1: 2016/05/11(水) 19:35:22.32 ID:ZXIxmSvw0
3作目。
いつも通り見切り発車で書きたいように書いてるので長いのとクオリティは相変わらず。

そんなことより高木さん描き下ろし公開の前哨戦だオラァ!


3: 2016/05/11(水) 19:37:48.79 ID:ZXIxmSvw0


市民プール


中井「到着ーー!」

西片「久しぶりに来たなぁ、ここ」

中井「ちょっと遠いけど大きめのスライダーとかあるし、良い所だよな」

西片「食べる所もあるしね。市民じゃないから入場料がちょっと高いのがあれだけど」

中井「まあまあ、そのぶん思いっきり楽しもうぜ!」

西片「……そうだね」

中井「どうした西片? 体調でも悪いのか?」

西片「いや、平気だよ」

中井「? ならいいが。さあ行くか!」

西片「ああ…」


真野「…………」ズーン


西片(中井君はなんでオレを誘ったんだろう。しかも後から)


西片「あの、真野さん」

真野「ふふふふ。西片君、今日は楽しみましょー…」フラフラ

西片「あ、うん…」

西片(楽しもうって目じゃないだろ……)


4: 2016/05/11(水) 19:42:42.01 ID:ZXIxmSvw0


2時間後


中井「やっぱりここのスライダーはいいなー」

西片「けっこう長いほうらしいしね」

中井「ところでオレそろそろ腹へってきたんだが、昼にしないか?」

西片「早くない? まだ12時前だよ」

中井「どうせなら並ばず座りたいだろ? 混み始める前にあそこのレストランに入っちまおうぜ」

西片「まあ、オレは食べれるけど…真野さんは?」

真野「私もいいよ」

中井「決まりだな。先にトイレ行ってくるから、二人は入口付近で待っててくれ!」


タタタ…


西片「……」

真野「……」

西片「あのさ」

真野「……なにかな」

西片「……なんかごめん」

真野「……何のことですか? 思い当たる節がないです」

西片「いや、オレ……お邪魔だよね」

真野「えー? 別にそんな、西片君いなければ二人きりなのになーとか? そんなこと全然思ってないですよ? あははは」

西片(うわぁ……予想以上に邪魔だった)



5: 2016/05/11(水) 19:45:49.62 ID:ZXIxmSvw0


西片「……」ズーン

真野「……」

西片「えっと……遅いね、中井君」

真野「そーですね」

西片「トイレ混んでるのかな」

真野「そーですね」

西片「……」

西片(くそっ、間が持たない。もはや息苦しい。潜ってもないのに!)

西片(なにか話題になりそうなものは……)キョロ


西片「ん?」

真野「どうかした?」

西片「いや、あそこの女子がさ…」

真野「?」

西片(目が悪くてよく見えないけど、全体的に高木さんっぽいような)

西片「……」

西片(ハハッ、何を言ってるんだ。こんなところに高木さんがいるわけ)

真野「あ、あれ高木ちゃんだ」

西片「えぇ!?」



6: 2016/05/11(水) 19:49:24.92 ID:ZXIxmSvw0


西片「う、嘘でしょ?」

真野「ううん。私、ほんとは目いいから見えるよ。あれは絶対高木ちゃん」

西片「そうなんだ……誰と来てるんだろ」

真野「!」

真野「西片君、気になるんだ?」

西片「えっ?」

真野「気になるんだ? 気になるんだよね!?」

西片「いや!? べ、別に気になるわけじゃ」

真野「だよね気になるよねー! ほらほら見失わないうちに確かめに行くべきですってそしてあわよくばそのまま戻ってこないでください!」

西片(後半に思いっきり本音が出てるよ真野さん!?)

真野「はーやーくー!」グイグイ

西片「わ、わかったよ! 行くから! 行くから押すのやめて危ないから!」




中井「悪い悪い、やけに並んでると思ったら大の列でな。小は別に……ん? 西片は?」

真野「えっ? に、西片君?」

中井「どこか行ったのか?」

真野「さぁー? 暑いから溶けちゃったのかなぁー?」

中井「あー確かに今日は暑いし……え?」


9: 2016/05/11(水) 19:54:29.47 ID:ZXIxmSvw0


西片「……」ジリ


西片(近づいてみればみるほど高木さんに似ている。いや、ほぼ間違いなく本物だろう)

西片(髪をあげてるのと、水着……それも学校の水着じゃなくてお腹が露出されて……って、何を見入ってるんだオレは!!)

