1: 2022/06/09(木) 20:19:41.32 ID:5wbSF7NG0

オリジナルのSSです
よろしくお願いします
2: 2022/06/09(木) 20:20:29.21 ID:5wbSF7NG0

──

私(嵐で傷ついた船は5日間の漂流を経て孤島まで辿り着いた)

私(衰弱しきった身体を引き摺って、島に聳える一番高い建物まで歩いた)

私「私は旅人です。島の長に会わせてもらいたいのですが」

島長「私が島長(しまおさ)です。客人とは珍しい。どのような用件でこの島へ?」

私「用件があって島に来たのではありません。私は遭難者なのです。単刀直入に申しますと、命を助けてほしいのです」

島長「察するに、1週間前の嵐ですな」

私「はい。私は仲間と一緒に帆船で旅をしていました。嵐に見舞われ帆柱が大破。乗組員も私以外全員氏亡しました」

島長「なるほどそれはお気の毒に……しかし、どうしたものか」

私(島長は表情を曇らせる)

3: 2022/06/09(木) 20:21:25.21 ID:5wbSF7NG0

島長「この村では外部の者を歓迎していないのです。歓迎していないどころか貿易すら禁じ、厳密に外部との関係を遮断をしています」

島長「掟に従えば、この場であなたの首を即刻切り落とさなければなりません」

私「そ、そんな……」

島長「しかし、私にも人の心はあります。……年端も行かぬ少女をあやめることを、掟を作った先代も良しとはしないはず」

島長「特別に島に滞在することを許します。島に住む者には私の親戚として紹介しておきましょう」

私「ありがとうございます。ご厚意に感謝します」

私(そうして私は食料と海岸沿いの空き家をもらった。マストの修繕が終わるまで自由に過ごして構わないと言う)

私(最後に島長は私にこう釘を刺した)

島長「あなたが無事島から出て家族や友達と再会したとき」

島長「この島で見たものについて、絶対に口外してはなりませんよ」

4: 2022/06/09(木) 20:22:29.30 ID:5wbSF7NG0

──海岸──

ザザーン

私(島の人口は百人程度。島人の生活はシンプルで、魚や貝を食べて暮らしている)

私(日中、男性は木こりをしに森へ、女性と子供は貝殻を拾うため砂浜に向かう)

私(おかしいことなど何もない営みに思えた。ある一点、”魔法”という慣習を除けば)

母親「こら。サボってないでちゃんと貝を拾いなさい!」

子供「へへーんだ。つまんないんだもん」

母親「聞き分けのない子はこうよ……『炎よ来たれ』!!」

子供「ぐぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!」

私(母親が呪文らしき言葉を唱えた途端、子供は”まるで炎に焼かれたかのように”苦しんで砂場をのたうち回った)

私(『炎よ去れ』。母親がそう言うと子供は静かになり、そして泣き出した。子供に駆け寄った母親は慈愛の手つきで頭を撫でている)

5: 2022/06/09(木) 20:23:08.81 ID:5wbSF7NG0

私「……」ポカーン

母親「あら失礼! 呪文は飛び火しませんでしたか?」

私「と、飛び火? いえ大丈夫ですけど」

母親「そうですか。流石は島長の親戚のお子さんね。魔防値が高いんだわ」

私「? ええと、今のやりとりは一体なんなんでしょう」

母親「躾ですよ躾。お恥ずかしいところを見せちゃいましたね。あ、虐待ではないですよ」

母親「ご覧になられたように、火の威力はちゃんと抑えていましたから」

私「……」

私(どうやら母親には、そして子供の目にも、炎が現実のものとして映っていたらしい)

私(私が唖然としていると、後ろから島長に話しかけられた)

私(島長は私を家へと招いた)

6: 2022/06/09(木) 20:23:55.94 ID:5wbSF7NG0

──島長の塔──

島長「以前あなたに言いましたね。島で見たものについて口外しないようにと」

私「記憶に新しいです」

島長「口外厳禁の理由がアレなのです。すなわち……魔法。この島の住人は皆魔法を使うことができます」

私「……お言葉ですが島長、もう少し詳しい説明をお願いできますか」

島長「部外者のあなたの目には、あの親子のやりとりが茶番に見えたことでしょう」

島長「そして実際茶番なのです。彼女らが茶番を本物だと信じ込んでいるだけで」

私(”パブロフの犬”と島長は言う)

