1: 2016/01/08(金) 00:25:12.93 ID:BA/AxxFz0
真姫「音楽室の音泥棒」

凛「図書室の迷い猫」

ことり「美術室の白い虹」


一応続編です。
ファンタジーっぽい世界観です


2: 2016/01/08(金) 00:26:18.75 ID:BA/AxxFz0
全てのものには表と裏がある

あなたが見ているのは本当に表ですか?

3: 2016/01/08(金) 00:27:04.56 ID:BA/AxxFz0
花陽「~♪」

今朝の花陽はとってもいい気分

早起きしていつもよりちょっぴり多めにご飯を食べちゃいました♪

でも気分がいいのはそれだけじゃなくって…

凛「あ、かよち~ん!おはよ~!!」

花陽「凛ちゃん、おはよう」ニッコリ

凛「なんだかかよちんご機嫌だね~。……あ、その髪飾り!早速つけてきたんだ!」

花陽「ふふ、どうかなぁ…?」

凛「す~~……っごく似合ってるよ!!やっぱり買ってあげてよかったにゃ~!」

花陽「ありがとう♪」

そう。気分がいいのはこの髪飾りのおかげ

小さな可愛らしいお花の硝子細工がついた髪飾り

先週の日曜日に凛ちゃんとお出かけした時に凛ちゃんがわたしにプレゼントしてくれたものです

凛「一目見た時から絶対に似合うと思ったんだよね~」

花陽「花陽もすっごく気に入ってるんだぁ。…でも、お金があんまりなくて…。今度は凛ちゃんに何かプレゼントしてあげるね?」

凛「ほんと!?それじゃあ、楽しみに待ってるにゃ!」

4: 2016/01/08(金) 00:29:20.28 ID:BA/AxxFz0
~♪~♪~

真姫「おはよう、花陽。…その髪飾りどうしたの?」

花陽「あ、真姫ちゃん、おはよう。えへへ、これはこの前お出かけしたとき凛ちゃんがプレゼントしてくれたんだぁ」

真姫「へぇ~凛が…。いいじゃない。似合ってるわよ?」

花陽「ありがとう!今度は3人でお出かけできるといいね」

真姫「そうね」

体育の授業の着替えをしている時に真姫ちゃんに褒められちゃいました

今日の体育は花陽の苦手なバレーボール…

いつもならネガティブな気持ちになっちゃう花陽だけど、今日は髪飾りが元気パワーをくれます

「いくよー!…そーれー!」

花陽「は…はいっ!」ボスッ

苦手なレシーブも上手に拾えて…やっぱり今日は調子がいい気がします!

5: 2016/01/08(金) 00:31:23.44 ID:BA/AxxFz0
凛「よーっし!いっくよー!!…えーーーい!!」

真姫「わわっ!?」

凛「やったぁ!サービスエースだにゃ!」

真姫「ちょ、ちょっと、凛!手加減してよね!」

隣のコートでは凛ちゃんのチームと真姫ちゃんのチームが試合をしているみたいです

花陽だけ別のコートでちょっぴり寂しいなぁ…なんてぼんやりと眺めていると

「小泉さん!前!!」

花陽「ふぇぇ?」

ぼこーん!!

バレー部の子の強力なスパイクを見事な顔面レシーブで相手のコートへ返します

相手のチームの人はあまりの出来事に呆然と立ち尽くしたまま一歩も動けません

そのまま、ぽーんとボールは地面に着地して、花陽のチームに得点が入ります

やっぱり今日はついてるなぁ…

そんなことを考えながら、ぱたりとその場に倒れて意識が遠くなるのを感じました

6: 2016/01/08(金) 00:32:29.89 ID:BA/AxxFz0
~♪~♪~

花陽「うぅ…ん」

ことり「あ、花陽ちゃん!よかった~目が覚めたんだねっ」

花陽「…ことりちゃん? あれ…ここは?」

ことり「ここは保健室だよ。花陽ちゃん突然倒れちゃって、それでここに運ばれてきたんだよ」

花陽「ああ…そっかぁ…」

ボールがぶつかった鼻の頭を軽く撫でてみると、痛みは…あれ? 全然感じません

花陽「あれ? ことりちゃんが治療してくれたの?」

ことり「治療? ことりも保険の先生も特に何にもしてないよぉ?」

花陽「そ、そうなの? 全然痛みがないからてっきり、ことりちゃんが治療してくれたのかと思ったよ」

ことり「痛み…? 花陽ちゃん、どこか痛いの?」

花陽「? 今は痛くないけど…花陽、確かバレーボールを顔で受け止めて…それで運ばれてきたんじゃ…」

ことり「バレーボール…?なんのこと? 花陽ちゃんは朝礼の時に貧血で倒れて運ばれて来たって聞いたけど…」

あ、あれぇ…?朝礼…?貧血…?

…そうだ、全部思い出しました

さっきの体育の時間にバレーボールをしていたのは何ともリアルな夢だったのです

今朝の本当の花陽は恥ずかしながら夜更かしのせいでお寝坊をして、ご飯がほとんど食べられませんでした

結局遅刻しそうになりながらフラフラのままダッシュで学校へ行くと、運悪くその日は朝礼がある日で、そのまま運動場に整列

じりじりと頭に照り付ける太陽。睡眠不足。お米不足。全力ダッシュ。長いお話し。

それで花陽は耐えることができずに倒れてしまったのでした

7: 2016/01/08(金) 00:33:26.24 ID:BA/AxxFz0
花陽「そうだ…花陽、朝礼で倒れて…」

ことり「ごめんね…?うちのお母さんの話が長かったから…」

花陽「い、いえ!決してそんなことは…。…どちらかというと、理事長より絵里ちゃんの話の方が長くて…。あぁ!今のは聞かなかったことに…!」

ことり「あはは、確かになんだか絵里ちゃん凄い気合入っていたよね…」

花陽「でも本当に絵里ちゃんは悪くないんです…。今朝は花陽が朝ごはんをしっかり食べてこなかったからで…」

そういうと、ぐぅ~っと大きなおなかの音を鳴らして赤面しました

ことり「あ、やっぱりお腹が空いたんだね。もうお昼休みだもん」

花陽「も、もうお昼!?は、花陽お腹が空いて氏んじゃうよぉ…」

ことり「ふふ、そういうと思って、花陽ちゃんのお弁当持ってきておいたよ♪」

花陽「あ、ありがとぅ…」

恥じらいなんて関係ありません!

