286: 2019/03/06(水) 00:58:34.12 ID:KVFCSo750
千歌「勇気は君の胸に」【前編】
果南「使用者が氏なない限りこのリングが外れる事は無いの」
千歌「じゃあ……果南ちゃんは……助からない……」
果南「運が悪いんだよな……個人的には先に聴覚の方が良かったのに」ガッカリ
果南「戦闘中に目が見えなくなるのはホント勘弁して欲しい」
曜「そういう問題じゃ――」
千歌「……どうしてそんな力を手に入れたの?」
果南「ん?」
千歌「自分が氏んじゃうのが分かっていたのに……どうして?」
果南「……少し、昔話をしようか」
果南「私にとってかけがえのない二人の友達との出会いと、それを失うまでの話をね―――」
287: 2019/03/06(水) 01:03:08.86 ID:KVFCSo750
~~~~~~~~~~~~~
二人と初めて会ったのは小学生の頃。
私達は同じクラスだった。
すぐに仲良くなったんだけど、キッカケは正直よく覚えていない。
席が近かったからよく話したからか、たまたま班が一緒だったからか、大した理由は無いと思う。
名前は『黒澤 ダイヤ』と『小原 鞠莉』
二人はいつも一緒。鞠莉の身の回りのお世話をダイヤがやっていた。
他のクラスメイトもいつも余所余所しい接し方だったのが当時不思議で堪らなかったんだ。
その理由を知ったのは小学校高学年に上がった時だ。
何となーく今まで気になっていた事を聞いてみたら二人共キョトンとしてね……。
鞠莉は『なるほど! だから今まで……フフ、アハハハ!!』と大笑い。
ダイヤは呆れ顔だったけれど丁寧に説明してくれた。
ダイヤと鞠莉は王族の人間で、鞠莉は次の女王様候補だった。
黒澤家と小原家が王族だって事は知っていた。
でもダイヤと鞠莉は苗字が同じなだけだと思っていたからこの時は驚いた。
けど友達が未来の女王様だって事はとても誇らしかったし、それを護衛しているダイヤの事も尊敬していた。
二人の正体を知った後も私達の関係性に特に変化は起きず、そのまま同じ中学、高校と進んでいった。
288: 2019/03/06(水) 01:08:30.28 ID:KVFCSo750
――問題が発生したのは高校卒業後の進路を決める時。
特にやりたい事が無かった私はダイヤと鞠莉と同じ進路にしようとしていたの。
成績は上位の方だったから二人がどんな大学を選ぼうと大丈夫だった。
――二人は大学進学を選ばなかった。
鞠莉は王位継承に向けて、ダイヤは守護者になる為の本格的な準備に入ると聞いた。
完全に失念していたよね……私と二人は身分が違う、この事実を思い知らされた瞬間だった。
これから先は別々の道を進む。以前のように会う事も出来なくなると思うと少し寂しかった。
仕方ないよね……今までが特別だったんだもん。
卒業式の日。
私はこれまでの感謝の気持ちと、自分の進路をダイヤと鞠莉に告げた。
こうやって会えるのも今回が最後だと思うと涙無しには話せなかったよ。
そんな私に対し、二人の反応は予想外過ぎた。
鞠莉は何故か凄く怒っていたし
ダイヤはあの時と同じ呆れ顔だった。
ダイヤ『――呆れた……ここ最近ずっと浮かない顔をしていると思ったら……はぁ』
果南『な、何さ!? だって会えるのはこれで最後なんだよ!』
ダイヤ『どうして最後なんです?』
果南『どうしてって……そりゃ、鞠莉は女王様になっちゃうし、ダイヤも守護者になるじゃん』
果南『二人は平民の私じゃ手の届かない場所に行っちゃう……』
ダイヤ『そうですわね』
果南『ほら、間違ってないでしょ?』
289: 2019/03/06(水) 01:09:45.20 ID:KVFCSo750
ダイヤ『果南さんが こ・の・ま・ま 普通の進路を歩むなら二度と会う事は無いでしょう』
果南『……は?』
ダイヤ『いいですか? この国には女王を守る守護者は六人居ます』
果南『そんなの知ってるよ』
ダイヤ『現在の守護者達の任期は鞠莉さんが王位継承式を向かえたタイミングで終了するのです』
果南『……だから?』
ダイヤ『……鈍いですわね』
ダイヤ『新女王である鞠莉さんの守護者はまだ決まっていない、もっと言えば“これから”決めるんですよ』
果南『っ!』
ダイヤ『だから、わたくしもこれから守護者になる“準備”をするのです』
果南『じゃあ……もし私も守護者に選ばれれば……っ!!』
ダイヤ『理解出来たようですわね』
果南『……は?』
ダイヤ『いいですか? この国には女王を守る守護者は六人居ます』
果南『そんなの知ってるよ』
ダイヤ『現在の守護者達の任期は鞠莉さんが王位継承式を向かえたタイミングで終了するのです』
果南『……だから?』
ダイヤ『……鈍いですわね』
ダイヤ『新女王である鞠莉さんの守護者はまだ決まっていない、もっと言えば“これから”決めるんですよ』
果南『っ!』
ダイヤ『だから、わたくしもこれから守護者になる“準備”をするのです』
果南『じゃあ……もし私も守護者に選ばれれば……っ!!』
ダイヤ『理解出来たようですわね』
290: 2019/03/06(水) 01:12:06.58 ID:KVFCSo750
鞠莉『……果南の事だからそれくらい考えているって信じてたのにっ!』ムスッ
果南『ご、ごめん……』
果南『――でも、これからどうするべきかは決まったよ』
ダイヤ『ふふ、いい顔です』
鞠莉『守護者選定に私の私情は挟められない。その人物が守護者に相応しいかどうか決めるのはリングだから』
ダイヤ『それでも必要最小限の実力が無ければ選考段階で落とされます』
ダイヤ『継承式は一年後、時間はあまりありません』
果南『分かってるさ。キッチリ仕上げるよ』
果南『ダイヤも油断して不合格なんて事にならないでよ?』ニヤッ
ダイヤ『やかましいですわ。自分の心配だけしていなさい』
鞠莉『寂しいけれど、暫しのお別れだね……』
ダイヤ『何を言っているのです? 全然寂しくは無いでしょう』
果南『一生の別れが、たったの一年になったんだ。すぐにまた会える!』
鞠莉『っ! ……ええ、そうね!』
果南『――待っててね、二人共』ニッ
291: 2019/03/06(水) 01:14:30.16 ID:KVFCSo750
――こうして、私は守護者になる為の特訓を開始したんだ。
本来ならたった一年でどうにかなるハードルじゃない。
ちょっと鍛えただけで国を護る兵士の試験を突破出来る程甘くはないのだから。
でも、私の場合は事情が少し違う。
実は中学に入った頃からダイヤと一緒に色々な訓練をしていたんだ。
戦闘訓練は一通りマスターしていたし、勿論リングを使った技の習得も済んでいた。
思い返せば、ダイヤがこの訓練に私を誘ったのはこの時の為だったんだ。
……ダイヤが呆れるのも無理ないよね。
私は一年間、基礎トレーニングとダイヤと一緒に六年間学んだ事の総復習を毎日毎日繰り返した。
選考会当日までそれはもうあっという間に時間は過ぎ去っていった……卒業式がつい昨日の事のように感じたよ。
属性ごとに会場が分けられ、私はダイヤとは別会場で選考会に臨んだ。
――選考自体は余裕で通過出来た。
そもそも誰一人落とされなかったんだよ。
私の一年間の努力は一体……。
本番はここから。
Aqoursリングに炎が灯るか否かだ。
守護者選定の全てはここにかかっている。
どんなに強力な技を習得していても、別のリングでは高純度の炎が出せていても
Aqoursリングが使えるかどうかは別の話なんだ。
最終選考は次々と進み、遂に私の順番が回ってきて―――。
292: 2019/03/15(金) 23:16:53.35 ID:Nz8jNFF10
―――ガチャッ!!
果南『――ダイヤ、鞠莉!! やった! 私やったよ!!』
鞠莉『果南っ、良かった……!!』ウルウル
ダイヤ『まあ、当然の結果ですわね。わたくし はこれっぽちも心配していませんでしたし』
ルビィ『……お姉ちゃんの嘘つき』
鞠莉『そうよ、さっきまで何かブツブツ口にしながら部屋中歩き回っていたじゃない』
ルビィ『「心配する必要は無い……何も心配は無いですわ……」とか「大丈夫……大丈夫ですわ」とか言ってた』
ダイヤ『ちょっ、二人共!!?///』カァッッ
果南『ダイヤ……心配かけてごめんね』
ダイヤ『だ・か・ら! 心配してないと言っているでしょう!』プイッ
果南『ふふ♪ ダイヤもバッチリ守護者になれたんだ』
ダイヤ『当たり前でしょう』
果南『ルビィも守護者に?』
ルビィ『ううん、私は鞠莉さんの補佐役になったよ』
鞠莉『この国のNo.2ね』
果南『マジか!? 凄いじゃんルビィ! ……あ、ルビィ様になるのか』
293: 2019/03/15(金) 23:20:36.26 ID:Nz8jNFF10
ダイヤ『ルビィの事は以前話したではありませんか……』
果南『そうだったけ?』
ダイヤ『あとこれからは鞠莉さんの事も“鞠莉様”か“女王様”と呼ぶように』
鞠莉『ええーっ、私は今まで通りの呼び方がいい!』
ダイヤ『あの頃とは私達は立場が違うのです。上下関係はしっかりとしなければ』
果南『なら、ダイヤは妹のルビィも“ルビィ様”って呼ぶつもり?』
ダイヤ『ええ』
ルビィ『何かちょっと嫌だな……』
ダイヤ『心配しなくともすぐに馴れます』
鞠莉『何はともあれ、これでまたみんな一緒になる事が出来たわ!』
鞠莉『私とルビィは国のトップとして、ダイヤと果南は守護者として、浦の星王国をより良い国にしていきましょう!』
ルビィ『うんっ!』
ダイヤ『ええ!』
果南『うん、頑張ろう!』
果南『そうだったけ?』
ダイヤ『あとこれからは鞠莉さんの事も“鞠莉様”か“女王様”と呼ぶように』
鞠莉『ええーっ、私は今まで通りの呼び方がいい!』
ダイヤ『あの頃とは私達は立場が違うのです。上下関係はしっかりとしなければ』
果南『なら、ダイヤは妹のルビィも“ルビィ様”って呼ぶつもり?』
ダイヤ『ええ』
ルビィ『何かちょっと嫌だな……』
ダイヤ『心配しなくともすぐに馴れます』
鞠莉『何はともあれ、これでまたみんな一緒になる事が出来たわ!』
鞠莉『私とルビィは国のトップとして、ダイヤと果南は守護者として、浦の星王国をより良い国にしていきましょう!』
ルビィ『うんっ!』
ダイヤ『ええ!』
果南『うん、頑張ろう!』
294: 2019/03/15(金) 23:26:23.80 ID:Nz8jNFF10
――ここからの日々は凄まじいものだった。
辛い事、嫌な事、悲しい事も沢山あったけれど、とても充実していたよ。
鞠莉はすぐに民に慕われる女王になった。
これまでの女王は護衛の関係上、祭典の時と国交の時以外は城の外に出ない。
でも鞠莉は国民との交流を優先したんだ。
城に居ても今抱えている問題をきちんと把握出来ない。
実際に会って話す事で初めて分かる事の方が多いんだって鞠莉は言っていた。
守護者全員、鞠莉が外出する度にピリピリしていた一方、止めた方がいいとは誰一人言わなかった。
みんな、鞠莉のこの考え方は浦の星王国をより良くしていくと信じていたからね。
鞠莉『―――私ね、この国が大好きなの』
果南『……突然どうしたのさ?』
鞠莉『私の代から今まで色んな人々と会ってたり話したりしてるじゃない?』
鞠莉『その時のみんなが凄く明るくて、シャイニーな笑顔が眩しくて……まだまだ未熟な私に頑張れって言ってくれて……』
鞠莉『それが凄く嬉しかったわ』
果南『……うん』
ダイヤ『……』
鞠莉『だからね、私は大好きなこの国をもっと良くしたい! 全員がシャイニーな笑顔で暮らせる、そんな国にしたいの!』
ダイヤ『鞠莉様ならきっと出来ますわ』
果南『だって鞠莉だもんね!』
ダイヤ『鞠莉“様”でしょう! いい加減呼び方を改めなさい!』
295: 2019/03/15(金) 23:30:20.19 ID:Nz8jNFF10
果南『ええーーっ、三人の時くらいいいじゃん!』
ダイヤ『いっっつも付けて無いでしょうが!!』
果南『ダイヤの石頭め』
ダイヤ『はあ!?』
鞠莉『もうダイヤってば、短気は損気デース♪』
果南『そーだそーだ』
ダイヤ『……っ』ブチッ
鞠莉『……あっ』
果南『やっば』
ダイヤ『……果南、表に出なさい』
鞠莉『だ、ダイヤ……? 守護者同士の戦闘行為は禁止よ……?』
ダイヤ『戦闘? 安心して下さい……ただ話し合うだけですよ、ええ』
ダイヤ『うふ、うふふふふ……』
果南『あ、あはははは』
果南『はぁ……マジか』
鞠莉『ファイト、果南っ♪』
鞠莉なら将来きっと最高の女王様になる。
今までのどの先代の女王様よりもきっと
最善最良の女王様に。
そう、信じていたんだ―――。
296: 2019/03/15(金) 23:33:20.27 ID:Nz8jNFF10
~~~~~~~~~~~~~
~三年前 浦の星王国 王都~
果南「……むぅ」
梨子「いつまで不貞腐れているんですか?」
果南「だって! なんで私がお留守番組なのさ!?」
梨子「もう二日間も同じことボヤいてるじゃないですか!」
果南「……」ムスッ
梨子「理由はダイヤさんから説明されたのでは?」
果南「そうだけどさぁ……」
ダイヤ『――果南さんは梨子さんと一緒に王都に残って下さい』
果南『はあぁ!? なんでさ!?』
ダイヤ『守護者全員が国を離れるわけにはいかないじゃないですか』
果南『そんなのは分かってるよ!』
果南『梨子が留守番なのは理解できるよ。でも私がそっちに選ばれなかった理由は!?』
鞠莉『私が果南を指名したからよ』
果南『鞠莉!』
鞠莉『梨子一人でも支障は無いと思うけど、どんな事にも不測の事態はつきもの。万が一の為にも、守護者は二人以上残しておきたいの』
果南『今回の会合には虹ヶ咲と音ノ木坂の女王と守護者も参加するんだよね?』
ダイヤ『予定ではそうなっています』
果南『私はまだ一度も会った事が無いんだよ? 二人は幼い頃に何度も会ってるのにっ!!』
297: 2019/03/15(金) 23:44:39.83 ID:Nz8jNFF10
果南『ズルいズルい! 今回は譲ってよダイヤ!!』
ダイヤ『あなた……子どもですか?』
果南『何とでも言え! 参加する為ならプライドだって捨ててやるんだからな!』
ダイヤ『はぁ、呆れた』
鞠莉『果南、何を言おうともあなたの参加は認めないわ』
果南『うっ……そんなぁ……っ』ジワッ
鞠莉『別に果南に意地悪したくてこんな事を言っている訳じゃないのよ?』
果南『じゃあ何なのさぁ?』
鞠莉『果南なら私が留守の浦の星を任せられると信じているから』
果南『ならダイヤでもいいじゃん……』
鞠莉『ダイヤはこういう事に慣れているから連れて行くだけよ』
鞠莉『他の守護者が信用出来ない訳ではけど、果南の方が付き合いも長いからさ』
果南『でも……』
鞠莉『別にこれが最後会合じゃ無いわよ。次回は連れて行くから機嫌直してよ、ね?』
果南『……分かった』ムスッ
鞠莉『いい子ね♪』
ダイヤ『全然納得した顔をしてませんけどね』
果南『ダイヤ、しっかり鞠莉を護衛するんだよ!』
ダイヤ『言われるまでもありませんわ』
ダイヤ『果南さんも留守は任せましたからね』
果南『はいよ』
鞠莉『じゃあ、行ってくるわね~♪』フリフリ
298: 2019/03/15(金) 23:50:27.91 ID:Nz8jNFF10
果南「……はぁ」ガッカリ
梨子「国の防衛も重要な仕事なんですから、やる気出してください」
果南「分かってるよぉ……だからこうして街を一緒に徘徊してるじゃん」
梨子「一緒にってのがダメな気がしますけど……」
果南「城に居た所でやる事無いんだし」
果南「そもそもどこの誰が攻めてくるってのさ」
梨子「今回の会合には浦の星、虹ヶ咲、音ノ木坂の女王とその守護者が参加しているんですよね」
果南「そうそう」
梨子「近年は比較的良好な関係になってきたとは言え、長い間いがみ合って来た国同士の長が直接会うとは……」
梨子「文書やテレビ電話、時には戦争でしかやり取りをしてなかった時代からしてみれば良い流れなのかもしれない」
果南「良い流れねぇ……」
梨子「果南さん?」
果南「……ここ数年でグッと仲が良くなったよね」
梨子「ええ」
果南「それも不気味なくらい」
梨子「……ええ」
299: 2019/03/15(金) 23:53:38.78 ID:Nz8jNFF10
果南「水面下で半世紀近くも緊張状態が続いていた三か国が短期間でこれほど関係が好転するわけが無い」
梨子「裏で何らかの条約が結ばれた、とかでしょうか?」
果南「もしくは争いを中断せざるを得ない事態が発生した」
梨子「共通の敵が現れたという事ですか?」
梨子「それなら争っている場合では無いですけど……」
梨子「だとしたら、私達にも知らされていない理由は?」
果南「……確かに。もしそうなら守護者の私達にも話が来てるか」
梨子「ですよね」
果南「やっぱ、私の考えすぎかな」
梨子「仲が良くなるのはいい事なんだから素直に喜ぶべきですよ!」
果南「それもそっか」
果南「はぁ……今頃ダイヤ達は何やってるのかなぁ」
梨子「女王様が揃ってるんだし美味しい料理が沢山出てきていたりするのかな?」
果南「美味しい……料、理……っ!!」
梨子「裏で何らかの条約が結ばれた、とかでしょうか?」
果南「もしくは争いを中断せざるを得ない事態が発生した」
梨子「共通の敵が現れたという事ですか?」
梨子「それなら争っている場合では無いですけど……」
梨子「だとしたら、私達にも知らされていない理由は?」
果南「……確かに。もしそうなら守護者の私達にも話が来てるか」
梨子「ですよね」
果南「やっぱ、私の考えすぎかな」
梨子「仲が良くなるのはいい事なんだから素直に喜ぶべきですよ!」
果南「それもそっか」
果南「はぁ……今頃ダイヤ達は何やってるのかなぁ」
梨子「女王様が揃ってるんだし美味しい料理が沢山出てきていたりするのかな?」
果南「美味しい……料、理……っ!!」
300: 2019/03/15(金) 23:56:28.38 ID:Nz8jNFF10
果南「……梨子、私達も今から美味しい物食べに行こうか」
梨子「果南さんの奢りでなら」
果南「決まりだね!」
梨子「何を食べようかな………あれ?」
果南「どうかしたの?」
梨子「あれって……ダイヤさん?」
果南「ダイヤだって? いやいや、まだ帰って来てるはず無いじゃん」
梨子「なら向こうから歩いて来る人は誰……?」
果南「ボロボロな格好しているあの人? ぱっと見、訳アリって感じだ……け……ど………」
ダイヤ「……」フラフラ
果南「うそ……ダイヤっ!?」ダッ
梨子「ちょっ、待って下さい!」
果南「ダイヤ!!」
ダイヤ「……あぁ、果南さんですか」
果南「果南さんですか、じゃないよ!」
果南「何でダイヤがこんな場所に居るのさ!?」
ダイヤ「……」
301: 2019/03/16(土) 01:15:26.20 ID:Mv6rJ+dn0
梨子「服もボロボロ……み、右腕も無いじゃないですか……っ!?」
果南「何があったの!? 鞠莉はどうしたの!!?」
ダイヤ「……ました」
果南「何?」
ダイヤ「――……鞠莉は氏にました。もうこの世には居ません」
果南「……………は?」
ダイヤ「あの場に居た虹ヶ咲、音ノ木坂の女王及び守護者も全員氏亡。浦の星の守護者もわたくし以外は全員氏亡しました」
梨子「え……氏、亡……?」
果南「ちょっと……」
ダイヤ「他国のリングの回収は出来ましたがAqoursリングは霧以外は行方不明ですわ。恐らくこの島全域に散らばったのかと」
果南「ちょっと待ってよ、そんな事より……」
ダイヤ「国のトップと最高戦力のほとんどが氏亡した今、虹ヶ咲と音ノ木坂を落とすには絶好のタイミングで―――」
果南「――ダイヤッ!!!」グイッ!!!
梨子「果南さん!?」
ダイヤ「……胸倉なんて掴んで、苦しいですわね」
果南「何が起きたか全然理解できない……きっとダイヤがここまで帰って来られたのは奇跡的で喜ぶべきなんだと思う」
果南「けどっ!! けどどうして……」
果南「――どうしてダイヤが側に居ながら鞠莉が氏んだ!!!!?」
ダイヤ「……」
果南「答えろ!! ダイヤっ!!!」
果南「何があったの!? 鞠莉はどうしたの!!?」
ダイヤ「……ました」
果南「何?」
ダイヤ「――……鞠莉は氏にました。もうこの世には居ません」
果南「……………は?」
ダイヤ「あの場に居た虹ヶ咲、音ノ木坂の女王及び守護者も全員氏亡。浦の星の守護者もわたくし以外は全員氏亡しました」
梨子「え……氏、亡……?」
果南「ちょっと……」
ダイヤ「他国のリングの回収は出来ましたがAqoursリングは霧以外は行方不明ですわ。恐らくこの島全域に散らばったのかと」
果南「ちょっと待ってよ、そんな事より……」
ダイヤ「国のトップと最高戦力のほとんどが氏亡した今、虹ヶ咲と音ノ木坂を落とすには絶好のタイミングで―――」
果南「――ダイヤッ!!!」グイッ!!!
梨子「果南さん!?」
ダイヤ「……胸倉なんて掴んで、苦しいですわね」
果南「何が起きたか全然理解できない……きっとダイヤがここまで帰って来られたのは奇跡的で喜ぶべきなんだと思う」
果南「けどっ!! けどどうして……」
果南「――どうしてダイヤが側に居ながら鞠莉が氏んだ!!!!?」
ダイヤ「……」
果南「答えろ!! ダイヤっ!!!」
302: 2019/03/16(土) 01:17:19.71 ID:Mv6rJ+dn0
ダイヤ「……それを貴女に説明して何の意味があるのです?」
果南「何だと?」
ダイヤ「説明したところで鞠莉が氏んだ事実は変わらない」
果南「ッ! 開き直ってるんじゃないよ!」
ダイヤ「最も、貴女が居ようが結果は変わらなかったでしょう」
ダイヤ「いや……氏体の数が一つ増えるだけか」フフ
果南「この……ッ!!!」グイッ
ダイヤ「……いつまで掴んでいるつもりですの?」
果南「はあ?」
ダイヤ「いい加減、その手を離しなさい」ピトッ
―――パキッ、パキパキパキ!!!
果南「ッッッ!!!?」
梨子「手が一瞬で凍り付いた!?」
ダイヤ「便利な力でしょう? リング無しでも扱えるし失った右腕も作り出せる」パキパキ
果南「な、何でダイヤが『氷河』属性の炎を使える!?」
ダイヤ「口の利き方には気を付けなさい。女王に対して無礼極まりないですわよ」
梨子「女王……?」
ダイヤ「ええ、わたくしが浦の星王国の女王となるのです」
果南「は……?」
果南「何だと?」
ダイヤ「説明したところで鞠莉が氏んだ事実は変わらない」
果南「ッ! 開き直ってるんじゃないよ!」
ダイヤ「最も、貴女が居ようが結果は変わらなかったでしょう」
ダイヤ「いや……氏体の数が一つ増えるだけか」フフ
果南「この……ッ!!!」グイッ
ダイヤ「……いつまで掴んでいるつもりですの?」
果南「はあ?」
ダイヤ「いい加減、その手を離しなさい」ピトッ
―――パキッ、パキパキパキ!!!
果南「ッッッ!!!?」
梨子「手が一瞬で凍り付いた!?」
ダイヤ「便利な力でしょう? リング無しでも扱えるし失った右腕も作り出せる」パキパキ
果南「な、何でダイヤが『氷河』属性の炎を使える!?」
ダイヤ「口の利き方には気を付けなさい。女王に対して無礼極まりないですわよ」
梨子「女王……?」
ダイヤ「ええ、わたくしが浦の星王国の女王となるのです」
果南「は……?」
303: 2019/03/16(土) 01:18:57.48 ID:Mv6rJ+dn0
ダイヤ「ルビィに鞠莉の代わりは務まらない。だからわたくしが女王になります」
果南「何勝手な事を言ってんだ! 普通に考えてルビィに決まってるでしょ!」
梨子「果南さんの言う通りです。いくら何でも無理がある」
ダイヤ「……そうですか、ならば先にルビィを始末するしか無いですわね」
果南・梨子「「!!?」」
ダイヤ「ルビィは城に居ますわね?」
梨子「ほ、本気でルビィ様を消すつもりなんですか!? 実の妹を!!?」
ダイヤ「頃しはしませんよ。先ずはわたくしに王位を譲るよう話をするだけです」
果南「脅すの間違いじゃないの……?」ギロッ
ダイヤ「果南、反抗的な態度を取るのはおススメしませんわよ」
ダイヤ「その凍った両手を今すぐ砕いたって構わないのですから」
果南「ぐッ……」
ダイヤ「今後の事は追って連絡します。それまで二人は待機していなさい」
ダイヤ「それでは」スタスタ
果南「……」
梨子「……行っちゃいましたね」
果南「うん」
梨子「一体これからどうなっちゃうんだろう……」
果南「ダイヤ……」
果南「何勝手な事を言ってんだ! 普通に考えてルビィに決まってるでしょ!」
梨子「果南さんの言う通りです。いくら何でも無理がある」
ダイヤ「……そうですか、ならば先にルビィを始末するしか無いですわね」
果南・梨子「「!!?」」
ダイヤ「ルビィは城に居ますわね?」
梨子「ほ、本気でルビィ様を消すつもりなんですか!? 実の妹を!!?」
ダイヤ「頃しはしませんよ。先ずはわたくしに王位を譲るよう話をするだけです」
果南「脅すの間違いじゃないの……?」ギロッ
ダイヤ「果南、反抗的な態度を取るのはおススメしませんわよ」
ダイヤ「その凍った両手を今すぐ砕いたって構わないのですから」
果南「ぐッ……」
ダイヤ「今後の事は追って連絡します。それまで二人は待機していなさい」
ダイヤ「それでは」スタスタ
果南「……」
梨子「……行っちゃいましたね」
果南「うん」
梨子「一体これからどうなっちゃうんだろう……」
果南「ダイヤ……」
304: 2019/03/16(土) 01:22:46.06 ID:Mv6rJ+dn0
―――間も無くしてダイヤは浦の星王国の女王となった。
ルビィとどんな話があったのか知らない。
本人が目の前に居るけれど、大体の予想は出来るし。
ダイヤの就任は公には公表されず、鞠莉が氏亡した事、女王が変わった事のみが伝えられたんだ。
女王になったダイヤが真っ先に行った事は他の二国に対しての宣戦布告だ。
他の国は女王や最高戦力である守護者の大半を失った事態を把握し切れていない。
この混乱に乗じて一気に支配しようと目論んだんだ。
国の重要な施設は勿論、街や自然も焼き払う。
抵抗してくる敵は徹底的に叩き潰す。
誰が支配者かを知らしめるため、過剰な戦力を投入して。
鞠莉達が築いてきた国同士の関係をダイヤはぶち壊したんだ。
私はそれが許せなかったんだ―――。
ダイヤ「――果南、こんな所で何をしているのです?」
果南「……」
ダイヤ「梨子と共に虹ヶ咲の守護者の生き残りを排除するように命令したはずですが?」
果南「……説得はしたんだ」
果南「でも梨子は私のお願いよりもダイヤの命令に従った」
ダイヤ「女王の命令に従うのは当然の事ですわ」
ダイヤ「だからこそ理解できない……何故、貴女は今ここに居る?」
果南「これ以上戦争を続ければ取り返しのつかない事になる」
305: 2019/03/16(土) 01:25:52.66 ID:Mv6rJ+dn0
ダイヤ「それが?」
果南「鞠莉や先代の女王達がどれだけ苦労して平和な世界を作ってきたか知ってるでしょ!?」
果南「ダイヤのしている事はそれに対する裏切り行為だ」
ダイヤ「……だから?」
果南「今ならまだ間に合う……」
ダイヤ「はぁ、何を言いだすかと思えば」
ダイヤ「――命令に従いなさい。わたくしからは以上ですわ」
果南「……そっか」
ボオォ―――!!!
ダイヤ「……何のつもりですか?」
果南「ダイヤの暴走を止める」
果南「話してもダメなら力尽くでも止めてみせるっ!」
ダイヤ「……ぷっ」
果南「ああ?」
果南「鞠莉や先代の女王達がどれだけ苦労して平和な世界を作ってきたか知ってるでしょ!?」
果南「ダイヤのしている事はそれに対する裏切り行為だ」
ダイヤ「……だから?」
果南「今ならまだ間に合う……」
ダイヤ「はぁ、何を言いだすかと思えば」
ダイヤ「――命令に従いなさい。わたくしからは以上ですわ」
果南「……そっか」
ボオォ―――!!!
