212: 2008/07/19(土) 21:39:59.89 ID:fXovJjuQ0
翌日の部室にて


キョン「おう、皆揃ってるみたいだな」

みくる「わくわく……」
長門「てかてか……」
ハルヒ「キョンにしては準備がいいじゃないのよ」
古泉「んっふ」

キョン「ああ、それじゃあ早速」

カチャコン


――主演:アーノルド・シュワルツェネッガー……


ハルヒ「20世紀フォックスじゃないの!」



【涼宮ハルヒの憂鬱】長門「ポーニョポーニョポニョ…」の番外編


217: 2008/07/19(土) 21:44:10.79 ID:fXovJjuQ0
キョン「冗談だよ冗談、叩くなって……」
ハルヒ「何がどう冗談なのよ?」

キョン「ふー……お前もわかっちゃいねぇなぁ……見てみろよこれ」

俺はパソコンのディスプレイを指差す。

キョン「こーんな汚ぇディスプレイで良い映画を見るなど、制作者への侮辱にも値するだろう?」

ガチャ

喜緑「……それ、コンピ研では一番の最新型のPCなんですよ……」

……パタン

古泉「……」
長門「……」
みくる「……」
キョン「……」
ハルヒ「……」


キョン「……という訳で、俺の家へ行こう」
ハルヒ「ええ……」

219: 2008/07/19(土) 21:52:14.93 ID:fXovJjuQ0
という訳で、俺の家へ向かう事になった訳であるが……

ハルヒ「それにしてもクソ暑いわねぇ……」
キョン「そうだな、しかしこの暑さがあるからこそ冬の有難味が解るというものだろう?」

古泉「ジブリ映画の中でも、”自然”というものが重要なファクターを占めていますしね」
キョン「ほう、お前はなかなか分かっているようだな」
古泉「いえ、昨日のフライデー・ロードショーで少々齧っただけですよ」
キョン「トトロか、確かにあのキャラクター性や知名度はジブリ映画の中でも群を抜くだろうな……」

みくる「あのぉー……」

しまった、朝比奈さんはこの時代の出来事に疎いのか。
蚊帳の外におくなど、一日本男児として断じてやってはいけないことだ。

キョン「暑いですね、アイスでも買っていきましょうか?」

無難な話題で出しておこう。

長門「ならばカレー」

はいそこ、空気読もうね。

221: 2008/07/19(土) 22:01:30.88 ID:fXovJjuQ0
俺の部屋へと着いた途端のこと。

ハルヒ「あぁ``ーあづーい……」
キョン「こら、そこスカートで煽がない」

ハルヒ「麦茶ー!」
キョン「カレーを食えカレーを」

そう、結局長門は譲らなかったのだ。
しかも固形のルーだから非常に扱いに困っている訳である。

みくる「あのぉー……あたしが淹れてきましょうかぁ……?」

客人に、ましてや朝比奈さんにそんな事をさせる訳にはいかないだろう。

キョン「いえ、すぐに持ってきますので映画でも選んでおいてください」

言って棚を指差す。ちなみに前回より解り易い位置に移動させておいた。

ハルヒ「ちょっと何よその態度の変化は!?」
古泉「長門さんはどれを希望されるのですか?」
長門「時を……」
古泉「それ違います」

キョン「ちゃんと決めておいてくれよー」

喧騒を後に、俺は階下へと向かった。

223: 2008/07/19(土) 22:08:35.95 ID:fXovJjuQ0
トクトクトクトク……

冷え切った薄茶の液体を注ぐと、途端にグラスが汗を掻く。
チリリンと響いてくる鈴の音も、窓の外で高く伸びる雲も、季節が夏真っ盛りである事を伝えてくれる。

妹「キョーンくん!」
キョン「なんだ?」
妹「64貸してよー!」
キョン「あぁ、それなら俺の部屋にあるから持ってけ」
妹「はぁーい」

と間延びた返事を残し、視界から消える妹。
フフ、ヤバイ物なら既に前回とは隠し場所は変えているのでトラブルの起こりようも無いぜ?

等と余裕綽々の面持ちでお盆両手に部屋へと戻る俺だったのだが……
思わぬ伏兵が居たもんだな。

225: 2008/07/19(土) 22:19:37.11 ID:fXovJjuQ0
部屋に戻った途端、輪を作るように床へと座り込んでいた皆の視線が俺へと注がれた。
その視線一つ一つが、その、まぁなんだ。
何ともいえない微妙な感情を帯びている。

なんだ? どうしたんだ?
まさかジブリ映画集の中に間違えて”痴女の宅急便”が混ざっていたとかか?

