1: 2008/02/18(月) 18:21:13.32 ID:z2gZGEPL0
キョン「ん、なんだって?」
長門 「ぶぶ漬け…食べて…」
キョン「…? 目の前にはお茶しかないんだが」
長門 「…………」

10: 2008/02/18(月) 18:26:56.15 ID:z2gZGEPL0
「じゃあわたしが帰る」

長門はそう言って、立ち上がる。
おいおい待てよ長門。突然帰ると言い出すとはどういうことだ?
そもそも長門、ここはお前の部屋だろう。

「わからない?」

心なしかいつもよりも冷たい眼差しで俺を見つめる長門。
さて、さっぱりわからない。ぶぶ漬けの意味も、長門の「帰る」発言も。

「…ああ、すまんがまったく心当たりがない」

長門は俺のその回答に落胆したように見えた。
そして、溜息でもつくかのようにぽつぽつと語った。

「あなたに『ぶぶ漬け』と言った理由は>>12

9: 2008/02/18(月) 18:25:43.89 ID:pd0RekKO0
長門「京都に古くから伝わる独特の作法…”ぶぶ漬け食べなはれ”。
    これは長居している客を帰らせたい時に、『ぶぶ漬けいかがどすか?』と
    問いかけ、婉曲に帰りを促す技なのである。
    ”ぶぶ漬け”は、”お茶漬け”のことで、どんなに客が待っても
    ぶぶ漬けが出てくることはない。
    これを間に受けて大人しくまっている者は、
    「無粋な人どすなぁ」と陰でバカにされてしまうという話。

    京の伝統に従って、ぶぶ漬けをすすめられた者は、
    その場を立ち去らねばならないというのが
    まだ一部の老舗に残っているのだという。

    京都に伝わるとされるこのような話は「京茶漬け」や
    「京のぶぶ漬け」等と呼ばれる落語から出たフィクションで、
    実際にはこのような行為はなかったとされる。」

15: 2008/02/18(月) 18:37:12.49 ID:z2gZGEPL0
「愚鈍なあなたにはまず、ぶぶ漬けの由来から教える」

そして長門は>>9のように語った。
まるでWikipediaかはてなキーワードから引用してきたかのような
正確な情報に、確かに頭の回転があまりよろしくない俺でも理解はできた。

理解はできたが、俺には到底解せんことだ。
長門が言いたいことは、つまるところ「帰れ」である。
皆さんご存知のように、普段の長門は余計なことは一切喋らない。
そして……手前味噌だが、ハルヒをはじめとする俺たちSOS団にはそれなりに団結していると思う。
いつもの長門からは考えられないような発言に、俺は内心慌てふためいていた。

「待ってくれ長門、どういうことだ、いきなり帰れだなんて」
「言葉どおりの意味。『帰れ』と言ったのはわたしの良心。
 寧ろ、わたしはあなたに氏んでほしいと思っている」

頭に電撃が走る。馬鹿な、長門が俺に氏んで欲しいと思っているだって…?
なんの脈絡もなしに伝えられたその辛辣な言葉は、平和というぬるま湯に浸かっていた
俺にとってはすさまじい破壊力を持っていた。

20: 2008/02/18(月) 18:47:55.57 ID:z2gZGEPL0
ふと気がつくと、俺は学校のSOS団部室にいた。
ほぼ毎日立ち寄る見慣れた部室だが、夜のここはいつもと違った新鮮味があるな。

長門の部屋で少しばかり考え事をしていたはずだったのだが、
ここまでたどり着いた記憶がない。なぜ俺はここにいるのだろう。

答えは単純だ。俺がそれだけ参っていただけのことだ。
時計を見ると、長門のマンションから学校へ行くのにかかる時間を消費していた。
どうやらあれは夢ではなく、現実であるようだ。

「はは……、俺としたことがここまで動揺するなんてな。笑っちまうよ」

状況を把握したあと、脚の力が抜けた。
危うく転びそうだったが、近くにあるわが団の団長涼宮ハルヒの席に上手く腰をかけることができた。
溜息を吐きながら、誰ともなしに呟く。

「一体どうしちまったんだろうな、長門は……」

何の気なしに団長席のパソコンを立ち上げる。

「……ん?」

そこでふと違和感に気づいた。パソコン起動と同時に、インターネットブラウザが立ち上がったのだ。
本来、一番最初にSOS団のホームページを映し出すはずのそのブラウザのアドレス欄には、
別の文字が表示されていた。

「なんだこれは…autostm、urabeit?」

覚えのないアドレスが表示されている。
そのページに書かれていたことは>>23

23: 2008/02/18(月) 19:06:10.22 ID:9kJrHbieO
今すぐ長門に告白するんだ

25: 2008/02/18(月) 19:13:29.15 ID:z2gZGEPL0
”今すぐ長門に告白するんだ”

その一文だけが書かれていた。

もはやわけがわからない。
いつもより辛辣な長門、そんな長門にすぐ告白せよと言うホームページ。

あれか、またハルヒのやつが何かやらかしたのか?
そうなると、厄介なことだ。SOS団総出でこの状況を打破せねばなるまい。

しかし、何の変哲もない一般人である俺がこの先どうすればいいかなんて
わかろうはずもない。まだハルヒがこの状況の元凶であると確定したわけでもないし、
それを確かめようにも頼れる仲間の一人である長門が辛辣である。