飢えた狼のようにがつがつとお弁当の中身を平らげました

ことり「足りなかったら、ことりが作ってきたおにぎりもたくさんあるよ♪」

花陽「い、いただきます!」

ああ、ことりちゃんはなんて優しいのでしょう

凛ちゃんが花陽の周りを無邪気に飛び回る可愛らしい天使だとすると、ことりちゃんは困った人に優しく手を差し伸べてくれる大天使…コトリエル!

8: 2016/01/08(金) 00:35:02.70 ID:BA/AxxFz0
花陽「ご馳走様です…コトリエル…」

ことり「こ、ことりえる…?」

花陽「あ、なんでもないです…/// すごく美味しかったです!」

ことり「喜んでくれてよかったな♪」

ぽんぽんに膨らんだお腹をさすりながら、さっきまでのできごとを思い出す

体育でバレーボールをしてたこと

随分リアルだったから気が付かなかったけれど、あれはやっぱり夢だったのかな?

そういえば、夢の中では今日の花陽と全く逆で、早起きしてご飯をいっぱい食べて、凛ちゃんからの髪飾りもばっちりつけて…幸せな一日のはずだったのに…とほほ

あ、でも凛ちゃんからもらった髪飾りは夢のお話しじゃなくて、本当の話です。今日もしっかりとつけてきました!

凛ちゃんとの約束だったもんね、えへへ♪

そして、頭の上の髪飾りをそっと撫でようとしたのだけれど…あれれ?

花陽「はわわ!? か、髪飾りがない!?」

ベッドの横の大きな鏡をのぞいてみるとそこにはいつも通りの花陽の姿が

でも、今日はいつも通りじゃダメなんです。凛ちゃんからもらった大事な大事な髪飾りがついてないと…!

9: 2016/01/08(金) 00:36:55.50 ID:BA/AxxFz0
~放課後~

凛「かーよちん!授業終わったし練習いくにゃ?」

真姫「ちょっと、凛。花陽はまだ体調が万全じゃないのよ?あんまり無理させちゃダメでしょ」

凛「そうなの、かよちん?」

花陽「え、え~と…う、うん!実はまだちょっと体の調子がよくないんだ」

凛「そうなんだ…」

真姫「練習は無理そうね。花陽を一人で帰らせるのも心配だし、今日は私たちも練習を休んで家まで送っていくわ」

花陽「えぇ!? い、いいよ!全然平気、大丈夫!!ほら、花陽は元気です!」

凛「元気なら練習いくにゃ?」

花陽「…や、やっぱり元気じゃないかも…」

真姫「どっちなのよ…」

凛「むむぅ~…かよちん、何だか怪しい…。あれ、そういえば、かよちん凛があげた髪飾りはどうしたの?」

花陽「!!」

真姫「あら、そういえば今朝は珍しくつけていたわね、髪飾り」

花陽「そ、それは…」

りんまき「それは?」

花陽「と、とにかく! 今日は花陽は練習に出られないけれど、凛ちゃんと真姫ちゃんは練習を休んじゃダメだからね!!そ、それじゃあ…!」ピュー

凛「い、行っちゃった…」

真姫「元気に廊下を走っていったわね…」

10: 2016/01/08(金) 00:37:30.20 ID:BA/AxxFz0
~♪~♪~

花陽「はぁ…どうしよう…。見つからないよぉ…」

凛ちゃん達にお別れをして、花陽は今朝朝礼で集まった運動場で髪飾りを探していました

もし髪飾りを落としていたとしたらここしかありえません

でも、ただでさえ広い運動場。大体の位置は覚えていてもなかなか見つかりません

もしかしたら、誰かが見つけて持って行っちゃったとか…?

