1: 2016/04/15(金) 20:09:24.93 ID:VaIbC6K70
・ウルトラマンX×アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。
・初っ端からエックスがキャラ崩壊を起こしてます。ご注意ください。
・主な登場アイドル↓
島村卯月(17) 遊佐こずえ(11) 水本ゆかり(15)
渋谷凛(15) 脇山珠美(16) 新田美波(19)
本田未央(15) 星輝子(15) 堀裕子(16)
【モバマス】ウルトラマンXP 前編
285: 2016/04/27(水) 19:10:28.30 ID:zbPXWROE0
第六話 『心の剣』
―――東京都・某高校体育館
珠美「……」
相手「……」
珠美「…………」
相手「…………」
卯月「…………」
凛「…………」
エックス『…………』
286: 2016/04/27(水) 19:11:17.54 ID:zbPXWROE0
相手「…………」ジリッ
珠美「…………」ジリッジリッ
相手「…………」
珠美「…………」
相手「――ッ!」バッ
珠美「っ!」
相手「メーーーーン!!」
バシィィッ!!
審判「勝負あり!」
珠美「……っ」
287: 2016/04/27(水) 19:11:45.58 ID:zbPXWROE0
卯月「あぁ~……負けちゃいましたね、珠美ちゃん」
エックス『うむ……一瞬の迷いが勝敗を分かつ紙一重の勝負だった……』
凛「迷ってたの?」
エックス『私にはそう見えた』
凛「よくわかるね。面つけてて表情見えないのに」
エックス『仕草や呼吸もあるが、体温や脈拍の変化なども私にはわかるからな!』
凛「ふぅん……」
エックス『ちなみに凛のもわかるぞ。それによるとクールに振る舞ってはいるがけっこう試合に興奮していたことが』
凛「……」パタン
エックス『あ、おいっ! 裏返すな! 何も見えない!!』
卯月「あ、あはは……」
288: 2016/04/27(水) 19:12:17.32 ID:zbPXWROE0
・
・
・
珠美「はぁーー……」トボトボ
卯月「珠美ちゃん!」
珠美「あっ、卯月ちゃん。凛殿とエックス殿もですか」
エックス『珠美。お疲れ』
凛「惜しかったね」
珠美「……どうでしょう。客席からはそう見えたかもしれませんが珠美的には完敗でした……」
凛「そう……」
卯月「……。一緒に帰りましょう! どこか寄っていきますか? お腹も空いたでしょうし――」
珠美「いえ……珠美は遠慮しておきます」
卯月「そうですか……?」
珠美「大丈夫です。お腹が空いた分、きちんと食べますから!」
289: 2016/04/27(水) 19:12:45.29 ID:zbPXWROE0
駅まで着いたところで珠美が卯月と凛に言った。
珠美「あの……エックス殿を御貸しいただけませんか?」
凛「プロデューサーを?」
凛と卯月は顔を見合わせたが、何かを察したようにデバイスを渡した。
珠美「ありがとうございます!」
凛「ま、寮住みの珠美の方が事務所に近いし。送り届けるのは任せたよ」
珠美「はい。任されました!」
卯月「それじゃあ、私たちはお先に失礼しますね」
・
・
・
290: 2016/04/27(水) 19:13:13.03 ID:zbPXWROE0
―――事務所
珠美「失礼しまーす……」
事務所に着いた時にはもう日が沈んでいたが、ちひろがまだ事務所に残っていた。
ちひろ「あれ、珠美ちゃん? どうしたんですか? こんな時間に」
珠美「いえ。プロデューサーを届けに……」
ちひろ「あら。珠美ちゃんとデートでもしてたんですか」
エックス『違う。剣道の試合を見に行っていたんだ』
ちひろ「あぁ。どうでした?」
珠美「あ、あはは……完敗でした。エックス殿にはかっこ悪いところをお見せしてしまいまして」
ちひろ「そうですか……でも次がありますよ。頑張ってくださいね」
珠美「励ましの言葉、感謝します!」
291: 2016/04/27(水) 19:13:40.47 ID:zbPXWROE0
エックス『そういえば何故ちひろさんまでいるんだ? 今日は休みだろう? 他のアイドルの仕事も入ってないし……』
ちひろ「……プロデューサーさん用に、資料をデータ化してたんですよ?」
にっこりと笑う顔が怖い。エックスの声も細くなった。
エックス『お手数かけます……』
ちひろ「でも、私もそろそろ切り上げましょうか……珠美ちゃんは?」
珠美「珠美はエックス殿と少しお話したいことが……」
エックス『ん? 何だ?』
珠美「後で言いますから」
ちひろ「……じゃあ、戸締りはお願いしますね。お先に失礼します」
そう言ってちひろが去ると、珠美はデバイスを持ったままソファに移動した。
292: 2016/04/27(水) 19:14:09.27 ID:zbPXWROE0
エックス『何だ? 話って』
珠美「……」
息をすうと吸って、珠美は切り出した。
珠美「エックス殿の目には今日の試合、どう映りましたか?」
エックス『迷ってたな』
珠美「やはりわかりますか」
エックス『ああ。攻撃のタイミングは何度も見えた。だが君は動くべきか迷い、逆に隙を作ってしまった』
珠美「敵いませんね、エックス殿には」
エックス『どうしてそんなに迷っていたんだ?』
珠美「実は……」
293: 2016/04/27(水) 19:14:39.34 ID:zbPXWROE0
それは二週間前の対外試合でのことだったという。
背が低い珠美はこれまでリーチでの勝負は避け、瞬発力を生かして一気に距離を詰める戦法を得意としていた。しかし――
エックス『それが破られてしまった……そういうことか』
珠美「はい。飛び込んだ瞬間、相手の思う壺であったと悟りました。そのまま跳ね返されて珠美の負け」
そう話す珠美の表情は苦々しかった。
珠美「その日から……相手の懐に飛び込むことに躊躇を覚えるようになりました。もし敵の策であればどうしようという恐怖が身体を縛るようになったのです」
エックス『……なるほどな』
珠美「そこで相談というのはこのことなのですが、百戦錬磨のエックス殿にご指導を賜りたいと思いまして」
珠美「どうやったら背の低い珠美でも高い相手と互角に渡り合えるようになるか……知恵を貸していただけないでしょうか」
エックス『わかった……だが、それは……』
エックスが続けようとしたその時――
294: 2016/04/27(水) 19:15:06.49 ID:zbPXWROE0
――窓の外から轟音がして、部屋が揺れた。
珠美「……っ!?」
エックス『怪獣か!?』
珠美がデバイスを持って窓に寄る。
自分の顔が反射して分かりづらかったが、エックスが先にそれを見つけ出した。
エックス『あれは……!』
街中に佇む巨大な人影があった。夜の闇に紛れて分かりづらいが、群青色をした鎧を身に纏った宇宙人だ。
顔にも仮面のようなものを付けており、覗き穴からは深紅色の左目が見えていた。右目には金の眼帯が覆われている。
ザムシャー「我が名はザムシャー」
どこへともなく、その宇宙人は語り出す。
295: 2016/04/27(水) 19:15:37.97 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「此の星に来た理由は唯一つ。此の星最強の剣士よ、我と決闘せよ!」
珠美「!」
エックス『決闘……?』
ザムシャー「我は其れ以外には何も望まぬ。さあ、我こそはと思う者よ、我が前へ進みでよ!」
エックス『いやに上から目線だな……』
珠美「……エックス殿」
エックス『珠美?』
珠美「ここは珠美たちが行くしかありませんぞ!!」
デバイスを覗き込む珠美の目はきらきらと輝いていた。
296: 2016/04/27(水) 19:16:06.78 ID:zbPXWROE0
エックス『お、おい、珠美?』
珠美「あのサイズからして戦えるのはエックス殿だけです」
エックス『ま、まぁそうだろうな』
珠美「そしてそんなエックス殿と剣士の珠美がユナイトするのです! それは紛れもなく『この星最強の剣士』ではありませんかっ!?」
エックス『そうかな……』
珠美「行きますぞっ!!」
エックス『ちょ、ちょっと珠美!』
297: 2016/04/27(水) 19:16:34.38 ID:zbPXWROE0
聞く耳持たず珠美が事務所の外に出、デバイスを突き出す。
Xモードに変形させるとスパークドールズが出現し、それをデバイスにリードした。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
珠美「――エックスーーーーーっ!!!」
掲げたデバイスからX字の光が夜の闇に解き放たれた。
珠美の身体を包み込み、そして――
エックス「――イーーッ、サァーーーッ!!!」
その閃光を突き破るようにして、エックスの巨躯が飛び立った。
『エックス ユナイテッド!』
298: 2016/04/27(水) 19:17:00.52 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「む……?」
ザムシャーの目の前に光が駆け上る。
薄れていったその跡に残された巨人に彼は問いかけた。
ザムシャー「貴様が此の星最強の剣士か?」
エックス『……さあ……』
珠美『エックス殿! そんな弱腰でどうするのです! 我々は最強! 行きますぞ!』
エックス『……だそうだ』
ザムシャー「…………まぁいい」
言って、ザムシャーは背負っていた鞘から長剣――“星斬丸”をすらりと抜いた。
エックス『ま、待て。場所を変えるぞ』
ザムシャー「ふん。いいだろう」
ここだと周囲に被害が出過ぎる。二人は都市部から遠く離れた山間部まで飛んだ。
299: 2016/04/27(水) 19:17:28.52 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「さて……」
降り立つと同時にザムシャーが剣を構える。
ザムシャー「どうした? 貴様も剣を抜け」
珠美『……あっ! そういえば剣が……!!』
エックス『こ、このカードを!』
珠美『あ、そっか。流石ですエックス殿!』
転送されたサイバーカードをデバイスにセットする。
『ウルティメイトゼロ ロードします』
すると白銀の鎧がエックスの上半身に纏われた。
『ウルティメイトゼロアーマー アクティブ!』
珠美『この剣……竹刀とはずいぶん勝手が違いますが、やりますか!』
エックス『大丈夫なのか……?』
300: 2016/04/27(水) 19:17:56.16 ID:zbPXWROE0
エックス「ハァァ――ッ!!」
右腕全体を剣のようにしてエックスが中段に構える。
そのまま両者は睨みあっていたが――
ザムシャー「テエエエエイ!!」
先にザムシャーが動いた。地面を蹴って距離を詰め、剣を振り下ろす。
エックス「テアッ!」
ゼロアーマーの剣でそれを受け止める。火花がぱっと飛ぶ。甲高い金属音が森閑とした山を震わせる。
ザムシャー「グゥゥゥゥ……!!」
両者の力はしばらく拮抗していたが、
エックス「デ……アァッ!!」
エックスがそれを押し返した。相手の胴が空く。一気に踏み込もうとするが――
301: 2016/04/27(水) 19:18:23.84 ID:zbPXWROE0
エックス「……ッ!」
一瞬だけ足が動かなかった。その一瞬の隙に、ザムシャーが剣を再度振り下ろす。
エックス「! ジュワッ!」
横に転がってそれを回避する。顔を上げると目の前に剣の切っ先が迫っていた。
エックス「――ッ!」
寸前で頭を横に逸らし、それを回避する。アーマーに刃が滑って耳障りな金属音が立つ。
ザムシャー「フンッ!」
ザムシャーの剣が翻る。首が狙われるが、すかさず剣を挟み込んでそれを受け止める。
立ち上がる勢いでそれを跳ね飛ばすが、今度は前のような隙は生じなかった。
302: 2016/04/27(水) 19:18:51.22 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「ハァァッ!!」
それどころか、ザムシャーが浮いた剣をそのまま袈裟懸けに振り下ろした。
アーマーが切り裂かれる。青白い光と変わり、暗夜に霧散した。
エックス「……!」
ザムシャー「どうした? 其れで終いか?」
珠美『まだまだ……!』
次に転送されてきたカードをセットする。
『ウルトラマンビクトリーナイト ロードします』
突き出したエックスの手の中に出現するナイトティンバー。それをソードモードに変形させた。
『放て! 聖なる力!』
303: 2016/04/27(水) 19:19:19.16 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「ほう」
珠美『……ナイトティンバーは手持ちの武器ですから珠美の感性に合ってますね。これなら……!』
そう言い、珠美=エックスが再び中段に構える。
エックス『今度はこっちから行くぞ!』
珠美『はい!』
エックス「――テアッ!」
一瞬の内に踏み込み、剣を突き出す。
ザムシャー「フンッ!」
しかし横からの剣でいなされてしまう。互いに剣を立て、鍔迫り合いになる。
304: 2016/04/27(水) 19:19:46.12 ID:zbPXWROE0
エックス「デアァ……!」
ザムシャー「ハァッ!」
互いにぐいぐいと押し合いながら場所を移動する。
ザムシャー「ムンッ!!」
エックス「!」
すると突然ザムシャーが力を強めた。エックスが後方に押される。
このままだと山にぶつかる。剣を持つ手を少し緩めて攻撃を誘う。
ザムシャー「デエエエエイ!!!」
案の定、ザムシャーが剣を振りかぶった。
それを受け止めながらナイトティンバーを二回ポンプアクションする。
305: 2016/04/27(水) 19:20:14.57 ID:zbPXWROE0
『ツー! ナイトビクトリウムブレイク!!』
ナイトティンバーの刀身にエネルギーが集っていく。
ザムシャー「!」
エックス「「――ナイトビクトリウムブレイク!!」」
そのままザムシャーの剣にエネルギーを伝導させる。
ザムシャー「ヌオオオオオオオッ!!!」
しかしそう易々と破られる星斬丸ではなかった。
ザムシャーが力を込めるとその刀身にも霊気が宿り、湯気のように立ち昇っていく。
エックス「……ッ!!」
306: 2016/04/27(水) 19:20:41.54 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「ハアアアアアアアッッ!!!」
そしてとうとうナイトティンバーを跳ね飛ばしてしまった。
第二撃を構えるザムシャー。エックスが咄嗟に受け太刀する。
ザムシャー「テアアッ!!」
ナイトティンバーが真っ二つになる。地面に刺さった方も手に残った方も青白い光となって消えてしまう。
エックス「クッ……」
珠美『だったら次は……!』
『ウルトラマンマックス ロードします』
今度はマックスのカード。掲げた右腕に“マックスギャラクシー”が装備された。
307: 2016/04/27(水) 19:21:09.11 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「今度はどんな手品を見せてくれる?」
珠美『……っ!』
手品呼ばわりに唇を噛んだが、気にしないよう努めて攻撃態勢を整える。
まず左足を下げてザムシャーに対して斜めに向き、右腕を腰のあたりに添える。ちょうど居合切りのような形になる。
ザムシャー「フン……小細工を」
珠美『…………』
ザムシャーが位置を変えようと角度は維持されるようにする。
好機は一瞬しかない。ごくりと唾を飲んだ。
ザムシャー「…………」
すっと、ザムシャーが上段に剣を振り上げた。
308: 2016/04/27(水) 19:22:11.89 ID:zbPXWROE0
エックス「――イィッサアッ!!」
その瞬間、エックスが右腕を振るった。同時にマックスギャラクシーの先端から光が伸び、両者の距離を優に超える巨大な剣となる。
エックス「「――ギャラクシーソード!!」」
しかし――
ザムシャー「ハァッ!!」
まるでそれを予期できていたかのように、ザムシャーの身体は宙に舞っていた。
エックス「!」
309: 2016/04/27(水) 19:22:40.17 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「如何に長物であろうと、当たらなければ物干し竿も同じ!」
迎撃は間に合うはずもなかった。右腕のマックスギャラクシーが叩き割られ、これもまた消滅する。
ザムシャー「ヌアッ!!」
更に第二撃、第三撃と剣を振るうが、エックスはバク転してそれを躱し続けた。
ザムシャー「フン……」
エックス「……グッ」
ザムシャー「次の剣はどうした? もうこれで終わりか?」
珠美『エ、エックス殿!』
エックス『分かっている! 珠美、行くぞっ!』
310: 2016/04/27(水) 19:23:28.43 ID:zbPXWROE0
『ウルトラマンエックス パワーアップ』
出現したエクスラッガーを掴み、その軌道でXを描くように二度振り下ろした。
珠美・エックス「「エクシード――エーーーックス!!!」」
エックスの全身が光に包まれ、虹色の巨人に生まれ変わる。
額に手を当て、虹色の剣“エクスラッガー”を実体化させた。
珠美・エックス「「――エクスラッガー!!」」
……とまでは良かったものの。
珠美『――ってえ! こんな小さな剣じゃ当たりませんよ!!』
エックス『だが、残ってるのはこれしかないんだ!』
珠美『そんな! これじゃあいくら大きくなったって――』
311: 2016/04/27(水) 19:23:56.51 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「行くぞッ!!」
珠美『!』
ザムシャーが駆け出す。振り下ろされた剣を短剣で受ける。
エックス「グッ……!」
ザムシャー「デイッ! ハァッ! セイヤッ!!」
何度も何度も放たれる斬撃をその度に受け止める。しかしリーチが短すぎて反撃ができない。一方的にされるがままだ。
珠美『くっ……! エックス殿、このままだと……!』
エックス『珠美、よく聞くんだ』
珠美『えっ……?』
312: 2016/04/27(水) 19:24:24.78 ID:zbPXWROE0
エックス『君が今スランプに陥っているのは、君の身長のせいじゃない』
珠美『……!』
エックス『それは君自身の心の中にある恐れから来るものだ。それを断ち切らない限り、どんなに策を弄したって勝てるようにはならない!』
珠美『でも!』
ザムシャー「――デエエエエイッ!!」
珠美『!』
下から上へ振るわれた剣にエクスラッガーが跳ね飛ばされてしまう。
くるくると宙を舞い、背後の山に突き刺さった。
ザムシャー「これで終わりか?」
珠美『く……』
ザムシャー「まだ闘志が残っているのなら拾いに行け」
珠美『っ!』
エックスは山からエクスラッガーを引き抜き、再び構えた。
313: 2016/04/27(水) 19:24:52.53 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「それでいい」
ザムシャーもまた剣を構える。
エックス『珠美。エクスラッガーには「想いを形にする力」があると私は思う』
珠美『想いを……?』
エックス『そうだ。だからどんなに短い剣であったって、君の強い想いを形にして勝利へと繋げてくれる』
珠美『珠美の……強い想い……』
エックス『そうだ。君が、自分の身長が低くて不利だからといって剣道をやめないのは、それが心の底から好きだからだろう?』
珠美『…………』
エックス『その想いを乗せるんだ。君の心の剣が折れない限り、エクスラッガーだって折れることはない!』
珠美『――はいっ!!』
314: 2016/04/27(水) 19:25:20.26 ID:zbPXWROE0
エックス「セエヤッ!!」
ザムシャー「む……?」
ザムシャーは敏感に、エックスの醸し出す雰囲気が一変したことに気付いた。
先程までとはまるで違う。その剣には自信が漲り、静かな激情が乗せられている。
ザムシャー「フフ。面白くなってきたわ」
わざと切っ先をくらっと揺らした、次の瞬間――
エックス「――デヤアァッ!!」
まるで稲妻の如くエックスの巨躯が動いていた。
315: 2016/04/27(水) 19:25:48.55 ID:zbPXWROE0
ザムシャー(速い――!)
