1: 2011/07/05(火) 21:18:04.88 ID:L/Hkg04S0
女「ひーまー」

男「今エピローグだから」

女「そのくらい後で読めるよ」

男「うんうんそうだね」

女「人の話を聞きなさい」

男「聞いてる、聞いてるよ」

女「はあ、つまんない」

男「終わった」

女「どうだった?」

男「もう少し登場人物に深みを持たせた方がいい」

女「むう、頑張る」

男「頑張れ」

2: 2011/07/05(火) 21:19:33.02 ID:L/Hkg04S0

女「と言うか、文芸部なのに」

男「うん」

女「どうして物を書かないのさ」

男「書きたくないから」

女「なんで?」

男「自分の限界を知ってるからね」

女「うわ、おっさんくさい」

男「よく言われる」

女「顔は幼いのにねえ」

男「それも言われる」

3: 2011/07/05(火) 21:21:14.13 ID:L/Hkg04S0
男「もう五時半だ」

女「早いねえ」

男「ずっと暇暇言ってたのに」

女「今思えばいい思い出ということで」

男「ふうん」

女「帰るの?」

男「君は?」

女「もう少しぐだぐだしてたいかな」

男「あっそ」

女「帰るの?」

男「もう少しぐだぐだしてよう」

女「あっそー」

4: 2011/07/05(火) 21:23:40.92 ID:L/Hkg04S0
女「どうしてもさ」

男「うん」

女「プロットを立てるだけで、満足する時あるよね」

男「あるんだろうね」

女「で、何も考えずに書き進めた方が筆が進むの」

男「へえ」

女「自分もこれからどう物語が進むかを楽しみたいんだろうねえ」

男「そりゃまた難儀だ」

女「……今度は何読んでるの」

男「君の入部当時の作品」

女「うへ、悪趣味」

男「最新作はいつも読ませてくれるじゃないか」

女「それとこれとはちーがうー」

5: 2011/07/05(火) 21:26:31.84 ID:L/Hkg04S0
女「また暇だよ」

男「なんか書いたら」

女「お題頂戴よ」

男「青春」

女「よくそんなぽんぽんと私を痛めつけるような単語を吐けるよね」

男「書けるジャンルが多いに越した事は無いと思う」

女「うっさい陰険」

男「はいはい」

女「はーもう……原稿用紙取って」

男「ん」

女「ありがと」

8: 2011/07/05(火) 21:29:30.46 ID:L/Hkg04S0
男「……」

女「書き出しはそうだなー」

男「……」

女「こう、主人公の平凡さを表す感じがいいよね」

男「……」

女「で、ボーイミーツガール形式で段々と成長していくと」

男「……読書の邪魔だよ」

女「いっひひ」

男「大体、それは王道の王道じゃないか」

女「いいでしょ短編なんだから」

男「なるべくスマートにたのむよ」

女「読むの前提かよー」

男「それは勿論」

10: 2011/07/05(火) 21:33:19.38 ID:L/Hkg04S0
女「終わった」

男「丁度読み終わったところだ」

女「嘘つけ」

男「それにしても流石の速筆だね」

女「話を切り替えるのが好きだねえ」

男「好きだからね」

女「はい」

男「うん、読ませてもらう」

女「暇だー」

13: 2011/07/05(火) 21:36:47.67 ID:L/Hkg04S0
男「……主人公の名前が俺と同じなんだけど」

女「気のせい」

男「そっか」

女「フィクションだからね」

男「成程」

女「どんなに悲惨な目に遭ってようと、フィクションはフィクション」

男「そうだね」

女「で、感想は」

男「たまに君は喧嘩を売ってくるよね」

女「たまたまだよ」

14: 2011/07/05(火) 21:40:31.30 ID:L/Hkg04S0
男「六時半」

女「うわー真っ暗」