西片(うん。とにかくそれらを除けば、いつも見ている高木さんだ)

西片「ううむ…」

西片(でもなんて声をかける? 『やあ高木さん、奇遇だね』とか?)

西片(なんかわざとらしい気がするなぁ。実際高木さんが来ていたことは知らなかったわけだけど)

西片(というか、そもそも声をかける必要あるんだろうか? 別に高木さんが誰と来てるかなんて…)

西片「!」

西片(あれ、ちょっと目を離した隙にいなくなってる!?)

西片(一体どこに…)キョロ

高木「……」

西片(うーん……)

高木「……」

西片「見当たらないな…」

高木「探しもの?」

西片「うわああああっ!?」


ステーン!



12: 2016/05/11(水) 19:57:02.96 ID:ZXIxmSvw0


西片「いってて…」

高木「あはははは! 驚きすぎだよ」

西片「驚くよ! 高木さん、気づいてたの?」

高木「んー? なーんかやらしー視線感じるなぁって思って見たら、西片がいたから」

西片「なっ! そんな視線送ってないよ!」

高木「そーかな? 視線ってほんとに刺さるらしいよ」

西片「……そんなまさか」

高木「特に男子が女子を見る視線はね。あー、チクチクしたなぁー」

西片「いやぁ、被害妄想じゃない?」

高木「西片、私のおへそのあたり見てたでしょ」

西片「ブッ!!」

高木「あ、その反応は当たりだね」

西片「ち、違うよ! たしかに学校の水着とは違うなって思ったりはしたような…しなかったような」

高木「ふーん?」ジト

西片(あぁ、視線が痛い……ほんとに刺さるのか視線って)



16: 2016/05/11(水) 20:00:35.93 ID:ZXIxmSvw0


西片「そ、それよりさ。高木さんは?」

高木「ん?」

西片「誰かと来てるのかい? クラスの人?」

高木「ううん、違うよ」

西片「となると…家の人で?」

高木「うーん。まぁそうなるかな」

西片「?」

高木「西片は誰と来てるの?」

西片「ん? あぁ、オレは……」

西片(いやまてよ、ここで『3人で来てる』なんて言ってみろ)

西片(『ふーん。じゃあなんで一人なの?』→『そ、それは高木さんを見かけたから』→『それでみんなと離れてわざわざ会いに来たの? なんで? ねぇなんで?』→ 『』)

西片(みたいな流れになる気がする。そしたらまたからかわれてしまう)


17: 2016/05/11(水) 20:02:55.93 ID:ZXIxmSvw0


西片(さすがオレ、先の展開が読める男になってきたぞ)

高木「西片? どうかした?」

西片「えっ、いや、別に?」

高木「誰と来てるのって聞いたんだけど」

西片「あぁ、えっと……」

西片(しかし一人で来たなんて言うわけにもいかないな…ここは)

西片「オレも高木さんと同じ感じかな」

高木「家の人?」

西片「まぁね。ほら、一人っ子だからスライダーとかやるのオレだけでさ。だから友達と別行動してるとかじゃないし」

高木「ふーん?」

西片「高木さんと会ったのもたまたまで…」

高木「……」ジー

西片「な、なに?」

高木「西片、ウソついてる?」

西片「!」ビクッ


19: 2016/05/11(水) 20:06:41.58 ID:ZXIxmSvw0


西片「な、なにが?」

高木「ほんとは誰と来てるの?」

西片「いや、だから家族でって…」

西片(なんで高木さんってこういうの鋭いんだろう。心を読んでるとしか…)

高木「そっか」

西片「……」

高木「ふーん。そっか。ふーん」

西片「えっ?」

西片(気のせいかな。高木さんからなんかピリッとしたものを感じる)

高木「……」

西片「えーっと、じゃあオレはこれで」

高木「じゃあ、2人で一緒にいた真野ちゃんは西片の家族なんだね」

西片「んんっ!?」


23: 2016/05/11(水) 20:11:31.28 ID:ZXIxmSvw0


西片「えっ? あ、あー…」

西片(見てたのかよ! なんで聞いたんだよ!)

