1:◆TU4rb6vEM2 2014/10/01(水) 02:46:12.16 ID:WiDfPvfM0
俺ガイルSSです

・亀進行注意
・原作1巻しか読んでないので、キャラの口調に自信なし
・八幡の性格改変もの
よければ見ていってください

2: 2014/10/01(水) 02:48:08.84 ID:WiDfPvfM0


静「――比企谷。お前は、自分が変わっているという自覚があるのか?」

八幡「ええ、まあ」

静「それを変えようとは思わないのか?」

八幡「いや、別に困ってないですし……」

静「お前自身が困っていなくとも、教師としてまともに人付き合いをしないお前のことを放っておけないんだ」

八幡「はあ……」

静「気のない返事をするな。衝撃のファーストブリットを食らわせて根性を叩き込んでやろう」

八幡「懐かしいですね、スクライド」

静「……お前自身の話だというのに、何故そうも他人事みたいな反応なんだ。私はお前のことを心配しているんだぞ!」


3: 2014/10/01(水) 02:48:53.95 ID:WiDfPvfM0


八幡(平塚先生はいわゆる熱血教師という奴で、今時珍しく生徒に道を押し付けるような教師だった)

八幡(生徒に積極的に言葉を投げかけ、そいつが間違っていれば殴ってでも道を正そうとする強烈な人間)

八幡(方法や言い分が正しいかどうかは置いておくとして、他人と関わるのが苦手な生徒に必要となる部類の教師だ)





八幡(まあ……教師ともまともな会話をしない俺が、平塚先生が生徒によく声をかけているのか判断できるとは思えないが)


4: 2014/10/01(水) 02:49:46.42 ID:WiDfPvfM0


静「それになんだ、この作文は!」バンッ!

八幡(そう言って平塚先生が叩いたのは、国語の時間に出された俺の作文の課題)

静「『高校生活を振り返って』――――。そんな題名で、なぜ中学との授業内容の違いや施設の充実さしか書くことがないんだ」

静「普通『高校生活』と言えば、体育祭や文化祭といった友達と楽しむイベントが来るはずだ。なのに……お前の作文では友達の存在が一切書かれていない!」

静「比企谷、お前は友達を必要とすらしていないのか?」


5: 2014/10/01(水) 02:50:38.60 ID:WiDfPvfM0


八幡「と、言われても……」

八幡(何の興味もないクラスメイトの走る姿を見ているのは苦痛でしかないし、応援なんかするわけもない。俺にとって体育祭は校舎の影で時間が過ぎるのを待つイベントだ)

八幡(文化祭は一人で行動することが前提のイベントなので、回りたいところを回れば後はヒマだった)

八幡(え? 準備期間は何してたかって? ただ仕事をしていただけで、今まで以上に誰かと仲良くなるはずがないだろう)



11: 2014/10/01(水) 21:48:30.75 ID:WiDfPvfM0

静「やはりいくら説教したところで気にもならないようだな……。なら私は強行手段を取って出てやろう」

静「比企谷八幡。これからお前は私の部活に入ってもらう」

静「ああ、もちろん担任には話を通してある。クラスで孤独なお前を少しでもいい方向に変えれたらと言ったら、快く了承してくれたぞ」

八幡「本人のやる気は関係なしっすか?」

八幡(部活動なんて面倒なことはやりたくない。そもそもどんな部活か分からないが、まともにこなせるとは思えない)

八幡(とはいえ担任まで敵に回ったんじゃ、抵抗したところで逃れられそうにないな)



7: 2014/10/01(水) 02:55:28.61 ID:WiDfPvfM0


静「お前のことだ。最初はまともに取り組もうとするはずだ。合わないなら合わないでもいい、気楽にやってみてくれ」

八幡「…………」

八幡(そうやって「信じている」みたいな言葉で相手を持ち上げるのは、卑怯だと思う)

八幡(でも実際、俺が先生の頼みを断らないのは事実な訳で)

八幡(どんな部活か分からないにしろ、できるか分からない以上挑戦するのが俺なのである)



12: 2014/10/01(水) 21:50:50.81 ID:WiDfPvfM0


八幡(結局先生の話を断ることはできず、その部活をやっている教室まで連れてこられたのだった)


静「入るぞ」

???「平塚先生。入る時はノックをしてくださいと何回も言っているんですけど」



13: 2014/10/01(水) 21:51:45.97 ID:WiDfPvfM0


八幡(平塚先生に連れられて入った教室には、一人の女子生徒がいた)

八幡(恐らく美少女に分類されるであろう整った顔立ち。華奢な体型で人一倍白い肌。胸はそこまで大きくない。第一印象から見るにこいつは他人に対してキツめの態度を取るのだろう)





八幡(つまり俺のタイプの女子ではない。『だからどうした』レベルの女子だということだ)





静「悪い雪ノ下。次からはちゃんとする」

雪ノ下「毎回そう言って全く改善しませんね。……それで、そちらの男子は今回の依頼人ですか?」



14: 2014/10/01(水) 21:53:48.48 ID:WiDfPvfM0


静「いいや、こいつは新しくこの部活に入る仲間だ。こう見えて結構変わった人間でな、他人と人間関係を作ろうとしない奴なんだ」

八幡「どうも」ペコリ

八幡(とりあえず目があったので挨拶しておく)

八幡(こういう時は名前とか自己紹介するべきだってか? 平塚先生も言っているだろう。俺が人間関係を作りたがらない人間だと)

八幡(初対面だとか相手が美少女だとか関係ない。『他人』に対して俺の心が開かれることは絶対にない)



15: 2014/10/01(水) 21:55:11.76 ID:WiDfPvfM0


雪乃「……つまり彼はいわゆる、『ぼっち』という人種ですか?」

八幡「ずばり言うな……」

静「おい比企谷、初対面なんだから自己紹介くらいしろ」

八幡「(隠し通せなかったか。やれやれ)あぁ、はい」

八幡「比企谷八幡、1-A所属で、趣味は読書。とりあえず今後ともよろしく」

雪乃「……雪ノ下雪乃。1年J組所属。この部活の部長をやっているわ。『とりあえず』よろしく」



16: 2014/10/01(水) 21:56:03.29 ID:WiDfPvfM0


八幡(雪ノ下雪乃……。ああ、こいつ学年トップの奴か。今思い出した)

八幡(あととりあえずを強調して返す辺り、嫌味ったらしい人間だと分かる)

静「うん。お前ら似た者同士だな」

八幡・雪乃「「はぁ?(怒)」」



22: 2014/10/04(土) 02:52:19.92 ID:wpuQaD550


雪乃「平塚先生。言っていいことと悪いことがあります。こんな何事にもやる気を出そうとしない無気力な男と私を一緒にしないでください」

八幡「そうだな。こんな躊躇なく人を罵倒する心無い女と一緒にして欲しくない」

雪乃「先生の目は節穴ですね。いえ毎回私の忠告が届かない辺り耳も悪いんでしょう」

八幡「だから碌な男を見つけられないんですよ」

静「……お前らが私のことを嫌いだというのはよく分かった」



23: 2014/10/04(土) 02:54:19.43 ID:wpuQaD550


八幡(自分らしくもなく怒ってしまったな)

八幡(とはいえ今のは平塚先生が悪い。俺は他人の悪口は言わずに心の中で言うタイプだ。俺は雪ノ下のように無駄にヘイトを集めるような真似はしない)

静「ともかく、雪ノ下も比企谷が無気力な人間だと見て分かったようだな」

静「比企谷は一般的な学生生活やら友達との楽しいお喋りやら、そういう青春めいたことに興味を示さないんだ」

静「だから比企谷の孤独思考を改善して欲しいというのが私からの依頼だ。――お前たちに対する、な」



24: 2014/10/04(土) 02:56:43.36 ID:wpuQaD550


八幡「依頼……?」

静「やってくれるか、雪ノ下?」

雪乃「………………分かりました」

静「そう言ってくれて嬉しい。雪ノ下以外の部員がいないことは気になっていたからな。私はやり残した仕事があるので職員室に戻る。後は若い二人で精一杯親交を深めるように」

八幡(おいこいつもぼっちかよ。まあさっきの憎まれ口からして女子友達ができなそうな性格ではあるが)




八幡(具体的な説明は何もないまま平塚先生は行ってしまった。後に残ったのは会話を広げようとしないぼっち二人だけだ)

八幡(『ふたりぼっち』って書くとなんかかっこいい。厨二臭いけど)



25: 2014/10/04(土) 02:57:55.28 ID:wpuQaD550


八幡「……あそこにある椅子、使っていいのか?」

雪乃「ご自由に。というか立ったままでいられると目障りだから読書の邪魔になるわ」

八幡「それで、ここは一体何部なんだ?」ガガガッ スッ←椅子引いてきて座った

雪乃「当ててみなさい。いきなり人に答えを聞くという姿勢は、自分の無能さを曝け出す愚かな行為よ」

八幡「………………依頼っていうワードからしてここがよろず屋めいた部活なのは分かる。問題はそのよろず屋めいた活動に似合う名前が存在しないことだ。だからこそ聞いてるんだよ、『ここはどんな名前の部活だ?』ってな」



26: 2014/10/04(土) 02:59:31.53 ID:wpuQaD550


八幡(そう言うと雪ノ下は勢いよく読んでいた本を閉じ、椅子から立ち上がって俺を睨みつけた)





雪乃「比企谷くん。貴方は自分一人の力で解決できない問題に直面した時、どのような行動が最善だと思う?」



27: 2014/10/04(土) 03:02:22.44 ID:wpuQaD550


八幡「そうだな……」

八幡(諦めて他の方法を模索する。そして解決に至るまでの労力と解決した時の対価を比較し、それが見合わないようなら即刻諦める。俺にとって効率は何をおいても肝要なのだ。タイム・イズ・マネーの精神だ)

雪乃「私は――もし本人に問題を解決する能力を不足していても、諦めずに自己研鑽に努めるべきだと思うの。人の可能性は無限大。何事にも挑戦して可能性を広げていくべきよ」

八幡(俺の答えを聞かずに雪ノ下は自分の弁を述べる。おそらく雪ノ下は俺が『諦める』というような答えを出すことを読んでいたのだろう)

雪乃「しかも私たちは未来ある学生。そんな私たちが自分から可能性を閉じるようなことはしてはいけないのよ」



28: 2014/10/04(土) 03:04:14.67 ID:wpuQaD550


雪乃「ここは奉仕部。生徒の自己改革を促し、悩みを解決するその手助けを行う場所よ」

雪乃「改めて歓迎するわ。比企谷くん」

八幡「…………よろしく」












八幡(『奉仕』という言葉とその部活内容を聞いて、俺は思った――)



29: 2014/10/04(土) 03:08:10.85 ID:wpuQaD550




八幡(これまでの人生で、本気で誰かを助けたいと思うことは一度もなかった。目の前で傷ついた人間がいても、手を差し伸べることはなかった)




八幡(他人に感情を向けないことが当たり前で、家族や好きな相手でさえそれは例外じゃない。冷静に、冷酷に、冷淡に、相手を傍観していた)




八幡(むしろ小中学で虐められた反動で、見知らぬ人間の破滅を願ってしまう俺がいる)








八幡(足を引っ張るのは目に見えている。だから俺はすぐこの部活を辞めることになる。そう確信した)

八幡(雪ノ下は俺を見て、俺も雪ノ下の顔を見返しながら、しかし俺の心は別のところに向いているのだった)



30: 2014/10/04(土) 03:09:19.68 ID:wpuQaD550






プロローグ 「この比企谷八幡に優しさは微塵もない」 終







33: 2014/10/04(土) 03:22:20.12 ID:wpuQaD550
抜けすいません。>>29の前部分にさしこんでください




八幡(他人を見ようともせず、まして興味も抱かない。ボランティア精神を欠片も持ち合わせない俺に、奉仕活動なんてできるわけがないと)





38: 2014/10/06(月) 02:13:11.11 ID:WTJbTLh80


八幡「…………………………」ペラリ

雪乃「…………………………」ペラリ




八幡(会話が弾みません。とても本が読みやすいです)

八幡(何をすればいいか聞いたら、依頼がない時は活動がないと言われたので俺も本を読むくらいしかやることがなくなった)



39: 2014/10/06(月) 02:16:35.66 ID:WTJbTLh80


八幡(俺が読んでいるのは『異能バトルは日常系のなかで』というライトノベル。もちろんブックカバーを着けてある。いやこれタイトルや主人公の厨二度とかパロディとか抜いたら、結構マジメな作品だからな?)

