1: 2009/09/09(水) 09:49:00.00 ID:7GSpxmMl0
女(はああ。透明人間も意外と暇ですねえ)ごろごろ
男「……」かたかた
女(男さん最近お家から出ていないです……
PCばっかりいじって何やっているんでしょうか……?)ちらっ
男「……」かたかた
女(『2ちゃんねる』……?)
男「……ふひひ」
女(わ、笑ったっ!?)
男「……」かたかた
女(学校にも行かずに大丈夫なんでしょうか……)
男「……」かたかた
Trrrr Trrrr
女(あ、電話です。でんわですよーっ。男さーん)
2: 2009/09/09(水) 09:52:53.95 ID:7GSpxmMl0
男「――うん、学校もちゃんと行ってるし
ははは、大丈夫だって。
母さんも心配性だなあ」
女(ふむ。どうやらお母さんからみたいですね)
男「――ああ、お米送ってくれたんだ。
うん、助かるよ。ありがとう」
女(優しいお母さんですね……)
男「うん、きなこは元気?
――そっか、良かった。
あいつももうお爺ちゃんだもんなあ」
女(『きなこ』?)
男「うん。正月には帰るよ。
ホームシック?いや、それは無いって。あははは」
女(男さん、なんだか……辛そうな顔です)
男「うん、じゃあ、また」
――かちゃりっ
男「……ごめん」
女(……)
8: 2009/09/09(水) 09:59:32.33 ID:7GSpxmMl0
男 ぐぎゅるるるるぅ
女(くすくすっ、男さんお腹が鳴ってます)
男「何か食い物あったかなあ、っと」
女(私が!私が必殺肉じゃがコロッケを!
一子相伝の肉じゃがコロッケを作りま……)
がちゃり
男「……」
女(冷蔵庫に……ビールしか無い……だと……っ!?)
男「……ビールと煙草でいいかあ」
女(良くない!全然良くないっ!
男さん朝から何も食べて無いじゃないですか!
飢え氏にするおつもりですかっ!?)
男「……ごくごく」
10: 2009/09/09(水) 10:00:42.75 ID:7GSpxmMl0
女(くっそう、私がインビジブルで無ければ……
一緒にスーパーに行って食材調達して、
男さんが『重い方は俺が持つよ』なんて言ってくれて、
一緒にキッチンに並んで
私が『もういいからテレビでも見てて!』なんて……うへへへっ)
男 ぐぎゅるるるるるぅ
女(ほら見い!ビールなんかじゃ
ちっとも腹に貯まらんじゃろうが!
ねえー、スーパー行きましょうよー。おーとーこーさーんっ)
男(……寝よ)ごろん
女(はあ……)
12: 2009/09/09(水) 10:06:18.36 ID:7GSpxmMl0
男「……ZZZzzz」
女(あーあ。寝ちゃいましたね。
……お話、したいなあ。男さんと)
男「……ZZZzzz」
女(――でも、
でも……っ、誰も居ない筈のお部屋から、
いきなり声が聞こえたって……。気味悪いだけですよね……)
男「……ZZZzzz」
女(触りたいなあ。男さんのさらさらの髪も、
ちょっとゴツゴツしてる手も。最近ちょっとメタボってきてるお腹も。
……でも、触ったら起きちゃうかなあ)
男「……ZZZzzz」
女(――叶うなら
叶うのなら、触れて……触れられて……
お話をして……笑って……笑いかけてもらって……)
男「……ZZZzzz」
女「おやすみなさい、男さん」にこ
男「……んぅ」
17: 2009/09/09(水) 10:16:30.20 ID:7GSpxmMl0
――翌朝
ちゅんちゅん
男「……ZZZzzz」
女(おーとーこーさーん。朝ですよーっ)
男「……ZZZzzz」
女(ほら、カーテンの隙間から朝日が零れ落ちて、
今日も爽やかな秋晴れですよー。
こんな日は公園にお散歩にでも行って、
亀のようにベンチの上で日光浴しましょう!)
男「……ZZZzzz」
女(それで男さんは自販機で私にドクターペッパーを買ってきてくれて、
――あ、男さんはブラック無糖の缶コーヒーで。
男さんが煙草吸ったりして、それで私が
『もう、煙草吸い過ぎですよ』なんて言ったりして……。えへへへ)
男「……ZZZzzz」
女(――はあ。私も二度寝しましょうかね)
21: 2009/09/09(水) 10:25:09.97 ID:7GSpxmMl0
男「……ZZZzzz」
女「……むにゃ……もう……食べられないよう……すぅ」
男「……ZZZzzz」
女「……た、確かにおでんと言えばがんもだけど……
でもそんなに大量だと……むにゃ」
男「……ZZZzzz」
女「……せ、せめて……大根も……くぅ……むにゃ……」
男「……ん?」
女「……じ、じゃあせめて辛子を……すぅ……」
男(……トイレ)むくっ
女「あひゃいっ!?」
男「……?」ぼけーっ
女(あ……ばれた……?)
男「……トイレ」すたすた
女(あ、危ない……ぎりぎりヘッドスライディング滑り込みセーフです……)
25: 2009/09/09(水) 10:43:31.53 ID:7GSpxmMl0
男 ぐぎゅるるるるぅ
女(ほらー。いい加減買い物くらい行かないと駄目ですって)
男「……」かたかた
女(PCでゲームなんかして、そんなに楽しいんですかー?)
男「……」かたかた
女(なんで学校行かなくなっちゃったんですかー?)
男「……」かたかた
女(はぁ……。私がこんなんじゃなければ外に連れ出すのに……)
男「……」かたたんっ
女(おっ、ゲーム止めるんですか!えらい!やればできるじゃないです……)
男「……」かちかち
女(え、えOちなサイト……だと……!?)
27: 2009/09/09(水) 10:50:31.52 ID:7GSpxmMl0
――がたたんっ!
男「――うわっ!?」びくっ
女(ふふふ……脱がせはせん、下着だけは脱がせはせんよ!
秘技『ポルターガイストもどき』!)
男「……」きょろきょろ
女(へへんっ、見回したって誰も見えませんよーだ!)
男「……?」
女(くすくすっ、不思議がっちゃって……」
男(飯でも買いに行くか……)すくっ
女(そうだ、立つんだジョー!立ってスーパーに行くんだ!)
男(……なんか誰かに見られてる気がするんだよなあ)
29: 2009/09/09(水) 11:00:54.93 ID:7GSpxmMl0
――マク○ナルド
男「ビック軟骨唐揚げバーガーのセットください」
店員「よろこんで!」
女(丸一日ぶりの食事がファストフード……)
男「ドリンクはコーラで」
店員「よろこんで!」
女(ああ……こうやって余分三兄弟が男さんの友達になってゆく……)
男(ポテトうめー)もぐもぐ
女(男さんがピザったらどうしよう……。
豊満なお肉に包み込まれるようなボディ……!?