となると、別の方向から助言を得る必要があるな。

俺は>>27に連絡を取ることにした。

27: 2008/02/18(月) 19:25:43.97 ID:9kJrHbieO
みくるに連絡して長門流焼き餅だと説得される

俺すげえ無理してる…

28: 2008/02/18(月) 19:38:00.33 ID:z2gZGEPL0
ここはまず朝比奈さんに連絡だ。
これがもしハルヒ絡みの出来事であれば、未来から何かしらの伝令が来ているはずだ。
俺はすぐさま携帯を取り出し、朝比奈さんの電話番号をダイヤルする。

プルルルル、プルルルル…
呼び出し音がこんなにもドキドキするとは思わなかった。
願わくば、もうちょっと違う意味でドキドキしたいものだ。

「はぁい、もしもし」
「朝比奈さんですか? 俺です」
「あっ、キョンくん! どうしたんですか?」

程なくして、朝比奈さんが電話口に出る。
こんな夜中にすみませんと前置きをして、俺は今回の事の顛末を語った。
ちゃんと伝えられたかは正直、自信がない。

「そうだったんですか…。でも、未来からは」
「本当ですか? 長門やハルヒに関すること、未来から指示されているなんてことは…」
「ううん、何も聞いてないの。…ごめんなさいキョンくん」

…ばかな。朝比奈さんが何も聞いてないってことは、ハルヒが原因じゃないってことなのか?
じゃあ一体あの長門の様子はなんなんだ。あんな長門は長い付き合いの中で初めて見る。

「あっ…でもね! もしかしたらそれは、長門さん流の焼きもちかもしれない。
 ホラ、キョンくん、最近長門さんに対してちょっと冷たかったんじゃないかな」

言われてみればそうなのかもしれない。俺はどちらかといえば鈍いほうだから、
知らず知らずのうちに長門に対して傷をつけてしまっていても決して変ではない。
しかし、どうもそれだけではない気がする。気がする、以上に何も根拠などないのだが…。

30: 2008/02/18(月) 19:46:18.24 ID:z2gZGEPL0
「だからねキョンくん。もしかしたらそのホームページは長門さんが書いたもので、
 実は遠回りなアプローチだったのかもしれない。…ごめんなさい、上手く言えないけど」

確かにそう考えれば、多少は筋の通る話だ。だが、後からつけた言い訳ともとれる。
第一、長門がそんなまわりくどい真似をするとは思えない。

「……わかりました朝比奈さん、ありがとうございます」
「キョ、キョンくん……あのね」

俺の声で落胆した様子を朝比奈さんに悟られてしまったのか、
朝比奈さんは慌てた声で続ける。

「何かあったらかならず連絡するから。その……気をつけて。
 お役に立てなくて本当にごめんなさい。でも、未来からはまだ何も」
「朝比奈さん、気を遣わないでください。朝比奈さんが言ってることは正しい。
 もしかしたら本当にそうかもしれないです。でも、俺なりにもうちょっと調べてみます。
 じゃあ、また」

そう言って一方的に携帯電話を切り、タン、と音を立てて机に置いた。そして後悔する。
――くそ。今の態度はなんだよ。朝比奈さんは全然悪くないのに。
余計な気を遣わせたうえ、朝比奈さんまで傷つけたかもしれない。
それほどまでに、俺の精神に余裕などなかった。

ヴヴヴ、というバイブレーションの音が静かな部室に響く。
机に置いた携帯が、通話終了後一分もたたずに揺れていた。
朝比奈さんがかけ直してきたのか、と思いつつ、俺は携帯を手にとる。

サブディスプレイに表示された電話の主は…>>31

32: 2008/02/18(月) 19:50:13.83 ID:pd0RekKO0
鶴屋さん

33: 2008/02/18(月) 19:58:35.74 ID:z2gZGEPL0
鶴屋さん? 珍しいこともあるもんだ。
あの人はこちらからコンタクトを取らない限りは、決して干渉しない人のはずだ。
そんな彼女が俺に電話をよこすなんて、一体何があったんだろう。

俺は疑問をかかえつつ、電話の通話ボタンを押した。

「やーキョンくん! 元気かな」
「…鶴屋さん、どうしたんです? 俺にかけてくるなんて」
「うん、こんな夜中にごめんねっ! ちょっと聞いてもらいたいことあってさ」

相変わらずハイテンションだったが、鶴屋さんの様子はどことなくいつもと違う。

鶴屋さんが話した「聞いてもらいたいこと」とは……>>34

34: 2008/02/18(月) 20:04:53.38 ID:9kJrHbieO
長門、古泉、ハルヒ、みくるが泊まりに来ている

37: 2008/02/18(月) 20:14:10.90 ID:Kxg/BAtEO
>>34
キョンはぶられてるwwwwww

38: 2008/02/18(月) 20:15:59.95 ID:z2gZGEPL0
「これから言うこと、落ち着いて聞いてねっ。
 さっき、キョンくん以外のSOS団団員が、全員うちに泊まりに来たんだよっ」
「え? 何ですって? ハルヒたちが泊まりに来ているって?」

