2: 2018/07/30(月) 10:48:31.72 ID:tUd2A4zH0

「うーん未来への罰ゲームかぁ、なんにしちゃおっかなあ♩」

翼の鼻歌まじりの弾んだ声と対照的に、私は「あはは、厳しいのはやめてよ」と苦笑した。

事の発端は数日前に遡る。

プロデューサーさんが考案した謎のゲームで翼に負け、罰ゲームとして翼のいうことを1つきくことになったのだ。

それはそれとして、駆け引きがあるゲームで翼に勝てる気がしないのはなぜだろう。

すっごく頭がいい! とは感じないんだけど、独特のカンであれよあれよという間に翼のペースに引きずりこまれてく。

うーん、悔しいなぁ。

ハッピーライフを目指しているくらいだから誰が嫌な思いや不幸になったりすることは言い出さないとは思う。

だけど翼ってけっこう思いつきで発言するからなー。突拍子のないことを言い出す可能性は捨てきれない。

3: 2018/07/30(月) 10:52:04.88 ID:tUd2A4zH0

翼は悩んでいる表情から、あっと何かを思いついた顔をして、頬をより一層緩ませた。

何を思いついたんだろう……。

ぐっと身構える私に翼は思いがけない提案をした。

じゃー決めた! 未来への罰ゲームは、わたしとデートすることです。

……え?

その内容を聞いた私はきょとんと「え? まぁいいけど」と戸惑いながら返事するしかなかった。

デートいう言葉は翼らしいっちゃらしいけど、要は遊びにいくだけだよね?

というより、オフの日に遊びに行くなんてこと罰ゲームとして提案されるほどでもなく、よくやっていることだし……。

4: 2018/07/30(月) 10:56:42.30 ID:tUd2A4zH0

「でも!」

翼は続ける。

「未来はわたしをエスコートしなきゃいけないの」

「えすこーと?」

聞きなれない言葉だ。

「そう! いつもはわたしが行きたいところに未来がついてきてくれる感じでしょ?」

「毎回そうでもないとは思うけど、それが多いね」

「だからぁ、未来がデートプランを考えてわたしを連れてくの」

「ぜんぶ考えるの?」

「ぜんぶだよ」

「一から十まで?」

「一から百まで!」

一から百までとは相当な量だ。

でも行きたいところ、と言われてもパッと思いつかないし、案外難しいお題かもしれない。

「でも未来にそんなに悪い話でもないと思うよ」

「そう?」

「だって未来に将来彼氏ができたときに、役に立つかもしれないよね?」

「うーん、そうかなぁ」

「とりあえず決まりね!」

5: 2018/07/30(月) 10:57:56.84 ID:tUd2A4zH0

「じゃあ日程はお互いのオフの今度の日曜として、あとは未来が全部決めてね? 集合時間とか場所とか」

「わかったよ」

「じゃあ決まりだね! じゃあわたし、この後レッスンあるから、またね!」

翼はスキップでもせんとばかりに行ってしまった。

6: 2018/07/30(月) 11:00:14.49 ID:tUd2A4zH0



デートかぁ。

お家に帰ってベッドで寝転び、デートの計画を考える。

デートといえば、あまあまな感じで遊びに行って、時には喧嘩して、でも仲直りして。

……いやいやデートと言っても、2人で遊びにいくだけだ。深く考える必要はない。

普段、翼に連れていかれるのは、気になったカフェだとか、雑貨屋さんだとか、あとはカラオケとボーリングだとかになる。

ボーリングはやめとこうかなぁ。投げすぎて筋肉痛で動けなくなったことがあってプロデューサーさんに叱られたから。

私の頭では普段通りのデートしか思い浮かばない。それは、それでいいんだろうけど、せっかくだから、翼があっと驚くようなことがしてみたい。

翼なら普段通りでも楽しんでくれるだろうけど、心のどこかではつまんないなーってなんて思うかもしれない。

翼を楽しませたいっていう気持ちもあるけど、どちらかと言うと、つまらないと思われたくないって気持ちが大きかった。

そう思われるなんて癪だから。

7: 2018/07/30(月) 11:01:11.99 ID:tUd2A4zH0

といっても良いアイディアが浮かぶわけでもないから、誰かに連絡をとってアドバイスをもらおうと思った。

まず、浮かぶのは静香ちゃん。

でも……なんか違う気がする。違う、の正体は分かんないけど、静香ちゃんに全部決めてもらって、それを実行するだけじゃ普段とおんなじだし、しかも静香ちゃんを誘ってないのに、一緒に考えて! なんて都合が良すぎる。