7: 2022/06/09(木) 20:24:36.50 ID:5wbSF7NG0

島長「パブロフの犬という条件反射の話をご存知でしょうか」

私「え?」

島長「ベルを鳴らしてから犬にエサを与える。これを何度も繰り返す」

島長「すると犬は、ベルを鳴らしただけでヨダレを垂らすようになるというお話です」

私「……」

島長「この島にはこんな慣習があります」

島長「親は生まれたばかりの赤ん坊に対し『炎よ来たれ』と耳元で囁きかけます」

島長「同時にタバコの火を手の甲に押し付けます。囁いて押し当てる。それを何度も繰り返します」

島長「すると赤ん坊は『炎よ来たれ』という言葉を聞いた段階で、手に火傷のあざが浮かぶようになるのです」

島長「『氷よ来たれ』ではドライアイスを、『雷よ来たれ』では電線を押し付ける」

島長「”魔法は存在する”という教育を刷り込んでいる。ここはそういう島なのです」

8: 2022/06/09(木) 20:25:20.13 ID:5wbSF7NG0

──空き家前──

私「……」

??「ここで何してんの?」

私「わっ!? だ、誰?」

青年「俺は島長の息子。お袋に様子を見てこいって命令されちゃってさ。で、何してんの?」

私「何って……夜涼みだよ。昼間の話を聞いて、色々と気持ちを整理したくて」

青年「あー。外の世界にはないんだっけ、うちみたいな風習」

ザザーン

青年「この島、昔は暴力的な男が多くてさ。男女仲がすごく悪かった。そこで俺の先祖が編み出した方法が魔法ってわけ」

私「そう。魔法なら筋力とか関係ないもんね」

青年「うん。大人になれば魔法が本当はないってこと、気づく人も結構出てくるけど、子供の頃からの刷り込み──条件反射はそう簡単に消えはしない」

青年「頭では否定しても呪文を唱えられれば幻覚と幻痛が襲う。だから魔法は絶対で、魔法が効かない俺たち一族が統治者であり続けられるって寸法さ」

9: 2022/06/09(木) 20:26:09.14 ID:5wbSF7NG0

青年「ま、近いうちに島を出ていくお前には関係のない話だろうけど」

私「そうだね。他言無用って島長にも念を押されてるし」

青年「あそこに停まってるのがお前の船だな。やられたのはマストだったか。進捗はどうだ?」

私「お陰様で順調だよ」

青年「……。お前ってなんか、不思議な奴だな」

私「え?」

青年「自分以外の乗組員が全員氏んで、見ず知らずの島で1人って境遇の割には淡々としてるというか、悲壮感が全然ない気がする」

私「……もちろん仲間を失ったのは悲しいけど」

私「でも、私にはこれが残されてるから」キラッ

10: 2022/06/09(木) 20:26:52.14 ID:5wbSF7NG0

青年「ペンダント?」

私「うん。仲間も食糧もみんな海に流されちゃったけど、肌身離さず持ってたこれだけは守ることができた」

青年「へぇ。大層大事なものなんだな。恋人からの贈り物とか?」

私「め、めっそうもない。あの人はそういうんじゃなくて……ていうか恋人なんていないし、できたこともないよ」

青年「……。ふーん、そう」

私「?」

青年「なんにせよ、ノイローゼになってないようで安心した。お袋にもそう報告しておくよ」ザッ

私「様子見ご苦労様」

青年「あぁ。また明日な」

私「明日?」

青年「年に1度のフェスティバルが明日丁度あるんだ。せっかくだから、連れて行ってやるよ」

11: 2022/06/09(木) 20:27:26.35 ID:5wbSF7NG0

──翌日──

ドンチャン♪ ズンチャン♪

私(民族風の音楽が鳴り響く。森中に立てられた竹製のステージの上で男が2人対峙していた)

青年「最強の戦士を決めるファイトだ。俺たちはステージ裏から観戦するぞ。ここなら誰にも会話を聞かれないからな」

私「聞かれちゃまずいの?」

青年「島長になら構わないが、洗の……ごほん。魔法を信じている無垢な観客には聞かせられないから」

私(戦いのゴングが鳴った)

カーン!

