1: 2017/02/05(日) 00:16:49.19 ID:OcJ3yBbg.net
~部室~

 

鞠莉「という訳で、来週の節分の日、マルのお寺の節分イベントのお手伝いをしマース!!」

曜「幼稚園の子達を豆まきに招待して、私たちが鬼役になるんだよね」

千歌「なんだか楽しそう! よーし、はりきって鬼になるぞー!」

善子「フフフ、トゥインクルスター☆堕天使ヨハネちゃんにお任せよっ!」

果南「ダイヤは、怖い鬼役とかぴったりそうだよね~」

ダイヤ「なっ! どういう意味ですか!!」

ワイワイ

 

善子(でもせっかくなら、本格的で迫真の堕天使役――もとい、鬼役をこなしてみたいわね・・・・・・)

2: 2017/02/05(日) 00:17:42.08 ID:OcJ3yBbg.net
善子「ね、ね、ルビィ」ヒソヒソ

ルビィ「善子ちゃん?」

善子「しっ、静かに。ちょっと、頼みがあるんだけど・・・・・・」ボソボソ

ルビィ「?」

3: 2017/02/05(日) 00:18:45.41 ID:OcJ3yBbg.net
~女子トイレ~

 

ルビィ「ええっ・・・・・・ルビィのおうちに!?」

善子「そう! ルビィの家って、古い旧家だし」

善子「昔のお面・・・・・・能面みたいなやつとか、あるんじゃない?」

ルビィ「確かに、庭の隅のお蔵の中に、そんなのがあったような・・・・・・」

善子「ね、お願い! それ、ヨハネに貸して!」

ルビィ「ええっ!? で、でもぉ・・・・・・」

善子「だって、どうせ鬼役やるなら、本格的にやってみたいじゃない」

善子「それに昔のお面とか、いかにもオカルトチックなアイテムだし!」

4: 2017/02/05(日) 00:20:16.09 ID:OcJ3yBbg.net
ルビィ「そういうのは、花丸ちゃんに相談した方が・・・・・・」

ルビィ「花丸ちゃんのおうちも、お寺だし」

善子「ずら丸って、そういうことにはちょっとうるさそうじゃない」

善子「『古いものを無闇に使ったらバチが当たるずら~!』って感じに」

ルビィ「だ、だけど・・・・・・」

善子「ね、ね、お願いルビィ! ヨハネとリトルデーモン4号の仲でしょ~?」

ルビィ「うゅぅ・・・・・・」

5: 2017/02/05(日) 00:21:14.95 ID:OcJ3yBbg.net
~放課後 黒澤家の蔵~

 

ギィ…

ルビィ「うう・・・・・・やっぱり、勝手に入ったら、怒られるよぉ・・・・・・」

善子「大丈夫、大丈夫。ダイヤさんは生徒会の仕事だし、お父さんとお母さんも、留守なんでしょう?」

善子「お面をひとつ、借りるだけなんだから大丈夫よ」

ルビィ「ううう・・・・・・」

善子(にしても、この蔵の中、すごい埃っぽい・・・・・・もう何年も人が入ってないみたい)

善子(所狭しと、色んなものが仕舞われてるし・・・・・・)

6: 2017/02/05(日) 00:21:49.40 ID:OcJ3yBbg.net
善子「ルビィ、お面はどこにあるの?」

ルビィ「ルビィも、小さい頃にちょっとだけ覗いたことがあるだけだから・・・・・・」

ルビィ「お父さんには、勝手に中に入ったらいけない、って言われてるし」

善子「しょうがない、手分けして探しましょ。ルビィはそっちをお願い」

ルビィ「み、見つけたらすぐ出るからね! 約束だよ!」

善子「分かったわよ」

ガサゴソ

8: 2017/02/05(日) 00:24:15.73 ID:OcJ3yBbg.net
善子(埃っぽい蔵の中を探し始めて、10分ほど経った頃――)

善子「・・・・・・ん?」

善子(私は、蔵の奥の方に、古びた行李があるのを見つけた)

善子(周りの荷物の陰になって、まるで隠されているかのように置かれている行李――)

善子(・・・・・・なんだろう?)

ゴソゴソ…

ズズズ…

善子(引っ張り出すと、意外と軽い)

善子(行李の蓋の上には、変色と虫食いでボロボロになった和紙が貼られていて、)

善子(かろうじて読めた、その和紙に書かれていた文字は――)

 

『鬼 封 面』

 

善子「・・・・・・!」

9: 2017/02/05(日) 00:25:27.24 ID:OcJ3yBbg.net
善子(『きふう、めん』――って読むのかしら?)

善子(でも、『鬼』と『面』ってことは――この中に、鬼のお面が!?)

ググッ…

カパッ

善子「・・・・・・?」

善子(行李を開けると、さらにその中に、古びて黒ずんだ木箱が入っていた)

善子(随分、古そうな木箱だったけど――)

善子(異様だったのは、その木箱に、べたべたと紙が貼られていたこと)

善子(変色して、虫食いだらけだけど――文字みたいなのが書いてある)

善子(これ――お札? お札が、木箱にいくつも貼ってあるの?)

11: 2017/02/05(日) 00:26:36.69 ID:OcJ3yBbg.net
善子(私は――直感した。オカルト雑誌や、心霊番組で、何度も見たことがある)

善子(きっとこの中には、いわくつきの、『ヤバいやつ』が入ってる――!)

善子「」ワクワク…

善子(だけど、不思議と私の中では、怖いという気持ちより、好奇心が勝ってた)

善子(興味はあったけど、今まで本物といえるような、オカルトアイテムは見たことがなかった――)

善子(一体、この中に、何が――?)

ビリリッ…

12: 2017/02/05(日) 00:27:11.13 ID:OcJ3yBbg.net
善子(私は、好奇心に負け)

善子(まるで――何かにとり憑かれたかのように)

善子(木箱の、蓋と箱の継ぎ目に貼り付けられた、お札を剥がして・・・・・・)

カパッ…

善子(箱の中には――ボロボロの布に包まれた、“何か”)

善子(恐る恐る、その布をめくると――)

善子(現れたのは、)

 

善子「・・・・・・・・・!!」

13: 2017/02/05(日) 00:28:23.89 ID:OcJ3yBbg.net
善子(出てきたのは――)

 

善子(“お面”だった)

 

善子(でもそれは、私が想像していた、能の般若の面などとは、似ても似つかない――)

善子(まるで土をこねて、そのまま焼いたかのような、黒ずんだ土面――)

 

ゾゾゾゾッ!!

