737: ◆MY38Kbh4q6 2017/05/19(金) 20:36:24.85 ID:ohwQ2iaO0
【ガルパン】西「四号対空戦車?」【前編】
【ガルパン】西「四号対空戦車?」【中編】
【同日夜 ヴェニフーキの部屋】
ヴェニフーキ「こんばんは。ヴェニフーキです」
アールグレイ『お疲れ様ヴェニフーキ。ちゃんと部屋と服を"綺麗に"しているかしら?』
ヴェニフーキ「ええ。掃除しておきました。"汚れ"はもうありません」
あの日から私は部屋に入ってまず最初に服や鞄そして部屋に細工が施されていないかチェックするようになった。
今のところ特に盗聴器や監視カメラの類は見つからないが、忘れた頃に仕掛けてくる可能性もあるので油断は一切できない。
部屋と服が"綺麗"だとわかったら、次は"報告"をする。
何だかんだ言って、アールグレイさんと電話する機会もだんだん増えてきたな。他校の卒業生なので本来ならまず関わらないであろう存在なのに。
ただ本音を言うと、私はアールグレイさんよりもダージリンと電話したい。
その日の出来事を話し、『おやすみ。愛してる』と言って電話を切って一日を終えたい。
まぁ、そのダージリンを復学させるために、やむを得ず仕方なくアールグレイさんに電話してるわけだ。
…アールグレイさんにそれを言うとまたへそを曲げるから黙っておこう。
738: 2017/05/19(金) 20:44:22.77 ID:ohwQ2iaO0
アールグレイ『結構。それで、進展の方はどうかしら?』
ヴェニフーキ「ひとまずアッサムさんが"白"だとして、GI6の皆さん相手に反体制を仄めかす言動を投げかけてみました」
アールグレイ『あら。白を選んだのね。それはどうしてかしら?』
ヴェニフーキ「これには幾つか理由があるのですが」
ヴェニフーキ「まず、仮にアッサムさんが"内通者"だとしたら、そういった言動をとることで、自分や反・聖グロ派と"価値観が一致する"と判断するでしょう?」
アールグレイ『ええ』
ヴェニフーキ「それは反・聖グロ派と共謀するアッサムさんにとって、"敵だらけの聖グロに味方が出来た"ということになります」
ヴェニフーキ「それで内通者と仲良くなっておけば、より核心に近づけると思ったのですよ」
アールグレイ『なるほど。随分冒険したわね』
ヴェニフーキ「そうですね。…そしてもう一つなんですが」
アールグレイ『ええ』
ヴェニフーキ「今度は逆にアッサムさんが"内通者でない"場合、同じ発言をすれば猛反発なさるでしょう」
アールグレイ『そうね。アッサムもまた内通者を探してあなたを疑っている可能性があるのだから』
ヴェニフーキ「ええ。…しかし、アッサムさんはOG会のように、生徒をいきなり強制退学させるような鬼畜ではないし、鬼畜だとしても反体制派と無関係ならそれを実行出来る権限も無い」
アールグレイ『確かにね』
ヴェニフーキ「だから、最初は厳重注意や更生といった形に持っていくはずです。アッサムさんは奴らとは違う」
アールグレイ『そうね。たとえ裏切り者がいたとしても、アッサムならまずは必氏に説得するでしょうね』
ヴェニフーキ「そういった事から"内通者のアッサムさん"より、"内通者でないアッサムさん"を敵に回した方が失うものが少なく、得られるものも多いと思った次第です」
ヴェニフーキ「…あとは単純にアッサムさんはそんな外道な真似をする蛮勇は無いと」
739: 2017/05/19(金) 20:45:44.25 ID:ohwQ2iaO0
アールグレイ『…なるほど。あなたにしてはよく考えたわね』
ヴェニフーキ「やってる事がやってる事なので、嫌でも頭を使うんです。下衆の勘繰りというやつでしょうか。」
アールグレイ『そうね…』
ヴェニフーキ「…あ、そうだ」
アールグレイ『ん?』
ヴェニフーキ「もう一つ、アッサムさんに関して、気になるものを見つけたんですよ」
アールグレイ『アッサムの気になるもの?』
ヴェニフーキ「ええ」
ヴェニフーキ「アッサムさんの"弱点"ですね」
アールグレイ『………弱点?』
ヴェニフーキ「前にダージリンに教えてもらったんですけど、ダージリンはアッサムさんと勝負して、アッサムさんの弱点を突いて勝ったとのことでして」
アールグレイ『ええ。そうね』
ヴェニフーキ「そのアッサムさんの敗因とも言える弱点なんですが、おそらく」
740: 2017/05/19(金) 20:56:51.84 ID:ohwQ2iaO0
ヴェニフーキ「"キューポラから顔を出さない"」
アールグレイ『キューポラから…?』
ヴェニフーキ「言い方を悪くすると、"戦車内に閉じ籠もっている"といったところでしょうね」
アールグレイ『…なぜ、そう思ったのかしら?』
ヴェニフーキ「私はブラックプリンスに乗りながらも隊長車、つまりアッサムさんを監視していました」
ヴェニフーキ「それでわかったんですが、彼女はいくら安全圏にいたとしても、絶対にキューポラから顔を出さないんですよ」
アールグレイ『そう…』
ヴェニフーキ「確かに、キューポラ内にいても潜望鏡(ペリスコープ)や味方からの無線連絡で戦況を確認出来るかもしれません」
ヴェニフーキ「けれども、潜望鏡は視界が限定されるし、無線連絡は勘違いによる伝達ミスもあります。どうやっても自分で確認したものよりは劣る」
アールグレイ『なかなか面白い推理ね?』
ヴェニフーキ「あはは。普通の車長だったらまだ良いんですよ」
ヴェニフーキ「けれどもアッサムさんは隊長として全車輌に指示を出さないといけない立場なので、情報は多いに越したことはない」
ヴェニフーキ「ともなれば、それこそキューポラの上に立つくらいの覚悟でないと」
ヴェニフーキ「…そこからアッサムさんの隊長としての行動力、決断力すなわち覚悟の弱さが垣間見えました」
アールグレイ『なるほど』
ヴェニフーキ「実際、私がヴェニフーキとして聖グロに来て、すぐに行われた紅白戦でもその傾向にありました」
― 相手のフラッグ車であるチャーチル歩兵戦車の背後に回り込み、至近弾を浴びせて走行不能にしてやった。
ヴェニフーキ「あの時の奇襲攻撃は結構な距離があったのですが、上手く行きましたよ」
アールグレイ『そう』
ヴェニフーキ「で、ダージリンはその弱点を見抜いたからダージリンはあの時アッサムさんに勝った」
ヴェニフーキ「…アタリですかね?」
741: 2017/05/19(金) 21:00:14.01 ID:ohwQ2iaO0
― アッサムさんの"隙間"とは一体?
― それは教えない
― む…
― あの時は私にとっての"突破口"だったけれど
― 今はそれが聖グロの"弱点"の一つですもの
― えっ、ということは…?
― 今もなおアッサムはあの弱点を克服できてない
内通者だと目星をつけていたアッサムさんを監視した。
そして私はアッサムさんの弱点を見つけてしまった。
…この弱点を突いたから、あの時ダージリンはアッサムさんに勝てたのだろう。
そして、ダージリンの言う通り、このアッサムさんの弱点が聖グロの弱点の一つとなり、ダージリンのいない今の聖グロにとって致命的なものとなってしまった。
742: 2017/05/19(金) 21:08:33.74 ID:ohwQ2iaO0
アールグレイ『………正解よ。あなたの言う通り』
ヴェニフーキ「やっぱり」
アールグレイ『あの子は…アッサムは接近戦にめっぽう弱い』
アールグレイ『だから、あらゆるデータや情報、そして精密射撃を武器に中・遠距離戦に持ち込み、その弱点を補おうとした』
ヴェニフーキ「となれば、それを打ち破るためにダージリンは接近戦を仕掛けたのですね?」
アールグレイ『ええ』
アールグレイ『聖グロらしからぬ見事な"突撃"だったわ』
ヴェニフーキ「!?」
アールグレイ『ふふっ。ダージリンね、全速力でアッサムに突撃したのよ?』
ヴェニフーキ「そうなんですか!?」
アールグレイ『地形や距離を武器に仕掛けてくると読んでたアッサムにとって、その無鉄砲とも言える真正面からの突撃は完全な不意打ちとなった』
アールグレイ『そしてアッサムが混乱してる間に背後に回り込み、装甲の薄い背後を撃って撃破した』
743: 2017/05/19(金) 21:23:07.55 ID:ohwQ2iaO0
ヴェニフーキ「………」
アールグレイ『あの上品なダージリンが突撃するなんて、あなた信じられる?』フフッ
ヴェニフーキ「にわかには信じがたいです…。でも、その常識破りな発想があったからダージリンは隊長に選ばれたんだなと今改めて思います」
アールグレイ『ええ。あの子の柔軟な発想と、思い切った行動力、仲間の為にすべてを背負う覚悟こそ隊長に求められる要素なの』
ヴェニフーキ「確かに。…アッサムさんはどちらかというと、それを支える参謀的な立ち位置ですね」
アールグレイ『そうね。行動力・決断力に長けたダージリン、頭脳派のアッサム。いいコンビよ』
ヴェニフーキ「まさにその通りですな」
アールグレイ『もちろんアッサムも優れた戦車乗りだけど、高飛車な態度とは裏腹に臆病で繊細な子なの』
ヴェニフーキ「砲手に向いていますが、一歩先に立つ隊長や車長には不向きなタイプですね」
アールグレイ『ええ。だからあの子はあらゆる不安を払拭するために、あらゆる情報やデータを頼るようになった…』
ヴェニフーキ「となれば、今の隊長としての責務は相当な重荷になっているでしょうね」
アールグレイ『ええ。だからこそ、ダージリンの復学が必要なの。アッサムが潰れる前に』
アールグレイ『アッサムまでリタイアしたら聖グロは強豪校どころか中堅校ですらなくなってしまう…!』
744: 2017/05/19(金) 21:26:16.53 ID:ohwQ2iaO0
ヴェニフーキ「しかし、私にもそんな優れた参謀がいてくれたらもっと楽にお仕事出来るんですけどねぇ」
アールグレイ『…なによ。私の助言じゃ不満っていうの?』
ヴェニフーキ「だってアールグレイさん、いつも何かを仄めかすような物言いしかしないじゃないですか…」
アールグレイ『良いじゃない。自分の頭で考えるのって大事よ?』
ヴェニフーキ「"察してよ"じゃ男は気付きませんよ?」
アールグレイ『どうしてそこで男の話が出てくるのよ!!』
ヴェニフーキ「いやぁ…だってアールグレイさん…その…うん…」
アールグレイ『な、何よ! ハッキリ言って頂戴!』
ヴェニフーキ「自分の頭で考えるのって大事ですよ?」
アールグレイ『………』
ヴェニフーキ「あはは。まぁ生きてればきっと良いことありますよ…?」
アールグレイ『………うるさいわよ。 あ、そうそう』
ヴェニフーキ「はい?」
アールグレイ『明日、お茶でもしませんこと?』
ヴェニフーキ「私にはもう恋人がいるんですけど?」
アールグレイ『…違うわよ。渡したいものがあるの』
ヴェニフーキ「一体何を下さるんですか?」
アールグレイ『それは会ってからのお楽しみ』フフッ
ヴェニフーキ「…わかりました。それでは明日お会いしましょう」
アールグレイ『ええ。お休みなさい』
748: 2017/05/21(日) 21:27:32.97 ID:R2ZqUCdJ0
【翌日 とあるカフェ】
ヴェニフーキ「おはようございます。アールグレイ様」
アールグレイ「おはようヴェニフーキ。服や持ち物は綺麗かしら?」
ヴェニフーキ「ええ。お出かけ前にしっかりチェックしましたよ」
アールグレイ「そう。なら問題ないわね。…"絹代さん"」
西/ヴェニフーキ「ふぅ…。またこのカフェに来るとは思わなかったですよ」
アールグレイ「あなたがあの時私を誘ってくれた思い出の場所ですもの」
西「嫌な事件でしたね」
アールグレイ「意地悪を言わないで下さいな。ここに来たら嫌でも自分の"役目"を実感できるはずよ」
西「そうですね。あの時のことを思い出してまた涙が出そうです」
そう。このカフェはアールグレイさんと"悲しいお茶会"をした場所…。
ダージリンが強制退学されたと知って、藁をもつかむ思いでアールグレイさんを頼り、ここで真相を知って私は項垂れた。
精神安定剤を服用しても抑えきれなかった悲しみは今思い出してもやっぱり悲しい。
その後また精神安定剤を呷ってダージリンの自宅へ行き、薬の副作用でボロボロのヘロヘロになってダージリンに縋り付いた…。
749: 2017/05/21(日) 21:29:44.39 ID:R2ZqUCdJ0
アールグレイ「思い出話はここまでにして、早速本題に入るわね」
コトッ
西「ん? 何ですかこれ?」
アールグレイ「あなたに渡す物よ」
西「それはわかりますが、これらは一体何の道具ですか?」
アールグレイさんは鞄から紙袋を取り出し、その中身をテーブルの上に並べた。
いずれも手のひらに収まるほどの小さな機械だ。
うち一つは、一昔前の折りたためない携帯電話のような形をした機械。
正面にはランプやメーターがついている。何かを測定する機械だろうか?
750: 2017/05/21(日) 21:33:03.37 ID:R2ZqUCdJ0
アールグレイ「まずこれは"探知機"よ」
西「ほうほう。映画やアニメで時たま見かけますが、探知機ってこんな形をしてるんですなぁ」
アールグレイ「探知機にも様々な形状のものがあるけれど、常備するとなればこういった形の方が怪しまれないでしょう?」
西「確かにそうですね」
アールグレイ「それで使い方だけど、まず電源を入れたら半径5m以内に不審なものがある場合、ランプが点灯して反応する」
アールグレイ「そして、先端のアンテナを怪しい場所に近づけることでメーターが動く」
アールグレイ「不審物との距離が近ければ近いほど振れ幅が大きくなるから、設置場所の特定が出来るわ」
西「…つまりこれで盗聴器が無いか確認しろと仰るわけですね?」
アールグレイ「その通りよ。目視だけではどうしても見落ちしてしまうけど、探知機があれば確実に検出できる」
西「部屋に戻って使って反応したら嫌ですよね…」
アールグレイ「その時はその時よ」
751: 2017/05/21(日) 21:35:16.89 ID:R2ZqUCdJ0
西「…でも、前に仕掛けられた盗聴器は外観は金属じゃなかった気がします。金属探知機じゃ反応しないのでは?」
アールグレイ「心配は要らないわ。これは金属探知機じゃなく"電波探知器"なの」
西「探すのは金属ではなく電波なんですか?」
アールグレイ「ええ。さすがに金属じゃ範囲が広すぎるわ。時計とか鞄のバックルとかにも反応してしまうもの」
西「確かに…」
アールグレイ「盗聴器には集音したものを別の端末で再生するため、電波を発信する装置が組み込まれている」
アールグレイ「だから、探す対象を電波に絞った方が確実よ」
西「なるほどです」
アールグレイ「百聞は一見にしかずね。試しに使ってみましょうか」
西「…助平」
アールグレイ「お黙りなさい」
私の同意も得ずにアールグレイさんは私の体に探知機をかざして舐めるように調べ始めた。
体を弄られているようで嫌な気分になる。
ダージリン以外の人に体を触られたり裸を見られたりするのは御免だ。虫酸が走る。
それはたとえ私に協力してくれるアールグレイさんであっても…。
そう思っていたら探知機が反応した。
752: 2017/05/21(日) 21:37:28.14 ID:R2ZqUCdJ0
西「っ!!?」
アールグレイ「慌てないで反応した場所をよく確認しなさいな」
西「?」
ゴソゴソ
西「あ…」
アールグレイ「今反応したのは盗聴器じゃなく、あなたの携帯電話ね」フフッ
西「…驚かせてくれますね」
アールグレイ「驚かないための探知機よ」
西「…」
アールグレイ「これで探知機の使い方はご理解いただけたわね?」
西「ええ。…しかしですね」
アールグレイ「ん?」
西「盗聴器に限らず、電波を飛ばす機械も結構身の回りにあるかと思います。テレビとかラジオとか…」
西「なのでいくら探知機があったとしても、そういった盗聴器以外のものに反応したら肝心の盗聴器が見つからないのでは?」
アールグレイ「なかなかいい質問ね」
西「ありがとうございます」
753: 2017/05/21(日) 21:40:02.21 ID:R2ZqUCdJ0
アールグレイ「実を言うと、盗聴が目的の盗聴器には電波…つまり特定の周波数が無いのよ」
西「え…それじゃ特定のしようが無いじゃないですか」
アールグレイ「慌てないで頂戴。特定の周波数は無いけれど、盗聴器としてよく使われるのは300MHzから300GHzまでの極超短波よ」
西「極超短波…?」
アールグレイ「UHF帯とも呼ばれるアマチュア無線とかに使われる周波数だけど、他にも地上波放送や携帯電話、更には軍事用の航空無線などにも利用されるわ」
西「…なんか逆に範囲広くなってませんか?」
アールグレイ「ええ。その極超短波の中でも盗聴に利用されやすいのが、398.605MHz、399.455MHz、399.030MHzの3つの周波数」
西「398…何でしたっけ?」
アールグレイ「周波数までは覚えなくて良いわよ。こちらで調整しておくから」ポチピチ
アールグレイ「それで、要は今言った3つの極超短波が盗聴器に使われやすいから、それ以外の周波数は切り捨てでこの3つの周波数の探知に特化する」
西「なぜ盗聴器にはこの3つがよく使われるのです?」
アールグレイ「盗聴器とて工業製品だから周波数帯域が同じになってしまうのと、専用の受信機とセットで使うから、周波数を変えると受信機の設定も変えないといけないからよ」
西「なるほどなるほど」
アールグレイ「故にこの3つの周波数に特化すれば、テレビとか携帯電話といった余計なものに反応せず、盗聴器のみにピンポイントでヒットする」
西「…なるほど。周波数や電波はサッパリですが、この探知機が盗聴器探しの専門家だということはわかりました」
アールグレイ「ええ。それだけ理解してくれれば問題ないわ」
754: 2017/05/21(日) 21:43:10.74 ID:R2ZqUCdJ0
アールグレイ「…そしてもう一つは、ボイスレコーダー」
西「ふむふむ。ミカン社の音楽プレーヤーみたいな形ですな。確かワイポッドでしたっけ?」
アールグレイ「全然違うわよ。…まあ、これは情報を得るというより、証拠を残すのが目的というのはわかるよね?」
西「ええ。裁判とかで音声記録とかがあると有利になるということくらいなら知ってます」
アールグレイ「そう。場合によっては相手が重要な"証言"をするかもしれないから、そういう時のために持っておいて」
西「はい」
アールグレイ「使い方は録音ボタンを押せば録音が開始され、もう一度押すと録音がストップされる」
アールグレイ「録音したら矢印で録音開始時刻を選んで再生ボタンを押すと、その時間に録音した内容が再生されるわ」
西「どれくらい録音できるんです?」
アールグレイ「最大200時間分は録音できるわ。…ただし、バッテリーの関係で連続使用は20時間だから注意して頂戴」
西「思ったよりも長いですね」
アールグレイ「ええ。…でも録音ボタンを入れたまま放置して、いざ使おうって時にバッテリー切れで使えないなんてポカはしないでね?」
西「…そうですね」
アールグレイ「一応、充電器もついているから、常にバッテリー残量は満タンにしておくのよ?」
西「かしこまりでございます」
755: 2017/05/21(日) 21:45:38.14 ID:R2ZqUCdJ0
アールグレイ「そして、最後がこれよ」
コトッ
西「…これって部屋のコンセントに差し込んで、穴を3つに増やすやつですよね?」
アールグレイ「ええ。パソコンや携帯電話の充電器とかで何かとコンセントって使うのよねぇ」フフッ
西「…そんなものを貰ってどうしろと?」
アールグレイ「普通はそう思うでしょうね。でもこれはコンセントのタップじゃないのよ?」
西「違うんですか?」
アールグレイ「ええ」
アールグレイ「盗聴器よ」
西「!!」
アールグレイ「今思えばもっと早くに渡すべきだったかもしれないわね」
西「………私にGI6よろしく盗聴をしろと…?」
アールグレイ「あなたが嫌悪するのは無理もないでしょうけど、情報を得るためには時として非常識な手段を講じなければならない時もある」
西「…」
アールグレイ「こんな言葉があるわ。"イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない"」
756: 2017/05/21(日) 21:47:01.12 ID:R2ZqUCdJ0
西「私は生まれも育ちも日本ですけどね」
アールグレイ「愛するダージリンと、その仇敵と戦うために、あなたも覚悟を決めなければならない時が来たのよ」
西「………」
アールグレイ「この盗聴器はGI6のようなそんじょそこらの素人が使うようなものとは全然違う」
西「どう違うんです?」
アールグレイ「警察庁警備局公安課のシギント技術を使用している」
西「…警察庁っていわゆるお巡りさんの"頂点"ですよね?」
アールグレイ「ええ。順を追って説明するわね」
アールグレイ「まず警察庁の下には内部部局という府省庁内の本体部分を構成する組織がある」
アールグレイ「その局の一つが『警備局』で、東京都を管轄する"警視庁警備部"、東京都を除く"道府県警察警備部"、そして"警視庁公安部"の3つを管轄する組織よ」
西「ほうほう…?」
757: 2017/05/21(日) 21:55:09.23 ID:R2ZqUCdJ0
西「…ふむ?」
アールグレイ「殺人や強盗といった民間人の犯罪を取り締まる"刑事警察"と違って、公安警察は日本の治安維持を目的とした組織」
アールグレイ「…公安警察というのは、警察庁や都道府県警察の公安部門の俗称だけれども、この組織は言ってみれば…」
西「?」
アールグレイ「日本国最大の"諜報機関"よ」
西「なっ!?」
アールグレイ「主に日本の治安維持を目的とした組織で、国家体制を脅かす事案…つまり政治犯やテ口リストといった政府組織を対象とする犯罪や反社会的活動を取り締まっている」
アールグレイ「国外では旧共産圏や国際的なテ口リズム、国内においては、共産党や極左暴力集団、セクト(新宗教団体)、右翼団体、大手メディア、自衛隊などを対象に捜査・情報収集を行っている」
西「…」
アールグレイ「時にはそれらの団体にスパイを送り込んで、情報収集だけでなく組織の崩壊までやってのけるわ」
西「…」
アールグレイ「そんな公安警察のシギント(通信、電磁波、信号などの傍受。そのうち盗聴はコミント)技術を応用したのがこれよ」
西「………」
日本にも諜報機関が存在するのがわかった。
そして、この盗聴器がそのノウハウを凝縮したスゴイものだというのもわかった。
………ただ一つ、わからないことがある。
アールグレイさん、あなたは一体何者なんだ。
758: 2017/05/21(日) 21:57:54.26 ID:R2ZqUCdJ0
アールグレイ「…言葉も出なくなったわね」フフッ
西「ええ。日本の警察が凄いとか、この盗聴器が凄いものだとか色々ありますが」
西「それを私に差し出すあなたが一体何者なのか………」
アールグレイ「ふふっ。それは秘密」
西「無茶苦茶気になりますが、触らぬ貧乏神に祟りなしと言いますし、そういう事にしておきます」
アールグレイ「貧乏神ってどういうことよ触らぬ神に祟りなしでしょう…」
西「関わると消されそうなので貧乏神で合ってますよ」
アールグレイ「失礼ね。…そうそう、この盗聴器だけれど」
西「はい?」
アールグレイ「知りたいことを入手したら速やかに回収すること」
西「知りたいこと…アッサムさんの白黒についてですよね」
アールグレイ「そう。何しろ日本国の最重要機密の塊ですもの」フフッ
西「そ、そんなものを私に押し付けないで下さい!」
アールグレイ「ふふっ」
西「ふふっ じゃない!!」
アールグレイ「過信はしないけど、少なくともGI6程度じゃ見つけられないわ」
西「いや、そういう問題じゃなくて…!」
アールグレイ「あと、これが受信端末。盗聴器の音声はここで記録される」
アールグレイ「そしてこっちがレシーバー。柔らかいシリコン素材を使っているから耳栓のように耳の中に入れておけばOKよ」
西「話を聞けェェェェェ!!!」
…というわけで電波探知器、ボイスレコーダー、そして盗聴セットを"一方的に"押し付けられた。
探知器やボイスレコーダーはともかく、日本の"諜報機関"が使うような盗聴器を渡すアールグレイさんの意図や正体はわからないが、それとは別にわかったことがある。
アールグレイさん、本気だ。
759: 2017/05/21(日) 22:00:31.06 ID:R2ZqUCdJ0
アールグレイ「さて、いい時間ね。そろそろお開きにしましょうか」
西「色々衝撃的で思考停止状態なんですが…。今回は詳しく説明して下さらないんですか…?」
アールグレイ「それくらいで良いのよ。何もかも知ったところで良い事なんて無いもの」
西「…」
アールグレイ「そんなことより。あなたの事だからこの後ダージリンの家に行くんでしょう?」
西「ええ、そのつもりですけど?」
アールグレイ「あれこれ考えてたらあの子も不審がるわよ?」フフッ
西「…そうですね。きったないアールグレイさんより、綺麗なダージリンの事をもっと知ろうと思います」シレッ
アールグレイ「なっ、こいつときたら! 面と向かっても失礼なこと言う!」
西「あはは。色々吹っ切れて感覚が麻痺しているだけですよ」
アールグレイ「その油断してる時が一番危ないのよ?」
西「ぐ…」
アールグレイ「…まあ良いわ。私もここまで協力しているのだから、しっかり"成果"を出して下さいな」
西「ええ…!」
アールグレイ「それではまたね絹代さん。じゃあの」
怪しいお茶会は終わった。
私は渡された道具を鞄にしまい、ダージリンの家へ向かった。
距離はそこそこあったが、ウラヌス…愛車に跨がればあっという間だった。
760: 2017/05/21(日) 22:02:15.87 ID:R2ZqUCdJ0
【ダージリンの部屋】
西「ただいま。ダージリン」
ダージリン「おかえりなさい。絹代さん」
西「やっぱり、ここは落ち着きますね」
ダージリン「そう?」
西「ええ。何度も足を運びたくなります。…というよりここに住みたいです」
ダージリン「そこまで言ってくれると嬉しいわね」
西「あはは。ダージリンがいる場所が私のいる場所ですので」
ダージリン「ふふっ」
きったないアールグレイさんを見たあとだからダージリンがいつもよりも可愛らしく見える。
…もちろん普段のダージリンも物凄~く可愛いけれどね。
もう余計な事を考えずにダージリンのことだけ考えて生きたいくらい可愛い。
761: 2017/05/21(日) 22:03:58.95 ID:R2ZqUCdJ0
西「大好きです。ダージリン」
ダージリン「ど、どうしたの急に?!」
西「何もありませんよ? ただ胸中の想いを言葉にしただけです。ダージリンが氏ぬほど好きだって」
ダージリン「そうなの…?」
西「ええ」
ダージリン「えへへ。ありがと。私も絹代さんが大好きよ」ポッ
西「あはは。両想いですね」
ダージリン「ええ」
西「キスしても良いですか?」
ダージリン「もう。いつも聞かずにするくせに…」
西「何となく許可が欲しくなりまして」
ダージリン「…良いわよ」
西「ありがとうございます」
ダージリン「…んっ………」
西「!」
ダージリン「…」レロ...