立派な二重顎……!?なんだか酸っぱい匂いのするお部屋……!?)がくがくぶるぶる
男「……ふぅー」げぷっ
女(それは嫌だ……っ!何としても避けなければならない事態……っ!)
30: 2009/09/09(水) 11:09:28.72 ID:7GSpxmMl0
――スーパーマーケット
女(なあんだ、ちゃんとスーパーにも行くんじゃないですか!心配しましたよー)
男「……」
女(――ってうおおおおい!なんでいきなりカッ○ヌードルを籠にっ!?)
男「……」
女(つ、次は菓子パンっ!?
しかも何あれ『まろんまろん』?凄い甘そうです……)
男「……」
女(牛乳はまあ良いとしましょう……でも何でジンジャエールまで買うんですか……)
男「……」
女(そしてレジへ……。
だめだこいつ……私が何とかしないと……)
店員「ありがとうございましたー」
33: 2009/09/09(水) 11:18:59.00 ID:7GSpxmMl0
女(そんなわけで帰宅したわけですが……)
男「……」かたかた
女(また『2ちゃんねる』ですか……はぁ)
男「……ぷくくくっ」かたかた
女(その、たまに笑うの止めてくださいよ……。
なんだか遣る瀬無い気持ちになります……)
男「……」かたかた
女(一体何が楽しいんでしょう?私にはさっぱりです)
男「……」かたかた
女(昔の男さんに、)
男「……」かたかた
女(――昔の男さんに、戻ってくださいよ……)
男「……ぷくくっ」かたかた
女(……)
35: 2009/09/09(水) 11:26:30.53 ID:7GSpxmMl0
――ぴんぽーん
女(あれ?おとこさん、誰か来ましたよ?)
男「……はーい?」
がちゃりっ
男「えっと……どちら様ですか……?」
隣女「今日隣に越してきた……隣女……です
引越しのご挨拶に……来ました」
男「え、ああ……わざわざご丁寧に……」
隣女「それで……これを……」
男「あ、ありがとうございます」
隣女「礼は要らない……ただの引越しタオルだから……」
男「あ、そうですか……」
隣女「……そうです」
男「……」
隣女「……」
男(なにこの雰囲気気まずい)
37: 2009/09/09(水) 11:34:37.91 ID:7GSpxmMl0
隣女「では……私はこれで」
男「ああ、どうも」
隣女「……」ちらっ
女(――っ!?)
隣女「……可愛い彼女ですね」
男「へっ?」
――ぱたんっ
男「な、何だったんだあの人は……」
女(なんか一瞬目が合ったような……。気のせい、ですよね……?)
男(こ、これはvipにスレ建てないと……)
女(でも、私のほう見て『彼女』って……?
い、いやだなあ!私たちまだそんな関係じゃないですよう!
――あlち、違いますよっ!?
『まだ』って言うのは言葉のあやでですねっ!ふへへへっ)
男(『隣に不思議無口美人が越してきた』っと……)かたかた
38: 2009/09/09(水) 11:43:39.09 ID:7GSpxmMl0
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
今引越しの挨拶されたんだが……
どうすればいい?
2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
はいはい釣り乙
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
とりあえずうp
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
安価するなら早くしろ。でなければ帰れ
男「……」
女(こっ、これが『2ちゃんねる』ですか……)
39: 2009/09/09(水) 11:48:19.20 ID:7GSpxmMl0
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
とりあえず行動安価>>10
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
ksk
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
スペックもうpも無しで安価とか馬鹿なの?氏ぬの?
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
おっOいうp
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
ベランダ越しに侵入
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
とりあえず凸
男(緩い安価きた!
『把握、とりま行って来る……』と)かたかた
女「……」
40: 2009/09/09(水) 11:52:03.16 ID:7GSpxmMl0
うっわ、なんか……失敗したかこれ……?
まあいいや、飯食って書き貯めして来ますー。ノシ
支援してくれてる人ありがとです。
まあいいや、飯食って書き貯めして来ますー。ノシ
支援してくれてる人ありがとです。
51: 2009/09/09(水) 13:00:33.77 ID:ghvZddIC0
――ぴんぽーん
男「……」
女(本当に突撃しちゃうんですね……)
がちゃっ
男「えっと、こ、こんにちは」
隣女「……何か?」
女(酷いんですよこの人!『びっぷ』とかいう掲示板の
『あんか』とかいう指令で貴女の処にっ!)
男「いえ、あの……」
隣女「……?」
女(特に用は無いんですよ!)
隣女「まあ、いいわ……上がって」
男「へっ?」
女「ふえ?(――し、しまった!つい声を出してしまっ……!)
隣女「……お茶くらい出すわ」
男「え、あのっ、その……」
女(ふう、気づかれて無いみたい――ってそんな問題かあ!
何このシチュ!?これが某有名巨大掲示板の力っ!?)
52: 2009/09/09(水) 13:04:49.81 ID:ghvZddIC0
――ことり
隣女「……粗茶ですが」
男「あ、ありがとうございます……」
女(――やっぱりこの人……)
男「でもなんでお茶が三つも?」
女(私の事……見えてる?)
隣女「――えっ、そう云う事だったの?」
男「……えっ?」
隣女「……気にしないで。私が呆けてるだけだから。――ねっ?」ちらっ
女(――っ!?)びくう
男(この人頭おかしいんじゃないか……?)
53: 2009/09/09(水) 13:08:44.66 ID:ghvZddIC0
支援ありがとですー。
ID変わってるのは仕様です。お気になさらず。
透明人間懐かしいなあ。話の内容とかはすっかり忘れちゃったけど。
そしてごめん、江戸っ子です。
結局書き貯めないんで頑張るぜー。
ID変わってるのは仕様です。お気になさらず。
透明人間懐かしいなあ。話の内容とかはすっかり忘れちゃったけど。
そしてごめん、江戸っ子です。
結局書き貯めないんで頑張るぜー。
54: 2009/09/09(水) 13:17:52.84 ID:ghvZddIC0
隣女「……それで、貴方、学生さん?」
男「え、ええ。まあ……」
女(学生とは名ばかりの引きこもりですよ!引きこもり!)
男「えっと、隣女さんは?」
隣女「……今まで留学していて、戻ってきた。○○大学」
女(まさかの同じ大学!?)
男「あ、ああ……そうなんですか……」
隣女「男さん……でしたっけ?」
男「……はい」
隣女「貴方は?」
男「な、何がですか……?」
隣女「……大学」
男「えっと……」
女(貴女と同じですよ!おーなーじーっ!)