善子「――!!!」

14: 2017/02/05(日) 00:29:19.66 ID:OcJ3yBbg.net
善子(その面を見た瞬間――激しい悪寒が、私の全身を襲った)

善子(のっぺりとしていて、でもどこか、苦しむように歪んでいて)

善子(目のくぼみ、鼻のふくらみ、歪んだ口元、それらがかろうじて人の顔の面だということを示していた)

善子(口元と鼻に空いた穴、そして、目のくぼみに空いた、ふたつの黒い穴――)

善子(まるで、そのふたつの穴の奥の目と、目が合ったような気がして――)

 

善子「!!!」ゾクッ!!

 

善子(駄目だ――これは、本当にヤバいやつだ!!)

善子(見ちゃ駄目なやつだ!! 見たら駄目だ!!)

善子(駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ――)

15: 2017/02/05(日) 00:30:44.49 ID:OcJ3yBbg.net
ルビィ「善子ちゃん!」

善子「!!」ビクッ!

ルビィ「ね、あっちで見つけたよ! これ、能面っていうのかな? 鬼のお面!」

ルビィ「・・・・・・? 善子ちゃん、そんなところで、どうしたの?」

善子「なっ・・・・・・なんでもないわよ!」

ササッ!

善子(私は、“これ”はルビィにも見せちゃいけないやつだと思って――)

善子(咄嗟に、木箱から取り出したお面を、包んでいた布ごと、傍らに置いていた自分の鞄の中に突っ込んだ)

16: 2017/02/05(日) 00:31:23.35 ID:OcJ3yBbg.net
ルビィ「善子ちゃん、今、何か仕舞った・・・・・・?」

善子「な、なんでもないったら!!」

善子「わ、私・・・・・・なんか、気分悪いから・・・・・・」

善子「も、もう帰るっ! ごめん!」

バッ!

ルビィ「あ、善子ちゃん!?」

17: 2017/02/05(日) 00:33:13.14 ID:OcJ3yBbg.net
~その夜、善子の部屋~

 

善子母「・・・・・・大丈夫? 本当に、ご飯食べなくていいの?」

善子「うん・・・・・・なんか、気分悪いから・・・・・・」

善子「ひとりにさせて・・・・・・」

善子母「あんまり調子が悪いようなら、明日、病院に行きなさいよ」

パタンッ

 

善子「・・・・・・・・・」

18: 2017/02/05(日) 00:33:57.07 ID:OcJ3yBbg.net
善子(私の鞄の中には、あのお面が入ってる・・・・・・)

善子(なんだか、触ることすら怖くて。そのまま、部屋の隅に置いてある)

善子(気のせいかな。お面を入れた鞄から、冷たい冷気みたいなのが、流れてくるような・・・・・・)

 

ゾク…

 

善子(き・・・・・・気のせいよ。あまりに気持ち悪いお面だったから、そんな風に感じるだけよ)

善子(だけど・・・・・・気持ち悪いお面とはいえ、勝手に持ってきちゃった訳だし・・・・・・)

善子(明日、ルビィに謝って、返そう。そうしよう)

善子(あんな気持ち悪いお面、ずっと手元に置いておきたくないし・・・・・・)

善子(とりあえず・・・・・・なんだか、体が重いけど・・・・・・寝よう・・・・・・)

善子(・・・・・・・・・)

19: 2017/02/05(日) 00:36:44.42 ID:OcJ3yBbg.net
…………

……

 

ゴォォォ…

 

メラメラ

 

………ア………ヅイ………

 

……アヅ………イ………

 

………アヅ…イ……アヅイ………

 

20: 2017/02/05(日) 00:37:32.59 ID:OcJ3yBbg.net
 

「あづいいいいいいよおおおおおおおお」

「あがぇあぅああああああああああああ」

 

21: 2017/02/05(日) 00:38:58.08 ID:OcJ3yBbg.net
善子「!!!」

バッ!!

 

善子「・・・・・・・・・・・・」ゼェハァ

 

チュンチュン…

 

善子「朝・・・・・・? 夢・・・・・・?」

善子(なんなの・・・・・・あの、夢・・・・・・)

善子(地獄みたいな、火に包まれた場所で・・・・・・)

善子(全身、焼けただれた・・・・・・人、なの? あれ・・・・・・)

善子(あれが、なにか滅茶苦茶に叫びながら、迫ってきて・・・・・・)

 

善子(顔が・・・・・・無かった)

ゾクッ…

22: 2017/02/05(日) 00:40:04.39 ID:OcJ3yBbg.net
~沼津駅前 バス停~

 

善子「・・・・・・・・・」

善子(体が・・・・・・だるい・・・・・・まるで、自分の体じゃないみたい・・・・・・)

善子(気分も悪いし・・・・・・やっぱり、あのお面のせい・・・・・・?)

善子(ルビィに返さないといけないから、今、鞄の中に、あのお面が入ってるけど)

善子(正直・・・・・・1秒だって、そばに置いておきたくない・・・・・・)

善子(なんなの・・・・・・!? ほんとに、これ・・・・・・)

 

曜「おーい、善子ちゃーん!」

23: 2017/02/05(日) 00:40:53.70 ID:OcJ3yBbg.net
善子「あ・・・・・・曜、さん・・・・・・」

曜「おはヨーソロー!」

曜「あれ? 今日は、『だからヨハネよ!』って言わないんだ?」

善子「・・・・・・・・・」

曜「・・・・・・善子ちゃん? 調子悪いの?」

曜「なんだかすごく、顔色悪いし・・・・・・」

善子「う、うん・・・・・・ちょっと朝から、気分が悪くて・・・・・・」

曜「そう・・・・・・なんだ。無理、しないでね」

善子(駄目・・・・・・曜さんに、迷惑かける訳には・・・・・・)

24: 2017/02/05(日) 00:43:32.38 ID:OcJ3yBbg.net
~1年生の教室~

 

善子「・・・・・・・・・」

ガラッ

ルビィ「あ、善子ちゃん!」

ルビィ「おはよう。ねえ、昨日はどうしちゃったの?」

ルビィ「急に、帰っちゃって・・・・・・お面は、もういいの?」

善子「う、うん・・・・・・ごめん・・・・・・」

善子「それで・・・・・・あの、ルビィ・・・・・・」

ルビィ「?」

善子(・・・・・・・・・)

善子(駄目・・・・・・言い出せない・・・・・・私が、あの蔵の中からお面を盗ったなんて・・・・・・)

善子(それに、ルビィにまで、悪い影響が出たりしたら・・・・・・)

 

花丸「・・・・・・・・・」

25: 2017/02/05(日) 00:44:52.79 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「・・・・・・ねえ、善子ちゃん」

スタスタ

善子「ずら丸・・・・・・?」

 

花丸「何か、あったずら?」

 