「お困りのようやね!」

花陽「の、希ちゃん!? どうしてここに…練習は?」

希「ふふふ…、練習に行こうと廊下を歩いていたら、全力で走る花陽ちゃんの姿を見つけてな。一応、副会長として注意しないとあかんなぁ、って」

花陽「ご、ごめんなさい…」

希「う~ん、それでもやっぱり花陽ちゃんには罰を与えんとなぁ」

花陽「ば、罰!?」

希「うん!その名も…ほっぺたもにもにの刑や!」モニモニ

花陽「ピャァァ!!」

11: 2016/01/08(金) 00:38:47.58 ID:BA/AxxFz0
……

希「ごちそうさん♪これに懲りたら廊下は走らないこと!」

花陽「しょ…職権乱用です…」ゲッソリ

希「職権乱用とは失礼な。正義のためには犠牲がつきものなんよ?花陽のほっぺたは犠牲になったのだ!」

もうっ! 希ちゃんったら…

希「それで…何か探してたみたいやけど?」

花陽「…何でもないです」

希「何でもないってことは…ないんやない?」

花陽「いじわるな希ちゃんには教えませんっ」プンプン

希「えぇ…ちょっとしたスキンシップや~ん。それに、ウチこれでも生徒会やし。落とし物として届いていたら協力できるよ?」

花陽「…」

……

希「髪飾り、かぁ」

花陽「はい…凛ちゃんからもらった大事なものなんです…」

希「どうやら、生徒会の方には届いていないみたいやね」

花陽「そうですか…」

希「まあ、そんなに落ち込まないで。…他に手がかりとかはないの?」

花陽「あと、手がかりがあるとすれば…」

12: 2016/01/08(金) 00:39:40.35 ID:BA/AxxFz0
~保健室~

希「朝礼のとき保健室に運ばれたのって花陽ちゃんだったんやね」

花陽「今朝はご飯があんまり食べられなくて…」

希「それは大変やったなぁ。えりちの話も無駄に長かったし」

花陽「やっぱり長かったよね…。全然頭に入ってこなかったよ…」

希「夏祭りの注意喚起やらつまらん話だったからねぇ。穂乃果ちゃんが立ったまま器用に寝てるのが見えたなぁ」

花陽「穂乃果ちゃんらしいね」

希「その後、海未ちゃんに鼻をつままれて起こされとったな」

花陽「海未ちゃんらしいね」

希「それを見て思わず噴き出したウチもえりちに後から怒られたとさ」

花陽「希ちゃんらしいね」

希「でもな、ウチも反発してえりちの話が長すぎるんやぁ!って、叱っといた」

花陽「…そしたら?」

希「めっちゃションボリしとった」

花陽「かわいいね」

希「かわいいな」


絵里「へくちっ」

海未「風邪ですか?」

絵里「うーん…そうかも」

13: 2016/01/08(金) 00:40:56.50 ID:BA/AxxFz0
希「…それで、花陽ちゃんが寝てたのはどのベッド?」

花陽「ええっと…あの一番奥のベッドです」

希「一番奥…ふむ…なるほどな」

花陽「でも、ベッドの周りは散々探したけれど見つからなかったし、やっぱりあるとしたら運動場だと思うんだ」

希「…花陽ちゃん、あのベッドで寝ている時に何か夢を見なかった?」

花陽「夢…ですか? 見ましたけど…」

希「どんな夢だった?」

花陽「どんな夢って…ええっと、あれ?」

どうしよう。思い出せません…

夢ってどんなに強烈なものでも覚えておこうと思わないと意外とすぐに忘れちゃいますよね…。なんでだろう?

花陽「ごめんね、よく覚えてないんだ…」

希「そっか…。でも、夢を見ていたことは間違いないんやね?」

花陽「うん、それは間違いないよ」

希「それなら、やっぱり可能性は高いな。…花陽ちゃん、よく聞いてな?」

花陽「? うん」

14: 2016/01/08(金) 00:42:30.14 ID:BA/AxxFz0
希「実は保健室の一番奥のベッド…いや、正確には枕か。あれは、夢枕って呼ばれているんよ」

花陽「夢枕…ですか?」

希「そう、夢枕。ベッドの隣に大きな鏡があるやろ? 夢枕で眠った人はあの鏡の世界に入ってしまうんよ」

花陽「??」

希「…まあ、突然こんなことを言われても信じられないか。普段はあのベッドで人を眠らせることはしないようになってるはずなんやけど…他のベッドは誰か使ってたりした?」

花陽「いえ、確か花陽の他には誰もベッドで寝てはいませんでした」

希「うーん…おかしいなぁ。まあ、いっか。それで、何が言いたいかっていうと、花陽ちゃんが髪飾りを落としたのは夢の中、鏡の世界かもしれないってこと」

花陽「えぇ!?そ、そんなぁ…」

希「大丈夫。鏡の世界へ行くこと自体は別に難しいことじゃないんよ。ただ、問題はどこで髪飾りを落としたかがわからないことやね」

花陽「…さっきの夢を思い出せれば手がかりになったってこと?」

希「そうやね。ま、手がかりは向こうの世界で探すのが一番だと思うよ?…と、いうわけで早速行ってみよう!」

花陽「へ…?い、行くってまさか…」

希「もちろん、鏡の世界や!」

花陽「ええ~!?そんな…心の準備が…。ダレカタスケテー!!」

15: 2016/01/08(金) 00:43:49.55 ID:BA/AxxFz0
~♪~♪~

花陽「ううん…ここは…保健室…?」

ことり「あ、花陽ちゃん!目が覚めたんだね!」

花陽「ことりちゃん…?あれ?花陽は一体…」

確か…今朝の花陽はお寝坊さんで、朝ごはんがあまり食べられなくてそのまま学校へ行って…朝礼の最中に倒れちゃったんだよね…?

段々と思い出してきたよ。それで保健室に運ばれて来たんだね!

ふわぁ…とあくびをかいて目を擦ると…

花陽「…っ!痛いっ!?」

ことり「あぁっ!!ダメだよ、擦ったりしたら!痒いかもしれないけれど我慢して?」

あわわ…一体どうなっているんだろう?

花陽「…ことりちゃん。花陽、どうなっちゃったの?」

ことり「…覚えてないの? 体育の授業でバレーボールをやっていて、その…顔に思いっきりボールがぶつかっちゃって…それで気を失って運ばれて来たんだよ?」

うーん?…そうだ、思い出したよ。確かにバレーボールをやっていた

花陽の完璧な顔面レシーブで見事に得点を決めたよ。やったね!

…笑い事ではないですよね。花陽は自分の顔にバレーボールの大きなまあるい赤い跡がついているのを想像して苦い顔をします。

でもそれじゃあ、朝礼の時間に倒れちゃったのは…夢かな?

なにやら無駄にリアルで嫌な夢だったなぁ…

花陽「思い出したよ、ことりちゃん。…ところで、今は何時かな?」

ことり「今は夕方の4時だよ」

花陽「ゆ、夕方の4時!?」

そう叫ぶと同時に、ぐぅ~っと大きなお腹の音を鳴らしてしまいました

花陽「体育の時間から寝てたってことは、お昼ご飯を食べそびれちゃった…。うぅ…お腹が空いたよぉ…」

ことり「そういうと思って…じゃ~ん♪ 花陽ちゃんのお弁当を持ってきてありま~す♪」

花陽「ことりちゃんっ…!!」

花陽はピンク悪魔に憑りつかれたようにあっという間にお弁当を平らげてしまいました

そこでなぜかピンときたのでこんな質問を投げかけます

16: 2016/01/08(金) 00:44:59.24 ID:BA/AxxFz0
花陽「もしかして、ことりちゃん特製のおにぎりがあったりします…?」

ことり「えぇ~!!なんでわかったの~!?」

花陽「ふふ、おにぎりのにおいは見逃しませんっ!」

ことり「女子高生のセリフとは思えないよ…。でも、はい、召し上がれ♪」

花陽「ありがとう、ことりちゃん♪ …………ごちそうさま、おいしかったです!」

ことり「!?」

う~ん…さっきから何だか違和感…というより既視感っていうやつかな? 不思議な感じです

…だとしたら、何かすごく大事な何かを忘れているような…

ことり「あ、花陽ちゃん!そのペンダントすっごく素敵!どうしたの?」

花陽「へ?ペンダント…?」

よく見ると花陽の首には紫色のキラキラしたペンダントがかかっていました

はて、このペンダントには見覚えが全然ありません

花陽「ああ、これは希ちゃんに貰ったんだよ!」

ことり「へぇ~そうなんだ…いいなぁ…」

ありゃりゃ? なんで見覚えもないのに希ちゃんに貰ったことを知っているの!?

