2: 2010/08/16(月) 19:43:25.48 ID:18LIp7jnO
梓「って、純が」
憂「うん」
梓「嬉々としてこの大量の紙束を渡していったよ」ドサッ
憂「純ちゃんは?」
梓「なんか私たちを監視してるらしいよ」
憂「監視?」
梓「これを読みきるまで帰らせないって言ってた」
憂「この紙束?」
梓「うん。帰省中に書き溜めた? って言ってたけど」
憂「帰省って、ずっと学校来てたじゃん……まあ、とりあえず読んでみよっか」
梓「え……マジ?」
3: 2010/08/16(月) 19:46:35.83 ID:18LIp7jnO
憂「読まなきゃ帰してくれないんだし……しょうがないんじゃないかな」
梓「でもこれ、なかなか堆いよ」
憂「うーん……でもほら、ホッチキスで留めてあるけど……ひとまとまりめはそんなに厚くないよ」
梓「いやだから、全部読み切るんだって」
憂「……」ジッ
梓「……読みたいの?」
憂「うんっ!」パアァ
梓「そんな顔をされると……しょうがない、付き合うよ」
憂「ありがと~梓ちゃん」ニコニコ
5: 2010/08/16(月) 19:50:26.72 ID:18LIp7jnO
ポイッ パサ
梓「……ん? なにこれ、投げ文?」
憂「見てみよう?」
梓「どれどれ」ガサ
梓『せっかくなので憂からタイトルコールをお願いします!』
梓「……って、純が」
憂「えー、恥ずかしいなー……」クネクネ
梓「そういうとこ、唯先輩に似てるよね」
憂「うーん、どうしよっかなー?」
梓「ごめん、なんでもなかった。早く進めて」
憂「……」ショボン
梓(扱いにくい……)
6: 2010/08/16(月) 19:53:09.14 ID:18LIp7jnO
梓「か、かわいかったよ! かわいかったから……」
憂「どうかわいかった?」
梓「正直いま、純よりも憂のほうがだるい」
憂「えー」
梓「唯先輩に似ててかわいかったよ!」
憂「ほんとー? 嬉しいなぁ、梓ちゃんにそう言われると」
憂「でもおだてても何も出ないよー?」
憂「まあそんなに言うならタイトルコールやってみようかなーって」
梓(このイライラ……ウォルスの塔を思い出す)タンタンタン
憂「……でもなー、この台詞私のキャラと違うかなーって」
7: 2010/08/16(月) 19:56:36.87 ID:18LIp7jnO
憂「こういうこと言ってイメージ悪くしてもなんだしなぁ」
梓「唯先輩もけっこうそういう言い方するよ」
憂「ほんと!?」パアァ
憂「たしかに、律さんへのツッコミで使いそう!」
梓(適当に言ったのに納得したよ……)
憂「ほら、こうケーキのイチゴとられた時とか!」
梓「あー、言う言う」
憂「糸目になって口三角にして、人差し指突きつけて言いそう!」
梓「そうそう、そんな感じ」タタタン タタン
憂「あと胸も張ってさ! そんなにないけど!」
梓「うるさいはち切れろ」
憂「……」
9: 2010/08/16(月) 20:00:12.51 ID:18LIp7jnO
梓「……えっと?」
憂「……」
梓「憂? 進まないんだけど……」
憂「……」
梓「この間ムギ先輩がマドレーヌ持ってきたんだけど」
憂「『働かずに食う飯はうまいか?』!!」
ズビシ
梓(あー、こうすりゃよかったのか)
憂「それではどうぞ!」
10: 2010/08/16(月) 20:03:08.37 ID:18LIp7jnO
憂「働かずに食う飯はうまいか?」
11: 2010/08/16(月) 20:06:06.99 ID:18LIp7jnO
唯「ういー、なんか今日のご飯、味付けがうすいよ」
憂「え、本当?」
唯「お醤油の味がしないー。食べてみてよー」
憂「……」パク
憂「うーん、そんなこと無いと思うけど……」
唯「えー? おっかしいなあ……」
憂「作りなおそっか?」
唯「お願い、うい」
憂「わかった。ちょっと待っててね」
唯「たのんますぜー」グダー
憂「……」
12: 2010/08/16(月) 20:09:49.77 ID:18LIp7jnO
憂「ふぅ……」
憂(おかしいなあ。いつも通りの分量で作ったのに……)
憂(水分が多かったのかなぁ。でも……)
憂(お姉ちゃんに出す料理を失敗するなんて……)
憂(とにかく、もうちょっとお醤油を足してみよう)トポトポ……
ミーンミーン
憂「あ、蝉の声」
憂(それにしても、お姉ちゃんが高校を卒業してもう三か月かあ……)ボー
憂(先輩方はどうしてるんだろう……軽音部はなくなっちゃったけど、大学でもまだバンドやってるのかなあ)
ドボボ……
憂「……あっ!」
憂「やだ、なにしてるんだろう私……」
唯「ういー、どしたね? かわいい声出しちゃってえ」ヒョコ
憂「!!」
14: 2010/08/16(月) 20:13:55.74 ID:18LIp7jnO
憂「あ、えっと……それが」
グツグツ……
憂「ご、ごめんね。ちょっと……ううん、かなり入れすぎちゃって、もう食べらんないや……」
唯「おお!」キラリーン
憂「おねえ……ちゃん?」
唯「これですよー、ういちゃんー」グッ
憂「えっと……どうしたの、お姉ちゃん?」
唯「いただきまーす!」グワシ
憂「えっ!?」
憂(あ、熱々のフライパンに手を突っ込んだ!? いや、それより!)
憂「だ、だめだめ! そんなの食べたら体に悪いよ、お姉ちゃん!!」
唯「やー! おなか減ったの!」ハムッ
憂「あっ」
15: 2010/08/16(月) 20:17:19.04 ID:18LIp7jnO
憂「お姉ちゃん! だめだよ、吐いt」
唯「うまい!!」テッテレー
憂「……」
唯「おいしいー。絶妙ー」パクパク
憂「お姉ちゃん……なんで、なんだかふわふわしてるの?」
唯「ういの料理がおいしいからだよー」
憂「……うーん?」
唯「ういも食べなよ」ズイッ
憂「う、うん……じゃあ、ちょっとだけ」
パク
憂「……かっ、から……」
唯「うい?」
憂「っと……うん、おいしいね? えへへ……」
唯「でしょー? って、作ったのはういだったか」
憂「あ、あはは……」
16: 2010/08/16(月) 20:20:29.51 ID:18LIp7jnO
翌日、2年教室
憂「ってことがあって……」
梓「唯先輩が? 確かに、味にはこだわらないほうだと思ってたけど……」
憂「……うん、そうだよね……」
梓「あのさ……憂があえて言わないなら」
憂「……まだ、そうと決まったわけじゃないもん」
梓「どんな『そう』なのやら」
憂「梓ちゃんまで……」ハァ
梓「え? なに、憂?」
憂「ううん。お姉ちゃんのことは私がなんとかするから、さっきの話は忘れて? ね?」
梓「……しょうがないなあ、もう。でも、いつでもまた話してくれて良いから」
憂「うん、ありがとう梓ちゃん」
17: 2010/08/16(月) 20:23:52.50 ID:18LIp7jnO
憂「ただいまー」
唯「おかえりーういー」
憂「もう、お姉ちゃん。またごろごろして」
唯「アイスはー?」
憂「買ってきたよ。はい」ガサゴソ
唯「さすがういだね! いただきまーす!」
憂「……」ジッ
唯「うひー! 冷たーい! ……ってどしたの? ういも欲しい?」
憂「あ、ううん。そうじゃなくて……ご、ご飯の準備するね?」スクッ
唯「変なういー」パクパク
憂(冷たい、か。うーん……)
憂(……今日は全力でお料理しないとね。絶対失敗できない!)
18: 2010/08/16(月) 20:27:14.18 ID:18LIp7jnO
――――
唯憂「いただきまーす」
憂「……」
唯「んっ?」ピク
憂「……っ」ビク
唯「うーいー。味うすいよー」
憂「あ……ごめん、お姉ちゃん」
唯「最近ずっとだけど、どうしたの? 調子が悪いなら言っていいのに」
憂「最近、ずっと?」
唯「あ、うん……憂にはお世話になってるから言わないようにしてたけど、この二ヵ月くらいずっと」
憂「そんなはず……ううん、ごめん! 私、料理修業し直すよ」ショボン
唯「うい……」
憂「今日は店屋物にしよっか」
唯「はは、そうだね……」
20: 2010/08/16(月) 20:30:59.28 ID:18LIp7jnO
ブーン ブーン
憂「お姉ちゃん、携帯鳴ってるよ」
唯「とってー」
ゴロゴロ
憂「はい」
唯「ありがとー。あ、あずにゃんからだ」
憂「梓ちゃんから……?」
唯「もしもしー、あずにゃーん?」
梓『もしもし、唯先輩? お久しぶりです』
唯「うん、久しぶりだねー。どしたの?」
梓『その……軽音部がなくなってしまって以来、ギターを弾く機会がなくて。明日にでも、律先輩たちのところに行きませんか?』
唯「おおっ! そりゃ良いね! むしろ今すぐ行こう!」
梓『いや、私はそんなに暇じゃないですから』
唯「なにおー! 言うようになったのー!」
21: 2010/08/16(月) 20:33:57.80 ID:18LIp7jnO
――――
唯「うん、うん。へぇー、ムギちゃんがねぇー」
梓『ええ、私も驚きました。……あ、そろそろ……それじゃあ唯先輩、明日の昼に、○○駅で会いましょう』
唯「うん、ばいばーい」プツッ
憂「お姉ちゃん、明日出かけるの?」
唯「うん。りっちゃん達のとこ行ってくる。あずにゃんがギター弾きたいっていうし、私もまたみんなの演奏聞きたくなったしね」
憂「そうなんだ。じゃあ、お弁当つくっておこうか?」
唯「お昼から行くから大丈夫だよ。あ、いや。別にういのご飯が嫌なんじゃないよ? ただ」
憂「ううん、分かってるよ。ありがとう、お姉ちゃん」ニコッ
唯「うい……それじゃあ私、もう寝るよ! おやすみ!」
憂「うん、おやすみ。……明日、起こした方がいい?」
唯「あー、久しぶりだからね……11時までに起きてこなかったら、お願いするよ」
憂「わかった。おやすみお姉ちゃん」
唯「おやすみー」
22: 2010/08/16(月) 20:36:37.09 ID:18LIp7jnO
バタン
憂「……あれ?」
憂(梓ちゃんが? 明日は学校なのに……)
憂(……それ以上に、期末テスト、なんだけど)
憂「気になるけど……さすがに、休めないよね」
憂「洗いものして、勉強しないと……」
23: 2010/08/16(月) 20:40:08.52 ID:18LIp7jnO
――――
テスト中
憂(やっぱり梓ちゃんは来てない)カリカリ
憂(これが終わったら、お姉ちゃんに電話してあげないと)ボー
憂(……今日は三教科だけだし、大急ぎで行けば後をつけられるかも)
憂(……今はテストに集中しないと)
ペラッ
憂(……)カリカリ
憂(……)カリカリ
憂(……)
先生「はい、時間です。筆記用具を置いてください」
憂(よし、終わった。お姉ちゃんに電話しなきゃ)
25: 2010/08/16(月) 20:43:20.05 ID:18LIp7jnO
プルルルル プチッ
唯『あ、ういー?』
憂「あれ、お姉ちゃん起きてたの?」
唯『え? う……うん、あははー』
憂「? ……とりあえず、起きてるなら安心だね」
唯『そだね。電話くれてありがとー。んじゃ、切るねー』
憂「またね、お姉ちゃん」ピッ
憂(……なんだか変だったけど)
憂(気にしすぎだよね)
26: 2010/08/16(月) 20:47:10.92 ID:18LIp7jnO
――――
憂(結局来ちゃった……律さんたちの大学……)
憂(でも、お姉ちゃんどこにいるんだろう……)
紬「あら? 憂ちゃん?」ポン
憂「わわわあっ! 紬さん!?」
紬「あらあら、驚かせちゃったわね」
憂「先に声をかけてくださいよ……あれ? 紬さん一人ですか?」
紬「これからバンドの練習に行くところなのよ。ほら」
憂「あ、ギター背負ってますもんね。それなら、ご一緒していいですか?」
紬「あら、憂ちゃんは私たちの練習を見学しに来たの?」
憂「えっと……そんなところです。案内してもらえますか?」
紬「もちろん、いいわよ。ついてきて」
27: 2010/08/16(月) 20:50:05.11 ID:18LIp7jnO
ガチャ
紬「みなさんこんにちはー」
律「おうムギー。唯もひさしぶりー」
澪「よし、みんな来たな。始めようか」
憂「……あのー?」
律「なんだ? ……って、あれぇ!? 唯じゃない!?」
憂「お久しぶりです、皆さん」ペコッ
紬「来る途中に見かけたから釣ってきたのよ」
澪「釣ったって……でも、どうして憂ちゃんがここに?」
紬「私たちの練習を見に来たらしいわよ」
28: 2010/08/16(月) 20:53:05.02 ID:18LIp7jnO
律「ほう……新入部員ってわけですね?」ニヤリ
澪「律。私たちはもう『部』じゃないだろうが」
律「え、そっち?」
憂「あの、ところで……今日ってお姉ちゃんと梓ちゃんも来るんですよね? 遅れてるんですか?」
律「えっ?」
澪「えっ?」
紬「えっ?」
憂「えっ」
29: 2010/08/16(月) 20:56:20.81 ID:18LIp7jnO
律「い、いったん落ち着こう。ムギ、お茶だ!」
紬「ハイッ!」ヒュバッ
憂「なんか、ごめんなさい……」
澪「いや、いいんだ。むしろナイスだ憂ちゃん」
紬「お茶ですっ!!」ビビビビュッ
律「ムギのお茶汲みスキルも上がったなあ」
ズズ
澪「作法としては最悪だけどなぁ」ズズ
憂「しみじみ言いますねえ」
律「まあねえ。さてと、それどころじゃなかったんだな」
澪「理由はわからないが、梓が憂ちゃんにも私たちにも内緒で、唯を連れだした。嘘までついてだ」
30: 2010/08/16(月) 20:59:53.00 ID:18LIp7jnO
律「どう考える、ムギ?」
紬「おそらく……唯ちゃんのみさおが危ないかと」
律「……みおー?」
澪「うん。よく考えたら、それほど火急を要する事態ではないよな」
澪「でも、それならどうして嘘をついたのか気になる。梓の方に、なにか後ろ暗いことがあるんじゃないか、という気もするな」
澪「問い詰める必要はあると思うぞ」
憂「お昼ぐらいに私がお姉ちゃんに電話した時も、様子がちょっとおかしかった感じがしましたし……」
紬「まさか、もう……」ハァハァ
憂「はい……心配です」
32: 2010/08/16(月) 21:03:15.43 ID:18LIp7jnO
律「……うむ」
澪「律……? どうするんだ?」
律「こうなれば仕方ない! りっちゃん隊出撃だ!」
澪「分かった。とりあえず梓に電話してみる」
律「……なんで私に意見を求めたんだよ」
澪「ちゃんと意見を採用しただろ?」
律「ええい、まだるっこしい! 唯のとこに行くっていってるんだ!」
憂「えっ!? お姉ちゃんがどこにいるか分かるんですか?」
律「……実はな、唯のヘアピン……あれは発信機なんだ」
紬「あらっ」
33: 2010/08/16(月) 21:06:17.35 ID:18LIp7jnO
憂「は、発信機!?」
紬「……ええ、私の琴吹コンツェルンのほうで開発させていただきました」
紬「こうして、携帯で探知アプリケーションを起動して……」ピ・ポ・パ
紬「はい、これで唯ちゃんの居場所がわかるんですよ」
憂「す、すごい!! 私の携帯にもその機能ください!」
律(あれー? 冗談で言ったんだけどなあ)
34: 2010/08/16(月) 21:10:08.83 ID:18LIp7jnO
律「みおー、どうだ?」
澪「だめだ。梓のやつ、電源を切ってるらしい」
律「ふうん……? いよいよ怪しいな。とにかく、唯の所に行くとしよう」
紬「私が先頭になるわ。ついてきてね」
律「ムギー、魔王を倒す旅じゃないんだぞー」
――――
電車内
紬「憂ちゃん、私たちの練習見せられなくてごめんなさいね」
憂「いえ、そんな。いいんですよ。また今度の機会に」
律「憂ちゃんも今年受験生なんだよな? どこ受けるの?」
憂「えっ……えーっと……まだ、考えてないんです」
律「あれ? 私たちのところじゃないんだ」
35: 2010/08/16(月) 21:13:07.75 ID:18LIp7jnO
澪「いや、どうしてそうなるんだよ律」
律「だって憂ちゃん、唯がいるから桜高に来たんだろ?」
憂「はい、お姉ちゃんと一緒が良かったので」テレテレ
律「そして唯は今年、私たちと一緒の大学目指して必氏に勉強している」
律「だったら憂ちゃんも、唯と同じ大学を目指すんじゃないかと思ってたんだけど……?」
憂(……)
澪「ああ、そういうことか……でも大学選びは高校ほど単純じゃないからな」
澪「憂ちゃんはしっかり考えて、自分の行きたい大学に行くんだぞ」キリッ
憂「そ、そうですね。ありがとうございます」ニコニコ
36: 2010/08/16(月) 21:16:42.62 ID:18LIp7jnO
律「あれれー?なんですか澪ちゃん」
律「一人がさびしくて律お姉ちゃんとおんなじ大学に来たくせに、後輩にアドバイスですか?」
澪「それは違う。私はスベった結果として、律やムギと同じところに来ていただけだ」
紬「照れ隠しとは分かっていても、澪ちゃんにそう言われると寂しいわ」
澪「照れ隠しじゃ……ムギこそ、もっといい大学狙えただろう」
紬「私は皆さんと一緒が良かったので」
澪「ゴフッ」
紬「だから……唯ちゃんが遅れてしまったのは残念でたまらないわ」
澪「ゲフ……うん、そうだな……まあ、来年は唯も必ず来てくれる。そしたらまたみんなでバンドをやりなおそうじゃないか」
憂(……)
37: 2010/08/16(月) 21:20:31.38 ID:18LIp7jnO
律「梓も忘れんなよ?」
澪「そうだな。案外、二人でその話をしてるのかも」
律「ハハッ、そうかもな」
憂「あの……そのこと、なんですけど」
律「ん? どうした憂ちゃん?」
憂「……」プルプル
紬「憂ちゃん?」
憂「いえ、やっぱりなんでも……。そろそろ降りる駅ですね」
律「あ、ああ……」
38: 2010/08/16(月) 21:23:07.22 ID:18LIp7jnO
――――
律「知らない町に来ちまったな……」
紬「発信機をたよりに歩くしかないわね。行くわよ」
律「ムギが燃えてる……」
紬「こっちです!」ダッ
澪「色々と先走ってる……」
律「ついて行かなきゃだめかなぁ」
憂「紬さん、早いです!」ダダダ
澪「まぁ、な」
39: 2010/08/16(月) 21:26:14.60 ID:18LIp7jnO
10分後
紬「この中ね!」ザッ
澪「ここは……」
憂「……ラーメン、二郎?」
律「なんでこんなところに?」
紬「分からないわ。でも、反応は間違いなくここから出ているわよ」
憂「お姉ちゃん……」
律「梓もいるのか?」
紬「さあ……でも、恐らくいるはずよ。とりあえず、この行列がある以上は簡単に入り込めないわね」
澪「じゃあ、ここで待ち伏せるか」
律「いや、待つまでもなかったみたいだぜ?」
澪「ん?」
41: 2010/08/16(月) 21:30:18.11 ID:18LIp7jnO
唯「おいしかったねー」ポンポコ
梓「ええ、そうですね」
憂「お姉ちゃん!」
紬「唯ちゃん! 梓ちゃんも!」
唯「うい? みんな? 迎えに来てくれたの?」
梓「……いえ、そうじゃないですね」
唯「へ?」
梓「落ち着ける場所が欲しいです。近くのファミレスにでも行きましょう。大テーブルなら6人でも座れますよね」
――――
42: 2010/08/16(月) 21:33:35.86 ID:18LIp7jnO
某ファミレス
梓「まずは、お久しぶりです。先輩方」
律「おう。元気してたか?」
梓「いえ、軽音部がなくなってからは、正直あまり。おまけに受験も本格化してきましたし」
律「受験かぁ。あんなもん、青春を5年よけいに無駄にするだけだぜ」
澪「律。唯の前だ。……それに、そんな話をしに来たわけじゃないだろ」
律「そうだったな。梓、どうして唯を連れだしたんだ?」
唯「ほえ? それは、あずにゃんが」
憂「お姉ちゃん、違うよ。お姉ちゃんは梓ちゃんに嘘を吐かれてた。実際、ラーメン屋に連れて来られてたんだよ?」
唯「う! 確かに……おかしいとは思ってたけど、あずにゃん!」
梓「すいません、唯先輩。ちょっと芝居を打ちました。まあ、目的はもう達しましたし、本当のことを言いますよ」
梓「憂から聞いたことが本当かどうか、確かめたかったんです。唯先輩の味覚がおかしくなってるって聞いて」
45: 2010/08/16(月) 21:36:46.66 ID:18LIp7jnO
憂「梓ちゃん……そのことは忘れるって」
梓「それが唯先輩のためになるなら忘れてたよ。でも憂、今回は勝手が違うよ。放っておいたら、唯先輩……氏んでいたかもしれないから」
律「おい、お前ら話が読めないぞ」
紬「味覚がおかしくなってる……って、どういうこと?」
梓「つい先日のことなんですが……」
――――
46: 2010/08/16(月) 21:40:10.71 ID:18LIp7jnO
店員「デラックスいちごパフェのお客様ー」
唯「はーい」
梓「……まあ、と言う訳で味が濃いと噂のラーメン屋に、唯先輩を連れてきたわけです」
梓「案の定、味も分からないようでしたよ。甘い、と言っていましたしね」
澪「……にわかには信じがたいな。醤油の海と化した野菜炒めがおいしく感じる、か」
唯「でもでも、本当においしかったんだから!」
律「で、唯がこんなこと言うから、憂ちゃんもそれがおかしいとは言いだせなかったわけか」
唯「むふー」パクパク
憂「……変だとは思ってました。けど、お姉ちゃん、二カ月も味の薄い料理で我慢してたって言うし……」
憂「お姉ちゃんがおいしいと思う料理を、お姉ちゃんに食べさせてあげたかったから……これからも、濃い味の料理を作ろうと思っていました」
紬「素敵な姉妹愛だけどね……唯ちゃんの体が耐えられないと思うわ」
憂「……そう、ですよね。ごめんなさい」
唯「ういー……いいんだよ、私がおかしかったんだから」
憂「お姉ちゃん……ごめん、ごめんね……」
47: 2010/08/16(月) 21:43:12.79 ID:18LIp7jnO
律「しかし、憂ちゃんは反省したようだが……唯はどうするんだ?」
澪「そうだな。これから一生、味のしない料理を食べ続けるわけにもいかないだろう」
唯「うん、さすがに……それは私……困っちゃうな」ペロペロ
澪「……パフェの容器に舌つっこみながら言う台詞じゃないよな? いやしいからやめろ、唯」
紬「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ。料理の味がしなくなったのは二カ月前だって言ってたわね。なにか覚えはある?」
唯「二か月前かー。5月の初めくらいだよね……んーと、んーと」
梓「あ……」
律「お? どうした梓?」
