1: 2022/07/09(土) 18:04:01.22 ID:ODNTDvsx.net
栞子「えっと、しずくさんのおっしゃっている意味がよく分からないのですが……」

しずく「どこが分からないの? 何でも聞いてよ」

栞子「そもそもの話として、その『くもらせ』というのは何ですか?」

しずく「ああ、そっか。まずはそこからだね」

しずく「この場合、『曇る』っていうのは、絶望や心配のために心や表情が沈んだ状態になることだよ」

しずく「それで、『曇らせ』っていうのは、誰かがそうなるように仕向けることかな」

栞子「なるほど……」

しずく「分かった?」

栞子「はい、言葉の意味は理解できました」

しずく「よかった! それでね! 私の目に狂いがなければ、栞子さんには曇らせの高い適性があるの!」

しずく「だから私の同志として、一緒に愉悦同好会を作ってくれないかな?」

しずく「それで実績を積んで、ゆくゆくは愉悦部に昇格を――」

栞子「ちょっと、ちょっと待ってください!」

4: 2022/07/09(土) 18:08:15.00 ID:ODNTDvsx.net
栞子「えっと、ほら、あれですよ……」エーット

栞子「同好会の立ち上げには、5名の生徒が必要なんです。なので、私たちだけでは……」

しずく「そこは新生徒会長様の権限で、こっそり便宜を図っておいてよ」

栞子「ダメに決まってるでしょう!?」

しずく「でも、『やりたいことはどんどんやるべき』なんでしょ? 公約だよね?」

栞子「何でもいいわけではないですね」

しずく「えー」

栞子「それに、私が曇ってもつまらないと思いますよ?」

栞子「私は感情が薄い方ですし、残念ながらしずくさんの期待には応えられないのではないかと――」

しずく「違う、違う! そうじゃないの!」

しずく「栞子さんは曇る適性が高いんじゃなくて、曇らせる適性が高いんだよ」

栞子「え?」

7: 2022/07/09(土) 18:12:03.10 ID:ODNTDvsx.net
栞子「私が誰かを絶望させるということですか?」

しずく「そうだよ! 栞子さんには、曇らせの才能がある。自信を持って!」

栞子「そんな才能は必要ありませんが」

しずく「えー」

栞子「だいたいですね。意図的に他人を絶望させたり心配させたりだなんて、許されないことです」

栞子「みなさんに信任していただいた生徒会長たる私が、そんな同好会を認めるわけにはいきません」

栞子「そんなことをしては、前生徒会長の菜々さんにも申し訳が――」

しずく「うん、そうだね。栞子さんの言ってることは、人としてとても正しいと思うよ」ウンウン

しずく「でも、どうしてかな? その理由を言うのが、ちょっと遅いんじゃない?」

栞子「え?」

しずく「言葉を選ばずに言えば、誰かを傷つけて楽しむ同好会を作りたいって私は言ってるんだよ?」

しずく「そんな話を聞いたら、普通は真っ先に『そんなことしちゃダメだ!』って言うはずでしょ?」

しずく「それを立ち上げの人数がどうとか、自分を曇らせてもつまらないとか……。どうして?」ン?

栞子「いや、それは……」

9: 2022/07/09(土) 18:15:50.39 ID:ODNTDvsx.net
栞子「当たり前のことすぎて、わざわざ言葉にしなかったというだけですよ」

しずく「本当にそうかなあ?」ンー?

しずく「それに、さっきも曇らせなんてしてはいけないって言うばっかりで……」

しずく「誰かを曇らせるだなんてしたくないとは、一度も言ってないでしょう?」ネ?

栞子「……たまたまですよ。深い意味はありません」

しずく「それに、感情が薄い自分が曇ってもつまらないって栞子さんは言ったよね?」

しずく「それは裏を返せば、感情が豊かな人が曇るのは面白いって思ってることになるんじゃないかな?」

栞子「……まさか、そんなわけがないでしょう。考えすぎですよ」

10: 2022/07/09(土) 18:19:26.86 ID:ODNTDvsx.net
しずく「そっか、まだ栞子さんは自分の魂のかたちを分かってないんだね」

しずく「本当の自分が、いったい何に愉悦を感じるのかを知らないんだ💙」

栞子「いいえ、私は自らのことを正確に理解しています」

栞子「みなさんを幸せにするために努力する生徒会長。それが私です」

しずく「なるほど。高く積み上げた方が、崩すときに気持ちいいもんね」

しずく「知ってる? 今が幸せな人ほど、これから不幸になれるんだよ?」

栞子「へえ、考えたこともありませんでした」

しずく「ふふっ、頑固だなあ。そういうとこも嫌いじゃないよ💙」

栞子「そうですか。ありがとうございます」

12: 2022/07/09(土) 18:22:53.71 ID:ODNTDvsx.net
しずく「じゃあ、まずは体験入部ってことでどうかな?」

栞子「体験入部? 曇らせ同好会とやらを、生徒会で認可した覚えはないのですが……」

しずく「愉悦同好会だよ」

栞子「どちらにしても、存在しないものに体験入部も何もないでしょう?」

しずく「存在はしてるよ。私しか所属していない非公式の同好会だけどね」

しずく「栞子さんと一緒に、公式な同好会にしたいと思ってるんだ」

栞子「そんな怪しいものに、私が体験入部する理由など……」

しずく「生徒会長なら、学校の闇に蠢く怪しい同好会のことは知っておくべきだと思うな」ネ?