いや落ち着け、それは無い。
それなら先週のいざこざから学び、既に手は打っておいた。
そうだ、やばい物は谷口に貸している。

ならば一体……

古泉「ふぅ……困ったものです……」

溜息と共に古泉が、皆の中心点に置かれていた”何か”を俺へと差し出してきた。


――淫乱テディベア

228: 2008/07/19(土) 22:23:55.43 ID:fXovJjuQ0
みくる「やっぱりキョンくんって……」
その声が震えている。

ハルヒ「……」
あのハルヒすら絶句。

長門「時をかける……」
だからそれ違うって。

キョン「んっふ」
気持ち悪いぞ。

妹「熊さんだぁー」
我が妹よ、君はそのままで居てくれ。


……なんて解説をしている場合じゃあない。

キョン「罠だ、これは罠だ! 誰かがこの僕を陥れようとして仕組んだ罠だ!」

俺の絶叫がこだました。

233: 2008/07/19(土) 22:33:39.40 ID:fXovJjuQ0
キョン「朝比奈さん、信じてください!」
みくる「……」
呼びかけても無言で首を振る動作しか返ってこない。

キョン「ハルヒ!」
ハルヒ「……」
同じく言葉は無い。
そんな……まさかお前まで俺を見放すのか……?

キョン「古泉、俺はそんな奴じゃ――」
古泉「僕でよろしければ何時でも」
にっこり。
じゃねぇだろう!

キョン「長門、一体犯人は誰なんだ!?」
長門「古泉一樹」


キョン「あ、やっぱお前か」
古泉「おや、バレましたか。長門さんももう少し引っ張ってください……」
長門「私は早く映画が見たい」

ハルヒ「そうね、それじゃこれにしましょう」
みくる「天空の城、ラピュタね」

キョン「小芝居はともかく、なかなかいいチョイスだ」


237: 2008/07/19(土) 22:45:14.19 ID:fXovJjuQ0
実は5.1chサラウンドに対応し、プラズマテレビまでもを実装している俺の部屋。
カーテンを閉めればそれなりのシアターとしても雰囲気が出る。

そんな自己解説を行いつつ、僅かばかり得意げにカーテンに手を掛けていると、

ハルヒ「ちょっと! この部屋クーラー無いんだから窓を閉め切らないでよ!」

という全く以ってムードの欠片もない野次を飛ばす人間が居たもんだ。

さらに追い打ちを掛けるように、
有り得ない速度でDVDプレーヤーにディスクを差し込んでいた長門の功績により、
既に画面上にはトレードマークであるトトロのロゴが映し出されていたのであった。


240: 2008/07/19(土) 22:54:48.70 ID:fXovJjuQ0
みくる「サングラスのおじさまカッコイイ……」

開始早々悪役に熱を上げる朝比奈さん。
だがそんな貴女も美しい。

ハルヒ「みくるちゃん、そいつはたぶん悪者よ。なんか声が悪者っぽいし」
古泉「しかしいい男ですね……」

そんな雑談のなか、
長門「……」
食い入るように画面を見つめる長門。
しかし改めて考えると意外なものに興味を示すんだなこいつは。

みくる「あっ、ハエに乗ったおばちゃんが襲ってきました!」
ハルヒ「ハエじゃないわ、ハチよ」
キョン「どっちでも構わないから静かに見てくれ……」

241: 2008/07/19(土) 23:02:37.27 ID:fXovJjuQ0
みくる「きゃああああああああ!! 女の子が……! 女の子が……!」
ハルヒ「落ちた……だと……?」

こいつらうるせぇ。
古泉と長門は無言でグラスを傾けている。

画面上で火急の展開がなされ、その度に悲鳴と声援を送る二人。
やがてパズーの元へシータが落下しているシーンへと移る。

みくる「浮いてる……! 良かった、何故か浮いてます!」
ハルヒ「この子はきっと超能力者ね!
     多分、この子の力でサングラスに復讐するのがストーリーなんだわ!
     あたしにはわかるんだから!」

お前ら石を見ろ石を、如何にも訳ありに輝いているじゃねぇか。

長門「黙って」

みくる「……」
ハルヒ「……」

長門の情熱は計り知れないものだな。

242: 2008/07/19(土) 23:08:19.44 ID:fXovJjuQ0
場面は翌朝、ベッドで眠るシータとそれを眺めるパズーから始まる。
パズーが鳩を放しラッパを吹き鳴らすと……