迷いなく懐に飛び込み、面を狙うエックス。
それを間一髪で星斬丸が防ぐ。剣戟の音が木霊となって夜の山に反響する。
エックス「ジュアッ! デェイヤッ!!」
ザムシャー「フンッ! デイッ!!」
目にも止まらぬスピードで両者が切り結ぶ。
虹色の火花が剣戟の度に散り、闇の中にぱっと閃く。
エックス「ハッ!」
ザムシャー「フッ!」
一旦、両者が飛び退く。しかし間を置かずエックスが再び飛び込んだ。
316: 2016/04/27(水) 19:26:23.60 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「デエエイッ!!」
水平斬りでそれを迎え撃つ星斬丸。しゃがもうと跳ぼうと躱せない絶妙な軌道だ。
エックスは突進しながらエクスラッガーをその軌道上に置く。激突の瞬間、身体を浮かせる。
ザムシャー「!」
するとエックスの身体が宙に弾き飛ばされ、回転しながら舞ったのだ。
星斬丸は振り切った直後、防御には戻れない。絶好の機会を逃さず、エックスは短剣を振り下ろした。
エックス「――デェヤァッ!!」
ザムシャー「グッ!!」
続けざま、エクスラッガーのスライドパネルを二回なぞる。
317: 2016/04/27(水) 19:26:54.12 ID:zbPXWROE0
エックス「「――エクシードスラーーーッシュ!!」」
虹色の軌跡を無数に刻みながらエクスラッガーの連撃を叩き込む。
最後の一撃の後、ザムシャーの身体は吹っ飛ばされて山の斜面に激突した。
ザムシャー「グゥオオオアアッ!!!」
珠美『はぁ、はぁ……やっと一撃……』
カラータイマーが鳴り始める。起き上がったザムシャーはそれを見て言った。
ザムシャー「貴様も限界が近づいているか……次の一撃で幕だ」
こくりと頷くとエックスは、ブーストスイッチを押してエクスラッガーを伸長させた。
その刃を地面に突き立てる。すると背後から光のトンネルが形成され、エックスとザムシャーを包んでいく。
318: 2016/04/27(水) 19:27:21.78 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「ハァァァァ……!!」
一方でザムシャーは剣に力を込めていた。
刀身に光が集い、それが巨大化する。上段に振り上げ、構えた。
エックス「「エクシード――――エクスラッシュ!!!」」
ザムシャー「秘奥義――――銀河断!!!」
エックスが飛び立ち、剣を手に突撃する。ザムシャーが星斬丸を振り下ろす。
激突の音が天を衝くように響き渡り――
319: 2016/04/27(水) 19:27:49.59 ID:zbPXWROE0
エックス「…………」
ザムシャー「…………」
虫の声ひとつない静まり返った山間の地。エックスとザムシャーは背を向け合って立ち尽くしていた。
エックス「……デュアッ」
唐突にエックスが振り返った。対してザムシャーは止まったままだ。
月光を受けて妖しく輝いている星斬丸。――それに無数の亀裂が入っていた。
ザムシャー「…………」
次の瞬間、ぼろぼろと零れ落ちる刀身。最後のひとひらが地面に落ちたのを見届けると、ザムシャーもまた振り向いた。
320: 2016/04/27(水) 19:28:17.23 ID:zbPXWROE0
ザムシャー「貴様……名は」
エックス『ウルトラマンエックス。……そして』
珠美『……えっ、珠美もですか?』
エックス『当然だ。さあ』
珠美『あ……えっと、脇山珠美。16歳。346プロダクション所属のアイドルで……』
エックス『……そこまではいいから』
ザムシャー「フ……覚えておこう」
そう言ってザムシャーは飛び立っていった。
321: 2016/04/27(水) 19:28:53.73 ID:zbPXWROE0
エックス『……何とかなったな』
珠美『はい。……エックス殿。ありがとうございました』
エックス『何がだ?』
珠美『エックス殿のおかげで、珠美は大切なことを思い出すことができました』
エックス『そうか。だったらよかった』
珠美『はい! 今度一緒に鍛錬に励みましょう!』
エックス『ああ!』
星空の下、二人はそう約束し合うのだった。
322: 2016/04/27(水) 19:29:24.20 ID:zbPXWROE0
―――後日
エックス『あーあーそうじゃない! そこはもっと素早く前に!』
エックス『今だ! あぁ、今がチャンスだっただろ! しっかり!』
エックス『違う! そうじゃなくて……そこを、こう! もどかしいなぁ!』
エックス『あーもう! そんなだから先に打たれるんだ! もっと強気に!』
珠美「…………」プルプル
エックス『ん、どうした? もう練習は終わりか?』
珠美「エックス殿、うるさいですぞーーーー!!!!」
第六話 おわり
323: 2016/04/27(水) 19:30:45.64 ID:zbPXWROE0
≪アイドルの怪獣ラボ≫
珠美・エックス「「珠美の怪獣ラボ!」」
珠美「今回の怪獣は、これですっ!」
『ザムシャー 解析中...』
エックス『“宇宙剣豪”ザムシャー! 愛刀“星斬丸”を携える孤高の剣士だ!』
珠美「太刀筋も気迫も直感も反応も鋭い強敵でしたね……」
エックス『だがエクスラッガーの力を使いこなした珠美の戦いも見事だったぞ!』
珠美「元は『ウルトラマンメビウス』第16話に登場した宇宙人。マグマ星人とバルキー星人を斬り捨て、地球に飛来しました!」
珠美・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
324: 2016/04/27(水) 19:32:08.98 ID:zbPXWROE0
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
裕子ちゃんが通っている学校で連続生徒失踪事件が発生!
ここはエスパーユッコの出番ですねって……危ないですよ裕子ちゃん!
そして真相に行き着いた彼女を待っていたものとは……!?
次回、ウルトラマンXP第七話! 『魔力vs超能力』 以上、サイキック次回予告! でした!
327: 2016/04/28(木) 17:51:24.29 ID:ibvGYc690
第七話 『魔力vs超能力』
―――???
雨音が響く暗い部屋の中――
ぶつぶつと低い声が囁かれ続けている。
部屋の中央に敷かれた赤い絨毯。その上には規則的に配置された蝋燭が十本。
その間に立っている人影が四つあった。微かな炎の揺曳にその影も揺らめく。
突然、カーテンに閃光が映り一瞬影を掻き消した。続けて轟く雷鳴が。
しかし人影は一切動じることなく呟き続ける。人間世界のものとは思えない、不気味な呪詛を。
カーペットの中央。蝋燭が描く幾何学模様の重心。人影が作り出す四角形の中心。
そこに、一枚の写真が置かれてあった。
薄緑襟のセーラー服を着た女子高生が映っている。
撮影者には気付いていないようだ。友達らしき男子と仲良さげに喋っている、日常の何気ない一コマ。
また、稲光。しかし一心不乱に呟かれる言葉には一糸の乱れすらない。
その主――四人の人影。それが纏っている服もまた、薄緑襟のセーラー服だった。
翌日、写真の女子高生が行方不明となることは、この四人以外誰も知らない。
――いや、もう一人いた。
雨雲に覆われ稲妻が走る黒々しい暗夜の空――そこに浮かび上がる“怪物”が。
328: 2016/04/28(木) 17:51:52.88 ID:ibvGYc690
―――事務所
エックス『連続生徒失踪事件?』
裕子「そうなんですよ、プロデューサー!」
夕方の事務所。セーラー服のまま事務所に駆け込んできた裕子はデバイスを取り上げるや否や切り出した。
未央「あ~それって、近頃世間を賑わしてるアレ?」
輝子「同じ高校の女子生徒が……次々に失踪するっていう……」
ソファでくつろいでいた未央と輝子が聞きつけてデスクを振り返る。
エックス『ふむ……そんな事件があったのか』
裕子「それ、実は私の学校なんですよ!」
未央「ええ!? マジで!?」
裕子「はい! もう連日マスコミが押し寄せて来て……私のテレパシー回線がパンパンですよ」
エックス『それは辛いな』
329: 2016/04/28(木) 17:52:20.57 ID:ibvGYc690
裕子「今日もまた人がいなくなったみたいで。これで九人目ですよ」
輝子「そ……そんなにか……」
裕子「そんなになんですよ。これは流石にちょっとヤバい感じしませんか?」
エックス『ヤバいな』
裕子「でしょう?」
しかし話している内容とは裏腹に裕子の声は弾んでいる。
エックス『警察は?』
裕子「何の手がかりも掴めてないんじゃないかって。友達に聞き取りを受けた子がいるんですけど、そういう印象を受けたって言ってました」
エックス『そうか……』
330: 2016/04/28(木) 17:52:48.53 ID:ibvGYc690
未央「怖いね。キノコちゃんも気を付けなきゃダメだよ~?」
輝子「う、うん……気を付ける……」
裕子「みんなそう言うんですよ……しかし為す術もなく姿を消していく……」
未央「ユッコ……」
未央が呆れた顔をする。
未央「君ィ、ちょっとこの状況を楽しんでないかね?」
裕子「いえいえそんな訳ありません! ただ、このサイキック☆アイドル☆エスパー☆ユッコとしてはですね! 事件を早々に解決したいんですよ!」
輝子「で……できるのか……?」
裕子「フッフッフ……私のサイキックパワーに解けない謎はありません!」
未央「やっぱり楽しんでない……?」
エックス『で、解けたのか? 誰が犯人で、被害者はどういう手口でどこに消されたのか』
エックスが何気なく口にすると、急に裕子が慌てたふうになった。
331: 2016/04/28(木) 17:53:15.52 ID:ibvGYc690
裕子「い、い、いえ、それはまだ……。何しろ物的証拠が足りていなくて」
未央「サイキックテレパシーで何とかならないの~?」
意地悪な口ぶりで未央が訊ねる。裕子はひとつ大きな咳払いをした。
裕子「えー、えへん。私のテレパシーも実は万能ではなくてですねっ。だからその代わりにサイコメトリーで犯人を暴こうと思い至ったわけですよ!」
輝子「さ、さいこめとりー……? 何だ? それ……」
裕子「ふっふっふ……驚いちゃいけませんよ輝子ちゃん! サイコメトリーとは物体に残った残留思念を読み取る超能力のことです!」
未央「よくテレビでやってるね。大抵犯人はわからずじまいで番組終了するんだけど」
裕子「このエスパーユッコに限ってそんなヘマは致しません! というわけでプロデューサー! 行きましょう!」
エックス『えっ、私もか?』
裕子「当然です! サイキックアイドル×ウルトラマン……導き出される答えはズバリ! 解決の二文字以外ありません!」
エックス『なるほど、一理ある』
未央「えっ?」
332: 2016/04/28(木) 17:53:43.78 ID:ibvGYc690
裕子「では行きましょう!」
エックス『よし。じゃあ未央、輝子。後は任せた!』
輝子「え……?」
目を丸くする未央と輝子を置いて二人は意気揚々と部屋を出て行った。
未央「……後は任せたって、どういう意味だろう……?」
輝子「……さあ……」
すると今度はちひろが部屋に入ってきた。
ちひろ「おはようございます。ね、二人とも。さっき裕子ちゃんが慌てた様子で走っていったけど何かあったのかしら?」
未央「さあ……」
333: 2016/04/28(木) 17:54:10.59 ID:ibvGYc690
ちひろ「どうしたんでしょうね? ――さて。プロデューサーさん、来月の346プロオールスターステージのことですけど……」
と、デスクに寄るがエックスがいない。
ちひろ「……ねえ二人とも。プロデューサーさんは?」
未央「さっきユッコと外に出たけど……」
それを聞くなりちひろの表情がぴたりと凍った。
しかし次の瞬間、背後に地獄の炎が見えるような良い笑顔を見せて自分のデスクに戻った。
未央「あぁ……ユッコ」
輝子「……エックスを隠してたから、慌ててたのか……」
未央と輝子は二人して溜め息をつくのだった。
334: 2016/04/28(木) 17:54:46.67 ID:ibvGYc690
―――裕子サイド
エックス『ここは?』
エックスは裕子に連れられてある住宅街に来ていた。
裕子「輝子ちゃんや未央ちゃんには言いませんでしたが、実は私の学校で事件についてのある噂があるんです」
エックス『噂?』
裕子「はい。これを見てください」
裕子がデバイスを道路の横のコンクリートで舗装された斜面に向けた。
エックス『! これは……』
裕子「この傷が発見されたのは、この近くに住む三人目が失踪した翌日と言われてます」
まるで巨大な怪鳥がその鉤爪で引っ掻いたように、水平方向に大きな傷が残っていたのだ。
裕子「つまり……失踪の原因と何らかの関わりがあるかもしれません」
335: 2016/04/28(木) 17:55:26.22 ID:ibvGYc690
エックス『サイコメトリーで何かわかるか?』
裕子「やってみます。ムムムムム~~ン……!」
傷に手を当てて念じ始める裕子。五分ほどそうしていると、遠くからカラスの声が聞こえてきた。
裕子「むぅ……見えません」
エックス『そうか……ということは残留思念がない』
裕子「思念を残す暇さえ与えなかった……もしくは……」
エックス『――人ならざるものの仕業、か』
裕子「あり得ますね。最近では怪獣や宇宙人がよく出てきていますし……」
337: 2016/04/28(木) 17:55:53.16 ID:ibvGYc690
エックス『この他にも妙な噂はないか?』
裕子「あと一つだけ、変な傷が残っていると言われている場所があります。そこに行きますか?」
エックス『ああ。――いや、待て』
裕子がぴたりと足を止める。彼女もそれに気付いたのだ。
T字路になっている道の曲がり角。そこに立つカーブミラーが……。
裕子「あれも、関係してるんでしょうか……」
エックス『……さあ。だが、留意しておいた方がいいな』
日が沈みかけている。二人は足早にその場を去った。
静まり返った住宅街。残されたカーブミラーには蜘蛛の巣のような亀裂が入っていた。
338: 2016/04/28(木) 17:56:20.89 ID:ibvGYc690
・
・
・
裕子「ここが次の場所です」
ところ変わって街の郊外。ガードレールがひしゃげて斜面側に倒れている。
エックス『塗料がついてるな。ということは、車が擦れたということか……』
裕子「確かに。そうすると、先程の傷も同じように車が……?」
エックス『可能性はあるな。しかしそれなら壊れた車が発見されてもおかしくはないはずだが……』
そこらをうろうろと散策していた裕子は、突然声を上げて指を差した。
裕子「プロデューサー! あれを!」
339: 2016/04/28(木) 17:57:04.51 ID:ibvGYc690
エックス『あれは……』
道路はガードレールの向こう側が斜面となっており、そこから生えた木が何本か枝を伸ばしていた。
その枝の一本。その先に、何かが引っ掛かっていたのだ。
エックス『車のサイドミラー……のように見えるな』
裕子「サイドミラー……もしかして例の車の?」
エックス『しかし何故あんなところに……何かの拍子で飛んでいったとしても難しい方向と距離だ』
裕子「まるで、車が空を飛んでいったみたいですね……」
エックス『ユッコ。君のテレキネシスであれをこっちまで持ってくることはできるか?』
裕子「やってみます! ムムムムム~~ン……!!」
こめかみに指を当てて念じ始める裕子。五分ほどした後、遠くの空でカラスが鳴いた。
340: 2016/04/28(木) 17:57:31.43 ID:ibvGYc690
裕子「だ……だめでした……」
エックス『そうか……しかし二回連続とは。もしかしたら何者かが君の超能力を妨害している……?』
裕子「あり得ますね。やはりあれが手掛かりということなんでしょうか」
エックス『可能性は高いな。――ユッコ、あれを!』
エックスが声を上げる。「あれ」と言われてもよくわからないが、きょろきょろしていた裕子はやがてそれに気付いた。
裕子「またカーブミラーが……」
道の脇に立っていたカーブミラーがまた割れていた。
妙な符合に、背筋に冷水が流されたような悪寒を覚える。
341: 2016/04/28(木) 17:57:58.67 ID:ibvGYc690
裕子「どちらも、何かの拍子で壊れたんでしょうか?」
エックス『しかしカーブミラーの柱には何の異常も見当たらない。鏡だけが破壊されている……』
裕子「……誰かが、鏡だけを破壊した……」
エックス『何のために……?』
裕子「……鏡に自分の姿が映ったらバレちゃうから……とか……」
エックス『それはないな』
裕子「まぁないでしょうね」
エックス『だが、何かの手掛かりであることに変わりはない。ユッコ、君のクリアボヤンスで周囲に同じようなカーブミラーがないか調べてみてくれないか?』
クリアボヤンスとは違う場所を見る超能力のことで、要するに千里眼のことである。
裕子「わかりました! ムムムムム~~ン……!!」
両目を強く瞑って念じ始める裕子。五分ほどした後、背後の宵の空をカラスが鳴きながら通り過ぎて行った。
342: 2016/04/28(木) 17:58:25.83 ID:ibvGYc690
裕子「はぁ、はぁ……ダメでしたぁ~~……」
エックス『またしてもか……しかしクリアボヤンスまで妨害されるとは。もしやかなりの広範囲に渡って妨害が行われているのか?』
裕子「あり得ますね。大規模な計画が裏で進行してるかもしれません……」
エックス『何にしろ、早めに手を打っておく必要があるな。割れたカーブミラーの捜索を重点的にしてみよう』
裕子「了解です!」
そうして裕子とエックスは調査を開始した。
歩いては聞き込み、歩いては聞き込みを繰り返しながら目当てのものを探す。
343: 2016/04/28(木) 17:58:53.30 ID:ibvGYc690
裕子「あのすみません、この辺りに割れたカーブミラーを見たことありませんか?」
時には近隣の住人に訊き……。
裕子「何のため? ええっと、えっと、あのっ……あ、そうです! 青少年の悪質なイタズラを研究している者なんですこう見えても私!」
時には交番のお巡りさんに不審げな目を向けられながらも訊き……。
裕子「えっ、分かっちゃいますか? そう、私は美少女サイキックアイドル、エスパーユッコ――」
エックス『おい、ユッコ!』
裕子「あっ、すみませんつい!」
時にはアイドル堀裕子ということに気付かれながらも……。
裕子「そうですか……ありがとうございました」
そうして午後九時を回った辺りになると、目撃談もすっかりなくなってしまった。
もう足が棒になるくらい歩き回った。裕子は近くの公園のベンチに腰を下ろしてそれまでの情報を整理した。
344: 2016/04/28(木) 17:59:20.17 ID:ibvGYc690
裕子「結局、見つかったのは七つだけでしたね」
エックス『だが、それだけあれば十分だ』
裕子「えっ?」
エックス『割れた鏡があった場所は必ずしも失踪した生徒の住んでいる場所とは一致していなかった。だが無関係と切り捨てるほど遠くもない』
裕子「確かに、ちょっと寄り道したとかこじつけられる程度ではありましたね」
エックス『そしてこの七つの地点を考えると、ある図形が導き出される』
裕子「え……?」
デバイスに地図が映り、割れたカーブミラーを発見した地点のいくつかが線で結ばれる。
エックス『これだけでは完璧な図形にはならない。だが……』
新たに三つの点が地図上に現れる。それも繋げると――
345: 2016/04/28(木) 17:59:47.67 ID:ibvGYc690
裕子「! ペンタグラム!」
――地図上に五芒星が現れた。
エックス『そう。悪魔の象徴の完成だ』
裕子「悪魔……。で、でも。残り三つの点は予想ですよね?」
エックス『ああ。だが、このうち二つは失踪者の家と限りなく近い場所だ。間違いないと思う』
裕子「最後の一つは……?」
エックス『……恐らく、これから事件が起こる場所だ』
裕子「――!」
346: 2016/04/28(木) 18:00:15.93 ID:ibvGYc690
―――???
