあ「サークルね」

真奈美「何のサークルなんだ?」

千秋「サークルというより、お茶飲み会みたいな集まりらしいわ。詳しくは知らない」

のあ「そう」

千秋「あの探偵さん」

のあ「何かしら」

千秋「相葉さん、食事をちゃんと取ってるかしら」

のあ「ご馳走は私で準備するわ。安心なさい」

千秋「ええ。頼りにしてるから」

のあ「黒川さん、駐輪場に案内してくれる?」

千秋「駐輪場?」

のあ「相葉さんは自転車を使ってるみたいだから」

千秋「どこだったかしら」

真奈美「君は使っていないのか?」

千秋「転んだら、危ないでしょう?」

のあ「ええ。同感だわ」

千秋「然るべき技能を持った運転手がいるべきよ」

のあ「その通り。私達が乗る必要はないわ」

真奈美「二人とも、つかぬことを聞くが」

千秋「大体、二輪なんて安定しないじゃない……何か言ったかしら?」

真奈美「自転車に乗れないのか?」

千秋「ええ」

のあ「乗れないに決まってるでしょう」

真奈美「そんなに自信満々に言うものじゃない」

27: 2016/10/04(火) 21:34:54.67 ID:ofQLnKj40
12

K大学・某サークルの部室

K大学
清路市に所在する私立大学。歴史的に法学部が有名とのこと。

日下部若葉「相葉夕美ちゃんですか~?」

有浦柑奈「良いラブ&ピースを持っています」

日下部若葉
K大学の学生。小柄で童顔、年齢よりも幼く見える。ジグソーパズルを作成中。

有浦柑奈
K大学の学生。世の中にラブ&ピースを伝えるための歌を作成中。ギターは人並み以上に弾けるとのこと。

のあ「ええ。最近はここに来たかしら?」

若葉「うーん、前に来たのは何時でしょうか?」

柑奈「私、覚えてます。証拠はあそこです!」

真奈美「この植木か?」

柑奈「はいっ。バイト先から貰って来たらしいですよ?」

若葉「思い出しました~、フリージアを持ってきてくれたんです~」

のあ「いつ頃かしら」

柑奈「一週間前くらい、だったような。授業の合間に」

のあ「ここに滞在はしていなかったの?」

若葉「最近は来てもすぐ帰っちゃうんです~」

柑奈「前はラベンダーティーとか持ってきて、皆にお裾分けしてくれたんですけど」

真奈美「ここに来てないのは事実のようだな」

のあ「あなた達、相葉さんのバイトのことを知ってるかしら?」

柑奈「知ってます!」

のあ「そう。何をしているの?」

若葉「花壇と温室のお世話と」

柑奈「なんか、反応の研究とか言ってました」

真奈美「反応の研究か。詳細は知ってるのか?」

若葉「わかりませんー。でも、時々お花をくれるんです」

28: 2016/10/04(火) 21:35:42.50 ID:ofQLnKj40
のあ「トラブルとかあったかしら」

柑奈「まさか!」

若葉「とっても優しい子ですよ~」

のあ「彼女に原因があるとは限らないわ。一方的な好意かもしれない」

柑奈「そっちも聞かないです」

のあ「信じるわ。お邪魔したわね」

若葉「あの、何かあったんですか?」

のあ「何も。美味しい紅茶を今度は差し入れるわ」

29: 2016/10/04(火) 21:36:39.57 ID:ofQLnKj40
13

K大学・キャンパス

真奈美「行き先を知ってる人はいなそうだな」

のあ「ええ。最後にもう一人だけ」

涼宮星花「こんにちは。高峯さん、でしょうか?」

涼宮星花
K大学の学生。今日もバイオリンの練習だった。

のあ「お呼び出しして申し訳ないわ。高峯よ」

真奈美「木場だ」

星花「涼宮星花と申します。お話があると、お聞きしたのですが」

のあ「ええ。あなた、相葉夕美さんとは仲が良いのかしら?」

星花「はい。同じ授業を取ったりと、懇意にさせていただいてますわ」

のあ「最近、連絡があったかしら?」

星花「連絡でしょうか?いえ、春休みなのでお会いしておりませんわ」

のあ「実は昨日から連絡が取れないの」

星花「まぁ、それは本当ですの……?」

のあ「嘘をついても仕方がないわ。あなたが匿っていて、無事ならそれはそれでいいの」

星花「それなら良いのですけれど……わたくしは、知りませんわ」

のあ「そう。どこか、行きそうな場所を知ってるかしら」

星花「よく贔屓にしてるカフェやレストランはありますわ」

のあ「後で教えてちょうだい。そうね、例えば夜遊びをするような場所とか」

星花「夕美さんが、ですか?」

のあ「そうよ」

星花「そんなことありませんわ。夕美さん、早寝早起きなんですの」

30: 2016/10/04(火) 21:37:52.49 ID:ofQLnKj40
真奈美「花の世話のためだろうな」

星花「その通りですわ。大学生の夜遊びなんて、わたくしは悪いとは思いませんけれど」

のあ「相葉夕美が花壇より優先するようなことではない、のね」

星花「はい。夕美さん、まさか事件に巻き込まれて……」

のあ「心配するのはわかるわ。だからこそ、情報をちょうだい」

星花「そういえば……」

真奈美「そういえば?」

星花「最近、初めてダーツを体験したと言ってましたわ」

のあ「ダーツね」

星花「楽しかったそうなので、今度ご一緒しようかと」

のあ「なるほど。行ってみましょうか」

星花「高峯さん、夕美さんは無事、ですよね?」

のあ「おそらく。見つけたら、連絡するわ」

星花「よろしくお願いいたしますわ」

31: 2016/10/04(火) 21:39:20.35 ID:ofQLnKj40
14

ダーツ場・フィデラークラブ

フィデラークラブ
K大学から歩いて行ける距離にあるダーツ場。営業時間は11時~翌日7時まで。

のあ「こんにちは」

塩見周子「いらっしゃいませー。だけど、開店前だからそこで待っててね」

塩見周子
フィデラークラブのアルバイト店員。白をアクセントにしたベスト姿。

のあ「お客じゃないわ」

周子「せっかく来たなら、遊んでいけばいいのに。サービスするかも」

のあ「話を聞きに来たの」

周子「話?」

のあ「人を探しているの。こういうものよ」

周子「へー、探偵さん。そっちは?」

真奈美「助手だ。少々不愛想だが、うちの探偵に付き合ってくれたまえ」

のあ「一言多いわ。刑事は来たかしら?」

周子「刑事、なんか来たっけ?昨日の昼から夜までいたけど」

のあ「来ていないようね。この人物を探しているの」

周子「えっと、誰かな?」

のあ「相葉夕美、K大学の学生よ」

周子「K大ねー、いくらでもいるしー」

のあ「見覚えはないかしら」

周子「身分証ある?」

のあ「身分証?」

周子「確認しないと大変なんだよねー。未成年にお酒出すわけにはいかないし。あたしもだけど」

のあ「つまり、来ていたらわかると」

周子「そーいうこと」

のあ「昨日の夜から朝にかけて、相葉夕美は来てないわね?」

周子「たぶんね。他の店員にも話を聞いてこよっか?深夜からシフトの子も残ってるし」

のあ「お願いするわ」

32: 2016/10/04(火) 21:40:20.79 ID:ofQLnKj40
15

K大学近傍の喫茶店

真奈美「一通り回ってみたが」

のあ「昨日からの足取りはつかめない」

真奈美「身分証を確認するような施設は使っていればいいのだが」

のあ「ネットカフェもカラオケもなさそうね」

真奈美「ホテルもだろうな」

のあ「それだったら、警察がすぐに見つけるわよ」

真奈美「しかし、足取りはつかめないな」

のあ「ダーツ場も目撃情報なし」

真奈美「大学付近に来てないのかもしれないな」

のあ「そうね」

真奈美「誰かが匿ってる可能性はあるか」

のあ「ないでしょうね」

真奈美「理由は」

のあ「誰かと接触した気配がない」

真奈美「ふむ。警察もケータイの通話履歴は確認済みだ」

のあ「彼女が通信したのは、西園寺邸付近が最後」

真奈美「ケータイの電源を切ってるようだな」

のあ「直接訪ねるか、協力者にばったり会えたのなら話は変わるけれど」

真奈美「そうとは思えないな」

のあ「ええ。誰にも迷惑をかけないように、たった一人で逃げているようね」

真奈美「なぁ、のあ」

のあ「このカレーが一口欲しいならあげるわ」

真奈美「相葉夕美が逃げる理由なんてあるのか?」

33: 2016/10/04(火) 21:41:03.76 ID:ofQLnKj40
のあ「そうね。彼女の評判は概ね好意的」

真奈美「相葉夕美が起こしたのが、犯罪だろうが事故だろうが」

のあ「匿うくらいの協力をしてくれそうね」

真奈美「やはり、殺人を犯しているとは思えないのだが」

のあ「可能性を否定はできない。だから、探してるのよ」

真奈美「わかってる。逃げなくてもいいと、私がそう思うだけだ」

のあ「真奈美、そこ」

真奈美「ヒヤシンスだな」

のあ「彼女がいた場所には、花が咲くのね」

真奈美「……そうだな」

のあ「居ることが許されなければ、人の世界では花はいないわ」

真奈美「彼女がその場所を与えてくれている」

のあ「花を咲かせるだけじゃないからこそ、私にも依頼が来たわ」

真奈美「ああ」

のあ「結末がどうであっても、彼女の無事を祈る人は消えたりしない」

真奈美「それなのに、誰からも隠れるように逃げてる」

のあ「その通り。さて、見つけましょうか」

真奈美「アテがあるのか?」

のあ「誰にも見つからないように逃げているんだから、見つけられるわ」

真奈美「意味がわからん」

のあ「ごちそうさま」

真奈美「ごちそうさま。次はどこだ?」

のあ「相葉夕美の実家へ。部屋は残っているようだから」

34: 2016/10/04(火) 21:42:46.93 ID:ofQLnKj40
16

神奈川県・某コンビニ駐車場

のあ「久美子、なにかしら」

真奈美「軽食を買って来たぞ。缶コーヒーもだ」

のあ「そう。私達は神奈川県内よ」

真奈美「通話中か」

のあ「大変そうね。ご健闘を」

真奈美「誰からだ?」

のあ「久美子よ。遺体から毒かどうかわからないけど色々と見つかったみたい」

真奈美「ふむ。氏因は特定できたのか?」

のあ「出来ていないらしいわ。時間がかかりそうね」

真奈美「他に何か言ってたか?」

のあ「特には。真奈美、買って来たかしら」

真奈美「ええ」

のあ「大事にとっておきなさい。私も買い物をしてくるわ」

真奈美「ん?のあが欲しいと言ったのに」

のあ「私が欲しいと言ったけど、私が欲しいわけじゃないわ」

真奈美「そうならそうと言ってくれ。スパイシーなものを買ってきてしまった」

のあ「缶コーヒーは何を?」

真奈美「これだ。個人的なオススメだ」

のあ「わかってるじゃにゃい」

真奈美「にゃ?」

のあ「みくにゃんがキャンペーンしてたのよ」

真奈美「してたか?CMも違うアイドルだった気がするが」

のあ「甘いわね。販促のキャンペーンをやっていた一人よ」

真奈美「私は前川君への熱狂度を、のあと争った覚えはないぞ」

のあ「それも相葉夕美にあげるとしましょう」

真奈美「買いに行こうとしてたのに、飲まないのか?」

のあ「良い物は広めるものでしょう」

真奈美「良い心がけだが、動機が不純だな……」

のあ「相葉夕美はスパイシーなものは好きかしら?」

真奈美「そんな話は聞かなかったな」

のあ「甘いものも買ってくるとしましょう。待ってなさい」

真奈美「了解だ」

35: 2016/10/04(火) 21:44:01.01 ID:ofQLnKj40
17

公園跡地・駐車場

のあ「あら」

真奈美「閉鎖しているのか」

のあ「おあつらえ向き」

真奈美「どこか、入れそうな場所はあるか?」

のあ「フェンス、乗り越えるわよ」

真奈美「行動が早いな。慣れてるのか?」

のあ「廃墟探索は探偵の基本じゃない。真奈美、出来ないの?」

真奈美「出来るさ。ほらよ、っと」

のあ「お見事」

真奈美「侵入は事後承諾だな」

のあ「人命優先よ」

真奈美「所有者は、市か」

のあ「市が持っていた施設のようね。施設の老朽化が進んで、建て替えの話があったけど」

真奈美「税金の無駄遣いということで、5年前に廃園のようだ」

のあ「管理人はいない。お世辞にも利便性のある場所ではないし」

真奈美「買い手も着かず、このままか」

のあ「案内板があるわ。あそこがバラ園なのね」

真奈美「伸び放題だな」

のあ「でも、バラは生きているようね」

真奈美「前言撤回だ」

のあ「どうしたの?」

真奈美「切られた痕がある。最近だ」

のあ「秘密の花園、ということかしら」

真奈美「のあ」

のあ「雨風を凌げる所がちゃんとあるじゃない」

36: 2016/10/04(火) 21:45:32.23 ID:ofQLnKj40
18

公園跡地・温室

真奈美「ストレリチア、ブルーデイジー、ガーベラ、ピンククッション、キングプロテア……」

のあ「看板はあるけど、ストレリチアぐらいしかわからないわ」

真奈美「放置されているのか」

のあ「そうかもしれないわ」

真奈美「あそこの鉢は違うんじゃないか。まだ、新しく見えるぞ」

のあ「不法投棄かしら」

真奈美「わからないが……のあ」

のあ「見つけた。相葉夕美の自転車じゃない」

真奈美「やっぱり、どこからか入って来れるようだな」

のあ「静かに」

真奈美「ああ……」

のあ「気づかれたかしら……」

真奈美「……」

のあ「一晩過ごしているのだから、どこか横になれる場所が必要」

真奈美「休憩所があるようだ。ここから右だ」

のあ「東屋があっ……真奈美!」

37: 2016/10/04(火) 21:46:49.03 ID:ofQLnKj40
真奈美「見つけた!ドンピシャだ、のあ」

のあ「褒めるのは後でいいわ!倒れてる!」

真奈美「ああ!大丈夫か!?」

のあ「相葉夕美で間違いなさそうね」

真奈美「……」

のあ「息はあるかしら」

真奈美「大丈夫だ。呼吸も脈もある、寝ているだけだ」

