7: 2008/06/24(火) 05:18:59.17 ID:4APBevbp0
「ごめんなさい…謝るから…ねぇ、キョン…」

まったく、今何時だと思ってるんだ、こいつは。

「もう…あたし一人じゃ眠れないのよ…お願い、許して…」

ハルヒは俺の肩を軽くゆすった。普段の態度から考えれば、心なしか怯えているように感じて取れる。

しかし俺はというと、毛布に包まって、壁の方を向いて黙ったままここ最近の出来事について考えていた。

そうとも。なぜ俺が今こんな未曾有の状況に立たされているのか、まずそこから説明しなくちゃならないだろう。

あれは一ヶ月前の出来事だった。
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)
10: 2008/06/24(火) 05:25:18.86 ID:4APBevbp0
「おう、長門。まだみんな来てないみたいだな」

俺はあの日の放課後、いつもと何にも変わることなく部室に顔を出した。

朝比奈さんと古泉はたしか今週掃除当番だ。まだ当分来ないだろう。

長門の斜め向かいに腰を下ろして、俺は大きくため息をついた。

それとほぼ時を同じくして、静かに本を閉じる音が、部屋にこだました。

あいつがいなければ、日常はこんなにも静かで、穏やかなものだ。

長門は閉じた本を膝の上において、俺の方をまっすぐ見た。相変わらず何を考えているのかわからん。

「……あなたに話がある」


12: 2008/06/24(火) 05:32:43.80 ID:4APBevbp0
「なんだ…?」

正直に言ってしまえば、もうこの時に既に俺は嫌な予感がしていたんだ。

俺と長門二人きり、そしてあいつの方から話しかけてくる。いつだってこんな時はとんでもない面倒に巻き込まれてきた。

「涼宮ハルヒについて…」

そうだろう。そうだろうとも。これはデジャヴか?いや、そんな生ぬるいもんじゃない。いつだって俺は害を被ってきたんだ。

「ハルヒがまたどうかしたのか?」

俺は思わずもう一度大きなため息をついて、長門が続けて喋るのを待った。

「彼女の力が、消滅している」

いつものことだが、まだ俺には話がまったくつかめない。どんどん情報を引き出さなくては。

「つまり、その……どういうことなんだ?」


14: 2008/06/24(火) 05:40:28.57 ID:4APBevbp0
「────────」

「…つまりそれは、世界がハルヒの思い通りにならないってことでいいのか?」

「………そう」

相も変わらず長門の話は難解だったが、今回は随分とタンジュンな話みたいだな。

「なら、何にも問題ないじゃないか。むしろ解決だ」

そう、それが本当ならもうあいつのとんでもない奇行につき合わされなくて済むということだ。

それに、たとえそれが一時的なものであったとしても、俺にとっては長い休暇をもらえたようなものた。

俺は大きく伸びをして、自分の鞄を取って立ち上がった

「長門よ、悪いが今日は帰らせてもらうよ。どうやら今日は活動はなさそうだからな」

たまには家でゆっくり寝るというのも悪くない。

そう思って上機嫌で歩き出した俺の背中に、か細い声が引っかかった。

「……待って」

19: 2008/06/24(火) 05:46:36.49 ID:4APBevbp0
「……まだ何かあるのか?」

「…問題は、もう既に発生している」

何のことだ?ハルヒは来ない、朝比奈さんも古泉もいない。何にも問題ないじゃないか。

「…………待てよ?」

何でハルヒは来ないんだ?あいつは別に今日は何の当番でもない。

当然クラスは俺と一緒なんだからホームルームだってもうとっくの昔に終わっている。

「………ハルヒは?」

「今、あなたたちのクラスで問題に巻き込まれている。早く行って助けてくるべき」

ああ。なんだか眩暈がしてきた。また今日も既に面倒なことに巻き込まれているのか、俺は。

「今この状況を打破できるのは、きっとあなただけ」

「くそ!」

俺は先ほど来た道を走って帰っていった。

22: 2008/06/24(火) 05:57:35.39 ID:4APBevbp0
なんだ?教室で何が起きてる?

最近の運動不足が祟ってか、少し走っただけでわき腹が痛い。

急がなければ、という思いと自分の限界に折り合いをつけたくらいの小走りで、俺は最後の曲がり角を曲がった。

大体、何か問題が起きたなら長門の方がなんとかできるんじゃないのか、まったく!

見慣れたドアを勢いよく開けて、俺はどんな惨状が繰り広げられているのかと恐る恐る辺りを見回した。

「………………?」

な、なんだ………?

「ちょっと、何よ…あたしはこれから忙しいんだから、ほっといてったら」

目の前ではクラスの数名がハルヒの周りを取り囲んでいた。しかし、まあそれほど危険な雰囲気は漂ってこない。

「そういうわけには行かないわよ、涼宮さん」

「そうよ、何か言うことあるんじゃないの?」

ただ、険悪なムードだっていうのはどうも避けられそうにないようだな。

おっと、ハルヒがどうやら俺に気が付いたようだ。

「あ!キョン!あんたもちょっとなんか言ってやんなさいよ!」

25: 2008/06/24(火) 06:08:20.52 ID:4APBevbp0

「はー、もう!冗談じゃないわよ、まったく!」

ハルヒはそう言いながら頬を子供のように膨らましている。

「何の騒ぎだったんだ、一体」

「知らないわよ!」

知らないのは一向に構わないが、俺を鞄の角で殴るのには感心しない。

「ま、でもあんたが来たおかげでなんとかごまかして帰れたけどね」

俺たちはSOS団の活動を切り止めて、あの長い坂を下っていた。いつもより帰りが早いので、まだ夕日が随分高い位置にある。

「まったくだ。礼の一つくらいあってもいいんじゃないか?」

この調子で毎回喧嘩の仲裁に使われたのではたまったものじゃない。

「何言ってんのよ、団員が団長を手助けするのは当たり前のことでしょ」

当然こんな答えが待っているのはわかってはいたが、それでいてもあまり気持ちのいいものではない。

俺は全身の力が抜けるような虚脱感に襲われながら、ハルヒに訊ねた。

「しかし、知らんといっても何かも揉める因があったんだろうが。さすがに何にもなく突っかかってくるような奴らじゃないぞ」

「………それもそうよね」

29: 2008/06/24(火) 06:19:24.15 ID:4APBevbp0
「……なんだったのかしら」

ヤケに真剣な表情で考え込む横顔を見ながら、俺は今日長門が言っていたことを思い出した。

ただ喧嘩していたことが長門の言う「問題」だったのだろうか?いや、そんなはずは。

それに、力を失ったっていうのも気になるな。ああ、わからん。

「なに抜けた顔してんのよ、あんた」

ハルヒが随分怪訝そうに俺の顔を覗き込んでいる。なんだその目は。

俺はお前のせいでこんなにも悩んでいるんだぞ、と言って説教でもしてやりたい気分だ。

「……とりあえず今日は帰ろう。原因はまた明日俺の方からもそれとなく訊いてみる」

「あ、悪いわね……」

はぁ。俺はこの日最も大きなため息をついて、ハルヒと別れた。

ま、あいつなりに今日のことは気に病んでいるだろうし、さっさとケリをつけてしまおう。

これが、事の発端だった。

31: 2008/06/24(火) 06:30:08.47 ID:4APBevbp0
次の日、俺はもはや事件が取り返しのつかないところまで発展していることに、否応なく気付かされた。

「……はぁ?」

「だから、前からちょっと色々腹立つこととかあったのよ、涼宮さんには」

「それで、一回文句言っとこうと思って」

確かにあいつの挙動はイチイチ人の神経を逆撫でするところがあるが、何も今更、という話である。

俺はそんなごく当たり前の疑問を覚えながら、自分の席でうつ伏せになって授業が始まるのを待った。

「……………」

後ろで椅子を引く耳障りな音がした。どうやらハルヒが来たようだ。

「おう、遅かったな今日は」

俺はなるべく普通に接しようと試みた。クラスの中に反感を持った奴がいるぞ!なんて到底いえそうな空気ではない。

「………なかったのよ」

「……?」

「上履きが…無かったの」

………なんだって?俺は目の奥が重たくなるように痛むのを感じながら、後ろを振り返った。

そこには来賓用の茶色いスリッパを履いたハルヒの足が見えた。

35: 2008/06/24(火) 06:43:04.14 ID:4APBevbp0
その日、俺がわかったことはこうだ。

数人どころか、クラスの大半が多かれ少なかれハルヒに対して何か怒りを覚えている。

それが近頃どこかで境界線を越えて、陰湿な嫌がらせ行為や、直接的な小競り合いが起こった、そういうことらしい。

今日はずっとハルヒを含めたクラス全体がピリピリしている。まったく、いい加減にして欲しい。

これが長門の言っていた問題だろう。俺は数学の授業をBGMに今までの状況を整理することにした。

まず、ハルヒの思い通りにならない…コレがでかいんだろうな。

今までは大概の無茶も勢いで通していたが、一般人とあらばそうも行かない。

もともと周りに対して好意的でもなければワンマンのハルヒは疎まれる対象としてはまぁ、持ってこい…か。

そうなってくると、厄介だな…。俺は窓の外を眺めながら今後のことについて一抹の不安を覚えた。

ハルヒの力がどれくらいの間戻らないか知らないが、長ければ長いほどまずいことになる。

ハルヒはあれでナイーブなほうだし、別にクラスのことだって嫌いなわけではない。

これは下手をすると今までで一番大変なことになるかもしれないな。

そう思った時に、ふと視界の端を俯いたまま悲しそうな目をしているハルヒが掠めた。

「………まぁ、なんとかしてやらんとな」

「こら、そこ!何をぼそぼそ一人でしゃべっとる!」

46: 2008/06/24(火) 07:02:10.53 ID:4APBevbp0
放課後、授業中は氏んだ魚のような目をしていた連中が、まるで別人のように騒いでいる中、俺は足早に部室に足を運んだ。

ハルヒをつれてくるわけには行かない。今日はこれ以上騒ぎが起きないように無理矢理に家に帰した。

あいつも随分弱っているようで、いつもならぎゃあぎゃあと喚くところを意外とすんなり帰ってくれた。

「……さて、みんな集まってるみたいだな」

そこにはハルヒを除いたSOS団メンバーが全員集まっていた。当然これだって承知の上だ。

「どうやら早速なにか起こったみたいですね……」

古泉のやつは軽く困ったような表情を作って見せてはいるが、こいつは本当に読めない。

まだ長門の方がわかりやすいくらいだ。一体こいつらは今回どこまで内情を知ってるんだ?

