2: 2015/01/31(土) 05:02:46.57 ID:cogGYafho

朝から雲が天を覆っていたその日、碇シンジは眉間にしわを寄せて登校してきた。
彼にどうしたのかと声をかけようとした渚カヲルは一度思いとどまり、周囲を見回す。
予想通り、惣流・アスカ・ラングレーが不機嫌な顔をしていた。

「セカンドと何かあったのかい?」

普段通りの温厚な口調でカヲルはシンジへと問いかける。
彼の問い方が気に障ったらしいアスカが「どうせあたしは悪者よ」とぼやく。
アスカの言葉にムッとした顔をするシンジだが、ぽつぽつと語り出した。

「大したことじゃないよ。いつものことなんだから。
僕の料理の味が薄いってアスカがゴネてさ」

「料理?」

予想以上にちょっとしたことだったのに僅かに拍子抜けしつつも、カヲルはシンジの言葉を待つ。

「良く分かんないけど、昨日の夜からずーっと僕に難癖付けてきちゃってさ。
あんたのにくじゃがは砂糖も醤油も足りないのとか、あんたの人間性が現れた薄味ね、
なんて延々と文句言われてホント参るよ」

「それは大変だね。大丈夫だよ、シンジ君は薄味なんかじゃない。
いつまでも味わっていたくなる清々しい味だよ」

「カヲル君……」

1: 2015/01/31(土) 05:01:25.48 ID:cogGYafho
旧劇の量産機戦を見てたらときめきのようなものを覚えて書いたブツです。
エグくはないですがこの時点で嫌な予感がしたら読まない方がいいです(まごころ)

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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

3: 2015/01/31(土) 05:03:31.53 ID:cogGYafho
シンジを取り巻く不機嫌な濁色のオーラが怪しげな薄桃色に中和されていくのを
鈴原トウジと相田ケンスケがはやし立てた。

「おっ渚がまたセンセを口説いとる」

「しかも変な口説き方で」

級友に弄られて表情を和らげたシンジを見て安堵したカヲルは、アスカへと目をやる。
アスカもこちら側を見ていたらしく、視線が合った。

「……」

一睨みしてすぐにアスカはカヲルから目を逸らしてしまったのだが。

「……やれやれ」

軽く息を吐いたカヲルは、アスカとあらためて会話すべきと結論付ける。
カヲルのその要望はあっさりと叶うこととなった。



 

4: 2015/01/31(土) 05:04:19.82 ID:cogGYafho

―――


「雨が酷いね。君はちゃんと傘を持ってきているのかい?」

「……」

カヲルの問いに応えるものは無かった。
その空間にいたのはカヲルの他にはアスカしかおらず、アスカが応じなければ
誰ひとり答えないのだから当たり前だ。
そしてなぜここに二人でいるのかと言えば、理由は明確だった。
教室の掃除当番だったからである。
本来は他にも当番の人間がいたのだが、その人物が欠席だったために結果的に
二人きりとなってしまったのだった。
外は酷い天気であり、まだ遅い時間帯でもないのに真っ暗だ。
こんな時に好き好んで教室に残る人間などいない。