八幡(人の身に余る能力を手に入れたヒロインに対し、真摯に向き合って励ます主人公の姿がとんでもなく格好いい。これがあの『トリガー』でアニメ化されるとあっては、期待せずにはいられないだろう)




八幡(なんでガガガ文庫を読まないかだって? ……いやなんでガガガ文庫限定すんだよ)

八幡(ちなみに雪ノ下もブックカバーを使ってるので、何を読んでいるのかは分からない。実はヤバめの本を読んでいるのかもしれない。『神さまのいうとおり』とか『暗殺教室』とか)



40: 2014/10/06(月) 02:17:47.72 ID:WTJbTLh80


雪乃「…………比企谷くん。会話をしなさい」

八幡「えぇ……」

八幡(ようやく本に集中してきて、雪ノ下のことが頭から離れかけてたのに。現実に戻さないでくれよ)

雪乃「貴方の問題を解決しなければいけないのだから、貴方が協力しないことには始まらないわ」



41: 2014/10/06(月) 02:19:09.27 ID:WTJbTLh80


雪乃「平塚先生は孤独思考と言っていたけれど、実のところどうなのかしら? 貴方、友達いるの?」




比企谷「友達なら――いるぞ」

比企谷(俺にとって友達と呼べる関係にいる人間と言えば…………、『あいつ』と『あいつ』、だけだな)




比企谷「少なくとも2、3人いる」

雪乃「(……結構いたのね)それだけかしら?」



42: 2014/10/06(月) 02:20:20.56 ID:WTJbTLh80


八幡「それだけって……、確かに普通より少ないのは分かっちゃいるが」

雪乃「少ないのが分かっているなら、どうして増やそうとしないのかしら?」

八幡「なら逆に聞くが、どうやって本を読みながら友達を増やせるんだ?」

雪乃「人と話すならまず本を読むのを止めなさい」

八幡「ならお前も人と話す必要がないからって部室で本を読むなよな」

雪乃「…………貴方、見た目に寄らず性格悪いわね」

八幡「そうだな」

八幡(相手の好きなものを弁護材料にするなんて自分でも卑怯だと思うさ)

八幡(だけど、これが俺なんだ)



43: 2014/10/06(月) 02:21:35.28 ID:WTJbTLh80


八幡「大体話し相手なら他にもクラスにいるっての。雪ノ下だってそうじゃないのか?」

雪乃「あら。私にはそんな曖昧な関係の人間は存在しないわ」

八幡「いやそれだと友達いないことにならないか?」

雪乃「そういう風に取るのかしら。比企谷くんは人の粗探しをするのが好きなようね。そんなことばかりしているから友達が増えないのよ。直しなさい」




八幡(雪ノ下の目が言っている。『余計なことを言えば頃す』と)



44: 2014/10/06(月) 02:22:38.16 ID:WTJbTLh80


八幡(ていうかマジかよ……。友達いない女子とかありえんの? こいつの方がよっぽど孤独思考だよ)

八幡「はぁ……」

雪乃「その溜め息は何かしら。言いたいことがあるなら素直に言いなさい」



45: 2014/10/06(月) 02:23:53.21 ID:WTJbTLh80


八幡(その問い掛けは、これ以上この話題に触れないことの確認なんだと思うが、俺はそんな空気を読むような殊勝な人間じゃない)

八幡(もし俺が普通の奴なら、そもそもこんなよくも分からん部活に押し付けられたりしない)

八幡(つまり俺は他人と仲良くする気は全くなく、わざと空気を読む必要性など感じたりしないのだ)






八幡「いやさあ――」



46: 2014/10/06(月) 02:24:28.67 ID:WTJbTLh80




八幡「なんだか平塚先生は俺の孤独思考を直して欲しいんじゃなく、雪ノ下の孤独思考を直して欲しくて依頼したんじゃないかって思うんだよ」


雪乃「……………………は?」





52: 2014/10/09(木) 02:17:57.99 ID:xco5UBhA0


八幡(ちなみに今の俺の発言を意訳すると、『俺よりお前の方がぼっちだよな』だ)

八幡(あくまで遠まわしに、受け取る側がこの発言を挑発と取らなければ、ただの分かりにくい言葉でしかない)

八幡(しかし俺の言葉が挑発であることは変わらず、相手が馬鹿でもなければ気が付かないわけがないわけで、もちろんのこと相手は学年トップの雪ノ下雪乃である)




八幡(誤解などあるはずもなく、雪ノ下は俺が雪ノ下のことをバカにしているのを理解した)



53: 2014/10/09(木) 02:19:00.54 ID:xco5UBhA0


雪乃「比企谷くん。よく聞こえなかったから、今言ったことをもう一度言ってくれるかしら?」

八幡(うわー。目が笑ってないというか顔が引きつっているというか、ガチでキレてるっぽいなこれ)

八幡(まあ雪ノ下の言いなりになりませんが。言いたいことだけ言ったら後は相手がより怒らないよう会話を進めるだけである)

八幡「別になんでもない。忘れてくれ」

雪乃「なんでもないわけがないでしょう。私にはしっかり貴方の言葉が聞こえていたわ。誤魔化しなんて通じると思っているの?」

八幡「思ってないことが口に出たんだ。ちょっとした言い間違いなんだ。俺が悪かったから許してくれ雪ノ下」

雪乃「許すわけがないでしょう。貴方の言葉で私の心が傷ついたのよ」



54: 2014/10/09(木) 02:20:02.19 ID:xco5UBhA0


八幡(そこから暫く雪ノ下の説教は続く。相手が傷つく言葉を言ったことを過去の虐められたトラウマを引用しながらネチっこく追及してくる)

八幡(もっとも俺は雪ノ下がぼっちなのを否定しないことの確認が取れただけで満足だ。なので雪ノ下の説教を話半分に聞きながら、雪ノ下が求めているであろう返事を繰り返していた)

八幡(そして平塚先生がこの教室に戻ってきた)



静「随分会話が弾んでいるようだな」

雪乃「ノックをする気がないなら氏んでくれませんか、平塚先生」

静「ど、どうした雪ノ下……?」

雪乃「…………失礼しました。どうにも気が立っていたので」



55: 2014/10/09(木) 02:21:21.57 ID:xco5UBhA0


静「なるほど。早速比企谷と衝突したか。予想した通りだ」

雪乃「予想していたんですか? なら何故仲がいいなんて言うんですか」

静「本質的に似通っているのさ、お前たちは。もっとも考え方が真逆なのだがな」

静「親しくはならないかもしれんが、お互いに見るべきところがあると思うんだ」

八幡(初対面から気に入らないと思っていたら、そういうことか。雪ノ下も俺もぼっちだし、どこか似ていたからこそ嫌悪していたのか)

八幡(まあ具体的にどこが似ているかは言語化しにくいが。平塚先生は分かっているのだろうか)



56: 2014/10/09(木) 02:22:48.92 ID:xco5UBhA0


雪乃「この男から学ぶところがあるように思えませんが」

静「こいつは結構強かなところがある。正攻法ばかりのお前では対処できないことも、もしかしたら比企谷なら対処できるかもしれん」

雪乃「私より比企谷くんの方が上手く依頼をこなせると、先生は考えているんですか?」

八幡(そう言って雪ノ下は俺の方を睨む。何こいつどんだけ負けず嫌いなの?)



66: 2014/10/13(月) 14:44:10.06 ID:neaLG0+/0


静「ふむ。折角の機会だし、ここでお互いの力を示しておくのも悪くない」

静「ここは一つ、どちらがより奉仕できるか勝負してみてはどうだ? 勝った方が――――負けた方になんでも一つ命令できる」

八幡「なんでも……」

雪乃「下卑た考えは止めてもらえないかしら。確かに私は世間一般的に見ても魅力のある容貌をしているけれど……」

八幡「コンビニスイーツくらいでいいか」

八幡(『なんでも』とかクソどうでもいい。セクハラを意識させて引かれるより、不感症をほのめかせて哀れまれる方が気が楽だ)



67: 2014/10/13(月) 14:46:32.67 ID:neaLG0+/0


静「ふふ。どうやら比企谷からすれば、雪ノ下よりコンビニスイーツの方が魅力的らしいな」

雪乃「へぇ………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

八幡「なんで煽ってんすか平塚先生ェ……」

静「比企谷。勝負である以上手を抜くことは許さない。全力を尽くせ」

雪乃「安心しなさい比企谷くん。私も全力で貴方の心を叩き潰してあげるわ」

八幡「いやこれ奉仕できるかの勝負だから。俺の心壊しても意味ないからね」




八幡(壊せられるもんなら壊してみろよ。――俺の心はとっくに壊れてるんだからな)



68: 2014/10/13(月) 14:47:19.37 ID:neaLG0+/0


静「判定基準は私の独断と偏見で決めさせてもらう。異論は認めん」

雪乃「異論なんてありません。こんな男に負けるとは思えませんから」

八幡「勝手にしてくれ……」




八幡(こうしていつも通り、俺の意思が介在することなく展開は進む)

八幡(本音を言えば奉仕勝負なんて向いてないことに力を入れたくない)



69: 2014/10/13(月) 14:48:44.02 ID:neaLG0+/0


八幡(適当にやって頑張っている姿を見せて、努力は最低限でただ終わるのを待つつもりだった)

八幡(しかし平塚先生の『全力でやれ』という言葉のせいで、俺は頑張らないといけなくなった)

八幡(断る理由が特にないなら、俺はその言葉に従う義務が発生する)

八幡(やれやれ。いつも通り俺の性格は難儀なことで。球磨川さんみたいに上手い負け方を目指してやるか)



70: 2014/10/13(月) 14:51:14.29 ID:neaLG0+/0


八幡(そういえば、もし球磨川さんがここにいたら、絶対に雪ノ下に裸エプロンさせようとするだろうな)

八幡(雪ノ下の裸エプロン…………)チラ

八幡(まあ需要はあるんじゃねえの?)

雪乃「何を見ているのかしら、比企谷くん。それともコンビニスイーツより私の方が魅力的だと撤回する気に「いやそれはない」」

八幡(あ、やべ。思わず本音言っちまった)

八幡(でも今のはコンビニスイーツを馬鹿にした雪ノ下が悪い。エクレアとかパフェとか侮れねえからな)



71: 2014/10/13(月) 14:51:55.29 ID:neaLG0+/0


雪乃「……どうしましょう。今まで男からはずっと好意的に見られていたから、こういう時どんな顔をすればいいか分からないわ」

静「笑えばいいと思うぞ。私のように!」

八幡「平塚先生。たぶん雪ノ下はエヴァを分かってません。あとモテない恨みを他人にぶつけないでください」

八幡(ぶつけるなら雪ノ下本人にぶつけてください)



72: 2014/10/13(月) 14:53:19.41 ID:neaLG0+/0






第一章 「しかし雪ノ下雪乃は相手にしてもらえない」 終







73: 2014/10/13(月) 14:58:59.42 ID:neaLG0+/0
これにて第一章は終了です
書き上げてみたら実はプロローグと大して字数は変わりありませんでした


切り方がちょっと悪いかもしれませんが、これ以上長くやると他のキャラの出番が遠のくので、
小町ちゃんとか戸塚とかね。ただしこのスレにおいては天使ではありません


台風でバイトが休みになりませんように、とか思う私は間違いなく社畜
皆さんも台風にはお気を付けください!

81: 2014/10/15(水) 18:53:18.48 ID:qfbSt8ZW0


八幡「平塚先生、奉仕部の活動日って何曜日ですか?」

静「特に決めていない。ただ雪ノ下は毎日行っているぞ」

八幡「なら雪ノ下に相談して交代制にして、担当曜日決めるか」

静「……あのなあ比企谷。依頼としてお前の性格矯正が受理されている以上、お前自身もそれに協力しないといけないだろうが」

静「大体逃げたところで、雪ノ下が簡単にそれを許すと思わない方がいい。教室に直接迎えに来るのは当然のようにしてくるだろう」

静「別に用事がある時まで無理に来いとは言わん。だが予定がないなら素直に部室に行くのをおすすめする」



82: 2014/10/15(水) 18:55:00.17 ID:qfbSt8ZW0


八幡(そんなわけで俺の放課後の予定は強制読書タイムに決定したわけだ。心底面倒臭い)

八幡(これで読む本を探すために、昼休みは図書館に、休日に本屋に行かないといけなくなった。別に本を読むのは好きだが、時間潰しと暇つぶしの意味合いは全く違う。無駄な時間を過ごすほど愚かなことはない)

八幡(俺が変わればいい話だと普通の奴なら思うが、俺のことを一番知ってる俺自身が『変わるはずがない』という結論を出している)

八幡(結果、俺はあの雪ノ下と同じ時間を過ごさなくてはならなくなった。誰かこの『美少女(毒舌)と過ごす時間』を金で買ってくれねえかな……、五千円くらいで)




八幡(まあ、売る相手がいないんだけどな。俺には)



83: 2014/10/15(水) 18:56:28.96 ID:qfbSt8ZW0


雪乃「………………」ペラリ

八幡「………………」ペラリ

雪乃「………………比企谷くん」パタン

八幡「?」 ←顔だけ向けて返事しない






雪乃「貴方は――自分自身を改善するつもりがないのかしら?」



84: 2014/10/15(水) 18:57:19.37 ID:qfbSt8ZW0


八幡「いやそもそも改善と言ったって、何をしたらいいか……」

雪乃「何をすればいいか、どんな方向に変わるのかはこの際別の話よ。でもね、比企谷くん――――」




雪乃「部室に入って挨拶をしたら、仕事が終わったみたいに一目散に椅子に座って本を読み始めるのはどうかと思うのよ……」

雪乃「さすがの私でも、それがダメなことくらい分かるわ」




八幡(『さすがの私』とか言うのもどうかと思う。コミュ障だって言ってるようなもんだぞ?)



85: 2014/10/15(水) 18:57:57.02 ID:qfbSt8ZW0


雪乃「挨拶をしたっきり一度も顔を合わそうとしていないし。――貴方、わざとやってない?」

八幡(やっぱりこの態度はまずいよなあ……。まあ自覚的にやってんだけども)

八幡「そんなわけねえよ。本当に何をしたらいいか分かんねえんだよ」



86: 2014/10/15(水) 18:59:03.95 ID:qfbSt8ZW0


雪乃「そうかしら? 昨日のように誤魔化そうという考えが透けて見えるのだけれど?」

八幡「してねえよ、誤魔化そうとなんて」

雪乃「なら、自分のどういうところを改善させるべきかちゃんと考えなさい」

八幡(つまり雪ノ下には俺の悪いところが思いつかないんですね)

八幡(学年一の秀才相手にキャラを掴ませないとか、さすがです俺。略してさくおれ。全然略せてねえな)



87: 2014/10/15(水) 18:59:50.43 ID:qfbSt8ZW0


八幡「ん~…………。やっぱり人と深く関わろうとしないところだな」

雪乃「まずはそこよね。どう改善するべきかしら」

八幡「そうだよなあ。これはもはや生来の性質っぽいし」

雪乃「能力とか性質とかいう言葉で誤魔化そうとしないで、直す努力をしなさい」

八幡「(あ、これ次言い訳したら怒るな)……ああ、はい。頑張ります」



88: 2014/10/15(水) 19:00:18.95 ID:qfbSt8ZW0


八幡(雪ノ下を怒らせないよう慎重に会話をしていると、部室のドアが開いた)




八幡(そこには『見覚えのない』女子生徒がいた)




??「失礼しま~す」



98: 2014/10/18(土) 02:25:07.11 ID:PD1F8a4s0


??「え、なんでヒッキーがここにいるの!?」

八幡「一応ここの部員なんだよ。昨日この部活に入ったばっかりだがな」

??「へえ~。あれ、でもヒッキーって部活に入る気ないとか言ってなかった?」

八幡「色々あんだよ。色々。つーか俺のことよりお前のことだろ。相談事があるんじゃねえのか」

??「こういう機会じゃないとヒッキーと話できないじゃん」




八幡(ていうかこの女子、ガチで誰だよ)

八幡(クラブに入る気がないって話はしたことあるけど、何でそのこと知ってんの?)



