1: 2010/08/08(日) 15:08:42.89 ID:2t6qI8dr0
ある日の夕方。

唯「ソースじゃないよ~醤油だよ~砂糖じゃないよ~♪」

とみ「おや、唯ちゃん……
   どこへ行くんだい……?」

唯「お砂糖買いに行くの!」

とみ「へぇ……お砂糖をねぇ」

唯「うん!」

3: 2010/08/08(日) 15:10:13.13 ID:2t6qI8dr0
とみ「お砂糖……
   本当にお砂糖なのかい?」

唯「え? うーん……」

とみ「お醤油じゃあないのかい」

唯「あ、そうだ! そういえばお醤油だった!」

とみ「やっぱりそうかい……
   醤油ならウチにあるから、ちょいと待ってなさい」

唯「わーい。
  でもお婆ちゃん、よく醤油だって分かったねー」

とみ「私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ」

4: 2010/08/08(日) 15:11:20.98 ID:2t6qI8dr0
……

とみ「はい、醤油」

唯「ありがとー」

とみ「そうだ、ちょうど唯ちゃんに話があったのよ……
   これなんだけどねェ」ぴらり

唯「演芸大会~?」

とみ「老人会で毎年やってるんだけど、
   今年は出場者が少ないみたいでねぇ」

唯「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」

とみ「唯ちゃん、出てくれない?」

唯「え、私が?」

とみ「若い人が出てくれるとねえ、盛り上がるのよ。
   唯ちゃんがギター弾くとこも見てみたいし」

唯「えー、うーん」

5: 2010/08/08(日) 15:12:10.53 ID:2t6qI8dr0
とみ「ねえ……頼むわ唯ちゃん」

唯「でもなー」

とみ「唯ちゃん以外に頼れる人いないのよ……」

唯「期末試験も近いしー」

とみ「賞品はケーキ食べ放題のチケットだって」

唯「出ます!」

とみ「あらそう、良かった……
   みなさんもきっと、喜ぶわね……ヒヒ」

唯(ケーキ食べ放題か~♪)

6: 2010/08/08(日) 15:17:00.06 ID:2t6qI8dr0
平沢家。

ガチャ
唯「ただいまいけるじゃくそん!」

憂「おかえり、お姉ちゃん。ずいぶん早かったね」

唯「うん、スーパー行こうとしたら、
  ちょうど隣のお婆ちゃんに会ってさ~」

憂「え゛っ」

唯「で、醤油おすそわけしてもらっちゃったー」

憂「お姉ちゃん……いつも言ってるでしょ、
  隣のお婆ちゃんには関わらないで、って……」

7: 2010/08/08(日) 15:17:44.07 ID:G+k+pLh9P
平沢家の隣が神社なのに何も描かれないよね

8: 2010/08/08(日) 15:21:56.76 ID:2t6qI8dr0
唯「えー、なんでー?
  いい人だよ、お婆ちゃんは」

憂「いい人なのは分かるけど……
  なんか気味悪いよ」

唯「もう、ダメだよ憂、人のことそんな風に言っちゃ!
  お婆ちゃんには小さい頃からお世話になってたでしょ!」

憂「えーでも……
  ご近所の人だって、お婆ちゃんのこと避けてるでしょ」

唯「近所がどうとか関係ないよ。
  お婆ちゃんはいい人なんだから。
  今日だって醤油おすそ分けしてくれたんだよ」

憂「あ、そう……」

唯「お婆ちゃん凄いんだよ、
  私が醤油買いに行くのを分かってたの!
  『唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』だって、
  なんかすごいよねー」

憂「いや怖いよ」

9: 2010/08/08(日) 15:25:56.15 ID:2t6qI8dr0
唯「もー、怖くなんかないってば。
  あ、これ醤油ね」

憂「え、うん…………」

唯「なあに、お婆ちゃんのお醤油にまでケチつける気?」

憂「えーだって……
  この前お婆ちゃんから貰ったお砂糖、なんか変な味したし……」

唯「もー、大丈夫だよ!
  せっかくお婆ちゃんがくれたんだから、ちゃんと使って! ほら」

憂「うん……分かったよ……」

唯「私部屋行ってるから、ご飯できたら呼んでねー」

憂「はいはい」

姉が2階に行くのを見送ってから料理に戻る憂。
お婆ちゃんからもらった醤油を一舐めしてみたところ
なぜかやたらと酸っぱい味がしたので
憂はそれを捨ててスーパーまで醤油を買いに走った。

