1: 2008/05/07(水) 13:31:09.96 ID:Ootd1+Ws0
都内、とある河川敷にSOS団とその対戦相手の読売ジャイアンツが集っていた。

「おいハルヒ!お前の言ってた助っ人ってのはまだなのか?
 プレイボールまでもう30分もないんだぞ!?」

焦った様子で詰め寄るキョンに、ハルヒは組んだその腕に自信を滲ませ
頷いた。なおも不安を口にしようとしたキョンを、皆の驚きの声が制した。

「来たわね」

ハルヒは皆の驚きの視線の先、どこにでもありそうなこの河川敷には
おおよそ不釣合いな、黒光りするリムジンに向かって歩き出す。
少々距離があり、会話の内容を聞き取ることはできないが、
リムジンから降り立った体躯の良い三人がハルヒの言う助っ人に間違いなかった。
揃ってメンバーの前に並ぶハルヒと助っ人たち。
その風格に思わずメンバーも整列する。

「紹介するわ。本日の助っ人、イチロー、松井、松坂よ!」

世紀の決戦の幕が、今上がる・・・。

2: 2008/05/07(水) 13:32:21.20 ID:Ootd1+Ws0
SOS団 オーダー

1 長門 捕
2 キョン 遊
3 イチロー 右
4 松井 左
5 小泉 中
6 松坂 投
7 涼宮 二
8 鶴屋 三
9 朝比奈 一

3: 2008/05/07(水) 13:32:53.67 ID:Ootd1+Ws0

読売ジャイアンツ オーダー

1 坂本 遊
2 亀井 中
3 小笠原 一
4 高橋由 右
5 ラミレス 左
6 阿部 捕
7 ゴンザレス 二
8 脇谷 三
9 内海 投

5: 2008/05/07(水) 13:34:33.71 ID:Ootd1+Ws0
初回、巨人の攻撃。バッターボックスには坂本。
昨年高校生ドラフトで入団。2年目の今年、早くもその芽を開花させた若武者である。
SOS団のマウンドには勿論、松坂。
WBC・記念すべき第1回大会で日本代表を見事世界一へと導いた、
言わずと知れた日本のエースである。

その初球、インローに鋭くストレートが決まる。球速表示は149km/h。
坂本はバットを微かに動かすが、スイングには至らない。
2球目、高めに浮いたストレートを坂本がカット。
長門が両手を低く上下に振り「低めに」と指示する場面もあったが、
3球目の外角低めのカーブに坂本はあえなく3球三振となった。
続く2番・亀井への5球目、ファーストに転がった強い打球を
見事に朝比奈が捌き、3番・小笠原も初球をレフトに打ち上げ、
その白球は松井の手に収まった。

7: 2008/05/07(水) 13:38:00.21 ID:Ootd1+Ws0
「有希、いいわね?あなたのあの俊足は、イチローを1番に置くよりも
 武器になると思ったからこのオーダーにしたのよ」

チェンジ、ベンチに戻りレガースを外す長門にハルヒが言う。
長門は小さく頷く。その肩をポンッとイチローが叩いた。

「自慢の足で、度肝を抜いてやれ!」

同じように頷く長門。だがキョンの目から見れば、明らかにハルヒのときの
それとは異なる点があった。
微かに、頬が紅潮していた。それは他の誰にもわからない程のものであったが。

「あいつ、イチロー選手の大ファンだからな・・・」

バッターボックスに向かう長門は、小さく呟いた。

「駄目。彼には奥さんがいる」

SOS団の攻撃が始まる。

9: 2008/05/07(水) 13:43:58.16 ID:Ootd1+Ws0
巨人のマウンドは内海。エース上原の想定外の不調に苦しむ巨人において、
実質エースとしてチームを引っ張る左腕である。
独特の、いわゆる振り子打法の長門への初球は、やや真中に入るストレート。

「!!!」

内海を始め、巨人ナインは皆一様に驚きの表情を浮かべた。セーフティバントだ。
しかしそこはプロ選手。内海とサード・脇谷の間に転がったややプッシュ気味の
打球を、脇谷が一瞬前の戸惑いを全く感じさせない流れるような動きで
迷うことなく手にとる。

しかし、彼はそこでまたも驚きの表情を浮かべた。

彼が送球しようとした先、ファーストベースにはすでに長門が立っており、
スライディングしたときに着いたであろう汚れを両手でパンパンと掃っていた。

「は・・・早いね・・・」

ファーストを守る小笠原が、思わず声をかけた。
長門は表情を崩さずに、じっと小笠原をみつめる。

「あ、赤星よりも早いんじゃないの・・・?」

「・・・そう」

13: 2008/05/07(水) 13:49:35.64 ID:Ootd1+Ws0
「キョーンっっ!!ちゃんと送らなきゃ氏刑だからねっ!!!」

バッターボックスに向かうキョンは、諦めた表情で溜め息を零した。

「(・・・敵聞こえるような大声で叫んでどうするよ・・・)」

ハルヒの声に、巨人ナインは迷わずバントシフトに変わる。
同時に、キョンの表情も引き締まった。揺さぶる必要はない。
最初からバントの構えをとる。
特異な力を持つSOS団のメンバーの中において、ひとり一般人のキョン。
しかし、そのことが今回の2番起用に繋がった。
自己を犠牲にして、物事を前進させる。
そんなことを何度も経験するうちに、知らず知らずに、
だが必然的に身についたこの技。

