1: 2008/03/02(日) 00:53:12.30 ID:O2wowKnOO
わたしの名は喪黒福造……人呼んで『笑ゥせぇるすまん』
ただの『せぇるすまん』じゃございません。わたしの取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

この世は老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり……
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

さて、今日のお客様は……

【涼宮ハルヒ(15)学生】

ホーッホッホッホ……

3: 2008/03/02(日) 00:54:59.97 ID:O2wowKnOO
ハルヒ「はぁ……」

喪黒「あの、もしもし?」

ハルヒ「何よ、あんた。何か用?」

喪黒「すみません、あなたのようなうら若きお嬢さんが、道の真ん中であんな深い溜め息などついていたものですから、どうかしたのかと思いまして……」

ハルヒ「……ちょっとオジサン、もしかしてナンパ?」

喪黒「ホッホッホ……まあ立ち話もなんですから、どうです? そこらでお茶でも」

5: 2008/03/02(日) 00:56:22.74 ID:O2wowKnOO
―――BAR 魔の巣

喪黒「ホホゥ、毎日が退屈なんですか」

ハルヒ「そう、ホントつまんない! 面白いことなんか一つもないわ!!」

喪黒「しかし、学生でしたらボーイフレンドと遊んだり、今は一番楽しい時期では?」

ハルヒ「ダメ、中学の時色んな奴と付き合ったけどみんなつまんない男ばっかり……!
高校でも同じような男しかいないし」

喪黒「それはそれは……ところで、あなたの考える面白い人とは、一体どのような人なんですか?」

ハルヒ「そうね……宇宙人とか未来人とか超能力者とか……そういう不思議な人が良いわね」

喪黒「それじゃあ、あなたのお眼鏡にかなう人はなかなか現れないでしょうな」

ハルヒ「まあね……」

喪黒「では部活動なんてどうです? 仲間と一緒に青春の汗を流すというのもなかなか良いものですよ?」

ハルヒ「それもダメ。 片っ端から仮入部してみたけど運動部はみんなつまんなかったし、
ミステリー同好会も超常現象研究会も単なるマニアの集まりばっかりで話になんないわ」

喪黒「それは難儀ですなァ」

6: 2008/03/02(日) 00:57:29.34 ID:O2wowKnOO
ハルヒ「はぁ、何か面白いことでも起きないかしら……」

喪黒「ホッホッホ……あなたのお悩みはよくわかりました。
……申し遅れましたが、実はわたくし、こういう者です」

ハルヒ「『ココロのスキマ、お埋めします』……何よ、あなたもしかしてセールスマンか何か? 言っとくけど、あたしお金なんて持ってないからね?」

喪黒「お察しの通り、確かにわたしはセールスマンです。しかしボランティアですので、お金は一切いただきません……
わたしの仕事は、あなたのようにココロにスキマを持っている方に、力をお貸しすることなのです。
お客様が満足されましたら、それが何よりの報酬です」

ハルヒ「ふぅん……それで、何をしてくれるの?」

喪黒「まずアドバイスを一つ……面白いことがないのであれば自分で作れば良いのです。
例えば、あなたの満足するクラブがなければ新しく設立してしまえば良いわけです」

ハルヒ「あぁ、それいいわね!」

8: 2008/03/02(日) 00:58:32.21 ID:O2wowKnOO
喪黒「ホッホッホ、それからこれをどうぞ……」

ハルヒ「え…何なの? この像……」

喪黒「これは遠い昔、あらゆる願いを叶えてくれたといわれる猫の神様をかたどった物です。
その像に願をかければ、たちどころに叶えてくれるでしょう」

ハルヒ「ホントに?」

喪黒「きっと、あなたの日常を面白おかしく変えてくれるはずですよ」

ハルヒ「へぇ……」

喪黒「ま、騙されたと思って試してみてくださいな。ホッホッホ……」

9: 2008/03/02(日) 00:59:33.84 ID:O2wowKnOO
――ハルヒ宅

ハルヒ(ホントにこんなもん、ご利益あんのかしら? まぁいいわ、どうせタダだったんだし……)

ハルヒ「えっと、どうか面白いことが起きますように……宇宙人や未来人や超能力者が現れますように……そして、一緒に遊べますように」

ハルヒ(ふう……これでいいのかしら…? まあ願い事はさておき、明日は早速クラブ作りに取り掛かろ……
まず、部室見つけなきゃ……あと部員と、提出用の書類……はキョンにやらせればいいか……
部員は、とりあえず可愛い子と……
あと謎の転校生なんかも欲しいかな……それで―――……ぐぅ……)

10: 2008/03/02(日) 01:00:21.84 ID:O2wowKnOO
―――後日

ハルヒ「この間はありがとね、オジサン!」

喪黒「どうですか、その後の学校生活は?」

ハルヒ「このチラシを見て!」

喪黒「ホホゥ、SOS団ですか?」

ハルヒ「『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』の略よ、これを新しく作ったの。
まあ、宇宙人や未来人や超能力者はまだ見つからないけど、
良い感じに部員も集まったし、それなりに楽しくなりそうだわ!」

喪黒「それは結構ですな」

12: 2008/03/02(日) 01:01:56.73 ID:O2wowKnOO
ハルヒ「ホント、ありがとね!」

喪黒「いえいえ、お礼には及びませんよ。
……ただし、一つだけ気をつけて欲しいことがあるのです」

ハルヒ「え、何を?」

喪黒「今の状況はあなたが願った結果なのです。何があろうと、それに一切不満を持ってはいけませんよ? さもないと……」

ハルヒ「さもないと、どうなるの?」

喪黒「取り返しのつかないことになってしまいます。
いいですね、くれぐれも、注意してくださいよ?」

ハルヒ「わ、わかったわ……」

15: 2008/03/02(日) 01:03:59.46 ID:O2wowKnOO
――数週間後、SOS団部室

キョン「朝比奈さん、そんな律義にハルヒの言い付けを守らなくても」

みくる「いえ、良いんです。はい、お茶どうぞ。
……あれ? そのフォルダ、どうしてあたしの名前がついてるの?」

キョン「(ぐあ、抜かった!)いやあ、これはその、何だ、さあ何でしょうね、うん、何でもありません」

みくる「嘘、いいじゃないですか、見せて見せて」

キョン「(せ、背中に柔らかな感触が!)
あの、朝比奈さん、ちょっと離れ……」

みくる「そんなこと言わないで、ね、ね、見せて下さいよ―――」

ガチャ

ハルヒ「何やってんの、あんたら」

みくる「あ……」

ハルヒ「楽しそうね。あんた、メイド萌えだったの?」

キョン「なんのこった」

ハルヒ「……ねぇ、着替えるんだけど?」
キョン「ああ、いいぞ?」
ハルヒ「出てけって言ってんの!!」
キョン「あぁ、すまん(いつも気にせんくせに、どうしたんだ?)」

18: 2008/03/02(日) 01:05:34.50 ID:O2wowKnOO
ハルヒ「……もう帰る!」

バンッ!