栞子「……闇に蠢くって、しずくさんが作ったせいじゃないですか!」

栞子「それに、たとえ知るべきだとしても、しずくさんから話を聞けば十分なんじゃ……」

しずく「百聞は一見にしかず。百見は一触にしかず。そう言うでしょ?」

しずく「話を聞くだけじゃ、理解するには遠いよ。スクールアイドルだってそうだったよね?」

栞子「それは、まあ……」

13: 2022/07/09(土) 18:26:33.17 ID:ODNTDvsx.net
栞子「……いえ、やっぱりダメです。確かに知る必要はあるかもしれませんが、体験入部というのは……」

しずく「だったら監視委員会ってことでどうかな? 愉悦同好会に対する監視委員会」

しずく「せつ菜さんから前に聞いたことがあるんだけど、生徒会の規定にそんなものがあるんだよね?」

栞子「よく知っていますね。設立することなど絶対にないだろうと思っていたのですが……」

しずく「今回ばかりは仕方ないよ。だって、すごく怪しい同好会の存在が発覚したんだもん」

栞子「どの口が言うんですか……」

しずく「生徒会長の栞子さんが愉悦同好会の私の活動を監視して、問題がないかチェックするの」

しずく「どうかな? 栞子さんには必要なことだと思うよ。色々な意味でね」

栞子「…………分かりました。口車に乗るようであれですが、確かにそれがよさそうです」

しずく「決まりだね! じゃあ、愉悦同好会の活動をじっくりと見ていってよ」

栞子「内容に問題があるようでしたら、愉悦同好会は解散させますからね」

しずく「えー、非公式の同好会を解散させる権利なんて、生徒会長にだってないでしょ?」

栞子「しずくさん!?」ガーン!

14: 2022/07/09(土) 18:29:45.54 ID:ODNTDvsx.net
しずく「まあまあ、とりあえずは今日の活動を見てみてよ」

しずく「愉悦同好会をどうするかは、それから考えても遅くないでしょ?」

栞子「はあ、分かりました。それで、今日の活動というのは?」

しずく「今日のターゲットは、かすみさんだね。かすみさんを曇らせるよ!」

栞子「かすみさんですか!?」エッ?

しずく「そうだよ。我が同好会の一番のお得意様だね!」

栞子「嫌なお得意様もあったものですね」

しずく「今日は生徒会長による監視を記念したキャンペーン中だから、いつもの倍は曇らせるよ!」

栞子「本当に嫌なキャンペーンもあったものです」

16: 2022/07/09(土) 18:33:09.33 ID:ODNTDvsx.net
栞子「ですが、かすみさんとは意外でした」

しずく「そうかなあ? 私が何かするとしたら、相手はかすみさんって感じがしない?」

栞子「それは分からなくもないですが、今回は事が事ですし……」

栞子「仲がいいように見えましたけど、本当は嫌いだったんですか?」

しずく「まさか! そんなわけないでしょ!」バンッ!

栞子「だったら、どうして……」

しずく「かすみさんは私の太陽なの。かすみさんの輝きに、いつだって私は魅せられる……」

しずく「命っていうのはね、暗い闇の中に置いてこそ美しく光り輝くの」

しずく「私は、誰よりも大好きなかすみさんを、何よりも綺麗に輝かせたいんだ」

しずく「愛だよ。愛なんだよ、栞子さん。これが私の愛なの。愛さんじゃないけど!」

栞子「……そうなんですね」

17: 2022/07/09(土) 18:36:46.77 ID:ODNTDvsx.net
栞子「しずくさんが、かすみさんを嫌っているわけではないということは理解しました」

しずく「私の気持ち、分かってくれたんだね。嬉しいなあ」

しずく「ふふっ、これは愉悦同好会に入部するのも時間の問題かな」

栞子「そんなわけないでしょう。勘違いしないでください」

栞子「しずくさんの心情に共感したのではなく、その動機を把握したというだけです」

栞子「それに忘れないでいただきたいのですが、あくまで私は生徒会長として監視をしているんですよ?」

栞子「何をするつもりか知りませんが、あまり酷いことをするようなら途中であっても止めますからね」

しずく「大丈夫だよ。かすみさんには指一本たりとも触れないから」

栞子「それ、あんまり大丈夫な理由にならない気がするんですけど……」

しずく「まあ、とにかくこれを見てよ。もう仕込みは済んでるから」

栞子「タブレット? これは、かすみさん?」

しずく「うん、そうだね。今から一緒に、かすみさんの命の輝きをただ愛でよう?」

19: 2022/07/09(土) 18:40:30.37 ID:ODNTDvsx.net
栞子「えっと、愉悦同好会の過去の活動を記録した映像ということですか?」

しずく「ううん、ライブ映像だよ」

栞子「ライブ映像!? これ、部室ですよね!? 普段から盗撮してるってことですか!?」

しずく「そんなことしないよ。今回のために、さっきカメラを設置したの。終わったらすぐに撤去するから」

栞子「本当ですか?」

しずく「もちろんだよ。私は生まれてから今までの人生で、一度も嘘をついたことがないのが自慢なんだ」

栞子「その台詞、明らかに嘘つきしか言わないやつじゃないですか……」

しずく「まあまあ、これでも飲みながら最高の名作を鑑賞してよ」つ凵

栞子「それは、甘酒ですか!?」

しずく「うん、大好きなんだよね?」

栞子「はい、いただきます!」ゴクッ ゴクッ

栞子「……あれ? んん?」コクコク

しずく「そこら辺のスーパーで買った安物だから、栞子さんの口には合わなかったかな?」

栞子「……いえ、すみません。思った味とは違いましたが、まずいというわけではありませんから」チビチビ

20: 2022/07/09(土) 18:44:09.03 ID:ODNTDvsx.net
栞子「それで、かすみさんは何をしているんですか? あれは、かすみさんボックス?」

しずく「かすみんボックスだね。かす虐のために、神が生み出したもうたアイテムだよ」

栞子「かすぎゃく?」

しずく「かすみさん虐待」

栞子「ああ、そういう……。あれを作ったのは、かすみさん本人でしょうに」

しずく「つまり、かすみさんは神だってことだね!」

栞子「その神を虐待するしずくさんは何者ですか?」

しずく「私はただの大女優だよ💙」

栞子「しずくさんを知ってから、私の中で大女優という言葉の持つ意味が変わっちゃったんですよねえ」

21: 2022/07/09(土) 18:47:47.11 ID:ODNTDvsx.net
しずく「そんなことより、ほら見て! かすみさん、すっごく嬉しそうだよ」

栞子「おや、本当ですね。ああ、かすみさんボックスの中にファンレターが入っていたわけですか」

しずく「いつもは3通もあれば多い方なのに、今日は10通もあるからね」

栞子「へえ、この前の単独ライブの影響ですかね」

しずく「10通のうちの7通は私が書いたものなのにね💙」

栞子「しずくさん!?」ガーン!