そんなはずはない、俺はそんなことは一言も聞いてないぞ。
SOS団全員で行動するときは、決まってハルヒが告知する。
それがどんなに突発的であろうと、団員には一人の漏れもなく伝えるはずだ。
だが、今日も昨日も定例ミーティングなんぞなかった。

ああ、ようやくわかった。
俺はSOS団に、ハルヒに見放されたのだ。

39: 2008/02/18(月) 20:21:30.78 ID:z2gZGEPL0
「ああ、そうですか」

そのことを悟った俺は、もうどうでもよくなってきた。
そりゃそうだよな。俺が見捨てられたら、長門も朝比奈さんも、古泉だって他人だ。
もともとあの三人はハルヒのためにSOS団に存在している。
ハルヒが興味を抱かなくなった一般人たる俺に、あの三人が興味を抱くはずがない。
先ほどの、長門や朝比奈さんのあの態度もうなずけるってもんだ。
おそらく古泉も、まともに取り合っちゃくれないだろう。

「でね……ここからが本題なんだけどっ!
 個人的に、みんなのこの行動はおかしいと思うんだよね」

おかしい? おかしいって、どういうことだ?
俺は捨てられたんだぞ、ハルヒに。そんな俺が相手にされなくなって、何がおかしいんだ?

「おかしいなんてそんな……もう俺なんか必要ないってことでしょう。
 もともと俺は、皆と比べてなんの芸も持ってない。個性もない。
 そんな俺があの場所にいるんなんて、分不相応だったんですよ。
 所詮俺はなんのとりえもない一般人――」

「何言ってんだいキョンくんっ! そんなこと言うと、さすがのあたしも怒るよっ!!」

珍しい叫び声に、俺は喋りを止めざるをえなかった。
あの消失騒ぎの時――あの時ですら、厳しい目をしながらも表情を笑わせていたはずの鶴屋さんが、
怒鳴ったのだ。俺に対して、怒りを剥き出しにしながら。

鶴屋さんは続ける。

43: 2008/02/18(月) 20:30:40.42 ID:z2gZGEPL0
「キョンくんはいつも皆に大事にされてるじゃないかっ!
 あたしは基本的にみんなとは一歩引いて付き合ってるけど、
 キョンくんがどれだけ皆に愛されてるか、ちゃんと知ってるよっ!
 確かにキョンくんは他のメンバーと比べたら個性がないかもしれないけどさ、
 仲間ってのはね、個性とか才能とか、そんなくだらないことで括られるもんじゃないんだよ。
 もっと深い、絆ってもんで括られてるんじゃないのかい?」

いつもの鶴屋さんからは考えられないような、なんというか……くさい台詞だ。
俺が反論をはさむ余地もなく、さらに鶴屋さんは続ける。

「キョンくん。あたしはね、SOS団の皆は長い付き合いの中で絆をきちんと培ってきたと思ってる。
 ぶっちゃけ、皆にどんな過去があろうと、どんな未来があろうと、そんなの知ったこっちゃないよ。
 そんなことに関係なく、楽しく付き合えるのがSOS団じゃないのかなっ!
 第一、みくるも、ハルにゃんも有希っちも、一樹くんだってキョンくんをハブしたりする子じゃないよっ!」

47: 2008/02/18(月) 20:42:28.24 ID:z2gZGEPL0
その言葉でハッとする。そうだ、何を考えていたんだ俺は。
SOS団のことは、鶴屋さんには悪いが少なくとも鶴屋さんよりはよく知っている。

俺自身が団員を信じないで、誰が俺を信じてくれるんだろう。
ここで鶴屋さん元の調子に戻って続ける。

「ごめんね、つい叫んじゃったよ。で、話を戻すね」
「はい」

話を聞くに、鶴屋さんは今回の事態を持ち前の洞察力で感じ取り、
俺に助けの手を差し伸べてくれたようだな。
俺以外のSOS団団員が一箇所に集まっている以上、個別に話を聞くのは危険だ。
おそらく先ほどの朝比奈さんの電話で気づいたのだろう。

「キョンくん、あたしはまだキョンくんがいないのは何故か、
 って皆に話してないよ。なんでだと思う?」

ん? どういうことだろう。鶴屋さんのことだから、真っ先に聞くと思ったんだが。
鶴屋さんは少し声を潜めながら言った。

「それはね……>>48

50: 2008/02/18(月) 20:54:34.07 ID:IBkdNEGGO
みんなやけに落ち込んでいて、
深刻そうな顔をしているから聞きづらい

51: 2008/02/18(月) 21:04:34.80 ID:z2gZGEPL0
「みんなやけに落ち込んでてさ、深刻そうな顔をしてるんだよね。
 なんか聞きづらくってさー、これは絶対キョンくん絡みかなって思ったさ」

みんなが深刻な顔だって? …ますますわからない。
俺に内緒にするほど深刻な状況が存在するのだろうか。
だいたい深刻な状況はハルヒが引き起こすもので、ハルヒ以外の奴が集まるのが常だ。
だとすると、一体何が起こったっていうんだ。

「で、みんなにはすまないと思ったんだけど、内緒でキョンくんに連絡取っちゃったよ。
 今の叫び声でバレちゃったかもしれないね。ホラうちって広いけど隙間風がひどくってさ」

ありがとうございます鶴屋さん、俺にとってはそっちの方がありがたい。
万が一その深刻そうな顔が俺絡みだったら水臭い、なぜみんなは俺を呼ばないんだろう?