ぶつぶつと呟かれる呪詛が満ちる部屋の中。
薄緑襟のセーラー服の少女が四人、絨毯の中央に置かれた写真を取り囲んでいた。
絨毯の上には十本の蝋燭が立っていた。それらもまた写真を囲みながら、ある幾何学模様を描いている。
――そう。ペンタグラムの模様を。
写真にはある女子生徒の姿が、またも盗撮気味に映っている。
それを見詰める四人の虚ろな瞳。機械的に動く彼女たちの唇。光源が蝋燭以外にない夜の狭い一室は重苦しいほど暗い。
部屋を満たす呪詛の声がそれに拍車を掛けているようにも思えた。
「シジル様、シジル様……」
「おいでください、シジル様……」
「貴方の心臓に生贄を捧げます……」
「是非この世界に顕現し、悪しき者に裁きを……」
部屋の空気が一層張り詰め、そして――
347: 2016/04/28(木) 18:00:43.60 ID:ibvGYc690
―――都内、某所
バスから降りた少女がひとり、夜道を歩いていた。
ひとけのない住宅街。不気味なほど静まり返り、まるで周囲の家にも人がいないように思われて仕方ない。
最近、通っている高校を賑わせている事件の話。ひとりひとり生徒が失踪していくというものだ。
それに関して彼女は知っていることがあった。失踪者の少女たちにひとつの共通点があったのだ。
それは、かねてから生徒たちの間で悪い噂が絶えなかった、というものだった。
ある者は別の女子と付き合っていた男子生徒を横取りした、またある者は教師に気に入られているのをいいことに告げ口をして他の生徒を貶めた……そんなふうに。
「…………」
ならば自分は関係ない、と思う。
確かに昔ちょっと人に対して良くない態度をとってしまったことがあったけど、些細なことだ。
そんなことすら許されないのなら、もっと他に罰されるべき人間が大勢いるはずだ。
それに、私が虐めたような、あんな大人しそうで弱い奴らが、報復に人を攫うなんてできっこない。
――だから、私は関係ない。少女は何度も口の中で呟き続け、足を速めた。――その時だった。
348: 2016/04/28(木) 18:01:10.98 ID:ibvGYc690
「ギィィィィヤァァァ!!!」
背後から、そんな声が聞こえたのだ。
しかし最初は聞き間違いだと思った。それは「声」というほど周りに響いていなかったのだ。
周囲は閑静なままで、誰もそれに気付かない。だから、聞き間違いだと思った。
「ギィィィィィィィヤァァァァァアア!!!」
更にボリュームアップした声が。
おそるおそる首だけ後ろに向ける。
街灯の向こう。住宅の向こう。そこに――赤い双眸を光らせる巨大な怪物がぬっと立っていた。
「…………」
少女は絶句して、固まった。
突然、そのままの体勢で宙に浮かび上がる。
怪物が腕でジェスチャーをしている。「おいでおいで」と。
それに抗うことができず、少女の身体は次第に怪物の元に近づいていく――
349: 2016/04/28(木) 18:01:41.00 ID:ibvGYc690
「きゃあああああああああああああーーーーーー!!!!」
そこでやっと我に返って、少女は絶叫した。
手足をばたつかせる。しかし俎板の鯉も同然だった。為す術もなく怪物の姿が迫ってくる。
声にならない声を上げ続け、じたばたともがき続ける。しかし怪物は意に介さず、腕の動きをやめない。
「嫌あああああああああああああ!!!!」
「ギャァァァァオォォ!!!」
自分の声を掻き消す怪物の大声。感情が読み取れない、生理的に不快感を催す、不気味な声だった。
すると突然怪物の声がふっと止んだ。しかし口は開いたままだ。口をぽっかり開けたまま、少女を待ち構えている。
「やめて!! やめてええええええええええっっ!!!」
私を食う気だ――そう悟った瞬間、じわりと目頭が熱くなって、涙がとめどなく溢れ出した。
私はここで氏ぬのか。何もわからぬまま、こんな醜悪な化け物に食われて。
首が捻じ切られ、腕も脚もバラバラにされ、毛根一本残さず溶かされて氏ぬのか。
嫌だ。嫌だ。(――ふざけるな)嫌だ。こんな、絶対に。(――許さない)絶対に嫌だ。
脳裏に数人の顔が過ぎる。少女が虐め、ある者は不登校に、ある者は引き籠りまで追い込んだ女子生徒たちの顔。
(――あいつらだ)
私を食おうとしているこの醜悪な怪物は、まさにあいつらだ。あいつら以外にあり得ない。
絶対に許さない。許さない、許さない、許さない――心を支配する呪詛が地獄の炎のように燃え盛る。
そんなふうに少女の瞳が憎悪に染まるのを、怪物は嬉々として眺めていた。
強い恐怖と憎悪と怨嗟と怒罵。それが怪物にとって最高の餌だったからだ。
350: 2016/04/28(木) 18:02:08.03 ID:ibvGYc690
――しかし。
「――デェヤッ!!」
その勇ましい声と共に飛来した光刃に、怪物は悶え苦しんだ。
「きゃああああああああっっ!!!」
支えがなくなったように少女の身体が真っ逆さまに落下する。
しかし思ったよりも早く地面に激突した。いや、衝撃は殆どなかった。助かった。わけがわからない。
「…………!」
視界に差し込んでくる柔らかな光。
暗闇の中に光る楕円形の両目。銀色の肌。それは――
「ウルトラマン……エックス……」
連日テレビを賑わしている未知の超人、ウルトラマンエックスだった。
351: 2016/04/28(木) 18:02:35.50 ID:ibvGYc690
一方、エックスの意識内部。
裕子『ふぅ……間一髪でしたね』
エックス『ああ。何とか間に合ってよかった』
最後の一点がこれから起こる事件の現場になる可能性を考えた二人はユナイトして急行した。
するとちょうど怪物が女子生徒を攫おうとするところだったのだ。
その少女を道路にそっと下ろすと、エックスは怪物の方を振り返った。
しかし――
裕子『あれっ、もういない……。逃げたんですかね?』
エックス『いや。あれは恐らく幻像だ』
裕子『本体は別にいる?』
エックス『ああ。ユッコ、例のペンタグラムを覚えてるか?』
裕子『は、はい。現場を繋げるとペンタグラムになるっていうやつですよね?』
352: 2016/04/28(木) 18:03:03.11 ID:ibvGYc690
エックス『その中心には実は君の学校があるんだ』
裕子『えっ!?』
エックス『君の学校の生徒が失踪していることを考えると不思議でもないが、ペンタグラムの中心と考えると作為的なものを感じる』
裕子『そうですね……。黒幕はそこにいる……?』
エックス『行ってみよう!』
裕子『はいっ!』
エックス「ジュワッ!」
地面を蹴り、エックスは飛び立っていった。
353: 2016/04/28(木) 18:03:44.19 ID:ibvGYc690
―――学校
裕子「来ましたね……夜の学校……。ふふ、実にミスティックかつミステリアスです……」
二人は学校に到着し、ユナイトを解いていた。
夜の中、六階建ての学校が屹立している。辺りにひとけが全くないせいか、どことなく禍々しい佇まいにも見える。
エックス『大丈夫かユッコ? 心拍数が上がってきているが……』
裕子「も、も、もちろん大丈夫ですよぉ!? さ、さ、さ、さぁ! 行きましょう!」
意気揚々と校庭に忍び込む裕子。校舎の入口を探っていると、開いている裏口を見つけた。
裕子「……」
唾を飲み、できるだけ音を立てないようにして扉を開ける。
中に入ると、エックスがにわかに口を開いた。
エックス『……ユッコ。二階から声が聞こえる』
裕子「えっ……?」
エックス『何らかの儀式を執り行っているような……そんな呪文のような声だ』
裕子「……儀式……ですか」
エックス『もしかしたらもう一度あの怪物を呼ぼうとしているのかもしれない。急ごう』
裕子「は、はい!」
とはいうもののそろそろとした足取りで階段を上り、裕子は二階に上がった。
354: 2016/04/28(木) 18:04:12.53 ID:ibvGYc690
―――???
部屋中に呪詛が満ちていた。
赤い絨毯とペンタグラムを描く十本の蝋燭。
「シジル様、シジル様……」
「おいでください、シジル様……」
「貴方の心臓に生贄を捧げます……」
「是非この世界に顕現し、悪しき者に裁きを……」
その中心に置かれている写真。
映っていたのは――
355: 2016/04/28(木) 18:04:39.18 ID:ibvGYc690
―――裕子サイド
裕子「…………」
階段から廊下に出ると、真っ暗な中に僅かに光が漏れているドアがあった。
エックス『ユッコ。あの部屋は……?』
裕子「……校長室です」
エックス『……黒幕は校長か』
裕子「どうして自分の学校の生徒を消すような真似を……?」
エックス『校長があの怪物に乗っ取られている……ということかもしれないな』
裕子「それとも……」
裕子はペンタグラムが悪魔の象徴であることを思い出していた。
神話を真に受けるわけではないが、もしかしたら校長は悪魔に魂を売り渡してしまったのかもしれない。
356: 2016/04/28(木) 18:05:06.55 ID:ibvGYc690
裕子「……行きましょう」
エックス『……ああ』
足音を忍ばせて部屋の前に来る裕子。
冷たいノブを握ると、背筋にぞっと悪寒が走った。
裕子「……っ!」
深呼吸をひとつすると、意を決してドアを開いた。
裕子「――校長先生! 突き止めましたよ、このエスパーユッコの超能力によって――」
踏み込むや否やそう宣言する裕子だが、部屋の様子がおかしいことに気付いた。
声が聞こえるはずなのに誰もいない。薄暗い部屋の中をよく見ると、壁際の蓄音機にセットされたレコードがくるくると回っていた。
357: 2016/04/28(木) 18:05:33.88 ID:ibvGYc690
エックス『――しまった!!』
エックスが声を上げる。備え付けの鏡に蜘蛛の巣のような罅が入っていた。
エックス『ユッコ、逃げろ!』
裕子「っ!」
誘い込まれたことを察して逃げ出そうとする裕子だが、ドアが開かない。
ノブを乱暴に回すが、ドアは前にも後ろにも微動だにしなかった。
裕子「どうして……!?」
いつの間にか部屋の中の空気が重くなっているような気がする。
背中から肩にかけて何かがのしかかっているようだ。それが部屋中に満ちて、外の世界と隔絶させている。
358: 2016/04/28(木) 18:06:01.58 ID:ibvGYc690
??「無駄だ」
部屋の奥から声がして、裕子は振り向いた。
暗闇の中から彼女は現れた。まるで今までそれと同化していたかのように。
裕子「校長先生……!」
校長「ハハハ……氏ぬ前に教えておいてやろう。俺の名は『ビシュメル』。お前たちが悪魔と呼ぶモノだ」
校長の声は記憶にあるものではなかった。男声のように低く、くぐもっている。
エックス『答えろ! 何故少女たちを消すような真似をする!』
校長「理由などない。奴らの負のエネルギーは俺にとって最高の御馳走だからな! フハハハハ!!」
裕子「……負のエネルギー……」
校長「その通り。俺が力を与えてやった四人の人間も負の感情を以て更に負のエネルギーを増大させてくれた。虫けらだがその点においては俺の役に立ったと言えるな!」
裕子「力を与えた?」
校長「今に分かる……ハアアアッ!!」
校長の顔が変貌していく。皮膚は黒く、眼は赤く、輪郭も変わり、頭の両側に角が生える。
359: 2016/04/28(木) 18:06:29.13 ID:ibvGYc690
裕子「……!」
校長「貴様が十人目の生贄だ! ギィィィィヤァァァ!!」
ビシュメルが口を開くと、紫色の光線が裕子に向けて放たれた。
エックス『ユッコ!!』
エクスデバイザーがXモードになる。
しかし間に合わなかった。デバイスが光線に飲まれる。
エックス『ぐああああああっ!!!』
裕子「プロデューサー!」
エックス『ユ……ッコ……! 君を……信じている……!!』
言い終えると共にデバイスからエックスの顔が消えた。
光線がビシュメルの口に戻っていく。全身を震わせながらビシュメルはそれを飲み込んだ。
360: 2016/04/28(木) 18:06:56.22 ID:ibvGYc690
裕子「プロデューサー……!」
校長「フハハハハハハ……不味い味だな。貴様はもっと美味いんだろう?」
裕子「う……っ!」
校長「いい表情だ……お前のその恐怖が俺にとって最高のスパイスとなる……!」
ビシュメルが口を開く。光線が放たれたかと思うと目の前に迫ってくる。
もう駄目だ――顔を背けて、腕を顔の前に交差させた。
校長「グオオオオオッ!!??」
しかし聞こえてきたのは、パンッ! という破裂音と、ビシュメルの悲鳴だった。
裕子「ふえ……?」
校長「な……何ィ……!?」
尻餅をついていたビシュメルが起き上がり、裕子を睨みつけた。
一方で裕子は周囲の雰囲気が一変したことを感じ取っていた。さっきまでの重苦しさが霧散している。
361: 2016/04/28(木) 18:07:23.82 ID:ibvGYc690
裕子「!」
ドアに寄り、ノブを回す。それを引くと、すんなり開いた。
裕子は即座に部屋を飛び出た。
校長「何……!? 俺の結界を……!」
歯ぎしりするビシュメル。両手を広げ、叫び声を上げた。
校長「虫けら共!! 俺のための生贄となれぇぇっ!!」
―――???
「シジル様が生贄を求めていらっしゃる……」
「どうか私たちの心臓を食しください……」
「どうか私たちの……」
「どうか……」
少女たちの身体がプラズマになり、カーテンを突き抜け窓をすり抜け、二階の校長室に飛んでいった。
362: 2016/04/28(木) 18:07:52.49 ID:ibvGYc690
ビシュメル「グオオォォォオン!!!」
裕子「!」
廊下を走っていた裕子は窓の外にあの怪物を見た。
あれが「本体」であり、ビシュメル――そう悟ると同時に我に返った。怪物の眼が裕子に向いていた。
裕子「うわわわわわわっ!!!」
裕子が駆け出す。次の瞬間、背後で轟音がした。
コンクリートの瓦礫が撒き散らされる。ビシュメルが校舎を攻撃したのだ。
裕子(ど、どどどどうすればっ!!)
裕子(プロデューサーがいない今、あんなのに勝てる気しません!)
裕子(い……いや! 私はエスパーユッコ! 自分のサイキックパワーを信じましょう!)
裕子(あ、そっか! さっきあのビームを跳ね返せたのも部屋から出られたのも私のサイキックのおかげか!)
363: 2016/04/28(木) 18:08:19.17 ID:ibvGYc690
裕子はそこでさっきのビシュメルの言葉を思い出した。
『俺が力を与えてやった四人の人間も負の感情を以て更に負のエネルギーを増大させてくれた――』
裕子(あいつもサイキッカー……? いや、でも……)
裕子(サイキックパワーは人を幸せにするものです……! 負けるわけにはいきません!!)
転がるようにして階段まで来る。一瞬下りに行こうとしたが、考え直した。
この学校にペンタグラムの中心があるのは間違いない。そして「力を与えた四人の人間」。
つまりこの学校には何かがあるのだ。あの悪魔を呼び出し、人を襲わせていた力の根源のようなものが。
そして耳がいいプロデューサーが一階の時点でレコードのダミーに騙されたということは――
裕子(私が行くべきは……上!!)
裕子は階段を駆け上がった。
三階に上がると、校長室の真上に当たる部屋に微かな光が見えた。
364: 2016/04/28(木) 18:08:45.72 ID:ibvGYc690
裕子(やった! あれだ!)
さっき罠に掛かったことも忘れて部屋に飛び込む。
しかしすぐさま息を呑んだ。そこに広がっていた光景があまりにも禍々しいものであったからだ。
裕子「これは……」
床に広がっているのはもはや赤い絨毯と蝋燭ではなかった。
暗雲に包まれた魔法陣。疾風を吹き荒れさせ、裕子の前髪を捲り上げる。時々それに混じって稲光が上ってきた。
裕子「……さ、さいきっく……封印……」
及び腰のまま念じ始める裕子。しかし一分も経たぬうちに稲光の音に怯んだ。
裕子「こ、ここで負けるわけには……!」
ぶんぶんとかぶりを振って魔法陣に向き直る。
365: 2016/04/28(木) 18:09:15.32 ID:ibvGYc690
裕子「さいきっくぅ……封印っ! 封印! 封印っ!!」
何度も何度も念じ続けるが全く効果がない。
流石の裕子も冷や汗をかき始めたところ、窓の外から声が響いてきた。
ビシュメル「フハハハハハハ!! 虫けらの如き貴様の超能力などで俺の心臓は破られん!!」
裕子「あ、これあいつの心臓……? だったらこれを壊せば……!!」
裕子は踵を返して部屋を出て行った。
戻って来たときには息が上がっていたが、間を置かず、手に持っているものを大きく振りかぶった。
裕子「さいきっくぅ……投石ぃぃぃっっ!!!」
二階の瓦礫のなるべく大きそうなものを選んでここまで運んできたのだ。
しかし――
裕子「!」
魔法陣に届く前にそれは粉々に砕けてしまった。
366: 2016/04/28(木) 18:09:42.54 ID:ibvGYc690
ビシュメル「フン、物理攻撃に出たか。だがその程度の衝撃で結界は破れんぞ!」
裕子「くっ……」
一瞬絶望しかけるが、頭から振り払う。何か、何か方法があるはずだ。
これまでのことを思い出す。きっとそこにヒントはある。この悪魔を攻略するヒントが――
裕子「……鏡」
頭の中の暗雲がぱあっと晴れたようだった。そうだ。鏡。
現場の鏡が全て割られていたのは、悪魔の弱点が鏡だからではないだろうか。
裕子はすぐさまポーチを探った。ハンドミラーがあったはずだ。
それはすぐ見つかった。しかし取り出してみて、裕子は今度こそ絶望した。
裕子「……そんな」
へなへなと膝を突く。ハンドミラーは既に割れていた。
一体どこで――そう考えると、ビシュメルの光線を跳ね返したことが頭をよぎった。
あれはこのハンドミラーのおかげだったのか。その衝撃で壊れてしまったのか。
367: 2016/04/28(木) 18:10:09.27 ID:ibvGYc690
裕子「私のサイキックパワーのせいじゃなかった……」
拳を握りしめて床を叩いた。
自分への怒り、憤り、この状況への絶望感……それら全てがないまぜになったどす黒い感情が胸の中に立ち込めてくる。
ビシュメル「ハハハハハ!! わかるぞ、貴様の胸に負の感情が渦巻いていることが!!」
裕子「…………」
ビシュメル「さぞかし美味い味に仕上がっているだろうなぁ? 絶望の味は格別だからなぁ! ハハハハハハ!!」
裕子「……そうじゃ……ない」
ビシュメル「ん?」
368: 2016/04/28(木) 18:10:36.25 ID:ibvGYc690
裕子は目元を拭って立ち上がった。
ここで負けたら、プロデューサーが、ビシュメルに囚われている人間が一生救われない。
裕子「プロデューサーは……私を信じるって言ってくれた……!」
思えば出会ったときからずっとそうだった。
スーツを着た宇宙人という奇怪な風貌に最初は驚いたけれど、彼は裕子の超能力をずっと信じてくれた。
だからこそ裕子もプロデューサーを信じてこれまでやってこられたのだ。
裕子「さいきっく……さいきっく……さいきっく……!」
両手を前に突き出し、瞼をぎゅっと閉じて念じる。
これまでで一番、必氏に。これまでで一番、強い意志を以て。
裕子「さいきっく……何でもいいから、何とかしてーーーーーっ!!!!!」
しかしその懸命な叫び声も空しく部屋に響くだけだった。
369: 2016/04/28(木) 18:11:03.25 ID:ibvGYc690
裕子「…………!」
と、その時。頭の上に何かが落ちて来て、裕子は飛び上がった。
裕子「……砂?」
払って手のひらを見てみるとそれは砂のようだった。しかし何故頭上から――
そう思って天井を仰ぐと――
そこに、小さな亀裂が入っていた。
裕子「……え……」
そこから、ピシッ、ピシッと音を立てて、亀裂が広がっていく。
裕子「え……え……」
罅割れた場所から砂が落ちてくる。地響きのような音がして、天井が僅かに沈んだ。
裕子「うわあああああああああ!?!?!?!?」
裕子は慌てて逃げ出した。転がるように廊下を駆け、三・四段飛ばしで階段を駆け下りる。
そして校舎を出た直後――
370: 2016/04/28(木) 18:11:30.34 ID:ibvGYc690
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ビシュメル「な、何ぃ……!?」
天変地異のような轟音と共に校舎が倒壊し始めた。
裕子「……えぇ……」
グラウンドに出ていた裕子は呆気にとられながらそれを眺めていたが、
ビシュメル「グォオォオオオオオ……!!」
ビシュメルの呻き声を上げたのに気付いてそちらに視線を向けた。
ビシュメル「グヌオオオオ……何故だ……何故こんな虫けらの小娘などに……!!」
ビシュメルの身体から光が何条も飛び出し、夜空の向こうに飛んでいく。
その内の一条がこちらに向かってくると思うと、ベルトに挟んでいたデバイスの画面に飛び込んだ。
371: 2016/04/28(木) 18:11:57.28 ID:ibvGYc690
裕子「! プロデューサー!」
エックス『ユッコ! 君ならやってくれると信じていたぞ!』
裕子「え、えへへ……!」
ビシュメル「貴様らアアアアアアア!!!」
裕子「!」
ビシュメルが怒り狂って裕子の元に迫ってくる。
エックス『ユッコ! 行くぞっ!』
裕子「はい! サイキック――」
エックス『――ユナイト!!』
372: 2016/04/28(木) 18:12:24.44 ID:ibvGYc690
デバイスをXモードに変形させる。
出現したスパークドールズを掴み、それをデバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
裕子「――エックスーーーーーっ!!!」
デバイスを掲げ上げ、裕子が叫ぶ。
放たれたX字の閃光に包まれると、次の瞬間、その中から銀色の巨人が姿を現した。
エックス「――イーーッ、サァーーーッ!!!」
『エックス ユナイテッド!』
373: 2016/04/28(木) 18:12:51.62 ID:ibvGYc690
夜の街に電光を撒き散らしながらエックスが降り立つ。
エックス「ハァ――セェヤッ!!」
ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」
相対したビシュメルが突然、身体を震わせながら天を仰いだ。
エックス「ジュワッ……?」
すると今まで晴れていた夜空にたちまちのうちに暗雲が立ち込めたのだ。
ビシュメルが両腕を翳すと、その手のひらに稲妻が落ちてくる。
ビシュメル「ギャァァァァオォォ!!」
そしてその稲妻を集め、エックスの方に放出した。
374: 2016/04/28(木) 18:13:19.22 ID:ibvGYc690
エックス「セヤァッ!」
側転してそれを躱す。
ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」
ビシュメルはエックスを追うように腕を動かしていたが、右手だけ先回りした地点に向けた。
エックス「! グワアアッ……」
側転した場所にちょうど雷撃が放たれており、エックスに命中する。
裕子『くっ……この怪獣、天候まで操るなんて……凄いサイキックパワーです……!』
エックス『ここまで来ると超能力というよりは魔力だな……』
375: 2016/04/28(木) 18:13:46.81 ID:ibvGYc690
裕子『ん? ということは……魔力vs超能力! ……ふふ、燃えてきましたっ!』
エックス『そうだな。ユッコ、このカードを使え!』
裕子『了解ですっ!』
転送されたサイバーカードをデバイスにセットする。
『サイバーゼットン ロードします』