西「っぐ…!」
口の中にダージリンの舌が押し込まれる…
暖かくて柔らかくてぬるぬるしたダージリンのものが。
私の口内をまさぐるように這いずり回り、奥の方へとねじ込まれる。
762: 2017/05/21(日) 22:04:29.22 ID:R2ZqUCdJ0
ダージリン「…」
西「オゴッ...グボ...ゴボッ.....」
普通の生活を送っていればまず出ないようなえづき声が漏れる。
身体が異物を吐き出そうとしても、出ていくどころかどんどん奥へ入ろうとする。
息が出来なくなって苦しい。
そのままベッドに押し倒され、仰向けになった私を押さえ込むようにダージリンが重なる。
ダージリンの手は私の弱い部分を執拗に触る。どこを触れば気持ち良いのか知ってる。
息ができない苦しさより今まで経験したことがない快感が勝り、意識が朦朧とする。
そして………
763: 2017/05/21(日) 22:06:25.91 ID:R2ZqUCdJ0
【バスルーム】
西「…」
ダージリン「…」
西「………」
ダージリン「………その…」
西「…ん」
ダージリン「………ごめんなさい」
西「…べ、別に良いですよ。…それよりもダージリンの部屋汚しちゃって申し訳ないです…」
ダージリン「部屋は使用人が掃除してくれるから問題ないわ…それよりも」
西「…」
ダージリン「もう大丈夫? …気持ち悪くない?」
西「ええ…。お腹の中にあったもの全部出しきったからスッキリですよ…あはは………」
ダージリン「…やりすぎちゃったわね………まさかあなたが吐いちゃうなんて思わなかったもの………」
こうやって二人仲良く風呂で体を洗ってるのは"終わった"からじゃない。
…あんまり人に言いたくはないけど………"最中"に派手に嘔吐した。
不幸にも仰向けになった状態で嘔吐したので、服やベッド、顔から上半身まで吐瀉物まみれになってしまい、意識が途切れそうになりつつもダージリンに介抱されながらバスルームまで運ばれて現在に至る。
喉の奥をグイッとやれば誰だってオエッとなるけど、まさかそれで汚物をぶちまけるとは思わなかった。
ダージリンは予想外というけど、私だってこんな事になるなんて思わなかったよ…。
764: 2017/05/21(日) 22:12:12.56 ID:R2ZqUCdJ0
ダージリン「…あなたのえづき声聞いてたら止まらなくなったの………」
西「私も。ダージリンに押さえつけられて触られてる時に、最後までお願い…って思ってました」
ダージリン「………まだ"途中"でしょう?」
西「…ええ」
ダージリン「…ここで…する…?」
西「あはは。ここなら吐いてもすぐ流せますもんね」
ダージリン「………ばか」
西「………実を言うと、あの時、妊娠するんじゃないかって思っちゃいました……」
ダージリン「なっ…!」カァァ
西「……それくらい…まぁ……良かったです………」
ダージリン「…出てきたのがお腹の食べ物じゃなく、赤ちゃんだったら良いのにね」
西「あはは。ヌッコロ大魔王みたいですねそれ」
中途半端で終わったので、そのまま湯船に浸かりながらまたお互い愛し合った。
ここならば先程のような事をしてもベッドや服を汚す心配もない。自由に出来る。
そう思っていたら今度は逆上せて鼻血を垂れ流したままヨロヨロフラフラと再びダージリンに介抱されて脱衣所へ。
つくづく学習しないなぁ私も…。
766: 2017/05/28(日) 01:31:11.88 ID:4S1mKFVw0
西「」
ダージリン「……大丈夫…?」パタパタ
西「あ…あはは…は…」クラクラ
ダージリン「心配になってきたわ。向こうでも無茶してないか…」
西「だ、大丈夫です…あははは…だ、だーじりんのおっOいが4つに見えます…あははははは…」
ダージリン「おバカなこと言わないの」
西「きゅぅ…」
ダージリン「そんな声出してもだめ。ほら、お水飲んで」
西「………飲ませて」
ダージリン「自分で飲みなさい」
西「…手に力入らないです…飲ませて下さい」
ダージリン「もう。しょうがない子ね…」
西「あはは…口移しがいいです」
ダージリン「ばか」
…手に力が入らないわけじゃない。
ただ、ダージリンに甘えたかっただけ。
会う前は平然としていられる(もちろん寂しい)けど、こうやって一緒にいるとやっぱりダージリンが恋しくて恋しくて…あはは…。
一緒にいられる時間は限られてるから、甘えられる時に思いっきり甘えたいんだ…。
~~~~~
767: 2017/05/28(日) 01:33:43.38 ID:4S1mKFVw0
ピピピッ ピピピッ
西「………んぅ……」
ダージリン「おはよう絹代さん。ほら、起きて」
西「ん~…あと5分…と7時間………」モゾモゾ スピー
ダージリン「………」
ダージリン「起きなさい、ヴェニフーキ」
西「!!!!」バサッ
西/ヴェニフーキ「…申し訳ありませんダージリン…さ…ま……?」
ダージリン「」クスクス
西「」
西「だぁぁぁぁぁぁぁぁじりぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!!!」
ダージリン「きゃぁ、襲われちゃう」ウフフッ
西「び、びっくりしたじゃないですかぁ!」
ダージリン「なかなか起きない絹代さんが悪いのよ?」
西「だからってこんな心臓に悪い起こし方はあんまりですぞっ!」
ダージリン「…懐かしいわねぇ」
西「何がですっ!」
768: 2017/05/28(日) 01:37:19.02 ID:4S1mKFVw0
ダージリン「あなたが入院してた頃、私がこんな風に叩き起こされたことを思い出して…ね?」
西「あぁ…確かにありましたね。…って、あの時の仕返しですか?」
ダージリン「あの時は本当に焦ったのよ?」
西(ダージリン真似)「ふぇぇっ?! きっ絹代さん!? 絹代さん来てるのっ?!」
西(ダージリン真似)「ちょっとペコ!! 何で起こしてくれ…な……???」
ダージリン「」ムカッ
西「あはは。あの時のダージリンの慌てようと来たら傑作でしたよ」
ダージリン「」ツネッ
西「痛い! 痛いって!!」
ダージリン「こういうおバカなところは昔と全然変わらないんだからっ!」
西「あはは………あれ? 今日って日曜日では?」
ダージリン「そうよ?」
西「ならば何も早起きしなくたって良いじゃないですか…」
ダージリン「だめよ。休日だからってダラダラ過ごすのは良くないわ」
西「ちぇー。日曜日はゆっくりゴロゴロしてたいです」
ダージリン「あら、それじゃあ朝ごはんいらないのね? 残念ねぇ、せっかく作ったのに」
西「食べますっ!!」ガタッ
ダージリン「なら早く着替えなさい」
~~~
769: 2017/05/28(日) 01:39:46.62 ID:4S1mKFVw0
西「うまうま」モグモグ
ダージリン「ふふ。気に入ってもらえて良かったわ」
西「気に入るも何も、お店出せるレベルですよ」モグモグ
ダージリン「それはちょっと大袈裟よ」
西「そんなことないです。すごく美味しいです。おかわり」
ダージリン「はいはい。…って本当によく食べるわね…」
西「だって美味しいですもん。ダージリンの手料理」
ダージリン「それは嬉しいけど、だからって3杯は食べ過ぎよ…」
西「普段満足に食べれないから、今のうちに溜めておくんですよ」
ダージリン「まるで冬眠中の熊みたいね…」
~~~
西「っぷはー! 食べた食べた!」マンプク
ダージリン「あなたと過ごしたら食費がかかりそうだわ…」
西「あはは。食べた分だけ還元しますよ」
ダージリン「そうであって欲しいわね」
まるで新婚さんのようなやりとりだ。
もし大人になってダージリンと二人で暮らすようになったら、毎日ダージリンの手料理が食べたいなぁ。
もちろん私が作ったりもするけどね。たまには。
770: 2017/05/28(日) 01:48:05.10 ID:4S1mKFVw0
ピリリリリ ピリリリリ
ダージリン「ほら電話、鳴ってるわよ」
西「誰だろう…って、一人しかいないけど」
ダージリン「アールグレイ様?」
西「ええ。あの助平先輩ですね」
ダージリン「こら! 失礼なこと言わないの」
西「事実ですよ」ピッ
アールグレイ『おはよう。ヴェニフーキ』
西「おはようございます。R18グレーゾーン様」
ダージリン「ちょっと!」
アールグレイ『…朝っぱらからケンカ売ってるのかしら?』
西「あはは。何となくそんな気がしたので」
アールグレイ『意味がわからないわよ』
西「Rが無いのでR18がグレーゾーンなんです。おかげでダージリンと激しくイチャイチャしたくても出来ない」グヌヌ...
ダージリン「ちょ、ちょっと何言ってるのよっ!////」
アールグレイ『…何の話かは知らないけど、今度会ったら覚えておきなさい』
西「ところで用件は何でしょうか?」
アールグレイ『またこいつと来たら…さらっと流すじゃないの…』
西「あはは」
771: 2017/05/28(日) 01:50:10.88 ID:4S1mKFVw0
アールグレイ『それで本題だけど、この間渡した"アレ"、仕掛けるなら今がチャンスよ』
西「どうしてです?」
アールグレイ『休日だから生徒が少ないのと、3年生が課外活動に出て艦外にいるからよ』
西「なるほど」
アールグレイ『ちなみにあなた達2年生徒は来週よ』
西「え」
アールグレイ『知らなかったの?』
西「課外活動の"か"の字も知りませんけど…」
アールグレイ『あらそう』
西「…一体何をするんです? 課外活動って」
アールグレイ『いわゆる職業体験ね。希望した業種の企業を訪問して実際にそこで仕事をするの』
西「お給料出るんですか?」
アールグレイ『出ないわよ?』
西「…要はタダ働きですね………」ゲッソリ
772: 2017/05/28(日) 01:53:46.51 ID:4S1mKFVw0
アールグレイ『良いことじゃない。こういう経験って滅多に無いのよ』
西「確かにそうですけど、労働の対価がないのは何とも…」
アールグレイ『いい? 職業体験を通じて仕事にやり甲斐や情熱を見出すことは、社会人として大事なの』
アールグレイ『百聞は一見に如かずとも言うわね。説明会で話を聞くよりも実際に現地で汗水流した方がより多くのことを学べるもの』
アールグレイ『そうすればいざ社会人となったときに慌てなくても済むわ』
アールグレイ『だいたい今の若い子は将来の夢がどうのこうの言うけど、実際に働くと理想と現実のギャップに………』
西「ちなみにダージリンはどこに訪問したんです?」
ダージリン「えっ、私?」
西「ええ」
ダージリン「私は…お菓子を作る会社へ行ったわね」
西「…」
ダージリン「な、何よ…!」
西「いや、一流企業でバリバリ働く"きゃりあうーまん"的な印象だったので、ちょっと予想外でして」
ダージリン「そうなの?」
西「ええ」
ダージリン「子供に喜ばれるようなお仕事がしたいと思っていたのよ」
西「ダージリン…かわいいなぁ…」ナデナデ ホクホク
ダージリン「…ふふっ」テレテレ
アールグレイ『こら話を聞けっ!!』
773: 2017/05/28(日) 01:58:32.86 ID:4S1mKFVw0
西「わっ! アールグレイさんまだいたのですか?!」
アールグレイ『失礼ね! ずっといるわよ!』
西「なんかその…色々ごめんなさい。アールグレイさんの話よりもダージリンの将来の夢の方が聞いてて楽しかったので」
アールグレイ『…言ってくれるわね………。とにかく、3年生がいない今日はチャンスだから、ゴロゴロしてないでささっと用事を済ませちゃいなさい』
西「はい。わかりましたであります」
アールグレイ『そうそう。今ダージリンと一緒にいるよね?』
西「…そうですけど?」
アールグレイ『だったら、学生手帳を借りておいて』
西「学生手帳? どうしてですか?」
アールグレイ『万が一の為よ』
西「?」
アールグレイ『それじゃぁ、向こうに着いたらまた連絡してくださいな。…あと、あまりダージリンに迷惑かけちゃ駄目よ?』
西「…了解しました」ポリポリ
774: 2017/05/28(日) 02:00:34.14 ID:4S1mKFVw0
ダージリン「アールグレイ様、何と仰ってたの?」
西「今から聖グロ行って一仕事してこいとのことです」
ダージリン「そう…」
西「それで、ダージリンの学生手帳を貸して頂きたいのですが」ポリポリ
ダージリン「えっ? 学生手帳?」
西「ええ。アールグレイさんが持って来いと言うので」
ダージリン「…わかったわ。無くさないでね?」
西「ありがとうございます。すぐ戻ってきますよ」ポリポリ
ダージリン「…」
西「…っと、流石にこの格好じゃまずいな。制服に着替えないと」
ダージリン「…」
西「ん? どうしたんですか?」ポリポリ
ダージリン「痒いの?」
西「えっ?」
ダージリン「首、痒いの? さっきから何度も掻いているけれど…?」
西「?」
ダージリン「…ちょっと待ってて。お薬持ってくるから」
確かに。なんか首筋が痒い。
蚊にでも刺されたのかな?
775: 2017/05/28(日) 02:04:47.43 ID:4S1mKFVw0
ダージリン「…」ヌリヌリ
西「…」
ダージリン「これで良いわ。もう掻き毟ったら駄目よ。余計に酷くなっちゃうから」ヌリヌリ
西「ありがとうございます。…そうですね、極力掻き毟らないよう気をつけます」
ダージリン「それで、学校まではバイクで行くの?」
西「ええ。ウラヌスがあればあっという間に到着しますので」
ダージリン「寒くない?」
西「そういえばもうすぐ秋も終わりますね…」
ダージリン「ええ。走ってるともっと寒くなるでしょうから、私のコート使う?」
西「本当はダージリンに包まれたいのですが、コートだと身動きが取りにくいのですよ」
ダージリン「でも制服だけだと寒いわよ?」
西「一応、こういうのを持ってるので大丈夫です」
そう言って私は愛用のライダースーツをお披露目した。
防寒着というわけではないが、そこそこ厚みがあるので多少は暖かくなるだろう。ツナギになっているので制服の上からでも気軽に着脱できる。
手は革のグローブを装着するし、顔はフルフェイスのヘルメットを被るので問題ない。
776: 2017/05/28(日) 02:19:57.81 ID:4S1mKFVw0
ダージリン「…」
西「どうしました?」
ダージリン「真っ黒のライダースーツ(※)にフルフェイスヘルメットだと何だか怪しい人みたいね…」
西「…そう言われてみれば」
こんな格好でコンビニや銀行なんかに入ったら通報されかねない。
しかし厚手のライダースーツは万が一の時に身体を守ってくれるし、フルフェイスヘルメットは言うまでもない。
防寒着というよりは安全着としての意味合いのほうが強い。
…ただ、ダージリンの言う通り、全身真っ黒はちょっと良くないかもしれない。また気が向いたら新しいのを探してみるか。
※ ライダースーツ参考:https://rakkami.com/illust/detail/3542
ダージリン「…あっ、待って。まだヘルメット被らないで」
西「ん? どうしてでs」
チュッ
ダージリン「…忘れ物よ」
西「あはは。危うく忘れるところでした」
ダージリン「もう。…気をつけてね?」
西「ええ。終わったら連絡しますよ」
そうして私はダージリンの家を後にした。
ダージリンから離れれば離れるほど風が冷たくなっていく気がした。
~~~
777: 2017/05/28(日) 02:23:14.23 ID:4S1mKFVw0
ヴェニフーキ/西「…さて」
さすがにウラヌスは西絹代のものなので、乗ったまま聖グロの学園艦に入るわけにはいかない。
そのため少し離れた場所にあった有料駐車場に置いて、ついでにそこで聖グロ生の格好になる。
ライダースーツやヘルメットは駐車場にあるロッカーに押し込んでおいた。
ここから先は学園艦まで徒歩で移動する。若干距離はあるけど仕方あるまい。
…っと、その前にちゃんとヴェニフーキになってるかトイレで確認しておかないと。
778: 2017/05/28(日) 02:27:45.30 ID:4S1mKFVw0
【聖グロ学生寮 ヴェニフーキの部屋】
それじゃさっそく盗聴器を仕掛けるぞ! …と行きたいところだけど、その前にまずは自分の部屋に向かった。
やっぱり気になるのだ。盗聴器が仕掛けられていないかどうかが。
部屋に入り、アールグレイさんから貰った探知機の電源を入れ、部屋の中を歩き回る。
一応、半径5m以内に"不審物"があれば反応するとのことだけど、念のためにね。
ベッドや洗面所、トイレなどを一通り探してみたが、何の反応もなかった。
…本当に大丈夫だよな? 探知機の故障とかだったら嫌だよ?
盗聴器が無いことを確認したら、言われた通りアールグレイさんに連絡する。
ヴェニフーキ「お疲れ様です。ヴェニフーキです」
アールグレイ『お疲れ様。お部屋は綺麗にしてあるかしら?』
ヴェニフーキ「ええ。問題ありません」
アールグレイ『結構。それで、もう用事は済ませたのかしら?』
ヴェニフーキ「いいえ。これからやろうと思います。ただ、」
アールグレイ『ただ?』
ヴェニフーキ「何処に置けば良いかと考えあぐねていたところでして」
アールグレイ『…』
ヴェニフーキ「アッサム様のお部屋、あるいは隊長室のどちらかにしよう。とは思っていたのですが」
ヴェニフーキ「彼女がGI6と連絡を取るとしたらどちらでしょう?」
779: 2017/05/28(日) 02:30:02.32 ID:4S1mKFVw0
アールグレイ『そう…。隊長室の方が良いかもしれないわね』
ヴェニフーキ「何故?」
アールグレイ『GI6が戦車道関係者とやり取りする場合は、ほぼ必ずと言って良いほど隊長室で行われているからよ』
ヴェニフーキ「そうですか」
アールグレイ『実際に私が隊長だった頃、他校の情報収集などでGI6に協力してもらう時はそのやり取りを隊長室で行ってたし、』
アールグレイ『ダージリンに隊長を引き継がせた時もそうするよう伝えたわ』
ヴェニフーキ「なるほど。わかりました」
アールグレイ『…そうそう。隊長室は"鍵"が無いと入れないわよ?』
ヴェニフーキ「その鍵は何処に?」
アールグレイ『アッサムの鞄の中』
780: 2017/05/28(日) 02:35:36.70 ID:4S1mKFVw0
ヴェニフーキ「…」
アールグレイ『学生手帳に内蔵されたICチップで認証する電子ロック式だけど、隊長室は歴代隊長のみが持つ他の生徒のとは異なるICチップが必要なの』
ヴェニフーキ「だからダージリンの生徒手帳を持って来いってことですね?」
アールグレイ『ええ。まずはそれで試してみて頂戴』
ヴェニフーキ「了解です」
私は(主にアッサムさんの説教を受ける時に入る)隊長室へと向かった。
そして、アールグレイさんの指示通り、ダージリンの学生手帳を扉の前にある認証装置にかざした。
ピッ
ピーピーピー
ガチャガチャ
…。
開かないぞ?
781: 2017/05/28(日) 02:42:55.47 ID:4S1mKFVw0
ヴェニフーキ「…駄目でした。認証出来ません」
アールグレイ『…そう。ダージリンが抜けた後に認証パターンを変更したのね。…用心深いあの子らしいわ』
ヴェニフーキ「では、この生徒手帳では扉は開かないと?」
アールグレイ『ええ。それどころか履歴が残って不審な痕跡を残してしまった』
ヴェニフーキ「…笑えませんね」
アールグレイ『こうなっては仕方ないわ。情報処理学部の校舎へ向かって頂戴』
ヴェニフーキ「何故です? 情報処理学部はGI6の巣窟では?」
アールグレイ『そこにあるコンピューターを使って一時的に隊長室の電子ロックを解除するのと、認証の履歴を消去する』
ヴェニフーキ「…なるほど。難しそうですね」
アールグレイ『でも現時点ではこれしか方法は無いわ』
ヴェニフーキ「わかりました。まず情報処理学部の校舎へ向かいます」
アールグレイ『ええ。着いたらまた連絡して頂戴』
782: 2017/05/28(日) 02:46:25.74 ID:4S1mKFVw0
【聖グロ 情報処理学部 校舎】
ヴェニフーキ「到着しました」
アールグレイ『了解。入り口付近にある装置に学生手帳の最初のページをかざせばドアが開くわよ』
ヴェニフーキ「了解」
私は指示されるままに生徒手帳を開いた。
ここで油断したらすべてがパーになるのだから緊張感を持たねば。
なんだか首がまた痒くなってきた。
ピッ
ウィーン
ヴェニフーキ「開きましたね」
アールグレイ『オッケーね。そのまま中へ入りなさい』
ヴェニフーキ「退学者のICチップでも使えるんですね」
アールグレイ『当たり前じゃない。ダージリンの退学は本来ならあり得ないイレギュラーな退学ですもの』
ヴェニフーキ「…」
アールグレイ『正式な退学なら今あなたが手に持ってる手帳はとっくに返却されてるわ』
ヴェニフーキ「なるほど。…それで何処へ向かえばいいのでしょう?」
アールグレイ『まず2階にあるコンピュータールームへ向かって』
アールグレイ『恐らく中に生徒や用務員がいるでしょうけど、見つかって良い事は何もないわ。極力見つからないように』
ヴェニフーキ「わかりました」
783: 2017/05/28(日) 02:49:22.46 ID:4S1mKFVw0
【情報処理学部 コンピュータールーム】
中に生徒はいたが、なんとか勘付かれることなくコンピュータールームまでたどり着いた。
ヴェニフーキ「…広いですね」
アールグレイ『ここではIT関連の試験を行うこともあるから、大勢の生徒が収容出来るようになっているのよ』
ヴェニフーキ「なるほど。会社のオフィスにいるような気分です」
アールグレイ『…話を戻すわ。まず入ってすぐの場所にある教員用コンピューターの電源を入れて』
ヴェニフーキ「わかりました」
ポチッ
ヴェニフーキ「起動しました」
アールグレイ『そうしたらデスクトップに管理課というアイコンが有るはず。それを開いて』
ヴェニフーキ「了解です。…ん、暗証番号…」
アールグレイ『少し待って頂戴』
電話の向こうからカタカタとキーボードを叩く音が聞こえる…。
784: 2017/05/28(日) 02:54:12.22 ID:4S1mKFVw0
ヴェニフーキ「勝手に矢印が動いた…?」
アールグレイ『落ち着きなさい。私がパソコンに侵入したのよ』
ヴェニフーキ「侵入、ですか…」
アールグレイ『いわゆる"クラッキング"よ。ネットワークを通じてそっちのパソコンにアクセスしたわ』
ヴェニフーキ「それで暗証番号が判るのですか?」
アールグレイ『わからないから"侵入"してるのよ』
ヴェニフーキ「…」
よくわからないけど、時たまニュースで見かけるサイバー攻撃とか、個人情報漏えいの類の犯人みたいなことをやっているのだろうか?
よくわからないから、ここはアールグレイさんに任せておこう。
アールグレイ『おまたせ。暗証番号がわかったわ。 *************************** よ』
ヴェニフーキ「入力します。…認証に成功しました。色んなアイコンが出てきました」
アールグレイ『ええ。そのままセキュリティ部門というアイコンを』
ヴェニフーキ「はい。…っと、また暗証番号を入れろと出ました」
アールグレイ『…わかった。少し待ってて』
こうして、フォルダを、暗証番号の解析・入力を3回ほど繰り返しているうちに、セキュリティに関するページへたどり着いた。
アールグレイさんの指示に従って、校舎全体のセキュリティをメンテナンスモード、つまり認証機能をオフにした。
随分大げさなことをするなぁと思ったが、隊長室だけをOFFにする方が逆に不自然だとアールグレイさんは言う。
…なるほど。
785: 2017/05/28(日) 02:57:45.43 ID:4S1mKFVw0
ヴェニフーキ「しかし校舎全体のセキュ
アールグレイ『早く隊長室へ向かって!!!』
ヴェニフーキ「了解…!」
やっぱり校舎全体のセキュリティをOFFにするのは色々不味いみたいだ。
私は急いで隊長室へ向かった。
幸い日曜日ということもあり、部活動に参加する生徒や熱心に勉強をする生徒の以外はいないので、誰かに見られることなく隊長室までたどり着けた。
…そして、アールグレイさんの言う通り、"指紋一つ残さず"隊長室のコンセントに盗聴器を差し込んだ。
これで最初の課題は終わった。
しかし、セキュリティをOFFにした状態なので一息つく間もなく再びコンピュータールームへ戻ってセキュリティを復旧させ、私のログイン履歴を消去した。
仕事を終えて痕跡を消した後に私の部屋に戻り、念の為もう一回探知機で部屋を探って異常がないと知り、ようやく一息つくことが出来た。
帰るまでが遠足というけど、本当に早く帰りたい。ダージリンの元へ。
786: 2017/05/28(日) 03:01:01.58 ID:4S1mKFVw0
【ヴェニフーキの部屋】
ヴェニフーキ「…ふぅ………」
アールグレイ『お疲れ様。上手く行ったわね』
ヴェニフーキ「ええ。やってることはかなりグレーですね。アールグレイ様だけに」
アールグレイ『…私は"グレー"じゃなく"グレイ"よ』
ヴェニフーキ「あとは獲物がを待つだけですが…それにしても」
アールグレイ『ん?』
ヴェニフーキ「不気味なくらいアッサリと事が進みましたね…?」
アールグレイ『…いくら敵の腹中とは言え、ここは学校よ? 軍の基地みたいな重要施設ならともかく』
ヴェニフーキ「GI6関係者か、そうでなくても生徒と遭遇するのではと、かなり肝を冷やしていましたが」
アールグレイ『ずっと平然としてたじゃない…』
ヴェニフーキ「?」
アールグレイ『無事に済んだから良いけど、あなたはもっと緊張感を持ったほうが良いわ』
ヴェニフーキ「これでも最大級に緊張していましたけど?」
アールグレイ『どこが緊張してたと言うのかしらね。ほとんど動じなかったじゃない』
ヴェニフーキ「そうですか?」
アールグレイ『あなたのその"無関心"ともいえる冷静さの方が不気味よ』
ヴェニフーキ「………」
普段と変わらないだと…?
馬鹿を言わないでほしい。こっちは本ッ当にヒヤヒヤしていたんだぞ?
なにしろ私のミス一つでダージリンが戻れなくなるんだから………
…まぁ、そんなことより
787: 2017/05/28(日) 03:03:31.92 ID:4S1mKFVw0
ヴェニフーキ「ふふっ」
アールグレイ『なによ…』
ヴェニフーキ「生徒手帳のダージリンの写真、可愛いなぁ…って。この頃はまだあの髪型じゃなかったんですね」
アールグレイ『…ええ。入りたての頃はギブソンタックじゃなかったわよ?』
ヴェニフーキ「今のダージリンも勿論可愛いけれど」
ヴェニフーキ「この入学したばかりの頃にありがちな、どこか不安そうな表情といい、ついこの間まで中学生だった幼さを残した顔といい」
ヴェニフーキ「どうしてダージリンはこんなにも可愛いのでしょうか?」
アールグレイ『…私に聞かれても困るわよ』
ヴェニフーキ「アールグレイさんも入学当初はこんな感じだったんですか?」
アールグレイ『ええ。一応はね』
ヴェニフーキ「…」
アールグレイ『な、何よ…?』
ヴェニフーキ「アールグレイさんにもそんな時期があったなんて…と」
アールグレイ『私だって人間ですもの。緊張の一つや二つくらいするわよ』
ヴェニフーキ「そうなんですか?」
アールグレイ『そうよ』
ヴェニフーキ「…それで、やることが終わったので、私は帰っても良いですか?」
アールグレイ『ええ、良いわよ。お疲れ様』
ヴェニフーキ「はい。お疲れ様でした」
やることを終えた以上もうここに居残る必要はない。
早くダージリンのもとへ帰ろう。
今からならお昼頃には到着するから、またダージリンの手作りのごはんが食べられる。
何を作ってくれるかな。楽しみだ。
ダージリンの事で頭を一杯にしながら、何事もなかったかのように聖グロを後にしようとした
788: 2017/05/28(日) 03:05:39.89 ID:4S1mKFVw0
「あれ。ヴェニフーキさん?」
ヴェニフーキ「…ルクリリさん?」
ルクリリ「やっぱりヴェニフーキさんだ。珍しいね。休みの日に学校に来るなんて」
ヴェニフーキ「ええ。色々調べ物をしておりまして」
ルクリリ「調べ物?」
ヴェニフーキ「戦車に関することを」
ルクリリ「…なるほどね。来年になったら私達が最上級生だもんねぇ」
ヴェニフーキ「次期隊長が誰かはわかりませんが、足を引っ張らないようにはしておこうと」
ルクリリ「ヴェニフーキさんが次期隊長じゃない?」
ヴェニフーキ「私が?」
ルクリリ「ええ。アッサム様も認めるほど活躍しているし、負け続きだった知波単学園相手に勝てたのもヴェニフーキさんのお陰じゃない」
ヴェニフーキ「…」
ルクリリ「…まぁ、そうなったら練習厳しくなりそうだけどね」アハハ
ヴェニフーキ「もしも、私が隊長になるならば」
ルクリリ「うん」
ヴェニフーキ「聖グロに革命を起こしたいですね」
ルクリリ「革命…?」
ヴェニフーキ「ええ。…それでは私はこれで」
そう言い残してルクリリさんと別れた。
私は学園艦を後にする。
789: 2017/05/28(日) 03:10:08.12 ID:4S1mKFVw0
ちなみに聖グロの学園艦はしばらくの間、艦全体のメンテナンスのために港へ停泊したままになっている。
…と言っても街一ほどはある巨大な船なので、港からある程度離れた場所でプカプカ浮いているだけだが。
なので、港へ向かうには学園艦と港を行き来する定期便のフェリーに乗らなければならない。
これが学園艦の面倒なところだ。素直に陸に学校を作っておけば良いものを…。
そんな裕福な学校だけに学園艦のサイズも他と比較して巨大なので点検や修理にも時間がかかるらしい。
私としては気軽にダージリンに会いに行けるので、このまま当分停泊してほしいと思っている。
そんなことを考えながらウラヌスを駐車したパーキングエリアにたどり着き、ライダースーツやヘルメットを身に着けてエンジンをふかす。
…ガソリンが減ってきたな。どこかで給油しなくちゃ。
790: 2017/05/28(日) 03:13:27.30 ID:4S1mKFVw0
【ガソリンスタンド】
ヴェニフーキ「満タンでお願いします」
スタッフ「かしこまりました。満タン入りまーす!」
メンテナンスといえば、このウラヌスも結構走ってるので近いうちにメンテナンスをしてやらねばならん。
自分の愛車なので自分でメンテナンスしたいけれど、メンテナンスツールは知波単だし、聖グロでガチャガチャするわけにもいかない。
今回はバイク屋さんでお願いするしかないか…。
そんなことを考えながら給油を待っていると、車がもう一輌スタンドに入ってきた。
あのマークは…黒森峰女学園?
「満タンで」
「かしこまりました」
あの銀髪の人は確か黒森峰の副隊長。その隣りにいるのは西住さんのお姉さん…。何でまたこんなところに?
…幸いこちらはフルフェイスヘルメットにライダースーツなので正体がバレることはない。
どれ、少し様子を見てみるか。
791: 2017/05/28(日) 03:21:46.63 ID:4S1mKFVw0
エリカ「あの…隊長…」
まほ「なんだ?」
エリカ「やっぱりあの話は…」
まほ「何度も言わせないでくれ。…それにもう私は隊長ではない」
エリカ「でっ、ですが…!」
まほ「ここから先はお前が隊長として黒森峰を引っ張るんだ。そんな弱気な顔してどうする」
エリカ「で、ですが、私には隊長のようには…!」
まほ「それでもだ」
エリカ「っ…!」
まほ「…手洗いに行ってくる」
エリカ「………」
どうやら世代交代で一悶着してるようだ。
もうそろそろ三年生は引退して自分の跡継ぎを決める時期だしね。
以前、サンダースとご一緒した時も、後継者であるアリサさんがナオミさんのファイアフライを乗るかどうかといったやり取りがあった。
あれは一悶着というほどではなかったけれど、やはり次世代への引き継ぎには何かしらの課題が待ち受けている。
そう考えると、早い時期から隊長に選ばれた私は恵まれている方なのだ。
それで、黒森峰は副隊長だった彼女がが隊長になるのだろう。
次の大会では彼女と手合わせするかもしれない。
…しかし、副隊長の様子が何だかおかしいな?
