1: 2008/05/07(水) 20:17:36.07 ID:rWZTR0oh0
長門「Cynthia。シンシア。アルテミスの別名"キュンティア"の英語名。
   ギリシア神話では主神ゼウスと女神レトの娘で、
   アポロンの双子の妹とされている。豊穣を司る処O神。
   後にセレネ・ヘカテ・ダイアナなどの女神と同一視され、
   月の女神として世に広く知られることになる。
   詳細はWikipedia等で熟知すべし」

3: 2008/05/07(水) 20:18:36.32 ID:rWZTR0oh0
長門 「不揃いな粒」

キョン「長門にしては乙女チックなビンを持ってるが、なんだこれ?」

長門 「露天商で売っていた、数種の宝石を適当な大きさに刻み
    小型のビンに詰めたもの」

キョン「あー長門、ロマンチックに浸っているところ悪いが、
    それ多分ふつうの石だぞ。おそらく全部」

長門 「次にあの男に会ったらぶち頃す」

キョン「こらこら」

4: 2008/05/07(水) 20:19:29.01 ID:rWZTR0oh0
キョン「長門、これなんだ?」

長門 「こんぺいとう」

キョン「金平糖にしては砂糖たっぷりで尖ってるんだが」

長門 「甘くて痛いのがいいと聞いた」

キョン「気のせいかもしれんが、光ってるよな?」

長門 「光苔が含まれている」

キョン「そんなもん食べれるわけないだろ」

長門 「今からこれを戒める」

キョン「なにで?」

長門 「わからないから、それを今から考える」

キョン「なんで?」

5: 2008/05/07(水) 20:21:00.55 ID:rWZTR0oh0
キョン「そんなに熱心にビンと金平糖を見つめてどうしたんだ?」

長門 「眺めてるだけ」

キョン「何の意味があるんだ?」

長門 「十分に伝わるらしい」

キョン「何が伝わるか知らんが、伝わったのか?」

長門 「僅かに残っているビンの隙間が満たされるのは怖い」

キョン「電波が伝わったみたいだな」

6: 2008/05/07(水) 20:22:28.93 ID:rWZTR0oh0
長門 「3センチの距離が欲しい」

キョン「唐突になんなんだ」

長門 「曖昧イコール3センチと聞いた」

キョン「どこのセーラーふくだそれは」

長門 「優しくお願い」

ハルヒ「キョン、ちょっといいかしら」

キョン「待てハルヒ、なんでお前はタイミングよく入ってくるんだ」

ハルヒ「有希、キョンに何かされたのね…許せないわ」

キョン「誤解だっつーに」

長門 「36.5℃が望ましい。あなたで照らしてほしい」

ハルヒ「やっぱりいかがわしいことじゃない! 来なさい!!」

キョン「勘弁してくれ」

長門 「"やわらかな温度"は体温と同じ程度だと判断した。
    ……? 伝える前に居なくなった」

7: 2008/05/07(水) 20:23:22.91 ID:rWZTR0oh0
長門 「moonrise……即ち月の出」

みくる「えっ?」

長門 「女神に会えると聞いた」

みくる「そ、そうなんですか?(長門さんって…意外とロマンチスト?)」

長門 「そして、あなたの恋人はこの周辺に息を潜めている」

みくる「えっ、ええっ? どういうこと!?」

長門 「ただし現代ではそれはストーカーと定義されている」

みくる「そんな恋人いやですよぅ…」

8: 2008/05/07(水) 20:24:04.41 ID:rWZTR0oh0
長門 「博識なあなたに聞く。"誰にもわからない心の形"とは何」

古泉 「そうですね…。密かに彼に恋する、僕の淡い恋心が該当するのではないでしょうか」

長門 「今の私には理解できない」

古泉 「んっふ……困ったものです」

長門 「パーソナルネーム古泉一樹を敵性と認定」

古泉 「…………」

9: 2008/05/07(水) 20:24:39.63 ID:rWZTR0oh0
長門  「あなたは守られている」

キョン妹「ほえー?」

長門  「まるで月の子供のよう」

キョン妹「えっ、ホント? わーい!」

キョン  「遠まわしにバカにされているんだよ」

キョン妹「違うよ、それはキョンくんだよ~」

