5: 2013/07/04(木) 07:36:08 ID:ljrwYZKI

比企谷「……だいたいどこなんだよ?」

母「日本のどこか」

比企谷「広すぎるだろ」

母「とにかく、小町は私達と一緒に連れて行くけど」

母「あんたは社会勉強にもなるし、いい事でしょ?」

母「私のいとこの、しかも刑事さんが面倒を見てくれるから、尚の事安心だしね」

比企谷「なら何故、小町は連れて行くんだ?」

母「じゃ、そういう事で~」

比企谷「人の話を聞け、マイマザー」

6: 2013/07/04(木) 07:44:50 ID:ljrwYZKI

―――――――――――

比企谷(……で、着きました、と)

比企谷(見事なまでの発展途上村っぷり)

比企谷(田んぼを肉眼で確認したのも小学校以来だ……)

比企谷(…………)

比企谷(で? 俺を迎えに来てくれる親戚の刑事のおじさんとやらは?)

比企谷(…………)

     ブロロロロ……キキィ

??「やぁ、君かい? 母さんの息子さん、って?」

比企谷「……あ、はい、そうですけど」

??「そう! これから一年間、よろしくね」

比企谷「あ、はい……」

7: 2013/07/04(木) 07:57:27 ID:ljrwYZKI

比企谷(…………)

比企谷(作り笑い、だな)

比企谷(推測に過ぎないが……こいつは俺を歓迎していない)

比企谷(……まあ、そうだよな)

比企谷(突然に一年間高校生の面倒を見ろ、と言われて)

比企谷(喜ぶ奴は居ないわな)


??「まあ、ちょっと突然で、いきなりだったから」

??「少し困ったけどね」

比企谷「すみません」

??「母さん、昔からあんな感じでもう慣れたよ。 君も大変だろうね」

比企谷「全くです」

??「おおっと、まだ名乗ってなかったね」

??「僕は足立。 足立透。 改めてよろしく」

比企谷「こちらこそ、よろしくお願いします、足立さん」

12: 2013/07/11(木) 19:45:20 ID:l.CCZyjg

     ブロロロロ……

比企谷「…………」

比企谷(……この人、確か独身って聞いてたけど)

比企谷(それにしちゃ大きな車だな……)

比企谷(レンタカーにしちゃ私物が多いし……誰かから借りたのだろうか)

足立「……ああ、この車、借り物なんだ」

比企谷「!?」

足立「はは、ごめん、驚かせちゃった?」

足立「バックミラー越しにしげしげと車内を見回す君を見て」

足立「たぶん、疑問に感じたんだろうと思って」

比企谷「……いえ」

足立「で、続きだけど、この車」

足立「僕の上司の車なんだ」

13: 2013/07/11(木) 19:46:30 ID:l.CCZyjg

比企谷「そうなんですか」

足立「ちょっと怖いけど、いい人でね」

足立「君を迎えに行く事を話したら、貸してくれたんだ」

比企谷「いい上司ですね」

足立「普段は怒鳴られてばかりだけどね~」

比企谷「…………」


比企谷(……こいつもぼっちか?)

比企谷(初対面で無理やり話題を作り出し、明るく振舞おうとしている)

比企谷(となれば)

比企谷(次に聞いてくるのは、十中八九……俺の事)

14: 2013/07/11(木) 19:47:23 ID:l.CCZyjg

足立「ところで、君は前の学校、どうだったの?」

足立「きっと友達との別れは辛かっただろうね」

比企谷「ええ……まあ……」

足立「ええまあって……君くらいの年頃なら、彼女くらい居るでしょ?」

比企谷「あいにくと、そんな奇特な女の子は居ませんでした」

足立「あらら……さみしい高校生活送っているね~。 ダメだよ、そんなんじゃ」

足立「ここはご覧の通り少々田舎だけど、きっといい娘が居ると思うよ!」

比企谷「はあ……」


比企谷(間違いない)

比企谷(こいつはぼっちだ)

比企谷(それも見下しタイプ)

比企谷(……それとなくエグってやるか)

15: 2013/07/11(木) 19:48:12 ID:l.CCZyjg

比企谷「足立さんはモテたんでしょうね」

足立「え? い、いや、それ程でも無いかな……アハハ」

比企谷「謙遜はいいですよ」

比企谷「俺なんかとは違って、友達も多そうですし」

比企谷「彼女もきっといらっしゃるでしょう」

足立「そ、それは、その……」

比企谷「今度、ぜひ紹介して下さいね」

足立「そ、そうだね、こ、今度、ね……」


比企谷(これくらいで止めといてやるか)

比企谷(とりあえず人間関係の話題は出さなくなるだろう)

16: 2013/07/11(木) 19:50:05 ID:l.CCZyjg

足立「おっと、いけない」

足立「堂島さんに給油をしといてくれって、頼まれていたんだっけ」

足立「ああ、堂島って言うんだ、僕の上司」

比企谷「はあ……」

比企谷(聞いてねーよ)

足立「じゃあ、スタンドに寄ってくからね」

     ブロロロロ……

17: 2013/07/11(木) 19:50:55 ID:l.CCZyjg

ガソリンスタンド


足立「レギュラー、満タンで」

店員「はい、わかりました」

足立「ふう……あ、やばい、もよおしてきちゃった」

足立「ちょっとトイレに行ってくるね」

比企谷「どうぞ」

     テク テク テク…

比企谷「…………」

比企谷「俺も背伸びくらいするか」

     キィ……パタン

比企谷「う、うーん……」

比企谷「ふう……」

18: 2013/07/11(木) 19:52:09 ID:l.CCZyjg

店員「やあ、こんにちは」

比企谷「……?」

比企谷「はあ……こんにちは」

店員「フフ、そんなに警戒しないでくれ」

店員「俺、地元のバイトだから」

比企谷「……そうですか」

店員「君、見ない顔だけど、今日ここに来たのかい?」

比企谷「ええ……諸事情で」

店員「そうかい」 クス

店員「なんて言うか、本当に田舎だけど、歓迎するよ」

店員「このスタンド、随時バイト募集してるから良かったら来てくれ」

     スッ…

19: 2013/07/11(木) 19:52:54 ID:l.CCZyjg

比企谷「…………」

比企谷(握手……?)

比企谷(ったく、手が油臭くなるだろうが……)

比企谷(…………)

比企谷(とは言え)

比企谷(会話の流れでしょうがない状況だな)

比企谷(仕方ない……手は後で洗えばいい)

     スッ… グッ

比企谷「……まあ、よろしく」

店員「うん、よろしくね」

店員「さて、仕事しないと」

20: 2013/07/11(木) 19:53:38 ID:l.CCZyjg


―――――――――――


足立「やあ、お待たせ、比企谷君」

足立「それじゃ行こうか」

比企谷「……そうですね」

足立「……?」

足立「どうかしたのかい? 顔色が優れないみたいだけど?」

比企谷「……多分、疲れが出たんだと思います」

足立「そっか、長旅だったもんね」

足立「じゃあ急ぐとしよう。 着いたら休むといい」

比企谷「……お願いします」

21: 2013/07/11(木) 19:54:18 ID:l.CCZyjg

比企谷(…………)

比企谷(……変だな)

比企谷(さっきまで何ともなかったのに)

比企谷(…………)

比企谷(そうか)

比企谷(きっと、油の匂いだ)

比企谷(それに当てられたに違いない……)

比企谷(……きっと……そうだ……)

     ブロロロロ……

22: 2013/07/11(木) 19:55:19 ID:l.CCZyjg

????


比企谷「…………」

比企谷「……ん?」

比企谷「ここは……?」

比企谷「…………」

比企谷「霧で真っ白だ……」

     テク テク テク

比企谷(行けども行けども霧の中……)

比企谷(……まるで)

比企谷(俺の人生の様だ……)

比企谷(…………)

23: 2013/07/11(木) 19:55:58 ID:l.CCZyjg


     ――本当にそう思うのかい?――


比企谷「!?」

比企谷「……誰だ?」


     ――自分の可能性を否定してるんじゃないのかい?――


比企谷「…………」

比企谷「……どういう意味だ」


     ――聞くまでも無いだろ?――

     ――何故なら――


比企谷「……やめろ」

24: 2013/07/11(木) 19:56:49 ID:l.CCZyjg







     ――君は――







比企谷「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」








25: 2013/07/11(木) 19:57:45 ID:l.CCZyjg

     ガバッ!

比企谷「はっ!!」

比企谷「はあ……はあ……」

比企谷「…………」

比企谷「……夢」

比企谷「か……」

     ガラッ

足立「おや、目が覚めたかい?」

足立「何かうなされてたみたいだけど」

比企谷「……嫌な夢でした」

足立「そう」

足立「一応ご飯を用意したけど、食べられるかい?」

比企谷「……いただきます」

26: 2013/07/11(木) 19:58:53 ID:l.CCZyjg

足立「そっか、食欲があるのなら大丈夫だね」

足立「ご飯と言っても、コンビニの弁当だけど……」

比企谷「大丈夫です」

足立「じゃ、お茶を用意するよ」

比企谷「すみません」

足立「いいっていいって♪」

―――――――――――

比企谷「ごちそうさまでした」

足立「ごちそうさまでした」

足立「それじゃ、こっちの部屋は君が自由に使っていいから」

足立「ボロアパートで悪いけど、安月給なんでね」

比企谷「いえ……元々無理を言ってるのはウチの母親ですし」

足立「ははは……じゃ、一年間よろしくね」

比企谷「よろしくお願いします」

27: 2013/07/11(木) 20:00:10 ID:l.CCZyjg









     こうして、俺の八十稲羽での生活が始まった。








28: 2013/07/11(木) 20:02:02 ID:l.CCZyjg
短いですけど、今日はここまでです。
投下が遅くなってすみませんでした。次は早く出来るといいなぁ……。

32: 2013/07/17(水) 00:02:22 ID:d4roqTbQ


―――――――――――


翌日の朝


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷「……ん」

比企谷「ふああああ……」

比企谷「…………」 ボリボリ…

比企谷「…………」

比企谷「あ……そうだった」

比企谷「ここは八十稲羽だった」

比企谷(そして、今日から学校に……)

33: 2013/07/17(水) 00:03:11 ID:d4roqTbQ

比企谷(…………)

比企谷(今何時だ?)

比企谷(……7時半か)

比企谷(…………)

比企谷(そういえば、人の気配がしないな)

比企谷(足立さん、もう出かけたんだろうか?)

     ムクリ… ガラッ

比企谷「……居ない」

比企谷「ん?」

比企谷「書置きがある……」

比企谷(なになに……?)

34: 2013/07/17(水) 00:04:55 ID:d4roqTbQ


     比企谷くんへ


君が眠った後、電話がかかってきて仕事をする事になった。

すまじきは宮仕え、ってやつさ。


君を学校まで案内しようと思っていたけど、どうやら出来そうもない。

悪いけど、地図を頼りに頑張って行ってくれ。

道がわからなくなったら、その辺の人に聞くといい。

みんなきっと教えてくれると思うから。 じゃ、カギ締めを忘れずに。

健闘を祈る。


     足立


35: 2013/07/17(水) 00:05:43 ID:d4roqTbQ

比企谷「…………」 チャラ…

比企谷(これが家の鍵ね)

比企谷(……じゃ)

比企谷(顔を洗って、着替えて、飯食って、歯を磨いて行くとしますか)

―――――――――――

     オハヨー ゲンキシテター?

比企谷(…………)

比企谷(こういう光景は、どこも変わらないな)

比企谷(新学期の雰囲気……)

比企谷(春休み明けの顔合わせ……クラス替えの期待と不安……)

比企谷(正真正銘ぼっちの俺には関係のない事だが)

36: 2013/07/17(水) 00:07:05 ID:d4roqTbQ

??「うおおおわあああっ!!」

     ガッシャーン!

比企谷「…………」

比企谷(そして)

比企谷(こういうドジが一人くらい居るのも)

比企谷(一緒だ……)

     テク テク テク…


―――――――――――


37: 2013/07/17(水) 00:08:18 ID:d4roqTbQ

職員室


諸岡「ほう……貴様が転校生の比企谷八幡か」

比企谷「はい」

諸岡「…………」 ジロジロ

比企谷「…………」


比企谷(……何だよ、この見るからに偏見の塊みたいな教師は)


諸岡「……ふん」

諸岡「紹介状に転校前の学校担任からの意見があったが」

諸岡「ここじゃあ容赦はせんからな!」

比企谷「……はあ」


比企谷(平塚……何書きやがったんだよ)

38: 2013/07/17(水) 00:09:39 ID:d4roqTbQ

教室


     ガヤ ガヤ

諸岡「ようし!貴様ら!静かにしろ!」

諸岡「今日から新学期だが、浮かれて不純異性交遊などはするなよ!」

諸岡「この俺が担任になったからには容赦はしない!覚悟しておけ!」

諸岡「そして、世俗にまみれ、ただれた都会から転校してきた生徒を紹介する!」

諸岡「いかにも汚れた都会に毒され、ふてぶてしい顔だが」

諸岡「内面もこの通りだと思って接してやれ!」

比企谷「…………」

諸岡「何しろ、都会からわざわざこんな辺鄙な田舎に転校してきたのだ」

諸岡「言わば脱落者!落ち武者に過ぎんからな!」

比企谷「…………」

39: 2013/07/17(水) 00:10:47 ID:d4roqTbQ

諸岡「ほれ、貴様も挨拶しておけ」

比企谷「…………」

比企谷「あー、ただ今ご紹介に預かりました」

比企谷「落ち武者こと、比企谷八幡です」

比企谷「ただ……戦国時代、落ち武者はそのまま野盗となる事が多い」

比企谷「戦う事を生業(なりわい)としてきているので」

比企谷「仕返しはお手の物です」

比企谷「ねえ? 諸岡先生」 ニヤ…

諸岡「……!」

諸岡「き、貴様……! 何が言いたい!?」

比企谷「挨拶は以上です」

40: 2013/07/17(水) 00:12:03 ID:d4roqTbQ

諸岡「……よく覚えておけ、比企谷」

諸岡「貴様は、俺の”腐ったミカン帳”にしっかりと記しておいてやるからな!」

比企谷「そうですか」

比企谷「なら、その事を教育委員会に報告してもいいですか?」

諸岡「!?」

比企谷「きっと、先生の仕事ぶりに感銘を受ける事でしょう」 ニヤ…

諸岡「き、貴様……!」

??「せんせーい!」

??「あたしの隣、空いているので比企谷くんの席、ここでいいですかー?」

諸岡「! ……よ、よし」

諸岡「さっさと席に付け! 比企谷!」

比企谷「…………」

     テク テク テク… スチャ(着席)

41: 2013/07/17(水) 00:13:02 ID:d4roqTbQ

??「……いや~キミも災難だね」

??「よりにもよって、モロキンに目をつけられるなんてさー」

比企谷「…………」


比企谷(馴れ馴れしい女だな……)

比企谷(…………)

比企谷(どことなく……由比ケ浜を思い出す)



     ……それ以降は、普通に時間が過ぎていった。



42: 2013/07/17(水) 00:14:42 ID:d4roqTbQ

放課後


諸岡「よし! 貴様ら! 本日はこれで終了だ!」

諸岡「早い時間だからといって、くだらない寄り道などせずに」

諸岡「まっすぐ家に帰って、予習をしておけ!」

諸岡「明日からビシバシしごいてやるから、そのつもりで……」

     ピン ポン パン ポン

スピーカー『学校教員に業務連絡』

スピーカー『只今より、緊急の職員会議を始めますので』

スピーカー『速やかに職員室にお戻りください』

スピーカー『また』

スピーカー『生徒は、下校を止め、教室で待機してください』

スピーカー『繰り返します……』

43: 2013/07/17(水) 00:15:34 ID:d4roqTbQ

諸岡「よし! 貴様ら、聞いたな!?」

諸岡「大人しくここで待機しておく様に!」

     ガララ……ピシャ

     エー? イッタイナニー? ザワ ザワ

比企谷「…………」


比企谷(何かはわからんが……)

比企谷(転校生にありがちな、【質問攻め】という名の羞恥プレイは)

比企谷(避けられたみたいだな)

     ピン ポン パン ポン

比企谷(……?)

44: 2013/07/17(水) 00:16:23 ID:d4roqTbQ

スピーカー『全校生徒へ連絡』

スピーカー『ただ今、この学校の近くで』

スピーカー『事件が発生した模様です』

     ザワ……!

スピーカー『安全が確認されるまで、教室に待機していてください』

スピーカー『繰り返します……』

     ウ―― ウ――

     オイ、アレ、サイレンジャネ? ソト、ミテミヨウゼ!

比企谷「…………」

     クッソ、ナンダヨ、コノ霧……! ゼンゼンミエネー

     ソウイヤサイキン、雨ノ後トカ、オオイヨナ?

45: 2013/07/17(水) 00:17:34 ID:d4roqTbQ

比企谷(…………)

比企谷(何でもいいけど、早くしてくれよな……)

     ピン ポン パン ポン 

スピーカー『全校生徒へ連絡』

スピーカー『警察の協力の元、安全の確認が取れました』

スピーカー『道すがら、警察官が立っていると思われますが』

スピーカー『それらの邪魔にならない様、本校生徒として、恥ずかしくない……』

     ケイサツー? ナニガオコッテイルノー? コワーイ

比企谷(何はともあれ、これで帰れるな)

??「ねーねー、比企谷くん」

比企谷「は?」

??「良かったら一緒に帰らない?」

46: 2013/07/17(水) 00:19:10 ID:d4roqTbQ

比企谷(……おいおい)

比企谷(何を言っているんだ、この女……)

比企谷(初対面の、しかも、男を誘うだと?)

比企谷(体操で言えばウルトラE難度の技だぞ……ぼっちにとって)


??「あー、そんな警戒しないでよ」

??「ここ来たばっかで不案内でしょ?」

??「だから案内も含めて、って意味なんだけど……」


比企谷「…………」

比企谷(違うな……この女は由比ケ浜じゃない)

比企谷(葉山タイプの人間だ)

比企谷(常にみんな仲良く!を信条とする理想主義者)

比企谷(もちろん、相手がそれを望んでなくともお構いなし……)

47: 2013/07/17(水) 00:20:23 ID:d4roqTbQ

比企谷(…………)

比企谷(だが、俺もわざわざ波風を立てたい訳じゃない)

比企谷(転校初日だし、あえて従ってみるか……)


比企谷「そういう事なら……」

??「そう! じゃあ決まり!」

??「そういえば、自己紹介まだだったね?」

??「あたしは里中千枝。 よろしくね!」

比企谷「よろしく」

里中「で、こっちが雪子。 天城雪子っていうんだ」

天城「よ、よろしく……」

里中「それじゃ帰ろっか!」

48: 2013/07/17(水) 00:21:28 ID:d4roqTbQ

     サアアアア……

里中「へえ~親御さんの都合なんだ」

比企谷「そう」

里中「キミも大変だね~」

里中(ちょっとひねくれた感じがするのは、そのせい?)


校門付近


??「雪子!」

比企谷・里中「ん?」

天城「え……? 私?」

里中「誰? 知ってる人?」

天城「……ううん」

49: 2013/07/17(水) 00:23:30 ID:d4roqTbQ

??「雪子……僕と一緒に遊びに行こう?」

天城「え……」

里中「ちょっとあんた! 雪子、嫌がってんじゃん!」

??「う、うるさい! 邪魔すんな!」

??「これは僕と、雪子の問題だ!」

里中「はあ!?」


比企谷(……おいおい)

比企谷(ずいぶん痛い奴が出てきたな……なんだよ、こいつ。 他校の制服着てるけど)


??「さあ、雪子……僕と一緒に」

天城「……え、えと、行かない」

??「!!?」

50: 2013/07/17(水) 00:24:28 ID:d4roqTbQ

??「……っ」 ギリッ…!

里中「ほらほら、結果は出たんだから、さっさと帰んなさいよ」

??「この……! あ、後で、後悔しても、し、知らないからな!」

     バシャ バシャ バシャ…

里中「…………」

里中「何だったんだろ?」

天城「さあ?」


比企谷(まさに)

比企谷(究極のぼっちだな)

比企谷(てか、この街、ぼっちを呼び寄せる何かでもあんのかよ……)

51: 2013/07/17(水) 00:25:42 ID:d4roqTbQ

     チリン チリン

??「よう! 里中、天城!」

里中「花村」

花村「何してんだよ、こんなとこで?」

里中「別に。 変な奴が雪子に告白して玉砕しただけ」

花村「は、そりゃまた無謀な奴がいたもんだ」

花村「この俺も去年告って玉砕してるしなー」

花村「天城も身持ち硬すぎだって」

天城「え? そ、そんな事、無い、と思うけど……」

花村「お? じゃあ、これから俺と付き合ってくれるか?」

天城「それは無理」

花村「ぐ……少しでも期待した俺がバカだった」

52: 2013/07/17(水) 00:26:42 ID:d4roqTbQ

花村「じゃあな! あんまし転校生いじめんなよ!」

     チリン チリン…

里中「人聞きの悪いこと言うなぁー!」

里中「ったく……」

比企谷「…………」

里中「ああ、あいつ? 花村って言うんだけど」

里中「半年前、キミと同じく、都会から転校してきたんだ」

里中「だからどっか垢抜けた感じ、あるでしょ?」

比企谷「あ、ああ……まあ」


比企谷(ああいうのを【垢抜けた】と言っていいのか?)

比企谷(……雪ノ下ならもっと)

53: 2013/07/17(水) 00:27:43 ID:d4roqTbQ

比企谷(…………)

比企谷(いや、止めておこう)

比企谷(あいつの事を考えるのは)


里中「そんじゃ行こっか!」

天城「う、うん」

比企谷「…………」


     サアアアア……


54: 2013/07/17(水) 00:28:54 ID:d4roqTbQ


―――――――――――


里中「それにしても何にも無いところで、驚いたでしょ?」

比企谷「そんな事は」

里中「それなりに特産品とかあったりするんだけどね」

里中「八十神山で取れる……なんとかっていう染物や焼き物とか」

比企谷(……アバウトすぎだろ)

里中「後は、何と言っても天城屋旅館ね」

里中「ひなびた温泉旅館で、地元の人でも結構宿泊してるって聞いてるよ?」

比企谷「……天城屋?」

里中「そう! この雪子の実家なの!」

天城「ち、千枝……!」

里中「いーじゃん雪子。 ちょっとくらい自慢したって」


比企谷「…………」

55: 2013/07/17(水) 00:29:34 ID:d4roqTbQ

里中「でさ! 比企谷くん!」

里中「雪子って、綺麗だと思うよね?」

天城「……千枝」

比企谷「…………」

里中「どう思う?」

比企谷「…………」

比企谷「ブッサイク」

里中・天城「!?」

比企谷「……と」

比企谷「言えるわけない質問の仕方だ」

比企谷「それは」

56: 2013/07/17(水) 00:30:35 ID:d4roqTbQ

里中「あ、あんた、何を言って……」

比企谷「まともな人間なら、フツーは当たり障りのない返答をするだろうけど」

比企谷「たまに」

比企谷「そうじゃない人間もいる」

比企谷「そうなった時、傷つくのはお前じゃないんだぞ? 里中」

里中「……!」

天城「…………」

比企谷「その辺を分かっているのか?」

里中「……っ」

天城「ひ、比企谷くん、千枝も悪気があって言ったんじゃないと思うから……!」

比企谷「…………」

比企谷「まあ……それでいいのなら、俺がとやかく言う事じゃないな」

天城「う、うん……」

57: 2013/07/17(水) 00:31:27 ID:d4roqTbQ

比企谷「…………」

比企谷「?」

比企谷「何だ? あの人だかり?」

天城「……さあ?」

天城「千枝、知ってる?」

里中「……知らない」

比企谷「パトカーとかあるし、事件現場ってやつか」

天城「どうしよう……ここを通りたいんだけど」

比企谷「……まあ、ダメもとで行ってみるか」

天城「そうだね」

里中「…………」

58: 2013/07/17(水) 00:32:26 ID:d4roqTbQ

     ダダダダダダダダッ!

足立「うおっえっぷッ……!」

     ゲェー ゲェー

比企谷「」

比企谷「……足立さん」

足立「はあ……はあ……え?」

足立「! 比企谷くん!?」

天城「……比企谷くんの知り合い?」

比企谷「あ、ああ……お世話になってる、刑事さん」

天城「そ、そうなんだ……」

足立「あちゃ~……カッコ悪いところ見られちゃったな……」

比企谷「いえ……」

??「おい! 足立!」

59: 2013/07/17(水) 00:33:32 ID:d4roqTbQ

足立「あ……ど、堂島さん……」

堂島「いつまで新人のつもりなん……ん?」

堂島「お前達、八十神高校の生徒か?」

天城「は、はい、そうですけど……」

堂島「……ったく、あの校長、ここは通すなと言っておいたのに」

比企谷「…………」

堂島「いいか、お前達」

堂島「さっさと帰れ。 そして、今日だけは出歩くんじゃない」

堂島「わかったか?」

里中「は、はい……」

堂島「よし」

60: 2013/07/17(水) 00:34:35 ID:d4roqTbQ

堂島「足立! いつまでも休んでいるんじゃない!」

足立「ひいっ!」

堂島「さっさと地取りに行くぞ!」

足立「わかりましたァ!」

足立「……そんな訳で比企谷くん」

足立「僕はいつ帰れるか、わからない」

足立「ご飯とか、先に済ませてていいからね!」

比企谷「はあ……」

堂島「足立ぃ!」

足立「い、今行きます!」

     タッ タッ タッ…

比企谷・天城・里中「…………」

61: 2013/07/17(水) 00:35:46 ID:d4roqTbQ

天城「……ど、どうしよっか?」

里中「ここでお開き、で、いーじゃん?」

天城「そ、そっか……そうだよね、千枝」

天城「じゃ、私たち、こっちだから……」

天城「また明日、比企谷くん」

比企谷「……ああ」

     テク テク テク…

比企谷「…………」

比企谷「……帰るか」


     サアアアア……


62: 2013/07/17(水) 00:37:14 ID:d4roqTbQ

足立宅


テレビ『皆さん、今晩は。 今日のニュースです』

テレビ『まずは静かな街で起こった、何とも奇妙な事件をお伝えします』

テレビ『本日午前10時頃、稲羽市、鮫川付近の住宅街で』

テレビ『女性の変氏体が発見されました』

比企谷「!」

テレビ『被害者は、地元テレビ局の人気アナウンサー山野真由美さん(27才)とみられ』

テレビ『大型テレビのアンテナに引っかかった状態で発見されました』

テレビ『警察は氏因などを公表しておりませんが』

テレビ『事故・事件両面の方向で捜査をする、との事です』

比企谷「…………」

比企谷(……これか)

比企谷(そりゃピリピリもするわな)

63: 2013/07/17(水) 00:40:19 ID:d4roqTbQ

テレビ『また山野真由美アナは』

テレビ『議員秘書の生天目太郎氏と不倫関係が取り沙汰されており』

テレビ『警察は、近く、事情聴取をするものと思われます』

比企谷(……大人はただれているな)

比企谷(ま、俺には関係のない事だけど……)

比企谷(……さて)

比企谷(飯は食ったし、風呂にも入ったし)

比企谷(歯を磨いて寝るか……)



     ひとごと……そう、俺にとってこの事件は

     ひとごとでしかなかった



69: 2013/07/20(土) 17:56:37 ID:5ApG/D3c


―――――――――――


翌日の朝


比企谷「……ふあ」

比企谷「…………」

比企谷(今朝も人の気配がしない)

比企谷(足立さん……帰って来れなかったのか)

比企谷(…………)

比企谷(さて……起きますか、と)

70: 2013/07/20(土) 17:57:48 ID:5ApG/D3c

通学路


     テク テク テク

比企谷(雨こそ降っていないものの……重そうな空だ)

比企谷(傘が手放せないな)


花村「うおおおわああああっ!!」


     ガッシャーン!


