1: 2019/03/07(木) 00:22:03.15 ID:9r8WYzwd.net
青い空。白い雲。輝く砂浜。照りつける太陽。

そして、そんな太陽よりも輝いている女の子が一人。

穂乃果「海だぁーっ! 海だよ、海!」

海未「もうっ! そうやって人の名前を連呼しないで下さいっ!」

穂乃果「違うよ! 海未ちゃんじゃなくて、海! いえーい! 勉強頑張ってきた甲斐があったよ!」

……以前にもこんなやり取りをしたような気がするのは気のせいでしょうか?

海未「ちょっと穂乃果! はしゃぎ過ぎですよ!」

穂乃果「だって、海未ちゃんと二人きりの海なんて初めてだもん! はしゃいじゃうよー」

海未「今回の旅行が終わったらまた勉強なんですからね! 羽目を外し過ぎちゃだめですよ」

穂乃果「もうっ! こんな時まで真面目だなぁ、海未ちゃんは!」

2: 2019/03/07(木) 00:26:00.91 ID:9r8WYzwd.net
スクールアイドルを引退してから3か月余りが過ぎた頃、

高校3年生になった私たち二人は受験勉強の息抜きも兼ねて、海水浴にやってきました。

先日の模擬試験で予想以上の好成績だった、穂乃果へのご褒美です!


アイドル活動から身を引いた後は、様々な変化がありました。

トレーニングから一転、勉強一色になったのもそう。

一緒に活動してきた絵里、希、にこが学院から巣立っていったのもそう。

でも、一番の変化は――。


穂乃果「海未ちゃーん、早くこっちにおいでよ! 折角の海なんだから、思い切り楽しまなきゃ損だよー!」

――この元気印の幼馴染、高坂穂乃果と恋仲になれたこと。


穂乃果はことりも誘ったようなのですが、どうやら昨日辺りから夏風邪をひいてしまったようで、結局二人きりで海水浴場まで来た、というわけです。

……もしかして、気を遣って下さったのでしょうか?


何はともあれ、折角の海水浴デートですから、思う存分満喫しますよ!

3: 2019/03/07(木) 00:28:28.68 ID:9r8WYzwd.net
海未「ラブアローレシーブ!」

穂乃果「穂乃果アターック」

ズバーン!

海未「ぐぬぬ……なかなかやりますね」

穂乃果がビーチボールを持ってきてくれたので、二人ビーチバレー。

負けた方がかき氷おごりの罰ゲーム付きだから、アツくなってしまいます!

今のところはイーブン。

でも私は、ここで決める!


……そういえば今日の穂乃果の水着、すごく似合ってるじゃないですか。

確か、夏色えがおのPVでも、オレンジ色の似たような水着着てましたっけ。

あの時髪に飾っていたハイビスカス、可愛かったなぁ。


って、ダメです!

思わず顔がほころんでしまいそうに――。


穂乃果「これで、トドメだよっ!」

バシーン!!(上に同じ)

穂乃果「あっ、顔に当たっちゃった」

4: 2019/03/07(木) 00:31:25.04 ID:9r8WYzwd.net
痛……くはないですが。

海未「ほ……のか……?」

穂乃果「あのー、も、もしかして怒った? 痛かった……? ご、ごめ……」

海未「ずるい……ですよ?」

穂乃果「へ? えっと、とりあえず……逃げろーっ!」

海未「待ちなさい穂乃果ぁ!」

逃げる穂乃果を、私は我を忘れて追いかけます。

穂乃果「そんなに怒ることないでしょお!?」

海未「穂乃果が可愛すぎるからこうなったんですよ! 私を誘惑してるのですか!?」

海未「こんなのズルです! インチキです! 穂乃果は最低ですっ!!」

穂乃果「意味が分からないし、理不尽過ぎるよぉ! かき氷は私がおごるから許してぇ!」

ごめんなさい穂乃果。これは怒っているのではなく、ただの照れ隠しです……。

5: 2019/03/07(木) 00:33:58.85 ID:9r8WYzwd.net
追いかけっこはしばらく続きます。

続いていたのですが、夢中で追いかけているうちに――。

穂乃果「あははっ! 私を捕まえてごらんなさぁい♪」

海未「待ちなさぁい♪ 必ず捕まえてみせますよぉ♪」

どういうわけだかこんな、カップルさながらの雰囲気になっていました。

あれ? なんで私は穂乃果を追いかけているんでしたっけ?

まあ、いいです。

でも、ちょっと疲れてきましたね。

穂乃果も流石にバテてきた頃ではないでしょうか?

穂乃果「捕まえてごらんなさああああああああアアアアアアアアァァァァァァァァ!」

疲れた様子など全く見せず、全力疾走。

いやいや、あれは絶対捕まる気ないですよね……?