「ああ。長門、お前の力で何とかならんのか」

俺にとってこの状況を救えるただひとつの手立ては長門の情報操作だった。

なんとなく、俺にはわかっているんだが、頼む………。

しかし、無情にも長門の細い首はゆっくりと横に振られた。

「……現在、原因はわからないが、いくつかの情報にプロテクトがかけられている。あなたが望むような操作はできない」

「………だろうな。まぁ、仕方がない、か」

55: 2008/06/24(火) 07:15:54.92 ID:4APBevbp0
「ひゃうぅ…どうしましょう」

もう日課になったのか、朝比奈さんはハルヒが来ないとわかっていてもメイド服に着替えてしまっていた。

そういう点においてはあいつの功績を素直に認めざるをえない。

しかしこれだけわかりやすく隣で慌てていただけると、こちらとしても冷静さが取り戻しやすい。

本当に朝比奈さんはいい人だ。うん、お茶もうまい。

「とにかく、僕たちには今回あまり出る幕がないかもしれません」

「………その心は?」

「長門さんは先ほど言ったようにうまく立ち回ることができませんし、僕の方も同じようなものです」

「………?」

「使えないんですよ、力は。なにせ、閉鎖空間ができませんから」

そうか。今、ハルヒは曲がりなりにも一般少女だった。当然閉鎖空間なんて作れないし、巨人なんかもってのほかだ。

しかし、そうなってくるとどうしたら。俺は頭を掻きながら机に突っ伏した。

「……今回は、あなたに任せる」

長門は静かにそう言った。

「……あなたが、涼宮ハルヒの保護をして」

63: 2008/06/24(火) 07:25:10.65 ID:4APBevbp0
確かに、俺はあいつとクラスも同じだし、今あいつに味方してやる一番身近な存在といえば俺になるのかもしれない。

「……仕方がない、引き受けよう」

なんかの弾みでストレスが極限まで溜まったままあいつに力が戻ってみろ、世界なんか簡単に消し飛んじまう。

そんなことはなんとしてでも避けたい。それに、このままあいつをほっとけるほど俺は無関心でもないのだ。

「我々もできる限りバックアップはしますので、すいませんお願いします」

「お役に立てなくてごめんなさい……ふぇぇぇ」

考えてみれば、これは不思議な事件も宇宙人も超能力も未来人も関係ない。

SOS団始まって以来の「普通」の出来事なのかもしれなかった。

とりあえず、俺は家に帰って明日以降をどう乗り切るかを考えながらベッドの上でゴロゴロしていた。

その時だった。鞄の中で静かに震える俺の電話。

なんとなくそんな気がしていたが、やはりハルヒからだった。しかし、もう夜も遅い。

俺はとにかく通話ボタンを押した。

71: 2008/06/24(火) 07:41:34.01 ID:4APBevbp0
『あ、もしもし…キョン……?』

ハルヒの第一声は俺が予想していたよりはるかにトーンの低いものだった。

「ああ、どうした?何か用か?」

何か用があるわけではないだろう。そんなことはわかっている。ただ、あまり話がわかり易すぎてもいけないだろう。

俺だっていじめられた時に「今日はいじめられて大変だったね」なんていわれた日にはとてつもなく凹んでしまうことだろう。

『別に…その、用ってわけじゃないんだけど…』

それから段々と、ひとことひとことそれがまだ信じられない出来事のように、ハルヒは今日の出来事について語り出した。

確認作業のようなその会話は、今思い出しても痛々しい。こいつがこんな一日を過ごしていたかと思うとさすがに気の毒だ。

『でも、今までのこと考えれば当然よね…嫌われたって……』

「……あのな、ハルヒ。あまり考え込むな。何もみんながお前のこと嫌ってるってことは……」

『嘘よ!だってあんなの……』

「いいか、とりあえず落ち着け。俺も相談に乗るし、SOS団のみんなだっている。」

「お前が嫌な奴じゃないって言うのは、俺たちが一番よく知ってる、そうだろ?」

『……でも、こんなの初めてで、あたし、頭が混乱して……なんか息苦しいのよ』

「ふぅ、じゃあ今日思ったこと全部話してみろ。そしたら少しは楽になるかもしれないだろ」

79: 2008/06/24(火) 07:50:32.36 ID:4APBevbp0
その後も二時間くらいだろうか、ハルヒの不安と愚痴と困惑の混じった一日の感想を聞きつつ、時折なだめてやっていた。

「うん……だからな……大丈夫だって……」

『…………』

おかしい。さっきからハルヒがやけに黙りこくる時間が長くなってきた。もしやとは思うが、まあこんな時間だ。

俺はわざとに少し間を置いて、再度ハルヒに呼びかけてみた。

「……おい、起きてるか」

『……すぅ…すぅ』

やはり予想通りだった。電話の向こうでは、奴さん寝ちまっているらしい。まったく、相変わらずマイペースなやつだ。

まぁ、グダグダと悩んでいるよりは寝てしまった方が楽だろう。この方があいつらしいと言えばあいつらしい。

『……すぅ……すぅ』

「…………おやすみ」

俺は少しあいつの寝息を聞いてから電話を切った。


そして、それからしばらくの間、あいつを学校でかばいつつ、今日のように夜電話で相談を受けるというのが日課になっていた。

174: 2008/06/24(火) 18:08:15.22 ID:hqSsBq610
リョーコ新馬戦

ハルヒ「いよいよね」
喜緑「この大型プラズマテレビは一体…?」
ハルヒ「みくるちゃんの賞金で買ったの!もちろんグリーンチャンネルも加入済みよ!」
みくる「おかげですっからかんですぅ」

ハルヒ「あ、パドック写った」
みくる「なんだか動きが悪いですねぇ。連日のハードな調教で調子落としてるのかなあ」
喜緑「見たところ他に大した馬はいなさそうですね。リョーコさんの力なら
   問題なく勝てるはずです」

175: 2008/06/24(火) 18:08:46.23 ID:hqSsBq610
朝倉(いよいよ出走ね。軽くけちらしてやるわ)
隣りのゲート馬「足元ににんじん落ちてるよ」
朝倉「え!どこどこ!?」

ガシャ

隣りのゲート馬「お先ー」
朝倉「あれ…?
   だっだましやがったなゲスヤロオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

馬主席

長門「…あのバカ」オワタ
急進派(馬主)「おいおい出遅れてるよ!大丈夫かよ!」
長門「あの程度の遅れなら心配ない」タブン

176: 2008/06/24(火) 18:09:15.65 ID:hqSsBq610
みくる「もう先頭集団は第四コーナーに差し掛かってるのにリョーコさん全然写ってませんよぉ」
喜緑「出遅れが致命的でしたね。ゲートは問題ない馬のはずなんですが…」
ハルヒ「まって!後方から一気にきたわ!」


朝倉「頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す頃す!!!!!」
急進派「おお!きてるきてる!勝てるよこれ!」

長門「なんとか差しきった」アッブネ
急進派「りょうこおおおおおおおおおおおおおお!」

177: 2008/06/24(火) 18:09:34.32 ID:hqSsBq610
急進派「よくやった!感動した!」
朝倉「ざっとこんなもんね。どう長門さん?」
長門「勝って当然のレース。うかれないで」

朝倉「う…でも最後の末脚は驚いたでしょ?」
長門「一つ一つの動作が鈍い。ここ一番での注意力も集中力も悪い。
   だからゲートで出遅れる。先行を許す」
朝倉「あう…」

長門「…お疲れ様。初勝利おめでとう」ホレニンジン
朝倉「あ、ありがとう!この調子でガンガン勝つわ!」

178: 2008/06/24(火) 18:10:05.87 ID:hqSsBq610
打ち上げ

朝倉「ただいまーみんな!」
喜緑「おめでとうございます。最後の直線すごかったですよ」
ハルヒ「おめでとうリョーコ!今日はお祝いよ!」

みくる「う、うまがお酒飲んじゃいけないんですよー」
ハルヒ「かたいこと言いっこなしよ!ほらみくるちゃんも飲んで脱いで」
みくる「だっだめですぅー。先生なんとか言ってくださあい」

長門「……」ゴキュゴキュ
みくる「一升瓶に口つけて飲まないでくだしゃい!」


鶴屋「おーお、新馬戦に勝ったぐらいで大騒ぎとはみっともないにょろ」
長門「!」

179: 2008/06/24(火) 18:10:41.11 ID:hqSsBq610
ハルヒ「出たわねボンボン調教師!こんなとこまで来て一体なんの用よ」
鶴屋「近くまできたから顔を出してやったにょろ。お茶ぐらい出すにょろ」
みくる「はっはいただいまー」
ハルヒ「みくるちゃん!お茶にフケ入れてやんなさい!」


鶴屋「そうそう、例の馬を紹介するにょろ。こいつが来年の牝馬クラシックを制覇する馬にょろ」
佐々木「ササキサンだ。以後お見知りおきを」
長門「!?これがゴッドノウズの……」
朝倉「ぷぷっ。へんな名前ー」
鶴屋「下の名前がわからないから仕方ないにょろ」

佐々木「ふーん、あなたがアサクラリョーコかい?あんなおそまつなレースをしてるようじゃ
    僕のライバルとはいえないね」
朝倉「うっうるさいわね!」

181: 2008/06/24(火) 18:11:10.33 ID:hqSsBq610
ハルヒ「ねえねえゴッドノウズってなによ?」
喜緑「あなたのお母さんのライバルだった馬ですよ」