梓「関係あるかはわかりませんが……5月8日は部活動の入部期間が終わって、けいおん部がなくなった日です」
律「……ああ、そういえば……」
梓「……すいません」
律「いや、けいおん部がなくなっちまったのはしょうがないさ。私たちの演奏が新入部員を引きつけられなかったってことだし」
律「それより……けいおん部の廃部と唯が味覚をなくす時期が一緒というと……なにか感じるな」
48: 2010/08/16(月) 21:46:30.34 ID:18LIp7jnO
澪「お、おい……オカルトくさくなってきたぞ」ビクビク
唯「けど、言われてみると味がしなくなったのはその日からだったと思う!」
紬「となると、まるっきり考えられないことでもないと思うわ。特に唯ちゃんは、けいおん部の存続のために毎日頑張っていたじゃない」
紬「精神的な反動があってもおかしくはないわ」
唯「でも、それは私だけじゃないよ。ていうか、ムギちゃんたちのほうが忙しいのに、勧誘手伝ってくれたじゃん」
憂「とにかく、軽音部とお姉ちゃんの症状には関係があるんですね?」
律「おそらく。……というわけで各自楽器を持って音楽室に集合だ!」
唯「なんですと!?」
律「けいおん部の復活だ!」
49: 2010/08/16(月) 21:50:09.82 ID:18LIp7jnO
――――
律「ドラムの負荷が異常」
澪「おい、言い出しっぺ。しかも憂ちゃんにまで手伝わせておいて何を言うんだか」
憂「私は構いませんよ。むしろ、お姉ちゃんのためにここまでしてくれて、本当に感謝してます」
律「憂のお姉ちゃんのためじゃなくて、唯のためだけどな」
澪「言う必要ないことをさらりと言うな」
憂「くすっ、それでもいいですよ。お姉ちゃんが幸せなら、それで」
紬「……憂ちゃん?」
憂「紬さん? なんでしょう……」
紬「人の幸せを望むのと、人の幸せを考えることは違うのよ」クスッ
憂「? ええと……はぁ」
紬「キーボードもひさしぶりねー」
50: 2010/08/16(月) 21:54:15.77 ID:18LIp7jnO
音楽室
梓「唯先輩、あの……今日は騙してしまってごめんなさい」
唯「ううん、いいんだよ。あずにゃんに会えただけでも、私は嬉しかったし」
唯「なりゆきでけいおん部のみんなにも会えたし……練習もできるんだよ!」
梓「……よかったです」
唯「うん?」
梓「電話した時の先輩の声、元気そうでしたから。辛そうにしてなくて、ほっとしました」
梓「でも……私の心の外では……さびしい声も聞かせて欲しかった、と思っていたんですけどね」
唯「あずにゃん?」
梓「わかりませんか?」
唯「なんとなく……」ニヤ
梓「……にやける場面じゃないですよ」
唯「ほえ? だってあずにゃん、『私がいなくてさみしがる唯先輩が見たかったです!』って……」
51: 2010/08/16(月) 21:57:04.51 ID:18LIp7jnO
梓「ちょっとは、それもありますけど」
梓「でも、唯先輩は疲れているべきなんです。みんなに会えなくてさみしがっているべきなんです」
唯「ど、どうして!? そりゃあ、確かにみんなに会えないのはさみしかったけど!」
梓「どうして、って本気で言ってますか?」
唯「あ、いや……」
梓「憂はね、毎日私に言うんですよ」
梓「ごろごろしてるお姉ちゃん、かわいいよって」
唯「……そっか、あずにゃんには筒抜けなんだ」
梓「はい。私のほうも受験勉強が本格化してきて、先輩たちの気持ちもわかってきたんですけど」
梓「疲れますよ。先輩たちと会えなくて、さみしいですよ」
梓「ですけど、私には憂や純がいます。だから定期的にガス抜きできるし、結果的に勉強もできます」
唯「う、うん……」
梓「だったら、ガス抜きの機会がなさそうな唯先輩は、どうなってしまうんだろうと思って。半分くらいはそこが心配で、電話しました」
52: 2010/08/16(月) 22:00:14.48 ID:18LIp7jnO
唯「もう半分は?」
梓「憂から、味覚のことを聞いたんです。そのことも心配だったので」
唯「そういえば、そう言ってたよね」
梓「でも、よく考えると……唯先輩も、心までだらけているわけではないんですよね」
唯「……そうかな。私はもう、なんにもしてないよ」
梓「それですよ」
唯「へ?」
梓「こういうとき本物は、自宅警備員をやってるとか言うんですよ」
梓「何もしていないという自覚があるなら、持ち直せるはずです。唯先輩の心はまだ、頑張りたがっています」
唯「あずにゃん……そんな風に言われたって、私」
梓「やれます」
唯「……やれないよ」
53: 2010/08/16(月) 22:03:08.34 ID:18LIp7jnO
唯「けいおん部はなくなっちゃった」
唯「ギー太の練習したって、明日みんなに聞かせられるわけじゃない」
唯「りっちゃんの元気なドラムも、澪ちゃんのしみわたるベースも、ムギちゃんの優しいキーボードも、つきあってくれない」
唯「それでも最初は、1年後を期待して頑張ってた……でも……」
唯「ずっとけいおん部がないと、私はだめなんだよ」
梓「……弱いですね、唯先輩」
唯「うん、そう思うよ。でもそれが私だったんだ」
唯「だから、もういいよ」
梓「いいって、何がですか」
唯「こうやって、けいおん部に私を呼ばなくていいから。ね、あずにゃん?」
梓「っ!」
バシンッ
唯「にょほっ」ドサッ
54: 2010/08/16(月) 22:06:24.20 ID:18LIp7jnO
梓「ふざけたこと言いやがりますね、唯先輩」ガッ
唯「うぐっ?」
梓「唯先輩の気持ちとか関係ないです! 先輩方が、私が、唯先輩と一緒にけいおんをやるために、唯先輩を励ましてやってるんです!」ガクガクガク
唯「あぶぶぶぶぶ」
梓「それを裏切るんですか! 私は唯先輩とけいおんがしたいんですよ! だというのに、何なんですかそのフケた態度はっ!」ガックンガックン
唯「あうっあうっ、あず、にゃっ」
梓「あっ」パッ
唯「はうっ」ドサッ
梓「ゆ、唯せんぱ……ご、ごめんなさい!」
唯「ケホッ……も、もうあずにゃんったら……乱暴だよ。めっ!」
梓「でも! 唯先輩があんなこと言うからいけないんです!」
唯「うん……そうだよね」
55: 2010/08/16(月) 22:10:23.05 ID:18LIp7jnO
梓「唯先輩……頑張りましょうよ。桜高だって、それなりにいい高校なんです。唯先輩は、そこに入れるくらい勉強したんですから」
唯「……頑張り方、忘れちゃったよ」ヘヘ
梓「じゃあ頑張り方から私が教えますよ。憂も手伝わせます」
唯「あずにゃん……」
ポロポロ
唯「あずにゃあん……」ギュ
梓「……やっぱり抱きつくんですね」
唯「うん……えへへ、なんかこうするの久しぶりだね」
梓「そうですね。懐かしい感じです」
唯「あずにゃんいいにおーい」
梓「唯先輩こそ……優しくていい匂い……」
唯梓「えっ?」
57: 2010/08/16(月) 22:13:18.86 ID:18LIp7jnO
梓「におい……?」
唯「あ、あずにゃん。なにか食べ物持ってない?」
梓「な、ないですよ。あったとしても私が食べるです!」
唯「なんでよう!」
ムキー
梓「いいじゃないですか! なんでも!」
シャー
唯「まさか、あずにゃんも……?」
梓「……はい」コクン
唯「あ、はは、そうなんだ……でも、なんでこのタイミングで治ったのかな?」
梓「私の場合は……唯先輩と会わなくなってから、でしたから」
唯「……それって、けいおん部がなくなった日だよね?」
梓「はい。それからは唯先輩と顔を合わせることがなかったですから」
58: 2010/08/16(月) 22:16:26.58 ID:18LIp7jnO
梓「まさかとは思いますが……唯先輩の場合はどうなんですか?」
唯「えっ? 私は……」
梓「大事なことです。言って下さい」
唯「けいおん部がなくなって……帰り道であずにゃんと分かれたそのときからだよ」
唯「とぼとぼ歩いてくあずにゃんの背中を見てたらさ、もうあずにゃんをぎゅってできないんだって、急に思って」
唯「そしたらなんか、いきなり何もかもつまんなくなって。ご飯の味もしなくなった」
梓「……私は、もう唯先輩に抱きついてもらえないって思ったら……」
梓「なんだ……そんなことだったんだ。あははっ……」
唯「そんなこととはなんですかー」ブーブー
梓「だって……受験勉強のストレスとか、唯先輩の場合、生活の味気なさが味覚に影響を与えた……とか」
梓「色々原因を考えてたんですよ?」
60: 2010/08/16(月) 22:20:09.34 ID:18LIp7jnO
梓「それが蓋を開けてみたら、唯先輩なんですから。そんなことですよ」
唯「蓋を開けたらあずにゃん……いいかも」
梓「人を勝手に箱詰めにしないでください」
唯「えへへー。ねぇ、あずにゃん」
梓「はい?」
唯「ペロペロしていい?」
梓「いきなり何を……」
唯「味覚のほうも戻ったか確かめたいんだもん」
梓「私は味なんかしませんよ。唯先輩はさっきパフェ食べてましたし、味するかもしれませんね」
唯「いーや、あずにゃんはおいしい!」
梓「何ですか、人を食べ物みたいに……じゃあ、こうしましょう」
唯「うん、どうするの?」
61: 2010/08/16(月) 22:23:10.37 ID:18LIp7jnO
梓「……こうするです」
チュ
唯「!?」
ドキンッ
梓「……んっ」
チュプ
唯「むー」
ムスッ
チュルッ……
梓「んむぅ!?」
唯「ふっふっふ」
チュッ……チュパッ
梓「ふっ、んはぁ……」
ピクンッ
唯「あーむ。んふふっ」
63: 2010/08/16(月) 22:26:20.51 ID:18LIp7jnO
梓「襲われました……」グス
唯「あずにゃん、おいしかったよー」
梓「唯先輩は甘かったですよ」
唯「う……言われるほうは恥ずかしいなぁ……」
梓「唯先輩は人の気持ちを考えましょうよ。だいたいいつも……」
バターン!
律「ひょー! 重かったぜー!」
唯梓「!!」ババッ
律「あれ? どうした二人とも?」
澪「唯、梓、もう7時なんだから電気つけろって」カチ
パッ
梓「あ、ちょ」
64: 2010/08/16(月) 22:30:07.32 ID:18LIp7jnO
律澪紬憂「わっ」
唯梓「……あはは」
律「ゆ、ゆいー? よだれ垂れてるぞ、もー」
憂「梓ちゃん、私たち空気読めなかった?」
梓「そ、そんなことはないですよ。な、ないよ?」
澪「まったく……こら、唯!」
唯「で、でも澪ちゃんー……」
澪「でもじゃない! 梓が……べ、べちょべちょじゃないか!」
梓「なんの羞恥プレイですか、これは……」
カアァ
紬「唯ちゃん、そ、そんなに梓ちゃんはおいしかったの?」
65: 2010/08/16(月) 22:33:13.12 ID:18LIp7jnO
律「こ、こらムギ!」
律「気持ちは分かるが、今の唯にそんなことを訊くな。な?」
紬「あ……そうでした。ごめんなさい唯ちゃん」
唯「い、いいんだよムギちゃん。それに、あずにゃんはおいしかったよ?」
律「あ、なんだ。そうだったのか。あはは……はっ!?」
憂「お姉ちゃんっ!?」
澪「まさか……味覚が戻ったのか!?」
唯「唯ちゃんはあずにゃん分の補給で蘇ったのです!」ドーン
律「むちゃくちゃだー!?」ガーン
澪「は……あははは! まあ、いいじゃないか! これで問題は万事解決だ!」
憂「うーん、そうですかね?」
澪「憂ちゃん……?」
67: 2010/08/16(月) 22:37:38.85 ID:18LIp7jnO
憂「見て下さいよ」
紬「」ギラーリ
梓「」ビクビク
澪「……おい律、どうする」
律「ムギ、お茶だ!」
紬「ごめんなさい、ティーセットは忘れてしまったの」ショボン
紬「」ギラッ
澪「りつー?」
律「ええい、練習始めるぞちくしょう!」
澪「うん、それでいい」
唯「よーし! いっくよギー太!」
ピョーン
終わり。
70: 2010/08/16(月) 22:41:45.88 ID:18LIp7jnO
梓「な、なな……」ワナワナ
憂「うひゃー……」
梓「どど、どういう展開ですかこれは!」
梓「途中まで絶対唯憂だと思ってたのに! 最後の最後でなにしてくれちゃってんの私!?」
憂「お姉ちゃんすごかったね……」
梓「まったく、人をあんな風に使われては困るって」
梓「というか、なんとなく唯先輩にとっての私が醤油と同レベルって言われてる気がするんだけど」
憂「それはないと思うけどなぁ……」
ポイッ
梓「ん……純だ」
梓「人の処O膜をあんまりとやかく言うもんじゃないよ!」
梓「……っ」カアッ
梓「処O〝作〟だろうがあああ……」プルプル
憂「梓ちゃんすごいこと言うねぇ」
71: 2010/08/16(月) 22:44:15.36 ID:18LIp7jnO
梓「でもそうは言うけど、私なんてほとんど登場してないじゃん」
梓「どうして最終的に私になったのやら……」
ポイッ
梓「唯憂のつもりだったけど途中で道を踏み外した」
梓「次はちゃんと唯憂だからね! ボンバヘッ」
梓「なんか、唯憂にこだわってるね」
憂「それは純ちゃんからの私への愛だよ!」
ポイッ
梓「……えーと」ガサ
梓「ドキーン!」
梓「……っていうか、なんで出てこないのあいつ?」
梓「投げ文だけで出演されるってすごいむかつくんだけど」
梓「開いてみたら記号含めて5文字きりとかふざけてんだろ」
72: 2010/08/16(月) 22:47:07.17 ID:18LIp7jnO
ポイッ
憂「あ、また来た」
梓「次の作品には私も憂の想い人として登場します!」
憂「唯憂じゃなかったの!?」ガタンッ
梓「つーか読む前にボロボロ言いすぎでしょ! ちょっと黙ってなよ!」
ポイッ
梓「」ブチッ
憂「梓ちゃんが黙っちゃった」
憂「私が読んじゃお。えーと……それじゃ憂、今度は唯先輩っぽくタイトルコール!」
憂「うーん、難しいなぁ。お姉ちゃんの可愛さなんてそうそう表現できないよ……」
梓「『ことだま!』」
憂「ああー! 私が言えって言われたのに!」
梓「ごめん。付き合いきれる自信がなかった。はいスタート」
憂「ぜんぶ持ってかれたー!」
73: 2010/08/16(月) 22:50:16.76 ID:18LIp7jnO
唯「ことだま!」
76: 2010/08/16(月) 22:53:52.72 ID:18LIp7jnO
唯「むむむ……」
唯「ごはんも食べたし、お風呂も入ったのにまだ夜の8時」
唯「憂はあずにゃんのうちに泊まりに行っちゃってるしなあ」
唯「なんか今日という日は長いなあ……」
唯「テレビもつまんないし」ピッピッ
唯「……おろ?」
テレビ「つまり、言霊は実在するんですよ」
唯「ことだま……?」
テレビ「というわけで、これにてお別れでーす♪」
唯「あ、ちょっ、待ってよお!」
唯「……終わっちゃった」
唯「……ことだま」
77: 2010/08/16(月) 22:58:07.32 ID:18LIp7jnO
唯「ことだま」ニヘ
唯「なんか可愛いかも」
唯「なんだろうなあ、ことだまって」
唯「たまねぎみたいな感じかな?」
唯「おいしいのかな?」
唯「澪ちゃんに訊いてみおっと」
唯「……ぷくく」
プルルルル プルルルル
78: 2010/08/16(月) 23:00:33.25 ID:18LIp7jnO
ピリリリリッ ピリリリリッ
律「澪、うるさーい」
澪「はいはい……お、唯から電話だ」ピッ
澪「もしもし」
唯『澪ちゃーん? おっはー』
澪「こんばんは」
唯『ぶー。おっはー』
澪「こんばんは」
唯『……こんばんは』
澪「わかればよろしい」ピッ
澪「いけない……つい勢いで切っちゃった」
律「……バカだな?」
79: 2010/08/16(月) 23:05:07.36 ID:18LIp7jnO
唯「切られた!?」ガビーン
唯「も、もう澪ちゃんなんて頼らないもんね!」ピピッ
――――
ブー ブー
律「お♪ 私に来たぞ? 澪は好感度マイナス1ってわけですなあ」
澪「あとで詫びのメール入れとこう……」
律「もしもーし唯たーん」
唯『りったーん! おっはー!』
律「お、おっはー!」
唯『ねぇりっちゃん、ことのはって知ってる?』
律「こ、ことのは?」
唯『おっと間違えた! ことだまって知ってる?』
律「言霊? サザンか?」
80: 2010/08/16(月) 23:07:37.79 ID:18LIp7jnO
唯『? たぶんサザンじゃないよ。今やってた変な番組で言ってたんだ』
律「わ、わかってるよー。ボケだって!」タラ
唯『ほんで、りっちゃん。ことだまってなーに?』
律「そ、それはだな……えーと」チラ
唯『教えてくれないの……?』
律「……そうじゃないんだけど、実はその……しらな」パッ
澪「言霊っていうのはな」
唯『ひゃっ、澪ちゃんいたの!?』
律(サンキュー澪)ニコ
澪(お安い御用だ)ニコ
澪「ああ、今律の家にいるんだ。……さっきはごめん、間違えて切っちゃったんだ。言霊について知りたいんだろ?」
唯『うん、いーよ! おせーておせーて! 澪ちゃんせんせー!』
澪(なんか今日の唯、いつにも増して……可愛い)
82: 2010/08/16(月) 23:11:04.21 ID:18LIp7jnO
澪「まあ大雑把に説明すると、言葉に宿る霊力なんだよ」
唯『わからん』
澪「私たちがこうやって話している言葉のひとつひとつにも、こう……特別な力があるといわれているんだ」
唯『食べ物じゃないの?』
澪「ああ、食べられない。それで、言霊の持ってる力なんだけど」
澪「唯は、初詣の時や流れ星を見た時、願い事を何回言う?」
唯『え? 三回かなぁ』
澪「どうして三回も言うと思う?」
唯『いっぱい言ったほうが願いが叶いそうな気がするから、かな?』
澪「そうだな。私もそう思う。いっぱい言えば言う程、言霊の力が効果を発揮するんだ」
83: 2010/08/16(月) 23:14:09.89 ID:18LIp7jnO
唯『ってことは、ことだまの力って願いを叶える力なの?』
澪「それはちょっと違うな。それは一つの使い方だよ」
唯『むー?』
澪「言霊の本質は、『嘘も言い続けていると真実になる』というやつでな」
澪「たとえ望もうが望むまいが、本当になるんだ。だから、願いを叶える力じゃない」
唯『言ったことが本当になる力なんだね?』
澪「まあ、そういうことだな。……つまり」
唯『つまり?』
澪「律は唯が好きだ」
唯『へ?』
律「ちちょっ、澪!?」
84: 2010/08/16(月) 23:17:32.51 ID:18LIp7jnO
澪「と何度も何度も言っていれば、律にその気がなくても、律は唯のことが好きになる」
唯『へぇー。なんかロマンチックだねえ』
律「……そうか?」
唯『りっちゃんは私が好きだー!』
律「!?」ドキッ
唯『これで私とりっちゃんはラブラブだね!』
澪「一回だけ言っても大した効果はないと思うけど……」
澪「まあ、だいたい分かったみたいだな」
唯『うん! ありがとう澪ちゃん! 澪ちゃんも、私のことが大好き!』
澪「へ、変な言い回しだな……はは……」
唯『それじゃ、また明日ねー!』
プツッ ツーツー
85: 2010/08/16(月) 23:20:05.17 ID:18LIp7jnO
律「……」ハァハァ
澪「……」ハァハァ
律「どーすんだよ、みおぉ」
澪「……ごめん」
律「ごめんじゃねー! この調子じゃ唯、明日からことあるごとに好き好き言ってくるぞ!」
澪「い、いいじゃないか。好きな相手に言われたら嬉しいだろ?」
律「唯の言ってる好きと私たちの言ってる好きは違うんだよ! 澪はそれでもいいのか!?」
澪「……嬉しいから」
律「へたれだ……」
澪「あぁー」
律「くそっ」
律澪「唯かわいすぎなんだよ……」
87: 2010/08/16(月) 23:23:44.78 ID:18LIp7jnO
――――
唯「ことだまかー。食べ物じゃなかったんだ」
唯「でも、なんか凄そうだったな……言葉に宿る力って言ってたっけ」
唯「……まだ8時」
唯「暇だなあ。もう、憂のバカ」
唯「……」
チッ チッ チッ
唯「8時5分」
チッ チッ チッ
唯「8時5分45秒」
チッ チッ チッ
唯「8時6分!」ピーン
チッ チッ チッ
唯「……ういー」
ゴロゴロ
唯「ことだまかー。食べ物じゃなかったんだ」
唯「でも、なんか凄そうだったな……言葉に宿る力って言ってたっけ」
唯「……まだ8時」
唯「暇だなあ。もう、憂のバカ」
唯「……」
チッ チッ チッ
唯「8時5分」
チッ チッ チッ
唯「8時5分45秒」
チッ チッ チッ
唯「8時6分!」ピーン
チッ チッ チッ
唯「……ういー」
ゴロゴロ
88: 2010/08/16(月) 23:26:10.15 ID:18LIp7jnO
唯「……」
唯「憂は私が好き」
唯「……わぁ……なんてすばらしい響き……」
唯「憂は私が好き」
唯「憂は私が好き」
唯「……言えば言う程、って言ってたよね」
唯「憂は私が好き」
唯「憂は私が好き」
唯「憂は私が好きー」ゴロゴロ
唯「憂は私が好きー」ゴロゴロ
唯「憂は私が好き……」ピタッ
唯「むなしい……」
90: 2010/08/16(月) 23:30:26.71 ID:18LIp7jnO
唯「だいたい、ことだまさんの力なんてなくたって、憂は私のこと大好きだもん!」
唯「ハッ……でも最近あずにゃんとずいぶん仲いいよね」
唯「二人きりでお泊りだなんて……りっちゃんと澪ちゃんじゃあるまいし!」
唯「あ、ってことはあの二人くらいに仲がいいってことかあ」
唯「ってことは!」
唯「ま、まさか憂……今夜はあずにゃんといけないことを……!?」
唯「いやだああああああ」ゴロゴロゴロゴロ
ガツッ
唯「いたた……ういー、ぶつけちゃったよ……」
唯「……また憂呼んじゃった。いないって分かってるのにな」
唯「……憂……好き」
唯「一緒に寝たいよ……」グス
唯「憂、憂、ういういうい!」
唯「うっうういっ! うっうういっ! うっうういういっ!」だばだば
唯「……くそう、ツッコミ不在だよう……」グス
93: 2010/08/17(火) 00:00:22.61 ID:WIXQE+0AO
唯「もうやだ」
唯「ことだまさん! オラに力を貸してけろー!」ゴオオオ
唯「よかろう。ユイ・ヒラサワ……ぬしに我が力を……」キィィン……
唯「うおおおおお! みなぎるよぉー!!」フンス
唯「……憂は私が好き」
唯「憂は私が好き」
唯「憂は私が好き。大好き」
唯「大好きだからいつも一緒にいてくれる」
唯「憂は私が好き」
唯「大好き」
唯「憂は私を愛してる」
唯「好きすぎて離れられない!」ボフッ
唯「唯は……あっ、間違えちゃった」テヘ
唯「寝よ」
唯「憂は私が好きぃ……」ムニャ
