1: 2016/06/30(木) 21:01:59.34 ID:sm7FpiKv0
百合有り。苦手な方はお気を付け下さい。

2: 2016/06/30(木) 21:02:24.96 ID:sm7FpiKv0
私は昔から、男が嫌いだ。


勇者「君たちが、俺と冒険を共にしてくれる子達か。宜しくな」ニコ


今日から旅と共にする勇者も、その例外ではない。


魔法使い(騙されないわよ、その笑顔の下に隠された下心!)ジト


そして男嫌いの一方で――


武闘家「いい人そうで良かったね、魔法使いちゃん♪」

魔法使い「……えぇ、そうね」


私は一生、叶わない恋をしている。


3: 2016/06/30(木) 21:02:51.95 ID:sm7FpiKv0
人間と魔王との戦が始まって約10年。
争いで沢山の人が氏に、人間の国々は疲弊していた。

そんな中現れたのが、この剣の申し子たる勇者なのだが――


勇者「皆可愛くてびっくりしたよ! これなら毎日頑張れそうだ!」

僧侶「ふふ、ありがとうございます」

盗賊「頼りにしてるです、勇者君」

魔法使い(騙されるんじゃないわよ、こんな二面性タラシに!!)

武闘家「魔王を倒した人って、姫様と結婚できるんだっけ?」

魔法使い「そうだけど……」


勇者「ねぇ、彼氏いる?」ニコニコ

僧侶「いえ、お付き合いしている男性はいません」

盗賊「い、いないのです~」

魔法使い(うわー、早速品定めしてる)


僧侶「では、早速ですが魔王城までの経路について話し合いませんか? 私、これについては少し詳しいので、色々とプランを考えてきたのですが…」

勇者「僧侶にお任せするよ、それより皆で遊びに行かない?」

魔法使い「却下!」



4: 2016/06/30(木) 21:03:20.10 ID:sm7FpiKv0




>宿・女部屋


僧侶「では改めて皆さん、今日から宜しくお願い致します」

盗賊「仲良くやるです!」

武闘家「こちらこそ! ね、魔法使いちゃん」

魔法使い「そうね」

僧侶「武闘家さんと魔法使いさんは、お友達同士でしたっけ?」

武闘家「うん、幼馴染み! 魔法使いちゃんは、しっかり者のお嬢様で、頼りになるんだ~」

盗賊「わわっ、どうしよ! ボク育ち悪いから、色々と引かれちゃうかもしれんです……」

魔法使い「気にしないわ、手のかかる子は武闘家で慣れてるもの」フッ

武闘家「魔法使いちゃん、辛辣~!」

魔法使い「まぁ私、女の子には優しいから。特に貴方達みたいな、可愛い子には」フフ

僧侶「……へぇ」

魔法使い「?」

僧侶「魔法使いさん、案外気さくなんですね。顔合わせの際は無口だったので、そういう方なのかと思っていましたが…」

魔法使い「あー…それは……」

武闘家「魔法使いちゃんは男の人がいるとああなんだよ~」ハハハ

僧侶「そうなんですか」

魔法使い「……えぇ。私、男嫌いなの」


5: 2016/06/30(木) 21:03:49.59 ID:sm7FpiKv0
魔法使い「父には8人の妻がいるのよ」

盗賊「8人!」


魔王との戦いで氏んだ者のほとんどが男。
そのせいで、この世界の男女比は現在約2:8と言われている。
世界中で年々人口が減り続ける状況の為、ほとんどの国で一夫多妻制が導入されていた。


魔法使い「勇者もきっと、姫様の他にも何人かの妻を娶るでしょうね」

盗賊「そうかも。でも、複数の女の人を養える地位なら問題ないのです」

僧侶「世界を救った勇者様となれば、十分にその権利はありますし……」

魔法使い「そういう問題じゃないのよ…」

僧侶「と言うと?」

魔法使い「私達…その妻候補なのよ」

盗賊「……」

僧侶「……」

武闘家「えーっ!」


6: 2016/06/30(木) 21:04:19.95 ID:sm7FpiKv0
魔法使い「私、聞いたのよ! あれは勇者の仲間募集のビラを見て、それについての質問をしに城を訪れた時……」


~回想~

魔法使い(あ、あれは勇者と騎士団長さん……。あ、集まった応募用紙を見てるみたい)


騎士団長『早くも志願者が集まりましたね。ほら見て下さい、レベル50越えの猛者も…』

勇者『不採用』

騎士団長『え?』

勇者『ゴツい男なんか御免だね。それより女の子、女の子!』

騎士団長『えーと…女性志願者は少ないですが、今のところ彼女と彼女と……』

勇者『この僧侶ちゃんと盗賊ちゃん採用』

騎士団長『え!? …お言葉ですが、もっと優秀な志願者は沢山……』

勇者『仲間の強さとかどうでもいいよ。どうせ俺が活躍するんだし。それより……』

騎士団長『それより?』

勇者『可愛い女の子のハーレムパーティー作って、ウハウハしたいんだよおぉ!! これぞ男のロマン!! 吊り橋効果イヤッホー!!』


魔法使い『……さいってー』


7: 2016/06/30(木) 21:04:48.78 ID:sm7FpiKv0
魔法使い「不純、不潔! あんな勇者に、私は絶対心を許さないわ!!」

僧侶「なるほど…。ですが、女性に囲まれることで勇者様の士気が上がるのなら効率的ですよ」

盗賊「そうそう、男の子ってそんなものだと思うです。魔法使いちゃんはちょっと過敏なのです」

魔法使い「いーえ! 男は女の子のこと、せ、せ、せ……」

僧侶「せ?」

魔法使い「せ…性欲解消の対象としか、見てないし……」モジモジ

僧侶「うーん。そういう男性もいるかもしれませんが、『としか』ではないと思いますよ」

魔法使い「じゃあ男は『そういう行為』なしで女の子と付き合えるんですかー!! 無理でしょ、男ってそういう生き物!!」

僧侶「流石に極論ですよ」

魔法使い「極論でもなんでも、男のそういうとこが嫌いなの! 私は勇者に心を許さないから!」

僧侶「男性が苦手な理由はわかりましたが…」

盗賊「何で、勇者パーティーに志願したです?」

魔法使い「……」


だって――


武闘家「仕方ないなぁ、魔法使いちゃんは。でも、必要なコミュニケーションはちゃんと取ってね」

魔法使い(武闘家に…志願しようって誘われたから……)


8: 2016/06/30(木) 21:05:38.84 ID:sm7FpiKv0
>子供時代


約2:8に偏った男女比のせいか、その繁殖能力のせいか――人間社会は男性優位だ。

女好きの父親、威張る男たち、精神発達の遅い男児――周囲はそんな男ばかりで、私は自然と男嫌いになっていた。
男性優位の社会において、私のように勝気な女子は周囲から浮きがちだった。

そんな中、私と仲良くしてくれたのが――


いじめっ子『ぎゃあー、鬼ババが怒ったー』ダッ

魔法使い『今度この子をいじめてみなさい、焼くわよ!』

武闘家『ぐすん……』


近所に住む同い年の女の子、武闘家だった。
彼女は頭の回転の悪さ故か、それとも小柄な体のせいか…とにかく、いじめられることが多かった。


魔法使い『そんなに泣いてたら、ますますあいつら喜ぶわよ。全く、何でやられっぱなしなのよ』

武闘家『ぐすっ…女の子は弱くて守られている存在だから、男の子に逆らっちゃ駄目なんだって』

魔法使い『あんた、あんな奴らに守られたいの?』

武闘家『……』

魔法使い『私は冗談じゃないわ。自分の身くらい、自分で守るわよ』

武闘家『…私も、強くなりたい。魔法使いちゃんみたく、強くなりたい』

魔法使い『そう。応援するわよ』

武闘家『強くなるのに、どれくらいかかるかわからないけど……』

魔法使い『……大丈夫よ』ポン


――あんたが強くなるまで、私が守るから


9: 2016/06/30(木) 21:06:30.03 ID:sm7FpiKv0
>そして今現在


武闘家「どっせえええぇぇい!!」バキイイィィッ

魔物達「「ギャース!!」」

盗賊「凄いです! 魔物を蹴り頃し、更にその氏体で魔物達が将棋倒しに!」

魔法使い(強くなりすぎよ!!)


そう、宣言通り強くなった。…肉体の力だけで男を凌駕する程に。


勇者「凄いな武闘家。その小さな体で、そんなパワーが出るなんて」

武闘家「筋肉があれば、できないことなんてないんだよ!」ムキッ

勇者「おおぉ、固いな~。でも、柔らかいところは柔らかいんだな」サワサワ

魔法使い(うぐぐぐぐ、男がその子の体に触るんじゃないわよ!!)ギロリ


非常に面白くない。武闘家本人が触らせているとはいえ。


武闘家「ふぅ、汗びしょびしょ~」ペロッ

魔法使い「!! ちょっと、武闘家!! 何、服をめくってるのよ!!」

武闘家「だってー、こうした方が背中拭きやすいんだもん。それに、出したのもお腹だけだよ?」

魔法使い「いやお腹だけでも…あーもう、こっち向きなさい! タオル貸して!」

武闘家「? …ひゃんっ、あはは、くすぐったい~」

魔法使い「じっとする! もう、ほんとあんたは無頓着なんだから…」フキフキ

武闘家「いつもありがとー、魔法使いちゃん。ごめんね、世話の焼ける友達で」

魔法使い「別に…ヤじゃないし。世話、焼けなくなる方が寂しいし……」ボソボソ

武闘家「ん? ごめんね、聞き取れなかった。何て言ったの?」

魔法使い「何でもないわ! それより汗拭いたから、行くわよ!」

武闘家「はーい」


10: 2016/06/30(木) 21:07:05.67 ID:sm7FpiKv0
>宿屋


魔法使い「……はぁ」

魔法使い(武闘家の体…ちょっと固いけど、でもやっぱり女の子だった)


まだ感触が手に残る。思い出しては、ため息。


魔法使い(武闘家は私に無防備……。女の子同士だから。……"そういう対象"じゃないから)


勿論、それが普通のこと。変なのは、私の方だ。


魔法使い(勇者に…いや、どんな男にも、武闘家を触らせたくない)


