1: 2008/05/24(土) 21:24:15.08 ID:elrslLrs0
ハルヒに振り回されていた日々を振り返ると
ブツブツと文句タレながらも、俺はそれを楽しんでいた事実を実感する。

涼宮ハルヒという一人の女子生徒。それを囲むSOS団という奇妙なメンバー。
不可解な事件、ハルヒの言い出す無理難題。
それにこの先ずっと振り回されると思っていたから……まさかそれが一年という短い日数で終わりを告げるとは
正直、今の俺でもまだ少し……信じきれていないところがある。

ある日突然、ハルヒが持っていた特別な力ってのが消えた。
そこから始まったのは、あいつがもっとも嫌っていた平凡な日々。SOS団の解散。
それにあわせるかのように、俺とハルヒの接点も自然と消えていった。
5: 2008/05/24(土) 21:35:17.54 ID:elrslLrs0
最初に居なくなったのは古泉。
いつものようにあの部屋に向かうと階段ですれ違った。
そんな何気ない一コマで、あいつは俺に告げたんだ。

「涼宮さん、普通の人間に戻りましたよ。お疲れ様」

なにを言ってる? そう聞き返そうと振り向いた俺の視線にあいつはいない。
それ以来一度も見かけていない。次の日には転校して、どうやら県外に出て行ってしまったらしい。
ふっと聞いたことがあった。あいつの故郷の話を。
ハルヒにあんな力があったおかげで、あいつはそこを離れることになってしまった。
あの笑顔が作り物だとわかったのもその無機質な別れと最後の表情。

古泉がハルヒを恨んでいたとしても、誰も攻められない。
むしろハルヒになにもすることなく穏便に消えたことに……俺はあいつの最後の良心を見た気がする。

7: 2008/05/24(土) 21:47:33.46 ID:elrslLrs0
部室に行くとそこには朝比奈さんが居た。
「……キョン君」
その時まだ俺は、古泉の一言を信じていないどころか気にも留めてなかった。
だから、朝比奈さんが目に涙を溜めて俺に訴えていることも
恐らくハルヒにまたなにかやらされたのだろうと、そのぐらいにしか考えていなかったんだ。

「私、未来に帰らなきゃいけなくなりました」
「……え?」
そこで一度時間が止まった。
朝比奈さんは文字通り泣き崩れてしまい、状況を理解できない俺が彼女の肩を支える。
すると正面から抱きしめられ、ただひたすら「嫌だ」「急すぎる」「帰りたくない」と
三つの単語を繰り返すだけだった。

落ち着いた朝比奈さんを椅子に座らせて、
俺も状況が状況なのにどきどきしてしまっている心臓を平常に戻す努力をした。
涙声で俺に説明してくれた彼女の顔。俺は一生忘れないだろう。
未来に帰ってしまった朝比奈さんを……たとえもう交わることのない時間軸に存在するとしても
俺は二度と忘れない。

交わした最後の一言。
「私は本当に、SOS団も涼宮さんも……キョン君も大好きでした。ありがとう」
何故俺があの場で涙の一つも流せなかったのか。それだけが、心残りになっている。

10: 2008/05/24(土) 21:57:33.89 ID:elrslLrs0
部室に現れたハルヒに、古泉と朝比奈さんのコトを話す。
転校? そう聞き返すハルヒに、この時点での俺は恐らくとしか答えようがなかった。

「あきれた。あたしを驚かせようってのなら、もっとマシな嘘をつきなさいよ」
「……ウソじゃないって」

ハルヒのあの不思議な力がなくなったのか、それを確かめる術はない。
だけど確かに、あの二人は俺に最後の別れを告げた。
アレが冗談なら、俺はもう誰も信じれないだろう。
とにかくこの日は俺とハルヒ、二人だけで下校時間まで一緒に居た。

どこか嬉しそうなハルヒ。
それを眺めているのは心地よいことだけど……本当にこれからお前と俺だけになったんだぞと
ハルヒが理解する頃にどんな顔になっているのか。それを確かめるのが……少しだけ怖かった。

次の日にはそれも、嫌でも目にすることになった。
古泉と朝比奈さんの突然の転校。その知らせが入ったとき、俺とハルヒは教室に居た。

11: 2008/05/24(土) 22:03:39.68 ID:elrslLrs0
どこで調べたのか、二人の住所を書いた紙を握り締め
無理矢理俺の腕を引っ張って知らない場所を歩いた。

朝比奈さんの家も古泉の家も
初めて見たそこには、人の気配はなにもしなかった。
状況を理解したのかしていないのか、ハルヒはおどおどしながら俺に聞く。
「あの二人……なにか変な事件に巻き込まれたんじゃないの!?」
それは違う。ただただ単純に転校しただけ。しいて言うなら……変な事件に巻き込まれることがなくなったんだ。

