1: 2009/09/18(金) 15:50:14.92 ID:4VpYfPgg0
澪は大学を卒業後、そこそこ大きい会社の正社員事務として採用されバリバリ働いていた。
派遣事務が多いご時勢、正社員として採用されるのは簡単ではない。

それゆえ澪は、他の派遣事務から疎まれていた。

給湯室

女1「それで課長がさー」

女2「アハハハハ」

澪「おい」

女共「・・・」

澪「お客様にお茶も出さず何サボってるんだ」

女共「ハア・・・」
けいおん!Shuffle 1巻 (まんがタイムKRコミックス)
4: 2009/09/18(金) 15:58:04.77 ID:4VpYfPgg0
澪「喋ってないで仕事しろよまったく」

女1「何なのアレ」

女2「自分だけ正社員だからって調子に乗りすぎでしょ」

女3「大して仕事できないくせにね」

その通りだった。
澪は仕事ができないくせに正社員という権利を振りかざし、
派遣を馬鹿にしている風なところがあった。

そういうところにも原因があるのだろう。
澪は日常的に派遣女共から嫌がらせを受けていた。

5: 2009/09/18(金) 16:01:51.47 ID:4VpYfPgg0
課長「秋山!」

澪「は、はい」

課長「お前こんな仕事もできんのか!?一体何年この仕事をしている!」

澪「すみません・・・」

課長「今までその言葉を何万回聞いたことか」

澪「・・・」

課長「これならお前が派遣で女の誰かを正社員で採用したほうが良かったよ」

澪「・・・」




女共「ざまあwwwww」

8: 2009/09/18(金) 16:09:02.10 ID:4VpYfPgg0
帰路

澪(ハア、いつもいつも怒られてばかり)

澪(会社には私の友達も味方も一人もいないし)

澪(会社、辞めたいな・・・)

考え事をしながら歩いていた澪は、いつの間にか人影のない通りに出ていた。

澪「こ、怖い・・・」ブルブル


9: 2009/09/18(金) 16:14:58.75 ID:4VpYfPgg0
あまりの恐怖に通りをダッシュしていた澪だったが、やがて前方に一軒の屋台を見つけた。
どうやらおでん屋らしい。

澪「た、助かった・・・」

何と戦っていたのかは定かではないが、澪は助かったようだ。

澪(こういうところで食事ってしたことないな。せっかくだから軽く食べていくか)

澪は暖簾を広げた。

「ヘイ、らっしゃい」

澪「えーっと、とりあえず玉子ひとつ」

「はいよ」

12: 2009/09/18(金) 16:27:09.92 ID:4VpYfPgg0
おでん屋の店主はタバコをふかしながらスポーツ新聞を読んでいる。

屋台特有の店主と面と向かって、しかも至近距離での食事は慣れない人にとっては苦痛であろう。
澪もまた例外ではなかったが、
なぜか澪はこの屋台に言い知れぬ安心感のようなものを感じていた。

澪(お互い寡黙だからかな)

そんなことを考えながら、玉子をほお張った。

13: 2009/09/18(金) 16:34:10.68 ID:4VpYfPgg0
澪「う、うまい!」

「そうか」

澪「これすごくうまいよ!ズズッ、ダシもよく出てる!」

「そりゃあ良かったな」

店主は短く返答する。
それでも澪は、店主がそっけないと感じることはなかった。

澪「白滝!あとがんももくれ!」

「あいよ」

店主は面倒臭そうに白滝とがんもを皿に乗せた。

14: 2009/09/18(金) 16:43:31.60 ID:4VpYfPgg0
澪はおでんを食べながら今日一日を振り返る。

簡単な仕事でミスをし、怒られたこと。
給湯室で陰口を言われていたこと。
いやなことばかりだ。

澪(屋台で食事するサラリーマンをよく見るけど、きっと私と同じことを考えながら食べてるんだろうな)

澪は大人の階段を上ったような気がした。

澪(大人って大変なんだな)

澪はあらためて実感した。

16: 2009/09/18(金) 16:50:47.85 ID:4VpYfPgg0
澪「うまかった。また来るよ」

「あいよ」

澪は腰を上げた。
このとき初めて店主の顔を見た。

澪「へ?り、律・・・?」

律「は?ああ、そうだけど」

澪「え?私今おでん食べてて、え?あれ?」

律「もしかして今気付いたのか・・・」

おでん屋の店主は律だった。

21: 2009/09/18(金) 17:00:59.71 ID:4VpYfPgg0
澪「声かけろよ!」

律「澪なりのギャグなのかと思ってな」

澪「というか律、何かキャラ変わってないか?」

律「おいおい、私らももう30手前だぞ。久しぶりの再開に馬鹿騒ぎする年齢でもないだろう」

澪「それにしたって・・・」

おでんを食べていたときの、言い知れぬ安心感。
その原因は幼馴染特有の優しい空気にあったのだろう。

澪はそう思った。

25: 2009/09/18(金) 17:15:54.35 ID:4VpYfPgg0
その後、二人は昔話に花を咲かせた。

と、言っても一方的に澪が喋り、
律は「そうか」とか「ああ」と言って頷くだけだったが。

澪「それじゃあ律。また来るよ」

律「ああ、待ってる」

澪が席を立つと、中年サラリーマンが入ってきた。

リー「よっ、まだやってる?」

律「やってるよ」

リー「じゃあとりあえず大根ね。それより聞いてくれよ。今日取引先で」

きっとこのリーマンの今日の愚痴を律に吐き出すのだろう。
澪は、同じような人間がいることに安心しながら帰路についた。

30: 2009/09/18(金) 17:29:19.41 ID:4VpYfPgg0
ある日、澪は派遣女にお茶を浴びせられた。

澪(あいつら派遣のくせに正社員の私に歯向かいやがって)