のあ「無事だったのね」

真奈美「疲労してるのかもしれない」

のあ「相葉夕美、起きなさい」

相葉夕美「……ん」

相葉夕美
K大学の学生。誰にも知らせることなく、秘密の花園に隠れていた。

のあ「おはよう」

夕美「あっ……」

のあ「逃げなくていいわ。真奈美は足には自信があるのよ、諦めた方が賢明よ」

夕美「……」

のあ「目が充血してるわ。昨日は寝れていないの?それとも、泣いていたのかしら」

夕美「……」

のあ「食事は」

夕美「……」

のあ「無事で良かったわ。真奈美、飲み物からあげて」

真奈美「ああ。別に捕まえに来たわけじゃないんだ」

のあ「無事を確かめに来ただけよ。飲みなさい」

夕美「どうして……」

のあ「あなたが心配だから、それ以外ないでしょう」

夕美「他にも誰か……私を探してるの?」

のあ「心配してるわ。西園寺邸の人達もよ」

夕美「警察も、ですか……」

のあ「ええ。何が起こったか、知りたがってるわ」

夕美「……」

のあ「無事で良かったわ。戻りましょう」

夕美「ごめんなさい……」

のあ「ごめんなさい?」

夕美「琴歌ちゃんを頃したのは、私、です……」

38: 2016/10/04(火) 21:49:28.69 ID:ofQLnKj40
19

公園跡地・駐車場

和久井留美「お疲れ様」

新田美波「お疲れ様ですっ!」

和久井留美
刑事一課和久井班班長。柔道、剣道、空手、少林寺拳法は有段者とのこと。

新田美波
刑事一課和久井班所属。若手らしいフレッシュさが魅力。

のあ「留美」

留美「探偵さん、お手柄ね」

のあ「依頼を無事にこなせてよかったわ」

真奈美「相葉夕美は」

留美「署の方へ」

のあ「自白したのだけど」

留美「逮捕というわけにはいかないでしょう。話を聞く理由にはなったけれど」

美波「衰弱していますので、様子を見ながらです」

留美「どうやって見つけたの?」

のあ「聞きたいのかしら」

留美「後学のために、聞かせてちょうだい」

のあ「まずは移動手段。おそらく自転車だったから、遠くまでは行っていない」

真奈美「大学周辺ではなかった」

のあ「誰かを頼った様子もない。その状態だと通信手段の有無が行動を変えるわ」

真奈美「つまり、ケータイか」

のあ「ええ。連絡も情報も得ていない」

真奈美「そうなると、自身の知識に頼ることになる」

のあ「例えば、実家付近の馴染みの場所とか」

留美「なるほど」

のあ「それに雨風を防げる場所。相葉夕美の趣味からして、植物園は候補地になるでしょう」

真奈美「実家の部屋にあった日記から、候補地はピックアップした」

留美「それは、遅れを取ったわね」

39: 2016/10/04(火) 21:50:39.23 ID:ofQLnKj40
のあ「途中を省略したから、一歩先に行けただけよ」

留美「褒め言葉は素直に受け取って。見つけてくれてありがとう」

のあ「これからは、そちらの仕事」

留美「わかってるわ。興味があるなら、署に来て」

のあ「許可が出たわ」

真奈美「はいそうですか、とこのまま終わるのも難だと思っていたところだ」

のあ「お邪魔させてもらうわ」

留美「ええ。新田さん、私達も署へ」

美波「はいっ。高峯さん、木場さん、失礼します!」

真奈美「さて、一件落着とはまだ行かないな」

のあ「ええ」

真奈美「黒川千秋には連絡したか?」

のあ「もちろん。無事は伝えたから、依頼は終わりよ」

真奈美「なら、これからは」

のあ「私達のただの好奇心」

真奈美「それでいい。黒川千秋にはどこまで伝えた?」

のあ「無事とだけ。警察が事情を聴いてることは話したわ」

真奈美「賢明だ」

のあ「良い報告が出来ると良いけれど」

真奈美「それは私達の希望だ。事実とは何の関係もない」

のあ「わかってるわ」

40: 2016/10/04(火) 21:51:48.61 ID:ofQLnKj40
20

清路警察署・科捜研

のあ「久美子」

久美子「のあさん。お手柄だったじゃない」

のあ「たまたまよ」

真奈美「調査の状況はどうだ?」

久美子「どうしようかと途方に暮れてるところ」

のあ「山積みにされたダンボールを見ればわかるわ」

久美子「結局ほとんど、西園寺邸から持って来たのよ」

のあ「この中に毒があると」

久美子「植物なんて毒物の宝庫だし。でも、それだけじゃなくて」

真奈美「何か問題でもあったのか?」

久美子「検視で蜂に刺されたような痕が見つかったのよね」

のあ「蜂?」

久美子「男子職員なんか、今は虫取り中よ?」

のあ「それは、ご苦労様」

久美子「そっちが原因とも何とも言えないし」

のあ「進展があっただけいいわ」

久美子「外部機関の設備も貸してもらって、明日ぐらいまでには目途をつけるつもり」

のあ「相葉夕美から証言は」

久美子「まだ。だけど、私にはあんまり関係ないかな」

のあ「関係ない、とは」

久美子「人間は嘘をつくから。科学の方が信頼できるわ。科学を欺こうとする人間もいるけど」

のあ「久美子、人間嫌いだったかしら」

久美子「アプローチの問題。信じてもいいけど、私はそれをしないだけだから」

のあ「頼りにしてるわ」

久美子「任せて、猫の手も借りたいほど忙しいけど。あー、こういう時に志希ちゃんがいればいいのに」

真奈美「……彼女は猫どころかスペシャリストじゃないか?」

41: 2016/10/04(火) 21:53:03.89 ID:ofQLnKj40
21

清路警察署・休憩室

亜季「オッケー、エーエスエーピーでありますよ。ドントノー?A・S・A・P、アズスーンアズポッシブル、ヤー。グッドラック」

のあ「大和巡査部長」

亜季「高峯殿、お疲れ様であります」

のあ「海外に電話かしら」

亜季「そうであります。果たして、スキャンデータは送られてくるでありますでしょうか?」

のあ「送られて来たら、お祝いにご馳走してあげる」

亜季「むむ、そうだと良いでありますが」

柊志乃「お疲れ様……」

柊志乃
刑事一課長。階級は警部。留美とコンビを組んで、5年ほど圧倒的な実績を残していた。

亜季「柊課長殿、お疲れ様であります」

のあ「志乃、状況は」

志乃「容疑者を逮捕したわけじゃないのは、わかってるかしら」

のあ「もちろん」

亜季「あくまで、話を聞くだけであります」

志乃「少年課がいつも通りの仕事をしてくれてるわ」

真奈美「補導か」

志乃「一番手続きが楽だから、そうしてるわ」

のあ「相葉夕美の様子は」

志乃「さっき会ってきたけど、衰弱はしてないわ。考え事をしているようね……」

真奈美「柊警部はどう考える?」

志乃「私、昇格したのよ……私が言ったことが、この事件の結論になるの」

のあ「つまり、言えないと」

志乃「理解があって助かるわ……結論を出す材料が必要なの」

亜季「先ほどの電話も、それであります」

42: 2016/10/04(火) 21:53:57.28 ID:ofQLnKj40
志乃「必要なのは情報……おそらく、それを一番持っているのは」

のあ「相葉夕美」

志乃「そういうこと……そうね、今の所だけど」

のあ「なにかしら」

志乃「相葉夕美は、調査には協力的よ……」

真奈美「殺人を認めている、から」

志乃「時期に話も聞けるわ……失礼するわ」

のあ「志乃は何をするのかしら」

志乃「別の仕事を……」

真奈美「別の事件か?」

志乃「経費執行の書類にハンコを押さないとなの……」

のあ「課長は大変ね……」

43: 2016/10/04(火) 21:55:35.73 ID:ofQLnKj40
22

清路警察署・少年課

真奈美「失礼するよ」

のあ「夏美はいるかしら」

恵磨「休憩中。どうしたん?」

のあ「相葉夕美の取り調べが始まる前に、話を聞きに来たの」

恵磨「何を?」

のあ「少年課が知ってる情報。例えば」

恵磨「補導歴とか?」

のあ「話が早くて助かるわ」

恵磨「ナシ。かつて今まで警察のお世話になったことはないよ」

のあ「そう。西園寺琴歌の方は?」

恵磨「被害者の方?」

のあ「ええ」

恵磨「良家のご息女にそんなことあったら大変でしょ」

真奈美「答えはノー」

恵磨「その通り。警察のデータには残ってたけど」

のあ「残ってた?」

恵磨「西園寺家にコソ泥が入った時に証言してるから」

のあ「それだけ?」

恵磨「それだけ」

のあ「他の犯罪に巻き込まれたことは」

恵磨「今の所は見つかってない」

のあ「両親や兄弟は」

恵磨「弟がいるみたい。跡取りだから、厳しく育てられてるって」

真奈美「金持ちに産まれるのも大変だな」

のあ「何かに巻き込まれてないかしら」

44: 2016/10/04(火) 21:57:10.21 ID:ofQLnKj40
恵磨「現代日本で要人殺害なんて起こるかな」

真奈美「今の言葉ならテロだ」

恵磨「一昔前のね。流行りは、ソフトターゲットのローンウルフ」

真奈美「美学も何もないな」

のあ「そんな問題じゃないわ」

夏美「あれ、まだいるの?」

のあ「お帰りなさい。勝算はあるかしら」

夏美「勝算なんて言葉、使わないでちょうだい」

のあ「あくまで、事情を聞くだけ」

夏美「間違えないで」

のあ「夏美、いつからそんなに頑固になったのかしら。前の部署では違ったじゃない」

恵磨「そうなん?」

夏美「それは本当かもしれないけど、今は関係ないわ」

のあ「相葉夕美の様子は」

夏美「思いつめてる。前にも何回か見たことがあるわ」

真奈美「どういう時かな」

夏美「同級生を突き落した高校生があんな顔をしてたわ。助かって欲しい、って泣いてた」

のあ「西園寺琴歌は亡くなってる。願いは叶わない」

夏美「あくまで経験則。現実は、個人の妄想よりもはるかに複雑よ」

のあ「なら、個人の妄想を聞かせてちょうだい。犯人は誰かしら?」

夏美「私は犯人の名前も知らないと思うけど」

のあ「そう。そろそろ、留美のお手並み拝見と行くわ。夏美も来るかしら」

夏美「ええ。見学させてもらうわ」

46: 2016/10/04(火) 21:58:33.30 ID:ofQLnKj40
23

清路警察署・取調室

真奈美「ほう、こんな構造なのか」

のあ「取調室は隣。向こうからは私達は見えてないわ」

美波「はいっ。取調室を密室にしないように、工夫されてます」

真奈美「和久井警部補がいるな」

のあ「音声は」

美波「マイクで拾って、こっちの部屋でも流します。カメラとマイクの音声は記録します」

のあ「そう」

美波「重大事件だと、偉い人が来て大変みたいですよ」

のあ「あなたは取調べの経験は?」

美波「簡単なものなら。傷害事件は大小色々ありますから」

のあ「駆け引きが必要なものは」

美波「難しいです、今回はお勉強です」

亜季「機材のセットは完了であります。私も今回は警部補殿のご手腕を拝見するであります」

美波「留美さん、聞こえてますか?」

留美『聞こえてるわ』

美波「カメラとマイクは準備できました」

のあ「留美と会話できるの?」

亜季「新田巡査が持ってるマイクをオンにすれば」

留美『そっちには誰かいるの?』

美波「高峯さんと木場さんと」

夏美「相馬夏美がいるわ。お手柔らかに」

留美『了解したわ。相葉夕美を呼んでくれるかしら』

美波「はい。少々お待ちください」

47: 2016/10/04(火) 21:59:41.46 ID:ofQLnKj40
24

清路警察署・取調室

留美『まずはお名前を聞かせてもらっていいかしら』

夕美『相葉夕美です』

夏美「……」

真奈美「のあ」

のあ「明らかに態度が違うわ」

真奈美「だよな。目も充血してない」

夏美「……」

のあ「夏美、怖い顔してるわよ」

夏美「してないわ」

のあ「せっかくの美人が台無しよ。微笑んでなさい」

夏美「のあさんこそ」

のあ「私はいいのよ。笑わなくても美女だもの」

真奈美「普通の人間は、内心思ってても自分のことをそう言わない」

留美『西園寺琴歌が遺体で発見されたわ。氏亡推定時刻は昨日の午前中、そこまではいいかしら』

夕美『はい』

のあ「回答する時以外は、口は真一文字」

夏美「わざだと思う。彼女のイメージは誰から聞いても、口元は笑ってることが多い」

真奈美「話始めたら止まらない、という印象とも違うな」

留美『遺体の第一発見者はあなたでいいかしら』

夕美『……遺体になったのを見たのなら、それは……はい』

のあ「留美と真正面で見据えて、よく話せるわね」

夏美「準備してるからだと思う。私は容疑者で突然捕まったら、あんな態度は出来ないかな」

真奈美「嘘か?」

のあ「嘘じゃないでしょう。監視カメラの映像を見たでしょう」

真奈美「確かに。相葉夕美もそれを知らないはずがない」

留美『遺体になったのを、見た』

夕美『だって……私が、琴歌ちゃんを……』

夏美「……」

のあ「……」

留美『どうやって』

夕美『注射器……』

留美『毒』

夕美『あの、刑事さん……』

留美『何かしら』

のあ「表情が変わった……」

夕美『何の毒か、わかりましたか』

48: 2016/10/04(火) 22:01:03.00 ID:ofQLnKj40
留美『わかってないわ』

夕美『あはっ……ふふふ……そうですよね……』

夏美「……」

夕美『琴歌ちゃんを自由に出来るのは、私だけだから……』

49: 2016/10/04(火) 22:02:08.17 ID:ofQLnKj40
25

清路警察署・取調室

留美『その毒について、お聞きしていいかしら』

夕美『ううん……それは言えない』

留美『言えない?』

夕美『それは、私達だけの秘密だから』

真奈美「秘密か」

のあ「久美子の仕事が減らないわね」

留美『言っておくけれど、あなたの自白は鵜呑みに出来ないわ』

真奈美「私達とさっき言っていたが」