アイドル時代に神田明神の男坂を毎日のように走らせていたのが、こんな形で裏目に出るとは。

6: 2019/03/07(木) 00:36:42.02 ID:9r8WYzwd.net
しばらくして、私たちは遅めの昼食を食べるため、海の家にやってきました。

穂乃果「うーん、美味いっ! やっぱり海の家と言えば焼きそばだよねっ!」

海未「このイカ焼きも美味しいです!」

穂乃果「本当!? 一口ちょうだーい」

パクッ。

海未「こら穂乃果! 勝手に食べるんじゃありませんっ!」

穂乃果「いいじゃんいいじゃん! 焼きそばも一口あげるから怒んないでよ」

そう言って、焼きそばを口に突っ込んできました。

……美味しいです。

穂乃果「うーん、やっぱり海は楽しいね! こんな時間がいつまでも続けばいいのに」

海未「そうですね」

そんなやり取りをしていた矢先、にわかに空が灰色の雲に覆われ始めました。

8: 2019/03/07(木) 00:39:03.55 ID:9r8WYzwd.net
アナウンス「遊泳者の皆様にお知らせいたします。只今気象庁より、大雨、洪水、波浪、雷注意報が発令されました」

アナウンス「これに伴い、当海水浴場は本日の運営を中止いたします」

アナウンス「遊泳中の皆様は、速やかに陸へお戻り下さい」

穂乃果「ええっ!? そんなーっ! 雨止めぇ! 逸れろー、逸れろおぉ!!」

穂乃果が何やら、謎の儀式らしきものを始めてしまいました。

海未「……何をしているのですか?」

穂乃果「だって、前にこれで本当に止んだことあったじゃん!」

海未「いやいや、あれはたまたまでしょう」

9: 2019/03/07(木) 00:42:16.51 ID:9r8WYzwd.net
結局、本当に雨が降ってきてしまったので、仕方なくホテルに帰ることにしたのですが――。

穂乃果「うーん、バスが全然ないなぁ」

海未「確かに、次のバスが来るまで45分もありますね」

流石に東京の都心部よりは本数が少ないと思っていましたが、まさかここまでとは。

とりあえず、バス停のベンチに座って待つことにしました。

穂乃果「うーん、喉渇いた! そうだ、海未ちゃんもこれ飲む?」

そう言って、穂乃果が私に渡してくれたのは1本のラムネ。

その気持ちはありがたいし、嬉しいのですが……。

海未「あ、ありがとうございます。でも穂乃果、私が炭酸苦手なの知っていますよね?」

穂乃果「あれ、そうだっけ?」

小動物のように小首を傾げています。

やれやれ、どうやら本当に忘れていたのですね。

まあ、わざと意地悪で私の苦手なものを寄こすような子じゃないことは、私が一番よく知っていますが。

10: 2019/03/07(木) 00:44:06.97 ID:9r8WYzwd.net
穂乃果「でもね!」

悪びれもせず、屈託のない笑顔。

穂乃果「海未ちゃん、ラムネだったらきっと好きになると思う」

穂乃果「だってラムネって、海未ちゃんそのものだもん!」

私、そのもの?

海未「どういう意味でしょうか?」

穂乃果「ラムネって開けるとき、ビー玉を押し込むのに少し手こずるでしょ?」

穂乃果「それで、一口めは炭酸でちょっと舌が痛くなるけど、それからは甘くて優しい味がするんだ」

自分の瓶の中にビー玉を押し込み、溢れかけたラムネを穂乃果は器用に口で受け止めます。

11: 2019/03/07(木) 00:46:44.27 ID:9r8WYzwd.net
穂乃果「海未ちゃんも同じ!」

穂乃果「例えば、私がスクールアイドルに誘ったとき、中々頷いてくれなかったよね」

海未「そうでしたね。あの時は、人前で歌って踊るのが氏ぬほど恥ずかしくて……」

穂乃果「でも結局、海未ちゃんは私に手を差し伸べてくれた」

穂乃果「本当に、本当に嬉しかったんだ、あの時」

海未「ことりに説得されたのもありましたが、穂乃果がへこたれず練習に一生懸命だったのを見て、妙に心を打たれたんです」

穂乃果は、私の「羞恥心」というフタを、諦めずに押し込み続けてくれた。

だからこそ、スクールアイドルだった私たちがいて、今の私たちがいるのかもしれません。


穂乃果「それにね、ぶっちゃけた話になっちゃうけど、海未ちゃんってよく私に怒るよね」

なっ、今度はそっちの話ですか!?