男「帰るの?」

女「まだぐだぐだしたいって言ったら?」

男「俺は帰るよ」

女「ケチ」

男「ほら、行くよ」

女「甲斐性無し!」

男「変な責任を押し付けないでくれよ」

女「ばーかばーか」

男「はいはい」

16: 2011/07/05(火) 21:43:53.79 ID:L/Hkg04S0
――帰り道

女「さてこの長い帰り道」

男「いつもの事じゃないか」

女「どう暇を潰して帰路を辿ろうか」

男「うん、どうぞ」

女「つまんないなあ、もっと乗ってきてよ」

男「君が話を始めたらね」

女「はあー……じゃ、私の好きな作家の話を」

男「うん」

女「昨日読んだのはねえ――」

17: 2011/07/05(火) 21:47:18.72 ID:L/Hkg04S0
女「……あっと言う間に分かれ道だよ」

男「そうだね」

女「相変わらず君といると時間が早く過ぎるよ」

男「そりゃどうも」

女「照れてる?」

男「かもしれないね」

女「暗くてよく見えないよ」

男「そりゃ良かった」

女「じゃ、また明日」

男「また」

18: 2011/07/05(火) 21:50:18.97 ID:L/Hkg04S0
男「ただいま」

妹「おかえり」

男「母さんは仕事?」

妹「ん」

男「そうか……」

妹「今日も部活?」

男「そんな感じ」

妹「そっかー」

男「もう飯は食ったの?」

妹「これから」

男「じゃあ食べようか」

妹「はいほー」

20: 2011/07/05(火) 21:53:53.24 ID:L/Hkg04S0
妹「それにしても」

男「うん」

妹「もう半年近く通ってるんだよね、部活」

男「そりゃね」

妹「中学の頃は剣道入ってすぐ辞めちゃったのに」

男「ほっといてくれ」

妹「お兄ちゃん別に読んだり書いたりする人間じゃないでしょ?」

男「……」

妹「凄いねえ」

男「……」

妹「恋の力って」

男「……俺は嫌味な妹をもてて幸せだよ」

妹「にっひっひ」

22: 2011/07/05(火) 21:58:27.16 ID:L/Hkg04S0
妹「中学ではその容姿に惹かれ迫ってくる女子たちを頑なに振り続け」

妹「一度たりとも懐に寄せる事をしなかったお兄ちゃん」

妹「婚約者がいるんじゃないかと噂されたそんなお兄ちゃんが」

妹「高校に入ってなんと一目惚れ!」

妹「その日のうちに、入部届けを出したんだってね」

妹「雷神もかくやというその行動力の前に、妹ちゃんはただただニヤニヤするばかりでございまする」

男「お前は舞台役者に向いてるかもな」

妹「今度の文化祭でクラス劇やるから。見にきてね」

男「分かった」

妹「是非女先輩と一緒に!」

男「……」

26: 2011/07/05(火) 22:01:59.91 ID:L/Hkg04S0
――自室

男「……」

男「メール着てる」

男「……女からか」

女『暇だよー君もどうせ暇だろー』

男「……家に居ても同じなのか」

男「……」

男『時間はあるけど、暇では無いな』

男「……よし」

28: 2011/07/05(火) 22:07:36.94 ID:L/Hkg04S0
ギシッ

男「……ふー」

男「今日も何事も無かった」

男「明日も明後日も」

男「平凡だ」

男「……君は知らないよな」

男「俺が平凡な人間だって事」

男「君以外の小説は読まないし、一度も書いたことは無い」

男「ただ、君に、知ったような口を聞いて、驚かせているだけ……」

男「……知ったら、幻滅するのかな」

男「……されるんだろうなあ」

男「……」

32: 2011/07/05(火) 22:12:04.65 ID:L/Hkg04S0
――

女『……あれ? もしかして……』

男『……うん。入部希望』

女『おー。良かった良かった』