キョン「まったく……なんだ、あいつ?」

ハルヒ(つまんない、面白くない! ぜんっぜん面白くない!! こんなの、結局前と変わんないじゃない……! ……だったら、だったら!)

20: 2008/03/02(日) 01:06:25.10 ID:O2wowKnOO
喪黒「ホッホッホ、さて、今頃彼女はどうしてるんでしょうか……おや? こりゃ大変だ」


―――閉鎖空間

ハルヒ(灰色の世界で……青い巨人が、街を壊してる……でも全然怖くない、楽しい!)

喪黒「あらら、これはまたずいぶん派手にやってますな」

ハルヒ「あっ! オジサン見て、不思議よ!! とうとう出会ったのよ、あたし自身が!」

喪黒「涼宮さん……あなた忠告を無視しましたね? あれほど不満を持ってはいけないと言ったのに……
このままでは、みんな壊れて無くなってしまいますよ?」

ハルヒ「いいのよ! もうあんなつまんない世界もSOS団もいらない、だって今こんなに面白いもの!!
きっと明日からはこの新しい世界が始まるの……! そうに違いないわ!!」

喪黒「いやはや……まったく仕方ありませんねェ。そんなに別の世界とやらに行きたいのなら、わたしが連れていって差し上げましょう!」

ド――――――ン!!!

きゃああああ!!!

21: 2008/03/02(日) 01:07:25.21 ID:O2wowKnOO
――おい……起きろよ……涼宮、涼宮!

ハルヒ(ん……学校? そっか、あたしいつの間にか寝てたんだ……)

おい! もうHRだぞ、涼―――

ハルヒ「うるさいわね、分かってるわよ! キョ……ン……?」

谷口「何言ってんだ? ほら、先生来たぞ」

ハルヒ「え……ちょ、ちょっと! あんた誰よ!? そこはキョンの席でしょ!」

谷口「は? まだ寝ぼけてんのかよ……ここはずっと俺の席だろうが」

ハルヒ「違うわよ! あたしの前はずっとキョンで、席替えの後も……キョン、キョンは? キョンどこ行ったの!?」

谷口「おい、落ち着けよ。それにキョンって誰だ? そんな奴うちのクラスにいないだろう」

ハルヒ「そ、そんなのって……そうだ! SOS団は!?」

谷口「おい、どこ行くんだ涼宮! HR始まるぜ!?」

ハルヒ(文化部の部室棟……文芸部があった場所……!)

23: 2008/03/02(日) 01:10:08.45 ID:O2wowKnOO
ハルヒ(文芸部室……ここだ!)

ハルヒ「み、みんな! いる!?」

バンッ!

女生徒「あ……あの、何か御用ですか?」

ハルヒ「あ、あなた誰よ!? ここはSOS団の部室だったはずでしょ!!」

女生徒「え? あの、ここはずっと前から文芸部が使ってますけど……
他と間違えてるんじゃ―――」

ハルヒ「そんなはずないでしょ! 文芸部は今年有希一人しか部員がいないからここを……
あ、有希……有希はどこ? いるんでしょ? 有希! みくるちゃん! 古泉君!? キョン!!
なんで……なんでみんないないの!!? 出てきなさいよ……! 出てきてよ、みんなぁ……!!」


喪黒「案外、世界というのは誰かさんの見ている夢なのかもしれません。つまり彼女は、夢から覚めただけに過ぎないのです。
まあ、それでも一時とはいえ、楽しい夢を見れたのですから、ましな人生だったんじゃないんですかねェ」

ホーッホッホッホ!!

37: 2008/03/02(日) 01:25:06.97 ID:O2wowKnOO
わたしの名は喪黒福造……人呼んで『笑ゥせぇるすまん』
ただの『せぇるすまん』じゃございません。わたしの取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。


この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり……
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます

さて、今日のお客様は……

【朝比奈みくる(禁則事項)未来人】

ホーッホッホッホ……

38: 2008/03/02(日) 01:27:09.33 ID:O2wowKnOO
ハルヒ「今日はもう解散!」

長門「……」

キョン「それじゃ、俺達も帰りますか」

みくる「あ、あたし着替えてから帰りますから」
キョン「わかりました、じゃあまた明日」

長門「……」

バタン……

みくる「はあ……帰っちゃった……」

喪黒「すみません、わたしにもお茶を一杯いただけませんか?」

みくる「ひう!! あああなた誰ですか? どこから入ったんですか!?」

喪黒「ホッホッホ、驚かせしてすみません……わたくしこういう者でして」

みくる「モコク……フクゾウさん?」

喪黒「モグロと読むのです、朝比奈みくるさん」

みくる「ど、どうしてあたしの名前をご存知なんですか?」

喪黒「ホッホッホ……まあ細かいことは気にせずに」

39: 2008/03/02(日) 01:28:52.29 ID:O2wowKnOO
喪黒「いやあ! これは実に美味いお茶ですなァ」

みくる「あの、それで一体……」

喪黒「ああ、これは失礼。実はわたし、とある福祉事業団体に所属しておりまして、
心に悩みを持つ方をボランティアでお助けしているのです」

みくる「はぁ……」

喪黒「時に、朝比奈さん。ズバリ、あなたは今悩みを抱えている……違いますか?」

みくる「そ、そんな……あたしに悩みなんて……」

喪黒「わたしに嘘ついちゃいけません、あなたを見ていればよくわかります……どうぞ、話してみてください」

みくる「実は―――……」

40: 2008/03/02(日) 01:29:51.36 ID:O2wowKnOO
喪黒「恋わずらいですか」

みくる「……はい」

喪黒「つまり、あなたは先程の青年に恋をしているのですな……
しかし、あなたほどのルックスと、そのナイスボディがあれば、
若い男性なんて簡単に落ちてしまうんじゃないでしょうか?」