長門  「その通り、守られている月の子供の兄」

キョン 「忌々しい」

10: 2008/05/07(水) 20:25:25.04 ID:rWZTR0oh0
鶴屋さん「はろー有希っこー! って何してんの?」

長門   「交通事故で同時に二人轢かれる方法を模索している」

鶴屋さん「人形でシミュレートしてるのかい?」

長門   「そう。適切な人材の名前が書かれてる」

鶴屋さん「"眉毛"と"若布"って書いてあるねっ!」

長門   「何度模索しても"轢かれ合う"という状態がどういう状態なのかがわからない」

鶴屋さん「有希っこ、"ひかれあう"って多分そういうことじゃないよっ!」

長門   「なん…だと…」

11: 2008/05/07(水) 20:25:48.50 ID:rWZTR0oh0
キョン「んで、電灯を近くで見つめて何してるんだ?」

長門 「目を閉じて眩しいかどうかを試している」

キョン「そうか。どうだ?」

長門 「熱い」

キョン「そりゃあいくら蛍光灯でもゼロ距離じゃ熱いよな」

12: 2008/05/07(水) 20:26:36.10 ID:rWZTR0oh0
ハルヒ「有希、その怪しいタマゴみたいなのって…」

長門 「通販で買った。身につけたら何かが変わるはず」

ハルヒ「それもしかして、ベヘリットじゃ…」

長門 「何かが変わりそう」

ハルヒ「何かどころか、世界が変わっちゃうわ…」

13: 2008/05/07(水) 20:27:01.46 ID:rWZTR0oh0
長門 「あなたの指先は丁寧」

みくる「えっ?」

長門 「その指先ではじめてほしい」

みくる「えっ、えっ? な、何をですか?」

長門 「指先ではじめると言えば決まっている」

みくる「まさか長門さん、こ、ここでやれって…!? ふ、不潔ですよぅーーー!!」



長門 「指先同士を繋いで美しいハートのマークを……ってあれ、いない」

14: 2008/05/07(水) 20:27:25.90 ID:rWZTR0oh0
長門「ぶーらぶら」

古泉「これは長門さん、ワカメみたいに揺れてますね」

長門「あんな奴と一緒にするな」

古泉「よくわかりませんがすみません」

長門「このまま遠くに行く」

古泉「そうですか。警察に職務質問されないように気をつけてください」

長門「それはむしろ夜な夜な違うものをぶらぶらさせているあなたの方」

古泉「……」

長門「ぶーらぶら」

15: 2008/05/07(水) 20:32:40.50 ID:rWZTR0oh0
朝倉「あれ、どうしたの長門さん。弓なんか持って」

長門「あなたが持って」

朝倉「? いいけど…これがどうしたの?」

長門「弦を下にして」

朝倉「うん…あれ、この弦ちょっと痛んでない? どれどれ…」

長門「大工の息子(24)直伝跳び膝蹴り」


ごしゃあ


長門「弦、欠けた?」

朝倉「……弦を通り越して、わたしの歯が欠けたわ」

長門「そう。その太い眉毛が欠ければよかったのに」

朝倉(……いつか殺そう)

16: 2008/05/07(水) 20:36:18.29 ID:rWZTR0oh0
朝倉「長門さんがあたしたちを呼び出すなんて、珍しいわね」

喜緑「どうかされましたか?」

長門「喜緑江美里はいつも微笑んでいる」

喜緑「まあ、そうですけど」

朝倉「それがどうかしたの?」

長門「わたしと眉毛はあなたに導かれたといえよう」

喜緑「は、はあ……」

朝倉(まだそう呼びやがるか)

喜緑「ところで長門さん、同じインターフェースに対してその呼び方はどうかと…」

長門「黙れワカメ」

喜緑「…………」

朝倉「そ、それは置いといて、とりあえずおでんの準備をしなくちゃね。
   あれ、長門さん、出汁に使う昆布ってどこにあるの?」

長門「そこにワカメがあるから、昆布の代わりに一つにまとめて使うといい」

喜緑「ピキピキ」

朝倉(あたしもうインターフェースやめようかな)

17: 2008/05/07(水) 20:37:39.31 ID:rWZTR0oh0
キョン「ところで、そこの虚ろな目をした教授帽マスクをかぶったおっさんは誰だ?」