男『えっ!? な……何が?』

女『いや、なんか今年もう部員ゼロみたいでさー。新入部員だけ、なんだよね』

男『そ……それって』

女『私と貴方だけだね。今のところは』

男『……そうなのか』

女『ま、長い付き合いになるだろうしね。自己紹介でも、しよっか』

男『……二人、って……』

女『……おーい?』

男『え!? あ、ああ、大丈夫……』

女『そんな緊張しなくてもいいよ? 部員なんだから、さ!』

男『わ……分かった』

33: 2011/07/05(火) 22:16:52.70 ID:L/Hkg04S0
――

男「……あー……やべ……変な夢見た」ユラリ

男「半年……もっと前か……」

男「……まだ他人行儀だったんだな」

男「今は……」

男「……」

女『ほうほう、つまりは暇って事だね。じゃあ私の話を聞いてくれるって事だね?』

女『返事が無いけど始めるよー。今日は私の大好きな作家さん、伊藤計劃のお話!』

女『この人は稀代の天才と呼ばれた人でねー。もうとにかく凄いんだよ。才能溢れまくり。
  天才は早氏にするって本当なんだね。惜しい人を亡くしたよ、全く』

女『ねー、全然返信返ってこないんだけど、見てるのかな? まあ、全部私の暇つぶしなんだけどさ』

男「……やれやれ」

36: 2011/07/05(火) 22:21:33.08 ID:L/Hkg04S0
――翌日

男「やあ」

女「はろ」

男「何してるの」

女「執筆作業」

男「お題に恋愛追加」

女「うぐぐぐ、それは無理」

男「頑張れ」

女「君が書けばいいだろーぅ」

男「だから書きたくないんだって」

女「むー」

38: 2011/07/05(火) 22:26:04.55 ID:L/Hkg04S0

女「段々と」

男「ん」

女「寒くなってきたね」

男「まあ、そうだね」

女「一度でいいからさ」

男「うん」

女「コタツに入ってぬくぬくしながら本読みたい」

男「入ればいいじゃないか」

女「うちコタツ無いんだよぉー」

男「あ、そう……」

40: 2011/07/05(火) 22:30:23.83 ID:L/Hkg04S0
女「確か、君んちにはあるんだよね?」

男「……あるにはあるけど」

女「……にっこり」

男「え」

女「言いたい事は分かると思う」

男「駄目じゃない……けど」

女「まあ、考えてみれば一度も男くんの家行った事無かったからさー」

男「それが普通だと思うよ……」

女「そうかな?」

43: 2011/07/05(火) 22:34:52.56 ID:L/Hkg04S0
女「――それじゃ、今週末行くから、よろしくね」

男「分かった」

女「あと書き終わったから、読んで」

男「ああうん」

女「ふっふー」

男(……今週末、か)

男(妹には悪いけど……外出してもらわないと)

男(……なんだろう)

男(……手は出せない、だろうな……)

44: 2011/07/05(火) 22:39:14.62 ID:L/Hkg04S0
――帰り道

女「暗いねー」

男「寒い寒い」

女「もうこのまま君んち行っていい?」

男「それは……駄目だよ」

女「なにゆえ」

男「本持って無いじゃないか」

女「君んちの奴読めばいーじゃん」

男「……妹いるし」

女「居たら何か不都合でも?」

男「あるような無いような」

女「ふうん、変なの」

45: 2011/07/05(火) 22:44:50.37 ID:L/Hkg04S0
女「じゃあ、家の前まで」

男「どうして」

女「だって君んちの場所分からないし」

男「ああ……そっか」

女「当日案内させる訳にもいかないしね」

男「でも、もう暗いぞ」

女「君が家まで送ってくれればいい話」

男「あっそう」

女「いっひひ!」

男(……わざとやってるんだろうか?)