99: 2014/10/18(土) 02:27:00.64 ID:PD1F8a4s0


雪乃「えっと、あなたは2年F組の由比ヶ浜結衣さんよね?」

結衣「え? なんで私の名前……っていうか雪ノ下雪乃さん!? なんでここに!」

雪乃「それは私がこの奉仕部の部長だからよ」

結衣「そうなんだ。じゃああたしの名前を知ってたのは?」

雪乃「同じ学校なのだから、あなたの名前を知っていてもおかしくないわ。それに記憶力はいい方よ。もっとも例外はあるけれど」

結衣「ああ、確かにヒッキー影薄いもんね」




八幡(男子より女子が多くなると、会話のメインが女子になる法則)

八幡(ならその法則に従って俺を除け者にしておいてくれ。会話をしなくて済むからな)



100: 2014/10/18(土) 02:28:08.44 ID:PD1F8a4s0


結衣「相談を受けてくれるって平塚先生から紹介されたけど、そもそも奉仕部って何の部活?」

雪乃「奉仕部とは、その人の問題をその人に解決させるよう促し、本人の成長を臨む部活。分かりやすく例えるなら、飢えている人に魚を釣ってあげるのでなく釣り方を教えて飢えないようにするのよ」

結衣「正直よく分かんないけど、凄いことをしているのは分かった!」

八幡(いや今の例えくらい分かれよ。仮にも進学学校生じゃねえのかよ)



101: 2014/10/18(土) 02:29:17.70 ID:PD1F8a4s0


結衣「それで相談なんだけど、クッキーを…………」チラ

八幡(由比ヶ浜がなぜかこっちを見て言い淀んだ。理由を推測し、俺は鞄を持って立ち上がった)

八幡「男子には話しにくい相談か。なら俺は外す。困ったことがあったら図書館に呼びに来てくれ」

八幡(本当なら少し席を外すくらいでいいのだが、自分以外の人間しかいない空間に鞄を置いておくことはありえないので、それだったらいっそ戻ってこないことを前提にした方が俺的に都合がいい)

雪乃「何を逃げようとしているのかしら。あなたも奉仕部員なのだから、ちゃんと依頼に向き合いなさい」



102: 2014/10/18(土) 02:30:15.65 ID:PD1F8a4s0


八幡「逃げようとなんてしてねえよ。なんだか由比ヶ浜が言いにくそうだったし、女同士の方が話しやすいことがあるだろうから気を使ったんだよ」

八幡(とはいえ俺は本気で図書館に行くつもりだったし、お前らが呼びに来なければずっと図書館に居るつもりではあった。つまり俺が逃げるかどうかの選択権は俺ではなくこいつらにあった)

八幡(まあ閉館時間になれば一回戻ってくるだろうが。それくらいの紳士性はさすがの俺も持ち合わせている。逆に言えば最低限の紳士性しか持ち合わせる気がないとも言えるが)



103: 2014/10/18(土) 02:33:02.93 ID:PD1F8a4s0


雪乃「言い訳は結構。あなた自身の性根の改善も依頼なのだからきちんとこなしなさい」

八幡「分かってるよ(嘘だけど)」

結衣「……二人とも何の話? あたしついていけないんだけど」

雪乃「ごめんなさい由比ヶ浜さん。奉仕部内の話だから気にしないでもらえるとありがたいわ」



104: 2014/10/18(土) 02:34:23.98 ID:PD1F8a4s0


八幡「結局のところ問題は、由比ヶ浜が俺に依頼内容を話してくれるかどうかだな」

雪乃「早速由比ヶ浜さんに責任を負わそうとしていないかしら? 依頼内容がどうであれ、比企谷くんの参加は絶対よ」

八幡「あっそ。で、由比ヶ浜。お前は依頼内容を俺に話せるのか、話せないのか、どっちだ?」

結衣「え、えーっと……別にヒッキーに話せないってわけじゃない……かな?」



105: 2014/10/18(土) 02:35:14.05 ID:PD1F8a4s0


八幡「なるほど。じゃあ話してくれ」

雪乃「待ちなさい。聞き役は私がするわ。比企谷くんはメモでも取っておきなさい」

八幡「……まあ書記くらいやってもいいが、なんか俺への当たりが強くないか?」

雪乃「そう思うのはあなたの不真面目な態度のせいよ。さて由比ヶ浜さん、話してもらえないかしら」

結衣「あ、…………うん」



106: 2014/10/18(土) 02:36:33.90 ID:PD1F8a4s0


結衣(なんだろう……? ようやくヒッキーと話ができたのに全然嬉しくない。雪ノ下さんと話しているのを見ても、全然羨ましくない)

結衣(むしろヒッキーと話す雪ノ下さんが気の毒に見える。ムダなことを頑張ってるみたいな……)

結衣(――ううん。こんなこと考えてちゃダメだよね)






結衣(だってヒッキーは)



107: 2014/10/18(土) 02:39:52.30 ID:PD1F8a4s0


結衣(ヒッキーは――――あたしとサブレの命の恩人なんだもん)



130: 2014/10/24(金) 02:15:09.79 ID:49sRgPVm0


雪乃「手作りクッキーを作りたい、と」

結衣「友達に相談したらマジな雰囲気に取られちゃうし」

八幡(好意を持ってるってわざと取られるわけですね)

結衣「別に好きとかそんなんじゃなくて、本当にお礼の意味を込めてプレゼントしたいの」

雪乃「分かったわ。奉仕部は由比ヶ浜さんの依頼を受けましょう。ではまず家庭科室に行きましょうか」



131: 2014/10/24(金) 02:16:25.99 ID:49sRgPVm0


八幡(そうして色々あって時間が経過し、由比ヶ浜のクッキーが完成したわけだが……)

クッキー「コゲタヨー」

八幡(由比ヶ浜なんとかさんはメシマズ、いや料理の適性がこれっぽっちもなかった)

八幡(卵の殻が入ったまま作業を続けようとするのはまだ序の口。小麦粉の代わりに片栗粉やパン粉を入れようとしたり、味の素を入れれば料理が美味しくなると本気で言ってやがった)

八幡(『料理をしたことがない俺でさえ』、由比ヶ浜が駄目なのが分かる。料理も得意だと言っていた雪ノ下は完全に青ざめていた)



132: 2014/10/24(金) 02:17:01.65 ID:49sRgPVm0



雪乃「これは……処置なしね」

八幡「とりあえず由比ヶ浜は今後一切料理はするな」

結衣「その結論早くない!?」

雪乃「比企谷くん駄目よ。それはまだ最終手段だから」

結衣「まだ!? もう最終手段想定してるし!!」



133: 2014/10/24(金) 02:17:41.53 ID:49sRgPVm0


八幡(まあ別に失敗作というだけで味見しない理由にはならないな)ヒョイパク

雪乃・結衣「「あっ」」

八幡「………………」モグモグモグ

八幡「……駄目だなこれは。端的に言って、腐った味がする」

八幡(俺としても酷評はしたくないが、事実は事実である。それにこの場合わざと酷いことを言った方が由比ヶ浜のためになる)




134: 2014/10/24(金) 02:18:24.12 ID:49sRgPVm0


結衣「そ、そんなにダメ……?」

八幡「普通なら作った本人なんだから食えと言いたいが、さすがに人前で戻すのは勘弁だろ」

雪乃「言いたくないのだけれど……これは捨てましょう、由比ヶ浜さん。今度は私も手伝うから、もう一度作りましょう」

結衣「うぅ……」



135: 2014/10/24(金) 02:19:17.04 ID:49sRgPVm0


八幡(クッキーカッコカリは結衣自身の手で三角コーナーに送り込まれる。泣きそうな結衣を雪乃が精一杯励まし、もう一度クッキー作りが再開する)

八幡(次は雪ノ下と、少ないながら俺もフォローに回る。しかしそれ以上に由比ヶ浜が失敗を繰り返した)

八幡(俺たち三人とも疲れを溜めながら、なんとかクッキーは完成。完成品は一つ一つの焼き加減が曖昧で、生焼けのものもあれば焦げているものがある)

八幡(とはいえ先のものより数段上手くできている。ムラがあるが、一部は食べられるものに仕上がっていた)



136: 2014/10/24(金) 02:19:58.01 ID:49sRgPVm0


雪乃「さっきよりは十分上達したわ」カリカリ

八幡「食えるには食える」ガリガリ

結衣「でも……こんなんじゃまだ」カリカリ

八幡(確かにまだ雑味やしっとり感が残っていて、素直に美味しいとは言いにくい)

八幡(しかし雪ノ下が手伝ったとはいえ、二回目にしてこの成長具合はむしろ上出来。あと二、三回作れば一度くらい成功品が作れるはずだ)




結衣「ヒッキー的には、どう?」



137: 2014/10/24(金) 02:21:04.45 ID:49sRgPVm0


八幡「どう、と言うと?」

結衣「このクッキーを貰って、喜ぶ――と思う?」

八幡「そうだな。一般的な男子なら女子からのプレゼントはどんなものだろうと喜ぶと思うけどな」

結衣「ヒッキーの意見が聞きたいの。正直に言って」

八幡「……………………」



138: 2014/10/24(金) 02:23:29.34 ID:49sRgPVm0


八幡(正直になんて、言えるわけねえだろ)

八幡(たとえプレゼントであろうと、相手が女子でも一国の姫だろうと、俺は不味い食べ物を押し付けられたら躊躇なく憎める人間なんだ)

八幡(さすがに感想をそのまま言うほど、今はもう幼くない。それに本音を言って他人を騒がせるのは、うんざりなんだ)

八幡(自分の心の醜さは自覚した)




八幡(だから俺はいつも嘘をつく。言い繕い、誤魔化そうとする)



139: 2014/10/24(金) 02:24:06.07 ID:49sRgPVm0


八幡「手作りだってことなら納得する。でもこれだったらどうして市販のやつをプレゼントしないのかって思う」

結衣「っ……! そっか……」

雪乃「比企谷くん、言い過ぎよ!」

八幡「でもまあ――――」

結衣「もういい……」



140: 2014/10/24(金) 02:24:37.03 ID:49sRgPVm0


結衣「こんなクッキーじゃ、貰っても誰も喜ばないよね」

八幡「おい……」

八幡(俺の言い訳タイム……)

結衣「あはは、あたし調子乗ってたのかな。不器用だって分かってたのに…………」






雪乃「いい加減にしてくれないかしら」







150: 2014/10/26(日) 12:07:24.81 ID:EHVGqeMO0


雪乃「この際だから二人に言うわ。向いてない、とか能力がない、とか大した努力もせずに諦めて分かったようなことを言わないでもらえないかしら」

雪乃「中途半端な努力で諦めて、才能のある人を羨んで、それで満足? 成功した人間だって努力をしているわ。あなたたちはその努力を想像すらせず、どうして自分には無理だと決めつけてしまうの」

雪乃「駄目だったなら、やり直せばいいだけじゃない。そこで踏みとどまることくらいできるでしょう。負けることが恥ずかしい? 違うわ、挑戦することを止めて負け犬になるのが一番恥ずかしいの」

雪乃「分かったかしら、そこの愚かな負け犬二人。いいえ、負け犬二匹」




八幡「…………」

結衣「…………」



151: 2014/10/26(日) 12:08:41.18 ID:EHVGqeMO0


八幡(……俺はいいとして、なんで由比ヶ浜まで負け犬呼ばわりされてんの?)




八幡(俺が過小評価されようがどうでもいいが、由比ヶ浜まで悪く言われるのは納得できん。…………ん? 俺らしくないこと考えてるぞ?)

八幡(由比ヶ浜なんてどうでもいい。そもそも由比ヶ浜の言葉がきっかけで雪ノ下は怒っている。どうして真っ先にまず俺のせいだと考えた?)

八幡(あ、そっか)




八幡(今までの俺の言動で雪ノ下に鬱憤が溜まっている可能性があるからか。そのことで発生する俺への責任に真っ先に考えが及んだだけか)

八幡(由比ヶ浜のことを心配したんじゃなく、リスクに目がいっただけ。ならいつも通りの俺だ。どこもおかしなところはなかった)



152: 2014/10/26(日) 12:09:15.15 ID:EHVGqeMO0


八幡(とはいえこれで由比ヶ浜は俺ら二人ともに否定されたわけだ。さすがにやる気も失せただろう)

八幡(初回の依頼は失敗か、やれやれ。残念無念また来週、ってか)




結衣「……かっこいい」

八幡・雪乃「は?」



153: 2014/10/26(日) 12:10:21.30 ID:EHVGqeMO0


八幡(雪ノ下とハモってしまった。いや、それはいい。それよりさっきの雪ノ下のどこがかっこよかったんだ?)

