1: 2015/08/10(月) 11:25:16.09 ID:dZXGURXQO
・五十嵐響子ちゃんのSSです。

・地の文付きのものなので、ご了承下さい。


アイドルマスター シンデレラガールズ 五十嵐響子 ラブレターVer. 1/8スケール PVC&ABS製塗装済み完成品

2: 2015/08/10(月) 11:25:56.66 ID:dZXGURXQO
 ギラギラと照り付ける太陽。暦は八月。
 一人の少女がマイクを片手にステージの上に立っていた。
「みなさーん! 今日から『しゃんしゃん祭り』が始まりますよ! 司会は私、五十嵐響子が担当しますね!」
 と、ステージ下の観客へ笑顔を振りまく。ステージ下の観客は老若男女と様々な人物がちらほらおり、地域上げてのお祭りである事を象徴するかのように彼女のいるステージと少し距離を置いた場所には露店が数多く陳列していた。
「それではまず、最初のコーナーから参りましょう!」



 ことは数週間前に遡る。
 五十嵐響子を擁する関東の超大手会社である346プロへとある地域から一つの仕事の依頼が舞い込んできた。
 それが『しゃんしゃん祭り』の司会。毎年八月のお盆の時期に合わせて行われる鳥取県東部を中心とした伝統行事だ。元々、雨乞いのお祭りであったとのことである。346プロには丁度鳥取県出身のアイドルがいたので、これを機会に地方営業とはいえ、地元の人間に顔を覚えてもらい今後のセールスに利用しようと考えた上層部はこの仕事に五十嵐響子を指名した。
 勿論、地方へ行く仕事の都合上、彼女の担当プロデューサーも同伴する形と相成ったのである。
 しかし、ある意味想像以上だったのは照り付ける太陽と高い気温だ。
「響子、鳥取ってこんなに暑かったのか?」
「アハハ……そうですね、鳥取はここ数年ずっと三十度を下回らない日がないくらいですよ。この季節は」
「にしても異常だろうよ。確か五月には三十度超えだすって聞いたけどさ」
 これは想像以上だわ、とプロデューサーは手ぬぐいで汗をぬぐった。
「ところで響子はしゃんしゃん祭りって行った事あるのか?」
「え? まぁ一応はありますね。とは行っても、花火大会とかは家で見られるって事で行った事はないんですけどね」
「あぁ、確か最終日に打ち上げ花火あげるんだってな。響子の仕事はそれまでのイベントの司会。炎天下で大変かもしれないけど頑張っていこうな」
「プロデューサーさん、熱中症にならないように気をつけてくださいね!」
「それはこっちの台詞ですー」
 と、互いに冗談を言い合う余裕はあった。

3: 2015/08/10(月) 11:26:44.36 ID:dZXGURXQO


 しゃんしゃん祭りは恐ろしいほど順調に進んだ。
一日目はオープニングパレードを中心とした伝統文化を重んじたものを中心に。
二日目はしゃんしゃん祭りで使われる傘を利用した傘踊りのうまい人を決める大会。
三日目は歌のパフォーマンスや書道のパフォーマンスが。
四日目はお笑い芸人を招いてのコントなど。
 と、入れ替わり立ち代り激しいながらも響子は順調にイベントの司会をやり遂げていった。
 ところどころ危ういところこそあったが、なんとか乗り切り、運営スタッフからも高評価を得ていたのである。
「お疲れさま、響子」
「はい! お疲れ様です!」
 と、四日目のスケジュールを全て完遂し、控え室でゆっくりしていたころ。
「プロデューサーさん、ちょっといいですか?」
「はい?」
 と、声をかけてきたのは運営スタッフである。
 普段ならもう少し遅いはずだと思い、何か妙な気配がした。控え室から出てきたところで本題に入る。
「で、何かありましたか?」
「えぇ、実は……」
 なんでも明日のステージで歌う予定だったはずの人物の体調が急変、明日立てなくなってしまったとのことである。
 しかし、前日になって突然の事態。つまり、約数分空き時間ができた事になる。
「数分ならばトークで埋め合わせすればなんとかなりますよね」
「いえ、それが……よりにもよって」
「まさか」
「えぇ、そのまさかです」
 最後のトリを飾る、いわば祭りが一番力を入れて招致した歌手だった。
 様々な曲を歌ってくれるというので、運営側もその人物の時間を少し多めに取っているくらいだ。ほんの数分どころでは済まない。
 トークで埋め合わせを重ねたとしても限界があった。空き時間から鑑みても他の時間を調節するわけにはいかない。
「……少しアイディアがあるのですが」
 プロデューサーは一つの『提案』をひねり出す。勿論、それは当初の予定には一切ないイレギュラーにも程がある内容だった。