比企谷(…………)

比企谷(昨日……これと同じ光景を見た様な……)

花村「だ、誰か……! た、助けて……!」

比企谷(ポリバケツに頭から突っ込むって……どんな漫画だよ)

比企谷(……馬鹿らしいが、あの状況、一人で何とかするのは難しい)

比企谷(助けてやるか……)

71: 2013/07/20(土) 17:58:46 ID:5ApG/D3c


―――――――――――


花村「……っは! 氏ぬかと思った……」

比企谷「大丈夫だ。 生きてる」

花村「おっ? よく見たら転校生じゃねーか」

花村「すまねえな、助かったぜ」

比企谷「礼はいらない」

比企谷「それよりも自転車は『車両』扱いだ」

比企谷「人身事故を起こしたら、それ相応の報いを受ける」

比企谷「気をつけて運転しろ」

花村「お、おう……」

比企谷「じゃあな」

花村「…………」

72: 2013/07/20(土) 17:59:50 ID:5ApG/D3c

昼休み

屋上


花村「よう! お二人さん!」

里中「ん? 花村?」

里中「どうかしたの?」

花村「いや、たいした用事じゃないんだけど……」

花村「里中と天城、昨日転校生と帰ってただろ?」

里中「……それがどうかした?」

花村「……何で若干キレてんだよ?」

花村「まあ、だいたい予想つくけど、あの転校生ってどんな奴なんだ?」

73: 2013/07/20(土) 18:00:57 ID:5ApG/D3c

里中「ちょっとかと思ったけど、だいぶひねくれている奴かなー」

花村(里中が初対面でこれほど悪態つくとは……)

花村「そ、そうか……」

花村「天城はどう思った?」

天城「え? えーっと……」

天城「……そんなに悪い人じゃないと思う」

里中「へー雪子も少しは悪い奴だと思っているんだ」

天城「そ、そこまでは言ってないよ、千枝……」

花村「……なんつーか、とっつきにくい奴だってのはわかった」

花村「サンキューな」

里中「そんな事聞いて何するつもり?」

花村「ま、いろいろあって……じゃ」

里中・天城「…………」

74: 2013/07/20(土) 18:02:07 ID:5ApG/D3c

放課後


比企谷(さて……帰るか)

花村「よう! 比企谷!」

比企谷「……今朝の」

花村「花村陽介ってんだ、よろしくな!」

比企谷「……よろしく」

花村「でよ、今朝の礼をしたくてよ」

花村「ビフテキ奢るぜ?」

比企谷「いや……気にしなくていいから」

比企谷(ビフテキって……今時そんな単語が生息してるとは)

75: 2013/07/20(土) 18:03:01 ID:5ApG/D3c

里中「花村」

花村「ん? なんだよ里中」

里中「ならあたしが代わりに奢られてあげる♪」

花村「は? 何言ってんの、里中さん?」

比企谷「そうしてやってくれ」

花村「いやいやいや! それじゃ意味ねーし!」

里中「雪子ー! 一緒に行こうよ!」

花村「おまっ!? 何勝手に人数増やそうとしてるんだよ!」

天城「……ごめん、千枝」

天城「私、家の手伝い、あるから」

里中「そうなの? それじゃ仕方ないっか」

里中「あたしが雪子の分まで食べてきてあげるね♪」

花村「やらねーよ!? つーか、何、この流れ!?」

76: 2013/07/20(土) 18:04:10 ID:5ApG/D3c

比企谷「……じゃ」

花村「さらっと帰ろうとすんな! 比企谷!」

花村「目的はお前なんだし!」

里中「ほら行くよー? 花村」

花村「ちょ! 引っ張んな里中!」

花村「比企谷! 見てないで助けてくれ!」

比企谷「…………」

77: 2013/07/20(土) 18:06:20 ID:5ApG/D3c

ジュネス フードコート


里中「ちょっと花村ー」

里中「ここジュネスじゃん。 ビフテキないじゃん」

花村「うっせーよ。 強引について来て、何でそんなに偉そうなんだよ」

里中「はいはい、妥協してあげる」

花村「ったく……すまねえな比企谷」

比企谷「いや……なんて言うか、諦めた」

花村「ハハハ……なんつーか、グダグダになっちまったけど……」

花村「ささやかながら、お前の歓迎会をしたかっただけなんだよ」

花村「……こっちの邪推かも知んねーけど」

花村「環境が急激に変わりすぎて、色々ついて行けないんじゃないのか?」

比企谷「…………」

里中「……!」

78: 2013/07/20(土) 18:07:34 ID:5ApG/D3c

花村「俺はそうだった」

花村「どうにもこうにもここの『空気』に馴染めなくてよ」

花村「最初は、ギクシャクしちまったもんさ」

比企谷「…………」

里中「…………」

花村「時間はかかると思うけどよ」

花村「こうやって出会ったのも何かの縁だ」

花村「少しずつ、仲良くなろうぜ! 比企谷!」

里中「花村……」

比企谷「…………」

79: 2013/07/20(土) 18:08:32 ID:5ApG/D3c

比企谷「……わかった、花村」

比企谷「そこまで言うなら、よろしく頼む」

花村「おう! よろしくな! 比企谷!」

里中(花村……いいとこあんじゃん) クスッ

花村「じゃ、新たなクラスメイトの歓迎を込めて……」 スッ…

里中「込めて!」 スッ…

比企谷(そういうのは恥ずかしい……) スッ…

     カンパーイ! アハハ…

―――――――――――

里中「――にしても」

里中「商店街の方、行かなくなったよね~」

里中「この前立ち寄ったら、シャッター降りてる店、結構あってさー」

花村「…………」

里中「あ……ごめん、花村」

80: 2013/07/20(土) 18:10:00 ID:5ApG/D3c

花村「別にいいって、里中」

花村「俺のせいって訳じゃねーし」

里中「う、うん」

比企谷「……?」

花村「……お! 小西先輩だ」

花村「ちょっと挨拶してくる」

     タッ タッ タッ…


比企谷(……恋人?)

比企谷(いや……恋人なら『先輩』を付ける可能性は低い)

比企谷(片思いか……)


里中「ああ、あの人……さっき言った商店街の酒屋の娘さんでね。 同じ学校の三年生」

里中「ここで……ジュネスでバイトしてるんだ」

81: 2013/07/20(土) 18:11:11 ID:5ApG/D3c

里中「ジュネスが出来てから商店街は寂れる一方だけど」

里中「そのジュネスで商店街関係者が働いてる」

里中「……商店街の人たちには、裏切り者だ、なんて言う人もいたり……」

比企谷「…………」

里中「そして、花村はジュネスの店長さんの息子だったりするのよね」

比企谷(そういう事ですか……)

里中「シチュエーション的には燃える展開よね~」

里中「敵対関係の中、恋する二人……!」

里中「ちょっと憧れちゃう!」

比企谷(当事者になったら、そう言ってられるとは思えんがな)

82: 2013/07/20(土) 18:12:26 ID:5ApG/D3c

里中「あ、こっちに来た」

小西「こんにちは、比企谷くん」

比企谷「……こんにちは」

小西「花ちゃんって、ちょっとウザイでしょ?」

花村「ちょ、小西先輩……」

比企谷「そんな事は」

小西「そう? でも、ウザイと思ったら正直に言ってあげなよ?」

小西「本人の為にもね」

比企谷「はあ……」

小西「ふふふ、じゃ、私、仕事に戻るね、花ちゃん」

花村「か、かなわねーな……小西先輩には」

     テク テク テク…

83: 2013/07/20(土) 18:13:45 ID:5ApG/D3c

花村「はあ……疲れた」

比企谷「……大変だな」

花村「もう慣れたよ。 いい加減、子供扱いは止めて欲しいけどな」

里中「あ、そうだ、花村」

花村「ん?」

里中「あれ、試してみたら? ほら、今流行りの……」

花村「ああ、何だっけ? 雨の夜中にテレビ見るっていう?」

里中「そうそう! 【マヨナカテレビ】ってやつ!」

比企谷「……都市伝説か何かか?」

里中「まあそのたぐい」

里中「雨の夜中、0時キッカリに電源の入ってないテレビを見ると」

里中「自分の運命の人が見えるっていうの!」

84: 2013/07/20(土) 18:14:39 ID:5ApG/D3c

比企谷(…………)

比企谷(……おい)

比企谷(どうして”運命の人”の単語で)

比企谷(雪ノ下や由比ケ浜、川崎に戸塚の顔が浮かぶんだよ)

比企谷(ねーだろ……)

比企谷(特に雪ノ下は……)

比企谷(…………)

85: 2013/07/20(土) 18:15:46 ID:5ApG/D3c

比企谷「オカルトもいいところだな……」

里中「まあ、眉唾なのは否めないけどね」

里中「でも、見たって子も多いんだよ?」

花村「バカバカしい与太話だろ……」

比企谷「俺もそれに一票」

里中「ムカ! そんなに言うなら今晩試してみようじゃん!」

里中「天気予報じゃ今晩雨だし」

花村「一人でやってくれ……」

比企谷「俺は早めに寝るタイプ」

里中「とにかく! 今晩! 夜0時! テレビ見る事!」

花村「へいへい、分かりましたよ、里中さん。 気が向いたらな」

里中「比企谷くんもいい!?」

比企谷「わかった、わかった……」

86: 2013/07/20(土) 18:17:55 ID:5ApG/D3c

足立宅


比企谷「ふう……」

比企谷(足立さん……今日も帰らないのかな)

比企谷(警察だもんな)

比企谷(…………)

比企谷(メールでもチェックしとくか) ピッ

     Re:材木座

  同士比企谷! 元気にやっておるか!?

  吾輩はすこぶる元気だぞ!


     Re:戸塚

  八幡、元気かな? まだ数日しか経ってないけど

  ちょっと寂しいかな……良かったら返事、もらえると嬉しいな。


87: 2013/07/20(土) 18:19:28 ID:5ApG/D3c

比企谷「…………」

     Re:小町

  お兄ちゃん、連絡はまだ? 小町的には大きなマイナスポイントだね

  私も出来たらお兄ちゃんと一緒に居たかったんだけど……

  ……雪ノ下さんは、きっと急用が入ったんだよ。

  だから、気にしちゃダメだよ?


88: 2013/07/20(土) 18:21:12 ID:5ApG/D3c

比企谷「…………」

     Re:由比ケ浜

  ヒッキー、元気してるー?

  全然返事が来ないから、そろそろ不安だよー。 何でもいいから、返事して?

  ……そりゃゆきのんの事、ショックだったのは解るけど

  きっと何か訳があるんだよ。

  ゆきのんも元気ないし……ちょっと時間かかるかもだけど

  理由、聞いておくから。


89: 2013/07/20(土) 18:22:07 ID:5ApG/D3c

比企谷「…………」

比企谷(返事……)

比企谷(…………)

比企谷(とりあえず、『元気です』でいいか)

比企谷(…………) ピッピッ

比企谷(送信……送信、と) ピッ

比企谷(…………)

比企谷(…………) クスッ…

90: 2013/07/20(土) 18:22:59 ID:5ApG/D3c


―――――――――――


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(……もうすぐ0時か)

比企谷(…………)

比企谷(なんで俺、こんな事しているんだろ……)

     チッ チッ チッ

比企谷(…………)

比企谷(……5……4……3……2……1)

     カチッ

比企谷(…………)

テレビ「…………」

91: 2013/07/20(土) 18:24:01 ID:5ApG/D3c

比企谷「…………」

比企谷「……ま、そうだよな」

比企谷「さっさと寝よ……」

     ピィ~ウィ~……

比企谷「!?」

比企谷(え……!?)

比企谷(なぜ!? 電源は入れてないのに……)

比企谷(…………)

比企谷(……どうやら女みたいだが)

比企谷(不鮮明すぎて、誰だかよく解らない……格好は八十神高校の制服みたいだが)

比企谷(…………)

比企谷(少なくとも……雪ノ下達じゃない事は確定したな)

92: 2013/07/20(土) 18:25:09 ID:5ApG/D3c

     ブツンッ……

比企谷「……終わった?」

比企谷「…………」

比企谷「まさに……怪現しょ」


    ――我は汝――

    ――汝は我――


比企谷「ぐっ!?」


    ――汝は扉を開く者なり――


比企谷「あ、あああっ、頭、がっ……!」

比企谷「う、ああああああっ……!」

93: 2013/07/20(土) 18:26:09 ID:5ApG/D3c

比企谷「はあっはあっはあっ……」

比企谷「はあっ……はあっ……」

比企谷「…………」

比企谷(なん……だったんだ……)

比企谷(…………)

比企谷(あの妙な声……)

比企谷(そして、電源の入ってないテレビの映像……)

     スッ…… ピィィィンッ

比企谷「!?」

比企谷「何だ……今のテレビ画面の感触……それに波紋?」

     グッ……ズズズズズッ

94: 2013/07/20(土) 18:27:23 ID:5ApG/D3c

比企谷「!!?」

比企谷「は……ははは……ありえないだろ」

比企谷「テ、テレビに手を突っ込める、とか……」

     グイッ!

比企谷「!?」

比企谷「なっ!? ひ、引っ張られる!?」

比企谷「こ、このっ! くっ……!」

     スポンッ

比企谷「うわっ!」

     ガスッ!

比企谷「……っ!」

比企谷(目から火が出る、とは、この事……! 痛てて……)

比企谷(後頭部……穴空いてないだろうな……?)

95: 2013/07/20(土) 18:28:20 ID:5ApG/D3c

比企谷(…………)

比企谷(どうすんだよ……)

比企谷(明日……これを説明すんのかよ……)

比企谷(…………)

比企谷(…………) (後頭部を)スリスリ…

比企谷(この痛みは本物だ)

比企谷(……だけど)

比企谷(確実に痛い奴だと思われる……)

比企谷(…………)

比企谷(……まあ、それでもいいか)

比企谷(ぼっちには慣れているしな……)

比企谷(はあ……)

96: 2013/07/20(土) 18:29:43 ID:5ApG/D3c

翌日の朝

教室


比企谷「……ふあ」

比企谷(そういや足立さん、結局昨日も帰って来なかったな)

比企谷(あの堂島とかいう刑事に、こき使われているんだろうか)

比企谷(…………)

比企谷(それよりも昨日のアレ……)

比企谷(みんなも同じ様になったのか……?)

比企谷(…………)

花村「……おはよう、比企谷」

比企谷「! 花村」

97: 2013/07/20(土) 18:30:36 ID:5ApG/D3c

比企谷(……?)

比企谷(何か様子が変だな?)

比企谷(花村も同じ目にあった……?)


比企谷「おはよう」

花村「お、おう」

花村「…………」

花村「と、ところで、よ」

花村「昨日のアレ……試してみたか?」

比企谷「……ああ」

花村「!!」

花村「そ、そうか……」

98: 2013/07/20(土) 18:31:27 ID:5ApG/D3c

里中「おはよー、花村、比企谷くん」

天城「おはよう、二人共」

花村「おはよう、里中、天城」

比企谷「同じく、おはよう」

花村「……でよ、里中。 昨日のアレなんだが……」

里中「あ、うん。 それはまた後で……放課後にでも」

天城「千枝、何の話?」

里中「何でもないよ、雪子。 昨日のビフテキ奢るって話の続き」

花村「ちょ!? 里中さん!?」

里中「はいはい、放課後にね~」

花村「ったく……あいつどんだけ肉、好きなんだよ……」

比企谷(……ごまかしで言っただけだと思うが、黙っておこう)

99: 2013/07/20(土) 18:32:24 ID:5ApG/D3c


―――――――――――


放課後


天城「じゃ……千枝」

里中「あ、うん。 また明日」

     テク テク テク…

花村「天城、何かあったのか?」

里中「旅館、忙しいんだって」

花村「そうなのか……大変だな」

里中「で……昨日の【マヨナカテレビ】の事なんだけど」

花村「! ……お、おう」

100: 2013/07/20(土) 18:33:18 ID:5ApG/D3c

里中「なんか……見える事は見えたんだけど」

里中「女の子ぽかったんだよね」

花村「!」

比企谷「!」

花村「お、俺も見た! 多分、同じ映像だ……」

里中「比企谷くんは?」

比企谷「……同じだと思う」

里中「へえ~みんな同じの見たんだ」

里中「でも、あたしの運命の人が女の子ってどういう事?」

比企谷「不鮮明だったけど……あれ、ここの制服じゃなかったか?」

里中「あ! うんうん、そうだよ、比企谷くん!」

花村「…………」

101: 2013/07/20(土) 18:34:57 ID:5ApG/D3c

里中「どうしたの? 花村?」

花村「……あれ、たぶん、小西先輩だと思う」

里中・比企谷「!!」

里中「言われてみれば……うん、確かにそんな感じだった!」

里中「じゃあ、花村だけハッピー?」

花村「よくねーよ! ……上手く言えねーけど」

花村「小西先輩……何か、得体の知れないモノに追いかけられて」

花村「逃げ惑っている感じだった……」

里中・比企谷「…………」

里中「あたしの方は、そこまでわからなかったけど……」

比企谷「……こっちもだ」

102: 2013/07/20(土) 18:36:11 ID:5ApG/D3c

比企谷「…………」

比企谷「二人は、他に何か起きなかったのか?」

里中「え?」

花村「他にって?」

―――――――――――

里中「変な声……それに」

花村「テレビに引きずり込まれそうになった?」

比企谷「…………」

里中「さ、さすがに……それは無かった、かな……」

花村「こう言っちゃ何だが……寝落ちじゃないのか?」

比企谷「……だけど考えてもみろ」

比企谷「『電源の入っていないテレビ』に映像が映るだけで」

比企谷「相当な寝落ちネタじゃないか?」

103: 2013/07/20(土) 18:37:12 ID:5ApG/D3c

里中「…………」

花村「…………」

比企谷「…………」

花村「た、確かに……揃っておんなじ夢を見た寝落ちってありえねーよな」

里中「それに、比企谷くんのテレビ画面が小さくて」

里中「難を逃れたっていうのもリアリティある話だよね……」

比企谷「…………」

里中「…………」

花村「…………」

里中「なんか、モヤモヤする」

花村「だな……」

104: 2013/07/20(土) 18:38:13 ID:5ApG/D3c

花村「どうだろ? 比企谷」

花村「確認のために大画面テレビで試してみるか? 人が入るくらいの」

比企谷「持ってるのか?」

花村「俺んちじゃねーよ」

花村「ジュネスの家電売り場のテレビだ」

比企谷「……人の目があるのは、ちょっと」

花村「大丈夫」

花村「店の関係者としてはどうかと思うが、あんまやる気のない売り場でな」

花村「そんなに人は来ねえよ」

比企谷「そうなのか」

比企谷「……じゃ、行ってみるか」

里中「だね!」

105: 2013/07/20(土) 18:39:00 ID:5ApG/D3c

ジュネス 家電コーナー


花村「えーえー、お客様、こちらのテレビは最新型の大型テレビで……」

里中「……悪乗りはいいから」

花村「ハハハ……すまん」

比企谷「本当に客がいないな」

花村「悲しくなるくらいに、な……さて、里中?」

里中「うん……画面に触れてみる」

     グッ……

花村「……やっぱり」

里中「……無理だよね」

花村「比企谷には悪いが……寝落ちの線が強くなったな」

106: 2013/07/20(土) 18:40:25 ID:5ApG/D3c

比企谷「…………」

比企谷「……じゃ、試すぞ」

     スッ……ブウウウウウンッ

里中・花村「」

里中「え!? ええっ!?」

里中「ちょ!? どんなイリュージョン!?」

花村「う、裏側突き抜けてねーし! マ、マジ、どんな手品だっての!?」

比企谷「お、おい……お前ら、騒ぎすぎじゃ」

里中「ご、ごめん!」

花村「げ!? や、やべえ! 人! 人が来る!!」

花村「比企谷! 早く引き抜けよ!」

里中「ちょっ! 花村! どこ触ってんの!?」 ///

107: 2013/07/20(土) 18:41:28 ID:5ApG/D3c

花村「え!? わ、悪い……」

     グラ…… ドンッ!

花村「」

里中「」

比企谷「」




     わああああああああああ……




108: 2013/07/20(土) 18:42:19 ID:5ApG/D3c

―――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――

―――――――――

―――



     ゴスッ!

花村「――っだ!」

     ドサッ!

里中「いがっ!」

     ボスッ!

比企谷「がふっ!」

花村「痛つ……」

里中「いったぁ……」

比企谷「うぐぐ……」

109: 2013/07/20(土) 18:43:00 ID:5ApG/D3c

花村「ケツの財布が……モロに……大丈夫か? お前ら……」

里中「な、何とか……」

比企谷「若干ケツが割れた……」

里中「元からでしょ! ……ったく」

里中「って、ここってどこ?」

比企谷「……ジュネスのどこかか?」

花村「こんなとこ知らねーし……つーか、何だよ、この霧は?」

里中「…………」

比企谷「…………」

花村「…………」

110: 2013/07/20(土) 18:44:11 ID:5ApG/D3c

里中「もうやだぁ! こんなとこ、さっさと出ようよ!」

花村「ああ、その意見には賛成だな」

比企谷「…………」 キョロキョロ…

里中「比企谷くん? 何キョロキョロしてるの?」

比企谷「出口……どこなんだ?」

花村「」

里中「」

比企谷「…………」

花村「ど、どこって……確か上から落ちてきたから」

里中「う、上って、どうやって登るの!?」

花村「知らねーよ!」

比企谷「落ち着け……慌てたって事態は変わりそうもない」

里中「…………」

花村「…………」

111: 2013/07/20(土) 18:45:35 ID:5ApG/D3c

里中「な、なんか比企谷くんって冷静だね……」

花村「俺たちが慌てすぎなのか……?」

比企谷「…………」 ピッピッピッ…

比企谷「……ダメだ、圏外」

比企谷「そっちは?」

里中・花村「!」

     ピッピッピッ…

里中「……ダメ、こっちも圏外。 花村は?」

花村「おんなじ……お手上げだな」

比企谷「…………」

比企谷「だったら、探索するしかないな」

112: 2013/07/20(土) 18:46:49 ID:5ApG/D3c

花村「……だよな」

里中「うう……」

比企谷「まあ、入って来れたんだ」

比企谷「出口もきっとある……たぶん」

里中「たぶんを付けないでよ……たぶんを」

花村「しっかし、すごい霧だな……」

花村「見えにくくてしょうがねぇ」

比企谷「……とりあえず、この見えている道を進むか」

花村「出口につながっているといいが……」

里中「比企谷くん、くじ運いい方?」

比企谷「……小学校で4等の鉛筆1ダースが最高記録」

花村「……手分けした方がいいか?」

里中「そ、そんな! か弱い女の子一人にしないでよ!」

113: 2013/07/20(土) 18:47:46 ID:5ApG/D3c

比企谷「冗談はこれくらいにして……」

比企谷「俺としてもバラバラに行動するのは良くないと思う」

花村「わ、わかってるって」

里中「……早く帰りたい」

―――――――――――

花村「……お?」

花村「ここ、少し霧が薄くね?」

比企谷「確かに……けど」

里中「ちょっと! ここ行き止まりじゃん!」

花村「見りゃわかるし、しょうがねーだろ……」

114: 2013/07/20(土) 18:49:02 ID:5ApG/D3c

比企谷「どこかの部屋みたいだ……が」

花村「あ、ああ……」

里中「なにここ……気持ち悪い」


比企谷(部屋一面に貼られた、顔の部分だけを切り取られた同じポスター群……)

比企谷(飛び散ったように見える赤い液体……)

比企谷(そして……)


花村「お、おい……この赤いスカーフ。 輪っかになってぶら下がってるけど」

花村「なんか……下のイスとの位置関係がヤバくね?」

比企谷「……自殺の首吊り現場みたいだな」

花村「おまっ! はっきり言うなよ! せっかくビブラートに包んで言ったのに!」

里中「それオブラート!」

里中「っていうか、ハズレなんだから最初のところに戻ろうよ……」

115: 2013/07/20(土) 18:50:16 ID:5ApG/D3c

比企谷「その通りだな」

比企谷「…………」

比企谷「……?」

比企谷「どうした? 花村?」

花村「い、いや……」

花村「この顔のないポスター、どっかで見たような気がして……」

比企谷「…………」

里中「花村、比企谷くん……さっさと行こう?」

里中「な、なんかあたし、体が重い気がして……」

花村「そういや……なんか俺も調子が悪いような」

比企谷「……言われてみれば、俺も……」

116: 2013/07/20(土) 18:51:08 ID:5ApG/D3c


―――――――――――


花村「……ふう、戻ってきたな」

里中「……疲れた」

比企谷「……少し休もう」

花村「ああ……賛成だ」

花村「つーかマジここ、ヤバイ場所なのかよ……」

     キュム キュム キュム

里中「……!?」

里中「何あれ!?」

花村「お、おい、なんか近づいてくるぞ!?」

比企谷「くっ……!」

117: 2013/07/20(土) 18:53:05 ID:5ApG/D3c

??「……あれぇ? 騒がしいと思ったら」

??「こんな所で何しているクマ?」


一同「!?」

一同(ぬいぐるみが喋った!?)