「他になにか気づいたこととかありますか?」
「んー、そうだねぇ…深刻そうな感じ以外は特に何も感じなかったけどねっ」

鶴屋さんほどの洞察力を持つ人がそれ以上気づかない、か。
そうなると厄介だな。現時点で俺ができることは何もなくなってしまった。
だが、鶴屋さんは心強い味方だ。これからの情報には十分期待できる。

「わかりました。もし何かわかりましたらぜひ教えてください」
「もちろんさっ! じゃあ、これ以上長引くとあたしが怪しまれちゃうから、
 今回はこれで切るね。キョンくん、気を落とさないでねっ! じゃっ!」

それを最後に電話は途切れた。
ありがとう鶴屋さん、あなたの電話のおかげでずいぶん救われましたよ。
まったく、落ち込むなんて俺らしくないな。

53: 2008/02/18(月) 21:10:53.30 ID:z2gZGEPL0
電話を折りたたもうとしたそのとき、すぐに着信が入る。
メインディスプレイに「ガチホ〇」と表示されていた。

「古泉か」

俺は有無を言わずに通話ボタンを押し、電話を耳元に当てた。

「もしもし、聞こえますか」
「ああ、そのキザな声はどう聞いても古泉だな」

俺は幾分か余裕を取り戻したので、少々おどけた受け答えをしてみた。
だが同時に、油断をしないように気を引き締める。
たとえ相手が古泉だからと言って、辛辣な言葉を投げられたら傷つくってもんだ。

「ふふ、思ったより落ち込んでないようなので安心しましたよ。
 もっとも、さっきの彼女の一喝のおかげなのかもしれませんけれどね」

くそ、やっぱ聞こえてたのか。だが、この話し方……俺に対して悪意を持っていないようだな。
「さて」と前置きをして、古泉はまじめな声で語り始める。

「本題に移りましょうか。まず最初に伝えたいことがあります。
 僕と朝比奈さんは、あなたに対して悪意をまったくもっていません。
 さきほどの朝比奈さんの電話は少々状況が悪く、あれで精一杯だったんです。
 彼女を責めるのはお門違いですので、今後は控えてください」

ああ、わかってるよ。朝比奈さんには土下座しても足りないぐらいだ。
そう言うと、古泉は「まあ、あなたも大変でしたからね」と俺に対してフォローをする。
こいつはたまにいい奴だから扱いに困るな。

54: 2008/02/18(月) 21:18:33.71 ID:z2gZGEPL0
「単刀直入に言いましょう。長門さんの様子がおかしい」

ンなことはわかってる。俺がさっき身をもって体験したからな。
あいつの様子がおかしいのは、長門表情読み検定準一級の俺が一番わかってるんだ。

「ではこれは知っていますか? 涼宮さんは、長門さんを心配している」

なに? ハルヒが長門を心配している?
そりゃそうだろう、ハルヒは長門を気に入ってるからな。
そうでなくとも団員の一人の様子がおかしいんだし、心配するのは団長として当然さ。
あいつはそういう奴だからな。

「よくお分かりですね。少し嫉妬してしまいますよ。
 そう、涼宮さんは団長として、長門有希を心より心配しています。

 ――そして、あなたのことも心より心配している。
 だから敢えて、あなたを鶴屋邸に呼ばずにいた」

そりゃいったいどういうことだ? ってさっきから問いかけばかりになってるな。
当たり前だ、俺にはさっぱり状況が把握できないんだからな。
長門の辛辣な態度、ホームページの文章、歯切れの悪い朝比奈さんの電話、鶴屋邸への集合。
これからこれらのいくつが明かされるのか、皆目見当がつかん。

57: 2008/02/18(月) 21:23:23.77 ID:z2gZGEPL0
「先ほど鶴屋さんからお聞きしたと思いますが、あなたの話題は一切出されていません。
 涼宮さんと鶴屋さんからは気配りからですが、僕と朝比奈さんは違います。
 僕たちは二人とも『上から指令が来て、あなたの話題を出せないでいる』」
「どういうことだ? おい、長門の身に一体何があったんだ」

俺が慌てて問うと、電話の向こうからなにやら聞こえてきた。
その音が何なのかはわからないが、平常時であれば、
鶴屋さんの邸宅で鳴る音ではないことぐらいはわかる。

「おい、今の音は……」
「――どうやらのんびりと話している時間はないようですね。
 では、簡潔に。長門さんは今、>>58

58: 2008/02/18(月) 21:25:59.82 ID:9kJrHbieO
体を持て余す

61: 2008/02/18(月) 21:37:28.83 ID:z2gZGEPL0
「あまり大きな声で言いたくないのですが、身体を持て余しています」

身体を持て余すって……その、アレか。
クールな長門が、持て余しているのか……? 信じられん。
確かにこの声、平常時で鶴屋邸に響くような声じゃないな。鶴屋さんがアレでない限りは。

「僕は長門さんが暴走したときのために鶴屋邸に配置されています。
 …いえ、これでは誤解を生みますね。あくまで、暴走した身体を抑えつけるだけです。
 それ以上のことはしませんし、させないために涼宮さん達がいます」