みくる「……あたしじゃダメなんです!」

喪黒「それはまたどうして?」

みくる「それは、あたしは……その……」

喪黒「この時代の人間ではないからですか?」

みくる「!!?」

43: 2008/03/02(日) 01:31:07.22 ID:O2wowKnOO
喪黒「ホッホッホ……あてずっぽだったんですが、どうやら正解のようですな」

みくる「お、驚かないんですか?」

喪黒「わたしの知人にもあなたのように少し不思議な人間は山ほどいるものですから、
ちょっとやそっとのことでは驚きません」

みくる「そう……確かにわたしは未来から派遣されてこの時代に来ました」

喪黒「ああ、あなたTP(タイムパトロール)の方でしたか」

みくる「はい……まだ新人ですけど」

喪黒「すると、あなたはいつか未来に帰らなければならない……
それじゃあ、この時代の人間と恋に落ちるわけにもいきませんな」

みくる「その通りです……でもそれだけじゃありません。
彼は、その……選ばれた人間なんです、彼女、涼宮さんに……だから」

45: 2008/03/02(日) 01:33:07.34 ID:O2wowKnOO
喪黒「しかし朝比奈さん、それではあなたの人生に悔いが残ってしまいます。
青春というのは今この瞬間しかないのです、後悔をしてはいけません!
たとえライバルがいようと、未来に帰ることになろうと、
いや、いつか未来に帰るのであれば、なおさらです。
その彼とは今、この時間でしか一緒にいられないのですよ?
それなのに、何も行動を起こさないというのは、いかがなものでしょう?」

みくる「で、でも……彼があたしに振り向いてくれるかどうかも……」

喪黒「なるほど……わかりました。どうやら、あなたに一番足りないものは自信のようですな。
朝比奈さん!」

みくる「は、はい!」

喪黒「あなたは自信を持つべきです、自信をつけるのです!」

ド――――ン!!

みくる「ひゃああ!」

47: 2008/03/02(日) 01:36:18.22 ID:O2wowKnOO
―――後日

みくる「あ、待って、キョン君! 今日は一緒に帰りませんか?」

キョン「俺とですか? そりゃ、構いませんけど」

みくる「それじゃ、すぐ着替えますから、ちょっと待っててくださいね」

キョン(どうしたんだろうか、朝比奈さん……また何か話したいことでもあるのだろうか?)

みくる「お待たせしました」

キョン「ああ、それじゃ帰りましょうか」

みくる「はい!」

48: 2008/03/02(日) 01:37:07.97 ID:O2wowKnOO
キョン「それで、朝比奈さん……また何か俺に話でも?」

みくる「え? あ、違いますよ! あの、今日はただキョン君と一緒に帰りたかっただけなんです……ご迷惑でしたか?」

キョン「と、とんでもない! 迷惑なはずがありませんよ」

みくる「良かったぁ! あ、でも……」

キョン「どうしました?」

みくる「あの……キョン君、本当は一つだけお話があるんです」

49: 2008/03/02(日) 01:38:21.92 ID:O2wowKnOO
キョン「(なんだ、やっぱりか……)何ですか?」

みくる「あの、今度のお休み、二人でどこか遊びに行きませんか?」

キョン「二人って……お、俺と朝比奈さんと二人で、ですか!?」

みくる「ふふっ、他に誰がいるんですか?
……それで、その、ダメでしょうか?」

キョン「いや! それは全然構いませんけど、どうしてまた……」

みくる「以前にお話した通り、あたしはこの時代の人間ではありません……いつかは元の時代に帰ります……」

キョン「はい……」

50: 2008/03/02(日) 01:39:07.54 ID:O2wowKnOO
みくる「だから、今の内に、この時代での思い出を作っておきたいんです」

キョン「そうですか……でも、だったら、他の連中も一緒の方が―――」

みくる「あたしは、あなたと二人の思い出が欲しいんです……! お願いします……」

キョン「……わかりました、この俺がきっと楽しい思い出を作って差し上げましょう!」

みくる「あ、ありがとうございます! わぁ、今から楽しみだなぁ……」

キョン「それじゃあ、次の日曜、1時に駅の前で待ち合わせしましょうか?」

みくる「はい!」

51: 2008/03/02(日) 01:39:54.73 ID:O2wowKnOO
みくる「あ……ごめんなさい、あたしの家こっちなんです……だからここでさよならです……」

キョン「そうなんですか……そうだ、良かったら家まで送っていきましょうか?」

みくる「そ、そんな! 悪いですよ……」

キョン「せっかくですから。それに、俺ももっと朝比奈さんとの思い出が欲しいんですよ」

みくる「キョン君……ありがとう、キョン君……」

キョン「こっちですね? さ、行きましょう」

55: 2008/03/02(日) 01:40:37.69 ID:O2wowKnOO
みくる「今日はありがとうね、キョン君」

キョン「いいんですよ、それじゃあまた明日」

みくる「うん、また明日……
はぁ……行っちゃった」

喪黒「ホッホッホ……こんばんは」

みくる「喪黒さん!」

57: 2008/03/02(日) 01:44:01.92 ID:O2wowKnOO
喪黒「どうですか? その後、彼とは」

みくる「あ、聞いてください! 今度一緒に遊びに行く約束をしたんですよ!」

喪黒「ホゥ! もうデートの約束ですか、その調子なら恋人同士になる日も、そう遠くはありませんな」

みくる「ふふっ、そうなれるように頑張ります!
……喪黒さん、本当にありがとうございました、今がこんなに楽しいのはみんな喪黒さんのおかげです……」

喪黒「ホッホッホ、恋に生きるというのは素晴らしいことなのです。
それを感じていただけているなら、わたしも満足です……
これからも応援させていただきますよ、ホーッホッホッホ……」

みくる「はい!」

58: 2008/03/02(日) 01:44:29.29 ID:O2wowKnOO
―――翌日

キョン「朝比奈さん、そんな律義にハルヒの言い付けを守らなくても」

みくる「いえ、良いんです。はい、お茶どうぞ・・・あれ? そのフォルダ、どうして、あたしの名前がついてるの?」

キョン「(ぐあ、抜かった!)いやあ、これはその、何だ、さあ何でしょうね、うん、何でもありません」

みくる「嘘、いいじゃないですか、見せて見せて」

キョン「(せ、背中に柔らかな感触が!)
あの、朝比奈さん、ちょっと離れ……」

みくる「そんなこと言わないで、ね、ね、見せて下さいよ―――」

ガチャ

ハルヒ「何やってんの、あんたら」

59: 2008/03/02(日) 01:44:48.58 ID:O2wowKnOO
みくる「あ……」

ハルヒ「楽しそうね。あんた、メイド萌えだったの?」

キョン「なんのこった」

ハルヒ「……ねぇ、着替えるんだけど?」

キョン「ああ、いいぞ?」

ハルヒ「出てけって言ってんの!!」

キョン「あぁ、すまん(いつも気にせんくせに、どうしたんだ?)」

60: 2008/03/02(日) 01:45:09.82 ID:O2wowKnOO
ハルヒ「……もう帰る!」

バンッ!