しずく「あ、大切そうに読み始めたよ。あれは私が書いたやつだね」

栞子「まあ、7割が外れなわけですからね……」

しずく「あー、外れだなんて酷いなあ。心を込めて書いたんだよ?」

栞子「申し訳ありませんが、浅学な私では他に適切な言葉を思いつきませんので」

しずく「えー」

22: 2022/07/09(土) 18:51:06.06 ID:ODNTDvsx.net
栞子「ですが、1人で7通も書いて大丈夫なんですか? 筆跡やら何やらでバレそうなものですけど……」

しずく「大丈夫だよ。筆跡も文体も、かすみさんに普段から手紙を出してる別々の人のを模倣したから」

栞子「……しずくさんは、女優ではなくスパイを目指した方がいいのでは?」

しずく「安心して。女優とスパイって、とてもよく似た職業だからね。何も問題はないよ」

栞子「今のしずくさんの説明に、安心できる要素は何もなかったように思うのですが……」

しずく「私のことなんかより、今は注目しないといけないものがあるでしょ?」

しずく「ほら、タブレットを見て! かすみさんの素敵な表情! ここからが見どころだよ!」

栞子「……確かに少し泣きそうに見えますね。ファンレターを読んでいるはずなのに、どうして?」

栞子「あっ! しずくさんが書いた手紙は、誹謗中傷の類ということですか!?」

栞子「さすがにそれは看過できません! やはり愉悦同好会は解体です!」

しずく「まさか、そんなことするわけないよ」

しずく「あれらはどれも、間違いなくファンレターと呼べる内容のものだよ」

栞子「……だったら、どうして?」

23: 2022/07/09(土) 18:54:23.95 ID:ODNTDvsx.net
しずく「ファンレターって言っても、一から十まですべてを肯定してるとは限らないよね?」

しずく「こうして欲しいとかあんなところが見たいとか、そんな要望が書いてあることもあるでしょ?」

栞子「もっと弾けて欲しいという内容の手紙を、確かに私も頂いたことがありますね」

しずく「かすみさんが読んでるファンレターにも、そういうファンからのお願いが書いてあるんだよ」

栞子「何が書いてあるんですか? 何を書けば、かすみさんがあんな顔を……」

しずく「『かすみちゃんには部長の雑務なんかじゃなくて、もっともっと自分のしたいことをして欲しい』」

しずく「『新旧生徒会長という向いている人たちがいるんだから、無理に部長をしなくても大丈夫ですよ』」

しずく「『大好きなかすみんが苦手な部長の仕事で潰れそうで辛い。そもそも先輩は何をやってるんだ!』」

しずく「どれも表現の仕方は違うけど、すべてが同じことを伝えようとしている」

しずく「そう、『中須かすみは部長にふさわしくない』ということを」

しずく「1通だけならスルーできても、10通すべてから言われたんじゃ無視できないよね」フフッ

栞子「悪魔ですか、あなたは」

しずく「ふふっ、褒め言葉だよ💙」

24: 2022/07/09(土) 18:57:45.73 ID:ODNTDvsx.net
栞子「かすみさんは部長の仕事を一生懸命に頑張ってくれてるじゃないですか!」

栞子「あれを見ておきながら、どうしてそんな酷いことを思いつくんです?」

しずく「今回の作品の着想は2つあるんだ」

しずく「1つ目は、元からあった3通のファンレターのうちの2通が、部長の仕事の負担を心配してたこと」

しずく「そして2つ目は、栞子さんだよ」

栞子「私、ですか? それは、どういう……」

しずく「ほら、かすみさんが最後の1通を読もうとしてるよ! ここがクライマックスだからね!」

栞子「いえ、それより私から着想を得たというのがどういうことかを説明して――」

しずく「焦らないで。今から、かすみさんの素敵な表情を見ながら説明するから」

25: 2022/07/09(土) 19:01:11.06 ID:ODNTDvsx.net
栞子「素敵な表情って、またどうせ……」

栞子「おや? 確かに笑顔が戻ってきていますね」

しずく「かすみさんは笑顔も可愛いけど、あれは私が言うところの素敵な表情ではないかな」

しずく「でも、かすみさんが喜んでる理由は分かるよ」

しずく「スクールアイドルかすみんの一番のファンからの手紙を読んでるからだね」

栞子「一番のファン?」

しずく「コッペパン同好会のコペ子さんだよ」

栞子「ああ、あの方ですか。かすみさんと仲がいい……。って、コペ子ではないでしょう!?」

しずく「手紙の前半は、この前の単独ライブの感想だからね。かすみさんを褒めちぎってるよ」

栞子「……そういう言い方をするということは、後半に地雷が埋まっているわけですね?」

しずく「そう、そうだよ。さすが栞子さん、飲み込みが早くて私も鼻が高いよ」

栞子「それはどうも」

26: 2022/07/09(土) 19:04:39.57 ID:ODNTDvsx.net
しずく「ちなみに後半に埋まっている地雷は栞子さんだよ。今回の着想の2つ目だね」

栞子「だから、それがどういう意味なのかを説明して――」

しずく「ほら、見て! あのかすみさんの顔!」キャッキャッ

栞子「え? 何が――」ビクッ!

しずく「驚愕、落胆、悲嘆、諦観、葛藤……。数え切れないほどの感情が、かすみさんの心に渦巻いてる」

しずく「そして、すべてを覆い尽くす99%の絶望と、それでも消えない1%の強い意志……」

しずく「あぁ、最高だね💙」ハァハァ

栞子「……」

しずく「かすみさんのあんな表情を見るために、きっと桜坂しずくはこの世に生まれてきたんだ」

28: 2022/07/09(土) 19:08:13.53 ID:ODNTDvsx.net
栞子「……」ジー

しずく「ふふっ、栞子さん? 気に入ってくれたみたいだね💙」

栞子「あっ、いや、そういうわけでは……」アセアセ

しずく「今さら隠そうとしなくてもいいんだよ?」

栞子「いえ、そういうわけではありません! 私はただ、その、えっと……」ゴニョゴニョ

しずく「ん? なあに?」フフッ

栞子「そ、そうです! あの手紙の後半に何が書いてあるのかを考えていたんですよ!」

栞子「ほら、私に関係することらしいですし!」ネ?