793: 2017/05/28(日) 03:27:21.03 ID:4S1mKFVw0
エリカ「………これもそれも…」
エリカ「全部、あの女のせいだ…!」
エリカ「あいつが……あの女が…余計な真似しなければ私達が勝ったのに………!」
エリカ「許さない………」
彼女たちがここにいるのは"偶然"ではなさそうだ。
黒森峰の車が来た方角を考えると、給油を終えた車はこのまま聖グロの学園艦が停泊している港へと向かうだろう。
…なるほど。次の親善試合の相手は、あなた達か。
そして、
どうやらこの副隊長さんは"誰かさん"を相当恨んでいるようだ。
ふーん。
794: 2017/05/28(日) 03:30:50.53 ID:4S1mKFVw0
エリカ「………そこのあんた、なに盗み聞きしてるのよ」
ヴェニフーキ「…」
おいおい…こっちにまで八つ当たりしてきたぞ…。
確かに中身はあなたが憎む女だが、外からじゃ誰か全くわからんはず。
なのに親の仇と言わんばかりにギロッと私を睨んできた…。
エリカ「あなたよ。全身真っ黒の」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「聞こえなかったかしら。随分耳が遠いのねぇ?」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「それとも、喋れない人なのかしら、あなた?」
…さすがに腹が立ってきたぞ。
どう育てば初対面の姿もわからぬ人間にここまで攻撃的になれるのか。
795: 2017/05/28(日) 03:34:23.82 ID:4S1mKFVw0
ヴェニフーキ「…随分"ガラ"が悪いんですね?」
エリカ「はぁ?」
ヴェニフーキ「それが"隊長"だなんて。人に恵まれないのですね。あなたの学校」
エリカ「なッ!!」
売り言葉に対して買い言葉をぶつけてやった。
がるるるる。今にも噛み付いてきそうな勢いだ。
人のことを言えた玉じゃないけど、さすがに私はこの人ほど誰かれ構わず牙を向いたりはしない。
ところで黒森峰女学園といえば、以前の全国大会では一矢も報いえぬまま"全車玉砕"でこてんぱんに打ちのめされたっけ。
辻さん曰く、"優れた技量と敢闘精神でもって、西住まほを包囲して追い詰めながらも、最後の最後で無念の燃料切れで殲滅された"とのことだけど、それは怪しい………。
そして、黒森峰の隊長であり、西住さんのお姉さんでもある西住まほさんは、私達との対戦時だけでなく、大洗戦、後の大学選抜チーム戦でも恐るべき手腕を発揮した実力の持ち主だ。
そこには西住様のご子女だけあって、戦車乗りとしての偽り無き実力や威圧感など、西住流を色濃く受け継いでおられる。
本当の意味で"達人"と呼ぶにふさわしい、我々戦車乗りの憧れだ。
…しかし今私の目の前にいるこの女は、西住まほさんが持つようなものはまるで感じられない。
それどころか、本当に戦車道をやっている人なのかと疑いたくなるほどだ。
796: 2017/05/28(日) 03:48:50.39 ID:4S1mKFVw0
エリカ「アンタに何がわかる!」
ヴェニフーキ「何もわかりませんが、"何も無い"というのだけはわかりますね」
エリカ「………フン! アンタがどこの馬の骨かは知らないけれど、黒森峰を敵に回さないほうが良いわよ?」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「さもなくば…」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「あなた、きっと後悔するわ…!」
ヴェニフーキ「確かに後悔しています。これが黒森峰の次期隊長だと知って」
エリカ「ッ!! き、貴様ァ!!!」
まほ「やめろエリカ!!」
エリカ「隊長っ!?」
まほ「何をしてるんだお前は!!」
エリカ「…っ!!」
まほ「…申し訳ありません。うちの者が迷惑をおかけしました………」
そう言って深々と頭を下げる。
あの戦車乗りとして"最強"を誇る西住まほさんが小さく見えてしまうほどに…。
彼女の実力や実績は幼少期からの並々ならぬ積み重ねの上に存在するものだ。
私やダージリンはおろか、それよりもずっとずっとたくさんの努力を重ねて…。
それが、私の目の前でガラガラと崩れていく音が聞こえたような気がした。
頭を下げたのはまほさんの方だが、彼女以上に私はそれを屈辱に思った。
同じく氏に物狂いで積み重ねてきた人間として、積み重ねてきたものを崩されたのを目の当たりにした人間として………。
797: 2017/05/28(日) 03:50:29.13 ID:4S1mKFVw0
ヴェニフーキ「お気になさらず」
ヴェニフーキ「…それより、聖グ口リアーナ女学院へ向かっていたのでしょうか?」
まほ「…ええ。近いうちに親善試合を行うのでその下見にと」
ヴェニフーキ「そうだったのですね」
ヴェニフーキ「親善試合、楽しみです」
まほ「えっ…?」
ここまで言っておいて姿を見せないのは失礼に当たる。
私はヘルメットを脱いで、改めて挨拶することにした。
798: 2017/05/28(日) 03:58:30.02 ID:4S1mKFVw0
エリカ「ッ!!!!」
まほ「あなたは…」
ヴェニフーキ「こんにちは。西住まほさん、黒森峰の副隊長さん」
ヴェニフーキ「聖グロのヴェニフーキと申します」
まほ「そうか…あなたがみほの言ってたヴェニフーキか」
エリカ「…あんた………!!」
副隊長さんは露骨に怒りの表情を見せた。
そうだ。
あなたが憎んでる女だ。
ヴェニフーキ「こうやって対面するのは初めてですね」
まほ「そうだな。…あの時の助言は敵ながら見事だった」
ヴェニフーキ「恐縮です」
まほ「…一つ、教えてくれないか」
ヴェニフーキ「何でしょう」
まほ「何故、"あそこ"だと思った?」
ヴェニフーキ「戦車乗りしての私の本能が、あの一点だけをずっと叫び続けてました」
まほ「そうか…」
エリカ「あんなのインチキよ! 適当な事を言って…!」
まほ「インチキであの一点を見出だせるわけがない!」
エリカ「っ…!」
ヴェニフーキ「…」
まほ「全体の地形、砲撃地点と着弾地点の高低差、戦車の性能、砲手の技量、我々の進行ルート…」
まほ「戦車道における知識やセンス、ありとあらゆるノウハウが無ければあのようなことは決して出来ない!」
ヴェニフーキ「お褒め頂き感謝致します」
聖グロに完勝したこと
大洗女子を相手にギリギリまで粘れたこと
それらも知波単のために命をかけて積み重ねた努力の賜物であることは確かだ。
だけど、本当に本当に、その積み重ねの成果を出したのは、大洗女子と黒森峰が戦った決勝戦のあの一発だったのかもしれない…。
あの一発を放つ為のあの場所には、私の戦車道の全てが詰まっていた。
そして西住みほさんは私の戦車道を受け取ってくれた。
みほさんのおかげで、私の戦車道が報われた………!
799: 2017/05/28(日) 04:02:10.22 ID:4S1mKFVw0
ヴェニフーキ「あなた達や大洗の皆さんには申し訳ないことをしたと思っています」
ヴェニフーキ「…ですが、私はどうしても無人機という"邪道"を潰したかった」
まほ「!」
ヴェニフーキ「そのため、"持たざる"大洗に勝って頂く必要があった」
ヴェニフーキ「…それがあの助言をした理由です」
まほ「なるほど…。あの時、一度の砲撃で試合が終わるとは夢にも思わなかった」
ヴェニフーキ「…」
まほ「そして、それがみほのものではなく、第三者の助言によるものと知って」
まほ「今までにない屈辱を味わった」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「………」
まほ「………だが、同時に、」
まほ「私は高校生最後の戦いを、無人機戦闘というイレギュラーではなく、戦車乗りとして終えることが出来た…」
まほ「私は、邪道に染まることなく卒業できる………」
ヴェニフーキ「無人機が出ようと戦艦が出ようと、あなたが邪道に染まることは無いと存じます」
まほ「そうだろうか…」
ヴェニフーキ「踏んだ場数、積み重ねてきた物の重みが違う」
ヴェニフーキ「それが簡単にへし折れるようなものではない」
ヴェニフーキ「そして、その重みの違いが…」
ヴェニフーキ「隣りにいらっしゃる方に"重荷"となって降り掛かっている」
エリカ「なっ…!」
まほ「………」
800: 2017/05/28(日) 04:15:30.08 ID:4S1mKFVw0
エリカ「黙って聞いていれば好き勝手言いやがって!!!」
まほ「落ち着けエリカ!!」
エリカ「このまま言われっ放しで落ち着いていられるものですかっ!!」
まほ「戦車乗りなら戦車で方を付けろ!」
エリカ「っ…!」
ヴェニフーキ「ときに、西住さんは試合には参加されるのですか?」
まほ「…いや。私は見学だけだ。此処から先は隣にいるエリカに全てを託す」
エリカ「…」
ヴェニフーキ「そうですか。…楽しみですね。エリカさん」
エリカ「………いい気にならないで頂戴。涼しい顔をしていられるのも今のうちよ」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「あなたは口は達者のようだけど、試合でもそうなるとは思わないことね…」
エリカ「あなたみたいな邪道、叩き潰してあげるわ」
ヴェニフーキ「無様な戦い方をして、黒森峰や西住流を汚さないことです」
エリカ「何ですって!!」
ヴェニフーキ「聖グロはあなたにとって"甘っちょろい"かもしれません」
ヴェニフーキ「…ですが、私はそこまで甘くはない」
エリカ「…」
ヴェニフーキ「試合、楽しみにしています」
それだけ言って給油が終わったウラヌスに跨り、その場を去った。
僭越ながら全力で挑ませていただきます。
あの時は"大洗を通して"だったけど、今度は私が直々に………。
私はこの女を許さない。
血の滲むような思いで敵と自分と戦い続けたまほさんの影に隠れ、その威厳を借りて"王者"を語るこの女を。
そして、仲間を助けたが故に黒森峰を去ることになったみほさんを口撃したこの女を。
………覚悟しろ。
あなたのような"邪道"は叩き潰してやる…………………。
~~~~~~~~~
805: 2017/06/01(木) 21:27:50.63 ID:OTH5ONt20
【ダージリンの家】
ヴェニフーキ「………」
ダージリン「……絹代さん…?」
ヴェニフーキ「ん…?」
ダージリン「どうしたの? 怖い顔をして」
ヴェニフーキ「いえ…、今度の親善試合で黒森峰と戦うことになって」
ダージリン「黒森峰ですって!?」
ヴェニフーキ「ええ?」
ダージリン「あの黒森峰と親善試合をするなんて…」
ヴェニフーキ「?」
ダージリン「黒森峰って、他校とは滅多に練習試合をしないのよ?」
ヴェニフーキ「そうなんですか?」
ダージリン「少なくとも…私がいる間に黒森峰と練習試合を行ったことは一度も無かったわね」
806: 2017/06/01(木) 21:29:22.58 ID:OTH5ONt20
ダージリン「強いて言うなら、過去に継続高校と試合した事くらいかしら…」
ヴェニフーキ「私もそれくらいしか知らないです」
ダージリン「そんな黒森峰と練習試合するなんて…」
ダージリン「…私も参加したかった………」
ヴェニフーキ「………」
そう。
黒森峰と本当に戦うべきなのは、私のような部外者じゃなくダージリンだ。
でも、ダージリンは聖グロの敷居を跨ぐことが許されない…。
だからダージリンの無念を晴らすべく、私がダージリンの代わりに黒森峰と戦う…。
807: 2017/06/01(木) 21:33:07.85 ID:OTH5ONt20
ダージリン「それに…」
ヴェニフーキ「?」
ダージリン「あなたはまだ、"絹代さん"じゃない…」
ヴェニフーキ「………」
ダージリン「また…何か悩んでるの…?」
ヴェニフーキ「…いえ。次の黒森峰と戦うために色々考えておりまして…」
ヴェニフーキ「相手が相手だけに、全力の全力で挑まないと。…って」
ダージリン「そう…。でも無茶はしないでね? あなたはただでさえ…
ヴェニフーキ「あはは。わかってます」
ダージリン「…」
ヴェニフーキ「…でも、それでも私は黒森峰に勝たないといけないんです」
ヴェニフーキ「新しく隊長になろうとする"あの女"に勝たないと………」
ダージリン「新しい隊長…副隊長の逸見さんのこと?」
ヴェニフーキ「そうですね。確かそんなような名前の人です」
ダージリン「彼女と何かあったの?」
ヴェニフーキ「あの人は私のことを相当憎んでおられるようです。…まぁそれは私も同じですけどね」
ダージリン「そうなの…?」
ヴェニフーキ「だから試合で、戦車道で、その決着をつけようと思う次第です」
ヴェニフーキ「"邪道は叩き潰してやる"…と」
ダージリン「…あなたが」
ヴェニフーキ「ん?」
ダージリン「優しいあなたがそんなにも誰かを憎むなんて信じられないわ………」
ヴェニフーキ「…」
確かに。私がここまで誰かを憎むことなんて今までにあっただろうか…
ダージリンを退学にさせた反・聖グロ派や、それに加担する輩ならともかく、同じ高校生で同じ戦車道をする人を相手に…。
今まで生きてて何度もカチンと来たことはあったけど、今回のような深く根付いたような怒りはまず芽生えなかった。
この感情は"悪口を言われたから頭にきた"というような安っぽいものじゃなく、私の中に眠る、何かを根本的に否定されたような腹の底から湧いてくる怒りだった。
808: 2017/06/01(木) 21:35:10.99 ID:OTH5ONt20
ヴェニフーキ「何と言いますかか…それは…」
ダージリン「?」
ヴェニフーキ「ダージリンを葬った連中に対する怒りと質が似てますね」
ダージリン「っ!!」
ヴェニフーキ「人が血の滲むような思いをして積み重ねて来た物を、歴史を、誇りを、鼻歌歌いながら崩していくような」
ヴェニフーキ「…そんな輩に対する怒り…ですかね。あの副隊長に抱いたモノは」
ダージリン「意地悪されたから、とかではなくて…?」
ヴェニフーキ「仮にそうだったら"イヤな人だなぁ…"で終わります。一晩寝たら忘れるでしょう」
ダージリン「…」
ヴェニフーキ「…でも、あの人、あの女は違ったんです」
ヴェニフーキ「それが私の中でどうしても許せなかった」
ダージリン「そう…」
ヴェニフーキ「だから、試合で私の戦車道の全てをぶつけてやるつもりです」
ダージリン「あなたの怒りはわかるわ。…でも、」
ヴェニフーキ「ん?」
ダージリン「それであなたが壊れたり、誤った道を進むのだけは許さないわよ…?」
ヴェニフーキ「…」
ダージリン「…」
ヴェニフーキ「戦車道の怒りは戦車道で晴らすだけです」
ダージリン「ええ、そうであって欲しいわ」
ヴェニフーキ「それに…」
ヴェニフーキ「私の腹の中にあるこの感情が必ずしも正しいとは言い切れないですし」
809: 2017/06/01(木) 21:38:15.30 ID:OTH5ONt20
ダージリン「どういうこと?」
ヴェニフーキ「確かに、私は今あの人に並々ならぬ憎悪を抱いております」
ヴェニフーキ「様々な苦労や努力を積み重ねて来た人たちの威厳を借りて他人を見下すあの副隊長を」
ダージリン「…」
ヴェニフーキ「…でも、その考えが私の"カン違い"である可能性もまた否定できません」
ヴェニフーキ「だから、私の見たもの感じたものが正しいか否かを知るために、」
ヴェニフーキ「そして、どちらに転ぶにせよ"外道"にならぬよう、戦車道のツケは戦車道で払おうと思うのです」
ダージリン「………ふふっ」
ヴェニフーキ「…ん?」
ダージリン「やっぱり、あなたは優しい人ね」
ヴェニフーキ「優しいのか甘っちょろいのか自分でもよくわからないです」
ダージリン「…良いのよ。そんな優しいあなたが好きだから」
ヴェニフーキ「………」
西「私も…、こんな私を受け入れてくれるダージリンが、好きです…」
ダージリン「ふふ…。………」
西「…ん……」
西「何か、私に言いたいことがあるのでしょう?」
810: 2017/06/01(木) 21:39:22.34 ID:OTH5ONt20
ダージリン「えっ?!」
西「私の気のせい…じゃない気がするんですけど、」
西「何かダージリンを見てると、何かを言おうか迷ってるような顔をしてるように見えるんですよね」
ダージリン「…」
西「私の勘違いだったらすみません」
ダージリン「やっぱり…」
西「ん?」
ダージリン「あなたの前で隠し事は出来ないわね」
西「………」
ダージリン「…………ええ…」
西「…」
ダージリン「…」
西「っ! ダージリン………!!?」
ダージリン「……大事な話があるの……」
西「………え……………」
ダージリン「……あのね……」
西「………まさか……」
811: 2017/06/01(木) 21:40:10.49 ID:OTH5ONt20
「…ごめんなさい…絹代さん………」
頭の中が真っ白になった
812: 2017/06/01(木) 21:43:11.08 ID:OTH5ONt20
西「…嘘………嘘………嘘だ………………」
ダージリン「ち、違うの! そういう話じゃない!」
西「……っ…ぅぅっ………………………」
ダージリン「な、泣かないで…! 私の話を聞いて! 私はあなた以外の人を愛したりなんかしないわ!!」
西「………っぅ………本当に………?」
ダージリン「当たり前じゃない………」
西「…じゃぁ……なんで……どうして…"ごめんなさい"…って………」
ダージリン「だって………」
西「……ダージリンだって泣いてるじゃないですか………」
ダージリン「…だって…だって…あなたが…そんなこと言うんだもん…………」
西「…あんな言われ方したら誰だって……」
ダージリン「……ごめんなさい………」
西「またごめんなさいって言う…」
ダージリン「………それしか言えないわよ…………」
ダージリンが"ごめんなさい"なんて言うから、他に好きな人が出来たんだと思いっきり勘違いした。
そんなの、想像するだけで涙が止まらない…。
813: 2017/06/01(木) 21:47:27.04 ID:OTH5ONt20
西「…ズビッ…………で……本当の事は何ですか…?」
ダージリン「……もう…もう、良いのよ……今はあなたの方が大事だもの……」
西「……ありがと………」
ダージリン「……ちょっと…もたれ掛からないでよ…」
西「さっきので力抜けて入んないです…」
ダージリン「…私にしがみつく力はあるくせに」
西「…それとこれとは別です」
ダージリン「もう………」
もうだめだ。今日はもう何もする気が起きない。
このままダージリンに抱きついて過ごそう………。
ダージリン「甘えん坊さん」
西「…何とでも言ってください。意地でも離れませんから」
ダージリン「ふふ」
~~~~~
814: 2017/06/01(木) 21:49:38.17 ID:OTH5ONt20
【翌日 聖グロ】
アッサム「ヴェニフーキ。お話があります」
ヴェニフーキ「借金の保証人の話ですか?」
アッサム「ちっ、違いますっ! 次の親善試合のことですわよ!」
ヴェニフーキ「黒森峰ですね?」
アッサム「! 知ってたのですか…?」
ヴェニフーキ「ええ」
アッサム「…それで、その黒森峰の試合ですが、相手の隊長、西住まほさんと打ち合わせをした結果」
アッサム「彼女は試合には参加せず見学されるとのことです」
ヴェニフーキ「…」
アッサム「それで、後任の副隊長に新・隊長として指揮を執らせると」
ヴェニフーキ「…」
アッサム「ですから、聖グロ側も私ではなく、あなたに隊長として指揮をしてほしいのです」
ヴェニフーキ「…私が?」
アッサム「ええ」
ヴェニフーキ「私に全権を委ねることの意味、理解していますか?」
アッサム「…あなたのことはまだわからない」
アッサム「ですが、いつまでも後継者を決めずにいるのは宜しくありません」
ヴェニフーキ「…」
アッサム「だから、あなたが聖グロの隊長として、聖グロの顔として」
アッサム「黒森峰と戦いなさい」
ヴェニフーキ「わかりました」
あの時、まほさんが試合に出場しないと聞いて、もしやとは思ったが…。
本当に私で良いのか? 私は部外者だぞ? いずれは聖グロを去るというのに…。
815: 2017/06/01(木) 21:54:43.92 ID:OTH5ONt20
アッサム「それともう一つ」
ヴェニフーキ「何でしょう」
アッサム「試合当日は4時に現地集合です」
ヴェニフーキ「は?」ギロッ
おいこらふざけんな! この間よりも早くなってるじゃないか!!
私は他の生徒よりも早く起きないといけないってあれほど…!
アッサム「わ、私を睨まないでくださいまし! 黒森峰の隊長さんと話し合った結果そうなったのですから」
ヴェニフーキ「朝は苦手なのですが」
アッサム「朝というよりは深夜ですわね…」
ヴェニフーキ「…試合前日は早めに寝るので18時以降は起こさないと約束してください破ったら嬲り頃します」
アッサム「物騒なことを言わないで頂戴。…まぁ、私も前日は早めに寝るつもりですから」
ヴェニフーキ「ローズヒップに深夜1時ごろ起こさせに行きますね」
アッサム「それはやめて!」
ローズヒップなんて勿体無い。私が直々にブッ叩きに行ってやろう。
前回起こしに行ったときはデコピンをし損ねたからな。
今度はその顔面を鷲掴みにしてやろうか。それとも鼻の下にワサビをニュルッとやってやろうか。…フフフ。
~~~~~~
816: 2017/06/01(木) 22:06:28.00 ID:OTH5ONt20
ヴェニフーキ「…ということなので、アッサム様より私に指揮を執れとの命令が下りました」
「やっぱりヴェニフーキさんでしたの」
「他に適任者いらっしゃらないものね…」
「厳しくなりそう…」
「…」
ガヤガヤ
ヴェニフーキ「皆さんもよくご存知かと思いますが、相手は優勝常連校の黒森峰です」
ヴェニフーキ「"上品に、優雅に"で敵う相手でないことは理解しているはず」
ヴェニフーキ「そのため、対・黒森峰に特化した戦法を身に着けて頂きます」
「黒森峰に特化した戦法ですって…?」
「あの黒森峰にどうやって…」
「辛そう…」
ワイワイ ガヤガヤ
817: 2017/06/01(木) 22:10:47.45 ID:OTH5ONt20
ヴェニフーキ「先に行っておくと、今での戦術では99.9%負けます」
聖グロ生「………」
ヴェニフーキ「黒森峰の戦車はいずれも火力・装甲ともにトップクラス」
ヴェニフーキ「従来の戦闘距離では我々の攻撃は一切通じません」
ヴェニフーキ「逆に、相手はこちらの射程範囲外から戦車を撃破出来る強力な火砲を持つ」
ヴェニフーキ「ティーガーIの56口径、ティーガーII、ヤークトパンター、エレファントの71口径」
ヴェニフーキ「これらは我が校だけでなく、他校のどの主力戦車の正面装甲も2,000m以上離れた場所から撃破できる」
ヴェニフーキ「更にヤークトティーガーに至っては搭載砲・装甲ともに最強の駆逐戦車」
ヴェニフーキ「128mm戦車砲は建屋もろとも戦車を吹き飛ばす威力で、マウスに匹敵する250mmの正面装甲は貫通記録なし」
「そんな…!」
「戦車の性能が違いすぎますわ! どうやって勝てと言うのですか!!」
「でも、こちらにはティーガーを撃破できるブラックプリンスがあります!」
「そうですわ! ブラックプリンスで戦えば何とか…!」
ヴェニフーキ「ブラックプリンスは1輌のみ」
「っ…!」
ヴェニフーキ「仮に一輌を撃破出来ても、砲撃による音と噴煙で即座に場所を特定され、集中砲火を浴びるのが関の山」
「で、ではどうすればいいんですの!?」
「端から勝負は決まっているではありませんか…」
「どうして負けるとわかって練習試合を申し込んだのですか!!!」
ガヤガヤ
818: 2017/06/01(木) 22:13:35.66 ID:OTH5ONt20
ヴェニフーキ「言ったはずです。対・黒森峰に特化した戦法を身につけて頂くと」
ニルギリ「あっ…あのぉ…」
ヴェニフーキ「はい?」
ニルギリ「その黒森峰に特化した戦法とは一体…?」
ヴェニフーキ「100m以下での超・接近戦です」
「100m以下ですって?!」
「そんなの無理ですわ! すぐに気づかれてしまいますもの!」
「500m離れた場所にいる戦車ですらすぐに見つかるのに……」
ヴェニフーキ「先日の知波単戦の交戦距離は?」
「…あっ!」
ヴェニフーキ「何故、彼女たちは我々をそこまで接近させたのか」
ヴェニフーキ「何故、それほど近付いても存在に気付かなかったのか」
ヴェニフーキ「…そこに答えがある」
ヴェニフーキ「そして、その答えこそが、打倒・黒森峰の戦術」
聖グロ生「!!!」
819: 2017/06/01(木) 22:16:00.59 ID:OTH5ONt20
「…ヴェニフーキ様……」
ヴェニフーキ「何か?」
オレンジペコ「私は…どうすれば良いのでしょう…?」
ヴェニフーキ「はい?」
オレンジペコ「ヴェニフーキ様だけでなく、アッサム様までいなくなって………」
ヴェニフーキ「…」
ヴェニフーキ「車長、やってみますか?」
オレンジペコ「えっ!? わ、私がですか!?」
ヴェニフーキ「ええ」
オレンジペコ「そ、そんな…車長だなんて…私にはまだ…!」
ヴェニフーキ「ローズヒップは車長であり、クルセイダー部隊の隊長」
ヴェニフーキ「ニルギリもマチルダやクロムウェルの戦車長をやっている」
オレンジペコ「あっ…!」
ヴェニフーキ「一年生が車長をやることは何もおかしいことではありません」
オレンジペコ「で、では、残りの乗員は…?」
ヴェニフーキ「あなたが選びなさい」
オレンジペコ「…」
ヴェニフーキ「いずれ私達は聖グロを去る。それを見越して今から後のパートナーを決めるのも悪くはない」
オレンジペコ「は、はいっ…!」
ヴェニフーキ「さて、それでは練習を始めましょう」
アッサム「………」
~~~~
820: 2017/06/01(木) 22:22:13.32 ID:OTH5ONt20
ヴェニフーキ「4号車は西の森へ、7号車は4・5号車の氏角を補う形で配置」
ヴェニフーキ「各車、地形に適応した偽装を車体に施し、隠蔽せよ」
ヴェニフーキ「ローズヒップ、部下を率いて森林地帯を全速力で走り抜けよ」
対・黒森峰特化戦術とは言ったが、これは黒森峰以外でも十分通用する。
何故ならこの戦術は両者の戦車の性能差、数の劣勢を戦術で補完するものだからだ。
実際の戦争と違い、投入車両は限られるので量で覆されることはないが、戦車の性能の優劣をここで縮められる。
知波単学園は戦車保有数こそ問題ないが、重装甲を相手に砲で負けるため、通常の戦闘距離ではなく極限まで接近して砲弾の威力を落とさず命中させる。
また、命中させる場所も正面ではなく、装甲の薄い後面、を狙う。
知波単学園が生き残るために、私の戦車道を守るため血を吐いて生み出した最初で最後の戦術。それを聖グロに託す。
それくらい私はこの一戦に全てを賭けている。
戦うのは聖グロだが、これは同時に私の代理戦争でもあるのだ。
たかだか親善試合と侮ることなかれ…
821: 2017/06/01(木) 22:32:15.87 ID:OTH5ONt20
【練習試合当日】
まほ「お招きいただき感謝する。その、ワコールさん…?」
アッサム「ですから……私はアッサムですの……」シュン
まほ「うっ…」
アッサム「もう慣れましたの………」
まほ「す、済まない……」
当たり前のように名前を間違えられる。
ワコールは日本の衣料品の会社だ。もはや紅茶でもなんでもない。
衣料品だけに"歯に衣着せぬ"ことなく素直に間違えられている。
いっそ本名を名乗ったらどうだろうか。「聖グロの隊長を務める山田ですの」って。
まほ「以前お話したように、今回は私は見学に徹することにした」
まほ「投入戦車、作戦、人員、全てにおいて私が口を挟むことなく、次期隊長に委ねる」
アッサム「心得ておりますの。故に私も同様に今回は見物させて頂きます」
まほ「そうか。して、そちらの指揮官は?」
アッサム「ヴェニフーキですの」
まほ「やはりか…」
アッサム「性格には些か問題がありますが、戦車乗りとしての腕は一流です」
まほ「それは我々も重々承知している。相手にとって不足はない。今日はよろしく頼むぞアッザムさん」
アッサム「いえ…アッ"ザ"ムじゃなくアッ"サ"ムです……」ショボン
まほ「うっ…す、すまん………」アセアセ
名前はもういいとして、両校の元・指揮官同士固い握手を交わし、互いの健闘を祈る。
戦車道とはこのような騎士道精神に則った紳士的、いや淑女的な競技だ。
これが本来あるべき姿だろう。
私の性格が問題というのはいただけないが。
一方で、新しい隊長というのは…
822: 2017/06/01(木) 22:35:04.78 ID:OTH5ONt20
エリカ「こうやってアンタと戦える日が来るなんて。運命ってのは気まぐれね?」
ヴェニフーキ「そうですね。運命というものはとても残酷です」
エリカ「…逃げるんじゃないわよ?」
ヴェニフーキ「はい?」
エリカ「"親睦を深めるために"、"練習試合だから"。そんな言い訳は私には通用しない」
エリカ「邪道は邪道なりに本気で来てもらわないと困るわ」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「そうでないと、潰し甲斐がない」
ヴェニフーキ「それはご自身に言い聞かせてみてはいかがでしょう?」
エリカ「なに…?」
ヴェニフーキ「後ろ盾のない今のあなたが、果たして本当に"王者"なのか、それとも邪道なのか。この試合でわかる」
エリカ「…」
ヴェニフーキ「これ以上は問答無用。試合で決着を」
エリカ「望むところよ……!!」
相変わらず口だけは達者な副隊長さんだ。私もだが。
だが、その表情は先日のそれではなかった。
相手を見下す余裕が無いのか
試合とそれ以外では切り替えが出来る人間なのか
それとも
~~~~
823: 2017/06/01(木) 22:37:55.85 ID:OTH5ONt20
●聖グ口リアーナ女学院 投入車輌
隊長:ヴェニフーキ(西絹代)
副隊長:ルクリリ
ブラックプリンス歩兵戦車 ×1 ヴェニフーキ(隊長)車
チャーチル歩兵戦車 ×1 オレンジペコ車
マチルダ歩兵戦車 ×2 ルクリリ車
クロムウェル巡航戦車 ×2 ニルギリ車
クルセイダーMK.III巡航戦車 ×4 ローズヒップ,ジャスミン,バニラ,クランベリー車
合計10輌
●黒森峰女学園
隊長:逸見エリカ
副隊長:赤星小梅
ティーガーI ×1 逸見エリカ(隊長)車
ティーガーII ×2 赤星小梅車,ツェスカ車
V号戦車 パンター ×3
ヤークトパンター ×1
ヤークトティーガー ×1
エレファント ×1
III号戦車 J型 ×1
合計10輌
~~~~~
824: 2017/06/01(木) 22:44:30.00 ID:OTH5ONt20
ヴェニフーキ「事前に説明した通り、本作戦は撃つことではなく、見つからないことが最重要です」
ヴェニフーキ「そのため、クルセイダー部隊を除く全車輌は持ち場に就き次第、山岳、森林問わず地形に適応した偽装を施します」
ヴェニフーキ「偽装用ネット、木の葉、岩石…ありとあらゆる自然物・遮蔽物を使用し、振り向いたら何処に戦車があるかわからなくなる程に隠蔽して下さい」
ヴェニフーキ「配置場所は地図に記載した通りなので、撃ち漏らし、誤射のないように味方全車輌の位置関係をしっかり把握すること」
全員『了解!!』
ヴェニフーキ「次に攻撃ですが、クルセイダー部隊を除き、こちらの戦車が配置完了してから移動することはまずありません」
ヴェニフーキ「なので、配置後は速やかにエンジンを切り、以後砲塔の旋回は手動で行います」
ヴェニフーキ「敵戦車への攻撃箇所は、車体側面、後面、車体下部の履帯、起動輪および遊動輪」
ヴェニフーキ「最優先撃破目標はティーガー、ティーガーII、パンター」
ヴェニフーキ「それ以外の旋回式砲塔を持たない駆逐戦車は、照準合わせで車体ごと砲の向きを変えるため、」
ヴェニフーキ「転輪および履帯を狙って操縦不能にすることで時間を稼ぐことが可能」
ヴェニフーキ「…説明は以上です。黒森峰が王者の戦いを仕掛けるのなら、こちらは女王陛下を守る騎士団としてこれを迎え撃ちましょう」
全車輌『了解!!!』
ヴェニフーキ「全車前進」
~~~~~~~~~~~~
828: 2017/06/02(金) 21:08:36.28 ID:oRGa30mf0
ルクリリ「黒森峰の戦車が見えますね…」
ヴェニフーキ「ええ。全車輌で固まって移動している」
ルクリリ「先頭にパンター、後ろにティーガーI、その両端を挟むようにティーガーII、そしてヤークトパンター、エレファント、ヤークトティーガー、III号戦車」
オレンジペコ「堅牢堅固な編成です…」
ルクリリ「さすが黒森峰だけあって綺麗な隊列を組んでますね」
オレンジペコ「あれだけ速度を合わせて隊列を乱さないで動けるなんて凄いです…!」
ヴェニフーキ「ええ」
オレンジペコ「…それで、この距離では砲撃は届くのでしょうか?」
ヴェニフーキ「そこは戦術と腕、ですね」
移動・配置が完了してしばらくすると、黒森峰の戦車が現れた。
黒森峰の戦車部隊は私達の配置場所の前を横切るように移動している。
黒森峰車輌
←●●●●●●
△
△
△ △
△ △
聖グロ車輌
…大まかに説明するとこんな感じだ。
索敵のために固まって移動する黒森峰に対し、それを迎撃するよう山の斜面にある森林地帯を我々が固める。
各車輌は車体にネットを張り巡らせ、その上に草木を満遍なく括り付け、狙撃兵のような偽装を施すよう指示した。
周囲に自然の遮蔽物がわんさかある森林地帯なので、偽装のための素材に困ることがない。
車体の偽装だけでなく、岩陰、倒木、木陰、落ち葉、自然界に存在するありとあらゆるものを利用して、文字通り自然に溶け込むようにした。
そういった関係で、一車輌あたりの行動および攻撃範囲は狭くなってしまうが、その氏角を別の車輌が補うように配置した。戦車というより野戦砲の陣地みたいだ。
私はチャーチルの車長を務めるペコ、そして副隊長のルクリリさんと見通しの良い高台にて黒森峰の戦車を確認している。
言うまでもないが、このままでは敵は見当違いのところに行ってしまうので、「私はここにいるぞ」というアピールをしなければならない。
829: 2017/06/02(金) 21:34:52.25 ID:oRGa30mf0
ヴェニフーキ「では、ご挨拶に行ってきます」
オレンジペコ「ヴェニフーキ様自らですか?」
ヴェニフーキ「ええ。ペコは配置場所に戻ってて下さい。ルクリリさんはこのまま監視をお願いします」
ルクリリ「了解!」
オレンジペコ「かしこまりました」
ヴェニフーキ「こちら隊長車。これより5分後に隊長車による誘導射撃を行います」
ヴェニフーキ「この砲撃の後に黒森峰部隊はこちらへ進路を変更し、会敵を目的とする」
ヴェニフーキ「各車両万全の準備を整え、いつでも邀撃出来る状態に」
ヴェニフーキ「準備が終わったら引き続き待機し、次の指示を待って下さい」
ヴェニフーキ「繰り返しになりますが、本作戦は撃つことではなく、見つからないことが最も重要です」
ヴェニフーキ「各車輌、偽装およびその確認は徹底的に行って下さい」
全車輌『了解!』
各車輌に指示を終え、森林地帯の入り口まで移動する。
移動中に地図と照らし合わせながら配置済みの味方戦車を確認したが、この距離でもじっと注視しないと発見できない程に偽装されていた。
この森林は人の手が一切加えられてないんじゃないかと思うほど草木が自由に生い茂っている。
森林というよりはもはや原生林とか樹海と呼んだほうが良いのかもしれない。
そのため配置場所まで移動するのが大変だったが、それは相手も同じはず。
動かない我々にとって伸び放題、茂り放題の草木は相手の侵攻を阻む障害物となり、同時に我々を隠す偽装にもなる。
まさに天然の要塞だ。
戦車にも偽装をまんべんなく施しており、抜かりは一切ない。
830: 2017/06/02(金) 21:41:48.06 ID:oRGa30mf0
ヴェニフーキ「ランサムさん。車体の向きをを180度変えてください」
ランサム「了解」ガコン
ヴェニフーキ「…よし」
ヴェニフーキ「隊長車より全車輌へ。黒森峰車輌を誘導するための射撃の準備が完了」
ヴェニフーキ「これより誘導射撃を行います」
ルクリリ『こちらルクリリ車。黒森峰車輌の進路に変更はありません』
ヴェニフーキ「了解。それでは射撃を行います。ブラックプリンスの砲撃音が戦闘開始の合図と心得よ」
全車輌『了解!!』
ヴェニフーキ「モームさん、少し距離が離れていますが、行けそうですか」
モーム「…」コクリ
ヴェニフーキ「…では、ティーガーIをお願いします」
モーム「…」コク
キュラキュラキュラ....
ズガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!
ヴェニフーキ「戦車後退!」
砲撃と同時にブラックプリンスを発進させ狙撃ポイントから撤退する
着弾は確認できないが、目的はあくまで"敵はここにいる"ということを伝える一発なので、当たれば御の字だが、当たらなくても別に問題ない。
ただ、この役目は他の車輌では"囮"とみなされる可能性があるので、うまく引っかかるかどうかはわからない。
そのため、より信憑性を高めるために隊長車で行うことにした。
ブラックプリンスの大きな砲撃音は、他の僚車と明確に区別できるという意味で数少ない利点となった。
さて。これで砲撃場所はもう"もぬけの殻"。
あとは敵がやって来るのを待つだけだ。
この森林を再び登るのは大変かもしれないが、歩兵戦車の特徴でもある不整走破能力の高さが助けてくれた。
831: 2017/06/02(金) 21:47:10.60 ID:oRGa30mf0
ルクリリ『黒森峰車輌の進行方向が変わりました! こちらへ向かってきます!!』
ヴェニフーキ「了解。各員戦闘に備えよ」
ルクリリ『あっ…!』
ヴェニフーキ「どうしました?」
ルクリリ『手前側のティーガーIIが1輌だけ動いてません!』
ヴェニフーキ「動いてない?」
ルクリリ『乗員が降りて車体左側前方に集まってます』
ヴェニフーキ「…」
…確かに、ティーガーIIの前部に乗員が集まって何かやっている。
急な方向転換をしたせいで足回りが故障したのだろうか?
ルクリリ『こちらルクリリ車。どうやら起動輪がぶっ飛んだみたいですね』
ヴェニフーキ「起動輪が?」
ルクリリ『ええ。…もしかしてさっきの砲撃が当たったのでは…?』
ヴェニフーキ「…」
モーム「…」
…どうやら「こんにちは」ではなく、鉄拳で挨拶をしてしまったようだ。
私も砲手であるモームさんも着弾を確認する間もなく撤退したため、あの砲弾の行方は分からない。
ティーガーIを狙った弾が逸れて、ティーガーIIの起動輪に当たったということかな。
ティーガーIIの乗員にとってはとんだトバッチリだが、私達にとっては幸先がいい。
…しかし、"両脇をティーガーIIに挟まれてるティーガーIを狙え"という指示はちょっと意地悪だったかもしれないな。
832: 2017/06/02(金) 21:52:17.29 ID:oRGa30mf0
ズドォォォン!!
ルクリリ『わっ! 停車したティーガーIIが撃ってきましたっ!!』
ヴェニフーキ「…なるほど。動けないから"固定砲台"として使うわけですね」
ルクリリ『こ、固定砲台?』
ヴェニフーキ「ええ。走れないとは言え砲塔は回るので、味方の進軍を後方から支援するのでしょう」
ルクリリ『まるで自走砲ですね。…どうします?』
ヴェニフーキ「現時点でこちらの位置は特定出来ないはずなので、文字通り"闇雲"な砲撃です」
ルクリリ『…確かに。私も味方がどこにいるのかわかりません』ハハハ
ヴェニフーキ「各員、着弾の衝撃で偽装が剥がれないよう注意つつ、そのまま待機」
全車輌『了解!』
ヴェニフーキ「あの砲撃は黒森峰の進軍を助ける援護射撃かもしれませんが」
ヴェニフーキ「同時にこちらの音も消してくれるので、こちらも恩恵を得ることが出来ます」
833: 2017/06/02(金) 21:55:54.26 ID:oRGa30mf0
ルクリリ『ほっ他の車輌もこっちに接近しながら撃ってきます!!』
ヴェニフーキ「落ち着いて。着弾場所は?」
ルクリリ『車両の周辺に着弾してはいるものの、命中はありません…!』
オレンジペコ『でも、あちこちに着弾して木が倒されちゃってます…』
ニルギリ『ええ! こ、このままでは…!』
ヴェニフーキ「そうですね…」
木々がなぎ倒されたことで我々は丸裸に!
…と思ったが、倒れる木々がいずれも広葉樹だったおかげで、逆にそれが偽装の味方となってくれた。
実際に倒れた広葉樹のそばにいた車輌からは『倒木で車体が隠れました。まさに落木(ラッキー)です』なんてジョークが漏れるほどだ。…面白くなんかないぞ。
それに倒した木はおたくらの侵攻を阻む障害物にもなる。
炙り出しを期待してこのような面射撃を行ったのだろうが、逆にこちらに有利な結果となった。
なにせ我々は移動を必要としないのだから。
しかし、このままドカドカと砲撃を受けるのも気分の良いものではないので、少し反撃しよう。
834: 2017/06/02(金) 22:09:11.20 ID:oRGa30mf0
ヴェニフーキ「一旦停車してください」
ランサム「かしこまりました」
退却をやめ、先程の"ご挨拶"の場所に戻る。
挨拶前と比べると榴弾の雨によってなぎ倒された木々がゴチャゴチャになっている。
こうしてる間にもドカドカと砲弾が降り注いで木々が倒れる倒れる。
環境破壊もいいところだ。
ヴェニフーキ「グリーン様、砲弾を変更します」
グリーン「はい。どれにしますか?」
ヴェニフーキ「普通の弾よりも寸詰まりで、先端がコマのような形をしたやつ。…そう、それです」
グリーン「了解」
ガコン
グリーン「装填完了です」
ヴェニフーキ「モームさん、あの動かないティーガーIIの車体側面を狙って下さい」
ヴェニフーキ「砲撃のタイミングは任せます」
モーム「…」コクリ
カチッ
ズガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!
アナウンス『黒森峰 ティーガーII 走行不能!』
835: 2017/06/02(金) 22:30:13.05 ID:oRGa30mf0
ヴェニフーキ「車体側面後部に命中。お見事です。…では戻りましょう」
ランサム「わかりました」
ルクリリ『す、すごい!黒森峰のティーガー倒しちゃいましたよ!!』
ヴェニフーキ「落ち着いて。まだほんの1輌しか撃破してません」
ルクリリ『で、ですがあの最強のティーガーを倒したんですよ。一体どうやって?!』
ヴェニフーキ「砲弾を変更したのです」
ルクリリ『砲弾? 徹甲弾から榴弾に変えたんですか?』
ヴェニフーキ「いえ、榴弾ではなく」
ヴェニフーキ「APDS弾です」
ルクリリ『APDS…?』
ヴェニフーキ「簡単に言えば発射後に砲弾の周囲を覆っていた殻が外れて、矢のような細長い弾だけが飛んで行くやつです」
ヴェニフーキ「細いので装甲に通常の太い砲弾よりもザクッと貫きやすくなります。画鋲みたいに」
ルクリリ『ひぇぇ…なんだか痛そう…』
オレンジペコ『でも、小口径の砲弾ではそこまで威力が無いので装甲に弾かれてしまうのでは?』
ヴェニフーキ「ええ、その通りです。何故なら小さい砲弾では装薬量が少ないですし、仮に量を増やしても、爆発のエネルギーを受け止めるには小さい」
ヴェニフーキ「大口径砲弾は発射時の爆発エネルギーを受け止められるが、面積が大きいため着弾による装甲貫通力が低い」
ヴェニフーキ「小口径弾は接触面積が小さい分穴を開けやすい形だが、そもそも威力がない」
オレンジペコ「つまり、APDS弾はこれら2つの問題点を改善した砲弾ということですね?」
ヴェニフーキ「その通りです。発射時は大きく、着弾時は小さいという対戦車砲弾としては理想な形です」
ルクリリ「なるほど…」
ヴェニフーキ「…ただ、APDS弾は周囲を覆う殻を分離するタイミングの関係で命中精度はあまり良くない」
ヴェニフーキ「それに、装甲に角度があると通常弾よりも滑りやすいという欠点もあり、対抗策として傾斜装甲が導入された理由の一つでもあります」
ヴェニフーキ「そんな威力はあれど扱いが困難なAPDSなので、ぶつけたモームさんは"お見事"です」
ルクリリ『す、すごいですねモームさん…』
言葉にすることこそないが、褒められて嬉しそうなのはわかる。
聞くとことによると、私の知らない間もひたすら射撃の練習に励んでいたらしい。
アッサムさんは"弾代やメンテ費が凄いことになっている…"と言ってたが、こういう結果で還元されるのなら全く問題ないだろう。
なんで戦車道やらなかったのって毎回思う…。
オレンジペコ『ティーガーを倒せる17ポンド砲に、より強力な砲弾…まさに鬼に金棒ですね』
ヴェニフーキ「ええ、連合軍最強の一発です」
オレンジペコ『そ、そんなに凄いんですか!?』
ヴェニフーキ「威力としては先ほど叩いたティーガーIIの主砲・71口径88mm砲に匹敵するかと」
オレンジペコ『すごい…』
~~~~
836: 2017/06/02(金) 22:40:35.68 ID:oRGa30mf0
【観戦席】
アッサム「なるほど…」
まほ「ん?」
アッサム「実を言うと、以前ヴェニフーキから"砲弾が欲しい"と言われてました」
まほ「それがあの弾というわけか」
アッサム「おそらくは」
まほ「あの距離でティーガーIIを撃破したとなれば、こちらの戦車はほぼ全て撃破可能な位置となる」
まほ「しかも黒森峰側はまだ相手の位置を特定できていない」
アッサム「…」
まほ「この試合…この戦術…知波単学園のものに似ているな?」
アッサム「少し前に知波単学園とも練習試合を行いました」
まほ「うん?」
アッサム「その時に今回のような姿の見えない相手から攻撃を四方八方から受けまして」
まほ「…なるほど。つまり彼女は…ヴェニフーキは」
アッサム「あの時の戦いで、相手の戦法を会得したのだと思われます」
まほ「………」
~~~
「APDS弾なんてあるんだー」
「お恥ずかしながら徹甲弾と榴弾くらいしか知りませんでした…」
「私も使ったことないし、知らないのは無理もないかな」
「使っても大丈夫なのか、あんなの?」
「ええ。第二次大戦時にも使われておりまして偶然にもイギリスの17ポンド砲のものが最初のAPDS弾なんですよぉ!」
「…なるほど」
「まさかまさかAPDS弾を使う人がいらっしゃるなんて! 不肖
「あっ、黒森峰の攻撃が止んだよ!!」
~~~
837: 2017/06/02(金) 22:49:02.60 ID:oRGa30mf0
【聖グロ陣地】
ルクリリ『戦車接近してきます!』
オレンジペコ『いよいよですね…』
ヴェニフーキ「…」
パンター3輌が先頭で、その後ろにヤークトティーガーとエレファント、ヤークトパンター、III号戦車、そして最後尾にティーガーIIとティーガーI。
先程の一発を懸念しての隊列だとは思うが、常に先頭を走っていた西住まほさんとは対照的な編成だ。
『パンター3輌がこちらへ接近します!! 攻撃の許可を!!!』
ヴェニフーキ「待て」
『で、ですが! もうすぐ到達します…このままでは!!』
ヴェニフーキ「静かに。ここで射撃したら場所が特定されます」
『っ…!』
ヴェニフーキ「そのまま息を潜め、パンターの通過を待って」
『り、了解…!』
~~~
838: 2017/06/02(金) 22:52:55.22 ID:oRGa30mf0
『最後のパンターが通過しました…』
ヴェニフーキ「了解。見つからなかったようですね」
『ですが…後続のヤークトティーガーやエレファント、ヤークトパンターが接近』
『それを盾にする形でティーガーとティーガーIIも近づいてきています』
パンターの通過を報告する無線連絡が入る。
ヒソヒソ声で話す様子、相当近い場所を通過しているようだ。
あちらの無線からギュラギュラという履帯の漏れてくる…。
ヴェニフーキ「引き続き、最後の車輌が通過するまで待機」
『了解…!』
パンター3輌は我々の網の中に入った。
以降に続く重駆逐戦車・重戦車も攻撃網の中だ。
もういいだろう。
ヴェニフーキ「ローズヒップ小隊、攻撃準備。合図とともに出撃せよ」
ローズヒップ『よ、ようやく私の出番でございますのね………』
走り回ることが大好きな彼女にとってこの作戦は辛いものだが、よく辛抱してくれた。
その鬱憤を晴らすべく思う存分暴れてくれ。
839: 2017/06/02(金) 22:59:06.49 ID:oRGa30mf0
ヴェニフーキ「7、8、9、10号車はローズヒップ車の攻撃と同時に砲塔を旋回」
ヴェニフーキ「側面および後面に照準を定め、こちらの合図で一斉攻撃せよ」
ヴェニフーキ「ローズヒップ小隊、行動開始!」
ロードバイク『行っきますのよぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!』
私の合図とともにローズヒップを先頭に、バニラ、ジャスミン、クランベリーのクルセイダー部隊が一斉に走り出す。
その機動力、そして突破力は彼女らの最大の武器であり、木々が立ち並び地面がデコボコした地形にもかかわらず(しかも斜面を横切っている!)、平地を走るかのように爆走する。
土煙をあげて走り回るその光景は戦車というよりオフロード車だ。
当然黒森峰のパンターがこれに気付かないわけがなく、音がする方へ砲身を向けるが、なにしろ場所はデコボコの斜面だ。
照準が合わせづらいのはもちろん、ジグザグに動くクルセイダーには攻撃が当たらない。鬱蒼と生い茂る木々もまた彼女たちを砲撃から守ってくれる。
ローズヒップ小隊も爆走したかと思えば急停止して砲撃したり、再度エンジンを吹かして爆走したりを繰り返す。味方ながら見ていてこれは厄介だなと思う。
その上パンター3輌に対し、クルセイダーは4輌なのだ。撹乱効果は十分すぎる。
そうしている間に後ろから駆逐戦車、そしてティーガーたちもやってきた。
かかったな。
840: 2017/06/02(金) 23:06:00.00 ID:oRGa30mf0
『こちら8号車。砲塔の旋回が終了。いつでも撃てます』
『同じく7号車、いつでもOKです』
『10号車同じくパンターの後面を撃てます』
『9号車も大丈夫です』
クルセイダー小隊がパンターを釘付けにしている間に他の車輌は砲塔を回転させた。
目的、パンター3輌。
ヴェニフーキ「了解。カウントを開始します。 3…2…1…撃て!」
ズガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!
パシュッ! パシュッ! パシュッ!
アナウンス『黒森峰女学園 パンター1号、2号、3号車、行動不能!』
パンターとはいえ、装甲が薄い側面や後ろを100mにも満たない至近距離で撃たれたらひとたまりもない。
敵車輌に最も近い位置にいた4輌の、ほぼ同時に行われた砲撃によって3輌のパンターが一瞬で全滅した。
中にはエンジンに命中して炎上する車両もあった。山火事が心配だ。
普通ならこれだけ派手なな攻撃をすればこちらの居場所がバレてしまうが、ローズヒップ小隊による錯乱や、戦闘で発生した土埃が煙幕のような隠蔽効果をもたらしてくれた。
そりゃあれだけ走り回れば砂埃は出る。
おまけにパンターや後ろの駆逐戦車がバカスカ撃ったせいで木々が倒れてズサッと砂煙を上げたしね。
これぞモクモクパラリラ作戦だ。…って言ったら西住さんに怒られるかな?
また、こちらの同時射撃による砲撃音は一つとなり、何処から撃ったのか、何輌が攻撃したのかを隠した。
敵からしたら文字通り「見えない場所から四方八方に攻撃された」となる。
報告を受ける指揮官からしたら何を言ってるのか分からないかもしれないが、撃たれたパンター乗員らもまた何をされたのか分からない状態だ。
頭がどうにかなりそうだろうなぁ。
842: 2017/06/02(金) 23:20:49.31 ID:oRGa30mf0
ヴェニフーキ「1から4号車、攻撃開始」
だが、そのまま手を休めることなく、迅速に次の攻撃を繰り出す。
目標はヤークトティーガー、ヤークトパンター、そしてエレファント、そしてIII号戦車。
攻撃したが、頑丈な駆逐戦車は撃破にまでは至らなかった。
唯一、黒森峰車輌の中で最も火力・装甲の弱いIII号戦車だけ白旗が揚がった。
III号は中戦車の部類に入るが、重戦車・重駆逐戦車でひしめく黒森峰では軽戦車のように小さく見える。
だが、小さいことが最大の武器で、その身軽さから偵察車、砲撃観測車として運用をすることで、黒森峰の連携を強固なものとし、強力な砲撃をより正確なものとする。
それ故いつまでも残しておくと厄介だ。小さいからと侮ることなかれ…。
だが、この攻撃で黒森峰の隊列から左手側に位置してた2号車が特定され、ティーガーIIに撃破されてしまった。
この試合で初めて味方がやられたことになる。
これで聖グロの残存戦車は9輌、対する黒森峰は残り5輌…!
843: 2017/06/03(土) 00:01:21.27 ID:YPCfEdRp0
『エレファントの履帯が外れました!』
『こちらもヤークトパンターの遊動輪を破壊しました!』
『ヤークトティーガーもです!!』
チームメイトから攻撃成功の連絡が入る。
あの攻撃で駆逐戦車は撃破出来なかったが、そもそも端から撃破が目的ではなかった。
先ほど皆に指示したように、旋回式砲塔を持たない駆逐戦車は、撃破せずとも動けなくなればそれで走行不能とほぼ同じなのだ。
何故なら駆逐戦車は車体に対し強力な砲を搭載出来る代わりに、戦闘室は固定式で砲塔が存在しない。つまり砲の向きをほとんど変えられないのだ。
そして彼女ら駆逐戦車が向く方角に私達の戦車は存在しない。
そのため、駆逐戦車の足回りとなる履帯をはじめ、起動輪および遊動輪を狙い、車体から履帯を脱落させて動きを封じることを目的とした。
ヤークトパンターから「また履帯狙いやがって!!」と叫び声が聞こえた。
…また? 今回が初めてだぞ?
何はともあれ、これで駆逐戦車たちもほぼ壊滅し、残すはティーガー2輌のみとなる。
↑
象 狩豹 狩虎
III号
虎II 虎I
なお、駆逐戦車らは持ち前の厚い正面装甲を活かすべく先頭に位置し、後続のティーガーおよびティーガーIIを正面の攻撃から守るようになっていた。
おそらく森を突破することを優先にした配置なのだろうが、このような四方八方からの奇襲攻撃には対応できず、その上パンターが撃破されてから間髪をいれず攻撃したので、車列を変更する隙など無い。
あらゆる攻撃を弾き、あらゆる戦車を破壊する駆逐戦車は、動けなくなった瞬間からただの「鉄の塊」となり、後ろのティーガーたちの進路を妨げた。
このままではマズいと思ったのか、履帯が片側だけになったエレファントが進路変更を試みようとする。
しかし、ただでさえ超重量ゆえに足への負担が大きいものを片側の履帯だけで動かそうとするので、その負荷は計り知れず
ガキン!!!!
…という音と同時にもう片側の履帯も外れてしまった。
↑
狩豹 狩虎
III号
像
虎II 虎I
制御不能となったエレファントは斜面を滑っていき、後ろにいるティーガーIIにガシャーンと激突してようやく止まった。ティーガーIIの砲身をへし折ってて。
砲身を台無しにされたティーガーII車長の絶叫が響く。日本語じゃないので何を言っているかまではわからなかったが、おそらく罵声だと思う。
不幸は連鎖するもんだな………。
845: 2017/06/03(土) 00:27:04.35 ID:YPCfEdRp0
ヴェニフーキ「全車輌、攻撃開始!」
一度崩れた体勢はそう簡単には戻せないし、戻す時間を与えてやるつもりもない。
混乱した黒森峰の残存車輌に向かって全車輌で一斉攻撃をする。
見えない相手に多方向から立て続けに撃たれる恐怖と、砲弾の雨が戦車を叩く音はまるでロッカーの中に閉じ込められたいじめられっ子のようだ。
黒森峰の戦車内はきっと阿鼻叫喚地獄だろう。
なにせ少し離れた場所にいる私でさえ「うるさいな…静かにしろよ」と言いたくなるほどだ。発砲音に命中音、とにかくやかましい。
撃てと指示しておいてこの言い草はないだろうと一人苦笑いしつつ。
アナウンス『黒森峰 ティーガーII、ヤークトパンター、エレファント 走行不能!!』
これで残るはヤークトティーガーと、隊長車のティーガーIのみ。
逸見さん。あなたは戦車内で何を思う?
846: 2017/06/03(土) 00:45:56.45 ID:YPCfEdRp0
…ただ、黒森峰も馬鹿じゃない。
滑り落ちたエレファントやティーガーII、自力で後退したヤークトティーガーは、隊長車であるティーガーIの両脇を守っている。
残骸とは言え、それらによってこちらの攻撃が阻まれてしまう。
いくら全体と比較して側面は装甲が薄いとはいえ、それを貫通させてその向こうにいる車輌を撃破するような砲は無いぞ…。
↑ 聖グロ車輌(撃破)
狩豹 ↗
III号
像 ↗
虎II 虎I 狩虎
その上、ヤークトティーガーは後退しながら器用にも車体を左手側に向け、ドカンと一発放ち、またこちらの車輌を1つ戦闘不能にした。
並大抵のことでは超重量で攻撃範囲の限られた両極端な重駆逐戦車を、それも履帯が片方外れたものをあのようには扱えない。
…ヤークトティーガーの乗員は恐ろしいほど優秀だ。見学すると言ってた西住まほさんが乗っているんじゃなかろうな…?
で、逸見さんが乗るティーガーIもただぼーっとしているわけではなく、走行不能の黒森峰車輌の隙間を縫うように左側の聖グロ車輌を狙い、2輌がこれにやられた。
↑
狩豹
III号
像 ↗
虎II 虎I 狩虎
↖
↖
聖グロ車輌
(チャーチル歩兵戦車)
このような状況でも冷静に的確に自分の役目を果たすヤークトティーガーだが、車体の向きを変えたことによって、右斜め後ろに配置していたチャーチルに右側面を晒す結果となった。
そして、チャーチルの攻撃によってヤークトティーガーもついに白旗を揚げた…。やるじゃないかペコ。
私はまほさんに次いで、ヤークトティーガーに乗る方達にも敬意を表したい。
普通の戦車ですら走行が難しい森林の斜面を故障させることなく上り、履帯を外されてもなお巧みな運転技術で味方を守り、尚且つこちらの戦車を撃破する。
それは黒森峰の名に恥じない、本当に見事な活躍だった…!