一転してなんかピンクな話になってきたな…。いいのかこれで。
ていうかさっきの俺の葛藤は一体なんだったんだ。

「先ほどまで長門さんは静穏を保っていましたが、ここにきて爆発してしまったようですね。
 鶴屋さんもこれで長門さんに起きている事態に気づいたでしょう。
 長門さん家族が出払っていて、広い敷地があるという条件が必要だったので
 彼女の家を僕が提案させていただいたんですが……鶴屋さんには非常に申し訳ないことを」
「そんな謝罪は後で本人にしろ。でだ、俺はどうすればいい?
 長門が苦しんでいるんだろう。俺だけここでジッとしてろっていうのか?」

俺の問答に古泉はしばし沈黙していた。
どうでもいいが…あまり沈黙しないでもらいたいものだ。長門の声が筒抜けだからな。
気まずいことこの上ない。
しばらくして、溜息と一緒に言葉を吐く。

「残念ですが……あなたには、そこでジッとしててもらいます」

63: 2008/02/18(月) 21:47:39.99 ID:z2gZGEPL0
「俺だけ仲間はずれか? 冗談はやめてくれ」
「冗談でもありません、本気ですよ。可能なら今すぐにでもあなたの元へ行って
 土下座してでも頼みたいぐらいです。『お願いですから長門さんには近づかないでください』と」

事なかれ主義の古泉がそこまで言うのだ、深い理由があるんだろうな。
しかしそれで、はいそうですか、と言えるほど俺は人間ができていないんだ。

「納得できねーな、なぜ理由を言わない? 俺がただの人間だからか」
「いくらあなたが一般人とはいえ、そんなことは関係ありません。
 僕だって事の顛末を説明したいですよ。あなたも立派なSOS団の一員ですからね。
 ですがこればかりは……すみません。僕を恨むなら恨んでください。
 僕自身、あなたに説明できない自分を呪いたい気分なのですから」

古泉、一体お前は何を知ってるんだ? 長門の身に何が起きたんだ?
だが古泉はそれっきり黙ってしまった。

くそ、もう古泉から引き出せる情報はない。
古泉、お前が口を割らないなら…誰かに口を割らせるまでだ。
俺は電話口に向かって叫んだ。

「古泉、>>64に代われ!」

64: 2008/02/18(月) 21:48:36.72 ID:IBkdNEGGO
ハルヒ

68: 2008/02/18(月) 21:58:53.91 ID:z2gZGEPL0
「お前はもう喋りたくないんだろう? だったらハルヒだ、ハルヒを電話に出せ!」
「……本気ですか?」
「ああ本気だね。団長になんでこんな状況になったか説明してもらおうじゃないか。
 いつも団員全員をコキ使いやがる癖に、肝心なときに一人だけ仲間はずれをするなんざ
 SOS団の風上にも置けん。俺だけを除け者にしやがった団長様には説明する義務がある!」

古泉はしばらく思案している様子だったが、やがて意を決したかのように言った。

「あなたという人は…時折、とてつもない行動力を出しますね。
 まあ、僕はそんな仲間思いな人は嫌いではありませんけどね」

電話の向こうで苦笑している姿が目に浮かぶようだ。
古泉は電話から耳を離したらしく、長門の嬌声がより一層際立って聞こえた。
おそらく長門の一番近くにいるであろうハルヒに、電話を渡しにいったようだ。

団員思いな団長様、頼むから本当のことを喋ってくれよ。

「ちょっ、……もしもし!! なんなのよこの大変な時に! 誰!?」
「よう団長、ご機嫌麗しゅう」
「……!! キョン!?」

ハルヒは心底驚いているようだ。
その声に反応し、長門の声はさらに大きくなる。
なんだ、俺の名前に反応しているのか? どういうことだ長門。

「その、キョン、これはね……っ、古泉くん!! なんでキョンに連絡取ったの!?」

古泉の小さな弁解の声と、叫ぶハルヒの声。
時折混ざる「ケンカはやめてください」という声。朝比奈さんだ。
現場は阿鼻叫喚の様相をみせているようだな。だったら、ここは俺がしっかりしなければならん。

69: 2008/02/18(月) 22:06:45.32 ID:z2gZGEPL0
「いいかよく聞けハルヒ、俺はお前らを責めてない。そこは安心してくれていい」
「そ、そう……っ、じゃなくて!! なんでこんな大変なときに電話をかけてくんのよ!!
 空気読みなさいよバカ!!」

最初の安堵の声……俺に対して負い目を感じていてくれたということだな。
その点に関して俺は心底安心したが、その後の罵声はなんともハルヒらしい。

「無茶を言うな、事態を把握してないのに空気なんぞ読めるか。
 簡潔に説明してくれよ、団長の義務だろう?」
「そ、それは、言えないわ!」
「なんでだ、それは俺が仲間じゃないからか?」
「…………!!」