95: 2010/08/17(火) 00:05:10.85 ID:WIXQE+0AO
翌朝
唯「昨日は早く寝たから寝坊せずに済んだね」
唯「さてと……朝ごはん朝ごはん」トントン
唯「一階にとうちゃーく!」
唯「さーて今日はたまごちゃんを私の熱く燃える愛で完熟にしてあげるよっ!」
唯「コンロ・オン!」ボゥッ
唯「えーとフライパンフライパン……」ガタガタ
唯「そうだ、パンも焼こうっと。ラピュタトーストだ!」
唯「トースターに入れてっと……」
唯「たまごたまご」ガチャ
唯「コンコン、そしてパカッ!」
ジュウウウウゥ
96: 2010/08/17(火) 00:08:42.76 ID:WIXQE+0AO
唯「炭だね」
唯「愛が強すぎたんだね、ごめんね」
唯「普通にジャムを塗ろう……」
唯「ぬりぬり」
唯「いただきます……」
唯「うん、おいしい」
唯「もう学校行こうかな」
唯「そうと決まれば顔を洗いましょうか」
98: 2010/08/17(火) 00:12:09.76 ID:WIXQE+0AO
バシャバシャ
唯「ふぅー……」
唯「おろ?」
唯「横顔」クイ
唯「45度」クイ
唯「正面」クイ
唯「くるっとターン」クルリン
唯「……」ドキドキ
唯「なんか今日はイケてるかもっ!」
唯「よーし! 憂をメロメロにしちゃおっと!」
99: 2010/08/17(火) 00:16:04.34 ID:WIXQE+0AO
――――
とこ、とこ
律「あー、眠いぜ……」グデー
澪「しっかりしろよ律……このペースじゃ結局遅刻だぞ……」
律「澪があんなこと言ったから……唯がかわいくて寝れなくなったんじゃないか」
澪「外が明るくなるまで『唯かわいい』って言いあってたからな……駄目だな、私たち」
律「唯かわいい」
澪「かわいいな」
律「我慢できないくらいかわいいよ」
澪「かわいいけど我慢しなきゃ」
律「理性なくなるほどかわいいよ」
澪「抱きつきたくなるよな」
律「かわいい……」ガックリ
100: 2010/08/17(火) 00:20:15.13 ID:WIXQE+0AO
澪「律、律。唯の息遣いが聞こえる」
律「ほんとだ。唯の革靴の足音だ」
唯「あ、りっちゃんみおちゃーん! おっはー!」
律「おっは……」
澪「おはよう、ゆ……」
唯「ほえ? どうかした二人とも? 私の顔になんかついてる?」
澪(おい律、手がつけられないくらいかわいいんだけど)
律「もう無理」
唯「えっ?」
律「おい唯ぃ、今日は学校休みだぞぉ?」
唯「そ、そうだったっけ」
102: 2010/08/17(火) 00:24:06.01 ID:WIXQE+0AO
唯「でも二人も制服着てるし……」
澪「まあ私たちもさっきそこで憂に会って言われたんだけどな。今日は創立記念日だってことを忘れてたよ」
律「あっ、バラすなよ澪ー!」
ニヤニヤ
唯「えっ、憂がいたの?」
律「そうそう、でさー、今から唯の家に……」
唯「ういー! どこー!」ダッ
ピュー
律「行っ……て……」
澪「行っちゃった……」
律「唯としっぽりしたいと思ったんだけどなあっ!!」
澪「律、さすがに声が大きい」
103: 2010/08/17(火) 00:28:13.48 ID:WIXQE+0AO
――――
唯「ういっ、ういっ、どこにいるの?」タッタッタッ……
唯「会いたいよう……」
ピリリリリッ
唯「うん? 携帯……」
唯「憂だ!」パアァ
唯「もしもし憂!」
憂『お姉ちゃん! どこにいるの!?』
唯「へ? いま、通学路だけど……」
憂『通学路……え、お姉ちゃん? 今日学校お休みだよ?』
唯「……あれ? あ、創立記念日かー」
憂「もう、ぼけてないでよ……早く帰ってきて」
唯「はーい♪」
憂「お姉ちゃんの返事、かわいいね!」エヘヘ
104: 2010/08/17(火) 00:32:17.33 ID:WIXQE+0AO
憂「それじゃあ切るね? お願いだから、すぐ帰って来てよ?」
プツッ ツーツー
唯「ういういー♪」
ダッ
ドドドド
律「あっ、唯が戻ってきた!」
澪「つかまえっ……られなかった」
律「速かったな……ん?」スン
律「唯が走り抜けた後の空気うめー!」スンスン
澪「あっ、一人占めはずるいぞ律!」スンスン
梓「……律先輩、澪先輩。何やってるですか」
107: 2010/08/17(火) 00:36:12.72 ID:WIXQE+0AO
律「げっ、梓……」
澪「いや、これには訳があって……」
梓「どんな訳ですか。今日は休みなのに二人で制服着て……学校で練習するんですか?」
律「いやぁ、そういう訳じゃ……ん?」
澪「今日は……なんだって?」
梓「今日は創立記念日で休みですよ。てゆーか学校開いてません」
律「……み、みお?」
澪「……いや、冗談のつもりだったんだけどな。あ、梓。教えてくれてありがとう」
梓「まったく、澪先輩まで……しっかりして下さいよ」
澪「面目ない」
109: 2010/08/17(火) 01:00:36.09 ID:WIXQE+0AO
梓「ところで……憂を知りませんか? 昨日家に泊まっていったんですけど、目を覚ますなり飛び出して行っちゃって」
律「憂ちゃん? いや、見てないけど……」
澪「心配だな。一緒に探そうか?」
梓「助かります。憂がこっちの方向に走っていったのは確かなので、このあたりを探してみましょう」
澪「じゃああっちに行こう」
梓「あっち……さっきキラキラした人型のものが驀進していった方ですか? 気が進まないんですけど」
律「先輩命令だ!」
梓「いやまあ、行きますけど」
――――
111: 2010/08/17(火) 01:05:05.39 ID:WIXQE+0AO
唯「ういー! ただいまー!」
憂「お姉ちゃん!」
唯「会いたかっt」
憂「そこになおりなさい!」
唯「ハイィ!?」ビシッ
憂「お姉ちゃん……」
唯(あれ、何だろう……憂がいつもの30倍かわいい)
憂「急にいなくならないでよ……お姉ちゃん起こそうと思って帰ってきたのに、お姉ちゃんいないから……」プルプル
唯(えっ!? どうして憂泣きそうになってるの? ちょっと待って、そんなに可愛い顔しないで)
憂「お姉ちゃんに嫌われたと思って……私がお姉ちゃんをないがしろにしたから、出て行っちゃったんだと思って……」
憂「ほんとに心配したんだから……」ギュウッ
唯「う、うい……(う、憂から抱きついてきた!?)」
114: 2010/08/17(火) 01:10:22.24 ID:WIXQE+0AO
憂「もう勝手に私のそばから離れないで! わかった、お姉ちゃん?」
唯「……う……ん。えへへ、嬉しいよ憂。心配かけてごめんね?」
憂「ずっと一緒だよ、お姉ちゃん」チュ
唯「!」キュウウンッ
唯「ああ、だめだよ憂、お姉ちゃんせっかく我慢してたのに……」
憂「?」
唯「玄関開けたら2分でご飯。いただきます」ガバッ
憂「お、おねえ……ひゃあっ!?」ドタッ
115: 2010/08/17(火) 01:15:10.23 ID:WIXQE+0AO
――――
梓「……唯先輩の家ですね」
律「な、着いただろ?」
梓「律先輩。さっき走っていった人……あれが唯先輩だってのはわかりましたけど、どうして唯先輩の通った道がわかるんですか?」
律「唯の通ったところは匂いで分かるだろ。梓はわかんないのか?」
梓「そこまで鼻が良くないので」
澪「いつも抱きついてもらってるくせに……」
梓「関係ないですよね」
澪「関係あるっ! 唯の匂いに包まれていれば、その匂いを最大限享受しようと嗅覚が発達するはずだろ!」
梓「そうですか。憂が家に帰っているかもしれませんので、私ちょっと見てきます」
律「ああ、行ってきてくれ。私たちには神々しすぎてこれ以上立ち入れない」
梓「汚れてるって自覚はあるんですね」
116: 2010/08/17(火) 01:20:15.36 ID:WIXQE+0AO
梓「全く……少しは隠そうって意識を持たないんですかね」
梓「そんなんだから唯先輩に抱きついてもらえないんです」
ピンポーン
梓「ゆ……憂、いるー?」
ピンポーン
梓「……いないのかな」
梓「でも、自分の家じゃなかったらどこにいるんだろう……」
梓「電話もでてくれないしなあ」
梓「……」
ガチャ
梓「鍵開いてる……」
梓「……いや、さすがに駄目でしょ。親友の家とはいえ」
梓「でも、緊急事態だし……」
117: 2010/08/17(火) 01:25:23.13 ID:WIXQE+0AO
ガタッ
梓「ん?」
やっ……だ……
梓「……へ? 憂?」
憂「来ないで、あっ……ちゃん……」
梓「……そう言われても、憂! 大丈夫!?」
憂「だい、じょうぶ……だからぁ……」
梓「……憂っ! 開けるよ!」
カシャン
梓「えっ……?」ガチャガチャ
憂「……来ないでって言ってるの」
梓「う、うい……」
憂「私とお姉ちゃんの時間を邪魔しないで。心配なんていらないよ。ここは私たちの家なんだし」
120: 2010/08/17(火) 01:30:13.72 ID:WIXQE+0AO
梓「そ、それはそうだけど……どうしたの、憂? さっきと様子が全然違うよ」
憂「そう? 邪魔されてちょっとイライラしちゃったのかな」
梓「憂……わかった、じゃあしばらく外してるよ……」
憂「ありがとう、梓ちゃん」
梓「……」
タタッ
――――
梓「というような事が、いまそこのドアであったんですけど」
律「うーん……まさか、唯と憂ちゃんがそういう関係だったとは」
澪「律! そうと決まった訳じゃないだろう。憂ちゃん……いや、憂が唯を襲っているのかも知れない」
律「だとしたら、助けに行きたいが……」
澪「が……?」
121: 2010/08/17(火) 01:35:29.54 ID:WIXQE+0AO
律「きっと、唯はこうなることを望んでいたんだと思う」
梓「なっ……」
澪「それじゃあまさか、身を引くっていうのか?」
律「それが可愛い可愛い唯の望むことなら……私は邪魔したくない」
梓「ちょっ!」
澪「律……そうだな。唯の望みなら、しょうがないな」
梓「澪先輩!」
律「じゃあ梓、私たちもう行くよ」
梓「いやいや、ま、待って下さいよ!」
梓「おかしいじゃないですか! 人間が人間を匂いで嗅ぎ分けるほど愛してるのに、横から奪われてもいいんですか!」
梓「私は嫌ですよ、憂相手でも、唯先輩は渡したくありません!」
律「……ふむ。梓ちゃん、今のもっかい言ってごらん?」
梓「で、ですから……あ!! な、違いますよ! そういうんじゃ……」
122: 2010/08/17(火) 01:40:16.85 ID:WIXQE+0AO
律「なにが違うんだ……」
澪「なるほど、梓は唯のことが好きなんだな。だから憂ちゃんに奪われたくない」
梓「クッ……そうですよ。だから先輩方を頼ったのに……もう一度考え直して下さいよ! 唯先輩ですよ!」
律「いや、私たちは唯が可愛かったらそれでいいから。……そりゃあ、できればイチャイチャしたいけどさ」
梓「そうでしょう? それに、本当に唯先輩が憂のことを好きなのかも分からないじゃないですか!」
律「いや、間違いないって。唯は憂のことが好きだよ。ずっと見てるからこそ分かる」
澪「梓には分からなかったのか? いや、分かっていても認められなかったんだろう?」
梓「そんなことありません! 私にだって可能性はありますよ!」
律「梓、もう……」
澪「待て、律。可能性がある、と言ったな梓?」
梓「ハイ!」
澪「それなら私にも協力させてくれ。そして、もし梓が唯の心を射止めたら」
梓「射止めたら……?」
澪「私にも分け前をくれ。……つまり、一回でいい。唯を抱かせてくれ」
125: 2010/08/17(火) 01:45:04.16 ID:WIXQE+0AO
律「おい澪っ! お前、そんなの無しだろ!」
澪「ごめん律……私、やっぱり唯に触りたい」
澪「あのフワフワの髪を撫でて、柔らかい躰を抱きすくめて、可愛い唇とキスがしたい」
梓「私はされたいです」
律「……」ピクピク
澪「なあ、律。ここのところ、唯がどんどん可愛くなってる」
澪「私、いいかげん限界なんだよ。毎日毎日我慢する辛さが増していってる」
律「……」
澪「もう無理なんだ……唯が欲しいんだよ!」
律「澪ォ!! いい加減にしろよ!!」ドンッ
澪「……律」
律「そんな風に言われたら、私まで我慢できなくなるだろ!! ……協力させろよ」
澪「律!」ジーン
128: 2010/08/17(火) 02:00:05.63 ID:WIXQE+0AO
梓「というわけで、変態同盟成立ですね」
律「その名前でいいのか、梓」
澪「吹っ切れたんだろ。私たちと同じように」
律「そうだな。私たちはもう、変態という名の紳士じゃない。ただの変態だ」
澪「それでも、唯を手に入れる。いいんだな、律?」
律「何度も言わせるな。もう突っ切るしかない!」
梓「それじゃあ、唯先輩の奪還を目指して!」
澪律梓「ゴー! 変態オー!」
犬「ワンワン!」
130: 2010/08/17(火) 02:05:18.61 ID:WIXQE+0AO
「こら、ペロちゃんやめなさい! い、行くわよ!」
犬「わんわんお! わんわんお!」ズルズル
律「……」
澪「一旦私の家に行って、態勢を立て直さないか?」
梓「気持ちは分かりますが、事件が起こっているのは唯先輩の家です。そして今突入しなければ、唯先輩は憂のものになってしまうんです!」
ダッ
ガシッ
律「梓落ち着け! 確かにそれは事実かもしれないが、憂ちゃんはお前の親友でもあるんだぞ!」
梓「は、放して下さい! 友情が何ですか! あったかくて可愛い唯先輩ですよ!」
律「唯は確かに可愛いよ! 地球が滅亡するほどかわいい!」
律「だけど、梓が唯を手に入れるために、お前と憂ちゃんが争ったら、唯は喜ぶか!?」
律「憂ちゃんから唯を奪い取って、それで憂ちゃんが元気をなくしたら、唯が素直に喜ぶと思うのか!?」
澪「間違いなく、今までのようなかわいい笑顔を見せてはくれないな。どこか、翳る」
131: 2010/08/17(火) 02:10:08.52 ID:WIXQE+0AO
梓「だけど、だったらどうしたら良いんですか! こうなった今、唯先輩を奪うことになるのは必至ですよ!」
梓「憂と唯先輩はもう今頃……ですから! 今のうちに止めないと!」
澪「落ち着くんだ梓。論理がなっていない。それに、策がないわけじゃない」
梓「くっ……しかし」
澪「律、行こう。この場から離れれば、梓も落ち着くだろう」
律「ああ。それにしても参ったねーこりゃ。唯ってばとんでもないハーレムだよ」
澪「まあ、私たちほどコアな唯ジャンキーは少ないだろうが……唯のかわいさなら、これも仕方ないんじゃないか」
律「唯も大変だねえ……私たちの気持ち、気付いてんのかなあ……」
澪「気付いてないからこそ、あれほどまでに可愛いのかもしれないけどな」
律「……そうだなぁ。梓を加えてもう5人か。それだけの人間に愛されてるって気付いたら、どんな反応するんだろうな」
澪「どんな反応しても可愛いけどな」
133: 2010/08/17(火) 02:15:42.90 ID:WIXQE+0AO
澪の家
澪「落ち着いたか?」
梓「は、はい……一応は」
律「で? 澪が言ってた策って何なんだ?」
梓「律先輩は何も考えてなかったんですね……」
律「唯の可愛さで頭がいっぱいだった」
澪「ほらほら、作戦会議だ。みんな座れ」
律「ほーい」
澪「それで梓、唯が梓を好きな可能性がある、というのは間違いないな?」
梓「間違いないかと訊かれると困りますが……でも、毎日抱きついてくるんです。なきにしもあらずという奴ですよ」
澪「うん、確かに毎日無条件で抱きついてるのは梓くらいのものだな」
律「私もふざけあいの中でならあるけどなー」
澪「う、うらやましくないうらやましくない……」
135: 2010/08/17(火) 02:20:16.20 ID:WIXQE+0AO
澪「とにかく、可能性はゼロではないだろう。となると、この作戦で最も重要なのは梓だ」
梓「でも、澪先輩や律先輩は? 二人だって、可能性ゼロではないと思いますけど」
律「ハッ」
梓(うざっ)
律「ありえないって。なんたって世界のカワ唯だぞ? どこに唯が私なんかに惚れる要素があるんだよ。澪は別としてもさ」
澪「同感だな。律はともかく、私じゃ望み薄というものだ」
律「いや、私は無いだろ。澪ならいける」
澪「それこそ無い。でも律だったら大丈夫だ」
梓「もういいですから、作戦の説明をしてください」
澪「ラジャー」
律「ブラジャー!」
梓「律先輩、蹴っていいですか?」ガスッ
律「もう蹴ってる……なんてベタなことを」
136: 2010/08/17(火) 02:25:04.94 ID:WIXQE+0AO
澪「さて作戦だが、まずは後腐れがないように唯と憂ちゃんを引き離す必要がある」
律「後腐れがないように、ってとこが重要だな。天使が笑わなくなるぞ」
梓「それ最悪ですね。唯先輩が笑わない世界なんか滅んだほうがマシです」
澪律(乗ってきたな)
律「で、あの仲睦まじい姉妹かつカップルをどうやって引き離すんだ?」
澪「唯は超絶かわいいだけだが、憂ちゃんはかわいくて真面目だろう? そこを利用する」
梓「どういうことですか?」
澪「いいか梓。真面目ということは不正ができないってことだ」
梓「はあ。ていうかかわいい関係ないですよね」
澪「まあな。さてこの場合不正とは、インモラルのことを指す」
澪「そして、今一度唯と憂ちゃんの関係を見直してみよう」
137: 2010/08/17(火) 02:30:02.99 ID:WIXQE+0AO
澪「ちょっとだらしないけどそこがまた可愛いというかもう何やっても全部可愛い姉の平沢唯」
澪「そして姉に似てかわいいけど姉ほどじゃない、けど姉想いで可愛い妹の平沢憂」
澪「姉と妹……そんな二人が恋人になるなんて!」
律「おおー!ダブルインモラル!!」
澪「そんなのに真面目な憂ちゃんが耐えられるかな?」
律「耐えられませーん!」
律「『お姉ちゃん……私お姉ちゃんのこと好きだけど……やっぱりこんなのおかしいよ!』」
梓「じゃあ最初から襲わないんじゃ……」
澪「梓ー……いいか? 恋愛においてレOプなんてのは体験版に過ぎないんだよ」
梓「『恋愛においてレOプ』の時点で意味分かんないんですけど。普通そこは交際じゃないですか?」
139: 2010/08/17(火) 02:35:10.31 ID:WIXQE+0AO
澪「でもやっぱりよく考えたら、私たちが付き合うのはおかしいわ。別れましょう!」
澪「ってなるんだよ」
梓「ものすごく要領を得ない説明でした」
律「だからさ、実際付き合ってみて後からいろいろ考えたりするじゃん? だからこそ別れってモンがあるわけだし」
梓「憂も唯先輩と付き合った後で、ダブル……いやトリプルインモラルに気付いて別れると?」
律「もう一個どこから来たの? ねえもう一個どこ!?」
梓「不条理ギャグ漫画のツッコミみたいな言い方はやめてください! ズレてるのはそっちなんですから!」
澪律(興奮してきたな)
140: 2010/08/17(火) 02:40:14.52 ID:WIXQE+0AO
梓「あれ……どこまで話しましたっけ」
律「だからもう一個が……」
梓「本筋のことですよ。蹴りました律先輩」ガスッ
律「そういう言い方も近頃ベタだからな」
澪「とにかく、憂ちゃんはインモラルに耐えられないんだよ」
梓「そうは思えませんが……」
澪「ああ、もし周囲が理解を示したりすれば、憂ちゃんはきっと自分は正しいと思える。そして唯と付き合い続けるだろう」
澪「しかし逆に……私たちが近親相姦や同性愛を徹底的に否定しまくれば、憂ちゃんは良心の呵責に耐えきれない!」
梓「襲ったこともですね」
澪「そうそう、それも。つまり憂ちゃんに対して精神攻撃を仕掛けていくんだ」
澪「やがて憂ちゃんはごく自然にかわいい姉のカワ唯と付き合っていることを疑問に思い、自ら別れる」
141: 2010/08/17(火) 02:45:22.05 ID:WIXQE+0AO
律「その時は唯も悲しむだろうな……」
澪「悲しむ顔は見たくないな……かわいいんだけどさ。さて、ここで梓の出番だ」
梓「憂にフラれて落ち込んでる唯先輩に告白するんですか?」
澪「察しが良いな。その通りだ!」
梓「最低の役割だ……」ガックリ
律「我慢しろ梓。唯を手に入れるにはこれしかない」
梓「くっ……もう覚悟はできてますよ。いくらでもこの手を汚してやるです」
澪「決まったな。……明日から、さっそく作戦開始だ」
澪「近親相姦の否定は律、頼んだ」
律「えっ……あたしが? なんでだよ」
澪「話を切りだしやすいだろ。最近聡が私の洗濯物を……って感じで」
律「うちの弟をなんだと……いや、でも唯を手に入れるためか」
梓(ご愁傷さまだなあ)
144: 2010/08/17(火) 03:00:46.77 ID:WIXQE+0AO
澪「レOプについては梓が頼む。なんか、本気で忌んでるみたいだし」
梓「やってやるです」
澪「じゃあ同性愛の否定は私がやろう。みんな、自然なタイミングを心がけてくれよ」
律「おっす!」
梓「ラジャーです!」
澪律「ブラジャーです!」
梓「おらっしゃあああ!!」ドゴシャ
律「……何で……私だけ」
145: 2010/08/17(火) 03:05:19.04 ID:WIXQE+0AO
――――
同時刻、唯の部屋
唯「はあっ、はぁ……」
グッタリ
憂「ほら、お姉ちゃん……」グイ
唯「あっ、う……ういー」ゼエゼエ
憂「……」ジッ
唯「ん……ふぅ」チュッ
憂「ふふ♪」
唯「……えへへ」
唯「うい、大好き……」ハァハァ
憂「お姉ちゃん、大好き」
ハァハァ
146: 2010/08/17(火) 03:10:07.24 ID:WIXQE+0AO
唯「夢みたいだよ。憂が受け入れてくれるなんて」
憂「だって私、お姉ちゃんのこと大好きだもん」
唯「えへへ……嬉しいな」
憂「ねえ、お姉ちゃん……」
唯「ん……?」
憂「どうしてこうなったのかな?」
唯「そ、それは……私が憂を押し倒しちゃったから……」ヘヘ
憂「ううん、そうじゃなくて……」
憂「なんか、ね。今日になってから私……おかしいんだ」
唯「おかしい?」
147: 2010/08/17(火) 03:15:07.08 ID:WIXQE+0AO
憂「うん……なんだか、お姉ちゃんのことが好きすぎるの」
唯「照れますなあ……」エヘ
憂「あ、えっと……そうでもなくて。今までは、お姉ちゃんに対してこんな……エOチなことはしようと思ってなかったのに」
憂「今日、梓ちゃんの家で目が覚めてから、自分でもバカじゃないかって思うくらいお姉ちゃんのことが好きで好きでたまらなくなって」
唯(……?)