11: 2010/08/08(日) 15:30:49.61 ID:2t6qI8dr0
……

唯「いただきまーす」

憂「いただきます」

唯「もぐもぐ……ほらー憂、
  別に変な味なんてしないじゃん!」

憂「そうだねHAHAHA」

唯「へんな憂~」

憂「あ、そうだお姉ちゃん……
  このチラシはなんなの?」

唯「あー、それもお婆ちゃんがくれたの。
  演芸大会出てみないかって」

憂「え……それで、出るの?」

唯「うん、出るよ」

12: 2010/08/08(日) 15:36:04.00 ID:2t6qI8dr0
憂「えー……」

唯「お婆ちゃんにはいつもお世話になりっぱなしだからね、
  ここらでちょっと恩返しも兼ねて!
  あと優勝したらケーキ食べ放題だし!」

憂「ケーキ目当てでしょ……
  で、いつやるの?」

唯「そのチラシに書いてあるよー」

憂「あ、ほんとだ……再来週の金曜日、
  って期末テストの最終日だよ」

唯「だいじょーぶ、勉強はちゃんとするから!」

憂「ホントかな……それで場所は、
  南豊崎の公民館……?」

13: 2010/08/08(日) 15:36:47.32 ID:2t6qI8dr0
唯「ああ、お婆ちゃん、
  若い時は南豊崎に住んでたんだって~」

憂「そ、そうだったの? 道理で……」

唯「道理で、って何が?」

憂「お姉ちゃん、知らないの?
  南豊崎って言ったら『あいなま地区』って呼ばれて
  部落で有名なとこだよ」

唯「ぶらく? なにそれ」

憂「説明するのは難しいけど……
  とにかく卑しい人達が隔離されて住まされてた土地なの」

唯「えーなにそれ、じゃーお婆ちゃんも
  その卑しい人の仲間ってことー?」

憂「そこに住んでたんだからそうだよ。
  ご近所の人たちはそれで避けてたんだ」

15: 2010/08/08(日) 15:41:43.89 ID:2t6qI8dr0
唯「もー、いい加減にしてよ!」

憂「びくっ」

唯「さっきからお婆ちゃんの悪口ばっかり言って……
  私は出るからね、演芸大会!」

憂「だ、だめだよあの地区に近づいちゃ」

唯「大丈夫だよっ!
  今時そんな危ない土地なんてあるわけないでしょ」

憂「で、でも……」

唯「憂の分からず屋!
  ごちそうさま、私お風呂はいるから!」

憂「お姉ちゃん……」

17: 2010/08/08(日) 15:46:13.64 ID:2t6qI8dr0
翌日、学校。

憂「……というわけでさー」

純「へー、南豊崎ねぇ。
  確かに良い評判は聞かないけど」

憂「評判が良い悪いの問題じゃないよ。
  小学校の時、男子たちが南豊崎に肝試ししようって話してたんだけど」

純「うん」

憂「それがバレて親たちにめちゃくちゃ怒られたらしいよ。
  何人かはしばらく外遊び禁止になったって」

純「へえ……思ったよりヤバそうだね。
  あ、そういえば思い出した」

憂「何を?」

純「ずっと昔、なんかの噂で聞いたんだけど、
  南豊崎って何十年か前まで処刑場があったんだって」

憂「処刑場?」

18: 2010/08/08(日) 15:50:21.85 ID:2t6qI8dr0
純「江戸時代くらいからずっとあったものなんだけど、
  戦後になってようやく取り壊されたって」