いつ頃からかはわからないけど、武闘家は私にとって"友達"で収まる存在じゃなくなっていた。
ちょっとおバカで、ドジで、だけど元気で可愛くて、懷っこくて――そんなところが愛おしくて、守ってあげたくなる。彼女はそんな子。


魔法使い「……はぁ」

武闘家「たっだいまー♪ いいお風呂だったよー!」バァン

魔法使い「わわっ! お、お帰り!」

武闘家「どうしたの、慌てて? あ、あのね、盗賊ちゃんボインボインなんだよ!」

魔法使い「ふ、ふーん」

武闘家「魔法使いちゃんも一緒に入れば良かったのに~」

魔法使い「いえ、私は…同性でも、裸を見られるのに抵抗あるから。後で入る」

武闘家「そうだったね。細くてスタイルいいのに勿体無~い」


言った理由は嘘。本当は、私は変態だから。


魔法使い(美少女達と一緒にお風呂とか…刺激が強すぎるのよ!)ドキドキ


18: 2016/07/01(金) 19:09:18.31 ID:5MZvt89P0
>ある日


魔法使い「よし、移動魔法を習得したわ!」

僧侶「お疲れ様です。これで、旅が大分楽になりますね」

勇者「あ、じゃあ城下町に戻れないかな?」

魔法使い「いいけど…何か忘れ物でもした?」

勇者「いやぁ…姫様と文通してはいるけど、そろそろ顔を見せないと寂しいかなと思ってね」フッ

魔法使い(いつの間に、そんな仲に…てか、流石タラシ男はマメね)


旅を始めてから約1週間。私の勇者への不信感はぐんぐん上がっていた。


僧侶「勇者様…もうっ」プイッ

勇者「そんな顔するなよ…可愛すぎて困るよ」

魔法使い(お堅い聖職者を1週間で落とすって、どんなテクニックよ!? ていうか落とされてるんじゃないわよ僧侶!!)

武闘家「姫様の好感度上げとかないとねー」

勇者「武闘家…妬いてくれないんだね、ちょっと寂しいよ」ポン

魔法使い(てめええぇ、沢山の女に触れたその汚れた手で!! 武闘家に触るんじゃねぇわよ!!)ゴゴゴゴ

勇者「魔法使い、移動魔法を頼む」

魔法使い「言われなくてもわかってるわ!!」

勇者「……何で俺、怒られたの?」

武闘家「んー、勇者が嫌われてるからだと思う!」

勇者「ははっ、魔法使いは相変わらずだなぁ。でも、それでこそ落としがいがあるよね♪」

魔法使い「うっさい! きもい!」

<ワーワー

盗賊「……」


19: 2016/07/01(金) 19:09:49.07 ID:5MZvt89P0
>城下町


僧侶「私は礼拝堂にいます。最近、ゆっくりお祈り出来ていなかったので…」

魔法使い「私はどうするかなー」

武闘家「ね、ね、魔法使いちゃん! ケーキのビュッフェ行こっ、可愛いお店があるんだ~」

魔法使い「あんた、そういうの好きよねぇ。いいわよ」

武闘家「やったぁ♪ あ、盗賊ちゃんも行こうよ!」

盗賊「……え?」

魔法使い「ん…もしかして、気が乗らない感じ?」

盗賊「あ、えーと…ボク、ダイエット中なのです」

武闘家「そっかー、残念だなぁ。けど、女の子にとって体型維持は大事だもんね!」

魔法使い「毎日三杯飯のアンタが言ってもね……」

武闘家「良質な筋肉を作る為には沢山食べなきゃ駄目なんだよ! 消費カ口リー以上食べてプロテイン飲んで……」

魔法使い「筋肉の話はいいわ。じゃあ盗賊、また後でね」

盗賊「はいです……」


20: 2016/07/01(金) 19:10:21.28 ID:5MZvt89P0
>1時間後


武闘家「はぁ~、食べた食べた~」

魔法使い「凄まじい食べっぷりだったわね。お店潰れなきゃいいけど……」

武闘家「え、潰れるの!? 大変!! 筋トレ仲間にお店を宣伝して、お客さん増やそう!」

魔法使い「その連中も沢山食べるんでしょ、トドメ刺す気か!」

武闘家「追々考えるとして…ねぇ、食後の散歩に"天使の庭園"行こうよ!」

魔法使い「天使の庭園…? …あ、聞いたことはあるような……」

武闘家「城の一流庭師が創り上げた庭園らしいよ~。とてもロマンチックで、定番デートスポットらしいんだ~」エヘヘ

魔法使い「相変わらず乙女趣味ねぇ。けど私も興味あるわ、行きましょう」

武闘家「うん! へへっ、魔法使いちゃんとデートぉ♪」ギュッ

魔法使い「ちょっ」

魔法使い(女同士でよくあるじゃれあいだけど…あんたにやられると、冗談じゃ済まないのよ)ドキドキ


21: 2016/07/01(金) 19:11:21.43 ID:5MZvt89P0
>天使の庭園


魔法使い「へぇ~…綺麗ねぇ」


途端、視界に広がる優美な庭に目を奪われる。
丹念に刈り揃えられた緑の道と、それを彩る鮮やかな花々。舞踏会の娘達のように咲き誇る姿が、煌めいて可愛らしい。
天使をかたどる白い噴水は、水飛沫に輝き涼しげな音を奏でていた。


魔法使い「流石、天使の庭園って感じ。ね、武闘……」

武闘家「わぁーい!」タッタッタ

魔法使い「あら、ランニング?」

武闘家「あのね、全身で庭園の空気を感じているの!」

魔法使い「? 空気なんて、そこにいるだけで感じられるでしょ……」

武闘家「勢いつけて走った方が、強く感じられるんだよー」

魔法使い「よくわからないわね」

武闘家「えっとねー…えいっ!」ムギュッ

魔法使い「!!?!?」

武闘家「ねっ? 勢いよく抱きついた方が、私のこと強く感じられるでしょ?」

魔法使い(武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる)


22: 2016/07/01(金) 19:11:57.13 ID:5MZvt89P0
魔法使い「ちょ、は、離れなさい! 人に見られたらどうするの!」アタフタ

武闘家「あ……そうだね。ここ最近、法律も厳しくなってきたもんね」パッ

魔法使い「……」


あっさり離れてくれて良かったのだけれど、ちょっと残念。
だけど冗談じゃなく、人に見られたらマズイ。


魔法使い「同性愛者への最も重い罰は…鞭打ちだったわね」

武闘家「この前も、同性のカップルが捕まったよね…可哀想」


国々は人口減少への対策に追われ、一夫多妻制を導入しただけではなく、同性愛の厳罰化を決定した。


魔法使い「厳罰化したからって、同性愛者が異性を好きになるわけじゃないのにね」

武闘家「好きじゃなくても子供を作れってことでしょ? 何か…そういうの、やだよね……」

魔法使い「……そうね」


23: 2016/07/01(金) 19:12:26.58 ID:5MZvt89P0
権力者には男が多い。この法律を作ったのも男。
男なんてのは女を性欲の対象か、子供を産む道具にしか思っていない。だから、男は嫌い。


魔法使い(……だけど)

武闘家「あ、オシャレなベンチがある! ね、座ろうよ!」


例え、そんな法律が無かったとしても――


武闘家「久しぶりだよね、魔法使いちゃんと2人きりは!」

魔法使い「そうね。旅を始めてからは、仲間の誰かがいたものね」

武闘家「皆いい人だから好きだけど…でも、やっぱり魔法使いちゃんと一緒だから幸せ」ヘヘ

魔法使い「……羨ましいわ、あんたのそういう性分」

武闘家「え?」


私はきっと、武闘家に想いを伝えられない。


魔法使い「幼いとこよ。いつになったら手がかからなくなるのかしら~?」

武闘家「えぇー。見捨てないでよ、魔法使いちゃーん」ギュゥ

魔法使い「あーもうっ、わかったから離れなさいよ!」


武闘家はさっき、勢いよく抱きついた方が"彼女"を感じられると言ったが――私にとっては、逆。
昔からの距離感。友達という距離感。その変わらない距離感で一緒にいる方が、彼女を強く感じていられる。
その距離を詰める必要なんてない。だって私の気持ちは、秘めていなければならないもので――


魔法使い(いつか…離れちゃうんだろうな)


24: 2016/07/01(金) 19:13:09.22 ID:5MZvt89P0
<わいわい


魔法使い「ん…誰か来る? ……まぁそうよね、定番デートスポットだもんね」

武闘家「ねぇ…聞いたことある声だと思わない?」

魔法使い「え?」



勇者「それでですね……」

姫「まぁ」フフフ



武闘家「あ、ほら。勇者と姫様だ」

魔法使い「こっちには気付いてないわね。邪魔しちゃ悪いし、そろそろ引き上げる?」

武闘家「そうだね。楽しかったねー♪」

魔法使い「えぇ……」

<ふぅ……

魔法使い「……ん?」


盗賊「……はぁ」

武闘家「盗賊ちゃん? どうしたの、そんなとこに隠れて」

盗賊「わわっ! 魔法使いちゃんに武闘家ちゃん……」

魔法使い(私達に気付いてなかった? …それに、盗賊が見てたのは……)



勇者「…ですよね」

姫「えぇ、そうですね」



武闘家「もしかして、盗賊ちゃん。あの2人を見てたの?」

盗賊「……」

魔法使い「…話は後よ。とりあえず、ここを去りましょう」


25: 2016/07/01(金) 19:14:01.61 ID:5MZvt89P0
>宿屋


盗賊「恥ずかしい姿をお見せしました……」

武闘家「ううん、一途でいいと思うよ。ね、魔法使いちゃん」

魔法使い(どいつもこいつも、あのタラシに引っかかりやがって……)ゴゴゴ

盗賊「いいと思っているようには見えんのです……」ブルブル

武闘家「けど盗賊ちゃん、2人を見てて辛そうだったね。どうしたの?」

盗賊「それは……。お恥ずかしい話ですが……」

武闘家「うん」

盗賊「……姫様って、綺麗で、品があって、教養があって…だから、自分が惨めで」

武闘家「うん?」

盗賊「ボクは…卑しい身分に生まれ、底辺で育ってきたです。言葉を覚えるのも遅くて、今でも言語に自信ないです」

武闘家「そう? 気にしたことないけど……」

盗賊「ボクは気にしてるです。…同じ人間で、同じ女なのに、ボクと姫様は何もかもが違いすぎる」

魔法使い(……相手はあの姫様だものね)