ハルヒ「へー、じゃ桜花賞でやられた恨みをそいつが晴らしにきたってわけね」
佐々木「それは違うね。母の戦いは母の世代でもう終わってるんだ。僕とはなんの関係もないよ」

鶴屋「そもそもゴッドノウズは直接対決に負けたとはいえ、その後の成績を見れば
   どっちが上だったかはアホでもわかるにょろ。桜花賞のあと
   NHKマイルを凡走して引退したハレハレユカイじゃ話にならないにょろ」

長門「彼女は足を悪くしていた。ちゃんと走ることができていたらマイルでは無敗だったはず」
鶴屋「それじゃ長門っちが潰したと言ってるようなもんにょろ」
長門「!!」

182: 2008/06/24(火) 18:11:45.88 ID:hqSsBq610
ハルヒ「なによ!有希の調教にケチつける気?」
鶴屋「いまどき根性論ふりまわして無茶させるだけじゃ一流にはなれないにょろ。
   ま、せいぜいケガに気をつけてお小遣い稼ぐにょろ」
ハルヒ「ムキー!にくたらしいことこの上ない!」

佐々木「なんだか話がややこしくなったようだね。今日は出直すとするよ」
鶴屋「せいぜいつかの間の喜びに浸ってるといいにょろ」
ハルヒ「うっさいわね!とっとと帰んなさい!」

みくる「おおお茶がはいりましたー」
喜緑「もう帰ってしまいましたよ」

ハルヒ「あー腹立つわ!みくるちゃん塩まいときなさい!」
みくる「はいぃ」

183: 2008/06/24(火) 18:12:23.30 ID:hqSsBq610
朝倉「ササキサンだっけ?なーんか落ち着いた馬だったわね。それにしても失礼な調教師ねー」
喜緑「あなたの勝利の余韻が一気に吹き飛んでしまいましたね」
ハルヒ「仕切りなおしよ!飲めばあんなのきれいさっぱり忘れるわ」ゴキュゴキュ

朝倉「あれ?長門さんは?」
喜緑「いつのまにかいなくなってますね……さっきの話を気にしているんでしょうか」
朝倉「スズミヤさんのお母さんが潰されたって話?」

ハルヒ「あんなのウソよ」
朝倉「でも足を悪くして引退したって……」

ハルヒ「調教中に足を痛めたのなら有希が気づかないわけないわ。
    有希は誰よりも馬のことを気にかけているもの。ママは……運が悪かっただけなのよ」

184: 2008/06/24(火) 18:12:46.78 ID:hqSsBq610
喜緑「調教は厳しくてもアフターケアはしっかりしていますからね」
みくる「そうですよー。わたし馬用のマッサージチェアなんてここで初めて見ました」
    それに獣医さんの資格を持ってる調教師なんてうちの先生ぐらいです」
朝倉「私が熱発したときは一晩中看病してくれたわね」

ハルヒ「そうよ、私は有希を信頼してるわ。有希の下でならママが届かなかったオークスも夢じゃない」
喜緑「私はデビューが遅かったせいで結局間に合いませんでしたけど…
   長門さんとあなたたちならやってくれると信じています」

長門(みんな……ありがとう)


231: 2008/06/24(火) 19:19:26.48 ID:4APBevbp0
事の発端から一週間が過ぎた頃だったか、さすがにもう表立ったイザコザというのはない。

しかし、教室からハルヒに対する冷たい態度というのは拭われてはいない。むしろ逆だ。

「おい、ハルヒ。飯にしようぜ」

授業中はまだいい。問題は昼休みだ。俺が谷口や国木田と飯を食っていればあいつは確実に孤立してしまう。

とにかくこの陰鬱とした空気の教室から抜け出す。それが大事なんだ。

俺たちはここ最近屋上で飯を食っていた。

232: 2008/06/24(火) 19:19:53.53 ID:4APBevbp0

「…………」

しかし、随分とひどい顔だ。精神的に追い詰められるというのは誰にとってもかなりつらい。

こいつに関して言えば、しっかり学校に来てくれてる分まだ俺はありがたいというものだ。

「お前、しんどそうだな。保健室行くか?」

「……いい。大丈夫よ、あたしなら」

ここまで説得力のないセリフというのも珍しい。俺はいったん箸を置いて、ため息をついた。

「あのなあ、そんな顔と声で大丈夫よ、なんては悪い冗談にもならんぞ。ほら、全然飯にも手がついてないじゃないか」

購買で買ってきたパンには小さな口で遠慮がちにかじりついた跡が二口分だけついていた。

「あたしが大丈夫っていったら大丈夫なのよ!」

233: 2008/06/24(火) 19:20:52.23 ID:4APBevbp0
「お、おぉ…そうか」

最近ハルヒはこんな状況だからか、少々気が立っていることが多い。というよりはなんだ、情緒不安定に近いのだろうか。

さすがに今のは、と気付いたのかハルヒはバツの悪そうな顔で俺から目をそらした。

「あ…ごめん。でも本当になんでもないのよ」

まぁ、あんまりこいつの気にそぐわないことをしても仕方ないだろう。

俺は残り少なかったペットボトルのジュースを飲み干して、サンドイッチの最後のひとかけらを口に放り込んだ。

しかしその時、隣に座っていたハルヒの体はコントロールを失ったように、フラフラと俺の方へ倒れてきた。

「は、ハルヒ!?」

……なんだ。ただ寝てるだけか脅かしやがって。しかし無理もないか。

ここのところ心労が溜まる一方でろくに寝れてなかっただろうからな。少しこのままでいてやることにしよう。

236: 2008/06/24(火) 19:28:50.95 ID:4APBevbp0
「………ふにゃ」

「おう、起きたか?」

「あ、あれ……あたし…い、今何時よ!?」

状況がうまくつかめず、錯乱しながらもハルヒは俺の腕を引っ張って時計の針をにらみつけた。

「だいたい、午後の授業が終わるかどうかって所だな。もう慌てて戻るって時間でもないだろ」

寝ぼけ眼で目を擦りながら、段々と鮮明になっていく頭とともに、ハルヒは口をパクパクとさせて目を丸くした。

なんだ、そんな面白い顔もできるのか。これを部室のデジカメでとってパソコンのデスクトップにしてやりたいくらいだ。

「あ、あんた!だって授業とか……」

「もういいじゃないか今日くらい。しかしお前、どうでもいいが人のYシャツに涎たらすのやめてくれないか?」

「え、あ!」


241: 2008/06/24(火) 19:38:14.48 ID:4APBevbp0
それからというもの、昼休みはそうそうに飯を済ませてハルヒの睡眠時間にあてていた。