憂「私、梓ちゃんの家を飛び出してきて、お姉ちゃんのとこに来てた……」
唯「うん……あずにゃん心配してたね。悪いことしたかな」
憂「大丈夫だよ。梓ちゃんはちゃんと分かってくれたみたいだし」
唯「あ、えっとね憂。憂はおかしくなんかないよ」
憂「お姉ちゃん……?」
唯「その……私も憂のこと、好きで好きでたまらなかったから」
憂「……かわいいお姉ちゃん。大好き!」チュッ
150: 2010/08/17(火) 03:25:12.60 ID:WIXQE+0AO
憂「あ……」ハァハァ
唯「……うい?」
唯(憂はどうして……)
憂「ご、ごめんお姉ちゃん……な何やってんだろ、私……」アセアセ
唯「ううん、いいよ。いきなり触っちゃったからびっくりしたんだよね?」
憂「うん! そうそう、そうだよ! ほら、来てお姉ちゃん!」
唯「じゃ、こうやって……」アーン
憂「ひっ……」ビク
唯「ゆっくり……んむ、舐めてあげるね」ピチャ
憂「――っ!」ビクビク
唯(こんなに震えてるんだろう)
151: 2010/08/17(火) 03:30:13.34 ID:WIXQE+0AO
唯(わかってるくせに)
唯(……私の、バカ)
唯(さいてー)
唯(なのに……)
憂「んっ……くうぅっ!!」ビクビクッ
唯(憂が可愛くて)
唯(しあわせ)
唯(……だから)
唯「うい、毎日しよーね」
憂「……」ハァハァ
憂「やだ……よ……」
唯「……うい」
152: 2010/08/17(火) 03:35:12.55 ID:WIXQE+0AO
憂「……」ハァハァ
唯「……ねぇ、憂。お願いがあるの」
唯「私が……『憂は私が好き』って言ったら」
唯「憂は私のことを好きって言って?」
憂「……そしたら、やめてくれる?」
唯「うん、約束する」
唯「じゃあ……憂は私が好き」
憂「私はお姉ちゃんが好き」
唯「憂は私が好き」
憂「私はお姉ちゃんが好き」
唯「憂は私が好き」
憂「私はお姉ちゃんが大好き」
154: 2010/08/17(火) 03:39:58.76 ID:WIXQE+0AO
唯「憂は私が好き」
憂「私はお姉ちゃんが大好き」ポー
唯「憂は私が好き」
憂「……大好き」
唯「……私も」チュッ
憂「あン……ねえ、お姉ちゃん」
唯「どうしたの、憂?」
憂「さっきの続き……していいよ」
唯「いやじゃなかったの?」
憂「ちょっと抵抗あるけど……お姉ちゃんのこと、大好きだから」
唯「……憂は私が好き」
憂「私はお姉ちゃんが好き……」
155: 2010/08/17(火) 03:45:19.07 ID:WIXQE+0AO
唯「憂は私が好き」
憂「私はお姉ちゃんが大好き……」
唯「憂は私が好き」
憂「私はお姉ちゃんが大好き……」
憂「お姉ちゃんのこと、大好きなの……」
唯「憂、私のこと好き?」
憂「うん、大好き……」
唯「お姉ちゃんとエOチしたい?」
憂「……したいよ、いっぱいしたい。させて、お姉ちゃあん……」
唯「えへへ……かわいいなあ、憂」ナデナデ
憂「……してくれないの?」ドキドキ
唯「憂がちゅーしてくれたらするよ……おわっ!」ドサッ
157: 2010/08/17(火) 04:00:05.00 ID:WIXQE+0AO
唯「う、うい……んむぐっ!?」
憂「んふー……ふー……」ニュル
唯(憂の舌……)
憂「ちゅ、ちゅ……ん、ずずっ……んくっ」
唯(す、吸われて……憂が私の唾飲んでる……)
ちゅぽんっ
唯「は、はたまが……とろけちゃう」ポワポワ
憂「お姉ちゃん……しよ?」
唯「よ、よーし! お姉ちゃんがんばっちゃうぞ!」
フンス
――――
158: 2010/08/17(火) 04:05:20.99 ID:WIXQE+0AO
翌日、けいおん部にて
律「……」イライラ
澪「……」
梓「……」
紬「……」
律「……唯が来ない学校とか何の意味があんだよ」
梓(言いやがったこいつ)
澪「全くだな。憂ちゃんもいなかったし……地獄だ」
紬「あら? 二人とも、梓ちゃんの前でそんな話をしていいの?」
澪「いや、昨日梓も唯中毒だって分かったんだ」
梓「中毒じゃありません。好きなだけです」
紬「あらあら、末期ね」
159: 2010/08/17(火) 04:10:09.33 ID:WIXQE+0AO
梓「な、なんで末期なんですか?」
紬「だって『可愛い』とか『抱きたい』じゃなくて『好き』だなんて……よっぽどきてるわよ」
梓「……もうどうでもいいです。それより、そういうムギ先輩も唯先輩中毒なんですよね」
紬「そうよ。でも、私は協力しないわ」
律「ムギには昨日のうちに話したよ」
梓「そうでしたか……でも、どうして協力してくれないんですか?」
紬「そりゃあ、百合を否定するなんて演技でも嫌だもの。そんな同盟は組みたくないわ」
澪「まあ、憂ちゃんを肯定するのがムギだけなら、それはそれで問題ない」
紬「あら、私と憂ちゃんをくっつける気?」
澪「場合によってはな。嫌か?」
紬「ふふ、私も唯ちゃんと憂ちゃんって組み合わせは納得がいってないところだったの」
紬「百合を否定する手段を取らないなら、いくらでも協力するわ」
160: 2010/08/17(火) 04:15:31.55 ID:WIXQE+0AO
律「唯憂が納得いかない……?」
律「ちょっと待てよムギ、そりゃどういうことだ?」
紬「そりゃあだって、憂ちゃんはよくできた子だもの」
紬「実の姉と女同士で愛し合うなんて、背徳的過ぎて憂ちゃんにはできないと思うわ。きっと、考えもしないと思う」
梓「ですが、昨日実際……その」
紬「ええ、そのようね。なんでかしらね?」
澪「梓。昨日は憂を家に泊めてたんだろう? その時におかしいことはなかったのか?」
梓「いえ、特には……私たち、8時くらいにはもう寝たんですけど」
律「早っ。6歳かお前ら」
梓「憂が、唯先輩が心配だから朝早くに帰りたいというので……早めに寝ることにしたんです。蹴りませんよ」ガスッ
律「蹴ってきた!? このあじゃ……あまず……あまのじゃく!」
澪「『あずさ』と『あまのじゃく』を混ぜようとして失敗したな」ニヤニヤ
律「うるせー! 『あ』が被ってるからいけそうな気がしたの!」
161: 2010/08/17(火) 04:20:38.69 ID:WIXQE+0AO
紬「まあとにかく、おかしいところはなかったわけね」
梓「はい。起きた途端に挨拶もせず出て行ってしまって……どうやら直行で唯先輩の家に行ったみたいでしたが」
紬「とすると、憂ちゃんが寝てる間に何かあったということね」
律「……ってことは、コラ梓!」ペシン
梓「にゃっ! 何しやがりますか! 殴りますよ!」ガスッ
律「ちくしょう蹴りだった! ってそうじゃねえ! 寝てる間に何かあったって事は……なぁ澪?」
澪「梓……気持ちは分かるが、妥協の対象にされた憂ちゃんが可哀想だろう!」
梓「なんもしてないんですけど!」
紬「梓ちゃん、あなたのその態度が憂ちゃんを傷つけ、そういう行動へと駆り立てたんだわ」
梓「どうしても私を悪者にしたいんですか!? 出るとこ出てやりますよ!?」
律澪紬(盛りあがってきたわー)
162: 2010/08/17(火) 04:25:09.34 ID:WIXQE+0AO
同時刻、唯の部屋
唯「おなか減ったー」バタリ
憂「そういえば、お昼ご飯も食べてなかったね」
唯「憂がすごいから……あうー、立てないよー」
憂「うふふ……お姉ちゃん、私たち学校さぼっちゃったね」
唯「うん……学校サボってこんなことしてるんだね」
唯「他のみんなに悪いなあ。みんなだってきもちい事したいのに」
憂「いけない子だね、私たち……それじゃあ私、ご飯作ってくるよ」
唯「よろしくー。一晩中もつようにたっぷり頼むよー」
憂「うん、わかったよお姉ちゃん」トトッ
ガチャ バタン
憂『ふぅ~……』
唯「……」ピク
163: 2010/08/17(火) 04:30:21.57 ID:WIXQE+0AO
唯「憂は私が好き」ボソ
唯「憂は……ふあ」
唯(……眠いや。ほとんど寝ずだったもんなあ)
唯「でも……言わないと」
唯「憂は私が好き」
唯「憂は私が好き」
唯「憂は私が好き……んー」
唯「はぁ……憂は私が好き……」
唯「ういは……わたしがしゅき……」カクン
唯(もう十分言ったかなあ)
唯「ういはわたしがしゅき……」トロン
唯「ういー……zzz」
164: 2010/08/17(火) 04:35:10.97 ID:WIXQE+0AO
憂「お姉ちゃん、起きて?」
唯「……むいー?」
憂「ご飯作ったよ。一緒に食べよ?」
唯「食べさせてー」
憂「ふふ。はい、あーん」
唯「あーん」
憂「と思いきや?」パク
唯「うい……」ウルウル
憂「えへへ、冗談」
んちゅ
166: 2010/08/17(火) 04:40:18.80 ID:WIXQE+0AO
唯「あふ……」
憂「ひょっとまっへへ……」クチャクチャ
唯(わわ、いっぱい唾液と混ぜてる……)ゴクッ
憂「ふぁい、はーん」
唯「あーん……」
憂「ん……」チュッ
唯(憂の唾液でご飯が甘い……)モグモグ
唯(メシウマ)
憂「えへへ、お姉ちゃんあんまりご飯噛まないから、甘くておいしいでしょ?」
唯「憂の唾液がおいしいんだよー」
憂「お姉ちゃん、そんなこと言われたら照れちゃうよ……」カアァ
唯「自分から口移ししちゃうような子がこのくらいでウブですねー?」チョイチョイ
憂「あんっ、もう……それより!」
167: 2010/08/17(火) 04:45:17.92 ID:WIXQE+0AO
憂「お姉ちゃん、明日はちゃんと学校行くからね!」
唯「えー。私ういとエOチしてたいよぉ」
憂「うぅ……めっ! 我慢するの!」
唯「どうしてもー?」
憂「今晩できるだけ遅くまで付き合ってあげるから、ね?」
唯「うん、それじゃ頑張る……」
唯(どうしよっかな……さすがにみんなの前でことだまさん使う訳にはいかないよね)
唯(言葉にしないとだめらしいけど……ノートに書いたら効果あるかな?)
唯(やってみよう。一瞬だって憂に嫌われたくないもんね)
憂「ふぁい、ほれじゃごほーび」
唯「あ……い、いただきまーす」ドキドキ
唯「アイスより甘い……」
憂「えへへ……」
169: 2010/08/17(火) 05:00:20.31 ID:WIXQE+0AO
翌日、3年教室
律「ゆーいー!」ダキッ
唯「わ、りっちゃん! 朝から元気だねー」
律「元気じゃないよう……昨日一日中唯に会えなくて寂しかったぁ……」
唯「えー? あははー……」
澪「ほらほら律、唯が困ってるぞ」
澪(困ってる唯もかわいいなぁ。まぁ今の律もかなり可愛かったけど)
澪「しかし唯、だめじゃないか。休むんだったら連絡をしてくれよ」
唯「ごめん、つい忘れてたや」テヘ
律澪(うわー今の『てへっ』て顔アルティメットかわいいー悶氏するわー)
澪「まったく、かわいいから今回は許すけど、次からは気をつけろよな?」
唯「はい、気をつけマス!」ピシッ
律「あーもー、それがかわいいって言ってんの」
170: 2010/08/17(火) 05:05:09.18 ID:WIXQE+0AO
唯「あれ? ムギちゃんは?」
律「ムギはなんか、憂ちゃんのところに行くって言ってたな。すぐ戻るって言ってたけど」
ドドドド……
澪「ん、戻ってきたのか?」
ガラッ
紬「わー! 唯ちゃんがいるー!」
唯「ムギちゃんおはよー! ってかおかえり?」
紬「ただいま、唯ちゃん。キスしよっか?」
唯「ううん、やだよ。ところでムギちゃん、なんで憂のとこ行ってたの?」キッ
律(平然と拒否しつつちょっと怖い目をしてみせる唯かわ……いいか?)
澪(いや……動じないムギはかわいいが、何だろう……怖いな)
172: 2010/08/17(火) 05:10:07.87 ID:WIXQE+0AO
紬「憂ちゃんに、私は味方だって言っておいたのよ」
唯「どゆこと?」
律澪(でも次の瞬間には話が分かんなくてほにゃんほにゃんになっちゃう唯かわいいー生きてることに絶望するー)
紬「うふふ♪ 近く分かるんじゃないかしら?」
唯「むー」
紬「私だって、まだ全部はわからないの。でも、やっぱり私ももうすぐに全部わかる」
紬「そのときは唯ちゃん、ちゃんと私の話を聞いてね?」
唯「……分かってるよう」プク
紬「あらあら、むくれちゃって。超新星爆発級のかわいさね」
唯「世界史はわかんないよー」
律澪(どこに世界史の要素があったのかわかんないけどかわいいっ!)
173: 2010/08/17(火) 05:15:07.05 ID:WIXQE+0AO
2限、3年教室
律(ぷれんてぃ……?)ボー
律(唯の事かな。なんかぷりてぃっぽいし)
カリカリカリカリ
律(むっ?)チラ
唯「……」カリカリカリカリ
唯「……」ババッ
律(唯がめっちゃ真剣にノートとってる……可愛すぎ!)キュウウン
律(あ、やばい……したくなってきた)ムズ
律(まさか唯が来ると思ってなかったから……替えのパンツないのになぁ)
唯「……」カリカリカリカリ
律(つーか……そんなに書くことあるのか、唯?)
174: 2010/08/17(火) 05:20:39.35 ID:WIXQE+0AO
先生「じゃあこの英文……平沢さん、訳してみて?」
唯「……」カリカリカリカリ
先生「平沢さーん?」
唯「あっ、ハイ!?」バタタッ
律(って授業聞いてなかったー!? 予想外かわいい!)
唯「え、えーと……え? 私は豆を持っていて……あれ?」
律(そしてまさかの現在完了すらわからないー!?)
律(いったい何を書いていたんだ唯!? 気になって気になってかわいいぞ!!)バンバンバン
先生「田井中さん、うるさいですよ」
175: 2010/08/17(火) 05:25:22.42 ID:WIXQE+0AO
昼休み、2年教室
憂「……ハァ」
梓「憂、どうしたの? 今日ずっと元気ないよ」
憂「……ねぇ、梓ちゃん」
梓「うん?」
憂「ご飯食べ終わったら話あるから……ちょっと屋上まで付き合ってくれない?」
梓(唯先輩とのことかな……でも、なにか悩んでるっぽい……)
梓(何も考えずに親友として接するべきですね)
梓「かまわないよ。憂が困ってるなら助けたいから」
憂「ありがと、梓ちゃん」ニコ
梓(おっと、かわいい)ドキ
梓(でも憂、ほとんどご飯噛んでないな……うわ、唐揚げ丸呑みした)
176: 2010/08/17(火) 05:30:09.96 ID:WIXQE+0AO
――――
同時刻、屋上への階段
唯「こ、ここなら誰もこないはず……」ハァハァ
唯「言わなきゃ……ノートに書いただけじゃ不安だよ……」ハァッ
唯「憂は私が好き」
唯「憂は私が好き」
唯「憂は……」
スタスタ……スタスタ……
唯「誰か来る……か、隠れなきゃ」キョロキョロ
唯「そうだ、屋上に……給水塔の陰に隠れれば……」
キィ……バタァン
177: 2010/08/17(火) 05:35:27.03 ID:WIXQE+0AO
キィ……バタァン
梓「それで、話って?」
憂「まずは座ろうよ」
唯(あずにゃんと……憂)コソッ
梓「そ、そうだね」
憂「……ふぅ。それでね、梓ちゃん。話なんだけど」
梓「唯先輩のこと?」
唯「……」
憂「ううん、私のこと」
唯「……」ホッ
梓「憂のこと……?」
178: 2010/08/17(火) 05:40:06.60 ID:WIXQE+0AO
憂「梓ちゃん、私の事おかしいと思わないの?」
唯「っ」ズキ
憂「梓ちゃんのおうちに泊まってたのに、挨拶もしないで飛び出して」
憂「勝手に自分の家に帰って、あげく邪魔者扱い」
梓「おとといのことか……」
憂「それなのに、学校で梓ちゃんに会っても、一番目に謝ることもしない」
憂「おかしいよね」
梓「(よし、ここは)そうだね、ちょっとおかしいと思ったよ」
憂「うん……」
梓「あ、でも、私は怒ってないし、唯先輩なら心配になっちゃうのもわかるよ」
唯(どういう意味なのかなーあずにゃんってば)
179: 2010/08/17(火) 05:45:20.19 ID:WIXQE+0AO
憂「許してくれる?」
梓「憂が反省してるなら、私は許すよ」
憂「そっか……じゃあ私、許してもらえないや……」
憂「今は許してもらえても、夜にはもう許してもらえない……」
梓「う、憂……何を言って……?」
憂「……梓ちゃん。汚い話だから、聞きたくなかったら、耳を塞いで出て行ってもいいから」
梓「そんなことしないよ。憂、話して」
憂「梓ちゃん、私……私の中に、もう一人の平沢憂がいるの」
唯「……」
梓「二重人格、というやつ?」
憂「違うかな。似てるけど、そう言ったら本当の多重人格障害の人に悪いし」
181: 2010/08/17(火) 06:00:09.33 ID:WIXQE+0AO
憂「もう一人の私も、たしかに本当の私なんだ。だけど、私とは違う」
憂「もう一人の私は、ほんと、怖いくらいに……お姉ちゃんの事が大好きなの。あ、私がお姉ちゃんの事を好きじゃないってことじゃないよ」
梓「それは、言われなくても……」
梓「怖いくらいに唯先輩が好きって、どういうこと? そういう人間にちょっと心当たりがあるから、アドバイスできると思う」
憂「……もう一人の私はね、だんだんと私の中に現れてきて、だんだんと私はお姉ちゃんを好きになってくの。なりすぎていくの」
憂「それで、気がついたらもう私じゃなくなってる。その……お姉ちゃんとエOチなことをしちゃうようになってるんだよ」
梓「なっ(自虐風自慢だった……)」
憂「もう一人の私は、お姉ちゃんにエOチなキスもするし、お姉ちゃんの体のどんなところだって舐めるし、」
憂「私の体のどんなところだってお姉ちゃんに舐めさせるし、ご飯もよく噛んだのを口移しであげるんだ」
憂「……でも、私は……そんなこと望んでない」グス
梓「えっ……ちょっと待って意味分かんない」
憂「嫌なの! お姉ちゃんと私はそういうのじゃないの! ……ただの仲のいい姉妹でいたかったのに!!」
憂「なんで私、こんなことしちゃうのおっ!」バァン!