4: 2015/08/10(月) 11:27:12.80 ID:dZXGURXQO


「え? 歌って欲しい……ですか?」
「あぁ。事情はさっき説明した通りで、時間をうまく調整できても限界があるという判断にスタッフも達している。響子、できるか?」
「で、でも曲とかの準備は」
「それはこっちでなんとかできる。運がよかったよ、この時間ならすぐに掛け合えば曲音源くらいは準備できそうだ。……衣装は間に合わないだろうが……」
「そう……ですか」
 返事をする響子にはいつもの元気のよさがない。無理もない話だ。最終日前日の夜にいきなりステージで歌って欲しいというのだ。しかも、ギリギリまで時間を埋め合わせて歌わせる以上、その日は今までと比べるとハードになる事は間違いない。
 ただでさえ炎天下の中頑張っている本人に更なる追い討ちをかけたようなものだ。しかし、
「やらせてください」
「……いいのか」
「はい。私、やってみたいんです」
 響子の目は真っ直ぐに。プロデューサーを見つめていた。
 決意を帯びた目。先ほどまでの気弱な彼女はどこにもいない。かといって明るく、元気という事でもない。まるで――挑戦してみたいという向上心を強くもったような、そんな強い気迫すら感じさせる。
「この前のステージ、覚えてます?」
「あぁ、沙紀と一緒に立ったあの時か」
「はい。私、沙紀さんのおかげでようやく『アイドル』ってものがなんなのか。分かってきたような気がしてきたんです」
 響子は続ける。
「今まで、プロデューサーさんのためにって思ってやってきたけど、あれは違うんだって。確かに私が頑張れば、プロデューサーさんが喜んでくれるし、褒めてくれる。でも、そうじゃないんですよね。私はアイドルだから……ファンの皆さんと一緒にって」
 この前――ようやく、それに気付けたような気がするんです。と口にする。
「私、やってみたいです。この前のようにうまくいくかは分かりません。でも、あの時のような今までに感じたことのない『何か』を私は探しに行きたい。やってみたいです――いいえ、ぜひやらせてください!」
 プロデューサーはその言葉に首を静かに頷かせた。
 それは了解の合図。
 かくして、しゃんしゃん祭り最終日のパフォーマンスに五十嵐響子単独ライブが追加される。
 彼女にとって本当の意味での初めてのソロライブだ――。

5: 2015/08/10(月) 11:27:44.87 ID:dZXGURXQO


 最終日も思いの他、順調に進んだ。
 響子は満足のいくリハも出来ぬままではあったが、それを一切表に出す事もなく、進行を進めていく。
「さあ、次はなんと境港からお越しいただいた――」
 刻一刻。彼女のソロライブの瞬間が迫る。
 最早決断した事だ。時計の針は待ってくれない。秒針は一切の情け容赦なくその針を進めていき、分針はじわりじわりと、時針はカウントダウンを告げるかのように止まらない。
 そして遂にその時がやってきた。
「はい! という事でありがとうございました!」
 ステージを後にするパフォーマー。
 本来、次は違う人物が歌い出す予定。しかし、そこには空席が出来た。既にスタッフ達の事前準備により、五十嵐響子が歌うという事は伝えられている。
 しかし、観客達は動揺しているはずだ。当然だろう、元々五十嵐響子が歌い出すなんてプログラムはない。
 致し方ないと思った。
 しかし、彼女はアイドル。いついかなる時でも観客を魅了し、羨望の眼差しを集める者。
 ステージ下の観客達の様子など関係はない。
 ただ彼女が出来るのは彼女自身の全力を以て、観客を魅了していく事のみ。
「では次の方ですが……って私じゃないですか!」
 と、観客を和ませようと響子がトークを展開していく。このしゃんしゃん祭りの思い出を彼女は語りだした。
 それは響子なりに、ステージ下の観客との溝を少しでも埋めようとする行動で、パフォーマーなら誰だってしていくアクションの一つ。
 徐々に観客達もそうだったといわんばかりの顔色に変わって行く。表情も自然と綻んでいた。
「それでは――鳥取県出身! 346プロダクション所属、五十嵐響子です! 私の史上初のソロステージを皆さん、楽しんで行って下さいね!!」
 そして彼女のステージが始まった。