やはり、夜に部屋で一人でいると、色々考えてしまって眠れないのだろう。

ちょうどこの時期の屋上は風も心地良いし、熱くも寒くもない、そんなすばらしい気候だった。

「お前、なにも毎回俺を枕にすることないだろう」

「この屋上あんまり掃除されてないから寝転ぶのは嫌なのよ!」

まったく、家から布団でも持ってきたらどうだ。

「…じゃあ、五分前になったら起こして頂戴」

「そんなこといってお前いつもチャイムが鳴るまで動かないじゃないか」

「う、うるさいわね!バカキョンの癖に生意気よ!」

アゴに掌底を入れるな、掌底を。脳が揺れる。

しかし、なんにせよ元気がないよりは、まだこういうハルヒの方が安心だ。

「痛ってえな……わかったよ」


「……ありがと」

314: 2008/06/24(火) 21:10:54.23 ID:4APBevbp0
「そうですか…毎日ご苦労様です」

「はぅぅ、なんかちょっと…うら…あ、あの、なんでもないですぅ」

二日に一度ほど、俺は放課後この部室で他のメンバーに状況を報告していた。

本当はこいつらにもハルヒの様子を見に来てやってもらいたいところなんだがな。

しかし普段教室に来ない連中が続々とやってくる、というのもあまりよろしくはないだろう。

そう思ってこういう形をとった、というわけだ。

「しかしそろそろハルヒの方も限界だな。長門、お前の方は相変わらず何もできそうにないか?」

「…………」

静かに長門はうなずいて、思わず俺はため息を漏らした。やはり、なにかこっちで行動を起こさなくちゃいけないみたいだな。

315: 2008/06/24(火) 21:11:15.89 ID:4APBevbp0

教室に戻ると、ハルヒがまだ自分の席でなにやらゴソゴソしていた。

「あれ、お前先に帰るんじゃなかったのか?」

「ちょ、ちょっと忘れ物よ!途中で気が付いて…」

どうやらハルヒは英語の教科書を忘れてしまったらしい。

まぁ、明日は小テストがあるし、置いて帰るわけにも行かなかったのだろう。

俺ならまたこの坂を上って降りる気力を考えれば、このテストには縁が無かったとあきらめるところだがな。

「あれ……やっぱりないわ」

「ロッカーの中じゃないのか?」

「あんたと違って学校に置きっぱなしじゃないんだから、そんなとこに入れるわけないでしょ!」

ごもっともだ。俺は首をすくめて自分の荷物を片付けることにした。

その時、俺は自分の足元に紙屑が落ちていることに気が付いた。

318: 2008/06/24(火) 21:11:30.08 ID:4APBevbp0

今日の掃除当番は……国木田と谷口か。まぁ、あいつらがマジメに掃除するわけがないか。

俺はゴミを拾って近くのゴミ箱の中に放り投げた。

が、しかし、俺のコントロールでは到底一度でゴミ箱の中に入るわけも無く、俺はゴミ箱の側に転がったゴミを拾いにいった。

しかし、今思えばここでこんな紙屑なんかに気が付かなければよかったのかもしれない。

いや、でも結局はわかってしまうことなのだから、俺がここで見つけたのでよかったのかもしれないが。

結果から言おう。ハルヒの教科書は俺が見つけた。そう、ゴミ箱の中からだ。

これには俺も閉口せざるをえない。やりすぎだろ…いくらなんでも。

「おい、ハルヒ…これはさすがに先生に相談した方が…」

「……いい」

「しかしだな」

「……もういいわよ」


その日の帰り道、ハルヒはその後何度俺が話しかけても一向に口を利いてくれなかった。

319: 2008/06/24(火) 21:12:04.90 ID:4APBevbp0

その翌日。ハルヒは珍しく学校を休んだ。珍しくといっても、この状況では無理もないか。

昨日の今日なもんで、俺としては奴の様子が気になるところだが、俺にはやることがあった。

ホームルームも終わり、クラスの連中が部活だ下校だと騒ぎ立てるその直前に、俺は行動に出た。

「なあみんな、ちょっと話があるんだが」

俺は教室でこんなに大声を出したのは初めてだ。まったく、恥ずかしい以外の何者でもないな。

谷口がいつもこんな声量でバカなことを喋っているのを考えると、ある意味尊敬に値するかもしれない。

俺はあえて先生がいて、クラスの全員がいて、そういう状況でこの話題を切り出した。

こうすればさすがにこいつらだって攻撃的なことばかりはいえないだろう。そう踏んだ。

しかし、結果は俺の予想に反するものだった。

「ていうか…あたしたちそんなの知らないんだけど」

「証拠もないのにそんなこと言われても……」

「もしかして涼宮さんみんなの気を引きたくて自分で……」

俺は耳を疑った。何だこれは。こいつらこんなに腐った連中だったか?

中には当然気の毒そうな顔を浮かべている奴もいるが、ああ、俺にはもうよくわからん。

320: 2008/06/24(火) 21:12:46.99 ID:4APBevbp0

その後、失意を隠せないまま俺はSOS団の部室に顔を出した。今日はどうも長門だけしかいないらしかった。

俺は先ほどの出来事を事細かに長門に説明した。長門は相変わらず無表情で少し下を向いている。

「……おそらく、クラスメートの半分から七割に関して、情報改変が行われていると見ていい」

「なんだって?じゃあ、それは一体誰が……」

「……わからない。今、こちら側には情報が圧倒的に足りない」

「そうか。ありがとうな、長門」

「…………」

俺はどこか少しほっとした気分で部室を出た。あれがみんなの本心ではないとわかっただけでもまだマシだ。

とりあえずこの日はっきりしたのは、当分の間、俺はハルヒのケアの方に専念するべきだということだった。

さあ、ハルヒの家に向かおう。

341: 2008/06/24(火) 21:48:07.32 ID:4APBevbp0
突然、携帯が鳴った。どうやらハルヒからのようだ。

「…もしもし」

電話口の奴の声は思いのほか元気そうだった。どうせカラ元気なんだろうが、それでもないよりはマシだ。

「昨日は悪かったわね…なんか無視しちゃったみたいで」

「そんなことの心配してる場合か、お前は。それより具合は大丈夫なのか?」

「え?……ああ、別に体調が悪かったんじゃなくて…ちょっと行く気しなかったのよ。あんなこともあったし」

「そうか。まあゆっくり休めよ」

「ふん、あんたこそあたしがいないからって、たるんだ生活してるんじゃないでしょうね!」

「それだけ元気があれば十分だ。じゃあな」

俺はそういって話を終えようとして、耳から電話を話した。この様子なら今日はこのまま帰っても大丈夫だろう。

343: 2008/06/24(火) 21:48:28.46 ID:4APBevbp0

「……あ、あ!ちょっと待って!」

そういうハルヒの声で引き戻されて、俺は再度受話器に耳を近づけた。

「どうした、なんかあったのか?」

「……あんた今どこにいるの」

「どこって、家に帰る途中だよ」

「…………」

急にだんまりになった電話の向こうのハルヒに疑問を覚えながら、俺は尋ねた。

「なんだ、どうかしたのか」

「あ、あんたの家、行ってもいい……?」

349: 2008/06/24(火) 21:51:05.24 ID:4APBevbp0

突然の発言に多少驚きと戸惑いを覚えながらも、俺は答えた。

「別に…構わんが。安静にしてろよ、お前も疲れてるだろう?」

「体の方はなんでもないのよ、本当に!その、行っていいなら駅で合流するわ」

「……どうしたんだ、急に」

「なんでもない」

なんでもないってことがあるか。俺はそう思いながらもああ、とか、おう、とか曖昧な返事をした。

「ただ……一人だと、なんか押しつぶされそうなのよ」

そう、消え入るような声で呟いた後、じゃあね、とハルヒは電話を切った。

事態は思ったよりもどうも深刻らしい。今俺にできることがどれだけあるかしらん。

が、なるべくあいつの頼みぐらいには答えてやらなくては。人間誰しもそういう時ってあるものだ。

俺は急ぎ足で家路に着いた。

420: 2008/06/24(火) 23:05:54.53 ID:4APBevbp0
「ほら、お茶。冷たいのでよかったか?」

「ああ、ありがと」

こんな日に限って家族は誰もいない。そうだ、他のSOS団の連中でも呼ぶか。

そう思って俺はハルヒには黙って他の団員にメールを送った。

「……」

相変わらず寝不足なのか、しょぼしょぼした眼をしたハルヒの頬が前より少しやつれた気がした。

「昨日は参っちゃったわよ、さすがのあたしもね…」

「まあ、あまり気にするな、というほうが無理だろうが、重く考えすぎるなよ」

「何でこんなことになっちゃったのかしら…」

はっきり言おう。俺はこいつのここまで落ち込む顔を今まで見たことがない。

もうこれは本当に今まで一番深刻な事件になったと言い切っていいだろうと思う。

少しの間、俺の部屋は沈黙で満たされた。気まずい。非常に気まずい。ええい、古泉たちはまだか?

そんな時、ハルヒが呟くように口を開いた。

422: 2008/06/24(火) 23:06:10.29 ID:4APBevbp0

「あたしね…今も怖いのよ」

「何が?」

「朝起きて、いつもと同じように学校に行ったら、いきなりあんなことになって……」

「あんたとか、他のSOS団のみんなとか、まだあたしに優しくしてくれる人はいっぱいいるわ。でもね」

「次の日起きて、もしその人たちにも嫌われてたら…どうしようって…」

「キョンたちにまで嫌われたら…あたし…あたし…」

……もしかしてそれでこいつは眠るのを怖がってたのか?

「そんな馬鹿な事あるわけないだろう。俺たちがそんなことするような奴らに見えるか?」

「それはそうだけど…そんなのクラスの人たちだってそうでしょ……?」

確かにそれを言われるとどうしようもない。現に今ハルヒは抜き差しならない状況に追い込まれているのだ。

しかし、今あいつらは操られていて…なんていうことができないのもまたもどかしいが事実だ。俺は黙るしかなかった。

424: 2008/06/24(火) 23:07:01.64 ID:4APBevbp0
「そりゃ…あたしは、嫌われたって仕方がないけれど……」

俯いたままコップを持ったハルヒの手が微かに震えていた。

「そんな訳ないだろ!!」

し、しまった。俺としたことがついつい大声なんか出してしまった。これはまずい。

「あ、…いや、その。今は難しいこと考えるな。少なくとも俺は、いや俺たちは絶対にお前のことを嫌ったりなんか……ってうぉ!?」

「……………」

待て。落ち着くんだ。何だこれは?一体何が起こっている?