ダイヤ「……何のつもりですか?」
果南「ダイヤの暴走を止める」
果南「話してもダメなら力尽くでも止めてみせるっ!」
ダイヤ「……ぷっ」
果南「ああ?」
306: 2019/03/16(土) 01:27:17.55 ID:Mv6rJ+dn0
ダイヤ「ウフフフ、アハハハハハハハッ!!!」
果南「……何が可笑しい?」ギロッ
ダイヤ「アハハハハッ……はあーあ、久々に大笑いしましたわ」
ダイヤ「力尽くでも止める? 貴女が? このわたくしを?」
ダイヤ「貴女如きが、わたくしに勝てると本気で思っているのですか?」
果南「―――ぁ」プツンッ
ダイヤ「リングに炎を灯した時点で明確な反逆行為。極刑は免れない」
ダイヤ「光栄に思いなさい、女王であるこのわたくしが直々に刑を執行致しますわ」
ダイヤ「思い残す事無いよう全力で掛かって来なさい」
ダイヤ「もっとも、一瞬で片が付くと思いますがねぇ」
果南「――上等だよ……」ギリッ
ダイヤ「いつでもどうぞ」ニコッ
果南「……ダイヤアアアアアアアァァァアァ―――!!!!!」
307: 2019/03/16(土) 01:28:34.95 ID:Mv6rJ+dn0
――私はダイヤと戦った。
勿論今まで本気でやり合った事は無かったけど、勝算はあった。
力尽くでも止めるとは言ったけれど、あの時は頃すつもりで挑んだんだ。
……その結果、私は敗れた。
右眼もこの時の戦いで潰されたんだ。
まるで歯が立たなかった。
戦いにもならなかった。
ダイヤは終始無表情。
機械的に私を処理し始めた。
息を吸って吐くだけの肉塊と化した私を凍らせては溶かし、凍らせては溶かしを繰り返す。
意識を失いかければお腹に風穴を開けて強引に起こされた。
三回目以降は数える事すらも止めた。
何度も、何度も何度も何度も何度も繰り返される。
私も流石にこの時はもうダメだと思ったよね……。
“氏にたくない”よりも“早く頃してくれ”と強く強く願った。
そして、私の意識は何の前触れもなくプツンッと途切れてしまった――。
308: 2019/03/22(金) 22:09:34.95 ID:kfSVeD8K0
果南「―――……っぁぐぅ」パチッ
ルビィ「果南さん」
果南「ル、ビィ……?」
果南「ここは……車の中、なの?」
よしみ「そうですよ」
ルビィ「よしみさんの車の中です」
果南「ん……体に力が入らない」
よしみ「当たり前ですよ。本来なら氏んでてもおかしくない怪我だったんだから」
よしみ「ルビィ様に感謝しなよ? なぶり頃しにされかかってた果南さんをギリギリで助けて下さったんだから」
よしみ「治療が後数分遅かったらあの世行き」
果南「そっか……ありがとうルビィ」
ルビィ「いえ……いいんです」
309: 2019/03/22(金) 22:17:41.94 ID:kfSVeD8K0
よしみ「予め言っておくけど、その怪我を治すのに晴の炎をフルパワーで使ったから」
よしみ「多分数十年分の寿命が縮んだと思うけど文句は言わないでね」
果南「うん、氏なずに済んだだけいいよ」
果南「でも私を助けたって事はどういう意味か分かっているの?」
よしみ「……」
ルビィ「……うん」
ルビィ「果南ちゃんを助けに入った時、一瞬だけお姉ちゃんと目が合ったの……冷たい目だった」
ルビィ「あの人はもうお姉ちゃんじゃない……完全に別人」
果南「……」
ルビィ「それに『逆らうならば頃す』って言われたの。本気だった……お姉ちゃんは本気で私に頃すって言ったんだよ」ポロポロ
ルビィ「……もう覚悟を決めるしかないと思った」
よしみ「私もダイヤ様のやり方には反対でしたから。味方するならこっち側かな、と」
果南「味方になってくれるのは嬉しいけどさ……」
果南「……私の技や匣兵器じゃ歯が立たなかった。ルビィとよしみが増えた所で意味が無いよ」
よしみ「私達が無策で飛び出してきたと思う?」
よしみ「多分数十年分の寿命が縮んだと思うけど文句は言わないでね」
果南「うん、氏なずに済んだだけいいよ」
果南「でも私を助けたって事はどういう意味か分かっているの?」
よしみ「……」
ルビィ「……うん」
ルビィ「果南ちゃんを助けに入った時、一瞬だけお姉ちゃんと目が合ったの……冷たい目だった」
ルビィ「あの人はもうお姉ちゃんじゃない……完全に別人」
果南「……」
ルビィ「それに『逆らうならば頃す』って言われたの。本気だった……お姉ちゃんは本気で私に頃すって言ったんだよ」ポロポロ
ルビィ「……もう覚悟を決めるしかないと思った」
よしみ「私もダイヤ様のやり方には反対でしたから。味方するならこっち側かな、と」
果南「味方になってくれるのは嬉しいけどさ……」
果南「……私の技や匣兵器じゃ歯が立たなかった。ルビィとよしみが増えた所で意味が無いよ」
よしみ「私達が無策で飛び出してきたと思う?」
310: 2019/03/22(金) 22:25:43.51 ID:kfSVeD8K0
ルビィ「これを見てください」ゴトゴトッ
果南「匣兵器? でも見たことないやつだね」
よしみ「これは最近開発に成功したAqoursリングでしか開口出来ない、守護者専用の匣兵器さ」
果南「っ!? 完成したんだ……」
よしみ「ルビィ様が大空、嵐、霧以外の匣を持ち出して来てくれた」
よしみ「あとは散り散りになったAqoursリングを回収して新たな適合者を見つければ……」
ルビィ「お姉ちゃんを女王から退けられる可能性はあるっ!」
果南「……それだけじゃ足りない」
よしみ「足りない?」
果南「実際にダイヤと戦った私には分かる。強力な匣兵器を使っても、ダイヤの“あの技”の前には無力なんだ」
果南「“あの技”を何とかしないと勝ち目は無い」
311: 2019/03/22(金) 22:32:11.57 ID:kfSVeD8K0
よしみ「策はあるの?」
果南「Aqoursリングの回収と同時にあのヘルリングも探し出す」
よしみ「ヘルリングに頼るのか……」
ルビィ「晴属性の果南ちゃんでも使えるヘルリング? ……って、まさか!?」
果南「私がその力を得てダイヤを倒す」
よしみ「本当に呪いの力が必要なの?」
果南「……うん」
よしみ「でも呪いを受けるのが果南さんである必要性はどこにも無い。道中で見つけた同士でも、なんなら私でもいいのでは?」
果南「よしみの力は絶対に失えないし他の人に呪いを押し付けるなんて出来ない」
果南「となれば、私以外には居ない。戦闘スタイルの面においても私が適任だと思うし」
よしみ「……っ」
果南「何はともあれ、リングも適合者も見つけ出さない事には始まらない」
果南「仲間を集めて、私達ももっと力をつけないと」
果南「過酷な日々が始まると思う……それでも私について来てくれる?」
ルビィ「うん!」
よしみ「ついて行くけど、途中でうっかり氏なないでよね?」
果南「ん……善処するよ」
312: 2019/03/22(金) 22:54:21.05 ID:kfSVeD8K0
~~~~~~~~~~~~~
果南「――これが二年前の話」
果南「こうして私達の散り散りになったリングを探しつつ、適合者を探す旅が始まった」
果南「その道中で花丸と出会ったんだ」
花丸「リングの適合者が守護者の定義とするなら今はマルが雲の守護者ずら」
果南「これまでに見つけたリングは『雲』と『雷』。残りの『雨』も場所の目星は付いている」
曜「『雨』……」
千歌「『雷』は適合者は見つかっているの?」
果南「うん。ここに居るよ」
千歌「え、誰?」
ルビィ「わ、私です……」
千歌「ルビィちゃんが!?」
果南「意外でしょ? ただ、ルビィが戦闘する事は出来るだけ避けたいけどね」
曜「それはダイヤさんを倒した後に女王になってもらう為に?」
果南「まあ……最初はそれが理由だった」
果南「私達の当初の目的はダイヤを王座から退かせる事。話し合いで解決出来ない以上、退かせる方法はダイヤを頃すしかない」
ルビィ「……でもそれじゃダメなの」
果南「私達はダイヤの氏を望んでいない。これがこの旅を始めてから辿り着いた本心」
313: 2019/03/22(金) 23:00:14.17 ID:kfSVeD8K0
曜「……何で?」
果南「ん?」
曜「果南ちゃんは頃すつもりで戦ったって言ってたじゃん。それで逆に殺されかかった」
果南「無様にも返り討ちにされたね」
曜「鞠莉さんが築き上げてきてもの全部壊した事を憎んでないの?」
果南「憎いさ、それは絶対に許さないよ」
曜「今だって色々な人に酷い事をしている。そんなダイヤさんを生かしておくべきだと思う?」
曜「本当にダイヤさんの氏を望んでいないの?」
果南「……そうだねぇ……」
果南「ダイヤは鞠莉が氏んだ事で別人に変わってしまった。冷徹で冷酷な、最低最悪の女王になってしまった」
果南「―――でもね、たとえどんなに変わってしまっても……ダイヤは私の友達なんだよ」
曜「友、達……?」
果南「友達が間違った事をしたらそれを正す。友達なら当たり前の事だよね」
果南「だから私はダイヤの所に辿り着いたら、一発ぶん殴ってやるんだ」
314: 2019/03/22(金) 23:05:20.64 ID:kfSVeD8K0
曜「分からない……それはもう友達の域を超えているよ……友達とは言っても赤の他人じゃん」
曜「自分の人生を、命まで掛けて……私には分からないよ」
果南「曜だって千歌を命懸けで守ったじゃん」
曜「それとは状況が違うよ。ダイヤさんは果南ちゃんの事をもう友達とは思ってないもん」
果南「んー、千歌なら分かるよね?」
千歌「うん、ちょっとは」
千歌「もしも曜ちゃんがって想像したら、果南ちゃんと同じ事考えると思う……かな」
曜「それは千歌ちゃんの世界の“私”の場合の話?」
千歌「それもそうだし、この世界の曜ちゃんでも同じだよ」
千歌「曜ちゃんが悪い事をしていたら止める。絶対に止めてみせるよ」
曜「……」
果南「大丈夫、曜にも理解できる日がきっと来るよ」ニッ
曜「……そうだといいな」
315: 2019/03/22(金) 23:10:31.49 ID:kfSVeD8K0
果南「いつかもう一度、ダイヤと一緒に冗談を言い合ったり笑い合ったり……そんな当たり前だった日常を取り戻す」
果南「これが私とルビィの望み、夢かな」
ルビィ「またお姉ちゃんの笑顔が見たい。……叶う、かな?」
花丸「違うずら、必ず叶えるんだよ」
よしみ「その為にここまで頑張って来たんですから!」
千歌「花丸ちゃんはどうして果南ちゃんと仲間になったの?」
花丸「マルも二人と似たような理由ずら」
千歌「友達関係って事?」
花丸「まあね。果南ちゃんと一緒の方が色々と都合が良かったから」
花丸「何も言わずに居なくなった友達を連れ戻す。それがマルの夢ずら♪」
曜「私には……みんなみたいに夢とか目的が何もない……」
果南「無理に見つけようとする必要は無いよ。私達が特殊なだけ」
花丸「そうずら。曜ちゃんだって自分から望んでこの場に居るわけじゃないんだし」
果南「はたから見れば私達、ただのテ口リストだもんね」
よしみ「曜ちゃんは元の生活に戻る為に戦えばいいんだよ」
曜「……そうなのかな」ボソッ
千歌「……」
316: 2019/03/22(金) 23:11:31.22 ID:kfSVeD8K0
果南「――さて、話はこれでお終い。花丸、明日は私と雨のリングを回収しに行くから準備しといてね」
花丸「明日っ!? その体で行くずらか!?」
果南「悠長に休んでる場合じゃ無くなったんだ」
千歌「痛みを感じないからって無茶しすぎだよ……」
よしみ「言っても聞かない人だからさ……諦めて」
果南「数日は帰って来ないから留守は任せたよ、よしみ、曜」
よしみ「うむ、任された」
曜「わ、私も?」
果南「何か変な事言ったかな?」
曜「……ううん、分かった任せてよ!」
317: 2019/03/26(火) 00:14:43.16 ID:1wzK0UIw0
~~~~~~~~~~~~~
~二日後~
曜「……ふわぁぁっ」ポケェ
よしみ「何呆けているのさ?」
曜「休憩しているだけだよー」
千歌「さっきまで花丸ちゃんから出されていたメニューをこなしてましたから!」
ルビィ「本当だからね?」
よしみ「そ、そんなに疑ってないですよ」
千歌「よしみさんが持ってるそのバスケットはなーに?」
よしみ「そろそろお腹がすく頃かなと思って」ゴソゴソ
よしみ「ほら、サンドイッチ作ってきたよ」
曜「おおーっ!」キラキラ
千歌「先に言ってくれれば手伝ったのに」
よしみ「いいのいいの」
曜「ねえねえ食べていい? 食べていいよね?」
318: 2019/03/26(火) 00:16:06.55 ID:1wzK0UIw0
ルビィ「がっつき過ぎだよぉ……」
よしみ「あはは、早く食べなよ」
曜「頂きまーーす!」
曜「もぐもぐ……ん~~、美味しい!!」
千歌「本当だ凄く美味しい」モグモグ
よしみ「ふっふっ、作った甲斐があったよ♪」
ルビィ「果南ちゃんと花丸ちゃんはちゃんと見つけられたのかな」
千歌「場所の目星は付いてるって言っていたよね?」
曜「具体的な場所は言ってなかったけれど、どこなの?」
よしみ「確か、湖の中だったような……」
千歌「湖!? ダイビングの装備なんて持って行って無かったよね」
曜「この時期に潜ったら冷たすぎて氏んじゃうよ!?」
よしみ「果南さんなら温度に関係なく潜れるから平気平気」
ルビィ「それに『熱いお茶』があれば水中呼吸もバッチリだもんね」
よしみ「あはは、早く食べなよ」
曜「頂きまーーす!」
曜「もぐもぐ……ん~~、美味しい!!」
千歌「本当だ凄く美味しい」モグモグ
よしみ「ふっふっ、作った甲斐があったよ♪」
ルビィ「果南ちゃんと花丸ちゃんはちゃんと見つけられたのかな」
千歌「場所の目星は付いてるって言っていたよね?」
曜「具体的な場所は言ってなかったけれど、どこなの?」
よしみ「確か、湖の中だったような……」
千歌「湖!? ダイビングの装備なんて持って行って無かったよね」
曜「この時期に潜ったら冷たすぎて氏んじゃうよ!?」
よしみ「果南さんなら温度に関係なく潜れるから平気平気」
ルビィ「それに『熱いお茶』があれば水中呼吸もバッチリだもんね」
319: 2019/03/26(火) 00:18:01.89 ID:1wzK0UIw0
千歌「……へ?」
曜「あ、『熱いお茶』ぁ?」
ルビィ「うん、『熱いお茶』」
曜「何で『熱いお茶』があれば水の中で息が出来るのさ?」
ルビィ「さぁ?」
曜「知らないの!?」
ルビィ「だって花丸ちゃんが本に書いてあったって言ってたんだもん!」
曜「んなアホな」
よしみ「実際に息が出来たし、深く考えなくてもいいかなと」
曜「ええっ、マジか……」
千歌「ファンタジーだなぁ」
曜「ん、待てよ……今、私はよしみさんがサンドイッチと一緒に持ってきたお茶を飲みました」
千歌「飲んだね」
曜「これは熱々のお茶でした」
よしみ「作りたてのお茶だからね」
曜「つまり……水の中で息が出来る条件が揃っている……?」
ルビィ「揃ってるね」
曜「………」
千歌「よ、よーちゃん?」
320: 2019/03/26(火) 00:20:33.11 ID:1wzK0UIw0
曜「い、いけるのか……? いやでも……まさか……」ブツブツ
よしみ「まあ嘘だけどね」
ルビィ「うん、嘘」
曜「っ!!?」
千歌「だよねー」
よしみ「――さて、そろそろ休憩はお終いだよ」
よしみ「午後からは私も一緒に付き合うからさ」
曜「はーい」モグモグ
よしみ「千歌ちゃんはルビィ様と夕食の準備をお願いね」
ルビィ「戻ろうか」
千歌「うん」
千歌「じゃあ曜ちゃん、頑張ってね~」フリフリ
何気ない、平和な日常。
勿論こんな日々が長く続くとは思っていない。
果南ちゃん達が戻ってくれば国を相手に戦いを挑む事になるんだもん。
世界を超えても出会うことが出来た大好きなAqoursのメンバー。
みんなと笑いながら過ごす日々が少しでも続けばいいのに。
それだけで私は幸せなんだ……。
…………崩壊はいつも唐突に訪れる。
よしみ「まあ嘘だけどね」
ルビィ「うん、嘘」
曜「っ!!?」
千歌「だよねー」
よしみ「――さて、そろそろ休憩はお終いだよ」
よしみ「午後からは私も一緒に付き合うからさ」
曜「はーい」モグモグ
よしみ「千歌ちゃんはルビィ様と夕食の準備をお願いね」
ルビィ「戻ろうか」
千歌「うん」
千歌「じゃあ曜ちゃん、頑張ってね~」フリフリ
何気ない、平和な日常。
勿論こんな日々が長く続くとは思っていない。
果南ちゃん達が戻ってくれば国を相手に戦いを挑む事になるんだもん。
世界を超えても出会うことが出来た大好きなAqoursのメンバー。
みんなと笑いながら過ごす日々が少しでも続けばいいのに。
それだけで私は幸せなんだ……。
…………崩壊はいつも唐突に訪れる。
321: 2019/03/26(火) 00:24:35.21 ID:1wzK0UIw0
曜「ありがとう! がんばる………ん?」
曜「あっちから誰か歩いて来るよ? お客さん?」
ルビィ「お客さん……よしみさん?」チラッ
よしみ「いや、そんなのが来るなんて聞いてません……」
千歌「あの髪色に髪形……あのシルエット………ぁ」
よしみ「……バカな!? 何でここにあの人が来るっ!!?」
曜「……っ!!」
梨子「―――……へぇ、こんな所に潜んでいたのね。裏切者さん」
ルビィ「梨、子……さんっ」
梨子「ルビィ様も元気そうで何よりです」ニコッ
ルビィ「……うゆぅ」ビクッ
322: 2019/03/26(火) 00:27:35.07 ID:1wzK0UIw0
梨子「あれ? 善子ちゃんの報告では果南さんも居るはずなんだけど、どこなの?」
よしみ「答える義理は無い」
梨子「……別に構わないわよ。今回の目的は果南さんでもルビィ様でも無いし」
梨子「――そこの君、高海 千歌に用事があるの」
よしみ「千歌ちゃんに!?」
千歌「……久しぶりだね、梨子ちゃん」
梨子「まさか、あの夜に出会った子が別世界から来てたなんて夢にも思わなかったわよ」
梨子「それに、まだその子と一緒に行動してるとも思わなかった」
曜「……」ギロッ
よしみ「どうしてこの場所が分かった?」
梨子「それは簡単よ。高海 千歌の居場所を特定する方法があったから」
千歌「私を?」
曜「発信機か何か付けられているって事!?」
梨子「ご名答♪」
ルビィ「そんなバカな……ここは花丸ちゃんが特製の結界を張っている! あらゆる電波、炎の反応だって遮断する結界を!」
よしみ「仮に発信機があったとしても、周囲三キロを覆う結界で反応は消せる」
よしみ「それ以前に部外者がこの場所に近づいた時点で私が察知出来る! ……出来るはずだったのにっ」
323: 2019/03/26(火) 00:30:56.87 ID:1wzK0UIw0
梨子「善子ちゃんが倒された時間帯に近くにあった反応を追跡したの」
梨子「あなた達の言う通り、この場所から三キロ離れた場所でロストしたわ。でもそれさえ分かれば十分」
梨子「下手に大勢で行けば探知される恐れがあったから、こうして私一人で来たって訳」
よしみ「私の探知用の結界をすり抜けるとは……流石は守護者と言うべきか」
梨子「無駄話はもういいでしょ。早く高海 千歌を渡して」
曜、よしみ、ルビィが庇うように千歌の前へと出る。
曜「簡単に渡すと思う?」
よしみ「千歌ちゃんは私達の仲間だ!」
ルビィ「……ぅ!!」
千歌「みんな……」
梨子「はぁ……まあそうなるわよね」ポリポリ
ゴオオオォォ―――!!!
梨子「―――邪魔する者は排除していいって命令されているのよ?」ギロッ
梨子の右手から凄まじい熱量の炎が発生。
彼女から放たれる突き刺さるような殺意と熱波で千歌達は一歩後ずさった。
曜「な、何なのあれ!?」
よしみ「梨子の使う炎は常人のそれとは規格が違う! 破壊力だけなら一、二を争うレベルだよ!」
324: 2019/03/26(火) 00:36:39.12 ID:1wzK0UIw0
ルビィ「き、来ます!!!」
右手から放たれる巨大な光球の炎。
曜は千歌を、よしみはルビィを抱えて左右にダイブして回避。
炎は地面を抉りながら背後にあったアジトに直撃した。
たった一撃で全体の三分の一が損傷。
鉄筋コンクリートで出来た建物は一部が一瞬で灰と化した。
梨子「避けられちゃった……」
曜「危なっ……!?」
千歌「で、デタラメな威力じゃんっ」ゾッ
よしみ「ぐ、ぐうう……」ジュウウウゥゥ
ルビィ「よしみさんっ!?」
千歌「嘘っ!?」
よしみ「申し訳、ございません……避けきれません、でした……」
ルビィ「背中が焼けただれてる……早く治療しないと!」
よしみ「この程度問題ありません……痛っっ!!」グラッ
梨子「無理しない方がいいんじゃない?」
右手から放たれる巨大な光球の炎。
曜は千歌を、よしみはルビィを抱えて左右にダイブして回避。
炎は地面を抉りながら背後にあったアジトに直撃した。
たった一撃で全体の三分の一が損傷。
鉄筋コンクリートで出来た建物は一部が一瞬で灰と化した。
梨子「避けられちゃった……」
曜「危なっ……!?」
千歌「で、デタラメな威力じゃんっ」ゾッ
よしみ「ぐ、ぐうう……」ジュウウウゥゥ
ルビィ「よしみさんっ!?」
千歌「嘘っ!?」
よしみ「申し訳、ございません……避けきれません、でした……」
ルビィ「背中が焼けただれてる……早く治療しないと!」
よしみ「この程度問題ありません……痛っっ!!」グラッ
梨子「無理しない方がいいんじゃない?」
325: 2019/03/26(火) 00:38:25.00 ID:1wzK0UIw0
梨子「……動かれると一瞬で灰に出来ないから嫌なのよ。だからじっとしていて?」
よしみに向けられる右手。
既に攻撃の準備は整っていた。
よしみ「ッッ!! 離れてルビィ様!!!」
梨子「――バイバイ♪」
曜「―――『水の鎖(カテーナ・ディ・アクア)!!!!』
梨子に巻き付いた鎖が右腕を真上に引き上げた。
発射された光球は何も無い空へと逸れる。
梨子「……何?」ギロッ
曜「ルビィちゃん!!」
ルビィ「は、はい!」
326: 2019/03/26(火) 00:40:53.22 ID:1wzK0UIw0
曜「ここは私が何とかするから、千歌ちゃんとよしみさんを連れて逃げて!!」
よしみ「っ!? む、無茶だ!! いくら修行したとは言え、梨子とはまだ戦いにもならない!!」
曜「私は果南さんに留守を任されたんだ」
曜「誰が相手だろうと関係ない……私は、私に与えられた役目を果たす!」
梨子「ふふ、威勢だけは一人前ねぇ」
曜「……うるさい」
よしみ「ダメ、だ……曜ちゃん一人じゃ殺される……私も……」
千歌「私はここに残るよ」
よしみ「なっ!?」
千歌「だって私の居場所は筒抜けなんでしょ? ならルビィちゃん達と一緒に逃げても意味が無い」
千歌「それに曜ちゃんが全力で戦う為にも私も残らなくちゃ」
よしみ「……無謀だ」
曜「なら、その傷を治して戻って来て下さい」
曜「この場所がバレてしまった以上、コイツは絶対に倒さなきゃいけないし」
梨子「……♪」ニコニコ
ルビィ「……行こう、よしみさん」
よしみ「……はいっ」ギリッ
327: 2019/03/26(火) 00:44:09.25 ID:1wzK0UIw0
よしみ「曜ちゃん、千歌ちゃん! 直ぐに戻るからそれまで待ってて!!」
曜「……」コクッ
梨子「ねえねえ、この状況をちゃんと理解しているの?」
梨子「自分で言うのもアレだけど、私はこの前君が倒した人形兵(マリオネット)や逆に倒された『雷電』使いの子とは格が違うんだけど」
曜「理解していないのは桜内 梨子、アンタの方だよ」
梨子「?」
曜「今回は最初から千歌ちゃんが側に居るんだ。だから、今の私は誰にも負けない」
梨子「……『同調』だっけ? そんな他力本願な力で強気になるなよ」
巻き付いた鎖を嵐の炎で分解し、引き千切る。
梨子「一先ず、この一撃を防げるかな?」
三発目の光球。
曜は両手を地面に叩きつけて水の壁を作り盾を張った。
最初の一発より一回り小さかったが威力は絶大。
水の壁は一瞬で蒸発し、二人は後方に吹き飛んだ。
千歌「きゃっ!」
梨子「おお! 今ので貫けないのね!」
曜「くっ……炎は消せても、衝撃までは無理か!?」
梨子「ほらほら、避けなきゃ氏ぬよ」
―――ゴッ!! ゴオッ!! ゴオォォ!!
曜「嫌らしい攻撃だなっ!」
328: 2019/03/26(火) 00:47:19.96 ID:1wzK0UIw0
曜は千歌を抱え、飛んでくる光球を回避する。
梨子の目的は千歌を無傷で連れて帰る事。
その際、邪魔者は排除しなければならない。
邪魔者の排除は難しくは無い。
しかし、その強すぎる火力ゆえに対象も巻き込むリスクが伴う。
曜もまた、千歌を梨子の魔の手から守る立ち回りをしなければならない。
……梨子はそこを逆手に取った。
先程の攻撃で曜の『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』のおおよその耐久力は把握出来た。
ならば、それよりもほんの少し高威力の光球を千歌を狙って放てばいい。
そうすれば曜は千歌を守らざる得ない。
今は避けられているが、その内逃げ場は無くなる。
詰むのは時間の問題だ。
梨子「その子に自身を守る術が無い以上、君に勝ち目は無いわよ?」
千歌「梨子ちゃんの言う通りだよ! 曜ちゃんの得意な接近戦に持ち込まなきゃ!」
曜「それじゃ前の二の舞になっちゃうよ!」
千歌「攻撃が全部私に向けられているのは分かってる。だったら私を囮に――」
曜「ダメ、それだけは絶対に嫌だ!!!」
千歌「ならどうするのさ!?」
329: 2019/03/26(火) 00:49:03.40 ID:1wzK0UIw0
梨子「……やーめた」
曜「は?」
千歌「攻撃を止めた…?」
梨子「このまま続ければ確実に仕留められるけど、それじゃ物足りないわ」
梨子「私に恐れずに挑もうとしてくれてる。こんな機会は久しぶりだもの……勿体無いわ」
曜「……勿体無い、か」
梨子「気に障ったかしら?」
曜「いいや、お手上げ状態だったから寧ろ有難いよ」
曜「最後までそうやって慢心していてくれるともっと嬉しいかな」
梨子「君には私が慢心してるように見える?」
ジャラジャラッ―――!!!
梨子の周囲に『水の鎖』を生み出す。
全身に巻き付かせて動きを封じる算段だ。
梨子「その技はもう見たよ!」
鎖が梨子の体に触れる前に一瞬で空中分解する。
身体の周囲に嵐の炎を纏わせてバリアを張っていたのだ。
このバリアがある限り『水の鎖』は勿論、『激流葬』も通じない。
330: 2019/03/26(火) 00:51:50.94 ID:1wzK0UIw0
曜「はあぁぁぁッ……!!!」
梨子へと向かい迫る曜。
眼前まで迫り、右手のトンファーを振り抜きバリアを打ち破る。
もう片方のトンファーで顎を狙う。
が、梨子はとれを片手で軽々と受け止める。
梨子「いいわねぇ! 恐れずに接近してくるその勇気!」
曜「……ッ、素手で止めるの…!?」
梨子「素手? 違うわよ」
―――ゴオオオォォッ!!
梨子はインパクトの瞬間、手の平から炎を出して衝撃を和らげていた。
今度はその炎で掴んだトンファーごと曜の左腕を焼く。
曜「ぅぐああああッ……!!」
誤って沸かしたてのやかんに触った時とは訳が違う。
まるでマグマの中に腕を突っ込んだような、そんな痛みと熱さが曜を襲う。
曜は咄嗟に飛び退き、距離を取る。
曜「……ッぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛……ッッ!」
331: 2019/03/26(火) 00:59:39.66 ID:1wzK0UIw0
梨子「炭化させたつもりだったんだけどな……雨の炎で守ったのね」
曜「ぁ……ぐぅ、はッ……」
手を握ったり開いたりして動きを確かめる。
皮膚はただれ、意識が飛びそうになる程痛いが腕は氏んでない。
……まだ、戦える。
曜「……行くぞッ!!!」
梨子「……」
……今の一撃で折れなかったのは意外だったな。
あの子の左腕はほぼ使い物にならなくなった。
片方のトンファーに炎を集中させての連続攻撃。
速く、鋭い連撃。
果南さんと修行を積んだのは嘘じゃないみたいだね……。
―――ゴッ!!!
曜の攻撃が梨子のこめかみにヒット。
体勢が大きく崩れた。
曜「チャンスだ……ッ!!」
332: 2019/03/26(火) 01:05:08.27 ID:1wzK0UIw0
千載一遇の好機。
ここで畳みかけて一気に決着をつける。
曜の炎は更に大きく燃え上がる――。
……梨子の目は曜の動きを完全に捉えていた。
勝敗を決する要因は様々存在する。
体力、体格、筋力といった基礎能力。
モチベーションや精神状態などのメンタル力。
これまでに培ってきた経験値。
これらは戦いが始まる前から現れる差だ。
梨子と曜にはこの時点で圧倒的に差がついている。
しかし実戦では何が起こるか分からない。
思わぬラッキーパンチが敵に致命傷を与えるかもしれない。
戦いの中で急激な成長があるかもしれない。
感情の高ぶりで突然新たな力が発現するかもしれない。
……否だ。
百歩譲ってラッキーパンチの可能性はあるだろう。
だが、今回の曜が与えた一撃は違う。
梨子が気まぐれで思い出に一発プレゼントしてあげただけ。
現実では都合よく新たな力は発現しないし、圧倒的な実力差をひっくり返すほどの成長は起こらない。
気持ちが勝敗を分けるのはお互いの実力が拮抗している時のみの話だ。
……勝負は始まる前から既に決まっている。
曜が勝てる見込みなんて最初からゼロなのだ。
333: 2019/03/26(火) 01:06:54.89 ID:1wzK0UIw0
梨子「もういいわよ」
曜「や、やばッ……」
体勢を崩した梨子だが、右手は曜の体の方に向けられている。
回避はもう、間に合わない―――。
―――ゴオオオォォッッ!!!
梨子の炎が曜の全身を焼き尽くす。
コンクリートを一瞬で灰にする火力。
人間に直撃すれば体は一瞬で蒸発する。
……曜の体は残っていた。
間一髪で雨の炎を全身に纏わせるのが間に合ったのだ。
しかし防げたのはごく一部。
辛うじて即氏を免れたに過ぎなかった。
全身重度の火傷状態。
曜は力なくその場に倒れ込んだ……。
334: 2019/03/26(火) 01:08:22.66 ID:1wzK0UIw0
曜「っ、ぁ……」ドサッ
梨子「……蓋を開けてみれば大した事無かったわね」
梨子「久々に歯向かってくる敵だったからちょっぴり期待しちゃった」
曜「あ、あぁ……ぁ…」シュウゥゥゥ
梨子「結局、よしみは間に合わなかったか。残念だったね」
曜「ぁぐ……ぐっ、はぁ………っ」
梨子「苦しそうね? 安心して、今楽にしてあげるから」
梨子の手の平に高純度の嵐の炎が集中する。
先ほどは直撃だったとは言え、僅かながら雨の炎で威力を軽減していた。
だが、今の曜に次の攻撃を和らげる力は残っていない。
梨子の攻撃を受ければ今度こそ消し炭にされる。
……はずだった。
梨子「………何のつもり?」
335: 2019/03/26(火) 01:11:00.69 ID:1wzK0UIw0
千歌「……」
曜「ぢ……が、ちゃ………ん………?」
千歌「………っ!!」キッ!!
千歌が曜と梨子の間に割って入る。
両手を横に広げ、鋭い目つきで梨子を睨み付けている。
千歌「――止めて! もう曜ちゃんを傷つけないでっ!!」
梨子「涙目で睨まれてもねぇ……いいから、そこをどきなさい」
千歌「どかない……!!」フルフル
梨子「―――どけ。私をこれ以上怒らせるな」ギロッ
千歌「……ッ!? い、嫌だ……絶対にどかない!!」
千歌「あなたの目的は私でしょ? どこにでもついて行くから……だからもう止めて……!」
曜「ッ!!?」
梨子「そうね……でも、ここにいる反逆者を見逃すわけにはいかない」
千歌「……だったら」
千歌はポケットから先の尖がったガラス片を取り出し、刃先を自分の喉元に突き立てる。
梨子「……正気?」
千歌「私が氏ねば、あなたは任務を遂行出来ない。それは凄く困るんじゃないの?」
336: 2019/03/26(火) 01:12:57.19 ID:1wzK0UIw0
梨子「……そんな脅しは無意味―――」
―――ザクッ!!!
千歌は突き立てたガラス片を左腕に突き刺す。
傷口からは真っ赤な鮮血がドクドクと流れ出てきた。
千歌「~~~ぅ痛ッッ!!!!!?」ボタボタッ
梨子「んな!?」
千歌「……あ、侮らないでよ。私だって覚悟してこの場所にいるんだから……ッ!」ジワッ
梨子「!」ギリッ
千歌「これ以上誰も傷つけないって約束するなら、大人しくついて行くよ」
梨子「誰もって誰の事?」
千歌「曜ちゃんは勿論、よしみさんやルビィちゃん、花丸ちゃん、果南ちゃんも含めてだよ」
千歌「金輪際、みんなを襲わないって約束して」
梨子「……」
千歌「……ねぇ、どうするの?」
梨子「私がその条件を受け入れたとして、こっちにメリットはあるの?」
千歌「女王様が私を探している理由は分からない。でも、どんな要求でも断らないし全面的に協力する」
梨子「……仮に、要求が“命”だったとしても?」
千歌「………うん」
曜「!!?」
梨子「そう……なるほどね」
曜「だ……め、だよ……行っちゃ、だめだ……!」
337: 2019/03/26(火) 01:14:44.74 ID:1wzK0UIw0
梨子「いいよ。その条件、受け入れてあげる」
梨子は手の炎を消す。
梨子「ただし―――」
千歌の隣を横切り、倒れている曜の指からリングを取り外した。
千歌「ちょっと、何を―――」
―――パキパキパキッ
千歌「……あっ」
梨子「このリングは破壊する。微々たる戦力でも削らせてもらうわ」
曜「ぁ、ぅあ……」
曜『――このリングもパパから譲ってもらった宝物なんだ!』エヘヘ
曜「……う、うぅぅ、うわあ、あぁ」ポロポロ
千歌「曜、ちゃん……」ギリッ
梨子「さあ、ついてきなさい」
千歌「……はい」
338: 2019/03/26(火) 01:16:46.73 ID:1wzK0UIw0
曜「……ま、て……待って、よ………」グググッ
梨子「あ?」
曜「……わ、たさ、ない……私は、まだ……戦え、る…!!」
……立て……立て立て立て立て!! 立てよッ!!!!
立ち上がらないと千歌ちゃんが……千歌ちゃんが連れて行かれるんだ!!!
何の為に強くなろうと決めたんだ。
絶対に守るって約束だってしたじゃないか。
今立ち上がらなくちゃ意味が無い!!
くそッ!! 言う事聞けよ私の体あああ!!!!
…… お願いだから……お願い、だからッ!!
千歌「――よーちゃん」
必氏に立ち上がろうとする曜の頬に
千歌はそっと手を添える。
曜「ちか、ちゃん……?」
339: 2019/03/26(火) 01:19:24.98 ID:1wzK0UIw0
千歌「ごめん……ごめんね……私にも戦う力があれば、曜ちゃんがこんなに傷つく事は無かったんだよね」
曜「……ぅぁ」
……違う、千歌ちゃんは悪くない。
千歌「私と出会ったせいで曜ちゃんの人生を滅茶苦茶にしちゃったよね」
千歌「本当にごめん……」
曜「……っ、ち……が……っ」
……嫌だ……千歌ちゃん……。
行かないでよ……ねぇ……。
千歌「―――バイバイ、今までありがとうね」ニコッ
曜「……ぅぁ」
……違う、千歌ちゃんは悪くない。
千歌「私と出会ったせいで曜ちゃんの人生を滅茶苦茶にしちゃったよね」
千歌「本当にごめん……」
曜「……っ、ち……が……っ」
……嫌だ……千歌ちゃん……。
行かないでよ……ねぇ……。
千歌「―――バイバイ、今までありがとうね」ニコッ
340: 2019/04/02(火) 22:10:33.23 ID:14MbcLkM0
~~~~~~~~~~~~~
治療を終えたよしみ。
曜の増援へ向かう為、ルビィと共に戦場へ走る。
あの場から離れてから約五分。
到着まではもう一分も掛からないだろう。
ルビィ「……閃光と轟音が止んだ……?」
よしみ「嫌な予感がする……っ!」
ルビィ「もうすぐ着きます!」
曜「……ぁ、ぉっ……ぁ」
よしみ「……っ!! 曜!!」
ルビィ「ひ、酷い火傷……っ!」
341: 2019/04/02(火) 22:12:10.74 ID:14MbcLkM0
よしみ「直ぐに治療を始めます! ルビィ様!」
ルビィ「は、はい! アジトから道具一式を持ってきます!!」ダッ
よしみ「曜! もう少しだけ耐えて!」ボッ!!