49: 2011/07/05(火) 22:50:22.23 ID:L/Hkg04S0
男「ここがうち」

女「へえ、おっきいねえ」

男「その分分かりやすいと思うよ」

女「そうだね」

男「じゃあ、行こうか」

女「ん、分かった」

ガチャ

妹「あれ?」

52: 2011/07/05(火) 22:55:37.44 ID:L/Hkg04S0
男「……あー」

妹「あれ? おにいちゃ……って、女先輩!」

女「ん……ああ、妹さん?」

妹「はい! 文化祭の時にお会いしました!」

女「うん。覚えてるよ」

妹「光栄ですっ! ささ、どうぞ上がっていってください!」

女「え? いいの? じゃあ上がらせてもらおうかー……な?」

男「……どうして俺を見る」

女「いっひひ。お邪魔しまーす」

男「……まあ、いいかな」

54: 2011/07/05(火) 23:00:41.41 ID:L/Hkg04S0
妹「やー、お兄ちゃんも中々やるね」

男「そう言うのじゃなくて……お前、何で出てきたんだ?」

妹「話し声が聞こえたから」

男「犬かお前は」

妹「にっひっひ」

女「コタツは何処にあるのかな?」

男「居間」

女「そっかー」

男「……いやはや」

55: 2011/07/05(火) 23:06:26.18 ID:L/Hkg04S0
女「わー。本当にコタツだー」

妹「あはは、どうしたんです女先輩?」

女「いやねー。本当は今週末ね、コタツに潜る為にここに来る予定だったんだ」

妹「そうだったんですか。……そう言う事ね」

男「そう言う事だ」

妹「ふうん……まあ、どうぞ! くつろいでいってくださいね!」

女「ごめんね妹さん。急にお邪魔しちゃって」

妹「いえいえ、お気になさらず。この際ですし、夕ご飯もご一緒しませんか?」

女「本当? だったら甘えちゃおうかー……な?」

男「……いいんじゃない、別に」

女「やった!」


67: 2011/07/05(火) 23:36:21.54 ID:L/Hkg04S0


女「いただきまーす」

男「いただきます」

妹「召し上がれー」

女「もぐ……うん、うん……凄く、美味しい」

妹「えへへ、ありがとうございます」

男「うちの妹は料理に関して言えば、そんじょそこいらのお嫁さんより上手いからね」

妹「おー。お兄ちゃんが褒めてくれるなんて珍しい」

男「たまには身内自慢も必要かと」

女「仲良いんだねえ、羨ましいよ」

妹「女さんは、兄妹とかは……?」

女「いないのよ。ずっと本が友達」

男「陰険」

女「ふん、君もだね!」

69: 2011/07/05(火) 23:44:01.47 ID:L/Hkg04S0

女「はあー美味しかった。ご馳走様!」

男「ごちそうさま」

妹「お粗末様ー」

女「食器、洗うべきだよね?」

妹「えっ、いいですよそんな! お兄ちゃんにやらせますんで!」

男「うん、食器洗いは俺の仕事だ」

女「あ、そう? じゃあよろしくね」

男「切り替え早いね」

女「慣れてるからね!」

70: 2011/07/05(火) 23:47:38.38 ID:L/Hkg04S0
妹「じゃ、私は上にいるから、後よろしくね」

男「え、ああ、うん」

女「妹さんもコタツはいらない?」

妹「あー、いえ。私、学校の課題残ってますんで……」

女「偉いなあ。ね、お兄ちゃん?」

男「早くコタツ入ってなよ……」

女「はいはーい」スタスタ

妹「ふふ……中々かなか、仲いいじゃない」

男「おかげさまでね」

妹「ん。じゃ、仲良くねー」

男「はいはい」

71: 2011/07/05(火) 23:51:52.16 ID:L/Hkg04S0
ジャー

男(……早く食器を片付けたい)

男(……でも綺麗にしたい)

男(……ジレンマか)

男(相変わらず、語彙の無さに泣かされる)

男(……別に急ぐ必要も無い、けど)

