にこ「課題やった？」

希「数学の？」

にこ「そう、明日までの」

希「まだなん？」

にこ「まだ」

希「間に合うん？」

にこ「さーあ…」

希「見せへんよ」

にこ「頼んでないわよ」

希「嘘やって」

にこ「いいって」

希「えー？」

希「ポテトもらっていい？」

にこ「ダメ」

希「一本！」

にこ「ナゲットいっこと交換」

希「貿易摩擦やん」

にこ「なあーにそれ難しい言葉使わないで」

希「ちゃんと課題やらな」

にこ「やるけど」

希「来年受験やし」

にこ「勘弁してよ」

希「進級やめとく？」

にこ「無理サファリパーク」

希「……」ｽﾞｽﾞｽﾞ

にこ「……」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

にこ「なんか言いなさいよ」

希「えー」

にこ「うん」

希「……」

にこ「いや言えっての」

希「言うたやん」

にこ「原稿用紙2マスじゃない」

希「言ったは言ったし？」

にこ「4バイトよ」

希「バイト？」

にこ「あー、いや」

希「今週バイトは？」

にこ「んー」

希「ん？」

にこ「やめた」

希「やめちゃったん？」

にこ「うん」

希「なんかやらかした？」

にこ「クビになった前提で話進めるのやめてくれる？」

希「ずっと頑張っとったのに」

にこ「まあね」

希「どうして？」

にこ「……まあ、いいでしょ、べつに」

希「教えてよ」

にこ「なーんでよ」

希「もう遊びに行けんのかあ」

にこ「来なくていいのよだいたいが」

希「いやいや」

にこ「てか今日あいつは？」

希「なに？」

にこ「絢瀬絵里」

希「たまにはにこっちと遊ぶんも大事やん？」

にこ「あんたそれ月イチで言ってるわね」

希「そう？」

にこ「にこも暇じゃないんだけどお」

希「そうなん？」

にこ「そうでもない」

希「そやんね」

にこ「んー」ｽﾞｺﾞｺﾞ

希「この会話も月イチ」

にこ「んー」ｽﾞﾋﾞﾋﾞ

希「んーしか喋れんようになってしまったん？」

にこ（胸元にリボン、ピンクのカチューシャ、ダークブルーのベルト）

にこ（コンディショナーが切れかけ）

にこ（ドームいっぱいのサイリウム、奈落からステージに飛び上がる私）

にこ（数学の課題は明日まで）

にこ（ポテト270円、チキンクリスプ100円）

にこ（退屈そうな希）

にこ（ステージで踊る希）

にこ「……はあ」

希「また」

にこ「あーん？」

希「逃げるよ」

にこ「んー」

ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

希「またそれやってる」

にこ「なに？」

希「頬杖突くふりして、腕時計の音聞いてる」

にこ「ふりなんてしてないわよ」

希「それやるとなんかなるん？」

にこ「べつに。なにも」

希「秒針の音で落ち着くとか」

にこ「ないわよ、ただなんとなく」

希「ふうん」

にこ「なんとなく、ああ、時間が過ぎていってるな、って思うだけ」

希「詩人やねえ」

にこ「適当なこと言って」

希「ばれた？」

にこ「ったりまえ」

希「でもにこっちが作詞した曲とか聞いてみたいな」

にこ「曲ねえ」

希「ああいう、カバー？やなくてね」

にこ「カバーて」

希「なんて言えばええんかわからんかった」

にこ「歌ってみたの類よ、あんなの」

希「うん？」

にこ「お遊び同然ってこと」

希「そんなことないと思うけどなあ」

にこ「気のせいよ」

希「あ、でも演奏しなかんもんね」

にこ「あにが？」

希「オリジナル曲をやるんなら。作曲からして難しそうやし」

にこ「そんなん今日びDTMもあるしどうにでもなるわよ」

希「ふーん？」

にこ「本気でどうにかしようとすればね。そういう時代なの」

希「そうなんや」

にこ「私はしないけど」

希「…せんの？」

にこ「せん」

希「そ」

にこ「終わったのよ、とっくの昔」

希「でもまだ部長さんやん？」

にこ「アイドル研究部ね。研究してるわよ、だから、毎日」

希「それはそうやろうけど」

にこ「ウチはアイドル実践部じゃないし」

希「そんな部ある？」

にこ「さあ」

希「会長さんには感謝せな」

にこ「つっても綱渡りよ。ね、あんたが入ってよ」

希「えー」

にこ「……」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

希「そういう人数稼ぎみたいなんは嫌やなあ」

にこ「じゃあ会計権力でなんとかしてくんない？」

希「会計にそんな力あらへんよ」

にこ「帳簿をさ、こう」

希「横領やん」