しずく「ふーん、そっかあ」

栞子「ええ、それだけです」

29: 2022/07/09(土) 19:11:42.61 ID:ODNTDvsx.net
栞子「ですが、本当に何が書いてあるんですか? まったく見当がつきません」

栞子「コッペパン同好会のあの方が、かすみさんを傷つけるようなことを書くとは思えないんです」

栞子「彼女がスクールアイドル中須かすみの大ファンなのは、私の目から見ても明らかですから」

しずく「ふふっ、それがね? コペ子さんったら、勘違いをしちゃってるみたいなの」

しずく「栞子さんがしてたのと同じ勘違いをね」

栞子「私と同じ勘違い?」

しずく「うん、スクールアイドル同好会の部長はせつ菜さんだって思ってるみたい」

しずく「あの手紙の後半で、かすみさんがセンターの全体曲を作ったらどうかって提案してるんだけど……」

しずく「それを部長のせつ菜さんに頼んでみたらいいんじゃないかって書いてあるんだ」

栞子「ああ、なるほど。そういうことですか……」

30: 2022/07/09(土) 19:15:02.97 ID:ODNTDvsx.net
しずく「栞子さんも、そうだったよね。入部届をせつ菜さんに提出しようとして……」

しずく「それどころか、せつ菜さんが部長じゃないって分かっても、侑先輩に渡そうとしてさ」クスクス

栞子「あれは、だって、仕方ないじゃないですか!」

栞子「かすみさんは1年生ですし、事前に知らなければ部長だとは……」

しずく「まあ、そうだね。何も知らないのにかすみさんを部長だと思う人がいたら、そっちの方が変だよ」

栞子「でしょう?」ホラ!

しずく「それでも、一番のファンには分かって欲しかっただろうね」

しずく「コペ子さんに悪意がないのは明白だからこそ、自らが部長に見えないという事実が浮き彫りになる」

しずく「それにね? きっと栞子さんに間違えられたときのことも思い出してるはずだよ」

しずく「勘違いしたのが1人だけなら偶然だって言い訳も立つけど、複数から間違われちゃうとね」フフッ

栞子「……かすみさんのあの表情は、私のしたことの影響でもあるの?」ゾクゾクッ

しずく「そうだよ。栞子さんのおかげだね。『せい』じゃなくて、『おかげ』だよ」

31: 2022/07/09(土) 19:18:29.09 ID:ODNTDvsx.net
しずく「やっぱり栞子さん、素質あるよ。嬉しそうな顔しちゃって💙」

栞子「あ、いや、私は……」

しずく「甘酒もずいぶんと進んだみたいだね。あれだけ味にがっかりしてたくせにさ」

栞子「え? あっ、いつの間に……」つ凵 カラッポ

しずく「バイトしてた彼方さんに聞いて、スーパーでも最低の安物を用意したのになあ」

栞子「そんなことしたんですか!?」ガーン!

しずく「どうかな、栞子さん。私と一緒に、これから愉悦同好会を盛り上げてくれない?」

しずく「栞子さんが美味しいと感じる甘酒を、何度だってご馳走するから。また飲みたいよね?」

32: 2022/07/09(土) 19:21:55.88 ID:ODNTDvsx.net
栞子「……いえ、生徒会長として愉悦同好会なんてものを認めるわけにはいきません」

しずく「そっか、残念だなあ」ハァー

栞子「ですが、こんなに怪しい同好会を放置もできませんよね?」

栞子「学校の治安を守る者として、今後も見張る必要があります」キリッ

しずく「え?」

栞子「とはいえ、監視委員会の常態化はいただけませんね。こんなものは今回に限るべきでしょう」

栞子「うーん、困りましたね。そうだ、しずくさん。何かいいアイデアはありませんか?」

しずく「そうだなあ……。あっ、いっそのこと入部しちゃうってのはどうかな? 監視のためにさ」

栞子「ほう、監視のために入部ですか?」

しずく「そうだよ。そもそも愉悦同好会は非公式の同好会だから、学校としてもどうこうできないよね?」

しずく「学校には監督権限なんてないし、愉悦同好会にも活動内容の報告義務はない」

しずく「でも同好会のメンバーになれば、一緒に活動して色々と知れるし、内容に口も出せるよ」

栞子「なるほど。それはいいですね! では、そうしましょう」ウンウン

33: 2022/07/09(土) 19:25:20.99 ID:ODNTDvsx.net
しずく「ふふっ、栞子さんって思ったより融通が利くタイプの人だったんだね」

栞子「私はお堅い生徒会長ですよ。臨機応変な対応ができればいいとは思いますが、まだまだです」

栞子「今回の件も、学校の闇に蠢く怪しい同好会を見張るためというだけです。ただ……」

しずく「ただ?」

栞子「……甘酒の味というものは、肴によって思いのほか化けるものですね」

栞子「しずくさんの言うように、これほど美味と感じる甘酒ならば……」

栞子「ぜひとも、また飲んでみたいものです」

しずく「うん💙」

36: 2022/07/09(土) 19:28:54.49 ID:ODNTDvsx.net
栞子「それで、甘酒がなくなってしまったので、また買ってきてもらえませんか?」

栞子「これと同じもので構いませんから、2杯お願いします」

しずく「2杯? まあ、いいけど……」

栞子「私の分と、しずくさんの分です。ああ、次の肴は私が用意しますね」

しずく「え?」

栞子「愉悦同好会を見張るためとはいえ、入部した以上は私も活動しなくてはいけませんから」

しずく「うん! ちょっと待ってて! すぐに買ってくるね!」

栞子「あまり期待しないでくださいね。初めてなので不出来でしょうし……」

しずく「ううん、すっごく楽しみだよ!」

37: 2022/07/09(土) 19:32:29.64 ID:ODNTDvsx.net
30分後

栞子「早かったですね」

しずく「そりゃあ急いだからね。久しぶりに本気で自転車をこいだよ」ハァハァ

しずく「ほら、甘酒! 彼方さんに聞いて、スーパーにある最高級品を買ったんだ!」ババーン!