雪乃「比企谷くんと被ってしまったわ、腹立たしい。それはそれとして由比ヶ浜さん、今の私のどこがかっこよかったのかしら? 結構キツイことを言ったはずだけれど」

結衣「うん、確かに雪ノ下さんはキツイことを言ってるけど、でも思ったままのことを言ってるでしょ」

結衣「あたしって周りに合わせてばっかで、友達相手でも本音を言えないことが多くって。本音を言って友達との仲が悪くなるのが怖くて、言いたいことをいっつも我慢してるの」

結衣「でも雪ノ下さんは真っ直ぐ言いたいことを言ってる。言葉を選ぶのが間違ってて、本音を言うことが何よりも正しいと思ってる。自分にとっても正直で、そんな雪ノ下さんがかっこよく見えた」



154: 2014/10/26(日) 12:11:01.71 ID:EHVGqeMO0


雪乃「――――」

雪乃「そ、そうね。周りに合わせるなんて、自分の責任を周りに押し付けてるだけよ。心の通った友人を作りたいなら、本音を言わないといけないわね」

結衣「きゃー! ゆきのんすっごくかっこいい!」

雪乃「えっと……。その『ゆきのん』というのは何かしら?」

結衣「仇名だよ。呼びやすいじゃん。ゆきのん、ゆきのん、うん!」

雪乃「由比ヶ浜さん、それ止めてもらえないかしら。ちょっとバカっぽく聞こえるから」




八幡(由比ヶ浜が雪ノ下を褒め出してから、終始由比ヶ浜のペースだった。普段の上から目線な態度と比べれば、今の雪ノ下は可愛げがあるというか、見ていて大変面白い)



155: 2014/10/26(日) 12:12:10.75 ID:EHVGqeMO0



八幡(だが由比ヶ浜の正論を聞いているせいで、むしろ俺は気分が悪くなっている)

八幡(正論は正しい。大衆ドラマみたいに夢があっていい。しかしそれは現実ではない)




八幡(言いたいことを言いたいなら、会話のジャンルで話す相手を変えるべきなのだ)

八幡(ペットの話は同じくペットを飼っている相手か動物が好きな相手にする。勉強の話は勉強ができない相手にはしない。相手に通じる話でしか会話は弾むことはない)

八幡(友達に言いたいことを言わないのは間違っているってか? 逆だ。潔癖な奴にズリネタを話す馬鹿がどこにいる。沈黙は金。言うべきことと言うべきでないことを線引きし、言わなかったことを別の相手に言えば、秘密を少なくすることができる)



156: 2014/10/26(日) 12:12:50.45 ID:EHVGqeMO0


八幡(まあこれは俺のやり方であり、秘密を少なくできたとしても秘密を無くすことはできない。そもそも由比ヶ浜が友達に隠し事できないほど心細いから、こうして悩んでいるんだろうしな)

八幡(俺の価値観と由比ヶ浜の価値観、どちらが正しいかはどうでもいい)

八幡(俺の『言いたいこと』は別にある)




八幡「なあ由比ヶ浜、さっきの話の続きなんだが」

結衣「なあに、ヒッキー?」



157: 2014/10/26(日) 12:13:37.19 ID:EHVGqeMO0


八幡「お前はなんで手作りに拘ってるんだ?」

結衣「……………………」

雪乃「……比企谷くん、何を聞いているのかしら。それは由比ヶ浜の好みなのだから、問い質す意味がないわ。というか、依頼内容に口出ししてどうするの」

八幡「あのさ。最後まで喋らせてくんね?」



158: 2014/10/26(日) 12:14:16.37 ID:EHVGqeMO0


八幡「で、だ」

八幡「俺が言いたいのはまさに、手作りにしたいっていうのが由比ヶ浜の好みだということだ」

八幡「大抵の日本人なら贈り物を貰ったら感謝する。女子から何か貰ったらたとえゴミだろうと男子は喜ぶ。そういうもんだ」

八幡「稀に受け取る側が不満を言うことがあるが、それはそれ、これはこれ。贈る側の思いと受け取る側の喜びに因果関係なんてない」



159: 2014/10/26(日) 12:14:44.52 ID:EHVGqeMO0






八幡「結論を言おう」

八幡「由比ヶ浜。お前が手作りに拘っているのは、相手が手作りクッキーで喜ぶのが分かっているからか?」

八幡「そもそもお前は手作りクッキーを完成させたいのか、手作りクッキーを作れるようになりたいのか、どっちなんだ?」

八幡「これといって手作りに拘る理由がないなら――――自己満足以外に理由がないなら――――お前はここで頑張る必要はねえよ」







169: 2014/10/31(金) 01:08:49.70 ID:k+lVLqB60


八幡(ここまで断言しておいてなんだが、俺は今の言い分に言い返して貰いたかったりする)

八幡(ちゃんと由比ヶ浜が相手のことを思って手作りクッキーを作りたいっていうなら、俺はその意思を尊重したい)

八幡(だからこそ俺は悪役を買って出てでも、由比ヶ浜の思いを確かめたかった。悪いのは俺だと、間違っているのは俺なのだと確信を得たかった)



170: 2014/10/31(金) 01:09:16.83 ID:k+lVLqB60


八幡(だが、滅多にない俺の純心なる願いは叶わなかった)



結衣「――――――」

雪乃「――――――」




八幡(雪ノ下も由比ヶ浜も『そんなこと考えもしなかった』という顔をしていた)



171: 2014/10/31(金) 01:09:56.23 ID:k+lVLqB60


八幡(別に由比ヶ浜はいい。こいつはこういうことを友達から教わるタイプの人間だ。……だけど雪ノ下、お前は違うだろ)

八幡(お前は頭のいい人間なんだろ。他人を助けたいと思っているのはお前の方だろ。なのになんで……っ、こんなことにさえ頭がいかねえんだ!)




八幡(――いや。今は雪ノ下が期待外れかどうか考えてる場合じゃない)

八幡(このままだと俺が正しいまま話が進む可能性がある。それだけは避けないといけない)



172: 2014/10/31(金) 01:13:01.86 ID:k+lVLqB60


八幡(俺は正しく見られようが悪く見られようが、そんなことに興味はない。だが助けたいとかけらも思っていない俺が正しく見られるのは違う。そんなのは間違ってる。俺の心境を知れば、誰だってそう思うだろ?)

八幡(なら俺のやることは一つだ。尖った正義は少数派へと立場を変え、正論は暴論に変わる)

八幡(余計なことを言い過ぎれば、人は勝手に言い返してくれる)



八幡(任せたぞ――――雪ノ下)



173: 2014/10/31(金) 01:14:52.14 ID:k+lVLqB60


八幡「まあ由比ヶ浜のことだし、相手が喜ぶ方を選ぶんだろ? さっき手作りを諦めかけてたし」

八幡「それに由比ヶ浜って化粧得意そうだから、クッキーを作るよりも買ってきたクッキーを飾り付ける方が案外上手くいくんじゃねえの?」

八幡「無駄な努力……とまでは言わなくても、もっと効率的に相手が喜ぶよう努力するのも一つの手だと思うぞ」

八幡「ほら、バレンタインとかで手作りキットみたいなのあんじゃん? あれ使うのズルって言わないだろ。たとえ手順を省いたり友達に手伝ってもらったからって、手作りなのは変わらない。なら湯銭とラッピングだけしかしてなくても、手作りだって言え――」




雪乃「そこまでにしておきなさい」





174: 2014/10/31(金) 01:17:35.11 ID:k+lVLqB60


雪乃「あなたが言っているのは飢えている人に魚の釣り方を教えているのではなく、釣りをしている人に魚屋の場所を教えるようなものよ。言うなれば、その人の努力の意味を霧散させる最低な行為よ」

八幡「違うな雪ノ下」

八幡「ここは災害大国日本だぞ? 大地震で家屋が潰れようがコンビニで行列を作る、大変律儀で真面目な民族だ。魚屋が閉まるなんてありえない。きっと誰もが頼めば店を開き、魚を売ってくれるさ」

雪乃「話をずらさないで。今さっき由比ヶ浜さんが努力しようと決心してくれたのに、どうしてそれを否定するようなことを言うの」

八幡「否定してねえよ。努力の方向を間違うなと言ってんだよ」



175: 2014/10/31(金) 01:18:27.00 ID:k+lVLqB60


結衣「ヒッキーは、あたしがクッキーを作るのが、間違いだって言うの……?」



八幡(由比ヶ浜の声は震えていた。けれど由比ヶ浜が傷ついているという事実を気にせず、俺は躊躇することなく言葉を続けた)

八幡「…………間違ってるかどうか決めるのは俺じゃない。作る側である由比ヶ浜と、受け取る側の誰かだ。俺たち奉仕部は、手助けの立ち位置から出ることはできないんだよ」

結衣「でもヒッキーは間違ってるって思ってるんでしょ?」

八幡「………………」

結衣「――――――そっか」



176: 2014/10/31(金) 01:19:28.13 ID:k+lVLqB60


八幡(俺が否定しなかったのを受け、由比ヶ浜は顔を俯け黙り込んだ)

八幡(俺も雪ノ下もどう対処していいか分からず、しばらく時間が経つ)






八幡(――不意に由比ヶ浜がエプロンを外し机の上に置いた)



177: 2014/10/31(金) 01:20:30.14 ID:k+lVLqB60






結衣「ごめん――――――」






八幡(そう言って由比ヶ浜は家庭科室から一人出ていった)

八幡(多分――泣いていたのかもしれない。そしてこれからどこかで泣きに行くのだろう)



194: 2014/11/02(日) 17:05:56.59 ID:gAuv2xE60


雪乃「なんてことをしてくれたの……!」

八幡(雪ノ下は怒りをあらわにし、鋭い表情を俺に向けてきた。当然の流れである)

八幡(しかし俺は悪びれることもなく泰然としていた)

雪乃「由比ヶ浜さん、泣いていたわ。あなたが泣かせたのよ。あなたには…………人の心というものが存在しないの?」




八幡(――無いよ。そんなものは)

八幡(人の心があるせいで第三者の視点立てないなら、どちらかに肩入れする可能性が出てくるのなら、俺はそんなものなくていい)

八幡(たとえ人の心がないことで割を食うとしても……、俺なら耐えることができる)



195: 2014/11/02(日) 17:06:40.66 ID:gAuv2xE60


八幡「ないはずないだろ。だが感情と理性は別のものだ。俺はこれで良かったと思ってる」

雪乃「どこがいいと言うの!! 由比ヶ浜さんがクッキーを作らなくなったらどうするの!!」

八幡「それが由比ヶ浜の選択なら、俺はその選択を尊重する。そもそもの話、クッキーを作るって相手が喜ぶのかも不明瞭だったんだ。そのことを指摘しなかったのは――由比ヶ浜の依頼が『クッキーを作りたい』だったからだ」

雪乃「なら…………あなたはあなたなりに由比ヶ浜さんのことを考えていたと言うのね」

八幡「そういうことになるな」



196: 2014/11/02(日) 17:08:43.35 ID:gAuv2xE60


雪乃「――――そう。けれど、あなたのやり方が間違っているわ。人道的ですらない」

八幡「間違ってるかどうかは後で分かる。多分平塚先生辺りに、由比ヶ浜が自分の手でクッキーを作るか作らないかの話が伝わるはずだ。そこで初めて依頼完了と俺たちの勝負結果が分かる」

八幡「じゃあ今日はこれで帰っていいか?」

雪乃「愚かだと思っていたけれど、ここまでとはね。帰っていいわけないでしょう」

八幡「いやだって、由比ヶ浜はもう戻って――――――あ」



197: 2014/11/02(日) 17:09:28.94 ID:gAuv2xE60


八幡(思わず俺は笑ってしまった)

八幡(なぜかって? 確かに俺は由比ヶ浜のことを否定した。けれど俺は彼女のことが嫌いだから否定したわけじゃない。彼女が徒労をしかけていたから許せなかっただけだ)

八幡(だから………………由比ヶ浜がこのまま帰るでなく、由比ヶ浜が戻ってきて努力を続けると言ってくれるのなら、俺は心から嬉しく思う)

八幡(俺の性根が腐っているとしても、由比ヶ浜の幸せくらい願ってもいいよな?)



198: 2014/11/02(日) 17:10:33.64 ID:gAuv2xE60


雪乃「由比ヶ浜さんは必ずここに戻ってくるわ。あなたはそれを見届けなさい。そもそも由比ヶ浜さんを泣かせた時点であなたの負けよ。たとえ居た堪れなくても最後まで付き合うのよ」

八幡「りょーかい」

雪乃「……どうしてそこで笑うのかしら? 見ていて気分が悪くなるわね。もしかして被虐にくんはMなのかしら?」

八幡「Mじゃねえよ。つーか被虐にくん言うな」



199: 2014/11/02(日) 17:11:27.16 ID:gAuv2xE60


八幡(その後雪ノ下が言った通り、由比ヶ浜は家庭科室に戻ってきた。泣いて顔を洗ったのだろう、目が赤らんで化粧が落ちており、髪に濡れた部分が残っていた)

八幡(見る者が見ればみっともないという感想が出る姿だが、由比ヶ浜の強い眼差しがむしろ逆の印象を与える。目に宿る敵意は俺に向いている)



結衣「――あたし、考えたよ。ヒッキーはあたしが不味いクッキーを作るのが許せないんでしょ?」

結衣「食材を駄目にしてるんだもん。美味しく作らないと、食べ物に失礼だよね」

結衣「だからあたし………………絶対に美味しいクッキーを作れるようになる!」

結衣「クッキーだけじゃない、どんな料理だって美味しく作れるようになりたい。そしたらヒッキーも文句ないよね!!」



200: 2014/11/02(日) 17:12:20.68 ID:gAuv2xE60


八幡(……由比ヶ浜って最初はお礼の品を作りたいから相談しに来たんじゃなかったか?)