「皆さん、ありがとうございます!」
 予定曲を無事に歌いきり、観客のボルテージは一気に最高潮だ。言うまでもなく、大成功である。
 観客の声援を後に、響子はステージ袖へ移動した。
「響子、まずはお疲れ様」
「はい! ありがとうございます!」
 汗だくではあるが、満面の笑みを浮かべる響子。とても充実していた時間だったのが一瞬で理解できた。
「どうだ? 自分の言っていた『何か』を見つけられたか?」
「まだ分かりません。でも、とても楽しかったです! ファンの皆さんと一緒にこんなに楽しいステージを送る事が出来て、とても嬉しいです!!」
「それならよかったよ」
 アンコール! アンコール!
 そんな声がステージ下から聞こえた。しかも、その声は段々と高まってきている。
 今までのアーティスト、パフォーマーにここまでの声援はなかった。
 プロデューサーの手が優しく、響子の肩に触れる。
「行ってこい、響子」
「プロデューサーさん」
「ファンの皆が待ってるぞ? アイドルがアンコールに応えなくてどうする。それに――あの光り輝くステージで見つけるんだろ? 自分自身が探している『何か』を」
「……はい!」
 その元気な声と共に響子は再び駆け出して行く。
 ステージからはかつてないほどに元気な響子の声と、ファンの歓声がステージ脇にも聞こえた。

6: 2015/08/10(月) 11:28:10.77 ID:dZXGURXQO


 多少のアクシデントが途中に挟まれてしまったものの、無事に響子とプロデューサーは仕事を完遂した。言うでもなく、突発的な事態に対処できた事に対して運営スタッフからは多大な感謝の言葉が並べられ、共にうまくいっただけですよという言葉が自然と漏れていた。
 そして今。
「しかし響子。祭りで頑張ったご褒美が欲しいって」
「いいですよね? プロデューサーさん!」
「まぁ、無理のない程度に頼むよ」
 と、祭りの興奮冷めあがらぬまま、響子はプロデューサーと共にとある場所へと向かっていた。彼女が祭りの全日程終了後、突然の事態に対処できたご褒美が欲しいとねだったからだ。
 まぁ、とても頑張っていたしいいかとプロデューサーはそれを快諾したものの、肝心の目的地は告げられずのままである。
 そして時は進み、時刻は夜の八時前。何がしたいのだろうかと勘繰っていた。連れ出した当人である響子は先ほどから誰かと電話をずっと続けている。
「うん……あ、じゃあ行くね。うん、ありがとう」
 と、ようやく響子が電話を打ち切った。
「長電話お疲れ様。で、これからどうするんだ?」
「プロデューサーさんにちょっと見せたいものがあって。ついてきてもらっていいですか?」
「見せたいもの?」
 と、響子が歩き出したのでプロデューサーも続くように足を進めだす。少し歩くと、一軒家に辿り着いた。
「え、まさか響子。見せたいものって」
「え!? いや、まだお父さんとかお母さんに挨拶するわけじゃないですよ!?」
「やっぱり実家じゃないか! え、見せたいものって実家だったの!?」
「い、いえ違います! えーと、違わないというか……と、とりあえずついてきてもらっていいですか?」
 一応、家の中には入らないので。と響子は続けた。
 実家に連れて来て、わざわざ家に入らないというのはどういう事なのだろうか。響子の後に続くとその理由も頷けた。
  庭に梯子が取り付けてあったのだ。行き先は家の屋上――屋根上である。
「響子、こんなところに連れて来て何が」
「あ、プロデューサーさん始まりますよ!」
「えっ」
 瞬間、暗闇に突然光が差し込んできた。光と共に響く爆音。
 そう、花火である。
「……そうか、響子。見せたかったものって」
 この花火だったのか。
 しゃんしゃん祭りの最終日の夜には花火大会がある、と以前彼女から聞いていたのをプロデューサーは思い出していた。
「そうです。鳥取に戻ってきて、そしてこの季節なら――一緒に見たかったんです」
「……そっか。気付かなくてごめんな」
「いいんです。プロデューサーさんはちゃんと思い出してくれたから。私、嬉しかったです」
「響子。遅くなったけど、お仕事お疲れ様。それに」
 お誕生日、おめでとう。
 その一言が彼女にとって何よりの報酬だった。
 ファンと一緒にステージを楽しめ、アイドルとして高みを一歩進めれたのは『アイドル』としての五十嵐響子の報酬。
 そして、『一個人』としての五十嵐響子の報酬は、これで何よりも十分。

 今日は八月十五日。しゃんしゃん祭り最終日花火大会の夜。
 五十嵐響子はこの日ようやく自分がまた一つ成長できた事をかみ締めたのであった。
 そして、彼女の日々はこれからも続いていく。

7: 2015/08/10(月) 11:29:05.27 ID:dZXGURXQO
おしまい

五十嵐響子ちゃん誕生日おめでとう!
半日くらい遅れてしまってごめんなさい!><

9: 2015/08/10(月) 12:09:12.20 ID:wu7XRd5eo

響子ちゃんおめでとう

引用元: 響子「私、やってみたいんです」