キョン「まったく……なんだ、あいつ?」

みくる(あ……あぁ……どうしよう……!)


みくる(涼宮さんを怒らせた……この世界はもう―――)

喪黒「どうかしましたか? 朝比奈さん。顔色が悪いですよ?」

みくる「も、喪黒さん! あたし、とんでもないことを……」

61: 2008/03/02(日) 01:45:49.74 ID:O2wowKnOO
喪黒「ホゥ、それは大変ですな」

みくる「このままじゃ、この世界が危ないんです……でも、もうどうしようも……!」

喪黒「ホッホッホ、仕方ありません。彼女の方はわたしが何とかしておきましょう」

みくる「そんな! どうやって?」

喪黒「まあ、わたしにお任せくださいな。あなたは安心して、引き続き楽しい思い出をお作りなさい」

63: 2008/03/02(日) 01:46:47.97 ID:O2wowKnOO
みくる「でもダメです……あたし、もう……」

喪黒「おやおや……せっかく自信をつけたというのに、すっかり弱気になってしまいましたねぇ」

みくる「うぅ……やっぱり彼のことは諦めるしか……」

喪黒「いいえ、諦めることはありませんよ。
朝比奈さん!」

みくる「は、はい!」

喪黒「今一度、あなたは恋に生きるのです! 生きなければ、ならないのです!!」

ド――――――ン!!!

ひゃああああ!!!

66: 2008/03/02(日) 01:49:09.61 ID:O2wowKnOO
――日曜日

キョン(少し早く来過ぎたかな……しかし、休みとはいえ、今日は人が多いな……特に男)

みくる「すみませぇん! お待たせしました!」
キョン「あ、朝比奈さ―――」

男1「お、やっと来た!」

男2「ちょっと、遅いよみくるちゃん!」

男3「みくる! こっちこっち!」

男4「朝比奈、待ちくたびれたよ」

男5「みくるちゃん! 今日はどこ行くー?」

男6「いやぁ、俺も今来たとこでさ」

男7「おいおい、何やってたんだよ」

――みくるっ!!

67: 2008/03/02(日) 01:50:03.79 ID:O2wowKnOO
キョン「あ……朝比奈さん、これは一体!? まさかここにいる奴ら全員―――」

みくる「あのね、あたしたくさんたくさん思い出が欲しいんです……
だからキョン君だけじゃ足んないんだぁ、ゴメンネ?」

――ふふっ……恋って楽しいなぁ!


喪黒「いやぁ、これもまた恋愛の一つの形ですか……
しかし、皆さんも気をつけてくださいね。人の心なんてコロッと変わってしまうものなんです。
まあ、恋愛感情なんて一時の気の迷い……精神病の一種みたいなもんだそうですから、仕方ないんでしょうなァ」

ホーッホッホッホ!!

73: 2008/03/02(日) 01:58:33.84 ID:O2wowKnOO
わたしの名は喪黒福造……人呼んで『笑ゥせぇるすまん』
ただの『せぇるすまん』じゃございません。わたしの取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり……
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

さて、今日のお客様は……

【長門有希(3)宇宙人】

ホーッホッホッホ……

78: 2008/03/02(日) 02:01:25.31 ID:O2wowKnOO
――図書館

長門(世界の崩壊と創造は、何者かによって防がれた。
また、彼と一緒に図書館に来れる。それを私は望んでいる。
そう願う理由は、わからない)

スッ……

長門(あ、本が……)

喪黒「おや、この本あなたも探してらしたんですか?」

長門「……そう」


喪黒「ホッホッホ、『感情心理から見たコミュニケーションの研究』……
これはまた、お若いのにずいぶん難しい本をお読みになるのですな。本がお好きなんですか?」

長門「……割と」

80: 2008/03/02(日) 02:02:46.08 ID:O2wowKnOO
喪黒「申し遅れました。実はわたくし、セールスマンをやっているのですが」

長門「……ココロのスキマお埋めします?」

喪黒「はい、ちょうどあなたにピッタリの品物があるのです」

長門「いらない」

喪黒「ホッホッホ……そうですか。しかし今のあなたには間違いなく必要な物だと思いますよ? いかがです?」

長門「いらない」

喪黒「それは失礼しました……まあ、もし興味がわいたなら、その名刺の裏に書かれた場所まで来て下さい。
では、またお会いしましょう……ホーッホッホッホ」

長門「しまった……本を持って行かれた」

82: 2008/03/02(日) 02:04:43.86 ID:O2wowKnOO
――その夜

長門(名刺に書かれている住所はこの辺りのはず)

喪黒「ホッホッホ……お待ちしておりました」

長門「……どうして私がくることを?」

喪黒「セールスマンの勘というやつです。さ、こちらへどうぞ」


―――魔の巣


喪黒「この辺りは結構入り組んでいますから、迷っているんじゃないかと思って外でお待ちしていたのです」

長門「どうも」

喪黒「いえいえ、お気になさらずに……
ああ、そうそう。これが先日言っていた物なんですが……」

長門「違う。私がここに来た理由は、あの時あなたが持っていった本が読みたかったから」

喪黒「ああ、なるほど。そうでしたか。
……これでしたね、どうぞ」

長門「……」

ペラペラ……

84: 2008/03/02(日) 02:05:36.71 ID:O2wowKnOO
喪黒「しかし何故その本をお探しだったのですか?」

長門「興味深いテーマ」

喪黒「感情に興味がおありで?」

長門「……」

喪黒「失礼ですが、あなたは感情というものが非常に乏しいようにお見受けします」

長門「そう生まれたから、仕方ない」

喪黒「ですが、本当は欲しいのでしょう? 感情が……」

長門「理解したいだけ。有機生命体とのコミュニケーションがより円滑に行えるようになる」

喪黒「ホッホッホ、ま、そういうことにしときましょう」

86: 2008/03/02(日) 02:08:16.06 ID:O2wowKnOO
喪黒「しかし、やはりこれはあなたに必要な物でした。どうぞ」

長門「これは?」

喪黒「一見するとただのハンドクリームですが、これを、ちょっと失礼……
ここです、手相の感情線と呼ばれるところに塗れば、一時的にですが感情が豊かになるのです。
何かを理解するには体験するのが一番です。どうぞお試しください」