ハルヒの息を呑む声が聞こえた。
当然だ、意地悪な言い方をしているからな。こうでも言わないと、ハルヒは口を割らんだろう。

「なあハルヒ、なんで長門はこんな状況に――」

「ンなこと、あたしにもわかんないわよバカッ! わかってるのは有希が大変ってことだけよっ!!
 あんたのせいでしょこのスカタン!!」

耳がキーンとした。な、なんつーバカでかい声だ。
だが次いで出た言葉に、俺は言葉を失う。

「有希が、有希がアンタに……うっ、ううっ」

……ハルヒ、もしかして泣いてるのか?
いかん、少しばかり言い過ぎたか。

73: 2008/02/18(月) 22:13:09.88 ID:z2gZGEPL0
嗚咽が電話から聞こえてくる。
謝らなければ、そう思って声を発した直後、

「すまん、ハルヒ」
「ちょっと言いすぎじゃないかなぁ、キョンくん?」

電話口から明るいな声が聞こえた。当然のごとく、鶴屋さんだ。
ハルヒから電話を取り上げ、代わりに応対するつもりだろう。
それほど動じていないのはさすがとしか言いようがない。

「う……つ、鶴屋さん」
「とりあえずさ、今は諦めてくれないかな? みんな混乱しているみたいだし、
 あたしも有希っこがあんな状態になって、ちょっとアタマがこんがらがっててねっ」

ごめんねっ、という言葉を最後に、電話からはツー、ツーという音しか聞こえなくなった。
……不覚、切られてしまった。少々急ぎすぎたか。

81: 2008/02/18(月) 22:27:53.62 ID:z2gZGEPL0
さて、ただボーッと続報を待っているのもなんだ、状況を整理しよう。

長門は今、身体を持て余している。原因は不明。
例によってハルヒが原因という線もあるが、先ほどの様子をみるにその可能性は微妙なところだ。

古泉はとハルヒは何かを知っているようだったが、その理由をなぜか俺には話してくれない。
古泉の話からして、朝比奈さんも理由を知っているようだった。
俺に聞かれてはまずいようなことなのだろうか。そんなことがあるのか?

鶴屋さんは間違いなく現状を把握できていない。
長門の暴走については先ほど知ったような感じだった。

だめだ、整理したところで一向に先に進める気配がない。
事が鶴屋邸で起こっているのだ、直接見に行くか電話で情報を得るかしかない。
だが、古泉があそこまで懇願するんだ。見に行ったら、とんでもないことが起こるんじゃないか。
となれば、現時点ではここを拠点に、アームチェア・ディテクティヴになるしかないようだ。
もっとも、俺にそんな神懸りな真似ができるとは到底思えんのだが。

つまり、どん詰まり状態だ。電話でも情報を待つしかないだろう。
やれやれ、とんでもないことになったな。俺は思考を巡らせる。
長門の辛辣な言葉が、日常を壊す全てのきっかけだった。

――長門、俺に言った「帰れ」や「氏んで欲しい」とは一体なんだったんだ?

その後、ショックでこんなところまで来ちまったしな。
本当に俺らしくもない。ヘンなホームページはいつのまにかできてるし――

……ふと、先ほどのホームページが気にかかった。
そういえば、さっきはチラッと目を通すしかなかったが、他にヒントはないのだろうか?
そう思い、先ほどのホームページをくまなく調べてみると……>>83

83: 2008/02/18(月) 22:29:26.81 ID:0+MseLSsO
和田アキ子

87: 2008/02/18(月) 22:41:15.95 ID:z2gZGEPL0
”今すぐ長門に告白するんだ” の中の ”告白” の部分に、リンク先があるのを発見した。
アイコンを ”告白” に持っていくとアイコンが変わる。

「気づかなかったな……何かあるのか?」

迷わずする。この先にヒントがあるのか?
リンク先を辿ると……

♪ あのか~ね~を~ 鳴らすのはあな~た~ ♪

「うわっ!?」

突然大音量で和田アキ子のあの歌が流れ出した。
しかも、その部分だけずっとループしている。

「……なんの悪戯なんだよこれはっ!!」

カチカチ、とブラウザ右上の×ボタンをする。
何度目かの挑戦でようやくブラウザが消え、デスクトップに戻った。

……やれやれ、結局なんのヒントもなかったな。
いたずらに寿命を短くしてしまっただけか。

「もう一度調べるのも気がひけるよな――ん?」

デスクトップに、見慣れないアイコンがいくつか置いてある。
昨日ハルヒが何やらパソコンでやっていた時にできたやつだろうか。

90: 2008/02/18(月) 22:51:36.93 ID:z2gZGEPL0
”accordion.mp3”
”billion.mp3”
”carillon.mp3”
”distortion.mp3”

以上4つ、全部音楽ファイルだ。
ふむ、暇つぶしに何か聞いてみようか?
どうせこうしてても埒があかん、多少の心のゆとりは必要だろう。

どれを聞いてみるかな……>>91

91: 2008/02/18(月) 22:53:32.73 ID:/vcoNXYp0
distortion.mp3

94: 2008/02/18(月) 23:03:06.01 ID:z2gZGEPL0
distortion.mp3をダブルしてみた。
激しいギターの音楽が聞こえる。音に歪みを持たせたディストーションギターだろう。
しかしこのギター、やけに耳に障る音だな……。不快だ。少しばかりして、ファイルを閉じる。

そのとき、電話が鳴った。
待ちに待った鶴屋さんか……と思いきや、古泉のヤロウだった。

「俺だ、どうした」
「もしかして、と思って電話しましたが……あなた、何かしましたか?」

ん? 開口一番に不躾なことを言う奴だな。
とりあえず、俺は正直にファイルを起動したことを答えた。

「……やはりそうですか。後ろ、聞こえますね?」

電話によく耳を傾ける。長門の声が、より一層大きく響いていた。もはや嬌声というよりも悲鳴に近い。
「嫌」「やめて」「だめ」という単語が、悲痛な叫びに混ざって聞こえる。