近くにあった公園で、ハルヒとこれからのコトを話た。
言っても信じないだろうと、ハルヒに秘められていた不思議な力も説明した。案の定、理解されなかった。
何故あの二人がいなくなった? こんな急に転校なんてありえない!
何度も何度も同じような質問、返答。その度に俺も同じような回答、説明。

段々とハルヒが泣きそうな表情になっていくのがわかった。
だけど、全てを説明できるのは俺しかいない。いなかった。
これからSOS団をどうするか、冷静に判断できた俺も……舞い戻ってきた日常に焦っていたんだ。

12: 2008/05/24(土) 22:08:53.39 ID:elrslLrs0
部室には誰も訪れない。
あれから暫く、といっても一週間も経っていなかっただろう。
放課後はずっとハルヒと行動を共にした。言わなくても、ハルヒがそう望んでいることが伝わってきていたから。

鶴屋さんと話もした。彼女も同じように、突然居なくなった朝比奈さんを心配していた。
俺だけが答えを知っている。だけど教えたところで、それは全く相手にされない。
どんよりとした重く暗い空気も、俺には吸うことしかできなかった。

朝目が覚めても、そこはいつも通り俺の部屋。
つまり、突然消えたSOS団の問題に直面しているハルヒの精神に
ストレスが溜まっていても溜まっていなくても、もう俺に関係がないことを決定付けている。
素直に寂しくなった。本当に……あいつらに逢えなくなったんだと。
二日目の朝になってようやく涙が出た。

俺の経験した、初めての別れ。
あのドタバタしていた日々も、無理難題も全て……俺は大好きだったんだ。

16: 2008/05/24(土) 22:24:04.21 ID:elrslLrs0
今更。
本当に今更、SOS団は解散を命じられた。
暗黙の了解となっていた、SOS団の存在。たった二人になった俺とハルヒの部屋は
ただの個人生徒に使わせることはできないという理由から、倉庫として使われるようになった。

席替えで国木田が後ろに来た。
ハルヒは正反対の席に。この頃から、少しずつハルヒと会話することが少なくなってきた。
あいつがクラスで孤立していくのがわかった。仕方ない。初めからハルヒはそういう子なんだ。
だけどSOS団がなくなったことは、俺とハルヒの接点もなくなってしまったことを意味している。
寂しそうにしているハルヒを……眺めることしかできなかった。

「俺は別に、SOS団がなくなっても……放課後は暇だからな」
「…」
「……だから、お前がどこか行きたいなら、付いてってやってもいいんだぞ?」
「いいわよ。別に」
気を利かせたつもりだったけど、それはハルヒにより孤独感を味あわせているだけだった。
明らかにストレスを溜めているハルヒを、俺は可哀想に思ったんだ。恐らく、それが一番ダメだったのに。

ハルヒが停学になったのは、そんなやりとりもしなくなった数ヵ月後のこと。
校庭に忍び込んで、石灰で意味不明なマークを描いていたところを発見され、
取り押さえる先生に抵抗しただとか……尾ひれをつけて俺にも伝わってきた。

それを聞いて、あぁやっぱり俺は
普通の日常に戻ってきてしまったんだと……嫌というほど実感した。
停学明けのハルヒに、もう話しかける人は居なかった。
女子特有のいじめも、からかう男子も居ない。

ハルヒは孤独になってしまった。
俺も……傍観者にまでなりさがってしまったんだ。

18: 2008/05/24(土) 22:31:05.78 ID:elrslLrs0
ハルヒに特別な力がなくなったとしても
ハルヒの性格が変わるわけじゃなかった。だけど環境がそれを変えた。

大人しくなったわけじゃないんだろう。
ハルヒも中学のときに比べれば大人になっているはずだ。無茶をしても得られるものがなければ
それを求めなくなるのも当たり前。休み時間、机に伏せることも多くなっていた。

たまにメールを送った。すると、ちゃんと返ってくる。
考えてから伝えるまで、こうやって時間を掛けられる媒体なら……俺にもなにかできると思ったんだ。
そのまま恋人同士のような関係になればよかったのか。わからない。
だけど、俺が送らないと返ってこないメッセージに……俺の思考は長続きしなかった。
そこに込められたハルヒの想いを、俺は一つも理解できなかった。

メールも電話も、話もしないまま。
俺とハルヒは三年生に進級した。その新しいクラスにハルヒはいなかった。
あぁ、やっぱり。そう思ってしまった俺はダメだったのか?