男「――よ、良ければ引っ越し手伝いますよ!重い家具とか持ちます!」
隣女「そ、そう……?ありがとう……」
55: 2009/09/09(水) 13:29:30.35 ID:ghvZddIC0
―――
――――
男「――せーのっ!」
隣女「……っ!」
男「本棚、この辺でいいですかー?」
隣女「ええ、じゃあゆっくり降ろしましょう……」
女(退屈です……)ごろごろ
男「次、何しましょう?」
隣女「パソコンを繋げたいんだけれど良く分からなくて……。
もし出来るならお願いしたいんですが……」
女(この人そういうの得意ですから!やらせちゃって下さい!)
男「えと、あんまり詳しくは無いですが、やるだけやってみます」
女(嘘吐くなっ!)
隣女「……じゃあ、お願します」にこ
56: 2009/09/09(水) 13:33:56.36 ID:ghvZddIC0
男「――うっし、ネットに繋げるところまで終わりました」
隣女「……ありがとう、お疲れ様」
女(な、何かこの人たち……急接近してないですか……?)
男「じゃあ、俺はそろそろ」
隣女「ええと、何かお礼をしたいのだけれど……」
男「いえいえそんな」
女(お気遣いなく!)
隣女「そんな悪いです……
――そうだ、丁度いい時間だし、ご飯でもご馳走させて下さい」
女(そっ、それは私の役目……!)
男「えと、いいんですか?」
隣女「……ええ」にこ
女(男さん、釣られてはいけない!
これはかの有名な『男は胃袋から落とせ』作戦です!)
男「じゃあ……お言葉に甘えて」
女(……ですよねえ。はぁ……)
57: 2009/09/09(水) 13:39:10.86 ID:ghvZddIC0
男「……もぐもぐ」
隣女「……まだ引っ越したばかりだから
材料も碌に無くて有り合わせでごめんなさい。
口に合うと良いのだけれど……」
男「いえ、最近まともな食生活してなかったから……凄い美味しいです」
隣女「……そう、よかった」
女(これくらい……私だって……っ)
男「料理、得意なんですね」もぐもぐ
隣女「……そんなこと」
女(もう帰りたい……)
隣女「えっと、お代わりもあるので……」
男「えっ、じゃあ……頂いてもいいですか……?」
隣女「――もちろん」
女(……)
58: 2009/09/09(水) 13:46:24.79 ID:ghvZddIC0
男「――じゃあ、ご馳走様でした」
隣女「……私の方こそ引っ越しを手伝って貰ってありがとう」
男「いえいえ、あれくらい」
隣女「――じゃあ、また大学で」
男「えっ……?」
隣女「……違うの?この辺りに独り暮らししている
大学生なんて、8割方あの大学でしょう?」
男「ええ、と……」
隣女「――おやすみなさい」にこ
男「おやすみ……なさい……」
隣女「……」ちらっ
女(……)
隣女「……」にこ
女(……)ぷいっ
隣女「……?」
――ぱたんっ
101: 2009/09/09(水) 22:48:17.51 ID:/eQx6q4c0
――翌日
ぴんぽーん
男(……誰だろう?)
女(……)
がちゃり
男「――あ」
隣女「……おはようございます」
男「えっと、おはようございます」
隣女「……大学」
男「え?」
隣女「大学……行きましょう」
男「え?いやっ、あのっ」
隣女「……」ぺこり
女(……ふーんだ)ぷいっ
102: 2009/09/09(水) 22:48:57.30 ID:/eQx6q4c0
男「いや、あの……俺はですね……」
隣女「……30分で顔を洗って着替えて下さい。
私はその間に朝食を準備してきます」
男「え、あの――」
隣女「……ではまたお迎えに上がりますので」
――ぱたんっ
男「ええぇ……」
女(男さん、どうするんですか……?)
105: 2009/09/09(水) 22:58:58.75 ID:/eQx6q4c0
ぴんぽーん ――がちゃり
隣女「……どうも」
男「ど、どうも……」
女(男さんがお部屋の外に出てくれるなら。
それが一番いいんですよね……。
例え誰か他の女の子と一緒でも……
男さんもこのままじゃいけないって、思ってたんですよね。
だから……隣女さんには感謝しなきゃいけないんですよね……)
隣女「……簡単につまめるサンドイッチを作って来ました
タマゴサンドとハムサンドという質素なものですが……
ダージリンも淹れたので、15分で食べて出ましょう」
男「ええっと。一つ、訊いておきたいんですけれど」
隣女「……何か?」
男「隣女さんは、どうして俺にこんな事をしてくれるんですか?」
隣女「……昨日の引越しの手伝いの御礼、では理由になりませんか?」
男「――ならないでしょう、常識的に考えて」
隣女「……人の気持ちなんて不安定で解りづらいものですから」
男「へっ?」
隣女「……食べましょう。遅刻してしまいます」
女(……今まで気づかなかったけど、
この人、何処かで……見たことある様な……)
106: 2009/09/09(水) 23:05:27.35 ID:/eQx6q4c0
――がたんごとん がたんごとん
隣女「……」ぱらりっ
男(……学校行くのも……随分久しぶりだな……)
女(――男さんの、そして私の社会復帰、ですね……)
隣女「……」ぱらりっ
男(しかしこの人も変わった人だよなあ……
何で女子大生が電車で日経読んでるんだよっ
向かいのサラリーマンのおっさんがPSPやってるのに……)
女(この人……どこで見たんだろう?
ううーっ、思い出せないです……)
隣女「……」ぱらりっ
男(気まずいなあ……この状況も、学校に行くのも)
女(うへへへっ、透明人間だから、吊革にぶら下がり放題ですねー)ぶらんぶらん
がたんごとん がたんごとん……
109: 2009/09/09(水) 23:14:48.39 ID:/eQx6q4c0
――キャンパス正門
隣女「……ではここで。さすがに授業は被っていないでしょうから」
男「あ、ああ。じゃあ」
女学生「あっ、隣女―っ!」
隣女「――っで、では、私はこれで……っ!」あせっ
てくてくてくてく。
男(おーおー。あの子も友達、居るんだなあ)
女(これで男さんと二人っきりでキャンパスライフ満喫です……えへへへっ)
男(――俺、本当に大学来ていいのか?)
女(……?)
男(授業……出るのか……?)
女(……男さん?)
男(……)くるっ
女(――あっ、ちょっ!男さん何処行くんですかっ!?
ちょっと、待って下さいよ!おーとーこーさーんっ!)
てくてくてくてく……。
111: 2009/09/09(水) 23:19:10.40 ID:/eQx6q4c0
――大学の近くの公園
男「……ふぅーっ」
女(こんな所で煙草吸って……いいんですか?授業は?)