「(一塁線、ファールラインギリギリに転がす・・・!)」

16: 2008/05/07(水) 13:55:35.48 ID:Ootd1+Ws0
内海の放った白球は、まるで吸い寄せられるようにキョンのバットに当たる。
絶妙に勢いの氏んだボールは、ファールラインの上を転がる。
そのことが、一瞬小笠原の判断を遅らせた。
飛び出すタイミングはこれ異常無い見事なものであった。
ダブルプレーも不可能ではない。
しかしその一瞬と、長門の足を目の当たりにした小笠原は、
今度は迷うことなく内海がベースカバーに入ったファーストに送球する。

「サードだっ!!」

巨人ナインの誰かが叫んだ。唐突な声に、小笠原の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
そしてなによりも送球の動作に入っていた身体はとまらず、
そのままファーストへと送球する。
そのあと、サードに目をやった小笠原が見たものは、
先ほど自分のすぐそばで見た長門をまるでリプレイしているように、
三塁上でユニフォームの汚れを掃う長門の姿だった。

続くイチローのセンターフライで長門が生還。
4番松井がライト前にヒットを放ち出塁するが、5番小泉がショートゴロに倒れ、
SOS団の初回の攻撃が終わった。
巨人ナインを包む沈黙と、SOS団ベンチから聞こえる拍手と歓声が
まるで黒と白のコントラストのように球状の空気を彩っていた。

21: 2008/05/07(水) 13:57:58.64 ID:Ootd1+Ws0
「いけるわ!このチーム最高にいけてるわ!」

2回、ハルヒはいきなりマウンドにメンバーを集め言った。
そしてSOSナインの誰もが、同じ思いを感じていた。

「このメンバーなら、次のWBCも優勝だろうな」

イチローが笑顔で皆を見回した。松井はちょっと申し訳なさそうにしていた。
それを見てイチローも「あっ」と小さく言うと俯いた。

「とにかく!この調子で行くわよ!踏ん張りなさい、松坂っ!」
「ウッス!」

2回の巨人の攻撃は、4番・高橋由伸から始まる。
どこからでもホームランが危ぶまれる巨人打線において、
今最も松坂が警戒するバッターだ。

・・・しかし、その警戒が逆に力を入れることになってしまった。
完全にすっぽ抜けたスライダーが、真中高めに甘く入る。
高橋がそれを見逃すことはなかった。
稲妻のようなスイングに振り切られた白球は、
そのまま一昨日の雨でやや増水気味の多摩川に吸い込まれていった。
巨人ベンチから歓声が上がる。高橋はいつものようにクールな表情のまま、
悠々とダイアモンドを一周すると誰も居ない土手にジャビット人形を投げた。

42: 2008/05/07(水) 14:20:19.38 ID:Ootd1+Ws0
「いいか、今日の松坂はあまり調子が良くない。
 インフルエンザかなにかにかかっているようだ」

高橋を気合の入った顔で迎えた巨人の闘将・原監督は、続く5番・ラミレスに声をかけた。

「ガンガン振っていけ。松坂さえノックアウトすれば、
 相手には苦し紛れのリリーフしかいないはずだからな。
 ただ、ストレートは相変わらず走っている。気をつけろ」
「ソンナノ関係ネェ」

不適な笑みを浮かべて、ラミレスがバッターボックスに立つ。

「松坂ぁ!しっかりしなさい!そんなんじゃマイナー落ちよっ!
 ・・・あ、あんたは凄いピッチャーなんだから・・・///」

セカンドからハルヒの罵声とも取れる励ましの声が届く。
それが松坂の背中を押した。
何も答えなかった。いや、正しくは口では何も答えなかった。
松坂はそのピッチングでハルヒに答える。
ラミレス、阿部と連続三振に切って取ると、7番ゴンザレスも
勢いそのままにセカンドゴロにしとめた。
期待以上のピッチングを目の当たりにして、ハルヒは松坂に男を見た。

「(だ、だめよ・・・!彼には奥さんがいるもの・・・!)」

43: 2008/05/07(水) 14:22:33.91 ID:gcJRkG2o0
カオスすぐるwww

50: 2008/05/07(水) 14:30:29.10 ID:Ootd1+Ws0
その裏、SOS団の攻撃は6番・松坂から。

「ピッチャーだからって体力温存なんて考えないこと!
 あなたの打撃に期待して6番にしたんだからね!」
「ウッス!」

ピッチングからの勢いをバッターボックスにそのまま持ち込んだ松坂だったが、
内海も現・ジャイアンツの実質的なエースである。
追い込んだ後、4球ファールで粘られたものの、
バッティングが本職でない松坂を三振に抑えた。

「まあ仕方ないわ。向こうも本気になってきたってことでしょ」

そして、ハルヒの打順がついに回ってきた。
バッターボックスに入るなり、高々とバットをセンター方向に掲げる。
ホームランの予告だ。

51: 2008/05/07(水) 14:36:33.49 ID:9TK6TTeY0
一般人なのにプロの球をきちんとバントできるキョンはすごい

52: 2008/05/07(水) 14:37:51.80 ID:Ootd1+Ws0
「・・・っち、舐めやがって」

内海が舌を鳴らす。

「そんな簡単に打たれて・・・たまるかよっ!」

145km/hのストレートが外角低めに決まる。
ハルヒはピクリともしない。・・・が、不敵な笑みを浮かべる。

「ふーん」

その表情にまた内海は舌を鳴らす。

「わかったような顔しやがって・・・素人にゃかすらせもしねぇ・・・よっ!」

内海渾身のストレートは、インハイに構えた阿部のミットに収まる直前に
ハルヒの振ったバットとすれ違った。

「へっ。ざまあねぇぜ!」

53: 2008/05/07(水) 14:43:10.87 ID:Ootd1+Ws0
続く低めの変化球をカット。間にボールを二つ挟み、そこから3球ファールが続く。

