1: 2016/08/22(月) 23:24:34.86 ID:yecyB0/J0
中二を極めるよ
地の文
時代考証?そんなの知らないぜ!
2: 2016/08/22(月) 23:26:44.81 ID:yecyB0/J0
静かで美しい日本庭園
どこか気品のある、侘び寂びを感じさせるその風景を見ながら、2人の男が真剣な面持ちで会話をする
武蔵国の彼の国の様子はどうか?
最近急速に勢力を拡大していると聞く
はっ、突如として現れた勢力ながらなかなかの戦力を有しております
その上、野心隠すことなく周辺諸国との戦も多いと聞きます
上杉も苦戦しておるとの事
早めに潰さねば危険か…
3: 2016/08/22(月) 23:27:33.95 ID:yecyB0/J0
相手の戦力はどうか?
はっ、主な戦力は9名の姫武将にございます
うむ、噂の見目麗しき姫武将か
4: 2016/08/22(月) 23:28:28.83 ID:yecyB0/J0
まず、筆頭に挙げられるのはやはり「金色夜叉」絢瀬絵里
オロシヤ国の血を引き、黄金のたてがみを持つ者です
武勇、知略ともに優れ、緻密な戦術で冷徹に敵を駆逐する、その名の通り夜叉のような恐ろしき武将と聞きます
美しき金色の夜叉か
恐ろしいものよ
5: 2016/08/22(月) 23:29:21.36 ID:yecyB0/J0
続くは剣豪、園田海未
主君に対する忠誠は家中随一、自らの命すらも主君の為なら容易く差し出すと言われております
常に主君の側に寄り添い、事が起こればたちまちに敵を討ち滅ぼす
その姿を見た者は「鬼園田」と呼ぶそうな
鬼の名を持つ姫とは
よほどの腕前と見える
6: 2016/08/22(月) 23:30:18.07 ID:yecyB0/J0
騎馬隊の主力は「流星」星空凛
その速さは坂東一
誰も彼女の部隊には追いつくことすら能わず
打撃力、突破力も言うに及ばず
故に「流星」
騎馬の力を存分に発揮する
恐れを知らぬ猛将か
7: 2016/08/22(月) 23:31:28.98 ID:yecyB0/J0
曲者も揃っておりまする
先ずは矢澤にこ
武将としては一見目立った手柄はありませぬ
しかし矢澤は今までの戦いの中で、ただの一度も敗北したことが無いと聞きます
どのような劣勢であろうと必ず形勢を立て直し、敗北する事なく戦闘を終えるのです
聞き及んでおる
「不敗の矢澤」
敵に回すと厄介な将であるな
8: 2016/08/22(月) 23:32:17.31 ID:yecyB0/J0
忍を統率する「月夜の東條」こと東條希も厄介な存在です
既にかなりの数の忍を各国に送り込んでおり、全ての情報は筒抜けとも言われておりまする
戦闘においても権謀術数に秀でており、一筋縄ではいかぬ相手との事
謀こそ戦国を生きる術
忍の頭領としての器量もあると見える
9: 2016/08/22(月) 23:33:19.07 ID:yecyB0/J0
奉行衆も非常に優秀です
筆頭奉行は西木野真姫
非常に豊富な知識を持つと聞きます
特に外交手腕は見事なものがあり、多くの国々との窓口となっております
政の中心であると同時に戦闘時には軍師として従軍する事もあり、知の要と言えます
西木野は知っておる
あの小娘にはいつか痛い目を食らわせてやるわ
10: 2016/08/22(月) 23:34:28.58 ID:yecyB0/J0
勘定奉行なる新たな役も設けておるようで南ことりがその任に就いております
この南が中々のやり手で国内に商人衆を呼び寄せては定期的に市を開き、若者に新たな流行り物を見せては銭を稼ぐ
商人衆はただ同然で商売ができるとの事で城下はかなりの賑わいを見せておるとの事
銭の流れは人の流れ
逆もまた然り
商人衆を味方につけるか
11: 2016/08/22(月) 23:35:30.11 ID:yecyB0/J0
そして郡奉行の小泉花陽
彼の国の特徴の一つに郡奉行の地位が高い事が挙げられます
そのためこの小泉の着任以来急速に開墾や治水が進み、元々の湿地帯が今では見渡す限りの水田地帯となっております
戦の継続には米が必要ですが、その米が蔵に収まりきらぬほど溢れているとか
急速な領土拡張には理由があるという事か
何やら農民共が新たな方法での作付けも行っておるとも聞く
中々の智慧者揃いの奉行衆であるな
13: 2016/08/22(月) 23:36:09.55 ID:yecyB0/J0
して、その強者どもを束ねる高坂とは一体何者だ
14: 2016/08/22(月) 23:38:06.91 ID:yecyB0/J0
高坂穂乃果
謎多き者でございます
戦働きは目を見張るものがありますが、絢瀬や園田のような圧倒的なものではありませぬ
内政にしても奉行衆に委任しておる様子で自らは方針の指示を行うのみと聞き及びます
なるほど、ただの神輿という事か
しかし、それでは家臣団の忠誠の高さの説明がつかぬ
その通りでございます
高坂の最も恐るべきは、その天然の人誑しの力にございます
例え敵将であろうとも彼女に会うとその場でひれ伏し召し抱えを願うとか
事の真偽は不明ですが、彼の国が急速に勢力を拡大出来ているのは、敵国武将をまるで旧知の友のように扱える、彼女の力が最も大きいと思われまする
15: 2016/08/22(月) 23:38:58.63 ID:yecyB0/J0
徳で国を治める
治世の世であれば良き臣であったであろう
だが今は乱世
再び足利の名にて天下を治めるため、早めに叩いておくか
16: 2016/08/22(月) 23:39:42.85 ID:yecyB0/J0
男のその一言を合図としたかのように、俄かに屋敷内が騒がしくなる
17: 2016/08/22(月) 23:40:38.34 ID:yecyB0/J0
「何事か!」
声に合わせる様に、伝令と思しき者が興奮した様子で部屋の前に走り寄り報告を行う
「敵襲!利根川周辺地帯で交戦!!」
「敵方の勢い凄まじくお味方の砦は次々と降伏しております!」
「な、この古河公方に対して攻め入るとな?」
「どこの不届きものじゃ!」
「旗印は?」
18: 2016/08/22(月) 23:41:21.59 ID:yecyB0/J0
「μ’s(みゆうず)!」
「高坂九将揃い踏み時のみ掲げられる旗印!!」
「んなっ?高坂…!」
19: 2016/08/22(月) 23:42:52.26 ID:yecyB0/J0
利根川沿いに布陣する音ノ木軍
その中で一際目立つ橙色の軍旗が総大将、高坂穂乃果その人である
「いけー!私達も突撃だ〜!」
意気揚々と号令をかけようとする横で黒髪の少女、園田海未がその姿勢を諌める
「こらっ!穂乃果!総大将がいきなり突撃してどうするのですか?」
続いて隣に控える赤髪の少女、西木野真姫も口を開く
「そうよ、あなたの部隊は本隊なんだから、もう少し待ちなさい」
2人に注意された穂乃果は頬を膨らませ
「ぶー!だっていっつも凛ちゃんとか絵里ちゃんばっかり!」
「私も一番槍したい!」
子供のような我儘を口にする
20: 2016/08/22(月) 23:43:47.77 ID:yecyB0/J0
その後ろからまさに小鳥の囀りのような声の持ち主、南ことりがどこかのんびりとした口調で
「でも今日はにこちゃんと希ちゃんの部隊が一番槍だね」
更にもう1人の愛らしい声の持ち主、小泉花陽が続く
「利根の渡河作戦だから、強力な足軽隊のにこちゃんと地理の情報を持つ希ちゃんが要なんだ」
「凛ちゃんと絵里ちゃんの部隊は陽動ってことだよ」
21: 2016/08/22(月) 23:45:07.49 ID:yecyB0/J0
そのような言葉など全く耳に入らぬようで、穂乃果は
「早く穂乃果も出撃したーい!!」
余計に駄々をこねる始末
そのようなやり取りをしていると、本陣に伝令が駆け込んでくる
「矢澤隊、東條隊共に渡河成功!」
「敵側面より攻撃を開始しました!」
22: 2016/08/22(月) 23:47:01.91 ID:yecyB0/J0
この報せを受け、真姫は号令をかける
「よし!ことり、花陽、弓隊で側面支援」
「斉射後凛とエリーの部隊は即時渡河!」
色めき立つ音ノ木本陣
「私は!?」
「穂乃果と私の部隊の出番はその後よ」
「古河御所まで一気に進んで古河公方を討つ!」
「海未、穂乃果を頼んだわよ」
「命に代えても!」
「それじゃあ穂乃果、命令を」
23: 2016/08/22(月) 23:47:44.32 ID:yecyB0/J0
総大将、高坂穂乃果は声高らかに号令をかける
「よーし!全軍、作戦開始!!」
「目指すは天下統一だー!!」
24: 2016/08/22(月) 23:48:35.67 ID:yecyB0/J0
これはゲームの世界に閉じ込められた、九人の少女達の物語
脱出する方法はただ一つ
天下統一
30: 2016/08/24(水) 11:48:26.61 ID:AXB4Hrg50
金色の夜叉は戦場で舞う
31: 2016/08/24(水) 11:52:29.93 ID:AXB4Hrg50
「佐竹が音ノ木の軍門に降りました」
屋敷の奥の暗がりの中、蝋燭が揺らめく部屋で報告を受ける一人の男
男の名は会津一帯を治める「蘆名盛氏」
盛氏は静かな部屋の中で考えを巡らす
古河公方、そして幕府に与する勢力の掃討を終えた高坂家はその勢いのままに佐竹氏攻略を開始
筑波山を挟み南側の土浦城と西側の下館城を拠点とし、双方より侵攻
周辺諸国との微妙な関係も利用され「鬼義重」率いる佐竹家は降伏を余儀なくされた
名門佐竹氏が高坂家に降るという事は、北関東の覇権はほぼ手中に収めたという事である
32: 2016/08/24(水) 11:53:12.27 ID:AXB4Hrg50
この戦いで軍功を挙げたのは、やはり家中随一の猛将、「金色夜叉」絢瀬絵里であった
33: 2016/08/24(水) 11:54:11.98 ID:AXB4Hrg50
そして佐竹家の領地と家臣団を手中にした高坂家の次なる目標は奥州である事は明白
その入口とも言える会津を支配する蘆名盛氏
謀にも長けた盛氏は高坂家との激突を前にして一つの計略を仕掛ける事を決意
その相手は『金色夜叉』絢瀬絵里
内部からの切り崩し、しかも家中随一の将を落とす為の策を放つ
34: 2016/08/24(水) 11:56:23.40 ID:AXB4Hrg50
絢瀬絵里は上機嫌であった
この不思議なゲームの世界にやって来てからというもの彼女の好物のチョコレートを食べられないという不満が蓄積されていたのだが
つい先日偶々知り合った自分のファンを名乗る女性から金平糖なる菓子を貰った
これがとても気に入ったと言ったところ、ちょくちょく顔をみせるようになった彼女は、
お土産と称して菓子を持って来てくれるようになった
偶に友人だという者も一緒に連れて来るようになって、更にお土産が増え、甘い物が好きな絵里は礼として歌や踊りを披露するようになり、
何だかライブをしている様な気になれて、とても幸せになれた
35: 2016/08/24(水) 11:57:19.33 ID:AXB4Hrg50
この事は仲間達には内緒にしてある
何故ならこの菓子類は中々手に入れるのが骨らしく、量が無い
彼女は商人の娘という事で特別に手に入れられるが、その苦労は絵里のためであればこそと言う
この好意と甘い物への誘惑に勝てなかった絵里はその条件を呑んだ
その代わりと言っては何だが彼女が求めるままに歌を披露する様になった
お互いが納得する条件での取引は成立し、この関係が続いているのである
36: 2016/08/24(水) 11:59:07.18 ID:AXB4Hrg50
この秘密の関係というのがまた心に高揚感を生んだ
μ’sの仲間にも、親友の東條希にも打ち明けていない
少し悪い事をしていると言った気持ちもまた、真面目な絵里には初めての体験で、
益々のめり込む要因となっていた
37: 2016/08/24(水) 12:00:44.66 ID:AXB4Hrg50
「〜♪♪」
こんな風に自然と鼻歌も出てくるくらいに機嫌よく歩く絵里に声を掛ける少女
「えりち!ご機嫌さんやね?」
絵里の親友、東條希である
「希!どうしたの?」
菓子よりも好きな希の登場で更に絵里の機嫌は良くなる
「今日はお天気も良いし、戦いもひと段落ついたし、希にも逢えたしでとっても良い日だわ!」
すると希は顔を赤くして
「ちょっと…えりち!人が一杯いるんやから、あんまり大きい声で恥ずかしい事言わんとってよ」
嬉しいけど、と付け加え顔を赤くして抗議する
38: 2016/08/24(水) 12:01:30.74 ID:AXB4Hrg50
「あら?私何かおかしな事いったかしら?」
首を傾げる絵里に
「むー!えりちのアホ!タラシ!ポンコツ!」
希はプイと顔を背けそのまま1人で歩き出す
「え?な、何?私何したの?の、希ぃ!」
慌てて希の後を追いかける絵里
39: 2016/08/24(水) 12:02:07.48 ID:AXB4Hrg50
とても平和な日常の裏で、計略の毒は絵里を蝕んでいく
その事が発覚するのは、数日後の評定の席の事である
40: 2016/08/24(水) 12:03:12.17 ID:AXB4Hrg50
「これより評定を執り行います」
海未の宣言により、音ノ木の評定が始まる
筆頭奉行の真姫が後を引き継ぎ
「では先ず現在の周辺国の状況から『あいや!待たれい!』」
声をあげたのは、先日正式に高坂家に臣従を誓った佐竹義重である
41: 2016/08/24(水) 12:04:45.68 ID:AXB4Hrg50
「義重さん、何か?」
話を遮られたため、少し不機嫌な様子の真姫の言葉を追いかける様に全員の視線が義重に集まる
「末席より失礼つかまつる」
「つい先ほどの事、我が家臣が蘆名の忍を捕らえました」
その言葉に家臣団は騒めく
それもその筈、次の攻略対象は蘆名である事は誰の目にも明白
その蘆名からの忍、どの様な情報をもたらされるかで今後の戦略方針にも関わってくる
「その報告は先程聞いています、佐竹殿、ご苦労様でした」
海未が義重に労いの言葉をかける
「恐悦至極」
42: 2016/08/24(水) 12:06:10.59 ID:AXB4Hrg50
深々と頭を下げつつ義重は状況の分析を行っていた
『家臣達は幾分動揺が見られたか』
『しかし流石の姫武将たちよ、男どもの動揺に比べれば落ち着いたものだ』
『特に高坂穂乃果、全く表情にも出さぬ、大したものだ』
その分析の通り、高坂穂乃果は全く動じる様子もなくただ静かに微笑みを浮かべ座っていた
その心の内を窺い知る事は難しい
43: 2016/08/24(水) 12:07:40.33 ID:AXB4Hrg50
「して、その忍は?」
旧足利家臣より質問があがる
「近くに居合わせました東條殿に引き渡しております」
「何やら不穏な書状も持っておりました故合わせて引き渡しておりまする」
「情報を得次第、こちらに向かわれるとの事でございます」
44: 2016/08/24(水) 12:08:53.97 ID:AXB4Hrg50
義重の報告が終わると同時に
「…遅れました」
東條希の声が部屋に響くと全員が希に注目する
ただ1人穂乃果だけはいつも通りの呑気な様子で
「おー希ちゃん!遅刻しちゃダメだよ!」
太陽の様な笑顔で出迎える
しかし希は青ざめた顔で穂乃果の前に座りこう報告した
45: 2016/08/24(水) 12:09:58.49 ID:AXB4Hrg50
「本日、蘆名よりの忍を佐竹殿から引き渡され情報の引き出しを行いました」
先程よりも大きく騒めく家臣
しかし穂乃果だけは全く動じる事がない
義重が再びその強心臓に感心していると、側近の海未が何やら耳元で囁く
すると穂乃果の表情はみるみる青ざめ
「うそ!大変だ!敵が攻めてくるよ!」
「何とかしなくちゃ!!」
バタバタと慌て始める
46: 2016/08/24(水) 12:11:05.20 ID:AXB4Hrg50
なんという事
この娘はただ単に状況を理解していなかったという事だ
これでは唯の馬鹿者ではないか
所詮噂は噂、やはり唯の神輿に過ぎぬという事か
ならば…
様々な思考を巡らす義重を他所に、他の家臣達は先ほどの慌てぶりが消え落ち着き、笑顔すら見えている
これは一体…?
訝しむ義重など気にする様子もなく、次々に家臣達が口を開き始める
47: 2016/08/24(水) 12:12:01.90 ID:AXB4Hrg50
「はっはっはっ!相も変わらず穂乃果ちゃん殿はお馬鹿さんじゃのう!」
「全く困ったものですな、そんな事ではまた海未ちゃん殿に叱られますぞ」
家臣団が一斉に笑う
…ちゃん?何だ?これは??
48: 2016/08/24(水) 12:14:09.93 ID:AXB4Hrg50
「穂乃果馬鹿じゃないもん!」
「バカでないならもう少ししっかりなさい!皆さんの前で反省しなさい!」
まるで夫婦の様に海未から小言を言われる穂乃果
それを見た家臣達はまた大笑い
「ほら見た事ですか!奥方がお怒りですぞ?」
「はっはっ!そろそろことりちゃん殿の出番ですぞ!」
「わーん!ことりちゃん!海未ちゃんがいじめるよー!」
言うや否やことりの元へ助けを求めて駆け寄る
「は〜い、よしよし、海未ちゃん?もういいんじゃないかな?」
「しかし…」
「海未ちゃん?」
「は、はい…」
ことりの仲裁により騒ぎに幕が降ろされる
これを見てまた家臣達は笑いながら
「鬼園田の弱点はまさかの小鳥の囀りですな」
海未は顔を赤らめながら元の位置へ戻る
49: 2016/08/24(水) 12:15:55.84 ID:AXB4Hrg50
絵里はこの騒動の中、希を見つめ続けていた
いつもならばこういった騒ぎになれば一番に茶々を入れてくるのに、今日は俯いたまま微動だにしない
蘆名の忍の情報とやらはかなり深刻なものなのか
はたまた他の理由があるのか
佐竹の様子も気になる
臣従を誓ったとはいえ、まだ心の底は見えない
先ほどから家臣団や穂乃果の様子を頻りに観察している様にも見える
言葉の端々にも何やら含みを感じる
50: 2016/08/24(水) 12:16:51.88 ID:AXB4Hrg50
「みんな、もういいかしら?」
真姫の言葉に皆頷く
「それじゃあ希、報告を」
そして希の口から衝撃的な言葉が吐き出された
51: 2016/08/24(水) 12:18:25.22 ID:AXB4Hrg50
「蘆名の間者の目的は…絢瀬絵里への接触」
全員の視線が絵里へと向かう
「…絢瀬絵里は蘆名への寝返りを約束したとの事」
騒然とする中、絵里は平然としていた
自分はやましい事などしていない
これは見え見えの分断工作だ
しかしこの余裕は次の瞬間覆される
「約束の印として書状も押収しました…」
希が差し出した書状にはこう書かれていた
52: 2016/08/24(水) 12:19:30.14 ID:AXB4Hrg50
『いつも金平糖とお菓子をありがとうございます
娘さんにはいつも良くして頂いていますので、是非お礼がしたいと思います
私ができる事といえば歌と舞程度ですが、機会があればそちらにお伺いして一曲披露出来ればと考えています』
確かに絵里の字で間違いない
それもその筈、この手紙は絵里がいつも菓子を届けてくれるあの娘に渡したものだ
なぜその手紙がここにあるのか
ここで絵里は己の過ちと浅はかさに気付く
53: 2016/08/24(水) 12:20:37.20 ID:AXB4Hrg50
「間者によりますと、この菓子や金平糖は金銭の事、これにより絢瀬絵里は蘆名への寝返りを約束するとの内容と言っております」
希は顔を上げぬまま、淡々と報告する
絵里は希の心境が手に取るように分かった
希の事である
揉み消しも考えたであろう
しかし佐竹が情報を掴んでいる以上、下手な事は出来ない
他の家臣の手前、下手をすれば直参のμ’s以外が全て敵となる事もあり得る
54: 2016/08/24(水) 12:21:56.24 ID:AXB4Hrg50
私は何と酷い人間であろうか
大事な親友に、この様な苦しい想いをさせている
それも自分の招いた、些細な欲望の招いた結果である
この無様な状況をどう切り抜ける?