善子「!!」

花丸「なんだか・・・・・・善子ちゃんから、すごく悪い気配を感じるずら・・・・・・」

ルビィ「は、花丸ちゃん?」

花丸「もし、何かあったなら・・・・・・」

善子「なっ・・・・・・なに馬鹿なこと言ってるのよ!」

善子「今日はほら、アレの日なの! だから、ちょっと調子悪いだけで・・・・・・!」

善子「別に、なんでもないから!」

タタタ

 

ルビィ「善子ちゃん・・・・・・?」

花丸「・・・・・・・・・」

26: 2017/02/05(日) 00:45:57.79 ID:OcJ3yBbg.net
~放課後、屋上~

 

ダイヤ「さあ、練習始めますわよー」

梨子「なんだか、天気が悪いね・・・・・・」

曜「うん。今にも、降り出しそう」

 

善子「・・・・・・・・・」

善子(駄目・・・・・・どんどん、具合が悪くなってく・・・・・・)

善子(立ってるのも・・・・・・つらい・・・・・・)

27: 2017/02/05(日) 00:47:05.11 ID:OcJ3yBbg.net
果南「はい、ワン・ツー、ワン・ツー」

パンパン

善子(体が、重い・・・・・・倒れそう・・・・・・)

善子(でも・・・・・・みんなに、心配かける訳には・・・・・・)

 

ジッ

 

善子「――?」

善子(視線?)

善子(向こうの、柵の間)

善子(誰かが覗いて、)

29: 2017/02/05(日) 00:49:39.03 ID:OcJ3yBbg.net
善子「きゃあああああああ!!?」

 

千歌「善子ちゃん!?」

梨子「どうしたの!?」

善子(な、なんで、あのお面が、お面が、あそこに!?)

善子(き、消えてる・・・・・・)

善子「あ、あ・・・・・・!」

ガタガタ

ルビィ「どうしたの、善子ちゃん! しっかりして!!」

花丸「マルたちで、保健室に連れてくずら」

 

鞠莉「ど、どうしちゃったの? 善子・・・・・・」

曜「なんだか朝から、調子が悪そうだったけど・・・・・・」

ダイヤ「・・・・・・・・・」

31: 2017/02/05(日) 00:50:39.26 ID:OcJ3yBbg.net
善子「う・・・・・・うう、う・・・・・・」

善子(私が・・・・・・あのお面を、見ちゃったから? 黙って持ってきちゃったから?)

善子(私が、悪いことをした罰なの? 私が、悪かったから・・・・・・謝るから・・・・・・)

善子(許して・・・・・・お願い・・・・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・)

 

ルビィ「善子ちゃん、顔色が真っ青だよ・・・・・・しっかり!」

花丸「・・・・・・・・・」

花丸「ルビィちゃん・・・・・・もしかして、何か、知ってる?」

ルビィ「えっ・・・・・・!? そ、その・・・・・・」

花丸(これは・・・・・・)

花丸(本当に、まずいかもしれないずら・・・・・・)

32: 2017/02/05(日) 00:51:42.38 ID:OcJ3yBbg.net
善子「・・・・・・・・・」

花丸「ほら、善子ちゃん、保健室に着いたずら」

ルビィ「保健室の先生、いないみたいだけど・・・・・・とりあえず寝て、善子ちゃん・・・・・・!」

善子「・・・・・・・・・」ボーッ…

ルビィ「なんで・・・・・・善子ちゃん、こんなことに・・・・・・!」

花丸「・・・・・・・・・」

花丸「ルビィちゃん、やっぱり何か、知ってるね?」

ルビィ「・・・・・・!」

ルビィ「う、うん・・・・・・実は、昨日・・・・・・うちの庭にある、お蔵に入ったの・・・・・・」

花丸「蔵?」

ルビィ「あの、善子ちゃんが・・・・・・節分のイベント用に、鬼のお面がほしい、って言って・・・・・・」

ルビィ「それで、探してたんだけど・・・・・・善子ちゃん、奥の方で何かを見つけたみたいで・・・・・・」

ルビィ「それから、様子がおかしくなって・・・・・・」

花丸「・・・・・・!!」

花丸(まさか――)

33: 2017/02/05(日) 00:53:39.75 ID:OcJ3yBbg.net
善子「・・・・・・・・・」ゼェゼェ

善子「私、が・・・・・・悪いの・・・・・・」

ルビィ「善子ちゃん!?」

善子「ごめん・・・・・・ルビィ・・・・・・私、悪い子なの・・・・・・」

善子「蔵の、奥で・・・・・・行李に入った、木箱を見つけて・・・・・・」

善子「その中に、あった・・・・・・お面、を・・・・・・持って帰っちゃって・・・・・・」

花丸「――お面!!?」ガタッ!

善子「だから・・・・・・こんな、ことに・・・・・・!」ポロポロ

花丸「お面!? 善子ちゃん、そのお面、見たずら!!?」

善子「お面は・・・・・・私の、鞄の中に、あるから・・・・・・」

善子「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」ポロポロ

34: 2017/02/05(日) 00:55:02.72 ID:OcJ3yBbg.net
ブス…

 

善子「・・・・・・・・・?」

 

ブス……ブス……

 

善子(なに、これ・・・・・・)

善子(何かが、焼け焦げたような、臭い)

 

善子(誰かが)

善子(保健室の扉の陰から、覗いて、)

36: 2017/02/05(日) 00:56:36.04 ID:OcJ3yBbg.net
善子「いいいいいやああああああああっ!!!!」

善子「お面が、お面があああああああああっ!!!!」

 

ルビィ「善子ちゃん!!?」グスッ

花丸「しっかりするずら!!」

 

善子「来ないで来ないで来ないで来ないでぇぇぇぇぇ!!!!」

善子「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだああああああっ!!!!」

 

善子「熱いっ!! 熱い熱い熱い熱いいいいい!!!!」

善子「あづいいいいいいよおおおおおおおお」

善子「あがぇあぅああああああああああああ」

ドスンバタン!!

37: 2017/02/05(日) 00:57:55.94 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「ルビィちゃん、善子ちゃんの体、押さえつけて!!」

ルビィ「だ、だけど・・・・・・すごい力・・・・・・!!」

ルビィ「どうしちゃったの、善子ちゃん!?」ポロポロ

花丸「気休めぐらいにしか、ならないだろうけど・・・・・・!!」

花丸「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄・・・・・・」

花丸「舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識亦復如是・・・・・・」

バシッ! バシッ!