のあ「相葉夕美と」

夏美「被害者でしょうね。年齢はそう離れていないし」

留美『氏体をあそこに運んだ理由は』

夕美『綺麗に飾れてましたか?』

のあ「どう回答するのがいいかしら」

夏美「同意がいいんじゃないかしら。留美さんにお任せするけど」

留美『ええ。あなたの愛情を感じたわ』

真奈美「選択肢は同意」

夕美『ふふっ、天国に行くまでもお花に囲まれてるといいな、って』

留美『西園寺の葬儀なら、もっと豪勢だったでしょうに』

真奈美「吹っ掛けたな」

夕美『それじゃ、ダメだよっ』

留美『なぜかしら』

夕美『それだったら、逃げられない……』

夏美「……」

夕美『西園寺から、逃げられない』

のあ「自殺幇助」

真奈美「監視カメラに写っていないのは」

のあ「西園寺琴歌が知っていたから」

50: 2016/10/04(火) 22:02:50.59 ID:ofQLnKj40
夕美『親が決めた誰かと結婚して、それでも一生逃げられないんだよ』

留美『自殺願望が、西園寺琴歌にあったと』

夕美『琴歌ちゃんの考えてることは、わかるから』

夏美「ただの主観」

のあ「殺人の可能性は捨てられない」

留美『確認させてちょうだい。あなたが、西園寺琴歌を頃したのね』

夕美『はい。だから、早く』

留美『でも、おかしいわね』

のあ「……」

留美『あなたが蘇生措置を施しているでしょう』

51: 2016/10/04(火) 22:04:00.96 ID:ofQLnKj40
26

清路警察署・取調室

夕美『……』

留美『どうしてかしら』

夏美「驚いてない」

のあ「想定の範囲内にしか過ぎない揺さぶり」

真奈美「逃げてる間にずっと考えていたのかもしれないな」

留美『あなたが自供している殺人と矛盾していると思わないかしら』

夕美『だって……』

のあ「……」

夕美『言い忘れちゃったから……言わないと』

留美『何を言い忘れたの?』

夕美『もう自由だよ、って。鳥籠に閉じ込められなくて良いって』

真奈美「自分で毒を投与して、蘇生させようとしたのか?」

のあ「違うと思うわ」

留美『これは私の想像よ。もしかして、あなたが見つけた時には既に倒れていたのじゃないかしら』

夕美『……』

留美『答えてくれないかしら』

夕美『自由に出来るのは、私だけだもん。それは間違いないんだから』

留美『あなたは、事件の時に何をしたの?』

夕美『邪魔されたくなかった。私が、琴歌ちゃんを自由にしてあげるの』

夏美「何が起こったかは、答えてない」

のあ「答える気もない」

52: 2016/10/04(火) 22:04:50.61 ID:ofQLnKj40
留美『質問を変えるわ。あなたは西園寺の温室で何をしていたの?』

夕美『私は、毒を作ってた』

留美『直接的な意味ではないでしょう』

夕美『うん。私がしてたのは、お花の成分を集めることなんだ』

留美『だけど、それが毒になる』

夏美「西園寺琴歌はアレルギー持ちだった」

のあ「花を研究する理由は」

夏美「発症を抑えるため」

夕美『うん。私は毒じゃないのを探せと言われてたけど』

のあ「……毒を」

夕美『私の毒が、琴歌ちゃんを殺せる唯一の方法なんだよ』

53: 2016/10/04(火) 22:05:30.60 ID:ofQLnKj40
27

清路警察署・取調室

留美「亜季ちゃん、交替」

亜季「了解であります」

留美「残ってる事実関係だけ確認して。リストはあるかしら」

亜季「受け取っております」

留美「心身共に疲れているから、警察病院の個室を用意するわ。彼女にそう伝えて」

亜季「了解であります。それでは、お任せください」

のあ「留美、お疲れ様」

留美「どうも」

のあ「感触は」

留美「見ていた通りよ。このまま終わらせようと思えば終わらせられるわ」

夏美「それは、辞めて」

留美「わかってるわよ。課長を納得させられるとも思わない」

54: 2016/10/04(火) 22:05:59.75 ID:ofQLnKj40
のあ「どうするつもりなのかしら」

留美「明日まで待とうかしら。気が変わってくれるかも」

のあ「本気?」

留美「本気なわけないでしょう。科捜研の結果待ち」

夏美「隠し事は話してくれないと思う」

留美「百も承知。口先三寸で終わらせようなんて思ってないわ」

のあ「大切なのは」

留美「証拠。空想に基づいた調査は探偵さんのお仕事」

のあ「ええ」

留美「新田さん」

美波「はいっ」

留美「課長と話してくるわ。相葉さんを送ったら、部屋に戻りなさい」

美波「了解しました」

留美「それじゃ、今日はお疲れ様」

のあ「調査は終わりかしら」

留美「無理が結果を生むわけじゃない。家庭だってあるんだから」

のあ「そうね」

留美「それでも調査を進めたいなら、私の所感をひとつあげるわ」

のあ「聞かせて」

留美「相葉夕美がしていたバイトのこと、考えてみればどうかしら」

55: 2016/10/04(火) 22:07:05.84 ID:ofQLnKj40
28

清路警察署・科捜研

音葉「ふぅ……」

のあ「こんにちは。お疲れみたいね」

音葉「高峯さん……資料を色々と精査していたら、目が疲れてきました……」

のあ「何の資料かしら」

音葉「カルテですよ……被害者の」

真奈美「アレルギーのか?」

音葉「それ含めて全てです……」

のあ「毒の正体は見つかったかしら」

音葉「いいえ……見つかったのは、化学物質のカクテルでしたから」

真奈美「難しそうだな」

音葉「分離と分析は順調です……ただ」

久美子「それが心停止させるほどの毒なのか、整合させるのが大変」

のあ「久美子」

久美子「音葉ちゃん、ちょっと休憩しましょ」

音葉「はい……お付き合いします」

久美子「ありがと。のあさん、相葉さんの方はどう?」

のあ「相変わらず。留美から報告は?」

久美子「刑事一課からの報告は聞いてる。毒が何かさえわかれば、裏付け出来るのに」

のあ「そうね」

久美子「でも、わかったことはあるの」

56: 2016/10/04(火) 22:08:27.60 ID:ofQLnKj40
真奈美「本当か」

久美子「西園寺琴歌が腕に何かを塗ってたでしょ?」

のあ「朝に見たわ」

久美子「あれを作ったのは、相葉さんだと思うの」

真奈美「何のために」

音葉「パッチテスト……でしょうか」

久美子「名前をつけるとしたら、それ。アレルギー反応の検査のため」

音葉「香料なども混ぜてあったので……それだけが目的と言うわけではないようです……」

のあ「相葉夕美が調べていたのは」

久美子「被害者にアレルギー反応が出ないかどうか、だと思うわ。西園寺の人達は心配性なのね」

真奈美「相葉夕美はそのために雇われていたのか?」

久美子「ええ。温室と庭園の一画を自由に使っていいから、良いバイトだったみたい」

音葉「被害者との関係も……良好だったようですから」

のあ「ふむ……」

音葉「西園寺琴歌さんは、姉のように慕っていたということです……」

のあ「相葉夕美は、自分だけが毒を作れると言っていたわ」

久美子「あら、一介の大学生が凄い自信ね」

のあ「そう言ってくれるなら、安心したわ」

久美子「負けないわよ。でも、夜は長いから一旦休憩」

のあ「真奈美、私達も帰りましょう」

久美子「音葉ちゃん、喫茶店まで行きましょ」

音葉「はい……」

真奈美「つかぬことを聞くが」

久美子「なに?」

真奈美「白衣のままで、外に行くのか?」

久美子「もちろん」

音葉「私服用と外出用と作業用の白衣は分けていますから……問題ありません」

真奈美「しっかりしてるのか……?」

57: 2016/10/04(火) 22:09:30.83 ID:ofQLnKj40
29

高峯探偵事務所

のあ「ただいま。まゆは、まだ帰ってないようね」

真奈美「今日のお仕事は完了と」

のあ「夏美から連絡があったわ。相葉夕美は病院の方へ移動したみたい」

真奈美「そうか」

のあ「ご両親が面会に来るみたいだし、少しは素直になってくれるといいけど」

真奈美「私の経験からすると、頑なな態度は簡単には変わらんよ」

のあ「私のことを言ってるのかしら」

真奈美「のあが素直じゃないのは性根からだろう。一時的な態度についてだよ」

のあ「普通は取り繕うところよ」

真奈美「生憎、普通とは言い難いからな」

のあ「まぁ、いいわ。相葉夕美の態度を変える方法はあるかしら」

真奈美「特効薬なんてないさ。地道に考えていくしかない」

のあ「何を考えるのかしら」

真奈美「行動原理」

58: 2016/10/04(火) 22:10:26.45 ID:ofQLnKj40
のあ「行動原理ね……」

真奈美「心や気持ちと言われても、納得しないだろう」

のあ「その通り。良くわかってるじゃない」

真奈美「出来るか、のあ」

のあ「行動原理じゃない。感情でも信念でもなく、私が追うのは」

真奈美「なんだ?」

のあ「行動の目的よ。もっと直接的な理由」

真奈美「ふむ」

のあ「小さな糸を辿るしかなさそうね」

真奈美「その糸は何で出来ているかな」

のあ「彼女のことだから、きっと花よ」

真奈美「花か。そうかもしれないな」

まゆ「ただいま帰りましたぁ」

真奈美「おかえり」

のあ「おかえりなさい、まゆ」

59: 2016/10/04(火) 22:11:14.76 ID:ofQLnKj40
まゆ「ちょっと遅くなっちゃいましたぁ。お夕飯のお仕度しますねぇ」

真奈美「着替えてくると良い。買い物袋は受け取ろう」

まゆ「わかりましたぁ」

真奈美「ああ。ハンバーグの材料だけは出しておこう」

まゆ「お願いします、真奈美さん」

のあ「……」

真奈美「さて、こっちはどうする」

のあ「少し話してみるわ。あの制服、まゆには似合わないわね」

真奈美「歴史ある公立高校の制服だ。悪いことではないだろう」

のあ「……」

真奈美「のあ、あえて聞かなかったが」

のあ「ええ、調べたの」

真奈美「西川保奈美の事件の時か」

のあ「……その後も」

真奈美「佐久間君は知らないのか……そうみたいだな」

のあ「私に、そんな権利があるのかしら」

真奈美「知ってしまった以上は、変えられない。これから、どうするかだ」

のあ「……ええ」

真奈美「まずは、ハンバーグを楽しみにするとしよう」

のあ「……そうね。どんな味がするのかしら」

60: 2016/10/04(火) 22:13:19.05 ID:ofQLnKj40
30

高峯探偵事務所

まゆ「……♪」

のあ「……美味しい」

真奈美「ふむ、私には出せないな」

まゆ「本当ですかぁ?」

のあ「本当よ。とっても優しい味がするわ」

まゆ「うふふ、良かったぁ」

真奈美「このグラッセも良い。今度、教えて欲しい」

まゆ「もちろんです」

のあ「真奈美のと全然違うわ。牛肉の味を前面に出していない」

真奈美「ああ。牛肉だけじゃないな」

のあ「豚肉じゃないわ、鳥かしら」

まゆ「もっとヘルシーですよぉ」

のあ「豆腐、かしら」

まゆ「うふっ、正解です。前は人数が多かったから、その」

のあ「良いわよ、まゆが悔やむことではないでしょう」

まゆ「……」

のあ「連絡は取ってるの?」

まゆ「はい。でも……どんな顔で会えばいいか、わからなくて」

のあ「同じでいいのよ。きっと」

真奈美「ああ。少し時間が掛かるかもしれないが、そう戻れたらいいな」

まゆ「……あの、今日はお仕事だったんですかぁ?」

のあ「……」

真奈美「ああ。人探しさ」

まゆ「まぁ……見つかったんですかぁ?」

のあ「見つかったわよ。無事だったわ」

まゆ「お手柄だったんですねぇ」

のあ「そうでもないわ。隠れていた理由がわかってないの」

まゆ「よくわかりませんけれど……」

のあ「もしかしたら、してもいない罪を被っている。あるいは、意にそぐわない行動をした」

真奈美「……」

61: 2016/10/04(火) 22:13:54.26 ID:ofQLnKj40
のあ「でも、話してくれないの。真実は、埋もれたまま」

まゆ「あの、どんな事件なんですかぁ?」

のあ「……食事の時にする話じゃなかったわね。ごめんなさい」

まゆ「そうですか……」

のあ「まゆは、今日は学校で何をしたのかしら」

まゆ「えっとぉ、いつも通りに授業を受けて、特別なことは何も」

のあ「学校は楽しいかしら」

まゆ「はい、大丈夫ですよぉ」

真奈美「……」

のあ「そう。まゆは、何か好きなものがあるかしら」

まゆ「お料理は好きです。真奈美さんのレシピを教えて欲しいな」

真奈美「機会が合えば、もちろん」

まゆ「高峯さんは、何か好きなものがありますかぁ?」

のあ「私が好きなものは……そうね、まずは天体観測」

まゆ「前に言って、ましたね……」

のあ「この話はナシ。推理小説は好きよ」

真奈美「本棚しかない部屋がある。佐久間君も使ってくれ」

まゆ「へぇ……今度お邪魔してみようかな」

のあ「それと」

まゆ「それと、何ですかぁ?」

のあ「みくにゃんを愛しているわ」

まゆ「……はい?」

真奈美「言い方とタイミングってもんがあるだろう」

62: 2016/10/04(火) 22:14:57.95 ID:ofQLnKj40
31

幕間

琴歌「夕美さん、夕美さん」

声が聞こえて、振り返る。

琴歌「今日は、何をしてますの?」

朗らかな笑顔が見えた。

琴歌「その花、どこかに持っていてしまいますの?」

うん、別の場所に植えなおすの、と答える。

琴歌「教えていただけませんか?」

秘密とこの時に答えたから。

あの場所は、私の秘密の花園になった。

絶対に、彼女を近づけないために秘密の花園にした。

理由も、気持ちも、悲しみも、全て土の中に埋めてしまおう。

琴歌「あのね、夕美さん」

どうしたの?