??「……あ! そういえば最近、よくここに人間を落としているのは」

??「お前達クマねー!」

一同「!??」

花村「何の事だよ……人間を落とす?」

??「そうクマ! クマは、ただここで静かに暮らしたいだけなのに……」

クマ「君らが人間を落とすから【シャドウ】が暴れて困っているクマ!」

118: 2013/07/20(土) 18:54:10 ID:5ApG/D3c

花村「おいおいおい! 何の事だよ!? んなもん知らねっつーの!」

クマ「ぼ、暴力は反対、クマ……」

花村「あん? ……何だよ、威勢がいいのは最初だけかよ」

里中「なんか怯えてるみたいだし……優しく話しかけた方がいいみたいね」

里中「ええと……クマくん?でいいのかな?」

クマ「クマ!」

里中「ええと……その人間を落とすって意味がわからないんだけど……」

クマ「そのままの意味クマ」

クマ「誰かがここに人間を落としているクマ」

クマ「そのせいでクマ、迷惑しているクマ!」

里中「……やっぱり訳 分かんないね」

比企谷「…………」

119: 2013/07/20(土) 18:54:54 ID:5ApG/D3c

クマ「さ! もう用はないクマね!?」

クマ「さっさと帰るクマ!」

花村「だからその出口がわかんねーんだよ!」

クマ「およ? 出口が分からない?」

花村「そうだよ」

クマ「じゃあクマが用意するクマ」

クマ「そして、さっさと帰るクマ!」

     ボフン

一同「!?」

一同(え!? テレビ!?)

120: 2013/07/20(土) 18:55:32 ID:5ApG/D3c

クマ「ホラホラ、さっさと帰るクマー!」

花村「ちょ!? クマ、押すな!」

里中「うわわっ」

比企谷「おいおいおい!」



     わあああああああああああああっ……



―――――――――――

     ドササッ!

花村「っは!」

里中「いったぁ……」

比企谷「……ここは?」

一同「…………」

121: 2013/07/20(土) 18:56:42 ID:5ApG/D3c

里中「ジュネスだ!」

花村「家電コーナーだ!」

比企谷「……帰って来れたか」 ホッ…

里中・花村「よ、良かったぁ~……」

     ピン ポン パン ポン

店内放送『お客様へご連絡します』

店内放送『まもなく、一階のお惣菜コーナーで』

店内放送『半額のタイムサービスを開始します』


花村「げっ!? もうそんな時間かよ……」

里中「あたし達……結構長い事あそこに居たんだ……」

122: 2013/07/20(土) 18:57:42 ID:5ApG/D3c

花村「……あ!」

比企谷「どうしたんだ?」

花村「ほらあれ! あのポスター!」

比企谷「……!」

比企谷「柊みすず……?」

花村「あの妙な部屋の顔無しポスター。 たぶんあれだ」

比企谷「……どういう事?」

花村「……俺に聞かれても困る」

比企谷「…………」


比企谷(確か……変氏体で見つかった山野アナの不倫相手)

比企谷(生天目とかいう奴の正妻だったな……柊みすず)

比企谷(……山野アナの事件と何か関係している?)

123: 2013/07/20(土) 18:58:35 ID:5ApG/D3c

里中「……う」

里中「とりあえず、詳しい事は明日にしない……?」

里中「なんか……真面目に体が重い」

花村「ああ……俺もマジでヤバイ……」

花村「早いとこ帰って、眠りたいわ……」

比企谷「……俺も疲れたな」

花村「じゃ……また明日」

里中「んー……」

比企谷「…………」


―――――――――――


124: 2013/07/20(土) 18:59:42 ID:5ApG/D3c

足立宅


     ドサッ……

比企谷「……っは」

比企谷(ダメだ……)

比企谷(なけなしの根性で帰ってこれたけど……)

比企谷(飯も風呂にも入る気力がない……)

比企谷(……寝よう)




     俺の……恐らく生まれて初めてであろう

     濃ゆい一日が終わった……




128: 2013/07/24(水) 17:34:27 ID:llv.z5as


―――――――――――


翌日の早朝


比企谷「……ん」

比企谷「……ふあ」

比企谷「…………」 ボリボリ…

比企谷「…………」

比企谷(今は……5時半か……)

比企谷(ずいぶん早く……ああ、昨日はそのまま倒れ込んだんだっけ)

比企谷(通りで……)

129: 2013/07/24(水) 17:35:31 ID:llv.z5as

比企谷(……今日は人の気配がするな)

     ガラ……

足立「…………」 zzz

比企谷(足立さん、帰ってきたのか)

比企谷(…………)

比企谷(腹も減ったし、朝ごはん作るかな……足立さんのも込みで)

比企谷(冷蔵庫に何かあるだろうか?)

     ゴソゴソ…

比企谷(キャベツ、卵に……牛乳……飲み物は豊富だけど、料理の材料は乏しいな)

比企谷(お? テーブルの上に食パンがある)

比企谷(…………)

比企谷(よし、下ごしらえをして)

比企谷(先にシャワーを浴びよう)

130: 2013/07/24(水) 17:36:32 ID:llv.z5as


―――――――――――


     ジュウウウ……

足立「…………」 zzz

足立「……ん?」

足立「ふああああ……」

足立「…………」

足立「何か、いい匂いがするな……?」

     ガラ…

足立「!」

比企谷「あ、おはようございます、足立さん」

足立「おはよう、比企谷くん」

131: 2013/07/24(水) 17:37:35 ID:llv.z5as

足立「いい匂いだけど、何を作っているんだい?」

比企谷「フレンチトーストです」

足立「へえ……すごいね」

比企谷「いえ……ウチじゃ小町……妹の面倒を見てたんで」

足立「それで料理が出来るのか……感心するよ」

足立「僕も自炊はたまにするけど、朝は普通のトーストしか しないなぁ」

比企谷「俺だってそうですよ」

比企谷「今日は、たまたま早く目を覚ましたので……」

足立「そうだったのか」

比企谷「もうすぐ出来ますから」

足立「そっか、僕の分もあるのか。 嬉しいね」

足立「顔を洗ってくるよ」

132: 2013/07/24(水) 17:39:01 ID:llv.z5as

足立「いただきます」

比企谷「いただきます」

     モグモグ…

足立「うん! 美味いね!」

比企谷「ありがとうございます」

足立「上手だね~。 実はフレンチトースト、初めて食べたんだけど」

足立「すごく美味しいと思うよ!」

比企谷「……作るたびに妹に点数つけられて鍛えられましたから」

足立「あははは……ちなみに今日のは何点をつけると思う?」

比企谷「う~ん……60点くらい、ですかね」

133: 2013/07/24(水) 17:40:29 ID:llv.z5as

足立「あらら……き、厳しいね、キミの妹さん」

比企谷「妹言わく、甘いものは妥協しない、だそうです」

足立「はははは、しっかりしてるね」

     モグモグ…

比企谷「足立さんは昨日、何時頃帰られたんですか?」

足立「日付が変わる直前くらいかな?」

比企谷「そんなに遅かったんですか……」

足立「まあ、ここ数日の忙しさは しょうがないよ」

足立「こんな田舎じゃ考えられないような凶悪事件だしね」

比企谷「…………」

足立「っと、捜査上の事は言えないからね?」

比企谷「わかってますよ」

     モグモグ…

134: 2013/07/24(水) 17:41:26 ID:llv.z5as

足立「ごちそうさまでした」

比企谷「お粗末さまでした」

足立「いや~ありがとう、比企谷くん」

足立「久しぶりに人間らしい食事をした気がするよ~」

比企谷「大げさですよ」

足立「ホントだって……本来は僕が君の面倒を見なくちゃいけないのに」

足立「すまない気持ちで一杯だよ」

比企谷「気にしないでください」

足立「ははは」

     ピピピ……ピピピ……

足立「お……携帯……」

135: 2013/07/24(水) 17:42:19 ID:llv.z5as

     ガチャ

足立「はい、足立です」

足立「はい……はい……」

足立「……え!?」

比企谷「…………」

足立「……そう……ですか」

足立「はい……はい……」

足立「わかりました、すぐ向かいます」

     ガチャ…

比企谷「……また、事件ですか?」

足立「ん!? ……ま、まあ、そうかな」

136: 2013/07/24(水) 17:43:05 ID:llv.z5as

足立「これ以上は言えないけど……どうやら、またしばらく帰れそうもない」

比企谷「大変ですね」

足立「そういう仕事だからね……」

足立「はあ……すぐに行かないと」

比企谷「お気を付けて」

足立「ああ、キミも寄り道とかしない様にね」

足立「後、朝ごはんありがとう。 本当に美味しかったよ」

足立「じゃ!」

     パタン……

比企谷「…………」

     ウ―― ウ――

比企谷(……嫌な予感しかしないな)

137: 2013/07/24(水) 17:43:48 ID:llv.z5as

通学路


     サアアアア……

比企谷(……今日も雨、か)

比企谷(…………)


教室


比企谷「……おはよう」

里中「おはよう、比企谷くん」

比企谷「天城は?」

里中「お店が忙しくって午前中休むって。 午後には顔を出すって言ってた」

比企谷「そうか……」

138: 2013/07/24(水) 17:44:40 ID:llv.z5as

里中「……昨日のアレ」

里中「何だったのかな?」

比企谷「俺に聞かれても分からない……」

里中「そ、そうだよ、ね……」

     ガララ…

花村「……よう、お前ら」

比企谷「花村」

里中「……? どうしたの? 元気が無いみたいだけど……」

花村「い、いや……たぶん、俺の思い込みだと思うから」

花村「気にしないでくれ……」

比企谷・里中「……?」

139: 2013/07/24(水) 17:45:51 ID:llv.z5as

午後

体育館


     ザワ…… ザワ……

比企谷(……午後の授業を取りやめて、緊急の全校集会)

比企谷(いったい、何が起こった……?)

里中「…………」 ピッピッピッ……

里中「おっかしいなー……雪子、午後には顔を出すって言ってたのに……」

花村「…………」

比企谷「どうした? 花村?」

比企谷「顔色が悪いみたいだけど……」

花村「……大丈夫だ、比企谷」

比企谷「…………」

140: 2013/07/24(水) 17:46:30 ID:llv.z5as

女教師『えー、生徒の皆さん、お静かに』

女教師『只今より、校長先生から大事なお話があります』

校長『あーあーううんっ……』

校長『えー……本日は、皆さんに非常に残念な報告をしなければなりません』

校長『今朝、本校生徒である、3年3組の小西早紀さんが……』


校長『亡くなられました』


比企谷・里中・花村「!!!!」


校長『詳しい事は、まだ分かっていませんが』

校長『今、警察の方々が全力で捜査をして……』

141: 2013/07/24(水) 17:47:37 ID:llv.z5as

比企谷(…………)

比企谷(……偶然?)

比企谷(いや……そんな訳、無いよな……)

比企谷(【マヨナカテレビ】で映し出された人間が……氏んだ)

比企谷(……くそ)

比企谷(何がどうなってやがるんだよ……!)


花村「…………」



―――――――――――



142: 2013/07/24(水) 17:48:33 ID:llv.z5as

     ガヤ ガヤ

モブ美「それにしても驚くよねー」

モブ美「まさかこんな田舎で連続殺人事件が起こるなんて」

モブ子「えー? まだそうと決まった訳じゃないんでしょ?」

モブ美「だってー、前の山野アナも今回のも」

モブ美「宙ずり状態で見つかっているんだよ?」

モブ美「おんなじ犯人としか思えない」

モブ子「うんうん、確かに解るけどー」

     ハハハ……

里中「……なんか人ごとだね」

比企谷「…………」

143: 2013/07/24(水) 17:49:43 ID:llv.z5as

花村「……なあ、比企谷」

比企谷「ん?」

花村「頼みたいことがある」

比企谷「……何だ?」

花村「……もう一度、あの世界に行きたいんだ」

里中「ちょ、ちょっと花村! 何言ってんの!?」

花村「…………」

花村「実はよ……俺」

花村「小西先輩が亡くなる瞬間を見ちまった……」

比企谷・里中「!?」

比企谷「……まさか、昨夜の【マヨナカテレビ】を?」

花村「……ああ。 もしかしたら、と思ってな」

144: 2013/07/24(水) 17:50:51 ID:llv.z5as

花村「見終わった後……恐ろしくなって布団に入って」

花村「疲れてた事もあって、すぐに寝ちまったが……」

花村「俺、嫌な胸騒ぎがして、朝一で小西先輩の安否を確かめてみようとしたら」

花村「昨日の夕方から居なくなっていたらしい……」

比企谷・里中「!!」

花村「……バカだよな」

花村「校長の話聞くまで、きっと大丈夫だ、取り越し苦労だって」

花村「思い込もうとしてたんだぜ……俺」

比企谷・里中「…………」

比企谷「どんな映ぞ……いや……」

比企谷「あの世界に行って、何をするつもりだ?」

145: 2013/07/24(水) 17:51:56 ID:llv.z5as

花村「確かめたいんだよ……小西先輩の為にも」

花村「【マヨナカテレビ】と事件、そしてあの世界との”関係”を」

花村「何をどう調べたらいいかなんて、もちろん分からないが……」

里中「や、止めなよ、花村!」

里中「警察に任せようよ!」

花村「捕まえられんのかよ……こんな怪現象がらみの事件の犯人を」

里中「そ、それは……」

花村「頼む、比企谷!」

花村「あの世界には、お前がいないと絶対に行けない」

花村「頼む! 力を貸してくれ!」

比企谷「…………」

比企谷(……えらい事になってきた)

146: 2013/07/24(水) 17:52:41 ID:llv.z5as

ジュネス 家電コーナー


花村「さて……ここに縛って、と」

比企谷「そのロープは命綱か」

花村「ああ……念のためにな」

里中「や、止めなよ、二人共……」

里中「絶対、危ないって……」

花村「わかってるって、里中」

花村「危なく思ったら、すぐこのロープを手繰(たぐ)って戻るさ」

里中「…………」

花村「じゃ……頼む。 比企谷」

比企谷「……わかった」

147: 2013/07/24(水) 17:53:29 ID:llv.z5as

     ブウウウウウン……

里中「…………」

里中「……大丈夫かなぁ」

里中「…………」

里中「花村ー?」

     クイッ クイッ

里中「…………」

里中「花村?」

     スル……スルスルスル……スルッ

里中(ちょっと……なんでこんなスルスル手繰(たぐ)れるのよ……)

     スポンッ!

里中「」

里中「切れてる……。 ほら……やっぱりダメじゃん……」

里中「どうすんのよぉ……」 クスン…

148: 2013/07/24(水) 17:54:35 ID:llv.z5as


―――――――――――


     ドサドサッ

花村「――っだ!」

比企谷「――っと」

花村「いてて……うっかり忘れてたぜ」

比企谷「……間違いない、昨日のあの場所だ」

花村「ああ、確かにな……相変わらずひでぇ霧だ」

     キュム キュム キュム

クマ「クマ! ま~た君たちクマねー!」

花村「!」

比企谷「!」

149: 2013/07/24(水) 17:55:37 ID:llv.z5as

クマ「昨日、迷惑してるって言ったクマに~!!」

花村「おい、クマ!」

クマ「……何クマ?」

花村「聞きたい事がある」

クマ「クマ?」

花村「昨日、お前は『誰かが人間を落として迷惑している』」

花村「とか言ってたな?」

クマ「そうクマ。 その犯人は、君たちクマ!」

花村「ちげーよ!」

花村「それよりも、だ……ここに落とされた人間は、どうなるんだ?」

比企谷「…………」

クマ「たいてい【シャドウ】に殺されてしまうクマ……」

150: 2013/07/24(水) 17:56:53 ID:llv.z5as

比企谷・花村「!!」

クマ「クマは『どうやって殺されるか』までは知らないクマ」

クマ「落とされた人間が殺される時は、ここの霧が晴れて」

クマ「【シャドウ】がものすごく凶暴になる時クマ」

花村「霧が晴れる……?」

比企谷「こっちの天候とは逆になるのか……?」

クマ「クマは、そんな【シャドウ】が怖いから、霧が晴れる日は隠れて静かにしているクマ」

比企谷・花村「…………」

花村「それじゃあ、さっきから言ってる【シャドウ】って何だ?」

クマ「【シャドウ】は【シャドウ】クマ」

クマ「元々は『人間の心から生まれた存在』で……」

クマ「最近、人間が放り込まれたせいか、数が増えて困っているクマ」

151: 2013/07/24(水) 17:57:56 ID:llv.z5as

比企谷・花村「…………」

花村「……比企谷、こいつの言ってる事、わかるか?」

比企谷「全然分からん……が」

花村「が?」

比企谷「ここに長居すると、ヤバイって事は理解した」

花村「……なるほど」

花村「! そうだ、クマ!」

クマ「な、何クマ?」

花村「ここに放り込まれた人間が、どこに行ったかわからないか?」

花村「特に、昨日放り込まれた奴とか!」

クマ「昨日? それなら知ってるクマ」

152: 2013/07/24(水) 17:58:52 ID:llv.z5as

比企谷・花村「!!」

クマ「でもちょっと待つクマ」

クマ「さっきから質問攻めだけど、君たちは何者クマ!?」

花村「あん?」

クマ「昨日から言ってるけど、クマは迷惑しているクマ!」

クマ「君たちが人間を放り込んでいないのなら、証拠を見せて欲しいクマ!」

比企谷「……そう言われてもな」

花村「証拠なんて出せねーよ……」

クマ「むむむ~! という事は、やっぱり君たちが犯人クマねー!」

花村「だから違うって! ああもう、いいかげんムカついてきた!」

クマ「そ、そんなこと言っていいクマ?」

クマ「クマが居ないと、帰れないクマよ?」

153: 2013/07/24(水) 17:59:43 ID:llv.z5as

花村「はあ? あいにくとだな、こっちは命綱を……」

花村「!?」

比企谷「……見事に切れてるな。 スパッと」

花村「…………」

花村「と、ともかくだ! 用事が済んだら、ちゃんと無事に送り届けてもらうからな!」

比企谷(……精一杯の強がりだな)

クマ「まあまあ、落ち着くクマ」

クマ「クマも鬼じゃないクマ」

クマ「クマがここで静かに暮らせる様に手伝うと約束してくれるなら」

クマ「協力をしなくもないクマ!」

比企谷・花村「…………」

154: 2013/07/24(水) 18:00:26 ID:llv.z5as

花村「……どうするよ?」

比企谷「……ここで断る勇気、俺には無いな」

花村「……だよなぁ」

花村「はあ……しょうがねえ、クマ」

花村「どこまで出来るかわかんねぇけど……協力するわ」

クマ「クマ! よろしいクマ~♪」

花村「……えらい事になったなぁ」

比企谷「…………」

比企谷「それじゃクマ」

比企谷「昨日の人間が行ったところに案内してくれ」

クマ「わかったクマ」

155: 2013/07/24(水) 18:02:05 ID:llv.z5as

クマ「けど、その前にこれを渡しておくクマ!」

花村「あん? ……なんだこのメガネ?」

クマ「いいから、付けてみるクマ!」

比企谷「…………」

     スチャ…

比企谷・花村「!!」

花村「おお! 霧が薄くなって見える! すげぇ!」

比企谷「だいぶ見渡せる様になったな」

クマ「ぬふふ……どうクマ? クマがコツコツと暇つぶしで作ったクマ」

比企谷「コツコツの使い方を間違っているぞ……」

クマ「さあ! 案内するクマ~」

比企谷「おい無視すんな」

花村(……細かいところを気にするんだな)

156: 2013/07/24(水) 18:03:05 ID:llv.z5as


―――――――――――


花村「……ここって!?」

比企谷「知ってるのか?」

花村「ああ……ここは商店街にそっくりだ」

花村「クマ、これはどういう事なんだ?」

クマ「わからないクマ……」

花村「……役に立たねーな」

クマ「ムキー! クマだって、何が何だかわからないクマよ!」

クマ「元々クマが行ける場所は、小さかったクマ!」

クマ「いつの間にか『世界』が広がって行ってるクマよ!」

157: 2013/07/24(水) 18:04:01 ID:llv.z5as

花村「世界が広がってる……?」

比企谷「…………」

比企谷「……もしかして」

比企谷「人間が放り込まれてからか?」

クマ「そうクマ」

花村「……!」

花村「どういう事だ? 比企谷?」

比企谷「いや……なんとなくそう思っただけだ」

花村「…………」

クマ「そっちは”ひきがや”って言うクマか?」

比企谷「ん? そうだが……」

花村「そういや、まだ名前を言ってなかったっけ」

158: 2013/07/24(水) 18:11:49 ID:llv.z5as

花村「俺は花村。 花村陽介ってんだ。 覚えとけ。 んで……」

比企谷「比企谷。 比企谷八幡だ」

クマ「花村ヨースケに 比企谷ハチマン、クマね」

クマ「覚えたクマ!」

花村「……それにしても何で商店街なんだろう?」

比企谷「……被害者に関係している……から?」

花村「!」

比企谷「推測だけどな」

比企谷「なんか……人が落ちてからこうなったと聞いて」

比企谷「そういうことを考えた」

159: 2013/07/24(水) 18:12:36 ID:llv.z5as

クマ「ふむふむ、ありえるクマ」

クマ「ここは『ここに居る者にとっての現実』クマ」

クマ「そう考えると、入り込んだ人間のゆかりある『世界』になる事もあるクマ!」

花村「……相変わらず訳分かんねー」

比企谷「……同感だ」

花村「と、どもかく、俺の知ってる商店街なら、小西先輩の家はこの先のはずだ」

比企谷「行ってみよう」

     タッ タッ タッ

―――――――――――

比企谷「ここがそうなのか?」

花村「ああ……小西酒店。 小西先輩の家だ」

     ザワ…… ザワ……

比企谷・花村「!?」

クマ「何か聞こえるクマ」

160: 2013/07/24(水) 18:13:38 ID:llv.z5as


ちょっと聞いた?小西さんとこの娘さん
ジュネスで働いているそうよ?

  知っていますとも……商店街が寂れていくのは
  あの店のせいなのに……親不孝よねぇ

    私も見ました……ジュネスでヘラヘラ笑って
    楽しそうに仕事しているのを……どういう育ち方をしたんだか


比企谷・花村「…………」

花村「……んだよ、これ」

クマ「多分……ここに放り込まれた人間の『現実』クマ」

比企谷・花村「!?」

クマ「クマが感じるのは……抑圧されてた『心の気持ち』クマ」

花村「……小西先輩」

161: 2013/07/24(水) 18:14:41 ID:llv.z5as

花村「ともかく、中に入って――」

クマ「待つクマ!」

比企谷「どうした?」

クマ「……いるクマ」

花村「いる? 何がいるってんだよ?」

クマ「【シャドウ】クマ!」

比企谷・花村「え!?」

クマ「お、おかしいクマ! 【シャドウ】は普段、何もしないはずクマ!」

クマ「何故か敵意満々で襲いかかってくるクマー!」

比企谷「ウ、ウソだろ?」

花村「ひ、比企谷! あ、あれ!」

比企谷「!!」

162: 2013/07/24(水) 18:15:22 ID:llv.z5as

     ズルッ…… ズルッ……

     ズルルッ……

花村「ひ、ひいっ!」

比企谷「くっ……逃げ」

     ドクンッ……!

比企谷「ぐがっ!?」 ズキンッ!

花村「比企谷!?」

163: 2013/07/24(水) 18:17:31 ID:llv.z5as

比企谷(こ、こんな時に……頭痛がっ)


     ――我は汝――

     ――汝は我――


比企谷(また……あの声……)



     ――その双目を見開きて発し――



比企谷「ぐ……ああああああああっ!!」



     ――今こそ欲せよ!――



164: 2013/07/24(水) 18:18:42 ID:llv.z5as

花村「しっかりしろ! 比企谷!」

比企谷「はあ……はあ……」

比企谷「…………」

花村「比企谷……?」

比企谷「……っ!」 グッ……!




     ペ   ル   ソ   ナ   !!




花村「!?」

花村「な――」

165: 2013/07/24(水) 18:19:47 ID:llv.z5as

比企谷「――イザナギ!!」 ジオ!(単体 電撃魔法)

     バリ バリ!

     ヒャアアアアアア……

花村「!!」

花村「す、すげぇ……」

比企谷「イザナギ!! 斬りつけろ!」

     ズバァッ!

     ヒャアアアアアア……

比企谷「はあっ……はあっ……」

     シュウウウウ……

花村「……全部、片付けた」

花村「おいおいおい! なんだよお前、凄すぎるじゃねーかよ!」

166: 2013/07/24(水) 18:21:12 ID:llv.z5as

比企谷「…………」

花村「どうやったんだ? ペルソナ、とか言ってたけど……」

比企谷「……分からん」

比企谷「頭痛がして……気がついたら……」

花村「そ、そうなのか……」

比企谷「…………」

クマ「いや~センセイは凄いクマね~」

クマ「ヨースケとは全然違うクマ!」

花村「おいこら、ちょっと待てクマきち」

クマ「何クマ?」

花村「何でいきなり俺だけ、タメ口きいてんだっつーの!」

167: 2013/07/24(水) 18:22:03 ID:llv.z5as

     ポコン ゴロゴ口リン

クマ「や、やめれ~」

花村「アホくさ……戦闘の時はどっか行っちまうし」

花村「役に立たねーな、こいつ」

クマ「ムキ~! ヨースケだって役に立ってなかったクマ!」

花村「さ、さあ! 中に入ろうぜ! 比企谷!」

比企谷「…………」

比企谷「……そうだな」 クスッ

―――――――――――

花村「……店内の作りも変わらないが」

比企谷「散らかっているな……色々と」

花村「ああ……」

168: 2013/07/24(水) 18:23:03 ID:llv.z5as

     ザワ…… ザワ……

花村「ちっ……! またこれかよ……!」


  早紀! 分かっているのか!
  よりにもよって、ジュネスで働くなんて……この親不孝者が!

     俺はご近所さんにどう顔向けすればいいんだ!
     とっとと辞めてこい! 今すぐにだ!


比企谷「…………」

花村「……嘘だろ、小西先輩」

花村「ジュネスで働いてる時は、こんな事少しも見せなかったのに……」

花村「…………」

169: 2013/07/24(水) 18:23:54 ID:llv.z5as



     私―― ずっと言えなかった


花村「!」

花村「小西先輩!?」


     私……花ちゃんのこと……


花村「…………」


     ウザイと思ってた


花村「え……」

170: 2013/07/24(水) 18:24:38 ID:llv.z5as


     仲良くしたのは、ジュネスの店長の息子だから


花村「…………」


     その方が、色々都合いいと思ってたから


花村「…………」


     なのにあの子、勘違いして、一人で盛り上がって、ほんとウザイ


花村「小西……先…輩……」


     ジュネスなんて、どうでもいい。 あんなので潰れそうなウチの店も

     怒鳴る親も 好き勝手言う近所も……全部、無くなればいい!!