憂「へぇー……」

純「今生きてる老人たちは、その処刑場知ってるんじゃないかな。
  そしてその件のお婆ちゃんも……」

憂「こ、怖いこと言わないでょ」

純「はは、ごめんごめん冗談だよ」

憂「で、どうしよう……
  やっぱりお姉ちゃんを止めるべきなのかな」

純「さー、どうだろ。
  そんな危ないことにはならないと思うけど……
  部落とはいっても、現代日本なんだしさ」

憂「んー、そっかなー」

ガラッ
梓「おはよー」

19: 2010/08/08(日) 15:50:52.64 ID:2t6qI8dr0
憂「あ、おはよう」

純「そうだ、梓は南豊崎のウワサ知ってる?」

梓「南豊崎? なにそれ」

純「この近くにある部落地域だよ」

梓「さあ、知らない。私、高校入るときに引っ越してきたから、
  このへんの地域のことあんまり詳しくないんだよね」

純「へー、そうなんだ」

憂「ここ来る前はどこに住んでたの?」

梓「チベットだよ。
  家族そろって寺院に住んでたんだけど
  中国軍の宗教弾圧から逃れて日本に戻ったの」

純「何その壮絶な人生」

20: 2010/08/08(日) 15:53:39.86 ID:2t6qI8dr0
梓「で、その南豊崎とかいうのがどうかしたの?」

憂「実はお姉ちゃんが赫々然々」

梓「演芸大会……?
  ああ、そういえば夕べ、唯先輩から
  一緒に演芸大会出ようってメールが来たよ」

憂「なっ……」

純「で、OKしたの?」

梓「うん、別に断る理由もないし」

憂「……」

純「あはは……梓を味方につけて
  意地でも演芸大会出る気だね」

憂「それにしてもなんで梓ちゃんを」

梓「そーいえば唯先輩、
  他の先輩たちも誘ってみたけど全員から断られたって」

純「唯先輩てもしかしてハブらてるんじゃない?」

憂「もーやだなー、お姉ちゃんがハブられてるなんてあるわけ無いじゃん!」バチコーン

純「ぶほぉぁっ」

23: 2010/08/08(日) 16:02:55.27 ID:2t6qI8dr0
梓「何? 演芸大会がどうかしたの?」

憂「あーうん、実はそれに出ないかってお姉ちゃんを誘ったのが
  うちの隣の独居老人でさ」

純「その人が南豊崎の出身で、
  ご近所からも嫌われてるんだってさー」

梓「ダメだよ、そんなこと言っちゃ!
  出身地なんて関係ないじゃん、
  人はみな仏のもとに平等なんだよ」

純「仏って……」

憂「いやいや、出身がどうこうだけじゃなくてさ、
  ホントになんか怖いんだよあの人」

梓「何がどう怖いの?」

憂「話せば長くなるけど……
  そう、あれは私が幼稚園の頃だった」

24: 2010/08/08(日) 16:10:35.76 ID:2t6qI8dr0
【回想】

とある公園。

唯『うぇーん、ういー、
  私のぬいぐるみどっかいっちゃったよー』

憂『えー、おねえちゃん、なくしちゃったのー?
  さがさなきゃー』

唯『さがしてもみつからないんだよぉー』

和『本当にちゃんと探したの?
  さっきジャングルジムで遊んでたわよね。
  あのへんは探した?』

唯『探したけど無いんだよぉーうえーん』

和『最後にぬいぐるみで遊んだのはどこ?
  思い出して、そこを重点的に捜すから』

唯『わかんないよぉーうえーん』

憂(ののかちゃんはあいかわらずむずかしい言葉を使うなあ)

とみ『あら、どうしたんだい唯ちゃん』

唯『あ、おばーちゃーん』


25: 2010/08/08(日) 16:18:38.00 ID:2t6qI8dr0
和『あ、一文字さん。
  実は唯がぬいぐるみを紛失してしまったみたいで』

とみ『おやおや』

唯『うぇーん』

とみ『……滑り台の下は探してみたかい?』

唯『すべりだいのしたあ?』

和『ちょっと見てきます』たたっ

とみ『きっとそこにあると思うよ……』

和『あっ、ありました!
  これよね、唯』

唯『わー、うん、それだよー!
  ありがとーおばーちゃん!』

和『どうして分かったんです?』

とみ『私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』


【回想おわり】

27: 2010/08/08(日) 16:21:12.60 ID:2t6qI8dr0
純「いいお婆ちゃんじゃん」

梓「別に怖くないよね」

憂「これはまだ序の口なの!
  次があるんだよ」

純「ほう、聞かせてもらおうか」

憂「これは純ちゃんも知ってる話だと思うよ。
  中学の修学旅行のことなんだけど……」

29: 2010/08/08(日) 16:29:02.97 ID:2t6qI8dr0
【回想】

中学の時の修学旅行、行き先は沖縄だった。
一日の行程を終え、沖縄のホテルで一息つく憂たち。

憂『いやー楽しかったねー』

純『防空壕は怖かったけどね』

陽子『……』

憂『? 陽子ちゃん、どうしたの?』

陽子『いや、な、なんでもないよ』

純『なんでもないようには見えないけど……
  気分悪いの? 先生呼ぼうか』

陽子『いや、そんなんじゃなくて……
    ちょっと気になることがあって』

憂『気になること?』

純『何?』

陽子『いや、いいよ……
    言っても信じてもらえなそうだし』

憂『大丈夫だよ、言ってよ、ちゃんと聞くから』

30: 2010/08/08(日) 16:34:20.50 ID:2t6qI8dr0
陽子『うん、じゃあ言うね……
    実は今日一日ずっと気になってて』

純『だから何がよ』

陽子『色々なとこ行ったでしょ、今日』

憂『うん、ひめゆりの塔とか防空壕とか
  平和祈念なんたらとか』

陽子『……その行く先々で、同じ人がいたの』

純『はい?』

陽子『ひめゆりの塔でも、防空壕でも、
    おんなじお婆さんを見かけたの!
    まるで私たちのことを待ち構えて、監視してるみたいに……』

純『あっはっは、何を言い出すかと思えば』

陽子『い、いやほんとなんだってば……
    すっごく怖かったんだから!』

聡美『あっ、私も見たよ、その人』

陽子『えっ、そうなの?』

31: 2010/08/08(日) 16:38:52.69 ID:2t6qI8dr0
聡美『うん、修学旅行の添乗員さんかなーと思ってさ、
    話しかけてみたけど違ったよ』

陽子『その人、白髪で赤い服着たお婆さんじゃなかった……?』

聡美『うん、その人だよ。
    私写真撮ったけど見る? ほらこの人』

陽子『そ、そうだ、この人だよ!
    今日ずっと私たちのこと監視してた人……』

純『監視とは大げさな』

憂『……』

純『? どしたの憂』

憂(とみおばあちゃんだ……)

陽子『やっぱり怖いよ……先生たちに言ったほうがいいんじゃないかなあ』

聡美『えー、別にそこまでしなくても』

陽子『だって怖いよ』

聡美『じゃー明日も尾行してくるようならさ、先生に言えばいいじゃん』

陽子『う、うん……』

しかし翌日以降、おばあちゃんは現れなかった。

32: 2010/08/08(日) 16:42:37.02 ID:2t6qI8dr0
2泊3日の修学旅行を終え、
地元に帰った憂。

憂『ふー疲れた、でも楽しかったー』

とみ『あら、憂ちゃん……』

憂『ひっ、お、おばあちゃん……』

とみ『修学旅行は楽しかったかい』

憂『え、ええ、とっても』
 (やっぱり見間違いだよね……
  沖縄なんかにおばあちゃんがいるわけないし……)

とみ『ひめゆりの塔で聞いた話は感動したねえ』

憂『えっ』

とみ『憂ちゃんはちょっと涙ぐんでいたねえ。
   いいんだよ、ああいうときは素直に泣けば』

憂『な、なんで……知ってるんですか』

とみ『私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』


【回想おわり】

34: 2010/08/08(日) 16:47:42.74 ID:2t6qI8dr0
純「あー、確かそういうこともあったねー。
  まさかあのお婆ちゃんがその人とは」