一見俺が涼宮ハルヒに抱きしめられているように見えるが………いや、その通りだよな。

「お、おい……ハルヒ?」

「おねがい……たすけて……こわいよ……きょん」

そう耳元で囁くハルヒの声は弱々しくかすれて、助けてやらねば、そう俺に思わせるには十分だった。

「……当たり前だろ。団長をピンチを救うのは団員の仕事だからな」

「大丈夫だ……大丈夫」

「…………うっ…えぐっ…ひぐ……」

ハルヒは安心したのかなんなのか、そのまま泣き出してしまった。

461: 2008/06/24(火) 23:44:14.41 ID:4APBevbp0
うー………ん?」

どうやら俺たちはいつの間にかうとうとしてたらしい。

ハルヒの奴は泣きつかれたのか、緊張の箍が外れたのか、俺に抱きついたままぐっすり眠っている。

ところでこれはどうしたらいいんだ?起こすのも気が引けるし、かといってこのままというわけにも行かないだろう。

俺も寝たフリをしていようか?でもそれもなんだか気まずい気もするし……わからん。

超近距離で見るハルヒの顔には頬に涙のあとがくっきりと残っていた。

こいつもこいつなりに溜め込んでいてものがあったのだろう。少しでも楽になってくれたなら、まあよしとするか。

しかしこの吐息が首筋にかかるのは何とかならんのか。さすがに色々ときつい。

こいつも普段は暴れん坊将軍だが、黙っていればそれなりにかわいい女の子なわけで……、いや、もう考えるのはよそうか。

何だかまったくいい方向に進む気がしない。というか悪い方向にしか進まないだろう。

既にこの吐息と、女子独特のいい匂いと、適度な重みと、伝わってくる体温で俺はずいぶん追い込まれている。

もうこれ以上どつぼにはまるのはゴメン、そう思ったそんな時だった。

463: 2008/06/24(火) 23:45:09.52 ID:4APBevbp0
無情にドアの開く音がした。

「………………」

「これはこれは………」

「はぅ…………」


ああ、しまった。俺はすっかりさっき自分が送ったメールのことを忘れていたのだ。

なんたる失態。そしてお約束のタイミング。

「うーん……ふにゃ……んん」

ああ、事態がどんどん悪化していく。俺にはもう止められん……。

「あ……あたし、寝ちゃった…って…え!?ちょ、ちょっと!な、何なのよこれ!なんでみんな…っ!」

「いやぁぁ………」

「呼び鈴を鳴らしても返答がないし、鍵も開いていたので勝手に上がってきたんですが……お邪魔でしたか」

「……ユニーク」

最悪だ。

「ち、違うのよみくるちゃん!これはっ!」

「あんたも何とか言いなさいよ!このバカキョン!」

485: 2008/06/25(水) 00:15:35.86 ID:Qys13sPY0
「じゃあ、僕はこの辺で」

「私もあんまり遅くなってもいけないから帰りますね!」

「……また明日」

……結局あいつらは何をしに来たんだ。いや、呼んだ俺が言うのもおかしな話か。

まあ、あいつらが来てくれたおかげで、久しぶりにSOS団で過ごすことができたんだよしとするか。

実際、みんなが来てからのハルヒは随分と楽しそうだったからな。

「じゃあキョン、あたしもそろそろ帰るわ」

「そうか。気をつけてな」

玄関口を出たハルヒの表情はここに来た時のそれとは打って変わっている。それだけでも今日の収穫だろう。

「ねぇ…キョン」

駅に向かって数歩ほど歩き出してから、ハルヒは思い出したように振り返った。

486: 2008/06/25(水) 00:15:51.63 ID:Qys13sPY0
「どうした、なんか忘れ物か?」

「いや……その、今日は…あり…がと」

「元気でたか?」

「……うん、少し」

今度はカラ元気ではなさそうだというのがハルヒの顔からは見て取れた。

「まぁ、また辛くなったら俺に泣きつけばいいさ」

先に言っておく。俺はこれを最大級のからかいと皮肉のつもりで言ったということを。

このバカキョン!みたいな反応を期待して、笑う準備までしていた。そのことを勘違いしないで欲しい。


「う、うん……そうする」

「じゃあ、また明日」

ハルヒはちょっと恥ずかしそうに去っていった。

狐につままれたというべきか。いっぱい食わされたというべきか。あまりの予想外に俺はちょっと固まってしまった。

俺がこの日の晩、自分の言ったことを思い出して、枕に顔をうずめてジタバタしたのは言うまでもない。

508: 2008/06/25(水) 00:39:33.59 ID:Qys13sPY0
朝、俺は学校に向かう坂道を登りながら、漠然と考えていた。

もちろんこの状況を打開するにはどうしたらいいかについて、だ。

やはり今回は、長門や古泉に何かを期待するというのも望みが薄そうだ。

と、なってくると。そう考えた俺は今まで最も根本的な存在について失念していたことに気付いた。

そう、涼宮ハルヒその人だ。あいつの世界を構築する力がまた正常に働けば何も問題はない。

確かに今みたいにストレスの溜まった状態でそんなことになれば、大変なことになるかもしれん。

そこを昨日みたいにSOS団でフォローしていけば、俺はそう考えた。

昨日みたいに………。ああ、一日たってもまだ氏にたくなるぜ。

まあ嫌なことは忘れよう。精神衛生上よくない。俺は教室に入るといつものように机にひじを突いて窓の外を眺めていた。

「おっす!キョン」

「おう、随分ご機嫌じゃないか」

「そう?気のせいじゃない?」

この調子で元気になってくれればいいんだが。

514: 2008/06/25(水) 00:48:45.83 ID:Qys13sPY0
しかし、そううまくもいかないのが現実というものだ。

やはりクラスでハルヒが置かれている状況は昨日と変わらないわけだ。

今日も学校はことあるごとに、ハルヒの心を痛めつけるようなイベントで満載になっている。

あいつの表情が曇っていくのに時間はかからなかった。

もう下手をすればハルヒには普通の笑い声ですら、自分を嘲笑しているように聞こえかねない。

そんなハルヒに俺ができることといえば、声をかけてやることくらいだ。

「ほら、ハルヒ。昼飯いくぞ」

今日はあいにく天気がよくなかったので部室で食べることにした。

「お?誰もいないのか。長門くらいいるかと思ったんだが」

「あたし……お茶買ってくる」

「あ、待て。俺がついでに買ってきてやるよ」

正直こいつを今一人であまり出歩かせたくない。いいこと一つもないだろうからな。

777: 2008/06/25(水) 18:15:38.72 ID:Qys13sPY0
「悪い、待たせたな」

「………」

何故だかわからんが、ハルヒはちょっとの間に随分と機嫌が悪くなっていた。

まあ、普段からこいつの場合はそうなんだが。どうもこんな時だと心配になって仕方がない。

「どうかしたか?」

「別に……」

「何かあったんじゃないのか?言ってみ。話はそれからだろ」

どういう理由か知らんが、それからしばらくハルヒは喋ろうとしなった。

やれやれ。俺にどうしろというのだ。とにかく今は、こいつが喋りたくなるのを待つしかないんだろうな。

そう決心して俺は買ってきたお茶を手渡し、ハルヒの向かい側に座って焼きそばパンの包みを開けた。

778: 2008/06/25(水) 18:16:04.45 ID:Qys13sPY0

それから五分間。たかが五分かと思うかもしれない。

が、遠くに聞こえる生徒のはしゃぐ声をBGMに、今にも降りだしそうな空を眺める五分間というのは非常に長かった。

とにかく、その沈黙の五分間を乗り切った俺は、ハルヒがぼそぼそと喋り出したのをパンを持った手を止めて見守った。

「…多分、わたしの勘違いなのよ」

俺は黙ったままうなずき、ハルヒに続けるように促した。

「さっき、あんたが飲み物買いに行ってる間に、鞄の整理してたの。そしたら…」

「…そしたら?」

「なんか底の方がいつもより汚れてる気がして。消しゴムカスとか、細かい砂粒とか……」

「別にそういうのって、普通に生活してれば少しは汚れるものだし、不思議でもなんでもないわ」

「ただ、思ってたよりもちょっと汚れがひどかっただけ。それだけなんだけど…」

「もう何か疑うことが多すぎて、ちょっと嫌になっちゃったのよ、ごめん」

そう言ってなんとか笑顔を作ろうとするハルヒはひどく悲しげに見えた。

779: 2008/06/25(水) 18:16:26.75 ID:Qys13sPY0

こういう時にこいつに何をしてやればいいんだろう。俺には皆目見当がつかない。

ただ、何か励ますほう方はないかと思うばかりだ。

そんなことを考えていたら、ハルヒはいきなり席を立った。

「ん?トイレか?」

ハルヒは黙って首を振ってそのまま俺の隣の椅子に腰掛けた。

「その……ちょっと、肩かして」

一言そういうと、ハルヒは自分の顔を俺の左肩あたりにうずめてもたれかかってきた。

やっぱり昨日のことを真に受けてるんだろうか。

やれやれ、我ながら恥ずかしいことを口走ったものだ。ま、それで団長様のご気分が少しでも晴れるるならお安い御用ってところか。

俺は少しばかり迷ったが、自分の腕をハルヒの肩に回した。するとハルヒの方も両腕を俺の胴に回してきた。

さすがに俺もこれにはびっくりしたが、なるべくうろたえないように務めた。

こいつは今とても不安なのだ。こうして誰かに寄り添っていた方がいくらかそれも安らぐだろう。

780: 2008/06/25(水) 18:16:42.82 ID:Qys13sPY0


「昨日は寝れたか?」

「………いつもより、ちょっとだけ」

「そうか。今日も起こすのは五分前でいいんだろ?」

「………今日はチャイム鳴ったら自分で起きるわ」

「わかった」

いつの間にか、雨が降り出したようだった。慌てて校舎に入っていく人影が窓の外にちらほらと見える。

雨が降るといつも思うのだが、世界の全てが静かになったような感じがする。

もしかしたら、雨の粒が音の波を遮る壁のようなものになっているのかもしれない。

詳しいことは知らんが、そんなことはどうだっていい。

ただ、聞こえるのは優しい雨音だけで、時間まで遅くなったような、そんな気がした。

俺は傘を持ってきていないだとか、天気予報では晴れるはずだったとか、そんなことを漠然と考えていたら意識が朦朧としてきた。

こんな日には、俺も昼寝でもしよう、何だかそんな気分になって、俺は目を閉じた。

786: 2008/06/25(水) 18:24:30.33 ID:Qys13sPY0
「……ン!ちょっと、キョンったら!」

乱暴に身体を揺さぶられて、俺は目が覚めた。

「む……ふあ……おはよう」

「おはようじゃないわよ!今何時だと思ってんの!」

俺は腕時計を顔の前に大儀そうに持ってきた。午後三時半、授業はあらかた終わっているな。

「そろそろおやつの時間だな」

「バカなこと言ってんじゃないわよ!ちゃんと起こしてって言ったじゃない!」

「……そうだったか?」

俺はまだ少しぼやけた頭を抱えながら、背を反らして大きく伸びをした。

「うーん」

792: 2008/06/25(水) 18:33:04.89 ID:Qys13sPY0
ホームルームの途中から教室に顔を出すのも気まずいものがある。

こんなことが続くと確実にまずいのだろうが、俺たちはさっさと帰ることにした。

「あんた本当にアテにならないわね!」

「そう怒るな。こんな日が一日くらいあったってバチは当たらんだろう」

先ほどから俺はキーキー騒ぐハルヒと二人で、駅に向かって歩いていた。

「そういう問題じゃないのよ!だいたいあんたは起きてたってあたしのことまともに起こさないし…」

「だってお前起こすとすこぶる機嫌悪いじゃないか」

「よくそんな口が聞けるわね…っ!あんたあたしを口実に授業をサボりたいだけなんじゃないの!?」

「そんなわけないだろう。ハッハッハ」

「何よその嘘ついてます、みたいな目は!」


800: 2008/06/25(水) 18:46:34.15 ID:Qys13sPY0
何度も何度も足を踏まれたり、鞄で殴られたりしながら俺たちは駅までたどり着いた。