八幡(ま、いいか。ここは依頼を通して相手を成長させる部活だからな。依頼が解決しようがしまいが関係ねえだろ。肝心なのは相手に奉仕することだ)

八幡(お礼に渡す一回だけ作ってごまかすのではなく、これからも努力が続けられるよう仕向けられたなら、俺が悪役を買って出た意味があった)



201: 2014/11/02(日) 17:13:27.85 ID:gAuv2xE60


八幡(では由比ヶ浜のこれからの成長を願って、努力の方向性を示しておいてやろう)



八幡「ならせめて『コレ』くらいは上手く作れるようにならなきゃな」スッ

八幡(雪ノ下のものでも由比ヶ浜のものでもないクッキーを俺は差し出す)

結衣「もしかしてこのクッキー……、ヒッキーが作ったの?」



202: 2014/11/02(日) 17:14:32.87 ID:gAuv2xE60


結衣「うぅ………………ちゃんとできてる」



八幡(ちなみにこのクッキー、俺が由比ヶ浜を待つ間持ってきた本を読もうとしたら雪ノ下に怒られたので、代替案で作られたものだったりする)

八幡(もちろん、そんな邪な理由で作られたと言える訳がないな)



203: 2014/11/02(日) 17:18:18.78 ID:gAuv2xE60


八幡「携帯で作り方を調べながらやったが、雪ノ下の手を借りず一人で作った。人生初の料理でこれなら上出来だな」



八幡(『人生初だからこの出来で満足』みたいな卑屈な言い方ではなく、あえて自慢するような言い方で由比ヶ浜を煽った)



結衣「絶対にこれより美味しいの作って、ヒッキーを驚かせるからね!」

結衣「ゆきのん、よかったらこれからも料理のこと教えてもらってもいいかな?」

雪乃「ええ、喜んで手伝わせてもらうわ。比企谷くんの何倍も上手く作れるようになりましょう」



204: 2014/11/02(日) 17:20:39.33 ID:gAuv2xE60


八幡(たとえまずまずの出来だとしても、元々料理下手な由比ヶ浜だし、このくらいの目標で十分だ)

八幡(俺の料理という憎き目標があることで、由比ヶ浜はとても努力がしやすいことだろう)



八幡(これで依頼完了だ)

八幡(俺は負けることで自分の無力を証明し、雪ノ下は勝利を得て、由比ヶ浜は成長できた。誰もが得をする結果になった)



208: 2014/11/02(日) 22:45:44.43 ID:gAuv2xE60

結衣「やっはろー!」

八幡(数日後の放課後、由比ヶ浜は部室に現れた)



雪乃「その『やっはろー』というのは何かしら? 流行っているの?」

結衣「え、変かな?」

八幡「別に挨拶くらい何だっていいだろ。それで何の用だ?」

結衣「クッキーに一人で再チャレンジしてみたの。よくできたと思うから、二人に食べてもらいたくって」



209: 2014/11/02(日) 22:47:18.02 ID:gAuv2xE60


八幡(そう言って由比ヶ浜は小袋を渡してきたが、なぜか俺と雪ノ下のものはサイズが違った)

八幡(雪ノ下は型でくり抜いたみたいに綺麗な形がたくさん入っているのに対し、俺は歪なハート型と尖った鼻と曲がった耳の顔型の二つだけ。細い目と口も相まって、顔型のやつはまるで悪魔の顔に見える)

八幡(絶対これ包丁で形取ってるよな。俺に嫌いな態度を見せるためだけに、ここまで凝るか?)



八幡「羊か、山羊か、それとも狐かこれ?」

結衣「犬だよ! 他の何に見えるの!?」

八幡「まあ形は何でもいいが……」パク



210: 2014/11/02(日) 22:48:29.73 ID:gAuv2xE60


結衣「ねえヒッキー、美味しい?」

八幡「普通」ゴクン

八幡(特に不味いところがない、普通に美味しいクッキーだ)

結衣「えっと……、他に感想とかないの?」

八幡「まあまあだな。ちゃんとできてると思うぞ」

八幡(俺は感想を出すのが苦手だ。貶す部分がないなら他に言うことがない。意地でも他人を誉めたりしない)

八幡(どこまで他人が嫌いなんだと、自分でも思わなくもない。それでよく妹の小町を困らせるが、俺は困らないので多分一生このままだな)



211: 2014/11/02(日) 22:49:05.12 ID:gAuv2xE60


雪乃「その男に感想を求めるのが間違いよ。比企谷くんは感想を言いそうにないもの、私がクッキーの感想を言うわ」

結衣「そうなの?」

雪乃「仮に『100点満点で何点?』と聞いても、恐らく比企谷くんは『及第点』としか言わないんじゃないかしら」

八幡(なぜ分かったし)

結衣「うわあ……、それありえなくない?」

雪乃「それより由比ヶ浜さん、クッキー以外の料理は作ったのかしら? そちらの方も聞いておきたいのだけれど」



212: 2014/11/02(日) 22:51:01.38 ID:gAuv2xE60


八幡(そうやって楽しく話をする雪ノ下と由比ヶ浜は、まるで友達同士の普通の会話のようだった)

八幡(ところどころ毒舌で皮肉を混じらせる雪ノ下。そしてその解説を由比ヶ浜が求め、雪ノ下は楽しそうに説明する)

八幡(回転を始めた歯車みたいに会話の勢いが弾んでいく)



八幡(誰がどう見ても、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣は親友に見えるはずだ)



213: 2014/11/02(日) 22:53:18.53 ID:gAuv2xE60


八幡(この前ぼっち認定されてたが、簡単にぼっち卒業してんのな。雪ノ下)

八幡(では俺も日頃の説教への当て付けを兼ねて、雪ノ下のぼっち卒業を祝福してやろう)

八幡(皮肉と悪意が混じるプレゼントを受け取るがいい)



八幡「さて。俺はこれから飲み物買ってくるが、お前らにも何かおごってやろうか?」

結衣「えっ、ああ……、うん…………、じゃあお願いしようかな……」

雪乃「比企谷くんの善意は気持ち悪いというか、裏がありそうで受け取りづらいわね……」

八幡「人の善意はちゃんと受け取れよお前ら」



214: 2014/11/02(日) 22:54:07.29 ID:gAuv2xE60






第二章 「決定的に、由比ヶ浜結衣と彼はすれ違っている」 終







223: 2014/11/05(水) 21:17:52.27 ID:Tk2zSfIz0


八幡「…………」モグモグ



 比企谷八幡の昼食は基本、教室で一人弁当を摘まむというものだ。

 孤独を感じる性格でもない上、他の誰にどう見られようとひとっ欠片も気にならない。机をくっつける邪魔にでもならない限り、堂々と教室の真ん中で昼食を取っている。

 俺が今食べている弁当は出来合いの弁当ではなく、小町が毎朝早起きして作ってくれたものだ。



八幡(今日も失敗したおかずはなし、と。相変わらず小町の料理は美味い)



 別に昼飯なんて菓子パンや味噌汁で軽く済ませたり、なんなら塩むすびだけでいいと俺は思うのだが。けれど小町は、



小町「お兄ちゃんは放っておいたらアンパンとコーヒー牛乳だけみたいな味気ない昼ご飯になっちゃうから、小町がお弁当作らなくっちゃ!」



 と言って受験生であるにも関わらず家族全員分の弁当を作っているのである。小町偉いぞ。



224: 2014/11/05(水) 21:19:46.47 ID:Tk2zSfIz0


 メニューを選ぶ手間を省けるし、不味いものじゃなければ特に文句もないので、俺は小町の家族愛を遺憾なく利用している。

 しかし今この教室には、小町の家族愛の結晶を曇らせるものがある。



優美子「ねえ結衣さー。あーしらって友達だよね? ならなんで最近あーしらとの付き合い悪いの?」

結衣「え、えっと、それは――――」

八幡「…………」ムグムグ



 クラスカースト女子一位の三浦が、由比ヶ浜をいびっていた。

 ――とはいえ俺は三浦の怒鳴り声がうるさいと思うだけで、由比ヶ浜を助けたいという気持ちは微塵もない。

 気にしなければ弁当を食べる邪魔にもならないし、後ろで騒ぐ二人に一切の興味もないので首を向けることはない。

 アニメによく出る寡黙キャラみたいに、俺は黙々とおかずを口に運ぶ。



225: 2014/11/05(水) 21:21:15.32 ID:Tk2zSfIz0


隼人「まあまあ優美子。少し落ち着こう」

優美子「あーしは落ち着いてるし。それより結衣、なんで理由言えないの? 結衣とあーしらは友達でしょ? 理由くらい言ってくれてもいいじゃん」

結衣「それは…………ごめん」

優美子「さっきから結衣ごめんしか言ってないよね。結衣のために言うけどさー、あーしはそういう煮え切らない態度が――」


 別に騒ぐのは構わないが、明日以降にその怒りを持ち込むなよ。三浦。

 まあどうせ由比ヶ浜は雪ノ下辺りと約束してるからさっさと行きたいのに、三浦が意地張って引き止めてるのが全容ってとこだろ。俺に関係ない話だし、さっさと弁当片付けて図書室に行くかな。

 そんなことを考えていると、雪のように冷たく氷柱のように尖った声が教室に木霊する。



雪乃「オウムみたいな鳴き声が聞こえるけれど、この教室では鳥を飼っているのかしら」



226: 2014/11/05(水) 21:22:01.30 ID:Tk2zSfIz0


 他人を鳥扱いとか、俺でも酷いと思うようなことを言いながら雪ノ下は教室に入ってきたようだ。

 ようだ、が付くのは雪ノ下が来てもなお、俺は振り向かずに弁当をつついているから。



雪乃「それに由比ヶ浜さん、謝る相手が違うわ。あなたの方から約束してきたのにその約束を保護にするのはどうなのかしら」

結衣「ゆきのん! ごめんね、あたしゆきのんの携帯知らないから……」

優美子「ちょっと雪ノ下さん、今あんためちゃくちゃ失礼なこと言わなかった? ていうかあーしと結衣は話の途中なんですけど」

雪乃「そうかしら? 相手の言葉を聞こうとせず自分の意見だけを押し付ける行為を会話とは呼ばない。そんなものは獣の威嚇と何ら遜色ないわ」

雪乃「あなたの常識では威嚇行為が会話として扱われてるのかしら? ……ごめんなさい。そうとは知らず、あなたの縄張りに踏み込んでしまって」



227: 2014/11/05(水) 21:23:35.47 ID:Tk2zSfIz0


 ごちそうさん。と俺は食べ終わった弁当を片付け、席を立つ。目指すはもちろん図書室だ。

 音を一切立てずに動くことで周りから見られないように努める。まあ見られたところで見返さずさっさと教室から出ればいい。

 三浦と雪ノ下に皆の注意が向いている内に教室から出ようとしたところで、俺は声をかけられた。



彩加「ねえ、八幡」

八幡「ん?」



 コイツは戸塚。俺の数少ない友人の一人。小動物を彷彿をさせるかわいい見た目と『ニセコイ』の誠士郎にも似たソプラノ声。

 こんなに可愛い子が女の子のはずがない! ――そう、コイツは男だ。いわゆる男の娘って奴らしい。



彩加「三浦さんと雪ノ下さん、…………とっても怖いね」

八幡「そうだな」



228: 2014/11/05(水) 21:26:49.20 ID:Tk2zSfIz0


 戸塚に話題を振られて、ようやく俺は雪ノ下がいる方を見た。雪ノ下はいつもの暴言で三浦の精神を滅多打ちにしていた。

 一瞬、雪ノ下の視線が俺の方に動いた気がした。



彩加「ねえ八幡、今雪ノ下さんこっちを見たかな?」

八幡「気のせいだろ」



 戸塚のおびえる姿は、タングステン製の堅物である俺でさえ、可愛らしいと感じるものだった。

 男子の癖にここまで可愛いとなれば、女子に虐められないわけがない。



229: 2014/11/05(水) 21:27:46.73 ID:Tk2zSfIz0






 実際――――戸塚はこのクラスで虐められる寸前だった。






230: 2014/11/05(水) 21:30:53.81 ID:Tk2zSfIz0


 もっとも本人が言うには、戸塚は高二になるまでずっと虐められてきたらしいが。だから俺と同じく他者の視線に敏感なのかもしれない。

 今のところこのクラスにおいて戸塚へのいじめはない。……はず。他人と碌に接しない俺が断言できるわけがない。



 もっとも、戸塚を救うきっかけとなったのは俺なんだが、俺は戸塚を助ける気はさらさらなかった。

 戸塚は間接的に助かっただけだ。

 実際に戸塚を救ったのは――――






 そこで雪ノ下にいびられている、三浦優美子だ。



233: 2014/11/05(水) 23:55:26.27 ID:Tk2zSfIz0
トラウマものの虐めを受ける→常に可愛く振るまうよう強要され、その癖が抜けない→男子にキモいぐらいモテる→主人公にだけトラウマを明かす→特に伏線は回収せず主人公はヒロインとくっつく

まで行きますね

どっちかって言うと性的や肉体的な苦しみより精神的な苦しみが好みです


235: 2014/11/09(日) 14:39:51.89 ID:f4obMx6Q0


 オカマとか性同一性障害のやつは、芸人の過去ドキュメントを見る限り同性に虐められてるみたいだが、源君物語には可愛い男が女子に虐められてる描写があった。

 その二つを分けるのは、中身ではなく見た目なんだろう。そして可愛い子を虐めていた理由は――――自分より可愛いから。

 戸塚もその例に漏れなかった。新学年が始まったばかりの頃、戸塚は主に男子より女子に話しかけられていた。主に話しかけていたのは、そこで「三浦ザマァww」と笑っている女子グループだ。