先ほどの問いかけの答えは分からないながらも、カヲルは言う。

「僕は折り畳み傘を持ってるから、帰りは送っていくよ」

「いい。あんたなんかにそんなことされたくない」

完全な拒絶。
他人を受け入れる気などまるでない。

5: 2015/01/31(土) 05:04:51.64 ID:cogGYafho
「こんなに暗いんだ。君だって女の子なんだから気をつけた方がいい」

「小さいころから戦闘訓練受けてるあたしがそこらの変質者にやられるわけないじゃない。
男女の差なんてちっぽけなもんね」

ふん、と鼻を鳴らしたアスカはやる気なさげに箒で塵を掃いていた。

「君がそう言うのなら無理強いはしない。
でも、君一人の体じゃないってことは自覚した方がいいよ。みんなが心配する」

「みんなが心配……ね」

アスカはため息をついて、窓の外を見た。
それは何かにうんざりとしたような横顔だった。
その彼女に、かねてから語りたかったことを言うべくカヲルが口を開いた。

「セカンド」

「何よ。どうでもいい事なら話しかけないでほしいものね」

「僕にそんな態度を取るのは構わないよ。でも、シンジ君にはしないでほしい。
君の不調の原因は僕だろう? それなら」

青い瞳が鋭くつりあがった。

6: 2015/01/31(土) 05:05:55.24 ID:cogGYafho
「なんであんたなんかがあたしの不調の原因になるのよ?
変な言いがかりやめて」

「僕の弐号機へのシンクロ率が君より高いから焦ってるんだろう。
そんなの僕の専用機体が来れば何の問題もないことだよ。所詮僕は」

「うっさい! 勝手に決め付けるな!」

アスカは声を張り上げる。
痛い部分を突かれた証拠のようだった。

「……ごめん」

それきり、カヲルは言葉を紡ぐのをやめる。
窓の外で雨が激しく降る音がして、どこかで雷が鳴るのが聞こえてきた。

自然環境の音を先に破ったのはアスカの方だった。

「別にあんたが原因とか、そういうもの以前の問題よ。
あいつ見てるとイライラすんのよ」

「シンジ君に、かい」

7: 2015/01/31(土) 05:06:56.64 ID:cogGYafho
「それ以外誰が該当するっての? あいつはいつも人の顔色ばっかり見てる。
いい顔ばっかりしてくれるあんたといるのが一番気持ちいいんでしょうね」

彼にとって一番心地いい相手、と言われればそれは光栄な事だ。
だがカヲルにとって喜ばしいその事態はアスカにとっては歓迎しないものらしい。

「いい顔なんて言われても、そうしようと意識してるわけではないさ。
僕はただ彼と言葉を交わすのが楽しいだけ。……好きだからね」

好き。そうはっきりと言ったカヲルに、アスカは怪訝な目を向けた。

「呑気な男ね。
あんたじゃあいつの一番にはなれないわよ。だって、あいつも男だもん」

「……」

アスカの言葉にカヲルは柔和な笑みを失う。
攻撃的な表情でアスカは笑った。

8: 2015/01/31(土) 05:07:47.52 ID:cogGYafho
「あんたは知らないわよね。あいつの家での顔なんて。
あいつはバレてないつもりなんだろうけど、時々あたしの下着を持っていくの」

「……」

「何に使うかなんてあんたも男なら見当つくでしょ。
あたしが何を言っても本質的にあいつはあたしを嫌うことなんてできないし、
あたしが誘えば簡単に乗ってくるでしょうね。
だからいいのよ、あたしは何を言っても」

「だからって彼を傷つけるのは容認できない。
それをやめてほしいと言っているんだけど」

「あいつが勝手に傷つくのよ。あたしは普通に思ったままに話して動くだけ」

「そうか、君はそんな考えなんだね」

なんだか酷く凶暴な感情が浮かび上がってくるのをカヲルは自覚していた。
アスカの弁によれば勝手気ままな行動で相手が傷ついてもいいということらしい。
それならば、彼女に対してはそう動いてしまってもいいんじゃないかと思えてくるのだ。

一際大きな雷がそう遠くない場所で落ちた。
その衝撃で電灯が一瞬消えて、もう一度点く。

それが合図だった。

9: 2015/01/31(土) 05:09:20.30 ID:cogGYafho
「!?」

カヲルのあまりの素早さと力強さにアスカは何かを喋るよりも、抵抗するよりも早く、
彼女は窓同士の間の壁に押し付けられた。
いや、叩きつけられたとしか言いようのない衝撃に襲われた。
苦しげに顔を歪めるアスカを見て爽快感に似たものを覚えつつも、カヲルは無表情だった。

「いきなり何すんのよ!」

「思ったままに動いてみただけだよ。
痛かったのなら、それは君が勝手に痛がってるだけさ」

「な……」

先ほどのアスカ自身の言葉を使った返答をされ、彼女の反抗心は余計に強まった。

「ふん、あんたも暴力なんか振るうのね。意外よ。
あいつの一番になれない、って言われたのがそんなに悔しかった?」

煽り。嘲笑。彼女が示すのはそんな態度だ。
いつも通りとはいえ、どうもその時ばかりは神経に触った。
そしてそれを抑えなくてはならないと、不思議と思わなかった。
だから少年は。

10: 2015/01/31(土) 05:09:49.83 ID:cogGYafho
「うぁっ!」

少女の頬に平手打ちを浴びせた。
叩かれてしばらくの間アスカは目を見開いて固まる。
赤い頬で呆然とした彼女を見つめながら、カヲルもまた驚愕する。
自分の中の衝動がそのまま出てしまったことへの驚きがあった。
だがそれだけではない。アスカを叩いた事で明確に、背筋にぞくぞくとした感覚が走っていたのだ。
この感覚がどういったものなのかを理解できないわけではない。

「……これは、不味いかな」

独り言のように呟くカヲルの声でアスカは我に返る。

「サイッテー! 女の顔を殴るなんてありえない!
ホ〇な上に女に暴力振るうなんてシンジが知ったらどう思うかしら……!」

怒りに身を震わせて睨みつけてくるアスカに対して、また先ほどの衝動が湧いてくる。
知識量に反し、カヲルの人生経験は乏しいものだった。
こうした衝動を自覚した事は多少はあった。しかし表に出したことなどない。
この少女が初の、カヲルの暴力をその身に受けた存在だった。
一体なぜこうなったのか。免罪符と思いこめるものを少女の口が与えていたからであろうか。