花村「…………」

171: 2013/07/24(水) 18:25:34 ID:llv.z5as

比企谷「…………」

比企谷(……女なんて)

比企谷(こんなもんだろ……)


     哀しいなぁ……可哀想だなぁ……俺


比企谷・花村「!?」

クマ「およよ!? ヨースケが二人ー!?」


影・陽介『てか、何もかもウザイと思ってるのは』

影・陽介『俺の方だっつーの! アハハ!』


花村「だ、誰だお前!? 小西先輩は……」

172: 2013/07/24(水) 18:26:31 ID:llv.z5as

影・陽介『はっ! よく言うぜ。 いつまでそうやってカッコ付けてる気だよ?』

影・陽介『商店街も ジュネスも 全部うぜーんだろ?』

影・陽介『そもそも田舎暮らしが うぜーんだよな!?』


比企谷「……!」

花村「ウ、ウソだ! でたらめだ!」


影・陽介『お前は孤立すんのが怖くて、うまく取り繕ってヘラヘラしてんだよ』

影・陽介『一人はさみしいもんなぁ……みんなに囲まれてたいもんなぁ!』


比企谷(…………)

比企谷(……由比ケ浜)

花村「も、もう黙れよ!」

173: 2013/07/24(水) 18:27:35 ID:llv.z5as

影・陽介『ハハハ……何焦ってんだよ』

影・陽介『お前がここに興味を持った、本当の理由は』

影・陽介『単純にこの世界にワクワクしたからだ!』


比企谷「…………」

花村「うるさいうるさい! 黙れよ! 黙ってくれぇ!」


影・陽介『ど田舎暮らしには、ウンザリしてるもんな!』

影・陽介『それをカッコつけやがってよ……』

影・陽介『大好きな先輩が氏んだっていう らしい口実もできたしなぁ!』


花村「何なんだよ!? お前!! いったい誰なんだよ!?」

174: 2013/07/24(水) 18:29:08 ID:llv.z5as

影・陽介『俺か?』

影・陽介『俺はお前だよ』


比企谷「…………」

花村「ウソだ! そんな訳あるかよ!」


影・陽介『嘘なもんか。 だからお前の事は、何でもお見通しなんだよ!』


比企谷「…………」

花村「ち、違う! お前が俺な訳がねえ!」

花村「お前なんて……お前なんて……!」

花村「俺じゃ――」

比企谷「何言ってるんだ、花村。 あれは間違いなくお前だろ」

花村「ひ、比企谷!?」

175: 2013/07/24(水) 18:30:18 ID:llv.z5as

比企谷「むしろ……あんな程度でキョドってんのかよと呆れてる」

花村「な、何を言って……」

比企谷「田舎暮らしにウンザリしてる……だからこそ」

比企谷「俺の事を人ごとに思えず、気遣う事が出来た。 違うか?」

花村「……!」

比企谷「孤立するのが嫌で……周りに合わせようとするのだって」

比企谷「普通の人間なら、当たり前だろ」

花村「…………」

比企谷「結論を言うと……」

比企谷「あいつはお前だが……お前の全てじゃない」

花村「!!」

176: 2013/07/24(水) 18:31:44 ID:llv.z5as

比企谷「……俺も」

比企谷「俺の中にも、ああいうのが居ると思う」

比企谷「きっと……お前のなんて、比べ物にならない程 嫌な奴だと思うぜ?」

花村「…………」


影・陽介『何黙ってんだよ?』

影・陽介『ムカついてんだろ? 早くスッキリしたらどうだ!』


花村「……いや」

花村「認めるよ……お前は俺だって」


影・陽介『……なんだ…と?』


比企谷「…………」

177: 2013/07/24(水) 18:33:12 ID:llv.z5as

花村「そうさ……俺はここが……この街が好きじゃなかった」

花村「急激な変化について行けなかった……何もかもにうんざりしてた」

花村「この世界へ来るのにワクワクしてたのも事実だ」


影・陽介『…………』


花村「けど」

花村「それだけじゃねぇ」

花村「比企谷が気づかせてくれた」


影・陽介『…………』

178: 2013/07/24(水) 18:34:22 ID:llv.z5as

花村「小西先輩の事も……そうさ、口実にしてたさ」

花村「だが」

花村「小西先輩への気持ちも嘘じゃねえ」


影・陽介『…………』


花村「…………」

花村「これが……俺の本音だ」

花村「間違っているか?」


影・陽介『…………』


花村「……へっ」

花村「こんな自分と向き合うって……難しいもんだ」

花村「みっともねえけど……確かに俺はお前で」

花村「お前は俺だったんだな……」

179: 2013/07/24(水) 18:35:23 ID:llv.z5as

影・陽介『…………』

影・陽介『…………』 クス


     ヒィイイイイイインッ!


比企谷・花村「!!」

クマ「何が起こったクマ!?」


花村「ペル……ソ…ナ?」

花村「はは……ペルソナ・ジライヤだってさ」

花村「うっ……」

比企谷「花村!」

花村「ちょっと……疲れたな……」

180: 2013/07/24(水) 18:36:11 ID:llv.z5as

比企谷「…………」

比企谷「クマ」

クマ「何クマ?」

比企谷「さっきの……あの花村は何だったんだ?」

クマ「う~ん……よく分からんけど……たぶんヨースケの心の一部クマ」

比企谷「…………」

比企谷「クマ……【シャドウ】は人の心から生まれた、とか言ってたけど」

比企谷「あれがそうなのか?」

クマ「クマ! さすがセンセイクマ!」

クマ「きっとそうクマ!」

181: 2013/07/24(水) 18:37:27 ID:llv.z5as

比企谷「…………」

比企谷(詳しい事は分からずじまい、か……)

比企谷「……ともかく、花村の事もある」

比企谷「いったん戻ろう」

クマ「わかったクマ!」

―――――――――――

花村「ふう……」

比企谷「体調はどうだ?」

花村「さっきよりはマシ……ってとこかな」

比企谷「クマ、例の出入口を出してくれ」

クマ「クマ~」

     ボフン

クマ「あ! でもでも、クマとの約束も忘れないで欲しいクマ!」

182: 2013/07/24(水) 18:39:21 ID:llv.z5as

比企谷「わかってるよ」

花村「忘れてないって」

クマ「それから、こっちに来る時は、同じ入口を使って欲しいクマ!」

比企谷「なぜだ?」

クマ「違う入口だと、この世界のどこに出るか、わからないからクマ!」

クマ「もし、クマが行けない様な所だと、もう帰れないクマ!」

花村「うへぇ……それは御免被(こうむ)りたいな」

比企谷「次もジュネスのあの場所からじゃないと、まずいって事か……」

比企谷「わかった、クマ。 また今度」

花村「またな! クマきち!」

クマ「バイバイ、クマ~!」

183: 2013/07/24(水) 18:40:29 ID:llv.z5as


―――――――――――


花村「――っと!」

比企谷「ふう……」

里中「!!」


花村「よう、ただいま、里中」

里中「……よ」

比企谷「よ?」

里中「よがっだぁぁっ……がえっでぎだぁぁっ……」 グスグス…

比企谷・花村「」

里中「心配したんだからっ……!」

里中「なのに、のほほんと帰ってきて、信じらんないっ!」

     バシッ!

184: 2013/07/24(水) 18:41:22 ID:llv.z5as

花村「いてっ! ロープ投げんなよ!」

里中「フンッ!」

     タッ タッ タッ…

比企谷・花村「…………」

花村「……なんか、悪い事したみたいだな」

比企谷「……らしいな」

花村「ま、まあ、里中には明日謝るとして……」

花村「俺たちも もう休んでおこうぜ」

比企谷「いろいろあったしな……正直賛成だ」

花村「じゃあな、比企谷」

比企谷「ああ……」

     テク テク テク…

―――――――――――

185: 2013/07/24(水) 18:42:16 ID:llv.z5as

帰り道


     サアアアア……

比企谷(ちくしょう……降ってやがる)

比企谷(やな雨だな……)

比企谷(…………)

比企谷(……ん?)

比企谷(あれは……天城?)

比企谷(…………)

比企谷(何で和服を着ているんだ?)

比企谷(……ああ、旅館の手伝い、とか言ってたな)

比企谷(よく似合っている……けど、近寄りがたい雰囲気だ)

比企谷(そっとしておくべきだな)

     テク テク テク…

186: 2013/07/24(水) 18:43:07 ID:llv.z5as

足立宅


テレビ『皆さん、今晩は』

テレビ『本日は番組の内容を一部変更して、お送りいたします』

テレビ『まずは霧に煙る街、稲羽市で起きた連続殺人事件の続報です』

比企谷「…………」

テレビ『今朝7時頃、稲羽市の住宅街で遺体で発見された地元高校3年生の』

テレビ『小西早紀さんですが』

テレビ『警察は小西早紀さんの遺体の状況や』

テレビ『彼女が先の山野アナの事件の 遺体第一発見者である事から』

テレビ『連続殺人事件の可能性が高い、と、公式見解を発表しております』

比企谷「…………」

187: 2013/07/24(水) 18:43:45 ID:llv.z5as

テレビ『また、小西早紀さんの氏亡推定時刻は、昨晩午前1時頃と推定されておりますが』

テレビ『事件現場は当時、濃い霧に見舞われており、発見が遅れたものと見られております』

比企谷「…………」

比企谷(遺体の第一発見者……昨夜午前1時頃……)

比企谷(……霧)

比企谷(…………)

テレビ『……不幸な連続殺人事件で気が滅入りますが』

テレビ『この街は、魅力もあります』

テレビ『例えばこの『天城屋旅館』!!』

比企谷「!」

テレビ『どうも~○○テレビです~』

比企谷(……空気読まなさすぎだろ、テレビ局)

188: 2013/07/24(水) 18:44:44 ID:llv.z5as

テレビ『……なる程! それは素晴らしいですね~』

テレビ『おや? あれは……カメラさん、あっちを写して!』

テレビ『君、若そうだけど、もしかして高校生?』

テレビ『え……? そ、その……困ります』

比企谷「……天城だ」

テレビ『ああ、さっき聞いた、現役女子校生女将って君のこと?』

テレビ『あの……そういう質問は、ちょっと……』

テレビ『いや~君みたいな若女将なら是非ともここに泊まりたいね~』

テレビ『あの……その……』

比企谷(……さっきの天城、これを悩んでたのかな)

189: 2013/07/24(水) 18:45:43 ID:llv.z5as

比企谷「…………」

比企谷「……そうだ」

比企谷「…………」 ピッポッパッ

比企谷「…………」 プルルルルル……プルルルルル……

     ガチャ

由比ケ浜『は~い。 結衣でーす』

比企谷「……由比ケ浜」

由比ケ浜『!? ヒッキー!?』

由比ケ浜『うそ……! どうしたの!?』

比企谷「大げさに驚きすぎだろ……」

由比ケ浜『だ、だって……元気にしてる? そだ! また周りに敵を作ってたりしてない!?』

比企谷「してねーよ。 それどころか、妙な知り合いが出来ちまった」

由比ケ浜『うそ!? あのヒッキーが!?』

比企谷「傷ついた。 俺、今、もの凄く傷ついた」

190: 2013/07/24(水) 18:46:31 ID:llv.z5as

由比ケ浜『ご、ごめん……』

比企谷「冗談だ」

由比ケ浜『そっか。 冗談が言えるなら大丈夫だね。 ふふっ』

比企谷「……今、大丈夫か?」

由比ケ浜『うん! 大丈夫だよ?』

比企谷「そうか……少し、頼みたい事があってな」

由比ケ浜『ええっ!? ヒッキーが私に!?』

比企谷「いちいち驚くなよ……」

由比ケ浜『だ、だって……それで? どんな事?』

比企谷「大した事じゃない」

比企谷「メールで、雪ノ下に事情を聞く、とかってあったけど」

比企谷「そっとしておいてやって欲しいんだ」

191: 2013/07/24(水) 18:47:57 ID:llv.z5as

由比ケ浜『…………』

比企谷「……別段怒ってるわけじゃない」

比企谷「お前が言う様に何か事情があったんだろう……」

比企谷「でも……」

比企谷「それは、あいつが話してくれるのを待ってやってくれ」

由比ケ浜『……ヒッキー』

由比ケ浜『やっぱり、変……』

比企谷「何がだよ?」

由比ケ浜『こんなにあからさまに優しいヒッキー、らしくないんだもん』

比企谷「……本当に傷つくぞ」

由比ケ浜『でも、言いたい事はわかったよ』

比企谷「……そっか」

192: 2013/07/24(水) 18:49:25 ID:llv.z5as

由比ケ浜『ひょっとしたら、さっき言ってた妙な知り合いさんの影響?』

比企谷「かもしれない」

比企谷「お前に似ているんだ、そいつ」

由比ケ浜『え!? 私似の女の子!?』

比企谷「男だよ、そいつ」

由比ケ浜『なあんだ……って!』

由比ケ浜『どういう意味なのよ! 男で私に似てるって!』

比企谷「主に性格方面で、な」

由比ケ浜『うう~……なんか傷つく~』

比企谷「ははは……意外に気が合うかもしれないぞ?」

由比ケ浜『…………』

193: 2013/07/24(水) 18:50:30 ID:llv.z5as

比企谷「……由比ケ浜?」

由比ケ浜『今、ヒッキーの居る街……凶悪事件が起きてるんだよね?』

比企谷「…………」

由比ケ浜『大丈夫……だよね?』

比企谷「大丈夫だよ」

由比ケ浜『で、でも! ヒッキーの通ってる学校の生徒さんが……!』

比企谷「由比ケ浜」

由比ケ浜『……うん』

比企谷「できるだけ、メールを送る」

比企谷「これで安心しておけ」

由比ケ浜『……うん。 毎日でもいいよ。 私、待ってるから』

比企谷「ああ……じゃ、またな」

由比ケ浜『うん……またね、ヒッキー。 お休み』

194: 2013/07/24(水) 18:51:30 ID:llv.z5as

     ガチャ…… ツー ツー

比企谷「…………」

比企谷「……すまねえ」

比企谷「由比ケ浜……」



     いつだったか……交通事故の事を隠してた由比ケ浜を思い出していた

     あの時の……あいつの気持ちを俺は分かったのかもしれない



―――――――――――

     サアアアア……

195: 2013/07/24(水) 18:52:20 ID:llv.z5as

里中(……今日も雨。 そして)

里中(もうすぐ……夜中の0時)

里中(…………)

     ……ピウィ~……

里中(……!)

里中(映った!)

里中(…………)

里中(……!!!)

里中「うそ……これって……」

里中「雪…子……」

     サアアアア……

199: 2013/07/29(月) 17:25:37 ID:V73u8MDM


―――――――――――


????「……おや?」

????「これはこれは……随分と珍しい運命(さだめ)をお持ちの方でございすな」

????「ようこそ、ベルベットルームへ……」

????「おお……これは失礼」

????「わたくしは、イゴール、と申します……」

イゴール「こちらは助手のマーガレットでございます」

マーガレット「よろしく」

イゴール「以後、お見知りおきを……」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ……結構」

200: 2013/07/29(月) 17:26:55 ID:V73u8MDM

イゴール「ふむ?」

イゴール「おお……ご心配 召されるな、お客人」

イゴール「誘拐などではなく、ここはお客様の夢の中にございます」

イゴール「別段、御身に何かしよう、という訳ではございませぬ……」

イゴール「わたくし共は、ここを訪れた『ワイルド』の持ち主に対し」

イゴール「いささかアドバイスを申し上げているのでございます……」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ、話しが早いですな……」

イゴール「わたくし共がお客様に求める『対価』はただ一つ」

イゴール「お客様の持つ『ワイルド』の成長を見せていただく事でございます……」

イゴール「…………」

イゴール「ふむ……『ワイルド』とは……」

201: 2013/07/29(月) 17:27:33 ID:V73u8MDM

イゴール「平たく言えば、大きくもあり、小さくもある、『無限の可能性』……」

イゴール「持ち主の意志の力の根源……と、でも申しましょうか……」

イゴール「…………」

イゴール「申し訳ございませぬ」

イゴール「概念を説明しにくいものですので……どうかご容赦を」

イゴール「…………」

イゴール「……そうでございますな」

イゴール「お客様は、すでに独自のコミュニティーをお持ちの様ですが」

イゴール「さらに新たな土地においてもコミュニティーを持つと良いでしょう……」

イゴール「む……? ぼっち?」

202: 2013/07/29(月) 17:28:16 ID:V73u8MDM

イゴール「…………」

イゴール「ほう……なる程……ふふふ」

イゴール「やはりお客様は、少々変わった運命(さだめ)をお持ちの様でございますな」

イゴール「おお……これは失礼……」

イゴール「お客様を笑ったのではなく……珍しい運命(さだめ)に出会えて」

イゴール「喜んだのでございます……」

イゴール「…………」

イゴール「ふむ……? 十分失礼?」

イゴール「それは申し訳ございませぬな……謝罪いたしましょう」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ……ありがとうございます」

イゴール「おお……そろそろお目覚めの時刻の様ですな」

203: 2013/07/29(月) 17:29:37 ID:V73u8MDM

イゴール「さて……最後に」

イゴール「お客様は、節目の年を迎えられておりまする……」

イゴール「この一年をどう過ごされるか……」

イゴール「あなた様の持つ、『ワイルド』は、どの様な成長をとげるのか……」

イゴール「わたくし共と、ともに歩んでまいりましょう」

イゴール「それでは、いずれまた」

イゴール「夢の中で、お会いいたしましょう……」


―――――――――――


204: 2013/07/29(月) 17:30:38 ID:V73u8MDM

翌日

足立宅


比企谷「…………」

比企谷「ふあ……」

比企谷(……なんか、変な夢を見たような)

比企谷(…………)

比企谷(……ダメだ、思い出せねぇ)

比企谷(まあ、いいか……)

比企谷(さて、起きるとするかな)

205: 2013/07/29(月) 17:31:31 ID:V73u8MDM

     ガラ…

比企谷「あ……おはようございます、足立さん」

足立「ああ、おはよう、比企谷くん」

比企谷「昨夜も遅かったみたいですが……」

足立「帰ったのは日付が変わってからだよ」

比企谷「大変ですね」

足立「まあね……現場検証はだいたい済ませたし」

足立「何とか間が出来たんで、仮眠ついでに帰ってきたんだ」

足立「さて、朝ごはんにするかな」

足立「トーストだけど、君も食べるかい?」

比企谷「いただきます」


―――――――――――


206: 2013/07/29(月) 17:32:24 ID:V73u8MDM

通学路


比企谷「ふあ……」

     チリン チリン

花村「よう! 比企谷」

比企谷「花村。 おはよう」

花村「なんだ? 眠れなかったのか?」

比企谷「いや……少し寝すぎたんだと思う」

花村「……お前はすごいな。 あきれるくらいに」

比企谷「褒めるか、けなすか、どっちかにしてくれ」

花村「ハハハ……」

207: 2013/07/29(月) 17:33:33 ID:V73u8MDM

花村「そうだ、比企谷」

比企谷「ん?」

花村「昨日、もしかして……と思って、テレビにさわったら」

花村「俺もテレビの世界に行ける様になってたんだ」

比企谷「!」

花村「やっぱり……アレのせいだと思うか?」

比企谷「……他に思い当たるフシはない」

花村「ともかく、だ」

花村「これで俺も事件の謎を追う事ができる」

比企谷「…………」

208: 2013/07/29(月) 17:34:36 ID:V73u8MDM

花村「だけど出来たら、お前にも手伝って欲しい」

花村「頼めないか?」

比企谷「…………」

比企谷「……ま、クマとも約束したしな」

花村「相変わらず素直じゃねーな、お前」

比企谷「ほっとけ」

花村「でも、サンキューな!」

     ハハハ……

花村「じゃ、昨日の事、詳しく振り返ってみようぜ」

比企谷「だな」

209: 2013/07/29(月) 17:35:51 ID:V73u8MDM

教室


     ガヤ ガヤ

花村「……ふう」

花村「結局、良くわかんねーって事が、再確認できたってだけか」

比企谷「事柄はそうだが……」

比企谷「どうなるのか、という事はわかったな」

花村「まあな……」

比企谷「あの世界は入った人間の『現実』が浮き彫りになる」

比企谷「それも、出来れば見たくない方向のベクトルで」

花村「クマの言う【シャドウ】は、俺達、人間から生まれた存在」

花村「そしてどういうわけか、こっちで霧が出た時、向こうは晴れて……」

比企谷「その時、入った人間は【シャドウ】に殺される」

比企谷「……要するに、あそこに長居するのは超危険、って事だな」

210: 2013/07/29(月) 17:36:45 ID:V73u8MDM

     ガララ……

里中「…………」

花村「お、里中。 遅かったな?」

比企谷「……天城は?」

里中「……雪子は、今日、旅館の手伝いをするから休むって」

花村「……? 何でそんなに暗いんだ?」

里中「…………」

里中「あたし、昨日……【マヨナカテレビ】を見てみたの」

比企谷・花村「!」

里中「そしたら……ボヤボヤの映像だったけど……」

211: 2013/07/29(月) 17:37:28 ID:V73u8MDM

里中「雪子が映ってたのよ!」

比企谷・花村「!!」

里中「あたし、心配で……今朝、天城屋まで行ってきたの」

花村「それで遅くなったのか……」

比企谷「……でも、さっき天城は旅館の手伝いをするって」

里中「そう……雪子はちゃんと居た」

比企谷・花村「…………」

里中「けど、全然安心できない」

里中「だから、昨日あの世界に行った、あんた達から事情を聞こうと思って」

花村「……ああ、わかってる」

―――――――――――

212: 2013/07/29(月) 17:38:24 ID:V73u8MDM

里中「……そんな事が」

花村「ま、まあ、俺の痛い体験とかは、置いといて、だ」

花村「話を総合すると、山野アナと小西先輩は」

花村「あの世界を『凶器』として使っている『誰か』に殺された可能性がある」

里中「犯人……って事?」

花村「だな……」

里中「いったい誰が……そもそも、どうしてその二人を頃す必要があるの?」

花村「そこまではわかんねー」

比企谷「テレビニュースだと、山野アナは不倫相手である」

比企谷「生天目、とかいうのが怪しいと言っていたが……」

比企谷「本妻の柊みすずとの関係は冷え切ってて、山野アナを頃す動機が薄い」

花村「貴重な癒しをくれる人を頃すわけないよな」

213: 2013/07/29(月) 17:39:25 ID:V73u8MDM

比企谷「それに、小西早紀も同様だ」

比企谷「仮に生天目が犯人だとして……あの世界を凶器にした人間が」

比企谷「遺体の第一発見者、というだけで頃すだろうか?」

里中「う~ん……もしかして犯人にとってまずい『何か』を知られたんじゃ?」

花村「何かって、なんだよ?」

里中「知らないわよ……」

里中「でも小西先輩、テレビでインタビュー受けてたし」

里中「それを見て、そう思ったんじゃない?」

比企谷・花村「!!」

花村「……ありえそうだな」

比企谷「動機は不明だが……あの世界を使えばアリバイは完璧だし」

比企谷「状況的には一番怪しいな」

214: 2013/07/29(月) 17:40:13 ID:V73u8MDM

     ガララ……

諸岡「こらあっ! 貴様ら! 席に付け!」

里中「うあちゃ……ここまでだね」

花村「また後で……放課後にでも話そう」

比企谷「ああ……」


比企谷(…………)

比企谷(だが……どうにも引っかかる)

比企谷(それだと【マヨナカテレビ】は、何なんだ?)

比企谷(山野アナも 小西早紀も 【マヨナカテレビ】に映っていた)

比企谷(それもタイムラグからして、犯行予告かの様に……)

比企谷(…………)

215: 2013/07/29(月) 17:40:57 ID:V73u8MDM

放課後


花村「あ~終わった終わった」

花村「さて……どうする? 比企谷?」

比企谷「……そうだな」

比企谷「まず、場所を変えよう」

花村「じゃ、ジュネスにでも行くか?」

里中「うん、そっちの方が落ち着いて話せそうだしね」

花村「決まりだな」

216: 2013/07/29(月) 17:41:52 ID:V73u8MDM

ジュネス・フードコート


花村「……犯行予告?」

比企谷「そうだ」

比企谷「【マヨナカテレビ】の仕組みなんざ知らないが……」

比企谷「これまでの被害者は、いずれも【マヨナカテレビ】に映った直後」

比企谷「テレビの中に入れられている」

比企谷「それを鑑(かんが)みると……」

花村「…………」

里中「…………」

花村「……なる程。 被害者の共通点でもあるし」

花村「ありえるかもな」

里中「やめてよ花村! 比企谷くん!」

里中「それだと、次のターゲットは雪子って事じゃん!」

217: 2013/07/29(月) 17:43:00 ID:V73u8MDM

花村「まあ落ち着けよ、里中」

花村「まだそうだって決まった訳じゃねえ」

花村「だけど……備えはするべきだと思う」

里中「…………」

比企谷「……この後だが」

比企谷「俺としては、もう一度クマに話を聞いてみようと思っている」

花村「俺も賛成だ」

里中「…………」

比企谷「そして天城には、注意喚起か……」

比企谷「泊まりがけでも何でもして、身辺警護をした方がいいと思う」

里中「!!」

218: 2013/07/29(月) 17:44:17 ID:V73u8MDM

比企谷「……だが」

比企谷「相手は”殺人犯”だ」

花村「…………」

比企谷「正直、あまりオススメできない。 警察は当てにならないし」

比企谷「こっちはただの高校生3人のみだからな……」

里中「…………」

比企谷「あくまで一つの考えだが」

比企谷「天城には囮になってもらって、犯人の特定を――」

     パァンッ!

里中「冗談じゃない……!」

里中「そんな事、あたしが許さない!!」

     ダッ!