梓「つまりどういうことだってばよ」

憂「おばあちゃんが沖縄にいたかどうか、真相はわからないけど……
  とにかくこういう不気味な人なんだよ。
  関わるのはよしたほうがいいよ、ね」

梓「でも唯先輩と約束しちゃったしなぁ」

憂「お姉ちゃんは私からも説得するから、
  梓ちゃんも演芸大会に出るのはやめて、ね」

梓「えー、うーん……
  唯先輩が出ないんなら、私は出ないけども」

憂「じゃあ梓ちゃんもお姉ちゃんを説得して、
  演芸大会に出ないように」

梓「わ、分かったよ。できるだけやってみる」

憂「うん、お願い」

37: 2010/08/08(日) 16:57:50.04 ID:2t6qI8dr0
放課後、音楽室。

ガチャ
梓「こんちはー」

澪「おう」

律「梓ー、唯と一緒に演芸大会出るんだって?」

梓「え? はあ、まあ……」

律「実はうちのクラスがその話題で持ちきりでさ!
  本番の日、みんなで応援に行くことになったんだ!」

唯「みんな横断幕とか作ってくれるって~!
  がんばろーね、あずにゃん!」

梓(うわー説得しづれえええええ)

38: 2010/08/08(日) 17:03:03.96 ID:2t6qI8dr0
律「私たちも行くからなー。
  澪なんかチアガールのコスプレするって」

澪「しねェよ」

律「クラス総出で盛大に応援してやるから、
  楽しみにしてろよー」

梓「あーなんていうかそのー、
  お気持ちはうれしーんですが……」

律「ん? なんだよ」

梓「いやーなんてーかそのー
  伝え聞いたところによりますとー
  会場はたいへん狭くていらっしゃるみたいなのでー
  そんな大勢はーちょっとー」

律「そうなのか? 会場ってどこなんだ?」

唯「南豊崎の公民館だよっ」

澪「……南豊崎だと?」

41: 2010/08/08(日) 17:13:19.74 ID:2t6qI8dr0
律「南豊崎……」

唯「あれ? どうしたのみんな」

澪「えー、だって……なあ」

律「……うん」

唯「言いたいことがあるんならハッキリ言いなよ」

澪「唯、お前は知らないのか?
  南豊崎って言ったら『あいなま地区』って呼ばれてるとこだぞ」

唯「知ってるよ、それがどうしたの?
  土地がどうとかなんて関係ないじゃん!」

律「私、昔からあの土地には近づくなって親に言われてたんだ。
  唯も近寄るのはやめたほうがいいぞ」

澪「そうだよ、いい噂も聞かないし」

唯「もう、いい噂とか親が言ったとか、そういうのはどうでもいいじゃん!
  なんで? なんでみんな南豊崎を嫌う? 南豊崎が何かした?」

律「そういんじゃないけど……」

唯「じゃあもういいよ、みんなは口出さないで!
  あずにゃん、私たち二人だけで頑張ろうね!」

梓(出るのヤメろとは言えない……)

45: 2010/08/08(日) 17:23:20.19 ID:2t6qI8dr0
色々あって演芸大会当日。

梓「展開早っ!」

憂「結局お姉ちゃんを説得することはできず、
  お姉ちゃんと梓ちゃんは演芸大会に出ることになりました。
  私たち3人は今、南豊崎に向かっています」

唯「誰に喋ってんの?」

梓「で、その南豊崎っていうのはどこにあるの」

憂「もうちょっと歩かなきゃ。
  このへんはバスも電車もないから」

梓「もうちょっと……って、
  周りに人家が見当たらないんだけど……
  ほんとにこの先に人が住んでんの?」

憂「うん、1回だけ行ったことある……
  おばあちゃんに連れられて」

梓「へえ、どんな感じだった?」

憂「一言でいうと……不気味だった」

梓「不気味って……」

唯「南豊崎行くの久々だよねー、
  もう8年ぶりくらいかな~」

46: 2010/08/08(日) 17:28:24.23 ID:2t6qI8dr0
梓「ねえ、まだかかるの?
  もう40分くらい歩いてるよ」

憂「おかしいなあ、こんなに遠かったかな」

梓「早くしないと演芸大会に間に合わないんじゃ」

憂「間に合わなかったら間に合わなかったで
  こっちとしては嬉しいんだけどね」

唯「あ、憂ー、おうちが見えてきたよー」

梓「ああ、ほんとだ……
  良かった、迷子になってたわけじゃなかったんだ」

3人は南豊崎の町についた。
しかし憂と梓はすぐに景観の異様さにゾッとした。

48: 2010/08/08(日) 17:37:12.02 ID:2t6qI8dr0
道の脇に建っている家々はすべて同じ形、
そして屋根の色もすべて青で統一されていた。

梓「な、なにこれ……なんか怖い」

憂「前来た時もこうだったよ……
  その時はなんとも思わなかったけど」

唯「わー、屋根がみんな青色だよー。
  相変わらず綺麗だよねー、憂ー」

憂「はは、そうだね……」

さらに不気味さに拍車をかけていたのは町の静けさだ。
さっきから人っ子ひとり見かけない。

梓「だれもいないのかな……」

憂「分かんない……
  とにかく早く公民館に行こう」

唯「あ、憂、やばいよー、もうだいぶ遅刻しちゃってるよー。
  急がなきゃマズイよー」

憂「そんな急がなくて大丈夫だよ、
  私たちが出るのは後の方だから……」

49: 2010/08/08(日) 17:46:32.94 ID:2t6qI8dr0
公民館は町のはずれにあった。
いやもう町と呼ぶより集落としたほうが適切であろう。
同じ家が並ぶこの集落の中で
公民館は異様な存在感を放っていた。