容姿、頭脳、品格――全てに秀でている、正に「高嶺の花」。
盗賊じゃなくたって、あの姫様と並べる女性なんてそうそういない。


魔法使い(まーでも、勇者は可愛い女なら受け入れる感じだし)

魔法使い「気にしない、気にしない。盗賊には盗賊のいい所が、沢山あるわよ」

武闘家「そうそう! それに、魔王を倒したら盗賊ちゃんは"英雄"だよ! ほら、姫様と並べるよ!」

盗賊「2人とも……」


26: 2016/07/01(金) 19:14:32.28 ID:5MZvt89P0
盗賊「へへ…ありがとうです、ボクはいい仲間を持ったです」ギュッ

武闘家「当たり前だよ。だって私達、盗賊ちゃんのこと大好きだから!」ナデナデ

盗賊「ありがとう、武闘家ちゃん…魔法使いちゃんも!」

魔法使い(くぅ…大きな胸が押し付けられて、なんかやばいわ)ドキドキ

僧侶「只今戻りました…あら?」

盗賊「あ、僧侶ちゃん! お帰りなさいです!」

僧侶「私のいない間に仲を深められたようで…少し妬けますね」

盗賊「僧侶ちゃんも大好きなのです!」ギュー

僧侶「あらあら…私も好きですよ、盗賊さん」

魔法使い(勇者に落とされた女の子同士で友情を確かめ合っている……)


仲が良いのはいいのだけれど、それでも非常に面白くない事態だった。


29: 2016/07/02(土) 17:24:29.26 ID:5HfrqQBu0
それから勇者は、3日に1回くらいの割合で城下町に戻った。


魔法使い「今日もアイツはデート!! いい加減にしろっつーの!!」

武闘家「姫様に相当入れ込んでるよね~」

魔法使い「バッカじゃないの、魔王を討伐してこその勇者でしょーがっ!!」

僧侶「まぁ、猶予はあると思いますよ。最近世代交代した魔王は、先代より比較的穏健派ですし」

魔法使い「そうなの? でも、まだあちらこちらで火花が散ってる状態よね?」

僧侶「魔王にも色々なしがらみがあるのですよ」

武闘家「僧侶ちゃん詳しいよねー。旅も僧侶ちゃんのプランに従って進んでるからか、今のとこ順調だしね!」

魔法使い「そうね。頼りにしてるわ」

僧侶「恐縮です」

魔法使い「そうだ…詳しいついでに聞きたいんだけど、『魔王が進めている恐ろしい研究』って何だか知らない?」

僧侶「あぁ…一部の権力者の間でのみ広まっている、あの話ですね」

魔法使い「何か研究しているのは聞いたけど、肝心の内容がわからないのよね。僧侶は知らない?」

僧侶「……はっきりはわかりませんが、どうやら『生物の常識を覆し、人間社会に悪影響を与える』ものらしいですよ」

魔法使い「随分とぼんやりしてるけど…阻止しなきゃいけないものだってことだけはわかったわ」

僧侶「…そうですね」


30: 2016/07/02(土) 17:25:06.83 ID:5HfrqQBu0
盗賊「ただいまです……」フゥ

魔法使い「あら、お帰り。デートの尾行は終わったの?」

盗賊「ハイです。姫様、お忍びに町娘の格好をしていたけど…それでも気品に溢れていたです」フゥ

魔法使い「あの姫様だもんね~。あれ程の女性は稀だから、気落ちする必要ないわよ」

魔法使い(あれ程の人が勇者と結婚するなんて…あぁ勿体無い)


勇者「たっだいま~♪」

魔法使い「ここ女子部屋。男は入ってくるな、シッシッ」

勇者「魔法使いは相変わらずつれないなぁ。姫様からのお土産だよ、手作りクロワッサンだってさ」

武闘家「わぁ~い♪ 姫様ってパンまで焼けるんだ~♪」モグモグ

盗賊「あの方は、何でもできるです…」ハァ

僧侶「……」プイ

勇者「何だよ僧侶~。あ、妬いてるんだろ?」

僧侶「妬いてません。どうぞお好きになさって下さい」ツーン

勇者「本当、僧侶は可愛いなぁ…ますます妬かせてやりたくなるよ」

僧侶「性格悪いですね」

勇者「可愛い女の子には意地悪したくなるものさ…心配しなくても、俺は僧侶のことだって……」サワッ

僧侶「ストップ」

勇者「?」

僧侶「婚前に、度が過ぎたスキンシップはしない主義なんです。いくら勇者様相手でもね」

勇者「…あぁ、そうだったね。ゴメンゴメン」チッ

魔法使い(うわ舌打ち聞こえた)「よそでやれ、よそで!! つか出てけ!!」

勇者「わぁ。じゃあ皆、明日からも頑張ろう♪」

武闘家「うん!」モグモグ

僧侶「フン」

盗賊「……ハァ~」

魔法使い(何であんな最低男を許容できるのよ…私がおかしいの!?)グヌヌ


31: 2016/07/02(土) 17:25:39.87 ID:5HfrqQBu0
それでもとりあえず、魔王城には着実に近づいていった。


魔法使い「うーん…」

僧侶「どうしました?」

魔法使い「いや。何か、魔物達の攻撃がヌルくない? 魔王城に近づいてるんだから、もっと刺客を送ってきてもおかしくないと思うんだけど……」

勇者「俺に恐怖してるんだろ」フッ

僧侶「以前も言いましたが、魔王は比較的穏健派ですから。気にしなくていいと思いますよ」

魔法使い「うーん…」

魔法使い(いくら穏健派でも、敵を放置するなんて有り得るの…? それとも何か企んで……)

武闘家「ねぇねぇー!」

魔法使い「うん? どうしたの、武闘家」

武闘家「何と! 遂に、腹筋が6パックに割れました~♪」バッ

魔法使い「こらーっ、お腹を出して見せるな!!」

勇者「おぉ、見事な筋肉だ」サワサワ

魔法使い「女の子のお腹を気安く触ってんじゃないわよ!!」

勇者「武闘家…実は、俺の筋肉も凄いんだぞ。見てみたいか?」

武闘家「ホント!? 見たい見たーい!」

勇者「それじゃ今晩、俺の部屋に……」

魔法使い「断固阻止する!! 武闘家、こっち来なさい!!」


魔法使い「あんたね、もうちょっと警戒心ってもんをね…」クドクド

武闘家「えー、でもー」


勇者「……厄介な女」

勇者「こうなりゃ、順序を変えるか……」


32: 2016/07/02(土) 17:26:06.72 ID:5HfrqQBu0
>夜


武闘家「それじゃ、お風呂入ってくるね~」

魔法使い「行ってらっしゃい」

魔法使い(さて…魔術書でも読むか。と言っても、もうほとんどの魔法は覚えちゃったわけだけど……)

<トントン

魔法使い「はーい?」

勇者「やぁ、こんばんは」ガチャ

魔法使い「…何。皆なら、お風呂に行ったけど」

勇者「知ってる。魔法使いに用があって来たからさ」

魔法使い「私に? 何よ、さっさと言いなさい」

勇者「…はぁ。魔法使いは本っ…当~に俺のことが嫌いみたいだね」

魔法使い「嫌いよ、大嫌い」

勇者「ふふ…そのツンケンしたところが可愛くもあるんだけどね」

魔法使い「そういう軟派な所が嫌われてるんだって自覚はあるかしら?」

勇者「魔法使いは固いよなぁ。でも今のご時世、男は沢山の女を口説いてナンボだよ?」

魔法使い「そうね。だから私、今のご時世の男は大嫌いなの」

勇者「流石に凹むよ」スタスタ

魔法使い「!!」ビク


33: 2016/07/02(土) 17:26:40.24 ID:5HfrqQBu0
勇者「どうかした、魔法使い?」

魔法使い「べ、別に…ってか、こっち来ないでよね!」

勇者「どうして? …まさか、魔法使いって……」クスクス

魔法使い「な、何よ」

勇者「男が怖いのかな?」

魔法使い「!!」


男は嫌い。嫌いだけど――


魔法使い「あ、あんたなんか怖いもんですか! 変なこと言わないで!」

勇者「へぇ。じゃあ何で、そんなに緊張しているのかな?」

魔法使い「嫌いだからよ、男なんて――女のこと、性欲の対象にしか見てない生き物は!」

勇者「それが怖いってことじゃないの?」

魔法使い「……っ!」

勇者「やっぱり。怖いんでしょ、性的な目で見られるのが」ククッ


34: 2016/07/02(土) 17:27:52.60 ID:5HfrqQBu0
魔法使い「そ、そこまで自意識過剰じゃないわよ!」

勇者「へぇ、そう? 俺は、魔法使いのことそういう風に見てるよ?」クスッ

魔法使い「…っ!!?」

勇者「美人だし、スタイルもいいし…ツンケンしたとこも、男が怖いからだと思えば可愛く見えるよ」

魔法使い「や、やめて……」


そんなこと言わないで。私を、そんな目で見ないで――


勇者「魔法使いは、男を知らなすぎるんだよ。ちゃんと愛されてみれば、男が好きになると思うよ…?」

魔法使い「ぅ…やだ……」


クラクラする。勇者が一歩一歩近づいてくる度に、体が硬直していって……。


勇者「そういうお嬢さんは案外、荒療治でコロッと変わったりするんだよね……」スッ

魔法使い「!!!」


勇者に触れられた途端、全身に鳥肌が立った。


魔法使い「ゃ、やだ……」ガタガタ

勇者「大丈夫…俺は魔法使いのこと、ちゃんと愛するよ……」

魔法使い「――っ!!」


35: 2016/07/02(土) 17:28:19.30 ID:5HfrqQBu0
バァン


武闘家「魔法使いちゃーん!」

魔法使い「!!」

勇者「ぶ、武闘家……」

武闘家「魔法使いちゃん、お風呂におサルが来たよ!」グイッ

魔法使い「あっ!?」

武闘家「早く来て、ねぇねぇ!」

バタバタ…

勇者「………ちっ」


36: 2016/07/02(土) 17:28:53.29 ID:5HfrqQBu0
魔法使い「……」

武闘家「田舎って凄いよね~。あ、でも餌付けするのは駄目みたいだよ。あとね……」

魔法使い「…武闘家」

武闘家「え、何? ……って」


急に全身の力が抜けて、私は武闘家にもたれかかった。
だけど彼女は嫌がらずに、背中をさすってくれた。


武闘家「よしよし、怖かったね~」

魔法使い「……ぐすっ」

武闘家「もう、あんなことないようにするからね。私が守るから」

魔法使い「グス…変なの。あんたが私を守るなんて……」

武闘家「あはは、そうだね。小さい頃からずっと、魔法使いちゃんが私を守ってくれてたもんね」

魔法使い「ほんとよ…。あんたって幼いし、すぐ泣くし……」

武闘家「でも私、そんな自分を変えたくて体を鍛えてきたんだよ。だから今度は、私が魔法使いちゃんを守る番」

魔法使い「……やだ」

武闘家「何で!?」ガーン

魔法使い「そんなの生意気。私だって、あんたのこと守るし……」

武闘家「えー。私の方が強いよー?」

魔法使い「それでもよ! 私は、守られるだけなんてイヤ!」

武闘家「……くすっ」


37: 2016/07/02(土) 17:29:27.12 ID:5HfrqQBu0
武闘家「嬉しいよ、魔法使いちゃん。…うん、そうだね。私も、まだまだ頼りないもんね」