恐らくは佐竹は音ノ木を試しているのであろう
この結果いかんによっては、再び敵として、さらなる脅威として立ちふさがる事は必至である
ならば音ノ木の威厳を保つ為、力の誇示が必要である
55: 2016/08/24(水) 12:22:59.81 ID:AXB4Hrg50
そうこうしているうちにも周囲のざわめきは益々大きくなっていく
「絵里ちゃん殿!どういう事か?説明してくだされ!」
「賢く可愛いえりゐちか!その姿は偽りであったのか?」
「絵里ちゃん!遠くに行っちゃうの?」
騒めきは収まる気配もなく喧騒といっても差し支えのないところまで来た時、絵里が口を開いた
「皆様、お静かに」
56: 2016/08/24(水) 12:24:03.01 ID:AXB4Hrg50
冷たい氷の様な声が響くと今までの騒ぎが嘘の様に静かになる
「この様な蘆名の離間の計に騒ぎ立てる事はありません」
この言葉に義重は猛然と反論する
「しかし絢瀬殿!この書状は貴殿の書いたものではないのか?」
「蘆名の計略と申すが、その証拠は何処に?」
57: 2016/08/24(水) 12:25:10.06 ID:AXB4Hrg50
やはり佐竹が食いついてきたか
絵里の予想通りである
高坂と蘆名を天秤にかけているのであろう
まぁ、この時代では当たり前のことである
ならば、音ノ木の力に屈服させるのみ
絵里は己への罰と音ノ木の威信をかけた一世一代の勝負にでる
58: 2016/08/24(水) 12:27:22.41 ID:AXB4Hrg50
「なるほど、佐竹殿の仰ることも然り」
「ならばこの絢瀬、蘆名の兵の首級一千を佐竹殿に差し上げることにより、この疑い晴らしてみせましょう」
この発言を自分への挑発と受け取った義重は絵里に対してさらなる難題を突きつける
「その様なことを言って、部隊ごと相手に寝返る気であろう!」
しかしこの発言は想定の範囲内
絵里は皆の想像以上の条件を自らに課す
「部隊など要りません、この絢瀬絵里、1人で結構です」
この発言には流石の義重も言葉を失う
静まり返る中、皆の視線は自然と穂乃果に向かう
59: 2016/08/24(水) 12:28:34.21 ID:AXB4Hrg50
穂乃果は何やら考え込んでいる様子
うんうんと唸り、ああでも無いこうでも無いとブツブツと一人で呟いていたが、突然はっとした顔を見せ、いつもの太陽の様な笑顔を見せるとこう言い放つ
「よし!それじゃあこうしよう!」
「まず早速だけど蘆名さんの所に宣戦布告しよう!」
「いくら絵里ちゃんでも、一人で千人の部隊を相手にできるわけ無いから、三百人連れて行っていいよ」
「それで千人以上相手を倒したら勝ちってことにしよう!」
60: 2016/08/24(水) 12:29:38.66 ID:AXB4Hrg50
この意見に義重は当然の如く反対の意向を示す
「そんな事をすれば、絢瀬殿がそのまま部隊ごと寝返った際に取り返しがつきませぬぞ!」
穂乃果は余裕の笑顔で義重の話を聞いている
『何だこの余裕は?』
『絶対の自信があるかのような、あの笑みは一体…?』
訝しむ義重に穂乃果はこう言った
61: 2016/08/24(水) 12:30:23.32 ID:AXB4Hrg50
「だから、義重さんの部隊で絵里ちゃんの部隊を見張って欲しいんだ」
「何かあれば、弓で射掛けられる位置に布陣して、そこからずっと狙ってたら変な事もできないでしょ?」
62: 2016/08/24(水) 12:31:28.95 ID:AXB4Hrg50
何と!
大胆不敵!
この娘はただの馬鹿か、それとも稀代の大物なのか?
己の部隊の一番の功労者に対し、新参者の部隊に弓で射掛けよとの命令
『みゆうず』は一枚岩と思っていたが違うのか?
それともそれ以上に絢瀬を信頼しているのか?
どちらにせよ高坂家の力を見極めるのにはうってつけだ
63: 2016/08/24(水) 12:32:14.60 ID:AXB4Hrg50
「絢瀬殿が宜しければこちらとしては異存は御座らぬ」
義重の言葉に続き、絵里も
「異存などありません」
「この金色夜叉の美しき舞、是非ともその目で御照覧下さい」
64: 2016/08/24(水) 12:33:21.73 ID:AXB4Hrg50
この二人の言葉を聞いた穂乃果は満足気に頷いて
「よし!決まり!」
「それじゃあ、絵里ちゃんはゴメンだけどお家で謹慎」
「希ちゃん、任せるからよろしくね」
「…ありがとう、穂乃果ちゃん」
「真姫ちゃん、ことりちゃん、花陽ちゃんは戦の準備をお願い」
『はい!』
「本日の評定は以上で終了します!」
65: 2016/08/24(水) 12:34:16.16 ID:AXB4Hrg50
評定が終わり、解散となる際、穂乃果は海未に一言つぶやく
「海未ちゃん、最近は天気も良くてお散歩にはうってつけだねぇ」
「海未ちゃんもたまにはみんなでお出掛けしてみたら?」
「今なら山の方が綺麗なんだって!」
海未は笑顔で
「まぁ!それではみんなで見に行ってみましょうか」
「お土産楽しみにしていて下さいね」
66: 2016/08/24(水) 12:35:04.95 ID:AXB4Hrg50
絵里と希は暗くなり始めた空の下、静かに歩き続けていた
お互いがお互いを想うあまりに、結果として傷つけ合う様な形となり、そして更に想いを募らせ、心を締め付ける
辛い沈黙がこの世の全てかと思わせる様な感覚に陥りながらひたすら歩き続ける二人
そんな長い、とてつもなく長く感じた帰路も終わり、絵里の屋敷に到着する
67: 2016/08/24(水) 12:36:21.84 ID:AXB4Hrg50
「それじゃあ、えりち、もうすぐウチの子達が来るから大人しく待っとってな」
希はそう言うと踵を返す様に元来た道を歩き出そうとする
「待って!希!」
絵里は希の手を掴みそれを止める
「待って、話を聞いて…」
「今回のこの事態を招いたのは私の責任、そしてこの無茶な提案をしたのも私」
「ごめんなさい希、貴方は何も悪く無いのに、私の所為でそんなに苦しい想いをさせてしまった」
「本当にごめんなさい」
絵里は深々と頭を下げる
68: 2016/08/24(水) 12:37:18.26 ID:AXB4Hrg50
すると今度は希が涙を目に浮かべながら
「えりち…ゴメンね」
「ウチ、えりちの事守ってあげようとしたけど…出来なかった……」
「何とかしようと…でも他の人に情報が……ここまで来たのに…初めからなんてみんなの心が持たない……」
「ウチはえりちを……見頃しに」
そこから先は涙声で聞き取れなかった
69: 2016/08/24(水) 12:38:29.11 ID:AXB4Hrg50
そんな希を絵里は優しく抱きしめこう言った
「いつも貴方には守られてばかり…」
「だから今はこうして貴方を守ってあげる…」
「好きよ…希…誰よりも貴方を愛してる」
希は絵里を抱きしめる力をさらに強くして
「私も…貴方が好きです」
顔を上げるとそこには愛しい人の顔
二人は自然に顔を近づけ…
70: 2016/08/24(水) 12:39:19.83 ID:AXB4Hrg50
「うにゃっ!」
「あっ!バカりん!何してんのよ!」
「にこちゃんが押すからだよ!」
「ふ、二人とも静かに!いいところなんだから!」
「花陽こそうるさいわよ」
「真姫ちゃん!かよちんに酷いこと言っちゃダメ!」
71: 2016/08/24(水) 12:39:46.03 ID:AXB4Hrg50
………
72: 2016/08/24(水) 12:40:50.82 ID:AXB4Hrg50
「見てた?」
絵里はにこりと笑いながら聞く
『うん、見てた!』
元気の良い返事が返ってきた
「えーっと…どっから見てたん?」
希はにこりと笑いながら聞く
『かなり初めの方から…』
てへへという笑い声も聞こえる
73: 2016/08/24(水) 12:41:59.01 ID:AXB4Hrg50
うん、と納得すると同時に二人の顔がみるみる赤くなり
『ああああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!』
という悲鳴があがる
そしてそのままの勢いで絵里が胸を張り宣言する
「正直言うわ!怒る気も起きないほど恥ずかしい!!」
絵里の堂々たる敗北宣言に続き
「ウチも!反撃する気も無いくらい恥ずかしい!!」
希の完敗宣言も飛び出す
そしてその訳のわからぬままに絵里はとんでも無いことを口にした
74: 2016/08/24(水) 12:43:57.20 ID:AXB4Hrg50
「恥ずかしいついでで悪いけど、決心したわ!」
「希!私と結婚して下さい!!」
驚愕する外野を他所に希もまた、絵里に続く
「恥ずかしいついでで悪いけど、ウチも言うわ!」
「えりち!ウチをお嫁さんにして下さい!!」
今度はひっくり返る外野を背景に二人で宣言する
『私達、結婚します!!』
『ヴェェェ!!!!!』
こうしてここに新たな夫婦が誕生した
75: 2016/08/24(水) 12:45:10.15 ID:AXB4Hrg50
翌日
絵里の屋敷内にて慎ましやかながら二人の祝言が挙げられた
参加者はμ’sのメンバーのみ
仲間内だけのささやかな結婚式であったが、二人はこの上無い幸せを感じていた
最高に愛する人との結婚を最高に愛する仲間に祝福してもらえる
これよりも幸せなことがあるのかと思うくらい心が満たされている
永遠にこの幸せが続きます様に
76: 2016/08/24(水) 12:46:27.76 ID:AXB4Hrg50
しかしその願いは叶わない
蘆名との戦は数日後に迫っていた
絶望的とも言える戦いに赴かねばならない
しかし絵里に悲壮感など無い
「だって希と結婚しちゃったのよ?」
「こんなハラショーな幸せ絶対離さないんだから」
「氏ねない理由があるのなら、私は氏なない」
「生きてこの幸せを享受するんだから!」
80: 2016/08/27(土) 00:20:23.29 ID:hFIJIbh20
決戦前日の早朝
現在の居城、宇都宮城から絵里の率いる部隊が出立する
三百騎とはいえ精鋭揃いで士気も高く、その表情には悲壮感など感じさせるものなどいない
むしろこの戦に選ばれた誇らしささえ感じている者ばかりであった
81: 2016/08/27(土) 00:21:45.64 ID:hFIJIbh20
それもその筈、この部隊は絵里だけでなく他のμ’sの部隊の者も多く含まれている
各員ともに部隊長より直々に絵里の手足として働く様にと「願われて」そこにいるのだ
穂乃果の隊からは指揮が優れ絵里の補佐が出来る者が
海未の隊からは一騎で戦況を打破できる様な武芸者が
凛の隊からは騎馬の扱いに長けた者が
他の隊からも知恵者や地理に長けた者など各隊の精鋭が集められた
奉行衆からも最高の武器防具類が渡されている
82: 2016/08/27(土) 00:23:24.33 ID:hFIJIbh20
当然、希の隊からも優秀な忍が数人派遣されてた
「みんな、えりちをよろしくね」
そう言って、希は数人の忍に深々と頭を下げる
忍たちは更にひれ伏し
「我々、遂にお館様にご恩をお返しする時が到来し感謝に打ち震えております」
「我らの命に代えましても必ず金色夜叉をお護り致します」
希はふるふると首を振り
「それはアカンよ」
「全員生きて帰るんや、命令やで」
忍たちは目頭を熱くし答えた
「お館様は相も変わらず難しい事を仰る」
「しかし我ら月夜衆、その御命令承りました」
「では、御免」
83: 2016/08/27(土) 00:25:46.89 ID:hFIJIbh20
一人取り残された希は流れる涙を拭きもせず、絵里の部隊をいつまでも見送っていた
「奥方様、あまりお気を落とさぬ様に」
「海未ちゃん…」
いつの間にか隣に海未が立っている
自分は人の気配には敏感な方だと思っていた希は、我ながら取り乱しているなと心の中で笑う
84: 2016/08/27(土) 00:27:41.81 ID:hFIJIbh20
「どうしたん?ウチもう人妻やからナンパは受け付けてないよ?」
恥ずかしい所を見られた仕返しに少し意地悪をする
すると海未は予想通りに、顔を赤くしたり破廉恥ですとか言ってわたわたしている
ケラケラと笑っていると、海未も少し落ち着いた様で、もうっと言いながら
「希、そんなことより少し『お散歩』でもいかがですか?」
「お天気も良い事ですし、『少し遠出』してみたいと思いまして」
「凛も誘って『みんなで』行きましょう?」
「『穂乃果が』お勧めしてくれた所がありますので、そこに行きたいと思っています」
85: 2016/08/27(土) 00:28:44.38 ID:hFIJIbh20
それを聞いた希は、再びこぼれ落ちそうになる涙を堪え
「穂乃果ちゃん…」
「よーし!お散歩の準備してみんなでお出かけしよか!」
笑顔で海未の誘いを快諾した
86: 2016/08/27(土) 00:29:37.05 ID:hFIJIbh20
絵里は大田原城に一旦立ち寄り軍備を整える
義重の部隊も間もなく到着、あの事件以来の顔合わせをする
87: 2016/08/27(土) 00:31:14.53 ID:hFIJIbh20
「絢瀬殿、今ならば間に合いますぞ」
「己が過ちを認めれば、高坂殿も寛大な処置で対応して頂けるはずです」
義重の言葉に絵里は笑顔で言葉を返す
「過ちであればそうでしょうが、私は過ちなど冒しておりません」
「私はただ久々に本気の舞を披露しようかと思っただけです」
「明日はきちんと私の舞の見える場所で、しっかり見ていて下さいませね?」
「彼方此方へ移動する事となりますので、見失う事のありませぬ様…」
そう言うと、年に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべその場を去る
「…ふん!女狐めが、言われんでも貴様の心の臓、いつでも貫いてくれるわい」
そして戦が始まる
88: 2016/08/27(土) 00:32:22.78 ID:hFIJIbh20
明朝、絢瀬絵里率いる精鋭三百は白河に向け出陣
黒川周辺の丘陵地帯中程迄部隊を進めた後、蘆名側の物見櫓に見える、丘の上に陣を構えた
義重もまた、絢瀬隊と共に軍を進め、絢瀬隊後方の森林地帯に布陣する
そこは絢瀬隊を見下ろす形となっており、正にいつでも命を狙える場所である
この位置であれば後数刻もせず蘆名の部隊が到着するであろう
「ふん、余計な意地を張らねば命まで落とさずに済んだものを」
「所詮は小娘か…」
義重が独りごちたその時、予想外の来客が姿を現した
89: 2016/08/27(土) 00:34:09.27 ID:hFIJIbh20
「にゃー!凛は山登りなんて聞いてないよー!」
不満気な声が周辺に響く
すると今度は声の主をなだめる様に
「まぁまぁ、この位の丘ならそんなにしんどく無いし、ウチはすきかな?」
この声に続くのはどこか自慢気な声
「希に気に入って貰えて良かったです!」
その後も謎の会話は続く
「確かに眺めはいいけど…かよちんとイチャコラするのを諦めてまで来たんだから、それなりの報酬が欲しいにゃ!」
「凛ちゃん!それ以上はいけない!!」
「なるほど!さすが凛ですね!」
「さらなる報酬の為、この辺りを一望できる最高の場所を目指しましょう!」
「さあ!皆さん!山頂アタックです!!!」
90: 2016/08/27(土) 00:35:22.77 ID:hFIJIbh20
身を隠す様子も無く、かしましい声と共に現れた集団
その旗印は…白い百合の花
義重は驚愕する
「何故…何故『白百合衆』がここにいる?!」
91: 2016/08/27(土) 00:36:31.37 ID:hFIJIbh20
音ノ木には幾つかの特殊任務集団がいる
白百合衆はその内の一つ
強襲という新たな戦術思想の元、敵陣へ楔を打ち込むように深く食い込み、そのまま陣中突破すると言う
彼女達にしか出来ない特殊戦術を用いる集団である
92: 2016/08/27(土) 00:37:45.08 ID:hFIJIbh20
その白百合衆は一帯を見渡す高台に布陣
こちらも絢瀬隊と同様、敵に見える場所に構えた
義重は馬を走らせ、白百合衆の陣へ向かう
「何事か?今回の戦は絢瀬殿の晴れ戦でありますぞ!」
陣に走り込む義重に海未は笑顔で答える
93: 2016/08/27(土) 00:39:03.26 ID:hFIJIbh20
「まぁ、佐竹殿、ご機嫌麗しゅう」
「たまにはお散歩でもと思いまして、皆を誘ったところ、中々の大人数になってしまって…」
「私、山登りが趣味でついつい熱くなって、気がついたらこんなところまで」
「戦の邪魔立ては致しません故、こちらで見物させて頂きます」
希は続いて
「ウチがちょっと寂しそうな顔してたもんやから、みんなが気を使ってくれて…」
「みんな優しくって感動しちゃった」
と芝居掛かった言葉
94: 2016/08/27(土) 00:40:45.83 ID:hFIJIbh20
あちらが狐ならばこちらは狸か
たかが散歩に白百合衆千五百揃い踏みなど
「ならばその白百合の旗印、下ろして頂きたい」
この義重の言葉に対して
「それは無理だよ〜」
直ぐに拒否の回答
この娘、見るのは初めてだが、恐らくは『流星』星空凛か
「μ’sの内この三人が揃った時はこの旗立てないといけないって穂乃果ちゃんと決めたから」
95: 2016/08/27(土) 00:41:46.00 ID:hFIJIbh20
やはり高坂穂乃果が動いた
元より絢瀬を見頃しにする気など無かったか
しかし、それでは絢瀬の立場がなくなる上に他の家臣への示しも付かぬ
浅はかなり、高坂穂乃果
まぁ良い、いざとなれば絢瀬の首を土産に何処かへ降り、機を持って常陸を奪い返すのみ
96: 2016/08/27(土) 00:43:04.42 ID:hFIJIbh20
「なるほど、では某も大殿よりのご命令を果たさねばならぬ故、これにて失礼する」
「下手な手出しは、お互いの為になりませぬぞ、努努ご承知置きを」
義重はこう言い残し自軍に帰っていく
振り返ると三人がにこやかに手を振っているのが見える
「ちっ!気に入らん!!」
怒る義重が帰隊する頃、蘆名の軍勢が山間より姿を現した
遂に両軍が相見える
97: 2016/08/27(土) 00:49:15.53 ID:hFIJIbh20
「金色夜叉、敵が見えました」
「数は?」
「およそ五千程かと」
絵里は笑いながら
「穂乃果ったら、どんな宣戦布告をしたのかしら」
こう言うと表情をガラリと変え
「全軍、作戦開始!」