琴歌「私……」

言葉が聞こえなくなって。

はっ、と。

また、もうあの子のいない世界に引き戻される。

幕間 了

63: 2016/10/04(火) 22:16:00.26 ID:ofQLnKj40
32

深夜

高峯探偵事務所

のあ「真奈美」

真奈美「どうした」

のあ「留美から連絡があったわ」

真奈美「和久井警部補からこんな時間に?」

のあ「相葉夕美が、氏のうとしたわ」

真奈美「はぁ!?」

のあ「まゆが寝てるわ、静かに」

真奈美「……状況は」

のあ「傷もついてないわ。よほど準備をしていないと、そう簡単には氏ねないの」

真奈美「警察病院で良かったか。家族は」

のあ「近くにいてくれているわ。今は落ち着いて寝てるそうよ」

真奈美「錯乱していたのか」

のあ「ええ、自殺未遂は言い過ぎかもしれないわ。でも、気持ちはわかるわ」

真奈美「……」

のあ「真奈美、そう気にしなくていいわ」

真奈美「気にするさ。のあだって、ただの人間だ」

のあ「突然、意味もなく現実だって理解するのよ。何度も何回も」

真奈美「辛いのか、それは」

のあ「もう思い出せないわ。でも、落ち着き方は覚えてる」

64: 2016/10/04(火) 22:16:52.32 ID:ofQLnKj40
真奈美「なんだ?」

のあ「命を大事になさい、と母が言っていたわ。それだけよ」

真奈美「良いお母さんじゃないか」

のあ「私がただ、ありきたりなセリフを自分を慰めのために使ってただけよ。本当に母が言ったかどうかすら、怪しいわ」

真奈美「賢過ぎるのも考えものだな」

のあ「昔から屁理屈まみれの賢しい子供だったのよ。そして、今でも」

真奈美「……」

のあ「ずっと考えているのだけど」

真奈美「相葉夕美のことか」

のあ「今更過ぎると思わないかしら」

真奈美「何がだ?」

のあ「錯乱、自殺未遂のタイミングよ」

真奈美「急に罪の意識に苛まれたのかもしれないだろう」

のあ「違うわ。ここまでは氏ねなかった」

真奈美「どういうことだ?」

65: 2016/10/04(火) 22:17:44.84 ID:ofQLnKj40
のあ「毒について、証言しなければいけなかった」

真奈美「すまないが、のあの意図がわからない」

のあ「私は、相葉夕美は何かを隠してると思っている」

真奈美「同感だ」

のあ「全て隠したまま消えようとしている」

真奈美「ふむ」

のあ「それは、正しいことなのかしら」

真奈美「氏が、違うな。全てを心に秘めることか」

のあ「ええ。私の依頼人は良い隣人を失いたくないと言っていたわ」

真奈美「そうだな。のあは、どうしたい?」

のあ「戻してあげましょう。他人の秘密に、土足で踏み込むのは得意よ」

真奈美「その意気だ」

のあ「ええ。私は休むわ」

真奈美「お休み、のあ」

66: 2016/10/04(火) 22:19:17.68 ID:ofQLnKj40
33

翌朝

まゆ「子猫じゃ、ないのよ、にゃあ……♪」

真奈美「おはよう」

まゆ「おはようございます、真奈美さん」

のあ「おはよう。遅いのね」

真奈美「そっちは妙に早いな」

のあ「偶には一緒に朝ご飯もいいでしょう」

真奈美「そうだな」

のあ「コーヒーを飲むかしら」

真奈美「いただこう」

のあ「トーストでいいかしら。私が決めたの」

真奈美「構わない」

のあ「まゆ、運ぶのを手伝うわ」

まゆ「お願いします。こっちのサラダを運んでくれますかぁ?」

のあ「ええ。トーストも運んでいいかしら」

まゆ「はい。えっと、バターとハチミツは……よいしょっ……」

真奈美「おや、働くじゃないか」

のあ「真奈美は機敏過ぎて割り込めないの」

まゆ「ふふっ、本当に手際が良くて羨ましい……」

真奈美「そう褒めることでもないさ」

のあ「いただきましょう」

真奈美「いただきます」

まゆ「はい、召し上がれ♪」

真奈美「今日は早いんだな」

のあ「黒川千秋と約束をしてるからよ」

真奈美「聞いてないぞ」

のあ「今、聞いたでしょう」

真奈美「別に問題はないが、早く言ってくれ」

まゆ「黒川さん、って誰ですかぁ?」

のあ「昨日の依頼人よ。少しだけ、追加でお仕事をするの」

真奈美「決めたか」

のあ「決めてるわ。みくにゃんのアルバム分くらいは稼がないと」

67: 2016/10/04(火) 22:19:55.66 ID:ofQLnKj40
まゆ「まぁ、あのCDを借りていいですかぁ……?」

のあ「ええ。これを貸すわ」

真奈美「猫耳がついた音楽プレイヤーがポケットから出てきた」

まゆ「これは……?」

のあ「みくにゃんの現時点で入手できる全楽曲が入ってるの。スペアだから、まゆに貸すわ」

まゆ「わぁ……電車の中で聞きます」

真奈美「スペアがあるのか……?」

のあ「色違いで後2台あるわ」

真奈美「さすが、金を持て余したファンは違うな」

のあ「真奈美のカバンにはもう入ってるから」

真奈美「行動が早すぎるぞ。いるいらないを答えてすらいない」

のあ「先の先を読むのが、探偵というものでしょう?」

真奈美「そうだがなぁ」

まゆ「ふふ、本当に仲が良いんですねぇ」

のあ「……そうね」

68: 2016/10/04(火) 22:20:54.54 ID:ofQLnKj40
真奈美「この関係でいいのか、いつも疑問に思うよ」

まゆ「いつから、一緒にお仕事をしてるんですかぁ?」

のあ「いつから、かしら。居候した方が先ね」

真奈美「生活費をのあから絞り出すために仕事をしてるのさ」

のあ「そんなこと言ってると、出さないわよ」

真奈美「ほう、そんなこと言える立場なのか」

のあ「前言撤回するわ。よろしく」

真奈美「よろしい」

まゆ「ふふ」

のあ「まゆ」

まゆ「どうしましたか?」

のあ「今日、早く帰って来れるかしら」

まゆ「はい。まっすぐ、帰ります」

のあ「良かったわ。その」

真奈美「……」

のあ「ゆっくりと話をしましょう。そのために」

真奈美「事件は解決してくる」

のあ「ええ。約束よ」

69: 2016/10/04(火) 22:22:21.61 ID:ofQLnKj40
34

喫茶・St.V

St.V
高峯ビル2Fにある喫茶店。オーナーは相原雪乃。紅茶とカレーの名店。

相原雪乃「こちら、本日のブレンドです。ごゆるりと」

相原雪乃
喫茶St.Vのマスター。物腰柔らかな女性。

のあ「ごちそうするわ。朝食も美味しいわよ」

千秋「遠慮するわ。美味しい紅茶で充分よ」

のあ「そう」

千秋「それで、話って何かしら」

のあ「相葉夕美さんについては報告したわね」

千秋「ええ。無事だったのでしょう」

のあ「確認していいかしら」

千秋「何をかしら?」

のあ「あなたは良き隣人を失いたくないわね?」

千秋「ええ。依頼は無事を確認して欲しい、だったけれど」

のあ「相葉夕美さんは秘密を抱えたまま、氏のうとしたわ」

千秋「……え?」

のあ「報道に出てはいないと思うけれど、殺人を自白してるわ」

千秋「嘘でしょう?虫も殺さないような人なのに」

のあ「真実を確かめたいの。いいかしら」

千秋「私に確認する理由がわからないけど、いいわ」

のあ「ありがとう。だから、お願いがあるの」

千秋「聞いてもいいわ。何かしら」

のあ「もし、相葉夕美さんが戻ってきたら、声をかけてあげて。嬉しいでも、良かったでも、何でも」

千秋「……ただの隣人には荷が重いわ」

のあ「他人と定義して、逃げてるだけでは誰のためにもならない」

千秋「そうね……そうかもしれないわ」

のあ「お願いしていいかしら」

千秋「美味しい紅茶代として、聞いてあげる」

のあ「私は真実を見つけて、あなたの隣人を家に戻すわ」

千秋「事情はわからないけれど、相葉夕美さんは犯人じゃないのかしら?」

のあ「まだ、わからない」

千秋「なら、信じるわ。ただの隣人にだって、信じる権利はあるわよね」

のあ「そうね」

千秋「その依頼をするわ。真実、見つけてちょうだい」

70: 2016/10/04(火) 22:23:32.94 ID:ofQLnKj40
35

清路警察署・科捜研

音葉「……」

のあ「個性的なアイマスクね……」

真奈美「寝てる……のか?」

音葉「起きてますよ……おはようございます」

真奈美「起きてたか。家には帰ったのか?」

音葉「ここが私の家ですから……」

のあ「冗談、よね?」

音葉「もちろんです……シャワーは浴びましたけど、ベッドが恋しい……」

のあ「良かった。先輩に毒されすぎないように」

真奈美「差し入れだ。栄養補給したまえ」

音葉「良いニオイがします……ありがとう」

のあ「どういたしまして。それで」

久美子「ふわぁぁ……あ、のあさん」

のあ「おはよう。調査の方は順調かしら」

音葉「……それは」

久美子「作業自体は、かなり進んでるわよ」

のあ「別の問題があるということね」

久美子「遺体から植物らしき成分が検出されたのだけど、温室にあるものと一致しないの」

のあ「当然よ」

音葉「どういうこと……でしょう」

のあ「西園寺琴歌に毒となるような花を、西園寺の温室に置いてあるわけないじゃない」

久美子「なるほど」

音葉「ふむ……」

久美子「どこかのデータベース、借りれるかしら?」

音葉「大学関係を当たってみましょう……」

久美子「よしっ、すぐにやりましょ。のあさん、ありがとう」

のあ「毒、見つけられるかしら」

久美子「もちろん」

真奈美「音葉君に差し入れは渡しておいた」

久美子「ありがと。結果が出てそうな時に見にきて。たぶん、連絡しないから」

71: 2016/10/04(火) 22:25:18.69 ID:ofQLnKj40
36

清路警察署・少年課

夏美「どう思う?」

のあ「意見を聞いてみようかと思って」

夏美「ここまで来ちゃうと、私の得意分野じゃないわね」

のあ「そう言わずに。何でもいいわ」

夏美「殺人であれば、刑法に従って裁かれるわ。私の出る幕もほとんどない」

のあ「本当に?」

夏美「交通課と少年課だけよ、私が経験してるのは。衝動じゃない殺人はわからない」

のあ「そう」

夏美「然るべき仕事はするけど、そんなに期待しないで」

のあ「夏美は自分を卑下しすぎよ」

夏美「……」

のあ「気に障ることを言ったかしら」

夏美「のあさんは悪くないわ。私は自分を上にも下にも見ないで、仕事をこなすしかないの」

のあ「……」

夏美「そうね、これは感想として聞いて」

のあ「ええ」

夏美「家族関係、交友関係に問題はないわ。そんな優等生タイプの未成年が警察にお世話になる時の、典型的なパターンの一つ」

のあ「それは」

夏美「罪悪感を抱え込むこと。誰かを庇ったりして、無駄に事態が複雑化するわ」

のあ「あるじゃない、意見」

夏美「あるだけよ。当たったらご馳走してね♪」

のあ「ええ。お肉でも魚でもどうぞ」

夏美「楽しみにしてる」

恵磨「夏美さんっ!車出してきました!」

夏美「恵磨ちゃん、ありがと」

のあ「お仕事かしら」