 三浦に幾歩か劣る程度の求心力しか持っていないアイツらでは、恐らく戸塚と同じくらいの魅力しか持っていないのだろう。むしろ戸塚の方が可愛いのかもしれない。

 だからアイツらは戸塚の魅力を取り込もうとした。



 もちろん俺はそんな戸塚の姿など目に入るわけもなく。

 入学して一年経ち誰かと仲良くするのに飽きていたので、その頃は新調したばかりの教科書を読んでいた。



236: 2014/11/09(日) 14:40:40.73 ID:f4obMx6Q0


 ある時、俺と戸塚は英語の授業でペアになった。俺は戸塚をクラスメイトの一人としか認識していなかったし、戸塚も俺なんかに自分の境遇を相談することはない。

 その代わり戸塚が相談したのは、男子テニス部のことだった。



戸塚『男子テニス部ってさ、上級生が僕しかいないんだ。でも僕は皆に頼られるくらいテニス上手いわけじゃないからさ、自信なくって』

八幡『ふーん』

戸塚『どうでもよさそうに返事しないでよ! 僕ホントに困ってるんだもん。八幡はテニスが得意な人知らないかな?』

八幡『知らん。そういうのは自分で探さないのか? あとOBに訊くとか』

戸塚『だから今八幡にも聞いてるんだよ』

八幡『といっても俺知り合い少ないし、探してはみるが期待するなよ』



 そして俺は当時、既にクラスの中心になっていた葉山に話を聞きに行った。葉山の名前は覚えていなかったがそんなものはどうとでもなる。



237: 2014/11/09(日) 14:42:16.08 ID:f4obMx6Q0


八幡『おっす。なあ、テニスの上手い奴探してんだけど、誰か知らないか?』

隼人『君は確か――“比企谷(ひきがや)”くんか?』

隼人『テニスか……。確か優美子が中学の時テニスで全国に行ったらしいけど』

八幡『おっ。それすごいな。じゃあそいつ紹介してくれねえか?』



 さすがの俺も、人口が多い関東で全国に行くレベルの人間は尊敬する。まあいくら相手が恐そうでも偉そうでも、人見知りして話すのを躊躇う俺ではない。

 戸塚を(半ば無理矢理)引き連れ、俺は三浦に話しかけた。



優美子『で、あーしに言いたいことって何?』

八幡『いいや、話があるのはコイツだ。ほら、こういうのは本人が頼まなきゃ駄目だろ』

彩加『ええっと………………。三浦さんがテニスが上手だって聞いて、それでできたら僕にテニスを教えてもらえないかな……?』

優美子『はぁ? なんであーしがそんなことしなくちゃいけないわけ?』



 三浦は高圧的な態度で俺らを威嚇する。



238: 2014/11/09(日) 14:45:05.88 ID:f4obMx6Q0


 だが戸塚は三浦の威嚇に怖気づくことはなかった。



彩加『お願いします! 僕、どうしてもテニスが上手くなりたいんです!!』

優美子『――――本気で、あーしに教えて欲しいの? 多分あーし容赦しないし、キッツイこと言うと思うけど』

彩加『頑張って全力でついていくから。三浦さん、お願いします!』



 戸塚は頭を下げ、三浦に頼み込む。必氏の熱意が三浦にも伝わったはずだ。






 ――もしかしたら俺はフォローに着いて来ることも、俺が三浦を探し当てる必要もなかったのかもしれない。と、今になっても思うことがある。

 俺が動かなくてもいつか――――戸塚は三浦とこうして対面していただろうから。



239: 2014/11/09(日) 14:45:42.76 ID:f4obMx6Q0


優美子『……あんた名前は?』

彩加『え、あっ。戸塚彩加です』

優美子『そ。じゃあ彩加、いつなら空いてんの?』

彩加『! じゃあ、今日の放課後!』



 そして戸塚は『三浦の弟子』というポジションを得て、カーストトップの三浦グループに属することで虐められなくなった。

 今でも戸塚はその見た目ゆえに余り同性からは話し掛けられないが、時たま三浦やその友達らと話しているのを見かけるので、寂しい時間を過ごさずに済んでいるらしい。



243: 2014/11/12(水) 22:01:56.96 ID:Qp65/nrQ0


 とまあ――誰に向けてか分からない戸塚の話を思い出したが、そろそろマジで図書室に行きたい。

 今日の奉仕部で読む本は別にあるが、今はとにかく雪ノ下と由比ヶ浜から距離を置きたい。



彩加「八幡ならあの二人の間に割って入れそうだね」

八幡「やろうと思えば入れるが、やる理由がないだろ」

彩加「由比ヶ浜さんを助けようって思わないの?」

八幡「由比ヶ浜が完全に被害者なら助けることも考えるが、あの状況を作り出してるのは由比ヶ浜自身だからな」



 至極残酷なことを言って、その言葉に戸塚は顔を歪ませたが、すぐに戸塚は笑顔を取り戻す。

 そこに俺は戸塚の処世術を垣間見るけれど、それ以上踏み込むことはない。



彩加「相変わらず……、冷たいよね。でもそれが八幡らしいよ」

八幡「そうだな。じゃあ俺は図書室に行ってくる」

彩加「行ってらっしゃい。八幡」



244: 2014/11/12(水) 22:03:21.98 ID:Qp65/nrQ0


 戸塚に手を振って別れ、ようやく俺は教室から脱出することに成功した。

 雪ノ下が教室の壁に背をもたれて由比ヶ浜を待っているのが目に入る。

 ……美少女がいるからなんだって? 絵になるからどうかしたか? 別段気にせず、俺は雪ノ下の前を通り過ぎようとした。



雪乃「待ちなさい、比企谷くん」

八幡「……何なんだ?」



 しかし雪ノ下に呼び止められてしまう。

 ……どうして皆俺が図書室に行くのを邪魔すんだよ。



雪乃「平塚先生に言伝を頼まれているの。今すぐ生徒指導室に来るように、だそうよ」



245: 2014/11/12(水) 22:04:52.19 ID:Qp65/nrQ0


八幡「はぁ……。了解」



 結局図書室に行けなくなってるじゃねえか。大きなため息を吐く。



雪乃「この前の依頼について、あなたから詳細を聞きたいらしいわ。由比ヶ浜さんへの発言の意図を含めてね」

雪乃「私も平塚先生と一緒にあなたを糾弾したかったけれど、由比ヶ浜さんとの約束があるから今回はパス。命拾いしたわね」

八幡「あっそ」



 俺がこれから叱られるのが心底嬉しいのか、雪ノ下は見せつけるように笑顔を浮かべる。

 別にお前と一緒に叱られたところで大したダメージは増えなそうだが、今から平塚先生の相手をするのに余計なエネルギーは使いたくないので、雪ノ下の相手はこれ以上したくはない。

 挨拶もおざなりに済ます。



246: 2014/11/12(水) 22:05:39.45 ID:Qp65/nrQ0


雪乃「ねえ、比企谷くん」

八幡「何だよ」

雪乃「――――――いえ、何でもないわ」



 笑顔のまま雪ノ下は何かを問おうとして、突然真顔になって問いを撤回した。

 その態度が少々気になるが、面倒なので追及しないことにする。



八幡「そうか。じゃあな」

雪乃「ええ――――」



 俺は雪ノ下に別れを告げ、生徒指導室へと足を向ける。

 ――背中に雪ノ下の視線を感じながらも、やはり俺は振り返らなかった。



247: 2014/11/12(水) 22:10:23.89 ID:Qp65/nrQ0
ほんとはもっと長かったんだけど、今回はここまで

保存ミスやっちまったからなぁ! よくあるけれど、毎度毎度モチベ下がるんだよぉ!!



それと前回出てきた、三浦を馬鹿にしている女子の正体はなんと「相模南」でした

……誰か突っ込んでよぉ!



テンションが変になってるのは見逃してください

252: 2014/11/15(土) 00:16:18.36 ID:D9AkLpHa0


      *  *  *


 比企谷八幡という男は、この私でさえ――雪ノ下雪乃でさえ、実態の掴めない人間だった。初めて奉仕部の扉を越えた時から、彼は私に本性を見せたことがなかった。

 無表情で無感動で、会話からは主体性が欠片も感じられない。私の言葉にありきたりな返事をするだけで反省の姿勢が感じられるわけもなく、異常な程に自分のことに対して無関心だった。

 一応、趣味が読書とアニメ観賞だとか、得意科目が国語だとか、好き嫌いが全くないというわけではなかったけれど、それくらいしか選り好みが確認できなかった。人間関係においては壊滅的と言っていい。

 校内一の美しさと評されることもある私に目を向けようとしない。それ程に彼に情欲というものがない。

 比企谷八幡は、私でさえ想像もつかない精神構造を持ち合わせていた。



253: 2014/11/15(土) 00:16:55.10 ID:D9AkLpHa0


 何よりも特異だったのは、彼の思考――いえ、視点と言ってもいいかもしれない。

 彼の視点は客観的過ぎる。第三者視点、どころか…………神の視点と言ってもいいくらいに。



 客観視というものは、自分の感情を排して両側の善悪を判断するもの。とは言うものの人間である以上完全に感情をなくすことができないので、絶対的な客観視という概念は存在しない。

 けれど客観視をすることによって、個人の身勝手な感情に流されず状況に即して正しい判断が下せるようになる。それがより究極に近いなら、尚更正しい判断が下せると言うことができる。

 完璧な視点に立つことを諦めるのは奉仕部部長として、怠慢だと言い切れる。…………でも、完璧を求める立場だからこそ比企谷くんがどのような視点に立っているか分かる。



 ――――彼は自分自身に対しても常に客観視を行っている。



254: 2014/11/15(土) 00:17:31.62 ID:D9AkLpHa0


 私と比企谷くんは以前こんな会話を交わした。


雪乃『ねえ比企谷くん。もしあなたが海の上で木の板に捕まっていて、大切な人が溺れそうになっている時、あなたはどうする? 助けようって考える?』



 彼は一瞬の迷いもなく答えた。



八幡『大切な誰かなら、そいつに人頃しの罪悪感を植え付けたくないから見捨てる』



 予想とは余りにかけ離れた回答に、私は言葉につまった。彼へ問い返すにも重い心の負荷がかかる。

 それでもどんなに心の負荷がかかろうと、こんな思いやりのない非人間に言い負かされるのは氏んでも御免だった。



雪乃『…………どうしてそんな答えになるの? 大切な誰かでしょう。家族や――あなたにできるとは思わないけれど――恋人の顔が思い浮かぶはずよ。その誰かを自分の手で頃すことに……躊躇いを感じないの?』

八幡『俺なら耐えられるって分かってるからな。それにたとえ家族だとしても、極限状態で俺を動かせるとは思えないし』



255: 2014/11/15(土) 00:18:07.01 ID:D9AkLpHa0


雪乃『――なら、あなたに全く関係ない他人ならどうするの?』



 好奇心から出た質問。彼が冷たい人間だと確認したかったとその時は思っていたけれど、今思えば本心は違っていたと思う。

 私の想像しない答えが出てくると、分かっていたから――



八幡『そいつが俺より「生きたい」という意思が強いなら、俺は生きるのを諦める。いや、ただ今掴まってる木の板を渡すだけなんだが』

雪乃『……随分と、簡単に自分の命を諦めるのね。二人とも生き残る方法を考えたりしないのかしら』

八幡『一応、たとえ絶望的でもそこから自分が生き残る方法を模索するからな?』



256: 2014/11/15(土) 00:19:28.72 ID:D9AkLpHa0


 あとそういうお前はどうなんだ、と比企谷くんに聞かれ、私は人道的な回答をした。彼の回答が衝撃的で自分の回答はほとんど覚えていない。

 しかしこの一連の会話で肝要なのは比企谷くんの回答だけで、これだけでも彼の異常さがよく分かると思う。

 この問題の回答に逡巡しないだけで充分な性質(たち)を持っているけれど、自分の命を捨てる可能性をいとも容易く導き出したことが重要なのだ。

 一体どういう人生を送ってくれば、どういう経験があれば、自分の命に無頓着になれるのだろうか。どれほどのトラウマを彼は抱えているのか。いつか私は…………彼の過去と向き合うことになるかもしれない。



 私が比企谷くんに向ける感情は、呆れと苛立ちと――そして畏敬。

 人間らしくしない彼にどうしようもない怒りを覚えることがあるけれど。

 私は彼に――――少しだけ憧れていた。



257: 2014/11/15(土) 00:20:11.85 ID:D9AkLpHa0


 由比ヶ浜さんを待つ廊下。比企谷くんに平塚先生からの伝言を渡して、私は比企谷くんとの勝負の報酬を思い出した。

 そういえば私が勝った時に比企谷くんに出す願いを言っていなかった。そのことで『コンビニスイーツ>私』だと言われた時の恨みを晴らしておこう。



雪乃「ねえ、比企谷くん」

八幡「何だよ」






 ――ありえない。






 そんな思考が浮かんで、私はその話を切り出すことができなくなった。



262: 2014/11/16(日) 17:09:09.97 ID:rQRMbVZb0


 内から聞こえた心の声に私自身が一番驚いている。

 確かに私には今、比企谷くんにしてもらいたいことはない。そもそも能力面から見て彼にできて私にできないことはないと思う。やる気を見せないから彼の能力は分からないけれど、クッキー作りを見る限りそこまで悪くはないと言える程度。

 でもそれならそれで、彼の能力面のなさを冷やかすこともできる。私の多才さを披露することもできる。もっと単純に、彼に何か奢ってもらうのもありかもしれない。

 ……ならどうして私は、彼に報酬の話を持ちかけることを躊躇うのだろう?