魔法使い「そうよ。あんたってば今でも1人で行動できないし、道には迷うし、脳筋だし……」

武闘家「あ、あははー。ほんと世話の焼ける友達だよねー」

魔法使い「別に、いいわよ。世話の焼けるあんたで」

武闘家「ほんとに? 欠点なのに?」

魔法使い「何を今更。…私がカバーするだけだし」

武闘家「ありがとうっ! 魔法使いちゃん、大好きっ!」ギュッ

魔法使い「っ!!」


大好き。きっと私の思う"好き"とは違う。
違うけど――


魔法使い「……ありがとう」

武闘家「? 何に対してのお礼?」

魔法使い「別に……何となく」

武闘家「あはは、何それー。変な魔法使いちゃん」

魔法使い「あんたに変だなんて言われたくない」

武闘家「もー、ひどいなー」アハハ



――ありがとう。私と一緒にいてくれて。


38: 2016/07/02(土) 17:29:59.19 ID:5HfrqQBu0
僧侶「あの、そろそろいいでしょうか」

盗賊「うー。友情が眩しいです」

魔法使い「わわっ、2人とも!?」

僧侶「言っておきますが、武闘家さんに忠告したのは私ですよ。勇者様の行動が怪しい、と……」

魔法使い「そ、そうだったの。ありがとう…って、何で?」

盗賊「男の人を苦手としてる魔法使いちゃんに、下心を持った勇者君が近づこうとしている。これは由々しき事態なのです」

僧侶「そういうことです。……まぁ、私としても勇者様の関心が他の女性に向くのは好ましくありませんし」

盗賊「僧侶ちゃんは素直じゃないのです。魔法使いちゃんのこと本当に心配してたのに」

僧侶「……そんなことありません」プイ

魔法使い「盗賊、僧侶……」

僧侶「……何ですか?」

魔法使い「2人とも、男の趣味は悪いけど……何て、いい子達なのっ!!」ギュッ

盗賊「えっ?」

僧侶「っ!」

魔法使い「こんな私のこと心配してくれるなんて、嬉しくて嬉しくて……」

僧侶「そ、それは…仲間、ですし……」

盗賊「そうなのです。それにボク達、魔法使いちゃんのこと好きですよ」

武闘家「うぅー、いいなぁ。私なんか魔法使いちゃんからギュッとして貰ったことないのにー」

僧侶「ま、まぁ…。とにかく、魔法使いさんはしばらく単独行動をやめましょう」

盗賊「と、いうことで~…一緒にお風呂入るのです!」

魔法使い「え、ええぇーっ!?」

武闘家「行こう行こう!」

僧侶「裸の付き合いも大事ですよ」

盗賊「絶対に逃がさないです~♪」

魔法使い(ちょっ……普通にヤバいってー!!)


その後、風呂場で煙幕魔法を使うという手段でとりあえず乗り切った。


41: 2016/07/03(日) 19:32:38.45 ID:pUUG/5wW0
>後日


勇者「……そうして手に入れたのが、この"戦女神の剣"というわけです」

姫「まぁ、流石勇者様ですわ」フフフ


魔法使い「話を盛ってるわー。あれは盗賊の探索能力のお陰だったじゃない」

武闘家「それにしてもびっくりだね。まさか、私達がお茶してるカフェにデートで来るなんてね」

魔法使い「何で入口側の席に座ってるのよ…。店を出ようにも、あの位置からじゃ気付かれるじゃない」ハァ

武闘家「気付かれたら、何か気まずいもんねー…あ、立ち上がったよ。お店を出るみたい」

魔法使い「そうね。じゃあ私達も出ましょう」


42: 2016/07/03(日) 19:33:08.28 ID:pUUG/5wW0
盗賊「…はぁ~」

魔法使い「盗賊、相変わらずストーキングしてるの?」

盗賊「うぅ…姫様は本当に素敵です……」

武闘家「ん、勇者と姫様が……」



姫「では今日は、これで失礼しますわ」

勇者「おや…もう一件、行きたい所があったのですが……」

姫「少し用事がありまして…。それに、勇者様の旅も終盤でしょう? あまり、時間を取らせるわけにはいきませんわ」

勇者「姫様…俺にとって、貴方と過ごす時よりも大切な時間はありません」

姫「そんなことを言ってはいけませんわ。貴方は世界の希望を背負った勇者様なのですから」

勇者「そんな、俺は……」

姫「では勇者様、ご機嫌よう。城はすぐそこなので、1人で帰りますわ」ニコ



武闘家「うーん、流石姫様。ガードが固いねぇ~」

魔法使い「あーあ。姫様、もっとガツンと言って下さって構わないのに」

盗賊「勇者君と姫様、くっついちゃうんでしょうか……」

魔法使い「そうなんじゃない? でも、勇者は女好きだし、盗賊も第二第三夫人なら……」

姫「ねぇ」ニコニコ

魔法使い「!!?」ビクッ

武闘家「わぁ!?」

盗賊「ひ、ひひひひ姫様!?」

姫「ふふ、ご機嫌よう。勇者様のお仲間様」


43: 2016/07/03(日) 19:33:35.43 ID:pUUG/5wW0
盗賊「ご、ごごごご機嫌麗しゅう……」ガチガチ

魔法使い「き、奇遇ですねぇ~」

武闘家(うわぁ…近くで見ると、本当に綺麗)

姫「ねぇ…貴方」

盗賊「ボ、ボク!? は、はいです!!」

姫「貴方…私と勇者様の逢瀬、たびたび見ていらっしゃったわね?」

盗賊「!!!」

魔法使い(あちゃー…気付かれていたか)

武闘家(姫様、意外と勘がいいんだなぁ)

盗賊「そ、そ、それは……」

姫「ふふっ…言い訳しなくていいのですよ。ねぇ、盗賊様…でしたわね?」

盗賊「そ、そんな、呼び捨てでいいです! 敬語も必要ありません!!」ブンブン

姫「では、盗賊…少し、2人きりで話しましょう?」

盗賊「!!!」

魔法使い(まさか……私刑!?)

武闘家(大変だあぁーっ!!)


44: 2016/07/03(日) 19:34:03.40 ID:pUUG/5wW0



僧侶「で、盗賊さんは姫様と、この庭園に入って行かれたと」

魔法使い「万が一盗賊がひどい目に遭いそうになったら、助けなきゃ!」

武闘家「あ……2人がいたよ!!」



姫「私と勇者様でここを歩いていた時からずっと、陰で見ていたわね……?」

盗賊「は、はい、です……」

姫「うふふ。どうしてそんなに緊張しているの?」

盗賊「だ、だって……」



魔法使い「怯えてるのかしら…あんなに緊張して」

武闘家「そんなに怖いかなぁ?」

魔法使い「そりゃそうでしょ。威厳というか、オーラが違うわ」

僧侶「うーん……」

魔法使い「どうしたの、僧侶?」

僧侶「怯え、にしては…何か、様子がおかしいような……」

魔法使い「え?」



姫「勇者様から聞いていた感じと違うわね。盗賊は明るくて純朴な女の子、って聞いたけど」

盗賊「あ、ううぅ。だ、だって……」モジモジ

姫「私が相手だから?」

盗賊「!!!」

姫「ふふ、わかっているわ――」スッ


そして姫様は、盗賊の頬にそっと触れ――


姫「貴方――私のこと、好きなのでしょう?」


魔法使い「え?」

武闘家「え?」


45: 2016/07/03(日) 19:34:32.89 ID:pUUG/5wW0
盗賊「そ、そそそそれは……」

姫「気付いていたわ…貴方が私に送ってくる熱い視線に。どうなのかしら?」

盗賊「……はい、です」コクリ

姫「ふふ、やっぱり……」

盗賊「み、見てるだけで良かったのです! 同性愛は禁止されているし、それに……」

姫「それに?]