栞子「別に先ほどのものでも構いませんでしたのに……」

栞子「まあ、いいです。それじゃあ、行きましょうか」スタスタ

しずく「行くって、どこに?」スタスタ

栞子「それはもちろん、これから曇らせるターゲットのところですよ」

38: 2022/07/09(土) 19:35:48.95 ID:ODNTDvsx.net
栞子「ランジュ、調子はどうですか?」

ランジュ「きゃあっ、栞子! 来てくれたのね!」

しずく「ランジュさん、自主練してたんですか? 同好会は休みなのに偉いですね」

ランジュ「しずくも来てくれたの? いいわね、いいわね!」

栞子「ここでランジュが練習していることは聞いていましたからね」

栞子「この前の単独ライブの興奮が、まだ冷めていないみたいで」

しずく「へえ、私は逆に少し気が抜けちゃったのに、ランジュさんはエネルギッシュだね」

栞子「まったくです」

39: 2022/07/09(土) 19:39:40.69 ID:ODNTDvsx.net
ランジュ「ねえねえ! 2人とも一緒に練習しましょうよ! ね!」

栞子「いえ、今日は体を休めたいですし、他にやることもありますので」

ランジュ「えー、いいじゃない! 一緒にやれば楽しいわよ!」

ランジュ「ね? しずくもそう思うでしょ?」ネ?

しずく「うーん、そうですねえ」ンー

ランジュ「ほら、しずくもこう言ってるわ! ねえ、栞子も――」グイグイ

栞子「いい加減にしてください! 私はやらないと言ったでしょう!」

栞子「しずくさんだって、明らかに乗り気ではないじゃないですか!」

栞子「どうして人の気持ちが理解できないんです!」

ランジュ「し、栞子……?w」

栞子「私が嫌がっていることも、見れば分かるはずですよね?」

栞子「たった1人の幼馴染の気持ちすら分からないんですか?」

ランジュ「な、なによう……」

しずく「💙」

40: 2022/07/09(土) 19:43:06.31 ID:ODNTDvsx.net
ランジュ「ご、ごめんなさい……。ランジュ、その……」シュン

栞子「いえ、私も言いすぎました。大切な親友が対人関係でトラブルを起こさないか心配で、つい……」

ランジュ「し、親友!? ランジュのことよね?」

栞子「ええ、そうですが。違いましたか?」

ランジュ「いいえ、違うわけないわ! ランジュと栞子は親友よ!」ペカー

しずく「ふふっ、よかったですね」

ランジュ「ええ! それに、しずくだってランジュの親友よ!」

しずく「あら、私のことも親友だと思ってくれるんですね」

ランジュ「もちろんよ!」

栞子「ランジュに仲のいい友人が増えてよかったです」

41: 2022/07/09(土) 19:46:33.12 ID:ODNTDvsx.net
栞子「それじゃあ、そろそろ我々は行きましょうか。しずくさん、先ほどの話の続きがしたいです」

しずく「そうだね」

ランジュ「2人で何かお話しするの? きゃあっ、親友のランジュも混ぜてちょうだい!」

栞子「ランジュは練習をするんでしょう?」

ランジュ「いいのよ。練習なんて、いつでもできるもの。それより、2人と一緒に――」

栞子「ダメですよ。やると決めたことはやるべきです。中途半端は好きじゃありません」

栞子「それに、『練習なんて』だなんて……。スクールアイドルを舐めてるんですか?」

ランジュ「あ、いや、そんなつもりじゃ……」

栞子「だったら、どんなつもりだったんですか? 言い訳は聞きたくありませんね」

栞子「ランジュのストイックなところは尊敬していたのですが、私の勘違いでしたか?」

ランジュ「ううっ、栞子ぉ」ウルウル

42: 2022/07/09(土) 19:49:57.05 ID:ODNTDvsx.net
栞子「しずくさん、それでは行きましょう。話したいことがたくさんあるんです」

栞子「できれば、お泊まりもしたいですね。よければ私の家に泊まってくれませんか?」

しずく「わあ、それはいいね! ちょっと親に聞いてみるよ」

ランジュ「ランジュも、お泊まり……」

栞子「すみませんが、ランジュは遠慮してください。しずくさんと2人で話がしたいんです」

ランジュ「……栞子、しずくとすっかり仲良くなったのね」

栞子「ええ、しずくさんとは気が合いましてね。色々と新しいことを教えてくれました」

栞子「一番の親友であるしずくさんとお泊まりできるなんて、実に楽しみです」

ランジュ「一番の親友!? ランジュは!?」ガーン!

栞子「ランジュはただの親友で、ただの幼馴染でしょう? それで十分じゃないですか」

栞子「その友人に対して独占欲が強いところ、よくありませんよ。昔もそれでトラブルになりましたよね?」

栞子「ランジュ、また1人になりたいんですか?」

ランジュ「ラァ」

しずく「💙💙💙」

45: 2022/07/09(土) 19:53:28.04 ID:ODNTDvsx.net
栞子「じゃあ、ランジュは練習を頑張ってくださいね」スタスタ

しずく「ランジュさん、バイバイです」スタスタ

ランジュ「バイバイ……」シューン

1時間後 三船邸

しずく「はい、栞子さん。甘酒で乾杯だよ」つ🥂

栞子「はい、乾杯です。……ふふっ、美味しいですね」つ🥂

栞子「ですが、横から見るのと実際にやるのとでは大違いでした。思ったよりずっと難しかったです」

栞子「しずくさんの丁寧な作品と比べて私のはどうも雑な感じで、講評を聞くのも恥ずかしいのですが……」

栞子「しずくさん、どうでしたか?」オソルオソル

しずく「すっごくよかったと思うよ。少なくとも私は好きだな」

しずく「展開の速さも雑ってわけじゃなくて、テンポがいいと言うべきだろうし……」

しずく「私は少し迂遠なやり方を選ぶきらいがあるから、栞子さんの作品から学ぶことも多かったな」

栞子「そう言ってもらえると嬉しいです」ホッ

46: 2022/07/09(土) 19:56:58.16 ID:ODNTDvsx.net
しずく「それで、いくつか聞きたいことがあるんだけどいいかな? 素人質問で恐縮なんだけど……」

栞子「もちろんいいですけど、しずくさんは完全に専門家じゃないですか……」

栞子「なんだったら、この分野の世界的な権威でしょう?」フフッ

しずく「ふふっ、ごめんね。ちょっと言ってみたくなったの」ヘヘッ

しずく「でも、ほら、ランジュさんの専門家ではないからさ」ネ?