ガラガラ
憂「あれ? まだ始まってない……?」

公民館の中には集落の人間が集まっていた。
そのすべてが老人だった。
憂たちが公民館に入ると、
規則正しく並べられた椅子に座った老人たちは
いっせいに憂たちのほうに振り向いた。

梓「す、すみません遅れてしまって」

唯「ごめんなさーい」

老人たちの中から
とみが歩み寄ってきた。

とみ「ああ、よく来たね、疲れたろう。
   遅れたのは良いんだよ、気にしないで」

憂「あの、まだ始まってないんですか」

とみ「ええ、みんな唯ちゃんたちを待ってたのよ。
   さあ中にお入り」

唯「おじゃましまーす」

50: 2010/08/08(日) 17:49:42.61 ID:2t6qI8dr0
書くの忘れてたけど
ゆいあずを応援すると言っていたクラスの人達は
会場が南豊崎ということを聞いて
急に応援するのをやめました

52: 2010/08/08(日) 17:59:57.54 ID:2t6qI8dr0
そして演芸大会が始まった。
参加者は一人ひとり壇上にあがり、自慢の芸を披露していく。

司会『一番、山田尚吉さんによる手品です』

山田「ではいきますぞ、3,2,1……ホッ」

老人たち「おーええぞええぞー」
老人たち「さすが尚さんの手品は面白いわい」
老人たち「いいぞもっとやれ」

司会『二番、吉田玲次郎さんによる詩吟です』

吉田「延々んん~続行ぅ~ぉぉ~ルララーァァーあああー」

老人たち「おーええぞええぞー」
老人たち「さすが玲さんの詩吟は面白いわい」
老人たち「いいぞもっとやれ」

会場は盛り上がっていた。
しかし憂と梓は薄ら寒さを感じていた。
老人たちの盛り上がりが、まるで演技のように感じられたのだ。
意図的に作られた雰囲気。
それは憂たちに居心地の悪さを与えるばかりであった。

唯「わーすごいね今の詩吟! すっごくうまかったよー」

憂「そ、そだね……」

そして唯と梓の番が回ってきた。

56: 2010/08/08(日) 19:19:41.40 ID:2t6qI8dr0
再開しまちゅ

57: 2010/08/08(日) 19:21:02.60 ID:2t6qI8dr0
『13番、ゆいあずのお二人によるギター演奏です』

唯「どもどもー!」
梓「ゆいあずでーす……」

二人が壇上に上がると、
先程までの盛り上がりが嘘だったかのように
会場は一気に静まり返った。
そして客席の老人たちは、
まるで品定めでもするかのような目で
ゆいあずの二人を凝視した。
それはとみも例外ではなかった。

とみ「……………………」
老人たち「……………………」
老人たち「……………………」
老人たち「……………………」

憂(な、なにこれ、どうなってるの?)

梓(なんなのこの人たち、怖い!)

唯「じゃー演奏しまーす、聞いてください!
  ふでペンボールペン!」

唯はなんとも思っていないようだった。
梓は客席からの刺すような視線を意識しないよう
演奏に集中することにした。

59: 2010/08/08(日) 19:33:40.58 ID:2t6qI8dr0
……

唯「かなり本気よー♪」
ジャジャーン

異様な空気に包まれたまま演奏は終了した。
老人たちは片時も二人から視線をそらすことはなかった。

憂「……」ぱちぱちぱち

憂が拍手をすると、老人たちも思い出したかのように拍手をした。

唯「どもどもー」

梓(帰りたい……)