号令を下す
それと同時に絢瀬隊から陣太鼓が鳴り響いた
98: 2016/08/27(土) 00:51:05.12 ID:hFIJIbh20
黒川を北から進む蘆名軍に対して、絢瀬隊は数十騎の弓騎兵を走らせる
そしてその弓騎兵が背負う弓は…
「改良型の弓胎弓か、先制し気勢を削ぐのが目的か…」
義重の言う通り、先ずは射程の長い絢瀬隊が先制する
たかが数十騎とは言え周辺の地形は狭い山間地帯
しかも練度の高い兵のため矢数も多い
敵の進軍速度を遅くするには充分の成果を見せる
しかし圧倒的な数の不利は如何ともし難く徐々に接近される
だが相手方は一定の距離を保ち黒川の渡河にかかる様子は無い
この間に絢瀬隊は弓の補充を完了し再度の遠距離攻撃を再開する
99: 2016/08/27(土) 00:52:08.48 ID:hFIJIbh20
この蘆名軍の動向には白百合衆が大きく関与していた
絵里は敵方の物見の場所を事前に把握していたが、敢えて攻撃はしていない
元々は自軍に敵を引き付けるのが目的であったが、状況が変わった
相手に不可解な情報を多数与え、疑いからの自滅を待つ作戦が取れるようになったのだ
そもそもたったの三百人で来ること自体が狂気の沙汰である
何かあるものと訝しむのは当然である
100: 2016/08/27(土) 00:53:38.61 ID:hFIJIbh20
そしてこの戦場に混乱を招いているその白百合衆はというと
「ウチあれ見たいな、あの海未ちゃんの必殺技」
「凜も!やってやってー!」
「何ですか?必殺技って?」
「いっつもやってるやん、なぁ凛ちゃん?」
「そうだよ!アレだよ、アレ」
『ラブアロー⭐シュート!!』
「んなっ?!」
「ななななにをいっているんですかねこのひとたちははれんちですいみふめいです」
このように戦に出る気など微塵も無く遊び呆けている
この事が蘆名側に余計な思惑を生み、軍を推し進める事を躊躇させていた
101: 2016/08/27(土) 00:54:34.31 ID:hFIJIbh20
その間にも弓騎兵の攻撃は続く
熟練の弓技は一矢で二人を貫くことも可能
しかもこの隊の弓騎兵は皆腕自慢の者ばかり
蘆名側も遠距離とはいえ被害が目立ち始めた頃、遂に陣太鼓が打ち鳴らされた
102: 2016/08/27(土) 00:55:27.70 ID:hFIJIbh20
後方の部隊、約半数が渡河を開始
山向こうより一気に攻める腹積りである
人数を考えれば当然の策である
前線に蘆名の渡河を阻むだけの人数はおらず、例え白百合衆が向かってきても渡河してしまえば数的優位で戦える
筈であった
103: 2016/08/27(土) 00:56:50.63 ID:hFIJIbh20
「総員!矢を放て!!」
渡河地点付近の林から透き通った美しい、それでいて冷たく、恐怖を覚えるような声が響く
同時に無数の矢が渡河中の無防備な部隊に降り注ぐ
慌てふためく蘆名側
「こちらも矢を放て!」
応戦するものの絢瀬隊は森の中
放つ矢の威力も無くなり、ましてや当てるなどとても出来ない
一方絢瀬隊からの攻撃は間断なく続く
「一体敵方は何人いる?伏兵か?」
蘆名側が驚くほどの矢数が放たれる
104: 2016/08/27(土) 00:57:44.04 ID:hFIJIbh20
そのカラクリは弓にあった
先程の弓騎兵は長距離射程の弓胎弓を使用していたが、こちらの部隊は連写可能な大陸型の短弓を装備
射程は短いものの矢数で圧倒できる
射程の短さを地形を利用する事により欠点を補いこの状況を作り出した
105: 2016/08/27(土) 00:58:44.48 ID:hFIJIbh20
「怯むな!川を渡ればこちらの勝ちだ!」
「矢板を持て!威力は弱い!攻めろ!」
数に物を言わせ一部が遂に渡河に成功、後は部隊をまとめ攻め上がるのみ
蘆名側に一瞬の安堵の心が芽生えかけた、その時
「総員!掛かれ!!」
白馬に騎乗した黄金の鬣の夜叉が現れた
106: 2016/08/27(土) 01:00:23.05 ID:hFIJIbh20
「金色夜叉だ!」
「あれが絢瀬絵里!」
部隊の残り殆ど、約二百を伴い渡河したばかりの集団に突撃を敢行する絢瀬隊
瞬く間に敵集団を討ち取っていく
「強い!夜叉の名は伊達ではない!」
「しかし何故ここに本隊がいる?!物見は何をしておった!」
数箇所の物見からは敵陣動きなしの狼煙が上がるのみ
107: 2016/08/27(土) 01:04:09.82 ID:hFIJIbh20
それもその筈、蘆名側の物見は既に絢瀬隊の手に落ちていた
東條隊の忍が中心となり密かに別働隊を動かし、これを制圧
その後は偽報として狼煙を上げ続けていたのである
108: 2016/08/27(土) 01:04:54.20 ID:hFIJIbh20
その後も絢瀬隊は川沿いに横隊陣の形となり次々と敵を薙ぎ倒す
敵味方がひしめく混戦に持ち込んだ事で、敵方の弓隊の攻撃は無い
絵里自身は愛用の大身槍では無く、薙刀を持って迫り来る敵を討っていく
109: 2016/08/27(土) 01:06:49.29 ID:hFIJIbh20
「いゃ〜ん!えりちカッコいい!見て見て!あれウチの旦那やねん!!」
完全な観客と化した希が黄色い声援を送る
「希ちゃんがスパークし始めたにゃ!」
「お惚気全開ですね」
呆れ顔の二人を差し置き希は嬉々とした様子で
「だってカッコいいんやからしゃあないやん!」
「ウチら結婚したから隠してコソコソする必要ないし、二人も早く結婚したらええのに」
この意見に凛は目を輝かせ
「凛もかよちんと結婚したい!海未ちゃんは?」
この質問に海未は顔を赤くしながら
「わ、私はまだそんな…まだ早いです!!」
手と顔をブンブン振りながら口早に答える
110: 2016/08/27(土) 01:09:15.17 ID:hFIJIbh20
その様子を見て希はニヤニヤしながら質問する
「ところでどっちなん?」
「?希が何を言っているのか分かりません」
今度は凛がニヤニヤ笑いで続ける
「だから、穂乃果ちゃんとことりちゃん、どっちなのかなって」
海未は更に顔を赤くして
「んなっ!?何を言っているんですか?!」
アワアワと混乱する海未に凛がキョトンとしながら
「あれっ?違うの?」
この問いに対して海未はうつむきながら
「……違いませんけど」
『けど?』
「どちらかなんて選べません!!」
中々の衝撃発言
しかし二人は納得の表情で
「成る程、二人ともお嫁さんにするのかぁ、アリやね」
「うん!アリだね!」
海未は目をグルグルと回しながら
「ふ、二人とけ、結婚…」ポワポワ
幸せな世界へと旅立っていく
111: 2016/08/27(土) 01:11:01.92 ID:hFIJIbh20
「海未ちゃん妄想世界に旅立っちゃったにゃ」
凛の言葉通り、海未はだらけきった表情でブツブツと何か独り言を言っている
「ホノカ、コトリ、サイコウデス…」ポワポワ
「うーん、幸せそうだし、少しこのままにしといてあげようか」
諦めた様子の凛であったが
「そうやね、でももう直ぐちゃうかな?準備しといてもええかもね」
という希の言葉に頷き
「本当だ!おーい!海未ちゃーん!帰ってくるにゃー!!」
海未の気付を図るが
「ダメデス、フタリトモ…ネルマモアリマセン…」ポワポワ
全く帰ってくる様子は無い
二人はジト目で海未を見ながら
「…海未ちゃんって基本ムッツリだよね」
「三人の結婚生活が爛れたものにならんか心配や」
112: 2016/08/27(土) 01:12:24.89 ID:hFIJIbh20
白百合衆がこうしている間にも絢瀬隊は次々と敵を討ち続ける
薙刀で戦う姿は舞うように優雅でどこか気品さえも感じられる
蘆名の部隊は完全に分断されており機能していない
前方は相も変わらず弓騎兵に良いようにあしらわれ、進むも引くも出来ない状態
後方は渡河もままならず、渡河してもそのまま絢瀬本隊に討たれていく
中央の部隊は双方に挟まれ完全に機能を停止している
「絢瀬め、本当に一人で千の首級を上げる勢いだな」
義重は戦況を見ながら呟く
もう既に弓構えは解いている
ここまで見れば寝返りの疑いなどありようがない
113: 2016/08/27(土) 01:13:24.32 ID:hFIJIbh20
最初からわかっていたことだ
清和源氏の血筋、名門佐竹
この名を引き継ぎ、守ることが自分の役目
しかしその役目は叶わなかった
年端もいかぬ小娘の率いる新興国に敗北した
そんな事実を認められず、下らない自尊心で煽り立て、結果この様である
114: 2016/08/27(土) 01:14:44.23 ID:hFIJIbh20
高坂穂乃果は見えていたのであろう
「大馬鹿者は自分であったか…」
自嘲する義重
その時、馬廻り衆から声が掛かる
「お屋形様、好機です」
「…儂は既に臣下の身、屋形などではない」
「それに好機とは何だ?」
115: 2016/08/27(土) 01:16:06.37 ID:hFIJIbh20
「我らと白百合衆の力を合わせ、絢瀬隊の援護をすれば、この戦勝てますぞ!」
「我ら佐竹家の力を見せつけてやりましょうぞ!」
「おうよ!坂東武者の強さを見せてくれようぞ!」
次々と声を上げる兵士達
「…貴様ら」
「それに我らにとってお屋形様はお屋形様、佐竹家の旗のもと戦う事こそが我らの誇り」
「お屋形様がいる限り、佐竹の名は続くのです」
116: 2016/08/27(土) 01:18:33.63 ID:hFIJIbh20
この言葉に義重は
「本当に…儂は大馬鹿者であった」
呟くと同時に顔付きが変わる
「戦況の詳細を報告せよ!」
「はっ!現在黒川流域で絢瀬隊が交戦中!敵方が攻めあぐねておりますが、徐々に押されております」
「数は?」
「蘆名方現在約四千!絢瀬隊にはほぼ被害はありません!」
「白百合衆は?」
「白百合衆がいません!何処かへ移動した模様!!」
「…成る程、そういうことか」
「お屋形様?」
義重はニヤリと笑うと
「流石は『穂乃果ちゃん』殿よ!」
「我等も全軍突撃!絢瀬隊を援護する!」
「白百合衆に遅れをとるな!佐竹の名を知らしめよ!」
『おぅ!!』
117: 2016/08/27(土) 01:20:17.04 ID:hFIJIbh20
その間も絵里は舞い続ける
しかし流石に体力の消耗を感じる
このままでは押し込まれる
そうなる前に相手の心を折らねばならない
相手が引けばそれで良い
希達の様子はどうか、ここではわからない
ただひたすらに敵を討ち続ける事が今自分に出来ること
何としてでも生きて帰るのだ
愛する希の元へ
118: 2016/08/27(土) 01:22:06.99 ID:hFIJIbh20
仮想世界とは言え愛する人と結ばれた
その幸せを離す訳にはいかない
その気持ちだけで身体を動かす
しかし疲れは隠せず
「一気に掛かれ!!」
「しまった!?」
この人数は捌ききれない!
「希!!」
119: 2016/08/27(土) 01:23:54.94 ID:hFIJIbh20
「ぐあ!?」
目の前の敵が倒れる
「これは一体?」
周囲の敵が一斉に絵里の後方に注目する
絵里が振り向くと
「絢瀬殿!援護つかまつる!!」
自分を狙っていたはずの佐竹隊が敵に突撃を敢行する
「な、何故貴方達が…」
困惑する絵里の元に義重が近づき
「絢瀬殿、約束の品、確かに頂戴した!」
約束の品?
私が約束したのは…千の首級
120: 2016/08/27(土) 01:24:52.50 ID:hFIJIbh20
「よってこれより我等も全軍、戦に参加しますぞ!」
「坂東武者の強さをごゆるりと御照覧くだされ!」
そう言うと自らも戦場へ繰り出す
そして川向うでは特徴的な陣太鼓が鳴り響く
「ふふっ、もう、皆んな遅いんじゃないかしら?」
121: 2016/08/27(土) 01:26:13.55 ID:hFIJIbh20
「敵襲!側面から騎馬隊が!!」
「何?!何者だ!!」
「白百合衆です!!」
「い、いつの間に川を渡ったのだ?」
「陣を整えよ!魚鱗!!」
慌てて陣形を整えようとする蘆名方だが『流星』星空凛の騎馬隊はそれを許さない
「あそこが本隊だね!とつげーき!!」
122: 2016/08/27(土) 01:27:26.19 ID:hFIJIbh20
圧倒的な速さ
驚異的な突破力
元々横伸びしていた蘆名軍はなす術なく突破される
「くっ!囲い込め!!囲い込んで殲滅しろ!!」
敵陣深く突撃する星空隊を囲もうとするが
「残念!そこはウチの仕事場でした!」
後から続く東條隊によって阻まれる
強力な足軽隊と火薬を使った足止めにより蘆名軍の足止めを行う
123: 2016/08/27(土) 01:28:53.25 ID:hFIJIbh20
敵方大将の付近まで突き進んだ星空隊は
「じゃあ後よろしくね!」
そう言うと突然進路を転換し反対側へ突き抜ける
「何が起こっている?!」
混乱する敵陣の前に重武装の集団が現れる
「やあやあ!我が名は園田海未!いざ尋常に勝負!!」
「…鬼園田!」
124: 2016/08/27(土) 01:31:25.72 ID:hFIJIbh20
白百合衆の突撃が開始されて間も無く
『えい!えい!おう!!』
戦場に勝鬨が響く
「流石リリホワ、すっごい手際の良さね」
大将をなくした蘆名軍は壊滅
散り散りに逃走を始める
こちらも追撃する余力はない為、戦はこれにて終了となった
125: 2016/08/27(土) 01:34:54.46 ID:hFIJIbh20
疲れ果てた絵里は馬から降りその場に座り込む
そしてそこへ義重が現れた
義重は馬を降りるとその場で土下座をして
「絢瀬殿、此度の非礼誠に申し訳ない」
「伏して謝罪致しまする」
絵里は慌てて
「佐竹さん!私はそんなつもりはありません!頭をあげてください!!」
しかし義重は頭を上げず
「本来であれば腹を捌いてお詫び致すところながら、某は佐竹の名を守らねばならぬ故、それもまかりなりませぬ」
「願わくば、末席で結構、絢瀬殿の配下にして頂きたくここに頭を垂れまする」
絢瀬絵里の力と強さを間近に見ることにより、遂に佐竹氏は、その名の通り音ノ木の軍門に降ったのである
126: 2016/08/27(土) 01:36:50.30 ID:hFIJIbh20
「いやぁ、うまくいって良かったよ」
縁側で茶を啜りながら、早馬の報告を受けるのは、高坂穂乃果
「絵里も意地張って無茶するからよ!」
「この可愛いにこにーと一緒ならもっと楽に勝てたのに」
隣で同じように茶を飲みながら、小柄な少女、矢澤にこが文句を垂れる
「まぁまぁ、にこちゃん?上手くいったんだから、良しとしよう?」
柔和な笑顔の小泉花陽がそれを嗜める
「まっ、エリーもこの世界で帰るところができたわけだし、もう軽はずみな事もしないでしょ」
溜息混じりで西木野真姫が口を開くと、南ことりがその言葉に合わせるように
「真姫ちゃんとにこちゃんはいつ結婚するの?」
ホンワカとした口調で爆弾を投下する
『ヴェェェ?!』
「はぁっ?!なんで私がにこちゃんと…」
「こっちこそ!なんで真姫なのよ!」
「なんですって?」
「何よ!」
ギャーギャー
127: 2016/08/27(土) 01:37:50.95 ID:hFIJIbh20
いつも通りに大騒ぎするメンバーを笑顔で見つめながら
「うふふ、楽しいな」
「早く元の世界に戻って、本当に楽しい世界で、またみんなと一緒にスクールアイドルしなくちゃね」
そう言うと天に輝く太陽を見る
「その為には目的は一つ」
128: 2016/08/27(土) 01:38:24.44 ID:hFIJIbh20
「天下統一!!」
129: 2016/08/27(土) 01:39:49.16 ID:hFIJIbh20
金色の夜叉は戦場に舞う 完
132: 2016/08/30(火) 22:31:32.38 ID:YFZlLmXx0
おまけ
今回のヒロイン
佐竹義重ちゃん(JK)
清和源氏からなる名門佐竹氏の18代目当主(JK)
佐竹氏の最盛期を築く(JK)
知勇に優れ「鬼義重」「坂東太郎」とも称された(JK)
とにかく凄い(JK)
136: 2016/09/04(日) 00:21:36.15 ID:26zy4epQ0
御代田合戦 ~軽井沢の退き口~
137: 2016/09/04(日) 00:22:18.74 ID:26zy4epQ0
「穂乃果!あれ程言ったでしょう?」
「いや、それはその…」
「言い訳無用です!全く貴女はいつもいつも……」クドクド
138: 2016/09/04(日) 00:23:41.70 ID:26zy4epQ0
穏やかな午後のひととき
城中に響き渡る怒声と小言が聞こえると、奉行衆が集まり井戸端会議が始まる
「穂乃果ちゃん殿はまた何かされたのか?」
「何でも菓子のつまみ食いをしている所を海未ちゃん殿に見つかったそうですぞ」
「昨日も何やらどやされていたようだが?」
「昨日は勉学の時間を寝て過ごしたのを咎められており申した」
「海未ちゃん殿は普段は撫子の如く美しい女性だが、穂乃果ちゃん殿の事になると途端に戦場での鬼園田が顔を覗かせますな」
「致し方なし、穂乃果ちゃん殿を愛する奥方様としては、常に己が亭主に美しく聡明であってほしいのだろう」
「成る程、愛ゆえの怒りですか」
「いかにも、全ては愛ゆえで御座る」
奉行衆が全会一致でいつも通りの答えを導き出すと、襖の向こうから何やら殺気だった気配がこちらに向けられる
139: 2016/09/04(日) 00:24:42.73 ID:26zy4epQ0
「そこっ!何やら聞こえますよ!勝手にいい加減な事を言わないでください!」
「むむっ?いかんぞ!奥方様の矛先が此方に向き申した!」
「此処は撤退を進言致しまする!」
「ならば殿は其方にお譲りしましょう、全軍撤退じゃ!」
「何とご無体な!某には荷が重すぎまする!儂も撤退しますぞ!」
くわばらくわばらと唱えながら奉行衆は笑いながら撤退していく
140: 2016/09/04(日) 00:26:15.65 ID:26zy4epQ0
「もう!戦の前にみんな気が抜けすぎです!」
はぁ、と溜息を吐く海未にもう復活した穂乃果が絡んでくる
「大丈夫だよ!次は武田さん攻めだけど、向こうの本隊は上杉さんとこと織田さんとこに行ってるんでしょ?」
「油断は禁物です!付近はあの真田の支配下にあります、何があるか分かりませんよ!」
「でも海未ちゃんと一緒だし、穂乃果は何の心配もしてないけどなぁ」
「しかも今回はその真田さんの真田本城を攻める準備の為の侵攻作戦だし、簡単簡単!」