曜「……ち、……か……ちゃ…が」
よしみ「……喋らなくていい分かってる」ギリッ
よしみ「間に合わなくてごめん……」
曜「……っ………っっ」ガクガクッ
よしみ「ま、マズイ!?」
ルビィ「持ってきました! ……えっ」
よしみ「ショック状態だ!! 早くそれを渡して!!」
ルビィ「はい!」
よしみ「氏なせない……! こんな所で氏なせて堪るか!!」
ルビィ「曜ちゃん頑張って!! 曜ちゃん!!!」
342: 2019/04/02(火) 22:18:29.22 ID:14MbcLkM0
~~~~~~~~~~~~~
~浦の星王国 城内~
梨子「――はい、これで手当てはお終いよ」
千歌「うん、ありがとう」
梨子「全く……あんな瓦礫で体を傷付けるなんてどうかしてるわよ」
千歌「心配してくれるんだ」
梨子「……別に、無傷で連れてこられなかったのが嫌だっただけ」
千歌「私はこれからどうなるの?」
梨子「女王様の……ああ、名前は知ってるんだっけ?」
千歌「うん、ダイヤさんだよね」
梨子「あなたをダイヤ様の所へ連れて行く」
千歌「……私、殺されちゃうの?」
梨子「さあね。少なくとも直ぐには殺されないとは思うわ」
梨子「ただ、今ダイヤ様は立て込んでいるのよ」
343: 2019/04/02(火) 22:22:20.34 ID:14MbcLkM0
千歌「じゃあ、私は牢屋に……」
梨子「いいえ」
千歌「へ?」
梨子「監禁するつもりは無いわ。城内から出なければ自由に行動しても構わない」
千歌「……逃げ出すかもしれないよ?」
梨子「言わなくても逃げ出せばどうなるかくらい分かるよね?」
千歌「うぅ……はい」
千歌「でも本当にいいの? 入っちゃいけない部屋とかは?」
梨子「心配しなくてもその部屋には入ろうとしても入れないから」
千歌「そっか」
梨子「……」ジッ
千歌「な、何でしょう……か?」
梨子「かしこまらなくていいわ。そっちの世界だと私達は友達なんでしょ?」
千歌「そう、だけど……」
梨子「前は私があなたの事を知らなかったからあんな事を言っただけ」
梨子「いいえ」
千歌「へ?」
梨子「監禁するつもりは無いわ。城内から出なければ自由に行動しても構わない」
千歌「……逃げ出すかもしれないよ?」
梨子「言わなくても逃げ出せばどうなるかくらい分かるよね?」
千歌「うぅ……はい」
千歌「でも本当にいいの? 入っちゃいけない部屋とかは?」
梨子「心配しなくてもその部屋には入ろうとしても入れないから」
千歌「そっか」
梨子「……」ジッ
千歌「な、何でしょう……か?」
梨子「かしこまらなくていいわ。そっちの世界だと私達は友達なんでしょ?」
千歌「そう、だけど……」
梨子「前は私があなたの事を知らなかったからあんな事を言っただけ」
344: 2019/04/02(火) 22:28:15.89 ID:14MbcLkM0
千歌「じゃあ……梨子ちゃん」
千歌「質問したい事があるんだけど、いい?」
梨子「内容によるけどいいわよ」
千歌「果南ちゃんはダイヤさんが女王様になった時にこの国から出て行った。それはダイヤさんのやり方に納得できなかったから……」
千歌「でも梨子ちゃんはどうして今もダイヤさんの守護者をやっているの?」
梨子「……」
千歌「この世界に来てみんなと会って、話して、それで分かったんだよ」
千歌「確かに私の知ってるみんなとは年齢も生活も人間関係も全然違う」
千歌「……でもね、曜ちゃん、果南ちゃん、花丸ちゃんにルビィちゃんも私の知ってるままだった」
梨子「偶然よ」
千歌「そんな事無い。世界が違ってもその人の内面を作っているものは変わらないんだよ」
千歌「だから梨子ちゃんだってきっと――」
梨子「やめて」
千歌「……っ!」
梨子「他の人がどうだったかなんて関係ない。私は私なの。それ以外の何者でもない」
梨子「勝手にあなたの中の像を押し付けないで」
千歌「……ごめんなさい」
梨子「質問はどうして私がダイヤ様に仕えているか、だったわね」
千歌「質問したい事があるんだけど、いい?」
梨子「内容によるけどいいわよ」
千歌「果南ちゃんはダイヤさんが女王様になった時にこの国から出て行った。それはダイヤさんのやり方に納得できなかったから……」
千歌「でも梨子ちゃんはどうして今もダイヤさんの守護者をやっているの?」
梨子「……」
千歌「この世界に来てみんなと会って、話して、それで分かったんだよ」
千歌「確かに私の知ってるみんなとは年齢も生活も人間関係も全然違う」
千歌「……でもね、曜ちゃん、果南ちゃん、花丸ちゃんにルビィちゃんも私の知ってるままだった」
梨子「偶然よ」
千歌「そんな事無い。世界が違ってもその人の内面を作っているものは変わらないんだよ」
千歌「だから梨子ちゃんだってきっと――」
梨子「やめて」
千歌「……っ!」
梨子「他の人がどうだったかなんて関係ない。私は私なの。それ以外の何者でもない」
梨子「勝手にあなたの中の像を押し付けないで」
千歌「……ごめんなさい」
梨子「質問はどうして私がダイヤ様に仕えているか、だったわね」
345: 2019/04/02(火) 22:33:50.41 ID:14MbcLkM0
千歌「うん」
梨子「簡単よ、私はダイヤ様に恩義があるから」
千歌「恩義……?」
梨子「私は元々、音ノ木坂の人間だったのよ」
梨子「生まれも育ちも音ノ木坂でね、将来の夢は守護者になる事だった」
梨子「その為に必氏で努力した。努力して努力して……音ノ木坂では誰にも負けないくらい強くなったわ」
梨子「……でも、私は守護者になれなかった」
千歌「リングに選ばれなかったんだね……」
梨子「音ノ木坂で守護者になれるのは一部の血筋を引く者だけだった。私には初めから挑戦権すら無かったってわけ」
千歌「……」
梨子「哀れでしょ? 最初から知っていれば叶うはずの無い夢を見る事も無かったのにね」
梨子「嵐の守護者になったのは『西木野家』の人間だった。……実力は私の方が上なのにっ」ギリッ
梨子「まあ、誰一人認めてくれなかったけどね」
梨子「……自分より弱い人の下につく気はさらさら無い。だから私は国を出て行った」
梨子「簡単よ、私はダイヤ様に恩義があるから」
千歌「恩義……?」
梨子「私は元々、音ノ木坂の人間だったのよ」
梨子「生まれも育ちも音ノ木坂でね、将来の夢は守護者になる事だった」
梨子「その為に必氏で努力した。努力して努力して……音ノ木坂では誰にも負けないくらい強くなったわ」
梨子「……でも、私は守護者になれなかった」
千歌「リングに選ばれなかったんだね……」
梨子「音ノ木坂で守護者になれるのは一部の血筋を引く者だけだった。私には初めから挑戦権すら無かったってわけ」
千歌「……」
梨子「哀れでしょ? 最初から知っていれば叶うはずの無い夢を見る事も無かったのにね」
梨子「嵐の守護者になったのは『西木野家』の人間だった。……実力は私の方が上なのにっ」ギリッ
梨子「まあ、誰一人認めてくれなかったけどね」
梨子「……自分より弱い人の下につく気はさらさら無い。だから私は国を出て行った」
346: 2019/04/02(火) 22:47:55.78 ID:14MbcLkM0
千歌「……」
梨子「……そんな事の為に出て行ったのって思ってる?」
千歌「ううん、思ってないよ」
千歌「梨子ちゃんにとって重要な事だったんでしょ? ならその選択は間違いじゃない」
梨子「そう……」
梨子「当ても無く彷徨っていた私はダイヤ様と出会ったの」
梨子「あの人は私の力を認めてくれた……私が必要だと言ってくれた」
梨子「――そして、ダイヤ様のおかげで私は夢だった守護者になれた」
梨子「私だってダイヤ様の女王としての振る舞いは正しいとは思わない」
梨子「……思わないけど、それは私がダイヤ様の敵に回る理由にはならないわ」
千歌「そうなんだ……」
梨子「……そんな事の為に出て行ったのって思ってる?」
千歌「ううん、思ってないよ」
千歌「梨子ちゃんにとって重要な事だったんでしょ? ならその選択は間違いじゃない」
梨子「そう……」
梨子「当ても無く彷徨っていた私はダイヤ様と出会ったの」
梨子「あの人は私の力を認めてくれた……私が必要だと言ってくれた」
梨子「――そして、ダイヤ様のおかげで私は夢だった守護者になれた」
梨子「私だってダイヤ様の女王としての振る舞いは正しいとは思わない」
梨子「……思わないけど、それは私がダイヤ様の敵に回る理由にはならないわ」
千歌「そうなんだ……」
347: 2019/04/03(水) 00:00:58.99 ID:TCkwwZxf0
梨子「あなたはダイヤ様が悪だと思っているの?」
千歌「……違うの?」
梨子「果南さんからどんな話を聞いたか知らないけど、片方の話だけで決めつけるのはどうかと思うわ」
梨子「正義の反対は悪じゃない、もう一つの正義よ」
千歌「梨子ちゃんは何か知っているんだ」
梨子「いいえ、ダイヤ様は私達にも何も話していない」
梨子「でも……あなたになら話すかもね」
千歌「私がお客さんだから?」
梨子「……すぐに分かるよ」
348: 2019/04/03(水) 00:02:23.54 ID:TCkwwZxf0
~~~~~~~~~~~~~
~三日後~
よしみ「―――以上が、二人が外出中に起こった事の全てです」
果南「そっか……報告ありがとう」
よしみ「いえ……留守を任されていたのに申し訳ございません」
果南「梨子相手に全滅しなかっただけ良かった。よく生き残ってくれた」
よしみ「……はい」
果南「……それで、曜の具合は?」
よしみ「全身に重度の火傷を負っていましたが、一命は取り留めました」
よしみ「酷いケロイドが顔や全身に残っているものの特に後遺症はありません」
よしみ「……ただ、精神面のダメージが深刻で」
果南「……」
よしみ「ずっとうなされているんですよ……見てるこっちも辛くなる程に……」
果南「目の前で千歌を連れ去られて、大切にしていたリングも壊されれば無理もないよね……」
よしみ「……恐らく曜ちゃんはもう――」
果南「曜は今起きてるの?」
よしみ「え、あ、はい」
果南「ちょっと二人で話してくるよ」
よしみ「……分かりました。後はよろしくお願いします」
349: 2019/04/04(木) 21:51:09.18 ID:4H6J/4r50
~~~~~~~~~~~~~
曜「………」ボーッ
果南「やっほ、帰って来たよ」
曜「あぁ……果南さん」
果南「怪我の具合はどう?」
曜「……見た通りだよ。皮肉?」
果南「そうじゃない、本人の口からも聞きたかったの」
曜「そう……」
果南「……」
曜「………」
果南「……私の代わりにみんなを守ってくれてありがとね。曜のおかげで―――」
曜「気休めは止めて。私は何も守れなかった」
果南「………」
350: 2019/04/04(木) 21:54:10.53 ID:4H6J/4r50
曜「何も……ね……」
……重苦しい空気が医務室に漂う。
果南も曜も何も話さない。
長い長い沈黙が続く。
……そんな沈黙を打ち破ったのは曜だった。
曜「―――……歯が立たなかった」
果南「うん?」
曜「あれが守護者の実力なんだね。私の攻撃が全く通用しなかったよ……そもそも戦いにすらなって無かった」
曜「……このバカ曜は自惚れていたんだよ。千歌ちゃんが居れば誰にも負けないって思い込んでいた」
曜「その結果このザマ……ボロボロにされて、千歌ちゃんは連れ去られて、形見のリングも壊された」
曜「私は……私はっ……弱い……っ!!」ポロポロッ
……重苦しい空気が医務室に漂う。
果南も曜も何も話さない。
長い長い沈黙が続く。
……そんな沈黙を打ち破ったのは曜だった。
曜「―――……歯が立たなかった」
果南「うん?」
曜「あれが守護者の実力なんだね。私の攻撃が全く通用しなかったよ……そもそも戦いにすらなって無かった」
曜「……このバカ曜は自惚れていたんだよ。千歌ちゃんが居れば誰にも負けないって思い込んでいた」
曜「その結果このザマ……ボロボロにされて、千歌ちゃんは連れ去られて、形見のリングも壊された」
曜「私は……私はっ……弱い……っ!!」ポロポロッ
351: 2019/04/04(木) 21:56:52.04 ID:4H6J/4r50
果南「……」
曜「あの女王のことだ、近い内に千歌ちゃんは必ず殺される……」
曜「もうぅ…… 二度と千歌ちゃんに会えない……」
曜「ねぇ、果南ちゃん……私はこれからどうすればいいの? ……どうしたらいいの?」
果南「どうすればいいか……か」
曜「もう分からない、分かんないよ……」
果南「悪いけどそれは私が決める事じゃないな」
曜「っ! だよ、ね……」
果南「でも、んー……強いて言うならそうだなぁ」
果南「――取り敢えずさ、難しいことは一旦置いておこうよ」
352: 2019/04/04(木) 21:59:37.31 ID:4H6J/4r50
曜「えっ……?」
果南「相手が誰だとか、自分の力がどうとか、そんなものは一回忘れよう」
果南「私は曜の本心が聞きたい」
曜「本心……?」
果南「確かに千歌は連れ去られた。でも、連れ去ったという事はダイヤは千歌に何かしら要件があるってことだ。すぐには殺されない」
果南「まだ曜は大切なものを全て失ってない。まだ取り返しがつく」
果南「……それを踏まえて聞くよ、曜はどうしたいの?」
曜「………ぁ」
果南「言ってごらんよ」
曜「………たい」ボソッ
果南「ん?」
曜「……千歌ちゃんに、会い、たい…」ポロポロ
果南「うん」
曜「こんな殺伐とした所だけじゃなくて、この世界の楽しい所を見せてあげたい」
果南「……うん」
曜「千歌ちゃんが元の世界に帰るその瞬間まで……私が一番長く側に居たい」
曜「千歌ちゃんと話したい事も……一緒に行きたい場所も沢山あるんだよぉ……」ポタッポタッ
果南「……うん」ナデナデ
曜「だから……だからぁ……う、うぅぅ……ひっく、ちか、ちゃんに……会い、たい」
果南「……それが曜の本心なんだよね?」
曜「……うん」
353: 2019/04/04(木) 22:03:07.36 ID:4H6J/4r50
果南「立ち向かう勇気はある?」
曜「……ひっく、……え?」
果南「もう一度、戦う勇気はある?」
曜「……でも私にはもう――」
果南はポケットから何かを取り出し、それをテーブルの上に置いた。
曜「これって、まさか」
果南「雨のAqoursリングとその専用の匣だよ」
果南「これを曜に託す」
曜「!」
果南「確かに曜は弱い。でも力が足りないなら、別の何かで補えばいい」
果南「曜の覚悟が本物なら、このリングと匣は必ず力を貸してくれる」
曜「……力」
果南「ただし、ここでその覚悟を示せないのならそれまで」
果南「千歌の事は諦めるんだね」
曜「……」
354: 2019/04/04(木) 22:15:22.97 ID:4H6J/4r50
果南「どうする? ……決断して」
曜「……答えなんて決まってる」
曜は机の上に置かれたリングを掴み、右手の中指にはめた。
曜の想いに呼応し、リングから雨属の青い炎が灯る。
灯った炎は不純物が殆どない、透き通るような青色の炎。
炎の純度はリングの性能にも左右されるが、
大きな要因は使用者の想いの強さだ。
混じり気の無い純粋な想いを持つ者に
リングはその力の全てを還元する。
曜「凄い綺麗だ……」
果南「曜はそのリングに認められた。雨の守護者に選ばれたんだよ」
曜「私が、守護者に……? 実感がわかないなぁ」
果南「これでメンバーが揃った。ダイヤ達に挑む為のメンバーがね」
曜「でも雷が……」
ルビィ「私が居るよ」ガラガラッ
曜「る、ルビィちゃん……!?」
355: 2019/04/04(木) 22:16:01.95 ID:4H6J/4r50
ルビィ「私も戦う……戦わなくちゃダメなんだ」
ルビィ「もう、後悔したくないから」
花丸「一度やると決めたルビィちゃんは誰にも止められないずら」
果南「ルビィ、花丸……勝手に入って来ちゃダメだよ」
ルビィ「ごめんなさい……」
花丸「でもさ、改めて考えるとマル達はイカれた事考えてるよね」
花丸「たった六人で国相手に挑もうとしているんだもん。正気の沙汰じゃ無いずら」
ルビィ「目的もバラバラだしね」
曜「いくらリングが凄い力を持っているからって、この人数で勝算はあるの?」
果南「勿論」
果南「みんな無事で終わるのが理想だけれどね。少なくとも私は氏ぬからさ」
曜「……」
花丸「まあ……うん、そうだよね」
ルビィ「果南さん……」
356: 2019/04/04(木) 22:21:01.44 ID:4H6J/4r50
果南「もう! みんな暗い顔しないの!」
果南「私はこの力を得た事を後悔してない。命の使い方を自分で決めただけ」
花丸「……言い方だけはカッコいいずらね」
果南「――曜!」
曜「!」
果南「これから新しい力の使い方をマスターしてもらう」
果南「時間が無い……氏ぬ気でやりなよ?」
曜「……分かってるさっ!」
357: 2019/04/04(木) 22:25:36.99 ID:4H6J/4r50
~~~~~~~~~~~~~
千歌「――あっ」
善子「げっ」
善子「マジか……私が最初に見つけちゃった……」
千歌「私を探していたの?」
善子「そうよ。女王がアンタと話がしたいってさ」
千歌「……そっか」
善子「そもそも、何勝手に城内をウロウロしているのよ!」
千歌「だって梨子ちゃんがいいよって言ってたから……」
善子「梨子がぁ?」
千歌「聞いてないの?」
善子「……まあいいわ、案内するからついて来なさい」
善子「……」
千歌「……あー、その」
善子「何?」
千歌「怪我は大丈夫?」
善子「あぁ、うん、別に何ともない」
358: 2019/04/04(木) 22:28:14.17 ID:4H6J/4r50
千歌「なら良かった」
善子「……変な人ね」
善子「ねえ、アンタ」
千歌「千歌だよ」
善子「千歌は普通に梨子や私と会話しているけど、怖くないの?」
千歌「怖い? どうして?」キョトン
善子「自覚無しか……ならそれでいいわ」
千歌「気にかけてくれてありがとうね」
善子「別に」プイッ
千歌「ふふ、善子ちゃんは善子ちゃんのままだね」
善子「千歌がそう思うならきっとそうなのかも」
善子「ただ、油断して心を許すような真似はしない事ね」
善子「私にとって千歌は友達どころか知り合いでもない、赤の他人なんだから」
千歌「今から友達になれないの?」
善子「……はぁ?」
359: 2019/04/04(木) 22:29:49.57 ID:4H6J/4r50
千歌「な、何さ……?」
善子「あのね……敵対組織の人間同士が友達になれると思う? 無理でしょ」
善子「それとも千歌は果南達を裏切ってこっち側の人間になるって言う訳?」
千歌「それは……うぅ……」
善子「どーせ短い付き合いになるんだし、無理して関わる必要は無いわ」
善子「っと、話している間に着いたわよ」
千歌「ほぇ……大きな扉だね」
善子「この中で女王が待っている」
千歌「ダイヤさんが……」
善子「千歌の知ってる女王がどんな性格かは知らない。けど、同じように接するのは止めておきなさい」
千歌「……うん、気を付けるね」
善子は自分の身長の数倍大きな扉を開ける。
その向こうには、RPGでよく見る『王の間』と同じ様な空間が広がっていた。
扉から最奥にある玉座まで赤い絨毯が敷き詰められている。
玉座には一人の女。
退屈そうに頬杖をつきながら。
じっと千歌の目を見据える。
……冷たい。
視線、空気感がとにかく冷たかった。
今にも氷漬けにされそうな感じ。
震えが止まらなかった。
千歌「……ダイヤさん」
ダイヤ「ダイヤ……ああ、久しぶりにその名で呼ばれましたわね」
360: 2019/04/04(木) 22:34:49.75 ID:4H6J/4r50
ダイヤ「何をしているのです、もっと近くまで来なさいな」
千歌「う、うん……あ、はい、分かりました」
ダイヤ「普通の言葉遣いで構いませんよ。貴女にとってわたくしは女王ではないのですから」
ダイヤ「ふむ、実際にこの目で見て見ると……」ジロジロ
ダイヤ「何と言うか……普通、ですわね」
千歌「うぐっ」
ダイヤ「崩壊のリスクを冒してまで鞠莉がわざわざ別世界から呼び寄せた人物にしては普通過ぎる……」
千歌「……私だって好き好んで来た訳じゃ」ムスッ
ダイヤ「ああ、気分を害されたのなら謝罪しますわ」
千歌「え、いや、大丈夫です、よ?」
……あれ?
思っていたより普通に話せるぞ??
ダイヤ「首にぶら下がっているそのリング」
千歌「これですか?」ジャラッ
ダイヤ「それを触媒に召喚されたのですね」
361: 2019/04/04(木) 22:37:59.81 ID:4H6J/4r50
千歌「そうなんですか? 私には分からないですけど」
千歌「あ、これには触らない方がいいですよ。何かバリアみたいな物が張られているみたいで……」
ダイヤ「ご心配なく、貴女からそのリングを没収するつもりはありませんから」
千歌「大空のリングですよ?」
ダイヤ「現状それを使える人物はこの世に居ない。誰が持っていても関係ありませんわ」
ダイヤ「わたくしが貴方を連れて来させたのは大空のリングが欲しかったからではありません」
ダイヤ「貴女の力……いいや、正確には“貴女の中にある力”が欲しかったからです」
千歌「私の中にある……力?」
ダイヤ「貴女が唯一使える技の『同調』。これは元々鞠莉の技だという事は知っていますか?」
千歌「知ってるよ」
ダイヤ「では、本来なら貴女はこの世界の力を扱えない事は?」
千歌「……?」
ダイヤ「別世界から来た貴女と私達は体の作りが若干異なります」
ダイヤ「貴女には私達と違って炎を灯す為の生命エネルギーの波動が流れていない」
362: 2019/04/04(木) 22:45:07.84 ID:4H6J/4r50
ダイヤ「ですが貴女が使っている『同調』はれっきとした炎を使った技です」
千歌「……何? どういう事??」
ダイヤ「使えないはずのものが使える理由はただ一つ」
ダイヤ「――貴女の中には鞠莉の魂が宿っているんですよ」
ダイヤ「それ故に貴女には大空の波動が流れ、鞠莉の技が使えるのです」
ダイヤ「恐らく、そのリングも使えるでしょうね」
千歌「……意味が分からないよ」
千歌「私の中に鞠莉ちゃんが? そんなバカげた話が……」
ダイヤ「信じてもらう必要はありません」
千歌「……ダイヤさんは私の、私の中の鞠莉さんの力を使って何をするつもりなの?」
ダイヤ「世界を救います」
千歌「……は?」
ダイヤ「私の行動、決断は全てこの国を守る事、そして世界を救う事に重きを置いている」
363: 2019/04/04(木) 22:47:31.22 ID:4H6J/4r50
千歌「話が全く読めないよ……ダイヤさんは悪者なんじゃないの!?」
ダイヤ「では逆に質問しますが、わたくしは誰にとっての悪者ですか?」
ダイヤ「浦の星ですか? 虹ヶ咲ですか? それとも音ノ木坂ですか?」
ダイヤ「まあ、少なくとも後者二つにとっては悪に見えるでしょうね」
千歌「……そうだよ! ダイヤさんが戦争を仕掛けたせいで大勢の人が亡くなっている!」
千歌「星空さんやあの姉妹だって氏ぬことは無かった!!」
ダイヤ「………」
千歌「他の国を強引に侵略して、罪の無い人を大勢頃して……これがダイヤさんがやりたかった事なの……?」
千歌「答えて……っ!」
ダイヤ「………黙りなさい」ギロッ
千歌「ひっ!?」
千歌は心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
……殺される。
彼女の本能はそう直感した。
ダイヤ「……失礼。“怒り”は残している数少ない感情ですのでつい高ぶってしまいました」
364: 2019/04/04(木) 22:49:56.57 ID:4H6J/4r50
千歌「……はぁ、はぁ」ドクンッ、ドクンッ
ダイヤ「高海 千歌、貴女には知る権利がある」
ダイヤ「何故この世界に呼び寄せられたのか、そして貴女がこの世界で成すべき使命を」
千歌「……ダイヤさんが呼び寄せた訳じゃないのに知っているわけが……」
ダイヤ「おおよその検討はつきますとも」
ダイヤ「全ては二年前、鞠莉を始めとした多くの主要人物が殺されたあの会合での事件ですわ―――」
――
――――
――――――
――――――――
――――――――――
――――――――――――
366: 2019/04/06(土) 23:39:34.31 ID:U1qz22Pu0
~二年前 虹ヶ咲王国某所 城内~
鞠莉「―――じゃあ、ダイヤ以外はここで待っていて」
【浦の星王国 第八代目女王 小原 鞠莉】
「承知いたしました」
「のんびり待ってますよ~」
「後は任せたよ、ダイヤ」
ダイヤ「鞠莉様、行きましょう」
【浦の星 雨の守護者 黒澤 ダイヤ】
―――ガチャッ
鞠莉「チャオ~♪」
「……遅い、やっと来たよ」
「待ってましたよ、鞠莉さん」
367: 2019/04/06(土) 23:46:19.55 ID:U1qz22Pu0
鞠莉「あら、私が最後だったのね。遅くなってしまってごめんなさい」
鞠莉「――雪穂、歩夢♪」
【音ノ木坂王国 第十代目女王 高坂 雪穂】
【虹ヶ咲王国 第三代目女王 上原 歩夢】
歩夢「あ、謝らなくていいですよ! それほど待っていませんので」
鞠莉「んん~、やっぱり二人は優しいわね!」
雪穂「……私は別に許してないんですけど?」
歩夢「まあまあ、いいじゃないですか」
鞠莉「ごめんってばユッキー」テヘペロ
雪穂「ユッキー言うな!」
亜里沙「馴れ馴れしいですよ、浦の星の女王」ギロッ
【音ノ木坂 霧の守護者 絢瀬 亜里沙】
鞠莉「……むぅ、ソーリー……」
ダイヤ「……」
368: 2019/04/06(土) 23:49:19.36 ID:U1qz22Pu0
かすみ「……ねえ、歩夢」
【虹ヶ咲 雲の守護者 中須 かすみ】
歩夢「どうしたの?」
かすみ「本当にあれが浦の星の女王様なの?」
歩夢「うん、そうだよ」
かすみ「……ふーん」
歩夢「どうかしたの?」
かすみ「初めて直に見たけど、なんか拍子抜けって感じー」
歩夢「ち、ちょっと!?」
かすみ「愛先輩もそう思いません?」
愛「愛さんに聞いちゃう?」
【虹ヶ咲 晴の守護者 宮下 愛】
愛「うーんまあ……威厳っていうかオーラ? みたいのが無いよね」
かすみ「やっぱり? かすみんの感覚に狂いは無かった!」
369: 2019/04/06(土) 23:51:21.35 ID:U1qz22Pu0
鞠莉「Oh……散々な言われようデース」シュン
歩夢「あわわわわわ」
雪穂「鞠莉が女王としての風格に欠けているのは確かだよ。もっと自覚持った方がいいんじゃない?」
鞠莉「親しみやすさを売りにしてるからいいのよ」ムッ
雪穂「でもさ……」
亜里沙「親しみやすさ……ねぇ」
ダイヤ「………」ジッ
かすみ「……何? さっきからかすみんの事ジロジロ見てさ……キモイんですけど」
ダイヤ「はて、わたくしは別に貴女の事など見ていませんが」
かすみ「嘘だね! 確かに視線を感じてましたー!」
ダイヤ「……随分と自意識過剰な方ですわね」
かすみ「はあ?」イラッ
愛「なら愛さんの方かな?」
370: 2019/04/07(日) 00:00:00.32 ID:U1qz22Pu0
ダイヤ「ですから、あなた達の様な下劣な人など見ていないと申しています」
愛「ありゃりゃ、下劣だってさ、私達」ケラケラ
かすみ「愛先輩……笑う所じゃないですよ」
鞠莉「ちょっとダイヤ、言葉には気を付けなさい!」
亜里沙「もっとも、女王に対して呼び捨てで呼んだり、キモイなどという下品な言い方をする辺り……まともな守護者ではないのは確かですけどね」
亜里沙「風格が欠如した女王といい、人間として低レベルな守護者を選別した女王といい、どちらも本当にどうしようもないですね」
ダイヤ「……はっ?」ピキピキッ
かすみ「……なーーんか、イラっとしましたね」
愛「はは……愛さんでも今のはちょーっと聞き捨てならないかなー?」ニコニコ
亜里沙「ん? 私、何か間違った事言いましたか?」
371: 2019/04/07(日) 00:04:43.32 ID:Zj9NQIuv0
ダイヤ「………」
かすみ「………」
愛「………」
亜里沙「………」
―――ボオオオッ!!!!
四人が放つ炎が部屋全体を覆う。
かすみ「増援呼ばなくていいんですかー? こっちには守護者が二人いるんですけどぉ?」
ダイヤ「構いませんわ。あなた達程度、わたくし一人で十分」
愛「女王を侮辱した事……後悔させてやる」
亜里沙「いい機会だね。全員ここで消す……!」
女王達「―――止めなさい」
四人「ッッッ!!!?」ビクッ
372: 2019/04/07(日) 00:08:08.03 ID:Zj9NQIuv0
雪穂「亜里沙、誰が戦えと命令した?」
亜里沙「ぅ……ごめん、なさい」
歩夢「二人共……自分が何をしようとしたか理解してるの!?」
かすみ「……だって」
歩夢「かすかす!!」
かすみ「……はい」シュン
歩夢「愛さんもだからね!」
愛「あはは……申し訳ない」
鞠莉「らしくないじゃない? 果南なら冷静に対処したと思うわよ」
ダイヤ「ええ……完全に頭に血が上ってしまいました……反省しています」
鞠莉「全く……どうして険悪な雰囲気になっちゃうのかしらね?」
歩夢「長い間争っていた仲でしたから仕方ないですよ」
鞠莉「私達は凄く仲良しなのにねぇ」
雪穂「……えっ、仲が……いい?」
鞠莉「ちょっ、冗談キツイよ……ユッキー」
雪穂「悪かったよ、マリー」フフ
歩夢「あ、あははは……」ホッ
373: 2019/04/07(日) 00:22:42.95 ID:Zj9NQIuv0
歩夢「ゴタゴタはありましたが、一先ず座って下さい」
歩夢「私達は争う為に集まったんじゃ無いのですから!」
鞠莉「そうね!」ヨイショ
雪穂「早速本題に入ろう。マリー」
鞠莉「ええ」
鞠莉「……私が並行世界を観測する力がある事は知っているわよね?」
雪穂「うん」
歩夢「私達女王がそれぞれ持つ特異能力ですから」
雪穂「マリーの国は別世界から色々な知識、技術を会得して発展してるんだもんね……反則だよ、全く」
鞠莉「私がその能力で観測していた世界が次々と消滅している」
歩夢「消……滅……?」
雪穂「文明が滅んだとかじゃなくて?」
鞠莉「人類が滅亡したとか地球が吹き飛んだとかそんな次元の話じゃないわ……まるで世界(宇宙)全てを消しゴムで消したように綺麗さっぱり、痕跡一つ残っていない」
歩夢「――まさか」ゾッ
374: 2019/04/07(日) 00:41:46.13 ID:Zj9NQIuv0
鞠莉「歩夢なら聞いた事があると思うわ」
鞠莉「私と同じ様な能力なんだもん、どこかの世界線で見聞きしたはずよ」
歩夢「……っ」
雪穂「何? 早く教えてよ」
歩夢「……『ヨハネ』ですよね?」
雪穂「『ヨハネ』……?」
鞠莉「この世界は鏡合わせのように無数の世界で構成されているのは知っているわね」
雪穂「今更説明されなくても大丈夫だよ」
歩夢「けれど維持できる世界の数には限界があります」
鞠莉「『ヨハネ』は並行世界の数を間引いて調整する……言ってしまえば神みたいな存在ね」
雪穂「……そのヨハネが世界を消す基準は?」
鞠莉「正確には分からない……私はヨハネが“この世界には未来が無い”と判断した時に役目を実行すると予想している」
歩夢「私はヨハネの気分次第って聞きました」
雪穂「曖昧な基準だな……」
鞠莉「つい先日消滅した世界の“私”が消滅間際にこう言っていたわ」
鞠莉「――『覚悟しなさい、ヨハネは貴女の世界に向かった』ってね」
歩夢「……」
雪穂「……そう、選ばれちゃったか」
375: 2019/04/07(日) 22:12:24.45 ID:Zj9NQIuv0
かすみ「……デタラメだ」
かすみ「浦の星の女王は私達を陥れる為にデタラメを言ってるんだ! 世界が消滅する? ありえないっ!!」
歩夢「かすかす……」
かすみ「確か音ノ木坂の女王は、過去と未来のモーメントリング継承者とコンタクトが取れるんだったよね!?」
愛「そうか……! 未来に継承者が存在していれば……!」
雪穂「……」
亜里沙「ど、どうなの……?」
雪穂「……残念ながらマリーの言っている事はデタラメじゃないよ」
かすみ「っ!!?」
雪穂「真っ暗だった……未来に私達は、いや、私達の世界は存在していない」
亜里沙「そん、な……」
鞠莉「このまま何もしなければ私達の世界は確実にヨハネに消される」
ダイヤ「相手は神なのですよね? 何か手段はあるのですか?」
376: 2019/04/07(日) 22:15:48.27 ID:Zj9NQIuv0
鞠莉「……愚問ね、何の為に三人の女王が集まるこんな場を用意したと思っているの?」
歩夢「ヨハネによる間引きが実行された並行世界で消滅しなかった所が僅かながら存在しています」
鞠莉「撃退出来るって事なの、ヨハネの襲撃はね」
雪穂「神を相手に真っ向から挑もうってか……」
雪穂「……面白いじゃない」ニヤッ
愛「……なんだか急に分かりやすい話になってきたね!」
愛「早い話『私達で協力して強大な敵を退けよう!!』って事でしょ!」
ダイヤ「人々が団結するのに共通の敵の存在は好都合ではありますが……」
かすみ「協力する、なんて出来るの? 私達でさえあのザマだったのに他の奴らじゃ到底無理よ」
歩夢「出来なかったら消滅するだけだよ」
かすみ「むぅ……それはイヤだな」
愛「やるっきゃないでしょ!」
377: 2019/04/07(日) 22:23:54.86 ID:Zj9NQIuv0
ダイヤ「具体的にどんな作戦で?」
鞠莉「まず第一に――」
「―――楽しそうな話をしているじゃない、私も混ぜてよー」
一同「っっ!!!!?」ギョッ!
「どう? いいよね?」
雪穂「何コイツ!? どこから入って来た!!?」
歩夢「う、嘘……」ゾッ
愛「歩夢下がって! かすみ!!!」
かすみ「分かってますよ愛先輩っ!!!」
ダイヤ「何の前触れも無く現れた……っ!?」
鞠莉「………っ」
ダイヤ「鞠莉! わたくしの後ろに――」
378: 2019/04/07(日) 22:26:07.64 ID:Zj9NQIuv0
鞠莉「また会ったわね、『ヨハネ』」
鞠莉「あっ、“この世界”では初めましてだった」
ヨハネ「みなさん初めまして。私が噂の『ヨハネ』よ」
ダイヤ「ヨ、ハネ……コイツが」
愛「背中から黒い羽根なんか生やして……これって」
かすみ「神って言うより堕天使って感じ?」
ダイヤ「見た目なんてどうでもいいですわ!!」
ダイヤ「重要なのは我々が倒さねばならない敵が今目の前に現れた! それだけです!!!」
かすみ「……アンタに言われなくても分かってますー!」ボオッ!!
愛「他の守護者も直ぐに駆けつけて来る。サクッと倒して世界を救っちゃおうか!」ボオッ!!
雪穂「……あれ?」キョロキョロ
379: 2019/04/07(日) 22:28:24.81 ID:Zj9NQIuv0
ヨハネ「挑むんだ、この私に」
ヨハネ「ちょっと予定より早いけど……ま、いっか」
―――ゴオオオオッッ!!!
ダイヤ「ッ!? 黒い炎!?」
ヨハネ「今すぐこの世界を消すけど……いいよね?」
歩夢「あの炎を使わせちゃダメッ!!」
かすみ「って言われてもさぁっ!!」
愛「間に合わない……ッ!」
ダイヤ「私の技で防ぎきれ――」
鞠莉「……ダイヤッ!!!」ドンッ!!
ダイヤ「えっ」
カッ―――!!!
380: 2019/04/07(日) 22:36:56.11 ID:Zj9NQIuv0
~~~~~~~~~~~
ダイヤ「―――……ぅぅ」パチッ
……天井が見える。
わたくしは倒れているのですか……?
……身体中が痛い。
右腕の感覚が――あぁ、肘から先が無いのか。
鞠莉さんに突き飛ばされた後の記憶がありませんわ。
自分の呼吸音しか聞こえない。
戦闘は既に終わった?
ヨハネ「……目が覚めたみたいね」
ダイヤ「ッ!!!? ヨ、ハネ……ッ!?」
ヨハネ「初撃で全滅させられなかったのは久々だったわ……ちょっと舐めてた」
ダイヤ「鞠莉は……鞠莉さんは……?」
ヨハネ「マリ? ああ、金髪のあれか!」
ヨハネ「あの個体は中々にしぶとかったよ。最期まで抵抗してきたしね」
ダイヤ「……頃した、のですね」
ヨハネ「ええ、この場で生き残っているのはあなただけ」
ダイヤ「この世界は消されるのですか……」
ヨハネ「そうしたいのは山々なんだけど直ぐには出来なくなった」
ダイヤ「……えっ?」
381: 2019/04/07(日) 22:52:16.70 ID:Zj9NQIuv0
ヨハネ「三人の女王を頃すのに力を使い過ぎちゃったのよ。だから暫くは回復に専念するわ」
ヨハネ「良かったわね? 寿命がほんの少し伸びて」ニコッ
ダイヤ「……わたくしを殺さなくていいのですか?」
ヨハネ「あなた程度ならいつでも殺せる」
ダイヤ「……ッ」ギリッ
ヨハネ「完全回復には数年掛かるわ。せいぜいそれまでに私と互角に戦えるだけの戦力を整える事ね」スウゥゥ...
ヨハネの姿は霧のように消えた。
ダイヤ「……氏んだ……鞠莉さんが……氏んだ」
……どうして鞠莉さんが氏んでわたくしが生き残った?
黒澤 ダイヤ、貴様の使命は女王を守る事では無かったのか?
何故守るべき人に逆に守られた?
お前が、オマエが弱いせいで鞠莉さんは氏んだ……。
ダイヤ「――……っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ダイヤ「何が守護者だ! 肝心な時に役に立たないじゃない!!」
ダイヤ「憎い! 自分の弱さが……憎い……ッ!!!」
ダイヤ「……わたくしを生かした事を必ず後悔させてやるぞ……ヨハネェェェェェェ!!!!」
―――パキッ、パキパキパキパキッ!!!
――――――――――――――
――――――――――――
―――――――――
―――――――
―――――
―――
382: 2019/04/07(日) 23:20:52.12 ID:Zj9NQIuv0
ダイヤ「……こうして、激しい憎悪をキッカケにわたくしは『氷河の炎』を発現しました」
千歌「……」
……ヨハネ。
それって善子ちゃんがいつも言ってるやつだよね。
これは偶然なの?
もし予想が正しければ善子ちゃんがヨハネの正体になる。
けれど善子ちゃんは当時あの場に居ない。
それどころか守護者にもなってないから流石に違うか……。
千歌「……今の話は果南ちゃんから聞いてない」
ダイヤ「当然です、話したのは貴女が最初なのですから」
千歌「そんな重要な事をどうして黙っていたんですか!?」
ダイヤ「……ヨハネは突然あの会合場所に現れました」
ダイヤ「そしてわたくし以外のあの場に居た全員を頃した」
ダイヤ「ですが、あの場に居た人数と氏体の数が合わなかったのです」
千歌「数え間違いでは?」
ダイヤ「中には原形を留めていない氏体もありましたが、確実に一人分足りなかった」
383: 2019/04/07(日) 23:22:34.51 ID:Zj9NQIuv0
ダイヤ「……つまり、ヨハネはあの場に居た人間の“誰か”に化けていた可能性がある」
ダイヤ「変装……と言うよりは変身に近い、もしくは寄生虫のように誰かの身体を乗っ取っていたのかもしれない」
千歌「ならヨハネは今も誰かの身体に潜んでいる……?」
ダイヤ「ヨハネがどのように身を隠しているか分からない以上、不用意に話すべきじゃないと判断しました」
ダイヤ「貴女に話したのは鞠莉が召喚した人物だったからですわ。ヨハネに対抗する切り札なら奴が潜んでいる可能性は極めて低い」
ダイヤ「もっとも、既に乗っ取られていたのなら詰みですけどね」
千歌「そんなの自分じゃ分からないよ……」
ダイヤ「構いませんわ。どちらにせよ話すつもりでしたから」
ダイヤ「ヨハネの存在が明るみに出れば世界は大混乱に陥る。存在を隠しつつ戦力を増強しなければならない」
ダイヤ「……人が強くなるのに最も重要な感情は知っていますか?」
千歌「……憎しみ、ですか?」
ダイヤ「ご名答」
384: 2019/04/07(日) 23:24:14.94 ID:Zj9NQIuv0
ダイヤ「わたくしを頃す為に強くなろうとする人が増えれば増える程、ヨハネに対抗出来る戦力も増える」
ダイヤ「及第点の戦力はヨハネに奪われない人形兵(マリオネット)としてストック、その過程でわたくしよりも強い人が現れればそれでも良かった」
千歌「果南ちゃん達と決別したのは……」
ダイヤ「それはご想像にお任せしますわ」
ダイヤ「“罪悪感”“同情”“悲しみ”……わたくしが憎しみの対象になるのに不要な感情は全て『氷河の炎』で凍結させました」
ダイヤ「生き残ったわたくしにはこの国を、この世界を守る義務があります……例え鞠莉の理想を踏みにじってでも」
千歌「そんな……」
ダイヤ「色々とやってきましたからきっと地獄に……いえ、その更に下へ落ちるでしょうね。ですがそれでいいのです」
ダイヤ「――業を背負うのはわたくし一人で充分ですから」
千歌「ダイヤさん……」
ダイヤ「果南の事です、数日以内に貴女を取り戻しにここへ乗り込んで来るでしょう」
千歌「!」
ダイヤ「果南かわたくしか、どちら側につくか決めて置いて下さい」
ダイヤ「話は以上です――」
386: 2019/04/14(日) 23:44:33.61 ID:ceyo8NM50
~~~~~~~~~~~~~
~四日後 車内~
花丸「最後にキュッと締めて完成!」
ルビィ「うぎゅぅ!?」
花丸「ずらっ!?」
ルビィ「ぐ、苦しいよぉ……」
花丸「ごめんね……直ぐに緩めるずら」
曜「……もぐもぐ」
果南「お、美味しそうなハンバーガーじゃん。私も貰っていい?」
曜「えー……果南ちゃんさっきも食べてたよね?」
果南「そう固いこと言わないでさー」
曜「結構高いやつ買ったんだけど……」
387: 2019/04/14(日) 23:49:44.59 ID:ceyo8NM50
よしみ「そもそも味が分からない人が食べても意味無いよねー」
果南「うるさいぞ!」ドガッ!!