そこで俺はあることを思いついて、二人分の切符を買った。

「おい、ハルヒ。せっかく学校も早く終わったことだ、久しぶりに部活動といこうじゃないか」

俺たちは普段とは逆方向の電車に乗って、街の方まで出ることにした。

「他の連中も呼ぶか?」

「別にいいわよ…平日に呼び出されたんじゃ、みんな迷惑でしょ」

このところ、あいつの言うところの「不思議探索」をしていなかったもんだから、街に連れ出せば少しは気も晴れるだろう。

そう俺は考えたわけだ。

………。

結果から言えば、あいつは元気になったのだが、俺のサイフは出血多量で今や面会謝絶だ。

今は心からやめておけばよかったと思っている。普段と違うことをするとろくな事がない。やっぱり普通が一番だ。

808: 2008/06/25(水) 18:57:03.69 ID:Qys13sPY0
帰りの電車の中、さすがに疲れたのか、ハルヒはあまり喋らなかった。

俺が色々と疲れていたのであまり話しかけなかったというのもあるんだが。

電車がいくつか駅を通り過ぎて、我が家の最寄り駅にたどり着く。

「じゃあな。明日もちゃんと学校来るんだぞ」

そう言って俺は立ち上がった。いや、立ち上がろうとした。

正確には俺の腰が席から数十センチ浮いたところで、何か引っ張られるような力が働いたのだ。

突然の出来事に俺は特に反応することもできず、もう一度腰を下ろす形になった。

けたたましい笛の音とともに、目の前で電車の扉が閉まる。

「あ…」

そして何事も無かったかのように、電車はまた走り出した。

放心状態のまま隣を見ると、ハルヒが俺のブレザーの裾を握り締めていた。……どうやら犯人はこいつのようだ。

「…………」

「おい、降りれなかったじゃないか」

「…………」

やれやれ。今度はどうしろって言うんだ?

820: 2008/06/25(水) 19:12:18.54 ID:Qys13sPY0
かれこれ無言のままもう2駅ほど過ごしてしまった。なんなんだ一体。

「なあ、せめて説明くらいはしてくれないか」

「……か、傘」

「………なんだって?」

いきなり何を言い出すんだこいつは。俺としりとりでも始めようっていうのか?

「……さ、さいたま」

「……あんた、何言ってんの?」

何だ、違うのか。でもその方が俺も助かる。

「……学校出るときに、その、職員用の傘一個しか持って出なかったでしょ?」

「そりゃ俺にも罪悪感というものがあるからな」

「それで、あんたがそれ持って帰って、あたしには濡れて帰れって言うの?送ってくぐらいしなさいよ!」

「ぬう……」

確かに正論といえば正論だ。でも傘ぐらい自分で買って帰れよ、とも思う。

どうやら俺は家までこいつを送ってかなきゃならんようだな。

果たして、サイフに定期の乗り越し代が入っているかが気になるところだが。

834: 2008/06/25(水) 19:32:56.20 ID:Qys13sPY0
結局、俺は言われるがままにこいつの家まで送らされることになった。

途中、随分雨が激しくなってきてしまい、俺もハルヒもなんだかんだ言って結構濡れてしまった。

そういえばハルヒの家に行くのは初めてだな。

「ちょっと上がっていきなさいよ、お茶くらい出すわ」

なんともベタな展開だ。しかし、今の俺にとっては非常にありがたい。

なにせこの雨だ、我が家どころか駅に着く頃にはもう全身ずぶ濡れになっていてもおかしくないだろう。

そんなわけで、俺は多少雨宿りをさせてもらうことにした。

「しかしすごい雨ね…もう最低よ、ほんとに!」

「まあ、仕方ないさ。それより、タオルを一枚貸してもらえるとありがたいんだが」

「あ、ちょっと待ってて」

俺はため息をついて、近くにあったソファに腰掛けた。どうも他人の家というのは落ち着かない。

それが、はじめて来る家で、なおかつその相手が女ともなれば、余計となんだろう。

そんなことを考えいた俺の視界が、突如として遮られた。

「それ使って!」

何も投げてよこさなくたっていいだろう。タオルも俺もいい迷惑だ。とりあえず俺は濡れた頭をそのタオルでがしがしと拭いた。

851: 2008/06/25(水) 19:52:16.48 ID:Qys13sPY0
洗面所と思しき方からドライヤーの音がした。おそらくハルヒが髪を乾かしているのだろう。

まだまだ時間がかかりそうだったので、俺は大きな声で聞こえるようにハルヒに訊ねた。

「おーい、テレビつけてていいかー?」

「いいわよー別にー!」

俺は早速リモコンを取ってチャンネルを適当にまわした。何もくだらないバラエティ番組を見ようというのではない。

時間帯的にニュースがどこかの局でやっているだろう。これだけの大雨ならニュースになっていてもいいくらいだ、そう思った。

案の定、いくつかのチャンネルではそういった類のことを言っていた。大雨洪水警報だって?本当にいい迷惑だ。

「ありゃー、これはすごいわね。あ、これあそこじゃない?」

つい先ほどまで歩いていた市街地に傘と合羽のレポーターが立っている中継映像に、いつの間にか戻ってきたハルヒが食いついた。

髪を乾かしたついでなのだろうが、Tシャツにスウェットと、随分とラフな服装に着替えている。

「………」

「何よ」

「……お茶」

「あんた、遠慮ってものを知らないの?」

お前が出すといったんだろーが、お前が。

864: 2008/06/25(水) 20:13:13.13 ID:Qys13sPY0
「しかしまあ、これは当分帰れそうにないな……」

冗談抜きで、雨の激しさは増すばかりだ。この家の前の道路の両端が、もはや川になりつつある。

ハルヒはといえば、遠慮を知らないずうずうしい俺のために、お茶を出してから、すぐ電話がかかってきて部屋を出て行った。

俺も家に電話しておいたほうがよさそうだな。

「…もしもし、ああお前か。ちょっと帰るの遅くなるぞ。…ああ、この雨だからな。……わかっとるって、それじゃ」

俺が電話を終えると同時にちょうどハルヒも部屋に戻ってきた。どことなく様子がおかしい。

何か予想外のことが起きたって顔だ。何があったのか訊くより先にハルヒの方からその疑問に答えてくれた。

「電車、止まってるらしいわ、今」

「そんなにひどいのか!」

「それで、親はどっちも帰ってこれなさそうだって」

こいつは予想外だ。ここまで雨がひどくなるとは。

しかし、親御さんが帰ってこないとなると、こんな状況で情緒不安定なハルヒ一人残して帰るというのも……

……いや、待て。電車がなんだって?それが本当なら………待て待て待て待て。

「お……俺も帰れないじゃないか」

84: 2008/06/25(水) 21:11:19.87 ID:Qys13sPY0
「そ、そういうことになるわね……」

「タクシーも呼んでも来ないかもしれんな…そもそもそんな金がない」

「悪いけどあたしも今持ち合わせないわよ…」

俺たちはがっくりと肩を落としながらとりあえずソファに腰を下ろした。

「…………」

なんだ、この気まずい沈黙は。最近そういうのも慣れてきたと思ったが、これはなんだかタイプが違う気がするな。

「その…なんだ」

「……泊まってけばいいわよ」

「すまんな」

泊まっていくといったものの、色々前途多難だ。

とりあえず、このままテレビを見つつ何事もないまま時間が過ぎて言ってくれることを祈ろう。

87: 2008/06/25(水) 21:11:35.95 ID:Qys13sPY0
「ちょっとキョン、あんた邪魔よ!もっとそっち行きなさいよ!」

やれやれ。負い目がある分いつもより強気に出るわけにも行かないのが辛いところだ。床にでも座ってれば文句ないだろう。

幸い、このリビングのカーペットはかなり上等のような気がする。少なくとも俺の家のものよりはふかふかだ。

俺は脚を伸ばして床に座り込んだ。

「……べ、別になにも床に座ることないでしょ」

「このほうがお前も広いだろうが」

「……なんかあたしが悪者みたいで気分悪いわ」

「いいよ、ここも充分居心地がいい」

「…っ!つべこべ言ってないでこっちに来なさい!」

やれやれ。何が原因かは知らんがハルヒは随分機嫌が悪いらしい。こういうのを理不尽だとか、不条理というのだろう。

俺にはもう何を考えているのかまったくわからん。とりあえず俺はこれ以上あいつを怒らせないように重い腰を上げた。

120: 2008/06/25(水) 21:22:19.24 ID:Qys13sPY0
しかし、昨今のテレビ番組はどうしてこうもクイズばかりやりたがるんだろうか。

俺みたいな人間にとっては家に帰ってからも勉強を強いられているような気分になって非常に鬱陶しい。

「どこのチャンネルもつまんないのばっかね……あ、そうだ、キョン、ゲームするわよ!」

おお!ハルヒにしちゃいい考えだ。そいつはテレビよりは少しは楽しそうな気がするし、時間つぶしにもなるだろう。



「……………」

「やったー!また勝った!これで45連勝ね!」

「全然楽しくねえ……」

まったく、こいつは何にでも超人的な才能を発揮するというのを忘れていた。なんだこれは。

太刀打ちできるどころかもはや公開レOプの様相を呈してきている。

別に俺はこのゲーム苦手じゃないんだがな。上には上がいるということだ。

167: 2008/06/25(水) 21:35:53.95 ID:Qys13sPY0
「なあ…ハルヒ、ちょっと休憩にしないか……」

「なんで?あともうちょっとで100連勝なのに……」

「お前は弱者がひねり潰されるさまを見て楽しいのか?」

「何言ってるかちょっとよくわかんないわ。ま、あんたがやめたいって言うんならこれくらいで勘弁してあげる」

やれやれ。これならまだクイズ番組の方がマシだったかもしれん。

しかし、ハルヒの晴れやかな顔をみるとまあこれも人助けと思えば、ってな気分になるもんだ。

「なんか小腹が空いたわね…なんかあったかしら」

そういうとハルヒは台所の方へ消えていってしまった。これはありがたい展開だ。

晩飯を早めに不思議探索中に済ましてっしまったもので、俺も正直口寂しかった。

かといってコンビニに行く気分になるような天気でもなければ、腹が減ったとねだるのもどうかと思う。

うまい具合にスナック菓子かなんかが残っていて欲しいものだ。

「あ!ポテチがあった!」

ナイスだ、ハルヒ!