847: 2017/06/03(土) 00:50:16.41 ID:YPCfEdRp0
残すはティーガーIのみとなった黒森峰に、聖グロの戦車は容赦なく攻撃を浴びせる。
砲弾の雨に気を取られている間にティーガーIに接近を試みた。
起伏の激しい斜面だが、チャーチル譲りの走破能力を大いに発揮する。
そして…
ヴェニフーキ「全車輌、砲撃やめ!」
私の合図とともにピタリと砲撃音が止んだ。
おそらく黒森峰側は頭に「?」マークを浮かべながらペリスコープやクラッペから外部の様子をうかがっているだろう。
通常なら砲撃が止むということは、確実に命中・撃破させるために更なる接近することを意味する。
しかし今回の場合、確実に命中・撃破させる必要が無ければ接近する必要もない。というより
もう攻撃の必要はない。弾の無駄だ。
848: 2017/06/03(土) 00:59:14.43 ID:YPCfEdRp0
ヴェニフーキ「動くな!」
エリカ「っ!?」
↑
狩豹
III号
像 ↗
虎II 虎I 狩虎
↑
ブラックプリンス
これで王手だ。
左右斜め前方の攻撃に気を取られていたティーガーIの後ろについた。
ようやくそれに気づいた逸見さんはキューポラのハッチを開けてこちらを見た。
驚愕の表情が心地いいくらい印象的だった。
エリカ「…うそでしょ…………」
ヴェニフーキ「戦車の弱点といえば、後ろですけど」
ヴェニフーキ「あなたも"後ろ"が弱点のようですね」
エリカ「ぐっ!!!」
前方には被弾して戦闘不能になったパンターや動けないヤークトパンター。
左側にはエレファントと、ティーガーII。
反対側のヤークトティーガーもう動けない。
黒森峰の残骸によって動けないティーガーIは聖グロ車輌によって包囲され、いつでも攻撃出来る状態となった。
だからもう、彼女を除く黒森峰の車輌は「鉄の塊」として、彼女を保護する事のみ。奇跡を祈る車長もいた。
駆逐戦車を絶対防御の要だと信じて先に行かせたのが彼女のミスだった。
この戦術の真価は敵戦車が通過したところにある。なので旋回のできない駆逐戦車では端から勝負にならない。
対する逸見さんの戦術は、彼女の前は頑丈だったが、後ろは脆かった。まるで駆逐戦車のように…。
柔らかい場所を突かれた彼女は唖然となり、そして
849: 2017/06/03(土) 01:01:10.94 ID:YPCfEdRp0
エリカ「くそがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「アンタには!! アンタだけには絶対に負けたくなかったのにッ!!!!!!」
ヴェニフーキ「…」
彼女はこちらを向いたまま、怒りと屈辱を露わに砲塔天蓋をガンガン殴る。…そんなに拳を叩きつけたら手が使えなくなるぞ。
ティーガーIの主砲は彼女とは真逆を向いているので、こちらへ旋回するよりこちらが撃つ方が圧倒的に早い。
彼女もそれを理解しており、会場全体に響き渡る叫びは"手詰まり"であることを意味する。
誰が見ても黒森峰女学園は敗れたということがわかる。
これで、私の戦車道での"ツケ"は払い終わった。
私のすべてをかけた黒森峰との親善試合は終わった。
850: 2017/06/03(土) 01:01:36.78 ID:YPCfEdRp0
ヴェニフーキ「降参します! 参りました!!」
851: 2017/06/03(土) 01:02:33.70 ID:YPCfEdRp0
アナウンス『聖グ口リアーナ女学院の降伏により、勝者 黒森峰女学園!』
………私の降参によって。
856: 2017/06/04(日) 16:51:42.05 ID:B1e5jmIx0
【観戦席】
まほ「降参…」
アッサム「ど、どういうことですか!!?」
まほ「真意はわからん…彼女はあなたのチームメイトだろう。何か心当たりは無いのか?」
アッサム「…私にも彼女の考えはわかりません…何を考えてあんなことを…!」
まほ「…一体……どういうことなんだ……」
~~~~~
「ど、どうして降参なんかするんですかヴェニフーキ殿ぉ!?……」
「わからない…でも……」
「ヴェニフーキさん………」
「落ち着け。きっと何かしら考えがあるのだろう」
「うん…そうだよね…」
「真剣勝負を投げ出すだなんて…一体どのような理由があるのでしょう…」
「………エリカさん…」
~~~~~
857: 2017/06/04(日) 16:53:33.35 ID:B1e5jmIx0
【最前線】
エリカ「………な……降参………!?」
ルクリリ『ちょっとどういうことなのさ!! 何で降参するんだよ!!?』
オレンジペコ『仰る通りです! 私達の勝ちじゃないですか。あのまま撃てば勝ってましたよ…!』
ニルギリ『ど、どういうことなのですかヴェニフーキ様……!?』
ヴェニフーキ「このまま涙と鼻水でグチャグチャな隊長の顔めがけて撃つことも出来ましたが」
エリカ「なっ、泣いてなんかな
ヴェニフーキ「何か、違うな。と思いまして」
エリカ「はぁ?!」
ニルギリ『あの…違うって何がでs
エリカ「ふざけんのもいい加減にしろッ!!!!!」
ニルギリ『っ!?』
ヴェニフーキ「至って真面目ですが?」
エリカ「どこがッ!! これだけ完璧に私を追い詰めて! あとは撃てば終わるってとこまで来て!! 何が降参よバッカじゃないの!!!」
ヴェニフーキ「最初のうちは何とも思わなかったのですが、あなた方が我々の戦闘区域へ侵入したあたりから」
ヴェニフーキ「これは聖グロの戦い方じゃないな。って思った次第です」
858: 2017/06/04(日) 16:54:58.35 ID:B1e5jmIx0
聖グロ『!!!』
ヴェニフーキ「聖グロのもつ気品も優雅さも無い。戦車道を嗜む者としての騎士道精神も無い」
ヴェニフーキ「あったのは勝利至上主義者特有の浅ましさ、卑しさだけ」
エリカ「勝つことの何が悪いって言うのよ!!」
ヴェニフーキ「短絡的な一つの勝利で全てを失うこともある」
エリカ「なに…」
― 特攻兵器を使用したことによって批判が殺到し、戦車道どころか知波単学園まで"廃止"になってたかもしれない
― …
― 結果的にあなたは1つの学校を潰した諸悪の根源として一生恨まれ続けるでしょうね
― 戦術で勝って戦略で負けたということですね…
ヴェニフーキ「それに…」
ヴェニフーキ「あなたを背後から撃って勝利しても、何の価値もない」
エリカ「っ…!」
聖グロ生『?』
ヴェニフーキ「…かといって、私以外の者にとどめを刺してもらおうにも、近辺の僚車では周囲の駆逐戦車で狙えないし、遠方の戦車じゃ重装甲のため弾かれてしまう」
ヴェニフーキ「そう考えると、これが最善の策」
エリカ「ハッ! 邪道の分際で勝ち方に拘ってんじゃないわよ!!」
ヴェニフーキ「邪道には邪道の流儀がある」
聖グロ『!!』
エリカ「…!」
~~~~
859: 2017/06/04(日) 16:58:35.94 ID:B1e5jmIx0
【観客席】
『邪道には邪道の流儀がある』
アッサム「邪道ですって!?」
まほ「あの作戦のどこに邪道があると言うのだ…!」
アッサム「まほさん…?」
まほ「私のチームを完璧に追い詰めるほどの優れた戦術…」
まほ「…これが邪道ならば戦車道など皆邪道となってしまうッ!」
まほ「何故だ、何故邪道なのだ……!」
アッサム「私にもわかりませんの…。何故、邪道と言ったのか…」
~~~
「真剣勝負を途中で投げ出すのは確かに邪道です…でも…」
「聖グロのやり方じゃない? どういうことだ?」
「ダージリン殿とは違うかもしれません。…ですが、黒森峰に圧勝したことが邪道ならみんな邪道ですっ!」
「嫌だよ…ヴェニフーキさんが邪道だなんて…」
「…」
「………やっぱり、違う」
「えっ…?」
~~~
860: 2017/06/04(日) 17:01:41.31 ID:B1e5jmIx0
これで良かったんだよね。ダージリン。
あの時、あなたが言おうとしたのは恐らく…
「黒森峰に勝たないで欲しいの…」
だったと思う。
つまり、勝ちさえしなければ、負けでも引き分けでも試合中止でも何でも良かった。
だから私は誰がどう見ても勝ったと確信した時に、降参を選んだ。
私は"似非邪道"の逸見さんを叩く事が出来たし、ダージリンの願いも叶えることができた。
ダージリンがどうしてそんなことを言ったのか
もちろん理由はちゃんとある。
これで勝ったとしても、それは"聖グロの"勝利じゃないからだ。
戦車も搭乗員も聖グロのものだけど、指揮やその作戦は聖グロではない私<部外者>だ。
聖グロの勝利でなければ聖グロにとって何一つプラスにもならない。偽りの勝利だ。
861: 2017/06/04(日) 17:05:33.87 ID:B1e5jmIx0
それどころか勝つことで「あの黒森峰に完勝した」だなんて自惚れたり、「黒森峰を破った最強の学校」として脚光を浴びてしまい、偽りの実績が出来上がってしまう。
偽りの勝利で偽物の実績に浮かれ、内部から腐敗していく。
ダージリンは自身がまとめ上げたチームがそうなってしまうのが許せなかった。
自分や仲間たち、そして聖グロの戦車道を築き上げてきた歴史を真っ向から否定し、破壊することになるから………。
でも、あの時ダージリンはそれを言わなかった。
…まぁ、それはダージリンが言い淀んだのを勝手に"他に好きな人が出来た"と私が勘違いして号泣したから、というのもあるけどね…。ごめん。
そうでなくてもあれだけ"逸見憎し"と勝負心に燃えていた私の前で「勝たないで」と言えなかったのだろう。
ダージリンが最後に一瞬だけ表情に陰りを見せたので気付くことができた。
この判断によって私は全聖グロ生に憎まれるだろうけど、ダージリンの尊厳を守ることが出来たから良いや。
だってダージリンもあの時
"もう…良いのよ…あなたの方が大事だもの……"
…って、聖グロより私を選んでくれたのだから。
逸見さんも叩きのめしたし、私がやるべきこと、やりたいことは全部やった。
あと、降参したのにはもう一つ別の理由があって、これは試合中に思ったことだ。
それは……
862: 2017/06/04(日) 17:09:17.67 ID:B1e5jmIx0
ガキン!!
グラッ....
「くっ!!」
エリカ「っ!!」
そう思っていたら鈍い金属音が聞こえ、同時にヤークトティーガーが動き出した。
どうやらブレーキが超重量に耐えきれず、壊れてしまったようだ。
トーションバーサスペンションがへし折れ、転輪が吹っ飛び、制御出来なくなった巨大な鉄の塊が坂を滑りながら下っていく。
おい! そっちは崖だぞ!!?
…そう思った時には遅く、ヤークトティーガーは谷底へ転落した。
ヴェニフーキ「フレミング、本部へ救護要請を」
フレミング「り、了解です! こちら聖グロ隊長車…」
エリカ「っ…!」ダッ
ヴェニフーキ「! 待てっ!!」
逸見さんは乗ってた戦車を放棄して走り出した。
あの女、まさか一人で救出に行くつもりか? 馬鹿な真似を…!
戦車は密閉されてるし特殊カーボンもある。外装が破損しても内部までは大丈夫なはず。
下手なことをするよりじっと救助を待つ方が安全だ。
それに崖は結構な高さがある。飛び降りたら…
863: 2017/06/04(日) 17:12:13.65 ID:B1e5jmIx0
ヴェニフーキ「あのバカ!」
ダッ!
ルクリリ「ヴェニフーキさん!!!」
ヴェニフーキ「そっちは任せます!」
ルクリリ「わ、わかった…!」
急いで逸見さんの後を追いかけたが、崖の下は川が流れており、見下ろした時には彼女は着水していた。
本当に飛び降りてしまった…。
「がばっ…ごっ…ゴボッ……ぐ…」
彼女はヤークトティーガーが流されたであろう方向へ泳いでいく。…というより流されていく…。
おい…あんたまさか………
泳げないのか!?
助けに行った勢いとは裏腹に、カナヅチなのか自身が沈まぬようもがくので精一杯だ。
駆逐戦車の方へ向かうというより水底に向かっている。
くそっ、このままじゃ本当に犠牲者が出てしまう…!
ヴェニフーキ「っ!!」
散々馬鹿馬鹿と罵っておいて何だけど、私も人のことを言えないみたいだ。
逸見さんの後を追うように崖から飛び降りて川へ飛び込む。
ざっぱーん!
そこそこ水深があるので、水底に体を叩きつけることは無かった。
一方で流れはせいぜい遊園地の流れるプール程度だったので、(どこかの誰かさんのようにカナヅチでなければ)何とか泳くことは出来た。
どうせ逸見さんだ。何も考えず勢いだけで飛び込んだのだろうなぁ。…まぁ私もだけど。
やれやれ…。
864: 2017/06/04(日) 17:14:23.94 ID:B1e5jmIx0
【谷底を流れる川】
エリカ「ガバ........ゴブッ....ゴボボ....ゴグッ....ゴボ....」
ヴェニフーキ「つかまって…!」
エリカ「ゴッボ...ガブ....」
沈みかけた彼女の胸ぐらをなんとか掴む事ができた。
掴んだ右手でラリアットでもお見舞いするかのように彼女を仰向けにさせる。
これで少なくともブクブク沈んでいくことはない。
あとは岸へ向かって引っ張るだけだ。足が攣らない程度にゆっくりバタ足で岸まで向かう
…こら、しがみつくな。
溺れる者は藁をも掴むだけに必氏に私にしがみつこうとする。
ふざけるな。私にしがみついて良いのはダージリンだけだ。
…そんな事を考えてるうちに足が水底に届くくらいの所まで来た
865: 2017/06/04(日) 17:15:13.68 ID:B1e5jmIx0
【川岸】
エリカ「ゴゲェェェ!!!! ゴボゴヴォ゙ロゴ!!!!!!」ビチャビチャビチャ
ヴェニフーキ「…」
岸へたどり着いてから逸見さんは何か言葉を発するよりも先にマーライオンよろしくゲーゲー水を吐き出す。
そりゃそうだ。カナヅチが川に飛び込めば誰だってこうなる。
ヴェニフーキ「自分の力量をもう少し冷静に見計らうべきですね」
エリカ「……いわよ」
ヴェニフーキ「はい?」
エリカ「うるさいって言グ?! ゴボォォォォォォォ!!!?」
言い終わる前にまたゲロゲロ吐き出す。
嘔吐音と液体が叩きつけられるビチャビチャ音が響く。相当飲んだようだ。
…お、水と一緒に枯れ葉が出てきたぞ。
866: 2017/06/04(日) 17:16:20.97 ID:B1e5jmIx0
エリカ「なんで…助けたの………よ…」ゼェ..ゼェ...
ヴェニフーキ「あなたのような人でも氏なれたら戦車道が廃止になりかねないので」
エリカ「よ…余計な…こと…を…」ゼェゼェ
ヴェニフーキ「…」スタスタ
エリカ「どこに……行くのよ…」
ヴェニフーキ「救助隊を案内します。あなたは助かってもヤークトティーガーの乗員はまだ水の中ですから」
エリカ「ちょっと待ち………!!?」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「何で…あんたが………!!?」
あーあ。バレちゃった。
飛び込んだ勢いでレンズは吹っ飛んじゃったし、濡れたせいで髪のセットは崩れた。
もう髪の毛の色以外は西絹代だ。
867: 2017/06/04(日) 17:17:40.25 ID:B1e5jmIx0
エリカ「何でアンタが聖グロにいるのよ!?」
西/ヴェニフーキ「あなたに関係のないことなので忘れて下さい」
エリカ「…」
西/ヴェニフーキ「もしも誰かに話したら………頃しますよ?」
エリカ「…フン! 姿を偽ってコソコソやるような弱虫に何が出来るというのよ!」
西「…あのまま溺れて氏ねば良かったのに。そうすればバレずに済んだ」
エリカ「なっ…!」
西「…ん、待てよ…?」
西「今からでも遅くないか」
868: 2017/06/04(日) 17:21:12.33 ID:B1e5jmIx0
エリカ「なっ!!?」
西「…」ジリッ...
エリカ「な、何よ…こっち来ないでよ…!」
西「…」ジャリ....
エリカ「ちょっと! 何するつもりなのよ!」
西「………」ザッ...
エリカ「こ、来ないでって言ってるでしょ…!」
西「…………」スッ...
エリカ「い…嫌ぁぁぁ!!」
西「ばぁーーーーーーっ!!!」バーン!!!
エリカ「ひぃぃッ!!?」ビクッ
西「………なーんてね。殺人犯になるのは御免ですから」
エリカ「…」
西「"なんちゃって邪道"はあなた一人だけで十分ですよ」
エリカ「…」
西「…早くしないと風邪ひきますよ?」
エリカ「………」
西「…あれ?」
エリカ「」ブクブク
西「…」
あーあ。気絶しちゃった。
まぁいいか。
自力で這い上がってここで倒れたってことにしておこう。
しかし水を吐いたり泡を吹いたりと、この人の前世ゼニガメかな?
その直後に駆けつけた救助隊員によって彼女は運ばれた。
ヤークトティーガーも無事に水揚げされ、乗員も全員無事だ。
もっともヤークトの中にいるのはあれだけ活躍したエリート集団だ。どこかの誰かさんみたいに水没如きでくたばったりはしない。
869: 2017/06/04(日) 17:23:17.53 ID:B1e5jmIx0
「なかなかやるわね。あなた」
西「っ!?」
アールグレイ「心配しないで。私よ」
西「…ビックリさせないで下さいよ。心臓に悪い」
アールグレイ「女の子を失神させといてよく言うわね」
西「…」
アールグレイ「そんなことより、その顔でここにいたら不味いわ。川を少し下ったところに車があるから急ぎましょう」
西「恐縮です。…というか試合観てたんですね」
アールグレイ「もちろんよ。黒森峰とご一緒するなんて初めてですもの」
西「…」
アールグレイ「でも残念ね。あなたが本当の聖グロ生だったら歴史的な快挙だったのに」
西「そうでしょうかね?」
そういってるうちにアールグレイさんが停めた車のところまで向かった。
さすがズル賢い人だけあって、真っ赤な車なのに外部からはほとんどわからない位置に停車してある。
…似たような作戦を立てただけになんか悔しい。
870: 2017/06/04(日) 17:32:32.14 ID:B1e5jmIx0
アールグレイ「あ、ちゃんと拭いてから乗ってよ? シート汚れちゃうから」
西「はーい」ブルンブルンブルンブルン
アールグレイ「ちょっと犬みたいにブルブルしない! タオル使いなさい!!」
西「はーい」フキフキ
アールグレイ「………まぁ、」
西「ん?」
アールグレイ「あれで、良かったのよ」
西「…」
アールグレイ「あの試合は99.9%聖グロの勝利だった。あの状態から黒森峰が起氏回生の一手を打つのは無理」
西「まあ、その0.01%を私が起こしたわけで」
アールグレイ「ええ。あそこであなたがドーン!と一発やるか、相手が降伏すればそれでおしまいだった」
西「…」
アールグレイ「…けれど、部外者の指示で勝ったところで聖グロには何のプラスにもならない」
アールグレイ「生徒は黒森峰に勝ったって浮かれちゃうし、メディアは殺到するしで、聖グロ全体がおバカさんになってしまうわ」
西「…」
アールグレイ「…って」
アールグレイ「ダージリンが言ってたわ」
西「ダージリン?」
アールグレイ「ええ」
ガチャ
871: 2017/06/04(日) 17:36:08.61 ID:B1e5jmIx0
西「!!」
「ありがとう…絹代さん」
西「ダージリン…ダージリン……!」
ダージリン「嬉しかった…。あなたが私の思いを理解してくれて…」
西「わっ…いま抱きつくと濡れちゃいますよ…!?」
ダージリン「構わないわ。服なんて着替えれば良いだけですもの」
ダージリン「それよりも、寒いでしょう?」
西「…あはは」
試合が終わってもなお溢れ出る興奮作用のある物質が脳内からボタボタと溢れていたせいで…その…あはは………
アールグレイ「私の車の中でおっ始めないでよ? 掃除するの大変
西「するわけないでしょーがっ!!」ガァァァッ
ダージリン「っ…///」カァァ...
872: 2017/06/04(日) 17:37:48.60 ID:B1e5jmIx0
アールグレイ「今は着替えて、その崩れた変装を直すことが優先よ」
西「わかってますって…でも…」
アールグレイ「ん?」
チュッ
ダージリン「もぅ…///」
西「これだけはさせてください。あはは」
アールグレイ「この野郎…見せつけてくれるじゃない………」ワナワナ
ダージリン「練習試合、終わった後でね」
ヴェニフーキ「ええ。行ってきます」
私は車の中で髪を乾かし、服を着替え、再度ヴェニフーキの姿へと戻る。
…ダージリンの尊厳を守ることができて安心した。
~~~~~
873: 2017/06/04(日) 17:39:29.40 ID:B1e5jmIx0
【再び 試合会場にて】
審判員「一同、礼!」
「「「「ありがとうございました!」」」
エリカ「………」
ヴェニフーキ「………」
エリカ「………余計なことを…」
アッサム「お疲れ様。ヴェニフーキ」
ヴェニフーキ「お疲れ様です」
アッサム「あなたには言いたいことが山ほどありますが、まほさんがあなたとお話したいと」
ヴェニフーキ「…」
まほ「教えてくれ、ヴェニフーキ」
ヴェニフーキ「…」
まほ「なぜエリカ達をあそこまで追い詰めたにもかかわらず、降参した?」
ヴェニフーキ「先ほど彼女の前で言いましたが、この戦いは聖グロが望むものではなかった」
エリカ「だからどういうことよ! 私を打ち負かしておいて何が不満
まほ「落ち着けエリカ!!」
エリカ「っ…」
まほ「確かに聖グロは優雅だとか気品といったものを尊重し、騎士道精神に則った戦いをする」
まほ「…だが、あなたの指揮やあの戦術が聖グロの道から外れたものだとは思えん」
まほ「その証拠に、黒森峰は惨敗した…。」
まほ「勝利だけを糧に己を鍛え続けたものが集う黒森峰が…」
ヴェニフーキ「…」
まほ「私には、あなたが何故、あのような判断を下したのか、わからない…」
ヴェニフーキ「黒森峰が、あそこまで追い詰められたのは」
ヴェニフーキ「彼女が本気を出さなかったから」
875: 2017/06/07(水) 19:19:07.11 ID:d4Q4cJCQ0
エリカ「は、はぁぁ!?」
まほ「…」
エリカ「ば、バカも休み休み言いなさい! アンタ相手にどうして手加減してやんなきゃいけないのよ!?」
ヴェニフーキ「黒森峰の戦車をこちらの要塞に誘導し、ティーガーIIを1輌葬るところまでは問題なかった」
ヴェニフーキ「…しかし、黒森峰のパンターが侵入して来たところから違和感を覚えました」
まほ「…違和感?」
ヴェニフーキ「ええ」
ヴェニフーキ「あまりに都合よく事が進みすぎている、と」
まほ「…エリカ、お前本気を出さなかったのか…?」
エリカ「そ、そんなわけないじゃないですか! コイツの戯言に過ぎません!!」
まほ「そうか………?」
ヴェニフーキ「私も最初、あれだけ大見得切っていた逸見さんだけに、手を抜くなど有り得ないと思っていた」
まほ「…」
ヴェニフーキ「…しかし、いざ試合をしてみれば、黒森峰らしからぬ"お粗末"な戦術でした」
エリカ「アンタ……たかだか練習試合で一度勝ったくらいで良い気になるんじゃないわよ……!」
まほ「…」
ヴェニフーキ「…これらのことを鑑みるに、何かしらの理由で"手を抜いた"としか説明がつかない」
ヴェニフーキ「だから、手を抜いた黒森峰相手に勝って有頂天になるのも馬鹿馬鹿しいと思い、あの場で白旗を掲げた」
誠に勝手ながら、この試合はダージリンの尊厳を守るために、最初から勝利以外の方法をとらなければならなかった。
だが、試合を進めているうちに、黒森峰側の様子がおかしいことに気付き、本来の理由とは別に、白旗を揚げる理由が見つかった。
あれほど私を打ちのめそうと意気込んでいた逸見さんが、何故…。
876: 2017/06/07(水) 19:21:44.45 ID:d4Q4cJCQ0
エリカ「い、言わせておけば…!」
まほ「本当に、手加減してないのか?」
エリカ「ですから違います!! 私は断じて手加減など…」
「あの………」
まほ「どうした? 赤星」
赤星「私も…無線で状況を確認していたのですが…」
まほ「ああ?」
赤星「その…」
赤星「ヴェニフーキさんの言う通り、普段のエリカさんとは思えないくらい、杜撰な指揮でした………」
エリカ・まほ「!!!!」
エリカ「何よ小梅…アンタまで私を罵倒しようっていうの…?」
赤星「ち、違います…!」
877: 2017/06/07(水) 19:24:26.25 ID:d4Q4cJCQ0
まほ「…説明してくれ」
赤星「…はい」
赤星「聖グロから攻撃を受け、私のティーガーIIが動けなくなった後、聖グロ戦車が潜む森林地帯へ一斉射撃をした…ところまでは良かったのですが」
まほ「うむ。もし私があの場にいても恐らく同じことをするだろう…」
エリカ「…」
赤星「その後が問題で、どういうわけか全車輌で森の中に入っちゃったんですよね…」
エリカ「黒森峰は何時いかなる時も真正面から迎え撃ち、圧倒的な火力を以て敵を捻じ伏せて来た。それのどこが問題なのよ?」
赤星「そうなんですが、今回のような場合、2つか3つの小隊に分かれて3方向から包囲するものです」
赤星「実際に、対ゲリラ戦を想定した練習ではそのように指揮していたじゃないですか?」
エリカ「っ…!!」
ヴェニフーキ「…違和感の正体はそれだったのですね」
まほ「…」
ヴェニフーキ「そちらの方がおっしゃる通り、私も黒森峰は聖グロの攻撃網を破壊すべく、複数のルートから攻め入るだろうと予想しました」
ヴェニフーキ「最初のパンター3輌とは別に、他から攻めてくる、と」
まほ「…」
ヴェニフーキ「…そう思っていたら、そのすぐ後ろに駆逐戦車がやってきて、最後にティーガーが来た」
ヴェニフーキ「最初のパンターは囮や斥候だと思ってましたが、その次に来たのが"首の回らない"駆逐戦車だったので『ん?』となりました」
まほ「…」
878: 2017/06/07(水) 19:26:48.77 ID:d4Q4cJCQ0
ヴェニフーキ「それに、あのような起伏の激しい斜面を駆逐戦車に登らせるというのが予想外でした。なかなか無茶をなさると」
まほ「…その通りだ。固定式戦闘室の駆逐戦車はあのような場所に送るのは自殺行為…」
まほ「それに、過重量ゆえに履帯や変速機が破損する原因にもなる。デコボコした斜面を登るとなれば尚の事」
エリカ「う…嘘よ…私は………!」
赤星「………」
ヴェニフーキ「戦術面、運用面における違和感はもとより、こちらはほぼ全方位から攻撃をしたので、全方位を警戒をするはず」
ヴェニフーキ「なので」
ヴェニフーキ「背後を取られるような失態をするはずがない」
エリカ「ッ!!!」
まほ「………」
赤星「………」
ヴェニフーキ「…そういったことから、この違和感が何を意味するのか知るため、白旗をあげた」
ヴェニフーキ「これが、降参したもう一つの理由」
練習試合とは言え、相手は最強の黒森峰だ。
(試合は降伏によって私達の負けだが)その最強がこうもあっさり敗れるというのだから、疑問を抱かない方がどうかしている。
まほさんを見ても、黒森峰の敗北による悔しさより、「何故負けた!?」という疑惑の表情を浮かべている。
違和感だけが残る試合だった…。
879: 2017/06/07(水) 19:30:12.32 ID:d4Q4cJCQ0
エリカ「違う……私は…」
まほ「頼む…エリカ…!!」
エリカ「っ?!」
まほ「一体、何があったんだ!? 誰よりも勝ちにこだわるお前が何故そんなことを……!」
エリカ「違うんです…私は手加減など……」
まほ「嘘をつくな!!」
エリカ「ぇ………」
まほ「お前は黒森峰において最も優れた者と見込んでこの私が選んだのだぞ!」
エリカ「………」
まほ「そして実際、お前は他の追随を許さぬ実力を持っている!!」
まほ「そんなお前が手加減をせずあのような結果となるはずがないッ!!!」
まほ「本当のことを言ってくれエリカ!! 頼むッ!!」
赤星「…私からもお願いします…今後の黒森峰のためにも…!」
ヴェニフーキ「………」
エリカ「……わ…………」
エリカ「私…本当に…手加減なんかしてません………」
ヴェニフーキ「…」
赤星「…」
まほ「………」
880: 2017/06/07(水) 19:31:45.29 ID:d4Q4cJCQ0
まほ「………わかった。もういい」
エリカ「えっ…」
まほ「…こうなるとは思わなかった。これも私の失態なのだろう…」
まほ「お前がこのような状態ならば、隊長を任せることは出来ない………」
赤星「…」
ヴェニフーキ「………」
エリカ「で、では……」
まほ「私が卒業するまでの間、もう一度私が隊長に戻ってお前を叩き直す」
エリカ「!」
赤星「………」
まほ「…残念だ……本当に…」
ヴェニフーキ「?」
たかだか親善試合で黒森峰の命運に関わる重大な決定をさせてしまった。
黒森峰の隊長は逸見さんではなくなった。
再びまほさんが隊長に戻るという。
隊長からの降格…それはものすごく屈辱な事だというのに。
なのに
彼女は一瞬、確かに安堵の表情を浮かべた。
881: 2017/06/07(水) 19:35:32.69 ID:d4Q4cJCQ0
ヴェニフーキ「…そういうこと、ですか」
まほ「ん…」
ヴェニフーキ「何故、逸見さんが手を抜いたか、何となくわかりました」
まほ「!」
エリカ「だ、だから私は手加減なんて
ヴェニフーキ「ええ。あなたは手加減をするつもりなんて微塵も無かった」
赤星「よくわかりません…どっちなんですか?」
ヴェニフーキ「私も、今になってようやく理解した」
ヴェニフーキ「逸見さんは、"無意識に"手加減してたと」
まほ「…無意識…だと?」
エリカ「ハッ! 何度も言わせないでくれるかしら! どうしてアンタごときに手加減するというの!?」
ヴェニフーキ「ええ。あなたの性格上、私を相手に手加減はしてくれないでしょうね」
エリカ「だったら!」
ヴェニフーキ「…でも、あなたの意図に反して、あなたの気づかない所で、あなたは」
ヴェニフーキ「この試合が負けるのを望んでいた…のかもしれない」
エリカ「は、はぁ!?」
赤星「負けるのを望んでいたって…!」
まほ「どういうことだ…?」
ヴェニフーキ「まほさんが去ってしまうからですよ」
まほ「なっ!?」
エリカ「!!!!」
882: 2017/06/07(水) 19:41:27.25 ID:d4Q4cJCQ0
ヴェニフーキ「……さっき、あなたが"もう一度私が隊長に戻る"と言った」
エリカ「や、やめて!!!」
ヴェニフーキ「その時に、逸見さんが一瞬だけ、表情が明るくなった」
まほ「そうなのか、エリカ…!?」
エリカ「そ、そんなわけありません! わ私が降格を宣告されて誰がを喜ぶ人なんてッ!!!」
試合での違和感、"手加減をしたか否か"
当の本人はそれを頑なに否定している。それは彼女の性格を考えれば私でも理解出来る。彼女は"絶対に"手加減しない。
しかし、この試合結果は黒森峰のそれとは程遠く、「手加減した」とでもならない限り説明のしようが無いほどだった
もし手加減をしたとすれば、何故手加減をしたか。
彼女の心の奥底に眠る何かが勝利を妨げた。
もしそうだとしたら、それに起因するものは一つしかない。
そして、それを指摘したら先ほどにも増して取り乱している。
やっぱり、あなたは…
まほ「…エリカはこう言っている。何かの間違いではないのか?」
ヴェニフーキ「確かに、口では強がりを言いますね。逸見さんらしく」
エリカ「そ、そうよ! 手加減なんてするもんですか…!」
ヴェニフーキ「けれど、内面では、西住まほさんが黒森峰から去ることを何よりも恐れていたのでしょう」
まほ「!」
エリカ「ち、違うッ…!!!」
ヴェニフーキ「だから彼女は、そうならないように、まほさんを引き止めるために」
ヴェニフーキ「本人も気づかぬうちに"未熟"を演じるようになった」
883: 2017/06/07(水) 19:44:31.74 ID:d4Q4cJCQ0
まほ「そ、そんな馬鹿な…!」
エリカ「ぁ………ぁ………!」
ヴェニフーキ「自分が未熟であれば、黒森峰を去ることは無いだろうと思って」
まほ「お。おいエリカ…嘘だよな…?」
ノンナさんにとってのカチューシャさん
私にとってのダージリン。
そして逸見さんにとっての西住まほさん。
…皆、"心の支え"を失うことを何よりも恐れている。
そして、失われそうになったとき、ありとあらゆる手段を使ってそれを阻止しようとする。
彼女の"手加減"は、傲慢な性格の裏にあった、紛れもない彼女の"本心"だった。
…となれば今までの厭味ったらしい言動は
生意気な態度は
戦車乗として疑いたくなる人格は
全て、まほさんを引き止めるための潜在的な防衛手段だったのかもしれない…。
884: 2017/06/07(水) 19:47:41.46 ID:d4Q4cJCQ0
エリカ「…私には…やっぱり無理だったんです……」
まほ「エリカ!!?」
赤星「エリカさん…!?」
エリカ「…私は………あなたのように……王者にはなれない……私では…………」
エリカ「………何も無い………」
赤星「そんな…」
まほ「…っ……」
硬い装甲が砕け散った今、彼女の柔らかい本心が剥き出しになった。
その本心は砂で出来た城のように一吹きすれば簡単に崩れてしまうほどに脆い
そして、その砂の城が崩れ去った時
彼女の戦車道が終わる。
エリカ「…私は………ここまでです…………」
まほ・赤星「!!!」
これが、私が望んだ結果…………?