よしみ「うおっ!? 運転の邪魔しないでよ!!!」
果南「今のはよしみが悪い」プンプンッ
ルビィ「ネクタイ結べたよ!」
花丸「意外と苦労したずら……」
曜「お疲れ様」
果南「うん、良く似合ってるよ」
ルビィ「えへへ」
果南「この服は守護者が着ているものと全く同じものでね、耐炎性の高い繊維で作られているの」
ルビィ「炎の攻撃から身を守ってくれるんだね」
よしみ「その繊維、凄く苦労して手に入れたんだぞー」
388: 2019/04/14(日) 23:52:38.45 ID:ceyo8NM50
曜「いい素材で出来た服なのは分かったんだけど……」
果南「何か不満なの?」
曜「不満と言うかその……どうして全員黒いビジネススーツ風な訳?」
花丸「しかもメンズタイプだし。どうせなら女の子らしいのが良かったずら」
よしみ「何でって、分からないの?」
花丸「機能性を重視した?」
ルビィ「全身を覆えるから?」
果南「そんなのカッコイイからに決まってるじゃん!」
花丸「えぇ……」
果南「完全に私の好みです。異論は認めませーん」
よしみ「それに戦闘服と言えば黒スーツって相場が決まってるしね!」
果南「そうそう」
ルビィ「それは違うような……」
花丸「曜ちゃんも何か言ってやってよ!」
389: 2019/04/15(月) 00:06:02.61 ID:EgyrcWXx0
曜「……なるほど、うん、カッコイイのは分かる! なんかマフィアみたいでいいかも!」
ルビィ「多数派になっちゃった!?」
果南「でしょ!? 流石は曜、分かってるねっ!」
果南・曜「「イェーイ!!」パチンッ
ルビィ「ハイタッチまでしちゃったよ」
花丸「服装だけでモチベーションが上がるならいいんじゃないかな」
よしみ「……っと、明るい雰囲気なのはいいけどさ、そろそろ着くよ?」
果南「……ん、りょーかい」
―――ブロロロロッ……
曜「到着っと」トンッ
果南「すんなり着いたね」
ルビィ「入口の門が開いたままだ……」
花丸「門番も居ないずら」
よしみ「どうぞ入って来いってか……楽だから有難いけどね」
390: 2019/04/15(月) 00:08:07.59 ID:EgyrcWXx0
曜「……」
果南「怖い?」
曜「ううん、そうじゃないよ」
曜「まさか、憧れの場所にこんな形で来る事になるとは思ってなかったからさ。なんか不思議な気持ち」
果南「予想できないからこそ面白いんだよ」
曜「確かに。いつの間にか守護者にもなっちゃったし」フフ
ルビィ「ねぇ、曜ちゃん」
曜「ん?」
ルビィ「これ渡しておくね」
曜「……えっ、これってパパの……」
ルビィ「形見だったんだよね、このリング」
ルビィ「写真とかが無かったから記憶を頼りに花丸ちゃんと一緒に作り直してみたの」
花丸「見た目だけそっくりなハリボテのリングだけどね」
ルビィ「戦いには使え無いけど……受け取ってくれますか?」
曜「……当たり前だよ……まさかまたこのリングを手に出来るなんて! 本当にありがとう!!」ウルッ
ルビィ「うん! どうたしましてっ」
花丸「良かったずら♪」ニッ
391: 2019/04/15(月) 00:11:23.53 ID:EgyrcWXx0
よしみ「ねえみんな、この戦いがぜーーんぶ終わって丸く収まったらさ……何しよっか?」
曜「私は沢山あるんだよなぁ……」ウ-ン
花丸「マルは千歌ちゃんに歌を教えて貰うずら! 教えてくれる約束、まだ果たされてないからね」
ルビィ「一緒にダンスも教えてもらえるかなぁ……」
よしみ「じゃあ、その流れでアイドルやっちゃうってのは?」
花丸「ずらっ!?」
ルビィ「ぴぎぃ!?」
果南「お、それいいかも! みんな可愛いし人気出るんじゃ無い?」
曜「衣装作りなら私に任せるであります!」
よしみ「何言ってるの? 二人も一緒にやるんだよ」
果南「私も?」
曜「いやいや、この顔で人前に出るのはちょっと……ねぇ」
よしみ「設備の整った病院で手術すれば元の顔に治せるから心配しないで」
曜「この傷治るの!?」
392: 2019/04/15(月) 00:12:29.43 ID:EgyrcWXx0
よしみ「果南さんは……うん、命尽きるまで頑張ろ!」
果南「私だけ雑だなぁ……」
花丸「果南ちゃんもやるなら、マルはやってもいいずら」
果南「ちょ、本気で言ってるの!?」
ルビィ「私も!」
曜「楽しそうだし、やってみようよ!」
果南「マジか……」
よしみ「……どーします?」フフ
果南「……はいはい、分かったよ」
果南「もうこの際、千歌の世界と同じメンバーでグループ組んじゃおうよ!」
ルビィ「お姉ちゃん達も入れるの!?」
よしみ「それは思い切ったねぇ!」
393: 2019/04/15(月) 00:14:00.02 ID:EgyrcWXx0
曜「実現したら千歌ちゃんもきっと喜ぶよ!」
ルビィ「……実現するかな?」
果南「夢は声に出して言っちゃえば叶うんだよ」
花丸「あはは、ぶっ飛んだ夢ずら」
よしみ「ホント、あの氷の女王がふりふりひらひら衣装着て歌って踊る姿を想像したら……くっ、くふふふふ」
果南「あはははは、全然想像できないや!」
曜「楽しそうではあるけどね」アハハ
「―――ふふ、あはははははは♪」
よしみ「ははは………はぁ、笑った、笑った」
曜「………ふぅ」
ルビィ「………笑ったね」
花丸「………うん、満足したずら」
果南「―――よし、みんな行こうか」
394: 2019/04/15(月) 00:26:58.34 ID:EgyrcWXx0
~~~~~~~~~~~~~
曜「ここって本当に王都なの? 誰も歩いてないじゃん」
よしみ「多分私たちが来るのを予想して外出禁止令が出たんだよ」
ルビィ「本当は人が沢山いるのに何か不気味な感じ……」
花丸「黒スーツ着た集団が横一列で歩いてる方がよっぽど不気味だと思うずら」
果南「無関係の人を巻き込まなくて済むのは有り難いかな」
よしみ「いつ襲って来るか分からない。気は抜かないで」
果南「……っと、敵の団体さんが見えてきたね」
城へと続く一本道。
その行先には無数の人形兵と王立軍の兵士が群がっていた。
曜「も、物凄い数だね」
果南「ザッと見て200人くらいって感じ?」
よしみ「意外だな……本気で倒す気は無いのか」
曜「この数で!?」
395: 2019/04/15(月) 00:30:30.32 ID:EgyrcWXx0
花丸「ここは敵の本拠地だよ? その全兵力がこの程度の訳が無いずら」
ルビィ「お姉ちゃんは何を考えているんだろう……」
果南「ともあれ、邪魔するなら蹴散らすだけだよ。……花丸」
花丸「『村雲』の出番ずらね!」
果南「範囲攻撃で半分くらいは片付けて欲しい」
花丸「……了解ずらっ!」ボウッ!!
よしみ「――いや、狙うのは入り口に向かうのに邪魔な敵だけに絞っていいよ」
花丸「えっ、そんなピンポイントでいいの?」
よしみ「これから強敵と戦うのに無駄な体力を使う事無いよ」
よしみ「『村雲』で隙を作ったらみんなは一気に城内に駆け込んで。連中とは私一人で戦う」
ルビィ「よしみさん!? む、無茶だよ!?」
花丸「よしみさんでもこの数を一人では……」
396: 2019/04/15(月) 00:33:57.74 ID:EgyrcWXx0
よしみ「数が多いったって全員守護者より弱いから大丈夫大丈夫!」
よしみ「それにAqoursリングを持たない私じゃこの先足手まといになる。ヒーラーは真っ先に狙われるポジションだしなおさらね」
よしみ「私が役に立てる場面はここしかないの」
果南「……」
果南はよしみの耳元へ顔を近づけ小声で話しかける。
果南「……さっきあんな事言った癖に自分は氏ぬ気なの?」
よしみ「その言葉、そのまま果南さんにお返しますよ」
果南「うぐっ」
よしみ「果南さん側につくと決めたあの日からこうなる覚悟は出来てました。この世に動く体がある限り、氏んでも連中は足止めしてみせます」
果南「……ごめん」
よしみ「その代わり、あの女王様をちゃんとブン殴って来なよ?」ニコッ
果南「――よしみの提案に乗ろう」
曜「本気!?」
果南「よしみはこの中で『二番目』に強い。数が多くても有象無象が相手なら一人で問題無い」
よしみ「みんなには話してない“奥の手”もあるし!」
397: 2019/04/15(月) 00:38:43.95 ID:EgyrcWXx0
果南「花丸、お願い」
花丸「……ずら」ボオッ!!
匣の中から日本刀型の武器『村雲』を取り出す。
手に取った『村雲』を刀身からそっと地面に落とすと、まるで水面に落としたように地中に吸い込まれていった。
次の瞬間、花丸の背後の空間に円形状の光の扉が大量に発生した。全ての扉からは『村雲』の刀身が飛び出ている。
高らかに右腕を突き上げ、標準を定める。
花丸「―――……一掃せよ、『村雲』!!!」
腕を振り下ろしたと同時に、待機中の『村雲』が敵陣へと一斉掃射された。
狙われた範囲に居た人形兵や兵士の体を次々と貫く。
果南「今だ!!! 走れ!!!」ダッ!!
曜「うん!」ダッ!!
花丸「後で合流しようね!」ダッ!!
ルビィ「待ってるから……っ!」ダッ!!
「くそっ……何てデタラメな匣兵器だ…」
「しまったっ!? 何人か侵入された!」
「追え、人形兵(マリオネット)!!!」
よしみ「……おっと、ダメダメ、追わせないよ?」
「……はあ?」
「おいおい……この数相手に一人で戦うのか?」
398: 2019/04/15(月) 00:40:52.15 ID:EgyrcWXx0
よしみ「………」ニコッ
「……人形兵、殺れ」
命令を受けた人形兵が一斉によしみへ襲い掛かる。
それぞれ多様な属性、匣兵器で武装した人形兵。
よしみは匣兵器を使う素振りすら見せない。
よしみ「――ッうらあああああッ!!!」
実にシンプルな攻撃だった。
最初に届く範囲に来た人形兵の顔を掴んで振り回したのだ。
たったこれだけで、掴まれた人形兵の顔はひしゃげ、巻き込まれた三体も機能を停止した。
「腕力だけでこんな……んな!?」
「な……なんだっ!? その“腕”は何なんの!!?」
人形兵を掴んだよしみの腕の筋肉は異常なまでに巨大化していた。
……実に通常時の約五倍。
よしみ「……驚いた? 肉体が炎の特性を匣兵器並に生かせるように体をちょーっと改造(いじ)ってるんだよね」
「バカな……そんな技術がいつの間に実用化されていたの……?」
399: 2019/04/15(月) 00:42:20.66 ID:EgyrcWXx0
「あの人は以前、人形兵開発の最高責任者だった人よ。未発表の技術の一つや二つあっても不思議じゃない」
よしみ「私の持つ属性は『雲』と『晴』の二つ」
よしみ「雲の増殖による『筋肉の異常増殖』+晴の活性による『過剰活性』の複合技」
よしみ「―――差し詰め、『肉体変異(メタモルフォーゼ)』とでも名付けようかな」
―――メキッ、ミキミキミキッ!!!
二種類の炎の力で右腕だけではなく左腕、両足も同じく巨大化
よしみの見た目はもう完全に化け物となった。
「こ、これが人間の姿……なの……?」
よしみ「一人で残ったのはこの醜い姿を見られたくなかったのもあるんだよねぇ!!」
「……この化け物めっ」
よしみ「――さあ、いつでもいいよ……氏にたい奴から掛かって来なぁ!!!」
400: 2019/04/18(木) 22:41:20.34 ID:tYHAcBhr0
~~~~~~~~~~~~~
~城内 三階 大広間前~
花丸「……静か過ぎる。私達の足音しかしないずら」
曜「ねえ、城の中って普段から誰も居ないの?」
果南「まさか」
ルビィ「曲がり角とかから襲って来てもおかしくないのに……」
花丸「最短距離で王の前に向かっても良さそうだね」
ルビィ「お姉ちゃんがそうさせてる気もするけど……」
果南「廊下の突き当たり、扉の向こうの大広間を抜ければ直ぐに着く!」
花丸「……扉の向こう……何か、嫌な感じがするずら……」
曜「うん……誰か居るね」
ルビィ「迂回する?」
果南「時間が惜しい。このまま突っ切る」
曜「分かった……」ゴクッ
401: 2019/04/18(木) 22:47:35.65 ID:tYHAcBhr0
果南「……開けるよ!」
果南は大広間への扉を勢いよく蹴り開ける。
中に居たのは―――。
梨子「……来たわね」
ルビィ「う、嘘っ!?」ビクッ
曜「……桜内、梨子っ!!」
梨子「君は……あんだけコテンパンにしたのにまだ戦う意思が残っていたんだ……」
梨子「ついでにAqoursリングも手に入れちゃったと」
曜「……お陰様でねっ」ギロッ
果南「城内でも人形兵が襲って来ると思ったんだけど……初っ端から梨子か……っ!」
梨子「城の中で人形兵が襲って来る事は無いわよ」
梨子「この上の階に善子、そして王の間にはダイヤ様と高海 千歌が居る」
花丸「本当ずらか?」
梨子「そんなつまらない嘘は言わない」
果南「先に進みたかったら梨子を倒すしかない訳だね」
梨子「その通り」キイィィン
―――ゴオオオォォッ!!!
放たれる強大な光球。
果南は右手を突き出してそれを打ち消した。
梨子「凄っ! 本当に問答無用で打ち消しちゃうんだ!!」
402: 2019/04/18(木) 22:51:35.16 ID:tYHAcBhr0
果南「いきなり最大出力かいッ!」ギリッ
梨子「まさか! 今のは半分くらいに抑えてますよ!!」
―――ゴオオォォッ!! ゴオオォォッ!!!
果南「クソッ! 花丸、曜! 回り込んで!!」
果南の指示で左右に飛び出す二人。
お互いの手にはAqoursリング専用の匣兵器、Aqours匣が握られている。
梨子「甘いわ……『プレリュード』!!!」
梨子の背後から嵐の炎を纏った犬が飛び出す。
嵐犬「ワオーーーーーーーン!!!!」ゴオオォォ
曜「うわッ!!?」
花丸「ぐっ!」
犬による嵐の炎の咆哮で二人の体は大きく後方へ吹き飛んだ。
梨子「『プレリュード』の咆哮をまともに受けて無傷か……その服にカラクリがあるのね」
403: 2019/04/18(木) 22:56:54.84 ID:tYHAcBhr0
曜「何なのあの犬!」
梨子「この子は『嵐犬(カーネ・テンペスタ)』の『プレリュード』、私のAqours匣よ」
花丸「アニマル型の匣……っ」
果南「最初から匣を使っていたのに、どうして『形態変化(カンビオ・フォルマ)』させてなかったの?」
梨子「え、良かったの? 一瞬で終わっちゃうけど?」
曜「舐めるな!!」ボッ!!
梨子「ま、使わなくても一人くらい消せるしね……!!」
―――ゴオオオォォ!!!!
曜の方向に初撃の倍以上の大きさの光球が放たれる。
Aqoursリングを使えるようになったとは言え、曜単体では炎の出力はメンバー最下位。
この規模の炎を相頃するだけの力は無い。
対抗手段は果南の右手しかないが、曜までの距離が離れ過ぎている。
果南「ダメ……この距離じゃ間に合わない!!!」
花丸「曜ちゃん避けて!!!」
曜「………ッッ!!!」
ルビィ「―――『形態変化(カンビオ・フォルマ)!!!』」
突如、光球の真上に落雷が落ちた。
その衝撃で光球は真っ二つに割れて曜の体から綺麗に逸れたのだ。
曜「い、一撃で壊した……」
404: 2019/04/18(木) 23:04:43.13 ID:tYHAcBhr0
梨子「……へえ、ルビィ様がAqours匣を」
Aqours匣の中にはアニマル型の匣兵器が搭載されている。
嵐には犬、雷には猫といったように。
それ単体でも他の匣兵器とは別格の威力を持っているが、Aqours匣には特殊な機能が備わっている。
―――『形態変化(カンビオ・フォルマ)』
アニマル匣が守護者専用の強力な武器へと変形する。
ルビィの『雷猫(エレットロ・ガット)』は『槍』へと変形。
そして変化は服装にも表れる。
発動と同時に使用者は白を基調とした専用の服を身に纏う事になる。
ルビィの場合は白ジャケットにウイングカラー付きのシャツ、黒の蝶ネクタイ、左胸にはピンク色のバラの花が付いている。
……もし、この場に千歌が居れば一目でこれが何の衣装か分かっただろう。
ラブライブ地区予選で披露した曲の衣装である『MIRAI TICKET』のそれと全く同じだ。
ルビィ「梨子さんの相手は私がします。みんなは先に行って下さい」
花丸「ルビィちゃん!?」
405: 2019/04/18(木) 23:11:55.65 ID:tYHAcBhr0
果南「………」
梨子「ルビィ様が? その子じゃないの?」
曜「そうだよ!! コイツは私が……ッ!」
ルビィ「曜ちゃんの目的は千歌ちゃんを取り返す事。梨子さんと戦う必要は無い」
曜「でも!」
ルビィ「果南さんも花丸ちゃんも戦うべき相手が居る……なら、私しか残ってない」
梨子「全員まとめて掛かって来ればいいじゃない」
ルビィ「……分かりませんか?」
梨子「?」
ルビィ「梨子さん相手なら私一人で充分だって言ってるんですよ」
梨子「………へぇ」
ルビィ「ずっと後悔してた……千歌ちゃんが連れ去られたあの日、私に戦う勇気があればって……」
ルビィ「今の私には立ち向かう勇気も力もある」
果南「ルビィ……任せて大丈夫?」
ルビィ「……うん」ニコッ
ルビィ「梨子さんを倒したら直ぐに果南さん達と一緒にお姉ちゃんとも戦う!!」
ルビィ「……私が駆けつける前に倒されないでよね?」
果南「ふふっ……心配なら早く来てよ!」
ルビィ「曜ちゃん、必ず千歌ちゃんを取り返して……!」
曜「うん……!」
ルビィ「花丸ちゃんも頑張って!」
花丸「……うん、ルビィちゃんもね!」
梨子「ルビィ様が? その子じゃないの?」
曜「そうだよ!! コイツは私が……ッ!」
ルビィ「曜ちゃんの目的は千歌ちゃんを取り返す事。梨子さんと戦う必要は無い」
曜「でも!」
ルビィ「果南さんも花丸ちゃんも戦うべき相手が居る……なら、私しか残ってない」
梨子「全員まとめて掛かって来ればいいじゃない」
ルビィ「……分かりませんか?」
梨子「?」
ルビィ「梨子さん相手なら私一人で充分だって言ってるんですよ」
梨子「………へぇ」
ルビィ「ずっと後悔してた……千歌ちゃんが連れ去られたあの日、私に戦う勇気があればって……」
ルビィ「今の私には立ち向かう勇気も力もある」
果南「ルビィ……任せて大丈夫?」
ルビィ「……うん」ニコッ
ルビィ「梨子さんを倒したら直ぐに果南さん達と一緒にお姉ちゃんとも戦う!!」
ルビィ「……私が駆けつける前に倒されないでよね?」
果南「ふふっ……心配なら早く来てよ!」
ルビィ「曜ちゃん、必ず千歌ちゃんを取り返して……!」
曜「うん……!」
ルビィ「花丸ちゃんも頑張って!」
花丸「……うん、ルビィちゃんもね!」
406: 2019/04/18(木) 23:12:46.21 ID:tYHAcBhr0
梨子「………」
ルビィ「みんなが通り過ぎるのを見逃してくれるんだ」
梨子「ダイヤ様には自由にやれと命令されましたから」
梨子「……だから相手がルビィ様でも手加減はしない」
梨子「――プレリュード、『形態変化(カンビオ・フォルマ)』」
梨子の合図でプレリュードは『二丁拳銃』に姿を変え、梨子仕様の『MIRAI TICKET』衣装へと換装。
梨子「一撃で終わるようなつまらない結果だけは止めてくださいよ……?」
ルビィ「……負けないからっ!!」
【ルビィ(属性:雷) VS 梨子(属性:嵐)】
407: 2019/04/18(木) 23:26:23.50 ID:tYHAcBhr0
~~~~~~~~~~~~~
戦闘が開始されて早々、梨子は右手の銃から二発発砲する。
梨子の専用武器『二丁拳銃』の弾丸鉛玉の代わりに炎を圧縮したものを撃ち出す。
本来この弾丸は曜の弱点でもある生成できる炎が弱い人間がそれを補う為に作られた物。
その弾丸を梨子のように強力な炎を扱える者が使った場合、どうなるのかは想像に難くない。
……炎の規模、破壊力共に数倍に跳ね上がった。
――ルビィは雷の炎を纏わせた槍の柄を地面に押し当てる。
正面に体を覆い隠す大きさのレンズ状のバリアが出現。
梨子の炎を防いだ。
ルビィ「……効かないよ」
梨子「私の攻撃を防ぐか! 流石は王族、黒澤家の人間と言った所ね!」
梨子「さて……そのバリアは何発まで耐えられるのかしらね!」
―――ゴオォォ! ドゴオォォォッ!!
ルビィ「うぐっ、ぐぐ……ッ」
四発、五発と命中する数が増える度にバリアごとルビィの体はジリジリと後退していく。
梨子「守っているだけじゃジリ貧だよ!」
408: 2019/04/18(木) 23:29:16.25 ID:tYHAcBhr0
ルビィ「……ッ、うぅ」
梨子「もしかして攻撃の仕方が分からないの?」
ルビィ「……大丈夫だよ」ニッ
梨子の周囲数メートルに小さな雷雲が複数出現する。
梨子「い、いつの間に!?」
ルビィ「――当たって!!!」ブンッ!!
ルビィが槍を振り下ろすと雷雲からビーム状の雷の炎が発射された。
不規則な方向からの攻撃な為、回避は困難。
急所は避けたが肩や脇腹に被弾。
それ以外の部位にも掠り焦げ跡を残す。
梨子「痛……ッ!?」
……この程度の威力なら衣装の耐久性の方が勝る。
ダメージも大したことがないわ。
つまり、この攻撃は私のバランスを崩す為の陽動……!
梨子「……本命は真上の雷雲か!!」
ルビィ「気がついた所で今更遅い! 避けられよ!!!」
ルビィ「――『落雷(サエッタ)!!!』
目が眩む閃光と耳をつんざく激音が大広間に鳴り響く。
梨子の炎を真っ二つにした雷が今度は脳天に直撃した。
梨子「……がっ、あ、ああああッッ!!!」
409: 2019/04/18(木) 23:30:00.54 ID:tYHAcBhr0
梨子は倒れない。
ルビィ「た、耐えるの……この一撃を!?」
梨子「今のはちょっと効いた……ぐっ」フラッ
ルビィ「ならもう一度―――」
―――ズドドドッッ!!!
梨子は周囲に発生していた大小様々な大きさの雷雲を全て撃ち抜いた。
梨子「二度は通用しないわよ」ギロッ
ルビィ「うっ……!?」
ルビィは槍の柄を地面に打ちつけて雷雲を発生させる。
梨子「何としてでも近寄らせたくないってか……」
電撃による遠距離攻撃で牽制。
梨子はそれを左右ジグザグに走り回りながら回避し、銃撃で応戦する。
数発がルビィの頬と腰を掠めた。
ルビィ「熱ッ!!?」
梨子「なるほど、雷雲による攻撃とバリアは同時には行えないってね!!」
410: 2019/04/18(木) 23:34:30.94 ID:tYHAcBhr0
ルビィ「くっ……何でその銃は弾切れにならないのさ!?」
お互いに一定の距離を保ち移動しながら攻撃と回避を繰り返す。
攻撃の密度はルビィが優るが、精度は梨子が優る。
ジリジリとダメージが蓄積していくのはルビィなのだが攻撃方法を変更する気配はまるでない。
梨子はそれに違和感を持った。
――妙ね……ルビィ様の武器は『槍』。
中遠距離での撃ち合いよりも白兵戦に持っていきたいと思ったんだけど。
ルビィ様の使い方は間違ってはいないけど『槍』よりも『杖』の側面が強い。
さっきの技だって槍を使った本来の戦い方の中に組み込めば最大限に活かせる感じがする。
梨子「じゃあ、こうしよう……!」
梨子は銃口から放たれる炎を推進力としてルビィの目の前まで瞬時に接近した。
接近に思わずギョッとしたルビィ。
梨子は御構い無しにグリップの底でこめかみを殴りつける。
ルビィ「ッああ!?」
ガンッ! ガンッ! ゴンッ!
頬、顎、肩、みぞおち……。
不快な肉を打つ鈍い音が断続的に響く。
果南が全員に装着させたスーツを含むすべての衣服には炎に対してはかなりの耐性を誇っている。
一方、物理攻撃に対してはただの服と同じ防御力。
ダメージの軽減はほとんど無い。
梨子「どうしましたッ! その槍は飾りなの!?」
411: 2019/04/18(木) 23:38:04.03 ID:tYHAcBhr0
ルビィ「…ッ、あ゛あ゛ッ!!」ブンッ!
槍を振り回す。
が、苦し紛れに振った所で梨子の体には掠りもしない。バックステップで軽々と回避した。
ルビィ「ぅぐうぅ……がっ、はぁッ……」ボタボタッ
梨子「……この辺で諦めてくれませんか?」
梨子「ダイヤ様の命令とは言え、こうやってルビィ様を痛めつけるのは正直嫌です……」
ルビィ「はぁッ……はぁっ……ッ」
梨子「たった一言でいいのです……降参と言ってください」
ルビィ「うあ゛あ゛あ゛ッ!!!」ダッ!!
梨子「あぁ……向かって来てしまいますか――」カチャッ
ボロボロになりながら向かってくるルビィに対し、梨子は無慈悲にも二丁合わせて引き金を六回引いた。
412: 2019/04/27(土) 23:45:09.51 ID:eoWGRzzU0
~~~~~~~~~~~
王の間へ続く広々とした廊下。
その途中で仁王立ちで待ち構えていたのは、霧の守護者の善子だった。
既に善子仕様の『MIRAI TICKET』衣装を身に纏っている。
善子「――遅い! 梨子の居た大広間からそんなに距離ないでしょうが!」
果南「えー……真っ直ぐ来たんだけどな」
花丸「……善子ちゃん、虹ヶ咲領で会った時以来だね」
善子「虹ヶ咲……あぁ、やっぱりあの時邪魔した雲の炎使いはずら丸だったのね」
善子「ずら丸がリングに選ばれるなんて意外だった」
花丸「そう? マルだってやれば出来るずら」
善子「……そう」
善子「こっちは『形態変化』も済ませて準備万端よ」
曜「あの武器は……何なの? 杖?」
善子「これは『錫杖(しゃくじょう)』よ。遊行僧が携行する道具の一つってところね」ジャラ
善子「まあ、あなたの言う杖が魔法の杖を指すならあながち間違いじゃないけど」
413: 2019/04/27(土) 23:48:51.43 ID:eoWGRzzU0
果南「気をつけて……善子は最年少で守護者に選ばれた天才術者だ。あの子の使う幻術はヤバい!」
善子「いやいや、気をつけた所でどうしようもないわよ?」
善子「天才の私が使う幻術にAqours匣の力が上乗せされれば……どうなると思う?」ニヤッ
ボオウゥゥ―――ッ!!
善子の錫杖とリングに藍色の炎が灯ると、瞬く間に廊下全体へ広がる。
……一瞬の暗転後、曜の足元の地面が消失した。
曜「……う、うおおおおッ!? 落ち―――」
花丸「惑わされないで! これは幻術、ただの錯覚ずら!!」
曜「幻術……これが……」キョロキョロ
花丸「そう、幻術……そのハズなんだけど」
曜「それにしてはリアル過ぎない!?」
414: 2019/04/27(土) 23:52:25.83 ID:eoWGRzzU0
善子「幻想的な空間でしょう? 暗黒空間に神殿が浮かんでいるイメージを具現化させてみたわ」
果南「私には幻術は効かないはず……なのにどうして!?」
善子「ふふ……分からない?」
果南「まさか……脳内じゃなくて、この空間そのものを書き換えたの……ッ!?」
善子「霧属性の特性は『構築』よ。私の力と組み合わせればこのくらい余裕で作り出せる」
善子「ここは私のイメージを自由に具現化出来る理想の世界……何もかもが私の思うまま」
にっこりと微笑む善子。
錫杖を軽く振ると、右の肩甲骨から大きな白い翼が生え、頭上には純白のリングが浮かぶ。
その姿はまるで―――。
花丸「――天…使……?」
善子「ようこそ、私の幻想(せかい)へ」
415: 2019/04/27(土) 23:55:02.60 ID:eoWGRzzU0
曜「持ってる武器は僧侶用のものなのに、姿は天使とか!?」
花丸「果南ちゃん!」
果南「世界を書き換えた力が炎によるものなら何も問題無い!!」
果南は右手を地面に叩きつける。
ガラスが割れるような甲高い音と共に、景色が元の渡り廊下へと戻った。
……が、それはほんの一瞬。
一回のまばたきの間に善子の幻想(せかい)に書き換わる。
善子「ここは私の炎で絶えず構成している……右手の力で打ち消してもすぐに再構築出来るのよ」
果南「……っ、本当に相性が悪いな」
善子がパチンッと指を鳴らすと、曜達の辺り周辺に無数のナイフが生成される。
曜「か、囲まれた!?」
善子「その右手でも水の壁でもこの攻撃は防げないわよ?」
果南「いや、当たる瞬間に幻想(せかい)を打ち消せば――」
善子「馬鹿ね、そんな事してもナイフに影響は無い。別に試してもいいけどね」
416: 2019/04/28(日) 00:01:02.06 ID:99ZARqho0
曜「ヤバイ! 私全方位の攻撃を防げる技なんて持ってないよ!?」
果南「くそっ! 全員急所だけは守って!!」
善子「ふふふ……穴だらけにしてあげるわ」
錫杖を軽く振る。
待機中だった全てのナイフが一斉に曜達に襲い掛かった。
花丸「―――『形態変化(カンビオ・フォルマ)!!!』」
ゴオオオォォッ―――!!
花丸を中心に吹き荒れた強力な炎が全てのナイフを弾き飛ばす。
手には開かれた新書サイズの分厚い本が握られていた。
服装は勿論、花丸仕様の『MIRAI TICKET』
花丸「果南ちゃん、曜ちゃん、ここはマルに任せて欲しいずら」
花丸「いいよね?」
417: 2019/04/28(日) 00:12:28.79 ID:99ZARqho0
果南「……分かってるよ、善子と戦う事が花丸の目的だったもんね」
花丸「マルの用事が済んだらルビィちゃんと一緒にすぐに向かうから」
善子「ふーん……一人で私の相手をするの?」
花丸「不満なの?」
善子「……いいえ、果南とやるより面白そうだから構わないわよ」
再び善子は指を鳴らす。
すると曜と果南の姿が消滅した。
花丸「んな!?」
善子「安心しなさい、私の幻想(せかい)から退出させただけだから」
花丸「ここは現実世界とは隔離された空間なんだ」
善子「そーゆーこと」
善子「だからどんなに暴れても城は壊れない……思う存分戦えるってわけ」
花丸「……それはいいね」ニッ
【花丸(属性:雲+α) VS 善子(属性:霧)】
418: 2019/04/28(日) 00:16:07.96 ID:99ZARqho0
~~~~~~~~~~~
曜「――うおっ!? 廊下に戻った……?」
果南「善子が私達だけを術中から追い出したんだ」
曜「この黒い幕みたいな物の向こうに二人は居るんだね」
果南「うん」
果南「どうなるか分からないから触るべきじゃないかな」
曜「花丸ちゃんはどうするの?」
果南「……このまま任せる。花丸とはそういう約束で付いて来てもらったから」
曜「そっか……」
善子と遭遇した廊下を過ぎ去り、さらに上のフロアに向かう。
誰一人会うことなく王の間の扉前に辿り着いた。
……寒い。
この扉の前に来て曜が感じた事だ。
移動中は常に走っていたので体は温まっていたにもかかわらず、その体温が一気に奪われる感覚。
下の隙間から白い冷気が漏れ出しているのが全てを物語っていた。
果南「曜、体に異常は無い?」
曜「大丈夫だよ。体力も気力も充分」
果南「気を引き締めなよ……この扉の向こうに女王が、ダイヤが居る」
419: 2019/04/28(日) 00:20:12.92 ID:99ZARqho0
曜「……分かってる、決意も覚悟も出来てるさ」
果南「お、いい眼だね。もっとビビッてると思ってた」
曜「技は花丸ちゃんに、心は果南ちゃんに散々鍛えてもらったんだ。もう並大抵の事じゃビビらない」
果南「それは心強いや!」
曜「それに、これから果南ちゃんと一緒に戦うのに足を引っ張るわけにはいかないからね!」
果南「頼りにしてる」ニッ
曜「任せてよ!」
―――ガチャ
ダイヤ「………来ましたか」
千歌「………」
曜「千歌ちゃん!!!」
千歌「……よう、ちゃん……」
果南「……やっほ、ダイヤ」
ダイヤ「果南……」
果南「一発ブン殴りに来たよ」
ダイヤ「性懲りも無くまた挑むのですか……あの時嫌という程体に覚えさせたつもりだったのですが?」
果南「生憎、痛みは随分昔に感じなくなったからさ。もう覚えて無いや」
ダイヤ「ホント、呆れた人ですわね」
420: 2019/04/28(日) 00:24:05.23 ID:99ZARqho0
曜「千歌ちゃんは返してもらうぞ!!!」
ダイヤ「返す? まるで千歌さんが貴女の所有物みたいな言い草ですわね」
曜「……何だと?」
ダイヤ「千歌さんはとっくの昔に自由の身ですわ」
曜「っ!?」
ダイヤ「その証拠に彼女の体には自由を拘束する類の物は一切付いていないでしょう?」
果南「なら……千歌は自分の意志で……」
曜「そ、そんな……どうして……千歌ちゃん!!?」
千歌「……っ」ギリッ
曜「ダイヤ!! 千歌ちゃんに何をした!!!」
ダイヤ「別に、薬物投与や精神操作などの小細工は一切行っていません」
ダイヤ「千歌さんは自らの意志こちら側についた、ただそれだけの事です」
曜「ふざけるな……そんなの信じられるか!」
曜「じゃあ私は……私は何の為にここまで……ッ!? 私やみんなの頑張りは何だったのさ!?」
ダイヤ「貴女の目的が千歌さんだとしたら、無駄な努力だった以外のなにものでもないですわね」
曜「ッッ!!!」キッ!!
421: 2019/04/29(月) 22:13:04.85 ID:UR1kTAuN0
千歌「………」
……ダイヤさんの話を聞いて今日までずっと考えてた。
私が元の世界に帰るには、この世界の破滅の危機から救わなきゃならない。
ダイヤさんの選択は非情だ。
けど『世界を救う』目的のみに限れば完全には間違ってないと思った。
誰かの味方になるってことは別の誰かの味方にならないってことだ。
曜ちゃん達か、ダイヤさんか。
私の……私の答えは……。
千歌「分かんない……よ」ジワッ
果南「―――千歌、ダイヤから何か聞かされたんだよね?」
千歌「……えっ」
果南「それが私から聞いた話と食い違ったか、それとも別の真相を知ってしまったか」
果南「それでどうすればいいか悩んでるだよね?」
千歌「……うん」
千歌「何が正しいのか……全然分からないよ……私には重過ぎる……」
422: 2019/04/29(月) 22:15:58.86 ID:UR1kTAuN0
果南「じゃあさ、千歌はどうなって欲しいの?」
果南「千歌が望む未来は……どんな結末ならハッピーエンドになると思う?」
千歌「私が望む……未来……」
果南「私やダイヤ、曜の事も全部無視していい……自分の気持ちに正直になってよ」
果南「私は千歌の選択を尊重する。その結果敵に回ってしまったとしても、裏切られたとは思わないし、千歌が罪悪感を抱く必要も無い」
曜「……」
果南「曜だってそうだよね?」
曜「……それで千歌ちゃんが無事に帰れるならいい……かな」
ダイヤ「……」
果南「千歌、聞かせて?」
千歌「本心……未来……」
ダイヤ「―――そう、ですか。それが貴女の選択なのですね……千歌さん」
423: 2019/04/29(月) 22:18:37.24 ID:UR1kTAuN0
千歌「ごめんなさい……私はこっち側につくよ」
曜「よ、よかった」ホッ...