クラスメイトの顔も浮かんだけど、遊びにいく計画考えて! なんてお願いすると明日にはクラス中に変な噂がたっているに違いないし、プロデューサーさんはそもそもデートしたことがなさそう。

だから私はスマホと、帰りに本屋で買ってきたモテるテクニック本を片手になんとかがんばってデートの計画を1人で立てることにしたのだ。

8: 2018/07/30(月) 11:03:53.45 ID:tUd2A4zH0



さてさて、計画は完璧に進みデート当日。

集合は13時に駅前にしたが、ちょっと早めに行って

「ごめん、未来待たせた?」「大丈夫、私も今来たところだから」も絶対欠かさない。

……つもりだったけど、翼いるじゃん!

翼も私に気付いたみたいで「あれ、未来早いね」とアイスを食べながら一言。

「翼も早いね。まだ12時過ぎだよ」

「ちょっとこの辺で用事あって~、ほら見て未来、アイス1個おまけしてくれた。未来も食べる?」

「え、ほんと?」

そう言って、コーンの上に重なったまあるいアイスを一口食べた。

イチゴ味が口に広がる。うん、おいしい。今日も暑いしね。

「未来もアイス買いに行く?」

「って翼。今からランチなんだからデザートは早いよ」

あははっそっか~と翼はケラケラと笑う。もう!

そもそもオマケしてくれた店に連れてってもらうの行きづらいよ~。翼はオマケしてくるんだろうけど、私は分かんないし。

9: 2018/07/30(月) 11:05:01.58 ID:tUd2A4zH0

「って未来!」

「なあに」

何についてふれてくれるか、だいたい予想はついてたけど聞き返した。

「その服すっごくカワイイね!」

「えへへ、そうかな」

「うん、そうだよ。肩あいてるのカワイイ~!」

「くすぐったいから肩なでるのやめてよっ」

この服今日のために新調した、とは言えない。だって恥ずかしいもん。

今日着てる服はオフショルほどではないけど、肩の部分だけ開いてるトップスだ。

見てる分にはかわいいんだけど、自分が着るにはちょっと恥ずかしいから挑戦しづらかったけど翼がそういってくれるなら着てよかったかもしれない。

上が少し開いてるから下は落ち着いた柄の、ちょっと長めのミモレ丈のプリーツスカートにして、それに合う白いサンダルを履いた。

割とさわやかに夏っぽくは仕上がったと思う、服屋さんの受け売りだけどね。

10: 2018/07/30(月) 11:05:46.53 ID:tUd2A4zH0

「で、今日はどこに連れてってくれるの?」

「お腹すいたからランチにします!」

「ほうほう、いいね。行くお店は?」

「もちろん決めてあるよ」

「さっすが! じゃあ行こっか」

翼はそう言うと、絡ませるように腕を組んできた。もう、暑いってば!

11: 2018/07/30(月) 11:07:09.41 ID:tUd2A4zH0



喫茶店に着き、少し重めなドアを開けた。

ここは地域名+喫茶店で検索をかけ、ランキング上位だったところだ。もちろん失敗しないように下見もしてあるし、完璧なんだ。

店に入り、お店の人に「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」と聞かれたけど、ふふんという気持ちで答える。