私が憎んだのは仮面を被った女だった。
その仮面が外れた今なお彼女を憎むのか…?
彼女の戦車道の終わりはもうすぐ。
― 私は…私は………知波単学園の…戦車道を…………守れなかったんです……
885: 2017/06/07(水) 19:53:24.00 ID:d4Q4cJCQ0
ヴェニフーキ「西住流」
エリカ「えっ…」
まほ「!」
まほさんを繋ぎ止めること、自身の弱さを克服すること
この2つを見越した上で彼女の戦車道を継ぎ足すためにはこれしかない。
エリカ「にしずみ…流…?」
まほ「………」
ヴェニフーキ「まほさんの戦車道における哲学の源流を辿れば西住流に到達する。…そうですよね?」
まほ「…その通りだ。私の戦車道は西住流そのもの」
ヴェニフーキ「自身の戦車道に迷っておられるなら、西住流の門をくぐってみては?」
まほ「!」
ヴェニフーキ「西住流に名を連ね、そこで心身ともに鍛えれば」
ヴェニフーキ「あなたは"まほさんに"なれる」
エリカ「!? 私が…隊長にですって…!?」
ヴェニフーキ「あとは、まほさん同様、何重にも積み重ねていけば良いだけ」
ヴェニフーキ「まほさんを始め、各校の隊長の皆様がやってきたように…」
私やダージリンがやってきたように。
886: 2017/06/07(水) 19:57:01.52 ID:d4Q4cJCQ0
まほ「彼女の言う通りだ…」
エリカ「た…隊長…?」
まほ「私の考えは西住流にある。故に西住流は私の全てと言っても過言ではない」
まほ「だから、お前が西住竜の門をくぐり、西住流に名を連ねることになれば、たしかに私のようになれる」
まほ「いや…私を超える存在になるかもしれん…」
エリカ「!!!」
まほ「もっともお前の実力はさておき、西住流は私の帰る場所だ。西住流にいれば私がそこにいる」
まほ「お前の本当に目指す先に西住流があるのかもしれん」
エリカ「………」
エリカ「………フッ…フフッ…!」
887: 2017/06/07(水) 20:00:31.35 ID:d4Q4cJCQ0
ヴェニフーキ「…」
エリカ「…ヴェニブーキと言ったわね。その助言、いつか後悔するわよ…!」
ヴェニフーキ「ヴェニブーキでなくくヴェニフーキですが。…何故私が後悔を?」
エリカ「私が西住流で実力をつけた時、今度はあなたが膝をつく番よ…!」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「邪道の分際で良い気にならないことねっ!」
ヴェニフーキ「言ったでしょう。"邪道には邪道の流儀がある"と」
まほ「…」
ヴェニフーキ「ここであなたがグレて黒森峰が"最弱"にでもなったら寝覚めが悪い」
エリカ「なっ…!」
ヴェニフーキ「それに、私は邪道なので、これ以上邪道が増えると居場所がなくなる」
ヴェニフーキ「なので、コッチには来ないでください。しっしっ」
エリカ「ちょっと! イヌみたいに扱わないでよ!!」
ヴェニフーキ「犬の方が可愛げがあります。わんわん」
エリカ「う、うるさいわよ!!」
まほ「………」
ヴェニフーキ「…そういうことですので。次の試合、楽しみにしております。西住流の逸見さん」
まほ「…先程から気になってはいたが」
ヴェニフーキ「はい?」
まほ「何故、あんたは自らを"邪道"と名乗る?」
888: 2017/06/07(水) 20:03:04.83 ID:d4Q4cJCQ0
ヴェニフーキ「…」
まほ「…」
ヴェニフーキ「教えるつもりはありません。邪道は意地悪なんです」
まほ「むっ…」
ヴェニフーキ「ただ、私は誰がなんと言おうとも王道ではありません」
エリカ「…フン。邪道だか外道だか知らないけど、せいぜい"あの時余計なことを言わなければ…"と後悔しないことねっ!」
ヴェニフーキ「実力をつけてから言ってください。ポンコツさん」
エリカ「なぁっ!? ポンコツですってぇ!!?」
赤星「ぽ…」
まほ「ポンコツ…」
ヴェニフーキ「あなたは別に邪道ではないとは言いましたが、かといってまほさんのような王道でもない」
まほ「…確かに、エリカが私の域に達するにはまだまだだな」
エリカ「た、隊長ぉ?!」
ヴェニフーキ「…ともなれば、"普通"になるのでしょうけど、あなたの脇役っぷりを見ると、ポンコツと言った方がしっくり来る」
エリカ「だ、黙りなさい!!」
889: 2017/06/07(水) 20:05:24.30 ID:d4Q4cJCQ0
ヴェニフーキ「次お会いする時までにポンコツから"馬の骨"に昇格することを期待してます」
エリカ「う、馬の骨ですってぇぇぇ!?!?」
ヴェニフーキ「ひひーん」
まほ「ぐっ…!」プルプル
エリカ「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ヴェニフーキ「おお。怖い怖い」
エリカ「次会う時にはギッタンギッタンのメッタメタにしてやる!! 絶っっっ対に覚えてなさい!!」
ヴェニフーキ「こんな古典川柳を知ってます?」
エリカ「な、何よ!?」
ヴェニフーキ「"逃げしなに 覚えて居ろは 負けたやつ"」
オレンジペコ「出典が無いので誰かわかりません…」
エリカ「…」
ワッハッハハハハ!!
赤星「エリカさんにもやっとお友達が出来ましたね」
まほ「ああ。そうだな」
エリカ「あんなの友達なんかじゃありません!」
ヴェニフーキ「そうですね。あなたはお友達じゃなく下僕です。ほらポンコツ、おすわり」
エリカ「げ、下僕ぅ!? ふざけんのも大概にしろッ!!!」
ワッハハハハハハ!!!
890: 2017/06/07(水) 20:09:06.80 ID:d4Q4cJCQ0
まほ「…ヴェニフーキ」
ヴェニフーキ「はい?」
まほ「ありがとう…!」
ヴェニフーキ「…憎まれることはあれど、礼を言われるようなことはしてませんが?」
まほ「何だかんだ言って、あんたはエリカを助けてくれた」
まほ「あのままではエリカの弱点を残したまま卒業することになる」
まほ「それによってエリカが潰れてしまえば黒森峰の崩壊、そしてエリカ自身の戦車道が閉ざされてしまうところだった」
ヴェニフーキ「…」
まほ「エリカもまた、私が育てた黒森峰の一つ。それを生かしてくれたこと、心より感謝する」フカブカ
ヴェニフーキ「…」
ヴェニフーキ「どういたしまして」フカブカ
まほ「…まだ私の引退は先になりそうだが、エリカが前に進めるならば以前のような心配はもうないだろう」
まほ「卒業までの間にエリカをしっかり鍛えることにした。黒森峰として、西住流として」
ヴェニフーキ「そうですね。彼女には戦車道だけでなく人としての礼儀をし っ か り 身に付けさせてあげてください」
ヴェニフーキ「もし不逞な真似をしたら、そこら辺にある木の棒で引っ叩けば言うことを聞きます」
まほ「う、うむ…。考えておこう…」
~~~
893: 2017/06/10(土) 18:32:45.31 ID:xOZKrxzA0
【試合が終わって…】
アッサム「………ヴェニフーキ」
ヴェニフーキ「お説教なら後で聞きます。今はそんな気分ではないので」
アッサム「お説教ではありませんわ。黒森峰の皆さんとあなたのやり取り、聞かせてもらいました」
ヴェニフーキ「…」
アッサム「なんだか、私がまだ聖グロに入ったばかりの頃を思い出しました」
ヴェニフーキ「そうですか」
アッサム「ええ。今以上に傲慢だった私を助けてくれたダージリンみたいでしたわ」
ヴェニフーキ「…」
アッサム「きっと彼女は…逸見さんは、またご自身の戦車道を探して歩み続けると思います」
ヴェニフーキ「そうでないと困ります。私のせいで破落戸にでもなったら面倒ですから」
アッサム「ふふっ。口は悪いけどそういうところはしっかりしてますのね」
ヴェニフーキ「"口は悪い"は余分です」
アッサム「…ただ」
アッサム「あなたは何度も自分のことを邪道邪道と言うけれど」
アッサム「私はそれを否定します」
894: 2017/06/10(土) 18:39:10.67 ID:xOZKrxzA0
ヴェニフーキ「…」
アッサム「確かに、あの場面で試合を降参したことには驚きました」
アッサム「…でも、それはあなたの考えや信念に基づいた判断によるもの」
アッサム「他の生徒はこの降参を不満に思っているけれど、それについては私の方から事情を説明しておきます」
ヴェニフーキ「…それはどうも」
アッサム「…」
アッサム「あなた達はよく似ていますわね」
ヴェニフーキ「はい?」
アッサム「性格は違うかもしれませんが、逸見さんと」
ヴェニフーキ「…」
アッサム「そして、優雅に振る舞う一方で、誰よりも芯の強いダージリンとも…」
ヴェニフーキ「………」
アッサムさんの話を聞いて、病院でダージリンから聞いた話を思い出す。
ダージリン自身も一度戦車道を見失いかけた一人だ。
だけど、そこから這い上がってライバルだったアッサムさんに勝ち、そして挫折しかけたアッサムさんを助けた。
私は逸見さんの事など正直どうでも良いと思っている。
だけどあのやり取りを振り返ってみると、確かにダージリンとアッサムさんとのやり取りに似ている。
歴史は繰り返すものなのかな…。
そして、繰り返しになるけど、逸見さんは別に邪道ではないことがわかった。
でも、だからといって別に王道というわけでもない。
ただの"普通"の戦車道を嗜む一学生にすぎない。
西住流の下で心身ともに鍛えれば、恐らくはまほさんのような王道に近づく者になるだろうから、いずれ自分たちの強敵となる。
結果としては敵に塩を送ったことになるが、このまま彼女が凋落してその戦車道に幕を閉じるのも何か嫌だし、まぁ良いや。
そして、もう一つ試合で………というより、ずっと前から見て見ぬふりをしていたけれど…
私こそ本当の"邪道"だ。
895: 2017/06/10(土) 18:43:08.99 ID:xOZKrxzA0
ヴェニフーキ「………」
アッサム「どうしました? ヴェニフーキ」
ヴェニフーキ「………」
アッサム「?」
まほさんにとっての逸見さんは、自身が積み重ねてきた血と汗の結晶の一欠片だった。
一切の妥協を許さず、一切の邪道を認めず、高みを目指すために今を歩むまほさんが選んだ一人であり、まほさんの一つの成果。
選んだからには自分の代わり、自分の分身として、黒森峰を率いてもらうため持てる全てのノウハウを伝授したに違いない。
自分の思想を継承させるため
ついに手に入れられなかった栄冠を、彼女に獲得してもらうため
そして、
全国最強といわれる黒森峰を率いる者としての責任・重圧によって彼女が潰されないため。
誰にも気づかれないように、誰よりも努力したまほさんの、誰よりも黒森峰や仲間を想う気持ち。
そんなまほさんの全てを注ぎ込んだ結晶が彼女、"逸見エリカ"だった。
896: 2017/06/10(土) 18:47:07.49 ID:xOZKrxzA0
それを西絹代という聖グロの皮を被った邪道は、まほさんが築いた後継者を、まほさんの努力の結晶を軽々と砕いた。
私が憎んだ"逸見エリカ像"の正体は私自身だった。
ダージリンが汗水流して築いてきたもの蹂躙した反・聖グロ派と全く同じことを私がしていた。
邪道を憎んだ私はもう西絹代とは名乗らなくなった。
名前を捨て、姿を偽り、聖グロに潜んで聖グロを内部から腐食させる邪道になったから。
反・聖グロ派の弱体化工作を阻止しようと聖グロへ潜入したのに、やってることは連中と全く同じ。同じ穴の狢。
そして聖グロだけに飽き足らず、今度はまほさんが築いたものまで破壊しようとした。
行く先々で何かを腐敗させてる。まるで疫病のように。
これを邪道と呼ばず何と呼べばいいのか。
王道にあこがれていた私は、いつのまにか邪道を突き進んでいた。
ヴェニフーキと名乗った瞬間から、私の道は邪道一本だった。
897: 2017/06/10(土) 18:49:07.82 ID:xOZKrxzA0
アッサム「べ、ヴェニフーキ? どこへ行くの?!」
ヴェニフーキ「先に学園艦へ戻っててください。…一人になりたい」
アッサム「で、ですが…」
ヴェニフーキ「私のことなんて気にしないで下さい」
アッサム「………わかりました。あまり遅くならないように」
ヴェニフーキ「…」
ヴェニフーキと名乗ってから時間が経つにつれ、私の中の汚いものがどんどん膨れ上がっていく。
知波単学園を捨てたこと
仲間を捨てたこと
名前を偽っていること
姿を偽っていること
聖グロの皆を騙していること
プラウダやサンダースの皆さんを騙したこと
聖グロの戦車道を腐らせていること
まほさんの戦車道を崩そうとしたこと
逸見エリカを奈落の底へ叩き落とそうとしたこと
ダージリンを助けられないこと
ダージリンへの恩を返せないままでいること。
私は誰にも姿を明かすことはできない。
だから誰にも何も話せない。
問題が解決するまで私の中で溜まる汚物は吐き出されることなく増えていく。
また、薬が欲しくなる。
~~~
898: 2017/06/10(土) 18:50:41.54 ID:xOZKrxzA0
「アンタ、まだいたのね…」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「何こんなところで黄昏てんのよ。カッコつけてるつもりかしら?」
ヴェニフーキ「"ご主人様"たちと一緒だったのでは?」
エリカ「…隊長達には先に帰ってもらったわ」
ヴェニフーキ「あなたも愛する隊長と一緒に帰れば良かったのに」
エリカ「余計なお世話よ」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「…どうしてもアンタに聞きたいことがあるのよ」
ヴェニフーキ「あなたに話すことなど何もない」
エリカ「…どうして、知波単学園の西絹代がヴェニフーキなんて名乗って聖グロにいるのよ?」
ヴェニフーキ「言ったはず。あなたには関係ないと」
エリカ「偵察をするにしたら随分大規模だし、アンタの顔を見てると偵察以上に深刻そうな物が見える」
ヴェニフーキ「…」
899: 2017/06/10(土) 18:51:50.84 ID:xOZKrxzA0
ヴェニフーキ「あなたに言えることは」
ヴェニフーキ「余計な詮索はするな、そして口外するな。…それだけ」
エリカ「っ…」
ヴェニフーキ「もしも他の人が私の正体を特定したら、私は真っ先にあなたを疑います」
ヴェニフーキ「…その時はきっと」
西絹代「あなたを相当酷い目に遭わすでしょうね?」ギロッ
エリカ「うっ…」
ヴェニフーキ「…さっさと帰ってください」
エリカ「あ、アンタは何のために戦ってんのよ?!」
ヴェニフーキ「自己満足、ですよ」
エリカ「………」
"愛する人を守るため"なんて言えるはずがなかった。
私はダージリンのために戦っている。それは確か。
…だけど、私の戦いが本当にダージリンの為にになっているかはわからない。
それどころか
900: 2017/06/10(土) 18:53:52.66 ID:xOZKrxzA0
エリカ「…質問を変えるわよ」
ヴェニフーキ「しつこいですね。まほさんに嫌われますよ?」
エリカ「大きなお世話よ。…あの突撃馬鹿だったアンタがどうして聖グロに勝ったり、みほに助言出来たり、私に、………そこまで強くなれたの?」
エリカ「何がアンタをそこまで強くさせたの?」
ヴェニフーキ「まほさんやみほさんと同じ」
エリカ「隊長やみほと?」
ヴェニフーキ「戦わないといけない理由があった。勝たないといけない理由があった」
ヴェニフーキ「…それだけ」
エリカ「………」
ヴェニフーキ「もう満足ですか? 用がないのならどうぞお引き取りを」
エリカ「…」サッ
ヴェニフーキ「…」
エリカ「連絡先。交換しなさい」
ヴェニフーキ「あなたと何を連絡しろと?」
エリカ「…アンタって融通の聞かない女ね」
ヴェニフーキ「何とでも言って下さい」
エリカ「アンタは私が倒す邪道よ。そんじょそこらでヘコタレてもらっては困るわ」
ヴェニフーキ「…」
エリカ「…」
ヴェニフーキ「…仕方ない」
901: 2017/06/10(土) 18:55:37.02 ID:xOZKrxzA0
エリカ「最初からそうすれば良いのよ。頑固ね」
ヴェニフーキ「下着みたいに隊長様にピッタリ張り付く誰かさんには言われる筋合いはありません」
エリカ「なっ…!」
ヴェニフーキ「いや、あなたのことだから下着をごそっと盗んで…」
エリカ「ンなことするわけないでしょうがっ!!」
ヴェニフーキ「…でも、まほさんのことを想って夜な夜な自室で一人…」
エリカ「何で知っ、あ゛っ!!」
ヴェニフーキ「…ポンコツ」
エリカ「い、今のは誰にも言うんじゃないわよ! 言ったら頃すからねッ!!」
ヴェニフーキ「好きな人を想って劣情を催すことは誰にでもあることですけど?」
エリカ「大きなお世話よ!!」
ヴェニフーキ「やれやれ」
腐れ縁というのか、犬猿の仲というのか。
逸見さんと連絡先を交換した。
…一体、何を連絡すれば良いんだ。
路上に落ちてる犬のフンでも撮影して送りつけてやるか…?
~~~
902: 2017/06/10(土) 18:58:21.03 ID:xOZKrxzA0
逸見さんが帰ってからも、私はひとり高台で連絡船が聖グロ学園艦へ向かうのをぼうっと眺めていた。
日が沈みかけ、涼しい風から肌寒い風へと変わる。
もうすぐ冬がやってくる。
私は"ヴェニフーキ"を演じて、人の血と汗の結晶を砕こうとした。
無鉄砲な憎悪が祟り、余計な真似をした。
考えなしに突っ込んでバカを見る。そして多くの人に不快な思いをさせる。
…振り返ってみると私はエキシビションマッチ戦の時から何一つ変わってない。
そうした現実から逃げるように、姿と名前だけ偽ってまた暴走する。
走れば走るほど、王道とは真逆の道を進み続ける。
邪道を走れば王道に近づけるのかな…?
「ヴェニフーキさん」
…そう思ったら今度は別の人が私を呼ぶ。
誰とも関わりたくない時に限って色んな人と出会ってしまう…。
903: 2017/06/10(土) 19:00:41.52 ID:xOZKrxzA0
ヴェニフーキ「………今日はカチューシャさんはいないのですね?」
ノンナ「同志カチューシャは試合後にお休みになられたので、部下のクラーラに任せています」
ヴェニフーキ「退屈な試合をお見せして申し訳ないです」
ノンナ「いいえ。あなたの戦術は我々プラウダの包囲戦とも似通っており、大変参考になりました」
ヴェニフーキ「…。ご用件は?」
ノンナ「少し、お話がしたいと思いまして」
ヴェニフーキ「申し訳ありません。今は一人で居たい」
ノンナ「…。非礼を承知ですが、先程の逸見さんとの会話、聞かせてもらいました」
ヴェニフーキ「…あなたのような方も盗み聞きをなさるんですね?」
ノンナ「自分でも何故このような事をしたか、我を疑いたくなります」
ノンナ「…ですが、あなたの事が気になり、我を忘れてしまいました」
ヴェニフーキ「…」
ノンナ「………あなただったのですね。絹代さん」
ヴェニフーキ「…」
ノンナ「病院の前で"水飴"の話をした日が遠い昔のように思えます」
ヴェニフーキ「意外ですね」
904: 2017/06/10(土) 19:04:13.73 ID:xOZKrxzA0
ノンナ「意外?」
ヴェニフーキ「私があなたの前に現れた時には既に、正体がバレていると思っていました」
ヴェニフーキ「事を察して下さった為、あえて公言しなかったものと」
ノンナ「私にそこまで優れた洞察力はありません」
ヴェニフーキ「…」
ノンナ「…突撃が全てといっても過言ではないあなたに、練習試合でヴェニフーキと名乗ったあなたに、私のIS-2を撃破されたことは今でも驚いてます」
ノンナ「その上、ヴェニフーキの正体が絹代さんだったと知ってなお」
ヴェニフーキ「…」
ノンナ「そして、何より…」
ノンナ「明朗快活なあなたが豹変して、悲しい目をするようになったことが…ショックでした…」
ヴェニフーキ「…」
ノンナ「昔のあなたを知っているからこそ、あなたの豹変がにわかに信じがたいです」
ノンナ「今でもヴェニフーキという方は、絹代さんとは別人なのではと半信半疑なほどに」
ヴェニフーキ「…きっと、"ヴェニフーキは"別の何かだと思います。これが私の本性ですよ」
ノンナ「…」
905: 2017/06/10(土) 19:06:58.94 ID:xOZKrxzA0
ヴェニフーキ「私は姿や名前を偽って、あなたやカチューシャさんを騙した」
ヴェニフーキ「…いや、今も騙し続けてる」
ヴェニフーキ「私があなたの立場だったら…家族のように信頼を寄せるパートナーが騙されたら、間違いなく激昂するでしょう…」
ノンナ「それは止むに止まれぬ事情があったから、そうせざるを得なかったのでしょう」
ノンナ「あなたの"ただならぬ"豹変が、それを語っています」
ヴェニフーキ「…」
ノンナ「あなたが、何を抱えているのかはわかりません」
ノンナ「ですが、カチューシャへの恩もありますし、私の個人的なこともあります」
ノンナ「どうか、あなたのお力になりたい…」
ヴェニフーキ「…」
ノンナ「…」
ヴェニフーキ「…でしたら」
ノンナ「はい」
ヴェニフーキ「この事は忘れてください」
906: 2017/06/10(土) 19:10:29.67 ID:xOZKrxzA0
ノンナ「っ…!」
ヴェニフーキ「…それが、最高の"助け"です」
ノンナ「…」
ヴェニフーキ「これは私だけの戦いです。第三者を巻き込みたくはない」
ヴェニフーキ「なので、私は自分がこうしている理由を、第三者に話すことは無いですし、助けを乞うこともありません」
ノンナ「人間一人が出来ることは限られています」
ヴェニフーキ「それでも、自分の力で何とかする。無理ならそれまで。……そう思っています」
ノンナ「…」
ヴェニフーキ「…だから、忘れて下さい。私のことも、西絹代のことも」
ノンナ「それは不可能です」
ヴェニフーキ「何故?」
ノンナ「…あなたを見ていると」
ノンナ「まるで、自分が捨てられているような気分になるのです」
ヴェニフーキ「……。気のせいですよ。私は薄汚い生ゴミです。あなたのような人格者とは比較にならない」
ノンナ「いえ。立派だとか下賤だというものは関係ありません。これは私の本能がそう語りかけるのです」
ヴェニフーキ「…」
907: 2017/06/10(土) 19:23:28.56 ID:xOZKrxzA0
ノンナ「私が今、あなたの力となれなかったならば…」
ノンナ「氏ぬ間際まで後悔し続けることになる」
ヴェニフーキ「…」
ノンナ「私に、出来ることはありますか?」
ヴェニフーキ「………」
ノンナ「ここでは何ですから、プラウダに行きませんか?」
ノンナ「そこでゆっくり、話し合いましょう」
ヴェニフーキ「私は英語がてんで駄目ですので、ロシア語は尚さらです」
ノンナ「ふふ。構いませんよ。モスクワは一挙に建設されたのではありません」
ノンナ「少しずつ、打ち解け合いましょう…」スッ
ピタッ
ヴェニフーキ「っ…!」
ノンナ「あなたは様々な悩みを抱えておられる方…」
ノンナ「ですが、鷹のような鋭い瞳の奥には」
ノンア「屈強な戦士が持つ固い意思と、聖母のような優しい温もりを感じます」
ヴェニフーキ「ノンナさん…?」
ノンナ「絹代さん………Любо
「あら? 東側からのスカウトかしら?」
908: 2017/06/10(土) 19:31:03.31 ID:xOZKrxzA0
ノンナ「!」
ヴェニフーキ「…」
アールグレイ「Prynhawn da. Ms. Comiwnyddion」
ノンナ「…Добрый вечер. …Капитализма?」
アールグレイ「自己紹介が遅れましたわ。聖グ口リアーナ女学院・OGのアールグレイと申します」
ノンナ「プラウダ高校のノンナです。OG…ですか」
アールグレイ「他校の生徒さんが我が校の生徒に"お声"をかけているようで?」
ノンナ「彼女が、ヴェニフーキさんが悩んでおられるので、手を差し伸べた次第です」
アールグレイ「お力添え感謝致します。…ですが、これは我が校の問題でしてよ?」
アールグレイ「他所様が介入すべき事柄ではありませんわ」
ノンナ「学校の違いなど些細なことです。目の前に困った仲間がいるのに助けない理由はありません」
ヴェニフーキ「…」
アールグレイ「素晴らしいお心がけですわ。我が校の規範にしたい程に」
アールグレイ「…ですが、やはり"境界線"は明確にしておかなければなりませんわ」
アールグレイ「"行く場所進む場所が自分の領域"というわけにはいきませんもの」
ノンナ「"部屋で縮こまっているだけ"では問題は解決しません。悪化するだけです」
アールグレイ「そのお部屋に連れ込もうとした理由は?」
ノンナ「先程述べた通りです」
アールグレイ「そう。困った仲間に手を差し伸べる…ね?」
ノンナ「ええ」
アールグレイ「そんな心優しい人が」
アールグレイ「どうのようにして猛禽類のような目をするものでしょう?」
909: 2017/06/10(土) 19:34:28.48 ID:xOZKrxzA0
ノンナ「何の事でしょう…?」
アールグレイ「…フフッ」
ノンナ「何が可笑しいのですか?」
アールグレイ「ヴェニフーキ。向こうに車を置いてあるから先に行ってなさい」
ヴェニフーキ「…かしこまりました」
スタスタ....