高木「そっかー。真野ちゃんは西片の家族なのかぁ。中井君が知ったらびっくりだね」

西片「ごめん…家族でってのは嘘だよ。別に隠すつもりじゃなかったんだけどさ」

高木「じゃあなんでウソついたの?」

西片「それはその……」

高木「私に言えないコト?」

西片「……」

西片(だって高木さんに話したらどうせからかわれるし。それに)

高木「ふーん。別にいいけど」

西片(なんか高木さんの雰囲気がいつもと違くて…余計に言いづらいんだよなぁ)

高木「なら、早く戻ってあげなよ」

西片「あ、うん」

高木「……」

高木「西片、私からいっこアドバイスするとね」

西片「ん?」

高木「あんまりこういう所で女の子を一人にしたらダメだよ」

西片「…? あぁ、危ないからか」

高木「うん」

西片「まぁ、そろそろ中井君も戻ってきてると思うけどね。それじゃ…」

高木「え?」

西片「え?」



24: 2016/05/11(水) 20:17:38.66 ID:ZXIxmSvw0


西片「どうかした? 高木さん」

高木「中井君も一緒に来てるの?」

西片「え、そうだけど。見てたんじゃないの?」

高木「うん? うーん…」

西片(なんかよく分からないけど、高木さんが若干困惑している……これは日頃の仕返しをするチャンスでは!?)

高木「じゃあ、西片は真野ちゃんと二人で来てるわけじゃないんだね」

西片「はぁ、そりゃもちろん…」

西片「!」

西片「ハッハッハー! バカだねぇ高木さん。オレと真野さんが二人でなんて、そんなことあるわけないのに。もしかしてヤキモチかい!?」

高木「!」

西片(決まった。ポーズもダンディを真似してワイルドな感じだ)

西片(これなら高木さんも少しはムキになって反……論……)

高木「……」

西片「…え?」

高木「……」

西片(な、なんで下向いて黙ってるんだ?)

西片「あの、高木さん? 今のはほら、冗談で…」

高木「.……」

西片(まずい、気を悪くしたんじゃ…?)

西片「……ごめん、怒ってる? なんか顔赤い…」


パンッ!





25: 2016/05/11(水) 20:19:58.70 ID:ZXIxmSvw0


西片「…!」

高木「……」



西片(えーっと、高木さんが自分の顔を叩くの見るのは二回目かな)


高木「ふう」

西片「あ、高木さん、さっきのは…」

高木「西片」

西片「な、なんだい?」

高木「罰ゲームだね」

西片「え? なんで!?」

高木「私にウソついたから。あと、さっきのはセクハラだよ」

西片「えぇ!?」

高木「さーて何してもらおっかなー」

西片(ぐっ……やっぱり怒らせてしまったのか。もうああいうからかい方はやめよう)



26: 2016/05/11(水) 20:23:27.21 ID:ZXIxmSvw0


高木「そうだ。西片、一緒にアレやってよ」

西片「あれって、急流すべりのこと?」

西片(女性同士または男女しか乗れないという謎ルールのある…)

高木「そ。一人じゃ乗れないからさ」

西片(高木さんも一人っ子なのか。まぁ今さら親と一緒にって年齢でもないか)

西片(だからと言って高木さんと二人で乗るって……なんだその恥ずかしい状況!)

高木「じゃあ、並ぼっか」

西片「いや、でもあれ急流すべりって名前だけど結局はただの短いスライダーだよね」

高木「まぁ確かにね」

西片「なら普通のスライダーでよくない? あっちのほうが長いし」

高木「…それじゃ意味ないもん」

西片「えっ!?」ドキ

西片(それって…もしかして……!?)

高木「このプール広いから、いまだに一日で全制覇したことないんだよね。今年こそはーって思ってるんだ」

西片「あぁ……そういう…」

高木「なんだと思ったの?」

西片「な、なんでもないよ」

高木「んー?」

西片「なんでもないったら!」

高木「ふーん。そっかそっか」ケラケラ

西片(またいつもの感じになってしまった……)