花陽の目の前はパニックでぐるぐると回り始めました

花陽「ん? なんだろう、これ」

ポケットの中に一枚のメモが入っていることに気が付きました。そして、そのメモにはこうありました

17: 2016/01/08(金) 00:45:52.36 ID:BA/AxxFz0
・これは鏡の世界です

・あなたはこの世界に髪飾りを探しに来ました

・東條希にペンダントを見せること

・それ以外の人に別世界から来たことを知られてはいけません

・今日の夜0時までに必ず眠りにつくこと


花陽「! …そっか、全部思い出した…」

………

希「そうだ、花陽ちゃん。鏡の世界に行く前にこのメモを持っていきな」

花陽「これは、なんですか?」

希「さっき説明した鏡の世界のいくつかのルールがあるやん? あれって向こうへ行くと忘れてしまう事があるんよ。そのメモは目的を見失わないための道しるべ…ってところかな?」

………

花陽「…希ちゃんに会いに行かなきゃ。ことりちゃん、希ちゃんがどこにいるかわかるかな?」

ことり「希ちゃん? 多分生徒会室じゃないかな? 夏休み前で色々とやらなくちゃいけないことがあるんだって」

花陽「ありがとう。それじゃあ、ちょっといってくるね」

ことり「? いってらっしゃ~い」

18: 2016/01/08(金) 00:47:23.84 ID:BA/AxxFz0
~♪~♪~

花陽「生徒会室…ちょっと緊張しちゃうな…」

花陽「すぅ~…はぁ~…し、失礼しま…」

ガチャ

絵里「あら、花陽?」

花陽「ピャァ!?」

絵里「あっごめんなさい、驚かせちゃった? ケガはもう…って、うわぁ…まあ、お大事にね?」

そういえば花陽の顔は今も真っ赤なバレーボールの跡が残っているんでした。そんなに目立つのかな…?

絵里「そういえば、生徒会室に何か用かしら?」

花陽「あ、そうだった。希ちゃんに用があるんだけれど…中にいる?」

絵里「希に用事? 中にいるけど…花陽が希になんて、珍しいわね」

花陽「そ、そうかなぁ? …それじゃあ、ちょっと失礼します」

絵里「ええ、どうぞ。私は職員室に用事があるから、またね。…あ、それとそのペンダント。今回は多めに見るけど次は没収だからねっ!」

花陽「はいぃ…気を付けます…」

こっちの絵里ちゃんはなんだかちょっと怖いなぁ…。あっちの絵里ちゃんはもっと…いえ、なんでもないです。

花陽「それでは、改めて…失礼します!」

ガチャ

希「おー花陽ちゃん! いらっしゃーい♪」

花陽「希ちゃん、こんにちは! えっと…いきなりで悪いんだけれど、このペンダント何かわかる?」

希「そのペンダント…! ……なるほどな、状況はなんとなく把握したよ。ここだと誰かに話を聞かれるかもしれんから場所を変えようか」

19: 2016/01/08(金) 00:48:53.41 ID:BA/AxxFz0
………

希「ふむふむ、なるほど。それでその髪飾りを探すためにこっちの世界に来たってわけやね。とりあえず、生徒会には髪飾りの落し物はとどいてないなぁ」

花陽「そうですか…。私はこっちの世界での記憶も手がかりも何一つないからこっちの希ちゃんに任せろって」

希「全く…向こうのウチも人使い荒いなぁ…。毎回厄介なトラブル持ち込むし…」

花陽「なんだかごめんなさい…」

希「ふふ、花陽ちゃんのせいじゃないんだから気にせんでええよ。それに今回はどうやら向こうのウチのせいでもなさそうやし」

花陽「えっ…それって、どういう…?」

希「正確なことは何とも言えないんやけど、どうも第三者が関係しているみたい」

花陽「第三者、ですか?」

希「そう。その人物は今朝花陽ちゃんをこっちの世界…ややこしくなるから花陽ちゃんが元いた世界を真世界、今ウチらがいる世界を鏡世界としよっか。つまり花陽ちゃんを初め鏡世界に来させる時に『影(シャドウ)』まで送ってきたんよ」

花陽「えぇ!? 影をですか!?」

影とは人間にイタズラや悪さをするお化けみたいなやつのことです。その名の通り普段は黒いシミのような影が地面を動き回っているだけなのですが、時々地面から人のように立ち上がって実体を伴って行動をするんです。