唯「……」
182: 2010/08/17(火) 06:05:43.39 ID:WIXQE+0AO
梓「憂……その、蹴るなら扉じゃなくて、律先輩を」
梓「じゃなくて、その……とにかく落ち着いて」
憂「ハー……」
憂「……ごめん」ズビ
梓「ううん、私こそ……ティッシュ持ってなくてごめん」
憂「いいよ。私にはもう、鼻水くらい汚くないもん」
憂「ははっ……ごめんね。そんなわけで、愚痴いいたかっただけ」
梓「唯先輩とのこと、そのままにしておくの?」
憂「うん。だってお姉ちゃん、すごく喜ぶんだよ? 私のオシッコだって直飲みするんだから」
梓「う、ういは……唯先輩の、飲んだの?」
憂「それはまだかも。まあ、よく覚えてないけどね。どっちにしろ今夜あたり飲むんじゃないかな」
梓(どうしよう、うらやましい……)
183: 2010/08/17(火) 06:10:14.73 ID:WIXQE+0AO
憂「私ね、もうこのまま溺れようと思うんだ」
梓「溺れる……?」
憂「そう、溺れるの。お姉ちゃんと二人だけで。私の体を、もう一人の私にあけわたすの」
梓「憂、それってつまり……唯先輩をひとりじめするってこと?」
憂「あ、そうだね。梓ちゃん、ごめんね? お姉ちゃんのこと好きだったでしょ?」
梓「……うん。だから、憂……」
憂「お姉ちゃんの気持ちいい顔を見てる方が、幸せなんだ、私」
梓「え……」
憂「お姉ちゃんを気持ちよくしたら、お姉ちゃんは私を好きだって言ってくれるし」
憂「もうなんか、それならいいやって感じ」
憂「それじゃ私、もう帰るよ……今日学校に来たのも、梓ちゃんにお別れを言うためだったんだ」
梓「そんな……」
184: 2010/08/17(火) 06:15:09.61 ID:WIXQE+0AO
憂「あ、純ちゃんにもよろしくね? 私が、ここにいる私が、大好きだったよって」スクッ
梓「ま、待って、憂……」
憂「……さよなら」
梓「駄目っ!」
憂「梓ちゃんには分かんないよ、私の気持ちは」
梓「ぐ……っ!!」
憂「私の話を聞いてる時の梓ちゃんの顔、すごくうらやましそうだった」
憂「こんな関係より仲のいい姉妹でありたかった、なんて気持ちわからないでしょ?」
梓「確かにそれは意味不明だった……だけどっ!」
憂「だったら引き留めないで……」
梓「引き留めないわけにはいかないよっ! 憂に会えないなんて、そんなの嫌だよ!」
梓「唯先輩のことを本気で好きじゃない人に、唯先輩を取られるのも嫌だよ!」
梓「憂が行っちゃったら、私最悪なんだよ? なのに、行くっていうの? 唯先輩にオシッコ飲ませるために?」
186: 2010/08/17(火) 06:20:03.57 ID:WIXQE+0AO
憂「梓ちゃんってば、真顔で変なこと言わないでよー」ヘヘ
梓「茶化さないでよ! 嫌なんじゃないの? 嫌なくせに唯先輩にべたべたしてもらうの?」
梓「いいかげんにしてよ、憂!! それで唯先輩が喜ぶと思ってるの!?」
憂「喜ぶよ。私が口の中でごはんをかきまぜてるだけで、お姉ちゃんは達するし」
梓「それは憂がもう一人の憂だったからだよ。今ここにいる憂とだったら、唯先輩だってそんなことで喜ばない!」
梓「だって憂が嫌がるから! 唯先輩は、大好きな人が嫌がるようなこと、絶対にしないんだよ!!」
唯「……うっ」ズキン
憂「じゃあ、お姉ちゃんは私の事を性処理の道具として見てるんじゃないかな。ちょうど住んでる家も一緒だし」
唯「うっ、うう……」
梓「憂っ!!」
憂「……ごめん、言いすぎた。でもね梓ちゃん。梓ちゃんがお姉ちゃんに抱いてるイメージ、ちょっとファンシーすぎるよ」
187: 2010/08/17(火) 06:25:14.42 ID:WIXQE+0AO
憂「人の嫌がることをして喜ぶ。ううん、嫌がってるのに気付かないのかな。とにかくそういう人なんだよ、お姉ちゃんは」
梓「それは誤解だよっ! 唯先輩は憂が大好きだから、歯止めがきかなくて、自分の気持ちを優先してしまっただけ!」
憂「どっちでもいいよ……その結果、私は苦しいんだもん」
梓「憂……それなのに、どうして行くの……?」
憂「もう、今の私に戻って、こんな気持ちになるのが嫌だから、かな」
梓「……な、ならいっそ、憂でないままの憂でも……」
憂「だめなんだ。時間が経つと、そのうちこの私に戻ってきちゃう。お姉ちゃんと一緒にいれば、そんなことはないんだ」
梓「……ううっ」プルプル
梓(もう、言えることが……ない……)
憂「……梓ちゃん。最後に見る顔は、笑顔がよかったよ」
キィ
バタァン……
189: 2010/08/17(火) 06:30:24.54 ID:WIXQE+0AO
梓「う……憂……」ポロポロ
梓「……なんで……おわ……かれ……」
キィ
梓「! ういっ!? もど……」
純「名前を呼ばれた気がして来たんだけど……なんで梓、そんなボロボロになってんの?」
バタァン
梓「……じゅん、か……」
純「あ、なにそのいらない子を見る目……」
梓「……じゅんー!」ヒシッ
純「と思ったら懐いてきたー!?」
純「ど、どうした? よ、よーしよしよし、泣かないであずにゃんにゃーん」
梓「純……純のことね、ひっく、ういが、だいすきだって……」
純「お、おう……そうなんだー……」
梓「……それで、いっちゃった……」ボロボロ
190: 2010/08/17(火) 06:35:08.85 ID:WIXQE+0AO
純「あー、うん。話の内容は掴めないんだけど……なんとなく、泣いていいかな?」
梓「うん、一緒に泣こう、純……」
純「よし、大声で泣くぞ、梓ぁ……」
――――
唯「……」ポロ
唯「……!」グシ
唯(お腹の奥が、熱い……)
唯(私、誰に怒ってるの……)
唯「……」ポロポロ
唯「……」グシグシグシ
唯(……私があの二人と一緒に泣いていいわけないじゃん)
唯(我慢してよぉ……)
191: 2010/08/17(火) 06:40:09.58 ID:WIXQE+0AO
唯(……ごめん、みんな)
唯(憂の言うとおりだ。人の嫌がることをして喜ぶ。それが私だったみたい)
唯(だって、まだ言えるんだ)
唯「憂は私が好き」
唯(ほんとの憂に嫌われても)
唯「憂は私が好き」
唯(私は憂が欲しいから)
唯「憂は私が好き」
唯(ムギちゃんにも警告されたけど)
唯「憂は私が好き」
唯(ごめん、私はそっちに戻れない)
192: 2010/08/17(火) 07:00:04.34 ID:WIXQE+0AO
唯「憂は私が好き」
唯(憂を壊した)
唯「憂は私が好き」
唯(憂を追いつめた)
唯「憂は私が好き」
唯(でもおかげで、憂といちゃこらほいほいできるんですぜ)
唯「憂は私が好き」
唯(さいてー。なんてとっくにわかってた)
唯「憂は私が好き」
唯(そんな言葉じゃもう止まれない)
唯「憂は私が好き」
唯(みんなの精いっぱいの言葉でも止まらないよ)
唯「憂は私が好き」
唯(誰かが私を殺さなきゃ……止まらない)
193: 2010/08/17(火) 07:05:38.62 ID:WIXQE+0AO
5限目、3年教室
律(唯が帰って来ない……)
澪(トイレだっていうから全校舎全個室覗きこんだのに……)
紬(唯ちゃん、気付いたのかしら……それなのに、逃げた……?)
紬(……まさかね。体調崩してるだけよ)
律(お腹壊したのかな……昼飯も食ってなかったし。パン食べてる唯、かわいいのにな)
澪(でも体調崩して早退したか保健室なら、さすがに唯も連絡くれるよな……朝言ったばかりだし)
澪(……連絡なし)チラ
律(……寂しいなあ)チラ
紬「……先生、ちょっとよろしいですか」ガタッ
194: 2010/08/17(火) 07:10:28.84 ID:WIXQE+0AO
先生「あら、何かしら琴吹さん」
紬「その、私……平沢さんの席に座りたいんですけど」
律(なにっ! その発想はなかった!)
先生「だめよ。席順は守らないと」
紬「どうかお願いします! 今日の私は欠席扱いでもかまいません!」
澪(すごい覚悟だ……たしかにそれだけの魅力ある座席だが……!)
先生「琴吹さん……もう分かったわ。なにか理由があるのね。平沢さんの席に着いていいわ」
律澪(根負けさせたー!?)
紬「ありがとうございます……」ホロッ
律澪(そしてさらにかわいいだとぉー!?)
先生「田井中さんと秋山さんは少し静かになさい!」
律「ごめんちゃい……」
澪「ごめんなちゃい……」
195: 2010/08/17(火) 07:16:20.01 ID:WIXQE+0AO
紬(今日の授業中の唯ちゃんはおかしかった)ゴソ
紬(悪いけど、いつもはほとんど真面目に授業なんて受けてない。なのに今日は、ノートにびっしり板書をとっていた)ゴソゴソ
紬(もしかしたら、そこに何かヒントが……)ペラッ
紬「……っ。これ、は……」ゾクゾクッ
紬(想像以上ね……何て書いてあるの……)
紬(同じ形が繰り返されてる……横書きだけど、アルファベットの形じゃない……単語練習でもないわね)
紬(あっ、ノートの最初のほうはまだ丁寧に書かれてるわ。これなら……)
紬「……憂は私が好き?」ボソ
紬(見たところ、全ページこれが繰り返されてるのかしら)
紬(一体、何の意味が……わからないわ)
紬(この一文から想像できるのは、唯ちゃんが憂ちゃんを好きなんだろうって事だけ)
紬(まじないの類かしら。なんども繰り返すことで願いが叶う?)
196: 2010/08/17(火) 07:20:33.29 ID:WIXQE+0AO
紬(ひょっとしたら、これが……憂ちゃんをおかしくした原因……)
紬(やっぱり唯ちゃんが引き起こしたものだったのね……朝のあの目を見て、なんとなく思ってはいたけど)
紬(これで、憂ちゃんが唯ちゃんを襲ったって聞いた時の違和感も説明できるわ)
紬(憂ちゃんは唯ちゃんのことが好きじゃなかった。ううん、恋愛対象として見てなかったんだわ)
紬(どうしてか分からないけど……唯ちゃんはそのことを分かっていた)
紬(だからこんなノートを作って、憂ちゃんの心をまじないで操作した……)
紬(このノートを見た憂ちゃんが、心を動かされたのか、それとも呪力のせいなのかはわからない)
紬(確かなのは……憂ちゃんが苦しんでいたこと)
紬(唯ちゃん……とても残念よ)フゥ
パタン
197: 2010/08/17(火) 07:25:40.33 ID:WIXQE+0AO
休み時間、3年教室
紬「りっちゃん、澪ちゃん、来てちょうだい」
澪「お、ムギ。さっそく唯の匂いの報告か?」
紬「違うわ。唯ちゃんの机にあった、このノートを見て」バッ
律「う……うわ……なにこれ? 唯の字なの? ……かわいい、とは言えないな」
澪「……こ、こわわわわわわわ」
紬「唯ちゃん自身が書いたのかは、字体が崩れすぎててわからないわ。とにかくこのノートには、全ページにわたってこう書かれているわ」
紬「『憂は私が好き』」
律「……ちょっと待って。そのフレーズ、どこかで……」
紬「心当たりがあるの? 思い出して?」
澪「……『律は、唯が好きだ』」
律「……ああっ! 3日前の!」
198: 2010/08/17(火) 07:30:19.13 ID:WIXQE+0AO
律「3日前、唯が言霊って何? ってかわいく電話してきて……」
澪「私が教えてやったんだ。その時に、説明の一環としてそのフレーズを出した」
紬「言霊……そう、言霊なのね」
紬「二人とも。今すぐ唯ちゃんの家に行くわよ。数学と唯ちゃん、どっちが大事?」
律澪「そんなの唯に決まってるだろ!」
紬「じゃあ、早速……あと梓ちゃんも連れて行きましょう。さあ、先生が来ると厄介よ。早く教室を出ましょう」
律「ああ、急ぐぜ!」
澪「くそっ、唯……何があったんだ!」
199: 2010/08/17(火) 07:35:09.06 ID:WIXQE+0AO
同時刻、2年教室
純「あずさ」
純「あーずーさ」
梓「ねぇ、純。純はいいの?」
純「へ? なにが」
梓「憂がいなくなっちゃって。憂、純のこと大好きだって言ってた」
梓「私もけっこう長いこと憂といるから分かるよ。あれ、そういう意味で言ってた」
純「仔猫みたいな喋り方だね、梓」
梓「……憂がいなくなっちゃったから。それで、どうなの?」
純「そうだね……憂が行っちゃったのは、もちろん悲しいし悔しいよ。大事な友達だもん」
純「正直、今すぐ唯先輩をブン殴りに行きたい」
梓「おい」
201: 2010/08/17(火) 07:42:09.58 ID:WIXQE+0AO
純「でも……それが憂のやることだったら、私は文句をつけらんないよ」
純「おかしいけどさ……私は憂のこと大好きだから」
梓「……なおさら変だよ。だって憂は、憂じゃなくなっていくのに」
純「ひどい話だよね……でも、それが憂なりの『お姉ちゃん大好き』ってやつなんだよ」
梓「だからといって……」
純「憂はさ、本当に唯先輩が大好きだからさ」
純「どんな状況だって、唯先輩に嫌われたくないって思ってるんだよ」
純「唯先輩のために、溺れるってのも……」
純「きっと……そうすれば唯先輩にっく……嫌われないって思ってるから、そうしたんだよ」ポタッ
梓「純、涙でてるよ」
202: 2010/08/17(火) 08:00:04.94 ID:WIXQE+0AO
純「知っ、てる……ういはね、ゆいせんぱ、が……いつか、わかってくれるって信じてるからぁ……」
純「だからぁ……ういが信じるゆいぜんば、を……あたじもしんじる……」
梓「おーおー、ひどい顔」ギュ
純「あずさぁ……こんなこと、ってるけどあだじ、いてもたっても、いらんない」
梓「……私も。正直、唯先輩を張り倒したくなってきた」
純「おい」
梓「純が泣くからだよ」
純「あずさ……本気で張り倒しに行くなら、行った方がいいよ。今なら強力布陣がついてくるみたいだし」
梓「えっ?」
律「梓、行こう」ガシッ
梓「りつ……せんぱ」ウルッ
204: 2010/08/17(火) 08:05:05.75 ID:WIXQE+0AO
澪「純ちゃん、悪いが抱き枕は借りて行くぞ」
純「どうぞどうぞ、返却の必要はありませんので」ニヘヘ
梓「おいこら」
紬「梓ちゃん、行くわよ。……憂ちゃんもいなくなってるのね」
梓「はい、それが……」
紬「話は車の中で聞くわ。斎藤が学校の前に車を手配しているはず」
梓「はい……行きましょう!」
205: 2010/08/17(火) 08:10:15.21 ID:WIXQE+0AO
同時刻、唯の家
唯「ただいまー」
憂「お姉ちゃんおかえり! ご飯できてるけど、先に食べてからする? それとも今すぐしちゃう?」
唯「すっぱだかの憂にそんなこと言われたら答えは決まっちゃうじゃんー」
憂「えへへー、そうだよね? それじゃあ」
唯「ご飯!」ビシッ
憂「……?」
唯「ういー? ごーはーん!」
憂「わ、わかった! すぐ食卓に出すよ!」トテテ
唯「……などと言うと思ったかオケツ丸出し星人めー!」ガバッ
憂「ちょ、おねえちゃ――!」
206: 2010/08/17(火) 08:15:06.66 ID:WIXQE+0AO
――――
車内
紬「そうなの……憂ちゃんがそこまで思いつめていたなんて……」
律「お、おい。なんか可愛いとか言ってらんない事態じゃないか? かわいいけど!」
澪「ああ。唯がいないということは、多分今も憂ちゃんと一緒にいるんだろう……一刻も早く救い出してやりたい」
澪「否、ヤりたい」
梓「いまの発言、律先輩だったら車から蹴落としてますからね」
澪「だってよ律。気をつけろよ」
律「なんで澪には何のお咎めもないんだよ……」
梓「かわいいからですけど?」
律「ああ、納得した。いつか蹴るわ」
梓「お返しです!」ガスッ
律「お前……スネを……」
207: 2010/08/17(火) 08:20:25.78 ID:WIXQE+0AO
紬(梓ちゃん……ちょっと迷ってたわね)
紬(きっと、純ちゃんの言葉が引っかかってたのよね)
紬(でも……やっぱり憂ちゃん一人には任せられない)
紬(いつも唯の世話をしてるのは憂ちゃんだけど……だからって憂ちゃんが唯ちゃんの全部を引き受ける必要なんてない)
紬(憂ちゃんが頼れる人はもっといるはずなのに……性格がら、全然せっついてくれないのよね……)
紬(もうそろそろ、唯ちゃんの家だわ)
紬(きっと鍵をかけているはず。窓一枚の弁償くらいは考えておかないと)
キィッ
紬(……行くわ。唯ちゃん)ガチャ
208: 2010/08/17(火) 08:25:21.96 ID:WIXQE+0AO
唯の家 門前
律「そこは桃源郷」ザッ
澪「そこは理想郷」ザッ
律「招かれざる聖域」
澪「穢れの立入禁止区域」
澪「本来私たちのような者の侵入は許されない神の場所」
律「……怖いのか、澪?」
澪「怖いよ。本当はもう、一歩も先に進みたくない」
律「だけど、澪……」
澪「わかってる。甘ったれてはいられない状況まで来ちゃったんだよな」
澪「行くよ。それで、唯を止める」キッ
律「澪……うん。行こう。これは私たちの仕事だ」ダッ
澪「……ああ!」タタッ
209: 2010/08/17(火) 08:30:28.83 ID:WIXQE+0AO
梓(澪先輩まであんな小芝居につきあって)
梓(そういうのは唯先輩の役目です)
梓(唯先輩を戻って来させなきゃ……けいおん部がダメになります)
梓(まあ正直変態同盟とか言ってた澪先輩たちが唯先輩を止めるとか憂を助け出すとか)
梓(はっきり言って調子いいですけど……)
梓(それでも、けいおん部の仲間なんですから。力になってくれなきゃ困りますよ)
梓(……あれ、そういえば私も変態同盟だったような)
梓(まあいいや)
210: 2010/08/17(火) 08:35:31.69 ID:WIXQE+0AO
律「チャイム、鳴らす?」
紬「開けてくれるとは思えないけど……でも、私たちは唯ちゃんと話をしに来たんだものね」
梓「そうですね。ハナから喧嘩腰でいくわけにはいかないです」
律「じゃあ……押すよ」ゴクッ
ピーンポーン……
律(唯、出てくれ……)
澪「……」
紬「やっぱり、開けてくれな……」
カシャン
澪律梓紬「!!」
唯「……みんなでしょ?」
律「唯っ!」
唯「鍵は開けたから……入って」
律「お……おじゃまします」
211: 2010/08/17(火) 08:40:13.57 ID:WIXQE+0AO
居間
唯「……座って。お茶出すから」
澪「な、なんか珍しいな。そういうのいつも憂ちゃんがやってくれるのに」
唯「憂はもうみんなのためにお茶は出さないよ」
唯「みんなに面倒見がいい憂はもう壊れたから」
律「壊れたって……そんな機械みたいに」
唯「そうだね。間違ったよ。……でも、今いる憂はやっぱり機械。私のしたいことをしてくれる機械」
律「唯……」
唯「座ってて。ほんとは憂が私のために出してくれたお茶なんだけどね」
梓「……お茶じゃないですよね?」
唯「もとはお茶だよ」
梓「唯先輩。お茶は良いですから、座りません?」
唯「へへ、わかったよ。私も飲ませたくないしね」
212: 2010/08/17(火) 08:45:47.90 ID:WIXQE+0AO
紬「憂ちゃんはこの家にいるの?」
唯「うん。今は私が眠くしたから、ぐっすり寝てるよ」
澪「眠くした……?」
唯「澪ちゃんが教えてくれたんじゃん。ことだまさんだよ」ニコ
澪「……へぇ。言霊は実在するんだな」
唯「テレビの人もそう言ってたよ。えへ、おかげで憂とたくさんエOチできたよ」
律澪(くそ……やっぱうらやましい……)
律「だ、だけど……憂ちゃんはそれを望んでなかったんだろ?」
唯「そうみたいだね。でももう壊しちゃったし、問題ないよ」
梓「唯先輩は、壊れちゃった憂を見て、なんとも思わないんですか?」
唯「なんとも思わないわけないじゃん」
唯「でも、憂が私とエOチしてくれる喜びのほうが大きいもん」
214: 2010/08/17(火) 09:00:45.25 ID:WIXQE+0AO
梓「本当に、それでいいと思ってるんですか?」
唯「私だって、そう思ってなかったらやらないよ」
紬「私たちが……唯ちゃんは間違ってる、と言っても?」
唯「だから、間違ってるのはわかってるよ。でも、憂と結ばれることと秤にかけたら、こうなっただけ」
唯「私は憂と一緒にいられたらそれでいいんだよ。他に何にもいらない」
紬「憂ちゃんの気持ちは考えたかしら?」
唯「考えたっていうか、ばっちり聞かされたよ。あずにゃん、私があのとき屋上にいたの、気付いてた?」
梓「……いえ。いたん……ですか?」
唯「イエッス!」グッ
梓「それで……憂の言葉を聞いて……まだこんなことを続けられるんですか?」
唯「良心が痛まないでもないよ。でも、きもちいから。憂も気持ちいいって言ってくれるから」
唯「だから、続けられる。だから、やめられない」
215: 2010/08/17(火) 09:05:08.49 ID:WIXQE+0AO
律「憂ちゃんがよがってくれても、憂ちゃんは心の底で唯を嫌がってるんだぞ? それでもいいのか?」
澪「……それだけじゃない。唯がこれ以上憂ちゃんをひどい目にあわすんだったら……私だって」
唯「澪ちゃん、私を嫌いになるの?」
澪「……ああ」
唯「そうなんだ。残念だなぁ」
澪「それだけか」
唯「うん。だって澪ちゃんが私を嫌いになっても、ことだまさんに頼めばまた好きになってもらえるもん」
唯「だから、残念なだけ」
唯「憂だってそうだよ。たまに私のすることを嫌がるんだ」
唯「でも、『憂は私が好き』。そう10回言ったら、またなんでもさせてくれる」
律「唯。その憂ちゃんは、唯が好きになった憂ちゃんとは別物だと思うぞ」
216: 2010/08/17(火) 09:12:14.59 ID:WIXQE+0AO
唯「別じゃないよ。私が好きになったのは、妹の平沢憂っていう、漠然とした一人の人間」
唯「憂のなにかが欠けても、私にはそれは憂だもん。憂の全部が好きだから」
律「欠けてるんじゃない。余計なんだ。唯を好きって気持ちが大きすぎて、余計だ」
律「唯……今までの憂ちゃんと、言霊で操ってからの憂ちゃん……本当に違うと思わないのか?」
律「思わないんだとしたら、唯にとって憂ちゃんってなんだったんだよ? 答えてくれ」
唯「……憂は、私の大事な妹だよ」
律「……」スゥ
律「なぁ唯。聡、知ってるよな」
唯「うん。りっちゃんの弟でしょ」
律「ああ、聡も私の大事な弟だ。だけど、私は聡を襲いなんて思わない。どうしてだかわかるか?」
唯「愛が足りないんです!」
律「……大事に思ってるから、大事にしたいんだ。大好きでも、壊したくなんかない」
217: 2010/08/17(火) 09:16:38.95 ID:WIXQE+0AO
律「唯は憂ちゃんを大事に思ってなんかいない。ただ好きで、したかっただけだろ」
唯「……」フルッ
梓「なんとか言って下さいよ、唯先輩」
唯「……ただ好きだったら、エOチしちゃいけないの?」
梓「……ええ、だめです。もしそれがまかり通るんだったら、私だって我慢なんかしません」
梓「私、唯先輩のこと好きです。好きで好きでたまりません」
律澪(この場面で抜け駆けしたー!?)