島人A「いざ尋常に勝負っ。炎よ来たれ!」

島人B「ぐおおおっ。こ、氷よ来たれ!」

12: 2022/06/09(木) 20:28:07.91 ID:5wbSF7NG0

島人A「つ、冷たい! くそ、雷よ来たれ!」

島人B「ビリッと来た! お返しだ。雷よ来たれ!」

島人A「ぐう。かなりの力だ。これはどうかな。風よ来たれ!」

島人B「お、押し返される。土よ来たれ!」

島人A「足元が揺れる! ほ、炎よ来た──」

島人B「させるか! 氷よ来たれ!」

島人A「ぐっ。なかなかやるな!」

島人B「ふっ、そっちこそ!」

13: 2022/06/09(木) 20:29:05.93 ID:5wbSF7NG0

──

私(熱い戦いが繰り広げられている、のだと思う)

私(魔法が使えも効きもしない私には、大人がごっこ遊びをしているみたいに見えた)

青年「ふふふ。茶番だろ?」ケラケラ

私「……あなたは笑っちゃダメでしょ。これで統治してるんだから」

青年「そうは言うけど、ひ、ヒィ〜」ケタケタ

私(結構クズだなこの人)

カンカンカーン

私(決着がついたようだ。見分けはつかなかったのだけど、片方が高々と手を掲げている)

私(観客は拍手をし、民族的な音楽はより派手に太鼓の音を強めた)

14: 2022/06/09(木) 20:30:37.05 ID:5wbSF7NG0

ザワザワ…

私「あれ。戦いが終わったのに島の人まだステージの周りに集まってるね」

青年「今のは前座。これからが重要なんだ。お前はそこから動くなよ」

私(青年は奥にある檻から縄で繋がれた猿を一匹連れ出し、ステージ上へと運んだ)

私(猿をステージに立たせたまま、青年は観客席からは見えない位置にあるステージの底の部分に入っていった)

島長「みなのもの!!」

シーン

私(島長の声に場が静まり返る)

島長「今年も良い一年であった。島のさらなる繁栄を願って、恒例ではあるが今年も火祭りを開催する!」

島長「……」チラ

青年「……」コクン

スゥ〜

15: 2022/06/09(木) 20:31:09.28 ID:5wbSF7NG0

島長「炎よ〜、来たれ〜!!!」

私(島長の呪文とタイミングを合わせて、青年は猿の腰に繋がれた縄に火をつけた)

猿「うき〜!」

私(猿は火だるまになって転げ回り、やがて静かになる)

ザワザワ…

島人C「さ、猿を丸焼きにするほどの火力。これが村長の力だ!」

島人D「やっぱ魔法って本当にあるんだなぁ。あ、疑ってたわけじゃないけど!」

島人E「僕は悪いことはしないし、大人にも絶対逆らわない。だって恐ろしいから!」

スゴイゾー! サスガダー! シマオサバンザーイ!

16: 2022/06/09(木) 20:31:53.16 ID:5wbSF7NG0

青年「とまぁ、こんな感じ」スッ

私「あ、おかえり」

青年「身体で覚えさせることができない刷り込みは、こうして視覚で覚えさせてるってわけ」

私(猿の氏体は黒炭と化し、煙は島人の歓声と共に天へと昇った)

──夜・キャンプファイヤー──

ドンチャン♪ ズンチャン♪

青年「お前は踊らないのか?」

私「うん。見てるだけでいいや」

青年「都会の洒落たダンスじゃないんだ。みんなと一緒に適当に身体を動かして楽しめばいいんだよ」

17: 2022/06/09(木) 20:32:41.06 ID:5wbSF7NG0

私「やめとくよ。そんな気分じゃないし」

青年「……お前って、わざと島人と距離開けてるよな」

私「え?」

青年「頼めばマストの修繕だって手伝ってくれる島人もいるだろうに。ほぼ全部1人でやってるそうじゃないか」

私「……」

青年「ま、もう少ししたら島から出ていくことになるんだから、仲良くし辛い気持ちはわかるけどよ」

青年「でも島人はお前の事情を知らないし、知らせるわけにもいかない。あんまり悲しませないようにな」

私「それはそうだね。ごめん」

青年「ちなみに今言った島人の中には俺も含まれてるから」

私「……というと?」

青年「もっとお前の話を聞かせてくれよ。お前は今までどこでどんな生活をしてきたんだ?」

18: 2022/06/09(木) 20:33:24.64 ID:5wbSF7NG0

私(長話もなんなのでかいつまんで説明した)

私(両親が氏んで修道院で育ったこと。そこで皇女殿下に出会ったこと)

私(殿下は大変立派な方で、尊いご身分にあるにも関わらず、私たち孤児に対し慈愛の心で接してくれたこと)