雪乃「――――――いえ、何でもないわ」



 そう言って誤魔化した。誤魔化しなんて私らしくもない。

 けれど自分でもどうしてか分からないのに…………本能が私の口をつぐませ、感情が話すことを嫌がって、比企谷くんを拒絶してしまう。

 そもそも『ありえない』というのはどういうことかしら? なぜそんな声が形を成したのだろう。一体『何』が『ありえない』と言うのだろうか。



八幡「そうか。じゃあな」



 比企谷くんは幸いにして私の変化を気にすることなくそのまま行ってしまった。

 この得体の知れない感情の原因となった彼を見続けても、私の疑問が晴れることはなかった。



263: 2014/11/16(日) 17:09:47.57 ID:rQRMbVZb0


結衣「ゆきのん、お待たせ」

雪乃「あっ。――いいえ、そこまで待たされていないわ」

結衣「よかった。じゃあ早く部室に行こっか。私のせいでお昼遅くなっちゃってるし」



 教室から由比ヶ浜さんが出てきたので、私は気持ちを切り替えようとする。

 しかし由比ヶ浜さんが廊下の先にいる比企谷くんを見つけてしまった。



結衣「あれ、ヒッキー? さっき教室にいたはずなのに」

雪乃「さっき教室から出てきたわ」



 音も立てず生気も発せず出てきた姿は亡霊と見分けがつかなくて、かなり……少し怖がってしまったことは言わないでおく。



264: 2014/11/16(日) 17:10:15.94 ID:rQRMbVZb0


雪乃「彼を誘う必要はないわ。由比ヶ浜さんを待っている間に平塚先生が部室に来て、私がここに来ることを言ったら、比企谷くんに生徒指導室に来させるように言われたの」

結衣「そっか……。でもヒッキーってこの時間にはもうお昼食べ終えてるから、どっちにしろ誘えなかったかも」



 そう言えば私が教室に入った時も比企谷くんは弁当を食べ続けていたわね。あそこまで他に興味を示さずにいれば、食べ終わるのも早いはずだ。

 私は周りの人に「線が細い」と言われて、無理矢理におかずを増やされることが常だったから、なるべくおかずが増える隙を与えないために少ない量をゆっくり食べる習慣が身に着いてしまったけれど…………。



雪乃「由比ヶ浜さん、教室での比企谷くんはどういうものなの?」

結衣「えっ?」

雪乃「違うわね、……比企谷くんは教室ではどんな風に扱われているのか教えてもらえないかしら?」



 私は先の自分の感情を把握するために、あえて比企谷くんのことを知ることにした。



265: 2014/11/16(日) 17:11:45.84 ID:rQRMbVZb0


結衣「――どうして? ヒッキーのこと気になるの?」

雪乃「…………」



 その言葉は、由比ヶ浜さんらしくもない圧迫感があった。

 由比ヶ浜さんの変わった態度に私は一瞬戸惑う。由比ヶ浜さんは一体彼の何を知っているというの?


雪乃「いいえ。私は平塚先生から比企谷くんの性格の改善を依頼されているの。だからそのために、比企谷くんのことを知ろうとしているだけで、他意は全くないわ」



 真実を話しているはずなのに、言い訳がましくなるのはどうしてだろう。






結衣「やめたほうがいいよ」






 その声は――――先程の『ありえない』という自分の心の声と同じ響きだった。



266: 2014/11/16(日) 17:15:52.37 ID:rQRMbVZb0
ここまで

第三章はもう後半に差し掛かってるのに、このままいけば第二章の字数を越えそうです

やっぱり地の文入れたからですね。どうしても描写を細かく書きたくなります

まあそのおかげで分かりやすくなるなら結果オーライです



274: 2014/11/21(金) 12:28:21.34 ID:5Xunsmux0


雪乃「『止めた方がいい』というのは、どうして由比ヶ浜さんはそう思うの?」

結衣「えっと。説明しにくいけど……、とりあえず歩きながら話そっか」



 そうね、と私はうなずく。由比ヶ浜さんの話の続きも気になるけれど、昼ご飯を食べ損ねては本末転倒になる。

 廊下を歩きながら、由比ヶ浜さんは滔々と比企谷くんのことを話していく。



結衣「まずヒッキーって、そんなに話すタイプじゃないんだよね」

雪乃「えっ、そうかしら? 奉仕部での彼を見る限り、そこまで会話が苦手なタイプに見えないのだけれど。それに教室で戸塚くんと話しているのが見えたし」



 戸塚彩加くんのことはJ組の女子の間でも話題になるので知っている。やはりと言うか、男なのにその可愛い見た目が嫉妬の対象になっていることもある。

 内心そんな戸塚くんと比企谷くんの組み合わせを意外に思っているけれど。



結衣「うん。まあ、男子とだったらたまに話をすることもあるかな。――でも女子でヒッキーと話したことあるのって、多分優美子くらいだと思う」

雪乃「由比ヶ浜さんは話したことがないの?」

結衣「ううん。ない」



275: 2014/11/21(金) 12:29:53.34 ID:5Xunsmux0


 私は周りに人がいるのも構わず、声を荒げて言った。



雪乃「もう始業式から二ヶ月経っているのに、そんなことがあり得るの――!」



 比企谷くんが奉仕部に入って一週間は経っている。その間、私と比企谷くんが話さない日は一日もなかった。

 むしろ会話を楽しんでいると、そう感じることもあった。

 だから由比ヶ浜さんが話す彼の実態を、私は想像だにできなかった。



雪乃「最低でも授業でパートナーになって、会話することもあるでしょうに」

結衣「授業で一回、ヒッキーと一緒になったことがあったの」



 いつもは由比ヶ浜さんが感情的になって、私が冷静に対処する。しかし今は私が怒り、由比ヶ浜さんが大人しく話している。

 いつも通り冷静沈着に由比ヶ浜さんの話を聞くべきだと分かっているのに、どうしても私は心の昂りを抑えられない。



276: 2014/11/21(金) 12:30:29.01 ID:5Xunsmux0


結衣「四人グループになって、その時確か男子女子が二人ずつだったかな。グループの中でヒッキーだけ先にプリントを解き終わったの。そういう時って普通、他の誰かに話しかけたりするじゃん?」

結衣「……ヒッキーはね、誰にも話しかけないで、ただぼーっとしてたの。天井を向いて誰とも目を合わさないで」



 ありえないよね、と由比ヶ浜さんはさみしそうに笑う。見ていてとても痛ましい。

 まさかそこまで彼は他人に興味を持っていなかったというの?



結衣「だからあたし、思い切ってヒッキーに話しかけたの。そしたらさ、斜めにいたヒッキーじゃなく前にいた子が反応しちゃって。……ヒッキーは反応してくれなかった」

雪乃「……酷い話ね。許し難い行為よ」

結衣「それでもゆきのん……、ヒッキーのことあんまり怒らないで」




 由比ヶ浜さんは比企谷くんを庇うけれど、私にはどうしても彼を許せそうにない。今日の放課後、彼の他者への認識について徹底的に追及し、糾弾しなくてはならなくなった。

 今までずっとはぐらかされてきたけれど、今度こそは誤魔化されない。むしろどうして今まで彼に誤魔化されていたのか不思議に思う。

 私は固い決心を誓う。



277: 2014/11/21(金) 12:31:22.41 ID:5Xunsmux0


 それでもたとえどれほど痛ましかろうと、由比ヶ浜さんは笑いながら話を続ける。



結衣「――――ヒッキーにはとんでもなく深い心の溝があるの。ヒッキーはそれを越えられないから、あたしが……あたしたちが頑張らないとヒッキーは心を開いてくれない」

結衣「そう思ってたの、最近まで」

雪乃「…………」



 由比ヶ浜さんの口振りから見るに、もう話は佳境に入っている。

 私は由比ヶ浜さんの言葉を一言一句聞き逃さぬよう、そしてそれを話す由比ヶ浜さんの感情を見逃さぬよう、怒りを抑え意識を彼女に集中させた。



結衣「ヒッキーと話してなんとなく感じたことだけど――――」



278: 2014/11/21(金) 12:34:01.18 ID:5Xunsmux0






結衣「ヒッキーはね、空気を読んでるところがあるの。無難な答え方で反応することがそもそもあんまりない」

結衣「でもね……本音を隠してる理由が私とは違う気がする。言いたいことを言わないんじゃなくって、言わない方がいいことを隠してるんじゃないかって思うの」

結衣「もしかしたらヒッキーは、あたしの依頼の時みたいなことを普段から考えてるのかも。ヒッキーはみんなのためにわざと距離を置いてるんじゃないかな」






 だからヒッキーがみんなと関わるようになったら、あたしみたいに傷つく人が出てくるのかもしれない。それで由比ヶ浜さんの発露が終わった。



      *  *  *




282: 2014/11/23(日) 15:28:31.11 ID:3XkzvO0p0


 雪ノ下が変な様子だったが、大したことないよな? ヤンデレフラグや氏亡フラグだったのにそれを見逃したとか、そんなんじゃないですよね?

 まあたとえ氏亡フラグでも、自分含め誰が氏ぬことになろうが構わないんだが、心の準備くらいはしておきたいので前もって把握させて欲しい。

 ――――なんて、とりとめもないことを考えながら進路指導室に向かっている道中。前の角から見覚えのある、黒縁メガネの太マル男が出てくるのが見えた。



義輝「ん? 八幡ではないか!」



 太マル男も俺のことを発見し、話しかけてきた。

 俺は手を挙げて返事をする。



八幡「よ、材木座」



283: 2014/11/23(日) 15:29:20.22 ID:3XkzvO0p0


 材木座義輝。一年の頃同じクラスだった、俺の数少ない友人のもう一人。

 そしてこの学校で唯一、俺と趣味を共有している人物でもある。平塚先生もアニメやマンガは見るんだが、いかんせん年代とジャンルが合わない。熱血系はちょっと……。

 今は別クラスになってるが、体育ではよくペアになることが多い。俺は余っている誰かと普通にペアを組めるんだが……材木座は雪ノ下と同じかそれ以上に人見知りなので、俺ぐらいしかペアを組める相手がいないらしい。



義輝「まさかこんなところで会うことになろうとはなあ。やはり我々は運命を共にする相棒」八幡「ウッゼェから止めろ。別にお前がどんなキャラを構築してもいいし、大抵の設定を見過ごしてやるが、俺を巻き込むのだけは止めろ」

義輝「はい…………。すみません……」



 見て分かる通り材木座は厨二病だ。高二で厨二なのはもはや突っ込むまい。

 脳内設定を惜しげもなく晒し、黒い指グローブを着け、かっこいいポーズ(笑)を人前で決めちまう奴だ。

 右手を抑えることがあるから邪気眼っぽいが、キャラのモチーフが歴史の偉人の足利義輝らしいので、厳密には違うらしい。



284: 2014/11/23(日) 15:30:24.96 ID:3XkzvO0p0


 平塚先生に生徒指導室に呼び出されているが、よくよく考えてみると俺は食べるのが早いから昼休みが始まってまだ十分も経っていなかった。

 何もこんなに早くに行く必要はない。少し材木座と話をしていってもいいだろう。



義輝「相変わらず八幡は厳しいでござる……」

八幡「厳しいか? 俺としては公平にやってるつもりなんだが」

義輝「いやいや。我の設定を理解しているからこそ、我以上に設定に厳しいところがあるぞ!」



 そうか? まあ俺も昔は…………現在進行形でラノベ見てるし、今も厨二病かもしれんという自覚はあるが。厨二病だったからこそ設定に厳しいのだろうか。

 というより多分これはあれだ。虐められっ子が同じ虐められっ子を心の中で格下に見て、扱いを雑にしているのと同じものだろう。

 実際材木座は、人に好かれる見た目も好意的に取られる態度もしてないしな。



義輝「そんなことよりビッグニュースがあったのだ!」



 自分の設定を『そんなこと』っつったぞコイツ。



285: 2014/11/23(日) 15:30:53.95 ID:3XkzvO0p0


義輝「もちろん聞いてくれるな! 八幡!?」

八幡「ああ。言ってみ」



 聞くだけだがな。

 それでも俺が無表情であろうと、材木座にとっては聞く姿勢があるだけで嬉しいらしい。材木座は『のうりん』の林太郎のような独特の響くヴォイスで、そのビッグニュースとやらを俺に報告した。






義輝「次回の演劇で、我の脚本を使ってもらえることになったのだ!!」






287: 2014/11/25(火) 02:23:24.89 ID:e39h3qDa0


八幡「ほう。それは凄いな」

義輝「ふふんっ。そうであろう、そうであろう」



 とは言っていても、内心俺はそのことを凄いとは思っていない。入部してすぐならまだしも、半年も行っていれば採用されるくらいわけはない。

 材木座は去年から演劇部に入っている。勧めたのは俺だ。

 日頃キャラ作りしていることと、声が大きいことから演劇部で上手くやれることは分かっていた。しかし俺が材木座に演劇部を勧めた理由はそれではない。






 材木座はかつて厨二病の御多聞に漏れず、ラノベ作家になることを夢見ていた。拙いながらも小説を書いて努力していた。

 そして俺は材木座に、より物語を書き続けられるよう新たな環境をプレゼントした。



288: 2014/11/25(火) 02:24:19.17 ID:e39h3qDa0


 もちろん当時の材木座は書き始めたばかりで相応の文章力もなく、痛い設定がふんだんに盛られた読むに堪えない未完成小説しか書けていない。

 オリジナルを書いてる分だけ二次創作しか書けない奴より少しマシだが、どうせすぐに諦めるだろうと俺は踏んでいた。

 しかし材木座は本気でラノベ作家を目指していた。



義輝『言っておくが、そもそも小説家自体儲からない仕事なのだ! 数十万部売れるトップセールスだけ目に入るだろうが、本来なら数万部売れるだけでももの凄いのだぞ!』

義輝『そしてラノベの市場は普通の小説の数分の一! ラノベ作家のほとんどが兼業作家という話を聞いたことはないか? つまりそれだけ儲からんのだ!』

義輝『…………というかまず、我は十五万字相当のストーリーを書けるようになりたいです』



 とまあ一部の内容を抜粋するだけでも、これだけ材木座はラノベ作家という職業に熱を注いでいた。

 だからこそ俺は材木座の熱意に応えた。



289: 2014/11/25(火) 02:27:42.76 ID:e39h3qDa0


八幡『なら材木座、演劇部に入ったらどうだ?』

義輝『演劇部? 文芸部ではないのか?』

八幡『いやお前、マンガとか読んでるだけでも文芸部が地雷なのは分かるだろ。文芸部ってのは自分の好きな本について語るのが九割の活動だった。…………いや、俺の体験談じゃないからな?』