男(……やっぱり、早くしよう)

72: 2011/07/05(火) 23:56:12.02 ID:L/Hkg04S0
――

男「どうですか、コタツの温度は」スタスタ

女「おつかれー良い感じだよー」

男「そりゃ良かった」

女「やっぱ来てよかった、うん」

男「そう」

女「これで本があれば最高なんだけど……」

男「……」

男「はい」ヒョイ

女「お、流石」

男「父さんの読みかけだけど」

女「ばっちこい」

74: 2011/07/06(水) 00:00:55.97 ID:LpFylAoa0
男「と言うか、君」

女「んー?」

男「家の人心配してるんじゃないの」

女「ああ、もうメールしてある」

男「なんて?」

女「知り合いのうちに泊まります、てね」

男「……へえ?」

女「お、君に呆れた目で見られるのは何度目だろうね」

男「十回は越えるだろうね」

女「お互い様だけどね」

男「まあね」

75: 2011/07/06(水) 00:04:34.67 ID:LpFylAoa0
男「と言うか。泊まるって」

女「まあ、成り行き?」

男「物書きとしてそれは情けないと思わないのかね」

女「物語を書いててプロットどおりにキャラクターが動かないなんてザラだよ」

男「それっていいの」

女「キャラクターの一人歩きって奴だね」

男「字の感じからして振り回されてる感が」

女「まあ、否定はしない」

77: 2011/07/06(水) 00:08:47.50 ID:LpFylAoa0
女「妹さんは結構簡単に認めてくれそうだし」

男「あいつは……うん」

女「後は君なんだよ」

男「泊りか」

女「そう」

男「構わないけど、どこで寝るつもり?」

女「うーん。要相談、だねえ」

男「君ね……」

女「いっそここでもいいよ」

男「風邪ひくよ」

女「ん。そっか……」

男「……」

79: 2011/07/06(水) 00:12:40.28 ID:LpFylAoa0

女「……ん、……」コク

男「……」

女「……」コクン

男「……」

女「……すぅ」

男「……おーい」

女「ん……だいじょぶ」

男「何処が……?」

80: 2011/07/06(水) 00:16:59.85 ID:LpFylAoa0
男「……起きろ、陰鬱少女」ユサユサ

女「ん……寝てた?」

男「舟こいでた」

女「う、うぐ……ごめんね、やっぱり時代物はまだ早かったみたい」

男「気をつけてくれよ」

女「はい。……ところで私の事なんて呼んだ?」

男「文学少女」

女「……ならいいけど」

男「うん」

81: 2011/07/06(水) 00:21:29.37 ID:LpFylAoa0
男「目覚ましに蜜柑でも食べようか」

女「目覚ましになるかな」

男「まあまあ」ヒョイ

女「ひょい。ありがと」

男「ん」

女「……あー。これは言い訳じゃないけど」

男「うん?」ムキムキ

女「私、不器用なんだよね」

男「……へえ」

女「だから、どうしても蜜柑はサル剥きになっちゃうんだよね」

男「それ、言い訳?」

女「くらえ蜜柑汁」プシャッ

男「うわっ!」

82: 2011/07/06(水) 00:25:05.99 ID:LpFylAoa0
男「あいてて……頼んでくれれば剥いてあげたのに」

女「変な所で優しいんだねえ、陰険君はー」

男「まあ、これでもホストだからね」

女「よく言うよ」

男「全くだ」

女「……」

男「……」

女「美味しいね」

男「うん」

83: 2011/07/06(水) 00:28:09.37 ID:LpFylAoa0
女「なんていうかな」

男「ん」

女「本当は本読む為に来るつもりだったんだけどね」

男「そうですね」

女「計画通りいかないもんだね」

男「そんなもんだよ」

女「……でも、まあ」

男「……」

女「こうして、君とコタツで温まりながら蜜柑を食べて」

女「変な話で笑いあうって言うのも……」

女「私、好きかもしれないな」

男「……」

85: 2011/07/06(水) 00:30:50.40 ID:LpFylAoa0
女「……君は?」

男「え?」

女「君は……こういうの……好き?」

男「……どうした、突然?」

女「えっ!? や、えっと……なんとなく、知りたかったから……」

男「……そりゃ、好きだよ」

女「……」

女「そ……そっか」

男「うん……」

女「……」

男「……」

87: 2011/07/06(水) 00:34:29.41 ID:LpFylAoa0
女「……あ、あの――」

妹「ふいー、終わった終わったー」スタスタスタ

男・女「」ビクッ!!

妹「んん! ……お二人さん、仲睦まじく団欒中ですか」

男「あ、ああ……お疲れ」

妹「隅に置けないなーお兄ちゃん!」ニヤニヤ

男「な、何言ってんだ……」

女「え、えっと妹さん、相談があるんだけど……」

妹「はい、なんでしょう?」

女「今日、私ね――」

88: 2011/07/06(水) 00:37:47.09 ID:LpFylAoa0
妹「お安い御用です!」ドンッ

女「そっか。ありがとう」

妹「いえいえ、女先輩の為なら! 地の果て! 空の果て!」

男「……やたら好かれてるね」

女「あ、はは……」

妹「そりゃお兄ちゃんの彼女なんですからそりゃもう――」

男「うぇ、ちょ、ちょっと待て妹」

妹「うん? なあに」

男「別に彼氏彼女の関係じゃないから」

妹「えー?」

女「そ、そうだよ妹さん。男くんの言うとおり……」

男(……男くんとか呼ばれるの、何ヶ月ぶりだろう)

