595: 2017/11/24(金) 21:05:44.30 ID:5h7LlnG4o

 プゥッ。


 今後の活動に関して、私達は話し合っていた。
 黒いソファーに、ガラス製のテーブルの上に載せられた資料。
 正面に座る彼女は、真剣にそれを覗き込んでいた。


 そして、ふと、会話が途切れた瞬間、先の音が聞こえたのだ。
 私は、プロデューサーと言えどもアイドルに幻想は抱かない。
 彼女達の存在は現実であり、当然、放屁もする。
 そこに人間としての違いなどあるはずもなく、仕方の無い事なのだ。


 プロデューサーとして、いや、一人の大人として今取るべき態度。
 注意をする、というのも正しい選択だろうが、私はそれを選ばない。
 何故ならば、相手はまだ年端もいかない少女であり、
私の様な男にそれを指摘されるのは非常に気恥ずかしいものであるだろうからだ。


 故に、私がとるべき行動は一つ。
 何もなかった事にする、これだ。
 咳払い一つせず、さも聞こえなかったかのように自然に振る舞うのがベスト。


 プッ、プゥブゥッ、ブリリッ、ブプッ。


 私の予定は、儚くも崩れ去った。
 響き渡る音と、異臭と共に。
アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(1) (電撃コミックスEX)
596: 2017/11/24(金) 21:10:15.02 ID:PruD2EbUo
お前らが下品下品アピールするから
4個くらい重ねて丸めたようなのが来たじゃないか…

597: 2017/11/24(金) 21:16:13.85 ID:5h7LlnG4o

 私は、今どんな顔をしているのだろうか。
 恐らくだが、全ての感情が抜け落ちた無表情でいると思われるが、
確認のしようは無いし、その必要はないだろう。
 今、目を向けるべきは私の表情などではなく、目の前の少女の危機。
 広がる染みは、未だ留まる事を知らない。


「大丈夫、ですか?」


 微塵も大丈夫ではない事は百も承知だ。
 彼女は突然脱糞して大丈夫でいられる様な異常な神経の持ち主ではないし、
申し訳ないが、私もその様な神経のアイドルを担当したいとは思っていない。
 しかし、何か声をかけなければならないのなら、まずは安否確認から。
 大事故が起こっているとしても、確認を怠るものではないのだ。


「……――何が?」


 何が?

 彼女は、そう、言ったのか?
 まさか、現実を受け入れる事が出来ないでいるのか?


 私達は、無表情で見つめ合った。
 こういう時にする表情を私は知らない。

598: 2017/11/24(金) 21:22:29.30 ID:3B6CXr53o
何がwww

599: 2017/11/24(金) 21:26:44.33 ID:5h7LlnG4o

 異臭が鼻にまとわりついてくる。
 感覚器官の一部として、嗅覚は危険を教えるためにもあると何処かで聞いたことがあったが、
目の前の危険から逃れる事は出来ないし、ただ、止まないアラームに成り下がっていた。


「……」


 自然と、右手が首筋にいった。
 心を落ち着けるためのルーティーンという物が一時期話題になったが、
私のこれもそうなのだろうか、よく、わからないが。
 落ち着いて、現状を把握し直そう。


 目の前には、脱糞し、現実を受け入れられないアイドルが一人。


 駄目だ、冷静になって考えなどしたら、その瞬間に心が折れてしまう。
 今の私は、人間ではないと考えるべきだ。
 ただ、与えられた問題に対処するだけの、無口な車輪、それが今の私だ。
 車輪ならば、道中汚物の上を走ることもあるだろう。


 行こう、蒼い風が駆け抜けるように。


 空調の暖房の風向は、私に向かっていた。
 私は、無言でその不愉快な臭いを運んでくる風を止めた。

600: 2017/11/24(金) 21:38:10.13 ID:5h7LlnG4o

 私は立ち上がり、ゆっくりと彼女へ向かっていった。
 その間にも彼女に特筆すべき反応は一切なく、ただ、机の上の一点を見続けていた。
 視線の先には、今後予定されているシンデレラプロジェクトの企画書が並んでいる。