時が来るまでは人の器と人の掟の中に収まり生きることを義務付けられ、運命づけられ、
作られていた道から外れることなく穏やかに歩いていたというのに。

目の前にいるセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーに対してだけは、
その魂の叫ぶままに動けるような感覚があった。

11: 2015/01/31(土) 05:11:24.76 ID:cogGYafho
「―――」

アスカに手を出した瞬間の感覚がもう一度欲しくて、その思いのままに、魂の囁きのままに、
彼は再び腕を振るう。

「あっ!!」

再度叩かれ短い悲鳴を上げるアスカに、カヲルは口の端を上げて笑った。

「僕は男色家というわけじゃないよ。それは君に証明出来る」

「!」

それまでにアスカの見てきた渚カヲルの纏っていたものとは違う空気に、本能的な恐怖が
彼女の内側で沸き立つ。

ここにいてはいけない。
こいつから離れなくちゃ。

脳内に響く警鐘。
アスカは反射的に逃げ出そうとしたが、一瞬も持たない。
目にもとまらないような速さで襟元を掴まれ、突き飛ばされた。
彼女は受け身など取れず音を立てて近くの机ごと倒れる。
痛みに悶える暇もなくアスカの胸倉をカヲルが掴み、机の間の通路に放り投げるりように引っ張り出した。

12: 2015/01/31(土) 05:12:34.03 ID:cogGYafho
普段のカヲルを見ている者には到底信じがたい光景だった。
アスカが声を上げることも出来ずにいるうちに、カヲルがマウントポジションを取る。
ほんの一瞬のうちにアスカは圧倒的に不利な体勢に持ち込まれていた。
彼女は警鐘どころでなく体に直接触れている危険を脱しようともがくが、

「あぐっ!!」

鳩尾に拳を突きこまれあっという間に無力化されて視界さえ揺らぐ。
激痛に体をびくつかせるアスカがなんとも愛らしく思えたカヲルは、彼女の頬に触れる。

「シンジ君が君のものを使うのも分かる気がするよ」

もっとも、シンジにこんな趣味は無いのだろうが。
顔を青ざめさせたアスカの姿を見ればどうしようもなく滾り、どこかに傷を刻みこんでしまいたいと
思わずにはいられなかった。
そのどこかとして彼の目に映ったのは、白い首筋だ。
内側で大量の血液が流れるそこは傷を作るには最適な場所に思えた。

13: 2015/01/31(土) 05:13:35.67 ID:cogGYafho
表情こそ普段とさして変わらないというのに、赤い瞳をぎらつかせ自身の体に体重を
かけてくる存在は怪物を内に宿した造形物のようで、アスカの体が小刻みに震える。
彼女の恐怖の対象はその顔を寄せると、一気に首筋に文字通り齧りついた。

「ひっ、きゃ、―――っ」

悲鳴を上げる口まで塞がれ、痛みから逃れることも出来ない。
首に突きたてられた歯の感触は想像以上の痛みを少女に与える。

「ん、んぅ、んくぅっ」

肉が抉られる感触に涙が溢れ、その手足を引きつらせた。
ただ痛いだけではなく生物的で本能的な恐怖が彼女の身体の自由を奪っていた。
氏ぬ。
殺される。
食べられる。
千切られる。
頭の中でその実感が浮かび、流れ、彼女本来の精神をガリガリと削り取る。

14: 2015/01/31(土) 05:15:23.37 ID:cogGYafho
さきほどよりも酷く震えているアスカの肉体の感触も、体温も、匂いも、全てが心地よくて
その行為にカヲルは没頭してしまっていた。

理性と知性に造られた行動は、彼にとって美徳だった。

リリンが群として存在するための様式は、リリンに興味と関心を抱き
そのあり方に魅力を感じた彼にとっては愛すべきものであった。
彼はある時、自分とは何なのかと考えた事があった。
人の身体を持つ者。使徒の力を持つ者。
どこまでもニュートラルで曖昧な立ち位置の者。
しかし碇シンジ達との触れ合いを通じるうちに、少なくとも老人達の思う計画の実現までは
人の器を持つ者として、人のような存在であること、すなわち、理性と知性による行動を常に心がけていた。
それに反し、今の行動は人ではなくまさしく獣の行為で、平常の理知的な思想など欠片も残らない。
だがその内は喜悦に満ちている。