ダイヤ「貴女が倒すべき相手はわたくしでは無いことを知っていても尚、立ちはだかるのですか」
千歌「……ダイヤさんがどれほどの覚悟で今の立場に至ったのか、私じゃ全然想像出来ない」
千歌「ダイヤさんの選択はこの世界を救う方法としては合理的で確実なのかも知れない」
千歌「――でも……その方法じゃダイヤさんが救われない」
ダイヤ「………」
千歌「たった一人で全員分の悪意を背負うなんておかしいよ! 悪意で得た力を使っても幸せな未来なんか訪れやしない……!」
ダイヤ「……それが貴女の答えですか?」
千歌「言葉で説得しても意味無いよね」
果南「だから力尽くで分からせてやるよ」コキコキッ
曜「やる事は予定と変わらないって訳だ」
果南「千歌、あとでダイヤから聞いた事を包み隠さず話してもらうからね」
千歌「分かってる」
ダイヤ「――仕方ありませんわね」
パキッ、パキパキパキ―――!!
曜「うぅ!? 寒っ!!!?」ブルブルッ
千歌「一気に部屋の温度が……!」
果南「……物凄い殺気だ。寒さを感じないはずなのに私も体が震えたよ」
424: 2019/04/29(月) 22:22:35.55 ID:UR1kTAuN0
ダイヤ「あの時はこの殺気だけで怖気づいていたのに。少しは成長したみたいですわね」
ダイヤ「千歌さんがどちら側の味方をしようとも、貴女達は見逃せない。Aqoursリングと匣は返してもらいます」
ダイヤ「本来なら人形兵(マリオネット)にするところですが……氷漬けにして城に展示させてもらいますわ」
果南「前に話したようにダイヤの炎は『大空の七属性』から外れた『氷河』の炎だ。大気中の水分は勿論、こっちの炎も凍結させてくる!」
曜「相手は浦の星最強の女王、最初から出し惜しみは無しだ!」カチッ!!
バシュッ!!!
匣を開口すると同時に、曜の体は雨の炎に包まれる。
衣装、専用武器共に換装完了。
曜の手には刀身が半透明な水色の日本刀。
むつの『雷電』、花丸の『村雲』と同シリーズの匣兵器。
固有名は『時雨』
今まで使用していたトンファーを匣ごと破壊された曜の新しい武器だ。
ダイヤ「それがわたくしが使うはずだったAqours匣ですか」
曜「今は私の匣兵器だよ」
果南「数日で完璧に使いこなせるまで成長してる。千歌の『同調』も合わせればとんでもなく強いよ」
千歌「よ、曜ちゃんのそれ……MIRAI TICKETの衣装じゃん!?」
曜「み、ミライチケット?」
果南「何それ??」
千歌「い、いや……何でもない」
千歌「ライブの衣装がこんな所で出てくるんだ……」ボソッ
果南「曜、千歌、援護よろしく!」
曜「任せてよ!」
千歌「私は直接戦えないけど……頑張って二人のバックアップをする!」
【果南(属性:???)、曜(属性:雨)&千歌 VS ダイヤ(属性:氷河)】
425: 2019/05/02(木) 23:00:58.57 ID:Jguby87Y0
~~~~~~~~~~~~~
花丸の匣兵器、『魔道目録(ブックメーカー)』のページには技の発動に必要様々な魔法陣が描かれている。
そこから一ページを破り取り、空中に投げ飛ばす。
一枚だった紙が雲の『増殖』で六つに増え、空間にその数だけ魔法陣が展開した。
花丸「―――『雷の魔弾(サンダーバレット)!!』
魔法陣から高速で発射された雷属性の弾丸。
善子はコンクリートの壁を生成してそれを防ぐ。
花丸の攻撃は終わらない。
開かれた『魔道目録』からどんどんページが飛び出し
花丸の周囲に円軌道を描きながら漂う。
その数枚から再度魔法陣が展開。
そこから『村雲』と弾丸が不規則な軌道で動く『晴の魔弾(サニーバレット)』が放たれた。
善子はその場から飛翔し、攻撃を躱す。
善子「『雲』に『雷』に『晴』……あなた、同時に複数の属性を扱えるのね」
花丸「その通りずら」ジャラッ
花丸の右手の指全てにリングがつけられていた。
花丸「マルにはこの匣兵器を操る為の五つの波動が流れているずら」
善子「つまりあと二つ見せて無い属性があるわけか!」
426: 2019/05/02(木) 23:04:09.04 ID:Jguby87Y0
花丸「安心して、もう使ってるずら」
―――ジャラジャラッ!!
水の鎖が善子の手足に絡みつく。
善子「この技は曜の!?」
花丸「マルの扱える属性の技なら魔法陣をページに記録しておけばいつでも発動出来るんだよ!」
動きが止まった所を『村雲』、『雷の魔弾』、『晴の魔弾』で掃射する。
善子「中々のチート能力ね! でもこの程度の拘束、どーって事ないっての!!」
善子は白翼で鎖を切断し、攻撃をひらりを回避した。
善子「弾幕が薄いんじゃない? そんな攻撃いくら撃っても―――」
―――ドドンッ!!
善子「ぐっ!? 何!?」
花丸「驚いた? 全然見えなかったでしょ?」フフフ
善子「今のは霧属性の……!?」
花丸「そう、不可視の弾丸。『霧の魔弾(ミストバレット)』ずら」
427: 2019/05/02(木) 23:07:14.67 ID:Jguby87Y0
善子「結構痛いじゃないっ!」
花丸「留まってていいの? マルの攻撃は続いてるよ!!」
ズドドドドドッ!!
善子「ふふ」スウゥゥ...
花丸「き、消えたッ!?」
善子「こっちこっち」グニャ
花丸「姿がハッキリ見えない……?」
善子「認識をほんの少しズラしているのよ。正確に狙い撃つのは無理」
花丸「だったら避けられない数を撃つまでずら!」
善子「果たして出来るかしらね?」パチンッ
花丸「ん゛ん゛ッ!?」
……な、なんずら?
喉に違和感が―――。
花丸「お、おえええええええッッ!!!!?」ボトボトボトッ
喉を引き裂くような激痛と共に、大量の釘と血を吐き出した。
花丸「な、何が起こって……」ゼエゼエ
善子「それ、もういっちょ」パチンッ
花丸「ぐ、今度は体が……っ!?」
―――ブシャアアアアッッ!!!
花丸の体内から刀、槍、斧、鎌が一斉に飛び出してズタズタに引き裂いた。
花丸「……ぁ、がっ……あ……」
善子「泣き叫ぶ暇すらなかったようね。どんな断末魔が聞けるかちょっと楽しみだったのに」
428: 2019/05/02(木) 23:09:41.92 ID:Jguby87Y0
花丸「……叫ばないよ」
善子「!?」
花丸「趣味の悪い幻術ずらね。いつの間にスプラッター系が好みになったの?」
善子「驚いた……大抵の人間はショック氏か、最低でも気絶はするのに」
花丸「最初の釘は痛かったけど、その次のやつは対抗策を講じたからね」
善子「そりゃ、そんだけページ数のある本なら対幻術用の技もあるか」
善子「私が幻術を使うタイミングがよく分かったわね」
花丸「善子ちゃんが幻術を使う時は必ず指を鳴らす。そんなの誰にだって分かるずら」
善子「でしょうね」フフ
善子「なんで私は幻術を使う時に指を鳴らすと思う?」
花丸「……ただのルーティンなんでしょ」
善子「その通り。術者は幻術の発動をスムーズにする為に特定のルーティンを行う」
花丸「だから術者は発動の予兆を悟られないようにルーティンは認識しにくい動作にするのがセオリーだよね」
善子「じゃあ、私がわざわざ分かりやすい動作を選んだのは何故でしょう?」
花丸「……」
善子「単純にカッコいいからってのが理由の九割なんだけどね」
花丸「残りの一割は……?」
善子「……自分で言うのもアレなんだけど私ってさ、天才なのよ」
善子「私レベルの術者になるとルーティンなんて別に必要無いのよね」スウゥゥ...
花丸「う゛ッ!!?」ギョッ!!
少し離れた場所に居た善子の姿が消え、花丸の懐に再出現した。
会話をしていた善子は幻術で作られた幻。
本体は花丸の張っていた『魔道目録』から分離したページによるバリアを掻い潜り
目の前にまで接近していたのだ。
善子「忘れたの? 『霧の魔弾』の後の攻撃を躱した時も指を鳴らして無かったでしょ」
花丸「ヤバっ……この距離は―――」
善子「もう遅い! 回避は不可能よ!!」
善子は錫杖を花丸の腹部目がけて突く―――。
429: 2019/05/02(木) 23:41:11.76 ID:Jguby87Y0
~~~~~~~~~~~~~
よしみ『――果南さん達についた理由?』
千歌『うん、私の知ってる『よしみちゃん』の方は果南ちゃんやルビィちゃんと仲良しってほどじゃ無かったからさ』
千歌『果南ちゃんもよしみさんが味方になってくれるとは思って無かったって言ってたし……』
よしみ『果南さんがそんな事言ってたの? まあそう思われても仕方ないか』
よしみ『この世界の私も果南さん達とは顔見知り程度の仲だったよ』
よしみ『あの時ルビィ様と一緒に果南さんを助けたのも偶然その場に居合わせたからだしさ』
千歌『じゃあ何で……』
よしみ『私ね、好きだったんだよ』
千歌『……えっ/// ど、どっちが///』
よしみ『あ、いや、違うそうじゃない、あの人達の雰囲気がだよ!』アセアセ
千歌『果南ちゃん達の?』
よしみ『みんなが楽しそうに話ているのをずっと見て来たからさ……私はそれを眺めているのが好きだったの』
千歌『自分も混ざろうとは思わなかったの?』
よしみ『ただの医療スタッフの私が女王や守護者の面々に混ざろうだなんて恐れ多かったから……遠慮しちゃった』
よしみ『……本心では憧れていたクセにね』ハハ
千歌『憧れ……か』
よしみ『大好きな人が困ってるんだ、味方になる理由なんてそれだけで充分だよ」
千歌『うん……そうだよね」ニコッ
よしみ『そっちの世界の私も同じような事を思ってるかも。千歌ちゃん達の力になろうと積極的に動いたりしてなかった?』
千歌『……あ、確かに初めてのライブの時からずっと協力してくれたよ!』
よしみ『ふふ、やっぱりね』
よしみ『きっとみんなとも仲良くなりたくて仕方ないと思うから気にかけてあげてよ。……私がお願いするのも変な話だけどさ」アハハ
千歌『うん、任せてよ!』
430: 2019/05/02(木) 23:48:22.84 ID:Jguby87Y0
――――――――
――――――
――――
――
「……ゼェ、ゼェ、ゼェ」
「な、何なんのよ……たった一人相手に……!」ギリッ
よしみ「―――お゛お゛お゛お゛お゛ッッ!!」
武闘家のような華麗な技や思考を凝らした巧みな戦術は一切無い。
襲い掛かってきた敵をただ殴る、ただ蹴り飛ばす。
来なければこちらから突っ込んで蹴散らす。
よしみの戦法はたったこれだけのシンプルなものだった。
異常に膨れ上がった筋肉で刃物や銃弾から内臓を守り、圧倒的な力で敵の体を一撃で粉砕する。
恐怖のあまり逃げ出す者も若干名現れたが、よしみの一方的な優先というわけでも無い。
「いくら奴が化け物でも数の有利は覆せない! スタミナが切れれば殺せる!!」
よしみ「はっ! その前に全滅するのが先だよ!!!」グチャッ!!
……って、強がってみるけど正直しんどい。
私一人で何人倒した?
十人超えた辺りから数えるのやめちゃったけど……体感的に多分百人はいったはず。
よしみ「……私なら大丈夫、まだ暫くは戦える……!」
431: 2019/05/02(木) 23:53:05.47 ID:Jguby87Y0
人間が高レベルな集中状態を維持出来る時間はおよそ15分と言われている。
よしみも訓練を積んでる事を考慮しても持続時間はそれ程変わらない。
戦闘のように激しく動いたり、極限の緊張状態ともなればその時間はもっと短くなるだろう。
……現在、戦闘開始から30分が経過していた。
よしみ「————あっ」
……一瞬、コンマ数秒の間張り詰めていた緊張感が緩んだ。
疲労もピークに達していたし、手の届く範囲に敵も居なかった。
よしみに落ち度は無い。
……ただ、勝利の女神はよしみに微笑まなかった。
一つ目は数十メートル離れた所から銃で狙われていた事に一瞬気付くのに遅れた事。
そしてもう一つは、その発射された弾丸が筋肉の鎧が無い眉間に直撃してしまった事。
――即氏だった。
よしみは驚きの表情を浮かべたまま仰向けに倒れた。
ラッキーパンチで呆気なく勝敗が決する事もある。
……これはただの不幸、運が無かっただけ。
よしみの氏亡確認をする為、二人の兵士が近寄る。
「や、やったか……?」
「馬鹿!? 下手に氏亡フラグ立てんな!」
「でもさ、体も元のサイズに萎んでる」
432: 2019/05/02(木) 23:58:09.27 ID:Jguby87Y0
「瞳孔も開き切って眉間の風穴から中身も見える。これは完全に氏んでいるね」
「ふぅ、やっと殺せた……」
「これで城に入った奴らを追える」
「現状の戦力を確認して直ぐに―――」
グチャッ―――!!!
「ぁ……ぐほっ……!?」ブシュゥッ
完全に沈黙したハズのよしみ。
それがいきなり飛び起き上がり兵士の喉笛に噛み千切って絶命させる。
そのまま隣にいたもう一人の兵士の首を片手で締め上げた。
「がっ……ごおっ、な……なんで……っ!?」ミシミシミシッ
よしみ「………」
「あ……頭を……なんで……氏な」
―――ゴキッ!!!
「………」ドサッ
よしみ「……ふひ」
よしみ「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃはああああああ!!!!!」
433: 2019/05/02(木) 23:58:49.75 ID:Jguby87Y0
「バカな……い、生き返った……!?」ゾッ
よしみは果南達と共に国を出る以前は兵器開発にも携わっていた。
『人形兵(マリオネット)』のプロトタイプもよしみが開発したのだ。
だが、プロトタイプは現在の製作方法とは異なる。
『人形兵(マリオネット)』が生きた人間を使っているのとは真逆
氏者へ炎を外部から供給して強引に動かして戦わせるのだ。
『氏体人形(アンデッド・ドール)』と命名されたこの兵器は余りにも非人道的だった故に開発は中止された。
この時に得た技術をよしみは自身の体に組み込んだのだ。
よしみの魂は既にこの世には存在しない。
頭部を吹き飛ばしても、腕や脚を失っても、体内に貯蔵していた炎が尽きない限り戦い続ける。
生前に組み込んだ「目の前の敵を全て殺せ」というプログラムを機械的に執行する人形と化した。
『―――この世に動く体がある限り、氏んでも連中は足止めしてみます』
果南との約束を守る、ただそれだけの為に―――。
兵士達の悪夢はまだまだ終わらない。
……第二ラウンド、開始。
434: 2019/05/03(金) 00:04:55.68 ID:mtif6MB60
~~~~~~~~~~~~~
ルビィ「……ぁ、あぁ………」プシュウゥゥ....
―――ドサッ
梨子「勝負ありです」
梨子「装備に救われましたね。六発も直撃して灰にならないとは……」
梨子「ただAqours匣の装備も耐炎性の高い黒のジャケットも今の攻撃で消滅しました。次の攻撃は防げない」
ルビィ「……」
梨子「もう意識は無いですよね……ならこのまま倒れていて下さい。これから治療班を呼びますから」ピピピッ
梨子「―――もしもし、私よ。たった今戦闘が終了した。止む追えずルビィ様を………」
435: 2019/05/03(金) 00:13:30.92 ID:mtif6MB60
~~~~~~~~~~~~~
ルビィ『これでAqours匣の機能と技は一通りやったよね』
花丸『うん、バッチリずら』
ルビィ『後は反復練習して使いこなせるようにならなきゃだよね』
花丸『……うん』
ルビィ『花丸ちゃん?』
花丸『ねぇ、やっぱりやめない?』
ルビィ『やめるって……何を?』
花丸『とぼけないで。ルビィちゃんが戦う事に決まってる』
ルビィ『……やめないよ』
花丸『いくらAqours匣が使えてもルビィちゃんには実戦経験が致命的に欠けてる! 子どもがナイフを使って素手の兵士に挑むのと同じずら!』
花丸『断言するよ……ルビィちゃんは必ず殺される』
ルビィ『……はは、そこまで言い切られちゃうとちょっと傷つくなぁ』
花丸『笑い事じゃない!!!!』
ルビィ『……』
花丸『わざわざ危ない橋を渡る必要は無いよ。マル達に任せてくれれば――』
ルビィ『それじゃ意味が無いよ』
ルビィ『自分が望む未来は自分の力で掴まなきゃ意味無い』
花丸『……』
ルビィ『私を信じてよ。絶対に負けない……生きてみんなの元に帰るから』
花丸『はぁ、何を言っても仕方が無さそうだね』
花丸『だったら、もし約束を破ったらマルも一緒に氏ぬずら』
ルビィ『えっ!?』
花丸『嫌なら約束を守ってくれればいい。マルも氏にたくないからお願いずら』
ルビィ『もう、強引だなぁ……』
436: 2019/05/03(金) 00:16:52.44 ID:mtif6MB60
――――――――
――――――
――――
――
ルビィ「……………っ」ピクッ
梨子「出来るだけ早く来て。もたもたしているとそのまま氏にかねないから。いいわね?」ピッ...
梨子「……連絡は済ませた。これで私の任務は完了だけど、善子ちゃんか城外の部下の加勢にでも」
―――ゴソッ、ゴソゴソ
梨子「行、こう……か、な………」ゾッ
梨子はゆっくりと振り向く。
気配……一体誰の?
誰なのかは考えるまでも無い、でも……そんなバカな!?
心も体も完全に折った。
戦う意志はこれっぽっちも残っていないはず。
圧倒的な差を見せつけたつもりだったのに……。
ルビィ「……ゼェ、ゼェ……んぁ………」グググ
梨子「立ち、上がった……ッ!?」
437: 2019/05/03(金) 00:18:23.02 ID:mtif6MB60
ルビィ「……ぁ、あああっ……」フラフラッ
梨子「どうして……どうしてまだ立ち上がるんです!? 先の戦闘で力の差は……いや、戦う前から勝ち目が無い事くらい分かっていたはずです!」
梨子「ルビィ様はもう負けたのですよ……っ!!」
ルビィ「………てない……」
梨子「?」
ルビィ「け、て……ない………」グググッ
ルビィ「―――私はまだ、負けてない……ッ!!」
梨子「……これ以上やればルビィ様は氏ぬ」
ルビィ「私は……氏なない」
梨子「ッ! 私にルビィ様を殺させないで下さいよ!!」
ルビィ「……頃す? 梨子さんが、私を?」
ルビィ「……ふふ、うふふふふ」
梨子「な、なに」ゾワッ
ルビィ「馬鹿にするな!! あんな手加減した炎じゃ何発当てても私は殺せないぞ!!!」
梨子「!!」
ルビィ「私を頃したくない? ふざけないで! こっちは本気で戦ってるんだ!!!」
ルビィ「もっと頃す気で掛かって来なよ……梨子さんッ!!!」ボオォォッ!!!
リングに炎が再点火する。
梨子の周辺に発生させていた雷雲を自身の辺り数メートルに展開。
矛先を梨子に向け、勢い良く飛び出した。
ルビィ「はああっ!!!」
438: 2019/05/03(金) 00:23:34.96 ID:mtif6MB60
梨子「ぐっ!?」
ルビィの槍術は人並程度。
実戦経験が皆無なので体の捌き方や技の繋ぎ方がチグハグで到底通用しないレベル。
そんな槍術を匣兵器がカバーする。
ルビィの攻撃に合わせ、絶妙な角度、タイミングで周囲の雷雲からビーム状の雷の炎が発射。
二つの攻撃を同時に回避するのは困難なのだが、ルビィの練度が低い為に所々に穴がある。
梨子の技量なら回避は容易いのだが……。
梨子「うぐああ!!?」ブシュゥッ!!
ルビィ「ッ! 当たった!」
梨子「い、ぐうぅ……」
……どうして攻撃が避けられない!?
ルビィ様は瀕氏の重傷、動けるのが奇跡的な程に。
気持ちだけで動くスピードやキレが劇的に変化はしない。
なら変わったのは……私の方か。
私の動きが鈍くなったから躱せないんだ。
原因は分かってる。
ルビィ様の放つプレッシャーに私が怖気づいているせい……。
梨子「ふざ、けるな……!」
そうだ、相手はもう氏に体なのよ。
一歩下がって一撃を与えればそれでお終い。
―――ドスッ!!!
ルビィ「ごふっ!!?」
梨子のミドルキックが脇腹にヒット。
吹き飛ばされたルビィは地面に転がる。
梨子「はぁ、はぁ……今度こそ―――」
ルビィ「ごっ、ごほっごほっ……ぐぅ」グググ
439: 2019/05/03(金) 00:26:31.87 ID:mtif6MB60
梨子「何なの……何で立ち上がれるのよ!!?」
ルビィ「……負けられない、から……負けるわけには……いかないから……だよ」
梨子「氏ぬのが怖くないんですか……?」
ルビィ「……怖いよ」
ルビィ「怖いけど、自分のせいで誰かが氏んじゃう方がもっと怖い」
梨子「……」
ルビィ「降参すれば梨子さんは本当に私を助けてくれると思ってる。でも、他のみんなはどうなるの?」
ルビィ「私だけ生き残っても意味が無い……」ゼェゼェ
……呼吸が苦しい。
体は重いし目もチカチカする。
さっきまで氏ぬほど痛かったのに今はその痛みすら感じない。
多分、私はもう助からないかな。
それでも、この勝負だけは勝つ。
私だって氏ぬ気で頑張れば出来るって事を証明してみせる。
ルビィは槍を地面と水平にして構え直す。
そして今生成出来るありったけの炎を矛先へと集中させ始める。
その強大な炎は槍を握る自身の手の皮膚をも焦がすほど。
ルビィ「この一撃に私の全てを賭ける……!」
梨子「純粋な力比べですか……っ!!」
緑と赤
二色の炎が部屋中を満たす。
部屋にあった装飾品は全て灰となり、設置された温度計のメーターも振り切れた。
――何か特殊な合図があった訳では無い。
両者は全く同じタイミングで渾身の一撃を繰り出した。
―――ゴオオオオオオオオォォォ!!!!
梨子・ルビィ「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!!!!」」
440: 2019/05/03(金) 00:29:56.34 ID:mtif6MB60
ぶつかり合う二つの炎。
眩い閃光と温度で視界は不明瞭。
自分の攻撃が押されているのか、それとも優勢なのか全く分からない。
いや、例え分かっていたとしてもやる事は変わらない。
持てる力の全て捧げ、残りカス一つ残さない。
二人にとっては無限に続く地獄のような時間だっただろう。
攻防はたった数秒で決する。
梨子の炎がルビィの全身を包み込んだ。
ルビィ「―――ぁ、あぁ………」
―――勝てなかった。やっぱりルビィは弱いなぁ……。
花丸ちゃんゴメン、約束守れなかったよ。
花丸ちゃんが本当に実行するか怖いけど、きっとみんなが阻止してくれるから大丈夫……だよね?
……それだけが気がかりだよ。
『――ルビィ』
……お姉ちゃん?
……ねぇ、お姉ちゃん、ルビィ頑張ったんだよ?
負けちゃったけどさ、ものすっごく頑張ったんだよ。
……あぁ、昔みたいに…褒めて欲しかったなぁ―――。
梨子「はぁっ……はぁ……」ヨロヨロ
441: 2019/05/03(金) 00:32:04.66 ID:mtif6MB60
梨子「あ、危なかった……ギリギリだった」
梨子「ルビィ様は優し過ぎた。私には頃す気で掛かって来いって言っておきながら、あなたにはそれが全く無かったじゃないですか」
梨子「あの炎に少しでも殺意があれば、私が負けて……っ」ギリッ
ルビィ「…………お、ね………ちゃ………」ポロッ
梨子「………」
……私は命令に従っただけ。私にとってダイヤ様の命令は絶対。
だってあの方は私を認めてくれた人だもの。
裏切る事なんて出来ない。
梨子「でも……これで良かったの? この選択は本当に正しかったの……?」
ルビィ「………」
梨子「………」スッ
……プルルル、プルルル
442: 2019/05/13(月) 23:42:49.79 ID:Y2k1scQj0
~~~~~~~~~~~~~
―――ポタッ、ポタッ、ポタッ
善子「………」
花丸「うっ……ぐぅ」
善子の錫杖から花丸の鮮血が一滴ずつ滴り落ちる。
肋骨の下付近に突き刺さっているが、小指の第一関節程の深さで留まっていた。
水の鎖が錫杖に絡みつき動きを封じたのだ。
善子「地面に技が瞬時に発動できるように予め罠を張っていたのね」
花丸「……うん。間一髪だったずら」
善子「ほんっと便利な技ね、それ」
花丸「うん、曜ちゃんには感謝しないと」
善子「どうして私の体じゃなくて錫杖の方を捕らえたの?」
花丸「だって、目の前に居る善子ちゃんは幻術でしょ?」
花丸「わざわざリスクを冒して近づくとは思えない。離れた所から錫杖だけ投げて攻撃した、違う?」
善子「……半分正解」
善子はニヤリと微笑むと錫杖と共に瞬時に霧消した。
そして花丸の数メートル正面に出現する。
善子「正解は錫杖も幻術でした。正確には有幻覚だけど」
443: 2019/05/13(月) 23:45:23.87 ID:Y2k1scQj0
花丸「ゼェ、ゼェ……何、これ……気分が悪い……?」
善子「お、もう効いてきたのね」ニヤッ
花丸「っ! ああ、毒……ずらか」
善子「汚い手、とは言わせないわよ。これは頃し合い……勝つためには手段は選ばないわ」
花丸「手段を選ばない、か……ふふ」
善子「あ?」
花丸「ならどうして致氏性の高い毒を使わなかったの? それなら今の一撃で終わっていたよ」
善子「……」
花丸「安心した……善子ちゃんは昔と変わってない。優しい子のままずら」
花丸「今回の場合は優しいというより甘いって感じか」
善子「……その甘さのおかげで生きている事に感謝しなさい」
花丸「その姿も幼稚園生の頃に天使になりたいって言ってたのが由縁だよね」
花丸「幼い頃の夢を自分の力で叶えてさ……凄いずら」
444: 2019/05/13(月) 23:50:57.75 ID:Y2k1scQj0
善子「話が見えない、何が言いたいの?」
花丸「……単刀直入に言うね」
花丸「―――どうして突然マル達の前から居なくなったの?」
花丸「生まれ育った虹ヶ咲を捨てて、浦の星に行っちゃったのさ」
善子「……そんなの簡単よ。戦争に負けた虹ヶ咲よりも勝利国の浦の星の方が未来があると判断したから」
善子「あの時はまだ私の力は世に知れ渡っていなかったから、存分に発揮するにはそれ相応の舞台が必要でしょ?」
善子「だから私は浦の星の霧の守護者になった」
花丸「……違うね」
花丸「だって昔の善子はちょっとだけ幻術が使えるだけの普通の女の子だったずら」
善子「……」
花丸「善子ちゃんは初めから天才だったわけじゃ無い、努力して才能を開花させたんだ」
善子「……」
花丸「どうしても力が必要だった、だから氏に物狂いで努力したんだよね」
善子「……黙りなさい」
花丸「有幻覚を発動させるには高純度の霧の炎が出せるリングが不可欠。『人間』を作り出そうとするなら守護者のリングレベルじゃないと無理ずら」
花丸「虹ヶ咲のリングは奪われ、音ノ木坂のリングは血筋の関係で使えない。となれば、浦の星のリングを手に入れるしかない、そう……」
花丸「――氏んだお母さんを有幻覚で作り出す、それこそが守護者になった本当の理由ずら」
善子「……違う」
445: 2019/05/13(月) 23:54:58.70 ID:Y2k1scQj0
花丸「お母さんの事が大好きだったもんね。マルも優しい善子ちゃんのお母さんが大好きだったずら」
花丸「あの日、交通事故で亡くなったと知った時はマルも凄く悲しかった」
善子「違う……私のお母さんは氏んでない!」
花丸「……」フルフル
善子「ふ、ふざけた事抜かしてるんじゃないわよ。有幻覚でお母さんを作る? 生きているのにそんな事する必要無いじゃない!」
善子「今だって家で一緒に暮らしている! いつも私の帰りを待っていてくれるもの!!」
花丸「ダメだよ、現実を受け止めなくちゃ」
善子「黙れ!! これ以上侮辱するなら――」
善子母「……善子」
善子「お、お母さんっ!? どうしてこんな所に!?」
花丸「ここは善子ちゃんのイメージがそのまま具現化する空間でしょ。今の会話でお母さんを思い浮かべたから具現化したずら」
善子母「そっか、私はもう氏んでいるのね」
善子「ち、違う! お母さんは氏んでなんかいないわ!」
善子母「庇わなくてもいいわ。私も薄々気が付いていたもの」フフ
善子「んな!?」
善子母「善子だってよく分かっている事でしょ?」
善子母「花丸ちゃんの言う通り私は有幻覚で造られた幻想。私の発言は全て術者である善子の深層心理から来る言葉よ」
善子「な、にを……言って」
善子母「ある日突然自分の母が氏んだんだもの、まだ中学生の女の子が受け入れられるような現実じゃない」
善子母「寂しかった……寂しくて寂しくてたまらなかった」
善子母「――だから理想の幻想(せかい)を作り上げた」
善子「もういい! 消えろッ!!」
善子母「……」スウゥゥ
446: 2019/05/14(火) 00:01:14.73 ID:TnQLykQl0
善子「はぁ……はぁ……」
花丸「いつまでそうやって自分を騙し続けるの?」
善子「何よ……私のやってる事は悪い事なの!?」
善子「誰にも迷惑を掛けて無いじゃない! それで私が幸せになっているのだから、それは素晴らしい事でしょ!」
花丸「……それは違うずら」
善子「何が違うってのよ?」
花丸「マルは知ってる、幻術の中でも最高難度を誇る有幻覚は術者の脳に相当な負荷がかかる事を。特に人間という高度な生き物となれば尚更ね」
花丸「普通の幻術でさえ脳にダメージがあるのに、それ以上に負担の掛かる有幻覚で人間は作らない」
花丸「マルも幻術について結構勉強したんだよ。沢山の本を読んだし色々な人から話も聞いた」
花丸「……有幻覚で人間を作り出した人の末路もね」
善子「………」
花丸「あの『東條希』ですらも有幻覚で大切な人を作り出した直後に脳に深刻なダメージを負って廃人になった! 自覚症状無しに突然人間として氏んでしまうんだよ!」
花丸「お母さんの話をした瞬間に現れたって事はその有幻覚は常に発動待機中なんだよね。……いつ廃人になってもおかしくないずら」
善子「リスクは承知の上でやってる。私が廃人なろうがアンタには関係ない」
花丸「……だよね。最初から話して分かって貰えるとは思ってないずら」
そう言うと、花丸は毒の影響で足元がおぼつかない中ゆっくりと立ち上がる。
花丸「本気でぶつかり合わないと分からない事もある」
447: 2019/05/14(火) 00:05:23.82 ID:TnQLykQl0
花丸「マルは善子ちゃんとは今も友達だと思ってるずら。その友達が自分の命を蔑ろにしてるんだ……放って置けない。この想いが、マルの炎を強くする」
花丸「……そろそろ、幻想(ゆめ)から目を覚ます時間ずら……ッ!」ボオッ!!
花丸の右手にある五つのリングが燃え上がる。
それに呼応するように『魔導目録』から全ページが飛び出し、花丸の周囲を取り囲んだ。
『増殖』によりページがページを複製し、複製されたページがまた複製。ねずみ算式に増えてゆき、50ページに満たなかったそれは、数千枚にまで膨れ上がる。
その全てのページに書かれた魔法陣が空間を埋め尽くす様に浮かび上がった。
花丸のAqours匣が出せる最大火力の大技の発動準備が整う。
善子「お断りよ……何人たりとも私の幻想(せかい)を壊させたりしない!!」ボオオッ!!
古代ギリシャを彷彿とさせる神殿が消滅。
辺りは黒一色の異空間となった。
そして片方しか生えてなかった善子の白翼が左右に三枚ずつ現れる。
空間生成に回していた幻術のキャパシティと霧の炎を全て攻撃に集中させるつもりなのだ。
善子「攻撃力に劣る霧の炎だからって甘く見ない事ね。私のこれは例外中の例外なんだから!」
花丸「出し惜しみは一切しない……ッ!」
花丸「―――『全弾発射(フルバースト)!!!』」
一斉発射される五属性の魔弾。
一発一発に必殺の威力までは備わっていないが、四、五発でも体のどこかに命中すれば戦闘不能に追い込める。
圧倒的な弾幕かつ追尾性能を持った魔弾を避けきるのは不可。
強力な盾で全て防ぎきるか、向かってくる魔弾を相頃するしか方法は無い。
一方、善子の攻撃は実にシンプルだった。
生成させた六枚の翼を大きく広げ、そこから無数の羽を発射しただけ。
花丸のように複数の属性を組み合わせずとも、純度の高い霧の炎と善子の綻びの無い完璧なイメージにより作り出された有幻覚による攻撃は全て必殺級の威力を誇る。
花丸「……ッ!! は、はは!!」
448: 2019/05/14(火) 00:08:12.27 ID:TnQLykQl0
……凄い、マルは全力を出しているのに、善子ちゃんはそれを軽々超えちゃうんだ。
だとしても負けない。
限界が来たって超えてやる。
何発食らっても倒れるもんか。
この戦いだけは何が何でも負けたくないずら!
―――ドスッ!
花丸「ぐっ……!」
弾幕を潜り抜けた一本の羽が、右太ももに突き刺さる。
……まだ倒れない。
―――ドスドスッ!!
今度は右側の二の腕と脇腹。
二ヶ所に深々と刺さる。
ま、だ……倒れない。
―――ドスドスドスッッ!!!
花丸「……あはは、もう……これ以上は捌き切れない……ず、ら」ドサッ...
仰向けに倒れた花丸。
それを確認した善子は羽の射出を中断し、花丸へと歩み寄る。
錫杖の先端を花丸の心臓の真上に置いた。
善子「……私の勝ちよ」
花丸「あー、負けちゃった……勝てると思ったんだけどな……悔しいなぁ」
善子「ま、私が本気を出せばこんなものよ」
花丸「結局大したダメージを与えられなかった。あれ……もしかしてほとんど無傷?」
449: 2019/05/14(火) 00:10:42.58 ID:TnQLykQl0
善子「ええ。その代わり大量に炎を消費したから戦う余力は無いわ」
花丸「無駄氏ににはならずに済みそうずらね」ホッ
花丸「ねぇ、最期に一つだけ質問に答えて欲しいずら」
善子「……いいわよ、答えてあげる」
花丸「――善子ちゃんにとってマルは友達でしたか……?」
善子「………っ」
花丸「……やっぱり答え無くていいよ。その顔を見れば、じゅーーぶん伝わったずら」ニコッ
花丸「マルと善子ちゃんは敵同士、トドメを刺す時に涙は要らないよ」
善子「だ、誰がっ……」グシグシ
花丸「長生きしてね? すぐにこっちに来たら許さないから」
善子「ええ、先に向こうで待ってなさい」
善子はそのまま錫杖を突き立てる。
花丸は一瞬苦痛な表情を浮かべ、ビクッと体を跳ね上げたが声を上げる事なく静かに動かなくなった。
花丸「…………」
善子「さようなら、花丸」
450: 2019/05/14(火) 00:18:38.37 ID:TnQLykQl0
花丸「―――って思うじゃん?」ガシッ!!
善子「ッッ!!!?」
胸に突き刺さった錫杖を掴み、善子ごと力尽くで後方に押し退ける。
胸に空いた風穴はみるみる塞がっていった。
善子「ば、馬鹿な……心臓を貫いたのよ!? 生きている筈がない!?」
花丸「そうかしら? 幻術で失われた内臓を作れるのなら、同じ様に心臓も作れても不思議じゃ無いでしょう」
善子「そ、その通りよ……でもアンタにそのレベルの幻術が使えるはずが―――」
善子「いや、待って……そもそもアンタは誰?」
花丸「私は“国木田 花丸”だよ」ニタァ
善子「……別にアンタが誰でもいいか。少なくとも花丸は確実に氏んだ。そしてアンタは花丸の氏体を乗っ取った別人」
花丸「……♪」
善子「ふざけるな」
善子「花丸の亡骸を勝手に使いやがって……タダで済むとは思うなよ……?」ボオオッッ!!
善子の背中から六枚の翼が再度生成。
荒々しく吹き荒れる霧の炎が善子の感情を顕著に表している。
花丸「まだ全然余力あるじゃん。さっきのは嘘だったのー?」
善子「これ以上その声で喋るな!」
やれやれと、肩をすくめて人を馬鹿にするような仕草をする花丸。
だが次の瞬間、ゴオッという轟音と共に花丸の背中からも翼が生えた。
善子と同様に六枚の翼。
しかしその色は対照的の黒翼。
……その黒い翼と黒い炎は見覚えがあった。
善子「―――その炎、翼は……まさか……っ!!」
花丸「ん? 前に見せた事あったっけ?」
善子「お前か……お前がむつをやった張本人だったのか!!!」
花丸「……むつ? 知らないなぁ」
花丸「始末した人間なんていちいち覚えて無いよ。どうせ一瞬で終わるくらい弱かったんでしょ」
善子「この……っ!!」ギリッ
善子「―――むつ、仇を取るよ。花丸、ちょっとだけ我慢して……絶対にぶっ頃してやるッ!!!!」
452: 2019/05/21(火) 00:26:36.00 ID:B2+Zalu80
~~~~~~~~~~~~~
曜「――玉座に座りっぱなしでいいの?」
ダイヤ「ええ、あなた達が相手なら何も問題ありませんわ」
曜「むっ、言ってくれるじゃないですか」
果南「悔しいけどその通りなんだよね。だって今のダイヤの攻撃方法は―――」
―――パキッ、パキパキパキ!!