海未「よ、余計なお世話です!」

思わずそっぽを向いてしまいます。

穂乃果「一番記憶に残ってるのは、私が自暴自棄になって、スクールアイドル辞めるって言った時」

穂乃果「あの時の海未ちゃんのビンタの痛みは、今でも忘れられないな」

そんなことも……ありましたね。

12: 2019/03/07(木) 00:49:39.06 ID:9r8WYzwd.net
海未「あの時は、本当に申し訳ありませんでした……。我ながらやり過ぎたかなと思っています」

穂乃果「ううん、海未ちゃんが謝ることなんかじゃない」

穂乃果「私が、絶対に言っちゃいけないワガママを言っちゃったんだもん。海未ちゃんが怒るのも無理ないよ」

少しシュンとした表情をしています。

穂乃果「ダイエットの時も、ニューヨークではぐれちゃった時も、私を一番に思ってくれているから、あんなに怒ってくれてたんだよね?」

穂乃果「確かに時々怒ると恐いけど、怒るのは私のことをちゃんと想ってくれてるからだって、本当は優しい女の子なんだって知ってるから」

海未「穂乃果は、私が怒るのは嫌ではないのですか?」

穂乃果「そりゃあ、怒ってるよりは優しい海未ちゃんの方が好きだよ」

穂乃果「だけどね、ラムネだって甘いだけじゃただの砂糖水で、美味しくないよね」

穂乃果「炭酸の刺激があるからこそ、ラムネは美味しいんだから!」

穂乃果「海未ちゃんだって、甘いだけじゃない、時には厳しくしてくれる女の子」

穂乃果「そんな海未ちゃんだから、こんなに大好きになったんだよ?」

穂乃果のその笑顔は、あの雨雲も一気に吹き飛ばしてくれそうなくらい眩しいものでした。

13: 2019/03/07(木) 00:52:08.51 ID:9r8WYzwd.net
穂乃果「だから、ラムネは海未ちゃんそのもの」

穂乃果「だからね、ラムネだったら、海未ちゃんも好きになるはず!」

改めて穂乃果は私にラムネの瓶を差し出します。

穂乃果にとってラムネは、私そのもの。

だからこそ、私に好きになって欲しい。

これはきっと、穂乃果なりの最大級の愛情表現。

海未「じゃあ、頂きます」

穂乃果「はい、どうぞ♪ 開け方はわかる?」

海未「この凸型のもので、ビー玉を押し込むのですよね? やってみます」

ピンクの玉押しに力を込めますが、中々玉が入りません……。

穂乃果「頑張れ! もう一息だよ!」

――スポン。

ジュワアアアア!

海未「わっ! わっ!」

少し温まっていたせいか、ビー玉を入れた瞬間、間欠泉のように噴き出してしまいました。

慌てて口で受け止めます。

14: 2019/03/07(木) 00:53:01.45 ID:9r8WYzwd.net
海未「うう……唇が痛いです……」

穂乃果「大丈夫? やっぱり炭酸はダメ?」

やはり、炭酸のこの刺激には中々慣れませんね。

ですが――。

海未「でも、少し美味しいかもしれません」

そう言いながら、もう一口。

爽やかな甘味と酸味が口の中に広がります。

海未「美味しい……美味しいです!」

穂乃果「そうでしょ? そうでしょ!? 気に入ってくれて嬉しい!」

少し瓶を眺めてみると、微笑んだ私の顔が映っています。

海未「これが、私の味……なのですね」

15: 2019/03/07(木) 00:56:26.92 ID:9r8WYzwd.net
穂乃果「すぅ……すぅ……」

バスの後方席に並んで座ってから数分後。

はしゃぎ疲れたのか、穂乃果は私に寄り掛かった状態で眠ってしまいました。

海未「あどけない顔しちゃって、本当にしょうがないですね……」

軽く溜め息をつきながら、穂乃果の頭を撫でます。

海未「でも、楽しかったです」

途中で雨が降ってきてしまったのは残念でしたが、久々に思い切りはしゃげたような気がします。

穂乃果と二人きりで思い切り遊んだ。

炭酸が苦手な私に、ラムネの味を教えてくれた。

そして、改めて『大好き』って言ってくれた。

今日、この日のことを私は絶対に忘れません。

海未「大好きですよ、穂乃果」

18: 2019/03/07(木) 01:05:51.89 ID:9r8WYzwd.net
眠っているのをいいことに、普段あまり言えていない私の気持ちを呟いてみます。

……やっぱり、少し気恥ずかしいです。

こんなこと、穂乃果が起きている時には絶対に――。


穂乃果「私も大好きだよ、海未ちゃん!」

……え?