ノンナ「べ…絹代さん…!」
...ピタッ
ノンナ「っ…」
西「ありがとうございます。ノンナさん」
ノンナ「絹代さん……どうして…?」
西「…私には、やらないといけない事があるんです」
西「その為に、他人も自分も騙さないといけない」
西「…だから、この事は無かったことにしてください」
ノンナ「あなたには学校も仲間もいます…だから…!」
西「お願いします!」
ノンナ「ぐっ…!」
西「…ノンナさんにはカチューシャさんがいらっしゃいます。大切な人…ですよね?」
ノンナ「カチューシャは私の大切な同志です! そして絹代さん! あなたも大切な
ヴェニフーキ「お先に行っております。アールグレイ様」
ノンナ「ぁ…ぁ………!」
アールグレイ「こういうことなの。御免なさいね?」
ノンナ「う…嘘だ……」
アールグレイ「いい事を教えてあげる」
アールグレイ「あの子、もう"大人"なの」ニコッ
910: 2017/06/10(土) 19:44:24.96 ID:xOZKrxzA0
ノンナ「!!!」
アールグレイ「ふふっ。もう恋に恋する乙女では無いし、他人(ひと)の身体の味も知っている」
アールグレイ「どこを舐めたら相手が悦ぶかを知ってるし」
アールグレイ「快楽の蕾がほころびる様子をまじまじと眺める人がいる」
アールグレイ「あの子の牝の顔を知る人がいる」
ノンナ「…ッ……!!」
アールグレイ「それにね?」
アールグレイ「あの子の身体には、もう別の人の血が流れているのよ」フフッ
ノンナ「…なっ!!」
アールグレイ「…あらあらいけない。私としたことがつい話し込んでしまいましたわ」
ノンナ「…外道め……!」
アールグレイ「あの子も最初そんな顔をしていたわ」
アールグレイ「怒りで何もかも焼き尽くしちゃいそうな顔」
アールグレイ「そんなあの子が私に助けを求めたから、私はあの子に協力することにした」
ノンナ「これは協力なんかじゃない! 奴隷ですッ!!」
アールグレイ「解釈は人それぞれですわ。それでは、御機嫌よう」
ノンナ「……ぐ…っ…………」
913: 2017/06/12(月) 19:55:53.46 ID:w3WCBNpe0
~~~~
【車の中】
ガチャ バタン
アールグレイ「お待たせ。それじゃ行きましょうか」
ヴェニフーキ「…」
アールグレイ「どうしたの?」
西/ヴェニフーキ「あそこまで言う必要ってあったんですか?」
アールグレイ「聞いていたのねこの子ったら…」
西「ええ」
アールグレイ「この事を知られると困るのよ。だから」
西「だからといって、わざわざアールグレイさんが"悪役"になる理由は無いのでは?」
アールグレイ「あらら。見抜かれちゃったわね」
西「わかりますよ。どうせアールグレイさんのことだから」
西「"絹代さんはOG会に縛られ、服従を余儀無くされている…"」
西「…そういう印象をノンナさんに与え、私への意識を逸らそうとしたのだろうと」
アールグレイ「協力してもらう以上、お仕事が終わったあとの生活を保証するのが筋よ?」
アールグレイ「あなたの言葉を借りるなら…」
アールグレイ「"邪道には邪道の流儀がある"ってね?」
914: 2017/06/12(月) 20:29:32.27 ID:w3WCBNpe0
西「…」
アールグレイ「これで良いのよ」
西「それであなたが全部抱え込んで
アールグレイ「それがこの件に対する私の責任と覚悟」
西「…」
アールグレイ「やってる事がやってる事ですもの。綺麗事で済む話なんてそうないわ」
西「…」
アールグレイ「それに、あなたは"愛する人"を守るために戦うのだから、他の人がどうこうなんて言ってたら嫉妬されるわよ?」
西「…ダージリンは?」
アールグレイ「自宅よ」
西「…」
アールグレイ「人は誰しも孤独なの。王道を進もうが、邪道になろうが」
西「…わかってますよ。そんなことくらい」
アールグレイ「それでもあなたのように悩むのだから、人間が優れた生き物だってわかるわね」
西「私としては悩みたく無いですけどね…」
アールグレイ「それで良いのよ。何とも思わなくなってしまったらそれこそ人間じゃなくなってしまう」
西「…」
アールグレイ「…でも、確かにそういった私情は"良い仕事"の妨げになるわ」
アールグレイ「だから、悩みを忘れるためには」
西「仕事に集中しろ、でしょう?」
915: 2017/06/12(月) 20:32:50.03 ID:w3WCBNpe0
アールグレイ「そうよ。ちゃんとわかってるじゃない」
西「…また、何か新しいことでも?」
アールグレイ「ええ。…ダージリンのお家に着くまでには終わる内容よ」
西「…」
アールグレイ「あなたがこの間設置した盗聴器、覚えてる?」
西「ええ。何か拾ったんです?」
アールグレイ「当たり。しっかり会話が録音されてたわよ」
西「どんな会話ですか?」
アールグレイ「慌てない。今聞かせてあげる」
カチッ
ザーー
『ご苦労様です。グリーン、そして皆さん』
『お疲れ様です。アッサム隊長』
『何か飲みますか。…といってもあなた達はコーヒーでしたわね』
『ええ。いつもすいません』
『良いわよ。ちょうどコーヒー豆が余ってたので』ゴソッ
『そのコーヒー、なかなか美味しいんですよね。こう、芳醇な香りといい、濃厚なとろみといい…』
『私は紅茶の方が好きですわ』
『あはは。私たちぐらいですからね。紅茶でなくコーヒーを好んで飲むのは』
『ふふ。好みもまた個性でしてよ』
西「! この声…」
アールグレイ「アッサムとGI6よ」
916: 2017/06/12(月) 20:38:48.87 ID:w3WCBNpe0
アッサム『…それで、何か掴めましたの?』
グリーン『我々はブラックプリンス乗員として、彼女の動向を観察していましたが』
グリーン『先日の知波単学園との練習試合時に言った"聖グロを変える"という言葉。それが気になります』
アッサム『…』
西「私がアッサムさんが白か黒かを判断するために言ったやつですね」
アールグレイ「ええ。見事に議題に上がってるわ」
アッサム『あの子の"変える"が何を意味するかはわかりません』
アッサム『…しかし、行動を見ると、必ずしもそれが悪いとは思えませんでした』
グリーン『ええ…。寡黙な方かと思いきや、言う時は刀で一刀両断するかのようにバッサリと言い切りますね』
ランサム『何を考えているのかわかりませんが、一定の理念に基いての行動に見えます』
モーム『筋は通っています』
フレミング『私も皆さんに同意です』
西「…モームさんって喋るんですね」
アールグレイ「喋るわよ?」
西「私がいる時は一言もしゃべらないのに…」
アールグレイ「それはお気の毒様」
西「なんかちょっと悲しいです」
アッサム『あなた達も異口同音に語るように、あの子、ヴェニフーキの考えは私もわかりません』
アッサム『…ですが、私はあの子が悪い子だとは思いません』
西「………」
アールグレイ「良かったわね。あなたの予想が的中よ」
西「ええ」
917: 2017/06/12(月) 20:47:08.46 ID:w3WCBNpe0
アッサム『あの子は確かに無口ですし表情もほとんど変えない』
アッサム『一方で何かを言う時はバッサリと言う。笑えないジョークも含めて』
グリーン『あはは。たしかに彼女のジョークは笑えないものが多いですね』
ランサム『おかげで密閉された戦車内が涼しくなります』
モーム『ちょっと寒いくらいです』
アハハハハハ!
西「…今度会ったら17ポンドの的にしてやる」ワナワナ
アールグレイ「やめなさい」
西「何がGI6だ! "愚痴タレ陰湿シックス"にでも改名しろばーか!!」
アッサム『考えは読めないけれど、その行動からは堅牢なる意思を感じます』
グリーン『同意です。一定の信念に基づいた行動だと見ています。その信念が何なのかはさておき』
アッサム『だからこそ気になるのです。あの子が何故あんな悲しい顔をするのか』
アッサム『何故、OG会とやり取りをするのか』
アッサム『何故、自らを邪道などと呼ぶのか………』
GI6『……』
西「こんな事やってるわけですからね。邪道と呼ばない方がおかしい」
アールグレイ「私からするとあなたの邪道なんて甘っちょろいわ」
西「アールグレイさんは邪道というより助平ですからね」
アールグレイ「拳が届く距離でよく言えるわね…」
西「事故を起こしては困るので片手運転はご遠慮ください」
アールグレイ「言ってくれるじゃない」
西「…」
918: 2017/06/12(月) 20:50:38.07 ID:w3WCBNpe0
アールグレイ「これで、アッサム達がどちら側なのかがわかったわね」
西「ええ。盗聴器さまさまです」
アールグレイ「ただ、アッサムが反・聖グロ派じゃないとわかったことで問題が増えたのよ」
西「…ええ、結局は"誰が内通者か"がわからなくなってしまったわけですからね」
アールグレイ「それもそうだけど、その問題というのがこの先のやり取り」
西「ん…」
グリーン『………わかりました』
アッサム『えっ?』
グリーン『彼女が邪道を名乗るのなら、我々も邪道として、その真意を探りましょう』
アッサム『どういうことですの…?』
グリーン『彼女の部屋に盗聴器を仕掛けます』
アッサム『!! グリーン! そのような事をしてはなりません!』
グリーン『自分が何をやっているかは重々承知しています』
グリーン『…ですが、これも聖グロの為。前隊長のような事はもう二度と起きて欲しくないので』
アッサム『だ、だからといって盗聴だなんて許しませんわ!』
グリーン『これは私たちのGI6としての信念です』
アッサム『うっ…』
グリーン『問題がなければ速やかに撤去します。我々が知るべきことは、彼女が白か黒かだけです』
アッサム『…』
グリーン『これは私がGI6の部長として、この問題を解決するための戦いでもあるんです…どうか』
アッサム『………わかりました』
グリーン『ご理解感謝いたします』
西「!!」
アールグレイ「今のやり取りが何を意味するかはわかったわね?」
西「ええ…」
西「盗聴器を仕掛けたのはGI6じゃなかった…」
919: 2017/06/12(月) 20:56:04.63 ID:w3WCBNpe0
アールグレイ「そうよ。アッサムやGI6とは別の誰かが、あなたのことを探ろうとしている」
西「…結局、敵が増えただけでしたね………」
アールグレイ「違うわ。前に進んだから別の壁が見えただけ」
アールグレイ「決して停滞しているわけではない」
西「そうでしょうか…」
アールグレイ「ひとまず、アッサムが"内通者"じゃないことがこれでわかった」
アールグレイ「だから、アッサムやGI6を味方につけなさい」
アールグレイ「それだけであなたは有利になれるわ」
西「そうですね」
アールグレイ「ただし、ヴェニフーキとして」
西「…ですよね」
アールグレイ「当たり前じゃない」
西「なんだかモヤモヤした気分です」
アールグレイ「汚い例えね…」
~
アールグレイ「…さて、着いたわよ」
西「ええ。ありがとうございます」
アールグレイ「さっき言ったことは忘れないで頂戴。あと、ちゃんと回収するのも忘れないで」
西「わかってますよ」
アールグレイ「それじゃ、ご機嫌よう」
ブロロロロロロ.....
最初からアッサムさんは白だとわかってた。
それは今日までの彼女の言動を見ればだいたい予想できる。
ただ、"白である"ということを裏付ける証拠が無かったから今日まで疑っていた。
これでようやくアッサムさんやGI6の面々に対し疑心暗鬼にならずに済みそうだ。
そう考えるとたしかに一歩だけ前に進んだと思う。ほんとに一歩だけど。
問題はやはり"じゃぁ犯人は誰なのか"にある。
わざわざ盗聴器まで仕掛けるような人だ…。
~~~
921: 2017/06/13(火) 19:28:34.50 ID:sPC1ktF60
【ダージリンの家】
西「ただいま。ダージリン」
ダージリン「お帰りなさい。あなた」
西「ふぅ…」
ダージリン「お疲れ様。本当に、ありがとう」
西「どう致しましてでございます。無事にダージリンの尊厳を守れて良かったですよ」
ダージリン「あなたが"降参"って言った瞬間、心臓が止まるかと思うくらい嬉しかったわ」
西「あはは」
ダージリン「もちろん、負けたことにじゃなく、私の考えを理解してくれたってことよ?」
西「わかってますよ」
ダージリン「ふふっ。ありがとう絹代さん。愛してる」ギュッ
西「私も氏ぬほど愛してますよ」
ダージリン「…氏んだら嫌よ」
西「あはは」ソワソワ
ダージリン「どうしたの?」
西「その…ダージリニウムが切れ掛かってきたので…」ギュー..
ダージリン「何よダージリウムって」
西「私の燃料です」
ダージリン「そう。じゃぁ私はニシニウムを補充しますわね」フフッ
西「キヌニウムにしてくださいよそこは」
ダージリン「はいはい」フフッ
~~~
922: 2017/06/13(火) 19:31:40.34 ID:sPC1ktF60
西「…ってことがありました」
ダージリン「やっぱり、アッサムは共謀者ではなかったのね…」
西「ええ。あの人は頭は良さそうですけど、悪さをする度胸というものは無さそうですし」
西「戦車道通じてやり取りしていたら、『ああ、この人じゃないな』ってわかったんです」
ダージリン「そう?」
西「ええ。それを"確定"させるための"もうひと押し"が無かったので、アールグレイさんから借りた盗聴器を隊長室に仕掛けました」
ダージリン「そんなことまでしたの…?」
西「私も驚きましたよ。そこまでするのかと」
西「…まあでも、その結果アッサムさんやGI6の面々は内通者ではないと分かったんですよね」
ダージリン「そうなると…」
西「ええ。"犯人は他にいる!"ってやつですね…」
西「私の部屋にご丁寧に盗聴器まで仕掛けちゃう犯人が…」
ダージリン「ええっ!?」
西「わっ!?」
ダージリン「あなた盗聴されてたの!?」
西「あれ? 言いませんでしたっけ?」
ダージリン「言ってないわよそんなこと一言も!」
西「あれぇ…そうでしたかな…」
ダージリン「それでどうなったのよ!?」
923: 2017/06/13(火) 19:35:06.75 ID:sPC1ktF60
西「そのままアールグレイさんの指示のもと、ジャケットごとクリーニングに」
西「きっと今ごろ洗濯機のなかでモミクチャになってるでしょう」
ダージリン「………」
西「なので、盗聴器と一緒に探知機も貸して貰ったんです。ほら」
ダージリン「…古い携帯電話みたいね」
西「ええ。曰くこういう形の方が怪しまれないと」
ダージリン「確かに」プイッ
西「…怒ってるんですか」
ダージリン「別に」
西「怒ってるじゃないですか…」
ダージリン「あなたにじゃなく、犯人に」
西「…」
ダージリン「人様の恋人のプライベートを盗聴するだなんて最低よ」
西「そうですね。とんだ助平です」
ツンツン
ダージリン「って何やってるのよ助平」
西「あはは。ダージリンの身体に当てたら何か出てこないかなぁ~って」
ダージリン「…何も出てくるわけ無いでしょう」
西「あはは」ツンツン
ダージリン「胸をつつかないで下さるかしら」
西「良い弾力です」ツンツン
ペシッ!
西「いだっ!」
ダージリン「バカなことしないの。壊れたらどうするのよ」
西「むぅ」
ダージリン「………ほら」ギュッ
924: 2017/06/13(火) 19:36:31.49 ID:sPC1ktF60
西「ん…」
ダージリン「どうせ、あなたのことだから」
西「…む。人を性欲の塊みたいに言わないでください」
ダージリン「違うのかしら? 会うたびに必ず裸にされるけれど?」
西「…」
シュルル
パサッ
ダージリン「ふふっ…」
西「…ダージリンのばか」
ダージリン「はいはい」
西「っぅ…ど…何処に指入れてるんですか…!」
ダージリン「あなたがこの間私にしたことを真似してるだけよ?」
西「ぐぅ…」
ダージリン「まさか、あなたがお尻に指を入れちゃうなんて思わなかったもの」フフッ
西「…っ…私は……中には入れて……ぅぁ………」
ダージリン「………気持ちいい?」ボソッ
西「………変な……気分です……」
ダージリン「そう。…だいぶ柔らかくなってきたわね? もっと入るかしら?」
西「!? っぅ…あぁぁ……だ、だめ………!」
ダージリン「んふふっ…絹代さん…」
西「…あぁぁ……!」
ダージリン「だ・い・す・き」ボソッ
………その後のことはよく覚えていない。
~~~
925: 2017/06/13(火) 19:38:49.18 ID:sPC1ktF60
西「………」
ダージリン「うふふっ。気持ち良かった♥」
西「あは…は…し、氏ぬかと思いました…」ハァ..ハァ...
ダージリン「絹代さん、ずっとあんあん喘いでいたものね」
西「え…」
ダージリン「覚えていないの?」
西「え、ええ…」
ダージリン「そう…。虚ろな目をして涎を垂らしながら」
西「え…?」
ダージリン「"中じゃなきゃ嫌…"とか」
ダージリン「"ダージリンの赤ちゃん産ませて……"とか」
ダージリン「言ってたのよ? 絹代さん♥」ウフフ
西「…」
西「はぁぁ!!?」
ダージリン「うふふ♥」
西「そんなの嘘に決まってます。私がそんな事言うなんてありえない」
ダージリン「あまりに可愛かったから録音しちゃったわ♪」
西「え」
ダージリン「あなたの持ってるボイスレコーダーで♪」
西「え、え」
カチッ
『あぁんっ……ぁぁぁ……!』
西「なっ!!?」
ダージリン「ふふっ♪」
926: 2017/06/13(火) 19:40:52.28 ID:sPC1ktF60
『だーじりん…お願い………もっと……』
『……嫌です……ダージリンのじゃなきゃ嫌ぁ………』
『おねがい……ダージリン……ダージリン………ぁぁぁぁ………!』
ダージリン「ふふふっ。私だけが知ってる"乙女"な絹代さんねっ♪」
西「」
ダージリン「どうして絹代さんはこんなにも可愛いのかしら」ウフフフフ
西「う」
ダージリン「う?」
西「うわあああああああああああああああああ!!!」
バサッ!!!
ダージリン「ちょ、ちょっと! 布団に包まらないで出てきなさい!」
西(布団)『嫌です! もう絶対ここから出ません!!』
ダージリン「そんな引きこもりみたいなこと言わないの」
西(布団)『引きこもりでも何でもいいです! も、もう恥ずかしくてダージリンの顔見れない………』
あ、あ…あんなこと言ってたのか私は!?
たしかにその…気持ちよかっ…いや、そうじゃなくてっ!!
うわああああああもうダージリンの顔見れない!!
うわあああああああああああああん!!!!
927: 2017/06/13(火) 19:44:17.24 ID:sPC1ktF60
ダージリン「そんなに落ち込むことないわよ」
西(布団)『そりゃ聞く方はそう言えますよ。私は…私は…うぁぁぁぁん!!』ゴロゴロ
ダージリン「ちょっと転がらないの…ってそっちは…」
ドテッ!
西「うがっ!?」
ダージリン「だから言ったのに…」
西「うぅ…」ヒリヒリ
ダージリン「ほら。いつまでもしょげてないで起きなさい」
西「…誰にも言いませんか?」ジトー
ダージリン「言うわけ無いでしょう」
西「…何故そう言い切れるんです?」
ダージリン「自分の性行為を他人に話す恥知らずが何処にいるのかしら?」
西「…」
ダージリン「…怒るわよ?」
西「まだ何も言ってないじゃないですか」
ダージリン「それにね? "乙女"な絹代さんは私だけのものにしたいの」ウフフ
西「む…」
ダージリン「ほら、だから早く起き上がりなさい」
西「恥ずかしくて氏にそうです。いや、いっそ頃してください…」
ダージリン「私を人頃しにしないで頂戴」
西「む…」
928: 2017/06/13(火) 19:51:08.15 ID:sPC1ktF60
ダージリン「心と身体を快楽に支配されたら誰だってあんな風になってしまうものなのよ?」
西「…ダージリンもですか?」
ダージリン「ええ。絹代さんが欲しくておねだりしちゃうわ」フフッ
ダージリン「"絹代さん、私のモノになって…"ってね?」
西「…私の何が欲しいのです?」
ダージリン「全部よ?」
西「…なら全部食べてください。肉も腸(はらわた)も骨も残さずボリボリと。余生はダージリンの栄養となって過ごしますので」
ダージリン「怖いこと言わないで頂戴」
西「ははは……」チラッ
西「……ん?」
ダージリン「?」
西「あんなのありましたっけ?」
ダージリン「えっ? …これかしら?」スッ
西「ええ。前来た時には無かったような…」
ダージリン「西グロの方から頂いたのよ。このベレー帽」
西「西グロから?」
ダージリン「ええ。だけど私は被り物はちょっと…」
西「そうなんですか」
929: 2017/06/13(火) 19:54:35.28 ID:sPC1ktF60
ダージリン「…」ヒョイ
ポフッ
西「んっ、」
ダージリン「ふふ。私よりもあなたの方がずっと似合うわ」
西「…そうですか?」
ダージリン「ええ。白銀の髪とマッチしているわよ。気に入ったらその帽子あなたにあげるわよ」
西「…でも、元はダージリンへとプレゼントされたものでは?」
ダージリン「そうだけれど…。被ってくれる人が使う方が帽子もきっと喜ぶと思うの」
西「ふむ…。ではではこれを被って聖グロに行きませう」
ダージリン「ふふっ。良いと思うわよ」
西「有難く頂戴します」
ダージリン「でも、お部屋の中で被るのはマナー違反ですわよ?」
西「心得ております」
…ということで、ダージリンから帽子をもらった。
柔らかくて平らで丸い帽子だ。ダージリン曰く"アーミーベレー"と呼ぶそうだ。
真っ黒な帽子だけど、楕円形で琥珀色の徽章がついている。
被った姿を鏡で見てみた。悪くはない…と思う。多分
~~~
931: 2017/06/15(木) 22:45:26.28 ID:qLKCdNm70
ダージリン「って、絹代さん!」
西「ど、どうしました?」
ダージリン「首!」
西「え、クビ?」
ダージリン「前より酷くなってるじゃない!」
西「そうですか?」
ダージリン「そうよ! 掻いちゃ駄目って言ったのに!」
西「…」
全く気づかなかったけど、首筋がボロボロになってる。
…おかしいな。掻き毟ってなんかいないはずなのに。
寝ているときに無意識に掻いちゃってるのかな…???
932: 2017/06/15(木) 22:46:38.97 ID:qLKCdNm70
ダージリン「ほら、動かない」ヌリヌリ
西「ん…」
ダージリン「全くもう。痒いなら掻かないでお薬を塗りなさい」
西「…そうします」
ダージリン「はいこれ。あなたにあげるから、定期的に塗っておきなさい」サッ
西「恐縮です…あ」
ポロッ コロコロ....
西「っ…」
ダージリン「ちょっと何をして…!!!」
ダージリン「絹代さん…手が震えているの……!?」
~~~
933: 2017/06/15(木) 22:49:36.63 ID:qLKCdNm70
【病院】
医者「身体に異常は見つかりませんでした。ただ…自律神経失調症の可能性が考えられます」
医者「いわゆるストレスから来る手足の震え・しびれですね」
西「…」
医者「それ以外にもなかなか寝付けないとか、体がだるいといった症状も出てくるかもしれません」
医者「薬を処方しておきますが、一番の解決はストレスを無くす事です」
西「…わかりました。ありがとうございます」
医者「お大事に」
ガチャ
ダージリン「! どうだったの…?」
西「"筋肉疲労"って言ってました。砲弾を何度も運んでたのが原因でしょうね」
ダージリン「でもあなたは車長でしょう? 砲弾を運ぶことなんて無いはずよ」
西「あはは。たまに車長以外の役割を担って練習指示してるので色々やってるんですよ」
ダージリン「そう…」
西「さすがティーガーを叩ける戦車砲だけあって弾も重たいんですよね。装填手の苦労がよくわかりました」
ダージリン「………」
…とうとう身体にストレスが回ってきた。
眠れないとか、体がだるいといったものは以前からあったけど、手の震えにまでなるとは…。
あと、ダージリンに怒られた首のそれもここから来ているのかもしれない。
そろそろ終わらせないとこっちが先に終わっちゃいそう。
934: 2017/06/15(木) 22:51:10.49 ID:qLKCdNm70
【聖グロ 紅茶の園】
聖グロ生1「あ…ヴェニフーキ様、おかえりなさいませ」
ヴェニフーキ「ただいま戻りました」
聖グロ生2「今までどちらへ? アッサム様が心配されてましたよ…」
ヴェニフーキ「色々と」
聖グロ生2「そうですか…って、その帽子、どうされたのですか?」
ヴェニフーキ「立ち寄ったショップで見つけて気に入ったので買いました」
聖グロ生1「ふふっ。よく似合ってます」
ヴェニフーキ「ありがとう」
ローズヒップ「あら? ヴェニフーキ様おかえりなさいませー!」
ヴェニフーキ「ただいま」
ローズヒップ「おや? そのお帽子はどうされましたのでございますの?」
案の定、皆にベレー帽の事を尋ねられる。
そりゃそうだ。白銀色の髪に黒い帽子なのだから気付かない訳がない。
…今更だがこの白っぽい髪色は茶色や金色といった髪色の生徒が多い聖グロではなかなか目立つ。
なんだってアールグレイさんはこんな色を選んだのだろうか…。
それとここ最近やたら色んな生徒に話しかけられるのだが一体何があったんだろう?
935: 2017/06/15(木) 22:59:13.32 ID:qLKCdNm70
~~
それから私は自室に戻り、探知機を取り出す。
この時点で既に電波を検知しているようでランプが点灯している。
予告通りGI6は私の部屋に盗聴器を仕掛けていた。
ベッドの中とか机の周辺とかに仕掛けておけばいいものを、わざわざシャンデリアの中に隠すものだから場所がわかっても撤去するのに手間がかかる。
やっとの思いで手にとることが出来た盗聴器は前回仕掛けられたものとはまた別の形をしていた。
GI6こと情報処理学部の生徒が作成したのかな? 以前のものよりもしっかり出来ている。
思えばあの時は、アールグレイさんとの電話でGI6の話をしたから盗聴器の存在に気がついた。
そして、そのやり取りから盗聴器を仕掛けたのはGI6だと思っていた。
ブラックプリンスがやってきたあの時にGI6とは対面したので、その過程でジャケットにヒョイとやられたと思っていた。
しかし、盗聴したやり取りを聞いて盗聴器を仕掛けたのがGI6ではないと知ったう。
ともなればあの時、GI6以外の何者か仕掛け…
盗聴器はGI6と知り合った時に仕掛けられたと思っていた。
でも違った。
ということは別の誰かが。
だれが、どこで、いつ仕掛けたのだろうか…
…ん?
"いつ?"
サーッと血の気が引いていく。
全身の産毛がゾワッと逆立つ。
盗聴器はサンダース戦より以前に仕掛けられた………?!
937: 2017/06/15(木) 23:05:05.33 ID:qLKCdNm70
ヴェニフーキ「………そういえば………カフェがあった…な」
手にした盗聴器に向かってぼやく。
何故そんなことを言ったのかはわからない。
ただ、恐怖から逃れるためだったのかもしれない。
私は誰かに監視されている。
今もなお。
ぽりぽり
ぽりぽり
首が痒い。
ダージリンにもらった薬を塗ってみたけど痒みはおさまらない。
それどころかどんどん酷くなっていく。
我慢できないほど痒い。
がりがり
がりがり
爪の中に垢なのか皮膚なのかわからないものが食い込んでた
ヌルッとする。血かな。
でも痛くない。むしろ痒い…。
~~
938: 2017/06/17(土) 23:48:07.04 ID:390tEMBw0
【聖グロ カフェ】
首の痒みが引いてきた頃にカフェへ向かった。
傷口にはダージリンから貰った薬を塗りたくったけど、これで痒みが引いてくれるとは思えない。
きっとまた、首が痒くなってバリバリガリガリ掻きむしると思う。
このまま掻きむしったらそのうち頸動脈でも切って血がブシャーってなりそうだ。
そうなったら私、氏ぬのかな…。
「おや、奇遇ですね?」
盗聴器の持ち主と"合流"した。
リアルタイムで監視していたのだろうか。
私がカフェに入りカウンター席に腰を下ろした直後にやってきた。
あくまで偶然を装って。
939: 2017/06/17(土) 23:52:43.70 ID:390tEMBw0
ヴェニフーキ「お洒落なカフェがあって、気になったので寄ってみました」
グリーン「なるほど。私もここの雰囲気が好きです。もっとも紅茶が好きな生徒が多いので、ここに来るのは私たちや職員の方くらいですですけど」
ヴェニフーキ「そうですか」
グリーン「ええ。そういえばヴェニフーキさんは戦車内では紅茶を飲みませんよね?」
ヴェニフーキ「私にとってカップ片手に戦車に乗るというのは至難の業ですから」
グリーン「あはは。ごもっともです」
彼女はこの店は何度も利用しているようで、造作もなく店員さんに注文をする。
一方で私は初めてなので何をどう頼めばいいのかわからず、ひとまず彼女がオススメするコーヒーを注文した(自白剤とか入ってないよね…?)。
カフェといっても、学生やOLが休憩時に立ち寄るようなものとは程遠く、ハードボイルドなドラマや映画に出てくる寂れたバーみたいだ。
絢爛豪華な聖グロには似つかわしくないためか、私たち以外に客はいない。
グリーン「いかがです? 紅茶だけでなくコーヒーもまた上質な豆を使っているんですよ」
ヴェニフーキ「ええ。苦いです」
グリーン「あはは。そういうものですよ。その苦さのなかに良さがあるんです」
あいにく私は紅茶はもちろんコーヒーの心得もないので、この真っ黒な液体は「苦い」以外の感想が出てこない。
正直、こんな下品な泥水を好き好んで飲む連中の気が知れない。
…そう思っていたらグリーンさんがコーヒーのことを語りだした。
どうやらこの人は本当にコーヒーが好きなようだ。様々な銘柄の違いを語ってる。
曰く一日に何杯も飲んでるとのことだが、夜眠れなくなったりしないのかな?
940: 2017/06/17(土) 23:54:46.18 ID:390tEMBw0
ヴェニフーキ「グリーン様は、ここはよく利用されるのですか?」
グリーン「ええ。私含めて小説部の人たちはよく通いますよ」
グリーン「この落ち着いた雰囲気だとインスピレーションが働くので筆が進みます」
ヴェニフーキ「なるほど」
グリーン「ときにヴェニフーキさん」
ヴェニフーキ「何でしょう?
グリーン「何かお困りでも?」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「何やら、顔に疲れが見えますね?」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「同じ戦車に乗る仲です。良かったら相談に乗りますよ」
さっそく勝負を仕掛けてきたか。
相手は私の動向を探っているのだろうけど、私は既に目的を知っているので、心理戦みたいなものを繰り広げるつもりはない。
さっさと目的を果たして帰って寝よう。…コーヒー飲んで眠れるかわかんないけど。
941: 2017/06/17(土) 23:57:06.28 ID:390tEMBw0
グリーン「ここには私達以外誰もいないので心配はありません」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「ええ。悩みは誰かに相談するだけでも楽になります」
ヴェニフーキ「…そうですね」
コトッ
ヴェニフーキ「部屋にこういったものを仕掛けられて困っています」
グリーン「これは…!」
そういってと先程の盗聴器をカウンターテーブルの上に置く。
こんな返しをされるとは思ってもなかっただろう。一瞬だけピクッと表情を変えた。
でも、さすがGI6の部長だけあって本当に一瞬の変化だった。ポーカーフェイスというやつか。
もっともその一瞬の変化を私は逃さなかったし、仮に気付かなかったとしても、この盗聴器の持ち主は既に特定済みだ。
盗聴によって盗聴の犯人を特定したわけだからね。何とも皮肉な話だよ。
942: 2017/06/17(土) 23:59:05.66 ID:390tEMBw0
ヴェニフーキ「なにやら、盗聴器のようなものですね」
グリーン「盗聴器…」
ヴェニフーキ「ええ。どうやら私のプライバシーは筒抜けのようです」
グリーン「それはいけませんね…」
ヴェニフーキ「ええ…。こんなものを仕掛けて私の何が知りたかったのでしょう」
グリーン「さぁ…」
ヴェニフーキ「小説部こと、GI6の皆さんは」
グリーン「えっ?」
ヴェニフーキ「全部、知ってますよ。これを仕掛けたのがあなただということも」
グリーン「…」
ヴェニフーキ「それに、あなたを始め、ブラックプリンスの乗員が全員GI6だということは、お会いしたその日のうちにわかりました」
グリーン「………」
ブラックプリンスがやって来たあの日、あなたたちGI6と対面した。
そしてその日の夜、アールグレイさんとの電話であなたたちの正体がわかった。
もしあの電話でのやり取りがなかったら、私は今どうなってたかな…。
グリーン「仮に、ですよ?」
ヴェニフーキ「ええ」
グリーン「私達がGI6だとすれば、何を根拠にそう判断されたのです?」
943: 2017/06/18(日) 00:02:48.05 ID:274RzRl30
ヴェニフーキ「そうですね。適応力の高さでしょうか」
グリーン「適応力?」
ヴェニフーキ「小説部と名乗りながら、戦車の中で個々の役割をそつなくこなす」
ヴェニフーキ「まるで、戦車道をやっていた人のように」
グリーン「…」
ヴェニフーキ「しかも余計な私情私語を挟むことなく、与えられた任務を遂行する機械のように黙々と」
グリーン「…」
ヴェニフーキ「それを見て、"ああ。普通ではないな"と思った」
ヴェニフーキ「言うなれば、あなた方が私を疑うのと同じ」
グリーン「…なるほど。もう一つ良いですか?」
ヴェニフーキ「どうぞ」
グリーン「先日の黒森峰との練習試合ですが、」
グリーン「試合のあと、プラウダ高校の副隊長たちと何を話していたのです?」
ヴェニフーキ「………」
いきなり、話が急転した。
話をそらしたかったのだろうか。
それとも、こちらが本題なのだろうか。
― ………あなただったのですね。絹代さん
― あなたは様々な悩みを抱えておられる方…
― ですが、鷹のような鋭い瞳の奥には
― 屈強な戦士が持つ固い意思と、聖母のような優しい温もりを感じます
― …ノンナさんにはカチューシャさんがいらっしゃいます。大切な人…ですよね?
