354: 2017/11/20(月) 01:18:53.76 ID:ar8Ow7Mqo
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(1) (電撃コミックスEX)
闇落ちした楓さんがマスコミやらテレビやら、ありとあらゆる手段を使ってプロデューサーの外堀を埋め、自分と身を固めさせる話とか読んでみたいですね

381: 2017/11/20(月) 21:43:34.38 ID:Pfdjp9MCo

 私は今、怒っている。


「この度は誤解を招く行動をしてしまい、ファンの皆様や関係者の方達には、大変ご迷惑をおかけしました」


 それは、パシャリパシャリと私と彼に降り注ぐシャッターの光と音にではない。
 今日は休日の予定だったと言うのに、この様な記者会見の場に出なければならなくなったからでも、
ましてや、このような場でもいつもと変わらない無表情の彼にでもない。


「高垣さんとは、どういったご関係でしょうか!?」


「私は彼女が所属する事務所のプロデューサーというだけであり、特別な関係はありません」


 勿論、今の彼の答えはわかっていたもので、それに関しての怒りもない。
 と言うか、今の質問が私に飛んできたものだとしても、私は全く同じ答えを返すだろう。


「ですが、この写真を見る限りでは、とても親しそうに感じるのですが!?」


 そう言った記者さんの手には、ここ数日世間を騒がせている週刊誌の、あるページが開かれている。
 載せられている写真に写っているのは、彼の腕にしがみついている私。


 ハッキリ言ってしまうと、酔っていて全然覚えてないのよね。

383: 2017/11/20(月) 21:55:39.78 ID:Pfdjp9MCo

 だから、私は今、怒っている。


「高垣さんは、その時泥酔しており、意識的にやった事ではないと言っています」


 その通りなんです!
 確かに、酔っていたとは言え私の行動はアイドルとして軽率だったかもしれない。
 けれど、酔ってふらついた時に、異性とは言え腕にしがみつく事までダメなのかしら。
 そのまま転んで怪我をすれば良かったとでも言うつもり?


「貴方は、何故その時その場に居たのでしょうか!?」


「彼女と一緒に居た同僚の方に連絡を受け、自宅まで送り届けるようにと頼まれたからです」


「泥酔した女性をというのは、問題があるのでは!?」


「はい、確かにおっしゃる通りだと思います」


 強くなるフラッシュとシャッター音。


「ですが――、」


 彼は言葉を少し区切り、ハッキリと、


「――私はプロデューサーであり、アイドルに手をだす事は絶対に有り得ません」


 そう、告げた。
 会場中が息を呑むように一瞬静まり返ったのは、彼の気迫か、はたまた容姿によるものか。
 それは、私にもわからない。

384: 2017/11/20(月) 22:06:16.28 ID:Pfdjp9MCo

 だからこそ、私は今、怒っている。


「彼女の周囲の方達も、それを理解した上で、私に高垣さんを送る様に頼んだのだと思います」


 信頼出来る人間に任せる、というのは正しい判断ではないか。
 だからええと……うん、瑞樹さんと早苗さんが一緒に呑んでたのよね?
 だから、二人は悪くないわ。


「ですが……それは私と、当人達にしかわからない事であり、軽率な行動でした」


 悪かったのは、タイミングだけ。
 誰も、何も悪いことなんてしてないもの!
 なのに、


「なので、今回の件の釈明と、今後の反省のために……この場を設けさせて頂きました」


 嗚呼、なのに!


 どうして禁酒しなければいけないの!

385: 2017/11/20(月) 22:17:59.36 ID:Pfdjp9MCo

 私の怒りは、留まることを知らない。


「それでは、高垣さんに質問です!」


「はい、何でしょうか?」


 少し飲みすぎて、たまたま近くに居た男性にしがみついただけなのよ。
 それだけのに、大好きなお酒を禁止された上に、こんな場に引っ張り出されて。


「今回の件に関して、どうお考えでしょうか!?」


「そうですね……私も、とてもビックリしています」


 週刊誌が発売されて、すぐに連絡があった。
 そこからずっとお酒を飲むのを禁止されて、今までの行動を注意されて。
 挙句の果てには、アイドルなんだから普段の言動にも注意しなさいだなんて!


「記憶をなくす程飲んだなんて……本当に久々でしたから」


 そう言ったら、何故か会場中がどう反応したものかと静まり返った。
 ……どうしてかしら?