ぺたぺた

長門「……特に変化はない」

喪黒「ホッホッホ……効果が表れるまでにはしばらく時間がかかるのです。まあ、明日のお楽しみということで」

長門「……そう」

89: 2008/03/02(日) 02:11:12.45 ID:O2wowKnOO
喪黒「そのクリームは差し上げます、毎日就寝前にお使い下さい」

長門「今、お金を持っていない」

喪黒「それはまだ試作品ですので、お代は結構です。その代わり、今度使い心地を報告してくださいな」

長門「……わかった」

93: 2008/03/02(日) 02:13:37.73 ID:O2wowKnOO
―――翌日、部室


キョン「お、長門、相変わらず早いな」

長門「あ……キョンさん、こんにちは!」

キョン「な……長門?」

長門「どうしたんですか? あ、そうだ。キョンさんもお茶飲みます?」
キョン「いや……」

長門「……いらない?」

キョン「え、あ、いや、飲もう……かな」

長門「それじゃ、すぐ入れますね! あ、紅茶と緑茶どっちがいいですか?」

キョン「じゃあ、緑茶で……」

長門「はい! では、ちょっと待っててくださいな」

96: 2008/03/02(日) 02:15:01.16 ID:O2wowKnOO
キョン「な、なあ……今日はどうしたんだ? 何かあったのか?」

長門「え…? 私、どこか変ですか?
……はいお茶です。熱いから気をつけてどうぞ」

キョン「いや決して変ではなく、むしろこれが普通なのだろうが、何と言うか……あちぃっ!」

長門「あ、大丈夫? もう……変なのはキョンさんだよ? 何だか慌ててます」

キョン「すまん、何だか混乱しちまって……」

長門「ふふふ、やっぱり変だ……」

キョン(おお……あの長門が笑うとは……)

99: 2008/03/02(日) 02:15:55.86 ID:O2wowKnOO
長門「あ、あの……ところで、キョンさん……一個お願いがあるのですが」

キョン「あ、ああ、なんだ?」

長門「もう一度、あの図書館に行きたいのです……あ、あなたと」

キョン「ああ、この前の図書館か? いいぞ、行こうか」

長門「わ、ありがとうございます! あ、お茶……おかわりどうですか?」

キョン「そうだな、じゃあ貰おうか」

長門「はい!」

100: 2008/03/02(日) 02:16:51.12 ID:O2wowKnOO
キョン「なあ、長門」

長門「何でしょう? 今度は紅茶がいいですか?」

キョン「そうじゃなくてだな、何があったかは知らんが、今のおまえのこと結構好きだぞ?」

長門「う……からかってる……」

キョン「いや、率直な意見というやつだ」

長門「うー……意地悪をするならお茶はあげません!」

キョン「いや、だから意地悪ではなくてだな」

101: 2008/03/02(日) 02:18:40.42 ID:O2wowKnOO
長門「ふふ……冗談です、はい……お茶です」

キョン「ああ、ありがとうな。そうだ、図書館へ行くのはいつにするか?」

長門「そうだなぁ……土曜日なんていかがですか?」

キョン「そうだな、じゃあ2時に駅前でいいか?」

長門「えと、待ち合わせは公園がいいかも、です」

キョン「そうか、ならそうしよう」

長門「はい! あ…そう、それと……キョンさん、また、家にも遊びに来てくださいね?」

キョン「いいのか?」

長門「あの部屋は……一人だと広すぎます、寂しいです……」

キョン「そうか……わかった、また遊びに行かせてもらう」

長門「はい! 楽しみです……!」

104: 2008/03/02(日) 02:20:14.29 ID:O2wowKnOO
―――魔の巣

長門「あの、喪黒さんは……」

喪黒「……やあ、これはどうも、お久しぶりです。なかなかご報告にやってこないので心配していましたよ?」

長門「ごめんなさい……すっかり忘れちゃってて……」

喪黒「ホッホッホ……それでいかがです? 何かおかしな点はございませんか?」

長門「おかしいことなんて……これを使ってから良いことばかりですもの」

喪黒「いやぁ、それを聞いて安心しました」

107: 2008/03/02(日) 02:21:26.21 ID:O2wowKnOO
長門「あの……実はハンドクリームがもう切れてしまって……新しいものが欲しいのですけど」

喪黒「申し訳ありませんが、それは出来ません」
長門「え……な、何故ですか!?」

喪黒「大変申し上げにくいことなのですが、実はあのクリーム、その後重大な副作用が見つかりまして。
ですから、あなたに異常がなくて安心しているところなのです」

長門「そ、そんな! お願いします、明日大事な用があるんです! だから、あのクリームが絶対必要で……!!
あの、今日はお金あります! だからクリームを……」

喪黒「ダメです。欠陥があるとわかった以上、お譲りするわけにはいきません。
それにクリームで得た感情など、しょせん作り物なのですからあまり依存なさらない方がよろしいですよ?」

108: 2008/03/02(日) 02:22:41.91 ID:O2wowKnOO
長門「でも……でもダメなんです!」

喪黒「いいえ、いけません。
おっと……失礼、わたしちょっとトイレへ……」

長門(どうしよう、どうしたら…… 
あ! 喪黒さんの置いていったバッグ……もしかしたら、この中にあのクリームが入っているのかも……!)

マスター(……キュッキュッ……)

長門(マスターさんはこっちを見てない……今なら……!)

カパッ!

長門(あった! ハンドクリーム!!)

111: 2008/03/02(日) 02:24:25.15 ID:O2wowKnOO
長門「ハア、ハア……クリームがあれば、キョンさんも私のこと……」

喪黒「ホッホッホ……いけませんなァ」

長門「も、喪黒さん!」
喪黒「他人の鞄を勝手に開けてはいけません、ましてや中の物を盗むなんて」

長門「ごめんなさい! お金は払います……だから! これが無いと私っ!」

喪黒「それほどおっしゃるのであれば仕方ありませんなァ……
ただし、もうどうなっても知りませんよ?」

ド――――――ン!!!

あぁぁあああ!!!

119: 2008/03/02(日) 02:28:25.03 ID:O2wowKnOO
―――土曜日

キョン(長門のやつ遅いな……よし、迎えに行ってやるか)

カチャッ、カチャッ……
キョン(おかしいな、寝てるのか?
……お、自動ドアが開いた……)

ドンドン……

キョン「長門! 俺だ、起きてるか? 長――…
ん…? なんだ、鍵が開いてるじゃないか」

ガチャ……

キョン「長門、いるのか?」

――あ……は……ひ……!