栞子「ああ、質問はランジュに関することなんですか?」

しずく「うん、ランジュさんを曇らせる相手に選んだのはどうして? 幼馴染でよく知ってるから?」

栞子「それもありますが、純粋にランジュには曇る適性があると思うんですよね」

しずく「それについては私も激しく同意するけど、栞子さんの見解を聞いてみたいな。続けてくれる?」

47: 2022/07/09(土) 20:00:21.15 ID:ODNTDvsx.net
栞子「曇らせの話を初めて聞いたときに、感情が薄い私が曇ってもつまらないと言いましたが……」

栞子「しずくさんもおっしゃっていたように、感情が豊かなランジュが曇るのは面白いと思うんですよ」

栞子「いえ、面白いというより、美しいという表現の方が正確でしょうか?」

栞子「人は泣いたり笑ったりするときに、その命が揺れるんです」

栞子「誰よりも近くの特等席で、ランジュの命が揺れる瞬間の美しさを見たい」

栞子「そして私の見たランジュの透明よりも綺麗な輝きを、作品として伝えたい」

栞子「そう強く思ったんです」

しずく「なるほど、よく分かったよ! 『命が揺れる』かあ。いい表現だね」

栞子「しずくさんに褒めてもらえるなんて恐縮です」

しずく「私も栞子さんのような後継を持てて幸せだよ。愉悦同好会の未来は明るいね!」

栞子「ふふっ、私は監視のために入部しているだけですよ?」

しずく「ああ、そうだったね。うっかりしてたよ」フフッ

52: 2022/07/09(土) 20:04:23.04 ID:ODNTDvsx.net
しずく「それで、もう1つだけ聞きたいんだけど、どうして執拗に上げ落としをしたの?」

しずく「ランジュさんの命を何度も激しく揺らしたかったってこと?」

栞子「端的に言えばそうですね」

しずく「私は時間をかけて丹念に積み上げてから、それを一気に崩してしまうのが好みなんだけど……」

しずく「ああやって首根っこを適当に掴んで、無造作に地面に叩きつける感じも意外と悪くなかったなあ」

しずく「自分の好みの曇らせに拘泥してちゃダメだね。新しい可能性を見逃しちゃう。勉強になったよ」

栞子「ありがとうございます」

栞子「それと、私には絶望に対する持論があるんです。上げ落としを用いたのはそのためですね」

しずく「絶望に対する持論?」

53: 2022/07/09(土) 20:08:14.75 ID:ODNTDvsx.net
栞子「私は、絶望というものには鮮度があると思うんです」

しずく「鮮度?」

栞子「はい、鮮度です。人はどんなことにでも慣れてしまう生き物です」

栞子「どんな絶望でも、十分に時間が経てばいつかは平凡な日常になってしまう……」

しずく「うん、なるほど。続けて」ワクワク

栞子「つまり真の意味での絶望とは、静的な状態ではなく変化の動態」

栞子「確かに感じた希望が打ち砕かれる、その瞬間のことを言う」

栞子「いかがでしたか? 瑞々しく新鮮な、ランジュの絶望の味は」

しずく「COOL! 最高だよ! 超COOLだよ、栞子さん!」

しずく「OKだよ! やっぱり私の見立てに間違いはなかった!」

しずく「さぁ、もっと曇らせよう! もっともっとCOOLな曇らせっぷりで、私を魅せてよ!」

栞子「しずくさん、あなたのような理解ある先達を得られたのは幸いです」

しずく「栞子さん! これから愉悦同好会で、ともに曇らせの高みを目指そうね!」

栞子「はい、喜んで」

54: 2022/07/09(土) 20:11:36.71 ID:ODNTDvsx.net
1ヶ月後

しずく「栞子さん、今日の曇らせも素晴らしかったよ! まさかエマさんが、ああも見事に曇るとはね」

栞子「いつも優しい笑顔のエマさんが曇ると、言葉にできない魅力がありますよね」

しずく「いやあ、今回の栞子さんの作品には脱帽だなあ」

しずく「初めから素質があるのは分かってたけど、それでも栞子さんの成長には驚きだよ」

しずく「これは、愉悦同好会のエースの座を譲った方がいいかもしれないね」

栞子「今回は運がよかったです。ここまで上手くいくとは自分でも思っていませんでした」

栞子「エマさんへの曇らせと果林さんへの曇らせが、予想外の化学反応を起こして……」

栞子「今の私の実力を超える望外の結果が得られましたね」

55: 2022/07/09(土) 20:15:00.72 ID:ODNTDvsx.net
しずく「でも、複数の曇らせを共鳴させるってアイデアは画期的だったよ!」

しずく「関わる人数が多くなると不確定要素が増えるから、今までは可能な限り避けるようにしてたんだ」

しずく「ほら、特に私はすべてを完璧にコントロールしたいタイプだから」

しずく「だけど、栞子さんの手による傑作を見て、私も挑戦したいって思ったの!」

栞子「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、少しでも何かが違えば大失敗の可能性もありましたからね」

栞子「成功したからよかったというわけではなく、勢いに任せがちなところは私も反省しなくては」

しずく「それを失敗させないアドリブ力がすごいんだよ」

しずく「私はアドリブが苦手だからなあ。でも、これを克服すれば演技力の向上にも繋がるかも!」

57: 2022/07/09(土) 20:18:21.11 ID:ODNTDvsx.net
栞子「そう言うしずくさんも、かすみさんと一緒に璃奈さんも曇らせてたじゃないですか」