夏美「校内暴力を辞めさせてくる簡単なお仕事よ。またね」

72: 2016/10/04(火) 22:26:26.95 ID:ofQLnKj40
37

清路警察署・休憩室

美波「えっと、良いんですか?」

真奈美「ああ。やる気になってるうちに、のあの頭脳を使い尽くせ」

のあ「いいわ。他人の数倍は使えるわよ」

美波「それじゃ、お願いします。資料をここに置いておきますね」

のあ「聞いたわりに遠慮ない量ね」

真奈美「刑事向きだ」

のあ「本当かしら。志乃とか留美しかサンプルがないから、わからないわ」

真奈美「確かに、その二人は特異だな」

のあ「あの子にはそうはなって欲しくないわね……もっと、爽やかで馴染みやすい警察官に」

留美「あら、本当に手伝ってくれるのね」

のあ「近寄りがたい刑事が来たわ」

留美「何の話かしら?」

のあ「忘れて」

留美「まぁ、いいわ」

のあ「一つでも多くの資料に目を通すわ」

留美「そう。カルテも集めたから、良ければ目を通して」

のあ「カルテ?」

留美「西園寺琴歌のものよ。定期検診も受けてるし、量は充実してるわよ」

のあ「わかったわ。相葉夕美の様子は?」

留美「落ち着いてるわよ。事情聴取は、避けてるけど」

のあ「聞き出せそうにはないわね」

留美「そういうこと。こっちで、何かの物証を見つけるしかないわ」

のあ「あら?」

留美「大和さんと新田さんに追加で聞き込みをお願いしたわ」

真奈美「大学の同級生もいるな。涼宮星花の名前もある」

のあ「……」

留美「このまま、相葉夕美に見せればいいかしら」

のあ「そうかもしれないわね」

留美「それはカウンセラーに譲るわ。私の仕事は」

のあ「事実の立証」

留美「ご健闘を祈るわ」

73: 2016/10/04(火) 22:27:42.68 ID:ofQLnKj40
のあ「……そういえば」

留美「どうしたの?」

のあ「真奈美、私さっきなんて言ったかしら」

真奈美「さっき、って何時だ?」

のあ「科捜研に居た時、久美子に何て言ったかしら」

真奈美「前だな。確か、温室にあるはずがない、だったな」

のあ「相葉夕美が西園寺の温室に、毒となる花を置くはずがない」

真奈美「そんなことを言ってたな」

のあ「真奈美、科捜研に行くわよ」

真奈美「ああ。何か、思いついたのか?」

のあ「留美、頼みごとがあるの」

留美「なに?」

のあ「私が相葉夕美を見つけた場所を調べてちょうだい」

74: 2016/10/04(火) 22:29:23.54 ID:ofQLnKj40
38

清路警察署・科捜研

のあ「久美子」

久美子「のあさん、ちょうど良い所に。これ見て」

のあ「毒の正体はわかったかしら」

久美子「毒かどうかはわからない。音葉ちゃんが植物園のデーターベースと照合してくれたの」

音葉「結果としては……ほぼ照合できました」

真奈美「やっぱり、花か」

久美子「ええ。植物を絞ったり、ミキサーに入れたりして作ってたみたい」

音葉「濃度が高いので……何度か蒸留した可能性があります」

のあ「結果を見せて」

音葉「はい……こちらです」

久美子「ガーベラ、ブルーデイジー、ピンククッション、キングプロテア、特に多く含まれていたのは、極楽鳥花よ」

音葉「一方で……トルコキキョウ、胡蝶蘭、ペチュニア、モミザ、バラなどが遺体の表面から見つかっています」

のあ「相葉夕美が注射したのは、久美子が言った方ね?」

久美子「遺体の血液から見つかってるから、たぶん」

のあ「梅木音葉、他には」

音葉「モクレンが多いですね……花の時期には早いと思われるのですが」

真奈美「モクレンか。香水として利用していたのか?」

音葉「それはわかりませんが……」

のあ「シロタエギク、オダマキ、ボタン、シランは」

音葉「西園寺庭園にはありましたが……遺体には見つかっていません」

のあ「リラは」

久美子「リラ?ああ、ライラックね」

75: 2016/10/04(火) 22:30:15.10 ID:ofQLnKj40
のあ「見つかったかしら」

久美子「見つかるも何も、西園寺邸にたくさん植えてあるわ。琴歌さんに症状が出なくて、本人もとても気に入っていたみたい」

のあ「違うわ。遺体によ」

久美子「遺体からはないわよ。自室から押し花が見つかっただけ」

のあ「そう」

久美子「のあさん、そんなに花に詳しかった?」

のあ「一時的に記憶してるわ。リストを見せて」

音葉「どうぞ……」

のあ「ふむ……本当にないわね」

真奈美「何がだ?」

のあ「体内からは、西園寺邸にある花の成分は見つかっていない」

真奈美「のあの予想は正解か」

のあ「そして、花の在りかもわかった」

真奈美「そうだな。時期に、資料も揃う」

久美子「え、そうなの?」

のあ「……逃げたのじゃなかったのね」

真奈美「あそこでなければ、見つかる意味がない」

久美子「ごめん、のあさん、説明してくれる?」

亜季「お疲れ様であります!」

のあ「説明は後。多分、仕事よ」

亜季「その通りであります。とりあえず、これを」

77: 2016/10/04(火) 22:32:01.54 ID:ofQLnKj40
音葉「……美しくありません」

真奈美「汚い字だな。こんな字を書く職業は世界どこでも決まってる」

のあ「医者」

亜季「その通りであります。せっかく届いたと思ったら、この体たらくでありますよ」

真奈美「英語は出来るがなぁ……そもそも英語なのか」

亜季「ガーナから取り寄せたであります」

音葉「公用語は英語ですが……」

のあ「英語かドイツ語かどっちかでしょう。貸してちょうだい」

亜季「お願いするであります」

のあ「暗号だと思えばいいのよ。アルファベットの名残がある分、簡単だわ」

真奈美「そうとは思えないんだが……」

のあ「……」

久美子「のあさん?」

亜季「何かわかったでありますか?」

のあ「……そう」

真奈美「何か、わかったのか?」

のあ「証明出来るわ。だから、最後の詰めを」

真奈美「何をすればいい」

のあ「愛情に基づく行為を辿ればいいだけよ」

78: 2016/10/04(火) 22:33:25.39 ID:ofQLnKj40
39

清路警察署・刑事一課和久井班室

のあ「留美!」

留美「話は聞いてるわ。久美子ちゃんからの報告も」

のあ「秘密の花園は」

留美「そんな名前で呼んでるのね。ここまでの調査結果のメールを転送しておくわ」

のあ「ありがとう……よし」

留美「見えてきたと思うわ。他に知りたいことはあるかしら」

のあ「留美」

留美「頼み事かしら」

のあ「相葉夕美に、会っていいかしら」

留美「必要ないようね。どこがいいかしら」

のあ「病室でいいわ」

留美「ということは、私の仕事が減るということかしら」

のあ「一段落するだけよ。増やしてあげるわ」

留美「キライじゃないわ」

のあ「仕事が趣味の人は流石ね」

留美「仕事が遊びでしかない人に言われなくないわ」

のあ「やめましょう」

留美「ええ、いつもくだらないことで言い合ってるもの。別の時に」

のあ「そういうこと」

留美「わかったわ。準備するから、待ってなさい」

のあ「ええ。まだ、真奈美が来てないから時間はあるわ」

留美「真奈美さんは、どこにいるのかしら」

のあ「世界地図とにらめっこしてるわよ」

79: 2016/10/04(火) 22:34:15.42 ID:ofQLnKj40
40

清路警察病院・受付

のあ「真奈美」

真奈美「待ったか」

のあ「いいえ。気持ちの整理が出来たわ」

真奈美「その時間がいらない、得なタイプだと自分で言ってたじゃないか」

のあ「短くてもいいけど、あるといいわ。用意は出来たかしら」

真奈美「生活安全課から貰って来たのを加工させてもらった。見るか?」

のあ「私はいいわ。わかってる」

真奈美「そうか」

のあ「準備は出来てるわ。行きましょう」

80: 2016/10/04(火) 22:35:10.50 ID:ofQLnKj40
41

清路警察病院・相葉夕美の個室

夕美「どうぞ……」

のあ「お邪魔するわ」

夕美「……」

真奈美「体調はどうだ?」

夕美「大丈夫です」

真奈美「差し入れだ」

のあ「ガーリックなハーブティーよ……ガーリック?」

真奈美「オーガニックだ。ニンニク茶は嫌がらせだ」

のあ「確かに。落ち着くわ、どうぞ」

夕美「……いただきます」

真奈美「どうぞ。のあも飲むか?」

のあ「ええ」

夕美「……」

真奈美「美味しいか?」

夕美「……はい」

のあ「そう。なら、良かったわ」

夕美「どうして、来たのですか」

のあ「無事かどうか気になったの。元気そうで良かったわ」

夕美「そう、見えますか……」

のあ「そうね。お世辞にも見えないけど、氏んではいないなら同じことよ」

夕美「……」

81: 2016/10/04(火) 22:36:14.98 ID:ofQLnKj40
のあ「探偵だと自己紹介はしたわね」

夕美「確か……聞いた気がします」

のあ「あなたがいなくなって、探していたの」

夕美「……」

のあ「あなたは無事に見つかった、いや、狙い通り見つけさせられたわ」

夕美「何を、言ってるんですか」

のあ「話をしましょう。本当のことを話してもらうわ」

夕美「私は、嘘なんてついてません」

のあ「何故、自分のせいにしたいのかしら」

夕美「私のせいだから、そんなんじゃなくて……」

のあ「西園寺琴歌の氏因は、ショック氏よ」

夕美「わかってるよっ、だって」

のあ「毒の正体は、蜂よ」

夕美「え……」

のあ「あなたは西園寺琴歌を頃していないわ」

82: 2016/10/04(火) 22:38:17.26 ID:ofQLnKj40
42

清路警察病院・相葉夕美の個室

のあ「私はあなたの隠れ家を探して、この事件に関わった」

真奈美「誰にも見つからずに、罪から逃げられる場所を」

のあ「でも、それがそもそも間違いだったのね」

真奈美「ああ」

のあ「あの場所に誰か、違うわね、警察を連れてくる必要があった」

夕美「違いますっ、私は自分のやったことが怖くなって」

のあ「昨日のあなたは自分がやったことを怖くなんて思って無さそうだったけれど」

夕美「それは……」

のあ「次の質問は嘘をつかなくて済むわ。注射についてよ」

真奈美「君が毒殺の手段としているものだ」

のあ「花の成分は、あなたの秘密の花園から見つかったわ」

真奈美「作ったのは、西園寺の温室だ。間違いないな?」

夕美「だから、昨日からそう言って」

のあ「それは事実だから、自信を持ちなさい」

真奈美「だが、毒ではない」

のあ「毒ではないから、西園寺の温室にあったのよ。昨日の朝でも」

真奈美「西園寺琴歌に異常がないから、保管していた」

のあ「違うかしら」

83: 2016/10/04(火) 22:40:24.62 ID:ofQLnKj40
夕美「琴歌ちゃんのこと、何も知らないのに」

のあ「知らないわ。当然よ」

真奈美「私達がわかるのは、事実だけだ」