 彼女が、どの点に注目しているのかわからない。
 だが、彼女は今、必氏で戦っているのだ。


 アイドルとしての自分を必氏に頭の中に思い描き、
脱糞してしまった情けない自分と必氏に戦わせているのだ。


 その戦いを応援するのが私のプロデューサーとしての役目であり、
邪魔をする事など出来はしない。


 ――パブリュッ。


 ……どうやら、まだ全てを出し尽くしてしまった訳ではなかったらしい。
 だが、彼女の顔には微塵の動揺も見られないし、むしろ、堂々としているとさえ言える。
 これも、ひとえに彼女がアイドルだからこそ成せる業。


 ステージに立つ前の彼女もこんな顔をしていただろうか。
 いや、今は考えるのは辞めておこう。辞めておくべきだ。

601: 2017/11/24(金) 21:38:47.86 ID:c+nG1Pfjo
ふーん・・・

602: 2017/11/24(金) 21:42:59.09 ID:nbkURdaeo
ひっでえwww

603: 2017/11/24(金) 21:47:07.97 ID:5h7LlnG4o

「足元、失礼します」


 未だ微動だにしない彼女の足元に跪いた。
 距離が近づいた事により、異臭はより強烈なものとなって私の鼻孔を刺激、いや、大打撃してくる。
 この様な状況だからか、彼女の食生活に偏りがあるからか、それはわからない。
 だが、私にとってそんなものはどちらでも良かった。


 臭い。


 とても、すごく、臭い。


「……」


 鼻をつまんで臭いを遮ってしまえば楽になれるだろう。
 だが、それによって彼女はとても傷ついてしまうだろうし、今後の関係にも大きな支障が出るだろう。
 それは喜ばしい事では無いし、私の望む所でもなかった。


 私はプロデューサーだ。
 アイドルが諦めない以上、私がそれを見捨てる事はない。
 ああ、だが――


 ――とても……臭い。

604: 2017/11/24(金) 21:57:39.32 ID:5h7LlnG4o

「靴を脱がせますね」


 幸い、座っていたソファーが少し沈み込んでいたため、彼女の足元は無事に済んでいた。
 座り心地がとても良い、この黒い皮のソファーを私はとても気に入っていたし、
これを使用したアイドル達も、初めて座った時に少しはしゃいでいたのを覚えている。
 その思い出のあるソファーが物理的に汚されてしまった事に物悲しさを感じるが、
彼は、その身を呈して被害を最小限に留めてくれているのだ。
 ……長い間、お疲れ様でした。ゆっくり、休んでください。


「……」


 靴を脱がせるという私の言葉への反応はなく、彼女は未だ己と戦っていた。
 なので、私は彼女の右の足先を左手で優しく持ち上げ、
右手で、体が揺れない様、恭しく彼女の靴を脱がせた。


 おかしなものだ。
 シンデレラはガラスの靴を履かせて貰う物語だと言うのに、今、私がしているのはその真逆。
 それだと言うのに、今、これは彼女がアイドルとして続けていくために必要な事なのだ。


 アイドルに教えられる事も沢山ある。
 だが、こんな教えられ方をするとは全く思っていなかった。

605: 2017/11/24(金) 22:06:52.98 ID:5h7LlnG4o
  ・  ・  ・

「……」


 無事、両方の靴を脱がせるのに成功した。
 今、彼女の靴は少し離れた位置に避難させており、安全は確保されている。
 だが、問題はここからだ。


「では、靴下も脱がせますね」


 これは、私にも正しい判断なのかはわからなかった。
 靴下を脱がせるというのは、靴を脱がせるよりも遥かに難易度が高いからだ。
 脱がせる事自体は難しくはないのだが、問題は体の揺れ。
 もしも、彼女が靴下を脱がせる時に体を揺らして、ソファーに体を横たえでもしたら?
 ……そう、大惨事に陥ってしまう。
 果たして、これが正しい選択なのだろうか?


「……」


 自問自答する私の目に、彼女がコクリと頷いたのが見えた。


 私に、貴女を信じろというのか?


 脱糞をしてしまったアイドルの貴女を?