寝ているはずの穂乃果が、私の顔を見つめながらニッコリ微笑んでいました。

海未「えっ、ちょっ、起きてたのですか!?」

穂乃果「いやー、少しウトウトはしていたんだけどね」

海未「そんな……一体いつから?」

穂乃果「多分、頭を撫でてくれたくらいからかな?」

海未「ほぼ全部じゃないですか!?」

穂乃果「それにしても、海未ちゃんの口から『好き』って言ってくれたのは、初めてだよね!」

穂乃果「キャー、すごく嬉しいっ!」

海未「これは違います! 違うんです!」

穂乃果「もう、真っ赤になっちゃって、可愛いなぁ海未ちゃんは!」

海未「止めて下さい! もう知りませんっ!」

思わずそっぽを向いてしまいます。

全く、盗み聞きなんて、やっぱり穂乃果は最低ですっ!

19: 2019/03/07(木) 01:07:38.07 ID:9r8WYzwd.net
穂乃果「ねえ、海未ちゃん?」

また怒らせてしまったと思ったのか、少し遠慮がちに穂乃果が話しかけてきます。

海未「……何ですか」

穂乃果「あのねあのね! 私、勉強頑張るからね!」

突然の決意表明。

海未「本当にどうしたのですか? 藪から棒に」

穂乃果「だって、やっぱり私は、海未ちゃんと同じ大学行きたいもん!」

だからもっと勉強して、海未ちゃんと一緒に大学に通って」

一呼吸おいてから、ヒマワリのような笑顔で。


穂乃果「また来年も、いや、再来年もこの海に来よう!」


力強く、穂乃果は私に言ってくれました。

海未「私も、またここに来たいです!」
 
穂乃果は今、これからも、何年先も私と一緒にいたいと言ってくれた。

それが素直に嬉しいです。嬉しいのですが――。

海未「でも穂乃果、本気で私と同じ大学に行きたいのなら、これまでの3倍は勉強しないといけませんよ?」

穂乃果「ふぇ?」

20: 2019/03/07(木) 01:10:27.89 ID:9r8WYzwd.net
海未「私は国立大希望ですから、センターでも二次試験でも数学は避けて通れません」

海未「それに、他の科目だってまだ合格圏には程遠いですよ」

海未「ホテルに帰ったら早速、みっちりしごかないといけませんね!」

穂乃果「そ、そんなーっ! せめて今日くらいはゆっくり休もうよー」

海未「いけません! 穂乃果は甘すぎです!」

海未「本気で合格したいのなら、それ相応の努力はしてもらわないと困ります!」

海未「そうですね、帰ったら早速、チャート式を15ページ程解いてもらいましょうか」

穂乃果「むぅっ! 海未ちゃんの人でなし……鬼軍曹……」

カチン。

海未「あら、今何か仰ったのはこの口でしょうか? 聞こえなかったのでもう一度仰って下さります?」

口に指を突っ込み、横に広げて問い質します。

穂乃果「ひぃっ! ほえんらはい(ごめんなさい)! らんれおありあへん(何でもありません)!!」

本当にもう、穂乃果はどこまでも穂乃果なのですね。

21: 2019/03/07(木) 01:13:18.61 ID:9r8WYzwd.net
海未「はぁ……、これからも一緒に過ごしたいのは私も同じなのですよ?」

海未「ですから、ちゃんと頑張ってくれないと困りますからね?」

穂乃果「……はーい、わかったよ」

まだどこか不満気ですが、ある程度の覚悟はできた様子の穂乃果。

私は、穂乃果ならきっとできると信じています。

穂乃果はいつだって、どんな荒唐無稽なことでも成し遂げて来たのですから。

だから、きっと大丈夫。

22: 2019/03/07(木) 01:15:11.56 ID:9r8WYzwd.net
バスが到着し、二人で降りるとそこには――。

穂乃果「わぁっ、きれい!」

雲の隙間から差し込む光、天使のはしごが下りていました。

雨は、すっかり止んでいます。

――まさか、先程の儀式が効いたのでしょうか?

やっぱり穂乃果なら、きっとやってくれる。

私は、来年の春からまた笑顔で、一緒に通学できることを確信したのでした。

23: 2019/03/07(木) 01:19:25.32 ID:9r8WYzwd.net
―――終わり―――

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お読み下さった皆さん、本当にありがとう。

ゲームシナリオを書く練習の一環で、友人に出されたお題に沿った形で書いてみました。

お題の内容は

・ハイビスカスとラムネを必ず登場させよ
・前半を海水浴、後半を雨降りのバスの中で描写せよ
・オリジナルでも、二次創作でも構わない

というもので、お題を見た瞬間「あっ、これはほのうみで書かなきゃ(使命感)」ってなりましたwwww

お楽しみ頂けたのなら嬉しいです!

37: 2019/03/07(木) 15:06:41.96 ID:2upaARK4.net

ラムネがたまに無性に飲みたくなる

引用元: 海未「あの日に飲んだラムネの味」