「ことりちゃんの部隊も直ぐに合流するし、大丈夫だよ!」
「海未ちゃんは心配性だね〜」
「そうならば良いのですが…」
141: 2016/09/04(日) 00:27:29.48 ID:26zy4epQ0
楽天的な穂乃果の隣で不思議な胸騒ぎを覚える海未を置いて
「さぁ!出発するよー!」
穂乃果はそう言うと走り去っていく
「穂乃果!待ちなさい!出陣は明日、それにこれから軍議ですよ!」
一抹の不安を払拭するように海未もその後を追っていく
海未にもわかっている
彼女達には進む道以外ないという事を
142: 2016/09/04(日) 00:28:40.29 ID:26zy4epQ0
「では先ずは現在の音ノ木の状況を再度確認しましょう」
海未の言葉により軍議が開始される
軍議の間には穂乃果と海未の他、従軍予定の将数名、奉行衆に加え上野を任されている長野業正の姿もあった
143: 2016/09/04(日) 00:30:22.89 ID:26zy4epQ0
「現在我が国は北条氏、織田氏と同盟を組んでいます」
「領地は関東中部から北部を平定し、安定した領地経営を行えていると言えます」
「周辺国との状況は、まず東北方面で絵里、希の部隊が伊達領への侵攻を開始しています」
「義重さんもいるしこの辺は問題なさそうだね!」
「しかし伊達政宗、やはり強敵との事で流石の『金色夜叉』も苦労しているとのことです」
「なんか、政宗さんに絵里ちゃんがやたら気に入られて大変なんでしょ?」
「はぁ、何やら敵方なのですが顔をあわせるたびに求婚されているとか…」
「希が毎日のように暗殺の刺客を送っているとも聞きますし…相手の術中にはまらなければ良いのですが」
「あはは、希ちゃん…」
144: 2016/09/04(日) 00:31:27.28 ID:26zy4epQ0
「会津はにこと真姫が最終的な平定の詰めを行っています」
「蘆名さん強かったね〜」
「当然、容易い相手などいませんよ」
「しかも会津平定となると次は長尾、いえ今は上杉氏ですね、遂に南北で領地が接することになります」
145: 2016/09/04(日) 00:32:10.91 ID:26zy4epQ0
「南部は房総半島を制した里見氏に対して凛と花陽が攻勢をかけています」
「そこは北条さんとの共同作戦だよね?」
「その通り、花陽は氏康殿に特に気に入られていますから支援も手厚く、こちらに関しては時間の問題でしょう」
146: 2016/09/04(日) 00:33:21.48 ID:26zy4epQ0
「そして私達の次なる目標は武田氏」
「強敵ですがここを打たねば京への路は開けません」
「武田氏は北条殿とも同盟を組んでいますが、北条殿は不戦中立を確約しています」
「これも花陽ちゃんのお陰だね!エライ!」
「武田氏にとっても上杉氏、織田氏に加え私達音ノ木を相手にしなければならない状況、北条殿が不戦中立なだけでも大きいのでしょう」
147: 2016/09/04(日) 00:35:26.36 ID:26zy4epQ0
「ここ上野は業正殿の力で北の上杉勢の侵攻を阻止できています」
海未は業正に向け力強い視線を送る
視線の向こうの業正は大きく頷き
「可愛い孫たちのためです、なんという事は御座いません」
この言葉に穂乃果は
「お爺ちゃん凄い!カッコいい!」
業正に手を振る
「こら、穂乃果!業正殿に失礼ですよ」
「だっていっつも孫みたいだーって言われてるよ!」
「それでも失礼のないようにしなければいけません」
「はっはっは!構いませんぞ、園田殿」
「某もこの様に愛らしく、そして勇敢な姫達に爺と呼ばれて年甲斐も無く心躍りまする」
「わーい!長野のお爺ちゃん大好き!」
太陽の様な笑顔を振りまく穂乃果の隣で海未は、すみませんと一言業正に声をかける
148: 2016/09/04(日) 00:36:52.56 ID:26zy4epQ0
「兎も角、私達は此処から碓氷峠を超え、軽井沢を抜け佐久平の入り口、小田井城を目指します」
「途中軽井沢では入山峠から来るはずのことりの部隊と合流します」
「やったー!ことりちゃん久しぶりだよ!!」
穂乃果は、今度はバンザイして感情を表現する
「ふふっ、そうですね」
いつもは注意する海未であったが、ことりに逢える嬉しさは穂乃果と同様
ここは大目に見て軍議を進める
149: 2016/09/04(日) 00:38:38.58 ID:26zy4epQ0
「周辺の国人衆の調略も含め準備は出来ていますが、彼らはその時の旗色で寝返りも考えられますので、余り信用し過ぎるのも良くありません」
「しかも相手は表裏比興の真田昌幸、更には『鬼美濃』馬場信春が考えられます、油断出来ません」
「しかし、ここを抑えれば佐久平から小諸城、更には伴野城への睨みにもなります」
「武田攻めの初戦となりますし、ある程度の力を誇示するという意味でもそこまで無理をする事もありません」
「一定の戦果を残せればそのまま戻る事も視野に入れての行動となります」
「えーっ?一気にガーンと攻めこもうよ!」
穂乃果の意見に海未は首を横に振り
「何事にも順序というものがあります、多方面での作戦が同時に進行している状態ですから、今は無理をせず、準備に勤しむべきなのです」
「それにそのうち嫌でも無理をしなければならない時がきます」
「はーい」
穂乃果は納得いかないといった様子は見せたが、強硬的な態度に出る事も無く引き下がる
「では、明朝出陣となります、全員十分に身体を休めるように、以上」
150: 2016/09/04(日) 00:41:36.30 ID:26zy4epQ0
その日は月の美しい夜だった
その美しさに惹かれたわけではないが、海未は何とは無しに寝所の障子を開け、空を見上げていた
151: 2016/09/04(日) 00:42:41.74 ID:26zy4epQ0
月は太陽の輝きを映す鏡のようなもの
太陽がないと輝くことはできない
まるで私のように…
そんな想いに耽っていると、ふと我に返り
「ふふっ、私などと比べては月に失礼ですね」
などと独りごちる
152: 2016/09/04(日) 00:43:31.59 ID:26zy4epQ0
海未には誰にも打ち明ける事のない想いがあった
それは幼馴染である高坂穂乃果への想い
同じ幼馴染である南ことりへの感情とは全く違う想い
それは恋である
153: 2016/09/04(日) 00:45:01.87 ID:26zy4epQ0
彼女は常に自分を照らし続けていた
海未は常に彼女の光の下生きてきた
それが海未にとっての日常であり、全てであった
それが愛情である事を知った時、海未は狼狽した
この感情は圧し殺さねばならぬと思った
太陽を曇らせるわけにはいかぬ
自分は太陽なくしては生きられないのだから
この感情を彼女にぶつければ間違いなく今までの関係ではいられない
それは海未という人間にとって氏を意味する
ならばこの気持ちを無かった事にすれば良い
簡単な事だ
自分の心を固く閉ざせば太陽はいつも私を照らしてくれる
それで十分ではないか
154: 2016/09/04(日) 00:46:13.66 ID:26zy4epQ0
それに穂乃果には好きな人がいる
これは海未の想像であるがなぜか確信めいたものとして自分の中で確立していた
それは絵里か、ことりであろうというものだ
絵里を見る彼女の目は尊敬と憧れの光を湛え、まさに恋する少女のものである
そして、ことりに対する態度は慈愛に溢れ壊れ物を扱うかのごとく柔らかで、姫をエスコートする王子のような雰囲気を醸し出す
155: 2016/09/04(日) 00:47:17.02 ID:26zy4epQ0
自分に対するものとは違う
自分に対してはそんな態度をとる事はない
常に同じ、いつも笑顔で笑いかけてくれる
それは海未にとっては素晴らしい事であったが、恋という感情を知ってしまった今では唯の絶望的な事でしかない
自分は彼女にとっての特別ではないという事だから…
156: 2016/09/04(日) 00:48:33.36 ID:26zy4epQ0
嫉妬や独占欲のような暗い感情に潰されそうになる事もある
最高の友、最高の仲間に対してその様な感情を抱く度に自分を嫌いになっていく
辛い、逃げたい、しかし逃げる場所などない
だからこの気持ちは無かった事にした
無いのだからそれ以上も以下もない
そうすれば仲間と共に暖かい太陽の下で、楽しく楽しく過ごせるのだ
「いけませんね、一人でいると心が暗がりに引き込まれそうです」
明日は早い、海未は布団に横になる
朝になれば再び太陽は燦々と輝いてくれる
157: 2016/09/04(日) 00:49:14.65 ID:26zy4epQ0
これでいい…
これで良いんです…
眠りにつく自分への子守唄の様に海未は呟いた
158: 2016/09/04(日) 01:01:51.97 ID:26zy4epQ0
翌日、穂乃果と海未の隊を中心とした信濃侵攻部隊は箕輪城から出陣
予定通り碓氷峠より軽井沢へと入った
途中ことりの部隊から入山峠の天候不順により予定より一日遅れで軽井沢到着の報せがあったが、他は順調に事が運んでいた
周辺の国人衆の懐柔も問題無く、先行する偵察隊からも武田の目立った動きは報告されないため、滞り無く進軍
中山道と入山峠側の街道の合流点でことりの部隊を待つ事とした
159: 2016/09/04(日) 01:03:07.16 ID:26zy4epQ0
「では穂乃果、決してここから先は単独先行しないでくださいね」
「大丈夫だよ、海未ちゃんは心配性なんだから」
仮の陣を敷いた後、一部態度を曖昧にする周辺国人に対する示威行為を行う為、海未の部隊は本隊より離れ行動する事とした
武田方に未だ動きは無く、恐らくはこのまま小田井城で迎え撃つ算段であろう
ならば周辺の国人衆を確実に味方に付けておかねば、背後を突かれる可能性もある
そういった判断からの行動であった
160: 2016/09/04(日) 01:06:01.15 ID:26zy4epQ0
「明日にはことりも到着するでしょう」
「それまでには私も戻りますから、何かあればことりと合流する事を第一にして、決して無茶はしてはいけませんよ」
「もう!何度も言われなくても分かってますよーだ」
ふくれっ面で穂乃果が答える
すると周囲の配下達が
「大殿、奥方様は心配なのです、お察し下さい」
「全く、出来た奥方様で羨ましい限りです」
といった様な冷やかしを次々に口にする
「えーっ?海未ちゃんそうなのぉ?仕方ないなぁ」
穂乃果も便乗して悪乗りを始める
「///もうっ!知りません!」
海未は顔を赤らめ、ぷいと顔を背ける
「兎に角!私は行きますから、くれぐれも無茶はしないでくださいね!」
そのまま海未はすたすたと去っていく
161: 2016/09/04(日) 01:06:54.44 ID:26zy4epQ0
そうしないと今の緩みきった表情を見られてしまうから
冗談でも良い
刹那的でも良い
今は自分が穂乃果の女房役なのだ
それだけで私は幸せな気持ちになれる
今だけ夢を見させて…
162: 2016/09/04(日) 01:08:14.77 ID:26zy4epQ0
穂乃果は海未の出立を見送ると部隊に指示を出す
「一番から三番隊は交替で陣周辺の見張り」
「五番隊は荷駄隊の方よろしく」
「先見の物見隊も交替で常に小田井城を見ておく事」
「街道の通行人は忍の可能性も高いから陣容は外から余り見えない様に」
「以上、では散会」
『ははっ!』
きびきびと指示を出し穂乃果は数名の共を連れ陣幕内に戻る
163: 2016/09/04(日) 01:09:22.77 ID:26zy4epQ0
「大殿、まるで先程とは別人のようですな」
将の一人が驚いた顔で呟く
「貴殿は大殿の部隊は初めてか?」
「はっ、はい」
「大殿はいつもこうだ、園田殿の前では『穂乃果ちゃん』だが、離れると途端に『高坂穂乃果』となる」
「なぜ?でございましょう」
「それが女心というものらしい、正直某にも分からん」
「はぁ…」
「はっはっはっ!さあ、いくぞ!戦はもう始まっておるのだ」
「はい!」
164: 2016/09/04(日) 01:11:00.87 ID:26zy4epQ0
部隊の動向の報告を受けた穂乃果は
「ありがとう、何かあったら言ってね」
「私、少し休憩するね」
そう言うと陣の隅に移動し草の上に寝転んだ
穂乃果は、燻り今にも泣きだしそうな空を見ながら、なんとなく頭に浮かぶ今までの事を考える
初めは戸惑うことばかりで、皆んなで右往左往する日々であったが、状況が理解できると徐々にいつものペースに戻っていった
μ’sのみんなは穂乃果のおかげだと口をそろえて言うが、そんなことは無いと思っている
穂乃果も混乱し戸惑うばかりであったが、なぜか海未が近くにいるということが彼女に不思議な安心感をもたらした
だから他の子よりも少しだけ早く前向きに物事を考える事が出来ただけだ
165: 2016/09/04(日) 01:12:11.55 ID:26zy4epQ0
実はこの事は彼女に大きな衝撃を与える出来事であった
当時の穂乃果は間違いなく絵里に恋心を抱いていた
この世界に来てからも絵里が先頭に立ち物事を進めていくことが多く、その姿は間違いなく穂乃果が求める絵里の姿であった
しかし、穂乃果の心が本質的に求めている何かとは違うものだった
その何かを持っていたのは憧れの絵里でも、彼女にとって癒しの頂点、南ことりでも、他の誰でもなく、ただずっと、それこそ生まれた時から彼女の隣に寄り添う、園田海未だった
166: 2016/09/04(日) 01:13:25.12 ID:26zy4epQ0
穂乃果の求めていたものは、格好の良い王子様でもなく、究極の癒しを与える姫でもなく、彼女をやさしく見つめてくれる月の存在であった
穂乃果は太陽に例えられることが多い
自分ではただの能天気だと思っているが、周りの人間は皆口をそろえてそう言う
ならば、と彼女は思う
太陽が輝かねば月の表情は見えなくなる
それは穂乃果にとって絶望に他ならない
だから私は輝き続ける
月の表情が常に見えるように
167: 2016/09/04(日) 01:15:41.64 ID:26zy4epQ0
この世界に来てからいろいろあったが、自分の傍には常に海未がいた
その前もずっと、思えば海未が隣にいた
今もたった一日、彼女と離れることが辛くてたまらない
余りにも当たり前すぎて気にも留めなかった幸福
今はその当たり前の幸福を矜持するため、そのためだけに自分の全てを費やすのだ
「…あ、雨だ」
垂れ込めるような雲から遂に雨が降り始める
「雨、嫌いだな…」
「海未ちゃん、早く帰ってこないかな」
穂乃果は恨めしそうに空を見上げながら、想い人の名を口にすると
「///か、風邪ひかないようにしなくちゃ!」
なんだか急に恥ずかしくなり、そそくさと陣幕内に戻っていった
168: 2016/09/04(日) 01:17:12.58 ID:26zy4epQ0
一方その頃、海未隊は軽井沢北部を拠点とする国人の砦を訪れていた
最後まで色よい返事がなく、最悪交戦も辞さない覚悟での訪問であった
「ただいまお迎えの支度をして居りますゆえ、もう少々お待ちください」
「支度など良いのです、答えだけを聞かせていただきたい」
「少々、お待ちください」
交戦は無かったものの、門の前で暫くこのようなやり取りが続いている
「園田殿、これはやはり…」
「はい、次に同じやり取りとなれば武力制圧を行います、各員準備を」
「はっ」
169: 2016/09/04(日) 01:18:33.84 ID:26zy4epQ0
そうこうしていると再度門番が姿を見せ
「支度の者が粗相をしまして、今しばらくお待ちください」
先ほどと同様のやり取りの言葉を発した瞬間
「そのお気遣いは無用」
馬廻集が門番に対し槍を向ける
「…これはいかなる御料簡で?」
「問答無用、門を破りなさい!」
海未が命令を下す
門番は観念したようにため息をつきながら
「ふむ、門を破壊されれば修復も手間ですな」
「かしこまりました、開門いたしましょう」
あっさりと引き下がり門を開ける
そして中の様子はというと
170: 2016/09/04(日) 01:19:24.47 ID:26zy4epQ0
「無人…!」
「やられた!穂乃果が危ない!!」
「三番隊、砦に火を放て!残りは急ぎ本陣に戻ります!」
171: 2016/09/04(日) 01:20:24.77 ID:26zy4epQ0
降り始めた雨の中、海未は全力で馬を走らせる
大丈夫、陣は中山道沿い、何かあれば撤退も容易な場所
しかも後続にことりの部隊もいる
そこまでたどり着けば命の危険はない
大丈夫、大丈夫だ
自分に言い聞かせるように大丈夫と心の中で繰り返し唱える
しかし、そんな海未に最悪の知らせが飛び込んでくる
172: 2016/09/04(日) 01:22:44.52 ID:26zy4epQ0
それは反転して間もなくの事である
本陣側より穂乃果の隊の早馬が園田隊に合流した
そしてその知らせは海未を絶望させるのに十分な内容だった
「園田殿!なぜここに?!」
「どういうことですか?」
「我が隊、数刻前より武田方、真田隊の奇襲からなる戦闘を開始!」
「大殿の指示により混乱は少なく被害は最小限で済みましたが…」
穂乃果は無事、そう安堵したのも束の間
「敵方より園田殿他数名を捕虜としたとの宣告あり」
「それを聞いた大殿は数少ない共を率いて敵陣を突破」
「おそらくはそのまま小諸まで抜け、園田殿救出に向かわれるものと思われます!」
173: 2016/09/04(日) 01:24:00.79 ID:26zy4epQ0
な、なんで…そんな……
「本隊は真田勢に阻まれ、未だ大殿に追い付けず…」
あれほど言ったのに……
「小田井城には『鬼美濃』馬場信春が入ったとの報告もあり…」
私のせいだ…私がもっとしっかりしていれば…
「…田殿…園田殿!」
「園田殿!!」
馬廻衆の呼びかけに
「…穂乃果の救出に向かいます」
ただ一言命令を下すと自ら先頭となり山を下っていく
174: 2016/09/04(日) 01:25:05.69 ID:26zy4epQ0
穂乃果…穂乃果!!!
どうか無事で
私が助けますから
お願い
間に合って!!
「穂乃果ぁぁぁ!!!!!」
強くなる雨の中、海未は自らを奮い立たせるように愛する人の名を叫びながらただひたすらに馬を走らせるのであった
175: 2016/09/04(日) 01:26:08.20 ID:26zy4epQ0
本日ここまで!
続く!!