キョン「おい……な、長門!?」

長門「フフ……アハハハハハハハハハ!! アハハハハ!! アハ……!
あう……うぅ……ヒック……ヒ……うあ……ふ、ふふふ……!
アーッハッハッハッハ!!」


喪黒「これで、感情豊かな素敵な女性になりました。
それにしても、どうして人間は自分にないものを欲しがるんでしょうねぇ。
あれ? 彼女はヒューマノイド・イっ…! アイタ、舌噛んじゃった。ま、どっちでもいいか!」
ホーッホッホッホ!!

135: 2008/03/02(日) 02:35:23.12 ID:O2wowKnOO
【古泉一樹(15)超能力者】


最近、急に機関の動きが慌ただしくなったとは思っていたが、まさかここまで深刻な事態になっていたとは……

涼宮ハルヒの消失、朝比奈みくるの変化、長門有希の暴走……
その全てに、ある人物が関係していることは間違いない。

喪黒福造……以前から機関もマークしていた人物だが、油断していた。
この数年は目撃情報もなく、活動を休止しているとあったが……何という失態だろうか。異変に気付くのが遅すぎたのだ。

139: 2008/03/02(日) 02:37:58.63 ID:O2wowKnOO
僕は、機関を離れ学校を休み、独自に彼の調査を始めた。
しかし、全くと言っていいほど、その素性はようとして知れない。
喪黒福造と関わりのある、ないしは、あった人物を訪ねても、誰一人、住所、生い立ち、年齢など、彼の詳しい情報を知る者はいなかった。
(福次郎という弟の存在が確認されているが、彼もまた神出鬼没であるため接触するのは困難だろう)

140: 2008/03/02(日) 02:39:00.96 ID:O2wowKnOO
それも仕方のないことかもしれない。
機関に登録されている情報さえ、目撃情報から推定される出没地域や被害報告、この程度なのだ。
謎の人物、いや人かどうかさえ疑わしい。被害者の話を聞く限り……と言っても、今も会話が可能な被害者に限られる話だが、
彼は人間の心どころか、時間や空間、そして物質の情報を自在に操ることができるように思える。

141: 2008/03/02(日) 02:40:37.39 ID:O2wowKnOO
恐らく、彼がその気にさえなれば、この世界を崩壊させることも造り変えることも可能だろう。
それをしないのは、自身の愉悦のためなのだろうか……

古泉「……それで、実際のところはいかがなんです? 喪黒さん」

喪黒「ホッホッホ、よくそこまでわたしのことを調べましたねぇ」

143: 2008/03/02(日) 02:42:05.91 ID:O2wowKnOO
古泉「いえ……結局、何もつかめていませんよ。喪黒さん、あなた、何者なんですか?」

喪黒「ホッホッホ……わたしの名は喪黒福造……人呼んで『笑ゥせぇるすまん』
ただの『せぇるすまん』じゃございません。わたしの取り扱う品物はココロ、人間のココロなのです」

古泉「セールスマン、ですか……あなたの目的は、一体?」

喪黒「この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり……
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めするのが、わたしの仕事なのです」

古泉「なるほど……それで、その代償が……」

喪黒「いえいえ、代償だなんてそんな……お客様が満足されたら、それが何よりの喜び、報酬なのです」

146: 2008/03/02(日) 02:43:34.11 ID:O2wowKnOO
古泉「おためごかし、というやつですか」

喪黒「すべて真実ですよ、古泉さん」

古泉「正直、僕はあなたに対して、非常に激しい怒りを感じている。
……SOS団の皆さんは、嫌いではなかったものですから」

喪黒「おやおや……それは、とんだ言い掛かりですな。わたしは彼女たちのココロのスキマをお埋めしただけなのですがねェ」

古泉「……機関からは、遭遇しても手を出すなと言われていましたが、僕は、あなたを倒したいと考えています」

149: 2008/03/02(日) 02:44:22.87 ID:O2wowKnOO
喪黒「まあまあ、落ち着いてくださいな、古泉さん……」

古泉「僕はそれほど穏やかな人間ではありませんので」

喪黒「ホーッホッホッホ、人は見かけによりませんな。よろしい……」

フッ……

古泉「消えた! どこに!!?」

喪黒「後ろですよ、後ろ」

古泉「いつの間に……!」

153: 2008/03/02(日) 02:45:26.19 ID:O2wowKnOO
喪黒「古泉さん……仕事熱心なのは結構ですが、あなた少々働きすぎではないですか?
どうです、ここらで長い長い休暇をとってみては?」

古泉「あなたを始末した後なら是非そうしたいものですがね……!」

喪黒「本当に真面目なお方ですねぇ……
仕方ありません、何の心配もないところでゆっくり休めますように、わたしが手配させていただきましょう!」

ド―――――ン!!!

うあああああ……!!!

159: 2008/03/02(日) 02:48:20.16 ID:O2wowKnOO
古泉「うん……ここは……? そんな! 閉鎖空間!? どうしてこんな所に……
な、何だこの空間は……! 一体、どこまで広がっているんだ!!?
! 出られない…どうして!?
ああ……そうか、喪黒福造が……
ふぅ……まさか、閉鎖空間まで造れるとは思いませんでした……さて、どうしたものでしょうかね……」


喪黒「いやぁ、超能力者の仕事というのも大変なものですな。
しかし、穏やかなる世界のためとはいえ、彼は少しばかり、やりすぎてしまったようです。
まったく、仕事熱心すぎるというのも困りものですねぇ!」

ホーッホッホッホ!!

168: 2008/03/02(日) 02:56:01.28 ID:O2wowKnOO
わたしの名は喪黒福造……人呼んで『笑ゥせぇるすまん』
ただの『せぇるすまん』じゃございません。わたしの取り扱う品物はココロ、人間の心でございます。


この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり……
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます

さて、今日のお客様は……

【本名不明(15)キョン】

ホーッホッホッホ ……

174: 2008/03/02(日) 02:59:43.05 ID:O2wowKnOO
――暗く淀んだ雲と、湿気を大量に含んだ空気が梅雨の訪れを知らせる頃、
俺の周りでは劇的な環境変化が立て続けに巻き起こっていた。
そう……ある日、何の前触れもなく涼宮ハルヒが消えた。学校側の話を鵜呑みにするならば、
親父さんの仕事の都合で急に転校してしまったらしい。
まったく……何でも不思議に結び付ける、某ハルヒではないが、正直言って怪しい。
これにはいくら何でも疑問を抱かざるを得ないというものだ。
何せ、ハルヒは俺達に何も告げずに去ってしまったのだから。以来、連絡が全くつかず、携帯も一切繋がらん。
いや、それもハルヒらしいと言われれば、そうなのかも知れないと納得してしまいそうだが。