盗賊「……ボクみたいに卑しい身分の者は……姫様に近づくことすら、おこがましいから……」

姫「そんなことないわ」ギュッ

盗賊「!!! ひ、姫様――」

姫「盗賊……貴方、可愛い」

盗賊「っ!?!!?」

姫「可愛い。そうやって弱気になっちゃうところも、一途なところも――」ナデナデ

盗賊「ぁ……ひ、姫様、そこは……っ」

姫「ふふ、ひと目見た時から、貴方が欲しいって思っていたの。そう簡単には、離さないわ……」

盗賊「ひ、姫、さまぁ……」



魔法使い「……退散」


46: 2016/07/03(日) 19:35:02.76 ID:pUUG/5wW0
僧侶「見てはいけないものを見てしまいましたね……」

武闘家「凄かったねー」

魔法使い「……」ドキドキ

魔法使い(まさか盗賊の尾行の目当てが姫様の方だったなんて……。でも、今思い返せば……)


盗賊『……姫様って、綺麗で、品があって、教養があって…だから、自分が惨めで』

盗賊『ボクは気にしてるです。…同じ人間で、同じ女なのに、ボクと姫様は何もかもが違いすぎる』


魔法使い(……うん。姫様と自分が釣り合わないと思っての発言ね)

僧侶「それにしても、どうしましょうね…。このまま黙認しているのも……」

魔法使い「まさか僧侶……通報する気!?」

武闘家「駄目! それは駄目だよ!」

僧侶「武闘家さん……?」


47: 2016/07/03(日) 19:35:36.66 ID:pUUG/5wW0
武闘家「2人の仲を無理矢理引き裂くなんて、そんなの駄目! 可哀想だよ!」

僧侶「だけれど…私達が黙認していたとしても、2人は結ばれることが許されぬ仲…」

魔法使い(そう、同性愛は御法度。だからこそ盗賊も苦しんで……)

武闘家「社会が許さなくても、私が認めるもん!」

魔法使い「……え?」

武闘家「今の法律の方が間違ってるよ…だから私、法律を変える! 魔王を倒して、偉い人になって……何年かかるかわからないけど、そんなことで罰せられることのない世の中にしてみせるよ!」

魔法使い(武闘家……)

僧侶「……まぁ、通報しては十中八九、盗賊さんが重い罰を受けます。私としても、それは避けたい事態です」

魔法使い「そうね。とりあえず黙認して…他の人にバレないようにしないとね」

武闘家「魔法使いちゃん、僧侶ちゃん…わかってくれるの?」

魔法使い「そりゃ、ね。私も今の法律が間違ってると思うし……」

武闘家「……へへっ」

魔法使い「な、何よ? 人の顔をジッと見て」

武闘家「嬉しいなぁ~って。魔法使いちゃん、私と同じだね~♪」

魔法使い「何で嬉しいのよ。変な子ね」

僧侶「……」


48: 2016/07/03(日) 19:36:06.09 ID:pUUG/5wW0
>その晩


盗賊「姫様…あぁ姫様」ポー

僧侶「……くれぐれも、ボロは出さないようにして下さいね?」


魔法使い「ちょっと、勇者」

勇者「うん、何だい魔法使い」

魔法使い「旅も終盤、気を引き締めないといけないわ。だから魔王を倒すまで、城下町に戻るのはナシよ」

武闘家「そうそう。今まで息抜きしすぎだったと思うよ」

勇者「うーん…。あ! じゃあ魔法使い、しばらく君が姫様の代わりを務めるというのは」

魔法使い「氏ね」ギロ

勇者「氏ねはないだろ……」

武闘家「魔法使いちゃーん、行こう行こう~」


49: 2016/07/03(日) 19:36:37.21 ID:pUUG/5wW0
魔法使い「これでいいわ。城下町に戻れば盗賊と姫様が会ってボロを出すこともないだろうし……」

武闘家「うん。少なくとも、魔王を倒すまでの間は誤魔化せるね」

魔法使い「折角姫様と通じ合えたところで盗賊には気の毒だけど……あ、見て武闘家」

武闘家「ん、何……わぁ、綺麗な星空だねぇ~!!」

魔法使い「えぇ。久々に見たわ、こんな満天の星は」

武闘家「魔法使いちゃん…あのね、星占いによるとね、盗賊ちゃんと姫様の相性はバツグンなんだよ」

魔法使い「そう。2人とも幸せになれるといいわね」

武闘家「そうだね! こういう星空の下を、2人で堂々とデートできるようになれるといいよね!」

魔法使い(本当そうね……っていうか)


星空の下を、2人でデート……それは、今の私と武闘家じゃないか。


魔法使い(…なんて、バカよね。盗賊達とは違うんだから、デートにならないって)

武闘家「……ねぇ、魔法使いちゃん」

魔法使い「ん?」

武闘家「あれ……僧侶ちゃんと勇者じゃない?」

魔法使い「本当だ…あんなところで、コソコソ何やってるのかしら」


50: 2016/07/03(日) 19:37:03.74 ID:pUUG/5wW0
僧侶「……困ります」

勇者「そんなこと言わないで。僧侶だって俺のこと、好きだろう?」

僧侶「それとこれとは、話が別です……」

勇者「姫様との逢瀬を禁止されてしまった。……俺にはもう、僧侶しかいないんだよ」

僧侶「…でも……」

勇者「誰にも愛されてなかったら、俺、駄目なんだよ。こういう状態で魔王を倒せる気がしない……」

僧侶「……わかりました」

勇者「!! 本当!?」

僧侶「ですけれど…キスも婚前交渉も駄目ですよ」

勇者「えー…。それじゃ意味ないじゃん」ハァ

僧侶「……胸くらいならいいですよ」

勇者「えっ? 触ってもいいってこと?」

僧侶「えぇ…そこまでなら譲歩できます」


51: 2016/07/03(日) 19:37:32.14 ID:pUUG/5wW0
魔法使い「何あいつ!! 最低、燃やしてやるわ!!」

武闘家「ストップ、ストップ! 魔法使いちゃん、押さえて!」

魔法使い「止めないで武闘家! 僧侶にそんなことさせられないわよ!!」

武闘家「でも、僧侶ちゃんは勇者のこと好きなんだよね?」

魔法使い「……そうみたいね」

武闘家「それに僧侶ちゃんは、イヤなことはハッキリ断れる子だよ。勇者の誘い方が気に入らないのはわかるけどさ……」

魔法使い「……わかった、見逃す。合意の上なら仕方ないわね」

武闘家「うん。見つからない内に行こう」

魔法使い(それにしても……)


勇者「僧侶…君の肌は綺麗だね。純潔を守る君らしい白さだ……」

僧侶「ん……っ」


魔法使い(僧侶…ほんとに、何で勇者なんかに惚れたの?)


52: 2016/07/03(日) 19:38:11.58 ID:pUUG/5wW0
その日からは、魔王城に一直線だった。


武闘家「どりゃっ、せええぇぇいっ!!」バキィ

魔法使い「巨神兵の鎧をブチ破る程になったわ…。恐ろしい子」

武闘家「筋肉に、できないことなんてないんだよ!」

勇者「あ、ははは。武闘家は凄いなぁ~」

魔法使い(恐れてる恐れてる)


勇者は武闘家や、彼女と常に一緒にいる私にチョッカイをかけてくることはなくなった。


盗賊「隠し通路を見つけたです! これで、魔王城まで大分近道になるですよ!」


盗賊の様子に変わりはない。内心は姫様に会えなくて寂しがっているだろうけど、それを表に出すことはない。


勇者「僧侶…ちょっといいかな?」

僧侶「……はい」

魔法使い(またやってるわ……)


僧侶と勇者は、奇妙な関係を続けている。覗き見ているわけでないので、何をしているかは知らないけど……。


魔法使い「今日もお疲れー。あぁ疲れた」ドサッ

武闘家「魔法使いちゃん、一緒に寝るー?」ドサッ

魔法使い「バッ…バカじゃないの!? 子供じゃないんだし、1人で寝なさい!!」

盗賊「でも、この宿のベッドは大きいのです。これは皆で寝ないと損なのです」

魔法使い「意味がわからないわ」

僧侶「皆さん、魔法使いさんを取り押さえますよ」

魔法使い「ちょっ」

武闘家「えーい♪」ギュッ

盗賊「やー! なのです!」ギュッ

僧侶「ふふっ、たまにはいいでしょう」ギュッ

魔法使い(色々とヤバいわあああぁぁ!!)ドキドキドキドキ


私達女子4人は、仲良くやっていた。


58: 2016/07/04(月) 18:40:30.12 ID:6bFq7v+S0
>そんで


武闘家「遂に来たね……」

魔法使い「これが魔王城……」

盗賊「何か、ヤな気配がするです~…」

僧侶「……」

勇者「皆、緊張しちゃってんの~? 今の俺たちに敵なんかいないって~♪」

魔法使い「油断するな、足元すくわれるわよ」

勇者「魔法使いったら、本当に怖がりだね~♪ か~わ~い~い~」

魔法使い(こいつ、魔王と相打ちにならないかな)

僧侶「何が待ち受けているか、わかりませんよ」

勇者「そんな警戒しなくていいだろ、道中だって大したことなかったんだしさ」

僧侶「それなら勇者様、先頭を歩いて下さいませんか?」

勇者「任せろ。俺が君たちを守る」グッ

魔法使い「はよ行け」

勇者「おう…開け、魔王城の扉よ!!」バァン


ドガアアアァァァン


魔法使い「うわ、早速やられた」

盗賊「扉を開いたと同時に衝撃波とは、予想外なのです」

武闘家「先に行ってもらって良かったねー」

僧侶「勇者様あぁ――っ!!」


59: 2016/07/04(月) 18:40:59.44 ID:6bFq7v+S0
?「フ…よくぞ来た、勇者とその一行の者共よ。待ちわびていたぞ……!!」


盗賊「…! だ、誰なのです!?」

魔法使い「あの女…尋常じゃない魔力の持ち主よ!!」


?「フフフフ……何者と問うなら応えてやろう」



魔王「我が名は魔王! 魔物達を統べる王である!!」


盗賊「魔王……あの人が!?」

武闘家「結構細身だねー。私の方が力はありそう」

魔法使い「油断するんじゃないわよ武闘家。何せ、勇者を一擊で葬った奴なんだから……」


勇者「何て美しい女性だ!」

魔法使い「あ、生きてた」

勇者「魔王……不毛な戦いなんてやめにしないか? 勇者と魔王、手を取り合って…和平の為に愛し合」

魔王「氏ね」ゴオオォォッ

勇者「ぎゃばー!!」

魔法使い「勇者が氏んだわよー。さぁ皆、構えて構えて」

勇者「いや…生きてる」ボロボロ

魔法使い「あそう。じゃ、剣構えて」

勇者「鬼か!!」


60: 2016/07/04(月) 18:41:25.98 ID:6bFq7v+S0
魔法使い「まさか初っ端から魔王が出迎えてくれるとは思わなかったわ」

魔王「無駄に犠牲者を出すことは好まん。ならば、私が相手するのが良かろう」

盗賊「おぉ。部下思いの魔王なのです」

武闘家「それでも人間の敵だよ。魔王との争いで、人間達は数を減らしたんだから」

魔王「あぁ、先代は血の気が多い方だったからな…。しかし私も、歴代魔王の業を背負った身。言い逃れなどせんよ」

魔法使い「潔くて結構。穏健派と聞いて戦うことに戸惑いはあったけど、これなら思う存分戦えるわ」

武闘家「行くよ…全てを終わらせるんだ!」

盗賊「戦闘準備、オッケーなのです!」


勇者「俺が置き去りだよぅ……」

僧侶「今、回復魔法かけますから」


61: 2016/07/04(月) 18:41:52.40 ID:6bFq7v+S0
魔王「喰らえ、黒雷!!」バチバチッ

魔法使い「シールド!!」

魔王「ほう、私の攻撃を魔法で防げる人間がいるとはな」ニヤリ

魔法使い「防御だけじゃないわよ! 煙幕っ!」

魔王「視界を曇らせるか…しかし気配を追えば、こんなもの……」

シュッ

魔王(投げナイフ……!?)サッ

盗賊「おぉ、煙幕と投げナイフのコンボを最初から回避したのは、魔王が初めてなのです! でも、諦めないです!」

シュッシュッ

魔王(くっ……素早い奴だ。気配を追うので精一杯だ!)サッサッ

武闘家「私を忘れてもらっちゃ困るなぁ~」

魔王「!! いつの間に……」

武闘家「喰らええぇ――っ!!」


――バキィ


魔王「――っ」


62: 2016/07/04(月) 18:42:31.48 ID:6bFq7v+S0
魔王「人間にしては、力強い一擊だ……この"邪神の加護"がなければ、骨を折られていただろう」