「予約しています!」

「お名前は?」

「春日未来っていいます!」

その瞬間、翼がぷっと吹き出した。

「何がおかしいの?」

「だってわたしたちアイドルなんだよ? 本名で予約しちゃったら大騒ぎになっちゃう」

「あ、ほんとだ」

「今回はならなかったみたいだけどね、未来の知名度もまだまだだね~」

「もうっ翼の名前で予約しても変わんなかったと思うよ」

「どうかな~」

「じゃあ次、伊吹翼で予約してやる!」

「やめてってばっ」

2人でじゃれあってると「あ、あのお客様? お席のご案内をさせていただきたいのですが」と店員さんの声。

「わわっすみません」と声をそろえて謝った。

12: 2018/07/30(月) 11:08:34.59 ID:tUd2A4zH0



店員さんに案内されて席につく。

予約していただけあってか、窓際の景色が見える良い席でうれしくなった。

「どうぞ、お姫様」冗談めかして椅子を引いてあげると翼もそれに乗って「わーありがとー!」と座ってくれた。

「いいとこでしょ」と聞くと「そうだねえ」とちょっとつれない返事だったので、来たことあるかと聞いたらどうもあるみたい。

少し残念だけど、ここは割と定番の店のようだ。

でも私たち中学生や高校生が来るお店というよりは、少しお客さんの年齢層が高いみたいでお店もちょっと落ち着いてる雰囲気。

私はどちらかというとこういう店が好みかもしれない。この木でできた感じのテーブルかっこいいいし。

「未来は何にする?」

翼からメニュー表をもらい悩むフリをする。

なんでフリかというと、もう注文するメニューは決めてあるから。日替わりランチのAセットだ。

実は下見しにこの喫茶店にきたとき、店員さんにいろいろ教えてもらったのだ。

日替わりの献立表ももらったし、ウインナーコーヒーにウインナーが浮いてないことだって知っている。

13: 2018/07/30(月) 11:09:56.47 ID:tUd2A4zH0

ばさっとメニュー表を閉じ、何気ない感じで言ってみる。

「きまった」

「そう? じゃあ未来、店員さん呼んでもらってもいい?」

翼にそう言われ、私は意気揚々と告げた!

「すみませーん! 店員さーん!」

「って未来、なにやってるのっ。そこに店員さん呼ぶスイッチあるでしょ!」

「ほ、ホントだ!」

「もう……未来がスイッチ押すのが好きだから譲ったのに」

「気持ちはうれしいけど、私はそこまで子どもじゃないよっ。スイッチ押しちゃうのは何のスイッチか分からないときだけ」

「はいはい」

14: 2018/07/30(月) 11:11:43.12 ID:tUd2A4zH0

そんな会話をしてるうちに店員さんがやってきた。

「ご注文ですか?……ってあっ」

「どうも」

「未来? 知り合いなの」

「ま、まぁ」

知り合いもなにも、この前下見にきたときに、いろいろ教えてもらった店員さんだ。店員さんも私に気付いたみたい。

「いらっしゃい、未来ちゃん。この前デートの下見にきたって言ってるからどんな男の子連れてくるかと思ったら、女の子だったのね」

「ちょ、ちょっと言わないでくださいよー!」

「あら、ごめんなさいね」

ちらっと翼を見ると、今にも吹き出しそうにニヤニヤと意地わるい顔。くーっ!

あまりにも恥ずかしかったから、これとこれ! ってうつ向いてメニュー表を指をさして注文した。

15: 2018/07/30(月) 11:12:40.31 ID:tUd2A4zH0

注文が終わり、店員さんが行ったのを確認すると、翼はにやにやとして言ってきた。

「おやぁ? 未来さん?」

「なに!」

私はちょっとヤケクソ気味だ。

翼はふふっとまだ笑っている。何なの!

「もしかして、わざわざデートの下見までしてくれたの?」

「む~っ」

悔しいから答えない。

「未来ってば、かわい~」

「バカにしてるでしょ!」

「してないってば~」

「そんなにわたしのこと好きだったんだ」

「きらいだよ、き・ら・い!」

「分かった、分かった」

はぁ……とため息をつく。なかなかデートってうまくいかないものだなぁ。

16: 2018/07/30(月) 11:13:34.35 ID:tUd2A4zH0

「でもね」

くすくすとした笑みが混じった声から一転、微笑みを見せながら、こう言ってくれた。

「わたしはとってもうれしかったよ」

私は目を逸らして「ふーん」としか言うことができなかった。

やっぱり、翼ってズルいや。

17: 2018/07/30(月) 11:14:23.66 ID:tUd2A4zH0

それからは食事しながら、いろいろなことを話した。

学校のことも話すけど、やっぱり最終的にはアイドル活動の話題になる。

私たち、がんばってるもんね。翼だってちゃんと努力しているんだけど、割と誤解されやすい。

だから、それなりにフォローはしたいなぁとは思ってるんだけど。

18: 2018/07/30(月) 11:16:12.08 ID:tUd2A4zH0



「うんうん、そうだったよね。そこでプロデューサーさんがそう言ってくれたんだ」

「なら、この勢いだと翼はモテモテのハッピーライフになると思うよ」

会話の流れでついそんなことを言ってしまう。単にねぎらいたいだったかもしれないし、イジワルを言いたかったのかもしれない。はたまた,私なりの精一杯の「試し行為」だったのかもしれない。