 

ルビィ(花丸ちゃんが、お経?を詠んで、善子ちゃんの肩とか背中をバシバシ叩いて、) 

ルビィ(それでもしばらく、善子ちゃんは叫びながら暴れて、私は必氏で善子ちゃんの体に抱きついてて――)

38: 2017/02/05(日) 00:59:47.14 ID:OcJ3yBbg.net
善子「ううううぐうううう・・・・・・」

ルビィ「お、収まったの!?」

花丸「その場しのぎにしか、なってないずら・・・・・・このままじゃ、善子ちゃんは・・・・・・!」

 

ガラッ!

 

ダイヤ「何か、大きな音と、叫び声が聞こえましたが・・・・・・!!」

鞠莉「What!?」

果南「一体、どうしたの!?」

千歌「・・・・・・!? 善子ちゃん・・・・・・!?」

ルビィ「お、おねぇちゃ・・・・・・みんな・・・・・・」グスッ

39: 2017/02/05(日) 01:01:04.36 ID:OcJ3yBbg.net
曜「善子ちゃん・・・・・・!? 善子ちゃん!?」

梨子「目の焦点が合ってない・・・・・・何があったの!?」

ダイヤ「一体・・・・・・これは、どうしたというのです!?」

善子「ああっ・・・・・・あうああああああっ!!」

花丸「曜ちゃん、果南ちゃん、善子ちゃんを押さえて!!」

果南「善子、しっかり!!」

曜「す、すごい力・・・・・・!!」

千歌「なんなの、善子ちゃん、病気なの!?」グスッ

梨子「救急車呼ばなきゃ・・・・・・!!」

41: 2017/02/05(日) 01:02:03.25 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「ううん・・・・・・!! オラのお寺に、運んでほしいずら!!」

鞠莉「Why!?」

千歌「な、なんで!?」

花丸「それと、ダイヤさん・・・・・・!! 今すぐ、黒澤家の人たちを集めて!!」

ダイヤ「お父様や、お母様を!? それは・・・・・・」

 

花丸「昨日、ルビィちゃんと、善子ちゃんが・・・・・・“蔵”に、入って・・・・・・」

花丸「善子ちゃんが・・・・・・『鬼封面』を、見たらしいずら・・・・・・」

 

ダイヤ「!!!!」

43: 2017/02/05(日) 01:03:13.89 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「ルビィぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!」

ガシッ!!

ルビィ「ぴぎぃっ!?」

ダイヤ「なんということを・・・・・・!! なんということを!!!」

ダイヤ「あれほど、あれほど蔵には入ってはいけないと、お父様から言われていたでしょう!!?」

 

ルビィ(お姉ちゃんは、今まで見たことのないほどの剣幕で――)

ルビィ(私の両肩を掴んで、涙を流しながら、叫んでいた)

47: 2017/02/05(日) 01:05:13.85 ID:OcJ3yBbg.net
ルビィ「ご、ごめん、なさ、おねぇちゃ・・・・・・!!」ボロボロ

ダイヤ「善子さんは、見たの!!? 見たの、あの木箱の中身を!!!!」

ルビィ「た、たぶん・・・・・・!!」ガタガタ

ダイヤ「貴方は、見たの!!? 見たの、ルビィ!!!!」

ルビィ「み、見て、ない、よ・・・・・・!!」グスッヒグッ

 

鞠莉「ダイヤ!!」

花丸「落ち着くずら!!」

 

ダイヤ「・・・・・・・・・っ」ハァハァ

ダイヤ「・・・・・・!!」

ギュッ

ダイヤ「うう・・・・・・うう、う・・・・・・!!」ポロポロ

ルビィ「おねぇ、ちゃ・・・・・・ごめん、なさい・・・・・・ごめ・・・・・・!!」ボロボロ

48: 2017/02/05(日) 01:06:34.98 ID:OcJ3yBbg.net
ルビィ(・・・・・・それから、すぐにお父さん、お母さん、家の使用人さんたちが集まってきて)

ルビィ(お父さんも、お母さんも、血相を変えてて)

ルビィ(お父さんが、小さく一言、『なんということを・・・・・・』って呟くのが、聞こえました)

ルビィ(そして、善子ちゃんは、使用人さんが運転する車に押し込まれて)

ルビィ(私たち全員と一緒に、花丸ちゃんのお寺に急行しました)

ルビィ(すぐに、善子ちゃんのお母さんもやって来て・・・・・・善子ちゃんのお母さんは、泣いていました)

50: 2017/02/05(日) 01:09:08.91 ID:OcJ3yBbg.net
~花丸の寺 本堂~

 

花丸「ルビィちゃんのお父さん、お母さん・・・・・・」

花丸「単刀直入に言います。善子ちゃんは、昨日、蔵に入って、『鬼封面』の封印を解いて、面を見てしまいました」

花丸「しかも、その面をそばに置いたまま、一晩を過ごしてしまいました」

黒澤母「・・・・・・!!」

黒澤父「なんてことだ・・・・・・!」

花丸「ご存知の通り、『鬼封面』の呪力は強力です」

花丸「このままだと・・・・・・善子ちゃんは、確実に狂い氏にます」

善子母「そん、な・・・・・・!!」

善子母「ううううっ・・・・・・!!」

51: 2017/02/05(日) 01:10:40.98 ID:OcJ3yBbg.net
ルビィ「うう・・・・・・うううう・・・・・・!!」

ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁんっ!!!」ガバッ

ダイヤ「ルビィ・・・・・・!!」

ルビィ「ごめんなさいごめんなさい!! ルビィが、言いつけを守ってれば、こんなことには・・・・・・!!」

ルビィ「ごめんなさい、善子ちゃん、ごめんなさい!! うわあああぁぁぁんっ!!!」

梨子「そ・・・・・・そんな・・・・・・!!」

鞠莉「善子が・・・・・・氏ぬ・・・・・・!?」

千歌「やっ・・・・・・やだよ、そんなの!!!」

千歌「どうにかならないの!? 助けられないの!?」ポロポロ

53: 2017/02/05(日) 01:12:35.47 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「もう時間はありません――」

花丸「今すぐ、ここで、祓います」

黒澤母「!!」

黒澤父「しかし――!!」

花丸「はい。運悪く、父と祖母は、京都のお寺さんに出向いていて、不在です」

花丸「今、この寺に残っているのは、オラひとり」

花丸「だから――」

ゴクッ

花丸「――オラがやります」

花丸「先程――父とも、電話で話して、決めました」

54: 2017/02/05(日) 01:14:25.52 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「花丸さんが――!?」

黒澤父「無茶だ!! 年若い君が、『鬼封面』の呪を祓うなど――!!」

花丸「でも――こうするしか、ないんです」

花丸「父の帰りを待っていたら、確実に善子ちゃんは手遅れになります」

花丸「オラは、そんなの、嫌だ――!! 善子ちゃんは、オラたちの、大切な友達ずら!!」

ルビィ「・・・・・・・・・!!」

花丸「オラだって怖い・・・・・・だけど・・・・・・!」カタカタ

花丸「オラは、大切な友達を――助けたいんです!!」ポロッ…

73: 2017/02/05(日) 22:08:12.95 ID:OcJ3yBbg.net
ザァァァーッ

ビュウウウッ

ガタガタ…

 