 ……答えは決まっている。
 アイドルを信じるのが、プロデューサーだ。

606: 2017/11/24(金) 22:16:06.23 ID:5h7LlnG4o
  ・  ・  ・

「……」


 今、私の目の前には滑らかな肌の、彼女の両の素足があった。
 これもひとえに、彼女の普段のレッスンの成果。
 鍛え抜かれたバランス感覚は、沈み込んだソファーに座りながら、
他人に靴下を脱がされるという非常に難易度の高い行動すら乗り越えていった。
 その事を褒めたい衝動に駆られたが、今はまだ、戦いの最中。
 決して、今は褒めるタイミングではない。


「……」


 靴も、靴下も避難させた。
 これ以上、余計な被害が増える事もないだろう。
 さて……


 ……――ここから、どうしたものか?


 私は、出来るだけの事はやったつもりだ。
 これ以上は、本人が動くべきではないかと思うのだが。


 しかし、彼女は動かない。


 そして、異臭も止まらない。

607: 2017/11/24(金) 22:26:42.21 ID:5h7LlnG4o

「……」
「……」


 二人の間に流れる沈黙。
 少し前に、この沈黙を破って彼女が脱糞したのが、今は遠い過去に感じられた。
 しかし、問題は何一つ解決していなく、問題どころか、便も山盛りだ。
 何故それが私にわかったかと言えば、何の事はない、少々下痢気味だっただけの事。


「……」
「……」


 無言で見つめ続ける私の視線を振り払うかの様に、彼女はフルフルと、首を横に振った。
 一瞬その意味が理解出来なかったが……理解したくはなかった。
 彼女と、短くない期間アイドルとプロデューサーとして付き合ってきて、わかってしまった。


 彼女は、この先も私の助けを必要としているのだ。


 頼られている、のだろうか。
 使われている、のだろうか。


 そのどちらでも、私は構わない。
 ただ、本当に私がやらなければならないのですか?
 自分で後処理をする事は、本当に出来ないのですか?
 答えてください。
 お願い、シンデレラ。

608: 2017/11/24(金) 22:38:43.13 ID:5h7LlnG4o
  ・  ・  ・


「……」


 アイドルとは何だろう。
 プロデューサーとは何なのだろう。


 自分自身に問いかけてみるが、鼻につく異臭が考えを纏めさせてはくれない。


 私は、上着を脱ぎ、ネクタイを外し、ワイシャツを脱ぎ、遠方へ避難させた。
 これからする事を考えれば、この判断は当然のもの。
 アイドルの前で私がこの様な姿を晒すなど思ってもみなかったが、
アイドルが私の前でこの様な姿を晒すなど思ってもみなかった。


 私は、これから、アイドルの汚物を処理する。


 自分に言い聞かせ、心を鎮める。
 そうでなければ、心が沈まる。


 ――彼女は、今、泣いているのだ!


 ――それを笑顔にさせずして、何がプロデューサーだと言うのか!


 ……私の心は、泣きたい気持ちでいっぱいだった。

609: 2017/11/24(金) 22:50:29.90 ID:5h7LlnG4o

「……」


 無言で彼女の前に立った。
 変わらない表情、姿勢、そして、異臭。
 この状況が夢であれば良かったのにと思うが、紛れもない現実だ。


 私の右手には、パンツを両断するためのハサミが握られていた。
 彼女も、まさかここまで大惨事になったパンツを洗って再使用するとは思えなかったし、
脱がせる時に私に汚物がかかるかも知れず、それは避けたかった。


「パンツは切ってしまおうと思っていますが、宜しいですか?」
「……」


 彼女は、無言で頷いた。
 返事くらいちゃんとしなさいと言えれば良いのだろうが、
私は、生憎とそういったコミュニケーションが苦手だった。
 だから、彼女がパンツを切っても良いと、首肯だけでも反応を見せた事を喜んでおこうと思う。


 私の左手には、タオルと、ビニール袋が握られていた。
 タオルはハンドタオルで面積は非常に心許ないし、ビニール袋もそこまで大きいものではない。
 だが、今は、この二つがとても頼もしかった。


 偶然にも、いや、奇跡的にも、この事態に対処するだけの道具は揃っていたのだ。
 アイドルの神というのは、非常に気まぐれで、残酷かもしれないが、
希望を残してくれていただけ感謝するべきなのかもしれない。
 目の前にアイドルの神が居たら、私は全力で殴り飛ばしているだろうが。