219: 2013/07/29(月) 17:45:48 ID:V73u8MDM

花村「……比企谷」

比企谷「…………」

花村「さすがに言い過ぎだ」

花村「確かに一つの策だが……友達を囮に、なんて出来るわけがねえよ」

比企谷「…………」

比企谷「だが、もっとも安全、かつ、確実性が高い方法だと思う」

花村「お前にも家族が居んだろ?」

花村「大事な人が”殺人犯”に連れ去られるのを黙って見てろ」

花村「と、言われて……はい、やりましょう、なんて言えねえよ」

比企谷「俺はやる」

比企谷「殺害方法はわかっているからな」

比企谷「【シャドウ】が凶暴化する前に、救出すればいいだけの事だ」

220: 2013/07/29(月) 17:48:07 ID:V73u8MDM

花村「…………」

花村「よし、この話はもうおしまいだ」

花村「クマに話を聞きに行こう」

比企谷「…………」

比企谷「……そうだな」


―――――――――――


クマ「誰かの気配?」

クマ「全然してないクマ」

クマ「昨日センセイ達が帰ってから、クマはずっと寂びしん坊クマ」

花村「そうか……」

221: 2013/07/29(月) 17:48:55 ID:V73u8MDM

花村「どうやら今のところ、まだみたいだな」

比企谷「…………」

比企谷「クマ」

クマ「何クマ?」

比企谷「【マヨナカテレビ】って知っているか?」

クマ「【マヨナカテレビ】? 知らないクマ」

比企谷「……じゃあ、撮影とか出来るところ、知らないか?」

クマ「サツエイー? 何それクマ?」

花村「…………」

比企谷「…………」

花村「はあ……まあ、予想はしてた」

比企谷「……戻るか」

222: 2013/07/29(月) 17:49:38 ID:V73u8MDM


―――――――――――


比企谷「今は、成り行きを見守るしかないみたいだな」

花村「……まあ、そうだな」

花村「そうだ、比企谷」

比企谷「ん?」

花村「携帯の番号交換しとかね?」

比企谷「ああ……今後、必要になりそうだしな」

     ピピッ

花村「これでよし……と」

花村「念のため天城屋にも行ってみるか?」

比企谷「そうだな」

223: 2013/07/29(月) 17:50:47 ID:V73u8MDM

天城屋旅館


花村「……おお」

比企谷「聞いてはいたが、大きな旅館だな」

花村「それに忙しそうだ」

比企谷「旅行のシーズンには早い気もするが……明日は日曜だしな」

花村「あ、すみませーん」

中居「はい?」

花村「天城雪子さん、いらっしゃいますか?」

中居「あなたは?」

花村「ああ、俺は花村って言います。 こっちは比企谷」

花村「俺達、同じ学校のクラスメイトで友達です」

花村「先に里中が来てると思うんですけど……」

224: 2013/07/29(月) 17:51:54 ID:V73u8MDM

中居「ああ、千枝ちゃんとも知り合いなのね」

中居「二人とも一緒に旅館の仕事を手伝ってくれてるわ」

花村「ああ……そうですか」

花村(……こりゃ本気で犯人撃退するつもりらしいな)

比企谷(…………)

中居「どうしましょ? 呼んできましょうか?」

花村「いえ、忙しそうですし……頑張れ、とだけ伝えておいてください」

中居「そう? わかったわ。 花村くんに 比企谷くんね」

     テク テク テク…

比企谷「…………」

花村「…………」

225: 2013/07/29(月) 17:52:58 ID:V73u8MDM

花村「帰るか……」

比企谷「そうだな……」

花村「……あ」

     ポッ ポッ…

     サアアアア……

花村「ちっ……降ってきやがったか」

比企谷「天気予報通りだな」

花村「…………」

花村「何も起こらなきゃいいが」

比企谷「それについては、同感だ」

花村「……じゃあな。 今夜、忘れずに見ろよ?」

比企谷「……ああ。 【マヨナカテレビ】のチェックをしておく」

226: 2013/07/29(月) 17:53:41 ID:V73u8MDM


―――――――――――


足立宅


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(もうすぐ午前0時)

比企谷(…………)

     チッ チッ… カチッ

     ……ピウィ~……

比企谷「……!」

比企谷(映ったか……!)

比企谷(……!?)

227: 2013/07/29(月) 17:54:13 ID:V73u8MDM

テレビ『みっなさ~ん! 今晩はー!』

比企谷(間違いなく……天城だ)

テレビ『今夜は~……私、王子様探しをしたいと思いまーす!』

テレビ『もう逆ナンしまくって、ホストクラブおったてるくらいの勢いでやっちゃうよー!』

テレビ『みんなもぉ~応援してね♥』

テレビ『じゃ、行ってきまーす!』

     ブツン……

比企谷「…………」

     ピピピ……ピピピ……

比企谷「……!」

     ガチャ

比企谷「はい」

228: 2013/07/29(月) 17:55:11 ID:V73u8MDM

花村『お、おい、見たか? 今の!』

比企谷「ああ、見た」

花村『間違いなく天城だよな?』

比企谷「間違いない」

花村『けどよ……何て言うか、感じ、ずいぶん違ってなかったか?』

比企谷「同感だ」

花村『どういう事なんだよ……だあ! もう訳分かんねー!』

比企谷「落ち着け……まず、里中に電話してみろ」

花村『! ……そ、そうだな』

花村『じゃ、いったん切るぞ?』

比企谷「わかった」

     ブッ……

229: 2013/07/29(月) 17:55:44 ID:V73u8MDM

比企谷「…………」

比企谷「…………」

     ピピピ……ピピピ……

比企谷「!」

     ガチャ

比企谷「もしもし」

花村『比企谷! 里中に繋がらねえ!』

比企谷「!?」

花村『……も、もしかしたら、ふ、二人共……』

比企谷「…………」

比企谷「かもしれない」

230: 2013/07/29(月) 17:56:35 ID:V73u8MDM

比企谷「ともかくだ、明日、ジュネスであの世界に行ってみよう」

花村『く……それしかないな』

花村『畜生……予測はしてたのに』

比企谷「……起こってしまったものは、しょうがない」

比企谷「今は、二人を救う事に集中するんだ」

花村『……そうだな』

花村『じゃ、明日ジュネスで』

比企谷「ああ……」

     ブッ……

比企谷「…………」

231: 2013/07/29(月) 17:57:27 ID:V73u8MDM

比企谷「…………」

比企谷(……しかし)

比企谷(なぜ、【マヨナカテレビ】に映っていない里中も……?)

比企谷(…………)

比企谷(普通に考えたら)

比企谷(誘拐現場に居合わせたから……だろうが)

比企谷(【マヨナカテレビ】が犯行予告だとしたら、矛盾する)

比企谷(まあ……あんな怪現象を予告に使うのも変な話だが)

比企谷(…………)

232: 2013/07/29(月) 17:58:26 ID:V73u8MDM

比企谷(【マヨナカテレビ】が犯行予告でない、となると)

比企谷(ただの怪現象……)

比企谷(犯人は、その怪現象に従って犯行をしている事になる)

比企谷(…………)

比企谷(だが、それだとメリットがない)

比企谷(そんな事をして、何の得になるんだ?)

比企谷(…………)



     ……俺はふと、外を見た

     しとしとと降り続ける雨。 霧こそ出ていなかったが

     不気味に思えてしょうがなかった



237: 2013/08/04(日) 18:40:50 ID:Gy5VeVso

翌日 日曜の朝

ジュネス・フードコート


花村「! 比企谷!」

比企谷「花村。 待たせたな」

花村「いや……俺も今来たばかりだ」

比企谷「そうか……」

比企谷「携帯は相変わらずか?」

花村「ああ、朝から何度もかけているが……里中につながらねぇ」

比企谷「…………」

花村「じゃ、さっそくテレビの世界に行くか」

238: 2013/08/04(日) 18:42:02 ID:Gy5VeVso

比企谷「……いや、ちょっと待ってくれ」

花村「え?」

比企谷「その前に天城屋へ行っておきたい」

花村「天城屋へ?」

比企谷「二人の安否確認はもちろんだが、直接現場を確認したい」

花村「一理あるな……」

花村「けど、あの世界に長居するのはやべぇんだし……」

花村「二人を助け出してからでいいんじゃないか?」

比企谷「……確かにな」

比企谷「だが、天気予報によれば、今日からしばらく晴れ続きになる」

比企谷「あの世界にすぐ殺される事はないだろう」

花村「…………」

239: 2013/08/04(日) 18:43:12 ID:Gy5VeVso

比企谷「俺としては、何かしらの痕跡や目撃情報が聞き出せる内に……と思うんだが」

花村「…………」

花村「……そうだな」

花村「よし、ここは比企谷の案に従おう」

比企谷「すぐに行こう」


―――――――――――


天城屋


     ガヤ ガヤ ガヤ

比企谷「……遅かったか」

花村「……みたいだな」

240: 2013/08/04(日) 18:44:29 ID:Gy5VeVso

花村「あのパトカー。 警察がすでに来てやがる……」

花村「どうする? ジュネスに戻るか?」

比企谷「せっかくだ。 周りの人に何があったのか聞いておこう」

花村「そうだな」


??「……あれぇ? 比企谷くん?」


比企谷「!?」

比企谷「足立さん……」

足立「どうしたの? こんな所で?」

比企谷「いえ……何か騒ぎがあったみたいなんで、野次馬に……」

足立「ははは……意外と騒がしいのが好きなのかい?」

足立「けど、あまり感心しないね」

241: 2013/08/04(日) 18:46:06 ID:Gy5VeVso

比企谷「すみません」

足立「まあいいよ……あ」

足立「そういや君、八十神高校の生徒だっけ」

足立「じゃあ、ここの娘さんの天城雪子って娘、知ってるかい?」

比企谷「!」

花村「!」

花村「あ、天城がどうかしたんですか!?」

足立「君は?」

花村「え、ええと……比企谷の友達の花村っていいます」

花村「それよりも天城は!? 俺達、クラスメイトなんです!」

足立「! そ、そうなの……」

242: 2013/08/04(日) 18:47:45 ID:Gy5VeVso

足立「……う~ん。 これ言っちゃっていいのかなぁ……」

足立「実はね……天城雪子さん」

足立「昨日から行方不明みたいなんだよ」

比企谷「!」

花村「!」

足立「あんな事件の後だしね」

足立「親御さんが心配して、誘拐じゃないかって……」

比企谷「…………」

花村「…………」


??「おい足立!」


足立「は、はい!」

243: 2013/08/04(日) 18:48:59 ID:Gy5VeVso

堂島「目撃者の証言は……ん?」

堂島「お前達は?」

足立「ああ、すみません、堂島さん」

足立「この前話した、親戚の子供です」

堂島「ああ……そういや一年間 面倒を見る事になった、とか言ってたな」

比企谷「比企谷です。 足立さんにお世話になっています」

堂島「そうか」

堂島「だが何故、こんな所にいる?」

足立「野次馬だそうです」

堂島「……あまり感心しないな」

堂島「まあいい、ともかくもう帰れ。 ここは子供が居ていい所じゃない」

244: 2013/08/04(日) 18:50:26 ID:Gy5VeVso

比企谷「……わかりました」

比企谷「行こう、花村」

花村「お、おう……」

     テク テク テク…

堂島「…………」

足立「どうしたんですか? 堂島さん?」

堂島「ん……気になってな」

堂島「昨日……ここの中居の一人が、二人連れの男子高校生が訪ねてきた、と証言している」

足立「や、やだなぁ……まさか比企谷くん達を疑っているんですか?」

堂島「その中居は、仕事が忙しく名前を忘れてしまっていたが……」

堂島「捜索願の対象者を訪ねた、というのがどうにも引っかかる」

足立「彼らは、クラスメイトですし……たとえそうだったとしても」

足立「友達なら普通に遊びに来たんじゃないですか?」

246: 2013/08/04(日) 18:52:17 ID:Gy5VeVso

堂島「……まあな」

堂島「単なる偶然、とも言えるが……」

足立「が?」

堂島「あいつの目が気に入らない」

足立「ちょ、ちょっと堂島さん……そりゃ確かにふてぶてしい目つきですけど……」

堂島「そうじゃない」

堂島「何かを隠している……そんな目だった」

足立「お! 刑事としての”カン”ってやつですね!」

堂島「ふん……おい、足立。 それよりも車を回せ」

堂島「これからもう一人の行方不明者、里中千枝の家に向かうぞ」

足立「わかりました」

247: 2013/08/04(日) 18:53:40 ID:Gy5VeVso


―――――――――――


花村「……あ、焦った」

比企谷「動揺しすぎだ」

花村「んな事 言ってもよ……あの無精ヒゲの刑事、スゴ味ありすぎだぜ」

比企谷「それは否定しないがな」

花村「……さて」

花村「俺たちのやる事は決まったな」

比企谷「ああ」

比企谷「ジュネスに向かおう」

248: 2013/08/04(日) 18:54:35 ID:Gy5VeVso


―――――――――――


クマ「た、大変クマ!」

クマ「センセイ達が帰ったあと、誰かが放り込まれたクマ!」

花村「……そうか」

比企谷「クマ、何人放り込まれたか、わかるか?」

クマ「そこまではわからないクマ……」

クマ「でも、方向はわかるクマ!」

比企谷「よし、さっそく向かおう」

花村「待ってろよ、天城、里中……!」

249: 2013/08/04(日) 18:57:24 ID:Gy5VeVso

雪子城


クマ「着いたクマ!」

花村「…………」

比企谷「城だな……」

花村「見りゃわかる」

花村「けど、何で西洋風の城なんだよ?」

比企谷「俺に聞かれても困る」

比企谷「ただ、言えるのは【マヨナカテレビ】に映っていた建物に間違いない」

花村「これも……天城か里中の『現実』って事か……」

比企谷「ともかく、中に入って二人を探そう」

花村「おう!」

クマ「クマもお手伝いするクマ!」

250: 2013/08/04(日) 18:58:32 ID:Gy5VeVso


―――――――――――


里中「…………」

里中「……う」

里中「…………」

里中「ここは……?」

里中「! ……霧。 って事は」

里中「あの世界の……中……?」

里中「……!」

里中「そうだ! 雪子!」

里中「雪子はどこ!?」

251: 2013/08/04(日) 18:59:57 ID:Gy5VeVso

里中「……あたしは確か」

里中「旅館で雪子の手伝いをしてて……」

里中「…………」

里中「……あれ?」

里中(どうしてか……そこからの記憶がない)

里中(雪子の姿が見えなくなって……探して……)

     ――赤が似合うねって……

里中「!?」

里中「雪子!?」

     私、『雪子』って名前が嫌いだった

     雪なんて……冷たくて、すぐ溶けてしまう……

     はかなくて、意味のないもの……

里中(雪子……)

252: 2013/08/04(日) 19:13:13 ID:Gy5VeVso

     でも、私にはぴったりよね

     旅館の跡継ぎって事以外に 何の価値もない私には……

里中「違う! 雪子は、雪子は……!」

     千枝だけが……私に意味をくれた

     『雪子は、赤が似合うね』って、言ってくれた……嬉しかった

里中「雪子……」

     千枝は明るくて、強くて、何でも出来て……

     私に無いものが一杯だった……羨ましかった

     なのに千枝は……そんな価値のない私をいつも守ってくれた

     やさしい千枝……

里中「…………」

253: 2013/08/04(日) 19:14:39 ID:Gy5VeVso


     『やさしい千枝……だってさ。 笑える』


里中「!?」

     バァーン!

花村「! 里中! 無事だったか!」

クマ「! あれを見るクマ!」

比企谷「……【シャドウ】か」


影・千枝『雪子が、『あの』雪子が!?』

影・千枝『あたしに守られているって!?』

影・千枝『ふふふ……そうでなくっちゃね?』


里中「あ、あんた、何言ってるの!?」

254: 2013/08/04(日) 19:15:24 ID:Gy5VeVso


影・千枝『雪子ってば……美人で、色白で、女らしくて』

影・千枝『特に男子からいっつもチヤホヤされてる』

影・千枝『その雪子が、時々あたしを卑屈な目で見てくる……』

影・千枝『それが、たまんなく嬉しいんだよねぇ?』


里中「ち、違う! そんな事、あたしは思っていない!」

花村「里中!」

里中「!!」

里中「は、花村……比企谷くん……!」

里中「来ないで……! 見ないで!」

255: 2013/08/04(日) 19:17:12 ID:Gy5VeVso


影・千枝『あはは……なに慌ててるの?』

影・千枝『いい加減正直になりなよ』

影・千枝『あたしは、雪子より上で、ずうっと見下していたって!』


里中「嘘よ! そんな事、あたしは考えてなんかいない!」


影・千枝『おっと……そうだよねぇ』

影・千枝『本当はちゃんと理解してる……』

影・千枝『人としても、女としても、雪子に勝てていないって』

影・千枝『どうしようもないのは、自分の方だって、ね!』


里中「!!」


影・千枝『あはは! でも、そんな自分を雪子は頼ってくれる』

影・千枝『だから雪子はトモダチ。 手放せない。 雪子が大事になるの!』


256: 2013/08/04(日) 19:18:28 ID:Gy5VeVso

里中「違う! あたしは……雪子をちゃんと……!」


影・千枝『まーだ、そんなこと言うの?』

影・千枝『あんたは、あたしなのよ』

影・千枝『どうごまかしたって、お見通しなんだから!』


里中「黙れ! あんたなんか……あんたなんか!」

花村「止めろ! 里中!」

比企谷「俺は知ってたけどな。 里中がこんな奴だって」

里中「!?」

花村「……比企谷」

257: 2013/08/04(日) 19:19:47 ID:Gy5VeVso

里中「な、何を言って……」

比企谷「転校初日の帰り道」

比企谷「やたらと天城を自慢してただろ」

里中「……!」

比企谷「自分は『天城』という『ブランド』と友達なんだぞ、と言ってる様にしか聞こえなかった」

比企谷「言葉のどこかに、天城を見下している印象を受けたよ」

里中「……っ」

比企谷「けどな、里中」

比企谷「昨日ジュネスで俺をひっぱたいたのは、間違いなく天城の心配からだと感じた」

里中「!」

花村「結論を言うぜ?」

花村「あいつは……確かにお前だ」

花村「でも、お前の『全て』じゃない」

里中「…………」

258: 2013/08/04(日) 19:21:02 ID:Gy5VeVso

花村「……言いたかないが、俺にもああいうのがあったんだよ」

花村「でも……上手く言えねーけど」

花村「人間って、誰でもああいうの抱えてるもんじゃないのか?」

里中「花村……」

里中「…………」


影・千枝『どうしたの? お友達ごっこは終わった?』


里中「…………」

里中「……確かに」

里中「あんたは、あたしだね」


影・千枝『!?』


259: 2013/08/04(日) 19:22:08 ID:Gy5VeVso

里中「そう……あたしは、雪子が羨ましかった」

里中「小さい頃からの付き合いで、大きくて立派な天城屋の跡取りで……」

里中「まるで、お姫様みたいな雪子が……羨ましかった」


影・千枝『…………』


里中「そんな雪子が、あたしを頼ってくる」

里中「嬉しかった……完璧だと思ってた雪子が自分を頼って来てくれる事が」

里中「でも……あたしはそれを利用してた」


影・千枝『…………』


里中「だけど――」

里中「それだけじゃない」

260: 2013/08/04(日) 19:23:10 ID:Gy5VeVso

里中「今、思い出した」

里中「あたしは、雪子の笑顔が好き」

里中「他愛のない会話で、ふと笑ってくれる雪子の笑顔……」

里中「あたしはこんなだけど……雪子と過ごした時間は」

里中「すべてが偽りだったわけじゃない」


影・千枝『…………』


里中「あんたは、確かにあたしで」

里中「あたしは、あんただったんだね……」


影・千枝『…………』

影・千枝『…………』 クスッ


261: 2013/08/04(日) 19:24:15 ID:Gy5VeVso

     ヒィイイイイイインッ!

クマ「【シャドウ】が……!」

花村「俺の時と同じだ!」

比企谷「ペルソナ……か」


里中「……何? これ?」

里中「ペルソナ……トモエ?」

里中「あはは……トモエだってさ」

里中「う……」 フラ……

花村「! 大丈夫か? 里中?」

里中「大丈夫……ちょっと疲れただけ」

比企谷(…………)

262: 2013/08/04(日) 19:26:17 ID:Gy5VeVso

比企谷「……里中」

里中「ん?」

比企谷「ここに残って休んだ方がいい」

花村「そうとも」

花村「天城の事は、俺たちに任せておけ」

里中「……じょーだん言わないでよ」

里中「当然、あたしも行くつもり」

比企谷「……言うと思った」

花村「どうするよ、比企谷?」

花村「クマに預けておいた方がいいと思うが?」

263: 2013/08/04(日) 19:27:22 ID:Gy5VeVso

比企谷「……連れて行くしかないだろう」

比企谷「こういう奴は、絶対に突っ走る」

比企谷「予定外の行動に出られてピンチになるより」

比企谷「目の届く範囲に置いておいた方が、いくらかマシだ」

花村「……言いたい事はわかるけどよ、比企谷」

里中「……その腹の立つ言い方。 直した方がいいと思う」

比企谷「事実は事実だ」

里中(きっと……友達、少ないんだろうな)

花村(俺たちでこんななら……比企谷の【シャドウ】は、どんななんだろう……)

比企谷「さ、急ぐぞ」

クマ「あ~ちょっと待って欲しいクマ」

比企谷「何だ?」

クマ「こちらのお嬢さんにプレゼントクマ!」

264: 2013/08/04(日) 19:28:36 ID:Gy5VeVso

里中「なにこれ? ただのメガネじゃん」

花村「あーそれな。 いいからかけてみろよ、里中」

里中「そういや花村と 比企谷くんも かけてるね」

比企谷(気づいてなかったのかよ……)

     スチャ

里中「!」

里中「凄い! よく見えるようになった!」

クマ「ぬふふ~」

里中「サンキュー、クマくん!」

里中「あたし、里中千枝っていうの。 よろしくね!」

クマ「チエちゃんクマね。 よろしくされるクマ~」

花村「何この扱いの違い」

比企谷「ベタな反応だろ……気にするな」

265: 2013/08/04(日) 19:29:31 ID:Gy5VeVso

クマ「で、チエちゃんは、誰に突き落とされたクマ?」

里中「……ごめん」

里中「雪子の姿が見えなくなって探してた……と思うんだけど」

里中「そこからの記憶がなくなってる」

花村「そうか……」

比企谷「手がかりは、無し、か……」

花村「ま、くよくよしても始まんねーし」

花村「さっさっと天城、助けようぜ!」

里中「うん!」

比企谷「だな……」

     タッ タッ タッ…

266: 2013/08/04(日) 19:30:19 ID:Gy5VeVso

雪子城 最上部


     バァーン!

里中「雪子!」

花村「!」

花村「見ろ……比企谷。 天城が二人いる」

比企谷「ああ……」

比企谷「たぶん、【マヨナカテレビ】に映っていた」

比企谷「ドレス姿の天城が【シャドウ】だな……」


天城「! ち、千枝……!」

267: 2013/08/04(日) 19:31:22 ID:Gy5VeVso


影・雪子『あら? あららぁ~?』

影・雪子『もしかして、サプライズ・ゲスト~?』

影・雪子『やぁ~ん、雪子、モッテモテ!』


花村「……頭じゃ分かってんだけど、ずいぶん印象違うな」

比企谷「…………」


影・雪子『わたし、王子様をずっとずっと待ってるの!』

影・雪子『だって……ここから出て行きたいから!』

影・雪子『さあ、王子様候補の三人さん!』

影・雪子『早く連れ出して~!』


天城「や、止めて……」

里中「……出て……いきたい?」

268: 2013/08/04(日) 19:32:21 ID:Gy5VeVso


影・雪子『んふふ……千枝には期待してたんだけどぉ』

影・雪子『千枝じゃダメ』


里中「え……?」


影・雪子『千枝じゃ私をここから連れ出せない』

影・雪子『千枝じゃ、私を救えないの』


里中「…………」

天城「止めて……止めて!」


影・雪子『老舗旅館? 女将修行?』

影・雪子『そんなウザイ束縛、まっぴらなのよ!』

269: 2013/08/04(日) 19:33:17 ID:Gy5VeVso

影・雪子『たまたまここに生まれただけ……なのに!』

影・雪子『生き方! 氏ぬまで、全部決められてる!』

影・雪子『もうホント、嫌!』


天城「そ、そんな事、ない……!」


影・雪子『だから出て行きたい。 ここじゃないどこかへ』

影・雪子『でも……私だけじゃ無理。 弱い私だけじゃ』

影・雪子『だから、私を連れ出してくれる、王子様を待ってるの!』


天城「止めて……もう止めて……」


影・雪子『どうしてよ? それが本音でしょ?』


天城「違う!」

270: 2013/08/04(日) 19:35:00 ID:Gy5VeVso

花村「!」

里中「!」

比企谷「…………」


影・雪子『うふふ……嘘ばっかり』

影・雪子『私は、何でもお見通しよ?』

影・雪子『だって……私は、あなたなんだから!』


天城「ち、違う! あんたなんか……」

花村「よせ! 天城!」

里中「自分を否定しちゃダメ!」

比企谷「! バカ! 里中!」

271: 2013/08/04(日) 19:36:02 ID:Gy5VeVso

天城「千枝!?」

天城「違う! こんなの、私じゃない!!」



     ズブウウウウウウンッ……!



影・雪子『……うふふ』

影・雪子『あーはっはっはっ!!』



     ド   ン  !!



比企谷「!?」

花村「な、なんだ!?」

里中「雪子――!」

272: 2013/08/04(日) 19:37:09 ID:Gy5VeVso

天城「」 ドサッ……


里中「雪子ッ!」

花村「里中! 待て!」

花村「うかつに動くな!」

比企谷「……マジかよ」


影・雪子?『我は影……真なる我……』

影・雪子?『うふふ……ああ、いい気持ち……!』

影・雪子?『これでいい……これでいいの』

影・雪子?『このまま……何もかも、壊してやるんだから!』


273: 2013/08/04(日) 19:38:17 ID:Gy5VeVso

花村「おいおい! この化物、物騒な事、言ってるぞ!」

里中「……こ、こんな」

比企谷「…………」


比企谷(……まさか)

比企谷(そういう事なのか!?)

比企谷(…………)

比企谷(だが、詮索は後回しだ!)


比企谷「花村! 里中!」

花村「!」

里中「!」

比企谷「今は、生き残る事を考えろ!」

比企谷「ペルソナ!」 イザナギ!

274: 2013/08/04(日) 19:39:14 ID:Gy5VeVso

花村「そ、そうだな! ……頼むぜ! ペルソナ!」 ジライヤ!

里中「雪子……今、助けるから! ペルソナ!」 トモエ!


影・雪子?『あららー?』

影・雪子?『王子様たち、私と遊んでくれるの~?』

影・雪子?『いいわ……めちゃくちゃにして、あ・げ・る・♥』


     グワァッ!!