司会『では今回の演芸大会は以上となります。
    優勝者は後日、広報紙で発表させていただきます』

唯「なんだ、今日発表してくれないんだ。
  優勝賞品早く欲しいのにー」

梓「賞品って何なんです?」

唯「ケーキ食べ放題だよ」

梓「老人メインの大会でケーキ食べ放題が賞品って……」

その後、3人は帰路についた。
帰りはなぜか来るときよりも時間はかからなかった。

60: 2010/08/08(日) 19:40:46.64 ID:2t6qI8dr0
翌日。

ガラッ
梓「おはよー」

憂「おはよう、梓ちゃん」

純「おっはー。で、行ってきたんでしょ、昨日。
  どうだったの?」

梓「どうって……ねえ」

憂「まあ……うん」

純「なにー? 何があったの、教えてよ」

梓「一言で言えば怖かったかな」

61: 2010/08/08(日) 19:46:45.62 ID:2t6qI8dr0
純「怖かった? 何が?」

梓「いや、何から何まで……
  全部同じ家で同じ色の屋根だったのも怖かったし、
  住んでた人もなんか……
  あれが部落っていうものなのかな」

純「あはは、人は仏のもとにみな平等とか言っときながら
  梓も部落嫌いになってんじゃん」

梓「だ、だって……」

憂「まああれ見たら誰だって嫌いになるよ……
  梓ちゃんも分かったでしょ、
  南豊崎には関わらない方がいいって」

梓「うん、私は痛いほど分かったけど……
  でも唯先輩はなんとも思ってなかったみたいだよね」

憂「そうなんだよ……
  昨日家帰ってからも、『楽しかったねー』とか言ってたし」

純「あはは……」

憂「はあ、どうにかなんないかな、あのおばあちゃん」

62: 2010/08/08(日) 19:53:02.72 ID:2t6qI8dr0
放課後。

梓「じゃーねー」

純「また明日、憂」

憂「うん、またね」

純「さてジャズ研に行きますかね」

梓「私は軽音部に」

純「軽音部に行ってお茶会か」

梓「今日はお茶会じゃないよ。
  倉庫を掃除して軽音部の古いアルバム探すって言ってた」

純「……」

梓「何?」

純「いやなんでもない、頑張ってね」

梓「? うん」

63: 2010/08/08(日) 19:58:54.46 ID:2t6qI8dr0
音楽室。

ガチャ
梓「こんにちはー」

唯「あー、あずにゃん!
  聞いて聞いて、みんなが酷いんだよぉー」

梓「ど、どうかしたんですか」

澪「ああいや、昨日南豊崎に行ったー、って
  今朝からクラスで唯が自慢げに語るもんだから、
  クラスのみんなが引いちゃってな」

律「そうそう、みんなドン引きだったな。あの和でさえも」

澪「あの和の汚物を見るような視線は一生忘れられそうにない」

梓「そ、そんなことがあったんですか」

唯「ね、ひどいよねえ、あずにゃん!
  私は昨日の楽しい思い出をみんなに話したかっただけなのにい」

梓「……唯先輩」

唯「なに?」

64: 2010/08/08(日) 20:05:23.24 ID:2t6qI8dr0
梓「もう理解しましょう、子供じゃないんですから。
  南豊崎は……あいなま地区は、
  近づいちゃいけない場所なんです。
  私は昨日それを痛感しました」

唯「なんで? おかしいよ、
  南豊崎の人に悪い人がいるの?
  南豊崎を嫌う理由がどこにあるのさ!」

梓「こういうのは理屈じゃないんですよ。
  とにかくダメなものなんです」

唯「そんなのってないよ!
  じゃあこれからも未来永劫、南豊崎は
  ずっと嫌われたままなの?」

梓「まあそうでしょうね」

澪(近いうちに過疎で滅びそうだけどな)

唯「おかしいよ、ひどいよ……
  南豊崎の人はいい人ばっかりだよ、
  おばあちゃんだってそうだよ……
  みんなは南豊崎のことを知らないだけなんだよ」

律「唯……」

65: 2010/08/08(日) 20:14:27.85 ID:2t6qI8dr0
唯「そうだ、今からみんなでお婆ちゃんの家に遊びにいこう!」

梓「えっ」

唯「南豊崎の人がいい人だって知れば、
  みんなもきっと南豊崎が好きになるよ~」

澪「で、でも」

律「なあ」

唯「大丈夫だよー、ほら行こう!
  お婆ちゃん、私の家の隣に住んでるんだ!」ぐいぐい

澪「わ、わかったわかった、引っ張るな」

律「まったく、しょーがないなー」

唯「わーい、じゃあ早速行こう」

澪「あ、そうだ……お婆ちゃんちに遊びにいくことは誰にも言うなよ」

唯「え、なんで?」

澪「そ、そりゃー部活サボって遊びにいくなんて、
  誰かにバレたら……なぁ?」

律「はは、そうだな……」

梓(酷い先輩たちだ……)

66: 2010/08/08(日) 20:24:43.73 ID:2t6qI8dr0
一方その頃、憂は。

憂(帰ったら洗濯もの取り込んで、
  買い物行って、夕飯の支度して、
  お風呂掃除して……)

帰り道、自分の家が見えてきた頃。
平沢家の隣、くだんの老婆が住んでいる家の前に
一人の男が立っているのが見えた。
彼は門の外から家の中を伺おうとしていた。

憂「……?」

明らかに怪しい……と憂は思ったが、
もう一文字家とは関わりを持ちたくないので
見て見ぬふりをして通り過ぎ、
自分の家に入ろうとしたところ

男「あっ、ちょっとすみません」

憂「…………な、なんですか」

男「そちらのお宅にお住まいの方ですか」

憂「は、はあ、そうですが」

67: 2010/08/08(日) 20:32:32.84 ID:2t6qI8dr0
男「私、市役所のもので」

そう言って男は名刺を差し出す。

憂「はあ」

男「隣のおうちにお住まいの方のこと、ご存じですか?」

憂「お婆さんが一人で住んでますよ」

男「はあ、やはりそうですか」

憂「なんなんです?
  お婆さんがどうかしたんですか」

男「いや、この家、実はずっと前から空き家のはずなんですよ」

憂「えっ」

男「古い資料を整理してて分かったことなんですがね。
  このへんの不動産屋さんに問い合わせてみても、
  ここには誰も住んでないはずだと」

憂「……」

70: 2010/08/08(日) 20:41:32.25 ID:2t6qI8dr0
男「そのお婆さんは、いつから住んでいるんですか」

憂「私が、小さい時から、ずっと……
  もう15年以上も」

男「15年……」

憂「15年異常、空き家に
  勝手に住んでたってことですよね」

男「勝手に住んでいたどころじゃないですよ。
  この家にはガスも電気も水道も通っていないんです」

憂「えっ……
  え、で、でも……夜とか灯りついてましたよ」

男「ランプか何かを持ち込んでいたんじゃないですか。
  もしくはどこかから盗電していたか。
  まったく、どんな生活をしてきたんだか」

憂「……」

15年間。
自分の家の隣で、
電気も水道もガスも使えない家に住んでいた。
なぜ?
なんのために?