花丸「うん――お父さん」

花丸「準備、出来たずら」

 

ルビィ(お堂の中で、正座する花丸ちゃん)

ルビィ(千歌ちゃんが、その横に立って、花丸ちゃんのお父さんと通話の状態にした携帯電話を、花丸ちゃんの耳に当てています)

ルビィ(そして、花丸ちゃんの目の前には、)

ルビィ(奇声を上げながら暴れて、曜ちゃんと果南ちゃんに押さえつけられている、善子ちゃん――)

 

善子「あづうううういいいいああああああ!!!!」

曜「善子ちゃん・・・・・・!!」

果南「もう少しの、辛抱だから・・・・・・!!」

74: 2017/02/05(日) 22:10:15.67 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「うん――うん」

花丸「全部、用意したずら」

 

ルビィ(押さえつけられている善子ちゃんの、四方の床には、お皿に盛った塩)

ルビィ(そして花丸ちゃんのそばには、大きな桶に入れた水?と、火の灯った蝋燭、お札・・・・・・)

 

花丸「うん――大丈夫」

ギュッ…

花丸「――始めるずら」

75: 2017/02/05(日) 22:13:48.73 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄」

花丸「舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識亦復如是」

パシャッ!

パシャッ! 

善子「うあああああいいいいいい!!!」

 

ルビィ(花丸ちゃんが、お経を唱えながら、桶の中の水をすくって、善子ちゃんに浴びせて――)

ルビィ(水をかけられるたび、善子ちゃんは大声で叫び、暴れようとする)

 

鞠莉「ジーザス・・・・・・」

梨子「ううっ・・・・・・善子ちゃん・・・・・・」グスッ

ダイヤ「・・・・・・・・・っ」ギュッ

77: 2017/02/05(日) 22:16:54.73 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「舎利子 是諸法空相 不生不滅 不垢不浄 不増不減」

花丸「是故空中 無色 無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法」

ポッ…

ハラハラ

 

ルビィ(続いて、花丸ちゃんはお経を唱えながら、手に持ったお札に、蝋燭で火を点け――)

ルビィ(桶の水の中に、その灰を落とし、それを水に溶かすように手でとく)

ルビィ(そして――)

 

花丸「ごめん、善子ちゃん――我慢して」

花丸「曜ちゃん、果南ちゃん!! 口、開けさせて!!」

78: 2017/02/05(日) 22:19:38.20 ID:OcJ3yBbg.net
ズゾッ!

花丸「無眼界 乃至無意識界 無無明亦 無無明尽 乃至無老氏 亦無老氏尽」

花丸「無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故 菩提薩埵 依般若波羅蜜多故・・・・・・!」

 

ルビィ(花丸ちゃんは――灰を溶かした水にひたした手を、善子ちゃんの口に突っ込みました)

 

善子「げあぎぃいええぇぇぐううううう!!!!」

 

ルビィ(善子ちゃんは一層激しく暴れ、突っ込まれた花丸ちゃんの手に食いつき――)

ルビィ(花丸ちゃんの表情が、痛みに歪んだ――その時、)

 

ドンッ!

 

ルビィ「!!?」ビクッ

79: 2017/02/05(日) 22:22:14.49 ID:OcJ3yBbg.net
ドンッ! ドンドンッ!!

 

ルビィ(お堂の中に、何かを激しく叩くような音が響きわたりました)

ルビィ(それは――天井から聞こえて)

ルビィ(天井裏で、誰かが飛び跳ねているのかと――思いましたが)

ルビィ(明らかにそれは、部屋の内側から、天井を叩くような音で――!!)

 

チカチカッ

 

曜「うわぁ!? 電気が点滅してる!?」

 

ドドドンッ!! ドンッ!!

 

梨子「いや、いやあああ・・・・・・!!」ポロポロ

千歌「な、なんなの・・・・・・なんなの!?」グスッ

80: 2017/02/05(日) 22:24:57.00 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖 遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃」

花丸「三世諸仏 依般若波羅蜜多故 得阿耨多羅三藐三菩提――」

花丸「・・・・・・うぅ・・・・・・まずい・・・・・・オラには・・・・・・」

花丸「どうしよう、お父さん・・・・・・うん、うん・・・・・・」

花丸「うん――わかった」

キッ!

花丸「みんな、お経唱えて!!」

花丸「一緒に詠んで!!」

 

千歌「ええっ!?」

鞠莉「お、オキョーなんて・・・・・・」

梨子「し、知らないよぉ・・・・・・!!」

81: 2017/02/05(日) 22:27:56.14 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「“南無阿弥陀仏”って唱えるだけでいいずら!!」

花丸「それで、心の中で、善子ちゃんを助けたいって強く念じて!!」

花丸「早く!!!!」

 

ルビィ(その時――)

ルビィ(私は、見てしまいました)

ルビィ(気づいてしまいました)

 

ルビィ(天井の、影)

 

ルビィ(私たちの、誰の影でもない)

ルビィ(四つんばいになって、天井に張り付いた影のようなモノが、)

ルビィ(尋常でない速さで、天井を這いずり回っていることに――)

82: 2017/02/05(日) 22:30:19.75 ID:OcJ3yBbg.net
ルビィ「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・・・・!!」

「「「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・・・・」」」

 

ルビィ(私たちは、とてつもない恐怖と、花丸ちゃんの剣幕に、一心不乱になって唱え続けました)

ルビィ(みんな、泣いていたと思います。泣きながら、必氏で唱えました)

ルビィ(お願い・・・・・・助けて助けて助けて・・・・・・!!)

ルビィ(どうか・・・・・・善子ちゃんと・・・・・・私たちを、助けて・・・・・・!!)

 

ドンドンッ! ドンッ!!

 

善子「あづいいいいあづあああいいいいあああああ!!!!」

 

花丸「故知般若波羅蜜多 是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪」

花丸「能除一切苦 真実不虚 故説般若波羅蜜多呪 即説呪曰・・・・・・!!」

83: 2017/02/05(日) 22:32:19.82 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶!!」

ズボッ!

善子「おごえおおおおおお!!!」

ゴボボッ!

ベチャベチャッ!