のあ「あなたの思い出も故人の為人も知らないの」

真奈美「だからこそ、信じないとな」

のあ「ええ。あなたの愛情を信じないといけなかった」

夕美「……私に、愛情なんて」

真奈美「君は罪を被るつもりだった。いや、違うな」

のあ「自分のせいにしたかった。だから、私達は温室に導かれた」

真奈美「君が毒と言い張るものは、全てあそこにあった」

のあ「あなたが毒だとして、植え替えた、ストレリチアは秘密の花園へ」

夕美「わかってる。うん、その通りだよ」

のあ「私でなくても、誰かが気づくわ」

真奈美「そして、自らが口を噤めば終わりだ」

のあ「ここまでは良いわね?」

夕美「なら、なんで、私が犯人だって、誰も言わないの?」

のあ「そうね。あなたが花だから」

夕美「花?」

のあ「良い人過ぎるわ。もっと恨まれなさい」

真奈美「君が罪を犯したのを信じたり、この世からいなくなるのを望む人間はいない」

のあ「その声は、後で刑事に聞きなさい」

84: 2016/10/04(火) 22:40:54.31 ID:ofQLnKj40
真奈美「だから、違う」

夕美「そんなの、わかるはずないっ」

のあ「注射も、飾り付けも、逃げることも、全ては自分が裁かれるため」

真奈美「そうでもしないと、裁かれない」

のあ「相葉夕美、最初の質問に戻るわ」

真奈美「問題はその前の行動だ」

のあ「あなたは、蘇生措置をしているわ」

真奈美「これが指し示すことは何か」

のあ「そもそも、あなたを雇ってまで西園寺の人々が西園寺琴歌のアレルギー症状を気にしている理由は何か」

真奈美「カルテは膨大にある」

のあ「知っているはずよ。相葉夕美、答えなさい」

夕美「……」

のあ「西園寺琴歌の氏因は、蜂毒でのショック氏だとわかってるわね」

85: 2016/10/04(火) 22:41:48.68 ID:ofQLnKj40
43

清路警察病院・相葉夕美の個室

夕美「違う……違いますっ」

のあ「真実は温室の監視カメラの通りよ」

真奈美「西園寺琴歌が倒れているのを君が見つけた」

のあ「すぐに原因に思い当たった。あなたが蜂毒の可能性を知らないはずがない」

夕美「本当に……」

のあ「蘇生措置をするのにも、もう時間が経ち過ぎていた」

真奈美「彼女は亡くなっていた」

のあ「事件はそれだけよ。あなたは、何も関係がない」

夕美「やめて、やめてってば!そんなの、わかってるよっ!」

のあ「……」

夕美「すぐに気が付くよ、だって、そのためにがんばってきたんだから!」

のあ「西園寺琴歌のために?」

夕美「そうだよっ!お花が大好きなのに、庭園には近づくなって、寂しいでしょう……」

のあ「ええ。でも、あなたのおかげでその約束は解消された」

夕美「お花が好きで優しい子だったな……今までは箱入り娘だったけど」

のあ「昨日、自由にしてあげたいと言ってたわね」

夕美「ううん、私がそんなことしなくても良かった。きっと、大学進学を機に家を出て、いつか西園寺の名前でもなくなるって、言ってた」

のあ「そう」

真奈美「家に囚われたお嬢様はいなかったのか」

夕美「でも、私が頃しちゃった……私が」

のあ「……」

夕美「私のせい、なんだ」

86: 2016/10/04(火) 22:42:55.50 ID:ofQLnKj40
のあ「最初に、あなたの言い分を聞くわ」

夕美「琴歌ちゃんがお花でアレルギーの症状が出ないこと、わかってたの」

のあ「そんなことだろうと思ったわ」

夕美「秘密にしてくださいね、って琴歌ちゃんが言ってたから」

のあ「そのくらいの秘密は可愛いものよ。許されてもいいわ」

夕美「だから、油断しちゃった」

のあ「……」

夕美「蜂を招いたのは、私なんだよ。だから、私が犯人なの」

真奈美「それは、違うぞ」

夕美「違わないっ!私が悪いの!どうして、私が悪いと言ってくれないの!?」

のあ「……」

夕美「ごめんね、琴歌ちゃん、ごめんなさい……色んな所に行こう、って約束したのに」

のあ「……」

夕美「私が悪いの、琴歌ちゃんの約束も未来も私が消しちゃった……」

真奈美「……」

夕美「ごめんなさい、ごめんなさい、わかってください……」

のあ「何をかしら」

夕美「私を罰してくれなかったら、私はどうすればいいのか、わからない……ごめんなさい、琴歌ちゃん……」

のあ「あなたの気持ちは聞いたわ。嘘をついていた理由もわかった」

真奈美「罪の意識はわかる」

のあ「自分が犯人なら、残された人の刃の向き先も確保できる」

夕美「ごめんなさい……」

のあ「相葉夕美、あなたの気持ちを信じていいわね」

真奈美「被害者を頃したいだなんて、思っていない真逆だ」

のあ「真心を信じれば、答えが見えてくるわ」

夕美「……」

のあ「言いたいことは言ったかしら」

夕美「探偵さん、もう……一人にしてください」

のあ「言ったわね。最初にあなたの言い分を聞いたわ」

真奈美「ああ。次は、のあの言い分を聞いてくれ」

87: 2016/10/04(火) 22:43:46.00 ID:ofQLnKj40
のあ「いいわね?」

夕美「もう何も……ありません」

のあ「そう言ってなかったわね」

夕美「何を、ですか」

のあ「これは殺人よ。犯人が別にいるわ」

88: 2016/10/04(火) 22:46:09.02 ID:ofQLnKj40
44

清路警察病院・相葉夕美の個室

夕美「え、なんて……」

のあ「あなたが事故だと思い込むこともないの」

真奈美「これは犯罪だからだ」

のあ「あなたのおかげで、これは殺人だとわかったわ」

夕美「誰が、どうして?琴歌ちゃんを頃す必要なんて、あるの!?」

のあ「落ち着きなさい。真奈美、世界地図を」

真奈美「これだ。準備はしてある」

のあ「相葉夕美、質問に答えなさい」

夕美「その貼ってある付箋は、何か意味があるの?」

真奈美「ある。花には詳しいだろう?」

のあ「そもそも、あなたが取り扱っている花よ。まずは、これ」

真奈美「ゴテチア、トルコキキョウ、紅葉葵」

夕美「えっと……北アメリカ原産」

真奈美「正解だ」

のあ「もう確認しなくていいわね。これは胡蝶蘭、ペチュニア、シロタエギク、オダマキ」

真奈美「こっちは、梅、ラベンダー、ナデシコ、コスモス」

夕美「そっちは、フリージア、モミザ、スイセン、それとバラって書いてある……」

真奈美「これはリラ。西園寺家も君も好きなようだな」

のあ「ボタン、モクレン、シラン、ヒヤシンス」

真奈美「変わり種だとムシトリスミレ」

のあ「そして、スノーフレーク。1月23日の誕生花なのね」

真奈美「君のケータイにキーホルダーがついている。そして、1月23日が誕生日なのは」

のあ「西園寺琴歌ね。そうでしょう?」

夕美「……うん」

真奈美「さて、ここまでだ」

のあ「わかるわね。偏りがあるわ」

真奈美「購入経路も、だ」

のあ「原産国のみならず、栽培元もここからは購入していない」

真奈美「地域の名は」

のあ「アフリカ。一方で、秘密の花園には偏りがある」

89: 2016/10/04(火) 22:47:30.65 ID:ofQLnKj40
真奈美「ストレリチアを筆頭に産地が偏っている」

のあ「これもアフリカ。特に西アフリカ」

真奈美「君も西園寺家もマメな性格だ」

のあ「植物の出入は記録が残ってるわ」

真奈美「西園寺家から君へと譲渡されている」

のあ「残っていた花も西園寺の庭園から取り除いた」

真奈美「そうだな?」

夕美「はい……でも、捨てるのは寂しくて」

のあ「廃園で育てていたのね」

夕美「……はい」

真奈美「極端に嫌っていた理由だが」

のあ「これを知ってるかしら」

夕美「カルテ?」

のあ「知らないみたいね。でも、この内容は知ってるはずよ」

真奈美「君が西園寺家になることになった、根源」

のあ「アレルギー症状が出たのは、旅行中よ」

真奈美「西園寺琴歌が14歳の時、旅行先はガーナ。カルテはその時のものだ」

のあ「知ってるでしょう」

夕美「うん……意識を失うほどだって、聞いたから」

のあ「蜂の名前を知ってるかしら?」

夕美「……」

のあ「あなたがそれでも自分が犯人だというのなら」

真奈美「蜂の名前を答えてみたまえ」

90: 2016/10/04(火) 22:48:52.00 ID:ofQLnKj40
夕美「……わかりません」

のあ「蜂の名前はルンシビー」

真奈美「西アフリカを生息地とするスズメバチの一種だ」

のあ「毒性が強いとは一般的には言われていないわ。日本の方が危険ね」

真奈美「だが、毒は特殊だ」

のあ「久美子が成分を見つけてくれたわ。氏因は特定されたの」

真奈美「アナフィラキシーショックによる、心停止だ」

のあ「あなたは蜂の名前もわからず、蜂を入手してもいない」

真奈美「蜂の混入経路は、意図的に根絶しようとしてる。つまり」

のあ「あなたには、殺害の意思はない」

真奈美「事故を防ごうともしている」

のあ「救命行動もとっているわ」

真奈美「その後の行動は、立件するほどではない」

のあ「警察はいなくていいわ。探偵がいればいい」

真奈美「君に、罪も責任もない」

のあ「相葉夕美、これが真実よ」

真奈美「必氏に本心を隠すことも」

のあ「罪を背負うこともないわ」

夕美「……」

のあ「もう、終わりにしていいわ」

夕美「探偵さん……」

のあ「質問があるなら、聞くわ」

92: 2016/10/04(火) 22:50:33.12 ID:ofQLnKj40
夕美「そんな……」

のあ「……」

夕美「そんなことわかっても、琴歌ちゃんはもう戻ってこないんだよっ!」

のあ「……そうね」

夕美「私が悪くなくても、琴歌ちゃんは氏んじゃったんだよっ!それが変えられるの!?」

のあ「変えられないわ」

夕美「なら、一緒でしょ……私も誰も、もう、どうしたらいいの!?」

のあ「相葉夕美」

夕美「なに」

のあ「言ったでしょう、もうやめなさい。本心を押し頃すんじゃないわ」

夕美「だって……」

のあ「言い訳しないでちょうだい。悲しんでるのはわかるわ」

真奈美「全ての罪を背負おうともした」

のあ「誰がそれを望むっていうの?私の依頼人もそんなことを望んでないわ」

真奈美「ああ。もし、君が罪を背負っても」

のあ「あなたは絶対にそんなことしないと、信じてくれた人を裏切るだけよ」

真奈美「それに、だ」

のあ「花の世話を途中で逃げ出すような人間だと思わなかったわ」

夕美「……」

のあ「あなたがあなたのまま戻らないと、あなたと同じ気持ちを抱える人が増えるわ」

真奈美「……」

のあ「この事件であなたが起こしたことも賢いとは思わないけれど、このままだと更に愚かになるだけよ」

93: 2016/10/04(火) 22:51:25.37 ID:ofQLnKj40
夕美「でも……」

のあ「考えなさい。あなた自身を」

夕美「探偵さん……一人にしてくれませんか」

のあ「ええ。私の意見は以上よ」

真奈美「私もだ」

夕美「あの……聞いていいかな。泣き始めたら、聞けないから」