27: 2016/05/11(水) 20:24:31.85 ID:ZXIxmSvw0


ガヤガヤ


高木「もうすぐだね」

西片「っていうか、そもそもこれ罰ゲームなの?」

高木「ん? 西片に恥ずかしい思いをさせようと思ったんだけど」

西片「あぁ…そうですか…」

高木「違うと思うなら後でアイスおごってくれてもいいよ」

西片「いや、これで十分だよ」


係員「次の組の方どうぞー!」


高木「あ、呼ばれたよ西片」

西片「う、うん」



28: 2016/05/11(水) 20:26:52.62 ID:ZXIxmSvw0


西片「…………」


係員「では、スタートまでこのままもう少し待ってくださいねー」


西片「…………」

高木「わぉ。思ったより流れ速いね」

西片「へ、へぇー…」

西片(え? なにこの近さ……高木さんの頭と肩で全然前見えないんだけど)ドッ ドッ ドッ

高木「西片、もう少し後ろ下がれない? ちょっと狭いや」

西片「こっちもわりと限界だよ…」

係員「ごめんねー、小柄だからと思って子供用レーンにしたんだけど、大人用のほうがよかったですか?」

西片「あ、なら」

高木「いえ。こっちで大丈夫でーす」

西片「ちょっ、高木さん!?」

高木「今から変えてたら並んでる人に迷惑でしょ?」

西片「そうだけど…」


29: 2016/05/11(水) 20:30:33.73 ID:ZXIxmSvw0


係員「ほんとに大丈夫? まぁ、落ちてもそのまま安全に流れるようになってますけど」

高木「大丈夫です。こういうの得意ですし」

西片(たしかに高木さんなら器用に乗りこなしそうだ)

高木「それに……彼がきっと支えてくれると思います」

西片「ぶっ!?」

係員「まぁ」

西片「な、何言ってるの高木さん!?」

係員「ふふ。信頼されてるんですね」

西片「いや……その……」

係員「あ、そろそろスタートしますね!」

高木「おっ」

西片「……」ドッ ドッ

係員「では行きまーす」

高木「楽しみだねー」

西片「そうだね…」

係員「……」


係員「彼女のこと、ちゃんと抱いててあげてねっ」ボソッ

西片「はっ!?」

係員「レッツ、ゴー!」ドンッ

高木「きゃっ」

西片「うわあっ!!」


ギュッ


高木「!」

西片(は、速い速い速い! 短くて急だとは思ってたけどまさかここまで……なんとか落ちないようにしないと!)



30: 2016/05/11(水) 20:32:29.08 ID:ZXIxmSvw0


ザパッ


高木「んーっ!」

西片「あぁ…」

西片(疲れた……特に腕と精神が……)

高木「思ったより速かったねー」

西片「本当にね。見た目は楽勝そうなのに」

高木「結局、最後は力負けして落ちちゃったしね」

西片「う……」

西片(くそっ、なんか悔しいぞ。勝負じゃないのに負けた気がする)

高木「……」

高木「もう一回やる?」

西片「!」

西片(たしかに何となくバランスのコツは掴めたし、もう一回やれば……でもまた高木さんと……)


31: 2016/05/11(水) 20:34:02.86 ID:ZXIxmSvw0


西片「……いや、また今度にしよう」

西片(一日に何回もってのはさすがになぁ。勝つまでやるみたいで、みっともない気がする)

高木「それでいいの?」

西片「……うん」

高木「リベンジってこと?」

西片「そうだね」

高木「ふーん」ジー

西片「な、なに?」

高木「ううん。別に」

西片「……」

高木「でも、リベンジってことはさ。今度はふたりで一緒に来なきゃだね」

西片「……あ」


32: 2016/05/11(水) 20:36:08.52 ID:ZXIxmSvw0


西片(そうか、今回はたまたま高木さんに会ったけど、リベンジってなると高木さんと一緒に来る必要があるじゃないか!)

西片(付き合ってるわけでもないのに……そんなの高木さんだって困るだろうに)