203: 2008/06/25(水) 21:47:09.80 ID:Qys13sPY0
「………」

「やっぱりなんだかんだ言ってうすしおよねー」

「………」

「…どうかしたの?」

教えてくれ。何故、何故お前は一人で袋を抱えているんだ。

「…俺にはくれないのかよ」

そうボヤくと、ハルヒは純粋に驚いた表情で俺にこう尋ねた。

「……なんであんたにあげるの?あたしのなのに」

「………なんでもない」

そう呟いた俺のひどく残念そうな表情を見て、ハルヒは急に吹き出した。

「あはははは!何よあんたその顔!」

何がおかしい。貧困に喘ぐものを馬鹿にして何が楽しいのか。俺の胸は物申したい気持ちでいっぱいだ。

「ふふ、冗談よ。ほら、ここに置いとくからあんたも勝手に食べなさい」

…半分以上食ってからそれを言うかお前は。まあ、貰う側として文句は言えんが。


231: 2008/06/25(水) 21:57:56.29 ID:Qys13sPY0
その後、俺たちは適当にチャンネルをザッピングしながら菓子を頬張っていた。

「雨、全然止まないわね…」

「むしろ、さっきよりひどくないか?」

「ほんっと、どうなってんのかしら……」

しかし、ここまで特異な状況になると、俺の中である仮説が一つ立ち上がってくる。

ただしかし、これは俺には確かめようのない事なので、今はまだなんともいえないのだが。

俺は心の中で色々と考えを巡らしながら、テレビを眺めていた。

「…ひぁ…ちょ、ちょっとキョン!何すんのよ!」

「おお、スマン。よく見てなかった」

ボケッとしてたら、ポテトチップスをとる際にハルヒの指を掴んでしまったらしい。

「バカ!この変態キョン!」

「おい、何もそこまで言うことないだろう」

「ふ、二人きりだからって変なことしたらぶっ飛ばすわよ!」

なんだその聞きあきたようなセリフは。一周してちょっと面白いわ。

257: 2008/06/25(水) 22:13:01.98 ID:Qys13sPY0
俺の変態騒ぎも一段落した頃、俺たちは完全にすることが無くなっていた。

暇だ。特に誰からメールが来ているわけでもないし、あんまり人の家で携帯をいじりっぱなしというのも気が引ける。

ハルヒの方はというと、午前中の欝な気配はどこへやら、退屈にわかりやすい苛立ちを感じているいつものハルヒだ。

おそらく俺が今何か口走れば、喋り切る前にいわれのない悪口が飛んでくるだろう。

触らぬ神にたたりなし、とは本当によく言ったものだ。

そんな時、ハルヒは突然立ち上がった。

「ちょっと、お風呂入ってくる」

「そうか」

ハルヒよ、次にお前はこう言う。ちょっとキョン、覗いたら…わかってるわね!ってな。

「ちょっとキョン」

「ん?」

「あたしが、覗いたら許さん!みたいなこというと思ったでしょ」

「あ、ああ……」

「わかってるならいいわ」

くそ、何だか負けた気分だぜ……。

273: 2008/06/25(水) 22:27:02.64 ID:Qys13sPY0
ハルヒが風呂に入っている間、俺はさっき惨敗したゲームを一人で練習することにした。

俺にもやっぱり多少なりともプライドというものがあったということだ。

ここで、トイレを探してたら間違えて、とかそういうのがベタな所だが、そういうことをするほど俺はバカではない。

「あー、さっぱりした」

風呂上りのハルヒはというと、まあそりゃ一般的な女の子がそうであるように二割増しだ。特に何か思うところはない。

「あら、あんたまた面白そうなことやってるじゃない!」

俺は結局この日全部で120連敗を喫した。もう何も言うまい。

さて、そうこうしているうちにいつのまにか日付も変わっていた。

そろそろどちらかが話を切り出す時間だろう。

俺は昨日の晩熟睡している上に、今日の昼寝があってそんなに眠気はない。

それに比べてあっちはもう既に眠たそうだ。でもこのまま俺がダラダラ起きていると、きっとハルヒは意地でも起きているに違いない。

そう思って、俺は自分から切り出すことにした。

「なあ、もうそろそろ寝たほうがいいんじゃないか?」

明日は休日だから普段ならそんなに問題はないんだろうが、こいつの場合、衰弱具合を考えれば無理はさせないほうがいい。

287: 2008/06/25(水) 22:41:04.63 ID:Qys13sPY0
「……別に眠たくないわよ」

「瞼のシワを増やして言うセリフか、それが」

「あ…」

「無理するなよ、ただでさえお前は今弱ってるんだから、な?」

「……うん」

「ああ、そうだ。非常に恐縮なんだが、俺にも毛布かタオルケットみたいなものを貸してくれないか?」

「え?」

「いや、俺はここのソファで寝させてもらうから、一枚そういうものがあると助かるんだが」

「あ…そう…あの、今とってくるわ」

なんだかハルヒが一瞬不可解な表情をしたような気がする。俺の気のせいだろうか。

「じゃあおやすみ。ま、ゆっくり寝ろよ」

「……おやすみ」

俺はさっそく電気を消してソファに横になった。なんだか今日は色々と疲れた。

「あ、あの…キョン?」

307: 2008/06/25(水) 22:47:34.60 ID:Qys13sPY0
「なんだハルヒ、まだ部屋に上がってなかったのか」

「いや……あの」

「?」

「……何でもない、今日はありがとうって言いに来ただけ。おやすみ」

「そうか、お前にしちゃ素直だな」

「な、何よ!ヒラ団員のくせに偉そうに!」

乱暴に階段を上る足音を聞きながら、俺は軽く笑って眼を閉じた。やれやれ、とんだおてんば姫だ。

思いのほか寝心地がよかったのか、最近ハルヒにつきあってどこでも寝るようになったからなのかは知らない。

しかし、どちらにせよそこから俺の意識が遠のくまでは驚くほど早かった。

331: 2008/06/25(水) 23:06:28.41 ID:Qys13sPY0
こうしてすんなりと眠りについた俺だったが、ものの数時間で眼を覚ますことになってしまった。

「むう……うーん……」

「ひゃ!?」

「んん……何だ…どうかしたのか、ハル……っ!!」

何だ?何が起こってる?俺は寝ぼけてなんかいない。ここは涼宮家1Fのソファだ。

ここで俺は眠りについた。そうだ。間違っていない。なのに何故。

ハルヒが俺の隣にいるんだ。

「おま……何してっ!」

「………っ!」

ハルヒは俺が気付くと即座に飛びのき、憔悴した表情を見せた。

ああ、何だか面倒くさいことになってきた。もしかすると俺の予感は当たっていたのかもしれん。

とりあえず俺はため息をつくほかなかった。

「何してたんだよ…まったく」

「…………」

ハルヒは中々口を開こうとしない。ただ黙って下を向いていた。

136 :2008/06/25(水) 23:54:37.41 ID:HCKFTkko

あれから一体どれくらい時間がたったのだろうか。

多分ほんの数分しか経ってないだろう。ただ、俺には永遠に近いほど長く感じられた。

ただ、静かなこの部屋で二つの息遣いが雨音とともにはっきりと聞こえてくるのだ。

確実に今二人の人間がこの部屋にいる。ああ、もう考えたら負けな気がしてきた。

そんな時だ。この場に”いない”あいつの声が頭に入ってきたのは。

正直、俺はこの展開だけは避けたかった。そう、なんとしても。しかし、俺に運命の選択権なんかはない。

『キョン君、聞こえますか…?』

ああ、聞こえるよ。嫌というほどな。

『…なんだかご機嫌斜めのようですね』

お前が出てこなきゃまだマシだったんだが。

『まあ、そう怒らないでください。これはある意味吉報です』

まあ、そうだろう。古泉、お前が俺に語りかけてくるってことは、ここが閉鎖空間の中だってことなんだからな。

『これで、涼宮さんの学校生活も元通りになる兆しが見えてきました。後はあなた次第です。では』

やれやれ。また俺次第か。

162 :2008/06/26(木) 00:08:33.85 ID:DiQumfMo

考えていた最悪の展開に頭を悩ませながら、俺はまたため息をついた。

それと同時に、後ろの方で小さく咳払いのような声がする。

「あ……」

背中越しに、なんらかの気配が近寄ってくるのがわかった。

ああ、もう俺は知らん。

「ねぇ…キョン。まだ、起きてる……?」

「…………」

「さっきは、その、ごめん…」

「ねぇ…起きてるんでしょ?返事して……」

「………ああ」

「ごめんなさい…謝るから…ねぇ、キョン…」

くそ…俺は何をこんなに不安そうな声で謝らせているんだ?

「もう…あたし一人じゃ眠れないのよ…お願い、許して…」

ハルヒは俺の肩を軽くゆすった。普段の態度から考えれば、心なしか怯えているように感じて取れる。

「………ほら、こっちこい」

265 :2008/06/26(木) 00:31:24.79 ID:DiQumfMo

俺はハルヒの方を向いて毛布ごとハルヒを包んだ。

「…………」

「……もう謝るな、俺も悪かった」

ハルヒがゆっくりと毛布の中で俺の背中に手を回す。くそ、こんなもん平常心でいられるか…

俺はなるべくハルヒに心音を聞き取られないようにと試みたが、もはや無意味だ。

「………」

俺の胸やら首筋やらで寝返りを打ったり顔をうずめたりと、どうやらハルヒは自分のちょうどいいポジションを探しているらしい。

これはなんともくすぐったい。というかなんかもう柔らかくて…ああ、俺は一体何を。

しかも毛布に包まっているせいで、体温のみならず、髪の匂いやら吐息の温もりやら、もう大変なのだ。

「………きょん」

「な、な、なんだよ」

「……こうしてると、なんだかすごく温かくて、その…あれ何が言いたかったんだろ…」

342 :2008/06/26(木) 00:49:58.94 ID:DiQumfMo

「お、おい…ハルヒ……?」

何をくんくん嗅ぎ回ってるんだ…?ただでさえ風呂はいってないっていうのに…やめてくれ、恥ずかしくて死ぬ。

「……きょんの匂いかいでると、なんか……あたし…」

そんなこと言うな…お前は俺をこれ以上どうしようって言うんだ……?