「畜生・・・あの糞アマ・・・」

また、ファール。次も、ファール。そしてボール。これでフルカウントとなった。

「うぜぇ・・・マジでうぜぇよあの糞ビXチめ・・・」

内海の顔に明らかな激情が見える。ハルヒは挑発するようにフン、と鼻で笑う。

「ドンドン口が悪くなっていくわね。どうやら内海攻略は時間の問題ね!」
「・・・!っっっっっざけんじゃねぇえええええ!」

球速表示は146km/h。阿部が大きく身体を動かし、なんとか捕球した。ボールだ。

「なにもヒットを打つことだけが攻略じゃないのよ。覚えておきなさい!

55: 2008/05/07(水) 14:44:46.91 ID:OyOJipjSO
女の子に対して145kmのストレート投げる孫の姿みたらおじいちゃん泣くぞ

57: 2008/05/07(水) 14:47:20.11 ID:Ootd1+Ws0
阿部が内海に駆け寄る。

「おい、ちょっと熱くなりすぎだ。もうちょっと落ち着けよ」
「だってよぉ!あの女、むかつくんだよ!!!!」
「だったら打ち取れよ!」
「俺だってできればそうしてぇよ!」
「そうだろう!?だからお前が落ちつかなとどうしようもないんだよ!」
「・・・!」
「いいか、悔しいなら、落ち着いて投げろ。次の打席で目にモノを見せてやれ!」
「・・・あ、ああ・・・わかった。悪かったよ」

阿部の言葉に冷静さを取り戻した内海は、続く鶴屋をセカンドごろにしとめ、
9番・朝比奈にはあわやホームランというクリーンヒットを食らうが、
センター亀井の好守によって事なきを得た。
鶴屋のセカンドゴロの際に進塁したハルヒだったが、結局そのまま残塁となった。

60: 2008/05/07(水) 14:58:39.62 ID:Ootd1+Ws0
3回以降は、松坂・内海の好投が続き、両チームともフォアボールや
単打でランナーは出すものの、結局誰も三塁を踏むことなく
6回のSOS団の攻撃を終えた。

そして7回。膠着したムードを一転させる事件が起こる。

この回、巨人の先頭打者は4番・高橋。前の打席は三振に抑えた松坂だったが、
今日巨人軍唯一の得点はこの男のホームランによって生まれている。
そう考えると気を抜くわけにはいかない。
見逃し、ボール、ボールと続いた4球目。

「ぐわっ!」

高橋の打った打球は、松坂の左足首を直撃した。

62: 2008/05/07(水) 15:11:04.54 ID:Ootd1+Ws0
タイムを取ってマウンドに駆け寄るSOSナイン。裾をまくると、松坂の足は早くも腫れ上がり始めており、軽く触れるだけで顔を歪ませることがダメージの深刻さを物語っていた。

「マズイな・・・これではもう松坂が投げることは・・・」

イチローの顔に不安に満ちた表情が広がる。
その不安は既にナインを包んでおり、誰も何も言えなかった。

「投げます!俺、まだ投げられるッス!」

松坂は笑顔を作って続投の意を表すが、誰の目から見てももう彼が
ピッチングを続けられる状態ではないことは明らかだった。

63: 2008/05/07(水) 15:19:24.75 ID:Ootd1+Ws0
「無理よ、この足では投げられないわ」
「あ、あの!私が投げます!」

朝比奈が投手を買って出ようとするが、鶴屋がそれを制した。

「確かにみくるは練習のとき打撃投手をしてたからコントロールはいいかも
 しれないけど、それだけじゃあの巨人を抑えることは難しいっさ」
「そしてそれは他の誰でも同じこと・・・ですね」

小泉の表情も暗い。

「やっぱり俺が投げます!投げさせてください!」

松坂の必氏の申し出に、ハルヒは閉じていた目を開き、
立ち上がると大きな声で告げた。

「守備を変えるわ!松坂をファーストへ。みくるちゃんはレフト、
 松井はライト。イチローがセンター。古泉君はセカンドに入って!」

64: 2008/05/07(水) 15:27:42.55 ID:Ootd1+Ws0
各々守備位置についたSOSナインだったが、不安の表情を隠せずに居た。
もちろんそれはマウンド上のハルヒも同じだった。
自分を落ち着かせるように足でマウンドの土を均すとまっすぐに
バッターボックスのラミレスを見据えた。
いつのまにか集まっていた大勢の観衆にも、大きなどよめきが生まれていた。
初球・・・140km/hのストレートが真中に決まる。
ラミレスからすれば完全なチャンスボールだった。
しかしそれを見逃したことをラミレスは悔やんではいなかった。