西片「ごめん高木さん、そんなつもりじゃ…」

高木「西片」

西片「ん?」

高木「また来ようね」ニコ

西片「…!」


西片「い、いいの? 高木さんは」

高木「何が?」

西片「いや……オレと一緒に来ても」

高木「うん。楽しいもん」

西片「そう…」

高木「西片は?」

西片「えっ?」

高木「私と来るのはイヤなの?」

西片「……べ、別に」

西片「イヤじゃない…けど」

高木「……」ニコ

高木「んー? なんて?」

西片「な、ちょっ、聞こえてただろ!?」

高木「えー、もっかい聞かせてよー」

西片「意味わかんないよ!」



33: 2016/05/11(水) 20:39:27.66 ID:ZXIxmSvw0


西片「はぁ……それにしても疲れたからお腹すいたなぁ」

高木「もうお昼も過ぎてるしね」

西片「レストランも混み始めて……ん? レストラン…?」

西片「あぁーーっ!!」

高木「どしたの?」

西片「そういえば、真野さんと一緒に中井君を待ってたのを……というか今となっては二人を待たせてたのすっかり忘れてた…!」

高木「あー」

西片「やばいぞ、あれから何分経ってるんだろう」

高木「だから西片、真野ちゃんと二人きりだったんだね」

西片「うん……ん?」

高木「ううん。別に」


34: 2016/05/11(水) 20:42:36.52 ID:ZXIxmSvw0


高木「まぁでも、あの二人なら大丈夫じゃないかな」

西片「そ、そうかな?」

高木「うん。中井君はあとでちゃんと謝れば笑って許してくれると思うし、真野ちゃんはあれでけっこう現金だから」

西片「…どういう意味?」

高木「そこがかわいいトコでもあるんだけどね」

西片「…?」

高木「だから今日はさ、このまま二人で回ろうよ。途中でその二人とも会えるかもしれないし、そしたら私が連れ回してたって言い訳できるでしょ?」

西片「……たしかに」

西片(でもそれって、高木さんを言い訳に利用してるみたいでなんかイヤだなぁ)

高木「あ、私のこと利用してるみたいとか思ってるなら気にしなくていいよ。実際、西片は私に付き合ってくれただけなんだし」

西片「…前から思ってたけど、高木さんって心が読めるのかい?」

高木「あはは。西片がわかりやすいんだよ」

西片「えぇー」

西片(そんな顔に出てるかな…)


35: 2016/05/11(水) 20:46:21.16 ID:ZXIxmSvw0


高木「それじゃ、私たちもお昼食べに行こっか」

西片「あ、うん」

高木「お金持ってる?」

西片「あ、そうだ。ロッカーに取りにいかないと」

高木「じゃあ私ここで待ってるね」

西片「……ん? ちょっと待って。そもそも高木さんのほうはいいの?」

高木「うん?」

西片「いや、お父さんとお母さんは? お昼くらいみんな集まって食べるもんじゃないの?」

高木「あー、それはないから大丈夫だよ」

西片「……え?」

西片(まじで? 高木さんの両親って、家族で遊びに来て子供を一日中ひとりにしておくような人なのか?)

西片(いやいや、人の家庭だ。なにか事情があるのかもしれない……今は下手に聞かないほうがいいな)

高木「だって私、今日ひとりで来てるから」

西片「……」

西片「えっ」


36: 2016/05/11(水) 20:48:40.26 ID:ZXIxmSvw0


西片「一人でって……あれ? だってさっきは家族で来たって」

高木「『家の人』としか言われてないよ?」

西片(そうだっけ…)

西片「いや、でもこんな町の外のプールに、わざわざ一人で?」

高木「うん」

西片「……」

西片(そ、そうだ! こんな時こそからかうチャンスじゃないか)

西片「は、ははは。まさか一人でなんて……高木さん、キミは案外寂しい人なのかい?」

高木「うーん……そうなのかなぁ」

西片「えぇー…」

西片(否定されないと急に申し訳なくなるなぁ…)

高木「あ、でもね」

西片「ん?」

高木「西片が一緒にいてくれるから、寂しくなんかないよ」ニコ

西片「っ!!」ドキッ


37: 2016/05/11(水) 20:50:39.36 ID:ZXIxmSvw0


西片「た、高木さん…」

西片(なんてコト言うんだ……オレがからかったはずなのに、恥ずかしくなってきたぞ)ドッ ドッ

高木「あれー? 西片また顔赤くない?」

西片「違うよ! 日焼けしただけ!」

高木「ふーん。なら私の日焼け止め、塗ってあげようか?」

西片「なっ!? い、いらないから!」

高木「遠慮しなくていいのにー」ケラケラ

西片「くっ……ああもう、サイフ取ってくる!」

高木「ん。待ってるね」



38: 2016/05/11(水) 20:54:07.61 ID:ZXIxmSvw0


西片(はぁ……どうしていつも失敗してしまうのだろうか)

西片(一人で市民プールなんて恰好のネタだと思ったのに、まさかカウンターを喰らうなんて)

西片(一人で……)


西片(そもそも、なんで高木さんは一人で市民プールに来たんだ?)

西片(学校に友達がいないなんてことはない。誘うのをためらうような性格でもない)

西片(予定が合わなかったから? いや、それなら日を改めればいいだけだ)


西片(うーむ…)


高木「あ、西片ー! こっちこっち」

西片「あれ、並んでてくれたんだ」

高木「そろそろかなと思って。メニューももらったよ」

西片「……」

西片(もともと泳ぐのが好きとか? いや、それなら町内のプールに行けばいいし、水泳部に入れば学校のプールでも泳げる)

西片(一体どうしてこんな遠くのプールに……わざわざ今日一人で……)


39: 2016/05/11(水) 20:58:24.11 ID:ZXIxmSvw0


高木「どれにしようかなー。お腹すいたけど、あんまり食べるとおなか出ちゃうからなぁー」チラ

西片「……」

高木「……」

西片(今日、ここに来る理由があったということだろうか? ならその理由ってなんだ?)