「もう…きょんだけ…いればいい……」

「ハ……ルヒ……」

もう俺に正常な判断はできないかもしれない。いや、ずっと前からできなくなっていたのかも知れない。

こっちを真っ直ぐ見つめるその大きな瞳に、知らぬ間に俺は吸い寄せられていって、次第に俺たちの顔の距離は狭まっていく。

「……っ!」

二人の唇が密着する寸前に俺は何とか我に返った。しかし、もう遅かった。ハルヒはいつの間にか俺の顔を両手で捉えていた。

「……ちゅ」

「──────」

390 :2008/06/26(木) 01:11:00.36 ID:DiQumfMo

「…………」

これは。ああもう、これはなんだ?頭の中が真っ白だ。

ハルヒは唇を名残惜しそうに離すと、また顔をうずめてしまった。それはまあいい。俺だって今の間抜け面をみられたくはない。

「きょん………いっしょ……」

俺はしばらくの間、放心状態のままハルヒを抱きしめたり、頭を撫でたりしていた。ああ、正直に言おう。惚けていたとも。

そして、ようやく落ち着いてきた頃に、ふと俺の中である疑問が芽生えた。

閉鎖空間が閉じないのだ。特に変わった様子もない。

俺は色々とねじの外れた頭で必死で考えた。もちろん集中力なんか微塵もない。

だから、ごく当たり前の答えに気付くのに、かなり時間がかかってしまった。

俺は一度深呼吸をして、頭の中に散らばった理性のかけらをありったけ集めた。

そうでなきゃまともに喋れるかどうかだって危うい。

「なあ……ハルヒ」

「………なに」

405 :2008/06/26(木) 01:23:04.75 ID:DiQumfMo

「……ぐっ!」

こいつの顔を見てたんじゃあダメだ。話にならない。また、その、さっきみたいになるかもしれん。いや、というかなる。

俺はそう思って思いっきり目をそらして天井を見ながら続けた。


「もう寝よう」


「………?」


「だから、もう眠っちまって、明日になって、また学校に…ああ、まあ明日は休みなんだが、その…」

ああ、まどろっこしい。

「……きょん?」

「だから、また元通りの生活にだな……」

「……いやよ…学校なんか行ったって…また嫌われるだけだし……ここでこうしてるほうがずっといい」

「ハルヒ……」

426 :2008/06/26(木) 01:38:54.64 ID:DiQumfMo

ハルヒはまた顔を俺の胸にうずめて、耳まで塞いでしまった。

「……なあハルヒ、聞いてくれよ」

「今は辛いさ。それにこれからだっていくらでもそんなことはあるだろう。でも、それじゃだめだ」

まったく、我ながら臭い事を言ってるな。まあいいさ、無事家に帰れたらまた枕でジタバタやろう。

「そんな風に閉じこもってるなんてお前らしくないし、第一面白くないだろ?」

「…………っ」

ハルヒは俺の胸に鼻を擦り付けるように首を左右に振っている。

こういうこいつももう見られなくなるかと思うと若干名残惜しい気もするが、仕方あるまい。

「俺は、いつも自分勝手なくらい前向きで、周りの奴を振り回すくらい元気なお前が見たいんだよ」


「だから、もう眠ろう」

436 :2008/06/26(木) 01:46:42.25 ID:DiQumfMo

「いつだって俺が、いや、俺らがついててやる」

俺はゆっくりとハルヒの顔を持ち上げて、目の前に持ってきた。

ははは、何て顔をしてるんだこいつは。これを部室のデジカメでとってパソコンのデスクトップにしてやりたいくらいだ。

涙でぐしゃぐしゃになったハルヒの頬をそっと撫でてから、俺はこいつにできる精一杯の笑顔を向けた。


「……ばかきょん」


ほら、そうやって笑ってる方がいいじゃないか。

俺はそのまま目を瞑って、ゆっくりとハルヒの唇をついばんだ。

454 :2008/06/26(木) 02:04:57.34 ID:DiQumfMo

「……うーん」

俺は辺りを見回した。昨日と同じハルヒの家だ。

そして、俺の側では安らかな寝息を立ててハルヒが眠っていた。

……もう大丈夫そうだな。

俺はそう思ってハルヒをソファに寝かせて家に帰ることにした。もう雨は上がって、昨日の豪雨が嘘のように晴れ渡っている。

どうでもいい話だが、この土日は家でダラダラと過ごした。

なんだか一連の出来事でひどく疲れてしまったし、誰かと遊びに出かけるような気分でもなかった。

特にハルヒとはまだ顔を合わせる気分ではなかった。まあ、当たり前のことだが。

そんな束の間のような休日を終えて、俺はまた学校へと続く坂道を登っていた。

昨日長門から連絡があったので、もうクラスの連中も正気に戻っていることだろう。

どうも彼らの情報操作には思念体の急進派が絡んでいたらしい。

まあいずれにせよ、そういう心配をしなくていいのは非常に心が軽くていい。

やはり毎日通うところが陰鬱な空気というのは好ましくないからな。

結局俺には何でハルヒの力が一時的にせよなくなっていたのかは、わからずじまいだった。

464 :2008/06/26(木) 02:12:37.72 ID:DiQumfMo

俺が自分の席で日向ぼっこを楽しんでいると、あいつはズカズカとやってきた。

「おう」

「おはよう」

決して目をあわせようとしないハルヒに、まあ無理もないかと思いながら俺は日向ぼっこを続けた。

「あんた、一昨日うちに泊まってたわよね」

うーむ。面倒くさい質問だ。

「……あー」

「あんたあたしがお風呂入ってるとき覗いてたでしょ」

「ば、馬鹿言え!俺はずっと一人でゲームしてたぞ!」

「…じゃああそこはまだ夢じゃなかったのね」

どうもいらない事を言ったようだ。大体なんで俺が誘導尋問を受けなきゃならん。

大きく伸びをして、俺は身体を起こした。そして、今置かれた状況に気が付く。

「…おい、そんなくだらないことは後回しだ。ほら、お前にお客さんだぞ?」

「え……あ……!」

「……あの…その、涼宮さん、今まで本当にごめんなさい…」

484 :2008/06/26(木) 02:23:07.68 ID:DiQumfMo

それを皮切りに来るわ来るわ。謝ったり泣いたり頭を下げたりと大忙しだ。

やれやれ。まあ、あいつらだってある種被害者だ。お互い禍根が残らないようにやって欲しいところだな。

あいつの席の周りの人口密度の高さに嫌気がさして俺は谷口たちのところへ逃げた。

「NANANAなんだなんだ?女ってのはよくわからんなー」

「でもまあ、こっちの方がいいじゃない。ここのところクラスの雰囲気悪かったし」

「……ああ、これでいいんだろうよ」

その後、ハルヒは持ち前の明るさとストレートさで、すっぱりと過去のことは水に流すと宣言したようだ。

「…まあ、あたしにもいくつか悪い点があったのも原因の一つでしょうからね」

ハルヒはそんなことも言っていた。これならもう大丈夫だ。

503 :2008/06/26(木) 02:39:06.39 ID:DiQumfMo

そして昼休み、俺はここんとこの癖でハルヒに声をかけてしまった。

まあ、やっぱりいいやというのも何だか変な話なので、二人で部室に向かった。

天気がよかったので屋上でもいいかと思ったが、あれだけ雨が降ったあとでは、屋上の床は汚れきっているだろうからやめにした。

「ねえ、キョン」

「ん?」

「……ありがとう」

「……どういたしまして」

今日はまた静かな昼飯だったが、明日からはまた谷口のうるさい話を聞きながら食べにゃあならんので、こういうのもアリだろう。

「……そ、その功績を評してあんたを、その、SOS団のま、枕係に任命するわ」

「………はあ!?お前頭の方は大丈夫か?」

なんだ?俺はまだ悪い夢でも見てるのか?わけがわからん。

「うー……ちょっと肩かしなさい!」

「……………」

不機嫌そうに俺にもたれかかるハルヒ。あまりに突然の出来事に俺は何もできずに傍観していた。

そんな時だ。いつだってドアが開くのは。

508 :2008/06/26(木) 02:48:54.27 ID:DiQumfMo

「え!?」

「……ああ」


「いやぁぁ………」

「教室を訪ねたら二人で昼食を食べに行ったと聞いたものでここかと思いまして……お邪魔でしたか」

「……ユニーク」

最悪だ。

「ち、違うのよみくるちゃん!これはっ!」

「あんたも何とか言いなさいよ!このバカキョン!」

やれやれ。ようやくいつものドタバタした日常に帰ってきたわけだ。

もう慣れてしまって、こっちのほうが幾分か気が楽な自分が少し悲しい。

そうだ、こないだハルヒにゲームでボコボコにされた腹いせに、古泉をカードゲームか何かでコテンパンにしてやろう。

俺は意気揚々と焼きそばパンを口に押し込んだ。


おしまい

530 :2008/06/26(木) 02:54:13.61 ID:DiQumfMo

以上、おそまつさまでした。

正直今となっては釣りスレにしといたほうが楽でよかったなと後悔している。

途中で寝落ちしたり、書くの遅かったりと色々ご迷惑おかけしました。

小説スレを立てるのは二回目なんだが、その度に俺のスレはむちゃくちゃ荒れるのでなんか呪いがかかってるんかもしらん。

保守人とか、次スレ立ててくれた人とか、wwktkしてくれた人、黙ってROMしてくれてた人、みんな乙でした!

引用元: ハルヒ「ごめんなさい…謝るから…一人じゃもう寝れないのよ…」