魔法使い「何…? 魔王が纏っている魔力が、ダメージを吸収した?」

僧侶「あれは代々魔王に伝わる、邪神の加護。あれがある限り、彼女に致命傷を与えることはできません」

魔法使い「何それ、初耳なんだけど!? そんなの相手にどうダメージを与えるのよ!?」

僧侶「攻略法はあります。邪神の加護を打ち破ることができるのは"戦女神の剣"であり――」

勇者「その剣を扱える俺が、救世主ってわけだ」フフン

魔法使い「あら勇者、復活したの」

勇者「見てろよ皆…この俺が、魔王に纏っている加護を打ち破ってみせよう!」

魔法使い「うん、わかったからとっとと行って」


勇者「魔王よ…お前の時代は終わりだ。大人しく降伏して、俺の女になるがいい!!」ビシッ


魔法使い(何言ってんのあのバカ)


魔王「面白い。来るがいい、勇者よ」

勇者「はあああぁぁ――っ!!」ダダッ

武闘家「無駄のない走り、これなら行ける――」

勇者「喰らえ――」


僧侶「……肉を破れ。"堕天使の咎"」

バリバリバリッ

勇者「ぎゃあああぁぁっ!?」

盗賊「!? 勇者君の全身から血が……」

魔法使い「今の魔力は……」バッ


僧侶「……ふふ」

魔法使い「僧侶……あんたの仕業!?」

僧侶「はは……はははははっ!!」


63: 2016/07/04(月) 18:42:58.53 ID:6bFq7v+S0
僧侶「回復魔法のついでに、『勇者』の体内に仕掛けをしたのですよ。面白い程に引っかかりましたね」

勇者「う……」ピクピク

僧侶「戦女神の剣……預からせて頂きます」

魔法使い「何で…? 裏切ったの、僧侶!?」

僧侶「いいえ、裏切ったわけではありません……。だって最初から、私は『魔王様』側の人間ですから」

魔法使い「何ですって……!!」


魔王「よくぞやった、僧侶よ……。勇者一行を欺くことに成功したようだな」

僧侶「えぇ魔王様、全ては貴方の為に――」

魔法使い「どういうことよ! 僧侶、私達を騙してたの!?」

僧侶「えぇ、そうです。勇者一行に入り、貴方達が魔王様を討てぬように旅を誘導させて頂きました」

魔法使い「誘導…!? そう言えば――」



僧侶『では、早速ですが魔王城までの経路について話し合いませんか? 私、これについては少し詳しいので、色々とプランを考えてきたのですが…』

勇者『僧侶にお任せするよ』



魔法使い「私達、僧侶の考えたプラン通りに旅を進めてきたわ…。まさか、それが策略だったの!?」

僧侶「えぇ、魔物側にとって重要な戦力を潰されぬよう誘導しました。あとついでに、魔王様を倒す為に必要な武具や、その情報を得られないようにも誘導しました」

魔法使い「な……旅が変にサクサク進むと思ってたら……」

盗賊「くうぅ…戦女神の剣を入手したことで、舞い上がっていたのです……」


64: 2016/07/04(月) 18:43:41.63 ID:6bFq7v+S0
勇者「うぐぐ…僧侶……」

僧侶「あら。随分しぶといんですねぇ」

勇者「どうしてだ僧侶……俺はお前のこと、好きだったのに……」

僧侶「……笑わせてくれますね」フフッ

勇者「!!?」

僧侶「言っておきますが、私は貴方を好いているように見せていただけですよ。本当は心の底から大嫌いだし、むしろ一刻も早く便所に流されろゴミクズと思っていました」ニッコリ

勇者「ゴ、ゴミクズ……」ガーン

僧侶「あははは、脳みそが下半身に、頭に精液が詰まってる男は単純ですよね!! あはは、あはははははっ」

勇者「く、くそ……。惨めだ…俺は、惨めだ!!」


魔法使い(1ミリも同情できないわー)


65: 2016/07/04(月) 18:44:10.25 ID:6bFq7v+S0
僧侶「魔法使いさん、武闘家さん、盗賊さん」

魔法使い「な、何…」

僧侶「大人しく帰って頂けませんか。貴方達では、魔王様にかないませんよ」

魔法使い「……帰ったら、貴方達はどうするの?」

僧侶「研究を進めるだけですよ。もうじき、研究は完成する予定……」

魔法使い「それって――」



魔法使い『『魔王が進めている恐ろしい研究』って何だか知らない? 何か研究しているのは聞いたけど、肝心の内容がわからないのよね。僧侶は知らない?』

僧侶『……はっきりはわかりませんが、どうやら『生物の常識を覆し、人間社会に悪影響を与える』ものらしいですよ』



魔法使い「人間社会に悪影響を与えるっていう、あの研究!?」

僧侶「悪影響…そうですね、悪影響かもしれませんね。だけど研究を完成させることが、私達の悲願ですから……」

武闘家「何だかわからないけど…私達は、魔王の野望を阻止しに来たんだよ!」

盗賊「ここで諦めるわけにはいかんのです!」

勇者「あのー…回復アイテム持ってないですか」ボロボロ

魔法使い「ない! 隅っこ行ってろ!」


僧侶「…仕方ありませんね。痛い目に遭ってもらいましょうか」

魔王「下がっていろ、僧侶。脅すだけなら、これで十分――」

魔法使い「!! この莫大な魔力は……」

盗賊「い、隕石が上空に!!」

魔王「凶星よ降り注げ…"黒雲の審判"」


ドガアアァァン


66: 2016/07/04(月) 18:44:39.64 ID:6bFq7v+S0
魔法使い「み、皆…大丈夫?」

武闘家「う、うん…攻撃が外れたお陰で……」

魔王「今のはわざと外したのだぞ。だが……次はないぞ?」

盗賊「ひっ……」

魔法使い(何てこと…あんな魔法攻撃、防ぎきれないわ!)

僧侶「おわかり頂けましたか? 魔王様の攻撃を防ぐ防具も、魔王様が纏う加護を貫く武器もない貴方達に、勝つ方法なんて無いんですよ」


魔法使い「くっ…」

魔法使い(確かにその通りだわ…これだけの力を見せつけられたら、絶望的……)