空中に先端が尖った軽トラックサイズの氷塊が複数個生成される。
果南「巨大な氷塊による中遠距離攻撃が主体だからね!」
曜「はあっ!? 何あれでっかっ!?」
ダイヤ「あいさつ代わりの一撃です」
ダイヤが軽く右手を振ると、待機中だった氷塊が一斉に三人に向かって発射された。
果南「下がって! 私が右手で……!」
曜「いいや、下がるのは果南ちゃんだよ!」ボオッ!!
曜「―――『水の鎖(カテーナ・ディ・アクア)!!」
十数本の『水の鎖』を飛んできた氷塊を包み込むように配置。
ラケットでボールを打ち返す要領で全ての氷塊をダイヤに跳ね返した。
ダイヤ「ほお」
千歌「上手い!」
曜「大人しく玉座から立って回避しなよ!!」
ダイヤ「……『解凍』」
曜「ウソ……い、一瞬で溶けたっ!?」
453: 2019/05/21(火) 00:36:54.65 ID:B2+Zalu80
ダイヤ「自分の炎で作った氷です。このくらい容易い」
ダイヤ「……が、今の防ぎ方は少々驚きました。『同調』による力の底上げは侮れませんわね」
ダイヤ「―――なので」ボオッ
ダイヤが右手を真横に水平に振ると、今度は部屋の天井一面に小さな氷柱が出現。
同時に正面には先ほどよりも一回り大きな氷塊も多数生成され始める。
ダイヤ「これはどうやって防ぎますか?」
千歌「どうするの!?」
果南「正面の氷塊は私が打ち消す! 曜は千歌を抱えて氷柱を避けて!」
曜「分かった!」
果南「はあああッ!!」
果南の右手が氷塊に触れると甲高い音と共に一瞬で粉々に砕け散る。
すぐさま真横に思いっきり飛び、上からの攻撃の回避を試みるが氷柱の一本が脇腹を軽く抉り取る。
本来なら激痛で一瞬怯む所だが、痛覚を喪失してるのが幸いし続いて降ってくる氷柱の間を掻い潜る事に成功した。
果南「曜、千歌! 二人共当たってないよね!?」
曜「大丈夫だよ!」
千歌「それより果南ちゃん……血が!」
果南「そんな事はどうでもいい! 次の攻撃が来る!!」
氷人形s「………」パキパキッ
曜「氷で出来た……ダイヤさん!?」
千歌「しかもかなりの数だよ!?」
ダイヤ「スペースが限られていますから、今回はざっと100体程生成してみました」
千歌「ひ、100体……っ」ゾッ
ダイヤ「本体と異なり『氷河』の炎は使えませんが、戦闘技術はわたくしと遜色ありません」
果南「なーんだ、炎が使えないんだったら怖くないや」
曜「これ、全員ぶった斬ってもいいんだよね?」カチャ
果南「……いいよ、どっちが沢山倒せるかやってみようか!」ダッ!!
454: 2019/05/21(火) 00:49:51.51 ID:B2+Zalu80
果南「――オラァ!! うりゃああ!!」
パキンッ、パパキンッ!!
果南は迫りくる氷人形を右手で殴る、殴る、殴る。
人形は氷の剣や斧で武装しているが、触れた瞬間に武器ごと人形本体の方も砕け散っていく。
果南「やっぱ脆いな! 右手が触れただけで砕けるなら楽勝だぞ!」
ダイヤ「想定の範囲内です。だから数を多くしたのですわ」
果南「?」
ダイヤ「呪いの力が宿っている所はほんの一部分、その部分だけで全ての攻撃を捌き切れるのでしょうかねぇ?」
―――ズバッ!!
果南「ぐっ!? 氏角からっ!?」
背中を斬り付けられ体勢がよろける果南。
氷人形は多数での連携攻撃を繰り出し始め、徐々にダメージが蓄積される。
ダイヤ「ほら、あっという間に崩れていく」
ダイヤ「左側の攻撃に対してはワンテンポ遅れるし、多方向から同時に攻撃されれば一方向のものしか対処出来ない」
果南「くそ……っ!」
ダイヤ「以前の果南なら無難に対処出来たでしょうに……」
曜「――果南ちゃん、千歌ちゃん、伏せて!!」
千歌「!」サッ!
果南「任せた、曜!!」
曜「……ふッ!」カチャッ!
刀を逆刃に持ち、軽く屈むような体勢に構えた。
青い炎纏っていた刀身がその炎を吸収し、より鮮やかな青色に輝き始める。
ダイヤ「その構えは……」
曜はそのままぐるっと一回転し、刀身よりも広範囲にいる氷人形の胴体を斬り裂いた。
炎は水となり刃が届かなかった敵へと降り注ぐ。
曜「―――『繁吹き雨(しぶきあめ)』」
455: 2019/05/21(火) 01:04:02.70 ID:B2+Zalu80
千歌「凄っ……一気に倒しちゃった!」
ダイヤ「……なるほど、特定の剣術で攻撃する事で攻撃範囲と切れ味に補正がかかる。それがAqours匣の能力ですか」
ダイヤ「使っているのはわたくしの剣術ですか」
曜「そうだよ。元々はダイヤさん用に作られた匣兵器だから、ダイヤさんが使ってた剣術が設定されているんだ」
ダイヤ「『繁吹き雨』は守りの型なのですがね」
ダイヤ「それでも、たった数日でわたくしの剣術を実戦レベルまで仕上げてくるとは……全く末恐ろしい子ですわ」
曜「流石に全部は無理だったけど、覚えた型は完璧に扱える!」
ダイヤ「ふふ、いいでしょう。どれほどのものかテストしてあげましょう」
曜は氷人形が密集している地点に走り出す。
鞘は無いが、抜刀術風に構えると再び刀身が輝き始めた。
懐に飛び込み鋭い斬撃で突き上げると、一気に七体の氷人形を切断。
余波で四本の水柱を生み出した。
ダイヤ「――今度は『篠突く雨(しのつくあめ)』……少々粗さは目立ちますが合格点は差し上げます」
曜「そりゃどうも!!」
Aqours匣の力で一掃したいところなのだが、一度特定の型にはめてから発動する関係上、連発しても回避される可能性が高い。
しかも扱っている剣術が相手のダイヤの物となれば尚更だ。
必中かつカウンターの危険が無いタイミングを見極め放つしかない。
……なのだが、ダイヤは動きを封じるような立ち回りを全く行わない。
ダイヤ「何を出し惜しみしているのですか? まさか覚えた型はたった二つ?」
曜「こんな分かりやすい誘いに乗ると思う?」
ダイヤ「誘い? これはテストだと言ったではありませんか。貴女が私の剣術をどこまで身につけているのか、じっくり見学させてもらいます」
456: 2019/05/21(火) 01:06:25.28 ID:B2+Zalu80
曜「……そこに座ったまま?」
ダイヤ「ええ」
曜「ふーん……それは好都合」ニヤッ
三度輝きだす刀身。
曜は刀を前方に放ると、足の甲で思いっきり刀を蹴り飛ばした。
刀を手以外で扱う攻めの型、『遣らずの雨(やらずのあめ)』
これは相手の裏をかく奇襲技だ。
速度と軌道的に十分届くだろうが、真正面から堂々と繰り出しても効果は薄い。
果南「何やってるの!? それ奇襲技だって教えたじゃん!」
千歌「狙いがちょっと高い……あれじゃ当たらないよ!?」
ダイヤ「阿呆が、自ら武器を破棄する攻撃を選択するか……」ハァ
曜「――うりゃ!!!」ブンッ
曜は右腕を思いっきり振り下ろす。
すると飛んでいる刀が波を打つようグニャリと軌道を変え、ダイヤの体に襲い掛かる。
予想外の攻撃に虚をつかれたがダイヤは玉座から降りて回避。
刀が直撃した玉座は大破した。
ダイヤ「……柄に鎖を巻き付けていたのですね」
曜「そーゆーこと。だから攻撃が外れても鎖を引き寄せれば武器は戻ってくる」
曜「ってか、それよりも二人共さぁ……」ジトッ
千歌「い、いやー……てっきり血迷ったのかと」
果南「大変申し訳ない」
曜「もう! 酷いよ!」ムスッ
曜「でも、これでダイヤさんを玉座から立たせた」
ダイヤ「……」
果南「氷人形もかなり減らせたね。そろそろ本体を叩きに行こうか」
457: 2019/05/21(火) 01:12:28.46 ID:B2+Zalu80
ダイヤ「数が減ったのなら補充すればいい」パキパキッ
千歌「倒した数がよりも多くなったよ!?」
果南「馬鹿正直に全部相手してるとジリ貧だ……って事で」
曜「最短距離でぶち抜く!」ボオッ!!
曜が手のひらを地面に叩きつけると辺りに大人一人が体を隠せる大きさの水の柱が複数乱立する。
ダイヤ「物陰を作って奇襲するつもりですか?」
曜「千歌ちゃんの力、遠慮なくガンガン使うよ!!」
今度は両手をパチンと合わせる。
水の柱からミニサイズの『激流葬』が枝のように放たれ氷人形の体を次々貫く。
曜「穴は作った!」
千歌「果南ちゃん!」
曜が作り出したダイヤまでの最短ルートを全速力で駆ける。
ダイヤは迫り来る果南に対し小さな氷柱を機関銃の如く連射して攻撃。
果南はそれを持ち前の反射神経と直感で全て避ける。
ダイヤ「……では、これならどうです?」トンッ
果南「ッッ!!!?」ピキッッ
片足で床をタップすると、ダイヤを中心とした半径約五メートルの物体が凍結した。
水の柱は氷の柱となり、果南も両脚の膝と右ひじを凍らされ動く事も右手の力で打ち消す事も出来ない。
果南「このッ!! 器用に凍らせてきたな……ッ!」
ダイヤ「これで避けられない。蜂の巣にして差し上げましょう」パキパキ...
458: 2019/05/21(火) 01:15:59.59 ID:B2+Zalu80
果南「ぐ、ぐるぅああああああッッ!!!」バキッ!!
千歌「力尽くで腕の氷を剥がした!?」ゾッ...
ドドドドッッ!!!
果南「……チッ、ちょっと脱出が遅かったッ!」
数発の氷の弾丸が果南の脇腹に食い込み、こめかみを掠める。
脚の凍結は右手で解除したものの、右腕の方は肩から肘にかけての皮膚が氷に張り付き、ごっそり剥がれた。
千歌「か、果南ちゃん……う、腕が」
果南「大した怪我じゃない、心配はしなくていいよ」
ダイヤ「屈強な兵士でも皮膚を剥がされれば子どものように泣き喚くのですが……痛みを感じないのは便利ね」
果南「ダイヤも私とお揃いのリングつけてみる?」
ダイヤ「結構ですわ。そんな呪いを受けずとも、五感くらい簡単に『凍結』出来ますから」
果南「そっちはノーリスクってか……つくづく反則じみた力だな……っ!」
ダイヤ「貴女は右手以外に効果的な攻撃手段を持ち合わせていない。距離を取れば攻撃出来ず、接近すれば先ほどの二の舞……前の方がまだ勝ち目があったかもしれませんわね」
果南「よく言うよ。あの時と同じだったらこの部屋に入った瞬間に負けてる、多分負けた事を認識する間も無く一瞬でね」
459: 2019/05/21(火) 01:18:11.96 ID:B2+Zalu80
ダイヤ「腹部の傷も浅くない、動けば出血多量で終わり」
果南「そーだね……この傷の大きさだとホッチキスでも塞げないや」ドクッドクッ
千歌「だとしても手当はしないと! 今そっちに―――」
果南「来るなっ!!」
千歌「……っ!?」
果南「ここで私に干渉すればダイヤは躊躇せずに千歌へ攻撃する」
ダイヤ「その通りです。『同調』以外で果南達に干渉するのならわたくしは……」
ダイヤ「……あ? そう言えばもう一人は何処に―――」
果南「今だ、曜!」
曜はダイヤの背後にある氷柱の陰から飛び出す。
果南が注意を引き付けてる間に自ら生成した水の柱に身を隠しながら接近していたのだ。
気が付くのが遅れたダイヤは技で防ぐことも回避することも間に合わない。
曜「―――くらえッ!!!」
鋭く振り抜かれた刀がダイヤの首筋を―――
――ガキンッ!!!
曜「んなッ!?」
460: 2019/05/21(火) 01:22:37.84 ID:B2+Zalu80
千歌「片腕で防がれた!?」
曜の刀はダイヤの氷河の炎で作った義手に、ほんの少し食い込んだだけで止まる。
ダイヤ「……愚かな、刃では無く背の方で斬りかかって来るとは」
果南「寄りにもよって義手のある右側から……っ」
ダイヤ「もしも峰打ちじゃなければ、もしも匣兵器の補正のかかる型で攻撃していれば……今の一撃でわたくしを倒せていたのに」
腕から刀へ氷河の炎が伝い、体が徐々に凍結してゆく。
果南「マズイ!? 曜、刀を放して離れて!!」
曜「む、ムリ……もう手まで凍らされて……っ!」パキパキパキッ
ダイヤ「わたくしに気配を悟られず、ここまで接近出来たのは評価しましょう」
ダイヤ「その褒美として苦しみも痛みも無い、この世で最も安らかな氏を差し上げますわね」ニコッ
曜「ぐ、ぅ……や、ば…………っ」
果南「ダイヤ止せえぇ!!」
千歌「ダメ……ダメエエエエェェェ!!!!!」
461: 2019/05/28(火) 00:37:49.43 ID:s6i9br1W0
曜「…………」
ダイヤ「―――はい、これで氷像の完成ですわ」
千歌「ぁ……あぁ……」
ダイヤ「躍動感のある氷像に仕上がりましたわね。初めて作ったにしては上出来だとは思いませんか?」
果南「ふざ、けるな……ッ!!」ギロッ
ダイヤ「怖い顔で睨まないで下さい。ほら、返しますよ」
ダイヤは氷漬けにした曜を千歌達へと滑らせて送り届ける。
千歌「果南ちゃん! 早く曜ちゃんを!」
果南「分かってる!」キュイィィィン!!
果南は急いで曜を右手で叩く。
体の氷は一瞬で解凍さたのだが―――。
曜「……」
果南「バカな……何で目を覚まさない!?」
千歌「い、息……してない……心臓も、動いて……ない」ガタガタッ
果南「っ!!?」ゾワッ
ダイヤ「氷河の炎で彼女の生命を『凍結』させました。一度完全に動かなくなったのですから右手で『凍結』を打ち消しても蘇生は出来ない」
果南「そんなのアリかっ!?」
462: 2019/05/28(火) 00:41:05.89 ID:s6i9br1W0
千歌「どうしよう……果南ちゃんどうしよう!?」
果南「とにかく心臓を動かすしかない! 心臓マッサージのやり方は分かる!?」
千歌「わ、分かるけど……か、果南……ちゃん?」
果南「くそっ! 部屋の明かりを消された!! 真っ暗で見えないけど曜の場所は分かってるよね!?」
千歌「……明かりは消えて無い、よ?」
果南「は?」
千歌「ど、どこを見て話してるの? 何で千歌の方を見て無いの……?」
果南「……ぁ」
千歌「まさか……目が―――」
ダイヤ「くふ、あはははははっ!! 傑作ですわ! 何てタイミングで呪いの進行が進んだんでしょう」
果南「マジか……こんな時にっ……いや、今はそんなのどうでもいい! 早く曜を蘇生を!!」
千歌「もうやってる!!」グッ、グッ、グッ
一定のリズムでテンポよく力強く胸部を深く圧迫する。
心臓マッサージを行うことによって心臓を動かす筋肉に酸素とエネルギーを届けることで心拍再開する場合もあるが、
この行為は本来、機能不全に陥った心臓の代わりに血液を体内に送り続けるのが目的。
更に今回のように、完全に停止してしまった場合心臓マッサージのみで蘇生する可能性は皆無。
この事実を千歌達は知らない。
千歌「はぁ、はぁ、はぁ」グッ、グッ、グッ
曜「………」
千歌「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!! ねえ起きてよ、起きてってば!!」
曜「………」
千歌「はぁ、はぁ」グッ、グッ、グッ
ダイヤ「……諦めなさい、その子はもう目を覚ます事は無い」
千歌「……うるさい!」
463: 2019/05/28(火) 00:44:31.85 ID:s6i9br1W0
ダイヤ「仮に目を覚ましたとしても、勝機があると本気で思っていますか?」
千歌「うるさいって言ってるでしょ! 曜ちゃんは絶対に目を覚ますもん!」
ダイヤ「哀れな……あり得ない希望にすがるとは」
千歌「……いつまで眠ってるのさ! いい加減起きなきゃ怒るよ!?」
曜「……」
千歌「どうして……こんなに一生懸命やってるのに……」
千歌「もう……腕に力が……」
曜「………」
千歌「……ああ、あああああああああぁぁぁぁ!!!」ポロポロッ
梨子「―――そこをどきなさい」
千歌「……えっ、りこ……ちゃん?」
声のする方向を向くと、ボロボロの姿の梨子が千歌を見下ろしていた。
頬や焼け焦げた袖やズボンの裾から露出した肌は赤黒く変色しており、とても痛々しい。
果南「梨子!? 梨子がそこに居るの!?」
梨子「ええ、すぐそばに居ますよ」
果南「じゃあ……ルビィはもう……」
梨子「生きてますよ」
果南「!」
梨子「瀕氏の重傷ですが治療班に直接引き渡したので一命は取り留めるはずです」
464: 2019/05/28(火) 01:26:40.52 ID:s6i9br1W0
梨子「それよりも高海さん、一旦この子から離れて」
梨子は右手を曜の胸、丁度心臓の真上のあたりにそえる。
その指には嵐のAqoursリングの他に、黄色の石がはめ込まれたリングが付いている。
千歌「な、何をするつもり?」
梨子「私の体には『嵐』の他に微量ながら『雷』の波動も流れている。この電気ショックで止まった心臓を再び動かす」バチバチッ!!!
電流が流れ、曜の体が大きく跳ね上がる。
胸に耳を当てて心音を確認し、もう一度電流を流す。
―――……ドクンッドクンッ
梨子「……よし、動き出したわ」
千歌「ほ、本当!?」
梨子「蘇生まで何分かかったか知らないから意識を取り戻すかは約束できない」
梨子「それでも目を覚ますと信じて呼びかけ続けて」
梨子「―――強い願い、強い想い、強い祈りはきっと届く……奇跡は必ず起こせるわ」
千歌「奇跡……」
465: 2019/05/28(火) 01:30:24.79 ID:s6i9br1W0
ダイヤ「……梨子、貴女は一体何をしているのですか?」
梨子「……」
ダイヤ「貴女が裏切るのは少し予想外でしたわ」
梨子「ホント、何やってるんですかね……命令を無視して敵を救おうとしてるんですもの」
梨子「ですが、これ以上果南さん側の味方をするつもりはありません。私はこの戦いを放棄します」
ダイヤ「……」
梨子「私の処分は勝者に全て任せます。まあ、どっちが勝っても氏ぬより恐ろしい罰が待っているとは思いますけどね……」
ダイヤ「理解に苦しみますわ」
梨子「それとも、私が手を貸さなければ勝てないのですか?」
ダイヤ「……いいでしょう、貴女はこの戦いの結末を特等席で見ていなさい。もっとも、わたくしを裏切ってまで救ったその子に可能性があるとは到底思えませんがね」
果南「梨子……」
梨子「驚きました……ルビィ様があんなに強くなっていたなんて。果南さん、一体どんな訓練をさせたんですか?」
果南「私は何もしてない、全部ルビィが努力した結果だよ」
梨子「姉を想う気持ち、か」ボソッ
果南「え?」
梨子「……何でもないです。それよりも、ちゃんとまだ手はあるんですよね? このままあっさり終わっちゃったら私の行動が全くの無意味になるんですけど」
果南「……ああ、まだあるよ」
466: 2019/05/30(木) 23:58:48.22 ID:JTtXod980
~~~~~~~~~~~~~
曜「―――ハッ!?」ガバッ
曜「……あ、れ……ここはどこ? さっきまで城で戦っていたよね?」
目を覚ますとそこは見渡す限り空と水しかない空間だった。
一面薄い水で覆われ、巨大な鏡のように青空と雲を映し出している。
曜「なーんか見覚えがあるな……デジャヴ?」ムムム
曜「―――あっ! ここあれだ、アニメのオープニングとかによく出てくる場所だ! ウユニ塩湖だ!」
曜「ほぇ~初めて見たけどこんなに幻想的な場所なんだね……綺麗」
曜「………」
曜「……氏んじゃったんだね、私」
「―――いいえ、まだ氏んでないわよ?」
曜「えっ?」クルッ
「チャオ~♪」フリフリ
曜が振り向くとベンチに座った金髪の女性が笑顔で手を振っていた。
曜「だ、誰ですか……? もしかして天の使いさん?」
「ちょっ……私が誰か分からないの?」
467: 2019/05/31(金) 00:05:46.28 ID:guC+9QV20
曜「……?」キョトン
「う、嘘でしょ……仮にもあなたの国の女王だったのよ……流石にショックね」シュン
曜「女王……?」
「――まあいいわ、今は時間が無い事だし」
「さっきも言った通りあなたはまだ氏んでない。ここは……そうね、簡単に言えば心象世界って言えば分かるかしら?」
曜「うーん……何となく?」
「ダイヤに殺されかかって魂が消えそうにところを千歌っちの中に居た私が回収したの」
「『同調』で繋がっているあなた達だからこそ出来た裏技なんだから。感謝しなさいよ?」
曜「あ、ありがとう」
「ここからが本題、どうして私が裏技まで使ってあなたを救ったのか――」
「――曜、あなたにはこれから襲って来る“本当の敵”から千歌っちを守って欲しいの」
曜「“本当の敵”? ダイヤさんの事じゃないの?」
「本音を言えば今すぐにでもこの無益な戦いを中止して欲しいんだけれど……もう、あの二人はとことんぶつかり合うしかないって諦めたわ」ハァ
「とにかく、曜は千歌っちを守るのよ。例え世界中の人々の命と天秤に掛けられたとしても最優先でね。それが結果的に世界を救う事に繋がる」
曜「……はい?」
「そりゃ突然こんな事言われともピンと来ないわよね……」
「話を変えるわ、今の浦の星王国の女王は誰だと思う?」
曜「ダイヤさんでしょ?」
「Aqoursリングに選ばれる事が守護者になる条件のように、女王もリングによって選ばれる」
「大空のAqoursリングは他の属性のAqoursリングとは違い、選ばれし者以外は触れる事すら出来ない。だから“持ち主=女王”となる」
「ここでQuestion、現在その選ばれた者しか所持出来ない大空のAqoursリングを持っているでしょーか?」
曜「……あっ」
468: 2019/05/31(金) 00:08:04.53 ID:guC+9QV20
「―――渡辺 曜、守護者としての使命を果たしなさい。その命尽きるまで女王を守り抜きなさい」
曜「……分かってる。使命が有ろうと無かろうと私のする事は変わらないよ」
「頼もしい返事ね♪」
『……ゃん………うちゃん…………』
曜「誰かが呼んでる……この声は……千歌ちゃん?」
「そろそろ魂が肉体に帰る時間か。手を出して、あなたに私の力を少し渡すわ」
女王と名乗る彼女が曜の右手を両手で握る。
暖かい橙色の炎が全身を包み込み曜の体内に溶け込んでいった。
「――これで完了。あとその薬指のリングをちょっと作り変えて大空の炎が灯るようにしておいたから。これで譲渡した私の技が使える」
曜「大空? 私にその波動は流れていないよ」
「千歌っちとパスが繋がっていれば大丈夫よ。それと、その技は一回しか発動出来ないから注意してね」
「それじゃ、健闘を祈るわ!」
曜「―――……ハッ!?」ガバッ
千歌「うごっ!?」ゴチンッ!
果南「なになに!? 今凄い音したよ!?」アセアセ
梨子「おでこ同士がぶつかっただけです」
曜「ぐおおぉっ痛ったぁ~~~……って、あれ? ここは……」
千歌「よーちゃん!!!」ダキッ!
曜「ちちちちかちゃん!?」
千歌「よかった……よかったよぉ……」ポロポロ
曜「……心配掛けてごめんね」
梨子「悪運の強い子ね……一度だけでなく二度も生き残るとは」
469: 2019/05/31(金) 00:24:15.67 ID:guC+9QV20
曜「さ、桜内!? 何でお前がっ!!?」ギロッ
千歌「梨子ちゃんが助けてくれたんだよ」
曜「……うそでしょ?」
果南「梨子が電気ショック与えなかったら、間違いなくそのまま氏んでた」
梨子「そーゆー事よ。ほら、泣いて感謝しなさい」
曜「ぐぬぬ……不本意だ」
梨子「冗談よ、別に感謝されたくてやった訳じゃないからいいわ」
ダイヤ「―――まさか、あの状態から蘇生するとは」
曜「ダイヤさん……」
ダイヤ「せっかく苦しみのない氏を与えたというのに……どうやら地獄の苦しみを感じながら氏ぬのがお望みのようですわね」
曜「……っ!」ブルッ
千歌「曜ちゃんが復活したのはいいんだけど……これからどうするの?」
梨子「果南さんは呪いの進行で視力まで失った。状況は悪化しています」
曜「視力を!? いつの間に……」
千歌「そう言えば果南ちゃん、さっき逆転の手はあるって……」
果南「……言ったよ」
梨子「まさか、この子が“新たな力”を身に付けて生き返った、なんてご都合展開を期待してるわけじゃないですよね?」
曜「!」ドキッ
果南「そんなありもしない展開を期待するほど脳内お花畑じゃない」
果南「―――ただ、一か八かに賭けるって点なら大差は無いかな」
果南は意味深なセリフを吐きながら懐に手を入れた。
中から取り出したのは装弾数五発の小型の回転式拳銃だった。
装填されている弾丸はたった一発。
果南は親指でカチカチとハンマーを起こした。
ダイヤ「わたくしにそんな武器が通用すると?」
果南「いやいや、梨子だって銃が武器だよね? 遠回しに自分の部下を貶してるじゃん」
470: 2019/05/31(金) 00:28:52.48 ID:guC+9QV20
梨子「でもダイヤ様の言う通りです……。私の撃ち出すのは炎の弾丸ですが、果南さんのそれはただの実弾だから効果は全くないと断言出来ます」
ダイヤ「なんなら試しに撃ってみますか?」
果南「私が銃の達人だったら、この一発でダイヤを倒せるだろうけど……残念ながら違うしそもそも見えて無いから無理」
「だからね……」と言いながら手に持っていた拳銃の銃口をゆっくりと自らのこめかみに突きつけた。
千歌「かな―――」
――ズドンッ!!!
果南の頭から血飛沫が飛び散る。
棒杭でも倒れるようにバタリと倒れ、傷跡から漏れ出る鮮血が大きな水溜りが作られた。
果南「………」
梨子「……は?」
曜「な、に……何の冗談……?」
ダイヤ「……ヘルリングが指から外れている」
梨子「ヘルリングは持ち主が氏亡する事でのみ外れる……一時的に仮氏状態になってもダメ、リングは絶対に騙せない」
千歌「じ、じゃあ……果南ちゃんは……本当に氏んじゃった……っ?」
梨子「思わせぶりなセリフを吐いておきながら、結果これですか……」
ダイヤ「………」
果南「―――……まあそう焦らないでよ、これで終わりなわけがないじゃん?」
果南はゆっくり、ゆっくりと腹筋の力を使って上半身を起こす。
全身がほんのり黄色く発光、右目から『晴』の炎が灯っている。
頭や腹部の傷口から蒸気が発生し、みるみる塞がってゆく。
ダイヤ「なるほど……ヘルリングの呪いが解けて炎が使えるようになりましたか。まさか、晴のリングを右目に埋め込んでいるとは思いませんでしたが」
果南「私の戦い方的に指につけているとうっかり砕けかねないからさ。ダイヤが丁度いいスペースを作ってくれたから埋めて置いた」
曜「一体何をしたの……?」
471: 2019/05/31(金) 00:32:56.40 ID:guC+9QV20
果南「さっき使った弾丸はよしみが開発した特殊弾、通称『氏ぬ気弾』」
果南「これで脳天を撃ち抜いて一度氏ぬと数秒後にリミッターを完全に外れた状態で生き返る事が出来る」
梨子「傷が治っているのは果南さんの得意技『肉体再生(オートリバース)』の効果ですよね」
果南「そうだよ。久々の発動だったからちゃんと使えて良かった」
ダイヤ「……わたくしの知っている『肉体再生(オートリバース)』で一瞬で治せるのは擦り傷程度だった。リミッターが外れた事で技の性能も上がったわけですか」
果南「その通り。完成したこの技を発動している限り私は氏なない」
果南「……氏なないけど、傷を負った時の痛みまでは消せないのが欠点なんだよねぇ」
果南は女性らしさ皆無の野太い声を発しながら再びゴロンと仰向けに寝転がった。
果南「あ゛あ゛しんどっ……呪いが解けたせいで痛覚も復活しちゃった。頭のてっぺんからつま先まで全身痛ぇ……」
果南「今まで、こんなに痛い中動き回ってたのか……よく氏ななかったな、私」
果南「……氏ぬほど痛くて辛いけど、なんか、こう……“生きてる”って感じがするな」ヘヘ
「よっ!」と掛け声と共に、腕と首に体重を乗せて一気に跳ね起きるネックスプリングで立ち上がる。
果南「『氏ぬ弾』+『肉体再生』の複合技、『最高の輝き(ラストサンシャイン)』は維持出来る時間があまり長くない」
ダイヤ「『最高の輝き(ラストサンシャイン)』……それが果南の切り札ですか」
果南「……ふふ」
果南「――さあやるよ、曜!」
曜「任せてよ!」
千歌「大丈夫なの? ついさっきまで氏にかけてたのに……」
梨子「やらなきゃ氏ぬだけよ、生き残りたかったらせいぜい頑張りなさい」
曜「アンタに言われなくてもそのつもりだよ!」ムッ
周囲を取り囲んでいた氷人形が固形から炎へ変わり、ダイヤの元へ続々帰ってゆく。
分散させていた炎を回収し、次に繰り出す攻撃へ回すつもりなのだ。
ダイヤが右腕を高らかに上げると、その上部に氷塊が生成される。
大きさは最初に作ったものと比較するとおよそ十倍。
クルーザーを三隻積み上げたのと同等の大きさだ。
曜「何さ、あれ……私の技でどうにか出来るレベルを超えてるよ……!?」
梨子「お、大きい……私の炎でも相殺出来るかどうか……」
472: 2019/05/31(金) 00:36:34.27 ID:guC+9QV20
ダイヤ「これを果南が避けるのは難しくないでしょう。ですが、後ろにいる千歌さんはどうなるでしょうね?」
果南「……」
ダイヤ「炎を打ち消す力を失った今、これを防ぐ術はもうない。潰れなさい!!」
予備動作無しで発射される氷塊。
確かに軌道が分かれば避けられないスピードでは無いが、目測でも自動車の速度程度。
その大きさからは想定出来ない速度だ。
当たれば即氏、避ける場所を誤れば衝突により発生する衝撃波や氷の破片で致命傷を負いかねない。
―――果南は軽く息を吐く。
腕を肩幅に構え、拳を顔の付近に持って行き、左足を前に出す。
全身を覆っていた炎は右の拳に一点集中し、透き通った純度の高い炎へと昇華する。
迫りくる氷塊にタイミングを合わせ、腰、肩、腕、拳へと全体重を移動。
全ての力を右ストレートに込めて放つ―――。
果南「―――う゛る゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
数十本のダイナマイトが一気に起爆したような轟音。
氷塊は果南の拳で粉々に砕け散った。
……が、これ程の威力のパンチをノーリスクでは打つ事は出来ない。
インパクトの直後、骨は内部から破裂。右手の指は全て別々の方向へ折れ曲り、腕もまるで軟体動物のようにグニャグニャとなって原形を留めていなかった。
痛みの許容範囲を遥かに超え、コンマ数秒の間意識を失った果南だが『最高の輝き(ラストサンシャイン)』の効果で破裂した骨や筋肉等が瞬時に再生、同時に意識も強制的に戻される。
果南「っぅ、ぁあ……へ、へへ……どーよ?」ニッ
梨子「じ、自分の体の後始末を再生能力に丸投げして破壊力を極限まで高めた……? 確かにそれなら体の強度を無視出来るけど、普通考え付いても実行しない!」ゾッ...
曜「なんて力技なのっ!?」
473: 2019/05/31(金) 00:41:26.25 ID:guC+9QV20
果南「……痛ぅっ」
……痛みの具合は分かった。ただ、想像以上に消耗が激しいな。
『最高の輝き(ラストサンシャイン)』の持続時間は三分間。けどそれより前に体が持たない。
さっきみたいにフルパワーで殴れるのはあと二回かな……。
ダイヤ「同じ規模の攻撃をあと二回ってところですかね」
果南「!?」
ダイヤ「おや、図星ですか?」
ダイヤ「人間の限界を超えた攻撃がそう何度も繰り出せる訳がない。それ故の“限界”なのですから」
ダイヤは先ほどと同規模の氷塊を今度は四つ生成し始めた。
果南「ほんっっと、嫌な奴だね……っ!」ハハ...
474: 2019/05/31(金) 00:44:01.66 ID:guC+9QV20
果南「曜! 三つは私が何とかする。残り一つは氏ぬ気で防いで!!」
そう告げると、果南はダイヤの方へ走り出した。
走りながら果南は右の拳に炎を集めて素早く振り抜く。
氷塊を発射しようとしているダイヤへ圧倒的な速度で繰り出した拳圧で空気の塊を飛ばし、直撃した。
これにより一発目の氷塊は軌道が大きく逸れる。
―――二発目。
右腕はヒビが入った骨の再生中故、一時的に使用不可。
左の拳に炎を集中させ氷塊を粉砕する。
―――三発目。
再び右腕が完治。
グチャグチャになった左腕の再生を放棄し、その分の炎も全て右の拳に集中させた。
この氷塊を凌げば数秒間は両腕が使えなくなる。
脚で砕く方法も無くは無いが上手く当てないと氷塊は粉々にならず、流れた破片で千歌達が致命傷を負う可能が高いのだ。
また、脚を失えばダイヤにその間接近する事が出来ない。戦闘を一刻も早く終わらせたい今、時間のロスは最小限に抑えたい。
果南は一切の躊躇なく、三発目の氷塊を右拳で打ち抜いた。
果南「………ぁぅ」
――やっば……意識、飛ぶ……。
痛いのは気合で我慢すれば何とかなると思ってたけど……考えが甘かった。
体が発する危険信号なんだから無視できるわけないか。
炎の残量もあと僅か……壊れた腕を治せば『最高の輝き(ラストサンシャイン)』は直ぐに解けちゃう。
……でも、あと少し、もう少しだけ頑張ってよ私。
やっと……やっと手を伸ばせば届く所まで来たんだ。
こんな所で力尽きたら氏んでも氏に切れない……!
果南「――――――――よおおおおぉぉぉう!!!!」
―――ダンッ!!!
曜は前を走っていた果南の更に前へと飛び出す。
果南が攻撃を防いでいた間、ありったけの炎を刀身へ集中させていた。
Aqours匣による斬れ味増加と斬撃範囲の拡張をもってしても、あの大きさの物体を一刀両断は不可能。
475: 2019/05/31(金) 00:56:44.83 ID:guC+9QV20
梨子「……“対象を壊すこと”だけが防ぐ手段じゃない」
梨子「まさかこの短期間で不完全ながらも“奥義の型”まで使えるとは……」
攻守四種ずつ、計八つの型から構成されるダイヤの剣技。
その総集奥義―――
曜「――――――――『時雨之化(じうのか)』」
刀に纏わせた雨の炎を全て氷塊にぶつける。
すると、まるで時が止まったかのように氷塊は動きがぴたりと空中に静止した。
千歌「止まった……?」
梨子「いいえ、雨の『鎮静』で攻撃のスピードが限りなく停止に近づいただけよ」
梨子「それでも、ダイヤ様の攻撃を防いだ事には変わりない」
梨子「……やれば出来るじゃない?」フフ
ダイヤ「そ、総集奥義……だと!? 全ての型を極めていない貴方が!?」
曜「……さあ、障害物は全部無くなったよ」
曜はそっと手を果南の背中に添え、力の限り想いを込めて押し出す―――。
曜「―――行っけえええ、果南っ!!!」
―――届け。
千歌「頑張れ、果南ちゃん!!」
―――届いて……っ。
果南「……おおおおおお!!!」
―――届……。
ダイヤ「―――いや、それでもわたくしには届かない」ボオッ!!