しずく「うーん、でもなあ。あれは、2つの曇らせを意図的にコラボさせたってわけじゃないからね」

しずく「かすみさんを曇らせてたら、流れ弾が期せずして璃奈さんにも当たったって感じだからさ」

栞子「ですが、それも組み込んだシナリオに即座に修正して、璃奈さんも最大限に曇らせたでしょう?」

栞子「あれを見たら、アドリブが苦手とは思えませんよ?」

しずく「璃奈さんも巻き込めることに気づいてから次の展開までに、1時間くらいの猶予があったからね」

しずく「その間に必氏でシナリオを修正して、なんとか満足できるものにしたんだ」

しずく「もっと一瞬で当意即妙な対応ができるようになれたらなあ」

58: 2022/07/09(土) 20:21:59.76 ID:ODNTDvsx.net
栞子「なるほど、向上心が高いのは素晴らしいですね」

栞子「あの修正は実に見事で、璃奈さんなんて2週間ほど経った今でも曇っているというのに……」

栞子「細部まで心遣いが行き届いたシナリオは、しずくさんの丁寧で誠実な人となりを表しているようです」

栞子「非常に好感が持てますね」

しずく「周囲の全員を取りこぼすことなく拾い上げる、栞子さんの手腕も素敵だよ」

しずく「今回のだって、エマさんと果林さんにつられて、同じ3年生の彼方さんまで少し曇ってたし」

しずく「誰も見捨てないのは、上に立つ者の資質だね。虹ヶ咲の全生徒が曇る日も近いよ!」

しずく「さすが生徒会長! 尊敬しちゃうな」

栞子「ふふっ」イチャイチャ

しずく「へへっ」イチャイチャ

59: 2022/07/09(土) 20:25:41.29 ID:ODNTDvsx.net
栞子「今回は偶然の要素が多かったですが、複数の曇らせを協同させる手法は確立したいですね」

しずく「同好会メンバーの組み合わせの数を考えると、可能性が一気に広がるよ!」

栞子「私たち以外の11人から2人を選ぶ組み合わせの総数は、55パターンもありますからね」

しずく「それに、エマさんみたいな単独だと曇りにくい人の攻略法を考える楽しみもあるなあ」

しずく「スクールアイドルなことをカミングアウトしてから、せつ菜さんがまるで曇ってくれないんだ」

しずく「生徒会長の重圧からも解放されて、完全に無敵モードっていうか……」

栞子「確かに今のせつ菜さんは、エネルギーに満ち溢れてますよね」

しずく「いつもペカペカ笑顔で可愛いんだけど、愉悦同好会としてはなんとかしたいんだよねえ」

しずく「組み合わせるなら、やっぱり歩夢さんかな? それとも侑先輩?」

しずく「いや、いっそのこと3人で……」ブツブツ

栞子「ああ、確かに2人より多くてもいいわけですか。考えが及びませんでした。先入観は怖いですね」

栞子「考えてみれば、同好会のメンバーである必要もありませんよね。……彼方さんと遥さんとか?」

栞子「他にも同時ではなく時間差でとか、ロンドンの歩夢さんと日本の侑さんを一緒にとか……」ウーン

60: 2022/07/09(土) 20:29:03.89 ID:ODNTDvsx.net
栞子「ふふっ、アイデアが尽きませんね。しずくさんは、何か他に――」

栞子「あれ? しずくさん? どこですか?」オーイ!

栞子(少し目を離した隙に、いなくなってしまいました……)キョロキョロ

栞子(何か急用でも思い出したんですかね? まあ、いいです。私も生徒会長の仕事に戻って――)

??「ちょっといいかな~」

栞子「はい?」

彼方「栞子ちゃん、見つけたよ~」

栞子「彼方さん、それに……」

ミア「栞子、こんなところにいたのか」

せつ菜「栞子さん……」

61: 2022/07/09(土) 20:32:22.43 ID:ODNTDvsx.net
彼方「栞子ちゃんは、こんなところで何をしてたのかな~」

栞子「しずくさんと話をしていたんですが、どこかへ行ってしまって……」

栞子「みなさんは、しずくさんを見かけませんでしたか?」

ミア「いや、ボクは見てないな」

せつ菜「私もです」

栞子「そうですか……。しずくさん、どうしたんでしょう?」ウーン?

栞子「まあ、私も生徒会長としての職務に戻らないといけないので、次に会ったときに――」

彼方「そんなことより、栞子ちゃんへのお仕置きを始めるよ~」ガシッ

63: 2022/07/09(土) 20:35:44.17 ID:ODNTDvsx.net
栞子「お、お仕置き!? どういうことですか!?」

彼方「自分の胸に聞いてみな~。その、この場で最も貧Oな胸にね~」

せつ菜「彼方さん、まずは栞子さんの話を聞く予定じゃありませんでしたか?」

彼方「そのつもりだったんだけど、もう必要ないかな~」

彼方「絶対に聞き捨てならない台詞が聞こえたからね」

彼方「おい、遥ちゃんをどうするって? あ?」ピキピキ

栞子「あ、いや、それは……」

ミア「ほらな、だからボクは話を聞く必要なんかないって言ったんだ」

ミア「犯罪者なんてやつらは、現場で射殺されるのがお似合いさ。必要なのは鉛玉であって、裁判じゃない」

栞子「ミアさん!?」ガーン!

ミア「最近ずっとランジュの調子が悪かったけど、まさかキミが原因だったとはな」ギロッ

65: 2022/07/09(土) 20:39:10.64 ID:ODNTDvsx.net
彼方「う~ん、でもここは日本だから、話くらいは聞いてあげようかな?」

彼方「栞子ちゃん、言い訳があるなら聞くよ。まあ、遺言でもいいけどさ」

栞子「…………えっと、その、私には何のことだか分かりかね――」

彼方「はい、終わり~。彼方ちゃん裁判長の判決は氏刑で~す!」

栞子「か、彼方さん……?w」

彼方「じゃあ、お仕置きを始めるよ。ミアちゃん、お願いね~」

ミア「OK! ほら、これを……」ゴソゴソ

彼方「ありがとう~」ゴソゴソ

栞子「彼方さんもミアさんも、ヘッドホンなんかつけてどうしたんです?」

彼方「……」🎧

ミア「……」🎧

栞子「彼方さん? ミアさん?」

66: 2022/07/09(土) 20:42:48.22 ID:ODNTDvsx.net
せつ菜「ここからは私が説明しましょう!」

栞子「せつ菜さんはヘッドホンをしないんですか?」

せつ菜「ええ、私には必要ありませんから!」ペカー

せつ菜「あのヘッドホンはミアさんが用意したもので、超高性能なノイズキャンセリング機能があるんです」

せつ菜「だから、お2人とも栞子さんの声が聞こえていないんですよ。無視してるわけじゃないんです!」

せつ菜「すごいんですよね? そのヘッドホン」👉 チョンチョン

ミア「ん? ああ、このヘッドホンのことかい?」

ミア「これは我がテイラー家がMITに開発してもらったヘッドホンで、完全な無音状態になれるんだ」

ミア「自分自身から生まれる音だけを聞いて自らと対峙することで、inspirationが得られるのさ」

ミア「これをしてれば、すぐ後ろに核兵器が落ちたって気づかないからな!」HAHAHA!