のあ「どうぞ」

夕美「探偵さんの依頼人って、誰なの?」

のあ「依頼人は秘密よ。探偵として教えられないわ」

夕美「……そうなんだ」

のあ「ええ」

夕美「ありがとう……探偵さん」

のあ「感謝は結構よ。依頼人から、もらえるわ」

夕美「泣くの見られたくないから……」

のあ「わかってるわ。お邪魔したわ」

真奈美「行くぞ、のあ」

94: 2016/10/04(火) 22:53:02.20 ID:ofQLnKj40
45

清路警察署・刑事一課和久井班室

のあ「久美子」

久美子「のあさん、お疲れ様」

のあ「久美子の方が疲れてるでしょう」

久美子「無事に解決したから、気分晴れ晴れよ。明日は代休だし」

真奈美「元気そうだな」

久美子「のあさん、温泉でも連れてってくれない?」

のあ「家にまゆがいるの。土日にしてちょうだい」

久美子「そっか。じゃあ、音葉ちゃんと健康ランドでも行こうかな……」

美波「お疲れ様ですっ!」

のあ「新田巡査」

真奈美「見つかったか?」

美波「はいっ!そもそも、ルンシビーは生態系に影響が大きいかもしれないため、輸入は制限されています」

のあ「日本に輸入されたことは?」

美波「研究目的と展覧会が最近だとありました」

久美子「展示会?」

美波「世界の蜂展という、博物館主催のものでした」

真奈美「どちらかに怪しい動きはないか」

美波「ありましたっ」

のあ「展示会かしら」

美波「アタリです。メスだけ2匹の展示会後に行方がわかりません」

のあ「元の購入業者が怪しいのかしら」

美波「違うみたいです、盗難の恐れがあると」

真奈美「盗難か。それは厄介だな」

95: 2016/10/04(火) 22:54:07.68 ID:ofQLnKj40
美波「はいっ。内部犯じゃないか、とのことですが、犯人は見つかっていません」

のあ「入手経路はわかったけれど」

真奈美「そもそも、どこからこの情報を知った?」

のあ「両親と相葉夕美すら、蜂の名前を知らなかったのよ」

亜季「ご報告でありますっ!」

久美子「お帰り」

亜季「これは久美子殿、この度は本当にお疲れ様でありました!」

のあ「それで、何がわかったのかしら」

亜季「おや、警部補殿はいないでありますか」

のあ「調査中よ」

亜季「やはりですが、私よりも前に同じ依頼をした人間がいるであります」

真奈美「やっぱりか」

亜季「誰が依頼したかは特定していませんが、資料の送り先は特定できました」

のあ「どこかしら?」

亜季「渋谷生花店のご主人が契約しているケータイ電話であります」

真奈美「西園寺邸の出入り業者だ」

のあ「誰が使っていたのかしら」

亜季「娘の渋谷凛殿であります」

のあ「最近出入りがあるわね。犯人の可能性が高いわ」

亜季「すぐに、事情を聞きに行くであります!」

美波「はいっ!車を出しますっ!」

留美「急ぐ必要はないみたいよ」

96: 2016/10/04(火) 22:55:10.86 ID:ofQLnKj40
亜季「警部補殿!」

留美「西園寺邸の温室に出入りした人間はリストアップしたわ」

のあ「犯人は渋谷生花店の渋谷凛の可能性が高いわ」

留美「そうみたいね」

真奈美「わかっていたのか?」

留美「新田さん、テレビをつけて」

美波「え?はい、つけました……え?」

留美「渋谷駅前で爆発と火災が発生して、全焼したわ。昨日の深夜よ」

のあ「……」

久美子「もしかしてだけど、花屋さん?」

真奈美「どうやら、そのようだな」

留美「ええ。渋谷生花店は店舗販売よりも、宅配とか庭園管理で儲けていたようだけど」

のあ「留美、質問をしていいかしら」

留美「店舗兼自宅。質問は間違ってないわね」

のあ「ええ……」

留美「遺体が3つ見つかったわ。1人は少女のものよ」

美波「殺人の容疑者は、もうこの世にはいないということですか」

亜季「まさか、そんな結末は受け入れられないであります」

のあ「でも、事実よ」

久美子「……」

留美「新田さん、大和さん」

亜季「はい」

美波「はいっ」

留美「明日以降に相葉夕美さんから事実の確認を。渋谷凛の出入りの様子もよ」

亜季「了解であります!」

留美「まずは、この事件の終息を」

美波「そうですね」

留美「そして、この次を」

97: 2016/10/04(火) 22:57:29.03 ID:ofQLnKj40
のあ「この火災は、事故じゃないのかしら」

留美「事故なら都合が良すぎるでしょう」

のあ「そうね」

留美「高峯さん、木場さん、久美子ちゃんもお疲れ様」

久美子「うん、資料は休み明けでいい?」

留美「いいわ。お疲れ様」

のあ「留美」

留美「あなた達もお疲れ様、知りたいことは知れたかしら」

のあ「十分なほどに。留美達は、理由はわかるかしら」

留美「何のかしら」

のあ「西園寺琴歌を殺害する理由よ」

留美「西園寺家のイメージダウンとか」

のあ「跡取りの弟を殺害すれば早いわ」

真奈美「随分と迂遠だな」

留美「人の氏は、世論を動かすわよ。甘く見ないで」

のあ「でも、容疑者は亡くなってる」

留美「真実は闇の中ね。このままだと」

真奈美「このままにするのか?」

留美「しないわ。でも、探偵さんの仕事はこれで終わりよ」

のあ「そうね、依頼人に報告して終わりにしましょう」

真奈美「そうだな」

のあ「帰りましょう」

98: 2016/10/04(火) 22:59:07.63 ID:ofQLnKj40
46

幕間

市立美術館・資料室

凛「頼子」

古澤頼子「……」

古澤頼子
市立美術館の学芸員。資料室に秘密の一角を作っている。

凛「頼子、聞いてる?」

頼子「……」

凛「頼子ってば」

頼子「時々思うのですけれど」

凛「聞こえてるじゃん。これからのことだけど」

頼子「私に氏者の声を聞く能力があったら、どうだったのでしょうか」

凛「……」

頼子「煩わしいだけかもしれませんね。出来ないことも大切だと思います」

凛「私は氏んでるはずだから、聞かないってこと?」

頼子「西園寺のお嬢様が亡くなったようですが、理由がわかりません。ここへの寄付が少なくなると困るのですが……」

凛「わかった。話をしたいなら、霊媒師でも通して」

頼子「よいしょ、資料の整理は終わりです」

凛「ばいばい」

頼子「……」

頼子「帰ったようですね」

頼子「闇の中でどうぞお元気に、渋谷凛さん」

幕間 了

100: 2016/10/04(火) 23:02:25.98 ID:ofQLnKj40
47

夕方

高峯探偵事務所

のあ「今回の事件については、以上よ」

千秋「つまり、相葉さんは何もしていないのね」

のあ「ええ。大切な人を失ったのは間違いないけれど」

千秋「相葉さんは、無事なのかしら」

のあ「精神的に辛いでしょうけど、無事よ。しばらくは実家でご両親と一緒にいてもらうわ」

千秋「それがいいわね」

のあ「家に帰るのは、少しだけ先になるわ」

千秋「別に私は気にしてないわ」

のあ「そう」

千秋「報酬を払うわ。どのくらいかしら」

のあ「実働時間がこれ、一時間当たりの費用はこれ」

千秋「良心的ね」

のあ「経費と特別割引で、この値段でいいわ」

千秋「3150円?さっきの説明はなんだったのよ」

のあ「どうかしら」

千秋「特別割引が効きすぎよ。ちゃんと請求していいわよ」

のあ「探偵業は趣味でやってるの。見くびらないでちょうだい」

千秋「自慢されても困るわ

101: 2016/10/04(火) 23:04:01.27 ID:ofQLnKj40
のあ「私の好奇心は満たされたわ。それでいいわよ」

千秋「譲らなさそうね。目がそう言ってるわ」

のあ「理解が早くて助かるわ。でも、欲しいものがあるから3150円」

千秋「何かしら?」

のあ「みくにゃんのアルバムよ。来月発売なの」

千秋「はぁ……アイドルか何かしら?」

のあ「私への費用が減ったでしょう。それで買うことを勧めるわ」

千秋「変な人ね。お金も払うし、アルバムも買うことにするわ」

のあ「ありがとう」

まゆ「ただいま、帰りましたぁ」

のあ「お帰りなさい」

まゆ「あっ、お客さんですかぁ。お茶を……」

千秋「もう帰るからいいわ。探偵さん、約束のことだけど」

のあ「守ってくれるかしら」

千秋「信じてよかったわ。それじゃ、失礼するわ」

のあ「またのご依頼を」

まゆ「ありがとうございましたぁ」

のあ「もうこんな時間なのね」

102: 2016/10/04(火) 23:04:38.12 ID:ofQLnKj40
まゆ「綺麗な人でしたねぇ。スタイルも良くて」

のあ「今回の依頼人よ」

まゆ「まぁ、どうだったんですかぁ?」

のあ「解決したわ。みんな無事よ」

まゆ「ふふっ、高峯さん、嬉しそうです」

のあ「そう見えるかしら?」

まゆ「はい。真奈美さんは、どこですかぁ?」

のあ「急に仕事が入ったの」

まゆ「まぁ、お忙しいんですね」

のあ「まゆ、お夕飯はまだよね?」

まゆ「はい。直ぐに準備しますねぇ」

のあ「今日は外に食べに行きましょう。ご馳走するわ」

まゆ「大丈夫ですよぉ。材料もあるし……」

のあ「真奈美のいない時じゃないと、贅沢出来ないでしょう」

まゆ「うーん……わかりました」

のあ「何かリクエストはあるかしら?」

まゆ「うーん、何でもいいです。高峯さんは、何か食べたいものがありますか?」

のあ「まゆ、私は……」

まゆ「私は?」

のあ「……それも含めて、ゆっくり話しましょう。美味しい焼き魚でも食べながら」

103: 2016/10/04(火) 23:05:56.61 ID:ofQLnKj40
48

某定食屋

のあ「美味しかったかしら」

まゆ「とっても。こんなに干物って美味しいんですねぇ」

のあ「そう。夏美にも進められそうね」

まゆ「ごちそうさまでした」

のあ「食後のお茶はいかがかしら、ほうじ茶がオススメよ」

まゆ「ほうじ茶のラテなんてあるんですねぇ」

のあ「あら、飲んだことはないわ。それにしようかしら」

まゆ「私もそれにします。店員さーん」

のあ「……」

まゆ「……」

のあ「まゆに話さないといけないことがあるの」

まゆ「何ですかぁ。みくちゃんのファンなのは教えてくれました」

のあ「それも含めて、私のことよ。一つは私のこと、もう一つは私がまゆに隠していること」

まゆ「高峯さんのこと……」

のあ「名前は高峯のあよ」

まゆ「知ってます。私の名前は佐久間まゆ、です」

のあ「暮らしているのは、高峯ビルよ。亡くなった両親の持ち物だった」

まゆ「……」

104: 2016/10/04(火) 23:06:38.55 ID:ofQLnKj40
のあ「中学生の頃、事故で亡くなってしまったわ」

まゆ「私も……」

のあ「まだ、話さなくていいわ。私の話をさせて」

まゆ「……はい」

のあ「奈良にいる叔母が、私を引き取っていいと言ってくれたわ」

まゆ「行かなかったんですかぁ?」

のあ「その通りよ。私は、あの家から離れたくなかった」