男「……行ける訳無いじゃんかね」ぼそっ
女(男さん……)
男「……のうのうと大学生活?そんな資格無い、無いってんだよなあ」ぼそっ
女(そんなこと……無いですよ……)
男「……ふぅーっ」
女(――私は、貴方がこうやっているほうが……よっぽど……
よっぽど辛いし、嫌ですよ……?ねえ、男さん……っ)
113: 2009/09/09(水) 23:22:31.12 ID:/eQx6q4c0
男「……ふぅーっ」
女(――でもね、男さん。
私は今こうやってこんな気持ちいい秋晴れの下で、
風で木が揺れちゃったりして、そんな公園で
貴方と二人で居れることが、とても、とーっても嬉しいんですよ?)にこ
男「……やっぱり外は気持ちいいなあ」すぱーっ
女(はいっ!お外は気持ち良いです!これは大きな一歩ですよ!
こうしてお外に出られたことは、本当に大きな一歩です!
そういう意味では、隣女さんには感謝しなければですね)
男「……ふぅーっ」
女(うーわーっ!『煙草吸い過ぎだぞっ!』とか云いたいっ!
煙草を奪い取ったその唇に、『隙ありっ!』とか云って、
その……っ、その……っ!ふへへへっ)
男(なんか、殺気を感じる……?)ぞくっ
114: 2009/09/09(水) 23:27:32.80 ID:/eQx6q4c0
――その夜 アパート
ぴんぽーん
――がちゃっ
隣女「……あら、こんばんは」
女「……こんばんは」
隣女「今日は一人なの?」
女「貴女、やっぱり、見えているんですね?」
隣女「……どうしてかしらね」
女「お話が、あって来ましたっ」
隣女「――上がって」
女「……お邪魔します」
――ぱたんっ
121: 2009/09/10(木) 00:21:55.40 ID:ZUqT7r7P0
――かちゃりっ
隣女「……紅茶で良かった?」
女「えっと……頂きます」
隣女「……こくっ」かちゃりっ
女「こく…こくっ……。
――わぁ、凄く、美味しいです。ふわーって!香りがふわーって!」
隣女「……飲み物が飲めると云う事は、幽霊さんでは無いみたいね」
女「そう、なんですかねえ……」
隣女「……自分でも解らないの?」
女「ええ。氏んでいるのか、生きているのか、良く解らないんですよ
だから貴女なら何か知っているかと思って、伺った訳なんですが……」
隣女「……どこまで、覚えているの?」
女「うーん。事故の瞬間までですかねえ」
隣女「……そう」
女「――どうなんですか?私は……」
122: 2009/09/10(木) 00:25:40.17 ID:ZUqT7r7P0
隣女「……噂ほど、当てにならないものは無いわよ
あの事故はニュースでも見かけなかったし……」
女「――でも」
隣女「……ん?」
女「でもっ、もう私は氏んじゃってるって考えた方が……自然、ですよね……」
隣女「……そう?」
女「だってそうですよ。どう考えたって
透明人間よりは幽霊の方がまだ信憑性があります」
隣女「……」
女「隣女さん……不可解なことが一つだけあるんですけれど」
隣女「……なに?」
女「――どうして、『留学から帰って来た』なんて嘘を?」
隣女「……あらら、お見通しだったの?」
女「……正門で会ったあの子。私も知り合いだったんですよ。
それで、よく、ごく最近もあの子と貴方がお話していたのを思い出して……」
隣女「……だって、」
女「……」
125: 2009/09/10(木) 00:31:17.05 ID:ZUqT7r7P0
隣女「――だって、心を開いてくれないでしょう?
…………事故の事を知っている人間には」
女「……?」
隣女「私は……あの不幸な事故の事なんて知らない。留学でアメリカに居たんだから」
女「……」
隣女「……男君のことがずっと好きで、
彼をもう一度、立ち直らせるために無理やり、
彼の隣りの部屋に引っ越してきたお節介な女でも無い」
女「――えっ?」
隣女「……紅茶、もう一杯飲む?」
女「……いただきます」
――かちゃりっ こぽこぽこぽ……
126: 2009/09/10(木) 00:35:37.45 ID:ZUqT7r7P0
隣女「……」
女「――今日、」
隣女「……ん?」
女「今日、男さん、授業受けられませんでした」
隣女「……そう」
女「ずっと、ずっと……見て来ました。男さんの事。
何故か自分の姿が見えなくなっちゃって、鏡にも写らなくて……。
それでも、そこが都合よく男さんのお部屋だって気付いて……」
隣女「……こくっ」かちゃりっ
女「貴女と、どっちが長いかは解りません。
でも私もずっと……ずっと男さんの事を……」
隣女「……そう」
女「……あれっ、私、どうしちゃったんだろう……涙がっ……」ぽろっ
隣女「……はい、ハンカチ」すっ
女「ご、ごめんなさ……っ……」ぽろぽろっ
128: 2009/09/10(木) 00:38:26.57 ID:ZUqT7r7P0
隣女「――涙を流す幽霊なんて居ないわよ、きっと」
女「……ふえ?」
隣女「だってほら、ハンカチ、濡れているでしょう?」
女「――あっ」
隣女「……貴女があれからどうなったのか、調べてみるわ」
女「隣女さん……ありがとうございます……」
隣女「――嫌いなのよ、フェアじゃないのは」
女「……ふぇあ?」
隣女「透明人間が恋敵なんて、フェアでは無いでしょ?」にこ
女「で、でもっ!見えないからこそ出来る事も有るんですよっ?」
隣女「……興味深いわね」
女「えへへへっ、隣女さんって意外と……」にっこり
隣女「……もう紅茶なんて止めてお酒飲みましょうか、
美味しいシングルモルトがあるの」
女「わっ、私お酒は……」
隣女「いいから、いいから。
……ほら、今日はこんなに月が綺麗だし……ね?」
女「隣女さん、最初のイメージと大分違いますーっ!」
―――
――――。
134: 2009/09/10(木) 01:08:31.97 ID:ZUqT7r7P0
――翌朝
ちゅんちゅんっ
女「……すぅ……すぅ」
隣女(くそう……寝顔……可愛いわね……)
女「……くぅ…ふへへっ」
隣女「?」
女「……だめですよう……そんな……結婚までは……」
隣女(……結婚?)