「軽率な行動をとると、長門さんが苦しみます。よく考えて行動してください。
 おそらく、その4つのファイルは長門さんの身体に大きな影響を及ぼすものです。
 用意したのは長門さんなのか、涼宮さんなのか……僕にはわかりません。
 ですが、そのパソコンにそのようなファイルがあるということは、
 何か、長門さんを治療できるものも一緒にあるはずです。ヒントなどはありませんでしたか?」

ヒントねぇ、和田アキ子ぐらいしかなかった筈だが……。
さて、どうするべきか。>>95

95: 2008/02/18(月) 23:05:20.86 ID:/vcoNXYp0
carillon.mp3

98: 2008/02/18(月) 23:15:46.81 ID:z2gZGEPL0
「古泉、和田アキ子の『あの鐘を鳴らすのはあなた』が流れたんだが」
「おそらく、ヒントはそれですね。何か鐘を鳴らすようなファイルがあればそれが正解でしょう。
 ……急いでください、長門さんが先ほどよりもさらに苦しみだしています」
「わかった。"carillon.mp3"だな」

ファイルを起動すると、鐘の音がメロディを奏でる。
音もメロディも、どことなく心地よい音だ。

「そうですね、カリヨンはフランス語・英語で「組鐘」を意味します。
 我々高校生がよく聞くウェストミンスターチャイムもその一種ですね。
 …失礼ですが、よくわかりましたね?」

当たり前だ。ハズレのディストーション、手風琴のアコーディオン、10億を意味するビリオンと
このカリヨンしか残ってなければ、消去法でこれを選ぶに決まってるだろう?

古泉からの返事がない。おそらく長門に変化が現れたのだろう。
だが、先ほどまでの苦しみの叫びが消えたということは、よい変化だ。

俺はしばらくパソコンから流れる音楽に集中していたが、
よく聞くとメロディにあわせて、誰かの声が聞こえる。

”音もない世界に 舞い降りた I was snow"

すべてを魅了するような優しい声色。
それは、どことなく長門の声に似ていた。

99: 2008/02/18(月) 23:21:08.28 ID:z2gZGEPL0
「……長門さんが回復したようです。僕の目から見て、完全に本来の長門さんに戻りました」

やれやれ、どうやら正解だったようだな。
今回はかなり苦労させられたが、無事でなによりだぜ、長門。

次いで古泉が何やら話しているが、一向に言葉が頭に入らない。
後ろで、長門の回復に泣きながら喜ぶハルヒと朝比奈さんの声を聞いてしまったら、
古泉には悪いが、野郎の言葉なんぞ認識できん。

「――では本日はこれにて。また明日、部室で会いましょう。いつもどおり、ね」

そう言って電話は切れた。

「ふぅ。やれやれだ」

そう一人ごちて、パソコンの電源を落とす。
既に時間は9時をまわっている。やばい、いくらなんでも遅くなりすぎだ。
俺は宿直の人に見つからないよう学校を脱出し、自宅への帰路に着いた。

101: 2008/02/18(月) 23:24:57.89 ID:z2gZGEPL0

翌日のこと。

いつもなら俺は学校への長い長い上り坂を必氏こいて登っている頃合だが、
今日はいつもとちがい、長門のマンションの前にいる。

何故かというと、長門じきじきに呼び出されたからだ。
今朝方電話がかかってきて、短い言葉で「登校前にうちに来て」とだけ言って
すぐに切れてしまった。

一緒に登校し、昨日のことを説明してくれるのだろう。
知りたいのは山々だが、昨日の辛辣な言葉は一体どういうことだったのか
聞くのは少し怖い気もする。

「よう、おはようさん」
「…………」

出会って早々、無言で俺の隣に並ぶ長門。
いつもの長門のようで、俺はすこしだけ安堵した。

102: 2008/02/18(月) 23:27:23.38 ID:z2gZGEPL0
お互い、しばらくは無言で学校への道を辿っていた。
いかん。このペースじゃ何も話せずに学校に着いてしまうぞ。

長門から話してくれるのを待っていた俺だが、なるべく早く真相を知りたかった俺は
我慢できず、口を開いてしまった。

「昨日のこと、説明してくれるな?」

長門は無言でうなずく。そして上目遣いで俺の目をみながら、
いつぞやのように饒舌に語りはじめた。

105: 2008/02/18(月) 23:42:51.31 ID:z2gZGEPL0
「かつて情報統合思念体がわたし"処分”を検討していたが、それは未遂に終わった。
 しかし、あらゆる思念が一同に存在する情報統合思念体の急進派は、
 わたしが涼宮ハルヒたちと接触していることを快く思っていなかった。
 けれど主流派がそれを是としている以上、急進派が意見を通すことは難しく
 急進派はどうにかしてわたしを"処分”したいと、機会を虎視眈々と狙っていた」

「それが今回の一件と何の関係があるんだ?」

「急進派は、わたしを"処分"するためには、まず涼宮ハルヒが結成する団体から
 わたしを遠ざけるようにしなければならないと考えた。しかしわたしの役目は
 主流派における『涼宮ハルヒの同行を観察する』という意見の実行。
 安易にこれを崩そうとすると急進派は他の派閥に潰される危険性が高い。
 そこで急進派は”罰"という名目でわたしの身体にある異変を加えた」