476: 2019/05/31(金) 00:59:16.69 ID:guC+9QV20
ダイヤの体を中心に巨大な魔法陣が展開。
部屋全体を覆った。
梨子「何っ!? こんなに巨大な魔法陣は見た事がない!」
ダイヤ「自分が何故ヘルリングの力を手に入れたのかお忘れですか? この一撃必殺の技を封じる為でしょう!」
千歌「一撃、必殺……!?」ゾワッ
ダイヤ「この技に対していかなる匣兵器、技を用いたところで防御も相殺も不可能」
ダイヤ「『時雨之化(じうのか)』が動きを限りなく停止に近づける技なら、これはそれの完全上位互換。この技は原子の振動すら完全に停止させる!!」
梨子「急いで! 果南さん!」
果南「……ぐっ」スウッ
曜「ダメだ……あと一歩間に合わない!!」
ダイヤ「これで最後です―――!!」
ダイヤ「――――――『絶対零度(ヅェーロ・アッソルート)!!!』」
―――キュイィィィン!!!
甲高い音と共に、部屋中を覆っていた魔法陣が氷のように砕け散った。
ダイヤ「な、に……?」
―――不発?
そんなはずはありません! このわたくしに失敗は有り得ない!!
そもそも発動に必要な炎は全て消費している……技は確かに発動したのです。
発動した技が強制的に消え……打ち消された……?
477: 2019/05/31(金) 01:05:09.45 ID:guC+9QV20
ダイヤ「―――まさか」
発動の直前、果南の体や右目から晴の炎が消えていた。
最初は土壇場で『最高の輝き(ラストサンシャイン)』の効果切れだと思い込んでいたが、実際は違う。
再びヘルリングを指にはめた事で呪いの力が復活したのだ。
効果範囲は初期の右手首より下に狭まっているが
空間に全体に展開する『絶対零度(ヅェーロ・アッソルート)』は勝手に右手に当たるので打ち消す事が出来る。
発動そのものが無意味となるのだ。
ダイヤ「わざわざ一度氏んでまで外したリングを……!?」
果南「―――届いたよ、ダイヤ」
果南「私の切り札は最初から“これ”だ。それにあの状態のまま殴ったらダイヤが氏んじゃうからね」
果南は右の拳を硬く握りしめ、力強く左足を一歩踏み込む。
果南「さぁ……すっっごく痛いのいくから覚悟してね?」
果南「……歯ぁ食いしばりな」ギュウゥゥ
ダイヤ「うっ……やめ―――」
果南「―――ダイヤあああああああああああ!!!!!!」
―――バキャッッ!!!!!
ダイヤ「ごっ……お……ぉ」
渾身の右ストレートがダイヤの顎下にクリーンヒット。
地面に叩きつけられる。
ダイヤは意識と共に、彼女の心の奥底にある何かが打ち砕かれた―――。
478: 2019/06/07(金) 23:44:59.41 ID:AMx4KjrE0
~~~~~~~~~~~~~
ダイヤ「…………ん」
……どのくらい眠っていたのでしょう。
場所が変わっていない所から察するにそれほど経ってはいないですかね。
口の中が痛い、頭もガンガンする……。
果南さんめ……女性の顔を本気でぶん殴るやつがありますか。
当の本人は一体どこに……ん?
ダイヤは左手の違和感に気が付き、首をゆっくりとその方向へ向ける。
そこにはダイヤの手を握りながら仰向けに倒れている果南の姿があった。
半開きの目でぼんやり天井を見つめている。
ダイヤ「……果南さん」
果南「………」
ダイヤ「いいパンチでしたわ。おかげで綺麗に整っていた歯が何本か折れてしまいました」
ダイヤ「脳震盪で起き上がるどころか指一本動かせない……詰みです」
果南「………」
ダイヤ「……あなたの……あなた達の勝ちですわ」
ダイヤ「敗者は大人しくこの世から立ち去ります。好きなように頃しなさい……わたくしはもう……疲れました」
果南「………」
ダイヤ「……鞠莉さんの愛したこの国を守りたかった。ただそれだけだったはずなのに……わたくしは、一体どこで間違ってしまったのでしょう……ね?」
果南「………」
ダイヤ「……愚問でしたね。どこで間違えたか、なんて明らかですわ。最初から何もかもが間違っていた。感情に身を任せてしまったが故に引き返す地点を全て見逃した……」
ダイヤ「気がすむまで罵倒して下さい……言いたい事は山ほどあるのでしょう?」
果南「………」
ダイヤ「……ちょっと、いつまで無視して―――」
ダイヤ「―――果南さん?」
よく観察すると果南の右手からヘルリングが外れ、床に転がっているのが見えた。
これが何を意味するのか。
今更考えるまでもないだろう。
果南の技、『最高の輝き(ラストサンシャイン)』による体への負荷は生物の限界値を遥かに超えている。
動力源である心臓がたった数分で一生分の鼓動数に達してしまうほどに。
ダイヤ「……果南さん、あなたって人は勝手なんだから……」
ダイヤ「はぁ……戦いに不要な感情は全て凍結させたのに……あのパンチで全部元通りになった………」
ダイヤ「……ホントっ、余計な事をしてくれましたねぇ……っ」ポロポロ
479: 2019/06/07(金) 23:59:39.46 ID:AMx4KjrE0
千歌「果南ちゃん……」
梨子「終わったわね。大きな犠牲を払ったけれど、これで一区切りよ」
曜「……戦いは終わってない」
梨子「何? まだやろうって言うの?」
曜「違う、ダイヤさんが倒そうとしていた“本当の敵”がまだ残ってるんだ」
曜「―――そうでしょ? 千歌ちゃん」
千歌「よ、曜ちゃん……どうしてそれを―――」
「あれー? もしかして、もう終わっちゃったずら?」タッタッタッ
千歌「花丸ちゃん!」
花丸「急いで来たんだけどなぁ……間に合わなかったみたいだね」
梨子「……そう、善子ちゃんは負けちゃったか」
千歌「頭から血が……全身傷だらけじゃん!?」
花丸「大丈夫大丈夫、見た目だけで実際は大した怪我はないずら」
千歌「今そっちに行くね」
千歌は花丸の元へ駆け寄る。
曜「……花、丸……ちゃん?」
外見も声も間違いなく花丸ちゃんだ。
それなのに、姿を見た瞬間からずっと私の中にある警報が最大レベルで鳴り響いてる……。
付き合いが長いわけじゃないけど断言出来る。
――あれは花丸ちゃんじゃない……!
曜「ダメだ千歌ちゃん……そいつに近寄るな!!!」
480: 2019/06/08(土) 00:10:08.79 ID:m1rd4QUO0
千歌「ほぇ?」
花丸「………フフ」
―――バンッ!!!
曜が叫んだのとほぼ同タイミングで銃声が響く。
弾丸は花丸の頭部に被弾、そのまま仰向けに倒れた。
千歌「な……っ、り、こ……ちゃん………?」
花丸「………」
梨子「……撃って良かったのよね?」
曜「うん、ありがとう。それにしても流石だね……いきなりの早撃ちで寸分の狂いなく眉間ど真ん中を撃ち抜くなんてさ」
梨子「どーも」
曜「これで氏ぬなら大した敵じゃなかったって事で万事解決」
梨子「もしそうじゃなかったら――」
「あー……ったく、いきなり発砲するとか酷いじゃない。リリー」シュウゥゥゥ
千歌「は、花丸ちゃんが善子ちゃんになった!?」
曜「幻術で化けていた……? でも何か引っかかる……」
善子「一歩間違えば氏んでたんだからね。本当勘弁してほ」
バンッ!! バンッ!!
善子「っ!?」
梨子「―――誰よ、あなた」
善子「ちょっ……何言ってるのよリリー? 私は善子よ。変な事言わないで頂戴」
梨子「いいえ、あなたは善子ちゃんじゃない」
梨子「私の知ってる善子ちゃんは私を“リリー”だなんて呼んだ事は一度もない」
梨子「……あなたは一体誰だ?」
善子「……あー、なるほど。この世界では呼んでなかったのか……凡ミスだ」
千歌「あ、あなたが善子ちゃんじゃないのなら本物の善子ちゃんや花丸ちゃんはどこに……?」
善子「善子なら目の前にいるじゃない。外見は全く同じ、入れ替わったのは中身だけよ」
善子「花丸は……言わなくても分かるでしょう?」ニタァ
千歌「ひぃっ!」ゾワッ
曜「なんて歪んだ笑顔なの……」
梨子「私の質問に答えなさい! お前は誰だ!!」カチャッ
善子「誰、か……そうね教えてあげるわ」
481: 2019/06/08(土) 00:11:35.77 ID:m1rd4QUO0
ヨハネ「――――私の名はヨハネ。世界の破壊神よ」
482: 2019/06/08(土) 00:24:18.96 ID:m1rd4QUO0
千歌「うそ……ヨハネって……っ」
ダイヤ「ヨ、ハネ……ヨハネだと……!?」
ヨハネ「久しぶり、元気そうね?」ニコニコ
ダイヤ「どう、して……よりにもよってこのタイミングで現れた!?」
ヨハネ「割と前から準備は整っていたのよ。ただ、呪いの力が発動中だと私の世界を消す技が使えなかった」
ヨハネ「あの子に実感は無かっただろうけど、私という脅威からずっと世界を守っていたわけ」
ダイヤ「果南、さんが……?」
ヨハネ「皮肉なものねぇ……親友を切り捨て、他国を切り捨て、己の信念を切り捨てたあなたの覚悟は全くの無意味だった」
ヨハネ「……いや、松浦 果南という世界の守護者の氏を早めたのだからその罪は極めて重い……あなたのせいで世界は滅びるのよ」
ダイヤ「……わたくしの、せいで……?」
ヨハネ「私を倒す為に色々準備していたみたいだけど、それも肝心な時に役に立たない! あなたの三年間は全部、ぜ~~んぶ無駄だったのよ!」
ダイヤ「……ぁ、ああ、ああああっ!!!」
ヨハネ「ほらどうした! 私を頃したんでしょ? 必ず頃すと誓ったんじゃないの!? 仇は目の前にいるぞ、ほらっ!!」
ダイヤ「~~~~ッッ!!!!」ギリッ!!!
ヨハネ「……あの時と同じよう無様に這いつくばっていなさい。お前に国を、世界を守る力なんてこれっぽっちも無かったのだから」
梨子「――――ちょっと、何好き勝手な事言ってるのよ」
ヨハネ「……何?」
梨子「さっきの戦いでは命令に背いたけど、私のダイヤ様への忠誠心は変わってない。自分の女王が侮辱されて黙っていられると思う?」
ヨハネ「忠誠心ねぇ……この女王様のどこに魅力を感じたのやら」
梨子「分かって貰わなくて結構」
483: 2019/06/08(土) 00:32:54.31 ID:m1rd4QUO0
ダイヤ「梨、子……さん」
梨子「ダイヤ様も感情的に叫ぶなんてらしくないですよ。あなたはいつもみたいに凛とした振る舞いをしていればいいのです」
梨子「ダイヤ様のやってきた事は無駄なんかじゃない。私がそれを証明してみせる!!」
ヨハネ「この世界の連中は威勢だけはいい……一人で勝負になると思ってるの?」ヤレヤレ
千歌「――……一人じゃないよ」
曜「そうだ、私達三人が相手だ!」
ヨハネ「………へぇ」
梨子「別に敵のあなた達の力なんて必要ないわ」
曜「意地を張ってる場合? 実弾で攻撃してたくらいだからもうほとんど力残ってないでしょ」
梨子「それはそっちも同じじゃない。『時雨之化(じうのか)』に全部使ってガス欠状態なのは知ってるんだから」
千歌「だったら尚更協力しなきゃ勝てないじゃん」
曜「コイツを倒さなきゃ世界が滅ぶなら、因縁とか敵味方とか言ってられない。安心してよ、後できっちり仕返ししてやるからさ」
梨子「……どさくさに紛れて後ろから斬らないでよ?」
曜「そっちこそ、流れ弾だーとかで頭撃ち抜いてこないでね?」
梨子「―――ふっ!!」
梨子は下に向けていた拳銃を素早くヨハネの方向へむ――――。
―――ガシッ!!
動作に入るよりも速くヨハネは梨子の手首を掴んだ。
梨子「ッ!?」
ヨハネ「遅い遅い、欠伸が出るくらい遅いわ」フワアァァ
千歌「瞬間移動した……っ!」
虚を突かれた梨子。
ヨハネは梨子の口元へ頭突き。
硬い物質にヒビが入る嫌な音が響く。
梨子「ぅがあッッ!?」
曜「桜内っ!」
曜もヨハネに斬りかかるが、刀は空を斬る。
ヨハネ「『瞬間移動(ショートワープ)』、私が使う『夜の炎』で使える技の一つよ」シュンッ!!
曜「このっ! 当たらない!」ブンッ! ブンッ!
ヨハネ「人間の反応速度よりも遥かに速いんだから当たるわけが無いわよ」シュンッ!!
484: 2019/06/08(土) 00:38:54.08 ID:m1rd4QUO0
曜「ならこの技で……ッ!」
曜は『繁吹き雨(しぶきあめ)』の構えに入る。
ヨハネ「回転しながら周囲を斬り裂くその型なら当たると……安直ね」
ヨハネは手のひらから黒い炎を点火し、曜の刀にぶつけた。
小規模の爆破が発生。
曜は後ろに吹き飛んだ。
曜「ぐっ……危っ」
千歌「か、刀が……っ」
曜「マジか……折れた!?」
ヨハネ「よく見なさい、折れたのならその刃先はどこにいったのよ? 『夜の炎』の特性『消滅』で消し去った」
千歌「さっきから言ってる『夜の炎』って何!? ダイヤさんの『氷河の炎』といい炎は七属性以外に何種類あるのさ!」
ヨハネ「これはベースとなる大空以外の六属性の突然変異種。『氷河』は『雨』、『夜』は『嵐』の特性が極端に向上した炎よ」
ヨハネ「私の『夜の炎』は匣兵器も炎も、この世界に存在するあらゆるモノを跡形も無く消し去れる」
ヨハネ「―――こんな風にね」シュン!!
ヨハネは『瞬間移動(ショートワープ)』で曜の目の前へ。
曜「……あっ」ゾッ
梨子「このバカッ!!! 避けなさい!!!」ドンッ
梨子は立ちすくむ曜を思いっきり突き吹き飛ばした。
―――ゴオオオォォッ!!!!!
曜「痛ッ……何す……!?」
千歌「……え?」
ヨハネの炎が直撃した梨子。
炎が消えると梨子が居た場所には塵一つ残っていない。
攻撃範囲から外れていた突き飛ばすときに使った腕のみが床に転がっていた。
千歌「梨子……ちゃん?」
曜「な、んで……」
ヨハネ「これは予想外。まさか身代わりになるなんて」
485: 2019/06/08(土) 00:43:19.00 ID:m1rd4QUO0
曜「庇ってくれなんて頼んでない……余計な事しないでよ……っ」ギリッ
曜「何で……氏ぬのが分かってて敵の私を助けたのさ!!」
ヨハネ「ほとんどどころか全く力が残って無かったのよ。匣も技も使えない自分より、お前が生き残った方がいいと判断した」
ヨハネ「……無駄氏になのは変わらないけどねぇ」
曜「くそッ……ダイヤさんいつまで倒れているんですか! コイツは仇なんでしょ!? 根性で立ち上がって下さいよ!!」
ダイヤ「やか、ましい……さっきからやってますわ!!」グググッ
ヨハネ「無理無理、完璧に顎に決まったのなら暫く立ち上がれない。これは気持ちだとか根性だとかで解決出来る事じゃ無い、人体の構造上の不可能よ」
ヨハネ「あー……一人一人消すのも面倒ね。もう一気に消滅させちゃうか」
―――ゴオオオォォッ
ヨハネ全身から禍々しい黒い炎が大量に噴き出し、背中から漆黒の翼が生成された。
千歌「うぐっ!? 風強っ」
曜「あんなの人間が出せる炎圧じゃない……!?」
ヨハネ「私は破壊神、神よ? そっちの物差しで量らないでくれる?」
ダイヤ「ダメ……ヨハネに技を使わせてはなりません! どんな手段でもいい……絶対に阻止して下さい!!」
千歌「曜ちゃん!!!」
曜「ぐっ! 激流―――」
ヨハネ「もう遅い、結局世界を守る事は叶わなかったわね……黒澤ダイヤ!!」
ダイヤ「っ!!!!」
ヨハネ「―――完全抹消(オールデリート)」
触れるもの全てを無に還す炎がヨハネを中心に急速に広がってゆく。
それは瞬く間に城内、浦の星王国、島全土……そしてこの世界の全てを包み込む。
―――こうして、世界は終焉を迎えた。
486: 2019/06/17(月) 23:35:30.32 ID:sdpHIkmp0
ヨハネ「……で、終わる予定だったんだけどな。今回は上手くいかなかったか」
千歌「………どう……なったの? ここはどこ? ダイヤさん! 曜ちゃん!」キョロキョロ
ヨハネ「高海千歌……やはりこの世界においてイレギュラーな存在であるお前が生きている限り、完全消滅は叶わないか」
千歌「答えてよ! この一面真っ暗なこの場所はどこ!? みんなはどうなったの!?」
ヨハネ「消したわ」
千歌「……消し、た?」
ヨハネ「この世界を構成するあらゆるものを綺麗さっぱり、存在していた痕跡すら残さずね」
千歌「みんな……氏んじゃったの?」
ヨハネ「お前の言う“氏”がどのような定義かは分からないけど、生物的にも精神的にも完全に氏んでるわね」
千歌「精神的……?」
ヨハネ「では、試しにこの世界での思い出を一つ聞くわ。『高海千歌がこの世界に来て初めて出会った子は誰?』」
千歌「そんなの簡単だよ!……ええっと ……え、あ、あれ……?」
ヨハネ「思い出せないでしょ?」クスッ
千歌「何で……そんな馬鹿な話があってたまるか! だってついさっき私は名前を叫んだじゃん!」
ヨハネ「誰の名前を?」
千歌「それはっ! そ、それは……っ」
ヨハネ「顔はどう? 頑張って思い浮かべて!」
千歌「………ぅぁ」ガタガタ
ヨハネ「ほら、名前も顔も思い出も、何もかもぜーんぶ消えた。もう何も残ってない!」
ヨハネ「この場所は言うなれば更地よ。精神が体感する時間の流れも通常の数億倍、一秒で三、四年のスピードで老いてゆく。もう間も無くその他の思い出だけでなく自分が何者かすらも分からなくなる」
ヨハネ「お前はこの空間にたった1人、圧倒的な孤独感に蝕まれながら氏ぬのよ」
千歌「ひ、ひとり……? 氏、ぬ??」
ヨハネ「ん~~いい顔ねぇおんぷ その恐怖と絶望に打ちひしがれた表情はいつ見ても惚れ惚れしちゃう」ニタァ
487: 2019/06/17(月) 23:41:16.22 ID:sdpHIkmp0
千歌「帰れない……? 私はもうみんなの所に帰れないの……?」
みんな……みんな? みんなって……誰?
誰、だれ?
顔が塗り潰されて見えない。
……何の為に必氏になってたんだっけ?
思い出が朽ちてゆく。
私はどこに帰りたいの?
かえる場しょって何?
私は……わたし、わたし?
私は私、私って誰わたしわたワタシ何私しししし――――――。
「消えないよ」
「消えてない、全部残ってる。何一つ消えたりなんかしない」
……だ、れ?
「待ってて……すぐに連れ戻すから――」
……ぅ、眩し―――。
千歌「ハッ!?」ガバッ
千歌「こ、ここは……城の中…? 元に戻った?」
ヨハネ「……これは誤算だったな。まさか生き残りがもう一人いるとは」
ヨハネ「渡辺曜……『同調』で高海千歌のイレギュラー性が共有されたから消滅せずに残ったって所か」
曜「………」
千歌「よーちゃん……?」
曜「よかった……ちゃんと思い出せたんだね」
千歌「あれは全部幻だったの?」
曜「そうだったら良かったんだけどさ……残念ながら事態はそれほど好転してないかな」
488: 2019/06/17(月) 23:44:27.68 ID:sdpHIkmp0
ヨハネ「その通り。渡辺曜の存在により世界の一部分だけ、恐らく城内のみが復元されたに過ぎない。首の皮一枚繋がっているに過ぎない」
……世界は観測者が居なければ存在を確定出来ない。
自分の背後、遠く離れた国、空に見える月、果てしなく広がる宇宙ですら人間の意識なしでは存在しえない。
人間による観測という行為があって初めて実存していると断定出来る。
城内のみが復元されたのは曜と千歌が観測出来る範囲がこの場に限定されているが故。
ヨハネの『完全抹消(オールデリート)』は観測者に該当する人間とそれに酷似した生き物全てを頃す技。
観測者を失い存在を確立不可能とさせる事で世界を消滅させる。
ヨハネなら何もかも全て焼き尽くす事も可能だが、それよりも低エネルギーで実行出来る。
千歌「質問……いい?」
ヨハネ「ん?」
千歌「あなたが世界を消滅させようと思わせる基準って何? 私は全てを見てきたわけじゃない。けどみんなが理不尽に消えなきゃいけない程悪い事をしているとは思えないよ」
ヨハネ「“全てを見てない”からそう思うだけ。私は全部この目で見てきた」
曜「適当な事を……っ」
ヨハネ「嘘じゃないわ? 私と契約した私達(リトルデーモン)は世界中にいるもの。リトルデーモンが見聞きした情報は自由に引き出せるし、私が直接乗っ取る事も出来る」
「例えばね」っと言いながら片手で自分の顔を軽く撫でる。
すると善子だった顔が一瞬でよしみの顔へ。
それに合わせて身体もよしみと同じシルエットになるよう変化した。
よしみ(ヨハネ)「どーかしら?」
489: 2019/06/17(月) 23:47:07.83 ID:sdpHIkmp0
千歌「声も全く同じ……っ」
よしみ(ヨハネ)「私はリトルデーモンとなった者と顔、声、指紋、血液型エトセトラエトセトラ……。あらゆる身体情報を完全再現出来る。この能力を使って――」
スウゥゥ
亜里沙(ヨハネ)「――ある時は女王の側近として会合に参加したり」
いつき(ヨハネ)「そしてある時は敵の実力を見定める為の噛ませ役になったりしたわ」
曜「あ、あの時の……っ」
花丸(ヨハネ)「うっかり殺されそうになったお前達を助けた事もあったわ」
少女A(ヨハネ)「ダイヤと果南、二人を同時に無力化させるのにお前達の存在は必要だったから」
少女B(ヨハネ)「万全な状態のダイヤと果南が手を組んだら私も無傷で済まないからね……」
星空(ヨハネ)「思惑通り潰し合ってくれて助かったわ。これで楽にやれるもの」
ヨハネは再び善子の顔に戻す。
ヨハネ「この身体は馴染むわ……思わずこの姿を維持したくなってしまう」
千歌「……ずっと私達を見ていたの?」
ヨハネ「ええ、なんせお前達は……いや、高海千歌、お前はあの生意気な金髪女王の“切り札”らしいからね」
千歌「……」
ヨハネ「『精々「今」は勝ち誇っていなさい。私が賭けたのはこの先の「未来」よ』」
ヨハネ「あの女が氏に際に言い放ったセリフ。大口を叩いた割にはこのザマ、拍子抜けよね……未来を託した相手が他所の世界の人間なんて」ハァッ
ヨハネ「この世界に期待出来なかった、という点では私と変わらなかったってわけね」
曜「どういう意味さ?」
490: 2019/06/17(月) 23:57:16.06 ID:sdpHIkmp0
ヨハネ「リトルデーモンから色々と情報を集めたわ」
ヨハネ「どいつもこいつも『うちの国の方が歴史が古いから偉大だ』だの『文明の発展に貢献したのは我々だ』だの『我々こそが最先端を行く』だの……“自分の国こそが最も優れている”と思い込み、お互いを尊重する意識のカケラすら無かった」
ヨハネ「国のトップは多少歩み寄る姿勢は見せていたけど……大衆の意志に影響を与える事は決して無い。自分の側近すら変えられていなかったんですもの」
ヨハネ「口では達者な事を言っていた人間も潜在意識では同類だった。醜い争いを永遠と続けるくらいなら無くなった方がマシでしょう? お前達に未来なんて必要ない」
曜「……っ」
ヨハネ「っとまあ、それっぽい理屈は並べたけれど、この程度の問題なんてどの世界線も抱えているしもっと悲惨な世界も存在してたのよね」
千歌「じゃあ何で……」
ヨハネ「お前達は運が悪かったのよ。草むしりと同じ感覚ね。無数に存在する世界の中から偶然私の目に留まったのよ」
曜「それ、だけで……たったそれだけの理由で?」
ヨハネ「ええ、それだけで。それが私の役割だから」
曜「………」
千歌「………」
ヨハネ「―――さて、お喋りもここまで」ボッ!!
曜・千歌「「!?」」ゾッ
世界を一瞬で焼き尽くしたあの黒炎がヨハネの右手に集まる。
ヨハネ「私も暇じゃないのよ。庭に生えた雑草はまだまだ沢山あるからさ」
千歌「このっ!」
曜「……させるもんか」
ヨハネ「何?」
曜「何者であろうと誰かの未来を一方的に奪っていいはずがない! 例え、それが神様であってもだっ!」
ヨハネ「だったらどうするつもり?」
曜「……勝ち取るさ。世界の、私達の未来はこの手で勝ち取ってみせる!!」
ヨハネ「ふっ、ふふふふ……確かにそれ以外に方法は無い。でもそれは可能なのかしら?」
ヨハネ「お前はこれまでたった一度でも格上相手に勝った事があった?」
曜「……」
ヨハネ「―――ゼロ、ゼロよ! ただ一度の勝利もない!! これが現実。そして今回も例外じゃない」
曜「分かってないなぁ」
491: 2019/06/17(月) 23:59:57.67 ID:sdpHIkmp0
ヨハネ「はあ?」
曜「神様の癖に全然分かってない」
曜「パパが言ってたよ、本当の勝利っていうのは自分より格上の相手に勝つことじゃない」
曜「―――大切な人を守り抜いた時だってね!!」
ボオオッ―――!!
曜のリングから今までとは比べものにならない程の炎が噴き出す。
しかし、この炎はAqoursリングから出ていない。
梨子によって破壊され、ルビィと花丸が形だけ修復した形見のリングから出ている炎だ。
ヨハネは使えないはずのリングから炎が出ている事にも驚いたが、それ以上に衝撃を受けたのは炎の色だった。
千歌「綺麗な橙色……凄く温かい…」
ヨハネ「何故だ……何故貴様が大空の炎を出せる!?」
曜「さあね? 神様なら自分で考えなよ」
ヨハネ「……貴様ぁ」ギリッ
曜「千歌ちゃん、ここが正念場だよ。次の攻防で全て決まる」
千歌「うん……ただ、私が直接出来る事は何もないのが悔しいな……」
曜「じゃあさ、私の手を握って欲しいな」
千歌「手を? あ、確か体に触れてる方がより力が伝わるんだったよね!」
曜「ま、まあそれもあるけど……勇気を分けて欲しいなって思って」
千歌「!」
曜「これから使う技は心の状態が大きく影響するの。少しでも迷いもあったら多分ダメ」
曜「覚悟は出来てるつもりだったんだけどさ……まだ、ほんのちょっぴりだけ怖いの。もし次の攻撃から千歌ちゃんを守りきれなかったらって思ったら……」
―――ギュッ
千歌「大丈夫、出来るよ。曜ちゃんなら絶対に出来る」
曜「うん……」
千歌「世界がどうとか私がどうとかは考えなくていい。曜ちゃんは自分の未来の為に戦って」
千歌「私は曜ちゃんを信じてるから」ニコッ
曜「……はは、やっぱり千歌ちゃんは強いなぁ」
曜「―――ありがとう。勇気が湧いてきたよ」ニッ
492: 2019/06/18(火) 00:07:27.86 ID:3zeUavV40
ヨハネ「作戦会議は終わったかしら?」
曜「うん、バッチリね」ゴオオッ!!
黒と橙
二種類の炎が空間を奪い合うように燃え広がる。
一度辺りに拡散した炎は循環し、徐々に手の平へと集中、圧縮されてゆく。
夜の炎はより漆黒へ近づき
大空の炎はより透明度の高い蜜柑色へと近づいた。
『……き、こえる?』
曜「この声は……」
『返事は要らないわ、今曜の心に直接話しかけてる。そのまま聞いて頂戴』
……分かった。
『これから技の発動に必要な詠唱文を教える』
え、今時詠唱を使う技なの?
『記号化された魔法陣を伝えてもいいけど、ぶっつけ本番なら詠唱の方が発動出来る可能性が高い』
『……それに、こっちの方が展開的に燃えるでしょう?』
……えへへ、一理あるかな!
『さあ、行くわよ曜。私に続いて……声では無く心で、そして祈るように唱えなさい』
曜「……ふぅ」
曜は右手を突き出し、軽く目を瞑る。
曜「―――揺らぐ事無き聖なる想いが、あらゆる絶望を拒絶する」
曜「『夢』、『勇気』、『希望』、『覚悟』、我が想いに呼応し、四枚の花弁となりて迫り来る災を打ち払わん!!」
ヨハネ「何をしたところで無意味! 今度こそ魂すら消滅させてやる!!」キイイィィィィンン
曜「現出せよ―――」
ヨハネ「消え去れ―――」
曜「―――『擬/カランコエの花弁(モールド・アイアス)!!!!!』」
ヨハネ「―――『終焉の一撃(コルポ・フィーネ)!!!!』」
―――ゴオオオォォッ!!!!!
493: 2019/06/18(火) 23:17:50.80 ID:3zeUavV40
何もかも焼き尽くす漆黒の炎。
これを凌げる物質はこの世界には存在しない。
……だが、それは一般的な物理現象の話。
曜が作り出した蜜柑色の四枚の花弁は『心』そのもの。
穢れ、迷い、恐怖、不安。
その一切が無ければ傷一つ付かない完全無欠の盾となる。
曜「――――ああ、ぁあああああああ!!!!」
曜パパ『いいかい? リングの炎に必要なのは想いの強さだよ』
曜パパ『自分が心から守りたい、救いたいと思ったその時、そのリングは曜に力を貸してくれる。どんな強敵にも立ち向かえる勇気を与えてくれるんだ』
……へへ、本当だ……パパの言う通りだったよ。
これなら千歌ちゃんを守り切れそうかな。
千歌「ぐっ、ぐうぅぅ……よ、ようちゃん!!」
曜「……ねぇ! こんな時になんだけど聞いて欲しい事があるんだ!」
曜「千歌ちゃん前に私に謝ったよね?『自分のせいで私の人生をめちゃくちゃにしちゃってごめん』ってさ」
千歌「い、言ったけど……」
曜「……全くその通りだよ! 平凡だった私の世界はガラッと変わってさ……今は神様と戦ってるんだよ!? こんなの想像出来る? ほんっと予想外過ぎて訳が分からない!」
千歌「うぅ……」
曜「……でもね、謝る必要は全然無いよ。寧ろ感謝してる」
千歌「!」
494: 2019/06/18(火) 23:26:39.41 ID:3zeUavV40
曜「私さ、あの日あの砂浜で倒れてる千歌ちゃんを見つけた時、実はものすっっごーーーくワクワクしたんだ! この子と一緒ならきっと劇的な何かが起こる、根拠なんて何一つ無かったけどそんな予感がしたの……」
曜「そりゃ沢山痛い事や辛い事、悲しい事もあったし、氏にかけた事だって何度もあった」
曜「……それでも、私は千歌ちゃんと出会った事を後悔した瞬間は一度だって無い!!」
千歌「……待ってよ、どうして今そんな事を……」
曜「千歌ちゃんと出会えて……本当に…心から幸せだった!」
千歌「いやだ……聞きたくない! そんな最期みたいなセリフ……っ!」
曜「あー……だよね、ごめん……どうしてもこれだけは伝えたかったからさ」
曜「―――ここでお別れだよ……役目は最後までちゃんと果たすから安心して」
千歌「一人にしないでよ!! 私が……私だけが残った所でどうしたらいいのさ……っ」
曜「大丈夫、千歌ちゃんの中に必要なものは全部揃ってる。あとは、ほんの少しの勇気だけ」
曜「私に分けてくれた勇気を自分に使えば、ね?」
千歌「ウソだよ……私には何も……」
曜「信じてあげて……自分だけの、千歌ちゃんだけの力をさ」
曜「――――――――……信じてるから」ニコッ
千歌「よ――――――――」
――――――――カッッ!!!!!
――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
495: 2019/06/22(土) 23:36:42.70 ID:7YKhWNNh0
ヨハネ「守り切った……か」
千歌「………うっ、うぅ」ポロポロ
曜は消滅した。
それでも彼女の強い想いが影響し
盾だけは今なお、傷一つ無い状態で残り続けている。
ヨハネ「今度こそ一人になったわね。あいつは必氏になって守っていたけれど、『同調』しか使えないお前が残った所で何が出来るのやら」
千歌「……」
ヨハネ「大空の炎を使われた時は少し焦った。あれは私の夜の炎に対抗出来る数少ない炎の一つだからね。お前も大空のAqoursリングを持っているのは知っている。……それを使えないのもまたね」
千歌「……リング」ジャラッ
ヨハネ「もう諦めなさい。これ以上抗っても意味がない……奇跡は起こらない」
千歌「………」
496: 2019/06/22(土) 23:38:32.31 ID:7YKhWNNh0
~~~~~~~~~~~~~
~ある日の飛込み大会 選手控え室~
曜『………』シャン、シャンシャン
千歌『よーちゃん! 応援に来たよ!』ガチャッ
梨子『ちょっ!? 他の選手も居るんだから静かに入らないと!』
千歌『ふっふっふ、この部屋に曜ちゃんしか居ないことは既に把握済みなのだ! だから大丈夫!』
梨子『あ、なら……って、それでも曜ちゃんに迷惑かけてるじゃない!』
曜『………』シャンシャン、シャン
梨子『……あれ? 曜ちゃん?』
千歌『目瞑って音楽聴いてて気が付いてないや』
曜『……ん』パチッ
曜『あっ! 千歌ちゃんに梨子ちゃん! 来てくれたんだね、ありがとう!』
梨子『ごめんね? 試合直前に押しかけちゃって……』
曜『いいよいいよ。二人の顔を見たらリラックス出来て緊張もほぐれるし』ニシシ
497: 2019/06/22(土) 23:42:47.91 ID:7YKhWNNh0
千歌『イヤホンから音漏れするくらいの大音量で何を聴いてたの?』
曜『Aqoursの歌だよ。最近の試合前は必ず聴いてるんだ』
梨子『Aqoursの?』
曜『飛込みの大会ってライブの時と違って一人じゃん? すぐ近くに励ましてくれる仲間が居ないから緊張と心細さで頭が真っ白になったり、逃げ出したくなったりしちゃう事が結構あるんだ』
梨子『ちょっと意外かも……何度も大会に出場してるから緊張には慣れっこだと思ってた』
曜『そうでもないよ。前までは無理矢理にでも奮い立たせて飛込み台に向かってた。でも今は違う』
曜『歌詞が、メロディーが、歌声が……弱気な私に勇気と力を与えてくれる。「何でも出来るぞー!」、「今の私は無敵だぞー」って気持ちになれるんだ!』
梨子『勇気と力を与えてくれるその歌、曜ちゃんも歌ってるけどね』フフッ
曜『まあね』アハハ...
千歌『ちなみに、今はAqoursのどの曲を聴いてたの?』
曜『ええっとね……あ、これこれ!』ポチポチ
曜『――――この曲だよ!』
498: 2019/06/22(土) 23:46:48.43 ID:7YKhWNNh0
――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
千歌「―――勇気を…出して………みて。本当は……こ、わい、よぉ……」
ヨハネ「なんだ…? 技の詠唱……?」
千歌は歌う。
敵は簡単に世界を消し去るほどの圧倒的な力を持つ。
頼れる仲間はもういない。
それでも自らを奮い立たせる為、今にも消えそうな震える声で歌う。
千歌「―――…強さを、くれ……たんだ……あきらめ……なきゃ、いいん……だ」
ヨハネ「違う……これは“歌”か」
千歌「何度だって……追い、かけ、ようよ……負けない……でぇ……」ポロポロ
ヨハネ「……無駄だ。仮にそれが技の発動のトリガーだったとしても、リングに炎が灯らなければ発動しない」
千歌「……う、う…うぅ………」ポロポロ
……ヨハネの言う通りだよ。
私は一度だってリングに炎を灯せていない。
この世界の住人じゃない私じゃ……無理だったんだよ。
曜『―――千歌ちゃんと出会えて……本当に…心から幸せだった!』
499: 2019/06/22(土) 23:48:09.30 ID:7YKhWNNh0
千歌「………ぃ」
花丸『――何も言わずに居なくなった友達を連れ戻す。それがマルの夢ずら♪』
千歌「………エナイ」ボソッ
ヨハネ「ん?」
ルビィ『―――またお姉ちゃんの笑顔が見たい。……叶う、かな?』
千歌「………消えない」ボソッ
果南『―――いつかもう一度、ダイヤと一緒に冗談を言い合ったり笑い合ったり……そんな当たり前だった日常を取り戻す。これが私の夢かな』
千歌「………夢は、消えない」
曜『――――――信じてるから』
千歌「――――――夢は消えない……消させない!!!!」
500: 2019/06/22(土) 23:49:27.17 ID:7YKhWNNh0
涙を拭い、拳を固め、再び立ち上がる。
力強く。
ヨハネ「………」
千歌「そうだ……ここで諦めたら今度こそ何もかも終わっちゃう!! そんなのはダメだ!!」
千歌「だって私が……最後の希望なんだから!!!」
ヨハネ「……それで? いくら粋がったところで、貴様ではこの状況をひっくり返すことは出来ないだろ?」
千歌「……曜ちゃんが『信じてる』って言ってくれた」
ヨハネ「は?」
千歌「私の大切な人が信じてるって言ってくれたんだ。命を賭けて守ってくれた。希望を託してくれたんだ! 諦めるわけにはいかない」
ヨハネ「……くだらない。リングに炎すら灯せないお前に、一体何が出来る?」
千歌は首にぶら下げていたチェーンを引きちぎる。
そして大空のAqoursリングを右手の中指にはめ込んだ。
ヨハネ「無駄だ。体の構造が異なるお前にそのリングに炎を灯すのは不可能だ」
千歌「……いいや、そんな事は無い」
ヨハネ「何?」
――ボオオッ!!