女「……すぅ……それまでは清い関係で……むにゃ……」
隣女「……こら、起きなさい」すこんっ
女「……むう?」ぼけえ
隣女「……準備しなさい、学校行くわよ」
女「――あっ、あれっ?私、どうしてここに……?」
隣女「……昨晩酔い潰れて私のベッドを占領したからよ」
女「も、申し訳ないですっ」
136: 2009/09/10(木) 01:17:39.55 ID:ZUqT7r7P0
隣女「……私は隣の引き籠りニートを起こしてくるから」
女「なっ、なんか毒舌になってませんか……?」
隣女「……昨日訊き損ねたんだけれど貴女……」
女「はい?」
隣女「彼に……正体を伝えないの?
ずっと近くにいるのに、何もしていないんでしょ?
――辛くないの……?」
女「あー、いやあ、それは……」
隣女「……」
女「だって、その……申し訳無いじゃないですか。
私の所為で……ああなってしまった訳ですし、
のこのこ名乗り出る訳にも……ねえ」
隣女「……そう」
女「それに!」
隣女「……ん?」
女「それに、存在を知られていないからこそ、
男さんの私生活を観察できる訳ですし!」にっこり
隣女「……あ、そう」
138: 2009/09/10(木) 01:26:35.60 ID:ZUqT7r7P0
――がたんごとん がたんごとん
隣女「……」ぱらりっ
男(何でこの人は俺の事を毎日起こしに来るんだろう……)
女(そういえば私、電車も無賃乗車ですねー。便利便利!)
隣女「……」ぱらりっ
男(今日も日経読んでるし……)
女(男さん、今日こそちゃんと大学行けるんでしょうか……)
隣女「……」ぱらりっ
男(何考えてるのかさっぱり解らないなあ……)
女(でも、今日も気持ちいい秋晴れですー)
『次はー、○○学園前、○○学園前でございます
お降りの方はお忘れ物など御座いませんよう……』
隣女「……行きましょうか」
男「は、はい」
143: 2009/09/10(木) 02:17:36.81 ID:ZUqT7r7P0
――キャンパス正門
隣女「……じゃあ、私はここで」
男「はい」
隣女(……あとは頼んだわよ)ちらっ
女(なっ、なんかこっち見てる……)
すたすたすたすた。
男(……折角来たんだし)
すたすたすたすた……
女(おっ!男さんついに行くんですか!?
久方ぶりののキャンパスライフですかっ、オレンジデイズですかーっ
ってそっちは校舎じゃないですよー?おーい?)
男「……」
144: 2009/09/10(木) 02:27:07.20 ID:ZUqT7r7P0
――旧棟 屋上
女(こっ、ここは……)
男「……」
女(まだ立入禁止なんだ……
そらそうですよね、柵壊れちゃってますもんねえ
――って男さんっ立入禁止テープまたいじゃ駄目ですって!)
男「……」
女(ま、まさか男さん……とっ、飛び降りるつもりじゃ……!?)
男「……」すたすた
女(ち、ちょっと誰かっ!あの人を止めてーっ!)
男「……」すたすた
女(こ、ここは私の秘技『ポルターガイストもどき』で……
って駄目だ!『亡霊を怒らせた』とか思わせたら自殺幇助だ!)
男「……」すたすた
女(も、もう……声、出して止めるしか……)
146: 2009/09/10(木) 02:44:54.69 ID:ZUqT7r7P0
女(気味悪いって思われたって……
嫌われたって……別に良い
男さんが氏んじゃうほうが……嫌だっ!)
男「……」
女「……っ!」すぅっ
『こら!君!何をしてるんだッ!?』
男・女「……え?」
事務員のおじさん「君!危ないじゃないか!」
男「え、ああ。……すみません」
事務員のおじさん「早まったことを考えてはいけない!君はまだ若いんだから!」
女(そうですそうですっ!)
男「えーっと。何か勘違いをなさってるみたいなんですが……」
事務員のおじさん・女「えっ?」
147: 2009/09/10(木) 02:46:14.54 ID:ZUqT7r7P0
事務員のおじさん「――とにかく、今度からはあんな紛らわしい事はしないように!
第一ね、あそこは立ち入り禁止なんだから!」
男「はい、済みませんでした」
女(……)
事務員のおじさん「もういいから、早く授業に戻りなさい」
男「はい、失礼します」
女(『煙草を吸いに来ただけ』って……本当ですか?)
男(……帰るかなあ)
女(だってあそこは、私が……私が落ちちゃった場所……)
男(……)
女(男さん……)
182: 2009/09/10(木) 13:03:50.28 ID:7erPV2cu0
――その夜 アパート
隣女「――そんな事があったの……」
女「はい……」
隣女「……やっぱり故意では無いとはいえ、
人を落としちゃった訳だから、心の傷は大きいのでしょうね」
女「でも、あれは私が悪かったと云うか……」
隣女「そう言えば、事故の詳しい状況、
よく知らないのだけれど、どんな様子だったの……?」
女「……っ」
隣女「――あっ、
……ごめんなさい、思いだしたく無いわよね……」
女「私が……屋上でご飯を食べてたんですよ……
そしたら屋上に男さんが来て……」
隣女「……」
183: 2009/09/10(木) 13:09:39.75 ID:7erPV2cu0
――回想
女『……もぐもぐ。
――あっ、あれは麗しのマイスイート男さんっ!』
男『いやあ、そうなんだよなあ』
男友『――あ、悪い火貸してくれね?』
男『ん、いいよ……ほい』
しゅぼっ
女『お、と、こ、さーんっ!』だっだっだっ
男『――うわっ、火ついてんだから危ないっての』ひょいっ
女『むむむ、私のタックルをかわされるとは……って、あれっ?』ふらっ
がしゃーんっ ――めきめきっ
男友『――柵が!』
男『危ないっ!』
――――
―――――。
女「……というのが事故の顛末でして」
隣女「貴女らしいと云うかなんと云うか……」
女「いやあ、お恥ずかしい」
女『……もぐもぐ。
――あっ、あれは麗しのマイスイート男さんっ!』
男『いやあ、そうなんだよなあ』
男友『――あ、悪い火貸してくれね?』
男『ん、いいよ……ほい』
しゅぼっ
女『お、と、こ、さーんっ!』だっだっだっ
男『――うわっ、火ついてんだから危ないっての』ひょいっ
女『むむむ、私のタックルをかわされるとは……って、あれっ?』ふらっ
がしゃーんっ ――めきめきっ
男友『――柵が!』
男『危ないっ!』
――――
―――――。
女「……というのが事故の顛末でして」
隣女「貴女らしいと云うかなんと云うか……」
女「いやあ、お恥ずかしい」
187: 2009/09/10(木) 13:19:16.69 ID:7erPV2cu0
隣女「……夕飯、作りましょうか」
女「了解です隊長殿!」
隣女「……何作ろうか?」
女「えっと、コロッケ、作りませんか?」
隣女「コロッケ?……いいけれど」
女「得意なんですよー。お母さんの得意料理なんです!」
隣女「……ふふっ」
女「――どうしたんですか?」
隣女「いえ、……楽しそうだなあと思って」
女「楽しいですよ!……ずっと、お料理も、
人とお話しするのすら、していませんでしたから」
隣女「……そっか」
女「玉ねぎ人参じゃがいも挽肉えのきしらたきサヤエンドウ卵
醤油みりん調理酒お砂糖ーっ」
隣女「……」
188: 2009/09/10(木) 13:26:22.27 ID:7erPV2cu0
ぴんぽーん
男「はーい」
たったったったっ。――がちゃ
隣女「……こんばんは」
男「こんばんは」
隣女「ええと、友達が……コロッケを持って来てくれたんだけれど、
多くて食べ切れないから……おすそ分けに」
男「あ、ああ。ありがとうございます」
隣女「……大丈夫ですか?」
男「え?」
隣女「……いえ、なんだか体調が悪そうに見えて」
男「ああ、大丈夫です。ちょっと身体がだるくて」
隣女「……そうですか。急に涼しくなりましたからね……」
男「そうですね、急に秋めいてきましたね」
隣女「……では、私はこれで。お大事に」
男「ええ、ありがとうございました」
――ぱたんっ
女(へへへっ。二日ぶりの男さんのお部屋ですねえ……)
189: 2009/09/10(木) 13:33:49.98 ID:7erPV2cu0
男「おおっ、美味そうだな……」
女(男さん!それ私の自信作ですから!へへん!)