179: 2016/09/04(日) 22:45:57.75 ID:26zy4epQ0
再開します
今回短いです
180: 2016/09/04(日) 22:47:42.39 ID:26zy4epQ0
海未達の部隊が本陣に到着した時、主を失った本隊は未だ真田隊を抜けずにいた
「このまま突撃します!」
海未隊は速度を落とす事なく真田隊に突撃、正面突破を図る
やや後方で指揮を取る真田昌幸はこれを見て
「これはまた、元気な姫だな」
「しかしタダで通すわけにはいかんな」
「後方に引いて包み込め!勢いを殺せばなんという事はない!」
鶴翼陣による防御を指示する
181: 2016/09/04(日) 22:49:11.94 ID:26zy4epQ0
「関係ありません!勢いを止めるな!突破せよ!!」
「首級になど目もくれるな!穂乃果に追いつくのです!!」
海未の部隊は元より忠誠度の非常に高い親衛隊的な組織である
園田隊に配属される事が音ノ木での名誉であり、武を持って力を示す事がこの隊での栄誉であった
その部隊の勢いは真田を持っても止められず、海未隊はそのまま戦線ごと突破し佐久平方面へ向かう
その勢いを見た昌幸は笑いながら
「いやはや、先ほどの高坂といい、今の園田といい、鬼美濃殿が喜びそうな将であるな」
「こちらも次の段階に移るとするか」
182: 2016/09/04(日) 22:50:57.51 ID:26zy4epQ0
先行する高坂隊は小田井城の横をすり抜けそのまま佐久平に突入していた
「海未ちゃん…待ってて、助けてあげるから!」
今の穂乃果には周りは全く見えていない
穂乃果に対し、他の武将からの制止の言葉が再三投げかけられるが彼女の耳には入らない
ただ彼女の心を支配するのは園田海未という最愛の人を失う事への恐怖のみであった
まさに猪突猛進、彼女の特徴を表すような進軍
しかし今はそれが悪い方向で暴走していた
高坂穂乃果という武将が絢瀬絵里や園田海未と比較して劣るといわれる所以である
そしてその暴走する穂乃果の部隊が御代田を抜け塩野に差し掛かった時
「正面!敵集団布陣確認!」
183: 2016/09/04(日) 22:52:49.97 ID:26zy4epQ0
「北へ抜けるよ!時間が惜しい!」
穂乃果の号令とともに方向転換、中山道を外れ突破を図るが
「騎馬隊接近!このままでは戦闘に入ります!」
武田騎馬隊が待ち受ける
「南へ!千曲川支流を渡りそのまま川沿いを進む!」
さらに方向転換し、南方千曲川支流付近まで接近したとき
「敵襲!伏兵です!」
「くっ!」
進軍を阻まれた穂乃果
184: 2016/09/04(日) 22:54:06.47 ID:26zy4epQ0
しかし彼女はあきらめない
「一旦街道を戻る!佐久平中心を突っ切って南から小諸に向かうんだ!」
転進を図る高坂隊だが
「それはまかり通らんぞ!高坂穂乃果!」
そこに立ちはだかる武田菱の旗印
「馬場…信春!!」
185: 2016/09/04(日) 22:55:06.05 ID:26zy4epQ0
「大殿!このままでは完全に囲まれます!」
「薄いところに突撃!そのまま突破する!」
穂乃果の号令に対し
「武田の隊に弱点など無い!」
「突破するならそれ以上の力で来い!!」
馬場の一喝
186: 2016/09/04(日) 22:56:35.92 ID:26zy4epQ0
「それでも…それでも私は進むんだ!」
「突撃!!」
穂乃果の突撃指令で北東方面、騎馬隊横を目指し突撃を敢行
「人様の横を無断で通ろうなんぞ、片腹痛い!」
瞬く間に囲まれる
「まだだ!まだあきらめない!!」
「折れぬ心は大したものだが、それではただの猪武者だ」
「高坂穂乃果、いかほどの者かと思っておったが、武将としてはこの程度か」
「まあ良い、一気に潰す!このまま高坂を打ち取れ!」
187: 2016/09/04(日) 22:58:28.00 ID:26zy4epQ0
完全に包囲された穂乃果隊はなすすべなく次々と打ち取られていく
「大殿を守れ!なんとしてでもここをっ…」
「みんなっ!」
「我々を盾にしてください!なんとしてでも脱出を!!ぐはっ…!」
「そ、そんな…なんで……」
「あなた様はこの日の本を治めなければならぬ方です!」
「あなたならできる!そう信じているからこそ、我々は戦えるのです!」
次々と突撃を繰り返し徐々に突破口を広げていく
そしてついに
「さあ殿!こちらから脱出を!!」
希望の光が見えた
…ように見えた
188: 2016/09/04(日) 22:59:37.43 ID:26zy4epQ0
「残念だったな」
そこには馬場の本隊が待ち構えていた
「そ、そんな…」
穂乃果は絶望した
遂に心折れる
太陽の光は急速に失われ
周囲に向けられていた光もなくなり
その輝きを糧としていた者の命の灯をも
小さくしていく
189: 2016/09/04(日) 23:01:00.07 ID:26zy4epQ0
「助けて…」
「命乞いか?所詮は女よ」
「助けて、海未ちゃん…」
「園田海未の事か」
「まあいい、覚悟せよ」
ああ、御免なさい
私が馬鹿なせいでみんなを巻き込んで
私はいつも迷惑ばかり
これはきっと罰が当たったんだ
もっと海未ちゃんのいうことを聞いていればよかった
190: 2016/09/04(日) 23:02:18.55 ID:26zy4epQ0
海未ちゃん
会いたいよ
最後に会いたかった
そして…伝えたかった
私の想い
あなたのことが…
穂乃果の頬を伝う涙が地に落ちる
まさにその時
191: 2016/09/04(日) 23:03:07.17 ID:26zy4epQ0
「穂乃果ぁぁぁ!!!!!」
192: 2016/09/04(日) 23:03:53.73 ID:26zy4epQ0
気合一閃
敵包囲を突破し駆け抜ける集団
その先頭には
「海未ちゃん!!」
193: 2016/09/04(日) 23:10:56.53 ID:26zy4epQ0
「穂乃果!」
生きている
穂乃果はそこにいる
間に合った
どれだけ人が多くても一目で見つけられる
私の愛する太陽
194: 2016/09/04(日) 23:11:51.60 ID:26zy4epQ0
「蹴散らせ!穂乃果の周りの敵を全て!」
『応!』
敵包囲網の中に侵入した園田隊は高坂隊周辺の敵に攻撃を仕掛ける
元々一人一人の技量が高い者で構成される隊のため、瞬く間に敵を打ち取っていく
195: 2016/09/04(日) 23:13:31.98 ID:26zy4epQ0
これを見た信春は
「これが鬼園田の部隊か」
「こちらは噂通りの強さのようだな」
「一旦距離を取れ!体制を整える!」
包囲を続けたまま一旦仕切り直しを命じた
196: 2016/09/04(日) 23:15:02.30 ID:26zy4epQ0
「穂乃果!」
「海未ちゃん…良かった、無事で…」
二人は互いの無事を確認するように抱きしめあう
穂乃果は小さく震えながら海未の胸でつぶやく
「海未ちゃんが捕まったって聞いて…私、心配で…」
海未は優しく髪を撫でながらつぶやく
「大丈夫、それは敵の計略、嘘ですよ」
「私は捕まってなどいません」
それを聞いた穂乃果は
「そ、そんな…」
「私、簡単に騙されて…みんなを巻き込んで、海未ちゃんまで危険な目に…」
ここまで言うと遂に泣き出してしまう
197: 2016/09/04(日) 23:15:55.53 ID:26zy4epQ0
小さく震えたまま、自分の胸で泣き続ける穂乃果に
「泣かないで、穂乃果」
優しく声をかける
こんなに震えて
怖かったのだろう
辛かったのだろう
かわいそうに
198: 2016/09/04(日) 23:16:37.78 ID:26zy4epQ0
愛おしい
守ってあげたい
この感情を隠すことなどもう出来ない
199: 2016/09/04(日) 23:17:55.24 ID:26zy4epQ0
「穂乃果、もう泣かないで、顔を上げてください」
海未の言葉に健気にも顔をあげる穂乃果
目の前に現れた愛しい人の顔を見つめながら海未は告げる
「私の愛する人、穂乃果」
「あなたを愛する心を隠すことはできません」
「好きです、あなたを愛しています」
「私の全てはあなたのために…」
200: 2016/09/04(日) 23:18:45.34 ID:26zy4epQ0
そういうと海未は驚く顔の穂乃果に
キスをした
201: 2016/09/04(日) 23:19:38.92 ID:26zy4epQ0
愛おしい
守ってあげたい
この感情は彼女に伝えられた
海未はその満足感と同時に自分の中に黒い感情が生まれるのを感じた
202: 2016/09/04(日) 23:20:33.07 ID:26zy4epQ0
愛する穂乃果
誰にも渡したくない
この太陽を
永遠に私だけのものにしたい
この身を焦がすような感情を
あなたにも
203: 2016/09/04(日) 23:22:00.03 ID:26zy4epQ0
永遠とも思えた長い口づけを終え、再び目の前に現れた愛おしき太陽に海未は告げる
「ここから脱出します」
「私も戦うよ!二人で力を合わせれば…」
穂乃果の提案に割り込むように
「私が殿を務めます、あなたは何としてでも生き延びてください」
「な、何を言って…」
「私がどうなろうとも、必ずあなたを逃してみせます」
「たとえこの身滅びようとも、私はあなたの側に、永遠に…」
204: 2016/09/04(日) 23:23:06.29 ID:26zy4epQ0
「う、海未ちゃん!ダメだよ!二人で一緒に…」
海未の告白に、穂乃果は泣きながら共闘を懇願するが
「最低な私を許してください」
小さくそう言うと
「はっ!」
その声を合図に穂乃果の身体が崩れ落ちる
「う…うみ…ちゃ……」
205: 2016/09/04(日) 23:24:06.59 ID:26zy4epQ0
「大殿!」
周囲の兵達が慌てて声をかける
海未は冷静に
「…当身です」
と答え、続き宣言する
206: 2016/09/04(日) 23:25:38.06 ID:26zy4epQ0
「これより我ら園田隊は氏地に入る」
『はっ!』
「高坂隊は穂乃果を連れ南隊と合流、その後撤退せよ!」
「し、しかしそれでは園田隊が!」
高坂隊から声が上がるが直ぐに園田隊馬廻衆から否定の声があがる
「我らは武人である」
「仕える方の為に力を振るうのが我らの務め」
「戦場にて命散らすは真の誉である」
「そういう事です、あなた達はあなた達の仕事をしなさい」
「私達は私達の仕事をします」
『ははっ!!』
207: 2016/09/04(日) 23:27:15.91 ID:26zy4epQ0
「もし願いがあるとすれば…」
「この戦での一挙手一投足、言動全てを穂乃果へ報告して頂きたい」
「その願い、某が命にかえましても叶え申します!」
高坂隊の一人が名乗りを上げる
「…ありがとうございます」
これでもう心残りはない
208: 2016/09/04(日) 23:28:08.88 ID:26zy4epQ0
「それでは皆!地獄で会いましょう!!」
『おうっ!!』
「作戦開始!」
209: 2016/09/04(日) 23:29:20.06 ID:26zy4epQ0
「鬼美濃殿!敵が動きます!」
信春は心底楽しそうに呟く
「さあ、どう出る鬼園田」
「またお前らの好きな逃げやすい場所を作ってやったぜ」
「網にかかれば貴様らに次は無い」
一瞬の静寂の後
「突撃!!」
海未の号令一下、全軍が駆け始める
その目標は
210: 2016/09/04(日) 23:30:27.86 ID:26zy4epQ0
「敵軍、一斉にこちらに向かってきます!!」
「先駆けは…園田です!鬼園田を先頭に全軍が本隊に向かってきます!」
この報告を受けた信春は更に狂喜し
「こいつも猪か!?」
「だが、とんでも無い大物の猪だ!!」
「気合いを入れよ!生半可な心意気ではこの猪は止まらんぞ!!」
直後両軍が激突する
211: 2016/09/04(日) 23:31:27.55 ID:26zy4epQ0
鎧袖一触
そこにいた武田軍全てが、まるで悪夢を見ているかのような気分になる
包囲の一番硬く閉ざされた場所
馬場信春本隊の正面を嵐が通り過ぎる
嵐の通った場所にいたはずの兵は
抵抗する事も叶わずそのまま崩れ落ちていく
212: 2016/09/04(日) 23:32:13.41 ID:26zy4epQ0
「包囲突破されました!」
「お味方の被害甚大です!」
「馬場殿!ご指示を!!」
ほぼ五倍の兵数
圧倒的優位に立っていたはずの武田軍が一瞬の内に恐慌状態に陥る
そんな中、馬場信春は心震わせていた
213: 2016/09/04(日) 23:33:09.95 ID:26zy4epQ0
あの目
あの気迫
あれは氏を覚悟した者の目では無い
それ以上の
そう、例えるならば
羅刹
214: 2016/09/04(日) 23:34:09.08 ID:26zy4epQ0
「面白い…面白いぞ!園田海未ぃ!!」
「地獄の獄卒!羅刹の化身!」
「相手にとって不足なし!!」
「全軍追撃!羅刹狩りだ!!」
『おう!』
215: 2016/09/04(日) 23:35:44.98 ID:26zy4epQ0
音ノ木軍は包囲突破後、穂乃果を運ぶものを中心とし、ひたすら駆け続けていた
何とか佐久平より軽井沢に進入
街道が狭くなった頃
「武田軍に追いつかれます!」
報告があるや否や指示をだす
「高坂隊はこのまま南隊を目指して下さい!」
「この先は真田隊もいますが、高坂本隊と交戦中のはず、隙を突いて突破して下さい!」
「穂乃果をお願いします!」
「お任せください!何があろうと必ずやお届け申す!!」
「園田隊の皆様方!御武運を!」
集団から高坂隊を送り出すと海未の顔から表情が消える
そして
216: 2016/09/04(日) 23:37:06.52 ID:26zy4epQ0
「園田隊!転進せよ!!」
『応!』
「これより我等が進むは修羅の道」
「一歩も引いてはならぬ!」
「背中を見せてはならぬ!」
「背中の刀傷など末代までの恥である!」
「主君の為、己が為に、ただひたすらに敵を討て」
「正義など要らぬ、道理など要らぬ」
「神と会わば神を切れ!鬼と会わば鬼を切れ!」
「悪鬼羅刹となりて、全ての敵を討ち滅ぼせ!」
『応!!』
217: 2016/09/04(日) 23:38:23.68 ID:26zy4epQ0
「面白い!武田の騎馬隊、止められるものなら止めて見せろ!」
「全軍!そのまま突っ込めぃ!!」
『応!』
218: 2016/09/04(日) 23:41:51.84 ID:26zy4epQ0
遂に二人の鬼が激突
戦場に響く咆哮は誰のためか?
というわけで次回に続く!!
少し間が開くかも…
223: 2016/09/13(火) 22:27:00.25 ID:iBilEUzb0
遂に激突する両者
武田軍騎馬隊がその突破力を生かし、突撃を敢行する
「騎馬を潰せ!一番隊!槍衾!!」
騎馬隊の標的となった中央の一番隊は整列し膝をついて得物を斜上に構える
「させるかよ!踏み潰せ!」
勢いを落とさずそのまま立ち向かう
転倒する騎馬
吹き飛ばされる兵
轟く怒声
両者全く引くことのない乱戦
224: 2016/09/13(火) 22:27:47.84 ID:iBilEUzb0
「三番隊側面から突撃!敵を分断!殲滅せよ!」
「分断されんのは貴様らだ!中央から斬り裂け!!」
戦線左翼から反転攻勢を仕掛けようとする園田隊に馬場隊も応戦
此方も敵味方入り混じっての大混戦となる
225: 2016/09/13(火) 22:28:40.48 ID:iBilEUzb0
「二番隊斉射開始!全ての敵を貫き通せ!」
「当たらなければいい!近づけば何もできん!」
右翼では園田隊の長弓に対し数と機動力を背景にした戦いが始まっていた
226: 2016/09/13(火) 22:29:36.88 ID:iBilEUzb0
そして中央戦場では激しい戦闘が続いていた
「園田を討て!大手柄がそこに在るぞ!」
「首を取れば侍大将だ!」
敵が集中する海未であったが、その手に持つ大太刀が全ての敵を屠っていく
「園田海未は此処です!手柄が欲しければ掛かってきなさい!!」
「足りない…足りませんよ!」
「武田の力はこの程度ですか!?」
227: 2016/09/13(火) 22:31:27.97 ID:iBilEUzb0
この様子を見つめる信春は心底嬉しそうに笑う
「園田…!いいぞ…もっと舞え!」
「最高の舞を見せてみろ!園田海未!!」
228: 2016/09/13(火) 22:32:25.74 ID:iBilEUzb0
数では圧倒的に不利な園田隊だが気迫で敵を留める
「大将殿!このままでは高坂に逃げられます!」
この報告を受けた信春は舌打ちしつつ次の指示を出す
「鏑矢だ!右から潰せ!」
229: 2016/09/13(火) 22:33:14.48 ID:iBilEUzb0
戦場に鏑矢の音が響き渡る
「やっと来たか、あの戦闘狂め…」
「皆の者かかれ!目標は右翼、長弓隊!」
鏑矢の合図に応えるは街道南に潜んでいた伏兵
その旗印は
230: 2016/09/13(火) 22:33:58.17 ID:iBilEUzb0
「六文銭!真田です!右翼から真田隊突撃してきます!!」
「お味方陣形保てません!」
予期せぬ真田隊の出現に園田二番隊の陣形は崩壊、混戦となる
これを皮切りに各所で数的不利の影響が表れ始める
231: 2016/09/13(火) 22:34:43.46 ID:iBilEUzb0
「左翼三番隊分断されました!何とか敵を押しとどめていますが、劣勢!」
「二番隊副隊長…討氏!」
「園田殿!一旦引いてご指示を!」
「くっ!なぜ真田がここに」
232: 2016/09/13(火) 22:35:44.57 ID:iBilEUzb0
真田昌幸は戦況を見つつ答えるように呟く
「あのような雑魚にいつまでもかまけておるのもつまらんからな」
「それに武田の菱に媚びを売ろうとするものはいくらでも居る」
「そいつらにとっては高坂の首は極上の手柄だ、こちらが言わずとも必氏に獲りに行くさ」
233: 2016/09/13(火) 22:36:47.10 ID:iBilEUzb0
混迷する戦場
各々の命の花が
美しく舞盛る
その中心で舞う花は
ひときわ輝きを放つ
その姿はまるで太陽の光を
一身に受けているかのようであった
234: 2016/09/13(火) 22:37:53.72 ID:iBilEUzb0
場面は変わり、追撃の手から逃げ続ける高坂護衛隊
「まもなく交戦地域に入る、皆の者準備は良いか!」
部隊長の声に
「おうよ!」
「園田隊の忠義を無駄にはできん!我々も続くぞ!」
次々と気合と覚悟を口にする兵たち
「よし!いくぞ!!」
掛け声とともに坂を駆けあがりそこに見えた光景は
優に五千を超えようという大軍に完全包囲された友軍の姿であった
235: 2016/09/13(火) 22:39:00.75 ID:iBilEUzb0
「な、なんだこの軍勢は…」
「近隣の国人衆!こやつら初めから武田と繋がっていたのか!」
戦況は膠着状態のようだが、味方は完全に包囲され身動きが取れずにいる
街道は完全に封鎖され強行突破が図れるような状況でもない
「くっ…!どうする…」
236: 2016/09/13(火) 22:39:48.15 ID:iBilEUzb0
躊躇したその時
「いたぞ!高坂だ!高坂穂乃果の馬印が見えるぞ!!」
「逃すな!生氏は問わぬ!捕らえよ!!」
戦場の雰囲気が一気に変わり、敵兵が押し寄せる
237: 2016/09/13(火) 22:40:46.92 ID:iBilEUzb0
どうする!?
部隊長は考える
このままでは大殿が…
何としてでもお命を救わねば
この日の本を救うのは高坂穂乃果殿以外に無いのだ
私に力があれば…
またなのか…あの時と同じ想いを繰り返すのか!
238: 2016/09/13(火) 22:41:39.99 ID:iBilEUzb0
部隊長の記憶が蘇る
自分も昔は地方の領主だった
混乱する世の中に苦しむ民の為、平和を求めて戦う日々であった
しかし自分には力がなかった
周辺大名に城を奪われることもあった
それでも民は自分を信じて付いてきてくれた
239: 2016/09/13(火) 22:42:34.72 ID:iBilEUzb0
そんな時、突如勃興した新興国「音ノ木」に国を奪われ私自身も捕虜とされた
音ノ木の城下に連行された自分が見た光景は、民が皆活気にあふれ、笑いあい、子供たちが駆け回る、自分が理想としている場所そのものであった
民の平和、そしてそれを守ることのできる力
私が欲してやまなかったもの
240: 2016/09/13(火) 22:43:22.08 ID:iBilEUzb0
そして初めて大殿、高坂穂乃果殿に謁見した際に言われた言葉
「私たちと一緒に戦争を終わらせようよ!」
私は伏して願ったのを覚えている
「ぜひともお召し抱えください」
「小さな力ですが、必ずお役に立って見せます」
241: 2016/09/13(火) 22:44:29.31 ID:iBilEUzb0
そうだ、思い出せ!
私はあの時、名を捨て生まれ変わったのだ
今こそあの時の誓いを果たすとき
奮い立て!
小田天庵!!