386: 2017/11/20(月) 22:30:25.49 ID:Pfdjp9MCo

 こんなに怒るのだって、本当に久々。


「だから、きっと楽しいお酒だったんでしょうね」


 だからこそ、その結果がこれではあまりにもあんまりではないか。
 悲しみを通り越して、怒りを覚えるのも当然の権利。


「し、しかし! 今回の行動はファンを裏切る事になるのでは!?」


「それは有り得ません」


 断じて言える。


「彼も言った通り、今回の件は転ばないようにしがみついただけです」


 私は、ファンを絶対に裏切らない。


「相手がどうこうの話ではなく、ただ、支えになるものに手を伸ばしただけ」


 それに、


「それに、私のファンの方達は、私がお酒が大好きだと知ってくれているでしょうから」


 だから、今回の件では私のファンの方達はまるで騒いでいない。
 面白おかしく騒ぎたい人達の声で禁酒しなければいけないなんて、アイドルの道は厳しい。

387: 2017/11/20(月) 22:44:14.77 ID:Pfdjp9MCo

 前に怒った時は、どうだったかしら。


「……では、二人の間に特別な感情は一切無い、と?」


 随分と散発的になったフラッシュとシャッター音。
 会見の時間も長いものではなく、この質問が最後になるだろう。
 それもそのはず。


「はい。私はプロデューサーであり、彼女はアイドルですから」


 仕事人間である彼と私の間に、そんな甘い感情があるはずもないのだから。
 お互いがそう思っていると、少なくとも私は信じている。
 それがこんな事になってしまうだなんて、本当に怒りが込み上げて仕方ない!


「……」



 ――彼の、プロデュースに対する情熱を馬鹿にしないで!



 ――私の、アイドルに対する想いを甘く見ないで!



「うっ……ぐすっ……!」


 ……思い出した。


 私は、怒ると泣いてしまうのだった。

388: 2017/11/20(月) 22:56:09.81 ID:Pfdjp9MCo

 まずい!

 まずい、まずい、まずい、まずい!


「っ……!」


 雪崩のように降り注ぐ光と音から逃げるように下を向く。
 今のこの私の顔を撮られる訳にはいかない。
 涙が止まったとしても、メイクを崩した表情を見せる訳にはいかない。


「うっ……ふうぅ……!」


 あともう少し、ほんのちょっとで終わったのに。
 皆、絶対に誤解してるわ。
 この涙の正体が怒り涙だなんて、誰が信じてくれるっていうの。
 けれど駄目、止まらない。


「……うぅ……っぐすっ……!」


 顔をこすらないように握りしめた手は真っ白に。
 会見のために用意された衣装には、怒りの雫の跡がどんどん増えていく。
 まるで止まらない。
 怒りも、涙も、シャッターも、何一つ。

389: 2017/11/20(月) 23:10:40.55 ID:Pfdjp9MCo

「……っく……ひっく……!」


 私の名前を呼ぶ声が、そこかしこから聞こえてくる。
 アイドルとしてそれに答えなければならないのに、出来ない。
 だって、今の私の表情はとても歪んでいて、見せられたものではないから。
 だから、早く、早く――


「高垣さん」
「……ひぐっ……うっ……!」


 とても、とても近くから彼の声が聞こえる。
 顔を上げて確認は出来ない。
 だけど、この低く響いてくる声は間違いなく彼のものだ。


「こちらを使ってください」
「……っく……ふぐぅ……!」


 俯いた顔と、涙の跡を遮るように差し出された、青いハンカチ。
 きっと彼はこれで涙を拭けと言っているのだろうけど、今の私にそれは出来ない。
 だって、手が震えてしまってるんですもの。
 禁酒なんてされてなければ、手が震えるなんてなかったかもしれないのに!


 駄々をこねるように、私は首を横に振った。

390: 2017/11/20(月) 23:20:26.50 ID:Pfdjp9MCo

「……」
「うぅ……ふぅっ……!」


 気配で、彼がハンカチを差し出した逆の手を首筋にやったのがわかる。
 きっと、彼は今とても困っているのだろう。
 けれど、しょうがないじゃない! 私だって、出来ないものは出来ないの!


「高垣さん――目元、失礼します」
「う……?」


 ゆっくりと、青いハンカチが顔に近づけられ、優しく、そっと目に当てられた。


 それだけ……そう、本当にそれだけなのに。


「……」
「……」


 私の涙は、怒りは、まるでハンカチに吸い込まれるように、嘘の様に止まった。
 優しく添えられたハンカチは柔らかく、これならメイクの崩れも最小限で済むだろう。
 柔軟剤、使ってるのかしら。

391: 2017/11/20(月) 23:29:10.38 ID:Pfdjp9MCo

「……」


 もう、涙は止まった。
 あとは顔を上げるだけだけど、今は、それがとても怖い。
 こんな会見の場で突然泣き出した女に向けられる視線はどんなものだろうか?
 想像するだけで足がすくみそうになるが、逃げることは許されない。


 プロデューサーの彼が涙を止めてくれたのだ。
 ここからは、アイドルである、私の仕事だ。


「……」


 やさしく涙を受け止めてくれていたハンカチから、彼の手から離れ顔をゆっくりあげる。
 降り注ぐシャッターの光と音はすさまじかったが、まずはやることがある。
 助けてくれた彼に、お礼を言わなくちゃ。


「……あびがどうございま゙ず」
「……」


 その顔は何ですか?
 あれだけ泣いたらね、鼻水だって出ますよ!