21: 2008/05/24(土) 22:37:48.19 ID:elrslLrs0
無難と言えば無難かもしれないが、とりあえずの受験勉強を始めていた。
その間にも色々とあった。女子生徒に告白されたり、学校を辞めていく友人が居たり。
だけど楽しい高校生活を送れていたのが事実。三年になっても、それはちゃんと続いていた。

ハルヒと廊下ですれ違った。
わかってはいたが、やはり会話はない。目もあわせない。
相変わらず一人ぼっちらしい。全校に広がっていた、ハルヒの悪行(俺はそうは思わない。ただ、一般的な意見だ)が
あいつに話しかける人を作らなかった。
SOS団が存在していたならば、あいつはどうなっていただろう?
いいや、考えてもしかたない。もうそれは、存在しないから。

「ごめん。もう別れよう」
三ヶ月付き合った彼女から最後のメール。
理由は大体わかる。俺が彼女に興味なかったからなんだろう。
じゃあなんで付き合ったのか?さぁね、暇だったから……
違う。わかってる。そうだよ、俺も……ハルヒを忘れようとしていたんだ。

俺がハルヒに込めていた思いを、違う人に向けてしまおうと。
出来るはずもないのに、やろうとしていた。結果、俺の恋愛履歴書にマイナスな項目が増えたんだ。

25: 2008/05/24(土) 22:53:21.75 ID:elrslLrs0
昼休み、ハルヒと中庭の小さなベンチで話した。
自販機にジュースを買いに行くと、そこにハルヒが居たんだ。
だから本当になにげなく話しかけた。すると、ハルヒも嫌な顔をせずに答えてくれたんだ。

「久しぶりね、キョンと話すのも」
「そうだな」
「……キョンは進路、どうするの?」
「ん? まあ、大学受験するよ。ハルヒは?」
「あたしはね、専門学校」
「? なんのだよ?」

そんな何気ない会話。
あの頃の懐かしい空気が戻ってきた気がしたけど、前ほどハルヒに元気はなかった。
ハルヒが落ち込んでるという意味ではなく、大人しくなっている。そういうこと。
だけど思ったほど俺とハルヒにはわだかまりもなく、昨日の続きのように会話をすることが出来たんだ。

予鈴のチャイムが成る。
もうそんな時間なのかと、当たり前のリアクション。そうにしか思えなかったからな。
別れ際に、もう一度アドレスを交換した。俺が……「元カノ」と付き合うときに、消してしまっていたから。
うろ覚えだけど、ハルヒのアドレスは変わっていなかった気がした。

夜、先にメールを送ってきたのはハルヒだった。
懐かしい。あいつから送られてくることが、本当に懐かしかった。
そこには昼間の会話の延長腺のような内容が。だけど、それで十分だった。

もう一度、涼宮ハルヒと接点ができた。

30: 2008/05/24(土) 23:24:48.97 ID:elrslLrs0
それからは、ハルヒとのメールが楽しみの一つになった。
授業中も隠れて送信した。受信も。
なんでもない会話、やりとり。以前のハルヒとは……こんなこともしなかっただろう。
SOS団がなくなって、失ったことも多かったけど
やっとハルヒが元気になってくれたんじゃないのかと、少し安心した。

休み時間、ハルヒが遊びにきた。
いきなり現れたハルヒは、メールで済むような話をして、戻っていった。
逢って話をするのが一番楽しい。多分、ハルヒも同じ。
次の休み時間も。次の次の休み時間、昼休み、放課後もハルヒは俺に逢いにきてくれた。

それが段々と当たり前になって
ある日突然、ハルヒが逢いにこなくなった。
その原因はどうやら、俺と付き合っていたあの子にあるらしい。
もう別れたはずなのに、俺に逢いに来るハルヒが気に入らなかったのか……ハルヒと一騒動あったみたいだ。
今更俺に、なにを期待したのか。わからないけど、ハルヒと仲良くするためにそっけない態度をしていたんじゃないのかと
自分から振ったにもかかわらず俺に問い詰めてきた。思えば、告白してきたのもお前じゃないか。

でも、それでいいよ。
俺は……ハルヒが好きなんだ。誰でもない、涼宮ハルヒが。
今度はどうすればいいかわかっている。
ただ少しの誤算は、そんなことで俺からまた放れるほど、ハルヒに余裕がなくなっていること。
懐かしい。これなら、すぐに閉鎖空間も生まれているだろうに。本当に懐かしいよ。

31: 2008/05/24(土) 23:29:47.54 ID:elrslLrs0
「彼女が居るなら、居るって言いなさいよ」
「違う。あいつとはもう何もない。お前になにか言ったかもしれないけど、気にするなって」
「…」

無言のまま、トボトボと歩く。
ハルヒの歩幅、こんなに小さかったのか? 背中ももっと真っ直ぐして、勝手に俺の腕を引っ張って
どんどん歩いていくような子だったはずだ。それがこんなに……大人しい子になっちまった。