242: 2016/09/13(火) 22:46:07.75 ID:iBilEUzb0
「大殿の馬印をここへ!」
「何をする気だ!天庵殿!」
「私が囮となる!時間を稼ぐ故、貴殿達は隙を見て脱出せよ!」
隊員に指示を出す
「しかし天庵殿は…」
「今はとにかく脱出だ!南隊は近くまで来ている!合流すれば良い!」
それだけ言うと
「では、さらば!!」
一人敵に向かい馬を駆る
243: 2016/09/13(火) 22:46:50.78 ID:iBilEUzb0
私は親と神に感謝する
この姿に生まれたことを
顔かたちは違えども
髪色、背格好いずれも似ている
そして何より私は
女
244: 2016/09/13(火) 22:47:32.45 ID:iBilEUzb0
天庵は敵に向かい宣言する
「我こそは音ノ木国の高坂穂乃果である!!」
「我が首、欲しければかかってこい!!」
「貴様ら腰抜けの槍刀など全て砕いてくれるわ!!!」
245: 2016/09/13(火) 22:48:29.67 ID:iBilEUzb0
「大将自ら出てくるとは…どういう了見だ?」
敵将は一瞬戸惑った様子を見せるが、すぐに配下の者が
「しかし、馬印、外見特徴全て一致しております!」
この報告を受け
「確かに、見目麗しき姫武将などそうそうおるまい」
「よし!高坂の首を取れ!!」
246: 2016/09/13(火) 22:49:51.49 ID:iBilEUzb0
影武者となった天庵を穂乃果と見た敵方は雪崩を打った様に襲いかかる
天庵は一瞬恐怖に怯えるものの
「穂乃果ちゃんは心折れない!」
自分に言い聞かせ果敢にも敵中に突撃を敢行する
その鬼気迫る姿に敵も身じろぎ
「怯むな!討ち取ったものには武田からの報酬が思いのままだぞ!」
敵方大将が檄を飛ばすが
「穂乃果ちゃんは皆に勇気を与えてくれる!」
再び天庵は自らを奮い立たせるかのように言葉を唱えると、襲いかかる敵相手に大立ち回りを演じる
心の優しさで目立つ事は無かったが、元々武技はかなりの腕前である
それがこの窮地で自己暗示をかける事により開眼した形となった
247: 2016/09/13(火) 22:50:38.38 ID:iBilEUzb0
そして包囲され、抵抗出来ずにいた高坂隊にも変化が起こる
「あれは…天庵…いや大殿!」
「なんと!あの心優しき方があの様な勇敢な振舞いを!」
「我らも続け!汚名を返上するのだ!」
「大殿を守れ!敵を討て!!」
248: 2016/09/13(火) 22:51:41.40 ID:iBilEUzb0
「な、なんだ!高坂本隊の士気が…」
驚く敵方大将の元に伝令が駆け寄る
「お頭様!包囲軍交戦再開!」
「敵方勢い強く包囲破られます!」
249: 2016/09/13(火) 22:52:33.94 ID:iBilEUzb0
戦場は一気に混戦状態となり、各小隊が彼方此方でぶつかり合う展開となった
「好機到来!護衛隊!一気に突っきれ!!」
本物の穂乃果を匿う護衛隊はこの機に乗じ戦場の突破に成功する
250: 2016/09/13(火) 22:53:41.70 ID:iBilEUzb0
これを見た天庵は安堵する
「良かった、これで音ノ木は守られる」
「私はここまでだが、ただで氏んでやるわけにはいかん!」
「一人でも多く…連れて行く!!」
氏を覚悟した天庵は、明日の音ノ木の為、戦い続ける
声を上げ目立つ振る舞いをし、敵を引きつけひたすら戦う
包囲されていた友軍も包囲を離脱し危機を脱した様だ
251: 2016/09/13(火) 22:54:58.40 ID:iBilEUzb0
我ながら上出来だ
これならば地獄で会うであろう園田殿に顔向けできる
戦況有利とはいえ、自分自身は孤立無援
迫り来る敵は数知れず
流石に生き残る事は無理であろう
覚悟していたとはいえやはり恐怖と未練を感じる
しかしそれ以上にある自分はやり遂げたという満足感
体力も限界
恐らく次の敵集団は捌き切れまい
一層の事、腹を切って敵への嫌がらせでもしてやろうか
そんな事が頭を過ぎった、その時
252: 2016/09/13(火) 22:55:34.81 ID:iBilEUzb0
『諦めないで!』
253: 2016/09/13(火) 22:56:20.40 ID:iBilEUzb0
何かが聞こえた気がした
「くっ!」
天庵は気力を振り絞り、巧みに馬を駆って敵集団を撃退する
「今の声は…?」
戸惑う天庵の耳に再び声が届く
254: 2016/09/13(火) 22:56:56.05 ID:iBilEUzb0
『もう少しだから…何とか味方の所まで…』
255: 2016/09/13(火) 22:58:00.72 ID:iBilEUzb0
極度の危機の連続に遂に自分の頭がやられたか
しかしこの声に従わねばならぬような気がする
どうせ捨てた命だ
「なるようになれ!!」
天庵は叫ぶとそのまま敵中突破を敢行
這々の体で本隊の元へたどり着いた瞬間
256: 2016/09/13(火) 22:59:10.55 ID:iBilEUzb0
「撃てーーーー!!!!!」
257: 2016/09/13(火) 23:00:39.84 ID:iBilEUzb0
戦場に響き渡る声の後、耳を劈く様な乾いた火薬の音
「こ、これは…鉄砲隊!?」
雨霰の様に敵に降り注ぐ鉄の弾丸
攻勢をかけていた武田方はなす術もなく倒れる味方を前に大混乱に陥る
最早それは軍隊の程をなさず、単なる烏合の衆
呆然とする天庵と高坂本隊を他所に戦況は一気に大詰めを迎える
258: 2016/09/13(火) 23:01:17.25 ID:iBilEUzb0
「騎馬隊突撃!敵を追い払って!」
259: 2016/09/13(火) 23:02:04.76 ID:iBilEUzb0
緊張感の中にもどこか愛嬌の残る声が響く
「この声は…さっきの」
この声を天庵は知っている
はたして、その軍旗は天庵の思うその人のものであった
260: 2016/09/13(火) 23:03:08.87 ID:iBilEUzb0
その頃殿軍戦線では
「五番隊…壊滅しました!」
「二番隊副隊長、単騎にて馬場隊に突撃!奮戦むなしく御討氏!」
次々に報告される戦況不利の報告
「まだ…まだです!ここで馬場と真田を討たねば音ノ木に大きな仇をなす!!」
「私は!園田海未は生きていますよ!!」
261: 2016/09/13(火) 23:04:31.29 ID:iBilEUzb0
「そう…私は生きている…」
「まだ…まだ足りない…」
「まだ太陽には届かない………」
263: 2016/09/13(火) 23:09:37.79 ID:iBilEUzb0
次回、御代田合戦 決着!!
するはず!!!
あと今回μ’sちゃんの出番が少ないやん!とかは言ってはいけない!
自分で痛いところを突っ込むスタイルも確立だ!
273: 2016/10/02(日) 15:02:38.70 ID:HzwU7Vyk0
穂乃果が危機を脱したその頃も、殿軍戦線では激しい戦闘が続いていた
馬場隊の攻撃に加え真田隊に横腹を突かれる形となった園田隊は徐々に人数を減らされ、既に半数余りとなっていた
しかし隊長の海未を筆頭に各員の意気凄まじく、武田の兵は一人として穂乃果を追うことが出来ずにいた
274: 2016/10/02(日) 15:03:56.76 ID:HzwU7Vyk0
「園田海未、思った以上にやる」
戦況を見る信春にも焦りが見え始める
これだけの兵力差を以ってして手ぶらで戦闘を終えるわけにはいかぬ
そこに真田よりの伝令が到着し何事かを伝える
伝令からの報告を受けた信春は苦虫を噛み潰した様な顔で
「くそっ!」
悪態をつき指示を出す
275: 2016/10/02(日) 15:05:17.54 ID:HzwU7Vyk0
「作戦変更だ!高坂を追う必要はない!」
「全力で園田海未の首を獲れ!!」
『応!!』
武田隊から陣太鼓が鳴り響く
その直後から海未に敵攻撃が集中する
276: 2016/10/02(日) 15:06:51.53 ID:HzwU7Vyk0
明らかに敵の目標が変わった
どうやら私の首を狙っている様子
という事は…
「ふふっ…」
「また一歩、太陽に近づきました…」
怪しい笑みを浮かべ呟くと部隊に指示を出す
「全軍に通達!退ける者から順次撤退!」
「我らの目的は叶いました!!」
277: 2016/10/02(日) 15:08:33.49 ID:HzwU7Vyk0
敵の集中する海未の元へ味方が集まろうとするが
「指示を聞いていなかったのですか?撤退です!!」
怒りとも思える口調で援軍を拒否する
「しかし隊長が…」
部下の心配の声にも耳を貸さず
「誰かがやらねばならぬことです!早く指示を守りなさい!!」
「…それにこの先の戦闘は単なる私闘、あなた達を巻き込む訳にはいきません」
この言葉に遂に部下も折れ
「隊長!御武運を!!」
その場から離れて行く
278: 2016/10/02(日) 15:09:34.12 ID:HzwU7Vyk0
これでいい
太陽を近くに感じる…
もう少し…もう少しで私は…
279: 2016/10/02(日) 15:10:56.47 ID:HzwU7Vyk0
海未は、完全に敵に囲まれるも鬼気迫る戦いを続ける
その姿には囲んでいるはずの敵が怖気付き躊躇するほどであった
「…どうしました?休憩するならこちらから行きますよ!!」
この声に反応する一騎の騎馬
「ならば俺がその首頂こう!鬼園田!!」
遂に大将馬場信春自ら槍を構え突撃する
280: 2016/10/02(日) 15:13:09.01 ID:HzwU7Vyk0
海未は信春の槍を躱し返す刀で切り返しを試みるも、他の兵からの攻撃のため断念
再度体勢を立て直す
そこへ再び信春の槍が海未を狙う
そうはさせじと大太刀を使い槍を防ぎ、そのまま周囲の兵ごと切り捨てを図る
信春は見事な騎乗でそれを躱す
その後も交戦が続くも両者譲らず
しかし一対多数の状況下で確実に海未の体力は奪われていく
そしてあわやと思わせる場面も徐々に増す中、彼女の表情に変化が現れる
その表情は戦う者に疑念と畏怖を与えていく
281: 2016/10/02(日) 15:14:01.11 ID:HzwU7Vyk0
信春も例外なくその一人であった
「これだけの人数、これだけの戦闘時間」
「なぜ園田、貴様は倒れない、そして何より…」
「なぜ笑っている?!」
282: 2016/10/02(日) 15:15:11.29 ID:HzwU7Vyk0
そう、海未は笑っていた
だがその笑みは常人の想像するものでなく、何処までも昏く、重く、しかしどこか官能的で、欲望に満ちた、見た者に厭忌感を覚えさせるものであった
283: 2016/10/02(日) 15:16:34.71 ID:HzwU7Vyk0
「…なぜ笑うか、ですか…?」
海未は戦闘を継続しながら呟いた
「もう少しで…太陽が私だけのものになるのです…」
信春は訝しみながらも問いかける
「ど、どういう意味だ?」
海未は笑みをさらに強くし答えた
284: 2016/10/02(日) 15:17:17.53 ID:HzwU7Vyk0
「我が愛する太陽!高坂穂乃果!」
「彼女が私だけのものに!」
285: 2016/10/02(日) 15:18:29.47 ID:HzwU7Vyk0
海未は笑みを絶やさずぽつりぽつりと語り始める
「私はここで氏ぬでしょう」
「あなた達に無惨に切り裂かれ、首を狩られ、晒し者にされるのです」
「ひょっとしたら殺される前に多勢に犯されるのかも知れません」
「何と悍ましく、哀れなことでしょう」
「しかし私は最期まで戦う事を止めません」
「穂乃果を守る為ならば命も捨てる」
「それが園田海未だからです」
286: 2016/10/02(日) 15:20:27.04 ID:HzwU7Vyk0
「私の氏を知った穂乃果はどう思うでしょう」
「優しい子です、きっと『私のせいで氏んだ』と考えるはずです」
「私はそんな彼女に別れ際、愛の言葉を贈りました」
「『この身が滅びようとも、私の心は永遠にあなたと共にある』と」
「彼女の事ですからこの言葉と私の氏をとても重く捉えてくれるはずです」
「穂乃果は一生誰とも結ばれることは無いでしょう」
「生きている限り私の言葉に囚われるのです」
「永遠に私の心と共に生きるのです」
287: 2016/10/02(日) 15:21:53.52 ID:HzwU7Vyk0
「古来より太陽を欲する者は、手に入れる前に焼き尽くされ、身を滅ぼすと言います」
「…しかし私は違う」
「手は届いた、後は抱き締めるだけ」
「この身、この命を捧げるだけであの太陽が手に入る」
「絵里にも!ことりにも!μ’sの誰にも手に入れることが出来なかった太陽!」
「私は手に入れる!!ずっとずっと欲しかった!!」
「穂乃果の心!穂乃果の身体!穂乃果の笑顔!!」
「全て私だけのものに!!!」
「あなた達は太陽へ辿り着くまでの手段」
「さあ!掛かって来なさい!我が愛の礎となれ!!」
288: 2016/10/02(日) 15:23:14.68 ID:HzwU7Vyk0
気迫か、執念か、それとも憎しみか
その場にいる全ての人間を威圧するその独白
それは鬼美濃と謳われた馬場信春も例外では無かった
なんだこれは…
恐怖?恐れている…?この鬼美濃が?
初陣から数十戦、戦場を駆け回り、軍功をたて、その上傷一つ負ったことのないこの俺が…
「進む事を躊躇っている…だと…」
289: 2016/10/02(日) 15:24:10.68 ID:HzwU7Vyk0
「くっ!ふざけるな!」
首を振り声をあげる
「懸かれ!園田を討ち取れ!」
号令と共に再び斬りかかる信春
槍と大太刀がぶつかり合う金切音を合図として周囲の兵も一斉に攻撃
再度の乱戦が開始された
290: 2016/10/02(日) 15:25:19.62 ID:HzwU7Vyk0
「…穂乃果…ああ、穂乃果」
「近付いてくる…あなたがそこまで」
海未はひたすらに敵を討ち続け、徐々に標的である馬場信春に迫る
「潰せ!止めろ!」
「複数で一気に斬りかかれ!」
怒号渦巻く中、淡々と敵を討ちつつゆっくりと歩を進めていく
291: 2016/10/02(日) 15:26:34.56 ID:HzwU7Vyk0
信春の勘が危険を告げる
此奴は危険だ
今獲らねば必ず後々武田の大きな仇となる!
「矢を射かけよ!」
この言葉に馬廻衆が否定の声をあげる
「しかしお味方が巻き添えになります!」
「構うな!アレは人では無い!羅刹…いやそれ以上の鬼神だ!!」
「武田の為にも生かして返すわけにはいかん!」
「は、ははっ!」
292: 2016/10/02(日) 15:28:05.32 ID:HzwU7Vyk0
「矢!放て!!」
号令一下
無数に放たれた矢嵐が海未周辺の武田兵ごと飲み込む
『ぐあっ!』
『そんな!味方ごと…うっ』
様々な悲鳴が飛び交うも矢嵐は暫く止むことなく続き、そして
「ふ、フハハ!」
「誰も立っておらぬ!鬼神、遂に討ち取った…な、なに?!」
293: 2016/10/02(日) 15:29:16.09 ID:HzwU7Vyk0
信春だけでない、そこに居る全ての者が己が目を疑った
視界を遮るかの量の矢嵐
全ての命を奪い去った筈の地獄
その中心で再び立ち上がる鬼神
身体に矢が突き刺さりながらもその表情には未だ笑みが浮かぶ
294: 2016/10/02(日) 15:30:32.08 ID:HzwU7Vyk0
「ば、化物…」
「む、無理だ…勝てる訳ない!」
兵士達に動揺が走る
そして遂に
「に、逃げろ!」
「殺される…!」
敵前逃亡を図る者が出始め、このまま戦線崩壊かと思われたが
「ぐふっ!?」
逃亡を図った兵士の腹部に槍が突き刺さる
295: 2016/10/02(日) 15:32:28.60 ID:HzwU7Vyk0
槍の持ち主、馬場信春は冷たく言い放つ
「敵前逃亡は処刑、その者の出身の村は全て金山送り」
「これが掟だ、よもや忘れた者はおるまいな」
周囲に訪れた一瞬の沈黙の後
「う、うわぁぁぁ!て、敵を討て!!」
「相手は手負いだ!一気に行け!!」
「休ませるな!押し切るのだ!!」
引くこと叶わずと覚悟した兵達が一斉に襲いかかる
その勢いは先ほどの比ではない
信春もその勢いに乗って海未に迫る
296: 2016/10/02(日) 15:33:46.44 ID:HzwU7Vyk0
海未に動きはない
矢の突き刺さる箇所からは止め処なく血が滴り落ち、なぜ立っているのかすら不思議な状態
このままなす術なく討たれるかと思われたその時
297: 2016/10/02(日) 15:34:41.55 ID:HzwU7Vyk0
「蹴散らせ!」
「囲え!場を整えよ!!」
軍旗を持たぬ謎の集団が乱入
瞬く間に海未と信春を取り囲むように布陣する
その姿を見た信春は苦々しく呟いた
「貴様ら…園田隊!」
298: 2016/10/02(日) 15:36:03.15 ID:HzwU7Vyk0
「撤退した筈の園田隊が何故ここに?!」
「命令違反か?!」
包囲の外に追いやられた将達が口々に疑問を口にする
その声に応えるように園田隊が口を開く
「『園田隊』の撤退は完了した」
「今ここに居るもの達は『海未ちゃん』の友」
「友が命を賭け太陽を求めるのならば、我等はそれを手助けしよう」
そう言うと全ての者が囲い込んだ敵大将に背を向け囲いの外に向く
299: 2016/10/02(日) 15:37:20.42 ID:HzwU7Vyk0
敵に包囲され海未と単騎対峙する信春は吐き捨てる様に言う
「音ノ木、愚かなり」
「大名の親衛隊がこの様な感情的な動きを見せるとは…」
しかし直後ニヤリと笑い
「だが嫌いじゃない」
300: 2016/10/02(日) 15:38:22.51 ID:HzwU7Vyk0
海未は未だ笑みを浮かべたまま立ち尽くしている
その目には己が目的地である太陽しか見えていない
それが海未の全てである様に
「目の前の俺は全く無視か…」
「これだけの女にこれだけ惚れられるとは…高坂穂乃果、興味はあるが…その前に」
信春は愛用の槍を構え直し
「この鬼神を討ち滅ぼす!!」
気合いと共に馬を駆る
301: 2016/10/02(日) 15:39:25.25 ID:HzwU7Vyk0
再び相見える両者の刃
しかし満身創痍の海未に騎馬武者の攻撃を交わす余裕はない
一気に追い込まれ打ちのめされていく海未
それでも立ち上がり、大太刀を持って立ち向かう
信春も馬を降り完全な一騎打ちの氏合いが続く
302: 2016/10/02(日) 15:45:10.64 ID:HzwU7Vyk0
「私の願い…!」
「太陽の元へ!私は辿り着く!!」
先程までの笑みは消え必氏の形相で大太刀を打ち込み続ける
そんな海未に対し信春は
「園田!俺は貴様には負けることはない!」
「貴様の希望は単なる『氏』」
「そんな氏に体の者に俺は負けん!」
「俺の希望は生きること!何としてでも生き延びる!」
そう言うと渾身の力で槍を振り下ろす
303: 2016/10/02(日) 15:46:43.62 ID:HzwU7Vyk0
「くっ!」
再び辛うじて攻撃を受け止める海未
そんな海未に対し信春は怒涛の様な攻撃を繰り返す
「そんなに氏にたきゃさっさと往け!」
「太陽だか何だか知らんが好きなとこに行っちまいな!!」
「おらよっ!!」
渾身の突きは遂に海未の大太刀を砕き、その衝撃で海未は吹き飛ばされる
304: 2016/10/02(日) 15:48:17.39 ID:HzwU7Vyk0
はぁはぁと荒い息遣いで海未を見下ろす信春
「やったか…?」
信春が近づこうとした時
「うああああぁぁぁぁぁ!!!!」
轟くような声と共に再度海未が立ち上がる
その表情を見た信春は満足そうに
「そうだ園田、その顔だ」
「その表情こそが本物だろう!」
そう信春が言う海未の表情とは
怒り
305: 2016/10/02(日) 15:50:23.23 ID:HzwU7Vyk0
「私だって…私だって氏にたくない!」
「生きてあの子と添い遂げたい!」
「でも私じゃ駄目なんです!けど…」
「誰にも渡したくない!」
「私は命を捧げるんです!」
「そのぐらいの我儘いいじゃないですか?!」
「私は最低の人間です!」
「そんな事は分かっています!」
「でももう我慢できない!」
「だったらこうするしかないじゃないですか!!」
306: 2016/10/02(日) 15:51:39.44 ID:HzwU7Vyk0
そう言うと海未は腰の長刀を抜き信春に斬りかかる
先程とは逆に海未が嵐の様に攻め立てる
だが信春は落ち着いて全てを捌き、逆に攻撃そして遂に信春の槍の石突きが海未の鳩尾を抉る
307: 2016/10/02(日) 15:52:44.92 ID:HzwU7Vyk0
「ほ、のか……ごめんな…さ……」
軽い海未の身体が宙に浮き、そしてそのまま地面に叩きつけられ、動きを止める
「遂に力尽きたか…」
「これも戦国の世の定め!その首頂く!!」
とどめを刺すため槍を掲げた、その時
308: 2016/10/02(日) 15:53:45.67 ID:HzwU7Vyk0
目の前に何かが見える
なんだ…?
俺は知っている、そうだこれは…
刀!!