 

ルビィ(花丸ちゃんが、善子ちゃんの口から、手を引き抜くと――)

ルビィ(善子ちゃんの口の中から、灰色のドロドロした塊が、吐き出されました)

 

花丸「やった・・・・・・!! 出た!! 出たずら、お父さん!!!」

花丸「助かる・・・・・・!! 善子ちゃんは、助かるずら!!!」

84: 2017/02/05(日) 22:34:50.61 ID:OcJ3yBbg.net
ルビィ(それから、さらに10分ほど、花丸ちゃんはお経を唱えながら、善子ちゃんの体に水を振りかけ――)

ルビィ(やがて、善子ちゃんは、すっかり大人しくなり)

ルビィ(天井を蠢いていた影も、大きな音も、消えていました)

ルビィ(その時――私は、気づきました)

ルビィ(善子ちゃんの四方の床に置いてあった、真っ白だったはずの盛り塩が、腐ったように黒ずんでいることに――)

 

花丸「お、終わった・・・・・・出来た・・・・・・出来た・・・・・・!!」

花丸「・・・・・・うわあああああん!! 良かった、良かったずら、善子ちゃああああん!!!」

ルビィ「うう、うわああぁぁぁぁんっ!! わぁぁぁぁぁん!!!」

85: 2017/02/05(日) 22:36:24.40 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「う・・・・・・う、う」

梨子「ぐすっ、ひぐっ」

千歌「ううっ・・・・・・うわあああん!!」

 

ルビィ(みんな、大泣きでした)

ルビィ(花丸ちゃんも、私も――お姉ちゃんも、千歌さんも、曜さんも、梨子さんも、鞠莉さんも、果南さんも)

ルビィ(善子ちゃんのお母さん、私のお父さんやお母さんまで――)

ルビィ(本当に怖かったのと、それが過ぎ去った安堵で、みんな泣いていたんだと思います)

ルビィ(ただひとり、目を閉じた善子ちゃんだけが、魂が抜けたかのようにぐったりしていました――)

86: 2017/02/05(日) 22:39:25.67 ID:OcJ3yBbg.net
~花丸の寺 離れ~

 

善子「」スー…スー…

 

花丸「とりあえず、善子ちゃんは大丈夫だと思うずら」

花丸「だけど、心配だから、善子ちゃんの周りにいたみんなも含めて、オラのお父さんに後でお祓いしてもらうずら」

ダイヤ「善子さんのお母様には、別の部屋で、私の両親が事情を説明しておりますわ」

 

曜「あ、あの・・・・・・その、事情、ってやつ・・・・・・」

果南「私たちにも、説明してもらえない?」

千歌「正直、訳がわからないよ。なんで、こんなことになったのか・・・・・・」

千歌「善子ちゃんの身に、何が起きたのか」

 

ダイヤ「・・・・・・・・・」

ダイヤ「そうですわね。最早、皆さんは部外者ではありませんし」

ダイヤ「ただし、これから話すことは、他言無用でお願いいたします」

87: 2017/02/05(日) 22:42:27.84 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「事の発端は――善子さんが、私の家の蔵で、ある“面”を見てしまったことですわ」

ダイヤ「その面の名は、『鬼封面』」

鞠莉「キフーメン?」

ダイヤ「鬼を封じる面、と書いて『鬼封面』ですわ」

ダイヤ「これは、黒澤家に昔から伝わる――」

ダイヤ「有り体に言えば、“呪いの面”ですの」

梨子「の、呪い!?」ビクッ

88: 2017/02/05(日) 22:44:32.41 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「この面の力は、強力で――見てしまった者が、どうなってしまうかは、善子さんを見ればわかる通り」

花丸「今は、善子ちゃんの鞄に入ったまま、本堂のご本尊の前に置いてあるずら」

花丸「流石に、あの面自体の呪いを祓うことは、マルには出来ないから――」

花丸「いや、完全に祓うことは、マルのお父さんにだって無理」

花丸「せいぜい、力を弱めて、封じることぐらいしか出来ないずら」

ダイヤ「それほど強力な呪力を持っている、と言えばおわかり頂けますでしょうか」

曜「だ・・・・・・だけど、そんなにヤバい呪いのお面が、なんでダイヤさんの家に・・・・・・?」

89: 2017/02/05(日) 22:54:10.43 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「・・・・・・・・・」

ダイヤ「・・・・・・ここからは、身内の恥ずべき逸話をさらすことになりますわ」

ダイヤ「私の家、黒澤家が、この内浦の網元の家柄であることは、皆さんも知っておりますわね?」

ダイヤ「今でこそ、名ばかりの網元ではありますが、昔の時代にあっては、漁村における網元とはその地の支配者であるも同義」

ダイヤ「かつての黒澤家は、並の大名に勝るとも劣らない威勢を誇っていたと聞いています」

ダイヤ「そして――その頃の黒澤家には、“分家”が存在していたのですわ」

鞠莉「ブンケ――!?」

果南「そんな話、初めて聞いたよ!?」

ダイヤ「もう、大昔――江戸時代頃の話ですし――」

ダイヤ「――“分家”は、闇に葬られましたから」

ルビィ「・・・・・・!」ゾク…

90: 2017/02/05(日) 22:56:30.13 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「分家の名は、『重須(おむす)家』と申しました」

ダイヤ「当時の内浦は、表を黒澤家、裏を重須家が支配する構造になっていたそうですわ」

梨子「表と、裏――?」

千歌「どういうこと?」

ダイヤ「網元として、地元の漁業権を掌握し、“表”で村を支配するのが黒澤家」

ダイヤ「そして、分家である重須家は――表向き、黒澤家が出来ない、“裏”での仕事を請け負っていたと聞きます」

果南「“裏”での仕事?」

ダイヤ「警察的な立場――と言えば、聞こえはいいですが」

ダイヤ「その実、黒澤家、重須家に徒(あだ)なすものを取り締まる――」

ダイヤ「率直に言えば、粛清し、“恐怖”で村を支配する」

ダイヤ「そういった、黒澤家の負の面――“裏”稼業を一手に担っていたそうですわ」

曜「なっ・・・・・・!?」

91: 2017/02/05(日) 22:58:21.47 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「漁村において、漁獲物を盗むことは、極刑にあたりました」

ダイヤ「ですから重須家は、特にそうした、漁獲物を盗んだ人間に対しては、熾烈な私刑を加えたそうですわ」

ダイヤ「無論、その過程で命を落とした方も多くいらっしゃるでしょう」

千歌「そんな・・・・・・昔の内浦で、そんなことが・・・・・・」

ダイヤ「ですが、事実ですわ。そして、私の黒澤家の先祖が、そうした行為に手を染めていたことも事実」

ルビィ「・・・・・・・・・」

ダイヤ「・・・・・・話を戻しますわ。そんな中、ある貧しい百姓が、黒澤家の漁獲物の盗みに手を染めてしまった」

ダイヤ「記録によると――天明年間のことだそうですから、今から200年以上も前のことですわね」

梨子「天明って、確か――江戸の、天明の大飢饉の――」

ダイヤ「そう。当時、大飢饉の影響で、貧しい農民、漁民は生活に困窮し、餓氏する者が後を絶たなかった」

ダイヤ「そんな中、窮乏の極みに達したひとりの貧しい百姓が、黒澤家の漁獲物を盗んだのですわ」

92: 2017/02/05(日) 23:00:28.48 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「すぐさま重須家に捕らえられたその百姓は、苛烈な拷問を受けた」