「(球威ハアルヨウダガ、コンナ正直ナボールニ当テルコトハ簡単デース。
 ソシテソレヲレフトニ打デバ・・・)」

2球目ラミレスの打球は高々とレフトに上がった。打ち取れる打球ではあったが、
本来の守備位置で無いために朝比奈のスタートが遅れる。
結果、レフト前ヒットとなった。

65: 2008/05/07(水) 15:29:01.71 ID:Ootd1+Ws0
続く阿部もレフトへライナー性の当り。
これも朝比奈の不慣れな守備から、長打コースとなってしまう。
高橋とラミレスはホームへ生還し、阿部の2点タイムリーツーベースとなった。
続くゴンザレスも左中間真っ二つのツーベースでさらに1点を追加、
脇谷のセカンドゴロの間にサードへゴンザレスが進み、
内海の外野フライで更に1点。そして若武者坂本には痛恨のソロアーチをくらい、
2番亀井のセンターフライで、ようやくチェンジとなった。
大きな大きな、5失点となってしまった。

69: 2008/05/07(水) 15:40:39.90 ID:Ootd1+Ws0
実はあんまり野球詳しくなくて父が巨人ファンだからなんとなく巨人でやってる。
というか巨人しかわからない。

71: 2008/05/07(水) 15:58:08.69 ID:Ootd1+Ws0
7回裏。ここまで1失点の内海は続投。その衰えを知らない球威は、この回の先頭打者
小泉を内野フライに打ち取ると、続く足を負傷した松坂をいとも簡単に三振。
フルカウントとなった後にも粘った7番のハルヒだったが、最後はサードゴロに倒れた。

守備につく前に、ハルヒは全員をマウンドに集めた。そして、ハルヒの口からとは思えない
言葉を口にした。

「みんな、ごめんなさい」

その言葉に朝比奈は思わず涙ぐむ。

72: 2008/05/07(水) 15:59:45.55 ID:Ootd1+Ws0
「そんな、謝らないでください涼宮さん!私のほうこそ・・・」
「いや、君は慣れない守備位置でよくやってくれている」

悲観的なみくるに、松井が優しく言葉をかける。

「そうだな、プロなのにこの状況をなんともできない俺たちこそ謝るべきだ」

イチローも続けて言う。再びナインが重い空気に包まれる。

「・・・大丈夫」

小さな声だった。

「球は走ってる。守備位置にも慣れ始めている。戦力等を客観的に見た上で
 勝率を計算した。・・・58%。これはすごい数字」

なんの根拠も無かった。おそらく、それは嘘であったから。それはナインが全員
承知していた。しかしそれが勇気となった。
あの長門が、いわば精神論を唱えているのだ。嘘をついてまで、盛り上げようとしている。

「・・・当たり前よ!私だってこんな暗い空気にする為にみんなを呼んだんじゃないわ!」

ハルヒの顔にも笑顔が戻る。こうなればもう、芋づる式に次々とナインに笑顔が戻る。

「勝ちに行くわよ!」

SOSナインは円陣を組むと、大きく声をあげた。

94: 2008/05/07(水) 18:36:34.42 ID:Ootd1+Ws0
8回表、巨人の攻撃は3番小笠原から。打率も高く、長打力もある「侍」だ。
対するハルヒには、変化球という選択肢はない。厳密に言えば、
投げられる変化球がないわけではないが付け焼刃の変化球が通用する相手ではない。
ここは思いっきり気持ちを乗せた渾身のストレート一本で勝負するしか
手がなかった。
7回の攻撃を見れば、巨人側がそれに気付いているのは明らかだった。
その中で抑えなければいけないこの状況は、まさに絶望的状況というより他ない。

そんなハルヒの1球目。ストレートが小笠原のアウトローに決まった。

95: 2008/05/07(水) 18:38:32.64 ID:Ootd1+Ws0
「・・・思ったよりも伸びがあるな・・・」

2球目、外に外れる。3球目、インハイを小笠原がカットする。
そして4球目。ど真ん中にストレートが入ってしまう。
しかし、結果は三振だった。

「なん・・・だと・・・?」

小笠原の顔が驚愕する。それもそのはずだ。
今の小笠原のスイングは、完全な振り遅れ。
7回のピッチングではマックス140km/h程度だったストレートに、
しかも変化球との組み合わせでもなんでもない、
連投のストレートに自分が振り遅れるなど考えられなかった。

96: 2008/05/07(水) 18:39:02.99 ID:Ootd1+Ws0
驚愕は巨人ベンチも同様であった。

「おい、今の球速、何キロだった?」

原がスピードガンを持ったスタッフに尋ねる。

「・・・155キロ・・・」

111: 2008/05/07(水) 19:29:17.32 ID:VJBknQ0o0
SOSナインは大盛り上がり。ハルヒの出した球速に気付いているのは長門だけだったが、
小笠原から三振を取ったというその事実がなによりもナインの士気をあげた。

「まだまだ行くわよ!さあ、さっさと来なさい!」

次のバッターは4番・高橋由伸。松坂と同じく、ハルヒもこのバッターをもっとも警戒していた。
しかし、松坂のときのような変な力みはなく、むしろ全力投球を続けたせいで全身に少なからず
疲労が溜まっており、しかしながらそれがちょうど良い脱力をもたらし、ハルヒの球速をあげていた。

初球、いきなり長門の構えたミットとは全く違う高めにストレートが行ってしまうが
その球威から高橋は振り遅れて打球はファール。
2球目も同じくハルヒの球威に押され流し方向にファール。