「それであの有様か。えーと……身体の異変、か」

「そう。しかし有機生命体…人間にとっては、わたしのあの様子は確実に異端に映る。
 それによって、涼宮ハルヒたちにわたしという存在に対して幻滅させ、
 涼宮ハルヒが自発的にわたしを嫌うように仕向けようとした」

「なんだそりゃ……ただの嫌がらせじゃねぇか」

急進派というのは確か、あの朝倉涼子がいたところか。
まったく、子は親に似るというが、やはり胡散臭い情報統合思念体の中でも
あの派閥は一層クセモノのようだな。

108: 2008/02/18(月) 23:50:02.94 ID:z2gZGEPL0
「現在わたしが危惧しているのは、涼宮ハルヒがわたしを幻滅し、
 『涼宮ハルヒの動向を観察する』という役目を果たせなくなること」

ふむ。長門もその程度は心配しているようだな。
だがしかし長門よ、その心配は杞憂だと思うぞ。

「なあ長門、昨日ハルヒの奴になんか言われたか?」
「…………」

長門は俺の言葉に俯き、しばらく黙っていたがやがて口を開いた。

「…………『有希のバカ、心配したんだから』と」

おそらくそのときのハルヒの顔は、ぐちゃぐちゃで目も当てられなかっただろう。
残念だ、そんな顔が見れたら俺は一生モノのからかいネタを手に入れられたのにな。
俺がいなくてよかったなハルヒ。

「なら安心だな。我らが団長様は、可愛い団員を見捨てたりなんかしないさ」

長門は再び俺を見上げる。その目には、僅かだが希望の光が宿っていたような気がした。
”希みが有る”という名前のくせに、心配性な宇宙人だ。

それはそうと、俺はまだ謎を全て解いていない。どこぞの英国紳士のように、
これを機にスパッと謎解きをしておきたいもんだ。
俺は長門に、一番の謎について問うた。

「あと、もう一つ聞きたいんだが……なんであの時、俺に『帰れ』だの『氏ね』だの言ったんだ?」

109: 2008/02/18(月) 23:54:11.79 ID:z2gZGEPL0
再び俯く長門。今度は先ほどよりも長い時間だったが、
やがていつもよりさらに小さい声でぼそりと言う。

「あなたたちには、見られたくなかったから」

……そうか。
お前にも、恥じらいというものは存在するんだな。
だが、「帰れ」「氏ね」はちょっとツンデレにもほどがあるんじゃないのか?

俺はその答えに満足し、そのまま二人無言で学校への坂道を登った。

いいんじゃないか、宇宙人がたまに人間っぽい突拍子もないことを言っても。
そのほうが俺たちは好感が持てるってもんだ。

112: 2008/02/19(火) 00:00:52.71 ID:Eee3OCtl0
あっというまに放課後となり、俺たち5人はいつもの部室に集合した。
先日の負い目からか、朝からヤケに大人しかったハルヒだったが、
放課後ともなるといつもの元気を取り戻し、パソコンを操作して悲鳴をあげた。

「あーっ!! あたしがコッソリ作ったホームページが消えてるじゃない!!
 まったく、誰よこんなことした奴は! 腹立つわねっ!!」

あの謎の和田アキ子はお前だったかハルヒ。
じゃああのTOPページの文はなんだったんだと聞いてみると、意外な返事が返ってきた。

「え、トップページ? 真っ白なページの中にひとつだけリンクを張ったはずだけど」

じゃああの長門に告白云々はなんだったのだろうか。
もしかして、長門のやつが無意識に改変したとか…いやいや、そんなことはないな。

古泉も朝比奈さんも、みんないつもどおり接していた。
わだかまりが残らなかったのはいいが……どうもしっくりこないな。

鶴屋さんはといえば、昼休みに俺個人に会いにきて、先日の非礼をわびていた。
おそらく他の団員のもとにも挨拶にきたのだろう。しっかりしている人だ。
だが、今回迷惑をかけたのは、どちらかといえば俺たちSOS団のメンバーではないだろうか。

114: 2008/02/19(火) 00:04:41.07 ID:Eee3OCtl0
そんなこんなで活動時間が終わり、俺と長門以外は早々に引き上げてしまっていた。
長門が読んでいる本も、もうすぐ終わりらしい。

欠伸をし、席を立とうとする俺に、いつの間にかそばにいた長門が話しかけた。

「ん、どうした長門?」
「お詫びに、プレゼントしたいものがある」

そう言って長門が取り出したのは、永○園のお茶漬けの元。
俺が呆気にとられていると、長門はさらに一言加えた。


「ぶぶ漬け」


…長門さん、ここではせめて「お茶漬け」と言おうぜ。


END

115: 2008/02/19(火) 00:05:52.98 ID:UVAhXUbVO


最後にまたぶぶ漬けかww

116: 2008/02/19(火) 00:07:23.46 ID:8/x8zgrB0
読み耽ってしまった……

このスレから読み始めた俺には、
冒頭でキョンが長門の部屋にいた理由が分からないんだが

引用元: 長門「ぶぶ漬け…」