―――――――――――


275: 2013/08/04(日) 19:40:13 ID:Gy5VeVso

花村「はあっはあっはあっ……」

比企谷「くっ……ぜえ……ぜえ……」

里中「はあっ……はあっ……」


花村「い……生きてるか……」

比企谷「な、何とか……な……」

里中「ゆ、雪子……!」


比企谷「…………」

比企谷(……三人がかりで……かろうじて勝った)

比企谷(暴走した【シャドウ】が、こんなに強いとはな……)


天城「……う、ううん」

里中「! 雪子! 良かった……」

天城「! ……千枝」

276: 2013/08/04(日) 19:41:10 ID:Gy5VeVso

花村「……!」

花村「お、おい! 比企谷!」

比企谷「! 天城の【シャドウ】……」


影・雪子『…………』


天城「ち、違うの、千枝……あれは……」

里中「待って、雪子」

里中「……あたしにもあったの。 ああいう気持ち」

天城「! 千枝も……?」

里中「……うん」

277: 2013/08/04(日) 19:42:51 ID:Gy5VeVso

里中「あたしは……雪子を利用してきた。 一人じゃ何もできないから」

里中「自分の事ばっかりで、雪子の事、全然理解してなかった」

里中「雪子が、こんなに苦しんでいたなんて……! ごめん……雪子」

天城「千枝……」

天城「…………」

天城「それを言うなら……私も同じ」

天城「私も自分の事ばかりで、誰かに頼ることしか、考えてなかった」

里中「雪子……」


影・雪子『…………』


天城「……そう」

天城「私は……ここが嫌だった」

天城「ここ以外の場所に連れ出してくれる、頼りがいのある人が現れるのを」

天城「ただ、待っていた……」

278: 2013/08/04(日) 19:43:58 ID:Gy5VeVso


影・雪子『…………』


天城「嫌なら一人でどこかに行けばいいのに……」

天城「その勇気すらなかった」


影・雪子『…………』


天城「……結局」

天城「『何か』に頼らないと生きていけない自分を」

天城「私は、認めたくなかった」


影・雪子『…………』


279: 2013/08/04(日) 19:44:57 ID:Gy5VeVso

天城「そう……私は、あなたで」

天城「あなたは、私だったのね……」


影・雪子『…………』

影・雪子『…………』 クスッ


     ヒィイイイイイインッ!


花村「【シャドウ】が……」

比企谷「…………」

天城「……あ」

天城「ペル……ソナ?」

天城「コノハナサクヤ……だって」

天城「……うっ」

里中「雪子……!」

280: 2013/08/04(日) 19:46:19 ID:Gy5VeVso

天城「ちょっと……疲れちゃった」

花村「顔色が良くないな……」

花村「とにかく、この世界から出よう」

クマ「ちょーっと待つクマ!」

クマ「帰る前に、ここへ誰に突き落とされたか、教えて欲しいクマ」

天城「……へ? あなた誰? っていうか、何?」

クマ「クマはクマクマ!」

クマ「で? 放り込んだのは誰クマ?」

天城「…………」

天城「ええと……誰かに呼ばれた気がして……」

天城「…………」

天城「ごめんなさい……思い出せない」

281: 2013/08/04(日) 19:47:20 ID:Gy5VeVso

クマ「そうクマか……」

天城「ごめんね、クマくん」

天城「私は雪子。 天城雪子」

天城「よろしくね」 ナデナデ

クマ「ク、クマ~ん」 ///

花村「ったく、デレデレしやがって」

花村「いい加減、その着ぐるみ脱いでみろっての!」

クマ「!? や、やめれ、ヨースケー!」

     ガポンッ!

比企谷・花村・里中・天城「」

比企谷・花村・里中・天城(中身が……無い!?)

282: 2013/08/04(日) 19:48:30 ID:Gy5VeVso

     シパッ!

クマ「ぷはっ! 全く失礼な奴クマ!」

花村「お、おま、おまっ……ええっ!?」

里中「な、なんで……!?」

天城「ク、クマくん……どうやって生きてるの?」

クマ「知らないクマ!」

比企谷「…………」

比企谷「もういいだろ」

比企谷「とにかく、今は 天城と 里中を 早く休ませないと」

花村「そ、そうだった」

花村「そういや里中、お前、大丈夫なのか?」

里中「え? ……そういえば、あんまりしんどくない。 どうしてだろ?」

283: 2013/08/04(日) 19:49:16 ID:Gy5VeVso

比企谷「ほらほら、考えるのは後回しだ」

比企谷「早くここを出るぞ」


―――――――――――




足立宅


比企谷「…………」

     タダイマー

比企谷(お……今日は帰ってきた)

比企谷「足立さん、お帰りなさ……」

比企谷「!」

284: 2013/08/04(日) 19:50:35 ID:Gy5VeVso

足立「やあ、比企谷くん。 午前中会ったけど、改めて」

足立「こちらは、僕の直接の上司、堂島さん」

堂島「……よろしく」

比企谷「……どうも」

比企谷「夕飯は、足立さんの分しかありませんが……買ってきましょうか?」

堂島「いや……気を使わないでくれ」

堂島「少し、君と話をしたいだけだ」

比企谷「俺と……ですか?」

堂島「ああ」

足立「ど、堂島さん……取り調べじゃないんですから」

285: 2013/08/04(日) 19:51:58 ID:Gy5VeVso

堂島「そんなつもりじゃない」

足立「はあ……」

堂島「……午前中、君がいた天城屋の娘さん」

堂島「一緒に行方不明になってた友人の里中千枝、という娘と共に見つかったそうだ」

比企谷「そうなんですか」

堂島「…………」

堂島「……あまり驚かないんだな」

比企谷「そう見えないだけですよ」

比企谷「二人共同じクラスで、知り合いですし……安心しました」

堂島「…………」

堂島「足立」

足立「は、はい」

堂島「邪魔したな……これで帰る」

286: 2013/08/04(日) 19:52:41 ID:Gy5VeVso

足立「え? あ、はい……お疲れ様でした」

堂島「ああ……しばらく忙しかったしな」

堂島「今日はゆっくり休め」

堂島「じゃ……」

     パタン……

足立「…………」

比企谷「…………」

足立「……な、なんか、ごめんね」

比企谷「いえ」

比企谷「ジュネスで買った弁当、温め直しますね」

足立「ああ、頼むよ」

287: 2013/08/04(日) 19:53:37 ID:Gy5VeVso

―――――――――――

     ブロロロロ……

堂島「…………」

堂島(……考え過ぎか?)

堂島(一連の頃しと、今回の行方不明事件)

堂島(全く別なのか?)

堂島(…………)

堂島(あの比企谷、とかいう高校生)

堂島(行方不明の二人の事を聞こうとしなかった。 知り合いの事なのに……)

堂島(”知っている”事を隠している……?)

堂島(…………)

堂島(高校生まで疑うなんて……俺もヤキが回ったのかもな)

     ブロロロロ……

288: 2013/08/04(日) 20:04:46 ID:Gy5VeVso



     ……それからの数日

     天城の体調は、なかなか回復せず

     学校をずっと休んでいる


     これはやはり、あの世界で天城の【シャドウ】が

     暴走した為……なのだろうか?



289: 2013/08/04(日) 20:06:08 ID:Gy5VeVso



     もう一つ

     こちらが霧の夜……むこうで【シャドウ】が暴れて殺される

     それは、あくまで、『あの世界にいる【シャドウ】』に殺されると思っていた



     だが……天城の暴走した【シャドウ】を見てわかった

     今までの被害者は、自分の暴走した【シャドウ】に殺されていたんだ……!

     山野アナも 小西早紀も……!



     ……結局、天城も 里中も 犯人につながる事は思い出せず

     事件解決の糸口すら見えていなかった……



290: 2013/08/04(日) 20:07:18 ID:Gy5VeVso


―――――――――――

ある日の夜

雪ノ下宅


     ルルルルル……ルルルルル……ガチャ

陽乃「はい、雪ノ下ですけど?」

陽乃「……ああ、伯父様」

陽乃「…………」

陽乃「え?」

陽乃「…………」

陽乃「それは……わかりますけど」

291: 2013/08/04(日) 20:08:15 ID:Gy5VeVso

陽乃「大事な妹をそんな事に使うのは……」

陽乃「…………」

陽乃「そうですね。 それは伯父様のせいじゃありません」

陽乃「ですけど……」

陽乃「!」

陽乃「今……何処だとおっしゃいました?」

陽乃「…………」

陽乃「八十稲羽………はい…はい……」

陽乃「わかりました」

陽乃「説得はしてみますけど、期待はしないでくださいね?」

     チン……

陽乃「…………」

292: 2013/08/04(日) 20:09:15 ID:Gy5VeVso

陽乃「雪乃ちゃん」

雪ノ下「……何でしょう? 姉さん」

陽乃「実は、ね」

陽乃「今、観光事業の社長をしている伯父様から電話があってね」

雪ノ下「はあ……」

陽乃「提携してる天城屋っていう旅館が」

陽乃「殺人事件の舞台になっちゃって、お客さんが来なくなって困ってるんだって」

雪ノ下「…………」

陽乃「それで、その旅館の娘さんを『現役、女子校生女将』として宣伝して」

陽乃「イメージアップさせようとしたんだけど」

雪ノ下(その娘はいい迷惑ね……)

293: 2013/08/04(日) 20:10:45 ID:Gy5VeVso

陽乃「今度はその娘が、倒れちゃったんだって!」

雪ノ下「……それと私と何の関係が?」

陽乃「ふふふ~」

陽乃「もう察しがついているんでしょ?」

雪ノ下「お断りします」

陽乃「そっか~残念ね~」

雪ノ下(……こういう時の姉さんは、何か企んでる)

陽乃「ひなびた、いい場所なんだけどなー」

陽乃「八十稲羽って所なんだけど……」

雪ノ下「……!!」

陽乃「どうする? 雪乃ちゃん」

雪ノ下「………っ」

297: 2013/08/10(土) 09:19:20 ID:Ec7mjmAM


―――――――――――


ゴールデンウィーク

八十稲羽駅


由比ケ浜「ふう……遠かった~」

由比ケ浜「さて……」

     ピッポッパッ

     プルルルルル……プルルルルル…… ガチャ

由比ケ浜「あ、もしもし? ヒッキー?」

由比ケ浜「うん、そう。 結衣だよ~?」

298: 2013/08/10(土) 09:20:19 ID:Ec7mjmAM

比企谷「……ああ。 まあ、暇だけど」

比企谷「…………」

比企谷「……は?」

比企谷「八十稲羽に来てる?」

比企谷「……面白い冗談だな」

比企谷「…………」

比企谷「福引でペアチケット、ゲットした?」

比企谷「天城屋に二泊三日……だと?」

比企谷「……マジっすか」

比企谷「…………」

比企谷「ところで、もう一人は誰……」

比企谷「平塚!?」

299: 2013/08/10(土) 09:21:12 ID:Ec7mjmAM

平塚「そうだ、比企谷」

平塚「未成年の、しかも女子生徒が」

平塚「単独で旅行など危なっかしいからな!」


由比ケ浜(ホントはゆきのん誘ってたら)

由比ケ浜(肝心のゆきのんには断られて、その場にいた平塚先生が)

由比ケ浜(強引にしゃしゃり出てきたんだけどね……)


平塚「まあそいう事だ、比企谷」

平塚「諦めてさっさと出て来い」

平塚「どうせこっちでも、引きこもっているんだろう?」

300: 2013/08/10(土) 09:22:26 ID:Ec7mjmAM

比企谷(……何勝手に決め付けてんだよ、平塚)

比企谷(こっちに来てから、否応なしに人間関係形成してますっての)


比企谷「……色々言いたい事は分かりましたけど」

比企谷「GWに生徒と二人で旅行って、さみしいっすね」

比企谷「…………」

比企谷「……?」

比企谷「どうしました? 平塚先……由比ケ浜?」

比企谷「…………」

比企谷「は? 泣いてる? 平塚が?」

比企谷「……知らねーよ。 フツーに会話してただk」

比企谷「わかったわかった……今行くから……」

     ブッ……ツー、ツー

比企谷「ったく……」

301: 2013/08/10(土) 09:23:15 ID:Ec7mjmAM

ジュネス フードコート


花村「よう、里中」

里中「ああ、ごめん、花村。 急に呼び出して」

花村「別にいいけどな。 暇してたし」

花村「で? どうしたんだ?」

里中「……うん」

里中「比企谷くんの事、なんだけどさ」

花村「惚れたか?」

里中「じょーだん。 地球が終わっても、ない」

花村「ハハハ」

里中「……でも、さ」

302: 2013/08/10(土) 09:24:13 ID:Ec7mjmAM

里中「結局、雪子も助けてもらったし」

里中「それに、比企谷くんの意見に従ってたら」

里中「犯人の特定にもつながってたし……」

花村「…………」

里中「あたし……謝るべき、なのかな?」

花村「……そうだな。 難しい問題だ」

里中「…………」

花村「俺の立場から言わせてもらうと……複雑だぜ」

里中「複雑?」

花村「そ。 比企谷の言ってる事は、確かに正しい」

花村「けど……なんて言うか、『血』が通っていない」

里中「あ~……」

303: 2013/08/10(土) 09:25:05 ID:Ec7mjmAM

花村「どうしてそう言えるのか、不思議だが……」

花村「常に『第三者』的な意見を言う」

花村「自分の事も含めてな」

里中「そうそう!」

花村「……しかし、今のところ」

花村「あいつの言う事は、間違っていない」

花村「心情的に賛成できなくてもな」

里中「……言い方も腹立つし」

花村「そうだよな」

花村「わざわざ嫌われたくてそう言ってる、としか思えねぇよな」

里中「…………」

304: 2013/08/10(土) 09:25:52 ID:Ec7mjmAM

花村「ま……俺に言える事は」

花村「自分がそうしたくなったら、やればいい、って事かな?」

里中「…………」

花村「なあ、里中」

里中「うん?」

花村「あいつがここに来て、まだ慣れてない様に」

花村「俺たちも、『比企谷』に慣れるまで時間がいるって事じゃねえのかな?」

里中「!」

里中「そっか……そうだよね」

里中「ありがとう、花村。 なんかすっきりした気がする」

花村「どういたしまして」

     ハハハ……

305: 2013/08/10(土) 09:27:02 ID:Ec7mjmAM

花村「そういえば、天城は?」

花村「この前やっとこさ学校に来てたけど……」

里中「うん……」

里中「なんか、旅館、ちょっとヤバイみたい」

花村「ヤバイ?」

里中「かきいれ時のGWを前にして、殺人事件とかあったじゃん?」

里中「それでキャンセルとか結構あったみたいで……」

花村「え? この前は忙しそうにしてたのに」

里中「あたしも手伝ったけど、あれは提携してる旅行会社?が」

里中「料金とか無理して強引に企画してたみたい」

里中「なんか社長とか、影響力の大きい人たちだったとか……」

306: 2013/08/10(土) 09:28:02 ID:Ec7mjmAM

花村「わちゃ……それで天城の失踪騒ぎ見ちまったのか」

花村「完全に逆効果だな……」

里中「うん……」

里中「でも雪子、これからは『現役・女子高生女将』でも何でもいいから」

里中「お店の為になるなら、できるだけの事はしたいって、言ってた」

花村「そっか……天城、強くなったな」

里中「あたしも協力したいって言ったら」

里中「どうしても必要になったらお願いするね?って言われちゃった」

花村「その時は、俺にも言ってくれ。 出来る事はやるぜ?」

里中「うん! 雪子も喜ぶと思うよ、花村!」

     アハハハ……

307: 2013/08/10(土) 09:30:09 ID:Ec7mjmAM

里中「それにしても……犯人誰で、何の目的があるんだろ……」

花村「それについては、正直、まだまだ謎だな」

花村「共通点として、被害者は全員女性」

花村「動機は不明だが、あの世界を凶器にしている」

花村「そして……」

里中「全員【マヨナカテレビ】に映っている」

花村「だな」

花村「とにかく、次に動きがあるまで何とも出来無いのが悔しいが」

花村「あの世界に単独で入らねえ、という決まりができた事以外」

花村「進展は無いな……」

里中「うん……そうだね」

里中「……!?」

308: 2013/08/10(土) 09:31:10 ID:Ec7mjmAM

里中「は、花村! あ、あれ! あれ見て!」

花村「あん? 何だよ、いったい……」

花村「って!?」

里中「あれって……比企谷くん、だよね!?」

花村「あのふてぶてしい目つき……間違うわけがねえ」

里中「どーいう事!?」

里中「あの比企谷くんが、女の子と女の人、二人を連れて歩いてる!?」

花村「……いや、どう見ても荷物持ちさせられてるだろ」

花村「けど、気になるな……」

里中「追いかけてみよう!」

花村「おっしゃ!」

309: 2013/08/10(土) 09:32:02 ID:Ec7mjmAM

比企谷「ぜえ……ぜえ……」

比企谷「お、おい……平塚……」

平塚「あ~ん? 聞こえんなぁ?」

比企谷「……平塚先生」

平塚「何だ、比企谷」

比企谷「ボストンバッグ、異様に重いんですけど……」

平塚「情けない……その程度で重いのか」

平塚「普段から鍛えておかないからだ」

比企谷「俺は荷物持ちとして、この世に生を受けたわけじゃない」

平塚「引きこもる為でもないよな?」

比企谷「それは俺の自由意思だろ」

310: 2013/08/10(土) 09:33:11 ID:Ec7mjmAM

由比ケ浜「ま、まあまあ、平塚先生……そのくらいで」

由比ケ浜「ヒッキーも、もう少し抑えよう?」

比企谷「俺はこれでも抑えてるけどな」

平塚「気が合うな、比企谷。 私もだ」

     バチバチバチッ!

由比ケ浜(ひーん……私のライフはゼロだよう……)

由比ケ浜「え、えと……そだ!」

由比ケ浜「ヒッキーの通ってる学校ってどう?」

比企谷「フツーだ」

由比ケ浜「短ッ! もうちょっと詳しく言ってよ!」

比企谷「んなこと言われてもなぁ……」

由比ケ浜「知り合いとか、出来たんでしょ?」

比企谷「……まあな」

311: 2013/08/10(土) 09:34:01 ID:Ec7mjmAM

平塚「ほう、それは興味深いな」

平塚「ぜひ聞かせてくれ」

比企谷「……まあ、何となく、という感じで」

平塚(……やれやれ)

平塚(どうやら、ここでも変わりないみたいだな)

由比ケ浜「…………」


比企谷(……詳しくは言えないよな)

比企谷(ペルソナの事とか話したら……由比ケ浜はともかく)

比企谷(平塚は間違いなく、こいつ悪化してる!とか思うだろうし)

比企谷(はあ……)

312: 2013/08/10(土) 09:35:15 ID:Ec7mjmAM

里中「…………」

花村「…………」

里中「見た?」

花村「見た」

里中「女の人とは険悪そうだけど、女の子の方は親しげだったね……」

花村「世の中、ぜってー間違ってる……」

花村「何で比企谷に、あんな可愛い彼女がいるんだよ!」

里中「花村……気持ちはわかるけど、彼女って決まった訳じゃないし」

花村「お、おう……そうだな……」

里中「でも二人共、美人さんだったねー」

花村「全くだ! 比企谷……後で小一時間ほど問い詰めてやる!」

里中「……ていうか、こそこそ隠れる必要、無いじゃん?」

花村「……そういやそうだな」

313: 2013/08/10(土) 09:35:54 ID:Ec7mjmAM

     タッ タッ タッ

花村「おい、比企谷」

比企谷「げえっ! 関○!」

花村「誰が○羽だよ……」

里中「やっほー、比企谷くん」

由比ケ浜「ヒッキー、誰なの?」

比企谷「……クラスメイトです」

由比ケ浜「そっか! 友達なんだね!」

比企谷(一言も言ってねえだろ……)

由比ケ浜「はじめまして! 私、由比ヶ浜結衣って言います」

由比ケ浜「前の学校で、ヒッキーの友達やってます!」

314: 2013/08/10(土) 09:37:08 ID:Ec7mjmAM

里中「へえ、そうなんだ」

里中「あたし、里中千枝って言うの。 よろしくね、由比ケ浜さん」

花村(由比ヶ浜結衣っていうのか……近くで見ると改めて可愛い娘だと思うなぁ)

花村「お、俺、花村陽介って言います!」

花村「よろしく!」

由比ケ浜「よろしくね、里中さん、花村くん」

里中「ところで、比企谷くん。 こちらの人は?」

比企谷「暴力教師の平塚だ」

平塚「衝撃のぉ…ファー○ト・ブリットォォッ!!」


     バゴォッ!!


比企谷「ぶべらっ!?」

315: 2013/08/10(土) 09:38:13 ID:Ec7mjmAM

花村・里中・由比ケ浜「」

平塚「失礼した。 総武高校の教師、平塚静」

比企谷「……三十路の独s」

平塚「抹殺のぉ! ラ○ト・ブリットォォォォッ!!」


     ドグゥオッ!!


比企谷「ぎゃあああああああっ!!」

由比ケ浜「あは、あははは……」

里中「撃滅のセカ○ド・ブリット、飛ばしてる……」

花村「突っ込むところ、そこじゃねえだろ!?」


―――――――――――


316: 2013/08/10(土) 09:39:23 ID:Ec7mjmAM

里中「なる程、福引でペアチケットが当たって……」

花村「天城屋へ行く途中だったのか」

比企谷「おう……」 ボロッ…

平塚「全く……でもまあ、少し安心した」

平塚「人付き合いもそこそこには、こなしている様だな」


里中(……なんか向こうの比企谷くん、想像できちゃう)

花村(……付き合いにくい奴だもんなぁ)


由比ケ浜「でさ、ヒッキー」

由比ケ浜「旅館に荷物置いたら、観光案内してくれる?」

比企谷「ヤダ。 めんどくさい」

317: 2013/08/10(土) 09:40:36 ID:Ec7mjmAM

花村「おま!? せっかく訪ねてきた友達になんて事言うんだよ!?」

由比ケ浜「あ、いいんだよ花村くん」

由比ケ浜「ヒッキー、いつもこんな感じだったから」

由比ケ浜「かえって安心してるんだ」

花村(由比ケ浜さん、マジ天使……!)

里中「じゃ、あたしで良かったら案内するけど?」

花村「その手があったか!」

里中「花村……声に出したらダメでしょ……」

由比ケ浜「ううん、花村くんも一緒でいいよ?」

由比ケ浜「人数居た方が、楽しいと思うし!」 ニコ

花村「ぐはっ……! 俺のハート、打ち抜かれたっ!」

比企谷(やれやれ……)

318: 2013/08/10(土) 09:41:36 ID:Ec7mjmAM

天城屋


天城「いらっしゃいませ」

天城「……あ」

花村「よう! 天城」

里中「雪子、こんちわー!」

比企谷「……よう」

天城「千枝にみんな……どうしたの?」

里中「それがさ、いろいろあって比企谷くんの友達の道案内をしてきたんだ」

天城「そうなんだ」

天城「ようこそ天城屋へ。 ごゆっくりおくつろぎください」

319: 2013/08/10(土) 09:42:32 ID:Ec7mjmAM

由比ケ浜「お、お世話になります……」

平塚「これ、チケットです」

天城「はい。 ペアチケットですね……あら?」

里中「どうしたの? 雪子?」

天城「いえ……その……」

天城「駅に着いた時に ご連絡頂けたら、送迎車を向かわせたんですけど……?」

由比ケ浜「…………」

平塚「…………」

比企谷「…………」

比企谷「おい……由比ケ浜……」

由比ケ浜「あ、あはは……」

由比ケ浜「ごめん! ヒッキー!」

320: 2013/08/10(土) 09:43:37 ID:Ec7mjmAM

平塚「まあいいじゃないか、比企谷」

平塚「私たちの元気な姿をいち早く見れたんだから」

比企谷「荷物持たせといて、どの口が言うか……!」

平塚「それじゃ、チェックイン済ませるとするか」

由比ケ浜「そ、そうですね」

天城「はい、こちらへどうぞ……」


里中「あはは」

比企谷「何が可笑しい……里中」

里中「いや~何て言うの? やっぱり比企谷くんと顔を付き合わせるには」

里中「あれくらいじゃないと、いけないんだなって」

比企谷「止めてくれ……あれを真似するのは……」

321: 2013/08/10(土) 09:44:47 ID:Ec7mjmAM

天城「お待たせしました」

天城「それでは、お部屋へご案内いたします」

天城「雪ノ下さん、お願いしてもいいかな?」


比企谷「!?」

由比ケ浜「え!?」

平塚「…………」


雪ノ下「……わかりました、天城さん」

雪ノ下「お客様、どうぞこちらへ」

由比ケ浜「ちょ、ちょっと、ゆきのん! どうしてここに!?」

雪ノ下「……どうぞこちらへ」

322: 2013/08/10(土) 09:45:37 ID:Ec7mjmAM

平塚「由比ケ浜……部屋へ行こう」

由比ケ浜「え? で、でも、先生……」

平塚「いいから……ほら」

由比ケ浜「……はい」

     スタ スタ スタ…

比企谷「…………」

花村「……知り合いか? 比企谷?」

比企谷「…………」

里中「……雪子、今の女の子、どういう人なの?」

天城「え? う、うん」

天城「ウチの旅館が提携してる、観光会社の紹介で入った」

天城「私と同じ高校生の人だよ?」

323: 2013/08/10(土) 09:46:46 ID:Ec7mjmAM

里中「高校生? 何でそんな人が?」

天城「……その、『現役・女子高生女将』として」

天城「私が倒れている時に、代わりに頑張ってくれたんだ」

里中「そうなの? ……知らなかった」

天城「GWに入ってからだけどね……」

花村「つー事は、あれか?」

花村「旅館のイメージアップ、というか、宣伝、というか……」

天城「……うん」

天城「表向きは『女将修行に来た女子高校生』って事になってるけどね」

花村「そっか……」

324: 2013/08/10(土) 09:48:55 ID:Ec7mjmAM

天城「口数は少ないけど、とっても良く仕事をしてくれててね」

天城「私も随分助けられているんだ」

花村「しっかし、すげぇ美人だよな……」

花村「天城と同じで、黒髪のロングがよく似合ってるし」

花村「二人並ぶと、ものすごく絵になる感じだ」

天城「ありがとう、花村くん」

天城「それにもう一つ偶然があってね」

天城「雪ノ下さん、雪乃って名前なんだ」

里中「おおー、雪つながりだね」

天城「ふふふ、少し、親近感を持っちゃった」

325: 2013/08/10(土) 09:49:41 ID:Ec7mjmAM


??「あれー? 君たちは……」


比企谷「……!」

比企谷「足立さん……」

足立「どうしたの? こんな所で?」

比企谷「その……」

花村「いろいろあって、比企谷の友達の案内をしてたんです」


里中(花村……誰?) ヒソヒソ

花村(比企谷の保護者の刑事さん) ヒソヒソ

里中(ああ! 思い出した……山野アナの時にもどしてた……) ヒソヒソ


足立「そうなんだ。 それはご苦労さん」

比企谷「足立さんは?」

326: 2013/08/10(土) 09:51:26 ID:Ec7mjmAM

足立「最終的な事情聴取をしてたとこ」

足立「まあ、行方不明者は見つかってるから」

足立「ゆる~い感じだけどね」

比企谷「そうだったんですか」

足立「今日は久しぶりに定時で上がれそうだよ~」

比企谷「わかりました。 夕飯、準備しておきます」

     スタ スタ スタ

平塚「おーい、比企谷」

平塚「さっそくだが、この街の案内を……ん?」

足立「?」

平塚「比企谷、こちらは?」

327: 2013/08/10(土) 09:52:42 ID:Ec7mjmAM

比企谷「この街で保護者になってもらってる、刑事の足立さんです」

平塚「!!」


平塚(刑事……という事は、公務員!)