「変わったよな。ハルヒ」
「なによ、それ」
そのままの意味さ。お前はもう一般的な女子生徒だ。
不思議な力も頼もしい仲間もいない。
ただの平凡な高校生だ。

「……高校生活、楽しかった?」
「どうだろうな、半分半分だ」
「…」
「ハルヒは、つまらなかったのか?」
「どっちかと言うとね。だけど……SOS団があった頃は、本当に楽しかったわ」
「……俺もだよ」

33: 2008/05/24(土) 23:37:33.59 ID:elrslLrs0
あの頃となにが違う?
そうだな、全部違う。お前の言うとおりだ。
だけど……この数日間、お前は少しだけ、昔と同じ顔になったと思うよ。
「?」
俺もそうだ。またお前と話すことが出来て、あの騒々しい日々を思い出した。
……そうだよな、まだたった一年とちょっとしか経っていないのに……何十年も昔のことみたいだ。

「なぁハルヒ」
「うん」
「付き合おうか」
「……いいわよ」
「そっか」

何気なく言うと、無機質な返答で返ってきた。
聞き返さない。それ以上なにも言わない。
これからは、ハルヒには一人の女の子として接してみる。
そりゃそうだ。もうハルヒは特別じゃない。普通の、可愛い女の子だ。

騒々しい日々は帰ってこない。
ハルヒは、この先も退屈を唱え続ける。だけど、その隣には俺が居る。
力を失ったハルヒには、これが一番の状態だと、俺は思うんだ。

35: 2008/05/24(土) 23:43:36.94 ID:elrslLrs0
「…」
立ち止まったハルヒの背中に、ぴったりと体を合わせる。
昔と殆ど変わらない身長さ。……昔ってほどじゃないか。
「そんなことないわよ。もう……大昔」
「そうか?」
「……思い出でしかないもの」
「…」
「戻ってこないから、ずっとずっと昔の記憶。思い出すだけで……限界」

ハルヒの腹部あたりに手を回す。暖かい。
少しだけ、くっとハルヒが後ろに体重を掛けるのがわかった。
支えてやる。もう、寂しそうな顔すんなよ?
「してないわよ」
してたって。……わかったよ。もう攻めない。ごめん。
「……よろしく」
何が?
「だからこれから。よろしくね、キョン」
あいよ。
「……あ」

雪。
雪が降ってきた。茜色の夕日の奥から粉雪が。
「え? なんで? 今六月よ?」
「…」

38: 2008/05/24(土) 23:54:10.47 ID:elrslLrs0
「……こんなこともあるのね」
「なんだ、不思議に思わないのか? 昔のお前なら、もっとこう」
「思ってるわよ。でもそれで終わり。あたしになにが出来るの?」
「…」

寂しそうに言ったわけでも、自暴自棄でもない。
その通り。ハルヒには……なにも出来ない。
なにか出来ていたことが、おかしいんだ。ハルヒも俺も、一般的なただの高校生。

ポケットの中で携帯が揺れた。
そうだ、マナーモードを解除して……こら、勝手に取るな。

「メール」
「見るなよ」
「見られたらまずいの?」
「別に。ただ、そういうのはダメだろ」
「いいじゃない」
「こら」
「……? 誰コレ」

40: 2008/05/25(日) 00:00:38.68 ID:2OIYwupy0
『これが最後。外から見ることも最後。 ……幸せに。  Yuki』

ハルヒが知っているわけがない。俺も知らない。
あて先人も、アドレスも記憶がない。誰だろうと返信しても……届かない。
「いたずら?」
「多分……だけど、なんだろう」
「……懐かしい」
「だよな。なんでかな」
「わからないわね。だけど……ありがとう、有希」
「……そうだな」

誰かはわからないけど、俺とハルヒはその子を知っている気がする。
だけど、それもそこまで。それ以上は……わからないだろう。

六月の雪の中を、ハルヒと帰った。
前ほど無茶を言わない。俺も、今度は俺からハルヒに触れていく。
SOS団が無くなった意味を……俺はやっと理解した気がする。

ハルヒ、古泉、朝比奈さん。……もしかすると、メールの主もそこに居たのかもしれない。
ありがとう皆。俺は、この先も平凡な日々を送っていく。

涼宮ハルヒと、二人で。

41: 2008/05/25(日) 00:03:10.48 ID:2OIYwupy0
はいおしまい。SSじゃないのなんて書きにくい書きにくいww
本当はもっと、絶望に満ち溢れるハルヒと励ますキョンを書きたかったけど
俺の表現力と思考が限界でしたwww

まあたまにはこういうのもいいかなぁと。
プリンに投下しるって言われると終わりだし、俺もそう思う。でも考えながら書いてたから多めに見てあげてww
そんな感じ。ありがとう。

42: 2008/05/25(日) 00:03:43.72 ID:AZQsiNU7O

43: 2008/05/25(日) 00:05:15.24 ID:OXqDwZcJO

よかった

引用元: 涼宮ハルヒの夕暮