エックスの上半身にゼットンの体躯を模した黒いアーマーが装着された。
『サイバーゼットンアーマー アクティブ!』
376: 2016/04/28(木) 18:14:35.10 ID:ibvGYc690
ビシュメル「グオオォォォォン!!!」
ビシュメルが再び雷撃を放つ。
裕子『同じ手は二度も食いませんよ! さいきっくぅ……テレポーーート!!』
エックス「デアッ!」
ビシュメル「!」
思わずビシュメルがたじろぐ。エックスの姿が一瞬の内に消えたからだ。
ゼットンアーマーはゼットンの力を備えている。そのうちのひとつ、瞬間移動を使ったのだ。
エックス「セェヤッ!」
背後に回ったエックスが巨大なガントレットでビシュメルを殴りつけた。
377: 2016/04/28(木) 18:15:02.94 ID:ibvGYc690
ビシュメル「グオオォォオン……!」
エックス「デェアッ!」
攻撃の手を休めないエックスと、それを必氏に防御するビシュメル。
しかしビシュメルはその間にも魔力を発揮していた。背後の道路の車がひしゃげながら宙に浮かび上がる。
ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」
そしてそれがバラバラに分解され、鋭利な金属の槍に変形した。
エックスの背後からそれらが、アーマーが纏われていない足元に突き刺さる。
エックス「デアッ!?」
ビシュメル「ギャァァァァオォォ!!」
思わず尻餅をついたエックスの身体をビシュメルが蹴り飛ばす。
378: 2016/04/28(木) 18:15:30.94 ID:ibvGYc690
エックス「グッ……」
ビシュメル「グオォォォォォン……!!」
ビシュメルが火炎を吐く。横に転がりながらそれを避け、立ち上がると同時にバリアを起動する。
裕子『さいきっくバリアー!!』
琥珀色のゼットンシャッターは火炎を弾き飛ばした。
ビシュメルは攻撃をやめ、もう一度魔力を発揮する。今度はガードレールが地面に沈んだ。
ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」
エックス「! デアッ、グアァァッ!!」
するとゼットンシャッターが纏われていない足元の地面から槍が飛び出てきた。
すぐさまシャッターを解除し、その場から逃げる。
379: 2016/04/28(木) 18:15:57.80 ID:ibvGYc690
ビシュメル「ギャァァァァオォォ!!!」
ビシュメルが魔力で槍を操る。地中から飛び出た無数のそれらをエックスに向けて発射した。
エックス「――イィッ、サァッ!!」
エックスが胸元に両手を構え、そして前に突き出した。
形成されたゼットン火炎弾が金属槍を迎撃し、その高熱で全弾溶かし尽くした。
裕子『見ましたか! これがさいきっくパイロキネシスですよ!』
エックス『……水を差すようで悪いんだがユッコ』
裕子『はい?』
380: 2016/04/28(木) 18:16:25.09 ID:ibvGYc690
エックス『これは……超能力じゃなくて科学の力なんだ』
裕子『……え』
エックス『…………』
両者の間に気まずい沈黙が流れた。
エックス『だから……すまないがこれは……』
裕子『……いえ……いいんです……』
エックス『ユッコ……』
裕子『つまりサイキックサイエンスってことですよね!!』
エックス『矛盾してないかそれ!?』
381: 2016/04/28(木) 18:16:53.44 ID:ibvGYc690
ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!」
ビシュメルが暗雲から稲妻を集め、エックスに向けて放った。
裕子『ふっ……これでも食らえー! さいきっくアブソーーーブ!!』
エックス「セァッ!」
胸に両手を構えると、雷撃がその間に吸い込まれた。
ビシュメル「!」
エックス「エーーックス!!」
そして突き出すと同時に吸収された雷撃が増幅されて発射された。
ビシュメル「グオォォォオォ……」
流石に応えたのかグロッキーになるビシュメル。
その隙を突いて裕子はアーマーの力を最大解放した。
エックス『一気に行くぞ! ユッコ!』
裕子『はい! ――さいきっくトルネーーーード!!!』
382: 2016/04/28(木) 18:17:20.44 ID:ibvGYc690
エックス「――デェアッ!!!」
ゼットンシャッターを纏いながらその場で高速回転し、一気に飛び立つ。
琥珀色の旋風を巻きつけながらエックスは宙を飛び、ビシュメルに向かって一直線に突撃する。
ビシュメル「ギィィィヤァァァ!!!」
ビシュメルも最後の力を振り絞る。暗雲から雷撃をエックスに直接落とし、口からは火炎を吐き出す。
エックス「イィーーッ!! サァァーーーッ!!!」
しかしその突撃を止めることはできなかった。
雷撃は容易く弾かれ、火炎はいとも簡単に突き抜けられる。
ビシュメル「ギャァァァァオォォ……!!!」
ビシュメルの断末魔が夜の街に響き渡る。
その身体にはぽっかり穴が空き、エックスは突進の勢いで地面を抉りながら地面に降り立った。
ようやくエックスが静止する。同時に、その背後で爆発の炎が立ち昇った。
383: 2016/04/28(木) 18:17:48.56 ID:ibvGYc690
裕子『いやぁ……サイキック万歳です……! プロデューサー、もう一生ユナイトしててくれませんか?』
エックス『えっ? でもユッコ、普通の状態でもサイキック使えるんだろう?』
裕子『えっ……あっ、そうですよ! さっき、私のサイキックでプロデューサーを助けたんですよ!』
エックス『ああ。どうやったんだ?』
裕子『それはですね、まず校舎を倒壊させて――』
エックス『……校舎を……倒壊……?』
裕子『あっ……』
エックス『ユッコ……』
裕子『ち、違うんですー! これにはやむにやまれぬ事情がー!!』
それから活動限界時間がギリギリになるまでエックスは裕子の言い訳を延々と聞かされることになるのだった……。
384: 2016/04/28(木) 18:18:16.20 ID:ibvGYc690
・
・
・
―――事務所
裕子「……し、失礼しまーす……」
エックス『しっ、静かに!』
真夜中の事務所。エックスは事務所に戻しに来てもらっていた。
なにぶん片付けなければならない仕事をほっぽりだして出て来たのである。
裕子「…………」
抜き足差し足でプロデューサーのデスクに向かう裕子。しかし――
ちひろ「ゆ・う・こ・ち・ゃ・ん?」
裕子「ヒィッ!?」
385: 2016/04/28(木) 18:18:43.42 ID:ibvGYc690
ちひろ「プロデューサーさん……?」
エックス『ぎくっ……』
ちひろ「二人して真夜中のお帰りなんて、スキャンダルになっちゃいますよぉ?」
エックス『こ、ここ、こ、これには、や、や、やむにやまれぬ事情がっ!!』
さっきの裕子の言い訳を繰り返すエックスであったが、ちひろの前には無意味だった。
ちひろ「……仕事が終わるまでは寝かせませんからね?」
エックス『……はい……』
第七話 おわり
386: 2016/04/28(木) 18:19:41.03 ID:ibvGYc690
≪アイドルの怪獣ラボ≫
裕子・エックス「「ユッコの怪獣ラボ!」」
裕子「今回の怪獣は、これですっ!」
『ビシュメル 解析中...』
エックス『“大魔獣”ビシュメル! 強力な魔力を操る悪魔の化身だ!』
裕子「私とプロデューサーのサイキックパワーとの対決は見ものでしたね……勝ちましたけど!」
裕子「元は『ウルトラマンダイナ』第18話の怪獣! ダイナのミラクルタイプと激闘を繰り広げました!」
裕子・エックス「「次回も、お楽しみに!」」
387: 2016/04/28(木) 18:20:08.73 ID:ibvGYc690
≪次回予告≫
こんにちは、次回予告担当の島村卯月です! 頑張りますっ!
これまで色んなことがあって……色んな怪獣や宇宙人と戦ってきました。
それでも私たちはアイドルとして成長して、このステージに立つことになりました!
支えてくれた仲間と……ファンの皆さんの応援と、プロデューサーさんの想いと一緒に!
次回、ウルトラマンXP第八話! 『絶望のスターライト』
393: 2016/04/29(金) 19:22:48.03 ID:rjrsmZLi0
第八話 『絶望のスターライト』
暗闇の中に輝くステージ。
その上に踊っている人影がひとつ――
お願い! シンデレラ
夢は夢で終われない
叶えるよ 星に願いをかけたなら
みつけよう! My Only Star
探し続けていきたい
涙のあとには
また笑って
スマートにね
でも可愛く
進もう!
最後の一音が弾け、その人物の笑顔も最高潮に弾ける。
止んだ音楽に代わって会場全体に渦巻く歓声、満天に瞬く星屑のように犇く無数のサイリウム――
「……?」
首を傾げる。当然あるべきそれらが無かったからだ。
先程まで大音量で響いていた音楽の代行を務めるものはなく、会場はしーんと静まり返っている。
「……え」
そこでようやく気付いた。当然いるべきはずだと思っていたファンが誰一人としていない。
客席は全くの空っぽで、どこまでも暗黒が渡っている。それが果てしなく続いている。
――まるで、世界にひとり取り残されたように。
「ええええええええーーーーっ!!??」
394: 2016/04/29(金) 19:24:52.83 ID:rjrsmZLi0
ちひろ「――っ!」
ちひろはがばっと顔を上げた。
ちひろ「…………あれ、ここ……事務所……?」
寝惚けまなこで辺りを見回すと、ブラインドが明るく光っていた。
その隙間から日光が射し込んでいる。……朝だ。
ちひろ「……うぅーーん……っ!」
どうやら残業をしていたらいつの間にか机の上で眠ってしまっていたらしい。
身体の節々が凝り固まっていたので大きく伸びをする。その拍子に欠伸が漏れて、涙の雫が浮かんだ。
ちひろ「ふわぁ……6時15分……いったん家に帰る時間もないですね……」
シャワーも浴びないままでみっともないと思ったが仕様がない。
ちひろは近場のコンビニで適当に何か買ってこようと思い腰を上げた。が、ふと思い至ってプロデューサーのデスクに足を向けた。
395: 2016/04/29(金) 19:25:20.26 ID:rjrsmZLi0
ちひろ「プロデューサーさーん……?」
デスクに置いてあるデバイス。呼びかけてみるが返事はなく、画面も真っ暗なままだった。
ちひろ「……ふふっ、まだ夢の中みたいですね」
今の自分についても言えるが、無理もないと思う。
346プロ最大のアイドルライブイベント「346プロオールスターステージ」が目前に迫っているのだ。
アイドルもプロデューサーもその他のスタッフも、この時期はみんな忙しそうにしている。
ちひろ(ステージ……)
何故かその言葉が頭に引っ掛かった。さっき見た夢に関連することのような気がする。
だが思い出そうとしても叶わなかった。むしろそうするごとにどんどん記憶が消えていくようだ。
ちひろ(……ま、いいか)
これ以上続けても無駄だと思い、ちひろは潔く考えを断ち切った。
ちひろ(プロデューサーさんも朝食要るでしょうか……というか、プロデューサーさんって何食べてるんでしたっけ……?)
首を傾げながらちひろは部屋を後にした。
396: 2016/04/29(金) 19:25:47.41 ID:rjrsmZLi0
・
・
・
卯月「おはようございまーす」
未央「おっはよー!」
凛「おはよう」
エックス『ニュージェネか。おはよう』
卯月「プロデューサーさん、あと一週間ですね! オールスターステージ!」
凛「もう。毎日言ってるでしょ、それ」
卯月「えへへ……楽しみで……」
未央「わかるぞしまむー。湧きあがる熱い想いを抑えきれないよな~!」
凛「何そのノリ……まぁ気持ちはわからなくもないけど」
397: 2016/04/29(金) 19:26:21.78 ID:rjrsmZLi0
エックス『ニュージェネも立派になったものだな』
未央「でしょー? ……いや、冗談抜きに、去年の私たちにとってはオールスターステージなんてまさに夢の舞台って感じだったもんね」
卯月「そうですね~……まさかあのライブに参加できるなんて……本当に夢みたいです!」
エックス『ひとえに君たちの努力の賜物だ。レッスンから小さなライブ、色んなところで頑張ってきたからな』
凛「……プロデューサーのおかげでもあるよ」
未央「うん。それは間違いない」
エックス『そ、そうか?』
卯月「そうですよ! 私たち、プロデューサーさんがいたからこそここまでやってこられたんですから!」
エックス『そうか……ありがとう、三人とも』
凛「何でプロデューサーが礼を言うの……普通私たちの方でしょ」
エックス『凛も感謝してくれるのか?』
凛「そ……そりゃあ多少は。……ありがとう」
398: 2016/04/29(金) 19:26:54.43 ID:rjrsmZLi0
未央「しぶり~ん、ツンデレみたいになってるぞー?」
凛「う、うるさいな。普段から感謝してるって」
卯月「ツンデレ凛ちゃん、かわいいです!」
凛「卯月まで……だからそんなんじゃ――」
エックス『フフッ。ニュージェネは永遠に不滅だな』
凛「なに急に……」
未央「そりゃーもちろん! この三人の絆はどこまでも続くさー!」
卯月「はい! どこまでも一緒に!」
凛「……。上っていこう……?」
未央・卯月「「いえーーい!!」」
凛「だから何なのそのノリ……」
エックス『キュート、クール、パッションが見事に融合した最高のユニットだ……流石だぞニュージェネ……!』
凛「だからプロデューサーまで何言ってんの……」
399: 2016/04/29(金) 19:27:23.54 ID:rjrsmZLi0
・
・
・
美波「おはようございます!」
エックス『美波か。おはよう』
美波「……あと六日ですね。オールスターステージ」
エックス『ああ。準備はできてるか?』
美波「はい。……といっても、ステージでも同じようにできるかは、今でもまだ不安ですけど……」
エックス『美波なら大丈夫だ。いつもちゃんと成功させてるじゃないか』
美波「そ、それは……プロデューサーさんが声を掛けてくれるから……」
エックス『ん? 私の声には美波の緊張を和らげる作用があるのか……?』
美波「……そうですね。そんな感じです」
エックス『よし。ならこれからもステージ前は声を掛けるようにしよう。それが君のためになるなら』
美波「ふふっ。お願いしますね」
400: 2016/04/29(金) 19:27:51.16 ID:rjrsmZLi0
・
・
・
ゆかり「おはようございます」
エックス『ゆかりか。おはよう』
ゆかり「とうとう五日後ですね……オールスターステージ」
エックス『ああ。どうだ? ユニットの方は』
ゆかり「メロウ・イ工口ーも演奏会ユニットもいい調子です」
エックス『だったらよかった。ゆかりは楽器の演奏まであるから大変だろうが頑張ってくれ』
ゆかり「大丈夫ですよ。むしろフルートの演奏は今楽しくてしょうがないんです」
エックス『そうなのか?』
ゆかり「はい。プロデューサーとユナイトして演奏したことを思い出すので」
エックス『ああ……怪獣をも宥める良い演奏だったな』
ゆかり「いつかナイトティンバーもライブで披露したいですね……」
エックス『そうなると会場のサイズが問題だな……いっそ野外でやるか……』
ゆかり「ふふっ。楽しみにしてますよ。プロデューサー」
401: 2016/04/29(金) 19:28:24.79 ID:rjrsmZLi0
・
・
・
こずえ「ふわぁ……おはよー……」
エックス『こずえか。おはよう!』
こずえ「ふわぁ……」
エックス『まだ眠たいか? だがそろそろレッスンだ、しっかりしてくれよ?』
こずえ「うんー……こずえ……しっかりするー……」
エックス『その調子だ。オールスターステージも四日後に控えているしな』
こずえ「おーるすたー……って……うちゅうのことー……?」
エックス『ん?』
こずえ「じゃあー……おーるすたー……こずえのおうち……」
エックス『うん?』
こずえ「まま……ぱぱ……みにきてくれる……かなぁー……?」
エックス『うん??』
402: 2016/04/29(金) 19:28:58.78 ID:rjrsmZLi0
・
・
・
輝子「お、おはよう……フヒ」
エックス『輝子か。おはよう』
輝子「…………」
エックス『キノコの方はどうだ?』
輝子「ぼ、ぼちぼち……育ってる……」
エックス『そうか。……輝子』
輝子「うん……オールスターステージ……三日後だな」
エックス『大丈夫か?』
輝子「あ、ああ。……さ……支えてくれるトモダチが……いるからな」
エックス『そうか。……うむ。心配はいらない。いつも通りの君を出していけば必ず会場中を虜にできる!』
輝子「そ……そういうの、恥ずかしいから……」
エックス『何を恥ずかしがることがある! 君のデスボイスには実はメタル界からの注目もあるんだぞ!』
輝子「だ、だから……」
エックス『君のいいところは他にもあるぞ。ライブパフォーマンスとは裏腹にかわいい系の衣装もしっかり着こなせるところとか――』
輝子「ヒャッハァーーーー!!! だからやめろって言ってんだろうがァァァァ!!!」
エックス『な、何だ突然!?』
403: 2016/04/29(金) 19:29:33.04 ID:rjrsmZLi0
・
・
・
珠美「おはようございますっ!」
エックス『珠美か。おはよう!』
珠美「決戦の日は二日後……ですね。エックス殿」
エックス『そうだな……緊張してるか?』
珠美「何、剣道の試合と同じです。平生の状態で挑み、いつもの自分の力を発揮するだけです!」
エックス『流石だな。この前の試合も勝ったんだって?』
珠美「は、はい……えへへ」
エックス『機会があればまた見に行きたいな。剣道をしている君は誰よりもかっこいい』
珠美「か……かっこいいですか! 珠美が!」
エックス『ああ。かっこいいぞ』
珠美「えへへ……かっこいい……かっこいい大人の女性ですね……えへへ……」
エックス『こういうところは子供っぽいけどな』
珠美「えっ」
404: 2016/04/29(金) 19:30:01.08 ID:rjrsmZLi0
・
・
・
裕子「さいきっくぅ……おはようございます!」
エックス『ユッコか。おはよう』
裕子「ムムムン! エスパーユッコの予知能力によると……」
エックス『ん?』
裕子「オールスターステージ、ついに明日ですねっ!」
エックス『そうだな』
裕子「っとと……もうちょっと驚いてくれてもいいじゃないですか~」
エックス『カレンダーに書いてるし……。ところでサイキックパワーの状態は良好か?』
裕子「はい! さいきっく調整で明日が最高潮になるようにしましたからね! 抜かりはありませんよ!」
エックス『よし。超満員の客に君のサイキックパワーを見せてやるんだ!』
裕子「腕が鳴りますね……!」
405: 2016/04/29(金) 19:30:32.84 ID:rjrsmZLi0
・
・
・
ちひろ「おはようございます」
エックス『ちひろさんか。おはようございます』
ちひろ「……いよいよですね」
エックス『はい……みんなの今までの努力が結晶する日です』
ちひろ「……なんだか、感無量ですね。今から」
エックス『そうですね……』
ちひろ「……プロデューサーさん」
エックス『ん?』
ちひろ「ちょうどいい区切りですし、私への丁寧口調やめませんか?」
エックス『いいんですか?』
ちひろ「はい。どうせプロデューサーさんの方が歳は上ですし」
エックス『それはそうです……じゃなくて、それはそうだ。うむ』
ちひろ「ふふっ。それじゃあ、会場に向かいますか」
エックス『ああ!』
406: 2016/04/29(金) 19:31:08.53 ID:rjrsmZLi0
・
・
・
―――午後七時、会場
無数の人の群れが犇きあう広大な会場。
急に光源が落とされ、ざわめきの声が立つ。と、次の瞬間、それが歓声に変わる。ステージ上に光が灯ったからだ。
ゆっくりと幕が上がっていく。姿を現したアイドルたちに観客は口々に声援を叫ぶ。
曲のイントロが鳴り出すとそれが静まっていく。しかし――
卯月「みなさーーん! こんにちはーー!!」
卯月の一声によって再び沸き返った。
その声の大きさに負けないように未央と凛が声を張り上げる。
未央「今日は『346プロオールスターステージ』に来てくれてありがとー!」
凛「私たちも頑張るから、みんなも、楽しんでいってねー!」
更にボルテージが上がり、たちまちのうちに熱気に満ちる客席。
ステージ上では幕が上がり切り、揃いのドレスを纏った九人の姿があらわになっていた。
407: 2016/04/29(金) 19:31:36.33 ID:rjrsmZLi0
美波「トップバッターは私たち――」
珠美「『United 9』です!」
こずえ「そしてぇー……曲はー……」
ゆかり「『Absolute NIne』!」
裕子「心の準備はできましたかー!?」
輝子「行くぜエエエエエエエ!!!」
未来に響かせて
勝ち取るの この歌で 絶対
掴め starry star
歌と共に九人が踊り始める。
スポットライトが瞬き、時にはスモークを切り抜いて飛び回り、ステージを華やかに彩っていった。
408: 2016/04/29(金) 19:32:29.00 ID:rjrsmZLi0
同時間、舞台裏。
ステージ上の様子を映したモニターを見ながらちひろがエックスに小声で喋りかけた。
ちひろ「みんな、大丈夫そうですね」
エックス『ああ。練習通り……いや、それ以上のパフォーマンスができている』
ちひろ「憧れの舞台でしたもんね」
エックス『そうだな……ひときわ強い想いがあるんだろう』
ちひろ「はい……」
それからは二人とも黙って、アイドルの舞台を静観していた。
409: 2016/04/29(金) 19:32:56.61 ID:rjrsmZLi0
曲が終わりに差し掛かっていく。汗を散らしても皆の顔から笑顔は絶えない。
生き生きとした表情を更に輝かせながらステージ上を駆け回る。
孤独が疼きだして 体を蝕んでも
前を見る強さを
一歩ずつ 確実に 絶対
言葉が歪み始め
イメージが加速する
世界に響かせて
勝ち取るの この歌で 絶対
光れ starry star
曲が終奏に入る。各々のタイミングでステージの中央に集い、終わりと同時にポーズを決める。
――そのはずだった。
410: 2016/04/29(金) 19:33:25.43 ID:rjrsmZLi0
卯月「……!?」
突然のことだった。足元が大きく揺れ、卯月は体勢を崩して倒れてしまった。
咄嗟に立ち直ろうとするが、客席の方にも動揺が広がっていた。それほど大きな揺れだった。
それでもなんとか最後の音までに間に合わせてポーズを取る。
揺れは収まっていた。しかし、客席は未だざわめいている。
凛「……い、行こう」
卯月「はい……」
戸惑いつつもとりあえず引き上げようとしたが――
美波「きゃぁっ!?」
裕子「わあああああっ!?」
再び揺れが。火がついたように混乱する客席。
411: 2016/04/29(金) 19:34:18.45 ID:rjrsmZLi0
ゆかり「ま、待ってください! 落ち着いて――」
ゆかりはマイクを取って訴えかけようとするが――
彼女は気付いていなかった。頭上のスポットライトの支柱が揺れの影響で壊れかけていたことに。
もう一度揺れる。もう立っていられなくて、ステージも客席も逃げ出そうとする者も全員腰を落とす。
その時だった。ゆかりの頭上からスポットライトが落下してきたのは。
美波「――っ!」
美波がいち早くそれに気付く。ゆかりは気付いていない。
声を掛けようと思う間もなく、それが落ちてきて――
――ガッシャアアアアアン!!!