「ふう・・・行くわよ・・・」

ハルヒの目がギラリと光る。ワインドアップ、少しゆっくりとしたフォームから剛速球が放たれた。
156km/hの速球は、高橋のスイングを背中に見て、長門のミットに収まった。

113: 2008/05/07(水) 19:40:04.29 ID:VJBknQ0o0
「なによ・・・ひょっとして・・・このまま行けるかもしれないわね・・・」

ハルヒの目がさらに力を増す。

「ハルヒさん、まじスゴイっす!まじパネェっす!!!!」

本職である松坂が唸る。この時点で松坂は、うすうすハルヒの並外れた球速に
気付いていたが、妙な力が入ってしまわないように、あえてそれは口に出さなかった。

次のバッターは、5番・ラミレス。相変わらず怖いバッターが続く。
しかしハルヒの頭にはもうバッターボックスに立つ人物が誰か、など浮かぶこともなかった。
ただ目の前のバッターを打ち取る。それが誰であろうと同じ。

ラミレスへの初球、高く外れ完全なボール。続く2球目も大きく外に外れる。
もはやコントロールを然程意識していなかったハルヒだったが、このボール先行に
さすがにコントロールを意識してしまう。
もともとそんなに細かなコントロールをつけられるほどの制球力はハルヒにはなく、
内角低目を狙ったストレートは、143kmほどの真ん中に向かう棒球になってしまった。

ラミレスの振ったバットが、快音を上げレフトに上がった。

121: 2008/05/07(水) 19:50:24.44 ID:VJBknQ0o0
「みくるちゃんっ!!」

ハルヒは思わず叫んだ。本来ファーストを守る朝比奈のいるレフトは、言わば「穴」。
もともと守備がどうしても苦手だった朝比奈は、必氏の特訓でファーストの守備を習得した。
とにかくファーストとしてもっとも大事な、送球を捕球することに特化したために
その他の守備に時間を割く余裕がなく、ましてや他のポジションを守ることなど
まったくの想定外でしかなかった。

「わ・・・私だって・・・」

息を切らしながら走る。今向かっている方向が、正しい打球方向なのかはわからない。
ただ、今この守備をミスしてはいけない。今みんなに迷惑はかけられない。
そう思いながら自分の信じた落下点に向かって走っていく。
ランナーを出来る限り進めないように、確実な守備を選ぶことなどもう頭にない。
それは間違いかもしれないが、今はアウトをとることしか考えていなかった。

「た、たぁ~っ!」

打球が落下する直前、思い切り手を伸ばして朝比奈は頭から飛び込んだ。

125: 2008/05/07(水) 19:57:32.00 ID:VJBknQ0o0
「朝比奈さんっ!」
「みくるっ!」
「みくるちゃん!」

ナインがそれぞれに声を上げる。スッ、と朝比奈が立ちあがる。
そしてそのまま、川の方へ全力疾走を始めた。
白球は転々と転がっていく。それを確認したラミレスはセカンドを蹴った。
程なくしてボールを手にした朝比奈だったが、自分の不甲斐なさに涙を浮かべた。

今は泣いてるときじゃない。少しでもはやく送球しないと。
わかっていても、どうしようもない自己嫌悪が襲ってくる。
涙で視界がゆがみ、手元でボールが踊る。ラミレスはサードでもスピードを緩めることはなく
そのままホームへと全力疾走を続けている。

「貸して!」

129: 2008/05/07(水) 20:02:45.08 ID:VJBknQ0o0
もう、何が何だがわからなかったが、その声の主がイチローであることはわかった。
涙でにじんだ視界の中にいる彼にボールを差し出す。
半ば奪い取るようにそのボールを手にしたイチローは、その手からまるで
レーザービームが放たれたようなバックホームを放った。

そのビームは、ぴったり長門の前でワンバウンドすると、そのままキャッチャーミットに収まった。
驚いた顔で、思わずラミレスはスピードを落としてしまう。
トットット、と近づくラミレスを待ってから、長門は手を伸ばしタッチした。

134: 2008/05/07(水) 20:14:10.46 ID:VJBknQ0o0
「みくるちゃん!」

ベンチに戻った朝比奈を、ハルヒは大きな声で呼びつけた。
すでに疲労が全身を包み始めたハルヒはベンチに座り動くことが出来ず、
朝比奈はハルヒの前にビクビクと近寄る。

「・・・怪我、しなかった?」

予想していた怒りの言葉はなかった。その言葉に思わず戸惑う。

「え・・・あ、は・・・はい!ちょっと擦り傷は出来たかもしれませんがプレーには影響無しです!」
「・・・そう、よかったわ。ナイスファイトだったわ、みくるちゃん」

安堵と同時に、涙が零れる。他のメンバーも口を揃えて朝比奈のプレーを賞賛した。

「さあ、泣いてる場合じゃないわ!次の攻撃はみくるちゃんにも回るわよ!」
「は、はいっ!」

砂埃に汚れたユニフォームの裾で涙を拭うと、そこにはもう泣き顔はなく、
気合の入った笑顔の朝比奈がいた。

139: 2008/05/07(水) 20:22:33.82 ID:VJBknQ0o0
8回裏、SOS団の攻撃。この回で追加点が入らなければ、勝利は大きく遠いてしまう。
ここでジャイアンツベンチが動く。内海が1失点でマウンドを降り、リリーフに西村の名前が告げられる。
そしていつになく真面目な顔でバッターボックスに立つのは、8番・鶴屋。