男「……けほっ、けほっ」
女(本当に体調悪そうですね……大丈夫でしょうか……)
男(何か寒気がする……飯食って寝よう……)
女(……)
男「……けほっ、けほっ」
男「……もぐもぐ」
女(お味は!お味はどうですか!?)わくわくどきどき
男「……うまい」
女(よっしゃあああああああんだらああ!!)
190: 2009/09/10(木) 13:40:41.59 ID:7erPV2cu0
男「……もぐもぐ」
女(――これも一つの幸せの形かも知れないですね……)
男「……もぐもぐ」
女(大好きな人と一緒に居られて。お隣には、ちょっと
口が悪いけれど親切で優しいお友達も出来ましたし……)
男「……もぐもぐ」
女(こうして私の肉じゃがコロッケも、男さんに食べて貰っている訳ですし)
男「……もぐもぐ」
女(ちょっと変わってるけど。でも私には勿体無いくらいの……。
男さんとお話は出来ないかも知れないけれど。
私を見て貰う事も、触れることも、
笑って、笑いかけて貰う事も、出来ないかも知れないけれど……)
男「……もぐもぐ」
女(――コロッケ、また作りますからねっ)にっこり
――――
―――――。
193: 2009/09/10(木) 13:46:56.88 ID:7erPV2cu0
――翌日
ぴんぽーん
男「……けほっ、けほ」
女(隣女さんが来ましたね……でも、男さん……)
男「……けほっ。……はい」
ふらふらふらっ。 ――がちゃりっ
隣女「……大丈夫ですか?顔、真っ赤ですよ」
男「あー。たぶん熱出ちゃったみたいで……けほっ、けほ」
隣女「……体温計、無いんですか?」
男「……えっと、たぶん」
隣女「――ちょっとそのままで待っていて下さい」ちらっ
女(……)こくり
すたすたすた ――がちゃんっ
男「……?」
195: 2009/09/10(木) 13:54:13.70 ID:7erPV2cu0
――がちゃっ すたすたすた。
隣女「……お待たせしました」
男「……けほっ、けほ」
隣女「体温計は無かったんですが、これ。氷のうです。使って下さい」
男「……あ、ありがとうございます」
隣女「私は今日ちょっと外せない講義があるので、
夕方になったら、また様子を見に伺います」
男「いえ……そんな、お気遣いなく……けほっ、けほ」
隣女「……遠くの親類より近くの他人、です」
男「……ありがとうございます」
隣女「……」ちらっ
女「……?」
隣女(……何かあったらこれで)くしゃっ
女(……?)にぎっ
男「……けほっ、けほっ」
隣女「……では、私はこれで。お大事に」にこ
男「……はい、ありがとうございます」
きぃ ――ぱたむっ
女(――お金……?)
196: 2009/09/10(木) 13:59:37.19 ID:7erPV2cu0
男「……ぜぇ、ぜぇ……」
女(男さん……苦しそうです……)
男「……ぜぇ、ぜぇ……」
女(冷えぴたとか……ううん、せめて飲みものくらい……)
そおっ すたすたすた。
――かちゃりっ
女(……ってビールしか入って無いんですよねえ、この冷蔵庫)
男「……けほっ、けほっ」
女(……隣女さんから貰ったお金……そして
運が良い事にこのお部屋は一階……ベランダからならっ)
男「……ぜぇ、ぜぇ……」
女(ちょっとだけ、待っていて下さいね)にこ
197: 2009/09/10(木) 14:05:40.39 ID:7erPV2cu0
――市街 裏通り
たったったったっ……
女「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
女(自動販売機なら、私だってポカリくらい買えます……っ!)
女「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
女(急げ急げ急げ……。少しでも早くっ!)
女「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
女(ぷくくっ。でも、
ベランダから出入りなんて、気分は大泥棒ですねっ。とっつあーん!)
女「はぁ、はぁ、ぜぇ……っ」
女(――しかし、この身体でも、疲れるんですねえ……。
高校時代は陸上部だったのになあ。
男さんと引きこもり生活していたら体力落ちたのかなあ……)
198: 2009/09/10(木) 14:07:35.10 ID:7erPV2cu0
女「はぁ、ぜぇ、ぜぇ……っ」
女(――あった!自販機っ!)
ぴっ ――がしゃこんっ
女(隊長!補給部隊は、兵糧の入手を完了!
只今から前線に戻るのでありますっ!)