卯月「!」
凄絶な破壊音。ゆかりのいた場所に大型のスポットライトが落下し、見るも無惨に破壊されていた。
412: 2016/04/29(金) 19:34:53.69 ID:rjrsmZLi0
ゆかり「……!」
輝子「だ……大丈夫か……」
ゆかりは蒼ざめた顔で足元のそれを見詰めていた。
彼女の腹に抱きつくような形で覆い被さっているのは輝子。彼女がゆかりを押し倒したため、間一髪で直撃を避けられたのだった。
未央「どういうこと……? 何が起こってるの……?!」
一瞬静まり返っていた会場はすぐ阿鼻叫喚の騒ぎに戻り、みな我先にと逃げ出していた。
そんな中、スピーカーから場内アナウンサーの声がした。
『会場の皆さん、落ち着いて聞いてください! 東京都千代田区北の丸公園にて怪獣が出現!』
アイドルたちが揃って息を呑む。北の丸公園とは、この会場がある場所である。
『現在、科学技術館に向かって進行中。皆さん、第三出入口から速やかに公園外に避難してください!』
未央「……っ!!」
凛「! 未央っ!」
413: 2016/04/29(金) 19:35:28.92 ID:rjrsmZLi0
ステージから駆け出した未央は拳を痛いほどに握りしめていた。
舞台裏に回るとちひろの姿を探す。こちらの姿を認めた彼女の方から寄ってきてくれた。
ちひろ「未央ちゃん! 早く避難しないと――」
未央「ちひろさん、プロデューサー借ります!」
ちひろ「えっ――」
驚いている間に未央はちひろの手からデバイスを取って走り出していた。
凛「未央っ!」
卯月「未央ちゃん!」
するとステージの方から凛と卯月、続いて他の六人も入ってきた。
呆然とするちひろを尻目に未央の後を追っていく。関係者出入口の方に向かってだ。
ちひろ「み、みんな! 待ってください、そっちは――」
関係者出入口はちょうど科学技術館の方向だ。そちらから逃げても怪獣に出くわすだけ。
少しの間迷ったが、彼女も皆の後を追った。大人として彼女たちをきちんと避難させなければならない。
414: 2016/04/29(金) 19:35:58.91 ID:rjrsmZLi0
未央「プロデューサー、どうなってるの!?」
一方、未央は走りながらデバイスに向かって問い掛けていた。
エックス『わからない。だが恐らくは近くの建物を破壊したせいでこちらにまで衝撃が来たんだろう』
未央「……みんなのステージをめちゃくちゃにするなんて……!!」
未央が歯ぎしりする。このオールスターステージは自分たちだけのものではない。
他にも346プロに所属するアイドルたちが大勢参加するイベントだ。彼女たちもファンも、みな心から楽しみにしていた。それなのに――
未央「絶対に許さない……!!」
関係者出入口から飛び出す。そこは地上から見れば高台になっており、眼下に森が見渡せる。その中に巨大怪獣の後ろ姿があった。
ほぼ三角形の翼が一対と、青い棘が数本突き出ている赤い背中。それが公園の森の中を我が物顔で闊歩している。
未央「プロデューサー!」
エックス『よし、行くぞっ!』
415: 2016/04/29(金) 19:36:26.74 ID:rjrsmZLi0
エクスデバイザーを突き出し、Xモードに変形させる。
出現したスパークドールズをリードしたデバイスを掲げ上げ、未央は叫んだ。
未央「――エックスーーーーーっ!!!」
エックス「――イーーッ、サァーーーッ!!!」
放たれた閃光の中から銀色の巨人が飛び立った。
そのまま空中から角度をつけて怪獣に一直線に向かっていく。
エックス「――Xクロスキック!!」
怪獣「グオオオオオオオン!!」
その衝撃で怪獣はよろめいたが、倒れはしなかった。すぐさま振り返る。
一方エックスは反動を利用してバク宙し、地響きを立てながら着地した。土埃が立ち、夜空に電光が放散される。
『エックス ユナイテッド!』
416: 2016/04/29(金) 19:36:55.62 ID:rjrsmZLi0
未央『……っ!』
怪獣を正面から見て、未央はそのおぞましい姿に戦慄した。
頭部はぶつぶつと細かい孔が空いた、蜥蜴に似た形で、しかし鋭い眼は青く光り、確然たる差異を示している。
そして頭部に被さる兜のような形状のものには青い一対の眼が光っていた。
左腕は巨大な血走った眼球のようにしか見えず、青い瞳がまるで生きているかのように光っている。
右腕は赤い鋏。甲殻類のような硬さが見ただけで分かり、蟹のような突き出た眼が青く光っている。
更に、腹部にもまた顔のようなものが埋め込まれているのだった。これまた青い眼が一対ギラリと光っている。
エックス『なんだこいつは……!』
未央『プロデューサーも知らない?』
エックス『……いや、見覚えがある。だがそれは個々の部位においてだ』
未央『つまり……』
エックス『こいつは、合体怪獣……!』
417: 2016/04/29(金) 19:37:22.20 ID:rjrsmZLi0
卯月「未央ちゃん……」
卯月たちが会場から出るとちょうど未央が変身していたところだった。
怪獣と対峙するエックスを不安そうに見守る。そこへ――
ちひろ「みんな! 早く避難しないと!」
ちひろが息を切らしながらやってきた。
珠美「で、ですが……」
ちひろ「! プロデューサーさん、怪獣と戦うんですね……」
巨大化したプロデューサーの姿を認めてちひろはそう言った。
しかしそれとこれとは別だ。戦闘の煽りを食わないように避難させなければ。そう思い、皆に告げようとした時だった。
418: 2016/04/29(金) 19:38:34.26 ID:rjrsmZLi0
ちひろ「……未央ちゃんは……?」
卯月「あっ……」
ちひろ「…………」
皆の顔を見渡すが、不思議そうにしているこずえ以外はみな俯いて口を開かない。
その時不意にちひろの脳裏に蘇る記憶があった。テンペラー星人が東京に飛来した時のことだ。
ボロボロになっているのを医務室に運び込まれた凛。
それは飛んできた瓦礫に襲われたとのことだったが、あの冷静沈着な凛が戦闘現場にのこのこ出るなんてあり得るだろうか。
また、裕子の時もそうだ。
彼女の学校で起こっていた事件に巻き込まれたと説明されたが、あんな深夜に一緒に帰ってきたのは――
ちひろ「もしかして――」
目を見開いてエックスの背中に目を向ける。
ちひろ「まさか……」
419: 2016/04/29(金) 19:39:05.46 ID:rjrsmZLi0
怪獣「――グオオオオオン!!!」
エックス「!」
怪獣が雄叫びを上げ、こちらに歩んでくる。
一歩一歩が重く、大地を鳴動させる。既にへし折られた木々を粉々に踏み砕いていく。
エックス「ハァァ――セヤァッ!!」
エックスがファイティングポーズを取り、怪獣に向かっていく。
エックス「デェヤッ!」
勢いをつけて胸にパンチする。
しかし怪獣は全く怯む様子を見せなかった。右手の鋏を振り回す。
420: 2016/04/29(金) 19:39:34.03 ID:rjrsmZLi0
エックス「ハッ! ――セヤァッ!」
それを屈んで躱し、今度は組んだ両手をハンマーのように叩きつける。
怪獣「ギャォォォォン!!!」
しかしそれでも怪獣は応えなかった。返す刀で鋏がエックスの首に叩きつけられる。
エックス「デアア……ッ!」
横方向に吹っ飛ばされるエックス。
首を振りながら立ち上がろうとする。視界に入った怪獣、その頭部の二対の眼が爛々と輝いていた。
エックス「!」
怪獣「ピギャァァァオオン!!」
兜と顔の間、額に当たる場所から金色の太い光線が放たれる。
咄嗟にエックスは両腕を身体の前に構えた。青白いバリアが形成され、光線がそれに激突する。
421: 2016/04/29(金) 19:40:01.75 ID:rjrsmZLi0
怪獣「グオオオオオオン!!!」
エックス「グッ……!!」
怪獣「ピギャグァァオオオァオオン!!!」
怪獣の声量が高まると同時に光線の勢いが強まる。
バリアに罅が入る。ひとたび亀裂が入れば後は早かった。光線が一気にバリアを突き破り、エックスの身体を襲った。
エックス「デアアアッ!!」
エックスの身体が後方に吹っ飛ばされる。
怪獣「グオオオオオオン……」
光線が炸裂した胸部を中心として全身が痛むが、迫ってくる怪獣の低い唸り声を耳にしてエックスは身体を起こした。
422: 2016/04/29(金) 19:40:31.68 ID:rjrsmZLi0
エックス「――ハァァッ!!」
一度地面をドン、と叩き、怪獣に突進する。
その足元に怪獣は鋏を開いて向けた。
怪獣「ギャォォォォン!!」
するとその間から白い煙のようなものが噴き出た。
エックス「グッ――!?」
突然足が動かなくなって、エックスがつんのめる。咄嗟に出した右手で身体を支えるが、左足は変わらず動かない。
見ると、足が凍って地面と接着していた。
怪獣「アオオオオオン!!」
怪獣が両手を広げ、腹部を開示する。そこに埋め込まれた顔から今度は光弾が乱射された。
423: 2016/04/29(金) 19:40:58.97 ID:rjrsmZLi0
エックス「デェヤッ!」
すぐさまバリアを展開するが、数発はその外側から急カーブを描いてエックスを襲った。
集中が途切れ、バリアが消える。放たれた全弾が動けないエックスの身体に命中する。
未央『く……うぅぅ……っ!!』
歯を食いしばり、未央がデバイスにカードをセットする。
『サイバーゼットン ロードします』
ゼットンの体躯を模し、黒を基調としたアーマーがエックスの上半身に纏われていく。
『サイバーゼットンアーマー アクティブ!』
424: 2016/04/29(金) 19:41:26.48 ID:rjrsmZLi0
エックス「セェヤッ!」
エックスはすぐさまゼットンシャッターを使い、どの方向からの光弾も全て遮断した。
そしてそのバリアを纏ったまま回転を始める。その勢いで足元の氷が砕け、足が自由になる。
未央『――ゼットントルネーーーード!!!』
エックス「イィッ、サァーーッ!!!」
飛び上がったエックスが旋風を纏いながら怪獣に突撃する。しかし――
怪獣「ピギャァァァオオン!!」
怪獣が翼を大きく広げた。地面を蹴り、素早く飛び立つ。エックスの突撃が躱されてしまう。
エックス「――ハァァッ!」
しかしエックスも黙ってはいない。旋回して方向転換し、怪獣を追尾する。
すると怪獣もまた旋回した。両者が共に相手目掛けて空中を突き進んでいく。
425: 2016/04/29(金) 19:41:53.91 ID:rjrsmZLi0
怪獣「ピギャグァァオオオァオオン!!!」
突進しながら怪獣が光線を放つ。しかしゼットントルネードはそれを裂いた。
両者止まらず、遂に激突する。凄まじい衝撃が地上にまで押し寄せ、突風が吹き荒れ、森をざわめかせる。
美波「っ……」
目を開けていられないどころか立っていることすらままならなかった。
美波はこずえを抱き締めながらしゃがみ込む。他のみなも同じようにして風を耐えた。
しばらくするとようやく風が収まった。すぐさま立ち上がって空を見上げるが、そこにはもう何もない。
と、その時。ドオオオオン!! という轟音と共に地面が大きく揺れた。
裕子「な、何が……っ!」
ゆかり「――プロデューサー!」
426: 2016/04/29(金) 19:42:31.76 ID:rjrsmZLi0
輝子「うっ……」
輝子が思わず息を呑む。エックスが地面に倒れていた。
その上からバラバラになったアーマーが落ち、地面に到着する前に粒子になって消滅した。
怪獣との激突に敗れたのはエックスの方だった。
激突の寸前に放たれた光線。エックスは確かにそれを弾き飛ばしたが、それによって突進の勢いが削がれてしまっていたのだ。
卯月「――未央ちゃんっ!!」
卯月が叫ぶのを聞いて、ちひろは全身がぞっとすると同時に、腑に落ちた。
ちひろ(やっぱり……未央ちゃんが戦ってるのね……。プロデューサーさんと一緒に……)
ちひろの視界に映るエックスの背中。
よろよろと立ち上がって怪獣に対峙する様は痛々しく、追い打ちをかけるようにカラータイマーが鳴り始めた。
427: 2016/04/29(金) 19:42:59.31 ID:rjrsmZLi0
未央『はぁ、はぁ……』
エックス『未央……大丈夫か……』
未央『ぜ……全然へーき……』
エックス『…………』
しかしその声は憔悴しきっていた。エックスも苦悩する。この怪獣は今までの敵とは比べ物にならない。
このままだと未央の身が危ない。どうすれば倒せる――そう考えていたところだった。
エックス「! グアアアッ!?」
突然背中に衝撃が走った。振り向くと、それは怪獣の方へ飛んでいく。
もう一度怪獣に顔を向ける。その巨体の周りに小さな目玉のようなものが四つ、ふわふわと浮かんでいた。
未央『なに……?!』
428: 2016/04/29(金) 19:43:27.25 ID:rjrsmZLi0
目玉「ケケケケケケ!!」
けたけたと笑いながら目玉が再び飛んでくる。それぞれが放った紫色の怪光線がエックスの全身を覆った。
未央『――うああああああああっっ!!??』
頭の中に謎の呪詛が流れてくる。様々な言語や言葉が混じり合い、聞き取れそうで聞き取れず、神経を逆撫でする呪詛。
未央=エックスは耳を塞ぐも、それは絶えず聞こえてくる。音量も変わらない。むしろ増しているようにすら聞こえた。
エックス「グ……ッ!! グアアアアッ……!!」
怪獣「ギャォォォォン!!」
怪獣が右手の鋏を突き出すと、その間から火炎弾が連発された。
悶え苦しむエックスに肉体的苦痛が加わる。火の粉が飛び散り、辺りの木々を炎上させていく。
429: 2016/04/29(金) 19:43:55.10 ID:rjrsmZLi0
未央『がっ……あ、あぁぁ……! こ、こんのぉ……っ!!』
震える手でサイバーカードをセットする。
右腕に砲身を備えたサイバーエレキングアーマーがエックスの身体に装着された。
『サイバーエレキングアーマー アクティブ!』
エックス「テェヤッ!!」
宙に浮かぶ目玉を砲身から伸ばした電撃鞭で薙ぎ払う。
怪光線から解放されたエックスは疲弊した身体で砲身を構え、アーマーの力を解放した。
エックス「「――エレキング電撃波!!」」
怪獣「グオオオオオオオオン!!!」
怪獣の額から光線が発射され、電撃波と激突する。
だがカラータイマーも点滅している現状では押し勝つことなど不可能だった。途中で電撃波の線が細くなり、糸のようにぷつんと途切れた。
430: 2016/04/29(金) 19:44:22.97 ID:rjrsmZLi0
エックス「ハァァ……ッ」
怪獣の光線を砲身で受け止め、振り払う。同時にアーマーの限界が訪れ、光と共に霧散した。
未央『光線がダメなら……!』
『サイバーゴモラ ロードします』
今度は青いアーマーが装着される。
両腕に「G」の文字があしらわれたゴモラアーマー。厚い装甲を持ったこのアーマーで接近戦に持ち込む作戦だった。
『サイバーゴモラアーマー アクティブ!』
エックス「デェヤッ!!」
夜の森に揺らめく炎に巨大な爪を光らせ、エックスが突進する。
431: 2016/04/29(金) 19:44:56.25 ID:rjrsmZLi0
怪獣「ギャォォォン!!」
振り回された鋏を左のアームアーマーで受け止める。
その場でジャンプし、落下の勢いと共に爪を頭部に振り下ろす。
怪獣「ピギャァァァオオン……」
流石にこれは応えたようで、怪獣が二、三歩後ずさりする。
いける――そう思った瞬間。
怪獣「アオオオオオオオン!!!」
腹部の顔から光弾が放たれたのだ。
ちょうどアーマーの胸部が防御してくれたが、その衝撃でこちらも後ずさりを余儀なくされる。
怪獣「ギャォォォォォォン!!!」
その隙を狙って鋏の間から青白いビームを放つ。エックスの身体が更に押される。
432: 2016/04/29(金) 19:45:28.10 ID:rjrsmZLi0
怪獣「ピギャグァァオオオァオオン!!!」
額からの光線がトドメとなった。アーマーが粉砕され、エックスの身体が後方に押される。
未央『くっ……!』
このままだとまずいのは火を見るより明らかだった。
未央がサイバーカードをセットすると、紫色の鋭利な形状をしたアーマーが装着された。
『サイバーベムスターアーマー アクティブ!』
エックス「イィッサァッ!!」
身体を押す光線を盾で受け止め、吸引口に吸収する。
光線が収まったところで盾を翻し、地面に突き立てた。
エックス「「――ベムスタースパウト!!」」
逆流する光線。それが怪獣を襲おうとしたその時――
433: 2016/04/29(金) 19:45:56.44 ID:rjrsmZLi0
怪獣「ケケケケケケ!!」
怪獣が左腕の目玉を盾にした。すると、光線がエネルギーになり、その上にくるくると回転し始めた。
エックス「!」
怪獣「グォケケォケケォケケォケケ!!」
けたたましい笑い声と低い唸り声が混ざったような雄叫びを上げながら怪獣がそれを突き出す。
再びエネルギーが光線に変わり、エックスに向かった。ベムスターアーマーの盾を身体の前に翳す。
エックス「ハァァ――ッ!!」
またしても光線を吸い込もうとするが、怪獣には読めていた。
左腕のところどころに埋め込まれた目玉。それらが飛び出し、エックスに体当たりしたのだ。
エックス「グッ――」
腕に攻撃を受けて盾が光線の射線から外れる。光線は放たれたままだ。エックスに直撃し、その全身を呑み込んだ――
434: 2016/04/29(金) 19:46:23.81 ID:rjrsmZLi0
――そう思われた、次の瞬間。虹色の光芒が一閃したかと思うと、光線が真っ二つに斬り裂かれた。
エックス「デエヤッ!!」
勇猛な声が響く。弾き飛ばされた光線が背後に着弾し、巨大な爆炎となって立ち昇る。
逆光となったエックスの体躯。虹色のラインが全身に入る、エクシードエックスに変貌していた。
未央『はぁ……はぁ……』
エックス『行くぞ……未央……!』
未央『うん……!』
手にしていたエクスラッガーを逆手に持ち、ブーストスイッチで伸長させ、地面に突き立てる。
虹色のトンネルが形成され、エックスと怪獣を包み込む。
エックス「「エクシード――――エクスラッシュ!!!」」
エクスラッガーを抜いて飛び立ち、それを構えて突撃する。
435: 2016/04/29(金) 19:46:51.00 ID:rjrsmZLi0
怪獣「ピギャァァァオオン!!」
怪獣が額から光線を放つ。エックスと激突する。
エクスラッガーが光線を斬り裂いていく。段々と勢いを落とされつつも、着実に怪獣の元に近づいていく。
エックス「――デアアアアアッ!!!」
あと少し。あと、数十メートル。もう少しで剣が届く。
しかしエックスの勢いが止まる。光線の勢いと、完全に拮抗する。
未央『――ああああああああっっ!!!』
最後の力を振り絞る。反重力を形成する足裏で宙を蹴りつける。
剣の柄を握る手を強くする。身体がバラバラになってしまいそうだ。歯を食いしばってそれに耐える。
436: 2016/04/29(金) 19:47:18.41 ID:rjrsmZLi0
エックス「ジュアアアアアアア……ッッ!!!」
じりじりと前進する。引き裂かれた光線の衝撃波が肌を切りつける。
全ての痛みと、苦しみに耐える。諦めかける心に鞭を打つ。
未央『――届けえええええええええっっ!!!』
エクスラッガーの刀身が輝きを増す。
想いを形にする剣。未央の心の強さが剣を強くする。
エックス「イィ――――サァァァァッ!!!」
手応えがあった。剣がぐいっと前に出る。抵抗が緩まる。
――届く。行ける。このまま――このまま、突き進める――!