89: 2011/07/06(水) 00:41:16.79 ID:LpFylAoa0
妹「……あんまり納得行きませんが、女先輩の言う事なら信じましょう」

女「ありがと……」

男「……そろそろ、お風呂の時間だね」

女「本当だ」

妹「では、誰から入ります?」

男「流石に男の俺が一番先は駄目だろう」

妹「でも最後だと私たちの出汁が……」

男「……お前、テンション高いな」

妹「にっひっひ」

90: 2011/07/06(水) 00:45:40.36 ID:LpFylAoa0
妹「じゃ、行ってくるね」

女「覗きにきちゃ駄目だよー」

男「分かってるよ」

スタスタ

男「……ふう」

男「結局二人で行ってしまった」

男「ここからじゃ流石に……声は、聞こえないよな」

男「……聞こえても困るけど」

92: 2011/07/06(水) 00:49:00.84 ID:LpFylAoa0
男「はー……」ドデ

男「……好き、か」

男「あれは……俺限定、だったのかな……?」

男「……だったら、そりゃ、嬉しい」

男「……嬉しい」

男「……でも」

男「俺は嘘つきだ」

男「……幻滅されて、愛想つかされたら……それで」

男「……往々にして上手くいかない、もんな」

男「一人歩き、かあ……」

94: 2011/07/06(水) 00:53:52.55 ID:LpFylAoa0
――

妹・女「ただいまー」

男「……おかえり」

妹「ふー。いい湯だった」

女「楽しい湯だったね」

妹「ですねっ!」

男「ん。じゃあ、入ってくる」

女「いってらっさー」

妹「蜜柑残しておこうか?」

男「頼む」

妹「はいほー」

95: 2011/07/06(水) 00:55:00.94 ID:LpFylAoa0
――脱衣場

男「……」ヌギ

男「着た物かごは……あった」

男「……う」

男「この脱ぎ方は……二人とも警戒心無さすぎじゃないか……?」

男「妹のは白……か……ふむ」

男「女、のは……み、水た」

男「……」

男「ぬおおおおおお」ガラララ

97: 2011/07/06(水) 00:58:23.73 ID:LpFylAoa0
――風呂場

男「……久しぶりに自分が童Oであることを認識させられる光景だった」

男「……精進しよう」

男「……」ブクブク

男「そういや、昔……似たような事、あったなあ」

男「あれは妹だったけど」

男「まさか着替え中に鉢合わせるなんて現実であるとは思わなかった」

男「……女の方は、どうかな」

男「……部室行ったら寝てた事あったな……」

男「油性ペンで悪戯したっけ……」

98: 2011/07/06(水) 01:01:29.62 ID:LpFylAoa0
男「……はあ」

男「思い返してみれば……今も昔も、思い通りに行かない事だらけだ」

男「そういう風に出来てるのかな」

男「それにしたって……ちょっと理不尽だ」

男「……たまには、計画通り進んで欲しい」

男「……だから」

男「俺が本を読んで小説を書いて」

男「女に負けないくらい文学に詳しくなって」

男「女をびっくりさせなおす事くらいなら」

男「……計画通り、進んでもいいはずだ」

男「……そうしないと、困るんだ」

100: 2011/07/06(水) 01:05:00.69 ID:LpFylAoa0