ぐちり、という音と共に、鉄の味がカヲルの口内に広がった。
それはアスカの血の味だ。
血液など正常な味覚の持ち主であればひたすら生臭い味のはずなのに、
それがどうしようもなく甘美なものに思えてその傷口に吸いつく。
常人を離れて整いすぎた風貌の怪物は、自らを解き放った少女の首を咀嚼して笑った。

15: 2015/01/31(土) 05:16:34.05 ID:cogGYafho
「っふ、んんうーっ」

苦痛の声を上げるアスカの頭は完全に恐怖に塗りつぶされている。
ぼろぼろと涙を流し、自覚さえも無い。
氏の恐怖がありながらも、痛みに襲われたままの生の感触がアスカの意識を刈り取らずにいて、
悪夢のような時間が続いた。
それが途絶えた瞬間には別の恐怖を覚えることとなる。

首から口を離したカヲルが、アスカの股間へと手を伸ばした。
痛みの恐怖に支配されていたアスカも、女としての本能からそちらの恐怖へと意識が向かった。
スカート越しに敏感な個所へ触れられた拒絶感に自由の利かない体でもがく。
無駄な抵抗に目を細めつつも、カヲルは触れた個所のある感触に気付いた。

「……お漏らしするほど怖かったのかい?」

「!!」

アスカのスカート周囲には薄黄色の水たまりが出来ていた。
カヲルはアスカの体から下りて、ポケットの中の物を取り出す。
それは携帯電話だ。
無機質な音と共に、まばゆいフラッシュがアスカに注ぐ。

16: 2015/01/31(土) 05:19:05.52 ID:cogGYafho
「な、に……」

「これは保険。弱みは握っておいた方がいいからさ」

「……最低すぎるわ……」

絶望感に呆然とするアスカの声にはもう勢いが無い。
いつもの気丈な彼女の姿は消え失せていた。
弱みを握られていなかったとしても、恐らくほとんど違いなど無かったのだろう。

カヲルは携帯を軽く操作してから携帯が破壊された際のために他の場所に写真を転送すると、
アスカに手を伸ばした。
それだけでびくりとアスカは震えて、その手から逃れようと後ずさる。
だがあっさりと腕を掴まれそれ以上の逃亡は不可能なものとなった。


「ひっ!」

優しげな笑みを浮かべるカヲルの姿は普段通りのようでありながら、
その目には生々しく嫌悪感を喚起させる感情が渦を巻いていた。

28: 2015/01/31(土) 05:38:49.89 ID:cogGYafho
「そんなに心配しなくても。少し脅かしすぎたかな?」

「……!」

その微笑みに似つかわしい優しい手つきで、彼はアスカを宥めるように撫でた。
恋人のように。親友のように。親のように。

飼い主のように。
甘く、柔らかに。


「相変わらず酷い雨だ。早く帰らないとね」

そこに。アスカの視線の先に。
少女の帰路を心配していた時と何も変わらない少年の姿があった。

アスカの体は余計に固く縮こまってしまった。

29: 2015/01/31(土) 05:40:40.54 ID:cogGYafho
「そんなところにいつまでも這いつくばってないで立ちなよ。手を貸そうか。
ああ、床の汚れはちゃんと雑巾で拭いたほうがいいね。
あと少しくらい遅くなっても大丈夫さ。帰りは僕が責任を持って送っていくから」

「……て、」

「どうしたんだい?」

女子生徒が見ていれば歓声を上げる極上の笑みを向けるカヲルに、アスカは叫んだ。

「帰って! 帰ってよ!!」

青い瞳からボロボロと大粒の涙が零れ落ちる。
その愛らしい顔を歪めて、懇願するように続けた。

「あんただけで、帰って」

それに、きょとんとした表情をするカヲル。

30: 2015/01/31(土) 05:41:35.63 ID:cogGYafho
「片付けは? それと、その傷の手当ても」

「あたしだけでやる。誰にもこの傷が出来た理由言わない。
だからお願い。もう、帰って……」

ふうん。とカヲルは呟き、アスカに背を向ける。

「それじゃ、任せたよ。帰りはちゃんと気をつけること。いいね?
君は女の子なんだから、自分は強いから平気だなんて油断しちゃ駄目だ」

自分の鞄を持って悠々と彼は歩き、教室の扉を閉めるときに言った。

「またね、アスカ。
家に帰ったらシンジ君とちゃんと仲良くするんだよ」

細められた赤い目に少女の姿が映る。
それはどこまでも小さなものだった。



たった一人だけになった教室で上がった泣き声は雨音に消され、
誰にも聞かれることはなかった。

31: 2015/01/31(土) 05:42:19.87 ID:cogGYafho
おわり

引用元: カヲル「またね、アスカ」