長門「白昼の残げ」

キョン「OK皆まで言うな」

長門「これを池に浮かべる」

ぼちゃん

キョン「気絶してるから見事なまでに漂ってるな」

長門「本題はここから」

ぴかー

キョン「うおっまぶしっ」

長門「光苔金平糖65536粒配合」

キョン「ああ、ヘンなもん食わされたから気絶したのな」

18: 2008/05/07(水) 20:38:31.32 ID:rWZTR0oh0
長門(アルバイト中)「わたしたちの学校の部活は流れ星みたいなもの」

こなた  「んー? そりゃまたどうして?」

長門店員「一瞬に見えるけど決して一瞬じゃない、長く続いて輝いている」

こなた  「まあ確かにそだねー。大人気で二期まだ?とか囁かれてるからねぇ」

長門店員「あなたたちはまさに光」

こなた  「おお!? それはつまり、さらなる期待が寄せられてるってことだねっ!」

長門店員「一瞬で通り過ぎて終わった輝き」

こなた  「……長門さん、なんかいつになく毒舌だねぇ」

19: 2008/05/07(水) 20:51:18.26 ID:rWZTR0oh0
under the moonlight Lovers meets Cynthia

walk in the moonlight She blesses my love tonight

21: 2008/05/07(水) 20:53:37.73 ID:rWZTR0oh0
ハルヒ「キョン、ちょっといい?」

キョン 「ん、どうした」

ハルヒ「あんた、有希の相談に乗ってあげなさい」

キョン 「……そりゃまたどうしてだ?」

ハルヒ「あの子、最近ちょっとヘンでしょ」

キョン 「まあ、確かにそうだが」

ハルヒ「聞いてみたんだけど、問題ないの一点張りでね。
    あんたなら多分、有希も話すと思うから」

キョン 「買いかぶりすぎだ」

ハルヒ「とにかく、頼んだわよ。あたし帰るから」

キョン 「……」

22: 2008/05/07(水) 20:54:25.99 ID:rWZTR0oh0
みくる「キョンくん、ちょっといいですか」

キョン「どうしました?」

みくる「長門さんのことなんですけど……」

キョン「……はあ」

みくる「長門さん、最近なんだかいつも考え事してます。大丈夫かな」

キョン「確かに最近の長門はちょっと変ですが、心配するほどではないでしょう」

みくる「もしかして、またあの時みたいに暴走してしまうんじゃ……」

キョン「……まさか」
 
みくる「心配なんです。未来とか宇宙は関係ない、同じ部活の仲間として。
    ごめんなさい、今日はもう帰りますね。
    ――キョンくん。長門さんの力になってあげてくださいね」

キョン「……」

23: 2008/05/07(水) 20:54:58.14 ID:rWZTR0oh0
古泉 「やはり相談役はあなたが適任でしょう」

キョン「なんだ藪から棒に」

古泉 「既にお二方からも相談を受けているのでは?」

キョン「……お前もその話か」

古泉 「誰の目から見ても、現在の長門さんの様子は変ですからね」

キョン「あのな、確かに変だと思う。だがあれは許容範囲だろう」

古泉 「いつもと違う長門さんが心配ではないと?」

キョン「……殴るぞ」

古泉 「これは失礼。ですが、我々も彼女のことは心配なのです。
    長門さんと一番意思疎通が行えるあなたが
    原因を調べる義務があるのではないかと思うのですが…」