唯「あ、あずにゃん……急になに言うのかな、もう」テレテレ
梓「冗談ではありません。……でも、唯先輩は気持ちを返してくれませんよね」
唯「うん。私は憂だけが好きだからね」
律澪(そして巻き添えくらって私たちまでフラれたー!!)
梓「そうです……よね。……ですから、私は唯先輩とえOちしたくありません」
218: 2010/08/17(火) 09:21:15.44 ID:WIXQE+0AO
唯「へぇ。梓ちゃんも私を嫌いになったの?」
梓「違います。私、どんなに好きだって、心の通じ合わない相手とはしません」
梓「唯先輩だってそうですよね。憂が好意を返してくれるまで、待ちましたよね?」
唯「……」ビクッ
澪「そうなんだろう、唯」
唯「……うん。そうだった。憂がいやだったら、私もしないつもりだった……」
梓「唯先輩……」
唯「はじめはことだまさんの効果だって気付かないで、憂を襲っちゃった」
唯「憂が私のこと好きなんだって思ったから……」
唯「でも一回憂を抱いたら、憂のほんとの気持ちなんてどうでもよくなっちゃってたよ」
紬(唯ちゃん、折れてきてる……?)
219: 2010/08/17(火) 09:25:58.22 ID:WIXQE+0AO
澪「唯。私も……唯のこと大好きだ」
律「私もだぞ!」
紬「ふふ。私もよ」
唯「……みんな」
澪「正直、唯を手に入れるためならなんでもやろうって……そう思ってた」
澪「だけどさ、変なんだよ。いつの間にか唯を好きっていうみんなで集まってさ」
澪「みんなで唯かわいい、唯かわいいって言うのが日課みたいになってて……」
唯「あう……」モジモジ
澪「こんなにいるんだから、唯を力で押さえこめて、レOプするぐらい簡単だったと思う。だけど、それをやりたいなんて思わなかった」
澪「……私、唯の笑ってる顔がいちばん好きなんだ。だから、唯の笑顔を守りたい」
澪「だから無理矢理にはできなかったんだ。……と、私は解釈してる」
220: 2010/08/17(火) 09:30:19.09 ID:WIXQE+0AO
律「なあ唯。唯が一番好きな憂ちゃんの表情って、どんなんだ?」
唯「……っ」
紬「きかせてちょうだいよ、唯ちゃん」ニコ
唯「……がおだよ……」プルプル
澪「うん?」
唯「笑顔だよぉ……笑って、おねえちゃんって呼んでくれるういが、大好きだよ……」プルプル
律「……そうだろ」フッ
唯「でも、うい……前みたいに、わらってくんなくなっちゃった……ひっく」
唯「わたしが……壊しちゃったからぁ……」
梓「唯先輩……大丈夫ですよ」ナデ
唯「あずにゃん……」
221: 2010/08/17(火) 09:35:33.86 ID:WIXQE+0AO
唯「わたじ……ういに、ういに……許してもらえるの、かな……?」ポロポロ
律「唯がちゃんと憂ちゃんのことを大事にしたら、またかわいく笑ってくれるぞ?」
澪「憂ちゃんも、唯のこと大好きなんだからさ。そういう感情ではないにしろ、必ず元に戻れるよ」
紬「私たちが、二人の仲直りに協力するわ」
唯「……みんなぁ、私、ごめんね……」グスッ
梓「謝るのなら……」
憂「まず私に、じゃない? お姉ちゃん」
唯「……憂!?」ビクッ
梓(あれ、なんですか……このラスボス登場のBGM)
律(ラヴォスの呼び声がするんですけどー)
222: 2010/08/17(火) 09:40:16.37 ID:WIXQE+0AO
憂「みなさん。せっかく来てくれたのに悪いんですけど、出て行ってくれませんか」
紬「え……」
憂「お姉ちゃんと二人きりで話がしたいんです。大丈夫ですよ、乱暴な真似はしません」
唯「……みんな、いいかな。憂もこう言ってるし」
澪「家の前で待ってる。それで構わないか、憂ちゃん」
憂「ええ。ありがとうございます」
律「じゃ、おいとまするわ……」
梓「唯先輩、頑張ってください」
唯「……うん」
紬「憂ちゃん、お姉ちゃんを許してあげてね」
憂「それは、お姉ちゃん次第です」
紬「……そうね。それじゃ」
223: 2010/08/17(火) 09:46:16.20 ID:WIXQE+0AO
バタン
唯「うい、気分は……?」
憂「良くないよ。いま、元の私になってるから」
憂「ポットの中身、捨てとくね」スタスタ
ガチャ バタン
憂『うっ……』
ジャー……
唯「……」
憂「すごくくさいね。飲めたもんじゃないよ、あんなの」ガチャ
憂「気持ち悪い」バタン
唯「……憂、あのね。お話あるから、座ってくれないかな」
憂「うん。……なあに、お姉ちゃん?」
唯「私、もう憂に無理矢理させないから」
憂「……なにそれ? 急にどうしたの、お姉ちゃん」
224: 2010/08/17(火) 10:00:44.99 ID:WIXQE+0AO
唯「憂にひどいことしてるって、気付いたから」
憂「屋上にいたんだよね、お姉ちゃん」
唯「うん。……憂とあずにゃんの話、全部聞いてた」
憂「それで帰ってきたとき、お姉ちゃん変だったんだ」
唯『ご飯!』ビシッ
唯「……うん。憂の顔見てたら、どうしてか憂とエOチするって言えなくて」
唯「でも、憂が決心してくれてたから……むりやり自分を納得させて、憂に飛びついた」
唯『……などと言うと思ったかオケツ丸出し星人めー!』ガバッ
憂「……どうして、止まったの?」
唯「憂の背中を見てたら、屋上から出て行くときの憂の背中とだぶっちゃってさ」
唯「あれだけ憂の辛さを見せられたら……無理だった」
225: 2010/08/17(火) 10:05:39.05 ID:WIXQE+0AO
憂「いままで散々、無理矢理してきたのに?」
唯「ごめんなさい!」
憂「泣き叫んでもやめてくれなかったのに?」
唯「ごめんなさい! 本当にひどいことをして……」グスグス
憂「けいおん部のみんなに言われたら、すぐやめちゃうんだ?」
唯「ごめん……なさ……うい……」
憂「お姉ちゃん、私のこと嫌いだよね?」
唯「そんなこと、ない……絶対ない!」
憂「……じゃあ、どうしてあんなことしたの?」
憂「……確かに、最初は私が誘ったみたいなものだけど……あれ以降だよ」
憂「私が嫌だって言ってるのに、言霊をつかって無理矢理させたよね?」
226: 2010/08/17(火) 10:10:46.93 ID:WIXQE+0AO
唯「……」グスッ
憂「……あそこまでだったら、間違いで済んだよ」
憂「でも、お姉ちゃんは私を道具にしすぎた。……そこからは、もう許せない」
唯「ごめんなさい……ごめんなさい! うい、嫌いにならないで……」
憂「あはは……ごめん、いくらお姉ちゃんでもその頼みは聞けないよ」
唯「う……う」ガタガタ
憂「お姉ちゃん、私ね……好きな人がふたりいたんだ」
憂「お姉ちゃんの言う『好きな人』と、私の意味での『好きな人』が一人ずつ」
唯「う、い……?」
憂「お姉ちゃんは後者だった。すごく大好きな人だったんだよ」
憂「なのに、どうしてこうなっちゃったのかな」フゥ
227: 2010/08/17(火) 10:15:53.34 ID:WIXQE+0AO
唯「……私の、せいだよ」
憂「うん。……でもさ、私も弱かったんだよ」
唯「憂……?」
憂「一回さ、お姉ちゃんをはたいてやるくらい、したらよかったんだ」
憂「お姉ちゃんが私のこと嫌いになるくらい、はたいてはたいて。気が遠くなるまで叩いてさ」
憂「そしたら私は私を守れたんだよ」
唯「違う、ういはひとつも悪くないよ……私が、ぜんぶいけないんだから」
憂「あんな状況でも……私まだ、お姉ちゃんに嫌われたくないって思ってたんだ」
唯「憂!」バッ
憂「やだ、近づかないでよお姉ちゃん」サッ
唯「……ごめん」ショボン
228: 2010/08/17(火) 10:20:12.83 ID:WIXQE+0AO
憂「私、お姉ちゃんのこと嫌いだけど……お姉ちゃんに嫌われたくはない」
唯「……?」
憂「お姉ちゃん……もう、私としないんだよね?」
唯「う、うん! もちろんだよ!」
憂「その言葉が本当なら……私の言うとおりにして?」
唯「……え」
憂「いい、お姉ちゃん。私が、『私はお姉ちゃんが好き』って言ったら」
憂「お姉ちゃんは『憂は私が好き』って言って」
唯「憂、それは……できないよ」
憂「でも私、こうでもしなきゃお姉ちゃんのこと好きになれないよ?」
唯「……」
憂「それにね、お姉ちゃんがもう私としないって決めたなら……お姉ちゃんの『好き』は、家族としての『好き』になるはずだよ」
229: 2010/08/17(火) 10:25:17.93 ID:WIXQE+0AO
憂「それとも、さっきの言葉は嘘だった?」
唯「違うよ! 違うけど……言霊は、時間が経つと効果がなくなっちゃうし……」
憂「それなら、毎日言霊の力を使えばいいよ」
憂「エOチなことは大嫌いだけど……お姉ちゃんのことは、ただ嫌いなだけだから。1日1回やれば大丈夫かなって思う」
憂「それで……そのうちにお姉ちゃんのこと、本当に好きになり直したいから」
唯「……うい」
唯「……」グス
唯(私……だめだ……)
憂「それじゃあ、始めていい? お姉ちゃん」
唯(憂に嫌われることも、覚悟しなきゃいけなかったのに……)
唯(もうことだまさんの力に頼っちゃいけないのに……)
唯「……」コクン
唯(やっぱり、ういのことが好きだよ……ういに好きになってほしいよ……)
230: 2010/08/17(火) 10:30:19.48 ID:WIXQE+0AO
唯「……」ポタッ
唯「……」ポタタッ
憂「私はお姉ちゃんが好き」
唯「……ういは……わたしが、好きっ」ゴシゴシ
唯(……泣かないっ)
憂「私はお姉ちゃんが好き」
唯「憂は、私が……好き」フゥ
唯(こんなの、嬉しくないから……)
憂「私はお姉ちゃんが好き」
唯「憂は私が好きっ!」フルフル
唯(泣いたらだめだよ、私!)
231: 2010/08/17(火) 10:35:29.58 ID:WIXQE+0AO
憂「私はお姉ちゃんが好き」ナデ
唯「憂はわた……しが……」
唯「すき……」
唯(嬉しくなっちゃ、だめだよ)
憂「私は……お姉ちゃんが好き」ギュ
唯「うい……」
ギュ
唯「ういは私が好き」
憂「……ねえ、お姉ちゃん」
唯「……なに、憂?」
憂「……大好き♪」
232: 2010/08/17(火) 10:40:27.50 ID:WIXQE+0AO
――――
数日後 夜、律の部屋
律「……みおー」
澪「なんだ、律」
律「唯のかわいさが全力を出してくれないー」
澪「……うん。憂ちゃんとは仲良さそうにしてるんだけどな」
律「自分のやったこと、後悔してるのかな……」
律「でも、唯にはやっぱ笑顔が似合うんだって」
澪「……律もな」
律「んあ?」
澪「いや……唯が笑ってくれないと、やっぱりみんな笑顔が足りないよ」
律「澪ー……はぐらかすなよー!」ガバッ
澪「ちょっ、いきなり抱きつくな!」
233: 2010/08/17(火) 10:45:56.87 ID:WIXQE+0AO
律「なあなあ、私ってやっぱ笑顔の似合う美少女なワケ?」
澪「な、なんだよ……律、そういうこと言うタイプだったか?」
律「バリバリ言うだろーが! なんだぁ、唯の見すぎじゃないのか?」
澪「……逆だよ」ボソ
律「ん?」
澪「律の見すぎなんだよ……なんか、最近」
律「……」
澪「……」
律「……どわぁっ! すっげえ恥ずかしい台詞出た!」
澪「う……」
律「……澪?」
234: 2010/08/17(火) 11:00:12.70 ID:WIXQE+0AO
澪「律は、唯が好きなんだよな……?」
律「え? うん、まあ……そう思ってたんだけど」
澪「けど?」
律「……好きっていう話になると、こう……」
律「それこそ、梓の言うような、付き合いたいっていう願望みたいな『好き』とか」
律「私たちが唯に対して持ってる、便宜的な、やや秘密の暗号的な……ヤりたいって意味じゃないほうの『好き』ってなると」
律「私は、なんか……」
ブー ブー
澪「おい……電話だぞ」
律「……ああ」ピッ
235: 2010/08/17(火) 11:05:13.24 ID:WIXQE+0AO
――――
同時刻、唯の部屋
唯「りっちゃん、起きてた?」
律『ああ、まあ……どうした、唯?』
唯「相談があるんだけど……今からりっちゃんち、行ってもいい?」
律『おお、大丈夫だぜ。ちょうど澪も泊りに来てるんだ』
唯「ありがと……じゃ、今から行くね」
律『待ってるぞー』
ピッ
唯「……」ソー
唯(書き置きしておいて、と)
唯「いってきまーす」コソッ
236: 2010/08/17(火) 11:10:31.23 ID:WIXQE+0AO
――――
澪「唯が来るのか?」
律「うん。相談があるってさ」
澪「最近元気なかったからな。私たちでなんとかしてあげよう」
律「あぁ……えと、それで……さっきの話なんだけどさ」
澪「あ……う……」カアァ
律「……唯はそりゃ、世界一かわいいんだけど」
律「つ、付き合うんだったらさ。私は……澪がいい。妥協とかじゃないんだ」
律「唯と澪でも……私はよく考えて、澪を選ぶと思う」
澪「律……いいの?」
律「……」ニコッ
澪「……ふふ」
237: 2010/08/17(火) 11:15:05.14 ID:WIXQE+0AO
律「なあ、あんなことがあったから先に聞いておきたいんだけど……」
律「その……こういうのは、あり?」クイクイ
澪「ちょっ、女の子がそういう手つきをするんじゃない!」ゴンッ
律「いたっ! ……ごーめーんー。で、どうなの?」
澪「そんなの……律なら良いに決まってるだろ」カアァ
律「みおー!」ガバッ
澪「や、こらっ! 唯が来るんだろ!」
ゴツン!
238: 2010/08/17(火) 11:20:05.32 ID:WIXQE+0AO
唯「もう着いちゃった……」
唯「りっちゃん澪ちゃん……私のこと許してくれるかなあ」
ピンポーン
ドタドタ ガチャ
律「いらっしゃい唯! さあさあお上がんなさいって!」ニッコニッコ
唯(すごい上機嫌……)
唯「あ、うん。おじゃましまーす」
律の部屋
律「それで、相談事があるんだよな?」
唯「うん。……憂との関係のことで」
澪「憂ちゃん? 仲直りしたんじゃなかったのか?」
唯「……表面上は、って感じかな」
律「なっ……そうだったのか!?」
239: 2010/08/17(火) 11:25:07.83 ID:WIXQE+0AO
唯「あの日……憂が提案してきたんだ。ことだまさんの力を借りて、仲直りしようって」
律「言霊で仲直り……ってことは、今日までみんなの前で仲よくしてたのって」
唯「うん、ことだまさんのおかげ……」グスッ
唯「ごめんね? あんなことがあったのに、またことだまさん使っちゃって」
澪「いや……唯はかわいいし、提案したのは憂ちゃんだしな」
律「それに、悪いのは言霊を使うことじゃないだろ。使い方に問題がなきゃ、一向に構わないと思うけどなー」
唯「……ありがとう」ホッ
律澪(やっぱり格がちげえ)ズキュウウウン
240: 2010/08/17(火) 11:30:21.99 ID:WIXQE+0AO
唯「憂がね、ゆっくりずつ私を許して、好きになっていってくれるんだって」
唯「その間、ことだまさんの力で本心を隠してくれてるんだ。私が憂を嫌いにならないようにって」
澪「へぇ……良い子じゃないか」
唯「けどね、朝になるとことだまさんの力って効果がなくなるみたいなんだ」
律「……ってことは、あの時みたいに憂ちゃんがラスボスのBGMを担いでやってくるわけか」
唯「それはよくわかんないけど……毎朝、憂の目を見るのが怖くって」
唯「鷹みたいな目をしてるんだ。毎朝会うのが辛くって……逃げようかなって考えたり……」
澪「……でも、ことだまさんの力を借りることには同意してるんだろう?」
律(あっ、ついに澪までさん付けしやがった)
唯「うん。憂と一緒に、ことだまさんの儀式をやるんだ」
241: 2010/08/17(火) 11:35:07.17 ID:WIXQE+0AO
澪「よし、話は大体わかった」スック
唯「それで私、どうしたらいいのかな、澪ちゃん」
澪「そうだな。ちょっと歯をくいしばろうか」
唯「ほえ? こう?」ギュッ
澪「OK。それじゃ律、お前の専売特許だが……いったん唯に貸すぞ」
律「お? カチューシャか? いいけど……」
澪「カチューシャじゃない」
唯(私はいつまでこうしてればいいんでしょーかー)
澪「これだっ!!」
ブンッ
ゴスン
242: 2010/08/17(火) 11:40:06.44 ID:WIXQE+0AO
唯「……脳が痛い」ピクピク
澪「うずくまる唯もかわいいな」
律「おい、澪! お前なにしてくれてんだよ!」
澪「ちょっと静かにしててくれ、律」
律「む……澪が言うなら、わかった」
唯「あのー……澪ちゃん、なんで……」
澪「唯……もう一回考えてみてくれよ。憂ちゃんの提案の内容をさ」
唯「えっと……ことだまさんの力を借りて仲直りするんだよ」
澪「そんな表面だけじゃなくて、もっとしっかり考えるんだ!」
唯「うーん……」
243: 2010/08/17(火) 11:45:22.83 ID:WIXQE+0AO
唯(憂は私のことが嫌いだけど、私に嫌われたくないって言って)
唯(それで憂は、ことだまさんを使った仲直り作戦を提案したんだったよね)
唯(……あれ? 何か前提からおかしいよ?)
唯(なんで嫌いなのに、仲直りしてくれるのかな?)