178: 2008/03/02(日) 03:02:07.36 ID:O2wowKnOO
しかし、ことはそれだけに止まらなかったのである。
ハルヒが消えたその後、何と朝比奈さんまでも消えてしまったのだ。
最後に会ったのは土曜日だが、誰が見てもあの日の朝比奈さんは妙だった。
そして、間もなく失踪……
ひょっとして、未来に帰ってしまったのだろうか? 別れも言わずに。

180: 2008/03/02(日) 03:02:59.84 ID:O2wowKnOO
……そうだ、朝比奈さんだけではない。
長門もあの一件以降、一度も俺の前に姿を見せない。マンションの管理人に聞いたところ、引っ越したと言っていたが、果たしてどこまで信用できることやら……

古泉なら何か知っているかもしれないと考えたが、困ったことに、こいつもここ数日会っていない。
ただ、こいつは事前に休学届けを提出していたらしいので、どうやら帰ってくる気はあるようだ。
しかし、何があったかは知らないが、それなら何故俺に何も言ってくれなかったのか、古泉。

182: 2008/03/02(日) 03:04:56.21 ID:O2wowKnOO
まあ、俺はあいつらと違い、平々凡々とした一般人だから、仕方がないのかも知れんな。

……いや、ちょっと待てよ。
もしや、あいつら全員、消えたハルヒを追っているんじゃないか?
そうだ、元々あいつらは皆、ハルヒが原因で集まってきたのだ。
なるほど、ますますもって俺は蚊帳の外というわけか……
鍵だ何だと言われていた頃が懐かしい。

186: 2008/03/02(日) 03:06:46.78 ID:O2wowKnOO
人間、出会った以上いつかは必ず別れがやって来る。
それは、例えば氏別することもあれば、音信不通になったり、単に疎遠になって、そのまま一生会わず終いってこともあるだろう。
何も不思議なことじゃないさ。毎日そんな別れが世界中あちらこちらで行われているのだ。
だが、これが実際体験するとなると、何とも寂しい気持ちになるものである。
胸にぽっかり穴が開くとは、まさにこのことだ。
もし、俺のココロに誰かが住んでいたならば、今頃は寒々しいスキマ風にさらされているに違いない。
下手をすると「欠陥住宅だ!」などと、建築会社を相手に訴訟を起こすかもしれん。

189: 2008/03/02(日) 03:09:02.15 ID:O2wowKnOO
そんなことを長々と考えている内に、俺はまた、誰もいないと理解しつつも、このSOS団の部室の前までやって来てしまった。
全く、習慣とは恐ろしいものである。
そして、心の中ではありえないことと思いながら、
もしかすれば皆がひょっこり戻っていて、顔をしかめたハルヒに遅いと怒鳴りつけられ、
メイド服を纏った朝比奈さんの入れてくれたお茶をすすり、
古泉と何ともアナログなゲームで遊んで、横で読書に耽る長門と幾らか言葉を交わす……
そんなこの間までの日常が、壁一枚隔てた向こう側に、
何食わぬ顔で待機しているんじゃないかという、ティッシュペーパー一枚分なんぞ比較にもならない程の薄っぺらな望みを抱きながら、今日も部室のドアノブに手をかけた。

192: 2008/03/02(日) 03:11:50.86 ID:O2wowKnOO
「どうも、こんにちは」
しかし、ドアを開けると、そこには全身黒ずくめという何とも奇妙な風貌のオッサンが、
あの楽しかった日常のかわりに立っていたのだ。
これが現実というやつだろうか。何とも無情である。
だが、いつまでも落胆している場合ではない。何故このオッサンはここにいるのか?
いくら旧校舎とはいえ、校舎内に入れるものではないだろうに。
まさか、どこかの生徒の父兄か何かだろうか。うむ、その可能性も否定できない。
いや、ならばどうしてSOS団の部室にいるのだ? 正確にはまだ文芸部室だが……
よし、どれだけ考えてもわからないのであれば、とにかく尋ねてみるのが一番だろう。

「すみませんが、どなたでしょうか? 何かここに用でも?」

俺がそう聞くと、男は帽子を脱ぎながら、がに股気味に俺に向かって歩いてきたのだ。
そして目の前で立ち止まるやいなや、胸元から一枚の名刺を取り出し、こちらに差し出してきた。

「失礼しました、わたくしこういう者です」

196: 2008/03/02(日) 03:15:32.67 ID:O2wowKnOO
差し出された名刺の文字は、『ココロのスキマお埋めします。喪黒福造』と読めた。
この真ん中にデカデカと書かれてある『喪黒福造』というのが、どうやらオッサンの名前だろう。
しかし、わからんのはその上の一文だ、まったく意味不明である。
他に社名や役職などが載っていないのも気になるが。
そんな風に俺が訝しげな顔で名刺と睨み合いをしていたら、

「怪しい者じゃございません。わたしはボランティアの一環として、悩める人々を無償で救っているのです」

と、オッサンこと喪黒福造が丁寧にも自己紹介をしてくれたのだ。
俺はそれならそうと最初から名刺に書いておけよ、
と心の中で忌憚なき意見を述べてやりつつ、適当な相槌を返してやった。
しかし、名刺を貰おうと自己紹介されようと、この男の怪しさは歴代観測記録第一位を依然マークしたままである。
大体、ボランティアというのも怪しければ、その活動内容も怪しいし、
何よりここにいた理由をいまだに説明されていないのが、そもそも怪しかったりするわけで、
正しく怪しさ三冠王といって差し支えないだろう。

「ええと・・・そのボランティアの方が、どうしてこんな所にいるんですかと、質問しているんですが?」

実は内心かなりイライラしていたりするわけだが、それをおくびにも出さず、
さらに質問をすると、全く想定していなかった答えがその男の異様に大きな口から飛び出してきた。

200: 2008/03/02(日) 03:19:49.88 ID:O2wowKnOO
「わたしは、あなたを待っていたのです。キョン君」

これには流石に驚かされた。
まず、俺を待っていたという返答の内容に加え、さらに俺の あだ名まで知っているとは……
そして、この喪黒という奴は、呆気にとられている俺をよそに、さらに言葉を続けた。

「この部屋もすっかり静かになってしまいましたが、いかがですか? 今の生活は」

「な・・・何のことを言ってるんですか?」

「SOS団の皆さんが消えてしまって、ずいぶん寂しい思いをしているのではありませんか?」

今の俺の思考回路はとっくに何かの限界を越えていた。心臓が五月蝿過ぎて気分が悪い。
こいつは一体、何を言ってるんだ?