ハルヒ「なんでラッパなの? 笛の方が格好良くない?」
キョン「知らん」
みくる「というよりこんな高所に登るのは危険じゃないでしょうか?
     地震とか来ちゃったら崖から家ごと転落し――」

ハルヒ&みくる「飛び降りたァー!」

長門「……」
古泉「大丈夫ですよ、映画の主人公は氏にませんから」

キョン「根も葉もない事を言うもんじゃないぞ古泉」

247: 2008/07/19(土) 23:18:58.40 ID:fXovJjuQ0
十分後。

みくる「二人の逃避行が始まる訳ですね」
ハルヒ「なんだか楽しそうね、あたしも誰かと……」

チラリ。

キョン「なんだ? こっちを見ないで画面を見てろ」
ハルヒ「ふんっ」

古泉「ふふふ……」
キョン「顔が近いぞ古泉」

長門「人間の動き、実にユニーク」
キョン「確かに何年経ってもこの書き込みや感性は素晴らしいと思うな」

長門「機械類の動作も特徴が感じられる」
キョン「うむうむ、流石長門は目の付けどころ鋭い」

口を開けたまま画面を見つめる長門。
こういう長門も結構……いやいや何を考えている。
映画に集中しろよ俺。

249: 2008/07/19(土) 23:27:07.89 ID:fXovJjuQ0
それからもそんな様子で、
実況したり解説したり、はたまた無言だったり顔が近かったりで物語は進んでいき……

古泉「さぁ行きますよ? スリー、ツー、ワン……」

古泉「よんじゅうびょうで支度しなぁ!」

キョン「それが言いたかったのかお前は?」
古泉「何しろ久しぶりなものでしてね、つい……フフ」
キョン「まぁ分からないでもないが」

長門「肉……」

ぼそりと長門が呟く。

ハルヒ「なるほど、このハエのおばちゃんを利用して復讐するわけね」
みくる「ハチですよぉー」

そして完全にストーリーを読み違えている二人。

映画は各々が楽しむものだとは言え、少しばかり二人の心情を不安に感じてしまうな。

253: 2008/07/19(土) 23:37:14.18 ID:fXovJjuQ0
みくる「何だかロボットが暴れ……ムスカさぁぁぁぁああああん!!」
ハルヒ「良し、やっちまえ!」

まるでシュワルツェネッガー主演の映画のノリで楽しんでいる二人。

もう俺はツッコミ疲れたよ、好きにやってくれ。
長門も長門で最早何も口にしなくなっているしな。
俺も静観させて貰う事にしよう。

古泉「ふーむ、この後のムスカ大佐のセリフはーと……」

古泉はどうやら次のセリフに備え、記憶の底を探っているようだ。

本当に、こいつらは混沌そのものだ。
こんな所でも、一般人と非一般人の差を見せつけられるとは思わなかったぜ。

ま、俺は麦茶の御代わりでも持ってくることにするかな。

257: 2008/07/19(土) 23:46:41.05 ID:fXovJjuQ0
再び台所へと趣き、
またもや風鈴の奏でる涼やかな音を耳にしつつ、
改めて窓から見える外の景色を窺った時のことだった。

高い雲、青い空。
その最中に確かに何らかの影を見た。

そう、まるでそれは……

なんてな。
まさかな。

キョン「見てない、俺は何も見ていない。これは俺の見間違いだ」

そうだ、画面に集中しすぎた為に見えないものが見えるという事は起こり得る。
何もおかしい事はない。
俺が気にする事じゃあない。

そうだ、俺がやらなければならないことはこの冷え切った麦茶を階上の観客へと届ける事だ。
それ以外に選択肢は無い。

という訳で俺は、いそいそとその場を後にしたのであった。

258: 2008/07/19(土) 23:57:51.04 ID:fXovJjuQ0
部屋の前まで来ると、懐かしい曲が聴こえて来た。
んっちゃ、んっちゃ……というリズム。

俺はそれに合わせて、
キョン「あのひとの、ママに会うために……っておい!」

一同が俺を振り返る。
ハルヒ「あんた何処に行ってたのよ?」
キョン「俺はお前等の為に麦茶をだな」
ハルヒ「はぁ……?」

困惑顔のハルヒ。

キョン「ラピュタはどうしたラピュタは? 石の在り処はどうした?」
古泉「3分間どころか貴方が居なくなってから1時間は待ちましたよ」

1時間……?

俺が長門の顔色を窺うと、
長門「……」
無言のままサッと視線を逸らされる。

こいつ……まさか時間を……?