なんにせよ次に翼はどう言ってくれるかが気になった。

「モテモテのハッピーライフかぁ」

「目指してるんでしょ。ずっと言ってるよね」

「ハッピーライフは目指したいんだけど、今はモテモテはひとまず置いておいていいかな?」

「モテモテはなんとなく言ってただけで、本当は彼氏がほしいってわけじゃないから?」

「それもあるんだけど~」

一呼吸おいて、私に目線をチラっと合わせてから言った

「今のわたしには、デートの下見までしてくれるほど、わたしのことを考えてくれる可愛い女の子がいるからね」

「もう翼ってば!」

翼はくすくすと笑う。私はもう、とは言ったものの、いうほど怒ってないのだった。

19: 2018/07/30(月) 11:18:58.37 ID:tUd2A4zH0

食後の飲み物はアメリカンコーヒーにした。

コーヒー飲んで見え張りたいってのもあったし、この前「あんまり苦くないのはどれですか」って聞いたら、これを教えてもらったからだ。

翼はジュースを注文してたけど、運ばれてきたそれらをみると、どう見てもジュースの方がおいしそうだった。

20: 2018/07/30(月) 11:20:35.91 ID:tUd2A4zH0




食事も終わり、喫茶店を出ると翼が訊いてきた。

「おいしかったねー。次はどこ行く?」

次は……

「今日はそろそろ解散でもいいんじゃない?」

「え、もう帰るの? まだ時間はあるよ」

「……だって」

「?」

「これ以上デートしてもボロが出ちゃうだけだよ。モテ本にも不慣れなうちの最初のデートは1時間だけって書いてあったし」

「未来、モテ本なんて読んだの? あれ、あんまり意味ないと思うけどな」

「そうなの?」

「今日みたいにわたしのこと想ってくれるだけうれしいよ」

「そ、そっか」

「仕方ないなー。ほら、わたしがどっか連れてってあげるから」

「うん」

21: 2018/07/30(月) 11:22:27.53 ID:tUd2A4zH0

実はもう帰りたいなって思った理由はもう1つある。今日の慣れない服装だ。

スカートにサンダル……ちょっと歩きづらい。

そういやクラスの友だちが言ってっけ。

「案外、男の子とデートするより、女の子同士で遊びに行くときの方がファッション難しい」って

その子曰く、男の子相手なら男受けする服装をすればいいのだけど、女同士の場合は、目的地に合った服を着てないと、どうしてそのファッションで来たの?って思われるからだと。

今日は翼に驚いてほしくってちょっと慣れない服を選んじゃった……また、失敗したなぁ。

私の思案をよそに翼は提案してきた。

「わたし、カラオケ行きたいな~」

翼の提案に少し驚く。天気だってこんなにいいから外に遊びに行きたいって翼は思いそうだし、それにカラオケってこの前みんなで行ったのに。

もしかして……私が慣れない格好をしているから、あんまり歩かない場所にしてくれた?

22: 2018/07/30(月) 11:23:53.28 ID:tUd2A4zH0

ふぅっとため息がでる。やっぱり翼にはかなわないなぁ。

だからと言って、それを口に出すのは悔しいから、翼の気遣いに気付かないふりをして、その提案に賛成した。

「いいね、カラオケ」

「でしょ? 未来の曲歌ってあげる」

「じゃあ私は翼の曲歌っちゃおうかな」

「ホント? 楽しみ~」

私たちのデートはまだまだ続きそうだ。

おわり

23: 2018/07/30(月) 11:24:28.99 ID:tUd2A4zH0
ありがとうございました

引用元: 翼「デートしよ未来」【ミリマス】