「絶対出塁するよっ!」

声はいつもの朗らかな元気いっぱいのままだったが、その目には闘志が漲り、
まっすぐと投手・西村を見据える。

勝負は一瞬だった。
アウトローギリギリのストレートに、あわせた。
打球はライト前に転々と転がる。

「ぃよっしゃあっっ!!」

SOSナインが同時にガッツポーズを決める。

141: 2008/05/07(水) 20:31:52.43 ID:VJBknQ0o0
バッターボックスにたつ朝比奈の表情には、もうあの失敗による動揺は見えない。
普段の朝比奈とは見違えるほど、頼れる表情をしていた。

初球、低めに変化球が外れる。2球目、インハイのストレートを見送る。
3球目、外にストレートが外れる。1-2となり、バッティングカウント。
4球目は同じく外角にストレート。喰らいついた朝比奈のバットがファールゾーンに
ボールを運んだ。そして5球目。
朝比奈のスイングは内角の変化球を捉え、レフトへと弾き返した。
ノーアウト1・2塁のチャンスを迎える。

ネクストバッターズサークルから打席へと、長門がゆっくりと歩き始めた。

146: 2008/05/07(水) 20:47:11.42 ID:VJBknQ0o0
長門の打席、明らかに巨人ナインは長門の足を使った奇策を警戒する。
初球はウエスト、2球目も警戒からか外低めに明らかに外れる。
3球目は真ん中低めの変化球をファール。
4、5球目と外のボールをカットし、6球目はボール。
ここから長門の粘りが始まった。

真ん中高め、わずかにボールかというストレートに当てが、打球は後ろに。
インローの変化球も同じく後ろに。
続く外の変化球もカット。・・・

そして実に、長門への14球目。
長門の身体が大きく仰け反った。フォアボール。

ノーアウト満塁で、バッターは2番・キョンに回る。

147: 2008/05/07(水) 20:56:00.50 ID:VJBknQ0o0
「(おいおい・・・この場面で俺かよ・・・)」

自分に全てがかかっている、という場面を経験するのは初めてではなかったが、
何度経験してもこういう立場に慣れることはない。

「キョーンっ!頼んだわよーっ!!」
「(ちくしょう、なんだってこんなときに限ってまともな声援をおくりやがるんだ。
 いつもと同じように打たないと氏刑だーとか言ってくれたほうがずっと気が楽だぜ・・・)」

初球、キョンは外ギリギリの変化球を見逃す。

「(やばい・・・全然何も考えられねぇ!)」

両軍とも、ナインは静まり返っている。

そして2球目、キョンの振ったバットは、西村の放った甘く入った変化球をセンターへ弾き返した・・・

149: 2008/05/07(水) 20:58:58.27 ID:VJBknQ0o0
そして2球目、キョンの振ったバットは、西村の放った甘く入った変化球をセンターへ弾き返した・・・

・・・そう見えた。

西村の伸ばしたグローブの中に、そのボールは収まっていた。
鋭い当たりに飛び出していたランナーが、虚を突かれ慌てて戻ろうとする。

セカンド、アウト。
ファースト、アウト。

トリプルプレーとなり、キョンはそのままがっくりと膝を折ってその場にへたり込んだ。

152: 2008/05/07(水) 21:12:47.01 ID:VJBknQ0o0
さすがに、SOS団ナインは静まり返っていた。
8回を終えて1-6。5点ビハインドのまま、最終回へと突入する。
ハルヒの疲労の色は濃い。ここで追加点を許せば、100%に近い確率で
勝利することは不可能となるだろう。
無失点で切り抜けたとしても、あと1回で5点を取らなければ敗北。
鉄の塊のように重い事実が、ずっしりとナインにのしかかっていた。

「すまん、みんn」
「さあ!この回しっかりと抑えて、裏に逆転サヨナラ勝ちよ!」

キョンの言葉をわざと遮るように、声を張り上げたのはハルヒだった。

「いい?みんな!私がこの回の巨人をスパッと抑えてみせるわ!
 そのあとは頼んだわよ!もちろん打てばサヨナラって場面で
 私に回ってくるのが理想よ!」

突然のことに、ナインはあっけに取られている。

「私は負けることが大っ嫌いなの!ましてやこんなドロドロになるまで戦って
 負けるなんて耐えられないわ!だから・・・勝つわよ!」

笑顔でメンバーを見回す。それぞれがハルヒに力強く頷く。

「よっしゃ!SOS団、行くわよ!」

153: 2008/05/07(水) 21:22:17.89 ID:VJBknQ0o0
満身創痍のハルヒだが、それでもストレートの球速は衰えない。
しかし、巨人の選手たちも徐々にそのスピードに慣れ始めていた。

難しいコースに来る球は捨て、見送る。
しかし甘いところに入った球には確実に当ててくるのだ。
阿部の捕らえた打球は、あわやホームランのところを堅守・イチローの
ファインプレーでアウトとしたが、続くゴンザレスの打球はライト前に転がった。
確実に、巨人打線はハルヒの渾身のストレートを捉えつつあった。

そして、8番・脇谷。2-3から振りぬいた打球は高くレフトへと伸びる。
まるで先ほどのラミレスの打球のリプレイを見るかのように、朝比奈が後方に駆け出す。
全く同じように手を伸ばし頭から飛び込む。