ヨハネ「!?……橙の、炎…だと!?」
千歌「……私の中には鞠莉ちゃんの魂が宿っている。曜ちゃんが『同調』で大空の炎が使えたのなら、宿主の私だって使えても不思議じゃない」
千歌「私に足りなかったのは勇気……誰かの為に、例え一人でも立ち向かおうとする勇気が足りなかったんだ」
ヨハネ「この土壇場で……っ」
501: 2019/06/22(土) 23:51:09.99 ID:7YKhWNNh0
ヨハネ「―――だが、お前は技どころか匣兵器すら持っていない。ほぼ丸腰状態でどう戦う!?」
千歌「技ならある。とっておきのものが一つだけね!!」
ヨハネ「何ぃ?」
……ウソ、今のはただのハッタリ。
それでも私が技を使える可能性はゼロじゃない。
果南ちゃんや花丸ちゃん、他のみんなは知らなかった。
曜ちゃんだけが知ってた裏ワザ。
鞠莉ちゃんが知っていたかは分からない。
けれど、もうこの方法に賭けるしか無い!!!
千歌「お願い鞠莉ちゃん……力を貸して………ッ!!!」
曜が独自に見つけた魔法陣を一つだけ記憶させる事が出来るリングの隠された特性。
もし鞠莉もこれを知っていれば、何らかの魔法陣を記憶させている可能性がある。
どんな魔法陣を記憶させているのか?
この状況をひっくり返せる技なのか?
そもそもこの裏ワザを鞠莉が知ってるのか?
全て賭けである。
千歌はリングをはめた手を高らかに振り上げ、力の限り叩きつける。
千歌「はあああああああ!!!」バンッッ!!!
――――キイイィィィィンッ!!!
叩きつけた手のひらの前方に眩い光を放ちながら魔法陣が生成される。
ヨハネ「は、発動した……っ!?」
502: 2019/06/22(土) 23:54:10.18 ID:7YKhWNNh0
千歌「ぐぅ、何も見えな……」
光で視界がハッキリしないが
光の中、魔法陣の中心付近に黒い影が見える。
影の大きさからそれは人型の何かだった。
カツン……カツン……
千歌「……? 足音?」
「―――確かにヨハネの言う通り、何もしなければ奇跡は起こらないわ」
千歌「!?」
「それはどんなに無様でも、見苦しくても、不恰好でも……足掻いて足掻いて足掻いて、それでも足掻き続けた者だけが最後に掴み取れる」
ヨハネ「その声……その姿……貴様は……っ!」
鞠莉「……奇跡は起きるものじゃない、起こすものだから!」
503: 2019/06/30(日) 17:22:28.21 ID:iHDRX92w0
千歌「……ま、りちゃん……鞠莉ちゃん!!!」
鞠莉「やっと会えたわね……千歌っち♪」
ヨハネ「馬鹿な……貴様はこの手で確実に頃したはず!?」
鞠莉「ええ氏んでるわ。千歌っちの技で生き返ったの」
鞠莉「使用者と強い絆で結ばれた者を氏後の世界から再び現世へと転生蘇生させる技よ」
ヨハネ「転生、蘇生……だと!? そんな技がこの世界に存在するはずが無い!!」
鞠莉「当然よ。だってこれは私、歩夢、雪穂の三人がそれぞれが持つ、過去と未来、無限に広がる世界線に干渉する能力を掛け合わせて生み出した新技だもの」
ヨハネ「三人の能力を掛け合わせた技なら何故、高海千歌一人で……っ!?」
鞠莉「……これ、なーんだ?」ジャラッ
ヨハネ「……音ノ木坂を虹ヶ咲のリング……っ、まさか」
鞠莉「そ、氏の直前に歩夢が発動させた技で私達三人の魂は融合したのよ。千歌っちの中に融合した私達が宿っていたからこの技が発動した」
鞠莉「三人の中で誰が表に出るかは不確定だったけど……誰が出てもヨハネを目的は変わらなかったから問題無かったしね」
千歌「鞠莉ちゃん……なんだよね?」
鞠莉「Of course♪ 初めましてのはずなんだけど、もっと昔から仲が良かった感じがするわね!」ニコッ
千歌「……なんだろ、今までこの世界で会って来たメンバーと何か違うような……」
千歌「ううん、違うっていうのは正しくない、私が知ってる鞠莉ちゃんの姿そのものなんだよ……服も浦の星の制服だし」
鞠莉「その認識で間違っていないわ。千歌っちのイメージから生成された小原鞠莉の体に、この世界の私の魂が入っているんだもの」
鞠莉「だからまた全盛期の若い体になってと~~っても気分がいいわ♪ 十代って素晴らしい!!」ニコニコ
千歌「あはは……私の知ってる鞠莉ちゃんと全然変わらないや」
504: 2019/06/30(日) 17:25:39.97 ID:iHDRX92w0
ヨハネ「小原鞠莉……貴様が生き返ったのは想定外だが、何も問題は無い」
鞠莉「……む」
ヨハネ「女王である貴様は戦闘に特化した技を持ち合わせていない。私の攻撃を防ぐ事は出来ても、倒す事は出来ない!」
千歌「そ、そうなの?」
鞠莉「ええ。敵の迎撃はもっぱら守護者に任せていたから、私はそれを補助する技しか習得してないわ」
千歌「うそおぉ!? じゃあどうやってヨハネを倒すのさ!!?」
鞠莉「まあそう焦らないで。力が足りないなら他で補えばいいのよ」
鞠莉「……それは道具でもいいし、頼れる仲間でもいい」
千歌「仲間……それって……っ!」
鞠莉「炎の残量的にあと二人転生蘇生出来るわ」
千歌「!」
鞠莉「転生蘇生人間の条件は二つ、“その者と強い絆で結ばれている事”と“この世界に存在していた人間である事”よ」
千歌「だったら……っ!」
鞠莉「多分千歌っちは真っ先に曜を候補に挙げたと思うけど、曜は条件の後者に該当しない」
千歌「なんで!?」
鞠莉「曜の存在は、先のヨハネの攻撃を喰らった影響で生きていた痕跡を完全に抹消された。呼び出す魂が無ければ蘇生出来ない」
千歌「じ、じゃあ……曜ちゃんはもう……」
鞠莉「大丈夫、曜の事は後で何とかなるわ。その為にもヨハネをここで倒さないといけないけどね」
ヨハネ「ハっ! 私を倒すなど不可能よ!」
ヨハネ「技の起点となっている高海千歌を消せば貴様も共に消える! それでジ・エンドよ!!」
真上に突き上げた右手に夜の炎が再び集中し始める。
それは巨大な火球となり二人をまとめて消し去るには充分の威力を秘めている。
鞠莉「攻撃が来るわ!」
505: 2019/06/30(日) 17:28:30.21 ID:iHDRX92w0
千歌「鞠莉ちゃんの技で防げないの!?」
鞠莉「私の技で防ぐには規模がデカすぎる。確実に相殺出来るかビミョーね」
千歌「じゃあどーするのさ!?」
鞠莉「あれを一撃で相頃する事が出来て千歌っちと強い絆で結ばれている仲間……そんな人なんて限られているわ」
千歌「で、でも……その人とはこの世界ではそこまで……」
鞠莉「それを言ったら私だってそうでしょう? 転生蘇生に必要な絆の力は元の世界のものが適応される! 無数に存在する世界で私達と強い絆で結ばれた人間は唯一あなただけ。だから千歌っちを選んだ!!」
千歌「来てくれる、かな……?」
鞠莉「信じなさい……あの子なら、きっと来てくれるから!」ニコッ
千歌のリングに炎が灯る。
そして、もう一度地面を叩く。
鞠莉の言葉を、自分が築いてきた絆を信じて……。
千歌「お願い、来てっ!!!」カアァァッ!!!
ヨハネの攻撃と同時に二つの魔法陣が展開される―――――。
「―――――――『絶対零度(ズェーロ・アッソルート)!!!!』」
火球は一瞬で凍結
運動エネルギーを失い、そのまま落下した。
「―――ひゅ~~、流石だね。あの規模の炎を一瞬で凍らせちゃうなんてさ」
「褒めても何も出ませんよ。そもそも、あなたがもっと早く動けば無駄な力を使わずに済んだのですがね……」
「そんな事言われもさぁ……まさか右手の力が標準であるとは思わないじゃん?」
「ヘルリングも同じ人間に三度も使われるとは予想外だったのでしょう。体が呪いに打ち勝ったのとだと思いますよ」
「嬉しい誤算だよ」ニヤッ
魔法陣から現れたのは浦の星女学院の制服を着た二人の少女。
一人は美しい青い髪の長いポニーテール。
もう一人は黒髪ロングの痩躯の麗人。
絶望的な状況は変わらないが
その後ろ姿と声を聞いて、千歌と鞠莉は思わず笑みがこぼれてしまう。
506: 2019/06/30(日) 17:31:11.59 ID:iHDRX92w0
千歌「ああ……良かった、本当に来てくれたんだね……」ポロッ
鞠莉「―――ダイヤ、果南!」
果南「……久しぶり、鞠莉」
ダイヤ「お互いに随分と若い姿になりましたわね」フフ
鞠莉「さあ! Come on、二人とも!」バッ!!
果南「……はい?」
ダイヤ「あの、鞠莉さん? 何故、両手を広げているのです?」
鞠莉「……あ、あれ? 感動の再会で泣き崩れる二人をハグするつもりだったんだけど……意外と冷静?」
ダイヤ「……馬鹿なのですか? 状況を考えなさい状況を!」
果南「再会を喜ぶのは後回しかな。……よっ!!!」キュイィィン!!
果南はヨハネからの横槍を右手で難なく打ち消す。
果南「油断してると思った?」
ヨハネ「チッ、しっかり警戒してるか」
鞠莉「全く……空気読めないわね、アイツ」ハァ
ダイヤ「当然の攻撃です。わたくしが敵でも同じ事をしていますわ」
鞠莉「ダイヤ……嫌な奴になったわね。その考え方は嫌いよ」
ダイヤ「んなっ!?」
果南「鞠莉が知らない間にダイヤは変わっちゃったからさ……あの頃の清純なダイヤはもういない」
鞠莉「そうね、あの頃のダイヤはもっと……ん? そもそもダイヤって昔からこんな感じゃなかったっけ?」
ダイヤ「氷漬けにしてやりましょうか? ええ?」ニコニコ
千歌「悪ふざけしてる場合じゃないのに……」
鞠莉「さてと……挨拶はこのくらいにして、そろそろ始めないとね」
鞠莉「果南とダイヤは好きなように暴れなさい。私が後方でバッチリ援護する! 千歌っちは辛いとは思うけど、全力で炎を灯し続けて!」
千歌「私が三人の炎の供給源になってるから、だよね? 任せて! 絶対に……氏んでも炎は消さないから!!」
507: 2019/06/30(日) 23:14:21.54 ID:iHDRX92w0
鞠莉「理解してるならそれでいいわ!」
果南「……ふふふっ」
ダイヤ「何を笑っているのです?」
果南「だってさ……私達付き合いは長いけど、こうやって肩を並べて戦う機会って一度も無かったじゃん? だから嬉しくなっちゃって」エヘヘ
ダイヤ「……ふっ、精々足を引っ張る事は無いようにお願いしますね」
果南「そっちこそ、女王様特有の慢心であっさりやられないでよ?」
「「「―――形態変化(カンビオ・フォルマ)!!!」」」
三人はAqours匣を開口、専用武器が出現し、『MIRAI TICKET』衣装へと換装した。
ダイヤは日本刀型の匣兵器『時雨』
鞠莉は両手首に補助装置の『ブレスレット』
果南は左手から腕まで覆う『ガントレット』
果南「初めて装備したけど、長年使い込んだみたいにしっくりくる」
ダイヤ「驚いた……この匣兵器は曜さんが使っていたので、それ相応の調整がしてあると思っていたのに……」
果南「匣兵器の調整が出来るような技術者は居なかったからさ」
ダイヤ「全く手を加えずにあれだけの……っ! つくづく恐ろしい子ね……わたくしを追い詰めただけの事はありますわ」フフ
鞠莉は果南とダイヤの背中に手を当てる。
二人の体に橙色の炎がオーラの様に薄っすらと纏わりつく。
鞠莉「身体のリミッターを外した。今なら100%の力を発揮出来るわ」
果南「氏ぬ気弾の効果と似てるね」
ダイヤ「身体へのリスクとタイムリミットは?」
鞠莉「私が二人に使う技にリスクはなんてあるわけ無いわ」
果南「サラッととんでもない事を言い切るな……」
鞠莉「タイムリミットは千歌っちの炎……正確には千歌っちの中に居る私と歩夢、雪穂の炎が尽きるまでよ」
ダイヤ「もっと具体的に!」
鞠莉「どう、千歌っち?」
508: 2019/06/30(日) 23:17:44.54 ID:iHDRX92w0
千歌「感覚になっちゃいますけど……多分さっきダイヤさんが使った技を連続で二回使ったら空っぽになると思います」
ダイヤ「それが分かれば十分ですわ」カチャッ
ダイヤは刀を構える。
『時雨』の刀身は美しい蒼炎色を放つ。
この匣兵器は元々ダイヤ専用に調整されたもの。
それを曜が使用していたのだから、多少は改造されていて当然だと踏んでいた。
しかし、実際には調整など全くされていなかった。
それでも曜はこの匣兵器の性能を十二分に引き出していたのだ。
その適応力にダイヤは感嘆したのだ。
ダイヤ「わたくしも負けていられませんわね。曜さん以上に使いこなせねば黒澤家の名が廃りますわ!」
果南も鞠莉の技に上乗せする形で自身の技である『最高の輝き(ラスト・サンシャイン)』を発動。
鞠莉の補助により『最高の輝き(ラスト・サンシャイン)』の欠点である身体への負荷は完全克服している。
ガントレットで手を覆っているのでリングが砕ける心配は不要。
全力で殴っても体が自壊することは無い。
解除後に寿命で力尽きる事もない。
その肉体はあらゆる逆境を砕き、明るく照らす日輪となる。
果南「うん、最高のコンディション……負ける気がしない!」
鞠莉「さあ、二人とも……思う存分暴れて来なさい!!」
果南・ダイヤ「「ッッ!!!」」ダッ!!!
走り出す二人。
それに対してヨハネは夜の炎を弾丸状にして掃射する。
果南は強化された反射神経で体に当たる炎だけを正確に右手で打ち消す。
一方、ダイヤは防御の姿勢を全く見せない。
このままでは直撃は免れない。
千歌「ダイヤさん!?」
鞠莉「大丈夫よ、ダイヤは既に型に入ってる」
ダイヤ「――――守式四の型 『五風十雨』」
迫り来る攻撃の呼吸に合わせ、高速で躱す。
鞠莉の補助とAqours匣の相乗効果で弾丸程度の速度なら当たる事は無い。
千歌「速すぎて残像が出来てる……っ!」
509: 2019/06/30(日) 23:25:27.79 ID:iHDRX92w0
鞠莉「あの程度の攻撃なら止まって見えるでしょうね」
ヨハネ「クッ、範囲攻撃じゃ陽動にもならないか!」
最短距離で突っ込んで来た果南が拳の届く範囲まで接近。
果南「うりゃああ!!!」ブウゥン!!
果南の右ストレート。
ガントレットが装備されてない右手だが、夜の炎の影響を全く受け無いでダメージを与えられる。
翼で防げば打ち消され、腕で防げば最低でも骨折。
ヨハネは『瞬間移動(ショートワープ)』で躱す。
ダイヤ「ええ、あなたならそう避けるでしょうね」
ヨハネ「!?」ゾッ
ワープで移動した先には刀による突進攻撃
攻式 一の型 『車軸の雨』を繰り出すダイヤが居た。
想定外の攻撃に回避は間に合わず、翼による防御で軌道を変え、致命傷だけは防ぐヨハネ。
ダイヤの攻撃はこれで終わらない。
ダイヤ「――――『車軸の雨』から攻式 五の型……」
ヨハネ「追撃ッ!」バッ!
ダイヤの手の動きから次の斬撃の軌道を予想。
翼による防御体勢を整えた。
ヨハネ「……はぁ?」
……が、斬撃は来ない。
翼の手前を素早く手が横切っただけ。
ダイヤは直前まで左手に持っていた刀を空中に置き去りにし、右手に持ち替えたのだ。
相手の守りのタイミングを狂わせ、変幻自在の斬撃を放つ攻式の型。
ダイヤ「――――『五月雨』」
ズバッ!!!
ヨハネ「うぐうぅッ!!!?」
ダイヤ「……浅いか! ギリギリで後ろに飛んで避けられた!!」チィッ
ヨハネは一旦『瞬間移動(ショートワープ)』でダイヤの斬撃が届く範囲から脱出を図る。
ダイヤ「……移動範囲は自身を中心に半径三メートル、ですね」ニヤッ
ダイヤ「―――果南さん!!!」
510: 2019/06/30(日) 23:26:58.36 ID:iHDRX92w0
果南「……ふっ!!!」ゴオオッ!!
攻撃準備を完了している果南が待ち構えていた。
左の拳に炎を集中させている。
ヨハネ「果南ッ!? 何故移動先に居る!!?」
反射神経が良いとか勘が鋭いとか、そんなんじゃない。
移動先を完全に読まれている……?
ヨハネ「……違う、私が誘導されていたのか!」
ダイヤ「ご名答ですわ」ニコッ
果南「ぶっっっ潰れろおおぉ!!!!」
ヨハネ「ッッッッ!!!!!?」ミキミキミキッッ!!!
巨大な氷塊を一撃で粉々にした拳がヨハネの頬を捉えた。
鼓膜が破れんばかりの爆発音と共にヨハネは地面に叩きつけられ、小規模のクレーターを作る。
ほんの一瞬だけ意識が飛んだヨハネだが、すぐにワープで距離を取った。
果南「むっ、手ごたえアリだったんだけど……意外と硬いな」
ダイヤ「いいえ上出来ですわ。見なさい、相当のダメージを与えられている」
ヨハネ「ゼェ、ゼェ……き、貴様……『瞬間移動(ショートワープ)』の間合いを……ッ」
ダイヤ「このわたくしが曜さんと梨子さんの戦いをただ眺めていただけだとお思いで? じっくり観察させて頂きましたわ」
ヨハネ「だとしても、その情報は果南に伝えて無かったはずだ! なのに何故あれだけの連携を……っ」
ダイヤ「この程度、一瞬のアイコンタクトで充分可能ですわ」
果南「そーゆー事」コキッ、コキコキッ
ヨハネ「こ、この私が人間ごときに……ッ」ギリギリッ!!
ダイヤ「鞠莉さん、千歌さん! 次の攻撃でケリをつけます。もっと炎を回してもらっても構いませんか?」
千歌「勿論です!」
ヨハネ「調子に乗るな!!」
ヨハネの六枚の翼が数倍の大きさに膨張。
ダイヤは『時雨』で、果南は右手で咄嗟に防御体勢を取る。
二枚の翼はそれぞれの足元へ振り落として動きを制限させ、残り全てが鞠莉と千歌に向けて薙ぎ払われた。
千歌は曜が残した盾の後ろに居るが、この攻撃はその盾を避けるように多方向から襲い掛かって来ていた。
鞠莉「―――――『カランコエの花(アイアス)!!!』」
鞠莉は襲い掛かってくる全ての翼に対して、同様の盾を瞬時に展開させた。
ヨハネ「……」
鞠莉「安直な攻撃ね? 力の供給源である私達の守りが甘い訳無いじゃない」
鞠莉「そして、今の攻撃で決定的な隙が生まれた」
511: 2019/06/30(日) 23:30:17.62 ID:iHDRX92w0
ダイヤ「―――――――『絶対零度(ズェーロ・アッソルート)』」パキッ、パキパキッ
注意が逸れた瞬間に大技を発動する準備を整えていたダイヤ。
仮に『瞬間移動(ショートワープ)』を使用されても逃さぬよう、ヨハネの周囲数メートルを瞬く間に凍らせた。
一度氷河の炎で凍らされた者は自力でその氷を溶かす事は決して出来ない。ヨハネの動きは完全に―――。
―――果南はヨハネの攻撃に違和感を覚えた。
当たれば即氏なのは変わりないのだが、これまで使用された技と比較すると威力が極端に弱い。
鞠莉に軽々防がれるのは容易に予想出来る。
ヨハネにしては明らかにお粗末な攻撃。
果南「……ッ!? ダイヤ!!!」
ダイヤ「い、居ない……っ、氷の中にヨハネの姿がッ!!?」
果南「まさか―――――――」バッ!!
二人は鞠莉と千歌のいる方向を向く
『瞬間移動(ショートワープ)』
自分の体を目視出来る場所へ一瞬で移動させる技。
場所と場所を『線』ではなく『点』で結ぶので移動中に外部から影響を受ける心配は無い。
移動距離が長いほど発動までにタイムラグが生じ、三メートルの移動には発動から移動完了まで約0.5秒。
ダイヤが予想した移動可能範囲は正確では無い。
この技は体に大きな負荷が掛かる。
果南の『最高の輝き(ラストサンシャイン)』と同等かそれ以上の負荷だ。移動距離が伸びれば伸びるほど反比例して増加する。
三メートルとは移動出来る限界値では無い。
ヨハネが安全が保障される距離である。
リスクを度外視すればいくらでも距離は伸ばせるのだ。
ヨハネと千歌との距離はおよそ15メートル。
タイムラグは2.5秒。
ヨハネの致命的な隙を生んだと思われた攻撃は発動までのタイムラグを稼ぐ為のもの。
ヨハネ「――――神はサイコロを振らない。始めからこうすれば良かったのよ」
千歌「………えっ?」
千歌と盾の丁度中間地点
ヨハネはそこに移動先を設定した。
反動で全身ズタボロの状態になっているが、丸腰の千歌を頃すには影響は無い。
ヨハネ「発動者のお前を殺せば三人も消える。馬鹿正直に相手をする必要は無いのよ」
512: 2019/06/30(日) 23:33:33.48 ID:iHDRX92w0
ダイヤ「こ、の………ッ!!!」ゴオオッ!!
この愚か者ッ!
どうして移動範囲が三メートルだけだと決めつけた!?
慢心するなと果南さんに忠告されたではありませんか! なんて無様な失態ですの……っ!?
果南「ちかあああぁぁッ!!!!!」ダッ!!!
この距離、最大出力で何秒掛かる?
三秒? 二秒?
ダメだ全然間に合わない!!
……間に合わない?
違う、間に合わせるんだ!!!
千歌は絶対に氏なせない!!!
鞠莉「……ち、か!!!」ボオッ!!
ダイヤと果南は間に合わない。
だから一番近くに居た私が何とかしなきゃならない。
でも……この大馬鹿は完全に油断してた!!
ヨハネはちょっと手を伸ばせば千歌っちに届く位置に居る。
私も隣に居るけど驚いて反応が一瞬遅れた!!
技で防ぐ時間は無い。
ギリギリ突き飛ばして身代わりに……!?
ヨハネ「もう遅い手遅れだ!」
千歌「ヨ、ハネ……っ!」
ヨハネ「これで……終わりよ!!!」
ヨハネは夜の炎を纏わせた右手を伸ばす。
触れれば即氏。
千歌に防ぐ術は何も無い。
……ああ、なんて呆気ない最期だ。
せっかくダイヤさんと果南ちゃん、鞠莉ちゃんが協力して勝てそうだったのに。
私が不甲斐ないせいで台無しにしちゃった……。
ごめん、みんな……
ごめん、曜ちゃん………ごめんね。
氏を悟った千歌は思わず両目を強く瞑った……。
513: 2019/06/30(日) 23:38:56.15 ID:iHDRX92w0
―――ジャラジャラジャラッッ!!!
千歌「……………ぅ?」
……どれだけ待っても氏が訪れない。
恐る恐る目を開けてみると
体中を鎖で縛り付けられ、自由を封じられたヨハネの姿があった。
ヨハネ「……な、にいぃ……!?」ギチッ、ギチギチ
千歌「止まった……?」
ヨハネ「た、盾から……盾から鎖が発生した、だと!??」
千歌「こ、これって……曜ちゃんの技じゃ……」
果南「何で曜の技が発動したの……? だって曜はもう消滅して……」
ダイヤ「……あぁ、そういう事ですか」
鞠莉「ぷっ、あははははははは!! 曜、全くあなたって子は……氏してなお、使命を全うしたのね」
ヨハネ「どういう事だッ!!?」
鞠莉「……あなたの炎は曜をこの世から消す事は出来たけど、『千歌っちを守る』強い想いまでは消せなかった」
果南「曜の想いが具現化した盾だから発動者の氏後もその効果は続いて……」
千歌「……ははっ、やっぱりよーちゃんは凄いや……感謝しても仕切れないよ……」グスッ
ヨハネ「バカな……こんな、事が……ッ」
ダイヤ「強い願い、強い想い、強い祈りは必ず届く……か。曜さん、お見事ですわ」
鞠莉「喜びなさい、曜……これはあなたの勝利よ。まさか初勝利の相手が神だなんてね夢にも思わなかったでしょうね」フフッ
間もなく、駆けつけたダイヤによってヨハネは体、精神共に完全に凍結。
こうして、世界の命運を賭けた戦いに終止符が打たれた。
514: 2019/06/30(日) 23:41:07.72 ID:iHDRX92w0
~~~~~~~~~~~~~
千歌「これで全部終わったんだね……全部」
果南「最終的には勝てたけれど、失ったものが多過ぎる……」
ダイヤ「わたくし達以外は全員氏亡しています。この先どうすればいいのか……」
鞠莉「心配には及ばないわ。ヨハネさえどうにかすれば、後はなんとでもなるから」
千歌「そう言えばあの時も似たような事を言ってたよね?」
ダイヤ「何をするつもりですの?」
果南「私達を生き返らせた技を全員に使うとか?」
鞠莉「それは無理。蘇生させるにも、それを維持するにも莫大な炎が必要だし、発動者の千歌っちが一生帰れなくなっちゃうわ」
千歌「……帰る? またみんなの所に帰れるの!?」
ダイヤ「本当に言っていますの? 別世界から呼び寄せる技は存在しますが、こちらから送る技が存在していた記憶は無いのですが?」
鞠莉「ええ、無いわ」
千歌「えっ」
鞠莉「仮にそんな技があったとしても、この世界で過ごした時間と同じ分だけ向こうの時間も進んでいる」
果南「あ、それだと千歌は半年近く行方不明の状態なのか」
鞠莉「私の勝手な都合で千歌っちの大切な時間を奪うなんてNo goodデース」
ダイヤ「まさか、時を巻き戻すなんて馬鹿げた事を言うつもりじゃ……」
鞠莉「大当たり♡」
ダイヤ「………」
果南「ダイヤが絶句してる」
鞠莉「正確には、雪穂の『過去』を司る能力を応用してヨハネをこの世界から追い出す。この過程で千歌っちを元の世界に送り届けるわ」
千歌「ん? んんっ?」
鞠莉「ヨハネの存在を過去に遡って無かった事にするのよ。そうする事でこの世界を『ヨハネが居なかった世界』へと再構成させる」
鞠莉「ヨハネが居なければ雪穂や歩夢やその守護者、その他大勢の人が氏ぬ事も、ダイヤが最低最悪の女王として君臨する事も、私が千歌っちをこの世界に呼び寄せる事もない」
ダイヤ「タイムパラドックスってやつですわね」
515: 2019/06/30(日) 23:47:02.99 ID:iHDRX92w0
鞠莉「これで千歌っちから奪ってしまった時間を丸々返せるって算段よ」
千歌「それは嬉しいんだけど……それって、ここでの思い出も無かった事になるんじゃ……」
鞠莉「Oh……勘が鋭いわね」
鞠莉「恐らく、長い夢を見た時と同じ感覚になるでしょうね。目覚めた瞬間はなんとなく覚えているけど、すぐに全部忘れちゃうと思う」
千歌「……せっかくこの世界でもみんなと仲良くなれたのに……全部消えちゃうなんて嫌だよ……」
果南「心配しなくたって消えないよ。例え記憶に残らなくたって心にはちゃんと残るさ。曜の強い想いがそうだったみたいにね」ニコッ
千歌「果南ちゃん……」
果南「それで、私達も同じように忘れちゃうの?」
鞠莉「私が技を発動した瞬間、この世界は数年前ヨハネが現れた瞬間から今日までの日々をすっ飛ばして再構成される。二人は今までの事を全部覚えているけど、それ以外の全員は二人とは違う時間を過ごしているから何も覚えていない」
果南「なるほど」
ダイヤ「……鞠莉さんはどうなるのです?」
鞠莉「ん?」
ダイヤ「これだけ世界に影響を与える技なのです……使用者の鞠莉さんに全くリスクが無いとは到底思えない」
鞠莉「……」
ダイヤ「答えなさい。鞠莉さんにはその義務があります」
果南「どうなの、ダイヤ?」
鞠莉「……ま、黙っていてもすぐにバレちゃうもんね」
鞠莉「この技の代償は“私の存在”よ。ヨハネと共に私はこの世界に最初から居なかった事になるわ」
ダイヤ「……え」ゾッ
千歌「最初からって……どこから?」
鞠莉「言葉の通りよ、生まれた事自体が無かったことになる。過去に存在しないのだからタイムパラドックスを起こしても私は生き返らないし、誰の記憶にも残れない」
ダイヤ「そんな……鞠莉さんはそれでいいの!?」
果南「誰の記憶にも残らないなんて……そんな、あんまりだよ……っ」
鞠莉「ああ、果南とダイヤの記憶にはバッチリ残るわよ?」
果南「へっ?」
鞠莉「だから後でバレるって言ったの。言わなかったせいで二人に闇落ちされてもシャレにならないし」
果南「……な、なんで平気な顔してられるの? 記憶に残らないなんて氏ぬより悲惨じゃん!?」
鞠莉「んー……二人の中には確実に残るからだと思うな」
鞠莉「果南とダイヤ、大好きな二人に覚えていてもらえるなら……私はそれで満足っ」ニコッ
果南「………っ」
鞠莉「って事だから、浦の星王国の女王は任せ―――」
516: 2019/06/30(日) 23:50:14.93 ID:iHDRX92w0
ダイヤ「無理です……わ」
鞠莉「ダイヤ?」
ダイヤ「無理です……実際に女王をやってみて痛感しました……私では遅かれ早かれ国を滅ぼしてしまいます」
ダイヤ「私は鞠莉さんの代わりにはなれない……っ」
果南「……」
鞠莉「ダイヤ……」
千歌「―――大丈夫だと思いますよ」
ダイヤ「気休めは止してください」
千歌「気休めなんかじゃないです! 確かに、これまでのダイヤさんのやり方は最善じゃなかったし、周りからの評価も悲惨なものだった」
千歌「……それでも、根底にあったのは鞠莉さんと同じ『国を守りたい』という純粋な想いだったはずです」
ダイヤ「……っ!」
千歌「今までの選択がどれだけ間違いだらけだったとしても、その想いだけは決して間違いなんかじゃない。今のダイヤさんならきっと大丈夫」
千歌「……私はそう思います」
ダイヤ「……千歌さん」
鞠莉「ダイヤに失敗した自覚があるなら問題無い。幸運にも今回はやり直せるのだから、この経験を活かしなさいな」
果南「仮にまたダイヤが間違えたとしても、私がぶん殴って正してあげるからさ。安心して間違いなよ」ニッ
ダイヤ「……それは勘弁して欲しいですわね」
鞠莉「――――さてと、名残惜しいけれどそろそろ始めましょうか」
鞠莉「千歌っち、大空のAqoursリングを渡して頂戴」
千歌「分かった」
鞠莉「Thank you♪」
517: 2019/06/30(日) 23:53:02.37 ID:iHDRX92w0
ダイヤ「音ノ木坂、浦の星、虹ヶ咲の三つのリングが揃った」
鞠莉「このままヨハネに触れて技を発動させる。目が覚めれば新しい世界、元の世界に帰っているわ」
千歌「これで本当にお別れなんだね……」
鞠莉「千歌っち……怖い思いも痛い思いも沢山あったよね……私の勝手な都合でこんな事に巻き込んじゃってごめんなさい」
ダイヤ「わたくしからも謝罪します……申し訳ございませんでした」
千歌「……うん、いいよ、二人共許してあげる。ダイヤさんも立派な女王様になってね」
鞠莉「優しいわね……ありがとう」
ダイヤ「……ええ、善処しますわ」
果南「千歌……ありがとう。そっちの私にもよろしくね? ……覚えて無いと思うけどさ」アハハ
千歌「……果南ちゃんもありがとう。果南ちゃんが味方で本当に良かった! ルビィちゃんや花丸、よしみさんによろしく伝えて置いて!」
果南「うん、任せてよ♪」
―――ボオオォッ!!!
鞠莉「始めるわよ」
千歌「……うん」
ダイヤ「あっ……体が透けて……」スウゥゥ
果南「いよいよって感じだね」
千歌「あ……れ………い、意識が………だん、だん………」ウトウトッ
――――――――果南、ダイヤ、千歌……ありがとう! ………元気でね!
518: 2019/06/30(日) 23:54:28.77 ID:iHDRX92w0
――――――――――――
――――――――――
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――
「………歌………ん?」
「……ーい………千……!」
「おーい、千歌ちゃーーん」ペチペチ
千歌「……ん」パチッ
曜「やっと起きた。爆睡だったね」
千歌「……ここは?」
曜「バスの中だよ。寝ぼけてる?」クスクス
千歌「バス……ああ、そっか……戻って来れたんだ!」
曜「戻る? どこから??」
千歌「どこからって……あれ、どこからだろう?」
曜「もう、やっぱりまだ寝ぼけてるね」
千歌「なんだろう……凄く長い夢を見ていた気がするんだよね……」
曜「ふーん、どんな夢だったの?」
千歌「それが全く思い出せないんだよ。怖かったような、痛かったような、嬉しかったよな、楽しかったような……とにかく不思議な夢だった気がする」
曜「へぇ……まあ、夢ってよく忘れちゃうものだし」
千歌「そうなんだけど……何か大切な事を忘れているような……」
―――プシューーッ
曜「あ、着いたね」
千歌「……ちょっと気持ち悪いけど、そのうち思い出せるかなぁ」ウーン
519: 2019/06/30(日) 23:55:33.80 ID:iHDRX92w0
千歌「まあいっか。行こう、曜ちゃん」スクッ
曜「うん」
曜「………」
『どんなことがあっても元の世界に帰るまで千歌ちゃんを守るよ―――』
曜「……フフ、良かった」
曜「……お疲れ様、千歌ちゃん―――」
千歌「んー? よーちゃん何か言った?」
曜「……えっ、何が?」
千歌「だって今ボソッて何か言ってたじゃん」
曜「私が? 何も言ってないけど……?」
千歌「あれぇ……おっかしいなぁ」
曜「変な千歌ちゃん」
千歌「………あっ!!!!」
曜「うぉ!? 何!?」
千歌「思い出した……一部だけだけど思い出したよ!」
曜「夢の内容を?」
千歌「あのね! あー……やっぱナシ、何でもない」
曜「えー! 何でさ!?」
千歌「いや、だってその……///」カアァァ
曜「え、何で顔赤くしてるの?」
千歌「何でもない! 何でもないから///」ダッ
曜「ちょっ、千歌ちゃん!? 待ってよーー!!」
520: 2019/06/30(日) 23:57:27.32 ID:iHDRX92w0
『―――……きっと、そっちの“私”は千歌ちゃんの事がよっぽど大好きなんだね』
『へ……?///』
『いやー…愛は世界線をも超えるのかぁ。一途といいますか、重すぎるといいますか……ヤバイな、そっちの“私”』
『なんかめっちゃ恥ずかしいんだけどぉ……///』
『あははは! 今度本人に確認してみなよ。元の世界に帰るまで、私が代わりに千歌ちゃんを守るから―――』ニッ
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千歌「勇気は君の胸に」
――END――
521: 2019/07/01(月) 00:02:34.97 ID:EjTce2t+0
去年の今頃に投稿を始めた作品でしたが、いかがだったでしょうか?
大変長らくお付き合い頂き、誠にありがとうございました!
大変長らくお付き合い頂き、誠にありがとうございました!
522: 2019/07/01(月) 00:09:13.08 ID:isO78FVeo
おつおつ!
もう1年も経ってたのか
めちゃくちゃ面白かったよ!
長期間お疲れ様でした
もう1年も経ってたのか
めちゃくちゃ面白かったよ!
長期間お疲れ様でした
引用元: 千歌「勇気は君の胸に」
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