にこ「マネーロンダリングよ、意味知らないけど」

にこ「人数稼ぎじゃなけりゃいいわけ？」

希「んー」

にこ「一緒にライブDVDでも見る？」

希「ウチはあんまり興味ないしなあ」

にこ「じゃーだめじゃない」

希「そうやねえ」

にこ「そんならさあ」

希「ん？」

にこ「……」

希「……」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

にこ「……」

希「え、ソースついとる？」

にこ「なんも言ってないじゃない」

希「なんも言わへんから」

にこ「見てるだけよ」

希「すごい見てるから」

にこ「ついてないわよ」

希「そう？」

ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

にこ（サスペンダーのついたミニスカート）

にこ（嫌がるかしら）

にこ（体育のダンスでは楽しそうにしてたけど）

にこ（センスがない感じでもなかった）

にこ（歌もうま…そう）

にこ（スタイルはいいし、ルックスもにこ級）

にこ（ステージの上で隣を見ると希がいる）

にこ（悪くない）

にこ（悪くない？…悪くない）

希「にこっち、寝ちゃったん？」

にこ「寝ないわよ、こんなとこで」

にこ（悪いのは）

にこ「ナゲットちょうだい」

希「ん、あむ、ごめん、食べてもうた」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

にこ「ちょうど今ね。最高のタイミングだわ」

希「せやったねえ」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

ﾋﾟﾛﾛﾝ ﾋﾟﾛﾛﾝ

「ありがとうございましたー」


希「寒いっ」

にこ「あーマフラーいるわねこれ、油断したわ」

希「まだまだ冬やねえ」

にこ「ほんとに」

希「ねー」

にこ「あんた来年生徒会は？」

希「ん、いちおうな」

にこ「絢瀬絵里も？」

希「うん、ていうか、」

にこ「うん」

希「えりちが会長やるつもりらしくて」

にこ「マジ？」

希「うん」

にこ「そう、まあ、ふうん、お似合いなんじゃない」

にこ「あんたは？」

希「まあ、えりちが会長やるなら…副会長？かな？って」

にこ「やるう」

希「なんなんそれ」

にこ「せーぜー学校をよくしてくださいな」

希「えー、やな言いかた」

にこ「気のせいよ」

希「そしたらにこっちと遊ぶ時間少なくなってまうかも」

にこ「そんなもんよ」

希「んー」

にこ「時間はね、有限なんだから」

希「ほんとやね」

にこ「ほんとに」

希「うん」

にこ「ほんとにそう」

絵里「希？」

希「あれ、えりち！」

絵里「偶然ね」

希「お買い物？」

絵里「ええ」

亜里沙「こ、こんばんは」

希「あれ、あ、亜里沙ちゃん？」

絵里「そう、ああ、会うの初めてだったかしら」

希「はじめましてやね。東條希です」

亜里沙「絢瀬亜里沙です。初めまして…」

にこ「…妹いたのね」

絵里「ええ。3つ下でね」

にこ「ふうん」

亜里沙「初めまして！」

にこ「…初めまして。矢澤にこよ」

希「そいじゃあね、にこっち」

にこ「あい」

希「また明日な」

にこ「あーい」

絵里「帰り、気を付けてね。もう暗いから」

にこ「…ありがとう。そっちも」

絵里「そうね」

亜里沙「おやすみなさい！」ﾌﾘﾌﾘ

にこ「……」ﾌﾘﾌﾘ

にこ（綺麗な碧眼金髪、モデルみたいな面と体）

にこ（運動神経もいいみたいだし、踊ったらきっと映える）

にこ（歌って踊ってするタイプには見えないけど）

にこ（それがまた人気を買うのかも）

にこ（あれが隣にいたら…食われる？）

にこ（でもまあ、悪くない。きっと。たぶん。悪くない）

にこ（悪いのは）

にこ「……はあ」

にこ（帰ったら数学。126ページから、えっと…）

にこ（途中のドラッグストアでコンディショナー。シャンプーはある、ボディソープも予備があるはず）

にこ（新しいMV、もう出たのかな）

にこ（夜道を歩く私を追うカメラ、歌いながら、くるんと回って、）

にこ（シャーペンの芯は足りたっけ）

にこ（タクシーの窓から街を眺める私、画面が切り替わって、大通りをステージに歌う私）

にこ（ピンク色のサイリウムが地面を埋めて、）

にこ（126ページから131ページ）

にこ（再来月には、もう三年生）

にこ（悪いのは、この秒針だ）

ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

ﾁｯ ﾁｯ



おわり

おつ

えぇっここで終わるのですか！？