考えた瞬間、
憂の体に悪寒が走った。

71: 2010/08/08(日) 20:50:49.04 ID:2t6qI8dr0
男「今日はお婆さんは留守のようですね」

憂「え……あ、そうなんですか」

男「はい、ずっと待ってたんですけど、
  帰ってくる気配がなさそうなので、
  また後日出直すことにします。では私はこれで」

憂「あ、はい……」

そう言い残し、
男は去った。

一文字とみ。
怪しい、不気味だとは思っていたが
ここまで得体のしれない人間だとは思わなかった。
なぜわざわざライフラインの通っていない家に
住み続ける必要があったのか。
そして何故よりにもよって
自分の家の隣なのか。
まあなんでもいい、近いうちに不法占拠で逮捕されるだろう。
これでようやくあの老婆がいなくなってくれる……

そんなことを考えながら
憂は自分の家のドアに手をかけた。

ガチャ。
憂「!?」

鍵があいていた。

74: 2010/08/08(日) 21:00:12.20 ID:2t6qI8dr0
憂「お、お姉ちゃん……?
  もう帰ってきてるの?」

恐る恐るドアを開ける憂。
しかし玄関に姉のローファーはなかった。

憂「…………」

今朝学校にいくとき、
鍵をかけ忘れたのだろうか。
いやそんなことはない、
鍵だけはなんども確認しているし、
今日だってそうだった。

憂はそっと靴を脱いで、
家の中に上がった。
誰もいないはずだったが、
怪しい気配に満ちているような気がした。

憂「だ、誰かいるんですか……」

小声でそう尋ねる。
誰かがいたとしても誰にも聞こえないだろう。

とその時。

しゃーこ しゃーこ

憂「!?」

75: 2010/08/08(日) 21:04:41.74 ID:2t6qI8dr0
しゃーこ しゃーこ


憂「な、何、この音……」


しゃーこ しゃーこ


台所の方から音が聞こえてきた。
音の正体はわからない。

憂は忍び足で台所に向かう。


しゃーこ しゃーこ


これは普通の事態じゃない。
何か危ないことが起こる。
憂の心臓が高鳴る。


しゃーこ しゃーこ


台所。
そっと、中を覗くと。

とみ「あらあ、おかえり憂ちゃん」

76: 2010/08/08(日) 21:14:28.79 ID:2t6qI8dr0
憂「なっ……なにしてるんですか!?」

とみ「何って……何でもいいじゃない」
しゃーこ しゃーこ

憂「そ、それ、ほほほ包丁……」

とみ「ええ、包丁を砥いでいたの。
   よく切れるようにしなきゃねえ」

憂「ひっ」

とみは包丁を手に立ち上がり、
ゆっくりと憂のほうに向かってくる。

とみ「そうだわ、昨日の演芸大会……
   みんなあなたたちのこと本当に気に入ったみたいよ。
   良かったわねえ、憂ちゃん」

憂「なんで、どうやって入ったんですか……」

とみ「私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ」

79: 2010/08/08(日) 21:24:06.02 ID:2t6qI8dr0
憂「やめてください、包丁を置いてください……」

とみ「それはできないよ。
   みんな憂ちゃんたちのこと気に入ってたからね」

憂「それとこれとなんの関係があるんですかっ」

とみ「おとなしくしていなさい、
   すぐに終わるからね」

憂「な、なにがですか」

とみ「怖がることはないよ、
   ずっと隣同士で暮らしてきたじゃないか」

憂「ふ、ふ、ふ、不法占拠だったんでしょっ」

とみ「人聞きの悪いことを言わないでおくれよ。
   全部憂ちゃんと唯ちゃんのためなんだから」

憂「な、なにを……」

じりじりと詰め寄るとみ、
それとともに後ずさる憂。

憂の背中はついに壁についてしまった。

とみ「さあ、みんなに食べてもらおうね、憂ちゃんたちのお肉を」

憂「いやあああっ!」

80: 2010/08/08(日) 21:30:57.42 ID:2t6qI8dr0
ガチャ
唯「たっだいまー」
澪「おじゃましまーす」
律「ちーっす」
梓「……」