盗賊「うぅ…打つ手がないのです……」

魔法使い「撤退…するしかないの?」

武闘家「駄目だよ」

魔法使い「武闘家…!? でも、僧侶の言う通り私達に勝つ手段は……」

武闘家「大丈夫!! 魔法使いちゃん、私、いつも言ってたよね」

魔法使い「え……?」

武闘家「筋肉に、できないことなんてないんだよ……!!」


71: 2016/07/05(火) 19:16:27.60 ID:iTyYYhYB0
魔王「ほう、人間…まだ私に立ち向かおうと言うのか?」

武闘家「私達は偉くなって、法律を変えなきゃいけないんだよね。その為に、絶対に貴方を倒すよ」

魔王「勇敢な小娘だな…だが、それだけで私には勝てぬぞ!」ゴゴゴ

盗賊「出たです、隕石!!」

魔王「降り注げ!! 黒雲の審判!!」

魔法使い「きゃああぁ、降ってくるぅーっ!!」

武闘家「すううぅぅ……」

魔法使い「どれくらい効果あるかわからないけど……シールd」

武闘家「はああああぁぁぁっ!!」


バキイイイィィッ


魔法使い「」

盗賊「な……」

武闘家「どう?」ニヤリ

魔王「馬鹿な……光速で降り注ぐ隕石を砕いただと!?」

魔法使い「え……。え?」


72: 2016/07/05(火) 19:17:00.90 ID:iTyYYhYB0
魔王「何かの間違いだ! 喰らうがいい、爆炎、黒雷!」

武闘家「せあっ!!」ビュンッ

魔法使い「蹴りで…かき消した……」ポカーン

魔王「な…僧侶、何なのだ、あの人間は!?」

僧侶「ぶ、武闘家さんは、ただの怪力で……で、でも、あそこまでの力は……」

武闘家「あったんだなぁ、それが。今まで大した敵と戦ってなかったから、お披露目する機会がなかったけど」フフン

盗賊「そっか…魔物側の重要戦力との戦闘を回避させたせいで、僧侶ちゃんも武闘家ちゃんの戦力を正しく測れてなかったのです!」

僧侶「ま、魔王様…申し訳ありません!」

魔王「良い。それよりも、規格外の人間がいたものだな…面白い!!」

僧侶「ですが…きっとこのままでは、筋肉の力で邪神の加護も打ち破られるパターンです!」

魔法使い「パターンて言うな」

魔王「それならそれで……」ゴゴッ

魔法使い「!! この魔力の波動は……!!」

盗賊「くっ…吹き飛ばされそうなのです……!!」

魔王「距離を詰めなければ良いだけのこと。さぁ、どうする!?」

武闘家「…っ、厄介だなぁ」


勇者「」←吹っ飛ばされて壁に激突して気絶した


73: 2016/07/05(火) 19:17:33.50 ID:iTyYYhYB0
武闘家「でも、行くしかないよね…! せりゃああぁぁっ!!」

魔法使い「無理矢理行った!!」

魔王「ほほー、やるな。だが……」クイッ

武闘家「!?」ヨロッ

魔法使い「!! 波動の向きが、向かい風から追い風に変わった!?」

盗賊「前方に勢いをつけていた分、追い風による前方へのよろめきが大きいです!」

魔王「隙ありだ」ドゴォン

武闘家「うわあぁぁっ!!」ドサァッ

魔法使い「武闘家ぁーっ!!」

武闘家「いてて…。大丈夫、とっさに防御姿勢取ったから!」

魔王「この程度の攻撃魔法では大したダメージも与えられぬか。見かけによらず、鎧のような筋肉だな」

僧侶「ですが魔王様、距離を空けたままダメージを積み重ねればいずれは……」

武闘家「めげるもんか! おらぁーっ!!」ダダッ


74: 2016/07/05(火) 19:18:00.24 ID:iTyYYhYB0



武闘家「…はぁ、はぁ……」

魔王「かなりしぶといな。何発喰らわせただろうな?」

僧侶「しかし確実にダメージは蓄積しています。それに、体力も大分消耗してますよ」

武闘家「くっ、まだまだ……」

魔法使い「やめて武闘家、このままだと氏んじゃうわ!」ガシッ

武闘家「!! 魔法使いちゃん……」

魔法使い「もう見ていられない! 武闘家がこれ以上傷つくのは、嫌よ!!」

盗賊「なのです…。ここは撤退して、出直した方が良いのです」

魔王「そうはいかんぞ」

僧侶「魔王様?」

魔王「勇者以外の虫けら程度、逃がしても支障はないと思っていたが…。事情が変わった。その筋肉娘は、確実に仕留める!!」

武闘家「…っ!」

魔王「これが私の全力だ……はああぁぁぁっ!!」

魔法使い「魔王の魔力が城中に蔓延して……危ないっ!!」


ドガアアァァン


75: 2016/07/05(火) 19:18:53.49 ID:iTyYYhYB0
僧侶「……ゴホッ。城ごと吹っ飛ばすとは、正気ですか魔王様」

魔王「こうでもしないと倒せないと判断した。城は直せば良い」

僧侶「そう…ですね」

魔王「どうした僧侶。仲間だった者たちが気がかりか?」

僧侶「!! い、いえ、そんなことは……」

魔王「わかっている、お前は心優しい娘だ。仲間だった者たちに情がわかぬはずがない」

僧侶「……はい。あ、勇者のゴミクズはどうでもいいですけど」

魔王「すまない。お前には、辛い役目を任せたな……」

僧侶「魔王様の為なら、何だって……」


76: 2016/07/05(火) 19:19:25.33 ID:iTyYYhYB0
魔法使い「う……」

魔法使い(いたた……。私、生きてる……?)

武闘家「良かったぁ、魔法使いちゃん。大した怪我はないね?」

魔法使い「!! ぶ、武闘家……」

武闘家「大分、吹っ飛ばされちゃったね? すっごい威力だったぁ~…」

魔法使い「あんた、す、凄い怪我じゃない!!」

武闘家「大丈夫だよ、見た目は派手だけど大したことないから」

魔法使い「嘘おっしゃい! あんたが嘘ついてたら、わかるんだからね!!」

武闘家「へ、へへ…やっぱり、魔法使いちゃんにはかなわないなぁ」

魔法使い「……私を庇ったんでしょ」

武闘家「………」

魔法使い「どうしてこんな無茶したのよ…!! 私のせいで、あんたが……」グスッ

武闘家「そんな、泣かないでよ魔法使いちゃん。私、ちゃんと生きてるんだよ?」

魔法使い「バカ……女の子なんだから、傷跡が残るとか、考えなさいよ……」

武闘家「あはは! 魔法使いちゃん、こんな時にずれてるー」

魔法使い「笑い事じゃないわよ……私にとっては、とってもとっても大事なことで……」グスグス

武闘家「うん、うん。ありがとう魔法使いちゃん。……ごめんね、泣かせて」ポンポン


77: 2016/07/05(火) 19:19:52.19 ID:iTyYYhYB0
武闘家「さて、魔王のとこ戻ろうか」

魔法使い「!! あんた、その体でまだ戦おうっての!? やめなさい、逃げるわよ!」

武闘家「大丈夫。今ので、いい作戦思いついたんだ。あのね……」

魔法使い「あんたが思いつく作戦なんかで、あの魔王を打ち破れるわけないでしょ!」

武闘家「ひどいなぁ」プクゥ

魔法使い「せめて…体を治してから再戦するのよ! 僧侶が向こうについちゃったから、今は回復手段がないんだからね!!」

武闘家「それじゃ駄目だよ。今の魔王こそ、魔力を大きく消費してて、倒すチャンスでしょ?」

魔法使い「魔王以上にあんたが消耗してるのよ! それくらいわからないの、バカ!!」

武闘家「そりゃまバカだけど。どうして、そんなに止めるのさ」

魔法使い「……あんたに氏なれたくないからに決まってるでしょ!!」

武闘家「魔法使いちゃん……」

魔法使い「負けてもいいし、世界がどうなってもいいのよ! あんたが生きてさえいれば……私は、どんな世界でだって笑って生きていけるんだから!!」

武闘家「……」


78: 2016/07/05(火) 19:20:37.11 ID:iTyYYhYB0
武闘家「へ、へへへ……嬉しいなぁ」

魔法使い「人の気も知らずに……」グスグス

武闘家「あー、ごめんね魔法使いちゃん。泣かないで、ね?」

魔法使い「泣いてない! バカ! いいから帰るわよ!」

武闘家「魔法使いちゃん、言ったよね……? 体を治してから再戦なら、いいって」

魔法使い「言った、けど……」

武闘家「じゃあ――そうするね」クイッ

魔法使い「えっ、何――」


チュッ


魔法使い「――」

武闘家「……」


柔らかいものが、私の唇を塞いでいる。目の前にあるのは、彼女の顔で――


武闘家「……ぷはぁ」

魔法使い「……」ポカン

武闘家「へへ…ごめんね、魔法使いちゃん♪」

魔法使い「………え?」


79: 2016/07/05(火) 19:21:13.84 ID:iTyYYhYB0
武闘家「さて回復したよ! 行こうか!」

魔法使い「ちょっ、あんた……っ、わわわ、私のファースト……」

武闘家「話は後! 魔王の魔力が回復する前に行かなきゃ!!」

魔法使い「ちょっ……いや、行ったところで勝てるわけ……」

武闘家「言ったじゃない、作戦があるって」

魔法使い「……どんな作戦よ?」

武闘家「それはねー……」


83: 2016/07/06(水) 19:16:43.79 ID:8wdOIHkV0



盗賊「ううぅ……」

魔王「おや、1人見つけたぞ。良かったな僧侶、生きていたぞ」

僧侶「えぇ…"回復魔法"」

僧侶(魔法使いさんと武闘家さんも…できれば、逃げていて下されば良いのですが……)


武闘家「魔王ーっ!!」

僧侶「!! 武闘家さん、魔法使いさん……」

魔王「ほほう、あれを喰らってピンピンしているか。面白い!」

僧侶(な、何で逃げてくれなかったんですか! 殺されますよ!)

武闘家「行こう魔法使いちゃん! 協力して魔王を倒すんだ!」

魔法使い「えぇ!」ゴオォ……

魔王(あれは攻撃魔法の類か……だがあの程度の魔力、恐れるに足りん)

魔法使い「はああぁ――っ!!」

魔王「フンっ!!」ビュン

僧侶(流石、魔王様。人間の中でもトップクラスの使い手である魔法使いさんの魔法を、片手でかき消した!)


84: 2016/07/06(水) 19:17:25.95 ID:8wdOIHkV0
魔法使い「まだまだ! でりゃあぁぁっ!!」

魔王「何発打ち込もうが無駄だ! 全て、かき消してやる!」ゴォッ

魔法使い(来た…魔力の波動による向かい風!!)

魔法使い「私の魔力で押し返す!!」ゴゴッ

魔王「ほう抵抗するか…しかし、脆弱だな」

武闘家「十分だよ!」ダッ

魔王「来るか、筋肉娘!!」

武闘家「うらぁーっ!!」ダダッ


僧侶「魔法使いさんの波動による後押しにより、魔王様の波動への抵抗力が強まっている! このままでは、距離を詰めれれる――」

魔王「それならそれで構わん」クイッ


武闘家「!!」ヨロッ

魔法使い(出た――また、向かい風を追い風に変えた!)


魔王「よろめいた一瞬の隙――今度こそ、仕留める」スッ


魔法使い「……っ!!」

魔法使い(作戦通り!!)