309: 2016/10/02(日) 15:55:11.72 ID:HzwU7Vyk0
「ぐあっ!」
体を地面に倒し刀を交わす信春
「な、何が?」
我に返り周囲を見渡す
そこに立っていたのは…
「高坂穂乃果!」
310: 2016/10/02(日) 15:56:09.36 ID:HzwU7Vyk0
見上げたその先には撤退した筈の高坂穂乃果がいた
その手には先ほどの刀
そして周囲には音ノ木の軍勢
掲げる軍旗は
「μ’s…」
311: 2016/10/02(日) 15:57:46.07 ID:HzwU7Vyk0
「ちいっ!戦闘狂め!」
「撤退の陣太鼓が聞こえんかったか!」
毒付くのは真田昌幸
「我等は一旦小田井に戻る!」
「馬場隊は放っておけ!!」
こう言うと軍をまとめ、撤退するため街道に向かう
しかし街道に差し掛かった時
312: 2016/10/02(日) 15:59:49.43 ID:HzwU7Vyk0
「にっこにっこにー❤」
「この超かわいいにこにーのとこに来るなんて、結構分かってるのね〜」
街道を抑える集団
「不敗の矢澤か…」
「私達もいるわよ」
その声の先に布陣するのは
「絢瀬に西木野」
「特殊戦術隊『美毘』とは、これは光栄だな」
余裕のある言葉とは逆に表情にはこれ以上ない緊張が走る
「あんたら私の可愛い後輩をいい様にしてくれて…覚悟しなさい!」
313: 2016/10/02(日) 16:01:00.73 ID:HzwU7Vyk0
場面は戻り、海未と信春の周辺は一気に状況が混沌としていく
海未の救出の為、大将である穂乃果自身が敵大将馬場信春に一騎討ちを仕掛けたことにより続く音ノ木軍の士気が一気に向上
包囲する武田軍を押し返していく
戦線に綻びが出た所には、続く南隊の鉄砲による鉄雨が降り注ぐ
314: 2016/10/02(日) 16:02:25.29 ID:HzwU7Vyk0
「よくも!海未ちゃんを!許さないよ!!」
怒れる穂乃果の勢いに押され、流石の鬼美濃も
「この勢い…猪が獅子になって戻ってきたか」
「園田め…何が太陽だ!」
「これは業火…灼熱の業火だ!」
「一旦小田井に戻る!」
「撤退だ!!」
遂に撤退を指示する
315: 2016/10/02(日) 16:04:37.86 ID:HzwU7Vyk0
穂乃果は馬場隊の撤退を見届ける事なく直ぐに倒れている海未の元へ
そこでは既に東條希が応急手当を施している所であった
「海未ちゃん!!」
「しっかりして!目を開けてよ!!」
興奮状態の穂乃果を希が制する
「穂乃果ちゃん!大丈夫だから!」
「海未ちゃんは生きてる!だから落ち着いて!!」
「でも!私の所為で!海未ちゃんが…こんなに…」
そこまで言うと穂乃果は、そのままその場に泣き崩れる
「ごめんなさい…ごめんなさい海未ちゃん…」
316: 2016/10/02(日) 16:06:03.88 ID:HzwU7Vyk0
その姿を見た希は穂乃果を抱きしめ優しく声を掛ける
「大丈夫、大丈夫だよ、絶対助けてあげるから」
穂乃果は泣きじゃくりながら、頷く
そして希はこう続けた
「ウチらの大切な友達にこんなに事してくれて、タダでは済まされへんな」
「直ぐに仕返ししてあげるわ」
「倍じゃ済まんよ、百倍返しや!!」
317: 2016/10/02(日) 16:07:28.61 ID:HzwU7Vyk0
馬場隊は総崩れ一歩手前の状況に置かれながらも何とか城の見える所までたどり着く
「ここは高台の城、入口さえ封鎖すれば容易くは落とされん!」
やっとの思いで城門にたどり着いた瞬間
「砲撃始めー!!!」
大地轟き、地も裂けんばかりの爆発音が戦場に響き渡り
戦場の全てが動きを止める
318: 2016/10/02(日) 16:08:45.05 ID:HzwU7Vyk0
その数秒後
「城が?!」
「なんだこれは?!雷か?」
小田井城の建屋が音を立てて崩れ落ちて行く
これを見てさらに混乱を深める馬場隊
さらに追い討ちをかける様に再度声が聞こえる
「第二射!撃てーー!!」
再び轟音が響き、大音響と共に城門が崩壊する
319: 2016/10/02(日) 16:09:38.04 ID:HzwU7Vyk0
「な、何が起こっているのだ…?」
「この音の正体は一体?」
信春が周囲を見渡すと、遥か数里先であろうか?
布陣する集団が見える
そしてその集団の先頭に見えるのは
「大筒!奴らこんなもんまで!」
320: 2016/10/02(日) 16:11:02.06 ID:HzwU7Vyk0
「ピャァァァァ!!すごい音だよぉ!!」
砲兵隊を率いる将、小泉花陽は想像以上の爆音に目を回していた
「ことりちゃんに言われて持ってきたけどこんなに凄いとは…」
その隣では花陽の親友、星空凛も同じ様に目を回していた
「にゃぁー…凄い音だにゃー…」
「ド派手だけど少し離れて見てたいよ〜」
二人して目をクルクルと回している中、物見が二人に報告する
「敵城門、破壊に成功しました!」
「また、敵は大筒の威力に怯み、混乱しております」
321: 2016/10/02(日) 16:12:24.59 ID:HzwU7Vyk0
凛はこの報告を聞くや否や、今迄目を回していたのが嘘の様に目を輝かせ
「よし!一気に城に踏み込むよ!」
「かよちん!凛達が途中まで走ったらもう一発打ち噛まして!」
「うん!気をつけてね、凛ちゃん!」
笑顔で送り出してくれる最愛の友に、凛も最高の笑顔でこたえる
「行ってくるよ!」
「さぁ!駆けろ!流星隊!!」
322: 2016/10/02(日) 16:17:06.13 ID:HzwU7Vyk0
ここは…夢?
あそこにいるのは…
ほ、ほのかぁー!
まってください!
うみちゃん!はやくおいでよ!
もっとたのしいことがいっぱいあるよ!
まって!
そんなにはやくはしれません!
ほのか?
どこですか!
わたしをひとりにしないでください!!
ふぇぇぇん
こわいです!
ひとりはいやです!
ほのか!ほのかぁー!!
323: 2016/10/02(日) 16:18:11.52 ID:HzwU7Vyk0
これは昔の私?
暗い暗いどこかで私は泣いていた
小さい頃は気が弱くて、泣き虫で、いつもあの子に助けられていましたね
いや、今も変わりありませんか
私はあの子に助けられてばかり
あの子がいないと何も出来ない、弱虫のまま
そんな優しいあの子の心を壊してまで自分の欲望を果たそうとした私
このままこの暗いどこかで永遠に一人泣き続けるのがお似合いです
324: 2016/10/02(日) 16:19:39.54 ID:HzwU7Vyk0
ふぇぇぇん!
ほのかぁー!ほのかぁー!!
私はここだよ
ほのか?
どこですか?くらくてなにもわからないです!
「ここにいるよ!海未ちゃん!」
いきなり抱きしめられる感覚
この暖かさ
この安心感
そう、これは…
325: 2016/10/02(日) 16:20:25.32 ID:HzwU7Vyk0
「穂乃果!!」
326: 2016/10/02(日) 16:21:43.29 ID:HzwU7Vyk0
私はその愛する人の名を声に出す
その瞬間暗く閉ざされていたその場所が真っ白な光に包まれ、大地と、空が目の前に現れる
そしてそこには街並みが見え、いつの間にか自分を飲み込んでいく
その街並みは…
「ここは…音ノ木坂…?」
「そうだよ、海未ちゃん!」
「私達が帰る場所だよ」
327: 2016/10/02(日) 16:22:47.79 ID:HzwU7Vyk0
海未が目を開くとそこには見慣れぬ空の色
成る程これが地獄の空の色かなどと考えているうちに徐々に頭が冴えてくる
どうやら地獄の空と思っていたのはただの天井の様だ
そしてとにかく身体のあちこちが痛く重い
あまり覚えていないが殴られ蹴られ、更には矢の雨が降ってきた様な気がする
よくもまぁ生きていたものだ
328: 2016/10/02(日) 16:24:05.49 ID:HzwU7Vyk0
…逆に生きていなかった方が良かったかも知れない
あの子に会わせる顔がない
これから私は何を生き甲斐としていけば良いのか
幸か不幸か今は夜中の様だ
このまま人目のつかぬところで…
最後に穂乃果に文を認めよう
あの様なくだらない呪縛から解き放ち、再び皆を照らす太陽となってもらわねば
329: 2016/10/02(日) 16:25:25.96 ID:HzwU7Vyk0
海未はそう思い立つと重い身体を起こそうとする
しかしまるで誰かに押さえつけられているかの様で身体を起こすことができない
情けない
しかし穂乃果にこれ以上の苦しみを与えるわけにはいかない
海未は何とか起き上がろうと身体の隅々まで神経を巡らす
まず胸から肩にかけての痛みが大きい
そして足、特に太ももの辺りは何かに挟み込まれている様な感覚さえある
その二箇所では熱を持っているのか暖かさを感じる
更に耳元では誰かの寝息が聞こえる…
330: 2016/10/02(日) 16:26:18.93 ID:HzwU7Vyk0
「えっ?」
痛む首を動かし寝息のする方へ振り向くと、よく見知った顔が見えた
「ほ、穂乃果?」
331: 2016/10/02(日) 16:28:54.44 ID:HzwU7Vyk0
海未の隣には穂乃果が寄り添う様にして眠っていた
泣いていたのだろうか?目元には涙の跡が見える
そこまで来て海未はようやく自分の身体の痛みの原因を知る事となる
穂乃果は完全に海未を抱きかかえる様にして眠っていた
ご丁寧に足まで完全に挟み込まれている
まるで海未が遠くに逃げぬ様にしているかのように
海未は、この状況で僥倖と思える自分の愚かさを呪いたいと思いつつも、愛する人に抱きしめられている事実と目の前にある可愛らしい寝顔に一瞬『据膳』という言葉がよぎるが…
「はっ!私は一体何を!?」
何とか理性を取り戻し、現実と向き合う
332: 2016/10/02(日) 16:29:59.53 ID:HzwU7Vyk0
この状況では逃げる事は叶わぬ様である
辛いが直接謝罪するしかないようだ
生き地獄とはこの事か
しかし己の罪を考えれば当然の報い
海未は意を決して穂乃果に語りかける
333: 2016/10/02(日) 16:31:05.96 ID:HzwU7Vyk0
「穂乃果…穂乃果、起きてください」
海未が声をかけると
「ん、うみちゃ…?!海未ちゃん!!」
穂乃果は驚いたように身を丸くするがすぐにその目は涙で溢れかえる
「良かった…!良かったよぉ〜〜!」
「もう目を覚まさないのかと思って…私…私!!」
そう言うと感極まったのか力の限り抱きしめる
大怪我をしている海未を……
334: 2016/10/02(日) 16:32:18.76 ID:HzwU7Vyk0
「い!いたたたた!!痛い!痛いです穂乃果!!」
「ちょっ!そこは!いーたい!!あーーーっ!!!」
残念ながら穂乃果にはこの叫び声は届かぬようで、抱き締める力を更に強くする
愛する人に抱きしめられても嬉しくない時がある事を海未が知った時、幸いにも侍従の者がこの騒ぎに気がついた様で
「う、海未ちゃん殿!!」
「海未ちゃん殿が!奥方様お目覚め!!」
「急ぎ医者と真姫ちゃん殿を呼べ!!」
「みゅうずの方々にも急ぎ使いを寄越せ!大至急だ!!」
かくしてμ’sの面々が屋敷に集合する事となった
335: 2016/10/02(日) 16:38:40.18 ID:HzwU7Vyk0
「海未、目が覚めたって聞いたけど…」
「凄い痛がってて、見てられないよぉ」
「頑張りなさい!私達が付いてるから!」
集合したμ’sの面々は未だ布団の上でうんうんと苦しそうなうめき声をあげる海未を見て、次々と励ましの声を掛ける
336: 2016/10/02(日) 16:39:42.88 ID:HzwU7Vyk0
そんな中、部屋の隅の方では穂乃果が怒られた犬の様にシュンとして座っていた
「穂乃果ちゃん!穂乃果ちゃんも海未ちゃんに声を掛けてあげて!」
親友のことりに声をかけられるが
「いやぁ、あのお、実はぁ」
どうも歯切れが悪い
ことりが首を傾げていると真姫がやって来て事情を説明する
「ことり、放っておきなさい」
「全く!折角怪我が治りかけてたのに…」
「この『アホのか』が何にも考えずに思いっきり抱き付くもんだから、また悪化しちゃったの!!」
「そこでしばらく反省してなさい!!」
337: 2016/10/02(日) 16:41:21.32 ID:HzwU7Vyk0
ことりは『あはは』と苦笑いしながら困った親友を慰める
「穂乃果ちゃん、良かったね」
「もう一週間、ずっと付きっ切りだったでしょう?」
穂乃果は海未が目覚めるまでの一週間、殆ど寝ずに看病していた
他の者が変わると言っても聞かず、ひたすら手を握り、祈り、声をかけ続けていた
この二日程は容態も安定していたが、それでも彼女は海未の側を離れようとはせず、夜は隣に寄り添い眠っていた
二人の気持ちを知ることりとしては喜ばしくもあったが
「ことりの王子様候補を取られちゃったし、もう少し穂乃果ちゃんには反省しといてもらおうかな?」
やっぱり納得のいかないところもありは少しだけ意地悪をして気を紛らわす事とした
338: 2016/10/02(日) 16:42:32.38 ID:HzwU7Vyk0
翌朝には海未の容態も安定し、皆と言葉を交わす事も出来る様になった
海未は一通り皆と会話をした後
「すみませんが穂乃果と二人で話がしたいのです」
こう言うと、全員が何となく理由がわかった様な表情で頷き、部屋を出て行く
339: 2016/10/02(日) 16:43:26.33 ID:HzwU7Vyk0
なんとも、皆にも私の愚かな所業が気づかれてしまいましたか
これは益々針の筵
本当に生き地獄が始まるんですね
正直本物の地獄の方がずっと気が楽ですが…
身から出た錆
甘んじて受け入れざるを得ませんね
340: 2016/10/02(日) 16:44:04.98 ID:HzwU7Vyk0
二人きりになった部屋で海未は覚悟を決め話を切り出す
「穂乃果、私は穂乃果に謝らねばなりません」
「貴女にとてもひどい事をしてしまいました…」
341: 2016/10/02(日) 16:45:02.78 ID:HzwU7Vyk0
穂乃果は顔を真っ赤にして
「ホントだよ!穂乃果結構怒ってるんだよ!」
「あんなに大勢の前で…初めてだったのに…」
「あの、ちゃんとね、責任取ってもらうからね!」
可愛らしく怒っている
342: 2016/10/02(日) 16:45:47.17 ID:HzwU7Vyk0
そうですね
初めての武田攻め
その第一歩で躓いたのです
でも責任を取れとは…
腹を切るか、生き恥晒して生き続けるか…
どちらにしても辛い選択です
343: 2016/10/02(日) 16:47:05.00 ID:HzwU7Vyk0
「わかりました、貴女の言う通りです」
「園田海未、責任を取らせて頂きます」
344: 2016/10/02(日) 16:47:52.53 ID:HzwU7Vyk0
「///そ、それって…そんな、いきなりすぎるよ」
穂乃果…そんなに狼狽えて…
そうですよね、優しい貴女が切腹を申し付けられるはずありません
最後まで貴女を苦しめる
私は何と最低な人間…いや、畜生にも劣る存在なのでしょう
345: 2016/10/02(日) 16:48:41.62 ID:HzwU7Vyk0
「貴女が言葉にする必要はありません」
「私も同じ気持ちなのですから…」
「///海未ちゃん……」
346: 2016/10/02(日) 16:50:14.42 ID:HzwU7Vyk0
「では、早速ですが白装束を用意して頂けますか?」
「私はこの様な性分です、覚悟が鈍るといけません」
「今すぐ準備をお願いします」
「そ、そんな…私の返事も待たずに強引な……」
「///で、でも、いいよ!///」
穂乃果の許可が出ましたか…
そんなに顔を赤くして…
疲れているのですね
でも大丈夫です
貴女を苦しめる園田海未はもう直ぐ居なくなりますから…
347: 2016/10/02(日) 16:51:09.29 ID:HzwU7Vyk0
「///あの、思いっきり幸せにしてね!」
「///ずっと…ずっと一緒だよ!!」
ん?あれ?
何かがおかしい
海未が状況を把握出来ずにいると
「大好き!海未ちゃん!!」
そう言って穂乃果は、また海未に抱き着き人生二度目の口づけをかわす
348: 2016/10/02(日) 16:52:15.82 ID:HzwU7Vyk0
「ん〜〜!?んん〜〜〜〜!!!」
海未は恥ずかしさと痛みと訳の分からなさで悲鳴を上げたいが口は穂乃果に塞がれたまま
しかし救出は直ぐにやって来た
『おめでとう!!!』
メンバーが一斉に部屋になだれ込んでくる
「ぷはっ!えっ?な?え?」
目を白黒させる海未を他所にメンバー達は次々と祝福の言葉を二人に投げかける
そして次の言葉で海未は三たび意識を失う事となった
『穂乃果(ちゃん)!海未(ちゃん)!』
『結婚おめでとう!!』
349: 2016/10/02(日) 16:53:46.61 ID:HzwU7Vyk0
意識を取り戻した海未は希に事の顛末を全て聞いた
350: 2016/10/02(日) 16:55:03.34 ID:HzwU7Vyk0
戦はあの後、音ノ木が小田井城を落として勝利した
馬場信春と真田昌幸は退却
その際、絵里はかの有名な真田信繁と壮絶な一騎討ちを演じた
決着はつかなかったが、日ノ本一の兵と互角な勝負をするスクールアイドルというのも如何なものかと海未は思ったがあえて口にはしなかった
351: 2016/10/02(日) 16:56:35.38 ID:HzwU7Vyk0
その絵里達は何故信濃に来たのかというと、事前にことり元へは国人衆の動向の情報が入っていた
この為ことりが動いたが、忍の力も強大な武田である
他のメンバーには情報が届いたものの、肝心の本隊には武田の偽報が為されていた
出立日時から何から筒抜けの上、ことりの部隊の到着も妨害されていた
何から何まで武田の手の上で踊らされていたという事だ
352: 2016/10/02(日) 16:59:04.96 ID:HzwU7Vyk0
そして最後に海未にとっては致命的な情報が…
「いやぁ、あの子元々講談師希望やってんてー」
「お話スッゴイ上手であっという間に国中で大人気になっちゃってね」
「少しは脚色があると思って聞いてみたら全部本当のことなんだって?」
「海未ちゃん意外と情熱的やね」
「そりゃあれだけ愛されて落ちない女の子なんておらんよ?」
353: 2016/10/02(日) 17:00:12.07 ID:HzwU7Vyk0
海未は思い出した
確かにあの戦場でこう言った
『この戦での一挙手一投足、言動全てを穂乃果へ報告して頂きたい』
その兵士は律儀にもその言いつけを守り、海未が眠っている間に穂乃果や皆の前で、私の告白やらキスのことやら、更には黒歴史確定の発言の全てを赤裸々に語っていた
そしてその類稀なる弁舌で各所で講演を開き、それがまた話題になりを繰り返し、今では国中で知らぬ者はいない程の話となっている
巷では海未には新たな二つ名として「不氏身の鬼神」と「愛の武神」のどちらが良いかで世論が沸騰しているほどである
354: 2016/10/02(日) 17:00:59.20 ID:HzwU7Vyk0
「なるほど私は人前でファーストキスを披露し、情熱的な愛の言葉を大声で叫び続け、プロポーズまで衆目に晒したということですね」
「しかも音ノ木中の人たちがそれを知っていると…」
355: 2016/10/02(日) 17:02:50.07 ID:HzwU7Vyk0
「希…切腹の準備を」
などと海未は宣うが
「穂乃果ちゃんに怒られるで?」
という希の一言であえなく轟沈
356: 2016/10/02(日) 17:03:45.19 ID:HzwU7Vyk0
「うぅっ、やはり太陽に近づく者はその身を焼かれる運命なのですね…」
そう言って項垂れる海未に希は笑顔で
「天国と地獄をいっぺんに味わえるなんて、スピリチュアルやね!」
という心の底から他人事を楽しもうとするありがたいお言葉で慰めるのであった
357: 2016/10/02(日) 17:06:10.22 ID:HzwU7Vyk0
―甲斐国 躑躅ヶ崎館―
「小田井城が落ちて以来、音ノ木には大きな動きはありません」
「だが、我が国は国人衆の発言力が強く日に日に音ノ木支持の動きが強まっておりまする」
躑躅ヶ崎館の広間では武田家臣団が出口の無い議論を繰り返していた
358: 2016/10/02(日) 17:07:04.21 ID:HzwU7Vyk0
『お館様、御成りでこざいます』
軍僧の声に広間に緊張が走る
扉が開く
そこから現れた、威風堂々を体現する様な姿
上座に座るその者の名は
武田信玄
359: 2016/10/02(日) 17:07:52.75 ID:HzwU7Vyk0
信玄は家臣団に告げる
「音ノ木を討つ」
おぉっと言う声が上がる中、一人の家臣が声を上げた
「然しながらお館様、音ノ木の『μ’s』の力、侮りがたいものが御座います」
360: 2016/10/02(日) 17:09:00.50 ID:HzwU7Vyk0
信玄は不敵に笑い
「内藤昌豊ともあろうものが気弱だな」
「如何な強大な堤とて、一穴開けばもろくも崩れる」
「弱き所から徐々に削り取り、崩壊させる」
「そう…弱き所から」
361: 2016/10/02(日) 17:10:17.24 ID:HzwU7Vyk0
遂に武田が本腰を上げる
μ’sの運命はいかに?