キョン「……」

古泉 「よく考えてみてください。では失礼」

キョン「……」




キョン「……わかったよ」

24: 2008/05/07(水) 20:59:01.14 ID:rWZTR0oh0
キョン「長門、あの宇宙人の親玉と何かあったのか?」

長門 「……?」

キョン「どうなんだ?」

長門 「何で」

キョン「いや……最近なんか様子がヘンじゃないか。
    長門らしくもない突拍子もない行動を起こたりして」

長門 「……そんなことは、ない」

キョン「ないわけあるか。ハルヒも朝比奈さんも古泉も、
    お前のことを心配してたぞ。もちろん俺もだ」

長門 「…………」

キョン「俺たちにできることがあれば言ってくれよ」

長門 「……大丈夫。本当になんでもない」

25: 2008/05/07(水) 21:05:49.17 ID:rWZTR0oh0

キョン「おい長門、一人で抱え込むのは―ー」

長門 「違う、聞いて。わたしが奇抜な行動をとっていたのは
    情報統合思念体とは直接関係がない。これはわたし自身の問題」

キョン「おまえ自身の?」

長門 「そう。わたしの行動があなたたちに心配をかけていたのは全てわたしの責任」

キョン「いや、そこまで考えなくてもいいんだ。本当になんでもないんだな?
    いつぞやみたいに消されそうになったとか……」

長門 「現状では、情報統合思念体はわたしの処分を考えていない」

キョン「それならいいんだが……どうして変なことばかりしてたんだ?」

長門 「あなたには理由を話しておいたほうがいいと判断した。
    今から、わたしの取った行動について話す」

26: 2008/05/07(水) 21:09:09.41 ID:rWZTR0oh0
長門 「わたしが一連の行動を取っていた原因は、ある音楽を聴いたことにある」

キョン「音楽?」

長門 「そう。先日、涼宮ハルヒの依頼でCDショップに買い物に行った際、
    店内にある音楽が流れていた」

キョン「どんなやつだ?」

長門 「茅原実里のアルバム"Contact"の
    6トラック目に収録されている、"Cynthia" という楽曲」

キョン「茅原…ああ、あの最近活躍してる声優さんか」

長門 「わたしはあまり音楽を聴かない。だけど、その曲だけは別だった。
    行動を停止し、気がつくと30分が経過していた」

キョン「へぇ、珍しいこともあるもんだな」

長門 「歌詞は日本語として意思を疎通させるには不十分なもの。
    なぜ気にかかるのか理解するため、わたしは何度もその曲を聴いた」

キョン「……」

長門 「でもその度に、わたしの中に解析ができない情報が蓄積されていった。
    エラーとは少し違う、意味を成す情報と意味を成さない情報が
    乱雑に入り混じった情報。原因は不明」

27: 2008/05/07(水) 21:11:49.26 ID:rWZTR0oh0

長門「情報統合思念体は一刻も早く原因を究明せよとわたしに告げた。
   歌詞の通りに行動してみたが、わたしには理解できない行動だった。

   今こうしている瞬間にも、わたしの中にはあの情報が蓄積されている。
   消去を試みたが、わたし自身が無意識下でその情報をプロテクトしたため
   消去することも不可能。このような事態は初めてで、わたしは少し混乱している」