平塚(安定した職業……見た目、20代前半……!)

平塚(釣り合わない事は……ない!)


平塚「あの、足立さん、はじめまして!」

平塚「私、比企谷の前の学校で担任をしていました、平塚静、といいます!」

足立「は、はい?」

平塚「ところで、あなたは独身? 独身ですよね!?」

平塚「奇遇です! 私もそうなんですよ! あっはっはっ!」

足立「え? は? はい?」

328: 2013/08/10(土) 09:54:45 ID:Ec7mjmAM


里中(うわぁ……)

花村(黙ってりゃ美人なのに……)

比企谷(がっつきすぎだ……平塚)


平塚「そうだ! ぜひ、ここの案内をしてください!」

平塚「警察の方なら、詳しいですよね!?」

平塚「っていうか、困っている一般市民を助けてくれますよね!? ね!? ね!?」

足立「そ、それ……は?」

平塚「じゃ、行きましょう! 今すぐに! ゴートゥヘブン!!」

足立「わわわわ、わかりましたから、引っ張らないでぇぇぇっ!!」

     ドドドドドドドドド……

一同「…………」

329: 2013/08/10(土) 09:56:03 ID:Ec7mjmAM

由比ケ浜「ヒッキー、お待たせー」

由比ケ浜「ん? どうしたの?」

比企谷「……なんでもねえ」

由比ケ浜「そ、そう……」

比企谷「じゃ……俺は帰る」

由比ケ浜「あ……うん」

     スタ スタ スタ…

里中「……ホントに帰っちゃった」

花村「いいのかい? 由比ケ浜さん」

由比ケ浜「うん。 いいの」

由比ケ浜「それじゃ観光案内、お願いするね?」

330: 2013/08/10(土) 09:56:57 ID:Ec7mjmAM

比企谷「…………」

比企谷(……雪ノ下)

比企谷(変わってなかったな)

比企谷(和服も似合っていた)

比企谷(…………)

比企谷(期待すんなよ、俺……)

比企谷(どうせ陽乃さんあたりが、強引に押し付けたんだろうよ)

比企谷(でなきゃ、こんなところ来るわけがねえ……)

比企谷(…………)

331: 2013/08/10(土) 09:57:58 ID:Ec7mjmAM

由比ケ浜「――って感じで」

由比ケ浜「強引にお姉さんに頼まれたんだって……」

由比ケ浜「平塚先生は、ゆきのんがヒッキーみたいに」

由比ケ浜「来年の春まで転校する事を知ってたみたいだけど」

由比ケ浜「…………」

由比ケ浜「ただ……ここに誘った時に言ってくれなかったのは」

由比ケ浜「ちょっとショックだったかな……」


里中「…………」

花村「…………」


里中(……どー思う? 花村) ヒソヒソ

花村(……筋は通ってるけど) ヒソヒソ

花村(どうもしっくり来ねえ……) ヒソヒソ

332: 2013/08/10(土) 09:59:21 ID:Ec7mjmAM

里中「……由比ケ浜さん」

由比ケ浜「うん?」

里中「あんまり口出ししちゃいけないかもしんないけど……」

里中「なんか、比企谷くんと 雪ノ下さんって」

里中「妙な雰囲気だったよね?」

花村「なんつーか……二人共、壁を作ってるっていうか……」

由比ケ浜「……うん」

由比ケ浜「ホントはね」

由比ケ浜「二人共、よく憎まれ口を言い合っていたけど」

由比ケ浜「仲は良かったんだ」

333: 2013/08/10(土) 10:00:17 ID:Ec7mjmAM

由比ケ浜「いろいろあって、ゆきのんも ヒッキーも」

由比ケ浜「お互い信頼してたと思う」

里中「…………」

花村「…………」

由比ケ浜「……けど」

由比ケ浜「ヒッキーが、ここ……八十稲羽に一年間、転校する事になって」

由比ケ浜「みんなで集まって、送別会開いたりして……」

由比ケ浜「そして、いよいよ別れの日がやってきた」

里中「…………」

花村「…………」

由比ケ浜「……ゆきのん、今だに理由を話してくれないの」

由比ケ浜「あの日……ゆきのんは――」

334: 2013/08/10(土) 10:01:11 ID:Ec7mjmAM

比企谷「…………」

比企谷(期待はしてなかった)

比企谷(相変わらず腐った魚の目みたいね、とか)

比企谷(向こうでも勘違いするな、とか)

比企谷(おおよそ罵られると思ってた)

比企谷(……だが)

比企谷(…………)

比企谷(どうして……予想しなかったんだよ)

比企谷(……俺もまだまだって事なんだろうけど)

比企谷(…………)

335: 2013/08/10(土) 10:02:02 ID:Ec7mjmAM






     あの日、雪ノ下は……俺を見送りに来なかった






344: 2013/08/16(金) 20:19:43 ID:o6PGuI1M


―――――――――――


翌々日の朝

足立宅


比企谷「おはようございます、足立さん」

足立「……おはよう、比企谷くん」 ゲッソリ…

比企谷「……平塚の相手、大変だったでしょ?」

足立「まあね……って」

足立「今の無し。 無しだから……」

比企谷「いいですよ、今更」

比企谷「本人に悪気がない分、タチが悪いですし」

足立「あはは……」

345: 2013/08/16(金) 20:21:12 ID:o6PGuI1M

比企谷「まあそれも今日までです」

比企谷「お疲れ様でした」

足立「……君も言うね。 ちょっと羨ましいよ」

比企谷「さ、トーストも焼き上がりましたし」

比企谷「朝メシにしましょう」

足立「その意見には賛成だね」

     イタダキマス

足立「そういえば比企谷くん」

比企谷「はい?」

足立「君、彼女居ない、みたいな事 言ってたけど」

足立「由比ヶ浜さんっていう、可愛いガールフレンドが居るじゃないか」

346: 2013/08/16(金) 20:22:31 ID:o6PGuI1M

比企谷「……成り行きで人間関係が出来ただけですよ」

足立「…………」

足立「……ま、僕から口出しすべき事じゃないけど」

比企谷「これからもその方向でお願いします」

足立「そ、そう……」

足立「それにしても、ここのところ平和だね~」

比企谷(……おかげで足立さん、平塚に引きずり回される羽目になってるがな)

比企谷(俺の方も由比ヶ浜はもちろん)

比企谷(花村や里中にまで、何かと付き合わされてるし……)

比企谷(…………)

比企谷(ま、それも今日までだが)

347: 2013/08/16(金) 20:23:21 ID:o6PGuI1M

     ピンポーン

比企谷「?」

足立「誰だろう? こんな朝に……はーい」

     ガチャ…

足立「」

比企谷「」

平塚「おはようございます! 足立さん!」

足立「ひ、平塚……先生……」

平塚「嫌だわ、足立さん。 昨日、静、と呼んでくださいって」

平塚「お願いしたじゃないですか♥」

比企谷(ハート付けるな……ハートを……)

比企谷(つーか、何で住所知ってんだよ……怖すぎだろ)

348: 2013/08/16(金) 20:24:16 ID:o6PGuI1M

足立「い、いやその……ですね」

平塚「それじゃあ……今日はどこに行きますか?」

足立「そ、それが、僕の知ってるところは……だいたい見せちゃったんで……」

平塚「だったら! 昨日紹介してくれたジュネスで、デートしましょう! デート!」

平塚「きゃ♪ 私ったら、デート、だなんて!」

足立「…………」


比企谷(その辺にしてしておけ、平塚……)

比企谷(足立さん、盛大に引いてるぞ……)


足立(ひ、比企谷くん……!)

比企谷(無理です……俺に救いを求めても何とも出来ません) (首)フルフル

足立「」

349: 2013/08/16(金) 20:25:05 ID:o6PGuI1M

平塚「それじゃあ、行きましょう! ジュネスへ!」

平塚「エブリディ、ヤングライフ、ジュ・ネ・ス♪」

足立「ひ、引っ張らないでぇぇぇぇ!!」

     パタン

比企谷「…………」

比企谷「足立さん」

比企谷「健闘を祈ります」

     ピピピ……ピピピ……

比企谷「ん?」

     ガチャ

比企谷「はい、もしもし」

350: 2013/08/16(金) 20:26:20 ID:o6PGuI1M

比企谷「花村か……いったい何の用だ?」

比企谷「…………」

比企谷「昨日、さんざん付き合っただろ……」

比企谷「……は?」

比企谷「口実が欲しい?」

比企谷「…………」

比企谷「由比ヶ浜なら、そんなもん必要ないだr」

     ブッ……

比企谷「おい!?」

     ツー、ツー…

比企谷「切りやがった……ったく」

比企谷「…………」

比企谷「高台で待ち合わせ、ね……」

351: 2013/08/16(金) 20:27:15 ID:o6PGuI1M


―――――――――――


高台


     テク テク テク

比企谷「……よお、由比ヶ浜」

由比ヶ浜「あ、ヒッキー」

比企谷「花村と里中は?」

由比ヶ浜「里中さんは、飲み物を忘れたから買ってくるって」

由比ヶ浜「花村くんは、知らない」

比企谷「そうか……取り敢えず、そこのベンチに座るか」

由比ヶ浜「うん!」

352: 2013/08/16(金) 20:28:19 ID:o6PGuI1M

比企谷「…………」

由比ヶ浜「…………」

     ピーヒョロロロー……

比企谷「…………」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「……なんか、平和な街だね、ここって」

比企谷「ん?」

由比ヶ浜「だってさ、大きな事件が起きてたから」

由比ヶ浜「もっと物々しいのかな、って……」

比企谷「最初の頃は、そんなイメージだったな」

由比ヶ浜「ふふ、そうなんだ……」

353: 2013/08/16(金) 20:29:15 ID:o6PGuI1M

由比ヶ浜「ところで、さ、ヒッキー」

比企谷「ん?」

由比ヶ浜「私を見て、何か気がつかない?」

比企谷「……?」

比企谷「どこから見ても、ただの由比ヶ浜だが?」

由比ヶ浜「『ただの』付けるなし!」

由比ヶ浜「全く……」

比企谷「何で俺は怒られているんだよ……」

由比ヶ浜「温泉」

比企谷「は?」

由比ヶ浜「一昨日から、天城屋自慢の『美人の湯』に入り続けてるの!」

由比ヶ浜「だから、結構綺麗になったでしょ?」

比企谷「…………」

354: 2013/08/16(金) 20:30:20 ID:o6PGuI1M

由比ヶ浜「もー、黙んないでよ、ヒッキー」

比企谷「お世辞は言わない主義」

由比ヶ浜「ムキー! 平塚先生呼んじゃうぞ!」

比企谷「それだけはやめろ!」

由比ヶ浜「ふふ、やーいやーい」

比企谷「……ったく」

比企谷「…………」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「……昨日、ね」

由比ヶ浜「私、ゆきのんと話……したんだ」

比企谷「…………」

355: 2013/08/16(金) 20:31:10 ID:o6PGuI1M

由比ヶ浜「肝心な事は聞けなかったけど……」

由比ヶ浜「八十稲羽に行く事、私に黙ってたの、謝ってくれた」

比企谷「…………」

比企谷「……そうか」

由比ヶ浜「でも……やっぱりちょっと元気がなかったかな」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「どうして……なんだろうね」

比企谷「……さあな」

由比ヶ浜「早く話してくれるといいんだけど」

比企谷「…………」

356: 2013/08/16(金) 20:32:25 ID:o6PGuI1M

由比ヶ浜「それにしても……里中さん、遅いね?」

由比ヶ浜「花村くんも」

比企谷「そうだな……」


花村「…………」

里中「…………」

花村「里中さん里中さん、聞こえてますか? どうぞ」

里中「聞こえてますよ、どうぞ」

花村「こっちからはフツーに会話してる様にしか見えません、どうぞ」

里中「こっちもそう見えるじゃん、どうぞ」

花村「…………なあ」

里中「何ですか? どうぞ」

357: 2013/08/16(金) 20:33:29 ID:o6PGuI1M

花村「この会話、意味あんのか?」

里中「疑問に感じたら負けじゃん、どうぞ」

花村「いい加減にしろって! 俺ら、2mも離れてねーじゃねーか!」

里中「こういうのは気分が大事だし」

花村「傍から見たら、どう見ても間抜けだっつーの……」

里中「それを言ったら おしまいじゃん! どうぞ!」

花村「もういいから!」

花村「だいたい、あの2人を2人っきりにしたら、退散すればいいんじゃね?」

里中「だって……気になるじゃん?」

花村「わかるけど……ああ、腹も減ってきたし、何やってだ俺?感、すげー半端ない」

里中「それ言わないで……」

里中「昨日の由比ヶ浜さん見てたら、何かしてあげたくなったの」

359: 2013/08/16(金) 20:35:23 ID:o6PGuI1M

花村「それもわかるけど……」

里中「あたしには、これっぽっちも理解できないけど」

里中「明らかに由比ヶ浜さん、比企谷くんにベタ惚れじゃん? 応援したいじゃん?」

里中「なのに比企谷くんときたら……」

花村「そうなんだよなぁ……蓼喰う虫も好きずき、を、地で行ってるからなぁ」

花村「あんな可愛い娘にキラキラした目で見られて、何とも思わねーのかよ……比企谷」

花村「俺ならソッコー落ちてるレベルだっての! 羨ましい!」

里中「花村は節操無いからねー」

花村「うっせーよ!?」


比企谷「……おい」

360: 2013/08/16(金) 20:36:45 ID:o6PGuI1M

花村「」

里中「」

比企谷「納得のいく説明をしてもらおうか?」

花村「い、いや、これは、その……!」

里中「べべべべ 別に、ふ、2人きりにしてあげよう、とか、思ってないから!」

花村「バ、バカ! 里中!」

比企谷「…………」

由比ヶ浜「あは、あはは……」///

由比ヶ浜「ええと、ちょっと早いけど……お昼にします?」

里中「さんせー!」

花村「全面的にさんせー!」

比企谷「……まあいいか」

361: 2013/08/16(金) 20:37:36 ID:o6PGuI1M


―――――――――――


花村「あー旨かった。 さすが天城屋の弁当!」

里中「景色もいいし、最高だったね」

由比ヶ浜「うん! 私の街には、こんな景色のいいとこ無いから」

由比ヶ浜「本当に気持ちよかったよ~」

花村「いや~それ程でも~」///

里中「……なんで花村が照れてんのよ」

     アハハ……

由比ヶ浜「さて……そろそろ、帰る準備しないと」

里中「もうそんな時間?」

362: 2013/08/16(金) 20:38:56 ID:o6PGuI1M

花村「名残惜しいなぁ……な、比企谷?」

比企谷「…………」

比企谷「……まあ、な」

里中「おお~比企谷くんがデレた!」

花村「明日は槍が降るな♪」

比企谷「……お前らなぁ」

由比ヶ浜「…………」 クス


由比ヶ浜(良かった……ヒッキー、いい人達と知り合えてて)

由比ヶ浜(ちょっと妬けちゃうけど……ふふっ)


由比ヶ浜「じゃあ、最後に……ジュネスでお土産買っていこうかな?」

363: 2013/08/16(金) 20:39:50 ID:o6PGuI1M

ジュネス


     グスン グスン…

比企谷「……何してんだ平塚」

平塚「比企谷か……グスン」

平塚「透さん……ケータイが鳴って、仕事に行っちゃった」

比企谷「……いろいろツッコミたいが、こんな所で泣くなよ。 営業妨害だろ」

平塚「うわあああああんっ!」

由比ヶ浜「ひ、平塚先生、言いにくいんですけど……」

由比ヶ浜「そろそろ電車の時間が……」


花村(……すげぇキャラの先生だな)

里中(……ああは成りたくないなー)

364: 2013/08/16(金) 20:41:03 ID:o6PGuI1M


―――――――――――


八十稲羽駅


由比ヶ浜「ヒッキー、今回はありがとうね」

比企谷「いや……まあ、楽しんだんなら、良かったな」

由比ヶ浜「ふふふ」///

花村(由比ヶ浜さん、マジ天使)///

里中(恋する乙女さんだねー)

由比ヶ浜「里中さんと 花村くんも いろいろありがとう」

由比ヶ浜「とっても楽しかったよ~」

花村「由比ヶ浜さんにそう言ってもらえると、本当に嬉しい!」

里中「お安い御用だよ。 またね、由比ヶ浜さん」

365: 2013/08/16(金) 20:42:07 ID:o6PGuI1M

由比ヶ浜「うん!」


???「……由比ヶ浜さん」


比企谷「……!」

由比ヶ浜「!!」

由比ヶ浜「ゆきのん!!」

雪ノ下「その……いろいろごめんなさい」

由比ヶ浜「ううん、もういいんだよ、ゆきのん」

由比ヶ浜「見送りに来てくれて、ありがとう!」

雪ノ下「向こうでも元気でね……」

由比ヶ浜「うん!」

366: 2013/08/16(金) 20:43:05 ID:o6PGuI1M

比企谷「…………」


花村(比企谷……あからさまに顔をそむけているな……)

里中(自分には見送りに来てくれなかった訳だしね……)


平塚「……そろそろ出発するぞ、由比ヶ浜」

由比ヶ浜「あ、はい、平塚先生」

由比ヶ浜「ヒッキー!」

比企谷「あん?」

由比ヶ浜「向こうのみんなに、ヒッキー、元気でやってるって伝えるから!」

比企谷「……おう」

由比ヶ浜「ゆきのんも元気でね!」

雪ノ下「うん、由比ヶ浜さん」

     ジリリリリリリリリリリンッ

367: 2013/08/16(金) 20:44:06 ID:o6PGuI1M

由比ヶ浜「私……私、またここに来るk」

     プシュー バタン☆

     ガタンゴトン ガタンゴトン…

比企谷「…………」

花村「……行っちまったな」

比企谷「……ああ」

里中「また来るって。 良かったじゃん」

比企谷「平塚は、もうゴメンだがな」

花村「ははは……まあ、わかる」

里中「あの人……望み薄そうだよねー」


雪ノ下「…………」

368: 2013/08/16(金) 20:45:06 ID:o6PGuI1M

雪ノ下「比企谷くん」

比企谷「! ……おう」

雪ノ下「じゃ、これで……」

比企谷「……あ、ああ」

     スタ スタ スタ…

花村「…………」

里中「…………」

里中(……花村) ヒソヒソ

花村(おう……) ヒソヒソ

里中(いけない事かもしんないけど……ちょっとワクワクしてる。 あたし) ヒソヒソ

花村(気にすんな、里中) ヒソヒソ

花村(俺もだ♪) ヒソヒソ

369: 2013/08/16(金) 20:46:16 ID:o6PGuI1M


―――――――――――




足立宅


テレビ『……それでは、次のニュースです』

テレビ『稲羽市で起きた、連続殺人事件ですが』

テレビ『現在も警察の捜査に進展はなく……依然として犯人の行方は分かっておりません』

比企谷「…………」

     タダイマー

比企谷「お帰りなさい、足立さん」

比企谷「お疲れ様です」

足立「いや~……正直、助かった、とも思ったけどね」

370: 2013/08/16(金) 20:47:27 ID:o6PGuI1M

比企谷「ケータイの番号、平塚に教えていないですよね?」

足立「これは警察の物だから……って、はぐらかしたよ……」

足立「バイタリティ豊か、とういうか、強引というか……」

足立「肉食系?って、ああいうのなのかなー」

比企谷「婚期を逃して焦ってるだけですよ」

足立「あ、あはは……」

比企谷「それじゃ晩御飯、用意しますね?」

足立「ああ、すまないね~。 本当に助かるよ」

比企谷「いえ……」

371: 2013/08/16(金) 20:48:36 ID:o6PGuI1M

テレビ『八十稲羽に漂う不穏な空気……でも!』

テレビ『それを吹き飛ばす、明るい話題がやってきました!』

テレビ『それは、以前ご紹介した天城屋旅館!』

テレビ『そこの看板とも言える、現役・女子高生女将に頼もしい助っ人が現れたんです!』

比企谷「……!」

テレビ『なんと! その助っ人も現役・女子高生!』

テレビ『都会から、わざわざ女将修行の為に、ここ八十稲羽に来た、との事です!』

足立「ああ……あの娘ね」

足立「確かに綺麗な娘だったな。 ちょっと冷たい感じしたけど……」

テレビ『それでは、インタビュー映像をご覧下さい!』

372: 2013/08/16(金) 20:50:02 ID:o6PGuI1M

テレビ『どうも、こんにちは。 ○○テレビです』

テレビ『あなたが、女将修行に来られた現役・女子高生の雪ノ下雪乃さんですか?』

テレビ『……そうです』

テレビ『八十稲羽を選んだ理由は、何でしょうか?』

テレビ『……親族に、知り合いが居まして』

テレビ『なる程~』

テレビ『やはり、夢は旅館の女将を?』

テレビ『……できれば、と、思っています』

テレビ『大きな夢ですね~。 では彼氏とかは、居るんですか?』

テレビ『!? ……あ、あの……』

テレビ『はい、そこまででお願いします~』

比企谷「」

比企谷(は、陽乃さん……!?)

373: 2013/08/16(金) 20:51:06 ID:o6PGuI1M

テレビ『え? ちょ、ちょっと、あなたは誰……』

テレビ『雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃です』

テレビ『彼女の保護者として……』

比企谷(…………)

比企谷(陽乃さんまで、ここに来てるのか……)

足立「へえ~姉妹そろって綺麗だね~」

比企谷「…………」


比企谷(……ま)

比企谷(夢見せといてやるか……)

374: 2013/08/16(金) 20:52:29 ID:o6PGuI1M

テレビ『それにしても、天城屋の現役・女子高生女将』

テレビ『天城雪子さんと並ぶと本当に絵になりますね』

テレビ『なお本日は、番組の内容を一部変更してお送りしました』


比企谷(……暴走する若者、ってのだな)

比企谷(どうでもいいけど)



―――――――――――



375: 2013/08/16(金) 20:53:31 ID:o6PGuI1M

ゴールデンウィーク明け

学校


     ガヤ ガヤ

諸岡「貴様ら! 黙っていろ!」

諸岡「今から転校生を紹介する!」

諸岡「彼女は、貴様らと違って本物の上流階級者だ!」

諸岡「失礼の無い様にな!」

     ガラッ…

雪ノ下「……初めまして、みなさん」

雪ノ下「雪ノ下雪乃です。 どうぞ、よろしく」

376: 2013/08/16(金) 20:54:47 ID:o6PGuI1M

     オオ―――――!!

     ダンシ ウルサイー

比企谷「…………」

里中「あの娘だ……すっごい偶然だね」

天城「ホントだね」

花村「美人な娘は大歓迎!」

里中「花村、うるさい」

比企谷(…………)

比企谷(……どうしてだ)

比企谷(陽乃さんが仕組んだと確信してやがる……俺)

比企谷(根拠は全くないが、100%偶然じゃねえと)

比企谷(俺の中の何かがそう伝えている……!)

377: 2013/08/16(金) 20:55:32 ID:o6PGuI1M



     その後、転校生によくある質問攻めという名の羞恥プレイが雪ノ下を襲うが

     天城が色々と間に入って何かと助けていた。

     クラスに溶け込めたかどうかは微妙だが、ホッとしている様だった。



     そして、午後には告白する男子まで現れるが、そこは雪ノ下。

     徹底的に言葉で相手の心をえぐり、完膚なきまで叩き伏せていた。

     さすがである。



378: 2013/08/16(金) 20:56:49 ID:o6PGuI1M



     ……そして、彼女に告白する事は、『雪ノ下くぐり』というプレイ名になり

     撃沈した時は『雪崩た!』、もしくは『崩落した!』という

     ゲームオーバー名までできていた。



     これは、天城の『天城越え』をならったみたいだが

     少しも洒落てないと思うのは、俺だけだろうか?



379: 2013/08/16(金) 20:57:35 ID:o6PGuI1M



     ……ついでに

     俺は、雪の下と、まだまともに話していなかった。     



380: 2013/08/16(金) 20:58:23 ID:o6PGuI1M

数日後




     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(今日は久しぶりの雨……)

比企谷(…………)

比企谷(【マヨナカテレビ】……映るだろうか)

     ……ピウィ~……

比企谷「!」

比企谷(……映ったか)

比企谷(…………)

比企谷(……和服?)

381: 2013/08/16(金) 20:59:25 ID:o6PGuI1M

比企谷(…………)

     ……ブツン

比企谷(……天城? また?)

     ピピピ……ピピピ…… ガチャ

比企谷「もしもし?」

花村『比企谷……見たか?』

比企谷「見た。 和服みたいだったな」

花村『…………』

比企谷「どうした? 花村?」

花村『比企谷……あれ、たぶん雪ノ下さんだと思う』

比企谷「!?」

382: 2013/08/16(金) 21:00:19 ID:o6PGuI1M

比企谷「……根拠はあるのか?」

花村『天城屋で見た、彼女の着てた和服の柄と同じだった』

比企谷「それだけか?」

花村『確かに顔はわからなかったが……あれは天城じゃない』

花村『ボヤボヤだったけど、赤いヘアバンドしてなかったからな』

比企谷「……!」

花村『里中にも聞いてみるが……まあ、明日学校で話そう』

比企谷「……わかった」

花村『じゃあ明日』

比企谷「ああ」

     ブッ…… ツー ツー

383: 2013/08/16(金) 21:01:43 ID:o6PGuI1M

比企谷「…………」

比企谷(そうだ……当然、考えるべき可能性だ)

比企谷(…………)

比企谷「くそっ!」



     俺は、訳も分からず

     イライラした。



392: 2013/08/22(木) 18:34:21 ID:1s6qqkUQ


―――――――――――


翌日の昼休み

学校の屋上


里中「うん……あたしも雪ノ下さんだと思う」

天城「着てた和服の柄、間違いなく雪ノ下さんの物だった……」

比企谷「…………」

花村「……決まりだな」

花村「さて、今後の方針だが」

花村「どうする? 比企谷」

比企谷「…………」

393: 2013/08/22(木) 18:35:27 ID:1s6qqkUQ

比企谷「……囮にする」

一同「…………」

比企谷「と、言いたいが……」

比企谷「よくよく考えたら、いろいろ無理がある作戦だったな」

花村「……と言うと?」

比企谷「まず、24時間体制で見張る事ができない」

比企谷「今回の事例で言えば、天城が適任だろうが……」

比企谷「犯人がいつ来るか分からない状況では」

比企谷「前回の里中の様になるか、出し抜かれる可能性も多分にある」

花村「なる程」

里中(……素直じゃないねー。 まあ、らしいっちゃらしいけど)

394: 2013/08/22(木) 18:36:31 ID:1s6qqkUQ

天城「前回って……私、囮にされてたの?」

花村「そういう意見が出たってだけだ、天城」

花村「まあ? 比企谷がそう言った瞬間、里中のビンタがキレーに決まったけどな♪」

里中「は、花村……」///

天城「千枝……ありがとう」

比企谷「……ともかく」

比企谷「警察を頼れないのと、俺たちの日常を鑑みて」

比企谷「一番の方策は……注意喚起が妥当だと思う」

花村「そうだな……」

里中「本人に”狙われてる”って伝えるだけでも、ずいぶん違うよね」

天城「そうだね……」

395: 2013/08/22(木) 18:37:38 ID:1s6qqkUQ

天城「じゃあ、それを伝えるのは、比企谷くんの役だね」

比企谷「……え?」

花村(ナイス天城!)