朝比奈はスッと立ち上がり、くるりと向き直ると中継のキョンに送球し、大きな声で叫んだ。

「ツーアウトーっ!」

156: 2008/05/07(水) 21:27:14.84 ID:VJBknQ0o0
西村の打席で、代打大道がコールされる。
その大道の痛烈なライナーを見事に捌いたキョンは、仲間の賞賛の言葉に
はにかみながら言った。

「全然足りないが、さっきのトリプルプレーのお詫びの足しにはなったかな・・・」

いよいよ、SOS団の命運をかけた9回裏の攻撃が始まる。

158: 2008/05/07(水) 21:38:32.41 ID:VJBknQ0o0
先頭打者、3番・イチロー。
まさに「天才」の名がふさわしい、日本が世界に誇る野球人。
走・攻・守を完璧に備えたそのプレーは、世界中の人々を魅了する。

対するは、絶対的な守護神・クルーン。
MAX160km/hに届こうかというストレートと、それに変わらぬ球威のまま
打者の手元でフッと落ちるフォークが武器だ。

初球、いきなりの158kmのストレートをイチローは見送る。
その球威を目の当たりにして、思わず小さく感嘆の吐息を漏らした。

「ここで打たないで・・・何がメジャーリーガーだっ!」

鋭く伸びてくる球に、イチローのバットが反応した。
しかし、ストレートかと思われたその球は、イチローの手元でフッと落ちる。

「・・・っく!」

頭の片隅、どこかにそのフォークへの意識があったのかもしれない。
イチローの神がかり的なバットコントロールは、なんとかその低めの球を捉えると
レフト方向に弾き返した。

「よっしゃあ!」

天才が吼えた。
ノーアウト、ランナー1塁。

159: 2008/05/07(水) 21:43:43.61 ID:VJBknQ0o0
保守しときます。

160: 2008/05/07(水) 21:47:02.34 ID:VJBknQ0o0
目の前で見せられたイチローの意地に、松井が燃える。
初球、159kmをマークしたストレートをカットすると、
2球目のアウトコースの球を力でセンター方向に打ち返した。

「入れっ!!!」

ファーストへと駆け出しながら、松井は叫んだ。
しかし、僅かに勢いが足りず、ボールはフェンスに直撃。ツーベースヒットとなる。
その間にイチローが生還。SOS団は二人のメジャーリーガーの力で
早くも1点を返したのだった。
しかし、未だビハインドは4点。しかも続くバッターは、足首負傷の松坂。

「松坂、無理はしないで。もし無理をしてあなたが試合を続けられなくなったら
 こっちには控えの選手はいないんだから。そんな怪我をして、
 それでもバッターボックスに立ってくれるだけで十分よ」
「・・・ウッス!」

ハルヒの言葉に松坂は笑顔で答えた。
しかし、本心はその笑顔とは程遠く、ぐるぐると様々な思いが渦を巻いていた。

162: 2008/05/07(水) 21:53:07.66 ID:VJBknQ0o0
「ちくしょう・・・俺はなんにもできねぇのかよ・・・」

マウンド上のクルーンが構える。

「(・・・振れば、あたるかもしれない。)」

そしてセットポジションから、速球が放たれる。

「(あたれば、敵がエラーをしてくれるかもしれない。)」

手元に迫ったボールに、松坂はフルスイングした。激痛が左足首を襲う。

「ぅわあああああああ!!!!!!」

痛みのための悲鳴なのか、それとも少しでも早くファーストへ向かうための気合なのか。
松坂は左足を半ば引きずりながら、ファーストへ走った。
途中、足がもつれて倒れこんだ松坂が見たのはファーストへと送球されるボールと、
三塁に進んだ松井だった。

「よくやったわ!松坂!!」

ベンチからハルヒをはじめ、仲間が駆け寄る。しかし松坂は倒れこんだまま叫んだ。

「ちくしょおおおおおおおおおっっ!!!!」

ワンアウト、ランナー3塁。

165: 2008/05/07(水) 21:59:02.28 ID:VJBknQ0o0
バッターボックスには、今日全くいいところのない小泉。
イチローに「俺のあとを継ぐのは君だな」と言わせたバッティングセンスを持つ小泉だが、
今日はいまひとつ乗り切れずにいた。
良い当たりはあるのだが、打球はちょうど守備位置に飛んでいく。
あと少しひきつけられたら、あと少し振りぬけたら、という打席に小泉自身もやきもきしていた。

だから、この奇跡に近いバッティングに繋がったのかも知れない。
センター方向フェンスを大きく超える2ランホームラン。

ついに巨人に2点差まで迫った。

170: 2008/05/07(水) 22:04:14.96 ID:VJBknQ0o0
重ね重ねごめん、タイムリミットが迫ってきてる・・・
かなり端折った展開になってしまうよ・・・最後までgdgdでごめん・・・

173: 2008/05/07(水) 22:09:57.72 ID:VJBknQ0o0
次のバッターは、番・鶴屋。
フルカウントまであっさり追い込まれたが、その後脅威の粘りでフォアボールで出塁。
そして、ハルヒに打順が回る。