437: 2016/04/29(金) 19:48:12.80 ID:rjrsmZLi0
――その時だった。
怪獣「ケケケケケケ!!」
そんな、嘲笑うかのような声がしたかと思うと。
剣にかかる抵抗が、盛り返した。
未央『えっ――』
剣が前に進まない。肌に当たる衝撃が不自然に苛烈になる。光線が、勢いを増している。
未央『何で――』
剣が押され始める。体勢が崩れる。
未央『何で――!』
次の瞬間、光線がエックスの身体を呑み込んだ。
未央『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーっ!!!!』
未央の目に映った最後の光景――
手にしたエクスラッガーの刃が、ぼろぼろと毀れていく。
虹色の光が閃き、やがて、風に流される砂のように、どこへともなく消えていった。
438: 2016/04/29(金) 19:48:41.33 ID:rjrsmZLi0
一方、ちひろたちの視点からは――
ちひろ「…………!!」
一際太い光線が虚空を切り裂いていった。
辺りが静穏に満ちる。パチパチという木の燃える音が、微かに聞こえるのみ。
光線が消えたあとに、エックスの姿はなかった。
呆然として、首も動かせなくて、目だけで辺りを見回すが、どこにもその存在が見えない。
誰しもが言葉を失って、息を詰めて、目の前の光景と対峙していた。
怪獣「グオオオオオオン!!」
怪獣の雄叫びが森を騒然とさせ、空気を震撼させる。
くるっと背を向け、再び元の進行方向へ戻った。
439: 2016/04/29(金) 19:49:10.01 ID:rjrsmZLi0
その足元――
炎に包まれた森の中に、ドレス姿の少女が倒れていた。
ぴくりとも動かない指。目は深く閉じられ、顔面は土色、僅かに空いた口が行う呼吸も微弱――
そのそばに、デバイスが転がっていた。
エックス『み、未央……』
ノイズが混じった声。
エックス『しっかりしろ……目を覚ませ……!』
だが、その言葉に少女は答えない。
やがて、デバイスからの呼び掛けも途絶えた。
森は再び、崩れゆく木々の音に支配された。
440: 2016/04/29(金) 19:50:20.79 ID:rjrsmZLi0
科学技術館、江戸城を破壊した後、怪獣は都内において五時間もの間、暴虐の限りを尽くした。
国会議事堂、国立国会図書館、国立競技場、明治神宮、346プロ本社。
日本銀行本店、東京証券取引所、東京タワー、諸大学施設、レインボーブリッジ、スカイツリー。
雷門、東京ビッグサイト、秋葉原電気街、上野動物園――数え切れないほどの施設を破壊し尽くした。
だがここに挙げられているのはほんの一握りだ。
怪獣はその飛行能力と無尽蔵のエネルギーを以てして、降り立った千代田区から半径10㎞余りを蹂躙した。
当然、都市機能はストップ。政治・経済両面において深刻なダメージが日本を襲うことが確実視された。
日付が変わる頃、怪獣は北の丸公園に戻り、突如として次のような宣言をした。
『私の名はチブル星人「ウィジュー」。この怪獣「ファイブキング」と一体化した宇宙船の中にいます』
『今夜の襲撃はほんの余興に過ぎません。本気を出せば、日本はおろか地球上の全ての人類を消し去ることもできるでしょう』
『しかしそんな野蛮で愚劣な侵略はしない主義です。これより三時間の間に私に降伏し、地球の全支配権を渡すと約束すれば命は助けてあげましょう』
『それでは御機嫌よう。いい返事を期待していますよ』
そして再び空の彼方に飛び立っていった。
441: 2016/04/29(金) 19:50:58.82 ID:rjrsmZLi0
怪獣が通った場所は例外なく火の海となったが、ひとたび重低音の叫びを響かせると蝋燭の火の如くあえなく鎮火し、街は原始時代の夜に回帰した。
皮肉にもそれによって満天の星空は澄み切った上空に出現し、煌々と輝き、地上に光をもたらした。
だがそれを見上げる者は誰もいない。
地下の避難シェルターに身を潜め、面を下げ、懊悩と沈痛に満ちた表情を湛えるのみ。
ある者はこの先に待ち受ける絶望的な未来に、ある者は家族を、友人を、恋人を喪った悲しみに、或いはそれら全てがないまぜとなった悲痛に身を浸していた。
そう、この襲撃によって夥しい数の命が奪われた。自殺者や迎撃に出た陸自・空自の戦氏者を含め氏者は優に1万人を超えると見られ、負傷者多数。なお、両方とも正確な数は未だ不明である。
幸いと言っていいのか、346プロのアイドルたちに氏者はいなかった。
重軽傷者合わせて26名。――そして。
今なお意識不明の重体者、1名。――本田未央。
第八話 おわり
442: 2016/04/29(金) 19:51:53.00 ID:rjrsmZLi0
≪次回予告≫
「ウルトラマンも、独りじゃ戦えないんですよ」
「下を向いてたら、どんな可能性も見えてこないんです!」
「今こそ、大人の責任を果たすときです」
「プロデューサーさん……。私、夢を見たんです……」
「共に行こう! ――みんなでユナイトだ!!」
「――エックスーーーーーーーっ!!!!」
次回、ウルトラマンXP最終話 『君と僕の絆』
447: 2016/04/30(土) 18:19:03.84 ID:TBEaJjTa0
最終話 『君と僕の絆』
―――病院
二時間前のファイブキングの襲撃で怪我人がごった返す病院。
未央はそこの集中治療室に搬送されていた。
未央「…… …… ……」
酸素マスクを取り付けられ、腕からはそばの機械に何本かケーブルが伸びている。
ちひろ「…………」
ガラス越しにそれを見ていたちひろの表情は暗いものだった。
しかし働かない者がいつまでも突っ立っていると邪魔になる。それほど病院は今てんやわんやの状況なのだ。
ちひろ「……また来ますね。未央ちゃん」
病院を出るちひろ。原始時代の闇に沈んだ夜の街は静まり返り、猫の子一匹いない。
そんな風景を見てちひろは嘆息せずにはいられなかった。街と言っても、もう原型すらないのだ。
448: 2016/04/30(土) 18:19:50.70 ID:TBEaJjTa0
どこを見渡しても崩れた瓦礫だけ。大量のそれが堆く積み上がり、電柱や信号は折れ、車は押し潰されてひっくり返っている。
そんな夜道を歩きながらちひろは空を見上げた。砕いたダイヤモンドをばら撒いたような満天の星空が天高く広がっている。
南天にうっすら見えるアンドロメダ銀河。
西に目を移すとアルタイル、デネブ、ベガが夏の大三角を描いている。
ちひろ「……綺麗だなぁ……」
この状況でそんな感慨を持つのは甚だ奇妙なものだと思う。
だけどどこかしら悟ってしまったのか、感覚が麻痺しているのか、ちひろはそう思った。
ちひろ「でも、誰も見ないんでしょうね……」
こんなにも綺麗な星が、確かにそこにはあるのに。
絶望に沈んだこの街の人々は誰もそれを見ようとはしないだろう。
449: 2016/04/30(土) 18:21:07.84 ID:TBEaJjTa0
ちひろ「……ね、プロデューサーさん」
ふとそう言ったが、腰に下げたデバイスから返事はなかった。
あの戦いの後、エックスは画面に姿を現さない。この中がどうなっているのかわからないためどうとも言えないが、恐らくは甚大なダメージが彼にも影響を与えているのだろう。
ちひろ「…………」
いや、それすら希望的観測だ。
あれきりエックスからは何の音沙汰もない。普通に考えれば――そこまで考えて、ちひろはかぶりを振った。
ちひろ(……帰りましょうか)
無論、自分の家にではない。地下納骨堂のような重く暗い雰囲気に沈んだ――避難シェルターにだ。
450: 2016/04/30(土) 18:21:36.41 ID:TBEaJjTa0
―――地下・避難シェルター
凛「ちひろさん」
シェルターに戻ってきたちひろの姿を認めて、凛が駆け寄ってきた。
ステージからそのまま避難したので純白のドレス姿のままだ。
凛「未央は?」
冷静そうに振る舞ってはいるが、声は微かに震えていた。
安心させられるように、優しい声でちひろは答える。
ちひろ「まだ目は覚めてません。でも小康状態に入って、落ち着いているみたいですよ」
凛「そっか……。プロデューサーは?」
苦笑を浮かべながら、首を振る。
451: 2016/04/30(土) 18:22:43.19 ID:TBEaJjTa0
ちひろ「まだお疲れみたいです」
凛「……うん。そうだよね」
凛もまた苦笑を返す。彼女もわかっているのだとちひろは悟った。
それでいて、自分を保つために希望的観測を信じている。
それが良いことかどうかは分からない。現実から目を逸らしているだけかもしれない。
でも、シェルターに満ちる負の空気を吸うと、彼女のような姿勢の方が好ましく感じられるのだった。
希望はきっとある。ただ、それを見ようとしていないだけで。
ちょうど、美しく輝く星々に誰も目を向けないように。
452: 2016/04/30(土) 18:23:10.45 ID:TBEaJjTa0
ちひろ「みんなはどうしてますか?」
凛「配給の手伝いをしてる。私も戻ろうかな」
ちひろ「偉いですね。感謝されてるんじゃないですか?」
それにも凛は苦笑で返した。
凛「ファンの人もいて、そういう人から感謝はされたけど」
凛はそこで言葉を切って、首を振った。
媚びを売っているとでも言われたのだろうか。アイドルをそういう目で見る人も少なからず存在する。
453: 2016/04/30(土) 18:23:42.10 ID:TBEaJjTa0
ちひろ「……状況が状況ですから、仕方ないですよ」
凛「そうだね。……じゃあ私は戻るから」
ちひろ「はい。頑張ってくださいね」
凛「ちひろさんは?」
ちひろ「私は他部署のプロデューサーさんたちに会って話をしてこようと思います」
凛「うん、わかった。みんなにもそう言っとく」
別れようとした時、女の子の泣き声が聞こえてきた。
何かに気付いたらしく、凛が駆け足でその方向へ行く。少し迷ったがちひろもその後を追った。
454: 2016/04/30(土) 18:24:10.94 ID:TBEaJjTa0
母親「ねえ、これだけしかないの?」
卯月「ごめんなさい。他の方の分もあるので、これで我慢してくれませんか?」
二人が着くと、親子連れが配給の列に並んでいるところだった。
小学生の低学年くらいだろうか、娘の方がわんわんと泣き声を上げている。
娘「うちに帰りたいよぉ……」
母親「泣かないの。仕方ないでしょう?」
娘「ねえ、何でウルトラマンは来てくれないの?」
会話を聞いていた凛や、目の前にいた卯月や、そばのアイドルたちが表情を強張らせた。
そんなことも知らず、母親が無神経に答える。
母親「来たわよ。それで負けたんだって、ラジオで言ってたわ」
娘「ウルトラマン、氏んじゃったの……?」
母親「……さあ。でも、もしかしたら――」
続く言葉を、卯月の声が遮った。
455: 2016/04/30(土) 18:24:38.53 ID:TBEaJjTa0
卯月「大丈夫ですよ」
少女の顔を覗き込んで、にっこりと笑いながら、彼女は言った。
卯月「ウルトラマンは、また来てくれます。そして、今度は勝ってくれます」
娘「ほんと?」
卯月「はい」
少女に笑顔が戻ろうとしたが、そこへ不機嫌そうな声が挟まった。
母親「どうだか……」
卯月「え?」
456: 2016/04/30(土) 18:25:20.37 ID:TBEaJjTa0
母親「どうせまた出て来ても負けちゃうんじゃないの? まるで歯が立たなかったって聞いたけど」
卯月「そんな――」
母親「いい? あの怪獣がまた来るのにもう一時間もないの。あんまり無責任なことばかり言わないで」
卯月が息を呑む。凛とちひろは不安そうにその光景を眺めていた。
少女を含む列の前後の人間もそうだ。その言葉を聞いて、より一層表情の影を濃くする。
卯月「…………」
卯月は一度目を閉じてから、また開いて、母親の顔をきっと見据えた。
卯月「――ウルトラマンも、独りじゃ戦えないんですよ」
母親「は……?」
457: 2016/04/30(土) 18:25:54.01 ID:TBEaJjTa0
卯月「……私たちアイドルがファンの皆さんに力を貰っているように、人と人は繋がって生きてます」
ぎゅっと胸の前で拳を握り、卯月は瞼を下ろした。
卯月「それはウルトラマンだって同じです。誰もが諦めて下を向いてたら、ウルトラマンだって戦えない」
凛「……卯月」
卯月「だから――私たちは上を向かなきゃいけないんです。それがきっと――」
母親「ふざけないで!」
弾かれたように、卯月が目を見開く。
母親「あなたに何がわかるの!? こんな状況で、そんな綺麗ごとばかり言って!」
「……そうだよ。俺たちが何をしたって……」
「あと数十分で怪獣が再来して、俺たちもいぶり出して、それで――」
周りの人間たちも口々と重い口を開く。中には八つ当たり気味に卯月を責める声も混じった。
ちひろの足が自然と一歩前に出た時、
458: 2016/04/30(土) 18:26:24.64 ID:TBEaJjTa0
卯月「――わかります!」
卯月の声が響いて、周囲のざわめきが静まった。
たじろぎながら母親が言う。
母親「わかるって……何が」
卯月「ウルトラマンは……ウルトラマンエックスは、私たちのプロデューサーです」
周囲が再びざわめき出す。少し驚いたようだったが、母親は声を荒げて反論する。
母親「だから何! それで何がわかるの!」
卯月は少し口籠ったが、言葉を続けた。毅然とした口調だった。
卯月「プロデューサーさんが巨人の姿になって戦うために、私たちは身体を貸して変身していました」
人の群れに動揺が走る。母親も流石にそれには面食らったようで、呆然としている。
459: 2016/04/30(土) 18:28:12.36 ID:TBEaJjTa0
卯月「だから、わかるんです。ウルトラマンも万能じゃない……心を持った命なんだって」
凛「時には失敗もするし――」
ちひろが気付くと、凛が前に進んでいた。
卯月の隣には他のアイドルたちが集まってきている。
美波「戦闘中でも慌てたり、ちょっと間の抜けたことをしちゃったりもしますし――」
ゆかり「でも、誰よりも優しくて――」
輝子「誰よりも強くて……」
珠美「――こちらの方が支えられたりもしました」
裕子「卯月ちゃんの言う通りです。だからこそ、私たちが諦めちゃダメなんです!」
卯月「私たちにできることは限られてるかもしれません。でも、それでも上を向かなきゃ何も始まらない」
卯月が顔を上げる。薄暗い電灯の下、濡れた瞳を、まるで星空を宿したように輝かせながら――
卯月「たとえ絶望的な未来が見えているとしたって――下を向いてたら、どんな可能性も見えてこないんです!」
460: 2016/04/30(土) 18:28:39.84 ID:TBEaJjTa0
ちひろ「…………」
ちひろは人の輪の外から、その光景を眺めていた。
同時に気付いた。やはり彼女たちはアイドルだ。人の心を揺り動かし、惹きつける力を持ったアイドルなのだと。
この場の空気が変わったことをちひろは感じ取っていた。
絶望的な状況は何も変わっていない。確かに自分たちにできることなんて何もないかもしれない。
それでも、下を向いていたら何も始まらない。卯月の言葉は確かに皆の心に響いていた。
ちひろ「……?」
その時だった。腰に下げていたデバイスの画面がぼんやり光っていることにちひろは気付いた。
慌ててデバイスを取り上げる。画面に虹色の光が満ち、それがひとつの形を作っていく。
ちひろ「……プロデューサー……さん……」
それは、エックスの顔だった。
461: 2016/04/30(土) 18:29:09.18 ID:TBEaJjTa0
エックス『……ちひろさん……なのか……?』
ちひろ「プロデューサーさん。戻ってきてくれたんですね……!」
エックス『……あの時か』
ちひろ「え?」
エックスは先の戦闘のことを思い出していた。
エクシードエクスラッシュが敗れ、エクスラッガーが砕け散った時だ。
粉々になり、どこかへ消えた粒子。それがエックスの体内に取り込まれていたのだ。
エックス『だから、皆の希望の力が形となって、私を呼び戻してくれた』
ちひろ「……プロデューサーさん」
ちひろは反転して、その場を去った。
そのままずんずんとシェルターの出口に向かう。
462: 2016/04/30(土) 18:30:14.58 ID:TBEaJjTa0
エックス『ちひろさん?』
ちひろ「聞きたいことは山ほどあります。どうしてみんなの身体を借りていたことを私に内緒にしていたのか、とか」
エックス『うっ……それは……』
ちひろ「ですけど、話は後です」
シェルターを後にし、地上に出る。
まだ暗い夜空。無数の星たちのちらちらとした瞬きが降り注いでいた。
ちひろ「私にも責任があります。本来、みんなを守らなきゃいけない立場なのに、ひとり安全な場所でのうのうとそれを眺めていたんです」
エックス『だが、それは……』
ちひろ「――今こそ、大人の責任を果たすときです」
腕時計に目を落とす。夜光針が午前三時を指していた。
それほど遠くない空、星を塗り潰すようなどす黒い影が浮かんでいるのが見える。それが急速に巨大化するのがわかる。
463: 2016/04/30(土) 18:30:43.98 ID:TBEaJjTa0
エックス『……私とユナイトして戦うつもりなのか』
ちひろ「私とも絆はあるでしょう?」
エックス『……ああ。ちひろさんとは、他のみんなとは少し違った形だが――確かに存在している』
ちひろ「――ちひろ」
エックス『えっ?』
ちひろ「今から一緒に戦う仲になるんです。呼び捨てでお願いします」
エックス『……ち、ちひろ……』
ちひろ「はい」
ちひろは満足げに笑った。
464: 2016/04/30(土) 18:32:23.50 ID:TBEaJjTa0
ファイブキング「グオオオオオオオオオオン!!!」
ファイブキングの雄叫びが夜空に響き渡る。大気がびりびりと震撼し、この場まで伝わってくる。
着地と共に地響きが鳴る。盛大に土埃が立ち上がり、吹き荒れる突風に飛ばされ流される。
その風はちひろの元まで届き、その頬を辻斬りし、前髪を、三つ編みのおさげを乱した。
しかし顔は決して逸らさない。デバイスを手に、怪獣を真っ直ぐに見据える。
ちひろ「行きましょう。プロデューサーさん」
エックス『――よし。行くぞ、ちひろっ!!』
ちひろがデバイスをXモードに変形させる。
出現したスパークドールズを勢いよく掴み、デバイスにリードする。
『ウルトラマンエックスと ユナイトします』
デバイスから青白い電光が周囲に放散される。
かっと目を見開き、すうっと息を吸って、突風の音に負けない声でちひろは叫んだ。
ちひろ「――エックスーーーーーっ!!!」
掲げ上げたデバイスからX字の光が放たれる。彼女の身体を包み込み、その姿を生まれ変わらせる。
銀色の巨人。眩き閃光を切り裂きながら、腕を突き出し現れる。
エックス「――イーーーッ、サァーーーーッ!!!!」
『エックス ユナイテッド!』
465: 2016/04/30(土) 18:33:04.83 ID:TBEaJjTa0
進攻を始めようとしていた怪獣の前。瓦礫の山を踏み砕きながらエックスが降り立った。
巻きつけられた旋風が辺りに吹き荒れる。青白い電光が撒き散らされ、漆黒の虚空に溶け消える。
エックス「ハァァ――――」
エックスが立ち上がる。ゆっくりと腕を構え――
エックス「――――セェヤァッ!!」
掛け声と共に、決戦の火蓋を切った。
ファイブキング「グオオオオオオオオン!!!」
ファイブキングの額から光線が放たれる。エックスは横っ飛びでそれを躱しざま、Xダブルスラッシュを放つ。
ファイブキング「アオオオオオオオン!!」
しかし腹部から乱射された光弾に相殺された。どころか、残りの光弾が大量に飛んでくる。
466: 2016/04/30(土) 18:34:06.98 ID:TBEaJjTa0
エックス「テヤァッ!」
手刀で最初の一発を叩き落とす。
エックス「ハァッ! セヤァッ、デェアッ!!」
肘で、拳で、足で、光弾をはたき落とす。
その間にファイブキングは攻撃の態勢を整えていた。額に溜めたエネルギーを光線として発射する。