女(……急がなきゃ)
たったったったっ……
子供「ママー。ペットボトルが飛んでるよーっ」
母親「マーくん何言ってるの?嘘はいけないわよ」
子供「本当だってばー!ねえ見てよママーっ!」
女「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……っ」
たったったったっ……。
203: 2009/09/10(木) 14:54:57.16 ID:7erPV2cu0
――アパート ベランダ
女「……ぜぇ、ぜぇ、ぜぇっ」
女(こっ、呼吸を整えてからお部屋に入らないと……)
かなかなかな……。
女(あー、ヒグラシが鳴いてますね……。
もう、夏もほとんど終りですもんね……)
女(入道雲も見なくなっちゃったなあ。
薄くて、細い雲が、少しだけ低くなった空に棚引いてます……)
かなかなかな……。
女(……秋は、やっぱりお昼よりも夕暮れですよね……
洛陽が射して、オレンジ色の世界の、
遠くの空を何羽か鳥がゆっくり、ゆっくり飛んで……)
女(――いいなあ。男さんと一緒に見られたらなあ……)
女(いつか、いつか一緒に見れたらなあ)
女(……さて、お部屋に戻りましょうかね)
かなかなかな……。
204: 2009/09/10(木) 15:00:07.06 ID:7erPV2cu0
女(男さーん、ただいまですー)そおっ
男「……ぜぇ、ぜぇ……」
女(相変わらず寝息が苦しそうです……)
男「……ぜぇ……けほっ、けほ……」
女(ポカリ、ここに置いておけば起きた時に飲んでくれますかね。
あーああ。氷のうも折角隣女さんが
持って来てくれたのに使ってないですね……)
男「……ぜぇ、ぜぇ……」
女(――隣女さんがたまたま鍵が開いていたベランダから侵入して、
それで男さんにポカリを買ってきて、
氷のうも作ってあげたって事にしておきましょうかね……)
205: 2009/09/10(木) 15:07:59.83 ID:7erPV2cu0
きゅっ からんっ
女(――これでよし、っと)
男「……ん?」
女(そおっと、そおっと……)
男(氷のうが……浮いてる……?)
女(これで少しは眠りやすくなればいいんですが……)
男(えっ……どうして……?)
ぴたっ ――からんっ
女(……よし、っと)
男(あ、ひんやりしてて気持ちいい……
なんか……よく眠れそう……だ……)
女「起きたらきっと良くなっています。――おやすみなさい」にこ
――――
―――――。
206: 2009/09/10(木) 15:14:35.60 ID:7erPV2cu0
――夕刻 アパート
ぴんぽーん
隣女(……調べ物をしていたら思ったより
遅くなってしまったわね。彼、まだ眠っているかしら……)
がちゃっ ――きぃ
男「……はい」
隣女「あ、ごめんなさい……起してしまいましたか?」
男「いえ、大丈夫です……」
隣女「良かった……。体調はどうですか?」
男「ああ、おかげさまで朝よりは大分楽になりました」
隣女「いえ、私は何も……」
男「だって、ポカリとか、氷のうとか……やってくれたんですよね?」
隣女「……ええ、っと。それは……」
男「……?」
隣女(そう云えば、あの子見当たらないけど、何処に居るのかしら……?)
男「……どうしました?」
隣女「ええ、と。――少し、お話があるんですけれど」
男「……どうぞ、上がって下さい……?」
隣女「……お邪魔します」
208: 2009/09/10(木) 15:20:00.09 ID:7erPV2cu0
隣女(――あっ)
女「……すぅ……すぅ……」
隣女(……看病しているうちに眠ってしまったのね)
男「どうしました?」
隣女「――えっ、いえ。何でも無いです」
男「それで、」
隣女「……はい?」
男「それで、お話とは……?」
隣女「……大学で起こった、ある不幸な事故の、お話です」
男「――っ」
隣女「……心持ちの良いお話では、無いと思います。
――でも。
でも、聞いて下さい。そうで無いと、彼女が……可哀想です」
男「……」
女(――あれ?私眠っちゃってたのか……)
211: 2009/09/10(木) 15:35:50.99 ID:7erPV2cu0
隣女「――大学の旧棟の屋上。
今は立ち入り禁止になっていますが、かつては喫煙所だった。
昼休みには、食事をする学生も多くいた。
そして……その事故も、昼休みに起こった」
男「……貴女は何がしたいんですか?
そうです、俺の所為で人が……女が……」
隣女「……彼女と貴方はクラスメイトだった。
親しい仲だったのですね。貴方は事故の責任を感じ、
恐ろしくて学校にも行けなくなってしまった」
男「だから、何で貴女にそんな事を云われなきゃいけないんですかっ!?
急に引っ越してきたと思ったら、料理作ってくれたり、
学校に連れていかれたりっ、何を考えているんですかっ!?」
隣女「私は、私は……っ
――貴方にもう一度、学校に来て欲しいんですよっ!」
男「……えっ?」
212: 2009/09/10(木) 15:37:06.24 ID:7erPV2cu0
隣女「……あれは事故だった。
錆で脆くなっていた柵は、彼女の体重を支えきれなかった。
屋上から落ちてしまった彼女が、どうなったか。
……次の日から学校に来なかった貴方は知っているの?」
男「……駄目だったって……」
隣女「はぁ、調べもせず噂を鵜呑みするなんて……」
男「……?」
隣女「……彼女は、生きているわよ」
男「――えっ?」
女(私が……生きている……?)
224: 2009/09/10(木) 16:55:02.68 ID:7erPV2cu0
隣女「……どうやら本当に知らなかったみたいね」
男「え、だって……えっ?」
女(……え、ちょっ……ええっ!?)
隣女「……その前に。嫌ならいいんだけれど、
もうここまで言った事だし、お話に参加しない?」ちらっ
女(えっ……私も……喋るの……?)どきっ
男「えっ、と……何を言ってるのか解らないんだけど……」
隣女(やっぱり、話はしたくない……か)
女「……」
男「……?」
隣女「いえ、ごめんなさい、独り言……」
女「――おっ、男さんっ!」
225: 2009/09/10(木) 17:00:31.92 ID:7erPV2cu0
男「――えっ?」
隣女「……頑張ったわね」にこ
女「わ、私……女ですっ。
ええっと、何から云えば良いのか解らないんですけど……」
男「え、何処……?」きょろきょろ
隣女「――居るわよ。貴方の目の前に」
男「……はっ?」
女「信じられないと思うんですが……私……っ、
私は……身体が……見えなくなっちゃって……」
隣女「……さて、何から説明しましょうかしら」
男「え?いや、あの……俺、熱で頭がやられた?」
隣女「――彼女が云うには、あの事故で意識を失った後、
目が覚めたら貴方の部屋にいて、
そして……この状態になっていた……らしいわ」
男「えっと、確かに女の声だけど……。要は……幽霊?」
女「それは私にも……」
隣女「私も詳しくないから推測なのだけれど……
恐らく、『生き霊』に近いものかと……」
226: 2009/09/10(木) 17:07:39.25 ID:7erPV2cu0
女「私、でも物も触れますよ……?」
男「――ひょっとして、あの浮いていた氷のうは……」
女「あれっ、あの時起きていたんですか?しまった……」
男「ええっと。試しに何か持ってみて貰っても……」
女「はいっ、これでいいですか?」ひょいっ
男「うっわ!ベッドの下の俺のコレクションが宙にっ!?」
隣女「……話を続けていいかしら?」
男・女「は、はい……ごめんなさい」
隣女「……貴女は、いえ。貴方の身体は今、
実家の近くの病院で眠っているみたい」
女「……広島の?」
隣女「……考えてみれば自然な流れよね。
事故で意識を失った子供を放っておく親なんていないもの」
男「……意識は?」
隣女「……昏睡状態らしいわ。
彼女の意識は此処に居る訳だから……」
女「えっと、隣女さんはどうやってそれを?」
隣女「ご両親に電話、させて貰ったわ。
大学の友達だと言ったら、重い口を開いてくれた。
……とても、心配していらっしゃったわ」
女「お父さん……お母さん……」
228: 2009/09/10(木) 17:12:02.37 ID:7erPV2cu0
男「――それで」
隣女「……」
男「それで、俺は今まで知らずに女と一緒に……?」
女「はいっ、同棲してました!ふへへっ」
男「あ、あ、あ……っ」ぱくぱく
男(あ、アンナコトやコンナコトも、全部、全部見られていたのかっ!?