610: 2017/11/24(金) 23:05:48.60 ID:5h7LlnG4o

「……」
「……」


 汚物の処理を始める前に、彼女には言っておかなければならない。


「……人間、誰しも過ちを犯してしまうものです」


 彼女の前に膝立ちになり、彼女が見つめる一点との視線を遮り、言った。
 そこで、彼女が脱糞してから、初めて私達の目が合った。


「……?」


 首をかしげる彼女に向かって、私は言葉を続ける。


「今回の事は、既に起こってしまった事です」
「……」
「ですが、今回の事を反省し、次につなげる事が出来る」
「……」
「次からは、気をつけましょう」


 責めているように聞こえなかっただろうか。
 私は、心の底から、次はこんな事の無い様にして欲しいと思っているだけなのだが。


「っ……!」


 彼女の目から、大粒の涙がポ口リポ口リと零れ落ちた。
 そして、彼女はあろうことか、私に抱きついてきた。


 鼻に広がる、シャンプーの香り。
 態勢が変わった事で広がる、強烈な異臭。


 私は、抱きつかれた事に動揺しながらも、
二つの香りが織りなす絶望のハーモニーに歪む表情を見られなかったのに安堵していた。

611: 2017/11/24(金) 23:16:26.85 ID:5h7LlnG4o

「……」


 そうだ、彼女はアイドルとは言えまだ年端もいかぬ少女なのだ。
 それが他人の前で脱糞した時の気持ちは、私如きに推し量れるものではなかったのだ。
 表面上の冷静な姿を見て自分一人で納得していたが、違った。
 彼女は戦いながらも、不安に押しつぶされそうになっていたのだ。


「うっ……ぐすっ……!」
「……」


 耳元から聞こえる彼女の嗚咽。
 今の、抱きつかれている状況はアイドルとプロデューサーとしての、正しい距離感とは言えない。
 しかし、状況が状況だ。
 今は、彼女を突き放す場面では、無い。


「大丈夫です、私に任せてください」
「ひっく……うぅ……!」


 優しく、小さな子供に言い聞かせるように、言った。
 ハサミをソファーに置き、彼女の背中を安心させるように軽く、ポンポンと叩いた。


 プッ、プッ。


 その拍子に、放屁。


「うぅ~~っ! ひっ、ぐ、ううう!」


 彼女は号泣した。
 やはり、慣れない事はするものではなかった。

612: 2017/11/24(金) 23:31:51.96 ID:5h7LlnG4o

「……」


 今、私が彼女にかけられる言葉は何一つ無い。
 兎に角、今は一刻も早く汚物の処理を済ませてしまおう。
 彼女に抱きつかれたまま、耳元で鳴り響く彼女の泣き声をBGMに、
私は彼女のスカートに手を回し、まくりあげた。


 広がる、強烈な異臭。


 しかし、私は負ける訳にはいかないのだ。
 舌を噛み、漏れそうになったえずきをそのまま噛み頃した。
 既に私の右手は、彼女の汚物によって汚れている。
 これ以上自身の手が汚れる事に、何の躊躇いがあろうか。


 脇に置いていたハサミを取り、彼女の肌を傷つけないよう、
パンツと肌の間に滑り込ませた。
 ハサミが冷たかったからか、これからパンツを切られるからか彼女の体がビクリと震えた。
 しかし、今の私はその程度では止まらない。
 ここまで来たら、もう、止まれない。


 ジョキリ。


 彼女のパンツの側面がハサミによって両断された。


 広がる、強烈な異臭。


 目に飛び込んでくる、未消化のコーン。

613: 2017/11/24(金) 23:38:43.52 ID:5h7LlnG4o

「……」

 SAY☆いっぱい輝く
 輝く星になれ
 運命のドア 開けよう
 今 未来だけ見上げて


 輝くのは星ではなく、コーン。
 残酷な運命のドアを開け、私は天を仰いだ。


「……」


 そっと 鏡を覗いたの
 ちょっと おまじない 自分にエール
 だって リハーサル ぎこちない私
 鼓動だけかがドキュンドキュン(汗)
 ファンファーレみたいに


 鏡を覗いたら、私は今どんな顔をしているのだろう。
 ちょっと、というか、とんでもない呪いに自分を応援したくなってくる。
 鼓動だけでなく、脳が、ドキュンドキュンと警鐘を鳴らしている。
 ファンファーレ? ファン、ファン、ファンファンファン、ファンファンのファン♪