男「今からでも遅くない、よな……?」

男「そうだよな……うん。頑張ろう」

男「まずは女に、お勧めの本でも教えてもらったりして……」

男「そうして……ずっと詳しくなったら……」

男「その時は……」

男「……」カー

男「……うあ、暑くなってきた」

男「早く出よう……」ザバァ

101: 2011/07/06(水) 01:06:15.21 ID:LpFylAoa0
――

男「ただいま」

妹「おかえりー」ムシャムシャ

男「あれ……女は?」

妹「本人いない時は居ない呼び捨てなんだ?」ニヤニヤ

男「うるさい。……で、何処だ?」

妹「んー。もう寝ちゃったよ」

男「ん。そうか」

妹「残念?」

男「まあね」

妹「ほー」

102: 2011/07/06(水) 01:08:09.65 ID:LpFylAoa0
妹「うちに人が泊まりに来るなんて、いつぶりだろうねえ」

男「初めてじゃないか?」ムキムキ

妹「かもね。しかも……おにいちゃんの彼女!」

男「だから彼女じゃないって」

妹「……好きなくせに」

男「……それとこれとは違う」

妹「さっき、女先輩の話、聞いたよ」

男「……」

妹「先輩もね」

妹「お兄ちゃんのこと、好きだってさ」

103: 2011/07/06(水) 01:10:30.62 ID:LpFylAoa0
男「……冗談は、やめろよ」

妹「私ね、自慢じゃないけど今まで嘘だけは吐いたこと無いんだよ」

男「……知ってる」

妹「だから今のも、お兄ちゃんをからかう為の言葉じゃないし、慰めでもない」

妹「そういう事実だから」

男「……」

妹「お兄ちゃん。別に急かすつもりは無いけどさ」

妹「両思いのまま、告白しないまま、この関係を維持したい訳?」

男「……それ、は」

妹「好きなんだよね。付き合いたいんだよね」

妹「じゃあ、素直になろうよ」

104: 2011/07/06(水) 01:12:17.59 ID:LpFylAoa0
男「……それは、出来ない」

妹「……どうして?」

男「俺はまだ……女と付き合う資格は無いよ」

妹「……資格って」

男「今、あいつに包み隠さず自分の事を話してしまったら」

男「きっと、幻滅される」

男「なんで今まで嘘ついてきたんだって」

男「文学の事、何も知らないじゃないかって」

妹「……」

男「だから俺は……いっぱい本を読んだり、書いたりするって決めたんだ」

男「追いつくって訳じゃないけど……それでも、あいつと出来る限り近い位置で話が出来る程度には」

106: 2011/07/06(水) 01:14:12.20 ID:LpFylAoa0
妹「……ふふ。そっか」

男「……変、だったか?」

妹「んーん。お兄ちゃんらしいよ……本当にね……」

男「……要領が悪いとは、思うよ」

妹「まあね。……でもお兄ちゃん、一つだけ、勘違いしてるよ……?」

男「え?」

妹「……さ! 明日も早いし! もう寝よ?」

男「え、おい――」

妹「私、トイレ行ってくるから。おやすみ、お兄ちゃん」スタスタ

男「あ……ああ」

107: 2011/07/06(水) 01:15:56.79 ID:LpFylAoa0
――階段

男「……よく分からんな……」

男「勘違い、か……まあ俺だしなあ……」

男「……」

男「……ああ、そうだよ。好きだよ」

男「でも……それでも」