エックス「――イィッサァッ!」
バリアを張ってそれを防ぐ。しかし防ぎきれないということは先の戦いでわかっていた。
右手でバリアを支えながら、左手を胸に翳し、振り下ろす。
エックスの全身に虹色の光が纏い、それが弾けると共にエクシードエックスの姿となった。
467: 2016/04/30(土) 18:34:37.23 ID:TBEaJjTa0
エックス「ハアア――!!」
左手を額に収まったエクスラッガーに滑らせる。
バリアが割られる。同時に、エックスの額からも光線が発射された。
ちひろ『――エクスラッガーショット!!』
エックス「――デエヤァッ!!」
虹色に輝く光の奔流がファイブキングの光線を押し返す。
ファイブキング「ピギャグオオオァァオオオァァオン!!!」
ファイブキングが光線の勢いを強める。しかし、エクスラッガーショットは止まらない。
とうとう怪獣の頭部に炸裂した。爆発が起こり、その熱量によって額が抉れた。
ファイブキング「ピギャァァァァァグオオオオオオオン……!!!」
468: 2016/04/30(土) 18:35:07.71 ID:TBEaJjTa0
―――避難シェルター
一方、避難シェルター。
配給所には未だに人が大勢集まっていた。そこへ――
「エックスが来たらしいぞ!!」
男の声が響いた。耳にはイヤホンが差さっている。
命知らずの物好きが外へ出てエックスの戦いを実況し、それをラジオに乗せていた。それを聞いているのだ。
「戦況は!?」
「今のところエックスが押してるらしい! 怪獣の頭にダメージを負わせたって!!」
人々が一斉に興奮に沸く。
アイドルたちも例外ではなかったが、その一方で首を傾げていた。
469: 2016/04/30(土) 18:35:40.27 ID:TBEaJjTa0
美波「みんな……いるわよね」
卯月、凛、こずえ、ゆかり、珠美、美波、輝子、裕子。
入院中の未央以外の『United 9』メンバーは全員この場にいる。
ならば、いったい誰がプロデューサーとユナイトしているというのか――
凛がいち早くある可能性に思い至って、背後を振り返った。
凛「まさか……ちひろさん……!?」
どこに視線を送ってもちひろの姿がない。
あまりに予想外のことだったが、
卯月「きっとそうです!」
両手をぱちんと合わせて卯月が言った。
卯月「ちひろさんも、ずっと私たちと一緒にいた仲間ですから……!」
その言葉に、凛も納得の表情で頷いた。
珠美「ちひろさん……必ずや勝利を……!」
470: 2016/04/30(土) 18:36:46.45 ID:TBEaJjTa0
―――千代田区三番町
ファイブキング「ギャォォォォン!!」
エックスとファイブキングの戦いは接近戦に突入していた。
振るわれた鋏を何とか抑え込むが、腹部の顔が光っているのを察知して氏角に回ろうとする。
ファイブキング「グオオオオオオン!!」
するとファイブキングが回転した。尻尾がエックスの胸部に叩きつけられ、跳ね飛ばされる。
地面に倒れると同時にすぐさま後転する。顔を上げると、腹部からの光弾が迫っていた。
エックス「ハアアア――セェヤッ!!」
立ち上がりながらエックスもまた素早い動きで光刃を連射する。
精密なコントロールで放たれたそれらは光弾と相頃した。
471: 2016/04/30(土) 18:37:14.13 ID:TBEaJjTa0
ファイブキング「グオオオオオオオン!!!」
怒りに全身を震わせるファイブキング。
ちひろ『……っ!』
ちひろが改めて気を引き締めた時だった。
ちひろ『……! これは……?』
突然、宙にサイバーカードが出現したのだ。
赤く光る「ウルトラマン」。青く輝く「ウルトラマンティガ」。その二枚が。
472: 2016/04/30(土) 18:37:43.38 ID:TBEaJjTa0
エックス『ちひろ。君の戦いが皆に希望を与えているんだ。これは、その結晶だ!』
ちひろ『私が……』
エックス『行くぞ、ちひろ!』
ちひろ『――はい!』
そのサイバーカードを手に取り、デバイスにロードする。
『ウルトラマン ロードします』
『ウルトラマンティガ ロードします』
すると、デバイスの中から赤い光りと青い輝きが塊となって浮かび上がってきた。
それぞれが形を変えていく。神秘のアイテム――エクスベータカプセルとエクスパークレンスの形に。
473: 2016/04/30(土) 18:38:19.48 ID:TBEaJjTa0
ちひろ『っ!』
それらを握りしめ、エクスパークレンスにエクスベータカプセルを挿し込んだ。
エックスの左肩に、ティガの胸の模様を象ったアーマーパーツが。
右肩にはウルトラマンのそれを象ったパーツが装着される。
それぞれの中央にはティガとウルトラマンのカラータイマーの形をした発光体が嵌め込まれている。
同様に、胸を覆うパーツの中央には青く輝く宝玉の如きXの発光体が。
腕には手甲、足にはミリタリーブーツのようなパーツが纏う。
最後に、手中にベータスパークソードを握りしめた。
銀と金の輝きを放つ宇宙最強最高究極装甲。神秘かつ荘厳なる、その鎧の名は――!
ちひろ・エックス『『――ベータスパークアーマー、アクティブ!!』』
474: 2016/04/30(土) 18:38:49.39 ID:TBEaJjTa0
エックス「…………」
ファイブキング「グオオオオオン……!!」
エックスの姿が変貌したことにファイブキングが驚くような素振りを見せる。
が、すぐさま攻撃態勢に戻った。両腕を広げ、腹の顔から光弾を乱射する。
ファイブキング「アオオオオオオオン!!!」
エックス「「――ベータスパークソード!!」」
手にした剣をエックスが水平に振るう。
その一閃は襲い来る数発を切り裂き、その衝撃が空中に乱れ飛ぶ残り全ての光弾を破裂させた。
漆黒の宙にパッ、パッと、花火のような光が散る。
その奥より――
475: 2016/04/30(土) 18:39:28.11 ID:TBEaJjTa0
エックス「――エーーックス!!」
エックスが剣を上段に構え、跳躍していた。
降下と共に剣を振り下ろす。ファイブキングの頭部を叩き、紅き電撃を走らせる。
ファイブキング「ピギャァァァオオン……!!」
エックス「セエヤッ!」
切っ先を翻し、今度は下から顎を叩き上げる。
ファイブキングの頭が大きく仰け反った。
ファイブキング「ギャォォォォン……!!」
エックス「テヤッ!」
振り回された鋏を左腕のアーマーで受け止め、力任せに振り落とす。
再び剣を両手に構え、怪獣の胸を斜め上に向けて切り裂いた。
476: 2016/04/30(土) 18:39:58.73 ID:TBEaJjTa0
ファイブキング「グオオ、グゥゥゥゥウ……!!」
ファイブキングが怯む。エックスは攻撃の手を緩めない。
エックス「イィッ――!!」
切り上げた勢いのまま、右足を軸にスピンする。
そして一回転と同時に剣を袈裟懸けに振り下ろした。ちょうど第一撃と合わせてXの字を描くように。
エックス「――サァァッ!!」
その一撃一撃が怪獣の全身に凄まじい衝撃を走らせる。
怪獣が後ずさりする。それは斬撃のダメージからでもあったが、それ以上に――
ウィジュー『な……何なんだこの力は……!?』
ファイブキングと同化している宇宙船の中。
チブル星人ウィジューは余りの事態に動揺を隠せなかった。
477: 2016/04/30(土) 18:40:26.88 ID:TBEaJjTa0
ウィジュー『くっ……ここは……!』
ファイブキング「ピギャァァァオオン!!」
エックス「!」
ファイブキングの翼が大きく開いた。
空中に浮かび上がり、飛び去っていく。
ちひろ『――逃がしません!!』
エックス「デエヤッ!」
エックスもまた地面を蹴り、ファイブキングを追った。
478: 2016/04/30(土) 18:41:16.90 ID:TBEaJjTa0
―――避難シェルター
シェルター内は歓声に満ちていた。
男がイヤホンを外し、実況を周囲の皆に聞かせている。
見たこともないアーマーを纏ったエックスが敵を圧倒している――
その情報が皆の希望を更に激しく燃え盛らせていく。
こずえ「ゆっこー……」
そんな中。周りと同じように手に汗握って実況を聞いていた裕子はこずえにドレスの裾を引っ張られた。
裕子「どうしました?」
こずえ「さいきっくてれぱしー……おくってー……おくれー……」
裕子「て、テレパシー? 送れって、誰に?」
こずえ「ちひろさんとぉ……ぷろでゅーさー」
得心した裕子は力強く頷き、念じ始めた。その間もこずえは彼女のドレスを離さなかった。
479: 2016/04/30(土) 18:41:48.59 ID:TBEaJjTa0
裕子「ムムムム~~ン……! ちひろさん……プロデューサー……聞こえますか……?」
『……えっ!? 裕子ちゃん!?』
裕子「へっ?」
すると、頭の中にちひろの声が響いたのだ。
ちひろ『ど、どうして?』
裕子「え、あぁ……あのっ! 今さいきっくテレパシーでちひろさんの脳内に呼び掛けてるんです!」
ちひろ『裕子ちゃん本当にサイキッカーだったの!?』
裕子「エスパーユッコは本当にサイキッカーですってー! いや、今はそうじゃなくて――」
裕子が押し黙る。周囲の歓声をちひろの元に届ける。
ちひろ『……!』
裕子「ちひろさん。聞こえましたか?!」
ちひろ『ええ……』
裕子「みんな応援してます! 頑張ってください! プロデューサーも!」
エックス『ああ。君たちの希望の力がある限り、ウルトラマンは決して負けない!』
480: 2016/04/30(土) 18:42:31.38 ID:TBEaJjTa0
―――千代田区上空
エックスはファイブキングを追跡していたが、その飛行能力は予想以上のものだった。
アーマーの重量のせいか、エックスの方のスピードは中々上がらない。
ちひろ『プロデューサーさん……』
裕子からのテレパシーで皆の声を聴き、ちひろはあることを思い出していた。
一週間ほど前のことだったろうか。残業の疲れから、事務所で一夜を過ごしてしまったときのことだ。
ちひろ『私、夢を見たんです……』
ステージに上がる自分の夢。歌って踊って、スポットライトを一身に浴びる自分の夢。
ちひろ『でも、その会場には私以外誰もいなくて――』
星空のように広がっているサイリウムの群れはなく、客席は真っ暗闇に満ちていた。
ちひろ『私は……キラキラ輝いてるみんなに少し憧れていたのかも……』
事務所では普通の女の子だと、近くにいるから分かっているのに。
ひとたびステージに上がれば皆の心を動かし、歓声を受け、燦然と輝く彼女たちに。
481: 2016/04/30(土) 18:43:02.24 ID:TBEaJjTa0
ちひろ『でも今、こんなに……』
皆の想いが、自分の背中を押してくれている。
ちひろ『私、今、背中に翼が生えたみたいに……どこまでも飛べそうな気がします!』
エックス『……ああ。行こう! 君と私と――みんなと一緒に!』
ちひろ『はいっ!!』
送信されてきたサイバーカードを全てデバイスにセットする。
その一枚一枚ごとが、エックスの脳裏にこれまでの思い出を蘇らせた。
482: 2016/04/30(土) 18:43:43.26 ID:TBEaJjTa0
『ウルティメイトゼロ ロードします』
この世界にやって来た日の、未央との初陣。
『サイバーゴモラ ロードします』
美波との獅子鼻樹海での戦い。
『サイバーエレキング ロードします』
卯月と一緒に飛んだ夕焼け空。
『ウルトラマンビクトリーナイト ロードします』
ゆかりと共に演奏をしたあの日。
『サイバーベムスター ロードします』
凛の強い意志を感じた闘い。
……そして、こずえが繰り広げた不可思議な戦闘。
『ウルトラマンネクサス ロードします』
輝子の決意と勇気が伝わったあの決戦。
『ウルトラマンマックス ロードします』
珠美との、少し苦心も味わった決闘。
『サイバーゼットン ロードします』
裕子のサイキックパワーに救われた一夜。
『ウルトラマンギンガ ロードします』
そして――今日のちひろ。
夜空を上昇する視界中に美しい星空が広がっている。まるで、皆の希望の煌めきが集ったかのように。
膨大な星、その希望、それらが渦巻く銀河。
今、その狂騒の真ん中にいるのは、紛れもなくちひろとエックスの二人だった。
483: 2016/04/30(土) 18:44:11.33 ID:TBEaJjTa0
ちひろ『――サイバーカード、リミッター解除!!』
『リミッター 解除します』
サイバーカードが宿す、アーマーを構成する電子情報、そのエレクトロ粒子、ウルトラマンの光線マトリックス。
それら全てを破棄し、エックスのエネルギーに変換する。
エックスの背から光が伸びた。
刃の如き鋭利な十対の輝かしき翼――“サイバーウィング”が彼の背に展開される。
エックス「――イィーーッ、サァーーーッ!!!」
それを羽ばたかせ、エックスは夜空を突き進んだ。
484: 2016/04/30(土) 18:44:48.02 ID:TBEaJjTa0
一方、チブル星人ウィジューの方では。
ウィジュー『馬鹿な馬鹿な馬鹿な……! あんな虫けらごときにこのファイブキングが……!!』
ウィジュー『これは逃走ではない……! 戦略的撤退だ……! もう一度立て直し、ファイブキングを最強獣へ強化させる……!』
ウィジュー『そうすればあんな虫けらごとき……一瞬で捻り潰してくれる……!』
ウィジュー『その暁には……フフ、征服などみみっちいことは言わず、地球人類全てを葬り去ってやる……!』
ウィジュー『フフ、フハハハハハ!!』
高笑いを上げるウィジュー。しかし――
ウィジュー『……ん?』
目の前に一際大きい星があった。太陽では勿論ないし、月でもない。
ハレーションのように放射状に光を伸ばす巨大な星。近づくにつれ、その姿が見て取れるようになり――
485: 2016/04/30(土) 18:45:20.49 ID:TBEaJjTa0
ウィジュー『――馬鹿なぁぁぁあああっ!!??』
ウィジューは叫んだ。背後を振り返る。追尾していたはずのエックスの姿がない。
もう一度上方を仰ぐ。青い刀身の剣を引っ提げたエックスが、十対の光翼を広げながら虚空に佇んでいた。
ウィジュー『ぐっ……!!』
ファイブキングが止まる。エックスは静かにそれを見下ろしていたが――
エックス「ジュアッ!!」
突然ファイブキング向けて突進してきた。剣が構えられている。――翼を斬る気だ。
ファイブキング「ギャォォォォン!!」
それを察知したファイブキングが鋏の間から光線を放つ。
エックスが横に方向転換してそれを避ける。光線を縦横無尽に振るってエックスを捕えようとする。
エックス「ハァァッ! ――デエヤッ!」
しかしエックスは捕まらない。身を翻し、翼をはためかせ、悉くそれを躱していく。
486: 2016/04/30(土) 18:45:58.19 ID:TBEaJjTa0
ファイブキング「ケケケケケケ!!」
ファイブキングの左腕から目玉が四つ飛び出し、エックスを追う。
エックス「!」
目玉「ケケケケケケ!!」
背後から怪光線を放つが、上に、下に、はたまた左右に、間一髪で躱されていく。
しかしそれに気を取られると鋏からの光線に対する注意が緩まる。回避に余裕がなくなっていく。
ファイブキング「アオオオオオン!!」
今度は腹部から光弾を放っていく。幾つかは目玉を破壊してしまうが、その度に新たな目玉を飛ばす。
目玉からの怪光線、腹部からの光弾、鋏からの光線。じわじわとエックスを追い詰めていく。
エックス「――フッ!」
エックスは飛行しながら左手を額に翳した。その手中にエクスラッガーが出現する。
ちひろ『っ!』
そしてエクスラッガーのスライドパネルを三回なぞった。
487: 2016/04/30(土) 18:46:37.54 ID:TBEaJjTa0
エックス「「――エクシードイリュージョン!!」」
突然、エックスの身体が黄・赤・紫・青の光に包まれた四つに分裂する。
ファイブキング「グオオオッ!?」
エックス「――テエヤッ!」
身を翻し、光線と光弾の雨に突っ込む四人のエックス。
それぞれの持つベータスパークソードとエクスラッガーで防いでいくが、紫と黄は消滅してしまう。
エックス「イィッサァッ!!」
しかし赤と青は健在だった。ファイブキングが振り向く間もなく、背後から翼の付け根に斬りかかった。
ファイブキング「ピギャァァァオオン!!」
両翼が切断される。甲高い悲鳴を上げながらファイブキングが落下していく。
同時に二色のエックスが重なり、元の一体に戻っていた。墜ちていく怪獣に照準を定め、二本の剣を逆手に構える。
488: 2016/04/30(土) 18:47:09.59 ID:TBEaJjTa0
エックス「ハァァァァァ――!!」
サイバーウィングをピンと張り詰めさせ、エックスが突撃する。
ファイブキング「ピアギャケァオグァオケァオオケオン!!!」
全部位の声がないまぜになった悲鳴を上げるファイブキング。
その視界には迫り来るエックスの姿があった。その翼の輝きで逆光になった影が加速度的に巨大化していく。
エックス「「エクシード――――エクスラーーーッシュ!!!」」
その叫びと共に、エクスラッガーが怪獣を斬り裂いた。
すぐさま身を翻して上昇する。ベータスパークソードでもう一撃。エックスが振り返ると、怪獣が地面に激突するところだった。
天が割れそうな凄まじい激突音。大気が破裂してしまいそうな衝撃波。
500mは立ち昇ったかと思われる土埃が大量に落ちてくる。
489: 2016/04/30(土) 18:47:37.74 ID:TBEaJjTa0
一方でエックスは静かに降りてきた。光翼を背に収めながら、風ひとつ立たさず、粛々と。
ファイブキング「グオ……オオオオ……」
よろめきながら立ち上がるファイブキング。
無惨な翼の付け根にベータスパークソードの切っ先を向け、ちひろは静かに言う。
ちひろ『――それは、未央ちゃんの分』
エックスが駆け出す。咄嗟に構えられた鋏をエクスラッガーで払う。
ちひろ『そしてこれが――』
右手の関節向けてベータスパークソードを振り下ろしながら、ちひろは叫んだ。
ちひろ『――無駄になった会場費の分!!』
エックス『え?』
490: 2016/04/30(土) 18:48:08.88 ID:TBEaJjTa0
ファイブキング「ギャォォォォン……!!」
ぼとりと鋏が落ち、ファイブキングが悶える。
腹部の顔が光るのを見て、ちひろはスライドパネルを二回なぞった。
ファイブキング「アオオオオオオオオオン!!!!」
ファイブキングが必氏に光弾を連射する。しかし双剣の連撃によってそれは全て叩き落とされ――
エックス「「――エクシードスラーーーッシュ!!!」」
続けて腹部をもずたずたに切り裂かれた。顔はあえなく削り取られてしまう。
ファイブキング「グオオオオオオ……ッ!!」
ちひろ『これは、チケット払戻金の分!!』
ウィジュー『馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁぁぁあああっっ!!!』
491: 2016/04/30(土) 18:48:39.16 ID:TBEaJjTa0
ファイブキング「イイイイイイ!!」
遮二無二振るわれた左手の目玉を回し蹴りする。
ベータスパークソードを上段に構え、一気に振り下ろす。
ちひろ『これは――!』
エックス『ちょ、ちょっと、ちひろ?』
ちひろ『消えた興行収入の分っ!!』
ファイブキング「グオオオオオオオオッッ!!!」
目玉も切り落とされる。全ての武器を失い怪獣が錯乱する。
その胸を蹴り飛ばし、エックスもまた一歩飛び退く。
492: 2016/04/30(土) 18:49:14.09 ID:TBEaJjTa0
ちひろ『そしてこれが――』
ベータスパークソードを組み換え、弓矢の形に変形する。
その弓にエクスラッガーをつがえ、引き絞る。エクスラッガーが七色に光る一本の矢に姿を変える。
ちひろ『――あなたに奪われた全ての笑顔と、命の分ですっ!!』
エックス「「ベータスパーク――――エクシードアローーーーー!!!!」」
放たれた虹色の矢が一瞬の内に虚空を裂いた。