まゆ「……」

のあ「叔母の提案を断ると、私を引き取りたいと言う人が幾らでも現れたわ。私の父は資産家で事業家だった。私に付随するお金は魅力的だったでしょうね」

まゆ「……」

のあ「結局、本当の味方は最初に引き取ると言った叔母だったわ。私を成人するまで見届けてくれた。遺産も全て私に残してくれた」

まゆ「優しい人だったんですねぇ……」

のあ「旦那さんが地元の名手なのよ。穏やかな性格の、打算もなく人を信じるだけで生きていける人なの」

まゆ「それでも、です」

のあ「真奈美が来るまで、ずっと一人でいたわ。誰も頼らずに、何も信じずに、ただ推理小説だけに心を寄せていた。本当の事件資料を読み始めるのも、時間の問題だった」

まゆ「楽しかったですか?」

のあ「……きっと、楽しくなかったのね。いつも望んでいるものがあった」

まゆ「……」

のあ「今の年齢の真奈美が、私が中学生の頃に居たらと今も考えるわ」

まゆ「……寂しかった、ですか」

のあ「……」

まゆ「高峯さん……?」

105: 2016/10/04(火) 23:08:11.23 ID:ofQLnKj40
のあ「……そうよ」

まゆ「……」

のあ「そんな子供のような心を誰にも悟られなかった。誰とも会話をしなかったから、表情は固まって行った」

まゆ「……」

のあ「今は真奈美もいるわ。腐れ縁に近いけど、留美という友人もいるわ」

まゆ「はい。羨ましいです」

のあ「秘密事を話すわ……これを」

まゆ「ファイル、ですか」

のあ「佐久間まゆ、という人物のことを調べたわ。その結果よ」

まゆ「……私はその人のことを、とってもよく知ってます」

のあ「家族がいない理由、東郷邸に居た理由、今の学校に通っている理由、今の学校生活、その他色々と。火事の話も」

まゆ「……」

のあ「それで全て知れるわけじゃないわ。わかった気になって、失敗した人達を見てきたわ」

まゆ「わかってます」

のあ「東郷あいにも怒られたわ。私にあなたの過去を掘り返す権利なんてないのに」

まゆ「……」

のあ「私がまゆを招き入れた理由は……同情よ」

まゆ「……」

のあ「昔の私と同じ気持ちになって欲しくはない、ただそれだけのワガママだったの。ごめんなさい」

まゆ「それでも、ここに居れるのは嬉しいです。そんな、謝らないでください……」

のあ「だから、私はあなたを家政婦として雇ったつもりはないわ」

まゆ「……」

のあ「何があっても、追い出すことなんてないわ。それを約束させて」

まゆ「でも……」

のあ「家主は私よ。私が許すのだから、あなたは学生生活を楽しみなさい」

106: 2016/10/04(火) 23:10:22.15 ID:ofQLnKj40
まゆ「ワガママですねぇ」

のあ「言ったじゃない」

まゆ「うふふ、そうでしたぁ」

のあ「私は大切な時間を無駄にしたわ。あなたにはして欲しくない」

まゆ「……」

のあ「それでも、ここに居て欲しいの。もし、嫌なら……」

まゆ「そんなことありません。でも、どうして」

のあ「……」

まゆ「どうして、まゆ、なんですか」

のあ「……」

まゆ「助けが欲しい人は……まだ、他にもいるのに」

のあ「私が事件に関わって、あなたを知ったから。私が支援したいから。同情しているから、それ以上の理由が欲しいのね」

まゆ「……」

のあ「慈善事業にも関わってるわ。両親の財産を使い潰すつもりかと言われるほどに」

まゆ「なら、私はそっちでも……」

のあ「人間の権利を保障するだけならば、社会がすればいいことよ。私がすることじゃない」

まゆ「……」

のあ「でも、保障される権利だけで人間は生きていけないわ」

まゆ「……」

のあ「夢があって、家族がいても、いいじゃない。この言い方はキライだけど、人並みの青春だって手に入れる権利はあるはずよ。施しを受けているとしても」

まゆ「……はい」

のあ「だけど、私は手に入れられなかった。私自身すら救えなかった」

まゆ「……」

107: 2016/10/04(火) 23:11:38.27 ID:ofQLnKj40
のあ「助ける側でも助けられる側でも、皆が、と理由をつけて、人は逃げる。それで、あなたは幸せにならない」

まゆ「……」

のあ「私は、逃げないことにしたわ。全部受け止めてしまえばいい、私がそうしたいから、そうする。ワガママな金持ちだから、それも出来る」

まゆ「……」

のあ「逃げなくていいわ。お願いだから、幸せになることから逃げないで」

まゆ「……いいんでしょうか」

のあ「お願い、まゆ」

まゆ「はい……これからも、よろしくお願いします」

のあ「ありがとう、まゆ」

まゆ「でも、約束があります」

のあ「何?」

まゆ「お料理とか家事とか好きなんです。取り上げないでくださいね」

のあ「ええ、わかったわ。真奈美と相談しましょう」

まゆ「はい♪」

のあ「それと、まゆ」

まゆ「なんですかぁ?」

のあ「私は大切な同居人をこう呼ぶことにしてるわ。高峯探偵事務所の一員として」

まゆ「助手?」

のあ「正解よ。それでこそ、私の助手にふさわしい」

まゆ「うふふ、合格ですか?」

のあ「ええ。よろしくね、まゆ」

まゆ「はい」

のあ「学校、楽しいかしら」

まゆ「……本当は、あんまり」

のあ「調べた通りね。それは帰ったら真奈美と一緒に相談しましょう」

まゆ「いいんでしょうか」

のあ「いいわよ。親族は納得させてくるわ、真奈美が」

まゆ「ふふ、人使いが荒いんですねぇ」

のあ「真奈美だからよ。でも、まずは」

まゆ「まずは?」

のあ「ゆっくりと、ほうじ茶ラテでも飲みましょう」

まゆ「はぁい」

のあ「誰にだって、優しい時間が必要よ。ね、まゆ?」

まゆ「はい、のあさん」

EDテーマ

The brightNess

108: 2016/10/04(火) 23:13:13.99 ID:ofQLnKj40
エピローグ

相葉夕美のマンション

夕美「……」

千秋「あら、おはよう」

夕美「黒川さん、おはようございます」

千秋「しばらく留守だったみたいだけど、帰省でもしてたのかしら?」

夕美「あ、はい」

千秋「そう。リフレッシュできたかしら?」

夕美「あの、黒川さん。警察とか来ませんでしたか?」

千秋「警察?いいえ、来てないけれど」

夕美「そう、なんですか」

千秋「どうしたの、ケータイでも落としたのかしら?」

夕美「いえ、なんでもないです」

千秋「そろそろ花の季節ね。進学の季節でもあるけれど」

夕美「え、はい」

千秋「2年生になれたかしら?」

夕美「はい」

千秋「良かった。実はね、花壇のゴデチアが咲くのを楽しみにしてるの」

夕美「本当ですか?」

千秋「あなたがあまりにも熱心に話すのを思い出したのよ。咲いたら、知らせてくれないかしら」

夕美「……わかりました」

千秋「そういえば。ゴデチアの花言葉を最近知ったのよ」

夕美「……」

千秋「変わらぬ親愛だったのね。あなたの花の扱いなら、花言葉のように綺麗に咲くでしょうね」

夕美「……はいっ!」

千秋「どうしたの、いきなり元気になって」

夕美「ううん、なんでもありませんっ」

千秋「そういうことにしておくわ」

夕美「私、これからもがんばりますから、待っててくださいね」

千秋「楽しみにしてるわ。またね、相葉さん」


製作 tv○sahi

109: 2016/10/04(火) 23:14:57.90 ID:ofQLnKj40
予告

渋谷駅周辺

鷺沢文香「…撮影の準備は済みました。撮影スタート……」

文香「雲の少ない穏やかな夜を迎えています……」

文香「星も綺麗……」

文香「こんな日にはいいことが起こりそう……ほら……」

文香「ふふふ、綺麗な爆発でした……」

文香「あら……続きがあったみたいです。予想のつかない事態は……人生に彩を与えてくれます……」

文香「燃えています……全焼して焼け落ちてしまうでしょう……」

文香「綺麗……火柱のよう……」

文香「ご満足いただけるものがご提供出来たでしょうか……」

文香「今宵はこれまで。皆様、また……会う日まで……」

第3話 
鷺沢文香「高峯のあの事件簿・爆弾魔の本心」
に続く

110: 2016/10/04(火) 23:16:35.27 ID:ofQLnKj40
オマケ

撮影後の一幕

琴歌「夕美さん」

夕美「琴歌ちゃん、お疲れ様っ」

琴歌「私は眠っていただけですわ。夕美さんこそ、お疲れ様でしたわ」

夕美「ありがとう、琴歌ちゃん」

琴歌「夕美さん、少しだけお止まりになって」

夕美「何かついてる?」

琴歌「涙がついて、メイクが落ちてますわ。はい、これでいいですわ」

夕美「ちょっと、泣きすぎちゃったかなっ。琴歌ちゃんがいなくなると思ったら」

琴歌「大丈夫ですよ、夕美さん」

夕美「大丈夫?」

琴歌「どこかに行ったりしませんわ。まだまだ、夕美さんとやりたいことがありますの」

夕美「うんっ」

琴歌「まずは、バラ園ですわ。夕美さんだけ撮影に行ってズルいですわ」

夕美「うん、見に行こっ!」

111: 2016/10/04(火) 23:19:45.80 ID:ofQLnKj40
P達の視聴後

PaP「なぁ」

CoP「どうしました?」

PaP「ヒヤシンスの花言葉って知ってるか?」

CuP「もちろんです。常識でしょう」

PaP「よし、なんだ?」

CuP「一般的には、悲恋と嫉妬ですよ」

PaP「正解だ」

CoP「それ、常識だとは思わないんですが」

CuP「ボクの愛しいまゆにはバラを……」

CoP「Paさんは、どうしてそれを?」

PaP「夕美ちゃんと仕事をしてると、幾らでも知れる」

CoP「楽しそうですね」

PaP「話始めると止まらないし、突っ走るタイプなんだよ。知らないだろうが」

CoP「それなら、Paさん向きじゃないですか」

PaP「お、知ってたか」

CoP「オンリーワンの花でも咲かせましょうか?」

PaP「僕らが狙うのはトップアイドルだ。ついでに、トップならオンリーワンだと胸を張っていられる」

CoP「そうでした。がんばりましょう」

おしまい

112: 2016/10/04(火) 23:22:43.62 ID:ofQLnKj40
あとがき

相葉ちゃんのCDでお気に入りは、ドラマパートの最後。

第3話は、
鷺沢文香「高峯のあの事件簿・爆弾魔の本心」
です。

それでは。

113: 2016/10/04(火) 23:27:34.06 ID:ofQLnKj40
シリーズリスト・公開前のものは全て予定

高峯のあの事件簿

第1話・ユメの芸術

第2話・毒花
第3話・爆弾魔の本心
第4話・コイン、ロッカー
第5話・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵
第6話・トリックスター
第7話・都心迷宮
第8話・佐久間まゆの殺人
第9話・化粧師
第10話・星とアネモネ
最終話・フォールダウン(完)

更新情報は、ツイッター@AtarukaPで。

引用元: 相葉夕美「高峯のあの事件簿・毒花」