唯「……こう思っても、いいのかな?」
唯「憂は私のことを、本当は最初から好きなのかな……って」
澪「そういうこと。ほんと、鈍いな唯は。それもまたかわいいんだけど」
唯「で、でも……憂の目はほんとに怖いんだよ。あれが演技だとは思えないな……」
澪「うん……ということは、唯を許したわけじゃないって事だ」
唯「? でも憂はもう……えっと?」
澪「唯だって、好きな相手に怒ることくらいあるだろ?」
唯「あ、そういうことか……好きだけど、あのことはまだ許してくれてないんだ……」
245: 2010/08/17(火) 12:00:16.46 ID:WIXQE+0AO
澪「それにしても、憂ちゃんも意外とうまく仕返しするな?」
唯「仕返し?」
澪「ああ。唯、いま毎朝辛いだろ? 憂ちゃんがことだまさんの力から解放されるたびに、怖いだろ?」
唯「う、うん……」
澪「その気持ちこそが、唯が憂ちゃんに受けさせた仕打ちなんだよ」
唯「あっ……」
澪「だからさ、逃げるなんて言うなよ。唯は憂ちゃんに許してもらうために、耐えなきゃいけない」
唯「そっか……それで澪ちゃん怒ったんだ……」
澪「そうだ。全く、憂ちゃんの献身っぷりをちょっとは見習えって」
唯「うぅ……ごめんなさい」
澪「怒ってない怒ってない」ナデナデ
246: 2010/08/17(火) 12:05:28.50 ID:WIXQE+0AO
唯「それじゃ私、もう戻るよ」
律「泊ってかないの?」
唯「相談しに来ただけだし……それに、憂に伝えたいことができちゃったよ」
澪「そうか、ならまた明日。笑顔を期待してるぞ」
唯「うん! 憂を信じてて!」
唯「じゃ!」
ガチャ バタン
律澪「いやされるー!」
トットットッ
律澪「足音までもかわいー!!」
律澪「足音だけでも付き合いたいわぁー!」
律澪「ん?」
248: 2010/08/17(火) 12:10:26.64 ID:WIXQE+0AO
律「いや、今のはそんなんじゃなくて……」アセアセ
澪「分かってるよ律。焦った顔も可愛いな」
律「みおー!」ダキッ
澪「律……」
律「……なぁ澪。しちゃっていい?」
澪「……やだ」フルフル
律「あ……ごめん。焦りすぎだよな」
澪「違う。……私から誘わせて?」
律「……はは。その一言だけでみなぎっちゃったわ」
澪「ちょ、律……!」
249: 2010/08/17(火) 12:15:13.51 ID:WIXQE+0AO
――――
たったっ、たったっ
唯「うい、ごめんね……!」
唯「私は憂にひどい事したんだ……」
唯「それでも憂は私と一緒にいようとしてくれた」
唯「なのに私、逃げようだなんて!」
唯「憂、私ずっと一緒にいるからね……!」
たったっ、たったっ
253: 2010/08/17(火) 12:20:27.25 ID:WIXQE+0AO
午前1時 憂の部屋
バンッ!
唯「ういっ!」ハァハァ
憂「……すー、すー」
唯「……寝てる」フー
唯「寝顔かわい……じゃなくて」
唯「うーいー、起きてー」ユサユサ
憂「……おね……いやっ!!」バッ
唯「う、うい……」
憂「嫌、なに……今度は何するの、お姉ちゃん」ガタガタ
唯「ごめん、そうじゃないの憂……離れるから……」
憂「はぁ……あ……」
254: 2010/08/17(火) 12:25:31.79 ID:WIXQE+0AO
憂「……お姉ちゃん……どう、したの? もうこんな時間だし……」
唯「憂に言いたいことがあって来たの」
憂「私に? ……ごめん、それなら明日の朝、言霊を使ってからにしよう?」
憂「今はちょっと、お姉ちゃんのこと嫌いになってるから……」
唯「ううん。今じゃなきゃだめ! 憂のほんとの気持ちが分かんないでしょ!」
憂「えっと……?」
憂「……ほんとの気持ちなんて分かってるでしょ、お姉ちゃん?」
唯「違うよ憂。私は憂の気持ちを分かった気になってただけなんだ。言われて鵜呑みにしてただけだった」
唯「……だから私、憂のことが怖かった。憂が私のこと嫌いだと思ってたから」
憂「き、嫌いだよ? 何言ってるのお姉ちゃん」
唯「むー……」
憂「お姉ちゃん……?」
255: 2010/08/17(火) 12:30:25.42 ID:WIXQE+0AO
唯「うそつき!」ズビシ
憂「ひゃいっ!?」ビクッ
唯「そしておばか!」
憂「そんな!?」ガーン
唯「自分の気持ちをごまかしたりして! お姉ちゃんのことが許せないんだったら、もっと辛くあたりなさい!」
唯「憂だけが頑張ることなんてないの! お姉ちゃんにももっと辛い思いさせて!」
憂「ご、ごまかしてなんかないよ! 私は本当にお姉ちゃんのことが嫌い!」
唯「うっ……も、もう騙されないもん! お姉ちゃんだって脳みそあるんだから!」
唯「憂がすごく優しい子だって分かってるよ。でも、それにしたって変だもん!」
憂「……う」
257: 2010/08/17(火) 12:35:47.09 ID:WIXQE+0AO
唯「嫌いな人のために朝夕ごはんも作って」
唯「朝起こしてあげて、その人のことちゃんと好きになろうとして」
唯「おまけに嫌われたくないから、なんて自分の気持ちを書き換えたりしちゃって」
唯「どんなに優しくたって、そこまでできないよ。だから……憂はうそをついてる」
憂「……お姉ちゃん」
唯「えへへ……憂、私のこと好きなんだよね?」
憂「……う、くっ」
憂「ち、がうもんっ……」ブンブンッ
唯「……ねぇ、うい」ギシッ
憂「やだ、よ……」
唯「私のことが本当にいやだったら、私のことぶってもいいよ。嫌いにならないから……」
憂「……っううう」グッ
258: 2010/08/17(火) 12:40:22.79 ID:WIXQE+0AO
憂「お姉ちゃん……だいっきらい……」ググ……
ポスン
唯「……ね?」
憂「ぅ……うううっ!」ギリッ
ポス
唯「憂はそのくらいしか、お姉ちゃんのこと嫌いじゃないんだよ」
憂「はぁ……はぁ……!」
唯「ありがとう、憂」
憂「……なんの、こと?」
唯「ひどいことしたのに、嫌いにならないでくれて、ありがとう」ギュッ
憂「あ……」
唯「ずっと一緒にいるよ。憂のお姉ちゃんとして」
憂「う……」グスッ
259: 2010/08/17(火) 12:45:19.81 ID:WIXQE+0AO
憂「おねえ、ちゃ……わたし……」ポロポロ
唯「うん?」
憂「お姉ちゃんのこと大好きなのにぃ……あのこと、ひゅ、ゆるせなくて……」
唯「……うん」
憂「やっぱりこのままじゃ、おねえちゃんにひどいこと言っちゃうと思う……よぉ」
唯「言っていいんだよ、憂。それは憂が背負いこむ荷物じゃないよ」ナデナデ
唯「お姉ちゃんにあずけて。ね?」ニコ
憂「……ありがとう、お姉ちゃん」
唯「どういたしまして」
憂「……大好き」
260: 2010/08/17(火) 13:00:06.15 ID:WIXQE+0AO
翌朝
唯「……むあ?」
唯「……ここはどこ?」フラフラ
唯「なんか憂の匂いがしゅる……」
ぽふっ
唯「お?」
唯「……」
憂「……」ジロリ
唯「わざとじゃないからね?」アセッ
憂「……ハァ」
唯(信じてないー!?)
261: 2010/08/17(火) 13:05:59.90 ID:WIXQE+0AO
憂「とりあえず、一緒に寝るの禁止ね?」
唯「はい……」
憂「それから一緒のお風呂も禁止。その他もろもろ大体禁止。ほおずりもダメ!」
唯「ほおずりは……」
憂「だめ!」
唯「はいっ!」
憂「あと……言霊はもうしなくていいんだね?」
唯「うん。そしたらまた憂に重たい荷物を持たせることになるからね」
憂「わかった。それじゃやらないね」
唯「それで……そろそろ正座を解かせてもらっても」
憂「朝ごはんできるまで反省してるんでしょ?」
唯「くううう……」
262: 2010/08/17(火) 13:10:17.55 ID:WIXQE+0AO
憂「……えへへ、ウソでした。もう解いていいよ。お姉ちゃんしっかり反省してるもん」
唯「やったー!」ゴロン
憂「じゃ、私ご飯準備するね?」スタスタ
唯「ああ……いきわたるー……」グダー
唯「……それにしても」ボソ
憂「ふんふ~ん♪」トントン
唯「いい妹を持ったのう……」
唯「ありがたやー……」
唯「……そうだ!」ピコン
唯「……ねぇねぇ、ういー!」
憂「うん? なぁに、お姉ちゃん?」
264: 2010/08/17(火) 13:15:43.85 ID:WIXQE+0AO
唯「今度の土日、お母さんたち帰ってくるよね?」
憂「うん、そうだよ。けっこう久しぶりだね」
唯「その日さ、家族で旅行いこうよ!」
憂「お姉ちゃん……いいね、それ!」
唯「でしょ? 私ね、憂がそばにいてくれることがすごく嬉しいんだ」
唯「だから、憂を生んでくれたお母さんたちにお礼がしたいよ!」
憂「そっか。そしたら、私は」
憂「お姉ちゃんを生んでくれたお母さんたちに、お礼がしたいよ」
唯「……えへ」
憂「ふふ」
265: 2010/08/17(火) 13:20:05.78 ID:WIXQE+0AO
憂「土曜日、楽しみだね?」
唯「ほんとだね。おいしいもの食べたいなぁ」
憂「お姉ちゃん?」
唯「わわ、わかってるよ! 冗談だってば!」
憂「もう……かわいいんだから」プイッ
唯「でへへー……」
憂「よし……朝ごはんできたよ、お姉ちゃん」
唯「おいしそー! ありがと、憂!」
憂「それじゃ私、洗濯……」
唯「憂ちゃん! 一緒に食べませんか!」
憂「……」ポカーン
266: 2010/08/17(火) 13:25:05.25 ID:WIXQE+0AO
唯「……ういー、一緒に食べよー?」
憂「うん!」
唯憂「いただきまーす!」
唯「……」モグモグ
唯「あは~ん……オムレツとろとろでおいしい~!」クネクネ
憂「えへへ、嬉しいよお姉ちゃん」
唯「はい憂、あーん」
憂「えっ……」
唯「……あっ、ごめん。あーんも禁止だったっけ……」
憂「うん、そうなんだけど……」
憂(……ええいっ!)パクッ
269: 2010/08/17(火) 13:59:10.16 ID:WIXQE+0AO
唯「うい……」
憂「……えへへ。食べれちゃった」
唯「ういー!」ガバッ
憂「ちょ、おねえちゃ……!!」
唯「うーいー! アイラービュー!」
憂「ま、まだ抱きつくのはだめなのー!!」アセアセ
唯「スキンシップだから! スキンシップだから!」スリスリ
憂「ああもうっ! いいかげんにしなさいっ!」パァン
271: 2010/08/17(火) 14:03:05.67 ID:WIXQE+0AO
――――
12時半
唯「あたし正座弱いんだ」
憂「知ってるよ?」
唯「それなのに、かれこれ4時間くらいやってるけどさ、なんだか逆に楽になってきたよ」
憂「良かったじゃん」
唯「……憂、私のこと嫌い?」
憂「ルール破ったから嫌いだよ」ツン
唯「ごめんなさいもうしません!」
憂「はぁ……次やったら半日だからね?」
唯「解いてよかですか!?」
憂「足がなくなっちゃうからね」ハァ
唯「やったー!」
273: 2010/08/17(火) 14:07:27.68 ID:WIXQE+0AO
唯「……」カクカク
憂「お姉ちゃん? やめないの?」
唯「足が……動かない……」カクカク
憂「もう……ソファーに座らせてあげるから、力抜いて」
唯「はい」ダラー
憂「よいしょっと」
唯(ここで憂から抱きついてきたー! とか言ったら車椅子か義足になりそうだね)
憂「足もんであげるね?」
唯「えっ」
憂「お姉ちゃん、足真っ白になってる」チョン
唯「はううっ!?」ピクン
憂「……ふーっ」
唯「あわわぁ……」プルプル
274: 2010/08/17(火) 14:12:04.33 ID:WIXQE+0AO
憂「お姉ちゃん、まだ続ける?」
唯「……どっちをですか」
憂「正座だよ?」
唯「だめ。憂それはだめ。断固絶対拒否します」
憂「でもさ」グニッ
唯「あふぅ……」
憂「反応が、なーんかおかしいんだけど?」
唯「なんか、感覚があるようなないような変な感じでさ。それなのに部分的に敏感になってて」
憂「敏感なのはここ?」ツツー
唯「ふぁっ! す、すね……」
憂「足の裏は?」グニグニ
唯「よくわかんない感じ……んう」ピク
275: 2010/08/17(火) 14:16:06.53 ID:WIXQE+0AO
憂「……お姉ちゃん、気持ちいいの?」グニグニ
唯「んく……あうう……わかん、ないよう……変なのぉ……」
憂「……お姉ちゃんもうそつきだね」
唯「ふ……へ?」
憂「私、お姉ちゃんが興奮した時の匂い、忘れてないからね?」
唯「うい……あ、いや……」カアァ
憂「節操無し!」ペシン
唯「うあうっ!」ビクッ
唯「な、なにこれ? そういう状況なの!?」
憂「……」グスッ
唯「憂?」
憂「……うっ、ふええええ……」
唯「えっ、えっ? どうしたの憂、泣かないで?」
276: 2010/08/17(火) 14:21:12.48 ID:WIXQE+0AO
憂「……わたしっ、お姉ちゃんを許したくて……」
唯「うい……?」
憂「お姉ちゃんをむりやり、おんなじ気持ちにさせて……お姉ちゃんが辛い思いをしたら、許せるから……」
憂「だから頑張ったのに……お姉ちゃん、嬉しそうなんだもん」
唯「……言い返せないや。私、憂だったらなにされてもいいから……」
憂「ううん……ごめん。私のやり方が間違ってたの」
憂「仕返しなんて泥沼になるだけだよ。こんなこと、しちゃいけないんだ」
唯「そう、かな。憂はいくらでも私のことを苦しめていいんだよ?」
憂「……そんなことができたら、いいんだけどね。やっぱりお姉ちゃんにはやれないな」
憂「大好きだから」
唯「憂、その認識をまず」
憂「お姉ちゃんの許し方は、しばらく考えるよ。とりあえず、一週間後の旅行の計画立てようよ」
唯「……そうだね」
278: 2010/08/17(火) 14:25:05.25 ID:WIXQE+0AO
一週間後 某温泉郷のホテル
唯「もー!!」プンスカ
憂「お姉ちゃん……」
唯「くそー!!」ゴロゴロ
憂「あの、言いにくいんだけど」
唯「パパとママのバカー!!」ジタバタ
憂(パパママって言った……)
憂「お姉ちゃん、ちょっと落ち着こう?」
唯「あー、い草のいいにおいー……」ホワーン
憂「……まあそれでいっか。お姉ちゃん、話聞いてよ」
279: 2010/08/17(火) 14:30:42.77 ID:WIXQE+0AO
唯「ねー、憂もひどいと思わないー?」プクー
唯「せっかく家族で旅行したかったから4人部屋とったのにさ」
唯『いや、父さんたちは別の部屋をとるよ』キリッ
唯「って行っちゃったしさ!」
憂「たぶん、言わせんな恥ずかしい、ってことだと思うんだけど……」
唯「んー? どういうことー?」
憂「電車の中で言ったでしょ、お姉ちゃんを、私たちを生んでくれてありがとうって」
唯「うん、言ったね」
憂「それでお母さんたち、嬉しくなっちゃったんだと思うよ」
唯「だったら私たちをめでろー!」ウガー
憂「欲張りなのかもね、お母さんたちって」ニコ
唯「てゆーか結局意味分かんなかった……」
280: 2010/08/17(火) 14:35:16.56 ID:WIXQE+0AO
唯「ま、しょうがないか。こうなった以上、憂とお楽しみするしかないね!」
憂「……」
唯「いやあの、そんな深い意味はなくて」
憂「お姉ちゃん、晩御飯の前にお風呂いこうよ」
唯「温泉だ露天風呂だ! あ、でも良いの? 一緒にお風呂入ることになるけど」
憂「大丈夫。お姉ちゃんが下手に近づかなきゃ男湯に投げ込まれることはないよ」
唯「ちょっとそれは考えたくないね」
憂「それじゃ行こう? 私、けっこう楽しみにしてたんだ」ギュ
唯「わわ、待ってよ……いま準備するからさ」
唯(手が震えてるよ憂……相変わらずしれっとウソつくねえ)
281: 2010/08/17(火) 14:40:15.76 ID:WIXQE+0AO
大浴場
唯「はぁー」チャプン
唯(そういえば、今日は憂と同じ部屋で寝ることになるのかー)
唯(良いのかな……? でも、お父さんたちの部屋は行きたくないし)イライラ
唯(廊下で……なんてことはないよね。憂そんな子じゃないよね?)チラ
ッ
唯(そもそも寝床は畳とベッドの2部屋あるわけだし……)チラチラッ
憂「……」ゴシゴシ
唯(泡まみれの白い背中……)
唯(おいしそう……いやいや、イカみたいでおいしそう!)
唯(そういえば晩御飯は海鮮料理だっていってたよね)
唯(イカあるかな。あるよね?)デレー
憂(お姉ちゃん、よだれ垂れてる……)チラ
憂(投げようかな? ……ううん、きっと晩御飯のことを考えてるの! きっとそう!)
282: 2010/08/17(火) 14:45:20.89 ID:WIXQE+0AO
唯「ゆかた!」バーン
憂「似合ってるよ、お姉ちゃん」
唯「見返り美人!」グリッ
憂「作者は?」
唯「ほえ? 誰が縫ってくれたかなんてわかんないよー」
憂(重症だなあ)
唯「そうだ憂、それより晩御飯だよ!」
唯「イカがあるかなイカ、そのイカんによってイカの予定が大きく変わるんじゃなイカ?」
憂「ずっとそれ考えてたの?」
唯「イエッス! オクトパス!」フンス
憂(重症だなあ)
283: 2010/08/17(火) 15:00:43.32 ID:WIXQE+0AO
憂(まあ私もお姉ちゃんのこと心配してる余裕はないか)
憂(あ、イカって言っちゃった……)カアァ
唯「うい、顔赤いよ? のぼせた?」
憂「の、のぼせてないから! ああ、またっ!」
唯「まあイっカ。部屋へ行こうじゃなイカ!」
憂「ああ、イカだらけ……」ガックリ
285: 2010/08/17(火) 15:05:30.20 ID:WIXQE+0AO
夕食時、唯たちの部屋(1072号室)
唯「きた……きた……まさかの豪華イカづくし!」
仲居「こちらがまずアオリイカの刺身で……」
憂(仲居って逆から読んだらイカナだよね……)ボー
憂「あははは。ここにはイカしかいないんだ」
ニタニタ
唯「イカワールドだね!」
憂「海とひとつになれる気がする……」
仲居「最後こちらが海鮮釜飯になります。お熱いのでお気を付け下さいませ。では失礼いたします」
スー パタン
唯「いやー、びっくりだね、憂?」
憂「はっ……ごめん、お姉ちゃんなに?」
唯「もー。イカもりだくさんでびっくりしたよね?」
287: 2010/08/17(火) 15:10:11.56 ID:WIXQE+0AO
唯「イカイカ言ってたら、本当に晩御飯がイカばっかなんだもん!」
憂「もしかしたら、私たちがイカイカ言ってたからかもしれないよ?」
唯「それはつまり……ことだまさんってこと?」
唯「うーん、ありうる。あんまりりっちゃんにデコハゲって言わないようにしないと」
憂「そんなこと言ってたんだ……金輪際言っちゃだめだからね?」
唯「うん。りっちゃんをハゲさすわけにはいかないよ」
唯「さ、それじゃ食べよ、うい!」
唯憂「いただきまーす!」
288: 2010/08/17(火) 15:15:44.75 ID:WIXQE+0AO
――――
20時 1072号室
唯「口の中がデロデロするよー」
憂「すごかったね。ご飯ツヤツヤだなーって思ったらイカだったもん」
唯「あれって釜飯とは言わないよね? ただお釜の中にフリーダムに切り刻んだイカ詰め込んだだけだよね?」
憂「まあ、あのイカづくしは私たちが呼びこんだものかもしれないし……文句言っちゃだめだよ」
唯「そだね。ういー、卓球やらない? 腹ごなししたいよ」
憂「……お姉ちゃん」
唯「うん? なんだね妹」
憂「運動するんだったら……私、したいことあるんだけど」ギュ
唯「お、枕投げ? 憂も修学旅行に向けて特訓しないとね!」
憂「……違うよ。枕投げじゃない」
290: 2010/08/17(火) 15:21:09.19 ID:WIXQE+0AO
唯「違うの? そんなに枕ぎゅっと抱きしめちゃってるのに?」
憂「紛らわしかったかな。……温泉と言えば定番なんだけど」チラ
唯「うおっぷ!」
憂「……」ドキドキ
唯(い、いま憂の谷間がちらっと見えたの……すごい破壊力だった……気をつけなきゃ)
唯「えー、卓球も枕投げも違うんでしょ? 思いつかないなあ……」
憂「じゃあ……これでも、まだわからない?」グッ
プルンッ
唯「え……うい、顔真っ赤……だよ」
憂「お姉ちゃんこそ……」
291: 2010/08/17(火) 15:25:15.33 ID:WIXQE+0AO
唯(憂、おっOい出てる……お風呂でも完璧に隠してたのに……)ゴクッ
唯「だ、だめだよ憂。ちゃんと服着て、お願い!」フイッ
憂「なんでだめなの? 私、暑いの。体が火照って……ジンジンする」
憂「お姉ちゃん、しようよ。お姉ちゃんもドキドキするでしょ?」
唯「憂……私を試してるの? だったらやめてよ」
憂「そんなんじゃないよ。私、あの時のことが忘れられないんだ」
憂「お姉ちゃんにしたこと、されたこと、ひとつひとつ思い出して……毎日してたよ。気付いてたかな?」
唯「またうそついた! いいかげんにしないと怒るよ、憂!」
憂「ウソじゃないよ」スリッ
唯「近づいてきちゃ……だめ……」
292: 2010/08/17(火) 15:30:05.61 ID:WIXQE+0AO
スリッ スリッ
唯(どうしよう……憂、どうしちゃったの?)