「ホームラン打っても同点か・・・。まあいいわ。お立ち台には上れるでしょ」

相変わらず不敵な笑みを浮かべているが、その顔に余裕はない。
じっと、クルーンを見据える。

その瞬間、全てがスローモーションに見えた。
スピードガンは、160km/hをしめしていたが、ハルヒの目にはボールの縫い目まで
見えたような気がした。

予告通りの、同点ツーラン。
呆然とする巨人ナインに、ダイアモンドを一周し、ハルヒは言い放った。

「だから言ったでしょ?」

178: 2008/05/07(水) 22:16:51.32 ID:VJBknQ0o0
たまらず巨人ベンチはクルーンをマウンドから下ろし、
この日一軍に合流したばかりの上原にマウンドを託した。

下半身を鍛えてきたのであろう、すっかりコントロールを取り戻した上原は
朝比奈をなんなく三振に切って取った。
ここで勝ち越さなければ、もう勝利はありえない。
松坂の足が、もう捕球するために立っていることすらできないところまできている。
ハルヒの体力もすでに限界、もう1回投げることは不可能だった。

「まずいわね・・・」

流石のハルヒも、予想外の上原の登場と好投に眉をひそめる。

「・・・絶対に出塁する」

長門が打席に向かう。

「・・・信じて」

181: 2008/05/07(水) 22:24:26.85 ID:VJBknQ0o0
初球、アウトコースにストレートが決まる。
不振に喘いだころとは違い、絶妙なコントロールでギリギリのストライク。
2球目、真ん中低めの球に手を出した長門だったが、キレのあるフォークに空振り。
早くも追い込まれてしまった長門の頬に、伝う汗。

SOSナインの誰もが祈る気持ちで長門を見つめる。

3球目。
長門はバントの構えを取った。

「予 想 通 り っ ! 」

上原、小笠原、脇谷が一気に前進する。

「しまった!読まれていたか!」

しかし長門はそのバットをすっと引くと、するどく振りぬいた。

「バスター!?」

打球はどん詰まりだったが、突っ込んできた小笠原の伸ばしたグラブを僅かにかすめると
その後方に転がった。
その俊足を身をもって痛感している巨人ナインは、無理にアウトを取ろうとはしなかった。
長門はファーストベースの上で、小さく腕を空へと掲げた。

183: 2008/05/07(水) 22:29:06.25 ID:VJBknQ0o0
「繋ぐ!何があってもイチローさんに繋ぐ!」

キョンはじっと上原を見据えた。
上原が投球動作に入ったと同時、キョンの視界の端で何かがするどく動いた。
長門だ。
慌ててキョンはアシストのスイングをする。阿部がセカンドへ送球するも、
長門は若干の余裕を残してセカンドベースに到着した。

一転、ヒット一本でサヨナラの場面となる。

「・・・おいおい、また俺かよ・・・」

キョンは、ほんの少し掌の汗をユニフォームで拭った。

184: 2008/05/07(水) 22:32:20.28 ID:VJBknQ0o0
1-0。
2球目、ボール。
牽制を挟んで、もう1球ボール。
そして3球目、外角のボールをスイングするも、空振り。

運命の4球目。
内角のストレートを、キョンはフルスイングした。

レフトに飛んだボールを、ラミレスが後方に走り、追いかける。

「超えろぉぉぉぉおおおおおっっ!!!!!!」

186: 2008/05/07(水) 22:34:32.63 ID:VJBknQ0o0


ポチャンっ



打球はそのまま、多摩川に吸い込まれていった。

打ったキョン自身、ファーストとセカンドの間で呆然と立ち尽くした。

世界が音を取り戻すのに、数秒かかった。

サヨナラ2ランホームラン。

SOS団の、勝ちだ。

191: 2008/05/07(水) 22:40:03.40 ID:VJBknQ0o0
「・・・っていう夢を見たのよ!」

ハルヒの目は爛々と輝き、まっすぐに俺を見つめる。

「・・・長々とありえない話を聞かせやがって」
「それにしてもものすごくリアルな夢だったわー。」
「1回から9回まで、野球した夢を鮮明に覚えてるなんて聞いたことないぞ」
「それは私も不思議に思ってたんだけど・・・私たちがメジャーリーガーと一緒に
 巨人と戦うなんて、インパクトのある夢だったからよ、きっと!」

・・・ったく。自分のなにやらヘンテコな力が起こしたことを
夢と勘違いするのはいいけどな。
俺たちまで巻き込まないで欲しいものだ。

きっと、今ごろメジャーリーガーや巨人軍も異常に鮮明な「夢」に戸惑ってるだろうよ。



終わり

193: 2008/05/07(水) 22:41:35.04 ID:mG5xyl2Q0
熱かった。乙

201: 2008/05/07(水) 22:54:07.06 ID:VJBknQ0o0
せっかくだからもっと沢山に読んでもらいたかったけど
でも正直言って途中から内容は楽しくなくてもいいから
自分が書くことが楽しければいいやって思ってたから頑張れました。

でも最後はもう辛くて早く終わらせたくてたまりませんでした。

もうしばらく書くのはいいやと思いました。
野球したくなった。

ビール飲んで寝ます。

203: 2008/05/07(水) 22:59:28.06 ID:A+BrMUwSO
テラ乙

207: 2008/05/07(水) 23:12:43.81 ID:VJBknQ0o0
くそ、今更ながら打順ミスが悔やまれるぜ

引用元: ハルヒ「松坂、フォアボール出したら殴るわよ」