ダイヤ「しかし、重須家は、それだけでは飽き足らず――」

ダイヤ「ある、恐ろしい“刑”を、その百姓に下したのです」

千歌「・・・・・・・・・」ゴクッ

ダイヤ「重須家は、盗みを働いた百姓と、その妻、幼い子どもを、土蔵に閉じ込め――」

ダイヤ「――火を放ったのですわ」

鞠莉「なっ・・・・・・!?」

ダイヤ「しかも――百姓に対しては、ただ頃すだけではなく」

ダイヤ「顔面を、硬い粘土で覆った」

曜「ね・・・・・・粘土・・・・・・!?」

93: 2017/02/05(日) 23:03:39.46 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「口と鼻には、呼吸のための穴を空け」

ダイヤ「百姓が、呼吸困難で氏ぬことのないように――最後まで、火に焼かれて、苦しみぬいて氏ぬように――」

ルビィ「・・・・・・・・・っ!!」ゾッ…

ダイヤ「そうして、百姓とその家族は、逃げ場のない土蔵の中で焼き殺され――」

ダイヤ「焼け跡には、“焼き上がった”土の面が残る」

ダイヤ「つまり――彼らは、生きたまま、“デスマスク”を作ったのですわ」

梨子「うっ・・・・・・!!」

鞠莉「い・・・・・・イカレてる・・・・・・」

94: 2017/02/05(日) 23:05:13.77 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「そう――正気の沙汰ではありません」

ダイヤ「二度と黒澤家、重須家に徒なす者が出ないようにと、見せしめの意味もあったのでしょうね」

ダイヤ「黒澤家の血を引く者として――先祖と、分家の行いに、恥ずべき思いですわ」

果南「それじゃ・・・・・・まさか・・・・・・」

果南「善子が見た、お面っていうのは・・・・・・!!」

ダイヤ「――その通りですわ」

ダイヤ「百姓と、その家族を焼き頃して作り上げた土面こそが、『鬼封面』です」

ルビィ「そんな・・・・・・」

ルビィ「そんな、ひどいこと・・・・・・!」カタカタ

96: 2017/02/05(日) 23:06:42.93 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「・・・・・・“鬼”という言葉には、想像上の怪物という意味の他に、“人間に害なすもの、徒なすもの”という意味も含まれてるずら」

花丸「当時の、黒澤家や重須家の人たちにとっては、自分たちの財産である漁獲物を奪うような者は、最早人間ではない」

花丸「人間以下の存在、畜生、“鬼”同然――そんな風に思ってたのかもしれないずら」

ルビィ「・・・・・・・・・」

花丸「そして、そんな“鬼”共を、逆らわないように“封じこめた”面――」

果南「それが――『鬼封面』の正体って訳だ」

97: 2017/02/05(日) 23:09:27.80 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「しかし――話は、それだけでは終わらなかったのですわ」

ダイヤ「百姓を焼き頃した後――焼き上がった『鬼封面』は、重須家に飾られていた」

ダイヤ「それから、間もなく――重須家の当主が、発狂して氏んだ」

梨子「・・・・・・!!」

ダイヤ「次の日には、当主の奥方と弟が、同じく狂って氏んだ」

ダイヤ「その次の日には、4人の子どもたちも、もろとも――」

千歌「・・・・・・っ」ゾッ…

ダイヤ「僅か、3日3晩のうちに、重須家の全員が息絶え――」

ダイヤ「あっさりと、重須家は断絶してしまったのですわ」

曜「嘘・・・・・・」

98: 2017/02/05(日) 23:11:35.66 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「面の呪いであると噂が立ち、黒澤家は面を処分しようとしましたが――」

ダイヤ「面を処分しようとした者、触れた者、ただ見ただけの者ですら、氏んでしまったのですわ」

鞠莉「アンビリーバブル・・・・・・」

ダイヤ「どれだけ、その面に、焼き殺された百姓の強い怨念が籠っているか、おわかりになるでしょう」

ダイヤ「進退窮まった黒澤家の人間達は、村の寺の住職に相談した」

梨子「まさか、それが――!」

花丸「そう――」

花丸「マルの、ご先祖ずら」

100: 2017/02/05(日) 23:14:36.35 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「でも、流石のご先祖でも、怨念と呪力の塊になった面を祓うことは出来なかった」

花丸「そこで、ご先祖と黒澤家の人たちは――『鬼封面』を、封印し――」

花丸「それを代々、黒澤家で管理することに決めたずら」

果南「黒澤家で、管理――!?」

曜「なんでそんな、危ないものを――」

ダイヤ「贖罪――のつもりだったのかもしれませんわね」

ダイヤ「かつて、村を支配するため、残酷な刑罰で人を殺めた家の血筋を引く人間――」

ダイヤ「そうした、“罪の意識”を、決して消さないように」

ダイヤ「そうして黒澤家は、代々封印した『鬼封面』を、表に出ないように管理し続けてきたのですわ」

101: 2017/02/05(日) 23:18:13.10 ID:OcJ3yBbg.net
ダイヤ「これは、黒澤家の人間が18歳を迎えた時、代々語り継がれることになっていますの」

ダイヤ「ですから私も、この事実を知ったのは、つい先日」

ダイヤ「今回は、この事実を知らないルビィが、善子さんを蔵に引き入れてしまい――」

ダイヤ「このような事態になってしまったのですわ」

ルビィ「うぅ・・・・・・ううう・・・・・・!」

ルビィ「そんな・・・・・・そんな、怖いものがあるなんて、し、知らなくて・・・・・・!!」

ルビィ「ごめん、なさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・!!」ボロボロ

102: 2017/02/05(日) 23:20:29.70 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「ルビィちゃん・・・・・・ルビィちゃんのせいじゃないずら」

ルビィ「ううん・・・・・・ルビィが、ちゃんとお父さんの言いつけを守ってれば、善子ちゃんは・・・・・・!!」

ダイヤ「ええ――ルビィだけのせいではありません」

ダイヤ「元は、黒澤家の先祖が行った非道が招いたこと」

ダイヤ「ごめんなさい・・・・・・善子さん・・・・・・」

ダイヤ「ごめんなさい・・・・・・」ポロポロ…

花丸「ダイヤさん・・・・・・」

 