花村「だな。 転校したてだし、知り合いがやるのが効果的だよな」

比企谷「い、いや……ちょっ」

里中「そうだよ、比企谷くん」

里中「この際だから、仲直りしちゃいなよ!」

比企谷(何……この超アウェーな空気……)


花村(由比ヶ浜さんには悪いけど……面白くなってきたぜ!)

里中(どうなるのかなぁ……ふふふ)

天城(良かった。 これで雪ノ下さん、話すきっかけができた)

天城(陽乃さんにお願いされてたから、役に立てて嬉しいな♪)

396: 2013/08/22(木) 18:38:38 ID:1s6qqkUQ

放課後

教室


比企谷「…………」

比企谷「……雪ノ下」

雪ノ下「……!」

雪ノ下「何かしら? 比企谷くん」

比企谷「話がある」

比企谷「少し付き合ってくれないか?」

雪ノ下「!?」

     ザワ…… ザワ…… ナニナニー

     雪ノ下クグリカ…… 転校生……

397: 2013/08/22(木) 18:39:30 ID:1s6qqkUQ

比企谷(……ちっ)

雪ノ下「……」///

雪ノ下「わ、わかったわ、比企谷くん」///

比企谷「……じゃ、来てくれ」

比企谷「帰りながら話す」

     テク テク テク…

花村「…………」

里中「…………」

天城「…………」

一同(気になる……)

398: 2013/08/22(木) 18:40:38 ID:1s6qqkUQ

     テク テク テク…

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

比企谷「……そういえば」

雪ノ下「……!」

比企谷「雪ノ下は、今、どこに住んでいるんだ?」

雪ノ下(い、いきなり私の住処の話!?)

雪ノ下「……天城屋の一室を貸してもらってるわ」

比企谷「そうか……陽乃さんもか?」

雪ノ下「……姉さんも天城屋の別の一室を貸してもらってる」

比企谷(一人ずつ個室を専有か……セレブだな)

399: 2013/08/22(木) 18:41:30 ID:1s6qqkUQ

比企谷(だが、ある意味では好都合)

比企谷「雪ノ下」

雪ノ下「何かしら」

比企谷「まず最初に言っておくが……」

比企谷「俺は気がふれた訳でもなく、気が狂った訳でもなく」

比企谷「正常で、極めて大真面目に。 だが、深刻に考えている事を話す」

雪ノ下「……何なの?」

―――――――――――

雪ノ下「…………」

雪ノ下「要するに」

雪ノ下「不審者が現れるかもしれないから、気をつけろ……と?」

比企谷「そうだ」

400: 2013/08/22(木) 18:42:26 ID:1s6qqkUQ

雪ノ下「……そう」

雪ノ下「その氏んだ魚の目みたいに変わっていないのかと思ってたけど」

雪ノ下「どうやら、思い違いだったみたいね」

比企谷「雪ノ下……」

雪ノ下「話はそれだけ?」

比企谷「……ああ」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「そう」

雪ノ下「じゃあね、比企谷くん」

比企谷「…………」

     テク テク テク…

401: 2013/08/22(木) 18:43:13 ID:1s6qqkUQ

雪ノ下「…………」

雪ノ下(何の話かと思ったら……)

雪ノ下(期待した私がバカだった)

雪ノ下(…………)

雪ノ下(そもそも……あんな仕打ちをしておいて)

雪ノ下(期待する方がおかしいわ)

雪ノ下(…………)

雪ノ下(私……こんな所に来てまで)

雪ノ下(何をしているんだろう……)

     テク テク テク…

402: 2013/08/22(木) 18:44:19 ID:1s6qqkUQ

天城屋


陽乃「あ、雪乃ちゃん」

雪ノ下「……姉さん」

雪ノ下「何でしょう?」

陽乃「あなたにお客様よ」

雪ノ下「私に?」

??「初めまして、雪ノ下雪乃さん」

??「僕の名前は白鐘直斗といいます」

白鐘「少しお話を伺いたいのですが」

雪ノ下「はあ……」

403: 2013/08/22(木) 18:45:24 ID:1s6qqkUQ


―――――――――――


ジュネス フードコート


比企谷「……という感じだ」

花村「……なんかビミョーだな」

比企谷「そもそも、だ」

比企谷「ペルソナや、あの世界の説明なしで説得するなんて」

比企谷「至難の業だろ……」

里中「そりゃ確かに」

天城「普通は信じられないよね……こんな話」

比企谷「…………」

比企谷「とは言え……他にいい手が思いつかない」

比企谷「後は祈るばかりだな」

404: 2013/08/22(木) 18:46:24 ID:1s6qqkUQ

天城「それと、【マヨナカテレビ】を見ないとね」

花村「だな」

里中「何も映らないといいんだけど……」

比企谷「その意見には同感だな」

比企谷「……そうだ」

比企谷「里中、天城」

里中「ん?」

天城「何? 比企谷くん」

比企谷「ケータイの番号交換をしておかないか?」

比企谷「今後、連絡を取らないと困るかもしれないし」

405: 2013/08/22(木) 18:47:24 ID:1s6qqkUQ

里中「そういやそうだね。 わかった」

天城「うん。 そういう事なら」

     ピピッ

花村(比企谷の奴……さりげなく天城の番号まで)

比企谷「よし」

比企谷「じゃあ今夜、【マヨナカテレビ】をチェックしよう」

比企谷「後はそれからだ」

花村「OK」

里中「うん」

天城「じゃあ、また明日」

比企谷「ああ」

比企谷「…………」


―――――――――――


406: 2013/08/22(木) 18:48:59 ID:1s6qqkUQ

足立宅


     サアアアア……

比企谷(……天気予報通り、か)

比企谷(…………)

比企谷(…………)

     ……ピウィ~……

比企谷「……ちっ!」


テレビ『みなさん、今晩は』

テレビ『天城屋で絶賛☆売り出し中のスケープゴート』

テレビ『雪ノ下雪乃です』

比企谷「」

407: 2013/08/22(木) 18:50:11 ID:1s6qqkUQ

テレビ『全く、迷惑な話』

テレビ『自分の意志でも無いのに、こんな ど田舎に転校して』

テレビ『ほとほと嫌気がさす』

比企谷「…………」

テレビ『っていうのは建前!』

テレビ『ホントは~……やりたい事、あるんだ! 私!』

テレビ『ふふふ……それは何か? だって?』

テレビ『ナ・イ・ショ・♥』

テレビ『今後の展開に、乞うご期待! キャハ!』

     ブツンッ

比企谷「…………」

408: 2013/08/22(木) 18:51:05 ID:1s6qqkUQ

     ピピピ…… ピピピ…… ガチャ

比企谷「……もしもし」

花村『……見たか? 比企谷』

比企谷「ああ」

花村『俺……ふと思ったんだが』

花村『今回、鮮明な映像だったよな?』

比企谷「結論を言おうか? ……薄々は俺も思ってたが」

比企谷「【マヨナカテレビ】で鮮明な映像が流れた時」

比企谷「映ってた人物は……既にテレビの中に入れられてる」

花村『…………』

花村『……相変わらず冷静だな』

409: 2013/08/22(木) 18:52:03 ID:1s6qqkUQ

比企谷「……何、やる事は決まっているからな」

比企谷「あの世界に行って雪ノ下を助ける」

比企谷「それだけだ」

花村『…………』

花村『……ああ、そうだな。 比企谷』

花村『じゃ、明日、学校で』

比企谷「じゃあな」

     ブッ…

比企谷「…………」

     ピピピ…… ピピピ…… ガチャ

比企谷「天城か?」

天城『! 比企谷くん……』

410: 2013/08/22(木) 18:53:12 ID:1s6qqkUQ

天城『ごめんなさい……私、それなりに注意してたんだけど』

比企谷「謝るのはいい」

比企谷「状況を教えてくれ」

天城『…………』

天城『【マヨナカテレビ】を見た後』

天城『雪ノ下さんをすぐに確認してみたけど……居なかったわ』

比企谷「…………」

天城『雪ノ下さん……2時間くらい前に自分の部屋へ行くのを見たの』

天城『……あの後、すぐ休んだものだとばかり思ってた』

天城『お姉さんの陽乃さんには……まだ伝えてない』

比企谷「……そうか」

411: 2013/08/22(木) 18:54:04 ID:1s6qqkUQ

天城『……本当にごめんなさい、比企谷くん』

比企谷「天城のせいじゃない」

天城『私、明日、あの世界で頑張るから』

比企谷「ああ……頼りにしてる」

天城『じゃ……』

     ブッ…

比企谷「…………」

     ガラッ

足立「…………」zzz

比企谷「…………」

     ガチャ……キィ……パタン

412: 2013/08/22(木) 18:55:04 ID:1s6qqkUQ


―――――――――――


天城屋


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(……何やってんだよ、俺)

比企谷(こんな真夜中に天城屋に来たって……)

比企谷(開いてる訳ないだろ……)

比企谷(…………)

比企谷(……くそ)

比企谷(くそっ……くそっ!)

比企谷(くそったれがっ!!)

413: 2013/08/22(木) 18:55:37 ID:1s6qqkUQ


―――――――――――


翌日

学校


比企谷「……おはよう」

花村「お、おう……?」

里中「おはよ……どうしたの?」

天城「目の下のクマ、凄いね……って」

天城「ぷふ……クマだって、あははは!」

天城「あっちの世界のクマくんの事じゃないからねっ、あははは!」

一同(いや……わかってますから)

414: 2013/08/22(木) 18:57:09 ID:1s6qqkUQ

比企谷「それで天城」

比企谷「旅館の方はどうなんだ?」

天城「……うん」

天城「陽乃さん、取り乱してね……」

天城「普段のあの人からは想像できない落ち込み様だった」

比企谷「…………」

天城「一応、警察には通報して、でも、表面上は何でもない感じで営業してる」

天城「……事情聴取ですぐ一般客にバレると思うけど」

花村「そっか……天城屋、不幸続きだな」

里中「くっそー……犯人憎たらしい~」

比企谷「じゃあ放課後、ジュネスで」

415: 2013/08/22(木) 18:57:50 ID:1s6qqkUQ


―――――――――――


テレビの中の世界


花村「お~い、クマ?」

里中「ん? どうしたの?」

天城「クマくん……?」

比企谷「…………」


クマ「…………」 ズーン……


花村「何一人で落ち込んでんだ?」

クマ「……みんなはいいクマね」

クマ「楽しそーにワイワイやってて……」

416: 2013/08/22(木) 18:59:07 ID:1s6qqkUQ

花村「あん? ……そんな事よりもだな、クマ」

クマ「そんな事じゃないクマ!」

クマ「みんなやって来ないから、クマ、一人でずっと寂びしん坊で」

クマ「いろいろ考えて、悩みまくって……押しつぶされそうクマ!」

里中「あ~……そりゃごめん」

天城「そっか……クマくんは、ここにずっと一人なんだね」

比企谷「…………」

比企谷「クマ……悪いが、その話は後だ」

比企谷「また、人が放り込まれたと思う……力を貸してくれ」

比企谷「頼む」

クマ「セ、センセイ……」

417: 2013/08/22(木) 19:00:00 ID:1s6qqkUQ

花村(……おいおい)

天城(こんな比企谷くん、初めて見た)

里中(由比ヶ浜さんには悪いけど……こりゃ望み薄かも?)

クマ「わかったクマ!」

クマ「センセイの頼みとあれば! 断る理由はないクマ!」

クマ「むむむむむむ~……燃えろクマの鼻センサー……!!」

比企谷「…………」

クマ「……!!」

クマ「キタ――! クマ!」

花村「……何で織○裕二、知ってるんだよ?」

クマ「こっちクマ!」

花村(やべ……こいつ殴りてぇ)

比企谷「よし、案内頼む!」

418: 2013/08/22(木) 19:00:59 ID:1s6qqkUQ


―――――――――――


雪ノ下のマンション


花村「……何? この場違いなビル……」

里中「高そう……」

天城「100mくらいかな?」

里中「そういう意味じゃないんだけど……」

花村「比企谷、これは?」

比企谷「雪ノ下の自宅マンションだ」

花村「……都会の超高級マンション住まいかよ」

里中「セレブねぇ~」

天城「長周期地震動が怖そうだけどね」

比企谷「とにかく、行くぞ!」

419: 2013/08/22(木) 19:01:40 ID:1s6qqkUQ

????


雪ノ下「…………」

雪ノ下「……う」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「ここは……?」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「それにしても、すごい霧ね……」

雪ノ下「…………」

雪ノ下(私……昨夜……)

雪ノ下(そうだ)

420: 2013/08/22(木) 19:02:29 ID:1s6qqkUQ

雪ノ下(ノートを切らして、コンビニに……)

雪ノ下(でも途中で、ここに詳しくないし引き返そうとして……)


     ――雪乃ちゃん――


雪ノ下「!?」

雪ノ下「姉さん!?」


     ――うん! やっぱり雪乃ちゃんは、その服が似合うと思う!――

     ――それにしちゃいなよ!――


雪ノ下「…………」


     ――そう! それがいいと思うな、私――


雪ノ下「……止めて」

421: 2013/08/22(木) 19:03:13 ID:1s6qqkUQ


     ――どうしたの? 雪乃ちゃん?――

     ――お姉ちゃんが何でも相談に乗るよ?――


雪ノ下「止めて!!」


     どうして? あなたが選んだ結果でしょ?


雪ノ下「!? 誰!?」


影・雪乃『うふふ……』

影・雪乃『悲しいわよねぇ……優秀な姉を持つと』


雪ノ下「……!」

422: 2013/08/22(木) 19:04:08 ID:1s6qqkUQ

雪ノ下「な……何を言ってるの?」


影・雪乃『あら? とぼけるんだ?』

影・雪乃『まあ、その方が面白いからいいけどね』


雪ノ下「…………」


影・雪乃『いいかげん、はっきりさせた方がいいと思うけど?』

影・雪乃『陽乃が邪魔で鬱陶しいってね!』


雪ノ下「ち、違う!」

423: 2013/08/22(木) 19:07:08 ID:1s6qqkUQ


影・雪乃『否定しても無駄』

影・雪乃『いつもいつも偉そうに、常に上から目線で、私に何かと指図する』

影・雪乃『それが、どこまでも私を苦しめる』


雪ノ下「違う! そんな事、私は思っていない!」


影・雪乃『嘘ばっかり……本当は頃したいんでしょ?』

影・雪乃『あんな奴、居なくなって欲しいんでしょ?』


雪ノ下「違う!」


影・雪乃『うふふ……ああ、そうだった』

影・雪乃『だって、陽乃には利用価値があるものね』


雪ノ下「!!」

424: 2013/08/22(木) 19:08:09 ID:1s6qqkUQ


     バァーン!


比企谷「雪ノ下!」

花村「!」

里中「まずいよ、もう【シャドウ】が出てる!」

天城「雪ノ下さん!」


雪ノ下「!!」

雪ノ下「比企谷……くん……」


影・雪乃『ふふふ……ギャラリーも来てくれたんだ?』

影・雪乃『最高のステージね♪』


雪ノ下「な、なにがよ! もう止めて!」

425: 2013/08/22(木) 19:08:56 ID:1s6qqkUQ


影・雪乃『いいじゃない、別に』

影・雪乃『陽乃を利用してここに居るだけなんだし』


比企谷「!?」

雪ノ下「止めて!!」


影・雪乃『ああ……比企谷くん。 会いたかったわ』

影・雪乃『あなたのその氏んだ魚の様な目、たまらなく好きなの』


花村(ゆ、雪ノ下さんって、そっち系?)

里中(……うわぁ)

天城(私も……あんな感じだったのかぁ)

426: 2013/08/22(木) 19:10:09 ID:1s6qqkUQ


影・雪乃『……陽乃もそうだけど』

影・雪乃『どいつもこいつも、私を聖女か何かみたいに見てくる』

影・雪乃『そのくせ』

影・雪乃『私が何かすると遠ざかる……見た目やイメージと少し違うってだけでね!』


雪ノ下「止めて……もう止めてっ」


影・雪乃『その点、比企谷くんは違った』

影・雪乃『初めから何にも期待してない……そのくせ、一定の距離を保ってくれる』

影・雪乃『最高の『しゃべる玩具』だわ!』


雪ノ下「止めて! 何なの!? あなた!?」

427: 2013/08/22(木) 19:11:21 ID:1s6qqkUQ


影・雪乃『私? ふふふ……とっくに気づいているんでしょ?』

影・雪乃『私はあなたよ。 雪ノ下雪乃』


雪ノ下「違う! ……あなたなんて」

比企谷「――そこまでだ、雪ノ下」

雪ノ下「むぐっ!?」


花村「おお……口を手で塞ぎやがった」

里中「必氏ね」

天城「こういう時、映画ならキスで塞いじゃったりするよね」

クマ「およよ? キス?」

比企谷「……ギャラリー、少し黙ってろ」

428: 2013/08/22(木) 19:13:07 ID:1s6qqkUQ

比企谷「いいか? 雪ノ下……」

比企谷「かいつまんで説明する」

雪ノ下「…………」

比企谷「あいつは……確かにお前だ」

比企谷「だが、雪ノ下の全てじゃない」

雪ノ下「……!」

比企谷「『しゃべる玩具』ってのは正直心外だが……」

比企谷「はたして、俺はお前をどう思っているんだろうな?」

雪ノ下「…………」

比企谷「そういうもんだ……人間ってのは」

比企谷「俺も、お前も、そして、そこに居るその他大勢もな」

429: 2013/08/22(木) 19:14:09 ID:1s6qqkUQ

花村「……扱い酷くね?」

里中「まあ、我慢してやるじゃん?」

天城「後で何か奢ってもらえばいいと思う」

クマ「クマ!」


比企谷(聞こえる様に言いやがって)

比企谷「……じゃ、手を離すぞ、雪ノ下」

比企谷「どうするかは……お前に任せる」

     スッ……

雪ノ下「……っは」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「女性を後ろから羽交い絞めにするなんて……明らかにセクハラ行為よ、比企谷くん」

比企谷「……悪かった」

430: 2013/08/22(木) 19:15:14 ID:1s6qqkUQ

雪ノ下「……珍しく素直ね」

比企谷「TPOくらいわきまえてるっての」

雪ノ下「ふふ……」

雪ノ下「…………」


影・雪乃『どうしたの? 私を否定するんでしょ?』


雪ノ下「……そうね」

雪ノ下「確かにあなたは私だわ」


影・雪乃『!?』


雪ノ下「私は……ずっと姉が鬱陶しい……いえ」

431: 2013/08/22(木) 19:16:12 ID:1s6qqkUQ

雪ノ下「ある意味では、頃したいくらい憎んでた」

雪ノ下「優秀で、美人で、そして……眩しいくらい社交的」

雪ノ下「周りはいつも……私に対して『お姉ちゃんみたいになりなさい』だった」


影・雪乃『…………』


雪ノ下「……姉は、ほとんど間違いを犯さない」

雪ノ下「私は、いつか姉さんを見返してやるつもりだったけど」

雪ノ下「どんなに追いつこうとしても、追いつけない……」

雪ノ下「私のする判断は、大抵、姉とかぶる」

雪ノ下「たまに違った時は、いつも私の方が間違いだった……」


影・雪乃『…………』


雪ノ下「そして、いつしか……」

432: 2013/08/22(木) 19:17:20 ID:1s6qqkUQ

雪ノ下「私は、自分の考えを姉に話さなくなった」

雪ノ下「それどころか、姉の判断を利用した」

雪ノ下「姉さんの判断が私の考えと同じだと、安心できたから」


影・雪乃『…………』


雪ノ下「今回もそう」

雪ノ下「姉に踊らされているとわかっていたけど……」

雪ノ下「『しゃべる玩具』で遊びたかったから」

比企谷「……おい」


影・雪乃『…………』


雪ノ下「そうね……確かにあなたは私で」

雪ノ下「私は……あなただわ」

433: 2013/08/22(木) 19:18:17 ID:1s6qqkUQ


影・雪乃『…………』

影・雪乃『…………』 クスッ


     ヒィイイイイイインッ!


比企谷「……ふう」

花村「やったな、比企谷」

比企谷「何とかな」

天城「私たち、役に立たなかった……」

里中「そんな事無いよ、雪子」

里中「ここに来るまでのザコは、あたしらの活躍で排除できたじゃん?」

434: 2013/08/22(木) 19:19:21 ID:1s6qqkUQ

雪ノ下「……?」

雪ノ下「何……これ?」

雪ノ下「ペルソナ……?」

雪ノ下「ペルソナ、『イザナミ』……」

雪ノ下「う……」 クラッ……

比企谷「大丈夫か?」

雪ノ下「……ええ、何とか」

クマ「ムホー! これまた可愛い女の子クマ!」

雪ノ下「……何? この着ぐるみは?」

比企谷「今説明する。 ペルソナも含めて、わかっている事全てな」

―――――――――――

雪ノ下「【マヨナカテレビ】……【シャドウ】……」

435: 2013/08/22(木) 19:20:23 ID:1s6qqkUQ

比企谷「正直、まだまだ分からない事も多いがな」

花村「まあ、そんな訳でよろしく、雪ノ下さん!」

里中「よろしくー」

天城「改めてよろしくね、雪ノ下さん」

クマ「よろしくクマ!」

雪ノ下「ええ、よろしく」

雪ノ下「メガネもありがとう、クマくん」

クマ「ク、クマ~ん」///

比企谷「……で、だ。 雪ノ下」

比企谷「ここに入れられた時の記憶はあるか?」

雪ノ下「……ごめんなさい」

436: 2013/08/22(木) 19:21:30 ID:1s6qqkUQ

雪ノ下「コンビニで買い物をしようと出かけて……」

雪ノ下「暗かったし、雨も強くなってきたから止めようと、引き返そうとして」

雪ノ下「そこからの記憶がないの……」

花村「そっか……」

比企谷「つーか夜遅く、雨の中、何を買いに出かけたんだよ」

里中「それにコンビニ無いしね、この街……」

雪ノ下「え? そうなの?」

花村「改めて田舎だって思わされるよなぁ……」

天城「そ、その内、できるよ……たぶん」

437: 2013/08/22(木) 19:23:03 ID:1s6qqkUQ

比企谷「……とりあえず、戻ろう」

花村「そうだな」

里中「さんせー!」

里中「あたし、ビフテキがいい!」

天城「私、愛屋の肉丼かな」

里中「あ! やっぱあたしも肉丼にする!」

花村「俺はラーメンでいいぜ!」

比企谷「何この流れ……ついて行けないんですけど?」

雪ノ下「じゃあ私も、その肉丼?というのをお願いね、比企谷くん」

比企谷「乗っかるなよ!? 雪ノ下!」

     アハハハ……

クマ「…………」

438: 2013/08/22(木) 19:24:10 ID:1s6qqkUQ



     ……結局、俺は商店街の飲食店『愛屋』で

     おのおのの食いたいモノをおごらされた……ちくしょう。



     騒ぎを大きくしない為に、雪ノ下は昨夜、買物しようと出かけ

     道に迷って山中をさまよっていた事にしてもらった。

     体中を泥で汚す偽装工作も施したし、まずバレないだろう。



439: 2013/08/22(木) 19:25:07 ID:1s6qqkUQ



     しかし……犯人の特定にはつながらず、謎は深まるばかりだった。



440: 2013/08/22(木) 19:25:47 ID:1s6qqkUQ



足立宅


     タダイマー

比企谷「お帰りなさい、足立さん」

足立「ああ、比企谷くん」

比企谷「今日も少し遅かったですね?」

足立「うん……例の天城屋でね、また失踪騒ぎが……」

足立「おおっと……捜査上の事は言えないよ?」

比企谷「失踪……ですか」

足立「…………」

441: 2013/08/22(木) 19:27:29 ID:1s6qqkUQ

足立「まあ、行方不明者は見つかったし、いっか……」

足立「ここだけの話……女将修行に来た、噂の女子高生なんだけどね」

足立「今日の朝、居なくなってたんだ」

比企谷「ああ……転校してきた娘ですね」

足立「そっか。 比企谷くん、同じ学校だったっけ」

足立「ところが……夕方くらいにひょっこり戻ってきたんだよ、その娘!」

比企谷「どうしてたんですか?」

足立「夜中にコンビニで買物しようと出かけて、道に迷って、山の中に入ったんだって」

足立「ここに来たばかりだし……蓋を開けてみれば、ってやつさ」

比企谷「そういう事だったんですか」

足立「ははは、ピリピリしてる時期だし、天城屋で失踪騒ぎがあったばかりだからね」

足立「言い方悪いけど……もう少し気を配って欲しいよね~」

比企谷「ですね」

442: 2013/08/22(木) 19:28:16 ID:1s6qqkUQ


―――――――――――


比企谷(……どうやら、警察は上手くごまかせたみたいだな)

比企谷(…………)

比企谷(……それにしても)



雪ノ下「『しゃべる玩具』で遊びたかったから」



比企谷(ありゃどういう意味だ?)

比企谷(…………)

比企谷(……まさかな)

443: 2013/08/22(木) 19:29:10 ID:1s6qqkUQ



     もしかしたら、俺に――

     いやいや、と、俺は頭を振った。



444: 2013/08/22(木) 19:36:10 ID:1s6qqkUQ
今日はここまでです。
後、雪ノ下のペルソナ・イザナミは>>5の考えた創作ペルソナです。
みなさんの知ってるイザナミとは、全く別ものですので。
ストーリー上、少し意味がある、と思っててください。

強さ的にはパールバティ→イシスくらいの強さだと思って頂ければいいかと……
お付き合いありがとうございました。

445: 2013/08/22(木) 19:48:44 ID:wlgzJ/mY
乙ー
ファンタジーレベルの達人ゆきのんに気配すら察せずにテレビに放り込む
何者なんだマジで

446: 2013/08/22(木) 19:57:30 ID:wRScbMIs


自分のシャドーに殺されるってわかるなら
落とされる前にペルソナ化させるとか出来ないのだろうか
比企谷「八十稲羽に転校…え?マジで?…」【後編】

引用元: 比企谷「八十稲羽に転校…え?マジで?…」