………あのとき、ノンナさんは私に何を伝えようとしたのか。
私を見て、何を感じたのか。
アールグレイさんが来なかったらどうなってたのか。
結局、あのやりとりからは何もわからなかった。
けれど、今このやり取りでわかったことは2つ。
私はノンナさんをまた傷つけようとしている。
そして、私の正体がバレかけている…!
944: 2017/06/18(日) 00:07:20.29 ID:274RzRl30
ヴェニフーキ「聞いていたのですか?」
グリーン「あはは。何だか楽しそうだったので。羨ましくてついつい聞き耳を立てちゃいましたよ」
ヴェニフーキ「趣味が悪いですね。プライベートな話だったのに」
グリーン「いやいやすみません。ここだけの話にしましょう」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「それで、一体どんなやり取りを?」
あのやり取りは決して"楽しそう"なものじゃなかった。
私のことを探らぬようにとアールグレイさんが本来しなくてもいい"クズ"を演じた。
そしてそのクズによる口撃でノンナさんを深く傷つけ、遠ざけようとした。
私が彼女を、ノンナさんをこれ以上傷つけたくない。
だから嘘を言った。
ヴェニフーキ「先日の練習試合のお礼として、今度はプラウダに遊びに来て下さいって言われました」
グリーン「なるほど、羨ましいですね。私も行ってみたいです」
ヴェニフーキ「実を言うと私も初めてです。色々ご馳走してくださるとの事で楽しみです」
グリーン「となると、お隣にいらっしゃった女性は…?」
ヴェニフーキ「?」
グリーン「ん?」
…?
何か、今、一瞬だけ話が噛み合わなかった?
なんかこう、互いに触れ合って動く歯車の歯が1枚だけ空振ったような…。
あのとき、ノンナさんとのやり取りをしたとき、後からアールグレイさんがやってきた。
聖グロの"前"隊長でもあるアールグレイさんは、ダージリンと同じく聖グロを象徴する一人。
普通の聖グロ生なら誰でもわかるはず。だから、別にウソをつく必要もない。
何故、そんなことを聞くんだろうか。
…ん?
945: 2017/06/18(日) 00:12:55.53 ID:274RzRl30
ヴェニフーキ「聖グロの卒業生ですよ。かつて戦車道をやっておられた」
グリーン「なるほど…」
どうも先程から会話が歯車が空転する。思うように進まない。
グリーンさんの策略なのかもしれないが、そういったものではなく、
まるでアールグレイさんを"知らない"とでも言わんとばかりの反応だ。
そして、知らないから、私から情報を引き出そうとしているかのように…。
ん?
知らない?
どうして?
GI6の部長を担う人が他校の隊長ならまだしも、聖グロで隊長をやってた"有名人"を知らないことは無いはずだぞ?
実際、アールグレイさん自身もGI6に他校の偵察を依頼したことがあるというのだから、多少なりともアールグレイさんとGI6に接点はあるはず。
なのにどうしてこうも知らなさそうな反応をする?
姿を見たら一目瞭然なのに…?
946: 2017/06/18(日) 00:15:57.21 ID:274RzRl30
グリーン「そのOGの方と、プラウダ高校の副隊長さんはどのような会話を?」
ヴェニフーキ「過去の試合についてお話しされてました。…残念ながら私が聖グロに来る前の話なので、蚊帳の外でしたが」
グリーン「なるほどなるほど」
ヴェニフーキ「…その方、聖グロの生徒なら誰だって知ってる人物ですよ?」
グリーン「ん?」
ヴェニフーキ「何しろ、隊長をやってた方なので」
グリーン「…」
ヴェニフーキ「…」
やっぱり、何か様子が変だ。
何故、『ええ。知ってますよ。アールグレイさん(前隊長)ですよね』という返答が来ない?
あのやり取りを見ていたのなら、聞いていたのなら知らないはずがないぞ?
本当に見てい…ん?
あの場所にいなかったのか!?
私から何か情報を引き出すためにあえて『見てましたよ』ってハッタリをかましているのか?!
…小癪な真似を。
そうならこっちも相応の意地悪をしてやるぞ。
947: 2017/06/18(日) 00:18:45.65 ID:274RzRl30
ヴェニフーキ「特徴的な髪型と口調なので、見たら普通の生徒でもわかりますけど…」
グリーン「あはは。ちょっと意地悪をしましたよ」
ヴェニフーキ「意地悪?」
グリーン「知らないフリをしたら、何かヴェニフーキさんが教えてくれるんじゃないかなぁ~と思ってたんですよ」
ヴェニフーキ「…では、ご存知と?」
グリーン「ええ」
ヴェニフーキ「でしたら、その人の名前、教えて下さい」
グリーン「えっ?」
ヴェニフーキ「人物です。私の横にいた、もう一人の人物」
グリーン「あぁ…」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「…」
ヴェニフーキ「何故、黙るのです?」
グリーン「あはは。参ったなぁ…」
ヴェニフーキ「あのやり取りを見て、聞いた人なら誰でもわかりますよ」
ヴェニフーキ「聖グロの人間じゃなくても」
グリーン「えっ?」
ヴェニフーキ「もう一度聞きますが、私の横にいた人物は誰かわかりますか?」
948: 2017/06/18(日) 00:22:41.17 ID:274RzRl30
グリーン「ふふっ」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「さすがですね、ヴェニフーキさん」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「実は見ていたのは確かなんですけど」
グリーン「ただ、見ていた位置が悪くて、お二人の後ろ姿しか見えなかったんですよ」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「会話の内容はしっかり聞こえていたんで問題なかったんすけどねぇ」
…どんどんボロが出てくるが、これで確定した。
あんた、あの場所にいなかっただろ!
そして会話も聞き取ることができなかったはずだ!
ヴェニフーキ「会話の内容をしっかり聞いていたのに、あの人のこと、知らないのですか?」
グリーン「えっ…?」
― 自己紹介が遅れましたわ。聖グ口リアーナ女学院・OGのアールグレイと申します
アールグレイさんはノンナさんに自己紹介をしていたんだよ!
だからやり取りを聞いていたならその人を知らなくても、会話の流れでアールグレイさんだと判断できる。
それが出来なかったことは"会話を聞き取れなかった"ことを意味する!
949: 2017/06/18(日) 00:28:10.14 ID:274RzRl30
グリーン「っ…!」
ヴェニフーキ「"プラウダ高校の副隊長たち"と言うのだから、見ていたことは間違いないでしょう」
ヴェニフーキ「しかし、あなたじゃない別の誰かが見ていたのだと思います」
ヴェニフーキ「それで、そこから得た情報を元に、私を揺さぶって何か情報を引き出そうとした」
ヴェニフーキ「…違いますか?」
グリーン「………」
実際、私達が話をしたあの海が見える高台は、周辺に隠れるような場所などなかった。
だから、私達の会話を聞くためには嫌でも姿を晒さなければならない。
私はともかく、並外れた洞察力・観察力を持つアールグレイさんやノンナさんが居て、誰一人それに気付かないわけがない。
もちろん私の服から盗聴器の類が発見されることもなかった。こう見えて定期的に探知機をチェックしているのだ。
そういったことから"聞き耳を立てた"はハッタリで、実際は会話をしていた様子を"離れた場所で確認しただけ"に過ぎないだろう。
ヴェニフーキ「…黙秘、ですか?」
グリーン「…」
ヴェニフーキ「では今度は、"誰が見ていたか"を当ててみます」
グリーン「えっ…?!」
その"確認した人"は会話が聞き取れない場所にいたため、アールグレイさんの"自己紹介"を聞けなかった。
そしてその人物の姿を見ても誰なのか分からなかった。
だから不明瞭な情報は、グリーンさんの尋問によって私から引き出そうという魂胆だったのだろう。
950: 2017/06/18(日) 00:31:38.60 ID:274RzRl30
ヴェニフーキ「………フレミング、ですね。1年生の」
グリーン「っ!!」
ヴェニフーキ「彼女なら私の隣りにいた人物を知らないのもわかる」
ヴェニフーキ「面識がないのだから」
グリーン「………」
フレミングは1年生。
彼女が入学した時アールグレイさんはすでに卒業していた。
だから仮に名前を知っていたとしても、顔までは知らない。
― 確か、先代隊長の…
― そちらのお嬢様は初めましてね。アールグレイですわ
なにしろ、ダージリンのすぐ近くにいるペコですら、あの時が初対面だった。それも偶然の対面。
だから戦車道をやっていないフレミングがアールグレイさんのことを知らないのは無理もない。
ひとまず"会話を聞かれていなかった"。これだけわかれば後は私から追求することはない。
何故ならあの会話では私の"本名"が出ていたのだから…。
951: 2017/06/18(日) 00:40:38.20 ID:274RzRl30
ヴェニフーキ「…以上です」
グリーン「………」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「…」
グリーン「………さすがです。ヴェニフーキさん」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「まさか、あなたがここまで私達の行動を読んでいたとは思いませんでした」
私も驚いている。
まさかまさか、あのGI6相手にここまで戦えるとは予想だにしなかった。
私は西絹代なのか?
本当にあの"アホ"の西絹代なのか?
微細な違和感やそれが何を意味するのかという洞察力・観察力、そして推理力が鍛えられたのかもしれん。
…ヴェニフーキと名乗って以来、あらゆるものを疑い、休まることなく気を張り詰めて生活するようになったせいで。
私から色んな物が削られていくうちに、私は鋭利になっていった。。
それは皮肉にも"実戦で学ぶ"というものなのだろう。陸でクロールの練習をするのとはわけが違う。
私は鋭くなるために様々なものを削って来た。
安息
知波単学園
私の戦車道
仲間
西絹代
生き残るため
戦うため。
勝つため。
"あの時"と同じように。
952: 2017/06/18(日) 00:45:07.24 ID:274RzRl30
ヴェニフーキ「ただ、私はグリーン様たちと腹の探り合いをするのが目的ではありません」
グリーン「えっ…?」
ヴェニフーキ「あなたやアッサム様が聖グロを憂うが故に、私を疑っていることは知っている」
グリーン「と、言うと…?」
ヴェニフーキ「場所を変えます。皆が寝静まった頃に隊長室でアッサムさんも交えてお話しましょう」
グリーン「わかりました」
グリーン「あの時…あなたがいたら、あんな事には………」
一時の探偵ごっこを終えてカフェを後にした。
ようやく私はアッサムさんやGI6との疑惑を解消することが出来る。
彼女たちを味方につけることが出来れば私達が探しているモノもすぐに見つかるだろう。
………だが、私は重大なミスを犯してしまった。
そして、それは部屋に戻るまで気付かなかった。
コーヒー代、払ってないや……。
財布、部屋に置きっぱなしだった。
957: 2017/06/18(日) 22:08:13.90 ID:vSaTXsW40
【同日深夜 聖グロ 隊長室】
草木も眠る丑三つ時、私は聖グロの隊長室の扉を叩く。
隊長室にはアッサムさんとグリーンさんだけがいた。
グリーン「…遅かったですね」
ヴェニフーキ「今思うと、もう少し早い方が良かったと後悔しています」
グリーン「そうですね。眠たくなってきましたよ」
ヴェニフーキ「ええ。コーヒーでも飲んで眠気覚ましせねばなりません」
グリーン「…アレはおごりましたので、その代金分、しっかり話してくださいよ?」
ヴェニフーキ「ええ」
…やっぱり根に持っていたか。
こればかりは私が悪い。申し訳ない、グリーンさん。
アッサム「先ほどグリーンから聞きました。あなたが話をしてくださると…」
ヴェニフーキ「ええ。疑惑をかけられたままでは気分が悪いので、話すことにしました」
グリーン「…」
アッサム「…良かった」
ヴェニフーキ「ん?」
アッサム「あなたが、やっと話してくれる時が来て、安心しておりますの…」
ヴェニフーキ「…」
アッサム「ずっと、不安でしたの…」
958: 2017/06/18(日) 22:18:19.40 ID:vSaTXsW40
そして、約束通りアッサムさんとグリーンさんに説明した。
ダージリンの強制退学が、OG会の中に潜む反・聖グロ派による聖グロの破壊工作の一環だということ。
ダージリンを復学させ、奴らの工作を失敗に終わらせ、反体制派を壊滅させるため、私はOGの一人と手を組んだこと。
私の目的は、学園内にいる反体制派と繋がる"内通者"を特定し、そこから反体制メンバーを特定すること。
私の"正体"を除き、私が話すべきことは伝えた。
案の定ふたりとも「信じられない…」と唖然する。
無理もない。私もアールグレイさんから話を聞かされたときは耳を疑った。
聖グロでそんなことが起きているなんて…って。
もっとも私の場合、その後に「変装して聖グロへ潜り込んでくれ」と言われたので、そっちの方が驚いたけど…。
959: 2017/06/18(日) 22:23:26.40 ID:vSaTXsW40
グリーン「そんな事が起きていたなんて…」
アッサム「ゆ、許せませんわよ! そんな事のためにダージリンを!!」
ヴェニフーキ「ええ。許せません。だから私は奴らに報復をしたい」
アッサム「…そうだったのね」
ヴェニフーキ「他には何をお教えすれば良いですか?」
アッサム「…」
グリーン「では、連絡を取っていたというOGは…?」
ヴェニフーキ「一人はアールグレイ様」
グリーン「…なるほど。通りで私達の手が通じなかったわけですね…」
アッサム「確かに、アールグレイ様はダージリンを始め、私達にとても親切にご指導して下さいましたわ…」
ヴェニフーキ「ええ。私に対しては不埒で助平な態度ばかり取りますけどね」
グリーン「ふ、不埒で助平ねぇ………」
アッサム「こ、こらヴェニフーキ! いくらあなただからって…!」
ヴェニフーキ「…話を戻します。そして、もう一人が」
ヴェニフーキ「ダージリン様です」
960: 2017/06/18(日) 22:26:05.65 ID:vSaTXsW40
アッサム「!! あなた…ダージリンと連絡が取れるのですか?!」
ヴェニフーキ「ええ」
アッサム「ダージリンは私が呼びかけても一切応じませんでしたのに…」
ヴェニフーキ「きっと、ダージリン様もあなたの"立ち位置"がわからなかったのでしょう」
アッサム「っ!!」
ヴェニフーキ「実際に掛けてみます。私が何か言うよりも説得力がありますので」
アッサム「だ、ダージリンは無事なんですの!?」
グリーン「マム、落ち着いて下さい」
アッサム「………あなたは、本当にダージリンと連絡が取れるの?」
ヴェニフーキ「ええ」
アッサム「…お、お願い! ダージリンに…!」
ヴェニフーキ「かしこまりました」ピッピッ
部屋に呼び出し音が鳴り響く。
部屋はシーンと静まり返る。
その時間は永遠とも呼べるくらい長く感じた。
そして
961: 2017/06/18(日) 22:30:13.32 ID:vSaTXsW40
ダージリン『はい…』
ヴェニフーキ「お久しぶりです。ダージリン様」
グリーン・アッサム「!!」
ダージリン『…どちら様?』
グリーン「ヴェニフーキさん、電話をスピーカーモードに!」
ヴェニフーキ「わかりました」ピッ
ヴェニフーキ「…ご挨拶が遅れました。聖グロのヴェニフーキです」
ダージリン『………あら、お久しぶり。ヴェニフーキ』
アッサム「だ、ダージリン!? 本当にダージリンなの!!?」
ダージリン『! その声……アッサム…?』
アッサム「ええ! 私ですのよダージリン…ダージリン…うぅぅっ……!」
ダージリン『……色々と、迷惑をかけたわね。アッサム』
アッサム「……とんでもない………私こそ…あなたをこんな目に………」
962: 2017/06/18(日) 22:34:37.92 ID:vSaTXsW40
ヴェニフーキ「それで、ご用件なのですが」
アッサム「っ…」
ダージリン『ええ。何かしら?』
ヴェニフーキ「私がここに来た目的、アッサム様やグリーン様に教えて頂けないでしょうか?」
ダージリン『目的…?』
ヴェニフーキ「どうやら、このお二方が私を例の内通者だと疑って酷いことをしますので…」
グリーン「なっ…」
アッサム「そ、そんな酷いことだなんて…!」
ダージリン『…そう。…つまりアッサムは"違った"ということね?』
ヴェニフーキ「ええ。アッサムさん"は"内通者じゃありませんでした」
グリーン「…私も内通者ではありませんけど」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「ヴェニフーキさん…」
ヴェニフーキ「隣にいるGI6部長のグリーン様も違うと仰ってます」
ダージリン『そう…』
963: 2017/06/18(日) 22:44:51.74 ID:vSaTXsW40
ダージリン『アッサム、グリーン、聞いてくれるかしら?』
アッサム「ええ、聞いています…!」
グリーン「同じく、聞いております」
ヴェニフーキ「…」
ダージリン『あなたの横にいるヴェニフーキという子はね、私の父がお世話になっている方のご令嬢なの』
アッサム「そうなのですかダージリン?!」
ダージリン『ええ。幼い頃からの付き合いよ。だから、私がこうなったことを知って敵(かたき)を討つと言って聞かなかった…』
ダージリン『犯人を見つけ出すと言って、母校を飛び出して聖グロに入学してくれたのよ…』
アッサム「ヴェニフーキ…あなた…」
ヴェニフーキ「…」
ダージリンは私が聖グロに来た目的をアッサムさんやグリーンさんに伝えてくれた。
私の正体が西絹代であるということは伏せて、古い友人ということにして。
本当は恋人と言ってほしかったけど、それは西絹代じゃないから我慢した。
964: 2017/06/18(日) 22:57:54.60 ID:vSaTXsW40
ダージリン『…以上よ』
アッサム「…」
グリーン「…」
ヴェニフーキ「…」
ダージリン『ごめんなさいね。あなた達を疑って…』
アッサム「いいえ私こそ! あなたをこんな目にあわせた上に、疑わせてしまったことをお詫びします…!」
グリーン「私もGI6の部長でありながらこの事に気付けなくて本当に申し訳ありません…」
ダージリン『こればかりは仕方ないわ。私だって何も出来なかった』
ヴェニフーキ「ひとまず、これで私に対する疑いは晴れたという認識で宜しいですか?」
アッサム「ええ。…ごめんなさいヴェニフーキ。あなたにも色々と酷いことを言ってしまった………」
ヴェニフーキ「こういう事をしている以上、覚悟はしています」
ヴェニフーキ「もちろん、"盗聴"や"拷問"を受ける覚悟も」
グリーン「無礼を働き大変失礼致しました…」
ダージリン『…ヴェニフーキ』
ヴェニフーキ「はい、何でしょう?」
ダージリン『ありがとう』
ヴェニフーキ「ん、」
ダージリン『あなたのおかげで、親友を疑わずに済んだ…本当に感謝しているわ』
ヴェニフーキ「お役に立つことが出来て何よりです。…ですが、共謀者は別にいる、ということになります」
ダージリン『ええ…』
ヴェニフーキ「なので引き続き、犯人探しを続行させて頂きます」
ダージリン『ごめんなさい。こんなことをさせてしまって…』
ヴェニフーキ「お気になさらず。私が勝手にやっていることなので。…それでは、また」
ダージリン『ええ。また、お話しましょう』
ツー ツー ツー
最後に、ほんの一瞬だけ
私以外では絶対にわからない声でダージリンは言ってくれた。
それはアッサムさんもグリーンさんも気付かない。世界でたった一人、私だけが知っている声。
それは私が心の底から愛し、そして私を愛してくれるダージリンが、私だけに聞かせてくれる、とても優しい声。
私とダージリンだけのやり取りがそこにあった。
965: 2017/06/18(日) 23:01:22.65 ID:vSaTXsW40
グリーン「…」
ヴェニフーキ「…」
アッサム「…」
ヴェニフーキ「ご納得、いただけましたか?」
グリーン「ええ。疑ってごめんなさい」
アッサム「あなたも、内通者を探す一人だったのですね…」
ヴェニフーキ「私はダージリン様が退学されたと知り、腸が煮えくり返る思いをした」
ヴェニフーキ「だから、ダージリン様やOGの方と連絡を取り、この破壊工作の失敗、つまりダージリン様の復学のために戦おうと思いました」
ヴェニフーキ「それだけです」
アッサム「ありがとう…ヴェニフーキ」
ヴェニフーキ「お礼を言われるようなことはしてませんけれど」
966: 2017/06/18(日) 23:10:40.32 ID:vSaTXsW40
グリーン「しかし、何故そうならば"聖グロを変える"などと反体制派をほのめかすようなことを?」
アッサム「そうですわ。あんなことを言ったら誰だってあなたを疑います…」
ヴェニフーキ「あの時点でアッサム様たちがどちら側の人間かわからなかった」
ヴェニフーキ「"GI6を仕向けた"というだけでは、あなた方が反体制派の人間か否かわからず、その目的もわからない」
グリーン「確かに…」
ヴェニフーキ「だから、それを明確にするため、あえて"釣り餌"となっただけ」
ヴェニフーキ「言い方を変えれば、キューポラに閉じこもって出てこない隊長を引きずり出した」
アッサム「なぁっ?! ど、どうしてそれを!!」
ヴェニフーキ「私は当初、アッサム様が内通者だろうと疑っていたので、その行動を観察しているうちにアッサム様の弱点を」
アッサム「くぅぅぅ………」
967: 2017/06/18(日) 23:15:19.56 ID:vSaTXsW40
グリーン「なるほど…。敵を騙すには味方から…と」
ヴェニフーキ「結果的にそうなりました」
グリーン「あなたのような方がGI6にいたら頼もしいのに。実に惜しいです」
ヴェニフーキ「私は怪しい人を見つけたら、尋問ではなく拷問をしますけど?」
アッサム「ごっ、拷問?!」
ヴェニフーキ「そうですね。まずは爪を剥がしましょう」
アッサム「ひぃっ…!」
ヴェニフーキ「次に、指の関節一つ一つに釘を打ち付ける」
グリーン「…それはちょっと」
ヴェニフーキ「あとは…」
アッサム「も、もう結構ですの! 痛い話は勘弁願いますわっ!!」
ヴェニフーキ「それくらい、内通者を憎んでいると思っておいて下さい」
アッサム「え、ええ……」
968: 2017/06/18(日) 23:23:18.96 ID:vSaTXsW40
グリーン「…しかし、そうなると内通者は誰でしょうか」
ヴェニフーキ「誰であろうと、いずれ見つけますよ。何しろ私を盗聴するような人物ですから」
グリーン「私を疑っているんですか…?」
ヴェニフーキ「いいえ、グリーン様のは2個目です」
アッサム・グリーン「!!」
グリーン「…2個目といますと?」
ヴェニフーキ「そのまま。グリーン様ので"2個目"」
グリーン「っ…!」
アッサム「ど、どういうことですの?!」
ヴェニフーキ「あなたがたGI6とは別に、私は監視されている」
ヴェニフーキ「あなたたちとは別の人に私は縛られている」
アッサム「なっ…そんなの聞いていませんわよ!?」
ヴェニフーキ「聞かれませんでしたので」
アッサム「どうして話してくれなかったのヴェニフーキ!!」
ヴェニフーキ「あなたは私を疑っていた。そして私もあなたを疑っていた」
ヴェニフーキ「そのような状況で何を話せると?」
アッサム「うっ………」
969: 2017/06/18(日) 23:30:01.44 ID:vSaTXsW40
ヴェニフーキ「…それに」
アッサム「えっ?」
ヴェニフーキ「これは私の戦いです」
グリーン「…どういうことですか?」
ヴェニフーキ「率直に言うと、」
ヴェニフーキ「"私の獲物に手を出すな"」
アッサム「…どういうことですのヴェニフーキ?」
ヴェニフーキ「反体制派やその共謀者は、私の手で探し出し、私の手で裁く」
ヴェニフーキ「そこに余計な介入をされては困ります」
アッサム「ば、馬鹿を言わないで! この件は聖グロ全体の問題ですのよ?!」
グリーン「その通りですよ。それに、仲間は多い方が…」
ヴェニフーキ「必要ない」
グリーン「っ…!」
ヴェニフーキ「今まで通り、何も無かったかのように、学園生活を送って下さい」
ヴェニフーキ「それが、聖グロを腐敗させようと目論む奴らに対する"最高の攻撃"となる」
970: 2017/06/18(日) 23:35:39.74 ID:vSaTXsW40
アールグレイさんが何故、私を選んだのか。
私が聖グロの生徒じゃないからだよ。
仮に作戦が失敗しても私には帰る場所がある。保険がある。
だけど、アッサムさん達は聖グロが帰る場所だから、もしも奴らに目をつけられたらそれでおしまい。
ダージリンの二の舞いになる。
971: 2017/06/18(日) 23:38:07.99 ID:vSaTXsW40
アッサム「ですが、あなた一人だけ…!」
ヴェニフーキ「ダージリン様の二の舞いになっては困ります」
アッサム「!」
ヴェニフーキ「何しろ、相手は己の思想のためにダージリン様を政治利用するような邪道」
アッサム「…」
ヴェニフーキ「アッサム様たちがコソコソやってるのがバレてしまったら、連中は間違いなく排除します」
グリーン「確かにそうですが…」
ヴェニフーキ「もしもこの件で問責されたら、"彼女が勝手にやったこと。私は再三に渡って警告した"と言えば良い」
ヴェニフーキ「そうすればアッサム様や他の誰かが被害を受けることもない」
972: 2017/06/18(日) 23:42:48.68 ID:vSaTXsW40
ヴェニフーキ「それに、そういう下衆な相手と戦う以上、こちらもその下衆に触れることになります」
ヴェニフーキ「これ以上邪道が増えては困る」
アッサム「…」
ヴェニフーキ「火傷するのも邪道になるのも私一人だけで結構」
ヴェニフーキ「私だけが火傷をすれば、他の生徒が火の粉を被ることもない」
アッサム「…」
ヴェニフーキ「私は私なりの戦いが出来て、聖グロの生徒も守られる。お互いに悪い話ではないと思います」
アッサム「…」
グリーン「何故あなたは何もかも一人で抱え込もうと…!」
ヴェニフーキ「言ったはずですよ。邪道が増えたら困ると」
アッサム「………どうして……」
ヴェニフーキ「はい?」
アッサム「どうして自分を邪道などと言うのですかッ!!!!」
973: 2017/06/18(日) 23:48:08.10 ID:vSaTXsW40
ヴェニフーキ「それは私が邪道だからですよ」
アッサム「そうじゃなくて! 理由を言いなさい! 理由をっ!!」
ヴェニフーキ「…」
グリーン「確かにあなたの行動は怪しいかもしれません」
グリーン「ですが、事情がわかればそれは称賛に値する行為です」
ヴェニフーキ「そう認識されていることが既に邪道なんですよ」
グリーン「なっ…」
アッサム「馬鹿なことを言うのはおやめなさいヴェニフーキ…!」
それは『私が邪道だから』としか言いようがない。
邪道じゃない人に邪道がどうこうだと説明したって理解されない。
大洗戦のとき、勝つために特攻兵器を使おうとした
ダージリンのおかげでそれを回避できた
そのダージリンは私のせいで全てを失った
そして私は狂って薬物中毒にすらなった
またダージリンに助けられた
でもやっぱりダーリンは助からない
だから私はヴェニフーキと名乗った
名前を捨てた
仲間を捨てた
学校も捨てた
姿も偽った
皆を騙した
そして聖グロに混乱を招いた
内部から腐敗させた
聖グロに飽き足らず黒森峰の戦車道も崩壊させようとした
氏に物狂いで積み重ねてきたものを壊そうとした
血と汗の結晶を砕こうとした
974: 2017/06/18(日) 23:50:58.26 ID:vSaTXsW40
私は何度も邪道を進もうとして、その都度誰かに助けられて軌道修正をしている。
邪道と普通の道を行ったり来たりだった。
でも、気を抜けばまた邪道を進む。
そして気がつけば邪道が私の道になっていた。
だから、一度邪道を進んだらもう元には戻れない。
そして私の中の邪道は誰かを巻き込んで、その人の道を閉ざそうとしている。
だから、私だけが邪道になることで、誰かが邪道になるのを阻止する。
邪道として、邪道にならないよう戦う。
邪道は私だけの道。他の誰かが通ることは断じて許さない。
邪道として
邪道と戦う
私だけの道
ヴェニフーキ「あえて言うならば」
975: 2017/06/18(日) 23:51:55.92 ID:vSaTXsW40
ヴェニフーキ(西絹代)「これが私の 戦"邪"道 です」
つづく
976: 2017/06/19(月) 01:05:49.11 ID:+xIa/DlV0
【ここまでのあとがき】
● オリキャラ(?)について
・モームおよびランサム
GI6の生徒は代々作家の名前(英・M16所属経験有)を名乗っており、その中から。
なおグリーンおよびフレミングは「月刊戦車道」に登場する("フレミング"という名前は人気がないらしい…)。
・アールグレイ
言わずもがな島田フミカネ氏の妄想のあの人。
正体不明・性格不明・意味不明を良い事に好き放題させて頂いた。
ヴェニフーキ扮する西絹代をサポートする参謀役。
・髙山、上本、糸井、福留、原口、鳥谷、糸原、梅野、女仙
4月14日の阪神タイガースのスタメン。
女仙はメッセンジャー。
厳密に言うとこいつらが純粋なオリキャラ。他はどこかしらのものを流用
・ヴェニフーキ
前作終盤から出てきた謎の転校生。正体は西絹代。
読み手にすぐ正体バレるだろうから、このSSでは「何故あの子はこうなったのか」を書いてみました。
1.白髪
2.ブラックプリンス
3.ベレー帽
977: 2017/06/19(月) 01:27:21.79 ID:+xIa/DlV0
● SSについて(自分語り)
「対空戦車はいいぞ」 SS書く
↓
オストヴィント登場あたりから「せや、無人機出るし西絹代強くしたろ」
・聖グロに完勝
・大洗もあんこうチーム撃破してギリギリまで追い詰める
「アカン。強くしすぎたわ…」
↓
対・知波単戦の中盤ごろから今作を裏で書き始める
・西絹代(魔改造)が主人公
980: 2017/06/19(月) 21:23:49.86 ID:tHTl6LJZO
乙です。
次回も待っていますで(`・ω・)b
画像の元ネタは分からなかった…。
次回も待っていますで(`・ω・)b
画像の元ネタは分からなかった…。
引用元: 【ガルパン】西「四号対空戦車?」
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