私(殿下は私たちに沢山の本を寄贈してくださり、国の役に立てるだけの知識をお与え下さったこと)

私(殿下は自分の名を刻んだペンダントを1人1人に手渡しして……)

青年「って待て待て。お前の話じゃなくて皇女殿下の話になってるじゃないか」

私「あ、本当だ」

青年「俺が聞きたかったのはお前自身の話だったんだがなぁ」

私「あはは……でも私の人生って、殿下に救われた孤児その1でしかないからなぁ」

青年「?」

19: 2022/06/09(木) 20:34:11.89 ID:5wbSF7NG0

──回想──

リーン リーン…

皇女『シスターから聞いたわ。あなた航海術のテストで100点を取ったんですってねっ』

私『い、いえ。そんな大したことでは……』

皇女『努力できる人間は好きよ。こっちに来なさい』

私『へ?』

皇女『可愛いがってあげるわ。ふふ、よしよし』ナデナデ

私『……!!』

ゾクゾクゾクッ

20: 2022/06/09(木) 20:35:09.25 ID:5wbSF7NG0

──数日後──

私「島長。お陰様で修繕作業が終わりました」

島長「お疲れ様でした。予想していたより随分と早いですね」

ジャラララッ

私「島での生活を支えてくださり感謝します。これは船に残されていた金貨の全てです」

島長「お代なんていりませんよ。私があなたを庇ったのは……」

私「わかっています。これはむしろ私のけじめとしてお支払いしたいのです」

島長「そうは言ってもこの島に通貨はありませんから。あなたが持ち帰った方が価値があると思いますよ」

私「……これを機に、外部との貿易を始めてはいかがでしょうか」

島長「うふふ。それは無理というもの。この島には”魔法”という大事な財産がありますから」

島長「魔法とは言わばまやかしそのもの。島の安寧のため、まやかしを解くきっかけとなりえる外部との交流を固く禁じているのです」

私(島長はにこやかに最後の言葉を語る)

21: 2022/06/09(木) 20:35:57.87 ID:5wbSF7NG0

島長「魔法を使う人々は、あなたの目に異様に映ったことでしょう」

島長「異様な呪文を唱え、実態がないものに一喜一憂する」

島長「第三者の視点からすれば、まさに茶番やごっこ遊びです」

島長「しかし……当事者からすれば魔法は真なる力であり、暴力以上の支配の象徴なのです」

島長「私は思うのです。人数が百か万か、場所が孤島か王国かの違いはあれど」

島長「人が人を支配するのはいつだって”目に見えない力”であると」

島長「少人数が大人数を統治するという図式の上で、民衆は皆自分が知らないうちに、目に見えない力が作用するよう教育されている」

島長「そうは考えられませんか?」

22: 2022/06/09(木) 20:36:56.56 ID:5wbSF7NG0

──海岸──

ザザーン

私「……」

青年「おいおい。挨拶もなしかよ」

私「あ、ごめん。天気が変わらないうちに出ようと思って」

青年「俺も連れて行ってくれないか?」

私「えっ?」

青年「……なーんてな。冗談だよ冗談。アホくさい島だけど、なんだかんだ愛着はあるんだ」

青年「それに間違いなく次期島長って俺だしな。ほとんど王様だぜ。こんな美味しい役があるかよ」

23: 2022/06/09(木) 20:37:52.51 ID:5wbSF7NG0

青年「結婚は親族とするのが慣わしだ。秘密を知る人間は少ないほどいいから」

青年「それが嫌でしょうがないってわけじゃないけど……もしお前にその気があるなら、島に残れないかお袋に打診するつもりだった」

青年「だけどその様子じゃあ、俺に微塵の興味もなさそうだ」

ビュオオオッ

私(船が出航する。青年は大きく手を振って叫んだ)

青年「こっそり遊びにこいよ! 北西に洞窟があるだろ。あそこなら誰にも見られず上陸できる!」

青年「塔の裏庭にうまい果物が成る木があるんだ。クリスタルフルーツっていう固有樹で、今度ご馳走してやるよ!」

青年「そして次こそ、お前自身の身の上話を聞かせてくれ。絶対にまた会おうな!」

24: 2022/06/09(木) 20:38:40.06 ID:5wbSF7NG0

──

私(船が揺れる。船が進む)

私(天気も風も安定していた。船は真っ直ぐ私の故郷へと向かい)

私(事故もなく、予測していた日時きっかりに到着した)