高木「西片?」

西片(っ! まさか高木さん、オレが今日ここに来るのを知ってて、それで…!?)

西片(ハハ、そんなバカなこと……でももしそうなら…)

高木「西片ってば」ツン

西片「いひっ!? だからわき腹は……」

高木「聞いてた?」

西片「ごめん、なに?」

高木「なに考え込んでたの?」

西片「えっ? いや別に」

高木「もしかして、なんで私が一人で来てたのか気になってた?」

西片「……やっぱり高木さん、心読めるよね」

高木「んー? さぁー?」

西片(否定しない…!?)


40: 2016/05/11(水) 21:00:24.25 ID:ZXIxmSvw0


高木「気になるんだ?」

西片「…まぁ、ちょっとね」

高木「教えてあげてもいいよ」

西片「えぇ!?」

高木「なんで慌ててるの?」

西片「い、いや……慌ててなんかないよ」

高木「そう? じゃあ、教えるから耳貸して」

西片「え? なんで内緒話?」

高木「…他の人に聞こえたら恥ずかしいもん」

西片(そ、それってやっぱり……!?)

高木「実はね、私がここに来たのは……」ボソ

西片「……」ドッ ドッ ドッ

高木「……」


高木「んー、やっぱりまだヒミツかなっ」

西片「えぇーー!?」


41: 2016/05/11(水) 21:04:47.04 ID:ZXIxmSvw0


西片「いや高木さん、それはないんじゃないかな…」

高木「まぁまぁ、今度来たとき教えるからさ」

西片「こ、今度って」

西片(たしかにそう言ってたけど、絶対無かったことにされるな……くそっ、このもやもやとした気持ちはどうすれば……)

高木「だからさ、ちゃんと約束しようよ」

西片「え?」

高木「指切りげんまん」スッ


高木「『今度』は、ふたりで一緒にここに来ようね」

西片「……っ!」


高木「ゆーび切った」

西片「……」

高木「約束だからね?」

西片「……うん」



42: 2016/05/11(水) 21:06:13.43 ID:ZXIxmSvw0


高木「あ、列進んだよ」

西片「あぁ…」



……本当に、高木さんの考えることは分からない。



高木「西片もそろそろ決めたほうがいいよ」

西片「そうだなぁ」



オレの心はいつも読まれるのに、高木さんの心を読めたことは一度もない。



西片「高木さんは、あのパスタランチ?」

高木「ブブー。がっつりハンバーグランチのほうだよ」

西片「ああそう…」



実を言うとこのもやもやした気持ちは、今に始まったことではない。

最近、高木さんといるとよく感じることがある。


43: 2016/05/11(水) 21:08:52.84 ID:ZXIxmSvw0


その正体が何なのか、そしてこのもやもやはいつか晴れるのか。

それはきっと、オレにも高木さんにも分からないのだろう。



高木「それと、山いもサラダと、あとデラックスサンデーかな」

西片「た、食べ過ぎじゃない? っていうかお金足りるの?」



でも、少しだけ。



高木「大丈夫だよ」

西片「本当に?」

高木「だって……」




少しだけ、このままこんな関係が続いて欲しいなんて気がしてきているのは。

オレだけの秘密にしておこうなんて思ったりもする。






高木「これ、西片のおごりだからさ」

西片「ちょっと高木さん!? 聞いてないよ!?」





………やっぱり気のせいかもしれない。






【からかい上手の】「市民プール」【高木さん】

fin.

45: 2016/05/11(水) 21:13:36.88 ID:ZXIxmSvw0
以上です。
読んでくれた方どーも。


最後急に地の文入って えっ となったかもしれない。
俺もなりました。

基本的にSSは地の文苦手だから括弧を使うけど、それだとどうしてもそれだと違和感あるなと思ったので。
まぁ良いオチが見つからない言い訳ってことで。

さてマンガワンを開いて0時を待つか

47: 2016/05/12(木) 09:56:34.86 ID:YCSl4hekO
乙!

今回もよかったぞ

引用元: 【からかい上手の】「市民プール」【高木さん】