1: 2017/01/06(金) 18:09:36.09 ID:4tlvUckho

20XX年――

人類という存在そのものに絶望した草野仁は、こう宣言した。



「全人類をボッシュートです!」


2: 2017/01/06(金) 18:11:52.68 ID:4tlvUckho

ボッシュートとは、対象を地の底に沈めることを意味する。

沈められた者は、地面にうずまったまま、まるで眠るように永久に生き続けることになる。

考えようによっては、天国とも地獄ともとれる末路だ。



草野仁は全人類をボッシュートするため、
自身の使い魔である「ミステリーハンター」を全世界に解き放った。

3: 2017/01/06(金) 18:14:06.88 ID:4tlvUckho

無数のミステリーハンター達は、人々に「クエスチョン」を与えた。


どうすれば地球は平和になるのか――

どうしたら人は優しくなれるのか――

いったいいつになれば人々は分かり合えるのか――


誰も答えられない問い。
答えられない者、あるいは適当に答えた者は、次々とボッシュートされていった。

4: 2017/01/06(金) 18:17:46.39 ID:4tlvUckho

無論、人類も手をこまねいているわけではなかった。

全世界の戦力を結集させた軍隊が、草野仁に戦いを挑む。



地球上に存在するありとあらゆる兵器が、草野仁に叩き込まれた。

5: 2017/01/06(金) 18:20:28.37 ID:4tlvUckho

ところが――


「やれやれ、こんなものが私の肉体に通用するわけないでしょう?」


どんな弾丸も、どんな毒ガスも、核兵器や生物兵器でさえも――
草野仁の頑強な肉体に傷一つ負わせることはできなかった。

太陽に水をぶっかけて火を消そうとするような試みであった。

6: 2017/01/06(金) 18:23:08.67 ID:4tlvUckho

「では、ボッシュートです!」


草野仁の号令とともに、兵士たちは大地にずぶずぶと沈んでいく。


「Nooooooo!」

「うわぁぁぁぁぁっ!」

「助けてくれぇぇぇっ!」


沈みゆく軍勢を、草野仁はどこか悲しそうな表情で眺めていた。

8: 2017/01/06(金) 18:27:37.42 ID:4tlvUckho

全人類ボッシュート宣言から、はや一ヶ月――

この頃になると、人類の八割ほどが、草野仁らによってボッシュートされてしまっていた。



残り二割がミステリーハンター達によって狩られるのも時間の問題、と思われた。

9: 2017/01/06(金) 18:30:49.01 ID:4tlvUckho

ここで意外な事態が発生する。
地球上に突如、巨大な黒い大陸が現れたのである。

残る人類はワラにもすがる気持ちで、この“暗黒大陸”に避難した。

特別な結界が張られているため、ミステリーハンターはこの大陸に近づけない。


「どうやら、私が出るしかなさそうですね」


ミステリーハンター達を退避させると、草野仁がついに自ら動き出した。

10: 2017/01/06(金) 18:34:28.83 ID:4tlvUckho

結界をやすやすと突破した草野仁は、残る人類、ではなく大陸そのものに話しかける。


「なぜ、私の邪魔をするのですか?」


次の瞬間、草野仁はかつての同胞の名を口にした。


「……黒柳さん」


暗黒大陸が動く。
そう、この黒い陸地の正体は、黒柳徹子の“頭”だったのだ。

11: 2017/01/06(金) 18:38:08.72 ID:4tlvUckho

草野仁と正体を現した黒柳徹子が対峙する。


「まずあたしから質問してもよろしいかしら? 草野さん」

「どうぞ」

「どうしてあなたは全人類に絶望してしまったのかしら?」


草野仁は少し沈黙した後、口を開いた。


「私は世界のふしぎを次々と発見するうち、それ以上に人類の汚さ、醜さというものを
 発見してしまいました」


黒柳徹子は黙って聞いている。

12: 2017/01/06(金) 18:42:49.93 ID:4tlvUckho

「いつまでたってもなくならない戦争やテロ、飢える子供たち、加速する環境汚染、広がる格差、
 増え続ける核兵器……挙げようと思えばキリがありません」


草野仁はゆっくり首を振った。


「だから私は決心したのです。人類はボッシュートした方がいいのだと。
 それが地球のため、ひいては人類のためなのだと……」

13: 2017/01/06(金) 18:46:14.16 ID:4tlvUckho

黒柳徹子も大きくうなずく。


「たしかにあたしもあなたのおっしゃること、もっともだと思いますわ。
 あたしもユニセフで活動している時、あなたのおっしゃるようなことを思わない、というと
 ウソになりますもの」

「そうでしょう?」

「でもね、だからってボッシュートはよくありませんわよ、あなた。
 あなたが醜いとボッシュートした人達の中にも、清らかな心を持ってる人はいくらでもいるし、
 そうでない人だって清らかになる可能性はあるんですもの」


草野仁はしばし考えてから、こう告げた。


「では黒柳さん、これから私はどうすべきだと思いますか? 回答をどうぞ!」

14: 2017/01/06(金) 18:50:12.48 ID:4tlvUckho

草野仁を納得させられる回答をしなければ、即ボッシュートであろう。
しかし、黒柳徹子に恐れも迷いもなかった。

黒柳徹子の回答が、上空のモニターに映し出される。



『人類を信じて!』



陳腐といえば陳腐な回答である。
信じる者は救われる、のならば苦労はない。
草野仁が全人類ボッシュートを決断するような世の中にはなっていないはずだ。

だが、一笑に付すことのできない迫力を秘めているのも事実だった。

15: 2017/01/06(金) 18:53:38.08 ID:4tlvUckho

しかも、黒柳徹子の手元には――


「スーパーひとし君……!」


赤い帽子と赤いマントを身につけた、自身の人形があった。

汗をかく草野仁。
スーパーひとし君を出すこと、それすなわち、確信ともいえる自信の表れ。

黒柳徹子は、それほどまでに人類を信じているのだ。

16: 2017/01/06(金) 18:57:24.17 ID:4tlvUckho

黒柳徹子の回答から、およそ一時間後。


「……分かりました、黒柳さん」


草野仁は微笑んだ。


「全人類をボッシュート宣言は撤回いたします」

「まぁ、どうもありがとうございます」

「お騒がせをしてしまいました。また来週からは番組でよろしくお願いします」

「いえいえ、ごめんあそばせ」

17: 2017/01/06(金) 19:00:41.51 ID:4tlvUckho

こうして、草野仁によってボッシュートされた人類は、地上へと戻された。

全ては元に戻ったのである。

相変わらず、人類は解決の目処が立たない課題を無数に抱えているが――
ボッシュート以前よりは事態が好転したのでは……と思われる場面も多々見られるようになった。



そして、草野仁は時々ふと思うのだ。

あの時、黒柳徹子の回答から感じ取ることができた、あの希望の光。


あれもまさしく、世界の“ふしぎ”の一つではないかと……。







― 終 ―

18: 2017/01/06(金) 19:02:19.74 ID:byHlOEY0o
乙!久々の良SSだった

19: 2017/01/06(金) 19:03:25.41 ID:vMDVFDlJ0

謎の説得力

引用元: 草野仁「全人類をボッシュートです!」