392: 2017/11/20(月) 23:40:23.14 ID:Pfdjp9MCo

「……失礼します」
「……ずずっ!」


 今の、呆れるような顔以上に、何か失礼な事をしようというの?
 私だってね、怒る時は怒るんですからね!
 ……泣いちゃいますけど。


「……」
「っ!?」


 彼のとった行動は、私がまるで予想していないもの。
 あろう事か、この男は、ハンカチを私の鼻に当てて、


「ちーん」


 こう、言った。


 25歳にもなって、アイドルなのに、衆人環視の中、鼻をかませる姿を晒せと!?


「……」
「……ずずっ」


 ……良いですよ、覚悟してください。
 アイドルだって、全部が全部綺麗なものじゃないんですから!


 会場に、プピーと、私の鼻をかむ音が響き渡った。


 ……マイクが音を拾うなんて思ってなかったわ。

393: 2017/11/20(月) 23:52:25.04 ID:Pfdjp9MCo

「……」
「……」


 彼は、無言で私の状態をチェックしている。
 泣いている私にハンカチを差し出したのも、プロデューサーとしての性だったのだろう。
 けれど、今気になっているのはポケットにしまったハンカチの処遇です。
 代わりのものを買ってお渡しするので捨ててください……その、流石に恥ずかしいので。


「……」


 チェックが終わったのか、彼は膝立ちの状態から立ち上がり、中腰になった。
 泣いてしまったのは私の自業自得だけど、鼻をかむ必要は無かったと思うの。
 だから、そこに関しては文句を言っておかなくちゃ。


「……柔軟剤」
「? 高垣さん?」


 私のつぶやきに、彼の動きが止まる。


「柔軟剤入りのハンカチを使う、自由なんざ要りません」
「……」


 あっ、違う。
 前から考えてた駄洒落を言えるタイミングだと思って、間違えちゃった。

394: 2017/11/21(火) 00:05:47.77 ID:eWdqW08oo
「……」
「……ふふっ」


 無表情な彼が呆気にとられているのがおかしくて。
 あんなにも荒れ狂っていた私の心が穏やかで。
 自然と、笑みが零れた。


「……くくっ! 何故、今それを……っくく!」
「ふふっ……だ、だって、チャンスかなと思って……ふふっ!」


 ああ、おかしい!
 駄洒落が会心の出来だったからか、彼も声を上げて笑っている。
 こんな姿は初めて見たし、それがまたおかしくて笑いが止まらない。


「ふふっ……うふふっ」
「……」


 笑い続ける私を見て、彼は一言、こう言った。


「良い、笑顔です」


 降り注ぐシャッター音が、まるで拍手のように感じる。
 気の所為だろうか、記者の方達も皆笑っているように見える。


 だったら、それに笑顔で応えなければ。


「はい――私は、アイドルですから」


395: 2017/11/21(火) 00:26:15.22 ID:eWdqW08oo
  ・  ・  ・

 結論から言えば、私が禁酒される事は無かった。


「高垣さん、しっかり歩いてください」
「ステップの練習で~す♪」


 会見の時のやり取りは、テレビや新聞だけでなく、インターネットの動画サイトにもアップされた。
 その反響は、当初のものとはまるで違う、とても大きなもの。
 海外のニュースでも取り上げられ、一時期は彼もその対応に追われていた程だ。


「ほら、貴方も一緒に踊りましょう?」
「……」


 いつもの、右手を首筋にやる彼の癖。
 そして、彼は私の手を取った。


「あら、付き合ってくれるだなんて、『王子様』は今日は酔ってるんですね?」
「……その呼び方は、ご勘弁を」


 反響はとても大きかった。
 それも、とても好意的にだ。
 今の彼は、『鼻かみ王子』として、世間に認識されている。

396: 2017/11/21(火) 00:44:28.06 ID:eWdqW08oo

「うふふっ♪ やっぱり、お酒は最高ですね♪」
「……程々にしてくださいね」


 ステップからのターン。
 曲も歌もない、気の向くまま、自由に。
 今日のお酒は、とても楽しい。


「お二人さん! いつ結婚するんですかー!」


 突然声がかけられたが、それがどこからかはわからない。
 わからないから、大声で答える。


「「しませーん!」」


 図らずも、彼と返事がかぶった。
 それがまたおかしくて、顔を見合わせて笑い合う。


 私はアイドル。


 彼はプロデューサー。


 他の誰が何と言おうと、私達の間にあるのは恋や愛という甘い感情ではない。
 私達がそう言うと……皆口を揃えて「頑固」と言うか、閉口してしまうのだけれど。



 私達の関係を一言で表すなら……ふふっ、今は飲み友達かしら♪



(ED曲:『LIVE PARTY!!』)



おわり

397: 2017/11/21(火) 00:47:21.18 ID:eWdqW08oo
次は下品なの書きます
おやすみなさい

398: 2017/11/21(火) 00:52:22.93 ID:zPzF+d2U0

400: 2017/11/21(火) 06:46:53.21 ID:jK5dZSNJO
次は下品なの書きます宣言ほんと好き

引用元: 武内P「大人の魅力、ですか」