男「俺は、一から学ばないと」

男「……はー。今日はさっさと寝よう――」

ガチャ

女「……あ」

男「――……え」

108: 2011/07/06(水) 01:17:47.73 ID:LpFylAoa0
女「……やっほ」

男「な……なんで、君」

女「んー。寝る場所といったら、ここくらいしか思いつかなくて」

男「い、妹の部屋でよかったじゃないか……」

女「そうなんだけど……さ」

男「……」

女「……すっきり、してるんだね」

女「本も……何も、無い、けど」

男「……っ」

女「本当は……小説も、書いたこと無いんでしょ?」

110: 2011/07/06(水) 01:19:54.99 ID:LpFylAoa0
バンッ!!

女「わっ!?」

男「すまなかった」

女「え、え……」

男「ずっと嘘ついてたんだ。君に凄いって言ってもらいたくて、ずっと詳しい振りをしてきたんだ」

女「男、くん……」

男「本当は何も知らなかったんだ。ちゃんと小説を読んだ事も、小説を書いたことなんて一度も無かった!」

女「……」

男「だから、これじゃまずいと思って――これから、色々本とか読もうとしてたんだ。
  君と話を出来るようになりたかったんだ」

男「なのに……さ。すぐばれちゃったよ。
  やっぱりこんな、プロットにも無かった後付けの計画は……上手くいかないんだ」

男「……幻滅するよな。ごめん。俺はもう、何も言えない……」

女「……」

112: 2011/07/06(水) 01:22:22.52 ID:LpFylAoa0
女「……ねえ、男くん」

男「……」

女「君の言い分は分かった。納得した。とっても、驚いたよ」

女「……でもね」

女「君は一つ、勘違い、してるよ」

男「……?」

女「私がさ――」

女「そんな事を知ったくらいで、君の事を嫌いになる訳無いでしょ?」

男「……え」

女「……大丈夫だよ、男くん」ギュウ

男「え……え?」

114: 2011/07/06(水) 01:24:25.63 ID:LpFylAoa0
女「たとえ何も知らなくてもさ」

男「……」

女「君は、私の作品を読んでくれる唯一の読者なんだよ」

男「……っ」

女「感想がどんなに的外れだったとしても」

女「私は君がいる事が、一番嬉しい事だから」

男「……なんていうか、さ」

女「……うん」

男「……ごめん」

女「……」

男「でも……」

男「……ありがとう」

女「……うん。いいから」

115: 2011/07/06(水) 01:25:43.64 ID:LpFylAoa0
男「……この計画は簡単に崩れちゃったけど」

女「ん……?」

男「でも、いい機会だ。本を読んだり……してみようかと思う」

女「うん。……ふふ、私のお勧めをいっぱい教えてあげようじゃないか」

男「ああ、頼んだよ。……後、さ」

女「うん?」

男「えーと。……その、ね」

女「……なにさ」

男「今なら……多分、失敗しないんじゃないかって、計画があるんだ。
  ……言っていいかな?」

女「え……うん……なんだろ」

男「……じゃあ、言うよ――」



男「――俺は、君の事が好きだ」



終わり

118: 2011/07/06(水) 01:27:23.28 ID:NyLm9+r30

引用元: 女「ねえ、暇だよー」男「後もう少しだから待って」