 俺の小学生の頃のマンガ部の話だから当てにならないが。しかし一年に一冊しか部誌を出さないような部活に期待するのは時間の無駄だろう。

 かの涼宮ハルヒだって部誌を発行するエピソードは短編扱いだった。真面目に部活動をしているのなんて、氷菓と文学少女くらいだろう。それほどまでに文芸部での文芸活動は可能性の低い行動なのである。

 涼宮ハルヒはSFメインだから仕方ないけど。



290: 2014/11/25(火) 02:34:43.63 ID:e39h3qDa0
短いけどここまで

ちょっと材木座を原作から改変しました。より作家に向けての努力ができている状態にしています

別に自己投影させてるわけじゃないですよ! ただ原作の材木座のままだとつまんなくなりそうだったので



兼業作家で有名所を出すと「バカとテストと召喚獣」の井上堅二です。後書きで仕事の話がよく出てます



292: 2014/11/27(木) 21:09:26.65 ID:RMcJAlBM0


八幡『演劇部では教師が脚本を用意することもあるが、生徒が脚本を用意できるパターンもある。演劇は生徒全員の前で披露することが分かってるからな。もし後者で生徒自身が脚本を用意するなら、文芸部とは比べ物にならない程真っ当なアドバイスをするはずだ』

義輝『な、なるほどぉ!』



 話に引き込まれる材木座に、とどめとなる言葉を告げる。



八幡『それにだ――学校の演劇は大抵一時間だ。一時間のアニメと言えば、ラノベ二分の一冊くらいの分量になるだろ?』



 そして材木座はその日の内に演劇部へと入部した。

 ちなみにこの時材木座に意図的に伏せた情報がある。そもそもなんで俺がそんなに演劇部の事情に詳しいのかと言うと、かつて俺も作家になることを目論んで演劇部に突撃したことがあったからだ。



293: 2014/11/27(木) 21:10:12.27 ID:RMcJAlBM0


 演劇部に入ろうとした時に、顧問の教師に聞かされた。



「演劇部に入るなら演劇の練習はしてもらうが、それでもいいか?」



 その演劇の練習とは、体力作りのための筋トレや発声練習で、それをほぼ毎日やる。小道具作りもあるにはあるが、よくよく考えれば部活動の時間に関係ない小説の執筆を許してくれるはずもないだろう。

 だからかつての俺は作家の道を諦めた。ではなぜ、今になって材木座に演劇部を勧めるのか?

 理由なんて、一目瞭然だろ。



八幡「痩せた分の見返りはあったわけだな」

義輝「……もしや八幡。いやもしかしなくても、我に痩せさせようと演劇部に入れたのではあるまいな?」

八幡「そんな訳ねえだろ。純粋にお前のためを思ってだ」



 実際少し痩せようが、お前の痛さは変わらなかったしな。そこは残念だ。



294: 2014/11/27(木) 21:11:20.23 ID:RMcJAlBM0


義輝「八幡の愛は歪んでおるのう……」

八幡「愛とか言うんじゃねーよ。まあ言われてみれば俺は変わってるな」



 否定しない俺を追及しない辺り、材木座は俺と相性がいいと言える。雪ノ下や由比ヶ浜よりな。

 あいつらも俺に人間性を求めたりせず、話し相手として扱ってくれればいいのに。そこを諦めないのが雪ノ下らしいと言える。



義輝「変わってはいるが、我からすれば頼りになる相手であることに変わりはない。これからも『心友』としてよろしく頼むぞ八幡。…………ホントに我のこと見捨てないでね?」

八幡「見捨てねーから抱き付こうとするな」



 前に抱き付かれたことがあるので結構警戒している。その時はすぐさま蹴り飛ばしたので、幸いにも俺がホ〇だという噂は立っていないようだ。

 でも今よりキモくなるならさすがの俺も友達辞めたくなるから、マジで抑えような。



295: 2014/11/27(木) 21:12:32.92 ID:RMcJAlBM0


八幡「お前のことはちゃんと友達だと思ってるんだ。安心しろよ材木座」

義輝「『友達』止まり、だと……っ!」

八幡「友達扱いでむしろ上等だ。俺にとって友達と呼べる相手なんて、お前含め二人しかいないからな」

義輝「…………ん? 確か出会った時に他にも友達は何人かいると言っておらんかったか?」

八幡「ああ、それは出任せだな」



 出会ったばかりなら俺の本性を見せるはずがない。友達だと思っているからこそ、本当のことをお前に言おう。雪ノ下には言えない真実をな。

 ……いや、雪ノ下は木の板の問題で俺の答えを聞いても拒否反応を示していなかった。見所がありそうだし、もしかしたら今後俺の本心を話すことになるかもしれないな。



296: 2014/11/27(木) 21:13:49.54 ID:RMcJAlBM0


 今の時点での俺の友人は、戸塚と材木座の二人だけ。それ以外の人間は――――



八幡「俺からすれば『友達』って言うのは基本、『友達』だと紹介する時だけ友達になる」

八幡「逆に『友達』だと紹介しない時、つまりそれ以外の時は無関係の他人だ。――気楽だろ?」

義輝「お、おう……」



 完全に引いてるな。発想が吹っ飛び過ぎててどう返せばいいか分かってないみたいだ。

 また材木座から話題を振られる前に退散するとしよう。そろそろ生徒指導室に行かないと図書室に行けなくなりそうだし。たとえ五分しか行けなくても新刊が入っているかくらいはチェックできるだろ。



297: 2014/11/27(木) 21:14:43.45 ID:RMcJAlBM0
ここまで

第三章はもうすぐ終わります





302: 2014/11/29(土) 20:51:31.87 ID:dm5VwvLP0

八幡「そういや俺行くとこあるんだった。じゃあな材木座」

義輝「はっ!? さ、さらばだ八幡!」



 材木座と別れる。これで普段俺と話をする相手全員と距離を置いたことになるから、もう誰かに話しかけられることはないはずだ。

 クラスメイトとか顔見知りはまだ残ってるが、さすがに放課後ならまだしも昼休みの時間を削って俺と話をするとは思えない。

 歩いていながら、俺はふと考える。戸塚と材木座のことだ。



 そういえば俺は、奉仕部に入る前から他人の相談事を解決していた。



303: 2014/11/29(土) 20:52:12.76 ID:dm5VwvLP0


 もっとも人と関わること自体少ないから相談事を持って来られることが少ないし、誰だって人の相談事を知らず解決していることがある。

 だからこそ俺は不思議に思う。奉仕部として活動した由比ヶ浜の件は、由比ヶ浜を傷つける形で取り組んだのに。奉仕部外の戸塚と材木座の件は正攻法で解決していることを。

 いや、材木座の件も正攻法と言い難いな。普通なら書いた作品を見てそのアドバイスをするだけに終わる。ラノベ作家を目指すなら小説を書かせるべきなのに、小説を書く以外のことをさせている。

 結果的に解決しているのに、俺は相手のことを思っている時は捻くれた解決法を示して、どうでもよかった戸塚に関しては一般的な対処に留まっている。

 あべこべなのだ。俺は相手のためを思うと、相手のためにならない解決方法を考えてしまっている。



304: 2014/11/29(土) 20:54:04.74 ID:dm5VwvLP0


 はっ、と俺は口元をゆるめた。

 ――――これでいい。これでこそ比企谷八幡らしい結果になっている。






 俺は初めから相手を助けたいと思ったことは一度だってない。俺はむしろ――――面倒だから助からなくていい、とまで考えていた。

 ゆえにこれは俺の間違った精神性が生み出した結果だ。“たまたま”“偶然”“相手が頑張ったから”という解決の仕方になるよう誘導し、間違っても“俺のおかげで”なんていう形にならないようにという責任逃れの精神から。

 問題を別問題にすり替え…………当初の問題を解決せずに、俺が用意した別問題を相手に解決させる。俺がいなくても良かったという状況にスライドさせていたのだ。

 由比ヶ浜の件は『お礼のクッキーを作りたい』から『思いのこもったクッキーを用意したい』に。

 材木座の件は『ラノベ作家になりたい』から『ラノベを書けるようになりたい』に。

 だから初めから俺を必要としない戸塚の件は穏便に済んだ。



305: 2014/11/29(土) 20:55:44.73 ID:dm5VwvLP0


 元々の問題が解決していることに変わりないが、それがいいのだ。

 今のやり方を繰り返せば、奉仕部は俺がいない方が依頼に真摯に取り組めると思うようになる。

 そうなれば平塚先生も雪ノ下も俺が奉仕部から出ていくことに文句を言えなくなる。むしろどれだけ不本意でも推奨すべきことだと錯覚するまである。

 頑張れば頑張る程、俺は奉仕部に向いていないことを証明できる。その相反する事象につい厨二心がくすぐられ、常に表情の浮かばない顔に珍しく笑みを浮かべるのだった。






 ――――――やはり俺の奉仕活動はどうしようもなく履き違えていて。間違っているがゆえに正しくなる。



310: 2014/12/03(水) 01:27:00.46 ID:33ff7UJt0


      *  *  *


 由比ヶ浜さんは、比企谷くんが今だ本心を隠していると言う。なるほど、もしかしたら私が感じた違和感はそこから来ているのかもしれない。

 けれど、彼が他人を傷つけたくないから本心を隠しているという部分が納得できなかった。



雪乃「由比ヶ浜さんは、比企谷くんがいつも誰かを傷つけることを考えていると思うの?」

結衣「な、なんとなくだよ! なんとなく!」

雪乃「なんとなく、という言葉を使っても由比ヶ浜さんがそう考えていることに変わりないわ」



 由比ヶ浜さんも彼女なりに他人と付き合ってきて、比企谷くんにそういう印象を抱いているのでしょう。――でも私だって社交界で狡猾な人達と接してきている。

 だから私は言うことができる。比企谷くんはそんな人達とは違うと。



311: 2014/12/03(水) 01:28:19.27 ID:33ff7UJt0


雪乃「私だってよく人を傷つけることを言う。もちろん相手を傷つけたいから酷いことを言っているわけではないわ。彼と私と何が違うというの?」

結衣「そ、それは…………」

雪乃「比企谷くんだってきっと由比ヶ浜さんのためを思ってあんなことを言ったのよ」



 私は比企谷くんのことを擁護する。私よりずっと儚く遠い価値基準を持った彼のことを尊く思うがゆえに。

 ……とはいえこれ以上由比ヶ浜さんを責めるのも気が引けるので、比企谷くんの話はここまでにしておこう。



雪乃「…………比企谷くんの話はもう止めましょう。このままだと昼ご飯が不味くなるわ。暗い話は止めて、楽しい話をして盛り上げましょう」



 先程教室に入ってまで由比ヶ浜さんを助けに入ったと言うのに、私が由比ヶ浜さんを苦しめてどうするというのだろう。

 険しい表情を収めて、私は由比ヶ浜さんに優しく笑いかける。

 由比ヶ浜さんが気にしないで、と言って明るく笑い返した。由比ヶ浜さんが他の友達の話を振ってきてようやく明るい雰囲気が戻った。



312: 2014/12/03(水) 01:32:00.00 ID:33ff7UJt0


 たとえ今、あの『声』の正体が分からなくても、比企谷くんと接していればいつかその正体に辿り着くはず。今回はここまでにしましょう。

 ただ私の感じた『声』が由比ヶ浜さんと違うこと、そして由比ヶ浜さんの『声』の起因は推測することができた。

 きっと由比ヶ浜さんは比企谷くんのことを恐れている。だから――――『恐怖』から「止めた方がいい」という警告が出てきたのだろう。

 私の『声』は恐らく警告ではない。けれど本質は同じのはず。由比ヶ浜さんと私で比企谷くんに向ける感情が違うように、『声』を生み出す感情も違うのだと思う。



 あるいは………………答えが出ることこそが「ありえない」のかもしれない。



 なんて、それこそ「ありえない」だ。

 比企谷くんはどんなに面倒臭がっても相手を助けようとするだろう。彼はとんでもなく捻くれていて、そんな自分に嫌気が指しているけれど、おそらくそれ以上に彼は人の可能性を信じている。

 だから彼は選択肢を他人に委ねることができる。その行動は…………彼の心の奥底に眠っている、優しさから来ていると私は思う。

 私には人ごと世界を変える力があった。比企谷くんは人を変える程の力を持っていなかった。それでも彼はその優しさで、相手を正しく導くことができる。

 比企谷くんは客観的には正しい方法で、けれど人として間違ったやり方ばかり選ぶのかもしれない。でも――





 ――――――きっと彼の奉仕活動は結果的には正しい。

 そうして私は一先ず思考を閉じることにする。私は比企谷くんのことを頭の端に追いやり、由比ヶ浜さんとの会話に没頭していった。



313: 2014/12/03(水) 01:33:26.41 ID:33ff7UJt0






第三章 「たった二人、戸塚彩加と材木座義輝だけが彼の友達たり得ている」 終







314: 2014/12/03(水) 01:37:10.92 ID:33ff7UJt0
第三章終了

書いててそんなに長く感じなかったのに、実際は別作書いてた第二章より投稿期間長かったりします



第四章は、生徒指導室で平塚先生と話した後に……お待ちかねの小町ちゃん登場です!

お楽しみに!



315: 2014/12/03(水) 08:43:57.04 ID:saaFyje+O
おつおつー

316: 2014/12/04(木) 16:10:43.65 ID:KU22Yb/No
乙カレー

引用元: やはり俺では青春学園ドラマは成立しない