澪(あーイライラする)

澪(今日も律のところで愚痴を聞いてもらうか)

澪は仕事などで嫌なことがあると、律の屋台に顔を出す。
最近は週3回ペースである。
律は嫌な顔ひとつせず、澪の愚痴を聞くのだ。

澪(持つべきものは親友ってやつだな)

33: 2009/09/18(金) 17:37:39.85 ID:4VpYfPgg0
澪「律ー聞いてくれよー」

律「ああ、聞いてるよ」

律は仕込みをしながら返答をした。

澪「クソ、あいつら派遣のくせに・・・」ブツブツ

澪「熱燗くれ」

律「飲みすぎじゃないか?まあ私は儲かるからいいけどさ、ほら」

澪はブツブツ言いながらお猪口に口をつけた。

38: 2009/09/18(金) 17:44:34.94 ID:4VpYfPgg0
澪「そういえば、他の奴らは今何をしてるんだ?」

律「他の奴らって?」

澪「唯とかムギだよ。梓は知ってるけど・・・」

梓は大学時代に組んだバンドでプロデビューしていた。
しかも、オリコンにランクインするほどである。

澪「私らの中でまだ音楽を続けてるのは梓だけだもんなぁ。あいつはすごいよ」

律「梓なら時々ここに来るぞ」

澪「え?」

41: 2009/09/18(金) 17:52:42.10 ID:4VpYfPgg0
律「あいつも色々あるんだろうさ。だいぶストレスも溜まってるみたいだな」

澪「芸能界は華やかなだけじゃないってことか」

律「ああ」

澪「なんだ律、高校時代とは違って頼られてるじゃないか」

律「知らないよ」

律は一瞬照れたような顔をした。
澪はその顔を見て、なんだかんだ言っても律は昔のままなんだと感じ、安心した。

42: 2009/09/18(金) 18:04:59.76 ID:4VpYfPgg0
澪「唯は?あいつとは会ってないのか?」

律「唯も時々ここにくるぞ」

澪「なんだよ・・・私だけ仲間はずれかよ・・・」

律「そんなわけないだろ。みんなお前みたいにたまたまここを見つけて立ち寄ったんだよ」

澪「すごい偶然だ」

律「だな」

なんだか可笑しくなって、二人で笑いあった。

43: 2009/09/18(金) 18:16:48.28 ID:4VpYfPgg0
梓「どうもです」

律「ん?おう」

梓「お久しぶりです律先輩」

澪「梓!?」

梓「澪先輩!?」

律「おい澪席詰めてくれ」

澪「ああ」

律「今日は休みか?」

108: 2009/09/19(土) 11:34:20.15 ID:BYUj/fLC0
梓「はい、一ヶ月ぶりの休みです」

澪「そんなに働いてるのか。辛くないのか?」

梓「まあ自分で選んだ道ですし、これくらいは普通だと思ってますよ」

澪「すごいな・・・」

律「今や若者に大人気のバンドだもんな。お前が出演する番組、私もいつも見てるよ」

梓「ありがとうございます」

梓「・・・」

梓「最近の私たち、どう思いますか?」

110: 2009/09/19(土) 11:48:59.95 ID:BYUj/fLC0
澪「どうって言われても。すごいと思うけど」

梓「どういう風に?」

澪「いい歌詞だし曲もいい。相変わらず梓のギターはうまいしな」

梓「そうですか・・・」

澪「何か納得いってない感じなのか?」

梓「売れれば売れるほど、やりたいことができないんです」

梓「弾きたい曲、歌いたい歌詞そんなものはひとつもありません。av○xが用意したものを私たちが演奏するだけ」

梓「言ってしまえば私たちが演奏する必要なんてないんですよ。売れればいいんですから」

122: 2009/09/19(土) 14:53:41.67 ID:BYUj/fLC0
梓は澪達には理解し難い悩みを打ち明ける。

梓「私たちはロボットと同じです」

澪「そんなこと・・・」

梓「なんだったら本当にロボットに歌わせればいいんです。どうせ売れるんだから」

澪「そんなこと言うなよ。梓のおかげで給料をもらってる人だっているんだ。事務所の人たちとか」

梓「その人たちのおかげで自由を奪われるんですから皮肉ですよね」

澪「梓・・・」

梓はメジャーデビューしてからというもの、荒んだ考えを持つようになった。

124: 2009/09/19(土) 15:28:47.74 ID:BYUj/fLC0
それまで黙って梓の言葉を聞いていた律がゆっくりと口を開いた。

律「実るほど頭を垂れる稲穂かな」

突然わけのわからないことを言い出した律に、澪と梓は呆気に取られる。

律「お前が毎日毎日、うまい飯を食べられる理由をもう一度よく考えてみることだな」

梓「え・・・?」