唯「憂ー、今日おばあちゃん留守なのかなー、
  ……っておばあちゃん!?」

とみ「あらあら、唯ちゃん……
   それに昨日の黒髪の子も」

憂「お姉ちゃん、来ちゃダメえ!」

律「な、なんだあのバアさん、なんで包丁を……」

澪「恐怖のあまり気絶」バタッ

とみ「お友達が多いんだねえ、唯ちゃんは……
   みんなも見ててくれるかい、
   憂ちゃんたちがお肉になるところを」

律「な、何いってんだ、キチOイかこのババア」

梓「うんびらおんびえいそわか」

唯「あずにゃん?」

83: 2010/08/08(日) 21:37:25.98 ID:2vMD47HP0
あずにゃん憑りつかれたか

84: 2010/08/08(日) 21:38:07.57 ID:2t6qI8dr0
梓「ふんにゃらはんれいうんたびら」

とみ「な、何を……」

梓「ほんてらぶえいそびえんだら」

とみ「や、やめないか」

梓「にんぱらそぞでるいちょうむばい」

とみ「やめ……」

梓「破ァっ!!」

とみ「あ、ああああ…………」ガクリ

律「な、何をやったんだ梓!?」

梓「いえ、別に……
  チベットの老師から授かった、
  ちょっとした気功術ですよ。
  憂、大丈夫だった?」

憂「あ、うん……」

寺育ちって凄い。
憂は改めてそう思った。

85: 2010/08/08(日) 21:40:43.57 ID:vsaqyHxe0
寺育ちのNさん

86: 2010/08/08(日) 21:45:17.70 ID:2t6qI8dr0
その後、警察がやってきてとみは逮捕された。
とみは警察に連れていかれるとき、
「私は何も悪くない」と魂の抜けたような表情で
何度も繰り返しつぶやいていた。

警察の調査によって、南豊崎の人間による
組織的な殺人事件の実態が明らかになった。
彼らはとみのように各地に人を送り込んで、
適当な人間を殺させていたらしい。
このことは連日ニュースで大々的に報じられた。

純「いやー、でもこれで一件落着だね」

憂「そうだね、包丁持ったおばあちゃんが
  家の中にいたときはどうなることかと思ったけど。
  梓ちゃんがいなかったら私殺されてたよ」

梓「護身術くらい身につけとかなきゃだめだよ」

純「あ、そうだ。
  この前から南豊崎に興味出ちゃって、
  ちょっと調べてたんだけどさ」

憂「うん」

純「なんか南豊崎に処刑場があったっていう噂は本当らしいよ」

梓「へえ、そうなんだ」

89: 2010/08/08(日) 21:53:58.24 ID:2t6qI8dr0
純「うん、それでね、
  戦中の食料がなかった時期に、
  そこの処刑場で殺された人間の肉を食べてたんだって!」

梓「ええっ?」

純「それで戦後になってやっと処刑場は壊されたんだけど、
  きっと南豊崎の人たちは人肉の味を忘れられず……」

梓「人肉を求めて殺人をしていたって言うの?」

憂「そ、そういえば、憂ちゃんをお肉にしようとか
  言っていたような……」

純「ほら、絶対そうだって。
  現代日本に残る食人文化! そそるねぇ」

梓「その食人文化の犠牲になりかけた人間の前で
  そんなこと言わない方がいいよ……」

しかし南豊崎の人が食人を行なっていたことについては
公にされることはなかった。
その証拠が見つからなかったのか、
公表すべきではないと封印されたのか、
真相は分からない。

また、警察はとみがいた空き家に捜査に入ったが
空き家には一切モノが置かれておらず、
およそ人がいた形跡は皆無だったという。
とみは本当にあの家に住んでいたのか、これも真相は不明。

91: 2010/08/08(日) 22:02:38.28 ID:2t6qI8dr0
唯はこの件で大変落ち込んでしまった。

唯「はあ……」

律「唯のやつ、元気ないなあ」

梓「そりゃそうでしょう、
  大好きなおばあちゃんが妹を殺そうとしたんじゃあ……」

澪「唯、元気だせよ。
  あんな頭おかしいバアさんのことは忘れてさ、な」

唯「頭おかしくなんかないよっ!」

澪「唯……」

唯「おばあちゃんは私たちのことずっと見守ってくれてたよ……
  それが頭おかしいなんて」

律「それ、頃す相手の品定めをしてただけだろ」

唯「そんなことない!
  お婆ちゃん、私たちのこと本当に好きでいてくれたもん……」

梓「……」

唯「寂しいよ……
  お婆ちゃん……いなくなっちゃうなんて……
  戻ってきてよう……」

94: 2010/08/08(日) 22:10:51.44 ID:2t6qI8dr0
数日後。

唯「ういー! ういー!」

憂「どしたの、お姉ちゃん」

唯「隣の空き家に新しい人が引っ越してきたよ!」

憂「えっ、そうなの?
  どんな人?」

唯「おばあさん!」

憂「えっ」

唯「80歳くらいのお婆さんでね、一人暮らしなんだって!
  若い頃は北朝鮮に住んでたらしいよ~」

憂「へ、へえー、そうなんだ……」

唯「とみお婆ちゃんがいなくなっちゃって寂しかったけど、
  これでもう寂しくないよ~」

憂「……」

新たなおばあちゃんの出現に喜ぶ唯。
そして今度もまた自分たちの身に何かが起こりそうで
気が気でない憂であった。

       お       わ                               り

95: 2010/08/08(日) 22:12:30.42 ID:2vMD47HP0

唯は結局憑りつかれたまんまか

96: 2010/08/08(日) 22:12:35.58 ID:2t6qI8dr0
これでおしまいでちゅ

スレタイは唯「しゃこしゃこしゃこしゃこ」にしようと思ったけど
怒られそうな気がしたのでやめた

何も考えずに書いたんで矛盾点とかあってもマジ勘弁

97: 2010/08/08(日) 22:14:18.76 ID:CEHzgpnc0

某国の工作員が日本人一家を頃して成り代わる話を思い出した

101: 2010/08/08(日) 22:19:02.85 ID:79ru4p+7O

引用元: 唯「恐怖のお婆ちゃん」