キョン「知ったこっちゃねぇや」

俺は静観を決め込むことにした。

263: 2008/07/20(日) 00:25:14.74 ID:rvtqyniv0
というのは夏の大気が俺に見せた白昼夢だったようで、
階下の台所にいながら自身の部屋に戻らずとも、階上ではラピュタの上映が続けられている事を悟った。

というのも、
「パズーーー!!」
だの、
「あがれぇぇぇぇえええ!!!」
だのという古泉の奇声が家中もとい近所に響き渡っていたからである。

いつかの劇でもそうだったが、あいつは一旦火が付くと結構熱い人間のようだ。
別の意味でも暑苦しいがな。

カチャ

キョン「ほれ、麦茶」
盆上に乗せたまま差し出す。
ハルヒ「あ、サンキュ。意外と気が利くわね」
キョン「意外は余計だ」

キョン「長門、暑くないか?」
長門「大丈夫」

キョン「古――」
古泉「最初に見つけたものに金貨10枚を差し出すよぉ!」
みくる「10枚!?」

いつの間にやら古泉劇場のアシスタントとして、朝比奈さんが加わっていようだ。

264: 2008/07/20(日) 00:34:41.88 ID:rvtqyniv0
ハルヒ「へぇー、結局はアブのおばちゃんと同盟を組むのね」
みくる「スズメですよ。それにしても雲が綺麗ですねぇー」

古泉「僕も一度でいいので、こういう空の船旅を体験してみたいものです」
キョン「それには俺も同意せざるを得ないな」

長門も密かに頷いている。

ハルヒ「わかったわキョン!」
キョン「ハイジャックでもする気か?」

何となく先手を打ってみる。

ハルヒ「違うわよ、今度のSOS団の活動内容よ」
キョン「一応聞いておこうか」

ハルヒ「セスナでもチャーターして世界一周旅行」
古泉「なるほど……善処しておきましょう……」

何を意味深に呟いているんだ古泉よ。
しかしお前ならやり兼ねないだろうから、密かに期待しておくとしようか。

願わくば空賊が出ないで欲しいものだがな。

265: 2008/07/20(日) 00:45:12.54 ID:rvtqyniv0
古泉「龍の巣だぁ……」
みくる「龍の巣……これが……?」

何故、古泉がドーラ役で朝比奈さんがパズー役なのか。
そんな些細な問題なら気にも留めないようになるまで俺の心の器は成長していた。

長門は相変わらずの正座で無言のままだし、
ハルヒは茶々入れるのを決して絶やさない。

つくづくバイタリティ溢れる奴らだな全く。
単なる状況の描写にすら疲れて来たよ俺は。



そうこうしている間に、物語りはようやく本命である天空の城まで辿り着いた訳だ。

268: 2008/07/20(日) 00:50:07.85 ID:rvtqyniv0
で、色々あって、
「ふはは! 見ろ、人がゴミのようだ!」
とか、
「三分間待ってやる」
という翻訳(古泉一樹)を聴いているうちに気付けばエンドロールを迎えていましたとさ。

おしまい。

272: 2008/07/20(日) 00:59:58.43 ID:rvtqyniv0
なまじっかネタで持って行ったコナン・ザ・グレートを部室で鑑賞してから俺の家へ来ていた為、
2時間近くあるラピュタを見終わった今の時刻はというと、
日が暮れ、日没の時間……つまりは夕食時だ。

妹「お腹空いたぉー」

という我が妹がそれに確証をもたらしている。

キョン「そういえば今日は母さん達は居ないんだったか……?」
妹「そうだおー」

ハルヒ「そう、それじゃあ今日は泊まりで決定ね!」
キョン「あぁそうだ……っておい!」

長門「カレー作る」
みくる「あたしも手伝いますよぉー」

古泉「カレーにはミルクが良いんですよ? 白い、ミルクがね……」


口々に騒ぎ立てる面々を前に、俺は額を抑えて唸るしかなかったのだった。


ラピュタ編 -終-

273: 2008/07/20(日) 01:01:44.34 ID:rvtqyniv0
という訳でラストが投げやりですまないが、ネタが無くなっちまったんだ
誰か他の人がジブリ映画の良さを伝えてくれればと説に願う

274: 2008/07/20(日) 01:09:44.30 ID:BW1RlPHE0
>>273

275: 2008/07/20(日) 01:12:24.87 ID:hy0XYS63O
>>273
乙! 楽しませてもらった


引用元: 長門「ポーニョポーニョポニョ…」