614: 2017/11/24(金) 23:46:27.11 ID:EjKMGO6Fo
夕食にもろこしを食べたんだな

615: 2017/11/24(金) 23:47:09.93 ID:5h7LlnG4o
「……」

 慣れないこのピンヒール
 10cmの背伸びを
 誰か魔法で 変えてください
 ガラスの靴に


 こんな状況に慣れたくは無い。
 10cm? 被害の範囲はそんなものではない。
 シンデレラへの道とは、ここまで険しいものなのか。


「……」


 SAY☆いっぱい輝く
 輝くSUPER ST@Rに
 小さな一歩だけど キミがいるから
 星(せい)いっぱい輝く
 輝く星になれるよ
 運命のドア 開けよう
 今 未来だけ見上げて


 広がる星々をビニール袋に詰めていく。
 小さいどころではない、進捗状況は良好だ。
 透けたビニール袋からコーンが見えるが、気にするのはよそう。
 目立つ箇所の汚れも拭いた、さあ、袋の口を閉じよう。
 今、未来だけ見上げて。

616: 2017/11/24(金) 23:56:58.13 ID:5h7LlnG4o
  ・  ・  ・

 全ての処理が終わった。
 彼女は、今はシャワー室でシャワーを浴びているだろう。
 履く物がないと汚れたスカートのまま移動せねばいけないと思っていたが、
彼女のカバンの中にレッスンの時に使用するジャージが入っていたのは僥倖だった。


 私はやり遂げたのだ。


 誰にも彼女が脱糞した事実を知られる事なく、送り出す事が出来た。
 これは奇跡と言っても過言ではないだろう。
 だが、問題はまだ残っている。


「……」


 この、ソファーだ。
 染みは誤魔化しようのない程広がっているし、何より、臭いがついてしまっていた。
 私の鼻も大分麻痺しているとは思うのだが、この臭いだけは誤魔化しようがない。
 どちらにせよ買い換えなければならないが――


 コン、コン。


「っ……!?」


 まさか、このタイミングで、来訪者が……!?

617: 2017/11/25(土) 00:09:21.38 ID:+hgZXj2wo

 ガチャリ。


 ゆっくりと、ドアが開かれていく。
 彼女を送り出した事に安堵し、鍵をかけ忘れてしまっていた私の迂闊さを呪った。
 覆水盆に返らずとは正にこの状況だ。


 ドアが開かれ、私の目に映ったのは、この部屋の異臭に気づき歪んだ表情だった。


 ここで、対応を間違ってはいけない。
 ここで間違ってしまったら、今までの努力が全て水泡に帰す。
 それだけは、彼女の名誉と、私の犠牲のために、あってはならない。


「……すみません、先程まで取り込んでいまして」


 今、ここで私が脱糞して誤魔化すか?
 いや、それは無理だ。
 それでは、部屋に入った時に感じた異臭の説明にはならない。
 どうすれば良い、何と言えば良い……!?

618: 2017/11/25(土) 00:24:25.71 ID:+hgZXj2wo

「……」


 その時だった。
 私の脳裏で、悪魔が囁いたのだ。
 私の中にも、こんな悪辣な考えをする悪魔が潜んでいたとは、思いもしなかった。


 今の私は、強烈な異臭によって、思考までも染まってしまったというのか。
 しかし、この手は既に汚れている。
 ならば、まみれようではないか。


「せん――……いえ、すみません。体調が、悪かった様なので……」


 悪魔の思考に。


 私達は、アイドルのために存在している。
 故に、共にまみれて頂きます。
 明言はしなかったので、追求される事は無いでしょう、ご安心ください。
 しかし……大変、申し訳ありません。


「……ははは」


 思わず、乾いた笑いが零れた。
 部屋には、未だ異臭が立ち込めていた。





おわり

619: 2017/11/25(土) 00:28:26.87 ID:+hgZXj2wo
これでノルマは達成したと思います
おやすみなさい

620: 2017/11/25(土) 00:31:36.35 ID:246DvFbyo
なんで優秀な書き手には度し難い性癖が存在するのか

621: 2017/11/25(土) 00:53:36.32 ID:wzIGBxqX0

供給の少ない度し難い性癖をせめて自分で量産する為やろうなあ…

622: 2017/11/25(土) 06:46:14.23 ID:mOqLmz1Lo
ちっひ可哀想

引用元: 武内P「大人の魅力、ですか」