「わたしは、あなたのココロのスキマをお埋めして差し上げたいのです」
ココロのスキマ……確かに今、俺のココロは隙間だらけだろうが、それをどうやって……

「あなたはもう一度、皆さんにお会いしたいのでしょう?」

まさか……この人は、あいつらの居場所を知っているのか?
一体どうして、どうやって知ったんだ……?
いや、今その疑問は頭から除けておこう。それより、

「……ど、どこにいるのか、あなたは知っているんですか? もし知っているのなら教えて下さい!」

202: 2008/03/02(日) 03:21:16.35 ID:O2wowKnOO
「ホッホッホ……会いたいのであれば、わたしが会わせて差し上げますよ。ただし」

喪黒は、後ろの窓から入ってくるオレンジ色の光に照らされながら、
会わせてやる、
という言葉を聞かされ、すっかり固まっている俺を指差し、今までにない強い口調でこう言った。

「皆さんと会えば、もう二度と、あなたに今のような穏やかな日常が訪れることはありません! それでもよろしいですか?」

俺の日常……
思い返せば、ハルヒと出会い、SOS団の一員となってからは心の休まることなど、ほとんどなかったように感じる。
そういや、理不尽に命を狙われたりもしたっけな。
あの頃と比べれば、今の状況は確かに穏やかと言えるだろう。
ハルヒの気まぐれであちこち引きずり回されることもない。無茶な提案に付き合わされることもない。
しかし……

212: 2008/03/02(日) 03:30:41.03 ID:O2wowKnOO
「俺は、あいつらがいなくなって、こんな状況になって、初めて気付いたんだ。
皆と過ごしたあの目茶苦茶な毎日を、俺は心の底から楽しんでいたんだと……だから!」

少しの沈黙を経て、喪黒が静かな笑い声を上げた。
シンと静まり返る部室の中に、それはまるで這うように、低く響き、広がっていった。

「ホッホッホ……わかりました。では、わたしの方をよぅく見てください……さあ、準備はよろしいですか? いいですね?」

ド―――――ン!!!!

うおおおおお……!!!!

214: 2008/03/02(日) 03:31:13.09 ID:O2wowKnOO




『「あなたには感謝すべきなんでしょうね」
無駄に爽やかな笑顔で言う。
「世界は何も変わらず、涼宮さんもここにいる。僕のアルバイトもしばらく終わりそうにありません。
いやいや、本当にあなたはよくやってくれましたよ。皮肉じゃありませんよ?
まあ、この世界が昨日の晩に出来たばかりという可能性も否定できないわけですが。
とにかく、あなたと涼宮さんにまた会えて、光栄です」
長いお付き合いになるかも知れませんね、と言いつつ、古泉は俺に手を振った。
「また放課後に」』

215: 2008/03/02(日) 03:31:47.83 ID:O2wowKnOO




『「貸してくれた本な、今読んでるんだ。あと一週間もしたら返せると思う」
「そう」
視線を合わさないのはいつものことだ。』

216: 2008/03/02(日) 03:32:10.04 ID:O2wowKnOO




『「よかった、また会えて……」
俺の胸に顔を埋めて朝比奈は涙声で、
「もう二度と…… (ぐしゅ) こっちに、も、 (ぐしゅ) 戻ってこないかと、思、」
背中に手を回そうとした俺の動きを感じたのか、朝比奈さんは両手を俺の胸に当てて突っ張った。
「だめ、だめです。こんなとこ涼宮さんに見られたら、また同じ穴の二の舞です」
「意味解らないですよ、それ」』

217: 2008/03/02(日) 03:32:47.75 ID:O2wowKnOO




『時計から目を上げると、すぐに遠くから歩いてくる見覚えのある私服姿が目に入った。
よもや三十分前に来たのに俺がもう待っていると思わなかったのか、
ぎくりとしたように立ち止まり、また憤然と歩き始める。
眉根を寄せるしかめっ面のゆえんが参加率の低さを嘆いたものなのか、
俺に後れを取った不覚を嘆いたものなのかは解らない。後でゆっくり聞いてやろう。ハルヒの奢りの喫茶店で。
その際に俺は色々なことを話してやりたいと思う。
SOS団の今後の活動方針について、朝比奈さんへのコスプレ衣装の希望、
クラスでは俺以外の奴とも会話してやれ、フロイトの夢判断をどう思うか、などなど。
しかしまあ、結局のところ。
最初に話すことは決まっているのだ。
そう、まず―――。
宇宙人と未来人と超能力者について話してやろうかと俺は思って―――…』

221: 2008/03/02(日) 03:35:40.55 ID:O2wowKnOO
……と、ここまで読んだところで、わたしはこのライトノベルスを閉じました……。
改めて表紙に目を向けると、何とも強気そうな女の子の絵、そしてその横に赤い文字で書かれた
『涼宮ハルヒの憂鬱』というタイトルが目に入ってきます。
そして、また適当にページをめくり……
本の中にて、忙しくも楽しそうに日々を送る彼の姿に、自然と顔をほころばせるのです。

「あ、そこのお嬢ちゃん、ちょっと」

「ん? なぁに?」

「お嬢ちゃん、これをどうぞ。勉強の合間にでも読んでちょうだい」

わたしは通り掛かった女の子呼び止め、そのライトノベルスを手渡したのです。
少女はそれを受け取ると、にこっと笑い、ありがとう、と手を振りながら走り去って行きました。

「ホッホッホ……これで、彼はこのライトノベルスの中で永遠に生きることとなりました。
もう一度お友達に会えて良かったですねェ……。
わたしも、たまには良いことをするんですよ?」

ホーッホッホッホ!!

244: 2008/03/02(日) 03:41:34.71 ID:O2wowKnOO
これで、喪黒福造の仕事は終いさ。
書き溜めたネタも使い果たしてしまったよ、しかし、楽しんでくれたなら何より

265: 2008/03/02(日) 04:00:26.24 ID:5GUucdNEO
乙ー

喪黒は昔の記憶しかなかったが楽しめたよ

266: 2008/03/02(日) 04:00:34.46 ID:qPwNYfKo0
>>1
こういうスレ久々に全部読んだわ

267: 2008/03/02(日) 04:02:51.95 ID:5ciG8nMw0
>>1超乙
面白かった!

引用元: 喪黒福造の憂鬱