せつ菜「おお、すごいですね!」ワクワク!

栞子「いえ、私はヘッドホンをしている理由の方を知りたいんですけど……」

67: 2022/07/09(土) 20:46:17.42 ID:ODNTDvsx.net
せつ菜「ああ、それはですね。残念ですが栞子さんにお仕置きをしなくてはいけないので、そのときに――」

彼方「せつ菜ちゃん、説明は終わった~?」

せつ菜「……まあ、口で説明されるより実際に体験する方が早いですか」

せつ菜「彼方さん、もう大丈夫ですよ!」👍 グッ!

彼方「よし、じゃあ始めるよ~」

彼方「セツオング、キミにきめた! ハイパーボイス!」

せつ菜「ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!」

栞子「」キーン

栞子「……ぅぁ、ぅゅゅ」

彼方「畳みかけろ! 爆音波だ!」

せつ菜「ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!!!」

栞子「」チーン

69: 2022/07/09(土) 20:49:38.56 ID:ODNTDvsx.net
彼方「あれ? せつ菜ちゃんの声、ちょっと聞こえたよ?」ゴソゴソ

ミア「ボクもだ。というか、彼方の声も普通に聞こえるぞ」ゴソゴソ

ミア「まさか、壊れた? おい、そっちも渡してくれ!」

彼方「いいよ~」つ🎧

ミア「……I can't believe it! 壊れてる。おいおい、人の声で壊れるようなものか?」

彼方「せつ菜ちゃんの声がそれだけすごかったんだよ~」

彼方「せつ菜ちゃんに頼まれた通りに言ったけど、2回目の爆音波とかいうやつの方がすごいんだよね?」

せつ菜「はい、そうです! ハイパーボイスは威力90ですが、爆音波は威力130ですからね!!!」

せつ菜「それに私はノーマル複合ですから、タイプ一致でそれぞれ135と195に――」

彼方「うん、ありがとう。彼方ちゃんにはよく分かんないから、それくらいでいいよ~」

ミア「栞子のやつ、氏んでないよな?」

彼方「さすがに大丈夫でしょ~」

栞子「」ビクッビクッ

彼方「ほら、なんか動いてるしさ」

ミア「あれは大丈夫なのか?」

70: 2022/07/09(土) 20:53:17.98 ID:ODNTDvsx.net
彼方「よ~し、じゃあ次はしずくちゃんを探して――」

せつ菜「うおおおおおおおお!!! 喉も温まってきましたよ!」

せつ菜「私の本気の一撃をお聞かせしましょう!!!!!」

せつ菜「悪巧み3積みをバトンした、C特化の眼鏡セツオングによる爆音波です!」

せつ菜「私のC種族値と特性があれば、輝石を持ってD特化したピンクの悪魔が壁下でダイマックスしても確1ですよ!!!」

せつ菜「あっ! 眼鏡をかけてるから、ナナオングでした!」ペカー

彼方「めっちゃ早口で言ってる! 言ってる内容も、まったく意味が分からないし!」

ミア「そんなこと言ってる場合か! 早く距離を取って――」

せつ菜「ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!!!!!」

彼方「」キーン

ミア「」キーン

栞子「」ビクンビクン

72: 2022/07/09(土) 20:56:42.18 ID:ODNTDvsx.net
ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!

しずく(あの音響兵器は、せつ菜さんだね。かなり離れてるのに、これかあ。危ないところだったよ)

しずく(窓ガラスに映った彼方さんたちに気づけたのはラッキーだったね)

しずく(これも日頃の行いのおかげかな。たとえ運命を司る神様だって、大女優の演技は見抜けないよ)フフッ

しずく(今のうちに証拠を回収して、偽のアリバイを作って、かすみさんを曇らせて……)

しずく(決定的な証拠さえなければ、優しい同好会のみなさんなら見逃してくれるはず)

しずく(さすがに警戒はされるだろうから、ほとぼりが冷めるまでは大人しくかすみさんを曇らせてよう)

しずく(……栞子さんも回収したいけど、それは難しいよね?)

しずく(曇らせの腕は上達したけど、こういうときの立ち回りは苦手そうだなあ)

しずく(こういうことも教えておけばよかったよ。失敗しちゃった)

73: 2022/07/09(土) 21:01:26.29 ID:ODNTDvsx.net
しずく(いっそのこと、栞子さんをすべての黒幕に仕立て上げるのもありかな)

しずく(うーん、どうしよう?)

しずく(栞子さんを売って生徒会長の憎しみを買う方が楽しいか、栞子さんを売らずに助けて同好会を敵に回すのが楽しいか……)

しずく(迷うなぁ~💙)

しずく(栞子さんを売らずに、彼女が自白して同好会にも憎まれず……じゃ、かすみさんが曇ってもプラマイゼロじゃない?)

しずく(それなら、栞子さんを売って生徒会長に憎まれて、その生徒会長を唆して同好会に憎まれて……がベストなんじゃ――)

?「おい」ガシッ

しずく「きゃっ!」

しずく「だ、誰ですか!? いきなり肩を掴むなんて、危ないじゃないで――」

愛「おまえか?」

74: 2022/07/09(土) 21:02:34.63 ID:ODNTDvsx.net
その日、しずくちゃんは氏にました。

終わりです

75: 2022/07/09(土) 21:08:01.29 ID:c3biYsWA.net
面白かったのでかすみとランジュが慰めあってるうちにくっついてしおしずが曇るルートもお願い

77: 2022/07/09(土) 21:11:15.17 ID:iknBNCTD.net

これはヒーロー愛さん

引用元: 栞子「私に曇らせの適性がある?」しずく「はい💙」