そしてこんな予告しちゃって大丈夫なのか?!
1よ!リアルという名のクソゲーに負けるな!!!
続く!はず!!っていうか続け!!!
362: 2016/10/02(日) 17:12:05.31 ID:HzwU7Vyk0
忘れてたよ!
御代田合戦 ~軽井沢の退き口~
完
369: 2016/10/13(木) 21:11:54.43 ID:Me0eiMC50
河越城軍絵巻
370: 2016/10/13(木) 21:12:34.60 ID:Me0eiMC50
小泉花陽は変人である
こう言うと語弊があるかも知れないが、実際そうであるから仕方がない
371: 2016/10/13(木) 21:13:43.33 ID:Me0eiMC50
今、花陽はゲームの世界にいる
舞台は戦国
国取り合戦を題材としたものである
この世界に来た時、システム自体は何故か皆んな知っていたのだが、戦国時代の知識など全員皆無で途方に暮れていた
かの絵里でさえ、当初は混乱しすぎて極度のポンコツ化で場を混乱させていたほどである
372: 2016/10/13(木) 21:15:27.99 ID:Me0eiMC50
この状況を収めたのは実は花陽であった
彼女はアイドルオタクとして知られていたが、実は更に歴女も兼任していた
皆に戦国の何たるかや、時代背景や文化・風俗、更には戦闘について教授したのは全て彼女である
今や『金色夜叉』として名高い絢瀬絵里や、『緋色の孔明』西木野真姫でさえ、彼女の知識の受売りが全ての源であるほどだ
当然、当人達の才覚があったとはいえこれは如何ともしがたい事実である
373: 2016/10/13(木) 21:16:30.96 ID:Me0eiMC50
一般的な考えでいえば彼女が中心となり、集団が形成されるべきであろう
また彼女達は仮にもアイドルである
そしてアイドルであろうとするものは多かれ少なかれ、自己顕示欲というものが存在する
しかし彼女は前面に立つ事を良しとしなかった
いつの間にか穂乃果を先頭に立て、ことりと海未を補佐とした
更に絵里達三年生を中心とする合議制を確立し、自分はいつの間にか隠れるようにして、いつものように身を潜めた
そしていつものように道端に咲く花のように柔らかな笑顔で皆を見守るのであった
374: 2016/10/13(木) 21:17:13.99 ID:Me0eiMC50
余りにも見事な手腕で誰にも気づかれる事なくこの状況を作り出した花陽であったが、ただ一人見抜いている人間がいた
それは幼馴染の星空凛である
375: 2016/10/13(木) 21:18:09.90 ID:Me0eiMC50
凛は花陽の才覚を非常に高く評価しており、友としての情や恋愛感情としての愛を超えた、もはや崇拝に近い感情を持っていた
信者たるものやはり教祖の扱いは気になるもので、常日頃から花陽の地位向上の活動に勤しんでいるのだが、当の本人に発覚すると非常に厳しい罰が下される為、中々思うような結果が出せず、日々悶々と過ごしていた
実はこれも花陽の思惑通りであり、全ては彼女の掌の上でのことなのだが、単純明快な凛はそんなこととはつゆ知らず今日も奔走を続けるのであった
376: 2016/10/13(木) 21:18:52.23 ID:Me0eiMC50
小泉花陽は変人である
この世界の目標が戦による全国統一である以上、当然将たる者には兵士が与えられる
それは奉行衆であろうとも例外はない
377: 2016/10/13(木) 21:19:54.39 ID:Me0eiMC50
当然、彼女にも部隊が存在する
各部隊はそれぞれ各部隊長毎の特徴が色濃く反映されている
例えば星空凛の部隊は、部隊長である凛の性格、特徴を反映し速さと打撃力に特化した騎馬隊として名を馳せている
他のメンバーの部隊も然り
各人の性格や特徴がよく現れた部隊となっている
そして花陽の部隊の特徴はというと、「無」である
378: 2016/10/13(木) 21:20:35.84 ID:Me0eiMC50
そもそも彼女は自ら戦に赴く事はない
恐れや臆病といった理由では無い
実際出陣した戦では与えられた作戦を問題なくこなし、確実に貢献している
しかし、それは与えられた作戦をこなしただけであり、彼女の意思とは別の行動である
本当の彼女の戦というのは誰も見たことが無いのである
379: 2016/10/13(木) 21:21:33.68 ID:Me0eiMC50
そんな彼女が積極的に部隊を動かす時もある
例えばこんな時である
380: 2016/10/13(木) 21:22:37.47 ID:Me0eiMC50
「うぅ〜、すごい音だよぉ真姫ちゃん…怖いにゃ〜」
凛からは何時もの朗らかな笑顔も隠れ、心配そうな顔で隣に座る西木野真姫にすがりつく
真姫は少し青い顔をしながら凛に話しかける
「だ、大丈夫よ!此処は高台だし日本家屋はこういった台風みたいな気象条件を考慮した構造でそうそう何かあるなんてことは…」
此処まで話したところで屋根から何が割れたような大きな音が屋敷内に響き渡る
381: 2016/10/13(木) 21:23:32.97 ID:Me0eiMC50
『キャーーーー!!!!!』
二人は大声を出してお互いの体を抱きしめ合い
「かよちん!早く来てー!!」
「花陽!何してるのよぉ!!」
二人はこんな時一番頼りになる人物の名前を呼ぶ
そう、花陽ならばこの様な事態でもあの笑顔で包み込んでくれるはずなのだ
凛は言わずもがな、真姫もそれを期待して此処にやって来たのだ
382: 2016/10/13(木) 21:24:39.56 ID:Me0eiMC50
此処は花陽の屋敷
季節外れの台風の影響で天候は大荒れ
しかし肝心の家主は不在
屋敷の者に聞いても
「何もなければ直ぐに戻られます」
としか答えない
383: 2016/10/13(木) 21:25:33.05 ID:Me0eiMC50
そんな中二人は薄暗い部屋の中で手を繋いでガタガタ震えていると
「ご出陣!」
「小泉隊!ご出陣であります!!」
俄かに屋敷内が慌ただしくなる
「えっ?!今出陣って…」
「何があったの?こんな中敵襲?」
凛と真姫が慌てて屋敷の小姓を呼び出し事のあらましを聞き出す
384: 2016/10/13(木) 21:26:25.64 ID:Me0eiMC50
「花陽様は河川決壊の恐れが見られた為、全軍率いられて補修に向かわれました」
それを聞いた二人は
「えっ?そんな危ないところに?!」
「凛の言う通りだわ!直ぐに引き返させないと!」
慌てて部屋から飛び出そうとする二人に小姓は両手を広げ制し
「例えお二方と言えども此処はお通し出来ません」
「私が花陽様にお叱りを受けてしまいます」
385: 2016/10/13(木) 21:27:21.19 ID:Me0eiMC50
「でも洪水なんてなったらかよちんも危ないよ!」
「そうよ!今なら間に合うわ!」
小姓を押しのけ玄関に向かう二人に対し
「畏れながら!!」
震える声で続けた
386: 2016/10/13(木) 21:28:20.27 ID:Me0eiMC50
「河川の付近には村があり人が多く住んでおります」
「また、その人々の命となる田畑もあり、洪水となれば忽ちにその全てを飲み込んでしまいます」
「どちらを失っても民にとっては氏も同然」
「花陽様はその様な民を守るために命をおかけになるのです!」
「そのお覚悟、例え高坂九将のお二方とは言え邪魔立てはさせません!」
「どうしてもと言うのならば、私めをお切りになってお通りくださいませ!!」
387: 2016/10/13(木) 21:29:11.36 ID:Me0eiMC50
顔を伏せ体を強張らせながら必氏で二人を止めようとする小姓
そんな必氏の小さな侍に、凛と真姫は優しく声をかける
「そんな理由だったら、邪魔なんてしないわよ」
「ただ凛達はかよちんの事も心配なんだ」
「だから手伝いに行かせて欲しいな?」
388: 2016/10/13(木) 21:29:53.87 ID:Me0eiMC50
二人は僅かな共を連れ急ぎ花陽が向かった川へ
激しい風雨の中やっとの事で現場にたどり着くと、ずぶ濡れの姿で陣頭指揮をする花陽がいた
389: 2016/10/13(木) 21:30:58.19 ID:Me0eiMC50
「あれ?二人とも!危ないよ?!」
何だか的外れなお出迎えをされると
「危ないのはかよちんだよ!」
御冠の凛に続き
「本当よ!連絡してくれれば幾らでも手伝うのに!」
真姫も強い口調で不満を口にする
「ご、ごめんね、なんか心配かけちゃったみたいで…」
「でももう大丈夫だから」
花陽が指差す先は土嚢が積まれ所々に杭で補強された堤防がみえる
「この短時間で?」
「凄いにゃー!建設会社の人みたい!」
390: 2016/10/13(木) 21:31:48.00 ID:Me0eiMC50
凛と真姫が驚くほどの工事を驚くほどの短時間で施行する技術と知識
それは間違いなく花陽の能力である
しかしさも当然のごとく任務を遂行し
「体が冷えちゃうよ?帰ってお味噌汁とおにぎりを食べよう!」
にこにこと笑って全員に帰投を命じる姿は皆が知っている花陽の姿であった
391: 2016/10/13(木) 21:33:06.67 ID:Me0eiMC50
この様に小泉花陽の行動原理はあくまでも他人に依存されている
我が無い訳では無い
しかしその考えは余人の思う所と離れている様でその行動を読む事は難しい
しかし皆が知っている事もある
それは彼女は食事をする時
特に皆で食卓を囲んだ時の笑顔は最高に魅力的なのだ
392: 2016/10/13(木) 21:34:00.74 ID:Me0eiMC50
この様な性分の為、領民には大変人気が高い
搾取される事が常である民にとって、共にあろうとする支配者は非常に奇異な物に映った
また、音ノ木の特徴として『四公六民』と言う税率が挙げられるが、これは花陽の提案で導入されたものである
この政策を支えるのはことりが司る商業政策との連携があってのことなのだが、その連携の元を構築したのも花陽である
393: 2016/10/13(木) 21:34:49.93 ID:Me0eiMC50
音ノ木は領民に寛容であると言う話は瞬く間に広がり、村ごと寝返ってくるという事すらあった
戦わずして国土拡大を成し遂げるのである
周辺諸国には脅威でしかない
394: 2016/10/13(木) 21:35:43.63 ID:Me0eiMC50
この国土の充実は戦闘の継続に直結し、音ノ木の戦闘力にも大きく貢献していた
兵站の充実こそ国の強さ
しかし目立たぬ立場でもある
μ’sは戦闘もかなり派手であり、そちらが注目され、小泉花陽の存在は忘れられる事も多い
彼女は常に目立たぬ路傍の花なのだ
そしてその事こそが音ノ木の強さの秘密でもあった
395: 2016/10/13(木) 21:36:52.56 ID:Me0eiMC50
国家の命運を握っているといっても過言ではない彼女だが、本人はのほほんと農民の田植えや野良作業の手伝いなどをしては作物を分けてもらい、皆と共に飛びっきりの笑顔でそれを食している
やはり彼女は変人である
396: 2016/10/13(木) 21:37:59.00 ID:Me0eiMC50
小泉花陽は変人である
先程も述べた様に変人であるが故に民衆の支持は絶大である
彼女はよく視察と称して農村をうろついているのだが、彼女を見かけると老若男女問わず皆が笑顔で話しかけてくる
「花奉行様!またお歌聴かせてよ!」
「うん、いいよ!」
「花奉行様、今年もうちの村祭りが近いです、是非いらして下さいね」
「楽しみだね!遊びに来るよ」
「花奉行!芋が煮えたから食べていきなさいな」
「ジュルリ…ありがたく頂いちゃおうかな?」
こんな感じである
ちなみに花奉行というのは子供達がつけた名で、本人もなんとなく気に入っている為、皆そう呼ぶ様になったものである
397: 2016/10/13(木) 21:39:23.29 ID:Me0eiMC50
そんな花陽の愛する農村も稲刈りが終わり冬支度となる
そしてその季節は戦の季節でもある
今年も花陽の指示の元、各地へ兵糧米が運搬されていく
そして各村々の男衆も戦場前線へ向かっていく
と言っても音ノ木は基本的には常備兵の軍隊
男衆はというと後方支援の仕事、所謂出稼ぎとして遠征している
このため、前線から離れた農村部ではこの時期は女子供や老人達が住民の大半を占めている
各城には当然兵士も常駐しているが決して多いとは言えない数である
これもひとえに国政の安定がもたらす音ノ木の特徴である
398: 2016/10/13(木) 21:40:17.34 ID:Me0eiMC50
μ’sの面々も其々の戦地へ散って行く
花陽の親友、星空凛もその一人である
「ううっ…かよちん、凛頑張って来るからね」
何やら捨て猫を彷彿とさせる様な佇まいで花陽邸を訪れる凛に花陽はいつもの笑顔で
「うん!凛ちゃんすごいから、絶対勝てるよ!」
と語りかける
399: 2016/10/13(木) 21:41:34.77 ID:Me0eiMC50
すると凛は元気が出たのか笑顔に戻り
「ありがとう!じゃあ行ってきますのチューを…」
「///ピャーッ!り、凛ちゃん?!だ、ダメだよ!そういうのはもう少しオトナになってから!!」
突然の求愛に慌てふためく花陽
「えーっ?!絵里ちゃんと希ちゃんもやってるのに!」
不満気な凛に対し
「あの二人はオトナだし結婚してるからいいの!」
花陽は顔を真っ赤にして言い繕う
400: 2016/10/13(木) 21:42:24.28 ID:Me0eiMC50
「じゃあ凛がもっとオトナになったらかよちん結婚してね?約束だよ!」
本人が何処まで分かっているのか不明だが何故か突然プロポーズされた彼女は
「///あ、あの、その、り、凛ちゃんが良かったらその時ちゃんと返事するね……」
混乱のままこんな事を口走る
「やったー!よーし凛頑張って来るにゃー!!」
「じゃあね!かよちん!行ってきまーす!!」
元気一杯という言葉を体現するかの様に弾ける様な笑顔でちぎれんばかりに手を振り屋敷を飛び出す凛に
「うん!行ってらっしゃい!」
いつもの優しい笑顔で見送る花陽であった
401: 2016/10/13(木) 21:43:11.43 ID:Me0eiMC50
そんな微笑ましい光景の陰で彼女に近づく過酷な運命
現在の彼女の居城、河越城に暗雲立ち込める
402: 2016/10/13(木) 21:43:58.79 ID:Me0eiMC50
それから数週間後
秋も深まり朝晩の寒さが身に染みる様な時期となった
そんなある日の事
403: 2016/10/13(木) 21:45:11.50 ID:Me0eiMC50
「敵襲!入間砦が敵に攻撃され陥落しました!!」
突然の報告に城内は騒然となる
「何者だ?!」
「入間とは…まさか、謀反か?」
そこへ再び伝令が飛び込んで来る
「敵は…武田です!」
「武田菱の旗印!」
「敵軍大将は内藤昌豊!!」
この報告で喧騒は更に深まる
そこへ騒ぎを聞きつけた花陽が到着
情報の整理を始める
404: 2016/10/13(木) 21:48:42.20 ID:Me0eiMC50
「敵の数は何人くらいかな?」
「物見の報告では、およそ一万!」
「勢い凄まじくお味方の砦は成すすべなく陥落しております!」
「目標地点はここ河越だよね?」
「は、はい、おっしゃる通りでございます」
「敵の部隊構成はどう?」
「騎馬五分、足軽五分、火器の使用は見られず不明です」
「武田っぽいね、なるほど」
花陽は微笑みを絶やす事なく「よっこらしょ」と上座に座る
「さて、それでは現在の状況とこれからの作戦を伝えます」
405: 2016/10/13(木) 21:49:34.11 ID:Me0eiMC50
喧騒に包まれていた広間はいつの間にか落ち着きを取り戻し、皆花陽の声に耳を傾ける
「武田方の目的は私、小泉花陽」
「μ’sの中で一番弱い所を狙い音ノ木の崩壊を目論んでいるんだろうね」
花陽のこの言葉に広間は再び色めき立つ
「花陽殿が弱いとな!」
「何たる無礼!我らがかよちん殿に対して…怒りで震え申す!」
406: 2016/10/13(木) 21:50:21.89 ID:Me0eiMC50
「まぁまぁ、みんな落ち着こうね」
「物事を主観的に捉えると見えるものも見えなくなるよ?」
この言葉で広間に静けさがもどる
「続けるね、世間一般的な見方ではやっぱり軍功の少ない私やことりちゃんは組し易しと見られちゃうんだよ」
「実際槍働は苦手だしね」
407: 2016/10/13(木) 21:51:17.66 ID:Me0eiMC50
「ことりちゃんは国内の移動が多いから居場所の特定が難しい」
「私はこの時期は各所への兵糧米の分配の指揮があるからほぼこの河越城にいる」
「武田の忍の力量は、希ちゃんの月夜衆も苦労してるくらいだからこの程度の情報は当然掴んでいるはず」
「だから此処に攻めてきたんだ」
408: 2016/10/13(木) 21:52:37.23 ID:Me0eiMC50
「しかし此処は国境から離れております」
「何故突如として近辺に敵が出没したのでしょう?」
家臣からの質問に花陽は少し考えてから
「恐らく北条方の誰かさんが内応か寝返りしたのかな?」
「そして背後にはもっと大きな力を感じる」
「多分総兵数の半分が河越攻め、残り半数が援軍を阻止するための部隊だね」
「お見事、私達は完全に包囲されて進むも引くも出来ない状態です」
409: 2016/10/13(木) 21:54:03.34 ID:Me0eiMC50
「では、我々は一体どうすれば…」
動揺する家臣達
その家臣達の前で花陽は、彼女にとっては珍しく大きな声、そして大仰な振り付けで宣言する
410: 2016/10/13(木) 21:55:06.24 ID:Me0eiMC50
「敵の目的が私ならばお相手いたします」
「此処は名城河越、かの太田道灌が作りし城」
「武田の皆様方にはこの城の素晴らしさ、たっぷりと味わって頂きましょう」
411: 2016/10/13(木) 21:55:51.45 ID:Me0eiMC50
小泉花陽は変人である
豊富な知識を持ち、他人に愛され、冷静に判断を下す
だが、自分に自信が持てない為、常に人の後ろに隠れる事を好む
その為μ’sの中では目立たず後塵を拝している様にも見える
しかし彼女は何かを守る為ならば命を惜しまない
412: 2016/10/13(木) 21:56:37.44 ID:Me0eiMC50
その時の小泉花陽は『最強』である
413: 2016/10/13(木) 22:04:53.74 ID:Me0eiMC50
花陽の居城、河越城に迫るは武田四天王の一人「内藤昌豊」
音ノ木、そしてμ’sを守るため彼女は戦うことを決意する
次回、ついに小泉花陽の戦いが幕を開ける
そして例のファイナル的なBDで魂の全てを持っていかれた1の気力は持つのか?
続く…のか?いや続くよ?マジで!
414: 2016/10/13(木) 23:12:52.61 ID:PSKdDSrVo
乙、続き楽しみ、待ってます
415: 2016/10/16(日) 00:57:46.77 ID:JgoumOIhO
更新きてた
続かないとかないから(威圧)
続かないとかないから(威圧)
416: 2016/10/16(日) 13:50:53.37 ID:0Y+HE7w7O
かよちん回ktkr
554: 2016/11/21(月) 22:05:34.92 ID:kpsz06kO0
引用元: 穂乃果「戦国μ's」
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