怪獣の胸を突き抜け、Xの形にぽっかりと虚を空ける。そこから全身に電撃が走り――
ファイブキング「――――」
声もなく、ファイブキングが崩れ落ちた。
爆炎が立ち昇る。爆音が轟く。大地と大気が、同時に震撼した。
493: 2016/04/30(土) 18:49:44.08 ID:TBEaJjTa0
ちひろ『やった……』
裕子『――ちひろさんっ!!』
弓を下ろしたところで裕子からのテレパシーを受信した。
ちひろ『裕子ちゃん?』
裕子『ど、どうなりましたか? 実況してる人の機械がおかしくなっちゃったみたいで全然わかんなくて!』
エックス『勝ったぞ』
裕子『え……』
494: 2016/04/30(土) 18:50:11.95 ID:TBEaJjTa0
ちひろ『……勝ちましたよ』
裕子『――っ!!』
そこで一瞬テレパシーが途切れると、
『やったぁあああああーーー!!!』
『やった!! やった!!!』
『エックスーーー!! ありがとうーーー!!!』
そんな歓声が、ちひろの耳では聞き分けられないくらいの大人数の言葉が頭に響いてきた。
裕子『ちひろさぁん……! プロデューサぁ……!』
エックス『泣くことないだろ? 私だって本気を出せばこれくらい――』
495: 2016/04/30(土) 18:50:51.81 ID:TBEaJjTa0
エックスが軽口を叩こうとした、その時だった。
『モンスライブ! ジャンボキング!!』
ウィジューの声が聞こえて、エックスとちひろはハッとなった。
『モンスライブ! キングオブモンス!!』
今なお濃い煙の中、蜘蛛の巣のような紫電が広がる。
『モンスライブ! キングダイナス!!』
エックス『いったい、何が……』
『モンスライブ! スーパーグランドキング!!』
ちひろ『……!』
『モンスライブ! ファイブキング!!』
広がっていた紫電が中心に集約し、次の瞬間、眩い光となって迸った。
思わず目を背ける。しかし、続く声は確かに届いていた。
『 超 合 体 ! 』
『 グ ラ ン ド フ ァ イ ブ キ ン グ ! 』
496: 2016/04/30(土) 18:52:13.62 ID:TBEaJjTa0
卯月「え……?」
凛「何……?」
怪獣を倒したと聞いて地上に飛び出した避難民たちにざわめきが走った。
突風が吹き荒れ、爆煙が吹き飛ぶ。露になった異形の怪獣を、全員が目にしたからだ。
破壊される前に戻ったファイブキングの頭部。
右手に鋏、左手に巨爪というスーパーグランドキングの両腕。
腹部には赤い蛇腹と立ち並ぶ鋭い牙。背の翼と足もまたキングオブモンスのものだ。
そして、ケンタウロスのように後方に伸びたキングダイナスの胴体。
その最後尾は盛り上がり、ジャンボキングの尻尾が伸び、その後足が地面を踏みしめている。
そして何より目を引いたのはその大きさだった。
ファイブキングのように五体の怪獣を精緻に纏めたのではない。
即席の合体によってこの怪獣は元となった五体の全ての質量を持つ超合体怪獣となったのだ。
約50メートルのエックスの三倍はあるかと思われる巨体。前後のサイズで言えばもう何倍になるのかわからない。
その圧倒的な佇まいに、エックスやちひろはおろか、先程まで歓喜していた群衆すら言葉を失った。
497: 2016/04/30(土) 18:52:42.36 ID:TBEaJjTa0
Gファイブキング「――グオオオオアアアアアアオオオオオッッ!!!」
エックス「ッ!」
急いでベータスパークアローを剣の形態に組み換える。
エクスラッガーは矢として飛ばしてしまったため、手元にない。剣の柄を両手で握りしめ、怪獣に突進する。
エックス「――テエヤッ!!」
しかし――
エックス「――ッ!!」
腹部に激烈な痛みが走った。
グランドファイブキングの足がエックスを蹴り飛ばしたのだ。
498: 2016/04/30(土) 18:53:22.97 ID:TBEaJjTa0
エックス「グアアッ!!」
飛んでいきそうになったエックスの身体が急に止まる。
グランドファイブキングが右手の鋏でエックスを掴んでいた。
エックス「ハァッ、グッ!」
何とか抜け出そうとするが敵わない。胴体が圧迫され、全身に電撃のような痛みが走る。
エックス「――デアッ!?」
かと思うとエックスの身体が放り出された。と同時に左手の爪が振るわれる。
エックス「デアアアアアア……ッ!!」
それに弾かれ、エックスが飛んでいく。止めようとしても慣性に身体の自由が利かない。
歯を食いしばりながら見た光景――怪獣の額にエネルギーが溜められていた。
ちひろ『……!』
次の瞬間、視界が真っ白になった。
光線がエックスを呑み込む。咄嗟に構えた剣も何の用もなさず、エネルギーの奔流はエックスを襲った。
499: 2016/04/30(土) 18:53:53.49 ID:TBEaJjTa0
エックス「……」
翼をもがれた鳥のように地面に墜ちるエックス。呆然としている群衆。
怪獣は彼らの前で、無慈悲にもエックスを踏み潰した。
「そんな……」
再び皆の心が絶望に支配されそうになったその時――
エックス「――デエヤァッ!!」
怪獣の足が突然持ち上がって、その下からエックスが飛び出してきた。
宙に浮かびながら肩で息をするエックス。纏われていたアーマーには罅が入り、今にも崩れ落ちてしまいそうになっている。
エックス「ハァァ――セエヤッ!!」
しかしエックスは勇ましい掛け声を上げ、剣を構えた。
ちひろ『絶対に……諦めません……!』
500: 2016/04/30(土) 18:54:23.00 ID:TBEaJjTa0
こずえ「……みなみぃ……ねえー……」
美波「こずえちゃん?」
戦闘に目を奪われていた美波はこずえにドレスの裾を引っ張られて気が付いた。
美波「どうしたの?」
こずえ「みおのとこ……いこー……」
美波「未央ちゃんのところ……病院? どうして?」
こずえ「とどけるの……えくすらっがー……ぷろでゅーさーに……」
美波「えっ……?」
こずえ「みんなも……いっしょにいこー……いけー」
美波「ちょ、ちょっと?」
裕子「こずえちゃん!?」
とてとてと走り出したこずえの後をアイドルたちは追い始めた。
501: 2016/04/30(土) 18:55:47.71 ID:TBEaJjTa0
―――病院
一方その頃――
医者「信じられないことですが、あなたの体はもう健康体に近づいています」
集中医療室で、医師がそう言っていた。
医者「医者としてどういうことなのか調べなければならない気持ちはあります。ですが、状況が状況で……」
未央「……わかりました」
語っている相手は未央だった。
数十分前までの大怪我が嘘だったように肌の血色もよく、全身の傷すらも塞がっている。
未央「私は行きます。このベッドは他の患者さんに使ってあげてください」
医者「感謝します。……しかし、何か異常があったらすぐに来てください。いいですね」
未央「はい」
頷きつつも未央は内心不審がっていた。
あの時、自分は怪獣との戦いに負けた。どうしてこんなにも早く回復することが出来たのだろう――
502: 2016/04/30(土) 18:56:22.94 ID:TBEaJjTa0
そして、プロデューサーは。あの怪獣は。みんなは。今どうなっているのか。
未央はベッドを下りると、病衣を脱いでドレスに着替え、足早に病院を出た。すると――
卯月「未央ちゃん!?」
夜道の向こうから駆けてくる姿があった。
こずえと、卯月と凛と――自分以外の『United 9』のアイドルたち全員が。
卯月「も、もう身体は大丈夫なんですか?」
未央「うん……自分でもよくわかんないんだけど」
凛「よかった……」
未央「そっちこそ、無事でよかったよ。プロデューサーは?」
美波「今、ちひろさんとユナイトして戦ってる」
未央「ちひろさんと? そ、それでどうなってるの?」
珠美「……戦況は、悪いと言わざるを得ません。ですが――」
珠美が続けようとすると、
503: 2016/04/30(土) 18:56:56.90 ID:TBEaJjTa0
こずえ「まってー……」
こずえの声がそれを遮った。みな驚いて彼女の顔を見る。
こずえ「みおのからだ……えくすらっがー……のこってる……」
未央「えっ……?」
自分の胸に手を当てる未央。
未央(あの時……エクスラッガーが砕けた時、自分の身体の中に……?)
だから回復が早まったのだろうか。そんなことを考えていると、またしてもこずえが言った。
こずえ「あのね……だから、これからみんなで……ゆないとしよ……?」
ゆかり「みんなで……?」
こずえがこくんと頷く。すると珠美が思い出したように声を上げた。
504: 2016/04/30(土) 18:57:47.20 ID:TBEaJjTa0
珠美「エックス殿はエクスラッガーのことを『想いを形にする剣』って言っていました!」
輝子「そ、それが……未央ちゃんの中にあるなら……」
裕子「私たちの想いを、形にできる……?」
美波「みんなでユナイト――」
卯月「やりましょう! みんなで!」
凛「うん。私たちの想いを力にして、プロデューサーとちひろさんに届ける……!」
未央「で、でもどうやって!?」
こずえ「こうするのー……」
こずえが腕を出した。未央は唇を結んで頷いた。その手の甲に自らの手のひらを重ねる。
他の皆も頷いた。卯月が、凛が、ゆかりが、美波が、珠美が、輝子が、裕子が、一緒に手を重ねる。
まるで皆の胸の高鳴りが伝わって、ひとつになるようだった。
505: 2016/04/30(土) 18:58:28.46 ID:TBEaJjTa0
裕子「プロデューサー、ちひろさん、聞こえますか?」
ちひろ『ゆ……裕子ちゃん……?』
戦況は思わしくないのだろう、ちひろの声は憔悴している。
その声は重なった手のひらから皆に伝わっていた。皆の表情に決意が漲る。
裕子「今から、エクスラッガーの力でそっちに行きます。――みんなで!」
エックス『え……?』
エックスは困惑したような声を出したが、次には力強い口調でこう言った。
エックス『わかった。共に行こう! ――みんなでユナイトだ!!』
九人「はいっ!!」
皆が声と声を重ねる。目と目を合わせる。
その時、未央の胸から虹色の光が零れだしてきた。それが、輪になった九人を包んでいく。
未央「行こう!」
重ねた手を押し込み、高々と掲げ上げる。そして叫んだ。星空の彼方に、舞い上がらせるように!
「――エックスーーーーーーーっ!!!!」
506: 2016/04/30(土) 18:59:07.28 ID:TBEaJjTa0
―――千代田区三番町
エックス「グッ……」
エックスが膝を突いた。アーマーは既に崩れ落ちており、エクシードエックスの状態も解除されている。
それでもなお力を込めて立ち上がった。希望を持ち、応援してくれる声があるから。
「頑張れーー!!」
「負けるな! エックスーー!!」
「勝ってーーー!!」
「諦めるなああああああ!!!」
Gファイブキング「グオオオオアアアアアオオオオオッッ!!!」
立ちはだかるは圧倒的に巨大な敵。それでも諦めるわけにはいかない。
人々の希望を繋げ、形にする――それが光の巨人、ウルトラマンなのだから。
エックス「ハァァ――セエアッ!」
闘志を呼び起こし、再びファイティングポーズを取るエックス。その時だった。
507: 2016/04/30(土) 18:59:40.16 ID:TBEaJjTa0
ちひろ『……あれは!』
エックス『来たか!』
視界の彼方に光が見えた。それは弧を描き、その軌跡を空に残しながらこちらに向かってくる。
それはあたかも、夜空にかかった虹だった。
ちひろ『っ……!』
その虹がエックスの点滅するカラータイマーに飛び込む。
衝撃が胸に突き刺さったかと思うと――
ちひろ『……みんな……』
今まで一人だけだったエックスの中の意識空間。
そこに、「United 9」の九人が揃っていた。――その中には、未央も。
ちひろ『未央ちゃん……!』
未央『すみません! 本田未央、ただ今復帰しましたっ!』
いつもの笑顔でびしっと敬礼する未央。その姿を見てちひろは涙を抑えきれなかった。
508: 2016/04/30(土) 19:00:16.64 ID:TBEaJjTa0
ちひろ『ぐすっ……これで、「United 9」勢ぞろいですね』
ぐしゃぐしゃになった笑顔でちひろが言う。
すると予想外の反応が返ってきた。みんな、首を横に振ったのだ。
ちひろ『え……?』
卯月『ちひろさんも合わせて、「United 10」ですよ!』
凛『――あ。それよりも良い名前がある』
凛が皆に目配せする。皆、笑顔で頷く。こずえだけ不思議そうに首を傾げたのでゆかりが耳打ちした。
こずえ『わかったぁ……いいなまえー……』
ちひろ『……あ。そっか』
ちひろも気付いて笑った。そして、みんなで声を合わせた。
Ⅹ United
『――エックス、ユナイテッド!』
509: 2016/04/30(土) 19:00:46.88 ID:TBEaJjTa0
エックス『……な、なあ……』
卯月『? どうかしましたか?』
エックス『……私も含めて11人じゃないのか……?』
みんな『…………』
エックス『…………』
みんな『…………』
エックス『何だ!? その沈黙は!?』
凛『プロデューサー……』
こずえ『くうきよもー……よめー……』
エックス『ええ!?』
510: 2016/04/30(土) 19:01:18.69 ID:TBEaJjTa0
ウィジュー『何をごちゃごちゃとやっている!!』
そこへウィジューの怒声が聞こえてきた。
だが誰も笑顔は絶やさない。不安も絶望も、ここにいる者の心には一切なかった。
エックス『まぁいいか……行こう、みんな!』
ちひろ『はいっ!』
未央『私たちの全力、みんな重ねて!』
凛『あの怪獣を倒して――』
卯月『みんなの笑顔を取り戻しましょう!』
511: 2016/04/30(土) 19:01:53.13 ID:TBEaJjTa0
エックス「――フッ!」
エックスの全身は淡い虹色の光に包まれていた。
その中で胸のカラータイマーが金色に光っている。そこへ右腕を翳し、そして斜め上に掲げ上げた。
エックス「ハァァ――――!!」
右足を軸に左足を回転させ、両腕と共に上体を捻る。
足元から後方へ、虹色の光が、電子基板のような形を描きながら這い進んでいく。
そしてエックスは両手を交差させた。
両腕が虹色の光を纏う。漲ったエネルギーが、怒涛の奔流となって放たれる――!
エックス「ウルティメイト――――ザナディウム光線!!!!」
重なり合った十一人の声と共に七つの色が複雑に入り混じった光線が発射された。
グランドファイブキングが放った光線と激突する。
512: 2016/04/30(土) 19:02:28.61 ID:TBEaJjTa0
エックス「ハァァァァァ――!!!」
しかし、負けるわけがなかった。ここにいる十一人だけではない。全世界の希望を乗せた光線。
何体怪獣を合体させようと、この力に勝るものは全宇宙、どこを探しても存在しない。
Gファイブキング「グオオオオオアアアアアオオオオオン!!!!」
グランドファイブキングが光線を強める。しかしザナディウム光線は止まらない。
足元のアスファルトを踏み砕いた。その亀裂から、電光が溢れ出してくる。
エックス「――イィッ、サァーーーーーッ!!!」
勇壮な掛け声を上げた、次の瞬間――
Gファイブキング「グオオオオオオオアアアアアアアオオオオオオオン……!!!!」
虹色の光が怪獣の頭部を直撃した。その部位に爆発が起こる。
エックスはそのまま腕を下げた。今度は腹部に炸裂し、爆発する。
513: 2016/04/30(土) 19:03:12.07 ID:TBEaJjTa0
やがて――
Gファイブキング「………… ………… …………」
光線の熱量によって怪獣の身体が膨張し――
ウィジュー『何故だ……! 馬鹿な……! 馬鹿なぁぁぁあああ……!!!』
ウィジューの断末魔と共に、怪獣は木っ端微塵に砕け散った。
地上に歓声が満ちる。涙を流し、抱き合い、輪を作って喜んでいた。
ちひろ『やりましたね……』
エックス『ああ……』
エックスはピュリファイウェーブで爆炎を鎮めた。
そして、静かになった夜空を見上げ、皆と共に満天の星空を見詰めているのだった。
514: 2016/04/30(土) 19:03:46.00 ID:TBEaJjTa0
一か月後――
孤独が疼きだして 体を蝕んでも
前を見る強さを
一歩ずつ 確実に 絶対
言葉が歪み始め
イメージが加速する
世界に響かせて
勝ち取るの この歌で 絶対
光れ starry star
大阪のとある大型ライブハウス。
ステージ上にポーズを決める九人のアイドルたちと、彼女たちに歓声を送るファンの姿があった。
卯月「ありがとうございましたー!」
彼女たち「United 9」は先の怪獣災害の復興支援としてチャリティーライブを行い、全国を巡っている最中なのだった。
515: 2016/04/30(土) 19:04:46.29 ID:TBEaJjTa0
未央「ね、記念撮影しようよ! みんなで!」
裕子「いいですね!」
ライブ終了後、舞台裏でそのような提案があったため、ちひろがカメラを構えた。
が、未央は口を尖らせて言った。
未央「ちひろさんも! プロデューサーも一緒に!」
ちひろ「えっ?」
エックス『いいのか? よし、行こう! ちひろ!』
ちひろ「え、ええ~? もう……じゃ、すみません、これお願いします」
近くにいたスタッフにカメラを渡して、デバイスと一緒に枠に入るちひろ。
「はい、チーズ!」
シャッター音と共にフラッシュが瞬いて――
エックス『――ハッ!』
エックスは、夢から覚めた。
516: 2016/04/30(土) 19:05:21.90 ID:TBEaJjTa0
――それからエックスは、その世界の夢を見なくなった。
517: 2016/04/30(土) 19:05:53.92 ID:TBEaJjTa0
―――オペレーションベースX
エックス『――大地』
大地「ん?」
オペレーションベースXのラボでのこと。
エックスは大地にこう切り出した。
エックス『そろそろ私も、再び宇宙に帰らなくてはならない』
大地「……そっか。わかった」
大地は笑って答える。
大地「こっちのことは心配しないで。俺たちだけでやっていける」
エックス『ああ。だがもしこれまで以上の脅威が迫った時は――』
大地「わかってるよ。その時はまた会おう。エックス」
エックス『ああ』
518: 2016/04/30(土) 19:06:29.13 ID:TBEaJjTa0
大地はすると、ふと思い出したように、
大地「あ、でもデバイスから出たらゲームができなくなるな」
エックス『あ、ああ……そうだな』
大地「いいのか? 別に引き留めてるわけじゃないけど」
エックス『そうだな……』
エックスはちょっとした寂寥を胸に覚えた。
ファイブキングとの戦いが終わり、復興ライブをした後、エックスはあの世界の夢を見なくなった。
アイドルたちと会うことはできなくなり、それまで通りゲームをプレイするだけに戻った。
満足できなくなったというわけではない。
それでもどこか寂しくなって、エックスはゲームから遠ざかってしまっていたのだった。
519: 2016/04/30(土) 19:07:49.99 ID:TBEaJjTa0
エックス『まぁ……構わない』
大地「ふぅん。――あ、そういえば、あのゲームのことなんだけど」
エックス『ん?』
大地「この前デバイスにこんな写真が入ってるのを見つけたんだけど、これ、エックスが作った合成写真?」
そう言ってデバイスを操作し始めた。表示された画像を確認してみてエックスは驚いた。
そして……懐かしむような声で、こう言ったのだった。
エックス『いや……そうじゃない』
大地「え?」
エックス『これは――確かに存在した、彼女たちとの絆の証だ』
そこには、ライブを終えた笑顔のアイドルたちと、事務員と、デバイスの中のエックスが映っていたのだった。
ウルトラマンXP 完
521: 2016/04/30(土) 20:38:46.62 ID:BPsjxqqlo
乙です
引用元: ウルトラマンXP
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