希「この鏡世界には影は存在していないんよ。だから、早めに元の真世界に帰してやらないとみんながびっくりしてしまうなぁ」

花陽「そうなんだ…。それじゃあ真世界の代表として私がなんとかしなくっちゃ…だね。でもどうしよう、私はあんまり影を捕まえられる自信がないなぁ…」

希「大丈夫、出来る限りウチも手伝うよ。…それじゃあ、影を探しつつ髪飾りの情報を集めよっか」

20: 2016/01/08(金) 00:50:12.87 ID:BA/AxxFz0
~♪~♪~

希「それじゃあ、花陽ちゃんは今朝鏡世界に来て、1時間目の体育の授業でバレーボールを顔にぶつけて気絶して真世界に戻ったってことやんな?」

花陽「はい…多分ですけど。さっきも言ったように鏡世界で起きたことはほとんど記憶がなくって、さっきことりちゃんに聞いてようやくそれだけ思い出せたんです」

希「ふむ…。髪飾りを鏡世界でなくしたとすると1時間目の体育の時間までの間ってことか。思ったより時間は限られてくるなぁ」

花陽「そうだね。とりあえずもう一度ことりちゃんに話を詳しく聞いてみよっか? それとも…」

「かよちーん!!」

花陽「凛ちゃん!」

凛「希ちゃんも! 授業終わったしはやく練習行こ?」

花陽「う、うーん…。ちょっと私はさがしものが…」

希「ごほんっ!」

花陽「え、えーっと…じゃなくて、まだ体調があんまりよくないから…」

凛「えー、そうなの? 残念…じゃあ、希ちゃんは練習来るよね?」

希「ウチもまだ生徒会の仕事が残ってるんよ。だから、凛ちゃんは先に練習いっててな?」

凛「むぅ…仕方ないにゃ。それじゃあ、凛は先に部室に行ってるね! かよちんはお大事にー!」

花陽「ありがとう」

希「…凛ちゃんの性格からして探し物があるって言ったら一緒に探そうっていいだしそうやん?」

花陽「あ、そっか。ごめん…」

希「あんまり鏡世界の人とは関わるのを避けた方がええかもしれんな。少しでも花陽ちゃんが別世界から来たって感づかれんように」

花陽「…ばれたらどうなるんですか?」

希「元の世界に帰られなくなるってだけよ?」

花陽「ひぃっ!?」

希「あ、でも安心して。向こうの世界でも何事もなかったように花陽ちゃんは目を覚ますから。今の花陽ちゃんは真世界の保健室で眠っている花陽ちゃんをコピーしてできたような存在なんよ」

花陽「それじゃあコピーの私は消えちゃうってことですか…?」

希「ううん、消えないよ。ずっとこのままこの鏡世界で生きていくことになるんよ。消えてしまうのは、元々この鏡世界にいた花陽ちゃん。今も魂だけの存在であなたがいつ体を返してくれるのか、今か今かと待っている…」

希ちゃんの冷ややかな瞳に花陽は背筋がぞくっとしました。

希「な~んて、冗談や♪ ちょっと脅かしてみただけ!」

花陽は何にも言うことができませんでした。

希「それよりもう一回ことりちゃんに話を聞きにいこっか? 大丈夫、ウチに任しとき!」

21: 2016/01/08(金) 00:53:29.04 ID:BA/AxxFz0
~保健室~

希「失礼しまーす。ことりちゃんおるー?」

ことり「あ、希ちゃんと花陽ちゃんだぁ♪ いらっしゃ~い」

真姫「花陽! …うっ、まだ大分赤いわね…。それより、心配して様子を見に来たらさっき出て行ったってことりに聞いて…それでなんでまた戻って来たの?」

花陽「あ、真姫ちゃん。うん、ちょっと気になることがあって」

真姫「気になること?」

花陽「うん、えっと…」チラッ

希「こっからはウチが代わりに話すな? ことりちゃん…あと真姫ちゃんも丁度いいやん。実はなんと花陽ちゃん、さっきのバレーボールの衝撃で一時的な記憶喪失になってしまったんや!」

ことまき「記憶喪失!?」

希「そう。ただ、幸い断片的な記憶喪失みたいで今朝からバレーボールの衝撃を受けるまでの記憶だけがないらしくってな。もし、その間の花陽ちゃんに起きたことを少しでも知っていたら教えてほしいんよ。それを聴いたら何か思い出すかもしれんし!」

ことり「花陽ちゃん、本当に? 大丈夫なの?」

真姫「そんなにひどいならうちの病院で治療した方がいいんじゃない?」

花陽「だ、大丈夫! そんなにひどくないし…それに話を聞けば思い出すかもしれないし!」

ことり「花陽ちゃん…。わかったよ、ことりにできることなら何でも協力するよ!」

真姫「私も。…今朝から体育までの花陽、ね。…あら? 花陽、あなた確か今朝は髪飾りをつけてなかった?」

花陽「真姫ちゃん、髪飾りのこと知ってるの!?」

真姫「今朝あなたと話したのよ。…本当に覚えていないのね。確か凛と買い物に出かけて、買ってもらったんだっけ?」

花陽「うん…うん! そうだ、思い出したよ!」

希「おお! さすが真姫ちゃん!」

真姫「トーゼン! …で、それから…」

花陽「…それから?」

真姫「こ、今度は凛と花陽と私の3人で行こうって…///」

花陽「! もちろん、覚えてるよ♪」

真姫「お、覚えているならいいのよっ///」

花陽「ふふっ♪」

希(ええやん)

ことり(あぁ^~、心がちゅんちゅんするんじゃ^~)

22: 2016/01/08(金) 00:54:51.40 ID:BA/AxxFz0
真姫「…それで、髪飾りはどうしたの?」

花陽「そ、それは…」

希「髪飾りをどこかで無くしたかもしれない。でも、花陽ちゃんにはその時の記憶がないんよ。真姫ちゃん、他には何か知らない?」

真姫「そういうことね。そうね…その後はバレーの授業で2つのコートに分かれて、私と凛は同じコートで試合をしていたんだけれど、隣のコートで花陽が顔にバレーボールを受けて倒れたから…私が簡単な応急処置をしたわ」