憂「あの時みたいに気持ち良くなりたいの」
憂「あの時以上の快感が欲しいの、お姉ちゃん」
スリッ スリッ
唯(このままじゃ、私……また憂としちゃうよ……)ドンッ
唯「あ、壁が……」
憂「えへへ、お姉ちゃん追いつめた♪」ニコ
憂「鍵はかけたよ。いっぱいしよう? お姉ちゃん」
295: 2010/08/17(火) 15:35:06.28 ID:WIXQE+0AO
スリッ スリッ
唯(誰かがことだまさんで憂をおかしくした? でも、そんなことしても何の得もないよね……)
憂「お姉ちゃん、こっち見て……」
唯「え……」チラ
憂「……んむ」
チュッ
唯「……あ、あ」ドキドキ
憂「ちょっとしょっぱいね。お醤油つけすぎだよ、お姉ちゃん」
唯「う、うい……私、憂のことほんとに襲っちゃうから……離れてよ」
憂「だから、襲っていいよ? というか、襲わなきゃだめ」
297: 2010/08/17(火) 15:40:10.26 ID:WIXQE+0AO
唯「う、い……」
憂「理性の箍が外れそうだね。良いんだよ? 好きにしても」
憂「お姉ちゃん、興奮した時の匂いしてきたよ? 我慢しないで、私と気持ちよくなろうよ」ピトッ
憂「お姉ちゃんとくっついちゃった……えへへ」
唯「あ、あはは……憂、お姉ちゃんもう、だめ」ガバッ
憂「ひゃっ。びっくりした」ドサッ
唯「うい。今からお姉ちゃん、憂を襲うからね。でも……」
唯「でも、その前に。言いたいことがひとつあるから……聞いてくれる?」
憂「いいよ。あんまり我慢してられないけど」
唯「ありがと。……私ね、憂のこと、恋愛対象としても大好きだったけど……」
唯「妹としても、ほんとに大好きだった。……私と憂は、もう顔を合わせることはないから、いま伝えたよ」
憂「……えへ。変なこと言うね」ニコ
唯「そうかな。真剣だったよ? 私は憂を苦しめるだけの存在だって、よくわかったから」
298: 2010/08/17(火) 15:45:16.07 ID:WIXQE+0AO
唯「だから、私は私らしく……。そしたら、憂の前からいなくなる」
唯「それでいいよね?」
憂「……う、うそだよね?」
憂「いなくなるなんて……冗談だよね?」
唯「……いまさら、遅いよ」ニコ
憂「嫌、そんなのやだ……お姉ちゃんがいなくなるなら、こんなことしない!」
唯「どっちにしても」ポツリ
唯「……ここで憂を襲うにせよ、襲わないにせよ……その如何によらず、私は消えるよ」
唯「私がどんな人間か……本質的に変わらないところで、どれほど終わってる神経してるか、よく分かったよ」
憂「ま、まって……嘘だから! 全部ほんとのこと話すから、行かないでよ!」
唯「その約束はできないよ。とにかく……うい、お姉ちゃんに話してみて?」ギュ
憂「……」コクン
299: 2010/08/17(火) 16:00:21.80 ID:WIXQE+0AO
――――
3日前 琴吹邸の一室
紬「……」カチャ
憂「……」カチャ
紬「……」コクン
憂「……」ズ……コクン
紬「……ふぅ」カチャ
憂「お、おいしいです」カチャ
紬「そう? ありがとう」
300: 2010/08/17(火) 16:05:22.77 ID:WIXQE+0AO
紬「それで憂ちゃん、私にお話って?」
憂「えっと……紬さん、前に私に味方だって言ってくれてたので……」
憂「その言葉が今も有効だと思って、ちょっと相談事を持ってきたんですけど」
紬「あら、純ちゃんとのことかしら?」
憂「ど、どうして純ちゃんがここで出てくるんですか!?」
紬「うふふ。ただ何となくよ。外したかしら?」
憂「もう……お姉ちゃんのことです。紬さんは、あれ以降の私たちのこと、どれくらい知ってますか?」
紬「そうね。言霊を使ってたことは、りっちゃん達から聞いたわ」
紬「そして、言霊を使うのをやめたってところまでは、唯ちゃんから聞き及んでいるわ」
紬「つまり、いま憂ちゃんが唯ちゃんを許したくても許せなくて困っている、というあたりまで知ってるかしらね」
憂「鋭いですね……まさにその通りなんです」
紬「まあ、唯ちゃんの話を聞いたら自然にわかることよ」カチャ
302: 2010/08/17(火) 16:10:38.24 ID:WIXQE+0AO
紬「……ん」コクン
紬「相談事は、そのことかしら?」
憂「はい。……どうやったらお姉ちゃんを許せるのかなって……」
紬「そうかしら。憂ちゃんの表情を見てると、そんな茫漠とした状態じゃないと思っちゃうわ」カチャ
紬「なにか腹案があるんじゃない? 言ってみてよ。大丈夫、ここには私しかいないわ」
憂「……引きませんか?」
紬「大丈夫よ。私は憂ちゃんの味方だから」
憂「……考え方を、変えてみたんです」
憂「お姉ちゃんを許すんじゃなくて、そもそもお姉ちゃんが責められることなんて何もなかった……そう考えようって」
紬「それで……どんな案が出たのかしら?」
憂「もう一回……お姉ちゃんとエOチしようと思います。言霊を使わない、素の状態で」
紬「まぁ……」キラキラ
304: 2010/08/17(火) 16:15:35.07 ID:WIXQE+0AO
憂「紬さん、エフェクトかかってますよ。あと鼻血……」
紬「あらいけない。よいしょ……どうして憂ちゃんはその方法を選択したの?」タラー
憂「ですから鼻……やっぱりいいです。お姉ちゃんのしたことを、きれいさっぱり許せる日は来ないように思ったので」
憂「だったら、いっそ素の私のままお姉ちゃんとエOチして……」
憂「あの時期よりずっと激しく求めあって、あの頃のことなんてどうでもよくなればいいな、と思ったんです」
憂「どうでもいいことなら、許せるかと思ったんです」
紬「なるほどね……」カチャ
紬「……」コクン
憂「涼しい顔して飲んでますけど、それ8割方がいましがた注がれた紬さんの鼻血ですよ。ティースプーンが真っ赤ですよ」
紬「個人的に言わせてもらえば、憂ちゃんのアイデア自体は悪くないわ。むしろ素晴らしいと思うの」カチャ
憂(分かっちゃいたけど無視された)
305: 2010/08/17(火) 16:20:05.15 ID:WIXQE+0AO
紬「でもね、唯ちゃんの仲間として言わせてもらえば、はっきり言って有り得ないわ」
憂(あれ、何の処置もなく鼻血が止まってる……)
紬「……うまくいく可能性も否定できない。もしかしたら、憂ちゃんの想定通りに事は運ぶかもしれないわ」
紬「でも、最悪のケースは地獄よ。……どうなるか、想像できる?」
憂「よく分かりません。……その時点で考えが詰まって、紬さんに相談しようと思い立ったんです」
紬「これは唯ちゃんに口止めされてたんだけど……あの日の翌日の部活で、唯ちゃん泣いちゃったのよ」
憂「……」
紬「泣きたいのは憂ちゃんかもしれないわね。でも、おさえて」
憂「いえ、そうじゃないんです。……申し訳なくて」
紬「……優しい子ね。あのね憂ちゃん、唯ちゃんはあの事にすごく罪悪感を感じてるの」
紬「そうは見えないかもしれないけど……きっと憂ちゃんの前ではうまく隠してるのね」
306: 2010/08/17(火) 16:25:09.29 ID:WIXQE+0AO
紬「最近になっても、唯ちゃんは時々唐突に憂ちゃんにした仕打ちを思い出して、涙を流してる」
紬「寝起きのときの唯ちゃんに、涙の痕がついてたことはなかったかしら?」
憂「……そういえば。たまに、私の部屋まですんすんと泣き声が聞こえてきますよ」
紬「ちょっと思い出しただけで、涙をこらえられなくなるほどの後悔を感じているの。わかるかしら」
憂「そうみたいですね……」
紬「それほど後悔してる唯ちゃんを、憂ちゃんが誘惑する」
紬「唯ちゃんにとって、これほど辛い事はないと思うわ」
紬「その上、もし唯ちゃんが欲情してしまったら……その自責の念に唯ちゃんは耐えられないと思う」
憂「……というと」
紬「……具体的に言うのはよすわ。言いたくないもの。でも、どうなるかはわかるでしょ?」
憂「……」
307: 2010/08/17(火) 16:30:08.23 ID:WIXQE+0AO
紬「あなたが唯ちゃんとエOチして、それですっぽり丸く収まる場合もある」
紬「大小の差はあっても、唯ちゃんは悔やむでしょうけど」
紬「また憂ちゃんに任せちゃった……とね」
憂「……そうかもしれませんね」カチャ
憂「……」ズ……ス
紬「とはいえ、私にも代替案は思いつかないわ」
憂「……そうですか。……でも、今のままでもお姉ちゃんは」カチャ
紬「ええ。最近唯ちゃんたら、梓ちゃんにも抱きつかなくなって……寂しいわ」
憂「おかしな寂しがりかたですね」
紬「おかしいかしら? 普通だと思うわよ」
憂「……どうでしょうか。……そろそろ、失礼します」
紬「困ったらまたいらっしゃい。おいしいお茶を出すわ」
308: 2010/08/17(火) 16:35:07.11 ID:WIXQE+0AO
憂「それでは、また」
紬「あ、ちょっとだけ待って、憂ちゃん」
憂「はい?」
紬「今度、家族で熱海に旅行するんでしょう? 私の系列のホテルを手配しておこうと思うんだけど、どうかしら?」
憂「本当ですか? 助かります」
紬「いいのよ。お代も取らないわ。その代わり、感想を聞かせてちょうだい」
憂「ビジネスですね。……構いませんよ」
紬「令嬢も楽じゃないわ」フー
憂「応援してますよ。では、また今度」
309: 2010/08/17(火) 16:40:31.40 ID:WIXQE+0AO
――――
唯「……」
憂「……それから3日したけど、やっぱりお姉ちゃんを許す方法は思いつかなかった」
憂「このままにしておくことも考えたけど……お姉ちゃんの泣いてる声が聞こえて……」
憂「だから私、お姉ちゃんを誘ったんだ……ごめん」
唯「謝ることないよ。種をまいたのは私だし」
憂「……お姉ちゃん、あのさ」
唯「嬉しいよ、憂が私のために頑張ってくれること」
唯「……でもその分だけ、だめな自分を思い知らされちゃうよ」
憂「お姉ちゃんっ!」
310: 2010/08/17(火) 16:45:15.11 ID:WIXQE+0AO
唯「私は憂の前からいなくなるんじゃない。たぶん、逃げるんだと思う」
唯「……でも、私がいなくなれば、憂はもう傷つかないよね?」
唯「自分を犠牲にする必要がなくなるよね。私がいないから」
憂「……ほんとに、行くの? お姉ちゃん」
唯「うん。だって、憂がかわいそうだから」
憂「お姉ちゃんがいなくなったほうが、私は悲しいよ!」
憂「忙しくても辛くても苦しくても大変でも、お姉ちゃんのいる生活じゃなきゃ嫌なのっ!」
唯「……私は、私のせいで苦しむ憂のいる生活は嫌だよ」
憂「う……っ いや……だよぉ……」
唯「私ってさ……ほんと、取り返しのつかないことしたんだね」
憂「わかってるなら……なんとかしてよ!」ズキ
唯「なんとかするんだよ。私がいなくなって、憂は幸せになる。これだよ」
312: 2010/08/17(火) 17:01:01.21 ID:WIXQE+0AO
憂「お姉ちゃんがいなきゃ幸せになんかなれない! 私の話もちゃんと聞いて!」ズキッ
唯「私は憂に苦労しかかけないよ。だからいちゃだめなんだ」
憂「――っ!」
憂「もう……もういいっ! お姉ちゃんなんて嫌いだよ!!」
憂「そんな卑屈になって……私の気持ちもくんでくれない……そんなお姉ちゃん好きじゃない!」
唯「……うん。それじゃ、心おきなくさよならだね」
憂「……そうだよっ!」ギリッ
唯「じゃあ私、奥のベッドで寝てるよ。憂ももう寝よ? 私、明日になったらいないから」
憂「そっか。おやすみ。あと、さよなら」プイッ
唯「おやすみ」
ガララ…… ピシャ
313: 2010/08/17(火) 17:05:33.49 ID:WIXQE+0AO
憂「……ふふ」ユラッ
憂「あはは……ひとりぼっちだ……」
スリッ スリッ
憂(奥の部屋なのに、明日になったらいなくなる、だって)
憂(そっか、いなくなるってそういうことなんだ)
憂「ここ10階だもんね。普通そうするよね」
憂(でも、そういう風にいなくなるなら都合がいいかな)
憂(それなら、お姉ちゃんの行くところってひとつだもんね)
憂「だったら、すぐに追いかけられる……」
カララララ パタン
憂「ずいぶん急ぐんだね、お姉ちゃん」
314: 2010/08/17(火) 17:10:12.84 ID:WIXQE+0AO
憂「まあ、急がせたのは私か……」
唯『よっ……うーんむむむ……』
唯『うひゃあ!』ツルッ
ドスン
憂「ぷっ。あははは……こんなときまでかわいいんだ、お姉ちゃん」
唯『あ、憂! 笑ったでしょ!』
憂「お姉ちゃん、室外機を踏み台にすればいいんだよ」
唯『ほんとだ! ありがと、うい! これなら……』
唯『いよい……しょ!』
憂「……よく登れました」
唯『結局、最後まで迷惑かけちゃった……ごめんね。じゃあ憂、さよなら』
憂「うん。お別れだね」
315: 2010/08/17(火) 17:15:22.11 ID:WIXQE+0AO
唯『……最後は、笑顔がいい?』
憂「そうだね。笑ってほしいな」
唯『じゃあ、憂も笑って!』
憂「うん。……またね、お姉ちゃん!」ニコ
唯『ばいばい、うい!』ニコ
ドクンッ
憂(お姉ちゃんが笑顔になった瞬間)
憂(私はもう立ち上がっていた)
唯『……』フワッ
憂(開かない窓ガラスに、がむしゃらに肩をぶつけると)
憂(見えない力がはたらいてくれたかのように、ガラスが幾百のかけらになって道を開けた)
318: 2010/08/17(火) 17:20:15.80 ID:WIXQE+0AO
憂(底冷えのするバルコニーへと逸り出た素足を、破片のいくつかが食い破る)
憂(悲鳴が漏れるほど痛かったのに、私はいっそう床を強く踏んだ)
憂(石塀に体を叩きつけ、あらんかぎり腕を伸ばす)
憂「お姉ちゃんっ!!」
憂(指先が、お姉ちゃんの手のひらに触れた)
憂(もう少しで、お姉ちゃんの手を掴めたんだと思う)
唯「……うい」
憂(だけど)
唯「……ありがとう」ニヘッ
憂(お姉ちゃんは、手を伸ばしてはくれなかった)
憂(いつもの、ちょっとだらしない笑顔を私の記憶のそこに刻みつけて)
憂(お姉ちゃんは小さくなっていった)
319: 2010/08/17(火) 17:25:36.03 ID:WIXQE+0AO
憂(雀躍していた操り人形の糸が切れてしまったかのように、私はどさりとそこに崩れ落ちた)
憂(ガラス片が私の膝に刺さる。しなだれた手のひらを切る)
憂(今度は痛みも悲鳴もなかった)
憂(目の前には、お姉ちゃんがよじ登った壁)
憂(私はそこに頬をつけ、動悸が落ち着くのを待っていた)
憂「はぁ、はぁ……」
憂(少し遠い波の音。国道を走る車のエンジン音。それから、海風のうなりが耳をついている)
憂(そこに私の吐息が混ざって、それ以外は何の音もしなかった)
憂「えっ……?」
憂(そのことに違和感をおぼえた瞬間)
憂(私の耳は聞き覚えのある声を拾った)
「暴れないで、唯ちゃん!」
憂「……つむぎ……さん?」
322: 2010/08/17(火) 17:30:07.51 ID:WIXQE+0AO
憂「……」ググッ
憂「どう……なってるの」
憂「見ないと……でも、立てない……」グググ
キュルルルッ
憂「!?」
憂(いつの間にか夜空に渡っていたワイヤーを伝って)
憂(紬さんと、ぐったりしているお姉ちゃんが空に現れた)
紬「……令嬢も楽じゃないわ」
憂「……そうみたいですね」
324: 2010/08/17(火) 17:35:13.58 ID:WIXQE+0AO
憂「とりあえず、あがってください」
紬「お邪魔するわ。手を貸して」
憂「ハイ……」ググ
紬「憂ちゃん、傷だらけね」
憂「そうみたいです……つ……さあ、どうぞ」
紬「ありがとう。上がらせてもらうわね」
憂(そうして、お姉ちゃんは復路のない道を戻ってきた)
326: 2010/08/17(火) 17:40:59.43 ID:WIXQE+0AO
憂「それ、フックショットですか?」
紬「そうよ。昔から得意だったの。楽しいから」
憂「どうやってお姉ちゃんを助けたのか想像つきますけど……」
憂「失敗してたら紬さんも氏んでますよね?」
紬「それに、憂ちゃんもね?」
憂「まあ、そのつもりでしたけど」
唯「……」フー、フー
憂「お姉ちゃんは……寝てるんですか?」
紬「飛び降りのショックで気絶してるみたいね。でも、苦しそう……つらい夢を見てるのかしら」
憂「……すごい汗」ナデ
唯「っ……ううっ!」ビクッビクッ
憂「お、お姉ちゃん!?」
327: 2010/08/17(火) 17:45:09.17 ID:WIXQE+0AO
紬「しばらくはそっとしておきましょう。ショックに対しては、とにかく落ち着かせること」
憂「……はい」
紬「電気もベッドランプだけにしておくわ」カチッ
憂「……はい」
紬「……」
憂「……紬さん」プルプル
紬「何かしら?」
憂「……あ、りが、と……ござ、い、ましたぁ……!!」ボロボロ
憂「わわわ、わたし、ここんなこことに、な、るなん、て……おもっ、おもわ……」
紬「……憂ちゃん。私は忠告したはずよ?」
憂「はい……ぞれなのに゛……わたじ、おねえちゃ、と、なかなおりしたくてぇ、え……」
328: 2010/08/17(火) 18:00:05.65 ID:WIXQE+0AO
憂「お゛ね゛え゛ぢゃんと、ぎすぎすしてるの、やだったからあ……」
紬「……」
憂「ごめ、ごべんなざああぁぁい……」
紬「……それは、唯ちゃんに言うべきじゃないかしら?」
憂「ふ……ふぐうううう……」ズビ
紬「私、自分の部屋に帰るわ。もう、大丈夫よね?」
憂「……」コクコク
紬「それじゃ。唯ちゃんが起きるまで目を離さないのよ」
憂「わか、り……ました」グス
紬「それじゃあね。何かあったら、672号室に電話して」
憂「はい……紬さん、本当に……」
紬「ふふ、お安い御用よ」
329: 2010/08/17(火) 18:05:21.64 ID:WIXQE+0AO
バタン ダダダッ
数分後 672号室
紬「ふふふふふ……やっぱりよく映ってるわ……」
紬「浴衣半脱ぎなんて……憂ちゃんほんとはこういうの好きなんじゃないかしら」
紬「きゃー! こんな大胆なこと言っちゃって! きゃー!」ゴロゴロ
紬「憂ちゃんを手なづけておいて本当によかったわー!!」
斎藤「ええ、本当ですねお嬢様……」
紬「あら、そういう意味で言ったんじゃないわよ?」
斎藤「……ははは、そうでございましたか」
紬「ええ、そうですとも……」ニコッ
紬「……あっはああああ!! 令嬢サイコオオーォウ!!」グイングイン
330: 2010/08/17(火) 18:10:05.31 ID:WIXQE+0AO
午前3時 1072号室
唯「……すー、すー」
憂「……よかった。落ち着いてきたみたい」
唯「にゅむー……」
憂「?」
唯「うい……」ムニャムニャ
憂「……」キュン
唯「……あいす」
憂「……」
331: 2010/08/17(火) 18:15:05.34 ID:WIXQE+0AO
憂「お姉ちゃん」
唯「らーりほー……」
憂「幸せすぎて泣きたくなるなんて、初めてだよ」グスッ
憂「……私、どんなお姉ちゃんでも大好きだよ」
憂「ひどいことされても、嫌じゃないんだ……」
唯「てろめあ……?」
憂「お姉ちゃんも言ってたよね。私だったら何されてもいいって」
憂「たぶん、それとおんなじなんだ」
憂「やっぱ姉妹だね、私たち」
唯「あ、ごめん……たくあんだったよ」ムニャムニャ
332: 2010/08/17(火) 18:23:14.31 ID:WIXQE+0AO
憂「……それ以上なのかも」
憂「……お姉ちゃん、私、もう怒ってないからね」
憂「お姉ちゃんがどれだけ大切かって考えたら……そもそもあんなこと、どうでも良かったんだ」
唯「……ガスト」
憂「変だったね、わたし。……言霊に頼られたのが嫌だったのかな?」
憂「でも、言霊を使ってるなんて私もみなさんから聞くまで分からなかったしなぁ」
憂「……きっと、深いところにあることなんだろうね。ちょっとやそっとじゃ分かんないのかな」
唯「えっ、マリアナ店……?」ムニャ
憂「……お姉ちゃん、起きてるでしょ?」
唯「なんだジョナサンか……ならいいや」ムニャムニャ
憂「……」
唯「ってそんなわけないでしょーがー!」ピーン
唯「……むにゃ」
333: 2010/08/17(火) 18:25:07.40 ID:WIXQE+0AO
憂「……起きてるでしょ?」
唯「えーっと……」
憂「起きてるでしょ?」
唯「い、イカはいかが? とか……」
憂「……」
唯「……あ、あと5分だけ!」
憂「別に、寝ててもいいけどね」クス
唯「……うい、一緒に寝ようよ」
憂「……お姉ちゃん。良いの?」
唯「憂の独り言、ちゃんと聞いてたもん」
唯「憂の近くにいたくって。いいかな?」
憂「えへへ。もちろん。こっち入るね」ポンポン
335: 2010/08/17(火) 18:30:18.12 ID:WIXQE+0AO
唯「おいでー」ズリズリ
憂「はーい」ゴソゴソ
唯「いらっしゃーい」ギュ
憂「来ちゃいましたー」ギュ
唯「へへー♪」
憂「えへへ♪」
唯「……うい」
憂「……お姉ちゃん」
唯「……」ニコッ
憂「……」エヘッ
336: 2010/08/17(火) 18:35:11.40 ID:WIXQE+0AO
――――
一年後。
仲むつまじい二人の姉の間で、すやすや心地良さそうに眠る三女は、
その様子から『愛』と名づけられました。
終わり。
337: 2010/08/17(火) 18:36:38.11 ID:376mGrCYP
イイハナシダナー
引用元: 純「規制とけた!」
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