1: 2016/10/05(水) 15:28:48.58 ID:5OPoj0/6O
「んん……」


目を覚ましてゆっくり体を起こすと、そこは見知らぬ場所でした。

あたりを見渡すと、木々は明るい緑の葉をつけていて

空は青く、小さな綿雲が浮かび

太陽はまだ低く、淡くてあたたかな光が降り注ぎます。

少し離れたところに見えるのは泉でしょうか。

青く、鏡のように木々や空を映し出していました。


2: 2016/10/05(水) 15:32:05.51 ID:5OPoj0/6O
「すぅ・・・すぅ・・・」

寝息のする方を見ると、私の隣でことりがすやすやと眠っていました。

純白のワンピースに身を包んで

身体を私の方に向けて。

どうやら私はことりと二人で寝ていたようです。

寝顔をのぞくと、どこかあどけなさが残っていて、それがとてもかわいいくて。

自分の服を見てみると、ことりと同じものを着ていました。

3: 2016/10/05(水) 15:33:47.83 ID:5OPoj0/6O
「一体ここは……」

昨晩、布団に入って寝た記憶はあります。

では、夢?

こんなに鮮明ではっきりした夢ははじめてです。

ことりを起こそうとも考えましたが、この寝顔を見るとそんな考えはすっかり消えて、やっぱりそっとしておこうと思いました。

4: 2016/10/05(水) 15:35:42.10 ID:5OPoj0/6O
ここはとても静かで、聞こえるのは私が歩く音だけ。

靴もなかったので、裸足で歩きました。

辺りは芝生にも似た短く、柔らかい草が地面を覆っていて、歩くたび、足の裏がふわりと気持ち良い感じがします。

空気がとても綺麗で、息を吸うたび体の隅々まで洗われるような感じがしました。

5: 2016/10/05(水) 15:37:36.62 ID:5OPoj0/6O
泉のそばまで行ってみました。

泉は青く、透き通っていて、底まではっきり見えます。

風もなく、波ひとつ立っていません。

私はしゃがんで、水面に指先をちょん、と触れると、触れたとこから波が同心円状に広がって、やがて消えました。

また、もとの波ひとつない水面に。

この泉を見ていると、心が落ち着きます。

6: 2016/10/05(水) 15:40:07.92 ID:5OPoj0/6O
しばらく泉を眺めていました。

「海未ちゃん?」

声がしたので振り返ると、そこにはことりがいました。

「ここどこなのかな……」

ちょっぴり不安そうな表情を浮かべて。

「さあ・・・私にもわかりません」

ことりも、泉のそばまで歩いてきました。ことりもはだしです。

私の隣にしゃがんで、泉を見て

「わあ~っ、きれい」

ことりは目を輝かせながら。

そんな無邪気なことりを見ていると、ほほえましくて。

泉にみとれていることりの横顔を、私はじっと見つめていました。

7: 2016/10/05(水) 15:41:46.64 ID:5OPoj0/6O
私とことりはすぐそばにある石の段に腰掛けました。

「すごく落ち着くな~。ことりここ好きかも」

「そうですね。心が安らぎます」

「他の人はいないのかな」

「見当たりませんね」

「じゃあ私と海未ちゃんだけだね」

ことりは私の方を向いてにこっと笑いかけました。

8: 2016/10/05(水) 15:43:18.47 ID:5OPoj0/6O
ことりと二人きり。

しばらく、静かな時間が過ぎていきました。

このままずっと、ここでこうしていたいとさえ思いました。

でもここは私の夢の中。このことりも私の意識が作り出したもの……

ことりが私の方に寄りました。少しだけ距離が縮まります。

ことりは、膝に置いた私の左手の上に、右手をそっと乗せました。

「ことり?」

ことりは少しだけ恥ずかしそうにして

「手……つないでもいい?」

と聞いてきました。

9: 2016/10/05(水) 15:44:54.94 ID:5OPoj0/6O
ことりと手をつなぐなんて、何年ぶりでしょうか。子供のとき以来です。

ことりの手のぬくもりが私の左手に伝わってくるのがわかります。

いつも笑顔を崩さないことりが、少し恥ずかしそうな表情を浮かべて。

私は、何も言わず、ことりの右手の指と指の隙間に私の左手の指をそっといれました。

多分、夢だからそんなこともできたのでしょう。

私が左を向くと、嬉しそうな表情のことり。

10: 2016/10/05(水) 15:46:18.70 ID:5OPoj0/6O
「海未ちゃん……」

ことりは目を少し潤ませて、視線を下に向けて何か言いたげに

「海未ちゃん…あのね」

頬が染まって

「あのね……ことり、海未ちゃんのこと――」

11: 2016/10/05(水) 15:47:52.38 ID:5OPoj0/6O



目を覚ますと、見慣れた天井。

ああ、やっぱり夢だったんですね。

わかってはいたつもりでしたが、とても名残惜しい気持ちになりました。

「ことり、海未ちゃんのこと――」

ことりの言葉、表情が脳裏をかすめます。

あのときことりは私に何を言おうと……

12: 2016/10/05(水) 15:49:12.73 ID:5OPoj0/6O
今日は朝練がないので以前のように3人で集合して学校へ行きます。

私が集合場所につくと、既にことりがいました。

ことりは私をみつけると、一瞬目をそらした気がしましたがいつものように

「海未ちゃん、おはよう」

と笑顔で言ってくれました。私もそれに返します。

ことりは、どこかそわそわしてるような気がします。

穂乃果を待つこの時間は、いつも平凡な会話をしているはずなのに

なぜだか私もことりも会話を始められませんでした。

13: 2016/10/05(水) 15:50:41.12 ID:5OPoj0/6O
不意に、ことりは私の左手に触れてきました。

でも、私の左手の指にことりの右手の指先が一瞬触れただけです。

「海未……ちゃん」

ことりは絞り出すように声を出して言いました。少しもじもじして

「あのね……」

唇が少しためらいがちにヒクヒク動いて。

でも言葉がもうすぐ出そうなところで口元の緊張が緩んで

「……ううん、何でもない」

ごまかすようにそういって、にこっと笑って見せました。でもどこか寂しそうに見えました。

14: 2016/10/05(水) 15:51:37.54 ID:5OPoj0/6O
おわり

引用元: 海未「泉のほとりで」