真姫「それで凛と私の二人で保健室まで運んだんだけれど…その時に髪飾りが付いていたかは覚えていないわ」

希「もしかしたら、バレーボールがぶつかった時に落としたのかもしれんね」

ことり「1時間目が終わった後に花陽ちゃんが倒れたって聞いたから、保健委員のことりは様子を見に保健室に来たの。でもそのときは確か髪飾りは付いていなかったと思う」

真姫「確かなの?」

ことり「うん。ことりは服飾とかのお勉強しているから、みんなが少し前髪を切っただけでも絶対見逃さないし、髪飾りなんかがついていたらすぐに気付くと思うよ」

希「となると、いよいよ体育館で落とした可能性が高くなるわけやな」

ことり「ことりもそう思う。…あれ? そういえば、今花陽ちゃんがつけているペンダント…それはあの時はつけてなかったような…」

のぞぱな「ぎくぅっ!!」

真姫「服飾に詳しいことりなら見逃すはずないわよね」

花陽「の、希ちゃん!」ヒソヒソ

希「これは不味いなぁ…」ヒソヒソ

ことり「ことりは花陽ちゃんが心配だったから、休み時間の度すぐに保健室にきて看病していたけれど…あれぇ? ペンダント…いつ付けたの?」

希「う、ウチらは体育館を調べてくるから! 真姫ちゃんとことりちゃんはすぐに練習行くんやで!!」ドッヒュン

花陽「…と、いうことです!」ピュー

真姫「ちょっと! 希! 花陽!」

ことり「うーん…うーん…まあ、いっか♪」

23: 2016/01/08(金) 00:57:39.62 ID:BA/AxxFz0
~体育館~

希「ふぅ…危なかったー…」

花陽「の、希ちゃん…任せてって言ったのに…。花陽、帰れなくなっちゃうかも…」ウルウル

希「ご、ごめんなぁ…。でも、多分大丈夫や。あれだけの理由で別世界から来たなんて夢にも思わないやろうし」

花陽「そうだといいけれど…」

希「それより今は髪飾りを探さんと。…ん? 誰かいるみたいやな」

花陽「本当だ、誰だろう…って、あれは!?」

希「どういうことや…?」


凛「あ、希ちゃんに…かよちん!? だ、大丈夫なの!? すっごい赤くなってるよ!?」

花陽「凛ちゃん…!? え、えっと、もう平気だよ?」

凛「本当に? すっごく心配したんだよー…。バレー部の子も謝っていたよ」

花陽「そっか、ごめんね。…ところで、凛ちゃんさっきは部室に行くって言ってたよね?」

凛「え、凛が? そんなこと…言ったかにゃ…?」

花陽「え?」

凛「凛は体育の教科委員だから放課後に倉庫の備品のチェックを頼まれちゃって、授業が終わったらすぐに体育館に来たよ。かよちんと会ったのも、お昼休みに保健室に様子を見に行って以来だし…それにその時はかよちんまだ寝てたよね?」

花陽「これは…一体…」

希「影の仕業かもな…」ボソ

花陽「まさか…!」バッ

凛「?」

希「落ち着いて、花陽ちゃん。ウチの勘だけど、もし影の仕業だったとしたらそれはさっき会った方の…」ヒソヒソ

花陽「…! みんなが危ない!」ダッ

凛「あ、かよちん! どこいくのー?」

希「ごめんな、凛ちゃん。…ところで、凛ちゃんはここで備品のチェックしてたんやんな? 何か落とし物とかなかった?」

凛「落とし物? うーん、特に何にも見てないよ?」

希「そっか、ありがとな。それじゃあ、引き続き頑張ってな! あ、それから部室に来るときはゆーっくりおいで?」

凛「? 了解にゃ」

希「ほな!」

24: 2016/01/08(金) 00:58:21.87 ID:BA/AxxFz0
~部室~

花陽「はぁ…はぁ…ひどい…」

花陽が部室に着いたときにはそこはすでにめちゃくちゃに荒らされた後でした

花陽「あぁ…伝伝伝が…もったいない…」

希「花陽ちゃん! …これはひどいなぁ」

花陽「早く影を捕まえないと…!」

希「手分けして探そうか? まだそれほど遠くに行ってないはずや」

花陽「…わたしはもう少しここを調べて見ます。何か手がかりがあるかも」

希「気ぃつけてな。この影、結構強力そうや」

花陽「うん。何かあったらすぐに呼んでね?」

希「お互いな。あ、そうそう。凛ちゃんから聞いたんやけど、体育館には髪飾り落ちてなかったって」

花陽「わかった。ありがとう」

希「ほな」

影は人のように立ち上がることがあるけれど、その見た目は黒い人影程度であることが多い。
それが凛ちゃんの姿を真似してさらに自然な会話までこなしたとなると、その辺の雑魚とはわけが違う。
野生の影にそんな力はない。

第三者。

花陽を鏡世界に送った人物。そして同時に影を送った人物。
恐らくその人物が自分の"影"に力を与えて成長させたのだろう。
そうまでして一体何のために?

25: 2016/01/08(金) 00:59:20.28 ID:BA/AxxFz0
「もういーかい?」

花陽「ピャァ!? だ、誰ですか!?」

「まーだだよ」

すぐ近く、この部室の中に誰か…いえ、何かいます

花陽「影…!」

壊れた机の"影"がゆらりと揺れたと思うと、それは次の瞬間には机の"影"をやめ、ぐちゃぐちゃのボールペンの試し書きとなり、そして立ち上がった。

影「ねえ、いっしょにあそぼ?」

花陽「…いいよ」

影「ほんと? …それじゃあ、『かげふみ』しよっか? ルールはわかるよね?」

花陽「うん。私が鬼でいいよね?」

影「それでいいよ。じゃあ、よーいはじめ」

影を捕まえるには立ち上がった状態…実体化させる必要があります。そのためにはまず地面に潜む影を踏んでやらないといけません。

花陽(うぅ…速い…!)

影「おにさんこーちら、てのなるほうにー」

花陽「ま、待ってぇ…!」

放課後の廊下のサッシの影とオレンジの夕日が交差する中を少女と影が駆ける。
影は床だけでなく壁やさらには天井までを自由自在にぴょんぴょんと跳んで逃げていく。
あくまで遊びとして楽しんでいる。花陽のことをあざ笑うかのようだ。

花陽「はぁ…はぁ…ダレカタスケテー!」

「ウチに任しとき!」

どこからかひらりとタロットカードが舞い込んできた

バチンッ!