魔法使い「でりゃああぁ――っ!!」ドゴオオォォン

魔王「――っ!?」


85: 2016/07/06(水) 19:17:52.46 ID:8wdOIHkV0
~先刻~


武闘家『魔法使いちゃんの魔法で、何とか魔王による波動を引き出してほしいの。そこからが勝負だよ』

魔法使い『波動って…あの技はシンプルだけど厄介よ。魔王も、いいタイミングで向かい風を追い風に変えてくるし…』

武闘家『うん、そこを狙うんだよ。私がよろめいた一瞬の隙――そこが魔王にとっての隙でもある』

魔法使い『まさか、そこを攻撃魔法で突けっての? それは無理よ。私の攻撃じゃ、魔王が纏っている加護を貫けないわ』

武闘家『そうじゃない。魔法使いちゃんが狙うのは魔王じゃなくて、私』

魔法使い『……え?』

武闘家『私を魔法で吹っ飛ばして。魔王の懐まで』

魔法使い『!!?!?』


86: 2016/07/06(水) 19:18:26.18 ID:8wdOIHkV0
魔王「な――っ」

武闘家「へへっ……リーチ入りました♪」

魔法使い「攻撃ブチ込め、武闘家!!」

バッ

僧侶「させません!!」

魔法使い「!! 僧侶が間に……」

盗賊「邪魔させないのですっ!!」ガバッ

僧侶「!!! 離っ……」ジタバタ

魔法使い「盗賊……ナイス!! あとは……」


武闘家「でりゃああぁぁ――っ!!」

魔王「――っ!!」


幾つもの打撃音が、その場に響き渡った。


87: 2016/07/06(水) 19:19:27.57 ID:8wdOIHkV0
魔王「う……」バタッ

僧侶「ま、魔王様……」


武闘家「ふぅ…倒したっ!」

魔法使い「信じられない……本当に筋肉の力だけでやりやがったわ」

盗賊「あれ? 魔法使いちゃん、武闘家ちゃんを信じて協力したんじゃないですか?」

魔法使い「そんなわけないでしょ! 武闘家がワガママ言って聞かないから……」

武闘家「いつもありがと、私のワガママ聞いてくれて。魔法使いちゃん、大好きだよ」ギュッ

魔法使い「!!!」

盗賊「おやおやぁ~? 何かアヤシイですね、お2人さん」

<ふっふっふ……

盗賊「ん?」


88: 2016/07/06(水) 19:19:53.78 ID:8wdOIHkV0
勇者「よくやったな!! 僧侶の妨害工作にもめげず魔王を打ち破るとは、流石勇者パーティーだ!!」

魔法使い「うわ。あんた、何でピンピンしてるの」

勇者「10分寝たら回復した」

魔法使い「生命力だけは勇者ね。ゴキブリの称号を与えたいわ」

勇者「さて、魔王。敗者には審判が下される、それが戦いのルールだ」

魔王「ぐ……」

勇者「魔王よ……俺の女になれ!!」


武闘家(ないわー)

盗賊(何かシャクなのです)

魔法使い(ものすごく魔王を助けたい)


魔王「くっ、誰が……」

勇者「随分と反抗的だな……だが、思い知らせてやるよ。お前が、女だということをな」クイッ

魔王「!!」

ゴゴゴゴゴゴ

勇者「!?」

魔法使い「なっ!? この魔力は……」


89: 2016/07/06(水) 19:20:26.19 ID:8wdOIHkV0
僧侶「魔王様に触れるな……このゴミクズが……」ゴゴゴゴゴ

勇者「ひぇえぇ!?」

魔王「やめろ、僧侶! それはお前の命を削る最終奥義!! 今は使うべき時ではない!!」

僧侶「いいえ、魔王様! そんなゴミクズに貴方が汚されるくらいなら、私はゴミクズもろとも氏ぬことを選びます!!」

魔法使い「ゴミク…じゃなくて勇者! ヤバいから魔王から離れなさい!」

勇者「う……」パッ


僧侶「あぁ魔王様、大丈夫ですか! あの性病菌まみれの手で魔王様に触れるなんて、うううぅ」

魔王「大丈夫だ……僧侶、そこまで追い詰めてすまない」ギュッ

僧侶「魔王様…魔王様ぁ……」グスグス


魔法使い「…ねぇ、この2人の関係性って……」

武闘家「……うん、そうだよね」

盗賊「間違いないのです」ウンウン

勇者「え、えっ?」


90: 2016/07/06(水) 19:20:55.13 ID:8wdOIHkV0
魔王「しかし、私は敗者確定だ……。お前と結ばれることは永遠にかなわん」

僧侶「そんなの、氏んだ方がマシです……」シクシク

魔王「それが敗者の宿命というものだ。お前には、辛い思いをさせる。本当にすまない」

僧侶「いいえ魔王様! 私、諦めません! たとえ時間がかかっても……」


魔法使い「何か…可哀想よね」

武闘家「うん……僧侶ちゃんは、愛を貫いただけなんだよね」ホロリ

盗賊「見逃してあげたいけど……」


勇者「ファーッハッハッハ!! 百合だか何だか知らんが、諦めて俺の女になるんだな!!」

魔法使い&武闘家&盗賊(こいつのアレ、もげればいいのに)


僧侶「私達の意思を継いだ魔物達が、研究を完成させるでしょう! その時こそ、私は魔王様と……」


魔法使い(研究……そうだ、研究って何だったの?)


僧侶「魔王様の子を、産んでみせますとも!!」


魔法使い「……は?」

武闘家「え?」

盗賊「子……えっ、えっ?」


91: 2016/07/06(水) 19:21:21.46 ID:8wdOIHkV0
魔王「完成間近だったのだがな…"同性同士で子を作れる研究"は」


魔法使い「」ピクッ


僧侶「きっと邪魔されます……だってあの研究は、"生物の常識を覆し、人間社会に影響を与え"ますから! 完成すれば"男優位の社会"が崩れ去ります!!」


武闘家「」ピクッ

盗賊「」ピクッ


魔王「そうだな…人間社会の偉い奴らは男ばかり。そんな研究、認めないだろうな」

僧侶「うぅ……私、魔王様との子が欲しいです……」


勇者「な、何て恐ろしい研究だ! 生殖の常識を覆すとは、生命への冒涜!! そんなの、俺たちが許すわけ……」

魔法使い「……皆、いいわね?」ゴゴゴ

武闘家「うん」ググッ

盗賊「やっちゃうのです」ビュンビュン

勇者「………え? 皆、戦闘準備なんかして何を…って、何で俺を見て……うわやめろ、何をする――」


ウゴヴァアアアアァァァァァ……



こうして私達は闇落ちしたのだった。


92: 2016/07/06(水) 19:21:47.66 ID:8wdOIHkV0
それから1年……


武闘家「魔法使いちゃん、魔法使いちゃん!」ドンドン

魔法使い「ふゎあ~…何よ、うるさいわね」

武闘家「遂に人間社会で制定されたよ…"同性同士の婚姻"制度が!!」

魔法使い「本当!?」ガバッ


闇落ちした私達は、魔王城に居ついて研究を手伝っていた。
その一方で全世界の同性愛者、女性人権団体などと手を組み、人間社会で革命を起こした。
色々あったけどそれらが全部上手くいって、今に至る。


武闘家「今日、婚姻届出そうよ!! ほら、私はもう全部記入済みだよ!!」

魔法使い「後で書くから、二度寝させて……いつもならまだ寝てる時間……」

武闘家「魔法使いちゃんたら、寝坊助なんだから~」ゴソゴソ

魔法使い「ん……何ぃ、布団入ってきて」

武闘家「一緒に寝よう♪」イヒヒ

魔法使い「………」


93: 2016/07/06(水) 19:22:14.18 ID:8wdOIHkV0
魔法使い「もー…どうしてあんたって、そんなに可愛いのよ……」ギュッ

武闘家「甘えたいんだもん」スリスリ

魔法使い「昔から本当、変わらないわね……」ナデナデ

武闘家「これでも我慢してたんだよー? 魔法使いちゃん、なかなかデレてくれないから……」

魔法使い「そりゃ……同性愛禁止だってのに、デレるわけにはいかないでしょ。本当にバカね……」

武闘家「両思いってわかってからも、同じじゃん! 魔法使いちゃん冷たいよ~」

魔法使い「あー、うん。ごめんね」

武闘家「絶対に許さないもん! 罰としてキス跡つけてやるっ!」

魔法使い「ちょっ、バカ! あーもう毎日毎日、このキス魔!」ポカッ

武闘家「ぎゃふっ」

魔法使い「ったく…ずっと焦がれてたのは、私の方もだっての。もう離さないわよ」ギュッ

武闘家「えへへ~……」


94: 2016/07/06(水) 19:22:43.76 ID:8wdOIHkV0
生き物の常識は変わる。それは神の意思に反しているのかもしれないけれど。


僧侶「魔王様…あの、私、身篭ったみたいです」

魔王「何、本当か!! よくやったなぁ!!」ギュッ

僧侶「魔王様…愛しています」

魔王「私もだ! お前と産まれる子を、永遠に愛すると誓おう!」


私達は、それでも愛を貫くと決めた。


姫「盗賊、このドレスがいいんじゃないかしら?」

盗賊「ぼ、ボクには高貴すぎるのです…」

姫「結婚式用だもの、これくらい華やかな方がいいわ! もう盗賊ったら、可愛いんだから~!」チュッ

盗賊「姫様ぁ、まだお昼ですぅーっ!」


この愛を、永遠のものにすると決めたのだ。


武闘家「さて引越し完了! 今日から始まるんだね、私達の夫婦生活が!」

魔法使い「夫婦って…何をすればいいのかしらね?」

武闘家「とりあえず2、3年はイチャイチャしようよ! 子供作るのはそれからで……」

魔法使い「そうねぇ、武闘家が産みたくなってからでいいわよ」

武闘家「産むのは魔法使いちゃんだよ?」

魔法使い「え?」

武闘家「え?」


95: 2016/07/06(水) 19:23:33.47 ID:8wdOIHkV0
魔法使い「どう考えても、甘えん坊なあんたの方が奥さん役でしょ!」

武闘家「私の方が力強いよ! 奥さん役は魔法使いちゃんだよ!」

魔法使い「あんたが産む子供の方が、絶対愛嬌あって可愛いわよ!」

武闘家「魔法使いちゃんの子供なら、頭の良い子になるよ!」

魔法使い「……」

武闘家「……」


きっと、新しい家族が増えても幸せでいられる。
この子となら、どんな世界でだって笑っていられる。


魔法使い「し、仕方ないわねぇ。……順番に、ってのはどう?」

武闘家「う、うん…そうだね」


Fin


96: 2016/07/06(水) 19:24:10.27 ID:8wdOIHkV0
おまけ・勇者のその後


>酒場


勇者「うぅ…姫様にも仲間にも、キープしてた子達にもフラれたよぅ。チキショウ、女なんて、女なんて!」

ガチムチ「ニィちゃん、気の毒だなぁ。ほら、飲め飲め」

勇者「ありがとうございます…うぅ、酔いが回ってきた……」

ガチムチ「とことん酔いつぶれちまいな! イヤなことを忘れるには、それが1番だぜ!」

勇者「はい!!」グビグビ

ガチムチ「ニヤリ」







勇者はその後、5人の子供を産んだ。


97: 2016/07/06(水) 19:24:45.42 ID:8wdOIHkV0
ご読了ありがとうございました。
魔王を倒した時の作戦は、VS戸愚呂兄弟戦のパクry

勇者は物語の時代背景を考えるとそこまでモラルに反したことはしてないので、救済しておきました(´∀`)


引用元: 魔法使い「男は嫌い…」