キョン「なるほどな」

長門「声質が似ているのが原因の可能性もある。
   でも、それだけでわたしがここまで謎の情報を蓄積するとは考え難い。

   もしあなたがこの現象の正体を知っていたら、わたしに教えてほしい。

   これは一体、何なのか。わたしに何が起きているのか」

31: 2008/05/07(水) 21:23:19.82 ID:rWZTR0oh0
だんだん読めてきた。

おそらく長門は、その曲の歌詞について考察をしているんだ。
歌詞を文字通り読むことなら誰でもできるが、
その歌詞に隠された意味を考えることは、滅多にしない。

そうか。長門、万能に見えるお前も、頑張っているんだな。

「あー……俺が思うに、だな。
 ――長門、お前は少しずつ女の子に近づいてるんだよ」

俺らしくもないクサい言葉に、長門は首を傾げた。

「情報統合はわたしを人間の女をベースに構築した。
 生物学的には最初から女に分類されるはず――」

「違う違う、そうじゃなくてだな、なんというか……」

見当違いの回答が帰ってきた。
まあ長門だしな。仕方ないかもしれん。

33: 2008/05/07(水) 21:25:03.90 ID:rWZTR0oh0
「あーもう、うまく説明できん。まどろっこしい」

「……?」

どうやら、長門にこのことを伝えるには、
もっと簡潔な言葉で告げる必要があるようだ。

「いい傾向だってことだよ。俺たちSOS団にとっては」

長門はさらに首を傾げる。
少々ぼかした言い回しをしたせいだろう。

どうして長門がこんな変化を見せたのか、
それはかなり気になる話だが、今は特に気にする必要はないだろう。

俺にとっても、朝比奈さんにとっても、古泉にとっても……
もちろん、我らが団長ハルヒにとっても。
長門のこの変化は喜ばしいことに違いないからだ。

つまり、俺たちSOS団の仲間が、長門を変えたってことだからな。

気恥ずかしいことを考えた俺は、長門にそれを悟られないように窓の外を見た。
天気を確認したのち、席を立つ。

「よし、帰るか。雨も止んだみたいだしな」

一見無表情だが、まだ大量のクエスチョンマークを浮かべている長門にそう言った。

35: 2008/05/07(水) 21:29:18.87 ID:rWZTR0oh0
「よし、帰るか。雨も止んだみたいだしな」

彼はそう言い、席を立った。
わたしも膝上に持っていた本を閉じ、本棚へと戻す。

「お、雲も晴れてる。綺麗な月が出てるな」

彼は窓を覗いて言った。
わたしも窓から空を見上げる。

先ほどまで降り続いていた雨は既に止み、
空には月が鮮明に映っていた。

きれいなつき。

わたしにはまだ、きれいというものは理解できない。
月は月であり、それ以上でも以下でもない。

わたしは彼のあとに続いて、部屋を出た。

36: 2008/05/07(水) 21:33:07.23 ID:rWZTR0oh0
「長門、お前は月の女神って信じるか?」

下り坂の帰り道、彼は唐突にわたしに問うた。
月の女神。神話では、セレネ・アルテミス・ヘカテなどがそれに該当する。

アルテミス。キュンティア。シンシア。Cynthia。

私は彼の問いに応える。

「人間の科学レベルでもわたしたちの知能レベルでも、
 厳密に"神"と呼べるものが存在することを証明するのは不可能。
 涼宮ハルヒの存在を"神"と定義づけることはできるかもしれない。
 あくまで"神"とは人間が創造した神話の上での存在」
「そうかい。やっぱそんなもんだろうな」

私の回答に、少しがっかりしたように彼は言った。

「――でも」
「でも?」

でも、わたしの回答にはまだ続きがある。

「わたしは、もし本当にシンシアがいたらユニークだと思う」

37: 2008/05/07(水) 21:34:41.54 ID:rWZTR0oh0
わたしは何を言っているのだろう。
でもそう思ったから、答えた。それだけだ。

彼はその言葉を聞いて、一瞬呆けた。
しかしその後、すぐに優しい微笑を浮かべて言う。

「いるかもしれないぞ。俺たち人間や、お前たち宇宙人が知らないだけで」

なんとなく、顔をあわせ辛いと感じた。
なぜかはわからない。

わたしの視線は彼から逃げるように、暗く、しかし淡く光る空を見上げる。
先ほど彼が言ったように、雲は殆どなくなっている。



「今夜はまるで"Cynthia"のよう」

38: 2008/05/07(水) 21:37:07.00 ID:rWZTR0oh0
わたしの口から自然に意図しない言葉が零れる。

彼はわたしのひとりごとを耳にしたようで、
再び微笑みながらわたしに問いかけた。

「長門がそんな抽象的なことを言うなんてな。月の女神が好きなのか?」
「違う。楽曲のほう」
「そうか。月の女神の名前がタイトルだけあって、
 その曲には今夜みたいな夜が似合うのかもな」

彼はあごに手をあて、考えていた。

「……そうだ、長門。"Cynthia"って結構いい歌っぽいな。
 今度アルバム貸してくれよ、買ったんだろ?」

確かに、あの時に茅原実里のアルバムを買った。
わたしは時折、部屋であの曲を聴いている。

でも、

「貸すことはできる。ただし推奨はできない」
「ん? なんでだ?」
「……理由はうまく言語化することができない。」
「長門らしくない珍しい答えだな。んじゃまあ、自分で買うからいいよ」
「それも推奨できない」
「……? またよくわからんことを。なんでそんなに否定するんだ?」

彼の言うことはもっともだ。なぜそんなに否定するのだろう。

「わたしにもわからない」

39: 2008/05/07(水) 21:37:36.29 ID:rWZTR0oh0
それっきりわたしは口を閉ざす。

先ほどの独り言を彼に聞かれた以上、わたしは彼に
歌詞を知って欲しくないという気持ちを持ったからだ。

不可解な事象。
自分がなぜこんな行動をとっているのか、わたし自身も理解できない。

彼は「やれやれだ」というポーズをとりつつも、
穏やかな笑みを続け、わたしを糾弾することはなかった。
月明かりの下、二人でわたしの住むマンションへと歩み進める。

今この時でさえ、わたしの中では解析ができないデータが蓄積されていた。
だが、わたしはそれを苦痛と思わず、むしろ心地よいとさえ思う。

一体この情報は何なのだろうか。何を意味する情報なのだろうか。
今はまだわからないけれど、彼らと一緒に居ればいずれは解析できる。
そんな、根拠のない、けれど強い確信を持った。

わたしは今度こそ、彼に聞こえないように口ずさむ。

月の光の下、シンシアに会えるようにと願いながら。
そして今夜、彼女の司る祝福が、わたしたち二人に届けば良いと思いながら。


「"under the moonlight Lovers meets Cynthia" ……」



END

40: 2008/05/07(水) 21:44:33.78 ID:HTakncyL0
乙だぜ

41: 2008/05/07(水) 21:56:14.13 ID:+k+Ysh9I0

シンシア聞いてみる

42: 2008/05/07(水) 22:18:04.14 ID:QQd8yCe00
何気に良かったよ

また何か思いつけば書いてくれ

引用元: 長門「しんしあ」