影「ぐぅっ…」

タロットカードが影に近づくと光を伴って弾けた。それが一瞬影の動きを止めたが、すぐに体勢を立て直されて逃げられてしまった。

希「あちゃー、ダメか。あれは相当タチが悪いなぁ」

花陽「希ちゃん、今のって…」

希「ふふ、スピリチュアルやろ? それより後を追うよ!」

花陽「…はい!」

26: 2016/01/08(金) 01:00:13.53 ID:BA/AxxFz0
影はさっきの攻撃が効いたのか跳ね回るのを止め、ひたすら逃げることに専念している。
余裕がなくなったのだろう。だが、それでもやっぱり速い。距離を保つので精いっぱいだ。

気が付くと外に出ていた。
影は夕日の元に出ると、ながーくなって花陽の丁度足元まで伸びてきました。

希「チャンスや!」

花陽「う、うん!」

ダンッ!

影「おっと、あぶない」

思い切り影を踏み込もうとしたけれど、あとちょっとのところで逃げられてしまいました。

花陽「ああっ! そっちはダメです!」

影は正門に向かってまっしぐら。学校の外に出してしまったらもっと大変なことに…!


しかし、再びバチンっ!という音とともに影は正門のところで何か見えない壁のようなものに阻まれたのでした。

希「こんなこともあろうかと思って、結界張っといたんよ。あの影がこの学校から外に出ることはないよ」

花陽「希ちゃん…!」

希「外なら長くなった影を踏めるのも時間の問題やんな。一気にいくで!」

影「…っ!」

花陽「あっちは体育館の裏側…!」

希「好都合やん! ウチはこっちの方から回るから、挟み撃ちにしよう!」

花陽「うん、わかった!」

27: 2016/01/08(金) 01:01:21.97 ID:BA/AxxFz0
さっきの結界の力でさらに弱った影はよろよろと体育館の角に姿を消しました。
それを追って花陽も角を曲がると…

どしんっ!

希「おわぁ!? 花陽ちゃん!?」

花陽「の、希ちゃん!? なんで!?」

希「なんでって影を追って…そうだ、あいつはどこに!?」

花陽「えぇ!? たった今そこの角を曲がってそっちに向かったんじゃ…?」

希「こっちの方には何も来なかったよ?」

花陽「そんな…逃げられた…?」

希「みたい…だね」

がっくし。あとちょっとのところだったのに…

希「…残念だったね。もしかしたら、壁を登って逃げたのかも。また、手分けして探そうよ。私はこっちを探すから、花陽ちゃんはあっちをお願いね?」

また振り出しに戻ってしまいました。さっきは運よく影の方から出て来てくれたけれど、今は相手が警戒しているからそうはいかないでしょう。
学校から出ないとはいえ校内の敷地はそれなりに広く、なかなか大変そうだなぁ…。
でも、希ちゃんの手助けがあれば何とかなりそうな、そんな気がするんです!

…と、ここで花陽はさっきの会話に違和感を覚えます。

花陽「……ちょっと待って。希ちゃん、今なんて?」

希「? えーっと…また、手分けして探そうって言って…私はこっちを探すから、花陽ちゃんはあっちをお願いね…って」

ガシッと希ちゃんの腕を掴んでこう言いました。

花陽「希ちゃんは自分のことを"私"なんて言いません」

「…あーあ、つかまっちゃった」

希ちゃんの仮面が崩れるとそこには真っ黒な影だけが残りました。
そして、ちょうど体育館の向こうの角を曲がって希ちゃんが走って来るのが見えました。

花陽「希ちゃーん! やったよー!!」ブンブン

希「まだや! 気ぃ付けて!」

28: 2016/01/08(金) 01:02:18.93 ID:BA/AxxFz0
捕まえた影を見ると、それはぶくぶくと3m程にも膨れ上がって花陽の手を振り払い、そのまま花陽を突き飛ばしたのでした。

希「花陽ちゃん!」

花陽「うっ! いたた…」

影「…」

逃げることを諦めた影は攻撃的になることがある…すっかり忘れていました。

希「これでも喰らえっ!!」ヒュンッヒュンッ

先ほど見せたタロットカードによる攻撃の2連撃!
バチバチッ!と影に直撃したのですが、もはや怯ませることはできないほど影の力は大きくなってしまいました。

影は希ちゃんの方に体を向けると、自分の体を鞭のように伸ばして大きく薙ぎ払い!
希ちゃんはそれを上体を低くすることで、すんでの所で回避してみせる。
今度は影の鞭を往復ビンタの要領でぶんぶんとでたらめに振り回す。
地面が抉られて小石や砂埃が舞う中、そのすべてを鮮やかに回避する希ちゃん。…凄いです。希ちゃんって一体…。

どんなもんや。と、聞こえてきそうな程のどや顔を浮かべる希ちゃんに対して小首を傾げる巨大な影。
その体からは先ほどと同じ影の鞭がなんと8本も現れました。

希「ぬぁ!? そ、そんなん反則やん!?」

どや顔から一転、影の鞭に四肢を縛り上げられて悲壮感漂う姿に…

希「花陽ちゃん! ウチのことはおいて逃げるんや!」

花陽「そ…そんな…」

影は残った4本の鞭で今にも花陽に襲い掛かってきそうです。

希「花陽ちゃん!」

花陽「…仕方ないですね」



花陽「あんまり得意ではないですが…」

29: 2016/01/08(金) 01:02:52.70 ID:BA/AxxFz0
花陽の赤い瞳がより一層赤さを増して輝く。赤い瞳は魔力を使役する者の証。
あとからわかったことですが、花陽の顔には最初からバレーボールの赤い跡なんてなくて、みんなが驚いていたのは真っ赤に腫れたように見えるこの瞳だったんです。

地面からは真世界の植物が無数に出現し、そのツルが逆に影のことを縛り上げる。
影はしばらく抵抗していたようでしたが、全く身動きが取れなくなったようで、やがて降参したように希ちゃんを開放してくれました。