だから俺のベッドの下のコレクションを躊躇なく取り出したのかっ!?
――うっ、うわああああぁぁぁっ!!)
隣女「……彼が何を考えているか分かってしまったのだけれど」
女「――えへへっ」
231: 2009/09/10(木) 17:17:55.81 ID:7erPV2cu0
男「――それにしても、隣女さん、よく信じる気になりましたね」
隣女「……何を?」
男「普通、見えない人とか、生き霊なんて……
俺、今でもまだ信じ難いんですが……」
隣女「……私は最初から見えていたから」
女「そうなんです、引越しのご挨拶に来た時から目が合って」
隣女「血筋……かしらね」
男「……?」
隣女「私の父親が神主をやっていて、多分それで……」
女「いやあ!おっ、お祓いは止めて下さいっ!」
男(女、相変わらずテンション高いな……)
235: 2009/09/10(木) 17:24:36.21 ID:7erPV2cu0
隣女「それで……女さん」
女「は、はいっ」
隣女「これは私の勝手な推測なのだけれど……」
男「……元に、戻れるかもしれない」
隣女「――うん」
女「も、元に……?」
隣女「……今、此処に居る貴女が
『精神』や『心』と呼ばれるものだったとして、
広島に居る貴女が『身体』だとすると……」
女「つ、つまり、身体を迎えに広島まで行けば……」
男「……可能性は無きにしも非ず、ってことか」
隣女「――でも、精神と身体が元に戻ると云う事は、
在るべき状態に戻ると云う事だから……その……」
男「『在るべき状態』が『生きている状態』じゃ無かった場合は……」
女「……っ」
隣女「――どうする?危険を冒すより、このままという選択肢も……」
女「……わたし、私は……っ」
237: 2009/09/10(木) 17:29:55.70 ID:7erPV2cu0
女「――行きます。私、行ってみますっ。
ほらっ、お父さんとお母さんにも会いたいし、ねっ?
それに……」
隣女「……」
女「それにっ、男さんにも……笑って欲しいから。
私の所為で男さん、ずっと……笑っていなかったから、
私さえ元に戻れば、きっとまた……っ」
男「女……」
女「だからっ、どうなっちゃうか解らないけど、
……ちょっと怖いけれど、私、行きますっ」
隣女「――女さん」
女「……へへっ」
隣女「ちゃんと帰って来て……私と勝負するんだからねっ……?」
女「やだなあ、隣女さんっ、何泣いてるんですかっ!
解ってますよ!ちゃんとフェアプレイで貴女と戦うんですから!」にこ
隣女「……っ」
239: 2009/09/10(木) 17:33:45.73 ID:7erPV2cu0
男「女……」
女「大丈夫ですよっ、
ほら!この身体なら新幹線だって無賃乗車出来ますし!
考えてみたら何にも戸惑う事なんて……っ」
男「……」
女「――でも、ただ……
もう、貴方と会えなくなるかも知れない事だけが……怖いです……っ」ぽろっ
男「――泣くなよ」なでっ
女「……泣いてなんか……ないですっ……どうせ見えないくせにっ……」ぽろぽろっ
男「涙は……見えてる。……頬を流れてる。――ほら、これだろ?」
……ごしっ
241: 2009/09/10(木) 17:37:25.35 ID:7erPV2cu0
女「――え、えへへっ」
男「……何笑ってるんだよ」
女「男さんに……お顔を触って貰っちゃいましたっ」にこ
男「……それだけで?」
女「ここに来てから、
ずっと、ずっと貴方に触れたかったんですよっ?
でも気味悪がられるのが怖くて……」
女「――でも、でもっ、もうそれは達成しましたから!
これを……この感触を絶対忘れないで戻って来ますっ!」
男「……うん、約束」
女「だから、男さんも、一つ、私と約束して下さいね……?」
男「ん……?」
――――
―――――。
243: 2009/09/10(木) 17:38:29.70 ID:7erPV2cu0
――数か月後 アパート
ぴんぽーん
男「――なんだ、隣女もう迎えに来たのかっ?まだ早いって……」
ぴんぽーん
男「はいはーい。ちょっと待ってー」
たったったったっ。
「まっ、まだドア開けないで下さいっ!」
男「……えっ?」
「――私との約束、果たしてますかっ?」
男「うん……。ちゃんと毎日学校行ってる。授業も出てる」
244: 2009/09/10(木) 17:40:26.63 ID:7erPV2cu0
「……男さん」
男「……うん」
「……ま、まだ開けちゃ駄目です!今、涙で顔がぐちゃぐちゃ……」
男「――30秒だけ、待つよ」
「……ただいま」
男「うん、おかえり」
「じ、じゃあ、ドア。そっと……開けて下さい」
男「――うん。行くよ?」
がちゃんっ ――きぃ
女「ふふふっ……刮目せよっ!」
>>the invisible woman"Can you see me?"
>>The END
>>thx for reading!!
245: 2009/09/10(木) 17:41:15.92 ID:xtiBlrVc0
完結?
246: 2009/09/10(木) 17:42:16.04 ID:/ZxVjRll0
乙
254: 2009/09/10(木) 17:51:45.14 ID:7erPV2cu0
お、終わったあ……。
隣女と女のフェアバトルはこれから始まるのですね。
いろいろと云いたいけど、もう「ありがとう」で。
保守とか支援とか。ホント助かった。ありがとう。
また貴方に会えるのを楽しみに待ってさようなら!ノシ
隣女と女のフェアバトルはこれから始まるのですね。
いろいろと云いたいけど、もう「ありがとう」で。
保守とか支援とか。ホント助かった。ありがとう。
また貴方に会えるのを楽しみに待ってさようなら!ノシ
引用元: 透明女「ふふふっ……刮目せよっ!」
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