ザァーッ…

104: 2017/02/05(日) 23:27:20.10 ID:OcJ3yBbg.net
~節分の日、花丸の寺の境内~

 

ワイワイ

キャハハハ

「ふくはーうち! おにはーそと!」

パチーン

梨子「きゃっ! 痛いっ!」

曜「こらー、やったなー!」

千歌「ちかっち鬼が、食べちゃうぞー!」

ワーワー

アハハハ

 

善子「・・・・・・・・・」

105: 2017/02/05(日) 23:31:19.21 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「ふふっ。千歌ちゃんたち、すっかり幼稚園のみんなの人気者ずら」

花丸「案外みんな、鬼役が似合ってるずらね」

善子「まあね・・・・・・子どもっぽいだけじゃない?」

花丸「でも、善子ちゃんが元気になって、ほんとに良かったずら」

善子「うん・・・・・・ありがとね、ずら丸。ずら丸がなんとかしてくれてなかったら、私・・・・・・」

ルビィ「本当に・・・・・・本当にごめんね、善子ちゃん」

ルビィ「ルビィと、うちにあったお面のせいで・・・・・・!!」

善子「ああもう、それはもう聞き飽きたから~! あれから、ルビィもダイヤさんも、顔を合わせれば謝ってばっかり!」

善子「もういいって・・・・・・それに、元はと言えば、私が悪いんだから」

善子「・・・・・・ごめんね」

ルビィ「善子ちゃん・・・・・・」

106: 2017/02/05(日) 23:33:07.55 ID:OcJ3yBbg.net
善子「・・・・・・あのお面は、結局どうなるの?」

ルビィ「うん。花丸ちゃんのお父さんに、改めてお祓いをしてもらって、封印して・・・・・・」

ルビィ「また、黒澤家で預かることに決めたよ」

善子「・・・・・・怖くないの?」

ルビィ「うん・・・・・・怖いよ、正直」

ルビィ「でも、あんな話を聞いた後じゃ・・・・・・ますます、他のどこかに置いておいたらいけない、って思って」

ルビィ「お姉ちゃんの言ってた通り・・・・・・ご先祖様が、酷いことをしちゃったなら・・・・・・」

ルビィ「子孫の私たちも、そのことを忘れずに、ちゃんと責任もって守り続けないといけない、と思うから」

花丸「勿論それは、マルの家も同じ」

花丸「もしまた、ルビィちゃんたちに何かがあったら、マルが絶対助けるずら!」

善子「そっか・・・・・・」

善子「強いのね。ずら丸も・・・・・・ルビィも」

107: 2017/02/05(日) 23:36:29.46 ID:OcJ3yBbg.net
善子「・・・・・・・・・」

善子「福は内・・・・・・鬼は外、か」

善子「あんな目に遭った後じゃ、鬼は外、っていうのも馬鹿に出来ないわね」

花丸「・・・・・・・・・」

花丸「節分では、“福は内、鬼は外”って言って、豆をまくのが定番だけれど」

花丸「実は、地方によっては――特にお寺では、“福は内、鬼も内”って言うところもあるずらよ」

善子「鬼も内?」

ルビィ「鬼なのに・・・・・・?」

花丸「仏様の前では、鬼はいないとするお寺――他にも、鬼を神様として祀ってる神社とか」

花丸「そうやって、鬼を追い払わないところも、意外と多いずら」

善子「へぇ・・・・・・」

ルビィ「知らなかった」

108: 2017/02/05(日) 23:41:13.99 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「――あのお面のことを、『鬼封面』なんて呼ぶのも、間違ってるのかもしれないずら」

善子「どういうこと?」

花丸「あのお面を被せられた人は、鬼でもなんでもない、普通の人間だったはず」

花丸「だけど、昔の人たちは、彼を人間以下の存在、忌物として扱い、“鬼”として命を奪った――」

ルビィ「・・・・・・・・・」

花丸「この前も言った通り、“鬼”とは“人間に害なすもの、徒なすもの”――」

花丸「もしくは、“忌むべきもの、恐ろしいもの”という意味もあるずら」

花丸「でも、そんなものは、人間の弱い心、邪な心が生み出しただけ」

花丸「そんなことを思って、誰かを“鬼”扱いする人の心こそ――マルは、“鬼”そのものだと思うんだ」

善子「・・・・・・・・・」

109: 2017/02/05(日) 23:43:09.83 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「“鬼”も、見方を変えれば神様にだって変わる」

花丸「鬼を追い払おうとするだけじゃなく、時には受け入れる心もあれば――」

花丸「悲しい出来事だって、起こらなくなるかもしれないずら」

善子「・・・・・・・・・」

ルビィ「そう、だね・・・・・・」

ルビィ「そうかもしれない」

善子「鬼も内、か・・・・・・」

110: 2017/02/05(日) 23:45:42.54 ID:OcJ3yBbg.net
~花丸の寺 門前の石段~

 

ルビィ「じゃあね、花丸ちゃん」

善子「また明日!」

花丸「うん――あ、そうそう、善子ちゃん」

花丸「もう大丈夫だとは思うけど――念のため、しばらくは定期的にお寺に来てね」

花丸「お父さんに、簡単なお祓いをしてもらうから」

善子「わかったって。まったく、ずら丸は心配症なんだから」

111: 2017/02/05(日) 23:48:16.89 ID:OcJ3yBbg.net
花丸「お面の力は、強力だから――約束ずらよ、善子ちゃん!」

善子「もー、わかったー! それと、善子じゃなくてヨハネ!」

善子「じゃあねー」

タタタ

 

 

ジッ

 

 

善子「・・・・・・・・・?」ピクッ

112: 2017/02/05(日) 23:50:34.43 ID:OcJ3yBbg.net
ルビィ「・・・・・・? どうしたの、善子ちゃん?」

善子「あ、ううん・・・・・・なんでもない」

善子(一瞬、視線を感じた気がしたけど・・・・・・)

善子(気のせいよね)

善子「待ってよー、ルビィ!」

タタタ

 

 

……

 

…………

 

……………………

 

114: 2017/02/05(日) 23:51:47.56 ID:OcJ3yBbg.net
終わり

少し遅れてしまいましたが節分ネタで書いてみました!
楽しんで頂けたなら幸いです(σ`・∀・´)σ

126: 2017/02/06(月) 13:21:54.44 ID:jDKJ4KqN.net
乙、面白かった怖かった
サンシャインは舞台が田舎な分こういう因習めいたホラーが似合うな

引用元: 花丸「呪いの鬼の面」