──王国──

ザワザワザワ…

兵士A「まさか帰ってくるとはな。あの嵐で全滅したと思っていたが」

兵士B「帰還したのは1人だけらしいぞ。任務はどうなった?」

兵士C「残った1人が果たしたらしい。今殿下と面会なされている」

兵士D「末恐ろしい女狐だ。どんな嘘で島人を騙したのか……」

25: 2022/06/09(木) 20:39:43.17 ID:5wbSF7NG0

──王室──

私「殿下。ただいま戻りまし──」

タタタッ

皇女「おかえりなさいっ」ギュッ

私「で、殿下!?」

皇女「必ず帰ってくるって信じてたわ!」スリスリ

私「あわわわわ。もったいないお言葉で……」

皇女「ねぇ聞いてよー。みんな酷いのよ。失敗は目に見えてたとか、孤児の集団に航海ができるわけがないとか言ってね」

皇女「そういう後の祭り的なこと言って賢ぶるやつ私大嫌い。みんなギロチンで斬首してやったわ!」

皇女「そしてやっぱり私が正しかった。私の正しさを証明するために、帰ってきてくれてありがとう!」

26: 2022/06/09(木) 20:40:48.61 ID:5wbSF7NG0

私「こちらこそ、帰還を信じて下さったこと感謝いたします。では早速、任務の報告についてですが……」

皇女「任務? え、まさかあの孤島まで辿り着けたの?」

私「はい。漂流はしましたが風向きは進路方向でしたので。到着後、情報収集の任を果たしました」

皇女「生きて帰ってきてくれただけでも嬉しいのに、その上任務までこなして帰ってきちゃうなんて……」

皇女「どこまでも良くできた忠犬ねっ。も〜本当に大好き!!」

ギュ〜ッ

私「……っ!」ゾクゾクゾクッ

皇女「それでそれで、あのヒッキー孤島の鎖国チンパンジーの生態はどんな感じだった?」

私「は、はい。ええと──」

 島長『この島で見たものについて、絶対に口外してはなりませんよ』

27: 2022/06/09(木) 20:41:53.48 ID:5wbSF7NG0

私「……」

皇女「ん? どうかした?」

私「い、いえ。報告ですが……人口は百人ほどでした」

皇女「そうなのねっ。百人程度なら私兵でも制圧できそうね。有益な情報をありがとう!」

私「……っ」ドキ

皇女「他には何かあったかしらっ?」

私「ええと、大木よりも高く聳える塔と、その裏庭に美味と噂のフルーツがあります」

皇女「へ〜未開人にもそれなりの技術力はあるのね。塔は侵略後の基地にしましょう。フルーツは貴重な貿易資源になりそうだわ」ナデナデ

私「ふわぁ……あ、あ、ありがとうございます……」ドキドキ

28: 2022/06/09(木) 20:42:52.39 ID:5wbSF7NG0

皇女「まだ何かあったかしら?」

私「ほ、北西に洞窟があります。人がいないので攻め込むのはそこからが良いかと」

皇女「わぁっ。これで100%の勝率が120%になったわ! 流石よ、あなたは私の天使にして最高の参謀ね!」ニコッ

ドクン ドクン ドクン…

皇女「たくさんの情報をありがとう。報告は以上かしら?」

私「……」

 島長『私は思うのです。人が人を支配するのはいつだって”目に見えない力”であると』

 島長『少人数が大人数を統治するという図式の上で、民衆は皆自分が知らないうちに』

 島長『目に見えない力が作用するよう教育されている──』

29: 2022/06/09(木) 20:43:46.80 ID:5wbSF7NG0

私「……。…………」

皇女「本当にお疲れさま。あなたは先に寝室で休んでいらっしゃい」ポン

ナデナデナデ

私「……り、ます」

皇女「んー?」

私「まだ、あります。あの島は、あの島人には──」

私「魔法という奇妙な慣習があるのです」

30: 2022/06/09(木) 20:44:33.52 ID:5wbSF7NG0

──

私(まるで魔法のようだった)

私(殿下が優しい言葉を口になさるたび)

私(心臓が燃えるように熱くなるのだ)



おわり

31: 2022/06/09(木) 20:45:16.43 ID:5wbSF7NG0

お疲れさまでした

見てくださった方、ありがとうございました

32: 2022/06/09(木) 20:46:09.99 ID:5wbSF7NG0

よかったら他の作品も見てください

https://twitter.com/sasayakusuri

引用元: 私「魔法を刷り込まれた島」