律「お前が暖かいスタジオでぬくぬくと練習してる間にエイベ・・・なんとかの人たちは汗水たらしてお前らのバンドを売り込んでるんだ」

律「梓は知らないかもしれないけど、全国のCDショップではわざわざお前のためにコーナーを作ってくれてるんだ」

律「CDが売れるように、違法にダウンロードされないようコピーガードを改良してる技術者もいるだろうさ。あまり効果は上がってないみたいだが」

律「お前のCDを一枚売るために、一体何万人の人間が寝ないで働いてるんだろうな」

律が話終えると、屋台は静寂に包まれた。

125: 2009/09/19(土) 15:46:31.55 ID:BYUj/fLC0
静寂を打ち破るように、梓が立ち上がる。

梓「ご馳走様でした」

澪「お、おい!今日は休みなんだろ!もっとゆっくりしてけよ!」

梓「いいえ、帰ります」

澪「律も言いすぎだぞ!梓に謝れ!」

梓「謝らなくていいです」

澪「え?」

梓「今から営業行ってきます」

律「そうか」

梓は深々と頭を下げた。

梓「律先輩、ありがとうございました」

律「いいから早く行け。もう6時だぞ」

梓「はい!澪先輩もありがとうございます!ではまた!」

律の言葉で梓が心を入れ替えたのかどうかは定かではないが、
次に出したCDの売り上げが200万枚を超えた。
梓にとって初のミリオンどころかダブルミリオンである。

127: 2009/09/19(土) 15:54:12.93 ID:BYUj/fLC0
澪は相も変わらず、屋台に通っていた。
今日はやけに賑やかな声が響いている。

澪「よっ、今日も来たぞ」

唯「あー!澪ちゃん!」

澪「唯!さっきから騒がしかったのはお前だったのか!」

唯「ぶーそんな言い方ひどいよー」

澪「相変わらずだなあ唯は」

律「少しは落ち着きを持ってもらいたいものだ」

唯「えへへ」


132: 2009/09/19(土) 16:22:26.72 ID:BYUj/fLC0
澪「唯は今何してるんだ?確かFラン大を卒業したんだよな」

唯「ふふふ、澪ちゃん。わたくし平沢唯はなんと来年から国家公務員なのです!」

澪「嘘だろ?」

律「マジだよ」

唯「はっはっは、今はフリーターだけど来年からは国のために働くんだよ」

律「調子のいい奴め。半年前は氏にそうな顔してここに来たくせに」

唯「あれは勉強が大変だったからだよー!」

137: 2009/09/19(土) 16:33:08.40 ID:BYUj/fLC0
澪「国家2種か?まさか、1種・・・?」

唯「ふふふ、自衛官幹部候補生だよ澪ちゃん」

澪「自衛官?唯、自衛官になるの?」

唯「うん」

澪「無理だろ」

唯「無理なことないよ!愛国心、国を守りたい気持ちは誰よりも強いんだから!」

律「まあ、そう気張るなよ唯」

139: 2009/09/19(土) 16:49:15.51 ID:BYUj/fLC0
唯「別に気張ってないよ!」ふんすふんす

律「肩の力を抜けってんだよ」

律「大体お前みたいなぺーぺーに国を守れるとは思えないな」

唯「ひ、ひどいよりっちゃん!」

律「いいか唯。お前みたいな新人に国を守ってもらおうなんて誰も期待しちゃいないよ」

律「まずは家族を守れるようになれ」

唯「家族を?憂とか?」


141: 2009/09/19(土) 16:55:21.65 ID:BYUj/fLC0
律「そうだ。家族を守れるようになったら次は恋人、親友、友だち、親戚、知り合い、そうやって自分が守れる範囲を広げていくんだ」

律「それがどんどん広がっていって、ついには国を守れるようになる。まあ、これは10年やそこらでできるようなことじゃないだろうけどな」

唯「まずは家族・・・うん、わかった」

唯「ありがとうりっちゃん。今日はもう帰るね。来年のためにトレーニングしとかなきゃ!」

律「ああ、それと唯。愛国心だけは絶対に忘れるなよ」

唯「合点承知の助」

唯「それじゃあね澪ちゃん!よーし頑張るぞー!おー!」

このときの3人には知る由もなかったが、
30年後唯は一般大学卒女性自衛官として、初の陸自幕僚長となる。
今だ男尊女卑、防衛大卒支配が強い自衛隊の中では異例のことだった。

146: 2009/09/19(土) 17:07:14.00 ID:XTU7eXu70
むぎちゃんは?

148: 2009/09/19(土) 17:43:35.02 ID:wlCgKmM6O
苦労してるムギとか想像出来ない



と思ったけど愚民にはわからない金持ちの悩みとかあるんだろうな…

引用元: 澪「死にたい」