30: 2016/01/08(金) 01:04:15.44 ID:BA/AxxFz0
~♪~♪~

希「いやぁ~それにしても、花陽ちゃんがあんなに強かったなんて…。ウチの頑張りは一体…」オヨヨ

花陽「希ちゃんが結界を張ってくれたおかげですごい助かったんだよ? だから、ありがとう♪」

希「ふふ、おおきに♪」

影を無事に真世界に送り返して、そのままこっそり学校を抜け出して今は希ちゃんの家に匿ってもらっています。
希ちゃんに淹れてもらった温かい紅茶をずずっと啜りながら、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。

花陽「ねぇ、希ちゃん。希ちゃんって一体…」

希ちゃんはカチャッとティーカップをソーサーに置くと優しい笑顔を浮かべた。
そして、瞳に指を突っ込んで…その緑色のカラーコンタクトレンズを取って見せた。

花陽「赤…」

そっか…希ちゃんは元は花陽と同じ真世界の人だったんだね
それが本当だとしたら希ちゃんは元の世界に帰られないままずっとここで…

希「…向こうのウチは元気?」

花陽「はい…とっても」

希「そっか…それはよかった。…そのペンダント懐かしいな。それを見てるといろんなことを思い出す」

希「真世界と鏡世界を移動するとき、記憶の伝達はできない。記憶を伝達するには何かしらの媒体が必要なんよ。よく使われるのは忘れちゃいけないことをメモに書いて残す方法。花陽ちゃんの場合は…その髪飾りが記憶の媒体になってくれたみたいやん」

花陽の頭には凛ちゃんからもらった髪飾り。影が隠し持っていたものです。
この髪飾りを見た瞬間に夢として忘れかけていた真世界と鏡世界での記憶が全て戻りました。

初めに鏡世界に来た花陽。バレーの授業で気絶した花陽を真姫ちゃんと凛ちゃんが保健室まで運んでくれました。
その後しばらくして、誰もいなくなった保健室で薄れていく意識の中、影が髪飾りを持っていくのを見ていたのです。

31: 2016/01/08(金) 01:05:03.35 ID:BA/AxxFz0
花陽「希ちゃんは…怖くないの?」

希「…最初は怖かった。自分の知っているようで全く知らない世界。みんなはウチのことを"希"と呼ぶけれど、みんなが呼ぶ"希"はウチのことじゃなくて、ウチが消してしまった鏡世界に元からいた"希"。」

希「夢の中で毎晩会うんよ。『返して』って。…でも、それも目が覚めてしばらくすると忘れてしまう。さらに時間が経つと、真世界での自分の記憶も薄れていって…結局そのペンダントを見るまで全部忘れていた」

希「でもね、今は幸せなんよ? 前向きに生きて行こうって決めたし…それに、こっちでμ'sのみんなとやるスクールアイドルもすっごく楽しいんよ♪」

本当に幸せそうな笑顔でした。

希「さ、そろそろ向こうへ帰る準備をせんと。髪飾りがあるから大丈夫かもしれんけれど…一応メモにこっちでの出来事を書いとき」

花陽「はい…そうですね」カキカキ

希(左利き…か)

花陽「あれ…何だか急に眠たくなって…」ウトウト

希「無理せんでもええんよ?」

花陽「のじょみ…ちゃん…もしかして紅茶に……ぐぅ…zzz」

希「ふふ、おやすみ、花陽ちゃん。よい夢を…」

32: 2016/01/08(金) 01:05:43.09 ID:BA/AxxFz0
さかさまのさかさまを見てごらん

この世界は本当に、真世界? それとも…

33: 2016/01/08(金) 01:06:49.16 ID:BA/AxxFz0
~♪~♪~

目を覚ますとよく知っているいつもの保健室の天井が見えました。
すっかりと夜の黒へと色を変えた空にはぽっかりと白い月。
そして、その隣には以前より一回り大きくなった紅月『リベリオン』が浮かんでいます。
ベッドの横の椅子には座ったまま寝息をたてている希ちゃんがいました。

「…かよちん、おかえり! 希ちゃんに聞いたよ。取り戻してくれたんだね、髪飾り」

花陽「凛ちゃん…。うん、凛ちゃんからもらった大事な髪飾りだもん」

凛「えへへ、ありがとう!」ぎゅっ

花陽「ねぇ、凛ちゃん?」

凛「…なぁに?」

花陽「凛ちゃんだよね? わたしを向こうの…鏡の世界に送ったの」

凛「…気付いてたの?」

花陽「なんとなくだけどね。あの影、凛ちゃんにそっくりだったから」

凛「ちぇー…希ちゃんの真似も結構自信あったのになぁ…」

凛ちゃんは自分の影を操って希ちゃんの姿に変えて見せました。
すぐ隣で本物の希ちゃんが寝ているのでなんだか不思議な光景だなぁ…

花陽「それから今朝貧血で倒れた時に私をこのベッドに運べたのなんて、凛ちゃんか真姫ちゃんくらいだもん」

凛「…かよちんには敵わないにゃー」

希ちゃんを影に戻しながら凛ちゃんが言いました。

34: 2016/01/08(金) 01:08:47.66 ID:BA/AxxFz0
花陽「それで…どうしてこんなことをしたのか聞いていい?」

凛「…かよちんのためなんだよ」

花陽「?」

凛「…本当はあのまま髪飾りを持ったまま夜の0時まで逃げ続けるつもりだったんだ。鏡の世界からこっちに戻ってくるための条件は0時までに眠ること。もしそれができなければ、ずっと向こうの世界から帰ってこられなくなる」

花陽「なら…どうして…?」

凛「かよちんには向こうの世界で幸せになって欲しかったの…」

花陽「なんで…? …全然わからないよっ!?」

凛「だって…だって……」


「この世界はもうすぐ滅びてしまうから」



35: 2016/01/08(金) 01:11:21.01 ID:BA/AxxFz0
わかりにくい文で申し訳ないです
かよちんのほっぺたもにもにしたい

37: 2016/01/08(金) 22:52:32.47 ID:BA/AxxFz0
次作で完結予定です。残りの伏線も回収します
ただ期間けっこう空くかもです

引用元: 花陽「保健室の夢枕」